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自殺が多い日は新学期だけではない【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第162回

自殺が多い日は新学期だけではないぱくたそより使用新学期の初日は自殺が多いということが知られています。4月や9月がそれに該当します。自身の年齢に照らし合わせると、実は別のデータが存在するのです。筆頭著者、は大阪大学の松林 哲也先生です。数年前にニュースになった研究でもあり、耳にしたことがある読者も多いかもしれませんね。誕生日の前後の自殺については、延期仮説と誕生日ブルー仮説の2つがあります。延期仮説とは、自分にとって意味のある記念日を迎えるまでは頑張って生き続けようとする前提に基づくもので、誕生日ブルー仮説とは、記念日を到底祝えるような状況にないことの絶望感に基づくものです。Matsubayashi T, et al.Higher Risk of Suicide on Milestone Birthdays: Evidence from Japan.Sci Rep. 2019 Nov 12;9(1):16642.この研究は、厚生労働省が収集している1974~2014年までの日本の人口動態統計の死亡に関するデータを使用しました。ただし、外国人の死亡については除外しています。本研究で調べたかったのは、誕生日における自殺の多さです。とくに、マイルストーン誕生日(10歳、20歳、30歳、40歳、50歳……などの10年の節目における誕生日)の自殺が多いかどうかを調べました。結果、自殺や事故で死亡したのは約207万人で、うち約8,000人が誕生日に亡くなっていました。このうち誕生日に自殺した人は約4,100人で、それ以外の日の平均約2,700人の約1.5倍でした。さて、15歳の誕生日から90歳の誕生日までの日数を横軸にとって、縦軸に自殺者の数を示します(図)。図. 年齢と自殺の分布(文献より引用)画像を拡大するマイルストーンの節目となる誕生日の自殺が多いのがおわかりいただけると思います。それ以外の誕生日でも、突出して多くなっていますね。自殺企図がある患者さんでは、節目の年齢が近づくような場合、注意が必要かもしれません。

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第6回 COVID-19パンデミックと“テレリハ”?【今さら聞けない心リハ】

第6回 COVID-19パンデミックと“テレリハ”?今回のポイント新型コロナウイルス感染の拡大を防ぐため、全国の病院では外来の心リハを休止せざるを得ない状況となっている心リハは運動療法だけではなく疾患管理プログラムとしての役割を担っているため、外来の心リハ休止により心疾患の再発悪化の増加が懸念される外来の心リハ休止の悪影響を最小限に抑えるためには、どのような対応が求められるか、外来再開時には何に注意すべきか現在、新型コロナウイルス感染拡大は全世界に及んでおり、その収束の見通しは立っていません。日本では都市部を中心として感染者が急増しており、政府は4月7日に東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発出しました。4月17日には全国都道府県に緊急事態宣言の対象が拡大。それとともに、これまでの宣言の対象であった7都府県に京都を含む6つの道府県を加えた13都道府県については、とくに重点的に感染拡大防止の取り組みを進めていくべき「特定警戒都道府県」と位置付けられました。筆者の勤務する京都大学医学部附属病院(京大病院)でも、新型コロナウイルス感染症対策として外来の心リハを4月9日より中止しています。心リハは心筋梗塞や心不全などの心疾患患者にとってとても大切な治療であることをこれまでの連載で語ってきました。今回は、『緊急事態とは言っても、心疾患患者にとって重要な心リハを中止しても大丈夫?』という疑問を持つ読者の皆様とともに、国内外の心リハの状況と対策について考えてみたいと思います。心リハ学会の指針は?4月20日に日本心臓リハビリテーション学会より、“COVID19 に対する心臓リハビリテーション指針”が公開されました。要点は以下の3つです。1)入院中の心リハは自粛せず、適切に導入・継続する2)外来の心リハは中止し、自宅での在宅リハを推奨する3)運動処方目的の心肺運動負荷試験(CPX)は実施しない補足事項として、入院患者に心リハを行う場合も、手指消毒・マスク装着・密集を避ける(患者間は2mの距離を設ける)などの感染対策を徹底する、感染患者の新規発生がみられない地域では外来の心リハ実施も許容される、と書かれています。ただし、こちらの指針が作成されたのは緊急事態宣言の対象が全国に拡大されるより前の4月13日のことであり、現時点では全国の施設での外来心リハ実施は中止することが妥当と考えられます。ヨーロッパ・アメリカでは?世界保健機構(WHO)の発表によると、4月22日時点の新型コロナウイルスの感染者数は日本では1万1,118例です。一方、ヨーロッパでは118万7,184例、アメリカでは89万3,119例と桁違いに多く、まさに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにあることがわかります。心リハの先進国でもあるヨーロッパ・アメリカですが、COVID-19パンデミックで心リハはどうなっているのでしょうか。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の推奨ヨーロッパ心臓病学会(ESC)は4月8日に‘Recommendations on how to provide cardiac rehabilitation activities during the COVID-19 pandemic’を公開しています。ここでは、COVID-19パンデミックにより各国での心リハの実施に障害が生じていることを述べたうえで、以下、10の推奨が示されています。1)COVID-19パンデミックの状況を定期的に確認する2)COVID-19患者を扱える準備をする3)COVID-19パンデミックが心疾患患者に与える結果について系統的に検討する4)現状で提供できる最大限の心リハを実施する5)患者の要望に対して個別の病状に配慮したうえで応じられるよう準備する6)なんらかの症状がでた際には、必要な医療を後回しにせず適切な支援を受けられるように患者に指導する7)偽情報に惑わされない8)包括的心リハのすべての要素を含む電話での遠隔リハ(telerehabilitation programmes:テレリハプログラム)を実施する9)医療および地域連携による患者の心理サポートを行う10)施設における心リハ再開の準備をする施設の状況によっては、通常通りの心リハ運営が難しくなっている場合もあります。COVID-19患者対応でスタッフが配置転換となり、心リハを完全に閉じている施設もあります。ESCは施設の状況に応じた推奨を示しています。心リハを閉じている施設に対しては、残っているスタッフまたは配置転換となったスタッフ間で連携し、COVID-19が心疾患に与える影響についての情報共有や遠隔リハの開始について検討することが推奨されています。心リハの運営ができている施設には、入院患者と回復期の外来患者は、手指消毒・マスク装着・密集を避けるなどの感染対策を実施したうえで行うこと、ただし回復期または維持期の外来患者については可能であれば対面ではなく、電話やメール、アプリなどを活用した遠隔リハ(患者評価と指導)を行うことが推奨されています。米国のほうはCOVID-19パンデミック下の心リハについてESCほどまとまったものはありませんが、AACVPR(American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation)が3月13日に公表した‘AACVPR Statement on COVID-19’には、各施設の方針に従って心リハを実施すること、外来の心リハが実施できない患者には有効な在宅運動指導を検討することが書かれています。米国ではCOVID-19パンデミック以前の昨年7月に“在宅心リハについてのステートメント”が公表されています。テレリハ、具体的にどうする?では、テレリハ、“電話やメール、アプリなどを活用した遠隔リハ”は、どのように実践すればいいでしょうか。言うは易し、行うは難し、ですね。患者さんに心リハスタッフが電話して、『運動しましょうね』と言えばそれだけでいいのでしょうか。心疾患患者さんには、運動をするにあたってメディカルチェックが必要です。テレリハであっても、そのプロセスは省けません。さらに、テレリハを行うにあたって、スタッフ間での対応も統一する必要があります。電話での患者情報聴取は何を聞けばよいか、もし患者が症状の悪化を訴えたら、どの程度で受診を促すべきなのか…。当院では、複数のメディカルスタッフが心リハに携わっています。そこで今回、心リハのメディカルスタッフで協働して「テレリハプログラム」を作成し、4月9日より運用を開始しました。(表)京大病院で活用している、テレリハ問診チェックリストPDFで拡大するこれはESCの‘Recommendations on how to provide cardiac rehabilitation activities during the COVID-19 pandemic’の公開を知る前に作成したものでしたが、ESCの推奨8)の“包括的心リハの全ての要素を含む電話でのテレリハプログラム(telerehabilitation programmes)”にほぼ相当する内容になっているようです。心リハを専門にする医療者の考えることは、日本もヨーロッパも同じようなレベルにあるということでしょうか。運動の内容についても、具体的な指導が必要です。「一人で運動してください」と言われても、どうしたらいいのか、患者の立場だったら困りますよね。単に歩けばそれでいいのでしょうか。外出を控えることが一人一人の国民に求められている現状で、どこを歩けばいいのか、街中に住んでいる患者さんには難しい問題です。具体的な運動内容を患者さんに提供するために、当科のホームページに当院の心リハで実施している体操プログラムを公開しました。外来の心リハ患者さんでインターネットアクセスが可能な方には活用していただくようお伝えしています。COVID-19パンデミックは心リハイノベーションをもたらすか?緊急事態宣言により、さまざまな企業・病院で、テレワークなどの新しい働き方が整備されました。大学での会議や授業もWebが導入されるなど、教育にも新しい仕組みが導入されています。これまで、1~2時間の会議のために京都から東京まで出張することが多かった私も、往復の交通に要する時間や費用など、無駄を省けたことにはメリットを感じています。通常の外来でも電話診療が本格的に始まりました。遠方から検査がない日に薬の処方目的に来院されていた患者さんにとっては、かなりメリットが大きいようです。心リハでも、今回を機に遠隔リハ体制が整えば、外来の心リハの一部はテレリハに移行できる可能性があります。しかし、現在のテレリハは医療者の無償奉仕に依存しており、テレリハの普及には診療報酬制度の見直しなども必要そうです。<Dr.小笹の心リハこぼれ話>今回はDr.小笹とともに当科で活躍する、鷲田 幸一氏(京大病院 慢性心不全看護認定看護師)のこぼれ話を紹介します。「テレリハを開始して」私が実際に患者さんにお電話をして感じたのは、「多くの患者さん・ご家族は先の見えない現状に不安を抱いていること」、また外出自粛などにより、身体活動度が減少するだけでなく「social distance(社会的距離)を超えて、social isolation(社会的孤立)に陥っていること」でした。これらは、とくに独居の高齢者には大きな問題のように思います。ESCの推奨9)にあるように、心理面での支援も医療者として非常に重要だと感じています。疾患管理をするための形式的な問診だけではなく、患者さん・ご家族を気遣いながらコミュニケーションを取り、不安を増大させることなく日常の生活(食事・睡眠)を続けているかを確認する。そして、その中で、疾患管理としてのモニタリングや、適切な食事・活動についてのアドバイスを行う必要があるのだと思っています。今後、多くの病院で同様の取り組みが拡がり、自宅で孤立している患者さんの疾患・生活・心理面で支援拡大を願います。

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アルコール使用障害に対する運動介入~メタ解析

 アルコール使用障害(AUD)患者に対する運動介入の影響について、トルコ・パムッカレ大学のFatih Gur氏らが、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。American Journal of Health Promotion誌オンライン版2020年3月26日号の報告。 2000~18年に公表された、成人AUD患者を対象に運動介入の有効性を評価した研究を、PubMed、Medline、Web of Science、Scopus、Academic Search complete、Sport Discuss、ERICデータベースより検索した。システマティックレビュー・メタ解析の標準的プロトコールおよび観察研究ガイドラインに基づき、データを抽出した。身体活動レベルおよびフィットネス(最大酸素摂取量[VO2max]、最大心拍数[HRmax])、うつ病、不安、自己効力感、QOL、アルコール消費(1日および1週間に消費される標準的な飲酒数)のデータを収集した。 主な結果は以下のとおり。・VO2max(標準平均差[SMD]:0.487、p<0.05)およびHRmax(SMD:0.717、p<0.05)による評価では、運動介入は、身体的なフィットネスを有意に改善した。・運動介入は、QOLにより評価されるメンタルヘルスを有意に改善したが(SMD:0.425、p<0.05)、うつ病、不安、自己効力感、アルコール消費では、有意な変化が認められなかった。・有酸素運動では、ヨガや混合した場合と比較し、うつ症状や不安症状の緩和が認められた。・運動時間も、うつ症状や不安症状に影響を及ぼしていた。 著者らは「AUD患者に対する運動介入は、効果的かつ持続可能な補助療法となりうる」としている。

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ペムブロリズマブ単剤は高齢患者にも有用かKEYNOTE-010、024、042統合解析【肺がんインタビュー】 第45回

第45回 ペムブロリズマブ単剤は高齢患者にも有用かKEYNOTE-010、024、042統合解析肺がん患者の多くは高齢者である。近年登場した免疫治療薬は、肺がん治療においても幅広く適用され始め、高齢肺がんにおいても、その有用性が期待される。しかし、臨床試験での高齢者のデータは少ない。そのような中、高齢者への有効性と安全性を評価した、ペムブロリズマブ単剤の大規模RCTの統合解析がLung Cancer誌で発表された。筆頭著者である野崎 要氏にこの試験から得られる新たな知見について聞いた。肺がん最大の高齢者データセット―この試験を実施した背景を教えていただけますか。ご存じのとおり、肺がん患者さんの多くは高齢者です。高齢者の定義は日本肺癌学会ガイドラインでは75歳となっています。免疫チェックポイント阻害薬が登場し、その使用機会も著しく増加していますが、免疫チェックポイント阻害薬のピボタル試験では65歳を境にした解析が多く、75歳以上のデータは数少ないのが現状です。そこで、ペムブロリズマブ単剤の3つのピボタル試験の統合解析から75歳以上の患者のデータを抽出し、75歳以上の高齢患者におけるペムブロリズマブ単剤の効果と安全性を評価しました。―3つのピボタル試験について教えていただけますか。KEYNOTE-010、024、042試験の3つです。これらはすべて企業(MSD)主導のグローバル試験です。KEYNOTE-010試験は2016年のLancet誌に結果が発表された既治療のPD-L1発現(1%以上)非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対するペムブロリズマブ単剤の試験です。KEYNOTE-024試験は、1次治療のPD-L1高発現(50%以上)NSCLC患者に対するペムブロリズマブ単剤とプラチナ併用化学療法の比較試験で、2016年、New England Journal of Medicine誌に結果が発表されました。私は、前勤務地でこの試験に施設の試験責任医師として参加しています。KEYNOTE-042試験は、同じく1次治療ですが、PD-L1発現(1%以上)NSCLC患者に対するペムブロリズマブ単剤とプラチナ併用化学療法の比較試験で、2019年のLancet誌に結果が発表されています。画像を拡大する―試験デザインについて教えていただけますか。今回の研究では、前出のペムブロリズマブの3つのピボタル試験で、下記の4つの統合解析を行い、1次治療であるKEYNOTE-024、KEYNOTE-042試験については、下記の2つの統合解析を行いました。画像を拡大する高齢者へのペムブロリズマブ単剤治療、有効性、安全性とも若年者と同様―この研究の主な結果を教えていただけますか。3試験全体でみた75歳以上のペムブロリズマブ単剤の全生存期間(OS)は、化学療法に比べ有意に良好でした。PD-L1≧1%でのOSは、ペムブロリズマブ単剤15.7ヵ月に対し、化学療法は11.7ヵ月(HR:0.76)、PD-L1≧50%でのOSは19.2ヵ月vs.11.9ヵ月です(HR:0.40)。また、1次治療であるKEYNOTE-024と042における75歳以上のOSは、PD-L1≧50%で23.1ヵ月vs.8.3ヵ月(HR:0.41)と、こちらもペムブロリズマブ単剤群は化学療法に比べ良好でした。―高齢患者の有害事象の発現についてはいかがでしたか。75歳以上における治療関連有害事象(TRAE)は、化学療法に比べ、ペムブロリズマブ単剤で少なく、全Gradeで68.5% vs.94.3%、Grade3以上では24.2% vs.61.0%でした。75歳以上と75歳未満を比べても同様でした。TRAE発現は75歳以上68.5%に対し75歳未満65.2%、免疫関連有害事象(irAE)発現は24.8% vs.25.0%と同等でした。―この研究は、264例という75歳以上では最大規模の試験となりますが、この結果を高齢者肺がんの実臨床にどう応用できるとお考えですか。当研究は、事後解析ですので、いくつかの限界(limitation)があります。組織型(ペムブロリズマブに扁平上皮がんが多い)、喫煙状況(ペムブロリズマブに喫煙者が多い)といった患者背景に偏りがあります。また、1次治療として行われた2試験(KEYNOTE-024と042)に参加できたのは、プラチナ併用療法に忍容性がある方で、実地臨床における高齢患者さんとはやや異なる可能性があります。また、PD-L1 1~49%のデータは示されていません。とはいえ、前向き試験によって抽出された臨床データで、ペムブロリズマブ単剤の有効性、有害事象も高齢者とそれ以外で大きく変わらないことが示されたことは重要だと思います。とくに、PD-L1高発現に対するペムブロリズマブの治療効果(OSカーブ)は75歳以上と75歳未満で変わらないように見えます。このようなことから、少なくともPD-L1高発現の全身状態の良い高齢者には積極的にペムブロリズマブを使用することを勧めて良い、ということはいえると思います。参考原著:Nosaki K, et al. Lung Cancer.2019;135:188-195.KEYNOTE-010: Herbst RS, et al. Lancet. 2016;387:1540-1550.KEYNOTE-024: Reck M, et al. N Engl J Med. 2016 ;375:1823-1833.KEYNOTE-042: Mok TSK, et al. Lancet. 2019;393:1819-1830.

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ルムジェブ:より速やかなインスリン作用発現を実現

血糖変動を意識した糖尿病治療近年、糖尿病治療ではHbA1cに加えて日々の血糖変動、いわゆる血糖トレンドが重要視されるようになっている。2019年には新たな国際コンセンサスレポートも公表され、1日のうち70%以上の時間で、血糖変動を70~180mg/dLの範囲内に収めることが推奨された1)。血糖変動を目標の範囲内に収めるためには、食後の急激な血糖上昇を抑えることも重要だ。その治療法としては、速効型、超速効型のインスリン製剤が主流であり、投与タイミングは食事開始15~30分前となっている。しかし、実際には食事開始前2分以内に投与する人も多いという報告があり2)、そういったケースでは食後の血糖上昇の抑制が遅れる可能性があった。速やかなインスリン作用発現が実現こうした背景から、食後のより速やかなインスリン作用発現を実現すべく、超速効型インスリンアナログ製剤ルムジェブ注(一般名:インスリン リスプロ[遺伝子組み換え])が開発された。ルムジェブ注は、既存の超速効型インスリンアナログ製剤ヒューマログ注(一般名:インスリン リスプロ[遺伝子組み換え])の有効成分に添加剤を加えることで、皮下からの吸収をより速めた薬剤で、2020年3月に製造販売承認を取得した。実際に日本人1型糖尿病患者を対象とした試験では、ヒューマログ注と比較して最高血中濃度到達までの時間が約13分、曝露持続時間が88分短縮したことが報告されている3)。食後血糖上昇の抑制について優越性を確認ルムジェブ注の有効性は、1型糖尿病患者を対象としたPRONTO-T1D試験、および2型糖尿病患者を対象としたPRONTO-T2D試験で検討された4), 5)。本試験では、基礎インスリンを併用する糖尿病患者(1型1,222例、2型673例)に対して、ルムジェブ注またはヒューマログ注を盲検下で1日3回食直前(食事開始0~2分前)に皮下投与した。主要評価項目である投与26週時におけるHbA1cのベースラインからの変化量の差は、T1D、T2D試験それぞれ-0.08%(95%CI[-0.16、0.00])、0.06%(95%CI[-0.05、0.16])であり、ヒューマログ注に対するルムジェブ注の非劣性が認められた(非劣性マージン0.4%)。また同試験では、食後の血糖上昇の低減作用も検討された。投与26週時における食後血糖のベースラインからの変化量の差は、食後1時間でT1D、T2D試験それぞれ-27.9 mg/dL(95%CI[-35.3、-20.6])、-11.8 mg/dL(95%CI[-18.1、-5.5])だった。また食後2時間でそれぞれ-31.2 mg/dL(95%CI[-41.1、-21.2])、-17.4 mg/dL(95%CI[-25.3、-9.5])であり、食後1時間、2時間ともにヒューマログ注に対するルムジェブ注の優越性が認められた。なおT1D試験では、ルムジェブ注を非盲検下で食後(食事開始後20分)に投与した群と、ヒューマログ注を食事前に投与した群についても、投与26週時におけるHbA1cのベースラインからの変化量の差が検討された。その結果は0.13%(95%CI[0.04、0.22])であり、食事後の投与においてもヒューマログ注に対するルムジェブ注の非劣性が認められた。ルムジェブ注への期待上記臨床試験などの結果から、ルムジェブ注は食直前の投与でよりメリットが大きいと考えられるため、食時開始後(食事開始から20分以内)の投与も可能だが、通常は食事開始時(食事開始前 2 分以内)の投与が推奨されている。ルムジェブ注の効果を最大限発揮するためには、こうした投与タイミングについて患者にきちんと指導することも重要だ。速やかなインスリン作用発現が得られるルムジェブ注により、食後の血糖上昇を抑え、血糖変動を目標範囲内に収めることを目指せると期待したい。1)Battelino T, et al. Diabetes Care. 2019;42:1593-1603.2)Ishii H et al. Diabetes Res Clin Pract. 2020;162:108076.3)Shiramoto M, et al. J Diabetes Investig. 2019 Dec 9. [Epub ahead of print]4)Klaff LJ, et al. ADA 2019.5)Blevins T, et al. ADA 2019.

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始まった感染症予防連携プロジェクト/日本感染症学会・日本環境感染学会

 新型コロナウイルス感染症の流行により、麻疹や風疹の被害が置き去りにされている中で、日本感染症学会(理事長:舘田 一博氏)と日本環境感染学会(理事長:吉田 正樹氏)は、国際的な同一目的で集合した多人数の集団(マスギャザリング)に向けて注意すべき感染症について理解を広げるWEBサイト「FUSEGU ふせぐ2020」をオープンした。 これは感染症対策に取り組む医学会、企業・団体が連携し、マスギャザリングでリスクが高まる感染症の理解向上と、必要な予防手段の普及を目標に感染症予防連携プロジェクトとして推進しているものである。 同サイトでは、マスギャザリングと感染症をテーマに、「学ぶ」「触れる」「防ぐ」の3 つの視点から情報をまとめている。理解を深めたい感染症として、第1弾は「麻疹」「風疹」「侵襲性髄膜炎菌感染症」を取り上げ、感染経路や予防手段などを紹介している。 具体的には「学ぶ」では対象感染症の症状や特徴、感染拡大の歴史などを紹介し、「触れる」ではアンケート調査、感染症カレッジ、市民公開講座などの情報発信を予定している。「防ぐ」では手指衛生、マスク、ワクチンなどの予防方法が記載されている。とくにワクチンでは、“what(ワクチンの目的)、who(接種すべき人)、when(いつ接種するか)、where(接種できる場所)”と分類されイラストとともにわかりやすく説明されている。 今後は市民を対象とした意識調査やイベントなど、感染症予防啓発のため実施するプログラムの詳細についても順次公開予定としている。

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敗血症関連頻脈性不整脈に対して、ランジオロールが目標心拍数の達成と新規不整脈発生の抑制を示す(J-Land 3S)

 敗血症または敗血症性ショックにおける頻脈性不整脈に対して、従来治療にランジオロールを加えた治療が従来治療に比べ24時間後の心拍数60~94bpm達成率を有意に高め、168時間までの新規不整脈発生率を有意に低下することが、鹿児島大学の垣花 泰之氏らによるJ-Land 3Sで示された。詳細は、Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2020年3月31日号に掲載された。 敗血症関連頻脈性不整脈は、発症頻度が高く予後が悪い疾患である。しかし、現在のところ効果的な治療法は存在していない。そこで、垣花氏らは、超短時間作用型β遮断薬ランジオロールの本病態に対する有効性・安全性を検討した。従来の敗血症治療へのランジオロール追加試験に、日本の54施設が参加 本試験は、日本の54病院で多施設非盲検無作為化比較試験として実施された。対象は、集中治療室で敗血症管理のため臨床ガイドラインに従った従来の敗血症治療を受けた後に頻脈性不整脈を発症した患者で、従来の敗血症治療にランジオロール治療を追加する群(ランジオロール群)と従来の敗血症治療のみを受ける群(対照群)にオープンラベルで無作為に割り付けられた。ランジオロール群では、無作為化後2時間以内にランジオロール塩酸塩として毎分1μg/kgの初期用量で静脈内注入が行われ、最大20μg/kg/分まで増加可能とされた。 主要アウトカム項目は、無作為化後24時間における心拍数60〜94bpmを達成した患者割合であった。24時間後の心拍数60~94bpm達成率、168時間までの新規不整脈発生率を有意に改善 151例が登録され、ランジオロール群に76例、対照群に75例が割り付けられた。 主要アウトカム項目は、ランジオロール群55%(41/75例)、対照群33%(25/75例)となり、ランジオロール群で有意に高かった(p=0.0031)。 有害事象は、ランジオロール群、対照群において、それぞれ64%(49/77例)、59%(44/74例)で認められ、重篤な有害事象(死に至る有害事象を含む)は、12%(9/77例)、11%(8/74例)であった。ランジオロールに関連した重篤な有害事象は、血圧低下(3例)、心停止、心拍数低下、および駆出率低下(各1例)であった。 また、副次評価項目である168時間までの新規不整脈発生率は、ランジオロール群、対照群でそれぞれ9%(7/75例)、25%(19/75例)となり、ランジオロール群で有意に低く(p=0.015)、28日までの死亡率は、それぞれ12%(9/75例)、20%(15/75例)であった(p=0.22)。 垣花氏らは、「ランジオロールは敗血症関連頻脈性不整脈において、投与24時間後における心拍数60〜94bpm達成患者を有意に増やし、新規の不整脈発生率も有意に低減させ、許容性も高い薬剤であるが、低血圧リスクが存在するために血圧と心拍数の適切な監視の下で使用する必要がある」としている。

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細菌感染の可能性が低い炎症でのリンデロン-VG軟膏の変更提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第19回

 今回は、湿疹や皮膚炎で頻用されているベタメタゾン吉草酸エステル・ゲンタマイシン硫酸塩軟膏(商品名:リンデロン-VG軟膏)についてです。細菌感染の可能性が低くても処方される「ステロイドあるある」ともいえる乱用に対して、薬剤師として行った介入を紹介します。患者情報70歳、男性(グループホーム入居、要介護2)基礎疾患:高血圧、心不全、陳旧性心筋梗塞訪問診療の間隔:2週間に1回処方内容1.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1朝食後2.ラベプラゾール錠10mg 1錠 分1 朝食後3.フロセミド錠40mg 1錠 分1 朝食後4.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後5.カルベジロール錠2.5mg 1錠 分1 朝食後6.ニコランジル錠5mg 3錠 分3 朝昼夕食後7.オルメサルタン錠40mg 1錠 夕食後8.ヘパリン類似物質油性クリーム 50g 1日2回 全身に塗布本症例のポイント訪問診療の同行時に、上記患者さんの下腿の皮膚に赤みがあり、痒そうなので、以前処方されたリンデロン-VG軟膏を使ってもよいかという質問を施設スタッフより受けました。医師の診察では、心不全もあるのでうっ滞性皮膚炎の可能性があり、炎症を引かせるためにもリンデロン-VG軟膏でよいだろうという判断でした。リンデロン-VG軟膏は、外用ステロイドであるベタメタゾン吉草酸エステルとアミノグリコシド系抗菌薬であるゲンタマイシンの配合外用薬です。ゲンタマイシンは、表在性の細菌性皮膚感染症の主要な起炎菌であるブドウ球菌や化膿性連鎖球菌に有効ですので、その抗菌作用とベタメタゾンのStrongという使いやすいステロイド作用ランクから皮膚科領域では大変頻用されています。しかし、長期的かつ広範囲の使用によって、耐性菌の出現やゲンタマイシンそのものによる接触性皮膚炎のリスク、さらには腎障害や難聴の副作用も懸念されています。そこで処方内容への介入を行うこととしました。<抗菌外用薬による接触性皮膚炎>アミノグリコシド系抗菌薬は基本構造骨格が類似しており、ゲンタマイシン、アミカシン、カナマイシン、フラジオマイシンで交叉反応による接触性皮膚炎が生じやすい。とくにフラジオマイシンで高率に生じると報告されている。処方提案と経過まず、医師にゲンタマイシンによる上記の弊害を紹介し、細菌感染の可能性が低いのであれば、抗菌薬が配合されているリンデロン-VGではなく外用ステロイド単剤で治療するのはどうか提案しました。なお、その際に医師がステロイド単剤のリンデロン-V軟膏やリンデロン-DP軟膏を認識していなかったことがわかりました。さらに、炎症の強さから外用ステロイドとしての作用強度がワンランク上のVery Strongが望ましいと感じましたが、リンデロン-DP軟膏だと患者さんや施設、および薬局での取り違えの可能性もあったことから、ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏(商品名:アンテベート軟膏)を提案しました。その結果、今回は細菌感染の可能性が低いことからベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏がよいだろうと変更の承認を得ることができました。治療を開始して4日目には皮膚の発赤と掻痒感は改善し、既処方薬のヘパリン類似物質油性クリームのみの治療へ戻すこととなりました。Sugiura M. Environmental Dermatology. 2000;7:186-194.

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軽度~中等度のうつ病に対するサフランの効果~メタ解析

 うつ病治療において、ハーブ療法のニーズが高まってきている。最近までに蓄積された研究によると、抑うつ症状の緩和に対するサフラン(Crocus sativus L.)の好影響が明らかとなっている。中国・Jiujiang University Clinical Medical CollegeのLili Dai氏らは、利用可能なすべてのデータを結合し、軽度~中等度のうつ病治療におけるサフランの安全性および有効性を評価するため、メタ解析を実施した。The Journal of Nervous and Mental Disease誌2020年4月号の報告。 電子データベースおよびリファレンスリストのクロスチェックにより、関連文献を収集した。適格試験を慎重にレビューし、必要なデータを抽出した。ハミルトンうつ病評価尺度またはベックのうつ病自己評価尺度、治療反応率、寛解率、副作用について、サフラン治療とプラセボまたは抗うつ薬治療との比較検討を行った。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析には、12研究を含めた。・全体的な結果として、サフラン治療は、プラセボと比較し、抑うつ症状の改善効果がより優れており、抗うつ薬治療と同等の効果が認められた。・副作用に関しては、サフラン治療とプラセボまたは抗うつ薬治療との間に、有意な差は認められなかった。 著者らは「サフランは軽度~中等度のうつ病患者を治療するうえで、抗うつ薬の代替薬となりうる可能性がある。しかし、この結果を確認するためには、サンプルサイズが大きく、治療期間の長い、異なる民族による多施設試験が必要とされる」としている。

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AI活用の皮膚がんスクリーニング、患者の受け止めは?

 COVID-19パンデミックを受け、国内では、時限措置ながら初診からのオンライン診療が解禁され、対面診療至上主義に大きな風穴を開けた。患者サイドの不安・不満が気になるところだが、人工知能(AI)による皮膚がんのスクリーニングについて、医師・患者の人間的な関係性が担保された状態ならば許容されうることが、米国・イェール大学医学大学院のCaroline A. Nelson氏らによる皮膚がん患者を対象とした質的研究結果によって示された。AIの利用は医学のあらゆる領域に及んでおり、皮膚科領域では、皮膚病変を分類するdirect-to-patientおよびclinician decision-supportのAIツールに関する評価が行われている。患者の受診行動を変えるAIの態勢はできているが、患者側からの観点はまだ十分に理解されていなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2020年3月11日号掲載の報告。 研究グループは、患者がAIをどのように捉えているのか、また皮膚がんスクリーニングでのAI使用についてどのように理解しているかを調べる質的研究を行った。 ブリガム&ウィメンズ病院の一般皮膚科クリニックとダナ・ファーバーがん研究所の皮膚がんクリニックで、グランデッド・セオリーアプローチ(Grounded Theory Approach:GTA)を用いた半構造化インタビュー解析を行った。 各インタビューは、評価者相関測定法により2人のリサーチャーがそれぞれコード化した。調整済みコードを使って、コードの出現頻度を評価した。 主要評価項目は、AIの概念化について、AIのベネフィットとリスク、強みと弱み、AI適用の受け止め、ヒトとAIの臨床意思決定の齟齬に対する反応、AIを推奨するのか反対するのかについてであった。 主な結果は以下のとおり。・被験者対象は48例。研究は2019年5月6日~7月8日に行われた。・48例のうち26例(54%)が女性であり、平均年齢は53.3(SD 21.7)歳であった。・16例(33%)が黒色腫既往、16例(33%)が非黒色腫の皮膚がん既往、16例(33%)が皮膚がん非既往であった。・24例がdirect-to-patient AIツールについてインタビューを受け、24例がclinician decision-support AIツールについてインタビューを受けた。・2つのコーディングチームの評価者相関評価結果は、κ=0.94とκ=0.89であった。・患者はAIを主として、認知・認識(cognition)の概念として捉えていた。・皮膚がんスクリーニングにおけるAI使用のベネフィットとして最も多く認められたのは、診断スピードの上昇(29例[60%])および受診アクセスの増大(29例[60%])であった。・患者の不安の増大が最も多く認められたのは、リスクに関してであった(19例[40%])。・患者がAIの最大の強みと捉えているのは診断の正確性(33例[69%])である一方、最大の弱みと捉えているのは診断の不正確性(41例[85%])であった。・調査から浮かび上がった課題は、ヒトとAIの共生の重要性であった(45例[94%])。・ヒトとAI間の臨床意思決定の対立において、最も多く認められた反応は、生検を求めることであった(32例[67%])。・全体として36例(75%)が、AIを家族や友人に推薦するとした。

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高特異度のCOVID-19抗体検査キット、FDAが緊急使用許可/オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス

 米国の臨床検査用機器・診断薬メーカーであるオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックスは4月25日、SARS-CoV-2の抗体検査試薬「ビトロスAnti-SARS-CoV-2 IgG 抗体検査試薬キット(COVID-19 IgG 抗体検査試薬)」がFDAによる緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)を取得したと発表した。 同社では、別の抗体検査試薬が4月14日にすでにEUAを取得している。1種類目の「ビトロス Anti-SARS-CoV-2 Total抗体検査試薬キット(COVID-19 Total抗体検査試薬)」は、感染初期の急性期に出現するIgM抗体を含むすべての抗体を検出し、免疫の獲得開始の判断への活用が期待される。今回EUA を取得した2種類目の COVID-19 IgG抗体検査試薬は、感染の後期に出現し、回復後も患者の血液中に存在するIgG抗体のみを検出する。 なお、これら2種類の抗体検査試薬の特異度は、同社がSARS-CoV-2非感染者400人を対象に行った試験で、400人が「陰性」となったことに基づき、ともに100%と発表されている。 これらの検査試薬は、同社の生化学免疫分析装置のビトロスXT 7600統合システムをはじめ、ビトロス3600免疫診断システム、ビトロス5600統合システム、ビトロスECi/ECiQ免疫診断システムで検査が可能。これらのシステムは米国全体では1,000を超える医療機関および医療関連機関で使用されている。 日本国内においては、同社の全自動検査機器を使用している医療機関および医療関連施設に、研究用試薬として5月下旬より順次提供予定で準備を進めている。

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第5回 COVID-19ワクチン候補の1つ、初めてサルで感染を予防

中国・北京拠点のバイオテック企業Sinovac Biotech社の、mRNAでもプラスミドDNAでもウイルスベクターでもない昔かたぎのローテク不活化ワクチンが、数ある開発品の中で初めて動物・アカゲザルの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染を防ぎました1,2)。8匹のサルにまずワクチンが3回投与され、気管に通した管からその3週間後に肺にSARS-CoV-2を入れて様子を見たところ、どのサルもウイルスに屈しませんでした。とくに高用量(6µg)投与群の反応は良好で、ウイルスを肺に入れてから7日時点で、肺や喉からウイルスは検出されませんでした。低用量(3µg)群ではウイルスが検出されたものの、対照群の4匹のサルに比べてウイルス量はほぼ完全に(95%)抑制されていました。安全性も良好であり、サルの体調・血液/生化学指標・組織解析で懸念は示唆されませんでした。また、低用量投与群の中和抗体価は比較的低かったにもかかわらず、抗体を介した感染促進副作用・ADE(antibody-dependent enhancement of infection)はどのワクチン接種サルにも認められませんでした。Sinovac社の海外部門リーダーMeng Weining氏は、今回の結果を受けて同ワクチンがヒトにも効くに違いないと確信していると述べており、すでに同社は中国江蘇省でプラセボ対照二重盲検第I/II相試験を開始しています3)。4月20日時点での登録情報によると、試験には18~59歳の健康な成人744人が参加し、不活化SARS-CoV-2ワクチン高用量、低用量、プラセボのいずれかが2週間あるいは4週間の間をおいて2回投与されます4)。Sinovac社は実績があるワクチンメーカーであり、手足口病、A/B型肝炎、インフルエンザに対する不活化ワクチンを販売しています。ただし、Weining氏によると作製できるワクチンは多く見積もっても約1億投与分であり、もし臨床試験で効果や安全性が確認されてCOVID-19ワクチンを作るなら他のメーカーの助けが必要かもしれません。世界保健機関(WHO)によると、4月26日時点で7つのCOVID-19ワクチンが臨床試験段階に至っており、さらに82候補の前臨床開発が進行中です5)。それらのワクチンのほとんどは目新しい人工遺伝子技術に基づいており、Sinovac社のような昔ながらの不活化技術頼りのワクチンは5つのみです。現在の流行のさなかで何よりも大事なのは、技術がどうあれ安全で有効なワクチンをできるだけ早く完成させることだと、Weining氏はScience誌に話しています。参考1)Rapid development of an inactivated vaccine for SARS-CoV-2.bioRxiv. April 19, 20202)COVID-19 vaccine protects monkeys from new coronavirus, Chinese biotech reports / Science3)Sinovac Announces Commencement of Phase I Human Clinical Trial for Vaccine Candidate Against COVID-19 / Sinovac Biotech4)Safety and Immunogenicity Study of 2019-nCoV Vaccine (Inactivated) for Prophylaxis SARS CoV-2 Infection (COVID-19) (ClinicalTrials.gov)5)DRAFT landscape of COVID-19 candidate vaccines – 26 April 2020

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新型タバコにも含まれるニコチンによる免疫機能の低下【新型タバコの基礎知識】第18回

第18回 新型タバコにも含まれるニコチンによる免疫機能の低下Key Pointsニコチンは免疫機能の低下をもたらす加熱式タバコに替えても、ニコチンによる免疫機能の低下は防げない新型コロナウイルス対策の1つとして禁煙を推進してほしい今回の記事は予定を変更して、新型コロナ問題にも関連する「ニコチンによる免疫機能の低下」について解説します。アイコスなどの加熱式タバコにも、紙巻タバコと同様に多くのニコチンが含まれています(第3回記事参照)。ここでは、タバコ研究データの決定版、US Surgeon General Report 2014年号(図)から、喫煙と免疫システムの関連についてお伝えしたいと思います1)。画像を拡大する(出典)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK179276/pdf/Bookshelf_NBK179276.pdf喫煙と免疫システムの関係は?まず簡単に、喫煙と免疫の関係について述べます。免疫システムは、感染や病気から体を守るためのもの、風邪やインフルエンザなどのウイルスからがんなどの疾患に至るまで、あらゆる異物と戦っています。喫煙は免疫機能を低下させ、病気との戦いをうまくいかなくさせていきます。喫煙者は非喫煙者よりも呼吸器感染症に罹りやすくなるのです。これは、タバコに含まれる化学物質が、呼吸器感染症の原因となるウイルスや細菌を正常に攻撃するための、免疫システムの機能を低下させていることが理由の1つです。実際に、喫煙者は非喫煙者に比べて肺炎になりやすく、より重症化しやすくなります。ここまでの話だけなら、ある意味単純で簡単な話(ニコチンだけでなく、タバコが免疫機能を低下させ、感染症への罹患を増やし、肺炎などの重症化リスクを上げること)として理解されるものと思います。しかし、免疫に対するタバコの煙の悪影響があまり理解されていない理由は、免疫系の研究が複雑でややこしく、次のような研究の状況にあるからなのかもしれません。ニコチンは免疫系を抑制し、一方で刺激する?ニコチンは、免疫系を刺激する機序と抑制する機序の両方に作用すると考えられています。尿中マーカーから推測されるニコチンのレベル(すなわち通常の喫煙者と同等のニコチン量)で十分に、リウマチなどの自己免疫系疾患や感染症、がんといった免疫学的に誘導される疾患と関連していると考えられています2)。ニコチンは、ニコチンレセプターを介してその効果を発揮します3)。ニコチンは細胞に直接作用することができる一方、生体内ではそれ自体が強力な免疫調整機能を持つ交感神経系へも直接的に作用します。ニコチンを含んではいるが燃焼・不完全燃焼しきった紙巻タバコの煙由来成分は、まだ燃焼しきっていない紙巻タバコの煙由来成分(酸化作用を多く持つ)と比較して、免疫系への作用がかなり小さいとされています4,5)。禁煙補助薬として使用されるニコチンパッチまたはニコチン部分拮抗薬(たとえば、バレニクリン)は、ヒトでは免疫系への作用が少なく6)、またスヌース(スウェーデンでのみ広く使用されているニコチンを含む低ニトロサミンの無煙タバコ製品)ではニコチンを含むにもかかわらず、紙巻タバコと同等の免疫系への影響はみられません。このような結果の解釈として、紙巻タバコによる免疫への影響は、ニコチンによる影響だけでなく酸化作用等と関連しているものと考えられます7)。こうしたある意味で矛盾した、免疫抑制と免疫促進の両方向への影響がタバコにはあるようです。ニコチンが樹状細胞を抑制するのではなく、樹状細胞を刺激することで免疫系応答によりアテローム性動脈硬化へとつながるとされています8)。一方では、ニコチンは神経細胞のニコチンレセプターを介して作用し、in vivoおよびin vitroの両方で細胞性免疫を抑制するとされています。ニコチンはB細胞における抗体産生を抑制し、T細胞を減らし、T細胞受容体を介したシグナル伝達が減衰したアレルギー様状態を誘導します9,10)。動物実験で、ニコチンによる免疫系への作用により、動物は細菌およびウイルスに感染しやすくなると分かっているのです。前述したとおり、ニコチンは、免疫系を刺激する機序と抑制する機序の両方に作用するため話が理解されにくいようです。免疫促進と抑制のどちらの方向であっても行き過ぎると免疫機能は異常を来すと言えるでしょう。喫煙により、関節リウマチのような自己免疫疾患も、免疫機能の低下により誘導されやすくなるがんも増えると分かっているのです。そのため、「喫煙により免疫異常が引き起こされる」とまとめて書かれるわけです。ただし、今回の新型コロナ問題のように感染症に関して喫煙やニコチンの害を考える場合には、単純に「ニコチンにより免疫機能が低下する」と受け止めると分かりやすいでしょう。新型コロナ時代の禁煙のすゝめ新型コロナウイルスの感染および感染後の重症化を防ぐためにできることの一つとして禁煙があります。タバコ会社は「自宅では加熱式タバコを吸ってください」などとマーケティング活動に熱心だが、それにダマされてはなりません。加熱式タバコに替えてもニコチンは含まれますから、免疫機能の低下は防げないのです。しかし、すべてのタバコを止めれば、ニコチンによる免疫機能の低下から回復できます。その禁煙の効果は数日で得られ、何歳でも禁煙の効用が得られるものと考えられます。日本における新型コロナウイルスの蔓延はまだ始まったばかりであり、これから先に多くの人が新型コロナウイルスに感染する可能性があります。数ヵ月先かもしれないし、1年先かもしれません。日本に2千万人程度存在するすべての喫煙者が禁煙することにより、新型コロナウイルスの流行を収束させる一助としていただきたいと思います。第19回は、「禁煙をし続けるために本当に必要なこと(2)」です。1)US Surgeon General Report 2014.2)Cloez-Tayarani I1, Changeux JP. J Leukoc Biol. 2007 Mar;81:599-606.3)US Surgeon General Report 2010.4)Laan M,et al. J Immunol. 2004 Sep 15;173:4164-70.5)Bauer CM,et al. J Interferon Cytokine Res. 2008 Mar;28:167-79.6)Cahill K,et al. Cochrane Database Syst Rev. 2008 Jul 16:CD006103.7)McMaster SK,et al. Br J Pharmacol. 2008 Feb;153:536-43.8)Aicher A,et al. Circulation. 2003 Feb 4;107:604-11.9)Geng Y,et al. Toxicol Appl Pharmacol. 1995 Dec;135:268-78.10)Geng Y,et al. J Immunol. 1996 Apr 1;156:2384-90.

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これが免疫チェックポイント阻害薬の効果予測バイオマーカー(のはず)【そこからですか!?のがん免疫講座】第4回

はじめに前回は、「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)がどうやって効果を発揮しているのか」について解説しました。しかし、いろいろメディアで報道されたこともあり皆さんご存じかもしれませんが、すべての患者さんに効くわけではありません1,2)。そこで、どういった患者さんに効くのか?という疑問に対してさまざまな研究がなされてきました。今回はそれらを紹介しながら、がん免疫の本質に少し迫りたいと思います。効果予測バイオマーカーとは?「効果予測バイオマーカー」、読んで字のごとくかもしれませんが、少し言葉の説明をさせてください。「AさんはXという薬が効く。一方でBさんはYという薬が効かない」などということが、あらかじめわかっていれば余計な処方や副作用、さらには経済的な負担も避けられて非常にありがたい話ですよね? がんの領域では分子標的薬の登場により、こういった研究が盛んに行われてきました。こういった研究は非小細胞肺がんのゲフィチニブ(gefitinib)というEGFR阻害薬で非常に有名です。ゲフィチニブは発売当初、進行非小細胞肺がんであれば誰にでも使用されていましたが、だんだんと劇的に効く人とまったく効かない人がいることがわかってきました。そこで、そういった劇的に効く患者さんのがん細胞の遺伝子を検査してみると、ほとんどの患者さんでEGFR遺伝子変異が見つかりました3)。EGFR阻害薬なので「EGFRに異常があれば効く」なんてことは今から思えば当たり前のように思えるかもしれませんが、当時としてはかなり衝撃的でした(著者は医学部生で医者になる直前でした)。反証のようなデータも出ていろいろな論争もありましたが、前向き臨床試験で証明され3)、今ではこの薬剤はEGFR遺伝子変異がある患者さんでしか使用されていません。EGFR遺伝子変異があればゲフィチニブが効く、ということが予測できるので、EGFR遺伝子変異はゲフィチニブの「効果を予測できるマーカー」ということで「効果予測バイオマーカー」と呼ばれています。ほかにも効果予測バイオマーカーはいくつもありまして、中には全体の数%しかないような非常にまれな遺伝子異常もあります。こういった数%しかないものも含めて「効果予測バイオマーカー」を効率的に見つけようという取り組みが、最近の「がんゲノム医療」への流れをつくりました。これ以上は本筋からそれますので、がん免疫に話を戻します。ICIの効果予測バイオマーカーは?「全員に効くわけではない」と最初に触れましたが、ICIは単剤だと効果は50%以下です。劇的に効いて年単位で再発しない「完治」したかのような患者さんもいれば、1コースですぐ無効と判断されるような患者さん、逆に悪化してしまうような患者さんもいます4)。著者も大学院生時に2015年の論文を読んで思いましたが、まるでゲフィチニブをほうふつとさせるのです。そこで、「やはり効果予測バイオマーカーを見つけよう!」と世界中で研究が行われました。まず、いきなり残念なお知らせです。結論から申しますと、EGFR遺伝子変異ほどの完璧なバイオマーカーは、臨床応用できる範囲では今のところは存在しません。なぜそういう結論になっているのかという事情を話すと何時間でも講演できてしまうのですが、ここでは代表的なバイオマーカー3つの話にとどめ、あくまでがん免疫を理解するための話をしたいと思います。「完璧じゃねーのかよ!」と憤った方もいるかもしれませんが、この3つはがん免疫の本質を考えるうえで非常に重要ですので、ぜひお付き合いください。PD-L1の発現と腫瘍浸潤T細胞最初に紹介するのが、「PD-L1発現」と「腫瘍浸潤T細胞」の2つです。PD-L1の発現は臨床でも利用されていますので、今さら説明は不要かもしれません。「PD-1やPD-L1を阻害する薬なんだから、PD-1の結合相手の代表であるPD-L1がたくさん出ていれば効くんじゃないか?」という単純な発想で開発されたバイオマーカーです(図1)。病理学的に免疫染色で評価して「PD-L1高発現であれば効く」というのはある程度は受け入れられていると思います5)。ただし、繰り返しますが、完璧ではありません。PD-L1が高発現でも無効な方もいれば、全然出ていなくても有効な方もいます。なぜなのでしょう?原因はいろいろいわれていますが、私見も含めて考察します。1つは場所によって染色が異なる不均一性の問題といわれています。同じ患者さんの病理組織の中でも、ある部分ではPD-L1が高発現なのにある部分では低発現であったりすることが報告されています。さらにはダイナミックな変化も問題とされています。画像を拡大する前回を思い出してほしいのですが、PD-L1はがん細胞がT細胞を抑制して免疫系から逃れるために利用している分子です(図1)。ですので、免疫の攻撃、とくにT細胞の攻撃にさらされることで、自分の身を守るため・免疫系から逃れるために異常に発現が上がります。著者も実験したことがありますが、T細胞の攻撃にさらされると、元々出ているPD-L1の発現が関係なくなるレベル、50倍などにまで上がります(図2)6)。したがって常にPD-L1はダイナミックに変化しており、完璧な効果予測バイオマーカーになりにくい、ということが考えられます。画像を拡大する「PD-L1がT細胞の攻撃に伴って上がるのであれば、T細胞側を見てあげるほうがいいんじゃないの?」と思われた方もいると思います。その発想が「腫瘍浸潤T細胞」の発想です。今まで散々「ICIはT細胞を活性化してがん細胞を攻撃している」という話をしましたが、そういった事実からも「T細胞がたくさん腫瘍に浸潤しているほうがICIは効く」と考えられています。実際に腫瘍浸潤T細胞が多いほど効果は高いことが、複数のデータで証明されています7,8)。しかし、残念ながらこれも完璧ではありません。PD-L1同様の不均一性やダイナミックな変化に加えて、「必ずしも『腫瘍浸潤T細胞』=『がん細胞を攻撃しているT細胞』ではない」ことが主に問題点として指摘されています。がん細胞にしかない「体細胞変異数」「体細胞変異数」、ちょっとはやり言葉のように聞いたことがある方もいるかもしれません。すごく平たく言うと、がん自体は遺伝子に変異が入ることで起きる病気です。「その変異数が多ければ多いほどICIの効果が高い」というのが体細胞変異数をバイオマーカーとして使える背景です。なぜそんなことが起きるのでしょうか?体細胞変異数は、前回までに散々出てきた「がん抗原」に注目して開発されたバイオマーカーです。思い出していただきたいのですが、T細胞活性化は、がん細胞由来の免疫応答を起こす物質(=抗原)である「がん抗原」を認識するところから始まります。これがないと何も始まりません(図1)。この「がん抗原」に注目した最も有名な治療が、「がんワクチン」です。がんワクチンは「外からがん抗原を入れることで、がん細胞を攻撃するT細胞を活性化させよう」という治療方法です。しかし、残念ながらその期待とは裏腹に、ほとんどのがんワクチンには効果がありませんでした。その理由を考察しながら、体細胞変異数という発想に至った経緯を説明します。抗原には「強い免疫応答を起こす抗原」「弱くしか免疫応答を起こせない抗原」というように階層性がある、といわれています(図3)。たとえば、自分自身の身体にある抗原(自己抗原)は、万が一強い免疫応答を起こしてしまうと自分の身体を免疫が攻撃してしまう「自己免疫性疾患」になってしまいますので、免疫応答は起きないようになっています。画像を拡大する逆にウイルスみたいな異物である外来の抗原(外来抗原)は、非常に強い免疫応答を起こします。インフルエンザにかかると高熱が出るのは、非常に強い免疫応答を起こしている証拠です。そういった外来の自分自身にない非自己の抗原に対して、強い免疫応答が起きなければ病原体を排除できず、われわれの身体は困ってしまいます。ですので、こういった外来抗原は免疫系にとっては格好の排除の対象となり、強い免疫応答が起きるわけです。では、がん抗原に話を戻しましょう。「もともと身体にあるけれど、がん細胞が特別多く持っているがん抗原」というものがあります。「元からある共通のもの」という意味で「共通抗原」と呼びます。従来の「がんワクチン」は、基本的にはこの共通抗原を使用していました。しかし、共通抗原はもともと自分自身の身体にある抗原なので、がん細胞だけが持っているわけではありません。さらにはあくまでも自己なので、ウイルスなどの非自己である外来抗原とは違います。自己である共通抗原に対しては、免疫系は自分自身を「攻撃してはいけない」という「免疫寛容」というシステムが働いて、あまり強い免疫応答を起こすことができない、といわれています(図3)。だから従来のがんワクチンは効果が限定的だったのだろう、と考えられています。じゃあ、「理想的ながん抗原」って何でしょう? がん細胞だけが持っていて、かつ強い免疫応答が起こすことができるものですよね? そう考えたときに注目したのが、がん細胞しか持っていない「体細胞変異」なのです。体細胞変異はもともとの身体にはなく、がん細胞しか持っていません。なおかつ、変異が入っていないものは自己ですが、変異が入ることでタンパク質が変わってしまい非自己になります。ですので、運が良ければウイルスなんかと同じような強い免疫応答を起こすことができる抗原になれるわけなのです(図3)。がん細胞にしかなく、かつ強い免疫応答が起こせる抗原、まさに理想的ながん抗原ですね。これをわれわれは「ネオ抗原」と呼んでいます(図3)。とはいえ、ネオ抗原を一つひとつ同定することは、不可能ではなくともかなり大変です。そこで何かほかに見られるものはないか?となったときに、体細胞変異数の発想に至りました(図4)。つまり、体細胞変異数が多ければ多いほど、非自己として扱われ、T細胞を強く活性化させ、強い免疫応答を起こすことができるネオ抗原も多いのではないか、という予測を基に(図4)、体細胞変異を測定したところ見事に体細胞変異数が多い患者さんほど効果が高いことが証明されました9)。画像を拡大する体細胞変異数への期待と限界体細胞変異数がバイオマーカーとして機能する証拠をいくつか紹介しましょう。1つ目は大腸がんです。大腸がんはICIがほとんど効かないことがいろいろな治験でわかっているのですが、5%くらい劇的に効く集団がいました。それはMSI highという異常なまでに体細胞変異数が多い患者さんたちでした。確かにそういった患者さんの病理組織では腫瘍浸潤T細胞が多く、PD-L1が高発現していることも報告されておりまして、すでにMSI highというくくりでがんの種類に関係なくICIが承認され、日本を含め世界中で使用されています。もう1つの証拠を紹介します。いろいろながんごとに体細胞変異数をカウントして比較したデータがあります。体細胞変異数が多いがんというのは、メラノーマだとか肺がんだとか膀胱がんなんていう、いずれもICIの効果が証明されているものばかりでした。こういったデータからも体細胞変異数が重要である、ということが認識できます。まとめると、図5のようになります。バラバラに3つ並べましたが実はつながっていることがおわかりいただけますか?「体細胞変異数が多い→ネオ抗原が多い→T細胞がネオ抗原のおかげで活性化する→T細胞ががん細胞を攻撃するために浸潤してくる(腫瘍浸潤T細胞)→がん細胞が免疫系から逃れるためにPD-L1を利用する(PD-L1発現)」というストーリーできれいにまとまります(図5)。画像を拡大する体細胞変異数の測定は、現実的な値段でできる時代に来ています。ですので、「全がん患者の体細胞変異数を測定しましょう。もうそれでバイオマーカーは決まり!」と単純には思うのですが、そううまくはいきません。このバイオマーカーも、やはり完璧ではないのです。そもそも体細胞変異だけでは本当に強い免疫応答を起こせるネオ抗原になっているかがわかりません。そして、ネオ抗原だったとしてもT細胞活性化の7つのステップで紹介したように「がん抗原」以外にもたくさん重要な要素があるわけで、さすがにそれらを無視して単純に体細胞変異数だけでは限界があったのです。私見も含めて…、「何が一番大切か?」長々お話ししましたが、私はやはり一番大切なのは「T細胞」だと思っています。なぜならICIはT細胞を活性化させる薬だからです。とくに、浸潤してがん細胞を直接攻撃しているT細胞がきっちりと同定できれば、それが一番良いバイオマーカーであり、がん免疫にとって一番重要な要素だと思います。どんなに体細胞変異数が多かろうと、どんなにPD-L1発現が高かろうと、ICIはT細胞を活性化する薬ですので、そういったT細胞がなければ絶対に効きません。機序を考えれば当然のことです。完璧ではないものに散々時間をかけてしまいましたが、体細胞変異数から始まるネオ抗原・T細胞・PD-L1のストーリーは、がん免疫の本質を考えるうえできわめて重要です。まだいろいろありますが、これ以上は深入りせず、次回はICIの副作用について話をしたいと思います。1)Brahmer JR, et al. N Engl J Med. 2012;366:2455-2465.2)Topalian SL, et al. N Engl J Med. 2012;366:2443-2454.3)Mok TS, et al. N Engl J Med. 2009;361:947-957.4)Kamada T, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019;116:9999-10008.5)Reck M, et al. N Engl J Med. 2016;375:1823-1833.6)Sugiyama E, et al. Sci Immunol. 2020;5:eaav3937.7)Herbst RS, et al. Nature. 2014;515:563-567.8)Tumeh PC, et al. Nature. 2014;515:568-571.9)Rizvi NA, et al. Science. 2015;348:124-128.

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ペムブロリズマブ術後療法の効果が、免疫関連有害事象の発現と関連/JAMA Oncol

 免疫チェックポイント阻害薬の術後補助療法において、免疫関連有害事象(irAE)の発現は有効性に影響を及ぼすのか。フランス・パリ・サクレー大学のAlexander M. M. Eggermont氏らが、完全切除後の高リスクStageIII悪性黒色腫患者を対象に術後補助療法としてのペムブロリズマブの有効性および安全性をプラセボと比較した、国際多施設共同二重盲検第III相試験「EORTC 1325/KEYNOTE-054試験」の2次解析で明らかにした。JAMA Oncology誌オンライン版2020年1月2日号掲載の報告。 研究グループは、2015年8月26日~2016年11月14日に、18歳以上でリンパ節に転移した悪性黒色腫が完全切除された、StageIIIA、StageIIIBおよびStageIIICの悪性黒色腫患者1,019例を、ペムブロリズマブ群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれペムブロリズマブ200mgまたはプラセボを3週間間隔で、再発、許容できない毒性の発現、重大なプロトコール違反または同意撤回まで最大18回(約1年間)投与した。 クリニカルカットオフ日は2017年10月2日、データ固定日は2017年11月28日であった。 irAEと無再発生存期間(RFS)との関連について、irAE発現を時変共変量(発現前を0、発現後を1)とし、年齢、性別およびAJCC-7病期に関して調整したCoxモデルを用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・ペムブロリズマブまたはプラセボの投与を受けたのは1,011例で、患者背景は男性622例(61.5%)、女性389例(38.5%)、年齢50~64歳が386例(38.2%)、50歳未満が377例(37.3%)、65歳以上が248例(24.5%)であった。・既報のintent-to-treat集団を対象とした主解析と同様、治療を開始した患者集団においても、RFSはプラセボ群に比べペムブロリズマブ群で延長した(ハザード比[HR]:0.56、98.4%信頼区間[CI]:0.43~0.74)。・irAEの発現率は、ペムブロリズマブ群37.4%(190/509例)、プラセボ群9.0%(45/502例)であり、両群とも男性と女性のirAE発現率は類似していた。・ペムブロリズマブ群では、男女ともにirAEの発現がRFS延長と関連していた(HR:0.61、95%CI:0.39~0.95、p=0.03)。同様の関連は、プラセボ群では認められなかった。・プラセボ群と比較しペムブロリズマブ群のirAE発症後のほうが、ペムブロリズマブ群のirAE発症なしまたは発症前よりも、再発または死亡のリスク減少が大きかった(HR:0.37[95%CI:0.24~0.57]vs.0.61[0.49~0.77]、p=0.03)。

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COVID-19、各国腫瘍関連学会ががん治療のガイドラインを発表

 新型コロナウイルスの感染流行を受け、がん患者を感染から守り、治療をどう継続していくかについて、世界各国の腫瘍関連学会が提言やガイドラインを発表している。4月22日時点で発表されたもののなかから、主だったものをまとめた。国内でも、がん診療全般におけるガイドライン制定が見込まれている。米国臨床腫瘍学会(ASCO) がんとCOVID-19に関連する基本情報・これまでに発表された論文へのリンクのほか、専門家によるPPEやマスク装着をテーマとした動画セミナーを無料で公開している。https://www.asco.org/asco-coronavirus-information欧州臨床腫瘍学会(ESMO)  サイト上でがん種別、患者管理、緩和ケアなどの各種ガイドラインを発表するほか、がん種別に患者に対する治療の優先度分けを提示している。https://www.esmo.org/covid-19-and-cancer腫瘍外科学会(SSO) 乳がん、大腸がん、泌尿器がん、メラノーマなど、がん種ごとの患者の分類と治療の優先順位を提示。専門家によるポッドキャストを使ったヘルプガイドも公開している。https://www.surgonc.org/resources/covid-19-resources/欧州腫瘍外科学会(ESSO)  緊急の場合以外のクリニック受診を避けること、オンライン診療を取り入れること、など5つの項目の提言を行っている。https://www.essoweb.org/news/esso-statement-covid-19/米国外科学会(ACS) がんを中心に各領域別に手術の優先順位についての考え方をまとめたトリアージガイドラインを公開している。https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case米国腫瘍放射線学会(ASTRO)  COVID-19推奨事項をはじめ、臨床的意思決定に直接関連する20項目のQ&A、有用な医学論文やウエブサイトへのリンクを掲載する。https://www.astro.org/Daily-Practice/COVID-19-Recommendations-and-Information欧州腫瘍放射線学会(ESTRO) 会長による声明のほか、関連する論文、資料などがまとめられている。https://www.estro.org/About/Newsroom/COVID-19-and-Radiotherapy

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COVID-19の救世主現る?(解説:岡慎一氏)-1221

オリジナルのニュース重症COVID-19へのremdesivir、68%で臨床的改善か/NEJM(2020/04/16掲載) たった53例のCOVID-19患者の、しかもCompassionate useのremdesivirの結果が、NEJM誌のOriginal Articleに掲載された。やや驚きである。いかに世界中がCOVID-19の治療薬を欲しているかがよくわかる。もともとは、エボラ出血熱の治療薬として開発されたものである。 急にこの世に現れ、致死率が高いにもかかわらず感染力が強く、あっという間にPandemicになってしまったCOVID-19である。当然、COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2に対する特異的な治療薬などまだないため、抗HIV薬のロピナビルや抗マラリア薬のクロロキンなど、いろいろな薬剤が治療薬の候補として浮かび上がっていた。しかし、これらの薬剤は、臨床試験(randomized controlled trial)によりその有効性は、ほぼ否定されてきた。残る有望株が、このremdesivirである。Compassionate useであるので、重症者に対して投与された。北米、欧州、日本など先進国で行われた。53例中34例は挿管されていた最重症患者であるが、それでも82%が回復した(死亡率:18%)。全体で治療前の状態より改善したのは36例68%、悪化(死亡7例を含む)したのは8例15%であった。 微妙な結果である。COVID-19全体での死亡率は、地域や検査件数にもよるが2%以下と推定されている。いずれもLancet誌に掲載された3つの中国からの報告では、ARDSやICU管理を必要とする最重症例の死亡率は、38%、45%、65%と報告により異なるが、今回の結果(18%)よりはるかに高い。繰り返すが、微妙な結果である。重症の定義や医療レベルなどそれぞれであるため、単純な比較はできない。まもなく米国NIHが中心となったrandomized placebo-controlled trialの結果が出てくる。remdesivirの有効性に関する最終評価は、その結果を待ちたい。

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第4回 楽天は新型コロナ最前線のデストロイヤーか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの勃発以来、国内で常に議論となっているのが、PCR検査の対象範囲を巡る是非である。当初は中国ローカルな感染症と考えられていたため、PCR検査の基準には中国の渡航歴あるいは渡航者との接触が必須だったが、現在では緩和されている。とはいえ以前ほどではないにせよ、この議論は今も炭火のようにくすぶり続けている。背景には臨床医が検査の必要性を感じる患者に遭遇しても、地域によって検査にたどり着ける難易度の違いがあるとみられる。しかし、ここにきてこの議論に大砲がぶち込まれた。あの楽天が突如、法人向けと称した「新型コロナウイルスPCR検査キット(定価:1万4,900円/キット[税込])」を発売したからだ(現時点では東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県のみ)。楽天が発表したニュースリリースによると、同検査キットは個人向け遺伝子検査キットなどを発売しているジェネシスヘルスケア株式会社と連携し、医療法人社団 創世会の協力のもと開発したもので、国立感染症研究所のPCR検査法を厳守しているという。導入法人は、同キットを従業員などに配布し、各人が検査試料を自己採取後、防漏性容器に収め、これをジェネシスヘルスケアが回収し、最短即日から土日祝を除く約3日以内に結果が通知されるとうたっている。ちなみに、ニュースリリースには注意事項として「本検査キットを用いたリスク判定は、いかなる意味でも診断や医行為を行うものではありません」と付記され、「厚生労働省が新型コロナウイルス感染症に関する相談・受診の目安として挙げている症状の出ている方は本検査キットを使用いただけません」とも記述している。診断目的ではないとしているのは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)への抵触を避ける(すり抜ける?)ためだろう。早速、楽天に問い合わせてみた。ちなみに私たち報道関係者は企業への問い合わせ時は、おおむね各社広報担当部門(最近ではコーポレート・コミュニケーション部門ともいう)の直通電話に連絡するか、会社の代表番号に電話し、そこから広報部門に取り次いでもらうことが一般的。また、こうした問い合わせ連絡先はニュースリリースに記載されていることも多い。ところが楽天は企業HP・ニュースリリースともに問い合わせ連絡先の記載はなく、ニュースリリースのページに報道の問い合わせ先としてメールアドレスが記載してあるのみ。いわゆるネット時代を象徴する企業らしい対応とも言えるのだが、一方でネット時代に象徴されるスピード感には欠けると言わざるを得ない。とりあえずメールで問い合わせをしたところ、問い合わせて7時間後に広報担当者から電話がかかってきた。―今回発売した検査キットですが、そもそも検査の感度、特異度はどの程度なのでしょうか?【楽天・広報】検査キットの感度、特異度に関して「〇%です」という表現はできないのですが、提携先のジェネシスヘルスケアが医療機関向けに同種のサービスを提供しており、その検査手法とまったく同じです。医療機関で行っているPCR検査と今回の検査キットの違いは、お客様自身で(検体を)採っていただく点だけです。―ということは、医療機関あるいは保健所を経由する新型コロナウイルスのPCR検査と質は同等のものと捉えてよろしいのですね? ですが、一般の方が鼻の奥から正確に検体を採取できない可能性は?【楽天・広報】同等かはその通りです。慣れない個人が採取棒を鼻の奥に入れて検体採取が可能かどうかについてですが、そもそも医療機関での検体採取ですら100%の精度とは言えません。ではなぜ検査を提供するのかですが、在宅勤務ができない人の中で、無症状だが感染の不安を抱えている人、実は感染しながら無症状のため感染していないと信じて勤務し、周囲にも感染させている可能性がある人の判断にお役立ていただきたいということです。―現在、診断目的で行われている新型コロナウイルスに対するPCR検査は感度が7割程度と言われています。つまり約3割の陽性者は陰性と判断されてしまいます。この検査キットを使った対象法人がこの不確実性を認識せず、検査キットで陰性ながら実は陽性の従業員に「安全宣言」をしてしまう危険性があります。【楽天・広報】まず、この検査キットは診断目的ではないので、私たちは陽性、陰性と申し上げず、「新型コロナウイルスに特徴的なRNA配列が含まれているかどうかの判定」と表現しています。また、在宅勤務が可能な企業にではなく、在宅勤務が不可能でかつ無症候感染の可能性を持つ従業員を抱える企業のみへの販売を原則しています。そのうえで言えば、一般的にPCR検査の感度は100%ではないので、実際には感染しながら陰性と判定されてしまう人がいること、そしてその方が陰性の判定で安心して出歩くリスクは承知しています。ただ、現下の情勢を考えれば、導入した法人では「新型コロナウイルスに特徴的なRNA配列が含まれていなかった」と判定された従業員にも、感染予防・感染拡大防止のために「不要不急の外出は控えましょう」「万全の注意を払いましょう」となるはずで、当社もそこを大前提としています。―御社としては問い合わせのあった法人に対しては、この検査キットの結果が万全ではないと説明しているのですか?【楽天・広報】もちろんです。そもそもこの検査キットは医療行為ではないので、陽性・陰性を判断できるものではないとご説明しています。―では、もしこの検査で御社が言うところの「新型コロナウイルスに特徴的なRNA配列が含まれていた」という結果が出たらどうなりますか?【楽天・広報】それは新型コロナウイルスに感染している可能性が高いという一つのデータとして使っていただいて、たとえば現場で働いていた人に自宅待機をしてもらう判断が法人としてはできます。―しかし、検査で「新型コロナウイルスに特徴的なRNA配列が含まれていた」と判定が出た人は医療機関に向かう可能性が高く、結果として医療機関の負荷を高めてしまう可能性が高いと思われます。【楽天・広報】検査キットで感染の可能性が高いとなれば、自宅待機になるか、あるいは保健所に連絡を取るかということになるのかもしれませんが、当社が指示・強制するものではなく、利用する法人の判断になります。以上がやり取りの概略だが何とも隔靴掻痒感は否めない。確かに在宅勤務ができない人向けという点では、一見すると「大義」がありそうだが、結局のところ現時点はPCR検査で陽性と判定された人は、実際の感染確定にかかわらず医療機関受診か自宅待機、陰性と判定された人も実際の感染確定にかかわらず蔓延を防ぐためなるべく自宅待機、結果としてすべての人が「stay at home」で対応すべき情勢。だからこそ無症候の人への検査はリソースの無駄使いと思わざるを得ないのだが。既に日本医師会は常任理事の釜萢 敏氏が記者会見で、検査を受ける本人が検体採取を行う時の正確性への疑問、採取時に周囲へ感染がおよぶ危険性、偽陰性の可能性などに言及して、「この検査を普及させ、ご自身でやってみることについては、非常にリスクが高いと今考えざるを得ません」との認識を示している。ベンチャー出身の楽天らしい発想とも言える検査キット発売だが、やや使用する側のモラルに丸投げしすぎではないか? 今回はベンチャー得意のイノベーションと言うよりは、単なるカオスを生み出すデストロイヤー、漫画「ドラえもん」の登場人物でいうところのガキ大将・ジャイアンの暴走となってしまうと思うのは私だけだろうか?

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新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今【臨床留学通信 from NY】番外編3

番外編:新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今(3)コロナの激震地となったニューヨークの患者総数は、4月22日現在で25万人を超えています1)。しかしながらクオモ知事の声明によりますと、総入院患者がマイナス傾向になったということで、ようやくピークを超えつつあるようです2)。また、ようやく(?)ニューヨークにおいてもマスクが義務付けられました。通常のマスクは、防御機構に関しては不明ですが、ウイルスを拡散しないという効果はあると私は思います。もちろん市民に対し早めに声明を出したかったのだとは思いますが、医療従事者への確保が先決であり、それがようやく担保されたためとも考えられます。当院(Mount Sinai Beth Israel)の現状は、相変わらずの病床拡大傾向ですが、それがそのままレジデントの労働時間の負担になっている訳ではなく、外部から委託することで人員を確保しているという状況です。実際に、待機的な一般病院や開業医の不要不急の外来はすべて閉鎖されており、そこから人的資源を確保していると考えられます。現在、市内中心部のマンハッタンよりも郊外に位置するクイーンズ地区などで医療崩壊が起きており、ピークを超えていても当院がいまなお病床拡大傾向にあるのは、そこの負担を軽減するための措置であります。確かに、マンハッタンには多くの病院がありますが、実際に住んでいるのは郊外のほうが多く、患者さんの数も同様に多いため、医療の需要と供給のアンバランスが起きやすいのです。それは東京都23区とそれ以外の関係にも似ているように思えますし、関東でパンデミックが起きると、人口が多く医者の数が少ない郊外エリアで医療崩壊が起きる懸念があります。私の病院はMount Sinai医科大学系列なので、経営母体が同じグループ内で疲弊している病院があれば、それらの患者を受け入れるたり人的資源を派遣することは合理的であり、経営的にも好ましいとも言えます。そのような協力は日本においてはなかなか難しく、パンデミックではない地区からのボランティアでしか成り立たないのかもしれませんが、一般病院だけでなく開業医の先生方の協力もニューヨークのように必要なのかもしれません。肝心の治療方法については、依然として模索状態が続いています。前稿で紹介したヒドロキシクロロキンおよびアジスロマイシンについては、ウイルス量を減らすかもしれないと言われていますが3)、あまり効果がないように思いつつ使い続けているというのが正直なところです。QT延長が双方に副作用があり、心電図を何度も取ることで医療従事者への曝露を助長しているようにも思われ、大規模な研究が待たれます。アクテムラ(トシリズマブ)は重症例に使用しておりますが、当院でRCTが始まったのは、同じIL-6 inhibitorのサリルマブでした。抗ウイルス薬のremdesivirについてもRCTも始まりましたが、観察研究の結果を見る限り、ある程度の期待は持てるのかなと思います4)。しかし、これらの治療法が正しいのかどうかも、やはり大規模な研究を待たなければわからない部分も多いです。また、D-Dimerが高値ならば、死亡率が上昇するというデータが出ており5)、D-Dimer高値の重症例については、当院では抗凝固療法を開始しておりますが6)、ほかの施設では推奨していないなど、まったくのエビデンス不足であり、欧米人より出血が多いと言われる日本人に当てはまるかどうかも不明です。ただ、治療に当たった実感としては、COVID-19の重症患者では凝固系が更新しているのだとは思います。ステロイドも予後を改善するというデータが出たため7)使い始めたところ、その後、真菌感染が発症したため、現時点では使用を控えております。ECMOについては、パンデミックになってしまうと医療資源の兼ね合いで推奨されるものではないように思えます8)。また、一度挿管すると抜管は非常に厳しく、低めの酸素飽和度であったとしても、なるべく避けたほうがいいのではないかという印象があります。いざ挿管が必要となった場合、管理は通常のARDSと異なるのかもしれません9)。以上は個人的見解が含まれており、治療法は刻一刻と変化すること、また当院の意見を代表するものではありませんので、その点をご了承ください。1)https://en.wikipedia.org/wiki/2020_coronavirus_pandemic_in_New_York_(state)2)https://twitter.com/NYGovCuomo3)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322052044)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322758125)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Lancet+2020%3B+395%3A+10546)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=322201127)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/321675248)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322790189)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32228035

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急性期統合失調症に対する認知リハビリテーションの可能性

 多くの研究において、統合失調症患者に対する認知リハビリテーションが有用なアウトカムを示しているが、日常的および社会的機能に対する認知リハビリテーションの有効性は、よくわかっていない。また、認知リハビリテーションの内容や方法に関する検討は不可欠ではあるが、実施するタイミングも重要であると考えられる。東邦大学の根本 隆洋氏らは、急性期統合失調症患者に対する認知リハビリテーションの実現可能性および受容性について調査を行った。Early Intervention in Psychiatry誌オンライン版2020年3月26日号の報告。 入院病棟へ急性期入院した患者を15ヵ月間連続でエントリーし、入院後14日以内に8週間の認知リハビリテーションプログラムに参加できるかどうかを評価した。患者の状態や負担を考慮し、ワークブック形式の認知リハビリテーションプログラムを行った。 主な結果は以下のとおり。・エントリー期間中に新規入院した83例のうち、49例(59.0%)の患者が対象となった。・そのうち、22例(44.9%)が認知リハビリテーションプログラムへの参加に同意し、プログラムを開始した。・プログラムを完了した16例に対し、2回目の評価を行った。・実際に研究プログラムを完了した患者の割合は、適格患者の32.7%(49例中16例)であった。・参加者は、プログラムに対し、非常に満足していた。 著者らは「急性期統合失調症患者に対する認知機能改善の実現可能性および受容性を示す有望な結果が得られた。初回エピソード統合失調症患者に対する認知リハビリテーションの提供は、より良い機能アウトカムにつながることが期待できる」としている。

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