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切り傷の縫合処置(手術器具、糸、針の選択)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第5回

第5回 切り傷の縫合処置(手術器具、糸、針の選択)《解説》お待たせしていましたが、今回は、縫合の主役である手術器具の選択について、知っておくべきポイントを説明していきます。形成外科の縫合で使われる器械は、外科系の他科よりも繊細で細かい操作が可能なものが多いです。とはいっても、人によって好みが分かれるので、一例として参考にしていただければと思います。(1)器械の選択持針器(じしんき)へガール型、マチュー型などがあります。通常、形成外科では3−0~7−0といった細手の針付き縫合糸を使用することが多く、繊細な操作がしやすいへガール型を使います。一方、これより太く、大きな針を使う縫合糸や、弾機針(針の根元が糸を通しやすい構造になっているもの)に絹糸などを掛けて使用する場合は、マチュー型を使用します。大きな針を繊細なヘガール型でつかむと器具が傷むので注意しましょう。鑷子、スキンフック形成外科では、先が細くなっている鑷子(セッシ、ピンセット)の中でも小さいものを使います。マッカンドー、アドソン、ビショップハーモンの3種類が代表的で、大きさで適切なものを選んでいきます。それぞれ、先端部に「鈎(こう)」がついている有鈎と、ついていない無鈎があります。ほかに、形成外科や皮膚科は、スキンフックもよく使います。どれを使うにせよ、組織をがっちりつかんではいけません! 皮膚の縫合、剥離に用いる鑷子は、好みにもよりますが、「有鈎」が多いです。皮膚を直接つかむのではなく、漫画の図のように皮下組織をつかみます。または、スキンフック(有鈎)の鈎を引っ掛けて使います。剪刀やメスも必要に応じて使用しますが、ここでの説明は省きます(解説は別の回で行う予定です)。そのほか、縫合セットには筋鈎やモスキート鉗子、メッツェンバウム剪刀などもあると安心です。(2)縫合糸の選択縫合糸の種類について、大きく分けると吸収糸と非吸収糸に分けられます。天然素材(わが国では絹糸のみ)か合成素材かでも分かれますが、外来で取り扱う創傷の縫合においては、ほぼ合成繊維の糸しか使いません。また、それぞれモノフィラメント(単繊維糸)とマルチフィラメント(多繊維の撚糸)があります。図1:縫合糸の種類非吸収性縫合糸:治癒後の抜糸が必要なので、表皮組織を中心に使用モノフィラメントの成分としては、ナイロン、ポリプロピレン、ポリブテステル、ポリフッ化ビニリデンなど(商品名:エチロン、ノバフィル、プロリーンなど)がありますが、ポリアミド系のナイロンは使用頻度が高く、多くの病院に置いてあると思います。マルチフィラメントの成分にはナイロンとポリエステル(同:サージロン、ベアブレードなど)があります。吸収性縫合糸:生体内で加水分解を受けて吸収されるため、主に真皮・皮下組織に使用モノフィラメントの成分としては、ポリジオキサノン、ポリグリコネート、ポリグレカプロン25など(商品名:PDSII、マクソン、モノクリルなど)、マルチフィラメントの成分は、ポリグラクチン910やラクトマー9-1など(同:バイクリル、ポリゾーブなど)が使われています。より吸収時間が短くなるように加工されている製品もあります。種類によって、強度持続時間や吸収日数が異なるので、必要に応じて選びます。たとえば、頬部の真皮縫合は6-0吸収性合成モノフィラメント糸、表皮縫合は7-0非吸収性合成モノフィラメント糸など。強度が持続するものは傷痕を小さくし、創部がきれいになるメリットがありますが、細菌感染などによる縫合糸膿瘍のリスクもあるので、メリット・デメリットのバランスを考えて選びましょう。(3)針の選択針の形状(と、使用する糸の太さ)は、図のようにパッケージに表示されています。形成外科では、皮膚表面や軟部組織を扱うことが多いです。皮膚の縫合では糸付きの角針、とくに逆三角形の3/8円の弱彎針がよく使われます。深部の縫合になると1/2円の強彎または5/8円の強強彎が便利です。裂けてしまいそうな組織、たとえば口腔内の粘膜などには丸針を使うこともあります。図2:縫合針の分類そのほか、糸を切るための糸切りばさみ(眼科用セーレ、太めの糸であればクーパー)、出血などを拭く滅菌ガーゼなども忘れずに準備しましょう。また、今回紹介した内容は、あくまでも縫合をするために必要な最低限のセットなので、デブリードマンなど追加の処置をする場合は、道具も適宜追加してください。参考1)McCarthy J.G. Introduction to plastic surgery. Plastic Surgery. Vol 1. Philadelphia:W. B. Saunders Co.;1990.p.42-53.2)小林 寛伊. 縫合材料の歴史と問題点. 医科器械学雑誌. 1975;45:627−634.3)日本医療用縫合糸協会ホームページ4)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.5)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.6)上田 晃一 編. PEPARS(ペパーズ)88 コツがわかる!形成外科の基本手技―後期臨床研修医・外科系医師のために―. 全日本病院出版会;2014.

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倦怠感は日中の過度な眠気と独立して抑うつ症状と関連

 一般集団における倦怠感に対する睡眠障害や併存疾患の影響について、韓国・ソウル大学校病院のJun-Sang Sunwoo氏らが、調査を行った。Sleep & Breathing誌オンライン版2021年7月22日号の報告。 2018年に実施された韓国の横断調査より得られたデータを用いて、分析を行った。倦怠感の評価には、Fatigue Severity Scaleを用いた。就業日の睡眠時間、クロノタイプ、休日の睡眠不足を解消するための睡眠、日中の過度な眠気などの睡眠習慣および抑うつ症状、その他の併存疾患について調査した。倦怠感を従属変数として、多重ロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、19~92歳の成人2,493人(男性の割合:50%、平均年齢:47.9±16.4歳)であった。・就業日の平均睡眠時間は、7.1±1.1時間であり、倦怠感の有病率は、31%であった。・潜在的な交絡因子で調整した後、倦怠感は以下の因子との関連が認められた。 ●日中の過度な眠気(オッズ比[OR]:3.751、95%信頼区間[CI]:2.928~4.805) ●抑うつ症状(OR:3.736、95%CI:2.701~5.169) ●睡眠不足の認識(OR:1.516、95%CI:1.249~1.839) ●休日の睡眠不足を解消するための睡眠(OR:1.123、95%CI:1.020~1.235) ●アルコール摂取の少なさ(OR:0.570、95%CI:0.432~0.752) ●運動不足(OR:0.737、95%CI:0.573~0.948)・サブグループ解析では、日中の過度な眠気が認められない人において、倦怠感と就労日の睡眠時間の短さとの関連が認められた(OR:0.899、95%CI:0.810~0.997)。・日中の過度な眠気が認められる人において、倦怠感と関連が認められた因子は、抑うつ症状(OR:2.842、95%CI:1.511~5.343)とアルコール摂取の少なさ(OR:0.476、95%CI:0.247~0.915)であった。 著者らは「日中の過度な眠気と独立して、倦怠感と抑うつ症状の有意な関連が認められた。倦怠感、抑うつ症状、睡眠の病態生理学的関連を明らかにするためには、さらなる研究が必要とされる」としている。

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閉経前の進行乳がん1次治療、エベロリムス併用でPFS延長(MIRACLE)/JAMA Oncol

 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)投与中に病勢進行したホルモン受容体(HR)陽性/HER2陰性の進行乳がんの閉経前女性を対象とした第II相無作為化試験(MIRACLE)で、レトロゾール単独に対して、エベロリムス併用で無増悪生存期間(PFS)延長が認められた。中国・Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical CollegeのYing Fan氏らがJAMA Oncology誌オンライン版で報告。 本試験は、2014年12月8日~2018年9月26日に1次治療を実施した対象患者において、レトロゾールとエベロリムス併用をレトロゾール単独と比較した多施設非盲検第II相無作為化試験。2015年1月5日~2019年12月30日にITT解析を実施した。対象:SERM投与中に病勢進行したHR陽性/HER2陰性の進行乳がんの閉経前女性 199例試験群:レトロゾール(2.5 mg1日1回経口)+エベロリムス(10 mg1日1回経口)101例対照群:レトロゾール(2.5 mg1日1回経口)98例両群とも28日サイクルの1日目にゴセレリン(3.6mg)を皮下投与。レトロゾール単独群の患者は、病勢進行時にエベロリムス併用群へのクロスオーバーが認められた。主要評価項目:無増悪生存期間(PFS) 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢(SD)は44.3歳(6.3歳)だった。・エベロリムス併用群はレトロゾール単独群に比べ、PFS中央値が有意に延長した(19.4ヵ月[95%CI:16.3~22.0ヵ月]vs.12.9ヵ月[同:7.6~15.7ヵ月]、ハザード比:0.64[同:0.46~0.89]、p=0.008)。・レトロゾール単独群98例中56例(57.1%)がエベロリムス併用群にクロスオーバーされ、クロスオーバー後のPFS中央値は5.5ヵ月(95%CI:3.8〜8.2ヵ月)だった。

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異常気温、世界中で死亡リスクに影響/Lancet

 米国・ワシントン大学のKatrin G Burkart氏らは、非最適気温への曝露による世界的・地域的負担の推定を目的に、欧州中期気象予報センター(European Centre for Medium-Range Weather Forecasts:ECMWF)が作成したERA5再解析データセットから得られた気温推定値と死亡との関連について解析。異常低温や異常高温への曝露は多様な死因による死亡リスクに影響し、ほとんどの地域では低温の影響が大きいが、気温が高い地域では低温の影響をはるかに上回る高温の影響がみられることを明らかにした。著者は、「高温リスクの曝露が着実に増加していることは、健康への懸念が高まっている」とまとめている。気温の高低と死亡率および罹患率の増加との関連はこれまでにも報告されているが、疾病負担の包括的な評価は行われていなかった。Lancet誌2021年8月21日号掲載の報告。気候変動監視のERA5再解析データを用い、気温と死亡の関連を解析 研究グループは、非最適気温への曝露による世界的・地域的負担の推定を目的に、パート1として、ECMWFが作成したERA5再解析データセットから得られた気温推定値を用い、死亡との関連を解析した。 ベイジアンメタ回帰の2次スプラインを用い、1日平均気温と23の平均気温帯に従い、個人の死因176疾患に関して死因別相対リスクをモデル化した後、日間死亡率データが入手可能な国について、死因別および全気温に起因する負担を算出した。また、パート1で得られた死因別相対リスクを世界のすべての場所に適用した。 曝露-反応曲線と日平均気温を組み合わせ、「世界の疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study)」による疾病負担に基づき、1990~2019年の死因別負担を算出した。異常低温・異常高温による死者は2019年では169万人 パート1では、1980年1月1日~2016年12月31日の、9ヵ国(ブラジル、チリ、中国、コロンビア、グアテマラ、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ、米国)における6,490万人の死亡データを用いた。評価対象となった死因176疾患のうち、有意差の基準を満たした17の死因が解析対象となった。 虚血性心疾患、脳卒中、心筋症/心筋炎、高血圧性心疾患、糖尿病、慢性腎臓病、下気道感染症、慢性閉塞性肺疾患は、日平均気温とJ字型の関連性を示したが、外因(例えば、殺人、自殺、溺死、および災害やその他の不慮の事故に関連するもの)リスクは、気温とともに単調に増加した。 理論的な最小リスク曝露レベルは、基本的な死因の構成の機能として、場所と年によって異なっていた。非最適気温に関する推定値は、ブラジルにおける死亡数7.98人/10万人(95%不確実性区間[UI]:7.10~8.85)、人口寄与割合(PAF)1.2%(95%UI:1.1~1.4)から、中国における死亡数35.1人/10万人(95%UI:29.9~40.3)、PA F4.7%(95%UI:4.3~5.1)の範囲であった。 2019年には、データが得られたすべての国で、低温に関連した死亡率が高温による死亡率を上回った。低温の影響が最も顕著だったのは、中国(PAFは4.3%[95%UI:3.9~4.7]、寄与率は10万人当たり32.0人[95%UI:27.2~36.8])、およびニュージーランド(それぞれ3.4%[95%UI:2.9~3.9]、26.4人[95%UI:22.1~30.2])、高温の影響が最も顕著だったのは、中国(0.4%[95%UI:0.3~0.6]、3.25人[95%UI:2.39~4.24])、およびブラジル(0.4%[95%UI:0.3~0.5]、2.71人[95%UI:2.15~3.37])であった。 これらの結果を世界のすべての国に適用した場合、2019年に世界で非最適気温に起因する死者は169万人と推定された。暑さに起因する負担が最も高かったのは、南・東南アジア、サハラ以南のアフリカ、北アフリカ・中東、寒さに起因する負担が最も高かったのは東・中央ヨーロッパ、中央アジアであった。

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農薬スピノサド0.9%局所投与、疥癬治療に有効

 要介護者のいる家庭や高齢者施設での感染問題で知られる疥癬は、ヒゼンダニが皮膚に寄生することで生じる伝染性皮膚疾患である。承認されたOTC薬はなく、承認された処方薬にも潜在的な耐性などの欠点があるが、土壌放線菌由来のマクロライド系殺虫剤スピノサドが、同治療薬として有効であることが示された。 米国・LSRN ResearchのJeffrey C. Seiler氏らが2つの無作為化試験の結果を解析し、4歳以上の被験者において、スピノサド0.9%懸濁液の1回局所投与が有効であったことを明らかにした。著者は、「スピノサド0.9%懸濁液は標的局所療法として、ほかに選択肢がほぼない医師や患者にとって新たな疥癬治療の選択肢となる」と述べている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2021年8月12日号掲載の報告。 研究グループは、2つの対照臨床試験の結果を統合して、疥癬の根絶におけるスピノサド0.9%懸濁液局所投与の有効性を評価した。各試験には、インデックス被験者(疥癬症状が認められる世帯内で最年少の家族)とそれ以外の家族(1世帯最大5人)が包含され、被験者はスピノサド0.9%または溶媒(vehicle)を1回局所投与された。 主要有効性評価項目は、28日目における疥癬が完全に治癒したインデックス被験者の割合であった。追加した有効性評価項目は、臨床的治癒、顕微鏡的治癒、病変数であった。 主な結果は以下のとおり。・28日目に完全治癒を達成したインデックス被験者の割合は、スピノサド0.9%群と溶媒群で同等ではなかった(それぞれ78.1% vs.39.6%、p<0.0001、n=206例)。・追加の有効性解析により、スピノサド0.9%の一貫した治療効果が確認された。・安全性に関するシグナルは観察されなかった。・スピノサド0.9%は角質層(すなわちダニが潜み繁殖する場所)にも到達するため、疥癬の効果的な治療法になる可能性が示唆された。 本研究は、同等性を評価するために少数サンプルサイズを使用しており、結果は限定的である。

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聖マリアンナ医大とMICINがDXに関する包括契約を締結

 聖マリアンナ医科大学と、株式会社MICINは、患者中心の医療実現を見据えた、ICT技術を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する両社の協業活動について、戦略的包括協定を締結した。 同協定は、聖マリアンナ医科大学とMICINが各々のリソースや強みを活かし、医薬品等の開発における治験・臨床研究領域、並びに専門医療の提供において、ICT技術の活用を通し、DXの実装および推進をすることで、患者を中心とした治験の実施や地域デジタル医療のモデル作成を目的としている。 聖マリアンナ医科大学が有する「医療現場(附属病院・クリニック等)」や地域医療機関とのリレーション、医療業務ノウハウと、MICINが強みとするオンライン診療やICT技術を結集することで、治験や臨床研究プロセス並びに専門医療の提供に関するプロセス(地域医療)の実装および検証によるDXの推進、さらにはDXに関わる標準業務手順書など関連資料の整備を進めていく計画。 協業の第一歩として、治験におけるオンライン診療の実装や、説明同意プロセスを遠隔で実施するトライアルを既に開始。現在、MICINの、decentralized clinical trials (DCT)支援システム「MiROHA」のオンライン診療機能を用いて、聖マリアンナ医科大学病院腫瘍内科で、遠隔での治験スクリーニング検査を実施する体制を整備した。現在治験が進行中である。

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atogepant予防的投与で、片頭痛日数が減少/NEJM

 片頭痛の予防治療において、小分子カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体作動薬atogepantの1日1回経口投与はプラセボと比較して、12週間の片頭痛日数および頭痛日数を減少させ、片頭痛急性期治療薬の使用日数やQOLも良好であり、有害事象の頻度は同程度であることが、米国・MedStar Georgetown University HospitalのJessica Ailani氏らが実施した「ADVANCE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年8月19日号に掲載された。3用量を評価する米国の無作為化プラセボ対照比較試験 本研究は、atogepantの3つの用量の1日1回経口投与の有効性と安全性の評価を目的とする第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年12月~2020年6月の期間に、米国の128施設で患者登録が行われた(Allerganの助成を受けた)。 対象は、年齢18~80歳、初回受診前の3ヵ月間に片頭痛が毎月4~14日発現し、予防治療の対象として適切と見なされた患者であった。また、参加者は、前兆の有無を問わず片頭痛罹患期間が1年以上で、発症年齢が50歳未満とされた。被験者は、atogepant 10mg、同30mg、同60mgを12週間、1日1回経口投与する群またはプラセボ群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 910例(atogepant 10mg群222例、同30mg群230例、同60mg群235例、プラセボ群223例)が登録され、このうち安全性の評価に902例、有効性の評価には873例(修正intention-to-treat[mITT]集団)が含まれた。805例(88.5%)が試験を完了した。 安全性評価集団の平均年齢は41.6歳(範囲 18~73歳)、多くが女性(88.8%)であり、平均BMIは30.6、過去3ヵ月間における片頭痛発現の月平均日数は7.4日だった。スクリーニング時に、99.3%が片頭痛急性期治療薬の使用を、70.3%が過去に片頭痛の予防治療を行ったことを報告した。片頭痛日数/月がプラセボより1.2~1.7日減少 mITT集団の各群におけるベースライン時の片頭痛発現の月平均日数は7.5~7.9日であった。主要エンドポイントである「ベースラインから12週間までの1ヵ月当たりの平均片頭痛日数の変化」は、atogepant 10mg群が-3.7日、30mg群が-3.9日、60mg群が-4.2日であり、プラセボ群は-2.5日であった。ベースラインからの変化のプラセボ群との平均差は、atogepant 10mg群が-1.2日(95%信頼区間[CI]:-1.8~-0.6)、30mg群が-1.4日(-1.9~-0.8)、60mg群は-1.7日(-2.3~-1.2)だった(プラセボ群との比較でいずれもp<0.001)。 副次エンドポイントに関しては、「1ヵ月当たりの頭痛日数」「1ヵ月当たりの片頭痛急性期治療薬の使用日数」「1ヵ月当たりの片頭痛日数の3ヵ月間の平均値がベースラインから50%以上低下した患者の割合」「片頭痛特異的QOL質問票(MSQ ver 2.1)の役割機能制限ドメイン」の結果が、いずれもatogepantの3つの用量群でプラセボ群に比べ有意に良好であった(すべてp<0.001)。また、「片頭痛活動障害・ダイアリー指標(AIM-D)の日常活動実施能力ドメインのスコア」と「AIM-Dの身体障害ドメインのスコア」は、10mg群ではプラセボ群と差がなかったものの、30mg群と60mg群は有意に優れた。 有害事象は、atogepant群では52.2~53.7%に発現し、プラセボ群では56.8%にみられた。atogepant群で最も頻度の高い有害事象は、便秘(3用量群で6.9~7.7%)、悪心(4.4~6.1%)、上気道感染症(3.9~5.7%)であった。atogepant群で認められた重篤な有害事象は、10mg群の気管支喘息発作1例および視神経炎1例であった。 著者は、「片頭痛予防におけるatogepantの効果と安全性を明らかにするには、より長期で大規模な臨床試験が求められる」としている。

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抗CGRP抗体エレヌマブによる急性頭痛薬の減少効果

 トリプタンやエルゴットなどの片頭痛に特異的な治療薬(migraine-specific medication:MSM)を含む急性期治療薬の過度な使用は、薬物乱用頭痛の出現など健康への悪影響につながる可能性がある。米国・Geisel School of Medicine at DartmouthのStewart J. Tepper氏らは、反復性および慢性片頭痛患者における急性期治療薬(とくにMSM)の減少に対するエレヌマブの効果について調査を行った。The Journal of Headache and Pain誌2021年7月23日号の報告。 2つのエレヌマブの研究(反復性片頭痛患者955例および慢性片頭痛患者667例を対象とした試験とその後続試験)における二重盲検治療段階のデータを用いて、事後分析を行った。対象患者には、エレヌマブ(70または140mg)またはプラセボの月1回皮下投与を行った。毎日の急性期治療薬(MSMおよび非MSM)の使用については、治療開始4週前(ベースライン期間)から治療期間終了まで電子日誌を用いて記録した。アウトカムは、ベースライン時の急性頭痛薬使用患者における1ヵ月当たりの急性頭痛薬使用日数の変化、ベースライン時のMSM使用患者における1ヵ月当たりのMSM使用日数の変化、ベースライン時の非MSM使用患者における1ヵ月当たりの非MSM使用日数の変化として、測定を行った。 主な結果は以下のとおり。・すべての急性頭痛薬使用患者のうち、反復性片頭痛患者の60%、慢性片頭痛患者の78%に対し、ベースライン時のMSM使用が確認された。・反復性片頭痛患者を対象とした研究における二重盲検前と比較した4、5、6ヵ月目の各アウトカムは、以下のとおりであった。 ●急性頭痛薬使用患者における1ヵ月当たりの急性頭痛薬使用日数の変化  プラセボ群:1.5日、エレヌマブ70mg群:2.5日、エレヌマブ140mg群:3.0日 ●MSM使用患者における1ヵ月当たりのMSM使用日数の変化  プラセボ群:0.5日、エレヌマブ70mg群:2.1日、エレヌマブ140mg群:2.8日 ●非MSM使用患者における1ヵ月当たりの非MSM使用日数の変化  プラセボ群:2.3日、エレヌマブ70mg群:2.6日、エレヌマブ140mg群:2.7日・慢性片頭痛患者を対象とした研究における二重盲検前と比較した3ヵ月目の各アウトカムは、以下のとおりであった。 ●急性頭痛薬使用患者における1ヵ月当たりの急性頭痛薬使用日数の変化  プラセボ群:3.4日、エレヌマブ70mg群:5.5日、エレヌマブ140mg群:6.5日 ●MSM使用患者における1ヵ月当たりのMSM使用日数の変化  プラセボ群:2.1日、エレヌマブ70mg群:4.5日、エレヌマブ140mg群:5.4日 ●非MSM使用患者における1ヵ月当たりの非MSM使用日数の変化  プラセボ群:5.9日、エレヌマブ70mg群:6.4日、エレヌマブ140mg群:6.6日・MSM使用日数の減少効果は、両研究の後続試験においても持続していた。・エレヌマブは、反復性片頭痛および慢性片頭痛のいずれにおいても、プラセボと比較し、MSM使用患者の1ヵ月当たりのMSM使用日数がベースラインから50%以上、75%以上、100%減少が認められる患者の割合が高かった。 著者らは「エレヌマブ治療は、反復性片頭痛および慢性片頭痛のいずれにおいても、急性頭痛薬、とくにMSMの使用を有意に減少させ、その効果が持続することが示唆された」としている。

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一部の抗がん剤の投与患者、新型コロナ感染率が低い/JAMA Oncol

 アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を減少させる可能性のある抗がん剤(mTOR/PI3K阻害薬や代謝拮抗薬など)を投与している患者では、他の抗がん剤の投与患者と比べて有意にSARS-CoV-2感染率が低かったことが、米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのMichael B. Foote氏らのコホート研究で示された。JAMA Oncology誌オンライン版2021年8月19日号に掲載。 本研究ではまず、Library of Integrated Network-Based Cellular Signaturesのデータベースを使用し、細胞株全体でACE2遺伝子の発現低下に関連する抗がん剤を特定した。次に、COVID-19パンデミック中にMemorial Sloan Kettering Cancer Centerでがん治療を受けていた1,701例の後ろ向きコホートについて、ACE2を減少させる抗がん剤での治療がSARS-CoV-2感染のオッズ比(OR)と関連があるかどうかを検討した。対象は、がんの積極的治療を受け、2020年3月10日~5月28日にSARS-CoV-2検査を受けた患者で、主要アウトカムはACE2を減少させる可能性のある抗がん剤による治療とSARS-CoV-2検査陽性との関連とした。 主な結果は以下のとおり。・抗がん剤治療を受けているがん患者1,701例(平均年齢±SD:63.1±13.1歳、女性:949例、男性:752例)のSARS-CoV-2感染率を調べた。・抗がん剤治療後の遺伝子発現シグネチャーのin silico解析により、細胞株全体でのACE2減少に関連する91の化合物が特定された。・全コホートのうち215例(12.6%)が、mTOR/PI3K阻害薬(エベロリムス、テムシロリムス、alpelisib)、代謝拮抗薬(デシタビン、ゲムシタビン)、有糸分裂阻害薬(カバジタキセル)、その他のキナーゼ阻害薬(ダサチニブ、クリゾチニブ)の8つの薬剤で治療されていた。・ACE2を減少させる抗がん剤を投与した患者の多変量解析(交絡因子を調整)では、215例中15例(7.0%)がSARS-CoV-2検査陽性、他の抗がん剤を投与した患者では1,486例中191例(12.9%)が陽性だった(OR:0.53、95%CI:0.29~0.88)。・この関連は、がんの種類やステロイド使用を含んだ多変量解析や、複数の特徴に基づくペア患者を分析した傾向スコアマッチング多変量回帰感度分析でも確認された。・ゲムシタビン投与はSARS-CoV-2感染の減少と関連していた(OR:0.42、95%CI:0.17~0.87)。

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家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)〔FH:familial hypercholesterolaemia〕

1 疾患概要■ 定義家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia:FH)は、low-density lipoprotein(LDL)受容体経路に関わる遺伝子変異のために、LDL代謝に遅延を来し、高LDL-C血症による動脈硬化が若年齢より進行する遺伝病である。FHは、高low density lipoprotein (LDL)コレステロール血症、皮膚および腱黄色腫、若年性動脈硬化症による冠動脈疾患を三主徴とし、LDL受容体経路に関わる遺伝子の1つのアレルに病的変異を持つものをFHヘテロ接合体、2つのアレルに病的変異を持つものを、FHホモ接合体という1)。■ 疫学FHホモ接合体患者は以前には100万人に1人の頻度とされていたが、現在は30万人に1人以上の頻度であると推定されている。FHホモ接合体は、指定難病とされ、令和元年の受給者証所持者数は320人である。■ 病因FHは、LDL受容体経路に関わる遺伝子の変異、すなわち、LDL受容体の病的遺伝子変異、あるいはPCSK9の機能獲得型変異、アポリポタンパクBの病的遺伝子変異により、LDL受容体蛋白が欠損しあるいはその機能が大きく障害されて、高LDL-C血症が引き起こされる先天的疾患である。通常は血漿LDLの約70%が肝臓で代謝される。FHホモ接合体患者では約10%に低下しており、低下の程度に反比例して血漿LDL濃度は上昇し、血管壁へのコレステロールの沈着のリスクが高まる。■ 症状身体所見としては、皮膚や腱にLDL由来のコレステロールが沈着し、皮膚黄色腫、腱黄色腫と呼ばれる。黄色腫の頻度は、LDL-C値の上昇の度合いと期間の長さに比例する。黄色腫は、皮膚では肘関節、膝関節の伸側、手首、臀部など、機械的刺激が加わる部位に多く発生する(図1)。腱黄色腫はアキレス腱のものが一番良く知られており、診断に用いられるが、手背伸筋腱にも発生する。図1 HoFH患者の皮膚黄色腫所見画像を拡大する■ 分類LDL受容体経路に関わる遺伝子の変異による遺伝病であり、原因遺伝子としてはLDL受容体の病的変異が1番多いが、PCSK9機能獲得型変異、アポリポタンパクBの病的変異も報告されている。同一の遺伝子の同じ変異が2つ存在する真性ホモ接合体、同じ遺伝子に異なった変異を認める複合ヘテロ接合体、別の遺伝子に変異を認めるダブルヘテロ接合体もFHホモ接合体と考えられている(図2)。図2  FHホモ接合体の遺伝子変異の組み合わせ■ 予後FHホモ接合体の動脈硬化症としては、大動脈弁上狭窄、弁狭窄、冠動脈狭窄が乳幼児期に出現し、進行する。未治療では30歳までに狭心症、心筋梗塞、突然死を引き起こすことが知られている。胸部大動脈、腹部大動脈や肺動脈にも強い動脈硬化を引き起こす。そのため、冠動脈狭窄に対するPCI、CABG、大動脈弁上狭窄・弁狭窄に対する大動脈弁置換術が必要になる例も多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血清LDL-C値は370~1,000mg/dLである。FHの血清中に増加しているコレステロールは主にLDLであり、IIa型の高脂血症病型を示す例が多い。身体症状としては、皮膚黄色腫の存在、家族歴として両親がFHヘテロ接合体であることなどが、診断上の根拠となる。線維芽細胞やリンパ球におけるLDL受容体活性の低下(正常の20%以下)、LDL受容体遺伝子変異により診断を下すことも可能であるが、正確な診断をするには、遺伝子解析を行うことが重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)FHホモ接合体の治療の基本は、冠動脈疾患など若年齢から起きる動脈硬化症の発症および進展の予防であり、早期診断と適切な治療が最も重要である。FHホモ接合体のLDL-C値の治療目標値は、一次予防で100mg/dL、二次予防で70mg/dLである。これらの目標値に向けて、多くの薬剤やLDLアフェレシス治療を組み合わせ、LDL-C値をできる限り低下させることが重要である。また、動脈硬化の危険因子である、糖尿病、高血圧、高トリグリセリド血症などは、厳格にコントロールする。FHホモ接合体は、薬剤に対する反応性が悪いことが多いが、まずはスタチンを開始、増量、さらにエゼチミブを加えてその反応性を観察する。さらにPCSK9阻害薬エボロクマブ(商品名:レパーサ)140mgを2週間に1回皮下注射で行う。FHホモ接合体の中でもLDL受容体活性がまったくないタイプ(negative type)では効果を認めないが、活性がわずかに残っているタイプ(defective type)であればある程度の効果が期待できる3)。効果が十分でない場合には、エボロクマブ420mgのオートミニドーザーを用いて2週間に1回皮下注射で行う。これらの薬剤の効果が十分でない場合、MTP阻害薬ロミタピド(同:ジャクスタピッド)が適応になる。MTP阻害薬は、開始前に脂肪摂取制限の栄養指導を行い、5mgから徐々に増量する。LDL-Cの低下効果とともに、下痢や肝機能障害などの副作用をチェックしながら、至適用量を決定する。さらに、LDL-C値のコントロールを行うためには、1~2週間に1回のLDL-アフェレシス治療が必要な場合も多い。FHホモ接合体に対する薬物療法は、LDLアフェレシス開始前の乳幼児に対して行い、LDLアフェレシス開始後の患者に対しては、治療施行にて低下したLDLの再上昇を抑制する補助的な目的で行う。4 今後の展望1)Angiopoietin-Like Protein 3(ANGPTL3)抗体医薬(evinacumab)ANGPTL3は、機能低下型変異により、低LDL-C、低TG、低HDL-C血症を示し、冠動脈疾患リスクも低いことが知られていた。ANGPTL3抗体医薬が、FHホモ接合体に効果があることが示され、全世界で治験が進行中である4)。2)PCSK9 siRNA(inclisiran)siRNAを用いてPCSK9の産生を抑制する薬剤の開発が行われている5)。1回の注射で6ヵ月間、LDL-C値の低下を認める薬剤であり、すでに欧州で承認されており、わが国では治験が進行中である。5 主たる診療科小児科、代謝内科、循環器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)原発性脂質異常症の予後調査(PROLIPID)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会 家族性高コレステロール血症について(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会 家族性高コレステロール血症紹介可能施設(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報難治性家族性高コレステロール血症患者会(患者とその家族および支援者の会)1)Defesche JC,et al. Nat Rev Dis Primers. 2017;3:17093.2)Nohara A, et al. J Atherosclr Thromb. 2021;28:665-678.3)Raal FJ, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017;5:280-290.4)Dewey FE, et a. N Engl J Med. 2017;377:211-221.5)Ray KK, et al. N Engl J Med. 2017;376:1430-1440.公開履歴初回2021年8月30日

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用 その2【「実践的」臨床研究入門】第11回

UpToDate®―該当トピックの本文を読み込んでみるCQ:食事療法を遵守すると慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか↓P:慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:腎予後前回、これまでブラッシュアップしてきた、上記のCQとRQ(PECO)に関連するUpToDate®のトピックを検索したところ、人工透析を受けていない慢性腎臓病患者に推奨する食事療法Dietary recommendations for patients with nondialysis chronic kidney diseaseがヒットしました。このトピックには、”PROTEIN INTAKE(たんぱく質摂取量)”という項があり、われわれのRQに関連する先行研究について概説されていそうです。 該当トピックの解説を読み込む前に、このトピックの更新日付を確認してみましょう。トピックの標題の直下に、担当著者・編集者の氏名が明記されており、“All topics are updated as new evidence becomes available and our peer review process is complete.”「すべてのトピックは新しいエビデンスが入手可能になりわれわれのピア・レビューが完了すると更新されます(筆者による意訳)。」とのコメントとともに、Literature review current through:May 2021. |This topic last updated:Feb 21, 2020.との記載があります。本稿執筆時点(2021年7月)では、このトピックの関連文献レビューは2021年5月まで行っているが、このトピック本文の最終更新日は2020年2月21日である(筆者による意訳)、ということです。UpToDate®では、その分野の信頼できる専門家が年3回は関連研究レビューを行って都度改訂し、まさに”up-to-date”な2次情報を提供してくれているのです。今回は、このトピックの”PROTEIN INTAKE(たんぱく質摂取量)”の項を読み込んで、RQのさらなるブラッシュアップに活かしたいと思います。その概要を以下のようにまとめてみました(筆者による抜粋、意訳)。P(対象)をネフローゼ症候群患者*と非ネフローゼ症候群患者に分けて記述されている。*成人ネフローゼ症候群の診断基準1)1.尿たんぱく3.5g/日以上が持続する2.低アルブミン血症:血清アルブミン値3.0g/dL以下3.浮腫4.脂質異常症(高LDLコレステロール血症)1、2は診断必須条件、3、4は参考所見ネフローゼ症候群患者ではたんぱく質摂取量制限は有効性、安全性、双方の観点から推奨しない、との記述があり、われわれのRQのP(対象)からも除外した方が良さそうです。したがって、下記のまとめは非ネフローゼ症候群患者をP(対象)にしぼった関連研究のレビューに基づいたものです。推定糸球体濾過量(eGFR)<60mL/分/1.73m2未満の保存期CKD患者ではたんぱく質摂取量は0.8g/kg標準体重/日以下に制限することが推奨される。たんぱく質摂取制限はCKDの進行を遅延させる可能性があるが、その有益性は軽度であることが、ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)の結果から示唆されている2-7)。たんぱく質摂取量は0.6g/kg標準体重/日までは安全性も保たれていることが示されているが8-10)、より厳格な低たんぱく質食事療法は長期的には死亡リスクの増加の懸念を示唆する研究報告3)もある。これらのRCTの結果を統合(メタ解析)した、システマティック・レビュー11)でも、たんぱく質摂取制限が有益である可能性が示唆されている。UpToDate®の記述からも、われわれがE(曝露要因)に設定している「厳格な」たんぱく質制限食(0.5g/kg標準体重/日)の臨床的有用性については、明確なエビデンスはないようです。また、UpToDate® が根拠とするエビデンスもRCTからの知見に基づいたものがほとんどであり、外的妥当性(連載第6回参照)の観点からも、われわれが行う観察研究にある程度の価値はありそうだと考えられます。また、上述したとおり、ネフローゼ症候群はP(対象)から除外するのが適切と判断し、冒頭のCQと RQ(PECO)を下記のように改訂しました。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか↓P:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:腎予後次回からは、もうひとつの質の高い2次情報源である、コクラン・ライブラリーの活用方法について解説したいと思います。1)エビデンスに基づくネフローゼ症候群診断ガイドライン2020, 東京医学社.2)Klahr S et al. N Engl J Med. 1994 Mar 31;330:877-884.3)Menon V et al. Am J Kidney Dis. 2009 Feb;53:208-17.4)Ihle BU et al.New Engl J Med. 1989 Dec 28;321:1773-7.5)Cianciaruso B et al.Nephrol Dial Transplant. 2008 Feb;23:636-44.6)Levey AS et al. Am J Kidney Dis.1996 May;27:652-63.7)Locatelli F et al. Lancet. 1991 Jun 1;337:1299-304.8)Kopple JD et al. Kidney Int.1997 Sep;52:778-91.9)Aparicio M et al. J Am Soc Nephrol.2000 Apr;11:708-716.10)Bernhard J et al. J Am Soc Nephrol. 2001 Jun;12:1249-1254.11)Fouque D et al.Cochrane Database Syst Rev. 2020 Oct 29;10(10):CD001892.

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歯周病とアルツハイマー病リスク~メタ解析

 歯周病とアルツハイマー病(AD)や軽度認知障害(MCI)との関連を調査した研究結果は、一貫性が認められておらず、2017年に発表されたメタ解析では、不十分な研究が含まれていた。中国・上海交通大学のXin Hu氏らは、歯周病とADまたはMCIのリスクとの相関をシステマティックに評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Psychogeriatrics誌オンライン版2021年7月11日号の報告。 2人の研究者が独立して、各種データベース(CENTRAL、PubMed、EMBASE、China National Knowledge Interne、China Science and Technology Journal Database、Wanfang Data、www.ClinicalTrials.gov、WHO International Clinical Trials Registry Platform)より言語制限なしでスクリーニングを行った。含まれた研究の不均一性に応じて、変量効果モデルまたは固定効果モデルを用いて、メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たした13件の研究(AD:8件、29万1,114例、MCI:8件、4,805例)をメタ解析に含めた。・プールされた結果では、歯周病患者は、非歯周病患者と比較し、ADおよびMCIのリスクが有意に高かった。 ●ADのオッズ比:1.78(95%CI:1.15~2.76) ●MCIのオッズ比:1.60(95%CI:1.24~2.06)・とくに重度の歯周病患者では、ADおよびMCIのリスクがより高かった。 ●ADのオッズ比:4.89(95%CI:1.60~14.97) ●MCIのオッズ比:2.32(95%CI:1.24~4.36) 著者らは「歯周病は、ADやMCIのリスク上昇と関連しているため、早期介入が必要であろう」としている。

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「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)ガイドライン」刊行、ポイントは?

 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の診療に関しては、2017年に「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療の手引き」が刊行されている。HBOC既発症者へのリスク低減手術の保険収載や、膵がん・前立腺がんへのPARP阻害薬の承認など、遺伝子検査に基づく治療・マネジメントがいっそう求められる中、Minds「診療ガイドライン作成マニュアル2017」を遵守する形で、今回新たにガイドラインがまとめられた。2021年8月7日、webセミナー「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン 2021年版の解説(主催:厚生労働科学研究費補助金[がん対策推進総合研究事業]「ゲノム情報を活用した遺伝性腫瘍の先制的医療提供体制の整備に関する研究」班)が開催され、各領域のポイントが解説された。遺伝子診断・遺伝カウンセリング領域のポイント 遺伝子診断・遺伝カウンセリング領域の最も重要なコンセプトは「がん未発症と既発症を区別せず、遺伝的な特性としてHBOCを捉えるという点」と平沢 晃氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科臨床遺伝子医療学)。BRCA遺伝情報を知ることのメリットは、(1)本人の治療法の選択、(2)本人のがん予防、(3)血縁者へのがん予防であると整理した。 現在、手術や検査の対象によって、保険収載と未収載が混在している状況がある。遺伝BQ1ではこれらの状況について整理している。遺伝BQ2では、表「NCCNガイドラインの遺伝学的検査の基準」を掲載し、どのようなクライエントにBRCA遺伝学的検査を推奨するかがまとめられている。平沢氏はこの表のうち、 乳がんの発症者で・45歳以下の発症・50歳以下の発症で条件に当てはまる場合・60歳以下のトリプルネガティブ乳がん・年齢を問わず1人以上の近親者が条件に当てはまる場合・卵巣がん発症者・男性乳がんについて、2020年よりBRCA遺伝学的検査が保険診療の対象となったことを解説。その他(既知のBRCA1/2の病的バリアントを保持する家系の個人、膵がん、高グレード前立腺がんで条件に当てはまる場合、腫瘍プロフィール検査でBRCA1/2の病的バリアントを認めた場合)は未収載となっている。 また今回のガイドラインでは、「遺伝BQ10 生殖に関する遺伝カウンセリングにはどのように対応するべきか?」を新設。BRCA病的バリアント保持女性の妊孕性温存への対応フローが掲載されている。乳がん領域のポイント 領域リーダーを務めた有賀 智之氏(都立駒込病院乳腺外科)はまず、BRCA遺伝学的検査を推奨する乳がん患者について、従来からの血縁者に乳がんまたは卵巣がん患者がいる場合のほか、膵がん患者がいる場合が追加されたことが大きな変更点とした(乳癌BQ1)。 BRCA病的バリアントを有する乳がん患者に対する乳房温存療法については、2017年版の手引きでは「推奨されない」となっていたのに対し、今回は「条件付きで行わないことを推奨する」と変更された(乳癌CQ3)。背景について同氏は、ガイドライン作成にあたり独自に実施されたメタアナリシスの結果、残存乳房内再発率が散発性乳がん患者と比較して高いこと、この傾向は観察期間が長くなるほど明確になることから、温存乳房内の新規発症リスクは長期に継続するものと推察されたと解説。一方で、生存率の悪化についてのデータは認められなかったことから、上記リスクや継続的なスクリーニングの必要性などを理解したうえで選択する場合は、否定しないという位置づけとした。 そのほか、RRMについては2020年4月に保険適応となり、乳がん既発症/未発症のいずれにおいても新規乳がんのリスク低減効果が示されている(乳癌CQ1、2)。造影乳房MRIについては、乳がん既発症/未発症のいずれも条件付きで推奨とされたが(乳癌CQ4、5)、乳がんも卵巣がんも未発症の場合BRCA病的バリアント保持者へのサーベイランスは保険未収載となっている。この点について同氏は、未発症者においてもMRIサーベイランスからのベネフィットは得られるので、早期に対応されることを期待したいと話した。卵巣がん領域のポイント 卵巣がん領域では、領域リーダーを務めた岡本 愛光氏(東京慈恵会医科大学産婦人科学講座)が登壇、解説を行った。BRCA病的バリアント保持者に対するRRSOについて、標準的な術式として低侵襲(腹腔鏡)手術が推奨され、術中播種を予防するための手術操作が箇条書きで示された(卵巣癌BQ2)。RRSOの際の卵管の病理検索については、SEE-FIMプロトコールに準じることが条件付きで推奨され、条件付きとされた理由として、「STIC検出の臨床的意義が現状不確実であること、標本作成等で病理医の負担が増加することがある」と説明した(卵巣癌CQ2)。 卵巣がんに対する初回薬物療法としては、BRCA病的バリアント保持者においてもプラチナ製剤併用レジメンによるOSの有意な延長がRCT1報、症例対象研究5報で示されており、本ガイドラインでも推奨が示された(卵巣癌CQ3)。PARP阻害薬については、プラチナ製剤を含む初回化学療法後に奏効した同患者に対し、維持療法としての使用を条件付きで推奨するとされた。条件付きとされた理由は、薬剤費が高額なこと、二次がんを含めた長期合併症に関するデータが乏しいこと、至適投薬期間については不確実性が残ることが挙げられた。前立腺がん領域のポイント 「BRCAバリアント陽性前立腺がんの大きな特徴は、診断時からのリンパ節転移・遠隔転移症例が有意に多いこと」と小坂 威雄氏(慶應義塾大学医学部泌尿器科教室)。前立腺がんの早期限局がんでの発見例の予後は非常によいことから、転移前にできるだけ早く見つけることが何よりも重要と話した。現在継続中の試験ではあるものの、大規模コホート研究であるIMPACT研究を根拠として、本ガイドラインでは未発症BRCAバリアントの男性保持者に対して、より低いPSAカットオフ値(3.0ng/mL)を用いて40歳からのサーベイランスを実施することを条件付きで推奨している(前立腺癌CQ1)。 また、前立腺がんにおいては生殖細胞系列だけでなく、体細胞系列のバリアントを有する症例が約半数いる。「家族歴が全くない転移前立腺がん患者さんの中にもBRCAバリアント保持者がいる可能性が指摘されている」と小坂氏は話し、BRCA遺伝学的検査の実施が推奨される前立腺がん患者の条件として、他のがん種で条件とされている家族歴のほか、「遠隔転移またはリンパ節転移を有する転移性前立腺がん患者」が加えられていることが大きな特徴とした(前立腺癌FQ1)。また治療については、2020年に新規内分泌療法後の転移を有する症例について、PARP阻害薬が保険収載された。同氏は、今後実臨床における有効性データが蓄積していくことが望まれると話した(前立腺癌FQ2)。膵がん領域のポイント 膵がんにおいて、BRCAバリアント陽性患者は4~7%と報告されている。BRCA遺伝学的検査の実施が推奨される膵がん患者の条件としては、家族歴のほか、「遠隔転移を有するまたは術後再発」であることが示されている(膵癌FQ1)。尾阪 将人氏(がん研有明病院肝胆膵内科)は、「膵がんの治療選択肢は非常に限られており、遺伝学検査を行うことで選択肢を広げることの意義は大きい」と話した。 BRCAバリアント保持者に対する膵がんのスクリーニングの考え方に関して、同氏は遺伝子変異+膵がん家族歴の聴取が非常に重要と指摘。第一度近親者内に膵がん患者が1人以上おりかつBRCA2陽性の場合SIR(標準化罹患比)が5倍以上、第一度近親者内に膵がん患者が2人以上おりかつBRCA2陽性の場合、SIRが30倍以上というデータを紹介した。本ガイドラインでは、「少なくとも1人の第一度近親者に膵がん家族歴のあるBRCA1、2病的バリアント保持者に対し、MRIまたは超音波内視鏡を用いたスクリーニングを考慮する」とされている(膵癌FQ2)。 治療については、POLO試験においてBRCA病的バリアントを有するプラチナ感受性切除不能膵がんに対する維持療法としてオラパリブがPFSを延長したことを根拠として、同患者に対する治療を条件付きで推奨している(膵癌CQ1)。同氏は留意点として、推奨文から下記を抜粋した:・OSの延長効果を認めていないことを患者と共有したうえで投与することが望ましい・BRCA病的バリアントを有する膵がん患者の家系に対しても、継続的な遺伝カウンセリングを実施していくことが望ましい

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介護施設でファイザーワクチン2回接種、コロナ入院リスク95%減/BMJ

 スペイン・カタルーニャ州保健省のCarmen Cabezas氏らは、前向きコホート研究の結果、介護施設の入居者、スタッフ、および医療従事者の3つのコホートすべてにおいて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンBNT162b2(Pfizer-BioNTech製)の接種によりSARS-CoV-2感染が80~91%減少し、介護施設の入居者の入院および死亡率が最大5ヵ月にわたって大きく低下したことを明らかにした。著者は、「ワクチンの長期的な効果については、さらなるデータが必要である」とまとめている。BMJ誌2021年8月18日号掲載の報告。入居者、スタッフ、医療従事者におけるBNT162b2ワクチンの有効性を調査 研究グループは、SARS-CoV-2感染に対するBNT162b2ワクチン接種と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院・死亡との関連を明らかにする目的で、前向きコホート研究を行った。 対象は、BNT162b2ワクチン接種キャンペーンが開始された2020年12月27日時点でカタルーニャ州に居住し、ワクチン接種の対象となる介護施設の入居者とスタッフ、ならびに医療従事者。 介護施設と連携している電子カルテ、SARS-CoV-2のRT-PCR検査や抗原簡易検査の地域中央データベース、入院患者や死亡登録を用い、対象者をワクチン接種キャンペーンの開始から、SARS-CoV-2感染の確認、COVID-19による入院もしくは死亡、または研究終了日(2021年5月26日)まで追跡し、ワクチン接種とCOVID-19による入院・死亡との関連について混合効果Coxモデルを用いて解析した。2回接種で感染リスク80~91%減少、入居者の入院・死亡リスク95%以上減少 介護施設入居者2万8,456例において、SARS-CoV-2感染が2,482例、COVID-19による入院が411例、COVID-19による死亡が450例認められた。また、介護施設のスタッフ2万6,170例中1,828例、医療従事者6万1,791例中2,968例でSARS-CoV-2感染が確認されたが、COVID-19による入院または死亡は5例未満であった。 ワクチン2回接種後のSARS-CoV-2感染の補正後ハザード比は、介護施設入居者で0.09(95%信頼区間[CI]:0.08~0.11)、介護施設スタッフで0.20(0.17~0.24)、医療従事者で0.13(0.11~0.16)であった。 ワクチン2回接種後の入院および死亡の補正後ハザード比は、介護施設入居者ではそれぞれ0.05(95%CI:0.04~0.07)および0.03(0.02~0.04)であった。介護施設のスタッフならびに医療従事者については、記録が死亡の分析に不十分であった。

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慢性疼痛の遺伝的リスクが抗うつ薬の有効性と関連

 慢性疼痛とうつ病は高頻度で併発しており、治療が困難な場合も少なくない。これまでのオーストラリアのうつ病遺伝学研究では、併存疾患がうつ病の重症度の上昇、抗うつ薬治療効果の低下や予後不良と関連していることを報告した。オーストラリア・クイーンズランド大学のAdrian I. Campos氏らは、慢性疼痛の遺伝的リスクがうつ病の遺伝的要因に影響を及ぼし、抗うつ薬の有効性と関連しているかを評価した。The Australian and New Zealand Journal of Psychiatry誌オンライン版2021年7月16日号の報告。 対象は、オーストラリアのうつ病遺伝学研究の参加者1万2,863人。慢性疼痛とうつ病のゲノムワイド関連研究より、要約統計量を用いて多遺伝子リスクスコア(PRS)を算出した。PRSと10種類の抗うつ薬治療の有効性との関連を評価するため、累積リンク回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・混合ロジスティック回帰では、慢性疼痛患者は、慢性疼痛の遺伝的傾向との有意な関連が認められたが(PainPRSOR:1.17[1.12~1.22])、うつ病の遺伝的傾向との関連は認められなかった(MDPRSOR:1.01[0.98~1.06])。・抗うつ薬治療の有効性の低下と慢性疼痛またはうつ病の遺伝的リスクとの有意な関連が認められた。ただし、完全に調整されたモデルでは、PainPRS(aOR:0.93[0.90~0.96])の影響は、MDPRS(aOR:0.96[0.93~0.99])とは独立していた。・これらの結果の頑健性を評価するため、感度分析を行った。・うつ病の重症度の測定値(発症年齢、うつ病エピソード数、研究参加年齢とうつ病発症年齢の間隔)で調整した後、PainPRSと抗うつ効果が不十分な慢性疼痛患者との有意な関連は、依然として認められた(各々、0.95[0.92~0.98]、0.84[0.78~0.90])。 著者らは「これらの結果は、慢性疼痛の遺伝的リスクは、うつ病の遺伝的リスクとは独立して、抗うつ薬治療の有効性低下と関連していることを示唆しており、他の研究による関連文献と同様に、慢性疼痛を合併したうつ病サブタイプでは、治療が困難であると考えられる。このことからも、鎮痛薬と精神医学における生物学に基づいた疾患分類のフレームワークへの影響に関するさらなる調査が求められる」としている。

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ファイザー製ワクチン、SARS生存者で強力な交差性中和抗体産生/NEJM

 シンガポール・Duke-NUS Medical SchoolのChee-Wah Tan氏らは、コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス1:SARS-CoV-1)の既感染者で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するBNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech製)の接種を受けた人では、サルベコウイルス亜属(コロナウイルス科βコロナウイルス属に属するウイルスの一群で、SARS-CoV-1やSARS-CoV-2が属する)に対する強力な交差性中和抗体が産生されることを明らかにした。この交差性中和抗体は、抗体価が高く、懸念されているSARS-CoV-2の既知の変異株だけではなく、コウモリやセンザンコウで確認されヒトへ感染する可能性があるサルベコウイルスも中和でき、著者は「今回の知見は、汎サルベコウイルスワクチン戦略の実現性を示唆するものである」とまとめている。NEJM誌オンライン版2021年8月18日号掲載の報告。SARS-CoV-1既感染者、SARS-CoV-2感染者および健常者について検討 SARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは2019年12月に始まった。SARS-CoV-2は、2002~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスであるSARS-CoV-1と全ゲノム配列の約80%を共有している。SARS-CoV-1に感染し生存している人の多くは、感染後17年を経てもSARS-CoV-1に対する中和抗体を保有しているが、SARS患者またはCOVID-19患者の回復期血清検体は交差中和性を有していない。 そこで研究グループは、COVID-19ワクチン接種前のSARS-CoV-1既感染者ならびにCOVID-19患者の血清検体(各10例)と、健常者でBNT162b2ワクチン2回目接種後14日目に採取した血清検体(10例)、SARS-CoV-1既感染者でBNT162b2ワクチン初回接種後21~62日目に採取した血清検体(8例)、COVID-19患者でBNT162b2ワクチン2回接種後の血清検体(10例)の計5種類の血清パネルを用い、広域交差性中和抗体の産生について検討した。SARS-CoV-1既感染者でBNT162b2ワクチン接種後に広域交差性中和抗体が産生 5種類の血清パネルのうち、SARS-CoV-1既感染者でBNT162b2ワクチンを接種した群のみ、SARS-CoV-1およびSARS-CoV-2の両方に対する高抗体価の中和抗体の産生が認められた。 また、検討した10種類すべてのサルベコウイルス(SARS-CoV-2クレードの7種[SARS-CoV-2原株、SARS-CoV-2アルファ株・ベータ株・デルタ株、コウモリコロナウイルスRaTG13、センザンコウコロナウイルスGD-1・GX-P5L]、SARS-CoV-1クレードの3種[SARS-CoV-1、コウモリWIV1、コウモリRsSHC014])に対する幅広い中和抗体を有することが認められた。

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疑問点ばかりが浮かぶ研究(解説:野間重孝氏)

 ショックとは「生体に対する侵襲あるいは侵襲に対する生体反応の結果、重要臓器の血流が維持できなくなり、細胞の代謝障害や臓器障害が起こり、生命の危機に至る急性の症候群」と定義される。ショックの分類については、近年は循環障害の要因による新しい分類が用いられることが多く、次のように分類される。(1)循環血液量減少性ショック(hypovolemic shock)   出血、脱水、腹膜炎、熱傷など(2)血液分布異常性ショック(distributive shock)   アナフィラキシー、脊髄損傷、敗血症など(3)心原性ショック(cardiogenic shock)   心筋梗塞、弁膜症、重症不整脈、心筋症、心筋炎など(4)心外閉塞・拘束性ショック(obstructive shock)   肺塞栓、心タンポナーデ、緊張性気胸など ここで注意すべきなのは、どの型のショックにおいても例外なく血圧の低下を伴うことで、実際臨床で最大の指標にされるのは血圧である。ちなみにショックの五大兆候とは、蒼白・虚脱・冷汗・脈拍触知不能・呼吸不全をいう。 心原性ショックについて言えば、血液を送り出せない場合だけではなく、心臓に戻ってきた血液を受け止めきれないために生じる場合も含んでいることに注意する必要がある。心原性ショックは心筋性(心筋梗塞、拡張型心筋症など)、機械性(大動脈弁狭窄症、心室瘤など)、不整脈性の3つに分類される。 ミルリノン(商品名:ミルリーラなど)はホスホジエステラーゼ(phosphodiesterase:PDE)III阻害薬に分類される薬剤で、β受容体を介さずに細胞内cAMPをAMPに分解する酵素であるPDE IIIを抑制することによって細胞内cAMP濃度を高めると同時に血管平滑筋も弛緩させるため、inodilatorと呼ばれる。一般にドブタミンなどによる通常の治療に反応が不良であるケースに使用されるが、高度腎機能低下例(SCR≧3.0mg/dL)、重篤な頻脈性不整脈、カテコラミンを用いても血圧<90mmHgの症例には使用を避けるべきであるとされる。 本論文ではどのような患者に対して、どのような併用薬を用いて、どのような状態でドブタミンまたはミルリノンが使用されたかについての記載がまったくない。これは使用に当たって厳しい制限が課されている薬剤の研究発表としては、不適切と言わなければならないだろう。最大の問題点は血圧についての言及がないことで、では血圧が50mmHgを割っている患者に対して昇圧剤も使用せずにミルリノンを使用したのか、という単純な疑問に答えられていない。また、心室頻拍や心室細動に伴う心原性ショックに対してミルリノンが使用されることはないはずである。一連の研究について説明不足と言うべきだろう。 評者が一番の問題点、疑問点と考えるのはend pointの設定である。本研究においては院内死亡、蘇生された心停止、心移植、機械的循環補助の実施、非致死性の心筋梗塞、一過性脳虚血発作または脳梗塞、腎代替療法の開始が複合end pointとして設定されている。しかし本来、心原性ショックの治療成績は一にかかって、救命できたか・できなかったかであるはずである。重症不整脈によるショックの治療過程において、一時的に心停止を起こすことはとくに珍しいことではない。心移植や補助循環は方法であって結果ではない。また心移植というが、ショック状態の患者に対して心移植の適応はあるのだろうか(そもそも都合よくドナーがいるのかがまず問題であるが)。心筋梗塞は原因であって結果ではない。きわめてまれなことではあるが、蘇生の合併症として心筋梗塞が起こったとしても、それは合併症であって救命と直接関係した結果ではない。脳神経合併症は蘇生措置において生じた合併症であっても結果ではない。腎代替療法も補助的方法であって結果ではない。このように考えてみると、筆者らの設定したend pointはきわめて不適切であると言わざるを得ない。 現在の心原性ショックの治療の核は、原因の除去と左室を休ませることにあると言ってよい。たとえば、冠動脈閉塞が原因ならば可及的速やかに再開通を図るべきである。その際、血行動態が破綻しているならインペラ、ECMO、VADなど、あらゆる手段を用いることを躊躇するべきではない。また左室を休ませるという観点からもこれらの補助手段は大変に有効で、しかもできるだけ早期に実施することが望ましい。追加的補助として持続透析なども使用することをためらうべきではない。そこで強心薬を使用することは例外的な場合を除いてむしろ有害であり、それはドブタミンでもミルリノンでも同じではないかと考えられている。 論文という点から見ると、何点か問題があるだけでなく、シングルセンターの比較的少数の症例数であるにもかかわらずNEJM誌が掲載したことに驚いているというのが正直な感想である。見方を変えると、大変皮肉な言い方になるが、強心薬の時代は終わりを告げ、インペラ、VADなどのメカニカルサポートの時代が来ているのだと、とどめを刺すような印象を受けたことを申し添えたい。

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続・制約と擾乱(じょうらん)【Dr. 中島の 新・徒然草】(389)

三百八十九の段 続・制約と擾乱(じょうらん)前回は Resilient Health Care Society というオンライン国際学会に出席したことを述べました。私が発表したのは、COVID-19パンデミックに対する大阪医療センターおよび総合診療部の対応についてです。もともと忙しい医療現場に、新たに新型コロナウイルス対応が課せられてしまい、マンパワー不足の中でどのようにして通常診療とコロナ診療を両立させたのか、という話をいたしました。前回にも述べたように、医療現場をはじめとした複雑適応系の中の各ユニットは、手持ちの資源が限られているにもかかわらず、そのキャパを超えるイベントは恒常的に外部からもたらされるのだということです。そのような時には、「何で俺たちばかりがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!」と思うのではなく、「また来ましたね。今度はどう対応しましょうか?」と思うべきなのでしょう。このような場合の普遍的な対処法は、いろいろと提案されています。今回のコロナ対応の経験を通じてとくに大切だと感じたのは、「優先順位をつける」「最善策にこだわらない」「どんどん変化する状況に合わせたルール変更を躊躇(ためら)わない」というところだ、というのが私の発表の趣旨です。英語での発表になりますが、あらかじめパワーポイントに台詞を吹き込んでビデオ化したものを用いるので、さほど苦労することはありませんでした。できるだけ明瞭な発音でゆっくりとしゃべるように心掛けたので、聴いている人が理解に苦しむ、ということもなかったようです。発表自体はおおむね好評だったのですが、問題は質疑応答です。質問はいずれもアメリカ人からだったので、英語自体は聴き取りやすい……はずが、結局、何度も聞き直す羽目になりました。また内容も難しいというか、哲学的というか。「COVID-19パンデミックで、医療現場でも多くのことが変わってしまいましたが、変わらなかったこともあるかと思います。それはどのようなことですか?」ちょっと、それ! 日本語で答えようとしても難しいですよ。その場ではうまく答えられなかったので、後でいろいろと考えてみました。1つは、日々の診療スタイルでしょうか。外来受診した患者さんに発熱があれば、まずはコロナの有無を検査する、という手順が間に挟まるようになりました。単なる発熱でなさそうな場合には、コロナ検査のときに採血や各種培養検体まで採取するというところも違っています。しかし、熱のない患者さんの診療については、これまでと大きな違いはありません。病歴聴取、身体診察、検査、診断、治療という流れは全く同じです。もう1つは職場の人間関係ですね。昨年、コロナの流行が始まった頃は、現場でも対応がわからず大混乱でした。その影響は、どうしても人間関係の悪化という形で出てしまいます。皆で力を合わせてコロナに立ち向かう、という雰囲気になったのはしばらく経ってからです。現在は、いろいろな仕事や手続きがある程度はルーチン化されたので、淡々と業務をこなせるようになりました。それでも思いがけないことが起こるのは、医療現場の常ですが、以前ほどそのことが人間関係に響かなくなったように感じます。変わらなかったというよりも、一旦、混乱した後に元に戻ったというべきでしょう。もちろん、コロナで変わってしまったこともたくさんあります。宴会や飲み会なんかは全くなくなってしまいました。ネットニュースを見ていると、「どうして政府がオリンピックをやっているのに、俺たちが飲み会をしたらアカンねん!」と言っている人もいるようですが、飲み会の自粛は自分の命を守るためです。オリンピックがあろうがなかろうが関係ありません。車を運転するときにシートベルトをするのと同じですね。それはさておき、国際学会では質疑応答の不首尾が心残りです。まだまだ英語の勉強が足りません。今後もオンライン英会話教室でフィリピン人先生を相手に努力を続けたいと思います。最後に1句英語での 質疑応答 沈没す

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先生!その縫合の目的は何ですか?~縫合の歴史と目的~【漫画でわかる創傷治療のコツ】第4回

第4回 先生!その縫合の目的は何ですか?~縫合の歴史と目的~《解説》さて、前回から切り傷の縫合処置について解説していますが、まずは準備段階として、創部確認~局所麻酔~消毒を中心にお話ししました。今回は、実際の縫合処置に入る前のアイスブレイクとして、縫合処置の歴史と目的を確認しておきましょう。そもそも、縫合は何のために行われるのでしょうか? 創面積の縮小が1つの目的ではありますが、組織の欠損が大きくなければ、縫合しなくても適切な軟膏処置などで傷自体は治ります。縫合するということは、組織の一部が血行不良となるので、誤った処置はむしろ創縁の壊死や創離開の原因となり、治癒が遅くなることさえあるのです。では、わざわざ異物である縫合糸を使って縫合する理由は何でしょうか。縫合は、大きく分けると、皮膚表面を縫う縫合と皮下(真皮も含む)を縫う縫合の2つがあります。これらの縫合によって、創傷の一次治癒を達成できるだけでなく、最小の瘢痕形成にとどめられるという利点があります。切り傷によって、本来の生体構造にはない空間(死腔)ができると、そこに浸出液や壊死組織がたまって感染源になってしまいます。感染すると傷の治りが遅れ、一次治癒が阻害されて傷痕が残ります。つまり、適切な縫合処置をすることで、傷の治りが良く(早く)なるだけでなく、傷自体も小さくすることができるのです!次回は、実際の縫合処置を行うために用意する道具(器械、糸、針)について説明します!参考1)McCarthy J.G. Introduction to plastic surgery. Plastic Surgery. Vol 1. Philadelphia: W. B. Saunders Co.;1990.p.42-53.2)小林寛伊. 縫合材料の歴史と問題点. 医科器械学雑誌. 1975;45:627−634.3)日本医療用縫合糸協会ホームページ

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2002~16年米国の医療費、人種・民族別で格差/JAMA

 2002~16年の米国医療費は、年齢・健康状態調整後も人種・民族で異なり、総医療費は多人種系や白人が最も高かった。また、医療サービス別医療費についても人種・民族で差があり、白人は外来医療費が、黒人は入院や救急医療費が、全体平均に比べいずれも高かった。米国・Institute for Health Metrics and EvaluationのJoseph L Dieleman氏らが、データベースを基に行った探査的研究で明らかにした。著者は、「さらなる研究で、COVID-19パンデミックに関連する支出などを含む現在の医療費を、人種・民族別に確認する必要がある」と述べている。JAMA誌2021年8月17日号掲載の報告。4種のデータベースを基に検証 研究グループは、米国内730万件の外来受診歴、入院歴、処方箋記録について「Medical Expenditure Panel Survey」(2002~16年)、「Medicare Current Beneficiary Survey」(2002~12年)を基に調べ、「National Health Interview Survey」(2002、2016年)による医療保険加入人口と推定症例数、「Disease Expenditure project」(1996~2016年)による推定医療費を統合し、米国における2002~16年の人種・民族別医療費の差を推定・検証した。 主要アウトカムは、2002~16年の人種・民族別の米国内医療費で、総額・年齢標準化額を医療サービス別に推定した。また、2016年の主要疾患の人種・民族別医療費も求めた。人種・民族別医療費の差については、利用率と価格・ケアの程度別に検証した。アジア系など、歯科以外の全タイプ医療費が平均を下回る 2016年の本調査対象とした6タイプの医療サービス費は、推定2兆4,000億ドル(95%不確定性区間[UI]:2兆4,000億~2兆4,000億)だった。同年における年齢標準化後の1人当たり推定総医療費は、アメリカ先住民とアラスカ先住民(非ヒスパニック系)が7,649ドル(6,129~8,814)、アジア系、ハワイ先住民と太平洋諸島系(非ヒスパニック系)4,692ドル(4,068~5,202)、黒人7,361ドル(6,917~7,797)、ヒスパニック系6,025ドル(5,703~6,373)、その他複数人種系(非ヒスパニック系)9,276ドル(8,066~1万601)、白人(非ヒスパニック系)8,141ドル(8,038~8,258)だった。白人が全体医療費の72%を占めた。 集団サイズおよび年齢で調整後、白人は外来医療費が、全体平均に比べ推定15%高かった(95%UI:13~17、p<0.001)。黒人(非ヒスパニック系)は、外来医療費は全体平均より推定26%低く(19~32、p<0.001)、一方で入院費は推定19%(3~32、p=0.02)、救急医療費は推定12%(4~24、p=0.04)、それぞれ高かった。ヒスパニック系は、1人当たりの外来医療費が全体平均より推定33%低く(26~37、p<0.001)、またアジア系、ハワイ先住民と太平洋諸島系(非ヒスパニック系)は歯科以外の全医療サービス分野で全体平均より医療費が低かった(すべてのp<0.001)。一方で、アメリカ先住民・アラスカ先住民(非ヒスパニック系)とその他の複数人種系(非ヒスパニック系)は、救急医療費が全体平均よりも推定でそれぞれ90%(11~165、p=0.04)、40%(19~63、p=0.006)高かった。 人種・民族別の医療費で有意差が認められた18分野については、すべて利用率の違いと一致していた。こうした格差は、潜在的疾病負荷を補正しても持続していた。

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