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ASCO2020レポート 老年腫瘍

レポーター紹介高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療の有用性を評価した臨床試験1)高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療社会の高齢化に伴い、がんを罹患している高齢者(以下、高齢がん患者)は増加し続けている。これまで、がん治療については腫瘍科医が、高齢者の一般診療については老年科医が別々に行ってきたが、この連携は必ずしも十分でなかった可能性がある。高齢者総合的機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は、老年医学領域では日常的に行われている、患者が有する身体的・精神的・社会的な機能を多角的に評価し、脆弱な点が見つかれば、それに対するサポートを行う診療手法である2)。具体的な評価項目(ドメイン)としては、生活機能、併存症、薬剤、栄養、認知機能、気分、社会支援、老年症候群(転倒、せん妄、失禁、骨粗鬆症など)である(表1)。画像を拡大するがん領域ではCGAに慣れている医療者が少ないため、まずは評価だけでも実施してみる、というのが世界的な流れであった(注:がん領域では、CGAから「総合的」が抜け、高齢者機能評価[geriatric assessment:GA]と表記されることが多い)。さまざまな研究の結果、GAは、1)重篤な有害事象を予測する因子になりうる、2)生命予後を予測する因子になりうる、3)通常の診療では気付かない障害を明らかにする、4)治療方針を決定する際の参考情報となる、ことが示された。この結果、国内外のガイドラインでは、高齢がん患者に対してGAを実施することが推奨されている3,4)。しかし、がん領域ではGAによる「評価」ばかりが注目されており、「脆弱性に対するサポート」は注目されてこなかった。今回いよいよ、がん領域でもGAによる評価だけでなく、脆弱性に対するサポートも含めた診療の有用性を評価すべくランダム化比較試験が施行され、その結果がASCO2020で発表された。「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」の有用性を評価した多施設共同クラスター・ランダム化比較試験米国のMohileらは、「通常のがん診療」と比較して、「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」が、重篤な有害事象発生割合を減らすか否かを検討するために、多施設共同クラスター・ランダム化比較試験を実施した。主な適格規準は、70歳以上、根治不能III期またはIV期の全がん種、治療前に行われたGAで少なくとも1つに障害がある、がん薬物治療が予定されている、などであった。standard armは通常診療(治療前に行われたGAの結果すら伝えない通常の診療)であり、test armは介入ケア(GAを実施し、その結果とサポート方法の提案を患者と医療者に伝える診療)であった。なお、国内外のガイドラインでGAが推奨されているにもかかわらず、standard armがGAを実施しない通常診療とされている理由は、現時点では、米国でも日常診療でGAを実施していないためである。介入ケア群での提案内容については、現時点では公表されておらず、また介入ケア群では、あくまで提案を伝えるのみであり、提案によって治療法を変更するよう強制したものではなかった。試験デザインとして、「施設」をランダム化するクラスター・ランダム化デザインを採用した。これは、通常の試験のように「患者」を両群に割り付けると、同じ医療者または同じ施設にもかかわらず、患者によって異なるアプローチを取ることになり、患者によっては不満を募らせる可能性があること、医療者がどちらか良い印象を持った診療を行ってしまうことで診療の効果が薄まることが予想されたためである。primary endpointは3ヵ月以内にGrade3~5の有害事象を経験した患者の割合、secondary endpointは6ヵ月時点での生存期間などであった。2013年から2019年にかけて、41施設が登録された(患者数:718例)。通常診療群と比較して介入ケア群では、消化器がんが多く(30.9% vs.38.1%)、肺がんが少なく(31.4% vs.18.1%)、黒人が多く(3.3% vs.11.5%)、既治療例が多かった(22.7% vs.30.8%)。Grade3~5の有害事象は、通常診療群で71.0%、介入ケア群で50.1%であり、介入ケア群で有意に低かった。相対リスク比(RR)は0.74(95%CI:0.63~0.87、p=0.0002)であり、この差はほとんどが非血液毒性によるものであった(RR:0.73、95%CI:0.53~1.0、p<0.05)。secondary endpointの1つである6ヵ月時点での生存期間は、通常診療群で74.3%、試験診療群で71.3%であった。介入ケア群では、1コース目でより多くの患者が強度を下げた治療を受けた(35.0% vs.48.7%)。治療開始3ヵ月以内の投与量変更は介入ケア群のほうが少なかった(57.5% vs.42.1%)。Mohileらは、GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝えることで、生存期間を大きく損なうことなく、Grade3~5の有害事象を減らした、1コース目での治療強度の低下でこれらの結果を説明できる可能性がある、と結論付けている。感想「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」が、重篤な有害事象発生割合を減らすことが示された。現時点では、具体的なサポート方法が公表されていないため、最も重要な部分がわからないが、丁寧に高齢者を評価してサポートすれば、重篤な有害事象が減少するのは理解しやすいと思われる。一方、Mohileらは、「生存期間を大きく損なうことなく、Grade3~5の有害事象を減らした」と結論付けているが、これは全面的に受け入れられないと考える。今回公表されたのは「6ヵ月」時点での生存期間であり、余命が短い高齢者とはいえ、「6ヵ月」時点の生存期間だけを比較して、生存期間は同じくらいであったというのは無理があるように思う。追跡期間は1年とのことなので、今後1年時点の生存期間に大きな差がないかは確認する必要はあるだろう。また、本試験の特性上、施設をクラスター・ランダム化するしかなかったので仕方ないとはいえ、がん種や治療レジメンなどの背景因子が両群でそろっていない状態での群間比較であるため、有害事象や生存期間などの結果を全面的に信じることはできないと考える。しかし、「通常のがん診療」と「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」を比較する場合はクラスター・ランダム化比較試験を選択するのは間違いではなく、それが故に背景因子がそろわないことはやむを得ないともいえる。つまり、今後もこれ以上、質の高い臨床試験は現れない可能性があることになる。したがって、今回の結果をうのみにしないまでも、Mohileらの結論に臨床的な違和感を覚えないのであれば、「高齢がん患者にとってつらいGrade3~5の非血液毒性が減り、そこまで生存期間が短くならない可能性がある」ということくらいは言ってもよいかもしれない。参考1)Gupta Mohile S, et al. ASCO 2020.2)健康長寿診療ハンドブック―実地医家のための老年医学のエッセンス―3)NCCN GUIDELINES FOR SPECIFIC POPULATIONS: Older Adult Oncology4)Wildiers H, et al. J Clin Oncol. 2014;32:2595-2603.

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フレイルの健診に有用なテキスト公開/国立長寿医療研究センター

 2020年6月、健康長寿教室テキスト第2版が国立長寿医療研究センターの老年学・社会科学研究センターのホームページ上に公開された。これは同施設のフレイル予防医学研究室(室長:佐竹 昭介氏)が手がけたもので、2014年に初版が発刊、6年ぶりの改訂となる。 健康長寿教室テキストは介護予防に役立てるためのパンフレットで、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム(通称:ロコモ)に関する基本的概念に加え、実践編として「お口の体操」「運動」「フレイルや低栄養を予防するための食事の工夫やレシピ」などが掲載されている。このほかにも、最新の話題として、新型コロナなどによる外出制限時の対策にも応用できる内容が紹介されている。なお、健康長寿教室テキストは無料でダウンロードして使えるため、後期高齢者健康診査(いわゆるフレイルの健診)、スタッフ研修、敬老会の資料としても有用である。 健康長寿教室テキストの改訂にあたり荒井 秀典氏(国立長寿医療研究センター理事長)は、「当センターのみならず、国内外で明らかになった成果を取り入れ、お口の健康に関する内容を充実するとともに、よりわかりやすく健康的な食事のレシピや最新版の運動プログラムを含めた内容に一新した。高齢者では多くの病気を合併することが多いが、病気の適切な診断と治療を行うことはもとより、加齢とともに心身が衰えてくる『フレイル』の予防を行うことで、真の健康寿命の延伸をめざした全人的医療を行っている。病気の治療はどの医療機関でもできるが、本テキストに載っているようなフレイル予防を実践しているところはまだまだ少ないのが現状」とし、また、「新型コロナウイルス感染症の影響で外出を控えるようになり、地域での活動も制限され、『生活不活発』による身体機能の低下も懸念されている。本テキストをさまざまな現場で活用することにより、フレイルにならずにいつまでも元気で長生きしていただけることを祈念している」と述べている。<健康長寿教室テキスト目次>◆知識向上編第1章 健康寿命とフレイル第2章 フレイルに関連する状態◆実践編第3章 フレイルを予防するお口のお手入れ第4章 フレイルを予防する栄養第5章 フレイルを予防する運動第6章 フレイルを予防する生活第7章 老いと上手に付き合うために

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入院を契機にADLが低下した患者の処方薬見直し【うまくいく!処方提案プラクティス】第22回

 今回は、入院を契機にADLが低下し、それまでの服用薬を見直した事例を紹介します。患者さんの生活様式が変わることでそれまで必要だった薬剤が不要になるケースもありますので、処方薬を点検して、現在の状態と処方薬の必要性が合致しているかを確認しましょう。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患:心房細動、高血圧、骨粗鬆症訪問診療の間隔:2週間に1回副作用歴:エドキサバン服用による歯茎と鼻出血のため服用中止処方内容1.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1カプセル 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後4.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 週1回土曜日5.スボレキサント錠15mg 1錠 分1 夕食後6.酸化マグネシウム錠330mg 1錠 分1 夕食後7.経腸成分栄養剤(2−2)液 750mL 分3 朝昼夕食後(入院中の新規開始薬)本症例のポイント患者さんは施設入居中に急性巣状腎炎と細菌性誤嚥性肺炎を発症し、入院することになりました。入院前は車いすで生活していたものの、トイレや食事も自分で行っていましたが、入院中はほぼベッド上で過ごし、トイレや食事介助が必要になるなどADLが低下しました。また、食事摂取が進まず、嚥下機能も低下したため、末梢静脈栄養が行われましたが、退院に向けた内服への切り替えとして経腸成分栄養剤(2−2)液が開始されました。退院後の訪問診療の同行の際に気になる点がいくつかあったため、まとめることにしました。1.嚥下機能低下により錠剤の服用が困難嚥下機能が低下し、錠剤の服用が困難となりました。とくにアレンドロン酸錠を起床時に上体を起こして飲むことが難しく、無理な服用から食道潰瘍のリスクにもつながる懸念がありました。注射薬への変更、もしくは骨折リスクが低いようであれば中止を提案することにしました。なお、ビスホスホネート製剤を中止した場合、活性型ビタミンD3製剤単独での治療効果も限定的であることから両剤とも中止が望ましいと考えました。2.降圧薬の服用により低血圧に入院前の血圧は、おおむね収縮期/拡張期:130〜140/70〜80で推移していましたが、ADL低下に伴い食事摂取がほとんどなくなり、血圧の低下がありました。このまま服用を続けると低血圧を起こして転倒のリスクもあるため、降圧薬の中止が妥当と判断しました。3.日中の傾眠からスボレキサントを変更スボレキサントは湿度と光の影響を受けるため粉砕不可ですので、代替薬を考えることにしました。また、看護師より日中の傾眠が強くて食事摂取が安定しないので、もう少しマイルドな薬に変更できないかという相談もありました。そこで、睡眠−覚醒リズムの改善と昼夜のメリハリ、夜間睡眠に加えて朝や日中の症状改善効果のあるラメルテオン錠を粉砕して対応することを検討しました。処方提案と経過訪問診療同行時に、医師に上記3点について口頭で相談したところ、内服薬を少なくすることで誤嚥のリスクも減らすことができるから夕食後の薬のみにまとめよう、と了承を得ました。降圧薬に関しては、食事摂取量が安定してきたところで再度血圧評価をして、再開についてはそこで再検討することになりました。内服薬変更後の血圧推移は、収縮期/拡張期:120〜130/70〜80の幅で推移しており、夜間の中途覚醒や入眠障害などもなく経過しました。食事摂取量は、経腸成分栄養剤(2−2)液を70〜80%ほど摂れるようになってきました。現在、引き続き食事摂取量や血圧推移、内服薬の服用状況をモニタリングしています。Avenell A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD000227.Reid IR, et al. Lancet. 2014;383:146-155. 矢吹拓 編. 薬の上手な出し方&やめ方. 医学書院;2020.

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亜鉛欠乏症診療ガイドライン、味覚障害など症例別の治療効果が充実

 亜鉛欠乏症は世界で約20億人いるものの、世界的に認知度が低い疾患である。そして、日本も例外ではないー。日本臨床栄養学会ミネラル栄養部会の児玉 浩子氏(帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科教授・学科長)が委員長を務め、2018年7月に発刊された『亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018』の概要がInternational Journal of Molecular Sciences誌2020年4月22日号に掲載された。 亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018にて、同氏らは亜鉛欠乏症の診断基準を以下のように示した。(a)症状(皮膚炎、口内炎、味覚障害など)/検査所見(ALP:血清アルカリホスファターゼ低値)のうち、1項目以上を満たす(b)他の疾患が否定される(c)血清亜鉛が低値-血清亜鉛値60μg/dL未満:亜鉛欠乏症、血清亜鉛値60~80μg/dL未満:潜在性亜鉛欠乏とする。(d)亜鉛補充により症状が改善する。亜鉛欠乏症診療ガイドラインは亜鉛投与による治療効果、基礎疾患ごとの症例を豊富に記載 亜鉛欠乏症はさまざまな病態で併発する。その症状はさまざまで、とくに皮膚炎や味覚障害、貧血、易感染などを訴える患者については血清亜鉛濃度の測定が望ましい。一方、慢性肝疾患、糖尿病、慢性炎症性腸疾患、腎不全では、しばしば血清亜鉛値が低値であるにも関わらず、前述のような症状を訴えない場合もある。亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善する場合があることから、亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018には「これら疾患を有する患者では亜鉛欠乏症状が認められなくても、亜鉛補充を考慮してもよい」と記載されている。 亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018の一番の特徴は、投与前後の血清亜鉛値や改善率などが書かれているため処方時に有用である点だ。治療効果を“亜鉛欠乏の症状がある患者に対する亜鉛投与の治療効果”と“基礎疾患の改善を目的に行う亜鉛投与の治療効果”に区分し、表で示している。 前者には低身長症、皮膚炎、口内炎、骨粗鬆症などの症例を提示、後者では慢性肝疾患、糖尿病などの症例を挙げている。 このほか、亜鉛補充時の注意事項として「亜鉛投与の効果はすぐには現れないため、治療は少なくとも3ヵ月間の継続が必要」「亜鉛投与による有害事象として、消化器症状(嘔気、腹痛)、血清膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)上昇、銅欠乏による貧血・白血球減少、鉄欠乏性貧血が報告されているため、これらの臨床症状や検査値が見られた場合には亜鉛投与量の減量・中止、銅や鉄補充などの対処が必要」などが盛り込まれている。  亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018では、2016年版からの改訂にあたり、炎症性腸疾患(IBD)と肝硬変にも焦点が当てられた。研究者らは「亜鉛欠乏症はマクロファージの活性化を介して腸の炎症を促進するので、IBDでの炎症や亜鉛欠乏症の病理学的メカニズム検討している」とし、「肝硬変患者の窒素代謝障害にも影響している可能性がある。亜鉛補給は、アンモニア代謝だけでなく、タンパク質の代謝も改善することができる」とも述べている。

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スイッチOTC化の議論と広がる薬局の役割【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第19回

2020年(令和2年)5月18日、規制改革推進会議において、「一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大に向けた意見(案)」が示されました。序文では、「医療用医薬品から一般用医薬品への転用(スイッチOTC化)の実績は低調であることから、より一層のスイッチOTC医薬品の提供と国民の選択肢拡大を図るべく以下のとおり提言を行う」と示され、なかなか進まないスイッチOTC化についての提言がまとめられています。この中で、スイッチOTC化の促進に向けた推進体制について、「一般用医薬品の安全性・有効性の視点に加えて、セルフメディケーションの促進、医薬品産業の活性化なども含む広範な視点からスイッチOTC化の取組を推進するため、厚生労働省における部局横断的な体制を整備すべきである」などとしたうえで、PPIや緊急避妊薬、血液検体を用いた検査薬のOTC化などについても言及されています。この意見(案)の是非はおいても、今後、OTC医薬品は今まで以上に重要視されることが想定されます。新型コロナウイルス感染症の流行によって、セルフメディケーションの重要性がより認識されたということもあるでしょう。改正薬機法で、OTC医薬品販売は薬局の当然の業務にところで、調剤業務を多く扱う薬局は「調剤薬局」と呼ばれることがよくありますが、法律上では「調剤薬局」という概念はありません。現行の薬機法で、薬局は以下のように定義されています。医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二条12項この法律で「薬局」とは、薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務を行う場所(その開設者が医薬品の販売業を併せ行う場合には、その販売業に必要な場所を含む。)をいう。ただし、病院若しくは診療所又は飼育動物診療施設の調剤所を除く。これによると、薬局とは「調剤の業務を行う場所」とされており、本来調剤を行う場所を表す「薬局」に、さらに「調剤」薬局と修飾するのは二重表現だという指摘もあります。また、「(その開設者が医薬品の販売業を併せ行う場合には、その販売業に必要な場所を含む)」とありますが、これは薬局の許可を取っていれば、医薬品販売業の許可がなくてもOTC医薬品の販売を行えるという意味です。「医薬品の販売業を併せ行う場合」とあるように、薬局は調剤のみを行う場所であることを原則として、例外的にOTC医薬品の販売を行えるという形態でした。しかし、上記のとおり、現在はセルフメディケーションの観点などからOTC医薬品がより重要となってきており、薬局における医薬品の一元管理や健康サポート機能などから、薬局でOTC医薬品を扱い、管理することも求められています。このような背景から、2019年の薬機法改正では、カッコ書きの部分が「(その開設者が併せ行う医薬品の販売業に必要な場所を含む)」と改正になり、9月以降に施行されます。これによって、薬局ではOTC医薬品の販売を行うことが当然と法的にも解釈できることとなります。OTC医薬品の必要性が高まるなか、薬機法の改正においても、薬局の役割として、OTC医薬品の取り扱いと管理がより明確になりました。現在の状況に、薬局への期待も踏まえて、薬局、薬剤師においては調剤と併せてOTC医薬品への積極的な関わりを今まで以上に意識する必要があるのではないでしょうか。参考資料1)一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大に向けた意見(案)

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嚥下困難患者に簡易懸濁を検討 不可の薬剤の変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第21回

 今回は、嚥下が困難な患者さんの内服薬を変更した提案を紹介します。簡易懸濁や粉砕対応を検討する際は、粉砕・懸濁可否のチェックが必要不可欠です。これらの対応が難しい薬剤は、他剤への変更を余儀なくされることがありますが、治療効果や安全性などが同等かどうかも確認しましょう。患者情報78歳、女性(在宅)基礎疾患:高血圧症、骨粗鬆症、脳梗塞、逆流性食道炎訪問診療の間隔:2週間に1回処方内容1.ベニジピン錠4mg 1錠 分1 朝食後2.テルミサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後3.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1カプセル 分1 朝食後4.クロピドグレル錠25mg 2錠 分1 朝食後5.ラベプラゾール錠10mg 1錠 分1 朝食後6.プラバスタチン錠5mg 1錠 分1 朝食後本症例のポイントこの患者さんは、脳梗塞による高次機能障害として嚥下機能の低下があり、入院中に服用回数や薬剤数を必要最低限に抑えるための薬剤調整がなされていました。しかし、訪問時に患者さんより、「薬は全部飲みにくいけれど、とくに骨粗鬆症のカプセルはつるつるして飲みにくい」と相談がありました。そこで、粉砕対応または簡易懸濁法による服用法を検討し、変更提案が必要な薬剤を整理してみました。1.エルデカルシトールは懸濁も粉砕も不可エルデカルシトールの中身は液状ですので粉砕は不適です。簡易懸濁法はというと、油性溶剤を使用した薬剤のため水への親和性が低く、水またはお湯に融解した際には薬剤成分が容器やチューブへ付着することが懸念されています。有効成分の含量が非常に微量ですので、その場合は必要量を正確に投与できない可能性があります。さらに、添加物に使用している中鎖脂肪酸トリグリセリドは、一部のプラスチックを劣化・脆化させる恐れがあります。上記から、エルデカルシトールは簡易懸濁および粉砕が不可能な薬剤であり、他剤への変更が必要と考えました。同系統で懸濁や粉砕が可能なアルファカルシドール錠への変更がよいのではないかと考えましたが、エルデカルシトールのほうがアルファカルシドールよりも有意な骨折抑制効果を示しているので判断が難しいところです。今回は、懸濁や粉砕が可能であるという点に重きを置いて、アルファカルシドール錠1μgへの変更を、臨床効果が同等ではないことも添えて医師に相談することにしました。2.腸溶性製剤のPPIから胃酸に安定性の高いボノプラザンへ変更PPIは酸性条件下で不安定ですので腸溶性のコーティングが施されていますが、粉砕や簡易懸濁をするとコーティングが壊れて胃で失活してしまいます。カリウム競合型アシッドブロッカー(P-CAB)のボノプラザンであれば、胃酸に安定ですので簡易懸濁は可能です。なお、光には不安定なためフィルムコーティングがなされていますので、粉砕の場合は遮光する必要があります。強力な胃酸分泌抑制効果を有しているため、副作用リスクを考慮して、常用量の半量のボノプラザン錠10mgへの変更を検討しました。処方提案と経過医師には、電話にて患者さんが服薬を負担に感じており、粉砕対応または簡易懸濁法にて投与する必要性をお伝えし、上記の薬剤変更を提案しました。医師より、入院中に薬剤が調整されていたため、服用に問題がないものばかりだと思っていたと回答がありました。そこで、簡易懸濁法による投与に変更になり、提案のとおりの薬剤にするよう指示があったので、即日対応いたしました。同居のご家族にも服薬指導の際に同席してもらい、投与時の注意点などを説明して理解を得ることができました。処方変更後も胃部不快感などの症状はなく経過しています。藤島一郎監修, 倉田なおみ編集. 内服薬 経管投与ハンドブック 〜簡易懸濁法可能医薬品一覧〜 第3版. じほう;2015.中外製薬ホームページ「よくあるご質問」

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第41回 コロナ禍を吹っ飛ばせ!腕試し心電図クイズvol.2【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第41回:コロナ禍を吹っ飛ばせ!腕試し心電図クイズvol.2今回はゴールデン・ウイークに公開した心電図クイズの第2弾です。“息抜きに”と言いつつ、まぁまぁ骨のある問題を出しましたが、今までのレクチャーで扱った知識を総動員して今回も頑張ってみましょう。「面白い」と「ためになる」の両立を目指して、今回もDr.ヒロの心電図ワールドのはじまりです!症例提示83歳、男性。高血圧症、気管支喘息などで通院中。治療にはアムロジピン、テオフィリン(徐放錠)、プランルカスト、レルベア®を使用している。血圧134/90mmHg、脈拍97/分・不整。定期診察時の12誘導心電図を示す(図1)。*:クイズの性格上、自動診断結果の一部を非表示にしている(以下同)。(図1)入院時の心電図画像を拡大する【問題1】調律に関する以下の診断のうち、正しいものを2つ選べ。1)洞頻脈2)異所性心房頻拍3)心房期外収縮4)心室期外収縮(間入性)5)心室期外収縮(完全代償性)解答はこちら1)、5)解説はこちらR-R間隔が整な部分に時折おかしなQRS波が混じるようです。幅が正常(narrow)な部分はほぼ太枠3マスで、“イチニエフの法則”を満たすP波が定期的にも観察され、基本調律は「洞頻脈」で良いと思います。次に“線香とカタチと法被(はっぴ)が大事よね”を思い出してください。洞周期に「先行」するタイミングで出現し、洞収縮とは異なる「カタチ」で「幅」もワイド、P波もないですから、「心室期外収縮」(PVC)の診断は容易です。「完全代償性」か「間入性」は用語的にはやや難しく感じるかもしれませんね。でも大丈夫。後者は文字通り、洞周期の“間”にPVC“入り”込んでいるもので、PVC前後のP-P間隔は洞周期そのものです。一方の「(完全)代償性」のほうはと言えば、レクチャーでも扱った“ニバイニバーイの法則”を満たすものです。PVC前後のP-P(R-R)間隔が洞周期の2倍となることが特徴で、今回もこれに該当します。参考レクチャー:第21回、第26回【問題2】QRS電気軸に関して、最も適切なものを1つ選べ。また定性的評価も加えよ。1)-60°2)-15°3)0°4)+75°5)+120°解答はこちら2)定性的評価:軽度の左軸偏位解説はこちらQRS電気軸を数値で求める場合、まずは肢誘導を上からザーッと見直しましょう。6つのうち上下“トントン”のQRS波があればいいのですが、この心電図にはないようです。そんな時は“トントン法Neo”を使いましょう。肢誘導界の円座標を思い浮かべ、aVL → I → -aVR → II → aVF → III …の順にQRS波の向きを確認します。すると、IIとaVFの間で向きの逆転が起こりますから、この間に“トントン・ポイント”(TP)があるのです。IIの上向き具合とaVFの下向き具合は同程度と考えて、両者の中間(+75°)がTPということになります。求める電気軸は、TPに直交し、かつIが上向きですから、「-15°」が“トントン法Neo”による推定値となります。ちなみに、心電計による自動診断は「-14°」となっていました。「-30°~0°」の範囲は「左軸偏位」の中でも“軽度”の範疇で、正常範囲に準じた扱いがなされることもあります。定性的には、I:上向き、II:上向き、aVF:下向きであるケースが大半です。参考レクチャー:第8回、第9回、第11回【問題3】ほかの心電図所見として正しいものはどれか。1)反時計回転2)QT延長3)(左室)高電位4)PR(Q)延長5)ST上昇解答はこちら4)解説はこちら1)は胸部誘導の移行帯に関するものですが、本例ではV4とV5誘導の間で「R<S」から「R>S」に変わっており、反時計回転ではありません。2)のQT間隔も正常です(補正値[QTc]]437ms)。3)は、QRS波高は代表的なSokolow-Lyon index(SV1+RV5)や“(ブイ)シゴロ密集法”などにもかかりません。上級者ですとIとaVLのQRS波高が気になるかもしれませんが、惜しくも該当しません。PR(Q)間隔は、5mmちょっとで「230ms」と正常上限をオーバーしています(したがって4)が○)。ただし、この程度では「1度房室ブロック」の診断には及びません。5)の「ST上昇」はなく、むしろV4~V6で「ST低下」を認めます(I、aVLにも軽度あり)。参考レクチャー:第1回症例提示253歳、男性。近医で糖尿病の診断を受けているが、本人拒否もあり無投薬で経過観察されている。深夜1:30に救急要請。意識清明、血圧138/87mmHg、脈拍49/分・不整、酸素飽和度(SpO2)99%(室内気)。全身冷汗著明。本人曰く、「昨日ね、夕方6時くらいに焼き肉に行ったんです。たらふく食べて飲みました。10時過ぎに帰って、風呂に入って寝たんです。0時くらいに起きたら気持ち悪くて、ひどい下痢もしてて。何度も吐いて、胃が焼け付くくらい“熱い”んです。ちょっと生に近い状態の肉を食べたんで、あたったんですか?」とのこと。来院時の心電図を示す(図2)。(図2)来院時の心電図画像を拡大する【問題4】調律に関して正しいものを選べ。また、心拍数はいくらか。1)洞徐脈2)洞不整脈3)心房粗動4)心房細動5)心房静止解答はこちら4)心拍数:51/分(新・検脈法)解説はこちら心電図を見たら、まずは“レーサー・チェック”でしたね。ちなみに、後述しますが、ST変化に気をとられる余り、調律診断が疎かになるようなことはあってはならないと思います。R-R間隔は不整で、洞性P波も確認できません。そんな時に見るべきは、ボク一押しのV1誘導でした。本例はやや見つけにくいですが、“f(細動)波”が確認できます。振幅が1mmに満たず、いわゆる「fine AF」だと思いますが、2nd bestである下壁誘導ではグニャグニャ部分もあり、「心房細動」(AF)で良いでしょう。心拍数に関しては、「検脈法」です。シンプルに全体10秒間のQRS波の個数を数えて9×6=54/分としてもいいですが、肢誘導の右端、そして胸部誘導は両端のQRS波が“ちぎれて”いますから、これらを0.5個とカウントして、(4.5+3+0.5×2)×6=51/分として求める“新・検脈法”は、このように徐脈気味の時に真価を発揮します。心電計の値も見事に「51/分」となっていました。参考レクチャー:第4回、第29回【問題5】この段階でなすべきこととして、正しいものを2つ選べ。1)消化器科医をコールし、上部消化管内視鏡を依頼する。2)右側胸部誘導を記録する。3)点滴ルートを確保して硫酸アトロピンを投与する。4)体外式除細動器を準備する。5)硝酸イソソルビドを静注しつつ、循環器科医をコールして心エコーを依頼する。解答はこちら2)、4)解説はこちら下痢や嘔吐を主訴に来院しても、この心電図を見てしまったら、「急性胃腸炎」では済ませることはできません。胃カメラうんぬんは笑い話レベルとしても、症状的には消化器疾患と紛らわしい例であることは事実です。心電図では、II、III、aVF、さらにV4~V6に「ST上昇」を認め、逆にaVL、V1、V2などでは「ST低下」(対側性ST変化)が見られます。こういう場合、第一に「ST上昇型急性心筋梗塞」(STEMI)を疑うべきパターンになります。迷走神経に関連し、急性下壁梗塞で嘔吐が前面に出ることがあるというケースを過去のレクチャーでも扱っており、これも類似のケースです。「下痢」の合併は稀かとは思いますが、実際にこのような訴えもあることを知っておくと、診療の幅が広がります。下壁梗塞を疑う場合、何も考えずに右側胸部誘導をとることはガイドラインでも推奨されていますが、なかなか行われておらず現場では歯がゆく感じるところがあります(本ケースでも記録されていませんでした)。心筋梗塞の場合、徐脈ならアトロピン、ST上昇だから即ニトロという盲目的な対応は時に危険で、禁忌というケースもあることはご存じでしょうか?(参考:ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン[2013年改訂版])前者はNG、後者もいきなり静注は推奨できません。まずは救急カート、電気的除細動器を準備、とにかくすぐに循環器科医をコールして指示を仰ぐようにしましょう(一番先にすべきことは心エコーでないことは明らかかでしょう)。参考レクチャー:第27回、第31回【問題6】本症例の臨床診断として正しいものを1つ選べ。1)胆石仙痛発作2)急性胃腸炎3)急性心筋梗塞4)尿管結石5)肋間神経痛解答はこちら 3)解説はこちら前問の解説通り心電図的にはきれいなSTEMIで、傷害部位は左室の下壁と側壁です。心電図から責任血管が右冠動脈か左冠動脈回旋枝かを推測する方法もあることはある(確実ではないですが)ので、おいおい扱いましょう。緊急冠動脈造影では、右冠動脈遠位部の完全閉塞が確認され、そのままインターベンション(ステント留置)が行われました。症例提示387歳、女性。糖尿病、高血圧症、慢性腎臓病、陳旧性心筋梗塞で通院中。血圧162/69mmHg、脈拍86/分。定期診察時の12誘導心電図を示す(図3)。(図3)定期診察時の心電図画像を拡大する【問題7】異常Q波はいくつの誘導で認められるか。以下のうち、最も適切なものを選べ。1)0個(なし)2)2個3)3個4)5個5)7個解答はこちら5)解説はこちら古い(陳旧性)心筋梗塞の存在を示唆する「異常Q波」の拾い上げは2段階でしたね。まずはV1~V3誘導が陰性波から始まっていたら問答無用で“異常”です。V1はしっかりとした「QS型」で、V2、V3に認められる小さな“q波”―これらもすべて“アウト”(異常)です。V1~V3、そしてaVRを除く計8個の誘導では、幅と深さを意識した“1mmの法則(ルール)”が重要でした。II、III、aVFは幅的に“ヤバイだろ”と主張したげです(ここまでで6個)。残るV4は微妙ですが、幅も深さもほぼ1mmであること、そして何よりV3とほぼ同じQRS波形で片方(V3)がおかしければ、もう片方も自然に思えるセンスがDr.ヒロが求めるものの一つになります。ですから、今回は「7個」、これが正解です。参考レクチャー:第30回、第33回、第34回【問題8】壊死心筋(梗塞巣)として推定される部位は以下のうちどれか。すべて選べ。1)心室中隔2)左室前壁3)左室側壁4)左室後壁5)左室下壁解答はこちら1)、2)、5)解説はこちらこれは前問ができればオマケ的なものです。異常Q波を拾って、さらに解剖学(空間)的な隣接性、平たく言えば“お隣さんルール”。2つ以上の誘導セットでQ波があったら、その領域の心筋梗塞を疑うというシンプルなロジックです。CT画像を用いた心臓の水平断で宇宙人たちがカメラを構えていた図を覚えているでしょうか? V1が「心室中隔」、V2~V4は「前壁」、そしてII、III、aVFは「下壁」と対峙するのでしたね。このようなパターンでは、右冠動脈と左冠動脈前下行枝(LAD)とがそれぞれ別に詰まったというよりは、心尖部を越えて下壁中隔から下壁まで灌流するような大きなLAD(wrap-around / wrapped LAD)の梗塞であることが多いと思います。参考レクチャー:第17回症例提示481歳、女性。高血圧症、高尿酸血症、骨粗鬆症などで他院へ通院中。高齢で足腰が弱って通院困難を理由に転医希望、受診となった。心機能については無症状。血圧142/74mmHg、脈拍80/分・不整。初診時の12誘導心電図を示す(図4)。(図4)初診時の心電図画像を拡大する【問題9】心電図所見に関して正しいものをすべて選べ。1)上室外収縮2)心室期外収縮3)非伝導性心房期外収縮4)心房細動5)心室頻拍6)右軸偏位7)左軸偏位8)高度軸偏位(北西軸)9)完全右脚ブロック10)完全左脚ブロック解答はこちら1)、7)、10)解説はこちら最後はDr.ヒロ流“ドキ心”の真骨頂である所見拾いです。ゲーム感覚で漏れなく指摘して、気持ちよく終わりましょう。心電図自体は前半のものに比べればさほど難しくはないと思います。肢誘導3拍目、胸部誘導2、6拍目が「期外収縮」で、QRS幅はワイドですが、P波が先行し、洞収縮波形も含めてすべて同一のカタチですから、これは1)PACですね。“1画面”つまり全10秒間に3つ以上の期外収縮があったら、頭に「頻発性」とつけて結構なレベルです。なお、3)に関しては、予想される洞性P波のタイミングより早く、波形も異なるP波も認めるものの、直後にQRS波を伴わないパターンのPACですが、これは該当しません。4)と5)は基本調律に関するもので、いずれも該当しません。このように期外収縮がたくさん出るとAFチックに見えるので注意してくださいね。期外収縮以外のビートには、“イチニエフの法則”を満たすP波がQRS波手前の“定位置”におり、これは洞調律の証です。QRS電気軸は、定性的にI:上向き、aVF(II):下向きですから、「左軸偏位」(“トントン法”では「-60°」と求まる)ですね。その他、QRS波の「幅」に異常があることもわかりますね。ワイドでV1の「rS型」、I、aVL、V6でq波なくスラーを伴う「R型」ですので、「完全左脚ブロック」と診断してください。参考レクチャー:第1回、第19回【古都のこと~清水寺、音羽の滝】前回に引き続き清水寺の話をしたいと思います。ところで、清水寺の宗旨を知っていますか? いわゆる「~宗」というものです。正解は「北法相宗(きたほっそうしゅう)」*1。唐伝来の奈良仏教が、いかに京都にやって来たのかを知ることは、お寺の名称の起源を知ることでもあり、今回はそれをお話します。ある日、大和国(奈良県)の子島寺で修行した賢心(けんしん)は「木津川の北流に清泉を求めて行け」という霊夢に従い北を目指します。そして音羽の山中*2で輝くような清泉を発見し、そこで行叡居士(ぎょうえいこじ)から霊木を授かり、千手観音像を彫り、ここを観音霊地として草庵を結びます*3。それから2年後、音羽山に鹿狩りに来た坂上田村麻呂*4が修行中の賢心と出会い、観音霊地での殺生の罪を知り、観世音菩薩の功徳の話に深く感銘を受けます。これにより田村麻呂は仏門に帰依することとなります。その後、日本初の征夷大将軍に任命され、蝦夷平定から帰京した田村麻呂は798年(延暦17年)、自邸を寄進し、延鎮(えんちん)と改名した賢心とともに本堂を築き、音羽の滝の清らかな水にちなんで「清水寺」と名付けました。桓武天皇は清水寺を自らの御願寺と定め伽藍構築を支援し、大同5年(810年)には嵯峨天皇より「北観音寺」の宸筆(しんぴつ)が贈られ、鎮護国家の寺院の定めを受けたのです。以上が『続群書類従』による清水寺の始まりです。舞台に気を取られ、ふと見過ごしてしまいそうな「音羽の滝」に寺のルーツがあると知り、より一層キヨミズさんに興味が湧いてきますね。*1:南都六宗の一つで、唯識宗(ゆいしきしゅう)、応理円実宗(おうりえんじつしゅう)、慈恩宗(じおんしゅう)などとも呼ばれる。南都は奈良のこと。大本山は興福寺で、中世・近世において清水寺はその末寺であった。昭和40年(1965年)、北法相宗の本山として独立した。*2:山城国愛宕郡八坂郷の東山。当時は「乙輪」と呼ばれていた。*3:清水寺の開創とされる奈良時代末期の宝亀9年(778年)のこと。ボクが「舞台」と間違っていた奥の院付近が庵の場所とされ、真下に「音羽の滝(瀧)」がある。*4:奈良時代末期~平安時代の武人。身重の妻の病を癒やすため、鹿の生き血を求めたとされる。

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ホモシスチン尿症〔homocystinuria〕

1 疾患概要■ 概念・定義ホモシスチン尿症は先天性アミノ酸代謝異常症の一種であり、メチオニンの代謝産物であるホモシステインが血中に蓄積することにより発症する1)。図にメチオニンの代謝経路を示す。メチオニンは、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼによりS-アデノシルメチオニン(SAM)に変換、さらに脱メチル化することでS-アデノシルホモシステイン(SAH)が生成される。SAHが加水分解されるとホモシステインが生成される。ホモシステインはシスタチオニンβ合成酵素(CBS)によりシスタチオニン合成されるだけでなく、メチオニン合成酵素(MS)、もしくはベタインホモシステインによる再メチル化経路をたどり、メチオニンに変換される。CBSの異常は、ホモシスチン尿症I型もしくは古典的ホモシスチン尿症と称され、血中ホモシステイン値、メチオニン値が高値となる。II型はMSの補酵素である細胞内コバラミン(ビタミンB12、Cb1)の代謝異常、III型はN5、N10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)の障害による葉酸代謝異常であり、II型、III型ともに再メチル化によるメチオニン合成が障害されるため、メチオニン値が低下し、ホモシステイン増加する。ホモシスチン尿症I型は頻度が最も多いとされており、新生児マススクリーニングではメチオニン増加を指標としてスクリーニングが行われている。図 メチオニン代謝経路画像を拡大する■ 疫学CBS欠損症は常染色体劣性遺伝を呈する疾患であり、発症頻度は1,800~90万人に1人と推測されているが、わが国での患者発見頻度は、約80万人に1人である1,2)。■ 病因CBSの活性低下によりホモシステインが蓄積すると、ホモシステインは酸化されて二量体であるホモシスチンが尿中に排泄される。また、蓄積したホモシステインはメチオニンへと再メチル化が促され、血中メチオニンが上昇し、シスタチオニンとシステインが欠乏する。ホモシステインはチオール基を介して生体内の種々のタンパクとも結合する。その過程で生成されるスーパーオキサイドなどにより、血管内皮細胞障害を来すと考えられている。また、ホモシステインがフィブリリンの機能を障害するため、マルファン症候群様の、眼症状や骨格異常を発現すると考えられている1)。■ 症状古典的ホモシスチン尿症の臨床症状は骨格系の異常、眼症状、中枢神経症状、血管系の障が認められる1)。1)中枢神経系異常知的障害、てんかん、精神症状(パーソナリティ障害、不安、抑うつなど)2)骨格異常骨粗鬆症、高身長、くも状指、側弯症、鳩胸、凹足、外反膝(マルファン症候群様体型)3)眼症状水晶体亜脱臼に伴う近視(無治療では10歳までに80%以上の症例で水晶体亜脱臼を呈する)、緑内障4)血管系障害冠動脈血栓症、肺塞栓、脳血栓塞栓症、大動脈解離血栓症■ 分類CBSはビタミンB6(ピリドキシン)を補酵素とする。CBS欠損症には大量のビタミンB6投与により血中メチオニン、ホモシステインが低下するビタミンB6反応型と、低下しないビタミンB6不応型がある。欧米白人ではビタミンB6反応型が約半数を占めるが、日本人ではまれである1)。■ 予後早期に治療導入され、適切にコントロールが行われた症例では、全般的に予後良好とされているが、長期的予後は明らかにされていない。ビタミンB6不応型において無治療の場合には、生命予後は著明に悪化する。ビタミンB6反応型の生命予後は明らかになってない3)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一般血液検査・尿検査では特徴的な所見は認めない。以下の診断の根拠となる特殊検査のうち、血中メチオニン高値(1.2mg/dL〔80μmol/L〕)以上、かつ総ホモシステイン基準値(60μmol/L)以上を満たせば、CBS欠損症の確定診断とする1)。■ 診断の根拠となる特殊検査1)血中メチオニン高値:1.2mg/dL(80μmol/L)以上〔基準値:0.3~0.6mg/dL(20~40μmol/L)〕2)高ホモシステイン血症:60μmol/L以上(基準値:15μmol/L以下)3)尿中ホモシスチン排泄:基準値が検出されない。4)線維芽細胞、あるいはリンパ芽球でのCBS活性低下5)遺伝子解析:CBS遺伝子の両アレルに病因として病原性変異を認める。■ 鑑別診断臨床症状からはマルファン症候群や血栓性疾患との鑑別が必要である3)。生化学的検査所見からの診断を以下に示す、メチオニン高値、またはホモシステイン高値を来す疾患が鑑別に挙がる1)。1)高メチオニン血症を来す疾患(1)メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ欠損症(2)シトリン欠損症(3)新生児肝炎などの肝機能異常2)高ホモシステイン血症(広義の「ホモシスチン尿症」)を来す疾患(1)メチオニン合成酵素欠損症(2)MTHFR欠損症(ホモシスチン尿症II型)(3)ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸血症(コバラミン代謝異常症C型など)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ホモシスチン尿症の治療目標は、臨床症状の緩和や発症リスクを減らすために、血中ホモシステイン値を正常範囲でコントロールすることである。■ 食事療法メチオニンの摂取制限を実施し、血中メチオニン濃度を1mg/dL(67μmol/L)以下に保つようにする。ヨーロッパのガイドラインにおいては、ビタミンB6反応性ホモシスチン尿症では、総ホモシステイン<50μmol/Lを目標とすることが推奨されている3)。新生児・乳児期には許容量かつ必要量のメチオニンを母乳、一般粉乳、離乳食などから摂取し、不足分のカロリー、必須アミノ酸などは治療乳メチオニン除去粉乳(商品名:雪印S-26)から補給する1)。幼年期以降の献立は、食事療法ガイドブック(特殊ミルク事務局のホームページより入手可能)を参考にする1)。血中ホモシステイン値のコントロールが不良(100μmol/L以上)の場合には、血栓塞栓症のリスクが高まるため、厳格な食事療法を継続する必要性がある。■ L-シスチン補充ホモシステインの下流にあるL-シスチンを補充する。メチオニン除去乳(同:雪印S-26)にはL-シスチンが添加されている。市販されているL-シスチンのサプリメントを併用することもある1)。■ ビタミンB6大量投与ビタミンB6反応型か否かの確認は、ホモシスチン尿症の確定診断後、まず低メチオニン・高シスチン食事療法を行い、生後6ヵ月時に検査を行う。入院のうえ、食事を普通食にした後に、ピリドキシン40mg/kg/日を10日間経口投与する。血中メチオニン、ホモシスチン値の低下が認められた場合には投与量を漸減し、有効最小必要量を定め継続投与する。反応がなければ食事療法を再開し、体重が12.5kgに達する2~3歳時に再度ピリドキシン500mg/日の経口投与を10日間試みる1)。ビタミンB6反応型では、CBS活性を上昇させるためにピリドキシンの大量投与(30~40mg/kg/日)を併用する。ビタミンB6を併用することで食事療法の緩和が可能であることが多い。■ ベタインベタイン(同:サイスタダン)は再メチル化の代替経路を促進し、過剰なホモシステインをメチオニンへと変換し、血中ホモシステイン値を低下させることができる。ベタインの投与量は11歳以上には1回3g、11歳未満では50mg/kg/日を1日2回経口投与する。ただしベタイン単独でホモシステイン値を50μmol/L以下にコントロールすることは困難であり、食事療法との併用が必要である。ベタイン投与により血中メチオニン上昇を伴う脳浮腫が報告されており、メチオニン値が15mg/dL(1,000μmol/L)を超える場合には、ベタインや自然蛋白摂取量を減量する1)。■ 葉酸、ビタミンB12CBS欠損症では、血中葉酸、ビタミンB12が低下する場合があり、適宜補充する。4 今後の展望CBS欠損症の新規治療法として、ケミカルシャペロン療法の検討がなされている4)。また酵素補充療法の治験が欧米で進行中であり、結果が待たれる。5 主たる診療科小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報先天代謝異常学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特殊ミルク事務局(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本先天代謝異常学会 編集. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019.2019.p.35-42.2)Jean-Marie Saudubray, et al. Inborn Metabolic Diseases Diagnosis and Treatment 6th Ed.Springer-verlag.;2016.p.314-316.3)Morris AA, et al. J Inherit Metab Dis. 2017;40:49-74.4)Melenovska P, et al. J Inherit Metab Dis. 2015;38:287-294.公開履歴初回2020年05月12日

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非典型溶血性尿毒症症候群〔aHUS :atypical hemolytic uremic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義非典型尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、補体制御異常に伴い血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)を呈する疾患である。TMAは、1)微小血管症性溶血性貧血、2)消費性血小板減少、3)微小血管内血小板血栓による臓器機能障害、を特徴とする病態である。■ 疫学欧州の疫学データでは、成人における発症頻度は毎年100万人に2~3人、小児では100万人に7人程度とされる。わが国での新規発症は年間100~200例程度と考えられている。わが国の遺伝子解析結果では、C3変異例の割合が高く(約30%)、欧米で多いとされるCFH遺伝子変異の割合は低い(約10%)。■ 病因病因は大きく、先天性、後天性、その他に分かれる。1)先天性aHUS遺伝子変異による補体制御因子の機能喪失あるいは補体活性化因子の機能獲得により補体第2経路が過剰に活性化されることで血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし微小血栓が産生されaHUSが発症する(表1)。機能喪失の例として、H因子(CFH)、I因子(CFI)、CD46(membrane cofactor protein:MCP)、トロンボモジュリン(THBD)の変異、機能獲得の例として補体C3、B因子(CFB)の変異が挙げられる。補体制御系ではないが、diacylglycerol kinase ε(DGKE)やプラスミノーゲン(PLG)遺伝子の変異も先天性のaHUSに含めることが多い。表1 aHUSの原因別の治療反応性と予後画像を拡大する2)後天性aHUS抗H因子抗体の出現が挙げられる。CFHの機能障害により補体第2経路が過剰に活性化する。抗H因子抗体陽性者の多くにCFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされている。3)その他現時点では原因が特定できないaHUSが40%程度存在する。■ 症状溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害による症状を認める。具体的には血小板減少による出血斑(紫斑)などの出血症状や溶血性貧血による全身倦怠感、息切れ、高度の腎不全による浮腫、乏尿などである。発熱、精神神経症状、高血圧、心不全、消化器症状などを認めることもある。下痢があってもaHUSが否定されるわけではないことに注意を要する。aHUSの発症には多くの場合、感染症、妊娠、がん、加齢など補体の活性化につながるイベントが観察される。わが国の疫学調査でも、75%の症例で感染症を始めとする何らかの契機が確認されている。■ 予後一般に、MCP変異例は軽症で予後良好、CFHの変異例は重症で予後不良、C3変異例はその中間程度と言われている(表1)。海外データではaHUS全体における慢性腎不全に至る確率、つまり腎死亡率は約50%と報告されている。わが国の疫学データではaHUSの総死亡率は5.4%、腎死亡率は15%と比較的良好であった。特に、わが国に多いC3 p.I1157T変異例および抗CFH抗体陽性例の予後は良いとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ TMA分類の概念TMAの3徴候を認める患者のうち、STEC-HUS、TTP、二次性TMA(代謝異常症、感染症、薬剤性、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後などによるTMA)を除いたものを臨床的aHUSと診断する(図1)。図1 aHUS定義の概念図画像を拡大する■ 診断手順と鑑別診断フローチャート(図2)に従い鑑別診断を進めていく。図2 TMA鑑別と治療のフローチャート画像を拡大する1)TMAの診断aHUS診断におけるTMAの3徴候は、下記のとおり。(1)微小血管症性溶血性貧血:ヘモグロビン(Hb) 10g/dL未満血中 Hb値のみで判断するのではなく、血清LDHの上昇、血清ハプトグロビンの著減(多くは検出感度以下)、末梢血塗沫標本での破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する。なお、破砕赤血球を検出しない場合もある。(2)血小板減少:血小板(platelets:PLT)15万/μL未満(3)急性腎障害(acute kidney injury:AKI):小児例では年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上(血清クレアチニンは、日本小児腎臓病学会の基準値を用いる)。成人例では、sCrの基礎値から1.5 倍以上の上昇または尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続のいずれかを満たすものをAKIと診断する。2)TMA類似疾患との鑑別溶血性貧血を来す疾患として自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が鑑別に挙がる。AIHAでは直接クームス試験が陽性となる。消費性血小板減少を来す疾患としては、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を鑑別する。PT、APTT、FDP、Dダイマー、フィブリノーゲンなどを測定する。TMAでは原則として凝固異常はみられないが、DICでは著明な凝固系異常を呈する。また、DICは通常感染症やがんなどの基礎疾患に伴い発症する。3)STEC-HUSとの鑑別食事歴と下痢・血便の有無を問診する。STEC-HUSは、通常血液成分が多い重度の血便を伴う。超音波検査では結腸壁の著明な肥厚とエコー輝度の上昇が特徴的である。便培養検査、便中の志賀毒素直接検出検査、血清の大腸菌O157LPS抗体検査が有用である。小児では、STEC-HUSがTMA全体の約90%を占めることから、生後6ヵ月以降で、重度の血便を主体とした典型的な消化器症状を伴う症例では、最初に考える。逆に生後6ヵ月までの乳児にTMAをみた場合はaHUSを強く疑う。小児のSTEC-HUSの1%に補体関連遺伝子変異が認められると報告されている点に注意が必要である。詳細は、HUSガイドラインを参照。4)TTPとの鑑別血漿を採取し、ADAMTS13活性を測定する。10%未満であればTTPと診断できる。aHUS、STEC-HUS、二次性TMAなどでもADAMTS13活性の軽度低下を認めることがあるが、一般に20%以下にはならない。aHUSにおける臓器障害は急性腎障害(AKI)が最も多いのに対して、TTPでは精神神経症状を認めることが多い。TTPでも血尿、蛋白尿を認めることがあるが、腎不全に至る例はまれである。5)二次性TMAとの鑑別TMAを来す基礎疾患を有する二次性TMAの除外を行った患者が、臨床的にaHUSと診断される。aHUS確定診断のための遺伝子診断は時間を要するため、多くの症例で急性期には臨床的に判断する。表2に示す二次性TMAの主たる原因を記す。可能であれば、原因除去あるいは原疾患の治療を優先する。コバラミン代謝異常症は特に生後6ヵ月未満で考慮すべき病態である。生後1年以内に、哺乳不良、嘔吐、成長発育不良、活気低下、筋緊張低下、痙攣などを契機に発見される例が多いが、成人例もある。ビタミンB12、血漿ホモシスチン、血漿メチルマロン酸、尿中メチルマロン酸などを測定する。乳幼児の侵襲性肺炎球菌感染症がTMAを呈することがある。直接Coombs試験が約90%の症例で陽性を示す。肺炎球菌が産生するニューラミニダーゼによって露出するThomsen-Friedenreich (T)抗原に対する抗T-IgM抗体が血漿中に存在するため、血漿投与により病状が悪化する危険性がある。新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法や血漿輸注などの血漿治療は行わない。妊娠関連のTMAのうち、HELLP症候群(妊娠高血圧症に合併する溶血性貧血、肝障害、血小板減少)や子癇(妊娠中の高血圧症と痙攣)は分娩により速やかに軽快する。妊娠関連TMAは常位胎盤早期剥離に伴うDICとの鑑別も重要である。TTPは妊娠中の発症が多く,aHUSは分娩後の発症が多い。腎移植後に発症するTMAは、原疾患がaHUSで腎不全に陥った症例におけるaHUSの再発、腎移植後に新規で発症したaHUS、臓器移植に伴う急性抗体関連型拒絶反応が疑われる。aHUSが疑われる腎不全患者に腎移植を検討する場合は、あらかじめ遺伝子検査を行っておく。表2 二次性TMAの主たる原因a)妊娠関連TMAHELLP症候群子癪先天性または後天性TTPb)薬剤関連TMA抗血小板剤(チクロビジン、クロピドグレルなど)カルシニューリンインヒビターmTOR阻害剤抗悪性腫瘍剤(マイトマイシン、ゲムシタビンなど)経口避妊薬キニンc)移植後TMA固形臓器移植同種骨髄幹細胞移植d)その他コパラミン代謝異常症手術・外傷感染症(肺炎球菌、百日咳、インフルエンザ、HIV、水痘など)肺高血圧症悪性高血圧進行がん播種性血管内凝固症候群自己免疫疾患(SLE、抗リン脂質抗体症候群、強皮症、血管炎など)(芦田明ほか.日本アフェレシス学会雑誌.2015;34:40-47.より引用・改変)6)家族歴の聴取家族にTMA(aHUSやTTP)と診断された者や原因不明の腎不全を呈した者がいる場合、aHUSを疑う。ただし、aHUS原因遺伝子変異があっても発症するのは全体で50%程度とされている。よって家族性に遺伝子変異があっても家族歴がはっきりしない例も多い。さらに孤発例も存在する。7)治療反応性による診断の再検討aHUSは 75%の症例で感染症など何らかの疾患を契機に発症する。二次性TMAの原因となる疾患がaHUSを惹起することもある。実臨床においては二次性TMAとaHUSの鑑別はしばしば困難である。2次性TMAと考えられていた症例の中で、遺伝子検査によりaHUSと診断が変更されることは少なくない。いったんaHUSあるいは二次性TMAと診断しても、治療反応性や臨床経過により診断を再検討することが肝要である(図2)。■ 検査1)一般検査血算、破砕赤血球の有無、LDH、ハプログロビン、血清クレアチニン、各種凝固系検査でTMAを診断する。ADAMTS13-活性検査は保険適用となっている。STEC-HUSの鑑別を要する場合は便培養、便中志賀毒素検査、血清大腸菌O157LPS抗体検査を行う。一般の補体検査としてC3、C4を測定する。C3低値、C4正常は補体第2経路の活性化を示唆するが、aHUS全体の50%程度でしか認められない。2)補体関連特殊検査現在、全国aHUSレジストリー研究において、次に記す検査を実施している。ヒツジ赤血球を用いた溶血試験CFH遺伝子異常、抗CFH抗体陽性例において高頻度に陽性となる。比較的短期間で結果が得られる。診断のフローとしては、臨床的にaHUSが疑ったら溶血試験を実施する(図2)。抗CFH抗体検査:ELISA法にてCFH抗体を測定する。抗CFH抗体出現には、CFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされているため、遺伝子検査も並行して実施する。CFHR 領域は、多彩な遺伝子異常が報告されているが、相同性が高いことから遺伝子検査が困難な領域である。その他aHUSレジストリー研究では、血中のB因子活性化産物、可溶性C5b-9をはじめとする補体関連分子を測定しているが、その診断的意義は現時点で明確ではない。*問い合わせ先を下に記す。aHUSレジストリー事務局(名古屋大学 腎臓内科:ahus-office@med.nagoya-u.ac.jp)まで■ 遺伝子診断2020年4月からaHUSの診断のための補体関連因子の遺伝子検査が保険適用となった。既知の遺伝子として知られているC3、CFB、CFH、CFI、MCP(CD46)、THBD、diacylglycerol kinase ε(DGKE)を検査する。臨床的にaHUSと診断された患者の約60%にこれらの遺伝子変異を認める。さらに詳細な遺伝子解析についての相談は、上記のaHUSレジストリー事務局で受け付けている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)aHUSが疑われる患者は、血漿交換治療や血液透析が可能な専門施設に転送して治療を行う。TMA を呈し、STEC-HUS や血漿治療を行わない侵襲性肺炎球菌感染症などが否定的である場合には、速やかに血漿交換治療を開始する。輸液療法・輸血・血圧管理・急性腎障害に対する支持療法や血液透析など総合的な全身管理も重要である。1)血漿交換・血漿輸注血漿療法は1970年代後半から導入され、aHUS患者の死亡率は50%から25%にまで低下した。血漿交換を行う場合は3日間連日で施行し、その後は反応を見ながら徐々に間隔を開けていく。血漿交換を行うことが難しい身体の小さい患児では血漿輸注が施行されることもある。血漿輸注や血漿交換により、aHUS の約70%が血液学的寛解に至る。しかし、長期的には TMA の再発、腎不全の進行、死亡のリスクは依然として高い。血漿交換が無効である場合には、aHUSではなく二次性TMAの可能性も考える。2)エクリズマブ(抗補体C5ヒト化モノクローナル抗体、商品名:ソリリス)成人では、STEC-HUS、TTP、二次性 TMA 鑑別の検査を行いつつ、わが国では同時に溶血試験を行う。溶血試験陽性あるいは臨床的にaHUSと診断されたら、エクリズマブの投与を検討する。小児においては、成人と比較して二次性 TMA の割合が低く、血漿交換や血漿輸注のためのカテーテル挿入による合併症が多いことなどから、臨床的にaHUS と診断された時点で早期にエクリズマブ投与の開始を検討する。aHUSであれば1週間以内、遅くとも4週間までには治療効果が見られることが多い。効果がみられない場合は、二次性TMAである可能性を考え、診断を再検討する(図2)。遺伝子検査の結果、比較的軽症とされるMCP変異あるいはC3 p.I1157T変異では、エクリズマブの中止が検討される。予後不良とされるCFH変異では、エクリズマブは継続投与される。※エクリズマブ使用時の注意エクリズマブ使用時には髄膜炎菌感染症対策が必須である。莢膜多糖体を形成する細菌の殺菌には補体活性化が重要であり、エクリズマブ使用下での髄膜炎菌感染症による死亡例も報告されている。そのため、緊急投与時を除きエクリズマブ投与開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨される。髄膜炎菌ワクチン接種、抗菌薬予防投与ともに髄膜炎菌感染症の全症例を予防することはできないことに留意すべきである。具体的なワクチン接種や抗菌薬による予防および治療法については、日本腎臓学会の「ソリリス使用時の注意・対応事項」を参照されたい。3)免疫抑制治療抗CFH抗体陽性例に対しては、血漿治療と免疫抑制薬・ステロイドを併用する。臓器障害を伴ったaHUSの場合にはエクリズマブの使用も考慮される。抗CFH抗体価が低下したら、エクリズマブの中止を検討する。4 今後の展望■ aHUSの診断2020年4月からaHUSの遺伝子解析が保険収載された。aHUSの診断にとっては大きな進展である。しかし、aHUSの診断・治療・臨床経過には依然不明な点が多い。aHUSレジストリー研究の成果がaHUS診療の向上につながることが期待される。■ 新規治療薬アレクシオンファーマ合同会社は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) の治療薬として、長時間作用型抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤ラブリズマブ(商品名:ユルトミリス)を上市した。エクリズマブは2週間間隔の投与が必要であるが、ラブリズマブは8週間隔投与で維持可能である。今後、aHUSへも適応が広がる見込みである。中外製薬株式会社は抗C5リサイクリング抗体SKY59の開発を進めている。現在のところ対象疾患はPNHとなっている。5 主たる診療科腎臓内科、小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診療ガイド 2015(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 非典型溶血性尿毒症症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)aHUSレジストリー事務局ホームページ(名古屋大学腎臓内科ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujisawa M, et al. Clin and Experimental Nephrology. 2018;22:1088–1099.2)Goodship TH, et al. Kidney Int. 2017;91:539.3)Aigner C, et al. Clin Kidney J. 2019;12:333.4)Lee H,et al. Korean J Intern Med. 2020;35:25-40.5)Kato H, et al. Clin Exp Nephrol. 2016;20:536-543.公開履歴初回2020年04月14日

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中條・西村症候群〔NNS:Nakajo-Nishimura syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義1939年に東北帝国大学医学部皮膚科泌尿器科の中條により報告された血族婚家系に生じた兄妹例に始まり、1950年に和歌山県立医科大学皮膚科泌尿器科の西村らが血族婚の2家系に生じた和歌山の3症例も同一疾患としたことで確立した「凍瘡ヲ合併セル続発性肥大性骨骨膜症」(図1)が、中條・西村症候群(Nakajo-Nishimura syndrome:NNS)の最初の呼称である。図1 中條先生と西村先生の論文画像を拡大する2009年に本疾患が稀少難治性疾患として厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業研究奨励分野の対象疾患に採択された際に、中條‐西村症候群との疾患名が初めて公式に用いられ、2011年のPSMB8遺伝子変異の同定を報告した論文により国際的に認められた。その後も厚生労働科学研究において継続的に本疾患の病態解明や診断基準の策定が行われ、「中條・西村症候群」として2014年に小児慢性特定疾病19番、2015年に指定難病268番に登録された。1985年に大阪大学皮膚科の喜多野らが、自験4症例を含む中條の報告以来8家系12症例について臨床的特徴をまとめ、わが国以外で報告のない新しい症候群“A syndrome with nodular erythema,elongated and thickened fingers,and emaciation”として報告したのが、英文で最初の報告である。さらに、1993年に新潟大学神経内科の田中らが、皮膚科領域からの報告例も合わせてそれまでの報告症例をまとめ、新しい膠原病類似疾患あるいは特殊な脂肪萎縮症を来す遺伝性疾患として、“Hereditary lipo-muscular atrophy with joint contracture,skin eruptions and hyper-γ-globulinemia”として改めて報告した。これらの報告を受け、国際的な遺伝性疾患データベースであるOnline Mendelian Inheritance in Man(OMIM)に、1986年にNakajo syndromeとして登録番号256040に登録された。本症は長くわが国固有の疾患と考えられてきたが、2010年に脂肪萎縮症を専門とするアメリカのグループによって、類症がjoint contractures,muscular atrophy,microcytic anemia and panniculitis-induced lipodystrophy(JMP)症候群として、わが国以外から初めて報告された。症例はポルトガルとメキシコの2家系4兄妹例のみであり、いずれも発熱の記載はなく、全身の萎縮と関節拘縮が目立つ(図2)。程なく原因としてPSMB8遺伝子変異が同定された。図2 プロテアソーム関連自己炎症性症候群の臨床像画像を拡大するさらに、2010年にスペインの皮膚科医のTorreloらによって報告されたヒスパニックの姉妹例を含む4症例に始まり、脱毛を伴うイスラエルの症例、バングラデシュの姉妹例、ブラジルの症例など、世界中から報告された類症が、chronic atypical neutrophilic dermatosis with lipodystrophy and elevated temperature(CANDLE)症候群である。未分化なミエロイド系細胞の浸潤を伴う特徴的な皮膚病理所見から命名され、スイート症候群との鑑別を要する。冬季の凍瘡様皮疹の有無は明らかでないが、肉眼的にNNSと酷似する(図2)。それらの症例の多くに、JMP症候群と同じ変異を含む複数のPSMB8遺伝子変異が同定されたが、ヘテロ変異や変異のない症例、さらにPSMB8以外のプロテアソーム関連遺伝子に変異が見出される症例も報告されている。これら関連疾患の報告と共通する原因遺伝子変異の同定を受け、NNS・JMP症候群・CANDLE症候群をまとめてプロテアソーム関連自己炎症性症候群(proteasome-associated autoinflammatory syndrome:PRAAS)と呼ぶことが提唱され、OMIM#256040に再編された。現在では、PSMB8以外のプロテアソーム関連遺伝子変異によるPRAAS2や3と区別し、PRAAS1と登録されている。これらの疾患名の変遷を図3にまとめた。図3 プロテアソーム関連自己炎症性症候群の疾患名の変遷画像を拡大する■ 疫学既報告・既知例は東北・関東(宮城、東京、秋田、新潟)の5家系7症例と関西(和歌山、大阪、奈良)の19家系22症例であるが、現在も通院中で生存がはっきりしている症例は関西のみであり、10症例ほどである。中国からもNNSとして1例報告があるほか、諸外国からJMP症候群、CANDLE症候群、PRAASとして25例ほど報告されている。■ 病因・病態NNSは、PSMB8遺伝子のp.G201V変異のホモ接合によって発症する常染色体劣性遺伝性疾患である。わが国に固有の変異で、すべての患者に同じ変異を認める。JMP症候群においては、ヒスパニックの症例すべてにPSMB8 p.T75M変異がホモ接合で存在する。一方、CANDLE症候群においては、ヒスパニック、ユダヤ人、ベンガル人などの民族によって、PSMB8の異なる変異のホモ接合が報告されている。PRAASとして、PSMB8の複合ヘテロ変異を持つ症例も報告されているが、さらに、PSMB8とPSMA3やPSMB4のダブルヘテロ変異、PSMB9とPSMB4のダブルヘテロ変異、PSMB4単独の複合ヘテロ変異、複合体形成に重要なシャペロンであるPOMP単独のヘテロ変異などさまざまな変異の組み合わせを持った症例もCANDLE/PRAASとして報告されている。PSMB8遺伝子は、細胞内で非リソソーム系蛋白質分解を担うプロテアソームを構成するサブユニットの1つである、誘導型のβ5iサブユニットをコードする。ユビキチン-プロテアソーム系と呼ばれる、ポリユビキチン鎖によってラベルされた蛋白質を選択的に分解するシステムによって、不要・有害な蛋白質が除去されるだけでなく、細胞周期やシグナル伝達など多彩な細胞機能が発揮される。特に、プロテアソーム構成サブユニットのうち酵素活性を持つβ1、β2、β5が、誘導型のより活性の高いβ1i、β2i、β5iに置き換わった免疫プロテアソームは、免疫担当細胞で恒常的に発現し、炎症時にはその他の体細胞においてもIFNαやtumor necrosis factor(TNF)αなどの刺激によって誘導され、効率的に蛋白質を分解し、major histocompatibility complex(MHC)クラスI提示に有用なペプチドの産生に働く。NNSでは、PSMB8 p.G201V変異によって、β5iの成熟が妨げられそのキモトリプシン様活性が著しく低下するだけでなく、隣接するβ4、β6サブユニットとの接合面の変化のために複合体の形成不全が起こり、成熟した免疫プロテアソームの量が減少するとともに、β1iとβ2iがもつトリプシン様、カスパーゼ様活性も大きく低下する。その結果、NNS患者の炎症局所に浸潤するマクロファージをはじめ表皮角化細胞、筋肉細胞など各種細胞内にユビキチン化・酸化蛋白質が蓄積し、このためにIL-6やIFN-inducible protein(IP)-10などのサイトカイン・ケモカインの産生が亢進すると考えられる。MHCクラスI提示の障害による免疫不全も想定されるが、明らかな感染免疫不全は報告されていない。一方、JMP症候群では、PSMB8 p.T75M変異によりβ5iのキモトリプシン様活性が特異的に低下し、発現低下は見られない。したがって、本症発症にはプロテアソーム複合体の形成不全は必ずしも必要ないと考えられる。種々の変異を示すCANDLE症候群においても、酵素活性低下の程度はさまざまだが、ユビキチン蓄積やサイトカイン・ケモカイン産生亢進のパターンはNNSと同様であり、さらに末梢血の網羅的発現解析からI型IFN応答の亢進すなわち「I型IFN異常」が示されている。プロテアソーム機能不全によってI型IFN異常を来すメカニズムは明らかではないが、最近、Janusキナーゼ(JAK)阻害薬の臨床治験において、I型IFN異常の正常化とともに高い臨床効果が示され、I型IFN異常の病態における役割が明らかとなった。NNS患者由来iPS細胞から分化させた単球の解析においても、β5iの活性が有意に低下するIFNγ+TNFα刺激下においてI型IFN異常を認めた。ただ、この系においては、IFNγ-JAK-IP-10シグナルとTNFα-mitogen-activated protein(MAP)キナーゼ-IL-6シグナルが双方とも亢進しており、酸化ストレスの関与や各シグナルの細胞内での相互作用も示唆されている。これらの結果から想定されるNNSにおける自己炎症病態モデルを図4に示す。図4 中條・西村症候群における自己炎症病態画像を拡大する■ 症状NNSは、典型的には幼小児期、特に冬季に手足や顔面の凍瘡様皮疹にて発症し、その後四肢・体幹の結節性紅斑様皮疹や弛張熱を不定期に繰り返すようになる。ヘリオトロープ様の眼瞼紅斑を認めることもある。組織学的には、真皮から筋層に至るまで巣状にリンパ球・組織球を主体とした稠密だが多彩な炎症細胞の浸潤を認め、内皮の増殖を伴う血管障害を伴う。筋炎を伴うこともあるが、筋力は比較的保たれる。早期より大脳基底核の石灰化を認めるが、精神発達遅滞はない。次第に特徴的な長く節くれだった指と顔面・上肢を主体とする脂肪筋肉萎縮・やせが進行し、手指や肘関節の屈曲拘縮を来す。やせが進行すると咬合不全や開口障害のため摂食不良となり、また、嚥下障害のため誤嚥性肺炎を繰り返すこともある。LDH、CPK、CRP、AAアミロイドのほか、ガンマグロブリン特にIgGが高値となり、IgEが高値となる例もある。さらに進行すると抗核抗体や各種自己抗体が陽性になることがあり、I型IFN異常との関連から興味を持たれている。早期より肝脾腫を認めるが、脂質代謝異常は一定しない。胸郭の萎縮を伴う拘束性呼吸障害や、心筋変性や心電図異常を伴う心機能低下のために早世する症例がある一方、著明な炎症所見を認めず病院を受診しない症例もある。■ 予後NNSの症例は皆同じ変異を持つにもかかわらず、発症時の炎症の程度や萎縮の進行の速さ、程度には個人差が認められる。小児期に亡くなる症例もあるが、成人後急速に脂肪筋肉萎縮が進行する例が多く、手指の屈曲拘縮のほか、咬合不全や重度の鶏眼などによりQOLが低下する。心肺のほか肝臓などの障害がゆるやかに進み、60歳代で亡くなる例が多いが、早期から拘束性呼吸障害や心機能低下を来して30歳代で突然死する重症例もあり、注意が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)難病指定の基準となるNNSの診断手順と重症度基準を表に示す。臨床症状8項目のうち5項目以上陽性を目安にNNSを疑って遺伝子解析を行い、PSMB8に疾患関連変異があれば確定(Definite)、変異がなくても臨床症状5項目以上陽性で他疾患を除外できれば臨床診断例(Probable)とする。わが国の症例ではPSMB8 p.G201V以外の変異は見つかっていないが、CANDLE症候群やPRAASで報告された変異や新規変異が見出される可能性も考慮されている。進行性の脂肪筋肉萎縮が本疾患で必発の最大の特徴であるが、個人差が大きく、皮疹や発熱などの炎症症状が強い乳幼児期には目立たない。むしろ大脳基底核石灰化が臨床診断の決め手になることがあり、積極的な画像検査が求められる。ただ、凍瘡様皮疹と大脳基底核石灰化は、代表的なI型IFN異常症であるエカルディ・グティエール症候群の特徴でもあり、鑑別には神経精神症状の有無を確認する必要がある。神経症状のない家族性凍瘡様ループスも鑑別対象となり、凍瘡様皮疹は各種I型IFN異常症に共通な所見と考えられる。臨床的に遺伝性自己炎症性疾患が疑われるも臨床診断がつかない場合、既知の原因遺伝子を網羅的に検討し遺伝子診断することも可能であるが、新規変異が見出された場合、その機能的意義まで確認する必要がある。表 中條・西村症候群診断基準と重症度分類画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ステロイド全身投与は発熱、皮疹などの炎症の軽減には有効だが、減量によって容易に再燃し、また脂肪筋肉萎縮には無効である。むしろ幼小児期からのステロイド全身投与は、長期内服による成長障害、中心性肥満、緑内障、骨粗鬆症など弊害も多く、慎重な投与が必要である。メトトレキサートや抗IL-6受容体抗体製剤の有効性も報告されているが、ステロイドと同様、効果は限定的で、炎症にはある程度有効だが脂肪筋肉萎縮には無効である。CANDLE症候群に対してJAK1/2阻害薬のバリシチニブのグローバル治験が行われ、幅広い年代の10例の患者に3年間投与された結果、5例が緩解に至ったと報告されている。4 今後の展望2020年よりPSMB8遺伝子解析が保険適用となり、運用が待たれる。また、NNS患者末梢血の遺伝子発現解析にてI型IFN異常が見られることが明らかとなりつつあり、診断への応用が期待されている。治療においても、NNSに対してJAK1/2阻害薬が有効である可能性が高く、適用が期待されているが、病態にはまだ不明な点が多く、さらなる病態解明に基づいた原因療法の開発が切望される。5 主たる診療科小児科・皮膚科その他、症状に応じて脳神経内科、循環器内科、呼吸器内科、リハビリテーション科、歯科口腔外科など。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 中條・西村症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 中條・西村症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)自己炎症性疾患サイト 中條-西村症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)金澤伸雄ほか. 日臨免会誌.2011;34:388-400.2)Kitano Y, et al. Arch Dermatol.1985;121:1053-1056.3)Tanaka M, et al. Intern Med. 1993;32:42-45.4)Arima K, et al. Proc Natl Acad Sci U S A.2011;108:14914-14919.5)Kanazawa N, et al. Mod Rheumatol Case Rep.2018;3:74-78.6)Kanazawa N, et al. Inflamm Regen.2019;39:11.7)Shi X, et al. J Dermatol.2019;46:e160-e161.8)Okamoto K, et al. J Oral Maxillofac Surg Med Pathol.(in press)公開履歴初回2020年03月09日

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若年性特発性関節炎〔JIA:juvenile idiopathic arthritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義若年性特発性関節炎(juvenile idiopathic arthritis:JIA)は、滑膜炎による関節の炎症が長期間繰り返す結果、関節軟骨および骨破壊が進行し関節拘縮や障害を引き起こすいまだ原因不明の慢性の炎症性疾患であり、小児期リウマチ性疾患の中で最も頻度が多い。「16歳未満で発症し、6週間以上持続する原因不明の関節炎で、他の病因によるものを除外したもの」と定義されている1)(表)。表 JIAの分類基準(ILAR分類表、2001、Edmonton改訂)画像を拡大する■ 疫学本疾患の頻度は、わが国では海外の報告と同程度の小児人口10万人対10〜15人といわれ、関節リウマチの1/50~1/100程度である。■ 病因、発症病理各病型により病態が大きく異なることが知られている。全身型は、自己免疫よりも自己炎症の要素が強い。関節型に包含される少関節型やリウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)陽性多関節型は、自己抗体の頻度が高く液性免疫の関与が強い。RF陰性多関節型や腱付着部炎関連型ではHLA遺伝子多型の関与が示されている。いずれも活性化したT細胞やマクロファージが病態に深く関わっていると推測されている。また、家族歴が参考となる病型を除き、通常家族性発症は認めない。近年、炎症のメカニズムについての知見が集積し、関節炎の炎症病態形成における炎症性サイトカインの関与が認識されるようになった。全身型ではインターロイキン(interleukin:IL)-1βとIL-6が、関節型では腫瘍壊死因子(tumornecrosis factor:TNF)-α、IL-1β、IL-6のいずれもが、炎症の惹起・維持に主要な役割を果たしている。現在治療として重要な地位を占める生物学的製剤の臨床応用が、全身炎症と関節炎症における個々のサイトカインの役割について重要な示唆を与えている。■ 症状1)全身型発熱、関節痛・関節腫脹、リウマトイド疹、筋肉痛や咽頭痛などの症状を呈する。3割は発症時に関節症状を欠く。マクロファージ活性化症候群(macrophage activation syndrome:MAS)(8%)、播種性血管内凝固症候群(5%)などの重篤な合併症に注意を要する。2)関節型(1)少関節型関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりなどに加え、ぶどう膜炎の合併が見られる。少関節型に伴うぶどう膜炎は女児、抗核抗体(antinuclear antibody:ANA)陽性例に多く無症候性で前部に起こり、放置すれば失明率が高い(15~20%)。5〜10年の経過では、3割が無治療、5割が無症状であった。ぶどう膜炎は10〜20%に認め、関節炎発症後5年以内に発病することが多い。関節機能は正常~軽度障害が98%で、最も関節予後はよい。(2)多関節型(RF陰性)関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりに加え、4割で発熱を認める。5〜10年の経過では、3割が無治療で4割が無症状であった。関節可動域制限や変形を認める例があるものの、95%が関節機能正常~軽度障害と、少関節型に次いで関節予後はよい。(3)多関節型(RF陽性)この病型は関節リウマチに近い病態である。関節痛・関節腫脹・可動域制限・朝のこわばりが著明で、初期にすでに変形を来たしている例もある。皮下結節は2.5%と欧米の報告(30%)に比べ少ない。5〜10年の経過では、無治療はわずか8%で、無症状は3割とほとんどの患者が治療継続し、症状も持続していた。可動域制限を7割、変形を2割で認め、16%に中等度~重度の関節機能障害を認める。■ 分類疾患は、原因不明の慢性関節炎を網羅するため7病型に分けられているが、病型ごとの頻度は図1に示した通りである2)。ここでは、わが国の小児リウマチ診療の実情に合わせ、本疾患群を病態の異なる「全身型」(弛張熱、発疹、関節症状などの全身症状を主徴とし、症候の1つとして慢性関節炎を生じる)、「関節型」(関節炎が病態の中心となり、関節滑膜の炎症による関節の腫脹・破壊・変形を引き起こし機能不全に陥る)の2群に大別して考えていくことにする。また、乾癬や潰瘍性大腸炎などに併発して、二次的に慢性関節炎を呈するものは「症候性」と別に分類する。図1 JIA発症病型の割合画像を拡大する■ 予後全身型、関節型JIAとも、生物学的製剤が出現する以前は全患者の75%に程度の差はあるが身体機能障害が存在していたものの、普及した後は頻度が明らかに減少した。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)日本小児リウマチ学会と日本リウマチ学会は、共同でJIAの適切な診断と標単的な治療について、わが国の一般小児診療に関わる医師のために「初期診療の手引き2015年版」3)を作成しているので、詳細は成書にてご確認願いたい。1)全身型JIA全身型JIAではIL-6とIL-6受容体が病態形成の核となっていることが判明しており、高サイトカイン血症を呈する代表的疾患である。症状としては、とくに弛張熱が特徴的で、毎日あるいは2日毎に定まった時間帯に38~40℃に及ぶ発熱が生じ、数時間すると発汗とともに解熱する。発熱時は体全体にリウマトイド疹という発疹が出現し、倦怠感が強く認められる。本病型は、敗血症、悪性腫瘍、特殊な感染症あるいは感染症に対するアレルギー性反応などを除外した上で診断される。検査所見では、左方移動を伴わない好中球優位(全分画の80~90%以上)の白血球数の著増を認め、血小板増多、貧血の進行などが特徴である。赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate:ESR)、CRP値、血清アミロイドA値が高値となる。凝固線溶系の亢進があり、D-ダイマーなどが高値となる。炎症が数ヵ月以上にわたり慢性化すると、血清IgG値も高値となる。フェリチン値の著増例では、MASへの移行に注意が必要である。IL-6/IL-6Rの他に、IL-18も病態形成に重要であることが判明しており、血清IL-18値の著増も特徴的である。関節炎の診断には前述の通り、血清MMP-3値が有用である。鑑別診断として、深部膿瘍や腫瘍性病変が挙げられるが、これらの疾患に対して通常治療薬として使用するグルココルチコイド(glucocorticoid:GC)は疾患活動性を修飾し原疾患の悪化などを来す可能性がある。これらの鑑別のため、画像検査としては18F-FDG-positron emission tomography(PET)やガリウムシンチグラフィーが有用である。全身炎症の強く生じている全身型の急性期には骨髄(脊椎、骨盤、長管骨など)や脾臓への集積が目立つことが多い。2)関節型JIA関節炎が長期に及ぶと関節の変形(骨びらん、関節脱臼/亜脱臼、骨性強直)や成長障害が出現し、患児のQOLは著しく障害される。また、関節変形による変形性関節症様の病態が出現することもある。少関節炎では下肢の関節が罹患しやすく、多関節炎では左右対称に大関節・小関節全体に見られる。関節炎症の詳細な臨床的把握(四肢・顎関節計70関節+頸椎関節の診察)、血液検査による炎症所見の評価(赤沈値、CRP)、血清反応による関節炎の評価(MMP-3、ヒアルロン酸、FDP-E)、病型の判断(RF、ANA)を行う。また、抗CCP抗体は関節型で特異的に検出されるため、診断的意義と予後推定に有用である。関節部位の単純X線検査では、発症後数ヵ月の間は一般的には異常所見は得られないため、有意な所見がなくても本症を否定できない。関節炎が長期間持続した例では、X線検査で関節裂隙の狭小化や骨の辺縁不整などを認める。また、罹患関節の造影MRIにより、関節滑液の貯留と増殖性滑膜炎の存在を確認することも重要である。関節の炎症を検出し得る検査法として、MRIに加え超音波検査が有用である。ただし、発達段階の小児の画像評価を行う際は、成人と異なり、関節軟骨の厚さや不完全骨化に多様性があるため注意して評価する。鑑別疾患として、感染性関節炎、他の膠原病に伴う関節炎、整形外科的疾患(とくに十字靭帯障害)、小児白血病が挙げられる。外来診療で多いのは「成長痛」で、夕方から夜にかけて膝や足関節の痛みを訴えるところがJIAとの相違点である。関節型では関節炎が診察により明確に認められる対称性関節炎であり、関節症状は早朝から午前中に悪化する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 全身型(図2)図2 全身型に対する治療画像を拡大する1)初期対応全身型JIAにおいて非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)で対応が可能な例は確かに存在するが一部の症例に限られる。したがってGCが全身型JIA治療の中心であるが、これまでしばしば大量GCが漫然と長期にわたり投薬されたり、種々の免疫抑制薬も併用され続けたが不応である患児、MASへ病態移行した患児などを診療する機会も多く見受けられた。NSAIDs不応例にはプレドニゾロン(prednisolone:PSL)1~2mg/kg/日が適用される。メチルプレドニゾロン・パルス療法を行い、後療法としてPSL0.5~0.7mg/kg/日を用いると入院期間の著しい短縮に繋がる場合もある。免疫抑制薬としてシクロスポリン、メトトレキサート(methotrexate:MTX)が加えられることもあるが、少なくとも単独で活動期にある全身型の炎症抑制はできず、また併用効果も疑問である。また、関節炎に対しMTXの効果が期待されるが、一般に有効ではない。このことは、関節型JIAと全身型JIAとでは関節炎発症の機序が異なることを示唆している。本病型は、基本的には大量GCだけが炎症抑制効果をもつと考えられてきた。GCは他の薬剤と異なり、副腎という器官が生成する生理的活性物質そのものである。GCの薬理作用はすでに身体に備わっている受容体、細胞内代謝機構などを介して発現するので、一定量投与の後に減量に入ると、安定していたこれらの生体内機構の機能縮小が過剰に生じるため、直ちに再燃が起こることがある。したがってGCの減量はごく微量ずつ漸減するのが原則となる。2)生物学的製剤(抗IL-6レセプター抗体:トシリズマブ〔商品名:アクテムラ〕)の投与難治性JIAの場合、以下の条件を満たしたら、速やかに専門医に相談し、トシリズマブ(tocilizumab:TCZ)の投与を検討すべきである。(1)治療経過でGCの減量が困難である場合(2)MASへの病態転換が考えられる場合(3)治療経過が思わしくなく、次の段階の治療を要すると判断された場合TCZによる全身型JIAに対する治療は、臨床治験を経てわが国で世界に先駆けて認可され、使用経験が増加することで、有効性が極めて高く、副作用は軽微である薬剤であることが現在判明している。エタネルセプトなどの抗TNF治療薬の散発的な報告によると効果は10~30%程度といわれている。また、IL-1レセプターアンタゴニストは本症に有効であるとの報告が海外であるが、わが国でもカナキヌマブ(同:イラリス)が臨床試験を経て2018年7月に適用を取得することができた。■ 関節型(図3)図3 関節型への治療画像を拡大する1)診断確定まで臨床所見、関節所見、検査所見から診断が確定するまで1~2週間は要する。この間、NSAIDsであるナプロキセン(同: ナイキサン)、イブプロフェン(同: ブルフェンほか)を用いる。鎮痛効果は得られることが多く、一部の例では関節炎そのものも鎮静化するが、鎮痛に成功しても炎症反応が持続していることが多く、2〜3週間の内服経過で炎症血液マーカーが正常化しない場合は、次のステップに移る。NSAIDsにより鎮痛および炎症反応の正常化がみられる例ではそのまま維持する。2)MTXを中心とした多剤併用療法RF陽性型、ANA陽性型およびRF/ANA陰性型のうち多関節型の症例は、できるだけ早くMTX少量パルス療法に切り替える。当初スタートしたNSAIDsの効果が不十分であると判断された場合にも、MTX少量パルス療法へ変更する。MTXの効果発現までには少なくとも8週間程度の期間が必要で、この期間を過ぎて効果が不十分と考えられた例では、嘔気や肝機能障害が許容範囲内であるならば、小児最大量(10mg/m2)まで増量を試みる。また、即効性を期待して治療の初めからPSL5~10mg/日を加える方法も行われている。この方法では効果の発現は2~4週間と比較的早い。MTX効果が認められる時期(4~8週間)になれば、PSLは漸減し、維持量(3~5mg/日)とする。PSLによる成長障害や骨粗鬆症などの副作用の心配は少なく、かえって炎症を充分に抑制するため骨・軟骨破壊は多くない。3)生物学的製剤治療前述のMTXを中核におく併用療法にても改善がみられない症例では、生物学的製剤の導入を図る。生物学的製剤の導入の時期は、MTX投与後3〜6ヵ月が適当で、以下の場合が該当する。(1)「初期診療の手引き」に沿って3ヵ月間以上治療を行っても、関節炎をはじめとする臨床症状および血液炎症所見に改善がなく治療が奏効しない場合(2)MTX少量パルス療法およびその併用療法によってもGCの減量が困難またはステロイド依存状態にあると考えられる場合(3)MTX基準量にても忍容性不良(嘔気、肝機能障害など)である場合わが国では2008年にヒト化抗IL-6レセプター抗体トシリズマブ、2009年にはTNF結合蛋白であるエタネルセプト(同:同名)、2011年にはヒト化TNF抗体アダリムマブ(同:ヒュミラ)に加え、2018年にはCD28共刺激シグナル阻害薬アパタセプト(同: オレンシア)がいずれも臨床試験の優れた安全性および有効性の結果をもって、関節型JIAの症例に対して適応拡大を取得した。安全性についても、重篤な副作用はいずれの薬剤についてもみられていない。4 今後の展望上述の通り、わが国では、JIA治療に関わる生物学的製剤(全身型:トシリズマブ、カナキヌマブ、関節型:エタネルセプト、アダリムマブ、トシリズマブ、アバタセプト)が適用を取得したことで、小児リウマチ診療は大きく変貌し、“CARE”から“CURE”の時代が到来したと、多くの診療医が実感できるようになっている。今後もさまざまな生物学的製剤の開発が予定されており、その薬剤の開発、承認および臨床現場への早期実用化を目指すために、わが国での小児リウマチ薬の開発から承認までの問題点を可視化し、将来に向けての提案を行っている。5 主たる診療科小児科、(膠原病リウマチ内科、整形外科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児リウマチ学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本リウマチ学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けの公費助成などのまとまった情報)難病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けの公費助成などのまとまった情報)患者会情報若年性特発性関節炎(JIA)親の会「あすなろ会」(患者とその家族および支援者の会)1)Fink CW. J Rheumatol. 1995;22:1566-1569.2)武井修治. 小児慢性特定疾患治療研究事業を利活用した若年性特発性関節炎JIAの二次調査.小児慢性特定疾患治療研究事業.平成19年度総括・分担研究報告書. 2008;102~113.3)日本リウマチ学会小児リウマチ調査検討小委員会. 若年性特発性関節炎初期診療の手引き(2015年). メデイカルレビュー社:2015.公開履歴初回2020年03月09日

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難病対策は未来への架け橋

難病対策は未来への架け橋わが国では1972年の難病対策要綱の制定から、世界でも類をみない難病対策、すなわち研究推進と患者支援が行われてきましたが、認定疾患が少ない、国の予算確保が難しいなど様々な課題を抱えていました。多くの議論を経て2015年から「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が施行され、一定の要件を満たすものは指定難病として認定され、その数は今年度には333に増加しています。指定難病には、免疫不全症、脊髄小脳変性症などのように包括病名が多数あり、各々何十ものあるいは百を超える個別の疾患を含むため、実際は1000を超える個別の疾患が含まれており、非常に多くの疾患が指定されています。難病は原因や発症機序が不明で有効な治療法が無く、しばしば進行性で長期の療養を要することから、患者さんやご家族にとってはまさに塗炭の苦しみです。このような中、一定の要件を満たした難病は数の制限なく指定を受けることができることはまさに画期的と言えます。とくに近年の医学の進歩はめざましく、発症機序の解明が進み、自己免疫疾患などでは分子標的薬の開発が着実に発展しています。近い将来、現在の「難病」が十分に治療可能な普通の病気になることを祈念する次第です。すなわち「難病」の無くなる日こそが難病関係者の究極の目標とも言えます。実は、そのような中にあって、まだ診断すらついていない稀な難病といえる「未診断疾患」が多数存在しています。2019年11月で9027の遺伝性疾患の内3306で原因が不明です*。これらを一刻も早く解明し、病的遺伝子(変異)の全容を解明することで、難病に限らず多くの疾患の病的代謝経路(病的分子ネットワーク)の解明に大きく貢献すると期待されます。既に糖尿病のSGLT2阻害薬、高脂血症のPCSK9阻害薬、骨粗鬆症の抗RANKL抗体など、稀少難病の原因遺伝子から開発されたコモンな疾患の治療薬は良く知られていますが、難病研究の貢献は決して難病患者さんの為だけに止まらないことは明白です。なお、研究推進や経済的支援のみならず、住み慣れた地域社会での生活や就労の支援までを含めた包括的な対策が難病法のめざす処と思います。各都道府県には難病診療連携拠点病院や難病医療協力病院の認定が、全国的には難病医療支援ネットワークの構築が進みつつ有ります。さらに小児の患者さんでは小児慢性特定疾患の患者さんも多く、指定難病とのスムースな連携が進められており、小児期から成人期への移行期医療のモデルとしての発展が期待されています。わが国の難病対策が未来への架け橋となることを祈念いたします。(*OMIMによる)

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第23回 意識しよう 免疫力を高めるビタミンDの食材一覧表【実践型!食事指導スライド】

第23回 意識しよう 免疫力を高めるビタミンDの食材一覧表医療者向けワンポイント解説ビタミンDは、紫外線(日光)を浴びることにより、皮膚で合成されるビタミンとしても有名です。しかし、皮膚合成だけでは不十分であるため、食事からの摂取が見直されつつあります。厚生労働省は、5年ごとに改定する「日本人の食事摂取基準」2020年版において、ビタミンDについても変更を加えています。ビタミンDの指標設定については、「骨折リスクを上昇させないビタミンDの必要量に基づき目安量を設定」とされ、2015年度に比べると18歳以上の男女ともに5.5μg/日から8.5μg/日に変更されています。ビタミンDの欠乏や不足におけるリスクは、くる病や骨軟化症のなどが有名ですが、ほかにも骨粗鬆症、感染症、自己免疫、炎症性疾患、心血管病変、がんなどが報告されています。また、ビタミンDは、自然免疫系を増強させ、獲得免疫系の制御をすると考えられ、風邪、インフルエンザ、肺炎など呼吸器感染症の予防が期待されています。また、ビタミンDの不足は糖尿病のリスクを高めるという報告もあります。しかし、糖尿病に関しては、「2型糖尿病の高リスク者に対して、ビタミンD補充をしても、リスクは低下しなかった」という報告*もあり、糖尿病に対して、ビタミンDを摂取すれば良いという考え方ではなく、日常の体づくりに対しての摂取を考えていくべきかもしれません。ビタミンDを食事から摂取しようとする場合、食材は限られており、多く含まれるのは、「魚」「きのこ類」「たまご」です。100gあたりのビタミンD量を比較すると、乾燥きくらげが圧倒的に多く85.4μgです。しかし、実際に1度の食事で摂取できる量は3g程度であり、ビタミンDに換算すると約2.6μgです。そのほか、きのこ類では、舞茸に多く含まれ、大きなパック1個分(100g)で約4.9μgとなります。魚では、サケなどが摂りやすく33μg/100gであり、切り身1枚(80g)程度でも約26.4μgと目安量を簡単に摂取することが可能です。しらす干しは大さじ1杯(5g)で約3μgのビタミンDが摂取できます。魚やきのこは嗜好や食生活の環境によって摂取量が左右されるため、毎日意識をして摂取することがカギとなります。*:Pittas AG, et al. N Engl J Med. 2019;381:520-530.

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週7パック以上の納豆で骨粗鬆症性骨折リスクが半減?

 納豆摂取と骨密度との間の直接の関連は知られているが、骨粗鬆症性骨折との関連については報告されていない。今回、大阪医科大学/京都栄養医療専門学校の兒島 茜氏らの研究で、閉経後の日本人女性において習慣的な納豆摂取が骨密度とは関係なく骨粗鬆症性骨折のリスク低下と関連していることが示唆された。The Journal of Nutrition誌オンライン版2019年12月11日号に掲載。 本研究は、納豆の習慣的な摂取と骨粗鬆症性骨折リスクとの関連を調査した前向きコホート研究。対象は、1996、1999、2002、2006年にJapanese Population-based Osteoporosis(JPOS)研究に登録され、ベースライン時に45歳以上であった閉経後日本人女性1,417人。登録時に、納豆、豆腐、その他の大豆製品の摂取について食事摂取頻度調査票(FFQ)を使用して調査した。骨折は1999年、2002年、2006年、2011/2012年の追跡調査で確認した。主要アウトカムは骨粗鬆症性骨折で、医師がレントゲン写真で診断した、強い外力によらない臨床的骨折とした。Cox比例ハザードモデルを用いて、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・1万7,699人年の追跡期間中(中央値15.2年)、172人の女性に骨粗鬆症性骨折が確認された。・年齢、股関節の骨密度年齢について調整後、納豆摂取量が週当たり1パック(約40 g)未満に対するHRは、1~6パックで0.72(95%CI:0.52~0.98)、7パック以上で0.51(95%CI:0.30~0.87)であった。・さらに、BMI、骨粗鬆症性骨折の既往、心筋梗塞または脳卒中の既往、糖尿病、現在の喫煙、飲酒、豆腐および他の大豆製品の摂取頻度、食事性カルシウム摂取について調整すると、1パック未満に対するHRは1~6パックで0.79(95%CI:0.56~1.10)、7パック以上で0.56(95%CI:0.32~0.99)となった。・豆腐や他の大豆製品の摂取頻度は、骨粗鬆症性骨折のリスクと関連がなかった。

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