“医療者ではできない”がん患者支援…がん経験者コミュニティ「5years」【Oncologyインタビュー】第3回

企画・制作ケアネット

従来の患者会とは異なるがん患者とサバイバーのコミュニティサイト「5years」が医療者の間で話題だ。5yearsはどのようなコンセプトでどのような活動をしているのか。代表の大久保 淳一氏に聞いた。

精巣腫瘍最終ステージからの復帰、5yearsの設立

大久保氏は42歳で精巣腫瘍と診断された。診断時はすでに最終ステージのStageIIIで、首、腹、肺まで転移していた。2回目の手術*で後腹膜リンパ節郭清を受けたが、抗がん剤治療中に合併した間質性肺炎が急性増悪し、呼吸機能の3分の1が消失。医師からは、がんと合わせ5年生存率2割以下、助かっても酸素ボンベの生活と言われていた。しかし、10ヵ月の入院で奇跡的に一命を取り留める。8ヵ月後に復職、6年後には100キロマラソンにも復帰。さらにその2年後、闘病前の記録を更新して完走。社会を勇気づける話題として新聞、TVなどのメディアに取り上げられる。

5yearsトップページ

メディアで取り上げられたこともあり、医師からがん患者への面会を要望される。定期診療の際、病棟を訪問してみると、以前の自分と同じ状況の方がたくさんいた。励ましの言葉をかけるものの、それ以上何もできない。復職していた大久保氏は会社で仕事している間も、命と向き合っている人がたくさんいることに葛藤を感じた。「生かされた意味があるのではないか」と真剣に考えた。そして、事業として社会に貢献したいという思いから、2014年に50歳で退職し5yearsを立ち上げた。

*非セミノーマ精巣腫瘍では、化学療法後に腫瘍マーカーが正常な範囲に戻った段階において、大動脈周囲の後腹膜リンパ節を切除する手術を追加する。

病気を乗り越えた先人の有益な情報を提供し、患者・家族が抱える問題を解決

5yearsは現在webサイトを主体に活動。設立時から順調に登録者を増やし、2019年1月現在6,500人に達している。

5yearsの取り組みは2つ、どちらも大久保氏が闘病時に欲しかったものだ。1つは“元気になった患者の情報”、もう1つは“(先にがんになった人たちに)相談に乗ってもらえる仕組み”である。

まざまな治療修了者、
治療中の患者の
情報が掲載される

“元気になった患者の情報”はわが国ではほとんど入手できない。大久保氏自身「闘病時は本当に欲しかった情報」だと言う。5yearsのトップページから「全登録者」のリンクをクリックすると、1,200人を超える(2019年2月時点)治療終了者や治療中の患者の一覧が見られる。そこには、それぞれの患者が、どんながんで、どういう治療やリハビリを受け、現在どのように過ごしているのか、といった詳細なプロフィール情報が紹介されている。自分と同じ病気をした人が、その後どのように生活しているのか、どこまで社会復帰しているのか。読んでいるだけでも、患者は勇気づけられるという。また、姉妹サイト「ミリオンズライフ」では、5yearsに登録されているがん経験者を大久保氏自身が取材し、がん闘病記を配信している。

もう一つの“相談に乗ってもらえる仕組み”として、SNS「みんなの広場」とTV電話を使ったサポートサービス「経験つなぎ隊」を行っている。

SNS「みんなの広場」

がん患者・家族はさまざまな悩みや不安を抱えている。それを物語るように「みんなの広場」の相談・質問回数は2,600件を超える。患者や家族からの質問が掲載されると、経験者が一斉に教えてくれる。たとえば、主治医から胃全摘を勧められるものの、その後の生活が不安な患者に対しては、「全摘後も食事がおいしく取れている」「割合早く食べられるようになった」など相談者が聞きたい情報が即座に集まる。

「経験つなぎ隊」は、相談を希望する患者と、全国の体験者をTV電話でつなぐ座談会だ。不安や悩みを抱える患者と同じ状況を経験した会員の双方をTV電話でつなぐ。治療選択は患者の時代といわれるが、そう簡単に決め切れるものではない。経験者たちの話を聞くことで勇気づけられ、社会復帰の後押しになることも多いという。

また、最近はネットだけなくリアルな活動も実施している。登録者の要望で2年前からオフ会を都内と大阪で実施している。5yearsはプロフィール情報から共感する人やロールモデルを見つけられることもあり、「この人に会いたい」と全国から会場に集まってくる。コミュニケーションによる癒しとともに、「ロールモデルに会うことで社会復帰にもプラスになる可能性もある」と大久保氏は言う。

「治療の話」は慎重に扱う

みんなの広場には、さまざまな質問が来るが、すべてが掲載されるわけではない。投稿はすべて5years事務局が定款に照らして審査し、問題ないもののみ掲載される。病気と治療に関する質問は一切受け付けない。「素人が治療の話を出すのは罪深い。それは資格のある医療者のやること」と大久保氏。寄せられる投稿は生活情報が主だ。

医療者が伝えられないことを伝える仕組み

「われわれは患者に寄り添っているつもりだが、まだ患者は孤独なのか」と大久保氏は医療者から言われることがあるという。確かに医療者の丁寧な説明は重要である。しかし、それだけでなく、患者は、自分の身体に抗がん剤を入れた人、胃を切った人、同じ状況を経験している人たちの話を聞きたいと大久保氏は述べる。

どんなに問題ないと思っていても医療者は、「大丈夫」という言葉は使いにくい。5yearsのSNSには「大丈夫」という言葉がたくさん出てくる。患者あるいは経験者だから言える言葉であろう。5yearsを知った医療者は「自分たちが伝えられないことを伝えてくれている」と言う。

目指すは社会変革

5years代表 大久保淳一氏

寄付にだけ頼るのは継続性・発展性がない。大久保氏は5yearsを、社会貢献活動から事業収益を得て、その事業収益からまた活動を続けていく、日本最大の患者支援団体にしたいという。たとえば、臨床試験事業への参入だ。わが国の臨床試験の患者リクルーティングはとても厳しい状況で、50名の患者を集めるのに大変な苦労をする。患者は臨床試験情報が欲しいし、製薬会社や医師は適合患者が欲しいが、フィルターがあってマッチングできない。膨大かつ詳細な患者データがあり、かつ連絡が取れる団体なら、もっと効率的に臨床試験ができる可能性がある。大久保氏は10万人規模で患者を集めたいという。それ以降は他の疾患に広げようと思っているという。がん以外の疾患でも自分と同じ病気をしている人とつながりたいという要望は非常に強いそうだ。

患者は常に不安を抱えている。わらにもすがる思いで、不適切な情報を入手し、不幸な方向に進むこともまれではない。5yearsは、適切な情報配信と患者が本当に求める癒しと希望を提供している場だ。医療者から患者・家族に紹介するには最高のコミュニティサイトだといえよう。

バックナンバー

オンデマンド臨床医学チャンネル(CareNeTV)のご紹介

CareNeTVは医師・医療者のための臨床医学チャンネル。
臨床の第一線で活躍する一流講師陣による、楽しく役立つプログラムが満載!1,700番組以上のラインナップから選んで学べるオンデマンドサービスです。
プライマリケアから専門分野まで、臨床のスキルアップのための番組を中心に、専門医試験対策、プレゼン、英語、統計などさまざまなジャンルの動画コンテンツがそろっています。

CareNeTVの詳細はこちら

掲載内容はケアネットの見解を述べるものではございません。(すべての写真・図表等の無断転載を禁じます。)
本コンテンツに関する下記情報は掲載当時のものです。
[データ、掲載内容、出演/監修者等の所属先や肩書、提供先の企業/団体名やリンクなど]