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オピオイド依存、代替維持療法で全死亡リスク減/BMJ

 オピオイド依存症患者に対する、メサドン(商品名:メサペイン)やブプレノルフィン(商品名:レペタン)を用いた代替維持療法は、全死因死亡および過剰摂取死亡のリスクを大きく低下させる。スペイン・国立疫学センターのLuis Sordo氏らが、コホート研究を対象にしたシステマティックレビューとメタ解析により明らかにした。検討では、メサドンの治療導入期と治療中止直後は、死亡リスクが高いことも明らかにされた。著者は、「こうしたリスクを減らすためには、公衆衛生と臨床戦略の両輪で対処する必要がある」と述べたうえで、「今回の所見は重要であると思われるが、さらなる検討で、死亡リスクとオピオイド代替療法の比較ならびにそれぞれの治療期との比較における潜在的交絡や選択的バイアスを明瞭にすることが求められる」とまとめている。BMJ誌2017年4月26日号で発表された。19コホートを包含したメタ解析で検討 検討は、2016年9月時点でMedline、Embase、PsycINFO、LILACSを検索して行われた。適格とした試験は、オピオイド依存症患者が参加する前向きまたは後ろ向きコホート試験で、メサドンもしくはブプレノルフィンを用いたオピオイド代替療法の開始・中止後の追跡調査期間中の全死因死亡または過剰摂取死亡について報告していた試験とした。 2人のレビュワーがそれぞれデータを抽出し、試験の質を評価。治療中・治療中止後の死亡率は、メサドン群とブプレノルフィン群を統合して算出し、多変量ランダム効果メタ解析にて評価した。 結果、解析には適格基準を満たした19コホートが包含された。メサドン治療群は12万2,885例(治療期間1.3~13.9年)、ブプレノルフィン治療群は1万5,831例(1.1~4.5年)であった。死亡リスクは代替療法で低下するが、メサドン開始4週間は高い プール全死因死亡率は、メサドン治療中・中止後(解析包含コホート16件)よりも、ブプレノルフィン治療中・中止後(同3件)のほうが低かった。 同死亡率は1,000人年当たり、メサドン治療中11.3、同中止後36.1(補正前中止後/治療中の発生率比:3.20、95%信頼区間[CI]:2.65~3.86)、ブプレノルフィン治療中4.3、同中止後9.5(2.20、1.34~3.61)であった。 一方プール傾向分析で、メサドン治療中の全死因死亡率は、開始当初4週間で激減すること、治療中止後2週間以降は漸減することが示された。ブプレノルフィン治療に関しては、治療中・中止後ともに増減は示されなかった。 過剰摂取死亡率についても同様の傾向がみられた(解析包含コホート:メサドン11件、ブプレノルフィン1件)。1,000人年当たりの死亡発生は、メサドン治療中2.6、中止後12.7(補正前中止後/治療中の発生率比:4.80、95%CI:2.90~7.96)、ブプレノルフィン治療中1.4、中止後4.6であった。

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オピオイドとベンゾジアゼピンの併用はリスクか?/BMJ

 米国・スタンフォード大学のEric C Sun氏らは、民間医療保険の支払いデータから、オピオイドとベンゾジアゼピン系薬の併用使用の傾向、および併用使用とオピオイド過剰摂取との関連を調べるレトロスペクティブな分析を行った。その結果、2001~13年の間に両薬の併用は1.8倍に急増しており、併用がオピオイド過剰摂取の全リスクに有意に関与していることが明らかになったと報告した。多くの国で、処方オピオイドの使用増大と、その結果としてオピオイド中毒や過剰摂取が起きている可能性が公衆衛生上の懸念として増している。米国では、オピオイドの致死的過剰摂取の30%でベンゾジアゼピン系薬の併用が認められており、同併用の増大がオピオイド関連死の増大を招いているのではないかと懸念されている。しかし、これまでに行われたオピオイドとベンゾジアゼピン系薬の併用に関する試験は退役軍人を対象としたもので、一般集団である民間保険加入者の使用傾向や影響については明らかにされていなかったという。BMJ誌2017年3月14日号掲載の報告。2001~13年の民間保険加入者の使用傾向とリスクを分析 検討は、民間保険加入者の医療サービス利用データを収集・提供するデータベースMarketscanから医療費支払いデータを入手して行った。同データベースは、保険加入者600万人分から始まり、今日では3,500万人分のデータが収集されている。同データベースの包含集団は、女性が多く、米国南部の住民が多く西部の住民が少ないという特色を有している。研究グループは、2001年1月1日~2013年12月31日の医療費支払いデータを入手して、レトロスペクティブに分析した。 対象期間中に、医療サービスと処方薬についてカバーされる保険プランに継続加入しており、1回以上オピオイドの処方記録のあった18~64歳の31万5,428例について、ベンゾジアゼピン系薬とオピオイドの併用(それぞれの薬物の処方の重複が1日以上ある場合と定義)を特定。併用者の年間割合を算出し、救急救命室(ER)の年間受診率とオピオイド過剰摂取による入院患者の年間割合について評価した。併用者のER受診・過剰摂取の入院リスク発生はオピオイド単独使用者の2.14倍 オピオイド使用者でベンゾジアゼピン系薬を併用していたのは、2001年は9%であったが、2013年には17%に増大していた(80%増)。この増大の主因は、オピオイドの間欠的使用者における併用の増大(7%→13%)によるものだった。対照的にオピオイド常用者の併用率は、2001年でも46%と高値ではあったが、増加することなく推移していた。 オピオイドのみ使用者と比較して、併用者はER受診やオピオイド過剰摂取による入院のリスクが有意に高かった(補正後オッズ比:2.14、95%信頼区間[CI]:2.05~2.24、p<0.001)。また、同リスクについて、オピオイドの間欠的使用者の補正後オッズ比は1.42(1.33~1.51、p<0.001)、常用者は1.81(1.67~1.96、p<0.001)であった。 この関連について因果関係があるものとして試算すると、オピオイドとベンゾジアゼピン系薬の併用を解消することで、オピオイド使用に関連したER受診およびオピオイド過剰摂取による入院のリスクは、15%(95%CI:14~16%)減少可能であると示された。

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「カイジ」と「アカギ」(後編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】

今回のキーワードカジノを含む統合型リゾート(IR)行動経済学システム化報酬予測ニアミス効果損失回避欲求自助グループ(GA)なぜギャンブルは「ある」の? -ギャンブル脳ギャンブルをするのは男性が多いという理由について、因果関係、上下関係、契約関係を重視するという男性ならではのシステム化の心理があることが分かりました。それでは、そもそもなぜギャンブルは「ある」のでしょうか?その答えは、原始の時代に生きるか死ぬかの「ギャンブル」をして生き抜く遺伝子が現代の私たち(特に男性)に引き継がれているからです。これは、ギャンブル脳と呼ばれています。そして、これによって日常生活に支障を来している場合が、ギャンブル依存症と言えます。また、ギャンブル脳を含め人の心理行動と経済活動の関係を研究するのが、行動経済学です。ここから、このギャンブル脳を、3つの要素に分けて、その進化心理学的な起源を探ります。そして、その行動経済学的な応用を紹介しましょう。(1)「想像するだけでワクワクする」a. 報酬予測1つ目は、「想像するだけでワクワクする」という報酬予測(動機付けサリエンス)です。これが、心を奪われるという心理につながっていきます(渇望)。例えば、「勝った時の興奮が忘れられない」「あのスリルをもう一度味わいたい」「ルーレットが回っている瞬間が最も興奮する」という気持ちです。これは、ギャンブルに限らず、例えば「旅行は計画している時が一番楽しい」「遠足の前日は眠れない」など、初めてで不確定ですが、楽しいことが予測される非日常の直前の心理が当てはまるでしょう。この報酬予測の心理を引き出すには、すでにその快感(報酬)の体験をしていることが前提です。この点で、パチンコや競馬などと違い、宝くじにおいては、基本的に勝ちの快感の体験を味わうことはできません。よって、その代わりに、宝くじの当選額を億単位まで増額し射幸心を煽った上で、当選の疑似体験をCMで植え付けることが盛んに行われます。実際に、サルによる動物実験でも実証されていますが、確実な報酬よりも、不確実な報酬の「待ち時間」に、最も脳内で快楽物質(ドパミン)が放出されていることが分かっています。そして、この不確実で大きな報酬の繰り返しによって、「待ち時間」の快楽物質(ドパミン)の放出がより早く、より多くなっていきます。逆に言えば、「待ち時間」のあとの実際の快感(報酬)は、「待ち時間」の最中の快感(報酬)よりも相対的に目減りしていきます。簡単に言えば、実際に勝った喜びの快感が麻痺していき、「もっともっと」という心理が強まっていきます(耐性)。さらに、この相対的な快感の目減りにより、日常生活で他の喜びも麻痺していきます。ちなみに、パーキンソン病の患者が治療薬であるドパミン刺激薬を内服すると、8%がギャンブル依存症になることがアメリカでは報告されています。また、ドパミン部分作動薬のアリピプラゾールによってギャンブル行動が悪化したケースも報告されています。同じように、注意欠如・多動性障害(ADHD)の治療薬である精神刺激薬のメチルフェニデートも、ギャンブル行動の悪化が懸念されます。そもそも、ADHDの特徴である衝動性は、ギャンブル障害のリスク因子でもあります。b. 強めるのはこの報酬予測をより強めるには、自分がギャンブルの過程にかかわることです(直接介入効果)。例えば、スロットマシンで、3つ数字が揃うのを何もせずにじっと待っているよりも、スロットのスタートとストップのタイミングを決められるようにした方が、よりのめり込んでしまいます。また、パチンコの出玉率は、台ごとに1段階から6段階までの設定が可能で、「勝ちやすい台」「負けが込む台」という偶発性がわざと演出されています。台選びによって少しでも勝敗を左右させる余地があると、まるであたかも自分の運命を自分で選んでいる感覚になるからです。競馬予想で言えば、馬や騎手の過去の成績や現在の状態の下調べを入念にすればするほど、予想への思い入れが強くなり、期待感が増していく心理が当てはまります。よって、勝負の結果にそのまま関与できる賭け麻雀、賭けポーカー、賭けゴルフなどは、より依存性が強いギャンブルであり、ほとんど全ての国で禁止されています。c. 進化心理学的な起源原始の時代、生きるか死ぬかの最中、獲物が罠にかかる直前、獲物を仕留めようとする直前に、より興奮する種がより生き残ったのでしょう。なぜなら、その「待ち時間」に仕留めた時の喜びをすでに噛みしめていた方が、より粘るからです。農耕牧畜の安定した文明社会では、そのような生きるか死ぬかの状況はなくなりました。しかし、その興奮を求める心理は残ったままなのでした。まさに「ハンターの血」が騒ぐとも言うべき狩猟本能です。原始時代の狩猟採集社会では、獲物はとても希少で限られていました。ところが、現代のギャンブル産業では、あたかも無限の「獲物」があるかのように演出できるようになりました。そんな中、「ハンター」の心理が過剰になり、制御ができなくなった状態が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用この報酬予測の心理は、ギャンブル産業だけでなく、ビジネスの様々な場面で応用されています。例えば、それはあえて行列をつくり並ばせることです。飲食店に「行列のできる~」という触れ込みで駆け付ける人は、待っている間に、すでに想像してその味を噛みしめて、期待感を高めています。遊園地のアトラクションで並ぶ人は、その待ち時間が長ければ長いほど、その価値があると思い込んでいきます。高級デパートの買い物を楽しむ人は、あえて少ない支払い担当の店員がいる売り場で待たされてじらされたり、あえて支払いの手続きが多かったりすると、お買い上げの瞬間のテンションを上げていきます。ちなみに、このテンションの欲求が病みつきになったのが、オニオマニア(買い物依存症)です。また、部下とのコミュニケーションの場面などで、褒めるべき時に、毎回正確に褒めるよりも、何回かに1回はあえて褒めない方が、逆に褒められたい気持ちを煽ることができます。ただし、これを連発すると、気分屋に思われて、信頼関係がうまく築けなくなる危険性があります。また、これを依存的で自尊心の低い人に悪用すると、マインドコントロールに陥る危険性があります。動機付け(報酬予測)を高める直接介入効果としては、あえて選ばせる、あえて言わせることです。例えば、プレゼンテーションをする時に、選択式のクイズを設けたり、参加者にどんどん質問したり、どんどん意見を言わせたり、グループワークを取り入れて発表してもらったりするなどの参加型にした方が、より満足度(報酬)が高くなります。禁煙外来やアルコール依存症外来でも、説教や非難によって患者を受け身にさせるよりも、本人に禁煙や断酒のメリット(報酬)を考えてもらい、本人からその決意を引き出すかかわり方が効果的であることが分かります。(2)「あと少しだったのに」a. ニアミス効果2つ目は、「あと少しだったのに」というニアミス効果です。これが、「惜しい」「次こそは」「もう1回」という心理につながっていきます。実際に、ケンブリッジ大学の心理実験では、スロットマシンの「当たり」の時と同じように、「僅差のハズレ」の時も脳の報酬系の活動が高くなることが実証されています。ご褒美は、少なすぎる状況では、もちろん快感は得られにくく、やめてしまいます。逆に、多すぎる状況では、快感が鈍って飽きてきます。つまり、時々の少し足りない状況で、「もっと」という興奮が高まり、熱中するというわけです。これは、すでにパチスロ業界では応用されているようです。例えば、「7-7-7」のように同じ数字が3つ揃えば大当たりですが、あえて「7-7-6」「7-7-8」が出る頻度を30%程度に設定すると、客をその台に引き留めやすくなると言われています。当たり率は、不正がないように機器の1つ1つが厳密に審査されていますが、ハズレの数字の何が出るかの操作をするのはグレーゾーンのようです。確率論的に考えると、僅差の数字の揃いであっても、バラバラの数字の揃いであっても、ハズレはハズレであり、次に当たりが出る確率が上がることは全くないです。宝くじでも、分かりやすく応用されています。それが前後賞です。これは良心的です。ただ、例えば「6億円が出やすい土曜日」「この店で6億円の当たりが出ました」とまことしやかに宣伝されるのはどうでしょうか?「じゃあ、この曜日のこの店ならもしかして・・・」とつい思ってしまうでしょうか? これは、事実には違いないでしょうが、よくよく考えると、実はとても滑稽な宣伝文句です。なぜなら、単純な確率論なので、その事実に基づいて宝くじを買った人の当たる確率が上がることは全くないからです。そして、逆に確率が上がるとしたら、公営ギャンブルで不正が働いているわけで大問題になってしまうからです。b. 強めるのはこのニアミス効果をより強めるには、ギャンブルを何度もやりやすい状況をつくることです。例えば、カジノでは、アルコールは無料で、窓がなく昼か夜か分からず、音響効果も加わり、陶酔空間を演出させています。また、ラスベガスやマカオでは、カジノ直結の高級ホテルを格安にして、レストラン、バー、プール、エステ、劇場、遊園地、ショッピングモールなどありとあらゆる施設を気軽に利用できるようにして、お祭り気分を味わわせます。さらには、上客にはカジノまでの往復の航空チケットを無料にすることもあります。これらは、「コンプ」(complimentary)と呼ばれています。直訳すると「褒め言葉」となりますが、まさに、このようなおもてなしで気持ち良くなってもらって、カジノでたくさんお金を落としてもらうのです。そして、カジノの売り上げによって、他の不採算の施設費をカバーします。これが、カジノを含む統合型リゾート(IR)というビジネスモデルのからくりです。c. 進化心理学的な起源原始の時代、獲物を惜しくも捕り損なった時、その直後にもう一踏ん張りして、その瞬間に全てを賭ける種が生き残ったでしょう。なぜなら、獲物も追われ続けて疲れているので、次に仕留められる確率が上がるからです。しかし、現代に行われるギャンブルでは、「獲物」を仕留める確率は、当然のことながら一定です。パチンコやスロットもコンピュータで正確に制御されており、毎回完全にリセットされます。そして、この心理が発揮されることを逆手に取って、あたかもあと少しで「獲物」が仕留められるかのように演出できるようになりました。そんな中、「ハンター」の心理が過剰になり、制御できなくなった状態が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用このニアミス効果や「コンプ」(おもてなし効果)は、ギャンブル産業だけでなく、コミュニケーションの場面でも応用できます。例えば、部下を叱る時に、「仕事ができていない」「きみはだめだ」と言うよりも、「あともうちょっとで完璧な仕事ができたのに」「きみは惜しい」と言う方が、仕事への意欲を引き出せます。逆に、褒める時に、「完璧な仕事ができた」「きみはすごい」と言うよりも、「良い仕事をした」「だけどここがクリアできたら完璧だった」と言う方が、仕事への意欲を維持させます。つまり、赤点で全く褒めないのではなく、満点で全く叱らないのでもなく、どちらにしても90点程度の「惜しい」という評価をすることが有効であるというわけです。また、女性が男性からデートのお誘いを受ける時に、快諾するよりも、思わせぶりにしつつもなかなかOKを出さない方が、男性のテンションを上げ、女性への好意を増すでしょう。これは、男性が「女性を口説き落とすことに喜びを感じる」という心理も納得がいきます。さらに、「コンプ」の発想を理解すれば、どんな相手とも日々気持ち良くさせる声かけをして気に入ってもらえている方が、コミュニケーションがスムーズになると分かるでしょう。(3)「損を取り返したい」a. 損失回避欲求3つ目は、「損を取り返したい」という損失回避欲求です。前回紹介したカイジの仲間の坂崎のように、「負けた分を取り返す」ためにさらにギャンブルに深追いする心理です(負け追い行動)。もともと人間の脳は利得よりも損失に大きな反応を示し、その反応の大きさ(価値)は金額に正比例せずに緩やかに頭打ちになっていくことが分かっています(グラフ1、プロスペクト理論)。つまり、得するより損することに敏感で、さらなる大損よりも現在の損に囚われてしまいやすいということです。b. 強めるのはこの損失回避欲求をより強めるには、時間の経過によって先々の利得の価値が下がって、目先の報酬の価値が上回ることです(遅延報酬割引)。例えば、真面目にこつこつ働いて借金を返して、将来に確実にすっきりするよりも、不確実なギャンブルに賭けて手っ取り早く借金をチャラにして今すっきりしたいという心理です。そう思うのは、ギャンブルの繰り返しによる脳への影響として、理性的な報酬回路(前頭葉)よりも、衝動的な報酬回路(扁桃体)の働きが優位になってしまうからです。先ほどの報酬予測の説明でも触れましたが、ギャンブルの繰り返しによって、報酬が得られるかもしれない「待ち時間」への快感が鋭くなり、逆に、実際のその報酬や日常生活での他の報酬への快感は鈍くなります。さらには、最近の脳画像研究では、報酬だけでなく、罰にも鈍くなることが分かっています。よって、この快感への鈍さを代償するためにますますやり続け、ますます高額の賭け金を出すと同時に、負け(罰)をますます顧みなくなります。つまり、ギャンブルによる先々の大きな損には目が向きにくくなり、目先の損得にばかり目が行き、「一発逆転」や「一か八か」という心理で、より短絡的になっていくのです。c. 進化心理学的な起源原始の時代は、いつもその日暮らしです。「今ここで」という状況でぎりぎりで生きていました。このような極限状況の中、得るよりも失うことに敏感な種が生き残るでしょう。なぜなら、たくさん食料を得ても、冷蔵庫がないので、保存はできずに腐らせてしまうだけだからです。逆に、少しでも奪われたり腐らせたりして食料を失えば、その直後に自分や家族の飢餓の苦しみや死が待っています。借金のようにどこかから借りてくることはできません。つまり、食料をたくさん得れば得るほど、正比例して幸せというわけではないでしょう。逆に、食料を失えば失うほど、正比例して不幸せ(恐怖)というわけでもないでしょう。そもそも食料はたくさんあるわけではないので、失った食料が多かろうと少なかろうと飢餓の苦しみや死には変わりがないからです。こうした種の生き残りが現在の私たちです。よって、現代の「食料」であるお金の価値は、正比例せずに緩やかに頭打ちになるというわけです。実際に、収入と満足度の関係性がそうです。しかし、現代の文明社会では、ギャンブルで負ければ、限りなく「食料」を失うことができます。しかし、その損失に正比例して苦痛を感じるわけではありません。借金をして一時しのぎをすることもできます。つまり、現代の「食料」を量産できる貨幣と借金の制度による文明社会で、「ハンター」が、損を取り返そうとし続けた結果が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用この損失回避欲求の心理は、ギャンブルだけでなく、ビジネスの様々なところで応用されています。例えば、宣伝文句では、「買ったらお得」よりも「買わなきゃ損」の方がインパクトがあります。人は、「得しますよ」と言われるより「損しますよ」と言われる方が耳を傾けます。本日限定のオマケを付けるという商法は、オマケを付けるという点では得ですが、明日に買えばオマケが付かないという点で損であり、とても有効です。子どものしつけや教育にしても健康検診にしても、「放っておくと取り返しのつかないことになります」と言われると、半分脅しのようにも聞こえるくらい効果があります。さらに、依存症の治療でも応用できそうです。例えば、禁煙促進の研究報告では、禁煙が継続できたら単純に報酬をあげるよりも、失敗したら罰金を課す方式を追加したところ、禁煙成功率が有意にあがったということです。ギャンブル依存症にはどうすれば良いの?これまで、ギャンブルの起源を、進化心理学的に解き明かしてきました。それでは、ギャンブル依存症にはどうすれば良いでしょうか?このギャンブル対策への答えも進化心理学的な視点で考えてみましょう。そもそも生物の原始的な行動パターンは、接近か回避です(図1)。食料や生殖のパートナーへの接近を動機付けるのが快感や快楽です(ドパミン)。その一方、天敵や危険な状況からの回避を動機付けるのが不安や恐怖です(ノルアドレナリン)。快感になる状況を想像して快感になることが報酬予測(動機付けサリエンス)です。その一方、不安になる状況を想像して不安になることを予期不安と言います。過剰な予期不安がパニック障害の症状の1つとして治療介入が必要であると理解できるように、過剰な報酬予測はギャンブル依存症の症状の1つとして治療介入が必要であると言えます。つまり、パニック障害と同じように、ギャンブル依存症は病気であり、単純に自己責任として切り捨てるべきではないということです。つまり、ギャンブル依存症の治療には、本人と社会の両方に責任があります。この点を踏まえると、最も重要なポイントは、できるだけギャンブルには、個人として近付かない、社会として近付かせないということです。これは、ギャンブルに限らず、アルコールや薬物など依存症の治療の全般に言えることでもあります。それでは、ここから、個人と社会の2つの視点で、その治療や対策を考えてみましょう。(1)個人―ギャンブルに近付かない個人の視点として、ギャンブルに近付かないために、主に3つの取り組みが有効です。1つ目は、ギャンブルを断つ決意をして、ギャンブル関連の情報を身近に触れない取り組みを自らすることです。例えば、ギャンブルについての雑誌、スポーツ紙、テレビ番組を見ないことです。パチンコや競馬場などの近くは避けて通ることです。2つ目は、ギャンブルに近付かない代わりに、別のより健康的な「ギャンブル」に近付く、つまり目を向けることです。例えば、それは、新しい仕事であったり、新しい人間関係です。3つ目は、近付かない状態を維持するために、自助グループ(GA)に参加し続けることです。これはアルコール依存症の自助グループ(AA)と同じように、自分と同じ仲間とつながっていることは、ギャンブルに近付くことを引き留めます。ちなみに、ギャンブル依存症への治療薬としては、日本では保険適応外ですが、ナルトレキソン(オピオイド拮抗薬)があります。ちょうどアルコール依存症への治療薬として2013年に日本で発売開始されたアカンプロサートと同じ抗渇望薬に当たります。(2)社会社会の視点として、ギャンブルに近付かせないための最も手っ取り早い方法は、全面禁止です。これは、文明社会が始まった古代から、その当時の統治者が行ってきた長い歴史があります。しかし、この問題点は、けっきょく隠れてやる人々が現れ、それにまつわるトラブルが繰り返され、取り締まりきれないということです。私たちは、その現実を歴史から学ばなければなりません。よって、落としどころは、ギャンブルを娯楽としてある程度認めつつも、厳しい制限をかけることです。その制限とは、主に3つの取り組みがあげられます。これは、個人の対策の何倍にも増して有効で重要なことです。1つ目は、ギャンブルへの行動コストを上げることです。行動コストとは、行動をするために、時間、労力、金銭などのかかる費用(コスト)です。一番分かりやすいのは、場所制限です。ギャンブルができる場所が限られている、または遠くて気軽には足を運べないという場所が望ましいです。また、ギャンブル産業への入場料の徴収も有効です。実際に、海外のカジノでは自国民が入場する場合にのみ入場料を徴収して、あえて敷居を高くして、ギャンブル依存症の対策をしています。時間制限も有効です。これは、営業時間をもともと健康的な活動時間帯の9時から5時までに限定することです。逆に、判断力が鈍る夜間にはギャンブルをさせないことです。2つ目は、ギャンブル行動の見える化です。見える化とは、その名の通り、ギャンブルをどれだけしているか本人に見えるようにすることです。そのためにも、まず個人のギャンブルを管理するため、「タスポ」(タバコ購入のための成人識別ICカード)よりもさらに厳格な身分証明書の発行が必要です。年齢制限はもちろんのこと、損失合計金額などの表示による注意喚起が有効です。また、損失金額が加速している場合は、ギャンブル依存症のリスクを警告して、ギャンブル専門の医療機関や自助グループ(GA)の紹介をすることも有効です(責任ギャンブル施策)。さらに、本人の届け出によって、ギャンブルができないようにするシステムも有効です(自己排除システム)。これは、ちょうどアルコール依存症の人が、お酒を飲むと気持ち悪くなる抗酒剤をあえて内服し続けることに似ています。3つ目は、手がかり刺激を制限することです。手がかり刺激とは、ギャンブルを想像してしまうようなきっかけの刺激です。ちなみに、ギャンブルの手がかり刺激への反応は、最近の脳画像研究によっても裏付けられています。例えば、パチンコ、宝くじ、競馬などのCMや雑誌・新聞の宣伝が分かりやすいでしょう。これほど多くのギャンブルの宣伝が日本では当たり前のようにされているのは世界的に見れば異常です。駅前にだいたい1つはある、ど派手で目立つパチンコ店もそうです。また、手がかり刺激への反応性をそもそも高めないために、未成年にはなるべく触れさせないことも有効です。なぜなら、ギャンブルも、アルコールやタバコと同じように、発達段階の未成年の脳への刺激(嗜癖性)が特に強いからです。海外では、映画の喫煙シーンがR指定になるくらいです。 最後に、ギャンブルとは?カイジの仲間の坂崎が大負けからの大当たりで大逆転になりそうでならないシーン。その瞬間に、彼は「溶ける溶ける…!」「限りなく続く射精のような…この感覚っ…!」「ある意味桃源郷…!」と叫びます。快感と恐怖が入り交じり、完全にシビれてしまいます。ここで気付かされるのは、坂崎が最高の快感を得たその場所は、本当の「桃源郷」ではなく、生死のかかったギャンブルという修羅場であったということです。本来、快感や快楽は桃源郷にあり、不安や恐怖は修羅場にあると私たちは思いがちです。しかし、これまでのギャンブル脳の心理をよく理解すれば、実は、最高の快感は桃源郷にはありません。なぜなら、桃源郷では、全てが理想的に満たされ続けており、快感(ドパミン分泌)が鈍っているからです。簡単に言うと、桃源郷には、その状態に飽きてしまって、わくわくはありません。もちろん、修羅場では、全く満たされていないため、快感(ドパミン分泌)はほとんどありません。つまり、最高の快感は、桃源郷に苦労して向かっている修羅場の中でこそ感じるものであるということです。それが、生きている実感であり、生きる原動力です。原始の時代と違い、現代は「ギャンブル」のような生活をしなくても無難に生きていけるようになりました。そうなるとそこは、桃源郷でも修羅場でもない退屈なところです。何もしなければ、わくわくして生きている実感はないでしょう。つまり、その実感を得るためには、私たちはそれぞれの「桃源郷」を目指して、必死に「修羅場」をかいくぐることをあえてすることが必要になります。ギャンブルの心理の本質を理解した時、私たちは、「カイジ」や「アカギ」から、ギャンブルのマイナス面だけでなく、生き方としてのプラス面も含めて、より多くのことを学ぶことができるのではないでしょうか? 1)福本伸行:人生を逆転する名言集、竹書房、20092)松本俊彦ほか:物質使用障害とアディクション 臨床ハンドブック、星和書店、20133)臨床精神医学、行動嗜癖とその近縁疾患、アークメディア、2016年12月号4)蒲生裕司・宮岡等編:こころの科学「依存と嗜癖」、日本評論社、2015年7月号5)帚木蓬生:ギャンブル依存症国家・日本、光文社新書、20146)岡本卓、和田秀樹:依存症の科学、化学同人、2016

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救急退院後の早期死亡、入院率や疾患との関連は?/BMJ

 米国では、救急診療部を受診したメディケア受給者の多くが、致死的疾患の既往の記録がないにもかかわらず、退院後早期に死亡していることが、ハーバード大学医学大学院のZiad Obermeyer氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2017年2月1日号に掲載された。米国の救急診療部受診者は毎年20%近くも増加し、その結果として毎日、膨大な数の入院/退院の決定がなされている。また、入院率は病院によってかなりのばらつきがみられるが、その患者転帰との関連は不明だという。入院後と退院後の早期死亡を後ろ向きコホート研究で評価 研究グループは、救急診療部退院後の早期死亡の発生状況を調査し、病院と患者の評価可能な特徴によってリスクのばらつきの原因を探索するために、レトロスペクティブなコホート研究を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 解析には、2007~12年の救急診療部受診を含むメディケアプログラムの医療費支払い申請のデータを用いた。メディケア受給者のうち、医療費が平均的な20%の集団をサンプルとした。入院患者および退院患者の週間死亡率を算出した。 健常な地域住民に限定するために、介護施設入居者、90歳以上、緩和治療やホスピスケアの受療者、致死的疾患の診断(例:救急診療部を受診し心筋梗塞と診断、受診の前年に悪性腫瘍と診断など)を受けた患者は除外した。 主要評価項目は、救急診療部退院から7日以内の死亡とし、入院患者として入院、転院、緩和治療やホスピス入居で退院した患者は評価から除外した。入院率が低い病院は患者の健康状態が良好だが、退院後早期死亡率が高い 2007~12年に救急診療部を退院した1,009万3,678例(受診時の平均年齢:62.2歳、女性:59.5%、白人:76.2%)のうち、1万2,375例(0.12%)が退院後7日以内に死亡し、全国的な年間早期死亡数は1万93例であった。死亡時の平均年齢は69歳、男性が50.3%、白人が80.9%を占めた。 早期死亡例の死亡証明書に記載された主な死因は、アテローム動脈硬化性心疾患(13.6%)、急性心筋梗塞(10.3%)、慢性閉塞性肺疾患(9.6%)、糖尿病合併症(6.2%)、うっ血性心不全(3.1%)、高血圧合併症(3.0%)、肺炎(2.6%)であった。8番目に頻度の高い死因は麻薬の過量摂取(2.3%)であったが、退院時の診断名は筋骨格系(腰痛15%、体表損傷10%)が多かった。 救急診療部受診者の5段階入院率別(0~22%、23~33%、34~41%、42~50、51~100%)の解析では、入院患者の死亡率はどの病院も最初の1週間が最も高く、その後急速に低下したが、退院患者の死亡率は病院の入院率によってばらつきがみられた。入院率が最も高い病院は退院直後の死亡率がその後の期間に比べて低かったのに対し、入院率が最も低い病院の退院患者は早期死亡率が高く、その後急速に低下した。 退院後7日死亡率は、入院率が最も低い病院が0.27%と最も高く、入院率が最も高い病院(0.08%)の3.4倍であった。しかしながら、入院と退院を合わせた全救急診療部受診者の7日死亡率は、最低入院率病院が最高入院率病院より71%(95%信頼区間[CI]:69~71)も低かった。したがって、入院率が低い病院は患者の健康状態が全般に良好だが、ベースラインの健康状態だけでは、入院率の低い病院の退院後早期死亡率の高さを説明できないと考えられた。 多変量解析では、入院と退院を合わせた全救急診療部受診者の7日死亡率は、高齢者、男性、白人、低所得者、受診費用が低い救急診療部、受診者数の少ない救急診療部で高く(すべて、p<0.001)、退院患者に限ると、男性と受診費用が低い救急診療部は逆に7日死亡率が低くなった(いずれも、p<0.001)。 異常な精神状態(リスク比:4.4、95%CI:3.8~5.1)、呼吸困難(3.1、2.9~3.4)、不快感/疲労(3.0、2.9~3.7)は、他の診断名の患者に比べ早期死亡率が高かった。 著者は、「これらの早期死亡の予防の可能性を探索するために、さらなる研究を進める必要がある」とし、「早期死亡に関連する退院時の診断、とくに異常な精神状態、呼吸困難、不快感/疲労のような疼痛を伴わない症候性の疾患は、特有の臨床的特徴(signature)である」と指摘している。

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薬物有害事象による救急受診、原因薬剤は?/JAMA

 米国において2013~14年の薬物有害事象による救急外来受診率は、年間1,000例当たり4件で、原因薬剤として多かったのは抗凝固薬、抗菌薬、糖尿病治療薬、オピオイド鎮痛薬であった。米国疾病予防管理センターのNadine Shehab氏らの分析の結果、明らかになった。米国では、2010年の「患者保護および医療費負担適正化法(Patient Protection and Affordable Care Act :PPACA)」、いわゆるオバマケアの導入により、国家的な患者安全への取り組みとして薬物有害事象への注意喚起が行われている。結果を受けて著者は、「今回の詳細な最新データは今後の取り組みに役立つ」とまとめている。JAMA誌2016年11月22・29日号掲載の報告。薬物有害事象による救急外来受診率は、年間1,000人当たり約4件 研究グループは、全国傷害電子監視システム-医薬品有害事象共同監視(NEISS-CADES)プロジェクトに参加している米国の救急診療部58ヵ所における4万2,585例のデータを解析した。主要評価項目は、薬物有害事象による救急受診ならびにその後の入院に関する加重推定値(以下、数値は推定値)であった。 2013~14年における薬物有害事象による救急外来受診は、年間1,000人当たり4件(95%信頼区間[CI]:3.1~5.0)で、そのうち27.3%が入院に至った。入院率は65歳以上の高齢者が43.6%(95%CI:36.6~50.5%)と最も高かった。65歳以上の高齢者における薬物有害事象による救急外来受診率は、2005~06年の25.6%(95%CI:21.1~30.0%)に対して、2013~14年は34.5%(95%CI:30.3~38.8%)であった。高齢者では抗凝固薬、糖尿病治療薬、オピオイド鎮痛薬、小児では抗菌薬 薬物有害事象による救急外来受診の原因薬剤は、46.9%(95%CI:44.2~49.7%)が抗凝固薬、抗菌薬および糖尿病治療薬であった。薬物有害事象としては、出血(抗凝固薬)、中等度~重度のアレルギー反応(抗菌薬)、中等度~重度の低血糖(糖尿病治療薬)など、臨床的に重大な有害事象も含まれていた。また傾向として2005~06年以降、抗凝固薬および糖尿病治療薬の有害事象による救急外来受診率は増加したが、抗菌薬については減少していた。 5歳以下の小児では、原因薬剤として抗菌薬が最も多かった(56.4%、95%CI:51.8~61.0%)。6~19歳も抗菌薬(31.8%、95%CI:28.7~34.9%)が最も多く、次いで抗精神病薬(4.5%、95%CI:3.3~5.6%)であった。一方、65歳以上の高齢者では、抗凝固薬、糖尿病治療薬、オピオイド鎮痛薬の3種が原因の59.9%(95%CI:56.8~62.9%)を占めた。主な原因薬剤15種のうち、抗凝固薬が4種(ワルファリン、リバーロキサバン、ダビガトラン、エノキサパリン)、糖尿病治療薬が5種(インスリン、経口薬4種)であった。また、原因薬剤に占めるビアーズ基準で「高齢者が常に避けるべき」とされている薬剤の割合は、1.8%(95%CI:1.5~2.1%)であった。 なお、本研究には致死性の薬物有害事象、薬物中毒や自傷行為などは含まれていない。

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皮下埋め込み型ブプレノルフィン、舌下製剤に非劣性/JAMA

 オピオイド依存症維持治療薬としてのブプレノルフィン(商品名:レペタン)について、同薬の皮下埋め込み型製剤(buprenorphine implants)は従来の舌下製剤との比較において、レスポンダー維持の尤度は劣らなかったことが、米国・マウントサイナイ・アイカーン医科大学のRichard N. Rosenthal氏らによる無作為化試験の結果、示された。米国ではオピオイド依存症が社会的問題となっている。それに対して心理社会的介入やプラセボ投与よりも、薬物療法によって依存症を安定的に維持するほうが、不適切なオピオイド使用や死亡などの低下に結び付くことが示され、現在3種の薬物の使用が承認されている。ブプレノルフィンはその1つだが、アドヒアランス改善などのため治療薬としての革新が求められていた。JAMA誌2016年7月19日号掲載の報告。舌下製剤投与に対する非劣性を検討 研究グループは、オピオイド依存症維持治療薬としてのブプレノルフィンについて、オピオイドの節制使用を保つ患者において、6ヵ月間の皮下埋め込み型製剤使用が毎日服用の舌下製剤に比べて非劣性であるかを調べた。 2014年6月26日~2015年5月18日に米国内21地点で、外来患者を対象に実薬対照二重盲検ダブルダミー法による無作為化試験を行った。6ヵ月以上にわたり毎日服用の舌下ブプレノルフィン処方を受けており、同薬8mg/日以下の服用で90日間以上オピオイドの安定的使用が維持され、担当医によって臨床的に安定していることが確認されている患者を対象とした。 被験者を、舌下ブプレノルフィン+プラセボ皮下埋め込み型製剤4個を埋設する群(舌下投与群)、または舌下ブプレノルフィン+塩酸ブプレノルフィン皮下埋め込み型製剤80mgを4個埋設する群(24週間の有効性を期待して、皮下埋め込み群)に無作為に割り付け検討した。 主要エンドポイントは、両群のレスポンダーの割合の違いで、オピオイド尿検査(月1回および無作為に4回)結果陰性が6ヵ月のうち4ヵ月以上であること、および自己報告で評価した。非劣性の確認は、95%信頼区間(CI)の下限値が-0.20より大きい場合(p<0.025)とした。 副次エンドポイントは、オピオイド尿検査の陰性、節制使用の累積割合、およびオピオイドの不適切使用の初回発生までの期間などであった。安全性は、有害事象報告で評価した。レスポンダーの両群差8.8%、皮下埋め込み群の非劣性を確認 被験者177例(平均年齢39歳、女性40.9%)のうち、87例が皮下埋め込み群に、90例が舌下投与群に無作為化された。試験を完了したのは165例(93.2%、皮下埋め込み群81例、舌下投与群84例)だった。 主要解析には、皮下埋め込み群84例、舌下投与群89例が組み込まれた。レスポンダーは、皮下埋め込み群は81/84例(96.4%)、舌下投与群は78/89例(87.6%)で、両群差は8.8%(片側検定97.5%CI:0.009~∞、非劣性のp<0.001)であった。 6ヵ月にわたってオピオイドの節制使用が維持されたのは、皮下埋め込み群72/84例(85.7%)、舌下投与群64/89例(71.9%)であった(ハザード比:13.8、95%CI:0.018~0.258、p=0.03)。 埋め込み手技に非関連および関連した有害事象の報告は、皮下埋め込み群でそれぞれ48.3%、23%、舌下投与群で52.8%、13.5%であった。 なお結果について著者は、「対照群でも予想以上にレスポンダーが高率であった」と指摘し、より幅広い集団による他の設定で有効性を評価するさらなる試験が必要だと述べている。

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慢性疼痛へのLAオピオイドと全死因死亡リスク/JAMA

 非がん性慢性疼痛に対する長時間作用型(LA)オピオイドの処方は、抗けいれん鎮痛薬や低用量抗うつ薬の処方と比較して、過剰摂取以外の原因を含む全死因死亡リスクを有意に増大することが、米国・ヴァンダービルト大学のWayne A. Ray氏らによる検討の結果、示された。絶対リスクの差はわずかであった。著者は、「今回の結果を、治療の有害性や有益性を評価する際に考慮すべきである」と述べている。LAオピオイドは、無作為の過剰摂取リスクを増大し、心臓・呼吸器系およびその他による死亡も増大させる可能性が示唆されていた。JAMA誌2016年6月14日号掲載の報告。抗けいれん鎮痛薬/低用量抗うつ薬投与群と死亡発生を比較 研究グループは、中等度~重度の非がん性慢性疼痛を有する患者の全死因死亡について、LAオピオイド処方 vs.代替療法を比較する検討を行った。1999~2012年にテネシー州メディケイド被保険者の非がん性疼痛患者で、緩和・終末期ケア対象者ではなかった患者集団を対象とした。LAオピオイドの新規処方患者群と、傾向スコアで適合した抗けいれん鎮痛薬または低用量抗うつ薬(low-dose cyclic antidepressants)の新規処方患者群(対照群)を後ろ向きに評価した。 主要評価項目は、死亡診断書で確認した全死因および死因別の死亡。LAオピオイド群と対照群の補正後ハザード比(HR)、リスク差(1万人年当たりでみた過剰な死亡発生)をそれぞれ算出して比較した。全死因死亡1.64倍、治療初期30日間では4.16倍 評価に包含した対象期間中の新規処方は、各群2万2,912例であった(平均年齢48±11歳、女性60%)。最も多かった慢性疼痛の診断名は腰痛(75%)で、筋骨格痛(63%)、腹痛(18%)と続いた。患者の96%超で前年に短時間作用型オピオイドの処方歴があり、他の鎮痛薬や向精神薬(筋弛緩薬[63%]、NSAIDs[70%]、ベンゾジアゼピン系薬[52%]、SSRI/SNRI抗うつ薬[45%]など)の処方歴のある患者も多かった。 処方された試験薬で最も多かったのは、モルヒネSR(55%)、ガバペンチン(40%)、アミトリプチリン(36%)であった。 LAオピオイド群は、追跡期間平均176日で死亡185例、対照群は同128日で87例であった。全死因死亡HRは1.64(95%信頼区間[CI]:1.26~2.12)で、リスク差は68.5例(95%CI:28.2~120.7)であった。LAオピオイド群の死亡リスク増大の要因は、院外死亡が有意に過剰であったことによる(154 vs.60例、HR:1.90[95%CI:1.40~2.58]、リスク差:67.1例[95%CI:30.1~117.3]、p<0.001)。 院外死亡のうち無作為の過剰摂取による死亡を除くその他の要因(心血管系、呼吸器系によるものなど)の死亡発生は120 vs.53例で、HRは1.72(95%CI:1.24~2.39)、リスク差は47.4例(95%CI:15.7~91.4)であった(p=0.001)。なお、このうち心血管死(79 vs.36例)はHRが1.65(95%CI:1.10~2.46)、リスク差は28.9例(同:4.6~65.3)であった(p=0.02)。 治療初期30日間の死亡発生は53 vs.13例で、HRは4.16(95%CI:2.27~7.63)、リスク差は200例(同:80~420)に上った。

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naltrexone、刑事犯罪者のオピオイド依存再発を抑制/NEJM

 オピオイド依存症歴のある成人刑事犯罪者に対し、徐放性naltrexoneはオピオイド使用再開の抑制効果があることが明らかにされた。米国・ニューヨーク大学のJoshua D. Lee氏らが、通常治療と比較した無作為化試験の結果、報告した。徐放性naltrexoneは、μオピオイド受容体完全拮抗薬の月1回投与の徐放性注射剤で、オピオイド依存症の再発防止効果はすでに確認されているが、刑事犯罪者への効果に関するデータは限定的であったという。NEJM誌2016年3月31日号掲載の報告。依存症歴のある犯罪者308例を対象に無作為化試験、naltrexone vs.通常治療 試験は2009年2月~13年11月に米国5地点で非盲検にて行われた。437例をスクリーニングし308例を、徐放性naltrexone(商品名:Vivitrol)を投与する群と通常治療(簡単なカウンセリングと地域治療プログラムへの紹介)群の2群に無作為に割り付けて、24週間介入を行い、オピオイド依存症再発防止について比較した。 被験者は、オピオイド依存症歴のある成人の刑事犯罪者(米国刑事裁判制度で被告人になった者など)で、オピオイド維持療法ではなくオピオイドからの離脱を選択し、無作為化を受ける時点で、オピオイド使用に対する自制ができていた人とした。 主要アウトカムは、オピオイド依存症再発までの期間とした。再発の定義は、28日間で10日以上使用した場合とし、自己申告または2週間ごとの尿検査の結果(陽性または未確認の場合はオピオイドを5日間使用とみなす)で評価した。また、治療後フォローアップを、27、52、78週時点で行った。依存症再発までの期間、naltrexone群が有意に延長、ただし治療中断後1年で同等に naltrexone群に153例、通常治療群に155例が割り付けられた。 24週の治療期間中、naltrexone群のほうが通常治療群よりも、再発までの期間が有意に延長し(10.5 vs.5.0週、p<0.001、ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.36~0.68)、再発率は有意に低く(43 vs.64%、p<0.001、オッズ比[OR]:0.43、95%CI:0.28~0.65)、尿検査陰性の割合が有意に高かった(74 vs.56%、p<0.001、OR:2.30、95%CI:1.48~3.54)。 しかし、78週(治療終了後約1年)時点の評価では、尿検査陰性の割合について有意差はみられなくなっていた(両群とも46%、p=0.91)。 その他の事前に規定した副次アウトカム(自己申告でのコカイン、アルコール、静注薬物の使用、非安全な性行為、再収監)は、naltrexone群で低率であったが有意ではなかった。 78週以上の観察において、過量服薬行為の報告はnaltrexone群は0件、通常治療群は7件であった(p=0.02)。 これらの結果を踏まえて著者は、「刑事犯罪者に対し、徐放性naltrexoneの投与は、通常治療を行った場合と比べて、オピオイド依存症の再発率が低かった。再発防止効果は、治療中断後に減弱した」とまとめている。

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双極性障害発症のリスク因子を解析

 双極性障害(BD)の発症に対する環境リスク因子については十分にわかっていない。イタリア・Centro Lucio BiniのCiro Marangoni氏らは、長期研究によりBDの有病率、罹病期間、環境曝露の予測値を評価した。Journal of affective disorders誌2016年3月15日号の報告。 著者らは、2015年4月1日までのPubMed、Scopus、PsychINFOのデータベースより、関連キーワード(出生前曝露、母体内曝露、トラウマ、児童虐待、アルコール依存症、大麻、喫煙、コカイン、中枢興奮薬、オピオイド、紫外線、汚染、地球温暖化、ビタミンD、双極性障害)と組み合わせて体系的に検索し、当該研究を抽出した。追加の参照文献は相互参照を介して得た。(1)長期コホート研究または長期デザインの症例対照研究、(2)初期評価時に生涯BDの診断がなく、フォローアップ時に臨床的または構造化評価でBDと診断された患者の研究が含まれた。家族性リスク研究は除外した。研究デザインの詳細、曝露、診断基準の詳細と双極性障害リスクのオッズ比(OR)、相対リスク(RR)またはハザード比(HR)を計算した。 主な結果は以下のとおり。・2,119件中、22件が選択基準を満たした。・識別されたリスク因子は、3つのクラスタに分類可能であった。(1)神経発達(妊娠中の母体のインフルエンザ;胎児発育の指標)(2)物質(大麻、コカイン、その他の薬;オピオイド薬、精神安定剤、興奮剤、鎮静剤)(3)身体的/心理的ストレス(親との別れ、逆境、虐待、脳損傷)・唯一の予備的エビデンスは、ウイルス感染、物質またはトラウマの曝露がBDの可能性を高めることであった。・利用可能なデータが限られたため、特異性、感度、予測値を計算することができなかった。関連医療ニュース うつ病と双極性障害を見分けるポイントは 双極性障害I型とII型、その違いを分析 双極性障害治療、10年間の変遷は

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がんの痛みは言葉で知らせて、麻薬で緩和を

 がん治療につきまとう「痛み」の問題。3月17日に都内で開かれたメディア向けセミナー(塩野義製薬株式会社主催)において、がんの疼痛治療を臨床と教育の両面から研究を進めている服部 政治氏(がん研究会有明病院 がん疼痛治療科 部長)が、疼痛治療の現状や、医療用麻薬をめぐる医療者と患者の認識のギャップをテーマにした講演を行った。このなかで服部氏は、「痛みを我慢するのは決して美学ではない。言葉で訴える必要性を患者に理解してもらい、医療用麻薬への不必要な恐怖を取り除くことが重要」と述べた。痛みをめぐる認識のギャップ 服部氏によると、がん患者が直面する痛みの発現度を表す有痛率は、根治的治療期が約2割であるのに対し、末期になると約7割にまで増加するのだという。ところが、この痛みをめぐって治療医と患者との間には注意しなければならない認識のギャップがあることが明らかになった。 塩野義製薬が、今年2月に、がん治療医203人とがん患者1,346人を対象に行ったインターネット調査によると、「身体の痛みについて何らかの対処をしている/してくれる」かどうかについて、医師の84.2%が「そう思う/ややそう思う」と回答したのに対し、同様に答えた患者は55.5%で、両者には28.7%のギャップがみられた。また、「身体の痛みがないかどうかを聞いている/聞いてくれる」かどうかについては、医師の78.3%が「そう思う/ややそう思う」と回答したのに対し、同様に答えた患者は51.7%で、両者には26.6%のギャップがみられた。これは、疼痛に対して医師が行った対処が、患者にとっては不十分であると受け止められている表れではないだろうか。医療用麻薬は「最後の手段」? しかし、医師の対処にすべての問題があるとはいえない現状がある。前述のアンケート調査で、疼痛緩和のための医療用麻薬に対するイメージについて尋ねたところ、「正しく使用すれば安全だ」「正しく使用すればがんの痛みに効果的だ」という項目で、医療者と患者の認識にそれぞれ約30%の開きがあった(医師96.1% vs.患者64.9%、同97.5% vs.同68.4%)。いずれも医師の割合が高く、患者の割合が低いためにギャップが生じているが、逆のパターンで大きなギャップが生じている項目もあり、「最後の手段だ」(医師11.8% vs.患者44.3%)「麻薬という言葉が含まれていて怖い」(同11.3% vs.同35.1%)などがそうである。 医療用麻薬は、末期だけでなくがん治療スタート時からあらゆる形で使われており、適切なタイミングと用量で、患者の心身の負担軽減や治療の効率化につながるが、メディアなどを通じて植え付けられた「麻薬」という言葉への誤解や歪んだイメージが、患者の躊躇につながっていると服部氏は語る。がん治療を進めるために必要なコミュニケーションとは こうした状況を解決するためのカギは、医療者と患者の双方が握っている。まず、医療者側に求められるのは、コミュニケーションの工夫だ。服部氏が臨床で実践しているのは、「早い段階で医療用麻薬の使用を提案する」こと。がん治療の初期段階で「麻薬」というワードを持ち出すと、患者本人も家族も非常に驚くという。しかし、その驚きこそが医療用麻薬に対する誤った認識に基づくものであるということや、医療用麻薬による疼痛緩和が治療にもたらすメリットを丁寧に説明するのだ。インパクトの強い情報も、きちんと理解して納得がいけば、その後はスムーズな治療が望めると服部氏は語る。また、痛みの度合いに応じて1日10mg から20mgに、さらに40mgにと薬剤を増やす際、「実際の増加量を視覚的に示すことで、非常に微々たるものだということが患者にわかってもらえると同時に、数字が単純に2倍、4倍になるということへの恐怖が和らぐ」という。 一方、患者側には抱える痛みをはっきりと医療者に伝えてもらうことが肝要だ。痛みを我慢することで不眠や抑うつ状態、免疫力の低下を引き起こし、結果的にがん治療の継続ができなくなる可能性もあるということを理解してもらわなければならない。 しかし、患者の痛みの訴えを引き出すのもまた、医療者と良好なコミュニケーションがあってこそ。服部氏は、「痛みへのケアや、オピオイドや医療用麻薬の使用については、医療者側からの問いかけときっかけづくりが重要だ」と述べた。

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ACC2016 開催地シカゴのおすすめスポット

ケアネットでは、学会に参加しながらアメリカ第二の都市シカゴを十分にお楽しみいただくため、会員の方々から現地の名所、おすすめのレストラン情報などを募集しましたので、ここでご紹介します。注目のLate Breaking Clinical Trialはこちらレストランシカゴといえばシカゴピザ。生地がパンのように厚いディープ・ディッシュ・ピザが有名だそうです。Lou Malnati's PizzeriaConnie's Pizzaシカゴピザを食べに行くときは、中川 義久氏(天理よろづ相談所病院)からの以下のアドバイスをご参考にどうぞ。“本場のシカゴピザ、それもディープ・ディッシュ・ピザを食してしまうと、その後に日本でピザを食べても、すべて悲しい偽物に思えてしまうことでしょう。カロリーや健康、ましてや冠狭窄の進展などを気に掛ける方にはお勧めしません。不健康な食事の持つ麻薬的な魅力が凝縮されたのがディープ・ディッシュ・ピザです。大きいのを頼むと完食は不可能です。小さいのでも完食は困難です。ぜひともトライしてください。シーザーサラダも頼みましょう。馬の餌かと思うほど大量のサラダが供されます。このサラダに関しては現地人でも完食せず残すことが通常のようですのでご安心ください。(2014年当時の感想)”ピザの次は肉でしょうか。高級ステーキハウスとして有名なモートンズはシカゴが本店。数店舗あるようですが、ダウンタウンのThe Originalが発祥とのこと。Morton’s Steakhouse(The Original)BBQスペアリブのお店。シカゴ名物だそうです。Carson’sお米が食べたい先生へ、チャイナタウンはいかがでしょうか。Lao Sze ChuanLao Hunan日曜日はオープンエアーマーケットが開催されます。ここでも、いろいろなグルメが味わえるそうです。Maxwell Street MarketシカゴにはMichelinレストランが25軒ありました。Michelin Awards Stars To 25 Chicago Restaurants (Business Insider)アメリカ版 食べログYelp(イェルプ)で学会場McCormick Place近辺の人気の店を調べました。このサイト評価、当たると評判とのこと。The 10 Best Places near Near Southside, Chicago, IL (Yelp)名所ミシガン湖や美術館・博物館などの情報をお寄せいただきました。シカゴで最も高く、アメリカで2番目に高いビルだそうです。ウィリス・タワー(Willis Tower)アメリカの三大美術館の1つに数えられるそうです。シカゴ美術館(The Art Institute of Chicago)世界で最も有名な恐竜ティラノサウルス(スー)が展示されているとのこと。フィールド博物館(The Field Museum)スポーツスポーツについての投稿も数多くいただきました。シカゴにはいろいろなプロスポーツチームがあります。時間がとれる先生はぜひ観戦を。アメリカンフットボール(NFL)シカゴBEARSバスケットボール(NBA)シカゴBULLS野球(MLB)シカゴの2チームは4月4日が開幕戦です。残念ながらアウェイのようですが。シカゴCUBSシカゴWHITE SOXサッカー(MLS)シカゴFIREACC2016のサイトにも観光やダイニングの情報が載っています。ACC.16 (Choose Chicago)

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過敏性腸症候群に新たな光が(解説:内藤 正規 氏)-493

 過敏性腸症候群は、日本人の約10~15%に認められる頻度の高い疾患であり、消化器症状により受診する人の約3割を占めるといわれている。内視鏡検査や血液検査で明らかな異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部不快感を伴う便秘や下痢が長く続き、多くの人々を悩ませている。そのような人々に光を差す可能性がある、下痢型の過敏性腸症候群に対しての新たな治療薬である混合型オピオイド作用を有する製剤eluxadolineの有効性を示す第III相試験の結果が、Anthony J Lembo氏らのグループにより報告された。 オピオイド受容体には、μ・κ・δの3種類のサブタイプがあり、主な発現部位や薬理作用が異なる。μ受容体の刺激は、鎮痛作用と消化管運動の抑制作用を発揮し、κ受容体の活性化は鎮痛・鎮静作用を発揮する。一方、δ受容体は、情動・神経伝達物質の制御や依存に関与する。eluxadolineは、μ・κ受容体のアゴニスト、δ受容体のアンタゴニストであり、鎮痛・鎮静作用と消化管運動の抑制作用を有し、依存性を回避できる薬といえる。 eluxadolineの投与により、腹痛の軽減、便性状の改善が得られた症例の割合は投与期間を問わず、プラセボ群、150mg/日を投与した群、200mg/日を投与した群の順に有意に高くなり、下痢型の過敏性腸症候群に対して量依存性に有効であった。一方、悪心・便秘・腹痛といった有害事象は、有意ではないものの量依存性にプラセボ群と比較して高い傾向にあり、少ないものの膵炎の発症も認めた。 本試験の結果から、過敏性腸症候群に対してeluxadolineが有効で安全であることが示された。下痢型の過敏性腸症候群の治療に新たな光を差す薬剤であると考えられるが、有害事象に対する医療者の注意も必要である。

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下痢型過敏性腸症候群、新規オピオイド受容体作動薬が有効/NEJM

 下痢型過敏性腸症候群(IBS)に対し、新規経口薬eluxadolineは男女を問わず下痢症状を軽減し新たな治療薬となりうることが、Anthony J. Lembo氏らによる2件の第III相試験(多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験)の結果、示された。100mgの1日2回投与で6ヵ月間の持続効果が確認された。eluxadolineは混合型オピオイド作用(μ/κオピオイド受容体アゴニストとδオピオイド受容体アンタゴニスト)を有する製剤。対プラセボの100mg、200mg用量(いずれも1日2回)の検討が行われた第II相試験では、200mg用量の効果に優位性はなく、むしろ有害事象が多かったことから、第III相試験では75mg、100mg用量について対プラセボの有効性(26週)、安全性(52週)を評価した。NEJM誌2016年1月21日号掲載の報告。eluxadoline75mgまたは100mg/1日2回とプラセボを比較 試験は2,427例の下痢型IBS成人患者を、eluxadoline(75mgまたは100mg)またはプラセボを1日2回投与する群に無作為に割り付けて、26週間(IBS-3002試験)または52週間(IBS-3001試験)の治療を行った。 主要エンドポイントは、腹痛の軽減(ベースライン平均スコアより30%以上軽減)、便性状の改善(便性状スコアが5未満)の両効果が同一日に確認された患者(レスポンスあり)の割合とした。レスポンスありの定義は、初期12週間(米国FDA規定のエンドポイント)、26週間(欧州医薬品庁[EMA]エンドポイント)のそれぞれの評価期間中50%以上(最低60日、110日)効果ありの記録日があった患者とした。12週間評価、26週間評価とも100mg群の効果が優れる 第1~12週では、eluxadoline(75mgまたは100mg)群のほうがプラセボ群よりも、主要エンドポイントを達成した患者の割合が多かった。IBS-3001試験被験者ではプラセボ群17.1%に対し、75mg群23.9%(p=0.01)、100mg群25.1%(p=0.004)。IBS-3002試験被験者ではプラセボ群16.2%に対し、75mg群28.9%(p<0.001)、100mg群29.6%(p<0.001)であった。 第1~26週の評価については、IBS-3001試験被験者ではプラセボ群19.0%に対し、75mg群23.4%(p=0.11)、100mg群29.3%(p<0.001)。IBS-3002試験被験者ではプラセボ群20.2%に対し、75mg群30.4%(p=0.001)、100mg群32.7%(p<0.001)であった。 安全性の評価(IBS-3002試験とIBS-3001試験の両被験者データ)では、プラセボ群と比較して75mg/100mg群で最も多く共通してみられた有害事象は、悪心(5.1% vs.8.1%/7.5%)、便秘(2.5% vs.7.4%/8.6%)、腹痛(4.1% vs.5.8%/7.2%)であった。膵炎の発症は、安全性評価集団(1,666例)中5例(0.3%)であった(75mg群2例、100mg群3例)であった。

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筋萎縮性側索硬化症〔ALS : amyotrophic lateral sclerosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は、中年期以降に発症する上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両者が侵される疾患である。構音・嚥下筋、呼吸筋を含む全身の筋萎縮と脱力が進行性に認められ、呼吸補助を行わなければ平均2~4年で死に至る神経難病の1つである。従来ALSは運動神経系に限局した疾患とされ、主に日本から報告されてきた認知症を伴ったALS(ALS with dementia:ALS-D)は特殊な亜型と考えられていた。ところが近年、前頭側頭葉変性症(Frontotemporal lobar degeneration:FTLD)と病理所見、原因となる遺伝素因についての共通性が明らかとなり、ALSとFTLDを一連の疾患スペクトラムで捉えようとする考えが広まっている。■ 疫学2009年度の調査では、わが国におけるALSの発症率は、人口10万人当たり2.1~2.3人、有病率は10万人当たり9.7~10.1人とされ、ほぼ全世界で同じような数字を示し、人種差もないとされている。性別では、男性が女性に比して約1.3~1.5倍多く発症する。また、発症率は40歳代より上昇し、ピークは60~70歳代である。■ 病因ALSの約5~10%に家族歴が認められ、その多くが常染色体顕性(優性)遺伝を示す。常染色体顕性遺伝を示す家系の約20~30%は活性酸素を消去する酵素であるCu/Zn superoxide dismutase(SOD1)の遺伝子異常が原因と報告されている。この変異したSOD1遺伝子を強制発現したtransgenic mouseはALSと類似した神経症状を示すことから、変異SOD1が運動ニューロンの障害に働くことは間違いないが、その機序については明らかとなってはいない。SOD1以外の遺伝子座や原因遺伝子も次々に同定されてきているが、ALSの大多数を占める孤発例の原因についてはいまだ不明という状況である。病理で認められるユビキチン陽性封入体の本体としてTDP-43(transactive response DNA-binding protein 43 kDa)が同定され、病原蛋白質と想定されている。■ 症状上位と下位運動ニューロンが障害されるが、下記の症状がそれぞれの程度に応じて障害部位に認められる(表)。画像を拡大する上位運動ニューロンの障害巧緻運動の障害痙縮深部腱反射の亢進病的反射陽性(ホフマン反射、バビンスキー反射など)下位運動ニューロンの障害筋力低下筋萎縮筋緊張の低下筋線維束性収縮深部腱反射の減弱ないし消失また、前述したようにALSにおける認知機能障害が注目されるようになり、約半数の症例で何らかの障害を示すとされている。その特徴として、記銘力や見当識の障害は目立たず、行動異常、性格変化や意欲の低下、言語機能の低下として表れることが報告されている。ALSでは、眼球運動障害、膀胱直腸障害、感覚障害、褥創を来すことは少なく、陰性4徴候と呼ばれている。■ 分類上位・下位運動ニューロン徴候が四肢からみられ、体幹・脳神経領域に進展していく脊髄発症型(古典型)と、病初期に脳神経領域が強く障害され、四肢にはあまり目立たない球麻痺型(進行性球麻痺型)が病型の中核をなす。また、病初期には上位運動ニューロン徴候のみ、あるいは下位運動ニューロン徴候のみを示して進行性に悪化する症例があり、前者は原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis:PLS)、後者は脊髄性進行性筋萎縮症(spinal progressive muscular atrophy:SPMA)あるいは単に進行性筋萎縮症(progressive muscular atrophy:PMA)と診断されてきた。これらの疾患が独立した一疾患単位であるのか、あるいはALSの亜型と考えるべきなのか議論がいまだにあり、結論は得られていない。■ 予後ALSの経過には、個々人での差異もかなりみられることに留意する必要があるが、一般的には、発症から死亡もしくは呼吸補助が必要となるまで平均2~4年とされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ALSの診断は、構音障害や嚥下障害などの球麻痺症状を含む全身性、進行性の筋萎縮や脱力がみられるか、または筋電図検査において、広範な部位に脱神経所見が認められることにより診断される。画像検査においては後述するような所見が認められることもあるが、基本的には筋力低下や筋萎縮の原因となりうる脳幹や脊髄での圧迫、腫瘍病変などを除外する目的で行われる。なお、ALSの診断基準は診断感度を上げるための改定が行われており、改定El Escorial診断基準、Updated Awaji診断基準、Gold Coast診断基準などが出されている。表に示した診断基準は、改定El Escorial診断基準を取り入れながら,わが国において従来用いられてきた厚生労働省特定疾患神経変性疾患調査研究班の診断基準を改訂し、2003年度に神経変性疾患に関する研究班により作成されたものであり、指定難病の申請をする際に利用されている。1)針筋電図検査神経原性の場合、運動単位電位(muscle unit potential:MUP)の種類が減少し、高振幅、多相性のものが目立ち、干渉波が減少する。脱神経があると、安静時の検査で線維性収縮電位、陽性鋭波、線維束性収縮電位が認められる。脳幹領域、胸髄領域では各1筋、頸髄および腰仙髄領域では神経根支配と末梢神経支配の異なる2筋について検索を行うようにする。2)頭部MRIALSのMRI所見としては、T2強調画像における皮質脊髄路に沿った高信号域、中心溝を縁取るように線状の低信号領域などが報告されている。前者は皮質脊髄路における神経線維の変性・脱落、マクロファージの出現、グリオーシスによるものとされ、後者は鉄の沈着によるものと推定されている。いずれの所見もALSに特異的にみられるわけではなく、健常者でも同様の所見が認められるとの報告もある。現時点でALSに特異的なMRI所見はなく、筋萎縮や脱力を呈する他疾患を除外する目的で行われる。3)鑑別診断鑑別すべき疾患は先述の表の鑑別診断を参照。その他に鑑別すべき疾患として、ポリオ後症候群、重症筋無力症なども挙げられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 薬物療法ALSでは治療に関する高いエビデンスは少なく、その薬物療法に関して、長らくグルタミン酸拮抗剤であるリルゾール(商品名:リルテック)が唯一という状況であった。しかし、2015年6月、フリーラジカル消去剤として脳梗塞の治療薬として使用されていたエダラボン(同:ラジカット)が、ALSの進行を遅らせることが証明され、治療薬として認可された。当初点滴薬のみであったが、2022年12月に経口薬の製造販売が承認された。リルゾールは、生存期間を平均3ヵ月延長するとされる。ALSと診断された方に治療薬として処方することが勧められるが、同時に、投与する前に患者には薬の効果は顕著ではないこと、肝機能障害、貧血、その他の副作用が生じる可能性があることを充分説明した上で同意を得て使用する。なお、努力性肺活量(%FVC)が60%を切っている患者への投与は、効果が期待できないとの理由で避けるべきである。一般的には、1回50mgを朝、夕食前に内服する。エダラボンのALSに関する進行抑制効果は、発症後2年以内で、呼吸機能が保たれている患者群において確認された。一方、ALS重症度分類4度以上、%FVCが70%未満に低下している症例での有効性は確認されていない。実際の臨床では、病期・状態にかかわらず、すべてのALS患者に投与可能とされているが、投与はALSの治療経験を持つ医師と連携しながら実施する。経口剤は、1日1回5mL(エダラボンとして105mg)を空腹時に投与する。投与期と休薬期を組み合わせた28日間を1クールとし、第1クールは14日間連続投与した後、14日間休薬する。第2クール以降は、14日間のうち10日間投与する投与期の後、14日間休薬し、以後同様のサイクルで投与を続ける。家族性ALSのうちで最も頻度の高いSOD1遺伝子変異を有する症例に対して、蛋白合成を抑制するアンチセンスヌクレオチドである「トフェルセン」の髄腔内投与が米国および欧州において認可された。ALSの機能評価スケールでの有意な改善は認められなかったが、髄液中のSOD1蛋白質濃度が低下し、血漿中のNfL濃度の低下が認められた。対症療法として、痙縮に対する理学療法、抗痙縮薬の投与などを行う。流涎に対して、抗コリン作用を有する三環系抗うつ薬などの効果が報告されている。ALS患者においてしばしば認められる強制泣き・笑いなどの情動調節障害に対しては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬やセロトニン・ノルアドレナリン選択的再取り込み阻害薬で効果があるとされ、試みる価値がある。米国ではデキストロメトルファンとキニジンの合剤が承認されているが、わが国では未承認である。疼痛や精神不安、不眠に対しては、呼吸抑制などのリスクがあることを患者および家族に説明した上で、麻薬を含む鎮痛薬、抗不安薬、抗うつ薬などの積極的薬物治療を行うべきである。■ 呼吸管理ALSは、呼吸筋を含む全身筋の脱力を来す疾患で、呼吸補助を行わなければ呼吸不全がその死因となることが多い。すなわち適切な呼吸補助と全身管理を行えば長期の生存も期待できるが、その際問題になることとして、一度装着した呼吸器を外すことは現在のわが国では難しいこと、呼吸器を装着した患者が長期入院できる医療施設が限られるため、在宅での療養を選択せざるを得ず、患者家族の負担が過大となる点が挙げられる。呼吸補助に関しても、まずマスクを用いた非侵襲的な呼吸補助(non-invasive ventilation:NIV)を選択し、その後気管切開による侵襲的な呼吸補助(tracheotomy (and)invasive ventilation:TIV)へと変更する方法、最初から侵襲的呼吸補助を行うなどの選択が考えられる。呼吸補助が検討されるべき時期として目安となる基準を提示しているガイドラインもあるが、遅くとも呼吸障害に関連した臨床症状(呼吸苦、朝の頭痛、小声など)が認められた段階で開始するようにする。以前は%FVCが65%未満での導入が検討されていたが、より早期に導入することで生存期間が延長するとの報告もある。■ 栄養管理ALSでは、嚥下障害の進行により、栄養不良、脱水、誤飲などの危険にもさらされる。栄養状態が不良だと予後不良となることが報告されており、適切な栄養管理を行う必要がある。現在、経皮的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)が比較的安全に施行できることから、球麻痺症状のある患者では、窒息、誤飲の危険を回避するために早めにPEGを施行しておくことが勧められる。■ リハビリテーション比較的急速に進行する筋萎縮・脱力に対して、筋力増強あるいは維持を目的とした運動療法が有効か否かという疑問がある。現在でもこれに対する確かな答えはないが、定期的な軽い運動療法を施した群では、とくに運動療法を行わなかった群と比べて、有意性は認められないものの、一部のADL評価スケールで障害度が軽くなる傾向が報告されている。ただし一般的に筋力の改善は期待できない。強い運動強度を負荷することに関しては、逆に悪影響を及ぼした可能性を示唆するものが目立ち、積極的なリハビリを推奨することはできない。近年、ロボット・リハビリテーション医療が発展して装着型サイボーグ“Hybrid Assistive Limb”(商品名:HAL)が保険適用となり、歩行距離の延長、歩行システムの再構築に有用であるとの報告もある。4 今後の展望ここ数年、ALS患者より樹立したiPS細胞を利用した薬剤スクリーニングで、有効とされた薬剤をはじめとしたいくつかの薬剤の臨床試験が実施され、新たな薬剤として認可されるものがでることが期待される。また、10年ぶりにガイドラインの改定が行われ「筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン 2023」が刊行された。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)神経変性疾患に関する調査研究班(医療者向け診療、研究情報)JaCALS(医療者向け診療・研究情報)患者会情報日本ALS協会(患者とその家族会の情報)1)「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン」作成委員会編集. 日本神経学会監修. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023. 南江堂;2023.公開履歴初回2013年6月13日更新2016年1月19日更新2024年8月22日

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悪性胸水の治療でNSAIDsは回避すべきか/JAMA

 胸膜癒着術を受けた悪性胸水患者に対し非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用しても、オピオイド使用と比べ疼痛について有意差は認められなかったことが報告された。NSAIDs群では鎮痛薬のレスキュー使用が多くみられたが、3ヵ月時点の評価で胸膜癒着術の有効性については非劣性であったという。英国・オックスフォード大学のNajib M. Rahman氏らが第III相無作為化試験を行い報告した。試験では、胸腔チューブサイズの違い(12F vs.24F)による影響についても調べ、その結果、12Fサイズのほうが統計的に有意だが臨床的にはわずかな疼痛緩和をもたらすこと、ただし、胸膜癒着術の有効性に関する非劣性基準は満たさなかったことが示された。悪性胸水の治療において、NSAIDsは胸膜癒着術の効果を減弱するとして使用が回避されている。また胸腔チューブは細いものほうが疼痛を緩和するかもしれないが、胸膜癒着術の効果が得られないとされていた。JAMA誌2015年12月22・29日号掲載の報告。NSAIDs vs.オピオイド、12F vs.24Fの疼痛および胸膜癒着術への影響を評価 試験は2007~13年に英国の16病院で、胸膜癒着術を要する患者320例を対象に行われた。 2×2要因試験デザインを用い、被験者のうち胸腔鏡検査を受ける206例(臨床的および診断の必要性に基づき決定)には24Fサイズの胸腔チューブを用い、オピオイド(アヘン製剤、103例)またはNSAIDs(103例)を投与する群に無作為に割り付けた。一方、胸腔鏡検査を受けない114例は、次の4つのうちの1群に無作為に割り付けた。(1)24Fを用いオピオイド投与(28例)、(2)24Fを用いNSAIDs投与(29例)、(3)12Fを用いオピオイド投与(29例)、(4)12Fを用いNSAIDs投与(28例)。 主要評価項目は、胸腔チューブ留置時の疼痛(視覚アナログスケール[VAS]0~100mmを用い4回/日評価、優越性比較)、3ヵ月時点での胸膜癒着術の有効性(さらなる胸膜介入を要した場合は失敗と定義、非劣性比較、マージン15%)とした。NSAIDs:疼痛の有意差なし、手術失敗は非劣性 結果、オピオイド投与群(150例)とNSAIDs投与群(144例)に有意な差は認められなかった。平均VASスコアは23.8mm vs.22.1mm、補正後差は-1.5mm(95%信頼区間[CI]:-5.0~2.0mm、p=0.40)だった。しかし、NSAIDs群は鎮痛薬のレスキュー使用が有意に多かった(26.3% vs.38.1%、率比:2.1、95%CI:1.3~3.4、p=0.003)。胸膜癒着術の失敗は、オピオイド群30例(20%)、NSAIDs群33例(23%)であり、非劣性の基準を満たした(差:-3%、片側95%CI:-10%~∞、非劣性のp=0.004)。 12F胸腔チューブ群(54例)と24F群(56例)を比較した疼痛スコアは、12F群が有意に低かった(VASスコア:22.0mm vs.26.8mm、補正後差:-6.0mm、95%CI:-11.7~-0.2mm、p=0.04)。しかし12F群のほうが胸膜癒着術の失敗率が高く(30% vs.24%)、非劣性基準を満たさなかった(差:-6%、片側95%CI:-20%~∞、非劣性のp=0.14)。留置中の合併症の発生は12F群で高頻度であった(14% vs.24%、オッズ比:1.91、p=0.20)。

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うつ病のプラセボ効果、そのメカニズムとは

 米国・ミシガン大学のMarta Pecina氏らは、大うつ病性障害(MDD)患者におけるプラセボ効果のメカニズムを明らかにするため、プラセボを用いた導入期、主に選択的セロトニン再取り込み阻害薬を用いたオープンラベル期の2期で構成した臨床試験を実施した。その結果、プラセボによりμ-オピオイドシステムの活性化がもたらされ、これがプラセボによる抗うつ効果に関連し、さらに抗うつ薬の効果にも関連している可能性を報告した。JAMA Psychiatry誌2015年11月号の掲載報告。 MDD患者におけるプラセボ効果の背景にある神経化学的機序を検討するため、2種類のプラセボ導入期、続いて抗うつ薬を投与するオープン期で構成される検討を行った。2種類の同一の経口プラセボ(速効性抗うつ薬様効果を有する活性プラセボあるいは効果を有さない不活性プラセボ)を用い、2週間の単盲検クロスオーバーランダム化臨床試験を実施した。続いて、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、あるいはケースによっては臨床的に指示された他の薬剤を用い、10週間のオープンラベル試験を行った。 ボランティア(大学の医療システムで薬物治療を受けていないMDD患者35例)に対し、1週間の不活性経口プラセボおよび活性経口プラセボをそれぞれ投与した後、PET検査およびμ-オピオイド受容体選択的放射性トレーサーである[11C]カルフェンタニルを用いた検査を行った。さらに、化合物が気分向上に関わる脳システムの活性化に関連する可能性があるという指摘に基づき、活性プラセボを投与した後のみ、4分ごと20分以上かけたPETスキャン中、ボランティア患者の目前で1mLの等張生理食塩水を静脈内投与した。このチャレンジ刺激テストは、抗うつ薬の影響によると思われる、個人の内因性オピオイド神経伝達の急性活性化能力を検査するために行われた。主要アウトカムは、活性プラセボおよび抗うつ薬の効果としてうつ症状の変化、ベースライン時および活性化時のμ-オピオイド受容体結合状況とした。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインでの側坐核領域でのμ-オピオイド受容体の高い結合は、抗うつ薬治療の良好な反応と関連していた(r=0.48、p=0.02)。・活性プラセボによる治療1週間後の不活性プラセボと比較したうつ症状の軽減は、感情、ストレス制御、MDDの病態生理に関わる領域(前帯状皮質膝下野、側坐核、視床正中部、扁桃体)のネットワークにおけるプラセボ誘発μ-オピオイド神経伝達の増大と関連していた(側坐核:r=0.6、p<0.001)。・これらの領域に認められるプラセボ誘発内因性オピオイド放出は、抗うつ薬治療の良好な反応と関連し、抗うつ薬を用いた試験期間終了時の症状改善で43%の差が予測された。(鷹野 敦夫)精神科関連Newsはこちらhttp://www.carenet.com/psychiatry/archive/news 

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循環器内科 米国臨床留学記 第4回

第4回:大学病院、退役軍人病院、プライベート病院特徴のあるローテーション先の病院米国には、大きく分けて3つの病院があります。多くの大学のプログラムは、University Hospital (大学病院)に加えて、VA(退役軍人)病院、場合によってプライベート病院をローテートします。University Hospital (大学病院)University Hospitalは、メインの研修先となります。最先端の治療が行われるため、自然と重症患者が集まります。University Hospitalはフェローやレジデントが主戦力ですから、われわれがいないと仕事が先に進みません。近年、レジデントは労働時間の制限(週80時間労働)、Caps制度(受け持てる患者の数が決まっている)があります。結果的に、そのしわ寄せがフェローに来ます。先月はCCU(冠動脈疾患ケアユニット、重症の心疾患を扱う集中治療室)でしたが、レジデントより遅くまで病院にいることも多かったです。私のプログラムではCCUをローテートする月の平日は毎晩オンコールでERや院内からの循環器コンサルトが頻回にかかってきます。病院のカルテに家からアクセスできるため、心電図の確認のコールが頻回にかかってきます。夜中にST上昇心筋梗塞が来たら、心電図を確認した上でカテ室を起動させなければなりません。その他、緊急心エコーなどのオーダーもあります。そのため、4時間以上連続して寝られることはありませんでした。University Hospitalとしても酷使しても給料を増やさなくて良くて、かつ労働時間の制限がないフェローは使い勝手が良いのです。University Hospitalでは、医師の給料はプライベートホスピタルと比べると安いので、大学で働くことを希望する人は教育をしたい、もしくは研究をしたい人が中心となります。University of Californiaでは、すべての職員の給料が公開されています。循環器フェロー卒業直後の給料は、25万ドル程度です。EP(不整脈)や冠動脈インターベンションの教授のトップクラスは50万ドル以上にもなります。Veterans Affairs Hospital(VA: 退役軍人病院)VA(退役軍人)病院は、多くのUniversity Hospitalのプログラムとつながっており、ローテーションすることが義務付けられています(写真:ロングビーチVA病院)。全米のレジデントの約30%がVAをローテートし、ローテートしたフェローやレジデントの給料の一部はVAの財源から補われます。ロングビーチVA病院安価で医療を受けられると聞くと聞こえがいいが、VAはさまざまな問題を抱えている。VAで働くと、アメリカという国が、いかにインセンティブで動いているかを強く感じる。VA病院には、働いた人にしかわからない特別な雰囲気があります。基本的に米国というのは、能力や成果に応じて給料が決められる出来高制や年棒制で医師の給料が決まっており、これが労働意欲につながっています。VA病院はsocialized medicineです。つまり、政府によって運営され、患者は退役軍人です。彼らの多くはVA病院に来るしか選択肢がありません。病院からすれば、頑張らなくたって患者は来ますし、医師やスタッフの給料も固定されていますから、頑張って働く必要はありません。できることなら患者を減らして、早く帰りたいと思っている人がほとんどです。公的サービスが優れている日本なら、これでもみんな一生懸命働くでしょう。私は全米の3つのVA病院で働きましたが、共通して医療従事者の労働意欲は低く、VA病院はうまく機能しているとは思えなかったです。実際2014年にVA病院の医療が大きな問題となりました。多くの患者が何ヵ月にもわたって、外来の予約待ちで適切な診察を受けられず、診察を待っている間にがん患者が死亡するという問題が生じました。これに基づくさまざまな問題は、エリック・シンセキという日系の退役軍人長官の辞任につながりました。循環器領域でいうと、冠動脈カテーテルなら1日3件、アブレーションでも1日1件など、他の病院では考えられないような手技件数です。医師でさえも、外来の患者や心エコーの件数を減らすために、心エコーや外来のコンサルトのスクリーニングをすることが仕事になっている上司までいます。金曜日は15時を過ぎると、人はまばらになり、何も機能しなくなります。労働時間が短く、負荷も少ない割に、福利厚生は充実しているので、QOL重視の人にとっては最高の環境です。医師でいえば、60歳を超え、引退を控えた人、研究に時間を割きたいような人、急かされて手技などをやりたくない人が集まってきます。さらに一度、この生ぬるい環境に慣れると、なかなか他の病院では働けなくなります。周りの若手医師で、将来VA病院で働きたいと思っている人はいません。患者は退役軍人の人たちで、ざっくばらんに言えば、いいおじさんたちといった感じの人が多く、付き合いやすい人たちばかりです。しかしながら、経済的に貧しい人が多く、ホームレスの患者もたくさんいます。よく知られていることですが、退役した後は仕事に就けず、またベトナム、韓国、イラクなどで覚えた麻薬などを止められず、薬物やアルコール依存、PTSDなどに悩まされます(イラク、アフガニスタンからの帰還兵の10%が薬物やアルコール依存症との報告があります)。犯罪率も高いようで、死刑囚の10%が退役軍人という報告もあります。悲しいことに、アメリカの街角で「退役軍人です、お金を恵んでください」と書かれたプラカードを持っている人をよく見かけます。幸い、ホームレスでも退役運人である限り、医療は無料で受けられますので、外来にこういった方がたくさんいらっしゃいます。研究もVA病院では盛んに行われます。退役軍人の人は、VA病院にしかかからないためフォローがしやすいこと、また、退役軍人の方はいい人が多く、医師が研究を勧めると文句も言わず応じてくれる人が多いように感じます。無料で医療を受けているという引け目があるのかもしれません。研究に対価が払われることなどもあります。私も何度か目のあたりにしましたが、他の病院や日本では少しありえない実験的な研究が行われているのも事実です。VA病院からいい論文が出るのは、こういった側面があると思われます。実際、VA病院の医療の質に疑問を抱いている人も多く、退役軍人でお金を持っている患者はVA病院にかからないという方もいます。プライベートホスピタルプライベートホスピタルは当然ですが、収益第一です。収益につながらないようなことはしません。循環器の冠動脈インターベンショニストやEP(不整脈)の医師の仕事は、カテ室に空きがないようにどんどん手技を行うことです。1日に行う手技の数が、大学と比べても断然に多くなりますし、プライベートの循環器医師は、手技も比較的早い人が多いです。逆に言うと、1つの症例で粘ったりすると、他のスケジュールに支障が出るため、あきらめが早いほうがいい場合もあります。心房細動のアブレーションで肺静脈隔離という手技を行いますが、大学病院であるUC San Diegoにいた頃は、完全に隔離できるまで、上司が粘り、手技が大幅に遅れることがよくありました。患者さんのことを考えて粘ってやっているわけですが、プライベートホスピタルでは、そういうわけにはいきません。結果として、Cryoballoonといったような、時間短縮につながるデバイスが使用される傾向にあります。また、プライベートホスピタルでは、フェローやレジデントがいない環境に慣れているため、カテーテル手技後の止血や簡単なオーダーなどは看護師やNP(ナースプラクティショナー)がやってくれます。医師は、手技のリポートを作り、次の患者に備えます。収益を上げるべく、医師には医師だけができる仕事に専念させます。General Cardiologist(一般循環器専門医)も、コンサルトをどんどん見ることが自分や病院の収益につながります。出来高制ですからUniversity Hospitalでは怒られてしまいそうな、くだらないコンサルトでもお金になるため、喜んで引き受けてくれます。NPが一緒にラウンドし、雑用は彼らがこなし、医師は患者を見て、せっせとノートを作ります。教育面では、仕事のペースが落ちるためレジデントやフェローと関わるのを避ける人も結構います。悲しいですが、リサーチが病院の収益に結び付かないと判断されると、リサーチはもちろん行われません。中規模のプライベートホスピタルではリサーチをほとんどやっていないところが多いです。ファンディングを持っていて、研究を積極的に行うような大規模な病院もありますが、医師が臨床の時間を割かなくても良いように、リサーチのナースなどが積極的に関与し、サポート体制が充実しています。プライベートホスピタルにおける医師への待遇は、大学やVAと比べて格段に良いです。駐車場は無料で、食事、飲み物、スナック類も食べ放題なところが結構あります。給料も大学より、だいぶ良く、卒後すぐの循環器医師でもCaliforniaで30万ドル、以前住んでいたOhio州では40万ドルから50万ドルにもなります。プライベートホスピタルでは、トップクラスのインターベンショニストになると100万ドル以上稼ぐこともあります。このように、異なった種類の病院をローテートすることで、どういった病院が自分に合っているかをフェローの間に考えられるという側面もあります。

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治療薬は「痛み」の種類で変わる

 ファイザー株式会社とエーザイ株式会社は、12月1日に都内において「いまさら聞けない痛み止め薬の基礎知識」をテーマに、プレスセミナーを共催した。 セミナーでは、ファイザー社が行ったアンケート調査「痛み止め薬の使用実態と患者意識に関する全国調査」を織り交ぜ、加藤 実氏(日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野 診療教授)が慢性痛とその治療の概要をレクチャーした。慢性痛には、種類に応じた治療薬がある 加藤氏は、「慢性痛に対する痛みの種類に応じた薬物選択と適切な服薬指導の必要性」と題し、慢性痛治療の現状と今後の治療の在り方について説明した。 現在わが国には、慢性痛を有する患者は2,700万人と推定されており、神経障害性疼痛疑いの患者は660万人と推定されている。これらの痛みの治療を放置すると、睡眠・情動・QOLに多大な影響を及ぼし、破局的思考モデル(痛みへの不安や悲観的思考の増大)により、さらに身体状態を悪化させることになる。 痛みは、大きく「侵害受容性痛(外傷などの痛み)」と「神経障害性痛(電気が走るようなビリビリした痛み)」と、その混合である「混合性痛」に分かれる。通常、侵害受容性痛であれば、NSAIDsやオピオイドでの治療が行われ、神経障害性痛であれば、神経障害性疼痛治療薬、抗うつ薬、オピオイドで治療が行われる。 とくに神経障害性痛の痛みの仕組みでは、侵害受容器からの痛み信号が神経節などを経る段階で中枢感作されて脳に到達し、そのため痛み信号の増幅が起こり痛苦が発生するものであり、この感作を抑える治療薬が適用される。具体的には、第1選択薬ではプレガバリン、ノルトリプチリンなどがあり、第2選択薬ではワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤、デュロキセチンなどが、第3選択薬ではフェンタニル、モルヒネなどが使用される。また、慢性痛の原因となる神経障害性痛は、画像所見、病理検査で診断できず、NSAIDsでも治療反応がないことから、臨床の場では痛みの鑑別に注意が必要となる。患者の8割は医師から副作用の説明を受けていない 次に11月にファイザー社がインターネットで行った「痛み止めの使用実態と患者意識に関する全国調査」を紹介した(調査対象:長く持続する痛みを抱える全国の成人男女、n=9,400)。これによると不適切使用・管理の実態として、回答者の約6割が「以前の処方薬が余っていても定期的に処方をしてもらう」と答え、約3割が「ほかの医療機関からも処方してもらい併用している」、「そのことを疼痛治療の主治医に伝えていない」など、患者の実態がわかった。また、自己判断による治療中の痛み止め中止については、約6割の回答者が「経験がある」と答え、その理由として「痛みの軽減」「症状の改善なし」「薬に頼りたくない」(上位3つ)などが挙げられていた。また、「治療薬処方時の医師からの説明」では、約5割が「効能・効果の説明を受けていない」と答えるとともに、約8割が「副作用の説明を受けていない」と回答し、医療側からの情報提供不足が懸念される結果となった。 「痛みの種類の知識」では、約2割が「よく知っている」と回答、約5割が「聞いたことがある」と答えている反面、「痛みの種類により治療効果のある薬が異なることの知識」では、約6割以上が知らないと回答するなど知識の偏在も明らかとなった。 「患者が求める痛み治療の目標設定の現状」では、「痛みは完全に取り除きたい」と約9割が回答していたが、約6割は「痛みがあっても日常生活を送ることができればよい」とも回答していた。 治療目標をどこに設定する? 実際の痛みの治療現場では、目標を「痛みを消す」ことから、「痛みが半分になり、生活改善ができる」ことを目指して、治療が行われている。具体的には、患者の痛みが和らぎ、QOLやADLが改善され、日常生活が送れるようになること、睡眠がきちんと取れることが目安となる。そして、治療薬選択の際は、痛みの評価をすることと、無効な薬を速やかに中止することが重要だという。また、加藤氏は、痛み止めを処方する際に、・少ない副作用で最大の鎮痛効果を目指す痛み止めの治療プランを提示する・患者と医師間での治療目標の設定を明確化する・治療薬の必要性について、わかりやすく説明する・副作用の種類/長期投与の安全性を説明する・効果と副作用の継続的な評価の必要性を考えるの5項目を心がけている。診療の際に具体的な説明を言葉やメモで、患者にきちんと伝えることが大切だという。 最後に、「治療環境の質の向上には、医療側から治療薬の効果と副作用の情報提供、そして、患者の正しい理解と能動的な協力は必要不可欠であり、患者参加型の治療環境で治療薬を最大限活用させることが治療のポイントになる」と述べ、レクチャーを終えた。ファイザー株式会社の「痛み止め薬の使用実態と患者意識に関する全国調査」はこちら(ケアネット 稲川 進)関連コンテンツ特集「慢性疼痛 神経障害性疼痛」

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急性腰痛症にはNSAID単独で/JAMA

 急性腰痛症(LBP)に対してナプロキセン単独と、ナプロキセンにcyclobenzaprineまたはオキシコドン/アセトアミノフェンを追加投与した場合について、1週間後の機能的アウトカムや痛みに有意差はみられなかったことが示された。米国・アルベルト・アインシュタイン医学校のBenjamin W. Friedman氏らが、救急部門(ED)受診患者を対象に行った無作為化試験の結果、報告した。米国では、LBPでEDを受診する患者が年間250万人超いるという。これらの患者に対しては通常、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェン、オピオイド、筋弛緩薬を組み合わせた治療が行われる頻度が高い。今回の結果を踏まえて著者は、「所見は、同患者にはナプロキセンに追加投与は不要であることを支持するものであった」とまとめている。JAMA誌2015年10月20日号掲載の報告。単独、cyclobenzaprineまたはオキシコドン/アセトアミノフェン併用の3群を比較 試験は、急性LBPでEDを受診した患者について、(1)ナプロキセン+プラセボ(単独群)、(2)ナプロキセン+cyclobenzaprine、(3)ナプロキセン+オキシコドン/アセトアミノフェンの10日間投与の1週時点、3ヵ月時点の機能的アウトカムおよび疼痛症状を比較することを目的とし、無作為化二重盲検3群比較にて行われた。試験場所のEDは、ニューヨーク市ブロンクスの1施設であった。 被験者は、2週間未満の非外傷性または非神経根性LBPを呈し、Roland-Morris Disability Questionnaire(RMDQ)による疼痛スコアが5超であった場合、ED退院時に登録を適格とした。RMDQは24の質問項目でLBPを測定し、0(障害なし)~24(障害が最大)の指標で関連機能障害を評価する。 試験は2012年4月に開始され、2,588例が登録評価を受け、323例が適格患者として無作為に、単独群107例、cyclobenzaprine併用群108例、オキシコドン/アセトアミノフェン併用群108例に割り付けられた。 全患者に、ナプロキセン500mgを20錠投与(500mgを1日2回、10日分)。併用錠剤はcyclobenzaprine 5mg、オキシコドン5mg/アセトアミノフェン325mgが、それぞれ60錠投与(単独群にはプラセボ錠剤60錠)され、患者はLBPへの必要性に応じて8時間ごとに1~2錠を服用するよう指示を受けた。また、退院前に標準化された10分間のLBP教育を受けた。 主要アウトカムは、ED退院時と1週時点のRMDQでみた改善であった。1週時点の機能的アウトカム改善に有意差なし フォローアップは2014年12月に完了した。3群の人口統計学的特性は類似していた(平均年齢38~39歳、男性割合44~58%、高卒割合41~57%など)。また、ベースライン時のRMDQスコア中央値は、単独群20(四分位範囲[IQR]:17~21)、cyclobenzaprine併用群19(同:17~21)、オキシコドン/アセトアミノフェン併用群20(同:17~22)であった。 結果、1週時点の平均RMDQ改善スコアは、単独群9.8、cyclobenzaprine併用群10.1、オキシコドン/アセトアミノフェン併用群11.1であった。cyclobenzaprine併用群 vs.単独群の平均RMDQ改善スコア差は0.3(98.3%信頼区間[CI]:-2.6~3.2、p=0.77)、オキシコドン/アセトアミノフェン併用群vs.単独群の同値は1.3(同:-1.5~4.1、p=0.28)、また、cyclobenzaprine併用群 vs.オキシコドン/アセトアミノフェン併用群の同値は0.9(同:-2.1~3.9、p=0.45)であった。

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1万超の爪からの薬物検出分析、薬物乱用を見抜けるか

 米国・United States Drug Testing Laboratories社の Irene Shu氏らは、薬物の蓄積リスクが高いと考えられる1万を超える爪のサンプルを用いて、ELISA法またはLC-MS-MS法により薬物の検出を試みた。その結果、さまざまな薬物が検出され、薬物の長期使用および乱用を評価するうえで、爪の分析が有用な可能性を示唆した。Journal of Analytical Toxicology誌2015年10月号の掲載報告。 爪(手と足爪)はケラチンでできている。爪の成長に伴い、薬物はケラチン線維に取り込まれ、使用3~6ヵ月後にそのケラチン線維内から検出される。その特性を生かして本研究では、ハイリスク症例から3年間にわたり採取した1万349サンプルについて薬物テストを実施した。全指の爪2~3mmを切り取ってサンプルを採取した(100mg)。得られたサンプルについて、有効とされる方法を用いて分析を行った。最初のテストは主に酵素免疫吸着測定法(ELIZA)により行ったが、一部は液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS-MS)によって行った。陽性と推定されるサンプルについて、薬物の種類ごとに適した洗浄、微粉砕、分解、抽出などの過程を経て確認試験を行った。 主な結果は以下のとおり。・合計サンプル7,799例を用いてアンフェタミンに関する分析を行った。・すべてのアンフェタミン分析において、濃度は40~57万2,865pg/mg(中央値100~3,687)の範囲にあった。・サンプルの14%で、アンフェタミンとメタンフェタミンが認められ、22例で3,4メチレンジオキシメタンフェタミン陽性(0.3%)、7例でメチレンジオキシアンフェタミン陽性(0.09%)、4サンプルで3,4-メチレンジオキシ-N-エチルアンフェタミン陽性(0.05%)であった。・サンプルの5%(合計7,787例における)で、コカインとその関連分析物が検出された。濃度は20~26万5,063pg/mg(中央値84~1,768)の範囲にあった。・オピオイド濃度は40~11万8,229pg/mg(中央値123~830)の範囲にあった。・オキシコドン(15.1%)、ヒドロコドン(11.4%)は、モルヒネ、コデイン、ヒドロモルフォン、メタドン、2-エチリデン-1,5-ジメチル‐3,3-ジフェニルピロリジン、オキシモルホンなど他のオピオイド(1.0~3.6%)に比べ高率で検出された。・カルボキシ-Δ-9-テトラヒドロカンナビノールカルボン酸の陽性率は18.1%(0.04~262pg/mg、中央値6.41)であった。・サンプル3,039例のうち756例(24.9%)が、エチルグルクロニド陽性(20~3,754pg/mg、中央値88)であった。・爪の中に認められる他の薬物にはバルビツール酸塩、ベンゾジアゼピン、ケタミン、メペリジン、トラマドール、ゾルピデム、プロポキシフェン、ナルトレキソン、ブプレノルフィンがあった。・高感度分析機器、主にLC-MS-MSが、爪における薬物をフェムトグラム(10-15g)単位での検出を可能にしている。本研究では、ハイリスク集団からサンプルを採取しているため、陽性率は非常に高かった。関連医療ニュース 薬物過剰摂取のリスクを高める薬物は 薬物依存合併の初発統合失調症患者、精神症状の程度に違いがあるか 日本人薬物乱用者の自殺リスクファクターは

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