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教授 福島統 先生の答え

診療所医師による医学教育のためのシステム人口8万都市で小児科医を開業している者です。診療所で研修医の「地域保健研修」を、また、出身医大で「外来小児科学」の講義を行っています。先生のご意見、医学生をプライマリ・ケアの場に出す動きには全面的に賛同します。診療の質を上げるためには、診療を人に見せて教える必要があると考えますが、この波が拡がるためにはどうすればよいでしょうか?優秀な開業医が医学教育に関わることができずにいる環境があります。初期研修が始まった時に医師会が率先してシステムを作ればよかったのでしょうが…全国レベルでの医学部でのプライマリ・ケア実習の動きはありますでしょうか。あるいは今後の、それぞれの学会に依存しない医学部としてのシステム作りは可能でしょうか。ことば足らずで回答しにくいかと思いますが、医学部の変化がないことには診療所医師の関与は難しいと思いましたので。すでに医学部という大学と特定機能病院という大学附属病院のみでは、国民が求める医療を教えることはできないことは自明です。大学は医学教育をコーディネートする「教育機関」です。医学部が様々な医療ニーズを学生に見せ、学生一人ひとりが自分の仕事を知る機会を作ることがcommunity-based medical education です。このcommunity-based medical education は世界的な流れです。日本が遅れているだけです。医学部の中には専門医療だけでなく、地域が求める医療を学生に見せようとカリキュラムを工夫するところが増えてきています。医療の世界では、どの医療機関に所属する人も「教育」をしていかなければなりません。教育の場は大学と附属病院だけではありません。診療所も、地域病院も、在宅で頑張っている医師も、医師とは本質的に医師を育てる人たちだと思います。大学で医学教育を考える人たちが、自分の専門だけでなく、「医療」を学ぶ学生のことを考える日は近いと思います。その時に、地域の医師が「医師の役割の一つ」としての教育に夢を持って欲しいと思います。政治と現場で意見反対なのは何故ですか?福島先生の解説を読んで、医師不足問題について大変理解が深まりました。まだ私は医学生なので考察が甘いかもしれませんが、福島先生の意見が正論だと思いました。ただ、福島先生の意見が正論だと思う一方で、では何故、日本は医学部新設に向かっているのか?というところが分かりません。政治と現場で意見が対立しているのでしょうか?何故、日本は医学部新設の流れにあるのでしょうか?昭和45年に秋田大学医学部と北里大学医学部、杏林大学医学部、川崎医科大学が出来ました。昭和46年は私立医大がさらにできた後に、昭和47年からの1県1医大が始まります。この時、私立医大ができたのは、戦後の医専の卒業の大量の医師(開業医)たちの後継者問題があったからです(昭和20年の医学部入学定員は1万人を超えていました)。この時、裏口入学の問題が世間を騒がせました。1県1医大政策は田中角栄首相が押し進めました。その時の理由は東北・北海道の医師不足、医師の地域偏在、診療科偏在、基礎医学者と公衆衛生に関わる医師の不足が問題となりました。まさに今、政治が論じている問題と全く同じです。医師数をただ増やせばこの問題が解決するというのは幻想です。問題があるから、「何かを」しなければいけないという風潮になり、医学部を新設すれば「きっとよくなる」という積極策の幻想(ペーター・センゲ)になっていると思います。何かをすればそれが解決へつながるという言い訳でもあります。これは危険な考え方です。今こそ、なぜ日本の医療がうまくいかないのかをみんなで考えるべきです。学外実習に必要な開業医の数は?私も、現場で学ぶ機会は多い方がよいと考えます。学外実習に協力している開業医の先生が65名いらっしゃるとのことですが、慈恵さんレベルの大学ではその人数で十分なのでしょうか?理想としてはどのくらいの先生方を確保するべきなのでしょうか?数年前、韓国の医学教育学会で慈恵医大の「家庭医実習」の話をしました。その時、どうやって指導医を集めているのか、との質問を受けました。私は次のように答えました「医者には二通りの医者がいる、good doctors とnot good doctors だ」。会場に大きな笑いを誘いました。でも、私はこれが真実だと思います。そして、いい医者は良い医者が誰かを知っています。慈恵医大では、素敵な指導医と学生が評価した開業医に、「良い開業医を紹介してください」とお願いし、指導医を集めました。素敵な指導医が最低30人いれば、1年間で100名の学生の臨床実習を行うことができます。でも、無理をしないで1年間で100名の臨床実習をするには、60名必要と経験的に考えています。 トータルの実習成果は?学生の中には学外実習が苦手というか社交的ではない者も多いかと。皆がみな学外実習で何かを掴んで帰ってくるとは思えないのですが、実際はいかがでしょうか?個別には成果をあげる学生もいるでしょうが、トータルでみたときの実習成果について、差し支えなければご教示ください。昔、私が学生時代は先生が「あの学生は口下手だが、まじめでいい子だよ」と言っていました。私は、それは間違いだと思います。臨床医になるなら、どうにかして口下手を克服すべきだと思いますし、口下手を拡幅するために大学はその学生に手をかけるべきだともいます。人と話ができない医者を作るのではなく、たとえ上手ではなくても患者さんの話を聞く態度を持つ医師に育て上げるべきと思います。今までの初等、中等教育では、「職場の中で学ぶ」力を生徒に養ってきませんでした。しかし、医師になる者には「職場の中で学ぶ」力が必要です。医学部がただ知識と技能を教えていればいいのではありません。その学生が病棟で、患者さんから医療チームのメンバーから「人から学ぶ」ことのできる力を持てるようにしなければなりません。学外実習に行って、多くの学生は「自分に足りないもの」を見つけてくるように思います。自分に足りないもの、これこそが学習課題です。学習課題に気づいた人は自ら学習するでしょう。でも気づくチャンスがなければ学習は進行しません。そして気づきは異文化の中で起こることが多いのです。学生を学外に出し、「無理やりさせられ体験」をさせることで医学部の中にいるだけでは気づけない自分自身の学習課題を知って欲しいと思います。しかしながら、気づきはその学生のレディネスに負うところが多いことも事実です。スキャモンの成長曲線を思い出してください。大器晩成型も、早熟型もあります。学生に気づきの機会を与えますが、その学生が気づくまで待つことも大事です。学生の成長を待つだけでなく、成長を促すためにも「無理やりさせられ体験」は必要だと考えます。学生の反応は?医学生であれば目の前の国試対策に意識が集中して、学外実習は二の次ではないかと思います。実際、学外実習に対する医学生の反応はどうでしょうか?学生を説得して実習に出す感じでしょうか?※医師として患者を診ている今となれば、慈恵さんの学外実習が如何に素晴らしいかよく分かります!本当人間って勝手ですよね(笑)学生は医者になりたがっています。決して国家試験のプロになろうとはしていません。これは真実だと信じます。そして学生は実り多い自分の人生を求めています。人間とは自分自身の成長に気づいたとき、それを嬉しいと思う存在です。しかし、学生には今どのような体験をすべきか自分では分からないと思います。カリキュラムで必修とするのは、「無理やりさせられ体験」として学生が理解できなくても「行かせる」ためです。もちろん、オリエンテーションはたくさんしますが、実体験のない学生には理解は困難だと思います。学外実習は3年か4年しないと安定しません。教員がいくら大事だと言っても学生が理解しませんが、先輩の学生は「行ってみろよ、経験になるぜ」と言ってくれるようになったら実習が安定します。彼らは身近な先輩の言うことは素直に信じるのでしょう。実習を経験し、臨床実習に出たときにこの実習の意味を理解してくれれば学生は「無理やりさせられ体験」から「意味のある経験学習」へと認識を変えてくれます。国試対策について場違いな質問であれば無視していただきたいのですが、現在息子の入学先を検討している者です。私は地方の国立大卒です。私大医学部出身の友人もおらず、私大医学部のことがよく分かりません。慈恵医大ならではの特別な国試対策カリキュラムなどあるのでしょうか?学外実習は完璧だと思いました。親として心配なのは国試対策だけです。宜しくお願いします。慈恵医大は特別な国試対策はしません。むしろ6年生の後半には学生に自由な時間を与えるようにしています。学習で重要なのは、自分自身の能力を自分で評価し、自分の不足しているところを自分が認識して、自分の方法で学ぶことです。医学部6年生に「教え込み」は通じません。彼らは立派な「成人学習者」ですから。自分の不足を振り返り、自律的に学習する機会と時間を与えれば、医師になれるものは「国家試験」に合格します。何時までも教え込まれなければ勉強できない人はむしろ医者になるべきではありません。医者に必要な能力は生涯学習力ですから。私が医学教育の仕事をするようになった時、留年者や国試浪人の人にインタビュー調査をしたことがありました。彼らの欠点は明らかでした、解剖と生理学、すなわち基礎医学を知らないのです。国家試験のための勉強は基礎医学にあります。基礎医学をまなんだ人は病態を暗記ではなく、論理として理解します。そして今の国家試験は昔と違い、病態を理解してそのうえで薬理学の知識を応用した治療の選択を聞いてきます。国家試験は既に暗記の世界から、理解の世界へと変わってきているのです。国家試験は心配なら、基礎医学教育をしっかりしている医学部を受験させるべきと思います。医学を学ぶ者の自由とは、それを否定する理由はなんですか義務のみで自由はないのでしょうか、腑に落ちません。一人の学生が医師になるためには6年間に約1億円の経費がかかります。国公立であろうが私立であろうが多量の税金を使って医者になります。私は納税者です。自分が払った税金が「金儲けしか考えない医師」の養成に使われたとした、損害賠償請求をします。私は献体者です。死んだら、この体は解剖学実習に使われます(それまでには痩せようと思っています)。阿部正和慈恵医大元学長が講義のたびに学生に言っていました「患者こそ最高の師」と。医者になるためにたくさんの期待がかけられています。だから医学生はエリートだと思います。もし、自由に学びたいのなら、その経費は自分で払うべきです。税金とご遺体の行為と患者さんの協力を頂いて医師になるなら、国民から期待される医師になる責任があると思います。自分の自由のために他者の心もお金も使う必要はないと思います。この道に進まれたきっかけを教えて下さい。先生が、臨床でもなく研究でもなく教育を専門にされた「きっかけ」に興味があります。産婦人科開業の長男として生まれ、私立医大に入学してっきり産婦人科開業医になると思っていました。しかし、卒業時には少子高齢化が始まっており、産婦人科開業医の道はなくなり、面白そうと思った解剖学に進みました。解剖で業績を上げている最中に、急に大学から医学教育の仕事をしろ!と命令されました。いざ、医学教育の世界に入ってみたら、したいことがたくさんあったのです。だからそれをしただけです。多分、どの分野に行っても良かったのでしょう。今したいことを、今の立場で出来れば何でもよかったのかもしれません。いまは、この分野の仕事ができることを嬉しいと思っています、そしてもっとしたいと思っています。実習を阻む障害に関して1年生から地域実習へ出すとなると結構大変だと思います。受け入れ先を探す他にも障害が多かったと推察しますが、どのような障害がありましたでしょうか?1年生の福祉体験実習を作るとき、最も困ったことは「医学部と地域福福祉」があまりにも遠かったことです。特定機能病院には、知的障害や精神障害者の就労支援のことを知っている人がいませんでした。2年生の重症心身障害児の実習を作るときも地域で子どもがどのように生活しているかを考えている小児科以外の医師はほとんどいませんでした。3年生の訪問看護ステーションの実習に至っては、一部の神経内科医は理解を示したものの、多くの専門医たちは在宅医療の存在すら想像してくれませんでした。でも低学年の学外実習は臨床医たちの利害とは離れていたので実習を作りことができました。実習を作るためには何足もの靴が必要でした。医学部とは遠い福祉や在宅には、足を運び理想を話し、夢を共有してもらい一緒に医師を作ろうと説得しまわりました。多くの実習施設は共感を示してくださり、快く学生実習を受けてくださいました。特に福祉施設では、「良い医者を私たちもメンバーさんのために作ってください」と励ましていただきました。臨床実習での「家庭医実習」を必修化できたのはひとえに、阿部正和元学長のおかげです。慈恵医大は全国に先駆けて昭和61年に選択科目として開業医実習を導入していました。阿部正和先生という方が、素晴らしい指導医がたくさんいる実地医家の会との連携を作ってくれていたので、解剖上がりの臨床を知らない私が「家庭医実習」を必修化できたのだと思います。実習先になりうる開業医とは?実習を引き受ける開業医に必要な素質はありますが?また高い理想とは?もう少し具体的にご教示ください。該当する先生がいたら是非紹介したいと考えます。良い医者は誰が見ても「良い医者」です。それは誰もそう思うと思います。教授 福島統 先生「国民のための医者をつくる大学 この理念の下に医師を育成する」

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主要評価項目がネガティブな企業助成試験はサブグループ解析の報告頻度が高い

企業助成金の拠出を受けた無作為化対照比較試験は、主要評価項目に統計学的な有意差がない場合に、企業助成のない試験に比べサブグループ解析の報告を行う頻度が有意に高いことが、カナダ・マクマスター大学のXin Sun氏らの調査で示された。影響力の強いジャーナルに掲載された論文の60%、心血管領域の論文の61%、外科領域の論文の37%がサブグループ解析の報告を行っているとのデータがあるが、事前に規定されたサブグループ解析や、交互作用に関して正規の検定を行っているものは少ないという。BMJ誌2011年4月2日号(オンライン版2011年3月28日号)掲載の報告。サブグループ解析の報告と企業助成の有無との関連を系統的にレビュー研究グループは、無作為化対照比較試験のサブグループ解析の報告頻度に及ぼす、企業による助成金拠出の影響を評価するために、系統的なレビューを行った。Medlineを検索して、2007年に118のコア・ジャーナル(National Library of Medicineの規定による)誌上に掲載された無作為化対照比較試験のうち、影響力の強いジャーナル(2007年の総引用数が最も多い上位5誌:Annals of Internal Medicine、BMJ、JAMA、Lancet、New England Journal of Medicine)とそれ以外のジャーナルの掲載論文が1対1の割合になるように1,140編(570編ずつ)が無作為に選出された。2名のレビュアーが別個に適格基準を満たす報告を選択し、データを抽出した。明確な判定基準を用いてサブグループ解析の報告を行っている無作為化対照比較試験を同定した。ロジスティック回帰分析を行い、事前に規定された試験の特性とサブグループ解析の報告の有無との関連を評価した。事前に規定されたサブグループ解析や交互作用検定の頻度は有意に低い469編の無作為化対照比較試験(影響力の強いジャーナル掲載論文219編、それ以外のジャーナル掲載論文250編)のうちサブグループ解析の報告を行っていたのは207編(44%)であった。影響力の強いジャーナル掲載論文(調整オッズ比:2.64、95%信頼区間:1.62~4.33、p<0.001)、非外科領域の論文(外科領域論文との比較、同:2.10、1.26~3.50、p=0.005)、サンプルサイズの大きい論文(同:3.38、1.64~6.99、p=0.001)で、サブグループ解析の報告の頻度が高かった。企業の助成金拠出とサブグループ解析報告の関連の強さは、主要評価項目に有意差を認めた場合と認めなかった場合で有意に異なっており(交互作用の検定:p=0.02)、主要評価項目に有意差がない試験では、企業助成がない場合よりも助成がある場合にサブグループ解析の報告が多かった(調整オッズ比:2.29、95%信頼区間:1.30~4.72、p=0.005)。主要評価項目に有意差がある試験には、このようなサブグループ解析の報告頻度の差は認めなかった(同:0.79、0.46~1.36、p=0.91)。企業助成金の拠出を受けた試験は助成のない試験に比べ、事前に仮説を立てて規定されたサブグループ解析の報告頻度が有意に低く(31.3% vs.38.0%、調整オッズ比:0.49、95%信頼区間:0.26~0.94、p=0.032)、サブグループの効果解析の交互作用検定を行う頻度も低かった(41.4% vs. 49.1%、同:0.52、0.28~0.97、p=0.039)。著者は、「企業助成金の拠出を受けた無作為化対照比較試験は、主要評価項目に統計学的な有意差がない場合に、助成のない試験に比べサブグループ解析の報告を行う頻度が有意に高く、事前に規定されたサブグループ解析や交互作用検定を実施する頻度が有意に低かった」とまとめ、「主要評価項目の結果がネガティブであった企業助成試験のサブグループ解析には警戒を要する」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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避難所からいかに高齢者を救うか

日本老年医学会は今回の東日本大震災に対して、『高齢者災害時医療ガイドライン』と『一般救護者用・災害時高齢者医療マニュアル』を、現在行われている被災地での高齢者災害時医療に活用いただくため、試作版ではあるがいち早く学会ホームページを通して公開した。当ガイドラインの作成者の一人であり、日本老年医学会として被災地に赴いた東京大学大学院医学系研究科・加齢医学講座 飯島勝矢氏からの寄稿文を紹介する。【本ガイドラインおよび一般向けマニュアル作成にあたっての経緯】私自身は日本老年医学会の代議員であると同時に、この『高齢者災害時医療ガイドライン』作成の研究班の一員でもあり、そして、急遽立ち上げた「日本老年医学会 東北関東大震災対策本部」の中心として動いております。本国(日本)は地震、台風、津波などの様々な災害が多い国であります。その災害時において、「被災高齢者」に対する医療は非常に重要であると常日頃から考えております。特に避難所での生活に入らざるを得なかった高齢者の方々は、生活環境が一変し多くの精神的・身体的ストレスを受けます。さらに、もともとかかりつけていた慢性疾患(高血圧,糖尿病,脳心疾患なども含めて)の管理を継続しづらくなってしまいます。さらに、家屋倒壊や津波などによる直接の死亡だけではなく、避難所にどうにか収容されたにもかかわらずさまざまな疾患が発症し、最終的には亡くなってしまう、いわゆる『震災関連死』も高齢者では無視できません。実際、今回の東日本大震災においても、避難所にいる高齢女性が心筋梗塞によって搬送先の病院で亡くなってしまったなど、同様の現象が起きております。これからは被災高齢者において、認知機能やメンタル管理も含めて、慢性的な管理の重要性が問われていると考えております。すでに厚生労働省・厚生労働科学研究費補助金を受け「災害時高齢者医療の初期対応と救急搬送基準に関するガイドライン作成研究班を立ち上げ、平成23年度内完成を目標に作業を進めておりましたが、今回の東日本大震災発生により被災高齢者の方々に対する医療現場の厳しい現状が数多く報告されているため、本ガイドライン作成研究班および日本老年医学会は「高齢者災害時医療ガイドライン」および「一般救護者用・災害時高齢者医療マニュアル」を被災地の高齢者医療の現場で一刻も早く役立てていただきたく、現段階では試作版ではありますが、公表に踏み切ることと致しました。また、私自身がすでに日本老年医学会の代表としてとして、(短い時間ではありますが)福島県の相馬市にある避難所にて医療支援を行ってきました。その時に、お一人お一人の高齢被災者を診察しながら、この一般救護者向けのマニュアルを1冊ずつ手渡し、今後も続くであろう避難所生活において活用して頂くよう配布してきました。(相馬市避難所医療支援の様子はこちらから)『高齢者災害時医療ガイドライン』と『一般救護者用・災害時高齢者医療マニュアル』を日本老年医学会ホームページ上に掲載致します。少しでも現在行われている被災地での高齢者災害時医療の一助なって頂ければ幸いです。また、一般救護者向けマニュアルを、今後、各避難所に数多く配布できればと考え、現在準備中でございます。リンク 日本老年医学会ホームページhttp://www.jpn-geriat-soc.or.jp/ ●医療者向け『高齢者災害時医療ガイドライン』一括ダウンロード 全329頁 (PDF:10.3MB)表紙・前付・目次 (PDF:68KB)I :災害発生時の経時的な医療需要予測・評価 (PDF:545KB)II:避難所における高齢者急性期疾患発症と初期対応,搬送基準 (PDF:221KB)III:避難所における高齢者慢性期疾患発症と対応,搬送基準 (PDF:1.75MB)IV:災害現場,避難所,仮設住宅における高齢者の主要症候と初期対応法 (PDF:1.84MB)V:自治体の初期対応と福祉避難所設営 (PDF:246KB)VI:自治体他の医薬品,医療機材の備蓄 (PDF:220KB)VII:高齢者家屋の防災処置 (PDF:103KB)VIII:高齢者の災害時緊急持ちだし用品 (PDF:88KB)IX:様式集(PDF:5.39MB)X:過去の災害における高齢者医療出動の内容(65歳以上の高齢者を中心に) (PDF:666KB) ●一般救護者向け「一般救護者用・災害時高齢者医療マニュアル」(試作版)(全25頁)(PDF:1.94MB)(ケアネット 細田 雅之)

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肥満高齢者には減量と運動のワンセットの介入のほうが各単独介入よりも身体機能を改善

肥満高齢者に対しては減量と運動の介入をワンセットで行うことが、どちらか単独の介入をするよりも身体機能の改善が大きいことが、米国・ワシントン大学医学部老年医学・栄養学部門のDennis T. Villareal氏らによる無作為化対照試験の結果、示された。肥満は加齢に伴う身体機能低下の増大や高齢者の虚弱を引き起こすとされるが、肥満高齢者に対する適切な治療については議論の的となっているという。NEJM誌2011年3月31日号掲載報告より。対照群、ダイエット群、運動群、ダイエット+運動群に肥満高齢者107例を無作為化試験は、1年間にわたり減量、運動介入の単独もしくは併用の効果を評価することを目的に行われた。試験参加の適格条件は、65歳以上の肥満者(BMI≧30)、座りきり生活、体重が安定(前年の変化2kg未満)、薬物療法が安定(試験前6ヵ月間)、軽度~中程度の虚弱[一部修正を施した身体機能検査(Physical Performance Test)のスコア(0~36、数値が高いほど身体機能は良好)18~32、最大酸素消費量11~18mL/kg体重/分、二つの手段的日常生活活動(IADL)困難、一つの日常生活動作(ADL)困難]だった。107例が、対照群、体重管理(ダイエット)群、運動群、体重管理+運動(ダイエット+運動)群に無作為に割り付けられ追跡された。主要評価項目は、一部修正を施した身体機能検査のスコアの変化とした。副次評価項目には、虚弱、身体組成、骨密度、特異的な身体機能、生活の質などの測定を含んだ。ダイエット+運動群の身体機能改善、最大酸素消費量改善などが最も大きく試験を完了したのは93例(87%)だった。intention-to-treat解析の結果、身体機能検査スコアは基線から、ダイエット+運動群が21%増で、ダイエット群12%増、運動群15%増よりも変化が大きかった。なおこれら3群は、対照群(1%増)よりはいずれも変化が大きかった(P<0.001)。また、最大酸素消費量の基線からの変化は、ダイエット+運動群が17%増で、ダイエット群10%増、運動群8%増と比べ改善が認められた(P<0.001)。機能状態質問票(Functional Status Questionnaire)のスコア(0~36、数値が高いほど機能状態は良好)については、ダイエット+運動群が10%増で、ダイエット群4%よりも変化が大きかった(P<0.001)。体重の減量は、ダイエット群10%、ダイエット+運動群9%で認められた。しかし運動群や対照群では減量が認められなかった(P<0.001)。除脂肪体重の減量、股関節部骨密度の低下はいずれも、ダイエット+運動群がダイエット群よりも小さかった(それぞれ3%対5%、1%対3%、両比較のP<0.05)。ダイエット+運動群では筋力、平衡感覚、歩行機能について一貫した改善が認められた(すべての比較のP<0.05)。なお有害事象として、少数の運動関連の筋骨格損傷などが認められた。(武藤まき:医療ライター)

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米国ヘビースモーカー、1965年から2007年の間に大幅減少

米国(カリフォルニア州を除く)でタバコを1日に20本以上喫煙する重度喫煙者の割合は、1965年当時の約23%から2007年には約7%へと大幅に減少していることが調査の結果、明らかにされた。カリフォルニア州ではさらに大幅な減少(約23%から3%)がみられた。背景には喫煙を始める人の減少と禁煙する人の増加があるようだという。米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校Moores UCSDがんセンターのJohn P. Pierce氏らの調べで明らかになったもので、JAMA誌2011年3月16日号で発表された。重度喫煙者の喫煙者に占める割合も減少研究グループは、1965~1994年のNational Health Interview Surveysと、1992~2007年のCurrent Population Survey Tobacco Supplementsの2つの調査結果で得られた、カリフォルニア州以外の米国内166万2,353人と、カリフォルニア州の13万9,176人の回答を基に分析を行った。その結果、1965年に1日20本以上喫煙する重度喫煙者は、米国カリフォルニア以外の地域では22.9%(95%信頼区間:22.1~23.6)だったのに対し、2007年には7.2%(同:6.4~8.0)に減少した。カリフォルニア州の同割合については、1965年の23.2%(同:19.6~26.8)から、2007年の2.6%(同:0.0~5.6)へとより減少幅は大きかった(p<0.001)。また、同期間の重度喫煙者の、喫煙者全体に占める割合は、カリフォルニア州を除く全米で56%から40%へと減少した。近年の出生コホートで、中程度~重度喫煙者の割合は減少1920~1929年の出生コホートでは、1日10本以上を喫煙する中程度~重度喫煙者の割合は、1965年時点で、カリフォルニア州以外の地域の割合で40.5%、カリフォルニア州で39.2%だった。同割合はその後の出生コホートでは減少した。1970~79年出生コホートでは高くなったが、カリフォルニア州以外の地域が18.3%、カリフォルニア州では9.7%だった。全コホートでみると、高齢者での中程度~重度喫煙者の割合の大幅な減少が認められた。特にカリフォルニア州でその割合は大きかった。また1970~79年出生コホートの35歳での同率は、カリフォルニア州以外の地域で13.5%、カリフォルニア州で4.6%だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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チアゾリジン系薬剤の2型糖尿病における心血管リスクへの影響

2型糖尿病患者の治療では、ピオグリタゾン(商品名:アクトス)に比しrosiglitazoneで心筋梗塞、うっ血性心不全、死亡のリスクが有意に高いことが、イギリスEast Anglia大学のYoon Kong Loke氏らの検討で示された。rosiglitazoneとピオグリタゾンはいずれもうっ血性心不全のリスクを増大させることが知られているが、虚血性の心血管イベントのリスクはrosiglitazoneのほうが高いと考えられている。しかし、これらチアゾリジン系薬剤の心血管疾患に及ぼす影響の明白な違いは十分には解明されていないという。BMJ誌2011年3月26日号(オンライン版2011年3月17日号)掲載の報告。チアゾリジン系薬剤の心血管疾患への影響に関する観察試験のメタ解析研究グループは、チアゾリジン系薬剤(rosiglitazone、ピオグリタゾン)が、2型糖尿病患者における心筋梗塞、うっ血性心不全、死亡に及ぼす影響を評価するために、観察試験の系統的レビューとメタ解析を行った。データベース(Medline、Embase)を検索して2010年9月までに報告された試験を抽出した。2型糖尿病患者における心血管疾患のリスクに及ぼすrosiglitazoneとピオグリタゾンの影響を直接的に比較した観察試験を解析の対象とした。変量効果を用いたメタ解析により、チアゾリジン系薬剤の心血管アウトカムのオッズ比を算出した。統計学的な不均一性(heterogeneity)の評価にはI2 statisticを用い、I2 =30~60%の場合に不均一性は中等度と判定した。心筋梗塞が16%、うっ血性心不全が22%、死亡が14%多いチアゾリジン系薬剤の投与を受けた約81万人を含む16件の観察試験(症例対照試験4件、レトロスペクティブなコホート試験12件)について解析が行われた。ピオグリタゾンに比べ、rosiglitazoneは心筋梗塞(15試験、オッズ比:1.16、95%信頼区間:1.07~1.24、p<0.001、I2=46%)、うっ血性心不全(8試験、同:1.22、1.14~1.31、p<0.001、I2=37%)、死亡(8試験、同:1.14、1.09~1.20、p<0.001、I2=0%)の発現率が有意に高かった。有害なアウトカムが1例の患者に発現するのに要する治療例数(number needed to treat to harm; NNH)の解析を行ったところ、ピオグリタゾンに比べrosiglitazoneでは心筋梗塞が10万人当たり170人多く発現し、同様にうっ血性心不全は649人多く、死亡は431人多く発現することが示唆された。著者は、「2型糖尿病患者の治療では、ピオグリタゾンに比しrosiglitazoneは心筋梗塞、うっ血性心不全、死亡のリスクが有意に高いことが示された」と結論し、「医師、患者、監督機関はチアゾリジン系薬剤の血糖コントロールにおける有用性とともにこれらの有害作用にも十分に留意すべき」としている。(菅野守:医学ライター)

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新たな胸痛評価法により、低リスク患者の早期退院が可能に

ニュージーランド・クライストチャーチ病院のMartin Than氏らが新たに開発したADPと呼ばれる胸痛評価法は、主要有害心イベントの短期的なリスクが低く、早期退院が相応と考えられる患者を同定可能なことが、同氏らが行ったASPECT試験で示された。胸痛を呈する患者は救急医療部の受診数の増加を招き、在院時間の延長や入院に至る可能性が高い。早期退院を促すには、胸痛患者のうち主要有害心イベントのリスクが短期的には低いと考えられる者を同定する必要があり、そのためには信頼性が高く、再現性のある迅速な評価法の確立が求められている。Lancet誌2011年3月26日号(オンライン版2011年3月23日号)掲載の報告。ADPの有用性を検証する前向き観察試験ASPECT試験の研究グループは、急性冠症候群(ACS)が疑われる胸痛症状を呈し、救急医療部を受診した患者の評価法として「2時間迅速診断プロトコール(accelerated diagnostic protocol:ADP)」を開発し、その有用性を検証するプロスペクティブな観察試験を実施した。アジア太平洋地域の9ヵ国(オーストラリア、中国、インド、インドネシア、ニュージーランド、シンガポール、韓国、台湾、タイ)から14の救急医療施設が参加し、胸痛が5分以上持続する18歳以上の患者が登録された。ADPは、TIMI(Thrombolysis in Myocardial Infarction)リスクスコア、心電図、およびポイント・オブ・ケア検査としてのトロポニン、クレアチンキナーゼ MB(CK-MB)、ミオグロビンのバイオマーカーパネルで構成された。主要評価項目は、初回胸痛発作(初回受診日を含む)から30日以内の主要有害心イベントの発現とした。主要な有害心イベントは、死亡、心停止、緊急血行再建術、心原性ショック、介入を要する心室性不整脈、介入を要する重度の心房ブロック、心筋梗塞(初回胸痛発作の原因となったもの、および30日のフォローアップ期間中に発現したもの)と定義した。感度99.3%、特異度11.0%、陰性予測値99.1%3,582例が登録され30日間のフォローアップが行われた。この間に、421例(11.8%)で主要有害心イベントが発現した。ADPにより352例(9.8%)が低リスクで早期退院が適切と判定された。そのうち3例(0.9%)で主要有害心イベントが発現し、ADPの感度は99.3%(95%信頼区間:97.9~99.8)、陰性予測値は99.1%(同:97.3~99.8)、特異度は11.0%(同:10.0~12.2)であった。著者は、「この新たな胸痛評価法は、主要有害心イベントの短期的なリスクがきわめて低く早期退院が相応と考えられる患者を同定した」と結論し、「ADPを用いれば、全体の観察期間および胸痛による入院期間が短縮すると考えられる。ADPの実行に要する個々のコンポーネントは各地で入手可能であるため、健康サービスの提供に世界規模で貢献する可能性がある。より特異度の高い評価法のほうが退院数を増加させ得るが、安全性重視の観点から感度に重きを置くべきであろう」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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肥満を加味しても、心血管疾患リスク予測能は向上しない:約22万人の解析

欧米、日本などの先進国では、心血管疾患の従来のリスク因子である収縮期血圧、糖尿病の既往歴、脂質値の情報がある場合に、さらに体格指数(BMI)や腹部肥満(ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比)のデータを加えても、リスクの予測能はさほど改善されないことが、イギリス・ケンブリッジ大学公衆衛生/プライマリ・ケア科に運営センターを置くEmerging Risk Factors Collaboration(ERFC)の検討で明らかとなった。現行の各種ガイドラインは、心血管疾患リスクの評価における肥満の測定は不要とするものから、付加的な検査項目とするものや正規のリスク因子として測定を勧告するものまでさまざまだ。これら肥満の指標について長期的な再現性を評価した信頼性の高い調査がないことが、その一因となっているという。Lancet誌2011年3月26日号(オンライン版2011年3月11日号)掲載の報告。58のコホート試験の個々の患者データを解析研究グループは、BMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比と心血管疾患の初発リスクの関連性の評価を目的にプロスペクティブな解析を行った。58のコホート試験の個々の患者データを用いて、ベースラインの各因子が1 SD増加した場合(BMI:4.56kg/m2、ウエスト周囲長:12.6cm、ウエスト/ヒップ比:0.083)のハザード比(HR)を算出し、特異的な予測能の指標としてリスク識別能と再分類能の評価を行った。再現性の評価には、肥満の指標の測定値を用いて回帰希釈比(regression dilution ratio)を算出した。むしろ肥満コントロールの重要性を強調する知見17ヵ国22万1,934人[ヨーロッパ:12万9,326人(58%)、北米:7万3,707人(33%)、オーストラリア:9,204人(4%)、日本:9,697人(4%)]のデータが収集された。ベースラインの平均年齢は58歳(SD 9)、12万4,189人(56%)が女性であった。187万人・年当たり1万4,297人が心血管疾患を発症した。内訳は、冠動脈心疾患8,290人(非致死性心筋梗塞4,982人、冠動脈心疾患死3,308人)、虚血性脳卒中2,906人(非致死性2,763人、致死性143人)、出血性脳卒中596人、分類不能な脳卒中2,070人、その他の脳血管疾患435人であった。肥満の測定は6万3,821人で行われた。BMI 20kg/m2以上の人では、年齢、性別、喫煙状況で調整後の、心血管疾患のBMI 1 SD増加に対するHRは1.23(95%信頼区間:1.17~1.29)であり、ウエスト周囲長1 SD増加に対するHRは1.27(同:1.20~1.33)、ウエスト・ヒップ比1 SD増加に対するHRは1.25(同:1.19~1.31)であった。さらにベースラインの収縮期血圧、糖尿病の既往歴、総コレステロール、HDLコレステロールで調整後の、心血管疾患のBMI 1SD増加に対するHRは1.07(95%信頼区間:1.03~1.11)、ウエスト周囲長1 SD増加に対するHRは1.10(同:1.05~1.14)、ウエスト/ヒップ比1 SD増加に対するHRは1.12(同:1.08~1.15)であり、いずれも年齢、性別、喫煙状況のみで調整した場合よりも低下した。従来のリスク因子から成る心血管疾患リスクの予測モデルにBMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比の情報を加えても、リスク識別能は大幅には改善されず[C-indexの変化:BMI -0.0001(p=0.430)、ウエスト周囲長 -0.0001(p=0.816)、ウエスト/ヒップ比 0.0008(p=0.027)]、予測される10年リスクのカテゴリーへの再分類能もさほどの改善は得られなかった[net reclassification improvement:BMI -0.19%(p=0.461)、ウエスト周囲長 -0.05%(p=0.867)、ウエスト/ヒップ比 -0.05%(p=0.880)]。再現性は、ウエスト周囲長(回帰希釈比:0.86、95%信頼区間:0.83~0.89)やウエスト/ヒップ比(同:0.63、0.57~0.70)よりもBMI(同:0.95、0.93~0.97)で良好であった。ERFCの研究グループは、「先進国では、心血管疾患の従来のリスク因子である収縮期血圧、糖尿病の既往歴、脂質値に、新たにBMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比の情報を加えても、リスクの予測能はさほど改善されない」と結論したうえで、「これらの知見は心血管疾患における肥満の重要性を減弱させるものではない。過度の肥満は中等度のリスク因子の主要な決定因子であるため、むしろ心血管疾患の予防における肥満のコントロールの重要性を強調するものだ」と注意を促している。(菅野守:医学ライター)

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心血管疾患ガイドラインの多くが、リスク因子のモニタリングに十分に言及せず

心血管疾患のガイドラインの中には、主要なリスク因子である脂質値、高血圧、喫煙に関するセクションを欠くものが多く、記述があっても十分でない場合が高率に及ぶことが、イギリス・オックスフォード大学プライマリ・ケア科のIvan Moschetti氏らによる調査で示された。心血管疾患の3つのリスク因子のモニタリングは、患者の予後、臨床的な判断、医療コストに大きな影響を及ぼす可能性がある。臨床ガイドラインの目的は、診断、患者管理、治療法の決定過程を標準化するために、最良のエビデンスに基づいてケアの質を全体的に向上させることだが、心血管疾患管理のガイドラインのほとんどがモニタリングを十分には取り扱っておらず、モニタリングの勧告について系統的になされた検討はないという。BMJ誌2011年3月19日号(オンライン版2011年3月14日号)掲載の報告。リスク因子のモニタリングの記述を系統的にレビュー研究グループは、心血管疾患の予防や治療に関するガイドラインで勧告されているモニタリングの記述の妥当性を評価するために系統的なレビューを行った。Medline、Trip database、National Guideline Clearinghouseなどのデータベースを検索し、2002年1月~2010年2月の間に新規に、あるいは改訂版が公表されたガイドラインのうち、心血管疾患の主要リスク因子である脂質値、高血圧、喫煙に関する記述を含むものを抽出した。主要評価項目は、ガイドラインにおけるリスク因子のモニタリングの取り扱い頻度とした。また、モニタリング勧告の完全性を評価するために、モニタリングすべき項目やその時期、異常値を示す場合の対処法、さらにエビデンスレベルが明記されているか否かについて検討した。エビデンスがない場合はその旨を明記し、必要な研究を示すべき選択基準を満たした117のガイドラインのうち、脂質値に関するセクションを設けていたのは84(72%)だった。そのうち44(53%)にはモニタリングすべき項目に関する情報や具体的な勧告の記述がなく、43(51%)はいつモニタリングすべきかの情報を記述しておらず、54(64%)は正常値でない場合に実施すべき対処法に関する指針を記載していなかった。高血圧に関するセクションを設定していたガイドラインは79(68%)、喫煙については65(56%)にすぎず、それぞれ50(63%)、35(54%)のガイドラインにはモニタリングすべき項目の記述がなかった。エビデンスのレベルを明記したガイドラインは少なく、ほとんどの勧告がレベルの低いエビデンスに基づいていた。著者は、「心血管疾患のガイドラインの多くにはモニタリングすべき項目や、異常値が検出された場合の指針の記述がなかった」とし、「特定のモニタリングを支持するエビデンスがない場合は、その旨をガイドラインに明記すべきであり、この欠落を埋めるために必要とされる新たな研究について記述すべき」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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男性ビジネスマンの3人に1人が「自宅で朝食を食べない日がある」?

株式会社永谷園は24日、20~49歳の男性ビジネスマン1,800名に対して実施した「朝食」に関する実態調査の結果を報告した。調査結果からは、「時間がない」「食欲がない」といった理由から朝食がきちんととれていない実態や、「朝食と夫婦関係」との関連性が明らかになったという。「朝食を自宅で食べているかどうか」の質問に全体の71%が「いつも自宅で食べている」と回答したのに対し、「時々食べている」「全く食べていない」と答えた人は29%と、ビジネスマンの3人に1人は「自宅で朝食を食べない日がある」という結果だった。「自宅で朝食を食べない理由」としては、「時間がないから」(57%)、「食欲がないから」(32%)といった回答が多くあがった。一方で「朝食は自宅で食べた方が良いと思いますか?」という質問には、94%が「そう思う」と回答。さらに「自宅で朝食を食べるメリット」を聞いたところ、「食費の節約になる」(65%)、「健康管理ができる」(62%)といった回答が多くあがり、その他には「会話が増える」(38%)、「妻の愛情を感じる」(33%)といった夫婦関係にまつわる答えも多くあったとのこと。詳細はプレスリリース(PDF)へhttp://www.nagatanien.co.jp/company/news/pdf/news20110324135610.pdf

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薬剤性溶出ステント挿入PCI後のクロピドグレル高用量投与の検討:GRAVITAS

安定冠動脈疾患などで薬剤性溶出ステントを挿入後、血小板反応性が高い患者に対し、クロピドグレル(商品名:プラビックス)を標準の2倍量投与しても、6ヵ月間の心血管イベントリスクは減少せず、標準量投与と同等であることが示された。米国・Scripps ClinicのMatthew J. Price氏らによる多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検試験「Gauging Responsiveness With A VerifyNow assay―Impact on Thrombosis and Safety」(GRAVITAS)の結果による。JAMA誌2011年3月16日号で発表された。これまでの研究により、クロピドグレル服用者で血小板反応性が高い人は、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の心血管疾患イベントリスクが増大する可能性が示されている。しかしこうした患者への治療方針は確立されておらず、高用量投与とすることで効果が示されるかが検討された。PRU230以上患者を標準量群と高用量群に無作為化し、6ヵ月間のイベント発生率を評価GRAVITASは、2008年7月~2010年4月にかけて、北米83ヵ所の医療施設を通じ、2,214人を被験者として行われた。被験者は、薬剤性溶出ステント挿入PCI後、12~24時間内の血小板反応性がP2Y12反応単位(PRU)230以上だった。平均年齢は64歳、うち男性は65%だった。被験者は無作為に、高用量クロピドグレル群(初期負荷投与600mg、その後150mg/日)と、標準量クロピドグレル群(75mg/日)に割り付けられ、それぞれ6ヵ月間投与された。主要エンドポイントは、心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、またはステント内血栓症の6ヵ月間の発生率とされた。6ヵ月心血管疾患イベントのリスク、出血リスクともに同等結果、6ヵ月時点での主要エンドポイント発生率は、高用量群で2.3%(1,109人中25人)、標準量群も2.3%(1,105人中25人)と同等であった(ハザード比:1.01、95%信頼区間:0.58~1.76、p=0.97)。また中等度から重度の出血イベントの発生について、高用量群15人(1.4%)、標準量群25人(2.3%)で、同リスクの有意な増大は認められなかった(ハザード比:0.59、95%信頼区間:0.31~1.11、p=0.10)。なお、術後30日時点で高い血小板反応性(PRU 230以上)が認められた人の割合は、標準量群62%に対し高用量群は40%で、高用量群で絶対値で22ポイント(95%信頼区間:18~26)の有意な低下が認められた(p<0.001)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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50歳以上の乳がんリスク、喫煙者で有意に増大、間接喫煙者でも増大示唆

閉経後女性における喫煙と侵襲性乳がんリスクとの関連について、直接喫煙者では有意なリスク増大が認められ、間接喫煙者でも増大が示唆されることが、米国・ウエスト・バージニア大学Mary Babb RandolphがんセンターのJuhua Luo氏らによる前向きコホート試験「Women's Health Initiative Observational Study」の結果、明らかにされた。BMJ誌2011年3月5日号(オンライン版2011年3月1日号)掲載より。乳がんリスク、非喫煙者と比べ元喫煙者1.09倍、現喫煙者1.16倍試験には、米国内40ヵ所のクリニックセンターから、1993~1998年の間に50~79歳の女性7万9,990例の被験者が登録した。主要評価項目は、自己報告による能動的または受動的喫煙状況、病理学的に診断された侵襲性乳がんとした。平均10.3年の追跡期間で、侵襲性乳がんと診断されたのは3,520例だった。非喫煙者と比べ、乳がんリスクは、元喫煙者は9%高く(ハザード比:1.09、95%信頼区間:1.02~1.17)、現喫煙者は16%高かった(同:1.16、1.00~1.34)。子どもの時から間接喫煙に曝露された最大曝露群、非間接喫煙群の1.32倍喫煙本数が多く、喫煙歴も長い能動的喫煙者、また喫煙開始年齢が10代であった人における乳がんリスクが有意に高かった。乳がんリスクが最も高かったのは、50歳以上の喫煙者で、生涯非喫煙者と比べ1.35倍(同:1.35、1.03~1.77)、生涯非喫煙者で非間接喫煙者と比べると1.45倍(同:1.45、1.06~1.98)だった。禁煙後も20年間、乳がんリスクは増大した。非喫煙者では、潜在的交絡因子補正後、間接喫煙曝露が最も多かった人(子どもの時に10年以上、成人後家庭内で20年以上、成人後職場で10年以上)の乳がんリスクは、間接喫煙曝露がなかった人に比べて32%超過(ハザード比:1.32、95%信頼区間:1.04~1.67)が認められた。しかし、その他の低曝露群との有意な関連は認められなかった。間接喫煙の累積に対するレスポンスも不明であった。

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医学生の学業成績、医師の臨床能力、民族間で差:イギリス

イギリスで研修を受けた医師や医学生においては、非白人は白人に比べ学業成績や臨床能力が劣るという民族間差がみられることが、ロンドン大学ユニヴァーシティ・カレッジのKatherine Woolf氏らによる調査で明らかとなった。イギリスの医学生や研修医の3分の1は少数民族の出身者だという。2002年に報告された医学部合格の関連因子に関するレビューでは、少数民族出身の受験生は標準よりも成績が劣ることが示されているが、この解析に含まれたイギリスの報告は1編のみであった。イギリスの大学や国民保健サービス(NHS)は、学生の入学状況や学業成績の向上、職員の採用状況や職能向上につき民族別にモニターすることが法的に義務づけられている。BMJ誌2011年3月12日号(オンライン版2011年3月8日号)掲載の報告。学業成績と民族との関連を解析研究グループは、イギリスで研修を受けた医師や医学生の学業成績と民族との関連について系統的にレビューし、メタ解析を行った。PubMedなどのオンラインデータベース、検索エンジンであるGoogleやGoogle Scholar、医学教育関連の専門誌や学会抄録を調査してデータを抽出した。医学生およびイギリスで研修を受けた医師の学部や大学院における学業成績を民族別に定量的に評価した報告をレビューの対象とした。イギリス以外の国での評価やイギリス以外の国でのみ研修を受けた場合、自己申告のみによる評価、サンプリングバイアスが明らかな場合、民族やアウトカムの詳細の記述が不十分な報告などは除外した。イギリスの医学教育、高等教育全体の課題22編の報告に含まれた2万3,742人のメタ解析では、非白人は白人に比べ学業成績が劣ることが示された(Cohen’s d=-0.42、95%信頼区間:-0.50~-0.34、p<0.001)。学部生、大学院生、臨床能力、合格/不合格アウトカムなどの個別の評価や、白人とアジア人の比較に関するメタ解析においても、同様の傾向が同程度に認められた。すべてのメタ解析に不均一性がみられた。著者は、「個々の医学校や試験のタイプ、また学部や大学院において、学業成績の民族間差が広範に認められた」と結論し、「この差は長期間持続しているため、非典型的で局所的な問題として片付けることはできず、イギリスの医学教育、高等教育全体に影響を及ぼし得る課題と捉えるべきである。この問題を追跡し、原因のさらなる調査を行うにはより詳細な情報が求められ、そのためには公平かつ公正な医師の研修法や評価法の確立が必須である」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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エベロリムスベースの免疫抑制療法、腎移植におけるカルシニューリン阻害薬回避戦略として有望:ZEUS試験

 腎移植患者に対する免疫抑制療法として、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害薬エベロリムス(商品名:サーティカン)をベースとするレジメンは、標準治療であるカルシニューリン阻害薬と同等の有効性および安全性を維持しつつ、12ヵ月後の腎機能を有意に改善し、長期予後の改善をさらに促進する可能性があることが、ドイツ・Charite大学のKlemens Budde氏らが実施したZEUS試験で示された。腎移植では、免疫抑制療法による予後の改善が示されているが、標準的な免疫抑制薬であるカルシニューリン阻害薬には急性/慢性の腎毒性がみられ、心血管リスク因子の増悪という長期予後に悪影響を及ぼす有害事象も認められる。そのため、腎毒性を伴わない免疫抑制療法として、カルシニューリン阻害薬と同等の有効性と安全性を維持しつつ、その使用を回避する治療戦略の開発が求められているという。Lancet誌2011年3月5日号(オンライン版2011年2月21日号)掲載の報告。エベロリムスベースのレジメンの有用性を移植後12ヵ月の腎機能で評価 ZEUS試験の研究グループは、腎移植後の免疫抑制療法において、カルシニューリン阻害薬と同等の効果を維持しつつ、これを使用せずに移植腎の機能を最適化する治療戦略として、エベロリムスベースのレジメンの有用性を評価するプロスペクティブな多施設共同オープンラベル無作為化試験を実施した。 2005年6月~2007年9月までに、17施設(ドイツ15施設、スイス2施設)から、18~65歳の新規腎移植患者503例が登録された。 4.5ヵ月間のシクロスポリン、腸溶性ミコフェノール酸ナトリウム、コルチコステロイド、バシリキシマブによる導入療法を施行後に、300例(60%)がエベロリムスベースのレジメンを施行する群あるいは標準的なシクロスポリン療法を継続する群に無作為化に割り付けられた。 主要評価項目は、移植後12ヵ月における腎機能[Nankivell式で評価した糸球体濾過量(GFR)]とし、intention-to-treat解析を行った。エベロリムス群でGFRが有意に改善 シクロスポリン群に146例(実際に投与されたのは145例)、エベロリムス群には154例(同155例)が割り付けられ、そのうち移植後12ヵ月間の免疫抑制療法を完遂したのはそれぞれ118例(76%)、117例(81%)であった。 移植後12ヵ月におけるGFRは、シクロスポリン群の61.9mL/分/1.73m2に比べ、エベロリムス群は71.8mL/分/1.73m2と有意に良好であった(平均差:-9.8mL/分/1.73m2、95%信頼区間:-12.2~-7.5、p<0.0001) 無作為割り付け後の期間(4.5ヵ月の導入療法後~12ヵ月)に生検で確認された急性拒絶反応率は、シクロスポリン群の3%(5/146例)に比べエベロリムス群は10%(15/154例)と有意に高かった(p=0.036)が、試験期間全体(ベースライン~12ヵ月)では両群で同等であった(15% vs. 15%)。 シクロスポリン群に比べエベロリムス群で頻度の高い有害事象として、血小板減少(全試験期間:3% vs. 11%、p=0.0144、無作為割り付け後:0% vs. 6%、p=0.0036)、アフタ性口内炎(3% vs. 17%、p<0.0001、1% vs. 15%、p<0.0001)、下痢(27% vs. 36%、p=0.1063、8% vs. 21%、p=0.0030)が認められた。高尿酸血症はシクロスポリン群で高頻度であった(14% vs. 6%、p=0.0527、3% vs. 0%、p=0.0254)。 著者は、「カルシニューリン阻害薬回避戦略としてのエベロリムスベースの免疫抑制療法は、有効性および安全性を維持しつつ12ヵ月後の腎機能を改善したことから、腎移植患者の長期予後の改善をさらに促進する可能性がある」と結論している。

10935.

ピロリ菌除菌効果、ビスマス製剤を含む4剤併用が標準治療を凌駕

 ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:以下、ピロリ菌)の除菌効果は、プロトンポンプ阻害薬オメプラゾールと次クエン酸ビスマス+メトロニダゾール+テトラサイクリンの4剤併用レジメンが、標準的な3剤併用療法よりも優れることが、ドイツ・Otto-von-Guericke大学のPeter Malfertheiner氏らの検討で示された。ピロリ菌は、消化性潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫など上部消化管の良性/悪性疾患を引き起こすが、先進国では国民の20~50%が、開発途上国では最大で80%が感染しているとされる。日本を含め国際的なガイドラインでは、標準的な1次治療としてオメプラゾールにアモキシシリンとクラリスロマイシンを併用する方法が推奨されるが、最近の耐性菌の増加に伴い新たなレジメンの開発が求められているという。Lancet誌2011年3月12日号(オンライン版2011年2月22日号)掲載の報告。除菌率を比較する非劣性試験、優越性も評価 研究グループは、ピロリ菌の除菌治療における標準治療とオメプラゾール+3つの抗菌薬を含有するカプセル薬併用療法の有効性および安全性を比較するオープンラベルの無作為化第III相非劣性試験を行った。 2008年6月~2009年6月までに、7ヵ国(フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ポーランド、スペイン、イギリス)の39施設から、ピロリ菌感染が確認され、上部消化管症状を呈する18歳以上の患者が登録された。 これらの患者が、オメプラゾール20mg(1カプセルを朝夕食後の1日2回)+3剤含有カプセル薬(次クエン酸ビスマス140mg、メトロニダゾール125mg、テトラサイクリン125mg、3カプセルを毎食後と就寝前の1日4回)を10日間服用する群(4剤併用群)、あるいはオメプラゾール20mg+アモキシシリン500mg+クラリスロマイシン500mg(朝夕食前の1日2回)を7日間服用する群(標準治療群)に無作為に割り付けられた。 主要評価項目はピロリ菌除菌率とし、治療終了後28日以降と56日以降に13C尿素呼気試験(UBT)を行い、2回とも陰性の場合に「除菌」と判定した。本研究は非劣性試験としてデザインされたが優越性の検出能も備えていた。非劣性の評価ではper-protocol(PP)解析を行い、優越性についてはintention-to-treat(ITT)解析を実施した。除菌率:PP解析で93% vs. 70%、ITT解析で80% vs. 55% ITT集団の440例(4剤併用群:218例、標準治療群:222例)のうち、UBT非施行例など101例(それぞれ40例、61例)を除く339例(178例、161例)がPP集団となった。 PP解析における除菌率は、4剤併用群が93%(166/178例、95%信頼区間:88.5~96.5%)、標準治療群は70%(112/161例、同:61.8~76.6%)であった。両群間の差の95%信頼区間は15.1~32.3%(p<0.0001)であり、4剤併用群の95%信頼区間の下限値は事前に規定された非劣性の境界値である-10%よりも大きく、標準治療に対する非劣性が確認された。 ITT解析でも、4剤併用群の除菌率は80%(174/218例)と、標準治療群の55%(123/222例)に比べ有意に優れていた(p<0.0001)。 安全性プロフィールは両群で同等であり、主な有害事象は消化管および中枢神経系の障害であった。著者は、「ピロリ菌の除菌治療においては、標準的な3剤併用レジメンの7日間服用よりも、ビスマス製剤を含む抗菌薬3剤+オメプラゾールの4剤併用レジメンの10日間服用のほうが有意に優れる」と結論し、「4剤併用は安全性と耐用性が標準治療と同等で、除菌効果は有意に優れるため、クラリスロマイシン耐性ピロリ菌増加の観点からは、4剤併用レジメンを1次治療として考慮すべき」と指摘している。

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糖尿病は独立リスク因子として血管疾患以外にも、がん、感染症などの早期死亡に関連する

糖尿病や高血糖が、がんやその他非血管系の疾患による死亡リスクと、どの程度関連しているのか明らかではなく、たとえば米国糖尿病学会、米国がん学会の共同コンセンサス・ステートメントでも不明であるとしている。英国ケンブリッジ大学のSeshasai SR氏らThe Emerging Risk Factors Collaboration(ERFC)は、糖尿病、空腹時血糖値と特異的死亡との関連について信頼たり得る評価を提供することを目的とした研究グループで、成人における糖尿病の寿命に対する影響を前向きに調査した結果を報告した。NEJM誌2011年3月3日号掲載より。糖尿病者の全死因死亡リスクは、非糖尿病者と比べ1.8倍ERFCが解析したのは、97件の前向き研究に参加した82万900例の被験者(平均年齢55±9歳、女性48%、ヨーロッパで登録58%、北米で登録36%)のうち、12万3,205例の死亡例(死亡までの期間中央値13.6年)に関するデータで、ベースラインの糖尿病の状態、空腹時血糖値に従い、死因別死亡のリスク(ハザード比)を算出した。結果、年齢、性、喫煙状況とBMIで補正後、糖尿病を有さない人(非糖尿病者)と比較した糖尿病を有する人(糖尿病者)のハザード比は、全死因死亡が1.80(95%信頼区間:1.71~1.90)、がんによる死亡1.25(同:1.19~1.31)、血管系の疾患による死亡2.32(同:2.11~2.56)、その他の原因による死亡1.73(同: 1.62~1.85)であった。50歳の糖尿病者、非糖尿病者より平均6年短命糖尿病者は非糖尿病者と比較して、肝臓、膵臓、卵巣、大腸、肺、膀胱、乳房のがんによる死亡と中程度の関連がみられた。また、がん、血管系疾患以外の、腎疾患、肝疾患、肺炎、その他感染症による死亡や、精神疾患、肝臓以外の消化器疾患、外因、意図的な自傷行為、神経系障害、さらに慢性閉塞性肺疾患による死亡とも関連していた。ハザード比は、血糖値による補正後は大幅に低下したが、収縮期血圧、脂質レベル、炎症マーカー、腎機能マーカーの値による補正では低下しなかった。一方、空腹時血糖値については、同値が100mg/dL(5.6mmol/L)を上回る場合は死亡との関連がみられたが、70~100mg/dL(3.9~5.6mmol/L)では死亡との関連はみられなかった。また、50歳の糖尿病者は非糖尿病者より平均6年早く死亡していた。その差の約40%は非血管系の疾患に起因していることも明らかになった。これらから研究グループは、「糖尿病は、いくつかの主要な危険因子とは独立して、血管疾患に加えて、いくつかのがん、感染症、外因、意図的な自傷行為、変性疾患による相当な早期死亡と関連する」と結論づけた。(朝田哲明:医療ライター)

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心房細動患者に対するイルベサルタンの効果の検討

心房細動患者に対するARB・イルベサルタン(商品名:アバプロ、イルベタン)の効果について、カナダ・マクマスター大学のYusuf S氏ら「ACTIVE I」研究チームによる無作為化プラセボ対照試験の結果が報告された。心房細動患者では心血管疾患イベントリスクが高い。イルベサルタンが同リスクを抑制するかどうかが検討された。NEJM誌2011年3月10日号掲載より。9,016例をイルベサルタンかプラセボに無作為化、平均4.1年追跡ACTIVE I(Atrial Fibrillation Clopidogrel Trial with Irbesartan for Prevention of Vascular Events I)は、脳卒中の危険因子既往があり収縮期血圧110mmHg以上の患者を、イルベサルタン300mg/日目標用量群か二重盲検でプラセボ群に投与する群に無作為に割り付け行われた。被験者はすでに、2試験のうちの1つ〔クロピドグレル(商品名:プラビックス)+アスピリン対アスピリン単独試験または経口抗凝固薬試験〕に登録されていた。第一主要複合アウトカムは、脳卒中・心筋梗塞・血管系が原因の死亡で、第二主要複合アウトカムは、これらに心不全による入院を加えたものとされた。9,016例が登録され、平均4.1年追跡された。第一主要複合アウトカムの発生率、両群とも100人・年当たり5.4%結果、イルベサルタン群がプラセボ群よりも収縮期血圧の平均低下が2.9mmHg大きかった。また拡張期血圧の平均低下は1.9mmHg大きかった。第一主要複合アウトカムの発生率は、両群とも100人・年当たり5.4%だった(イルベサルタンのハザード比:0.99、95%信頼区間:0.91~1.08、P=0.85)。第二主要複合アウトカムの発生率は、100人・年当たりイルベサルタン群7.3%、プラセボ群7.7%だった(同:0.94、0.87~1.02、P=0.12)。心不全による初回入院率(事前に副次アウトカムとして規定)は、イルベサルタン群2.7%、プラセボ群3.2%だった(同:0.86、0.76~0.98、P=0.02)。基線で洞調律だった患者では、心不全による入院、12誘導心電図上の心房細動の予防におけるイルベサルタンのベネフィットは認められなかった。また電話モニタリングを受けたサブグループにおいてもベネフィットは認められなかった。一方イルベサルタン群は、プラセボ群と比較して症候性低血圧(127例対64例)、腎機能障害(43例対24例)がより多く認められた。研究グループは、「心房細動患者に対するイルベサルタンは、心血管疾患イベントを抑制しなかった」と結論している。(武藤まき:医療ライター)

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ARBカンデサルタン、急性脳卒中への有用性:SCAST試験

血圧の上昇を伴う脳卒中患者における、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)カンデサルタン(商品名:ブロプレス)の有用性について、ノルウェー・オスロ大学のElse Charlotte Sandset氏らが実施したSCAST試験の結果が報告された。血圧の上昇は、急性脳卒中の一般的な原因であり、不良な予後のリスクを増大させる要因である。ARBは梗塞サイズや神経学的機能に良好な効果を及ぼすことが基礎研究で示され、高血圧を伴う急性脳卒中患者を対象としたACCESS試験では、カンデサルタンの発症後1週間投与により予後の改善が得られることが示唆されていた。Lancet誌2011年2月26日号(オンライン版2011年2月11日号)掲載の報告。1週間漸増投与の有用性を評価SCAST試験の研究グループは、血圧上昇を伴う急性脳卒中患者に対するカンデサルタンを用いた慎重な降圧治療の有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施した。北ヨーロッパ9ヵ国146施設から、18歳以上、症状発現後30時間以内、収縮期血圧≧140mmHgの急性脳卒中(虚血性あるいは出血性)患者が登録された。これらの患者が、カンデサルタン群あるいはプラセボ群に無作為に割り付けられ、7日間の治療を受けた。第1日に4mgを、第2日に8mgを投与し、第3~7日には16mgが投与された。患者と担当医には治療割り付け情報は知らされなかった。主要評価項目は、血管に関する複合エンドポイント(6ヵ月以内の血管死、心筋梗塞、脳卒中)および機能アウトカム(6ヵ月の時点において修正Rankinスケールで評価)とし、intention-to-treat解析を行った。主要評価項目に大きな差は認められず2,029例が登録され、カンデサルタン群に1,017例、プラセボ群には1,012例が割り付けられた。そのうち6ヵ月後に評価が可能であったのは2,004例(99%、カンデサルタン群:1,000例、プラセボ群:1,004例)であった。7日間の治療期間中の平均血圧は、カンデサルタン群[147/82mmHg(SD 23/14)]がプラセボ群[152/84mmHg(SD 22/14)]よりも有意に低下した(p<0.0001)。6ヵ月後のフォローアップの時点における複合エンドポイントの発生率は、カンデサルタン群が12%(120/1,000例)、プラセボ群は11%(111/1,004例)であり、両群間に差を認めなかった(調整ハザード比:1.09、95%信頼区間:0.84~1.41、p=0.52)。機能アウトカムの解析では、不良な予後のリスクはカンデサルタン群のほうが高い可能性が示唆された(調整オッズ比:1.17、95%信頼区間:1.00~1.38、p=0.048)。事前に規定された有用性に関する副次的評価項目(全死亡、血管死、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、心筋梗塞、脳卒中の進行、症候性低血圧、腎不全など)や、治療7日目のScandinavian Stroke Scaleスコアおよび6ヵ月後のBarthel indexで評価した予後はいずれも両群で同等であり、事前に規定されたサブグループのうちカンデサルタンの有用性に関するエビデンスが得られた特定の群は一つもなかった。6ヵ月のフォローアップ期間中に、症候性低血圧がカンデサルタン群の9例(1%)、プラセボ群の5例(<1%)に認められ、腎不全がそれぞれ18例(2%)、13例(1%)にみられた。この結果から、血圧の上昇を伴う急性脳卒中患者においては、ARBであるカンデサルタンを用いて慎重に行った降圧治療は有用であることを示すことはできなかった。

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早期乳がん歴のある人へのマンモグラフィスクリーニングの感度および特異度は?

早期乳がん歴のある人に対するマンモグラフィの検査精度と成果が明らかにされた。乳がん歴のある人には、第2の乳がんリスクへの懸念もありマンモグラフィのスクリーニングが推奨されるが、その成績についての信頼できる検証データはほとんどないという。オーストラリア・シドニー大学のNehmat Houssami氏らが、全米乳がんサーベイランス協会(BCSC)加盟施設でマンモグラフィを受けた2万人弱の早期乳がん歴のある人と、同乳がん歴のない人とのデータを分析し、JAMA誌2011年2月23日号で発表した。乳がん歴のある人の約6万件のマンモグラフィデータをコントロール群と比較研究グループは、1996~2007年にBSCS加盟施設で行われたマンモグラフィのうち、早期乳がん歴のある1万9,078人に行われた5万8,870件のデータと、コントロール群(乳房密度や年齢、実施年などをマッチングした乳がん歴のない)5万5,315人に行われた5万8,870件のデータについて比較した。乳がん歴は、上皮内がんまたは浸潤がんのステージIまたはIIだった。結果、マンモグラフィ実施後1年以内に乳がんが見つかった人は、乳がん歴あり群では655人(浸潤がん499人、上皮内がん156人)、乳がん歴なし群では342人(浸潤がん285人、上内皮がん57人)だった。感度、特異度ともに乳がん歴あり群の方が乳がん歴なし群に比べて低い乳がん歴なしと比較しての乳がん歴あり群のマンモグラフィの精度および成果については、がん発生率は乳がん歴あり群1,000スクリーニング当たり10.5、乳がん歴なし群1,000スクリーニング当たり5.8であり、がん検出率は1,000スクリーニング当たり6.8、乳がん歴なし群は1,000スクリーニング当たり4.4だった(p<0.001)。中間期がん発生率は、乳がん歴なし群が1.4/1,000スクリーニングに対し、乳がん歴あり群が3.6/1,000スクリーニングと有意に高率だった。検診の感度は、乳がん歴あり群65.4%に対し乳がん歴なし群76.5%、特異度は同99.0%に対し98.3%と、いずれも乳がん歴あり群の方が低かった(p<0.001)。その他、マンモグラム異常が認められたのは、乳がん歴あり群2.3%、乳がん歴なし群1.4%だった(p<0.001)。また、乳がん歴あり群では、上皮内がん検出に関する感度は78.7%だったのに対し、浸潤がんに関する感度は61.1%と低く(p

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CRPそのものは、冠動脈心疾患の原因か?:約19万5,000人の遺伝学的メタ解析

血中C反応性蛋白(CRP)濃度自体は冠動脈心疾患の原因因子ではないことが、C Reactive Protein Coronary Heart Disease Genetics Collaboration(CCGC)による検討で示された。CRPの血中濃度は将来的な冠動脈心疾患のリスクと強力かつ持続的に相関するが、この関連性が両者の因果関係を反映するかは不明だ。一方、CRP関連遺伝子の変異はCRP濃度の代替指標として因果関係の判定の一助に使用可能とされる。これまでに実施された試験は、冠動脈心疾患におけるCRPの因果的な役割の可能性を評価するにはパワー不足で精密性にも欠けるという。BMJ誌2011年2月19日号(オンライン版2011年2月15日号)掲載の報告。CRP遺伝子のSNP、血中CRP濃度、他のリスク因子の関連を評価CCGCの研究グループは、CRP関連遺伝子の変異は、冠動脈心疾患におけるCRPの因果的な役割の評価において、血中濃度の非交絡的な代替指標として使用可能か否かについて検討した。15ヵ国で実施された47の疫学試験の個々の患者データを用いて、遺伝学的なメタ解析を行った。冠動脈心疾患患者4万6,557人を含む19万4,418人において、CRP遺伝子の4つの一塩基多型(SNP)(rs3093077、rs1205、rs1130864、rs1800947)、血中CRP濃度、その他のリスク因子の程度の関連について解析を行った。主要評価項目は、従来のリスク因子および個人内のリスク因子レベルの変動で調整した上での、血中CRP濃度自体のequivalent differenceのリスク比に対する遺伝学的なCRP上昇に関連した冠動脈心疾患のリスク比とした。遺伝学的リスク比と、CRP濃度自体のリスク比に関連なし個々のCRP遺伝子変異は、血中CRP濃度と最大で30%までの関連が認められた[p<10(−34)]が、他のリスク因子との関連はみられなかった。CRP上昇と関連する対立遺伝子を一つ加えた場合の冠動脈心疾患のリスク比は、rs3093077が0.93(95%信頼区間:0.87~1.00)、rs1205が1.00(同:0.98~1.02)、rs1130864が0.98(同:0.96~1.00)、rs1800947は0.99(同:0.94~1.03)であり、有意な関連は認めなかった。複合解析では、血中CRP濃度の自然対数リスク比が遺伝学的に1SD上昇するごとの冠動脈心疾患のリスク比は1.00(95%信頼区間:0.90~1.13)であった。プロスペクティブ試験においては、血中CRP濃度の自然対数リスク比の1SD上昇ごとの冠動脈心疾患のリスク比は1.33(95%信頼区間:1.23~1.43)であった(差の検定:p=0.001)が、これは遺伝学的な知見とは一致しなかった。著者は、「遺伝学的データにより、血中CRP濃度そのものは冠動脈心疾患の原因となる因子ではないことが示された」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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