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1.

ミトコンドリアDNA疾患女性、ミトコンドリア置換で8児が健康出生/NEJM

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)の病的変異は、重篤でしばしば致死的な遺伝性代謝疾患の主要な原因である。子孫の重篤なmtDNA関連疾患のリスクを低減するための生殖補助医療の選択肢として着床前遺伝学的検査(PGT)があるが、高レベルのmtDNAヘテロプラスミーまたはホモプラスミー病原性mtDNA変異を有する女性についてはミトコンドリア提供(mitochondrial donation:MD)が検討されてきた。英国・ニューカッスル大学のRobert McFarland氏らは、英国におけるミトコンドリア生殖医療パスウェイにおいて、MDによる前核移植により8人の子供が誕生したことを報告した。NEJM誌オンライン版2025年7月16日号掲載の報告。英国で導入されたミトコンドリア生殖医療パスウェイ 英国では2017年に、英国在住の病原性mtDNA変異を有する女性に、規制環境下で実施可能な情報に基づく生殖選択肢を提供することを基本原則とした「NHSミトコンドリア生殖医療パスウェイ」が導入された。 パスウェイは、ミトコンドリア生殖アドバイスクリニック(MRA-C)とミトコンドリア生殖補助技術クリニック(MART-C)で構成されており、利用を希望する女性とそのパートナーは詳細な臨床評価を受ける。 これまでに196例がMRA-Cに紹介され、紹介情報不足または誤診の4例を除く192例が適格とされた。このうち診察予約前に23例が離脱し、評価保留中の6例を除く163例の女性がMRA-Cで評価され、希望しなかったまたは選択しなかった30例を除く133例の女性がMART-Cで診察を受けた。 70例がMART-Cで生殖医療の選択を行い、うち36例にPGTが提案され、PGTを実施し得た28例において13人の生児が生まれた。また、32例がMD提供を選択し当局で承認されたが、3例は胚の遺伝子検査でヘテロプラスミーが高かったため移植が行われなかった。ミトコンドリア提供で誕生した8人の子は健康で、現時点で正常に発達 これまでに、22例が前核移植を開始または完了し、8人の生児が生まれ(1卵性双生児1組を含む)、1例が妊娠継続中。 8人の子供は出生時、全例健康で、血中mtDNAヘテロプラスミーは臨床的に閾値未満(多くは検出限界以下)であった。1人に高脂血症と不整脈が発生したが、妊娠中に母親が高脂血症であったことに関連しており、いずれの症状も治療が奏効した。他の1人に乳児ミオクロニーてんかんが発生したが、自然寛解した。 本報告時点では、すべての子供が正常に発達していることが確認されている。

2.

MASLDの目標体重は?【脂肪肝のミカタ】第7回

MASLDの目標体重は?Q. MASLD治療の現状と体重の目標設定は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)に対して、本邦で推奨されている治療は食事・運動両面からの体重減量が基本である。そのほか、提案されている治療として併存疾患(2型糖尿病、肥満症、脂質異常症)に対する治療が挙げられる。高度の肥満症では、減量手術も選択肢となる1-3)。減量目標として、本邦を含むアジアでの非肥満MASLD症例も多いことを踏まえ、2024年に欧州肝臓学会ガイドラインでは、BMIに応じた体重減量の基準が設定された。具体的には、BMI 25.0kg/m2以上の症例では従来通り、体重5%以上の減量で脂肪化が改善し、7%以上の減量で炎症や線維化が改善するとされた。BMI 25.0kg/m2未満では体重3~5%の減量が妥当とされた(図1)2)。(図1)MASLDの体重減量の目標画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂

3.

Lp(a)による日本人のリスク層別化、現時点で明らかなこと/日本動脈硬化学会

 第57回日本動脈硬化学会総会・学術集会が7月5~6日につくば国際会議場にて開催された。本稿ではシンポジウム「新たな心血管リスク因子としてのLp(a)」における吉田 雅幸氏(東京科学大学先進倫理医科学分野 教授)の「今こそ問い直すLp(a):日本におけるRWDから見えるもの」と阿古 潤哉氏(北里大学医学部循環器内科学 教授)の「二次予防リスクとしてのLp(a)」にフォーカスし、Lp(a)の国内基準として有用な値、二次予防に対するLp(a)の重要性について紹介する。Lp(a)に対する動き、海外と日本での違い リポ蛋白(a)[Lp(a)]が「リポスモールa」などと呼ばれていた1990年代、心血管疾患との関連性に関する多くのエビデンスが報告され、測定の第一次ブームが巻き起こっていた。あれから30年。現在の日本でのLp(a)測定率は、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクが高い患者でも0.42%に留まっている1)。いったいなぜ、測定のブームは衰退し、Lp(a)に関する研究の進展に年月を要しているのか。これについて吉田氏は「Lp(a)は霊長類にしかないリポ蛋白であり、動物実験を行うのが難しい分子である。また、進化の過程でプラスミノーゲン(PMG)遺伝子の部分的重複からアポAが進化する過程で、非常に複雑な構造になった。また、KIV2のサブタイプが2~40と多く存在することで、個人差が大きくなり検査が行いにくい側面がある。さらにSNPのような遺伝的要素も影響している」と説明し、治療薬開発の難しさにも言及した。 加えて、順天堂大学の三井田 孝氏が指摘しているように、測定キットの違いによる測定値のばらつき、測定値の国際標準化がなされていない点などもLp(a)測定の足かせになっている。 世界的な動向としては、米国、欧州、中国でコンセンサスステートメントが発表されており、「30mg/dL(75nmol/L)未満:低リスク、30~50mg/dL(75~125nmol/L):中リスク、50mg/dL(125nmol/L)超:ハイリスク」と濃度によってどのように治療を考えるべきかが示されている。その一方で、「日本動脈硬化学会ではこれらを検討できていない」とコメントした。国内最新研究から明らかになったこと そこで、吉田氏らは日本人のLp(a)濃度分布やLp(a)のASCVDとの関連を明らかにするため、多施設共同後ろ向きコホート研究(LEAP研究)を行った。 本研究は、研究参加施設(東京科学大学、国立循環器病研究センター、大阪医科薬科大学、金沢大学、慈恵会医科大学、杏林大学、順天堂大学)において血清Lp(a)が測定された外来・入院患者6,173例を対象に実施。各施設で得られたLp(a)測定値は、測定キット間の誤差を標準化するため、三井田氏らの校正式に基づきnmol/Lへ換算して集計された。その結果について、「本研究において使用されていたキットは積水メディカルとニットーボーメディカルの2種で、nmol/L換算すると中央値は20.88nmol/Lであった。また、冠動脈疾患(CAD)を有する群、ASCVDを有する群、家族性高コレステロール血症(FH)を有する群では、いずれもLp(a)が有意に高値であった。一方、糖尿病(DM)を有する群では有意に低値であった。この基礎疾患の違いによる結果は先行研究でも報告されているとおりであった」とコメントした。また、感度・特異度・ROC曲線から、低値群:25nmol/L未満、中値群:25~75nmol/L、高値群:75nmol/L超の3つにリスク層別化して比較したところ、CAD、ASCVD、CKDを基礎疾患として有する群では段階的に有病率が増加し、Lp(a)値と疾患頻度の関連が示された。 同氏は本研究の限界として「後ろ向き研究であったため、今後は前向きに検討していく必要がある。また、三井田氏が“mg/dLで表示することは計量学的な誤りがある”と指摘するように、単位はnmol/L表記が望ましいのではないかと議論されている」と述べ、「われわれの今回の研究対象は比較的リスクの高い集団であったため、この点も考慮しながら、日本動脈硬化学会のコンセンサスステートメントを作成していきたい」と締めくくった。 なお、日本動脈硬化学会ホームページにおいてLp(a)検査値標準化ツールが掲載されたため、積水メディカル、ニットーボーなどで測定された検査値であれば、このツールを用いて容易にmg/dLをnmol/Lへ変換することができる。Lp(a)高値を発見せねば、2次予防への治療介入の意義 続いて阿古氏は、2014年に報告されたCADにおけるメンデルランダム研究2)やLp(a)と血栓性疾患や脳血管疾患の間に因果関係があるか検討した研究3)などの結果を踏まえ、「Lp(a)はLDL-Cと同様にCVDにおける真のリスク因子に分類されており、弁膜症や血栓性疾患などの動脈硬化性疾患の独立したリスク因子としても認識されている。また近年では、2次予防におけるLDL-CおよびLp(a)とCVDリスクの関係を検討した研究報告4)も出てきており、心血管疾患の1次予防のみならず2次予防においてもその役割は重要」とLp(a)高値症例に対して治療介入を行う意義を強調した。さらに、近赤外分光法血管内超音波検査(NIRS-IVUS)などの血管内イメージングからも、Lp(a)の上昇によって(破れやすい)プラークの割合が増加5)、LDL-C同様にLp(a)もプラーク性状に影響6)していることが見いだされており、「Lp(a)測定がプラークの性状にも影響を与えている可能性を示唆している」と述べた。 現在、世界各国では再発イベントなどがある患者、イベントの家族歴を有する患者、ASCVDリスクが高い患者などへLp(a)測定が推奨されている。同氏はこの状況を受け、「われわれの研究結果1)から、国内のLp(a)高リスク患者への測定が進んでいないのは明らか」と、今こそLp(a)への介入が重要であることを訴える。 30年前と違い、Lp(a)低下薬の第III相試験(Lp(a)HORIZON、OCEAN(a)、ACCLAIM-Lp(a)など)が着々と進められている状況を見据え、同氏は「国内でも2次予防としてLp(a)測定を推奨し、Lp(a)高値の患者に対してLDL-C目標値を厳格にしていくことが必要なのではないだろうか」と締めくくった。■参考文献1)Fujii E, et al. J Atheroscler Thromb. 2025;32:421-438.2)Jansen H, et al. Eur Heart J. 2014;35:1917-1924.3)Larson SC, et al. Circulation. 2020;141:1826-1828.4)Madsen CM, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2020;40:255-266.5)Erlinge D, et al. J Am Coll Cardiol. 2025;85:2011-2024.6)Shishikura D, et al. J Clin Lipidol. 2025;19:509-520.

4.

日本人の妊娠関連VTEの臨床的特徴と転帰が明らかに

 妊娠中の女性は静脈血栓塞栓症(VTE)リスクが高く、これは妊産婦死亡の重要な原因の 1 つである。妊婦ではVTEの発症リスク因子として有名なVirchowの3徴(血流うっ滞、血管内皮障害、血液凝固能の亢進)を来たしやすく、妊婦でのVTE発生率は同年齢の非妊娠女性の6〜7倍に相当するとも報告されている1)。そこで今回、京都大学の馬場 大輔氏らが日本人の妊婦のVTEの実態を調査し、妊娠関連VTEの重要な臨床的特徴と結果を明らかにした。 馬場氏らは、メディカル・データ・ビジョンのデータベースを用いて、2008年4月~2023年9月までにVTEで入院した可能性のある妊婦1万5,470例を特定。さらに、抗凝固療法が実施されていない患者や画像診断検査が施行されていない患者などを除外し、最終的に妊婦でVTEと確定診断され抗凝固療法を含めた介入が行われた410例の臨床転帰(6ヵ月時のVTE再発、6ヵ月時の出血イベント、院内全死因死亡)などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は33歳、平均BMIは23.8kg/m2であった。・対象患者の既往歴は、糖尿病19例(4.6%)、出血の既往17例(4.1%)、先天性凝固異常17例(4.1%)、消化性潰瘍13例(3.2%)、高血圧症10例(2.4%)、脂質異常症7例(1.7%)などであった。・410例中110例(26.8%)は、肺塞栓症(PE)であり、300例(73.2%)は深部静脈血栓症(DVT)のみであった。・VTE発症時の妊娠週数の中央値は31週であった。・VTEの発生率は二峰性分布を示し、126例(30.7%)が妊娠初期(0~妊娠13週)にVTEを発症し、236例(57.6%)が妊娠後期(妊娠28週以降)にVTEを発症し、PEは妊娠後期に多くみられた。・抗凝固療法に関しては、374例(91.2%)には未分画ヘパリンが、18例(4.4%)には低分子量ヘパリン(LMWH、ダルテパリン:2例、エノキサパリン:16例)が投与された。・急性期治療について、血栓溶解療法は2例(0.5%)、下大静脈フィルター留置は17例(4.1%)が受けた。人工呼吸器管理は8例(2.0%)、ECMOは5例(1.2%)に使用された。・ 6ヵ月の追跡期間中、17例(4.1%)でVTEの再発が認められ、3例(0.7%)で頭蓋内出血および消化管出血を含む出血が発生した。・入院中に4例(1.0%)が死亡し、そのうち3例には帝王切開などの外科手術の既往があった。 本研究の限界として、データベースが急性期病院のデータに限定されているため、他の医療機関で治療された患者データが含まれていないこと、詳細な臨床データ(バイタルサイン、PE重症度、検査結果など)が不足していること、PEの過小診断の可能性、入院中のVTE再発を除外したことにより急性期の再発が過小評価されている可能性が挙げられている。 最後に、研究者らは「今回の検討にて、循環器系および産科の医師にとって参考となる妊娠関連のVTEの実態が明らかになった。また、その治療において、LMWHが欧米のガイドラインで推奨されているにもかかわらず、国内ではVTEに対するLMWHの使用が保険適用外であるため、未分画ヘパリンが大半に選択されている実情も明らかになった。この問題は今後対処されるべき」と結んでいる。

6.

肥満症治療に変革をもたらすチルゼパチドへの期待/リリー

 食事療法と運動療法が治療の主体である肥満症は、近年では肥満症治療薬が増えてさまざまな知見がリアルワールドで集積している。肥満症を適応とする持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)を製造する日本イーライリリーは、都内でメディア向けのセミナーを開催し、わが国の肥満・肥満症の現況、医療費への影響、チルゼパチドの最新臨床試験データなどを説明した。高度肥満は少数でも総医療費を押し上げる可能性 「肥満症治療の社会的意義 ~最新の肥満症に関する研究結果を受けて~」をテーマに、同社の宗和 秀明氏(研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 ダイアベティス・オベシティ・心・腎領域バイスプレジデント/医師)が、肥満症に関係する情報を解説した。 BMI25以上の肥満と定義される人は、わが国に約2,800万人いると推計され、40~50代での割合が高く、その数は増加している。肥満になる原因としては、遺伝、生理的、環境、社会文化、行動要因などさまざまな要因が交絡している。その一方で肥満は、個人の要因とされ、偏見や差別(スティグマ)の温床となっている。こうした心理的負担は、患者を消極的にさせて医療者に相談するまで約3年を要するという海外からの報告もある。 わが国の日本肥満症学会の定義や国際的な定義でも「肥満」だけでは、病気とはいえないとしている。診療すべき肥満について、わが国では「肥満症」の定義をBMIが25以上、かつ、(1)肥満による11種の健康障害(耐糖能障害、脂質異常症、高血圧など)が1つ以上ある、または(2)健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合としている。また、BMI35以上は高度肥満とされ、この定義は国際的な基準ともおよそ合致しているとされる。 そして、肥満症が医療費に与える影響について触れ、「総医療費」「外来医療費」「入院医療費」「薬剤費」の項目で肥満群に高い傾向がみられた。また、経年的に肥満群と非肥満群で差が広がる傾向も見受けられたほか、因子別に総医療費を解析した結果、BMI、年齢、外来受診の頻度で変化が大きく、BMIが高い群は少数でも医療費を大きく増加させていたことから、肥満人口の減少が医療費抑制につながる可能性が示唆された。チルゼパチドのSURMOUNT-5試験結果では体重、腹囲をともに減少 はじめに同社が行った「わが国の肥満症の疫学と疾病負担について」の研究結果について、その内容を説明した。本研究は、IMPACT-O STUDYとしてわが国の医療データベースを用いた後ろ向きコホート研究。解析の結果、わが国の肥満症の人では、BMIが高いほど健康障害を合併する割合が増加し、健康な肥満者と比較し、大きな併存疾患の負担になることがわかった。 本研究では、肥満者6万8,567例と肥満症該当者4万3,278例を比較し、健康障害の有無などを調査・解析した。その結果、肥満症該当者についてベースライン時に2つ以上の肥満関連の健康障害を併存している割合は56.4%あり、BMIが高い群ほど高い傾向が示された。また、肥満症該当者において、併存割合が高かった肥満関連の健康障害は高血圧(54.9%)、2型糖尿病(39.5%)、脂質異常症(28.2%)の順で多く、BMIが高い群ほど2型糖尿病や耐糖能異常を併存する割合が高くなる傾向が認められた。そのほか、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の併存割合では、BMI35以上で高い傾向が認められたという。 続いてこうした肥満症治療で使用されるチルゼパチドのSURMOUNT-5試験の最終結果が発表されたことに触れ、その内容を説明した。 本試験は、米国など32施設の751例を無作為化し、72週にわたり行われた。その結果、ベースラインからの体重変化の直接比較試験で、チルゼパチド投与群で平均20.2%減少、セマグルチド投与群で13.7%減少し、セマグルチドに対する優越性を示した。また、目標の体重減少を達成した試験参加者の割合は、チルゼパチド投与群が31.6%に対して、セマグルチド投与群は16.1%だった。チルゼパチド投与群における腹囲の減少は平均18.4cmであり、セマグルチド投与群の13.0cmに対して優越性を示した。安全性に関しては、チルゼパチドとセマグルチドの両剤で最も多く報告された有害事象は、消化器関連のものであり、おおむね軽度~中等度だった1)。 宗和氏は「肥満症とともに生きる人の健康とケアの向上のために、当社は研究開発や関係する人々との活動を通じて、最善を尽くしていきたい」と今後の展望を述べ、説明を終えた。

7.

賃金・物価上昇、診療報酬改定が直撃!診療所の経営は?/医師1,000人アンケート

 2024年の診療報酬改定は、診療報酬本体は+0.88%、薬価・材料価格引き下げは-1.00%で、全体ではマイナス改定となった。「医療従事者の賃上げ」「医療DX等による質の高い医療の実現」「医療・介護・障害福祉サービスの連携強化」という3つの目標が掲げられ、関連する項目が加算・減算された。診療報酬改定のほか、ここ数年の急激な物価上昇や人件費高騰もクリニックの経営に影響を与えていることが予想される。ケアネットでは「自身でクリニックを経営し、開業後3年以上が経過している医師」(40代以上)を対象に、直近の経営状況についてWebアンケートで聞いた。患者数は「増えた」が2割に対し、「減った」が4割 「1ヵ月の延べ患者数」について2023年度と2024年度を比較すると、「やや減った」と回答したのは25%、「大きく減った」は13%に上り、全体の38%が患者減少を報告した。一方で、「やや増えた」(17%)、「大きく増えた」(3%)は合わせて20%に留まった。「大きく減った」との回答は小児科(27%)、産婦人科(18%)、消化器内科(15%)、耳鼻咽喉科(15%)で目立った。一方で、耳鼻咽喉科は「大きく増えた」も最多の9%で、コロナ禍の収束後に経営状況の二極化が進んでいるようだ。診療報酬単価、精神科は5割強が「減った」 2023年度と2024年度の「患者1人当たりの診療単価の平均」については、「やや減った」(34%)、「大きく減った」(11%)を合わせると45%が減少したと回答した。「やや増えた」(8%)、「大きく増えた」(2%)としたクリニックは全体の1割に過ぎなかった。とくに精神科(「大きく減った」と「やや減った」の合計55%)、呼吸器内科(同52%)、循環器内科(同52%)などで「減った」との回答が目立った。精神科は2024年の診療報酬改定で30分未満の診療報酬が減額(精神保健指定医は330点→315点、非指定医は315点→290点)されたことが大きく響いたようだ。ほかの診療報酬改定の項目としては「特定疾患療養管理料から糖尿病・脂質異常症・高血圧を除外」も内科系クリニックの経営に与えた影響が大きかったようだ。「患者数」と比較して、「診療報酬単価」は「増えた」という回答の割合が一層低く、「減った」という回答の割合が高かった。患者数減少よりも診療報酬単価低下が、診療所の収益をより圧迫している状況が伺える。増えた費用としては「人件費」がトップ 費用面で、2023年度と2024年度を比較して増えた項目(複数回答)としては、(経営者以外の)人件費(588人)が最多で、以下医薬品・医療消耗品費(504人)、水道光熱費・通信費(475人)の回答が多かった。賃上げ圧力が強まり、マイナンバーカードや電子処方箋への対応など医療DXへの投資も求められ、固定費の上昇が利益を一層圧迫している状況が見える。5割以上が「減益」と回答 患者数と診療報酬単価の減少傾向、そして費用の上昇は、結果として最終利益の変動にも明確に表れた。2023年度と2024年度の「最終利益(自身の給与を含む)」について、「やや減った」が36%、「大きく減った」が20%で、過半数を超える56%が減益と回答した。「変わらない」は22%、「やや増えた」(12%)、「大きく増えた」(2%)は合わせて14%だった。とくに小児科は4割近く、産婦人科も3割超が「大きく減った」と回答した。今後の経営方針は「攻め」と「守り」に二極化 「今後の経営方針」(複数回答)では、「攻め」「守りor撤退」と明暗が分かれた。自由診療やDX化などの拡大路線に舵を切る選択肢を選んだのは、腎臓内科、呼吸器内科、消化器内科などの医師に多かった。一方、「減益」との診療所が多かった産婦人科、小児科、耳鼻咽喉科などは診察日縮小や閉院を視野に入れるとの回答が多かった。年代別では、40代の比較的若い医師は「DX化」「自由診療」などの「攻め」の志向が強かったが、この割合は年代とともに減少した。60代以上では2割、70代以上では3割が「閉院」または「事業譲渡」を検討していると回答した。 経営や診療報酬に関する自由回答では、物価高、人件費高騰の中での診療報酬単価の据え置きや減額に対する不満や抗議の声一色となった。「物価上昇に連動しない診療報酬の改定は違法だと思う」(内科・東京都・60代)「物価上昇に応じた診療報酬の増額が不可欠」(眼科・大阪府・50代)「診療報酬は下げられる中で、スタッフの給料は上げてやりたい。となると自分の取り分を減らすしかない」(耳鼻咽喉科・宮城県・60代)「売り上げが減って自身の給与を大幅に減らした」(消化器内科・大阪府・60代)「利益が前年に比べて半減。本当の話です。閉院も検討中です」(内科・京都府・50代)「コロナ禍の『医療者に感謝』という言葉は何だったのか。次のパンデミック時に、末端の診療所が閉院していたら誰が患者を診るのか? 中小病院に患者が集中して混乱が起きることは目に見えている」(内科・福井県・50代)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。クリニックの経営動向/医師1,000人アンケート

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PAD疑い例の検査・診断【日常診療アップグレード】第33回

PAD疑い例の検査・診断問題72歳男性。1年前から20分間の歩行で左ふくらはぎが痛くなる。座位になり5分くらい休息すると軽快する。既往歴は高血圧、脂質異常症、2型糖尿病である。リシノプリル、メトホルミン、アトルバスタチンを内服している。バイタルサインに異常はなく、左膝窩動脈と左足背動脈は脈拍が触れにくい。下肢のCTアンギオグラフィーをオーダーした。

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女性の低体重/低栄養症候群(FUS)は社会で治療する疾患/肥満学会

 日本肥満学会は、日本内分泌学会との合同特別企画として、6月6日(金)に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)-背景、現況、その対応-」のシンポジウムを開催した。シンポジウムでは、なぜ肥満学会が「女性の痩せ」を問題にするのか、その背景やFUSの概念、対応などが講演された。わが国の肥満の統計から見えてきた「女性の痩せ問題」 「なぜ、肥満学会が『痩せ』を問題とするのか」をテーマに同学会理事長の横手 幸太郎氏(千葉大学 学長)が講演を行った。 わが国のBMI25以上の成人肥満人口は男性では31.7%、女性では21%あり、なかでもBMI30以上の高度肥満が増加している。とくにアジア人では、より低いBMIから肥満に関連する健康障害が生じることから「肥満症診療のフローチャート」や「肥満症治療指針」などを定め、『肥満症診療ガイドライン2022』(日本肥満学会 編集)で広めてきた。 これらの作成の過程で、わが国の20~39歳の女性では、BMI18.5以下の人口が多く、女性の痩せすぎが顕著であることが判明した。痩せすぎると健康障害として免疫力の低下、骨粗鬆症、不妊、将来その女性から産まれてくる子供の生活習慣病リスクなどが指摘されている。また、近年では、糖尿病や肥満症治療で使用されるGLP-1受容体作動薬などが痩身などの目的で適応外の人に使用されることで、消化器症状、栄養障害、重症低血糖などの健康障害の報告もされている。こうした状況に鑑み、「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するワーキンググループ」を立ち上げ、適正使用の啓発に努めてきた。こうした関連もあり、同学会が健康障害への介入ということで、「FUSの概念を提唱し、診療すべき疾患と位置付けていく」と経緯の説明を行った。診断基準、治療法の確立で低体重/低栄養の健康被害をなくす 「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の概念提唱の背景」をテーマに小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科橋渡し科学分野代謝疾患部門 特命教授)が、FUS概念提唱の背景を講演した。 肥満と低体重はともに健康障害のリスクであり、メタボリックシンドロームは肥満と関連し、サルコペニアは痩せと関連するという疫学データを示した1)。 また、低体重や低栄養が健康障害リスクであることの認知は高齢者医療を除き、まだ不十分であり、医療制度や公衆衛生対策では肥満対策が現在も重視され、高齢者以外の低体重/低栄養のリスクは学術的・政策的にも軽視されていると指摘した。たとえば具体的な健康障害として、肥満も低体重も月経周期の長さや規則性に悪影響を来すことが知られており、若年女性におけるBMIと骨密度の関係では、いずれの年代でもBMIが20を下回ると急激に骨塩量が低下するという2)。 そして、わが国の若年女性の低体重/低栄養に関わる問題として、20代女性の2割がBMI18.5以下と低体重率が高いこと、月経周期異常、骨量減少、貧血などの低体重で多くみられる健康障害があること、健康障害を伴うような痩身への試みとして「GLP-1ダイエット」に代表される「痩せ志向」などがある。とくに「GLP-1ダイエット」は、法律、倫理、臨床上の問題が絡む複合的な課題であると警鐘を鳴らした。 今後の展開として、小川氏は低体重/低栄養の学術上の課題として、低体重(BMI18.5以下)の定義へのさらなる科学的エビデンスの集積とともに、疾患概念確立のために他の関連する学会とのワーキンググループによる活動を行うという。 疾患概念・定義の確立の意義としては、「一定の疾患概念に基づくエビデンスの収集、低体重/低栄養と健康障害に関する社会的認知の向上から診断基準の作成、介入・治療法の確立、健診などでの予防体制整備、教育現場や社会への啓発活動が行われ、健康障害がなくなるようにしたい」と展望を語った。親の一言が子供の「痩せ志向」を助長させる可能性 「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の対応~アカデミアの役割と社会へのアプローチ~」をテーマに田村 好史氏(順天堂大学院スポーツ医学・スポートロジー/代謝内分泌内科学 教授)が、FUSの概要説明と痩身願望が起こる仕組み、そして、今後の取り組みについて講演した。 はじめに本年4月17日に発表された「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)ステートメント」に触れ、FUSは18歳以上で閉経前までの成人女性を対象に、低栄養・体組成の異常、性ホルモンの異常、骨代謝異常など6つの大項目の疾患や状態がある場合の症候と定義されていると述べた。現時点では、基準を定めるエビデンスの不足から枠組みを提示するにとどめ、摂食障害や二次性低体重(たとえば甲状腺機能亢進症など)は除かれ、閉経後の女性や男性は含まないと説明した。 FUSの原因としては、ソーシャルメディア(SNS)やファッション誌などのメディアの影響、体質による痩せ、貧困などの社会経済的要因など3つが指摘され、とくに痩せ願望は小学校1年生ごろから生じているという報告もある。 とくにこうした意識は保護者などから「太っちゃうよ」など体型に関する指摘や友人の「痩せた?」などの会話と相まってSNSなどのメディアの影響で熟成され、痩せ願望へとつながると指摘する。 こうした痩身志向者への対応では、体型の正しい理解を促進するために教育介入が必要であると同時に、体質による痩せには定期的な骨密度測定や血液検査、栄養指導などの健康管理が、社会・経済的要因の痩せでは社会福祉の充実が必要と語る。また、その際にFUSの提唱が新しいスティグマ(差別・偏見)とならないように留意が必要とも述べた。 今後の方向性と提言として、診断基準確立のためにガイドラインの策定、健診制度への組み込みで骨量低下の早期発見、教育・産業界との連携で適切な体型イメージ教育や諸メディアとの連携、内閣府の取り組みとして戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)との連携が必要と4項目を示した。 おわりに田村氏は、現在進行しているSIP事業(2023~27年度)として「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」の一端を披露し、「痩せが美しいという単一価値の変更」のために、FUSに該当する女性の疫学調査、学校での教育事業例を紹介した。啓発活動では「マイウェルボディ協議会」を設立し、「医学的に適正な体型を自分の意志で選択できる世界を目指して社会概念の変化を促していきたい、そのために社会的な機運を上げていきたい」と抱負を語り、講演を終えた。 講演後の総合討論では、会場参加の医師などから「子供の摂食障害の問題」「親の痩せているほうがよいという意識の問題」などが指摘された。また、骨量の最高値が30歳前後であることの啓発と若年からの骨密度測定などの必要性が提案されるなど、活発な話し合いが行われた。

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中年期の体重減少の維持は将来の慢性疾患の予防となる

 中年期の体重増減とその後の糖尿病をはじめとする慢性疾患の発症、死亡について、どの程度の関連があるのだろうか。この課題について長期的な観点からの研究報告は少なかった。このテーマについて、フィンランド・ヘルシンキ大学のTimo E Strandberg氏らの研究グループは、約2万3,000人を対象に中年期の体重減少の維持が、その後の健康障害に与える影響について複数のコホート研究から解析した。その結果、中年期の持続的な体重減少は、薬剤などの介入がなくとも長期的に2型糖尿病以外の慢性疾患のリスクの低下や心疾患などの死亡率の低下に寄与することがわかった。この報告は、JAMA Network Open誌2025年5月1日号に掲載された。体重減少を維持できれば心血管疾患やがん、喘息の予防につながる可能性 研究グループは、中年期(40~50歳)の健康な時期におけるBMIの変化と、後年の疾患発症率および死亡率との長期的な関連性を検討することを目的に、英国のホワイトホールII研究(WHII:1985~1988年)、フィンランドのヘルシンキ・ビジネスマン研究(HBS:1964~1973年)、フィンランド公共部門研究(FPS:2000年)の3つのコホート研究のデータ解析を行った。 この3つの研究で参加者の最初の2回の体重測定結果に基づき、中年期のBMIの変化について「BMIが25未満を持続」「BMIが25以上から25未満へ変化」「BMIが25未満から25以上へ変化」「BMIが25以上の持続」の4つのグループに分類した。疾患発症率と死亡率のアウトカムを追跡調査し、データ解析は2024年2月11日~2025年2月20日に行われた。 WHIIとFPSでは、2型糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、がん、喘息、または慢性閉塞性肺疾患を含む新規発症の慢性疾患が評価され、HBSでは全原因の死亡率が評価された。 主な結果は以下のとおり。・3つのコホートの総参加者は2万3,149人。・WHIIからは4,118人(男性72.1%)が参加し、初回受診時の年齢中央値(四分位範囲:IQR)は39(37~42)歳だった。・HBSからは男性2,335人が参加し、初回受診時の年齢中央値(IQR)は42(38~45)歳だった。・FPSからは1万6,696人(女性82.6%)が参加し、初回受診時の年齢中央値(IQR)は39(34~43)歳だった。・追跡期間の中央値(IQR)は22.8(16.9~23.3)年で、初回評価時の喫煙、収縮期血圧、血清コレステロールを調整した後、WHIIの参加者で体重減少を経験した群は、持続的に肥満していた群と比較し、慢性疾患の発症リスクが低下していた(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.35~0.78)。この結果は、アウトカムから糖尿病を除外した後も再現された(HR:0.58、95%CI:0.37~0.90)。・FPSでは追跡期間中央値(IQR)は12.2(8.2~12.2)年で、HRは0.43(95%CI:0.29~0.66)だった。・HBSで体重減少に関連した延長した追跡期間中央値(IQR)は35(24~43)年で、HRは0.81(95%CI:0.68~0.96)であり、死亡率の低下と関連していた。 これらの結果から研究グループは、「手術や薬物療法による体重減少介入がほとんど存在しなかった時代に実施された調査である。中年期の体重減少の維持は、持続的な肥満と比較し、2型糖尿病以外の慢性疾患のリスク低下および全死亡率の低下と関連していた」と結論付けている。

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エビナクマブに続けるか?抗ANGPTL4抗体薬の可能性(解説:興梠貴英氏)-1971

 ANGPTL(angiopoietin-like)タンパク質は1から8までのファミリーをなしており、その中で3、4、8はリポ蛋白リパーゼ活性を阻害することで中性脂肪(TG)の血清濃度を上げる作用がある。したがって、ANGPTL3、4、8を阻害することでTGを低下させ、ひいては動脈硬化性疾患の減少につながることが期待されている。すでにANGPTL3に対するモノクローナル抗体医薬であるエビナクマブは2021年にFDAおよびEMAにより承認され、本邦においても2024年1月18日に承認されている。抗ANGPTL4抗体薬についても開発が進められていたが、REGN1001という抗体薬は前臨床のマウス投与実験において副作用が多発したため、開発中止となった。 一方、本論文で用いられているMarea Therapeutics社が開発する抗ANGPTL4抗体医薬であるMAR001については、非ヒト霊長類に対する投与実験を行い、重大な副作用を起こすことなく、TGやApoB等を低下させることが示された。この結果を受けて、本論文では初めてヒトに対して投与した第I相および第Ib/IIa相試験を施行した結果が報告されている。第I相試験では健康な被験者に対して皮下注射によるMAR001投与を行い、最大450mgまでの用量における安全性が確認された。第Ib/IIa相試験においては、高TG血症や糖尿病等の代謝異常を有する被験者に対して150mg、300mg、450mgの用量でプラセボとのランダム割り付けで投与され、450mg投与の場合に重大な副作用が発生することなく、TGが52.7%、レムナントコレステロールが52.5%低下することが示された。今後治験が順調に進めば、また新たな脂質異常症治療薬が誕生するかもしれない。

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片頭痛の原因は、ベーコンに生息していたアレ【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第283回

片頭痛の原因は、ベーコンに生息していたアレアメリカ在住の52歳男性が主人公です。慢性片頭痛、2型糖尿病、脂質異常症、肥満の既往歴があり、これまで月に1~2回程度であった片頭痛が4ヵ月間で週1回程度に増加し、後頭部両側を中心とした強い痛みを訴えるようになりました。とくに懸念すべきことは、これまでトリプタン製剤などの頓服の鎮痛薬に良好に反応していた片頭痛が、治療抵抗性を示すようになったことです。生活に困りますよね。Byrnes E, et al. Neurocysticercosis Presenting as Migraine in the United States. Am J Case Rep. 2024;25:e943133.ただ、新しい神経症状はなく、神経学的所見も非局在性でした。―――ふぅむ、やはり片頭痛なのか。ここは、主治医の問診力が問われます。病歴聴取を重ねたところ、なんだか変なエピソードが出てきました。患者「軽く火を通しただけのカリカリとは到底いえないベーコンを、長年にわたって食べる習慣があります」…あー、なんかそれ、怪しそうやん!実施した頭部CTでは、大脳半球全体の深部皮質および脳室周囲白質実質内に多数の嚢胞性病巣が両側性に認められました。MRIでは、これらの嚢胞性病変の周囲にT2/FLAIR高信号での浮腫が確認されました。ブルっと震えるような所見です。「これは…神経嚢虫症かもしれないッ!」この寄生虫感染症が鑑別診断に挙がる主治医もスゴイですが、やはり生焼けベーコンのエピソードがこの疾患を疑うポイントなのでしょうね。徹底的な感染症検査が行われ、血液・尿培養、HIV抗体、クリプトコッカス抗原、トキソプラズマ抗体はすべて陰性でしたが、嚢虫症IgG抗体が陽性となり、神経嚢虫症の診断が確定しました。 発作予防と脳浮腫軽減のためのデキサメタゾンに加え、経口アルベンダゾールとプラジカンテルが、計14日間投与されました。患者は治療に良好に反応し、病変の退縮と頭痛の改善がみられました。いやー、よかったよかった。神経嚢虫症は、有鉤条虫(Taenia solium)による感染症です。人間は偶発的な中間宿主に過ぎず、これに感染した豚肉や糞便中の嚢胞を摂取することで感染することが知られています。開発途上国で風土病となっていますが、現代における海外渡航や移民の増加により、先進国でも診断されることも増えています。低温調理やジビエが一時期流行って、変な感染症が話題になったことがあります。グランピングもまだまだ流行っているので、豚肉を摂取する場合は十分に加熱しましょう。

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GLP-1/GCG作動薬mazdutideの減量効果は?/NEJM

 肥満または体重関連合併症を有する過体重の中国人成人において、GLP-1/グルカゴン受容体デュアルアゴニストのmazdutide 4mgまたは6mgの週1回32週間投与により、臨床的に意義のある体重減少が認められたことを、中国・Peking University People's HospitalのLinong Ji氏らGLORY-1 Investigatorsが同国23施設で実施した第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「GLORY-1試験」の結果で報告した。インクレチンベースのデュアルアゴニスト療法は肥満に対して有効であることが示されており、mazdutideは第II相試験において肥満または過体重の中国人成人の体重減少が示されていた。NEJM誌オンライン版2025年5月25日号掲載の報告。mazdutide 4mgまたは6mgの有効性と安全性をプラセボと比較 GLORY-1試験の対象は、肥満または少なくとも1つの体重関連合併症(前糖尿病、高血圧、脂質異常症、代謝異常関連脂肪性肝疾患[MAFLD]、荷重関節痛、肥満関連呼吸困難または閉塞性睡眠時無呼吸症候群)を伴う過体重の18~75歳の成人であった。肥満および過体重は、中国の基準に基づきそれぞれBMI値が28以上、および24以上28未満と定義された。 研究グループは、適格患者をmazdutide 4mg群、mazdutide 6mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与を48週間行った。 主要エンドポイントは、32週時におけるベースラインからの体重変化率ならびに体重が5%以上減少した患者割合の2つで、mazdutideの各群をプラセボ群と両側有意水準0.025で比較し、2つの主要エンドポイントのいずれも有意であった場合に優越性が示されることとした。 有効性の解析対象は無作為化されたすべての患者とし、treatment-policy estimand法で評価した(mazdutideまたはプラセボの早期中止や新たな抗肥満治療開始の有無にかかわらず評価)。32週時の体重変化率はmazdutide 4mg群-10.09%、6mg群-12.55%、プラセボ群0.45% 2022年11月~2023年1月に862例がスクリーニングされ、610例が無作為化された。患者背景は平均体重87.2kg、平均BMI値は31.1であった。 32週時におけるベースラインからの体重変化率の最小二乗平均値は、mazdutide 4mg群-10.09%(95%信頼区間[CI]:-11.15~-9.04)、mazdutide 6mg群-12.55%(-13.64~-11.45)、プラセボ群0.45%(-0.61~1.52)であった(両群とも対プラセボ群のp<0.001)。 また、32週時に5%以上の体重減少が認められた患者割合は、それぞれ73.9%、82.0%および10.5%であった(両群とも対プラセボ群のp<0.001)。 48週時では、ベースラインからの体重変化率の最小二乗平均値は、mazdutide 4mg群で-11.00%(95%CI:-12.27~-9.73)、mazdutide 6mg群で-14.01%(-15.36~-12.66)、プラセボ群で0.30%(-0.98~1.58)、15%以上の体重減少が認められた患者割合はそれぞれ35.7%、49.5%、2.0%であった(プラセボとの比較においてすべてのp<0.001)。 重要な副次エンドポイントである48週時における収縮期血圧、総コレステロール、中性脂肪、LDL-コレステロール、血清尿酸およびアラニンアミノトランスフェラーゼのベースラインからの変化(mazdutide両群の併合解析)についても、すべてmazdutide群で良好な効果が認められた(すべてのp<0.001)。 有害事象はmazdutide 4mg、6mg群およびプラセボ群でそれぞれ96.1%、97.0%、89.3%に認められた。主な有害事象は悪心(それぞれ32.5%、50.5%、5.9%)、下痢(35.0%、38.6%、6.3%)、嘔吐(26.1%、43.1%、2.9%)で、ほとんどが軽度または中等度であった。 有害事象により試験を中止した患者は、mazdutide 4mg群で3例(1.5%)、mazdutide 6mg群で1例(0.5%)、プラセボ群で2例(1.0%)であった。

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抗ANGPTL4抗体、新たな脂質低下療法の可能性/Lancet

 完全ヒト化抗アンジオポエチン関連タンパク質4(ANGPTL4)抗体MAR001は、循環血中のトリグリセライドおよびレムナントコレステロールを安全かつ効果的に低下させ、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクを低減する有望な脂質低下療法となる可能性があることが、米国・Marea TherapeuticsのBeryl B. Cummings氏らが実施した「MAR001試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年5月15日号で報告された。単回と複数回投与の安全性を評価する2つの試験 研究グループは、MAR001によるANGPTL4の阻害の包括的な安全性の評価を目的に、ヒトで初めての無作為化プラセボ対照単回増量投与第I相試験(2017年11月~2019年9月)および二重盲検無作為化プラセボ対照第Ib/IIa相試験(2013年11月~2024年7月)を行った(Marea Therapeuticsの助成を受けた)。 第I相試験(全56人)は3つのパートから成り、パート1A(健康な成人)では年齢18~65歳、体重50kg以上、BMI値18~30の32人を登録し、MAR001 15mg、50mg、150mg、450mgを単回皮下注射する群に各6人およびプラセボ群に8人、パート1B(高BMI)では体重70kg以上、BMI値30~40の12人をMAR001 450mg群に9人およびプラセボ群に3人、パート1C(高トリグリセライド)では体重59kg以上、空腹時トリグリセライド値200~500mg/dLの12人をMAR001 450mg群に8人およびプラセボ群に4人をそれぞれ割り付けた。 主要目的は、MAR001単回皮下注射から141日後までの安全性と忍容性の評価と、健康な試験参加者における薬物動態の評価とした。 第Ib/IIa相試験は、高トリグリセライド血症で2型糖尿病の既往のある成人、またはスクリーニング時のHOMA-IR値が2.2以上で腹部肥満(ウエスト周囲長が女性88cm以上[アジア系は80cm以上]、男性102cm以上[同90cm以上]と定義)のある成人を対象とし、オーストラリアの2施設で55人を登録し、MAR001 150mg群に10人、同300mg群に9人、同450mgに17人、プラセボ群に19人を割り付け、2週ごとに7回投与した。 主要目的は、代謝機能障害を有する参加者におけるMAR001複数回投与の安全性と忍容性の評価であった。投与終了から12週間の追跡調査を行った。有害事象の多くはGrade1/2、重篤なものはない 2つの試験の結果、MAR001は安全で、全般に良好な忍容性を示した。第Ib/IIa相試験の全体で、有害事象は85%に発現し、このうちGrade1が40%、Grade2が44%であった。とくに注目すべき有害事象は27%、投与中止に至った有害事象は2%、試験薬関連の可能性がある有害事象は38%に認めた。一方、重篤な有害事象および死亡に関連した有害事象はみられなかった。 また、試験薬関連の全身性の炎症バイオマーカー値の上昇や、MRIで評価した腸間膜リンパ節の大きさや炎症の変化は観察されなかった。 MAR001 450mgの投与による、プラセボで補正した12週目におけるトリグリセライド値の平均減少率は52.7%(90%信頼区間[CI]:-77.0~-28.3)であり、レムナントコレステロールの平均減少率は52.5%(-76.1~-28.9)であった。 著者は、「これらの臨床所見は、ANGPTL4の阻害により安全かつ効果的にトリグリセライドとレムナントコレステロールが減少し、ASCVDリスクが大幅に低下するというヒトの遺伝的予測と一致する」「これらの結果は、ASCVDリスクを低下させる新たな脂質低下療法として、また心血管リスクが残存する高リスク者に対する標的治療として、MAR001の研究開発の継続を支持するものである」としている。

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肥満者の体重減少、チルゼパチドvs.セマグルチド/NEJM

 非糖尿病の肥満成人において、チルゼパチドはセマグルチドと比較して72週時の体重および胴囲の減少に関して優れていることが、米国・Weill Cornell MedicineのLouis J. Aronne氏らSURMOUNT-5 Trial Investigatorsによる第IIIb相無作為化非盲検並行群間比較試験「SURMOUNT-5試験」の結果で示された。チルゼパチドおよびセマグルチドは、肥満の管理に非常に有効な薬剤である。肥満であるが2型糖尿病は有していない成人において、チルゼパチドとセマグルチドの有効性および安全性を直接比較した臨床試験はこれまでなかった。NEJM誌オンライン版2025年5月11日号掲載の報告。ベースラインから72週時までの体重の変化率を比較 SURMOUNT-5試験は、米国およびプエルトリコの32施設で実施された。対象は、BMI値30以上、またはBMI値27以上かつ肥満関連合併症(高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患)を1つ以上有する18歳以上の成人で、糖尿病と診断されている患者、肥満に対する外科手術の既往または予定のある患者などは除外した。 適格患者をチルゼパチド(10mgまたは15mg)群またはセマグルチド(1.7mgまたは2.4mg)群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ週1回72週間皮下投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週時までの体重の変化率とした。重要な副次エンドポイントは、ベースラインから72週時までの体重減少が少なくとも10%、15%、20%および25%以上の患者の割合、および胴囲の変化量などとした。体重減少率20.2%vs.13.7%、体重減少25%以上の患者割合31.6%vs.16.1% 2023年4月21日~2024年11月13日に、適格性を評価した948例のうち751例が無作為化され、そのうち750例が少なくとも1回の治験薬投与を受けた。 72週時の体重変化率の最小二乗平均値は、チルゼパチド群-20.2%(95%信頼区間[CI]:-21.4~-19.1)、セマグルチド群-13.7%(-14.9~-12.6)であり、体重に関してチルゼパチドのセマグルチドに対する優越性が示された(推定治療差:-6.5%ポイント、95%CI:-8.1~-4.9、p<0.001)。 72週時の体重がベースラインから少なくとも10%、15%、20%および25%以上減少した患者の割合は、チルゼパチド群がそれぞれ81.6%、64.6%、48.4%、31.6%、セマグルチド群が60.5%、40.1%、27.3%、16.1%であった。 72週時の胴囲の変化量の最小二乗平均値は、チルゼパチド群で-18.4cm(95%CI:-19.6~-17.2)、セマグルチド群で-13.0cm(-14.3~-11.7)であった(p<0.001)。 有害事象は、チルゼパチド群で76.7%、セマグルチド群で79.0%の患者で報告され、両群における主な有害事象は胃腸障害(悪心、便秘、下痢など)であった。重篤な有害事象はそれぞれ4.8%、3.5%に認められた。

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若年性認知症リスクとMetSとの関連

 若年性認知症は、社会および医療において大きな負担となっている。メタボリックシンドローム(MetS)は、晩年の認知症の一因であると考えられているが、若年性認知症への影響はよくわかっていない。韓国・Soonchunhyang University Seoul HospitalのJeong-Yoon Lee氏らは、MetSおよびその構成要素が、すべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症を含む若年性認知症リスクを上昇させるかを明らかにするため、本研究を実施した。Neurology誌2025年5月27日号の報告。 The Korean National Insurance Serviceのデータを用いて、全国規模の人口ベースコホート研究を実施した。2009年に国民健康診断を受けた40〜60歳を対象に、2020年12月31日または65歳までのいずれか早いほうまでフォローアップ調査を行った。MetSは、ウエスト周囲径、血圧、空腹時血糖値、トリグリセライド値、HDLコレステロールの測定値を含む、確立されたガイドラインに従って定義した。共変量には、年齢、性別、所得水準、喫煙状況、飲酒量および高血圧、糖尿病、脂質異常症、うつ病などの併存疾患を含めた。主要アウトカムは、65歳未満での認知症診断で定義したすべての原因による若年性認知症の発症率とし、副次的アウトカムに若年性アルツハイマー病、若年性脳血管性認知症を含めた。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の推定には、多変量Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象者数は197万9,509人(平均年齢:49.0歳、男性の割合:51.3%、MetS罹患率:50.7%)。・平均フォローアップ期間7.75年の間に、若年性認知症を発症したのは8.921例(0.45%)であった。・MetSは、すべての原因による若年性認知症リスク24%上昇(調整HR:1.24、95%CI:1.19〜1.30)、若年性アルツハイマー病リスク12.4%上昇(HR:1.12、95%CI:1.03〜1.22)、若年性脳血管性認知症リスク20.9%上昇(HR:1.21、95%CI:1.08〜1.35)との関連が認められた。・有意な交互作用が認められた因子は、より若年(40〜49歳vs.50〜59歳)、女性、飲酒状況、肥満、うつ病であった。 著者らは「MetSおよびその構成要素は、若年性認知症リスク上昇と有意な関連を示した。これらの知見は、MetSに対する介入が、若年性認知症リスクの軽減につながることを示唆している。しかし、本研究は観察研究のため、明確な因果関係の推定は困難であり、請求データへの依存は、誤分類バイアスに影響する可能性がある。今後の縦断的研究や包括的なデータ収集により、これらの関連性を検証し、さらに発展させることが望まれる」と結論付けている。

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MASHによる代償性肝硬変、efruxiferminは線維化を改善せず/NEJM

 代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)による代償性肝硬変患者において、efruxiferminは36週時点で線維化の有意な改善を示さなかった。米国・Houston Methodist HospitalのMazen Noureddin氏らが、米国、プエルトリコおよびメキシコの45施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SYMMETRY試験」の結果を報告した。線維芽細胞増殖因子21(FGF21)アナログであるefruxiferminは、MASHによる線維化ステージ2または3の患者を対象とした第II相試験において線維化の軽減とMASHの消失が認められたが、MASHによる代償性肝硬変(線維化ステージ4)の患者における有効性と安全性に関するデータが求められていた。NEJM誌オンライン版2025年5月9日号掲載の報告。主要アウトカムは36週時のMASH悪化を伴わない線維化ステージの1段階以上改善 SYMMETRY試験の対象は、18~75歳、MASHと一致する肝組織学的所見が認められ、Child-Pughスコアが5または6(Child-Pugh分類A)、線維化ステージ4の代償性肝硬変患者であった。 加えて、2型糖尿病、またはメタボリックシンドロームの構成要素(肥満、脂質異常症、高血圧、空腹時血糖上昇)のうち2つ以上を有していることを要件とした。 研究グループは、適格患者をefruxifermin 28mg群、50mg群、またはプラセボ群に、1対1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ週1回皮下投与した。 主要アウトカムは、36週時のMASH悪化を伴わない線維化ステージの1段階以上の改善、副次アウトカムは、96週時の同様の改善、ならびに36週および96週時におけるMASHの消失とした。主要アウトカムはITT解析により評価された。36週時の改善、プラセボ群13%、efruxifermin 28mg群18%、50mg群19% 2021年12月21日~2022年12月16日に182例が無作為化され、このうちefruxiferminまたはプラセボの投与を受けた181例がITT解析集団および安全性解析対象集団に含まれた。36週時に154例、96週時に134例で肝生検が行われた。 36週時にMASHの悪化を伴わず線維化が改善した患者の割合は、プラセボ群で13%(8/61例)、efruxifermin 28mg群で18%(10/57例)(層別因子補正後のプラセボ群との差:3%ポイント[95%信頼区間[CI]:-11~17]、p=0.62)、50mg群で19%(12/63例)(プラセボ群との差:4%ポイント、95%CI:-10~18、p=0.52)であった。 96週時にMASHの悪化を伴わず線維化が改善した患者の割合は、それぞれ11%(7/61例)、21%(12/57例)(プラセボ群との差:10%ポイント、95%CI:-4~24)、29%(18/63例)(プラセボ群との差:16%ポイント、95%CI:2~30)であった。 有害事象は、efruxifermin両群で99%、プラセボ群で97%の患者に発現した。efruxifermin群でプラセボ群より発現が多かった有害事象は、主に胃腸障害(下痢、悪心、食欲亢進)であり、ほとんどは軽度または中等度であった。

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心血管イベント高リスクのASCVD/FHヘテロ接合体、obicetrapibが有効/NEJM

 最大耐用量の脂質低下療法を受け、心血管イベントのリスクが高いアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)または家族性高コレステロール血症(FH)ヘテロ接合体の患者において、プラセボと比較してCETP阻害薬obicetrapibはLDLコレステロール(LDL-C)値を有意に低下させ、安全性プロファイルは大きな差はないことが、オーストラリア・Monash大学のStephen J. Nicholls氏らBROADWAY Investigatorsが実施した「BROADWAY試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月7日号で報告された。国際的な無作為化プラセボ対照比較試験、84日目までのLDL-C値の変化率を評価 BROADWAY試験は、心血管イベントのリスクが高い患者におけるobicetrapibの脂質値に及ぼす効果を評価し、安全性と副作用プロファイルを明らかにすることを目的とする無作為化プラセボ対照比較試験であり、2021年12月~2023年8月に、中国、欧州、日本、米国の188施設で患者の無作為化を行った(NewAmsterdam Pharmaの助成を受けた)。 年齢18歳以上、FHヘテロ接合体またはASCVDの既往歴を有し、最大耐用量の脂質低下療法を受けている患者を対象とした。LDL-C値≧100mg/dLまたは非HDLコレステロール(非HDL-C)値≧130mg/dLの患者、あるいはLDL-C値55~100mg/dLまたは非HDL-C値85~130mg/dLで少なくとも1つの心血管リスク因子を持つ患者を適格とした。エゼチミブ、bempedoic acid(ベムペド酸)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害薬の使用の有無は問わなかった。 これらの患者を、obicetrapib(10mg、1日1回)を経口投与する群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、365日間投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから84日目までのLDL-C値の変化率とした。365日目までの変化率も良好 2,530例(平均年齢65歳、女性34%)を無作為化の対象とし、obicetrapib群に1,686例、プラセボ群に844例を割り付けた。全体のベースラインの平均LDL-C値は98mg/dL、平均HDL-C値は49mg/dL、平均BMIは29であり、糖尿病が38%、ASCVDが89%、FHヘテロ接合体が17%であった。91%がスタチン(70%が高強度スタチン)、27%がエゼチミブ、4%がPCSK9阻害薬の投与を受けていた。 ベースラインから84日目までのLDL-C値の最小二乗平均変化率は、プラセボ群が2.7%(95%信頼区間[CI]:-0.4~5.8)であったのに対し、obicetrapib群は-29.9%(95%CI:-32.1~-27.8)と有意な差を認めた(群間差:-32.6%ポイント[95%CI:-35.8~-29.5]、p<0.001)。84日目の平均(±SD)LDL-C値は、obicetrapib群が62.8(±37.3)mg/dL、プラセボ群は92.3(±35.1)mg/dLであった。 また、84日目にLDL-C値<40mg/dLを達成した患者の割合は、obicetrapib群27.9%、プラセボ群1.1%、<55mg/dL達成率はそれぞれ51.0%および8.0%、<70mg/dL達成率は68.4%および27.5%だった。 ベースラインから4つの評価時点までのLDL-C値の最小二乗平均変化率(副次エンドポイント)は、30日目(群間差:-36.6%ポイント[95%CI:-39.1~-34.2])、180日目(-32.7%ポイント[-36.0~-29.4])、270日目(-30.2%ポイント[-33.6~-26.8])、365日目(-24.0%ポイント[-27.9~-20.1])のいずれにおいてもobicetrapib群で良好であった(すべてp<0.001)。 また、ベースラインから84、180、365日目までのアポリポ蛋白B、非HDL-C値、HDL-C値の最小二乗平均変化率もobicetrapib群で優れた(すべてp<0.001)。有害事象は両群とも約6割、重症度などにも差はない 試験期間中の有害事象は、obicetrapib群で59.7%、プラセボ群で60.8%に発現した。有害事象の重症度、試験レジメンとの関連、投与中止の理由に関して両群間に明確な差を認めず、頻度の高い有害事象(COVID-19、高血圧症、上気道感染症、上咽頭炎、関節痛、尿路感染症など)の発現率も両群で同程度だった。 心血管イベント(冠動脈心疾患死、非致死的心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術)はobicetrapib群で4.2%、プラセボ群で5.2%に発生した。血圧には、両群ともベースラインからの明らかな変化はみられなかった。 著者は、「これらの知見は、心血管イベントのリスクが高い患者において、obicetrapibが脂質低下療法の補助薬として有用である可能性を示唆する」「本薬が、ASCVDの予防に有用な治療薬となるかについては、さらなる臨床試験で検討する必要がある」としている。

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obicetrapib/エゼチミブ配合剤、LDL-コレステロール低下に有効/Lancet

 obicetrapibとエゼチミブの固定用量配合剤(FDC)は、最大耐用量の脂質低下療法を受けている動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)既往または高リスク患者のLDL-コレステロール(LDL-C)値を、各単独投与あるいはプラセボと比較して有意に低下させたことが示された。米国・Cleveland ClinicのAshish Sarraju氏らが、米国の48施設で実施した第III相無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「TANDEM試験」の結果を報告した。著者は、「この経口・配合剤単剤療法は、ASCVD既往または高リスク患者におけるLDL-C管理を改善する可能性がある」とまとめている。obicetrapibはコレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害薬で、非ASCVD患者を対象とした小規模な第II相試験で、単独投与またはエゼチミブとの併用投与でLDL-C値を低下させることが示されていた。Lancet誌オンライン版2025年5月7日号掲載の報告。obicetrapib/エゼチミブ配合剤、各単独、プラセボのLDL-C低下効果を比較 研究グループは、ASCVD またはヘテロ接合型家族性高コレステロール血症の既往を有する、またはASCVD の複数のリスク因子を有する患者で、エゼチミブを除く最大耐用量の脂質低下療法を安定的に受けているにもかかわらず空腹時LDL-C値が1.8mmol/L(70mg/dL)以上、あるいはスタチン不耐の18歳以上の患者を、obicetrapib10mg+エゼチミブ10mg併用群(FDC群)、obicetrapib10mg群、エゼチミブ10mg群、またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回84日間経口投与した。 主要エンドポイントは、ITT集団におけるLDL-C値のベースラインから84日目までの変化率で、FDC群とプラセボ群、エゼチミブ群およびobicetrapib群、ならびにobicetrapib群とプラセボ群の4つを比較した。obicetrapib/エゼチミブ配合剤、プラセボと比較しLDL-C値が48.6%低下 2024年3月4日~7月3日に407例が無作為化された(FDC群102例、obicetrapib群102例、エゼチミブ群101例、プラセボ群102例)。患者背景は、年齢中央値が68.0歳(四分位範囲:62.0~73.0)、女性が177例(43%)で、ベースラインの平均LDL-C値はFDC群2.5mmol/L、obicetrapib群2.6mmol/L、エゼチミブ群2.5mmol/L、プラセボ群2.4mmol/Lであった。 84日時点でのLDL-C低下率のFDC群と各群との差(最小二乗平均差)は、プラセボ群で-48.6%(95%信頼区間:-58.3~-38.9)、エゼチミブ群で-27.9%(-37.5~-18.4)、obicetrapib群で-16.8%(-26.4~-7.1)であり、obicetrapib群とプラセボ群との差は-31.9%(22.1~41.6)であった。 有害事象の発現率は、FDC群51%(52/102例)、obicetrapib群54%(55/102例)、エゼチミブ群53%(54/101例)で3群は同程度で、プラセボ群が37%(38/102例)と最も低かった。 重篤な有害事象は、FDC群で3例(3%)、obicetrapib群で6例(6%)、エゼチミブ群で7例(7%)、プラセボ群で4例(4%)に発現した。 死亡は、FDC群1例(1%)、obicetrapib群1例(1%)、エゼチミブ群1例(1%)に認められ、プラセボ群では死亡例の報告はなかった。

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