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コロナによる医療中断で回避可能な入院リスク増/BMJ

  英国・リバプール大学のMark A. Green氏らは、同国7つの住民ベース縦断研究のコホートデータを解析し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行中に医療へのアクセスが中断された人は、回避可能な入院をより多く経験していたとみられることを報告した。COVID-19流行中に医療サービスや治療へのアクセスがどの程度中断したかは、幅広い研究によって明らかとなっているが、この中断と健康への悪影響との関連を評価する研究が求められていた。著者は、「今回の調査結果は、パンデミックの短期的・長期的影響への対応や、将来のパンデミック時の治療・処置体制確保のために、医療投資を増やす必要性を浮き彫りにしている」と述べている。BMJ誌2023年7月19日号掲載の報告。英国の7つの縦断研究からコホートデータを解析 研究グループは、UK Longitudinal Linkage Collaborationを利用して、イングランドのNHS Digitalの電子健康記録とリンクした住民ベースの縦断研究コホートデータを、2020年3月1日~2022年8月25日の期間について入手した。 主要アウトカムは回避可能な入院で、適切なプライマリケア診療で入院を防ぐことができる状態(ambulatory care sensitive condition:ACSC)や急性増悪で入院の可能性はあるが入院を最小限にするためにプライマリケアで治療を試みるべき状態(emergency urgent care sensitive condition)での緊急入院と定義し、医療へのアクセスとの関連を解析した。新型コロナ流行で医療中断を経験した人は、回避可能な入院のリスクが高い 計9,742例(縦断コホートのサンプル構造で調整した加重割合35%)が、COVID-19流行中に何らかの形で医療へのアクセスが中断されたと自己報告した。 アクセスが中断された人は、あらゆるACSC(オッズ比[OR]:1.80、95%CI:1.39~2.34)、急性のACSC(2.01、1.39~2.92)、慢性のACSC(1.80、1.31~2.48)による入院のリスクが高かった。プライマリケア医または外来受診(予約済み)および手術、がん治療などの処置へのアクセスが中断された経験のある人は、回避可能な入院の指標と正の関連が認められた。 なお、著者は、観察研究であり因果関係は説明できないこと、COVID-19流行前の医療へのアクセスの困難さに関するデータがないことなどを研究の限界として挙げている。

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研修医、学んだことは少なくて【Dr. 中島の 新・徒然草】(487)

四百八十七の段 研修医、学んだことは少なくて梅雨が明けました。近畿地方の梅雨明けは7月20日で平年より1日遅いそうです。また、梅雨期間の降雨量は平年の122%と、多めの雨が降りました。で、毎日が猛暑。今日の午後に車に乗ろうとしたら温度が37度を表示しており、車内はサウナ風呂状態でした。外来通院の患者さんたちも「暑い、暑い」と、そればかりです。いよいよ熱中症の季節ですね。さて、先日は医師会の集まりがあり、昭和の思い出話に花が咲きました。とくに研修医時代のこと。ずっと病院に泊まっていたとか、医局に積み上げられていた弁当を勝手に食べていたとか。当時は昼夜問わず働いていましたが、不思議に楽しかったような気がします。研修医の裁量が大きかったのと、勤務時間やアルバイトのことをうるさく言われなかったからでしょう。3食とも病院で食べていると、必然的に排泄のほうも病院ですることになります。今でも覚えているのは男子トイレの個室。当時の若者のエネルギーを反映してか、大量の落書きがされていました。とくに記憶に刻み込まれているのが、壁に書いてあった短歌です。研修医 学んだことは少なくて 流したクソのみ 多かりき誰がひねったかわかりませんが、上手い!程よい下品さがいいですね。もし「あれはオレが作ったんだ」という人がいたら、ぜひ名乗り出てください。でも、この短歌。よく見ると文字数がちょっとおかしいですね。本当は「五七五七七」になるべきところ、「五七五七五」となっています。後者でもリズムはいいので、つい騙されてしまいました。「ただの字足らずだ」とも言えますが、2文字も足りないので説得力がありません。そこで生成AIのChatGPTに、この句を「五七五七七」に変えさせてみました。すると、出てきたのは期待外れのもの。研修医と 学び少なくても 流したクソ 多かりき身にし 成長の道歩む何を言ってるんですかね、こいつは。外し方が意味不明。これだと文字数は「六九六八十」になってしまいます。リズムが悪過ぎて、読み上げることすらできません。いつもながら使えん奴でした。今度は別の生成AIであるBingにやらせてみます。研修医 学ぶこと少なく 流したクソ 多かりきこっちも呆れるほど駄目ですね。文字数が「五九六五」で、もう無茶苦茶です。結局、最後は自分でやることになりました。研修医 学んだことは少ないが流したクソの 多さは負けぬ研修医 学んだことは少ないが流したクソの多さは負けぬもう1丁!研修医 流したものは 冷や汗と悔し涙と 大量の便研修医 流したものは 冷や汗と悔し涙と 大量の便私も大したことありませんでした、すみません。

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抗精神病薬誘発性メタボリックシンドローム~ナラティブレビュー

 重篤な精神疾患である統合失調症は、世界の障害の主な原因トップ10の1つであり、人口の約1%に影響を及ぼす。統合失調症に対する最良の治療選択肢として、抗精神病薬治療が挙げられるが、抗精神病薬治療では脂質異常症を含むメタボリックシンドロームリスクが増加する。実際に、統合失調症患者は、一般集団と比較し、メタボリックシンドロームリスクが高いといわれている。カナダ・マニトバ大学のPelumi Samuel Akinola氏らは、抗精神病薬誘発性メタボリックシンドロームの有病率、メカニズムおよび対処法について、まとめて報告した。Metabolic Syndrome and Related Disorders誌オンライン版2023年6月22日号の報告。 本研究は、ナラティブレビューとして実施した。PubMedを用いて電子データベースMedlineを検索し、抗精神病薬を使用した成人集団におけるメタボリックシンドロームの有病率および対処法を調査した研究を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬で治療されている患者におけるメタボリックシンドロームの有病率は、37~63%の範囲であった。・抗精神病薬の影響には、体重増加、腹囲の増加、脂質異常症、インスリン抵抗性2型糖尿病、高血圧などが含まれた。・メタボリックシンドローム発症を促進する薬剤として、クロザピン、オランザピンが報告されている。・メタボリックシンドローム患者では、代謝系副作用リスクの低い抗精神病薬(ルラシドン、lumateperone、ziprasidone、アリピプラゾールなど)を優先して用いる必要がある。・抗精神病薬誘発性メタボリックシンドロームに対する非薬物療法として、有酸素運動、食事カウンセリングが有効であることが確認されている。・このような患者の体重増加に対して有効性が確認された薬物療法は、ほとんどなかった。・抗精神病薬誘発性メタボリックシンドロームは、リスクを早期に認識し、注意深くモニタリングすることが求められる。・メタボリックシンドロームまたは関連症状に対する1次および2次予防は、抗精神病薬使用患者の死亡リスクの減少に役立つ可能性がある。

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donanemab、早期アルツハイマー病の進行を抑制/JAMA

 早期症候性アルツハイマー病でアミロイドおよびタウ沈着の病理学的所見が認められる患者に対し、donanemabはプラセボと比較して、76週時点で評価した臨床的進行を有意に遅延させたことが示された。所見は、低・中タウ病理集団と低・中+高タウ病理集団で認められたという。米国・Eli Lilly and CompanyのJohn R. Sims氏らが、1,736例を対象に行われた国際多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III試験「TRAILBLAZER-ALZ 2試験」の結果を報告した。donanemabは、脳アミロイド斑を除去するよう設計された抗体医薬。JAMA誌オンライン版2023年7月17日号掲載の報告。4週ごとにdonanemabを72週間投与 TRAILBLAZER-ALZ 2試験は、8ヵ国277ヵ所の医療研究センター/病院で18ヵ月間にわたって行われた。早期症候性アルツハイマー病(軽度認知障害/軽度認知症)で、PET画像診断でアミロイドおよび低/中程度~高度のタウ病理学的所見が認められる1,736例を対象に、donanemabの有効性と有害事象を評価した。被験者は、2020年6月~2021年11月に登録された(最後の被験者がプライマリケアを受診したのは2023年4月)。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方にはdonanemabを(860例)、もう一方にはプラセボを(876例)、4週ごとに72週間静脈内投与した。donanemab群に割り付けられた患者は、推奨用量の基準を満たした場合は、盲検下のままプラセボ投与に切り替えられた。 主要アウトカムは、ベースラインから76週までの統合アルツハイマー病評価尺度(iADRS)スコア(範囲:0~144、スコアが低いほど認知障害が大きいことを示す)の変化。アウトカム(主要・副次・探索的)は、ゲート付き24項目で、副次アウトカムには、臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB)スコア(範囲:0~18、高スコアほど認知障害が大きいことを示す)の各項目スコアの合計の変化も含まれた。統計学的検定は、多重比較のためのstudy-wise type I error rateを用い、有意水準α=0.05とし、低/中タウ病理集団のアウトカムについてはα=0.04を、高タウ病理集団を含めた統合集団については、α=0.01を割り当てた。iADRSスコア、CDR-SBスコアで進行遅延を確認 被験者1,736例(平均年齢73.0歳、女性996例[57.4%]、低/中タウ病理集団1,182例[68.1%]、高タウ病理集団552例[31.8%])が無作為化され、このうち1,320例(76%)が試験を完了した。 ゲート付き24項目アウトカムのうち、23項目でdonanemab群とプラセボ群に統計的有意差があった。76週時点のiADRSスコアの最小二乗平均(LSM)変化は、低/中タウ集団では、donanemab群-6.02(95%信頼区間[CI]:-7.01~-5.03)、プラセボ群-9.27(-10.23~-8.31)だった(群間差:3.25、95%CI:1.88~4.62、p<0.001)。低/中+高タウ集団(全体)では、donanemab群-10.2(95%CI:-11.22~-9.16)、プラセボ群-13.1(-14.10~-12.13)だった(群間差:2.92、95%CI:1.51~4.33、p<0.001)。 76週時点のCDR-SBスコアのLSM変化は、低/中タウ集団ではdonanemab群1.20(95%CI:1.00~1.41)、プラセボ群1.88(1.68~2.08)だった(群間差:-0.67、95%CI:-0.95~-0.40、p<0.001)。全体では、donanemab群1.72(95%CI:1.53~1.91)、プラセボ群2.42(95%CI:2.24~2.60)だった(群間差:-0.7、95%CI:-0.95~-0.45、p<0.001)。 画像所見で確認されたアミロイド関連の脳浮腫・滲出液の異常はdonanemab群205例(24.0%、症候性52例)、プラセボ群18例(2.1%、症候性0例)だった。注入関連反応は、donanemab群74例(8.7%)、プラセボ群4例(0.5%)で認められた。治療関連と考えられる死亡は、donanemab群の3例とプラセボ群の1例だった。

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ポジティブ思考トレーニングでうつ病リスクは軽減するか

 過去の記憶、未来の想像、今の状態と違う状態を考えるマインドワンダリング。とくにその頻度は、心理的ウェルビーイングに重要な役割を果たすといわれている。また、反復的なネガティブ思考は、うつ病の発症や持続のリスクと関連している。オランダ・フローニンゲン大学のMarlijn E. Besten氏らは、認知科学および実験臨床心理学の手法を組み合わせたマインドワンダリングによる反復的なネガティブ思考に対する影響を調査した。その結果、うつ病に対する脆弱性の根底にあるストレス誘発性のネガティブ思考は、ポジティブ空想により部分的に改善できる可能性があり、うつ病だけでなく不適応思考の特徴を有する疾患の治療に役立つ可能性があることを報告した。Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry誌オンライン版2023年6月16日号の報告。 対象は、ネガティブ思考およびうつ病に対する脆弱性が高い群42例、低い群40例。クロスオーバーデザインにて、ポジティブ空想1セッション、ストレス誘発1セッションの後、持続的注意課題(SART)を行った。介入前後の感情状態を測定した。 主な結果は以下のとおり。・ストレス誘発セッション後は、ネガティブ思考が増加したが、ポジティブ空想セッション後は、ポジティブ思考が増加し、ネガティブ思考が減少した。・ポジティブ空想セッション後は、ストレス誘発セッション後と比較し、仕事以外の思考、過去に関連した思考、ネガティブ思考が減少した。・ネガティブ思考を受け入れやすい人は、ストレスが少ない人と比較し、ポジティブ空想セッション後よりもストレス誘発セッション後に、タスク外の思考をより多く示した。・本研究の限界として、ベースライン測定が含まれていない点、SARTに自身の懸念事項を含めるとネガティブ要素につながる可能性がある点が挙げられる。

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XBB/XBB.1.5、ほかの変異株より再感染リスク高い

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の多様な変異の出現は、ワクチンと感染の両方による集団免疫を回避する能力の向上と関連している。米国・カリフォルニア大学バークレー校のJoseph A. Lewnard氏らの研究によると、現在主流となっているオミクロン株XBB/XBB.1.5系統は、ワクチン由来の免疫と感染由来の免疫とで回避傾向が異なり、同時期に流行しているほかの変異体と比較して、ワクチン接種回数が多い人ほど感染リスクや感染時の入院リスクが低減する一方で、過去に感染既往がある人はXBB/XBB.1.5への感染リスクが高いことが示された。Nature Communications誌2023年6月29日号に掲載の報告。 XBB/XBB.1.5系統は2023年1月下旬までに、ほかの変異体を追い抜き米国内で主流となった。本研究では、南カリフォルニアにおいて2022年12月1日~2023年2月23日の期間に、外来でSARS-CoV-2陽性と判定された3万1,739例のデータを解析した。これらの被験者において、XBB/XBB.1.5に感染した人と、ほかのBA.4/BA.5などに感染した人について、ワクチン接種歴と過去のSARS-CoV-2感染既往、および臨床転帰を比較した。 主な結果は以下のとおり。・XBB/XBB.1.5系統に感染していると推定された外来患者の割合は、2022年12月1日の時点で21.1%(45/213例)であったのが、2023年2月23日の時点で77.8%(49/63例)に増加した。全被験者3万1,739例のうち、XBB/XBB.1.5症例は9,869例、それ以外のBA.4/BA.5などの非XBB/XBB.1.5症例は2万1,870例だった。・COVID-19ワクチン接種回数と感染リスクの関連は、XBB/XBB.1.5症例は、非XBB/XBB.1.5症例と比較した調整オッズ比(OR)が、接種2回で10%(95%信頼区間[CI]:1~18)、3回で11%(3~19)、4回で13%(3~21)、5回以上で25%(15~34)低かった。・過去のSARS-CoV-2感染既往と感染リスクの関連は、XBB/XBB.1.5症例は、非XBB/XBB.1.5症例と比較した調整ORが、過去1回の感染既往で17%(95%CI:11~24)、過去2回以上の感染既往で40%(19~65)高かった。・COVID-19ワクチン接種回数と感染時の入院リスクとの関連は、XBB/XBB.1.5症例における検査陽性後30日間の入院予防効果の推定値が、接種2回で41%(95%CI:-44~76)、3回で54%(0~79)、4回で70%(30~87)であった。一方、非XBB/XBB.1.5症例では、接種2回で6%(-65~46)、3回で46%(7~69)、4回で48%(7~71)であり、XBB/XBB.1.5症例のほうが有意に予防効果が高かった。・過去のSARS-CoV-2感染既往と入院リスクの関連は、XBB/XBB.1.5症例および非XBB/XBB.1.5症例において同等であった。2回以上の感染既往の入院の調整ハザード比は、XBB/XBB.1.5症例で0.73(95%CI:0.17~3.15)、非XBB/XBB.1.5症例で0.72(0.26~2.01)。 著者らは本結果について、XBB/XBB.1.5系統は、オミクロン株以前の変異株を含む過去の感染によって引き起こされた免疫応答に対する回避能が、同時期に流行しているBA.5系統より優れているものの、ワクチン接種によって引き起こされる免疫応答に対してはより感受性が高く、過去の変異株とは異なる特徴を持っていると述べている。

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遠隔血行動態モニタリングシステムは心不全患者のEFに関係なく入院を減少させ、QOLを改善する(解説:原田和昌氏)

 心不全患者のセルフケアは大きな問題である。心不全は高齢化の進行により増加し、多くの医療資源を必要とする。そのため、専門看護師が頻回に患者に電話連絡したり、心不全患者の各種パラメータを遠隔モニタリングしたりすることで、心不全の入院を防止したり、QOLを改善したり、死亡率を低下させたりすることが可能であるかという検討が以前より行われてきた。 遠隔モニタリングは何をモニタリングするか、侵襲的か非侵襲的か、どういったシステム構築でだれがモニタリングするか、警告値が出たときのアルゴリズムはどうするか、さらには警告値を見逃したり、発見が遅れたときの免責などが問題になる。したがって、遠隔モニタリング群がシステムとして、対照群よりも優れていることが臨床試験で証明されてガイドラインにて推奨され、各国の医療システムの償還の枠組みに載る、という手順を踏むことが必要となる。 肺動脈圧を持続的にモニタリングする遠隔血行動態モニタリングを用いたランダム化試験は、これまでにCHAMPION試験とGUIDE-HF試験の2つがある。前者は心不全入院歴のあるNYHAIII度の550例(EFは問わない)をランダム化し、6ヵ月で28%の入院の減少を得た。一方、後者は心不全入院歴のあるNT-proBNPが上昇したNYHAII~IV度の1,000例をランダム化したものであるが、HFrEF患者が中心であったとかCOVID-19などの関係もあり、はっきりした有効性を示すことができなかった。 MONITOR-HF試験は、オランダの25の施設が参加した非盲検無作為化試験であり、心不全入院歴のあるNYHAIII度の慢性心不全患者(EFは問わない)が、ARNIやSGLT2阻害薬を含む標準治療に加えて血行動態モニタリング(CardioMEMS-HFシステム、Abbott Laboratories)を行う群、または標準治療のみを受ける群(対照群)に無作為に割り付けられた。遠隔血行動態モニタリングは、QOLの実質的な改善をもたらし、心不全による入院を減少させた。 心不全の急性増悪は、臨床的うっ血すなわち徴候と症状の悪化の結果起こるが、徴候と症状が出現する前に血行動態的うっ血が出現すると考えられる。CardioMEMS-HFシステムはセンサーを肺動脈内に侵襲的に留置するシステムで、肺動脈圧を持続的にモニタリングすることで血行動態的うっ血を検出し、投薬量(主に利尿薬)の微調整によって心不全患者のうっ血状態の調整を行う。大事なのは、容量過多のときは利尿薬を増量するが、容量減少のときは利尿薬を減量する指示を適切に出すことである。さまざまな侵襲的、非侵襲的モニタリングシステムが開発されているが、最低でも利尿薬の微調整(増減)が可能な程度のクォリティが必要となる。 患者が間欠的にクイーンサイズ枕大の測定機器に寝転ぶと、測定された肺動脈圧が医療者のWEB画面に送信される。このデータを見て、投薬量の調整を患者に電話で指示するという仕組みである。論文には、「Clelandらによると、心不全を極めるにはうっ血を極めることである」とあるが、数多くの患者のWEB画面に対応する必要のある医療者の対応は、おそらくある程度決まったアルゴリズムに従うことになるであろう。 この研究は、今の時代において心不全診療における病院システムの負担を減らすためにもっと積極的にe-health、デジタル技術、遠隔モニタリングを活用することが必要であることを示すものである。しかし、どういったシステム構築でだれがモニタリングするか、異常値が出たときの指示のアルゴリズム、異常値を見逃したり、発見が遅れたときの法的問題などが、各国の医療システムに適応する際の共通の課題であると考えられる。

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英語で「中止する」は?【1分★医療英語】第90回

第90回 英語で「中止する」は?Let’s dc diuretics.(利尿薬を中止しましょう)Got it.(了解です)《例文1》看護師Can we dc the urinary catheter?(尿カテーテルを中止してもよいですか?)医師Yes, you may.(いいですよ)《例文2》医師Let me dc this order.(この指示は中止します)看護師Sounds good.(わかりました)《解説》医療現場でよく使われる「~を中止する」という表現は、“DisContinue”の単語の頭文字をとって“DC(dc)”という言い方をします。もちろん“discontinue”とフルで言ってもいいのですが、忙しい現場における便利な省略形として「ディーシー」が好まれています。「何かを中止するとき」であればいつでも使えるので、知っておくと非常に便利な表現です。フォーマルな学会などでは使いませんが、日常臨床の中ではバンバン使って大丈夫です。ただし、医療現場独特の表現なので、医療従事者間だけで使ったほうがいいでしょう。講師紹介

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ChatGPT活用術総論【医療者のためのAI活用術】第1回

(1)はじめに大量の言語データを学習し、自然な形式でユーザーの問い合わせや相談に応じる対話型AI「ChatGPT」が今年、大ブレイクしています。その高機能性と誰でも無料で使える利便性から、多くのユーザーに支持され、2022年11月の公開からわずか2ヵ月で、全世界の月間アクティブユーザーが1億人を超えました。さまざまなメディアで頻繁に取り上げられ、仕事での活用術も特集されています。ChatGPTはOpenAIによって開発されましたが、他にもMicrosoftはAI搭載の「新しいBing」、Googleは「Bard」といったサービスを提供し始め、多くの大手IT企業が生成AIの開発に注力しています。医療業界でも、さまざまな試みがなされています。2023年2月に公表された論文では、ChatGPTが米国医師国家試験(USMLE)の合格基準値に近い結果を達成したと発表され、医療業界に衝撃を与えました1)。さらに、日本のAI研究の第一人者、東京大学の松尾 豊教授は「医療に特化した学習を行えば、医療専用のChatGPTを創り出すことが可能だ」「ほとんどすべてのホワイトカラー職に2~3年以内に何らかの影響が及ぶ」と述べており2)、医療者にとっても近い将来、大きな影響があることが予想されています。このような状況に対し、医療者はどのように対応すべきでしょうか。ChatGPTにまったく触れずに生活する、という選択も1つかもしれません。しかしながら、他の業界で既に日常業務に広く活用されている状況を鑑みると、医療分野においても、AIは電子カルテのように日常業務に不可欠なツールとなる可能性が十分にあります。今後の時代は、この技術を適切に活用し、変化に対応する能力が求められていると言えます。本連載では、医療者がChatGPTを始めとする生成AIを効果的に活用し、業務の効率化や学会発表、論文執筆などの学術活動をサポートする方法について提案していきます。(2)ChatGPTの仕組みChatGPTのGPTは「Generative Pre-trained Transformer」の略で、翻訳すると「生成可能な事前学習済み変換器」となります。入力された言葉に対して事前に学習した言葉をもとに「最も確率の高い言葉」を続ける、というのがChatGPTなどの基盤となる大規模言語モデルの基本的な仕組みです。たとえば、「むかしむかし」と言われたら「あるところに」という言葉が続くといったもので、これを繰り返すことにより長い文章を生成します。つまり、新しい文章を1から生み出しているというよりも、これまでに学習した内容から「もっともらしい文章を作成するのが得意」だということが言えます。(3)ChatGPTを使う時の注意点ChatGPTに関してネガティブなニュースも報道されていることから、ChatGPTの使用に抵抗感がある方もいらっしゃるかもしれません。まずは、使う時の注意点を熟知しておくことで、トラブルを避けることができます。1)ChatGPTの使用が禁止されている場合があるChatGPTをはじめとした生成AIに関して、使用を禁止している大学や企業、学会、学術誌があります。これは、入力したデータに含まれる個人情報や企業の機密情報が収集されている可能性や、作成した文章が盗用にあたる懸念があるためです。使用する際には、所属する大学や医療機関、学術誌の使用方針があるかどうかを確認しておきましょう。また、使用する際には患者さんの個人情報などを入力しないように注意が必要です。2)日本語より英語の方が高精度ChatGPTは多言語に対応しており、日本語で質問をすれば日本語で、英語で質問をすれば英語で回答が返ってきます。また、日本語で質問をした場合でも「英語で出力してください」と指示すれば英語で出力することもできます。ChatGPTで使用している大規模言語モデルの基となる学習データは、日本語よりも英語の方が圧倒的に多いため、英語で文章の生成を依頼し、英語で出力した結果を日本語に翻訳する方がより良い回答を得られるかもしれません。3)最新の情報を知らないChatGPTは2021年9月までのデータを学習し、それを元に回答しているため、2021年10月以降の情報は答えることができません。例えば、「現在の日本の総理大臣は誰ですか?」と質問をすると、「菅義偉です」と、2021年9月時点での回答が返ってきます(図1)※。(図1)ChatGPTは2021年9月までの情報で回答※有料版でβ版の機能としてBingによるブラウジング機能を使用することや、Chrome拡張機能「WebChatGPT」を使用することにより、Webの最新情報を収集して回答するようになります。(4)ChatGPTの向き・不向き上記のChatGPT使用の注意点を踏まえて、ChatGPTに向いている作業と向いていない作業を表1にまとめています。文脈や背景に応じて、文章を作成したり要約したりする作業は得意ですが、検索サイトのようにキーワード検索を行うことは苦手です。また、2021年10月以降の情報は学習しておらず、生成した文章には引用元の記載がなく事実確認が困難であることから、最新の情報検索や正しい知識の確認の目的での使用は向いていません。何か新しいアイデアを考えたり、キャッチコピーを考えたりするようなクリエイティブな作業には向いており、ChatGPTに上手く指示を送ることで有効活用できます。(表1)ChatGPTの向き・不向き1)Kung TH, et al. PLOS Digit Health. 2023;2:e000019.2)松尾研究. 「AIの進化と日本の戦略」.(2023年6月24日参照)

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第173回 コロナと戦えるT細胞が風邪のお陰で育まれうることの初の裏付け

ウイルスが体内の細胞の1つに感染すると病原体駆逐に携わるヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のタンパク質がその細胞表面にウイルスタンパク質の切れ端を提示して免疫系に通知します。その通知を受け、病原体を認識して記憶しうるT細胞が感染細胞を殺してウイルスが複製できないようにします。HLA遺伝子群の顔ぶれはすこぶる多彩で、その多くはどれかのウイルスへの免疫反応の強さの個人差に寄与しています。たとえばHLA-B遺伝子の1つは感染したヒト免疫不全ウイルス(HIV)が体内で極わずかなままで発症しない人にも認められ、かたや別の種類のHLA-B遺伝子を有する人では正反対にHIV感染後速やかにAIDSを発症します。HIV感染の経過との関連のように新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の経過と関連するHLA遺伝子があるかもしれません。そこで米国・カリフォルニア大学の免疫遺伝研究者Jill Hollenbach氏が率いるチームは骨髄ドナー登録のおかげでHLAの種類が検査ですでに判明している3万例弱に協力を仰ぎ、SARS-CoV-2感染の経過とHLAの関連を調査しました。被験者の携帯機器にダウンロードしてもらったアプリを使って情報を集めたところSARS-CoV-2ワクチン普及前の2021年4月30日までに白人被験者の約1,400例がSARS-CoV-2に感染しており、その1割ほどの136例は無症状で済んでいました。HLA遺伝子情報と照らし合わせたところ、それら136例の5人に1人(20%)はHLA-B*15:01として知られるHLA-B遺伝子変異を有していました1)。一方、発症した人のHLA-B*15:01保有率は10人に1人に満たない9%でした。続いて、それら被験者とは別の米国とオーストラリアの被験者の血液検体を使ってHLA-B*15:01と発症予防を関連付ける仕組みの解明が試みられました。それら血液検体は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前に集められました。それにも関わらずHLA-B*15:01保有者の血液検体の75%のT細胞はSARS-CoV-2スパイクタンパク質の一部NQK-Q8を認識しました。どうやらHLA-B*15:01保有者のT細胞はSARS-CoV-2の情報を知らされていないのにSARS-CoV-2と戦う準備ができているようなのです。それはなぜか。SARS-CoV-2が広まる前から馴染みの季節性コロナウイルス感染の経験がその理由の一端を担っているようです。風邪ウイルスとしても知られる季節性コロナウイルスのスパイクタンパク質はNQK-Q8とほぼ同一のペプチド配列NQK-A8を含みます。HLA-B*15:01保有者のT細胞はそのNQK-A8にも強力に反応しました。HLA-B*15:01保有者のT細胞は季節性コロナウイルスによる風邪の経験を糧に鍛えられ、SARS-CoV-2を含むほかの見知らぬコロナウイルスをも相手できる免疫を備えたのかもしれません。見知らぬSARS-CoV-2も相手しうるT細胞が季節性コロナウイルスとの先立つ交戦を経て生み出されうることを裏付けた初めての成果となったと免疫学の研究者などは述べています2)。今後の研究課題として、HLA-B*15:01がSARS-CoV-2への免疫反応を底上げする仕組みを調べる必要があります。その仕組みの解明は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新たな予防ワクチンや治療手段の開発に役立ちそうです3)。参考1)Augusto DG, et al. Nature. 2023 Jul 19. [Epub ahead of print]2)One in five people who contract the COVID-19 virus don’t get sick. A gene variant may explain why / Science3)Gene Mutation May Explain Why Some Don’t Get Sick from COVID-19 / UC San Francisco

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コロナ禍において、5歳児に4ヵ月の発達遅れ/京大ほか

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより、学校や保育施設が閉鎖され、多くの乳幼児・子供が影響を受けた。これまで手薄だった未就学児を対象として、コロナ禍の影響を調査した京都大学医学研究科助教・佐藤 豪竜氏らによる研究結果が、JAMA Pediatrics誌オンライン版2023年7月10日号に掲載された。 研究者らは新型コロナ流行前から行っていた研究対象を再調査することで、コロナの影響を調べた。首都圏のある自治体の全認可保育所(小規模含む)に通う1歳または3歳の乳幼児887例に対し、2017~19年に1回目の調査、2年後に2回目の調査を行った。データは2022年12月8日~2023年5月6日に解析された。 追跡期間中にコロナ禍を経験した群とそうでない群の間で、3歳または5歳時(各年4月1日時点の年齢)の発達を比較した。乳幼児の発達は「KIDS乳幼児発達スケール」1)を用いて保育士が評価した。分析では、子供の月齢、性別、1回目調査時の発達、保育園の保育の質、保護者の精神状態、出生時体重、家族構成、世帯所得、登園日数などの影響が考慮された。 主な結果は以下のとおり。・5歳時点でコロナ禍を経験した群は、そうでない群と比べて平均4.39ヵ月の発達の遅れが確認された。一方、3歳時点で経験した群では明確な発達の遅れはみられず、むしろ運動、手指の操作、抽象的な概念理解、対子供社会性、対成人社会性の領域では発達が進んでいた。また、コロナ禍で、3歳、5歳ともに発達における個人差・施設差が拡大していることも明らかになった。・質の高い保育を提供する保育園に通っていた子供は、コロナ禍においても3歳時点の発達が良い傾向にあった。一方、保護者が精神的な不調を抱える家庭の子供は、コロナ禍における5歳時点の発達の遅れが顕著だった。 研究者らは、本研究で3歳と5歳で対照的な結果が示された点について、コロナ禍で保護者の在宅勤務が増え、より幼い年齢の子供は大人とのやり取りを通してさまざまなことを学ぶため、大人との1対1のコミュニケーションが発達において重要であり、在宅勤務によって保護者が子供と密に接する時間が増えたことで、コロナ禍が3歳児の発達にポジティブな影響を与えた可能性がある。一方、5歳児は発達段階において社会性を身に付ける時期で他者との交流が重要であり、コロナ禍によって保護者以外の大人やほかの子供と触れ合う機会が制限されたことが発達に負の影響を与えた可能性がある、とコメントしている。 また研究の限界として、一自治体のみのデータであること、観察できていない違いがあった場合には結果にバイアスが生じている可能性があることを挙げている。さらに、今回の研究でみられた発達の遅れはあくまで一時的なものであり、長期的な影響に関してはさらなる調査が必要だ、とまとめている。

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標準治療に不応・不耐の若年性特発性関節炎、バリシチニブが有効/Lancet

 標準治療で効果不十分または不耐の若年性特発性関節炎患者の治療において、JAK1/2阻害薬バリシチニブはプラセボと比較して、再燃までの期間が有意に延長し、安全性プロファイルは成人のほかのバリシチニブ適応症で確立されたものと一致することが、英国・ブリストル大学のAthimalaipet V. Ramanan氏らが実施した「JUVE-BASIS試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年7月6日号で報告された。20ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 JUVE-BASISは、日本を含む20ヵ国75施設で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年12月~2021年3月に患者の登録が行われた(Incyteのライセンス下にEli Lilly and Companyの助成を受けた)。 対象は、年齢2~<18歳で、若年性特発性関節炎(リウマトイド因子陽性の多関節型、リウマトイド因子陰性の多関節型、進展型少関節炎型、付着部炎関連関節炎型、乾癬性関節炎型)と診断され、1剤以上の従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(csDMARD)または生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(bDMARD)による少なくとも12週間の治療で効果不十分、または不耐の患者であった。 安全性/薬物動態の評価を行う期間(2週間)に年齢に基づくバリシチニブの用量(1日1回)が確定され、非盲検下の導入期間(12週間)として全例に成人(4mg)との等価用量のバリシチニブ(錠剤、懸濁剤)の投与が行われた。 導入期間の終了時に、若年性特発性関節炎-米国リウマチ学会(JIA-ACR)の30基準を満たした患者(JIA-ACR30レスポンダー)が、二重盲検下に同一用量のバリシチニブを継続投与する群またはプラセボに切り換える群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、疾患が再燃するか、二重盲検期間(最長32週[バリシチニブは導入期間と合わせて44週])が終了するまで投与した。 主要エンドポイントは、二重盲検期間中の疾患再燃までの期間であった。また、二重盲検期間中の有害事象の曝露補正発生率を算出した。健康関連QOLも良好 220例(年齢中央値14.0歳[四分位範囲[IQR]:12.0~16.0]、女児152例[69%]、診断時年齢中央値10.0歳[IQR:6.0~13.0]、診断後の経過期間中央値2.7年[IQR:1.0~6.0])が登録された。このうち219例が非盲検下の導入期間にバリシチニブの投与を受け、12週時に163例(74%)がJIA-ACR30基準を満たした。二重盲検期間に、81例がプラセボ群、82例がバリシチニブ群に割り付けられた。 二重盲検期間中の疾患再燃例(最小二乗平均)は、プラセボ群が41例(51%)、バリシチニブ群は14例(17%)であった(p<0.0001)。また、再燃までの期間は、バリシチニブ群に比べプラセボ群で短く(補正後ハザード比[HR]:0.241、95%信頼区間[CI]:0.128~0.453、p<0.0001)、再燃までの期間中央値はプラセボ群が27.14週(95%CI:15.29~評価不能[NE])、バリシチニブ群はNE(95%CI:NE~NE)(再燃例が50%未満のため)だった。 疾患活動性(JADAS-27など)や健康関連QOL(CHQ-PF50、CHAQ疼痛重症度スコア[視覚アナログ尺度])に関する有効性の副次エンドポイントも、プラセボ群に比べバリシチニブ群で良好であった。 バリシチニブの安全性/薬物動態評価期間または非盲検導入期間中に、220例中6例(3%)で重篤な有害事象が発現した。二重盲検期間中には、重篤な有害事象はバリシチニブ群の82例中4例(5%)(100人年当たりの発生率:9.7件、95%CI:2.7~24.9)、プラセボ群の81例中3例(4%)(10.2件、2.1~29.7)で報告された。 治療関連の感染症が、安全性/薬物動態評価期間または非盲検導入期間中に220例中55例(25%)で発現し、二重盲検期間中にはバリシチニブ群の31例(38%)(100人年当たりの発生率:102.1件、95%CI:69.3~144.9)、プラセボ群の15例(19%)(59.0件、33.0~97.3)で報告された。また、重篤な有害事象として二重盲検期間中にバリシチニブ群の1例で肺塞栓症が報告され、試験治療関連と判定された。 著者は、「バリシチニブによるJAKシグナルの阻害は、若年性特発性関節炎に関連する複数のサイトカイン経路を標的とし、既存の治療法に代わる1日1回投与の経口治療薬となる可能性がある」としている。

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論文発表と映画製作の共通点から猫談義を楽しむ【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第62回

第62回 論文発表と映画製作の共通点から猫談義を楽しむ自分は映画が大好きです。映画監督ほどすばらしい仕事はないと思います。映画は、文学、音楽、演技、美術、デザイン、映像技術などの要素が組み合わさって作り上げられます。複数の芸術形式の融合を指揮する映画監督には総合力が求められます。いつかは映画監督としてメガホンを握ってみたいと夢見ております。論文発表と映画製作にはいくつか共通点があるように思います。論文発表も映画製作にも明確な構成が必要です。論文は導入、方法、結果、考察などのセクションで構成され、映画はプロローグ、展開、クライマックス、エピローグなどのセクションで構成されます。論文発表と映画製作には、訴えたいテーマがあることも共通です。論文は特定の研究問題を解決すること、映画はストーリーを通してメッセージを伝えることがテーマです。論文発表と映画製作は共に、創造性が求められる活動です。論文では新しい知見やアイデアを提案し、映画ではストーリーや映像表現を通じて観客を魅了する創造的なアプローチが必要です。完成までのプロセスにも共通点があります。論文では研究計画、データ収集、解析、執筆などのステップがあります。映画では脚本の執筆、撮影、編集、音楽の追加などの工程を経て完成します。医療の現場は人間の生と死をあつかう場所なのでドラマに満ちています。ですから映画の題材に病気や医療が使われることが多いのも当然です。医学領域の研究活動と映画製作には共通項が多いことも影響しているかもしれません。そこで医療関係者に観てもらいたい傑作映画を紹介しましょう。『だれもが愛しいチャンピオン』(原題:Campeones)、監督:ハビエル・フェセル、2018年製作、スペイン映画主人公は短気な性格のプロバスケットボールのコーチです。問題を起こしチームを解雇され、社会奉仕活動として障がい者バスケットボールのチーム「アミーゴス」のコーチを命じられます。選手たちの自由過ぎる言動に困惑しながら、純粋さや情熱、優しさに触れて一念発起します。コーチと選手が互いに支え合い成長していきます。チームは全国大会で快進撃します。実際の障がい者600人の中からオーディションで選ばれた10名の「俳優」が出演します。主演のひとり、ダウン症のヘスス・ビダルがスペインの映画賞であるゴヤ賞の新人賞を受賞したそうですが、その演技力を引き出した監督の手腕は賞賛に値します。この映画の日本公開には、日本障がい者バスケットボール連盟、日本自閉症協会、日本ダウン症協会などが後援しています。知的障がい者というタブー視される内容を描きながらネガティブな面がなく、爽やかな作品に仕上がっています。さすがラテンの国スペインです。説教くさいメッセージはないので気軽にご覧ください。自然に笑いながら、自然に胸が熱くなる、そんな作品です。医療と映画の相性は良いのですが、それよりも映画に欠かせない存在が猫です。美しい外観を持ち、しなやかで優雅な動きをする猫は、画面上で目を引く存在となります。猫の予測不能な行動や愛らしいしぐさは観客の関心を引きます。身近で親しみやすい猫は、映画に頻繁に登場するキャラクターです。では、画面を横切る猫が絶妙な映画を紹介しましょう。『ゴッドファーザー』(原題:The Godfather)、監督:フランシス・フォード・コッポラ、出演:マーロン・ブランド、アル・パチーノ、1972年製作イタリア系組織犯罪集団マフィアの内情を世に知らしめた名作です。マーロン・ブランドが演じるマフィアのボス、ドン・コルレオーネは、相手が貧しく微力な者でも、助けを求めてくれば親身になってどんな困難な問題でも解決します。映画の冒頭に、相談を聞くためのオフィスで、ドン・コルレオーネが手の中で猫をもてあそんでいます。コルレオーネ役のマーロン・ブランドに、猫は手を伸ばしたり、体の向きをくねくね変えたり、甘えきっています。マーロン・ブランドも猫が喜ぶポイントをまさぐり、猫好きの本性は明らかです。しかし、ドンとしての仏頂面を崩しません。リラックスした猫が、厳しいマフィアの行動原理を際立たせるシーンです。ここで猫を登場させるコッポラ監督は流石です。『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(原題:A Street Cat Named Bob)、監督:ロジャー・スポティスウッド、出演:ルーク・トレッダウェイ、ルタ・ゲドミンタス、2016年製作ホームレス同然の貧しいストリートミュージシャンが1匹の野良猫との出会いによって再生していく姿を描く作品です。これは本当にオススメの映画なので、ネタバレしないように詳しく述べません。ボブが実話に基づく猫であることが驚きです。日本やハリウッドの映画は、動物が登場するとメロメロの甘い展開になることが常ですが、辛口な展開はイギリス映画を感じさせます。監督のロジャー・スポティスウッドは、『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』のメガホンも取っている実力派です。『猫が教えてくれたこと』(原題:Nine Lives: Cats in Istanbul/Kedi)、2016年製作これはドキュメンタリー映画で、上映時間も79分と手頃です。猫と人間たちの幸せな関係をとらえたドキュメンタリーです。ヨーロッパとアジアの文化をつなぐイスタンブールの街で暮らす野良猫が主人公です。生まれも育ちも異なる7匹の猫たちと人間たちが紡ぎ出す触れ合いは感動を与えてくれます。あなたの心が乾燥し、癒しが必要ならばご覧ください。必ずや効能を発揮します。論文発表と映画製作という情報発信の共通性を論じるつもりが、結局は猫好き談義になってしまいました。お許しください。

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ASCO2023 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2023 ASCO Annual Meeting2023年の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)は6月2日から6日にかけてシカゴを舞台に開催されました。今年の泌尿器がん領域のScientific Programは、前立腺がん領域においてmCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験結果が多く発表されていたのが印象的でした。そのほか、尿路上皮がん領域では周術期化学療法としてのdd-MVAC、FGFR変異陽性例におけるerdafitinib、膀胱全摘における拡大リンパ節郭清の意義に関する重要なデータが発表されました。腎がんでも免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のリチャレンジに焦点を当てた、他に類を見ない試験の結果が発表され注目を集めました。そのうちのいくつかを紹介いたします。CAPTURE試験(Abstract # 5003)mCRPC患者の最大30%でDNA損傷修復(DDR)遺伝子の病的変異が観察されます。BRCA2の変異はmCRPCを含むさまざまな前立腺がんの段階において一貫して不良な生存転帰と関連しているだけでなく、PARP阻害薬の効果予測因子となることも知られています。一方で、ほかの生殖細胞系列DDR変異の予後因子としての意義は未解明の部分も多く残されています。本試験は、mCRPCの1次治療としてドセタキセル、カバジタキセル、酢酸アビラテロン/プレドニゾン、またはエンザルタミドの投与を受けた患者の前向き観察研究PROCUREに登録されているmCRPC患者を対象として行われました。ATM、BRCA1/2、BRIP1、CDK12、CHECK2、FANCA、HDAC2、PALB2、RAD51B、およびRAD54Lを含むDDR遺伝子の生殖細胞系列変異および体細胞変異(腫瘍FFPE検体を使用)を解析し、画像上無増悪生存期間(rPFS)、2次治療を含めた無増悪生存期間(PFS2)、および全生存期間(OS)との関連が検証されました。遺伝子変異は、変異遺伝子のカテゴリー(BRCA1/2>HRR non-BRCA>non-HRR)、生殖細胞系列・体細胞変異の別(Germline>Somatic>None)、片アレル・両アレルの別(Bi-allelic>Mono-allelic>None)に基づき階層的に分類されました。解析の結果、BRCA1/2変異患者はHRR non-BRCA変異患者およびnon-HRR変異患者と比較して、2次治療を受けた割合が高いということがわかりました(92%、79%、79%)。にもかかわらず、BRCA1/2変異患者はHRR non-BRCA変異患者およびnon-HRR変異患者と比較してrPFS、PFS2、OSが不良でした。BRCA1/2変異患者に限定した探索的サブグループ解析では、BRCA1/2変異のタイプ(生殖細胞系列変異か体細胞変異か、片アレルか両アレルか)と腫瘍学的転帰(rPFS、PFS2、およびOS)の間に有意な関連は見られませんでした。1次治療として新規ARシグナル阻害薬またはタキサンのいずれかを投与されたmCRPC患者では、ほかのDDR遺伝子と比較してBRCA1/2変異がrPFS、PFS2、OSの短縮と関連していました。BRCA1/2変異陽性患者の不良な転帰は、変異のタイプにかかわらず観察され、また治療への曝露が低いことが原因ではないことが示唆されました。これらの結果は進行前立腺がんの治療において、とくにBRCA1/2の生殖細胞系列および体細胞変異をスクリーニングすることの重要性を示しています。TALAPRO-2試験(Abstract # 5004)TALAPRO-2試験(NCT03395197)は、mCRPC患者の1次治療としてtalazoparib+エンザルタミドとプラセボ+エンザルタミドの併用を評価した第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、患者はtalazoparib 0.5mgを1日1回(標準の1.0mgから減量)+エンザルタミド160mgを1日1回投与する群と、プラセボ+エンザルタミドを投与する群に1:1で無作為に割り付けられました。TALAPRO-2は、PROpelと同様に「オールカマー」のバイオマーカー未選択コホート(HRR遺伝子の変異ステータスにかかわらず組み入れ)を対象とした試験として注目を集めました。バイオマーカー未選択コホート(コホート1、805例)の主解析の結果はすでに報告されており(Agarwal N, et al. Lancet. 2023 Jun 2. [Epub ahead of print])、talazoparib+エンザルタミド併用群のrPFSは、プラセボ+エンザルタミド群と比較して有意に良好でした(中央値:未到達vs.22ヵ月、HR:0.63、95%CI:0.51~0.78、p<0.001)。今回は、コホート1におけるHRR遺伝子変異陽性患者(169例)に、新たにリクルートしたHRR遺伝子変異陽性患者(230例)を加えたコホート2(399例)のデータが公表されました。コホート2もコホート1と同様、talazoparib+エンザルタミド群とプラセボ+エンザルタミド群とに1:1で無作為に割り付けられました。変異HRR遺伝子の内訳は、BRCA2(34%)が最多で、ATM(20~24%)、CDK12(18~20%)がこれに続きました。観察期間中央値16.8~17.5ヵ月の時点で、talazoparib+エンザルタミドの併用はrPFSの有意な改善と関連しており、rPFS中央値は介入群では未達だったのに対し、プラセボ+エンザルタミド群では13.8ヵ月でした(HR:0.45、95%CI:0.33~0.81、p<0.0001)。変異HRR遺伝子に基づくサブグループ解析では、rPFSの有意な延長は BRCA(とくにBRCA2)変異患者に限定されており、PALB2、CDK12、ATM、およびそのほかのHRR遺伝子変異患者ではrPFSの有意な改善は見られないことが本試験でも示されました。PROpel試験のPROデータ(Abstract # 5012)PROpel試験(NCT03732820)はmCRPCに対する1次治療としての、アビラテロン+オラパリブとアビラテロン+プラセボを比較した第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、患者はHRR遺伝子の変異ステータスに関係なく登録され、アビラテロン(1,000mgを1日1回、プレドニゾン/プレドニゾロンを併用)に加えて、オラパリブ(300mgを1日2回)またはプラセボのいずれかを投与する群に無作為(1:1)に割り付けられました。主要評価項目であるrPFSに関しては、オラパリブ+アビラテロン群がプラセボ+アビラテロン群と比べて有意に良好でした(中央値:24.8ヵ月vs.16.6ヵ月、HR:0.66、95%CI:0.54~0.81、p<0.001)。rPFSの延長はHRR遺伝子の変異ステータスに関係なく観察されましたが、効果の大きさはHRR変異陽性患者(HR:0.50、95%CI:0.34~0.73)では、HRR変異陰性患者(HR:0.76、95%CI:0.60~0.97)と比べて高いことが示されました。OSに関しては現在のところ有意差を認めていません。初回の報告ではFACT-Pで評価された健康関連QOL(HRQOL)に有意差はありませんでしたが、今回最終解析時点におけるHRQOLデータが報告されました。本報告でもFACT-Pで評価されたHRQOLに有意差は認められませんでした。また、BPI-SFで評価された疼痛スコアの平均、悪化までの期間も両群間に有意差を認めませんでした。さらに、初回の骨関連有害事象までの期間や麻薬系鎮痛薬使用までの期間にも有意差を認めませんでした。結論として、アビラテロン単独と比較して、アビラテロン+オラパリブの併用はHRQ OL転帰の悪化とは関連していないことが示唆されました。TALAPRO-2試験のPROデータ(Abstract # 5013)上述のTALAPRO-2試験(NCT03395197)のコホート2の腫瘍学的アウトカムの報告に続いて、Patient Reported Outcome(PRO)の結果も発表されました。PROはEORTC QLQ-C30とその前立腺がんモジュールQLQ-PR25を用いて、ベースラインからrPFSに到達するまで4週間ごと(54週以降は8週ごと)に評価されました(BPI-SFおよびEQ-5D-5Lも使用されたようですが、今回は報告されませんでした)。個々のドメインスコアのベースラインからの平均変化および臨床的に意味のある(10ポイント以上) 悪化までの時間(TTD)が解析されました。その結果、EORTC QLQ-C30における全般的なQOLを示すGHS/QOLスコアのTTDはプラセボ+エンザルタミド群と比較して、talazoparib+エンザルタミド群で有意に長くなりました(HR:0.78、95%CI:0.62~0.99、p=0.038)。ベースラインからのGHS/QOLスコアの推定平均変化も同様にtalazoparib+エンザルタミド群で有意に良好でしたが、その差は臨床的に意味のあるものではありませんでした。さらに、両群間で身体面、役割面、感情面、認知面、社会面の各機能スケールに有意な差は観察されませんでした。また、個々の症状スケールにも臨床的に意味のある差異は認められませんでした。プラセボ+エンザルタミドと比較して、talazoparib+エンザルタミドの併用は、全体的な健康状態とQOLの改善に関連している可能性がありますが、その差は臨床的に意味のあるものではないことが示されました。ここ数年で、mCRPCにおける1st-line治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験に関する報告が相次いでいます。今回紹介したPROpel(アビラテロン+オラパリブ)、TALAPRO-2(talazoparib+エンザルタミド)のほかに、MAGNITUDE試験(ニラパリブ+アビラテロン)の中間解析結果も公表されています(Chi KN, et al. J Clin Oncol. 2023;41:3339-3351.、Chi KN, et al. Ann Oncol. 2023 Jun 1. [Epub ahead of print])。これらの新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用療法が、mCRPCにおいてHRR遺伝子の変異ステータスにかかわらずベネフィットをもたらすのかどうかが最大の焦点と言えますが、現在のところ共通して言えるのは、(1)いずれの併用療法においても効果の大きさは、BRCA2-associated mCRPC>all HRR-deficient mCRPC>unselected mCRPC>non-HRR-altered mCRPCの順に大きいこと。(2)現在のところベネフィットが示されているのはrPFSまでで、OSではベネフィットが示されていないこと。(3)新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用は新規ARシグナル阻害薬単剤と比べて、QOL悪化までの期間を延長すること。(4)新規ARシグナル阻害薬+PARP阻害薬と新規ARシグナル阻害薬+プラセボの各群間のQOLスコアに、有意差あるいは臨床的に意味のある差は報告されていないこと。などです。(1)からは、併用療法をHRR遺伝子の変異ステータスにかかわらず(つまり「オールカマー」に)適応した場合、その効果はその集団に占めるHRR遺伝子(とくにBRCA2)変異陽性症例の占める割合によって影響を受けることを意味します。このことはHRR遺伝子(あるいはBRCA2)変異の頻度が低いといわれている日本人集団への適応を考える際に重要です。(2)と併せて、本治療が本邦で承認される場合、どのような条件が付くことになるのか注視したいと思います。(3)はrPFSの延長と無関係ではないと思われますが、OSのベネフィットが示されない状況で、rPFS延長の意義を高めるデータではあります。少なくとも(4)からは、mCRPC患者が同様のHRQOLを維持しながら、新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用療法を継続可能であることを示していると言えるでしょう。GETUG/AFU V05 VESPER試験(Abstract # LBA4507)GETUG/AFU V05 VESPER試験(NCT01812369)は筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)に対する周術期化学療法として、dd-MVACとGCを比較する試験で、すでにdd-MVACがGCと比較して3年のPFSを改善することが報告されています。2013年2月から2018年2月まで、フランスの28施設で500例が無作為に割り付けられ、3週間ごとに4サイクルのGC、または2週間ごとに6サイクルのdd-MVACのいずれかを手術前(術前補助療法群)または手術後(補助療法群)に受けました。今回は5年のOSを含む最終解析の結果が報告されました。OSはdd-MVAC群で改善され(64% vs.56%、HR:0.77、95%CI:0.58~1.03、p=0.078)、疾患特異的生存期間(DSS)も改善しました(72% vs.59%、HR:0.63、95%CI:0.46~0.86、p=0.004)。とくにネオアジュバント群においてdd-MVACはGCよりも有意に優れていました(OS:66% vs.57%、HR:0.71、95% CI:0.52~0.97、p=0.032、DSS:75% vs.60%、HR:0.56、95%CI:0.39~0.80、p=0.001)。MIBCの周術期化学療法において、dd-MVACはGCに比べてOS、DSSを有意に改善することが示されました。今後、本邦でも標準治療となっていくかどうか動向が注目されます。THOR試験(Abstract # LBA4619)FGFR変異は転移性尿路上皮がん患者の約20%で観察され、ドライバー変異として機能していると考えられています。THOR試験(NCT03390504)は、プラチナ含有化学療法および抗PD-(L)1治療後に進行した、FGFR3/2変異を有する局所進行性または転移性尿路上皮がん患者を対象とし、erdafitinibと化学療法を比較するランダム化第III相試験でした。266例の患者が無作為化され、そのうち136例がerdafitinib、130例が化学療法を受けました。今回は、追跡期間の中央値15.9ヵ月時点での主要評価項目のOSのデータが発表されました。erdafitinibは化学療法と比較してOSを有意に延長し、死亡リスクを減少させました(12.1ヵ月vs.7.8ヵ月、HR:0.64、95%CI:0.47~0.88)。さらに、erdafitinibと化学療法によるOSのベネフィットは、サブグループ全体で一貫して観察されました。さらに、客観的奏効率(ORR)はerdafitinibのほうが有意に良好でした(45.6% vs.11.5%、相対リスク:3.94、95%CI:2.37~6.57、p<0.001)。安全性に関しても新たな懸念は見いだされませんでした。erdafitinibはプラチナ含有化学療法および抗PD-(L)1治療後に進行した、FGFR3/2 変異を有する局所進行性または転移性尿路上皮がん患者における標準治療になりうると考えられます。SWOG S1011試験(Abstract # 4508)MIBCに対する膀胱全摘除術(RC)におけるリンパ節郭清の範囲に関する前向き試験であるSWOG S1011(NCT01224665)の結果が報告されました。詳細は別項に譲りますが、主要評価項目であるDFS、副次評価項目であるOSともに両群間に有意差を認めませんでした。この結果は数年前に報告された同様の試験であるLEA AUO AB 25/02試験(NCT01215071、Gschwend JE, et al. Eur Urol. 2019;75:604-611.)と同様でしたが、サンプルサイズ、観察期間などの不足から検出力が不足しているとの指摘(Lerner SP, et al. Eur Urol. 2019;75:612-614.)もあり、今後より大規模なデータベース研究や長期フォローアップの結果が待たれます。いずれにせよ、RCにおける拡大郭清がDFS、OSに与える影響はそれほど大きくはないということが示唆されました。CONTACT-03試験(Abstract # LBA4500)CONTACT-03試験(NCT04338269)は、ICI治療中または治療後に進行した、切除不能または転移性の淡明細胞型または非淡明細胞型RCC患者を対象とし、アテゾリズマブ(1,200mg IV q3w)とカボザンチニブ(60mg 経口 qd)の併用またはカボザンチニブ単独の治療に1:1に無作為に割り付けました。RECIST 1.1に基づくPFSおよびOSが主要評価項目でした。552例が無作為化され、263例がアテゾリズマブ+カボザンチニブ群に、259例がカボザンチニブ単独群に割り付けられました。観察期間の中央値15.2ヵ月の時点で、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群にOS、PFSに関するベネフィットは認められませんでした。Grade3/4の有害事象は、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群の68%(177/262)およびカボザンチニブ単独群の62%(158/256)で報告されました。Grade5のAEは6%と4%で発生しました。治療中止につながる有害事象は、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群で16%、カボザンチニブ単独群では4%で発生しました。本試験は、ICI治療中あるいは治療後に進行した腎がん患者に対してカボザンチニブにアテゾリズマブを追加しても臨床転帰は改善されず、毒性が増加するという残念な結果に終わりましたが、ICIのリチャレンジを検証する初のランダム化第III相試験として注目度も高く、論文はLancet誌に掲載されています(Pal SK, et al. Lancet. 2023;402:185-195.)。おわりに本年のASCO Annual Meetingでは、泌尿器腫瘍各領域で今後の治療の在り方に重要な示唆を与える報告が多数見られました。前立腺がん領域では、mCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験以外にも、mCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬と放射線治療および化学療法の併用に関するPEACE-1試験の放射線治療のベネフィットに関するデータも公表されました。総じて、ここ10年で開発されてきた治療法の併用による治療強度の増強に関する研究が多かったように思います。これらの治療は、対象患者、治療レジメンともに、さらなる最適化が必要と考えられます。今後の動向にも注目していきたいと思います。

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双極性障害女性患者における抗精神病薬使用後の乳がんリスク

 統合失調症女性患者における抗精神病薬使用と乳がんリスクとの関連は、さまざまな疫学データより報告されている。しかし、双極性障害女性患者を対象とした研究は、これまであまり行われていなかった。香港大学のRachel Yui Ki Chu氏らは、双極性障害女性患者における抗精神病薬使用と乳がんリスクとの関連を調査し、統合失調症との比較を行った。その結果、統合失調症女性患者では、第1世代抗精神病薬と乳がんリスクとの関連が認められ、双極性障害女性患者では、第1世代および第2世代抗精神病薬のいずれにおいても、乳がんリスクとの関連が認められた。Psychiatry Research誌8月号の報告。 香港の公的医療データベースを用いて、双極性障害または統合失調症の18歳以上の女性患者を対象に、ネステッドケースコントロール研究を実施した。incidence density samplingを使用して、乳がんと診断された女性を対照群(最大10例)としてマッチした。 主な結果は以下のとおり。・症例群672例(双極性障害:109例)、対照群6,450例(双極性障害:931例)を分析対象に含めた。・第1世代抗精神病薬と乳がんリスクとの関連は、統合失調症(調整オッズ比[aOR]:1.49、95%信頼区間[CI]:1.17~1.90)または双極性障害(aOR:1.80、95%CI:1.11~2.93)の女性患者のいずれにおいても認められた。・第2世代抗精神病薬は、双極性障害女性患者のみで乳がんリスクと関連しており(aOR:2.49、95%CI:1.29~4.79)、統合失調症女性患者では有意な関連が認められなかった(aOR:1.10、95%CI:0.88~1.36)。・抗精神病薬を使用中の双極性障害女性患者の乳がんリスクについては、さらなる研究が必要とされる。

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乳児の遺伝子検査、迅速全ゲノムvs.標的遺伝子/JAMA

 遺伝的疾患が疑われる乳幼児の遺伝子検査として、迅速全ゲノムシークエンスと標的乳幼児遺伝子パネルの分子診断率および結果が得られるまでの時間は同等なのか。米国・Women and Infants Hospital of Rhode IslandのJill L. Maron氏らは、400例を対象に多施設共同前向き比較試験「Genomic Medicine for Ill Neonates and Infants(GEMINI)試験」を行い、ゲノムシークエンスの分子診断率は高率だが、臨床に有用な結果が得られるまでの時間は標的乳幼児遺伝子シーケンス検査よりも遅かったことを示した。乳幼児への遺伝子検査は医療上の決定を導き健康アウトカムの改善を可能とするが、分子診断率や結果が得られるまでの時間が同等なのかについて明らかになっていなかった。JAMA誌2023年7月11日号掲載の報告。1歳未満児400例に両検査を行い、分子診断率と結果発表までの時間を評価 研究グループは2019年6月~2021年11月に米国の6病院で、入院中の1歳未満児とその保護者400例を対象に、ゲノムシークエンスと標的乳幼児遺伝子シーケンス検査のアウトカムを比較した。 試験登録された患児に、ゲノムシークエンスと標的乳幼児遺伝子シーケンス検査を同時に実施。それぞれの検査室で、患児の表現型に関する知識に基づく解釈が行われ、臨床ケアチームに結果が伝えられた。家族には、両検査からの遺伝学的所見に基づき、臨床管理と提供する治療の変更、ケアの方向性の転換が伝えられた。 主要エンドポイントは、分子診断率(病的バリアントが1つ以上または臨床的意義が不明[VUS]のバリアントを有する患児数と関連する割合で定義)と結果が返ってくるまでの時間(患児の検体を受け取ってから最初の所見が発表されるまでの時間と定義)、臨床的有用性とした。臨床的有用性は、患者への医学的、外科的および/または栄養学的管理の変化や治療目標の変化と定義し、記録担当医(集中治療担当医または遺伝学者)が5ポイントのリッカート尺度(1[まったく無用]~5[非常に有用])で測定評価した。検査室間のバリアント解釈の違いに留意が必要 分子診断上の変異は、51%の患児(204例)で同定された。297個のバリアントが同定され、そのうち134個は新規バリアントであった。 分子診断率は、ゲノムシークエンス49%(95%信頼区間[CI]:44~54)vs.標的乳幼児遺伝子シーケンス検査27%(23~32)であった。標的乳幼児遺伝子シーケンス検査で検出されたがゲノムシークエンスで報告されなかったバリアントは19個であった。一方で、ゲノムシークエンスで診断されたが標的乳幼児遺伝子シーケンス検査で報告されなかったバリアントは164個であった。標的乳幼児遺伝子シーケンス検査で同定されなかったバリアントには、構造的に1kb超のもの(25.1%)や、検査から除外された遺伝子(24.6%)が含まれていた(McNemarオッズ比[OR]:8.6[95%CI:5.4~14.7])。 検査室間のバリアントの解釈は、43%で違いがみられた。 結果が返ってくるまでの時間中央値は、ゲノムシークエンスは6.1日、標的乳幼児遺伝子シーケンス検査は4.2日であった。なお緊急症例(107例)では、それぞれ3.3日、4.0日だった。 臨床ケア変更への影響は、患児の19%でみられた。 76%の臨床担当医が、診断にかかわらず、臨床上の意思決定に遺伝子検査は有用またはとても有用と見なしていた。 これらの検討結果を踏まえて著者は、「研究室でのバリアント解釈が、分子診断率の違いに寄与し、臨床管理に関する重要なコンセンサスに関係する可能性があるようだ」と指摘。また、「今回の検討では、分子診断率の違いが臨床アウトカムの改善につながるかどうかの正式な評価を行っていないことを含め、いくつかの限界がある。分子診断率の統計学的優越性の検討は行っておらず、将来の研究で良性であることが明らかになる可能性のあるVUSバリアントも含まれたことが分子診断率の上昇に寄与した可能性もある」と述べている。

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プラチナ不適NSCLCの1次治療、アテゾリズマブがOS改善(IPSOS)/Lancet

 StageIIIB/IVの非小細胞肺がん(NSCLC)でプラチナダブレット化学療法を受ける患者の1次治療として、アテゾリズマブは単剤化学療法と比較し、全生存期間(OS)を改善し、2年生存率を倍増させ、QOLの維持および良好な安全性プロファイルと関連したことが示された。英国・University College London Hospitals NHS Foundation TrustのSiow Ming Lee氏らが、第III相国際多施設共同非盲検無作為化対照試験「IPSOS試験」の結果を報告した。進行または転移のあるNSCLC患者に対する免疫療法の進展にもかかわらず、主な1次治療試験では、対象患者がECOS PS 0~1で年齢中央値65歳以下に限定されていた。IPSOS試験ではプラチナ製剤を含むレジメン不適の患者が対象とされ、アテゾリズマブの有効性と安全性が検討された。著者は、「今回示されたデータは、プラチナをベースとした化学療法が不適の進行NSCLC患者に対して、アテゾリズマブ単剤療法が潜在的な1次治療の選択肢であることを支持するものである」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年7月6日号掲載の報告。23ヵ国91施設で試験、単剤化学療法と比較しOSを評価 IPSOS試験は、アジア、欧州、北米および南米の23ヵ国91施設で行われた。StageIIIB/IVのNSCLCでプラチナダブレット化学療法が試験担当医によって不適と判断された患者を、本試験の適格とした。不適の判断理由は、ECOG PSが2または3であること、あるいは、ECOG PSは0~1だが重大な併存疾患を有するかプラチナダブレット化学療法が禁忌で70歳以上であることであった。 被験者は、2対1の割合で置換ブロック法により無作為化され(ブロックサイズ6)、アテゾリズマブ1,200mg 3週ごと静脈内投与または単剤化学療法(ビノレルビン[経口または静脈内投与]またはゲムシタビン[静脈内投与]、試験地の規定用量に準じる)を3週または4週サイクルでそれぞれ受けた。 主要評価項目はOS(intention-to-treat集団で評価)。安全性解析は、アテゾリズマブまたは化学療法のあらゆる任意投与を受けたすべての無作為化された被験者を含む安全性評価集団を対象に行われた。OSは有意に延長、2年生存率は24% vs.12% 2017年9月11日~2019年9月23日に453例が登録・無作為化された(アテゾリズマブ群302例、化学療法群151例)。 アテゾリズマブは化学療法と比べてOSを有意に延長した(OS中央値10.3ヵ月[95%信頼区間[CI]:9.4~11.9]vs.9.2ヵ月[5.9~11.2]、層別ハザード比[HR]:0.78[95%CI:0.63~0.97]、p=0.028)。2年生存率は、アテゾリズマブ群24%(95%CI:19.3~29.4)、化学療法群12%(6.7~18.0)であった。 化学療法と比較してアテゾリズマブは、患者報告の健康関連QOL機能尺度および症状の安定化や改善、Grade3~4の治療関連有害事象(49/300例[16%]vs.49/147例[33%])および治療関連死(3例[1%]vs.4例[3%])の減少と関連していた。

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LGBTQ+はもはや日常風景か:米国における医学研究の職場ハラスメント調査を読んで(解説:岡村毅氏)

 この研究は米国の医学研究の職場ハラスメントを包括的に調査したものだ。斬新なところは「これまでの調査はシスジェンダーに偏っていた」として、LGBTQ+を基礎的データとしてとっているところだ。また国立衛生研究所(NIH)のキャリアデヴェロップメントアワードを受けた若手研究者を対象にしており、適切なサンプリングであろう。 生物学的性(男性と女性)と性的志向(シスジェンダー[生物学的性と性自認が一致]兼ヘテロセクシュアル[異性愛]である多数派か、LGBTQか)を聞いている。おそらくこれからの調査はこのような方向になっていくと思われる。 回答者は830人であるが、生物学的には男性422人、女性385人、両方あるいは無回答は23人であった。またシスジェンダー兼ヘテロセクシュアルである多数派は、774人(93%)、LGBTQ+は31人(4%)、その他あるいは無回答が25人(3%)である。 なお、人種はヒスパニック以外の白人、アジア系、その他の3択であった。白人572人(69%)、アジア系169人(20%)、その他66人(8%)である。 アウトカムである職場ハラスメントは、ミシガン大学やテキサスA & M 大学のclimate survey(意識調査、でいいのだろうか)を参考に作られている。多様性が許容されているか、友好的な、協力的か、人種差別的か、性差別的か、といった観点を評価させている。またセクシャルハラスメントや、ソーシャルメディアなどで不快な体験をしたことがあるかも聞いている。さらにメンタルヘルスも評価している。 結果であるが、調査方法は最先端だが、結果は古典的であった。 男性と女性とを比べると、すべての項目で女性のほうが環境は悪いと回答しているのだ。また男性の45%、女性の72%が過去2年間でハラスメントを経験していた(そしてこれは人種差も性的志向の差もない)。同様にメンタルヘルスも女性が男性より悪く、人種差も性的志向の差も関係ないようだ。次に人種で見ると、ほとんど差がないのだが、「人種差別的だ」はその他が白人より優位に多く、アジア系は白人と変わらない。ではLGBTQ+ではどうだろうか? なんとほとんど変わらないのだ。唯一「職場が同性愛嫌悪的だ」だけがLGBTQ+で高い。 この論文の私の学びと考察は以下のようになる。(1)生物学的性のみならず性的志向を聞くことが標準になってゆくだろう。高齢者の研究をしているわれわれのところへの波及は少し遅れるかもしれない。(2)しかしハラスメントを受けているのは、人種や性的志向を問わず、女性であるようだ。これは悲しいが世界の真実かもしれない。(3)LGBTQ+とそれ以外ではあまり有意差が出ないが、おそらくサンプル数の少なさと、前者内にさらに多様な人が含まれているからではないか?(4)米国全体では白人はもうすぐ半分を切るが、医学界ではいまだに多数派である。この調査の内容から見ると、アジア系は白人と同じ結果を出している(白人と似た状況?)。(5)LGBTQ+に対して過剰な恐怖感を持つ人が多いが、米国医学界若手というかなりリベラルな集団でも4%しかいないのだから、この恐怖は合理的ではない。当たり前だが排除ではなく包摂すべきであろう。とくに日本人は伝統的にLGBTQ+には寛容であることは押さえておくべきだろう。最近は知らないが。

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クレバスに落ちたらどのくらい死亡するのか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第238回

クレバスに落ちたらどのくらい死亡するのか?Unsplashより使用冬山を歩いていると、クレバスに落ちたら死ぬぞ!みたいなことをよく言われることがあります。いや、私が言われるわけではなくて、そういうシーンを映画などで見かける気がするだけで。実際にクレバスに落ちたらどのくらいの人が致命的になるのでしょうか。Klocker E, et al.Crevasse accidents in the Swiss Alps Epidemiology and mortality of 405 victims of crevasse accidents from 2010 to 2020.Injury. 2022 Jan;53(1):183-189.クレバスの種類にもよりますが、一番つらいのは、真っ逆さまに何十メートルも落ちてしまう事故です。私が愛読していた漫画の『岳』では結構しんどいクレバス事故が多かったイメージです。この研究は、2010~20年にスイスで発生したクレバス事故を含む山岳救助活動を後ろ向きに分析したものです。落下傷害の重症度はNACA(National Advisory Committee for Aeronautics)スコアに従って評価しました。スコアが高いほうが重症です。結果、321人のクレバス転落の犠牲者が研究に含まれました。犠牲者の年齢中央値は41.2歳で、82%(n=260)が男性、59%(n=186)が外国人という結果でした。救助活動が行われた典型的な標高は3,000~3,499m(全症例の44%)というシビアな環境であり、救助は難航を極めました。クレバスの落下深度の中央値は、夏季が8m(IQR 5~10)であったのに対し、冬季は15m(IQR 8~20)でした(p<0.001)。ちょっとこの理由はわかりません。全体の死亡率は6.5%で、死亡した人の9.4%(n=30)のNACAスコアは4以上でした。55%(n=177)のNACAスコアは0または1と軽症でした。クレバスの落下の深さとNACAスコアの重症度の間には有意な正の相関が観察されました(r=0.35、95%信頼区間:0.18~0.51、p<0.001)。以上のことから、クレバスに落下した場合、半数以上は軽症なのですが、落下深度が深いとそれなりに重症になりやすいため、10人に1人くらいはエライコッチャな事態になることを想定しながら冬山を歩く必要がありそうです。

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ASCO2023 レポート 乳がん

レポーター紹介2023年6月2日から6日まで5日間にわたり、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)がハイブリッド形式で開催された。リアルタイムのライブ配信も設けられたものの、多くのセッションは現地開催+オンデマンド配信(以前のvirtual meeting)であり、以前の学会形式にかなり近い形になっているのを実感できた。私も3年の時を経て、ついにシカゴの地に再び降り立つことができた。米国国内からの参加者はほぼコロナ以前に戻っているようであったし、コロナ前ほどではないにしても、日本からも多数参加されていた。各国の旧知の研究者と、すれ違いざまにあいさつするなど、かつてのコミュニケーションが戻ってきたことを強く実感した。今回のASCOのテーマは“Partnering With Patients: The Cornerstone of Cancer Care and Research”であった。乳がんの演題は日本の臨床にインパクトを与えるものは少なく、とくにホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんで日本と諸外国の標準治療の違いが今後大きな問題になる可能性を予見させるものであった。日本からの演題も含め4演題を概説する。NATALEE試験本試験はStageIIAからIIIまでのホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+HER2-)乳がん術後を対象として、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(NSAI、5年以上、閉経前および男性はゴセレリンを併用)にribociclib 400mg/日を3年間内服することの上乗せを検証した試験である。ribociclib群に2,549例、ホルモン療法単独群に2,552例が割り付けられた。主要評価項目は無浸潤疾患生存(invasive disease free survival:iDFS)で、3年時点(観察期間中央値27.7ヵ月)でribociclib群90.4%、ホルモン療法単独群87.1%(ハザード比[HR]:0.748、95%CI:0.618~0.906、p=0.0014)と統計学的有意にribociclib群で良好であった。副次評価項目の3年無遠隔再発生存もribociclib群で90.8%、ホルモン療法単独群で88.6%(HR:0.739、95%CI:0.603~0.905、p=0.0017)とribociclib群で良好であった。全生存期間(overall survival:OS)についてはribociclib群で良さそうな傾向はあったもののイベントも少なく有意差は観察されなかった。有害事象は好中球減少、肝機能障害、QT延長、悪心、頭痛、倦怠感、下痢、血栓症などがホルモン療法単独と比較して増加した。ホルモン療法へのCDK4/6阻害薬(CDK4/6i)追加のメリットを証明した試験としてアベマシクリブのmonarchE試験がある。NATALEE試験とmonarchE試験の違いとしては、NATALEE試験はN0症例を含むなど範囲が広い(リスクの低い症例が含まれている)ことが大きい。ハイリスク症例でどちらの薬剤がより有効かは不明であるが、N0かついくつかのリスク因子を持っている症例はribociclibが治療選択肢になるであろう。一方、400mg/日と転移乳がんに対する用量よりも少ないものの(転移乳がんでは600mg/日)、それなりの毒性のある薬剤を3年間内服することのハードルは高いと思われる。もっと残念なことは、ribociclibの日本の推奨用量は400mgにも及ばず、現在国内での開発は停止していることである。ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんの術後治療においても(タモキシフェンが標準ということも含めて)、日本と海外の標準治療の違いが目立ち始めている。SONIA試験CDK4/6iはHR+HER2-乳がん治療における重要な薬剤の1つである。NATALEE試験でも述べたようにribociclibは日本では使用できないが、パルボシクリブ、アベマシクリブについては標準治療である。ホルモン療法併用での1次治療、2次治療のエビデンスがあるが、いずれのラインでもOSを延ばすというエビデンスがあり、「いつ使うべきか」についてはまだ議論の余地があるところである。SONIA試験は前治療歴のないHR+HER2-進行乳がんを対象に、1次治療としてNSAI+CDK4/6iを、2次治療としてフルベストラントを行う(First-line CDK4/6i)群と、1次治療としてNSAIを行い2次治療としてフルベストラント+CDK4/6iを行う(Second-line CDK4/6i)群を比較するランダム化比較第III相試験である。主要評価項目は2次治療までのPFS(PFS2)とされた。1,050例の症例が、First-line CDK4/6iに524例、second-line CDK4/6iに526例割り付けられた。観察期間中央値37.3ヵ月時点で1次治療におけるPFSはAI+CDK4/6iで24.7ヵ月、AI単独で16.1ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.51~0.69、p<0.0001)とAI+CDK4/6i群で良好であったが、主要評価項目のPFS2はfirst-line CDK4/6iで31ヵ月、second-line CDK4/6iで26.8ヵ月(HR:0.87、95%CI:0.74~1.03、p=0.10)と両群間に差を認めなかった。またOSについても両群間の差を認めなかった。また、安全性についてはfirst-line CDK4/6iでGrade3以上の有害事象が多いと報告され、演者らは1次治療における内分泌単剤療法は“excellent”なオプションであると結論付けている。本試験結果はCDK4/6iの適切な使用について一石を投じるものであるが、本試験の解釈には注意を要する。それは、CDK4/6iとして使用された薬剤である。両群ともに、パルボシクリブが91%、ribociclibが8%、アベマシクリブに至っては1%しか含まれておらず、基本的にはパルボシクリブの試験として解釈すべきである。いずれの薬剤も1次治療、2次治療におけるPFSのベネフィットは示されているが、OSについては薬剤によって異なる。1次治療におけるOSベネフィットは、ribociclibでは証明されており、アベマシクリブでは良好であるものの統計学的有意差は証明されていない(最終解析未)。パルボシクリブは1次治療におけるOSベネフィットが否定されており、かつ2次治療では良好な傾向にあるものの統計学的有意差は示されていない。したがって、日本以外の国では広く使われているribociclibや、あるいはアベマシクリブが多く含まれていれば、結果が異なっている可能性がありうる。SONIA試験の結果のみをもって、CDK4/6iは1次治療で使用しなくてよいとは結論付けられないであろう。PATHWAY試験もう一題、CDK4/6iについての発表を取り上げたい。これまでに閉経前の患者を含む1次治療のCDK4/6iのエビデンスはribociclibのMONALEESA-7試験しかなく、日本では使いづらい面があった。そこで実施されたのが国立がん研究センター中央病院を中心にアジア共同で行われたPATHWAY試験である。本試験は、HR+HER2-乳がんの1次もしくは2次治療を対象として、タモキシフェン(TAM)にパルボシクリブを上乗せすることのメリットを検証したプラセボ対象ランダム化比較第III相試験である。184例の症例が登録され、パルボシクリブ群に91例、プラセボ群に93例が割り付けられた。主要評価項目はPFSとされた。PFSは、パルボシクリブ群で24.4ヵ月に対し、プラセボ群で11.1ヵ月(HR:0.602、95%CI:0.428~0.848、p=0.002)とパルボシクリブ群で良好であり、TAM+パルボシクリブ療法の有用性が証明された。サブグループ解析ではいくつか興味深い結果が見られた。1次治療(112例)ではパルボシクリブ群でPFSが良好だったが、2次治療(72例)では両群間の差を認めなかった。また、閉経前(52例)ではパルボシクリブ群のPFSが良好であったが、閉経後では両群間の差を認めなかった。したがって、TAM+パルボシクリブは閉経前の1次治療でより積極的に考慮できると言えよう。ただ、世界的には閉経前の1次治療はAI+ribociclib+LHRHアゴニストである。NATALEE試験と同様、世界で標準となっているにもかかわらず日本では使用できないために標準治療が異なる患者集団が存在することは、今後の日本での治療開発において大きなハードルになりうるだろう。JCOG1017試験最後に外科系の演題、JCOGからのものをご紹介したい。JCOG1017試験は初発IV期乳がんに対する原発巣切除の意義を検証した試験である。これまで、インドやトルコ、あるいはECOG、ABCSGなど、さまざまな国、臨床試験グループから原発巣切除の意義を検証した試験が公表されている。ただ、それぞれの試験ごとに、薬剤感受性を見たうえでランダム化、あるいは診断時点でランダム化し手術を実施など、かなり背景が異なっていた。それに伴い、トルコの研究以外はいずれも原発巣切除の意義を示せていない。JCOG1017では1次登録のうえで初期薬物療法を実施し、病勢進行とならなかった症例を2次登録し、手術群、非手術群にランダム化した第III相試験である。570例が1次登録され、407例が2次登録、非手術群に205例、手術群に202例が割り付けられた。手術群のうち、実際に手術が実施された症例は173例であった。切除は乳房病変のみであり、腋窩郭清は実施されなかった。主要評価項目である生存期間(OS)中央値は非手術群で68.7ヵ月、手術群で74.9ヵ月(HR:0.857、95%CI:0.686~1.072、p=0.3129)と両群間の差は認めなかった。手術群において、断端陽性は断端陰性と比較して有意にOSが不良であった。5年局所制御率は非手術群で18.7%、手術群で53.2%(HR:0.415、95%CI:0.327~0.527、p<0.0001)と手術群で良好であった。OSに対するサブグループ解析では、閉経前症例、転移臓器が1個までの症例で良好な傾向であった。以上から、ECOG2108試験などと同様、原発巣切除はすべての初発IV期乳がんに推奨できるものではないと結論付けられた。しかしながら、一部の症例においては、とくに局所制御において原発巣切除がオプションになりうると考えられ、今後この重要な結果をどのように臨床で活かしていくかについて深い議論が必要であろう。

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