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日本の全国レセプトデータベース(NDB)を用いて、2011~22年にがん診療を受けた約2,320万人を対象とした大規模解析が実施された。その結果、がん診療に伴う医療費は日本の経済成長率を大きく上回るペースで増加しており、とくに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を中心とする新規抗がん薬が医療費増加の主要因であることが明らかになった。京都大学の福山 啓太氏らによる研究はScientific Reports誌オンライン版2026年6月15日号に掲載された。 本後ろ向きコホート研究では、2011年4月~2022年3月に悪性腫瘍と診断された患者をがん種別に分類し、月ごとの保険請求額と適用薬剤を分析した。対象は悪性腫瘍患者約2,320万人(男性:約1,203万人、女性:約1,118万人)で、95%以上の電子レセプトを網羅する全国データを利用し、がん種別、年齢別、薬剤別に医療費を評価した。また、薬価改定を反映した独自のマスターデータを構築し、薬剤価格の経年変化も考慮した。 主な結果は以下のとおり。・患者数では乳がんが最多で、胃がん、大腸がん、肺がん、前立腺がんが続いた。・総医療費が最も高額だったのは肺がんだった。肺がんの患者数は減少傾向にあるにもかかわらず、診療費は解析期間を通じて増加を続け、2022年には全がん種で最大となった。一方、患者1人当たりの月額医療費では多発性骨髄腫が最も高く、2022年3月時点で約40万9,000円に達した。・研究期間中、がん患者の月当たり人数は612万人から544万人へ約68万人減少したにもかかわらず月額総請求額は5,590億円から7,100億円へ約1,510億円増加しており、1人当たり医療費の増加が認められた。・薬剤費の解析では、ICIの増加が際立った。肺がんではPD-1/PD-L1阻害薬が急速に普及し、分子標的薬やVEGF阻害薬とともに薬剤費増加の主因となっていた。乳がんではHER2標的薬やCDK4/6阻害薬、胃がんではPD-1/PD-L1阻害薬およびVEGF阻害薬、前立腺がんでは新規ホルモン療法薬の使用増加が確認された。・抗がん薬全体の薬剤費は、2011年の月347億円から2022年には1,090億円へと約3.1倍に増加した。なかでもICI関連薬剤は薬価改定により一部価格が引き下げられたものの、新規適応拡大や使用患者数の増加により、総薬剤費は増加を続けた。 同期間における日本の実質GDPは約8.5%の増加にとどまった。これに対し、がん診療費は約1.27倍、抗がん薬剤費は約3.1倍に増加しており、研究者らは「がん診療費の伸びは経済成長を大きく上回っている」と指摘する。一方で研究者らは、「本研究は高額薬剤の使用抑制を提案するものではない。ICIや分子標的薬は臨床試験で有効性が示され、患者予後の改善に大きく寄与している。しかし、公的保険制度の持続可能性を考えると、個々の薬剤の増分費用効果比(ICER)のみでは十分とは言えず、国家経済や医療財政全体を踏まえた新たな評価指標の構築が必要だ」としている。さらに、がん検診による早期発見やワクチンによる予防は、高額な薬物療法を回避できる可能性があり、医療経済の観点からも重要な介入となる可能性が示唆された。