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AZ製ワクチン、血小板減少症を伴う血栓症5例の共通点/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクターワクチンChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca製)の接種により、まれではあるが重篤な血栓症が発生する。ノルウェー・オスロ大学病院のNina H. Schultz氏らは、ChAdOx1 nCoV-19初回接種後7~10日に血小板減少症を伴う静脈血栓症を発症した5例について詳細な臨床経過を報告した。著者らは、このような症例を「vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia(VITT):ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症」と呼ぶことを提案している。NEJM誌2021年6月3日号掲載の報告。初回接種後、血小板減少症を伴う静脈血栓症を発症した5例の臨床経過 ノルウェーでは、ChAdOx1 nCoV-19の接種が中止された2021年3月20日の時点で、13万2,686例が同ワクチンの初回接種を受け、2回目の接種は受けていなかった。ChAdOx1 nCoV-19の初回接種後10日以内に、32~54歳の健康な医療従事者5例が特異な部位の血栓症と重度の血小板減少症を発症し、そのうち4例は脳内大出血を来し、3例が死亡した。【症例1】37歳女性。接種1週間後に頭痛を発症、翌日救急外来受診。発熱と頭痛の持続、重度の血小板減少症が確認され、頭部CTで左横静脈洞およびS状静脈洞に血栓を認めた。低用量ダルテパリンの投与を開始、翌日に小脳出血と脳浮腫を認め、血小板輸血と減圧開頭術を行うも、術後2日目に死亡。【症例2】42歳女性。接種1週間後に頭痛発症、3日後の救急外来受診時には意識レベル低下。横静脈洞とS状静脈洞の静脈血栓症と、左半球の出血性梗塞を認めた。手術、ダルテパリン投与、血小板輸血、メチルプレドニゾロン、免疫グロブリン静注が行われたが、2週間後に頭蓋内圧上昇および重度の出血性脳梗塞により死亡。【症例3】32歳男性。接種1週間後に背部痛を発症し救急外来受診。喘息以外に既往なし。重度の血小板減少症と、胸腹部CTで左肝内門脈および左肝静脈の閉塞と、脾静脈、奇静脈および半奇静脈に血栓を認めた。免疫グロブリンとプレドニゾロンで治療し、12日目に退院。【症例4】39歳女性。接種8日後に腹痛、頭痛で救急外来受診。軽度の血小板減少症、腹部エコー正常により帰宅するも、2日後に頭痛増強で再受診。頭部CTで深部および表在性大脳静脈に大量の血栓と、右小脳出血性梗塞を確認。ダルテパリン、プレドニゾロン、免疫グロブリンで治療し、10日後に退院(退院時、症状は消失)。【症例5】54歳女性。ホルモン補充療法中であり、高血圧の既往あり。接種1週間後、左半身片麻痺等の脳卒中症状で救急外来受診。造影静脈CTでは全体的な浮腫と血腫の増大を伴う脳静脈血栓症を認め、未分画ヘパリン投与後に血管内治療により再開通したが、右瞳孔散大が観察され、ただちに減圧的頭蓋骨半切除術を行うも、その2日後にコントロール不能の頭蓋内圧上昇がみられ治療を中止。全例、ヘパリン投与歴はないがPF4/ヘパリン複合体に対する抗体価が高い 免疫学的検査および血清学的検査等の結果、5例全例に共通していたのは、血小板第4因子(PF4)-ポリアニオン複合体に対する高抗体価のIgG抗体が検出されたことであった。しかし、いずれの症例もヘパリン曝露歴はなかった。 そうしたことから著者は、これらの症例を特発性ヘパリン起因性血小板減少症のまれなワクチン関連変異型として、VITTと呼ぶことを提案。そのうえで、「VITTは、まれではあるが健康な若年成人に致命的な影響を与える新しい事象であり、リスクとベネフィットを徹底的に分析する必要がある。なお、今回の研究結果からVITTは、ChAdOx1 nCoV-19の安全性を評価した過去の研究結果よりも頻繁に起こる可能性があることが示唆される」と述べている。

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第61回 アデュカヌマブのFDA承認は薄氷を踏むが如し、次に待ち受けるのは…

「進むも地獄退くも地獄」。あるニュースを見て、ふとそんな言葉が頭をよぎった。6月7日夜から日本中を駆け巡った米国食品医薬品局(FDA)によるアルツハイマー病治療薬アデュカヌマブ承認の件だ。アメリカでのアルツハイマー病治療薬の承認は18年ぶり。現在、同薬を承認申請中の日本も2011年7月以来、10年もアルツハイマー病治療薬は登場していない。厚生労働省の推計では2025年の国内の認知症患者推計は700万人前後。認知症の約6割がアルツハイマー病とされ、これだけでも400万人以上。加えてこの前駆段階の軽度認知障害(MCI)の患者が同じく約400万人いると推計されている。この総計約800万人の患者がいる市場でこれほど長期間、新薬が登場しなかったことは極めてまれだ。その原因は新薬開発が極めて困難な領域であるという点に尽きる。そのことを表す数字がある。米国研究製薬工業協会(PhRMA)が2016年7月に公表したアルツハイマー病治療薬開発に関する報告書である。同協会会員の製薬企業が1998~2014年に臨床試験を行ったアルツハイマー病の新薬候補127成分のうち、規制当局から製造承認取得を得るに至ったのはわずか4成分、確率にして3.1%に過ぎない。この4成分とは、エーザイが1999年に世界初のアルツハイマー病治療薬として世に送り出したアリセプトを含む、現在ある4種類の治療薬そのものだ。一般的にヒトでの臨床試験に入ったもののうち10%強が実用化に至るといわれる新薬開発の現状からすれば、かなりの低確率だ。新薬開発が難しい最大の理由はアルツハイマー病の原因がいまも仮説の域を超えていないからである。今回承認されたアデュカヌマブは、脳内に蓄積するタンパク質「アミロイドβ(Aβ)」が神経細胞を死滅させることでアルツハイマー病になる、という仮説に基づき開発されたAβを除去する抗体医薬品。だが、Aβの蓄積の結果として神経細胞が死滅するのか、それとも別の原因で神経細胞が死滅した結果としてAβの蓄積が起こるのかは判別ができていない。そして過去15年ほどはこのAβを標的に、その前駆タンパク質からAβが作り出される際に働く酵素のβセクレターゼ(BACE)の阻害薬、アデュカヌマブと同じ脳内に沈着したAβを排除する抗Aβ抗体の2つの流れで新薬開発が進められてきたが、ロシュ、ファイザー、イーライリリー、メルク、ノバルティスといった名だたるメガファーマが最終段階の第III相試験で次々に開発中止に追い込まれた。その数は2012年以降これまで実に7件、まさに死屍累々と言っていいほどで、特定領域でここまで開発失敗が続くのは異例だ。実はアデュカヌマブもこの7件に含まれている。2019年3月に独立データモニタリング委員会の勧告により進行中の2件の第III相試験が中止。しかし、その後、新たな症例を加えて解析した結果、うち1件では高用量群でプラセボ群と比較し、臨床的認知症重症度判定尺度(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes:CDR-SB)の有意な低下が認められ、一転して承認申請に踏み切った。そして提出されたデータに対するFDA諮問委員会の評決では、ほぼ一貫して否定的な評価を下されていたものの、最終判断で新たな無作為化比較試験の追加実施を条件に、その結果次第では後日承認を取り消しができるという条件付き承認となった。まさに薄氷を踏むような事態を繰り返し、ようやく承認にこぎつけたのである。今後、日本での審査がどのようになるかはまだわからないが、「FDAが風邪を引けば、厚労省はくしゃみをする」とも揶揄される中で、日本で承認が得られないと思っている人はまずいないだろう。今回のニュースはアルツハイマー病患者・家族団体の関係者のインタビューでも報じられているように、これまで何度も落胆し続けてきた当事者にとって大きな光明だ。とはいえ、これからも薄氷を踏む状況は変わらない。ご承知のように現時点でアデュカヌマブの有効性が示唆されているのは軽度のアルツハイマー病あるいはMCIのみである。ただし、添付文書上では「アルツハイマー病」という全般的な適応表記である。アデュカヌマブの登場は医学的観点から「使える人」と「使えない人」という患者・家族の分断を生む危険性をはらんでいる。また、追加試験を要求されている以上、製薬企業もリアルワールドデータも含めて今後ネガティブな評価やデータが浮上してくるのは避けたいはずで、彼らもまた有効性が担保できそうな厳格な症例基準を持ち出してくるだろう。さらに現時点で標準用量の年間薬剤費が600万円と報じられているように、経済的に「使える人」と「使えない人」の分断も顕在化させる可能性がある。これは高額療養費制度を持つ日本で承認された場合でも大なり小なり同じ問題は浮かび上がってくるだろう。また、このことは同時に「患者数の多い巨大市場×高薬価」という社会保障制度をコントロールする側からすればもっとも歓迎できないファクターも抱えている。いずれにせよ、今後アデュカヌマブが乗り越えなければならない壁はいくつもある。かくいう私自身、MCIの父親を抱える立場として、「父親には使えるだろうか?」「もし使えるとしても父親は納得してくれるだろうか?」「母親は何と考えるだろうか?」「経済的負担は?」「もし有効性が示せなかったら?」「そもそも使うのが本当に良いことなの?」などなどの疑問や思いがぐるぐる脳内を駆け巡っている。

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統合失調症における血清脂質と自殺リスク~メタ解析

 統合失調症スペクトラム障害患者における血清脂質と自殺リスクとの関連を明らかにするため、オーストラリア・ウェスタンシドニー大学のAnoop Sankaranarayanan氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2021年4月9日号の報告。 2020年9月2日までに公表された成人の統合失調症スペクトラム障害患者(18~65歳)における血清脂質と自殺リスクとの関連を調査した研究を、複数のデータベースよりシステマティックに検索した。定性分析には、米国国立衛生研究所(NIH)スケールを用いた。標準平均差(SMD)および95%信頼区間(CI)は、各研究で算出し、相対的に標準化した。調整されたp値、Z検定、不均一性を算出し、出版バイアスのテストも行った。 主な結果は以下のとおり。・抽出された1,262件中17件(3,113例)がシステマティックレビューに含まれ、そのうち11件をメタ解析に含めた。・大部分の研究(11件)は、定性分析で公正と評価された。・7件の研究データ(1,597例)より、総コレステロールの低さと自殺企図との関連が認められた(エフェクトサイズ:中程度、SMD:-0.560、95%CI:-0.949~-0.170、p=0.005)。・自殺企図の既往歴のある患者の平均コレステロール値は、自殺企図のない患者と比較し、0.56SD低かった。・自殺企図の定義に違いがあり、異質性が高かった(I2=83.3%)。・血清脂質パラメータと自殺念慮との間に、有意な関連は認められなかった。・ファンネルプロット分析では、出版バイアスに伴う小さな影響が認められた。 著者らは「統合失調症スペクトラム障害患者における自殺企図は、平均総コレステロール値の低下と関連している」としている。

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うつ、不安、気分症状に対するカカオ製品の影響~メタ解析

 チョコレートのようなカカオ由来の製品は、気分や感情などの問題を緩和させることが期待されるが、この効果についてはまだ解明されていない。イタリア・カターニア大学のLaura Fusar-Poli氏らは、カカオ由来製品が抑うつ症状、不安症状、ポジティブ感情、ネガティブ感情に及ぼす影響を調査するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Critical Reviews in Food Science and Nutrition誌オンライン版2021年5月10日号の報告。 本システマティックレビューおよびメタ解析は、PRISMAガイドラインに従って実施された。2020年4月3日までに公表された文献を、Web of KnowledgeTMおよびPsycINFOより検索した。 主な結果は以下のとおり。・761件の文献をスクリーニングした後、9件をメタ解析に含めた。・研究の内訳は、以下のとおりであった。 ●カカオ製品による長期的(1週間超)な効果:2件 ●カカオ製品による短期的(3日)な効果:2件 ●カカオ製品による急性期(単回投与)効果:5件・変量効果メタ解析では、カカオが豊富な製品による抑うつ症状(Hedge's g:-0.42、95%CI:-0.67~-0.17)および不安症状(Hedge's g:-0.49、95%CI:-0.78~-0.19)への有意な効果が認められた。・さらに、ポジティブ感情(Hedge's g:0.41、95%CI:0.06~0.77)およびネガティブ感情(Hedge's g:-0.47、95%CI:-0.91~-0.03)の有意な改善も認められた。・すべてのメタ解析において、エフェクトサイズは中程度であったが、不均一性は低かった。 著者らは「カカオが豊富な製品は、短期的に感情および気分の問題を改善する可能性が示唆された。しかし、いずれも試験期間が短く、カカオ由来の製品の長期摂取の影響は、明らかではない。また、メタ解析に含まれる対象者数や研究数が十分ではないため、慎重な解釈が求められる」としている。

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HR+/HER2-乳がんに対するパルボシクリブ+フルベストラントの長期予後追跡結果(PALOMA-3)/ASCO2021

 ホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+/HER2-)の進行乳がんに対する国際共同大規模臨床試験PALOMA-3(パルボシクリブ+フルベストラント併用療法)の長期追跡結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)において、米国・Robert H. Lurie Comprehensive Cancer Center of Northwestern UniversityのMassimo Cristofanilli氏から発表された。PALOMA-3の6年以上の観察期間でもOS改善が持続 PALOMA-3試験は二重盲検の第III相無作為化比較試験であり、2018年にその試験プロトコールに則った結果発表がなされており、今回はその後の長期予後追跡結果の報告である。・対象:アジュバントまたは進行がんに対する内分泌療法施行中あるいは施行後に増悪したHR+/HER2-の乳がんの女性(閉経状況は問わず) ・試験群:パルボシクリブ(125mg1日1回内服、3週連続投与、1週休薬)+フルベストラント(500mgをDay1、15、29に筋注):Palbo群347例・対照群:プラセボ(3週投与1週休薬)+フルベストラント:Fulve群174例 進行がん治療としての化学療法は1レジメンまで許容(34%に化学療法治療歴あり)・評価項目:[主要評価項目]主治医評価による無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率、安全性、奏効期間 PALOMA-3の主な長期追跡結果は以下のとおり。・プロトコールで規定された最終的なOS解析(観察期間中央値44.8ヵ月)では、その中央値はPalbo群で34.9ヵ月、Fulve群で28.0ヵ月、ハザード比(HR)0.81(95%信頼区間[CI]:0.64~1.03)、p=0.0429(片側検定)と、事前既定の閾値に達せず、統計学的な有意差は検出されなかった(2018年の既報)。・今回は観察期間中央値73.3ヵ月時点での結果が報告された(データカットオフは2020年8月)。・OS中央値は、Palbo群で34.8ヵ月(95%CI:28.8~39.9)、Fulve群で28.0ヵ月(95%CI:23.5~33.8)、HR 0.81(95%CI:0.65~0.99)、p=0.0221(nominal 1-side検定)であった。・5年時のOS率は、Palbo群で23.3%、Fulve群で16.8%であった。・進行乳がんに対する化学療法(CT)治療歴の有無別にOSを検討したところ、CT治療歴なしの症例(全体の66%)でのOS中央値はPalbo群で39.3ヵ月、Fulve群で29.7ヵ月、HR 0.72(95%CI:0.55~0.94)であった。CT治療歴ありの症例(全体の34%)でのOS中央値はPalbo群24.6ヵ月、Fulve群24.3ヵ月、HR 0.97(95%CI:0.69~1.36)であった。・血清解析に同意した195例を対象に、血中循環腫瘍DNA(ct-DNA)を用いて、ESR1、PIK3CA、TP53などの17遺伝子について解析した結果、ESR1、PIK3CA、TP53の遺伝子変異によらず、OSに関するパルボシクリブの上乗せ効果が確認された。・新たな安全性の問題は認められなかった。 Cristofanilli氏は「ホルモン治療で病勢進行となったHR+/HER2-乳がん患者へのパルボシクリブ+フルベストラントの併用療法は、6年以上の観察期間を経てもOSの改善がみられた。これは、とくに内分泌療法に感受性のある患者や前治療に化学療法が使用されていない患者で顕著であり、これまでの本治療法の有用性をサポートするものである」と締めくくった。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 循環器

第1回 イントロダクション第2回 急性冠症候群第3回 安定狭心症第4回 末梢動脈疾患・大動脈疾患第5回 不整脈と心電図(1)第6回 不整脈と心電図(2)第7回 心不全・心筋症 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。循環器については、慶應義塾大学循環器内科の香坂俊先生が全7回のレクチャーをします。薬剤とカテーテルインターベンションのどちらも進歩がめざましい循環器。心電図で疾患を素早く見極めるだけでなく、適切な治療を選ぶ力が問われます。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 イントロダクション香坂俊先生が解説する循環器。第1回はシリーズの導入として、問題を解く際に注目すべきキーワードや、2020年現在のタイムリーなトピックを紹介。「労作時に失神」「吸気時に増悪」など、具体的なシチュエーションから疾患のパターンを絞り込み。カテーテルの進歩によって治療できるようになった疾患も頻出です。エコーやCTなど画像から判断する問題の対策も万全に。静止画からイメージしにくい疾患について、動画で心臓の動きを確認します。第2回 急性冠症候群第2回では急性冠症候群(ACS)を取り上げます。まず基本はST上昇型の心筋梗塞。どの誘導のSTが上昇しているかで、心臓のどこに心筋梗塞が起きているかを判断。特徴的な心電図のパターンもよく狙われます。交互脈、PQ低下、巨大陰性T波、aVR誘導でのST上昇など、日常の診療であまり見られない心電図のパターンと、対応する疾患の組み合わせを確認します。薬剤の禁忌と、PCIの合併症の予防策も押さえます。第3回 安定狭心症第3回は、安定狭心症について解説します。治療選択において、バイパス手術かPCIのどちらを行うかの判断は、SYNTAX試験のスコアが決め手。安定狭心症は経過観察できる疾患なので、至適薬物療法(OMT)の導入も極めて重要です。近年、薬剤のエビデンスの蓄積により、投与期間短縮や、併用から単剤使用への変化が見られます。最新のトピックとして、薬剤による保存的治療と血行再建治療を比較したISCHEMIA試験の結果にも注目です。第4回 末梢動脈疾患・大動脈疾患第4回は、冠動脈以外の動脈硬化性疾患。以前は閉塞性動脈硬化症(ASO)と呼ばれていましたが、最近では、大動脈・頸動脈・腎動脈などを含む、心臓よりも末梢の動脈疾患を、末梢動脈疾患(PAD)と呼びます。冠動脈で行われてきたインターベンションが、ほかの血管にも応用できるようになりました。ただし、冠動脈の治療と微妙に違う部分に要注意。大動脈瘤、大動脈解離について、ステントグラフト内挿術の適応基準を押さえます。第5回 不整脈と心電図(1)循環器の試験で最大の山場となる不整脈。今回は頻脈性の上室性不整脈のポイントを押さえます。不整脈はマクロリエントリー型とミクロリエントリー型に分類。発作性上室性頻拍(PSVT)は薬でコントロール。ただし、WPW症候群合併時の対応は異なるので要注意。PSVTと心房粗動(AF)は、アブレーションの奏効率も非常に良好です。近年、新しい凝固薬が注目されている心房細動(AF)。凝固薬の適応判断はCHADS2スコアを使います。第6回 不整脈と心電図(2)第6回で取り上げるのは、徐脈性不整脈と心室性不整脈。徐脈性不整脈で肝心なのは、まずP波を見つけること。洞不全症候群(SSS)、房室ブロック(A-V block)などの特徴的な波形を確認します。失神や突然死につながる危険な心室性不整脈は、誘因となる所見の見分け方がよく問われます。QT延長、Brugada波形、J波症候群に要注意。心不全と関連する、心臓のイオンチャネルの変異によって起こるチャネル病についても確認しておきましょう。第7回 心不全・心筋症第7回は心不全と心筋症。試験では主に難治性の心筋症が問われる傾向があります。薬剤、手術、カテーテルそれぞれの治療法の適応基準を確認。心臓サルコイドーシスはPET検査による精度の高い診断で、より早期から治療可能に。慢性心不全は複数の薬剤の併用が課題です。左脚ブロックはペースメーカーによる再同期療法の適応となる数値をチェック。最後に循環器のセッションのまとめとして、香坂先生から試験攻略の秘訣をアドバイス。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 腎臓

第1回 急性腎障害(AKI)第2回 慢性腎臓病(CKD)第3回 腎代替療法第4回 腎炎・ネフローゼ症候群第5回 遺伝性腎疾患第6回 その他の頻出疾患 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。腎臓については、聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科の櫻田勉先生が全6回のレクチャーをします。近年、有用な診断指標の登場により、各疾患の再定義が盛んに行われている腎臓領域。多彩な腎疾患の診断の要となるのは病理所見、見るべきポイントを確認します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 急性腎障害(AKI)第1回は急性腎障害(AKI)を取り上げます。従来は、軽微な腎機能障害は「急性腎不全」と呼ばれ、一過性のものと見なされていましたが、2016年のガイドライン以降、概念が刷新され「急性腎障害」へと名称が変更。早期発見、早期治療が提唱されています。とくに心臓手術後など、ICUでの発症頻度が高いAKI。リスクファクターや診断プロセスを整理します。近年注目されている「尿中バイオマーカー」は早期診断に有用です。第2回 慢性腎臓病(CKD)第2回は慢性腎臓病(CKD)を解説。従来は「慢性腎不全」と呼ばれていましたが、心血管疾患の発症率や腎代替療法のリスクが高まることから、より早期に治療することが重視され、「慢性腎臓病」という概念が再定義されました。本邦では約1330万人、成人の8人に1人がCKD患者とされ、不規則な生活習慣によって全体の約60%の患者が透析となります。HIF-PH阻害薬は、腎性貧血の新たな治療薬として注目のトピックです。第3回 腎代替療法第3回は腎代替療法です。透析療法と腎移植に大別される腎代替療法。透析療法には、血液透析と腹膜透析に分けられ、透析患者の97%が血液透析を採用しています。それぞれの透析の原理と、血液透析に伴う不均衡症候群や透析アミロイドーシス、腹膜透析に伴う被嚢性腹膜硬化症といった合併症を確認します。腎移植は、適応基準、移植後の免疫抑制療法、拒絶反応とともに、試験で問われやすい統計データも押さえておきましょう。第4回 腎炎・ネフローゼ症候群第4回は腎炎・ネフローゼ症候群。難治性腎障害指定のIgA腎症、ネフローゼ症候群、急速進行性腎炎症候群を解説します。病理所見が診断の要。IgA腎症は慢性糸球体腎炎の一種で、糸球体のメサンギウム領域にIgAの沈着を認めます。ネフローゼ症候群は、大量の蛋白尿と低蛋白血症、浮腫といった症状が特徴的です。急速進行性腎炎症候群は、血尿、蛋白尿、貧血と急速に進行する腎不全を来します。第5回 遺伝性腎疾患第5回は遺伝性腎疾患について解説します。腎臓専門医以外にとってはなじみの薄い遺伝性腎疾患ですが、中でも多発性嚢胞腎は、試験での出題頻度が高い傾向の疾患です。家族歴とともに、CTやMRIの画像所見で診断します。ファブリー病は、2018年に承認された経口薬によるケミカルシャペロン療法に注目。遺伝性尿細管機能異常症のFanconi症候群、Bartter症候群、Gitelman症候群については、それぞれの発症年齢や鑑別点の違いを確認します。第6回 その他の頻出疾患最終回では、試験に頻出の糖尿病性腎臓病、ループス腎炎、多発性骨髄腫による腎障害、血栓性微小血管症、コレステロール塞栓症、IgG4関連疾患についてまとめて解説します。近年では、ネフローゼ症候群を呈する典型的な「糖尿病性腎症」が減少し、顕性アルブミン尿を伴わず、徐々に腎機能低下を示す「糖尿病性腎臓病」が増加しています。ループス腎炎は、全身性エリテマトーデスに伴う腎障害。治療の変更点がポイントです。

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コロナ関連急性呼吸不全の呼吸管理:高流量鼻腔酸素or ヘルメット型非侵襲換気?(解説:山口佳寿博氏)-1402

 新型コロナ感染症に惹起された急性低酸素性呼吸不全(ARDS)の病理/形態、分子生物学的異常は、本感染症が発生した2020年の早い段階で明らかにされた(Ackermann M, et al. N Engl J Med. 2020;383:120-128., 山口. CLEAR!ジャーナル四天王-1265)。その結果、コロナARDSの病理/形態学的特徴は;(1)ARDSの通常所見としてのDiffuse alveolar damage(DAD)、(2)特異的所見として、血管内皮細胞炎(Endothelialitis)、血管増生賦活遺伝子と抑制遺伝子の不均衡に起因する著明な血管増生(Angiogenesis)を伴う肺微小循環血栓形成(TMA:Thromboembolic microangiopathy)であることが判明した。 血管内皮細胞炎/血管増生は、コロナ以外の原因によるARDSでも認められるが(Osuchowski MF, et al. Lancet Respir Med. 2021;9:622-642.)、コロナARDSではとくに著明な現象である。これらの病理/形態学的異常から、コロナARDSの呼吸生理学的特徴は;(1)肺胞虚脱/無気肺に起因する右-左血流短絡(Shunt:VA/Q=ゼロ)を含む低VA/Q領域の形成、(2)TMAに起因する肺胞死腔(Alveolar dead space:VA/Q=無限大)を含む高VA/Q領域の形成、(3)肺胞中隔病変(肺胞膜、肺毛細血管)に起因する拡散障害(Diffusion limitation)と考えることができる。これら3要因によって重篤な低酸素血症が惹起されるが、拡散障害の寄与率は低い。 ここで注意しなければならない点は、微小血管損傷を伴わない低VA/Q領域では、低酸素性肺血管攣縮(HPV:Hypoxic pulmonary vasoconstriction)によって肺血流は損傷部位から正常部位に再分布し低酸素血症を是正するが、ARDS肺にあっては、低VA/Q領域のHPVが麻痺しており(HPV paralysis)、肺血流の再分布が起こらず低酸素血症の是正は簡単ではない(Yamaguchi K. Chapter 9, p.149-172, 2020. In: Structure-Function Relationships in Various Respiratory Systems -Connecting to the Next Generation, Springer-Nature, Tokyo, Japan.)。高VA/Q領域のTMA病変部位からはHPV paralysisに陥っている低VA/Q領域に肺血流が再分布し、低酸素血症をさらに悪化させる。すなわちHPV paralysisは、ARDS肺における低酸素血症を治療抵抗性に移行させる重要な要因の1つである。治療抵抗性の重篤な低酸素血症は、“Refractory hypoxemia”と定義される。 本論評で取り上げたGriecoらの論文(Grieco DL, et al. JAMA. 2021;325:1731-1743.)は、首から上をHelmetで覆い非侵襲的呼吸管理(NIV:Non-invasive ventilation)を行うHelmet型NIVと鼻腔を介する高流量酸素投与(HFNO:High-flow nasal oxygen)の効果を、イタリア4施設のICUにおける多施設ランダム化比較試験によって検討したものである(HENIVOT Trial)。対象患者は、両側肺に浸潤陰影を認め、PaO2/FIO2値が200以下のARDS患者で、基礎的薬物治療として低用量デキサメタゾン(サイトカイン産生抑制薬)が100%の患者に、レムデシビル(抗ウイルス薬)が81%の患者に投与されていた。HFNO群(54例)では、高流量酸素(60L/min)投与を少なくとも48時間継続した後HFNOを離脱する方法がとられた。Helmet型NIV群(53例)では、Peak inspiratory flow:100L/min、Pressure support:10~12cmH2O、PEEP:10~12cmH2Oの初期設定の下48時間の呼吸管理が施行され、その後、Helmet型NIVを離脱する方法がとられた。以上のような2群において、28日間の観察期間における呼吸管理に関連する種々の指標が比較された。 その結果、Primary outcomeである28日間における補助呼吸管理が必要であった日数においては両群間で有意差を認めなかったが、Secondary outcomesとして設定された治療失敗率(気管内挿管率)、侵襲的機械呼吸補助が必要な日数に関してはHelmet型NIV群において有意に良い結果が得られた。以上より、症例数が少ないために確実な結果とは言い切れないが、Griecoらの論文は、コロナARDSの低酸素血症の治療にはHFNOよりもHelmet型NIVを適用することがより妥当であることを示唆した。 Helmet型NIVは、通常のFace-mask型NIVならびにHFNOに比べ、患者の密閉度が高い、安定したPEEPを維持できる、会話可能などの患者耐用能が高い、呼吸筋仕事量を低く抑え呼吸筋疲労を抑制できる、などの利点がある。コロナなど種々の感染症に起因する呼吸不全の管理では、患者から排出される感染微生物の周囲環境への播種をどのようにして防御するかが、ICUなどの施設内感染を予防するうえで非常に重要な問題である。Helmet型NIVでは吸気側、呼気側に微生物除去用Filterを装着することによって患者をHelmet内に密閉・隔離できるので、ICU内感染防御の面からはFace-mask型NIV、HFNOに比べ確実に優れている。しかしながら、Helmet型NIVはCO2の再呼吸が発生しやすく、上肢浮腫の発生頻度が高くなる欠点を有する(Munshi L, et al. JAMA. 2021;325:1723-1725.)。 HFNOにおいても装置の改良が進み、現在では、吸入気酸素濃度を21%から100%の間で調節できる機種が臨床の現場で使用されている。HFNOにおいても高流量酸素吸入(30L/min以上)によって気道内圧が上昇しPEEP様効果が発現する。しかしながら、HFNOにおけるPEEPはHelmet型NIVなどによる通常のPEEPとは異なり、気道内圧の変動に伴う受動的なもので、呼気相の早期に肺胞内圧は上昇するが呼気終末には肺胞内圧は低下する。そのため、肺ガス交換の維持に必要な呼気終末の肺胞Recruitmentの程度は、Helmet型NIVに比べHFNOで低いと考えなければならない。 コロナARDSの呼吸管理において今後考えなければならない重要事項の1つは、肺損傷部位に発生するHPV paralysisに対する治療法の確立である。HPV paralysisは治療抵抗性の低酸素血症を惹起するので、いくら酸素投与法を工夫してもHPV paralysisを是正しない限り、肺のガス交換効率ならびに生体の酸素化状態を劇的に改善させることができない。HPVは細葉内に存在する直径100~300μmの筋性肺細動脈の収縮によって生じるが、ARDSなどの損傷肺にあっては、肺細動脈壁における種々の血管拡張物質合成酵素の過剰発現がHPVの減弱に関与する。過剰発現する血管拡張物質合成酵素の中で、構造型、誘導型のNO合成酵素(eNOS、iNOS)ならびに構造型、誘導型のCyclooxygenase(COX-1、COX-2)がHPV paralysisの発生に重要な役割を果たすことが判明しており、これらの酵素を阻害することでARDSのHPV paralysisは有意に回復することが動物実験レベルで示されている(Naoki N, et al. Eur Respir J. 2002;20:43-51.)。臨床的に安全に投与できるのはCOX阻害薬(インドメタシン、アスピリンなど)であるので、今後、これらの薬物投与下でHelmet型NIV、HFNOの効果を検証する治験を期待したい。 Chowらは、小規模の観察研究ではあるが(アスピリン投与群:98例、非投与群:314例)、コロナ感染症患者にあって侵襲的機械呼吸の導入率、ICU入院率、病院内死亡率が、何らかの理由でアスピリン投与を受けていた群で有意に低いことを示した(Chow J, et al. Anesth Analg. 2021;132:930-942.)。さらに、アスピリンがARDSの発症/進行リスクを低下させるという直接的報告も散見される(Erlich JM, et al. Chest. 2011;139:289-295., Chen W, et al. Crit Care Med. 2015;43:801-807. , Panka BA, et al. Shock 2017;47:13-21.)。これらの報告は、アスピリンがHPV paralysisを抑制しコロナ重症例の肺ガス交換異常を改善するという、本論評で展開した仮説を支持する臨床的知見として興味深い。 アスピリンは、上述した血管拡張物質産生抑制に加え、トロンボキサンA2合成阻害を介して血小板凝集に起因する血栓性病変の発現を抑制、さらには、IL-6の産生抑制を介してCytokine stormの進行を抑制する(Chow J, et al. Anesth Analg. 2021;132:930-942.)。すなわち、アスピリンはARDSの発症/進行を抑制、血栓性病変を予防、HPV paralysisを是正し肺ガス交換効率を維持する作用を有し、ARDSに対する“廉価な総合薬”と考えることができる。今後、古き廉価なアスピリンがコロナ感染症などに併発したARDSの分野において正しく再評価されることが望まれる。

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「ミオナール」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第55回

第55回 「ミオナール」の名称の由来は?販売名ミオナール®錠50mgミオナール®顆粒10%一般名(和名[命名法])エペリゾン塩酸塩(JAN)効能又は効果○下記疾患による筋緊張状態の改善頸肩腕症候群、肩関節周囲炎、腰痛症○下記疾患による痙性麻痺脳血管障害、痙性脊髄麻痺、頸部脊椎症、術後後遺症(脳・脊髄腫瘍を含む)、外傷後遺症(脊髄損傷、頭部外傷)、筋萎縮性側索硬化症、脳性小児麻痺、脊髄小脳変性症、脊髄血管障害、スモン(SMON)、その他の脳脊髄疾患用法及び用量錠50mg通常成人には1日量として3錠(エペリゾン塩酸塩として150mg)を3回に分けて食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。顆粒10%通常成人には1日量として1.5g(エペリゾン塩酸塩として150mg)を3回に分けて食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年6月9日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2015年12月改訂(改定第8版)医薬品インタビューフォーム「ミオナール®錠50mg/ミオナール®顆粒10%」2)Medical.eisai.jp:製品情報

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アルツハイマー病治療薬aducanumab、FDAが迅速承認/バイオジェン・エーザイ

 国内で承認申請中(2020年12月申請)のaducanumabについて、脳内のアミロイドβプラークを減少させることによりアルツハイマー病(AD)の病理に作用する初めてかつ唯一のAD治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)が迅速承認した。バイオジェンとエーザイが6月8日に発表した。この迅速承認は、臨床的有用性(臨床症状の悪化抑制)の予測可能性が高いバイオマーカーであるアミロイドβプラークの減少に対するaducanumabの効果を実証した臨床試験のデータに基づくもの。なお、今回の迅速承認の要件として、今後検証試験による臨床的有用性の確認が必要とされており、もし、臨床的有用性を確認できなかった場合、承認取り消しの手続きが行われる。 本剤の有効性については、アミロイドの蓄積が確認されたADの初期段階(軽度認知障害および軽度認知症)の患者を対象とした第III相試験であるEMERGE試験とENGAGE試験の2つの試験で評価された。また、本剤の効果は、プラセボ対照無作為化二重盲検用量設定第Ib相試験であるPRIME試験においても評価された。これらの試験において、一貫してアミロイドβプラークの減少に対する用量依存的かつ投与期間依存的な効果を示し、ENGAGE試験では59%の減少(p<0.0001)、EMERGE試験では71%の減少(p<0.0001)、PRIME試験では61%の減少(p<0.0001)を示したという。 安全性プロファイルについては、1回以上投与を受けた3,000例以上で確認された。最も多く報告された有害事象は、MRIで観察されるアミロイド関連画像異常(ARIA)だった。ARIA(ARIA-Eおよび/またはARIA-H)は、aducanumab 10mg/kg投与群の41%で、プラセボ群では10%で観察された。ARIAを生じた患者のうち、aducanumab 10mg/kg投与群では24%、プラセボ群では5%が症候性であり、最も多い症状は頭痛だった。ARIAに関連するその他の症状としては、錯乱、めまい、視覚障害、吐き気などであった。アデュカヌマブ治療を受けた患者の少なくとも2%で報告され、かつプラセボ投与群よりも2%以上高い頻度で報告された有害反応は、ARIA-E、頭痛、脳表ヘモジデリン沈着、ARIA-H関連表在性せん妄、転倒、下痢、錯乱/せん妄/精神状態の変化/見当識障害が報告されている。 バイオジェンとエーザイは全世界的にaducanumabの開発ならびに製品化を共同で実施している。

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BRCA変異陽性HER2-早期乳がんへの術後オラパリブ、iDFS改善(OlympiA)/ASCO2021

 生殖細胞系列のBRCA遺伝子(gBRCA)変異のあるHER2陰性早期乳がんに対する、術後のオラパリブ投与が、無浸潤疾患生存期間(iDFS)および遠隔無再発生存期間(DDFS)を有意に改善した。米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)で、英国・The Institute of Cancer Research and King's College LondonのAndrew Tutt氏が、日本を含む23ヵ国420施設参加の第III相国際多施設共同無作為化プラセボ対照試験(OlympiA試験)の中間解析結果を発表した。なお、この結果はNEJM誌オンライン版2021年6月3日号に同時掲載された。・対象:初回局所療法および術前/術後療法が終了したgBRCA変異を有するHER2陰性 (TNBC またはHR+)高リスク早期乳がん患者 1,836例[術前化学療法グループ]TNBC:non-pCR、HR+:non-pCRおよびCPS-EGスコア≧3[術後化学療法グループ]TNBC:≧pT2あるいは≧pN1、HR+:陽性リンパ節数≧4・試験群:オラパリブ(300mg、1日2回)を1年間投与 921例・対照群:プラセボ(1日2回)を1年間投与 915例 ※ホルモン療法とビスホスホネート製剤の使用は認められていた・評価項目:[主要評価項目]ITT 集団における無浸潤疾患生存期間(iDFS)[副次評価項目]遠隔無再発生存期間(DDFS)、全生存期間(OS)、QOL、安全性など 主な結果は以下のとおり。・2014年6月~2019年5月に患者が登録され、オラパリブ群49.9% vs.プラセボ群50.3%が術前化学療法、50.1% vs.49.7%が術後化学療法を受けていた(アンスラサイクリンおよびタキサン系レジメンの術前[後]化学療法は94.6% vs.92.8%、プラチナベースの術前化学療法は26.8% vs.26.1%)。・ベースライン特性は両群でバランスがとれており、平均年齢はオラパリブ群42(36~49)歳 vs.プラセボ群43(36~50)歳、BRCA1変異陽性が71.3% vs.73.2%、TNBCが81.5% vs.82.8%であった。・追跡期間中央値2.5年の中間解析における3年iDFS率はオラパリブ群85.9% vs.プラセボ群77.1%(ハザード比[HR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.41~0.82、p<0.0001)。あらかじめ設定された有意水準(p<0.005)を満たし、オラパリブ群で有意な改善が示された。・最初に登録された900例の追跡期間中央値3.5年における3年iDFS率(mature cohort)はオラパリブ群86.1% vs.プラセボ群77.5%(HR:0.61、95%CI:0.39~0.95)。・3年DDFS率はオラパリブ群87.5% vs.プラセボ群80.4%(HR:0.57、95%CI:0.39~0.83、p<0.0001)とオラパリブ群で有意な改善が示された。・3年OS率はオラパリブ群92.0% vs.プラセボ群88.3%(HR:0.68、95%CI:0.44~1.05、p<0.024)となり、あらかじめ設定された有意水準(p<0.01)を満たさなかった。・オラパリブ群で報告された1%を超えるGrade3以上の有害事象は、貧血 (8.7%)、好中球減少症(4.8%)、白血球減少症(3.0%)、疲労(1.8%)、リンパ球減少症(1.2%)。・重篤な有害事象(オラパリブ群8.7% vs.プラセボ群8.4%)、MDS/AML(0.2% vs. 0.3%)、新たな原発腫瘍(2.2% vs.3.5%)の発生率に差はなかった。・Grade4の有害事象はオラパリブ群1.9%、プラセボ群0.4%で発生。有害事象による治療中止はオラパリブ群の9.9%、プラセボ群の4.2%で発生した。・EORTC QLQ-C30によるQOLの評価結果は、術前化学療法グループおよび術後化学療法グループでともに両群における差はみられなかった。 ディスカッサントを務めた米国・Beth Israel Deaconess Medical CenterのNadine M. Tung氏はプラクティス・チェンジングな結果と評価。一方で、サブグループ解析においてHR+およびプラチナ製剤による治療歴のある患者で効果が若干低い傾向が示唆されている点に着目。より詳細な研究が必要かもしれないと指摘した。また、今後の検討課題として、術後オラパリブ投与の最適期間は1年か、より長期のフォローアップでもMDS/AMLの発生率に変化はないか、そしてOSベネフィットが得られるかといった点を挙げた。

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第63回 変な抗体や抗原によるCOVID-19重症化を止めうる薬を同定

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化に寄与しているらしい非フコシル化抗体が悪さをしないようにする薬剤が見つかりました。また、COVID-19小児の重病MIS-Cに寄与しているとおぼしき過剰な抗原を食い止めうる薬剤が別の研究で見つかっています。重症COVID-19患者の過度の炎症反応をSyk阻害剤ホスタマチニブで防ぎうる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)スパイクタンパク質(S)への非フコシル化抗体の過剰がどうやら重症化に寄与していることをこの2月に発表1)したチームのさらなる研究でその重症化を食い止めうる薬剤が同定されました2,3)。抗SARS-CoV-2抗体が炎症を誘発してしまうことはそれら抗体への糖の一種フコシルの付加が少なくて抗S抗体が大量なことを条件とし、マクロファージで発現するFcγ受容体(FcγR)の一つFcγRIII過剰活性化をおそらく介します。FcγRからの信号伝達にキナーゼSykを必要とします。ということは抗S抗体による免疫活性化をSyk阻害剤で防げるかもしれません。その予想はどうやら間違っておらず、Syk阻害化合物R406は重症COVID-19患者の抗S抗体による炎症促進サイトカイン生成を有意に減らしました。R406は免疫性血小板減少症(ITP)の治療として欧米で承認されているfostamatinib(ホスタマチニブ)の有効成分であり、重症COVID-19患者の抗S抗体による過度の炎症反応をfostamatinibで食い止めうると著者は言っています。ちなみに別のエンベロープウイルス・デングウイルス(DENV)感染の重症化と非フコシル化抗体が多いことの関連も示されており4)、抗体Fc領域への糖鎖付加はウイルスへの免疫反応を左右するようです5)。腸から漏れる新型コロナウイルス抗原が多臓器炎症症候群の引き金かもしれないSARS-CoV-2感染小児の多くは無症状かせいぜい軽い上気道症状で事なきを得ますが、感染がおさまってから数日か数週間後に川崎病に似てはいるものの異なる酷な免疫活性化症候群・多臓器炎症症候群(MIS-C)を時に発症します。そのMIS-Cに腸の防御機能の欠損が寄与しているらしいことが新たな研究で示唆されました6)。SARS-CoV-2が腸を住処とすることは成人の研究で知られるようになっており7)、重度のCOVID-19に陥ると共生微生物の混乱や胃腸の遮断機能の故障によって炎症が悪化します。腸粘膜の遮断機能は腸から血中に抗原が移行するのを防いでおり、細胞間密着結合(タイトジャンクション)を調節しているタンパク質ゾヌリンが多いことと腸の透過性亢進の関連がセリアック病、炎症性腸疾患(IBD)、川崎病などの自己免疫/炎症疾患の研究で知られています。そのゾヌリンが、胃腸症状を伴うことが多いMIS-Cでも上昇を呈することが今回の新たな研究で示されました。ゾヌリンは腸から血液中にSARS-CoV-2抗原がより漏れ出るようにして過剰な炎症反応を引き起こしているようです。新たな研究ではMIS-C小児19人、SARS-CoV-2感染小児26人、非COVID-19小児55人の計100人が調べられました6)。感染から数週間が過ぎてもSARS-CoV-2のRNAは胃腸から検出され、MIS-C小児はゾヌリンを他の小児より多く有していました。MIS-C小児の血漿にはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質やそのサブユニットS1も多く、SARS-CoV-2のそれら抗原はゾヌリン上昇で腸の隙間がふえて漏れ出たものと考えらえました。腸の透過性亢進がMIS-Cの引き金かどうかはまだはっきりせずさらなる研究が必要です。しかしもしそうであるならゾヌリンを阻害して腸の透過性を正常化することはMIS-Cの治療法となりえます。そこで研究者は米国FDAの許可を得て生後17ヵ月のMIS-C小児にゾヌリン遮断薬larazotide(ララゾチド)を試してみました。larazotideはセリアック病を対象にした第III相試験段階にあり、これまでの試験でその安全性が確認されています。生後17ヵ月のMIS-C小児はステロイドや抗体静注などのいつもの治療では良くなりませんでした。しかしlarazotide治療で血漿のスパイク抗原が減り、症状が収まりました。MIS-C患者は何がともあれ最終的には回復することが多く、今回の一例だけではなんとも言えません。研究者はプラセボ対照試験が必要とわかっており、この秋には始めたいと考えています8)。参考1)Larsen MD, et al. Science. 2021 Feb 26;371:eabc8378.2)Why corona patients become critically ill / Universiteit van Amsterdam (UVA)3)Hoepel W, et al. Sci Transl Med. 2021 Jun 2;13:eabf8654.4)Bournazos S, et al. Science2021 Jun 4;372:1102-1105.5)de Alwis R, et al. Science. 2021 Jun 4;372:1041-1042.6)Yonker LM, et al. J Clin Invest. 2021 May 25:149633.7)Gaebler C, et al. Nature. 2021 Mar;591:639-644.8)SARS-CoV-2 Antigens Leaking from Gut to Blood Might Trigger MIS-C / TheScientist

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精神疾患に対する向精神薬の投与回数と臨床アウトカム~メタ解析

 慶應義塾大学の菊地 悠平氏らは、精神疾患に対する向精神薬の1日1回投与と分割投与の有効性および安全性を比較するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。The Journal of Clinical Psychiatry誌2021年2月23日号の報告。 投与レジメンおよび向精神薬に関連するキーワードを用いて、2019年12月30日までに公表された文献を、MEDLINEおよびEmbaseよりシステマティックに検索した。精神疾患患者に対する向精神薬の1日1回投与と分割投与の臨床アウトカムを比較したランダム化比較試験を選択した。研究の中止、精神病理、治療による有害事象(TEAE)に関するデータを抽出した。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たした32研究(34件の比較検討、3,142例)をメタ解析に含めた。・向精神薬別の比較検討の内訳は、以下のとおりであった。 ●抗うつ薬:22件 ●抗精神病薬:7件 ●ベンゾジアゼピン:2件 ●気分安定薬:2件 ●抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用:1件・向精神薬の1日1回投与と分割投与における研究の中止では、有意な差は認められなかった。 ●すべての原因による中止(30件、2,883例、リスク比(RR):1.01、95%CI:0.94~1.09、p=0.77) ●効果不十分による中止(22件、2,307例、RR:1.06、95%CI:0.84~1.33、p=0.62) ●有害事象による中止(25件、2,571例、RR:0.93、95%CI:0.75~1.14、p=0.47)・精神病理に関しても、両群間に有意な差は認められなかった。 ●精神病理(8件、1,337例、標準化平均差:0.00、95%CI:-0.11~0.11、p=0.99)・これらの結果は、いずれの向精神薬においても同様であった。・TEAEに関しては、1日1回投与のほうが不安症状および眠気の頻度が低かった。 ●不安症状(4件、347例、RR:0.53、95%CI:0.33~0.84、p=0.007) ●眠気(3件、934例、RR:0.82、95%CI:0.68~0.99、p=0.04) 著者らは「本結果より、精神疾患に対する向精神薬の投与は、向精神薬の種類にかかわらず、臨床的に1日1回投与が採用可能であると考えられる」としている。

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片頭痛患者の頭痛日数が不安やうつに及ぼす影響

 片頭痛のマネジメントを行ううえで、高度な障害を有する患者または精神医学的併存疾患リスクの高い患者を特定することは重要である。片頭痛による苦痛は、頭痛の頻度と共に増加するが、1ヵ月当たりの頭痛日数がどの程度になると、障害の重症度が高まるのか、不安や抑うつ症状のリスクが上昇するのかは、よくわかっていない。スペイン・Clinica Universidad de NavarraのP. Irimia氏らは、片頭痛患者における不安や抑うつ症状、障害重症度、QOL低下などのリスクに影響を及ぼす1ヵ月当たりの頭痛日数を推定するため、検討を行った。Scientific Reports誌2021年4月15日号の報告。 片頭痛患者468例(平均年齢:36.8±10.7歳、女性の割合:90.2%)を対象に分析を行った。対象患者のうち、1ヵ月当たりの頭痛日数が15日以上であった患者の割合は、38.5%であった。 主な結果は以下のとおり。・1ヵ月当たりの頭痛日数と不安症状(r=0.273、p<0.001)、抑うつ症状(r=0.337、p<0.001)、障害重症度(r=0.519、p<0.001)との間に正の相関が認められた。・不安症状リスクは、1ヵ月当たりの頭痛日数が3日以上の患者で高かった。・抑うつ症状リスクは、1ヵ月当たりの頭痛日数が19日以上の患者で高かった。・1ヵ月当たりの頭痛日数が10日以上の患者では、障害重症度が非常に高かった。 著者らは「1ヵ月当たりの頭痛日数が10日以上の片頭痛患者では、非常に重度の障害を有しており、1ヵ月当たりの頭痛日数が3日以上の片頭痛患者では、不安症状に関するスクリーニングを行うべきであることを示唆している」としている。

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コロナワクチン後の抗体価、上がりやすい因子と上がりにくい因子/千葉大

 千葉大学病院は6月3日、ファイザー社の新型コロナワクチンを2回接種した同病院の職員1,774人の抗体価を調べたところ、ほぼ全員で抗体価の上昇が見られ、同ワクチンの有効性が確認されたと発表した。千葉大によると、ワクチンへの抗体反応を調べる研究としては現時点で最大規模と見られるという。 本研究は、千葉大学医学部附属病院と千葉大学医学研究院が連携して設置した「コロナワクチンセンター」で実施された。ファイザー社の新型コロナワクチン「コミナティ筋注」を接種した同院職員を対象とし、1回目接種前および2回目接種後に各々採取した血液から抗体価を測定した。 主な結果は以下のとおり。・1回目接種前は2,015例(男性:719例、女性:1,296例、21~72歳)、2回目接種後には、1,774例(男性:606例、女性:1,168例、21~72歳)から血液が採取された。このうち、接種前の段階で抗体が陽性だったのは、21例(1.1%)だった。・2回目接種後、抗体が陽性となったのは1,774例中1,773例(99.9%)だった。・抗体価は、接種前の中央値が<0.4U/mLだったが、接種後は2,060U/mLに上昇していた。・ワクチン接種後の抗体価が上がりにくい因子として、(1)免疫抑制剤を服用(2)高年齢(3)副腎皮質ステロイド薬を服用(4)飲酒頻度が高い、といった事項との関連性が見られた。・一方、ワクチン接種後の抗体価が上がりやすい因子として、(1)COVID-19既往歴あり(2)女性(3)1回目と2回目の接種間隔が長い(18〜25日)(4)抗アレルギー薬を服用(花粉症薬など)、といった事項との関連性が見られた。 本研究結果の詳細は、プレプリントサーバーのmedRxiv1)に6月4日付で掲載されている(今後、審査によっては論文内容が修正される場合あり)。(ケアネット 鄭 優子)1)Antibody responses to BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in 2,015 healthcare workers in a single tertiary referral hospital in Japan(medRxiv)

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遺伝子ワクチン接種後の新たな変異株感染(Breakthrough Infection)は何を意味するか?(解説:山口佳寿博氏)-1401

 米国においては、2020年12月中旬よりFDAが承認した3種のワクチン(Pfizer:BNT162b2、Moderna:mRNA-1273、Johnson & Johnson:Ad26.COV2.S)の接種が急ピッチで進められており、2021年5月28日現在、18歳以上の米国成人の62%、12歳以上の国民の59%が少なくとも1回のワクチン接種を、18歳以上の51%、12歳以上の48%が完全なワクチン接種(BNT162b2:2回接種、mRNA-1273:2回接種、Ad26.COV2.S:1回接種)を終了している(The New York Times. 2021年5月28日)。ただし、血栓形成という特殊副反応のためにAd26.COV2.Sの接種が2021年4月13日から4月23日までの間中止されたので、本ワクチンの接種率は他の2つのワクチンに比べ低い。上記のデータは、ワクチンによる疑似感染が集団免疫の確立に必要な最低感染率40%を超過し(山口. 日本医事新報 2020;5026:26-31)、米国は現時点でワクチン疑似感染による集団免疫を確立しつつある国だと考えることができる。その結果、2021年1月中旬以降、米国のコロナ感染者数、入院者数、死亡者数は順調に低下し、感染者数は2週間平均で37%、入院者数は23%、死亡者数は12%と明確な低下を示している。 米国CDCの報告によると、2021年4月30日までにワクチン接種者において1万262人の新規コロナ感染者が観察された(CDC COVID-19 Vaccine Breakthrough Case Investigations Team. MMWR; Vol. 70, 2021 May 25)。ワクチン接種後の新規感染者の27%は無症候性、新規感染関連入院は6.9%、新規感染関連死亡は1.3%に認められた。遺伝子配列から決定された検出ウイルスの内訳は、B.1.1.7(英国株):56%、B.1.427/429(米国株):33%、P.1(ブラジル株):8%、B.1.351(南アフリカ株):3%であり、B.1.617(インド株)ならびにB.1.526(米国株)は検出されなかった。一方、本論評で採り上げたHacisuleyman氏らの論文では、2021年3月30日現在、ニューヨーク市における蔓延ウイルスの中心は、B.1.1.7(英国株:26.2%)とB.1.526(米国株:42.9%)であったが、この2種類のウイルスとは異なる新たな変異ウイルスが検出されたと報告された(一つは感染性増強変異と液性免疫回避変異の両者を、もう一つは感染性増強変異のみを有する変異株)(Hacisuleyman E, et al. N Engl J Med. 2021 Apr 21. [Epub ahead of print])。米国全土とニューヨーク市という地域の差があるものの1ヵ月の間に米国発症のB.1.526が消失し、その替わりとして米国発症のB.1.427/429の頻度が急増し、かつ、今まで検出されていなかった新たな変異ウイルスが一過性にせよ検出されたという知見は、ワクチン接種とともに変異ウイルスの選択がダイナミックに進行していることを示す所見として興味深い。 以上の事実が何を意味するかを考察するために現状のワクチンの本質について考えていきたい。世界各国で接種が始まっている現状のワクチンはすべて武漢原株のS蛋白全長をplatformとして作成されたものであり、種々の治験結果から、D614G株(従来株、第2世代変異株)と液性免疫回避作用が弱い英国株(D614Gから進化したN501Y変異を有する第3世代変異株の一つ)に対しては確実な予防効果を発揮することが判明している(山口. J-CLEAR論評-1380. 2021 April 27、Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)。一方、液性免疫回避作用が強い第3世代のB.1.351(南アフリカ株:N501Y変異[+])、P.1(ブラジル株:N501Y変異[+])、B.1.617(インド株、N501Y変異[-])に対する現状ワクチンの予防効果は、D614G株、英国株への効果に比べ有意に低いことが報告されている(山口. 日本医事新報 2021;5053:32-38、Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021 Apr 21. [Epub ahead of print]、Abu-Raddad LJ, et al. N Engl J Med. 2021 May 5. [Epub ahead of print])。すなわち、5月現在、米国で確立されつつあるワクチン疑似感染による集団免疫は、D614G株(第2世代変異株)とB.1.1.7(英国株、液性免疫回避作用が弱い第3世代変異株)に対するものであり、液性免疫回避作用が強いB.1.351(南アフリカ株)、P.1(ブラジル株)、B.1.617(インド株)、B.1.526(米国株)、その他の新たな第3世代変異株に対する集団免疫は確立に至っていないことに留意する必要がある。米国で確立されつつある集団免疫は、現在の主流ウイルスである液性免疫回避作用が弱い英国株による感染を駆逐し、今後ある一定期間はコロナ感染者数を低下させるであろう(集団免疫の正の効果)。しかしながら、英国株に対する集団免疫の確立は、現在の集団免疫に対して抵抗性を有する種々の第3世代変異株(B.1.351、P.1、B.1.617、B.1.526など)のうちいずれか、あるいは、まったく新しい変異株がウイルスの生存をかけて自然選択される確率を上昇させる(集団免疫の負の効果)(Lauring AS, et al. JAMA. 2021;325:529-531.)。その結果として、近い将来、新たな変異株に起因する感染爆発が起こる可能性があることに注意しなければならない。 以上のワクチン疑似感染に関する考察を支持する事実として、第2世代のD614G株から第3世代の英国株、南アフリカ株、ブラジル株、インド株が発生した状況について考えてみたい。これらの第3世代変異株は、D614G株による重篤な自然感染が発生した地域で流布するようになった。すなわち、D614G株の自然感染によってD614G株に対する集団免疫、あるいは、それに近い状況が英国、南アフリカ、ブラジル、インドにおいて確立され、その結果として、ウイルスは生存のためにD614G株に対する集団免疫に打ち勝つ第3世代変異株を選択、世界の多くの地域で第3世代変異株による感染爆発が発生したものと考えられる(山口. J-CLEAR論評-1381. 2021 April 28)。ワクチン接種による疑似感染で人工的集団免疫が確立された場合にも質的に同様の集団免疫抵抗性のウイルスが近未来に選択されるものと考えなければならない。 米国を中心に論を進めたが、集団免疫確立に伴う負の効果はワクチン接種が急ピッチで進められている他の先進諸国でも発生するものと考えておかなければならない。5月現在、本邦における主流ウイルスもD614G株から英国株に置換されつつあり(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部.2021年5月11日)、ワクチン疑似感染による英国株に対する集団免疫が早晩確立されるであろう。その結果として、一過性の社会的平穏が訪れるはずであるが、その先には、米国を例として考察したワクチン疑似感染による人工的集団免疫に抵抗性の新たな変異ウイルスによる第5波の感染が発生する可能性がある。この場合、いかなる変異株が選択されるかを予測することは難しく、現在すでに発生している液性免疫回避作用が強い第3世代変異株(南アフリカ株、ブラジル株、インド株など)の中から選択されるかもしれないし、新たな変異株(第4世代)が発生する可能性を考えておかなければならない。その意味で、ワクチン接種が進められた場合、変異ウイルスに対する大規模、かつ、確実なモニターを継続する必要があることを絶対的に忘れてはならない。

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ワクチン接種後の手のしびれ、痛みをどう診るか(2)

これまで、安全な筋肉注射手技に従ってワクチンを接種する限り、末梢神経損傷については「接種会場で深く理解しておく必要はない」「ひとくちに神経損傷と言ってもさまざまな状態がある」「神経損傷が無い場合でも手の痺れを訴えることがある」と解説してきました。これらを当然のことと思う先生もいらっしゃるでしょうが、私は医原性末梢神経損傷を考える上で大切な基礎知識と考えています。今回は神経損傷ではなくても「手のしびれや痛み」を訴える患者についての事例や、ワクチン接種会場での被接種者への対応について紹介したいと思います。<今回のポイント>ワクチン接種会場で被接種者が指先まで違和感を訴えても、すぐに「正中神経損傷」や「尺骨神経損傷」などと判断するのは避けたほうがよい。ワクチン接種時の「手がしびれたりしませんか?」という声かけは、解剖学的には合理的でなくても、臨床的に意味がないわけではない。慎重に神経損傷を診断すべき症例には、どのようなものがありますか?医原性末梢神経損傷が疑われたある症例について説明します。Aさん(70代女性)は、左肘の静脈から採血された際に指先まで響くような電撃痛を訴えたものの、すぐに針を抜かれることなく採血が試みられたとのことです。その後徐々に痛みはひどくなり、肘だけでなく手までビリビリとしびれるような疼痛のために眠れなくなりました。1ヵ月後には服の袖が当たっても痛いほどで、左手がうまく使えない状態になり、当初診察した整形外科医により、「正中神経損傷」という病名で当院へ紹介されました。「指先にまで響くような電撃痛」と言えば、指先まで繋がっている正中神経や尺骨神経を刺してしまったのでは、と考えてしまうこともあるのではと思います。さらにこの時点でCRPS(複合性局所疼痛症候群)という病名をすぐに思い浮かべる医師もいらっしゃるでしょう。しかし初診時、実際には正中神経の障害を疑う身体所見はありませんでした。超音波診断装置などを用いた結果、尺側皮静脈に接して走行する内側前腕皮神経の採血に伴った障害に心因的な要素が重なったものと診断しました(図1)。画像を拡大する尺側皮静脈(青の網掛け部分)に伴走して走行する直径約0.3mmの内側前腕皮神経(黄色矢印)の周囲の皮下組織に、血腫形成後と考えられる一部低エコー領域(点線囲い部)を認めるが、皮神経の明らかな形態上の異常所見は認めなかった。近年の超音波診断装置では径1mm未満の皮神経であっても断裂や偽神経腫の形成を確認可能であり、治療方針の決定に活用することができる。すべての臨床に関わる医師に知っていただきたいのですが、きっちり神経学的所見(感覚障害の範囲や運動機能の評価、あるいは誘発テストなど)を行わずに「正中神経損傷」という病名を安易にカルテに記載することは避けるべきです。司法からみると内科医も整形外科医も同じ医師ですから、後々裁判になった際にややこしい問題に発展することがあります。皮神経損傷と正中神経損傷では、医療側の責任は大違いなのです。もっとも整形外科医でも上記のような誤った診断を下す事例もあるのですが。まわりくどくなりましたが、つまり「末梢神経損傷の正確な診断を下す」ことは必ずしもワクチン接種の現場ですぐに行う必要はなく、できれば第三者としてきちんと評価できる医師に紹介するべきではないかということです。よほど激烈な症状でない限り、当日に治療を開始しなければならないものではありません。上記症例ではなぜ正中神経を刺していないのに、そんなに強い痛みが起こったのですか?この患者さんの話をよくよく聞いてみると、数ヵ月前に行った採血での医療従事者の対応が原因で、今回の採血前から穿刺に対する強い不安を抱いていたことが分かりました。人間の脳は、実際に刺されることによる局所の侵害刺激だけではなく、記憶や不安といった心理的要素によっても痛みをより強く認識することが知られています。前腕を支配する皮神経への穿刺であるのに指先までしびれが出ることについて不思議に思われるかもしれません。たとえば、手根管症候群は典型的な正中神経の障害であり、「感覚鈍麻」を母指から環指の橈側に生じることはよく知られています。一方で手根管症候群患者の自覚する「しびれ」は小指を含んだ手全体であることは珍しいものではありませんが1)、おそらく整形外科や脳神経内科以外だと意外に思われる方もいらっしゃるでしょう(図2)。画像を拡大する典型的な正中神経障害である手根管症候群であっても、患者自身の訴える「しびれ」は小指を含むことは稀ではない。同様に、患者が訴える「しびれ」の領域と実際に生じる「感覚鈍麻」の領域が一致しないことは、医原性末梢神経損傷の症例でもしばしば経験する。つまり患者の感じる「しびれ」は必ずしも障害をうけた神経領域に該当するものではないのです。採血などの場合、正中神経や尺骨神経に針が当たることがなくても手まで違和感を自覚することはしばしばあります。医療行為をきっかけに生じたこのような症状は、もともと患者が抱えていた不安や不適切な初期対応によって、さらに悪循環に入り難治性の痛みとなることがあります。医原性末梢神経損傷と慢性化・難治化の危険因子、その対応については日本ペインクリニック学会によるペインクリニック治療指針(p128)に素晴らしい文章がありますので、すべての医療従事者にぜひ一度読んでいただきたいと思います。大切なのは、薬液を注入せずに針で神経を突いただけであれば自然に末梢神経は回復することが期待できるものの、その後の対応によって治りにくく強い痛みになるということです。さきほど症例提示した採血後の強い腕の痛みを訴えたAさんには、慎重な診察に加えて不安や不満をできるだけ汲み取りながら丁寧に病状を説明し、その後症状は自然に改善しました。患者の不安に対して早めに誠実に対応することは、その後の経過に影響すると考えます。「手にビリっとくる感じがありませんか?」と声をかけることに意味はありますか?安全な筋肉注射の手技に従って筋肉注射を行う限り、橈骨神経に穿刺することはないはずです。肩峰下三横指での穿刺で放散痛をともなわず腋窩神経を生じたとの報告もありますから、逆に穿刺時に放散痛がなかったから神経損傷を避けられるというわけでもなさそうです。そのような意味では、「手にビリっとくる感じがありませんか?」という声かけに解剖学的な合理性は無いといえるかもしれません。しかし、黙ったままブッスリと刺されるよりも、被接種者の不安を汲み取って声をかけることは大切ですから、まったく無意味な声かけだとも思いません。このあたりは初めて対面する瞬間からの雰囲気作りも含めて、医師や看護師のテクニックの一つではないでしょうか(図3)。画像を拡大する実際には「チクッとしますよ」と言った次の瞬間に接種は終わってしまう。そのため筋肉注射手技の指導内容には声かけの内容を当初含めていなかった。しかし、当院の研修医が「手にビリっとくる感じはありませんか?」と自発的に声かけしてくれたことで、筆者自身は安心感を得て注射を受けることができた。仮に接種会場で被接種者が「腕にしびれがきました」と訴えた時には、「自分の不安を無視された」と思われないように対応してほしいと思います。正確な神経学的所見をとることが難しくても、「大丈夫ですか?」とこちらの心配を伝え、手指の自動運動などを確認しましょう。可能性は限りなく低いかもしれませんが器質的異常を疑うとすれば、整形外科医としては末梢神経損傷よりむしろ偶発的な脳梗塞などを見逃すほうが心配なくらいです。その上で「後日もし症状が続くようであれば、整形外科を受診してください」などと説明するのが良いでしょう。そのためには、あらかじめどの医療機関が医原性末梢神経障害をよく診てくれるのか把握しておくことは無駄ではないと思います。当院でワクチン接種を受けたあと、腕の違和感を訴えて受診されたある職員によくよく聞いてみると「急に接種の順番が決まり、自分自身納得できず不安が強い状態で注射を受けた」という背景に行き当たりました。興味深いのは、診察室でいろいろと症状に関する不安を吐き出してもらった直後、「違和感が軽くなったように思います」と言われたことで、その後自然経過で症状も改善されたようです。また別の職員は、「自分でも変だと思うのですが、実は接種の予診前から緊張して手に違和感を覚えていました」とのことでした。これらの自覚症状について器質的な機序を説明することは難しくても、「このような合併症は起こらないはずだから知りません」という態度ではなく「そう感じることがあっても不思議ではないですよね」と共感することが大切なのではと思います。おわりに今回の新型コロナウイルスワクチンについては、明らかに誤った情報がネット上に溢れています。それを「科学的なものではない」と切り捨てることは簡単です。しかし不確かな情報が嫌でも目に入ってくる世の中ですし、それを信じてしまう人は被害者でもあります。ワクチンについての不安や、自分の体に針が刺されることの不安、あるいは医療従事者の対応によって腕の違和感が強くなったりすることは自然な心の作用だと思いますから、接種に関わる医師や看護師はできるだけそれを汲み取り、少しでも安心してもらえるよう個々においても対応することが重要ではないだろうかと思います。 (参考)患者説明スライド「新型コロナワクチン、接種会場に行く前に」参考1)Caliandro P, et al. Clin Neurophysiol. 2006;117:228-231.

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心筋炎と心筋梗塞を簡便に鑑別できる新規miRNAを同定/NEJM

 心筋炎のマウスおよびヒトにおいて同定された新規マイクロRNA(miRNA)のヒト相同体(hsa-miR-Chr8:96)は、心筋炎患者と心筋梗塞患者の区別に利用できる可能性があることを、スペイン・国立心臓血管研究センターのRafael Blanco-Dominguez氏らが明らかにした。心筋炎は、冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞(MINOCA)と初期診断を受けた患者の最終診断となることが多く、心筋梗塞の基準を満たす患者の約10~20%にみられる。急性心筋炎の診断は通常、心内膜心筋生検または心臓MRIのいずれかが必要であるが、前者は侵襲的であり、後者はすべての施設で利用できるわけではない。そのため、新たな診断法が求められていた。NEJM誌2021年5月27日号掲載の報告。心筋炎または心筋梗塞モデルマウスのT細胞を解析 研究グループは、心筋炎に特異的なmiRNAを同定するため、マウスに実験的自己免疫性心筋炎または心筋梗塞を誘発した後、CD4陽性T細胞およびTh17細胞を分離してmiRNAマイクロアレイ解析と定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)解析を実施した。また、コクサッキーウイルスにより心筋炎を誘発したマウスから採取した検体でも、qPCRを実施した。 さらに、このmiRNAのヒト相同体を同定し、急性心筋炎患者の血漿における発現を、各種対照群での発現と比較した。心筋炎患者で確認され心筋梗塞患者では検出されないmiRNAを確認 炎症性サイトカインであるインターロイキン-17を産生するTヘルパー(Th17)細胞が、心筋炎の急性期における心筋損傷の特徴であることを確認した。Th17細胞により合成されるmiRNAのmmu-miR-721が、急性自己免疫性心筋炎またはウイルス性心筋炎のマウスの血漿中に存在することが確認されたが、急性心筋梗塞のマウスの血漿からは検出されなかった。 このmmu-miR-721のヒト相同体をクローニングし、hsa-miR-Chr8:96と名付けた。hsa-miR-Chr8:96は、心筋炎患者の独立した4つの患者コホートで特定された。血漿中hsa-miR-Chr8:96の検出による急性心筋炎と急性心筋梗塞の鑑別に関するROC曲線下面積は0.927であった(95%信頼区間[CI]:0.879~0.975)。年齢、性別、駆出率、血清トロポニン値で補正したモデルでも、このmiRNAの診断的価値が認められた。 なお著者は、このmiRNAは拡張型心筋症などの他の心疾患では評価されておらず、hsa-miR-Chr8:96の発現には大きなばらつきがみられたことなどから、「hsa-miR-Chr8:96が心筋炎の診断検査に適しているかを判断するには、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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統合失調症患者における末梢炎症レベルの再定義~FACE-SZコホート研究

 統合失調症の予後には、末梢炎症が関連しているといわれている。高感度C反応性蛋白(hs-CRP)は、日常的に最も使用されている炎症性バイオマーカーである。しかし、末梢炎症の有無を区分するための合意に基づくカットオフ値は、これまで明確に定義されていなかった。フランス・エクス=マルセイユ大学のG. Fond氏らは、hs-CRP 1~3mg/Lの統合失調症患者は、1mg/L未満の患者と比較し、治療転帰が不良であるかを検討した。Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry誌オンライン版2021年4月29日号の報告。 対象は、2010~18年にフランス国内の専門学術センター10施設が参加したFACE-SZコホート研究より抽出したhs-CRP 3mg/L未満の統合失調症患者。炎症の潜在的な原因、社会人口統計、疾患の特徴、現在の疾患重症度、機能、QOLを、FACE-SZ標準化プロトコールに従って収集した。 主な結果は以下のとおり。・580例が抽出され、そのうち226例に軽度の炎症(hs-CRP 1~3mg/L)が認められた。・炎症の潜在的な原因として、過体重と歯科治療の欠如が特定された。・これらの因子で調整した後、炎症の認められた患者は、検出値(hs-CRP 1mg/L)未満の患者と比較し、より重度の精神症状、抑うつ症状、攻撃性、機能障害を有していた。・喫煙や身体活動レベルとの関連は認められなかった。 著者らは「hs-CRP 1~3mg/Lの統合失調症患者は、炎症関連障害のリスクがあると考える必要がある。末梢炎症の原因をコントロールするうえで、減量や積極的な歯科治療の実施が、有用な戦略である可能性が示唆された。カットオフ値hs-CRP 1mg/L超は、統合失調症患者の末梢炎症の検出において、信頼できるマーカーであると考えられる」としている。

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第24回 高齢糖尿病患者のサルコペニア、介入タイミングと方法は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第24回 高齢糖尿病患者のサルコペニア、介入タイミングと方法は?Q1 評価法と介入の判断、目標設定の考え方について教えてください2019年にアジアのワーキンググループにおいて、サルコペニアの診断基準の変更がありました1)。これによると、一般の診療所におけるサルコペニアの簡単なスクリーニングと評価法が示されています。すなわち、下腿周囲長が短いもの、SARC-Fと呼ばれる簡単な10点満点の質問で4点以上のもの、あるいはその両者をあわせたSARC-Calfと呼ばれるスコアが高値のものは評価の対象となります。評価としては握力または5回椅子立ち上がりテストを行い、前者では男性<28kg、女性<18kg、後者では12秒以上かかるものはサルコペニアの可能性ありとして介入をはじめてよいとされています。本来サルコペニアの確定診断には筋量測定が必要ですが、これにはDXA法やバイオインピーダンス法といった特殊な装置が必要であり一般診療所では行いにくいこと、さらに身体機能として示されてきた歩行速度も実地では実施が困難であるため、より簡便な握力と椅子立ち上がりで評価できるようになりました。なお、近年筋量より筋力のほうが予後をよく反映するとする報告がみられています。これらの指標(下腿周囲長、握力、椅子立ち上がり)の維持・向上を目標とするわけですが、筋量の増加は効果が認めにくい一方で、筋力や身体機能の改善はその後の機能予後の改善やフレイルの予防に重要です。さらに、トレーニングの内容にもよりますが、握力よりも下肢筋力や下肢運動機能のほうが効果が出やすいようです2)。したがって、クリニックにおいては、椅子立ち上がりテストを定期的に行って、時間の短縮を確認することが治療効果の評価に有効ではないかと思います。改善が認められたら努力を賞賛し、さらに0.5~1秒短い目標時間を設定する、とすればモチベーションも維持できるのではないかと思います。Q2 食事療法・タンパク質量の設定について、具体的な考え方は?日本人の食事摂取基準(2020年版)では、フレイルおよびサルコペニアの発症予防を目的とした場合、65 歳以上では少なくとも1.0g/kg体重/日以上のタンパク質を摂取することを推奨していますので3)、1日およそ60g以上, 1食当たり20g以上となります。低栄養が疑われるものではさらに多くの摂取が推奨されます。魚、鶏ささみ肉、牛赤身肉など油脂が少ない肉は100g当たり約20gのタンパク質を含みますが、バラ肉などの油脂が多い肉や加工肉では含量が少なくなるため注意が必要です(表)。画像を拡大するタンパク質を十分摂取するには、まず3食食べ欠食しないこと、それぞれにタンパク質を含む主菜をとることが重要です。主食を増やさず油脂の多い肉を避けるよう指導すれば体重はさほど増加しないと考えられますし、多少の増加は許容しています。肉がとりにくい人は、大豆製品や乳製品を利用しますが、20gのタンパク質を豆腐からとるには300g(1丁)が必要であり、やはり肉、魚の摂取を勧めたいところです。また単品料理よりもグラタン、クリームシチュー、ピカタなどにすることで乳製品や卵のタンパク質を追加したり、みそ汁に豆腐や油揚げを入れるなどの工夫も有効ですが、脂質や塩分の増加には注意します。麺類をとる時などは、卵、ツナ缶、納豆などをトッピングしたり、冷奴など一品追加するようにします。ビタミンDもタンパク質合成に重要ですが、きのこ類の他、イワシ、サンマ、サケなどの魚類に豊富に含まれるため、魚を1日1食とるように勧めます。腎機能低下例にもタンパク質摂取を勧めるべきかには議論があります。慢性腎臓病(CKD)ではタンパク制限が末期腎不全への進行を防止するとするエビデンスがある一方、サルコペニアを合併した高齢者では死亡リスクが高いが高齢CKDではタンパク制限が死亡率上昇につながることも報告されています。したがって、2019年に日本腎臓学会が公表した「サルコペニア・フレイルを合併した 保存期 CKD の食事療法の提言」では、末期腎不全への進行予防を重視するか、死亡リスクを重視するかで摂取量を柔軟に設定することとしています5)。すなわち死亡リスクが高いと考えられる例、サルコペニアが重度と考えられる例ではタンパク質の摂取制限を緩めることを考えますが、それでもCKD4-5期ではタンパク0.8g/kg体重/日を上限とするとしています。Q3 運動療法・筋肉量を増やすための指導法についてサルコペニアの予防・治療にはレジスタンス運動を含む運動が重要です。強度については、高齢者においては、低強度であっても反復して行うことによって筋力や筋量の向上が期待できるという報告があります6)。実際に高齢者が定期的にジム通いして高強度の運動を継続することは難しく、自宅で自重や簡単な器具(ゴムチューブ)などを用いた運動が適当であり、継続もしやすいと考えられます。たとえば中腰のスクワットや座位でのももあげ、つまさきあげ、かかとあげだけなどでも効果が期待できます。そのうえで、本人が「楽」と感じるレベルから「ややきつい」レベルにあげていくとよいでしょう。歩行などの有酸素運動やバランス運動、柔軟性運動を組み合わせた多要素の運動も勧められますが(図)、バランス運動の施行時には転倒に注意が必要です。また当然ながら十分なタンパク質摂取をあわせて指導することが重要です。画像を拡大する運動には継続も必要ですが、意欲を保つのは容易ではありません。運動を開始、継続してもらうには具体的な目標を設定することと、毎日記録をつけてもらうことが大切です。歩数計をもたせて目標を設定し記録してもらいます。また、たとえばいくつかの運動の画を書いた簡単なカードを作成して渡し(Webにもいろいろヒントがあります)、行ったらマルをつけて提出してもらいます。それに対し必ずコメントをし(がんばりました、もう一息など)新しい記録紙を渡して、少し高い目標を患者さんと一緒に設定します。昔ラジオ体操のカードにはんこを押してもらった、あの感覚です。どうしても意欲が乏しいときは、場合によってはご家族も巻き込んで一緒に運動するようお願いしています。また、前述のようにたびたび椅子立ち上がりや握力などの検査を行い、結果をフィードバックして効果を実感してもらうことがモチベーション維持に大切であると考えます。Q4 サルコペニア傾向ないしやせ型の高齢糖尿病患者さんにSGLT2阻害薬を使ってよいでしょうか?最近日本人2型糖尿病患者へのSGLT2阻害薬の投与の体組成への影響の違いを検討した研究の65~74歳のサブ解析において、SGLT2阻害薬はメトホルミンと比較して筋量や筋力の低下をきたさなかったと報告されましたが7)、BMI≧22、平均BMI 27とやや肥満で筋量や筋力も保たれているものを対象としており、75歳以上の患者ややせた患者の筋量や筋力への影響は明らかではありません。日本糖尿病学会が策定・公表している「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」でも、75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳でサルコペニアなどの老年症候群のある場合の投与は注意して慎重に行う、とされており8)、やはりこれらの患者ではなるべく使用を避け、使用する場合はタンパク質摂取と運動が十分に行われていることを確認することが重要です。さらに定期的に体重、筋力や運動機能をフォローし、明らかな低下がみられた時には中止を検討すべきと考えられます。1)Chen LK, et al, J Am Med Dir Assoc 2020 ;21: 300-307.2)Makizako H et al, J. Clin. Med. 2020, 9, 1386.3)厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版) 」4)文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂) 」5)日本腎臓学会「サルコペニア・フレイルを合併した 保存期 CKD の食事療法の提言」6)山田実. 日老医誌 2019;56:217-226.7)Koshizaka M, et al, Diabetes Ther 2021; 12: 183-196.8)日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」2020

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