13.
<先週の動き> 1.糖尿病薬の適正使用について、医師と患者に注意喚起/PMDA 2.百日咳患者が前年比3倍に急増、ワクチン接種と耐性菌対応が急務に/厚労省 3.国立大学病院の6割が赤字見通し、医師の働き方改革と物価高が直撃/国立大学病院長会議 4.子どもの数、過去最少に 出生数減少が深刻化/総務省 5.地方公務員の医師が無許可で副業、2,740万円報酬で免職/静岡県 6.「逆子」施術で医療事故、書類送検の医師に謝罪なし/京都府 1.糖尿病薬の適正使用について、医師と患者に注意喚起/PMDA近年、2型糖尿病治療薬として承認されているGLP-1受容体作動薬リラグルチド(商品名:ビクトーザ)およびGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(同:マンジャロなど)を、痩身や美容目的で適応外使用するケースが急増しており、重大な健康被害も報告されている。これを受け、製薬企業各社および医薬品医療機器総合機構(PMDA)、日本糖尿病学会が相次いで注意喚起を行っている。これらの薬剤は、本来「2型糖尿病」に限定して承認されたものであり、減量や美容目的での使用は認められていない。また、肥満症の適用を取得しているGLP-1受容体作動薬セマグルチド(ウゴービ皮下注)についても、適用患者はBMI27以上で、2つ以上の肥満に関連する合併症(高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患など)を有する、またはBMI35以上の成人の肥満症に対して、6ヵ月以上の食事療法・運動療法を行い、効果不十分の患者に処方可能とされている。実際、ダイエット目的で処方された患者が、嘔吐・下痢・意識喪失などの副作用を訴える事例も相次いでいる。オンライン診療や美容クリニックにおいて「簡単に痩せる薬」として紹介されて処方されるケースが多く、安易な使用が健康リスクを高めている。日本糖尿病学会は、適用外使用によって本来の患者への供給が妨げられる問題も深刻だとし、2023年11月に見解を改訂。不適切な広告や処方を厳しく戒め、医師による慎重な対応を求めている。また、PMDAは、承認効能外での使用を助長する広告や診療が確認された場合には、速やかに規制当局へ報告する体制をとると発表した。さらに、GLP-1作動薬を肥満症治療に用いるには、セマグルチドのように、厚生労働省が定めた適正使用推進ガイドラインに基づいて、施設側には専門医の所属あるいは専門医が所属する施設と適切な連携体制の確立のほか、常勤の管理栄養士による適切な栄養指導ができることが条件になっており、適切な処方が求められている。製薬会社、医療機関、学会のいずれもが「安全性と有効性が確認された範囲での適正使用」を強調しており、医療関係者および患者に対し、安易なダイエット目的での使用を控えるよう改めて強く呼びかけている。 参考 1) GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に関するお知らせ(PMDA) 2) GLP-1受容体作動薬及び GIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について(同) 3) 最適使用推進ガイドライン セマグルチド(厚労省) 4) GLP-1受容体作動薬および GIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解(糖尿病学会) 5) 糖尿病治療薬の「ダイエット薬」としての使用の危険性を改めて強調、医療関係者・患者ともに「適正な使用」に協力を!-PMDA(Gem Med) 6) GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に関するお知らせ(ノボ) 7) 【GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬】ダイエット目的での使用に関する注意喚起について(リリー) 2.百日咳患者が前年比3倍に急増、ワクチン接種と耐性菌対応が急務に/厚労省国立健康危機管理研究機構(JIH)によれば、百日咳の感染が全国的に拡大していることが明らかになった。今年の累計患者数は5月初旬時点で1万1,921人に達し、前年(4,054人)の約3倍に上っている。4月21~27日の1週間だけで2,176人の新規患者が報告され、5週連続で過去最多を更新した。新潟県では感染者が全国最多となるなど、各地で過去に例のない規模で流行が続いている。百日咳は細菌による呼吸器感染症で、激しい咳が長期間続き、とくに生後6ヵ月未満の乳児が感染すると重症化して肺炎や脳症、死亡のリスクもある。主な感染経路は飛沫感染で、家庭や学校などでの拡大が指摘されている。今シーズンは、抗菌薬が効きにくい「耐性菌」の感染例も報告されており、治療が難航するケースもある。各自治体では手洗いやマスク着用など基本的な感染対策の徹底を呼びかけており、日本小児科学会は、生後2ヵ月以降の定期接種ワクチンの速やかな実施を推奨。宮城県では追加接種や妊婦へのワクチン接種で母子の抗体を高める対策も紹介されている。10代や小学生を中心とした感染の広がりが目立ち、学校などでの集団感染の可能性も懸念されている。大型連休明けの今後、さらなる拡大を防ぐには、予防接種と日常的な感染対策の両立が鍵となる。 参考 1) 百日せきの累計患者1万人超、5週連続最多…治療薬効きにくい耐性菌が広がったか(読売新聞) 2) 都内の百日咳報告数 連休で前週比3割減 132人、累計は1千人に迫る(CB news) 3) 百日せき ことしの患者が1万人超える 去年1年間の倍以上に(NHK) 4) 百日せき 症状や注意点は? 2025年は流行中 乳児は特に注意を 患者増加で過去最多5週連続に(同) 5) 百日せき感染状況MAP(同) 3.国立大学病院の6割が赤字見通し、医師の働き方改革と物価高が直撃/国立大学病院長会議国立大学病院長会議は2025年5月9日、全国42の国立大学病院のうち6割に当たる25病院が、2024年度決算で赤字になる見通しであると発表した。赤字総額は、前年度の約26億円から大幅に膨らみ、213億円に達する。国立大病院全体として赤字となるのは2年連続となり、経営の悪化が深刻化している。赤字の主な要因は、物価やエネルギー価格の上昇と、「医師の働き方改革」や人事院勧告対応に伴う人件費の急増。2023年度と比較して人件費は284億円増加した一方、診療報酬改定などによる増収は111億円に止まり、コスト増を賄いきれていない。診療材料や医薬品費も20~40%上昇し、高度な医療を提供すればするほど赤字が膨らむ構造となっている。加えて、診療報酬は公定価格で柔軟な調整が難しく、物価高騰に制度が追いついていない状況。赤字幅は一部基金による支援で抑えられたが、根本的な改善には至っていない。大鳥 精司会長(千葉大学病院長)は「診療数を増やしても材料費が高騰しており、やればやるだけ赤字になる」と語り、報酬の引き上げと財政支援の必要性を訴えている。現場ではすでに節約努力が限界に達しており、「あと1~2年で資金が枯渇する病院も出る」との懸念も示された。病院の経営悪化は大学本体の財政にも波及しかねず、国立大病院全体の存続に関わる危機として注視が必要だ。 参考 1) 国立大病院の6割が赤字見通し 2024年度「働き方改革」による人件費増や物価高影響(産経新聞) 2) 国立大病院213億円の赤字、24年度収支 6割の病院が赤字(CB news) 3) 国立大病院、6割が赤字 前年度を大幅に上回る 24年度決算(毎日新聞) 4.子どもの数、過去最少に 出生数減少が深刻化/総務省総務省が子どもの日にあわせて公表した統計によると、今年4月1日時点の15歳未満の子どもの数は1,366万人で、前年より35万人減少し、過去最少を更新した。減少は44年連続で、総人口に占める割合も11.1%と過去最低を記録している。1975年以降、51年連続で割合が低下しており、少子化の進行に歯止めがかかっていないことが鮮明になった。年齢別では、0~2歳が222万人(全体の1.8%)、3~5歳が250万人(2.0%)と、年少層ほど人口が少ない構造が続いている。将来的な労働力や社会保障の担い手が着実に減少していることがうかがえる。都道府県別でもすべての地域で子どもの数が前年を下回り、割合が最も高かったのは沖縄県の15.8%、最も低かったのは秋田県の8.8%だった。少子化は医療や社会保障、教育など多方面に影響を及ぼす。とくに医療では、出生数の減少とともに産婦人科や小児科の診療体制の維持が課題となっており、地方では分娩施設そのものが減少している現状がある。出生率は近年1.3%前後で推移しており、同時に65歳以上の高齢者が総人口の29%を超える中、医療ニーズの変化への対応も急務となっている。地域における出産医療の体制は、今後さらに集約・再編が進むとみられ、自治体による子育て支援や住環境整備といった包括的な政策とあわせて、医療資源の再配分と効率的な活用が要望されている。また、医療関係者にも、地域の実情を踏まえた持続可能な体制構築への関与が求められている。 参考 1) 我が国のこどもの数-「こどもの日」にちなんで-(総務省) 2) 15歳未満の子ども数は44年連続、人口に占める子どもの割合は51年連続で減少-総務省(Gem Med) 3) 子どもの数1,366万人、44年連続減で最低更新 1,400万人割る(日経新聞) 4) 15歳未満の子ども、人口の11.1%に 日本で進む人口危機(CNN) 5) 「世界一安全」な医療が崩れる!? 少子化に苦しむ“産婦人科”「出産費用の保険適用化」がもたらす“負”のシナリオとは(弁護士JPニュース) 6) 地元の病院で産めない…なぜ?いま何が?(NHK) 7) 子どもの数 44年連続減少 手厚い住宅支援に取り組む自治体も(同) 5.地方公務員の医師が無許可で副業、2,740万円報酬で免職/静岡県静岡県は2025年5月9日、健康福祉部の男性理事(62)を、地方公務員法に違反する無許可の兼業行為により懲戒免職とした。部長級職員の懲戒免職は県政史上初めてとなる。理事は、2019年10月~2024年12月までの約5年間、県外の複数の医療機関で診療業務に従事し、25の医療法人から計約2,740万円の報酬を得ていた。理事は県職員であることを伏せ、有給休暇などを使って少なくとも310日勤務。内部通報により発覚し、県が調査を進めたが、本人は一貫して否定。しかし、医療機関への聞き取りなどで事実が判明した。理事は2021年にも同様の無許可診療で文書訓告を受けていたが、再発し、反省もみられなかったことから、最も重い懲戒免職処分とされた。医師は医療提供体制や災害医療、医師確保事業の中核を担っており、県庁内では「県民への裏切り」との批判とともに「穴は大きい」との懸念も出ている。県は税務署や警察にも情報提供し、後任には地域医療課技監を専任配置した。地方公務員についても兼業を原則容認する国の方針はあるが、現状、地方公務員法第38条では今も営利活動には許可が必要であり、無許可の副業は懲戒対象となる。今回の事例は制度の運用とモラル両面での課題を浮き彫りにしている。 参考 1) 兼業許可得ず診療 医師免許持つ静岡県幹部職員を懲戒免職(NHK) 2) 静岡県理事を無許可兼業で懲戒免職…県外の医療機関に勤務、部長級の懲戒免職処分は県政史上初(読売新聞) 3) 副業で計2,740万円あまりの収入…医師免許を持つ県幹部が兼業許可を受けずに県外の医療機関で診療業務に従事し報酬得る 複数の医療法人から給与の受領も 事情聴取に事実を否定も懲戒免職(テレビ静岡) 4) 地方公務員の兼業について(総務省) 5) 地方公務員の兼業・副業促す 総務省が自治体に基準明示(日経新聞) 6.「逆子」施術で医療事故、書類送検の医師に謝罪なし/京都府京都第一赤十字病院(京都市東山区)で、「逆子」の胎児に対して行われた医療行為に関して、施術を担当した50代の男性医師が業務上過失傷害の疑いで京都府警に書類送検された。医師は2020年12月、当時妊娠中だった女性(当時37歳)に対し、腹部を圧迫して胎児を正常な向きに戻す「外回転術」を2度実施。その際、胎児が低酸素状態に陥ったにもかかわらず、緊急帝王切開などの適切な処置を怠った疑いが持たれている。その後、女性は別の医師による帝王切開で出産したが、生まれた男児(現在4歳)は脳の大部分に損傷を受け、脳性麻痺などの重度障害が残った。母親は2023年7月、医師を刑事告訴。京都府警が捜査を進めていた。病院側は「医療過誤があった」と認め、再発防止に取り組むとしているが、医師個人からの謝罪はなく、すでに同病院を退職し、他の医療機関に勤務しているという。母親は「息子の人生にどれほど重いものを残したか。正面から受け止めてほしい」「この件が医療の在り方を見直すきっかけになれば」とコメントしている。今回の事案は、出産医療におけるリスク対応と説明責任のあり方を問い直す事例となっている。 参考 1) 逆子の治療で重い障害負わせた疑い、医師を書類送検(朝日新聞) 2) 「逆子矯正」で胎児に障害、適切な処置怠った疑いで医師を書類送検(読売新聞) 3) 逆子の胎児を回転処置で低酸素状態に 帝王切開せず脳性まひなど障害残す 医師を書類送検(産経新聞)