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高齢者の不安症状に最も効果的な薬剤クラスは?

 不安とその障害は、高齢者で頻繁にみられる症状である。高齢者における精神薬理学的治療リスクを考慮すると、不安のマネジメントに関する臨床的意思決定は、入手可能な最も強力なエビデンスに基づき行われるべきである。カナダ・マックマスター大学のSarah E. Neil-Sztramko氏らは、高齢者における不安の薬物療法に関するエビデンスを包括的に統合するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。The Lancet. Psychiatry誌2025年6月号の報告。 2024年4月23日までに公表された研究をMEDLINE、Cochrane Central、Embase、PsycINFO、CINAHLよりシステマティックに検索した。対象研究は、高齢者(60歳以上、平均年齢65歳以上またはこれらの基準を満たすサブグループ解析)における不安に対する薬物療法に関するランダム化比較試験とした。主要アウトカムは、不安症状の軽減、治療反応、寛解とした。連続変数は標準化平均差(SMD)、二値変数は絶対差とリスク比(RR)を算出した。バイアスリスクの評価にはCochrane Risk of Biasツール、エビデンスの確実性の評価にはGRADEを用いた。本研究の実施には、経験を有する人たちが関与した。 主な結果は以下のとおり。・適格研究19件、2,336例(女性:1,592例[68.15%]、男性:722例[30.91%]、性別不明:22例[0.94%])が特定された。・人種または民族について報告した研究は8件のみ、大部分の対象は白人であった(1,428例中1,309例[91.6%])。性別に関するアウトカムを報告した研究はなかった。・抗うつ薬使用群は、不安症状の軽減において、プラセボ群または待機リスト対照群と比較し、より効果的であった(SMD:−1.19、95%CI:−1.80〜−0.58)。エビデンスの確実性は中程度、異質性は顕著であった(I2=92.34%、p<0.0001)。・抗うつ薬群は、治療反応または寛解においても、プラセボ群または待機リスト対照群と比較し、より効果的であった(相対リスク:1.52、95%CI:1.21〜1.90、絶対差:1,000人当たり146人、95%CI:59〜252)。エビデンスの確実性は低く、異質性も低かった(I2=8.09%、p=0.36)。・計画されたサブグループ解析では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SMD:−1.84、95%CI:−2.52〜−1.17)は、セロトニンノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SMD:−0.46、95%CI:−0.65〜−0.27)と比較し、不安症状の軽減効果が大きかった。しかし、治療反応率または寛解率には差が認められなかった。・ベンゾジアゼピン系薬剤使用群は、プラセボ群と比較し、不安症状を軽減する可能性はあるが、エビデンスの確実性は非常に不確実であり、バイアスリスクも高かった。・主要アウトカムに関する他の薬剤クラスのメタ解析は実施できなかった。 著者らは「抗うつ薬は、高齢者の不安症状軽減に対して効果的であり、安全性および忍容性を裏付けるエビデンスも認められた。一方、ベンゾジアゼピン系薬剤の有効性、安全性に関するエビデンスは弱かった」とし「これらの知見は、高齢者の不安症状治療において、エビデンスに基づく診療指針となりうる」としている。

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災害時にLINEを活用し糖尿病患者の命を守る/糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 地震や洪水などの自然災害が発生した場合、糖尿病患者、とくにインスリン依存状態の患者はインスリンの入手などに困難を来し、生命の危機に直面するケースが予想され、災害時に患者の様子や不足する薬剤をいかに把握するかが、課題となっている。 そこで本稿では「口演62 災害医学」から「糖尿病患者に対するLINEによる双方向性の情報伝達システムの構築」(演者:西田 健朗氏[熊本中央病院糖尿病・内分泌・代謝内科])をお届けする。災害時に困る患者の居場所、健康状態の把握の一助となるLINE 2016年に発生した熊本地震を経験した熊本中央病院の西田氏が JADEC DiaMAT推進委員会を代表して、災害時に役立てることができるLINEを利用した双方向情報伝達システムの構築について口演を行った。 日本糖尿病協会(JADEC)と日本糖尿病学会は協働して、自然災害などから糖尿病患者を守る取り組みを強化している。具体的には、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT:Diabetes Medical Assistance Team)を創設し、災害発生時に災害派遣医療チーム(DMAT)などの後方支援や被災者への直接支援などを行う体制の構築を目指している。 この災害時の情報伝達体制構築の一環として、わが国で普段から広く使用されている通信アプリ“LINE”を基盤にしてシステムを構築した。システムでは、アカウント管理の簡便性からJADEC本部のアカウントのみを作成し、患者が登録していく方式で双方向の情報伝達を行っている。LINEにはインスリン依存状態の患者などから登録をしてもらい、氏名や住所などの個人情報や自分の病状、かかりつけ医療機関や処方薬局などを細かく入力してもらうようにした。 2025年5月28日現在で1,517人の患者などが登録しており、登録に際しては使用しているインスリンの入力ができる。災害時には、必要なインスリンやデバイスなどの情報をJADEC事務局に連絡することができ、JADEC事務局は位置情報で患者の位置を把握、インスリンやデバイスの搬送での活用が期待されている。 実際にこうした情報システムが稼働するのか、患者のニーズを満たしているのかの検証を西田氏らは、2024年9月1日(防災の日)に訓練として行った。 LINE登録者約300人中87人、医師5人が訓練に参加し、登録者が事務局との双方向通信を行った。訓練では、登録者のLINE操作や事務局の内容確認が行われたほか、必要により個別の質問には医師が対応した。 訓練後のアンケートについて、「登録者の満足度」は5点中4.15点であり、「このLINEを紹介したい」は5点中4.44点であり、肯定的な意見が多数を占めていた。また、登録者の自由記載では、「使われている言葉が難しい」「インスリンの入手について安心材料になった」などの課題や感想を聞くことができた。 西田氏は、「今後はさらにLINEシステムを向上させ患者の位置情報から、災害時に患者へ必要なインスリンや治療薬を届けることができるようにシステム構築を進めていく」と展望を語った。

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術前療法でリンパ節転移陰転の乳がん、照射は省略できるか/NEJM

 乳がん治療では、病理学的に腋窩リンパ節転移陽性の患者における領域リンパ節照射の有益性が確立しているが、術前補助化学療法後に病理学的にリンパ節転移なし(ypN0)の患者でも有益かは不明だという。米国・AdventHealth Cancer InstituteのEleftherios P. Mamounas氏らは、無作為化第III相試験「NSABP B-51-Radiation Therapy Oncology Group 1304試験」において、術前補助化学療法後に腋窩リンパ節転移陰性となった患者では、術後補助療法として領域リンパ節照射を追加しても、浸潤性乳がんの再発または乳がん死のリスクは低下しないことを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年6月5日号で報告された。7ヵ国の無作為化第III相試験 NSABP B-51-Radiation Therapy Oncology Group 1304試験は、日本を含む7ヵ国で実施され、2013年8月~2020年12月に参加者を登録した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。 臨床病期T1~T3 N1 M0の切除可能な乳がんで、生検で病理学的に腋窩リンパ節転移陽性と確認され、標準的な術前補助化学療法(アントラサイクリン系またはタキサン系[あるいはこれら両方]をベースとするレジメン)を8週間以上受け、HER2陽性例は抗HER2療法も受けており、手術時に病理学的に腋窩リンパ節転移陰性(ypN0)であった患者を対象とした。 被験者を、領域リンパ節照射(総線量50 Gy、25分割)を受ける群、またはこれを受けない群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、浸潤性乳がんの再発または乳がん死のない期間(浸潤性乳がん無再発期間)であり、副次評価項目は、局所・領域リンパ節無再発期間、無遠隔再発期間、無病生存期間、全生存期間などとし、安全性の評価も行った。副次評価項目にも有意差はない 1,641例を登録し、照射群に820例、非照射群に821例を割り付けた。全体の年齢中央値は52歳(四分位範囲:44~60)で、40.3%が50歳未満であった。59.9%が臨床的T2腫瘍(腫瘍径2~5cm)、53.2%がホルモン受容体陽性、56.7%がHER2陽性で、79.0%がトリプルネガティブまたはHER2陽性のがんであった。78.2%で病理学的完全奏効(乳房とリンパ節)が得られ、57.7%が乳房の部分切除術、42.3%が全摘術を受け、55.4%でセンチネルリンパ節生検が行われた。 1,556例(照射群772例、非照射群784例)を主解析の対象とした。追跡期間中央値59.5ヵ月の時点で、主要評価項目のイベントは109件発生した(照射群50件[6.5%]、非照射群59件[7.5%])。領域リンパ節照射は、浸潤性乳がん無再発期間の有意な延長をもたらさなかった(ハザード比[HR]:0.88[95%信頼区間[CI]:0.60~1.28、p=0.51])。 また、主要評価項目のイベントのない生存率の点推定値は、照射群が92.7%、非照射群は91.8%であった。 照射群では、局所・領域リンパ節無再発期間(HR:0.57[95%CI:0.21~1.54])、無遠隔再発期間(1.00[0.67~1.51])、無病生存期間(1.06[0.79~1.44])、全生存期間(1.12[0.75~1.68])についても、改善効果はみられなかった。Grade3の放射線皮膚炎は5.7% プロトコールで規定された治療関連の死亡の報告はなく、予期せぬ有害事象は認めなかった。Grade4の有害事象は、照射群で0.5%、非照射群で0.1%に、Grade3はそれぞれ10.0%および6.5%に発現した。最も頻度の高いGrade3の有害事象は放射線皮膚炎で、照射群の5.7%、非照射群でも3.3%に発現した。 著者は、「本試験は、生検で腋窩リンパ節転移が確認された患者では、術前補助化学療法でypN0に達した場合に、領域リンパ節照射を行っても、5年後の腫瘍学的なアウトカムは改善しないことを示している」「これらの結果は、術前補助化学療法を受けた患者ではリンパ節の病理学的な反応に基づいて領域リンパ節照射の実施を決められるという治療戦略への転換を支持するものである」「長期的なアウトカムの評価のために追跡調査を継続中である」としている。

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ブロークンハート症候群による死者数は依然として多い

 「ブロークンハート症候群」と聞くと、深い喪失感から心が打ちひしがれるといったロマンチックなおとぎ話をイメージするかもしれない。しかし、正式には「たこつぼ型心筋症(Takotsubo cardiomyopathy;TC)」と呼ばれるこの疾患は、高い死亡率や合併症の発生率に関連しており、こうした状況は改善していないことが、米アリゾナ大学サーバー心臓センター臨床教授のMohammad Reza Movahed氏らによる研究で示された。詳細は、「Journal of the American Heart Association」に5月14日掲載された。 TCは、大切な存在との死別や離婚などの精神的あるいは肉体的にストレスフルな出来事がきっかけでストレスホルモンの分泌量が急増し、それに対する反応として発症すると考えられている。研究グループによると、TCでは心臓の一部が一時的に肥大してポンプ機能が十分に働かなくなるため、短期的な心不全や心臓に関連した死亡のリスクが高まるという。 Movahed氏らは今回、全米の病院の医療記録を用いて、2016年から2020年にTCにより入院した18歳以上の患者の死亡率と合併症について調べた。 その結果、この期間に19万9,890人がTCにより入院していたと推定された。発症時の平均年齢は67.09歳で、83%が女性であった。TCの発症率は61歳以上の人で最も高く、また46~60歳の人では31~45歳の人と比べて3倍もリスクが高かった。診断件数が継続的に増加している傾向は見られなかったが、全体的には2016年の3万9,015例から2020年には4万1,290例に増加していた。 TCの主な合併症のうち発生頻度が高かったのは、うっ血性心不全(35.93%)、心房細動(20.79%)、心原性ショック(6.66%)、脳卒中(5.38%)、心停止(3.42%)であった。また、TCのない患者と比べて、TC患者では合併症発生のオッズが、心原性ショックで12.71倍、心停止で4.79倍、心不全で3.52倍、脳卒中で2倍、心房細動で1.43倍高いことも示された。 死亡率については、TCがない患者の2.41%に対してTC患者では6.58%と約3倍高かった。さらに、TC患者は女性が大多数を占めるものの、この疾患は特に男性に重い負担を強いており、TCによる死亡率は、女性が5.5%であるのに対し男性では11.2%と女性の2倍以上であることが示された。 Movahed氏は、「TCによる死亡率は比較的高く、5年間の研究期間中に有意な変化はなかった。また、院内合併症の発生率も高かった。これらの結果にはわれわれも驚いた。死亡率が高い状態が続いていることは気がかりであり、より良い治療法と新たな治療アプローチを明らかにするため、さらなる研究を行う必要がある」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースの中で述べている。

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多疾患併存はうつ病リスクを高める?

 慢性疾患との闘いは人を疲弊させ、うつ病になりやすくするようだ。新たな研究で、長期にわたり複数の慢性疾患を抱えている状態(多疾患併存)は、うつ病リスクの上昇と関連することが明らかにされた。リスクの大きさは慢性疾患の組み合わせにより異なり、一部の組み合わせでは特にリスクが高くなることも示されたという。英エディンバラ大学一般診療学分野教授のBruce Guthrie氏らによるこの研究結果は、「Communications Medicine」に5月13日掲載された。 Guthrie氏らは、UKバイオバンク研究参加者のうち、ベースライン時に1つ以上の慢性疾患を有していた37〜73歳の成人14万2,005人のデータを、69種類の慢性疾患の有無に基づき分類した。次いで、4種類のクラスタリング手法を比較検討し、最適と判断されたモデルを選定した。その後、ベースライン時にうつ病の既往のなかった14万1,011人(うち3万551人はベースライン時に身体疾患のなかった対照)を対象に、多疾患併存の特徴による分類(クラスター)ごとに、その後のうつ病発症との関連を比較検討した。 平均6.8年に及ぶ追跡期間中に、5,904人(4.2%)がうつ病を発症していた。心疾患や糖尿病などの心代謝疾患を多く含むクラスターは全対象者に占める割合が特に高く、全体の15.5%、女性では19.7%、男性では24.2%に上った。うつ病発症のハザード比は、加齢黄斑変性・糖尿病での1.29から、極めて多岐にわたる慢性疾患での2.42(女性2.67、男性2.65)までの範囲であり、ほとんどのクラスターで身体疾患のない人と比べて高かった。対象者全体で顕著なリスク上昇が見られたのは、片頭痛(同1.96)、呼吸器疾患(同1.95)、心血管疾患・糖尿病(同1.78)などであった。男女別で分けて見ると、セリアック病などの消化器疾患は男女の双方で(男性:同2.06、女性:同1.83)、心血管疾患・慢性腎臓病・痛風は男性において(同1.87)うつ病リスクを大幅に上昇させていた。一方、女性では、関節や骨の健康問題がうつ病リスクを大幅に上昇させていた(同1.81)。 Guthrie氏は、「医療では身体的健康と精神的健康を全く別のものとして扱うことが多いが、この研究は、身体疾患を持つ人におけるうつ病の発症をより適切に予測し、管理する必要があることを示している」と述べている。 一方、論文の筆頭著者であるエディンバラ大学のLauren DeLong氏は、「身体的健康状態とうつ病の発症の間には明確な関連が見られたが、この研究はまだ始まりに過ぎない。本研究結果が他の研究者にも刺激を与え、身体的健康状態と精神的健康状態の関連性を調査・解明するきっかけになることを期待する」と述べている。

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長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効

長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効中国の長寿の村で見つかった細菌が、プラセボ対照無作為化試験でうつ病や鼻炎の治療効果を示しました1,2)。精神の不調の世界的な負担の主因であるうつ病と、便秘などの胃腸不調の関連が最近になって報告されています。たとえば、米国人口を代表する米国国民健康栄養調査 (NHANES)の情報を調べた試験で、慢性の下痢や便秘がうつ病患者でより多く認められています3)。うつ病患者495例の慢性の下痢と便秘の有病率はそれぞれ15.53%と9.10%で、うつ病でない4,709例のそれらの有病率(それぞれ6.05%と6.55%)より高いことが示されました。いくつかの報告によると、うつ病などの気分障害と胃腸不調の関連には腸-脳軸(gut-brain axis)と呼ばれる腸と中枢神経系(CNS)のやり取りが関係しているようです。また、胃腸の微生物が胃腸と脳の通信を促しており、その乱れはうつ病、自閉症、パーキンソン病などの神経や精神の疾患と関連するようです。そこで、ためになる細菌(プロバイオティクス)などで腸内微生物環境を手入れして精神不調を治療する試みが増えています。長寿で知られる中国南西部の村(巴馬)の1人の長寿老人(centenarian)の便から見つかったBifidobacterium animalis subsp. Lactis A6(BBA6)という細菌の研究はその1つで、BBA6が微生物-腸-脳軸を手入れして注意欠如・多動症を模すラットの海馬や記憶の障害を緩和しうることが北京農業大学のRan Wang氏らの研究で示されています4)。その後Wang氏らはBBA6の研究を臨床段階へと進め、うつ病、具体的には便秘でもあるうつ病患者へのBBA6の効き目を調べるプラセボ対照無作為化試験を実施しました。試験にはうつ病患者107例が参加し、便秘でもあるうつ病患者と便秘ではないうつ病患者がそれぞれ8週間のBBA6かプラセボを投与する群に割り振られました。BBA6投与の効果は便秘合併うつ病患者に限って認められました。それら便秘合併うつ病患者への8週間のBBA6投与後のハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)はプラセボ投与群より低くて済んでいました1)。便秘症状の評価尺度PAC-SYMもBBA6投与群のほうがプラセボ群より下がりました。便秘とうつ病の合併を模すラットで調べたところ、BBA6はうつ病患者に有害らしいキヌレニンを減らしてセロトニンを増やすことが示されました5)。便秘合併うつ病患者のBBA6投与後の血液や便にはセロトニンが多く、キヌレニンが少ないことも確認されており、ラットでの検討と一致する結果が得られています。また、BBA6が投与された便秘合併うつ病患者は先立つ研究でうつ病治療効果やセロトニン生成促進効果が示唆されているビフィドバクテリウムとラクトバチルスがより多く、トリプトファン生合成経路が盛んでした。どうやらBBA6はセロトニンやキヌレニンの出所であるトリプトファン代謝を手入れすることで便秘とうつ病の合併を緩和するようです。さて、BBA6が役立ちうる用途はうつ病治療に限られるわけではなさそうで、Wang氏らによる別のプラセボ対照無作為化試験では、アレルギー性鼻炎の治療効果が示されています2)。試験には通年性アレルギー性鼻炎患者70例が参加し、うつ病試験と同様にBBA6かプラセボが8週間投与され、ベースライン時と比べた8週時点の鼻症状検査点数低下の比較でBBA6がプラセボに勝りました。Wang氏らは便秘とうつ病の合併への長期の効果を調べる試験を予定しています5)。また、アレルギー性鼻炎治療効果のさらなる裏付け試験が必要と述べています2)。 参考 1) Wang J,et al. Sci Bull(Beijing). 2025 Apr 21. [Epub ahead of print] 2) Wang L, et al. Clin Transl Allergy. 2025;15:e70064. 3) Ballou S, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2019;17:2696-2703. 4) Yin X, et al. Food Funct. 2024;15:2668-2678. 5) Probiotic breakthrough: Bifidobacterium animalis subsp. Lactis A6 shows promise in alleviating comorbid constipation and depression / Eurekalert

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女性のCOPDリスクの高さはタバコでは説明できない

 女性はCOPD(肺気腫や慢性気管支炎)のリスクが男性より約50%高く、このリスクの高さはCOPDの主要原因とされる喫煙だけでは説明がつかないとする研究結果が報告された。米ワシントン大学のAlexander Steinberg氏らの研究の結果であり、詳細は「BMJ Open Respiratory Research」に5月8日掲載された。 COPDは‘chronic obstructive pulmonary disease’の略で、国内では慢性閉塞性肺疾患とも呼ばれる。肺の慢性的な炎症などのために呼吸機能が徐々に低下し、呼吸苦が生じて体を動かすことが困難となっていく。主要な原因は喫煙とされていて、生活習慣病の一つに位置付けられている。 近年、女性は喫煙率が低く、たとえ喫煙者であっても喫煙本数が少ないにもかかわらず、COPD有病率が高いことが注目されるようになり、その理由の一つとして、女性はタバコの煙の影響を受けやすいのではないかという仮説が提唱されている。このような状況を背景としてSteinberg氏らは、米国国民健康面接調査(NHIS)のデータを用いた検討を行った。 2020年のNHISに参加した40歳以上の成人(女性1万2,638人、男性1万390人)を対象とする解析で、電子タバコの使用率は女性と男性で同程度だったが、従来タイプのタバコ(紙巻きタバコなど)については、現喫煙者、元喫煙者ともに、男性より女性の方が少なかった。それにもかかわらず、COPDの有病率は、女性が7.8%、男性は6.5%で、女性の方が高かった。また、COPDの女性患者は男性患者よりも、喫煙経験のない人の割合が高かった(26.4対14.3%)。なお、女性の喫煙者の紙巻きタバコの喫煙本数は男性喫煙者より少なく(17.6対21.7本/日)、累積喫煙量も少なく(34.8対41.8パックイヤー〈1日の喫煙量と喫煙年数を積算した値〉)、15歳未満で喫煙を始めた人の割合が低かった(19.1対28.0%)。 喫煙経験者におけるCOPD有病率は、男性が11.5%であるのに対して女性は15.9%と高かったが、喫煙経験のない人のCOPDの有病率は、男性が1.7%であるのに対して女性は3.2%とほぼ2倍であり、喫煙経験者で見られる性別による乖離よりも大きかった。 年齢、人種、世帯貧困率、居住地域、喫煙開始年齢、電子タバコ使用状況などの潜在的な交絡因子を調整後、女性は男性よりCOPDの相対リスクが47%高いことが明らかになった(RR1.47〔95%信頼区間1.30~1.65〕)。喫煙経験の有無で層別化すると、経験あり群では、女性は男性より43%ハイリスク(RR1.43〔同1.25~1.63〕)であり、経験なし群では、女性は男性より62%ハイリスクだった(RR1.62〔1.22~2.15〕)。 これらの結果を基に研究者らは、「女性のCOPDリスクが高いのは、喫煙状況や累積喫煙量との関係から推測されるタバコに対する感受性の高さでは説明できない。そうなると改めて、女性のCOPDの有病率が高い原因は何なのかという疑問が浮かび上がる」と語り、いくつかの推論を述べている。例えば、女性は家庭内で調理する際の煙に曝露されたり、家庭用洗剤やエアロゾル化した化粧品を吸入したりする機会が多いことが、リスク上昇に関与している可能性があるという。また、女性は男性よりも気道が狭い傾向があることも、理由として考えられるとしている。

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COVID-19パンデミック期の軽症~中等症患者に対する治療を振り返ってみると(解説:栗原宏氏)

Strong points1. 大規模かつ包括的なデータ259件の臨床試験、合計約17万例の患者データが解析対象となっており、複数の主要データベースが網羅的に検索されている。2. 堅牢な研究デザイン系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス(NMA)という、臨床研究においてエビデンスレベルの高い手法が採用されている。3. 軽症~中等症患者が対象日常診療において遭遇する頻度の高い患者層が対象となっており、臨床的意義が高い。Weak points1. 元研究のバイアスリスク各原著論文のバイアスリスクや結果の不正確さが、メタアナリシス全体の精度に影響している可能性がある。2. 重大イベントの発生数が少ない非重症患者が対象であるため、入院・死亡・人工呼吸器管理といった重篤なアウトカムのイベント数が少なく、効果推定の精度が制限される可能性がある。3. アウトカム評価の不均一性「症状消失までの時間」などのアウトカムは、原著における測定方法や報告形式が不統一であり、統合評価が困難である。その他の留意点1. ワクチン普及の影響は考慮されていない。2. ウイルスのサブタイプは考慮されていない。――――――――――――――――――― 本システマティックレビューでは、Epistemonikos Foundation(L·OVEプラットフォーム)、WHO COVID-19データベース、中国の6つのデータベースを用い、2019年12月1日から2023年6月28日までに公表された研究が対象とされている。当時未知の疾患に対し、様々な治療方法が模索され、そこで使用された40種類の薬剤(代表的なもので抗ウイルス薬、ステロイド、抗菌薬、アスピリン、イベルメクチン、スタチン、ビタミンD、JAK阻害薬など)が評価対象となっている。 調査対象となった「軽症~中等症」は、WHO基準(酸素飽和度≧90%、呼吸数≦30、呼吸困難、ARDS、敗血症、または敗血症性ショックを認めない)に準じて定義されている。 入院抑制効果に関してNNTを算出すると、ニルマトレルビル/リトナビル(NNT=40)、レムデシビル(同:50)、コルチコステロイド(同:67)、モルヌピラビル(同:104)であり、いずれも劇的に有効と評価するには限定的である。 標準治療に比して、症状解消までの時間を短縮したのは、アジスロマイシン(4日)、コルチコステロイド(3.5日)、モルヌピラビル(2.3日)、ファビピラビル(2.1日)であった。アジスロマイシンが有症状期間を短縮しているが、薬理学的な作用機序は不明であること、耐性菌の問題も踏まえると、COVID-19感染を理由に安易に処方することは望ましくないと思われる。 パンデミック当時に一部メディアやインターネット上で有効性が喧伝されたイベルメクチンについては、症状改善期間の短縮、死亡率の低下、人工呼吸器使用率、静脈血栓塞栓症の抑制といったアウトカムにおいて、いずれも有効性が認められなかった。 著者らは、異なる変異株の影響は限定的であるとしている。COVID-19に対する抗ウイルス薬の多くはウイルスの複製過程を標的としており、株による薬効の変化は理論上少ないとされる。ただし、ウイルスの変異により病原性が低下した場合、相対的な薬効の低下あるいは見かけ上の効果増強が生じる可能性は否定できない。 本調査は、非常に多数の研究を対象とした包括的なシステマティックレビューであり、2019年から2023年当時におけるエビデンスの集約である。パンデミックが世界的に深刻化した2020年以降と、2025年現在とでは、COVID-19は感染力・病原性ともに大きく様相を変えている。治療法も、新薬やワクチンの開発・知見の蓄積により今後も変化していくと考えられるため、本レビューで評価された治療法はあくまでその時点での知見に基づくものであることに留意が必要である。

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コンサルテーション―その1【脂肪肝のミカタ】第4回

コンサルテーション―その1Q. プライマリ・ケアから消化器科へのコンサルテーション基準は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は本邦で2,000万人以上と対象が多い疾患のため、医療経済面からも全症例に詳細な検査を行うことは困難である。消化器専門家の立場からは、肝がんの高危険群である肝臓の線維化進行が疑われる症例の拾い上げをすることが重要である1-3)。プライマリ・ケアにおいては、肝臓の線維化進展の簡便な指標としてFibrosis-4(FIB-4) indexや血小板数による消化器科へのコンサルテーションが勧められている1-3)。FIB-4 index1.3未満はかかりつけ医、1.3以上で消化器科へのコンサルテーションとしているが、高齢者では線維化進行度に寄らず全体的にFIB-4 index高値を示す傾向がある。欧州、米国共にガイドラインで65歳以上は2.0以上をコンサルテーションとしており1,2)。高齢者の多い本邦においても、消化器科コンサルテーション基準を変えていく必要がある(図)。(図)プライマリ・ケアから消化器科へのコンサルテーション画像を拡大する1)Rinella ME, et al. Hepatology 2023;77:1797-1835.2)European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542.3)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂.

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子宮頸がん治療の新たな選択肢:チソツマブ ベドチンの臨床的意義/ジェンマブ

 進行・再発子宮頸がん2次治療の新たな選択肢として、ファースト・イン・クラスの抗体薬物複合体(ADC)チソツマブ ベドチン(商品名:テブダック)が注目される。 2025年6月、ジェンマブのプレスセミナーにて、国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科の米盛 勧氏が進行・再発子宮頸がんのアンメットニーズと治療戦略について講演した。進行期の子宮頸がんは予後不良 日本において新規に診断される子宮頸がん患者は年間約1万例、近年でも罹患数は微増している。子宮頸がんは早期では比較的予後良好である。5年生存率はI期で9割超、II期でも7割を超える。その一方、進行期では予後不良でStageIIIの5年生存率は5割強、遠隔転移のあるStgeIVBでは3割を切る。選択肢が少ない転移症例の治療 薬物療法が適応となる遠隔転移症例の1次治療には以前からプラチナ(シスプラチンまたはカルボプラチン)+パクリタキセルが用いられる。2014年にベバシズマブの上乗せによる生存成績の改善が認められ、2021年にはPD-1阻害薬ペムブロリズマブが選択肢に加わった。 一方、2次治療はキードラッグとしてイリノテカンが以前から用いられていた。当時の2次治療以降の奏効割合(ORR)は1〜2割、無増悪生存期間(PFS)中央値は2〜3ヵ月(イリノテカンは4.5ヵ月)、全生存期間(OS)中央値は6〜8ヵ月程度だった。その後、2022年に新たなPD-1阻害薬セミプリマブが登場し、12.0ヵ月のOSを示す。とはいえ、2次治療以降はまだ選択肢は少ない。 早期の診断が増えているものの、子宮頸がんはいまだに進行期での初診が多い。予後の悪さと、治療選択肢の少なさは、進行期子宮頸がん治療の大きな課題と言えるだろう。新たな治療選択肢チソツマブ ベドチンの登場 そのような中、本年(2025年)に2次治療の新たな選択肢としてチソツマブ ベドチンが登場した。チソツマブ ベドチンは抗組織因子(TF)を標的とするモノクローナル抗体チソツマブと抗がん剤MMAE(モノメチルアウリスタンE)のADCである。がん細胞表面に発現したTFに結合してMMAEを放出することで抗腫瘍効果を発揮する。 チソツマブ ベドチンの有用性は国際共同第III相innovaTV 301試験で検証されている。同試験では、再発または遠隔転移を有する子宮頸がん患者を対象にチソツマブ ベドチンと化学療法を比較している。その結果、チソツマブ ベドチンのOS中央値は11.5ヵ月と、9.5ヵ月の化学療法群に比べ有意に延長した(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.54〜0.89、p=0.0038)。PFS中央値も4.2ヵ月と、化学療法群の2.9ヵ月に比べ有意に延長した(HR:0.67、95%CI:0.54〜0.82、p<0.0001)。ORRについても17.8%と、化学療法群の5.2%に比べ有意な腫瘍縮小を示した(p<0.0001)。注意すべき副作用とその管理 チソツマブ ベドチンはその薬理作用から、従来の薬剤とは異なる副作用プロファイルを示す。「特に注意すべき有害事象」として挙げられるのは眼障害(全Gradeで52.8%)、末梢神経障害(全Gradeで38.4%)、出血(42.0%)である。 眼障害の主なものは結膜炎、角膜炎、ドライアイなど。同剤の眼障害については、投与開始前の眼科医による診察の実施および眼科医との連携の下で使用するよう日本眼科学会も注意喚起している。 従来と異なる新たな作用機序の薬剤を選択できることは、治療戦略を組む中でとても重要なポイントだと米盛氏は述べる。チソツマブ ベドチンという新しい治療選択肢を有効に活用するには、施設内および施設を超えた連携が課題となるであろう。

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PCI後DAPT例の維持療法、P2Y12阻害薬が主要有害心・脳血管イベント抑制に有効/BMJ

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行後の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を終了した患者では、アスピリン単剤療法と比較してP2Y12阻害薬単剤療法(チカグレロルまたはクロピドグレル)は、大出血のリスク増加を伴わずに、心筋梗塞と脳卒中のリスク低下に基づく主要有害心・脳血管イベント(MACCE)の発生率の低下をもたらすことが、イタリア・University of CataniaのDaniele Giacoppo氏らによるメタ解析で明らかになった。研究の成果は、BMJ誌2025年6月4日号で報告された。5件の無作為化試験のメタ解析 研究グループは、PCI施行後のDAPTを終了した患者におけるP2Y12阻害薬単剤療法とアスピリン単剤療法の有効性の比較を目的に、無作為化臨床試験の個々の参加者のデータを用いてメタ解析を行った(スイス・Cardiocentro Ticino Instituteなどの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、冠動脈疾患患者でPCI施行後の虚血性イベントの2次予防として、P2Y12阻害薬またはアスピリンの単剤療法について検討した無作為化試験を検索した。 主要アウトカムはMACCE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合)とし、主要複合アウトカムとして大出血(BARC type 3または5)も評価した。副次アウトカムは有害心・脳血管イベントの複合(NACCE、主要アウトカムと主要複合アウトカムの組み合わせ、および個々のアウトカム[全死因死亡、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、definiteまたはprobableステント血栓症、消化管出血など])とした。 PCI施行後に、推奨されたDAPTレジメン(期間中央値12ヵ月)を終了した患者を、P2Y12阻害薬単剤療法またはアスピリン単剤療法に割り付けた5件(ASCET、CAPRIE、GLASSY、HOST-EXAM[韓国の37施設5,438例]、STOPDAPT-2[日本の90施設3,009例])の無作為化試験(合計1万6,117例)を解析の対象とした。治療必要数は45.5例 ベースラインの年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:57~73)、23.8%が女性、28.6%が糖尿病、14.6%が中等症~重症の慢性腎臓病を有していた。P2Y12阻害薬は、58.7%がクロピドグレル、41.3%がチカグレロルであった。また、患者の48.9%が欧州または北米の試験の参加者で、51.1%は東アジアの試験の参加者だった。 追跡期間中央値1,351日(IQR:373~1,791)の時点で、アスピリン単剤群に比べP2Y12阻害薬単剤群はMACCEのリスクが有意に低かった(混合効果モデルよる1段階解析のハザード比[HR]:0.77[95%信頼区間[CI]:0.67~0.89、p<0.001]、多変量混合効果モデルによる1段階解析の補正後HR:0.77[0.67~0.89、p<0.001]、変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:0.77[0.67~0.89、p<0.001])。有益性を得るための治療必要数は45.5例(95%CI:31.4~93.6)だった。NACCEのリスクも有意に低い 大出血は両群間で有意な差を認めなかった(混合効果モデルよる1段階解析のHR:1.26[95%CI:0.78~2.04、p=0.35]、多変量混合効果モデルによる1段階解析の補正後HR:1.12[0.74~1.70、p=0.60]、変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:1.15[0.69~1.92、p=0.59])。 また、NACCE(変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:0.84[95%CI:0.73~0.98]、p=0.03)、心筋梗塞(0.69[0.55~0.86]、p=0.001)、脳卒中(0.67[0.51~0.88]、p=0.003)は、アスピリン単剤群に比べP2Y12阻害薬単剤群で発生リスクが低かった。 著者は、「これらの結果は、複数の感度分析で確認され、P2Y12阻害薬単剤群の有効性は心筋梗塞と脳卒中の有意な減少に起因していた」「大出血と全出血は、両群間で有意差を認めなかったが、試験間で著明な異質性が検出された」としている。

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HER2+早期乳がん術前療法、de-escalation戦略3試験の統合解析結果/ASCO2025

 HER2陽性(HER2+)早期乳がんに対し、パクリタキセル+抗HER2抗体薬による12週の術前補助療法は有効性と忍容性に優れ、5年生存率も極めて良好であった。さらにStageI~IIの患者においては、ほかの臨床的・分子的因子を考慮したうえで、化学療法省略もしくは抗体薬物複合体(ADC)による治療を考慮できる可能性が示唆された。de-escalation戦略を検討したWest German Study Group(WSG)による3件の無作為化比較試験(ADAPT-HR-/HER2+試験、ADAPT-HR+/HER2+試験、TP-II試験)の統合解析結果を、ドイツ・ハンブルグ大学のMonika Karla Graeser氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。<各試験の概要>■ADAPT-HR-/HER2+試験(134例)遠隔転移のないHR-/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ+ペルツズマブ(T+P群)、トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル(T+P+pac群)に5:2の割合で無作為に割り付け■ADAPT-HR+/HER2+試験(375例)遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1群)、T-DM1+内分泌療法(T-DM1+ET群)、T+ET群に1:1:1の割合で無作為に割り付け■TP-II試験(207例)遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてT+P+ET群、T+P+pac群に1:1の割合で無作為に割り付け 主要評価項目はいずれも病理学的完全奏効(pCR)で、生存成績は副次評価項目であった。 主な結果は以下のとおり。・3つの試験から計713例のデータが集められ、術前全身化学療法あり(sCTx群)149例、術前全身化学療法なし/ADC(sCTx-free/ADC群)564例であった。・ベースラインの患者特性は、>50歳がsCTx群59.7%vs.sCTx-free/ADC群52.7%、StageI が74.5%vs.76.6%、HR+が71.8%vs.84.3%、cT2~4が56.4%vs.55.1%、cN1~3が28.2%vs.32.1%、Grade3が55.7%vs.74.3%であった。・術後pCR達成症例がsCTx群66.4%vs.sCTx-free/ADC群31.4%、術後化学療法ありが47.1%vs.88.4%であった。・追跡期間中央値60.7ヵ月における生存成績は以下のとおり。[5年無浸潤疾患生存(iDFS)率]sCTx群96.4%vs.sCTx-free/ADC群88.2%(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.29~1.08、p=0. 083)[5年全生存(OS)率]97.8%vs.96.8%(HR:0.88、95%CI:0.36~2.11、p=0.775)・pCR達成状況別にみた生存成績は以下のとおり。[5年iDFS率]-pCR例:sCTx群97.8%vs.sCTx-free/ADC群93.7%(HR:0.76、95%CI:0.27~2.12、p=0.609)-non-pCR例:93.3%vs.85.5%(HR:0.77、95%CI:0.31~1.94、p=0.587)[5年OS率]-pCR例:98.9%vs.98.7%(HR:1.10、95%CI:0.28~4.32、p=0.895)-non-pCR例:95.5%vs.95.8%(HR:1.49、95%CI:0.44~5.03、p=0.523)・iDFSと関連する臨床的因子を検討した多変量解析の結果、sCTx群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.14、p=0.013)、sCTx-free/ADC群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.51、p=0.026)、cN1([vs.cN0]HR:2.31、p<0.001)と有意に関連していた。・sCTx-free/ADC群における、pCR後の5年iDFS率に対する術後化学療法実施の有意なベネフィットは確認されなかった(5年iDFS率:術後化学療法あり94.0%vs.なし93.2%、HR:1.25、95%CI:0.39~4.00、p=0.712)。 Graeser氏は、化学療法を省略した術前補助療法群において、pCR達成例で良好な生存成績が得られたことは、さらなるde-escalation戦略検討の基盤となるとし、術前補助療法としてのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)を評価する現在進行中のADAPT-HER2-IV試験への期待を示した。

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ミニストローク後に持続的な疲労感を経験する人は多い

 一過性脳虚血発作(TIA)を経験した人では、その後、最長で1年間にわたり疲労感が持続する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。オールボー大学病院(デンマーク)のBoris Modrau氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に5月14日掲載された。 TIAでは、脳への血流が一時的に途絶えるが、本格的な脳卒中のように永久的な脳障害には至らない。このため、TIAはしばしば「ミニストローク」とも呼ばれる。Modrau氏は、「TIAを発症すると、顔面や腕の筋力低下や麻痺、言語不明瞭などの症状が現れることがあるが、通常は24時間以内に回復する。しかし、生活の質(QOL)の低下、思考障害、抑うつ、不安、疲労感などの問題となる症状が持続していることを報告する人もいる」と話す。 Modrau氏らは今回、TIAと診断された患者のうち、ベースライン時(退院の14日後)に疲労感の評価を受けた287人(平均年齢70.0歳、女性42.5%)を対象に、TIA患者における疲労感の推移とその予測因子について検討した。疲労感は、ベースライン時と退院の3、6、12カ月後にMultidimensional Fatigue Inventory(MFI-20)とFatigue Severity Scale(FSS)により評価した。MFI-20は、全般的疲労感、身体的疲労感、活動性の低下、意欲の低下、精神的疲労感の5つの尺度で構成される自記式の疲労感評価尺度である。 その結果、MFI-20で評価した全般的疲労感のスコアの平均値は、ベースライン時で12.3点、退院の3カ月後で11.9点、6カ月後で11.4点、12カ月後で11.1点であった。また、病的疲労感(MFI-20の全般的疲労感スコアが12点以上)が認められた対象者の割合は、それぞれ61.3%、53.5%、54.0%、53.8%であり、退院から12カ月が経過しても半数以上が病的な疲労感を報告していたことが明らかになった。 脳画像検査の結果からは、疲労感のある患者とない患者の間で急性梗塞の有病率は同程度であった。しかし、持続的な疲労感のある人ではない人に比べて、TIA発症前の不安やうつ病の出現頻度が2倍高かった。さらに、疲労感を予測する上では、ベースライン時の疲労感レベルが最も強い予測因子であることも示された。 Modrau氏は、「われわれの研究参加者のうち、退院後2週間以内に疲労感を感じていた人の多くで、最長で1年間にわたり疲労感が持続する可能性の高いことが分かった」と述べている。 さらにModrau氏は、「今後の研究では、TIAと診断された患者を数週間から数カ月にわたって追跡調査し、持続する疲労感の有無を評価する必要がある。これにより、長期的な疲労感に苦しみ、さらなるケアが必要となる可能性のある患者をより深く理解できる可能性がある」と話している。

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副作用編:悪心(抗がん剤治療中の食欲不振対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第1回

抗がん剤治療中に悪心を生じた患者さんが、食欲不振などを主訴に紹介元であるかかりつけ医を受診する、というのはときに経験されるかと思います。今回は、診察の際に有用な抗がん剤治療中の悪心の鑑別のポイントや患者さんへの対応について紹介します。症例78歳、女性主訴食欲不振病歴1ヵ月前より進行胃がん(StageIV)に対して大学病院で緩和的化学療法が開始された。数日前から悪心が強く、1日の食事摂取量が半分程度となり、食欲不振を主訴にかかりつけ医(クリニック)を受診。ステップ1 悪心・嘔吐の原因は?がん患者の悪心の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、「抗がん剤のせいかも?」とすぐに考えてしまいがちですが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)CINV:Chemotherapy Induced Nausea and Vomiting薬物療法に起因する悪心は患者が最も苦痛と感じる代表的な副作用の1つです。軽度の悪心でも食欲不振につながり、QOLは著しく低下します。悪心・嘔吐の発現時期や状態により以下の定義があり、機序や背景を考慮した制吐療法が行われます。最近はガイドライン1)に沿ってリスクに応じた予防薬や頓服の制吐薬を処方されていることが多くなっています。画像を拡大する(2)腫瘍に起因する悪心腫瘍の局所進展による消化管閉塞(腹膜播種など)、幽門狭窄、胆汁逆流なども悪心・嘔吐の原因となります。これらは機械的刺激により胃内容物の排出障害を来し、食後悪心や胆汁性嘔吐を呈することがあります。とくに胃がんでは胃壁内伸展などによる胃の拡張不良を引き起こすことで、悪心・嘔吐を呈することがあります。鑑別にあたり、嘔吐の有無や吐物の性状、排便排ガスの有無が重要な所見となります。(3)電解質異常による悪心がん患者では、腫瘍随伴症候群、化学療法、脱水、腎機能障害などにより電解質異常を来しやすく、中枢性あるいは消化器機能の異常を介して悪心・嘔吐を引き起こすこともあります。とくに高Ca血症はがん患者の最大15~20%に認められる重要な腫瘍随伴症候群であり、しばしば「原因不明の悪心」の背景に潜んでいます2-4)。血清Ca値が11.0mg/dLを超えると症状が出やすくなり、13~14mg/dL以上では悪心、意識障害、脱水などの症候が顕著となります。画像を拡大する(4)中枢性要因(脳転移・頭蓋内圧亢進)による悪心がん患者における悪心の中で、中枢神経系の病変によるものは見逃されやすいものの、迅速な対応が必要な病態です。とくに、脳転移や髄膜播種は頭蓋内圧亢進や嘔吐中枢の直接刺激を介して、持続性の悪心や突発的な嘔吐を引き起こします。悪心以外にも頭痛やめまい、痺れや麻痺などの神経症状が伴うことがあり問診や身体診察が重要となります。ステップ2 評価ポイントは?前述のように、さまざまな要因が悪心・嘔吐の原因となります。クリニックなどの限られた検査環境では精緻な診断を行うことは難しいと思います。「これ!」といった正解はありませんが、私は以下のポイントで診察しています。画像を拡大するステップ3 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「つらいけど内服の抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談がある場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも「食事が半分以上食べられない場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関(大学病院や高次医療機関)へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただければ助かります。悪心に伴う食欲不振に対して輸液や制吐薬を投与してもよいか?軽度の悪心・食欲不振であれば輸液やメトクロプラミドの投与での支持的な治療を行っていただいて問題ありません。軽度の悪心のみでも十分な食事を数日間摂取できていない場合は電解質異常を来している可能性もあるため治療機関へご紹介ください。また、輸液を実施する場合、翌日も症状が改善しない場合は治療機関への受診を勧めてください。最後に患者さんの心理として、軽い症状で治療機関を受診することはハードルが高いと感じる方が多くいらっしゃいます。要因としては自宅から治療施設への移動距離や長い待ち時間があると思います(主治医に相談しにくいなどもあるかもしれませんが…)。今後、高齢化が進むことで交通手段が限られる患者さんが増え、抗がん剤治療も地域との連携が不可欠になってきます。当院においても地域のクリニックと医療連携を実施して軽症の副作用対応を実施いただくことで、うまく治療を継続できた症例やスムーズな緩和ケア移行に繋がるケースも少しずつ増えてきました。そのため、がん治療医である私達も詳細な診療情報の提供や綿密な医療連携を心がけています。かかりつけ医の先生にサポートしていただける「安心感」は闘病中のがん患者さんにとって大きな支えになります。抗がん剤の副作用症状を訴える患者さんの受診時にこのコラムが少しでも参考になれば幸いです。1)日本癌治療学会編. 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版. 金原出版. 2023.2)Lafferty FW. J Bone Miner Res. 1991;6:S51-59.3)Ratcliffe WA, et al. Lancet. 1992;339:164-167.4)Stewart AF. N Engl J Med. 2005;352:373-379.

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「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」新薬5剤を含む治療アルゴリズムの考え方は

 近年新規薬剤の発売が相次ぐアトピー性皮膚炎について、2024年10月に3年ぶりの改訂版となる「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」が発表された。外用薬のホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬ジファミラスト、注射薬の抗IL-31受容体A抗体ネモリズマブおよび抗IL-13受容体抗体トラロキヌマブ、経口JAK阻害薬ウパダシチニブおよびアブロシチニブの5剤が、今版で新たに掲載されている。ガイドライン策定委員会メンバーである常深 祐一郎氏(埼玉医科大学皮膚科)に、新薬5剤を含めた治療アルゴリズムの考え方について話を聞いた。いかに寛解導入に持っていくか、アトピー治療のPDCAサイクルの回し方 前版である2021年版のガイドラインで、治療アルゴリズムの骨格が大きく変更された。全身療法(注射薬と経口薬)の位置付けについて、寛解維持療法の選択肢に一部が加えられたほか、使用対象がその前の2018年版アルゴリズムの「重症・最重症・難治性状態」から「中等症以上の難治状態」に変更されている。そして各段階で「寛解導入できたか」という問いが加えられ、そのyes/noに応じて治療のPDCAサイクルを回していく構成となっている。この背景には、使用できる薬剤が増えたことが何よりも大きいと常深氏は話し、PDCAサイクルを回してこれらの薬剤を活用し、必ず寛解導入すること(Treat to Target)が重要とした。 アルゴリズムでは診断と重症度評価に続いて、「疾患と治療の目標(ゴール)の説明・共有」を行うことが推奨されており、末尾の“共有”という言葉が2024年版で追記された。常深氏は「説明は医療者から患者さんへの一方的なものだが共有は違う。この言葉が入ったことにはとても大きな意味があり、“とりあえず治療を始めてみましょう”ではなく“どんな状態をゴールとして目指すか”を共有したうえで治療をスタートしてほしい」とこの言葉の意図を説明した。寛解導入のメインはまず“ステロイドの適切な使用”で変わりない ジファミラストを含む非ステロイド系外用薬の選択肢が増えている。寛解導入での位置付けについて常深氏は「軽い皮疹の場合に非ステロイド系で寛解導入もありうるが、メインはやはりステロイド系外用薬」と話し、ランクの選択を含めてステロイドをどう適切に使えるかが非常に重要とした。「顔だから、年齢が低いからという理由で皮疹の重症度に見合わない弱いランクを選んでしまうケースがみられるが、重症度評価に応じたランクのステロイドを自信をもって選択してほしい」とし、落ち着いたらランクを下げるもしくは非ステロイド系に切り替えるといった使い方が望ましいと話した。  一方、ステロイド系外用薬は局所的な副作用が出るなど長期使用には向かないため、寛解維持の外用療法のメインとしては非ステロイド系外用薬が適しているが、常深氏は「非ステロイド系外用薬のなかでどの薬剤をどのタイミングで行うとよいかは明確になっていない」とし、「患者さんごとに使ってみて使いやすいものを選ぶといった考え方もよいのではないか」と柔軟な対応を提案した。全身療法の使いどころ、使い分けは? 全身療法は中等症以上の多くのアトピー性皮膚炎患者に対して推奨されており、「決してしきいの高いもの・最後の切り札ではない」と常深氏。「必ずしもとことん外用療法をやりきってから全身療法という考え方ではなく、患者さんが外用療法に疲れてしまったり時間をかけてQOLが下がってしまったりという状況になる前に、使用ガイダンスで示された条件を満たしたうえで1,2)早めに全身療法に切り替えるのも1つの選択肢」と私見を交えて解説した。 注射薬である抗体製剤(デュピルマブ、トラロキヌマブ、ガイドライン改訂後に登場したレブリキズマブ)の特徴として、常深氏は、投与前後の検査不要で安全性が高いこと、幅広い患者に有効性があることを挙げた。それに対して経口JAK阻害薬(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)は、使用ガイダンス2)に示されるように投与後も画像を含めた検査が必要であり、効き始めは早いがレスポンダーとノンレスポンダーが分かれる傾向があるという。「経口がやはり楽という患者さんもいるし、数週間おきの注射のほうがむしろ楽という患者さんもいる」とし、上記の特徴も踏まえた選択が重要と話した。 抗体製剤やJAK阻害薬には治療費の問題がある。同氏は治療費がハードルになるケースでは、従来からの全身療法薬であるシクロスポリンをしっかりと使っていくことも大事と指摘。「悪くなりかけた際にシクロスポリンを使うという使い方で、短期の使用であれば副作用の可能性も低い」とした。アトピーはいまや“すごくよくなる”疾患、患者も医療者もイメージを変えていく必要 アトピー性皮膚炎には以前から“なかなか治らない疾患”というイメージが根強くあり、そもそも医療機関にかかっていない患者も多い。しかし有効な薬剤が複数登場し、適切な治療により、アルゴリズムで治療のゴールとして示された「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない」状況を実現することができるようになっている。  常深氏は、医師を含む医療者が“アトピーは外用薬しかない”、あるいは“改善の難しい疾患だからあまりよくならなくても仕方がない”と思っていたらそこで治療は止まってしまうとし、「抗体製剤使用のハードルは決して高くなく、要件を満たせば1)クリニックでも使用できる。また自院で使用しなくても、必要性を感じた場合は専門医に積極的につないでほしい」と話した。

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統合失調症に対するコリン作動薬の有用性~RCTメタ解析

 統合失調症患者の3人に1人は、副作用や限られた有効性のため、従来の抗精神病薬による治療反応が不十分である。ムスカリン受容体とニコチン受容体を標的とし、統合失調症の病態生理に関連するコリン作動薬の機能不全を活用した、新たな治療法が注目されている。インド・All India Institute of Medical SciencesのAmiya Shaju氏らは、統合失調症に対するコリン作動薬の有効性および安全性を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を実施した。The British Journal of Psychiatry誌オンライン版2025年5月2日号の報告。 MEDLINE/PubMed、Embase、Scopus、Cochraneのデータベースおよびレジストリから得られた臨床試験データをレビュー担当者が抽出した。研究の質は、バイアスリスクツールとランダム効果モデルによるエフェクトサイズの推定により評価した。PRISMAガイドラインに従い、必要に応じてサブグループ解析、メタ回帰分析、感度分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・30件のRCT(3,128例)において、コリン作動薬の単剤療法または併用療法の検討が行われていた。・コリン作動薬は、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の総スコアに有意な改善は認められなかったが(標準化平均差[SMD]:-0.38、95%信頼区間[CI]:-0.93~0.18、エビデンスの確実性:中)、陰性症状スコアの改善が認められた(SMD:-0.42、95%CI:-0.59~-0.25、エビデンスの確実性:中)。・ムスカリン作動薬は、PANSSの総スコア(SMD:-0.57、95%CI:-0.72~-0.42)、陽性症状スコア(SMD:-0.58、95%CI:-0.73~-0.43)、陰性症状スコア(SMD:-0.40、95%CI:-0.59~-0.21)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコア(SMD:-0.48、95%CI:-0.65~-0.31)の改善を示した。・ニコチン作動薬は、PANSSの陰性症状スコア(SMD:-0.28、95%CI:-0.47~-0.09)およびCGI-Sスコア(SMD:-1.31、95%CI:-2.38~-0.24)の改善に寄与した。・有害事象の発生は、実薬群でより高かった(オッズ比:1.21、95%CI:0.94~1.56)。・多くの研究はバイアスリスクが低く、エビデンスの質は非常に低~中の範囲であった。 著者らは「コリン作動薬は陰性症状を改善し、ムスカリン作動薬は症状全体および重症度の改善に有効であり、安全性においてもプラセボと比較し、有害事象の大きな差は認められなかった」と結論付けている。

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食道がんへの術後ニボルマブ、長期追跡でもベネフィット示す(CheckMate 577)/ASCO2025

 日本も参加するCheckMate 577試験は、術前化学放射線療法(CRT)+手術後に残存病理学的病変を有する食道がん/胃食道接合部がん(EC/GEJC)患者における、術後ニボルマブ投与の有用性をみた試験である。すでにプラセボと比較して無病生存期間(DFS)を有意に延長したことが報告されている(22.4ヵ月対11.0ヵ月、ハザード比[HR]:0.69)1)。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、ベイラー大学医療センター(米国・ダラス)のRonan J. Kelly氏が、本試験の副次評価項目である全生存期間(OS)の最終解析結果およびDFSの長期追跡結果を報告した。・試験:多施設共同無作為化二重盲検第III相試験・対象:CRT後にR0切除、病理学的完全奏効とならなかったStageII/IIIのEC/GEJC患者・試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ240mg(2週ごと16週間)→ニボルマブ480mg(4週ごと最長1年)532例・対照群(プラセボ群):プラセボ(2週ごと16週間、その後4週ごと最長1年)262例・評価項目:[主要評価項目]DFS[副次評価項目]OS、無遠隔転移生存期間(DMFS)、安全性など・データカットオフ:2024年11月7日 主な結果は以下のとおり。・794例がランダム化され、ニボルマブ群とプラセボ群に2対1で割り付けられた。・追跡期間中央値78.3ヵ月におけるDFS中央値は、ニボルマブ群21.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:16.6~29.7)に対しプラセボ群10.8ヵ月(95%CI:8.3~14.3)であり、有意差のある改善を長期にわたって維持していた(HR:0.76)。・OS中央値はニボルマブ群51.7ヵ月(95%CI:41.0~61.6)に対しプラセボ群35.3ヵ月(95%CI:30.7~48.8)であり、ニボルマブ群で良好な傾向だったものの、統計学的有意差はなかった(HR:0.85、p=0.1064)。サブグループ解析ではPD-L1 CPSが1以上の群のHRは0.79だった一方、1未満の群ではニボルマブの優越性は示されなかった。・ニボルマブ群とプラセボ群の3年OS率は57%対50%、5年OS率は46%対41%だった。・DMFS中央値はニボルマブ群27.3ヵ月、プラセボ群14.6ヵ月だった(HR:0.75)。・有害事象は既報どおりであり、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 Kelly氏は「術後ニボルマブは、プラセボと比較して持続的な長期DFSのベネフィットとOSの改善を示した。安全性も長期にわたって耐容されるものだった。これらの結果は、この患者集団における術後ニボルマブの使用をさらに支持するものだ」とした。 現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「すでにDFSの結果が発表されており、日本食道学会ガイドライン委員会からコメントも出されている2)。今回の発表でも、有意差はないものの著明なOSの延長がみられた。一方、本邦ではJCOG1109試験の結果から術前化学療法が標準治療とされており、術前CRT後のエビデンスである本試験をどのように外挿するかは議論のあるところだ。JCOG2206試験(術前化学療法後に根治手術が行われ、病理学的完全奏効とならなかった食道扁平上皮がんにおける術後無治療/ニボルマブ療法/S-1療法を比較する第III相試験)の結果に注目したい」とコメントした。

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NSCLCの術前ニボルマブ追加、最終解析でOS延長(CheckMate-816)/NEJM

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者における術前補助療法について、3サイクルのニボルマブ+化学療法併用療法は、化学療法単独と比較し全生存期間(OS)を有意に延長したことが、アイルランド・Trinity College DublinのPatrick M. Forde氏らによる第III相無作為化非盲検試験「CheckMate 816試験」のOSに関する最終解析結果で報告された。CheckMate 816試験では、ニボルマブ+化学療法併用療法により、病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存期間(EFS)を有意に改善したことが示されており、OSの最終解析が待たれていた。NEJM誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。重要な副次評価項目であるOSの最終解析 CheckMate 816試験では、IB期からIIIA期の切除可能なNSCLC患者(ECOG PS 0~1、EGFR遺伝子変異陰性/ALK転座なし、がんに対する全身療法歴なし)を、ニボルマブ+プラチナ製剤を含む化学療法併用群またはプラチナ製剤を含む化学療法単独群に無作為に割り付け、それぞれ3週(1サイクル)ごとに3サイクル投与した後、術前補助療法終了後6週間以内に手術を行った。 主要評価項目はEFSおよびpCR、重要な副次評価項目がOSであった。 2017年3月~2019年11月に、計358例がニボルマブ+化学療法併用群(179例)または化学療法単独群(179例)に割り付けられた。5年OS率、ニボルマブ+化学療法併用群65.4%vs.化学療法単独群55.0% OS最終解析のデータカットオフ時点において、追跡期間中央値は68.4ヵ月(範囲:59.9~85.2)で、150例が死亡した(information fraction:81%、ニボルマブ+化学療法併用群66例、化学療法単独群84例)。 5年OS率はニボルマブ+化学療法併用群65.4%(95%信頼区間[CI]:57.8~71.9)、化学療法単独群55.0%(47.3~62.0)、OSの中央値はそれぞれ未到達と73.7ヵ月であり、化学療法単独群と比較しニボルマブ+化学療法併用群でOSが有意に延長した(ハザード比:0.72、95%CI:0.523~0.998、p=0.048)。 探索的解析の結果、ニボルマブ+化学療法併用群における5年OS率は、pCRが得られた患者(43例)で95.3%(95%CI:82.7~98.8)、得られなかった患者(136例)で55.7%(46.9~63.7)、ベースラインで循環腫瘍DNA(ctDNA)が陽性で術前にctDNAが消失した患者(24例)では75.0%(95%CI:52.6~87.9)、消失しなかった患者(19例)では52.6%(28.7~71.9)であった。 安全性に関する新たな懸念は認められなかった。

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神経線維腫症1型の叢状神経線維腫、成人にもセルメチニブ有効/Lancet

 手術不能な症候性の叢状神経線維腫(PN)を有する神経線維腫症1型(NF1)の成人患者を対象とした初めての国際共同無作為化プラセボ対照試験において、セルメチニブはプラセボと比較して奏効率(ORR)が有意に高く、新たな安全性に関する懸念は認められなかった。米国国立がん研究所のAlice P. Chen氏らKOMET study investigatorsが、13ヵ国(オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ポーランド、ロシア、スペイン、英国、米国)の33施設で実施した第III相国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験「KOMET試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「さらに、16サイクル時までの腫瘍容積の減少、慢性疼痛および突出痛の軽減、鎮痛薬使用の減少、ならびに疼痛支障度の減少が示されており、PNを有する成人NF1患者の治療にセルメチニブは有効である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。ORRを主要エンドポイントにセルメチニブとプラセボを比較 研究グループは、測定可能で手術不能の症候性PNを1つ以上有する18歳以上のNF1患者を、セルメチニブ(1回25mg/m2)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、1日2回投与した。 28日を1サイクルとして、セルメチニブ群では中止基準を満たすまでまたは最終データカットオフ日まで投与を継続し、プラセボ群では12サイクル終了後または独立中央判定により放射線学的進行が確認された場合、セルメチニブへのクロスオーバーが許容された。両群とも、13サイクル目以降は非盲検下で投与が継続された。 主要エンドポイントは、16サイクル終了時のResponse Evaluation in Neurofibromatosis and Schwannomatosis(REiNS)基準に基づくvolumetric MRI評価を用いた盲検下独立中央判定によるORRであった。副次エンドポイントは、ベースラインの標的PNの慢性疼痛強度スコアが3以上の患者における、ベースラインから12サイクル終了時(約11ヵ月)までの慢性疼痛強度スコアの変化量、ならびに健康関連QOL(Plexiform Neurofibroma Quality of Life scale[PlexiQoL]総スコア)のベースラインから12サイクル時までの変化量とした。ORRは20%vs.5%、慢性疼痛強度スコアも臨床的に意義のある改善 2021年11月19日~2024年8月5日(主要解析のデータカットオフ日)に、登録された184例のうち145例がセルメチニブ群(71例)またはプラセボ群(74例)に無作為化され、試験薬の投与を受けた。 16サイクル終了時のORRは、セルメチニブ群20%(14/71例、95%信頼区間[CI]:11.2~30.9)であったのに対し、プラセボ群では5%(4/74例、1.5~13.3)であった(p=0.011)。セルメチニブ群の奏効までの期間中央値は3.7ヵ月と、速やかな効果の発現が観察された。 ベースラインの慢性疼痛強度スコアが3以上の患者において、ベースラインから12サイクル時までの慢性疼痛強度スコアの減少(最小二乗平均値±標準誤差)は、セルメチニブ群がプラセボ群と比べて大きく(-2.0±0.30[95%CI:-2.6~-1.4]vs.-1.3±0.29[-1.8~-0.7]、p=0.070)、有意差は認められなかったものの臨床的に意義のある改善が認められた。 PlexiQoL総スコアのベースラインから12サイクル時までの変化量は、セルメチニブ群とプラセボ群で有意差はなかった。 有害事象は、セルメチニブの既知の安全性プロファイルと一致していた。

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定期的な診察で心不全患者の全死亡リスクが低下

 心不全(HF)患者の5人に2人は、心不全の重症度にかかわりなく循環器専門医の診察を定期的に受けていないことが、新たな研究で明らかになった。この研究では、専門医の診察を年に1回受けているHF患者では翌年の死亡リスクが24%低下することも示されたという。ナンシー大学病院(フランス)臨床研究センターのGuillaume Baudry氏らによるこの研究結果は、「European Heart Journal」に5月18日掲載された。 HFとは、心臓のポンプ機能が低下し、体が必要とする酸素や栄養を十分に送り届けられない状態を指す。Baudry氏は、「通常、HFを治すことはできないが、適切な治療を行えば症状を何年もコントロールできることが多い」と欧州心臓学会(ESC)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、HF患者の予後と管理を、利尿薬の使用およびHFによる入院歴(HF hospitalization;HFH)という基準で分類して調査した。対象は、過去5年間にHFの診断を受け2020年1月時点で生存が確認されたフランスのHF患者65万5,919人(年齢中央値80歳、女性48%)。これらの患者は、1)過去1年以内のHFHあり(20.4%)、2)1〜5年前にHFHあり(27.6%)、3)HFHはないがループ利尿薬の使用あり(28.3%)、4)HFHもループ利尿薬の使用もない(23.7%)、の4群に分類された。予後の指標は、全死亡、HFH、および両者の複合アウトカムとし、期間は2020年1月1日から2022年12月31日までの間とした。 その結果、2020年に循環器専門医の診察を受けた対象者の割合は59%にとどまることが明らかになった。診察を受けた割合と診察回数(中央値2回)は、4群間で似通っていた。全死亡リスクは、「HFHもループ利尿薬の使用もない」群と比較して、「HFHはないがループ利尿薬の使用あり」群で1.61倍、「1〜5年前にHFHあり」群で1.83倍、「過去1年以内のHFHあり」群で2.32倍であった。HFHリスクと複合アウトカム(HFHまたは全死亡)のリスクについても同様の傾向が見られた。 また、全死亡リスクは、2019年に循環器専門医の診察を受けなかった群を基準とした場合、1回の受診で24%、2~3回の受診で31%、4回以上の受診で38%の低下という具合に、受診回数が増えるほど有意に低下した。一方で、HFHリスクは、受診回数が増えてもわずかに上昇する傾向を示した(調整ハザード比1.01~1.04)。循環器専門医を1回受診した場合と受診しなかった場合の1年間の全死亡リスクの差(絶対リスク差)は、4群間でおおむね一貫しており、「HFHもループ利尿薬の使用もない」群の6.3%から「1〜5年前にHFHあり」群の9.2%までの範囲だった。 Baudry氏は、「本研究結果は、臨床的に安定して見えるHF患者においても、専門医によるフォローアップが潜在的に重要であることを浮き彫りにしている。特に、最近入院していた患者や利尿薬を使用している患者は、循環器専門医の診察を受けることを積極的に考慮してほしい」と述べている。 論文の上席著者であるナンシー大学病院のNicolas Girerd氏は、「HF患者が循環器専門医の診察を受けない理由はいくつも考えられる。本研究では、例えば、高齢者や女性、糖尿病や肺疾患といった他の慢性疾患を抱える患者は、専門医の診察を受ける可能性が低いことが示された。こうした違いは世界中の多くの国で確認されている」とニュースリリースの中で述べている。

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