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既治療のHR+/HER2-転移乳がんへのSG、OSを改善(TROPiCS-02)/Lancet

 sacituzumab govitecan(SG)は、ヒト化抗Trop-2モノクローナル抗体と、トポイソメラーゼ阻害薬イリノテカンの活性代謝産物SN-38を結合した抗体薬物複合体。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のHope S. Rugo氏らは、「TROPiCS-02試験」において、既治療のホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)の切除不能な局所再発または転移のある乳がんの治療では、本薬は標準的な化学療法と比較して、全生存期間(OS)を有意に延長し、管理可能な安全性プロファイルを有することを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年8月23日号で報告された。9ヵ国の非盲検無作為化第III相試験 TROPiCS-02試験は、北米と欧州の9ヵ国91施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2019年5月~2021年4月に患者を登録した(Gilead Sciencesの助成を受けた)。 対象は、HR+/HER2-の切除不能な局所再発または転移のある乳がんで、内分泌療法、タキサン系薬剤、CDK4/6阻害薬による治療を1つ以上受け、転移病変に対し2~4レジメンの化学療法を受けており、年齢18歳以上で全身状態が良好な(ECOG PS 0/1)患者であった。 被験者を、sacituzumab govitecan(10mg/kg、21日ごとに1日目と8日目)または化学療法の静脈内投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。化学療法群は、担当医の選択でエリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれかの単剤投与を受けた。 主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS、すでに発表済みで、本論では報告がない)で、主な副次評価項目はOS、客観的奏効率(ORR)、患者報告アウトカムであった。 543例を登録し、sacituzumab govitecan群に272例(年齢中央値57歳[四分位範囲[IQR]:49~65]、男性2例)、化学療法群に271例(55歳[48~63]、3例)を割り付けた。全体の進行病変に対する化学療法のレジメン数中央値は3(IQR:2~3)で、86%が6ヵ月以上にわたり転移病変に対する内分泌療法を受けていた。ORR、全般的健康感/QOLも良好 追跡期間中央値12.5ヵ月(IQR:6.4~18.8)の時点で390例が死亡した。OS中央値は、化学療法群が11.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.1~12.7)であったのに対し、sacituzumab govitecan群は14.4ヵ月(13.0~15.7)と有意に改善した(ハザード比[HR]:0.79、95%CI:0.65~0.96、p=0.020)。生存に関するsacituzumab govitecan群の有益性は、Trop-2の発現レベルに基づくサブグループのすべてで認められた。 また、ORRは、化学療法群の14%(部分奏効38例)と比較して、sacituzumab govitecan群は21%(完全奏効2例、部分奏効55例)と有意に優れた(オッズ比[OR]:1.63、95%CI:1.03~2.56、p=0.035)。奏効期間中央値は、sacituzumab govitecan群が8.1ヵ月、化学療法群は5.6ヵ月だった。 全般的健康感(global health status)/QOLが悪化するまでの期間は、化学療法群が3.0ヵ月であったのに対し、sacituzumab govitecan群は4.3ヵ月であり、有意に良好であった(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.0059)。また、倦怠感が悪化するまでの期間も、sacituzumab govitecan群で有意に長かった(2.2ヵ月 vs.1.4ヵ月、HR:0.73、95%CI:0.60~0.89、p=0.0021)。 sacituzumab govitecanの安全性プロファイルは、先行研究との一貫性が認められた。sacituzumab govitecan群の1例で、治療関連の致死的有害事象(好中球減少性大腸炎に起因する敗血症性ショック)が発現した。 著者は、「これらのデータは、前治療歴を有する内分泌療法抵抗性のHR+/HER2-の転移乳がんの新たな治療選択肢としてのsacituzumab govitecanを支持するものである」としている。なお、sacituzumab govitecanは、米国では2023年2月、EUでは2023年7月に、内分泌療法ベースの治療と転移病変に対する2つ以上の全身療法を受けたHR+/HER2-の切除不能な局所再発または転移のある乳がんの治療法として承認されている。

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薬物+EC-ICバイパス術、ICA・MCA閉塞患者の脳卒中を抑制するか/JAMA

 内頸動脈(ICA)または中大脳動脈(MCA)にアテローム性動脈硬化症による閉塞を有し、患部に血行動態不全を認める症候性の患者においては、薬物療法(内科的治療)に頭蓋外-頭蓋内(EC-IC)バイパス術を併用しても、内科的治療単独と比較して脳卒中または死亡の発生を抑制しないことが、中国・National Center for Neurological DisordersのYan Ma氏らが実施した「CMOSS試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2023年8月22・29日合併号に掲載された。中国の13施設で行われた無作為化試験 CMOSS試験は、中国の13施設が参加した非盲検(アウトカム評価者盲検)無作為化試験であり、2013年6月~2018年3月に患者を登録した(中国国家衛生健康委員会の助成を受けた)。 対象は、年齢18~65歳、CT灌流画像上の血行動態不全に起因する一過性脳虚血発作または後遺障害のない虚血性脳卒中を認め、デジタルサブトラクション血管造影検査で片側性のICAまたはMCAの閉塞がみられ、修正Rankin尺度(mRS)スコアが0~2点の患者であった。 被験者を、EC-ICバイパス術+内科的治療を行う群(手術群)、または内科的治療のみを行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。内科的治療は、ガイドラインに基づき、抗血小板療法と脳卒中のリスク因子を管理するための薬物療法(必要に応じて高LDLコレステロールや高血圧の治療薬を使用)が行われ、禁煙(カウンセリング、経口禁煙補助薬)および減量(行動変容、薬物療法)が推奨された。 主要アウトカムは、無作為化から30日以内の脳卒中または死亡と、31日~2年までの同側の虚血性脳卒中の複合であった。9項目の副次アウトカムにも有意差なし 324例(年齢中央値52.7歳、男性79.3%)を登録し、手術群に161例、内科的治療群に163例を割り付けた。309例(95.4%)が試験を完遂した。 主要複合アウトカムは、手術群8.6%(13/151例)、内科的治療群12.3%(19/155例)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(発生率の群間差:-3.6%[95%信頼区間[CI]:-10.1~2.9]、ハザード比[HR]:0.71[95%CI:0.33~1.54]、p=0.39)。 30日以内の脳卒中または死亡は、手術群6.2%(10/161例)、内科的治療群1.8%(3/163例)で、31日~2年までの同側の虚血性脳卒中は、それぞれ2.0%(3/151例)、10.3%(16/155例)で発生した。 事前に規定された9項目の副次アウトカムはいずれも有意差を示さなかった。たとえば、2年以内のあらゆる脳卒中または死亡は、手術群9.9%(15/152例)、内科的治療群15.3%(24/157例)で発生し(発生率の群間差:-5.4%[95%CI:-12.5~1.7]、HR:0.69[95%CI:0.34~1.39]、p=0.30)、2年以内の致死的脳卒中は、それぞれ2.0%(3/150例)、0%(0/153例)で発生した(発生率の群間差:1.9%、95%CI:-0.2~4.0、p=0.08)。 著者は、「今後の試験でバイパス術を検討する際は、より大きなサンプルサイズ、バイパス術が最も有効な患者を同定するためのより精緻な患者選択基準の確立、バイパス術の至適なタイミングの解明、より長期の追跡期間が必要となるだろう」としている。

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英文校正にChatGPTを利用する【医療者のためのAI活用術】第4回

(1)ChatGPTは文章の校正が得意英語で論文や症例報告を執筆するのは、英語が第2言語である日本人の多くの方にとって苦痛に感じるかもしれません。ChatGPTは文章の校正や書き換えに向いており、とくに英語での質は高く、英文校正や文章のブラッシュアップに活用することができます。自分の書いた英語に自信がない時や、他の人に見せる前に間違いを修正しておきたい場合などに、ChatGPTに英文校正を依頼することができます。(2)ChatGPTを論文の英文校正に使用して良いか?ChatGPTをはじめとした生成系AIを学術論文などの執筆目的で使用して良いかは議論の的となっており、文章が盗用にあたる懸念があるといった理由で、使用を禁止している学術雑誌もあります1)。使用に関する方針は学会や雑誌ごとに異なり、たとえば、2023年に開催される機械学習に関する国際学会では、ChatGPTなどの大規模言語モデルを用いて文章を1から作成することは禁止していますが、自分自身が作成した文章の推敲に使用することは許容されるとしています2)。論文に使用する場合には投稿先の雑誌の投稿規定を確認し、使用した場合にはAcknowledgement(謝辞)にその旨を記載するという対応が妥当かと思われます。(3)英文校正プロンプトの具体例今回も前回に引き続き、「深津式プロンプト」を用いて、英文校正を行うためのプロンプトを具体的に紹介します。#役割あなたはプロの英文校正者です#命令書入力文の英文校正を行ってください#制約条件出力は英語で行ってください文法ミスやスペルミスを修正してくださいアカデミックな単語を使用しつつ、わかりやすい表現にしてください修正した部分は修正前、修正後、修正した理由をまとめて表にしてください#入力文○○○(ここに校正したい文章を入力する)出力は当然英語で行いたいのですが、制約条件の部分に「出力は英語で行ってください」という箇条書きを追加すれば、指示は日本語で行うことができます。また、「修正した理由を表でまとめてください」といった指示を追加すると、理由を説明してくれるため、英語学習にも役立ちます。実際にChatGPT(GPT-4)を用いて英文校正を行った例を図1に示しています。修正前の文章に含まれていた単数形や複数形、副詞と形容詞の違いなど、間違いがあった部分を修正してくれています。また、修正した文章の後に図2のように、修正箇所と修正した理由を指示どおり表示してくれます。ただし、修正後の文章が正確であるという保証はなく、修正後の文章のダブルチェックが必要です。とくに、医学用語や固有名詞を他の単語に置き換えてしまい、本来の意図と異なった文章になる場合があるため注意しましょう。(図1)ChatGPTを用いた英文校正結果 画像を拡大する(図2)ChatGPTを用いた英文校正(修正箇所とその理由)画像を拡大する1)Thorp HH. Science. 2023;379:313.2)Fortieth International Conference on Machine Learning. 「Clarification on Large Language Model Policy LLM」.(2023年7月6日参照)

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退院後の統合失調症患者における経口剤と持効性注射剤の治療継続率

 退院後の統合失調症患者におけるその後の治療継続は、患者および医療関係者、医療システムにとって問題である。これまでの報告では、第2世代抗精神病薬(SGA)の長時間作用型注射剤(LAI)は、経口非定型抗精神病薬(OAA)と比較し、治療アドヒアランスの改善や再入院リスクの軽減に有効である可能性が示唆されている。米国・Janssen Scientific AffairsのCharmi Patel氏らは、米国におけるSGA-LAIとOAAで治療を開始した統合失調症患者における、アドヒアランスと再入院リスクの比較検討を行った。その結果、統合失調症患者は、入院中に開始した抗精神病薬を退院後も継続する可能性が低かったが、SGA-LAI治療患者では、抗精神病薬の順守や外来通院を継続する可能性が高く、OAA治療患者よりも退院後ケアの継続性が向上する可能性が示唆された。Current Medical Research and Opinion誌8月号の報告。 統合失調症関連で入院中に、新たにSGA-LAIまたはOAAによる治療を開始した成人統合失調症患者を、HealthVerityデータベースより抽出した。期間は2015~20年、インデックス日は退院日とした。対象は、入院前および入院時から退院後6ヵ月間、健康保険に継続加入しており、入院前の6ヵ月間でSGA-LAIまたはOAA以外の抗精神病薬の処方データが1件以上の患者。抗精神病薬の使用とアドヒアランス、統合失調症関連の再入院と外来通院について、退院後6ヵ月間の比較を行った。コホート間の特性は、逆確率重み付けを用いて調整した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、SGA-LAI群は466例、OAA群は517例であった。・入院中に開始した抗精神病薬について、退院後に薬局または医療請求があった患者は、SGA-LAI群で36.9%、OAA群で40.7%であった。そのうち、SGA-LAI群は、OAA群と比較し、抗精神病薬を順守する可能性が4.4倍高かった(20.0% vs.5.4%、p<0.001)。・SGA-LAI群は、OAA群と比較し、薬局または医療請求を行う可能性が2.3倍高く(82.7% vs.67.9%、p<0.001)、いずれかの抗精神病薬を順守する可能性が3.0倍高かった(41.5% vs.19.1%、p<0.001)。・SGA-LAI群とOAA群の再入院率は、退院7日後で1.7% vs.4.1%、退院30日以内で13.0% vs.12.6%であった。・SGA-LAI群は、OAA群と比較し、外来受診する可能性が51%高かった(36.3% vs.27.4%、p=0.044)。

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コロナ後遺症、1年後は約半数、急性期から持続は16%/CDC

 米国疾病予防管理センター(CDC)が実施したコロナ罹患後症状(コロナ後遺症、long COVID)に関する多施設共同研究において、COVID-19に罹患した人の約16%が、感染から12ヵ月後も何らかの症状が持続していると報告した。また、感染から一定期間を置いて何らかの症状が発症/再発した人を含めると、感染から12ヵ月時点での有病率は約半数にも上った。本結果はCDCのMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)誌2023年8月11日号に掲載された。コロナ後遺症で何らかの症状が発症/再発した人は1年後で約半数に上った 本研究では、前向き多施設コホート研究であるInnovative Support for Patients with SARS-CoV-2 Infections Registry(INSPIRE)の2020年12月~2023年3月のデータが用いられた。米国8施設において、研究登録時に新型コロナ様症状を発症した18歳以上の1,296例(SARS-CoV-2検査陽性1,017例と検査陰性279例)を対象に、長期症状および転帰を評価した。ベースライン調査、3ヵ月、6ヵ月、9ヵ月、12ヵ月時点の追跡調査を行い、継続する症状と、新たに発症/再発した症状を区別した。アウトカムは自己申告による8カテゴリーの症状:(1)頭、目、耳、鼻、喉(HEENT)、(2)体質、(3)肺、(4)筋骨格系、(5)消化器、(6)循環器、(7)認知障害、(8)極度の疲労。検査陽性群と検査陰性群の統計学的比較はχ2検定を用いて評価した。追跡期間中にSARS-CoV-2検査結果が陽性になった参加者は解析から除外した。 コロナ後遺症に関する多施設共同研究の主な結果は以下のとおり。・6,075例が登録され、12ヵ月間のすべての調査を完了し、追跡期間中にコロナに再感染しなかった参加者は1,296例。女性67.4%(842例)。非ヒスパニック系白人72%(905例)。年齢の比率は、18~34歳39.3%、35~49歳31.1%、50~64歳20.7%、65歳以上8.7%。・検査陽性群では、検査陰性群と比べて女性の割合が低く(陽性群:65.2% vs.陰性群75.2%、p<0.01)、既婚またはパートナーと同居(60.3% vs.48.9%、p<0.01)、コロナ急性期症状での入院(5.6% vs.0.4%、p<0.01)の割合が高かった。・症状の持続について、ベースライン時では陽性群のほうが陰性群よりも各症状カテゴリーの有病率が高く、3ヵ月時点で大幅に減少し、6~12ヵ月にかけて徐々に減少し続けた。・12ヵ月時点で、何らかの症状が急性期から持続していると報告したのは、陽性群18.3%、陰性群16.1%で、統計学的な有意差は認められなかった。・12ヵ月時点での「極度の疲労」の持続は、陰性群が有意に高かった(陽性群3.5% vs.陰性群6.8%)。・感染から一定期間を置いて何らかの症状が発症/再発した人は、陽性群と陰性群共に、12ヵ月時点で約半数に上った。・感染から一定期間後の症状の発症/再発について、症状カテゴリー別の有病率は、陽性群と陰性群共に、「極度の疲労」以外は各検査時点で同程度であった。・「極度の疲労」の有病率は、9ヵ月と12ヵ月時点において、陽性群よりも陰性群のほうが高かった。 著者は本結果について、「陽性群と陰性群を評価した本調査において、多くの参加者は急性期から6ヵ月以上経て新たな症状を経験しており、コロナ後遺症の有病率は相当なものである可能性が示唆された。認知障害と極度の疲労は、6ヵ月後に出現する一般的な症状だ。時間の経過とともに消失する症状と出現する症状を区別することは、コロナ後遺症を特徴付けるのに役立つ。一方、単一時点での測定は、疾病の真の影響を過小評価したり、誤った特徴付けをしてしまうことを示唆している」としている。

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がん患者の血栓症再発、エドキサバン12ヵ月投与が有効(ONCO DVT)/ESC2023

 京都大学の山下 侑吾氏らは、下腿限局型静脈血栓症 (DVT)を有するがん患者に対してエドキサバンによる治療を行った場合、症候性の静脈血栓塞栓症(VTE)の再発またはVTE関連死の複合エンドポイントに関して、12ヵ月投与のほうが3ヵ月投与よりも優れていたことを明らかにした。本結果はオランダ・アムステルダムで8月25~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology(ESC、欧州心臓学会)のHot Line Sessionで報告され、Circulation誌オンライン版2023年8月28日号に同時掲載された。 抗凝固療法の長期処方は、血栓症の再発予防にメリットがある一方で出血リスク増加が危惧されており、その管理方針には難渋することが多いが、日本国内だけではなく世界的にもこれまでにエビデンスが乏しい領域であった。とくに、比較的軽微な血栓症を有するがん患者における抗凝固薬の使用については、ガイドラインでも投与期間を含めた明確な治療指針については触れられていない現状があることから、同氏らはがん患者における下腿限局型DVTに対する抗凝固療法の最適な投与期間を明らかにする大規模なランダム化比較試験を実施した。 本研究は日本国内60施設で行われた医師主導型の多施設共同非盲検化無作為化第IV相試験で、下腿限局型DVTと新規に診断されたがん患者を、エドキサバン治療12ヵ月(Long DOAC)群または3ヵ月(Short DOAC)群に1:1に割り付けた。主要評価項目は12ヵ月時点での症候性VTEの再発またはVTE関連死の複合エンドポイントで、主な副次評価項目は12ヵ月時点での大出血(国際血栓止血学会の基準による)とした。 主な結果は以下のとおり。・2019年4月~2022年6月までの601例がITT解析対象集団として検討された。エドキサバン12ヵ月群には296例、3ヵ月群には305例が割り付けられた。・対象者の平均年齢は70.8歳で28%が男性だった。全体の20%がベースライン時点でDVTの症状を呈していた。・症候性のVTE再発またはVTE関連死は、エドキサバン12ヵ月群で296例中3例(1.0%)、エドキサバン3ヵ月群で305例中22例(7.2%)発生した(オッズ比[OR]:0.13、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44)。・大出血は12ヵ月群では28例(9.5%)、3ヵ月群では22例(7.2%)で発生した(OR:1.34、95%CI:0.75~2.41)。・事前に指定されたサブグループは、主要評価項目の推定値に影響を与えなかった。 山下氏は、「がん患者では軽微な血栓症でもその後の血栓症悪化のリスクが高い、というコンセプトを証明した試験であり、下腿限局型DVTを有するがん患者においては、抗凝固療法による再発予防がなければ、その後の再発リスクは決して低くはないことが示された」とまとめた。一方で、「統計学的な有意差は認めなかったが、抗凝固療法に伴う出血リスクも決して無視することはできないイベント率であり、本研究の結果を日常臨床に当てはめる際には、やはり血栓症リスクと出血リスクのバランスを考慮したうえで、患者個別レベルでの検証が必要であり、とくに出血リスクの推定が重要であると考えられる。同研究からさまざまなサブ解析を含めた検討が共同研究者により開始されているが、今後それらの検討結果を含めてさらなる検証を続けたい」と述べた。 最後に、「本研究は、がん関連血栓症を専門とする数多くの共同研究者が日本全体で集結し、その多大な尽力により成り立っている。日本の腫瘍循環器領域における大きな研究成果が、今回日本から世界に情報発信されたが、そのような貴重な取り組みに関与させていただいた1人として、すべての共同研究者、事務局の関係者、および本研究に参加いただいた患者さんに何よりも大きな感謝を示したい」と締めくくった。

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ファイザーXBB.1.5対応ワクチン、EMAで生後6ヵ月以上に推奨

 米国・Pfizer社とドイツ・BioNTech社は8月30日付のプレスリリースにて、両社のオミクロン株XBB.1.5対応1価の新型コロナワクチン「COMIRNATY Omicron XBB.1.5」について、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)が、5歳以上に対して、過去の新型コロナワクチンの接種歴の有無にかかわらず単回投与すること、および生後6ヵ月~4歳の小児に対して、過去の接種回数に応じて投与することを推奨したと発表した。欧州委員会(EC)は本推奨を検討のうえ、承認について近く最終決定を下す予定。 本ワクチンの生後6ヵ月~4歳の小児への投与は、初回シリーズ(3回)のうちの一部または3回すべて、もしくは初回シリーズが完了している小児や感染歴のある小児に対しては、追加接種として単回投与することが推奨されている。 CHMPの推奨は、両社の新型コロナワクチンの安全性と有効性を支持するこれまでの臨床試験、非臨床試験、およびリアルワールドデータのエビデンスに基づく。これらのデータには、XBB.1.5対応1価ワクチンが、BA.4/5対応2価ワクチンと比較して、XBB.1.5、XBB.1.16、XBB.2.3を含む複数のXBB亜系統に対してより優れた反応を示す前臨床試験のデータも含まれている。同試験のデータでは、世界保健機関(WHO)によって「注目すべき変異株(VOI)」に指定されているEG.5.1(エリス)に対しても有効性を示すことが認められている。 本XBB.1.5対応1価ワクチンは、米国でも生後6ヵ月以上を対象として米国食品医薬品局(FDA)に申請されており、近く承認が決定される予定。日本を含む世界各地の規制当局にも申請中だ。

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新型コロナウイルスに伴う肺炎で入院した患者を対象に、標準治療に免疫調整薬を併用した効果(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、2020年10月から2021年12月までに新型コロナウイルス肺炎で入院した患者に対して、標準治療に加えて、アバタセプト、cenicriviroc、あるいはインフリキシマブを追加した治療群とプラセボ群を比較した試験であり、和文要約は「コロナ肺炎からの回復、アバタセプトやインフリキシマブ追加で短縮せず/JAMA」にまとめられている。 本研究は、マスタープロトコルを使用したランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験で、プライマリーエンドポイント(1次アウトカム)は新型コロナウイルス肺炎からの28日目までの回復期間(8段階の順序尺度を使用して評価)と設定されたが、標準治療にアバタセプト、cenicriviroc、あるいはインフリキシマブを追加してもプラセボ群に比較して短縮しなかった。しかし、本研究結果のうち、アバタセプトとインフリキシマブのセカンダリーエンドポイント(2次アウトカム)である28日死亡率および14日後の臨床状態は、統計的な有意差こそ認められなかったものの、プラセボに対しては良好な結果だった。 今回の試験結果は、1次アウトカムに対する効果を示せなかったが、2次アウトカムは良好そうに見える結果でもあり、単純にNegative studyと片付けてしまわずに、今回のような結果になった理由を考える必要はあるだろう。本論文のEDITORIAL(Kalil AC, et al. JAMA. 2023;330:321-322.)でも、この1次アウトカムと2次アウトカムのねじれに対する解釈を提案している。 さて、本研究結果ではアバタセプトとインフリキシマブのセカンダリーエンドポイントは良好に見えたと記載はしたものの、この結果のみでは実臨床で新型コロナウイルスに伴う肺炎患者に対する臨床プラクティスを変更するほどの影響はないと考える。 では、今後どのような研究結果が判明すれば臨床プラクティスを変更しうるかを考えてみる。まずアウトカムは、今回のセカンダリーアウトカムである28日死亡率の低下や14日後の臨床状態の改善を設定することがよいだろう。そして、本研究で有意差を示すことができなかった理由は、検出力が不足していた可能性が考えられる。本研究結果を参考に28日死亡率の低下、14日後の臨床状態の改善で有意差を示すことができる参加者人数を再計算して、臨床試験を実施し、アウトカムの改善を再現することができれば、臨床のプラクティスとして検討してもよさそうである。 ただし、2023年8月の本原稿執筆時点としては、わざわざそのような臨床試験を行うメリットは乏しいと考える。 理由を説明するうえで、新型コロナウイルス肺炎に対する免疫抑制薬・免疫調整薬の役割について振り返ってみようと思う。重症COVID-19患者では、肺障害および多臓器不全をもたらす全身性炎症反応が宿主免疫反応により発現するが、コルチコステロイドの抗炎症作用薬が有効であることがRECOVERY試験(RECOVERY Collaborative Group. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)で示された。本邦でも中等症II以上の患者で、宿主免疫反応に対して、抗ウイルス薬のレムデシビルと共にデキサメタゾンやバリシチニブ(Kalil AC, et al. N Engl J Med. 2021;384:795-807., Wolfe CR, et al. Lancet Respir Med. 2022;10:888-899.)が用いられている。その後、ステロイド薬とトシリズマブの併用により全死亡率が低下する可能性も示唆され(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2021;397:1637-1645., WHO Rapid Evidence Appraisal for COVID-19 Therapies (REACT) Working Group. JAMA. 2021;326:499-518.)、本邦の「COVID-19に対する薬物治療の考え方」や、米国国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)の「COVID-19治療ガイドライン」でもデキサメタゾン、バリシチニブ、トシリズマブは治療薬の候補に記載されている。 中等症II以上の新型コロナウイルス肺炎に対する治療薬としては、上記のようにエビデンスのある薬剤がすでにあり、これらの薬剤の効果を上回ることが期待される薬剤でなければ、わざわざ費用をかけて臨床試験を行うメリットは乏しいだろう。 また、新型コロナウイルスの変異株の特徴とワクチン・抗ウイルス薬の効果についても考えてみる。 宿主免疫反応による肺炎による死亡者の増加は、主にデルタ株流行下以前で問題となることが多かった。現在の本邦における新型コロナウイルスの亜系統検出割合はEG.5.1を含めたXBB系統が上昇傾向であり、免疫回避の高いオミクロン株が主流である(国立感染症研究所感染症疫学センター. 新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報: 発生動向の状況把握. 2023年第31週[2023年7月31日~2023年8月6日])。オミクロン株流行下でも、まれにデルタ株流行下のようなCOVID-19肺炎患者を診療する機会はあるが、頻度は低く、本研究の対象となったようなCOVID-19に対する宿主免疫反応が原因で中等症Ⅱ~重症となるような患者層は、適切なワクチン接種や抗ウイルス薬の投与が行われるならば、今後も臨床現場で診療する機会は以前よりは少なくなると考える。 以上より、本研究は、臨床診療を担当する立場からは本邦の新型コロナウイルス感染症治療に与える影響は乏しい試験と考えるが、臨床研究を担当する立場としては、パンデミック状況下で複数の治療候補薬がある際に、適切かつ効果的なランダム化プロセスとバイアスを最小限にする工夫をした試験であり、今後の臨床研究でも参考にすることができる研究デザインと考える。

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第60回 新型コロナBA.2.86「ピロラ」が結構マズイ説

「ピロラ」Unsplashより使用先週EG.5通称「エリス」の話をしたばかりですが、BA.2.86通称「ピロラ」がネット上で結構話題になっています。な、なんだ「ピロラ」って…と思って調べてみたら、ギリシャ神話と関係なさそうな感じです。どうやら、小惑星の名前から付けたということが命名者のポスト(ツイート)に書かれていました。(参考:Wikipedia 1082 Pirola)8月30日の時点で、GISAIDにはBA.2.86は21株が登録されており、デンマーク10株、アメリカ3株、南アフリカ2株、スウェーデン2株、ポルトガル2株、イスラエル1株、イギリス1株です。日本からの検出はありませんが、アメリカの症例は日本からの渡航例です。離れた地域から短期間にこれだけ検出されていることや、以下に述べる変異部位の多さによる免疫回避能の強さを考えると、ビビっている専門家が多いのがこの変異ウイルスです。変異が多いオミクロン株BA.2の子孫に当たるBA.2.86「ピロラ」ですが、変異部位が多いです。過去に流行したオミクロン株の系統は、直前の流行株と比べてスパイクタンパクにわずかな変異がある程度だったのですが、BA.2.86はオミクロン株BA.1が登場したときと同じくらいのインパクトの変異数です。BA.2.86「ピロラ」の特徴1,2,3)BA.2.86は変異部位が多く、祖先と思われるBA.2や現在流行しているXBB系統の変異型とも離れている。ゲノムサーベイランスを実施している複数の国で、渡航歴のない人にBA.2.86が急速に出現していることから、世界中で伝播していると推測される(アメリカでは日本からの渡航例で確認)。配列は世界中で類似しており、比較的最近出現し、急速に増加したことを示している。XBBと比べても、新たに34の変異を獲得しており、免疫回避能が大きい可能性がある。これまで効果が確認されている治療薬は有効である。新型コロナワクチン接種は重症化や入院予防に有効と考えられる。ほかの変異ウイルスと比べて重症化するというエビデンスはない。マスク等の有効な感染対策はこれまでどおりである。8月23日時点で、アメリカにおいて増えているCOVID-19入院例の原因はBA.2.86ではない(まだそこまで流行は拡大していない)。Nature誌のBA.2.86の解説3)によると、もしこの変異ウイルスが今後蔓延して、免疫回避能が高かったとしても、基本的に重症化する懸念は大きくないとされています。ただ、オミクロン株BA.1が登場したときのように、かなりの数の感染者が出てしまうことで、医療が再び逼迫する可能性はあります。現時点では、WHOはBA.2.86を監視下の変異株(VUM: Variants Under Monitoring)という位置付けにしています4)。参考文献・参考サイト1)UK Health Security Agency:Risk assessment for SARS-CoV-2 variant V-23AUG-01(or BA.2.86)2)CDC:Risk Assessment Summary for SARS CoV-2 Sublineage BA.2.863)Callaway E. Why a highly mutated coronavirus variant has scientists on alert. Nature. 2023 Aug 21.4)WHO:Currently circulating variants under monitoring(VUMs)(as of 17 August 2023)

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統合失調症患者の認知機能を含む症状に対するメトホルミンの影響~メタ解析

 統合失調症または統合失調感情障害患者の抗精神病薬誘発性メタボリックシンドローム(MetS)のマネジメントに対し、メトホルミンは優れた有効性を示す薬剤である。メトホルミンによる抗うつ効果や認知機能改善への影響も検討されているものの、これらの情報はシステマティックに評価されていなかった。イタリア・ミラノ大学のVera Battini氏らは、抗精神病薬治療中の統合失調症患者における認知機能およびその他の症状に対するメトホルミンの影響を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、統合失調症の認知機能やその他の症状に対し、メトホルミンのある程度の効果が確認された。メトホルミンの潜在的な薬理学的効果を明らかにするためには、適切な尺度を用いた長期にわたる研究が必要であるとしている。Frontiers in Psychiatry誌2023年7月12日号の報告。 2022年2月までに公表された、統合失調症および統合失調感情障害と診断された後、体重増加の治療のために抗精神病薬の追加療法としてメトホルミン治療を実施した患者を対象に、精神症状および認知機能の変化を評価したランダム化比較試験(RCT)をPubMed、ClinicalTrials.gov、Embase、PsycINFO、WHO ICTRPのデータベースより検索した。 主な結果は以下のとおり。・該当したRCT19件のうち、適格基準を満たした12件をメタ解析に含めた。・安定期統合失調症患者において、24週間のメトホルミン治療により、良好な傾向が認められた(標準化平均差:-0.40[95%信頼区間[CI]:-0.82~0.01]、オッズ比:0.5[-2.4~3.4])。・統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)および陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)による評価は、研究間の不均一性が低く、より良い影響が確認された。・1つの研究では、プラセボにおいてBACSの言語記憶サブドメインの好ましい変化が報告されていた(平均差:-16.3[95%CI:-23.65~8.42])。・最も報告された副作用は、胃腸障害、口腔乾燥症、錐体外路症状であった。・精神医学的有害事象、とくに統合失調症の再発に起因する症状も報告されていた。

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高齢がん患者、米国における診療の工夫

 マサチューセッツ総合病院緩和老年医療科の樋口 雅也氏がナビゲーターとなり、医師、薬剤師、看護師などさまざまな職種と意見交換をしながら臨床に直結する高齢者診療の知識を学べる「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」。がんと老年医学をテーマにした回では、ゲストとしてダートマス大学腫瘍内科の白井 敬祐氏が参加し、米国における高齢者のがん診療の実際について紹介した。高齢のがん患者とのコミュニケーションにおける工夫は?白井氏:免疫療法などの進化によって、以前であれば予後が厳しかったがん種や進行がんでも、治療効果が見込めるケースが増えてきました。しかし、臨床試験の結果と目の前の患者さんにその薬が効くのかはまったく別問題。患者さんの期待値が上がっていることもあり、そのあたりの説明やコミュニケーションには気を遣っています。とくに高齢の患者さんには、5年生存率の平均値や中央値といった数字をそのまま伝えるだけでなく、自分が診療しているほかの患者さんの例を出して説明するなど、治療やその後の生活を具体的にイメージしやすいように工夫しています。実際の診療で気を付けていることは?白井氏:米国では「Shared Decision Making(SDM)」という考え方が浸透しており、医師は数多くの患者を診てきた専門家として情報提供やアドバイスをしつつ、患者や家族と一緒に意思決定することを目指しています。使う言葉も「Up to you.(あなたが決めてください)」ではなく「Up to us.(一緒に決めましょう)」といった、共同意思決定を促すものを意識して選ぶようにしています。 もう1つの工夫は、「がん以外の生活に目を向ける質問」を挟むことです。外来でフォローしている患者さんに対して「痛みや吐き気はどうですか?」といった診療に必要な質問のほかに、「前回の診察から、何か良いことはありましたか?」といったポジティブな気持ちになる質問をすることで、前向きに治療に臨めるような雰囲気づくりを心掛けています。がんになっても、できるだけ希望に沿った生活を続けられるよう、サポートすることが重要だと考えています。印象に残っている患者さんや事例は?白井氏:91歳でStageIVの肺がん患者の診療に4年近く当たっているのですが、彼は日本人の私に興味を持ってくれ、メジャーリーグの大谷選手が一面に載った新聞を持ってくるなど、診察のたびにいろいろな方法や話題でコミュニケーションをとってくれます。この方から「病気ではなく、その人個人への興味を持つ」ことの大切さを学びました。ほかにも患者さんから教わることは多いです。“Death ends life, but never ends relationship.”(死によって人生が終わっても、関係性はなくならない)という言葉が好きで、毎日それを実感しながら、診療に当たっています。 8月に配信された対談の後編では、米国のがん診療における多職種連携の実際、日本でも使えるチーム医療のコツを紹介している。■詳細は以下の番組(有料・申し込み要)CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン(シーズン2)

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4年ぶりの一時帰国、変わるもの、変わらないもの【臨床留学通信 from NY】第51回

第51回:4年ぶりの一時帰国、変わるもの、変わらないもの8月上旬に、日本に一時帰国しました。実に4年ぶり、2019年7月以来です。2020年2~3月から新型コロナが猛威を振るい始め、2022年9月までは日本入国時に陰性証明書も必要であったことから、一時帰国は控えていました。また、帰らなくなるとだんだんと米国に適合し、日本の良さを忘れてきてしまい、帰らなくてもいいかな、と思ってきてしまいます。両親などとはビデオチャットで話しているとはいえ、さすがに4年も帰らないのは、ということもあり、一念発起して家族共々一時帰国しました。昨今の物価上昇と、夏休みの時期というのもあり、直行便で2,000ドル(8月18時点で1ドル145円なので29万円!)とかなり高額です。そこはやむを得ません。帰国時にはビザの更新も原則必要で、円安の影響もあり家族4人で10万円以上かかります。実際に帰ると久々の時差ボケもありますが、とにかく暑かったです。連日35度を超えて干からびそうな日々でした。車の免許も切れてしまったため、更新するまで移動は歩きも多く疲弊してしまいました。コロナの影響のため、期限が切れてしまっていても特別処置で更新程度の手続きで済んだのはよかったです。ほかには暴飲暴食ではありませんが、普段あまり食べられない新鮮な納豆、生卵はもちろん、お寿司、焼肉、うなぎ、日本酒といったものを食べ過ぎてしまいました。日本ではマスクが多いと聞いておりましたが、電車でも予想よりマスクをしている人が少なかった印象で、暑さの影響もあるのでしょうか。滞在は2週間の休暇で子供たちと両親や親戚、祖母、姉家族と過ごしておりましたが、やはり両親や祖母が4年分歳を取ってしまったな、というところは認識せざるを得ませんでした。それでも孫、ひ孫を見せることができたのはよかったと思います。また少ない時間ではありますが、大学や初期研修の同期たちとも久々に会うことができ、そこはやはり変わらないなと思いました。日本の物価の安さも変わらないという印象で(それでも昨年以降は上がっているようですが)、ビッグマックの価格が欧米の6割程度とよく言われるように、欧米諸国からは安くて良いものが手に入る国として見なされてしまっているようです。私としては米国で働き続けるのか、選択肢を迫られた時にいろいろ考えさせられます。といっても、現在ドル建てでお給料をもらっていても余るどころか減る一方なので、足りない分を円から補おうとすると、現状では円安がつらいところです。一般的な臨床研究の留学は2~3年、基礎研究で3~5年でしょうか。渡米して6年目に突入するといろいろ考えることが増えてきます。ColumnCirculation誌の姉妹誌であるCirculation Cardiovasc Imaging 誌(IF 8.5)に、Montefioreの研究チームで投稿した冠動脈石灰化スコアに関する論文が、先日発表されました。私は主に解析を担当し、共同筆頭著者として参加しました。米国では予防循環器学(preventive cardiology)が発達しており、このような冠動脈の石灰化と予後をみるような研究が盛んに行われています。発症してしまったものを治すだけでなく、ならないようにどう予防するかが重要な時代になってきています。私のいる病院はマンハッタン島から北東にあるブロンクスというエリアで、ヒスパニック系や黒人が患者の4分の3を占めており、米国大都市の現状を反映していると思います。Fattouh M, Kuno T, et al. Interplay Between Zero CAC, Quantitative Plaque Analysis, and Adverse Events in a Diverse Patient Cohort. Circ Cardiovasc Imaging. 2023;16:e015236.

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英語プレゼン、数字の基本的な口語表現(6)知って得する豆知識【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第22回

英語プレゼン、数字の基本的な口語表現(6)知って得する豆知識今回は数字の表現において、知っておくと便利な「豆知識」をご紹介します。知っていなくてもコミュニケーションに支障がないものもありますが、覚えておけば、英語レベルを一段上げることができるはずです。画像を拡大する1)要注意発音:13 vs.30音の似ている“thirteen”、“thirty”。区別のためには、発音する際に「強調する位置」がきわめて重要です(13は後半、30は前半を強調します)。この2つの数字、伝達ミスの原因となりやすいことは広く認識されており、米国人同士の会話でも、比較的ゆっくり、明確に強調を置いて話されることが多いです。また、区別をより明確にするため、“thirteen, which is one-three”などのように、“thirteen”、“thirty”に続けて、一桁ずつ数字を読み上げることもよくあります。2)形容詞としての数字の使用:A 30-year-old man, a 30-minute infusion数字は、形容詞の一部として使用する場合は「単数形」です。日本語では基本的に複数形の概念がなく、「30歳の男性」と「その男性は30歳です」では「30歳」の部分には変化がないので、間違いに気付きにくいようです。複数形にしてしまっても多くの場合は文脈から通じますが、ネイティブには明確に違和感を持たれるので、英語の上級者になれば気を付けたい表現です。3)数字の表記:数字記号vs.単語学会上など英語のフォーマルな場では、「1~9(または10)までは単語で記載」し、「それ以上は数字記号で記載」する、という伝統的なルールがあります。たとえば、“There are 5 patients”ではなく、“There are five patients”と記載し、“There are 11 patients”はそのままです。日本でも米国でも、このルールに固執するベテラン医師はいます。しかし、近年ではなるべく数字記号で記載することが推奨されています。たとえば、医学論文執筆のルールブックとされる『AMA(American Medical Association) Manual of Style 11th edition』(2020年)では、以下のように記載されています。ただ実際は、医学雑誌ごとに推奨方法が異なっており、学会発表スライドは論文ほどにはフォーマルではないため、聴衆が読みやすいと思うほうを選択すればよいと思います。『AMA Manual of Style 11th edition』(2020年)より抜粋詳細は原文を参照Because numerals convey quantity more efficiently than spelled-out numbers, they are generally preferable in technical writing.(数字記号は数量をより効率的に伝達できるため、科学的な執筆においては、文字での記載よりも一般的に好ましい)In scientific writing, numerals are used to express numbers in most circumstances (eg, 5 not five).(科学的な執筆では数字を表現する多くの場合で数字記号が使用される[例:Fiveではなく5])Exceptions are the following:(以下を例外とする:)Numbers that begin a sentence, title, subtitle, or heading(文章、タイトルなどの先頭が数字の場合)Accepted usage, such as idiomatic expressions and numbers used as pronouns(一般に許容されている使用方法、たとえば、イディオムとしての数字表現や、代名詞としての使用)Ordinals first through ninth(1から9までの序数)4)慣習的な表現:1,000 vs.K英語のコミュニケーションでは、しばしば“K”という1文字で1,000を意味することがあります(“kilo”に由来)。論文などのフォーマルな場では避けるべきですが、米国のカルテなどでは多用されていますし、英会話でも、“5,000”を「ファイブ ケー」と読み上げる人も多くいるので、これも知っておいたほうがよい表現です。講師紹介

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中等症~重症の尋常性乾癬へのリサンキズマブ、5年追跡結果

 中等症~重症の尋常性乾癬患者に対するリサンキズマブ治療の長期安全性と有効性が報告された。最長5年の継続投与の忍容性は良好であり、持続的かつ高い有効性が示された。ベルギー・Alliance Clinical Research and Probity Medical ResearchのKim A. Papp氏らが、進行中の第III相非盲検延長試験「LIMMitless試験」の中間解析の結果をJournal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2023年8月6日号で報告した。乾癬は慢性の炎症性皮膚疾患で、長期にわたる治療が必要になることが多い。リサンキズマブはヒト化抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤で、IL-23のp19サブユニットに結合し、IL-23の作用を中和することで乾癬による皮膚症状や関節炎などを改善する。 LIMMitless試験は、中等症~重症の尋常性乾癬患者を対象に、リサンキズマブ150mg(12週ごとに皮下注射)の長期安全性と有効性を評価する国際共同単群評価試験。日本を含む17の国と地域で、先行する複数の第II/III相試験のいずれかを完了した患者が登録された。今回の中間解析では、304週間にわたる安全性(治療中に発生した有害事象[TEAE])を評価した。有効性は、256週間にわたって評価した。Psoriasis Area and Severity Index(PASI)スコアが90%以上または100%減少(PASI 90/100)、static Physician's Global Assessment(sPGA)スコアで皮膚病変が消失/ほぼ消失(sPGA 0/1)、およびDermatology Life Quality Index(DLQI)で生活への影響なし(DLQI 0/1)を達成した患者の割合を評価した。 主な結果は以下のとおり。・先行研究でリサンキズマブ群に無作為化された897例のうち、データカットオフ時点で治療を継続していたのは706例であった。・TEAE、投与中止に至ったTEAE、とくに注目すべきTEAEの発現率は、いずれも低率であった。・256週時点において、PASI 90、PASI 100達成患者の割合は、それぞれ85.1%、52.3%であり、sPGA 0/1達成患者の割合は85.8%、DLQI 0/1達成患者の割合は76.4%であった。

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日本人成人強迫症患者におけるADHD併発の影響

 これまでの研究において、小児および青年における強迫症と注意欠如多動症(ADHD)との関連が報告されている。しかし、成人における強迫症とADHDとの生涯併発率との関連を調査した研究は、ほとんどなかった。兵庫医科大学の宮内 雅弘氏らは、日本人成人強迫症患者におけるADHDの併発に関連する臨床的および精神病理学的特徴を調査した。Comprehensive Psychiatry誌2023年8月号の報告。 日本人成人強迫症患者93例を対象に、ADHDの生涯併発率を評価した。ADHDの特徴および重症度の評価には、コナーズ成人ADHD 評価スケール(CAARS)日本語版を用いた。ADHDではないがADHD特性レベルが上昇した患者は、調査結果から除外した。ADHDを伴う強迫症患者(ADHD+群)とADHD特性が認められない強迫症患者(ADHD-群)における背景プロファイルおよび強迫症状や心理学的検査結果などの臨床的特徴を比較した。さらに、6ヵ月間の治療結果を、両群間でプロスペクティブに比較した。 主な結果は以下のとおり。・強迫症患者93例のADHD生涯併発率は、16.1%と推定された。・ADHD+群は、ADHD-群と比較し、以下の特徴が確認された。 ●強迫症の発症年齢が低い ●ためこみ症(hoarding symptom)の頻度が高い ●抑うつ症状や不安症状レベルが高い ●QOL低下 ●衝動性レベルが高い ●物質依存症や行動依存症の割合が高い ●うつ病の割合が高い・ADHD+群は、ADHD-群よりも、強迫症に対する標準的治療6ヵ月後の Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale(Y-BOCS)平均改善率が有意に低かった(16.1% vs. 44.6%)。 著者らはこの結果から、「ADHDの併発は、成人強迫症患者の臨床的特徴や治療アウトカムに重大な影響を及ぼす可能性が示唆された。強迫症患者の全体的な臨床症状の重症化や治療抵抗性を引き起こす因子として、ADHDの根底にある病理学的特徴が関与している可能性があることを考慮することが重要である。このような患者の治療戦略を検討するには、さらなる研究が必要である」と述べている。

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旬をグルメしながらCVIT誌のインパクトファクター獲得を祝福する【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第63回

論文にも「旬」がある!?野菜や魚介類などの食材には「旬」が存在します。特定の食材がほかの時季と比べて収穫量が多く、新鮮でおいしく食べることができる時季のことです。各時季、各地域での旬の食材に精通することが、グルメの第一歩です。では、旬の期間はどの程度かご存じでしょうか。旬という言葉の本来の意味は10日間です。1ヵ月を3分し、それぞれの10日間を上旬、中旬、下旬というのは馴染みがあると思います。旬は思ったよりも短いのです。旬が存在するのは食材だけではありません。論文にも旬が存在します。論文の旬を強く意識するのがインパクトファクター(Impact Factor:IF)について考えるときです。IFは、第42回「インパクトファクターのインパクトを考える」でも紹介したとおり、学術誌の影響度を評価する指標です。IFの算出法を復習しましょう。ある学術誌Aは、2022年の掲載論文の総数が140件、2023年が160件であったとします。2年間で計300件です。この300件から、2024年の1年間に計600回引用されたとします。ジャーナルAの2024年のIFは、600÷300=2.0となります。つまり被引用論文数が分子に、掲載論文数が分母になります。IFの高いジャーナルは被引用論文数が多い、すなわち引用に値する質の高い論文が掲載されていることを意味します。CVIT誌が悲願のインパクトファクター獲得日本心血管インターベンション治療学会は、心血管疾患患者に対する有効かつ安全なカテーテル治療の開発と発展、臨床研究の推進などを目的とする学会です。私も学会役員として発展を願っております。本学会が刊行している英文の学術誌が「Cardiovascular Intervention and Therapeutics誌」(以下:CVIT誌)です。このように学会が発行する学会誌をofficial journalといいます。CVIT誌は、和文の学術誌として創刊時からVol.24まで発行され、2010年1月に上梓されたVol.25から英文誌になりました。英文誌の編集長は、初代が住吉 徹哉先生、次いで伊苅 裕二先生、現在は3代目の小林 欣夫先生です。学術誌の価値を意義付ける大きなステップとしてIF獲得があります。CVIT誌は、長年にわたり価値ある論文を発信してきましたが、IFを持っていなかったのです。IF獲得は学会員すべての悲願でした。ここで不思議に感じる人もいることでしょう。前述の計算式に従えば、すべての学術誌は、新規刊行から3年を経れば、各々のIF値を算出することは可能だからです。しかし、これは正式なIFではないのです。実は世界的に通用し評価の対象となるIFは、正しくはジャーナル・インパクトファクター(Journal Impact Factor:JIF)を指しているのです。JIFは、Clarivate社という企業が作成するWeb of Science Core Collectionのデータを土台としてIF値が算出され、同社がJIFとして認定したもののみが正式にIFを持つ雑誌として公表することができます。2023年6月に吉報が届きました。CVIT誌にJIF 3.2が認められたのです。CVIT誌の歴代の編集長と編集委員に敬意を表します。何よりも質の高い論文を投稿してくださった皆の努力の結集によって成し遂げたことです。心より祝福いたします。Congratulations!日本発ジャーナルの価値を高める方法は?まだここで満足して立ち止まってはいけません。JIFをさらに上げてCVIT誌の価値を高め、世界と戦う素地を作っていくべきです。具体的には何をすれば良いのか。それは、皆さんが執筆する論文にCVIT誌に掲載された論文を引用することです。論文の投稿先はCVIT誌である必要はありません。2023年8月に投稿すれば、順調にいったとしても、論文が実際に掲載されるのは2024年になる可能性が高いです。その論文に引用された文献がCVIT誌のJIFの向上に貢献するのは、CVIT誌に2022~23年に掲載された論文を引用した場合のみです。ここで最初に紹介した「旬」というキーワードが効いてくるのです。IFの観点からは、論文の旬は2年間しかないのです。とにかく、最新の論文を引用することが重要です。最近、どの学術誌でもガイドラインの改訂やコンセンサスドキュメントが増えています。これは最新の論文として引用してもらい、IFの向上を狙う意味もあるのです。もちろん、引用したくなるような質の高い論文をより多く掲載することが王道です。CVIT誌と同時に、日本不整脈心電学会の発行する「Journal of Arrhythmia誌」もJIFを認められました。おめでとうございます。このほか日本に編集本拠地があるJIFを持つ循環器領域ジャーナルとして「Circulation Journal 誌」「Journal of Cardiology誌」「Heart and Vessels誌」そして「International Heart Journal誌」などがあります。掲載論文に、同誌の過去号の論文を引用することを、自己引用(self-citation)といいます。自己引用はJIFの向上につながるとはいえ、ジャーナルの国際認知度向上にはあまり効果を発揮しません。同誌での引用ではなく他誌からの引用のほうが高評価だからです。過度の自己引用は、JIFの取り消しにもつながりかねません。ジャーナルの価値を高めるには、JIFを持つほかのジャーナルに論文が引用されることが大切です。日本人が運営している学術誌に複数の英文誌があることが、アジアの中でも日本の大きな強みです。日本人は日本人の論文をあまり引用しないと言われます。制度を十分に理解したうえで、日本人が相互の論文を積極的に引用し合うことによって、お互いのジャーナルの価値を高めていくことが可能となります。ひいては日本の研究活動の学術的意義の向上に結び付くことを期待します。

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アロマターゼ欠損症〔AD:Aromatase Deficiency〕

1 疾患概要■ 定義エストロゲン合成酵素(アロマターゼ)の活性欠損・低下により、エストロゲン欠乏とアンドロゲン過剰とによる症状を呈する遺伝性疾患である。染色体核型が女性型の場合は、性分化疾患(46,XX DSD)に分類される。生理的にエストロゲン合成が亢進する妊娠中と思春期~性成熟期に症状が顕性化する。女性患者と男性患者とで表現型が異なる。■ 疫学10万人に1人以下のまれな疾患である。これまでに30家系50人を超える患者が報告されている。当初はヨーロッパとヨーロッパからアメリカ大陸への移民者の報告が多かったが、最近ではアジア(中国やインド)からの報告も増えている。わが国からの報告はこれまでのところ1例のみである。■ 病因アロマターゼは、アンドロゲンを基質としてエストロゲンを産生する酵素である。アロマターゼ活性欠損により、エストロゲンが産生されずアンドロゲンが蓄積する。その結果、女性でエストロゲンの欠乏と男性ホルモンの過剰による症状が生じる。これに対し、男性ではエストロゲン欠乏による症状のみが生じる。■ 症状1)胎児ヒト胎児副腎は大量の副腎性アンドロゲン(dehydroepiandrosterone)を産生し、これが胎盤(胎児に由来する)のアロマターゼによりエストロゲンに転換される。胎児がアロマターゼ欠損症の場合には、アンドロゲンが蓄積して母体と胎児に男性化が生じる。胎児が女性の場合は、外性器が男性化する。母体では、妊娠中に男性化症状が増悪し、分娩後に軽快する。残存するアロマターゼ活性が1%を越えると、母体に男性化はみられないとされる。2)女性エストロゲンによって生じる二次性徴(初経や乳腺発育・女性型の皮下脂肪など)は欠如する。しかし、活性低下が軽い変異を有する症例では、初経発来や規則月経を呈することがある。エストロゲン補充が行われていない女性では、リモデリングの亢進を示す骨粗鬆症が認められる。女児では、外性器の男性化(Prader 分類II~IV/IV)が全例に認められる。ゴナドトロピンが上昇する前思春期頃から、卵巣に多房性嚢胞(一部は出血性)をみることがある。活性低下の強い症例(truncated type)では索状性腺をみることがある。3)男性男性患者では、出生時に症状はない。思春期に生理的な身長急伸を欠如するとともに、その後の伸長停止(骨端閉鎖)も欠如するのが特徴である。本来伸長が停止する16歳頃を過ぎても身長が伸び続け、高身長(時に2mを超える)・骨粗鬆症となって20歳台後半で診断される例が多い。しばしば、外反膝・類宦官症体型が認められる。肥満、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性、脂質異常症などの代謝異常を示すことも少なくない。また、巨精巣症・小精巣の報告もある。精子数減少を示唆する報告もあるが妊孕性の喪失はない。■ 分類初期の報告例は、アロマターゼ活性低下が高度でエストロゲンがほぼ欠損し、二次性徴を完全に欠如する症例(古典型)であった。その後、エストロゲン欠乏が軽度で、乳腺発育や月経発来といった二次性徴が部分的にみられる症例(非古典型)が報告された。遺伝子変異をtruncated variantsとnon-truncated variantとに分けて検討し、前者ではエストロゲン欠乏に関連する症状(原発性無月経や索状性腺)が強く、後者では症状が軽いとする報告もある。■ 予後本症の長期予後については不明であるが、これまでの情報を総合すると生命予後に直接影響を与えないと思われる。その一方で、エストロゲン低下に伴って生じる骨粗鬆症や脂質異常症などの代謝異常に対して、適切な管理を行い予防する必要がある。アロマターゼ活性低下の強い症例では、女性の妊孕能は低下する。活性低下の軽い症例の女性の妊孕性については不明である。男性患者では妊孕性の低下はみられない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床症状1)女性女性患者では、本症と診断されないまま無月経に対してエストロゲン投与が継続されていることがあり、その場合、臨床症状から本症を想定することは困難である。患児が本症に罹患している場合、妊娠中に母体の進行性男性化(活性低下の軽い例では欠如)と胎児外陰の男性化(全例にみられる)が診断の手掛かりになる。妊娠母体の男性化は、P450酸化還元酵素欠損症や妊娠黄体腫(母体卵巣)にもみられ鑑別が必要である。P450酸化還元酵素欠損症では、アロマターゼのほか複数のステロイド産生酵素の活性も低下し、性ステロイド以外のホルモンによる症状が出現する。2)男性妊娠母体の男性化症状とエストロゲン低値から胎児の罹患が疑われて、出生後早期に診断された男性患者も報告されているが、実際に出生時に診断される例は少ない。弟妹の女性発端者が手がかりとなって診断されることもある。思春期以降に身長の伸びが止まらず、高身長となって成人期に初めて診断されることが多い。思春期の身長急伸の欠如、成人期の骨端線閉鎖の欠如、高身長、骨粗鬆症が、本症を推定する手がかりとなる。肥満、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性、脂質異常症などの代謝異常の合併も診断の参考となる。■ ホルモン検査1)女性ゴナドトロピン値(FSH、LH)は成人に至るまで一貫して高値を示す。とくにFSH優位の高値を示すのが特徴である。一般に、出生後数週~6ヵ月頃にかけて、視床下部下垂体性腺系は生理的活性化(mini-puberty)を示し、ゴナドトロピンは一過性に上昇する。その後、視床下部下垂体性腺系は強く抑制される時期に入り、ゴナドトロピンは低値となる。前思春期に入ると抑制が徐々に解除され、ゴナドトロピンは上昇に転ずる。アロマターゼ欠損症のゴナドトロピンも同様の二相性変動を示すが、常に同年齢対照より高値を示す。アンドロゲン値も同年齢対照者より高く、同様の二相性の変動を示す。血中エストラジオールは一貫して同年齢対照より低値を示すが、基準域に近い値を示す症例もみられる。測定感度の問題もあり、エストラジオール単独での診断は難しい。FSH値の上昇は、エストロゲン欠乏や表現型の強さを反映し治療効果の指標になる可能性がある。2)男性FSHが高値を示す例は男性では60%で女性よりFSHの診断意義は低い。E2が測定感度以下となるのは男性患者の80%であり、除外診断には注意を要する。LHが高値を示す例は20%、Tが高値となるのは30%と少なく、除外診断には使いにくい。■ 遺伝子型本症の確定診断には、15q21.2にあるCYP19A1に活性喪失変異(loss-of-function mutation)を同定する。これまでに、1塩基置換によるミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライシング異常の他、1〜数塩基の欠失や挿入などさまざまな変異が報告されている。ヘテロは無症状で、ホモまたは複合ヘテロで症状が認められ、常染色体潜性(劣性)遺伝を示す。変異は酵素活性に関連するエクソン9に比較的多く認められるが、エクソン2を除きすべてのエクソンにほぼ均等に認められる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根本的な治療法はない。欠乏するエストロゲンによる諸症状・疾病の発生を予防するために長期のエストロゲン補充が行われる。■ 46,XX DSDほとんどが女性として育てられている。性自認は女性である。外陰形成術が施行される。性腺摘除が併施されることもある。二次性徴や骨量の獲得と維持を目的にエストロゲン(子宮を有する性成熟期女性ではプロゲスチンを併用)投与を行う。エストロゲン投与により、血清ゴナドトロピン値が正常化し、卵巣嚢胞は消失する。骨量も増加する。■ 46,XY最終身長の適正化と骨量増加・骨粗鬆症の予防を目的にエストロゲン投与を行う。思春期前からの治療では、少量のエストロゲン投与から開始し、漸増させて生理的時期での骨端閉鎖を促す。骨端閉鎖後は、経皮的にエストラジオール25μg/日を生涯にわたって投与する。思春期症例にエストロゲンを投与すると、身長の急伸、骨端閉鎖、骨量の増加といった生理的骨成長と同様の変化が認められる。成人では維持量の投与により、ゴナドトロピン値の正常化、脂質異常の改善、インスリン抵抗性の改善なども期待できる。4 今後の展望本症の発見は、骨におけるエストロゲンの生理的役割などの解明に大きく貢献した。エストロゲン補充により、症状の多くは軽減されるが、女性患者の妊孕性については回復が認められていない。本症の患者数は少なく、系統的な研究が困難である。5 主たる診療科内科、小児科、婦人科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター アンドロゲン過剰症(ゴナドトロピン依存性思春期早発症及びゴナドトロピン非依存性思春期早発症を除く)アロマターゼ欠損症は、小児慢性特定疾病対策事業においてアンドロゲン過剰症(ゴナドトロピン依存性思春期早発症およびゴナドトロピン非依存性思春期早発症を除く)の原因疾患の1つに包含されている。(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Shozu M, et al. J Clin Endocrinol Metab. 1991;72:560-566.2)Singhania P, et al. Bone Reports. 2022;17:101642.3)Stumper NA, et al. Clin Exp Rheumatol. 2023;41:1434-1442.4)Rochira V,et al. Nature Reviews Endocrinology 2009;5:559-568.公開履歴初回2023年8月29日

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英語で「詳細を教えてください」は?【1分★医療英語】第95回

第95回 英語で「詳細を教えてください」は?I don’t feel like eating recently.(最近、食欲がないんです)Could you elaborate on that?(もう少し詳しく教えてもらえますか?)《例文1》Could you explain further?(もっと説明してもらえますか?)《例文2》Could you tell me more about it?(それについてもう少し話してもらえますか?)《解説》問診において患者さんからオープンクエスチョンで情報収集することは非常に大切ですが、なかなか具体的な説明が伴わないこともよくあります。「もっと情報が欲しい」というときは、“Could you tell me more about it?”(それについて、もう少し話してもらえますか?)または“Could you explain further?”(もっと説明してもらえますか?)といった表現があります。そして、「もっと詳細を教えてほしい」と言いたい場合には、“Could you elaborate on that?”(それについて、もう少し詳しく教えてもらえますか?)、“Could you tell me in detail?”(詳細について話してもらえますか?)、“Could you break it down for me?”(詳しく教えてもらえますか?)などと表現することができます。“break it down”は「かみ砕いて話す」という意味になりますので、さらに内容を詳しく教えてほしいと言いたいときに使いやすい表現です。また、周辺の状況や背景について説明をしてほしい場合には、“Could you please give me a bit more background?”(もう少し状況について教えてもらえますか?)という言い方もできます。講師紹介

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第178回 老化に伴う難聴を脳のコレステロール補強で防ぎうる

老化に伴う難聴を脳のコレステロール補強で防ぎうる老化と関連する難聴は大問題であり、65歳を超える高齢者の約3人に1人が多かれ少なかれそうなります。難聴は聞こえにくくなるという不便さを強いることに加えて認知機能低下が早まることや認知症リスクの上昇とも密接に関連します。そういう大きな問題をはらむ老化関連難聴を脳のコレステロール補強といういとも手軽な方法で防げるかもしれないことがアルゼンチンのチームによるマウス実験で示されました1)。ちまたではコレステロールといえば悪者と相場が決まっていますが、神経細胞膜の要員の1つであり、神経細胞や膜連携タンパク質の機能に不可欠です。コレステロールはシナプス膜に豊富で、タンパク質複合体の数々に結合したり影響を及ぼしたりしてそれらの構造や振る舞い、活性を調節することが最近の研究で示されています。シナプス形成、細胞間相互作用、細胞内伝達に与するコレステロールを中枢神経系(CNS)は手ずから生成します。というのも末梢のコレステロールは血液脳関門(BBB)を通過できず、CNSは他所から調達することができないからです。ゆえに脳のコレステロール濃度は厳密に調節されており、その調節の乱れは認知機能障害や種々の神経変性疾患と関連することが知られています。脳のコレステロールは老化の影響も受けます。たとえば老化に伴って海馬のコレステロールが減ります。また、老人や神経変性疾患患者の脳のコレステロールは乏しいという検体解析結果も報告されています。老化と関連するコレステロール減少の原因の1つは海馬でのコレステロール水酸化酵素CYP46A1の増加です。マウス海馬シナプスの老化に伴うコレステロール減少が主にCYP46A1亢進に起因し、シナプス受容体の行き来や陥入を立ち行かなくし、記憶障害をもたらすことが確認されています。注目すべきことに、脳のコレステロールを底上げすることで老化マウスのシナプスや認知機能の不備を減らしうることが示されています。また、神経変性疾患の治療効果もあるらしく、ハンチントン病マウスのシナプスや認知機能が脳へのコレステロール運搬粒子で改善しました。老化関連難聴は内耳の蝸牛の外有毛細胞(OHC)の損失を発端の1つとします。音信号の増幅に携わるOHCの側壁は厳密な管理下のコレステロールを含み、OHC側壁のコレステロール含量の変化はOHC側壁内のモータータンパク質プレスチンの機能や配置に影響を及ぼすようです。しかし内耳の病変にコレステロール変動がどう寄与しているかはこれまで調べられたことはありません。そこでアルゼンチン・ブエノスアイレス大学のチームはコレステロール欠乏が内耳蝸牛の老化病変に寄与するとの仮説を立て、若いマウスと老化マウスの内耳のCYP46A1とコレステロール量を調べてみました。すると予想どおり高齢マウスの内耳のCYP46A1は若いマウスに比べて多く、コレステロールは逆に減っていました。続いて若いマウスのCYP46A1を過剰に活性化するとどうなるかが調べられました。その実験にはCYP46A1を活性化することが知られるHIV治療薬エファビレンツが使われました。若いマウスにエファビレンツを投与したところOHCのコレステロールが減り、プレスチンも乏しくなって配置が変わり、難聴がもたらされました。そして研究は脳のコレステロール補強の効果検討というクライマックスを迎えます。若いマウスへのエファビレンツ投与に伴う難聴を脳のコレステロール補強で防げるかどうかが調べられました。上述のとおりコレステロールは血中から脳に入れません。そこでコレステロールに似た構造と働きをし、BBBを通過して脳に到達できる植物ステロールに白羽の矢が立てられました。ここでも狙いどおりの結果が得られ、エファビレンツ投与マウスに植物ステロールを食べさせたところOHC機能が改善し、プレスチンの分布も正常化しました。最近ではエファビレンツが一翼を担うことが多い抗レトロウイルス薬ひとそろいを使用するHIV/AIDS患者に聴覚障害が多いことが報告されています。今回の結果によると植物ステロールがその予防や治療に役立つかもしれません。また、植物ステロールの服用は老化と関連する難聴の手軽な予防法となる可能性もあり2)、動物やヒトでのさらなる検討が期待されます。参考1)Sodero SO, et al. PLoS Biol. 2023;21:e3002257.2)Common supplements might reduce natural hearing loss / Eurekalert

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PCI後のステント血栓症、P2Y12阻害薬+コルヒチンで減少~MACT Pilot Study

 PCI後の急性冠症候群(ACS)患者において、PCI翌日からアスピリンを中止、P2Y12阻害薬(チカグレロルまたはプラスグレル)に低用量コルヒチン(0.6mg/日)の併用が有効であることがMACT (Mono Antiplatelet and Colchicine Therapy) Pilot Studyより明らかになった。Journal of the American College of Cardiology Cardiovascular Interventions誌2023年8月14日号掲載の報告。 韓国・高麗大学九老病院のSeung-Yul Lee氏らは、ACS患者に対しPCI直後のP2Y12阻害薬単独療法へのコルヒチン併用は実行可能性があるものなのかを調査するために本研究を行った。対象者は薬剤溶出性ステントで治療されたACS患者を含む200例。PCI翌日、アスピリンは中止し、P2Y12阻害薬による維持療法に加え低用量コルヒチンを投与した。 主要評価項目は、3ヵ月後のステント血栓症の発生で、重要な副次評価項目は、退院前にVerifyNowで測定した血小板反応性と、高感度C反応性蛋白(hs-CRP)の1ヵ月後の減少率。 主な結果は以下のとおり。・登録症例200例中190例(95.0%)で3ヵ月の追跡調査を完了し、その間にステント血栓症(1例)とステント血栓症疑い(1例)が発生した(計2例、1.0%)。・全体の血小板反応性レベル(P2Y12反応単位[PRU]で測定)は27±42 PRUであり、血小板反応性が高い(>208 PRU)患者は1例のみだった。・hs-CRPレベルは、PCI後24時間の6.1mg/L(IQR:2.6~15.9)から1ヵ月後の0.6mg/L(IQR:0.4~1.2)に減少した(p<0.001)。・高炎症(hs-CRP≧2mg/L)の発生率は81.8%から11.8%に減少した(p<0.001)。

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