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「急性腹症診療ガイドライン2025」、ポイント学習動画など新たな試みも

 2025年3月「急性腹症診療ガイドライン2025 第2版」が刊行された。2015年の初版から10年ぶりの改訂となる。Minds作成マニュアル(以下、マニュアル)に則って作成され、初版の全CQに対して再度のシステマティックレビューを行い、BQ81個、FRQ6個、CQ14個の構成となっている。8学会の合同制作で広範な疾患、検査を網羅する。診療のポイントをシナリオで確認できる動画を作成、システマティックレビューの検索式や結果をWeb上で公開するなど、新たな試みも行われた。改訂出版委員会の主要委員である札幌医科大学・三原 弘氏に、改訂版のポイントや特徴を聞いた。 ガイドライン自体の評価はMindsなどが行っているが、私たちはさらにマニュアルに従ってガイドラインが実臨床や社会に与えた影響を評価しようと考えた。具体的には、初版刊行の前後、2014年と2022年に日本腹部救急医学会と日本プライマリ・ケア連合学会の会員を対象にアンケート調査を行った。ガイドラインの認知度と実臨床の変化を調べ、改訂につなげることが目的だ。 そこでわかった課題は2つ。1つめは、初版では急性腹症の初回のスクリーニング検査として超音波検査(エコー)を推奨していたにもかかわらず、発刊後にはエコーの実施率が下がり、CT検査の実施率が上がっていた。コロナ禍の影響が大きいだろうが、初版における超音波の推奨を十分伝え切れていなかった可能性がある。2つめは、初版の認知度が6割だったことだ。学会員であり、かつアンケートに回答してくれるような熱心な医師であっても4割はガイドラインの存在自体を知らない、という結果は衝撃だった。一方、ガイドラインを認知している医師は診療内容が確実に変わっており、「知ってもらう」ことの重要性を痛感した。 この結果を受け、2版は「最初の画像検査はエコーが第1選択と強調」、「とにかく知ってもらう」ことの2点に注力した。 そして、「急性腹症の検査」の章では、「$アプローチ」と「6アプローチ」という具体的な走査法の図を掲載し、「急性腹症の教育プログラム」の章に最近一般的になっているPOCUS(ベッドサイドで行う超音波検査)について、「各部位50例程度の経験を積むことを提案する」という具体的な数値目標を記載し、エコー動画を含めたシナリオ学習動画を新規に作成・公開した。これはパブリックコメントなどに寄せられた「エコーが重要なのはわかったが、どう当てればいいのか、どのくらい練習すればいいのかわからない」という声に応えたものだ。 さらに、初版で記載した「2 step methods」(バイタルサインを確認するステップ1、その異常の有無で医療面接・身体所見などから病態を評価する対応を変えるステップ2を順番に行う診療アルゴリズム)がわかりにくいという声を受け、上記のシナリオで内容を理解する動画を5本作成した。若手医師を中心に、書籍ではなく動画で学ぶことが一般化しており、そのニーズに応えたものだ。1本10分程度の動画で、症例提示や検査画像から診療の流れとポイントを確認し、視聴前後にチェックテストを行うことで理解度を確認することができる。動画はYouTubeに上げ、版権もガイドライン改訂出版委員会が所持しつつもクリエイティブ・コモンズとして公開しているので、医学部の授業や研修病院のセミナーでそのまま、または一部改変して使っていただくことも可能だ。 さらに、本編に入り切らなかった補足的コンテンツや、改訂に際して行ったシステマティックレビューの結果もWeb上で公開している。これまで、システマティックレビューの検索式や結果は事務局等のパソコン上に静かに保管している、などのケースが多かった。ガイドラインとその改訂作業を、オープンかつ公的で参考となるものとし、そして永続的な活動としていくために、さまざまなトライアルをした1冊だ。ぜひ多くの方に手に取っていただきたい。【新版に収録されたBQ・CQ/一部抜粋】BQ2 腸閉塞症とイレウスはどう定義されるか?腸管の閉塞症状を呈する病態において、「腸管の機械的閉塞を伴う病態を腸閉塞症」と「腸管の機械的閉塞を伴わない、腸蠕動または腸運動の欠如に起因する病態をイレウス」とを明確に分けて定義する。BQ3 急性虫垂炎はどう分類されるか?急性虫垂炎は、組織学的にカタル性、蜂窩織炎、壊疽性と分類され、臨床的に単純性、複雑性、汎発性腹膜炎を伴う虫垂炎に分けられるが、これらを術前に正確に分類することは困難である。BQ44 急性腹症の画像診断で最初に行う(形態学的)検査(または画像診断法)は何か?非侵襲性、簡便性、機器の普及度などからも超音波検査(US)がスクリーニング目的での画像診断法では第1選択であり、特に妊婦や小児においては勧められる。BQ78 急性腹症の腹痛にはどのような鎮痛薬を使用するか?原因にかかわらず診断前の早期の鎮痛剤使用を推奨する。痛みの強さによらずアセトアミノフェン1,000mg静脈投与が推奨される。痛みの強さにより麻薬性鎮痛薬の静脈投与を追加する。またブチルスコポラミンのような鎮痙剤は腹痛の第1選択薬というよりは疝痛に対して補助療法として使用される。急性腹症ではモルヒネ、フェンタニルのようなオピオイドやペンタゾシン、ブブレノルフィンのような拮抗性鎮痛薬を使用することもできる。NSAIDsは胆道疾患の疝痛に対しオピオイド類と同等の効果があり第1選択薬となりうる。尿管結石の疝痛にはNSAIDsを用いる。NSAIDsが使用できない場合にオピオイド類の使用を勧める。CQ8 急性腹症のどのような場合に造影CT検査を追加するか?臓器虚血の有無、血管性病変、急性膵炎の重症度判定、急性胆管炎・胆嚢炎、複雑性虫垂炎などでは単純CTだけでは詳細な評価が困難なことがあり、造影CT検査が推奨される。CQ14 臨床医に対する急性腹症の超音波訓練は有用か?臨床医自らが患者の傍らで関心部分に焦点を絞って実施する point-of-care ultrasonography(POCUS)の診断精度は、各部位50例程度の経験を積むことで超音波検査の専門家と同等になることが報告されており、急性腹症を診療する医師は50例程度の超音波訓練を行うことを提案する。

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ゾルピデムとBZDの使用が認知症リスク増加と関連〜メタ解析

 ガンマアミノ酪酸(GABA)系は、認知機能や記憶プロセスに関連していることが知られている。そして、GABAA受容体およびその他の関連経路の活動は、βアミロイドペプチド(Aβ)の蓄積に影響を及ぼす。そのため、GABAA受容体に影響を及ぼす薬剤の使用とアルツハイマー病および認知症の発症リスクとの関連を調査する研究が進められてきた。イラン・Shahid Beheshti University of Medical SciencesのKimia Vakili氏らは、ベンゾジアゼピン(BZD)、ゾルピデム、トリアゾラム、麻酔薬に焦点を当て、GABAA受容体に影響を及ぼす薬剤とアルツハイマー病および認知症リスクとの関連を明らかにするため、文献レビューおよびメタ解析を実施した。Molecular Neurobiology誌オンライン版2025年3月20日号の報告。 2024年5月までに公表されたアルツハイマー病、認知症、GABAA受容体作動薬に関するすべての英語文献をメタ解析に含めた。対象文献は、PubMed、Scopusデータベースより検索した。抽出されたデータの分析には、Stata 14.2を用いた。異質性の評価には、Q統計およびI2指数を用いた。出版バイアスの検出には、Egger検定とファンネルプロットを用いた。 主な内容は以下のとおり。・19文献(ケースコントロール研究10件、コホート研究9件)、295万3,980例をメタ解析に含めた。・GABA受容体作動薬の使用と認知症(リスク比[RR]:1.15、95%信頼区間[CI]:1.02〜1.29、I2=87.6%)およびアルツハイマー病(RR:1.21、95%CI:1.04〜1.40、I2=97.6%)の発症との間に、統計学的に有意な関係が認められた。・薬物ベースのサブグループでは、ゾルピデム使用とアルツハイマー病および認知症発症率の増加との関連が認められた(RR:1.28、95%CI:1.08〜1.52、I2=24.3%)。これは、BZD使用と同様であった(RR:1.11、95%CI:1.04〜1.18、I2=87.2%)。・メタ回帰分析では、フォローアップ期間の範囲は研究全体で5〜11年であり、異質性と有意に関連していることが示唆された(p=0.036)。 著者らは「ゾルピデムおよびBZDの使用は、認知症およびアルツハイマー病のリスク増加と関連していることが示唆された」としている。

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タバコ規制により米国で400万人近い人が死亡を回避

 喫煙者を減らすための公衆衛生キャンペーンやタバコ税の導入などのさまざまな対策によって、米国では過去50年間で約400万人の肺がんによる死亡が防がれたことが明らかになった。回避された肺がんによる死亡者数は、同期間に回避された全てのがん死の約半数を占めるという。 この研究は、米国がん協会(ACS)のFarhad Islami氏らによるもので、詳細は「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に3月25日掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「肺がんによる死亡を回避し得た人の推定数は膨大な数に上っている。これは、喫煙防止のための公衆衛生対策の推進が、肺がんによる早期死亡の低減に大きな効果を発揮してきたことを物語っている」としている。ただし一方で同氏は、「それにもかかわらず、肺がんは依然として米国におけるがん死の主要な原因であり、さらに、喫煙に起因する肺がん以外のがん、および、がん以外の喫煙関連疾患の罹患率や死亡率は依然として高いままだ」と、さらなる改善の必要性を強調している。 この研究では、1970~2022年の米国健康統計センター(NCHS)による全米での死亡データを利用して、年齢、性別、人種、調査年ごとに肺がんによる死亡数の予測値を算出した上で、その値から実際に発生していた肺がんによる死亡者数を差し引くという計算が行われた。その結果、この約50年間で385万6,240人(男性224万6,610人、女性160万9,630人)の肺がんによる死亡が回避されていたことが分かった。この数は、この間に回避された全てのがん死(750万4,040人)の51.4%を占めていた。 Islami氏は、「タバコ規制による喫煙の減少は何百万人もの命を救ってきたし、今後も何百万人もの人の命を救うことだろう。しかし、喫煙者をさらに減らし、喫煙関連疾患の死亡リスク抑制をより確実なものとするために、地域、州、国家レベルでのより強力な取り組みが必要とされている」と話している。また同氏は、喫煙リスクの高い集団に対して、そのような取り組みをより積極的に行うことの重要性も指摘。その理由の一つとして、例えば「教育歴が高校卒業以下の集団の喫煙率と肺がんによる死亡リスクは、大学を卒業した集団に比べて5倍高い」という事実を挙げている。 ACSに対して政策提言などのサポートを行っているACSがん対策推進ネットワークのLisa Lacasse氏は、「本研究の結果は、予防可能な死亡が依然として発生しているという事実を浮き彫りにしている」と論説。「喫煙者を減らし、最終的には米国民全員のタバコによる発がんという疾病負担を減らすためのアプローチの一環として、エビデンスに基づく喫煙防止策や禁煙プログラムの継続と、そのための資金の確保が、これまで以上に求められる」と同氏は述べ、タバコ税の引き上げを含めた包括的な禁煙政策の必要性を指摘している。

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サブタイプ別転移乳がん患者の脳転移発生率、HER2低発現の影響は

 約1万8千例を含む大規模な転移乳がん患者コホートを対象に、サブタイプおよび治療ライン別の脳転移の有病率と累積発生率、またHER2低発現が脳転移発生率に及ぼす影響を評価した結果、すべてのサブタイプで治療ラインが進むごとに発生率が上昇し、HER2低発現は従来のサブタイプ分類における発生率に影響を及ぼさないことが示唆された。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のSarah L Sammons氏らによるJournal of the National Cancer Institute誌オンライン版2025年3月31日号への報告。 本研究では、電子カルテに基づく全国規模の匿名化データベースが用いられた。主要評価項目は脳転移の初回診断とし、HER2低発現を含む転移乳がんのサブタイプおよび治療ライン別に、脳転移の有病率および発生率を推定した。全身治療開始時に脳転移を有さなかった患者における脳転移リスクは、累積発症率関数を用いて推定した。すべてのp値は両側検定に基づき、p≦0.05を統計学的有意とした。 主な結果は以下のとおり。・1万8,075例の転移乳がん患者のうち、1,102例(6.1%)は初回治療開始時点ですでに1つ以上の脳転移を有していた。・残る1万6,973例における脳転移の累積発生率(60ヵ月時点)は、ホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性で10%、HR+/HER2陽性で23%、HR陰性/HER2陽性で34%、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)で22%であった。・HR+/HER2陰性およびTNBCサブタイプにおけるHER2低発現の、脳転移発生率への影響はみられなかった。・すべての乳がんサブタイプにおいて、治療ラインが進むごとに脳転移の有病率は上昇していた。

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遺伝性アルツハイマーへのgantenerumab、発症リスク低下に有効か

 最先端のアルツハイマー病治療薬が、実際にその進行を防ぐ可能性のあることが、小規模な研究で示された。脳内でアミロイドβ(Aβ)が過剰に産生される遺伝的変異を持ち、将来、アルツハイマー病を発症することがほぼ確実とされる試験参加者に、脳からAβを除去する抗Aβ IgG1モノクローナル抗体のガンテネルマブ(gantenerumab)を投与したところ、投与期間が最も長かった参加者ではアルツハイマー病の発症リスクが50%低下したことが示されたという。米ワシントン大学医学部のRandall Bateman氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Neurology」4月号に掲載された。 ガンテネルマブは元々、同じく抗Aβ抗体薬のソラネズマブ(solanezumab)とともに、2012年に開始された臨床試験(The Knight Family DIAN-TU-001、以下、DIAN-TU)において、優性遺伝性アルツハイマー病(DIAD)の発症予防や進行遅延に対する効果が検討されていた。対象は、DIAD発症予測年齢の15年前から10年後の間にある、無症状または認知機能の軽微な低下が認められるDIAD変異キャリアだった。 2020年の試験終了時点では、ガンテネルマブの認知機能低下に対する抑制効果については十分なエビデンスが得られなかったものの、Aβレベルの低下が確認されたことから、DIAN-TU試験参加者を対象に、オープンラベル継続投与試験(OLE試験)が実施されることになった。しかし2022年11月、ロシュ/ジェネンテック社は、ガンテネルマブに関する別の臨床試験において期待されていた結果が得られなかったことを理由に同薬の開発中止を決定した。これを受け、当初3年間の予定で開始されたOLE試験も、予定より早い2023年半ばに打ち切られた。OLE試験では、試験参加者は平均2.6年にわたる治療を受けた。 本研究結果は、このOLE試験の解析結果である。OLE試験には、2020年6月3日から2021年4月22日の間に18施設から73人が登録され、全員がガンテネルマブによる治療を受けた。試験の途中で13人が有害事象や疾患の進行により離脱し、47人(64%)が試験終了に伴い治療を中止した。最終的に、3年間の治療を完了したのは13人だった。 中間解析からは、ガンテネルマブによる治療期間が最も長かった22人では、認知症の重症度を評価する臨床認知症評価尺度の合計点(CDR-SB)の低下リスクが約50%低下する可能性のあることが示唆された(ハザード比0.53、95%信頼区間0.27〜1.03)。この結果は、アルツハイマー病の症状が現れる前にガンテネルマブにより脳からAβを除去することで、発症を遅らせられる可能性があることを意味する。しかし、DIAN-TUまたはOLE試験のどちらかでのみガンテネルマブによる治療を受けた53人では、認知機能低下に対するガンテネルマブの抑制効果は確認されなかった(同0.79、0.47〜1.32)。 Bateman氏は、「これはアルツハイマー病の遺伝リスクがある人の発症を予防できる可能性を示す最初の臨床的エビデンスとなり得る、大いに期待を持てる結果だ。近い将来、何百万人もの人々のアルツハイマー病の発症を遅らせることが可能になるかもしれない」と話している。また、米アルツハイマー病協会の最高科学責任者であるMaria Carrillo氏も、「これらの興味深い予備的研究の結果は、Aβレベルを下げることがアルツハイマー病の予防に果たす潜在的な役割を非常に明確に示唆している」とワシントン大学のニュースリリースの中で述べている。 ただし、抗Aβ抗体薬は高価であり、副作用のリスクも伴う。この小規模試験での脳浮腫の発生率は30%と、最初の臨床試験での発生率(19%)と比べて1.3倍に増加していた。

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間質性肺炎合併肺がん、薬物療法のポイント~ステートメント改訂/日本呼吸器学会

 2017年10月に初版が発行された『間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント』について、2025年4月に改訂第2版が発行された。肺がんの薬物療法は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場するなど、目覚ましい進歩を遂げている。そのなかで、間質性肺炎(IP)を合併する肺がんの治療では、IPの急性増悪が問題となる。そこで、近年はIP合併肺がんに関する研究も実施され、エビデンスが蓄積されつつある。これらのエビデンスを含めて、本ステートメントの薬物療法のポイントについて、池田 慧氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。NSCLCへの細胞傷害性抗がん薬 細胞傷害性抗がん薬によるIP合併非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療の中心は、カルボプラチンに(nab-)パクリタキセルまたはS-1を併用するレジメンである。これは、本邦で実施された複数の前向き研究や後ろ向き研究の多数例の報告に基づき、比較的安全に投与可能と判断されることによるものである。一方で2次治療以降の検討は少なく、標準治療は確立していない。これについて、池田氏は「後ろ向きの報告から、S-1が比較的安全に投与可能と判断され、用いられているのではないか」と述べた。 IP合併肺がん患者への細胞傷害性抗がん薬の使用について、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では投与を提案しているが(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[低])、「一部の患者には合理的な選択肢でない可能性がある」ことも記載されている。そのため、池田氏は急性増悪のリスク評価が重要であると述べる。リスク評価については、後ろ向き研究においてHRCTでの線維化範囲の広さ、UIP(通常型間質性肺炎)パターン、%FVC(努力肺活量の予測値に対する実測値の割合)低値、%DLco≦50%などが急性増悪のリスク因子として挙げられている。また、ILD-NSCLC-GAPスコア/modified GAPスコア、Glasgow Prognostic Scaleが急性増悪のリスク評価に有用である可能性も報告されている。ただし、確立されたリスク評価方法は存在せず、本ステートメントでは「治療前に急性増悪発症リスクを評価する方法は複数提案されているが確立していない」としている。SCLCへの細胞傷害性抗がん薬 IP合併小細胞肺がん(SCLC)について、本ステートメントの作成にあたり検索に含まれた介入研究は、国内の17例を対象としたカルボプラチン+エトポシドのパイロット試験のみである。本試験では、急性増悪の発現割合は5.9%と比較的低かったことが報告されている。また「びまん性肺疾患に関する調査研究」班(びまん班)の調査では、急性増悪の発現割合がカルボプラチン+エトポシドで3.7%、シスプラチン+エトポシドで11.0%であったことも報告されている。以上から、本ステートメントでは「プラチナ製剤とエトポシド併用療法がIP合併症例においても標準的治療とするコンセンサスが得られている」としている。分子標的薬 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブは、既存肺のIPが肺臓炎発現のリスク因子となることが報告されている。これらのことから、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では、IP合併肺がんに対して分子標的薬を投与しないことを推奨または提案するとされている。ただし、池田氏は「実際のところ、EGFR-TKI以外の分子標的薬については、既存肺のIPと肺臓炎リスクの関連は十分に検討されていない」と指摘する。近年では、KRAS、BRAF、METなどを標的とする分子標的薬が登場しており、これらの分子の遺伝子異常を有する患者には喫煙者が多いことから、肺気腫や間質性肺炎の合併が多い可能性も考えられる。そこで、びまん班が「間質性肺炎合併非小細胞肺癌におけるドライバー遺伝子変異/転座検索の実態と分子標的治療薬の安全性・有効性に関する多施設共同後方視的研究」を実施しており、すでに1,250例を超える症例が集積されているとのことである。池田氏は「かなり興味深い結果になっていることが期待され、近いうちに学会でデータを示し、IP合併肺がん患者でもドライバー遺伝子変異を調べることの意義を共有したい」と述べた。抗線維化薬 特発性肺線維症(IPF)合併NSCLC患者を対象に、カルボプラチン+nab-パクリタキセルへのニンテダニブの上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験「J SONIC試験」では、主要評価項目であるIPF無増悪生存期間(PFS)の優越性は示せなかったものの、非扁平上皮がんに限定するとPFSとOSの延長傾向がみられた。また、IPF合併SCLC患者を対象とした国内第II相試験「NEXT SHIP試験」では、カルボプラチン+エトポシドにニンテダニブを上乗せすることで、間質性肺炎の急性増悪の発現割合を3.0%に抑制したことが報告されている。以上から、ニンテダニブはIP合併の非扁平上皮NSCLC、SCLCにおいて抗線維化作用と抗腫瘍作用の双方を期待でき、1次治療の選択肢の1つになる可能性がある。ADC、モノクローナル抗体 HER2を標的とするADCのトラスツズマブ デルクステカンは肺臓炎の発現が多く、胃がんの市販後調査では既存肺のIPが肺臓炎リスク因子となることが報告されている。そのため、本ステートメントではIP合併肺がんでの使用に際して注意が必要であることが記載されている。ICI ICIは、予後不良なIP合併進行肺がん患者に長期生存をもたらしうる現状で唯一の治療選択肢である。しかし、複数の観察研究において、既存肺に間質性肺疾患を有する場合は免疫関連有害事象(irAE)としての肺臓炎の発現割合が高いことが報告されている。そのため、IP合併肺がん患者へICIを投与する場合は肺臓炎リスクの低い患者の絞り込みが重要となる。 そこで、本邦では複数の介入研究が実施されている。HAVクライテリア(蜂巣肺なし、自己抗体なし、%VC[肺活量の予測値に対する実測値の割合]≧80%)を満たす軽症のIPを合併した肺がん患者に対してICIを投与することで、肺臓炎の発現が抑制されることが示唆されている。一方、HAVクライテリアより緩い基準(蜂巣肺を許容、%FVC≧70%など)で実施した試験では、Grade3以上の肺臓炎が23.5%に認められている。これらの結果を受け、本ステートメントでは「既存肺に蜂巣肺を有すると判断された症例に関しては、とくに肺臓炎のリスクが高いものとして慎重な姿勢で臨むべきである」ことが記載されている。また、これらの結果について、池田氏は「軽症のIPであれば比較的安全な可能性があるが、蜂巣肺を有している場合は、現状の介入研究のデータをみると肺臓炎リスクが高い可能性が示唆されている。ただし、有効性に関する良好なデータも示されており、細胞傷害性抗がん薬では長期生存が見込めない予後不良な集団であることも考慮すると、現状ではICIはIP合併肺がんに対して長期生存をもたらしうる唯一の選択肢であるため、リスクベネフィットを患者に共有し、一緒に考えながら治療を選択していく必要がある」と述べた。

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吸引前アセスメントの実施率は36% 看護師の知識と実践のギャップ【論文から学ぶ看護の新常識】第12回

吸引前アセスメントの実施率は36% 看護師の知識と実践のギャップ看護師の吸引前アセスメントの実施率や適切な吸引圧の使用率はいずれも50%未満であり、吸引に関する知識と実践との間にギャップがあることが、研究結果から明らかとなった。Halita J Pinto氏らの研究で、Indian Journal of Critical Care Medicine誌2020年1月号に掲載された。看護師の気管内吸引に関する知識と実践:システマティックレビュー研究グループは、看護師の現行の実践におけるギャップを明らかにし、安全な実践に向けた包括的なガイドラインを提案することを目的として、システマティックレビューを実施した。2002年から2016年の期間に、あらかじめ定義されたキーワードを用いて論文データベースから論文を抽出した。レビューはPRISMAに従って実施した。質的データはメタ統合の手法で記述し、気管内吸引に関する知識と実践を明らかにするために、信頼性の高い量的エビデンスを統合する量的分析を実施した。最終的に30件の研究がメタ統合の対象となり、そのうち6件が量的分析に適した情報を提供した。量的分析によって明らかとなった、看護師の実施率に関する主な結果は以下の通り。吸引前の患者状態の評価:36%(2件の研究、対象者70人、実施者25人)必要時のみ吸引を実施:62%(3件の研究、対象者146人、実施者91人)吸引前の患者への説明:65%(5件の研究、対象者175人、実施者113人)吸引前の手洗い:62%(4件の研究、対象者148人、実施者92人)適切な吸引カテーテルサイズの使用:36%(3件の研究、対象者140人、実施者50人)適切な吸引圧(80~150mmHg)の使用:46%(4件の研究、対象者191人、実施者87人)吸引時間(15秒未満):59%(4件の研究、対象者150人、実施者88人)吸引後の再評価:100%(1件の研究、対象者30人、実施者30人)吸引後の手洗:91%(3件の研究、対象者82人、実施者75人)合併症の可能性についての認識があるにもかかわらず、推奨されている診療ガイドラインを順守していないことが報告された。臨床現場で日常的に行われる気管内吸引ですが、私たち看護師の知識と実践の間にはしばしばギャップがあることをご存知でしょうか。本レビューは、少し前のものにはなりますが、このギャップに注目し、気管内吸引の安全性と効果を高めるための重要なポイントを示した面白い研究です。日常的なケアになっている分、意外と答えられる項目が多いのかなと思いました。本文を読むと、吸引後のアセスメントの実施率は100%でしたが、吸引前にアセスメントを実施している看護師はわずか36%とかなり低い結果でした。意外にも見落とされがちなのが、吸引前の患者への説明です。吸引は患者にとって不快で痛みを伴う処置ですが、適切な説明と疼痛管理を行うことで、患者の不安やストレスを軽減できることが指摘されています。忙しい業務の中で作業的になり、つい説明を忘れてしまう気持ちもわかりますが、忘れないようにしたいものです。また、吸引は必要な時にのみ行い、15秒以内に留めるなど、最小限の侵襲で最大の効果を得るよう心がけましょう。と言いながらも、理想的なケアと現実的なケアの中でギャップはかなり生じると思います。日本では、『気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための)』1)が出ていますので、今一度、自分自身の知識と実践を確認してみてはいかがでしょうか?論文はこちらPinto HJ, et al. Indian J Crit Care Med. 2020;24(1):23-32.1)日本呼吸療法医学会. 気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための). Jpn J Respir Care. 2024;41(1):1-47.

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早期発症双極症の認知機能、躁病エピソード期と寛解期の比較

 トルコ・Konya Eregli State HospitalのCelal Yesilkaya氏らは、早期発症型の双極症の躁病エピソード患者と寛解期患者における認知機能の程度を調査し、比較検討を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2025年3月3日号の報告。 対象は、双極症の躁病エピソード患者55例、寛解期患者40例と健康対照者30例。さらに、躁病エピソード患者のうち、31例(56.4%)は寛解期と評価された。包括的な認知バッテリーを用いて、言語および視覚学習/記憶、注意力、抑制、問題解決、作業記憶、処理速度、言語流暢スキルを評価した。全体的な認知能力を推定するため、グローバル認知因子を算出した。心の論理(Theory of mind:ToM)の評価には、Reading the Mind in the EyesおよびFaux-Pasテストを用いた。 主な結果は以下のとおり。・双極症患者と健康対照者は、性別および教育によりマッチさせた。・寛解期患者の平均年齢は、他群よりも有意に高かった。・躁病エピソード患者では、抗精神病薬の投与量が最も多かった。・躁病エピソード患者は、寛解期患者と比較し、処理速度(Cohen's d:0.51〜0.78)、注意力(d:0.57)、抑制(d:0.56〜0.63)、全般的認知機能(d:0.54)の中程度の低下が認められた。・寛解期患者は、健康対照者と比較し、言語記憶(d:1.03〜1.32)、作業記憶(d:0.88〜1.13)、ToM(d:0.60〜0.87)、処理速度(d:1.21〜1.27)、問題解決(d:0.56〜0.67)、注意力(d:0.58)、抑制(d:0.89〜1.00)、視覚記憶(d:1.28〜1.37)のパフォーマンスが低かった。 著者らは「躁病エピソード患者は、社会的認知、処理速度、抑制、注意力の障害がより顕著であった。今後の研究では、神経認知障害の治療を目的とした薬物療法および心理療法の介入に焦点を当てる必要がある」と結論付けている。

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医師の子供の約6割が中学受験または予定している/医師1,000人アンケート

 2023年の調査によると、東京都では5人に1人が中学受験をして進学するなど、大都市圏では中高一貫校に人気がある。「公立学校よりも豊かな学習環境で学ばせたい」や「来るべき大学受験のために進学校で学ばせたい」など理由はさまざまである。 では、大都市圏の医師の子供は中学受験を行っているのであろうか。また、受験の動機や合格するための対策、受験までの費用などどのくらい支出しているのだろうか。 CareNet.comでは、3月21~27日にかけて、関東圏(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県)、関西圏(大阪府・兵庫県・京都府)の会員医師1,000人に「中学受験」の実状について聞いた。中学受験の動機は「親の希望」がトップ 質問1で「中学受験をしたか。あるいは、受験する予定か」(単回答)を聞いたところ、「受験した/する予定」と回答した医師が64%、「受験しなかった/しない予定」が36%と半数以上の医師の子供が中学受験をしていた。地域別の比較では、わずかだが関西圏(66%)で受験したあるいは予定の人が多かった(関東圏62%)。 質問2で「中学受験の動機」(3つまで選択/複数回答)を聞いたところ、「親の希望」が70%、「子供本人の希望」が50%、「進学実績」が25%の順で高かった。地域別で5%以上差があった項目は「学校の設備」で、関東圏が9%に対し関西圏では4%だった。 質問3で「中学受験対策」(複数回答)を聞いたところ、「塾」が92%、「親など家族が勉強をサポート」が27%、「家庭教師」が12%の順で高かった。地域別では関東圏で「家庭教師」(16%)が関西圏(9%)よりも高かった。 質問4で「小学6年生のときに支出した教育費(塾・家庭教師・通信教育などの費用のみ、受験費用などは含まない)の合計」(単回答)について聞いたところ、「50万円以上100万円未満」が30%、「100万円以上150万円未満」が23%、「50万円未満」が18%の順で高かった。地域別では、100万円未満だった家庭の割合は、関西圏(55%)が関東圏(49%)よりも高い傾向がみられた。 質問5で「中学受験に関する意見や受験でのエピソード」を自由回答で聞いたところ、次のコメントが寄せられた。【受験動機や家族のサポートなど】・ある程度自由な校風で、自然も多く、本人に合っていて良かった。おかげで、国公立大学医学部に現役で合格した(60代/内科)・子供をやる気にさせるのに毎日苦労した(40代/放射線科)【受験勉強や受験日当日のハプニングについて】・連日受験で親子ともども大変だったので、早い段階で1つ合格校を確保しておくと、精神的に楽になる(40代/糖尿病・代謝・内分泌内科) ・子供が第1志望の受験日にインフルエンザになった(60代/精神科)【受験後の様子や中学受験への見解について】・親子で同じ目標に向かうという体験はとても貴重だった(50代/麻酔科)・小学生のうちにやれることがいっぱいあるのに、今の子供達は時間がないのがかわいそう(60代/小児科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。医師の子の中学受験率は約6割

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高齢の大動脈弁狭窄症、TAVI後のダパグリフロジン併用で予後を改善/NEJM

 重症の大動脈弁狭窄症で経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を受け、心不全イベントのリスクが高い高齢患者において、標準治療単独と比較してSGLT2阻害薬ダパグリフロジンを併用すると、全死因死亡または心不全悪化の発生率が有意に改善することが、スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos IIIのSergio Raposeiras-Roubin氏らDapaTAVI Investigatorsが実施した「DapaTAVI試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年4月10日号に掲載された。スペインの無作為化対照比較試験 DapaTAVI試験は、TAVIを受けた大動脈弁狭窄症の高齢患者におけるダパグリフロジン併用の有効性と安全性の評価を目的とする医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2021年1月~2023年12月にスペインの39施設で参加者の無作為化を行った(Instituto de Salud Carlos IIIなどの助成を受けた)。 重症大動脈弁狭窄症でTAVIを受け、心不全の既往歴に加え腎不全(推算糸球体濾過量[eGFR]25~75mL/分/1.73m2)、糖尿病、左室駆出率(LVEF)<40%のうち少なくとも1つを有する患者1,222例(平均[±SD]年齢82.4±5.6歳[72%が80歳以上、7%以上が90歳以上]、女性49.4%)を対象とした。これらの患者をTAVI施行後に、標準治療に加えダパグリフロジン(10mg、1日1回)の経口投与を受ける群(605例)、または標準治療のみを受ける群(618例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、追跡期間1年の時点における全死因死亡または心不全の悪化(心不全による入院または心不全で緊急受診し利尿薬静脈内投与を受けたことと定義)の複合とした。主要アウトカムを有意に改善 全体の43.9%が糖尿病、17.0%がLVEF<40%、88.6%がeGFR 25~75mL/分/1.73m2で、平均eGFRは56.2±16.4mL/分/1.73m2であった。追跡期間中にダパグリフロジン群の103例(17.0%)が投与中止となり、標準治療単独群の43例(7.0%)が心不全以外の理由でダパグリフロジンの投与を開始した。標準治療単独群の1例が追跡不能となり主解析から除外された。 主要アウトカムのイベントは、標準治療単独群で124例(20.1%)に発生したのに対し、ダパグリフロジン群では91例(15.0%)と有意に減少した(ハザード比[HR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.55~0.95]、p=0.02)。 全死因死亡はダパグリフロジン群47例(7.8%)、標準治療単独群55例(8.9%)(HR:0.87[95%CI:0.59~1.28])、心不全悪化はそれぞれ57例(9.4%)および89例(14.4%)(サブHR:0.63[95%CI:0.45~0.88])で発生した。性器感染症、低血圧症の頻度が高い 非外傷性四肢切断(ダパグリフロジン群0.8%vs.標準治療単独群0.6%、p=0.72)、重症低血糖症(0.7%vs.1.3%、p=0.26)、がん(5.0%vs.3.6%、p=0.23)の発生率は両群で同程度であった。両群とも糖尿病性ケトアシドーシスの報告はなかった。 一方、性器感染症(1.8%vs.0.5%、p=0.03)および低血圧症(6.6%vs.3.6%、p=0.01)はダパグリフロジン群で高頻度だった。ダパグリフロジン群の37例(6.1%)が、有害事象により投与中止となった。 著者は、「これらの結果は、高齢患者においてSGLT2阻害薬は安全で、臨床的有益性をもたらすことを裏付けるものと考えられ、高齢患者へのSGLT2阻害薬の処方が少ない現状を考慮すると重要な知見といえるだろう」としている。

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テレビを消すと糖尿病になりやすい人の心血管リスクが低下する

 2型糖尿病になりやすい遺伝的背景を持つ人は、心臓発作や脳卒中、末梢動脈疾患などのアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクも高い。しかし、そのリスクは、テレビのリモコンを手に取って「オフ」のスイッチを押すと下げられるかもしれない。香港大学(中国)のMengyao Wang氏らの研究によると、テレビ視聴を1日1時間以下に抑えると、2型糖尿病の遺伝的背景に関連するASCVDリスクの上昇が相殺される可能性があるという。この研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に3月12日掲載された。 Wang氏らの研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」参加者のうち、遺伝子情報のデータがある成人34万6,916人(平均年齢56±8.0歳、女性55.4%)を対象に行われた。2型糖尿病に関連する138の遺伝子情報を用いて多遺伝子リスクスコア(PRS)を算出し、低位(PRSの下位20%)、中位(低位・高位以外)、高位(PRSの上位20%)の3群に分類。また、テレビ視聴時間は自己申告に基づき、1日1時間以下の群(20.7%)と2時間以上の群(79.3%)の2群を設定した。 中央値13.8年間追跡したところ、2万1,265件のASCVDイベントが記録されていた。ASCVDリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、睡眠時間、就業状況、肉・魚・果物・野菜などの摂取量、経済状況ほか)を調整後、テレビ視聴時間が1日2時間以上の群はPRSにかかわらず、1日1時間以下の群よりもASCVDリスクが12%高かった(ハザード比1.12〔95%信頼区間1.07~1.16〕)。またPRSが中位および高位の群でも、テレビ視聴時間が1日1時間以下である限り、ASCVDリスクの上昇は認められなかった。 その一方で、PRSが低位であっても2時間以上テレビを視聴している群は、向こう10年間のASCVDリスクが2.46%であり、この数値は、PRSが高位ながらテレビ視聴時間が1時間以下の群のASCVDリスクである2.13%よりもやや高かった。 論文の筆頭著者であるWang氏は、「われわれの研究結果は、テレビ視聴時間を減らすことが、2型糖尿病の遺伝的背景に関連するASCVDを予防するための、重要な行動目標となる可能性を示唆している」と総括。また、「疾患を予防し健康を増進するために、特に2型糖尿病の遺伝的リスクが高い人々に対しては、テレビを見る時間を減らして健康的な習慣を身に付けることを奨励すべきだ」と付け加えている。論文の上席著者である同大学のYoungwon Kim氏も、「2型糖尿病および長時間の座位行動は、ASCVDの主要なリスク因子である。そして、座位行動の多くをテレビ視聴が占めており、それが2型糖尿病とASCVDのリスク上昇につながっている」と解説している。 米国心臓協会(AHA)の身体活動委員会の委員長である、米バージニア大学シャーロッツビル校のDamon Swift氏は、「この研究は、テレビの視聴を減らすことが、2型糖尿病のリスクが高い人にも低い人にも有益であることを示唆している」と論評。また「健康増進におけるライフスタイル選択の重要性を示している」と語っている。なお、同氏は本研究には関与していない。

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肝硬変患者において肝硬変自体はCAD発症リスクの増加に寄与しない

 冠動脈疾患(CAD)は肝硬変患者に頻発するが、肝硬変自体はCAD発症リスクの上昇と有意に関連しない可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」に2024年11月21日掲載された。 CADは、慢性冠症候群(CCS)と急性冠症候群(ACS)に大別され、ACSには、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、およびST上昇型心筋梗塞(STEMI)などが含まれる。肝硬変患者でのCADの罹患率や有病率に関しては研究間でばらつきがあり、肝硬変とCADの関連は依然として不確かである。 中国医科大学附属病院のChunru Gu氏らは、これらの点を明らかにするために、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。まず、PubMed、EMBASE、およびコクランライブラリーで2023年5月17日までに発表された関連論文を検索し、基準を満たした51件の論文を抽出した。ランダム効果モデルを用いて、これらの研究で報告されている肝硬変患者のCAD罹患率と有病率、およびCADの関連因子を統合して罹患率と有病率を推定した。また、適宜、オッズ比(OR)やリスク比(RR)、平均差(MD)を95%信頼区間(CI)とともに算出し、肝硬変患者と非肝硬変患者の間でCAD発症リスクを比較した。 51件の研究のうち、12件は肝硬変患者におけるCAD罹患率、39件はCAD有病率について報告していた。肝硬変患者におけるCAD、ACS、および心筋梗塞(MI)の統合罹患率は、それぞれ2.28%(95%CI 1.55〜3.01、12件の研究)、2.02%(同1.91〜2.14%、2件の研究)、1.80%(同1.18〜2.75、7件の研究)と推定された。CAD(7件の研究)、ACS(1件の研究)、MI(5件の研究)の罹患率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、いずれにおいても両者の間に有意な差は認められなかった。 肝硬変患者におけるCAD、ACS、およびMIの統合有病率は、それぞれ18.87%(95%CI 13.95〜23.79、39件の研究)、12.54%(11.89〜13.20%、1件の研究)、6.12%(3.51〜9.36%、9件の研究)と推定された。CAD(15件の研究)とMI(5件の研究)の有病率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、両者の間に有意な差は認められなかったが、ACS(1件の研究)の有病率に関しては、肝硬変患者の有病率が非肝硬変患者よりも有意に高いことが示されていた(12.54%対10.39%、P<0.01)。 肝硬変患者におけるCAD発症と有意に関連する因子としては、2件の研究のメタアナリシスから、糖尿病(RR 1.52、95%CI 1.30〜1.78、P<0.01)および高血圧(同2.14、1.13〜4.04、P=0.02)が特定された。一方、CAD有病率と有意に関連する因子としては、高齢(MD 5.68、95%CI 2.46〜8.90、P<0.01)、男性の性別(OR 2.35、95%CI 1.26〜4.36、P=0.01)、糖尿病(同2.67、1.70〜4.18、P<0.01)、高血圧(同2.39、1.23〜4.61、P=0.01)、高脂血症(同4.12、2.09〜8.13、P<0.01)、喫煙歴(同1.56、1.03〜2.38、P=0.04)、CADの家族歴(同2.18、1.22〜3.92、P=0.01)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、同1.59、1.09〜2.33、P=0.02)、C型肝炎ウイルス(HCV、同1.35、1.19〜1.54、P<0.01)が特定された。つまり、肝硬変患者においては、肝硬変ではなく、古典的に知られている心血管リスク因子、NASH、およびCHCVがCADリスクの上昇と関連があった。 著者らは、「肝硬変の高リスク集団におけるCADのスクリーニングと予防方法を明らかにするには、大規模な前向き研究が必要だ」と述べている。 なお、1人の著者が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」の編集委員であることを明らかにしている。

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第263回 パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望

パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望幹細胞から作った神経細胞によるパーキンソン病治療の2試験の待望の結果が、時を同じくして先週16日にNature誌に報告されました1-4)。それら試験の被験者はおよそ安全に経過観察の2年間を過ごすことができ、移植された神経細胞はパーキンソン病で失われるドーパミン生成/放出神経細胞(DA神経)に成り代わって十分長く存続してドーパミンを作りうると示唆されました。2つのチームがめいめい実施したそれらの試験はともに小規模で、主な目的は安全性の検討です。被験者数は2試験合わせて19例ばかりで、震えがはっきりと減った被験者もいますが、プラセボ群がないことなどもあって効果の判定には不十分で、より大規模な試験での検討が今後必要です5,6)。両試験で神経を作るのに使われた幹細胞はおよそ無限に増え続けることができ、心身を形成するあらゆる細胞に分化しうる特別な能力を有します。2試験で移植された神経細胞の起源は幹細胞ですが、その出所が異なります。一方では受精後の胚から得られるヒト胚性幹細胞(hES細胞)、もう一方では成人の体細胞から人工的に生み出される人工多能性幹細胞(iPS細胞)から神経細胞が作られました。パーキンソン病はDA神経が失われることによる進行性の神経病態で、振戦、こわばり、動作緩慢を引き起こします。残念ながら根治療法はなく、2050年までに世界のパーキンソン病患者数はおよそ2,500万例に達すると予想されています7)。失われたDA神経をそれに代わる細胞の移植で補充してパーキンソン病治療を目指す取り組みの先駆けの報告は1980年代にさかのぼります8)。試されたのはDA神経が豊富とされる胎児の中脳腹側の細胞のパーキンソン病患者への移植です。胎児由来細胞が移植された脳領域では幸いにしてドーパミンの量が回復し、運動機能の改善が長続きしました。それらの結果はパーキンソン病の細胞移植の治療効果を裏付けるものですが、胎児脳組織はそう簡単に手に入るものではありませんし、手に入ったとしてその質はまちまちかもしれません。それに倫理的な懸念もあります。そういう課題の解決手段の1つとして幹細胞からDA神経を大量に作る試みが始まり、しばらくすると世界の多くのチームがヒト幹細胞からDA神経を生み出せるようになりました。研究はさらに進んでパーキンソン病を模す動物への移植実験で症状や動作の改善効果が示されるようになり、2020年にはパーキンソン病患者の初のiPS細胞治療例が報告されるに至ります9)。その1例の患者には自身の皮膚細胞由来のiPS細胞を分化させて作った前駆DA神経が2017~18年に脳の左側と右側に2回に分けて移植されました10)。移植細胞の存続がPET写真で確認され、移植後18ヵ月と24ヵ月時点での患者の症状は安定か改善していました。実用に堪える細胞を作る技術は原料がiPS細胞とhES細胞の場合のどちらでもその後改善し、今や複数例を集めての臨床試験が実施されるようになっています。今回発表された2試験の1つはわが国の京都大学医学部附属病院で実施された第I/II相試験で、iPS細胞から作った前駆DA神経がパーキンソン病患者7例の脳の両側の被殻に移植されました。移植細胞が拒絶されないように免疫抑制薬が15ヵ月間投与されました。2年間(24ヵ月)の経過観察で幸いにも重篤な有害事象は生じておらず、効果検討対象の6例のうち4例は薬の効果がない状態での運動症状検査値(MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコア)の改善を示しました。もう1つはBayerの子会社のBlueRock Therapeutics社が米国とカナダで実施した第I相exPDite試験で、パーキンソン病患者12例が参加し、京都大学の試験とは違ってhES細胞由来の前駆DA神経が脳に移植されました。移植場所は被殻で、京都大学での試験と同じです。やはり免疫抑制薬が投与されました。投与期間は1年間です。exPDite試験の18ヵ月間の安全性経過は日本での試験と同様におよそ問題はなく、移植細胞と関連する有害事象は生じていません。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアは高用量群でより下がっており、18ヵ月時点ではもとに比べて平均23点低くて済んでいました。脳の写真を調べたところドーパミン生成の上昇が認められ、免疫抑制薬の使用停止後も含む18ヵ月間の観察期間のあいだ、少なくともいくらかの移植細胞は存続したようです5)。京都大学での試験でも同様にドーパミン生成の増加を示す結果が得られています。昨年2024年9月にBlueRock社はexPDite試験のさらに長い24ヵ月(2年間)の経過を速報しています11)。安全性は引き続き良好で、移植細胞と関連する有害事象はありませんでした。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアの低下もおよそ維持されており、高用量投与群は24週時点を22点低下で迎えています。BlueRock社の前駆DA神経はbemdaneprocelと名付けられて開発されており、exPDite試験での良好な結果を頼りに早くも本年前半、すなわちこの6月末までに第III相試験が始まる見込みです12)。 参考 1) Tabar V, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 2) Sawamoto N, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 3) 「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」において安全性と有効性が示唆 / 京都大学医学部附属病院 4) Potential Treatment for Parkinson’s Using Investigational Cell Therapy Shows Early Promise / Memorial Sloan Kettering Cancer Center 5) ‘Big leap’ for Parkinson’s treatment: symptoms improve in stem-cell trials / Nature 6) Clinical trials test the safety of stem-cell therapy for Parkinson’s disease / Nature 7) Su D, et al. BMJ. 2025;388:e080952. 8) Lindvall O, et al. Arch Neurol. 1989;46:615-631. 9) Schweitzer JS, et al. N Engl J Med. 2020;382:1926-1932. 10) Novel Treatment Using Patient's Own Cells Opens New Possibilities to Treat Parkinson's Disease / PRNewswire 11) BlueRock Therapeutics’ Investigational Cell Therapy Bemdaneprocel for Parkinson’s Disease Shows Positive Data at 24-Months / BUSINESS WIRE. 12) BlueRock Therapeutics announces publication in Nature of 18-month data from Phase 1 clinical trial for bemdaneprocel, an investigational cell therapy for Parkinson’s disease / GlobeNewswire

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未治療CLLへのアカラブルチニブ+オビヌツズマブ、6年PFSの結果(ELEVATE-TN)/Blood

 未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)に対するアカラブルチニブ単独またはアカラブルチニブとオビヌツズマブ併用の有用性を評価した第III相ELEVATE-TN試験において、追跡期間中央値74.5ヵ月での成績を米国・Willamette Valley Cancer InstituteのJeff P. Sharman氏らが報告した。アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群の有効性と安全性は維持され、無増悪生存期間(PFS)は、高リスク患者を含めてchlorambucil+オビヌツズマブ群より延長していた。Blood誌オンライン版2025年4月8日号に掲載。 本試験は、未治療CLLを対象に、アカラブルチニブ単独およびアカラブルチニブ+オビヌツズマブをchlorambucil+オビヌツズマブと比較した無作為化多施設共同非盲検第III相試験である。主要評価項目は、独立判定委員会(IRC)評価によるアカラブルチニブ+オビヌツズマブ群のPFS(vs.chlorambucil+オビヌツズマブ群)、重要な副次評価項目は、IRC評価によるアカラブルチニブ単独群のPFS(vs.chlorambucil+オビヌツズマブ群)で、他の副次評価項目は、全奏効率、次治療までの期間、全生存期間(OS)などであった。 主な結果は以下のとおり。・535例がアカラブルチニブ+オビヌツズマブ群(179例)、アカラブルチニブ単独群(179例)、chlorambucil+オビヌツズマブ群(177例)に無作為化された。・PFS中央値は、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群およびアカラブルチニブ単独で未達、chlorambucil+オビヌツズマブ群では27.8ヵ月であった(いずれもp<0.0001)。推定72ヵ月全PFS率は順に78.0%、61.5%、17.2%であった。・アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はアカラブルチニブ単独群よりPFSを改善した(ハザード比[HR]:0.58、p=0.0229)。IGHV変異なし、17p欠失/TP53変異、Complex karyotypeを有する患者では、アカラブルチニブ単独群、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はchlorambucil+オビヌツズマブ群より有意にPFSが改善した(アカラブルチニブを含む両群でそれぞれp<0.0001、p≦0.0009、p<0.0001)。・OS中央値は3群とも未達であり、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はchlorambucil+オビヌツズマブ群より有意にOSが延長した(HR:0.62、p=0.0349)。推定72ヵ月OS率は、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群83.9%、アカラブルチニブ単独群75.5%、chlorambucil+オビヌツズマブ群74.7%であった。・4年経過以降に発現した有害事象はほとんどがGrade1~2で、有害事象、重篤な有害事象、注目すべき事象の発現割合は、アカラブルチニブを含む群で同程度であり、アカラブルチニブおよびオビヌツズマブの既知の安全性プロファイルと一致していた。

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帯状疱疹、有害事象として報告が多い薬剤は

 米国食品医薬品局(FDA)の有害事象報告システム(FAERS)データベースを用いて、帯状疱疹の報告と関連薬剤を評価した後ろ向きpharmacovigilance研究の結果、複数の高リスク薬剤が特定された。さらに、これらの薬剤の中には添付文書に帯状疱疹リスクについての記載がないものがあることも明らかになった。中国・Xuzhou Medical UniversityのJiali Xia氏らによるFrontiers in Pharmacology誌オンライン版2025年3月26日号への報告。 本研究では、2004年第1四半期~2024年第3四半期までのFAERSにおける帯状疱疹に関する報告を解析し、とくに帯状疱疹発症の報告数が多い上位30薬剤を抽出した。また、薬剤と帯状疱疹との潜在的関連を評価するために、不均衡分析(disproportionality analysis)の手法を用いて、比例報告比(PRR)および報告オッズ比(ROR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・2004~24年の対象期間において、FAERSには帯状疱疹に関する報告が5万164件登録されていた。関連が示唆された薬剤の大部分は免疫抑制剤であった。・発症年齢としては、41~65歳が最も多く(31.11%)、次いで65歳以上(26.05%)、19~41歳(7.46%)、18歳以下(1.33%)の順であった。性別では女性の割合が高く(64.41%)、男性を大きく上回った。・報告件数が最も多かったのはアダリムマブ(3,577件)であり、エタネルセプト(3,380件)、トファシチニブ(2,696件)、インフリキシマブ(2,240件)、レナリドミド(1,639件)が続いた。・報告件数が多かった30薬剤のうち24薬剤は添付文書に帯状疱疹リスクが記載されていたが、残る7薬剤にはその記載がなかった。7薬剤は、セクキヌマブ、インターフェロンβ-1a、ヒト免疫グロブリンG、ゴリムマブ、アレンドロン酸ナトリウム、プレガバリン、イブルチニブであった。・RORが最も高かったのはアニフロルマブ(n=45、ROR:20.97、PRR:19.87)であり、ロザノリキシズマブ(n=7、ROR:16.05、PRR:15.40)、ocrelizumab(n=1,224、ROR:9.64、PRR:9.42)、アレムツズマブ(n=286、ROR:9.34、PRR:9.13)、トファシチニブ(n=2,696、ROR:8.27、PRR:8.11)が続いた。・RORが高かった30薬剤のうち18薬剤は添付文書に帯状疱疹リスクが記載されていたが、残る12薬剤にはその記載がなかった。12薬剤は、ロザノリキシズマブ、トジナメラン、エラペグアデマーゼ、サトラリズマブ、エフガルチギモド アルファ、プララトレキサート、シクレソニド、efalizumab、Ambrosia artemisiifolia pollen、アレンドロン酸ナトリウム、pentoxifylline、anakinraであった。 著者らは、本研究で実施された不均衡分析は因果関係を証明するものではないとし、リスクを定量化し根本的なメカニズムを解明するには、前向き研究が必要としている。そのうえで、これらの薬剤を使用する際に、臨床医は帯状疱疹リスク増加の可能性について考慮する必要があるとまとめている。

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敗血症性ショックにおけるバソプレシンの最適な開始時期(OVISS強化学習研究)(解説:寺田教彦氏)

 敗血症性ショックは「急性循環不全により細胞障害・代謝異常が重度となり、ショックを伴わない敗血症と比べて死亡の危険性が高まる状態」と定義される(『日本版敗血症診療ガイドライン2024』)。早期診断のためのスコアリングやバンドルの整備、知識の広報などのキャンペーンにより、徐々に死亡率は改善しているものの、今でも重篤な病態である。 敗血症性ショックの初期蘇生では、蘇生輸液のみで目標血圧を維持できない場合、並行して血管収縮薬の投与も行われる。世界的な診療ガイドラインを参考にすると(Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:1974-1982.)、第一選択薬としてノルアドレナリンが使用されているが、ノルアドレナリンのみで血圧が保てない場合に、第二選択薬としてバソプレシンが使用されている。本邦のガイドライン『日本版敗血症診療ガイドライン2024 』においても、「CQ3-7:敗血症性ショックに対して、血管収縮薬をどのように使用するか?」に対して、ノルアドレナリン+バソプレシンと第二選択薬としてバソプレシンの使用が弱く推奨されている。バソプレシンは、高価な薬剤ではなく国内でも広く使用されているが、使用開始のタイミングについては明確な基準がなく、現場では医師や医療機関ごとに判断されているのが実情である。 世界的にもバソプレシン使用開始のタイミングに関するコンセンサスはなく、本研究では、敗血症性ショック患者の電子カルテデータを用い、強化学習によりバソプレシンの最適な開始時期を導出し、外部データセットでその有効性と死亡率低下との関連を検証した。この強化学習は、医療におけるAI応用の中でも、動的な意思決定を必要とする分野で注目されており、与えられた環境内での「行動」と「報酬」の関係を学習して最適な行動方針を導出する手法である。 本研究結果の要約は、ジャーナル四天王「敗血症性ショック、強化学習モデルのバソプレシン投与で死亡率低下/JAMA 」に記載されている。 筆者らも指摘しているとおり、バソプレシンを早期に投与することで、カテコラミンの使用量を減少させ、頻脈性不整脈や心筋虚血のリスクを軽減できる可能性があり、また、バソプレシンの相対的欠乏の補正や糸球体濾過圧の改善といった理論的な利点も期待される。本研究結果は、敗血症性ショックに対してより早期にバソプレシンを併用することで予後が改善する可能性を示唆しており、今後のRCT(Randomized Controlled Trial)による検証が期待される。さらなるエビデンスが蓄積されれば、本研究で示唆されたような「より早期の併用」が新たな治療戦略として確立される可能性がある。 加えて、敗血症性ショックに対してノルアドレナリンとバソプレシンを併用した場合、血行動態が改善すれば昇圧薬の漸減が行われる。現時点では、両薬剤を併用中の患者において、ノルアドレナリンを先に漸減することで低血圧の発生頻度が低いとされており、これに関する系統的レビューとメタアナリシスが報告されている(Song JU, et al. J Korean Med Sci. 2020;35:e8.)。今後、昇圧薬の離脱戦略においても同様の機械学習を用いた最適化手法が提示されることで、現場の診療判断をさらに支援することが期待される。

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第239回 女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会

<先週の動き> 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会日本肥満学会は4月17日、成人女性における低体重や低栄養を背景に多様な健康障害が生じる状態を「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」と定義し、新たな疾患概念として確立する提言を発表した。対象は18歳以上で閉経前までの女性とし、今後は診断基準や予防・治療指針の整備を進める。FUSに該当する症状としては、骨密度の低下や月経異常、貧血、筋力低下、倦怠感、抑うつ、不安、睡眠障害、低血圧、低血糖、摂食障害、さらには将来の不妊リスクや胎児の低出生体重といった次世代への影響まで多岐にわたる。2023年の国民健康・栄養調査では、BMI18.5未満の女性が20代で24.4%、30代で17.9%と報告されており、先進国の中でもわが国は突出して高い。背景にはSNSやメディアの影響による強い「痩せ志向」や、貧困など社会的・経済的要因も複雑に絡んでいるとされている。学会では「肥満対策と同様に、低体重のリスクにも体系的に対応すべき」として、FUSを社会構造・教育・医療・産業界全体で共有すべき課題と捉えるべきだと提起しているほか、GLP-1受容体作動薬の美容目的での使用拡大にも強い懸念を示している。また、症状が単発で現れることも多く、従来の医療では見逃されやすいことから、健康診断でのスクリーニングや医師・栄養士・心理職との多職種連携による早期介入体制の構築も求めている。今後はメタボリックシンドロームのようにFUSの診断基準を整備し、政策的介入へとつなげたいとしている。「まずは、よく食べて、運動して、眠る。そして不調があれば医療へ」と、学会は社会全体での健康意識の見直しを呼びかけている。 参考 1) 閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題-新たな症候群の確立について-(日本肥満学会) 2) 女性の「痩せ」学会警鐘 20代の2割、新症候群の確立提言(日経新聞) 3) 健康害する女性の低体重・低栄養は「疾患」、肥満学会が位置付け…基準定め治療や予防法を確立(読売新聞) 4) 日本肥満学会ワーキンググループが提唱「成人女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」が新たな疾患概念に(日経メディカル) 5) 「SNSやメディア、貧困など原因」「肥満と比べ軽視されてきた」女性の“低体重・低栄養”巡り、肥満学会が新疾患の枠組み提言(弁護士JPニュース) 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大帯状疱疹ワクチンに、認知症発症リスクの低減効果があることが、米スタンフォード大学などの研究チームによる28万人以上の高齢者を対象とした研究で明らかになった。この研究は、英国ウェールズにおけるワクチン接種開始時の制度を活用した「自然実験」の手法を取り、1933年9月2日以降に生まれた接種対象者と対象外の高齢者を比較したもの。7年間の追跡で、接種群の認知症発症率は非接種群より3.5%ポイント、相対的に20%低かった。この効果は教育歴や持病などの因子を考慮しても変わらず、とくに女性において顕著だった。認知症リスクの低下が、免疫機能の強化や帯状疱疹ウイルスの脳への影響防止による可能性があると示唆されているが、明確なメカニズムは未解明である。なお、従来の生ワクチン「Zostavax」での効果を示した今回の研究に対し、新型の不活化ワクチン「Shingrix」にも同様の効果があるかは今後の検証が必要とされている。専門家は「現行の薬理学的手段よりも有望」と評価し、ワクチン接種が認知症予防の新たな選択肢となる可能性が期待されている。 参考 1) Eyting M, et al. Nature. 2025 Apr 2.[Epub ahead of print] 2) 認知症の予防効果がある「身近なワクチン」とは?高齢者7年間の追跡調査で判明(ダイヤモンドオンライン) 3) 帯状疱疹ワクチンで認知症のリスクが低下、研究続々(ナショナルジオグラフィック) 4) “認知症”リスクが20%減-「帯状疱疹ワクチン」接種が認知症発症に与える影響 28万人以上を調査(ITmedia) 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省政府は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の利用促進を進めているが、利用率は依然として低迷している。とくに75歳以上の高齢者においては、昨年12月時点での利用率が24.57%に止まり、紛失への不安などから移行が進んでいない。このため厚生労働省は、75歳以上の全員に保険証の代替となる「資格確認書」を交付し、マイナ保険証への一本化を事実上2026年夏まで延期する方針を決定した。原因としては施設での管理の負担や利用者の混乱もあり、実際の運用が追いついていない現状がある。一方で、政府はマイナ保険証の価値を示す取り組みとして、今秋から全国で「マイナ救急」を導入する。救急隊が現場でマイナ保険証をカードリーダーで読み取ることで、患者の既往歴や薬剤情報を即座に把握し、適切な処置や搬送先の選定に役立てる仕組み。昨年度の実証では、意識が不明瞭な高齢者の適切な搬送に繋がる事例が報告されている。今年度は全国の5,334救急隊に拡大する予定で、端末の簡便化により、30秒~1分程度で情報閲覧が可能となる見込み。政府はこれを医療DX推進の鍵と位置付け、利用率向上のきっかけとしたい考え。さらに、スマートフォンでマイナ保険証機能を利用できる実証事業も6月に開始する予定で、順調なら9月にも全国展開される。診察券一体化システムへの補助も継続し、利便性の向上を図る。だが、制度変更の頻発や運用現場の負担には懸念の声も多く、高齢者層を中心とした受け入れの広がりには時間が必要とみられている。 参考 1) 利用率の低さ、状況変わるのか? マイナ保険証、75歳以上は一本化延期(中日新聞) 2) マイナ保険証の救急活用、秋に全国で 既往歴把握し搬送(日経新聞) 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省厚生労働省が、2024年度の医療機関の経常利益率を推計した結果、最頻値が病院運営医療法人で-1.0~0.0%、無床診療所運営法人で-3.0~-2.0%と、いずれも赤字圏内にあることが明らかになった。こうした厳しい経営状況は、福祉医療機構の2025年3月の病院経営動向調査でも裏付けられており、医業収支DIでは一般病院がわずかに改善したものの、精神科病院は-41と大幅に悪化していた。課題としては人件費増加や職員確保難が挙がっている。日本病院会も同日開催した研修会で、経営状況の悪化に警鐘を鳴らした。島 弘志副会長は「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」と述べ、2023年度には一般病院の黒字割合が前年度の79.4%から40.6%へ急落したことを紹介。これを受け、日本病院会など5団体は政府に対し、緊急的な財政支援や診療報酬体系の見直しなどを要望した。さらに、経営環境が予測困難で変動の激しい「VUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態)時代」への対応として、今後の病院経営には、利益と社会的価値の両立が求められると提言した。また、中小病院における経営改善には、業務の可視化・分析・改善に至る具体的なフローを実践し、データに基づいた行動変容を促す体制が必要とされた。現場では医療従事者の疲弊が進む中、迅速かつ柔軟な対応が地域医療の継続と再生の鍵を握る。行政・経営者・現場の連携と改革が急務となっている。 参考 1) 医療機関の経常利益率、「最頻値」がマイナスに 24年度、厚労省推計(MEDIFAX) 2) 医業収益DI、一般は改善も療養・精神は低下 WAM、3月調査(同) 3) 「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」、日本病院会が経営管理者向け研修会を開催(Gem Med) 4) 病院経営動向調査の概要(福祉医療機構) 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省厚生労働省は、全国の救命救急センターを対象とした2024年版の「充実段階評価」の結果を発表した。評価対象は2023年末までに運営を開始した全308施設で、最上位の「S」評価を獲得したのは102施設(33.1%)と、前年から1.2ポイント増加した。「A」評価は199施設(64.6%)で最多、「B」は7施設(2.3%)、最低評価の「C」は該当なしだった。評価は救急科専門医の配置、重篤患者の受け入れ数、トリアージ機能などを総合的に採点し、94点以上かつ是正項目がない場合に「S」が与えられる。とくに、日本医科大学付属病院、聖マリアンナ医科大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院の3施設は満点の100点を獲得。神戸市立医療センター中央市民病院は11年連続での満点評価となった。コロナ禍の影響を受けた2020~23年の評価では一部項目が除外されたが、今回は全項目を対象とした従来型の評価が復活。なお、希望した17施設については、新型コロナの影響に関する個別ヒアリングを経た上で評価が決定された。本評価は、診療報酬上の「救急体制充実加算」の基準や、国からの運営補助金額にも影響を与える重要な指標であり、救命救急体制の質的向上や公平な支援配分に直結するものとして注目されている。 参考 1) 令和5年救命救急センターの評価結果(厚労省) 2) 救命救急センターの評価結果(令和5年)について(同) 3) 救急救命センターの充実段階評価、「S」評価が33% 100点満点は3施設 24年(CB news) 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県高知県立幡多けんみん病院(宿毛市)に勤務する麻酔科医の過重労働が明らかになったことを受け、高知県は外部有識者4人による第三者委員会を設置・調査を実施し、2025年3月に報告書を取りまとめ、公表した。これは2024年度に高知大学医学部から派遣された麻酔科医3人のうち2人が心身の不調を訴えたことが発端で、大学側は県に勤務状況の調査を依頼した。報告書によると、麻酔科医は一人で複数の患者の麻酔を同時に担い、集中治療室で重症患者への対応も行っていた。さらに、「宿日直許可」に基づく労働時間外の時間帯にも救急対応を強いられていた。これにより、同院は労働基準監督署から行政指導を受けている。報告書では、病院側に医師の働き方改革への理解不足、勤務実態の把握やメンタルケアの欠如を指摘し、「具体的な業務改善計画」の策定を求めた。高知大学は2025年度、派遣する麻酔科医を1人減らし2人とした。これにより、病院で行える手術数の減少が懸念されており、病院では非常勤医師の勤務日の増加や外科医による局所麻酔対応などで補おうとしている。年間約2,000件の手術のうち1,500件に麻酔科医が関与している現状で、人的資源の縮小は地域医療体制への影響が大きい。県は6月を目途に改善計画を策定し、高知大学への謝罪と説明を行う方針。同院の担当者は「医師の健康への配慮が不十分で申し訳ない」とコメント。高知大学は「地域医療の責務は認識している。改善が確認され次第、派遣増員を検討したい」としている。なお、第三者委員会の会議は非公開で行われた。 参考 1) 県立幡多けんみん病院における医師の勤務状況に関する第三者委員会について(高知県) 2) 県立幡多けんみん病院で過酷勤務 高知大派遣の麻酔科医が心身不調に 第三者委が改善要求(高知新聞) 3) 県立病院派遣の複数の麻酔科医不調訴え 業務改善求める報告書(NHK)

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高脂血症は術後せん妄のリスク因子か~メタ解析

 術後せん妄のリスク因子としての高脂血症の潜在的役割について、中国・Zigong Fourth People's HospitalのLi-Quan Qiu氏らがメタ解析で検討した。その結果、高脂血症患者は術後せん妄リスクが有意に高く、術後せん妄患者では総コレステロール、トリグリセライド、LDLコレステロールが有意に高いことが示され、術後せん妄リスク因子としての高脂血症の潜在的役割が示唆された。Frontiers in Aging Neuroscience誌2025年3月18日号に掲載。 本研究では、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Library、ClinicalTrials.govを用いて、選択基準を満たす研究を系統的に検索し、術後せん妄患者と非術後せん妄患者の血中脂質レベル、高脂血症と術後せん妄リスクの関連などを調べた。  主な結果は以下のとおり。・4,686例を含む9件の研究がメタ解析に含まれた。・プール解析の結果、高脂血症患者は非高脂血症患者と比較して高い術後せん妄リスクと有意に関連していた(オッズ比:1.47、95%信頼区間[CI]:1.13~1.91、p=0.004)。・術後せん妄患者は非術後せん妄患者と比較して、総コレステロール(加重平均差[WMD]:0.31、95%CI:0.03~0.59、p=0.030)、トリグリセライド(WMD:0.37、95%CI:0.03~0.71、p=0.033)、LDLコレステロール(WMD:0.09、95%CI:0.01~0.17、p=0.023)が有意に高かった。・HDLコレステロールは術後せん妄患者で有意に低かった(WMD:-0.07、95%CI:-0.12~-0.01、p=0.026)。

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後方循環系の軽症脳梗塞、発症後4.5~24時間のrt-PA療法が有効/NEJM

 血栓除去術が予定されていない、主として後方循環系の軽症脳梗塞を発症した中国人患者において、発症後4.5~24時間のアルテプラーゼ(rt-PA)療法は標準薬物治療と比べて、90日時点の機能的自立の割合が高かった。中国・the Second Affiliated Hospital of Zhejiang UniversityのShenqiang Yan氏らEXPECTS Groupが中国の30ヵ所の脳卒中センターで行った多施設共同前向き無作為化非盲検アウトカム盲検試験の結果を報告した。後方循環系の虚血性脳卒中の発症後4.5~24時間に静脈内血栓溶解療法を用いることの有効性およびリスクは、十分に検討されていなかった。NEJM誌2025年4月3日号掲載の報告。アルテプラーゼvs.標準薬物治療で、90日時点の機能的自立を評価 研究グループは、後方循環系の脳梗塞を発症し、CT画像診断で早期の広範な低吸収域を認めず血栓除去術が予定されていない患者を、発症後4.5~24時間にアルテプラーゼ療法(0.9mg/kg体重、最大用量90mg)または標準薬物治療(Chinese Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute Ischemic Stroke 2018に基づく抗血小板療法およびその他の治療)を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時点で評価した機能的自立(修正Rankinスケールスコア[範囲:0~6、高スコアほどより障害が重度であることを示す]が0~2と定義)とした。重要な安全性アウトカムは、無作為化後36時間以内の症候性頭蓋内出血および90日以内の死亡とした。90日時点の機能的自立、アルテプラーゼ群89.6%、標準薬物治療群72.6% 2022年8月~2024年5月に、計234例が無作為化された(アルテプラーゼ群117例、標準薬物治療群117例)。 ベースラインの両群特性はほぼバランスが取れており、年齢中央値は64歳(四分位範囲[IQR]:55~74)、女性が34.6%であった。既往歴は高血圧がアルテプラーゼ群70.9%と標準薬物治療群62.4%、糖尿病がそれぞれ34.2%と32.5%であった。発症前の修正Rankinスケールスコアは0の被験者が両群ともに97.4%で、無作為化前のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア(範囲:0~42、高スコアほど神経学的障害の重度が高いことを示す)中央値は、両群ともに3(IQR:2~6)と、大半の被験者が軽症脳梗塞であった。 発症から無作為化までの時間中央値は564分(IQR:390~834)であった。 90日時点で、機能的自立の患者割合はアルテプラーゼ群(89.6%)が標準薬物治療群(72.6%)より有意に高かった(補正後リスク比:1.16、95%信頼区間[CI]:1.03~1.30、p=0.01)。 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、アルテプラーゼ群で2/116例(1.7%)、標準薬物治療群で1/115例(0.9%)に発現した(補正後リスク比:1.98、95%CI:0.18~21.56)。90日以内の死亡は、それぞれ6/115例(5.2%)と10/117例(8.5%)であった(0.61、0.23~1.62)。 著者は、「今回の試験の結果は、血管内血栓除去術が選択できない場合、この延長された時間枠内(発症後4.5~24時間)にアルテプラーゼ治療を用いることを支持するものである」と述べている。

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マラソン中の心停止、発生は横ばいだが突然死は大幅に減少/JAMA

 米国では2010~23年に2,900万人以上がマラソンおよびハーフマラソンを完走しており、これは2000~09年の約3倍に相当するという。米国・エモリー大学のJonathan H. Kim氏らは、近年の長距離ランニングレースイベントにおける心停止の発生率と転帰を調べ、米国の長距離ランニングレースへの参加者は増加したが、心停止の発生率は一定していることを明らかにした。心停止による死亡率は大きく減少しており、十分な発生関連データがあった症例では、原因として冠動脈疾患(CAD)が最も多くみられたという。JAMA誌オンライン版2025年3月30日号掲載の報告。米国2010~23年のマラソンおよびハーフマラソンでの心停止の発生と転帰を調査 研究グループは、米国で行われた2010~23年のマラソンおよびハーフマラソンにおける心停止の発生と転帰を明らかにするため、レース完走者の記録およびメディア記事、レース主催者への直接的なコンタクト、全米陸上競技連盟(USA Track & Field)のインシデントレポートおよび生存者または近親者へのインタビューによる包括的なケースレビュー(観察的ケースシリーズ)を行った。 2010年1月1日~2023年12月31日の米国のマラソンおよびハーフマラソンのコホートデータをRace Associated Cardiac Event Registryから得て、ケースプロファイル・レビューを行い、原因および生存に関連した因子を調べ、発生および原因のデータを参照基準とした過去のデータ(2000~09年)と比較した。 主要アウトカムは、心停止発生率および死亡率とした。速やかな除細動器へのアクセスが生存率を向上か 米国の2010~23年の長距離ランニングレースのレース完走者2,931万1,597人(男性44.5%、マラソン完走者23.2%、ハーフマラソン完走者76.8%)において、心停止の発生は176件(男性127人、女性19人、性別不明30人)であった。心停止発生率は0.60件/10万人(95%信頼区間[CI]:0.52~0.70)であり、2000~09年(0.54件/10万人[95%CI:0.41~0.70])と比較して変化は認められなかった。 一方で、突然死の発生率(2010~23年0.20件/10万人[95%CI:0.15~0.26]vs.2000~09年0.39件/10万人[0.28~0.52])および致死的ケースの発生率(34%vs.71%)は、大幅な低下がみられた。 心停止は、男性(1.12件/10万人[95%CI:0.95~1.32])のほうが女性(0.19件/10万人[0.13~0.27])よりも多く、またマラソン参加中(1.04件/10万人[0.82~1.32])のほうがハーフマラソン参加中(0.47件/10万人[0.38~0.57])よりも発生が多かった。 心停止の原因が明確に特定できたランナーでは、肥大型心筋症よりもCADが最も多い原因であった。心肺蘇生時間の短縮と初期の心室頻脈性不整脈が生存と関連していた。 結果を踏まえて著者は、「効果的な緊急アクション計画による、速やかな除細動器へのアクセスが、生存率を改善していると思われる」としている。

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