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MitraClipは低左心機能(HFrEF)に伴う二次性MR症例に有効(COAPT試験)(解説:許俊鋭 氏)-977

 MitraClip僧帽弁形成術の臨床的有効性に関する先行のEVEREST II試験は、僧帽弁逆流(MR)3~4度の症例を対象としたMitraClip僧帽弁形成術と外科的僧帽弁形成術との無作為比較試験(RCT)である。EVEREST II試験の1年後までの経過観察ではMitraClip群のMR軽減効果は低く、MitraClip群では残存MRに対して外科的再修復をより高率に必要とした。しかし、その後の1~5年の経過では両群ともに外科的再修復を必要とした頻度は同程度に低く、死亡率にも有意差はなかったものの、MitraClipの外科手術に対する著明な有効性は示せなかった。 本試験(COAPT試験)は、より予後不良な二次性MRを伴うHFrEF症例を対象とした、MitraClip僧帽弁形成術群と単独内科治療群のRCTである。対象は米国とカナダの78施設でガイドラインに沿った最大限の内科治療が行われているにもかかわらず、中等度〜重度または重度の二次性MRが持続した心不全患者である。患者は無作為に、MitraClip僧帽弁形成術+内科治療(デバイス群)または単独内科治療(対照群)に割り付けられた。主な効果エンドポイントは、追跡調査24ヵ月以内の心不全入院。主要な安全性のエンドポイントは、12ヵ月間のデバイス関連の合併症回避率(事前に設定されたデバイス関連の合併症回避率達成目標は88.0%である)。対象とした614人のうち、302人がデバイス群、312人が対照群に割り付けられた。24ヵ月以内の心不全入院は患者1人年当たり、デバイス群では35.8%、対照群で67.9%であった(p<0.001)。12ヵ月後のデバイス関連の合併症回避率は96.6%であり、安全達成目標は達成された(p<0.001)。24ヵ月以内の全死因死亡率は、デバイス群で29.1%、対照群で46.1%(p<0.001)であった。症候性の中等度〜重度または重度の二次性MRを合併した心不全に対して、MitraClip僧帽弁形成術は単独内科治療に対して24ヵ月以内の心不全入院率と全死因死亡率を低下させた。12ヵ月後のデバイス関連の合併症回避率は、事前に設定された安全達成目標を上回った。 COAPT試験では、デバイス群は対照群に対して2年間の死亡率を17%削減していて、これまでHFrEFに起因したMR症例に対するこれほど有効な治療法はACE阻害薬以外報告されていない。しかしながら、2018年8月にObadiaにより報告されたMITRA-FR試験(ESC Congress Munich 2018)では、重度の二次性MRを伴った心不全患者において、単独内科治療とMitraClip僧帽弁形成術+内科治療を比較したが、1年の死亡率および心不全による予定外の入院率を低下させなかった。このように二次性MRを伴うHFrEF症例を対象としたRCTであるCOAPT試験とMITRA-FR試験では異なった結果が出ているが、この差異については慎重な検討が必要である。経過観察期間に1年と2年の差があり、MITRA-FR試験でも1年以降の経過観察でMitraClip僧帽弁形成術の効果が顕著に表れ、1年以降にMitraClipの有効性が示される可能性はある。一方、HFrEFに伴う二次性MR症例に対するMitraClip僧帽弁形成術と外科的僧帽弁形成術の長期成績に関するRCTによる検討も待たれるところである。

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RAS阻害薬、TAVR予後を改善するか/JAMA

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)を受けた患者では、退院時のRAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)の処方により、死亡および心不全による再入院のリスクが低減することが、米国・デューク大学医療センターのTaku Inohara氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年12月4日号に掲載された。TAVR施行後のRAS阻害薬処方の有効性に関するデータはないが、RAS阻害薬は左室の逆リモデリングをもたらし、心機能を改善する可能性が示唆されている。RAS阻害薬処方の有無別のアウトカムを後ろ向きに検討 本研究は、RAS阻害薬の処方とTAVR施行後のアウトカムの関連を検討する後ろ向きコホート研究である(ACC財団の全国心血管データレジストリーなどの助成による)。 米国胸部外科学会(STS)/米国心臓病学会(ACC)の経カテーテル大動脈弁治療レジストリー(STS/ACC TVT Registry)のデータを用い、2014年7月~2016年1月の期間にTAVRを施行された65歳以上のメディケア受給者を解析に含めた。最終フォローアップ日は2017年3月31日だった。 退院時のRAS阻害薬の処方の有無による治療バイアスの可能性を調整するために、人口統計学データ、心電図所見、入院中の合併症の差を考慮し、1対1の割合で傾向スコアマッチングを行った。 主要アウトカムは、退院後1年以内の全死因死亡および心不全による再入院とした。副次アウトカムは、1年時のカンザスシティー心筋症質問票(KCCQ)で評価した健康状態であった。KCCQ(0~100点)は、点数が高いほど症状による負担が少なく、QOLが良好であることを示し、点数の増分が5点以上で小さな改善、10点以上で中等度改善、20点以上で大きな改善と判定した。KCCQスコアは有意に改善したが、臨床的な意義はない 米国の417施設でTAVRを施行された患者2万1,312例のうち、退院時に8,468例(39.7%)がRAS阻害薬の処方を受けていた。傾向スコアマッチングにより、1万5,896例(平均年齢82.4歳[SD 6.8]、女性48.1%、平均左室駆出率[LVEF]51.9%[SD 11.5])を解析に含めた(両群7,948例ずつ)。 RAS阻害薬処方群は、非処方群に比べ1年時の死亡率が有意に低く(12.5% vs.14.9%、絶対リスク差[ARD]:-2.4%[95%信頼区間[CI]:-3.5~-1.4]、ハザード比[HR]:0.82[95%CI:0.76~0.90])、心不全による再入院率も有意に良好であった(12.0% vs.13.8%、ARD:-1.8%[-2.8~-0.7]、HR:0.86[0.79~0.95])。 LVEFで層別化すると、LVEF保持例(LVEF>40%)では、RAS阻害薬処方群が非処方群に比し、1年死亡率が有意に低かった(11.1% vs.13.9%、ARD:-2.81%[95%CI:-3.95~-1.67]、HR:0.78[95%CI:0.71~0.86])のに対し、LVEF低下例(LVEF≦40%)では有意差を認めなかった(18.8% vs.19.5%、ARD:-0.68%[-3.52~2.20]、HR:0.95[0.81~1.12])(交互作用:p=0.04)。 KCCQスコア解析には4,837例(30.4%)が含まれ、1年時の改善効果はRAS阻害薬処方群(2,416例)が非処方群(2,421例)よりも有意に優れた(KCCQスコアの補正後の変化の中央値:33.3点[IQR:14.2~51.0]vs.31.3点[IQR:13.5~51.1]、改善の差:2.10点、95%CI:0.10~4.06、p<0.001)が、効果量は臨床的に意義のある最小変化である5点に及ばなかった。 著者は、「選択バイアスの可能性があるため、これらの知見に関しては、無作為化試験でさらなる検討を要する」としている。

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リバースリモデリングした拡張型心筋症の薬物治療は中止できるのか?(解説:絹川弘一郎氏)-969

 高血圧の人に薬を出そうとしたら、「先生、一回飲みはじめたら、やめられないんですよね、それなら最初から飲みません」と言われたことがない医者はいないであろう。サプリメントを山盛り飲んでいても医者の処方薬の副作用が怖いとか言って、前記のような態度を取る人が後を絶たない。それくらい、患者の側はなんとか薬をやめようと考えているのかもしれないが、このTRED-HF試験はそんな患者側の意向に沿ったのではないであろうが、DCMでせっかくリバースリモデリングが得られた薬剤を切ってみたらどうなるかという、勇敢なRCTをやってくれた。実際、DCM患者において完全なリバースリモデリングが得られることも珍しくはないし、無症状になってしまう事例はもっとある。その中で勝手に怠薬した後、半年、1年経って心不全症状が悪化して再受診し、「もう二度とこんなことはしないでね」と言って処方を再開し、ある程度心機能がリバースしてホッとする、などという経験はたくさんではないにせよ片手では済まない。ただし、怠薬するようなアドヒアランスに問題のある患者だからこそ、薬剤をやめた後の自己管理がダメで再発するのだという考え方も一応は成り立つ。しかし、われわれ心不全でない人間がどんな毎日を送っているか一度よく考えてみたらどうであろうか。2~3種類の薬を飲んで普通の人と同じ生活ができるなら、めちゃめちゃ自己管理して薬なしで頑張るのはたいていの人は選択しないであろう。 であるからして、リバースリモデリングが得られたDCM患者のGDMTを切ってしまうなど、私にはとても考えられない。そもそもループ利尿薬がまだ入っているような患者もエントリーしていて、基準もおかしい。基準というならアルコール多飲、周産期心筋症、心筋炎後、甲状腺機能亢進症なども少ないながら入っていて不適切であろう。モニタリングをしっかりして最終的に死亡はもとより心不全で入院した人がいなかったのは幸いである。 とはいえ、散発的な経験で知っていた事実を系統的に数値化してくれたことは評価したい。すなわち、リバースリモデリングが得られても薬剤を全部切ってしまうと6ヵ月間に40%の人が心機能やBNPという指標での再発を見るということである。この数字は確かに誰も知らなかったことである。さらに10%は不整脈や高血圧などで治療を要しており、ほとんど再発に近い。残りの50%にしても数年観察したらほとんど再発してしまうのだろうと私は思う。事実、再発なしとされている群でもEFの低下、心拍数の増加、血圧上昇は明らかである。左室径の拡大はその次の事象のようである。筆者らは真に薬剤フリーになる群や1剤で再発しない群などを今後検討すべきとか書いているが、まったく不要と思われる。MRAが入っている人は再発しやすいというのは確かにMRAをβとACEの次のチョイスで入れることが多いので、治りがやや悪かった場合、早速再発してしまうのかもしれない。 再発様式も興味深い。私の解釈ではまず薬剤中止で後負荷が増加する。それに抗しきれずにEFが少し低下する。心拍出量がやや足りずに心拍数が上がる。前負荷をリクルートしようとして左室径も少し大きくなる。それでもこれを繰り返して、前負荷の限界が来て拡張末期圧が上がりはじめBNPが上がる。そして運動耐容能が低下し、最後に心不全症状が出てくる。この試験はBNPが上がる前に薬を再開した人も多く、ほとんど運動耐容能に影響は出ていない。心拍数や内腔拡大で代償している時期でエンドポイントとしたことは安全性の面でとても良かったと思う。さらに再発後に薬剤を再開したら85%の人でEFが50%以上に回復した。この数字も貴重であり、大半は可逆的であるようだが、それでも15%は元に戻らなかったわけである。 いわゆるDCMの中に家族性や、また遺伝子異常の同定される群がある。このような場合でもGDMTが効くこともあり、最近遺伝子異常の種類で予後に違いがあることが報告されている1)。すなわちtitinの異常ならリバースリモデリングが得られやすい、laminの異常では得られにくい、ということである。このTRED-HF試験はリバースリモデリングが得られた人だけを検討しているので、laminの異常が誰も含まれておらず、一方でtitinの異常は50名中11名いたということで先の報告と合致するデータである。titinの異常はそれ自体では再発のリスクではなく、単独でのDCM発症機転とは考え難い。 先の再発様式で言及したように左室の後負荷としての血圧はDCMにとって重要である。EFが改善してきた症例で高血圧が顕在化する例も少なくない。一方で高血圧の人がほとんど誰もDCMにはならずに過ごしていられるのは心筋が後負荷に耐えられないpredisposing factorがなく、急性にはAnrep effectで収縮力を増加させ、慢性にはラプラスの法則に従って壁厚を増加させ、容易に代償できるからであろう。私は多くのDCM患者を診療してきたが、不健康な食習慣、不規則な生活、過重労働などが原因ではないかと思われる場合が少なくない。同じような生活をしてもDCMには普通ならないので、不摂生に何かしら心筋構成蛋白の異常が加わったとき、非代償性に心機能低下が進行するのではと推測している。このような一見後天的に発症したと見えるDCMでの遺伝子異常はそれ単独では必ずしもDCMにはならないので、生活習慣の改善も重要である。しかし、前述したように薬なしで清く正しい生活を長期間強いることよりも、外部からのストレスに対して心拍数や血圧をコントロールする意味で、リバースリモデリング後もGDMTを継続するほうがQOLの面ではるかに現実的である。この試験はあらためてそれを確認させてくれた。

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とうとうCONSENSUS試験が古典になる日が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)-966

オリジナルニュース急性非代償性心不全例へのARNi、ACE阻害薬よりNT-proBNP濃度が低下:PIONEER-HF/AHA(2018/11/16掲載) 今年のAHAは豊作であった。Late breakingでDECLARE試験の発表があり、そしてsacubitril/バルサルタン(ARNi:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)の新たなエビデンスがこのPIONEER-HF試験1)で加わった。2014年にARNiがACE阻害薬とのRCT(PARADIGM-HF試験)2)でHFrEFの予後を改善することが示されたのは衝撃であり、1987年CONSENSUS試験3)以来王座を死守してきたACE阻害薬の牙城が崩れたかに思えた。しかし、FDAの認可基準はあくまでもRAS阻害薬を含むGDMTを4週間以上施行してなお心不全症状の残ったHFrEF患者に対するACE阻害薬またはARBからの切り替え、というものであり、de novoの患者に最初から投与することはできなかった。 このPIONEER-HF試験はタイトルを読むといかにも急性心不全に対する効果をみたような印象を受けるが、そうではない。非代償性心不全で入院した患者を対象とはするものの、血行動態を安定化させてから神経体液性因子の阻害薬を導入または増量するフェーズでARNiにするか、ACE阻害薬にするかに割り付けたものである。であるからして、亜急性期と言って良いが、NT-proBNPは入院時に4,000台後半から割り付け時には2,000台後半になっており、かなりよくコントロールされた状態での開始である。もともと8週間しか観察期間を設けておらず、短期間なのでプライマリーエンドポイントはNT-proBNPの変化率である。 今回、NT-proBNPの減少率がARNiで有意に大きかったことから、この試験としては成功であり、そのあとのことはPARADIGM-HF試験での長期予後で外挿すれば足りると考えられる。観察時間が短いことから、大半の臨床的エンドポイントは有意差がつかなかったが、重篤な複合エンドポイント(死亡、心不全再入院、VAD植込み、移植登録)は46%減少した。このようなデータを見るとACE阻害薬はいずれARNiに取って代わられるのは決定的であると感じた。この試験の骨子はサロゲートマーカーがより改善したというだけであり、それだけを見るとなぜNEJM? なぜラストオーサーがBraunwald?と首をひねるところであるが、ACE阻害薬からの切り替えしか認められていないところを大きく変えるデータとしてのインパクトがある。 このPIONEER-HF試験の対象患者の3割はde novo患者であり、半分以上RAS阻害薬が投与されていない。すなわち、血行動態が安定したら速やかにARNiを最初から導入したほうが良いということであり、もはやACE阻害薬の出番は非常に限定的とならざるをえない。ただし、ARNiは降圧作用が強く、これまでの臨床試験では収縮期血圧100mmHg以上をエントリー基準としている。実臨床的にはこれ以下の重症例も存在するので、その場合にはACE阻害薬を少量で開始してということになるかもしれない。わが国における臨床試験はPARALLEL-HF 4)という名前ですでに開始されており、いずれ承認される見込みである。 ただ、わが国において使用する場合、用量設定がやや気にかかる。最小用量の剤型がsacubitril 24mg+バルサルタン26mgを1日2回であり、1日量としてバルサルタンが52mgであるが、配合剤にしたことで力価が変わるようで80mg相当になるそうである。心不全患者で現状バルサルタン80mgを初期量として処方することは少ないと考えられる。もう半分量の剤型があれば使い勝手が良いと思う。また、最大用量の剤型はsacubitril 97mg+バルサルタン103mgを1日2回でバルサルタン320mg相当ということであるが、わが国においてバルサルタン320mgを飲んでいる人は高血圧患者といえども皆無であると思われる。そもそも最大承認用量が160mgである。 PARALLEL-HF試験では最大用量をsacubitril 97mg+バルサルタン103mgを1日2回と海外同様に設定しており、実際どの程度日本人で忍容性があったかも興味深い。いずれにせよ、長年HFrEF治療の金字塔であったCONSENSUS試験が文献的価値のみを有する日がすぐそこまで来ているようだ。

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拡張型心筋症の治療は回復後中止してよいか/Lancet

 症状および心機能が回復した拡張型心筋症患者では、薬物療法を中止すべきか否かが問題となる。英国・王立ブロンプトン病院のBrian P. Halliday氏らは、治療を中止すると再発のリスクが高まるとの研究結果(TRED-HF試験)を示し、Lancet誌オンライン版2018年11月11日号で報告した。拡張型心筋症患者のアウトカムはさまざまで、多くは良好な経過をたどる。回復した患者における治療中止を前向きに調査したデータはないため、専門家のコンセンサスは得られておらず、明確な推奨を記載したガイドラインはないという。中止と継続の再発リスクを比較する無作為化パイロット試験 本研究は、回復した拡張型心筋症患者における治療中止の安全性を評価する非盲検無作為化パイロット試験(英国心臓財団などの助成による)。 対象は、現在は無症状の拡張型心筋症で、左室駆出率が40%未満から50%以上に改善し、左室拡張末期容積(LVEDV)が正常化し、NT-pro-BNP濃度が250ng/L未満の患者であった。患者登録は、英国の病院ネットワークを通じて行われた。被験者は、治療を中止する群または継続する群に無作為に割り付けられた。 治療中止群は、4週ごとに臨床評価を行い、ループ利尿薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、β遮断薬、ACE阻害薬/ARBの順に投与を中止した。治療継続群は、6ヵ月後から同様の方法で治療を中止した。6ヵ月までを無作為割り付け期、6ヵ月以降は単群クロスオーバー期とした。 主要エンドポイントは、6ヵ月以内の拡張型心筋症の再発であった。再発の定義は、次の4つのうち1つ以上を満たす場合とした。1)LVEFの10%以上の低下かつLVEF<50%、2)LVEDVの10%以上の上昇かつ正常範囲を超える、3)NT-pro-BNP濃度がベースラインの2倍に上昇かつ400ng/L以上、4)徴候および症状に基づく心不全の臨床的エビデンス。全体の再発率は40%、再発予測因子の確立までは治療継続を 2016年4月21日~2017年8月22日の期間に51例が登録され、治療中止群に25例(年齢中央値:54歳[IQR:46~64]、男性:64%)、治療継続群には26例(56歳[45~64]、69%)が割り付けられた。 6ヵ月までに、治療中止群の11例(44%)が再発したのに対し、治療継続群では再発は認めなかった。Kaplan-Meier法による6ヵ月時の治療中止群のイベント発生率は45.7%(95%信頼区間[CI]:28.5~67.2、p=0.0001)であった。 6ヵ月以降、治療継続群は26例中25例(96%)で治療を中止した(1例は発作性心房細動が疑われたため中止できなかった)。このうち、単群クロスオーバー期の6ヵ月のフォローアップ期間中に9例が再発し、イベント発生率は36.0%(95%CI:20.6~57.8)であった。 したがって、治療を中止した50例中20例(40%)が再発したことになる。再発の原因は、LVEF低下が12例(60%)、LVEDV上昇が11例(55%)、NT-pro-BNP濃度上昇が9例(45%)、末梢浮腫の発現が1例(5%)であった。 両群とも死亡例の報告はなく、心不全による予定外の入院や主要有害心血管イベントもみられなかった。治療中止群で重篤な有害事象3件(非心臓性胸痛、尿路性敗血症、既存疾患への待機的手技のための入院)が認められた。 無作為割り付け期では、治療中止との関連が認められた因子として、LVEF低下(p=0.0001)、心拍数増加(p<0.0001)、拡張期血圧上昇(p=0.0083)、KCCQ(カンザスシティー心筋症質問票)スコア低下(p=0.0354)が挙げられた。 著者は、「再発の頑健な予測因子が確立されるまでは、期限を設けずに治療を継続すべきと考えられるが、患者が治療中止を希望する場合は、注意深く、かつさらなる情報を得るまでは無期限に、心機能の監視を行う必要がある」とし、「今後、心不全の薬物療法を安全に中止可能な患者や、一部の薬剤のみの継続投与によって心機能の恒久的な回復が維持できる患者のサブグループを同定する検討が必要である」と指摘している。

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急性非代償性心不全例へのARNi、ACE阻害薬よりNT-proBNP濃度が低下:PIONEER-HF/AHA

 アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNi)は、2014年に報告されたPARADIGM-HF試験において、ACE阻害薬を上回る慢性心不全予後改善作用を示した。米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会ではそれに加え、急性心不全に対する有用性も示唆された。11月11日のLate Breaking Clinical TrialsセッションでEric J. Velazquez氏(米国・イェール大学)が報告したランダム化試験"PIONEER-HF"である。急性心不全入院例が対象 PIONEER-HF試験の対象は、急性非代償性心不全(左室駆出率[LVEF]≦40%、NT-proBNP≧1,600pg/mL または BNP≧400pg/mL)で入院後、血行動態が安定した881例である。平均年齢は61歳、72%が男性だった。 これら881例はARNi(海外商品名:Entresto)群とACE阻害薬(エナラプリル)群にランダム化され、二重盲検法で8週間追跡された(それぞれ対照薬のプラセボも服用)。ランダム化時のLVEFは約25%、収縮期血圧は118mmHgだった(いずれも中央値)。ARNiでNT-proBNP濃度が有意に低下、予後改善の可能性も その結果、1次エンドポイントである8週間後のNT-proBNP濃度低下率は、ARNi群(46.7%)でACE阻害薬群(25.3%)に比べ、有意(p<0.0001)に高値となった。両群ともNT-proBNP濃度は経時的に低下し続けたが、群間差は、試験開始1週間後の時点ですでに明らかになっていた。 また、探索的エンドポイントではあるものの、56週間の「死亡・心不全再入院・LVAD植え込み・心移植待機リスト登録」リスクも、ARNi群で有意に低くなっていた(ハザード比:0.54、95%信頼区間:0.37~0.79、9.3% vs.16.8%)。14例をACE阻害薬からARNiに切り替えると、1例でこれらのイベントを回避できる計算になる。 これらの有効性は、「心不全既往の有無」「レニン・アンジオテンシン系阻害薬服用例の有無」にかかわらず認められた。 一方、2次エンドポイントである「腎機能増悪」や「高カリウム血症」「症候性低血圧」「血管浮腫」の発現率は、両群間に有意差を認めなかった。 本試験はNovartisの資金提供を受けて行われた。また報告と同時に、NEJM誌にオンライン掲載された。なおEntrestoは、HFpEF例の心血管系死亡・心不全入院抑制作用をARBと比較するランダム化試験"PARAGON-HF"が進行しており、来年3月に終了予定である。「速報!AHA2018」ページはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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速報!AHA2018

AHA(米国心臓協会)学術集会が、米国・シカゴにて11月10~12日に開催されました。ホットな演題を厳選し、速報でお届けします。ブルースの街で、どんなトピックが発表されたのか!?AHA2018 ピックアップ演題一覧11月11日発表MI後標準治療下でのhsCRP高値例への、IL-1β抗体で、心不全入院減少の可能性:CANTOS探索的解析急性非代償性心不全例へのARNi、ACE阻害薬よりNT-proBNP濃度が低下:PIONEER-HF11月10日発表低用量メトトレキサートは冠動脈疾患例のMECEを抑制せず:CIRTTG低下療法によるCVイベント抑制作用が示される:REDUCE-ITCV高リスク・高LDL-C血症の日本人高齢者に対するLDL-C低下療法の有用性は?:EWTOPIACV高リスク2型DMへのSGLT2iのCV死・MI・脳卒中はプラセボに非劣勢:DECLARE-TIMI58J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とはJ-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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ACE阻害薬と肺がんリスクの関連/BMJ

 ACE阻害薬の使用により、肺がんのリスクが増大し、とくに使用期間が5年を超えるとリスクが高まることが、カナダ・Jewish General HospitalのBlanaid M. Hicks氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2018年10月24日号に掲載された。ACE阻害薬により、ブラジキニンおよびサブスタンスPが肺に蓄積し、肺がんリスクが高まることを示唆するエビデンスがある。この関連を検討した観察研究は限られており、結果は一致していないという。肺がんとの関連をARBと比較するコホート研究 研究グループは、ACE阻害薬の使用が肺がんリスクを高めるかを、ARBと比較する地域住民ベースのコホート研究を行った(Canadian Institutes of Health Researchの助成による)。 United Kingdom Clinical Practice Research Datalinkから、1995年1月1日~2015年12月31日の期間に、新規に降圧薬治療を受けた患者99万2,061例のコホートを同定し、2016年12月31日まで追跡した。 ACE阻害薬の累積使用期間および治療開始からの期間別の肺がんの発生率を、ARBと比較した。Cox比例ハザードモデルを用いて、補正ハザード比(HR)を推算し、95%信頼区間(CI)を算出した。肺がんリスクが14%増加、5年以上の使用で関連が明確に 降圧薬別の患者の割合は、ACE阻害薬使用例が21.0%、ARB使用例が1.6%、その他が77.4%であった。全体の平均年齢は55.6(SD 16.6)歳、男性が46.3%であった。最も多く使用されていたACE阻害薬はramipril(26%)で、次いでリシノプリル(12%)、ペリンドプリル(7%)の順だった。 平均フォローアップ期間は6.4(SD 4.7)年で、この間に7,952例が新たに肺がんと診断された(粗発生率:1.3[95%CI:1.2~1.3]件/1,000人年)。 全体として、ACE阻害薬の使用により、ARBと比較して肺がんリスクが有意に増加した(発生率:1.6件 vs.1.2件/1,000人年、HR:1.14、95%CI:1.01~1.29)。 使用期間が長くなるに従ってHRは徐々に上昇し、5年以降は明確な関連が認められ(HR:1.22、95%CI:1.06~1.40)、10年後にピークに達した(1.31、1.08~1.59)(傾向検定:p<0.001)。 治療開始からの期間についても同様の関連が認められ、期間が長くなるに従ってHRが上昇した(5.1~10年:1.14、95%CI:0.99~1.30、>10年:1.29、1.10~1.51)(傾向検定:p<0.001)。 著者は、「今回、観察された影響はさほど強くないが、小さな作用が結果として多くの患者を生み出す可能性があるため、これらの知見を他の疾患でも確認すべきだろう」と指摘し、「ACE阻害薬が肺がんの発生率に及ぼす影響を、より正確に評価するために、さらに長期のフォローアップを行う必要がある」としている。

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第8回 内科クリニックからのクラリスロマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?マイコプラズマ・・・7名百日咳菌・・・6名コロナウイルス、アデノウイルスなどのウイルス・・・3名結核菌・・・2名肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)・・・6名モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)・・・2名インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)・・・1名遷延性の咳嗽 清水直明さん(病院)3週間続く咳嗽であることから、遷延性の咳嗽だと思います。そうなると感染症から始まったとしても最初の原因菌は分からず、ウイルスもしくは非定型菌※による軽い感冒から始まったことも予想されるでしょう。他に、成人であっても百日咳の可能性も高いと思われます。その場合、抗菌薬はクラリスロマイシン(以下、CAM)でよいでしょう。初発がウイルスや非定型菌であったとしても、二次性に細菌感染を起こして急性気管支炎となっているかもしれません。その場合は、Streptococcus pneumoniae、Haemophilus influenzae、Moraxella catarrhalisなどが原因菌として想定されます。このようなときにグラム染色を行うことができると、抗菌薬選択の参考になります。※非定型菌は一般の細菌とは異なり、βラクタム系抗菌薬が無効で、培養や染色は困難なことが多い。マイコプラズマ、肺炎クラミジア、レジオネラなどがある。結核の可能性も 児玉暁人さん(病院)長引く咳とのことで、マイコプラズマや百日咳菌を疑います。患者背景が年齢しか分かりませんが、見逃すと怖いので念のため結核も考慮します。細菌感染症ではないのでは? 中西剛明さん(薬局)同居家族で最近かかった感染症があるかどうかを確認します。それで思い当たるところがなければ、まず、ウイルスかマイコプラズマを考えます。肺炎の所見もないので、肺炎球菌、インフルエンザやアデノウイルスなどは除外します。百日咳は成人の発症頻度が低いので、流行が確認されていなければ除外します。RSウイルスやコロナウイルス、エコーウイルスあたりはありうると考えます。ただ、咳の続く疾患が感染症とは限らず、ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物(シムビコート®)が処方されているので、この段階では「細菌感染症ではないのでは?」が有力と考えます。Q2 患者さんに何を確認する?薬物相互作用 ふな3さん(薬局)CAMは、重大な相互作用が多い薬剤なので、併用薬を確認します。禁忌ではありませんが、タダラフィル(シアリス®)などは患者さんにとっても話しにくい薬なので、それとなく確認します。喫煙の有無と、アレルギー歴(特にハウスダストなどの通年性アレルギー)についても確認したいです。自覚していないことも考慮  児玉暁人さん(病院)やはり併用薬の確認ですね。スボレキサント錠(ベルソムラ®)やC型肝炎治療薬のアナスプレビルカプセル(スンベプラ®)は、この年齢でも服用している可能性があります。ピロリ菌の除菌など、パック製剤だと本人がCAM服用を自覚していないことも考えられるので、重複投与があるかどうかを確認します。シムビコート®は咳喘息も疑っての処方だと思います。感染性、非感染性のどちらもカバーし、β2刺激薬を配合したシムビコート®は吸入後に症状緩和を実感しやすく、患者さんのQOLに配慮されているのではないでしょうか。過去に喘息の既往はないか、シムビコート®は使い切りで終了なのか気になります。最近の抗菌薬服用歴 キャンプ人さん(病院)アレルギー歴、最近の抗菌薬服用歴、生活歴(ペットなども含める)を確認します。受診するまでの症状確認とACE阻害薬 柏木紀久さん(薬局)この3週間の間に先行して発熱などの感冒症状があったか、ACE阻害薬(副作用に咳嗽がある)の服用、喫煙、胸焼けなどの確認。Q3 抗菌薬の使用で思い浮かんだことは?咳喘息ならば・・・ 清水直明さん(病院)痰のからまない乾性咳嗽であれば、咳喘息の可能性が出てきます。そのために、シムビコート®が併用されていると思われ、それで改善されれば咳喘息の可能性が高くなります。咳喘息に対しては必ずしも抗菌薬が必要とは思いませんが、今の状態では感染症を完全には否定できないので、まずは今回の治療で反応を見たいと医師は考えていると思います。抗菌薬の低感受性に注意 JITHURYOUさん(病院)CAMは、抗菌作用以外の作用もあります。画像上、肺炎はないということですが、呼吸器細菌感染症としては肺炎球菌、インフルエンザ菌を想定しないといけないので、それらの菌に対する抗菌薬の低感受性に注意しなければなりません。さらに溶連菌、Moraxella catarrhalisなども考慮します。抗菌薬の漫然とした投与に注意 わらび餅さん(病院)痰培養は提出されていないようなので、原因菌を特定できるか分かりません。CAM耐性菌も以前より高頻度になっているので、漫然と投与されないように投与は必要最低限を維持することが大切だと思います。再診時の処方が非常に気になります。CAMの用量 柏木紀久さん(薬局)副鼻腔気管支症候群ならCAMは半量での処方もあると思いますが、1週間後の再診で、かつ感染性咳嗽の可能性を考えると400mg/日で構わないと思います。しっかりとした診断を 荒川隆之さん(病院)長引く咳の原因としては、咳喘息や後鼻漏、胃食道逆流、百日咳、結核、心不全、COPD、ACE阻害薬などの薬剤性の咳など多くありますが、抗菌薬が必要なケースは少ないです。もし百日咳であったとしても、感染性は3週間程度でなくなることが多く、1~2カ月程度続く慢性咳嗽に対してむやみに抗菌薬を使うべきではないと考えます。慢性咳嗽の原因の1つに結核があります。ニューキノロン系抗菌薬は結核にも効果があり、症状が少し改善することがありますが、結核は複数の抗菌薬を組み合わせて、長い期間治療が必要な疾患です。そのため、むやみにニューキノロン系抗菌薬を投与すると、少しだけ症状がよくなる、服用が終わると悪くなる、を繰り返し、結核の発見が遅れる可能性が出てくるのです。結核は空気感染しますので、発見が遅れるということは、それだけ他の人にうつしてしまう機会が増えてしまいます。また、結核診断前にニューキノロン系抗菌薬を投与した場合、患者自身の死亡リスクが高まるといった報告もあります(van der Heijden YF, et al. Int J Tuberc Lung Dis 2012;16(9): 1162-1167.)。慢性咳嗽においてニューキノロン系抗菌薬を使用する場合は、結核を除外してから使用すべきだと考えます。まずはしっかりした診断が大事です。Q4 その他、気付いたことは?QOLのための鎮咳薬 JITHURYOUさん(病院)小児ではないので可能性は低いですが、百日咳だとするとカタル期※1でマクロライドを使用します。ただ、経過として3週間過ぎていることと、シムビコート®が処方されているので、カタル期ではない可能性が高いです。咳自体は自衛反射で、あまり抑えることに意味がないと言われていますが、本症例では咳が持続して夜間も眠れないことや季肋部※2の痛みなどの可能性もあるので、患者QOLを上げるために、対症療法的にデキストロメトルファンが処方されたと考えます。※1 咳や鼻水、咽頭痛などの諸症状が起きている期間※2 上腹部で左右の肋骨弓下の部分鎮咳薬の連用について 中堅薬剤師さん(薬局)原疾患を放置したまま、安易に鎮咳薬で症状を改善させることは推奨されていません1)。また、麦門冬湯は「乾性咳嗽の非特異的治療」のエビデンスが認められている2)ので、医師に提案したいです。なお、遷延性咳嗽の原因は、アレルギー、感染症、逆流性食道炎が主であり、まれに薬剤性(副作用)や心疾患などの要因があると考えています。話は変わりますが、開業医の適当な抗菌薬処方はずっと気になっています。特にキノロン系抗菌薬を安易に使いすぎです。高齢のワルファリン服用患者にモキシフロキサシンをフルドーズしようとした例もありました。医師の意図 中西剛明さん(薬局)自身の体験から、マイコプラズマの残存する咳についてはステロイドの吸入が効果的なことがあると実感しています。アレルギーがなかったとしても、マイコプラズマ学会のガイドラインにあるように、最終手段としてのステロイド投与(ガイドラインでは体重当たり1mg/kgのプレドニゾロンの点滴ですが)は一考の余地があります。また、マイコプラズマ学会のガイドラインにも記載がありますが、このケースがマイコプラズマであれば、マクロライド系抗菌薬の効果判定をするため、3日後に再受診の必要があるので3日分の処方で十分なはずです。ステロイド吸入が適切かどうか議論のあるところですが、シムビコート®を処方するくらいですから医師は気管支喘息ということで治療をしたのだと考えます。Q5 患者さんに何を説明する?抗菌薬の患者さんに対する説明例 清水直明さん(病院)「咳で悪さをしているばい菌を殺す薬です。ただし、必ずしもばい菌が悪さをしているとは限りません。この薬(CAM)には、抗菌作用の他にも気道の状態を調節する作用もあるので、7日分しっかり飲み切ってください。」CAMの副作用 キャンプ人さん(病院)処方された期間はきちんと内服すること、副作用の下痢などの消化器症状、味覚異常が出るかもしれないこと。抗菌薬を飲み切る 中堅薬剤師さん(薬局)治療の中心になるので、CAMだけは飲み切るよう指示します。また、副作用が出た際、継続の可否を主治医に確認するよう話します。別の医療機関にかかるときの注意 ふな3さん(薬局)CAMを飲み忘れた場合は、食後でなくてよいので継続するよう説明します。また、別の医師にかかる場合は、必ずCAMを服用していることを話すよう伝えます。後日談本症例の患者は、1週間後の再診時、血液検査の結果に異常は見られなかったが、ハウスダストのアレルギーがあることが分かり、アレルギー性咳嗽(咳喘息)と診断された。初診後3日ほどで、咳は改善したそうだ。医師からはシムビコート®の吸入を続けるよう指示があり、新たな処方はなされなかった。もし咳が再発したら受診するよう言われているという。1)井端英憲、他.処方Q&A100 呼吸器疾患.東京、南山堂、2013.2)日本呼吸器学会.咳嗽に関するガイドライン第2版.[PharmaTribune 2016年11月号掲載]

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発症時年齢は1型糖尿病患者の心血管疾患リスクに関連する(解説:住谷哲氏)-917

 1型糖尿病患者の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクが2型糖尿病と同様に増加することは、本論文の著者らによってスウェーデンの1型糖尿病レジストリを用いて詳細に検討されて報告された1)。今回、著者らは1型糖尿病の発症時年齢とASCVDとの関連を同じレジストリを用いて解析した。その結果、発症時の年齢は糖尿病罹病期間を調整した後も、ASCVDリスクと有意に関連することが明らかにされた。 1型糖尿病の主病態はインスリン分泌不全であり、インスリン抵抗性の寄与は2型糖尿病とは異なりほとんどない。したがって1型糖尿病患者では、高血糖そのものによりASCVDのリスクが増大していると考えられる。本論文では、とくに急性心筋梗塞のリスクが1型糖尿病患者において約30倍に増加しているのが注目される。これは2型糖尿病患者における厳格な血糖管理の影響を検討したメタ分析において、非致死性心筋梗塞が強化治療により有意に減少したことと一致しており、冠動脈疾患の発症には高血糖が強く関連することを示唆している2)。一方、脳卒中の増加は約6倍であり、加齢の影響を差し引いて考えることが当然必要であるが、同じASCVDである冠動脈疾患と脳卒中に対する高血糖の影響は大きく異なっていることが示唆される。 若年1型糖尿病患者のASCVDの発症を主要評価項目として、スタチンおよびRAS系阻害薬の有効性を検討したランダム化比較試験は存在しない。ASCVDの代用エンドポイントである内頚動脈内膜中膜複合体厚を副次評価項目として、若年1型糖尿病患者に対するACE阻害薬およびスタチンの効果を検討したランダム化比較試験としてAdDIT(Adolescent Type 1 Diabetes Cardio-Renal Intervention Trial)が昨年報告されたが3)、両薬剤ともにプラセボ群と差はなかった。しかしASCVDの発症メカニズムは1型糖尿病と2型糖尿病とに共通すると考えられることから、2型糖尿病治療における包括的心血管リスク管理のストラテジーはそのまま1型糖尿病にも適用できると思われる。1型糖尿病患者の治療は2型糖尿病患者以上に血糖管理にのみ注目してしまうことが多い。とくに若年発症の1型糖尿病患者の治療の際にはASCVDの抑制に留意した治療を心掛けることが必要である。

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新たな薬剤、デバイスが続々登場する心不全治療(前編)【東大心不全】

急増する心不全。そのような中、新たな薬剤やデバイスが数多く開発されている。これら新しい手段が治療の局面をどう変えていくのか、東京大学循環器内科 金子 英弘氏に聞いた。後編はこちらから現在の心不全での標準的な治療を教えてください。心不全と一言で言っても治療はきわめて多様です。心不全に関しては今年(2018年)3月、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」が第82回日本循環器学会学術集会で公表されました。これに沿ってお話ししますと、現在、心不全の進展ステージは、リスク因子をもつが器質的心疾患がなく、心不全症候のない患者さんを「ステージA」、器質的心疾患を有するが、心不全症候のない患者さんを「ステージB」、器質的心疾患を有し、心不全症候を有する患者さんを既往も含め「ステージC」、有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらず、重度の心不全状態が遷延する治療抵抗性心不全患者さんを「ステージD」と定義しています。各ステージに応じてエビデンスのある治療がありますが、ステージA、Bはあくまで心不全ではなく、リスクがあるという状態ですので、一番重要なことは高血圧や糖尿病(耐糖能異常)、脂質異常症(高コレステロール血症)の適切な管理、適正体重の維持、運動習慣、禁煙などによるリスクコントロールです。これに加えアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、左室収縮機能低下が認められるならばβ遮断薬の服用となります。最も進行したステージDの心不全患者さんに対する究極的な治療は心臓移植となりますが、わが国においては、深刻なドナー不足もあり、移植までの長期(平均約3年)の待機期間が大きな問題になっています。また、重症心不全の患者さんにとって補助人工心臓(Ventricular Assist Device; VAD)は大変有用な治療です。しかしながら、退院も可能となる植込型のVADは、わが国においては心臓移植登録が行われた患者さんのみが適応となります。海外で行われているような植込み型のVADのみで心臓移植は行わないというDestination Therapyは本邦では承認がまだ得られていません。そのような状況ですので、ステージDで心臓移植の適応とならないような患者さんには緩和医療も重要になります。また、再生医療もこれからの段階ですが、実現すれば大きなブレーク・スルーになると思います。その意味では、心不全症状が出現したステージCの段階での積極的治療が重要になってきます。この場合、左室駆出率が低下してきた患者さんではACE阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をベースにβ遮断薬の併用、肺うっ血、浮腫などの体液貯留などがあるケースでは利尿薬、左室駆出率が35%未満の患者さんではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を加えることになります。一方、非薬物療法としてはQRS幅が広い場合は心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)、左室駆出率の著しい低下、心室頻拍・細動(VT/VF)の既往がある患者さんでは植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)を使用します。そうした心不全の国内における現状を教えてください。現在の日本では高齢化の進展とともに心不全の患者さんが増え続け、年間26万人が入院を余儀なくされています。この背景には、心不全の患者さんは、冠動脈疾患(心筋梗塞)に伴う虚血性心筋症、拡張型心筋症だけでなく、弁膜症、不整脈など非常に多種多様な病因を有しているからだと言えます。また、先天性心疾患を有し成人した、いわゆる「成人先天性心疾患」の方は心不全のハイリスクですが、こうした患者さんもわが国に約40万人いらっしゃると言われています。高齢者や女性、高血圧の既往のある患者さんに多いと報告されているのが、左室収縮機能が保持されながら、拡張機能が低下している心不全、heart failure with preserved ejection fraction(HFpEF)と呼ばれる病態です。これに対しては有効性が証明された治療法はありません。また、病因や併存疾患が複数ある患者さんも多く、治療困難な場合が少なくありません。近年、注目される新たな治療について教えてください。1つはアンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(Angiotensin Receptor/Neprilysin Inhibitor:ARNI)であるLCZ696です。これは心臓に対する防御的な神経ホルモン機構(NP系、ナトリウム利尿ペプチド系)を促進させる一方で、過剰に活性化したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)による有害作用を抑制する薬剤です。2014年に欧州心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)では、β遮断薬で治療中の心不全患者(NYHA[New York Heart Association]心機能分類II~IV、左室駆出率≦40%)8,442例を対象にLCZ696とACE阻害薬エナラプリルのいずれかを併用し、心血管死亡率と心不全入院発生率を比較する「PARADIGM HF」の結果が公表されました。これによると、LCZ696群では、ACE阻害薬群に比べ、心血管死や心不全による入院のリスクを2割低下させることが明らかになりました。この結果、欧米のガイドラインでは、LCZ696の推奨レベルが「有効・有用であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している」という最も高いクラスIとなっています。現在日本では臨床試験中で、上市まではあと数年はかかるとみられています。もう1つ注目されているのが心拍数のみを低下させる選択的洞結節抑制薬のivabradineです。心拍数高値は従来から心不全での心血管イベントのリスク因子であると考えられてきました。ivabradineに関しては左室駆出率≦35%、心拍数≧70bpmの洞調律が保持された慢性心不全患者6,505例で、心拍数ごとに5群に分け、プラセボを対照とした無作為化試験「SHIFT」が実施されました。試験では心血管死および心不全入院の複合エンドポイントを用いましたが、ivabradineによる治療28日で心拍数が60bpm未満に低下した患者さんでは、70bpm以上の患者さんに比べ、有意に心血管イベントを抑制できました。ivabradineも欧米のガイドラインでは推奨レベルがクラスIとなっています。これらはいずれも左室機能が低下した慢性心不全患者さんが対象となっています。その意味では現在確立された治療法がないHFpEFではいかがでしょう?近年登場した糖尿病に対する経口血糖降下薬であるSGLT2阻害薬が注目を集めています。SGLT2阻害薬は尿細管での糖の再吸収を抑制して糖を尿中に排泄させることで血糖値を低下させる薬剤です。SGLT2阻害薬に関しては市販後に心血管イベントの発症リスクが高い2型糖尿病患者さんを対象に、心血管イベント発症とそれによる死亡を主要評価項目にしたプラセボ対照の大規模臨床試験の「EMPA-REG OUTCOME」「CANVAS」で相次いで心血管イベント発生、とくに心不全やそれによる死亡を有意に減少させたことが報告されました。これまで糖尿病治療薬では心不全リスク低下が報告された薬剤はほとんどありません。これからはSGLT2阻害薬が糖尿病治療薬としてだけではなく、心不全治療薬にもなりえる可能性があります。同時にHFpEFの患者さんでも有効かもしれないという期待もあり、そうした臨床試験も始まっています。後編はこちらから講師紹介

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ファブリー病〔Fabry disease〕

ファブリー病のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 定義α-ガラクトシダーゼAの酵素欠損により心臓、腎臓などの組織を中心にグロボトリオシルセラミド(GL-3)が蓄積することにより、心不全、腎不全を来す疾患である。遺伝形式はX-連鎖の遺伝形式をとる。■ 疫学約4万人に1人と推定される。腎不全患者の0.2~0.5%、左室肥大の患者の4%、女性左室肥大の12%、男性脳卒中患者の4.9%、女性患者の2.4%。イタリアでは新生児男児3,100人に1人の頻度、台湾では1,250人に1人と患者頻度は高い。■ 病因ライソゾーム酵素であるα-ガラクトシダーゼの酵素欠損により全身組織にグロボトリオシルセラミド(GL-3)などの糖脂質が蓄積する(図1)。とくに血管内皮細胞に蓄積、心筋、腎臓、リンパ節、神経節など、全身組織に蓄積する。画像を拡大する■ 臨床症状(表1)ファブリー病の臨床症状は多彩である。小児期からの四肢の激痛、無痛、無汗などの自律神経症状、蛋白尿、腎不全などの臨床症状、不整脈、弁膜症、心不全などの心症状、頭痛、脳梗塞、知能障害などの神経症状、精神症状、皮膚症状として被角血管腫、難聴、めまい、耳鳴り、角膜混濁などの眼科症状、咳などの呼吸器症状などを認める。ファブリー病の臨床症状の進展は図1を参照。画像を拡大する■ 分類臨床的には「古典型」、心型、腎型といわれる「亜型」、「ヘテロ接合体女性患者」に分類される古典型(表2)では皮膚症状(被角血管腫)、自律神経症状(低汗、無痛、四肢痛など)を有する。心型、腎型ではこれらの症状は少ない。ヘテロ接合体女性患者では心症状が主体であるが、痛みなどは男性患者と同様に認められる。画像を拡大する■ 予後古典型の患者は早期の酵素補充療法をしないと、腎不全、心不全、脳梗塞で40~50代で死亡する患者が多い。心型、腎型では60~70代で死亡、ヘテロ女性患者は60~70代で心不全にて死亡する患者が多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)次の流れに従い、診断を行う。(1)臨床症状:小児期からの四肢の激痛、無汗、皮膚の被角血管腫、心不全、蛋白尿、腎不全、脳梗塞などの症状(2)血清、白血球、尿などでα-ガラクトシダーゼの酵素欠損を証明する(3)尿中GL-3の蓄積(4)皮膚での病理所見:電子顕微鏡でミエリン様蓄積物質を認める(5)遺伝子診断 3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ファブリー病の治療として対症療法と根治療法がある。表3に概略をまとめた。画像を拡大する1)対症療法(1)疼痛ファブリー病での痛みは、患者に大きな負担である。幼少時から四肢の灼熱感のある痛みが生じ、思春期はとくに強い。女性患者でも4~5歳から四肢の痛みを感じる患者がいる。痛みは四肢以外にも下顎、頸部などさまざまである。とくに梅雨の時期、夏などは疼痛が強い。カルバマゼピン(商品名:テグレトールほか)、ガバぺンチン(同:ガバペン)などが有効である。(2)消化器症状腹痛、胃痛、下痢などがみられ、整腸剤などの投与が有効である。(3)心肥大、心不全、不整脈徐脈性不整脈には、ペースメーカーが有効である。心筋保護作用としてのACE阻害薬、 ARBの投与が推奨される。高血圧、高脂血症の予防は重要である。(4)腎障害腎保護策のためにARB、ACE阻害薬は有効との報告がある。蛋白食制限、減塩は必要である。腎不全に対しての腹膜あるいは血液透析療法、さらには腎移植が試みられている。(5)脳梗塞脳梗塞の予防のためのアスピリン、抗血小板凝集薬の投与などの抗凝固療法が必要。(6)その他めまい、難聴などに対する対症療法として、めまいにはベタヒスチンメシル(同:メリスロンほか)、突発性難聴にはステロイドが使用される。2)酵素補充療法酵素補充療法は、現在遺伝子工学的手法の進歩に伴いαガラクトシダーゼAの酵素製剤が2製剤開発されている。アガルシダーゼ アルファ(商品名:リプレガル)とアガルシダーゼ ベータ(同:ファブラザイムほか)が開発されている。アガルシダーゼ ベータはCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞から遺伝子工学手法で作成された。投与量としては体重1kgあたりアガルシダーゼ アルファは0.2mg、アガルシダーゼ ベータは1mgを2週間に1回投与する。副作用としては蕁麻疹、悪寒、吐き気、鼻汁、軽度血圧低下、気道に違和感などの症状が見られるが、抗ヒスタミン薬、ステロイドの投与で軽快する場合が多い。副作用は投与後3~5ヵ月後に多く見られ、その後は軽快する場合が多い。そして、効果のポイントは次のとおりである。(1)痛みへの効果痛みは軽減傾向にある。発汗障害は改善傾向にある。(2)腎臓への効果腎臓、とくに腎血管内皮細胞でのGL-3の蓄積は除去される。糸球体のたこ足細胞でのGL-3の蓄積の除去には時間がかかる。GFRが60mL/min/1.73m2以上であれば治療後も維持できる。また、60mL/min/1.73m2 以下であれば、治療にかかわらず機能は低下することが明らかにされている。尿蛋白質では、蛋白の排泄が+1以上であれば酵素治療しても腎機能は低下するが、尿蛋白がマイナスであれば腎機能は悪化しない。(3)心機能への効果心筋の肥厚、左室心筋重量は酵素補充療法により減少する。左室機能改善の改善を認める。(4)脳神経系への効果酵素補充療法により血管の内皮細胞への蓄積は軽快するが、脳梗塞の所見は治療により変化はないと考えられる。また、白質変性への効果も少ない。(5)耳鼻科的効果酵素補充による聴力への効果はあまり期待できない。聴力検査で効果が認められていない。(6)眼症状への効果角膜に対する効果は軽快する傾向にある。網膜動脈閉塞で失明する。(7)皮膚症状への効果被角血管腫への効果は少ない。低(無)汗症への効果はみられ、酵素治療により汗をかくようになりQOLは上がる。(8)消化器症状への効果酵素補充療法により下痢などに対する効果が報告され、酵素治療とともに下痢、腹痛は改善傾向にある。体重は増加する患者が多い。4 今後の展望1)シャペロン治療低分子薬(デオキシノジリマイシンなど)は、ライソゾーム酵素のゴルジーライソゾーム系での酵素の合成、分解過程で作用する。すなわち変異酵素が分解促進、あるいは活性基が障害されている場合、シャペロンは有効であり、全体の約50~60%の患者の遺伝子異常に効果があるといわれている。ミガーラスタット(商品名:ガラフォルド)は、2018年5月に発売され、わが国でも保険適用となった。今後、効果や安全性について、さらに知見の積み重ねがなされる。2)遺伝子治療・細胞治療ファブリー病の最終治療としては、遺伝子治療法の開発が重要である。ファブリー病マウスを用いて「アデノ随伴ウイルス」(AAV)あるいは「レンチウイルスベクター」を用いての治療研究が進められており、モデルマウスではGL-3の臓器からの除去に成功している。また、骨髄幹細胞、あるいは間質幹細胞を用いて、遺伝子治療と組み合わせての治療効果も研究されている。3)ファブリー病のスクリーニングファブリー病の治療のためには、早期診断が重要である。早期診断のための新生児マス・スクリーニングも報告され、ガスリー濾紙血を用いて酵素診断することにより可能である。濾紙血による新生児スクリーニングでは、台湾でのファブリー病患者頻度は1/1,250(男児)、イタリアでは1/3,500(男児)、日本では1/6,500の頻度であり、決して珍しい疾患でないことが証明されている。また、ハイリスク患者スクリーニングとして、心筋症患者、左室肥大患者、腎不全患者、若年性脳梗塞患者にはファブリー病の患者の頻度が高いことが報告されている。早期診断により治療効果をあげることが重要である。5 主たる診療科腎臓内科、循環器内科、小児科、皮膚科、眼科、耳鼻科 など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療情報難病情報センター ライソゾーム病(ファブリー病を含む)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ふくろうの会(ファブリー病患者と家族の会)1)Desnick RJ, et al. α-Galactosidase A deficiency: Fabry disease. In: Scriver CR et al, editors. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th ed. New York: McGraw Hill; 2001. p. 3733–3774. 2)Eng CM, et al. N Engl J Med. 2001; 345: 9–16.3)Rolfs A, et al. Lancet. 2005; 366: 1794–1796.4)Sims K, et al. Stroke. 2009; 40: 788-794.5)衛藤義勝. 日本内科学雑誌.2009; 98: 163-170.公開履歴初回2013年2月28日更新2018年9月11日

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「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」5年ぶりの改訂

CKD診療ガイドラインが全面改訂 日本腎臓学会は6月、5年ぶりの改訂となる「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」を発行した。今回は専門医だけではなく、かかりつけ医や非専門医の利用を想定して制作されており、全面改訂する際に「CKD診療ガイド2012」と「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」を一元化させている。 前回同様、全章がクリニカルクエスチョン(CQ)形式の構成。CKD診療ガイドライン2018の主な改訂ポイントとして“STOP-DKD宣言”で注目を集めた、糖尿病性腎臓病(DKD)が章立てられているほか、高血圧・心血管疾患(CVD)、高齢者CKDについても詳しく取り上げられている。CKD診療ガイドラインの役割 本ガイドラインはすべての重症度のCKD患者を対象とし、診療上で問題となる小児CKDの特徴と対処法、CKD患者の妊娠時についても簡潔に記載されている。ただし、末期腎不全(ESKD)に達した維持透析患者や急性腎障害(AKI)患者は除外されているため、必要に応じて他のガイドラインを参照する必要がある。本来であれば病診連携が必要とされる疾患だが、本ガイドラインは専門医が不在とする地域での、かかりつけ医によるCKD診療のサポートに配慮した構成となっている。CKD診療ガイドライン2018では75歳以上は150/90mmHg未満を推奨 CKD診療ガイドライン第4章の「高血圧・CVD」では、血圧基準値を「糖尿病の有無」「尿蛋白の有無(軽度尿蛋白[0.15g/gCr]以上を尿蛋白ありと判定)」「年齢(75歳で区分)」の3つのポイントで定めている。・75歳未満の場合 CKDステージを問わず、糖尿病および尿蛋白の有無で判定 糖尿病なし:尿蛋白(-)140/90mmHg未満、尿蛋白(+)130/80mmHg未満 糖尿病あり:尿蛋白(+)130/80mmHg未満・75歳以上の場合 糖尿病、尿蛋白の有無にかかわらず150/90mmHg未満 起立性低血圧やAKIなどの有害事象がなければ、140/90mmHg未満への降圧を目指すが、80歳以上の120/60mmHg以下での管理において、Jカーブ現象が見られたという研究報告もあることから過降圧への注意も提案されている。CKD診療ガイドライン2018では高齢者への対応に変化 CKD診療ガイドライン第12章「高齢者CKD」では、高齢者CKDの年齢が“75歳以上”と改訂されており、これは2017年に日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループ において、「75歳以上を高齢者」と定義付けたことが反映されている。また、同章にはフレイルに対する介入のCQが盛り込まれており、これは厚生労働省が今年度より本格実施を始めた「高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進」に沿った改訂であることが伺える。DKDの推奨検査項目と管理目標値 CKD診療ガイドライン第16章「糖尿病性腎臓病(DKD)」では4つのCQが挙げられており、「尿アルブミン尿の測定」「浮腫を伴うDKDへのループ利尿薬投与」「HbA1c7.0%未満」「集約的治療」を推奨している。とくに血管合併症の発症・進行抑制ならびに総死亡率抑制のために集約的治療が重要とされ、以下の管理目標値を推奨としている。・BMI 22(生活習慣の修正[適切な体重管理、運動、禁煙、塩分制限食など])・HbA1c7.0%未満(現行のガイドラインで推奨されている血糖)・収縮期血圧130mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満・LDLコレステロール120mg/dl、HDLコレステロール40mg/dl、中性脂肪150mg/dl未満(早朝空腹時) ただし、「多因子の厳格な治療を推奨することで、投与薬剤数の増加や薬剤に関連する低血糖、過降圧、浮腫、高カリウム血症などのリスクが高まることにも注意が必要であり、適切なモニタリングと患者背景や生活環境を十分に勘案するように」といった注意事項も明記されている。PKD病診連携の架け橋に 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は透析導入原因の第4位となる疾患であるが、指定難病のため腎臓専門医・専門医療機関への紹介が必要となる。CKD診療ガイドライン第17章-3には、かかりつけ医による診療ポイントとして「脳動脈瘤」「トルバプタンによる治療」「血圧管理」について記載されているが、詳細については「エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2017」を参照とされている。今後の方針 今後の方針として「同改訂委員会が継続しメディカルスタッフや患者を利用者に想定したCKD療養ガイド2018を作成、出版する」と記され、医療者と患者が一体となって治療に取り組むことで、透析導入予防や医療費抑制につながることが期待される。

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降圧薬が皮膚がんのリスク増加に関連

 米国・マサチューセッツ総合病院のK.A. Su氏らによる調査の結果、光感作性のある降圧薬(AD)による治療を受けた患者では、皮膚の扁平上皮がん(cSCC)のリスクが軽度に増加することが明らかになった。多くのADは光感作性があり、皮膚の日光に対する反応性を高くする。先行の研究では、光感作性ADは口唇がんとの関連性が示唆されているが、cSCCの発症リスクに影響するかどうかは不明であった。British Journal of Dermatology誌オンライン版2018年5月3日号掲載の報告。 研究グループは、北カリフォルニア州の包括的で統合的なhealthcare delivery systemに登録され、高血圧症に罹患した非ヒスパニック系白人のコホート研究において、ADの使用とcSCCリスクとの関連を調べた。ADの使用については電子データを用いて分析。ADは、公表論文に基づいて、光感作性(α2刺激薬、利尿薬[ループ系、カリウム保持性、サイアザイド系および配合剤])、非光感作性(α遮断薬、β遮断薬、中枢性交感神経抑制薬およびARB)または光感作性不明(ACE阻害薬、Ca拮抗薬、血管拡張薬およびその他の配合剤)に分類された。 Coxモデルを用いて補正ハザード比(aHR)と95%信頼区間(CI)を推定した。共変量は、年齢、性別、喫煙、合併症、cSCCおよび日光角化症の既往歴、調査年、医療制度の利用、医療保険会員の期間、光感作性ADの使用歴とした。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に、cSCCを3,010例が発症した。・AD不使用群と比較し、cSCCのリスクは、光感作性AD使用歴ありの群(aHR:1.17、95%CI:1.07~1.28)、光感作性不明AD使用歴ありの群(aHR:1.11、95%CI:1.02~1.20)で増加したが、非光感作性AD使用歴ありの群では関連は認められなかった(aHR:0.99、95%CI:0.91~1.07)。・光感作性ADの処方数の増加に伴い、cSCCのリスクが軽度に増加した。1~7剤(aHR:1.12[95%CI:1.02~1.24])、8~15剤(同:1.19[1.06~1.34])、16剤以上(同:1.41[1.20~1.67])。

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認知症の薬はいったいいつできるのか? バプティスト史観から(解説:岡村毅氏)-855

本論文はメルク社の研究チームからの直球の論文である。アルツハイマー型認知症の病理の中核にアミロイドがあるが、それをつくる酵素(BACE)の阻害薬を軽度から中等度のアルツハイマー型認知症の方に投与したが、効果はみられなかったというものだ。21世紀に入りアルツハイマー型認知症に関して、多くの薬がパイプラインに乗ったという報告がなされた。近い将来(つまり2018年の今ごろ?)根本治療薬が開発されるのではと思った方も多かったのでは。しかしここ数年、失敗の報告が相次いでいる。ファイザー社は中枢神経系の開発自体を諦めてしまった。いったいいつできるのか? あるいは、できないのか? 21世紀の前半を生きる私たちの立ち位置を改めて眺めてみよう。(1)アルツハイマー型認知症に関して現在ある薬は、アミロイドの病理とはまったく関係なく、アセチルコリン系を賦活して脳の働きを活発にする対症療法薬である。アミロイド自体に介入する薬は失敗が続いている。(2)しかし国際的な大規模縦断観察研究(ADNI)が明らかにしたように、症状が出た時点ではアミロイドはすでに蓄積している。診断されてからアミロイドに介入しても無意味なのかもしれない。(3)現在、症状はないが、脳内にアミロイドがたまっているプレクリニカル期で研究が行われている。ここでBACE阻害薬やAβ抗体が効果を示す可能性は十分にある。以上はアミロイド中心主義(ベータアミロイド[β-amyloid]からバプティスト[Baptists]などと言われる)史観ともいえるだろう。私は根本治療薬の開発を支持するが、さらに広い視野で眺めてみよう。(A)先進国ではアルツハイマー型認知症の発症率は低下しており、教育年数との関連が示されている。また糖尿病がアルツハイマー型認知症の発症の危険因子であることもわかってきた。公衆衛生的アプローチは効果的だ。(B)レビー小体病、前頭側頭葉変性症の根本治療薬に関しては、まったくめどが立っていない。(C)予防薬の開発も重要だが、それのみが強調されると、すでに認知症と診断された人には救いがない。診断後支援やケアラー支援の重要性がようやく認められつつある。Living well with dementiaは知っておくべき言い回しだろう。(D)認知症を持つ人も、当たり前だが、私たちと同じ人間であり、同じ権利を持つのだから、彼ら自身の選択を尊重しようという考え方もようやく共有されてきた。当事者の発信も増えている。障害の領域でのNothing about us without usに対応。(E)脱施設の流れは加速するが、地縁血縁の弱体化、長寿化(と格差の拡大)、家族形態の変化および独居の増加、プライバシーの保護などは、むしろ地域ケアへの挑戦かもしれない。一方でITやロボットなどが急激に実用化に向かいつつある。21世紀の半ばにはわが国の人口の10%程度が認知症を有する可能性もある。今後数十年、認知症の専門家は嵐のような日々であろう。今回は現在の私たちの立ち位置を備忘録的に記した。知っておいて損はないと思う。

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心不全ガイドラインを統合·改訂(後編)~日本循環器学会/日本心不全学会

 3月24日、日本循環器学会/日本心不全学会が、新たな心不全診療ガイドラインを公表した。本ガイドラインの主要な改訂ポイントを2回にわたってお伝えする。今回は後編。(前編はこちら)新たな心不全ガイドラインは診断フローチャートを簡略化 慢性心不全診断のフローチャートは、2010年版ガイドラインから大幅に簡略化された。基本的には欧州心臓病学会(ESC)の2016年版ガイドライン(Ponikowski P, et al. Eur Heart J.2016;37:2129-2200)を下敷きとしながらも、わが国の実態を踏まえ、画像診断を重視するチャートになっている。急性心不全治療のフローチャートも新規作成 「時間経過と病態を踏まえた急性心不全治療フローチャート」や、「重症心不全に対する補助人口心臓治療のアルゴリズム」の作成、「併存症の病態と治療」に関する記載の充実も新たな心不全診療ガイドラインの主要な改訂ポイントのひとつである。併存症は、心房細動、心室不整脈、徐脈性不整脈、冠動脈疾患、弁膜症、高血圧、糖尿病、CKD・心腎症候群、高尿酸血症・痛風、COPD・喘息、貧血、睡眠呼吸障害について記載されている。心不全合併高血圧には、4種薬剤が推奨クラスI、エビデンスレベルA 新たな心不全診療ガイドラインでは、高血圧を合併したHFrEFに対する薬物治療は、ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬に忍容性のない患者に対する投与)、β遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)の[推奨クラス、エビデンスレベル]が[I、A]、利尿薬が同上[I、B]、カルシウム拮抗薬が同上[IIa、B]とされた。なお、長時間作用型のジヒドロピリジン系以外のカルシウム拮抗薬は陰性変力作用のため使用を避けるべきと注記されている。 高血圧を合併したHFpEFに対する治療は、適切な血圧管理が同上[I、B]、基礎疾患の探索と治療が同上[I、C]とされた。心不全合併糖尿病には、包括的アプローチとSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン)を推奨 心不全を合併した糖尿病に対する治療は、食事や運動など一般的な生活習慣の改善も含めた包括的アプローチが同上[I、A]、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン)が同上[IIa、A]、チアゾリジン薬が同上[III、A]とされた。CKD合併心不全は、CKDステージで推奨レベルが異なる CKD合併心不全に対する薬物治療は、CKDステージ3とステージ4~5に分けて記載されている。 CKDステージ3においては、β遮断薬、ACE阻害薬、MRAが同上[I、A]、ARBが同上[I、B]、ループ利尿薬が同上[I、C]となっている。CKDステージ4~5においては、β遮断薬が同上[IIa、B]、ACE阻害薬が同上[IIb、B]、ARB、MRAが同上[IIb、C]、ループ利尿薬が同上[IIa、C]とされた。新たな心不全ガイドラインでは血清尿酸値にも注目 心不全を伴う高尿酸血症の管理においては、血清尿酸値の心不全の予後マーカーとしての利用が[IIa、B]、心不全患者における高尿酸血症への治療介入が[IIb、B]とされた。国内未承認の治療法も参考までに紹介 海外ではすでに臨床応用されているにもかかわらず、国内では未承認の治療薬やデバイスがある。ARB/NEP阻害薬(ARNI)や、Ifチャネル阻害薬などだ。これらの薬剤は「今後期待される治療」という章で、開発中の治療と並び紹介されている。

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1型糖尿病の臓器障害に、RA系阻害薬は有効か?(解説:石上友章氏)-776

 糖尿病は、特異的な微小血管障害をもたらすことで、腎不全、網膜症、神経障害の原因になる。糖尿病治療のゴールは、こうした合併症を抑制し、健康長寿を全うすることにある。RA系阻害薬に、降圧を超えた臓器保護効果があるとされた結果、本邦のガイドラインでは、糖尿病合併高血圧の第1選択にRA系阻害薬が推奨されている。しかし、臨床研究の結果は、必ずしもRA系阻害薬の降圧を超えた腎保護効果を支持しているわけではない。ONTARGET試験・TRANSCEND試験1,2)を皮切りに、最近ではBMJ誌に掲載された報告3)(腎保護効果は、見せかけだった~RA系阻害薬は『万能の妙薬』ではない~)も、観察研究ではあるが、否定的な結果に終わっている。 1型糖尿病の腎保護については、ミネソタ大学のMauerらのRASS試験4)が、決定的な結果を報告している。本研究では、ARB(ロサルタン)、ACEI(エナラプリル)とplaceboの3群に分けた対象で、腎保護作用を検討している。本研究の特筆すべき点は、腎保護効果について、腎生検標本を用いて、厳密に評価していることにある。その結果は、メサンギウム分画容積をはじめとした、すべての病理学的評価指標に、3群間で差が認められなかった。 この結果を受けて、NKF(米国腎臓財団)によるKDOQI Clinical Practice Guideline For Diabetes And CKD/2012 Updateには、6章の6.1として、“We recommend not using an ACE-I or an ARB for the primary prevention of DKD in normotensive normoalbuminuric patients with diabetes.(1A)”とされた5)。この一文には、RA系阻害薬の糖尿病性腎障害抑制作用は、病理学的な変化をもたらすほどの効果はなく、微量アルブミン尿のような不正確な指標で評価された、見かけ上の効果でしかないとの意味が込められている。 英国・ケンブリッジ大学のM Loredana Marcovecchioらが行い、NEJM誌2017年11月2日号に掲載されたAdDIT試験は、スタチンとACE阻害薬を試験薬とし、2×2要因デザインで行われたRCTである。結果は、両試験薬ともに、primary endpointを達成することはできなかった。副次評価項目である、微量アルブミン尿の累積発症率には有意差が認められたが、EBMの原則に従って、著者らはこの結果を採用しなかった。しかしながら、“Many secondary outcomes in the published protocol were exploratory but considered to be clinically relevant in this population of adolescents.”とは、「夢の続きを見ていたい」という著者らの率直な心情の吐露なのかもしれない。

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思春期1型糖尿病に、ACE阻害薬やスタチンは有用か/NEJM

 ACE阻害薬およびスタチンは、思春期1型糖尿病患者のアルブミン/クレアチニン比(ACR)の経時的な変化に影響を及ぼさないことが、英国・ケンブリッジ大学のM Loredana Marcovecchio氏らが行ったAdDIT試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2017年11月2日号に掲載された。青少年期の1型糖尿病患者では、腎疾患や心血管疾患の長期的なリスク因子である微量アルブミン尿や顕性アルブミン尿の発現に先立って、思春期のアルブミン排泄量の急速な増加がみられる。成人1型糖尿病患者では、ACE阻害薬およびスタチンが頻用されているが、思春期患者での評価は十分でないという。ACR上位3分の1の患者を2×2要因デザイン試験で評価 研究グループは、アルブミン排泄量の多い思春期1型糖尿病患者は、ACE阻害薬およびスタチンによりベネフィットが得られるとの仮説を立て、これを検証するために2×2要因デザインによる二重盲検プラセボ対照無作為化試験を行った(国際若年性糖尿病研究財団[JDRF]などの助成による)。 10~16歳の思春期1型糖尿病患者4,407例をスクリーニングの対象とし、ACRが上位3分の1の1,287例を同定した。このうち443例が、4つのレジメン(ACE阻害薬+プラセボ[111例]、スタチン+プラセボ[112例]、ACE阻害薬+スタチン[111例]、プラセボ+プラセボ[109例])の1つに無作為に割り付けられ、年齢、性別、糖尿病罹病期間などのベースラインの患者背景の差が最小となるよう調整が行われた。 2つの介入の主要評価項目はアルブミン排泄量の変化とし、2~4年間、6ヵ月ごとの受診時に早朝尿検体を3回採取してACRを算出し、曲線下面積(AUC)で表した。 主な副次評価項目は、微量アルブミン尿の発現、網膜症の進行、糸球体濾過量の変化、脂質値、心血管リスクの指標(頸動脈内膜中膜厚、高感度C反応性蛋白値、非対称性ジメチルアルギニン値)などであった。主要評価項目を達成できず 2009年5月~2013年8月の期間に、3ヵ国(英国、カナダ、オーストラリア)の32施設で患者登録が行われた。フォローアップ期間中央値は2.6年だった。 ACRのAUCに及ぼすACE阻害薬(効果:-0.01、95%信頼区間[CI]:-0.05~0.03)およびスタチン(効果:0.01、95%CI:-0.02~0.05)の効果は有意ではなかった。2剤の併用にも有意な効果を認めなかった。 ACE阻害薬は、プラセボと比較して微量アルブミン尿の発症率が低かった(p=0.046)が、主要評価項目に関する結果が陰性であったことと、統計解析の計画にも有意差はなかったことから、この発症率の低さは有意ではないと判定した(補正ハザード比[HR]:0.57、95%CI:0.35~0.94、p=0.03[有意水準:p<0.01])。 スタチンの使用により、総コレステロール値、LDLコレステロール値、非HDLコレステロール値、トリグリセライド値、アポリポ蛋白B/A1比が有意に低下した。一方、ACE阻害薬、スタチンともに、頸動脈内膜中膜厚、その他の心血管マーカー、糸球体濾過量、網膜症の進行には有意な影響を及ぼさなかった。 服薬レジメンへのアドヒアランスは全体で75%であった。重篤な有害事象の頻度は全群でほぼ同様で、予想外のものは報告されなかった。 著者は、「ACE阻害薬とスタチンによる早期介入のベネフィットの可能性を評価するには、これらのコホートのフォローアップを今後も行う必要があるだろう」としている。

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中国プライマリケア施設、主要4種の降圧薬常備は3割

 中国における降圧薬の利活用(入手性、費用、処方)は著しく不十分で、とくにガイドラインで推奨される廉価で価値の高い薬剤が、率先して使用されてはいない実態が明らかとなった。中国医学科学院・北京協和医学院のMeng Su氏らが、中国のプライマリケア施設における降圧薬に関する全国調査の結果を報告した。中国の高血圧患者は約2億人と推定されているが、プライマリケアでの治療の実態は、ほとんど知られていなかった。著者は、「今後、高血圧の疾病負荷を減らすために、とくにプライマリケア従事者の活動を介して、価値の高い降圧薬の利用状況を改善する必要がある」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年10月25日号掲載の報告。中国のプライマリケア約3,400施設のデータを解析 研究グループは、2016年11月~2017年5月に実施された中国の全国断面調査(the China Patient-Centered Evaluative Assessment of Cardiac Events[PEACE]Million Persons Project[MPP]primary health care survey)のデータを用い、中国31省のプライマリケア施設3,362施設(地域衛生院203施設、地域衛生サービスステーション401施設、町衛生院284施設、村衛生室2,474施設)における降圧薬62種の入手性・費用・処方パターンを評価した。また、価値の高い降圧薬(ガイドラインで推奨され、かつ低価格)の利用についても評価し、降圧薬の費用と、入手性および処方パターンとの関連性も検証した。主要4種の降圧薬常備は33.8%、高価値の降圧薬常備は32.7% 計3,362施設、約100万例のデータを評価した(農村部:2,758施設、61万3,638例、都市部:604施設、47万8,393例)。 3,362施設中、8.1%(95%信頼区間[CI]:7.2~9.1)は降圧薬を置いておらず、通常使用される4種類(ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、Ca拮抗薬)の降圧薬すべてを常備していたのは33.8%(95%CI:32.2~35.4%)であった。降圧薬の入手性が最も低かったのは、中国西部の村衛生室であった。 また、価値の高い降圧薬を常備していたのは、3,362施設中32.7%(95%CI:32.2~33.3%)のみで、それらの処方頻度は低かった(全処方記録の11.2%、95%CI:10.9~11.6)。価格が高い降圧薬のほうが、低価格の降圧薬より処方される傾向があった。

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アスピリン+リバーロキサバン、心血管疾患の2次予防に有効か/NEJM

 心血管疾患の2次予防において、アスピリンにリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)を併用すると、アスピリン単剤に比べ転帰が改善するが、大出血が増加することが、カナダ・マックマスター大学のJohn W. Eikelboom氏らが行ったCOMPASS試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2017年8月27日号に掲載された。心血管疾患の長期的な予防治療として、アスピリンに替わるさまざまな抗血栓療法レジメンが検討されてきた。2次予防では、アスピリンはプラセボに比べ主要有害心血管イベントのリスクを19%、心血管死のリスクを9%低下させることがメタ解析で示されている。また、選択的直接第Xa因子阻害薬リバーロキサバンは、静脈血栓塞栓症の予防、治療や、心房細動における脳卒中や全身性塞栓症の予防に用いられている。33ヵ国2万7,395例を登録、3群をダブルダミーで比較 本研究は、心血管疾患の2次予防におけるリバーロキサバン+アスピリン、リバーロキサバン単剤、アスピリン単剤の有用性を比較する二重盲検ダブルダミー無作為化試験である(Bayer社の助成による)。 対象は、安定期アテローム動脈硬化性血管疾患(冠動脈疾患、末梢動脈疾患あるいはこれら双方)患者であった。被験者は、リバーロキサバン(2.5mg、1日2回)+アスピリン(100mg、1日1回)、リバーロキサバン(5mg、1日2回)+プラセボ(1日1回)、アスピリン(100mg、1日1回)+プラセボ(1日2回)のいずれかを投与する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、心血管死・脳卒中・心筋梗塞の複合であった。 2013年3月~2016年5月に、日本を含む33ヵ国602施設に2万7,395例が登録され、リバーロキサバン+アスピリン群に9,152例、リバーロキサバン群に9,117例、アスピリン群には9,126例が割り付けられた。 ベースラインの全体の平均年齢は68.2歳、女性は22.0%であった。脂質低下薬は89.8%、ACE阻害薬またはARBは71.2%の患者が使用していた。平均収縮期血圧は136mmHg、平均拡張期血圧は78mmHgで、平均総コレステロール値は162mg/dLであり、90.6%が冠動脈疾患、27.3%が末梢動脈疾患の既往歴を有していた。 本試験は、平均フォローアップ期間23ヵ月時にリバーロキサバン+アスピリン群の優越性が確認されたため中止となった。アスピリン単独よりも主要評価項目が24%低下、大出血は70%増加 主要評価項目の発生率は、リバーロキサバン+アスピリン群が4.1%(379例)、リバーロキサバン群が4.9%(448例)、アスピリン群は5.4%(496例)であった。リバーロキサバン+アスピリン群は、アスピリン群に比べ発生率が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.66~0.86、p<0.001)。リバーロキサバン群とアスピリン群には有意差は認めなかった(HR:0.90、95%CI:0.79~1.03、p=0.12)。 一方、大出血の発生率は、リバーロキサバン+アスピリン群が3.1%(288例)、リバーロキサバン群が2.8%(255例)、アスピリン群は1.9%(170例)であった。リバーロキサバン+アスピリン群およびリバーロキサバン群は、アスピリン群に比し発生率が有意に高かった(HR:1.70、95%CI:1.40~2.05、p<0.001、HR:1.51、95%CI:1.25~1.84、p<0.001)。リバーロキサバン+アスピリン群とアスピリン群の差は、主に入院を要する出血によるもので、脳出血および致死的出血の発生率には有意な差を認めなかった。 全死因死亡の発生率は、リバーロキサバン+アスピリン群が3.4%(313例)、アスピリン群は4.1%(378例)であった(HR:0.82、95%CI:0.71~0.96、p=0.01、有意差を示すp値の閾値は0.0025)。 net clinical benefit(心血管死、脳卒中、心筋梗塞、致死的出血、重要臓器の症候性出血の複合)の発生率は、リバーロキサバン+アスピリン群が4.7%(431例)と、アスピリン群の5.9%(534例)よりも有意に良好であった(HR:0.80、95%CI:0.70~0.91、p<0.001)。 著者は、「早期有効中止となった本試験は、治療効果が過大評価されている可能性があるが、データ安全性監視委員会は中止前に1年以上にわたり併用群でベネフィットの漸進的な増加を観察している」としている。

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