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1.

長期服用でCVD死亡率を高める降圧薬は?~ALLHAT試験2次解析

 米国・テキサス大学ヒューストン健康科学センターのJose-Miguel Yamal氏らは降圧薬による長期試験後のリスクを判定するため、ALLHAT試験の2次解析を実施。その結果、心血管疾患(CVD)の死亡率は全3グループ(サイアザイド系利尿薬[以下、利尿薬]、カルシウムチャネル拮抗薬[CCB]、アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬)で同様であることが明らかになった。なお、ACE阻害薬は利尿薬と比較して脳卒中リスクを11%増加させた。JAMA Network Open誌12月1日号掲載の報告。 本研究は冠動脈疾患(CHD)の危険因子を持つ高血圧症の成人集団を利尿薬、CCB、ACE阻害薬のいずれか3グループに無作為に割り付けたランダム化比較試験のALLHAT試験を2次解析したもの。試験実施期間のうち1994年2月23日~2017年12月31日の最長23年間を追跡し、統計分析は2022年1月~2023年10月に行われた。1次エンドポイントはCVDによる死亡率。2次エンドポイントは全死因死亡、致死性/非致死性(罹患)CVDの複合、CHD、脳卒中、心不全、末期腎不全、がんによる死亡率や罹患率の複合。 主な結果は以下のとおり。 ・本調査は55歳以上の3万3,357例が対象となった。・全死因死亡は3万2,804例(平均年齢±SD:66.9±7.7歳、男性:1万7,411例[53.1%])を利尿薬(1万5,002例)、CCB(8,898例)、ACE阻害薬(8,904例)のいずれかにランダムに割り付けて調査した。・また、致死性/非致死性CVDは2万2,754例(平均年齢±SD:68.7±7.2歳、男性:9,982 例[43.9%])を利尿薬(1万414例)、CCB(6,191例)、ACE阻害薬(6,149例)に割り付けて調査した。・平均追跡期間±SDは13.7±6.7年で、最長は23.9年だった。・ランダム化23年後の100人当たりのCVD死亡率は、利尿薬群:23.7、CCB群:21.6、ACE阻害薬群:23.8であった(CCB vs.利尿薬の調整ハザード比[AHR]:0.97[95%信頼区間[CI]:0.89~1.05]、ACE阻害薬vs.利尿薬のAHR:1.06[95%CI:0.97~1.15])。・2次エンドポイントの長期リスクは3グループ間でほぼ同様で、利尿薬群と比較してACE阻害薬群では脳卒中死亡リスクが19%増加(AHR:1.19[95%CI:1.03~1.37]、致死的/非致死的脳卒中入院の複合リスクが11%増加した(AHR:1.11[95%CI:1.03~1.20])。

2.

CKD治療、ダパグリフロジンにzibotentan併用の有用性/Lancet

 現行の推奨治療を受けている慢性腎臓病(CKD)患者において、エンドセリンA受容体拮抗薬(ERA)zibotentanとSGLT2阻害薬ダパグリフロジンの併用治療は、許容可能な忍容性と安全性プロファイルを示し、アルブミン尿を減少させ、CKDの進行を抑制する選択肢となることが示された。オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J. L. Heerspink氏らが「ZENITH-CKD試験」の結果を報告した。先行研究で、SGLT2阻害薬およびERAは、CKD患者においてアルブミン尿を減少させ、糸球体濾過量(GFR)低下を抑制することが報告されていた。今回、研究グループはzibotentan+ダパグリフロジンの有効性と安全性を評価した。Lancet誌オンライン版2023年11月3日号掲載の報告。zibotentan+ダパグリフロジン併用vs.ダパグリフロジン単独を評価、第IIb相試験 ZENITH-CKD試験は、18ヵ国の診療施設170ヵ所で行われた第IIb相の国際多施設共同無作為化二重盲検実薬対照試験。被験者は、推定GFR(eGFR)が20mL/分/1.73m2以上、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が150~5,000mg/gの成人(18歳以上90歳以下)を適格とした。 研究グループは被験者を無作為に2対1対2の割合で、(1)zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン10mg、(2)zibotentan 0.25mg+ダパグリフロジン10mg、(3)ダパグリフロジン10mg+プラセボの3群に割り付けた。全被験者にスクリーニング前の少なくとも4週間、安定用量のACE阻害薬またはARBを投与し、忍容性が認められた場合に(1)~(3)の割り付け治療薬が1日1回12週間投与された。 主要エンドポイントは、12週時点のUACR(zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン10mg群vs.ダパグリフロジン10mg+プラセボ群)の、ベースラインからの変化量であった。着目したイベントは体液貯留で、ベースラインからの体重増が3%以上(体内総水分量が2.5%以上であること)、または無作為化後のBNP値上昇が>100%、かつBNP値が>200pg/mL(心房細動が非併存)または>400pg/mL(同併存)と定義した。12週時点のUACR、併用群で有意に低下 2021年4月28日~2023年1月17日に1,492例が適格とされた。主要解析では449例(30%)が無作為化され、そのうち447例(99%)が解析に含まれた。平均年齢62.8歳(SD 12.1)、138例(31%)が女性、305例(68%)が白人、平均eGFRは46.7mL/分/1.73m2(SD 22.4)、UACR中央値は565.5mg/g(四分位範囲[IQR]:243.0~1,212.6)であった。447例の割り付けは、zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン群179例(40%)、zibotentan 0.25mg+ダパグリフロジン10mg群91例(20%)、ダパグリフロジン+プラセボ群177例(40%)。 試験期間を通して、zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン群とzibotentan 0.25mg+ダパグリフロジン群は、ダパグリフロジン+プラセボ群と比較して、UACRの低下が認められた。 12週時点でダパグリフロジン+プラセボ群と比較したUACRの差は、zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン群は-33.7%(90%信頼区間[CI]:-42.5~-23.5、p<0.0001)、zibotentan 0.25mg+ダパグリフロジン群は-27.0%(-38.4~-13.6、p=0.0022)であった。 体液貯留は、zibotentan 1.5mg+ダパグリフロジン群で33/179例(18%)、zibotentan 0.25mg+ダパグリフロジン群で8/91例(9%)、ダパグリフロジン+プラセボ群14/177例(8%)で観察された。

3.

日本人統合失調症患者の院内死亡率と心血管治療との関連性

 統合失調症は、心血管疾患(CVD)リスクと関連しており、統合失調症患者では、CVDに対する次善治療が必要となるケースも少なくない。しかし、心不全(HF)により入院した統合失調症患者の院内予後およびケアの質に関する情報は限られている。京都府立医科大学の西 真宏氏らは、統合失調症患者の院内死亡率および心不全で入院した患者の心血管治療との関連を調査した。その結果から、統合失調症は心不全により入院した非高齢患者において院内死亡のリスク因子であり、統合失調症患者に対する心血管治療薬の処方率が低いことが明らかとなった。Epidemiology and Psychiatric Sciences誌2023年10月18日号の報告。 日本全国の心血管登録データを用いて、2012~19年に心不全により入院した患者70万4,193例を対象に、年齢別に層別化を行った。18~45歳の若年群2万289例、45~65歳の中年群11万4,947例、65~85歳の高齢群56万8,957例に分類した。すべての原因による死亡率、30日間の院内死亡率、心血管治療薬の処方について評価を行った。欠損データを複数回代入した後、混合効果多変量ロジスティック回帰分析を用いて分析した。ランダム効果の変数として、病院識別コードを有する患者と病院の特性を用いた。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者は、入院期間が長期化し、入院費用が高額になる可能性が高かった。・非高齢者群における統合失調症患者の院内死亡率は、非統合失調症患者と比較し、有意に不良であった。 【対若年群死亡率】7.6% vs. 3.5%、調整オッズ比(aOR):1.96、95%信頼区間(CI):1.24~3.10、p=0.0037 【対中年群死亡率】6.2% vs. 4.0%、aOR:1.49、95%CI:1.17~1.88、p<0.001・30日以内の院内死亡率は、中年群で有意に不良であった(4.7% vs. 3.0%、aOR:1.40、95%CI:1.07~1.83、p=0.012)。・高齢群の院内死亡率は、統合失調症の有無にかかわらず同程度であった。・β遮断薬およびACE阻害薬、ARB処方は、すべての年齢層の統合失調症患者で有意に低かった。 結果を踏まえ、著者らは「重度の精神疾患を有する患者では、心不全に対する十分なケアやマネジメントが必要である」としている。

4.

アントラサイクリン系薬剤による心機能障害をアトルバスタチンは抑制したがプラセボとの差はわずかであった(解説:原田和昌氏)

 近年、Onco-cardiologyが注目されており、がん化学療法に伴う心毒性を抑制できる薬剤の探索が行われている。動物実験や小規模なランダム化比較試験では、アントラサイクリン系薬剤による左室駆出率(LVEF)低下に対する、アトルバスタチンの抑制作用が報告されていたが、乳がんを中心としたPREVENT試験では効果を示せなかった(ドキソルビシン換算の中央値、240mg/m2)。 リンパ腫患者においてアトルバスタチン(40mg/日)の投与はプラセボと比較して、アントラサイクリン系薬剤に関連する心機能障害を有意に抑制し、心不全の発生には有意な差がないことが、二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験であるSTOP-CA試験で示された(同、300mg/m2)。主要評価項目はLVEFが化学療法前後で絶対値において10%以上低下し、12ヵ月後に55%未満となった患者の割合で、プラセボ群22%対アトルバスタチン群9%であった(p=0.002)。しかし、群全体としてのEF低下幅はスタチン群4.1%で、プラセボ群5.4%との差は1.3%のみであった(p=0.029)。 がん化学療法の心毒性に対する抑制効果のメタ解析では、スピロノラクトン、エナラプリルが最も有効で、スタチン、β遮断薬がこれに続いた。また、アントラサイクリン系薬剤もしくはトラスツズマブ治療を受けた患者のコホート研究では、ACE阻害薬、β遮断薬の治療にて全死亡が少なかった。さらに、アントラサイクリン系薬剤治療に関するメタ解析では、β遮断薬によって心不全の発症が有意に低下した。 スタチンによる心保護作用についてはさまざまな機序が推定されており、その意味で本試験の結果は納得のいくものである。そもそも、最近のメタ解析によるとスタチンにはHFrEF患者の入院の抑制作用も示されている。しかし、EF低下幅の差1.3%で有意差を出すことができたのは、ひとえに試験デザインの秀逸さによるものと考えられる。

5.

高血圧への第1選択としての利尿薬vs.他の降圧薬~コクランレビュー

 高血圧患者における死亡率、心血管イベントの発生率、有害事象による中止率などについて、第1選択薬としてのサイアザイド系利尿薬と他のクラスの降圧薬を比較したシステマティックレビューの結果を、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のMarcia Reinhart氏らがThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2023年7月13日号に報告した。 2021年3月までのCochrane Hypertension Specialized Register、CENTRAL、MEDLINE、Embase、および臨床試験登録が検索された。対象は1年以上の無作為化比較試験で、第1選択薬としての利尿薬と他の降圧薬の比較、および死亡率とその他のアウトカム(重篤な有害事象、総心血管系イベント、脳卒中、冠動脈性心疾患[CHD]、うっ血性心不全、有害作用による中止)が明確に定義されているものとした。 主な結果は以下のとおり。・9万例超が対象の、26の比較群を含む20件の無作為化試験が解析された。・今回の結果は、2型糖尿病を含む複数の合併症を有する50〜75歳の男女高血圧患者における第1選択薬に関するものである。・第1選択薬としてのサイアザイド系およびサイアザイド系類似利尿薬が、β遮断薬(6試験)、Ca拮抗薬(8試験)、ACE阻害薬(5試験)、およびα遮断薬(3試験)と比較された。・他の比較対照には、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、アリスキレン(直接的レニン阻害薬)、およびクロニジン(中枢作用薬)が含まれていたが、データが不十分だった。・重篤な有害事象の総数に関するデータを報告した研究は3件のみで、利尿薬とCa拮抗薬を比較した研究が2件、直接的レニン阻害薬と比較した研究が1件だった。β遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(リスク比[RR]:0.96[95%信頼区間:0.84~1.10]、5試験/1万8,241例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(5.4% vs.4.8%、RR:0.88[0.78~1.00]、絶対リスク減少[ARR]:0.6%、4試験/1万8,135例/確実性:中程度)。・脳卒中(RR:0.85[0.66~1.09]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、CHD(RR:0.91[0.78~1.07]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、心不全(RR:0.69[0.40~1.19]、1試験/6,569 例/確実性:低)。・有害作用による中止(10.1% vs.7.9%、RR:0.78[0.71~0.85]、ARR:2.2%、5試験/1万8,501例/確実性:中程度)。Ca拮抗薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:1.02[0.96~1.08]、7試験/3万5,417例/確実性:中程度)。・重篤な有害事象(RR:1.09[0.97~1.24]、2試験/7,204例/確実性:低)。・総心血管イベント(14.3% vs.13.3%、RR:0.93[0.89~0.98]、ARR:1.0%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。・脳卒中(RR:1.06[0.95~1.18]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.00[0.93~1.08]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、心不全(4.4% vs.3.2%、RR:0.74[0.66~0.82]、ARR:1.2%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(7.6% vs.6.2%、RR:0.81[0.75~0.88]、ARR:1.4%、7試験/3万3,908例/確実性:低)。ACE阻害薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:1.00[0.95~1.07]、3試験/3万961例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(RR:0.97[0.92~1.02]、3試験/3万900例/確実性:低)。・脳卒中(4.7% vs.4.1%、RR:0.89[0.80~0.99]、ARR:0.6%、3試験/3万900例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.03[0.96~1.12]、3試験/3万900例/確実性:中程度)、心不全(RR:0.94[0.84~1.04]、2試験/3万392例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(3.9% vs.2.9%、RR:0.73[0.64~0.84]、ARR:1.0%、3試験/2万5,254例/確実性:中程度)。α遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:0.98[0.88~1.09]、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(12.1% vs.9.0%、RR:0.74[0.69~0.80]、ARR:3.1%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)。・脳卒中(2.7% vs.2.3%、RR:0.86[0.73~1.01]、ARR:0.4%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)、CHD(RR:0.98[0.86~1.11]、2試験/2万4,396例/確実性:低)、心不全(5.4% vs.2.8%、RR:0.51[0.45~0.58]、ARR:2.6%、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(1.3% vs.0.9%、RR:0.70[0.54~0.89]、ARR:0.4%、3試験/2万4,772例/確実性:低)。 著者らは、本結果を以下のようにまとめている。・利尿薬と他のクラスの降圧薬の間で、おそらく死亡率に差はない。・利尿薬はβ遮断薬と比較して、心血管イベントをおそらく減少させる。・利尿薬はCa拮抗薬と比較して、心血管イベントと心不全をおそらく減少させる。・利尿薬はACE阻害薬と比較して、脳卒中をおそらくわずかに減少させる。・利尿薬はα遮断薬と比較して、心血管イベント、脳卒中、心不全をおそらく減少させる。・利尿薬はβ遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、α遮断薬と比較して、有害作用による中止がおそらく少ない。

6.

『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

 6月9日~11日に開催された第66回日本腎臓学会学術総会で、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』が発表された。ガイドラインの改訂に伴い、「ここが変わった!CKD診療ガイドライン2023」と題して6名の演者より各章の改訂ポイントが語られた。第1章 CKD診断とその臨床的意義/小杉 智規氏(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科学)・実臨床ではeGFR 5mL/分/1.73m2程度で透析が導入されていることから、CKD(慢性腎臓病)ステージG5※の定義が「末期腎不全(ESKD)」から「高度低下~末期腎不全」へ変更された。・国際的に用いられているeGFRの推算式(MDRD式、CKD-EPI式)と区別するため、日本人におけるeGFRの推算式は「JSN eGFR」と表記する。・一定の腎機能低下(1~3年間で血清Cr値の倍化、eGFR 40%もしくは30%の低下)や、5.0mL/分/1.73m2/年を超えるeGFRの低下はCKDの進行、予後予測因子となる。※GFR<15mL/分/1.73m2第2章 高血圧・CVD(心不全)/中川 直樹氏(旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野)・蛋白尿のある糖尿病合併CKD患者においては、ACE阻害薬/ARBの腎保護に関するエビデンスが存在するが、蛋白尿のないCKD患者においては、糖尿病合併の有無にかかわらず、ACE阻害薬/ARBの優位性を示す十分なエビデンスがない。したがって、ACE阻害薬/ARBの投与は糖尿病合併の有無ではなく、蛋白尿の有無を参考に検討する。・CKDステージG4※、G5における心不全治療薬の推奨クラスおよびエビデンスレベルが次のとおり明記された。ACE阻害薬/ARB:2C、β遮断薬:2B、MRA:なしC、SGLT2阻害薬:2C、ARNI:2C、イバブラジン:なしD。※eGFR 15~29mL/分/1.73m2第3章 高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症/大島 恵氏(金沢大学大学院 腎臓内科学)・2018年版では「腎硬化症・腎動脈狭窄症」としていたが、本ガイドラインでは「高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症」としている。高血圧性腎硬化症とは、持続した高血圧により生じた腎臓の病変である。・片側性腎動脈狭窄を伴うCKDに対する降圧薬として、RA系阻害薬はそのほかの降圧薬に比べて末期腎不全への進展、死亡リスクを抑制する可能性がある。ただし、急性腎障害発症のリスクがあるため注意が必要である。・動脈硬化性腎動脈狭窄症を伴うCKDに対しては、合併症のリスクを考慮し、血行再建術は一般的には行わない。ただし、治療抵抗性高血圧などを伴う場合には考慮してもよい。第4章 糖尿病性腎臓病/和田 淳氏(岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学)・尿アルブミンが増加すると末期腎不全・透析導入のリスクが有意に増加することから、糖尿病性腎臓病(DKD)患者では定期的な尿アルブミン測定が強く推奨される。・DKDの進展予防という観点では、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬の使用について十分なエビデンスはない。体液過剰が示唆されるDKD患者ではループ利尿薬、尿アルブミンの改善が必要なDKD患者ではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が推奨される。・糖尿病患者においては、DKDの発症、アルブミン尿の進行抑制が期待されるため集約的治療が推奨される。・DKD患者に対しては、腎予後の改善と心血管疾患発症抑制が期待されるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。第9章 腎性貧血/田中 哲洋氏(東北大学大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌内科学分野)・PREDICT試験、RADIANCE-CKD Studyの結果を踏まえて、腎性貧血を伴うCKD患者での赤血球造血刺激因子製剤(ESA)治療における適切なHb目標値が改定された。本ガイドラインでは、Hb13g/dL以上を目指さないこと、目標Hbの下限値は10g/dLを目安とし、個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断することが提案されている。・「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(2020年9月29日版)」に関する記載が追記された。2022年11月、ロキサデュスタットの添付文書が改訂され、重要な基本的注意および重大な副作用として中枢性甲状腺機能低下症が追加されたことから、本剤投与中は定期的に甲状腺機能検査を行うなどの注意が必要である。第11章 薬物治療/深水 圭氏(久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門)・球形吸着炭は末期腎不全への進展、死亡の抑制効果について明確ではないが、とくにCKDステージが進行する前の症例では、腎機能低下速度を遅延させる可能性がある。・代謝性アシドーシスを伴うCKDステージG3※~G5の患者では、炭酸水素ナトリウム投与により腎機能低下を抑制できる可能性があるが、浮腫悪化には注意が必要である。・糖尿病非合併のCKD患者において、蛋白尿を有する場合、腎機能低下の進展抑制、心血管疾患イベントおよび死亡の発生抑制が期待できるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。・CKDステージG4、G5の患者では、RA系阻害薬の中止により生命予後を悪化させる可能性があることから、使用中のRA系阻害薬を一律には中止しないことが提案されている。※eGFR 30~59mL/分/1.73m2 なお、同学会から、より実臨床に即したガイドラインとして、「CKD診療ガイド2024」が発刊される予定である。

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添付文書改訂:アメナリーフに再発性単純疱疹が追加/ミチーガが在宅自己注射可能に ほか【下平博士のDIノート】第125回

アメナリーフに再発性の単純疱疹が追加<対象薬剤>アメナメビル(商品名:アメナリーフ錠200mg、製造販売元:マルホ)<改訂年月>2023年2月<改訂項目>[追加]効能・効果再発性の単純疱疹[追加]効能・効果に関連する注意単純疱疹(口唇ヘルペスまたは性器ヘルペス)の同じ病型の再発を繰り返す患者であることを臨床症状および病歴に基づき確認すること。患部の違和感、灼熱感、そう痒などの初期症状を正確に判断可能な患者に処方すること。<Shimo's eyes>本剤の適応症はこれまで帯状疱疹のみでしたが、2023年2月から「再発性の単純疱疹」が追加されました。帯状疱疹の場合は1日1回2錠を原則7日間投与ですが、再発性の単純疱疹では1回6錠の単回投与となります。初発例は適応になりません。用法・用量に関連する注意には「次回再発分の処方は1回分に留めること」とあり、患者さんの判断で服用するPIT(Patient Initiated Therapy)分を前もって1回分処方することができます。患者さん自身が単純疱疹の症状の兆候を認識した際に速やかに服用することで、早期の対応が可能となります。パキロビッド:パック600と中等度腎機能障害用のパック300が承認<対象薬剤>ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック600/同300、製造販売元:ファイザー)<承認年月>2022年11月<改訂項目>[変更]医薬品名、規格パキロビッドパック600、同300が承認<Shimo's eyes>パキロビッドパックは、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)に続く、2番目の新型コロナウイルス感染症の経口薬として2022年2月に承認されました。2023年3月21日以前は、登録センターに登録することで特定の医療施設に配分されていました。今回パキロビッドパック600/同300が薬価収載され、2023年3月22日以降は一般流通されています。パキロビッドパック600は従来のパキロビッドパックと同等の製剤で通常用のパッケージです。一方、パキロビッドパック300は中等度の腎機能障害(eGFR30mL/min以上60mL/min未満)の患者さん用のパッケージです。600と300はブースターであるリトナビルの投与量は同じですが、抗ウイルス薬であるニルマトレルビルが300では半分の量になっています。ミチーガ:在宅自己注射が可能に<対象薬剤>ネモリズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ミチーガ皮下注用60mgシリンジ、製造販売元:マルホ)<在宅自己注射の保険適用日>2023年6月1日<改訂項目>[追加]重要な基本的注意自己投与の適用については、医師がその妥当性を慎重に検討し、十分な教育訓練を実施した後、本剤投与による危険性と対処法について患者が理解し、患者自ら確実に投与できることを確認したうえで、医師の管理指導のもと実施すること。自己投与の適用後、本剤による副作用が疑われる場合や自己投与の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、ただちに自己投与を中止させ、医師の管理のもと慎重に観察するなど適切な処置を行うこと。また、本剤投与後に副作用の発現が疑われる場合は、医療施設へ連絡するよう患者に指導を行うこと。使用済みの注射器を再使用しないように患者に注意を促し、すべての器具の安全な廃棄方法に関する指導を行うと同時に、使用済みの注射器を廃棄する容器を提供すること。[追加]薬剤交付時の注意患者が家庭で保管する場合は、光曝露を避けるため外箱に入れたまま保存するよう指導すること。<Shimo's eyes>本剤は、4週間の間隔で皮下投与する抗体医薬品のアトピー性皮膚炎治療薬として2022年8月に発売され、2023年6月から在宅自己注射が可能となりました。近年、新しい作用機序のアトピー性皮膚炎治療薬が続々と開発されています。経口薬としては、関節リウマチへの適応から始まったJAK阻害薬、本剤のような抗体医薬品、外用薬ではPDE4阻害薬が発売され、難治性の患者さんにも選択肢が増えています。RA系阻害薬:妊娠禁忌について再度注意喚起<対象薬剤>RA系阻害薬<改訂年月>2023年5月<改訂項目>[新設]妊娠する可能性のある女性、妊婦妊娠する可能性のある女性に投与する場合には、本剤の投与に先立ち、代替薬の有無なども考慮して本剤投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、投与が必要な場合には次の注意事項に留意すること。(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、ただちに投与を中止すること。(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。妊娠が判明したまたは疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。<Shimo's eyes>RA系阻害薬に関しては、2014年9月に妊婦や妊娠の可能性がある女性には投与しないこと、投与中に妊娠が判明したらただちに中止することなどが注意喚起されていましたが、それ以降も妊娠中のRA系阻害薬投与により、胎児や新生児への影響が疑われる症例(口唇口蓋裂、腎不全、頭蓋骨・肺・腎の形成不全、死亡など)が継続的に報告されていました。医師が妊娠を把握せずにRA系阻害薬を使用していた例が複数存在していたため、RA系阻害作用を有する降圧薬32成分(ACE阻害薬、ARB、レニン阻害薬、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬)の添付文書改訂が指示されました。

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心アミロイドーシス、本当に除外できていますか?【心不全診療Up to Date】第9回

第9回 心アミロイドーシス、本当に除外できていますか?Key Points心臓に影響を及ぼすアミロイドーシスには、どんな種類がある?最近話題のATTRアミロイドーシスって、なに?まずは疑い、早期発見!~心アミロイドーシス診断の今とこれから~はじめに心アミロイドーシスとは、心臓の間質にアミロイドと呼ばれる不溶性の異常な線維が沈着して機能障害を引き起こす、重篤で進行性の浸潤性疾患である。そのアミロイドが形成されるために必要なアミロイド前駆蛋白は、現在30種類以上同定されているが、心アミロイドーシスを来す病型は、異常形質細胞により産生されたモノクローナルな免疫グロブリン軽鎖由来のアミロイドが全身諸臓器に沈着する免疫グロブリン性(AL, amyloid light chain)アミロイドーシス、トランスサイレチン(TTR, transthyretin) を前駆蛋白とするアミロイドが全身諸臓器に沈着するATTRアミロイドーシスのどちらかで98%以上を占める1)(図1、表1)。(図1)心臓に影響を及ぼすアミロイドーシスは、主にこの2種類画像を拡大するそしてATTRアミロイドーシスの中に、TTR遺伝子に変異のある遺伝性トランスサイレチン(ATTRv, hereditary transthyretin)アミロイドーシス(常染色体優性の遺伝性疾患)と、変異のない野生型トランスサイレチン(ATTRwt, wild-type transthyretin)アミロイドーシス(旧病名:老人性全身性アミロイドーシス)が存在する(表1)。(表1)心アミロイドーシスの主な種類とその特徴画像を拡大する画像診断技術や非侵襲的な診断方法の進歩のおかげで、そのほかの疾患で偶然診断されることも少なくなく(図2)、心アミロイドーシスは従来考えられていたよりも頻度の高い疾患であることがわかってきている。とくに近年症例数が増加している病型は、高齢者に多いATTRwtアミロイドーシスである2,3)(後述の表3で説明)。(図2)さまざまな場面における心アミロイドーシスの有病率画像を拡大するそして、心アミロイドーシスといえば、早期発見、早期治療がきわめて重要な疾患であるが、それはなぜか。その理由を含め、心アミロイドーシスの今とこれからについて皆さまと共有したい。まずは疑い、早期発見!~心アミロイドーシス診断の今とこれから~心アミロイドーシスを見逃さず早期発見するための症状やポイントを表2、図3にまとめた。(表2)心アミロイドーシスをいつ疑うか画像を拡大する臨床症状は多様であるが、まずは心アミロイドーシスのRed Flagsをしっかり把握しておくことが重要である。左室壁肥厚があるにもかかわらず心電図上は低電位を呈する、ACE阻害薬やβ遮断薬などの心不全治療薬に抵抗性であるなど、表2に詳細を記載したので、ぜひご確認いただきたい。それ以外にも、ATTRアミロイドーシスやALアミロイドーシスを疑う所見も表2、図3に記載した。このように、病歴、血液検査、心電図、心エコー図検査などを参考にしながら、「まずは疑う」という姿勢こそが見逃さないためにきわめて重要である(表3)。(表3)トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)は稀ではない!画像を拡大するそして、臨床的に心アミロイドーシスを疑われた場合(表2、図3)、本当に心アミロイドーシスか、アミロイドーシスであれば、どの病型かを診断していくこととなる。その診断アルゴリズムを最新の文献を参考に図4にまとめたので、これを基に診断方法を解説していく。なお、本邦の「2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン」にも大変わかりやすい診断アルゴリズムが掲載されており、ぜひこちらも一読いただきたい。(図3)心アミロイドーシスの症状画像を拡大する(図4)心アミロイドーシスの診断アルゴリズム4,5)画像を拡大する心アミロイドーシスを疑った場合、まず行うべきことは、治療可能なALアミロイドーシス(未治療の場合、急速に進行する致命的な疾患!)の除外である。ALアミロイドーシスは、骨髄中のクローナルな(腫瘍化した)形質細胞の過剰増殖によるもので、通常、血清または尿中にモノクローナル蛋白(M蛋白)が検出される。この疾患は、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS, monoclonal gammopathy of undetermined significance)、くすぶり型骨髄腫(SMM, smoldering multiple myeloma)、多発性骨髄腫(MM, multiple myeloma)にまたがる疾患群の一部である。MGUSは、クローナルな形質細胞のわずかな過剰増殖(骨髄中のクローナルな形質細胞比率<10%)によるものであり、血清M蛋白が3g/dL未満で、クローンに関連する臓器障害(CRAB [高Ca血症:calcium、腎不全:renal、貧血:anemia、溶骨性骨病変:bone]など)がないと定義される。SMMは、骨髄形質細胞または血清M蛋白のいずれか(または両方)が基準値を超えているが、臓器障害がない患者を指す。そして、最終的には臓器障害(CRAB)を合併し、MMとなる。定義上、ALアミロイドーシスは、MGUSとSMMのいずれにも該当しないが、AL患者の骨髄やM蛋白はそれらの定義に合致している。重要な点は、AL患者は、心筋障害、腎障害、神経障害、肝障害などの臓器障害を有し、化学療法を必要とするということである。治療の詳細は後編で述べる。現在、ALアミロイドーシスを除外するための最も効率的で効果的な方法は、血清および尿蛋白免疫固定電気泳動法(IFE, immunofixation electrophoresis)、血清遊離軽鎖(sFLC, serum free light chain)アッセイ、この3つの簡易検査を行うことである。血清および尿のIFEでM蛋白が検出されず、sFLCアッセイが正常(κ/λ比:0.26~1.65)であれば、ALアミロイドーシスを除外するための陰性的中率は約99%となる(なお、sFLCの正常値は、使用するアッセイによって異なる)6,7)。なお、これらの検査が陽性であれば、生検が必要であり、今後の早期治療も踏まえて早急に血液内科へコンサルトする。一方、これらの検査が陰性であれば、次に行うべき検査は、ピロリン酸シンチグラフィ(99mTc-PYP)である。その結果、視覚的評価法のGrade2(肋骨と同等の心臓への中等度集積)もしくはGrade3(肋骨よりも強い心臓への高度集積)、心/対側肺野比(H/CL比)≧1.5(1時間後撮影)もしくは1.3(3時間後撮影)であれば、ATTRアミロイドーシスと診断される8)。ただし、Grade2の症例では、ALや血液プールへの生理的集積を鑑別する必要があるため、プラナー撮影にSPECT撮影をできる限り追加し、心筋や血液プールへの集積をより正確に評価することが推奨されている8,9)。そして最後にTTR遺伝子解析を行い、ATTRvかATTRwtかを診断する。以上、診断アルゴリズムについて詳しく説明してきたが、最後に少し心アミロイドーシス診断のこれからについて、述べてみたい。近年、人工知能・深層学習モデルを用いて心電図や心エコー図検査から心アミロイドーシスを自動検出する技術の進歩が凄まじく、かなりの精度で完全自動診断できるという報告10)や、機械学習モデルを用いて電子カルテ情報からATTRwtアミロイド心筋症のリスク評価を自動で行い、早期診断に繋げるという報告がある11)。このように、心アミロイドーシスが早期に自動診断される時代はすぐそこに来ており、わが国においても、いち早くこのようなシステムが導入されることが望まれる。以上、今回は心アミロイドーシスとはどういったもので、診断をどうすべきかについて述べてきた。次回は、心アミロイドーシスの最新治療を含めた治療の今とこれからについて詳しくまとめていきたいので、乞うご期待。第10回につづく。1)Benson MD, et al. Amyloid. 2018;25:215-219.2)Ruberg FL, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73:2872-2891.3)Aimo A, et al. Eur J Heart Fail. 2022;24:2342-2351.4)Hanna M, J Am Coli Cardiol. 2020;75:2851-2862.5)Kittleson MM, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;81:1076-1126.6)Katzmann JA, et al. Clin Biochem Rev. 2009;30:105-111.7)Katzmann JA, et al. Clin Chem. 2002;48:1437-1444.8)Dorbala S, et al. J Nucl Cardiol. 2019;26:2065-2123.9)Singh V, et al. J nucl Cardiol. 2019;26:158-173.10)Goto S, et al. Nat Commun. 2021;12:2726.11)Huda A, et al. Nat Commun. 2021;12:2725.

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降圧薬による血圧低下度に薬剤差、個人差があるのか?(解説:石川讓治氏)

 降圧薬の投与によって速やかに降圧目標に達することで、投与開始後早期の患者の心血管イベント抑制につながると考えられている。そのため、それぞれの患者に最も有効な降圧薬を選択していくことが重要である。 本研究は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(リシノプリル20mg)、アンジオテンシンII受容体阻害薬(カンデサルタン16mg)、サイアザイド利尿薬(ハイドロクロロサイアザイド25mg)、カルシウムチャンネル阻害薬(アムロジピン10mg)の4種類の降圧薬をクロスオーバーデザインで繰り返し投与し、降圧度の薬剤差、個人差を検討している。ダブルブラインドではあるが、1例の患者が繰り返しこれらの薬剤を内服したり中止したりするプロトコールであり、参加に同意した患者および医師の大変さが想像された。結果として薬剤間で最大4.4mmHgの収縮期血圧の低下度に差が認められたことが報告された。 降圧の効果に患者間で差があることは重要であるが、本研究の降圧投与量は我が国の最大投与量に近い。血圧低下度の差は設定投与量の差でもあり、日常臨床では4.4mmHg程度の差は投与量の増減で調整すればいいのではないかと感じる。本研究においては、どういった特徴の患者において各降圧薬の降圧度がより大きかったのかといったことは示されていないが、日常臨床においてはそういった情報のほうがより重要に思われた。 英国のNICEガイドランにおいては、年齢によって、カルシウムチャンネル阻害薬と、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体阻害薬のどちらを第一選択にするのかを規定している。プライマリケア医においては、このような明確な指標のほうが有用に思われる。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインにおいては、4つの種類の降圧薬を医師の判断で第一選択薬として選択可能になっているが、英国同様にプライマリケア医に対するより簡便な指針も検討する時期が来たのかもしれない。また、欧米のガイドラインにおいては、降圧薬間の降圧度の差を考慮し、速やかに降圧目標に到達する目的で、第一選択薬として合剤を使用する基準が記載されている。わが国においては、そういったガイドラインの記載はなく、今後の検討が必要である。

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誤嚥性肺炎予防に黒こしょうが効く?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第234回

【第234回】誤嚥性肺炎予防に黒こしょうが効く?Unsplashより使用咳嗽を誘発するものは、誤嚥性肺炎に対して予防的に働くことが知られています。ACE阻害薬は、副作用の咳嗽が誤嚥性肺炎を予防する効果があるとされています。さて今回紹介する論文で検証されたのは、黒こしょうです。黒こしょうは咽頭へのサブスタンスPの放出を増加させることによって、嚥下反射を改善して誤嚥を予防することが示されています。山口 学ほか.療養型病棟における黒胡椒を用いた誤嚥性肺炎予防.日本気管食道科学会会報. 2018;69(1):13-16.この研究では、療養型病床群に入院している患者32例を2群に分け、60日ごとに黒こしょうを使用する群と非使用群にクロスオーバーして黒こしょうを使用し、誤嚥性肺炎の発生率を調べました。研究期間中に37.5℃以上の発熱があった症例は28例で、2日以上の発熱と誤嚥性肺炎があり、抗菌薬を使用した症例は11例でした。黒こしょうを使用した群は、発熱例11例、抗菌薬使用例は2例であり、有意に抗菌薬の使用頻度および治療日数を抑制することが示されました。これと同じメカニズムで、黒こしょうオイルを吸入してもらうことで、脳卒中後遺症の105例に嚥下反射の改善がみられたという報告があります1)。なんかクシャミ出そうなので、個人的には、あまり黒こしょうは吸いたくない気もしますが…。1)Ebihara T, et al. A randomized trial of olfactory stimulation using black pepper oil in older people with swallowing dysfunction. J Am Geriatr Soc. 2006 Sep;54(9):1401-1406.

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RA系阻害薬やアンピシリン含有製剤など、使用上の注意改訂

 厚生労働省は5月9日、RA系阻害薬(ACE阻害薬、ARB含有製剤、直接的レニン阻害薬)、アンピシリン水和物含有製剤およびアンピシリンナトリウム含有製剤(アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウムを除く)の添付文書について、使用上の注意改訂指示を発出した。RA系阻害薬-妊娠する可能性のある女性への注意事項を追加 RA系阻害薬の添付文書には「9.4 生殖能を有する者」の項が新設され、“妊娠する可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する旨、及び妊娠する可能性がある女性に投与が必要な場合の注意事項”を以下のように追記した。(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。・妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。 ・妊娠が判明した又は疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。 ・妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。[妊娠していることが把握されずアンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンII受容体拮抗剤を使用し、胎児・新生児への影響(腎不全、頭蓋・肺・腎の形成不全、死亡等)が認められた例が報告されている] 今回、妊娠中の調査対象医薬品の曝露による児への影響が疑われる症例(児の副作用関連症例)の集積状況を評価した結果、添付文書で妊婦に投与しないよう注意喚起しているにもかかわらず症例の報告が継続していることが明らかとなり、妊娠する可能性のある女性への使用に関する注意が必要であると判断された。抗菌薬のアンピシリンなどは肝機能障害に注意 また、アンピシリン水和物含有製剤およびアンピシリンナトリウム含有製剤については、投与後の肝機能検査値の最悪値が有害事象共通用語規準(CTCAE v5.0)Grade3以上に該当する肝機能障害関連の国内症例を評価し、本剤と肝機能障害との因果関係の否定できない国内症例が集積したことから、以下のように使用上の注意を改訂することが適切と判断された。1.「重要な基本的注意」(新記載要領)又は「重大な副作用」(旧記載要領)の項に定期的な肝機能検査を行う旨を追記する。2. 「重大な副作用」の項に「肝機能障害」を追記する。

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最適な降圧薬は人によって異なるのか/JAMA

 高血圧患者における最適な降圧療法は個人によって異なるか、個別に目標を定めた降圧療法は有益性を最大化できるかという問いには、いまだ明確な解答は得られていないという。スウェーデン・ウプサラ大学のJohan Sundstrom氏らは「PHYSIC試験」において、高血圧に対する4つの異なるクラスの降圧薬による単剤療法の血圧反応にはかなりの異質性があり、これは高血圧治療における個別化治療の進展の可能性を示唆するものであることを示した。研究の成果は、JAMA誌2023年4月11日号に掲載された。スウェーデンの無作為化反復クロスオーバー試験 PHYSIC試験は、いくつかの降圧薬による治療を反復することで、患者内および患者間の血圧反応の差を定量化するようデザインされた二重盲検無作為化反復クロスオーバー試験であり、2017年2月~2020年5月の期間に、ウプサラ大学病院内科の外来研究クリニックで参加者のスクリーニングが行われた(Swedish Research Councilなどの助成を受けた)。 対象は、年齢40~75歳の男女で、試験開始前の5年以内にI度高血圧(収縮期血圧[SBP]140~159mmHg)と診断され、未治療または1剤による降圧治療を受けており、試験期間中に降圧治療の中止が可能な患者であった。混合効果モデルを用いて、1つの治療が他の治療よりも、どの程度効果が高いかを評価し、個別化治療によって達成可能な付加的な血圧の低下量を推定した。 被験者は、4つのクラスの降圧薬(リシノプリル[ACE阻害薬]、カンデサルタン[ARB]、ヒドロクロロチアジド[サイアザイド系利尿薬]、アムロジピン[Caチャネル拮抗薬])の投与を受ける群に無作為に割り付けられ、2つのクラスの薬剤による反復治療が行われた。1剤の投与期間は7~9週で、6期間の治療が実施された。 主要アウトカムは、各治療期間終了時における日中の外来SBPであった。個別化によりSBPがさらに4.4mmHg低下の可能性 280例(平均年齢64歳、男性54.3%)が無作為化の対象となり、合計1,680回の治療が行われた。このうち270例における1,468回の治療(治療期間中央値56日)が主解析に含まれた。高血圧の平均罹患期間は3年、62.1%が降圧薬単剤療法の治療歴があり、平均診察室血圧は154/89mmHgだった。 初回治療期間終了時の平均SBPは、ヒドロクロロチアジド(136.1[SD 10.3]mmHg)が他の薬剤に比べて高く、アムロジピン(130.9[8.6]mmHg)はリシノプリル(129.7[12.7]mmHg)よりも、カンデサルタン(131.8[12.8]mmHg)はリシノプリル(129.7[12.7]mmHg)よりも高かった。 個々の治療に対する血圧反応は、患者間でかなり異なっていた(p<0.001)。血圧反応の差は、とくにリシノプリルとヒドロクロロチアジド(p<0.001)、リシノプリルとアムロジピン(p<0.001)、カンデサルタンとヒドロクロロチアジド(p=0.03)、カンデサルタンとアムロジピン(p<0.001)の間で顕著であった。 一方、リシノプリルとカンデサルタン(p=0.46)、ヒドロクロロチアジドとアムロジピン(p=0.10)には大きな差はなかった。 また、降圧薬を固定した場合と比較して、個別化治療により個々の患者にとって最良の降圧薬を選択すると、SBPをさらに平均4.4mmHg低下させる可能性が示された。 著者は、「これらの知見は、個別化治療の可能性を示唆するものである。今後、複数の降圧薬による治療の個別化の可能性を検証し、日常臨床において降圧療法の個別化を可能にするメカニズムを解明するための研究を進める必要がある」としている。

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IgA腎症の病態に根差した治療(解説:浦信行氏)

 CLEAR!ジャーナル四天王-1535「高リスクIgA腎症に対する経口ステロイドの効果と有害事象を勘案した治療法」の稿で低用量ステロイド群の優位性を解説したが、用量の多寡にかかわらず治療終了後の追跡期間で効果が減弱することが明らかであり、より一層病態に根差した治療法の開発の必要性を述べた。 このたびLancet誌に掲載された新規の非免疫抑制性単分子エンドセリン受容体・アンジオテンシンII受容体デュアル拮抗薬のsparsentanのデータは、病態に根差した有用な治療法であることを期待させるものである。 エンドセリン受容体拮抗薬は血管拡張作用を発揮するが、従来はボセンタンを皮切りに複数の薬剤の臨床使用が可能で、肺動脈性肺高血圧症や、静脈投与に限られるがくも膜下出血術後の脳血管攣縮の抑制に用いられていた。加えて心臓や血管、腎臓に対するエンドセリンの血管収縮作用などに基づく臓器障害作用から、受容体拮抗薬の臓器保護の可能性が期待されていた。A受容体は腎においては糸球体血流低下、レニン分泌増加、メサンギウム細胞収縮、ポドサイト障害による蛋白透過性亢進、糸球体硬化などを惹起するが、B受容体はそれらに拮抗する作用を示す。したがって、受容体の選択性を考慮する必要がある。 sparsentanはA受容体に特異性の高い拮抗薬であり、このたびはIgA腎症を対象として対照群はARB使用群として、第III相二重盲検試験の36週目の中間報告として結果が公表された。結果はジャーナル四天王に示すとおり、49.8%の尿蛋白減少効果を示し、ARB群より41%有意に低下させた。また、尿蛋白の完全寛解率は21%、部分寛解率は70%に及び、いずれもARB群より有意に高値であった。これまでの臨床成績としては糖尿病性腎症や巣状糸球体硬化症で同様の成績が報告されているが、いずれも症例数が少なく、また短期間のデータである。巣状糸球体硬化症に関しては、現在第III相試験が進行中である。果たして試験終了までの2年間の治療で尿蛋白減少作用と腎機能保護作用が確実なものとなるか、期待をもって注目したい。

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重症コロナ患者、ACEI/ARBで生存率低下か/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症成人患者において、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与は臨床アウトカムを改善せず、むしろ悪化させる可能性が高いことを、カナダ・University Health NetworkのPatrick R. Lawler氏ら「Randomized, Embedded, Multifactorial, Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia trial:REMAP-CAP試験」の研究グループが報告した。レニン-アンジオテンシン系(RAS)の中心的な調節因子であるACE2は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の受容体であることから、RASの過剰活性化がCOVID-19患者の臨床アウトカム不良につながると考えられていた。JAMA誌2023年4月11日号掲載の報告。RAS阻害薬または非RAS阻害薬による治療で21日間の無臓器補助日数を評価 REMAP-CAP試験は、現在も進行中の、重症市中肺炎およびCOVID-19を含む新興・再興感染症に対する複数の治療を評価する国際多施設共同無作為化アダプティブプラットフォーム試験で、今回はその治療ドメインの1つである。 研究グループは、2021年3月16日~2022年2月25日の期間に、7ヵ国69施設において18歳以上のCOVID-19入院患者を登録し、重症群と非重症群に層別化するとともに、参加施設をACEI群、ARB群、ARB+DMX-200(ケモカイン受容体2型阻害薬)群、非RAS阻害薬(対照)群に無作為に割り付け、治療を行った。治療は最大10日間または退院までのいずれか早いほうまでとした。 主要評価項目は、21日時点における無臓器補助日数(呼吸器系および循環器系の臓器補助を要しなかった生存日数)で、院内死亡は「-1」、臓器補助なしでの21日間の生存は「22」とした。 主解析では、累積ロジスティックモデルのベイズ解析を用い、オッズ比が1を超える場合に改善と判定した。無臓器補助日数はACEI群10日、ARB群8日、対照群12日 2022年2月25日で、予定された564例の安全性データの評価に基づき、対照群と比較しACEI群およびARB群で死亡および急性腎障害が高頻度であることが懸念されたため、データ安全性モニタリング委員会の勧告により重症患者の登録が中止された。非重症患者の登録も同時に一時中断され、その後、2022年6月8日に試験は中止となった。最終追跡調査日は2022年6月1日であった。 全体で779例が登録され、ACEI群に257例、ARB群に248例、ARB+DMX-200群に10例、対照群に264例が割り付けられた。このうち、同意撤回やアウトカム不明、ならびにARB+DMX-200群を除く各群の重症患者計679例(平均年齢56歳、女性35.2%)が解析対象となった。 重症患者における無臓器補助日数の中央値(IQR)は、ACEI群(231例)で10日(-1~16)、ARB群(217例)で8日(-1~17)、対照群(231例)で12日(0~17)であった。 対照群に対する改善の調整オッズ比中央値は、ACEI群0.77(95%信用区間[CrI]:0.58~1.06)、ARB群0.76(0.56~1.05)であり、治療により無臓器補助日数が対照群より悪化する事後確率はそれぞれ94.9%および95.4%であった。 入院生存率は、ACEI群71.9%(166/231例)、ARB群70.0%(152/217例)、対照群78.8%(182/231)であり、対照群と比較して入院生存率が悪化する事後確率は、ACEI群95.3%、ARB群98.1%であった。

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IgA腎症での尿蛋白減少、sparsentan vs.イルベサルタン/Lancet

 IgA腎症の成人患者において、新規の非免疫抑制性単分子エンドセリン受容体・アンジオテンシン受容体デュアル拮抗薬sparsentanの1日1回投与は、イルベサルタンとの比較において尿蛋白を有意に減少させ、安全性はイルベサルタンと類似していた。オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J. L. Heerspink氏らが、18ヵ国134施設で実施された無作為化二重盲検第III相試験「PROTECT試験」の、事前に規定された中間解析結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「今後、2年間の二重盲検期間完了後の解析により、今回示されたsparsentanの有益な効果が長期的な腎保護作用につながるかどうかが示されるだろう」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年4月1日号に掲載の報告。sparsentan vs.イルベサルタン、尿蛋白/クレアチニン比の変化量で検証 研究グループは、2018年12月20日~2021年5月26日に、生検でIgA腎症と確定診断されACE阻害薬またはARBの最大用量による治療を少なくとも12週間受けているが、スクリーニング時の尿蛋白が1.0g/日以上、推定糸球体濾過量(eGFR)が≧30mL/分/1.73m2の18歳以上の成人患者を登録し、スクリーニング時のeGFR(30~<60mL/分/1.73m2、≧60mL/分/1.73m2)および尿蛋白(≦1.75g/日、>1.75g/日)で層別化して、sparsentan(400mg1日1回投与)群またはイルベサルタン(300mg1日1回投与)群に無作為に割り付けた。 有効性の主要エンドポイントは、36週時における24時間蓄尿による尿蛋白/クレアチニン比のベースラインからの変化量とし、反復測定混合効果モデルを用いて評価した。安全性のエンドポイントは、治療下で発現した有害事象(TEAE)とした。 本稿は事前に規定された中間解析の結果を報告したもので、カットオフ日は、有効性が2021年8月1日、安全性が2022年2月1日であった。sparsentan群で尿蛋白/クレアチニン比が有意に減少 スクリーニングを受けた合計671例中406例が無作為化され、このうち2例(各群1例)が試験薬を投与されず、404例が解析対象となった(sparsentan群202例、イルベサルタン群202例)。 36週時における尿蛋白/クレアチニン比のベースラインからの変化率(幾何最小二乗平均値)は、sparsentan群-49.8%、イルベサルタン群-15.1%であり、sparsentan群がイルベサルタン群より41%有意に低下した(最小二乗平均比率:0.59、95%信頼区間[CI]:0.51~0.69、p<0.0001)。 TEAEは、sparsentan群とイルベサルタン群で類似していた。重度浮腫、心不全、肝毒性、浮腫に関連した投与中止は認められなかった。ベースラインからの体重変化は、sparsentan群とイルベサルタン群で差はなかった。

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収縮期血圧とCOVID-19重症化リスクの用量反応関係

 高血圧患者の血圧管理状況と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時の重症化リスクとの間に、有意な用量反応関係があるとする研究結果が報告された。英ケンブリッジ大学のHolly Pavey氏らが、同国の大規模ヘルスケア情報ベース「UKバイオバンク」のデータを解析した結果であり、詳細は「PLOS ONE」に11月9日掲載された。 高血圧はCOVID-19患者の基礎疾患として最も多く見られ、かつ重症化リスクとの関連が示唆されている。ただし、血圧管理状況と重症化リスクとの関連は、必ずしも十分明らかになっていない。Pavey氏らはこの点について、UKバイオバンクのビッグデータを用いた検討を行った。 解析に必要なデータ欠落のない43万8,400人のうち、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性判定やCOVID-19の診断、またはCOVID-19による死亡が記録されていた1万6,134人(平均年齢65.3±8.7歳、男性47.4%)を解析対象とした。このうち6,517人(40.4%)が高血圧であり、その67.4%は降圧薬が処方されていた。 世界保健機関(WHO)のCOVID-19重症度分類の4~10(入院を要する状態~死亡)を重症と定義すると、3,584人(22.2%)が該当。そのうち29.6%は死亡していた。 まず、高血圧でないCOVID-19患者と高血圧患者を比較すると、高血圧患者の重症化リスクは交絡因子未調整でオッズ比(OR)2.33(95%信頼区間2.16~2.51)であり、年齢と性別で調整してもOR1.52(同1.40~1.65)であって、高血圧患者で有意なリスク上昇が認められた。さらに、調整因子にBMI、人種/民族、喫煙習慣、糖尿病、CRP、タウンゼント指数を追加してもOR1.22(1.12~1.33)、心血管疾患や脳卒中の既往を加えた場合もOR1.15(1.05~1.26)であり、有意性は保たれていた。 次に、研究の主題である、血圧管理状況と重症化リスクとの用量反応関係を検討。収縮期血圧(SBP)120~129mmHgに管理されていた患者を基準とすると、血圧がより低く管理されている場合と管理不良の場合の双方で、以下のように重症化リスクの上昇が認められた。SBP120mmHg未満ではOR1.40(1.11~1.78)、150~159mmHgではOR1.91(1.44~2.53)、160~169mmHgでOR1.77(1.21~2.58)、170~179mmHgでOR1.90(1.09~3.31)、180mmHg以上でOR1.93(1.06~3.51)。なお、SBP130~149mmHgの範囲は非有意だった。 著者らは結論を、「高血圧はCOVID-19重症化のリスク因子である。また、降圧治療を受けている患者では、血圧がコントロールされていない場合に、重症化リスクがより高いことが示された」とまとめている。 なお、SARS-CoV-2はアンジオテンシン変換酵素II(ACEII)を足場として体内に侵入するため、パンデミック当初、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が重症化リスクに影響を与えるとの懸念が指摘され、その後、そのような可能性を否定する研究が複数報告されていたが、本研究においても、ACE阻害薬やARBによる重症化リスクへの影響は認められなかった。

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意識していますか「毎月17日は減塩の日」

 ノバルティスファーマと大塚製薬は、「減塩の日」の啓発にちなみ高血圧症をテーマとしたメディアセミナーを共催した。 高血圧症は、血圧値が正常より高い状態が慢性的に継続している病態であり、わが国には約4,300万人の患者が推定されている。とくに高齢者の有病率が高く、今後も患者数は増加することが予測されている。また、高血圧状態が続くことで、脳心血管疾患や慢性腎臓病などの罹患および死亡リスクが高まることが知られており、血圧を適切なレベルにコントロールすることが重要となる。高血圧治療を阻む3要因は「肥満、食塩の過剰摂取、治療薬の服薬回数」 はじめに下澤 達雄氏(国際医療福祉大学 医学部 臨床検査医学 主任教授)が「高血圧、これからも 減塩宣言 解除なし」をテーマに講演を行った。 高血圧症は、わが国の脳心血管病死亡の危険因子寄与の1位であるが、現状、高血圧治療が大きく進歩したにも関わらず、約3,000万人がコントロール不良という。また、「診断方法が進歩したにも関わらず、医療機関で治療を受けていない方の存在」と「治療方法が進歩したにも関わらず、降圧目標未達成の患者の存在がある」と同氏は現在の課題を説明した。 高血圧の治療は、年々進歩し、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARBなどの降圧薬が登場するとともに、心血管系の疾患への機序のさらなる解明や新たなバイオマーカーの開発などが研究されている。 大規模な臨床試験のSPRINT試験(主要アウトカムは心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、心不全、心血管死)では、積極治療群(≦120mmHg)と標準治療群(≦140mmHg)の比較で積極治療群の方がハザード比で0.73(95%CI、0.63~0.86)と差異がでたものの1)、「治療必要数や有害必要数をみると、まだきちんと治療できていない」と同氏は指摘した。 現在、わが国の高血圧治療ガイドライン(JSH)は、降圧目標値について75歳を目安にわけ、75歳未満ではきちんと血圧を下げるように設定し(例:診察室130/80mmHg未満)、75歳以上では無理せず降圧する方向で行われている(例:診察室140/90mmHg未満)。それでも「全体の1/5しか治療できていないという現実がある」2、3)と同氏は説明する。 その要因分析として挙げられるが、「肥満、食塩の過剰摂取、治療薬の服薬回数」であり、とくに食塩の過剰摂取への対応ができていないことに警鐘を鳴らす。 高血圧学会では、毎月17日を「減塩の日」と定め、食塩の適正摂取の啓発活動を行っている。同学会では、減塩料理の健康レシピなどを“YouTube”で公開しているので、参考にして欲しいと紹介するともに、「20歳時に肥満だと高血圧になるリスクがあり、若いうちから減塩することが重要だ」と同氏は述べ講演を終えた。簡単にできる運動習慣で血圧を下げる 後半では、谷本 道哉氏(順天堂大学 スポーツ健康科学部 先任准教授)が、「高血圧予防のための『時短かんたんエクササイズ』について」をテーマに運動の重要性のレクチャーと簡単にできる運動の実演を行った。 運動による降圧効果は知られており、ウォーキングや水泳などの有酸素運動、筋肉トレーニングともに降圧効果がある(ただし高負荷の筋トレは血管に負担がかかるので注意が必要)。また、心疾患死亡リスクについて、運動習慣がある人と運動習慣がない人を比べた場合、運動習慣がある人の方がリスクが減少しているという4)。 降圧のための運動では、1)まず快適に動ける体作り(例:背骨周りをフレキシブルに動かせること、ラジオ体操はお勧めの体操)2)高齢化により筋力が足元から落ちるので「しっかり歩く」などして維持3)筋肉は適応能力が高く、何歳からでも大きく発達するので筋トレ励行4)生活活動向上に腕を強く振るなど意識して歩行などを行うことで、「体力をつけ、高血圧のリスクを下げていって欲しい」と思いを述べた。同氏の運動の詳細は、下記の“YouTube”で公開されている。

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ARNi【心不全診療Up to Date】第4回

第4回 ARNiKey PointsARNi誕生までの長い歴史をプレイバック!ARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめ!ARNiの認知機能への影響は?はじめに第4回となる今回は、第1回で説明した“Fantastic Four”の1人に当たる、ARNiを取り上げる。第3回でSGLT2阻害薬の歴史を振り返ったが、実はこのARNiも彗星のごとく現れたのではなく、レニンの発見(1898年)から110年以上にわたる輝かしい一連の研究があってこその興味深い歴史がある。その歴史を簡単に振り返りつつ、この薬剤の作用機序、エビデンス、使用上の懸念点をまとめていきたい。ARNi開発の歴史:なぜ2つの薬剤の複合体である必要があるのか?ARNiとは、Angiotensin Receptor-Neprilysin inhibitorの略であり、アンジオテンシンII受容体とネプリライシンを阻害する新しいクラスの薬剤である。この薬剤を理解するには、心不全の病態において重要なシステムであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)とナトリウム利尿ペプチド系(NPS)を理解することが重要である(図1)。アンジオテンシンII受容体は説明するまでもないと思われるが、ネプリライシン(NEP)はあまり馴染みのない先生もおられるのではないだろうか。画像を拡大するネプリライシンとは、さまざまな心保護作用のあるナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、 CNP)をはじめ、ブラジキニン、アドレノメデュリン、サブスタンスP、アンジオテンシンIおよびII、エンドセリンなどのさまざまな血管作動性ペプチドを分解するエンドペプチダーゼ(酵素)のことである。その血管作動性ペプチドにはそれぞれに多様な作用があり、ネプリライシンを阻害することによるリスクとベネフィットがある(図2)。つまり、このNEP阻害によるリスクの部分(アンジオテンシンIIの上昇など)を補うために、アンジオテンシン受容体も合わせて阻害する必要があるというわけである。画像を拡大するそこでまずはACEとNEPの両方を阻害する薬剤が開発され1)、このクラスの薬剤の中で最も大規模な臨床試験が行われた薬剤がomapatrilatである。この薬剤の心不全への効果を比較検証した第III相試験OVERTURE(Omapatrilat Versus Enalapril Randomized Trial of Utility in Reducing Events)、高血圧への効果を比較検証したOCTAVE(Omapatrilat Cardiovascular Treatment Versus Enalapril)にて、それぞれ心血管死または入院(副次評価項目)、血圧をエナラプリルと比較して有意に減少させたが、血管性浮腫の発生率が有意に多いことが報告され、市場に出回ることはなかった。これはomapatrilatが複数のブラジキニンの分解に関与する酵素(ACE、アミノペプチダーゼP、NEP)を同時に阻害し、ブラジキニン濃度が上昇することが原因と考えられた。このような背景を受けて誕生したのが、血管性浮腫のリスクが低いARB(バルサルタン)とNEP阻害薬(サクビトリル)との複合体であるARNi(サクビトリルバルサルタン)である。この薬剤の慢性心不全(HFrEF)への効果をエナラプリル(慢性心不全治療薬のGold Standard)と比較検証した第III相試験がPARADIGM-HF (Prospective Comparison of ARNi With ACE Inhibitors to Determine Impact on Global Mortality and Morbidity in HF)2)である(図3、表1)。この試験は、明確な有効性と主要評価項目が達成されたことに基づき、早期終了となった。つまり、ARNiは、長らく新薬の登場がなかったHFrEF治療に大きな”PARADIGM SHIFT”を起こすきっかけとなった薬剤なのである。画像を拡大する画像を拡大するARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめARNiの心不全患者を対象とした主な臨床試験は表1のとおりで、実に多くの無作為化比較試験(RCT)が実施されてきた。2010年、まずARNiの心血管系疾患に対する有効性と安全性を検証する試験(proof-of-concept trial)が1,328例の高血圧患者を対象に行われた3)。その結果、バルサルタンと比較してARNiが有意に血圧を低下させ、咳や血管浮腫増加もなく、ARNiは安全かつ良好な忍容性を示した。その後301人のHFpEF患者を対象にARNiとバルサルタンを比較するRCTであるPARAMOUNT試験が実施された(表1)4)。主要評価項目である投与開始12週後のNT-proBNP低下量は、ARNi群で有意に大きかった。36週後の左室充満圧を反映する左房容積もARNiでより低下し、NYHA機能分類もARNiでより改善された。そして満を持してHFrEF患者を対象に実施された大規模RCTが、上記で述べたPARADIGM-HF試験である2)。この試験は、8,442例の症候性HFrEF患者が参加し、エナラプリルと比較して利尿薬やβ遮断薬、MR拮抗薬などの従来治療に追加したARNi群で主要評価項目である心血管死または心不全による入院だけでなく、全死亡、突然死(とくに非虚血性心筋症)も有意に減少させた(ハザード比:主要評価項目 0.80、全死亡 0.84、突然死 0.80)。本試験の結果を受け、2015年にARNiは米国および欧州で慢性心不全患者の死亡と入院リスクを低下させる薬剤として承認された。このPARADIGM-HF試験のサブ解析は50本以上論文化されており、ARNiのHFrEFへの有効性がさまざまな角度から証明されているが、1つ注意すべき点がある。それは、サブグループ解析にてNYHA機能分類 III~IV症状の患者で主要評価項目に対する有効性が認められなかった点である(交互作用に対するp値=0.03)。その後、NYHA機能分類IVの症状を有する進行性HFrEF患者を対象としたLIFE(LCZ696 in Advanced Heart Failure)試験において、統計的有意性は認められなかったものの、ARNi群では心不全イベント率が数値的に高く、進行性HF患者ではARNiが有効でない可能性をさらに高めることになった5)。この結果を受けて、米国心不全診療ガイドラインではARNiの使用がNYHA機能分類II~IIIの心不全患者にのみClass Iで推奨されている(文献6の [7.3.1. Renin-Angiotensin System Inhibition With ACEi or ARB or ARNi])。つまり、早期診断、早期治療がきわめて重要であり、too lateとなる前にARNiを心不全患者へ投与すべきということを示唆しているように思う。ではHFpEFに対するARNiの予後改善効果はどうか。そのことを検証した第III相試験が、PARAGON-HF(Prospective Comparison of ARNi With ARB Global Outcomes in HF With Preserved Ejection Fraction)である7)。本試験では、日本人を含む4,822例の症候性HFpEF患者を対象に、ARNiとバルサルタンとのHFpEFに対する有効性が比較検討された。その結果、ARNiはバルサルタンと比較して主要評価項目(心血管死または心不全による入院)を有意に減少させなかった(ハザード比:0.87、p値=0.06)。ただ、サブグループ解析において、女性とEF57%(中央値)以下の患者群については、ARNiの有効性が期待できる結果(交互作用に有意差あり)が報告され、大変話題となった。性差については、循環器領域でも大変重要なテーマとして現在もさまざまな研究が進行中である8,9)。EFについては、その後PARADIGM-HF試験と統合したプール解析によりさらに検証され、LVEFが正常値(約55%)以下の心不全症例でARNiが有用であることが報告された10)。これらの知見に基づき、FDA(米国食品医薬品局)は、ARNiのHFpEF(とくにEFが正常値以下の症例)を含めた慢性心不全患者への適応拡大を承認した(わが国でも承認済)。このPARAGON-HF試験のサブ解析も多数論文化されており、それらから自分自身の診療での経験も交えてHFpEFにおけるARNiの”Sweet Spot”をまとめてみた(図4)。とくに自分自身がHFpEF患者にARNiを処方していて一番喜ばれることの1つが息切れ改善効果である11)。最近労作時息切れの原因として、HFpEFを鑑別疾患にあげる重要性が叫ばれているが、BNP(NT-proBNP)がまだ上昇していない段階であっても、労作時には左室充満圧が上がり、息切れを発症することもあり、運動負荷検査をしないと診断が難しい症例も多く経験する。そのような症例は、だいたい高血圧を合併しており、もちろんすぐに運動負荷検査が施行できる施設が近くにある環境であればよいが、そうでなければ、ARNiは高血圧症にも使用できることもあり、今まで使用している降圧薬をARNiに変更もしくは追加するという選択肢もぜひご活用いただきたい。なお、ACE阻害薬から変更する場合は、上記で述べた血管浮腫のリスクがあることから、36時間以上間隔を空けるということには注意が必要である。それ以外にも興味深いRCTは多数あり、表1を参照されたい。画像を拡大するARNi使用上の懸念点ARNiは血管拡張作用が強く、それが心保護作用をもたらす理由の1つであるわけだが、その分血圧が下がりすぎることがあり、その点には注意が必要である。実際、PARADIGM-HF試験でも、スクリーニング時点で収縮期血圧が100未満の症例は除外されており、なおかつ試験開始後も血圧低下でARNiの減量が必要と判断された患者の割合が22%であったと報告されている12)。ただ、そのうち、36%は再度増量に成功したとのことであった。実臨床でも、少量(ARNi 50mg 2錠分2)から投与を開始し、その結果リバースリモデリングが得られ、心拍出量が増加し、血圧が上昇、そのおかげでさらにARNiが増量でき、さらにリバースリモデリングを得ることができたということも経験されるので、いったん減量しても、さらに増量できるタイミングを常に探るという姿勢はきわめて重要である。その他、腎機能障害、高カリウム血症もACE阻害薬より起こりにくいとはいえ13,14)、注意は必要であり、リスクのある症例では初回投与開始2~3週間後には腎機能や電解質、血圧等を確認した方が安全と考える。最後に、時々話題にあがるARNiの認知機能への懸念に関する最新の話題を提供して終わりたい。改めて図2を見ていただくと、アミロイドβの記載があるが、NEPは、アルツハイマー病の初期病因因子であるアミロイドβペプチド(Aβ)の責任分解酵素でもある。そのため、NEPを持続的に阻害する間にそれらが脳に蓄積し、認知障害を引き起こす、あるいは悪化させることが懸念されていた。その懸念を詳細に検証したPERSPECTIVE試験15)の初期結果が、昨年のヨーロッパ心臓病学会(ESC2022)にて発表された16)。本試験は、592例のEF40%以上の心不全患者を対象に、バルサルタン単独投与と比較してARNi長期投与の認知機能への影響を検証した最初のRCTである(平均年齢72歳)。主要評価項目であるベースラインから36ヵ月後までの認知機能(global cognitive composite score)の変化は両群間に差はなく(Diff. -0.0180、95%信頼区間[CI]:-0.1230~0.0870、p=0.74)、3年間のフォローアップ期間中、各時点で両群は互いに類似していた。主要な副次評価項目は、PETおよびMRIを用いて測定した脳内アミロイドβの沈着量の18ヵ月時および36ヵ月時のベースラインからの変化で、有意差はないものの、ARNi群の方がアミロイドβの沈着が少ない傾向があった(Diff. -0.0292、95%CI:0.0593~0.0010、p=0.058)。これは単なる偶然の産物かもしれない。ただ、全体としてNEP阻害がHFpEF患者の脳内のβアミロイド蓄積による認知障害リスクを高めるという証拠はなかったというのは間違いない。よって、認知機能障害を理由に心不全患者へのARNi投与を躊躇する必要はないと言えるであろう。1)Fournie-Zaluski MC, et.al. J Med Chem. 1994;37:1070-83.2)McMurray JJ, et.al. N Engl J Med. 2014;371:993-1004.3)Ruilope LM, et.al. Lancet. 2010;375:1255-66.4)Solomon SD, et.al. Lancet. 2012;380:1387-95.5)Mann DL, et.al. JAMA Cardiol. 2022;7:17-25.6)Heidenreich PA, et.al. Circulation. 2022;145:e895-e1032.7)Solomon SD, et.al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620.8)McMurray JJ, et.al. Circulation. 2020;141:338-351.9)Beale AL, et.al. Circulation. 2018;138:198-205.10)Solomon SD, et.al. Circulation. 2020;141:352-361.11)Jering K, et.al. JACC Heart Fail. 2021;9:386-397.12)Vardeny O, et.al. Eur J Heart Fail. 2016;18:1228-1234.13)Damman K, et.al. JACC Heart Fail. 2018;6:489-498.14)Desai AS, et.al. JAMA Cardiol. 2017 Jan 1;2:79-85.15)PERSPECTIVE試験(ClinicalTrials.gov)16)McMurray JJV, et al. PERSPECTIVE - Sacubitril/valsartan and cognitive function in HFmrEF and HFpEF. Hot Line Session 1, ESC Congress 2022, Barcelona, Spain, 26–29 August.

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進行期CKDにRA系阻害薬は有益か?―STOP ACEi試験が教えてくれた―(解説:石上友章氏)

 CKD診療は、心血管イベント抑制と腎保護を両立させることを目標としている。RA系阻害薬は、CKD診療の標準治療の1つである。一方で、内因性のレニン・アンジオテンシン系には、腎血行動態の恒常性を保つ作用があり、RA系阻害薬の使用により、血清クレアチニンが上昇し、推定GFRが低下することが知られている。こうした変化は、腎血行動態上の変化であって、機能的であり、一過性の変化であることから、必ずしも有害ではないのではないかと許容されてきた。 本邦の高血圧診療ガイドラインであるJSH2014においても、「RA系阻害薬は全身血圧を降下させるとともに、輸出細動脈を拡張させて糸球体高血圧/糸球体過剰濾過を是正するため、GFRが低下する場合がある。しかし、この低下は腎組織障害の進展を示すものではなく、投与を中止すればGFRが元の値に戻ることからも機能的変化である」(JSH2014, p.71.)とある。一方で、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学校のSchmidt M氏らが、RAS阻害薬(ACE阻害薬、ARB)の服用を開始した12万例超について行ったコホート試験の結果は、こうした軽微なCrの上昇・推定GFRの低下が、必ずしも無害ではないことを示している(Schmidt M, et al. BMJ. 2017;356:j791.)。 2022年、New England Journal of Medicine誌に掲載されたBhandari S氏らによるSTOP-ACEi試験は、この疑問に迫った臨床試験である(Bhandari S, et al. N Engl J Med. 2022;387:2021-2032.)。被験薬であるRA系阻害薬を中止するという介入は、RA系阻害薬を継続した対照に対して、3年後の推定GFR値が回復することはなかった。進行期CKDに、RA系阻害薬の継続が有害であるとは結論できない結果であり、腎機能の保持を目的にして、RA系阻害薬を中止する必要があるとまでは言えない結果である。有意差はつかなかったが、追跡期間中の推定GFRは、常に継続群を下回っている(Figure 2)。 本試験における、そもそもの仮説を支持しない結果であるが、進行期CKDであれば、生理的なRA系の作用が必ずしも機能していない可能性がある。心血管イベントに対する効果は、エンドポイントとして採用されていないので、Schmidt氏らの結果を検証するまでには至っていない。心なしか、もやっとする結果になってしまっている。

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ネガティブな結果を超ポジティブに考える PROMINENT試験【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第55回

第55回 ネガティブな結果を超ポジティブに考える PROMINENT試験冠動脈疾患の危険因子の代表である脂質への介入で、最も目覚ましい成果を挙げている薬剤がスタチンです。多くの疫学研究から、中性脂肪(トリグリセライド:TG)は独立した心血管イベントのリスク因子とされます。しかしながら、スタチン治療下でも高TG血症を呈する症例にしばしば遭遇します。このような例での冠動脈疾患の残余リスク低減に、TG低下作用を持つフィブラート系薬であるペマフィブラートの効果を検証するための臨床研究が実施されました。PROMINENT試験と呼ばれ、十分量のスタチン治療下で、中性脂肪が高く、かつHDLコレステロールが低い2型糖尿病患者を対象に、この薬剤の心血管イベントの抑制作用を確認するデザインでした。2022年11月に米国シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会で結果が発表され、その詳細は臨床系の医学雑誌の最高峰であるNEJM誌に掲載されました(N Engl J Med. 2022;387:1923-1934)。この研究には日本人医師の多くが関心をもっていました。その理由は、本研究は日本人の患者を含む24ヵ国876施設から10,497例が登録されたグローバル試験であるだけでなく、本研究の鍵となるペマフィブラートが日本企業で創製され、その企業の研究開発組織からの資金提供により実施されたからです。つまり日本発の薬剤が世界に勝負を挑んだ大一番であったのです。残念!結果は期待どおりではありませんでした。ペマフィブラート群とプラセボ群のイベント発生率曲線は、観察期間中ほぼ一貫して重なっていました。事前設定されたサブグループ解析も、両群に有意差はありませんでした。つまり、心血管イベントの発生率の抑制作用は証明されなかったのです。PROMINENT試験の結果は、「negative results(否定的な結果)」でした。科学や学問の世界、とくに医療界では否定的な結果が公表されない傾向にあることが問題になっています。膨大なコストを要する臨床試験の実施には、利益を追求する企業として期待する結果があったと推察します。否定的な結果となったPROMINENT試験の結果を、公開することに同意した当該企業の高い倫理観と見識に敬意を表します。また、その否定的な結果を掲載するからこそNEJM誌は一流誌と言われるのだと納得します。否定的な結果が公表されにくい理由を考えてみましょう。単純にいえば、派手で注目を浴びるストーリーが欲しいという人間の根幹的な欲望があります。論文を掲載する側にも有効性を示すポジティブな論文を好むというバイアスがあります。ポジティブな論文のほうが被引用回数を稼ぐことも期待され、インパクトファクター上昇にも寄与します。否定的な研究結果はポジティブな結果よりも公表される可能性が低く、公表された論文を集めるとポジティブな結果に偏りやすいことを出版バイアスと言います。否定的な結果が公表されにくく、ポジティブな研究結果が多くなることによって、メタ解析による分析の結果が肯定的なほうへ偏るといった影響が出ます。メタ解析の結果は、EBMにおいて最も質の高い根拠とされ、診療ガイドラインの策定にも大きな影響を与えます。そのメタ解析の結果に誤認があれば、大勢の健康に影響を与えることに繋がります。PROMINENT試験の否定的な結果についても十分な考察が必要です。研究のベースライン時で95.7%がスタチンを投与されています。さらに、ACE阻害薬やARBの高率な使用や、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬なども影響を与えていることでしょう。心血管イベント抑制作用がすでに確認された複数の薬剤が使用可能な現状で、中性脂肪への介入の上乗せ効果を獲得する余地があるのかどうかも議論すべきでしょう。観察研究と介入研究の違いもあります。観察研究では、中性脂肪の高い人にイベントが多く、中性脂肪の低い人にイベントが少ないことは事実かもしれません。しかし、高い中性脂肪を薬剤介入で低下させることにより、イベントを抑制することが可能かどうかは別の問題なのかもしれません。人は、人生においても辛くネガティブな経験に遭遇しながらも、それに対処しながら生きているものです。企業の運営や経営も人生になぞらえることができます。これが法人という言葉の由縁です。人も企業も、ネガティブな経験に苦しむだけでなく、それを乗り越え肯定的な意味に昇華させていくことが必要です。科学や医学の発展を望むならば、否定的な結果が論文として公表され、さらにそれが活かされるシステムが必要です。否定的な試験には、より良い新たな臨床試験を立案するためなど重要な存在意義があるからです。今回、PROMINENT試験の結果は残念ながら否定的な結果でした。しかし、その臨床研究に取り組む姿勢や志には共感するものがあります。エールを送りたい気持ちです。製薬企業の利益の実現のためだけではなく、人類がより健康になることを目指して活動していることが伝わってきます。今後も解決すべき健康上の課題は多く残されています。今も心筋梗塞で命を落とす患者さんが存在する残念な事実が、その証左です。さあ、ポジティブに前に進みましょう!

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