サイト内検索

検索結果 合計:10240件 表示位置:1 - 20

1.

心筋梗塞後の便秘、心不全入院リスクが上昇~日本人データ

 心筋梗塞患者において、退院後6ヵ月間における便秘は心不全による入院リスクの上昇と強く関連していることを、仙台市医療センター仙台オープン病院の浪打 成人氏らによる研究の結果、示唆された。浪打氏らは以前、急性心不全後に便秘のある患者は心不全による再入院リスクが高いことを報告しており、今回、便秘による心筋梗塞患者の予後への影響を心不全入院で評価し、BMC Cardiovascular Disorders誌2025年5月28日号に報告した。 本研究では、2012年1月~2023年12月に仙台オープン病院に入院した心筋梗塞患者1,324例(平均年齢:68±14歳、男性:76%)を対象とし、便秘患者は下剤を定期的に使用している患者と定義した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間(中央値2.7年)中に、115例が心不全で死亡し、99例が再入院した。・ランドマークKaplan-Meier解析の結果、0~0.5年における便秘のある患者とない患者の心不全による入院率は7.8%と2.1%(log-rank検定:p<0.0001)、0.5~3年においては4.8%と3.9%(同:p=0.17)であった。・調整Cox比例ハザード解析では、便秘のある患者はない患者と比較して、0~0.5年における心不全による入院リスクが有意に高いことが明らかになった(ハザード比[HR]:2.12、95%信頼区間[CI]:1.07~4.19、p=0.032)。0.5~3年では有意差はみられなかった(HR:0.86、95%CI:0.47~1.57、p=0.63)。 今回の結果から、著者らは「便秘が心筋梗塞後の心不全発症を予防するための新たなターゲットとなる可能性がある」としている。

2.

男女の認知症発症リスクに対する性ホルモンの影響

 認知症は、世界的な公衆衛生上の大きな問題であり、そのリスクは性別により異なることが知られている。女性のアルツハイマー病およびその他の認知症発症率は、男性の約2倍であるといわれている。テストステロン値は、高齢者の認知機能に影響を及ぼすと考えられているが、これまでの研究では一貫性のない結果が報告されており、性ホルモンと認知症との関係は、依然として明らかになっていない。中国・山東大学のYanqing Zhao氏らは、大規模データベースを用いて、男女の認知症発症リスクに対する性ホルモンの影響を検討した。Clinical Endocrinology誌オンライン版2025年5月11日号の報告。 英国バイオバンクのデータを用いて、検討を行った。血清中の総テストステロン値および性ホルモン結合グロブリン(SHBG)値の測定には、免疫測定法を用いた。血清中の遊離テストステロン値の算出には、vermeulen法を用いた。認知症およびアルツハイマー病の発症は、入院患者のデータより抽出した。性ホルモンと認知症との関連性を評価するため、年齢およびその他の変数で調整したのち、Cox比例ハザード回帰分析を実施した。用量反応関係を定量化するため、制限付き3次スプラインモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、男性18万6,296人(平均年齢:56.68±8.18歳)、閉経後女性12万6,109人(平均年齢:59.73±5.78歳)。・12.0年間(四分位範囲:11.0〜13.0)のフォローアップ調査後、認知症を発症した対象者は、男性で3,874例(2.08%)、女性で2,523例(2.00%)。・遊離テストステロン値の最高五分位の男性は、最低五分位と比較し、すべての原因による認知症(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.56〜0.71)およびアルツハイマー病(HR:0.49、95%CI:0.60〜0.72)リスクの低下が認められた。・一方、SHBG値の最高五分位の男性は、最低五分位と比較し、すべての原因による認知症(HR:1.47、95%CI:1.32〜1.64)およびアルツハイマー病(HR:1.32、95%CI:1.11〜1.58)リスクの上昇が認められた。・閉経後女性では、遊離テストステロン値が第4五分位の際、すべての原因による認知症(HR:0.84、95%CI:0.78〜0.95)およびアルツハイマー病(HR:0.76、95%CI:0.63〜0.91)リスクの低下が認められた。・更年期女性では、SHBG値の上昇は、すべての原因による認知症(HR:1.35、95%CI:1.28〜1.55)およびアルツハイマー病(HR:1.52、95%CI:1.25〜1.85)リスクの上昇との関連が認められた。 著者らは「SHBG値の上昇および遊離テストステロン値の低下は、すべての原因による認知症およびアルツハイマー病の発症率上昇と関連している可能性が示唆された。これらの因果関係を明らかにするためにも、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

3.

GLP-1受容体作動薬使用時にすべき生活習慣介入の優先事項とは

 肥満症の治療にGLP-1受容体作動薬が使用される際に、その効果を維持などするために患者の食事や運動など生活習慣に引き続き介入する必要がある。米国・タフツ大学フリードマン栄養科学政策学部のDariush Mozaffarian氏らの研究グループは、GLP-1受容体作動薬を使用する際に、食事内容や生活習慣介入での優先事項をアメリカ生活習慣病医学会、アメリカ栄養学会、肥満医学協会、および肥満学会の団体とともに共同指針として策定した。この指針はThe American Journal of Clinical Nutrition誌2025年5月29日号オンライン版に掲載された。GLP-1受容体作動薬の使用でも引き続き生活習慣介入は必要 研究グループは、GLP-1受容体作動薬を使用する際、食事による栄養摂取とほかの生活習慣介入に関する事項について文献を評価し、関連するトピック、優先事項、および新しい方向性を特定した。  主な結果は以下のとおり。・GLP-1受容体作動薬は臨床試験で体重を5~18%減少させているが、リアルワールドの分析ではやや低い効果を示し、複数の臨床的な課題が示されている。・安全性などの課題では、とくに消化器系の副作用、カロリー制限による栄養不足、筋肉や骨の減少、長期的なアドヒアランスの低さとその後の体重増加、高コストによる効果の低さがある。・多くの実践ガイドラインでは、肥満成人に対しさまざまな根拠に基づく食事療法と行動療法を推奨しているが、GLP-1受容体作動薬との併用は広く普及していない。・先述の課題に対応するための優先事項には以下の項目がある。(a)体重減少と健康に関する目標を含む患者中心のGLP-1受容体作動薬の導入(b)通常の食習慣、感情要因、摂食障害、関連する医療状態を含んだベースラインスクリーニング(c)筋力、運動機能、体組成評価を含む総合的な検査(d)社会的健康決定要因のスクリーニング(e)有酸素運動、筋力トレーニング、睡眠、精神的ストレス、薬物使用、社会的つながりを含む生活習慣の評価・GLP-1受容体作動薬使用中は、消化器系副作用への栄養的・医療的管理が重要であり、変化した食事の好みや摂取量への対応、栄養不足の予防、有酸素運動と適切な食事による筋骨格量の維持、補完的な生活習慣介入も不可欠である。・サポート戦略として、グループベースでの患者訪問、管理栄養士によるカウンセリング、遠隔医療およびデジタルプラットフォーム、「食事は薬」への啓発などの介入が挙げられる。・肥満の程度にかかわらず薬剤へのアクセス、食事と栄養への不安、栄養と調理に関する知識は、GLP-1受容体作動薬を用いた者に影響を及ぼす。・今後の研究の重点領域には、内因性GLP-1の食事による調節、アドヒアランス向上の戦略、使用中止後の体重維持のための栄養上の優先事項、組み合わせまたは段階的による集中的な生活習慣管理、臨床的肥満の診断基準が挙げられる。 以上から研究グループは、「エビデンスに基づく栄養と生活習慣の介入戦略は、GLP-1受容体作動薬による肥満治療における主要課題に対処する上で重要な役割を果たし、臨床医が患者の健康向上を促進する上でより効果的になることを可能にする」と結んでいる。

4.

中硬膜動脈塞栓術で、慢性硬膜下血腫の再発リスクは軽減するか/JAMA

 慢性硬膜下血腫(CSDH)に対する開頭術後の再発リスクが高い患者において、標準的な薬物療法単独と比較して標準治療に中硬膜動脈(MMA)塞栓術を追加しても、6ヵ月後の再発率を改善せず、同側CSDH再発に対する再手術やCSDH関連の累積入院期間にも差はないことが、フランス・Pitie-Salpetriere HospitalのEimad Shotar氏らが実施した「EMPROTECT試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年6月5日号で報告された。フランスの無作為化試験 EMPROTECT試験は、フランスの12施設で実施した非盲検(エンドポイント評価は盲検下)無作為化試験であり、2020年7月~2023年3月に参加者を募集した(Programme Hospitalier de Recherche Clinique[PHRC]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、初発CSDHまたは再発CSDHで開頭術を受け、CSDHの再発リスクが高い患者を対象とした。被験者を、薬物療法に加え手術から7日以内に塞栓術(300~500μmエンボスフィア、Merit Medical製)を受ける群(介入群)、または標準的な薬物療法のみを受ける群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、6ヵ月の時点でのCSDH再発率とし、独立審査委員会が盲検下に評価した。6ヵ月後のCSDH再発率、介入群14.8%vs.対照群21.0% 342例(年齢中央値77歳[四分位範囲[IQR]:68~83]、男性274例[80.1%])を登録し、介入群に171例、対照群に171例を割り付けた。308例(90.1%)が試験を完了した。ベースラインで、237例(69.3%)が抗血小板薬または抗凝固薬の投与を受けていた。CSDHは、257例(75.1%)が片側性、85例(24.9%)が両側性だった。 6ヵ月後のCSDH再発率は、介入群が14.8%(24/162例、同側CSDH再発22例、死亡[神経学的原因または原因不明]2例)、対照群は21.0%(33/157例、32例、1例)と、両群間に有意な差を認めなかった(オッズ比:0.64[95%信頼区間[CI]:0.36~1.14]、補正後絶対群間差:-6%[95%CI:-14~2]、p=0.13)。塞栓術関連合併症の発現、重度1例、軽度3例 副次エンドポイントはいずれも両群間に有意差はなかった。同側CSDH再発に対する再手術は、介入群の7例(4.3%)、対照群の13例(8.3%)で行われた(p=0.14)。1ヵ月後および6ヵ月後の機能障害(修正Rankinスケールスコア≧4点)と死亡にも差はみられなかった。CSDH関連の直接または間接的な累積入院期間中央値は、介入群が10日、対照群は9日であった(p=0.12)。 また、介入群における塞栓術関連合併症は、重度が1例(0.6%[頸動脈カテーテル留置中に発生した頭蓋内中大脳動脈閉塞に対する機械的血栓回収術])、軽度が3例(1.8%[一過性神経脱落症候2例、軽度頭痛1例])に発現した。 著者は、「効果の大きさは、非接着性液体塞栓物質を用いたMMA塞栓術の有益性を示した試験など、最近の他の試験と一致しており、これらの知見を総合的に考慮することで、今後の研究や、CSDH管理におけるこの治療法の活用に役立つ可能性がある」としている。

5.

ドナー心の冷却保存時間の延長に新たな可能性

 ドナーから摘出された心臓を移送中のダメージから守ることにつながる新たな発見によって、今後、移植に使用できる心臓(以下、ドナー心)の数が増えるかもしれない。米メイヨー・クリニックの心臓血管外科医であるPaul Tang氏らが、冷却保存している間にドナー心が損傷を受ける生物学的なプロセスを特定したとする研究結果を、「Nature Cardiovascular Research」に5月19日発表した。 さらに喜ばしいことに、Tang氏らはすでに心疾患の治療に使用されているある薬が、ドナー心の損傷の予防にも活用できることを突き止めた。Canrenoneと呼ばれるこの薬を使用して保存されたドナー心では、同薬を使用しなかったドナー心と比べてポンプ機能が約3倍に強化されたことが示されたという。 Tang氏は、「私は心臓血管外科医として、手術室でドナー心の保存時間の1時間の延長が移植後のドナー心の回復にどれほど影響するかを目の当たりにしてきた。今回の発見によって、心臓の保存中にその機能を維持し、移植のアウトカムを向上させ、患者の命を救う移植へのアクセスを改善するための新たなツールを手に入れることができるかもしれない」とメイヨークリニックのニュースリリースの中で述べている。 Tang氏らは研究の背景情報の中で、ドナー心のうち最終的に移植に使われる心臓は半数に満たないと説明している。その主な理由の一つは、ドナーから摘出した心臓を移植可能な状態に保てる時間が比較的短いことにある。これは、冷却保存の時間が長過ぎるとドナー心の機能が低下する恐れがあるためだ。そのような心機能低下の結果として生じる合併症の一つが、移植された心臓が効率的に血液を送り出せない状態に陥る原発性移植片機能不全(primary graft dysfunction)で、移植患者の最大20%に生じる。 このようなドナー心の損傷がなぜ起こるのかを明らかにするために、Tang氏らは、冷却保存プロセスに対する分子レベルの反応を個々の細胞レベルで調査した。その結果、心筋細胞内にあるミネラルコルチコイド受容体(MR)と呼ばれるタンパク質がドナー心の損傷に関与している可能性が示された。具体的には、冷却保存中にはMRの産生が大幅に増加し、それらが細胞核内で集まって液滴状の構造物を形成する。タンパク質が細胞の他の部分から凝集するこのようなプロセスは、相分離と呼ばれる。研究グループは、この相分離によってMRが自己活性化され、その結果、心筋細胞へのストレスと損傷を大幅に増大させることを突き止めたのだ。 次に、このプロセスを防げるかどうかを調べるため、Tang氏らはMRの働きを阻害する薬剤であるcanrenoneをドナー心に投与した。その結果、移植された心臓のポンプ機能が大幅に向上したほか、血流の改善や細胞傷害を示す兆候の大きな減少が見られたという。 この結果を踏まえ、canrenoneはドナー心を安全に保存できる期間を延長させるのに役立つ可能性があるとTang氏らは結論付けている。なお、Tang氏らによると、これと似たようなタンパク質の凝集は、腎臓や肺、肝臓などの他のドナー臓器でも冷却保存中に起こるという。そのため、同様の戦略が他の臓器の保存時間を延ばすのにも役立つ可能性が期待されている。

6.

腫瘍内細菌叢が肺がんの予後を左右する

 細菌は外的因子としてがんの発生に寄与するが、近年、腫瘍の中にも細菌(腫瘍内細菌叢)が存在していることが報告されている。今回、肺がん組織内の腫瘍細菌叢の量が、肺がん患者の予後と有意に関連するという研究結果が報告された。研究は、千葉大学大学院医学研究院分子腫瘍学(金田篤志教授)および呼吸器病態外科学(鈴木秀海教授)において、越智敬大氏、藤木亮次氏らを中心に進められ、詳細は「Cancer Science」に4月11日掲載された。 近年、がんの予後と腫瘍内細菌叢の関係が注目されている。その中でも、肺がんに関する研究は、喀痰や気管支肺胞洗浄液に含まれる腫瘍外部の細菌に焦点を当てたものがほとんどであり、腫瘍内細菌叢とその予後への影響について検討したものは限られている。そのような背景を踏まえ著者らは、腫瘍内細菌叢が肺がん患者の予後に与える影響を評価するために、単施設のコホート研究を実施した。 本研究では、最も一般的な肺がんの2つの組織型、肺腺がん(LUAD)と肺扁平上皮がん(LUSC)が解析された。肺がんの腫瘍サンプルは、千葉大学医学部付属病院で2016年1月~2023年12月の間に手術を受けた507人(LUAD 369人、LUSC 138人)より採取された。再発手術と術前化学療法を行った症例は除外した。腫瘍内細菌叢のゲノムDNA(bgDNA)の定量はqPCR法により行い、bgDNAが大量に検出された症例については、蛍光in situ ハイブリダイゼーション法(FISH)により、腫瘍組織内の局在が確認された。 腫瘍サンプルのqPCRの結果、391サンプル(77.1%)で、定量範囲下限以上のbgDNAが検出された。LUADおよびLUSCサンプルを用いたFISH解析により、組織中に細菌が存在することが示されたが、LUSCにおいては、細菌は間質に多く存在していた。 次に性別、病期(I~III)、組織型(LUAD、LUSC)などの患者特性ごとに、細菌叢のbgDNAのコピー数を調べた。その結果、他の患者特性では有意な差は認められなかったが、組織型では、LUSCと比較しLUADで有意に細菌叢のbgDNAのコピー数が多いことが分かった(P=1×10-7)。 定量化された391の検体は、bgDNAの定量値に基づき、細菌叢高容量群、低容量群、超低容量群の3群に分類し、全生存率(OS)と無再発生存率(RFS)との相関が検証された。その結果、LUADでは、細菌叢の量はOSやRFSのいずれとも有意に相関していなかった。しかしLUSCでは、Cox比例ハザードモデルを用いた単変量および多変量解析の結果、OSおよびRFSと有意に関連し、病期とは独立した予後因子として特定された。 本研究について金田教授は、「腫瘍内細菌叢は組織型に差異はあるものの、多くの肺がん組織で認められた。この細菌叢の量は、予後の悪い肺扁平上皮がんを層別化する上で有用なマーカーとなる可能性がある」と述べており、鈴木教授は、「これら細菌の肺がん発症や進展への寄与については今後さらなる研究が必要である」と付け加えた。

7.

ASCO2025 レポート 消化器がん

レポーター紹介2025年5月30日~6月3日に、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)が米国・シカゴで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。高知大学の佐竹 悠良氏が消化器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。胃がんMATTERHORN試験:周術期FLOTにおけるデュルバルマブ追加の意義(LBA5)切除可能II~IVA期の胃がん・食道胃接合部腺がんを対象に、欧米における標準治療である周術期FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)療法に対する抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ追加(D-FLOT療法)の有用性を検証したMATTERHORN試験。D-FLOT療法により病理学的完全奏効の改善がすでにESMO2023で報告され(19%vs.7%、オッズ比:3.08、p<0.00001)、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)における統計学的優越性もプレスリリースされていたが、今回学会にて正式に報告され、同時にNEJM誌でpublishされた。患者は術前・術後に2サイクルずつFLOT療法+プラセボもしくはD-FLOT療法を受け、その後プラセボもしくはデュルバルマブを10サイクル(術後補助化学療法として1年間)受けた。主要評価項目のEFS中央値はD-FLOT群未到達vs.プラセボ群32.8ヵ月であり、統計学的優越性を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)。24ヵ月EFS率はD-FLOT群67%vs.プラセボ群59%であった(観察期間中央値:D-FLOT群31.6ヵ月vs.プラセボ群31.4ヵ月)。副次評価項目である全生存期間(OS)においても改善傾向(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.025)がみられたが、現時点では統計学的有意差には至っていない(観察期間中央値:D-FLOT群34.6ヵ月vs.プラセボ群34.6ヵ月)。免疫介在性有害事象はGrade3/4をD-FLOT群7%vs.プラセボ群4%に認めた。胃がん周術期治療における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、KEYNOTE-585試験およびATTRACTION-5試験において有意な結果を示すことができなかったが、本試験において主要評価項目であるEFSでの有意な改善を認め、今後の標準治療となることが見込まれる。一方、本邦では周術期FLOT療法の経験は十分とは言えず、大型3/4型胃がんに対する術前FLOT療法およびDOS(ドセタキセル+オキサリプラチン+S-1)療法を検討する第II相試験であるJCOG2204が進行中であり、結果が期待される。DESTINY-Gastric04試験:HER2陽性胃がんの2次治療におけるT-DXdの有効性を確立(LBA4002)HER2陽性(IHC3+またはIHC2+/ISH+)の進行・再発胃がんまたは食道胃接合部腺がんに対し、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、6.4mg/kgを3週ごと)が、現在の標準2次治療であるラムシルマブ+パクリタキセル併用(RAM+PTX)療法と比較してOSを有意に延長することが国立がん研究センター東病院の設楽 紘平氏から報告され、こちらも同時にNEJM誌でpublishされた。本試験は前治療のトラスツズマブ不応後の生検によるHER2陽性例が対象であり、1,088例に腫瘍組織検体スクリーニングが実施され、450例(41%)は組織スクリーニングで脱落し、最終的に494例が1:1に割り付けされた。前治療としてICIの投与歴がある患者は両群ともに15%程度であり、後治療として抗HER2治療を受けた割合はT-DXd群3.2%vs.RAM+PTX療法群25.8%であった。主要評価項目のOS中央値は、T-DXd群14.7ヵ月vs.RAM+PTX療法群11.4ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.70、p=0.0044)。副次評価項目の無増悪生存期間(PFS)および奏効率(ORR)においてもT-DXd群で有意に改善を示した(PFS中央値:6.7ヵ月vs.5.6ヵ月、HR:0.74、p=0.0074、ORR:44.3%vs.9.1%、p=0.0006)。Grade3以上の薬剤関連有害事象の割合も両群で同等であった(T-DXd群50.0%vs.RAM+PTX療法群54.1%)。ただし、間質性肺疾患はT-DXd群で13.9%(Grade3は1例のみ、0.4%)と、重篤例は多くないものの注意が必要である。今後、HER2陽性かつCPS陽性の進行・再発胃がんに対しては、KEYNOTE-811試験の結果から初回治療よりペムブロリズマブ併用が見込まれるが、本試験のサブグループ解析においては前治療ICI投与の有無にかかわらず、一貫してT-DXdによる生存改善傾向を認めており、HER2陽性胃がんにおける2次治療としてT-DXdが今後の標準治療の位置付けとされた。一方、本結果は試験組み入れ時のHER2再確認(再生検)により結果が導かれているが、40%前後は前治療不応時にHER2 lossが生じている可能性が示唆された。大腸がんATOMIC試験:StageIII dMMR大腸がん術後補助療法におけるアテゾリズマブ追加の意義(LBA1)StageIIIのdMMR結腸がんに対する術後補助療法として、mFOLFOX6化学療法にPD-L1阻害薬であるアテゾリズマブを追加することで、無病生存期間(DFS)を有意に延長することが国際第III相試験ATOMIC試験により示された。試験治療群は術後補助化学療法としてmFOLFOX6+アテゾリズマブ併用療法を6ヵ月受けた後にアテゾリズマブ単剤を6ヵ月(計12ヵ月)投与され、対照群はmFOLFOX6療法を6ヵ月投与された。主要評価項目である3年DFS率はアテゾリズマブ併用群86.4%vs.対照群76.6%(HR:0.50、95%CI:0.34~0.72、p<0.0001)であり、統計学的有意差を認めた。Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)は併用群72.3%vs.対照群59.2%とアテゾリズマブ併用群でやや多く、免疫関連有害事象として高血糖や甲状腺機能低下、大腸炎に伴う下痢や皮膚炎を認めたが、重篤なものは少なかった。本試験により、StageIIIのdMMR結腸がんにおいて術後免疫療法導入が長期予後を改善することが明らかとなり、補助療法の新たな標準となる可能性を示した。現在、本邦を含め切除可能なStage IIIまたはT4N0のdMMR/MSI‑High陽性結腸がん患者に対する周術期dostarlimabの有効性を検証する第III相試験であるAZUR-2試験が進行中である。同薬剤はすでに直腸がん領域で良好な有効性が確認されており、新しい治療ストラテジー確立が期待される。BREAKWATER試験:BRAF V600E変異陽性大腸がんに対する1次治療としてのEC+mFOLFOX6併用療法(#3500)進行・未治療のBRAF V600E変異陽性大腸がん患者を対象に、BRAF阻害薬エンコラフェニブ(E)+抗EGFR抗体セツキシマブ(C)に化学療法(mFOLFOX6)を加えた3剤併用療法(EC+mFOLFOX6)の標準治療(FOLFOX/FOLFOXIRI/CAPOX±BEV)に対するORRおよびOS(初回中間解析)における良好な結果は、一足先にASCO-GI 2025で発表されていたが、今回主要評価項目の1つであるPFSの結果が報告され、PFS、ORR、OSにおける改善が明らかとなり、同時にNEJM誌でpublishされた。主要評価項目であるPFS中央値はEC+mFOLFOX6群12.8ヵ月vs.標準治療群7.1ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.53、95%CI:0.407~0.677、p<0.0001)。OS中央値(2回目の中間解析)はEC+mFOLFOX6群30.3ヵ月vs.標準治療群15.1ヵ月(HR:0.49、p<0.0001)だった。もう1つの主要評価項目であるORRの追加報告もあり、EC+mFOLFOX6群65.7%vs.EC群45.6%vs.標準治療群37.4%と良好であった。TRAE(Grade3/4)はEC+mFOLFOX6群76.3%vs.EC群15.7%vs.標準治療群58.5%であり、関節痛(29%)、皮疹(29%)に注意が必要である。本試験により、BRAF V600E変異大腸がんの1次治療として、EC+mFOLFOX6が新たな標準と位置付けられた。また、EC療法はmFOLFOX6療法などの抗がん剤治療が適応とならないフレイル症例に対する治療選択肢となる可能性が示唆された。AGITG DYNAMIC-III試験:術後ctDNA陽性は高リスク再発マーカー(#3503)術後StageIII結腸がん患者を対象に、circulating tumor DNA(ctDNA)の有無による再発リスクを評価した第II/III相試験であるDYNAMIC-III試験において、ctDNA陽性が強力な再発予測因子であることが示された。StageIII結腸がん患者を対象に術後4週時点でctDNAを評価し、ctDNA結果に基づいたマネジメント群(ctDNA-informed群、ctDNA陰性例ではde-escalation、ctDNA陽性はescalation[より強力な術後補助療法]を実施)と標準マネジメント群(主治医選択によるマネジメント、ctDNA結果は盲検)に無作為化して割り付けされた。全体で1,002例が登録され、それぞれctDNA-informed群502例vs.標準マネジメント群500例に割り付けられ、ctDNA陽性は各群129例(27%)vs.130例(27%)であった。ctDNA陽性例のうち、ctDNA-informed escalation群では3ヵ月以上のFOLFOXIRI実施が50%、6ヵ月のオキサリプラチンダブレット(FOLFOX/CAPOX)が44%に実施され、一方の標準マネジメント群では3ヵ月FOLFOX/CAPOXが45%、6ヵ月FOLFOX/CAPOXが41%に術後補助療法として実施された。3年無再発生存期間はctDNA-informed escalation群48%vs.標準マネジメント群52%であり、ctDNA結果に基づいた術後補助化学療法強化による再発抑制改善は認めなかった(HR:1.11、p=0.57)。後解析としてFOLFOXIRIとFOLFOX/CAPOXの無再発生存比較がなされたが、差を認めず(HR:1.09、p=0.662)、ctDNAクリアランス割合も同等であった(60%vs.62%)。術後補助化学療法終了時点におけるctDNAクリアランスの有無(HR:11.1)および術後ctDNA測定時のctDNA量が再発と相関することが示唆された(p<0.001)。既報と同様に、術後ctDNA検査のバイオマーカーとしての有用性および術後ctDNA量と再発リスクとの相関やctDNA陽性例に対する術後補助化学療法によるctDNAクリアランスの重要性が報告された。一方で、 ctDNA陽性例に対してはオキサリプラチン併用レジメンからFOLFOXIRIへの治療強化では不十分である可能性も示唆され、今後さらなる治療開発の必要性が示唆された。本邦における臨床実装が待たれる。NCCTG N0147後方解析:ctDNAによるMRD評価が術後再発リスクを鋭敏に予測(#3504)術後StageIII結腸がんに対する術後補助FOLFOX±セツキシマブを検証した第III相試験であるNCCTG N0147試験におけるctDNAの後解析により、ctDNA評価は再発リスクを高精度に層別化できることが明らかとなった。術後補助療法開始前10週以内に血漿ctDNAをGuardant Reveal/Guardant360で測定(中央値42日)。 ctDNAは20.4%で検出可能であり、より進行例(T/Nステージ)やBRAF変異例、閉塞例や穿孔例などの術後再発高リスク例において検出されることが示唆された。ctDNA陽性例は陰性例に比し、DFS、OSともに大きく劣っていた(DFS-HR:3.74、p<0.0001、OS-HR:3.17、p<0.001)。一般的に術後予後良好とされているdMMR症例においても、ctDNA陽性例はpMMR例と比較してもDFSおよびOSが不良であった(DFS-HR:1.54、p=0.0114、OS-HR:1.77、p=0.0026)。術後病理評価による再発リスクとctDNA検出の有無による層別化ならびにctDNA検出量とDFSの相関性も示唆された。既報と同様に、術後ctDNA MRD評価の有用性が再確認され、早期の再発予測や治療強度決定に活用できる可能性を示した。TRIPLETE試験:初回治療でのmFOLFOXIRI+パニツムマブがOSを有意に延長(#3512)切除不能なRAS/BRAF野生型転移を有する大腸がん(mCRC)初回治療において、mFOLFOX+パニツムマブに対しmFOLFOXIRI+パニツムマブは、主要評価項目のORRおよびPFSは改善を認めないことがすでに報告されていた。一方、本邦で実施されたJACCRO CC-13(DEEPER試験)においては、RAS/BRAF野生型かつ左側原発例においてmFOLFOXIRI+セツキシマブ療法のmFOLFOXIRI+BEVに対する治療成績改善が示唆されていた。今回TRIPLETE試験におけるOSが報告され、mFOLFOXIRI+パニツムマブによる有意な生存期間延長が報告された(観察期間中央値:60.2ヵ月)。OS中央値はmFOLFOXIRI+パニツムマブ群41.1ヵ月vs.mFOLFOX6+パニツムマブ群33.3ヵ月であり、有意に改善を認めた(HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、p=0.049)。一方で、アップデートされたORRやPFS、奏効期間(DoR)、早期腫瘍縮小(ETS)およびR0切除割合は群間差を認めなかった。PPS(病勢進行後生存)はmFOLFOXIRI群で有意に延長(HR:0.73、p=0.012)しており、OS延長の主因と考えられた。トリプレット+抗EGFR抗体はDEEPER試験と同様にTRIPLETE試験でも、標準治療に対する良好な生存延長効果が示唆され、RAS/BRAF野生型mCRCの治療戦略においてトリプレット療法を選択肢の1つとして再評価する根拠と考えられる。ただし、PFSやORRに差がなかったことから、有効性の本質はPPSの改善に依存している可能性があり、治療強度と毒性のバランスに配慮した個別化治療が求められる。胆道がんGAIN試験:胆道がんに対する周術期GC療法の有効性が示唆(#4008)切除可能局所進行胆道がんに対して、本邦ではASCOT試験により切除後のS-1補助化学療法が標準治療とされているが、今回ドイツより術前・術後にゲムシタビン+シスプラチン(GC)を用いた周術期治療が、標準治療(手術+術後補助療法)と比較してOSおよびEFS、R0切除率を大きく改善する可能性が報告された。ドイツの21施設による第III相試験であり、登録数不足により68例の登録時点で早期終了となった。NEO群(周術期GC群)は術前GC 3サイクル後に切除がなされ、その後3サイクルの術後補助GC療法がプロトコール治療として規定されており、標準治療群は切除後に術後補助化学療法24週(主治医選択)が規定されていた。早期中止のためNEO群(32例)、標準治療群(30例)での報告。NEO群の術前GC療法平均投与コース数は2.8サイクルだが、術後補助療法の平均投与コース数は1.4サイクルであった。一方の標準治療群における術後補助療法はカペシタビン20%、ゲムシタビン3.3%、GC療法3.3%であった。OS中央値はNEO群(周術期GC群)27.8ヵ月vs.標準治療群14.6ヵ月と周術期GC療法による良好な結果が示唆された(HR:0.463、95%CI:0.222~0.964、p=0.0395)。 EFS(HR:0.351、p=0.0047)や R0切除率(NEO群83.3%vs.標準治療群40.0%)も大きな差を認めた。本試験は登録数の制限から統計的限界があるものの、術前GC療法が切除率や生存期間の向上に寄与しうる可能性を示した点で意義深く、今後の大規模前向き試験の展開が強く期待される。一方で現在、本邦では進行・再発胆道がんに対してGC+S-1(GCS)療法とGC+ICI併用療法の治療効果を検討するKHBO2201-YOTSUBA試験が進行中であり、周術期治療への応用が期待される。膵がんPANOVA-3試験:切除不能局所進行膵がんにおける腫瘍治療電場(TTFields)の有効性と安全性(LBA4005)切除不能局所進行膵腺がん(LA-PAC)に対する新たな治療戦略として、腫瘍治療電場(Tumor Treating Fields:TTFields)の有効性が注目を集めた。PANOVA-3試験は、TTFieldsをGEM+nab-PTX(GnP)に追加することで、標準治療単独(GnP)と比較し全生存期間(OS)を有意に延長することを示した初の第III相試験である。本試験は本邦を含む20ヵ国198施設、571例を対象に1対1に割り付けて実施。主要評価項目であるOS中央値はTTFields群16.2ヵ月vs.GnP群14.2ヵ月であり、優越性を示した(HR:0.82、95%CI:0.68~0.99、p=0.039)。副次評価項目では、無痛生存期間(HR:0.74)、遠隔転移PFS(HR:0.74)、QOLにおいてもTTFields群が有意に良好な結果を示した。安全性に関しては、TTFields群で局所の皮膚関連有害事象が多くみられたが、主にGrade1/2で管理可能であり、有害事象でTTFieldsが中止となったのは8.4%であった。TTFieldsは非侵襲的かつ局所的な電場療法であり、がん細胞の分裂阻害効果や抗腫瘍免疫増強効果が報告されている。膠芽腫や悪性胸膜中皮腫・非小細胞肺がんに続く膵がんへの応用が今回初めて本格的に示され、遠隔転移制御効果も示唆された。今後の膵がん治療における集学的治療の一環として、TTFieldsの位置付けが期待される。

8.

治療法が大きく変化、アミロイドーシス診療ガイドライン8年ぶりに改訂

 『アミロイドーシス診療ガイドライン2025』が2024年12月に発刊された。2017年版から8年ぶりの改訂となるが、この間にアミロイドーシスの各病型の病態解明が進み、診断基準をはじめ、トランスサイレチン型(ATTR)アミロイドーシスに対する核酸医薬、ALアミロイドーシスに対する抗CD38抗体薬、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害および軽度の認知症に対する抗アミロイドβ抗体薬の発売など、治療法も大きな変化を遂げている。そこで今回、本ガイドライン作成委員長であり、アミロイドーシスに関する調査研究班1)を率いる関島 良樹氏(信州大学医学部 脳神経内科、リウマチ・膠原病内科 教授)にアミロイドーシスの現状や診断方法、本書の改訂点などについて話を聞いた。次々と上市された薬剤、最新の診断フローチャートが疾患に光を灯す アミロイドーシスとは、アミロイドの沈着により臓器障害を引き起こす疾患群であり、その原因となる前駆蛋白質についてはヒトでは42種類が同定されている。また、前駆蛋白質の産生部位とアミロイドの沈着部位との関係により、全身性と限局性に分類される。このほかにも病型によって有病率や診断方法、患者・家族へのアドバイスなどが異なることから、本書を「第I章 アミロイドーシスの診断の基礎知識」「第II章 病型別アミロイドーシス最新診療ガイドラインとCQ」の2本柱で章立て、各々が必要なページにたどり着けるような構成になっている。第I章では各冒頭に要約を示しながらアミロイドーシスの基礎知識を解説。第II章では代表的なアミロイドーシスをピックアップし、各病型(診療科別)のClinical Question、それぞれの患者数・有病率、どんな症例で疑うべきか、診断や治療について言及している。 本書の大きな改訂点の1つとして、関島氏は「2017年版は学会承認を得たものではなかったが、今回は5学会(日本アミロイドーシス学会、日本神経学会、日本循環器学会、日本腎臓学会、日本血液学会)の承認を得て作成した」と説明。これまでは各学会で個別のガイドラインを作成していたが、アミロイドーシスはアミロイドがさまざまな臓器に沈着し、特異的な所見に乏しい症例も少なくない。「全診療科の先生方に、本症を疑って鑑別診断にあたることが求められるため、全臓器横断的なガイドラインを目指した」ともコメントした。本書のp.17~18には、研究班で作成した最新版の診断基準を反映したアミロイドーシス診断のためのフローチャートが示されているので、患者のどこか(心臓、腎臓、消化管、手根管、関節・靭帯、眼、皮膚、各臓器の腫瘤性病変など)にアミロイドーシスの疑いを持ったら、このフローチャートをぜひ思い出してほしい。 また、診断や治療におけるこの8年の発展は目まぐるしく、各疾患の治療項目も充実した。治療において最も大きな変貌を遂げたのはATTRアミロイドーシスである。ATTRアミロイドーシスは遺伝性(ATTRv)と野生型(ATTRwt)に分類され、主な障害は末梢神経障害(ATTR-PN)と心筋症(ATTR-CM)である。たとえば、タファミジス(商品名:ビンダケル/ビンマック)は、ATTRvアミロイドーシスによる末梢神経障害(ATTRv-PN)の進行抑制に加え、2019年にATTR型心アミロイドーシス(ATTR-CM、野生型および変異型)に適応が拡大。核酸医薬(SiRNA)であるパチシラン(同:オンパットロ)やブトリシラン(同:アムヴトラ)はATTRv-PN(トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー)治療薬として承認されている。さらに、ADによる軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制に対する抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ[同:レケンビ]、ドナネマブ[同:ケサンラ])も2023年以降に相次いで承認された。患者を“見て診る”、全医師が特徴をつかみ潜在患者発掘へ しかし、これらの治療薬をうまく使いこなしていくには、診断に至るまでの問診や身体診察が鍵となる。アミロイドーシス自体はさまざまな臓器や血管に沈着することから、すべての診療科に関わる病気であり、とくにADや近年注目を浴びているATTRwtアミロイドーシスは日本国内に数百万人が潜在患者として存在することから、「アミロイドーシスはコモンディジーズである」と話す。「10年前の全国調査1)では、ATTRwtアミロイドーシスの患者数は50人程度だったのが、今は約3,000人に上る。疾患別にみると、心不全患者の中には5万人以上の潜在患者がいると言われ、手根管症候群300万人のうち100万人以上がATTRwtが原因ではないかとわれわれは推測している。ATTRwtは50歳以上の男性、60歳以上の女性で多いため、整形外科領域では該当患者の手根管症候群の手術の際にアミロイド沈着の有無を検査することが浸透し始めている」と説明した。 このような状況を踏まえ、同氏は専門性に応じた理解が必要であるとし、「一般内科医の皆さまには、心不全、脊柱管狭窄症、手根管症候群といったよくある疾患にアミロイドーシスが潜んでいること、息切れや動悸などの心不全症状を生じる前から手足のしびれや痛み、物がつまみにくいなどの運動障害が先行していることがある点に注意してほしい。そして、認知症の約7割がAD2)であることを踏まえ、抗アミロイドβ抗体薬の適応となる軽度認知機能障害(MCI)から軽度の認知症の時期に脳神経内科などの専門科への紹介をしていただくことが重要」とコメントした。 一方、専門医に向けては診療科ごとに以下のような特徴を示した。――――――――――――――――――〇循環器:心アミロイドーシス(ATTRv、ATTRwt、AL)のうち、ATTRwtはとくに頻度が高く男性に多い。〇血液内科:ALアミロイドーシスでは、眼の周囲の出血によるラクーンアイサインがみられる。〇腎臓内科:蛋白尿の原因疾患としてALアミロイドーシスを鑑別に挙げる。長期透析患者で、手根管症候群,ばね指、破壊性脊椎関節症などの骨関節症状を呈する場合、Aβ2Mアミロイドーシスを考慮する。〇神経内科:成人発症の多発ニューロパチーの鑑別にアミロイドーシス(ATTRvおよびAL)を挙げる。高齢者の手根管症候群の主要な原因疾患としてアミロイドーシス(とくにATTRw)を考慮する。〇膠原病:関節リウマチなどで慢性炎症が持続する患者において、下痢や蛋白尿が認められた場合、血清アミロイドA(SAA)を前駆蛋白とするAAアミロイドーシスを鑑別に挙げる。―――――――――――――――――― このほかの特徴的な臨床所見として、「巨舌、上腕二頭筋の断裂(ポパイサイン)などがある。ポパイサインは、腱・靭帯アミロイドーシスによって上腕二頭筋の腱断裂が起こり、これにより上腕二頭筋が短縮して力こぶのように見える。ATTRwtアミロイドーシスで高頻度に見られるので注意してもらいたい」と説明した。 最後に同氏は「現在、アミロイドーシスは治療薬開発も世界的に盛んで、国内では今夏にSiRNA製剤ブトリシランにATTR-CMの適応追加が予定されているなど、目が話せない領域だ。ゲノム編集薬を用いた治療においてもアミロイドーシスが先駆けとなっていることから、3年後に予定している次回改訂ではこれらの知見を盛り込みたい」と締めくくった。

9.

既治療のEGFR陽性進行NSCLC、sacituzumab tirumotecanがORR改善/BMJ

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬および化学療法後に病勢進行が認められた、EGFR遺伝子変異陽性局所進行または転移のある非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、sacituzumab tirumotecan(sac-TMT)はドセタキセルと比較して、奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)に関して統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善をもたらし、安全性プロファイルは管理可能なものであることが、中国・中山大学がんセンターのWenfeng Fang氏らが行った第II相の多施設共同非盲検無作為化対照試験の結果で示された。sac-TMTは、栄養膜細胞表面抗原2(TROP2)を標的とする新規開発中の抗体薬物複合体。既存の抗TROP2抗体薬物複合体は、遺伝子変異の有無を問わないNSCLCで研究が行われてきたが、生存ベネフィットは示されていなかった。BMJ誌2025年6月5日号掲載の報告。主要評価項目は、BIRC評価に基づくORR 試験は2023年9月1日~2024年12月31日に、中国の48施設で行われた。対象者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬およびプラチナ製剤ベースの化学療法後に病勢進行が認められた、EGFR遺伝子変異陽性局所進行または転移のある成人(18~75歳)NSCLC患者であった。 研究グループは被験者を、sac-TMT(5mg/kg)を4週間サイクルの1日目と15日目に投与する群、またはドセタキセル(75mg/m2)を3週間サイクルの1日目に投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けた。 ドセタキセル群の患者は、病勢進行時にsac-TMT治療への切り替えが許容されていた。 主要評価項目は、盲検下独立評価委員会(BIRC)の評価に基づくORRであった。副次評価項目は、試験担当医師の評価に基づくORR、BIRCまたは試験担当医師の評価に基づく病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、奏効までの期間(TTR)、奏効期間(DOR)、およびOS、安全性などであった。sac-TMT群でORRが有意に改善、PFS、OSも改善 137例がsac-TMT(91例)群またはドセタキセル(46例)群に無作為化された。 EGFR変異のサブタイプを除けば、両群のベースライン特性はバランスが取れていた。137例の年齢中央値は56歳、男性が44%、98%がStageIVで20%が脳転移を有していた。37%が3ライン以上の前治療を受けており、93%が第III世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の投与を受けていた(58%が初回治療による)。 データカットオフ時点(2024年12月31日)で、割り付け治療を継続していたのはsac-TMT群で25%(23/91例)、ドセタキセル群で4%(2/46例)であった。治療薬投与中止の最も多い理由は病勢進行(sac-TMT群76%、ドセタキセル群91%)であった。ドセタキセル群44例においてsac-TMTへの切り替えを行った患者は16例(36%)であった。 追跡期間中央値12.2ヵ月において、BIRC評価に基づくORRは、sac-TMT群45%(41/91例)、ドセタキセル群16%(7/45例)であり、群間差は29%(95%信頼区間[CI]:15~43、片側のp<0.001)であった。 PFS中央値は、BIRC評価(6.9ヵ月vs.2.8ヵ月、ハザード比[HR]:0.30[95%CI:0.20~0.46]、片側のp<0.001)および試験担当医師の評価(7.9ヵ月vs.2.8ヵ月、0.23[0.15~0.36]、片側のp<0.001)いずれにおいても、sac-TMT群でドセタキセル群より有意に延長したことが示された。 12ヵ月OS率は、sac-TMT群73%、ドセタキセル群54%であった(HR:0.49、95%CI:0.27~0.88、片側のp=0.007)。RPSFTM(rank-preserving structural failure time model)を用いて治療薬の切り替えについて補正後、sac-TMT群のOS中央値は未到達、ドセタキセル群は9.3ヵ月で、sac-TMT群では死亡リスクが64%抑制されたことが示された(HR:0.36、95%CI:0.20~0.66)。 Grade3以上の治療関連有害事象は、sac-TMT群でドセタキセル群より発現頻度が少なく(56%vs.72%)、新たな安全性に関する懸念は認められなかった。

10.

重症血友病BにおけるAAV遺伝子治療、13年後の有効性・安全性は?/NEJM

 アデノ随伴ウイルス(AAV)を介した遺伝子治療は、血友病Bの有望な治療法である。米国・セントジュード小児研究病院のUlrike M. Reiss氏らは、2014年に、scAAV2/8-LP1-hFIXcoを単回静脈内投与した重症血友病Bの患者において、この遺伝子治療が成功したことを報告した。しかし、臨床的ベネフィットの持続性については不確実性が残っており、またAAVを介した遺伝子導入の長期安全性は不明であった。研究グループは、治療に成功した患者集団について入手できた追跡期間中央値13.0年のデータを解析し、第IX因子の発現は持続しており、臨床的ベネフィットは維持され、遅発性の安全性に関する懸念は認められなかったことを報告した。NEJM誌2025年6月12日号掲載の報告。患者10例に低用量、中用量、高用量のいずれかで遺伝子治療 研究グループは2010年3月~2012年12月に、重症血友病Bの男性患者10例(年齢範囲22~64歳)に対して、3用量群(低用量:2×1011ベクターゲノム[vg]/kg体重、中用量:6×1011vg/kg、高用量:2×1012vg/kg)のいずれかで、scAAV2/8-LP1-hFIXcoの単回静脈内投与を行った。 低用量で2例、中用量で2例、高用量で6例がそれぞれ遺伝子治療を受けた。 有効性のアウトカムは、第IX因子活性、年間出血率、第IX因子製剤使用などであった。安全性は、臨床イベント、肝機能、画像検査などで評価した。第IX因子活性は3用量群すべてで安定 2023年12月31日の追跡期間中央値13.0年(範囲:11.1~13.8)の時点において、第IX因子活性は3用量群すべてで安定していた。平均値は、低用量群1.7 IU/dL、中用量群2.3 IU/dL、高用量群4.8 IU/dLであった。 10例中7例は、補充療法を受けていなかった。 年間出血の中央値は、14.0件(四分位範囲[IQR]:12.0~21.5)から1.5件(0.7~2.2)へと9.7(IQR:3.7~21.8)分の1に減少していた。 第IX因子製剤の使用は、12.4(IQR:2.2~27.1)分の1に減少していた。 ベクター関連の有害事象は、計15件発現し、主にアミノトランスフェラーゼ値の一時的な上昇であった。第IX因子インヒビター、血栓症または慢性肝障害は、いずれの被験者でも発現が報告されなかった。 2件のがんが確認されたが、試験担当医師と専門多職種チームによって、ベクターとは無関係であると判断された。 被験者1例で、遺伝子治療10年後の肝生検において、肝細胞中に転写活性のある導入遺伝子の発現が認められたが線維化や異形成は伴っていなかった。 追跡期間中AAV8に対する中和抗体価は高いままであり、ベクターの再投与は阻害される可能性があることが示唆された。

11.

AIは中間期乳がんの検出に有用?

 人工知能(AI)は、訓練を受けた放射線科医でも見逃してしまうような乳がんを検出できる可能性のあることが、新たな研究で示された。研究グループは、マンモグラフィー検査にAIを組み込むことで、年1回の定期検診の合間に発生する中間期がん(interval breast cancer;IBC)の発生率を下げられる可能性があるとしている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デビッド・ゲフィン医学部放射線学分野のTiffany Yu氏らによるこの研究結果は、「Journal of the National Cancer Institute」に4月18日掲載された。 Yu氏はUCLAのニュースリリースで、「がんの早期発見は、患者にとって大きな違いを生む。がんを早期に見つけることができれば、より積極的な治療を必要としなくなり、より良好な転帰を得る可能性も高まる」と話す。 この研究では、2010年から2019年にかけて行われた18万4,935件のマンモグラフィー検査データを分析して、検査で陰性と判定されてから12カ月以内にIBCと診断された148症例を特定。これらの症例について、AIが「異常」として認識できるかを検証した。 3人以上の放射線科医がIBC症例を、1)陰性判定の画像にがんが描出されていたにもかかわらず見逃されたか誤って解釈された「見逃し」、2)熟練の放射線科医なら検知可能だった可能性のある微細な兆候があった「対応可能な最小の兆候あり」、3)肉眼では確認できない微細な兆候があった「対応不可な最小の兆候あり」、4)前回の画像には異常が認められず、今回の画像で初めて異常が確認された「真のIBC」、5)マンモグラフィー画像では異常が認められないが、超音波やMRIなどの他の検査で発見された「オカルトがん」、6)がんはすでに存在していた可能性があるが、不適切なポジショニングなどの技術的要因により描出されなかった「技術的なエラー」、に分類した。深層学習を用いたAIは、各画像に1〜10のリスクスコアを付与した(8点以上を「異常あり」と定義)。その上で、放射線科医による分類とAIによるスコア、マーキング、患者とがんの特徴との関連を評価した。 放射線科医による分類では、148症例のうち26%(38例)が「対応可能な最小の兆候あり」、24%(36例)が「オカルトがん」、22%(33例)が「対応不可の最小の兆候あり」、17%(25例)が「見逃し」、6%(9例)が「真のIBC」、5%(7例)が「技術的エラー」と判定された。 AIは、乳房インプラントやファイル変換の問題から対象外とされた17件を除く131件のデータを解析した。その結果、AIは「見逃し」の90%(19/21例)、「対応可能な最小の兆候あり」の89%(32/36例)、「対応不可の最小の兆候あり」の72%(23/32例)、「オカルトがん」の69%(20/29例)、「真のIBC」の50%(4/8例)、「技術的エラー」の40%(2/5例)を「異常あり」としてフラグを立てた。この結果から、AIは、スクリーニング時に画像上である程度兆候の現れていたIBCに対する検出率は高い一方で、画像上に兆候の現れていなかったIBCの検出率は相対的に低いことが示唆された。 こうした結果を受けて、論文の上席著者であるUCLAデビッド・ゲフィン医学部放射線科分野のHannah Milch氏は、「大変興味深い結果が得られた一方で、AIの不正確さや、リアルワールドの環境でさらに調査する必要がある問題も数多く見出された。例えば、マンモグラフィー画像では確認できないにもかかわらず、AIはスクリーニング時の画像からオカルトがんの69%を特定した。しかし、AIが疑わしいとマークした画像上の特定領域を精査すると、実際に本物のがんをマークしていたのはわずか22%に過ぎず、AIの精度はそれほど高くないことが判明した」とUCLAのニュースリリースで述べている。 研究グループは、乳がんのスクリーニング検査においてAIを最も効果的に活用する方法を見つけるには、さらに大規模な研究が必要だと指摘している。Yu氏は、「AIは完璧ではないため単独で使用すべきではないが、将来性はある」との見方を示し、「特に、早期発見が最も難しい種類のがんにおいて、AIは放射線科医の貴重な第二の目として役立つ可能性がある」と述べている。

12.

男女の身長差、遺伝子で説明できる?

 男性は通常、女性よりも平均で13cmほど背が高いが、その理由についてはこれまで明らかにされていなかった。しかし新たな研究で、「SHOX(short stature homeobox)」と呼ばれる遺伝子により、この現象を部分的に説明できる可能性のあることが示された。米ガイジンガー医科健康科学大学の遺伝学研究者であるMatthew Oetjens氏らによるこの研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」に5月19日掲載された。 男女の身長差を説明する仮説の一つは、身長に関わるSHOX遺伝子に関するものだ。SHOX遺伝子は、X染色体とY染色体の間で配列が相同な領域である偽常染色体領域1(PAR1)に位置する。これまで、哺乳類の雌の細胞では2本のX染色体のうちの1本が不活性化され(不活性化X〔Xi〕染色体)、多くの遺伝子の機能が損なわれるが、PAR1に位置する遺伝子はその影響を免れると考えられてきた。ところが近年の研究で、Xi染色体のPAR1に位置するSHOX遺伝子やその他の遺伝子は、実際には発現が抑制されていることが示された。一方、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持っており、双方の染色体のSHOX遺伝子が活性化されている。このため、男性の方がSHOX遺伝子の発現量が高く、これが身長の伸びを促進している可能性があると考えられる。 この仮説を検証するためにOetjens氏らは、米国と英国の3つの大規模バイオバンクから収集した92万8,605人のデータの解析を行った。研究グループが着目したのは、X染色体やY染色体が1本多い、あるいは1本少ない(例:45,X、47,XXY、47,XYY、47,XXX)まれな染色体構造を持つ小規模集団だった。これらの集団を対象に、SHOX遺伝子の発現量が身長にどのような影響を及ぼしているのか調べた。 その結果、Y染色体が1本増えると、Xi染色体が1本増える場合に比べて身長が平均3.1cm高くなることが明らかになった。また、このY染色体の遺伝子発現効果だけで、男女の平均身長差の22.6%を説明できることが示された。 なお、残りの身長差は他の遺伝子や男性ホルモンの影響によるものである可能性が高いとOetjens氏は付け加えている。 米マウント・サイナイ病院の遺伝学の専門家であるEric Schadt氏は、この研究結果について、「これは、まだ謎が多く残る問題を解明するためにバイオバンクを活用した素晴らしい例だ。たとえ影響がわずかであっても、身長差の約20%を説明していることは重要だ」と話している。

13.

歯周病の進行が動脈硬化と相関か

 歯周病は40歳以上の成人における歯の喪失の主な原因と考えられているが、2000年代の初頭からは他の全身疾患との関連性も報告されるようになった。今回、アテローム性動脈硬化と歯周病の進行が相関しているとする研究結果が報告された。研究は鹿児島大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学分野の玉木直文氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に4月18日掲載された。 アテローム性動脈硬化は血管疾患の主な原因の一つであり、複数のメタ解析により歯周病との関連が報告されている。長崎大学は2014年に、離島における集団ベースの前向きオープンコホート研究である長崎諸島研究(Nagasaki Islands Study;NaIS)を開始した。このコホート研究でも以前、動脈硬化が歯周病の進行に影響を与えるという仮説を立て、横断研究によりその関連性を調査していた。しかし、両者の経時的な関連性を明らかにする縦断研究はこれまで実施されていなかった。そこで著者らは、追跡調査を行い、動脈硬化と歯周病の関連性を検討する3年間のコホート研究を実施した。 本研究は長崎県五島市で実施されたフィールド調査で口腔内検査を受けた40歳以上の成人597人のうち、ベースライン時の健康診断と3年後に実施された追跡健康診断の両方のデータ(潜在性動脈硬化症、潜在的交絡因子、口腔内検査)がそろっている222人を最終的な解析対象とした。潜在的なアテローム性動脈硬化の指標として、頸動脈内膜中膜厚(cIMT)が1mm以上、足関節上腕血圧比(ABI)が1.0未満、心臓足首血管指数(CAVI)が8以上の者を、高リスク者と定義した。歯周病の進行は、歯肉辺縁から歯周ポケット底部までのプロービング ポケット デプス(PPD)と、セメントエナメル境から歯周ポケット底部までのクリニカル アタッチメント レベル(CAL)を測定することで評価した。 ベースライン時における参加者の平均年齢は64.5±10.3歳であり、歯周病が進行した対象者58人(26.1%)が含まれた(進行群)。歯周病進行群と非進行群のベースライン時点での比較では、性別が男性であること、年齢が高いこと、現存歯数が少ないこと、PPDとCALが深いこと、喫煙者、高血圧、cIMTの厚さ、cIMTが1mm以上の者の割合、およびCAVIの値に有意な差が認められた。 3年間の追跡調査におけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)の変化を調べたところ、CAVIの値は歯周病進行群(P<0.001)、非進行群(P=0.007)でともに有意に増加していたが、CAVIが8以上の者の割合は進行群でのみ62.1%から81.0%へ有意に増加していた(P=0.024)。 次に、年齢と性別を調整した上で、多重ロジスティック回帰分析を実施し、アテローム性動脈硬化(前述の通りcIMT、ABI、CAVIによって定義)に対する歯周病進行のオッズ比(OR)を算出した。その結果、cIMTが1mm以上であった群は歯周病進行のORが有意に高かった(OR2.35、95%信頼区間〔CI〕:1.18, 4.70、P<0.05)。この有意傾向は、喫煙状況や高血圧などの追加の共変量を調整した後も維持された。 また、多重線形回帰分析により、ベースラインにおけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)とPPDおよびCALの変化との相関を検証した。年齢および性別で調整した結果、CAVIはCALの変化と正の相関(β=0.046、95%CI:0.008, 0.083、P=0.017)を示し、ABIはPPDの変化と負の相関(β=-0.667、95%CI:-1.237, -0.097、P=0.022)を示した。この有意傾向は、すべての共変量を調整した後も維持された。 本研究の結果について著者らは、「本研究より、日本の地域在住の中高齢者において、歯周病の進行とアテローム性動脈硬化が有意に関連していることが示唆された。従って、潜在性のアテローム性動脈硬化を予防することで、歯周病の状態を改善できる可能性がある。」と述べている。

14.

陰茎が3本あった男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第284回

陰茎が3本あった男性三重陰茎症(トリファリア、トリプルペニス)は、3つの明確な陰茎体が存在する、きわめてまれな先天異常です。実は文献上、今回の症例を含めると、これまでにわずか2例しか報告がありません1)。Buchanan J, et al. Triphallia: the first cadaveric description of internal penile triplication: a case report. J Med Case Rep. 2024;18:490.この論文は、献体解剖中に偶然発見された78歳男性の三重陰茎症例について、その解剖学的特徴と臨床的意義について解説しています。症例は78歳の白人男性の献体です。外見上は正常な外性器でしたが、解剖の結果、主要陰茎の背側深部に2つの過剰陰茎が配列しているという解剖学的アノマリーが発見されました。各陰茎体はそれぞれ独自の陰茎海綿体と亀頭を有していました。主要陰茎と第二の陰茎は単一の尿道を共有しており、この尿道は特徴的な蛇行経路を示し、第二陰茎を貫通した後に主要陰茎へと合流していました。合流するんだ…。最も小さな第三の過剰陰茎には尿道様構造は認められませんでした。陰茎の大きさは以下の通りでした:主要陰茎:長さ77mm、幅24mm第二陰茎:長さ38mm、幅13mm第三陰茎:長さ37mm、幅12mm重要な点として、この献体には腎臓、尿管、膀胱、消化管、陰嚢など他の臓器の解剖学的異常は一切認められなかった点です。正常な男性生殖器の発生は、胚発生第4週から始まります。総排泄腔膜周囲の間葉細胞増殖により性器結節が形成され、Y染色体上のSRY遺伝子発現によるテストステロン産生が男性外性器の発達を誘導します。テストステロンは5α-リダクターゼによってジヒドロテストステロンに変換され、これが性器結節と尿生殖洞のアンドロゲン受容体に作用して陰茎の発達を促進します。本症例では、性器結節の三重化があった可能性が考えられます。尿道はもともと第二陰茎で発生したものの、その後発達パターンが変化し、蛇行経路をとって主要陰茎まで伸長したと推測されます。第三陰茎は、三重化した性器結節の遺残と考えられ、尿道形成は不完全なまま終了したと思われます。本症例の特筆すべき点は、患者が78歳まで無症状で過ごし、この解剖学的アノマリーが生前にまったく発見されなかったことです。これは過剰陰茎が陰嚢内に隠れていたためです。ゆえに、実は多陰茎症の実際の有病率は現在理解されているよりも高い可能性があります。これを読んでいる男性読者の中にもおられるかもしれません。生前に尿道カテーテル挿入が必要であった場合、このような症例では手技が困難であった可能性があります。また、過剰な勃起により性交疼痛を経験していた可能性があるかもしれません。1)Jabali SS, Mohammed AA. Triphallia (triple penis), the first reported case in human. Int J Surg Case Rep. 2020;77:198-200.

15.

高リスク皮膚扁平上皮がんの術後補助療法、セミプリマブがDFS延長/NEJM

 術後放射線療法後の高リスク皮膚扁平上皮がん(cSCC)患者において、セミプリマブによる術後補助療法はプラセボと比較して無病生存期間(DFS)を有意に延長した。オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのDanny Rischin氏らC-POST Trial Investigatorsが、16ヵ国107施設で実施した第III相無作為化プラセボ対照試験「C-POST試験」の、二重盲検期の解析結果を報告した。高リスクのcSCC患者は、根治的局所療法後に再発するリスクが高いが、全身療法による術後補助療法の有用性は臨床試験で十分に確立されていなかった。NEJM誌オンライン版2025年5月31日号掲載の報告。対プラセボでDFSを比較 研究グループは、18歳以上の外科的切除および術後放射線療法を完了した限局性または局所性のcSCC患者のうち、高リスクの結節性または非結節性病変を有する患者を、セミプリマブ群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 高リスクの結節性病変は最大径20mm以上で節外浸潤を伴うまたは節外浸潤の有無にかかわらず3つ以上、高リスクの非結節性病変はin-transit転移、指定された神経の神経周囲浸潤、骨浸潤を伴うT4原発腫瘍、または局所再発で少なくとも1つの予後不良因子を有する(N2b以上、腫瘍径4.0cm超のT3以上病変、腫瘍径2cm以上で低分化がんの組織学的特徴を有する)、と定義された。 セミプリマブまたはプラセボは、当初350mgを3週ごとに12週間静脈内投与した後、700mgを6週ごとに変更され、36週間(計48週間)投与された。いずれも、最長48週間、または再発、許容できない毒性の発現、同意撤回まで投与した。 主要評価項目はDFS、副次評価項目は無局所再発生存期間、無遠隔再発期間、全生存期間、および安全性などであった。セミプリマブ群で再発または死亡リスクが68%低下、24ヵ月DFS率は87% 2019年6月~2024年8月に526例がスクリーニングされ、415例がセミプリマブ群(209例)とプラセボ群(206例)に無作為化された。 追跡期間中央値24ヵ月において、セミプリマブ群はプラセボ群と比較しDFSが有意に改善した。主要評価項目のイベントはそれぞれ24例、65例に発現し、再発または死亡のハザード比(HR)は0.32(95%信頼区間[CI]:0.20~0.51、p<0.001)、24ヵ月DFS率はそれぞれ87.1%(95%CI:80.3~91.6)、64.1%(95%CI:55.9~71.1)であった。 セミプリマブ群ではプラセボ群と比較して、局所再発(イベント数はそれぞれ9例vs.40例、HR:0.20[95%CI:0.09~0.40])および遠隔再発(10例vs.26例、0.35[0.17~0.72])のリスクも低下した。 Grade3以上の有害事象は、セミプリマブ群で23.9%、プラセボ群で14.2%に発現し、投与中止に至った有害事象はそれぞれ9.8%および1.5%であった。

16.

心臓発作から回復後にしてはいけないこと

 心臓発作から回復した後に、座位行動の時間が長いほど発作再発や死亡リスクが高く、座位行動を運動または睡眠に置き換えることでそのリスクが抑制される可能性のあることが明らかになった。米コロンビア大学医療センターのKeith Diaz氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes」に5月19日掲載された。 この研究は、2016~2020年に急性冠症候群(心筋梗塞や不安定狭心症)の症状のために同センター救急外来で治療を受けた成人患者を対象に実施された。退院後30日間にわたり、手首装着型の加速度計を用いて、座位行動や身体活動、および睡眠の時間を測定。また退院1年後に、電話調査や医療記録、死亡記録によって転帰が確認された。解析対象者数は609人(平均年齢62歳〔範囲21~96〕、男性52%)で、1日の座位時間は平均13.6±1.8時間だった。 1年間の追跡で8.2%の患者に何らかのイベント(急性冠症候群の再発または新たな心血管疾患の発症および死亡)の発生が確認された。対象者全体を座位行動時間の三分位に基づき3群に分け、第1三分位群(座位行動時間が短い下位3分の1)を基準にイベント発生リスクを比較すると、第3三分位群(座位行動時間が長い上位3分の1)の人は約2.6倍リスクが高かった。詳しくは、第2三分位群がハザード比(HR)0.95(95%信頼区間0.37~2.40)、第3三分位群がHR2.58(同1.11~6.03)であって、座位行動時間が長いほどハイリスクとなる傾向が示された(傾向性P値=0.011)。 統計学的手法を駆使した検討により、30分間の座位行動をやめて中~高強度の身体活動をしたとすると、イベントリスクが61%低下することが分かった(HR0.39〔0.16~0.96〕)。また、軽度の身体活動に置き換えた場合にも、リスクが51%低下(HR0.49〔0.32~0.75〕)すると計算された。さらに、睡眠に置き換えた場合にも、14%のリスク低下(HR0.86〔0.78~0.95〕)が予測された。 Diaz氏はこの研究の背景として、「現在の治療ガイドラインは、心臓発作後の患者に対して、運動を奨励することに重点を置いている。それに対してわれわれは、座位時間の長さそのものが、心血管リスクを押し上げる可能性があるのではないかと考えた」と語っている。そして得られた結果を基に、「心臓発作を経験した後になにもマラソンを始めることはなく、座る時間を減らし体を動かしたり睡眠を少し増やしたりするだけで大きな違いが生まれるようだ」と総括。「この結果を基に、医療専門家が、より柔軟で個別化されたアプローチを採用するように変化していくのではないか」と付け加えている。 同氏はまた、座位行動を睡眠に置き換えることでもリスクが低下する可能性が示されたことについて、「この結果には驚いた。睡眠は心身の回復に欠かせず、心臓発作のような深刻な健康問題の後には特に重要となるのではないか」と推察している。

17.

多くの高齢者が白内障手術に恐怖心を抱いている

 白内障の手術は最も安全性の高い手術の一つであり、成功率は95%に達する。それにもかかわらず、多くの高齢者は失明を恐れて手術を受けていないことが、米シンシナティ大学医学部のLisa Kelly氏らによる研究で明らかにされた。この研究の詳細は、「The Journal of Clinical Ophthalmology」に3月28日掲載された。 白内障は、目のレンズの役割を担う水晶体が白く濁り、視界がぼやけたり暗くなったりする病態を指す。原因は、主に加齢に伴い水晶体を構成するタンパク質が酸化して白く濁ることにある。米クリーブランド・クリニックによると、90代の約半数では、どこかの時点で濁った水晶体を透明な人工水晶体に置換する手術を受ける必要があるという。手術に要する時間は非常に短い上に、痛みはほとんどない。米国では毎年300万件以上の白内障手術が行われている。 今回の研究でKelly氏らは、シンシナティ大学医療センターのHoxworth眼科クリニックで募集した50歳以上の白内障患者42人(平均年齢66.2歳、男性17人)を対象に、白内障手術および失明に対する恐怖心と健康リテラシーとの関係を評価した。全ての対象者が、白内障の病理や治療に関する理解や態度を評価する質問票に回答した。また、Rapid Estimate of Adult Literacy in Medicine-Short Form(REALM-SF〔成人の医療リテラシー簡易評価法〕)による健康リテラシーの評価も受けた。 その結果、REALM-SFのスコアと白内障手術に対する恐怖心は関連しておらず、健康リテラシーが白内障手術に対する恐怖心に影響しないことが示唆された。実際、約36%の患者が白内障手術に対する恐怖心を報告し、そのうちの53%は「失明に対する不安」を恐怖心の理由として挙げていた。解析からは、白内障手術に対する恐怖心と「手術により視力が改善する可能性がある」との考えの間に、統計学的に有意な関連が見られ、手術効果に対する患者の考えが手術に対する恐怖心に影響することが示唆された。一方、失明に対する恐怖心と「手術によって視力が改善する可能性がある」との考えとの間に有意な関連は見られなかった。研究グループは、「つまり、失明に対する恐怖心は知識不足に基づくものではなく、より本能的な何かに基づくということだ」との考えを示している。 論文の筆頭著者であるシンシナティ大学医学部のSamantha Hu氏は、「患者に大量の情報を提供しても、必ずしも不安が軽減されるわけではない」と同大学のニュースリリースの中で話す。Kelly氏は、「この研究結果はむしろ、オープンなコミュニケーションによる医師と患者の良好な関係の重要性を指摘している。患者教育は確かに重要だが、それだけでは不十分なこともある。患者が恐怖心を克服できるよう、人間関係と信頼関係を築くことも同様に重要だ。これは医師にとって重要な教訓だ」と述べている。 さらにKelly氏は、「この研究は、患者が恐怖心を抱えていることを改めて認識させてくれる。われわれの役割は、健康管理のパートナーとして患者と協力しながら医療に取り組むことだ」と述べている。

18.

第16回 認知症介護者は将来の認知症リスクが高い? 米国の研究が示す、介護者の見過ごされがちな健康問題

急速な高齢化が進む日本で、認知症は多くの人にとって身近な課題でしょう。家族が認知症と診断され、介護に奮闘している方も少なくないと思います。そんな中、その献身的な介護が、実は介護者自身の将来の健康、とくに「脳の老化」のリスクを高めている可能性があるとしたら…。米国から出された報告は、まさにこの事実を指摘し、警鐘を鳴らしています1)。介護者が抱える、見過ごされがちな認知症リスク要因米国・アルツハイマー協会のPublic Health Center of Excellence on Dementia Risk Reductionおよびミネソタ大学のPublic Health Center of Excellence on Dementia Caregivingという機関が、2025年6月12日に発表した報告書によれば、認知症患者を介護する人の5人中3人近く(59%)が、自分自身の認知症発症の可能性を高めるリスク要因を少なくとも1つ抱えていることが明らかになりました。さらに、4人に1人(24%)は2つ以上のリスク要因を抱えている、ともされています。この報告書は、2021~22年に米国の47州で収集されたデータを分析したものです。その結果、認知症患者の介護者は一般の人と比べて、脳の老化に関連する5つのリスク要因を持つ割合が高いことがわかりました 。具体的な数値は以下の通り。喫煙(30%高い)高血圧(27%高い)睡眠不足(21%高い)糖尿病(12%高い)肥満(8%高い)一方、唯一「身体活動を欠く」という点については、介護者の方が一般の人より9%低いという結果でした。これは、介護そのものに伴う身体的な負担や活動が影響している可能性が高いと見られています。こうした結果は、認知症患者の介護者が家族や友人のケアに追われるあまり、自分自身の健康を見過ごしがちになってしまう傾向を表しているのかもしれません。とくに深刻な「若い世代の介護者」の健康リスクこの報告書がとくに強い懸念を示しているのが、若い世代の介護者です。若い介護者は、同世代の他の人と比べて、複数の認知症リスク要因を持つ可能性が40%も高いことがわかりました。さらに詳細に各要因を見ると、その差は驚くべきものでした。若い介護者は同世代の非介護者と比較して、喫煙する可能性が86%高い高血圧である可能性が46%高い一晩の睡眠時間が6時間未満であると報告する可能性が29%高いという結果でした。これは、仕事や子育てといったやるべきことに加えての介護負担が、心身にきわめて深刻な影響を及ぼしていることを示唆しています。介護者を社会全体で支えるために今回ご紹介した報告書は、単にリスクを指摘するだけでなく、今後の対策の方向性も示唆しています。介護者の中でどの認知症のリスク要因が多いかを知ることで、資源や介入策の優先順位付けをし、調整することができるからです。また、今回の報告書は、介護者の負担が精神的なストレスにとどまらず、身体的リスク、ひいては介護者自身の将来の認知症リスクにまでつながることを示唆した点で重要です。これはもはや、個人や家庭内の問題ではなく、社会全体で取り組むべき公衆衛生上の課題といえるでしょう。介護は誰にとっても他人事ではありません。介護者が孤立せず、自分自身の健康にも目を向けることができるよう、周囲の理解とサポート、そして行政による的を絞った支援策の充実が急がれます。今回のニュースは、介護者への負担がさまざまな形で自身の健康リスクにまでつながっていることを改めて私たちに教えてくれています。参考文献・参考サイト1)Public Health Center of Excellence on Dementia Risk Reduction. Risk Factors for Cognitive Decline Among Dementia Caregivers 2021-2022 Data from 47 U.S. States. 2025 Jun 12.

19.

2型DMとCKD併存、フィネレノン+エンパグリフロジンがUACRを大幅改善/NEJM

 2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)患者の初期治療について、非ステロイド性MR拮抗薬フィネレノン+SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの併用療法は、それぞれの単独療法と比べて尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の大幅な低下に結び付いたことを、米国・Richard L. Roudebush VA Medical CenterのRajiv Agarwal氏らCONFIDENCE Investigatorsが報告した。同患者における併用療法を支持するエビデンスは限定的であった。NEJM誌オンライン版2025年6月5日号掲載の報告。併用療法と各単独療法のUACR変化量を無作為化試験で比較 研究グループは、CKD(eGFR:30~90mL/分/1.73m2)、アルブミン尿(UACR:100~5,000mg/gCr)、2型糖尿病(レニン・アンジオテンシン系阻害薬服用)を有する患者を、(1)フィネレノン10mg/日または20mg/日(+エンパグリフロジンのマッチングプラセボ)、(2)エンパグリフロジン10mg/日(+フィネレノンのマッチングプラセボ)、(3)フィネレノン+エンパグリフロジンを投与する群に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、対数変換した平均UACR値のベースラインから180日目までの相対変化量であった。安全性も評価した。180日時点で併用群のUACRは単独群より29~32%低下 ベースラインで、UACRは3群で同程度であった。UACRのデータが入手できた被験者(フィネレノン単独群258例、エンパグリフロジン単独群261例、併用群265例)におけるUACR中央値は579mg/gCr(四分位範囲:292~1,092)であった。 180日時点で、併用群のUACRは、フィネレノン単独群よりも29%有意に大きく低下し(ベースラインからの変化量の差の最小二乗平均比:0.71、95%信頼区間:0.61~0.82、p<0.001)、エンパグリフロジン単独群よりも32%有意に大きく低下した(0.68、0.59~0.79、p<0.001)。 単独群または併用群のいずれも、予期せぬ有害事象は認められなかった。 試験薬の投与中止に至った有害事象の発現頻度は、3群とも5%未満だった。症候性低血圧の発現は併用群の3例で報告され、急性腎障害の発現は合計8例(併用群5例、フィネレノン単独群3例)であった。高カリウム血症の発現は併用群25例(9.3%)、フィネレノン単独群30例(11.4%)で、相対的に併用群が約15~20%低かった。この所見は、重度の高カリウム血症のリスクがSGLT2阻害薬により抑制されることが示されている先行研究の所見と一致していた。

20.

両側卵管卵巣摘出術で遺伝性乳がん患者の死亡とがんリスクが低下

 BRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子のいずれかまたはその両方に病的バリアントを有する乳がんサバイバーでは、卵巣と卵管を摘出することで死亡リスクが劇的に低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。この研究では、両側卵管卵巣摘出術(BSO)を受けた乳がんサバイバーで、死亡リスクが48%低かったことが示されたという。英ケンブリッジ大学がん遺伝疫学センターのHend Hassan氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Oncology」に5月7日掲載された。 BRCA1/2遺伝子の病的バリアント保持者は、乳がんと卵巣がんの発症リスクが高くなるため、一般的には乳がん罹患歴の有無に関わりなくBSOを行い、卵巣がんリスクを軽減することが推奨されている。しかし、卵巣と卵管の摘出は急激な閉経を引き起こし、それに伴う心血管疾患やうつ病などのリスク上昇が懸念されている。 今回の研究では、BRCA1/2遺伝子の病的バリアント保持者で1995年から2019年の間に乳がんの診断を受けた20〜75歳の女性3,423人を対象に、BSOと長期健康アウトカムの関連を検討した。病的バリアント保持者の内訳は、BRCA1遺伝子が1,674人、BRCA2遺伝子が1,740人、両遺伝子が9人だった。このうち1,855人がBSOを受けており、遺伝的バリアント別に見た内訳は、BRCA1遺伝子851人(50.8%)、BRCA2遺伝子1,001人(57.5%)、両遺伝子3人(33.3%)だった。追跡期間中央値は5.5年だった。 解析の結果、BSOを受けた女性では受けなかった女性に比べて全死亡リスクが48%(ハザード比0.52、95%信頼区間0.41〜0.64)、乳がん関連死亡リスクが45%(同0.55、0.42〜0.70)低いことが示された。リスク低下は、BRCA2遺伝子の病的バリアント保持者で、BRCA1遺伝子の病的バリアント保持者よりも顕著だった(全死亡:56%対38%、乳がん関連死亡:52%対38%)。また、BSOを受けた女性では、乳がん以外のがん(2次がん)の再発リスクも41%有意に低かった(同0.59、0.37〜0.94)。一方、BSOと心血管疾患や脳卒中、うつ病との間に有意な関連は認められなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、本研究で認められたリスク低下の全てがBSOに起因すると言うことはできないものの、その可能性を強く示唆する結果だとの見方を示している。 Hassan氏は、「BSOを行うことで卵巣がんリスクが劇的に低下することは分かっているが、一方で、突然の閉経が予期せぬ結果をもたらす可能性が懸念されていた」とケンブリッジ大学のニュースリリースの中で述べている。そして、「本研究では、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントを有し、乳がんの既往歴がある女性において、BSOが心臓病やうつ病などの副作用をもたらす可能性は低く、逆に生存率の向上やがんリスクの低下の点で利点をもたらす可能性があるという、安堵をもたらす結果が示された」と述べている。 一方、本論文の上席著者であるケンブリッジ大学公衆衛生・プライマリケア学部のAntonis Antoniou氏は、「本研究結果は、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントに関連するがんに罹患した女性に対するカウンセリングにおいて重要な知見となるだろう。この知見に基づくことで、BSOの実施について十分な情報に基づいた決定を下すことができるようになるはずだ」とニュースリリースで述べている。

検索結果 合計:10240件 表示位置:1 - 20