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12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」【下平博士のDIノート】第34回

12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」 今回は、ヒト化抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤「リサンキズマブ(商品名:スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL)」を紹介します。本剤は、初回および4週時の後は12週ごとに皮下投与する薬剤です。少ない投与頻度で治療効果を発揮し、長期間持続するため、中等症から重症の乾癬患者のアンメットニーズを満たす薬剤として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年5月24日に発売されています。<用法・用量>通常、成人にはリサンキズマブとして、1回150mgを初回、4週後、以降12週間隔で皮下投与します。なお、患者の状態に応じて1回75mgを投与することができます。<副作用>尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の患者を対象とした国内外の臨床試験(国際共同試験3件、国内試験2件:n=1,228)で報告された全副作用は219例(17.8%)でした。主な副作用は、ウイルス性上気道感染27例(2.2%)、注射部位紅斑15例(1.2%)、上気道感染14例(1.1%)、頭痛12例(1.0%)、上咽頭炎10例(0.8%)、そう痒症9例(0.7%)、口腔ヘルペス8例(0.7%)などでした。150mg投与群と75mg投与群の間に安全性プロファイルの違いは認められていません。なお、重大な副作用として、敗血症、骨髄炎、腎盂腎炎、細菌性髄膜炎などの重篤な感染症(0.7%)、アナフィラキシーなどの重篤な過敏症(0.1%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となるIL-23の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.体内の免疫機能の一部を弱めるため、ウイルスや細菌などによる感染症にかかりやすくなります。感染症が疑われる症状(発熱、寒気、体がだるい、など)が現れた場合には、速やかに医師に連絡してください。3.この薬を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹、風疹、麻疹・風疹混合、水痘、おたふく風邪など)の接種はできないので、接種の必要がある場合には医師に相談してください。4.入浴時に体をゴシゴシ洗ったり、熱い湯船につかったりすると、皮膚に過度の刺激が加わって症状が悪化することがありますので避けてください。5.風邪などの感染症にかからないように、日頃からうがいと手洗いを心掛け、体調管理に気を付けましょう。インフルエンザ予防のため、流行前にインフルエンザワクチンを打つのも有用です。<Shimo's eyes>乾癬の治療として、以前より副腎皮質ステロイドあるいはビタミンD3誘導体の外用療法、光線療法、または内服のシクロスポリン、エトレチナートなどによる全身療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在発売されている生物学的製剤は、本剤と標的が同じグセルクマブ(商品名:トレムフィア)のほか、抗TNFα抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)およびインフリキシマブ(同:レミケード)、抗IL-12/23p40抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)、抗IL-17A抗体のセクキヌマブ(同:コセンティクス)およびイキセキズマブ(同:トルツ)、抗IL-17受容体A抗体のブロダルマブ(同:ルミセフ)などがあります。また、2017年には経口薬のPDE4阻害薬アプレミラスト(同:オテズラ)も新薬として加わりました。治療の選択肢は大幅に広がり、乾癬はいまやコントロール可能な疾患になりつつあります。本剤の安全性に関しては、ほかの生物学的製剤と同様に、結核の既往歴や感染症に注意する必要があります。本剤の投与は基本的に医療機関で行われると想定できますので、薬局では併用薬などの聞き取りや、生活指導で患者さんをフォローしましょう。本剤は、初回および4週後に投与し、その後は12週ごとに投与します。国内で承認されている乾癬治療薬では最も投与間隔が長い薬剤の1つとなります。通院までの間の体調を記録する「体調管理ノート」や、次回の通院予定日をLINEの通知で受け取れる「通院アラーム」などのサービスの活用を薦めるとよいでしょう。参考日本皮膚科学会 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2019年版)アッヴィ スキリージ Weekly 体調管理ノート

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新しい抗うつ薬の出現(解説:岡村毅氏)-1117

 まったく新しい機序の抗うつ薬に関する臨床からの報告である。まずは抗うつ薬についておさらいしてみよう。1999年にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が使えるようになり、うつ病の薬物療法に革命的な変化が起きた。それまでの古典的抗うつ薬には抗コリン作用(便秘など)や抗ヒスタミン作用(眠気など)などが伴ったが、SSRIには消化器症状(吐き気など)以外は比較的少なかったからである。 また、このころ(製薬業界にとっては黒歴史かもしれないが)うつはこころの風邪というキャンペーンがなされたりして、精神科・心療内科の敷居がずいぶん低くなった。うつはこころの風邪という言説は、今ではすっかり疾病喧伝(薬を売るために変な宣伝をしたという批判)の文脈で引用されるが、個人的には物事には両面があると思う。今では信じられないかもしれないが、「うつは弱い人がなるものだ」「精神科に行くなんて人生の破滅だ」と信じて、誰にも助けを求められずに重篤化する人もいたので、このキャンペーンによって救われた人もいただろう。 もちろん操作診断が使われるようになり、専門家が経験と知識に基づいて診断する「うつ病」から、いくつかの基準を満たしたときに診断される「うつ病エピソード」として捉えられるようになったことも大きいだろう。 ともあれ、20世紀から21世紀になるころ、うつ病は特殊で恐ろしい精神疾患ではなくなり、僕らの生活世界に現れた。人々は、かつてはそう簡単には「わたし、うつっぽいかも」とは言わなかったが、いまやずいぶん簡単に言うようになった。あれから20年間、いち臨床医としての意見であるが、SSRIが出たときのような革命的変化をもたらした薬剤は出ていない。 これは実は、統合失調症についてもいえる。1996年に同じく副作用が少ない非定型抗精神病薬が使えるようになって(もちろん、ないわけではない)、革命的な変化が起きた。具体的には新たな長期入院者はほとんど見なくなった。その後いくつかいい薬は出たが、破壊的イノベーションは起きていない。そして人々は「トウシツ」などと気軽に言うようになった。 おそらく50年前には、うつ病や統合失調症を経験した友達がいる人は少なかったであろう。今では、たぶん普通のことだ。 いずれにせよ、うつ病の薬物治療は20年程度、革命的な進歩はない。よく言えば漸進している状態である。むしろ、うつ病として治療すべき状態と、そうではない状態(たとえば生活習慣の乱れをまずは治すべき状態)などの、薬物治療以前の仕分けがしっかりなされるようになってきている。また人的資源の少ないわが国でも認知行動療法もようやく行われつつある。修正型電気けいれん療法(m-ECT)もいまや広く行われている。薬物療法以外が拡充しているのだから、健全なことだと思う。 さて、うつ病の薬物治療で現在のところ期待されている薬剤は「ケタミン」と「GABA受容体作用薬」であろう。本論文は、後者についての明らかな臨床効果を報告するものである。 これが、革命を起こしたSSRI以来の20年間に出現した「その他大勢」の新薬の末席に連なることになるのか、ブレークスルーになるのかは、もうしばらく見てみないとわからないだろう。 なお、筆者は抗うつ薬が常に必要だとは思わない。うつ病の治療には薬物治療、精神療法、環境調整の3つの柱があり、とくに軽症の場合は薬物を使わなくてもよい場合も多い。一方で、医学はしょせん人間の営みであり、苦しむ人を支援するためには、3つの柱を総動員しなければならない。また、こころを込めて治療をしても治らないときもある。とはいえ、この3つの柱はがんの「標準治療」みたいなものであり、奇妙な代替療法に患者さんが迷い込まないことを祈りたい。

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関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」【下平博士のDIノート】第30回

関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「ペフィシチニブ臭化水素酸塩(商品名:スマイラフ錠50mg/100mg)」を紹介します。本剤は、1日1回の服用でJAKファミリーの各酵素(JAK1/2/3、チロシンキナーゼ2[TYK2])を阻害し、関節リウマチによる関節の炎症や破壊を抑制します。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年7月10日より発売されています。なお、過去の治療において、メトトレキサート(MTX)をはじめとする少なくとも1剤の抗リウマチ薬などによる適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与します。<用法・用量>通常、成人はペフィシチニブとして150mg(状態に応じて100mg)を1日1回食後に投与します。なお、中等度の肝機能障害がある場合は、50mg/日を投与します。<副作用>後期第II相試験、第III相臨床試験2件および継続投与試験の4試験における安全性併合解析において、本剤が投与された患者1,052例中810例(77.0%)に副作用が認められました。主な副作用は、上咽頭炎296例(28.1%)、帯状疱疹136例(12.9%)、血中CK増加98例(9.3%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、帯状疱疹(12.9%)、肺炎(ニューモシスチス肺炎などを含む)(4.7%)、敗血症(0.2%)などの重篤な感染症、好中球減少症(0.5%)、リンパ球減少症(5.9%)、ヘモグロビン減少(2.7%)、消化管穿孔(0.3%)、AST(0.6%)・ALT(0.8%)の上昇などを伴う肝機能障害、黄疸(5.0%)、間質性肺炎(0.3%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ヤヌスキナーゼという酵素を阻害することにより、関節の炎症や腫れ、痛みなどの関節リウマチによる症状を軽減します。2.持続する発熱やのどの痛み、息切れ、咳、倦怠感などの症状が現れた場合はすぐにご連絡ください。3.痛みを伴う発疹や皮膚の違和感、局所の激しい痛み、神経痛などが現れた場合は速やかに受診してください。4.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合には主治医に相談してください。5.(妊娠可能年齢の女性の場合)この薬を服用中および服用終了後少なくとも1月経周期は、適切な避妊を行ってください。6.本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>関節リウマチの薬物療法は近年大きく進展しています。関節破壊の進行抑制を含めた病態コントロールのため、発症初期にはMTXをはじめとする従来型疾患修飾性抗リウマチ薬(cDMARDs)が使用されます。MTXなどを十分量で用いても効果不十分な場合には、生物学的製剤であるTNF阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブなど)やIL-6阻害薬(トシリズマブなど)、T細胞活性抑制薬(アバタセプト)、もしくは低分子標的薬であるJAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブ)が使用されます。本剤は、関節リウマチに用いる3剤目のJAK阻害薬で、JAK1、JAK2、JAK3およびTYK2を阻害し、関節の炎症や破壊を抑制します。生物学的製剤は点滴または皮下注射での投与となりますが、しばしば発疹などの投与時反応や注射部位疼痛が問題となることがあります。JAK阻害薬は経口投与のため、非侵襲性の治療を望む患者さんや自己注射が困難な患者さんであっても、好みや生活環境に合わせた治療を選択することができると期待されています。また、本剤は相互作用も少なく、1日1回投与であるため、高齢者でも使用しやすいと考えられます。留意点としては、中等度の肝機能障害を有する患者については投与量の制限があることが挙げられます。また、本剤は免疫反応に関与するJAK経路の阻害により、結核、肺炎、敗血症などの感染症リスクが増大する懸念があることから、既存のJAK阻害薬2剤と同様に、生物学的製剤や他のJAK阻害薬などの免疫を抑制する薬剤との併用はできません。承認時の臨床試験では、副作用として12.9%で帯状疱疹が報告されているので、とくに高齢の患者さんでは、使用前に帯状疱疹ワクチン接種の有無などについて確認し、服用後に帯状疱疹が現れる可能性について注意喚起をしておく必要があるでしょう。

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5剤目のEGFR変異陽性非小細胞肺がん治療薬「ビジンプロ錠15mg/45mg」【下平博士のDIノート】第26回

5剤目のEGFR変異陽性非小細胞肺がん治療薬「ビジンプロ錠15mg/45mg」今回は、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)「ダコミチニブ水和物(商品名:ビジンプロ錠15mg/45mg)」を紹介します。本剤は、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)、ヒト上皮細胞増殖因子受容体(HER)2および4のチロシンキナーゼ活性を不可逆的に阻害することで、がん細胞の増殖を抑制します。<効能・効果>本剤は、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん(NSCLC)の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年3月1日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはダコミチニブとして1日1回45mgを経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量し、副作用が現れた場合には、添付文書に記載されている基準を考慮して休薬、減量または中止します。本剤とCYP2D6基質の薬剤(デキストロメトルファンなど)を併用すると併用薬の血中濃度が上昇する恐れがあり、また、PPIなどの胃内pHを上昇させる薬剤を併用すると本剤の血中濃度が低下して有効性が減弱する可能性があるため、それぞれ併用注意となっています。<副作用>化学療法歴のないEGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発NSCLC患者を対象とした非盲検無作為化国際共同第III相試験において、本剤が投与された227例(日本人患者40例を含む)中220例(96.9%)に副作用が認められました。主な副作用は、下痢193例(85.0%)、爪囲炎140例(61.7%)、口内炎(口腔内潰瘍形成、アフタ性潰瘍など)135例(59.5%)、ざ瘡様皮膚炎111例(48.9%)、発疹・斑状丘疹状皮疹・紅斑性皮疹など82例(36.1%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として間質性肺疾患(2.2%)、重度の下痢(8.4%)、重度の皮膚障害(31.7%)、肝機能障害(28.6%)が認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、EGFRというタンパク質などの働きを抑えることで、がん細胞の増殖を抑えます。2.空咳、発熱など風邪のような症状が現れ、息切れや息苦しさを感じた場合には使用を中止し、すぐに受診してください。3.飲み始めに下痢が生じることが多いので、下痢止め薬が処方されている場合は持ち歩くようにしてください。脱水予防のため、水、白湯、お茶、スポーツドリンクなどでこまめに水分を補給しましょう。4.バランスのよい食事を心掛け、調理をする際は消化をよくするように工夫してください。乳製品、繊維質や脂質が多い食品、香辛料やコーヒー、アルコールなどの刺激物はなるべく控えましょう。5.薬を飲み続けていると、爪周囲や口腔内の赤み、腫れ、痛みなどが生じることがあります。患部は清潔に保ち、日常生活に支障がある場合はご相談ください。6.吹き出物や発疹などの皮膚症状が生じることがあります。症状の予防や軽減のため、低刺激の保湿剤によるスキンケアをこまめに行い、外出時は紫外線対策をしましょう。<Shimo's eyes>NSCLCは肺がん症例の約85%とされており、日本人のNSCLC患者の30~40%にEGFR遺伝子変異があるといわれています。本剤は、ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)、エルロチニブ(同:タルセバ)、アファチニブ(同:ジオトリフ)、オシメルチニブ(同:タグリッソ)に続く、国内で5剤目のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)です。優先審査品目に指定され、申請から7ヵ月での承認となりました。本剤は、EGFRやHER2、HER4のチロシンキナーゼ活性を不可逆的に阻害することにより、EGFR遺伝子変異陽性のがん細胞の増殖を抑制すると考えられています。本剤で治療を行うためには、既存のEGFR-TKIと同様にEGFR遺伝子変異検査を実施する必要があります。臨床試験では副作用が高頻度で認められたため、患者さんには事前に発現率が高い副作用の好発時期を知らせておくことが重要です。個人差はありますが、投与を開始してから副作用が発現するまでの時期として、下痢は2ヵ月程度(中央値6日)、ざ瘡などの皮膚障害は4ヵ月程度(中央値9日)、口内炎や爪囲炎は6ヵ月間程度(それぞれの中央値9日、29日)が目安となります。投与初期から発現する可能性が高いので、それぞれの副作用への対策法も伝えるように心掛けましょう。NSCLCは分子標的薬の登場により着実に予後が改善しています。治療選択肢となる分子標的薬も増えたため、それぞれの薬剤の副作用プロファイルや用法を確認し、患者さんが安心して治療に専念できるように積極的にフォローしましょう。

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今こそ風邪診療を見直す時【Dr.倉原の“俺の本棚”】第14回

【第14回】今こそ風邪診療を見直す時最近、TwitterなどのSNSで「風邪診療に抗菌薬を処方する医師はいかがなものか」みたいな論調が高まっていて、風邪診療を見直すブームがまたやってきそうな気がします。こういうのって1年おきくらいに流行がありますね。風邪に抗菌薬をやみくもに処方する医師は、ヤブといわれても仕方がない時代になりました。『かぜ診療マニュアル 第2版』山本 舜悟/編著. 日本医事新報社. 2017私が風邪診療において最も推薦している本が、この『かぜ診療マニュアル』です。群を抜いてコレ。何がなんでもコレ。絶対コレ。私の研修医時代の指導医だった山本 舜悟先生が編著をされていますが、別に山本先生をヨイショしようとかそんな意図はありません。落ち着いた立ち居振る舞いの中に熱い闘志がみなぎっている先生で、右も左もわからぬヒヨコ研修医にとってアレが一般的な医療だと思っていました。しかし、音羽病院でかなりレベルの高い診療を目の当たりにしていたことを後から知り、タイムマシンに乗って過去に戻れないものかと悔やんだものです。風邪ってエビデンスがないようで、ある程度わかっているところもあるモヤっとした疾患で、我流で診療している医師も多いと思います。しかしこの本は、どの診断・治療にエビデンスがあるのか・ないのか、という観点を示してくれており、実臨床に即座に応用できるのです。漢方薬の代表的な使い方も明記されており、私みたいな漢方素人には助かる一冊に仕上がっています。小児の風邪が別項目で記載されているため、子供も大人も診るクリニックドクターにとってはバイブルみたいな本になるんじゃないですかね、コレ。市中肺炎のことをレクチャーしてくれる指導医はいても、風邪のことをレクチャーできる指導医はなかなかいません。この本は、風邪診療のノウハウを惜しみなく出しているレクチャーが200回分くらい詰まった一冊です。なんとなく総合感冒薬やレスピラトリーキノロンを処方している医師は、これを読まなければこの先も間違った医師人生を送りかねません。この本を読んで、己の診療を見直しましょう。2013年に第1版、2017年に第2版が出ているので、2021年に第3版をぜひとも期待したいところです。『かぜ診療マニュアル 第2版』山本 舜悟/編著出版社名日本医事新報社定価本体4,000円+税サイズA5判刊行年2017年■関連記事Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー

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第11回 風邪を予防する5ヵ条【実践型!食事指導スライド】

第11回 風邪を予防する5ヵ条医療者向けワンポイント解説風邪やインフルエンザについての流行時期や感染経路などがニュースになる時期です。食生活への意識は、これらに対する予防効果として期待できますし、体調管理にもつながります。そこで、風邪を予防するための5つのポイントをまとめました。1)喉などの粘膜を保護するためにビタミンAを摂取するビタミンAは、体内で免疫機能、視覚、生殖、細胞情報伝達に関与している栄養素です。皮膚や粘膜の保護、健康を維持する働きがあるため、ウイルスや菌の予防に対しても効果があると考えられています。ビタミンAは2種類あり、肉や魚、乳製品、卵などに含まれるレチノールなどの既成ビタミンAと、野菜や果物などに含まれるβ−カロテンなどのプロビタミンAカロテノイドがあります。多く含まれる食品として、牛乳やチーズなどの乳製品、緑黄色野菜(色の濃い野菜:ニンジン、パセリ、ほうれん草、春菊、ブロッコリー、水菜など)があります。脂溶性ビタミンなので、「油で炒める」、「ドレッシングをかける」、「肉や魚と一緒に食べる」ことで効率的な吸収が期待できます。2)免疫を高めるためにビタミンDを摂取するビタミンDは、骨を丈夫にする働き、免疫機能を調整する働きがあり、ウイルスや菌などに対して予防効果が期待されています。ビタミンDは、サケ、イワシ、サバなどの魚類、キクラゲ、干し椎茸などのキノコ類に多く含まれます。なかでも、イワシ缶やサバ缶は手軽にとれる食品です。また、キクラゲや干し椎茸を意識して料理に加えるのも良いでしょう。ビタミンDは、太陽光に含まれる紫外線を浴びることで、皮膚で生合成されるビタミンです。しかし、最近では、日焼け止めクリーム、UVカットガラスの普及に伴い、30歳以上の約半数がビタミンD不足の状態であるという報告もあります。また、冬場は日照時間も少なくなるため、食べ物からのビタミンD摂取を意識することが大切です。3)果物や葉物野菜からビタミンCを摂取するビタミンCは、コラーゲンの生成、抗酸化作用、栄養素の吸収など様々な働きがあるため、免疫力を高め、風邪予防に対しても効果が期待されます。ただし、一度に大量摂取しても、尿へ排泄されてしまいます。こまめに摂取しましょう。ビタミンCは、レモンやオレンジ、みかんなどの果物からの摂取が一般的ですが、実は野菜に多く含まれ、赤ピーマン、かいわれ大根、カリフラワー、ミニトマト、キャベツなどに豊富に含まれます。熱に弱く、水溶性ビタミンのため、生での摂取が効率的です。ただし、オレンジジュースなどの大量摂取は、ビタミンCよりも糖の摂取過多が懸念されるので、野菜からのビタミンC摂取をすすめすると良いでしょう。4)のど飴や温かい飲み物で口の乾燥を予防する冬は、室内、野外ともに乾燥していることがほとんどです。乾燥により粘膜が乾燥すると、ウイルスや菌が侵入しやすくなるため、口腔内の保湿が重要です。口の中にのど飴などを入れておくと、唾液が出て乾燥予防になります。温かい飲み物は、水分補給によりカラダ全体の乾燥を予防するだけではなく、カラダを直接温め、胃腸の動きを活性化し、代謝を高める働きが期待できます。5)肉や魚などのタンパク質を摂取して体力を増強する免疫力を高めるためには、体力の増強が大切です。肉や魚をはじめとする動物性タンパク質は、筋肉になりやすく、日常的に意識して摂取することが大切です。大豆製品などの植物性タンパク質は、脂質が少なく、食欲がないときにも摂取しやすい良質なタンパク源です。しっかりと噛んで食べることは、胃腸への負担を減らし、消化の助けになります。また、噛むことは副交感神経を刺激します。副交感神経が優位になると、リンパ球が増え、免疫力の強化も期待できます。

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第20回 小児科クリニックからの セフカペンピボキシル の処方(後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1患児の保護者に確認することは?Q2疑義照会しますか?Q3 抗菌薬について説明することは?今は必要ないかもしれないが、必要になる可能性もあると説明 中堅薬剤師さん(薬局)提示された情報から、ウイルス性感冒(ヘルパンギーナ、咽頭結膜炎など)の可能性は高いと思われますが、溶連菌感染症の可能性もあり、フロモックス®の必要性は否定できません。医師との関係性を壊したくない思いを尊重し、フロモックス®を服用するかどうかの選択も残したいと思います。「今は必要ないかもしれないが、今後、必要になる可能性もある」と説明し、調剤は受けてもらい、フロモックス®以外の対症療法薬で経過観察をするよう助言します。対症療法薬で軽快しないようであれば、溶連菌感染症の可能性があるので、耳鼻咽喉科に相談することを勧めます(小児科には行きにくいでしょうから・・・)。そして、フロモックス®は使わずに残してあることを伝えた上で、今後の対処を相談してもらいます。鑑別が難しいこと、重症化のリスク 奥村雪男さん(薬局)処方医と患児家族の関係を損なわぬよう、「ウイルスが原因となる初期の風邪だと思うが、患児は2歳未満であり、今後咳がひどくなって細気管支炎になると重症化するリスクがある。その場合、ウイルス性か細菌性か明確に鑑別するのが難しいので、効率は良くないが、慣行として抗菌薬をあらかじめ処方することがある」と説明します。低血糖の危険性 中西剛明さん(薬局)未熟児で生まれた子は、筋肉量が少ないことが多く、健常児より低血糖を起こしやすいと言われています。フロモックス®はピボキシル基を有する抗菌薬なので、低血糖の危険があります。出生時体重を参考に、未熟児であれば低血糖の危険について説明します。散剤の与薬の仕方 わらび餅さん(病院)小児病棟で、赤ちゃんへうまく薬を飲ませられない母親を何人も見てきました。理論通りではうまくいかない、赤ちゃんの機嫌に合わせた工夫も必要です。赤ちゃんが9カ月なら、母親の与薬経験が未熟な可能性があるので、薬を飲ませられるか聞いて、それに応じて散剤の与薬の仕方を説明します。フロモックス®は、マクロライドなどに比べるとひどい味ではないですが、飲み残しがないように食前に飲ませていいこと、たくさんの水で溶かないことなどです。鼻水や痰を除去すること JITHURYOUさん(病院)本人が苦しいばかりでなく、細菌の二次感染の引き金になる可能性があるので、鼻水や痰などはできるだけ取るように説明します。Q4 その他、気付いたことは?医療関係者でも知識に乏しいことがある ふな3さん(薬局)発熱(のおそれ)+咽頭炎ということで、溶連菌の疑いがあっての抗菌薬投与なのか、額面通り「二次感染予防」なのか微妙です。それ故、飲ませないという保護者の希望を後押しするかどうか悩ましいところです。「医療関係者」という言葉の範囲には、医師、看護師、薬剤師などの専門職から、受付事務まで非常に幅広く含む場合があります。たとえ医師でも、専門分野以外については知識が浅い場合もあります。こちらが「これくらいは知っているだろう。説明しなくてもいいな」と考えていても、実は相手は、説明を聞きたい、相談したい、と思っている可能性もあります。会話をしながらその辺りの「雰囲気」をくみ取ることは、さじ加減が難しいですが大切だと思います。また「医療関係者」である場合に、「薬歴管理料を算定するか?」という問題も同時に発生します。その医師と完全にツーカーの間柄で、飲み方の指示などを受けているようなら薬歴料は算定しませんし、前述のような「相談したい」というような雰囲気であれば、算定すると思います(今回のケースは患者負担はゼロなので、お会計には影響ないのですが・・・)。フォローアップがあるとすれば、さり気なく保護者に「どちらの病院にお勤めですか?」とか、医師との面会時に「○○さんとは、親しいんですね!」などと、お互いの関係性に"探り"を入れておくと、今後の展開が違うかも・・・と思います。薬剤師も同じ「医療関係者」です。「医師との信頼関係」と同時に、「薬剤師との信頼関係」が築けたらいいな、と思います。Von Harnack表を活用 奥村雪男さん(薬局)フロモックス®の1日量は9mg/kg、ムコダイン®の1日量は30mg/kgで、いずれも体重に比してやや少ないように思います。その他の薬剤は、Von Harnack表※より、6カ月で成人量の1/5、1歳で成人量の1/4なので、概ね妥当な用量だと思います。※成人量を1としたとき、それぞれの年齢での用量の目安。になっている。未熟児新生児6カ月1歳3歳7歳半12歳1/101/81/51/41/31/22/3VON HARNACK GA. Monatsschr Kinderheilkd 1956; 104(2): 55-56.ペリアクチンの副作用 柏木紀久さん(薬局)9カ月というとハイハイやつかまり立ちをする頃なので、ペリアクチンの傾眠によるケガなども心配です。痙攣の閾値も下がるので、鼻水や発赤疹がなければペリアクチンが疑義の対象になると思います。薬剤師も一般への啓発を 荒川隆之さん(病院)私は学校薬剤師として、何度か保護者に「風邪に抗菌薬は不要」という話をしております。北欧やオランダなど薬剤耐性菌の少ない国では、耐性菌に関する国民の知識がしっかりしていると聞きます。日本においても薬剤耐性(AMR)対策アクションプランなど国がようやく動き出したところですから、我々薬剤師もそれぞれにできることを少しずつやっていくことが大切なのでは、と考えます。1回で飲ませきれない量では 中西剛明さん(薬局)ペリアクチンが処方されていることが気になります。抗ヒスタミン薬を使うと痙攣の閾値が下がるので、発熱している場合は熱性けいれんも含め、痙攣の危険が高まります。数ある抗ヒスタミン薬の中でペリアクチンを選んだ意図がわかりません。加えて、近隣の小児科医は「抗ヒスタミン薬で鼻水が固くなって、鼻づまりが解消しにくくなり困る」と言っていました。あと、7種類の薬剤は出しすぎでは?1回で飲ませ切れない「かさ」になってしまっています。症状に合わせて用量を調節 児玉暁人さん(病院)ムコダインDSの量が少ないですが、症状に合わせているのだろうと考え、これに関しては疑義照会しません。医師の処方意図を理解しておくべき JITHURYOUさん(病院)医師に処方意図の確認が必要だと感じます。抗菌薬が必要ならば薬剤の処方の必要性を患者家族にもきちんと説明しなければいけません。服用しないならば、症状が悪化するリスクもあります。さまざまな可能性のリスク回避をしておきたいという医師の考えがあるのかもしれません。なぜ抗菌薬処方をしたのか、その医師の処方傾向をできれば把握したいです。調剤するだけではなく患者さんと向き合うこと 中堅薬剤師さん(薬局)私は「医師の治療方針に同意していない患者さん」には調剤をしない方針です。ただ、簡単に「調剤をしない」としてしまうと、後で治療する機会を奪うことにもなるので、十分な説明の上、患者さんの意向を尊重して調剤するかどうか決定します。私の経験ですが、「喘息ではないのに吸入を強要された」と言う患者さんがいました。医師法第二十三条に基づいて考えると、処方医は患者が納得する十分な医学的指導をしていない可能性があり、その結果、治療に対して強い拒否を示していると推察しました。ただ、咳喘息の可能性は否定できないので、「使ってみて改善しなければ、呼吸器科以外の医師に相談することをお勧めしたい」と助言しました。治療前から否定するのではなく、治療をしてから継続の可否を判断する方がよいのではないか、と患者さんに話したのです。その後、患者さんから感謝の言葉をいただきました。「医師よりも私の治療に向き合ってくれた気がする」と。同時に、医師はどうして患者側に寄り添って治療を考えてくれないのか、という不満も打ち明けてくれました。ですから、今回の症例は薬剤師はただ調剤すればいいというものではないと、考えさせられる症例だと感じました。医師法第二十三条・・・医師は、診療をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない。担当した薬剤師の対応フロモックス®の量が少ないことを疑義照会し、添付文書上の用量まで増量した。また、患児の保護者から、処方箋提出時に「抗菌薬だけ別包にしてほしい」と言われたので、別包にて調剤した。[PharmaTribune 2017年9月号掲載]

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PPIがスイッチOTC化できない原因は薬剤師!?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第15回

継続審議中だったプロトンポンプ阻害薬(PPI)のスイッチOTC化がまたもや議論に上り、そして今回も見送られました。厚生労働省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」は12月5日、第6回目の会合を開催。(中略)前回会合でスイッチ「否」と判断したPPI製剤については、パブリックコメントでは98件中84件で「賛成」となった点を踏まえ再度議論。しかし、現段階でのOTC薬化は見送られた。(2018年12月6日付 RISFAX)事前に募られていたパブリックコメントで85%の賛成を得たにもかかわらず、PPI 3成分(オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール)のスイッチOTC化が見送られました。再三にわたって認められない原因は何なのでしょうか。議論の中では、PPIのスイッチOTC化見送りの理由として、薬剤師らによる薬局やドラッグストアなどでのOTC薬の不適切な販売実態が指摘されています。「不適切な販売実態」については、本コラムでも以前「不適切な一般薬の販売が増加傾向 スイッチOTC化の障害となる?」として取り上げていますので、簡単に振り返りたいと思います。名札を着けない、濫用のある医薬品を何も質問せず販売2018年8月に2017年度の「医薬品販売制度実態把握調査」結果が公表されました。それによって、OTC薬を販売する際に「名札を着けておらず、専門家かどうかわからない」、「濫用の恐れがあるエフェドリンなどが含まれる風邪薬を複数個購入しようとした人に、何も質問せず販売する」など、薬剤師らの不適切な販売実態が明らかになりました。この調査は毎年1回行われていますが、昨年度と比べて結果が改善されているとは言えず、むしろ悪化している項目もありました。調査期間はおおむね11~12月ですので、忙しい時期に調査なんてしないで! と言いたくもなりますが、不適切な対応をしてしまった言い訳にはなりません。なお、今回の議論において、これらの販売体制の改善が示されれば再度議論を行うとされていますので、まだPPIのスイッチOTC化の可能性は消えたわけではありません。PPIを医師の処方なしに手軽に服用できると、重篤な疾患の初期症状がマスクされる可能性があるといった懸念も当然あるでしょう。しかし、これまで何度も議論に上りながら先送りされている現状を見ると、大きな利権が複雑に絡んでいてPPIがなかなかスイッチOTC化されないのかなぁ、とも個人的には勘ぐってしまいます。ただ、薬局やドラッグストアでのOTC薬の販売体制が不適切であったため、セルフメディケーションの推進に水を差す理由を作っていることもまた事実です。安全性の懸念も解消して、パブリックコメントの85%が賛成しているのにスイッチOTC化が再三見送られる、という流れに終止符を打つため、もう一度OTC薬の販売体制が適切かどうか見直してみませんか? 日々の薬剤師らのOTC薬販売体制が今後のスイッチOTC化を左右するといっても過言ではありません。

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第19回 小児科クリニックからのセフカペンピボキシルの処方(前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 患児の保護者に確認することは?熱の有無や熱性けいれんの既往など ふな3さん(薬局)発熱の有無は、アセトアミノフェン坐剤の処方意図(すぐに使用するか予備か)やペリアクチン®による熱性けいれん誘発リスクの推測にも利用できるため、必ず確認します。他に、熱性けいれんやてんかんの既往、副作用歴、併用薬、発疹の有無も確認したいです。検査したかどうか 清水直明さん(病院)アレルギー歴は必ず確認します。もしA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌、S.pyogenes )だったら抗菌薬が必要だと思うので、「何か検査はされましたか」と確認します。セフェム系抗菌薬のアレルギーや過去1カ月以内に抗菌薬を使用したか 奥村雪男さん(薬局)患児の性別や、特にセフェム系抗菌薬に対してアレルギーはないかを確認します。他にも過去1カ月以内に抗菌薬を使用したか、いつから症状があったか、全身状態はどうか、咳や鼻水などの症状、アデノウイルスなどの迅速検査や血液検査を行っているかも確認します。可能なら検査結果や白血球数やCRPなどの検査値、肺炎球菌、ヒブなどのワクチンを接種しているかも聞きます。Q2 疑義照会しますかする・・・7人フロモックス®の用量 キャンプ人さん(病院)フロモックス®細粒は1日9mg/kgですので、少し量が少ないのでは? と照会します。そのときに、抗菌薬の処方を望まれていないことを「母親が伝え忘れた」として医師へ伝えます。もちろん母親にそのように照会してよいか確認しておきます。普段から風邪に抗菌薬は不要と医師に示し続ける 荒川隆之さん(病院)保護者がなぜ抗菌薬の処方を望んでいないのか、よく聴き取りを行います。風邪に抗菌薬は不要ということで望んでいないのならば、疑義照会を行ってよいか、保護者と話をします。そして、フロモックス®の投与量がやや少ないことで疑義照会するついでに、風邪に抗菌薬は不要ではないか確認します。最初は、保護者がそのように希望していると言わず、医師から保護者の意志を聞かれた場合に回答します。ただし、この疑義照会は、医師と薬剤師のそれまでの関係も大きく関係すると思います。普段から風邪に抗菌薬は不要というスタンスを医師に示し続ける必要があります。抗菌薬は必要? 柏木紀久さん(薬局)患児の主症状が発熱と咽喉頭炎なので、あまり抗菌薬の必要性を感じません。3日後の再診時に抗菌薬の投与を考慮してもいいのではないかと思います。体重9kgでアセトアミノフェン坐剤が処方されており、発熱の期間が長い、または日内変動が強い状態でぐずったり、食欲がなかったりして状態がよくないことも考えられます。この場合、説明通り二次感染が考えられ抗菌薬処方の妥当性を感じますが、食欲や水分摂取が少なくなっている場合は、低カルニチン血症も気になります。保護者が医師に言えなかったことを薬剤師に打ち明けているので、照会してみると思います。溶連菌の可能性も 児玉暁人さん(病院)フロモックス®の投与量が少ないので確認します。ウイルス性の単なる風邪では抗菌薬は不要です。ただトランサミン®散の処方、のどの発赤から溶連菌の可能性も捨てきれず、その場合は抗菌薬が必要です。溶連菌の合併症予防を風邪の二次予防と受け取ってしまったなど、知識があるだけにややこしくしている可能性もありえます。保護者には、投与量と処方意図の再確認をしたい旨を伝え、納得と了承を頂いてから疑義照会します。あとは、疑義照会への返答内容にもよりますが、抗菌薬を服用する/しない場合のメリット・デメリットを伝えて、服用するかどうかを保護者に判断してもらうかと思います。ですので、疑義照会時に「服用を保護者の判断に任せてよいか」と確認しておきます。容態が悪化したら飲ませるつもりなら、疑義照会する ふな3さん(薬局)処方を望んでいないという意味では、疑義照会しません。医師との関係を気にしているなら、あえて蒸し返す必要はないと考えます。また、調剤の際に下記のように3種に分包して、フロモックス®だけ(もしくはラックビー®Rも)は服用しなくて済むようにできます。(1)フロモックス®(2)ラックビー®R(3)トランサミン® /ペリアクチン® /アスベリン® /ムコダイン® 混合この患者さんに限らず、普段から対症療法用の薬剤(症状改善したら中止)と、抗菌薬・整腸剤(処方日数飲みきり)は別包にしています。これらの対応をした上で、「望んではいない」と言いながらも、「容態が悪化したら飲ませるかも」と考えている場合、フロモックス®の添付文書上用量(3mg/kg)に満たないため、0.81g(~0.9g程度)/日への増量を提案するため疑義照会をします。保護者自身の風邪であれば「抗菌薬は飲まずに治せる」と簡単に割り切れると思いますが、発話できない乳児で急な発熱であれば、「この子のためにできることは?」「やっぱり抗菌薬を飲ませるべきかも」と頭をよぎるのが親心だと思います(だからこそ、小児科医も抗菌薬処方を簡単には止められないのでしょうが...)。その意味合いも含めて、抗菌薬は適切な量に修正した上で、「飲み始めたら飲みきる」の条件の下、お渡ししておきたいと思います。抗菌薬は感染が起きたと推定されるときに服用する JITHURYOUさん(病院)当然、医師の指示通りに調剤しなければならないのですが、その話をしてもなお服薬拒否ということになるのならば、医師に確認したいですね。連鎖球菌による咽頭炎でも、フロモックス®ではなくペニシリンが第一選択なので、この場合処方変更の必要性があるのではと考えます。二次感染予防目的の抗菌薬処方だとしても、臨床経過を勘案して疑義照会したいところです(遷延していたら細菌による二次感染の可能性=抗菌薬適応)。となると、症状の変化などで感染が起きたと推定されるときに服用する方がベストのような感じがします。フロモックス®はそういう場合に服用していただく方が耐性菌を増やさないという観点でも必要ではないかと考えます。よって、調剤は別包装にすべきではないでしょうか。母親の気持ちを聞き取った上で わらび餅さん(病院)フロモックス®が1日量9mg/kgではないので、疑義照会はします。また、母親からどうして抗菌薬を希望しないのかを聞きます。二次感染予防の必要性を感じてない、風邪という診断に納得してない、赤ちゃんだからあまり薬を飲ませたくないなど、理由によって対応も変わってきます。しない・・・4人処方医は不要なリスクを避けたいと考える 奥村雪男さん(薬局)抗菌薬以外の処方内容からは、典型的なウイルス性の上気道炎に見えます。全身状態が悪くないのであれば、抗菌薬なしで数日の経過観察後、悪化した場合に細菌性肺炎などの診断がついた時点で、それに応じた抗菌薬を選択するのが理想的だと思います。ただ、実際には疑義照会しないと思います。ウイルス性上気道炎に第三世代セフェムを処方するのは現在の日本の慣行であり、慣行と異なる行為はリスクを伴います。仮に抗菌薬なしの経過観察中に細菌性肺炎を発症すれば、最悪の場合、訴訟問題に発展するかもしれません。処方医は不要なリスクを負うことは避けたいと考えるはずです。遠回りのようですが、ウイルス性上気道炎に抗菌薬を処方した場合の治療必要数※などのエビデンスを国民に提示し、抗菌薬の二次感染予防は効率の悪い治療行為であることを一般常識とすることが、疑義照会に優る方法だと思います。※治療必要数NNT(number needed to treat)のこと。死亡や病気の発症などのイベント発生を1人減らすために、何人の患者を治療する必要があるか、という疫学の指標。例えばNNTが100なら、1人の患者のイベント発生を減らすためには100人に治療を行う、ということになる。フロモックス®は別包に 清水直明さん(病院)抗菌薬をどうしても持ち帰りたくないと言うのであれば、そのことを説明して取り消してもらうことも可能でしょうが、医師が必要としたものを不要と説得するだけの材料が弱いかなと思います。風邪との診断であるならば、それほど重症感はなさそうです。抗菌薬を服用させたくないのであれば、親の責任の範囲でそれでもいいと思います。フロモックス®は別包とします。そもそも、このぐらいの年齢から保育園・幼稚園ぐらいまでのお子さんは、よく風邪をひきます。これからも外界と接する機会が増えるにつれて、いろいろな感染症を拾ってくることでしょう。もし、本当に抗菌薬が必要な感染症に罹ったとき、ちゃんと効いてくれないと大変です。風邪をひくたびに予防的に抗菌薬を飲んでいたら、耐性菌のリスクは上がってしまうと思います。フロモックス®など多くの抗菌薬には二次感染予防という適応はないし、そのことがよく分かっている親御さんであるならば、飲ませるか飲ませないかの判断は任せていいと思います。ただし、薬剤師の指導としては微妙ですが・・・後編では、抗菌薬について患者さんに説明することは?その他気付いたことを聞きます。

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胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」【下平博士のDIノート】第14回

胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」今回は、「抗トキソプラズマ原虫薬スピラマイシン(商品名:スピラマイシン錠150万単位)」を紹介します。本剤は、妊娠中にトキソプラズマに初感染した妊婦が服用することで、胎児の先天性トキソプラズマ症の発症を抑制します。<効能・効果>本剤は先天性トキソプラズマ症の発症抑制の適応で、2018年7月2日に承認され、2018年9月25日より販売されています。トキソプラズマのタンパク合成を阻害することで、増殖抑制効果を示します。<用法・用量>通常、妊婦に1回2錠(スピラマイシンとして300万国際単位)を1日3回経口投与します。抗体検査や問診などにより妊娠成立後のトキソプラズマ初感染が疑われる場合に使用します。<患者さんへの指導例>1.妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合に、胎児が感染することで発症する恐れのある「先天性トキソプラズマ症」を防ぐための薬です。2.胎児への感染が確認されないうちは、分娩まで続けて服用します。3.薬によって腸内細菌のバランスが崩れると、便が緩くなったり、おなかが痛くなったりすることがあります。4.高熱、激しい腹痛を伴う血便、めまい、動悸、胸痛などの症状がありましたら、服用をやめてすぐに医師の診察を受けてください。5.母乳中に移行することが報告されているため、本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>トキソプラズマは人畜共通の寄生原虫であり、猫を終宿主としますが、豚、牛、鶏、羊、馬などのほか、食肉用の動物以外も含めて、ほぼすべての哺乳類や鳥類に感染します。ヒトへの主な感染経路としては、加熱不十分な食肉、猫の糞便や洗浄不十分な野菜などによって、トキソプラズマ原虫を経口的に摂取することが挙げられます。また、園芸などの土いじりや砂場遊びが原因になることも考えられます。通常、健康な成人がトキソプラズマに感染した場合、風邪様の症状が出現することもありますが、多くの場合は無症状のまま潜伏感染に移行します。しかし、妊婦がトキソプラズマに初感染すると、胎盤を介して胎児に感染し、先天性トキソプラズマ症を発症する可能性があります。先天性トキソプラズマ症は流産・死産の原因になったり、生まれた子供に水頭症、網脈絡膜炎による視力障害、脳内石灰化、精神・運動機能障害などといった重大な臨床症状が認められたりすることがあるため、胎児への感染を抑制する必要があります。本剤は、抗菌活性に加え、抗トキソプラズマ活性を有する16員環のマクロライド系抗菌薬で、海外の診療ガイドラインではトキソプラズマに初感染した妊婦に対し、本剤が標準的治療薬として推奨されています。しかし、わが国ではこれまでトキソプラズマを適応症として承認されている薬剤はなかったため、日本産科婦人科学会より開発の要望がなされていました。本剤の抗原虫作用はトキソプラズマに対する増殖抑制であり、感染後早期に服用を開始することで、垂直感染が約60%低下するという報告があります。ただし、殺原虫効果はないため、胎児への感染が疑われる場合には、本剤の投与・継続の適否について慎重に検討する必要があります。実際には先天性トキソプラズマ症で生まれてくる児はわずかですが、加熱不十分な食肉を食べること、素手での飼い猫の糞便の処理や土いじりは、トキソプラズマ感染を引き起こすリスクがあることを薬剤師も再認識し、妊娠中または妊娠を予定している患者さんに対して調理方法や手袋の着用、十分な手洗いなどの注意喚起を行えるとよいでしょう。

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上戸彩さんの風邪予防法は毎日のうがい

 うがいと手洗いは、医療者であれば普段から身に付いた習慣である。まして空気の乾燥する冬季には、なお重要となる。医療機関、家庭で愛用されてきたうがい薬ポビドンヨード(商品名:イソジン)を製造するムンディファーマ株式会社は、2018年10月11日、イソジンの新製品の記者発表会を都内で開催した。(写真は左からシン氏、上戸さん、木村氏) 発表会では同社の事業戦略の説明のほか、同社がパートナー契約を締結している横浜F・マリノスの現役の選手、および同社のCMに出演している女優の上戸 彩さんが応援に駆け付けた。新しいイソジンは無色でさわやかな風味 はじめに同社のラマン・シン氏(最高経営責任者)と木村 昭介氏(代表取締役社長)が、事業紹介と今後の展望を説明した。 同社は、イソジンをはじめとする「コンシューマヘルスケア」のほか、「疼痛」「がん」などの医療分野でわが国に製品提供を行っている。とくに総合感染対策としてうがい薬「イソジン」は長年愛され、医療現場だけでなく、家庭でも使用されている。 事業説明では、うがい薬市場がすこしずつ縮小していく中でイソジンは二桁の成長を遂げていること、そして、今後は「定期的なうがい習慣のない人々への浸透をいかに図っていくかが課題」と語った。 つぎに横浜F・マリノスとのブレーンストーミングで誕生した製品「イソジン のど飴」を紹介。本製品は、食品に位置付けられ、のどにやさしい亜鉛とヘスペリジンが配合されている。フレ-バーは、「フレッシュレモン」「はちみつ金柑」「ペパーミント」の3種類が用意されている。「うがいができないとき、のどを守るのに役立つアイテム」と同社は説明するとともに、今後日本発の製品として世界展開を行うとしている。 その他、新製品のイソジンとして無色透明で、風味をつけた「イソジン クリアうがい薬」(アップル風味/マイルドミント風味)を紹介。洗面台を汚さない、消毒薬の臭いのしない製品をユーザー目線で開発したと紹介した。 説明会では、シン氏は「日本からいくつか製品のイノベーションができた。今後もイソジンのブランド力を保持しつつ、より改良を行いたい」と抱負を語り、木村氏は「感染対策にさまざまな場面で提供できる製品を作っていきたい」と述べ、説明を終えた。水うがいで防ぎ切れないときはイソジンで トークセッションでは、横浜F・マリノスの選手たちがコンディション維持のためのうがいやのどの保湿の重要性を語るとともに、同社のCMに出演中の上戸さんが登場し、自己流の風邪予防法やCM撮影の裏話を披露した。扁桃腺が腫れやすいという上戸さんは、母親として子供からのもらい風邪対策や体調維持のために、うがいやイソジンの噴霧器、のど飴を携帯することで気を付けているという。最後にメッセージとして「自分が健康だと気分がいいし、周りにも風邪などうつさないことが大事。水うがいだけでは効果がないこともあるので、イソジンなどで感染予防をしてほしい」と語り、セッションを終えた。

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もっと気軽に使う漢方薬のススメ

 2018年9月20日、Kampo academiaは第5回となるプレスセミナーを都内で開催した。今回は、「『風邪には葛根湯!?』漢方医学の視点から診る風邪治療 漢方って何だろうー和漢と中医学、そして風邪」をテーマに、身近な漢方薬の使い方について講演が行われた。年齢別の風邪への漢方薬処方 セミナーでは新見 正則氏(愛誠病院 顧問/帝京大学医学部外科 准教授/帝京大学大学院医学研究科移植免疫学/同 東洋医学 指導教授)を講師に迎え、前述のテーマでレクチャーが行われた。 わが国での漢方の概念は、大きく分けて「フローチャート」「和漢」「中医学」と3つがあると同氏は私見としつつ示した。「フローチャート」では西洋医学的に症状から漢方薬を決める。「和漢」では症状、腹診、舌診などから漢方薬を決める。「中医学」では症状、望診、聞診などの四診の次に証候名を決め、さらに治法を決め、方剤の決定にいたるというおのおの異なるプロセスだと説明した。 そして、漢方薬を使うのであれば、簡単なやり方、つまり「フローチャート」から使用する漢方薬処方を同氏は薦めている。同氏は、この考え方を「モダン・カンポウ」と名付けて、現在広く啓発を行っているという。 モダン・カンポウの特徴として、漢方特有の診療ではなく、西洋医学的な診断をすること、漢方薬を気軽に使い、効果がない、有害な場合はすぐ止めることができること、患者の満足度が高いことなどを挙げる。たとえば、風邪症状を訴える患者に対して「葛根湯(カッコントウ)」は広く使われているが、本当に風邪かどうかの試薬にもなる。効果があれば風邪症状の改善に、なければ風邪以外の診断へと進むことができるとし、診断の助けになる漢方薬の使い方を説明した。また、患者年齢ごとの使用例として、若年女性には「麻黄湯(マオウトウ)」、中年男性には「葛根湯」から「柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)」そして「小柴胡湯(ショウサイコトウ)+麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)」へ、中年女性には「麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)」から「桂枝湯(ケイシトウ)+麻黄附子細辛湯」そして「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)+麻黄附子細辛湯」、高齢女性には「香蘇散(コウソサン)」から「参蘇飲(ジンソイン)」などを紹介した。 そのほか、漢方薬の臨床研究についても言及し、「補中益気湯」のインフルエンザへの予防効果について、内服群(n=179)と非内服群(n=179)に分けて8週間観察したところ、内服群では1例が、非内服群では7例がインフルエンザに罹患し、「補中益気湯」で予防できる可能性があるという1)。漢方薬使用の5つの効用 伝統漢方とモダン・カンポウの違いについて、同氏は次のように説明する。 伝統漢方では、漢方医が処方し、おもに煎じ薬を用いている。すべての疾患を対象に、膨大な古典の知識に基づき漢方診療を行い、長年の経験が必要とされるが、有効性は比較的高いのが特徴である。 一方、モダン・カンポウでは、西洋医が処方し、エキス剤を使用する。西洋医学で治療効果のないものをターゲットに、古典を参考にしつつ、漢方診療を行う(しかし漢方診療は必須ではない)。明日からでも処方ができ、効果がみられなければ順次処方変更ができるのが特徴という。 実際、「伝統漢方を行うとなると、膨大な知識・学習量が必要であり、漢方薬を使うことに二の足を踏んでしまう」と同氏は私見としながらも指摘する一方で、「漢方薬を使うことで『患者が喜ぶ』『外来が楽しい』『患者が離れない』『医療費の削減になる』『リスク管理になる』などの理由で漢方薬を使われた先生で止めた人はいない。漢方薬に身構えず使ってほしい」と自身の経験も含めて、漢方薬処方への思いを語った。 おわりに同氏は、「漢方薬は、西洋医学以外で唯一保険適用されている薬。問題があればすぐ止めることができる。生薬の足し算の英知である漢方薬を気軽に処方してもらいたい」と期待をのべ、講演を終えた。■参考1) Niimi M. BMJ. 2009;339:b5213.

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不適切な一般薬の販売が増加傾向 スイッチOTC化の障害となる?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第8回

一般用医薬品の販売には一定のルールがあることはご存じだと思います。しかし、そのルールは順守されているのでしょうか? 一般用医薬品の販売実態に関して、厚生労働省が一般消費者の目線で調査した結果が公表されました。厚生労働省は8月27日、2017年度の「医薬品販売制度実態把握調査」結果を公表した。PPI製剤のスイッチOTC薬化の審議にあたり問題視された「乱用のおそれがあるOTC薬を複数購入しようとしたときの対応」が不適切な例が増加したことを示した。エフェドリンやコデイン(鎮咳去痰薬に限る)などを含むOTC薬を複数購入しようとしたところ、「質問などされずに購入できた」店舗が38.8%あり、前年度より2.2ポイント増加した。(2018年8月28日付 RISFAX)調査期間は2017年11~12月で、全国5,017軒の薬局・店舗販売業の許可を取得している店舗を一般消費者である調査員が訪問し、調査しました。いわゆる“覆面調査”というものです。一般用医薬品は、薬局だけでなく店舗販売業でも販売可能ですので、その両方が調査対象となっています。主な調査項目は、従業者の区別状況、陳列・販売方法、情報提供の有無やその方法などでした。ほとんどの項目で前年とほぼ同様の結果となっていますが、幾つか残念なポイントが見受けられます。乱用の恐れがある一般薬を「質問されずに複数購入できた」約40%たとえば、エフェドリン、コデインやジヒドロコデイン(鎮咳去痰薬に限る)などを含むいわゆる風邪薬を複数購入しようとした患者さんに対し、どのような対応を取ることが適切でしょうか。乱用の恐れがある一般用医薬品を必要以上に購入しようとする場合は、理由確認が必要ですが、まず1つだけ購入してもらいその後にまた症状が続いていたら相談してもらう、ひどいようなら受診勧告…など、さまざまな対応があり、答えは1つではありませんよね。この調査で不適切とされたのは「質問などをされずに複数購入できた」という場合であり、複数必要な理由を伝えたところ合理性があると判断されて購入できた、という場合も適切と判断されています。乱用の恐れがある一般用医薬品を複数購入希望の患者さんへの対応が不適切であった店舗の割合は、全体の38.8%(薬局30.4%、店舗販売業39.0%)もありました。2017年の同様の調査では36.6%でしたので、2.2%悪化しています。この数字に有意差があるかは別にして、「不適切な店舗が増加」という印象は強く、今後のスイッチOTC化の議論でまた障害になることが懸念されます。このほかにこの調査結果で私が気になったのは、「名札等により専門家の区別ができたか」という項目です。区別できた割合は、全体として79.7%(薬局73.9%、店舗販売業82.2%)で、これも前年度の83.2%から下がっていました。名札を着けるのは、医薬品販売だけでなく、患者さんとの関わりの中で基本中の基本だと思います。名札なんて着けなくても…と思っている店舗が2割程度あるようですが、このくらいのルールも守れないのか! 要指導・一般用医薬品の販売はやっぱり不安だな…、と思われても仕方ないと思います。これまでのスイッチOTC化の議論を見ていると、大きな法人か個店かどうかにかかわらず、一店舗一店舗の対応が薬局全体への信頼や今後の方向性に影響していることがわかります。まずはこのアンケートで調査された項目の見直しから始めてみてはいかがでしょうか。

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Dr.小松のとことん病歴ゼミ

第1回 肩こりで帰してはいけない頸部痛 第2回 パニック障害の再発?それとも… 第3回 その「だるい」本当はいつから?第4回 ちょっと尻もちをついただけで骨折? 第5回 えっ?25歳男性が母親と受診 第6回 「風邪ひいちゃったみたい」の訴えの危うさ “病歴聴取のみで約8割の診断がつく”と言われます。しかし実際は、検査値や画像所見を重視して病歴聴取を漠然と行っている人も多いのではないでしょうか。同じ患者、同じ時間内でも、医師の問診技術によって引き出せる情報の量は大いに変わってきます。そこで得られた病歴から適格に診断を絞り込むことは、その後の患者のスムーズな治療につながります。臨床医に欠かせない問診技術を鍛える病歴ゼミ。番組では、講師である小松孝行先生が自らさまざまな患者に扮し、研修医から問診を受け、その良し悪しをフィードバック。「自分ならばこう聞く!」とぜひツッコミながらご覧ください。第1回 肩こりで帰してはいけない頸部痛 診断に直結する病歴聴取のスキルを鍛える新番組スタート!診断に際して、検査値や画像所見を重視して病歴聴取を軽視してはいませんか。病歴こそがもっとも重要な診断材料であり、それだけで8割方の診断はつくといわれます。しかし、Onsetの時期や発症様式などの重要な情報を得られるかは、医師の問診技術にかかっています。この番組では講師である小松孝行先生が自らさまざまな患者に扮し、研修医から問診を受け、その良し悪しをフィードバックしながら問診の進め方、見逃してはいけないポイントを解説します。第2回 パニック障害の再発?それとも… 診断に直結する病歴の聴取スキルを鍛える病歴ゼミ。今回Dr.小松はパニック障害の既往のある女性に扮します。患者が解釈モデルを持っている場合、そのバイアスに引っ張られずに、冷静に情報を引き出していくことが重要です。以前の症状とどこが似ていて、どこが違うのか、会話の流れのなかで巧みに探っていきましょう。臨床で“差がつく”問診力をアップするヒントが満載です!第3回 その「だるい」本当はいつから?今回Dr.小松は2ヵ月前から倦怠感のある65歳男性に扮します。主訴は倦怠感。このようなぼんやりした訴えの裏にある疾患を、普段の問診でどこまで追求できていますか?病歴聴取の鍵は本当のOnsetがいつなのかを明白にすること。「夏に風邪をひいたような…」そんな季節ワードも患者がいつまで健康だったかを示す重要なヒントです!第4回 ちょっと尻もちをついただけで骨折? 今回Dr.小松が扮するのは圧迫骨折らしい症状の60歳男性。ちょっと尻もちをついたのがきっかけと言うが…。病歴聴取では患者の病態がエピソードと合わないとき、違和感を抱けるかというのも重要なポイントです。Onsetは本当に尻もちなのか、骨折の裏に隠された真の原因を問診で突き止められるか!?臨床で“差がつく”問診力をアップするヒントが満載です!第5回 えっ?25歳男性が母親と受診母親の前では言えないこと、誰にでもありますよね?今回Dr.小松は母親と一緒に受診する25歳男性を熱演。問診に積極的ではない彼にはどうやら秘密がありそうです。同伴者がいる場合にうまくセパレートする方法、そして性交歴などのデリケートな質問に患者が答えやすくなるコツを伝授します!第6回 「風邪ひいちゃったみたい」の訴えの危うさ 診断に直結する病歴の聴取スキルを鍛える病歴ゼミ。最終回ではDr.小松が風邪症状を訴える80歳女性に扮します。患者の「風邪ひいちゃったみたい」は決して鵜呑みにしてよいものではありません。とくに高齢者の場合は、自覚症状が少なかったり、自発的に話してくれなかったりするため注意が必要です。普段の元気な姿を想像しながら聴く!高齢者からの聴取のコツを伝授します!

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ブル【どう頼む?どう分かってもらう?】

今回のキーワード裁判心理学分析力信頼感プレゼンテーション能力社会脳インフォームド・アセントみなさんは、なかなか相手にうまく頼めないと悩んだことはありますか? どうすれば頼み事に応じてもらえるでしょうか? どうすれば自分のことをより分かってもらえるでしょうか? 私たちは、日々、職場や家庭で、相手に頼んだり頼まれたり、一方で応じたり、そして拒んだりしています。できることなら、うまく頼んで応じてもらいたいですよね。今回は、「どう頼む?」をテーマに、アメリカの連続ドラマ「ブル」を取り上げます。ブルは、ちょっと風変わりな心理学者です。彼の心理学的な手法によって、裁判で陪審員の心を動かし、毎回、クライアントを有利に導きます。このドラマで一貫しているのは、ブル側の主張を分かってもらうために、自分たちの視点以上に、相手の陪審員たちの視点に目が向いていることです。この手法は、裁判に心理学を駆使しているという意味で、裁判心理学と呼ばれます。ここから、「どう頼む?」の要素を主に3つに分けて整理してみましょう。それは、「誰に頼む?」、「誰が頼む?」、そして「何を頼む?」ということです。誰に頼む? ―相手をよく知る分析力ブルは、情報収集のチームを組んで、裁判の陪審員候補たちの日々の生活、人間関係、ネット検索履歴などを徹底的に洗い出します。また、陪審員を選別する最初の段階では、例えば「なぜ風邪をひくのでしょう?」等の質問をします。これは、風邪という不確定なものへのコントロール感です。「体調管理を怠ったから」と答える人は、被害者意識が少ないとブルは分析します。その他に「歴史上で尊敬する人は?」「銃を突きつけられたらどうする?」などの質問を通して、陪審員の価値観が理想主義か現実的か、合理主義か感情に流されやすいかを見極めます。これらのプロファイリングをもとに、価値観が不利な陪審員を外し、ブル側になるべく有利な陪審員を残します。1つ目のポイントは、「誰に頼む?」、つまり相手のことをよく知る分析力です。ブルのように、私たちも、この分析力を発揮しましょう。今回は、相手のコミュニケーションのタイプを分析することによって、それぞれの頼み方を考えてみましょう。コミュニケーションのタイプは、大きく3つに分けることができます。(1)ピラミッド型1つ目は、ピラミッド型です。これは、ピラミッドのような力関係を重んじるコミュニケーションタイプです。このような相手には、上下関係を前面に出した頼み方が有効です。例えば、「これはあなたがやるべき仕事です」「これは組織としての命令です」などとシンプルにストレートに伝えることです。注意点としては、相手ができそうなことのみに限って頼むことです。逆に言えば、相手ができそうにないことは初めから頼まないことです。なぜなら、相手に断る余地があまりないので、無理な頼み事を引き受けさせて、相手を追い込んでしまうからです。そうならないために、普段から相手の能力を把握する分析力も必要です。(2)ファミリー型2つ目は、ファミリー型です。これは、ファミリー(家族)のような信頼関係を重んじるコミュニケーションタイプです。このような相手には、親密な人間関係を全面に出した頼み方が有効です。例えば、「やってくれるとうれしい」と気持ちを添えたり、「みんな順番でやってるの。やってないのはあなただけ(次はあなたの番)」と遠回しに伝えることです。人は大多数の人と同じことをしていたいという心理を利用しています(同調性)。また、最初に断られても、「やりたくないの?」「残念だわ」「あなたらしくないのね」「仕方ないわね」と逡巡しながら引き下がるそぶりを見せることです。すると、相手は「引き受けた方が良いかな?」と揺さぶられます。「押してだめなら引いてみる」という発想です。これは、あえて頼みを引き下げることで相手の断ることへの抵抗が出てくる心理を利用しています(心理的抵抗)。さらに、「この仕事とあの仕事、どっちが良い?」「この仕事、いつから始めるのが良い?」などと質問することです。これは、最初から二択に持ち込んだり(二択質問)、引き受けることを前提にしています(前提質問)。ちなみに、二択のうちの対抗選択肢は、「かませ犬」になりますので、引き受けにくそうなものが良いでしょう。注意点としては、「いつも私ばっかり」と思われないように、普段から他のメンバーとの分担のバランスを見極める分析力も必要です。(3)フラット型3つ目は、フラット型です。これは、フラット(対等)な協力関係を重んじるコミュニケーションタイプです。このような相手には、ビジョン(目標)を共有した仲間意識や役割意識を全面に出した頼み方が有効です。例えば、「クライアントの満足度を上げる目標のために、あなたの役割はこれ」「あなただからこそやってほしい」「あなたにしかできない」と情熱的に伝えることです。言い回しとしては、「この仕事をすることは可能?」と確認の形にすることで、相手の対等な関係に配慮していることを伝えられます。また、「クライアントさんの笑顔が目に浮かぶ」など、イメージが浮かびやすい例えを使うのも効果的です。さらに、「こういう仕事があるんだけど、この仕事のメリットって何だと思う?」と尋ねて、まず相手にメリットを聞き出して、その後に「じゃあやってみる?」と誘導することです。これは、良さをあえて考えさせて、良いと思い込ませることで、引き受けやすくなる心理を利用しています(自己説得法)。先ほどの二択質問との合わせ技としては、「この仕事とこの仕事はどっちが自分に合ってそう?」「そう思うのは何か理由がある?」という質問になります。注意点としては、普段から、相手のビジョンや好みをよく知り、ビジョンのすり合わせをしたり、役割意識を見いだす分析力も必要です。誰が頼む? ―相手が耳を傾けたくなる信頼感ブルは、一流のスタイリストをチームのメンバーにしています。そして、クライアントの身だしなみ、髪型、化粧の濃さまで、細かくチェックしています。陪審員の先入観がいかに判決に影響を及ぼすかをブルは熟知しています。また、弁護する代理人は、ある時はテレビで好感度の高い有名人、また別のある時は癒し系の女性が引き受けます。陪審員の好みやケースの内容によって、最も有利な代理人を選んでいます。2つ目のポイントは、「誰が頼む?」、つまり相手が耳を傾けたくなる信頼感です。ブルのように、私たちもこの信頼感を思う存分に発揮しましょう。信頼感は、大きく3つに分けることができます。(1)好意1つ目は、好意、好感度です。相手に「あの人の頼みなら」と思わせることです。相手によく思われている、少なくとも嫌われていないことです。そもそも嫌われているとこちらも分かっていたら、頼みにくいです。まず、自分が相手をよく思うことです。そのために、相手の良いところを探すことです。そして、相手をよく思っていることをアピールすることです。これは、好意を寄せられれば、お返しのように魅力を感じる心理を利用しています(魅力の返報性)。また、親近感を出すことです。そのために、共通点を探すことです。経歴、趣味、人間関係などで相手との共通点を見つけ出し、相手と「近い」ことをアピールすることです。これは、近かったり似ていれば、時間的にも肉体的にも経済的にも負担(コスト)が少なくて済むと感じる心理を利用しています(社会的交換理論)。さらに、相手の自尊心を高めることです。そのために、感謝を探すことです。「悩んでいるから聞いてほしい」とあえてこちらから相談を持ちかけ、「聞いてくれてありがとう」と相手に普段から感謝し、相手を頼りにしていることをアピールすることです。これは、不利な状況の人には助けたい、よくしてあげたいと感じる心理を利用しています(アンダードッグ効果)。(2)恩義2つ目は、恩義です。相手に「お返しをしなければ」「お返しをしたい」と思わせることです。普段から親切に接したり、丁寧に伝えることを通して相手を気に掛けたり心配することです。それが相手のお返しの気持ちにつながります。これは、頼み事をする時に、先に謝礼を出すと承諾が得られやすいことに似ています(事前謝礼法)。さらに、先ほどにも触れたように、こちらからあえて相談を持ちかけたり、小さな頼み事を普段からすることです。そうすることで、逆に相手からの相談や頼み事を引き受けやすくなり、お返しの気持ちを得やすくなります。これは、人は自分の経験や周りの状況を基準にして、行動を起こすかを決めるという心理を利用しています(参照点)。また、小さな頼み事については、相手から毎回承諾を得ることです。そうすることで、相手はそれまでの承諾に引きずられて、より大きな承諾をしやすくなります。これは、人は一貫した態度をとり続けたいという心理を利用しています(一貫性要求)。(3)権威3つ目は、権威です。相手に「上の人や他の人にも頼まれるからにはさすがに」「そこまでするなら」と思わせることです。つまり、「1人でだめなら、2人で押す」ということです。自分だけでなく、さらに上の上司や他の同僚にも協力をしてもらい、人数をかける、人数を増やしていくことです。「誰が頼む?」だけでなく、「誰と頼む?」ということも重要だということです。これは、頼む行為に対して労力(コスト)をかけている、その分大切にされているという心理を利用しています。また、人は大多数の意見に合わせたいという心理も利用しています(同調性)。何を頼む? ―納得できるプレゼンテーション能力ブルは、陪審員のプロフィールから、陪審員たちの知的レベルや知識レベルを分析します。ブル側の代理人には、そのレベルに合わせた言葉や表現をするよう指示します。また、例えば、ある陪審員が料理人なら、その人の前では話を料理に例えます。法廷で、ブルはいつも陪審員の表情やしぐさなどをちらちらと観察しています。例えば、陪審員が専門用語で上の空になっているなら、かみ砕いた言い回しや例えをするよう代理人に仕向けます。そして、オフィスには、本物の裁判の陪審員と同じプロフィールの模擬陪審員を集めて、徹底的にリハーサルとシミュレーションをしています。時には、8歳の子どもの模擬陪審員を集めて、模擬裁判を行い、弁論が子どもたちにも理解できるか確認しています。このように、陪審員の反応に合わせて、最も有利な弁論を展開しています。3つ目のポイントは、「何を頼む?」、つまり相手が納得できるプレゼンテーション能力です。ブルのように、私たちもこのプレゼンテーション能力を思う存分に発揮しましょう。今回は、相手から「この頼みなら」と思われるように、頼み事を限定するプレゼンテーションを考えてみましょう。そのポイントを3つあげてみましょう。(1)いつから1つ目は、いつからと開始日をなるべく遠い先に設定することです。これは、遠い先であればあるほど引き受けやすいからです。逆に、直前であればあるほど引き受けにくくなります。例えば、できるだけ前から頼み事の相談をして、あらかじめ承諾を得ておくことです。または、時間をかけて理解を得ることです。いわゆる根回しとも言えます。これは、遠い先であればあるほど負担(コスト)の見積もりが目減りする心理を利用してます(プロスペクト理論)。(2)いつまで2つ目は、いつまでと期間を限定することです。これは、短期間であればあるほど引き受けやすいからです。逆に、無期限で引き受けて納得が行かなかった場合、不快な思いがずっと続くリスクがあるため、引き受けにくくなります。例えば、「とりあえず1週間」とお試し期間を設けることです。納得が行かなくても、1週間限りであれば、引き受けやすいです。逆に、納得が行けば、その仕事に思い入れも沸いてきて、その後も続けてやりたいと思うでしょう。これは、ちょうどペットの仔犬を売りたい時、1週間だけお試し無料で客に引き渡し、1週間後に客が仔犬に愛着がわいてきたところで正式に購入してもらう販売テクニックに似ています(仔犬契約法)。(3)どれだけ3つ目は、どれだけと内容を限定することです。これは、頼む中身が限られていればいるほど引き受けやすいからです。逆に、曖昧で解釈によって無制限に頼み事が増える可能性があれば、引き受けにくくなります。貧乏くじを引くと思わせないことがポイントです。例えば、「これだけはやってもらう必要がある」と頼み事の内容をシンプルに限定することです(デッドライン・テクニック)。また、「どういう条件だったらできそう?」と逆提案を促し、相手に頼む中身を限定させることです。これは、NOと言い続ける人に対して効果的でしょう。頼むとは?進化心理学的に言えば、人間が、他の動物と決定的に違うことは、相手に頼まれたり頼んだりすることを通して、協力関係を築くこと、つまり社会脳を進化させたことです。そして、高度な社会を築き、文明を発展させました。そのためには、こちらが相手の気持ちを汲んで、信じてもらって、分かりやすく伝えることが重要になります。これが、まさに今回ご紹介した分析力、信頼感、プレゼンテーション能力です。医療の現場では、インフォームド・コンセント(説明と同意)の重要性はますます高まっています。これは、治療について医師が十分な説明をして患者から同意を得ることです。さらに、最近では、インフォームド・アセントも求められています。アセント(assent)とは、コンセント(consent)の同意よりも堅苦しい言い回しで、「合意」が近い訳になるでしょう。これは、同意の対象を、大人だけでなく、子どもにまで広げることです。例えば、小児がん、小児の注意欠如・多動症(ADHD)で、子どもにも分かりやすい説明をして、親だけでなく当事者の子どもからも同意を得ることです。患者の権利(リスボン宣言)だけでなく、子どもの権利(子どもの権利条約) への配慮もますます求められていると言えるでしょう。逆に言えば、医師が専門用語を並び立てて、患者に一方的に治療方針を説き伏せるのはもはや時代遅れであるということです。これは、かつてパターナリズム(父権主義)と呼ばれていました。また、学会、会議、講義の場で、原稿や教科書をロボットのようにただ読み上げることも時代遅れであると言えるでしょう。特に医師をはじめとする医療関係者は、今後ますます説明が求められます。ブルの手法は、裁判だけでなく、医療や教育のコミュニケーションにも、もっと広げて考えれば日常のコミュニケーションにも通じるものがあります。私たちが、誰かと協力して何かをしようとするとき、新しいことや大きなことであればあるほど、頼み事、頼まれ事が増えていくものです。そんな時、スムーズに思いが伝わり人を動かせていることこそ、まさにこのドラマのサブタイトルにある「心を操る」と言えるのではないでしょうか?1)法と心理「心理学は裁判員裁判に何ができるか」:日本評論社、20092)社会心理学:山岸俊男監修、新星出版社、20113)「人たらし」のブラック交渉術:内藤誼人、だいわ文庫、2009

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RSV感染症はインフルエンザよりも怖い?

 2018年6月7日、アッヴィ合同会社は、RSウイルス(RSV)感染症メディアセミナーを都内で開催した。RSV感染症は、2歳までにほぼ100%が初感染を経験するといわれており、乳幼児における呼吸器疾患の主な原因(肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%)として報告されている。セミナーでは、「乳幼児の保護者は何を知らなければいけないか? 変動するRSウイルスの流行期とその課題と対策」をテーマに講演が行われた。 セミナーの後半には、愛児がRSV感染症に罹患した経験を持つ福田 萌氏(タレント)が、トークセッションに参加した。 2018年6月7日、アッヴィ合同会社は、RSウイルス(RSV)感染症メディアセミナーを都内で開催した。RSV感染症は、2歳までにほぼ100%が初感染を経験するといわれており、乳幼児における呼吸器疾患の主な原因(肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%)として報告されている。セミナーでは、「乳幼児の保護者は何を知らなければいけないか? 変動するRSウイルスの流行期とその課題と対策」をテーマに講演が行われた。 セミナーの後半には、愛児がRSV感染症に罹患した経験を持つ福田 萌氏(タレント)が、トークセッションに参加した。RSV感染症の死亡リスクは麻疹の次に高い はじめに、木村 博一氏(群馬パース大学大学院 保健科学研究科 教授)が、「RSウイルス感染症の流行に関する最新の知見」について紹介を行った。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのRobin A. Weiss氏らの研究結果1)によると、RSV感染症の死亡リスクは麻疹の次に高く、インフルエンザよりも上に位置するという。RSV感染症は、乳幼児・高齢者には気管支炎や肺炎を起こすが、青年期や成人期には鼻風邪程度の症状が多いため、知らぬ間に高齢者施設などにウイルスを運び込み、集団感染につながる恐れがある。「高齢者の命の灯を消す病気」ともいわれ、乳幼児だけでなく、高齢者のリスクも考える必要がある。 また、RSV感染症の動向について、数年前から流行時期が早まっており、夏~秋にかけて患者数が増加する傾向が見られるが、地域によってかなり異なるという。以前の調査で、平均気温が26~28℃、湿度が79%以上でRSV感染患者が増加するという結果2)が得られたこともあり、今後の研究によって、流行の早期探知や予測が可能になるかもしれない。ハイリスク群には抗RSV抗体が保険適用になる 次に、山岸 敬幸氏(慶應義塾大学医学部 小児科 教授)が、「RSウイルス流行期変動による実臨床での影響」について、同社が行ったアンケート結果を交えて説明した。2歳未満の子供を持つ親1,800名に対するアンケートで、RSV感染症を「知っている」と答えた割合は50%にも満たなかった。また、RSV感染症を「知っている」「名前は聞いたことがある」と回答した親(1,518名)のうち、近年流行期が早まっていること、流行のタイミングには地域差があることに関して「知っている」と答えた親は、約30%にとどまった。 早産、先天性心疾患、ダウン症候群など、RSV感染症ハイリスク群に指定されている場合、抗RSV抗体であるパリビズマブ(商品名:シナジス)が保険適用となり、RSV流行期を通して月1回の筋肉内注射を打つことで、感染を予防することができる。流行期が早まっているRSV感染症の対応について、山岸氏は「RSV感染症に対する意識・認知度の向上と、感染予防策の徹底、そしてパリビズマブによる予防が重要である」と語った。RSV感染症への対応はインフルエンザと同じ 後半では、両演者と福田 萌氏によるトークセッションが行われた。 福田氏の第1子は、35週の早産だった。「医師からリスクの説明を受け、初めてRSV感染症の存在を知った」と語り、毎月パリビズマブの定期接種に通い、気を付けていたおかげで、RSV感染症にかからずに成長したと当時の苦労を振り返った。その後、第2子は正産期に生まれたため、とくに注意を受けなかったが、生後9ヵ月(昨年の10月)のときに高熱で病院にいったところ、RSV感染症と診断された。そのときの気持ちを聞かれた同氏は「意外だった。第1子のときは気を付けていたのに、(記憶から)抜けてしまっていた」と答えた。 RSV感染症は、リスクの高い低いに限らず、初期症状を見逃すと重症化する恐れがある。「感染症の流行を把握することは、医師が診断を行ううえで非常に重要である。医療者と保護者の双方で、情報を伝え合うことが早期診断につながる」と山岸氏は語った。最後に、木村氏は「2018年は、昨年と同様に夏季~秋季に流行すると予測されている。RSV感染症の予防や流行への対応は、家庭では手洗い、医療機関では標準予防策の徹底が第一だ」と強調した。RSV感染症の死亡リスクは麻疹の次に高い はじめに、木村 博一氏(群馬パース大学大学院 保健科学研究科 教授)が、「RSウイルス感染症の流行に関する最新の知見」について紹介を行った。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのRobin A. Weiss氏らの研究結果1)によると、RSV感染症の死亡リスクは麻疹の次に高く、インフルエンザよりも上に位置するという。RSV感染症は、乳幼児・高齢者には気管支炎や肺炎を起こすが、青年期や成人期には鼻風邪程度の症状が多いため、知らぬ間に高齢者施設などにウイルスを運び込み、集団感染につながる恐れがある。「高齢者の命の灯を消す病気」ともいわれ、乳幼児だけでなく、高齢者のリスクも考える必要がある。 また、RSV感染症の動向について、数年前から流行時期が早まっており、夏~秋にかけて患者数が増加する傾向が見られるが、地域によってかなり異なるという。以前の調査で、平均気温が26~28℃、湿度が79%以上でRSV感染患者が増加するという結果2)が得られたこともあり、今後の研究によって、流行の早期探知や予測が可能になるかもしれない。ハイリスク群には抗RSV抗体が保険適用になる 次に、山岸 敬幸氏(慶應義塾大学医学部 小児科 教授)が、「RSウイルス流行期変動による実臨床での影響」について、同社が行ったアンケート結果を交えて説明した。2歳未満の子供を持つ親1,800名に対するアンケートで、RSV感染症を「知っている」と答えた割合は50%にも満たなかった。また、RSV感染症を「知っている」「名前は聞いたことがある」と回答した親(1,518名)のうち、近年流行期が早まっていること、流行のタイミングには地域差があることに関して「知っている」と答えた親は、約30%にとどまった。 早産、先天性心疾患、ダウン症候群など、RSV感染症ハイリスク群に指定されている場合、抗RSV抗体であるパリビズマブ(商品名:シナジス)が保険適用となり、RSV流行期を通して月1回の筋肉内注射を打つことで、感染を予防することができる。流行期が早まっているRSV感染症の対応について、山岸氏は「RSV感染症に対する意識・認知度の向上と、感染予防策の徹底、そしてパリビズマブによる予防が重要である」と語った。RSV感染症への対応はインフルエンザと同じ 後半では、両演者と福田 萌氏によるトークセッションが行われた。 福田氏の第1子は、35週の早産だった。「医師からリスクの説明を受け、初めてRSV感染症の存在を知った」と語り、毎月パリビズマブの定期接種に通い、気を付けていたおかげで、RSV感染症にかからずに成長したと当時の苦労を振り返った。その後、第2子は正産期に生まれたため、とくに注意を受けなかったが、生後9ヵ月(昨年の10月)のときに高熱で病院にいったところ、RSV感染症と診断された。そのときの気持ちを聞かれた同氏は「意外だった。第1子のときは気を付けていたのに、(記憶から)抜けてしまっていた」と答えた。 RSV感染症は、リスクの高い低いに限らず、初期症状を見逃すと重症化する恐れがある。「感染症の流行を把握することは、医師が診断を行ううえで非常に重要である。医療者と保護者の双方で、情報を伝え合うことが早期診断につながる」と山岸氏は語った。最後に、木村氏は「2018年は、昨年と同様に夏季~秋季に流行すると予測されている。RSV感染症の予防や流行への対応は、家庭では手洗い、医療機関では標準予防策の徹底が第一だ」と強調した。■参考アッヴィ合同会社 RSウイルスから赤ちゃんを守ろう■関連記事入院をためらう親を納得させるセリフ~RSウイルス感染症

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抗コリン作用は認知症リスクを高める…となると現場は大変だ!(解説:岡村毅氏)-854

 言うまでもなく、さまざまな薬に抗コリン作用がある。とりわけ腹痛、鼻汁、頻尿などを止める効果があるので、風邪薬などの非常に身近な薬にも多く含まれるのである。 一方で抗コリン作用を持つ薬と認知症の関係が長年いわれている。アセチルコリン系は脳内の覚醒に関わるので、抗コリン作用を持つ薬剤を内服している間は認知機能が低下するといわれる。加えて、抗コリン作用を持つ薬を長年飲み続けると認知症発症のリスクが上がるともいわれている。それを検証したのが今回の論文である。 しかし、真の因果関係を検証するのは難しい。たとえば多くの抗うつ薬には抗コリン作用がある。そして、老年期のうつは認知症の危険因子あるいは初期症状でもある。したがって認知症になる前に内服していた薬を調べて、抗うつ薬などの抗コリン作用の強い薬剤を内服していた人が多いからといって、すぐに抗コリン作用が悪さをしたとも言い切れない。認知症の初期症状としてのうつ症状であったかもしれないからだ。 この論文は調整因子を幅広く取り、当該薬の(1)抗コリン作用の程度、(2)量、(3)薬効、(4)曝露時期で分けて詳細に検討しているので、臨床的価値が大きい。多くの薬剤が持つ抗コリン作用と認知症発症が関係するなら、多剤併用を避ける大きな根拠にもなろう。 多剤併用の弊害が広く知られるようになった。以前は「先生、これとこれとあれの症状もあるので、薬ください」などと大量の薬の処方を求められたものである。もちろん、いちいち諭すわけだが、こわもての患者さんに「症状があると言ってんだよ!」とか「言われたとおり処方しろよ!」などと悪態をつかれたことは皆さんもあることだろう。こういう経験を重ねると、プライマリケアの現場では、心折れて何も考えずに処方することになってしまう方もいるだろうなと思う。最近は「ダマされるな! 医者に出されても飲み続けてはいけない薬」(週刊現代2016年6月11日号)などといった記事のためか、受診はしたものの、かたくなに処方を拒絶する患者さんもいる。 人生の黄昏時には、体は思うようにならないものである。治らない症状を持つ人も多いことだろう。意味のない多剤併用は論外だが、命が有限であり、体は衰えていくものだということがわからずに焦燥に駆られた患者さんや家族に、一応症状はあり、何とか薬をくださいなどと言われては、こちらも困ってしまう。人間の弱さも引き受けた診療をするしかない、と言うと怒られてしまうだろうか。 さて、あらためて本論文を見てみよう。・まず単純な解析では、抗コリン作用が強いもの(ACB score of 3)では確かに認知症発症と関連している。・しかし認知症発症の15年以上前の曝露では、ほとんどの薬では関連は消え、三環系抗うつ薬等と泌尿器薬でははっきり残る。これらの薬が危険ともいえるし、たとえ15年以上前であっても、うつや頻尿は認知症の微細な初期症状なのかもしれない。・さらに、15年以上前の解析で、抗うつ薬の中でも抗コリン作用が弱いSSRIなど(ACB score of 1)では因果関係は明らかではなく、抗コリン作用が強い三環系抗うつ薬(ACB score of 3)では関係がある。となるとやはり抗コリン作用が悪さをしている可能性は大である。・とはいえ「強い抗うつ薬」を使う病態と「弱い抗うつ薬」を使う病態は明らかに異なる。前者のみが認知症発症と関連する可能性も、やや苦しいが、まだある。・抗パーキンソン薬は、直近の使用のみが関連している。認知症発症は、抗パーキンソン薬の影響ではなく、脳内の神経変性の進行を反映しているかもしれない。 まとめるとこうなる。抗コリン作用と認知症発症は、まだ解明されたとはいえない。ざっくり見れば関連はある。専門的に眺めると、事態はまだ複雑だ。三環系抗うつ薬や泌尿器系薬は、可能性は高い。とはいえ「臨床現場で処方ができない」とパニックになる必要はまったくない。同時に、なるべく少ない処方でマネジメントすることは常に心掛けねばならない。

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2020までに万全な髄膜炎菌感染症対策を

 2018年4月18日、サノフィ株式会社は、4月25日の「世界髄膜炎デー」に先立って、髄膜炎菌感染症診療に関するメディアセミナーを都内で開催した。本セミナーでは、「日本に潜む10代の髄膜炎菌感染症 アウトブレイクのリスク~海外・国内の感染事例と関連学会による対策変更~」をテーマに、髄膜炎菌感染症のオーストラリアでの疫学的状況と公衆衛生当局による対応、日本の置かれた現状と今後求められる備えなどが語られた。IMD発症後、20時間以内の診断が予後の分かれ目 髄膜炎は、細菌性と無菌性(ウイルス性が主)に大別される。なかでも細菌性髄膜炎は、症状が重篤なことで知られている。今回クローズアップした髄膜炎菌は、2018年現在、わが国での発症率は低いが、ワクチンの定期接種が行われているインフルエンザ菌b型(Hib)、肺炎球菌などと比較して感染力が強く、また症状が急激に悪化するので、対応の遅れが致命的な結果を招く恐れがある。 髄膜炎菌は、飛沫感染により鼻や喉、気管の粘膜などに感染し、感染者は無症状の「保菌」状態となる。日本人の保菌率は0.4%ほどだが、世界では3%とも言われており、19歳前後の青年期がピークとなる1)。保菌者の免疫低下など、さまざまな要因で髄膜炎菌が血液や髄液中に侵入して起こるのが、侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)である。 IMDは、感染して2~10日(平均4日)後、突発的に発症する。初期症状は風邪症状と類似し、発症後13~20時間ごろに皮下出血、傾眠、呼吸困難など(プライマリ診療では、これらの症状が高度医療機関へ転送の目安となる)が見られ、それ以降、意識障害、痙攣発作など急速に進行する。IMDでは、発症から24~48時間以内に患者の5~10%が死亡するという報告があり2)、回復した場合でも約10~20%の割合で難聴、神経障害、四肢切断など重篤な後遺症が残るという報告もある3)。海外での事例を参考に、先取りしたIMD対策を 本セミナーでは、はじめにロドニー・ピアース氏(MEDICAL HQ Family Clinic)が、オーストラリアにおけるIMDの状況などについて説明した。オーストラリアでは過去に壊滅的なIMDの流行があり、2003年にワクチンが導入され、2013年までは減少傾向が続いていた。しかし、近年、致命率の高い血清型に変化した可能性があり、2014年から再び発症報告が増加している。新しい型(W型)の集団感染は、イギリスを経由してオーストラリアにやってきたと考えられている。イギリスでは2015年8月に、青少年を対象に4価ワクチンの単回接種が導入され、1年目の結果、接種率が36.6%と低かったにもかかわらず、W型の感染例が69%減少したとの報告がある4)。 「IMD予防のためには、適切なワクチンを正しい時期に接種する必要がある」とピアース氏は語る。オーストラリアでは、州ごとに集団感染予防の対応を行っていたが、昨年から国での対応が開始され、2018年7月からは、全国プログラムが導入される予定である。同氏は、「IMDは命を脅かす疾患だが、ワクチンで防ぐことができる。日本でも、関連学会の推奨に基づき、10代はワクチン接種を行う必要がある」と締めくくった。オリンピック前に、IMDの流行対策が必要 次に、川上 一恵氏(かずえキッズクリニック 院長、東京都医師会 理事)が、IMDへの備えを語った。わが国では、IMDは感染症法により5類感染症に指定されているが、学生寮などで集団生活を送る10代の感染リスクについては、注意喚起に留まっている。現在の発症状況は年間30人前後と落ち着いているが、戦後1945年頃は年間患者数が4,000人を超えていた時期もあり、2014年に国内で流行したデング熱のように、再来する可能性も否めないと川上氏は指摘する。 IMDの迅速検査は現在未開発で、インフルエンザ検査後、血液検査でCRPの上昇を見て鑑別される方法が行われている。早期に気付き治療を施せば、抗菌薬は効果があると同氏は語る。しかし、特効薬はなく、耐性菌の出現により抗菌薬は使いづらいのが現状だ。このため、世界的にワクチン頼りの対策となっている。 医療従事者を含めて、IMDの重篤性、ワクチン接種に対する認知度が低く、発症リスク(年齢、密集した集団生活、海外の流行地域など)は十分に知られていない。また、適切に対応できる医師が少ない問題点が指摘された。同氏は、「2020年に迎える東京オリンピックを機にIMDが流行する恐れがある」と警告し、「疾患の啓発を進め、感染リスクが高い環境にある者はワクチンを接種すべき」と締めくくった。同氏のクリニックでは、髄膜炎菌に暴露する危険性を考慮し、スタッフ全員がワクチン接種を済ませているという。 4価髄膜炎菌ワクチン(商品名:メナクトラ筋注)は、日本では2015年に発売され、任意接種が可能である。在庫確保の都合上、希望者は、事前に医療機関にその旨を伝えるよう併せて説明が必要となる。■参考1)Christensen H, et al. Lancet Infect Dis. 2010;12:853-861.2)World Health Organization. Meningococcal meningitis Fact sheet No.141. 2012.3)Nancy E. Rosenstein, et al. N Engl J Med. 2001;344:1378-1388.4)Campbell H, et al. Emerg Infect Dis. 2017;23:1184-1187.

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多発性硬化症の症状は個人差が大きく確定診断まで約3年を待つ

 2018年3月29日、バイオジェン・ジャパン株式会社とエーザイ株式会社は、多発性硬化症に関するメディアセミナーを都内で共同開催した。セミナーでは、女性に多い本症について、疾患概要だけでなく、女性視点から闘病への悩みなども取り上げられた。多発性硬化症は全国で約2万人が苦しむ難病 セミナーでは、清水 優子氏(東京女子医科大学病院 神経内科 准教授)を講師に迎え、「多発性硬化症の治療選択-女性患者のアンメットニーズとライフステージ」をテーマに講演が行われた。 多発性硬化症は、中枢神経系の自己免疫性脱髄疾患であり、ミエリン(髄鞘)が障害されることで、視力障害や運動麻痺、排尿障害、感覚障害など、さまざまな症状を引き起こす。多発性硬化症の症状出現の仕方・時間は、患者の個人差も大きく、診断に苦慮する難病である。なお、多発性硬化症の診断では、一般的な問診・検査に加え、MRI検査により、ほぼ確定診断が行われる。主な診療は、神経内科が担当するが、眼科、整形外科、一般内科で気付かれる例も多いという。 多発性硬化症の発症年齢は20~30代にあり、患者は女性に多い。発症原因は不明で、わが国では患者数が年々増加しており2015年度で1万9,389例の患者が登録されている(特定疾患医療受給者証交付件数)。また、多発性硬化症の特徴として、治療が奏効しても再燃と寛解を繰り返し、徐々に症状の重症度が上がっていき(発症初期から進行性の経過をとる一次性進行型はまれ)、進行型の予測も難しいという。多発性硬化症の症状を疑ったらMRI検査へ 多発性硬化症の治療では、初発から再発寛解までの時間が、治療のゴールデンタイムと言われる。この時間に確定診断が行われ、きちんとした治療が行われるかどうかで予後が変わるという。しかしながら、初発の症状では、多発性硬化症と診断される例が少なく、確定診断まで平均3.7年かかるという報告もある(バイオジェン・ジャパンと全国多発性硬化症友の会との合同アンケート調査より)。「初発症状である温度変化による症状の悪化(ウートフ現象)、手足の突っ張り感、脱力、過労やストレス、風邪などの易感染、出産後3ヵ月間などの主訴から診断初期で、いかに本症を思い浮かべ、MRIなどの検査に送ることができるかが、治療を左右する」と清水氏は指摘する。 急性期、慢性期、再発防止の3期に分けて多発性硬化症の治療薬は使われる。急性期ではステロイド・パルス療法、血液浄化療法が、慢性期では対症療法、リハビリテーションが、再発防止ではインターフェロンβ1a/b、グラチラマー、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、ナタリズマブが、個々の患者病態に合わせて選択されている。しかし、完全寛解まで至る治療薬は現在ない。多発性硬化症患者の妊娠・出産の悩みに応える 続いて多発性硬化症の女性患者の出産、妊娠について解説を行った。多発性硬化症の発症時期は、こうしたイベントと重なることが多く、女性患者にとっては切実な問題だという。実際、妊娠、出産に関しては、病態が管理できているのであれば、いずれも問題はないという。ただ、妊娠中は免疫寛容が母体に働くために多発性硬化症の症状は安定または軽くなるものの、「出産後早期は、再発リスクがあり、注意が必要だ」と同氏は述べる。また、生まれてくる胎児への影響はなく、授乳も多発性硬化症の再発リスクにもならないが、「不妊治療については、悪化させる報告もあるので、妊娠を希望する場合、病態の安定化が重要だ」と同氏は指摘する。多発性硬化症の症状に周囲の理解が大事 女性患者の就労に関しては、脱力、しびれ感、目のかすみなどの症状が、外観から理解されにくく、誤解を受けやすいことから悩みを抱えている現状が紹介された。先に紹介したアンケート調査を引用し、「疾患により仕事内容の変更・異動、転職・退職を経験したことがあるか?」(n=210)との問いに複数回答ながら「退職」(34.3%)、仕事内容の変更(21.9%)、「就職をあきらめた」(19.5%)の順で回答が寄せられ、就労の難しさをうかがわせた。体が思うように動かない、多発性硬化症の症状の説明が周囲に難しいなどの理由により仕事に就きたいが就労できない状況が、さらに経済状態を悪化させ不安感を増大させるなどして、女性患者を負のスパイラルに陥らせていることを指摘した。 最後に清水氏は「女性にとって多発性硬化症の罹患年齢は、働き盛り、妊娠・出産の世代に重なる。そのため医療者をはじめとする一般社会の理解がないと、これらの問題解決は難しい。多発性硬化症の社会認識と理解・啓発、就労関係の整備が実現され、患者の社会貢献ができることを望む」と期待を述べ、レクチャーを終えた。

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