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英語で「(計画は)バッチリだね」は?【1分★医療英語】第114回

第114回 英語で「(計画は)バッチリだね」は?《例文1》That sounds like a plan to me!(私は良いと思います!)《例文2》We’ll meet here at 8 am tomorrow?(明日はここで午前8時に集合でしたっけ?)It sounds like a plan!(そうです!)《解説》今回紹介した“sounds like a plan”を、単語を追いかけて日本語に直訳してしまうと「計画のように聞こえる」となり、意味がよくわからなくなってしまいます。実際には、「その計画は良さそう!」「賛成!」と同意を示す表現です。“plan”の前に“good”や“great”を補うと、意味が見えやすくなるかもしれません。英語の口語表現の中で自然発生的に生まれてきたフレーズといわれており、聞いたことがないとわかりにくいかもしれませんが、米国にいると本当によく耳にするフレーズです。“Sounds good to me.”、“That works for me.”などと言ってもいいところですが、英語は繰り返しを好まない言語なので、同じ意味のフレーズを何通りも覚えておいて損はないでしょう。なお、例文のように、冒頭に“That”や“It”を付けて前に言われた内容を受けたり、最後に“to me”と付けて用いたりすることもできます。“Sounds good.”(いいですね)という表現は皆さんご存じだと思いますが、併せて“Sounds like a plan.”も使えれば、より「こなれた」英語になると思います。ぜひ、マスターしてください。講師紹介

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第194回 医師の善意が被災者の誤解に?~災害処方箋のケース

令和6年能登半島地震の発生からすでに2週間以上が経過した。しかし、現地は今も混乱が続いていることは、多くの人がニュースで知っていることだろう。実は私はこの1週間、金沢市に滞在していた。被災地である能登半島での取材を考えて現地入りしたのだが、これほど苦労する現場はほかになかったと言ってもよい。結論から言うと、能登半島そのものに入ることはあたわずだった。とにかく足場が悪すぎたのである。金沢にいてもそれなりに情報が入る。それによると主要幹線道路である国道249号線は今も道路状況が悪い。いわんや、その周辺道路となるとさらに不安定だ。「余震の時に急停止したら脇の丘から軽い土砂崩れが起きた」とか「一夜明けたら昨日にはなかった倒木が道路を遮っていた」などの話はよく耳にした。この状況下でペーパードライバーである私が運転をするのはリスクが高過ぎる。たまたま県外から現地入りしていた友人が、レンタカーを調達できれば、代わりに運転して輪島市や珠洲市まで連れて行くと申し出てくれたが、そもそも彼の予定が取れる日に金沢市内はおろか石川県内全域、富山県高岡市まで含め、調達できるレンタカーは皆無だった。また、この間に現地支援に入っている知人がいる志賀町の拠点に入れれば、そこからは車で随行できる可能性も生まれた。ただ、公共交通機関が使えるのはその20km手前まで。友人が出発する早朝に間に合わせるためには公共交通機関の最終便で向かい、そこから夜通し歩くしかなかった。ちなみに「徒歩20kmは無理だろう」という人がいるかもしれないが、私の普段の万歩計の歩数は、ジムでのトレッドミルの利用も含め2万歩強(14km強)である。東日本大震災時は1日合計で徒歩15kmなどは日常的だった。さらに言えば、将来起こるとされている東海地震(いわば南海トラフ地震)発生を念頭に、2003年に都内から徒歩で取材に向かう想定で静岡駅まで歩いたことがある(当時は30代)。都内の自宅を朝6時に出て、朝と昼はカロリーメイトを歩いて食べながら、3日後の午後7時過ぎに静岡駅に着いた(今はこれよりは明らかに時間がかかるだろう)。しかし、今回は天候も悪過ぎた。ここ1週間の石川県内が晴れたのはたった2日間のみ。それ以外は冷たい雨か吹雪に見舞われた。普段は真冬でも都内では素肌の上にTシャツ、スリーシーズン用ジャケットの私でも耐え難い寒さだった(ちなみに冬期の札幌への短期出張程度なら同じ格好で赴く)。もちろんこれに備えてダウンジャケットは持参(着用はしていない)していたが、それでも悪天候、低気温、悪路、街灯も少ないところを不眠不休で徒歩移動した後の取材はリスクが高い。これも断念せざるを得なかった。その意味で今回の取材は能登半島入りという点では完敗だった。ただ、一見しただけならばいつもの金沢市内も、よく見ていると、さまざまなところで地震の影響が見て取れた。まず、当初は2泊3日のホテル予約で現地入りしたが、その後は空室の確保に苦労した。石川県による2次避難者向けのホテル・旅館の確保が始まったうえに、復興作業関係者の金沢入りも本格化し、急激に空室が減っていったからである。金沢駅を中心に明らかに復興・支援関係者と思われる装備をした人をよく見かけた。そんな彼らに何気なくかつさりげなく(相手がそう思っているかはわからない)話しかけたり、閉庁直前に行政にコンタクトを取ったりすると、多様な情報が一定程度は入ってくる。それらの情報は医療関連以外のものもかなり多いのだが、医療に関する情報で「ああ、その点はね」と思うものがあった。何かというと、「災害処方箋」のことだ。ほとんどの医療従事者は知識として災害処方箋のことは知っていると思う。災害救助法に基づくもので、DMATなど医療チームが避難所の救護所や巡回診療など、保険医療機関以外で薬剤を処方する際に交付される処方箋である。これに基づく調剤は救護所、近隣で機能している保険薬局、あるいは日本薬剤師会が今回現地へ派遣したモバイルファーマシーなどで行われる。災害処方箋に伴う調剤・薬剤費用は全額自治体が負担する。あくまで災害時の一時避難的措置のため、保険診療による通常の処方箋発行が全面的に機能するまでの繋ぎである。ちょうど今の能登半島の被災地は、まさに災害処方箋から保険診療の処方箋への移行時期、端的に言って両者が混在する時期である。こうなるとややドタバタが起こる。たとえば、今回の被災地域は高齢者が多い。国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の地域別将来推計人口」(2023年推計)によると、能登半島の4市5町の2020年の高齢化率(65歳以上人口率)は、最低の中能登町ですら37.2%。最大は災害関連死も含め死者が最も多い珠洲市の51.4%である。しかも、避難所の環境はあまり良いとは言えない。現地入りした支援関係者によると、日中に暖房を使用していても、一部の被災者が寒さを感じ、常に毛布をまとっている避難所もあるという。そうなると危惧されるのが、災害関連死である。2016年の熊本地震では、地震による直接死の4倍超の災害関連死が発生したこともあり、この点は報道も含め盛んに警鐘が鳴らされている。石川県の発表によると、1月17日午後2時現在までに確認された死者232人のうち、自治体が災害関連死と判断した事例は14人。当然、医療者も警戒レベルを上げる。このため災害関連死リスクが高い基礎疾患を有する高齢者に対しては、なるべく基礎疾患のコントロールを安定化させようと、原則は1週間処方とされる災害処方箋で、医師が慢性疾患治療薬を30日を超えて処方するケースも散見されるという。これは何とも言い難い事例と言える。しかも、現在の石川県の場合、災害関連死を防ごうと、県が能登半島内の1次避難所にいる被災者を半島外の金沢市などにある1.5次避難所や2次避難所への移送を進めている。1次避難所で診察する医師は、移送先の避難所の状況が必ずしもわからないため、善意でこうした処方が増えがちになる。しかしながら、災害処方箋の本来の目的や医療の正常化の面から考えると、こうした処方はやや逸脱したものだ。しかも、災害処方箋による処方・調剤料金を全額負担する自治体側は、なるべく災害処方箋での処方そのものを最小化したいはずである。薬局側も現在も続く医薬品不足下では、保険診療の処方箋でも30日超の処方は、時に在庫の取り揃えに悩まされる。さらにいえば災害処方箋による調剤の場合、薬局は通常の技術料は請求できず、県市町村との取り決めによる手数料が支払われるが、これは平時の平均的な技術料と比べると安価。経営的にも悩ましい。一方、災害処方箋に基づく処方の場合、被災者は一切の自己負担が要らない。このため、過去の自然災害では被災者の一部が「病院が復旧していても、避難所で薬をもらえばタダになる」と誤解し、避難所にいる医師に長期処方をお願いするケースもあったことを私は耳にしている。誤解と書いたのは、ここでは釈迦に説法だが、災害救助法適用地域では時限的に保険診療も自己負担が生じないからである。そしてこうした誤解は、今回の能登地域でもごく一部であるらしい。避難所内は口コミ情報の浸透度が早く、たとえ公的通知が掲示されていたとしても、一度広がった誤解を解くには時間を要する。このように災害処方箋1つとっても、県、市町村、現地医療機関・薬局、支援医療チーム、被災者の思惑と法制度、さらに現状が複雑に絡み合い、悩ましい事態が起こり得る。そもそも災害による被災状況に定型があるとは言えない以上、こうしたことが発生してしまうのはやむを得ない。これをすっきり解決する公式もない。能登半島入りを果たせなかった以上に、こうした何とも言えない状況によるモヤモヤに支配されたまま、私は金沢を後にしたのである。

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睡眠で認知症予防、良質な睡眠を誘う音楽とは?【外来で役立つ!認知症Topics】第13回

認知症予防の睡眠で注目される「グリンパティック系」多くの病気の予防因子として共通するのが、運動、栄養、休養である。認知症の場合は、これに知的刺激や社会交流が加わる。具体的な予防法に注目すると、運動なら有酸素運動やデュアルタスク、栄養なら地中海食など具体的な目玉項目がある。しかし休養ではそれがなかった印象がある。「そもそも休養とは何か?」も難しいのだが、これは睡眠のことと考えていいだろう。とはいえ、「認知症予防の睡眠とは?」となるとこれというものはなく、いまひとつであった。そこに現れたのが、「グリンパティック系」である。筆者が学生の頃には、代謝過程の老廃物の処分を担うリンパ系器官が脳にはないと教わった。確かに脳には解剖学的にリンパ系はないが、実は同じ役割を担うものがあると判明した。それがグリンパティック系である1)。これは血管周囲の星状膠細胞により形成されたトンネル様構造で、中枢神経系の廃棄物を脳脊髄液と共に除去する系である。アルツハイマー病等の変性疾患に関連する異常蓄積蛋白もこの系で除去される。そして除去は睡眠中に行われることがわかったことが重要だ。だから睡眠不足は悪者蛋白の除去効率を下げることになる。さて疫学的に睡眠時間と認知症発症の関係は注目され、7時間睡眠が最も発症に防御的だとした大規模メタアナリシスも報告されている。ところが、日本人は世界的にみて最も睡眠時間が短く、平均6時間程度とされる。このこともあってか、近年アルツハイマー病予防に関連して、グリンパティック系を軸にした睡眠に注目が集まりつつある。睡眠関連障害と認知症の関係ところで睡眠障害は不眠ばかりでない。たとえばレム睡眠行動障害、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群(RLS)などいくつもの病気がある。こうしたさまざまな睡眠関連障害と認知症発症の関係もまた研究され、すでにメタアナリシスもある2)。そしてこれらの睡眠関連障害の多くが認知症発症に関係することが示されている。認知機能低下に関連する要因として代表的なものが、レム睡眠行動障害(リスク比[RR]=1.90、95%信頼区間[CI]=1.23~2.91、I2=0%)、睡眠時無呼吸症候群(RR=1.29、95%CI=1.12~1.48、I2=40%)、ベッドで長時間過ごすこと(RR=1.15、95%CI=1.02~1.30、I2=22%)である。なおレストレスレッグス症候群とは無関係であった。逆に認知症に防御的と思われるものもある。習慣的昼寝(high trend:RR=0.46、95%CI=0.21~1.01、I2=45%)については、有意に効果的な傾向が報告されている。良質な睡眠を誘う音楽さて認知症者における睡眠障害はありふれたものである。たとえば、睡眠の不連続性(中途覚醒)、日中の眠気、睡眠効率の悪さ(寝ている時間/ベッドにいる時間)がアルツハイマー病でみられやすい睡眠障害だとされる。そして症状の進行とともに睡眠・覚醒リズムが乱れ、昼夜逆転パターンに至る例が多い。それだけに睡眠の質を良くするという課題は、認知症当事者と家族、また医療者、ケアスタッフにとっても大切である。普通いわれるのは、就床に先立つ運動や入浴、寝室温度をいくらか低めに設定、適切な明るさの設定などである。これまであまり知られていないが、音楽によるスムーズな入眠への効果も検討されており、効果的だとしたメタアナリシスもある。ところが、「どのような音楽をどのように聴いたら、スムーズな入眠効果が生まれるのか?」はほとんど検討されておらず、エビデンスが乏しい3)。しかし経験論的には以下がポイントだとされる。耳に心地よい音楽歌詞のない音楽自然の音のヒーリングミュージック長調の音楽である。音楽の内容は、クラシックや歌謡曲などではない。チルアウト系、アンビエント・ミュージックなどが代表だが、波の音、雨音など自然で単調なものがいい人もいる。筆者の場合、炭がぱちぱちと燃える音を聴いていると自然に眠りに落ちやすい。さて就床してから睡眠への移行における自律神経の活動ぶりは、スムーズな入眠にとっておそらく生理学的な鍵だろう。ところが確立された所見は、意外なほど少ない。ただ副交感神経の働きが優位になることが重要なのは確かなようだ。睡眠と自律神経という観点から考えたとき、音楽的な規則性と不規則性の調和を意味する「1/fのゆらぎ」の音楽が注目され、これが心地よさを生み出すといわれる。そしてこの種の音楽が副交感神経活動を優位にするとの報告もある。マインドフルネス瞑想も認知症者の睡眠の質を向上させる一方で、現代社会で、ストレスを軽減する方法として、マインドフルネスなど自律神経に注目したものが有名である。つまり副交感神経の働きを高め、交感神経の働きを低下させることで、心身の安定を得ることが基本になる。マインドフルネスのみならず、ヨガ、瞑想、また座禅にも同様の効果があるとされる。これらに共通するのは、ペースド・ブリージング(paced breathing)と呼ばれる「1分間あたり10回以下」のゆったりとした呼吸方法である。この呼吸法によって、横隔膜に至る迷走神経が刺激を受けて、副交感神経の働きが高まるとされる。知的に正常の人はもとより、軽度認知障害や認知症の人でも、この方法は有効だとの報告がある。睡眠に関しては、マインドフルネス瞑想で睡眠の質が向上すると報告したメタアナリシスもある。こうした知見から、呼吸法、副交感神経という観点から、認知症者の不眠改善につながる音楽を追求するのも、これからの治療法になるかと思われる。参考1)Lohela TJ, et al. The glymphatic system: implications for drugs for central nervous system diseases. Nat Rev Drug Discov. 2022;21:763-779.2)Xu W, et al. Sleep problems and risk of all-cause cognitive decline or dementia: an updated systematic review and meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020;91:236-244.3)Jespersen KV, et al. Music for insomnia in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD010459.

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英語で「ICUに立ち寄る」は?【1分★医療英語】第113回

第113回 英語で「ICUに立ち寄る」は?《例文1》Could you swing by the office?(オフィスに立ち寄っていただけますか?)《例文2》I will stop by the floor and talk to the patient.(病棟に立ち寄って、その患者さんと話をしておきます)《解説》“swing by~”は「~に立ち寄る」「顔を出す」という意味になり、病棟やICU、ナースステーションなどに立ち寄ることを伝えるときに使える表現です。“swing”は「揺れる」という意味の動詞ですが、「ブランコが揺れるようにふらっと立ち寄る」というイメージを持ってもらうとよいでしょう。「立ち寄る」という意味を表すほかの表現には“stop by”や“drop by”という熟語がありますが、“stop by”よりも“swing by”や“drop by”のほうが、「より短時間で立ち寄る」というイメージになります。また、例文に出てきた表現の“check on”は「様子を見る」「無事を確かめる」という意味になり、こちらも臨床現場で頻繁に使うフレーズです。講師紹介

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第194回 能登半島地震、被災地の医療現場でこれから起こること、求められることとは~東日本大震災の取材経験から~

木造家屋の倒壊の多く死因は圧死や窒息死こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。元日に起きた、最大震度7を観測した能登半島地震から9日が経過しました。最も被害が大きかった石川県では、1月9日現在、死者202人、負傷者565人、安否不明者102人と発表されています。1月8日現在の避難者数は2万8,160人とのことです。テレビや新聞などの報道をみていると、木造家屋の倒壊の多いことがわかります。その結果、死因は圧死や窒息死が大半を占めているようです。道路の寸断などによって孤立している集落がまだ数多く、避難所の中にも停電や断水が続いているところもあります。さらには、避難所が満員で入所できない人も多いようです(NHKニュースではビニールハウスに避難している人の姿を伝えていました)。本格的な冬が訪れる前に、被災した方々が、まずは一刻でも早く、ライフラインや食料が整った避難所やみなし避難所(宿泊施設等)への避難できることを願っています。東日本大震災との大きな違い1995年に起きた阪神・淡路大震災では、約80%が建物倒壊による圧死や窒息死でした。このときの教訓をもとに組織されたのがDMATです。しかし、2011年に起きた東日本大震災では津波の被害が甚大で、死亡者の8〜9割が溺死でした。震災直後、私は被災地の医療提供体制を取材するため宮城県の気仙沼市や石巻市に入りましたが、阪神・淡路と同じような状況を想定して現地入りしたDMATの医師たちが、「数多くの溺死者の前でなすすべもなかった」と話していたのを覚えています。今回の地震は、津波の被害より建物倒壊の被害が圧倒的に多く、その意味で震災直後のDMATなどの医療支援チームのニーズは大きいと考えられます。ただ、道路の寸断などで、物資や医療の支援が行き届くまでに相当な時間が掛かりそうなのが気掛かりです。これから重要となってくるのは“急性期”後、“慢性期”の医療支援震災医療は、ともすれば被災直後のDMATなどによる“急性期”の医療支援に注目が集まりますが、むしろ重要となってくるのは、その後に続く、“慢性期”の医療支援だということは、今では日本における震災医療の常識となっています。外傷や低体温症といった直接被害に対する医療提供に加え、避難所等での感染症(呼吸器、消化器)や血栓塞栓症などにも気を付けていかなければなりません。その後、数週間、数ヵ月と経過するにつれて、ストレスによる不眠や交感神経の緊張等が高血圧や血栓傾向の亢進につながり、高血圧関連の循環器疾患(脳梗塞、心筋梗塞、大動脈解離、心不全など)が増えてくるとされています。そのほか、消化性潰瘍や消化管穿孔、肺炎も震災直後に増えるとのデータもあります。DMAT後の医療支援は、東日本大震災の時のように、日本医師会(JMAT)、各病院団体や、日本プライマリ・ケア連合学会などの学会関連団体が組織する医療支援チームなどが担っていくことになると思われますが、過去の大震災時と同様、単発的ではなく、長く継続的な医療支援が必要となるでしょう。ちなみに厚生労働省調べでは、1月8日現在、石川県で活動する主な医療支援チームはDMAT195隊、JMAT8隊、AMAT(全日本病院医療支援班)9隊、DPAT(災害派遣精神医療チーム)14隊とのことです。避難所や自宅で暮らす高齢者に対する在宅医療のニーズが高まる医療・保健面では、高血圧や糖尿病、その他のさまざまな慢性疾患を抱えて避難所や地域で暮らす多くの高齢者の医療や健康管理を今後どう行っていくかが大きな課題となります。そして、避難所や自宅で暮らす住民に対する在宅医療の提供も必要になってきます。東日本大震災では、病院や介護施設への入院・入所を中心としてきたそれまでの医療提供体制の問題点が浮き彫りになりました。震災被害によって被災者が病院・診療所に通えなくなり、在宅医療のニーズが急拡大したのです。この時、気仙沼市では、JMATの医療支援チームとして入っていた医師を中心に気仙沼巡回療養支援隊が組織され、突発的な在宅医療のニーズに対応。その支援は約半年間続き、その時にできた在宅医療の体制が地域に普及・定着していきました。奥能登はそもそも医療機関のリソースが少なかった上に、道路が寸断されてしまったこと、地域の高齢化率が50%近いという状況から、地域住民の医療機関への「通院」は東日本大震災の時と同様、相当困難になるのではないでしょうか。東日本大震災が起こった時、気仙沼市の高齢化率は30%でした。今回、被害が大きかった奥能登の市町村の高齢化率は45%を超えています(珠洲市50%、輪島市46% 、いずれも2020年)。「気仙沼は日本の10年先の姿だ」と当時は思ったのですが、奥能登は20年、30年先の日本の姿と言えるかもしれません。テレビ報道を見ていても、本当に高齢者ばかりなのが気になります。東日本大震災では、被災直後からさまざまな活動に取り組み始めた若者たちがいたのが印象的でした。しかし、これまでの報道を見る限り、被災者たちは多くが高齢で“受け身”です。東日本大震災や熊本地震のときよりも、個々の被災者に対する支援の度合いは大きなものにならざるを得ないでしょう。プライマリ・ケア、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、多職種による医療・介護の連携これからの医療提供で求められるのは、プライマリ・ケアの診療技術であり、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、そしてさまざまな多職種による医療・介護の連携ということになるでしょう。東日本大震災、熊本地震、そして新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで日本の医療関係者たちは多くのことを学んできたはずです。日本医師会をはじめとする医療関係団体の真の“力”が試される時だと言えます。ところで、被災した市町村の一つである七尾市には、私も幾度か取材したことがある、社会医療法人財団董仙会・恵寿総合病院(426床)があります。同病院は関連法人が運営する約30の施設と共に医療・介護・福祉の複合体、けいじゅヘルスケアシステムを構築し、シームレスなサービスを展開してきました。同病院も大きな被害を被ったとの報道がありますが、これまで構築してきたけいじゅヘルスケアシステムという社会インフラは、これからの被災地医療の“核”ともなり得るでしょう。頑張ってほしいと思います。耐震化率の低さは政治家や行政による不作為にも責任それにしても、なぜあれほど多くの木造住宅が倒壊してしまったのでしょうか。1月6日付の日本経済新聞は、その原因は奥能登地方の住宅の低い耐震化率にある、と書いています。全国では9割近くの住宅が耐震化しているのに対して、たとえば珠洲市では2018年末時点で基準をクリアしたのは51%に留まっていたそうです。ちなみに輪島市は2022年度末時点で46%でした。耐震化は都市部で進んでいる一方、過疎地では大きく遅れているのです。その耐震基準ですが、建築基準法改正で「震度5強程度で損壊しない」から「震度6強〜7でも倒壊しない」に引き上げられたのは1981年、実に40年以上も前のことです。きっかけは1978年の宮城県沖地震(当時の基準で震度は5、約7,500棟の建物が全半壊)でした。仙台で学生生活を送っていた私は、市内で地震に遭遇、ブロック塀があちこち倒れまくった住宅街の道路を自転車で下宿まで帰ってきた記憶があります。各地域(家の建て替えがないなど)や個人の事情はあるとは思いますが、法改正後40年経っても耐震化が進んでおらず、被害が大きくなってしまった理由として、政治家(石川県選出の国会議員)や行政による不作為もあるのではないでしょうか。もう引退しましたが、あの大物政治家は石川県にいったい何の貢献をしてきたのでしょうか。お金をかけてオリンピックを開催しても、過疎地の住民の命は守れません。いずれにせよ、全国各地の過疎地の住宅の耐震化をしっかり進めておかないと、また同じような震災被害が起こります。政府にはそのあたりの検証もしっかりと行ってもらいたいと思います。

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英語で「そうは言いましたが」は?【1分★医療英語】第112回

第112回 英語で「そうは言いましたが」は?《例文1》That said, …(そうは言いましたが…)《例文2》Having said that, …(そうは言いましたが…)《解説》“with that being said”は超頻用の口語的な接続語です。何かを述べた直後に反対のことを言う際に、前置きとして使用します。直訳すると「そうは言いましたが…」となり、そのとおりの意味で和文でも意味が通じるので、比較的覚えやすい表現かと思います。類語としては、“however”や“nonetheless”があり、論文などのフォーマルな文章では、これらのほうが好ましいでしょう。ただし、口語表現においては、学会発表などのフォーマルな場であっても、“with that being said”は問題なく使用できます。また、一言だけの“however”と比べて少し間を取るため、話しやすく、また聞きやすくなることが多い印象です。少し省略して、“that being said”もしくは単に“that said”という表現もよく使われており、これもまったく同じ意味になります。“having said that~”も同じ意味になりますがこちらは能動態で使用します。講師紹介

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第192回 能登半島地震から考える、医療現場のインフラ対策

新年早々、何とも言えない気分である。元日に発生した令和6年能登半島地震のことだ。当日、私は地元の仙台市に滞在していた。飲酒・飲食の機会が多い正月は体が鈍る可能性が高くなってしまうので、実家を出てスポーツジムに向かおうと仙台市中心部のアーケード街を歩いていた。元日ということもあり、さすがに普段と比べ人通りは少なかった。ふとスマートフォンからYahooニュースアプリのニュース速報通知が着信したことに気付いた。「石川県能登で最大震度7…」という通知文字が流れて行った。職業柄、ニュース速報はリアルタイムで着信通知をする設定にしている。「うわ、規模がでかい」と内心で思った直後だった。自分のスマホだけでなく、アーケード街を歩く人たちのスマホからも一斉に緊急地震速報の警報音が「グワッ、グワッ、グワッ」と鳴り始めた。「ニュース速報が緊急地震速報に先んじることもあるのか?」と驚きながら、とりあえず私は目の前のコンビニエンスストア内に駆け込んだ。アーケード上部から何かが落下してくるかもしれないと考えたからだ。駆け込んだコンビニは1階が店舗、2階がイートインになっていることは前から知っており、2階のイートインならば比較的安全だろうと考え、入り口そばにある階段を駆け上がった。ちょうど2階に到着した時点で、ゆるやかな揺れを感じた。私はそのまま構わずイートインフロア内でアーケードから一番遠い奥まで移動した。妻の実家に帰省中の娘から「そっち大丈夫?」とのLINEが着信。「軽く揺れた気がする。そっちは?」に「揺れたけど平気」と返信がきた。この頃には揺れも収まっていたので、私は再び外に出て駆け足でジムに向かった。トレッドミルで走りながら、そこに付属するテレビでニュースを確認しようと思ったからだ。ジムに到着し、更衣室で着替え中、津波警報が発令されているニュース速報を知った。すぐにトレッドミルに移動し、NHKニュースをつけながら走り始めた。そこで目に飛び込んできたのは、津波高予想が最大3m(後に5mまで引き上げられたが)ということ。さすがにこれはただ事では済まないと思いながら、現在までニュースをウォッチしている次第だ。さて、厚生労働省が発表している地震の被害状況に目を通していると、最新の第12報(1月4日14 時30分現在)でも、石川県、富山県の合計14医療機関で断水が続いている。すでに現地では大量の水が必要になる透析患者の一部が金沢市内の医療機関などに搬送されたという。また、第8報(1月2日16時00分現在)時点までは停電していた医療機関も1ヵ所あった。この現実はこれだけの規模の災害時にはやむを得ない事態であり、誰にも責任はない。このうち電気に関しては、医療機関の場合、消防法と建築基準法により防災電源としての自家発電設備の設置が義務とされている。ただ、これとは別に医療機関の場合は電気設備の状態が人命に関わるため、日本産業規格(JIS規格)の定める「病院電気設備の安全基準」により非常用自家発電設備の整備基準が示されているものの、これには拘束力はない。一方、災害拠点病院指定要件では、通常時の 6 割程度の発電容量のある自家発電機などを保有し、3 日分程度の備蓄燃料を確保しておく旨が通知されている。今回は幸いにして現状では被災地域での医療機関の停電は解消されているものの、災害規模によっては3日間程度では収まらないことも想定しなければならない。だが、実のところ医療機関にとって災害対策は、日常業務プラスのエクストラな対応が必要になり、余裕を持った対策は、予算の観点からもなかなか難しい。今回のニュースに接した時に私が思い出したエピソードの1つが、東日本大震災を取材した際のある医療機関の事務担当者による話だ。この方は「正直、3日経っても電気の回復が見込めず、慌てて非常用発電装置用の燃料確保に走ったが、物流も途絶し、一時は電源喪失を覚悟した」と語っていた。こうした際に燃料として使われるのは軽油や重油だが、前者は保管から半年、後者は3ヵ月も経過すると酸化などによる劣化が進むため、厳密な運用では廃棄せねばならず、災害対策の悩みの種の1つだとも呟いていた。しかも燃料の場合、備蓄量によっては消防法上で備蓄方法の規制もある。今回の能登半島地震では、もともと道路網がやや貧弱な中で、各地で道路の損傷も報じられている。こうなると物はあっても運びきれないという隔靴掻痒な事態も発生するし、現に一部報道では避難所への物資輸送が道路状況の悪化で困難な状況も伝えられている。日本の場合、全国どこでも地震発生の危険がある国土という意味で、もともとがディフェンシブな条件を抱えている。こうした点について、国による全国一律かつより強靭な対策の拡充が不可避だと改めて感じている。

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英語で「(薬の)用量の調節」は?【1分★医療英語】第111回

第111回 英語で「(薬の)用量の調節」は?《例文1》The titration will likely take a few weeks.(用量の調節には、数週間かかりそうです)《例文2》We will need to taper off gradually and monitor the response.(様子を見ながら、少しずつ用量を減らす必要があります)《解説》“titration”(タイトレーション)は、日本語では「滴定(てきてい)投与」に当たり、医療現場でこの用語を使うときは「薬の用量を少しずつ変えて調整する」ことを指します。少しずつ上げる“up-titration”や少しずつ下げる“down-titration”、ゆっくり変更する“slow titration”と、ほかの言葉と組み合わせて使うことも多いです。医療従事者同士の会話やカルテに記載するときはそのまま“titration”を使いますが、専門用語なので、患者さんによっては“titration”の意味がわからない場合もあります。そうした場合には、“gradually adjusting the dose”(徐々に投与量を調整します)や、“slowly changing your medication amount”(薬の量を少しずつ変えていきます)などと言い換えて説明します。また、例文にあるように、徐々に薬の用量を減らすとき、“taper down”や“taper off”という言い方もします。“taper”とは「先細り」という意味で、とくに徐々に減らして最終的には服用をやめる意図を含む際に使います。講師紹介

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アトピー性皮膚炎の治療総論

アトピー性皮膚炎の治療戦略アトピー性皮膚炎の治療では「寛解」という目標が重要です。それは「症状がない、もしくは症状があっても軽微で、かつ日常生活に支障がない状態」つまり「寛解」を目指すことが大切です。寛解が達成できると、患者さんのQOL(生活の質)などは大きく改善されますので、その目標をしっかり医師と患者さんの二人三脚で達成していきたいものです。寛解維持に向けて多くの患者さんは、外用薬を塗ったら良くなるけど、やめたらすぐ再燃する、ということを外来で話されます。「寛解、再燃」のスパイラルに陥ってしまうと、「やはり良くならない」「治療しても意味がない」と思われてしまい、治療を中断してしまう患者さんがいます。よく知られているように「よくなった」と感じた時点でも、皮膚の奥ではまだ炎症がくすぶっていることが多いのです。患者さんが自己判断で外用薬塗布の頻度を減らしてしまうと、皮膚症状が再燃してしまいがちです。そうならないためにも、私は、アトピー性皮膚炎の中等症~重症の患者さんに対しては、プロアクティブ療法と同時にかゆみの物質を血液で検査する「TARC検査」(保険適応あり)を希望される方に施行しています。これはアトピー性皮膚炎の症状に応じて増減することが知られていますので、TARCが正常範囲内にあることが寛解に向けた1つの数字での「見える化」となるかもしれません。治療方法の3本柱は「薬物療法」「スキンケア」「悪化因子の検索と対策」です。1)外用薬ステロイド、タクロリムス、デルゴシチニブ、ジファミラストの外用薬を用います。外用薬はFTU(finger tip unit)を考えて使用します。やさしく、すりこまないように塗るのが大切です。私はステロイド外用薬を使わなくても良い状態まで改善させることを治療目標の1つにしています。2)経口薬抗ヒスタミン薬をかゆみ止めとして使うことが多いです。経口JAK阻害薬であるバリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブがアトピー性皮膚炎の治療薬として使用できるようになりました。多くの治療薬が登場して、重症な方にも治療が届きやすくなりました。時にシクロスポリンを用いることもありますが、長期間の使用で血圧上昇や腎臓への負担がかかりますので短期間の使用が望ましいです。3)注射薬(生物学的製剤)デュピルマブやネモリズマブ、トラロキヌマブなどが使用できます。これらの治療薬でかゆみや皮膚症状はかなりコントロールしやすくなりました。デュピルマブは、2021年のガイドラインで維持療法(寛解を維持するための治療)としても推奨されるようになりました。4)光線療法私はナローバンドUVB照射装置やエキシマランプを用いて光線療法を行っています。かゆみの強い部分にとくに効果を発揮してくれます。ステロイドなど外用薬の使用量を減らすことにも役立ちます。5)スキンケア皮膚のバリア機能および保湿因子を回復させることがスキンケアの大切な目的です。私は、スキンケアを重視しています。とくに出生直後から保湿外用剤によるスキンケアを行うことは、アトピー性皮膚炎の発症リスクを下げることも知られています1)。アトピー性皮膚炎の治療を実践していく上で、スキンケアはどの状態のアトピー性皮膚炎であっても大切です。1)Horimukai K. et al. J Allergy Clin Immunol. 2014;134:824-830.プロアクティブ療法とはアトピー性皮膚炎の治療では、炎症を抑える治療で寛解となった後、外観上ほとんど異常がないように見えても潜在的な炎症が皮膚の奥で残っている状態がしばらく続いています。ここで治療をいったん止めてしまう患者さんが多いのですが、この状態で治療を中止してしまうと、すぐに炎症が再燃してしまいます。プロアクティブ療法とは、皮膚炎が軽快した後もステロイド外用薬などの使用を中止せず、しばらくの間お薬を継続する方法です。それにより、皮膚炎やかゆみの改善状態を長期間維持することができ、再発・再燃の頻度や重症化が減ることが期待できます。プロアクティブとは「先を見越した」「予防的な」という意味で捉えられています。反対に、「かゆいときに塗る、かゆくなくなったら薬を止める」というのが「リアクティブ療法」です。軽症のアトピー性皮膚炎では、リアクティブ療法でも十分なこともあります。『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』においても、プロアクティブ療法は「湿疹病変の寛解維持に有用かつ比較的安全性の高い治療法である」と記載され、推奨度1、エビデンスレベルAと高く推奨されています。プロアクティブ療法のやり方第1段階として、一番大切なことは「寛解導入」すなわち皮膚をツルツルの状態にしてしまうことです。そこではステロイド外用薬を1日2回、きっちりFTUを守って塗っていくことが大切です。光線療法をやる、デュピルマブの注射やJAK阻害薬の内服も重要です。ゴールはかゆみが止まることではなく、寛解することですから、しっかりツルツルの状態を作るまで頑張っていきます。寛解導入のためにはバックグラウンドとして保湿外用薬やスキンケアの継続を行ってくことも大切です。1)プロアクティブ療法を行う上で大切なことプロアクティブ療法はかゆみのあったところ、皮膚が荒れていたところにもステロイド外用薬をはじめとしたお薬を塗ることが大切です。長い期間ステロイドを塗ることへの不安もあると思いますが、20週間実施しても目立った副作用はなかったことも示されています。今はステロイド以外の治療薬もたくさんありますから、副作用が気になった場合は治りにくいところに光線療法を足す、デルゴシチニブやジファミラストなどの薬剤にスイッチするなどの対応が可能になります。2)プロアクティブ療法は患者さんには面倒くさい皮膚症状が寛解していると、お薬を塗るのは面倒くさいと患者さんは思います。ただ、プロアクティブ療法の目的は寛解を維持することですから、皮膚が荒れていたところにも塗っていくことは、再発防止のためには大切です。なお、アトピー性皮膚炎ガイドラインにはこのようにも記載されています。「外来での外用療法が主体となるアトピー性皮膚炎では、患者やその家族は治療の主体である」たしかに、プロアクティブ療法は面倒くさいですし、早く「塗らなくてもいい状態」になりたいはずの患者さんが頑張って毎日塗ることには、とても根気がいるはずですので医療従事者が、その頑張りを少しでも後押しできたらと思います。〔プロアクティブ療法FAQ〕プロアクティブ療法のメリットは?ステロイドの使用量をなるべく少なくして寛解を維持すること。プロアクティブ療法をやっていても痒い場合の対処は?まだ寛解に至っていない状況です。まず寛解導入をやり直しましょう。プロアクティブ療法を行っているとき、保湿も行ったほうが良いか?毎日行ってください!プロアクティブ療法では、いつまでステロイドを使う必要があるか?実は明確な答えがないのです。寛解導入が成功したあと、ステロイドを徐々にタクロリムスやデルゴシチニブなどの抗炎症外用薬にシフトしていき、結果としてステロイドを卒業していく、つまり「卒ステ」というのが目標になると思います。ずっと落ち着いていたのに、急にかゆくなってきた場合の対処は?再び寛解導入を目指してステロイド外用薬をしっかり塗る、光線療法を行う、などの治療を行います。かゆくなくなっても乾燥している部位への対処は?皮膚炎が治りきっていないところも多い可能性があります。しっかり治ると皮膚がツルツルとした柔らかい質感になってきます。ステロイドを終わらせることができましたが、治療薬はいつまで塗ったら良いか?しっかり治った状態をどう維持するか、明確な答えはありません。タクロリムス、デルゴシチニブ、ジファミラストは長期に外用することに伴う副作用は知られていません。寛解がしっかり維持されていれば、少しずつお薬を塗る間隔をあけながら保湿のみに移行していくのをお勧めします。佐伯秀久ほか. 日皮会誌. 2021:131;2691-2777.

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しびれをうまく説明するには

患者さん、それは…しびれ ですよ!しびれとは、感覚鈍麻 (感覚の低下)や異常感覚などを意味します。また、「手足に力が入りにくい」「動きが悪い」などの運動麻痺 (脱力)をしびれとして表現することもあります。また、寒い風に当たっただけで感じるものもあります。以下のような症状はありませんか?□触っても感覚がにぶい□冷たさ・熱さが感じにくい□痛みを感じにくい□何もしなくてもジンジン・ビリビリする□針でさされたような感じ□やけつく様な感じ◆そのしびれ、ある病気の症状かも!?• 指先と口が急にしびれたときは脳梗塞の可能性があります• 手足のしびれは糖尿病でよく起こります• 手根管症候群では手の親指から薬指にかけてしびれますズキズキチクチク出典:日本神経学会(症状編:しびれ)、日本整形外科学会(しびれ[病気によるもの])監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.

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RNA干渉治療薬パチシランはトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力を維持したが全死因死亡や心血管イベントは低下しなかった(解説:原田和昌氏)

 ATTR心アミロイドーシスは、トランスサイレチンがアミロイド線維として心臓、神経、消化管、筋骨格組織に沈着することで引き起こされる疾患で、心臓への沈着により心筋症が進行する。パチシランは、脂質ナノ粒子に封入されたsiRNAの静脈注射剤で、RNA干渉により肝臓におけるトランスサイレチンの産生を抑制する。2019年にパチシラン(商品名:オンパットロ)は、APOLLO試験の結果に基づき、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの適応を取得している。 米国・コロンビア大学アービング医療センターのMaurer氏らは国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(APOLLO-B試験)において、パチシランがATTR心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力を維持すると報告した。360例がパチシラン群(181例)およびプラセボ群(179例)に無作為に割り付けられ、3週に1回12ヵ月間静脈内投与された。タファミジスのATTR-ACT試験ではNYHA III度の患者が30%以上含まれていたのに対して、本試験では8%程度で、NYHA II度が中心であった。ATTR-ACT試験の層別解析でNYHA III度の有効性が示されなかったことと、プラセボ群とタファミジス群の生存曲線の乖離が18ヵ月後以降であったことを踏まえ、早期診断による早期治療を目指した試験である。 ベースラインから12ヵ月時の6分間歩行距離における、プラセボ群とパチシラン群の変化量の差は14.69mで、KCCQ-OSスコアの最小二乗平均差は3.7ポイントであった。両群の治療効果の差は有意ではあったが、2指標ともあまり意味のある差ではなかった。KCCQ-OSスコアがパチシラン群ではベースラインから増加したというが、軽症例への早期投与であり、その後も効果が継続するかは明らかでない。また、全死因死亡、心血管イベントおよび6分間歩行距離の変化の複合は、両群間に有意差は認められなかった。有害事象は注入に伴う反応、関節痛および筋痙縮であった。 ATTR心アミロイドーシスの早期診断による、より早期の治療を目指した試験であり最短で有意差を出したが、結果を手放しで受け止めるのはまだ早いように思われる。RNA干渉治療は大手製薬企業が手を引いた後にバイオテクノロジー企業Alnylam(アルナイラム)が研究を進めたという経緯があり、こうした技術開発を応援する論文であるとも言えよう。ちなみにAlnylamはアンジオテンシノーゲンに対するRNA干渉による降圧治療薬の第II相試験にも成功している。

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第192回 レームダック政権で年末にバタバタと決まる重要施策、診療報酬改定率、紙の保険証廃止、レカネマブ薬価

2024年度診療報酬改定率、本体0.88%プラスにこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年の瀬も迫り、大谷 翔平選手のドジャース入団会見と前後するような形で、医療の世界でもいろいろなことがバタバタ、エイヤ!と決まっています。それにしても、大谷選手関連ニュースのコメンテーターとしてテレビ朝日系列の番組などに、楽天・前監督でシニアディレクターの石井 一久氏が出演し、呑気な発言を繰り返していたのには首を傾げてしまいました。今年の自軍での大不祥事(安楽 智大投手の時代錯誤のパワハラ)について、石井氏は公の場で何の発言もしていません。安楽問題からは逃げて、大谷関連のコメントをテレビで喜々として行っている石井氏に対し、SNS上では呆れ声だけでなく、バッシングも巻き起こっているそうです。ジャニーズ問題とも共通しますが、石井氏を使うテレビ局もテレビ局ですね。さて、12月15日、政府は2024年度診療報酬の改定率の方針を決め、最終調整に入りました。岸田 文雄首相、鈴木 俊一財務相、武見 敬三厚労相が協議し、合意したとのことです。医師の技術料や医療従事者の人件費となる「本体」は0.88%の引き上げ、「薬価」は約1%程度の引き下げ、全体の改定率は0.1%程度のマイナス改定になるとのことです。ちなみに診療報酬1%分は約4,800億円に当たり、約9割が保険料と公費などで賄われています。「財務省vs.日本医師会をはじめとする医療関係団体・厚生労働省」の争いが決着2024年度の診療報酬改定率を巡っては、本連載の「第187回」、「第188回」、「第190回」でも取り上げて来たように、財務省と日本医師会などの医療関係団体との間で激しい攻防が繰り広げられてきました。本体0.88%引き上げという数字は、一体どう解釈すればいいのでしょう。今回の「診療報酬改定シリーズ」は、端的に言って「財務省vs.日本医師会をはじめとする医療関係団体・厚生労働省」の争いでした。財務省は医療従事者の賃上げに理解を示しつつも国民の保険料負担を軽減するため本体マイナスが必要だと主張、賃上げの原資として“儲かっている“診療所の利益剰余金を充てるよう求めました。対する日本医師会をはじめとする医療関係団体は賃上げと物価対応のため本体の大幅な引き上げを要求、厚労省もこれに歩調を合わせ、「本体」の1%超の引き上げを求めていました。全体をマイナス1%で財務省の顔を立て、本体プラスで日医の顔も立てる本体の0.88%プラスは、前回2022年度改定の0.43%、前々回2020年度改定の0.55%を大幅に上回る水準です。岸田首相としては、政権が重要施策として掲げる賃上げ実現に配慮しつつ、全体をマイナス1%程度に抑えることで、財務省の顔もなんとか立てた形となりました。まだ正式確定していない段階ですが、日本医師会は12月15日コメントを公表、「医療・介護分野の賃金上昇は他産業に大きく遅れをとってきましたが、令和6年春闘の先鞭となる賃上げの実現、さらには物価高騰への対応の財源を一定程度確保いただいたとのことです。政府・与党はじめ多くの関係者の皆様に実態をご理解いただけたものと実感しており、必ずしも満足するものではありませんが、率直に評価をさせていただきたいと思います」と一定の評価をしています。松本 吉郎会長が会長として臨んだ初めての診療報酬改定だけに、かろうじて1%近い「本体プラス」を“勝ち取った”という意味で、日医としてはこのようなコメントになったのでしょう。「医師、歯科医師、薬剤師及び看護師以外の医療従事者」の賃上げがどこまで実現できるかなお、本体プラス分0.88%のうち、薬剤師や看護師、看護助手などの賃上げ分で0.61%、入院患者の食費の引き上げに0.06%を充てるとしており、賃上げ率は定期昇給分を含めて4%程度になる見通しだそうです。先頃中央社会保険医療審議会で決まった2024年度診療報酬改定の基本方針は、「人材確保・働き方改革等の推進」を重点課題に位置付け、「その際、特に医師、歯科医師、薬剤師及び看護師以外の医療従事者の賃金の平均は全産業平均を下回っており、また、このうち看護補助者については介護職員の平均よりも下回っていることに留意した対応が必要」としました。これからは、中医協での具体的な配分の議論に移ります。せっかく本体プラスとなったのですから、今回の改定が、「医師、歯科医師、薬剤師及び看護師以外の医療従事者」の賃上げが本当に実現できる内容になればと思います。現行の健康保険証の発行を来年秋に終了しマイナ保険証を基本とする仕組みに移行することも正式決定バタバタ決まったと言えば、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」への移行についても、先週、国の方針が決定しました。12月12日、岸田首相は「予定通り、現行の健康保険証の発行を来年秋に終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する」と表明したのです。この日開かれた第5回マイナンバー情報総点検本部では、総点検対象件数8,208万件のうち99.9%のデータについて本人確認を終了し、残る障害者手帳情報の一部のデータについても12月中に終了できる見通しとなり、総点検完了の目処が立ったと報告されました。総点検では、紐付けの誤りはすでに公表されているものを含め8,351件、割合にして0.01%だったそうです。これらについてはすでに閲覧を停止した上で、各自治体等において紐付け誤りの修正作業を進めていくとのことです。岸田首相は「マイナンバーカードは、デジタル社会における公的基盤。医療分野においても、マイナ保険証は、患者本人の薬剤や診療のデータに基づくより良い医療、なりすまし防止など、患者・医療現場にとって多くのメリットがあり、さらに、電子処方箋や電子カルテの普及・活用にとっても核となる、我が国の医療DXを進める上での基盤だ。まずは一度、国民にマイナ保険証を使っていただき、より質の高い医療などメリットを感じていただけるよう、医療機関や保険者とも連携して、利用促進の取組を積極的に行っていく」とマイナ保険証の活用促進を訴えました。一方、河野 太郎デジタル相はマイナンバー情報総点検本部開催後の記者会見で、「(国民の)不安を払拭するための措置を執るということで、措置(総点検)を執ったので廃止する。イデオロギー的に反対する方は、いつまでたっても不安だ不安だと言うだろう。それでは物事が進まない。きちんとした措置を執ったということで進める」と述べました。「弱腰の岸田首相を河野大臣が説得」との報道も12月12日付の朝日新聞の記事によれば、この紙の保険証廃止の表明については、ギリギリまで調整が続いたそうです。同紙は、「世論の反発を懸念した官邸側が、先送りの方針をデジタル庁に伝えた。報告を受けた河野氏は11日午前、『総理と直接話して説得する』と反発。デジタル庁幹部が官邸を訪れて首相周辺と協議し、具体的な日付を示さずに廃止を明言することで決着した」と書いています。岸田首相は紙の保険証廃止についても弱腰だったとは、情けなくなります。パーティー券収入のキックバック問題等もあり、防衛増税も先送りとなっています。この期に及んで、岸田内閣のもう一つの目玉とも言える医療DXの要、マイナ保険証も先送りとしてしまっては、一体何のために総理大臣をやっているのか、それこそわからなくなってしまいます。マイナンバーカードを保険証として使うマイナ保険証については、本連載でも「第132回 健康保険証のマイナンバーカードへの一体化が正式決定、『懸念』発言続く日医は『医療情報プラットフォーム』が怖い?」、「第153回 閣議決定、法案提出でマイナ保険証への一本化と日本版CDC創設がいよいよ始動」などで度々書いてきましたが、重複診療の是正など効率的な医療提供の実現のためにも、「イデオロギー的に反対する方」への説明や説得を続けながら、国民や医療機関に役に立つマイナ保険証の普及・定着を粛々と進めてもらいたいと思います。レカネマブの薬価決定も、臨床での効果には未だ疑問符「決まった」と言えば、レカネマブの薬価も決まりました。厚労省は12月13日、中央社会保険医療協議会で、アルツハイマー病の新たな治療薬レカネマブ(商品名:レケンビ)を公的医療保険の適用対象とすることを決めました。同日、エーザイはレカネマブを12月20日から発売すると発表しました。体重50kgの患者が1年間で26回使用した場合、年間の費用は1人当たり約298万円となる見通しだそうです。先行して承認された米国では、体重75kgを標準として1人当たり年2万6,500ドル(日本円で約380万円)でしたから、まあ同水準ということになります。ただ、日本の場合は高額療養費制度があるので、患者の自己負担そのものは相当低く抑えられます(70歳以上で年収156万〜370万円場合、年間14万4,000円)。レカネマブについては、本連載でも何度も取り上げてきました(「第169回 深刻なドラッグ・ラグ問題が起こるかも?アルツハイマー病治療薬・レカネマブ、米国正式承認のインパクト」など)ので、改めて特段言及することはありません。ただ、米国の神経生物学者のカール・へラップ氏がその著書『アルツハイマー病研究、失敗の構造』(みすず書房、8月刊)で、「レカネマブの効果が対プラセボで27%の悪化抑制」という数字に対して、「統計学的には有意な進行抑制であっても、生物学的にはほとんど実質のない差であることを示すデータといえる」と指摘すると共に、レカネマブ開発の根拠となっている「アミロイドカスケード仮説」について、詳細な検証の結果、「あまりにも不十分であるために、実質的に無価値であることを自ら証明した」と断言していることは付記しておきたいと思います。

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英語で「(病欠で)シフトを休みます」は?【1分★医療英語】第110回

第110回 英語で「(病欠で)シフトを休みます」は?《例文》医師AI might need to call out tomorrow because of family emergency.(家族の急用で、明日シフトを休まなければならないかもしれません)医師BNo problem, there is a sick-call.(待機の人[シックコール]がいるので、問題ないですよ。)《解説》今回の表現は、病欠や緊急で休まなければならない際の表現です。“call out”という表現は「緊急事態(主に病気)によって、シフトを離脱する」という意味になります。日本の医療現場でどれほど病欠が発生しているのかはわかりませんが、米国の勤務では良くも悪くもしばしば起こることです。このため、米国の病院では、「誰かが病欠のときに呼ばれる人」用のスケジュールが作られています。この「代役」の呼び方は、病院や地域によってさまざまですが、私の病院ではそのようなシフトを“sick-call”と呼んでいます。そして、その“sick-call”が急遽代役として呼ばれる際には、“He/She was called in.”(彼/彼女が代役に呼ばれた)と表現します。“call out”、“call in”、セットで覚えておくとよいですね。講師紹介

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遺伝子治療は間近に来ている、それは神の領域なのか?【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第67回

ゲノム編集技術、ヒトへの応用が始まる2023年11月12日にフィラデルフィアで開催されたAHA(米国心臓病協会学術集会)で「heart-1 trial」という遺伝子治療についての発表がありました1)。家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の患者さんの遺伝情報(ゲノム)であるDNAを書き換えて治療したのです。「アデニン(A)」「グアニン(G)」「シトシン(C)」「チミン(T)」という4種類の塩基の無数の組み合わせで遺伝情報であるDNAはできています。生物の遺伝子情報を変化させるゲノム編集技術の中で、最も知られているのがCRISPR-Cas9です。「クリスパー・キャス・ナイン」と読みます。ゲノム上の特定の場所で遺伝子配列を「取り除く」、「付け加える」、「変化させる」ことを正確に可能にする技術です。DNAの組み合わせを狙い通りに書き換えることを可能にするこの技術を開発したJennifer A. Doudna氏とEmmanuelle M. Charpentier氏の2名の女性研究者は、2020年にノーベル化学賞を受賞しています。私は、このゲノム編集技術のことを知識として知っていましたが、実際のヒトへの応用は先のことで、細胞や動物を使って安全性を確認する段階にあると思っていました。ヒトへの実施報告であったので驚いたのです。抗体医薬からmRNA医薬へDNAの遺伝情報は、まずメッセンジャーRNA(mRNA)に転写され、次にタンパク質に翻訳されます。このDNA→mRNA→タンパク質の流れをセントラルドグマといい、分子生物学の根幹です。この過程のどこかを妨害すれば、遺伝子が機能しなくなります。LDLコレステロール(LDL-C)の調節に、PCSK9というタンパク質が重要な役割を果たしていることがわかっています。LDL-Cは動脈硬化を促進させる、いわゆる悪玉コレステロールです。このタンパク質を抑制すれば、LDL-Cを減少させることが可能となります。このPCSK9というタンパク質をターゲットにする抗体医薬品であるエボロクマブは商品化され実際に使用されています。2週間毎に抗体薬を注射する必要があります。PCSK9をコードするmRNAの働きを抑制する薬剤が、日本で最近使用が可能となりました。抗体医薬品がタンパク質をターゲットにするのに対し、セントラルドグマの1つ上流のmRNAをターゲットにします。インクリシランという薬剤で、標的タンパク質のmRNAに対して相補的な塩基配列を持つRNAを投与することによって、RNA干渉を誘発します。するとRNAどうしが邪魔し合って、標的タンパク質の発現を抑制し治療効果を発揮します。こちらは半年毎に注射する必要があります。このmRNAの作用薬については、この「論文・見聞・いい気分」の第26回で紹介しています。生涯に1度の治療で効果が永久に!?今回「heart-1 trial」で使用された遺伝子治療薬のVERVE-101は、セントラルドグマの究極の上流であるDNAそのものをターゲットとします。ゲノム編集でPCSK9遺伝子を不活化させた結果、下流にあるPCSK9が減少し、さらにLDL-C値も低下させることが報告されました。これは1度の投与で何年間にもわたって効果が持続するといいます。遺伝子治療は、究極的には生涯に1度の治療で永久に続く治療効果を目指しています。今回の報告は、実際に治療された患者数10人の第I相試験の中間解析報告です。遺伝子治療の概念を実証する研究で、今後10年以上にわたる長期追跡調査が予定されています。家族性高コレステロール血症への治療が進化したという意味よりも、CRISPR-Cas9という技術が開発されてから、あっという間にヒトに実際に応用されている事実が与えたインパクトのほうが大きいものでした。遺伝子治療はどこまで普及するか医療技術や科学技術による人の生命への介入を生命操作といいます。生命操作には、否定的でブレーキをかける立場から、技術の進化を礼賛する立場まで、幅広い考え方があります。また、時代によっても変化します。つい数十年前には、体外受精は新聞の一面でいっせいにセンセーショナルに報道された生命操作です。2018年のデータでは、体外受精児は16人に1人の割合にまで増加しているように、体外受精は日本の日常診療に組み込まれています。今後、DNAを操作する遺伝子治療が、どこまで普及するのかは不明ですが、もしかすると体外受精のように日常診療の一部となる日が来るのかもしれません。このような遺伝子治療は、人間の外見や能力を操作する「デザイナーベイビー」につながる懸念もあります。私は、髪を若年にして失うという外見的ハンディキャップ遺伝子を持っています。これを克服するには、髪を増やす遺伝子を導入するのか、髪を失わせる遺伝子を不活化するのかわかりませんが、そのような遺伝子操作技術も将来開発されるのでしょうか。そもそもすべての遺伝子が完璧な者などありえないのです。これは神の領域といってもいいかもしれません。神の領域の治療は怖い自分ですが、髪の領域の治療が待ち遠しい自分もいます。参考1)Science News from AHA2023

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第190回 レカネマブの投与対象者、合理的な絞り込みに感服

中央社会保険医療協議会(中医協)総会が12月13日に開催され、軽度認知障害、軽度のアルツハイマー病を適応とする抗アミロイドβ抗体レカネマブ(商品名:レケンビ)の薬価が決定した。原価計算方式を用いて算出された薬価は、200mgが4万5,777円、500mgが11万4,443円。適応に従って体重50kgの人に500mg製剤を使用した場合、年間1人当たりの推計薬剤費は298万円となる。この薬価に個人的には特段驚きはなく、想定の範囲内である。メーカー側が公表しているピーク時売上予測は2031年の986億円(投与患者3.2万人)。以前、本連載で投与対象患者数を粗く予測してみたが、まあ当たらずとも遠からずという感じだろうか? もっともこの予測は医療提供体制の変化などによって容易に変わり得る。改めて今回の中医協総会で了承されたレカネマブの最適使用推進ガイドライン(以下、GL)に目を通してみた。目を通す際、とくに注目したのは医師・施設要件である。そもそも、薬剤がどれだけ使われるのかを考える場合、患者要件もさることながら、医師・施設要件のほうが大きなファクターであることは改めて議論をするまでもないだろう。処方を決定するのは医師だからだ。一応、患者要件も念のため目を通してみると、ほぼ目新しいことはないが、1.5テスラ以上のMRI検査が実施可能※という項目はやや目を引く。ちなみに国内のMRI保有施設数は5,000施設強で、1.5テスラ以上のMRI保有施設はその半数強。もちろん大都市圏ならば、ほぼ該当する施設は存在するだろうが、これだけでも診断できる施設、診断を受ける患者は絞られそうである。※金属を含む医療機器(MR装置に対する適合性が確認された製品を除く)を植込み又は留置した患者は不可また、投与施設の条件を見ると、これがなかなかに厳しい。まず、初回投与から6ヵ月までは同一施設での投与とし、その施設に必要な体制を「施設における医師の配置」「検査体制」「チーム体制」に分けて記述している。医師の配置に関する記述を原文通り引用すると「認知症疾患の診断及び治療に精通する医師として、以下のすべてを満たす医師が本剤に関する治療の責任者として常勤で複数名配置されていること」と定められている。「以下のすべて」を要約・箇条書きにすると、こんな感じである。アルツハイマー病の診療に関連する日本神経学会、日本老年医学会、日本精神神経学会、日本脳神経外科学会の専門医医師免許取得後2年の初期研修修了後、10年以上の軽度認知障害の診断、認知症疾患の鑑別診断などの専門医療を主たる業務とした臨床経験を有している画像所見からARIA(アミロイド関連画像異常)の有無を判断したうえで、臨床症状の有無と併せて本剤の投与継続・中断・中止を判断し、かつ必要な対応ができる製造販売業者が提供するARIAに関するMRI読影研修を受講日本認知症学会または日本老年精神医学会が実施するアルツハイマー病の病態、診断、本剤の投与対象患者及び治療に関する研修を受講すでに冒頭の各学会の専門医資格を持ち、かつMCI、認知症診療経験を10年以上有するという時点でかなりの医師がふるい落とされるだろう。しかも複数名の配置が必要なのである。実はこの前段では「認知症疾患医療センター等の、アルツハイマー病の病態、経過と予後、診断、治療を熟知し、ARIAのリスクを含む本剤についての十分な知識を有し、認知症疾患の診断及び治療に精通する医師が…」、後段では「認知症疾患医療センター以外の施設で本剤を使用する場合、認知症疾患医療センターと連携がとれる施設で実施すること」との記述がある。要は認知症に関する超高度医療機関のみに限るということだ。そして、なぜ複数名の医師を配置するのかは、後段の「チーム体制」のところを見ると、おぼろげながら推測ができる。要約すると、「投与対象患者の選定、投与期間中の有効性・安全性の評価、投与継続・中止の判断のために」ということのようだ。ちなみにGLでは有効性について、半年おきにミニメンタルステート検査(MMSE)、臨床的認知症尺度(CDR)を実施したうえでのスコア推移、患者・家族・介護者から自他覚症状の聴取などで評価をし、有効性が期待できないと考えられる場合に投与中止を求めている。もちろんこれ自体はとくに不思議はなく当然のことではあるが、MMSE、CDRのような定性的なものを定量化した評価は、単独の医師での評価よりも複数の医師での評価を突き合せるほうが妥当性は高まることが多い。つまり、より踏み込んだ解釈をするならば、“有効性・安全性は単独の医師ではなく、複数の医師で判断せよ”ということではないだろうか?その意味では前述の基準はある意味妥当とも言えるが、同時に私見ながら「よくもここまで論理的に治療開始対象患者を絞り込んだものだ」とも思ってしまう。治療開始対象患者を“公費負担”と入れ替えても良いかもしれない。ちなみに初回から6ヵ月以降の投与施設では、この「複数名」の記載はなく、縛りがやや緩和される。そして今回、投与期間は原則18ヵ月とされた。治験でこの投与期間しかデータがないことが最大の理由だろうが、既存の承認薬剤を考えれば、この点もかなり厳格に対応したと言えるだろう。もっとも前述のような有効性やARIAなどの有害事象を踏まえた総合的な評価で医師が継続の必要性があると判断した場合は投与継続が可能である。また、ご存じのように中等度以上は治験対象になっておらず、投与開始時は適応がない。ただ、投与開始後に中等症となった場合は一旦投与を中止して再評価を行い、この場合も医師が投与を必要と判断すれば再開は可能だ。ただし、中医協に提出された「保険適用上の留意事項」の案では、投与継続理由を具体的にレセプトに明記しなければならない。この点は世間が注目する高額薬剤だけに医師側もそこそこ以上にハードルの高い作業だろう。このようにして見ると、再度の私見になってしまうが、よくぞここまでと言いたくなるくらい、合理的に患者絞り込みを行ったものだと半ば感心してしまっている。参考厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第572回)議事次第

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「アイン減算」でグループ全体の基本料が一律引き下げか【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第122回

診療報酬改定について、医科では「診療所の報酬単価を引き下げる」という宣言があり、あちこちで紛糾していますが、調剤も負けず劣らず騒がしくなってきました。何が起きているのかみていきましょう。厚生労働省が11月29日の中央社会保険医療協議会で示した通称“アイン減算”案に対し、その影響を受ける大手調剤チェーンやドラッグストア関係者が怒りの声を上げている。敷地内薬局をもつチェーンは「敷地内以外の店舗」の基本料を一律減算するという前例のない手法で(中略)関係団体が反対声明を準備するほか、異論が出なかった中医協を見限り、国会議員らへのロビイングで打ち返す「空中戦」に臨む構えも見せている。(2023年12月6日付 RISFAX)まず、今回の報酬改定の薬局に関する議論をおさらいしましょう。薬局を取り巻く状況はコロナ禍を除いておおむね良好であると捉えられています。そして、今回の改定は「メリハリをつけた改定とする」と明言されています。その中で、調剤は「今後は対人業務への真の意味でのシフトが必要」とされ、「薬局に求められる機能を踏まえた調剤報酬の見直し」をするとされています。その理由として、「薬局数・薬剤師数が増えていること」「薬局は病院・診療所の近隣が大半であること」「薬剤師技術料がおおむね維持されていること」が挙げられており、結果として、調剤基本料1および地域支援体制加算を見直す議論が始まっています。そして新たに飛び込んできたのが、上記記事にある「アイン減算」です。察しが付くと思いますが、アイン薬局を展開するアインファーマシーズの社長らが、ある病院の敷地内薬局の入札を巡って公契約関係競売入札妨害の罪で逮捕・起訴されたことからきています。今後の調剤報酬改定に影響が生じるのではないかという噂がありましたが、やはり敷地内薬局が狙われました。現時点の厚生労働省の案では、敷地内薬局を対象とする特別調剤基本料(7点)を取り止めて通常の基本料を適用し、グループ全体に適用される基本料の引き下げを検討しています。敷地内薬局だけでなく、グループ全体が対象です。これに対して関係団体は反対声明を出したりロビー活動を行ったりすると予定だと報じられています。医科のほうでは「診療所は極めて良好な経営状況であり、診療所の報酬単価を引き下げる」との宣言に対して、すでに医師会は猛反対しています。それらの関連団体からの声が診療報酬の変更にどう影響するのか、今後の議論と結論を見守りたいと思います。来年度は薬価改定が4月1日、診療報酬改定が6月1日に施行最後に、今後のスケジュールを確認しておきましょう。2023年内に改定の基本方針が決定し、年明けの2024年1月に個別改定項目案の立案、3月に点数・算定要件・施設基準が告示され、それに関して疑義解釈および団体からの質疑応答が実施されます。ここまでは例年どおりともいえるのですが、今回はその後が少し違います。これまで、診療報酬改定の期間が短いため、レセコンや電子カルテなどの各種ベンダーの対応を含む改定作業の負担が大きいことが課題として挙げられていました。そこで、今回は薬価改定と診療報酬改定の施行時期をずらすことになりました。2024年4月1日に薬価改定の施行、2024年6月1日に診療報酬改定が施行されます。2月の受診、4月の受診、6月の受診では負担金が変わってくることがあるため、患者さんへのアナウンスにも注意を払う必要がありそうです。

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第189回 診療報酬プラス改定に一筋の光明か、政府の相次ぐ不祥事発覚で

久々に“亡霊”が息を吹き返した。12月4日、日本医師会(日医)大講堂で開催された国民医療推進協議会主催の『国民医療を守るための総決起大会』のニュースが専門紙(誌)を賑わしている。もっとも医療関係者の中でも“国民医療推進協議会って何?”と思う人もいるかもしれない。国民医療推進協議会とは2004年 10 月、「国民の健康の増進と福祉の向上を図るため、医療・介護・保健および福祉行政の拡充強化をめざし、積極的に諸活動を推進すること」を目的に、日本医師会が各医療関係者団体等に呼びかけて発足させた組織だ。現在、医師関連団体のみならず、いわゆるコ・メディカル団体や患者団体まで含め42団体が参加している。同協議会会長は日医会長が兼任し、現時点は日医の松本 吉郎氏が兼務している。前述の目的を記したカギカッコ内はお堅いことを書いているが、端的に言えば、同協議会は日医+αの“世論”を結集する、ある種の圧力団体と言っても過言ではない。どうしてこの団体が組織されたのか? それは設立時期を見ると、人によっては「ああそういうことか」と思うかもしれない。当時の首相は変人とあだ名された小泉 純一郎氏である。小泉氏の掲げた「聖域なき構造改革」というと、郵政三事業民営化を思い浮かべる人が多いだろうが、彼がそれと並んで切り込んだのが医療である。診療報酬本体の改定率が史上初のマイナスになったのは小泉政権期の2002年。2004年9月の第2次小泉改造内閣発足時の所信表明演説では、日医がもっとも嫌悪する政策の1つ「混合診療解禁」を盛り込み、事実上の首相の政策決定機関とも言える経済財政諮問会議でも小泉氏自身が「年内に解禁の方向で結論を」と発言したほどだ。この直前には現在の規制改革推進会議の前身・規制改革会議の中間報告でもこの方針は盛り込まれたが、これも小泉氏の強い要望だったとされる。この混合診療解禁を阻止するために当時の日医会長の植松 治雄氏(故人)が発足させたのが同協議会である。実際、この時は同協議会の力で600万人分の反対署名を集め、その結果、混合診療解禁は見送られた。しかし、この時の“遺恨”は2006年の診療報酬改定時の本体マイナス1.36%という史上最大の下げ幅で返された格好となった。さて、同協議会はそれ以降も存続し、秋の総会と年末年始の総決起大会が開催されているが、半ば形骸化している。その意味では専門紙で取り上げられる同協議会の総決起大会の記事の文量や本数が多くなったのは久しぶりとも言える。日医にとって、それだけ今回の改定への危機感が強いということなのだろう。先日、立ち話をしたある国会議員も「今回の財務省は驚くほど固い」と漏らすほどだ。この点は2018年の同時改定の際にギリギリまで本体マイナス改定を狙いながら、当時の首相である安倍 晋三氏、財務相だった麻生 太郎氏、日医会長の横倉 義武氏の鉄のトライアングルにひっくり返された財務省の遺恨も影響しているだろう。では最終的にどう決着するのか? 本当にこればかりは予想がつかない。この世界に身を置いて約30年になるが「診療報酬改定 一寸先は闇」という印象は今もまったく変わらない。この時期の診療報酬改定を巡る動きを、落ち物パズルゲーム「テトリス」に例えると、決まった種類のブロックが高速度で落ちてくる時にも似ている。だが、診療報酬改定議論とテトリスが異なるのは、前者では時にまったく見たこともない形のブロックが突如目にも止まらぬ速さで落ちてきて、政治決断という名のゲームオーバーになることである。その意味では、ひとえに首相の岸田 文雄氏の胸の内次第ということになる。岸田氏は自民党内の母体が旧大蔵・財務官僚出身者が多い宏池会であること、義弟が元財務省理財局長の可部 哲生氏であることなどから財務省寄りと言われがち。しかし、財源未定のまま「こども未来戦略方針」をぶち上げた点では、相当な財務官僚泣かせとも言える。そして仮にこの財務省の立場に立った場合、ここにきて彼らが考える診療報酬本体マイナス改定に向けてプラス要素とマイナス要素が入り乱れる格好になっている。プラス要素とは突如降って湧いた「2025年度から3人以上の子どもがいる多子世帯で大学授業料などを無償化」との方針である。財務省からすれば、まさに見たこともないブロックが頭上に落ちてきた格好で悩ましいことではあるが、スタートが2025年度とはいえ、さらなる財源を確保しなければならなくなる以上、社会保障費適正化の大義名分にはなる。逆にマイナス要素とは何か? これは昨今ニュースを賑わしている自民党の政治献金パーティー売上の裏金問題と岸田氏が自民党政調会長時代に旧統一教会系団体幹部と面会していた事実の発覚である。すでに11月時点の内閣支持率が30%以下という危険水域に入っている中で、この2件の発覚はダメージが大きい。となると、自民党の有力支持団体である日医の意向を無視しきれなくなる。いずれにせよ、ここに来て診療報酬改定の行方は、より混迷を深めたと言えるかもしれない。

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映画「イン・ハー・シューズ」【なんで読み書きだけできないの?なんで計算できないの?(学習障害)】Part 1

今回のキーワード読字の障害(ディスレクシア)書字の障害算数の障害知的障害発達性言語障害ADHD合理的配慮障害者権利条約話すことは普通にできるのに、読むのがとても苦手なお子さんはいませんか? 読めても書くのがとても苦手なお子さんはいませんか? 計算するのがとても苦手なお子さんはいませんか? このような場合、学校や医療の現場では、学習障害と呼ばれています。これは、発達障害の1つです。今回は、この学習障害をテーマに、ラブコメ映画「イン・ハー・シューズ」を取り上げます。この映画を通して、学習障害の特徴を整理し、その起源に迫ります。それを踏まえて、その本質的な対策を考えてみましょう。学習障害の特徴は?主人公のマギーは、誰もが羨むルックスとスタイルを持ち、人当たりが良い魅力的なキャラクターです。それなのに、あるハンディキャップによって、仕事は長続きしません。まず、彼女のハンディキャップを主に3つ挙げ、学習障害の特徴を整理してみましょう。(1)読むのが苦手マギーがテレビ局のアナウンサーのオーディションに挑むシーン。目の前のプロンプターに流れて表示される文章を読み上げるよう指示されますが、彼女は読むのが遅く、読み間違えも連発していました。1つ目の問題は、読むのが苦手であることです。これは、読字の障害(ディスレクシア)と呼ばれます。流暢に読めず、読み間違いが目立ち、読解力がないなどの特徴があります。(2)書くのが苦手マギーがケンカ別れをしてしまった姉のローズに手紙を書こうとするシーン。宛名だけは書きますが、その先はずっと白紙のままです。そして、書きかけと思われる紙がいくつもくしゃくしゃに丸められて、バッグの中に入れられていました。2つ目は、書くのが苦手であることです。これは、書字の障害と呼ばれます。マギーのように、読むのが苦手であるということは、必然的に書くのも苦手になります。書き間違いが多く、文章構成力がないなどの特徴があります。なお、読むことやこの後の計算することとは違い、書くことについては、速さについての診断基準はありません。一方、読むのが苦手ではなくても、書くのだけ苦手な場合もあります。この場合は、書字の障害のみと診断されます。(3)計算が苦手マギーがアルバイトでジーンズ屋のレジ係をしていた時の回想シーン。彼女は、レジのスキャナーが反応しないことで戸惑うなか、15%引きのクーポン券を差し出した女性客から、「クーポンは15%割引。合計金額から引くだけ。42ドルの15%、すぐに自分で計算できないの!?」と怒鳴られます。そして、その女性の後ろには長い列ができていたのでした。3つ目は、計算が苦手であることです。これは、算数の障害と呼ばれています。スムーズに計算ができず、計算間違いが目立ち、数学的推理力がないため、日常生活で算数の応用ができないなどの特徴があります。このように、マギーは大人になるまで読み書きや計算ができないというハンディキャップによって、自信(自己効力感)をなくしていました。姉から学校に戻って勉強し直すよう勧められても、「バカの学校(学習障害向けの学校)には戻りたくない」とも言っていました。生活するお金がないなか、男をたらし込んでおごらせたり、ケチな盗みを繰り返して、その日暮らしの生活をし、自尊心(自己肯定感)も低くなってしまっているのでした。他の発達障害との関係は?学習障害の特徴は、読むのが苦手、書くのが苦手、計算が苦手であることがわかりました。それでは、他の発達障害との関係はどうなるのでしょうか? ここから、主に3つの発達障害を挙げて、鑑別診断をしてみましょう。(1)知的障害マギーは、ずっと音信不通だと思っていた祖母を頼って訪ねます。そして、祖母の勧めから、近くの老人ホームで食事を運ぶ仕事に就きます。彼女は、読み書きや計算を必要としない仕事なら続けることができています。買物や交通機関の利用など日常生活は普通に送れています。1つ目は、学習障害は知的障害(トータルIQ 75以下)を除外することです。知的障害であれば、書き言葉だけでなく、話し言葉の理解や生活の自立が難しくなってきます。つまり、知的障害であった場合は、学習障害とは診断しません。(2)発達性言語障害マギーは老人ホームで、目の見えない老人から詩の本を読んでくれと何度も頼まれます。実はその老人は元教授で、マギーが学習障害であることを見抜いたのでした。マギーは渋々教授に詩を読みます。詰まりながらも、勧められたとおりゆっくり読みきったあと、教授から詩の意味を聞かれます。すると、彼女は詩の描写にある隠れた意味を言い当てたのでした。マギーは、教授から「Aプラスだ。君は頭がいい」と褒められます。このシーンから、マギーは読み書きがうまくできないものの、抽象的な言葉を使いこなせることがわかります。つまり、彼女の言語理解IQ(言語能力)は少なくとも正常範囲(85以上)、Aプラスと評価された点では110以上であることが推定できます。2つ目は、学習障害は発達性言語障害(言語理解IQ 75以下)と区別することです。もともと発達性言語障害があれば、そもそも話し言葉の理解でさえ難しくなってきます。つまり、その後に学習障害を併発する可能性がとても高くなります。一方、マギーのように、もともと発達性言語障害がない学習障害の場合は、話し言葉の能力を生かすことができます。なお、文部科学省の定義では、発達性言語障害は学習障害に含まれています。国際的な診断基準(ICD-11)や米国精神医学会の診断基準(DSM-5)とは違うことに注意する必要があります。(3)ADHDマギーは、老人ホームの仕事に就く前に、トリマーの見習いをします。しかし、段取りを覚えきれず、動物が動き回るなどのちょっとしたアクシデントですぐにパニックになっていました。3つ目は、学習障害はADHDの合併が最も多いことです。学習障害もADHDも、ワーキングメモリーのIQが低くなることが共通しています。ワーキングメモリーとは、同時に複数の違う記憶を保持するマルチタスクのことです。老人ホームで食事を運ぶだけの仕事なら、マルチタスクではなく自分のペースでできるため、マギーには合っていることがわかります。次のページへ >>

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映画「イン・ハー・シューズ」【なんで読み書きだけできないの?なんで計算できないの?(学習障害)】Part 3

学習障害にどうする?学習障害の原因は、脳の機能の障害であり、学習環境ではないことがわかりました。これを踏まえて、学習障害の本質的な対策を大きく3つの時期にわけてみましょう。(1)小学校マギーは、実際に学習障害者向けの特別な学校に行っていました。小学校では、読み書き計算への特別なトレーニングをすることです。日本では、米国のような特別な学校はありませんが、たとえば、週1回2時間の特別支援教室を利用することができます。また、学習障害専門の医療機関で指導を受けることもできます。小学校は、読み書き計算の敏感期であることが考えられるため、この対策を優先的に行うことが必要です。(2)中学校・高校マギーは、自信も自尊心も低くなり、軽はずみな行動(逸脱行動)を繰り返していました。これは、学習障害による二次障害です。しかし、おばあちゃんや教授のサポーティブなかかわりによって、マギーは自信と自尊心を取り戻し、真面目に働くようになりました。中学校・高校では、このような二次障害の予防のために、もはや特別なトレーニングをするのではなく、読み書き計算へのサポートツールを使うことです。たとえば、読字の障害なら読み聞かせの音読機能のアプリを使う、書字の障害ならパソコンを持ち込む、計算の障害なら計算機を使うことです。また、字の書き順が間違っていても、形がほぼ合っていて読めるなら問題なしとすることです。このように、学習の形にこだわらないようにする必要があります。これは、学習条件を合理的に配慮する取り組みで、障害者差別解消法の一環の合理的配慮として推進されています。そもそも小学校で特別なトレーニングをしても限界があるなら、これ以上トレーニングを続けるメリットがなくなります。むしろ「どうせ自分はできないしだめだ」という二次障害のリスクを高めます。そうではなくて、「自分にもできることはあるし、大丈夫だ」という心を育むことがまず必要です。この点では、場合によっては、小学校高学年からこの取り組みを検討することが必要です。(3)成人後マギーは、やがて自分の美的センスを生かして、高齢者向けの服のコーディネートのビジネスを始めます。受付は、おばあちゃんが代わりにやっていました。成人後は、読み書き計算をなるべくしなくて済む仕事を選ぶことです。たとえば、専門職よりも一般職です。事務職よりも営業職です。デスクワークよりもフィールドワークです。ほとんどの能力(機能)の敏感期が20歳までであることを踏まえると、読み書き計算も20歳までであることが推定されます。成人してからの学習の効果があまり期待できないことから、やはり自分に合った、自分にできる仕事を見つけることが必要です。なお、敏感期の詳細については、関連記事2をご覧ください。「イン・ハー・シューズ」とは?マギーの姉は、弁護士という最も読み書き計算を駆使する職に就いていましたが、地味で容姿に自信がありませんでした。姉は、そんなマギーとは真逆なキャラクターですが、唯一同じなのが足のサイズなのでした。2人は反発し合いながらも、最後は仲直りします。そして、マギーは姉の結婚式で詩をゆっくり読み上げます。その中で「私の心を重ねて」(I carry your heart with me.)という言い回しが繰り返されます。「イン・ハー・シューズ」とは、「彼女の立場だったら(彼女の靴を履いたら)」という意味で、まさに「私の心を重ねて(わかり合えれば)」という言い回しに重なります。これは、この2人だけのことではなく、まさに社会としても学習障害を理解し、サポートすることであることをこの映画はほのめかしているように思われます。現代の社会は、ICT(情報通信技術)によって、学習障害へのサポートツールがますます充実してきています。そんななか、「自分だけずるい」「特別扱いだ」という周りのクラスメートの目も気になってきます。これは、「教育の平等」というこれまでの価値観によるものです。そして、個人の学習という内容を優先するか、それとも教育の平等という形式を優先するかという教育理念のぶつかり合いでもあります。この時、何が一番大事なのかを考えることが必要になってきます。それは、なんのために学んでいるのかということです。それは、たとえ障害があってもその子その子が成長するためです。足並みを揃えるためではないです。優劣をつけるためでもないです。この考え方は、先ほど紹介した合理的配慮(障害者差別解消法)が根拠としている障害者権利条約に通じており、グローバルスタンダードになっています。今回の「イン・ハー・シューズ」を通して、まさにその子その子の身になってみたら、持っている能力に寄り添う学びのあり方が必要であることをより理解できるのではないでしょうか?1)医療スタッフのためのLD診療・支援入門 P20:玉井浩(監)、診断と治療社、20222)ヒューマニエンス 40億年のたくらみ「“文字” ヒトを虜にした諸刃の剣」:NHKオンデマンド、2022<< 前のページへ■関連記事ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 1海外番組「セサミストリート」【子供をバイリンガルにさせようとして落ちる「落とし穴」とは?(言語障害)】Part 1

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医師が選ぶ「2023年の漢字」TOP10を発表!【CareNet.com会員アンケート】

12月12日は漢字の日。毎年年末に1年の世相を表す漢字1字が募集され、最も応募数の多かった漢字が「今年の漢字」として発表されます(主催:日本漢字能力検定協会)。本家の発表に先立ち、CareNet.com医師会員の皆さんに選ばれた「2023年の漢字」TOP10を発表します。2023年を表す漢字として、どのような漢字をイメージしましたか?第1位「戦」(155票)第1位は、昨年に引き続き「戦」が選ばれました。2022年に始まったロシアのウクライナへの軍事侵攻に加え、2023年10月7日にはイスラム組織ハマスによるイスラエル急襲が発生し、戦争状態となっています。戦争に関するニュースを目にすることも多く、戦争に関するコメントが多く寄せられました。一方、野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表「侍ジャパン」が優勝したことなど、ポジティブな「戦」に関するコメントもみられました。「戦」を選んだ理由(コメント抜粋)ウクライナ‐ロシア間の戦争、パレスチナでのイスラエルの無差別攻撃、中国の海洋進出、北朝鮮の弾道ミサイルなど戦争につながる事態が多かった。(60代 外科/群馬)コロナとの戦い、ガザ地区やウクライナの戦争などがあるから。(50代 耳鼻咽喉科/北海道)争いが絶えない。(70代以上 内科/宮城)良い戦いから悪い戦いまで、いろいろな戦いがあった。(70代以上 内科/大阪)WBC優勝。(20代 整形外科/長野)第2位「税」(62票)第2位には、「税」がランクイン。物価上昇や増税、減税に関する報道が多く、票を集めました。税負担の大きさを感じているというコメントもみられました。岸田 文雄総理大臣がインターネット上などで「増税メガネ」と揶揄され、話題となったことも理由に挙げられました。2023年10月にインボイス制度が始まったことも記憶に新しいのではないでしょうか。 「税」を選んだ理由(コメント抜粋)税金が増える話ばかりで嫌になった1年だった。(30代 神経内科/福岡)今年は税負担の大きさを強く感じたため。(50代 小児科/群馬)増税、減税など税に関わる報道が多く、値上げなどにも関連しているため。(30代 小児科/宮城)「増税メガネ」の言葉が話題になった。(30代 内科/北海道)政府の税金対策、インボイスなど。(40代 内科/東京)■第3位「争」(46票)第3位は「争」。第1位の「戦」と同様に戦争に関するコメントが多く寄せられました。ロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平選手についての話題など、スポーツの「争い」に言及するコメント、個人的な「争い」に関するコメントもみられました。 「争」を選んだ理由(コメント抜粋)ウクライナに続いてパレスチナでも戦争が始まり、争いが絶えなくなり今後が不安な世の中になってきた。(50代 その他/茨城)世界的な紛争。スポーツ界でも良い意味での争い(大谷選手のホームラン王、MVPなど)がみられたように思う。(40代 小児科/鹿児島)世界のあちこちで紛争があり、さまざまなスポーツで勝利を目指して争われ、メジャーリーグでは大谷選手の争奪戦が始まりそう。(50代 放射線科/福岡)争いが絶えない1年であった。(60代 小児科/福島)第4位「高」(43票)第4位は「高」。今年は、物価や気温など「高い」ものが多く、話題となった1年でした。生活に直結するものが多かったため、票を集めたのではないでしょうか。皆さんは「高」といえばどのようなものを思い浮かべますか? 「高」を選んだ理由(コメント抜粋)物価が高い、株価が高い、気温が高い。(50代 内科/滋賀)商品の値段が次々値上げ。価格を見て「高っ」と何度つぶやいたか。(50代 眼科/福岡)物価高、賃金上昇、金高騰など、なにかと高くなる出来事が多い1年でした。(40代 整形外科/徳島)高齢化、高税率など。(40代 小児科/静岡)医療費高騰のため。(30代 血液内科/東京)第5位「暑」(42票)第5位は「暑」。気象庁は、2023年の夏(6~8月)の全国の平均気温が、1898年の統計開始以来最高となったことを発表しています。この記録的な暑さは、印象的だったのではないでしょうか。また、アンケートを実施した11月上旬も季節外れの暑さとなり、夏日を記録した地域があったことに言及するコメントも複数寄せられました。 「暑」を選んだ理由(コメント抜粋)記録的な夏の暑さだったから。(60代 内科/三重)夏自体も暑かったが、東京では11月に夏日が3日もあってなかなか暑さがおさまらないから。(40代 消化器内科/東京)歴史的な猛暑の夏と暖冬。(40代 内科/奈良)第6~10位惜しくも第5位と1票差で第6位となった漢字は「虎」。阪神タイガースが1985年以来38年ぶりとなる日本一を達成したことで票が集まりました。第6~10位は以下のとおりでした。第6位:「虎」(41票)「言うまでもなく、阪神タイガースの38年ぶりの日本一!」など第7位:「乱」(40票)「混乱、戦乱、乱暴、騒乱、落ち着きの無い年だった。」など第8位:「明」(21票)「コロナが明けて、生活スタイルがもとに戻ったから。」など第9位:「変」(18票)「いろいろな価値観、常識、観念の変化が見え出した。」など第10位:「貧」(16票)「物価上昇が著しく、国民生活は苦しくなるばかり。」など アンケート概要アンケート名『2023年を総まとめ!今年の漢字と他の医師にも薦めたい今年の購入品をお聞かせください』実施日   2023年11月8日~15日調査方法  インターネット対象    CareNet.com医師会員有効回答数 1,029件

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