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アミロイドが見えるとどうなる?(解説:岡村毅氏)-1024

 かつてはアルツハイマー型認知症は死後にしか正確に診断できないとされてきた。しかしアミロイドペットの臨床応用とともに、変わりつつあるようだ。本研究は巨大で、1万6,008名の患者さん、全米595施設から946名の専門医師が参加したものであり、人々(患者さんや医師)の動きを鳥の目で見ることができる点で興味深い。 少し詳しく説明しよう。脳はバイオプシー(生検;生体から組織切片などをとって行う検査)ができないので、脳内にアミロイドがたまる病気であるアルツハイマー型認知症は、基本的には外から患者さんをみることでしか検査ができなかった(脳血流検査や血液・髄液検査の話は簡略のために今回は触れません)。ただ1回の神経心理テストや精神神経症状や脳画像検査から診断することは難しい。しかし現病歴(これまでの経緯)や、初診の後にどのように変遷するかをみることで、診断の確証度は上がっていく。 実は、多くのケースでは診断は難しくない。徐々に発症し、昔のことは覚えているが最近のことを忘れ、視覚構成に難があり、特段の神経症状がなく、社会性は保たれ、つまり診察室では穏やかでにこにこしているが家に帰ると私の財布を取っただろうと言ったりすることもあり…というような典型的なケースであればアルツハイマー型認知症(あるいはそれの手前の軽度認知障害)と診断ができる。そして亡くなった後に何かの経緯で病理学的検査が行われれば、確かにアミロイドが蓄積しており診断は正確であったとわかる。 しばしば難しいケースがある。非典型的な症状があるケースだ。精神症状(妄想など)が重篤なケースや、若年性認知症が疑われる場合などである。このような場合、アルツハイマー型認知症であるかどうかは未来の予測につながり患者さんを守るので、意思決定のために重要な情報である。 アミロイドペットは脳内のアミロイドを可視化する(およそ90%程度の正確性)が、きわめて高価な検査である。前者(難しくないケース)では、あまり意味はないだろう。本人家族に「アルツハイマー型認知症と診断していました、そしてより詳しい検査の結果、診断は正しかったのです!」と伝えたところで何になるというのか。 後者(難しいケース)では、有意義なことも多いだろう。たとえば会社で何をやってもうまくいかなくなって来院した中年の人が、実はアルツハイマー型認知症(の初期)とわかり、本人には何ら落ち度はないのだと皆が知り、苦しみが理解され、社会の支援が始まったというようなケースである。 あまり語られないのは、認知症を過度に恐れる人々の存在である。このような人は、自費で〇十万も払って、自分の脳内にアミロイドがたまっていないかを確認したりするかもしれない。医療保険の領域にこのような人が迷い込まないようにすることが重要だ。関心のある方は「アミロイドPETイメージング剤の適正使用ガイドライン」を参照いただきたい。 さて本論文では、米国の適正使用基準に従って、つまり認知機能低下の原因が不明であり、アルツハイマー型認知症が疑われ、検査によって利益が大きいと判断された人のみが参加したとされている。そしてアミロイドペットによって約60%の患者さんで治療上の変化(薬剤の変化など)が生じており、通常想定される30%を超えているので、有意義であると結論されている。予想の範囲内の展開であるが、もう少し深く見てみよう。 治療の変化をみると、アミロイドペット陽性(つまりアミロイドがたまっている)とわかると、アルツハイマー型認知症の薬剤使用が開始される(MCIで40%から82%へ、認知症で63%から91%)。一方で興味深いことに、アミロイドペット陰性でも、すでに開始されているアルツハイマー型認知症の薬剤は中止されることは少なく、微減にとどまる。また、アミロイドペットを受けた患者さんは、その後に受ける心理検査や髄液検査(どちらも本人にとってはきつい経験だ)が減るので、患者さんは楽にはなる。 診断の変化をみると、アミロイドペット陽性であった方では、アルツハイマー型認知症の診断は80%から96%へと増えた。一方で陰性であった方では72%から10%へと減少した。なお、医師はアミロイドペットの結果、診断により確証をもてる(不確実と考える割合が72%から16%へと激減)が、これは患者さんにも益が大きいだろう。 やはりアルツハイマー型認知症かどうかはっきりとわからない場合には、アミロイドペットによって診断が助けられ、治療に参考になり、患者さんは延々とあれこれ細かい検査を受けずに済むというメリットはあるようだ。とはいえ、アミロイドがたまっているからといって、アルツハイマー型認知症であるわけではないことを忘れてはならない(逆は言える。つまりアルツハイマー型認知症ならアミロイドはたまっているはずだ)。認知症ではない人が研究目的以外にこの検査を受けることには意味はない。

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第20回 医薬分業は必要か? 薬機法改正【患者コミュニケーション塾】

薬機法の改正に向けた10回の議論医薬品や医療機器にまつわる問題については、厚生労働省の医薬・生活衛生局が所管しています。そして、それらにまつわる問題についてさまざまな検討会が開催されますが、大きな問題はその親会である厚生科学審議会(医薬品医療機器制度部会)で議論することになっていて、私も委員の1人として参加しています。2018年4月から12月にかけては、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の見直しに向けて、医薬品・医療機器などを取り巻く現状や課題について10回にわたって議論を行いました。これは、薬事法が2013年11月に改正されて薬機法となった際、安全対策の強化や医薬品販売規制について施行後5年をめどに見直しをするという規定に基づくものです。ただ、この10回の部会の中で多くの時間を割いたのは、薬機法の改正に関わる項目よりも、薬剤師・薬局のあり方、医薬分業のあり方についてで、常に議論が紛糾しました。最終的にその議論は結論を得ることなく、今後も検討を続ける必要があるとして、「薬剤師が本来の役割を果たし地域の患者を支援するための医薬分業の今後のあり方について」というとりまとめを別途行うに至ったのです。患者は医薬分業の意義を見いだせていないこの制度部会は医薬品業界の中で非常に注目され、毎回多くの医薬品関連のメディアや関係者が傍聴に訪れていました。初回から医師側の委員が、「医薬分業自体見直して、院内処方への回帰を考える必要がある」という「医薬分業廃止論」にもつながりうる主張をされたこともあり、議論の行方について関心が高まっていました。私も、一般的には医薬分業率がこの約30年で1割から7割に高まったとはいえ、そのメリットを多くの国民は享受しているとは言えない状況にあることを危惧していました。電話相談やミニセミナー患者塾などを通して一般の方々の本音をお聞きしていると、「院内処方のときよりも院外処方のほうが、経済的負担が重くなった」「病院で待たされて、また薬局でも待たされる。時間がかかるばかりだ」「なぜ薬局に行ってまで病気のことをこまごま尋ねられるのか」という不満ばかりが出てきます。これらの不満の多くは、薬局薬剤師の役割や意義について理解されていないためだと常々思ってきました。薬剤師が「薬のプロ」であることは知っていても、どのような役割を果たしているかを多くの人が理解できていないために、薬剤師に期待が向けられていない、という状態が問題だと思っていたのです。私自身、一般の方を対象に講演をするときには、患者が知っておいたほうがいい知識として、かかりつけ薬局を持つ必要性と、薬剤師の基本的な役割を必ず紹介しています。薬剤師の基本的な役割とは、(1)薬剤情報提供、(2)薬剤服用歴管理、(3)疑義照会、(4)残薬整理です。とくに(1)の薬剤情報提供については、2014年に薬剤師法が改正された際、「薬学的知見に基づく指導」をすることが義務付けられました。つまり、これまで以上に患者に踏み込んだ情報提供をしなければならなくなったのです。それなのに、法改正の後も薬局薬剤師が手にしているのは、病名も病状もわからない処方箋と、患者から得る情報のみです。もっと医療機関から確かな患者情報が得られなければ、薬学的知見に基づく指導なんてできないのではないかと思ってきました。そのため、医療機関と薬局とが連携して情報のやりとりをする、医療機関と薬局の薬剤師の“薬薬連携”こそが重要だと主張してきました。外来での治療が増える中で、求められる変化ところが、このような薬局薬剤師の役割について、多くの患者は理解できていません。それは薬局薬剤師の“役割の見える化”ができていないことに問題があります。そしてそれは、薬局薬剤師自身が、患者にその役割の説明をしていないためだと言い続けてきました。もちろん、すべての薬局・薬剤師に当てはまるわけではありませんが、このような状況を生んでしまっている要素として、調剤業務だけで経営が成り立っていること、薬局薬剤師が地域や多職種と連携できていない内向き傾向にあること、必要な情報を享受するための積極的姿勢に乏しく“待ちの姿勢”に甘んじていること、臨機応変なコミュニケーション能力が発揮できていないこと、などを問題視してきました。この制度部会でも、それらの考えに基づいてかなり積極的に発言を繰り返してきました。ところがその発言は、人の目を引く一部だけが切り取られ、さまざまな医薬品関連のwebニュースで取り上げられました。それによって、制度部会が回数を重ねるに従って、講演先で「どれだけ怖い人かと思って身構えていた」「攻撃だけをする人かと思っていたけれど、今日、話を聴いて薬剤師を応援してくれているのだと誤解が解けた」などと言われることが増えたのです。ときには報道をうのみにして厳しい言葉で非難・抗議するメールが届くことも珍しくなくなってきました。一度誤解されると、どれだけ丁寧に説明しても理解してもらえることは難しいだけに、何ともむなしい気分に陥ることもあるのは事実です。しかし、薬局は今、かなりの瀬戸際に立たされていて、薬剤師が薬局にこもって仕事をしていたのでは淘汰されてしまう。「ウチは一生懸命やっている」と自負していても、患者にその役割と存在意義が認められないと、共倒れになってしまうという危機感を私は肌で感じています。多くの疾患の治療が入院から外来にシフトする中で、患者の薬物療法の安全性を守り、きちんと情報提供してくれる薬剤師の役割は大きいと感じているだけに、一部の情報で批判されようとも、気持ちをなえさせずに主張を繰り返してきました。とりまとめられた内容とは12月に行われた制度部会のとりまとめでは、来年度の国会に提出する法案の骨子として、次のような内容がまとめられました。薬剤師は調剤して終わりではなく、患者が薬を服用している期間を通じてフォローアップする。薬剤師が上記のような役割を十分発揮できるように環境を整備し、そのような対人業務を充実させるために、対物業務の効率化を図る。在宅医療やがんの薬物療法など、専門性の高い薬学的管理が継続的に必要になるため、患者が自分に適した機能を持つ薬局を選択できるように環境を整える。そして、本来薬機法の対象とはならないにもかかわらず、多くの時間を割いた薬局・薬剤師のあり方や医薬分業についてのとりまとめでは、厳しい議論の内容が赤裸々に記されました。たとえば「現在の医薬分業は、政策誘導をした結果の形式的な分業であって多くの薬剤師・薬局において本来の機能を果たせておらず、医薬分業のメリットを患者も他の職種も実感できていない」「単純に薬剤の調製などの対物中心の業務を行うだけで業が成り立っており、多くの薬剤師・薬局が患者や他の職種から意義を理解されていないという危機感がない」「院内処方へ一定の回帰を考えるべきであるという指摘があった」という批判的な意見がそのままにつづられました。薬剤師が調剤時のみならず、服用期間中のフォローアップをすることを薬機法に盛り込むに当たっては賛否両論ありました。私は、本来当たり前に果たす必要のあるその役割について、多くの薬局において実施しているのであれば、わざわざ法律に書き込む必要はないと思います。しかし、これまで自浄作用を待っていたけれど、いつまで経っても自発的に実施する薬局が増えないのであれば、法律で義務化するしかないと主張しました。 反対される委員からは「法律に書き込めば、それは調剤報酬となってお土産を与えるだけだ」という反論がありました。しかし、法律に盛り込まれるということは、「やって当たり前の役割」と公になることです。それを新たな報酬として設けること自体おかしいとさらに反論しました。その結果、とりまとめでは「今回の制度部会での議論も十分踏まえ、患者のための薬局ビジョンに掲げた医薬分業のあるべき姿に向けて、診療報酬・調剤報酬において医療機関の薬剤師や薬局薬剤師を適切に評価することが期待される」と書き込まれました。これは、病院薬剤師の働きを報酬上もっと評価し、法制化したからといって薬局薬剤師の役割のさらなる報酬化につながってはいけないという意味が込められたと私は議論に参加した1人として解釈しています。この問題にご関心をお持ちくださった会員の皆さま、一委員からの報告という一部の切り取りではなく、議論の結果である20ページにわたるとりまとめ全文をどうぞ読んでみてください。そのうえで、ご意見・ご感想をお届けいただければ幸いです。参考「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」、「薬剤師が本来の役割を果たし地域の患者を支援するための医薬分業の今後のあり方について」

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第107回 日本泌尿器科学会総会 会長インタビュー【Oncologyインタビュー】第4回

2019年4月18~21日、名古屋において第107回 日本泌尿器科学会総会が開催される。メインテーマは「技術と心の調和:次世代への胎動」である。会長の千葉大学大学院医学研究院 泌尿器科学 教授 市川 智彦氏に総会の趣旨と見どころについて聞いた。第107回大会のメインテーマ「技術と心の調和:次世代への胎動」にはどのような意味が込められているのでしょうか。生殖医療、ゲノム医療、ロボット手術など泌尿器の分野でも医療技術が進歩しています。しかし、ただ新しいことをやればよいということではなく心も伴っていること、技術と心の調和が必要です。今はそれが混沌として生まれる前の状態、つまり胎動している段階です。技術と心の調和をしっかり理解して、次の世代につなぐ、という意味を込めてこのテーマとしました。今総会の見どころを教えていただきたいと思います。初日の基調講演はゲノムのトピックですね。初日の午前中は、基調講演1として中村 祐輔先生(公益財団法人がん研究会がんプレシジョン医療研究センター 所長)に「がんプレシジョン医療の現状と展望」、基調講演2として福嶋 義光先生(信州大学医学部 遺伝医学教室 特任教授)に「ゲノム医療と遺伝カウンセリング」と題してお話しいただきます。総会テーマの趣旨をプログラムにも反映させ、中村先生にはゲノム医療の技術進歩について、福嶋先生にはゲノム分析が患者さんの心にもたらす部分も含めてご講演いただきます。会長指定企画「最先端と次世代へのメッセージ」は2日間にわたるセッションですが、その内容について教えていただけますか。ここでは今注目されている11の領域・テーマを、初日の午後と2日目の午前・午後の3回にわたり取り上げます(会長指定企画1:生殖医療における技術の進歩・心の変化、腎移植の将来展望、地域医療と泌尿器科、2:癌と泌尿器科、泌尿器癌に対するゲノム医療の実現に向けて、前立腺癌とAR axis、泌尿器癌を対象とした臨床研究、3:エンドウロロジーによる泌尿器科手術の進歩、尿路結石診療における研究の未来、LUTS治療、小児泌尿器科手術の現況と明日)。どのテーマも日本の指導的な立場の先生が話されますので、このセッションを聞いていただければ、泌尿器科の最先端の情報がご理解いただけると思います。シンポジウムについてはいかがですか。泌尿器科で注目されているがん免疫療法、そして去勢抵抗性前立腺がんについてもシンポジウムで取り上げます。初日の午後には、シンポジウム1「泌尿器がんに対する免疫療法」を行います。今総会は理解を深めるために、教育講演、海外招請講演など関連テーマとシンポジウムを連続して行いますが、ここでも教育講演1「最新の基礎研究成果から読み解くがん免疫療法」、海外招請講演1 「Immunotherapy for the treatment of urological cancers」をシンポジウムの前に開催し、基礎研究、世界的なトピック、そして日本の先生の総括という流れで理解を深めていただきます。2日目の午後は、去勢抵抗性前立腺がんについて、シンポジウム11「前立腺癌薬物治療のパラダイムシフト」で取り上げます。こちらも同様に、シンポジウムの前に海外招請講演6「Update in metastatic hormone naive prostate cancer treatment」で、先行する海外の状況をお話しいただいたうえで、薬物療法に理解を深めていただきます。Late-breaking & Encore Sessionについて教えていただけますか。Late-breaking & Encore Sessionは、最新の研究成果をお届けするために行います。当総会の演題締め切り後に結果が出た研究、EAUやASCO-GUといった直近の泌尿器科の学会での発表などを紹介します。今回は初めてweb上で公募する試みを行い、集まった演題の中から9演題を採用しました。そのほかのセッションについてはいかがですか。3日目は土曜日ということもあり、市民も入れるセッションを2つ用意しました。1つは、招請講演1「チバニアンと地磁気逆転」です。千葉大学として千葉に関する話題を岡田 誠先生(茨城大学理学部 教授)にご講演いただきます。もう1つは、会長指定企画4 鼎談「長寿社会の医療を考える」です。1週間後に同じ会場で、第30回 日本医学会総会が、「医学と医療の深化と広がり~健康長寿社会の実現をめざして~」というテーマで開催されますので、それにつなげる意味で企画しました。愛知県の2つの医学部の学長、郡 健二郎先生(名古屋市立大学 学長)と星長 清隆先生(学校法人藤田学園 理事長)に、小出 宣昭氏(中日新聞・東京新聞 顧問)を加え議論していただきます。3日目の午後の招請講演3では「これからの日本の経済社会構造の変化と泌尿器科診療」と題し、医師であり弁護士であり参議院議員でもある古川 俊治先生に、医療経済などと絡めた泌尿器科診療についてお話しいただきます。ケアネット会員の先生方(泌尿器科以外の方も含め)にメッセージをお願いします。泌尿器科領域でも、ゲノム医療、それに伴う遺伝カウンセリングが必要になりつつあります。今回の総会でも、基調講演の2つはゲノム医療と遺伝カウンセリングというテーマで、そこに光を当てています。泌尿器科の先生には総会への参加をお願いするとともに、泌尿器科以外の先生方もプログラムなどで泌尿器科学会に興味を持っていただければと思います。1)第107回 日本泌尿器科学会総会

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「薬剤師以外による調剤可能」通知の衝撃度【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第22回

薬剤師法第19条において、「自己の処方箋以外において、薬剤師以外の者が調剤してはならない」と定められていますが、実際には調剤業務という言葉の定義や範囲がグレーなこともあり、問題となることがありました。このたび、厚生労働省より初めてこの議論に終止符を打つ通知「調剤業務のあり方について」が2019年4月2日付で発出され、衝撃が走っています。結論としては、ピッキングや一包化などの調剤業務を非薬剤師が行うのは可能と明言するものですが、ただ単に調剤業務を非薬剤師に任せてよいというわけではないということに注意が必要です。全薬局薬剤師、薬局従事者が一字一句逃さずに読むべき通知ですが、ここでは大きく2つのポイントを示します。1. 調剤業務を薬剤師以外に行わせる方法と業務範囲「薬剤師の目が現実的に届く限度の場所で」「調剤した薬剤の品質などで患者に危害が及ぶことがなく」「当該業務を行う者が判断を加える余地に乏しい機械的な作業」の場合に非薬剤師に調剤業務を任せることができます。具体的には、PTPシートのピッキングや一包化された薬の数量確認が例として挙げられていますが、あくまでも最終的な確認は薬剤師が行う必要があり、軟膏剤、水剤、散剤などの計量、混合は含まれません。この通知を読んだ薬局従事者全員が、この業務はできる、この業務はできない、と同一の判断ができればいいのですが、薬局によって、また人によって調剤業務の解釈が異なる場合があります。そのため、薬局開設者は、誰が読んでも同一の解釈ができるように、手順書の作成、研修の実施、記録などの対応が求められています。調剤できる能力や理解があることを確認しているという意味で、テストなどを実施し、記録してもいいかもしれません。また、実際に非薬剤師が調剤業務を行った場合にも、誰が調剤したのかという記録は必要ですので、日々の業務における手順の共有や見直しなども必要になるでしょう。2. 通知の目的昨年末に厚生科学審議会の医薬品医療機器制度部会により出された「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」には、薬剤師の行う対人業務を充実させる観点から、対物業務の効率化を図る必要がある、と記載されています。調剤機器やIT技術などの活用により業務の効率化が可能になったことも踏まえ、薬剤師にしかできない本来業務を果たすために、今回の調剤業務のあり方についての通知が発出されたものと考えられます。何のためにこの通知が発出されたのか、ということを肝に銘じながら非薬剤師に調剤業務を任せるべきでしょう。調剤業務を非薬剤師に任せた場合、薬剤師はカウンターや患者さん宅でより薬学的な専門性の高い業務や医師への提案、投薬後の患者フォローを行う割合を増やすのが当然です。薬剤師は疾患についての勉強だけでなく、コミュニケーション力や他職種からの情報収集力など、対人スキルをよりいっそう磨く必要があるでしょう。この通知には、具体的な業務に関してはさらに整理を行い、別途通知を出す旨の記載があります。「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」の改正の議論のなかで、薬局や薬剤師のあり方について非常に辛辣な意見があったことや、「薬剤師の行う対人業務を充実させる」という目的と方向性を考えると、次の通知は非薬剤師に任せられる調剤業務という範囲にとどまらない可能性があります。私としては、今回の通知の事前情報の少なさと発出のタイミングにギョッ!としたのは事実ですが、このくらいのサプライズがまだほかにあっても不思議ではありません。引き続き、動向を見守りたいと思います。

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食べ物と認知症(解説:岡村毅氏)-1021

 これを食べると認知症にならない、というものはあるのだろうか?「危険な食べ物」などの読み物は世の中にあふれているが、科学とは別物だ。私自身も楽しく読んだり見たりするので、批判はしないが…それに支配されて生活している人がいるのは困った現象だ。 「やれ○○がいいとか悪いとか言いながら好き放題食べている日本人の何と多いことか…」 さて本研究はおよそ四半世紀という長い観察期間をとって、食べ物と認知症の発症の関係をみたものであった。臨床家は皆同意すると思うが、有意な関連はみられなかった。食べ物についてはAHEIという指標で包括的に見ている(個別ではない)点が限界(limitation)といえるが、ほかに現実的なやり方はないであろう。とはいえ、健康的な食生活はほかの多くの疾患を予防するので、健康的な食生活が望ましいことは変わりないので早とちりなきよう。 そもそも、○○を食べると認知症にならないというものが本当にあったとしたら、ヒトの集合知は侮れないので、科学者が指摘する前に、すでに人々はそのような食生活をしていることだろう。 本研究の興味深い報告は、実は、抄録にはない部分である。認知症を発症した人について、発症のはるか前には食生活は変わらないが、少し前から(およそ10年)変わり始めるのである。これは常識に照らし合わせて当然の現象であろう。認知機能が微妙に低下を始め、生活の端々で困難を感じ始めると、ストレスは増えるし、細かい自己制御をしている余裕もなく、ジャンクフードが増えたりすることだろう。なので短期間の観察だと差が出るのだ。 私たちは考え方を抜本的に変えなければならないのかもしれない。予防のために無理して頑張って○○をする、○○を食べる、ではないのだ。○○が健康的で好きだ、残念ながら時期がきて認知症になった、でも○○は続ける、に変わるべき時期かもしれない。 手前味噌で恐縮だが、東京都健康長寿医療センターの宇良研究員らが新潟県でしているRICE Studyは、認知症になっても楽しく稲作をするというものである1,2)。稲作というのは、かの地の高齢者にとっては単なる運動ではなく、深い意味のある行為なのである。社会参加、運動、野菜、仲間など、健康的で幸福な生活習慣というのは、認知症予防の文脈でもよく登場する。認知症になっても、「あなたは認知症だから社会から退場してもうデイケアでボール遊びするだけよ」などと言われずに、これまでの健康的生活を続けることができる社会であってほしいものだ。

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誤解されやすいが重要な研究(解説:野間重孝氏)-1019

 多くの忙しい医師たちは論文を熟読するよりabstract部分をチェックして、自分が本当に興味のあるものならば熟読するし、そう思えなかった場合はすぐに次の論文のチェックに移っていくというのが実情なのではないかと思う。そう考えると、バッグマスクによる陽圧換気が誤嚥リスクを増大させるのではないかという問題にあまり関心がない医師がこの論文を読んだ場合、低酸素血症の発生頻度がバッグマスクによる陽圧換気群で低かったという一見当たり前の結論のほうばかりに目が行ってしまい、著者らの研究の真意が伝わらなかった可能性が懸念される。著者らが言いたかったことは結論の後半部分で、バッグマスク陽圧呼吸は誤嚥を増加させなかったというほうなのである。 酸素飽和度のほうにばかり関心が向いてしまった読者には、挿管後2分間に観察された最低酸素飽和度や酸素飽和度80%未満低下というのはsurrogate endpointでtrue endpointは心停止や低酸素脳症などの重篤な合併症なのであり、実際この研究中に心停止事故などは発生していないのだから、この程度の一時的な酸素飽和度の低下の有無に意味があるのか、と考えてしまう可能性がある。そうではなく、著者らはバッグマスク陽圧呼吸の安全性を検証してみせたのである。これは重要な検証である。なぜなら、誤嚥の発生リスクを増大させないならば、バッグマスクによる陽圧換気を行ったほうが安全に決まっているからである。 ちょうどこの論文評を書いている時に、日本医療安全調査機構の『医療事故の再発防止に向けた提言 第7号』が配達された。この提言はNPPV、TPPV療法中の患者に緊急事態が起こった場合の対処法を議論しているため、本研究の趣旨とは少しずれるが、NPPV装着患者の緊急時にはバッグマスクを用いた用手呼吸を行うことが適当であること、さらにその際パルスオキシメータによるモニターを行うべきであるとしている。この提言がバッグマスクによる陽圧換気の安全性を前提としていることは言うまでもないことで、その意味でも本研究の重要さが理解できよう。なお日本麻酔科学会、救急医学会などのマニュアルでも合併症として誤嚥性肺炎の記述はあるものの、バッグマスクによる陽圧換気は当然のように記載されていることは皆さんご存じのとおりである。ただ、一般にわが国のマニュアルでは大抵バッグマスクの使用と救急蘇生における合併症は切り離したかたちで記載されているため、バッグマスク使用そのものの合併症として誤嚥が問題になると認識している医師が少ない可能性は指摘されなければならないだろう。 論文に戻って不満点を言えば、どのような患者を対象としたのかが明示されていない点が挙げられる。対象についてはSupplementary Appendixの中で示されているが、抽象的で定義として不十分ではないかと思われた。こうした研究ではdouble blind化ができないだけに主治医の判断の自由度が大きくなり過ぎる懸念があるからだ。もっとも救急の場面を対象とした7施設共同による臨床研究では、そこまで縛りをきつくすることはできなかったのだろう。もう1点挙げるならば、401例という症例数が統計学的に妥当であるかどうかという点だろう。著者らはもちろんこの問題にdiscussion部分で触れているが、十分な説明になっていないと感じられた。 臨床研究では一見当たり前のように見える事柄が検証されるケースが多々ある。評者は臨床研究では一見当たり前に見えるような事柄を検証することが重要であることを以前から強調してきたが、本論文もそうした範疇に入るものであると考える。それだけに、論文全体の筆致が読者にこの研究の目的について誤解を与えかねないものである点が残念に感じられた。

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医師1,000人の意見割れる! 時間外労働規制に賛成か、反対か

 1年半以上にわたり続けられてきた「医師の働き方改革」の議論がいよいよ大詰めを迎えている。この間、学会や関連団体は提言を行い、特例の上限時間に反対を唱える医師有志らによる署名活動も巻き起こっている。実際に、現場で働く医師1人ひとりは現行の枠組み案をどのように受け止めているのか。ケアネットでは、CareNet.comの医師会員を対象にアンケート調査を実施し、1,000人にその時間外労働の実情や意見を聞いた。 厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」は2019年3月13日、20回目となる検討会を開催し、月内にとりまとめ予定の報告書案を提示した。この報告書案には、勤務間インターバル9時間・当直明けは18時間確保、それらが難しい場合には随時代償休息(時間単位での休息)を付与といった健康確保措置のほか、大きく3つの枠組みを設けた時間外労働の上限規制案が盛り込まれている:・原則「月45時間・年360時間以下」・臨時的な必要がある場合に「月100時間未満・年960時間以下」・特例(指定医療機関および集中的な技能習得が必要な医師)では「月100時間未満・年1,860時間以下」 アンケートは、2019年3月1~13日、ケアネット会員の医師を対象にインターネット上で実施した。回答者の内訳は、年代別では30代が31%で最も多く、40代(26%)、50代(23%)、60代(11%)と続く。病床数別では、200床以上が64%で最も多く、以下、0床(13%)、100~199床(12%)、20~99床(5%)、1~19床(3%)。 このうち、現在提案されている上限規制案に、賛成か、反対かを尋ねたところ、48%が「賛成(どちらかといえば賛成を含む)」と答えた。その理由として、「現実的な内容で、今後段階的に改善を図る上で適当な水準」「規制しないと医師が体力的に疲弊する」などスタートとしては妥当とするコメントが多くみられた。一方、「反対(どちらかといえば反対を含む)」(52%)と答えた医師からは、「規制を作ることには賛成だが、時間枠が広すぎて反対」「特例とはいえ、過労死基準をはるかに超える上限規制は意味がない」など、特例の上限として提案されている“年1,860時間”に対する懸念の声が多くあがっている。 “年1,860時間”は過労死基準を超えて長すぎるために「反対」とする意見がある一方で、「人員が足りず時間外を制限されてしまっては成り立たない」ために反対する声もみられた。現在の時間外労働について聞いた質問では、年1,860時間を超える時間外労働をしていると答えた医師は6.5%。現実問題として負担の集中している現場があることが浮き彫りとなり、時間外規制だけにとどまらない、偏在解消や受診行動を変えるためのアプローチなど、実効性のある対策を求める声があがっている。 また、これらの時間外規制には、アルバイトの勤務時間を含むとされているが、75%の医師がこのことを「知らなかった」と回答。「若手のバイト医師がいなくては病院が回らない」など、アルバイトが制限されることを危惧する意見が上がっている。厚労省では現在、一般労働者の副業・兼業の労働時間管理についての検討がスタートしている。医師においても、規制の適用が開始される2024年4月までを目途に、副業の労働時間管理や健康確保措置の在り方が検討される見通しとなっている。 今回の調査の詳細と、具体的なエピソードやコメントはCareNet.comに掲載中。■関連記事申告や支払いなしの残業ゼロへ、労務管理の徹底求める~働き方改革残業年960時間、特例2,000時間の中身とは~厚労省から水準案宿日直や自己研鑽はどう扱う?~医師の働き方改革「働き方改革」は医師を救う?勤務医1,000人のホンネと実情

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インスリンアナログとヒトインスリンのどちらを使用すべきか?(解説:住谷哲氏)-1016

 はじめに、わが国におけるインスリン製剤の薬価を見てみよう。すべて2018年におけるプレフィルドタイプのキット製剤(300単位/本、メーカー名は省略)の薬価である。インスリンアナログは、ノボラピッド注1,925円、ヒューマログ注1,470円、アピドラ注2,173円(以上、超速効型)、トレシーバ注2,502円、ランタス注1,936円、インスリングラルギンBS注1,481円、レベミル注2,493円(以上、持効型)。ヒトインスリンは、ノボリンR注1,855円、ヒューマリンR注1,590円(以上、速効型)、ノボリンN注1,902円、ヒューマリンN注1,659円(以上、中間型)。つまり、わが国でインスリン頻回注射療法(MDI)を最も安く実施するための選択肢は、インスリンアナログのインスリングラルギンBS注とヒューマログ注の組み合わせになる。さらにわが国においてはインスリンアナログとヒトインスリンの薬価差はそれほどなく、ヒューマログ注とヒューマリンR注のようにインスリンアナログのほうが低薬価の場合もある。したがって、本論文における医療費削減に関する検討はわが国には適用できない。それに対して米国では、インスリンアナログはヒトインスリンに比較してきわめて高価であり(本論文によると米国では10倍の差のある場合もあるらしい)、インスリンアナログをヒトインスリンに変更することでどれくらい医療費が削減できるかを検討した本論文が意味を持つことになる。 医療費削減は重大な問題であるが、医療費を削減した結果、臨床的アウトカムが悪化すれば本末転倒である。そこで本論文ではインスリンアナログからヒトインスリンに変更後におけるHbA1c、重症低血糖および重症高血糖の頻度を検討している。HbA1cはヒトインスリンに変更後0.14%(95%CI:0.05~0.23、p=0.003)増加したが、これは臨床的にはほとんど意味のない変化と見なしてよい。重症低血糖および重症高血糖の頻度にも変更前後で有意な差は認められなかった。つまりヒトインスリンへの変更によって、臨床的アウトカムの悪化なしに医療費の削減が可能であることが示されたことになる。 確かに、インスリンアナログがヒトインスリンに比較して臨床的アウトカムを改善するエビデンスは現時点で存在しない。RCTにおいては、インスリンアナログであるグラルギンはヒトインスリンであるNPHに比較して夜間低血糖を有意に減少させた1)。しかしreal-worldにおいては、NPHとインスリンアナログとを比較するとHbA1c、重症低血糖による救急外来受診または入院の頻度には差がなかったとする報告もある2)。さらに、持効型インスリンアナログ間の比較であるDEVOTEでは、デグルデクはグラルギンに比較して有意に夜間低血糖を減少させたが、両群における3-point MACEには有意な差がなかった3)。 インスリンアナログはヒトインスリンと比較して優れている、と考えている医療従事者は多い。しかし上述したように、インスリンアナログを使用することで低血糖の頻度が減る可能性はあるが、心血管イベントなどの臨床的アウトカムを改善するエビデンスはない。したがってヒトインスリンで十分であるが、米国とは異なりインスリンアナログが安価に使用できるわが国においては、あえてヒトインスリンに固執する必要性もないと思われる。

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第6回 頭痛【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第6回 頭痛「頭痛」は人類の誕生とともに出現したであろうし、その歴史が続く限り存在する、絶えることのない症状の1つと考えられます。したがって、誰もが経験する痛みの症状でもありますし、医療者側としても理解しやすい症状です。頭痛は、精神的なストレスや緊張が大いに関係しています。ある意味では、精神・心理学的問題を基盤とする現代病の1つでもありますし、この種の頭痛に悩まされている患者さんが増加しております。今回は、この頭痛を取り上げたいと思います。片頭痛などのように頭痛のみを主症状とする痛みと、その一方で脳の重大な病変の1症状として頭痛や脳以外の病気の合併症としての頭痛があります。前者を1次性頭痛、後者を2次性頭痛として分類しています。1次性頭痛1)片頭痛女性に多くみられます。頭痛頻度としては数回/月、持続は数時間~3日間程度です。症状として、最初の頃、多くは拍動性ですが、次第に中等度~重度の非拍動性持続性激痛に変わっていきます。もちろん日常生活にも支障を来します。随伴症状としては視野の一部に欠損が生じ、その欠損部の周囲に光輝く色づいたふち飾り様の像が現れる閃輝暗点などの前兆のほかに、光を異常にまぶしく感じたり、音に過敏になったりします。また、完全な半盲や半身のしびれ感や脱力感、言葉が出にくくなったりします。これらの前兆は15~30分程度持続し、その後に頭痛が片側性にみられます。頭痛発作中には悪心・嘔吐や顔面の発汗、錯乱状態を来すこともあります。誘発因子には、精神的ストレスが最も多く、動作、運動、疲労なども挙げられます。また、遺伝素因が認められております。2)緊張型頭痛女性に多くみられます。頭痛頻度としてはほぼ毎日、持続は30分~7日間程度です。症状としては圧迫感、締め付け感がみられます。頭痛は両側性にみられ、程度としては軽度~中等度ですので、日常生活に支障は少ないようです。誘発因子としては、疲れ目、耳の炎症や蓄膿症などの耳鼻科的疾患が考えられます。そのほかに、噛み合わせ不均衡などによって顎関節に負担がかかり、その負担が側頭部に移行して痛みが生じます。また、頸椎症による頸部の神経刺激のために生じる頸部筋肉の収縮や疲労、姿勢も誘発因子になります。随伴症状としては肩こり、疲労、倦怠感などの不定愁訴なども挙げられます。精神的緊張度が高く、神経質な性格の方は緊張性頭痛を発症しやすいようです。3)群発頭痛1次性頭痛の中では最も少ない頻度です。男性に多くみられます。頭痛の頻度としては、群発期では数週間~数ヵ月にわたって連日発症し、寛解期は数ヵ月~数年程度です。症状としては、就寝後30~60分くらいしてから起こる片側性の激しい頭痛です。「眼の奥が抉り取られるような」とか「灼けるような」などの激しい表現がされています。当然のことですが覚醒してしまいます。頭痛側の顔面の紅潮や発汗、眼球結膜の充血、鼻閉、鼻汁、流涙もみられます。持続時間は、15分~3時間程度ですが、頭痛の程度は重度であり、じっとしていられないと表現されています。もちろん日常生活にもかなり支障を来します。誘発因子には、アルコール、ヒスタミンが挙げられておりますが、寛解期にはアルコールを飲用しても頭痛発作は生じません。また、遺伝素因が5%に認められています。2次性頭痛問題となるのは、生命の危機を伴い緊急処置を要する頭痛です。注意すべきは、くも膜下出血、脳出血、髄膜炎、脳腫瘍、急性緑内障、頭部外傷、脳梗塞などです。十分に慎重な診察が必要です。また、頭部に痛みが生じる疾患としては、帯状疱疹関連痛、側頭動脈炎、三叉神経痛、後頭神経痛、大後頭三叉神経症候群、頸椎疾患、副鼻腔炎、顎関節症、心因性頭痛などが挙げられます。それぞれの疾患に関し鑑別診断が重要です。今回は頭痛についてまとめました。上記の分類のほかに牽引性頭痛(脳腫瘍、頭蓋内血腫、水頭症、低髄圧性頭痛などで重く鈍い痛み)、炎症性頭痛(髄膜炎、くも膜下出血、側頭動脈炎、静脈炎、神経炎など自発痛とともに軽刺激でも痛みを生じるようになるもの)、神経痛性頭痛(大・小後頭神経痛、大耳介神経痛、三叉神経痛などで刺すような激しい痛みですが、発作が治まると無症状のもの)、眼・耳鼻・歯疾患性頭痛(緑内障、眼精疲労、眼炎症、眼出血、血管運動性鼻炎、急性・慢性鼻炎、副鼻腔炎、鼻中隔変形、鼻咽頭炎、咬合不全、齲歯など)、精神的頭痛(抑うつ状態、神経症、ヒステリーなど)もありますが、注意しなければならないことに、頭痛には混合性も多く含まれていることです。それだけに明確に分類できるものではありませんが、それでも興味を持って診療にあたればきっと役に立つと思います。次回は、「上肢の痛み」を取り上げます。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:122-123.2)山村秀夫ほか編集. 痛みを診断する. 有斐閣選書;1984.p.40-56.

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特例1,860時間は妥当? あり得ない? 医師1,000人のリアルな本音

5年後の2024年4月から、医師においても時間外労働規制が適用される見通しとなっており、枠組みについての議論が大詰めを迎えています。将来的にさらなる削減を目指しつつも、まずは著しい過重労働を軽減するという方向性で議論が進んでいますが、現場の先生方はどのように受け止めているのでしょうか。ケアネットでは、CareNet.com会員医師約1,000人に、その実情と提示されている案への意見をお聞きしました。コメントはこちら結果概要約半数が時間外労働は週7時間と回答、一方で週40時間超えも厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」では、大きく分けて下記3つの上限水準案が示されている(2018年3月13日現在):原則「月45時間・年360時間」臨時的な必要がある場合に「月100時間未満・年960時間以下」特例(指定医療機関および集中的な技能習得が必要な医師)では「月100時間未満・年1,860時間以下」このうち、現状の時間外労働時間がどの枠組みに当てはまるかについて聞いたところ、47.1%の医師が一般労働者と同様の水準である「月45時間・年360時間(≒週7時間)」と回答した。一方で、「月100時間未満・年960時間以下(≒週20時間)」の医師が34.3%、「月100時間未満・年1,860時間以下(≒週40時間)」の医師が12.1%、それを超える医師も6.5%おり、半数強の医師で長時間労働の実態がうかがえる結果となった。画像を拡大する年代別にその割合をみると、若い世代で長時間労働が多くなり、週7時間程度と回答したのは20代で25.8%、30代で36.6%に留まっている。50代以降では、6割以上の医師が週7時間程度と回答している。画像を拡大するまた、勤務先の救急体制別にみると、三次救急医療機関勤務の医師では42.6%が週20時間、そして33.1%が週40時間あるいはそれを超えると回答し、重症患者を受け入れる現場でとくに負担がかかっている状況がみられる。一方で、二次・三次救急医療機関以外でも、一定数長時間の時間外労働のある医師がいることがうかがえる。画像を拡大する時間外労働規制の現案に対し、賛成/反対が半数ずつ現在提案されている上限規制の枠組みに対し、賛成(どちらかといえば賛成を含む)が48%、反対(どちらかといえば反対を含む)が52%と、会員医師の意見は半分に割れる結果となった。回答理由について、賛成派からは「妥当なところ」「まずは始めてみるべきだと思うから」など、とにかく一歩踏み出すことを評価する声が上がった。反対派からは、「過労死ラインを超えるのはおかしい」「特例がそのうち当たり前とされるようになる」など、長時間労働が容認される可能性に対する懸念の声が多く上がっている。画像を拡大する現状の時間外労働が長くなるほど、反対意見が多くなる傾向がみられた(“どちらかといえば反対”を含めると、48.7%<51.7%<60.5%<60.6%)。時間外労働が週40時間あるいはそれを超えると回答した医師のうち、賛成派では「多忙すぎる」「体がきつい」など、限界を感じていることがうかがえるコメントが寄せられている。また、「事務仕事を除くことができれば実現可能」「コンビニ受診などの意識改革がなければ業務削減できずサービス残業になる」など、上限時間規制だけに留まることなく、タスクシフトや受診者側の意識改革などの実行を求める声が上がった。反対派では、「地方ではあり得ない。医師がほとんどいないのに無理」「時間制限するならば、同レベルの医師をその分増やさないと到底現場が回らない」など現状の人員だけでは実現不可能とする声や、「臨時的な必要」という言葉のあいまいさを危惧する意見が上がっている。また、今回の働き方改革により本来一番大きく労働環境が改善されるべき年1,860時間を超える医師において、反対意見が33.3%と最も多くなっている。しかしその理由としては、「さすがに長すぎる」という意見がある一方で、「医療の質が落ちる」「抑制されると部門の運営ができない」など、医療現場の切実な状況や医療の質に対する懸念を反映した意見が上がった。画像を拡大する年代別にみると、とくに20~30代の若い世代で賛成意見を反対意見が上回り、60代以上では56%が賛成・どちらかといえば賛成と答えている。画像を拡大する時間外規制にアルバイトの勤務時間も含まれることを、75%が「知らなかった」と回答アルバイトの勤務時間が、上記時間外規制の時間内に含まれることについては、75%と多くの医師が認識していなかった。「アルバイト時間を制限されると困る」「若手のバイト医師がいなくては病院が回らない」など、現実問題として医師自身の生活や病院運営を支えていることを訴える声が上がっている。画像を拡大するコメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承ください)賛成意見[スタートには妥当]原則を規定しないと、働き方改革は進まない今回をきっかけに医師の労働時間管理を進めるべき現実的な内容で、今後段階的に改善を図る上で適当な水準と思われる意欲ある労働には上記の時間が妥当当直=時間外なので、月45時間では病院が機能しないから[現場の疲弊に対策は待ったなし]働きすぎで疲弊している医師が多い規制しないと医師が体力的に疲弊し、モチベーションが落ち医療の質低下につながる現場が回らなくなることを国に気づいてもらい、もっと根本的な原因対策のきっかけに[集中的な技能習得の必要性]短期間に集中的に練習したほうが、技術習得は早いキャリアが浅いうちは進んで働くケースが許容され、それに見合った給与をもらうべき[支払いなしの残業時間はなくすべき]上限があろうがなかろうが実質勤務時間は変わらないので、時間外勤務を給与に反映させられるほうがいい下手に上限時間が短いと、事務で時間外労働を勝手に削るという現状がまかり通ってしまう[並行して時間規制以外の対策を]窓口徴収額を上げる、救急車有料化などの対策が望まれる。費用が安ければ需要を喚起するのは当然で、不要な受診を増やしているのは間違いないコンビニ受診などが減らない限り業務量は減らせない働き方だけを変えても問題解決にならず、病院の受診方法など根本的に変えないと無理応召義務があるから年360時間以内など不可能反対意見[1,860時間への懸念]1,860時間までなら働かせてよいという認識になってしまいそうだから前年度の勤務時間が1,860時間以上の医師に限るなどの条件が必要『臨時的な必要』が拡大解釈されて、結局は急性期病院勤務の医師の多くが過剰な残業を余儀なくされる規制を作ることには賛成。時間枠が広すぎて反対特例とはいえ、過労死基準をはるかに超える上限規制は意味がない善意につけこむ形で長時間労働が行われている現状なのに、さらにそこに法的根拠を与えるのは危険[応召義務についての議論が不十分]患者の容体によって仕事が左右されるのが医師の宿命だし、時間外勤務時間が超過しているから診察しないは通らない誤解を招きうる応召義務は撤廃すべき[科や地域による偏在解消が先決]人員適正配置といったバックアップなしに議論しても意味がない人がいない。休診時間が増えれば救急が大変になる過疎地域での臨床に問題が起こる[サービス残業が増えるという懸念]タイムカード上の操作が行われ、超勤手当がつかなくなるかもしれない医師の少ない当地方では、制限がかかっても働かざるを得ない状況も生じうる。結局無償で働かされることになる上限を決めても仕事が減るわけではない。サービス残業になるだけ1,860時間分時間外手当が支給されるとは思えない時間外割増賃金の支払義務の定めなしに時間上限だけ決めるのは良くない[インセンティブを効果的に設ける必要性]給料をもっと上げて救急医を増やすべき当直代に+αとして診療1人/入院1件あたりなどでインセンティブを設けるべき基本給が低く、残業代が入らなくなるなら、大学の基本給を上げてからするべきまずは大学病院医師の待遇改善に取り組む必要がある設問詳細Q1.勤務先の病院についてお教えください一次救急医療機関(軽症・帰宅可能患者対応、休日夜間急患センター)二次救急医療機関(中等症~重症・一般病棟入院患者対応、当番制)三次救急医療機関(重症~危篤・ICU入院患者対応、救命救急センター)それ以外Q2.時間外労働時間について、検討会で示されている下記枠組みのうち、先生はどちらにあてはまりますか※1日8時間・週40時間(=5日)勤務を基準として、当直を含む時間外労働時間の合計としてあてはまるものを選択ください月45時間未満・年360時間以下(≒週7時間)月100時間未満・年960時間以下(≒週20時間)月100時間未満・年1,860時間以下(≒週40時間)上記を超えるQ3.時間外上限規制について現状提案されている、原則「月45時間・年360時間」、臨時的な必要がある場合に「月100時間未満・年960時間以下」、特例として指定された医療機関(および一定期間集中的な技能習得が必要な医師)では「月100時間未満・年1,860時間以下」に、賛成ですか?反対ですか?賛成どちらかといえば賛成どちらかといえば反対反対Q4.Q3の回答について理由をお教えください(自由記述)Q5.上記には「アルバイトの勤務時間も含まれる」ことを知っていましたか?知っていた知らなかった画像を拡大する

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再発ヘルペスを患者判断の服薬で抑止

 再発性単純疱疹の初期症状に対し、患者判断で抗ヘルペスウイルス薬の服用を開始できるPIT(Patient Initiated Therapy)としての用法・用量がわが国で初めて承認された。 これを機に、2019年3月6日、マルホ株式会社が開催したメディアセミナーにて、本田 まりこ氏(東京慈恵会医科大学皮膚科 客員教授/まりこの皮フ科 院長)が、ヘルペスウイルスによる感染症について、最新の動向と治療戦略を語った。PITは海外での標準的な治療法 ヘルペスウイルスは、初感染後、生涯にわたって神経節に潜伏感染する。なかでも単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症は、免疫力の低下をきっかけに再発を繰り返す。年間再発回数は、HSV-1(主に口唇ヘルペスの原因)感染者で平均2.14回、HSV-2(主に性器ヘルペスの原因)感染者で平均9.34回というデータが報告されている。 抗ヘルペスウイルス薬による再発性単純疱疹の治療は、発病初期に近いほど効果が期待されるが、初期症状のうちに医療機関を受診できる患者は少ない。しかし患者の多くは、痒みや違和感などといった再発の初期症状を、皮膚症状が発現する前に自覚しているという。 患者が再発ヘルペスの初期症状を自覚した時点で、あらかじめ処方された経口抗ヘルペスウイルス薬を服用する方法は「PIT」と呼ばれ、海外においては再発性単純疱疹の標準的治療法として位置付けられている。早期の再発治療で、患者のQOL向上を目指す 再発は一般的に軽症例が多いが、年に複数回繰り返されるので、患者の精神的な負担にもなると考えられている。一方、免疫不全患者ではびらんから潰瘍に進行することもあり、予防と早期治療が求められる。 2019年2月、ファムシクロビル錠250mg(商品名:ファムビル)に、PITの用法・用量として、再発性の単純疱疹に対する適応が追加された。これによって、患者は再発性単純疱疹の初期症状に対し、あらかじめ処方された本剤を1回1000mg、1日2回服用することで、自己判断による再発治療が可能となった。 本田氏は、「抗ヘルペスウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑える薬であるため、発症初期に服用しないと意味がない。再発時の初期症状に対し、適切な薬剤を服用すると、病変の出現を予防できることがある。処方時、患者には正しい服薬指導をしておくことが重要」と述べ、講演を終えた。

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第6回 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」をどう使う?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第6回 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」をどう使う?Q1 なぜ、高齢者の血糖コントロール目標が発表されたのですか?糖尿病の血糖コントロールに関しては、かつては下げれば下げるほどよいという考え方でした。ところが、ACCORD試験などの高齢者を一部含む大規模な介入試験によって、厳格すぎる血糖コントロールは細小血管症を減らすものの、重症低血糖の頻度を増やし、死亡に関してはリスクを減らさずに、むしろ増やすことが明らかになりました。さらに、重症低血糖は、死亡だけでなく、認知症、転倒・骨折、ADL低下、心血管疾患の発症リスクになることがわかってきました。また、軽症の低血糖でもうつ状態やQOL低下をきたすことも報告されています。すなわち、低血糖は老年症候群の一部を引き起こすのです。また、低血糖は高齢者で起こりやすくなり、とくに重症低血糖は80歳以上の高齢者でさらに増えることがわかっており、低血糖の弊害の影響を大きく受けるのは高齢者ということになります。生物学的には高齢者においても血糖コントロールは糖尿病合併症を減らすと考えられますが、心血管を含めた合併症を予防するためには少なくとも10年間以上の良好な血糖コントロールを要すると思われます。とすると、平均余命が短い高齢者では厳格な血糖コントロールの意義が相対的に小さくなることになります。平均余命の推定は困難なことが少なくありませんが、高齢者の死亡リスクは疾患やそのコントロール状況よりもむしろ機能状態、すなわち認知機能やADLの状態によって決まることがわかっています。認知機能、ADL、併存疾患などで糖尿病を3つの段階に分けると、機能低下の段階が進むほど、死亡リスクが段階的に増えていくので、血糖コントロール目標は柔軟に考えていく必要があるのです。また、高齢者に厳格なコントロールを行うと、重症低血糖のリスクだけでなく、多剤併用や治療の負担も増えることになります。一方、血糖コントロール不良(HbA1c 8.0%以上)は網膜症、腎症、心血管死亡だけなく、認知症、転倒・骨折、サルコペニア、フレイルなどの老年症候群のリスクにもなることにより、高齢者でもある程度はコントロールしたほうがいいことも事実です。こうしたことから、米国糖尿病学会(ADA)、国際糖尿病連合(IDF)は平均余命や機能分類を3段階に分けて設定する高齢者糖尿病の血糖コントロール目標を発表しました。本邦でもこうした高齢者糖尿病の種々の問題から、高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が発足し、2016年に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)が発表されました(第4回参照)。Q2 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」のわかりやすい見かたとその意味について教えてください。日常臨床において、上記の図を見ながら高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)を設定するのは複雑で大変であるという意見もあります。そこで、私たちが行っている方法を紹介します。図1の簡単な血糖コントロール目標の設定を参照してください。1)まず、75歳以上の後期高齢者でインスリン、SU薬など低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用している場合を考えます。この場合、カテゴリーIの認知機能正常で、ADLが自立している元気な患者と、カテゴリーIIの軽度認知障害または手段的ADL低下の患者の目標値は全く同じで、HbA1c 8.0%未満、目標下限値はHbA1c 7.0%。この数字だけでも覚えておくといいと思います。目標下限値がHbA1c7.0%というのはIDFの基準と全く同じであり、HbA1c 7.0%をきると重症低血糖、脳卒中、転倒・骨折、フレイル、ADL低下または死亡のリスクが高くなるという疫学データに基づいています。2)つぎに中等度以上の認知症または基本的ADL低下があるカテゴリーIIIの患者の場合は、(1)に+0.5%で、HbA1c 8.5%未満で目標下限値はHbA1c 7.5%です。中等度以上の認知症とは、場所の見当識、季節に合った服が着れないなどの判断力、食事、トイレ、移動などの基本的ADLが障害されている場合で、誰がみても認知症と判断できる状態の患者です。HbA1c 8.5%未満としているのは、8.5%以上だと、肺炎、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症のリスクが上昇し、さらに上がると高浸透圧高血糖状態(糖尿病性昏睡)のリスクが高くなるからです(第3回参照)。3)65~75歳未満の前期高齢者で、低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用している場合は、まず元気なカテゴリーIの場合を考えます。この場合は(1)から-0.5%で、HbA1c 7.5%未満、目標下限値はHbA1c 6.5%となります。すなわち、7.0%±0.5%前後です。前期高齢者では、カテゴリーが進むにつれて0.5%ずつ目標値が上昇していき、カテゴリーIIIでは後期高齢者と同じHbA1c 8.5%未満、目標下限値はHbA1c 7.5%です。4)つぎは低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用していない場合で、DPP-4阻害薬、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬などで治療している場合です。この場合、血糖コントロール目標は従来の熊本宣言のときに出された目標値と同様で、カテゴリーIとIIの場合はHbA1c 7.0%未満、カテゴリーIIIの場合はHbA1c 8.0%未満で、目標下限値はなしです。このように、低血糖のリスクの有無で目標値が異なるのはわが国独自のものです。わが国では医療保険などでDPP-4阻害薬などが使用できる環境にあるので、低血糖のリスクが問題にならない場合は、「高齢者でも良好なコントロールによって合併症や老年症候群を防ごう」という意味だと解釈できます。

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調剤ロボットは対人業務への流れを後押しする?【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第11回

先日、とある薬局が調剤業務の自動化の実証実験を行うとの報道がありました。報道によれば、各種調剤機器の導入で薬剤師の業務を効率化できる見込みであり、その分対人業務に力を入れられるようになることが期待されているようです。3年以上議論されている対人業務への流れ将来的な対人業務の充実に関しては、本年予定されている医薬品医療機器等法の改正において、「服用期間を通じた継続的な薬学的管理と患者支援」、「医師等への服薬状況等に関する情報の提供」などといった議論がされており、2015年に策定された「患者のための薬局ビジョン~『門前』から『かかりつけ』、そして『地域』へ~1)」でも、基本的な考え方の1つに「~対物業務から対人業務へ~」と記載されています。対人業務が重要視されている一方で、調剤機器の活用などを含めた業務効率化についても議論されており、「薬機法等制度改正に関するとりまとめ2)」には以下のように記載されています。第3 薬剤師・薬局のあり方 2.具体的な方向性(4)対人業務を充実させるための業務の効率化質の高い薬学的管理を患者に行えるよう、薬剤師の業務実態とその中で薬剤師が実施すべき業務等を精査しながら、調剤機器や情報技術の活用等も含めた業務効率化のために有効な取組の検討を進めるべきである。※厚生労働省 薬機法等制度改正に関するとりまとめp.8(平成30年12月25日 厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会)より引用薬剤師に期待されている対人業務を行うためには、対物業務における機械化について、調剤ロボットの活用なども含め、今まで以上に検討していく必要があります。今回の報道の内容は、今後求められる薬剤師の業務と関連づけてみると、より興味深いのではないでしょうか。機械にどこまで任せるのかは人と同等の議論が必要もっとも、業務の一部を機械化するとしても、薬剤師法第19条の存在を忘れてはいけません。(調剤)第19条 薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない。ただし、医師若しくは歯科医師が次に掲げる場合において自己の処方せんにより自ら調剤するとき、又は獣医師が自己の処方せんにより自ら調剤するときは、この限りでない。以下略ここでの「調剤」が何を意味するのかという論点はありますが、薬剤師でなければ「調剤」はできません。そのため、対物業務から対人業務へという流れで、今まで薬剤師が行ってきた業務の一部を非薬剤師に任せるとして、どの業務をどのような形でどこまで任せることができるかなどが議論になっています。薬剤師業務を機械やロボットなどが担う場合には、人と違って議論しづらいかもしれませんが、処方箋の受付から薬剤の交付、服薬指導まで、一連の流れに一切薬剤師が関わらないとなると問題がありそうです。対人業務の充実を図る中で、ロボットなどの導入による機械化が進むのは好ましいことかと思います。しかし、機械による業務については、運用をどうするのかなどだけでなく、人に任せる場合と同様の議論が必要であることを意識しておくべきです。機械化しても責任は薬剤師にある今回報道された薬局でも、その辺りを踏まえて導入しているはずですので、皆さんの薬局などで機械化を進める場合にも、その問題を意識して運用を検討する必要があるでしょう。任せられる業務に関しては、人と機械で差があることが想定されますが、いずれの場合であっても、薬剤師が行うのと同等またはそれ以上の安全性確保が必要でしょうし、薬剤師は、何らかの形で監督しなければならないでしょう。また、一部の業務を機械が行ったとしても、その責任は、機械の操作や調剤、監査に関わった薬剤師などが担うと考えられますので、その点も踏まえた検討をしておくことが適切と考えられます。参考資料1)厚生労働省 患者のための薬局ビジョン~『門前』から『かかりつけ』、そして『地域』へ~2)厚生労働省 薬機法等制度改正に関するとりまとめ(平成30年12月25日 厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会)

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医療者ではできない”がん患者支援…がん経験者コミュニティ「5years」【Oncologyインタビュー】第3回

従来の患者会とは異なるがん患者とサバイバーのコミュニティサイト「5years」が医療者の間で話題だ。5yearsはどのようなコンセプトでどのような活動をしているのか。代表の大久保 淳一氏に聞いた。精巣腫瘍最終ステージからの復帰、5yearsの設立大久保氏は42歳で精巣腫瘍と診断された。診断時はすでに最終ステージのStageIIIで、首、腹、肺まで転移していた。2回目の手術*で後腹膜リンパ節郭清を受けたが、抗がん剤治療中に合併した間質性肺炎が急性増悪し、呼吸機能の3分の1が消失。医師からは、がんと合わせ5年生存率2割以下、助かっても酸素ボンベの生活と言われていた。しかし、10ヵ月の入院で奇跡的に一命を取り留める。8ヵ月後に復職、6年後には100キロマラソンにも復帰。さらにその2年後、闘病前の記録を更新して完走。社会を勇気づける話題として新聞、TVなどのメディアに取り上げられる。5yearsトップページメディアで取り上げられたこともあり、医師からがん患者への面会を要望される。定期診療の際、病棟を訪問してみると、以前の自分と同じ状況の方がたくさんいた。励ましの言葉をかけるものの、それ以上何もできない。復職していた大久保氏は会社で仕事している間も、命と向き合っている人がたくさんいることに葛藤を感じた。「生かされた意味があるのではないか」と真剣に考えた。そして、事業として社会に貢献したいという思いから、2014年に50歳で退職し5yearsを立ち上げた。*非セミノーマ精巣腫瘍では、化学療法後に腫瘍マーカーが正常な範囲に戻った段階において、大動脈周囲の後腹膜リンパ節を切除する手術を追加する。病気を乗り越えた先人の有益な情報を提供し、患者・家族が抱える問題を解決5yearsは現在webサイトを主体に活動。設立時から順調に登録者を増やし、2019年1月現在6,500人に達している。5yearsの取り組みは2つ、どちらも大久保氏が闘病時に欲しかったものだ。1つは“元気になった患者の情報”、もう1つは“(先にがんになった人たちに)相談に乗ってもらえる仕組み”である。まざまな治療修了者、治療中の患者の情報が掲載される“元気になった患者の情報”はわが国ではほとんど入手できない。大久保氏自身「闘病時は本当に欲しかった情報」だと言う。5yearsのトップページから「全登録者」のリンクをクリックすると、1,200人を超える(2019年2月時点)治療終了者や治療中の患者の一覧が見られる。そこには、それぞれの患者が、どんながんで、どういう治療やリハビリを受け、現在どのように過ごしているのか、といった詳細なプロフィール情報が紹介されている。自分と同じ病気をした人が、その後どのように生活しているのか、どこまで社会復帰しているのか。読んでいるだけでも、患者は勇気づけられるという。また、姉妹サイト「ミリオンズライフ」では、5yearsに登録されているがん経験者を大久保氏自身が取材し、がん闘病記を配信している。もう一つの“相談に乗ってもらえる仕組み”として、SNS「みんなの広場」とTV電話を使ったサポートサービス「経験つなぎ隊」を行っている。SNS「みんなの広場」がん患者・家族はさまざまな悩みや不安を抱えている。それを物語るように「みんなの広場」の相談・質問回数は2,600件を超える。患者や家族からの質問が掲載されると、経験者が一斉に教えてくれる。たとえば、主治医から胃全摘を勧められるものの、その後の生活が不安な患者に対しては、「全摘後も食事がおいしく取れている」「割合早く食べられるようになった」など相談者が聞きたい情報が即座に集まる。「経験つなぎ隊」は、相談を希望する患者と、全国の体験者をTV電話でつなぐ座談会だ。不安や悩みを抱える患者と同じ状況を経験した会員の双方をTV電話でつなぐ。治療選択は患者の時代といわれるが、そう簡単に決め切れるものではない。経験者たちの話を聞くことで勇気づけられ、社会復帰の後押しになることも多いという。また、最近はネットだけなくリアルな活動も実施している。登録者の要望で2年前からオフ会を都内と大阪で実施している。5yearsはプロフィール情報から共感する人やロールモデルを見つけられることもあり、「この人に会いたい」と全国から会場に集まってくる。コミュニケーションによる癒しとともに、「ロールモデルに会うことで社会復帰にもプラスになる可能性もある」と大久保氏は言う。「治療の話」は慎重に扱うみんなの広場には、さまざまな質問が来るが、すべてが掲載されるわけではない。投稿はすべて5years事務局が定款に照らして審査し、問題ないもののみ掲載される。病気と治療に関する質問は一切受け付けない。「素人が治療の話を出すのは罪深い。それは資格のある医療者のやること」と大久保氏。寄せられる投稿は生活情報が主だ。医療者が伝えられないことを伝える仕組み「われわれは患者に寄り添っているつもりだが、まだ患者は孤独なのか」と大久保氏は医療者から言われることがあるという。確かに医療者の丁寧な説明は重要である。しかし、それだけでなく、患者は、自分の身体に抗がん剤を入れた人、胃を切った人、同じ状況を経験している人たちの話を聞きたいと大久保氏は述べる。どんなに問題ないと思っていても医療者は、「大丈夫」という言葉は使いにくい。5yearsのSNSには「大丈夫」という言葉がたくさん出てくる。患者あるいは経験者だから言える言葉であろう。5yearsを知った医療者は「自分たちが伝えられないことを伝えてくれている」と言う。目指すは社会変革5years代表 大久保淳一氏寄付にだけ頼るのは継続性・発展性がない。大久保氏は5yearsを、社会貢献活動から事業収益を得て、その事業収益からまた活動を続けていく、日本最大の患者支援団体にしたいという。たとえば、臨床試験事業への参入だ。わが国の臨床試験の患者リクルーティングはとても厳しい状況で、50名の患者を集めるのに大変な苦労をする。患者は臨床試験情報が欲しいし、製薬会社や医師は適合患者が欲しいが、フィルターがあってマッチングできない。膨大かつ詳細な患者データがあり、かつ連絡が取れる団体なら、もっと効率的に臨床試験ができる可能性がある。大久保氏は10万人規模で患者を集めたいという。それ以降は他の疾患に広げようと思っているという。がん以外の疾患でも自分と同じ病気をしている人とつながりたいという要望は非常に強いそうだ。患者は常に不安を抱えている。わらにもすがる思いで、不適切な情報を入手し、不幸な方向に進むこともまれではない。5yearsは、適切な情報配信と患者が本当に求める癒しと希望を提供している場だ。医療者から患者・家族に紹介するには最高のコミュニティサイトだといえよう。1)日本最大級のがん経験者コミュニティ「5years」2)5yearsファンドレイジング3)がん患者100万人のための生活情報メディア「ミリオンズライフ」

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感染性心内膜炎の静注抗菌薬による治療を部分的に経口抗菌薬に変更できるか(解説:吉田敦氏)-1007

オリジナルニュースPartial Oral versus Intravenous Antibiotic Treatment of Endocarditis 感染性心内膜炎の静注抗菌薬による治療は長期にわたる。中には臨床的に安定したため、抗菌薬の静注が入院の主な理由になってしまう例もある。安定した時期に退院とし、外来で静注抗菌薬の投与を続けることも考えられるが、この場合、患者本人の負担は大きく、医療機関側の準備にも配慮しなければならない。このような背景から、今回デンマークにおいて左心系の感染性心内膜炎を対象とし、静注抗菌薬による治療を10日以上行って安定した例において、そのまま静注抗菌薬を継続・完遂するコントロール群と(治療期間中央値19日)、経口抗菌薬にスイッチして完遂する群(同17日)について、死亡率、(あらかじめ想定されていない)心臓手術率、塞栓発生率、菌血症の再発率が比較された(プライマリーアウトカム指標)。 結果として、プライマリーアウトカム指標の発生率に差はなかった(コントロール群:12.1%、経口スイッチ群:9%)。このため著者らは、左心系の心内膜炎例でも安定していれば、静注抗菌薬の継続に比べ経口スイッチは劣らないと結論付けている。ただし、ここで検討された患者の内訳・原因微生物・除外基準・治療レジメンについてよく確認したうえで、結果は解釈すべきと考える。 まず原因微生物については、Streptococcus、E. faecalis、S. aureus、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の4種のみであり、半数近くをStreptococcusが占め、S. aureusは2割程度であった。それもMSSAのみでMRSAは含まれていない。さらにHACEKや培養陰性IEも含まれていない。自己弁・人工弁両方の心内膜炎が含まれるが、人工弁は25%程度であり、ペースメーカー感染が明らかであった例は3~4%、大きな疣贅(径>9mm)を有していた者は4~6%であった。心内膜炎に対する手術適応あるいはペースメーカー抜去の判断は主治医チームに委ねられており、詳細や施設間差の有無は不明である。さらには2群の割り付けの際、経食道心臓超音波を施行して膿瘍や手術を要するほどの弁異常がないことを確認し、加えて吸収不良がないといった複数の選択基準・除外基準をクリアすることが要求される。治療レジメンについては、代謝経路の異なる2薬剤を併用するが、この中には本邦で市販されていないdicloxacillinとfusidic acidの内服や、高価であるリネゾリドの内服も含まれている。 一方で、経口抗菌薬の血中濃度の測定も行っており、内服薬の吸収とバイオアベイラビリティに配慮している点は評価できる。今回の報告は、画一的な結論は付けがたいと考えられる。つまり、ある範囲の集団で、条件を満たし、臨床的に安定し、かつ腸管吸収にも問題がない例において、特定の組み合わせの経口抗菌薬が適応になるのではないかということである。この意味においては、ある集団に特化した(たとえば「Streptococcusによる自己弁の感染性心内膜炎」に対する「アモキシシリン+リファンピシン」のような)検討が今後さらに必要になるであろうし、半面、別な集団に対しては内服スイッチが適応でないという提示も行われるべきであろう。さらには、そのような層別化を行うにあたって、個別の症例の評価そのものが、よりいっそう精密さを求められるといえる。今回の検討は、あくまで嚆矢としての位置付けではないだろうか。

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人間は株式投資でAIに勝てるか?【医師のためのお金の話】第17回

人間は株式投資でAIに勝てるか?AIの進化が凄いことになっています。最初に世界へ大きな衝撃を与えたのは、Googleの“AlphaGo(アルファ碁)”ではないでしょうか。2017年5月にGoogle傘下の企業DeepMindが開発した囲碁AIであるAlphaGoが世界最強棋士を破ったニュースは世界を駆け巡りました。そして、自動車産業では、AIによる自動運転はすでに規定路線となっています。実用化はいつ頃になるのかということだけが、論点となっているほどです。もちろん医療分野でも、多くの研究機関がAI開発にしのぎを削っており、私たちの日常診療にも近い将来AIが入ってくる可能性が高いです。GoogleのAlphaGoを見るとわかるように、AIの能力は人間をはるかにしのぐというのが一般的な認識です。このことは、私たち医師にとって大きな脅威になるかもしれません。それでは株式投資の分野ではどうでしょうか?株式市場では機械がメインプレーヤー株式市場においては、高頻度取引(High Frequency Trading:HFT)という機械取引がすでに市場を席巻しています。厳密には、現状のHFTはAIとは異なりますが、この領域では人間は機械に駆逐されてしまっています。株式市場では、一般社会に先行して人間ではなく機械がメインプレーヤーなのです。そして、将来的には、AIが株式市場を支配すると予想されています。株式市場においても、私たち人間が勝つことは難しくなると思う人も多いことでしょう。しかし、実際にAIを利用したファンドの運用成績は芳しくありません。少なくとも、現時点ではAIファンドの成績は散々なようです。それでは、AIが深層学習にさらに磨きをかけたらどうなるのでしょうか? 少なくとも、機関投資家ではAI化の流れは不可避です。このため、株式市場の大部分は、AIによる機械取引に置き換わることが予想されます。こうなると、株式市場全体がAI対AIという状況に移行します。この状況ではAI同士の喰い合いになるので、単一のAIだけが傑出した成績をあげることは難しくなります。つまり自分は自分には勝てないということです。変動率の大きさはチャンスの源泉機械取引が支配する株式市場は、従来と比べて市場の変動率が大きくなることが特徴です。このため、日経平均株価がたった1日で1,000円以上変動することが起こるようになりました。もちろん、日経平均株価が高値圏にあることも原因の1つです。しかし、変動率で考えても、過去の歴史ではあまり例を見ない特異な状況です。機械取引がメインプレーヤーになったために、株式市場の変動率が上昇していることは、実は人間にとって利益を得る機会が増えていることを意味します。変動率が大きいと、それだけ収益チャンスが増えるからです。人間はAIの能力には勝てないから、株式投資においても人間の出る幕はなくなると思われがちです。しかし実際には、機械取引が支配する株式市場では、むしろ人間の収益チャンスが増えているという現象が生じています。もちろん、このような市場の乱高下で利益を上げることができる人はごく少数であり、大多数の一般人には関係ないことだと思います。しかし、株式市場そのものがAIになっていくため、少なくともAIの優位性は無くなっていくのではないでしょうか?人間の活路は長期投資に短期投資においては絶対的にAIの優位性は高いですが、長期投資になってくるとAIの優位性は崩れてくるのではないかと予想しています。なぜなら、AIがメインプレーヤーとなるのはHFTに代表される短期市場だからです。機械が行う超高速取引に、人間はまったく追随できないので、この領域で人間がAIに勝つことは至難の業です。しかし、機関投資家の特性上、AIはこの領域にフォーカスせざるを得ない状況なので、長期取引投資に関してはAIの支配がさほど及ばない可能性があります。もちろん、長期投資にフォーカスしたファンドも組成されると思います。それでも全体を見渡すとHFTなどの高頻度取引がメインとなる状況に変わりはないので、そこに人間が勝てる要素があるのではないかと推察しています。

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電子タバコは禁煙に役に立つか?(解説:桑島巖氏)-1003

 最近は、タバコの代わりに電子タバコを使っているという人が多くなっている。禁煙の手法として、ニコチンの量を徐々に減らす「ニコチン代替療法」と電子タバコで禁煙を目指すという2つの方法がある。 本研究はどちらの方法が1年後の禁煙率が高いかをランダム化試験で比較した論文である。 このコメントの読者である多くの医療関係者は非喫煙者が多いと思われるので、少し電子タバコについての予備知識が必要であろう。 普通のタバコは、煙を吸うのに対して、電子タバコは水蒸気を吸い込むという点が大きな違いである。したがって普通のタバコは、タバコの葉を燃やすことで生じる臭いや有害物質を発生する。 一方電子タバコはタバコの葉を使用せずに、e-リキッドといわれる液体を電力で熱することで生じる水蒸気を吸い込み、その臭いを自分の好みに合わせて楽しむことができるのが売りである。 電子タバコといってもすべてが完全にニコチン・フリーではなく、少量のニコチンを含有しているものもあり、本研究で用いられた電子タバコには18mg/mLのニコチンが含まれている。 一方ニコチン代替療法には、パッチ、ガム、スプレーなどのほか、わが国ではバレニクリン製剤(商品名:チャンピックス)という錠剤も使用されている。 さて、本研究は886名の喫煙者をニコチン代替療法群と電子タバコ群にランダマイズして、試験開始時、開始4週、52週の時点での喫煙状況とタバコの有害物質の1つである一酸化炭素の排泄量を測定した。 1次エンドポイントである1年時の禁煙率は、電子タバコ群が18%で、ニコチン代替療法群の9.9%に比して有意に高かった。この結果から禁煙には電子タバコが有用であるというのが本論文の結論であるが、しかし1年時の禁煙者といっても、電子タバコを続けていた人が80%もいたということは、はたして禁煙に成功したと言えるであろうか。電子タバコもニコチンは含まれており、完全に無害とは言えないのである。喫煙者はニコチンの血中濃度が一定に達して、主観的に満足感が得られるまで喫煙する傾向があるとされる。 一方ニコチン代替療法群で、1年後にニコチン代替療法を継続していたのは9%にすぎない。ということはある意味では禁煙できた人が多いという解釈もできるのである。 さらに喉や口腔の炎症などの副作用は電子タバコ群のほうが高率に認められたというから、電子タバコ自体が咽頭に対して刺激性を有しているのであろう。 またとくに注目すべきは、本研究の両群とも被検者の約75%が過去にニコチン代替療法を経験した症例である。つまり何度も禁煙療法を繰り返すリピーターであることから、本当に禁煙が達成できたかどうかはもう少し長いスパンで観察しなければならないのであろう。 いずれにしろ電子タバコの安全性は確立されていない。 最後に日本呼吸器学会から、下記のような声明を紹介する。1. 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は健康に悪影響をもたらす可能性がある。2. 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用者が呼出したエアロゾルは周囲に拡散するため、受動喫煙による健康被害が生じる可能性がある。従来の燃焼式タバコと同様に、すべての飲食店やバーを含む公共の場所、公共交通機関での使用は認められない。

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第12回 アナタはどうしてる? 術前心電図(前編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第12回:アナタはどうしてる? 術前心電図(前編)内科医であれば、外科系の先生方から術前心電図の異常について、一度はコンサルテーションされたことがありますよね? 循環器内科医なら日常茶飯事のこの案件、もちろん“正解”は一つじゃありません。前編の今回は、症例を通じて術前心電図の必要性について、Dr.ヒロと振り返ってみましょう。症例提示67歳、男性。変形性膝関節症に対して待機的手術が予定されている。整形外科から心電図異常に対するコンサルテーションがあった。既往歴:糖尿病、高血圧(ともに内服治療中)、喫煙:30本×約30年(10年前に禁煙)。コンサル時所見:血圧120/73mmHg、脈拍81/分・整。HbA1c:6.7%、ADLは自立。膝痛による多少の行動制限はあるが、階段昇降は可能で自転車にて通勤。仕事(事務職)も普通にこなせている。息切れや胸痛の自覚もなし。以下に術前の心電図を示す(図1)。(図1)術前の心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しいものを2つ選べ1)洞(性)徐脈2)左軸偏位3)不完全右脚ブロック4)(第)1度房室ブロック5)左室高電位(差)解答はこちら3)、5)解説はこちら術前心電図でも、いつも通りに系統的な心電図の判読を行いましょう(第1回)。1)×:R-R間隔は整、P波はコンスタントで、向きも“イチニエフの法則”に合致しますから、自信を持って「洞調律」です(第2回)。心拍数なら“検脈法”が簡便です。左半分(肢誘導)のみ、あるいは左右全体(肢誘導・胸部誘導)で数えても60/分ですから、「徐脈」基準を満たしません。Dr.ヒロ的な“境界線”は「50/分」でしたね。2)×:QRS電気軸は、“スパイク・チェック”にて、QRS波の「向き」を確認するのでした(第8回)。I、II、aVF誘導いずれも上向き(陽性)で、軸偏位はありません(正常軸)。ちなみに、以前紹介した“トントン法Neo”だと、「+40°」と計算されます(TPは、III [+120°]と-aVL [+150°]の間で前者よりの「+130°」)。3)○:典型的ではないですが、一応「不完全右脚ブロック」でいいでしょう。V1誘導の特徴的な「rSr'型(r<r')」と、イチエルゴロク(とくにI、aVL、V5)でS波が軽めに“主張”する感じです(Slurという)。QRS幅が0.12秒(3目盛り)以内なら、“不完全”という言葉を冠します(自動診断でQRS幅は0.102秒です)。4)×:「(第)1度房室ブロック」はPR(Q)間隔が延長した所見であり、“バランスよし!”の部分でチェックします。P波とQRS波の距離はちょい長め(≒0.20秒)ですが、これくらいではそう診断しません(目安:0.24秒以上)。「PR(Q)延長」との指摘にとどめるべき範疇でしょうか。5)○:QRS波の「高さ」は“高すぎ”ですね。具体的な数値も知っていて損はないですが、V4~V6あたりの誘導、とくにゴロク(V5、V6)のR波が突き抜けて直上の誘導に突き刺さる“重なり感”にボクはビビッときます(笑)。加えて、軽度ですがII、V4~6誘導に「ST低下」があり、高電位所見とあわせて「左室肥大(疑い)」とジャッジしたいものです。【問題2】術前心電図(図1)の意義について考察せよ。解答はこちら意義:耐術性や心合併症リスク評価の観点では「低い」解説はこちら非心臓手術の術前検査で何をどこまで調べるか? 心電図に限らず、これは全ての検査に言えることなので、純粋な心電図の読みから少し離れてお話しましょう。非心臓手術における術前検査に関するガイドラインは、米国では10年以上前*1、2から、そして最近ではわが国でも欧米のものを参考に作成*3されています。これらのガイドラインによると、今回のように日常生活や仕事などで特別な症状もなく十分に“動ける”ケースの場合、心電図検査のみならず、術前心血管系評価そのものが「適応なし」とされます。従って、心電図に「意義」を求めるのは“筋違い”なのかもしれません。ただ、現実はどうでしょう? 皆さんの病院の診療はガイドライン通りに行われていますか…? おそらく「NO」なのではないでしょうか?欧米では、こうした“見なくて良かった”心電図異常のコンサルト、手術の対象疾患とは無関係な心臓の追加検査が、コスト的にムダとみなされています。これは、検査技師やナースにも無駄な仕事をさせているともとらえることができますよね?*1:Fleisher LA, et al.Circulation.2014;130:e278-333.*2:Feely MA, et al.Am Fam Physician.2013;87:414-8.*3:日本循環器学会ほか:非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン2014年改訂版.(注:*1は2019年1月に一部改訂)循環器内科医・内科医にとって、外科医からの術前心電図のコンサルテーションは非常によくあります。実際に、日本の病院では、非心臓手術をする前に心電図を“(ほぼ)全例”やっているのではないでしょうか。そんな状況下で、術前心電図をすべきか否かを論じるのは正直ナンセンスな気もします。心電図検査をすること自体に、一見、悪いことなんて見当たりません。採血の痛みもレントゲンの被曝もない安全・安心な検査ですから。前述のガイドライン*1でも、低リスク手術でなければ心電図検査は年齢を問わず“考慮”(considered)となっています(ただし、膝手術を低リスクと見なす文献もあり)。ほかにも、「65歳以上」なら心電図を“推奨”(recommended)、今回のように「糖尿病」や「高血圧」を有するなら“考慮”(considered)とする文献もあります。「よく調べてもらっている」という患者さん側のプラスな印象も相まって、わが国の医療・保険制度上では、オーダーする側の医師のコスト意識も、諸外国に比べて断然低いと想像できます。“ルーチンでやっちゃえ”的な発想が根付くのにも納得です。でも、本当にそうでしょうか?少し古いレビューですが、次の表を見て下さい(図2)。(図2)ルーチン心電図の検査意義画像を拡大する既往歴や動悸・息切れ、胸痛などの心疾患を疑う思わせぶりな自覚症状があってもなくても、あまり深く考えずに術前に“ルーチン”で心電図検査をすると、4.6~31.7%に“異常”が見つかります。中央値は12.4%で、これは実に8人に1人の割合です。どうりで術前コンサルトが多いはずです。もしも、何も考えずに自動診断のところに何か所見が書いてあったら、循環器(内科)に相談しておこう、という外科医がいたとしたら、ボクたちの“通常業務”も圧迫しかねない“迷惑な相談”です(いないと信じたい)。でも、実際には臨床的意義のある心電図所見は約3分の1の4.6%、そして驚くなかれ、治療方針が変わったのは全体の0.6%なんです!より具体的に言うと、仮に200人の非心臓手術を受ける患者さんに、盲目的に術前心電図をオーダーすると、約25人に何らかの自動診断による所見があります。でも、治療方針に影響を与えるような重大な結果があるのはせいぜい1人。つまり大半の24人には大局に影響しない、ある意味“おせっかい”な指摘なんです。自分の診療を振り返ってみても、確かにと納得できる結果です。心電図をとってもデメリットはないと言いましたが、たとえば癌で手術を受けるだけでも不安な患者さんに、心電図が余計な“心配の種”になっていたら本末転倒だと思いませんか?今回の67歳男性も整形外科で膝の手術を受けるわけですが、心疾患の既往やそれを疑うサインもない中で、なかば“義務的”に心電図検査を受けたがために、「不完全右脚ブロック」と「左室肥大(疑い)」という“濡れ衣”を着せられようとしています。これはイカン。“ボクたちの仕事増やすな”という冗談は置いといて、今回、ボクが皆さんに投げかけたいテーゼはこれです。緊急性を要さない心電図異常、とくに「波形異常」の術前コンサルトの場合、循環器内科医(または内科医)のとるべきスタンスは…1)心電図異常=心臓病とは限らない2)今の心臓の状態は、今回の手術を優先して問題ないので、追加検査は原則必要ないと言ってあげること。これが非常に大事です。しいて言えば、所見の重症度や外科医の意向などから、せいぜい心エコー検査を追加するくらいでしょうか。この辺は一様ではなく、病院事情やコンサルタントの裁量で決めることになろうかと思います。ボクなりのコメント例を示します。「今回は手術を受けるために心電図検査を受けてもらいました。○○さんの検査結果には多少の所見がありましたが、ほかの人でもよくあることです。心臓病の既往や疑いもないですし、普段も自覚症状がないようなので手術には影響のないレベルです。必要に応じて、手術が済んでから調べても問題ないのですが、外科の先生の希望もあるため、念のためエコー検査だけ受けてもらえませんか?」患者を安心させ、コンサルティ(外科医)の顔もつぶさず、かつ病院の“慣習”にも逆らわない“正解”は様々でしょう。けれど、このような内容を知っているだけで対応も変わってくるのではないでしょうか。今回は、ルーチン化している術前検査の意義について、心電図を例に提起してみました。次回(後編)も引き続き、術前心電図をテーマに一歩進んだ異常所見の捉え方についてお伝えします。お楽しみに!Take-home Messageルーチンの術前心電図では高率に異常所見が見つかるが、大半は精査・急な処置ともに不要!【古都のこと~夕日ヶ浦海岸~】本連載では、京都市内ないし近郊の名所をご紹介してきましたが、今回は少し遠出します。おとそ気分覚めやらぬ1月初旬、京丹後市の夕日ヶ浦(浜詰)海岸を訪れました。京都縦貫自動車道を使って片道3時間(往復300km)の道のりですが、立派に府内です。春すら感じてしまう天候、はるかな水平線、海、空、そして数km続く白浜…。そこには、前年に訪れた際の小雨降る青黒い日本海とは“別の顔”がありました。“何をそんな小さなコト・モノ・ヒトにこだわっているの?”日本屈指のサンセット・ビーチのダイナミックなパノラマビューを眺めれば、誰でもそんな声が聞こえるはず。かに料理に舌鼓を鳴らし露天風呂につかれば、至高の休日です。

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第4回 重症度と緊急度、救急のABC【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

薬剤師である皆さんが患者さんのご自宅を訪問する時、患者さんは慢性的な病態であることが多く、容態の急変はないと思いがちです。しかし、慢性疾患であっても,急に容態が変化・悪化することはあります。そのような時、主治医や訪問看護師にすぐに連絡した方がよいかどうか迷うことがあるかもしれません。今回は、急を要するか否かの判断の仕方と、その判断に必要なバイタルサインの測定法について紹介します。急を要するか否かの判断の仕方◎重症度と緊急度まず、「重症度」と「緊急度」の違いについて説明しましょう。「重症度が高い」とは、「生命の危険や後遺症の危険が高い」状態を指します。それに対して、緊急度は時間の要素を加えた概念です。「緊急度が高い」とは、「速やかに治療が行われないと生命の危険や後遺症の危険が高い」ことを意味します。私たち医療従事者が具合の悪そうな患者さんを前にする時、「急がなくてはならないかどうか」、つまり「緊急度が高いかどうか」をまず判断しなくてはいけません。例えば、末期がんの患者さんについて考えてみましょう。末期がんであることは生命の危険性が高いわけですから重症度は高いといえます。しかし小康状態を保っていれば、今すぐに新たな治療を開始しなくてはならない状態ではないので、緊急度は高くありません。一方で、この患者さんがご飯を食べている時に食物をのどに詰まらせて呼吸ができなくなってしまったとすると、一刻も早く詰まったものを取り除かなくては命にかかわります。つまり緊急度が高いということになります。◎急を要するか否か? 「緊急度」の判断のために救急のABCを知っていますか?気道(A:Airway)・呼吸(B:Breathing)・循環(C:Circulation)です。生命を維持させるためには、これらが安定していることが必須の条件であるため、このABCが危機に陥っている時、急を要する状態(緊急度が高い)と判断します。そこで、ABCの状態を評価するために、私たちはバイタルサインといわれる5つの生命徴候(呼吸・脈拍・血圧・体温・意識レベル)をチェックします。バイタルサインを観察・評価することにより、気道・呼吸・循環の状態を知り、それにより急を要するか否かを判断します。すなわち、バイタルサインに異常がある時には「緊急度が高い」と考えられるわけです。日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編.高血圧治療ガイドライン2014.東京,ライフサイエンス出版,2014.太田富雄,他.急性期意識障害の新しいgradingとその表現方法.第3回脳卒中の外科研究会講演集.東京,にゅーろん社,1975,61-69.Teasdale G, et al. Assessment of coma and impaired consciousness: a practical scale. Lancet.1974; 2: 81-84.脳卒中合同ガイドライン委員会.脳卒中治療ガイドライン2009.東京,協和企画,2009.

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第21回 在宅医療の本質を3つのキーワードで理解しよう【週刊・川添ラヂオ】

動画解説今回は地域包括ケアシリーズの第2弾として、在宅医療の本質を考えるための3つのキーワードであるリハ、ICF(国際生活機能分類)、CGA(高齢者総合機能評価)についてお話しします。リハを単なる身体機能訓練だと思っていませんか?リハビリテーションの本来の意味は「その人らしい人生を再構築すること」。それを実現するためにチームで患者さんの生活状況、症状を正しく評価することが大切です。

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