サイト内検索

検索結果 合計:921件 表示位置:1 - 20

1.

チルゼパチドvs.セマグルチド、日本における肥満症患者の体重減少効果は?(SURMOUNT-5サブ解析)

 日本における肥満症の薬物療法適応基準を満たす集団において、チルゼパチドはセマグルチドと比較して72週時点での体重変化率が有意に大きく、体重、BMI、腹囲のいずれにおいても減少幅が有意に大きいことが示された。千葉大学大学院医学研究院の北本 匠氏らによるこの研究成果は、Current Medical Research and Opinion誌2026年7月11日号に掲載された。 本研究は、国際共同試験であるSURMOUNT-5のサブ解析として実施された。日本における肥満症の薬物療法適応基準を満たす参加者(BMI 27~34.9、高血圧、脂質異常症のいずれかを有し、さらに肥満関連健康障害[ORHD]を2つ以上有する、またはBMI≧35かつORHDを 1つ以上有する)を対象とした。評価期間はベースラインから72週とし、体重変化率、減量目標達成率、腹囲・BMI・心代謝リスク因子の変化、有害事象を評価した。 主な結果は以下のとおり。・組み入れられた750例のうち383例が基準を満たし、チルゼパチド群(15 mgまたは最大耐用量)190例、セマグルチド群(2.4 mgまたは最大耐用量)193例に割り付けられた。・72週時点での体重変化率の最小二乗平均値(LSM)は、チルゼパチド群で-20.1%(標準誤差:0.76%)、セマグルチド群で-12.9%(同0.74%)であり、LSM差は-7.2%(95%信頼区間:-9.3%〜-5.1%、p<0.001)とチルゼパチド群で有意に大きかった。・減量目標達成率でも、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%のいずれの閾値においても、チルゼパチド群においてより多くの参加者が達成した。腹囲の減少はベースラインから4週目以降、BMIの減少は12週目以降にチルゼパチド群で有意に大きな差が認められ、いずれも72週を通じて維持された。・安全性プロファイルはSURMOUNT-5試験の全体集団と概ね一致しており、消化器系の事象が最も多く認められた。 本サブ解析は、日本における肥満症の薬物療法適応基準となる集団において、チルゼパチドがセマグルチドと比較して体重、BMI、腹囲のいずれにおいても有意に大きな減少をもたらすことを示した。 著者らは「日本では肥満症の定義がBMI≧25と国際基準よりも低く設定されており、本解析はその基準に即した実臨床に近い集団での比較データを提供するものである。消化器系有害事象を中心とした安全性プロファイルは全体集団と一致しており、忍容性に大きな差異は認められなかった。今後は日本人集団を対象とした長期的な心血管アウトカムや体重減少の維持に関するさらなる検討が求められる」としている。

2.

PCI実施の急性冠症候群患者、LDL-C40未満でMACEリスク最小化/CVIT

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行した急性冠症候群(ACS)患者において、PCI後早期におけるLDL-C 40mg/dL未満の達成は、長期的な主要心血管イベント(MACE)リスクの最小化に直結し、慢性冠症候群(CCS)患者と比較してもはるかに大きな臨床的恩恵をもたらすことが明らかになった。本結果は片岡 有氏(国立循環器病研究センター 循環器内科)が2026年7月16~18日に開催された第34回日本心血管インターベンション治療学会のLate Breaking Clinical Trials 1にて発表し、JACC Asia誌オンライン版2026年7月17日号に同時掲載された。一律の管理目標から「臨床病態に応じた個別化」へ 現行の欧州心臓病学会(ESC)などの『脂質異常症管理のためのガイドライン』では、心血管イベントの二次予防、とくにACSを含む超高リスク患者に対してLDL-C 55mg/dL未満、さらに一部の極高リスク患者には40mg/dL未満の達成を推奨している。しかし日本の実臨床では、ACSと安定期病態であるCCSに一律のLDL-C管理基準値が適用されており、両病態での脂質低下療法の恩恵の差異や、40mg/dL未満達成への真の臨床的意義について、直接比較した多施設データは十分に示されていない。また、J-PCIレジストリデータ(2024年)によると、日本国内で年間約9万5,000例のACS患者がPCI治療を受けている。 そこで同氏らは、国内3施設(国立循環器病研究センター、柏厚生総合病院、近森病院)でPCIを受け、3年間フォローアップされた冠動脈疾患(CAD)患者2,560例(CCS:878例、ACS:1,682例)を対象に大規模多施設レトロスペクティブ解析を実施し、LDL-C値層別化によりACS、CCSでの心血管系の転帰の違い、LDL-C 40mg/dL未満への低下効果について検証した。本研究におけるLDL-C達成は、PCI後2ヵ月(8週間)時点で測定された値とし、主要評価項目はMACE(心臓死、非致死性心筋梗塞[MI]、非責任病変における冠血行再建術)*とした。*再狭窄やステント血栓症に伴う標的病変再血行再建術(TLR)は評価項目から除外 主な結果は以下のとおり。・PCI後2ヵ月時点でのLDL-C達成中央値は、CCS群で61.0mg/dL、ACS群で60.5mg/dLであった。・LDL-C 55mg/dL未満の達成率は、CCS群で32.5%、ACS群で29.4%と両群間に有意差はなかった。・CCSのLDL-C 70mg/dL以上の患者群を基準として多変量調整ハザード比(aHR)を算出・比較したところ、ACSでLDL-C 70mg/dL以上にとどまった群では、aHR2.31(95%信頼区間[CI]:1.61~3.31、p<0.001)と、心血管イベントリスクが大幅に上昇していた。・LDL-C 55mg/dL未満を達成したACS患者では、aHR0.29(95%CI:0.17~0.51、p<0.001)とMACEリスクが極めて低いレベルに抑えられた。これに対し、CCS患者のaHRは0.67(p=0.088)であった。・カプランマイヤー曲線による推定でも、ACS患者での55mg/dL未満達成群と非達成群の乖離は、CCS患者と比較して顕著であった。・LDL-C 40mg/dL未満を達成した超厳格管理群(CCS:10.9%、ACS:9.2%)の追加解析を実施したところ、ACS患者のaHRは0.20(95%CI:0.06~0.72、p=0.039)で、40~54mg/dL群(aHR:0.88、p=0.009)と比較してもリスクが大幅に減少していた。・連続的なLDL-C値とMACEリスクの関連を評価するスプライン曲線解析において、CCS患者では全体的な関連性が認められたものの非線形性は有意ではなかった(Non-linearity p=0.211、Overall association p=0.040)。・ACS患者では非常に強い非線形性を示し(Non-linearity p<0.001、Overall association p<0.001)、LDL-Cの低下がMACEリスク低下に極めて高感度に反映されることが示唆された。 本結果の限界として、観察研究の枠組みであること、日本人のみを対象としたデータ、脂質評価タイミングといった点が挙げられるが、PCI後のACS患者で、病態の安定化と新規イベント予防のためにPCI後2ヵ月(8週間)という極めて早期の段階でLDL-C値を70mg/dL未満→55mg/dL未満→40mg/dL未満と段階的かつ強力にコントロールすることの重要性が示された。 なお、上述のようにACS患者でPCI治療を受けている10万例弱に対して本解析結果を適用した場合、日本人ACS患者の約70%(年間約6万6,500例に相当)がPCI後にLDL-C 55mg/dL以上の高リスク水準に留まっていると推計される。これらを踏まえて、同氏は「ACSというハイリスク症例に対しては、躊躇することなく早期から強力なLDL-C管理(Strike Early)である“LDL-C 40mg/dL未満”という超厳格な目標達成を目指すことが重要である」と締めくくった。

3.

ASCO2026 レポート 肺がん

レポーター紹介ASCO2026は、プレナリーセッションに肺がんの演題が2演題選ばれるなど、肺がん領域におけるインパクトが大きい大会となった。とくに、ivonescimabとチスレリズマブを比較したHARMONi-6試験の全生存期間(OS)解析がプレナリーセッションに選出され、これは中国発の治験薬がASCOの60年以上の歴史でプレナリーセッションに選ばれた初めての事例だと思われる。同じくプレナリーセッションでは、RET融合陽性早期非小細胞肺がん(NSCLC)に対する術後補助療法としてのセルペルカチニブの有効性を示したLIBRETTO-432試験の結果も発表され、EGFR、ALKに続きRETでも術後補助療法における分子標的治療のエビデンスが確立した。周術期領域では、ALK融合陽性のStageIII NSCLCに対する周術期ロルラチニブの試験であるLORIN試験が、化学療法や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に匹敵する、あるいはそれを上回る高い病理学的奏効を報告し話題となった。転移・進行期領域では、EGFR exon20挿入変異陽性NSCLCの1次治療におけるsunvozertinib単剤の優越性を示したWU-KONG28試験、PD-L1陽性NSCLCの1次治療としてTROP2標的抗体薬物複合体(ADC)とペムブロリズマブの併用療法の有効性を示したOptiTROP-Lung05試験など、新規の分子標的薬と抗体医薬品を軸とした新たな治療選択肢の広がりが続いた。ALK陽性NSCLCでは、CROWN試験の7年フォローアップにより、ロルラチニブの長期的ベネフィットが改めて示された。さらに、オシメルチニブなど第3世代EGFR-TKI耐性後の中心的な耐性機序であるC797X変異を克服しうる第4世代EGFR-TKIの開発が世界各地で進み、DZD6008、BH-30643、BDTX-1535 (silevertinib)、VRN110755など複数の候補薬の初期臨床データが報告された年でもあった。[目次]WU-KONG28試験OptiTROP-Lung05試験LORIN試験LIBRETTO-432試験HARMONi-6試験CROWN試験第4世代EGFR-TKI(DZD6008、BH-30643、BDTX-1535、VRN110755)さいごにWU-KONG28試験EGFR exon20挿入変異陽性の進行NSCLCに対する1次治療として、次世代EGFR-TKIであるsunvozertinib単剤とプラチナ併用化学療法を比較する国際多施設共同ランダム化第III相試験がWU-KONG28試験である。本試験は、未治療の進行NSCLC患者324例を、sunvozertinib単剤の1日1回投与群、またはカルボプラチン+ペメトレキセド併用後にペメトレキセド維持療法を行う化学療法群に無作為に割り付けた国際共同試験であり、化学療法群では病勢進行後にsunvozertinibへのクロスオーバーが許容された。主要評価項目は独立中央画像判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)であった。PFS中央値はsunvozertinib群で10.3ヵ月、化学療法群で7.5ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.65(95%CI:0.50~0.85、p<0.001)と統計学的に有意な結果であった。奏効割合(ORR)はsunvozertinib群で58.9%、化学療法群で31.1%、奏効期間(DoR)の中央値はそれぞれ11.2ヵ月、7.1ヵ月であった。安全性プロファイルは既報と一致し、新規の安全性シグナルは認められなかった。本試験の結果はNew England Journal of Medicine誌に同時掲載された。EGFR exon20挿入変異陽性NSCLCの1次治療は、既に抗体医薬品であるアミバンタマブと化学療法の併用療法(PAPILLON試験)が導入されつつある領域であり、sunvozertinibは経口薬としての利便性を武器に一定の地位を確立する可能性がある。さらに、中枢神経系(CNS)における効果、至適用量、非アジア人集団における有効性、near-loop型とfar-loop型の挿入変異による効果の違い、そしてアミバンタマブを中心とした治療戦略との最適なシークエンスなど、今後検討すべき課題も多く残されている。目次に戻るOptiTROP-Lung05試験PD-L1陽性進行NSCLCの1次治療として、TROP2を標的とした抗体薬物複合体であるsacituzumab tirumotecan(sac-TMT)とペムブロリズマブの併用療法の意義を検証した国際多施設共同非盲検ランダム化第III相試験がOptiTROP-Lung05試験である。本試験は、EGFR・ALK遺伝子異常を有さず、PD-L1 TPS 1%以上の未治療の局所進行・転移性NSCLC患者413例を対象とし、sac-TMT(4mg/kgを2週ごと)とペムブロリズマブ(400mgを6週ごと)の併用群、またはペムブロリズマブ単独群に1:1の割合で無作為に割り付けた。主要評価項目は独立中央判定によるPFSであった。PFS中央値は併用群で未到達、ペムブロリズマブ単独群で5.7ヵ月であり、HRは0.35(95%CI:0.26~0.47、p<0.0001)と大きな差が認められた。12ヵ月時点のPFS率は62.4%と29.0%であった。ORRは併用群70.2%、単独群42.0%であり、50%以上の深い奏効を示した割合も49.0%と25.9%であった。OSは未成熟であったが、12ヵ月OS率は併用群80.4%、単独群68.9%と良好な傾向を示した。Grade3以上の治療関連有害事象は併用群55.3%、単独群31.4%であり、好中球減少、貧血、口内炎などが主な事象であった。本試験は、ADCとICIの併用療法がPD-L1陽性進行NSCLCの1次治療においてPFSの統計学的に有意な改善を示した初めての第III相試験であり、結果はLancet誌に同時掲載された。一方で、対照群がペムブロリズマブ単独である点は解釈上の限界であり、とくにPD-L1 TPS 1~49%の集団では化学療法併用が国際的な標準治療とされているため、単独群との比較で得られた効果の大きさをそのまま評価してよいかは慎重な検討を要する。CNSにおける効果や成熟したOSデータ、グローバルでの検証が今後の焦点となる。目次に戻るLORIN試験ALK融合遺伝子陽性のStageIII NSCLCに対する周術期治療として、ロルラチニブの術前投与とその後の手術、術後継続投与の有効性・安全性を検討した中国発の多施設共同単群第II相試験がLORIN試験である。本試験では、切除可能または境界切除可能なStageIIIのALK融合陽性NSCLC患者を対象に、術前ロルラチニブ投与後に手術を行い、可能な症例では術後もロルラチニブを継続する治療戦略が検討された。主要評価項目である病理学的完全奏効割合(pCR)は46.9%、副次評価項目のMajor Pathologic Response(MPR)は81.3%であり、神経療法やICIを含む従来の周術期治療と比較しても高い病理学的奏効が報告された。当初手術不能と判断されていた24例のうち18例(75.0%)は集学的な再評価を経てconversion surgeryに至り、残る症例もTKIの継続投与や放射線治療などが選択された。追跡期間中央値13ヵ月の時点で、1年無イベント生存(EFS)率は97.1%(95%CI:91.5~100)であり、OSイベントは認められなかった。局所再発は3例のみで、いずれも初診時N3の症例であり、術後補助療法としてのロルラチニブは投与されていなかった。EGFR遺伝子変異陽性肺がんに対するNeoADAURA試験やこれまでのオシメルチニブによる術前治療の病理学的完全奏効割合がおおむね10%未満にとどまっていたことと比較すると、ロルラチニブによる病理学的奏効の高さは際立っている。ただし本試験は単群かつ中国単独の小規模な検討であり、EFS・OSのデータも未成熟である。目次に戻るLIBRETTO-432試験RET融合遺伝子陽性の早期NSCLCに対する術後補助療法として、選択的RET阻害薬であるセルペルカチニブの有効性・安全性を検討したプラセボ対照二重盲検ランダム化第III相試験がLIBRETTO-432試験であり、本年のプレナリーセッションで発表された。本試験は、根治的な手術または放射線治療を受けたStageIB~IIIAのRET融合陽性NSCLC患者を対象に、22か国から151例を登録し、セルペルカチニブ群(75例)またはプラセボ群(76例)に1:1の割合で無作為に割り付けた。主要な解析対象集団であるStageII~IIIAの患者において、EFSのHRは0.172(95%CI:0.058~0.509、p=0.0003)であり、2年EFS率はセルペルカチニブ群91.5%、プラセボ群61.1%であった。全体集団(151例)においても、EFSのHRは0.165(95%CI:0.056~0.485、p=0.0002)、2年EFS率は92%と61%であり、両群ともEFS中央値は未到達であった。死亡は3例のみで、いずれもプラセボ群における原疾患による死亡であり、割り付けられた治療期間中の死亡はなかった。有害事象はALT・AST上昇を中心に、進行期での既報プロファイルと一致していた。本試験は、早期RET融合陽性NSCLCに対するRET阻害薬の術後補助療法としての有効性を検証した初めての第III相試験であり、結果はNew England Journal of Medicine誌に同時掲載された。EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおけるオシメルチニブ、ALK融合遺伝子陽性肺がんにおけるアレクチニブに続き、RET融合陽性肺がんにおいても術後補助療法としての分子標的治療のエビデンスが確立したことになる。RET融合陽性NSCLCは全体の1~2%程度とまれな分子サブグループであるが、3,446例をスクリーニングして151例を組み入れたという実施体制は、稀少なバイオマーカーに基づく術後補助療法試験の実施可能性を示した点でも意義深い。また、EGFR、ALKに続いて、シングルプレックスの遺伝子検査が存在しないRET融合遺伝子についても術後療法のエビデンスが創出されたことにより、周術期のバイオマーカー検査へのアクセスのさらなる拡大が期待される。目次に戻るHARMONi-6試験未治療進行扁平上皮NSCLCの一次治療として、PD-1/VEGF二重特異性抗体であるivonescimabと化学療法の併用療法と、抗PD-1抗体であるチスレリズマブと化学療法の併用療法を比較した中国発の国際共同ランダム化第III相試験がHARMONi-6試験であり、本年のプレナリーセッションで発表された。本試験は、未治療のStageIII~IVの扁平上皮NSCLC患者532例を、ivonescimab+化学療法群、またはチスレリズマブ+化学療法群に1:1(各266例)の割合で無作為に割り付けた。既報のPFS解析では、PFS中央値は11.1ヵ月と6.9ヵ月、ハザード比0.60(p<0.0001)と統計学的に有意な結果が示されていたが、本年は副次評価項目であるOSの事前規定の中間解析結果が報告された。データカットオフ日(2026年2月27日)時点で、追跡期間中央値21.36ヵ月において、OS中央値はivonescimab群27.89ヵ月、チスレリズマブ群23.69ヵ月であり、HRは0.66(95%CI:0.50~0.87、片側p=0.0017)と、事前に規定された有意性の境界(片側p<0.0049)を上回る統計学的に有意な結果であった。24ヵ月OS率は64.7%と48.6%であった。PD-L1 TPS1%未満の集団においてもOS中央値は未到達と18.6ヵ月であり、ハザード比0.64と一貫したベネフィットが認められた。本試験は、中国発の治験薬としてASCOの61年の歴史で初めてプレナリーセッションに選出された演題であり、結果はLancet誌に同時掲載された。一方で、対照群であるチスレリズマブ+化学療法群のOSが、既存の欧米標準治療であるペムブロリズマブ+化学療法(KEYNOTE-407試験)の成績を上回っている点は、対照群自体の成績が良好であるがゆえに、相対的な効果が過大評価されている可能性を示唆するとの指摘もあり、今後グローバルな集団における検証(HARMONi-3試験等)が焦点となる。目次に戻るCROWN試験未治療進行ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対する1次治療として、ロルラチニブとクリゾチニブを比較した国際共同ランダム化第III相試験であるCROWN試験は、すでに実臨床に導入された標準治療の1つであるが、本年のASCOでは登録された296例(ロルラチニブ群149例、クリゾチニブ群147例)を対象とした7年フォローアップの結果が報告された。追跡期間中央値はロルラチニブ群83.0ヵ月、クリゾチニブ群77.2ヵ月であり、投与者評価によるPFS中央値はロルラチニブ群で未到達、クリゾチニブ群で9.1ヵ月、HRは0.19(95%CI:0.13~0.26)であった。7年時点でのPFS率はロルラチニブ群55%(95%CI:46~63)、クリゾチニブ群3%(95%CI:1~8)であり、24ヵ月の時点でPFSイベントを認めなかった患者が7年時点まで無増悪でいられる確率は79%であった。頭蓋内病勢進行までの期間中央値はロルラチニブ群で未到達、クリゾチニブ群で16.4ヵ月であり、HRは0.06(95%CI:0.03~0.12)、ロルラチニブ群では投与開始後30ヵ月以降に新規の頭蓋内進行イベントは認められなかった。安全性プロファイルは5年時点の解析から大きな変化はなく、データカットオフ時点でロルラチニブ群の44%が投与を継続していた(クリゾチニブ群は3%)。CROWN試験は、固形がん全体を通じても単剤の分子標的治療としては過去最長級のPFSを更新し続けており、ALK融合遺伝子陽性肺がんの1次治療におけるロルラチニブの位置付けを改めて強固なものとした。一方で、高脂血症、体重増加、浮腫、末梢神経障害、認知機能への影響など、長期間にわたる投与に伴う有害事象については、早期からの積極的なマネジメントと必要に応じた減量が実臨床上の重要な課題であり続けている。目次に戻る第4世代EGFR-TKI(DZD6008、BH-30643、BDTX-1535、VRN110755)オシメルチニブに代表される第3世代EGFR-TKI耐性後の中心的な耐性機序の1つであるEGFR C797X変異は、既存の薬剤では標的化することができず、これを克服しうる第4世代EGFR-TKIの開発が世界各地で進められている。本年のASCOでは、中国・米国・韓国発の複数の候補薬について初期臨床データが報告された。DZD6008は、EGFR exon19del/L858Rに加え、T790MやC797Xを含む二重・三重変異にも活性を有し、血液脳関門透過性に優れた第4世代EGFR-TKIである。第3世代EGFR-TKI後に増悪したEGFR C797X陽性NSCLC患者24例(評価可能例)を対象とした、TIAN-SHAN1・TIAN-SHAN2試験(第I/II相)では、20/40/60mgの用量でDZD6008が1日1回投与され、全体でのORRは41.7%、腫瘍縮小を認めた割合は75%であった。推奨第II相用量における解析では、40mg群(13例)でORR 23.1%、60mg群(10例)でORR 60.0%であった。DoR・PFSはいずれも未到達で、9ヵ月PFS率はそれぞれ54.5%、64.8%であった。頭蓋内活性も確認され、Grade3以上の治療関連有害事象はリンパ球数減少(8.3%)などにとどまり、用量制限毒性は認めなかった。BH-30643は、Macrocyclic構造を持つ非共有結合型・変異選択的な「OMNI-EGFR」阻害剤であり、T790MやC797Sの有無にかかわらず活性を維持することが前臨床で示されている。この薬剤を創薬したのは、ロルラチニブやレポトレクチニブなどのMacrocyclic阻害薬の創薬でも有名なJean Cui博士である。第I相のSOLARA試験では、EGFR・HER2変異陽性NSCLC患者72例(前治療ライン数中央値3、脳転移65%)が登録され、画像評価可能な17例中10例(59%)に部分奏効を認め、奏効割合はT790M陽性例(50%)と陰性例(66%)で同程度であった。とくにC797S陽性28例のうち画像評価可能な17例中10例(59%)が奏効し、ctDNA上でもC797S陽性例9例中7例でvariant allele frequencyの99%を超える減少が確認された。安全性についてはビリルビン上昇(36%)がGrade3の治療関連有害事象の主体であるが臨床的にはマネジメント可能で、間質性肺疾患は認められなかった。BDTX-1535(silevertinib)は、古典的変異に加え非典型的(non-classical/PACC)変異やC797S変異を標的とする、脳移行性の高い第4世代の共有結合型EGFR-TKIである。今回ポスターで発表されたのは、第3世代EGFR-TKI(主にオシメルチニブ)による治療歴を有し、非典型的変異またはC797S変異を有するNSCLC患者を対象とした第II相試験であり、前治療は2ライン以内、EGFR-TKIの投与歴は1剤に限定された集団が組み入れられた。200mg1日1回投与において、非典型的変異コホート(30例)のORRは16.7%(PACC変異に限定した解析[23例]ではORR 21.7%)、C797S変異コホート(33例)のORRは36.4%であり、治療期間中央値は4.8~5.0ヵ月であった。脳転移合併率はそれぞれ49%、31%であった。安全性はEGFR-TKI様のプロファイルであり、重篤な治療関連有害事象は11%、治療関連有害事象による投与中止は8%、Grade3の主な事象は発疹(13%)、下痢(8%)であった。同時期に別セッションで発表された未治療例におけるORR 60%というデータと比較すると、既治療・耐性獲得後の集団におけるベネフィットはより限定的であることが示唆される。VRN110755は、韓国のバイオベンチャーであるVoronoi社が開発する変異選択的かつ脳移行性の高い第4世代EGFR-TKIである。既治療のEGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした第I/II相試験(REACH-EGFR)において、160mg以上の用量群で画像評価可能な21例中4例に部分奏効、16例に病勢安定が認められ、病勢コントロール率は95.2%であった。忍容性は良好であり、Grade3以上の治療関連有害事象や用量制限毒性は認められず、既存のEGFR-TKIと比較して下痢の頻度が低く、間質性肺疾患やQTc延長も認めなかった点が特徴として報告されている。C797S変異陽性例を含む前治療の進んだ集団においても一定の抗腫瘍活性が確認されており、今後の用量最適化および拡大コホートでの検証が注目される。以上のように、各薬剤ともまだ単群・少数例による初期段階のデータではあるが、C797X耐性を克服しうる経口の第4世代EGFR-TKIとして、抗体医薬品を中心としたアプローチ(アミバンタマブなど)とは異なる選択肢としての開発が進んでいる。今後は奏効の持続性(DoR・PFS)、頭蓋内活性、そして肝機能検査値異常や皮膚障害を中心とした忍容性の観点から、各剤の位置付けと差別化が焦点となっていくものと考えられる。目次に戻るさいごに2026年のASCOはHARMONi-6、LIBRETTO-432に代表される大型の第III相試験の結果に加え、周術期領域でのLORIN試験、進行期1次治療でのWU-KONG28試験・OptiTROP-Lung05試験、そして長期フォローアップデータとしてのCROWN試験7年成績など、肺がん治療のあらゆる場面において着実な進展がみられた。さらに、第4世代EGFR-TKIをめぐる複数の候補薬の初期データが報告されたことは、オシメルチニブ耐性後という長らく有効な標的治療の乏しかった領域に、新たな選択肢が生まれつつあることを示している。周術期ICIや抗体薬物複合体の開発とあわせ、肺がんの治療開発が実に幅広い領域で同時並行的に展開している状況は今後も続くと考えられる。目次に戻る

4.

高齢肥満者の肥満関連リスク減少、日本含む7ヵ国データを解析/Lancet

 肥満および高血圧、脂質異常症に対して有効な治療法が存在するようになり、先進国の肥満高齢者は降圧薬や脂質低下薬の使用率が高くなっている。その恩恵を受けて肥満関連リスクが低下していると考えられるが、若年の肥満成人の心血管代謝リスクは依然として高いままであった。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのMajid Ezzati氏らNCD Risk Factor Collaboration(NCD-RisC)が行った、日本を含む7ヵ国・110の健康サーベイのデータ解析の結果で示された。著者は、「長期的な心血管疾患およびその他の合併症を予防するため、公衆衛生・医療システムプログラムでは、これら若年層を対象とした早期の生活習慣への介入、スクリーニング、および適切な場合は薬物療法による介入を実施すべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2026年7月1日号掲載の報告。日本を含む7ヵ国の1990~2024年の健康サーベイデータを解析 研究グループは、先進国における肥満者と標準体重(標準BMI値)者の代謝特性を明らかにし、肥満者の肥満関連リスクが低下しているかを評価するため、各国住民ベースの健康サーベイデータを用いた解析を行った。具体的には、1990~2024年に7ヵ国(日本、韓国、台湾、タイ、フィンランド、英国、米国)で行われた110の健康サーベイに参加した20~79歳・97万8,425人の参加者データを用いた。 主要アウトカムは、収縮期血圧(SBP)、非HDLコレステロール(non-HDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)の平均値、および降圧薬、脂質低下薬の使用者の割合であった。 これらアウトカムについて、(1)標準体重(BMI値20.0以上25.0未満)の参加者における経時的変化、(2)肥満者(クラスI肥満者[BMI値30.0以上35.0未満]、クラスIIまたはIII肥満者[BMI値35.0以上])と過体重者(25.0以上30.0未満)と標準体重者間の変化を評価するために、グラフによる提示と傾向分析を行った。肥満の中高年者における脂質低下薬や降圧薬の使用がリスク収束に 平均non-HDL-C値と平均SBP値は、とくに40歳以上の参加者で低下していた(タイの一部の性・年齢群を除く)。すべての国、年齢層および肥満者・過体重者のBMI区分を統合した場合、標準体重者との平均non-HDL-C値の差の10年当たりの変化量は、女性は-0.05mmol/L(95%信頼区間[CI]:-0.07~-0.03)、男性は-0.07mmol/L(95%CI:-0.09~-0.05)であった。同様に平均SBP値は、女性で-0.7mmHg(95%CI:-1.0~-0.4)、男性で-0.6mmHg(95%CI:-0.9~-0.4)であった。 これらの値の低下は、標準体重者と比べて肥満者(とくにクラスII/III肥満者)で大きく、40歳以上では肥満者と標準体重者の値の差が縮小していた。その結果として、英国、米国、タイ、韓国、日本では、肥満の高齢者の平均non-HDL-C値と平均SBP値は、標準体重の高齢者と同程度か、良好である場合もみられた。そして、こうした傾向は、標準体重の中高年者と比べて肥満の中高年者における脂質低下薬や降圧薬の使用が大きく増加したことに伴っていた。 すべての国、年齢層および肥満者・過体重者を対象に、標準体重者と比較した脂質低下薬使用率の差の増加に関する統合推定値は、10年当たり女性で1.5%ポイント(95%CI:1.0~2.1)、男性で1.6%ポイント(95%CI:1.0~2.2)であった。同様に降圧薬については、女性で0.7%ポイント(95%CI:0.3~1.0)、男性で2.0%ポイント(95%CI:1.3~2.8)であった。 HDL-C値については、肥満者よりも標準体重者で大きく上昇し、両者間の乖離が進んでいた。 40歳未満では、肥満または過体重者と標準体重者の間のギャップにほとんど変化がみられなかった。若年成人ではBMI値を問わず、脂質低下薬や降圧薬を使用する人が少なかった。

5.

survodutide、非糖尿病の肥満成人で顕著な体重減少/NEJM

 非糖尿病の肥満成人において、survodutideの週1回投与はプラセボと比較して、10%以上の体重減少とともに、ウエスト周囲長や糖化ヘモグロビン値、脂質値にも良好な影響を及ぼすことが、アイルランド・ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのCarel W. le Roux氏らSYNCHRONIZE-1 Investigatorsの「SYNCHRONIZE-1試験」において示された。survodutideは、グルカゴン受容体とGLP-1受容体の二重作動薬であり、非糖尿病の肥満成人を対象とした第II相試験で、大幅な体重減少をもたらしたと報告されている。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年6月7日号に掲載された。14ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 SYNCHRONIZE-1試験は、日本を含む14ヵ国116施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(Boehringer Ingelheimの助成を受けた)。 2023年11月~2026年2月に、年齢18歳以上、BMI値≧30、または≧27かつ糖尿病を除く1つ以上の肥満関連合併症(高血圧、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症、心血管疾患、代謝機能障害関連脂肪肝炎[MASH])を有し、少なくとも1回の減量目的の食事療法に失敗した経験があると事前に申告した者を登録した。 被験者725例(平均年齢47.1歳、男性294例[40.6%]、アジア系22.3%)を、survodutide最大3.6mg(241例)、同6.0mg(242例)、プラセボ(242例)を週1回皮下投与する3群に無作為に割り付けた。すべての被験者が、生活習慣の是正のためのカウンセリングを受けた。 主要エンドポイントは2つで、ベースラインから76週時の体重の変化率と、5%以上の体重減少であった。体重の平均変化率、survodutide 3.6mg群-12.2%vs.6.0mg群-13.0%vs.プラセボ群-5.4% ベースラインの平均BMI値は37.9、平均体重は108.8kg、平均ウエスト周囲長は115.0cmであった。被験者の94.9%がBMI値≧30で、69.7%が1つ以上の肥満関連合併症を有しており、高血圧(40.1%)、脂質異常症(33.9%)、閉塞性睡眠時無呼吸症(18.3%)の頻度が高かった。 76週時点で、ベースラインからの体重の平均変化率は、survodutide 3.6mg群-12.2%(95%信頼区間[CI]:-13.6~-10.8)、6.0mg群-13.0%(95%CI:-14.4~-11.6)、プラセボ群-5.4%(95%CI:-6.9~-4.0)であった。プラセボ群との平均変化率の差は、survodutide 3.6mg群-6.8%ポイント(95%CI:-8.8~-4.8)、6.0mg群-7.5%ポイント(95%CI:-9.6~-5.5)と、いずれの用量群ともプラセボ群に比べ減量効果が有意に優れた(両比較ともp<0.001)。 この間の体重の平均絶対変化量は、survodutide 3.6mg群-13.1kg(95%CI:-14.7~-11.6)、6.0mg群-14.1kg(95%CI:-15.6~-12.6)、プラセボ群-5.9kg(95%CI:-7.5~-4.4)であった。 また、5%以上の体重減少を達成した被験者の割合は、survodutide 3.6mg群72.6%、6.0mg群71.9%、プラセボ群46.3%であり、プラセボ群との比較のオッズ比はsurvodutide 3.6mg群が3.1(95%CI:2.0~4.7)、6.0mg群は3.0(95%CI:2.0~4.4)と、いずれの用量群とも有意に高かった(両比較ともp<0.001)。 survodutideの2つの用量群で、ウエスト周囲長も有意に改善し、糖化ヘモグロビン値、空腹時血糖値、脂質値、肝機能マーカーにも全般的に良好な影響を認めた。胃腸症状が高頻度、重症低血糖の発現はない 最も頻度の高かった有害事象は胃腸症状であり、survodutide 3.6mg群80.9%、6.0mg群89.7%、プラセボ群47.9%に発現した。これらは、主に吐き気、嘔吐、下痢、便秘であり、重症度は多くが軽度~中等度で、各群の17.8%、20.2%、2.9%で試験薬の投与中止に至った。 重篤な有害事象は、survodutide 3.6mg群8.3%、6.0mg群8.3%、プラセボ群6.2%にみられた。高血糖や抑うつはsurvodutide群で頻度が低かった。重症低血糖や死亡例の報告はなかった。 著者は、「肥満治療薬の減量依存的な効果と非依存的な効果の両方が、肥満関連合併症の改善に寄与している可能性があり、われわれは、一部のアウトカムにおいては、減量達成のメカニズムが、減量の程度と同じくらい重要である可能性があるとの仮説を立てている」「本薬の安全性プロファイルは、GLP-1受容体作動活性を有する他の肥満治療薬と同様と考えられ、治療開始後早期に発現した消化器系の副作用は、緩徐で柔軟な用量漸増と対症療法などの対策で多くが軽減した」としている。

6.

高齢者へのスタチン、フレイルの新規発症を抑制

 高齢者に対するスタチンの新規投与により、プレフレイルおよびフレイルの新規発症、ならびに死亡リスクが有意に低下することが明らかになった。本結果は、脂質異常症治療薬であるスタチンが持つ抗炎症作用などの多面的効果が、高齢者の身体機能などの低下抑制に寄与する可能性を示唆している。European Heart Journal誌2026年6月10日号オンライン版掲載の報告。 研究グループは、2002年1月~2018年12月に米国退役軍人省(VA)医療システムで定期的な医療ケアを受け、スタチン治療歴のない67歳以上の高齢退役軍人を対象に大規模な観察研究を実施。妥当性が確認された31項目のVAフレイル指数カテゴリー(VA-FI)に基づき、ベースライン時点で軽度フレイル(0.2以上)であった対象者を除外した。解析にあたり、MedicareおよびMedicaidのデータとリンクさせ、交絡因子を調整するために傾向スコア重み付け法(PSW)を用いた。スタチンの使用とフレイル新規発症(死亡による打ち切りを含む複合アウトカム)との関連を検討するために、Cox回帰モデルで解析し、ベースライン時にプレフレイル(VA-FIスコア0.1~0.2)であった症例を対象とした同様のサブ解析も実施した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象者は高齢退役軍人98万7,301例(平均年齢72±6歳、男性98%、白人87%)で、研究期間中に29万729例がスタチンを開始した。・平均追跡期間5.3±4.1年のなかで、フレイルの新規発症は63万6,195件発生した。1,000人年あたりの未調整のイベント発生率は、スタチン開始群で153.1件、非開始群で111.4件であった。・PSWによる調整後、新たなスタチン開始群は非開始群と比較して、フレイルの新規発症リスクが24%有意に低かった(ハザード比 [HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.75~0.76)。・ベースライン時にプレフレイル(VA-FIカテゴリー:0.1~0.2)であった退役軍人を対象とした解析においても、同様にスタチン開始による有意なフレイル新規発症リスクの低下が認められた。

7.

アレルギー性鼻炎はアルツハイマー病のリスク因子?

 神経炎症は、アルツハイマー病(AD)の病態形成に関与していることから、公衆衛生上の懸念が高まっている。一般的な慢性炎症性疾患であるアレルギー性鼻炎は、全身性炎症の一因となり、ADリスクに影響を及ぼす可能性がある。台湾・台北医学大学のShih-Han Hung氏らは、アレルギー性鼻炎の既往歴とその後のAD発症との関連を詳細に評価するため、台湾の大規模かつ代表的なコホートを用いて検討を行った。Scientific Reports誌オンライン版2026年5月2日号の報告。 台湾の国民健康保険研究データベース(LHID2010)を用いた本ケースコントロール研究では、初めてADと診断された65歳以上のAD群4,681例および傾向スコアマッチングで抽出された対照群1万4,043例を対象とした。アレルギー性鼻炎の既往歴は、耳鼻咽喉科専門医による診断を含む、2回以上の臨床診断と定義した。多変量ロジスティック回帰分析を用いて、潜在的な交絡因子を調整した後、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な内容は以下のとおり。・AD群におけるアレルギー性鼻炎の既往歴を有する割合は、対照群と比較し、有意に高かった(25.29%vs.21.01%、p<0.001)。・人口統計学的変数、社会経済的地位、地理的要因、併存疾患(高脂血症、糖尿病、冠動脈疾患、難聴、高血圧を含む)で調整を行った結果、アレルギー性鼻炎の既往歴はAD発症リスクの上昇と強い関連が認められた(調整OR:1.279、95%CI:1.182~1.384)。・この関連性は、男性(調整OR:1.196、95%CI:1.053~1.358)と女性(調整OR:1.339、95%CI:1.210~1.482)の両方において統計学的に有意であった。 著者らは「本研究において、アレルギー性鼻炎の既往歴とアルツハイマー病発症リスク上昇との間に有意な関連性が認められることを示唆している。これらの知見は、慢性末梢炎症が神経変性に関連する可能性のある因子であることを浮き彫りにしている」としている。

8.

糖尿病の心血管疾患1次予防のアスピリン【日常診療アップグレード】第59回

糖尿病の心血管疾患1次予防のアスピリン問題66歳女性。6ヵ月前に2型糖尿病と診断され、メトホルミンとセマグルチドを使用中である。自覚症状はない。他に高血圧と脂質異常症がある。父親は55歳で心筋梗塞を発症している。その他の服用薬はアトルバスタチンとリシノプリルである。バイタルサインは、血圧122/74mmHg、脈拍数78回/分である。BMIは28である。その他の所見に異常はない。LDLコレステロール67mg/dL、HbA1c 6.5%。アスピリンを処方するか迷ったが、このまま経過を観察することとした。

9.

以下の症例に対する前医の処方箋には「替えるべきポイント」が2つ隠れている。あなたは見抜けるか?【高齢者処方のデザイン】第3回

以下の症例に対する前医の処方箋には「替えるべきポイント」が2つ隠れている。あなたは見抜けるか?【症例】患者82歳・男性2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病(G3a)、慢性腰痛症の既往あり。HbA1c 6.4%、eGFR 55mL/分/1.73m2。2型糖尿病に対してグリメピリド、ピオグリタゾン、メトホルミンの3剤を内服中。高血圧に対してニフェジピンを内服中。脂質異常症に対してアトルバスタチンを内服中。早朝に冷や汗、動悸、倦怠感などの症状あり。自宅での簡易血糖測定で血糖値55mg/dLと低血糖を認め、救急車で搬送された。診察上、両下肢に下腿浮腫を認める。【Before:前医の処方箋】A)グリメピリド1mg 1日1回 朝食後B)ピオグリタゾン15mg 1日1回 朝食後C)メトホルミン500mg 1日2回 朝・夕食後D)ニフェジピン40mg 1日1回 朝食後E)アトルバスタチン10mg 1日1回 朝食後【ヒント】低血糖の原因となりやすい薬剤は何か。高齢者で避けるべき経口血糖降下薬について注目する。下腿浮腫の原因について、薬剤性の可能性はないか。A)グリメピリド1mg 1日1回 朝食後B)ピオグリタゾン15mg 1日1回 朝食後C)メトホルミン500mg 1日2回 朝・夕食後D)ニフェジピン40mg 1日1回 朝食後E)アトルバスタチン10mg 1日1回 朝食後【ヒント】低血糖の原因となりやすい薬剤は何か。高齢者で避けるべき経口血糖降下薬について注目する。下腿浮腫の原因について、薬剤性の可能性はないか。 1) By the 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023;71:2052-2081. 講師紹介

10.

非DM肥満/過体重への経口GLP-1薬elecoglipron、最大10.5%の減量効果/Lancet

 非糖尿病の肥満/過体重の成人において、elecoglipron(AZD5004)の1日1回経口投与は臨床的に意義のある体重減少を示し、安全性プロファイルはGLP-1受容体作動薬クラスの既知の報告に合致することが確認された。英国・レスター大学のMelanie J. Davies氏らが、日本を含む7ヵ国で実施された第II相の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定試験「VISTA試験」の結果を報告した。elecoglipronは、食事や水分摂取の制限なしに1日1回経口投与可能な低分子GLP-1受容体作動薬で、これまで2型糖尿病を有する肥満/過体重の患者の体重管理を目的として開発が進められてもいる。今回の結果を踏まえて著者は、「非糖尿病の肥満/過体重成人を対象とする第III相試験でさらなる開発を進めることが支持された」とまとめている。Lancet誌2026年6月20日号掲載の報告。5~75mg、1日1回経口投与の有効性と安全性を評価 VISTA試験は、オーストラリア、カナダ、ドイツ、日本、台湾、英国、米国で実施された。対象は、18歳以上で、肥満(BMI値30以上)、または過体重(BMI値27以上)で未治療/治療中の体重関連疾患(高血圧症、脂質異常症、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群)を少なくとも1つ有する患者であった。1型または2型糖尿病の既往あり、またはスクリーニング時のHbA1cが6.5%以上などの患者は除外した。 適格患者を、elecoglipronの5mg群(用量漸増なし)、15mg群(用量漸増なし)、50mg群(4週ごとの用量漸増あり)、75mg群(週1回の用量漸増あり)、75mg群(2週ごとの用量漸増あり)、または対応するプラセボ群に、2対3対3対3対3対5の割合で無作為に割り付け、1日1回経口投与した。 試験期間は最大42週間で、スクリーニング期最大4週間、投与期最大36週間を含み、最終追跡調査は投与期の最後の受診から約2週間後に予定された。 主要エンドポイントは2つで、26週時点におけるベースラインからの体重変化率、および26週時点で体重が5%以上減少した患者の割合であった。安全性および忍容性についても評価した。elecoglipron群で体重減少は2.6~10.5%、5%以上の体重減少の達成割合は約4~9割 2024年10月8日~2025年2月18日に472例がスクリーニングを受け、162例が適格基準を満たさず、310例が無作為化された。288例(93%)が試験を完了し、231例(75%)が割り付け治療を完遂した。 ベースラインの被験者特性は、平均年齢48.4歳(SD 13.7)、女性225例(73%)、男性85例(27%)、平均体重は106.9kg(SD 24.1)、平均BMI値38.2(SD 7.2)であった。 elecoglipronの投与により、用量依存的な体重減少が認められた。26週時におけるベースラインからの体重変化率(最小二乗平均値)は、プラセボ群-0.6%に対し、elecoglipron 5mg群で-2.6%、15mg群-5.6%、50mg群-8.1%、75mg(週1回漸増)群-10.5%、75mg(2週ごと漸増)群-10.0%であった(いずれも有効性推定による評価)。 また、26週時点で体重が5%以上減少した患者の割合は、プラセボ群15.6%に対し、elecoglipron群ではそれぞれ40.4%、51.3%、72.5%、86.1%、88.8%であった。 有害事象は、elecoglipron 5mg群で84%(27/32例)、15mg群88%(43/49例)、50mg群88%(44/50例)、75mg(週1回漸増)群98%(48/49例)、75mg(2週ごと漸増)群92%(45/49例)、プラセボ群84%(68/81例)に認められた。 elecoglipron群の主な有害事象は、悪心、便秘、下痢、頭痛および嘔吐で、これらはプラセボ群より発現割合が高かった。

11.

セマグルチドがMASH適応を取得、国内初の治療薬に/ノボ

 2026年6月19日、ノボ ノルディスク ファーマは同社のGLP-1受容体作動薬セマグルチド(ウゴービ)が、肝硬変を伴わない代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)のうち、中等度または高度の肝線維化を有する患者を対象とした効能・効果の追加承認を取得したことを発表した。これにより同薬は日本で初めて承認されたMASH治療薬となる。 MASHは、従来「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」として知られていた疾患概念を発展させたもので、代謝異常を背景として肝細胞障害や炎症、線維化が進行する慢性肝疾患である。初期には自覚症状に乏しい一方で、病態が進行すると肝硬変や肝不全、肝細胞がんに至る可能性があり、近年その疾病負荷が大きな課題となっている。 今回の承認は、ステージF2またはF3の肝線維化を有するMASH患者を対象に実施された第III相ESSENCE試験パート1の結果に基づくもの。同試験では、セマグルチド2.4mg週1回皮下投与群とプラセボ群を比較し、72週時点での肝組織学的改善を評価した。 主要評価項目の1つである「MASHの悪化を伴わない肝線維化の改善」は、セマグルチド群で36.8%、プラセボ群で22.4%に認められ、統計学的に有意な改善が示された。また、もう1つの主要評価項目である「肝線維化の悪化を伴わないMASHの消失」は、セマグルチド群で62.9%、プラセボ群で34.3%となり、セマグルチド群が有意に高い達成率を示した。安全性については、これまでの肥満症治療や糖尿病治療で蓄積されたデータと概ね一致しており、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 ESSENCE試験は総計約1,200例を対象とし、セマグルチドを240週間投与する設計となっている。今回の承認申請は、約800例を対象とした72週時点の中間解析結果に基づいて行われた。現在進行中のパート2では、240週時点における肝関連イベント発症リスクの低減効果を検証しており、試験完了は2029年を予定している。 日本におけるMASHの有病率は約3%と推計されている。肥満症や2型糖尿病との関連が強く、心血管疾患リスクの上昇に加え、大腸がんや乳がんなど肝外悪性腫瘍との関連も指摘されている。さらに、肝がんへ進展した場合には予後不良であり、早期介入と進行抑制が重要視されている。 これまでMASHに対しては体重減少を目的とした生活習慣改善が治療の中心であり、承認薬が存在しなかった。今回の承認により、疾患そのものに対する薬物治療の選択肢が初めて提供されることになる。 肥満症治療薬として広く使用されているGLP-1受容体作動薬が、MASHに対しても有効性を示したことで、代謝性疾患と慢性肝疾患を横断した包括的な治療戦略への期待が高まる。今後は実臨床における長期予後改善効果や肝関連イベント抑制効果に関するエビデンスの蓄積が注目される。【製品概要】一般名:セマグルチド(遺伝子組換え)商品名:ウゴービ効能または効果:◯肥満症ただし、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する・BMIが35kg/m2以上◯肝硬変を伴わない代謝機能障害関連脂肪肝炎ただし、中等度又は高度の線維化を有する場合に限る。

12.

糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント改訂版の概要/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 糖尿病患者の生命予後を左右するリスクに心血管障害がある。そこで、日本糖尿病学会(JDS)と日本循環器学会(JCS)は、2017年より合同委員会を立ち上げ、臨床知見の情報交換などを行ってきた。また、2020年にはこれらを成書化した『糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント』が刊行された。今回、6年ぶりにその内容が更新されたことから、本稿ではシンポジウム14より「JDS・JCSコンセンサスステートメントについて」の概要をお届けする。前心不全の早期からの治療介入を記載 「JDS・JCS合同コンセンサスステートメント改訂のオーバービュー」をテーマにJCS側を代表し田中 敦史氏(佐賀大学医学部循環器内科)が今回の改訂のポイントを説明した。 全体の改訂としては、循環器疾患、高血圧に関連する最新の診療ガイドラインの内容を盛り込んだほか、慢性腎臓病(CKD)のセクションを新たに設け、口腔管理についても記載した。また、専門医への紹介基準や両科の連携についてもより内容を充実させている。 今回の改訂では目次は2020年の前版と変更なく、1章では「診断」、2章では「予防・治療」、3章では「紹介(連携)基準」を踏襲している。診断対象は糖代謝異常と循環器疾患(アテローム性動脈硬化性心血管疾患、心不全、不整脈)であり、循環器疾患は3つの軸で記載されている。 2章では、糖代謝異常患者の大血管障害の予防・治療に対応する非薬物療法について、ライフスタイル介入として運動療法や食事療法、禁煙指導などのほかに、今回は口腔(歯)衛生についても記載された。 同じく薬物療法では、血圧、脂質のほかに、近年エビデンスが集積してきたCKDについても1つのセクションとして取り上げた。また、糖尿病治療薬が、心血管疾患の治療や予防にどの程度寄与するのか、内容をアップデートした。そのほか、糖尿病患者の経皮的冠動脈形成術(PCI)について、どのような患者を対象にするかを記載している。 糖代謝異常患者の心不全の予防・治療、心房細動の治療についても同様に記載し、エビデンスなどアップデートしている。 3章では「紹介(連携)基準」として、今改訂ではあえて「専門医」という言葉を使わずに「診療する医師」と幅広くとらえる変更を行った。対象を広げて糖尿病、循環器疾患、それぞれを診療する医師からの紹介とした。 心不全のフローチャートについて、今回は早期に心不全のリスクを検出する目的で、BNP(35pg/mL以上)/NT-proBNP(125pg/mL以上)の数値基準を記載し、ステージA・B・C・Dで分類。とくにステージBは前心不全ということで早期介入での進行予防を、ステージCとDでは循環器専門医へ紹介するように示している。また、糖代謝異常者に対する心不全の予防および治療については、『心不全診療ガイドライン2025』(日本循環器学会/日本心不全学会)に準拠した記載に改訂されている。 高血圧では『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会)を反映し、糖尿病患者の目標値も診察室で130/80mmHg未満、家庭(自宅)で125/75mmHg未満で新たに記載し、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、MR拮抗薬が第2段階では同列などの記載がされている。 脂質異常症へのアプローチは、基本的には糖尿病患者の高LDL-C血症、低HDL-C血症、高TG血症などの1・2次予防として薬物治療やそのエビデンスなどについて『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)から引用している。 大血管障害に対する糖尿病治療については、特定の薬剤推奨は前回版では見送りとなっていたが、その後、薬剤の個別化が欧米を中心に普及しエビデンスも蓄積されてきたことを受け、とくに2次予防のためにGLP-1受容体作動薬もしくはGIP/GLP-1受容体作動薬、ならびにSGLT2阻害薬の推奨がされている。 本ステートメントの目次は次のとおり。【I 診断】1 糖代謝異常2 循環器疾患  2-1 アテローム性動脈硬化性心血管疾患(とくに冠動脈疾患)  2-2 心不全  2-3 不整脈(心房細動と心臓突然死)【II 予防・治療】 1 糖代謝異常者における大血管障害(冠動脈疾患・末梢動脈疾患)の予防・治療  1-1 Lifestyle介入  1-2 薬物療法  1-3 糖尿病患者における冠血行再建術 2 糖代謝異常者における心不全の予防・治療  2-1 Lifestyle介入  2-2 薬物療法 3 糖代謝異常者における心房細動の治療【III 紹介(連携)基準】 1 糖尿病を診療する医師から循環器疾患を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 2 循環器疾患を診療する医師から糖尿病を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 3 循環器疾患・糖尿病を診療する両医師間で糖尿病治療について連携する場面での留意点

13.

膵臓がんの発症リスク、血糖と生活習慣で予測可能か

 膵臓がんは早期発見が難しく、診断時にはすでに進行していることが少なくない。今回、静岡県の健診データとレセプトデータを統合した約64万人規模の解析により、血糖指標であるHbA1cや生活習慣が膵臓がんリスクと関連することが明らかになった。研究は、静岡県立総合病院消化器内科の佐藤辰宣氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏(現・名古屋医療センター臨床研究センター)、静岡社会健康医学大学院大学の田中仁啓氏らのグループによるもので、その詳細は4月6日付で「Pancreatology」に掲載された。 膵臓がんは予後不良ながんとして知られる。一方で、早期に発見できれば5年生存率は80%を超えるとされるが、実際には多くの患者が進行期で診断される。これは、初期には自覚症状に乏しく、血液検査や画像検査でも小さな病変を捉えにくいためである。そのため、症状出現前に発見するには、高リスク者を特定し、重点的に経過観察する戦略が重要となる。しかし、これまでのリスク因子研究では、単独の因子に着目したものが多く、生活習慣や代謝指標を含めて包括的に評価した報告は限られていた。日本では全国規模の健診制度により、血圧、BMI、血液検査、HbA1cなどの情報が広く収集されているが、これらをレセプトデータと統合して膵臓がんリスクを検討した研究は多くない。そこで本研究では、健診データを活用して膵臓がんに関連する因子を再評価し、高リスク者の抽出や将来の早期発見につなげることを目的とした。 著者らは、静岡県国保データベース(SKDB)の2023年度版データ(2012年4月1日~2021年9月30日)を用い、後ろ向き地域住民コホート研究を実施した。対象はコホート期間中に健診を受診した成人で、インデックス日はコホート登録から1年以上経過後に受けた初回健診日とした。膵臓がんまたは他の悪性腫瘍の既往がある者、観察期間が1年未満の者は除外した。主要アウトカムはICD-10コードに基づく膵臓がん発症とし、生活習慣、BMI、血圧、薬剤使用、併存疾患は、健診データ、質問票、処方情報、ICD-10コードをもとに定義した。膵臓がん発症との関連はcause-specific Coxモデルで評価し、モデルの妥当性や多重共線性も確認した。さらに、逆因果の影響を減らすため、インデックス日から2年以内の発症例を除外した感度解析と、年齢・性別によるサブグループ解析も行った。 解析対象は64万1,979人で、追跡期間中央値6.8年の間に4,313人が膵臓がんを発症した。年間発症率は1000人年あたり1.124(95%信頼区間 1.091~1.158)だった。解析の結果、膵臓がんリスクは男性で高く、加齢とともに大きく上昇していた。さらに、代謝異常、膵疾患関連因子、生活習慣のそれぞれが膵臓がん発症と関連していた。特に高血糖との関連では、糖尿病の診断の有無そのものよりも、HbA1c値が膵臓がんリスクとより明瞭な用量反応関係を示した。HbA1c 8%以上ではハザード比(HR)2.85(95%信頼区間 2.29~3.56)に達し、HbA1c 6.0~6.5%程度でもHR 1.37とリスク上昇が認められた。加えて、慢性膵炎、膵嚢胞性病変、高血圧、鉄欠乏性貧血、AST高値、習慣的喫煙も独立したリスク因子だった。一方、脂質異常症やLDLコレステロール高値は膵臓がんリスクと逆相関を示した。 その一方で、糖尿病の診断自体、BMI、大量飲酒は多変量解析では有意な関連を示さなかった。代謝関連因子や生活習慣因子の影響は60歳以上でより顕著であり、インデックス日から2年以内の発症例を除外した感度解析でも、結果は概ね一貫していた。 著者らは、行政請求データと健診データを統合した大規模解析により、日本の一般住民において、代謝因子、生活習慣、膵疾患関連因子が膵臓がん発症に関与することが示されたと述べている。特に、糖尿病の有無そのものではなくHbA1cがリスクと関連したことから、血糖管理の状態がより重要な指標となる可能性が示唆された。また、膵嚢胞性病変は特に強い関連を示しており、画像検査で偶然発見された膵嚢胞もサーベイランス対象として重要である可能性がある。こうした因子を組み合わせてリスク層別化を行うことで、膵臓がんの早期発見戦略の構築につながることが期待される。 ただし、本研究には限界もある。保険請求データに基づく解析であるため診断誤分類の可能性があり、また潜在する膵臓がんそのものによる代謝変化など、逆因果の影響を完全には排除できない点が挙げられる。

14.

第299回 子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連

<先週の動き> 1.子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連 2.令和5年度病院立入検査、医師・看護師・薬剤師の人員適合率が低下/厚労省 3.高額療養費見直しでパブコメ開始、2026年8月から月額上限引き上げへ/厚労省 4.病院の情報管理に警鐘、研究用PC端末と廃棄媒体から患者データ流出か/九大ほか 5.チルゼパチド製剤の不適切使用に注意喚起、違法流通にも警鐘/リリー 6.髄腔内注射後に死亡、事故調が報告書概要 混入経路は特定できず/埼玉県 1.子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連健康保険組合連合会は6月3日、全国の20~80代3,000人を対象に2026年1月に実施した「医療・介護に関する国民意識調査」の速報版を公表した。医療費・介護費の増加と支え手の減少が進む中、保険料負担を「非常に重い」「やや重い」と感じる人は62.7%に上り、健保連は保険料のさらなる引き上げには限界感があるとみている。医療保険の給付と負担のあり方では、「給付を大幅に絞り込み、負担を軽減」が15.0%、「給付を絞り込み、負担の水準を維持」が25.0%で、給付範囲の見直しを求める回答が計40.0%となった。増加する医療費を賄う方法としては、「自己負担の増加(患者本人の窓口負担)」を選んだ人が30.2%に上り、税金の引き上げまたは新設(12.0%)や保険料の引き上げ(10.8%)を上回った。ただし「わからない」が44.1%と最多で、制度や財源構造への理解不足も示された。世代間負担では、「高齢者の負担増はやむを得ない」が37.1%で、「高齢者負担増は難しく、現役世代の負担増はやむを得ない」の18.1%を大きく上回った。75歳以上でも40.0%が高齢者自身の負担増を容認していた。高齢者医療では、70~74歳の原則2割負担の対象年齢を5歳引き上げる案に賛成35.7%、反対22.5%。将来的に高齢者の窓口負担を原則3割に見直す案も賛成34.2%が反対29.9%を上回ったが、60代以上では慎重姿勢が目立った。その一方で、軽度の体調不良時の受診行動では、大人で「まず医療機関を受診する」は30.6%にとどまるのに対し、18歳未満の子どもでは69.2%に達した。自治体の子供医療費助成について、自己負担が無料でも残りの多くは保険料で賄われることを「知らない」は全体で67.1%、子育て世帯でも54.4%だった。小児の軽症受診には不安軽減という側面がある一方で、時間外受診や小児科・救急外来の負荷にもつながる。健保連は、「無償化の下でも必要性に応じた適切な受診を考えて欲しい」としている。2026年度の健保組合収支は2,890億円の赤字見通しで、約7割の組合が赤字とされる。現役世代の保険料負担、高齢者医療への拠出、子供・子育て支援金の上乗せが重なる中、制度改革には国民への丁寧な説明が欠かせない。医療現場には、単なる受診抑制ではなく、救急性の見極め、家庭での観察、市販薬の活用、適正受診を患者・家族に伝える役割が一段と求められる。 参考 1) 医療・介護に関する国民意識調査-速報版-(健保連) 2) 医療費が増加する中で「患者の窓口負担増で対応すべき」「高齢者の負担増もやむなし」と考える国民が比較的多い-健保連(Gem Med) 3) 体調不良、子ども7割すぐ受診 「無償でも適切利用を」-健保連(時事通信) 4) 健康保険組合 2026年度は「2,890億円赤字」の見通し 加盟組合の約7割が赤字 高齢者医療費への拠出増などで 健保連が集計(TBSテレビ) 2.令和5年度病院立入検査、医師・看護師・薬剤師の人員適合率が低下/厚労省厚生労働省は、2023年度の「医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果」を公表した。対象は全国8,138病院で、7,587病院に検査を実施。実施率は93.2%と前年度から5.4ポイント上昇し、コロナ禍前に近い水準まで回復した。検査は、病院が医療法上の人員、構造設備、管理体制を満たしているかを確認するものだ。その一方で、医療法に基づく医療従事者の標準数への適合率は、主要職種でそろって低下した。医師数は97.9%で前年度比0.4ポイント減、看護師・准看護師数は99.4%で0.1ポイント減、薬剤師数は97.7%で0.4ポイント減だった。医師数では、北海道・東北が94.2%、北陸・甲信越が97.1%と低く、東海99.0%、近畿99.6%との差が目立った。病床規模別では、20~49床の一般病院で医師95.3%、看護師など98.1%、薬剤師93.9%と、小規模病院ほど人材確保の厳しさが示された。医師と看護師などの双方が標準数を満たした病院は全体の97.0%で、前年度の97.5%から低下。医師のみ不足する病院は155施設、看護師などのみ不足する病院は65施設、双方不足は5施設だった。薬剤師は中国地方95.2%、九州96.2%などで低く、病院薬剤師不足の地域差も浮き彫りとなった。管理面では、最も適合率が低かった項目が「サイバーセキュリティの確保」の91.1%だった。次いで職員の健康管理92.1%、医療法許可事項の変更92.7%が低かった。医療情報システムへの攻撃が診療継続を脅かす中、サイバー対策は医療安全上の重要課題として、立入検査でも確認が強まっている。人員不足と情報セキュリティの遅れは、地域医療提供体制と病院運営の持続性に直結する論点となる。人員適合率は医師の働き方改革、地域医療構想、薬剤師確保計画とも重なる課題として、各病院には自院だけでなく地域単位での人材配置と安全管理の再点検が求められる。 参考 1) 医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果について[令和5年度](厚労省) 2) 医療法に基づく人員の適合率、医師、看護職員、薬剤師とも低下-23年度病院立入検査(日本医事新報) 3) 病院の医師配置適合率は97.9%、看護師等は99.4%に低下、サイバーセキュリティ確保が遅れている-2023年度立入検査結果(Gem Med) 3.高額療養費見直しでパブコメ開始、2026年8月から月額上限引き上げへ/厚労省厚生労働省は6月6日、高額療養費制度の見直しに伴う健康保険法施行令等の改正案について、パブリック・コメントの募集を開始した。意見提出の期限は7月6日で、政令案と省令案の双方が対象となる。改正案は、2026年8月から月額負担上限額を1人当たり医療費の伸びに応じて見直し、2027年8月からは応能負担の観点で所得区分を細分化する内容で、公布は2026年7月、施行は同年8月1日を予定している。高額療養費制度は、重い疾病や高額な治療を受ける患者にとって、医療費負担を一定範囲に抑える公的医療保険の中核的なセーフティネットである。今回の見直しでは、低所得者や長期療養者への配慮として、多数回該当の限度額は原則維持し、年収約200万円未満の課税世帯では2027年8月から引き下げる。また、2026年8月から新たに年間上限を設け、長期にわたり継続治療を受ける患者への負担軽減を図るとしている。見直しを巡っては、2025年3月に当時の石破 茂首相がいったん実施見合わせを表明し、その後、社会保障審議会医療保険部会の専門委員会で患者団体、保険者、医療者、有識者へのヒアリングを重ねてきた経緯がある。その一方で、患者団体や保険医協会からは、月額上限の引き上げが治療継続や生活に与える影響を懸念する声が出ている。全国がん患者団体連合会と日本難病・疾病団体協議会の共同声明は、制度の一定の見直し自体には理解を示しつつ、月ごとの限度額については十分に抑制されていないと指摘している。例として、70歳未満で年収約650~770万円の区分では、現行の月額8万100円に医療費超過分の1%を加える水準から、見直し案では11万400円となり、37%増になるとしている。医療現場では、高額薬剤、がん治療、難病治療、透析、免疫疾患治療など、継続的に高額医療を必要とする患者への説明が重要になる。制度変更は、単なる「上限額の引き上げ」にとどまらず、月額負担、多数回該当、年間上限、所得区分の変更を組み合わせて患者ごとの実負担が変わる点に注意が必要となる。受診抑制や治療中断を避けるため、医療機関には、医療ソーシャルワーカーや医事課と連携し、限度額適用認定証、付加給付、自治体制度、分割払い相談などを含めた支援体制の再確認が求められる。 参考 1) 健康保険法施行令等の一部を改正する政令案に関するご意見の募集について(厚労省) 2) 健康保険法施行規則等の一部を改正する省令案に関するご意見の募集について(同) 3) 高額療養費見直し、厚労省が意見募集 7月5日まで(CB news) 4) 今年8月からの高額療養費「値上げ」 厚労省が意見募集開始(保団連) 5) 【募集】高額療養費制度の見直しについてのパブリック・コメント(日本難病・疾病団体協議会) 4.病院の情報管理に警鐘、研究用PC端末と廃棄媒体から患者データ流出か/九大ほか九州大学は6月10日、九州大学病院の患者43人分の氏名と手術動画データが外部に流出した可能性が否定できないと発表した。病院キャンパス内の研究室が管理する研究用端末1台が5月25日に不正アクセスを受け、ランサムウェアに感染したとみられる。教員が端末を起動した際、金銭を求める脅迫文が表示され、大学は直ちにネットワークから遮断した。端末は診療用ネットワークとは分離されており、電子カルテや診療業務への影響は確認されていない。情報の公開や悪用も現時点では確認されておらず、対象患者には個別に連絡し、謝罪している。大学では福岡県警とも連携し、侵入経路や被害範囲を調査する。その一方で、国立病院機構は6月8日、北海道医療センターと北海道がんセンターで廃棄処理を委託したハードディスクがインターネットオークションに転売され、患者や職員の個人情報が流出した可能性があると発表した。回収した90点のうち、31点が北海道医療センター、2点が北海道がんセンターで電子カルテシステムなどに使われていた。少なくとも約18万6,900人分、最大で約51万人分の氏名、住所、疾患名などが含まれる可能性がある。現時点で不正利用は確認されていないが、同機構は処分を受託した石狩市の産業廃棄物処理業者を廃棄物処理法違反の疑いで刑事告発した。2つの事案は、医療情報の漏えいリスクが電子カルテ本体へのサイバー攻撃だけではないことを示す。研究室端末に保存された手術動画、廃棄予定媒体に残った電子カルテ情報のいずれも、診療・研究・教育・廃棄の周辺工程で発生した。医療機関には、端末のアクセス管理、研究データの匿名化、ネットワーク分離、外部記録媒体の暗号化、廃棄時の物理破壊確認、委託先監査まで含めた情報管理体制の再点検が求められる。 参考 1) 九州大学 病院の患者データ 外部流出の可能性否定できない(NHK) 2) 手術動画流出の可能性、九大病院患者43人分 ランサムウェア感染か(朝日新聞) 3) 不正アクセスで手術動画データなど流出か 九州大病院 診療業務は通常通り(CB news) 4) 北海道がんセンターなどの患者情報が流出、最大51万人分…処分予定のHDDがネットオークションに転売(読売新聞) 5.チルゼパチド製剤の不適切使用に注意喚起、違法流通にも警鐘/リリー日本イーライリリーは6月10日、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)の不適切使用に関する声明を公表した。SNSや広告で、美容・痩身・ダイエット目的の使用を推奨していると受け取れる情報が拡散し、さらに許可なく同薬を売買した疑いで男女3人が書類送検されたことを受けた対応。上野 賢一郎厚生労働大臣も、個人間売買は違法であり、適応外使用では思わぬ副作用につながる可能性があるとして、適正使用を呼びかけている。同社は、「国内で承認されているチルゼパチドの効能・効果は『2型糖尿病』のみであり、医師の診断、管理、指導のもと、電子添付文書に則って使用される処方箋医薬品だ」と強調した。2型糖尿病以外の人が美容目的などで使用した場合の有効性・安全性は医学的に確認されていない。また、医薬品を許可なく個人間で売買・転売する行為は薬機法違反であり、管理されていない流通経路で入手した製品は品質や安全性が担保されず、本来の効果が得られないだけでなく、重篤な健康被害を招くリスクがあると警告した。その一方で、同一成分のチルゼパチド製剤には、肥満症治療薬「ゼップバウンド」もある。ただし、対象は高血圧、脂質異常症、耐糖能障害などを伴い、食事療法・運動療法で十分な効果が得られない肥満症患者などに限られ、単なる美容目的の減量とは異なる。医師による客観的診断と適切な処方プロセスが前提となる。報道では、使用済み注射針の不適切廃棄も問題化している。公共トイレなどへの投棄は清掃員らの針刺し事故や血液媒介感染のリスクにつながる。医療機関には、適応、禁忌、副作用説明に加え、入手経路や廃棄方法まで含めた患者教育が求められる。GIP/GLP-1受容体作動薬の需要が急拡大する中、適正使用、違法流通対策、供給管理は、糖尿病診療と肥満症治療の信頼性を守る医療安全上の課題となっている。 参考 1) 当社製品の適正使用に関する取り組み(日本イーライリリー) 2) 美容目的「マンジャロ」使用、製造元日本法人が警告 不適切使用や違法売買「容認できず」(J-CASTニュース) 3) 2型糖尿病治療薬「マンジャロ」の適正使用を推進 日本イーライリリーが不適切使用や違法転売に注意喚起(糖尿病ネットワーク) 4) 「マンジャロ注射針」不法投棄が横行で感染リスクへの懸念も…東京メトロが明かした“針刺し事故”の実例(女性自身) 6.髄腔内注射後に死亡、事故調が報告書概要 混入経路は特定できず/埼玉県埼玉県立小児医療センターは6月12日、白血病患者が抗がん剤の髄腔内注射後に神経症状を発症し、1人が死亡、2人が重体となった問題で、医療事故調査委員会の報告書概要を公表した。センターでは2025年1~10月、髄腔内化学療法を受けた患者5人に発熱、四肢疼痛、意識障害、呼吸障害などの神経症状が出現。死亡した10代男性を含む一部症例の保存髄液から、髄腔内に投与されるはずのない抗がん剤ビンクリスチンが検出された。委員会は、ビンクリスチンが通常の静脈内投与で中枢神経系へ移行する可能性は限定的であることなどから、「髄注薬に混入した状態で投与された可能性が極めて高い」と判断した。その一方で、混入経路を直接示す客観的証拠は確認されず、具体的な工程の特定には至らなかった。搬送、病棟保管、投与の各工程では、専用接続部品が注射筒に装着されていたことなどから、混入は極めて考えにくいと評価した。焦点となったのは無菌調製室での薬剤調製工程だ。報告書は、髄注薬とビンクリスチンが同じ空間に存在し得る運用で、空間的・時間的分離が十分とは言えなかったと指摘。調製完了時刻を客観的に確認できる記録や映像記録がなく、複数名によるリアルタイムの相互確認体制も整備されていなかったため、「調製時に混入した可能性を否定できない」と結論付けた。再発防止策として、髄注薬とビンカアルカロイド系抗がん剤の空間的・時間的分離、薬剤師2人によるダブルチェック、在庫・廃棄管理の強化、監視カメラ設置、マニュアル改定、投与前確認や廃棄工程の標準化、シリンジ払い出し廃止とミニバッグ化、定期監査、継続的な安全教育の9項目を提言した。センターは現在、髄腔内化学療法を中止しており、岡 明病院長は「まずは再発防止策を徹底して安全確保を図る」と述べ、再開時期は県や保健所と協議して検討する考えを示している。 参考 1) 使われるはずない薬「調製時混入の可能性」 埼玉・小児医療センター(朝日新聞) 2) 劇薬管理強化へ9項目 事故調報告書 小児医療センター(毎日新聞) 3) 埼玉の病院の医療死亡事故、調査報告「調剤時の混入否定できず」(日経新聞)

15.

ロルラチニブのALK陽性肺がん1次治療、7年後もPFS中央値に到達せず(CROWN)/ASCO2026

 ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)における1次治療で、ロルラチニブは7年後も無増悪生存期間(PFS)中央値に到達せず、7年PFS割合は50%を超えた。 進行ALK陽性NSCLCの1次治療としてロルラチニブとクリゾチニブを比較した第III相CROWN試験の7年フォローアップの結果をTony S. K. Mok氏(中国・香港中文大学)が米国臨床腫瘍学会年次総会(2026 ASCO Annual Meeting)で発表した。本研究結果はAnnals of Oncology誌に同時掲載されている。 2024年の5年追跡ではロルラチニブ群のPFS中央値は未到達、5年PFS割合は60%であった(ハザード比[HR]:0.19、95%信頼区間[CI]:0.13~0.27)。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:未治療のStageIIIB/IVのALK融合遺伝子陽性NSCLC患者(無症状の中枢神経系[CNS]転移は許容)・試験群:ロルラチニブ(100mg/日)・対照群:クリゾチニブ(250mg×2/日)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、治験担当医師評価によるPFS、奏効割合、頭蓋内奏効割合、奏効期間、頭蓋内奏効期間、頭蓋内病変進行までの期間、安全性など 主な結果は以下のとおり。・ロルラチニブ群の追跡期間中央値は83.0ヵ月、クリゾチニブ群は77.2ヵ月であった。・ロルラチニブ群のPFS中央値は未到達、クリゾチニブ群は9.1ヵ月で、7年PFS割合はロルラチニブ群55%、クリゾチニブ群は3%であった(HR:0.19、95%CI:0.13~0.26)。・疾患進行の多くは最初の2年間に発生しており、ベースラインと2年PFS割合の差は30%、2年と7年PFS割合の差は15%であった(2年時70%、7年時55%)。・投与開始から2年間PFSイベントがなかった患者に絞った7年PFS割合は79%で、全体評価よりも良好であった。・CNS転移の7年PFS(IC-PFS)割合はロルラチニブ群92%、クリゾチニブ群16%であった(HR:0.06、95%CI:0.03~0.12)。・ベースラインでCNS転移がなかった患者におけるロルラチニブ群の7年IC-PFS割合は96%と全体集団よりもさらに良好であった(HR:0.04、95%CI:0.02~0.12)。・有害事象は高脂血症、浮腫、体重増加、認知機能障害など既知のもので、最も多いのは高脂血症であった。・ロルラチニブ群では34%の患者が減量を行った。減量時期の中央値は25週であった。・26週間以内に減量した群と減量しなかった群を比較してもPFS、IC-PFSとも差は認められなかった(PFS中央値、IC-PFS中央値とも両群未到達)。・早期進行患者と長期奏効患者のベースラインctDNAを比べたところ、早期進行患者では異常遺伝子が多く(10 vs.6)、腫瘍変異負荷も高かった(7.7 vs.5.1)。TP53変異は早期進行患者では50%、長期奏効患者では17%に確認された。 この発表について会場から多くの質問が寄せられている。その中から、OSが示されていないことについては、イベント数が中間解析の評価に必要な数に達していないためであるとMok氏は回答した(評価に必要なイベント数139例に対し、評価時のイベントは123例)。ctDNAによる遺伝子検査の可能性については、現状は一部の患者だが今後さらに遺伝学的情報を調べていく旨を示している。 今回の7年追跡結果から、ロルラチニブによる単剤治療は、進行ALK陽性NSCLCを慢性疾患に変化させる可能性がある、とMok氏は結んだ。

16.

あっけらかんとしている患者さんへの対応【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第50回

■外来NGワード「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」(患者のリスク認知や損失回避性に配慮していない)「このまま放っておくと大変なことになりますよ」(具体性に欠ける“脅し”であり、行動変容につながりにくい)「前より悪くなっていますね」(感応度逓減性を考慮せず、小さな変化の意味付けが不十分)■解説血糖コントロール指標であるHbA1cが6%台と良好であっても、わずかな変動に強く反応する人がいる一方で、8~10%と不良な状態であっても、1%程度の変化に無関心な患者さんも存在します。このような反応の違いは、行動経済学のプロスペクト理論によって説明することができます。プロスペクト理論では、人は結果を絶対値ではなく「参照点からの変化」として評価し、その価値は利得と損失で非対称なS字型の関数で表されます。すなわち、「人は同程度の利得よりも損失を強く評価する(損失回避性)一方で、損失が大きくなるにつれて感情の変化は次第に鈍くなる(感応度逓減性)」という特徴があります。そのため、慢性的にHbA1cが高い状態にある患者さんでは、血糖の悪化が日常化し、小さな変化に対する心理的反応が弱くなっている可能性があります。しかし、2型糖尿病においてHbA1cを1%低下させることにより、足病変は43%、腎症や網膜症などの合併症は37%、糖尿病関連死は21%、心血管イベントは14%減少することが報告されています。このような患者さんに対しては、単に数値の変化を指摘するのではなく、目標値を適切に再設定し、具体的かつ達成可能な短期目標を提示することが重要です。さらに、あいまいな医学的おどしではなく、将来のリスクを日常生活のイメージと結びつけて共有することで、行動変容を促せます。■患者さんとの会話でロールプレイ医師血糖コントロールの指標であるHbA1cの値が8.6%から9.1%まで上がっていますね。(具体的に数値の変化を伝え、患者の反応をうかがう)患者うーん、HbA1cが9%と言われても、とくに困ってないし、あまり気にしていません。(正直な気持ちを吐露)医師確かに、0.5%増えたと言われても、「たった、それだけ」と思うかもしれませんね。患者そうなんです。たった、0.5%だし…。それに、症状も何もなくて元気だし…。(感応度逓減性が疑われる言動)医師なるほど。今は、疲れやすいとか、のどがよく渇くとか、トイレの回数が多いなどで症状は感じておられないんですね。(尋ねながら、高血糖症状のポイントを説明)患者…あっ、そういえば仕事が忙しくて疲れていると思っていました。それに、お茶をよく飲むから、トイレの回数が多いと思っていました。(高血糖の症状を誤解していたことに気付く発言)医師確かに、そういった症状が高血糖によるものだと知らない人も多いですね。ただ…。患者ただ?医師ただ、今の状態が続くと、10年、いや数年後に眼や腎臓に高血糖の影響が出る可能性があります。患者えっ、そうなんですか。それなら、どうしたら?医師そんなに、大きく変える必要はありません。たとえば、今の状態からHbA1cを1%だけ下げるだけでも、足の切断リスクは43%、腎臓や眼の合併症は37%、糖尿病関連死は21%、心臓の合併症リスクは14%と、しっかり減りますよ。患者えっ、そうなんですか…1%くらいなら、できそうな気もします。医師いいですね。では、まずは無理のない範囲で、取り組めそうなことを一緒に決めてみましょうか。患者よろしくお願いします。■医師へのお勧めの言葉「今のHbA1cは目標よりも2%も高いです。1%というとちょっとの違いに感じますが、HbA1cを1%減らすだけで、足病変は43%、腎臓や眼の合併症は37%、心臓の合併症は14%もリスクが下がるんですよ!」 1)Stratton IM, et al. BMJ. 2000;321:405-412.2)Holman RR, et al. N Engl J Med. 2008;359:1577-1589.

17.

ACC/AHA脂質異常症GLで格上げの石灰化スコア、30分の心臓ドックで評価/CVIC

 心臓画像診断を専門とする医療法人社団CVIC心臓画像クリニック飯田橋(以下、CVIC)は、30分で心血管リスクを可視化する新サービス「スピーディー心臓ドック」の提供を開始した。これは冠動脈石灰化スコア、大動脈石灰化スコア、心血管バイオマーカー検査を組み合わせたもので、非造影CTおよび血液検査によって行われる。この中に含まれる冠動脈石灰化スコアは、近年その重要性が明らかになっており、米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)の合同委員会が関連学会とともに2026年3月に公開した『脂質異常症管理ガイドライン2026年版』1)において、推奨度が引き上げられた。そこで、CVICは2026年5月27日にメディアラウンドテーブルを開催し、CVIC理事長の寺島 正浩氏が、突然死を防げない日本の健診制度の課題、心血管病予防における画像診断の役割について解説した。最初の発作が最後の発作、突然死の半数以上は症状なし 寺島氏がまず指摘したのは、一般的な健康診断だけでは冠動脈疾患のリスクを十分に把握しにくく、心臓突然死を防ぐことが難しいという問題である。日本の健診で広く行われている心電図や胸部X線は、低コストで簡便なスクリーニング検査として有用である一方、冠動脈の狭窄や動脈硬化の進展を直接評価する検査ではない。 米国のフラミンガム研究では、突然死の50%以上はまったく症状がなかったことが報告されている。また、急性心筋梗塞の68%は50%未満の軽度冠動脈狭窄から生じていたという報告もある。寺島氏は、この突然性が心臓病の問題であると述べる。 一方で、心筋梗塞の多くは予防可能でもある。INTERHEART研究に基づき、喫煙、脂質異常、高血圧、糖尿病、内臓脂肪、ストレス、食事、運動、飲酒といった9つの修正可能な危険因子により、心筋梗塞リスクの9割が説明されることを紹介した。寺島氏は、9割予防可能な病気で死亡する人が後を絶たないことを指摘。その背景には「自分は大丈夫と考え、行動変容に至らない人が多いことがある」と述べた。数字は忘れても自分の画像は忘れない そこで重要になるのが、リスクの「可視化」である。寺島氏は、血圧、LDL-C、血糖値といった数値は忘れてしまうが、冠動脈や大動脈に石灰化がある画像を見れば、その画像は忘れないと指摘する。実際に、画像を提示することで、真剣に治療に取り組むようになった症例を多く経験してきたとのことだ。また、2018年のVIPVIZA試験では頸動脈エコーの結果を視覚的なレポートとして提示することで、治療効果が増大することも報告されている。クラス1推奨に引き上げられた冠動脈石灰化スコア ACC/AHAの『脂質異常症管理ガイドライン2026年版』では、動脈硬化性疾患のリスク評価方法が変更され、PREVENT-ASCVD方程式が採用された。また、PREVENT-ASCVD方程式で中等度リスク、ボーダーラインリスクと判定され、脂質低下療法の開始・強度について判断が難しい場合に、冠動脈石灰化スコアを用いてリスクを再分類することがクラス1推奨として位置付けられた。 冠動脈石灰化スコアは、非造影CTで冠動脈壁の石灰化を定量化する指標である。冠動脈石灰化スコアによる石灰化の分類は、0をなし、1~99を軽度、100~299を中等度、300~999を高度、1000~を超高度とする。このスコアが、冠動脈疾患死亡率や心血管病死亡率と強く関連する。 さらにCVICでは、冠動脈だけでなく大動脈の石灰化にも注目する。大動脈石灰化は冠動脈石灰化よりも先に出現する早期の動脈硬化マーカーとされ、冠動脈石灰化スコアが0であっても60%で大動脈石灰化が認められるとのことだ。30分で完了する「スピーディー心臓ドック」 今回発表された「スピーディー心臓ドック」は、こうした心血管リスク評価を短時間で実施するサービスである。所要時間は来院から検査終了まで約30分。検査方法は非造影CTによる冠動脈・大動脈評価と採血で、検査内容は冠動脈石灰化スコア、大動脈石灰化スコア、心血管バイオマーカー検査で構成される。心血管バイオマーカーは、NT-proBNP、高感度心筋トロポニン、apoB、高感度CRPの4項目である。 寺島氏は、通常の健診では測定されないこれらの項目を組み合わせることで、より詳細な心血管リスクを把握できると説明した。CVICでは、以下をすべて満たす場合を「パーフェクトスコア」とし、心血管リスクがきわめて低い状態として示している。冠動脈石灰化スコア0大動脈石灰化スコア0NT-proBNP<55pg/mLapoB<65mg/dL(または70mg/dL)心筋トロポニンT<0.003ng/mL高感度CRP<0.02mg/dL 講演では、実際の症例も紹介された。そのなかで紹介された60歳女性は、LDL-C、HDL-C、TG、総コレステロールは、健康診断の正常値の範囲に収まっていたという。冠動脈石灰化スコアも0であったが、大動脈石灰化スコアをみると約700であり、中等度の石灰化が認められた。また、apoBも106mg/dLと軽度高値であった。寺島氏は「大動脈石灰化スコアをとることで、このような方が見つかることがある。可視化することで、行動変容につながっていくのではないかと期待している」と語った。Q&A――石灰化スコアは不可逆とのことであるがどれくらいの頻度で実施すべきか? 1回測定したらその後は不要とする意見があるなど、議論が分かれているが、一般的には5年ほどの間隔を空けて測定するのがよいのではないかとされている。しかし、CVICとしては、冠動脈石灰化スコアが100以上、ないしは300以上の方は、2~3年に1回は検査を実施したほうがよいと考えている。このような方のなかで、生活習慣を気にしない方は次回の測定でスコアが2倍になっている場合もある。一方で、生活習慣が改善されてスコアの変動がみられないという方もいる。このような経過を追うために、石灰化スコアを活用するのもよいのではないか。 石灰化は不可逆であるからこそ、早めの対策が重要である。9つの修正可能な危険因子を修正することで、動脈硬化の進行を遅らせることができる。 なお、「スピーディー心臓ドック」は自費検査で、CVICは通常価格を8万8,000円としているが、2026年10月末日まで3万3,000円で提供する予定とのことだ。

18.

「肥満症治療薬中止後のリバウンド」が気になる患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第49回

■外来NGワード「元に戻らないように、気を付けなさい」(あいまいな医学的アドバイス)「リバウンドするかしないかは、あなたの生活習慣の問題です」(患者責任に帰結させ、自己スティグマを強める)「ちゃんと続けないと意味がありませんよ」(努力不足のニュアンスとなり、動機付けを低下させる)■解説肥満症治療薬の1つであるインクレチン関連注射薬は、投与期間が最大68週間とされており、治療開始時から中止を見据えた計画が必要です。そのため、投与中止後のリバウンドを懸念する患者さんは少なくありません。実際、システマティックレビューおよびメタ解析によると、薬物療法中止後には体重が再増加(リバウンド)することが示されています。その程度は、認知行動療法を用いた体重管理プログラムと比較して、薬物療法中止後の体重の再増加(リバウンド)はより速いとされています。その報告によると、平均すると体重は月0.4kg程度増加し、改善していた代謝指標も約1.4年でベースラインに近付きます。こうした体重の再増加(リバウンド)は、生活習慣介入、手術、薬物療法といった減量手段に関わらず生じる現象です。その背景には、体脂肪から分泌されるレプチンによる「脂肪定常説」や除脂肪量の減少によるエネルギー消費量の減少などが関与すると考えられています。したがって、肥満症治療薬中止後のリバウンドを予防には、減量中からリバウンド対策をしておくことが大切です。具体的には、体重測定の習慣化、無理のない運動の継続、満足感を得られる食事とつい食べてしまう習慣対策、そして、リバウンドが始まる休薬後の対策が鍵となります。■患者さんとの会話でロールプレイ医師減量の方は順調なようですね。患者はい。ありがとうございます。けど、この薬、止めたらリバウンドしませんかね。それが今から心配で…。医師なるほど。そうでしたか。その点を気にされる方はとても多いですし、この薬を止めた後、体重が少しずつ戻ることはよく知られています。患者やっぱり…。(残念そうな顔)医師大丈夫です。今から、そのリバウンド対策をしておくといいですよ。患者それはどんな対策ですか。(興味津々)医師どんなダイエット法でも、リバウンドする人には特徴が3つあります。患者その3つって、何ですか?医師まずは、体重計に乗らなくなります。順調に体重が減っているときは体重計に喜んで乗るんですが、少し体重が増えてくると、だんだん乗りたくなりますね。患者確かに…。体重が減っているときは面白くて、1日に何回も体重計に乗りますが、停滞していると乗らなくなりますね。まずは、体重計に乗る習慣を続けるということですね。2つ目は?(メモメモ)医師2つ目は、運動をしなくなることです。逆に、運動習慣がある人はリバウンドしにくいことがよく知られています。患者なるほど。運動を継続するということですね。3つ目は?医師極端な食事療法を行わないことです。極端な食事療法では、食事に満足できず、何かをつまんでしまいます。患者なるほど。減量中に、少しの量で満足できる食事をみつけないといけませんね。医師そうですね。他にも注意点があるのですが、次回、お話しましょう!患者ぜひ、お願いします。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「薬の服用を止めた後にリバウンドしないためのコツは、毎日体重計に乗る、運動を習慣化する、少しの量で満足できる食事を探すことです」 1) West S, et al. BMJ. 2026 Jan 7;392:e085304. 2) Berg S, et al. Obes Rev. 2025 Aug;26(8):e13929. 3) Budini B, et al. EClinicalMedicine. 2026 Mar 4;93:103796. 4) van Baak MA, et al. Curr Obes Rep. 2025 Mar 31;14:28.

19.

「肥満のスティグマ」が気になる患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第48回

■外来NGワード「肥満は自己責任の病気です」(スティグマを助長する発言)「減量できないのは、意志が弱いからです」(意志が弱いと強調)「もっと、努力しないと」(努力不足を責める発言)■解説「スティグマ(stigma)」とは、特定の人や集団に対して否定的な評価や差別的なレッテルを貼ることを指します。語源はギリシャ語の「烙印」に由来します。スティグマは、実際に経験する「経験的スティグマ」と、スティグマに対する恐れである「予期的スティグマ」に大別され、さらに「社会的スティグマ」「罪悪的スティグマ」「自己スティグマ」といった側面があります。社会的スティグマとしては、「採用や昇進で不利に扱われた」「太っているからだらしない」「検査値が悪いのは肥満のせいだ」などと言われることがあります。また、体型について指摘されることを避けるために人前に出ることを控えたり、スポーツジムや医療機関の受診をためらったりする場合があります。罪悪的スティグマとしては、「自己管理ができていないと非難された」「食べ過ぎや運動不足と決めつけられた」「努力不足とみなされた」といった経験が挙げられます。また、生活習慣のせいにされることを懸念して、食事内容を過少に申告することもあります。自己スティグマとしては、「自分は意志が弱くてだめな人間だ」と自己評価を低くしたり、受診や相談をためらったり、「自分は痩せられない」と思い込んだりすることが見られます。これらのスティグマは相互に関連しており、受療行動の抑制や生活習慣改善への動機低下を介して、長期的な健康アウトカムに影響を及ぼす可能性があります。そのため、臨床現場ではスティグマを軽減するための配慮あるコミュニケーションが求められます。■患者さんとの会話でロールプレイ患者先生、この間、ある人から「あなた太っているわね」って言われて…「私、意志が弱くて、だめなんですよね」…(「太っている=自己管理ができていない」と認識)。医師そう感じられる方は多いですね。でも、肥満症は「自己責任」だけではなく、体質・遺伝・ホルモン・心理的ストレスなど、いろんな要因が重なって起こる“病気”の1つなんですよ。患者えっ、そうなんですか? でも周りから「食べすぎ」「運動不足」って言われると、「意志が弱い」って、自分を責めてしまって…。医師なるほど。それが「スティグマ(偏見)」の典型ですね。実際、大半の太っている人が「自分のせい」だと感じているという調査もありますが、肥満症という病気は慢性疾患の1つで、糖尿病や高血圧と同じように適切な診断と治療が必要なんですよ。患者えっ、そうなんですか。肥満症の治療って、薬を飲むことですか?医師場合によってはお薬も使いますが、生活の中でできる範囲から一緒に取り組むのが基本になります。患者なるほど。どんなことに気を付けたらいいですか?医師体重増加は30kcal、もったいないからと、ちょこっとだけ余分なものを食べることから始まります。患者その一口が…ですね。30 kcalというとどのくらいですか?医師クッキー1枚とか、チョコ1かけになりますね。これがその一覧です(表をみせながら説明)。患者そのくらいなら我慢できそうです。医師まずは、余分なものを食べない習慣を取り入れてもらうと、チリも積もれば山となるので、少しずつ体重が減ると思いますよ!患者はい。わかりました。頑張ってやってみます。(うれしそうな顔)何より大切です。■医師へのお勧めの言葉「意志が弱いと思っている方にダイエット法がありますよ!」「体重増加は、もったいないと思って食べる、その1口、30 kcalから始まっています。まずは余分なものを食べないことから始めてみませんか?」

20.

ロキソプロフェン、トラマドール、PPI…、高齢者疼痛管理の見直しポイント【高齢者処方のデザイン】第1回

以下の症例に対する前医での処方箋には「替えるべきポイント」が3つ隠れています。あなたは見抜けますか?【症例】患者78歳・女性変形性膝関節症と慢性腰痛で整形外科に通院中。既往に胃潰瘍(8年前、ピロリ菌除菌後)、高血圧、脂質異常症、骨粗鬆症があり、直近の血液検査でeGFR 48と腎機能低下を認める。前医では疼痛に対してロキソプロフェンが定期処方され、痛みが強い時にはトラマドールを頓用、加えてランソプラゾールが継続されている。また、併存症に対してロサルタン、ロスバスタチン、アレンドロン酸が処方されている。最近、食欲低下と軽度の倦怠感を訴えて来院した。痛みのコントロールは「まあまあ」とのことだが、便秘とふらつきも自覚しているという。トラマドールは1日平均1~2錠程度内服している。診察上、両膝に軽度の腫脹を認めるが、消化器症状や明らかな浮腫は乏しい。【Before:前医の処方箋】A)ロキソプロフェン 60mg 1日3回 毎食後B)トラマドール 25mg 疼痛時頓用C)ランソプラゾール 15mg 1日1回 朝食後D)ロサルタン 50mg 1日1回 朝食後E)ロスバスタチン 2.5mg 1日1回 朝食後F)アレンドロン酸 35mg 週1回 起床時A)ロキソプロフェン 60mg 1日3回 毎食後B)トラマドール 25mg 疼痛時頓用C)ランソプラゾール 15mg 1日1回 朝食後D)ロサルタン 50mg 1日1回 朝食後E)ロスバスタチン 2.5mg 1日1回 朝食後F)アレンドロン酸 35mg 週1回 起床時 1) Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525. 2) Derry S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;5:CD008609. 3) Roth SH, et al. J Pain Res. 2011;4:159-167. 4) Chappell AS, et al. Pain. 2009;146:253-260. 5) Chappell AS, et al. Pain Pract. 2011;11:33-41. 6) Kolasinski SL, et al. Arthritis Rheumatol. 2020;72:220-233. 7) 日本整形外科学会 変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会編. 変形性膝関節症診療ガイドライン2023. 南江堂; 2023. 8) 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023;71:2052-2081. 講師紹介

検索結果 合計:921件 表示位置:1 - 20