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がん患者が過剰摂取しやすいサプリメントは?

 多くのがん患者は、がん診断後に栄養補助食品を使い始める傾向にある。そのため、がんではない人と比べ、どのような栄養補助食品が、がんサバイバーの総栄養摂取量に寄与しているかを検証する必要がある。今回、米国・タフツ大学のMengxi Du氏らは「がんではない人と比較した結果、がんサバイバーへの栄養補助食品の普及率は高く、使用量も多い。しかし、食品からの栄養摂取量は少ない」ことを明らかにした。研究者らは、「がんサバイバーは食品からの栄養摂取が不十分である。栄養補助食品の短期~長期的使用による健康への影響について、とくに高用量の摂取では、がんサバイバー間でさらに評価する必要がある」としている。Journal of Nutrition誌オンライン版2020年2月26日号掲載の報告。 研究者らは、がんサバイバーの総栄養摂取量のうち栄養補助食品から摂取されている栄養素を調べ、がんではない人との総栄養摂取量を比較する目的で、2003~16年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した成人がんサバイバー2,772人と、がんではない3万1,310人を調査。栄養補助食品の普及率、用量および使用理由について評価した。 主な結果は以下のとおり。・がんサバイバーとがんではない人の栄養補助食品の普及率は70.4% vs.51.2%と、がんサバイバーで高かった。同じく、マルチビタミン/ミネラルの普及率は48.9% vs.36.6%で、ビタミン系11種類、ミネラル系8種類の使用の多さが報告された。・全体的に、がんサバイバーは栄養補助食品からの栄養摂取量が有意に多く、大部分の栄養素は食品からは取れていなかった。・がんサバイバーは、がんではない人と比較して食品からの栄養摂取量が少ないため、葉酸、ビタミンB6、ナイアシン、カルシウム、銅、リンの摂取量が不十分な人の割合が高かった(総栄養摂取量<平均必要量[EAR:Estimated Average Requirement]または栄養所要量[AI:Adequate Intake])。・その一方で、がんサバイバーはビタミンD、ビタミンB6、ナイアシン、カルシウム、マグネシウムおよび亜鉛を栄養補助食品から多く取っていることから、これらを過剰摂取(総栄養摂取量≧許容上限摂取量[UL:tolerable upper intake level])している割合も高かった。・栄養補助食品を摂取するほぼ半数(46.1%)は、管理栄養士・栄養士に相談せずに独自に摂取していた。

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寝室の環境と不眠症との関係~RHINE-IIIの横断研究

 交通騒音は睡眠障害リスクを高めるといわれているが、不眠症状に対する交通関連の大気汚染の影響については、あまり知られていない。スウェーデン・ウプサラ大学のEmma Janson氏らは、交通への近接状況および交通騒音と不眠症との関連について調査を行った。Journal of Clinical Sleep Medicine誌オンライン版2020年2月5日号の報告。 対象は、Respiratory Health in Northern Europe(RHINE)研究に含まれる、1945~73年に北欧州の7つの医療センターで生まれた男女からランダムに選択された。寝室での交通騒音、寝室の窓からの交通近接状況、不眠症状についての情報を、自己報告により収集した。交通関連の大気汚染への曝露は、寝室の窓からの交通近接状況を代替として用いた。不眠症状は、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒について評価した。 主な結果は以下のとおり。・調査対象者は、1万2,963例であった。・交通騒音は、3つの不眠症状と正の相関が認められた。 ●入眠障害 OR:3.54、95%CI:1.85~6.76 ●中途覚醒 OR:2.95、95%CI:1.62~5.37 ●早朝覚醒 OR:3.25、95%CI:1.97~5.37・交通騒音を伴わない交通への近接は、入眠障害(OR:1.62、95%CI:1.45~1.82)との関連が認められた。 著者らは「不眠症のリスク因子として、交通騒音の影響がさらに認められた。騒音がなくとも交通への近接状況は、入眠障害リスクの増加との関連が認められた。不眠症が、交通騒音や交通関連の大気汚染の両方と関連している可能性が示唆された」としている。

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毎日1個の卵、アジア人は心血管疾患リスク低下の可能性/BMJ

 卵の中等度の消費(最大1日1個まで)は、心血管疾患全般のリスクを増加させず、アジア人ではむしろリスクを低下させる可能性があることが、米国・ハーバード公衆衛生大学院のJean-Philippe Drouin-Chartier氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年3月4日号に掲載された。卵の消費と心血管疾患リスクの関連は、この10年間、激しい議論を呼ぶ主題となっているが、これまでに得られた知見では結論が出ていないという。コホート研究とこれを含むアップデートメタ解析 研究グループは、卵の摂取と心血管疾患リスクの関連を評価する目的で前向きコホート研究を行い、この研究結果を含めたアップデートメタ解析を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 米国の3つのコホート研究(Nurses’ Health Study[NHS、1980~2012年]、NHS II[1991~2013年]、Health Professionals’ Follow-Up Study[HPFS、1986~2012年])のデータが用いられた。ベースライン時に心血管疾患や2型糖尿病、がんに罹患していない集団(NHS[女性]8万3,349例、NHS II[女性]9万214例、HPFS[男性]4万2,055例)が解析に含まれた。 卵摂取の頻度で6つの群(月1個未満、月1~4個未満、週1~3個未満、週3~5個未満、週5~7個未満、1日1個以上)に分けた。卵は、卵黄を含む全卵とし、焼いた製品(例 ケーキ)や液状卵、卵白のみの場合は除外された。 主要アウトカムは、初発の心血管疾患(非致死的心筋梗塞、致死的冠動脈性心疾患、脳卒中)とした。 次いで、今回の研究と既報の前向きコホート研究のアップデートメタ解析が行われた。卵消費量が相対的に低い点に留意 米国の3つのコホート研究では、最長32年のフォローアップ期間(554万人年以上)に、1万4,806例が初発の心血管疾患を発症した。卵の消費量は、多くの参加者が週に1~5個未満だった。 卵の摂取量が多い参加者ほど、BMIが高く、身体活動が少なく、喫煙者が多かった。また、卵摂取量の多い参加者は、スタチン治療の割合や心筋梗塞の家族歴が少なく、2型糖尿病が多かった。さらに、高い卵摂取量は、高いカロリー摂取量と関連し、未加工の赤身肉、ベーコン、その他の加工肉、精製穀物、ジャガイモ、高脂肪分牛乳、コーヒー、砂糖入り飲料の摂取量が多かった。 多変量統合解析では、卵摂取と関連のある生活様式や食事因子で補正すると、1日1個以上の卵消費は、初発心血管疾患のリスクと関連しなかった(1日1個以上と月1個未満の比較のハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.82~1.05、p=0.16、1日1個増加のHR:0.98、0.92~1.04)。冠動脈性心疾患(p=0.22)および脳卒中(p=0.53)にも有意な関連は認められなかった。 一方、アップデートメタ解析では、この研究を含む28件の前向きコホート研究(日本のNIPPON DATA80、NIPPON DATA90などのデータを含む)が対象となった。 このアップデートメタ解析(リスク指標[risk estimate]33個、参加者172万108例、心血管疾患イベント13万9,195件)では、1日の卵摂取が1個増えても、心血管疾患リスクは増加しなかった(統合相対リスク[RR]:0.98、95%CI:0.93~1.03、I2=62.3%)。同様に、卵摂取量が最も多い集団と少ない集団の間にも、心血管疾患リスクには差がなかった(0.99、0.93~1.06、52.9%)。 冠動脈性心疾患(リスク指標21個、参加者141万1,261例、イベント5万9,713件、統合RR:0.96、95%CI:0.91~1.03、I2=38.2%)および脳卒中(22個、105万9,315例、5万3,617件、0.99、0.91~1.07、71.5%)についても、1日の卵摂取が1個増えた場合のリスクに差はなかった。いずれの疾患も、最高摂取量集団と最低摂取量集団の間にリスクの差はみられなかった。 卵摂取の1日1個増加と心血管疾患リスクの関連に関する地理的な層別解析(相互作用のp=0.07)では、米国(RR:1.01、95%CI:0.96~1.06、I2=30.8%)と欧州(1.05、0.92~1.19、64.7%)のコホートでは関連がなかったのに対し、アジア人のコホート(リスク指標10個、参加者68万5,147例、イベント9万100件、0.92、0.85~0.99、I2=44.8%)では逆相関の関係が認められた。 著者は、「この研究に含まれるコホートの平均的な卵消費量は相対的に低い。週に1~5個未満の参加者が多く、1日1個以上の参加者は相対的に少ないため、結果を解釈する際は、この消費レベルを考慮する必要がある」と指摘している。

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乾癬患者、生物学的製剤の用量低減戦略vs.通常ケア

 「生物学的製剤は、乾癬治療に革命をもたらした」。では、次なる一手として、症状が安定した後の同製剤の用量低減戦略は、通常ケアに対して非劣性なのか。オランダ・ラドバウド大学医療センターのSelma Atalay氏らによる無作為化試験の結果、Psoriasis Area and Severity Index(PASI)スコアベースの評価では非劣性は示されなかったが、健康関連QOL(Dermatology Life Quality Index:DLQIなど)をベースとした評価では用量低減戦略の非劣性が示されたという。結果を踏まえて著者は、「リアルライフの設定で用量低減は可能だが、PASIとDLQIをモニタリングする厳格なスキームが不可欠である」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2020年2月12日号掲載の報告。 試験はオランダの6つの皮膚科部門で、2016年3月1日~2018年7月22日に行われた(実際的な非盲検前向き対照の非劣性無作為化臨床試験)。被験者は、慢性尋常性乾癬患者でアダリムマブ、エタネルセプト、ウステキヌマブによる治療を受け、疾患活動性が低く安定している120例。無作為に1対1の割合で用量低減群(60例)または通常ケア群(60例)に割り付けられ、用量低減群は皮下注投与の間隔を徐々に延長して、オリジナル投与量の67~50%となるまで用量が漸減された。 主要アウトカムは、12ヵ月時点でベースラインと比べて修正された疾患活動性スコアの群間差であり、事前規定の非劣性マージンは0.5とした。副次アウトカムは、PASIスコア、健康関連QOL(DLQI、SF-36など)、短期および持続性の発赤(PASIおよび/またはDLQIスコアの5超が3ヵ月以上と定義)を呈した患者の割合、用量漸減に成功した患者の割合であった。 主な結果は以下のとおり。・被験者120例(平均年齢54.0[SD 13.2]歳、男性82例[68%])のうち、追跡不能2例、プロトコール違反2例、プロトコール逸脱5例を除いた111例(用量低減群53例、通常ケア群58例)を対象にper-protocol解析が行われた。・12ヵ月時点のPASIスコア中央値は、用量低減群3.4(四分位範囲[IQR]:2.2~4.5)、通常ケア群2.1(0.6~3.6)で、平均群間差は1.2(95%信頼区間[CI]:0.7~1.8)であり、用量低減の通常ケアに対する非劣性は示されなかった。・12ヵ月時点のDLQIスコア中央値は、用量低減群1.0(IQR:0.0~2.0)、通常ケア群0.0(0.0~2.0)で、平均群間差は0.8(95%CI:0.3~1.3)であり、用量低減の通常ケアに対する非劣性が示された。・持続性の発赤に関して両群間に有意差は認められなかった(両群とも発生は5例)。・12ヵ月時点で用量漸減に成功していた用量低減群の被験者は28例(53%、95%CI:39~67)であった。・介入に関連した重篤な有害事象の発生は報告されなかった。

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新型コロナ感染後、発症前の2次感染が多い可能性

 新型コロナウイルスの連鎖感染の連続症例の発症間隔について、北海道大学の西浦 博氏らが28ペアの連続症例のデータから推計したところ、潜伏期間中央値(約5日)と同等もしくはそれより短かった。この結果は、感染から発症までの間に、多くの2次感染が起こっている可能性を示唆している。International Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2020年3月4日号に掲載。 流行初期に湖北省武漢市で報告されたデータを使用した疫学研究(Li Q, et al. N Engl J Med. 2020 Jan 29. [Epub ahead of print])では、連続症例の発症間隔は平均7.5日と推計されている。しかし、このデータには連続症例が6ペアしかなく、サンプリングバイアスがもたらされている可能性がある。 著者らは、公表されている研究論文と症例調査報告から、1次症例(infector)と2次症例(infectee)の発症日を収集。データの信頼性を主観的にランク付けし、すべてのデータ(n=28)およびデータの確実性が高いペアのサブセット(n=18)について分析した。さらに流行がまだ拡大期にあるため、データの右側切り捨てを調整した。 右側切り捨てを考慮し分析した結果、すべてのペアのデータにおいて連続症例の発症間隔の中央値は4.0日(95%信頼区間:3.1~4.9)、データの確実性が高いペアのデータに絞ると4.6日(同:3.5~5.9)と推計された。 著者らは、「COVID-19の発症間隔は、重症急性呼吸器症候群(SARS)よりも短く、SARSの発症間隔を用いた計算はバイアスをもたらす可能性がある」と指摘している。

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インスリンポンプ療法に特化したQOL尺度を新規開発

 最近の1型糖尿病に対する先進的な糖尿病関連デバイスは、持続血糖モニタリング(CGM)や持続皮下インスリン注入療法(CSII)など、めざましい進歩を遂げている。 とくにインスリンポンプ療法は、毎回煩雑な手順を踏んで注射しなくてよいため、食事の際や高血糖時など、目標の血糖まで速やかに修正できるなどのメリットがある。一方、常に装着しておかなければならず、装着部位のかゆみや服の制約などのデメリットもある。 従来、インスリンポンプ療法の使用に関して、全般的なQOL尺度しかなかった。そこで、坂根 直樹氏(京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室)は、村田 敬氏(同、糖尿病センター)、利根 淳仁氏(岡山済生会総合病院)、豊田 雅夫氏(東海大学医学部)らと共に、インスリンポンプ療法に特化したQOL尺度を新規に開発した。 対象となったのは、インスリンポンプ療法を行っている15歳以上の1型糖尿病患者50例(男性28%、平均年齢:47.6±17.0歳、糖尿病歴:14.7±9.7年、CSII歴:6.1±3.3年、平均HbA1c:7.4±0.8%)。 CSIIに関するQOLを評価するために、28項目のCSII-QOLを準備した。各質問は、5点のリッカート尺度(0=まったくそうではない、1=そうではない、2=どちらともいえない、3=そのとおりだ、4=まったくそのとおりだ)を使用し、負の影響項目の逆スコアリングとして回答を得た。 主な結果は以下のとおり。・28項目について因子分析を行ったところ、「インスリンポンプ療法は高血糖の修正に役立つ」など「利便性」について6項目、「インスリンポンプの療法のために余暇の活動(レジャーや趣味)が制限される」など「社会的制約」が9項目、「インスリンポンプの装着は不快である」「自動車やバイク運転時の低血糖が不安である」など「心理的負担」が10項目の計3因子、25項目が抽出された。・サンプルサイズの妥当性は許容範囲内(Kaiser-Meyer-Olkin=0.669)であり、内部一貫性(クロンバックのα信頼性係数=0.870)も妥当であった。・Intra-class correlation coefficients(ICC)=0.65であり、相当な再現性(0.61以上)も得られた。・糖尿病問題領質問表(PAID)とCSII-QOLとの間には、有意な負の相関があった(Kendall's Tau-b=0.468、p<0.001)。・HbA1cとCSII-QOLに、有意な相関関係はみられなかった。 坂根氏は「今までは全般的なQOL尺度しかなかったが、本尺度を用いることでインスリンポンプ療法の比較や介入による効果も測定することができるようになった。ぜひ、活用していただきたい」とこれからの展望を述べた。

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経口ART中のHIV-1感染患者に、月1回のCAB+RPVは有効か/NEJM

 標準的な経口抗レトロウイルス療法(ART)を受けているヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染患者の維持療法では、長期作用型注射薬cabotegravir(CAB、インテグラーゼ阻害薬)+リルピビリン(RPV、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬)の月1回投与への切り替えは、標準治療を継続するアプローチに対し、有効性に関して非劣性であることが、米国・ネブラスカ大学医療センターのSusan Swindells氏らによる「ATLAS試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年3月4日号に掲載された。HIV-1感染患者の治療では、簡略化されたレジメンの導入により、患者満足度が向上し、アドヒアランスが促進される可能性があるという。毎日経口療法中の患者で、月1回長期作用療法の非劣性を検証 研究グループは、標準的な経口ARTを受け、ウイルス学的にHIV-1が抑制されているHIV-1感染患者の維持療法において、CAB+RPVによる長期作用療法の経口療法に対する非劣性を検証する目的で、非盲検無作為化非劣性第III相試験を行った(ViiV HealthcareとJanssenの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、標準的な経口ARTを毎日受けており、スクリーニング前の6ヵ月以上の期間に血漿HIV-1 RNA<50コピー/mLの患者であった。標準的ARTには、プロテアーゼ阻害薬(PI)、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)、インテグラーゼ阻害薬(INSTI)のいずれかをベースとし、2剤のヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NRTI)をバックボーンとしたレジメンが含まれた。 被験者は、ARTによる経口療法(1日1回)を継続する群、またはCAB+RPVによる長期作用療法(月1回、筋肉内投与)に切り替える群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、48週時にHIV-1 RNA≧50コピー/mLの患者の割合とした。HIV-1 RNAコピー数は、米国食品医薬品局(FDA)のスナップショットアルゴリズムで評価した。新たな治療選択肢となる可能性 本試験は2016年10月に開始され、2018年5月に最後の参加者が48週時の主要エンドポイントの評価を終了した。13ヵ国115施設で、616例(intention-to-treat[ITT]集団、各群308例ずつ)が登録された。全体の年齢中央値は42歳(範囲:18~82)、女性が33%で、非白人が32%を占めた。 48週時にHIV-1 RNA≧50コピー/mLの患者の割合は、長期作用療法群が1.6%(5/308例)、経口療法群は1.0%(3/308例)であり(補正後群間差:0.6ポイント、95%信頼区間[CI]:-1.2~2.5)、主要エンドポイントの非劣性基準(非劣性マージンは6ポイント)を満たした。 また、48週時にHIV-1 RNA<50コピー/mLの患者の割合は、長期作用療法群が92.5%(285/308例)、経口療法群は95.5%(294/308例)であり(補正後群間差:-3.0ポイント、95%CI:-6.7~0.7)、この副次エンドポイントの非劣性基準(非劣性マージンは-10ポイント)を満たした。これらのエンドポイントのデータは、per-protocol集団でもほぼ同様だった。また、他の有効性の副次エンドポイントの結果も、両群でほぼ同等だった。 ウイルス学的失敗(2回の検査がいずれも、血漿HIV-1 RNA≧200コピー/mL)は、長期作用療法群3例、経口療法群4例で認められた。 有害事象の頻度は長期作用療法群のほうが高かった(95% vs.71%)。長期作用療法群では、注射部位反応が81%にみられ、最も頻度の高い注射部位反応は疼痛(全患者の75%)であったが、ほとんどが軽症~中等症であった。注射部位反応による治療中止は1%(4例)に認められた。重篤な有害事象は、長期作用療法群の4%(13例)、経口療法群の5%(14例)で報告された。 44週時の12項目HIV治療満足度質問票(HIVTSQ、0点[たいへん不満]~66点[たいへん満足])で評価した治療満足度は、長期作用療法群が経口療法群よりも良好であった(ベースラインからのスコアの上昇の補正平均値の差5.68点[95%CI:4.37~6.98])。この差は、臨床的に意義のある最小変化量の基準を満たした。また、48週時の長期作用療法群の調査では、質問票に回答した患者の97%(266/273例)およびITT集団の86%(266/308例)が、HIV治療として注射レジメンが好ましいと答えた。 著者は、「このレジメンは、HIVと共に生きる患者(patients living with HIV)に、新たな治療選択肢をもたらす可能性がある」としている。

5508.

急性期病棟から退院した統合失調症患者の再入院リスク因子

 予定外の再入院率は、精神科医療におけるケアの質を評価するうえで、重要な指標である。しかし、統合失調症スペクトラム障害患者を対象とした、再入院を予測するためのリスクモデルはなかった。中国・Castle Peak HospitalのKeith Hariman氏らは、精神科急性期病棟から退院した統合失調症スペクトラム障害患者における、退院後28日間の事故や救急受診での予定外の再入院を予測するための臨床リスク予測モデルについて検討を行った。BJPsych Open誌2020年1月28日号の報告。 対象は、香港のすべての精神科病棟から5年以内に退院した成人統合失調症スペクトラム障害患者。社会経済的背景、医学的および精神学的病歴、現在の退院エピソード、アウトカム評価(Health of the Nation Outcome Scales:HoNOS)のスコアに関する情報は、ロジスティック回帰を用いて、リスクモデルの予測変数として導き出された。サンプルは、derive(1万219例)とvalidate(1万643例)にランダムに分割した。 主な結果は以下のとおり。・予定外の再入院率は、7.09%であった。・予定外の再入院のリスク因子は、過去の入院数の多さ、物質乱用の併存、暴力歴、退院時にHoNOSの項目である過活動/攻撃のスコアが1以上であった。・保護因子は、高齢、クロザピン使用、退院後の家族や親族との生活、条件付きの退院であった。・derivation and validationデータセットに関するc統計量は、0.705および0.684であり、中程度の識別力が認められた。 著者らは「患者それぞれの再入院リスクの特定は、この好ましくないアウトカムを予防するための高リスク患者に対する治療を調整することができる」としている。

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進行性核上性麻痺〔PSP:progressive supranuclear palsy〕

1 疾患概要■ 概念・定義進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)は、中年期以降に発症し、核上性の垂直性眼球運動障害や偽性球麻痺、構音障害、筋強剛、易転倒性を呈し、パーキンソン病などとの鑑別診断を要する緩徐進行性の神経変性疾患である。1964年に掲載1)された3名の提唱者の名前を取りSteel-Richardson-Olszewski症候群とも呼ばれる。病理学的には、異常リン酸化タウが蓄積したtufted astrocytesが特異的な所見である。■ 疫学わが国での有病率は、人口10万対10~20人とされている2)。■ 病因病因はいまだ不明であるが、病理学的には黒質や淡蒼球、視床下核、中脳被蓋、橋などに程度の強い神経細胞脱落や、これらの脳幹、基底核のほか、大脳皮質にも神経原線維変化を認め、タウ蛋白の異常沈着や遺伝子異常が指摘され、タウオパチーの1つと考えられている。神経生化学的にはドパミン、アセチルコリン、ガンマアミノ酪酸(GABA)、ノルアドリンなどの複数の神経伝達物質の異常を認めている。多くが孤発例である。■ 症状臨床症状としては、易転倒性が特徴的であり、通常は発症1年以内の初期から認められる。病名の由来である垂直方向の眼球運動障害は、とくに下方視の障害が特徴的であるが、病初期には目立たないことや羞明や複視と訴えることもあり、発症3年以内程度で出現するとされている。核上性の麻痺のため、随意的な注視が障害される一方で、頭位変換眼球反射は保たれている。四肢よりも頸部や体幹に強い傾向の筋強剛を示し、進行すると頸部が後屈して頸部後屈性ジストニアを呈する。偽性球麻痺による構音障害や嚥下障害を中期以降に認める。失見当識や記銘力障害よりは、思考の緩慢化、情動や性格の変化などの前頭葉性の認知障害を呈する3)。■ 分類典型例であるRichardson症候群の他に多様な臨床像があり、以下に示す非典型例として分類されている。1)Richardson症候群(RS):易転倒性や垂直性核上性注視麻痺を呈し、最も頻度の高い病型である。2)PSP-Parkinsonism(PSP-P):パーキンソン病と似て左右差や振戦を認める一方で、初期には眼球運動障害がはっきりせず、パーキンソン病ほどではないがレボドパ治療が有効性を示し、RSより生存期間が長い。3)PSP-pure akinesia with gait freezing(PSP-PAGF):わが国から報告された「純粋無動症(pure akinesia)」にあてはまり、無動やすくみ足などを呈し、RSより罹病期間は長い。4)PSP-corticobasal syndrome(PSP-CBS):失行や皮質性感覚障害、他人の手徴候などの大脳皮質症状と明瞭な左右差のあるパーキンソニズムといった大脳皮質基底核変性症に類似した症状を呈する。5)PSP-progressive non-fluent aphasia(PSP-PNFA):失構音を中心とした非流暢性失語を示す。6)PSP with cerebellar ataxia(PSP-C):わが国から提唱された非典型例で、病初期に小脳失調や構語障害を呈する。■ 予後分類された臨床像による差や個人差が大きい。平均して発症2~3年後より介助歩行や車椅子移動、4~5年で臥床状態となり、平均罹病期間は5~9年という報告が多い。肺炎などの感染症が予後に影響することが指摘されている4)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)指定難病としての本疾患の診断基準は、40歳以降で発症することが多く、また、緩徐進行性であることと、主要症候として、(1)垂直性核上性眼球運動障害(初期には垂直性衝動性眼球運動の緩徐化であるが、進行するにつれ上下方向への注視麻痺が顕著になってくる)、(2)発症早期(おおむね1~2年以内)から姿勢の不安定さや易転倒性(すくみ足、立直り反射障害、突進現象)が目立つ、(3)無動あるいは筋強剛があり、四肢末梢よりも体幹部や頸部に目立つ、の3項目の中から2項目以上があること、および以下の5項目の除外項目、すなわち、(1)レボドパが著効(パーキンソン病の除外)、(2)初期から高度の自律神経障害の存在(多系統萎縮症の除外)、(3)顕著な多発ニューロパチー(末梢神経障害による運動障害や眼球運動障害の除外)、(4)肢節運動失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候、神経症状の著しい左右差の存在(大脳皮質基底核変性症の除外)、(5)脳血管障害、脳炎、外傷など明らかな原因による疾患、を満たすこととされている4)。2017年には、Movement Disorder Societyから、多様な臨床像に対応した新たな臨床診断基準が提唱されている5)。頭部MR冠状断で中脳や橋被蓋部の萎縮や、矢状断で上部中脳が萎縮することによる「ハチドリの嘴様」に見える(humming bird sign)画像所見は、本疾患に特徴的とされ、鑑別診断の際に有用である。MIBG心筋シンチでは、心臓縦隔の取り込み比(H/M比)が低下するパーキンソン病やレビー小体型認知症と異なり、本疾患では原則としては低下せず、正常対照と差がない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現在までのところ、根本的な治療法や症状進行を遅延させる予防法は確立されていない。初期には抗パーキンソン病薬が有効性を示すこともある。三環系抗うつ薬、抗コリン薬、コリン作動薬などの有効性を指摘する報告もあるが、効果が短期間であったり副作用を生じるなど経験の範囲を出ない。より早期からのリハビリテーションによるADLに対する有用性が示唆されている。残存機能の維持や拡大にむけた理学療法、作業療法、言語・摂食嚥下訓練などが行われている。4 今後の展望タウ蛋白をターゲットとした免疫療法などが試みられてきたが、有効性の認められた薬剤は現在ない。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 進行性核上性麻痺(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 神経変性疾患領域における基盤的調査研究班(研究代表者:中島健二)(サイト内では「PSP進行性核上性麻痺 診断とケアマニュアル」、「進行性核上性麻痺の臨床診断基準(日本語版)」、「進行性核上性麻痺評価尺度(日本語版)」などの閲覧ができる医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報PSPのぞみの会(患者とその家族および支援者の会)1)Steele JC, et al. Arch Neurol. 1964;10:333-359.2)Takigawa H, et al. Brain Behav. 2016;6:e00557.3)中島健二,古和久典. 日本医師会雑誌. 2019;148(特別号(1)):S85-S86.4)難病情報センター(ホームページ). 進行性核上性麻痺. https://www.nanbyou.or.jp/entry/4115.(2020年2月閲覧).5)Hoglinger GU, et al. Mov Disord. 2017;32:853-864.公開履歴初回2020年03月16日

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肝型・筋型糖原病

1 疾患概要■ 概念・定義グリコーゲン代謝経路の解糖系酵素の欠損による(表1、図)。「糖原病」は歴史的にはグリコーゲンが臓器に蓄積し腫大することから命名されたが、グリコーゲンの臓器蓄積は病型によって程度がさまざまであり、「糖原病」と呼ぶよりも「グリコーゲン代謝異常症」と呼ぶのが妥当であるが、本稿では従来使われている診断名を踏襲する。表1 糖原病の分類と一般的な特徴の一覧画像を拡大する図 解糖系代謝マップ画像を拡大する■ 疫学わが国における本症の発生頻度は不明であるが、肝型糖原病は約1:2万人と考えられている。最も多い病型はIX型で、その他ではI、II、III、V、VI型が多く、この6病型で全糖原病の約90%を占める。■ 病因・病態(表2)現在までに16種類の病型が知られている。解糖の目的は(1)ATPを産生、(2)グルコースを産生することであり解糖経路の障害により前者の障害は主に筋型で「エネルギー供給障害型」、後者の障害は主に肝型で「グルコース供給障害型」とに分けられる。表2 基本的な糖原病の病態生理画像を拡大する■ 症状・検査所見・治療酵素発現の臓器特異性により、一般的には症状の出方から肝型、筋型、肝筋型と大別する(表1)。本稿では糖原病の約90%を占める6病型を中心に概略を述べる。1)糖原病I型(フォン・ギールケ病)Ia型(グルコース-6-ホスファターゼ欠損)、Ib型(グルコース-6-P-トランスロカーゼ欠損)がある。Ia型が80~90%、Ib型が10~20%を占める。Ia型とIb型の症状は類似するが、Ib型では好中球減少、易感染性、炎症性腸疾患などを伴う。著明な肝腫大が認められるが脾腫は認めない。頬部がふっくらし、人形様顔貌を示す。成長障害がみられ、低身長となる。2次性の病態として血小板機能の障害による鼻出血、頬部のクモ様毛細血管拡張、高脂血症による黄色腫、高尿酸血症による痛風、尿酸結石もみられる。成人では肝腺腫およびその悪性化、 腎不全などの合併症が問題となる。糖新生、解糖の両経路からのグルコース産生が障害されるため、低血糖の程度は糖原病の中では強い。低血糖に伴い高乳酸血症、代謝性アシドーシスなども増悪する。低血糖の予防が重要で、血糖のコントロールを良好にすることで2次的な代謝異常、成長障害の改善が期待できる。頻回食が基本であるが糖原病治療乳(昼間用および夜間用)が開発されているので乳幼児期には有用である。未調理コーンスターチ療法と組み合わせることで一定の血糖維持が期待できる。Ib型の好中球減少に対してはG-CSFを用いる。高尿酸血症に対してはアロプリノールを用いる。成人になり多発性の肝腺種、悪性化を伴っているもの、内科的に代謝異常のコントロールが困難なものに対しては、肝移植が適応とされているが長期予後は不明である。2)糖原病II型(ポンペ病)発症時期により乳児型、遅発型に分けられる。乳児型は生後早期に筋緊張低下、巨舌、心拡大、肝種大がみられる。1歳前後で心不全、呼吸不全で死亡する。心電図ではPR短縮、QRSの増高、心肥大がみられる。胸部X線では著明な心拡大、心エコーでは両心室壁と心室中隔が肥厚し、左室流出路の閉塞を来す場合もある。遅発型では幼児期から成人期に主に筋力低下で発症する。心筋、肝臓の罹患は認めないか、あっても軽度である。肢帯型筋ジストロフィーと症状が類似することがあり、肢帯型筋ジストロフィーの診断症例の中に一定程度混在していると推測されている。遅発型では四肢筋力低下に比較して不釣合いに呼吸障害を強く認める例もある。治療では酵素補充療法の導入により乳児型の生命予後は劇的に改善した。本症のスクリーニングは乾燥ろ紙血を用いた簡便な検査が提供されている。3)糖原病III型(フォーブ-スコーリー病)脱分枝酵素の欠損により、分枝が多く残存したlimit dextrineが蓄積する。肝筋型のIIIa型(約85%)と肝型のIIIb型(約15%)がある。乳幼児期に肝種大、低血糖で気付かれる。I型に比較すると低血糖は軽症で、思春期以降改善する。一部肝障害が遷延し、肝硬変や肝線腫その悪性化なども報告されている。IIIa型では筋力低下、心筋障害進行する症例もあり、定期的な心機能のチェックが必要である。近年IIIa型では修正Atkins法による低炭水化物、高蛋白、高脂肪食が試され心筋障害の改善が認められている。4)糖原病V型(マッカードル病)典型例では運動時の筋痛、筋硬直、横紋筋融解症などである。まれに発症時期が乳児の例や、無症状例があり中高年では筋力低下例もある。阻血下(または非阻血下)前腕運動負荷試験では乳酸の上昇が認められない (表3)。横紋筋融解症を来さないように日常の生活指導が大切である。なお、日本人の本症の一部ではビタミンB6が有効である。表3 前腕阻血(非阻血)運動負荷試験の評価画像を拡大する5)糖原病VI型(ハーズ病)乳幼児期に低血糖、肝種大、成長障害で気付かれる。症状は年齢と共に次第に軽快していく。6)糖原病IX型ホスホリラーゼキナーゼ(PhK)は4種類のサブユニット(α、β、γ、δ)からなり(表4)、肝型(IXa、IXc)、筋型(IXd)、肝筋型(IXb)がある。最も頻度の多いIXaの予後は良好で成長と共に肝種大、低血糖などの症状は軽快する。IXcは低血糖症状も強く、後に肝硬変に進行したり、肝腺腫の報告もある。表4 糖原病IX型の亜型とその詳細画像を拡大する■ 分類1)欠損酵素による病型分類(ローマ字表記)16病型があり、基本的には報告年代順にローマ数字で命名されてきた(表1)。2)症状から見た分類肝腫大、低血糖を呈する肝型、筋力低下、運動不耐、筋硬直、横紋筋融解症などの筋症状を示す筋型、両方の症状を持つ肝筋型がある(表1の症状参照)。■ 予後I型は成人期になると、肝腫瘍、腎不全、高尿酸血症など、多臓器の障害がみられてくる。II型では特に乳児型で心不全、呼吸障害のため死に至る。遅発型では四肢筋に比較して不釣り合いな呼吸障害が認められるのが特徴である。IIIa型では肥大型心筋症により、心不全が進行する例がある。V型の典型例では筋負荷による横紋筋融解症を予防することが有用である。VI型、IX型は一般に予後は良好であるが、一部肝線維化などがみられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 肝型糖原病の診断1)Fernandesの負荷テスト(表5)肝型糖原病の病型鑑別の負荷テストである。負荷物はブドウ糖、ガラクトース、グルカゴン(空腹時、および食後2時間)で行われるが、酵素診断、遺伝子診断と併用することですべての負荷が必須ではない。特にガラクトース、グルカゴン負荷はI型では異常な高乳酸血症を引き起こし、酸血症になる例も報告されているため「新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019」では推奨されていない。表5 肝型糖原病・病型診断:Fernandesの負荷テスト画像を拡大する2)画像検査超音波検査で輝度上昇のため、脂肪肝と診断されることが多い。肝臓CTでは信号強度の上昇がみられることから脂肪肝とは区別ができる。3)好発遺伝子変異の検索日本人Ia型患者では、好発変異c.648G>Tが90%以上の患者にみられる。また、Ib型ではp.Trp118Argが約半数にみられる。4)肝生検肝型では肝組織に正常あるいは異常グリコーゲンが蓄積するため著明なPAS染色性と、肝細胞のバルーニングが認められる。また、ジアスターゼによりPAS陽性物質が消化されない場合は糖原病IV型が疑われる。5)酵素診断表1にある検体で酵素診断は可能である。■ 筋型糖原病の診断1)阻血下(または非阻血下)前腕運動負荷試験(表3)運動負荷後に血中乳酸の上昇を認めない(ただし0型、II型、IV型、IXd型を除く)。負荷試験後の筋硬直・筋痛などの苦痛を考慮して最近では非阻血下での運動負荷試験も行われている。2)血清creatine kinase (CK)筋型糖原病では程度の差はあるがCKは上昇していることが多い。一時的なCKの上昇かどうかを判断するために、2週間後以降に再検する。3)好発遺伝子変異を持つ筋型糖原病原病V型(マッカードル病)では日本人患者の約50%にp.Phe710delが認められる。4)筋生検筋型糖原病では筋組織に程度の差はあるがグリコーゲンの増加が認められる。なかでもIIIa型の肝筋型(コーリー病)では筋組織に空胞が多発している(Vacuolar Myopathy)。5)酵素診断生検筋組織を用いた酵素診断が確定診断となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)症状で先述したが基本的には、肝型糖原病では低血糖の予防、筋型糖原病では横紋筋融解症の予防が重要である。4 今後の展望糖原病は古典的な代謝異常症であるが、近年多彩な臨床症状や新たな知見も報告され、併せて病態解明の進歩とともに病態に即した治療法の開発が進んでいる。5 主たる診療科糖原病は先天性の疾患であり、特に肝型は小児期に発見されることが多く、小児科が主たる診療科となる。筋型はその症状から学童期~成人期に診断されることから小児科、神経内科が主たる診療科となる。いずれにせよ適切な時期でのトランジションも課題となる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 筋型糖原病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 肝型糖原病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)杉江秀夫(総編集). 代謝性ミオパチー.診断と治療社. 2014.p.31-83.2)日本先天代謝異常学会(編集). 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019. 診断と治療社.2019.p.181-199.3)矢崎義雄(総編集). 内科学 11版.朝倉書店.2017.公開履歴初回2020年03月16日

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第18回 高齢糖尿病患者の脂質管理、目標値や薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第18回 高齢糖尿病患者の脂質管理、目標値や薬剤選択は?Q1 治療介入の必要な値、介入後の目標値は? 80歳以上でも同じように管理しますか?心血管イベントの発症はADL低下や要介護状態を招き、QOLを低下させうるため、予防が重要です。高齢者においてもスタチンは冠動脈疾患の2次予防効果のエビデンスがありますので、2次予防の患者さんには年齢にかかわらずできるだけ投与、継続しています。患者さんの忍容性があれば、動脈硬化性疾患診療ガイドラインに準拠して通常の成人同様にLDL-C<100mg/dLを目標としています。1次予防については、少なくとも前期高齢者においては、高LDL-C血症に対するスタチン投与による心血管イベント減少が認められていることから、投与を考慮します。レベルとしては、やはりガイドラインに従い、糖尿病患者では冠動脈疾患高リスク群になりますので、LDL-C<120mg/dLを目標としています。75歳以上の高齢者に対する1次予防介入エビデンスはほとんどありません。Cholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaborationの最新のRCTのメタアナリシスでも、2次予防では有効でしたが、1次予防では有効性が示されませんでした1)。一方で、2019年に本邦75歳以上のハイリスク高LDL-C血症患者に対する、エゼチミブ単独投与の有用性を検討したEWTOPIA75の結果が発表され、エゼチミブ投与群では心臓突然死・心筋梗塞・冠血行再建術、脳卒中の複合イベントが34%減少しました2)。これは糖尿病患者に限った研究ではありませんが、治療を考慮する年齢が引き上げられる可能性があります。ただし、これら介入試験の多くは外来通院可能な比較的健康な患者さんを対象としています。認知症やフレイルがあったり施設入所されている患者さんに対し、スタチンが1次、2次にかかわらず心血管イベントを減少させたという明確なエビデンスはありません。80代や90代の患者さんについても同様です。私は、これらの患者さんには2次予防の場合はできるだけ治療を行うが、1次予防には厳格なコントロールは不要ではないかと考えています。Q2 TG高値への介入は? 定期的なエコーが必要な症例TG高値自体が高齢者の心血管疾患を増やすという明確なエビデンスはありません。ただし、とくに肥満を伴う高TG血症では低HDL-C血症や高nonHDL-C血症を伴うことが多く、本邦の観察研究におけるサブ解析において、前期高齢者で高nonHDL-C血症が致死的冠動脈疾患の発症と関連したという報告があります3)。高齢糖尿病患者への介入研究(J-EDIT, 平均年齢71歳)の2次解析でも、nonHDL-Cが高値の群(≧163mg/dL)で全死亡や糖尿病関連イベントが増加しました(図)4)。肥満症例ではメタボリック症候群(Mets)を伴っていることが多く、Metsはインスリン抵抗性を生じ、前期高齢者では心血管疾患発症と関連するという報告が複数あります。後期高齢者のMetsと心血管疾患発症の関連は明らかではありません。画像を拡大するしたがって、前期高齢者でMets合併例やnonHDL-Cが高い症例では治療を考慮します。この場合、運動、アルコール/糖質の過剰摂取是正指導に加え、必要によりフィブラート等を併用し、nonHDL-C<150mg/dLを目指します。TGの値が下がりすぎて問題となることはほとんどありませんが、もともとTGが著明に低い人の中に低栄養が隠れていることがあるので注意が必要です。一方後期高齢者、および前期高齢者でもMetsや低HDL-C血症・高nonHDL-C血症を伴わないTG単独高値の場合はよほどの高値でない限り経過をみることもあります。なお、著明なTG高値は膵炎発症のリスクとなり、発症時の重症度にも影響するといわれているため、TGが500mg/dLを超えるものには膵炎予防の観点からも介入を考えます。一方、TG高値のものの中に、肝機能障害を伴っているものがあります。アルコール多飲は原因の1つとなりますが、飲酒がなくても肥満、脂肪肝をきたし、インスリン抵抗性を呈して肝炎や線維化が進行する病態(NASH)があります。NASHは肝硬変、肝細胞がんに至ることもあるため、このような症例では定期的に肝臓のエコーを行っておくとよいでしょう。Q3 薬剤選択と投与量の考え方について教えてくださいQ1で述べたように心血管イベント予防に対し最もエビデンスがあるのはスタチンですが、EWTOPIA75の結果により、エゼチミブ投与の有効性も注目されています。PCSK9阻害薬は FHまたは冠動脈2次予防でスタチン最大量にエゼチミブ併用でもLDL-Cが目標値に達しない場合に使用され、かつ2週間あるいは4週間に1回自己注射を行わなければならず、高齢者で適応となる症例は一部に限られます。やはりスタチン投与が中心になるでしょう。米国心臓協会(AHA)が2019年1月に発表した、「スタチンの安全性と有害事象に関する声明」によると、スタチン投与による重篤な横紋筋融解症の発症頻度は0.01%程度ときわめてまれです(AHA)5)。高齢者ではリスクが上昇することが知られているものの、年齢だけでスタチンを回避する理由にはしていません。またCKD患者自体が冠動脈疾患のハイリスクになっているので、腎疾患患者でもスタチンは投与します。腎機能低下例だからといって、使用できないスタチンはありませんが、横紋筋融解症の多くは高用量のスタチン使用と関連するため、高齢者では常用量の最小量からはじめ漸増しています。また脱水を避けるように指導します。スタチンとフィブラートの併用はともに横紋筋融解症のリスクがあるため、腎機能低下リスクの高い高齢者ではとくに注意して投与します。LDL-CとTGの両者が高い場合は、スタチン使用を優先し、フィブラートに変えてEPA含有製剤やエゼチミブを併用する場合もあります。なお、フィブラートは中等度以上の腎不全では単独でも横紋筋融解症のリスクがあるため中止します。スタチンが重篤な肝障害を起こすことはさらにまれであり、0.001%程度と報告されています5)。肝機能障害を懸念して投与を行わない、ということは通常ありません。Q4 逆に減薬できるのはどんなときか前述のとおり、冠動脈疾患の2次予防症例ではできる限りスタチンは継続としています。75歳以上の1次予防で投与されている場合には、老年医学会も主治医判断としているように、ケースバイケースです。最近、スタチンの中断によって、心血管イベントによる入院が増えるという後ろ向きコホート研究の結果が報告されましたが6)、白人のデータで、糖尿病患者でのサブ解析では有意差が認められず、まだまだエビデンスが不足していると考えられます。私たちはまず、コレステロールが明らかに低値の患者さんには減量、中止を試みています。長期間減量することによるリバウンドが懸念される場合は、次回外来の1週間前から減量するなどして変化を確かめています。コレステロールが比較的高値のものでも、たとえば認知機能の低下があるポリファーマシーの患者さんで、服薬間違いがむしろリスクになるという患者さんなどでは中止を考慮しています。また余命が1年以内と見込まれるエンドオブライフの患者さんにおいても、投薬の中止はむしろQOL向上に寄与する可能性があり、中止を考慮します。一方、認知機能やADLが保たれている患者で、LDLがかなり高値だったり(たとえば≧180mg/dL)、頸動脈に不安定プラークがあったりするものでは継続することが多いです。1)Cholesterol Treatment Trialists' Collaboration. Lancet. 393: 407-415, 2019.2)Ouchi Y, et al.Circulation.140: 992-1003, 2019.3)Ito T, et al. Int J Cardiol.220: 262-267, 2016.4)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int.12.Suppl 1:18-28, 2012.5)Newman CB, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol.39: e38-e81, 2019.6)Giral P, et al. Eur Heart J.40:3516-3525, 2019.

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成人社交不安症に対する薬物療法~メタ解析

 社交不安症(SAD)に対する薬物療法について、治療薬の有効性や忍容性、介入効果、エビデンスの質についての評価を含めた情報をアップデートするため、南アフリカ共和国・ケープタウン大学のTaryn Williams氏らは、システマティックレビューとメタ解析を実施した。Acta Neuropsychiatrica誌オンライン版2020年2月10日号の報告。 SAD治療における薬理学的介入またはプラセボと比較したRCTを、Common Mental Disorder Controlled Trial Registerおよび2つのトライアルレジスターより検索した。ランダム効果モデルを用いて標準的なペアワイズメタ解析を、統計解析ソフトRを用いてネットワークメタ解析を実施した。また、エビデンスの質も評価した。 主な結果は以下のとおり。・67件のRCTをレビューし、21件(45の介入)についてネットワークメタ解析を実施した。・パロキセチンはプラセボと比較し、症状の重症度を軽減させる効果が最も高かった。・優れた治療反応が得られた薬剤は、パロキセチン、brofaromine、ブロマゼパム、クロナゼパム、エスシタロプラム、フルボキサミン、phenelzine、セルトラリンであった。・ドロップアウト率は、フルボキサミンでより高かった。・有害事象によるドロップアウト率がプラセボより高かった薬剤は、brofaromine、エスシタロプラム、フルボキサミン、パロキセチン、プレガバリン、セルトラリン、ベンラファキシンであった。・オランザピンの治療効果は比較的高く、あらゆる原因によるドロップアウト率はbuspironeで高かった。 著者らは「パロキセチン治療によって症状の重症度が有意に減少したことを除き、プラセボと比較した薬物療法の効果は小さかった。SADの第1選択薬には、パロキセチンが推奨されるであろう」としている。

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HIVの維持療法、長期作用型注射薬の有効性は/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者の維持療法において、いずれも長期作用型注射薬であるcabotegravir(CAB、インテグラーゼ阻害薬)とリルピビリン(RPV、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬)2剤併用の月1回投与の有効性は、経口薬3剤の毎日投与に対し非劣性であることが、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のChloe Orkin氏らの「FLAIR試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年3月4日号に掲載された。現在の抗レトロウイルス療法(ART)の有効性は高い。そのため、進行中の薬剤開発の焦点の1つは、副作用プロファイルの改善と、治療からの離脱を低減するための利便性だという。また、長期の毎日投与レジメンは、患者に不満を生じさせたり、スティグマの原因となり、アドヒアランスを損なって治療失敗のリスクを高める可能性があることから、より受け入れやすい治療アプローチが求められている。維持療法の効果を評価する非劣性試験 本研究は、スクリーニング期、導入期、維持期、延長期および長期フォローアップ期から成る非盲検無作為化非劣性第III相試験であり、11ヵ国108施設の参加のもと2016年10月に開始され、2018年8月に最後の患者の主要エンドポイントの評価が行われた(ViiV HealthcareとJanssenの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、ARTの治療歴がなく、スクリーニング時に血漿HIV-1 RNA≧1,000コピー/mLの患者であった。参加者は、導入療法として、ドルテグラビル(DTG)+アバカビル(ABC)+ラミブジン(3TC)による経口薬3剤併用療法(1日1回)を、20週間受けた。 導入期の16週時に血漿HIV-1 RNA<50コピー/mLの患者が、20週時の無作為化の対象とされた。20週時に、維持療法として、経口薬3剤併用療法の毎日投与を継続する群、またはCAB+RPVを約4週間、毎日経口投与した後、CAB+RPVによる長期作用型注射薬2剤併用の月1回筋肉内投与に切り替える群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、最短100週間の治療が行われた。 主要エンドポイントは、48週時(維持期)に、米国食品医薬品局(FDA)のスナップショットアルゴリズムで評価したHIV-1 RNA≧50コピー/mLの患者の割合とした。注射部位反応は多くが軽症~中等症、治療満足度も良好 解析の対象となった566例(intention-to-treat集団、CAB+RPV群283例、経口薬治療群283例)のベースラインの年齢中央値は34歳(範囲:18~68)、22%が女性、74%が白人であり、約20%がHIV-1 RNA≧100,000コピー/mLであった。 48週時に、HIV-1 RNA≧50コピー/mLの患者の割合は、CAB+RPV群が2.1%(6/283例)、経口薬治療群は2.5%(7/283例)であり(補正群間差:-0.4ポイント、95%信頼区間[CI]:-2.8~2.1)、主要エンドポイントの非劣性基準(マージン:6ポイント)を満たした。 また、48週時に、HIV-1 RNA<50コピー/mLの患者の割合は、CAB+RPV群が93.6%(265/283例)、経口薬治療群は93.3%(264/283例)であり(補正群間差:0.4ポイント、95%CI:-3.7~4.5)、この副次エンドポイントの非劣性基準(マージン:-10ポイント)を満たした。これらのエンドポイントのデータは、per-protocol集団でもほぼ同様だった。 ウイルス学的失敗(2回の検査で、いずれも血漿HIV-1 RNA≧200コピー/mL)は、CAB+RPV群が4例、経口薬治療群は3例で認められた。 維持期の頻度の高い有害事象(注射部位反応を除く)として、CAB+RPV群では鼻咽頭炎(20%)、頭痛(14%)、上気道感染症(13%)、下痢(11%)が認められた。重篤な有害事象は、CAB+RPV群で18例(6%)、経口薬治療群では12例(4%)でみられた。 CAB+RPV群では、86%で注射部位反応(発症期間中央値3日、99%が軽症~中等症)が発現した。4例が、注射に関連する理由で治療を中止した。CAB+RPV群では、Grade3以上の有害事象が11%、肝臓関連治療中止基準を満たした患者が2%、経口薬治療群ではそれぞれ4%および1%だった。 CAB+RPV群の患者の治療満足度は、CAB+RPVに切り替え後に改善し、48週時に91%が、導入期の経口薬治療よりもCAB+RPVが好ましいと回答した。 著者は、「ベースラインのウイルス量は主要エンドポイントの結果に影響を及ぼさなかった。これは、ウイルス量が抑制され、ウイルスにCABまたはRPVに対する耐性変異のエビデンスがない場合は、長期作用型注射薬への移行は実行可能であることを示唆する」と指摘している。

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Impellaは心原性ショックを伴う急性心筋梗塞に対するPCI症例の循環補助にIABPよりも有効か有害か?:入院死亡率と出血合併症率の比較検討(解説:許俊鋭 氏)-1200

 Impellaは2008年に米国FDAの製造販売承認を得たが、当初の適応は重症PCIの補助(Supported PCI)であった。日本では米国治験データでIABPとの比較においてImpellaの優位性が認められず、Supported PCIを適応とせず、2012年に心原性ショック(CS)に対するカテーテル型補助人工心臓としての適応で検討されたが、承認には至らなかった。2016年に米国でImpellaのCS適応が承認され、2017年に日本でもCS適応で保険償還された。しかし、急性心筋梗塞(AMI)に起因したCSに対するImpellaの適応や有効性については異論も多々あり、本Dhruva論文(Dhruva SS, et al. JAMA. 2020 Feb 10. [Epub ahead of print])もその代表的な1つである。 Dhruva論文ではAMIに起因したCSに対するImpella補助は病院死亡率(45.0% vs.34.1%)、出血合併症(31.3% vs.16.0%)でIABPに有意に劣り有害とするものである。しかし、本研究はpropensity-matched registryを用いた後ろ向き研究であり、Impella 2.5、CP、5.0、RPなどが区別なく使用されていることに大きな問題がある。同趣旨のSchrage論文(Schrage B, et al. Circulation. 2019;139:1249-1258.)もIABP-Shock II trial症例と患者背景をmatchさせた後ろ向き研究である。30日死亡(48.5% vs.46.4%)に差はなかったが、出血合併症(8.5% vs.3.0%)や末梢血管合併症(9.8% vs.3.8%)はImpella群で有意に高率であった。Schrage論文に対してO’NeillがLetter to Editor(O'Neill WW, et al. Circulation. 2019;140:e557-e558.)できわめて不適切なバイアスに満ちた解析であると批判している。Riosのメタ解析論文(Rios SA, et al. Am J Cardiol. 2018;122:1330-1338.)でも生存率は同等であるがIABPに比較してImpellaは有害事象が多いと結論している。 一方、Seyfarth論文(Seyfarth M, et al. J Am Coll Cardiol. 2008;52:1584-1588.)ではIABPとImpella 2.5のRCT比較試験が行われ、30日死亡率には差はなかったが、Impellaで血行動態(心係数、平均大動脈圧、拡張期圧)の改善効果が優れていた。さらに、Dangas論文(Dangas GD, et al. Am J Cardiol. 2014;113:222-228.)では、ハイリスクPCIを対象としたRCT研究(PROTECT-II trial)でPCI周術期の心筋梗塞症例に対し、Impella補助はIABPよりも3ヵ月のイベントフリー生存率の有意な改善を示した。しかし、AMIによるCSに対するImpella補助とIABPの治療成績を比較した3つのRCT研究のメタ解析を行ったOuweneel論文(Ouweneel DM, et al. J Am Coll Cardiol. 2017;69:358-360.)では、30日および6ヵ月生存率ならびにLVEFに差はなかった。 これらの論文比較から、propensity-matched registryを用いた後ろ向き研究ではおおむね、AMIに起因したCSに対してIABPよりもImpella補助のほうが死亡率や出血の合併症率が高い結果が報告されている。一方、RCT研究ではおおむね両者の死亡率や合併症率は同等であるが、Impella補助で血行動態の改善やイベントフリー生存率の改善がみられている。 AMIに起因したCSに対する補助循環の有効性の評価はきわめて難しい。IABP補助と内科治療のRCT比較研究IABP-SHOCK II Clinical Trials(Thiele H, et al. N Engl J Med. 2012;367:1287-1296.)でも30日死亡率(39.7% vs.41.3%、p=0.69)に差はなく、長年補助循環に携わってきた筆者の臨床経験からは信じ難い。おそらくCSの原因や程度、緊急時の補助循環開始のタイミングが個々の症例によって大きく異なり、さらに各施設の補助循環チームの技量も大きく異なるため、多施設RCTでは補助循環の有効性を証明することが難しいものと考えられる。propensity-matched registryを用いた後ろ向き研究やメタ解析では、そもそもregistryにおけるCSの定義や補助循環の適応や導入タイミングもばらばらであり、患者背景のmatching因子を無理に合わせて比較対照群とするのには無理がある。臨床的に言えば、本来的にImpella群とIABP群のCS程度が大きく異なっている可能性がある。すなわち、担当医は内科的治療ではCSからの回復が困難と考えるからIABPを用い、IABP補助では回復が困難と考える症例にImpellaを用いると考えられる。さらにIABPは1969年のKantrowitzの臨床使用以来50年以上の臨床経験を有する確立された補助循環法であるのに比較し、Impellaは欧州で2004年に、米国で2008年に承認された15年程度の臨床使用の歴史しか持たない新しい補助循環デバイスであり、CSに本格的に用いられ始めたのは2016年以降である。それゆえ、とくにCS症例に対するImpella補助の適応や最も適切な導入・離脱のタイミングの判断・管理方法などが確立されているとは言い難い。当面は、RCTや後ろ向き研究、また、それらのメタ解析結果に惑わされず、CS症例に対するImpellaの臨床使用は補助循環チームを中心に、個々の症例において適切な適応・管理方法の検討を個別的に進めていくべきであろう。

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COVID-19、PCR検査検体採取の実際/日本臨床微生物学会

 2020年3月5日、日本臨床微生物学会は「COVID-19緊急Webセミナー」を行った(司会は舘田 一博氏[東邦大学医学部 微生物・感染症学講座 教授]・大塚 喜人氏[亀田総合病院 臨床検査部 部長])。 Web配信形式で行われた本セミナーは、臨床検査に関わる医療従事者(医師、臨床検査技師、看護師等)を対象として、PCR検査の検体採取時の注意点、保管・輸送方法、検査結果の解釈等について周知を図る目的で開催された(準備ができ次第、 学会サイトで動画公開予定)。 最初に、細川 直登氏(亀田総合病院感染症科 部長)が「診断に必要な検査と検体採取時の注意点」について発表を行い、COVID-19の下記の基本事項を確認した。・初期症状は、一般の感冒症状と区別がつかない・潜伏期は2~14日と推測(米疾病対策センター[CDC]データによる)・潜伏期にも感染性がある・無症状病原体保有者も存在・発症後1週間程度で、呼吸困難を発症する症例に注意(胸部単純レントゲンで浸潤影が見られない肺炎が多い) そのうえで、細川氏は「COVID-19疑いの確度を上げるには胸部CTが有効。これまでに発表された論文によると両肺の胸膜側にすりガラス影が出ることが特徴的で、問診とCTで疑い患者を絞り込むことが大切だ」と強調した。鼻腔からの上気道検体採取が現実的 PCR検査の検体には上気道検体と下気道検体がある。・上気道検体-鼻咽腔スワブ…咽頭スワブよりも感度が高い。-咽頭スワブ…鼻咽腔スワブができない場合に実施。・下気道検体-喀痰…乾性咳嗽が多く、そもそも出ないことが多い。-気管支肺胞洗浄(BAL)…感染リスクがあり、ほとんど行われていない。 この状況を踏まえ、「現段階では鼻咽腔から採取することが多いと考えられる」(細川氏)。【検体採取時の注意点】 検体採取は感染防止手技のトレーニングを受けたものが行うことが原則となる。・スワブは「ウイルス培養用」を使う(「細菌培養用」は不可)。 ・検体採取前に患者情報(氏名・年齢・性別・検体種別)を記入する。 ・鼻咽腔検体採取の場合…鼻腔に対してまっすぐに挿入。咽頭後壁にあたった状態で5秒間待つ。・ラインを目安に綿棒を試験管のフチで折る(折った後の検体側を手で触れないように注意する)。キャップをして完了。 細川氏は「厚労省通知にある発熱等の要件は『PCR検査をしなければならない基準』ではない。臨床経過が合致し、CTで肺炎を疑う症例にはPCR検査を行い、検査結果と患者の状況が矛盾するときはほかの鑑別を検索し、それが否定されたときPCR再検査を選択する、という流れになるだろう。当院でも、すりガラス影が出た患者のPCR検査結果が陰性で、その後に心不全だったことがわかった、という症例を経験した」と述べた。採取後の保管・搬送時にも注意 続いて、三澤 成毅氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 臨床検査技師長)が「臨床検体の取り扱いと各検査時の対応」を発表した。【検体採取後の注意点】・検体採取後の環境は0.1%次亜塩素酸ナトリウムで浸したペーパータオルで拭き取る。・使用済み器材やPPEはビニール袋に入れ、感染性産廃用ボックスに廃棄する。・採取後の検体は診療エリアに保管せず、臨床検査部門へ提出する(提出できない場合は、汚染物専用保冷庫を準備)【検体搬送時の注意点】・検体は3重包装(一次容器:検体容器、二次容器:密閉できるプラスチック袋[吸収剤を入れる]、三次容器:プラスチック製の堅牢な容器)・容器には、新型コロナウイルス感染症疑い患者の検体であることを明示し、ほかの医療スタッフが認識できるようにする。・新型コロナウイルス感染症疑いの患者検体は、世界保健機構(WHO)による「感染性物質の輸送規制に関するガイダンス」分類の「カテゴリーB」にあたり、その搬送規定に従う(厚生労働省「病原体等の国内輸送について)。・輸送ルートは、ほかの患者とできるだけ接触しない導線を選ぶ。採取前にPPE着脱法の確認を 検体採取前にはPPE(個人防護服)を装着する必要がある。とくに外す際に感染が起きやすいので事前に練習が必要である。【装着時の順番と注意点】1)ガウン・手指衛生をする・長袖、膝までの長さのものを使用・袖はまくりあげない2)マスク・鼻あて部を小鼻にフィットさせる・プリーツを伸ばし、鼻から顎までを覆う。3)ゴーグル・フェイスシールド・眼と顔が完全に覆われるように装着。4)手袋・手首が露出しないようガウンの袖口までを覆う。【外す時の順番と注意点】1)手袋・手首部分の外側をつまみ、手袋を中表にして外す。・手袋を外した指先でもう一方の手袋の内側に差し入れ、手袋を引き上げるように外す。・2枚の手袋をひとかたまりにして破棄する。2)ゴーグル・フェイスシールド・外側は汚染されているので、フレーム部分や両側をつまんで外す。・そのまま破棄する。3)ガウン・ひもを外し、ガウンの外側に触れないように首と肩の内側から手を入れて中表にしながら脱ぐ。・脱いだガウンは小さく丸めて破棄する。4)マスク・外側は汚染されているので決して触れず、ゴムやひもをつまんで外し、そのまま破棄する。・手指衛生を行う。※気管吸引液を採取するようなエアロゾルが発生する手技の場合はN95マスク着用を推奨N95マスクは、フィットテストにより最適な製品を選び、使用時シールチェックで確認する。(三澤氏の資料より抜粋)・セミナー動画では9分30秒前後から細川氏による装着解説動画あり。・日本環境感染学会「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第2版」においては脱着時に手袋とガウンを一緒に脱ぐとされているが、いずれの方法でも可●マニュアル・教育ツール・手引き【日本臨床微生物学会】医療者向け動画配信/新型コロナウイルス感染症に対する個人防護具の適切な着脱方法~医療従事者が新型コロナウイルス感染症に感染しないために~・臨床材料の取扱いと検査法に関するバイオセーフティーマニュアル-SARS疑い患者-・新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染(疑いを含む)患者検体の取扱いについて【国立感染症研究所】・2019-nCoV (新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル【日本環境感染学会】・日本環境感染学会教育ツールVer.3(感染対策の基本項目改訂版)【職業感染制御研究会】・安全器材と個人用防護具【WHO】・Rational use of personal protective equipment for coronavirus disease 2019 (COVID-19): Interim guidance, 27 February 2020・Laboratory biosafety guidance related to coronavirus disease 2019 (‎COVID-19)‎: interim guidance, 12 February 2020

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早期発症統合失調症のアウトカム予測因子~10年間のフォローアップより

 早期発症統合失調症(EOS)のアウトカム不良の予測因子は、発症年齢の若さであると考えられているが、これを裏付ける疫学データは十分ではない。中国・北京大学のLingzi Xu氏らは、発症年齢に焦点を当て、EOS患者の長期的アウトカムと機能障害の予測因子について調査を行った。BMC Psychiatry誌2020年2月14日号の報告。 2006年に入院したEOS患者118例(ベースライン時の平均年齢:13.3±2.3歳)を連続登録した。インタビューを完了した患者は、65例であった。ベースラインデータを、入院患者のカルテより収集し、フォローアップ調査を、主に患者家族への電話インタビューを通じて実施した。フォローアップ時の全体の機能測定には、WHODAS 2.0を用いた。アウトカムには、教育、雇用、婚姻、身体的健康、その後の診断と治療、患者機能を含めた。単変量および多変量回帰モデルを用いて、アウトカムの予測因子を評価し、機能的アウトカムに対する発症年齢の影響を分析する際の交絡調整には、傾向スコアを用いた。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップデータを入手できた65例中3例は、フォローアップ時に死亡した。・治療中止は、5例(8%)であった。・診断の安定性は、76%であった。・フォローアップ時にクロザピンを使用した患者の割合は、24%であった。・過体重は、男性で61%、女性で55%に認められた。・肥満は、男性で29%、女性で32%に認められた。・経済的に自立していた患者は16例(26%)、仕事をしていなかった患者は34例(55%)であった。・結婚歴があった患者は、13例(21%)であった。・WHODASスコアの中央値は15(IQR:2~35)であり、標準値(population norms)の78パーセンタイルにほぼ相当していた。・より良い機能の予測因子は、外交的な性格(p=0.01)、疑い深い性格(p=0.02)、高い教育レベル(p=0.001)であった。・発症年齢は、いずれの機能とも関連が認められなかった(単変量モデル:p=0.24、多変量モデル:p=0.17、最終リスク因子モデル:p=0.11、または交絡因子を調整するために傾向スコアを用いた場合)。 著者らは「EOS患者の長期的な機能アウトカムは、一般的に考えられていたよりも影響が少なかった。統合失調症の発症年齢は、EOS患者の長期的な機能アウトカムを予測するものではない」としている。

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経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)と外科的大動脈弁置換術(SAVR)の5年の治療成績はどちらが優れているか?(解説:許俊鋭 氏)-1199

 TAVRとSAVRの大規模前向き無作為化試験であるPARTNER cohort Aでは、高度外科手術リスク症例に対する5年死亡率でTAVRのSAVRに対する非劣性(67.8% vs.62.4%、p=0.76)が示され(Mack MJ, et al. Lancet. 2015;385:2477-2484.)、CoreValveでは1年死亡率(14.2% vs.19.1%、p=0.04)においてTAVRの優位性が示された(Adams DH, et al. N Engl J Med. 2014;370:1790-1798.)。両者の血行動態の比較でTAVRのほうがSAVRよりも体表面積補正を行った有効弁口面積(iEOA)は大きく、prosthesis-patient mismatch(PPM)の発生率は小さいが、一方、大動脈弁周囲逆流が高率にみられる(Hahn RT, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;61:2514-2521.)ことから、長期予後の検討は今日的検討課題と考えられる。 本Makkar論文(Makkar RR, et al. N Engl J Med. 2020;382:799-809.)はPARTNER 2 cohort A trialにおける中等度の外科手術リスク症例に対するTAVRとSAVRを比較したものであるが、死亡率または後遺症の残る脳卒中発生率(47.9% vs.43.4%、p=0.21)に有意差はなかった。mild以上の大動脈弁周囲逆流はTAVRで高率(33.3% vs. 6.3%)であり、再入院率(33.3% vs.25.2%)および大動脈弁再手術率(3.2% vs.0.8%)もTAVRで高率であった。TAVRにおける高率の大動脈弁周囲逆流発生率は再入院率や大動脈弁再手術率に大きく影響しており、さらに長期の経過観察で死亡率に影響を与える可能性は大きい。Italian OBSERVANT studyの5年の成績を報告したBarbanti論文(Barbanti M, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2019;12:e007825.)では、第1世代のデバイスを用いたTAVRはSAVRに対して5年死亡率(35.8% vs.48.3%、p=0.002)および心臓および脳血管の重大な有害事象(42.5% vs.54.0%、p=0.003)のリスク増加がみられた。Tzamalis論文(Tzamalis P, et al. Am J Cardiol. 2020 Jan 28. [Epub ahead of print])でも、第1世代のデバイスを主に用いた6年以上の治療成績比較で、重度の構造的弁劣化(SVD:10.5% vs.4.5%、p=0.159)および大動脈弁逆流(4.7% vs.0%、p=0.058)はTAVRで高率であり、TAVRで6年生存率(40.7% vs.59.6%、p<0.001)は低かった。 デバイスの進歩とともにTAVRの治療成績は向上し、より低リスク症例に適用されていくと考えられるが、より低リスク症例に適用された場合、5年生存率・10年生存率などの長期成績が問題となる。第1世代のデバイスでは1~2年の短期成績においてTAVRの非劣性あるいは優位性が報告されてきたが、主として残存大動脈弁周囲逆流が長期成績を低下させる可能性がきわめて大きく、今後、長期成績の慎重な評価が必要と考えられる。

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COVID-19重症患者に特徴的なCT所見と症状

 中国・重慶医科大学附属第二医院のKunhua Li氏らの調査により、重症または重体のCOVID-19肺炎では、臨床症状、臨床検査値、CT重症度スコアに有意な差があることがわかった。多くの因子が疾患の重症度に関連しており、重症度の判断と予後の評価に役立つとしている。Investigative Radiology誌オンライン版2020年2月29日号に掲載。 著者らは、COVID-19肺炎患者83例(重症または重体が25例、それ以外が58例)について、胸部CT画像所見と臨床データを比較し、重症度に関連する危険因子を検討した。 主な結果は以下のとおり。・重症または重体例はそれ以外の患者に比べて、高齢で併存疾患がある人が多く、咳嗽・喀痰・胸痛・呼吸困難の発現率が高かった。・重症または重体例はそれ以外の患者に比べて、浸潤影、線状影、crazy-paving pattern(メロン皮状の網目陰影)、気管支壁肥厚の発現率が有意に高かった。また、リンパ節腫大、心膜液貯留、胸水貯留の発現率が高かった。・重症または重体例のCT重症度スコアは、それ以外の患者よりも有意に高かった(p<0.001)。・ROC曲線から、2タイプの識別におけるCT重症度スコアの感度は80.0%、特異度は82.8%であった。・重症または重体のCOVID-19肺炎の危険因子は、50歳以上、併存疾患、呼吸困難、胸痛、咳嗽、喀痰、リンパ球減少、炎症マーカー上昇であった。・重症または重体のCOVID-19肺炎におけるCT所見の特徴は、線状影、crazy-paving pattern、気管支壁肥厚、高いCT重症度スコア、肺外病変であった。

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クローン病〔CD : Crohn’s disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クローン病(Crohn’s disease: CD)は消化管の慢性肉芽腫性炎症性疾患であり、発症原因は不明であるが、免疫異常などの関与が考えられる。小腸、大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め、腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態を生じる。■ 疫学主として若年者(10代後半~30代前半)に好発する。年々増加傾向にあり、わが国のCDの有病率は最近15年間で約4倍に増加、患者数4万人以上と推測され、日本では1.8:1.0の比率で男性に多い。現在も増加していると考えられる。■ 病因原因はいまだ不明であるが、遺伝的素因と食事などの環境因子の両者が関与し、消化管局所の免疫学的異常により、慢性の肉芽腫性炎症が持続する多因子疾患である。喫煙が増悪因子とされている。ほかに長鎖脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、精製糖質の過剰摂取などが増悪因子として想定されている。■ 症状主症状は腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)である。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。検査値の異常として、炎症所見(白血球数、CRP、血小板数、赤沈)の上昇、低栄養(血清総蛋白、アルブミン、総コレステロール値の低下)、貧血を示す。■ 分類正しい治療を考える上で、病変部位、疾患パターン、活動度・重症度の把握が重要である。病変部位は小腸型、小腸大腸型、大腸型の3つに大きく分類される。日本では小腸型20%、小腸大腸型50%、大腸型30%とされている。疾患パターンとして炎症型、狭窄型、瘻孔形成型の3通りに分類することが国際的に提唱されている。さらに疾患活動性として、症状が軽微もしくは消失する寛解期と、症状のある活動期に分けられる。重症度を客観的に評価するために、CD活動指数CDAI(表1)、IOIBDなどがあるが、日常診療に適した重症度分類は現在のところまだないため、患者の自覚症状、臨床所見、検査所見から総合的に評価する。画像を拡大する■ 予後CDは再燃、寛解を繰り返し慢性に経過する疾患である。病初期は消化管の炎症が中心であるが、徐々に狭窄型・瘻孔型へ移行し、手術が必要となる症例が多い。2000年に提唱されたCDの分類法であるモントリオール分類(表2)では発症時年齢、罹患範囲、病気の性質により分類されている。病型や病態は罹患期間により比率が変化し、Cosnes氏らは診断時に炎症型が85%であっても、20年後には88%が狭窄型から瘻孔型へ移行すると報告している 。累積手術率は発症後経過年数とともに上昇し、生涯手術率は80%以上になるという報告もある。海外での累積手術率は10年で34~71%である。わが国の累積手術率も、10年で70.8%、初回手術後の5年再手術率は16~43%、10年で26~67%と報告されている。とくに瘻孔型では手術率、術後再発率とも高くなっている。死亡率に関しては、Caravanらのメタ解析によるとCDの標準化死亡率は1.5(1.3~1.7)と算出されている。死亡率は過去30年で減少傾向にあるが、CDの死亡率比は一般住民よりやや高いとの報告がある。わが国では、やや高いとする報告と変わらないとする報告があり、死亡因子としては肝胆道疾患、消化管がん、肺がんが挙げられている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準厚生労働省の診断基準(表3)に沿って診断を行う。2018年に改訂した診断基準(案) ではCDAI(Crohn’s disease activitiy index)や合併症、炎症所見、治療反応に基づくECCO(European Crohn’s and colitis organisation )(表4)の分類に準じた重症度分類(軽症、中等症、重症)が記載されている。画像を拡大する■ 診断の実際若年者に、主症状である腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)が続いた場合CDを念頭に置く。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。血液検査にて炎症所見、低栄養、貧血がみられたら、CDを疑い終末回腸を含めた下部消化管内視鏡検査および生検を行う。診断基準に含まれる特徴的な所見および生検組織にて、非乾酪性類上皮肉芽腫が検出されれば診断が確定できる。病変の範囲、治療方針決定のためにも、上部消化管内視鏡検査、小腸X線造影検査を行うべきである。CDと鑑別を要する疾患として、腸結核、腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍、感染性腸炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎などがあるため、服薬歴の確認・便培養・ツベルクリン反応およびクォンティフェロン(QFT)、病理組織検査を確認する。診断のフローチャートを図に示す。画像を拡大する1)画像検査所見(1)下部消化管内視鏡検査、小腸バルーン内視鏡検査検査前に、問診やX線にて強い狭窄症状がないか確認する。60~80%の患者では大腸と終末回腸が罹患する。病変は非連続性または区域性に分布し、偏側性で介在部はほぼ正常である。活動性病変として、縦走潰瘍と敷石像が特徴的な所見である。小病変としてはアフタや不整形潰瘍が認められる。(2)上部消化管内視鏡検査胃では、胃体上部小弯側の竹の節状外観、前庭部のたこいぼびらん・不整形潰瘍が認められる。十二指腸では、球部と下行脚に好発し、多発アフタ、不整形潰瘍、ノッチ様陥凹、結節状隆起が認められる。(3)消化管造影検査(X線検査)病変の大きさや分布、狭窄の程度、瘻孔の有無について簡単に検査ができる。所見の特徴は、縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、瘻孔、非対称性狭窄(偏側性変形)、裂孔、および多発するアフタがある。(4)その他近年、機器の性能向上および撮影技法の開発により、超音波検査、CT、MRIにより腸管自体を詳細に描出することが可能となった。小腸病変の診断に、経口造影剤で腸管内を満たし、造影CT検査を行うCT enterography(CTE)や、MRI撮影を行うMR enterography(MRE)が欧米では広く用いられており、わが国の一部の医療施設でも用いられている。撮影法の工夫により大腸も同時に評価ができるMR enterocolonography(MREC)も一部の施設では行われており、検査が標準化されれば、繰り返し行う場合も侵襲が少なく、内視鏡が到達できない腸管の評価にも有用と考えられる。2)病理検査所見CDには病理診断上、絶対的な基準となるものがなく、種々の所見を組み合わせて診断する。生検診断をするにあたっては、その有無を多数の生検標本で連続切片を作成し検討する。組織学的所見として重要なものは(1)全層性炎症像、(2)非乾酪性類上皮肉芽腫の検出、(3)裂溝、(4)潰瘍である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)CDは発症原因が不明であり、経過中に寛解と再燃を繰り返すことが多い。CDの根治的治療法は現時点ではないため、治療の目標は病勢をコントロールし、炎症を繰り返すことによる患者のQOL低下を予防することにある。そのため薬物療法、栄養療法、外科療法を組み合わせて症状を抑えるとともに、栄養状態を維持し、炎症の再燃や術後の再発を予防することが重要である。■ 内科治療(主に薬物治療として)活動期の治療と寛解期の治療に大別される。活動期CDの治療方針は、疾患の重症度、病変範囲、合併症の有無、患者の社会的背景を考慮して決定する。初発のCDでは、診断および病変範囲、重症度の確定と疾患に関する教育や総合的指導のため、専門医にコンサルトすることが望ましい。また、ステロイド依存や免疫調節薬の投与経験がない場合においても、生物学的製剤の投与に関しては専門医にコンサルトすべきである。わが国における平成30年度 CD治療指針、および各治療法の位置づけ(表5)を示す。画像を拡大する1)5-ASA製剤CDに適応があるのはメサラジン(商品名:ペンタサ)、サラゾスルファピリジン(同:サラゾピリン)の経口薬である。治療指針においては軽症~中等症の活動期の治療、寛解維持療法、術後再発予防のための治療薬として推奨されている。CDの寛解導入効果および寛解維持効果は限定的であるが有害性は低い。腸の病変部に直接作用し炎症を抑えるため、製剤の選択には薬剤の放出機序に注意して病変範囲によって決める必要がある。2)ステロイド(GS)5-ASA製剤無効例、全身症状を有する中等症以上の症例で寛解導入に有効である。関節症状、皮膚症状、眼症状などの腸管外合併症を有する場合や、発熱、CRP高値などの全身症状が著明な場合は、最初からステロイドを使用する。寛解維持効果はないため、副作用の面からも長期投与は避けるべきである。ステロイド依存となった場合は、少量の免疫調節薬(アザチオプリン〔AZA〕、6-メルカプトプリン〔6-MP〕)を併用し、ステロイドからの離脱を図る。軽症あるいは中等症例の回盲部病変の寛解導入には、全身性副作用を軽減し局所に作用するブデソニド(同:ゼンタコート)9mg/日の投与が有効である。3)免疫調節薬(AZA、6-MPなど)免疫調節薬として、AZA(同:イムラン、アザニン)、6-MP(同:ロイケリン)が主なものであり、AZAのみ保険適用となっている。AZAと6-MPは寛解導入、寛解維持に有効であり、ステロイド減量効果を有する。欧米の使用量はAZA 2.0~3.0mg/kg/日、6-MP 50mg/日または1.5mg/kg/日であるが、日本人は代謝酵素の問題から用量依存性の副作用が生じやすく、欧米より少量のAZA(50~100mg/日)、6-MP(20~50mg/日)が投与されることが多い。チオプリン製剤の副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛がNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとされている。2019年2月よりNUDT15遺伝子多型検査が保険適用となっており、初回チオプリン製剤治療前には本検査を施行し、表6に従ってチオプリン製剤の適応を判断することが推奨される。AZA/6-MPの効果発現は緩徐で2~3ヵ月かかることが多いが、長期に安定した効果が期待できる。適応としてステロイド減量効果、難治例の寛解維持目的、瘻孔病変、術後再燃予防、抗TNF-α抗体製剤を使用する際の相乗効果があげられる。画像を拡大する4)抗体製剤(1)抗TNF-α抗体製剤わが国ではインフリキシマブ(同:レミケード)、アダリムマブ(同:ヒュミラ)が保険適用となっている。抗TNF-α抗体製剤は、CDの寛解導入、寛解維持に有効で外瘻閉鎖維持効果を有する。適応として、中等症~重症のステロイド・栄養療法が無効な症例、重症例で膿瘍や狭窄がない治療抵抗例、抗TNF-α抗体製剤で寛解導入された症例の寛解維持療法、膿瘍がコントロールされた肛門病変が挙げられる。早期に免疫調節薬と併用での導入が治療成績がよいとの報告があるが、副作用と医療費の問題もあり、全例導入は避けるべきである。早期導入を進める症例として、肛門病変を有する症例、穿孔型の症例、若年発症が挙げられる。(2)抗IL12/23p40抗体製剤2017年5月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてウステキヌマブ (同:ステラーラ)が使用可能となっている。導入時のみ点滴静注(体重あたり、55kg以下260㎎、55kgを超えて85kg以下390㎎、85kgを超える場合520㎎)、その後は12週間隔の皮下注射もしくは活動性が高い場合は8週間隔の皮下注射であり、投与間隔が長くてもよいという特徴がある。また、安全性が高いことも特徴である。腸管ダメージの進行があまりない炎症期の症例に有効との報告がある。肛門病変への効果については、まだ統一見解は得られていない。(3)抗α4β7インテグリン抗体製剤2018年11月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてベドリズマブ (同:エンタイビオ)が使用可能となっている。インフリキシマブ同様0週、2週、6週で投与後維持療法として8週間隔の点滴静注 (30分/回)を行う。抗TNF-α抗体製剤failure症例よりもnaive症例で寛解導入および維持効果を示した報告が多い。日本での長期効果の報告に関してはまだ症例数も少なく、今後のデータ集積が必要である。5)栄養療法活動期には腸管の安静を図りつつ、栄養状態を改善するために、低脂肪・低残渣・低刺激・高蛋白・高カロリー食を基本とする。糖質・脂質の多い食事は危険因子とされている。「クローン病診療ガイドライン(2011年)」では、栄養療法はステロイドとともに主として中等症以上が適応となり 、痔瘻や狭窄などの腸管合併症には無効である。1日30kcal/kg以上の成分栄養療法の継続が再発防止に有効であるが、長期にわたる成分栄養療法の継続はアドヒアランスの問題から困難であることも少なくない。総摂取カロリーの半分を成分栄養剤で摂取すれば、寛解維持に有効であることが示されており、1日900kcal以上を摂取するhalf EDが目標となっている。6)抗菌薬メトロニダゾール、シプロフロキサシンなどの抗菌薬は中等度~重症の活動期の治療薬として、肛門部病変の治療薬として有効性が示されている。病変部位別の比較では小腸病変より大腸病変に対して有効性が高いとされる。7)顆粒球・単球吸着療法(granulocyte/monocyte apheresis: GMA)2010年より大腸病変のあるCDに対しGMAが適応拡大となった。GMAは単独治療の適応はなく、既存治療の有効性が乏しい場合に併用療法として考慮すべきである。施行回数は週1回×5回を1クールとして、最大2クールまで施行する。8)内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilatation: EBD)CDは、経過中に高い確率で外科手術を要する疾患であり、手術適応の半数以上は腸管狭窄である。EBDは手術回避の目的として行われる内視鏡的治療であり、治療指針にも取り上げられている。適応としては、腸閉塞症状を伴う比較的短く(3cm以下)屈曲が少ない良性狭窄で、深い潰瘍や瘻孔を伴わないものである。適応外としては、細径内視鏡が通過する程度の狭窄、強度に屈曲した狭窄、長い狭窄、瘻孔合併例、炎症や潰瘍が合併している狭窄である。■ 外科的治療CDの外科的治療は内科的治療で改善しない病変のみに対して行い、QOLの改善が目的である。腸管病変に対する手術では、原則として切除をなるべく小範囲とし、小腸病変に対しては可能な症例では狭窄形成術を行い、腸管はなるべく温存する。5年再手術率16~43%、10年で32~76%と高く、可能な症例では腹腔鏡下手術が有効である。緊急手術、穿孔、広範囲膿瘍形成、複数回の開腹手術既往、腸管外多臓器への複雑な瘻孔などは開腹手術が選択される。厚生労働省研究班治療指針によるCDの手術適応は表7の通りである。完全な腸閉塞、穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症は緊急に手術を行う。狭窄病変については、活動性病変は内科治療、線維性狭窄で口側拡張の著しいもの、短い範囲に多発するもの、狭窄の範囲が長いもの、瘻孔を伴うもの、狭窄症状を繰り返すものは手術適応となる。肛門病変は、難治性で再発を繰り返す痔瘻・膿瘍が外科的治療の対象となる。治療として、痔瘻根治術、シートン法ドレナージ、人工肛門造設(一時的)、直腸切断術が選択される。治療の目標は症状の軽減と肛門機能の保持となる。画像を拡大する4 今後の展望現在、各種免疫を ターゲットとした治験が行われており、進行中の治験を以下に示す。グセルクマブ(商品名:トレムフィア):抗IL-23p19抗体(点滴静注および皮下注射製剤)Upadacitinib:JAK1阻害薬(経口)E6011:抗フラクタルカイン抗体(静注)Filgotinib:JAK1阻害薬(経口)BMS-986165:TYK2阻害療法(経口)5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関するサイト難病情報センター CD(一般利用者と医療従事者向けの情報)東京医科歯科大学消化器内科 「潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター」(一般利用者向けの情報)JIMRO IBD情報(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会に関するサイトIBDネットワーク(IBD患者と家族向け)1)日比紀文 監修.クローン病 新しい診断と治療.診断と治療社; 2011.2)難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループ 日本消化器病学会クローン病診療ガイドライン作成委員会・評価委員会.クローン病診療ガイドライン: 2011.3)NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編.潰瘍性大腸炎の診療ガイド. 第2版.文光堂; 2011.4)日比紀文.炎症性腸疾患.医学書院; 2010.5)渡辺守.IBD(炎症性腸疾患を究める). メジカルビュー; 2011.公開履歴初回2013年04月11日更新2020年03月09日

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オリーブ橋小脳萎縮症〔OPCA: olivopontocerebellar atrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義オリーブ橋小脳萎縮症(olivopontocerebellar atrophy:OPCA)は、1900年にDejerine とThomasにより初めて記載された神経変性疾患である。本症は神経病理学的には小脳皮質、延髄オリーブ核、橋核の系統的な変性を主体とし、臨床的には小脳失調症状に加えて、種々の程度に自律神経症状、錐体外路症状、錐体路徴候を伴う。現在では線条体黒質変性症(striatonigral degeneration:SND)、Shy-Drager症候群とともに多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)に包括されている。多系統萎縮症として1つの疾患単位にまとめられた根拠は、神経病理学的にこれらの3疾患に共通してα-シヌクレイン(α-synuclein)陽性のグリア細胞質内封入体(glial cytoplasmic inclusion:GCI)が認められるからである。なお、MSAという概念は1969年にGrahamとOppenheimerにより1例のShy-Drager症候群患者の詳細な臨床病理学的報告に際して提唱されたものである。OPCA、SND、Shy-Drager症候群のそれぞれの原著、さらにMSAという疾患概念が成立するまでの歴史的な経緯については、高橋の総説に詳しく紹介されている1)。その後、2回(1998年、2008年)のコンセンサス会議を経て、現在、MSAは小脳失調症状を主体とするMSA-C(MSA with predominant cerebellar ataxia)とパーキンソン症状を主体とするMSA-P(MSA with predominant parkinsonism)に大別される2)。MSA-Cか、MSA-Pかの判断は、患者の評価時点での主症状を基になされている。したがって従来OPCAと診断された症例は、現行のMSA診断基準によれば、その大半がMSA-Cとみなされる。この点を踏まえて、本稿ではMSA-CをOPCAと同義語として扱う。■ 疫学欧米ではMSA-PがMSA-Cより多いが(スペインでは例外的にMSA-Cが多い3))、わが国ではこの比率は逆転しており、MSA-Cが多い3-6)。このことは神経病理学的にも裏付けられており、英国人MSA患者では被殻、淡蒼球の病変の頻度が日本人MSA患者より有意に高い一方で、橋の病変の頻度は日本人MSA患者で有意に高いことが知られている7)。特定医療費(指定難病)受給者証の所持者数で見ると平成30年度末にはMSA患者は全国で11,406人であるが、この中には重症度基準を満たさない軽症者は含まれていない。そのうち約2/3はMSA-Cと見積もられる。■ 病因いまだ十分には解明されていない。α-シヌクレイン陽性GCIの存在からMSAはパーキンソン病やレビー小体型認知症と共にα-シヌクレイノパチーと総称される。神経症状が見られないpreclinical MSAというべき時期にも黒質、被殻、橋底部、小脳には多数のGCIの存在が確認されている(神経細胞脱落はほぼ黒質、被殻に限局)8)。このことはGCIが神経細胞脱落に先行して起こる変化であり、MSAの病因・発症に深く関与していることを推察するものと思われる。MSAはほとんどが孤発性であるが、ごくまれに家系内に複数の発症者(同胞発症)が見られることがある。このようなMSA多発家系の大規模ゲノム解析からCOQ2遺伝子の機能障害性変異がMSAの発症に関連することが報告されている9)。COQ2はミトコンドリア電子伝達系において電子の運搬に関わるコエンザイムQ10の合成に関わる酵素である。このことから一部のMSAの発症の要因として、ミトコンドリアにおけるATP合成の低下、活性酸素種の除去能低下が関与する可能性が推察されている。また、Mitsuiらは、MSA患者ではGaucher病の原因遺伝子であるGBA遺伝子の病因変異を有する頻度が健常対照者に比べて有意に高いことを報告している10)。このことは日本人患者のみならず、ヨーロッパ、北米の患者でも実証されており、これら3つのサンプルシリーズのメタ解析ではプールオッズ比2.44(95%信頼区間:1.14-5.21)であった。しかも変異保因者頻度はMSA-C患者群がMSA-P患者群よりも高かったとのことである。GBA遺伝子の病因変異は、パーキンソン病やレビー小体型認知症の危険因子としても知られており、MSAが遺伝学的にもパーキンソン病やレビー小体型認知症と一部共通した分子基盤を有するものと考えられる。さらにこの仮説を支持するかのように、中国から日本人MSA患者に高頻度に見られるCOQ2遺伝子のV393A変異がパーキンソン病と関連するという報告が出ている11)。■ 症状MSA-Cの発症は多くは50歳代である3-6)。通常、小脳失調症状(起立時、歩行時のふらつき)で発症する。中には排尿障害などの自律神経症状で発症する症例が見られる。初診時の自覚症状として自律神経症状を訴える患者は必ずしも多くないが、詳細な問診や診察により排尿障害、起立性低血圧、陰萎(勃起不全)などの自律神経症状は高率に認められる。初診時にパーキンソン症状や錐体路徴候が見られる頻度は低い(~20%)6)。診断時には小脳失調症状および自律神経症状が病像の中核をなす。経過とともにパーキンソン症状や錐体路徴候が見られる頻度は上がる。パーキンソン症状が顕在化すると、小脳症状はむしろ目立たなくなる場合がある。パーキンソン症状は動作緩慢、筋強剛が見られる頻度が高く、姿勢保持障害や振戦はやや頻度が下がる。振戦は姿勢時、動作時振戦が主体であり、パーキンソン病に見られる古典的な丸薬丸め運動様の安静時振戦は通常見られない2)。パーキンソン病に比べて、レボドパ薬に対する反応が不良で進行が速い。また、抑うつ、レム睡眠期行動異常、認知症(とくに遂行機能の障害など、前頭葉機能低下)、感情失禁などの非運動症状を伴うことがある。注意すべきは上気道閉塞(声帯外転麻痺など)による呼吸障害である12)。吸気時の喘鳴、いびき(新規の出現、従来からあるいびきの増強や変質など)、呼吸困難、発声障害、睡眠時無呼吸などで気付かれる。これは病期とは関係なく初期でも起こることがある。上気道閉塞を伴う呼吸障害は突然死の原因になりうる。■ 予後日本人患者230人を検討したWatanabeらによれば、MSA全体の機能的予後では発症から歩行に補助具を要するまでが約3年、車いす生活になるまでが約5年、ベッド臥床になるまでが約8年(いずれも中央値)とされる5)。また、発症から死亡までの生存期間は約9年(中央値)である。発症から診断まではMSA全体で3.3±2.0年(MSA-Cでは3.2±2.1年、MSA-Pは3.4±1.7年)とされており5)、したがって診断がついてからの生命予後はおよそ6年程度となる。MSA-CのほうがMSA-Pよりもやや機能的予後はよいとされるが、生存期間には大差がない。発症から3年以内に運動症状(小脳失調症状やパーキンソン症状)と自律神経症状の併存が見られた患者では、病状の進行が速いことが指摘されている5)。The European MSA Study Groupの報告でも、発症からの生存期間(中央値)は9.8年と推定されている4)。また、予後不良の予測因子として、MSA-Pであること、尿排出障害の存在を挙げている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)広く普及しているGilmanらのMSA診断基準(ほぼ確実例)を表に示す2)。表 probable MSA(ほぼ確実なMSA)の診断基準2)孤発性、進行性、かつ成人発症(>30歳)の疾患で以下の特徴を有する。自律神経機能不全―尿失禁(排尿のコントロール不能、男性では勃起不全を伴う)、あるいは起立後3分以内に少なくとも収縮期血圧30mmHg、あるいは拡張期血圧15 mmHgの降下を伴う起立性低血圧― かつ、レボドパ薬に反応が乏しいパーキンソニズム(筋強剛を伴う動作緩慢、振戦、あるいは姿勢反射障害)あるいは、小脳失調症状(失調性歩行に構音障害、四肢失調、あるいは小脳性眼球運動障害を伴う)ここで強調されているのは孤発性、進行性、成人発症(>30歳)である点と自律神経症状が必須である点である。したがって、本症を疑った場合には起立試験(Schellong試験)や尿流動態検査(urodynamic study)が重要である。他疾患と鑑別するうえでもMRI検査は必ず施行すべきである。MSAではMRI上、被殻、中小脳脚、橋、小脳の萎縮は高頻度に見られ(図)、かつ特徴的な橋の十字サイン(hot cross bun sign、図)、被殻外側部の線状高信号(hyperintense lateral putaminal rim)、被殻後部の低信号(posterior putaminal hypointensity)(いずれもT2強調像)が見られる。概してMSA-CではMSA-Pに比べて、橋十字サインを認める頻度は高く、一方、被殻外側部の線状高信号を認める頻度は低い。また、MSAでは中小脳脚の高信号(T2強調像、図)も診断の助けになる。画像を拡大するKikuchiらは[11C]-BF-227を用いたpositron emission tomography(PET)にて、MSA患者では対照者に比べて大脳皮質下白質、被殻、後部帯状回、淡蒼球、一次運動野などに有意な集積が見られたことを報告している13)。BF-227は病理切片にてGCIを染め出すことから、これらの所見はMSA患者脳内のGCI分布を捉えているものと推察されている。上記したようにGCIはMSAのごく早期から生じる病変であることから、[11C]-BF-227 PETは早期診断に有用な画像バイオマーカーになる可能性がある。MSA-Cの鑑別上、最も問題になるのは、皮質性小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy:CCA)である。CCAは孤発性のほぼ純粋小脳型を呈する失調症である。とくに病初期のMSA-Cで自律神経症状やパーキンソン症状が見られない時期(GilmanらのMSA診断基準では“疑い”をも満たさない時期)では両者の鑑別は困難である。仮にCCAと診断しても発症後5年程度はMSAの可能性を排除せず、小脳外症状(特に自律神経症状)の出現の有無やMRI上の脳幹・中小脳脚の萎縮、橋十字サインの出現の有無について注意深く経過観察すべきである。この点は運動失調症研究班で提唱した特発性小脳失調症(idiopathic cerebellar ataxia: IDCA、IDCAは病理診断名であるCCAに代わる臨床診断名である)の診断基準でも強調している14)。なお、桑原らは、MSA-Cにおいては橋十字サインの方が起立性低血圧より早期に出現する、と報告している15)。MSA-CではCCAに比べて臨床的な進行は圧倒的に速い16)。また、Kogaらは臨床的にMSAと診断された134例の剖検脳を検討したが、このうち83例(62%)は病理学的にもMSAと確定診断されたものの、他の51例にはレビー小体型認知症が19例、進行性核上性麻痺が15例、パーキンソン病が8例含まれたと報告している17)。レビー小体型認知症やパーキンソン病がMSAと誤診される最大の理由は自律神経症状の存在によるとされ、一方、進行性核上性麻痺がMSAと誤診される最大の理由は小脳失調症状の存在であった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)有効な原因療法は確立されていない。個々の患者の病状に応じた対症療法が基本となる。対症療法としては、薬物治療と非薬物治療に大別される。■ 薬物治療1)小脳失調症状プロチレリン酒石酸塩水和物(商品名:ヒルトニン)やタルチレリン水和物(同:セレジスト)が使用される。2)自律神経症状主な治療対象は排尿障害(神経因性膀胱)、起立性低血圧、便秘などである。MSAの神経因性膀胱では排出障害(低活動型)による尿勢低下、残尿、尿閉、溢流性尿失禁、および蓄尿障害(過活動型)による頻尿、切迫性尿失禁のいずれもが見られる。排出障害に対する基本薬はα1受容体遮断薬であるウラピジル(同:エブランチル)やコリン作動薬であるべタネコール塩化物(同:ベサコリン)などである。蓄尿障害に対しては、抗コリン薬が第1選択である。抗コリン薬としてはプロピベリン塩酸塩(同:バップフォー)、オキシブチニン塩酸塩(同:ポラキス)、コハク酸ソリフェナシン(同:ベシケア)などがある。起立性低血圧には、ドロキシドパ(同:ドプス)やアメジニウムメチル硫酸塩(同:リズミック)などが使用される。3)パーキンソン症状パーキンソン病に準じてレボドパ薬やドパミンアゴニストなどが使用される。4)錐体路症状痙縮が強い症例では、抗痙縮薬が適応となる。エペリゾン塩酸塩(同:ミオナール)、チザニジン塩酸塩(同:テルネリン)、バクロフェン(同:リオレサール、ギャバロン)などである。■ 非薬物治療患者の病期や重症度に応じたリハビリテーションが推奨される(リハビリテーションについては、参考になるサイトの「SCD・MSAネット」のSCD・MSAリハビリのツボを参照)。上気道閉塞による呼吸障害に対して、気管切開や非侵襲的陽圧換気療法が施行される。ただし、非侵襲的陽圧換気療法によりfloppy epiglottisが出現し(喉頭蓋が咽頭後壁に倒れ込む)、上気道閉塞がかえって増悪することがあるため注意が必要である12)。さらにMSAの呼吸障害は中枢性(呼吸中枢の障害)の場合があるので、治療法の選択においては、病態を十分に見極める必要がある。4 今後の展望選択的セロトニン再取り込み阻害薬である塩酸セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)やパロキセチン塩酸塩水和物(同:パキシル)、グルタミン酸受容体の阻害薬リルゾール(同:リルテック)、オートファジー促進作用が期待されるリチウム、抗結核薬リファンピシン、抗菌薬ミノサイクリン、モノアミンオキシダーゼ阻害薬ラサギリン、ノルエピネフリン前駆体ドロキシドパ、免疫グロブリン静注療法、あるいは自己骨髄あるいは脂肪織由来の間葉系幹細胞移植など、さまざまな治療手段の有効性が培養細胞レベル、あるいはモデル動物レベルにおいて示唆され、実際に一部はMSA患者を対象にした臨床試験が行われている18, 19)。これらのうちリルゾール、ミノサイクリン、リチウム、リファンピシン、ラサギリンについては、無作為化比較試験においてMSA患者での有用性が証明されなかった18)。間葉系幹細胞移植に関しては、MSAのみならず、筋萎縮性側策硬化症やアルツハイマー病など神経変性疾患において数多くの臨床試験が進められている20)。韓国では33名のMSA患者を対象に無作為化比較試験が行なわれた21)。これによると12ヵ月後の評価において、対照群(プラセボ群)に比べると間葉系幹細胞治療群ではUMSARS (unified MSA rating scale)の悪化速度が遅延し、かつグルコース代謝の低下速度や灰白質容積の減少速度が遅延することが示唆された21)。ただし、動注手技に伴うと思われる急性脳虚血変化が治療群29%、対照群35%に生じており、安全性に課題が残る。また、MSA多発家系におけるCOQ2変異の同定、さらにはCOQ2変異ホモ接合患者の剖検脳におけるコエンザイムQ10含量の著減を受けて、国内ではMSA患者に対してコエンザイムQ10の無作為化比較試験(医師主導治験)が進められている。5 主たる診療科神経内科、泌尿器科、リハビリテーション科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018.(監修:日本神経学会・厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」.南江堂.2018)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター オリーブ橋小脳萎縮症SCD・MSAネット 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の総合情報サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報NPO全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者とその家族および支援者の会)1)高橋昭. 東女医大誌. 1993;63:108-115.2)Gilman S, et al. Neurology. 2008;71:670-676.3)Kollensperger M, et al. Mov Disord. 2010;25:2604-2612.(Kollenspergerのoはウムラウト)4)Wenning GK, et al. Lancet Neurol. 2013;12:264-274.5)Watanabe H, et al. Brain. 2002;125:1070-1083.6)Yabe I, et al. J Neurol Sci. 2006;249:115-121.7)Ozawa T, et al. J Parkinsons Dis. 2012;2:7-18.8)Kon T,et al. Neuropathology. 2013;33:667-672.9)The Multiple-System Atrophy Research Collaboration. N Engl J Med. 2013;369:233-244.10)Mitsui J, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2015;2:417-426.11)Yang X, et al. PLoS One. 2015;10:e0130970.12)磯崎英治. 神経進歩. 2006;50:409-419.13)Kikuchi A, et al. Brain. 2010;133:1772-1778.14)Yoshida K, et al. J Neurol Sci. 2018;384:30-35.15)桑原聡ほか. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「運動失調症の医療基盤に関する調査研究」2019年度研究報告会プログラム・抄録集. P30.16)Tsuji S, et al. Cerebellum. 2008;7:189-197.17)Koga S, et al. Neurology. 2015;85:404-412. 18)Palma JA, et al. Clin Auton Res. 2015;25:37-45.19)Poewe W, et al. Mov Disord. 2015;30:1528-1538.20)Staff NP, et al. Mayo Clin Proc. 2019;94:892-905.21)Lee PH, et al. Ann Neurol. 2012;72:32-40.公開履歴初回2015年04月09日更新2020年03月09日

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