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漢方薬の学び方【Dr.伊東のストーリーで語る漢方薬】第1回

漢方薬の学び方~桔梗湯と芍薬甘草湯~このコンテンツをご視聴いただいている皆さんは、漢方薬を使えるようになりたい! でも、漢方薬を使ってもなかなか効かない!という先生方ではないかと思います。イメージとしては、期待して使うと全然効かない一方で、期待しないで使ってみるとたまに効くことがあるから漢方薬への魅力をどうも捨てきれない。そういった方が多いのではないかと勝手に想像しています。このコンテンツでは漢方薬を学びますが、挫折しないよう楽しく学んでいくことが大事だというスタンスで進めていきます。具体的には、漢方薬同士の関係性を芋づる式に解説して、なるべく各論的にならないようにする。エピソード記憶で定着できるようにストーリーで解説していこうというわけです。そのために、必要な漢方理論は説明します。また、邪道ではありますが西洋医学とのアナロジーも多用していきます。漢方薬の構成さて、漢方薬は複数の生薬によって構成されます。実際のところ、ひとつの生薬で漢方薬が成立してしまうこともあるにはあるのですが、ほとんどの漢方薬が複数の生薬でできています。そのため、漢方薬の特徴を理解するためには生薬を理解する必要がありますが、いかんせん生薬の種類が多すぎるという問題があります。そこで、このコンテンツでは構成生薬をブロック単位で解釈していこうと思います。こうすることで、複数の漢方薬同士の類似性にすぐ気が付けるようになり、違うところもわかりやすくなるわけです。それでは、さっそく例を挙げてみましょう。十全大補湯という漢方薬があります。これは名前のとおり、10種類の生薬で構成される漢方薬です。10種類の生薬の持つ薬能を示すと、図1のようになりますが、さすがにこれを見ても煩雑すぎて、漢方薬全体としての効果を把握できないわけです。図1 十全大補湯の構成生薬の薬能画像を拡大するそこで、もう少しブロック単位でまとめてみると、じつは十全大補湯は「四君子湯」という漢方薬と「四物湯」という漢方薬にプラスαしてできた漢方薬だとわかります(図2)。図2 十全大補湯=四物湯+四君子湯+α画像を拡大する今回は初回なので、大雑把に四君子湯は「気」、つまりエネルギーを補う漢方薬、四物湯は「血」、つまり血液を補う漢方薬ということにしておきましょう。そうすると、この十全大補湯は、貧血で顔色が悪くて、エネルギー不足ゆえに倦怠感も強い患者さんに使うとよさそうだぞと想像できるわけです(図3)。図3 十全大補湯の対象患者像画像を拡大する本コンテンツの到達目標この漢方薬のレクチャーでは、皆さんに漢方薬の細かい知識を覚えていただくことをあえて目標にしていません。むしろ、いまみたいに、知らない漢方薬を見かけた時に、その生薬の組み合わせのパターンをみて、それが何に効く漢方薬なのかを類推できるようになる…というのを目標にしたいと思います。なにより、私のレクチャーは勉強というよりは楽しむくらいの姿勢で軽く見ていただくのがいいでしょう。さて、漢方薬で上達するコツは、とにかく使ってみることです。使ってみて、患者さんのリアクションをみて、自分にフィードバックをかけて、そして診療を改善する。その繰り返しです。ただ、成功体験がないと、このサイクルを回すのもなかなか辛いと思います。そのため、今回は初回ということもあり、百発百中レベルで効いてくれる漢方薬を2つだけ紹介したいと思います。それが「桔梗湯」と「芍薬甘草湯」です。この2つの漢方薬はすごく単純な成り立ちをしていて、漢方理論度外視で使ってもきちんと効くありがたい処方です。桔梗湯まず、桔梗湯ですが、これは桔梗と甘草の2種類の生薬で構成されています。桔梗には膿による症状を和らげる薬能があります。この桔梗湯を飲むか、あるいはうがいに使うと、喉の痛みが一瞬で消えます。喉の痛みに対してアセトアミノフェンやロキソプロフェンなどを使う先生方もいると思いますが、その作用は疼痛の緩和です。ところが、桔梗湯は疼痛を一時的なんですけど一瞬で消失させてしまうところがすごいのです(図4)。患者さんからすごく感謝されることもあるので、もちろん危険な疾患を除外する必要はありますが、ぜひ喉の痛みが強い患者さんに使ってみていただければと思います。図4 桔梗湯の構成と特徴画像を拡大する芍薬甘草湯次に芍薬甘草湯です。名前のとおり、芍薬と甘草の2種類の生薬で構成されています。芍薬には筋肉の異常な収縮を和らげる薬能があって、芍薬甘草湯がこむら返りに対して、即座に効果を示すことをご存じの先生方も多いと思います。ただし、筋肉の異常な収縮を和らげるということは、こむら返り以外の用途にも使えそうな気がしてきませんか? たとえば、尿管結石。尿管には平滑筋がありますね。ほかには、腸炎とか過敏性腸症候群。腸管にも平滑筋があります。胆石発作。胆道系にも平滑筋があるではないですか。まとめると、横紋筋以外の筋肉の収縮に起因する疼痛にも効果があります。作用機序こそ違いますが、西洋薬でいうところのブチルスコポラミンのようなイメージで捉えるとわかりやすいかもしれません(図5)。図5 芍薬甘草湯の構成と特徴画像を拡大する桔梗湯と芍薬甘草湯の共通点ここで紹介した2つの漢方薬には共通点があります。1つ目は、甘草が含まれていることです。甘草は、偽アルドステロン症のせいで嫌われがちな生薬ですが「急迫を治す」、つまり差し迫った症状を治すのに長けているんです。加えて、甘草にはさまざまな生薬の働きを調和する薬能もあって便利なため、漢方薬の7割くらいには甘草が入っています。2つ目の共通点は、構成生薬数が両方とも2種類ときわめて少ないことです。漢方薬は一般に、構成生薬数が少ないほど即効性があって、効果のバリエーションも少なくなる傾向にあります。逆に、構成生薬数が多い漢方薬は、効くのに日~週単位で時間がかかってしまうことが多々あります。そのかわりに、効果の守備範囲が広くなります(図6)。もっとも、これはあくまで傾向で、絶対とまでは言い切れません。図6 構成生薬数と効きの早さ・用途の広さの関係画像を拡大するたとえば、さっきの十全大補湯は、10種類とたくさんの生薬で構成されているため、効き初めまで日~週単位でかかってしまうのですが、効果は倦怠感、貧血、皮膚の乾燥、食思不振、盗汗、手足の冷えといった具合に多岐に渡ります。まとめ漢方薬を理解するには生薬を知ることが大切ですが、複数の生薬から成るブロックで理解すると効率良く理解できます。今回は桔梗湯と芍薬甘草湯を紹介しましたが、これらは構成生薬数の少ない漢方薬です。こういった構成生薬数が少ない漢方薬は、用途がかなり限られていて、症状とほぼ1対1対応で使えます。加えて、即効性があるのも魅力的です。一方で、構成生薬数が多い漢方薬は幅広い症状に対応できますが、効きがゆっくりで実感しにくいのが欠点です。こういった漢方薬をどのように理解していくのかを示すところが、このシリーズでの腕の見せ所だと思っています。次回は、皆さんが大好きな葛根湯を取り上げます。お楽しみに!

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義1817年、英国の外科医であり地質学者であったJames Parkinsonは“Essay on The Shaking Palsy”として6症例のパーキンソン病患者の症状を詳細に報告した。その後、神経学の祖であるJean-Martin Charcotがこのエッセイに着目し「パーキンソン病」と名付け、疾患概念が確立された。本疾患はドパミン神経細胞が脱落するため、動作緩慢、振戦、筋強剛などが出現する。進行すると姿勢保持障害、歩行障害なども顕著になり、転倒のリスクが高まる。さらに、運動症状以外にも睡眠障害、嗅覚低下、自律神経障害、認知症、精神症状など多彩な非運動症状を合併する。そのため日常生活動作が低下し、介護度が高くなり、患者本人の生活の質を悪化させるのみならず、介護者にも多大な影響が及ぶ疾患である。病理学的所見としては、黒質緻密部を中心としたドパミン神経細胞の変性・脱落とレビー小体の形成が特徴である。■ 疫学有病率は10万人当たり100~180人とされているが、65歳以上では1,000人程度存在するといわれている。海外で行われた年齢別有病率を調査した研究では、40~49歳では10万人当たり約40人であるのに対し、80歳以上では約1,900人と報告されており、加齢に伴い急激に増加することがわかる。発症頻度には地域差があり、欧州や北米では高く、アジアやアフリカでは低い傾向がある。また、海外では男性に多いとされる一方で、わが国では女性の有病率が高いと報告されている。■ 病因本疾患の病因は長らく不明とされてきたが、近年の分子病理学的・遺伝学的研究の進展により、その中核にはαシヌクレインの異常凝集と蓄積があることが明らかとなっている。αシヌクレインは、本来シナプス前終末に豊富に存在する可溶性タンパク質であるが、異常構造へ変化するとオリゴマー、プロトフィブリル、フィブリルへと段階的に凝集し、神経毒性を獲得する。これらの凝集体は、神経細胞内でレビー小体やレビー神経突起を形成し、ドパミン神経を中心とした神経変性を引き起こすと考えられている。さらに、病的αシヌクレインは細胞間を伝播する性質を有し、特定の神経回路に沿って病理が拡大することが示唆されている。その一方で、パーキンソン病は単一の原因で発症する疾患ではなく、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡む多因子疾患である。αシヌクレインをコードするSNCAは最初に発見された家族性パーキンソン病の原因遺伝子である。さらに常染色体顕性遺伝性パーキンソン病に頻度が高いLRRK2、重大なリスク遺伝子であるGBAなどが同定されており、これらはαシヌクレインの凝集に関与している。また、孤発例においても、複数の感受性遺伝子が発症リスクに寄与することが明らかとなっており、遺伝的背景が病態形成に重要な役割を果たす。そのほか農薬曝露、頭部外傷、腸内細菌叢などの環境因子も発症リスクとして報告されており、遺伝要因と環境要因の相互作用が発症の引き金となる可能性が考えられている。さらに近年では、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、神経炎症、タンパク質分解系の破綻など、複数の細胞内異常が相互に関連しながら神経変性を進行させることが示唆されている。とくにリソソーム・オートファジー系の障害は、異常αシヌクレインの蓄積を促進し、分解不能になるという悪循環を形成する重要な病態基盤と考えられている。このようにパーキンソン病の病因は、αシヌクレイン凝集を中心とした分子病態を軸に、多層的・連続的な異常が重なり合うことで発症すると考えられる。2 診断臨床診断は主に症候学的所見に基づいて行われる。2015年に国際パーキンソン病・運動障害学会が診断基準を策定した(表)。この診断基準では、寡動を中心に、振戦と筋強剛のどちらか1つがあるとパーキンソン症状があると判断し、特異的な所見である、レボドパ製剤に対する良好な反応性、レボドパ誘発性ジスキネジア、四肢の静止時振戦、嗅覚低下および123I-MIBG心筋シンチグラフィによる心臓交感神経脱落の証明を支持的診断基準としている。除外基準のみならず、パーキンソン病でも認められるが非典型的な症状や経過をレッドフラッグとして挙げている。支持的基準を2つ以上満たし、除外基準およびレッドフラッグが認められない場合は“clinically established”であり、支持的基準を満たしていてもレッドフラッグを認める場合や、レッドフラッグがなくても十分に支持的基準を満たさない場合は“probable”と診断される。診断基準の特異度は高いが感度は低く、類縁疾患である多系統萎縮症や進行性核上性麻痺といったParkinson-like disorderとの鑑別は難しい。また、運動症状が発症する前より、便秘、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症が認められる場合がある。ビデオ睡眠ポリグラフでレム睡眠行動異常障害認められる場合、パーキンソン病を発症するリスクが高まる。採血や画像診断は補助的な診断である。採血では特異的な変化はないが、パーキンソン症状を来す疾患(甲状腺機能亢進症や低下症、ウィルソン病、抗リン脂質抗体症候群など)の鑑別は必要である。神経画像は診断に有用であり、頭部MRIやCTなどの構造画像は除外診断目的で行われる。とくにMRIは被殻の萎縮と被殻外側のスリット、脳梁の萎縮、中脳背側(中脳被蓋部)の萎縮、上/中小脳脚の萎縮、橋の萎縮などに注目し、Parkinson-like disorderと鑑別する。また、DATスキャンを行うことで、パーキンソン症状が黒質線条体のドパミン機能障害により引き起こされていることが確認できる。薬剤性パーキンソニズム、本態性振戦、ジストニア、錐体路障害などによるパーキンソン様症状は正常であり除外できる。123I-MIBG心筋シンチグラフィは心臓交感神経の脱落を確認できるが、認める場合はパーキンソン病に特異的な所見であり、重要な診断の手掛かりとなる。最近、髄液に存在する微量な凝集型αシヌクレインを増幅することで診断できる可能性が示されているが、研究レベルであり実用化はされていない。表 国際パーキンソン病・運動障害学会の診断基準画像を拡大する診断のフローを以下に示す。【パーキンソン病の診断基準(MDS)】■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。3)相対的除外基準に抵触しない。■臨床的にほぼ確実なパーキンソン病(clinically probable Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在しさらに、1)絶対的除外基準に抵触しない。2)相対的除外基準と同数以上の支持基準がみられる。ただし、2つを超える相対的除外基準がみられてはならない。■支持的基準(Supportive criteria)1)明白で劇的なドパミン補充療法に対する反応性がみられる。この場合、初期治療の段階では正常かそれに近いレベルまで改善がみられる必要がある。もし、初期治療に対する反応性が評価できない場合は以下のいずれかで判断する。用量の増減により、顕著な症状の変動(UPDRS partIIIでのスコアが30%を超える)がみられる。または患者または介護者より治療により顕著な改善がみられたことが確認できる明らかに顕著なオン/オフ現象がみられる2)L-ドパ誘発性のジスキネジアがみられる。3)四肢の静止時振戦が診察上確認できる。4)ほかのパーキンソニズムを示す疾患との鑑別診断上、80%を超える特異度を示す検査法が陽性である。現在この基準を満たす検査として以下の2つが挙げられる。嗅覚喪失または年齢・性を考慮したうえで明らかな嗅覚低下の存在MIBG心筋シンチグラフィによる心筋交感神経系の脱神経所見■絶対的除外基準(Absolute exclusion criteria)1)小脳症候がみられる。2)下方への核上性眼球運動障害がみられる。3)発症5年以内に前頭側頭型認知症や原発性進行性失語症の診断基準を満たす症状がみられる。4)下肢に限局したパーキンソニズムが3年を超えてみられる。5)薬剤性パーキンソニズムとして矛盾のないドパミン遮断薬の使用歴がある。6)中等度以上の重症度にもかかわらず、高用量(>600mg)のL-ドパによる症状の改善がみられない。7)明らかな皮質性感覚障害、肢節観念運動失行や進行性失語がみられる。8)シナプス前性のドパミン系が機能画像検査により正常と評価される。9)パーキンソニズムを来す可能性のある他疾患の可能性が高いと考えられる。■相対的除外基準(Red flags)1)5年以内に車椅子利用となるような急速な歩行障害の進展がみられる。2)5年以上の経過で運動症状の増悪がみられない。3)発症5年以内に重度の構音障害や嚥下障害などの球症状がみられる。4)日中または夜間の吸気性喘鳴や頻繁に生じる深い吸気*注など、吸気性の呼吸障害がみられる。5)発症から5年以内に以下のような重度の自律神経障害がみられる。起立性低血圧:立位3分以内に少なくとも収縮期で30mmHgまたは拡張期で15mmHgの血圧低下がみられる発症から5年以内に重度の尿失禁や尿閉がみられる6)年1回を超える頻度で繰り返す発症3年以内の転倒。7)発症から10年以内に、顕著な首下がり(anterocollis)や手足の関節拘縮がみられる。8)5年の罹病期間の中で以下のようなよくみられる非運動症候を認めない。睡眠障害:睡眠の維持障害による不眠、日中の過剰な傾眠、レム睡眠行動障害の症状自律神経障害:便秘、日中の頻尿、症状を伴う起立性低血圧嗅覚障害精神症状:うつ状態、不安、幻覚9)他では説明のできない錐体路症状がみられる。10)経過中一貫して左右対称性のパーキンソニズムがみられる。*注:inspiratory sighs;多系統萎縮症で時にみられる呼吸障害の1つで、しばしば突然不規則に生じる深いため息様の吸気。(文献1より引用)3 治療本疾患はドパミン神経変性により運動症状および多彩な非運動症状を呈するため、ドパミン補充療法が治療の中心である。L-ドパ製剤は最も有効性が高く中心的薬剤であるが、吸収に食事の影響を受けやすいこと、phasicな刺激によりL-ドパ誘発性ジスキネジアが生じやすく、半減期が短いためウェアリングオフを誘発することが課題となる。MAO-B阻害薬はドパミン分解を抑制することで効果を発揮する。すくみ足に効果があることが示されている。ドパミン受容体作動薬は半減期が長く、continuous dopaminergic stimulation(CDS)に近い刺激が可能で、ジスキネジア発現を遅らせる一方、眠気、衝動制御障害、精神症状に注意を要する。ウェアリングオフ出現時には、L-ドパ頻回投与やCOMT阻害薬併用により血中濃度の安定化を図る。また、アマンタジンを早期から始めることで、ジスキネジアの発現抑制が可能であることが示されている。経口治療で調整困難な場合にはデバイス補助療法を考慮する。経腸的L-ドパ持続療法や皮下持続投与製剤はオフ時間を短縮し、運動の日内変動を大きく改善する。さらに、L-ドパ製剤への反応性を有し、重度の認知症や精神症状を伴わない症例では脳深部刺激療法(DBS)も考慮される。主なターゲットは視床下核(STN)と淡蒼球内節(GPi)であり、STN刺激は薬剤減量効果が期待できる一方、GPi刺激はL-ドパ誘発性ジスキネジアの抑制に有効である。効果は同等とされるが、薬剤減量ができるSTNがfirst choiceである。強い振戦が主体の場合には視床Vim核が選択される。DBSは運動症状を安定化させ、薬物治療の限界を補完する治療オプションであり、適応がある症例の場合、必ず考慮すべきである。4 今後の展望近年、分子病理学的研究やバイオマーカー研究の進展により、パーキンソン病は従来の臨床症候に基づく疾患概念から、αシヌクレイン病理を中核とした生物学的疾患概念へと大きく変容しつつある。とくに、微量な病的αシヌクレインを検出可能とする種増幅アッセイ(seed amplification assay:SAA)は、発症前・前駆期から疾患を同定しうる技術として注目されている。また、脳に蓄積するαシヌクレインを可視化するPET検査も開発されている。これらのバイオマーカーの確立は、早期診断のみならず、疾患の生物学的病期分類や層別化を可能とし、疾患修飾療法(disease-modifying therapy:DMT)の研究を推進する際に適切な対象集団の選定に直結する。現在までに、αシヌクレイン病理、神経変性、遺伝背景を統合した新たな分類・病期分類の枠組みが提唱されており、今後の臨床試験や治療戦略の基盤となることが期待される。5 主たる診療科脳神経内科脳深部刺激療法を行う場合は脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本神経学会 パーキンソン病診療ガイドライン2018(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター パーキンソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Bloem BR, et al. Lancet. 2021;397:2284-2303. 2) Armstrong MJ, et al. JAMA. 2020;323:548-560. 3) Ben-Shlomo Y, et al. Lancet. 2024;403:283-292. 4) Hatano T, et al. J Mov Disord. 2024;17:127-137. 5) Postuma RB, et al. Mov Disord. 2015;30:1591-1601. 公開履歴初回2026年2月13日

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第37回 「これは偽薬です」と伝えても効く? 「正直なプラセボ」が切り開く医療の未来

「プラセボ(偽薬)」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか。おそらく多くの人が、新薬の臨床試験で使われる「効果のないニセモノの薬」といったイメージを持つでしょう。そして、「プラセボ効果」は、患者さんが「本物の薬だ」と信じ込むことで生じる、つまり、「騙すこと」がその効果の前提条件だと、長年考えられてきました。しかし、もし医師が患者さんに「これは砂糖玉で、薬としての成分は一切入っていません」と正直に伝えたうえで投与したら?この素朴でありながら常識破りの疑問に挑んだのが、米国・ハーバード大学医学部のTed J. Kaptchuk氏です。彼が15年前に行った研究は、医療界の常識を揺るがす驚くべき結果を示しました。なんと、偽薬だと知らされて飲んだ患者さんでさえ、症状の改善が見られたのです。この「正直なプラセボ(オープンラベル・プラセボ)」と呼ばれるアプローチは今、慢性的な痛みやうつ症状の治療において、従来の医療を補完する新たな可能性として、大きな注目を集めています1)。「秘密」は不要だった? 「正直なプラセボ」の衝撃Kaptchuk氏が2010年に発表した画期的な研究は、過敏性腸症候群(IBS)の患者さんを対象に行われました。一方のグループには何も治療を行わず、もう一方のグループには「これはプラセボ(ただの砂糖玉)です」と正直に説明したうえで、偽薬を処方しました2)。常識的に考えれば、効果があるはずがありません。しかし結果は予想を裏切るものでした。偽薬だと知らされたうえで飲んだグループは、何も治療を受けなかったグループに比べて、IBSの症状が有意に改善したのです。この研究は、「プラセボ効果に『騙す』というプロセスは必ずしも必要ではない」という衝撃の事実を明らかにしました。もちろん、1つの研究だけで結論は出せません。しかし、この研究を皮切りに、世界中で「正直なプラセボ」の研究が進められました。ドイツ・フライブルク大学のStefan Schmidt氏らによる最新のメタ分析(複数の研究データを統合して分析する手法)では、60件の研究、4,500例以上のデータを分析した結果、「正直なプラセボ」の効果は確かにあり、とくに慢性的な痛み、うつ、不安、疲労感といった「患者さん自身が感じる症状(自己申告の症状)」で見られ、その効果は幻想ではないと結論付けられています3)。なぜ「偽薬」と知っても効くのか? 脳内の“薬局”と“儀式”では、なぜ「ニセモノ」だとわかっていても私たちの身体は反応するのでしょうか。その完全なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、いくつかの有力な説が浮上しています。Kaptchuk氏は、この現象を「身体の中には“薬局”が備わっている」と比喩表現しています。つまり、プラセボは、脳内にもともと備わったエンドルフィンやカンナビノイドといった「脳内鎮痛物質」の放出を促すと考えられています。言い換えれば、プラセボはそれ自体が効くのではなく、自分自身の脳が持つ鎮痛システム(薬局)を作動させるスイッチの役割を果たしているのです。このスイッチを押すために、とくに重要だとKaptchuk氏が強調するのが、「思いやりのある医師と患者の関係性」です。単に砂糖玉を渡すのではなく、医師が患者さんの苦しみに耳を傾け、「この治療があなたの自然治癒力を助けるかもしれません」と丁寧に説明し、信頼関係の中で行われること自体が、治療的な効果を生むというのです。Schmidt氏はこれを「治癒の儀式」という言葉で説明しています。「薬を飲む」という行為自体が、強力な「儀式」だというわけです。たとえ中身が砂糖だと知っていても、専門家である医師から処方され、期待を込めて服用するという「儀式」そのものが、脳にポジティブな変化をもたらすのではないか、と考えられています。この仮説を裏付ける強力な証拠もあります。イタリアの神経科学者Fabrizio Benedetti氏の研究では、プラセボで鎮痛効果が得られた人に、オピオイド拮抗薬(モルヒネなどの鎮痛効果を打ち消す薬)であるナロキソンを注射すると、その鎮痛効果が消えてしまうことが示されました。これは、プラセボが、実際に脳内のオピオイドシステム(脳内の薬局)を働かせていたことを意味します。Benedetti氏は、この現象を「ホラー映画」に例えます4)。私たちは映画に出てくる怪物が作り物だと知っていても、恐怖を感じ、心拍数が上がります。それと同じように、たとえ偽薬だとわかっていても、私たちの脳と身体は、治療という文脈や儀式に対して、無意識に反応してしまうのです。期待と倫理的ジレンマ:本当に医療に使えるのか?プラセボの研究が進むにつれ、これを実際の臨床現場で使おうという動きも出てきています。たとえば、米国ではオピオイド(医療用麻薬)の依存症が深刻な社会問題となっていますが、慢性的な痛みに苦しむ患者さんへの新たな選択肢として期待されています。米国・ノースウェスタン病院の医師らは、脊柱側弯症の術後という強い痛みを伴う青少年の患者に対し、オピオイドとプラセボを併用することで、オピオイドの使用量を減らせないかという臨床試験を計画しています。副作用や依存リスクのない治療として、その応用に期待が集まります。しかし、この「正直なプラセボ」の臨床応用には、大きな倫理的ジレンマが伴います。最大の懸念は、Benedetti氏らが指摘するように、プラセボが「エセ医療」を正当化する口実として悪用されるリスクです。科学的根拠のない治療法を提供する人々が、「これはプラセボ効果だから安全で効果がある」と主張し始めるかもしれません。スイス・バーゼル大学のMelina Richard氏が行った倫理的なレビューでも、この懸念が最も大きな問題として挙げられています5)。さらに、治療において「ポジティブシンキング(前向きな思考)」が過大評価されることで、医学的に証明された有効な治療法を患者さんが避けてしまう危険性も指摘されています。また、Richard氏は、この分野の研究者がまだ特定のグループに限られており、エコーチェンバーに陥っているリスクも指摘しています。彼女は、より多様な視点からの議論が必要であり、「プラセボの臨床応用は時期尚早である」というのが、現時点での一般的な科学的コンセンサスだと述べています。この慎重論に対し、Kaptchuk氏は「インチキ療法師は自らの治療をプラセボとは言わない。彼らは『気』や『未知のエネルギー』が効くと言うのだ」と反論します(皮肉にも「正直なプラセボ」の効果は、エセ医療の効果すら裏づけているとも言えなくもありませんが)。そして、米国でオピオイド危機により何百万人もの人々が苦しんでいる現実を前に、「時期尚早だと言っている人々は、その苦しみを知らないのか? 決めるのは患者自身であるべきだ」と強く訴えています。「正直なプラセボ」の研究は、まだ始まったばかりです。しかし、その効果が本物であるならば、それは単に「偽薬が効いた」という話にとどまりません。医師と患者の信頼関係、治療という行為自体が持つ「意味」、そして私たち自身が持つ「治癒力」の重要性を、科学が改めて解き明かそうとしているのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Webster P. The mind-bending power of placebo. Nat Med. 2025;31:3575-3578. 2) Kaptchuk TJ, et al. Placebos without deception: a randomized controlled trial in irritable bowel syndrome. PLoS One. 2010;5:e15591. 3) Fendel JC, et al. Effects of open-label placebos across populations and outcomes: an updated systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Sci Rep. 2025;15:29940. 4) Benedetti F, et al. Placebos and Movies: What Do They Have in Common? Curr Dir Psychol Sci. 2021 Jun;30(3):202-210. 5) Richard M, et al. A systematic qualitative review of ethical issues in open label placebo in published research. Sci Rep. 2025;15:12268.

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一部のグルテン不耐症は思い込みによる可能性も

 自分はグルテン不耐症だと信じている過敏性腸症候群(IBS)患者の一部で見られる症状は、実際にはグルテンのせいではなく思い込みにより生じている可能性のあることが、小規模な臨床試験で示された。IBS患者を対象としたこの臨床試験では、グルテンや小麦が含まれていないシリアルバーでも、摂取後に消化器症状の悪化を訴える人がいたという。マクマスター大学(カナダ)医学部教授のPremysl Bercik氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Gastroenterology and Hepatology」に7月21日掲載された。 グルテンは小麦、大麦、ライ麦などの穀物に含まれるタンパク質の一種である。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院によると、グルテンに対してアレルギーがある人や、グルテンによって免疫反応が引き起こされ腸が損傷される可能性がある人では、グルテンの摂取が消化器系の問題をもたらすことがあるという。  今回報告されたランダム化クロスオーバー試験は、グルテンフリーの食事で症状が改善したとの報告があった28人のIBS患者を対象に実施された。各参加者には、3種類のシリアルバーを3回、間隔を空けて食べてもらった。3本のシリアルバーのうち1本はグルテンを、1本は小麦を含み、もう1本はどちらも含んでいなかった(シャム)。 その結果、IBS症状のスコア(IBS-SSS)が50点以上悪化した参加者の割合は、小麦含有シリアルバー摂取後で11人(39%、シャムのシリアルバーとのリスク差は0.11、95%信頼区間−0.16〜0.35)、グルテン含有シリアルバー摂取後で10人(36%、シャムとのリスク差は0.07、同−0.19〜0.32)、シャムのシリアルバー摂取後は8人(29%)であった。これらの結果は、小麦およびグルテン摂取群とシャム群との間で、IBS症状の悪化率に統計学的な有意差はないことを示している。 Bercik氏は、これはネガティブな予測のみによって実際に身体症状が引き起こされる「ノセボ効果」と呼ばれる現象に起因している可能性があるとの見方を示している。同氏は、「グルテンに反応していると思っている患者の全てが実際にグルテンに反応しているわけではない。本当に食物タンパク質に感受性を持っている人もいるが、多くの場合、グルテンが症状の原因だとする思い込み自体が症状を引き起こし、グルテンが含まれている食品を避けるという選択につながっている」とニュースリリースの中で述べている。 Bercik氏は、特にソーシャルメディアやオンラインコミュニティーが「グルテンは有害である」という考えを助長している可能性があると指摘している。同氏は、「IBS患者の中には、どうして良いのか分からないままでいるのではなく、グルテンを避けることが自分の状況をコントロールする手段の一つになると考える人もいる可能性がある。グルテンフリーの食事を続けることは不必要な食事制限にはなるが、症状を自分でコントロールしようとする患者にとってはすぐに取り組むことができる具体的な方法にもなり得る」と述べている。実際、どのシリアルバーが症状を引き起こしたのかを後で知らされても、多くの参加者は自分の考えや食事内容を変えなかったという。 こうした人がグルテンに対する不安を克服するためには、セラピーやコーチングが必要になるかもしれないとBercik氏は言う。「このような患者に対する臨床的な管理でわれわれが改善すべき点は、単に患者に『グルテンが原因ではない』と伝えて終わるのではなく、さらに寄り添って対応することだ。多くの患者にとって、グルテンや小麦に対する偏見をなくし、安全にこれらを再び食事に取り入れるための心理的サポートや指導が有益かもしれない」と述べている。 Bercik氏らは、今後の研究では、今回の臨床試験の結果をより大規模な集団で検証し、なぜグルテンに関する思い込みがIBSの症状を引き起こすのかを解明する必要があると話している。

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第277回 グルテンや小麦に過敏という人の多くは実際のところそれらが平気かもしれない

グルテンや小麦に過敏という人の多くは実際のところそれらが平気かもしれない過敏性腸症候群(IBS)患者28例が完遂したカナダでのクロスオーバー無作為化試験の結果によると1-3)、グルテンや小麦に過敏と自覚している人の多くは実際のところそれらを食べても平気かもしれません。小麦は数多の食品を作るのに使われており、言わずもがな魅惑のスイーツの数々をあつらえるのに必要とされる材料の1つです。多くの人にとって小麦がもたらす食の楽しみは大きいに違いなく、小麦を食べられるならそうするにこしたことはなさそうです。それに未精製の全粒小麦を使った食品は炭水化物、食物繊維、タンパク質、ビタミン、ミネラル、その他の植物に特有な成分(ファイトケミカル)の重要な供給源であり、世界の人々の日々のエネルギー摂取や食事を健康的にするのに大いに貢献しています。小麦などの全粒穀物の摂取が健康に有益なことも示されており、たとえば肥満、2型糖尿病、心血管疾患、がん、死亡を減らすことが疫学試験で裏付けられています。一方、食品がたいていそうであるように小麦にも負の側面があり、セリアック病や小麦アレルギーなどの有害な免疫反応をもたらしうることが示されています。小麦の摂取で具合が悪くなるとのことで、セリアック病や小麦アレルギーでなくとも小麦摂取を減らすか避けるグルテンフリー食を選ぶ人も多いようです。そういう不調は非セリアック・グルテン過敏症(NCGS)と呼ばれ、小麦のタンパク質成分のグルテンがしばしばその誘引成分とみなされます。NCGSの人はもっぱら腹部の痛みや違和感、膨満感、排便周期の変化などの胃腸の症状を訴えます。より少ないながら、疲労や頭痛などの消化管以外の症状が生じることもあります。NCGSの生理指標はなく、その診断にはしばらくのグルテンフリー食の後にグルテンをあえて摂取してもらう検査を必要とします。普段の診療で決まってできる類いのものではありません。これまでの報告に基づくNCGSの有病率は自己申告が頼りゆえか相当まちまちで0.5~13%ほどです4,5)。NCGS患者はIBS様の症状を呈して受診することが多く、IBSも患うNCGS患者は多いようです。たとえば英国の成人1千人ほどを調べた試験では、NCGS患者がほとんど(93%)を占めるグルテン過敏症患者の5人に1人はIBSの診断基準を満たしました6)。他の試験結果も考慮すると、IBSとNCGSはかなり重複するようであり、IBS患者の多くがグルテンや小麦がその症状の引き金であると信じています。そこでカナダのマクマスター大学のPremysl Bercik氏らは、単なる思い込みではなく実際にそれらがIBS症状を誘発するかどうかを調べるべく試験を実施しました。試験ではグルテンフリー食で病状が良くなった経験を有するIBS患者を募りました。集まった被験者はまずグルテンフリー食を3週間続け、点数が大きいほど重症なことを意味する0~500点のIBS重症度尺度(IBS-SSS)でIBS症状がどれほどかが測定されました。その平均値は183でした。続いて全粒小麦入り、グルテン入り、そのどちらも非含有の3種類の固形食品(シリアルバー)のどれかをどれも2週間の間を挟んで1週間食べてもらいました。被験者にはそれらを食べることで症状が悪化する恐れがあると伝えました。ただし、シリアルバーに何が入っているかは知らせませんでした。症状が悪化するかもしれないと告げられているだけに、食べたのが小麦もグルテンも含まないシリアルバーであっても28例中8例(29%)がIBS-SSS点数の50点以上の悪化を示しました。小麦入りやグルテン入りのシリアルバーを食した後の悪化患者の割合はさぞ高かろうと思いきやそうはならず、小麦もグルテンも含まないシリアルバーを食した後と有意差がなく、それぞれ39%(11/28例)と36%(10/28例)でした。グルテンや小麦が正真正銘のIBS症状の引き金となることはあるでしょうが、悪化するという思い込みが実際にそうさせるノセボ効果の関与もあるようです2,3)。NCGS患者を募った欧州での最近の無作為化試験でも同様に胃腸症状へのノセボ効果の寄与が示唆されています7)。今回の試験の被験者の便を調べたところ、何人かはシリアルバーを指示どおりに食べておらず、グルテンや小麦がIBS病状に影響するほどそれらを摂取していなかったかもしれません3)。また、試験の種明かしをしたところで被験者のほとんどは考えや食事を変えはしませんでした2)。IBS患者のいくらかは心理的支援も含む手当てが必要かもしれない、と試験を指揮したPremysl Bercik氏は言っています2)。 参考 1) Seiler CL, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025 Jul 1. [Epub ahead of print] 2) Despite self-perceived sensitivities, study finds gluten and wheat safe for many people with IBS / McMaster University 3) Gluten may not actually trigger many irritable bowel syndrome cases / NewScientist 4) Cabrera-Chavez G, et al. Gastroenterol Res Pract. 2016;2016:4704309. 5) Molina-Infante J, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2015;41:807-820. 6) Aziz I, et al. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2014;26:33-39. 7) de Graaf MCG, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2024;9:110-123.

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第264回 線維筋痛症女性の痛みが健康な腸内細菌の投与で緩和、生活の質も向上

線維筋痛症女性の痛みが健康な腸内細菌の投与で緩和、生活の質も向上腸内細菌入れ替えの線維筋痛症治療の効果が、イスラエルでの少人数の臨床試験で示されました1)。どこかを傷めていたり害していたりするわけでもないのに、体のほうぼうが痛くなる掴みどころのない慢性痛疾患である線維筋痛症の少なくともいくらかは、健康なヒトからの腸内細菌のお裾分けで改善するようです。線維筋痛症は多ければ25人に1人の割合で認められ、主に女性が被ります。線維筋痛症の根本原因や仕組みは不明瞭で、的を絞った効果的な治療手段はありません。線維筋痛症で生じる神経症状は痛みに限らず、疲労、睡眠障害、認知障害をもたらします。それに過敏性腸症候群(IBS)などの胃腸障害を生じることも多いです。腸内微生物が慢性痛のいくつかに携わりうることが示されるようになっており、IBSなどの腸疾患と関連する内臓痛への関与を示す結果がいくつも報告されています。線維筋痛症の痛みやその他の不調にも腸内微生物の異常が寄与しているのかもしれません。実際、線維筋痛症の女性の腸内微生物叢が健康なヒトと違っていることが最近の試験で示されています。そこでイスラエル工科大学(通称テクニオン)の痛み研究者Amir Minerbi氏らは、健康なヒトの腸内細菌を投与することで線維筋痛症の痛みや疲労が緩和しうるのではないかと考えました。まずMinerbi氏らは、線維筋痛症の女性とそうではない健康な女性の腸内微生物を無菌マウスに移植して様子をみました。すると、線維筋痛症の女性の腸内微生物を受け取ったマウスは、健康な女性の腸内微生物を受け取ったマウスに比べて機械刺激、熱刺激、冷刺激に対してより痛がり、自発痛の増加も示しました。続く実験で腸内細菌の入れ替えの効果が裏付けられました。最初に線維筋痛症の女性の微生物をマウスに投与して痛み過敏を完全に発現させます。その後に抗菌薬を投与して腸内微生物を一掃した後に健康な女性の微生物を移植したところ、細菌の組成が変化して痛み症状が緩和しました。一方、抗菌薬投与なしで健康な女性の微生物を投与した場合の細菌組成の変化は乏しく、痛みの緩和は認められませんでした。線維筋痛と関連する細菌を健康なヒトからの細菌と入れ替えることは、痛み過敏を解消する働きがあることをそれら結果は裏付けています。その裏付けを頼りに、細菌の入れ替えがヒトでも同様の効果があるかどうかが線維筋痛症の女性を募った試験で調べられました。試験には通常の治療のかいがなく、とても痛く、ひどく疲れていて症状が重くのしかかる重度の線維筋痛症の女性14例が参加しました。それら14例はまず抗菌薬と腸管洗浄で先住の腸内微生物を除去し、続いて健康な女性3人から集めた糞中微生物入りカプセルを2週間ごとに5回経口服用しました。最後の投与から1週間後の評価で14例のうち12例の痛みが有意に緩和していました。不安、うつ、睡眠、身体的な生活の質(physical quality-of-life)の改善も認められ、症状の負担がおおむね減少しました。投与後の患者の便検体を調べたところ、健康な女性の細菌と一致する特徴が示唆されました。健康な女性の微生物投与の前と後では糞中や血中のアミノ酸、脂質、短鎖脂肪酸の濃度に違いがありました。また、コルチゾンやプロゲスチンなどのホルモンのいくつかの血漿濃度が有意に低下する一方で、アンドロステロンなどのホルモンのいくつかの糞中濃度の上昇が認められました。「14例ばかりの試験結果を鵜呑みにすることはできないが、さらなる検討に値する有望な結果ではある」とMinerbi氏は言っています2)。 参考 1) Cai W, et al. Neuron. 2025 Apr 24. [Epub ahead of print] 2) Baffling chronic pain eases after doses of gut microbes / Nature

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「急性腹症診療ガイドライン2025」、ポイント学習動画など新たな試みも

 2025年3月「急性腹症診療ガイドライン2025 第2版」が刊行された。2015年の初版から10年ぶりの改訂となる。Minds作成マニュアル(以下、マニュアル)に則って作成され、初版の全CQに対して再度のシステマティックレビューを行い、BQ81個、FRQ6個、CQ14個の構成となっている。8学会の合同制作で広範な疾患、検査を網羅する。診療のポイントをシナリオで確認できる動画を作成、システマティックレビューの検索式や結果をWeb上で公開するなど、新たな試みも行われた。改訂出版委員会の主要委員である札幌医科大学・三原 弘氏に、改訂版のポイントや特徴を聞いた。 ガイドライン自体の評価はMindsなどが行っているが、私たちはさらにマニュアルに従ってガイドラインが実臨床や社会に与えた影響を評価しようと考えた。具体的には、初版刊行の前後、2014年と2022年に日本腹部救急医学会と日本プライマリ・ケア連合学会の会員を対象にアンケート調査を行った。ガイドラインの認知度と実臨床の変化を調べ、改訂につなげることが目的だ。 そこでわかった課題は2つ。1つめは、初版では急性腹症の初回のスクリーニング検査として超音波検査(エコー)を推奨していたにもかかわらず、発刊後にはエコーの実施率が下がり、CT検査の実施率が上がっていた。コロナ禍の影響が大きいだろうが、初版における超音波の推奨を十分伝え切れていなかった可能性がある。2つめは、初版の認知度が6割だったことだ。学会員であり、かつアンケートに回答してくれるような熱心な医師であっても4割はガイドラインの存在自体を知らない、という結果は衝撃だった。一方、ガイドラインを認知している医師は診療内容が確実に変わっており、「知ってもらう」ことの重要性を痛感した。 この結果を受け、2版は「最初の画像検査はエコーが第1選択と強調」、「とにかく知ってもらう」ことの2点に注力した。 そして、「急性腹症の検査」の章では、「$アプローチ」と「6アプローチ」という具体的な走査法の図を掲載し、「急性腹症の教育プログラム」の章に最近一般的になっているPOCUS(ベッドサイドで行う超音波検査)について、「各部位50例程度の経験を積むことを提案する」という具体的な数値目標を記載し、エコー動画を含めたシナリオ学習動画を新規に作成・公開した。これはパブリックコメントなどに寄せられた「エコーが重要なのはわかったが、どう当てればいいのか、どのくらい練習すればいいのかわからない」という声に応えたものだ。 さらに、初版で記載した「2 step methods」(バイタルサインを確認するステップ1、その異常の有無で医療面接・身体所見などから病態を評価する対応を変えるステップ2を順番に行う診療アルゴリズム)がわかりにくいという声を受け、上記のシナリオで内容を理解する動画を5本作成した。若手医師を中心に、書籍ではなく動画で学ぶことが一般化しており、そのニーズに応えたものだ。1本10分程度の動画で、症例提示や検査画像から診療の流れとポイントを確認し、視聴前後にチェックテストを行うことで理解度を確認することができる。動画はYouTubeに上げ、版権もガイドライン改訂出版委員会が所持しつつもクリエイティブ・コモンズとして公開しているので、医学部の授業や研修病院のセミナーでそのまま、または一部改変して使っていただくことも可能だ。 さらに、本編に入り切らなかった補足的コンテンツや、改訂に際して行ったシステマティックレビューの結果もWeb上で公開している。これまで、システマティックレビューの検索式や結果は事務局等のパソコン上に静かに保管している、などのケースが多かった。ガイドラインとその改訂作業を、オープンかつ公的で参考となるものとし、そして永続的な活動としていくために、さまざまなトライアルをした1冊だ。ぜひ多くの方に手に取っていただきたい。【新版に収録されたBQ・CQ/一部抜粋】BQ2 腸閉塞症とイレウスはどう定義されるか?腸管の閉塞症状を呈する病態において、「腸管の機械的閉塞を伴う病態を腸閉塞症」と「腸管の機械的閉塞を伴わない、腸蠕動または腸運動の欠如に起因する病態をイレウス」とを明確に分けて定義する。BQ3 急性虫垂炎はどう分類されるか?急性虫垂炎は、組織学的にカタル性、蜂窩織炎、壊疽性と分類され、臨床的に単純性、複雑性、汎発性腹膜炎を伴う虫垂炎に分けられるが、これらを術前に正確に分類することは困難である。BQ44 急性腹症の画像診断で最初に行う(形態学的)検査(または画像診断法)は何か?非侵襲性、簡便性、機器の普及度などからも超音波検査(US)がスクリーニング目的での画像診断法では第1選択であり、特に妊婦や小児においては勧められる。BQ78 急性腹症の腹痛にはどのような鎮痛薬を使用するか?原因にかかわらず診断前の早期の鎮痛剤使用を推奨する。痛みの強さによらずアセトアミノフェン1,000mg静脈投与が推奨される。痛みの強さにより麻薬性鎮痛薬の静脈投与を追加する。またブチルスコポラミンのような鎮痙剤は腹痛の第1選択薬というよりは疝痛に対して補助療法として使用される。急性腹症ではモルヒネ、フェンタニルのようなオピオイドやペンタゾシン、ブブレノルフィンのような拮抗性鎮痛薬を使用することもできる。NSAIDsは胆道疾患の疝痛に対しオピオイド類と同等の効果があり第1選択薬となりうる。尿管結石の疝痛にはNSAIDsを用いる。NSAIDsが使用できない場合にオピオイド類の使用を勧める。CQ8 急性腹症のどのような場合に造影CT検査を追加するか?臓器虚血の有無、血管性病変、急性膵炎の重症度判定、急性胆管炎・胆嚢炎、複雑性虫垂炎などでは単純CTだけでは詳細な評価が困難なことがあり、造影CT検査が推奨される。CQ14 臨床医に対する急性腹症の超音波訓練は有用か?臨床医自らが患者の傍らで関心部分に焦点を絞って実施する point-of-care ultrasonography(POCUS)の診断精度は、各部位50例程度の経験を積むことで超音波検査の専門家と同等になることが報告されており、急性腹症を診療する医師は50例程度の超音波訓練を行うことを提案する。

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血液検査でIBSの原因食品を特定、症状改善に貢献

 血液検査によって過敏性腸症候群(IBS)患者の症状を引き起こし得る食品を特定し、食事から除去できる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。この血液検査の結果に基づく食事療法を実践したIBS患者の約60%で腹痛が軽減したのに対し、偽(シャム)の食事療法を実践した群ではその割合が約42%にとどまったという。米ミシガン大学消化器病学・肝臓病学主任のWilliam Chey氏らが実施した研究で、詳細は「Gastroenterology」に1月31日掲載された。 Chey氏は、「この血液検査はさらなる検証が必要だが、医療従事者が、個々のIBS患者に最適な食事アドバイスを提供する『精密栄養(プレシジョン・ニュートリション)』のアプローチに一歩近づく可能性がある」と述べている。研究グループによると、特定の食品がIBSの症状を悪化させ、発作を引き起こす可能性があることはよく知られているという。 この血液検査(inFoods IBS)は、18種類の食品に対する被験者の免疫グロブリンG(IgG)抗体レベルを調べることで、IBSの症状を悪化させる可能性のある食品を特定するもの。IgG抗体レベルが上昇を示した食品については、それを食事から除去することで症状が軽減する可能性が高いと考えられる。対象とされた食品は、小麦、オーツ麦、ライ麦、全卵、酵母、牛乳、紅茶、キャベツ、トウモロコシ、グレープフルーツ、蜂蜜、レモン、パイナップルなどであった。 Chey氏らは、IBS患者から提供された血液サンプルで検査を行い、1種類以上の食品がIgG抗体陽性で、1日の平均腹痛強度スコア(11.0点満点)が3.0~7.5点だった238人を、8週間にわたり、血液検査の結果に基づきIgG抗体陽性となった食品を除去する食事療法を実践する群(実験食群)と偽の食事療法を実践する群(シャム食群)にランダムに割り付けた。シャム食群は、例えばクルミにIgG抗体陽性を示した場合には食事からアーモンドを除外するなど、陽性となった食品に近い食品を控えるよう指示された。 223人を対象に解析した結果、主要評価項目とした、治療期間の最後の4週間のうちの2週間以上で腹痛の30%以上の軽減を達成した対象者の割合は、実験食群で59.6%、シャム食群で42.1%であり、両群間に統計学的に有意な差が認められた(P=0.02)。また、IBSのタイプ別(便秘型IBS、混合型IBS〔便秘と下痢を頻回に繰り返す〕)に主要評価項目を達成した対象者の割合を見ると、便秘型IBSでは実験食群67.1%、シャム食群35.8%、混合型IBSでは66%と29.5%であり、どちらのタイプのIBSでも実験食群の方が症状改善の割合が高いことが示された。 研究グループは、「除去食は、抗炎症薬に頼らずにIBSを治療するのに役立つが、広範囲の食品が制限対象となるため実践が難しい場合が多い」と指摘する。それに対し、この血液検査を用いれば、患者個人の検査結果に基づき特定の食品のみを除去のターゲットにすることが可能になる。本論文の上席著者で、米クリーブランド・クリニック消化器疾患研究所のAnthony Lembo氏は、「われわれの食生活は複雑で、症状を誘発し得る食品の特定が困難な場合がある。この血液検査は、IBS患者が自身の症状を悪化させる食品を特定するのに役立つだろう」と述べている。 なお、本研究は、この検査を開発したBiomerica社の資金提供により行われた。また、この血液検査は、現時点では米食品医薬品局(FDA)の認可を受けていない。

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過敏性腸症候群の精神的苦痛を可視化/川崎医大ほか

 過敏性腸症候群(IBS)は日本人の約10人に1人が罹患するとされ、不登校や休職など日常生活に支障を来すケースも多い。血液検査や内視鏡検査、CT検査などで異常が見つからないことから、周囲に苦痛が理解されにくいといった問題がある。また、IBS患者や機能性ディスペプシア(FD)患者は、不安や抑うつの傾向が高く、心理的ストレスはIBSやFDの病態生理において重要な役割を果たすと考えられている。しかし、心理的ストレス下での脳活動についての詳細な研究は少ないのが現状である。 そこで、勝又 諒氏(スウェーデン・ヨーテボリ大学)、細川 貴之氏(川崎医療福祉大学)らの研究グループは、仮想現実(VR)空間で心理的ストレスを感じる場面を作り出し、その際の脳活動を機能的近赤外分光法(fNIRS)で測定することで、IBS患者とFD患者の脳活動を調べた。その結果、心理的ストレスを受けた際のIBS患者の脳活動はFD患者や健康対照と比べて異なることが明らかになった。本研究結果は、Journal of Gastroenterology誌オンライン版2025年2月24日号で報告された。 研究グループは、IBS群(15例)、FD群(15例)、健康対照群(15例)を対象として、VRゴーグルを装着させて教室での登壇場面を体験させることで、心理的ストレスを再現した。その際の脳活動について、測定場所を選ばず容易に脳活動が測定でき、導入コストも低いfNIRSを用いて評価した。具体的には、「誰もいない場面」「聴衆がいるが注目はされていない場面」「聴衆全員から注目されている場面」の3場面を設定し、その体験時の脳血流の変化をfNIRSで測定した。また、視覚アナログスケール(VAS)を用いた主観的ストレス評価や心電図を用いた身体的ストレス反応の評価なども実施した。 主な結果は以下のとおり。・「聴衆全員から注目されている場面」において、「誰もいない場面」と比べて3群とも主観的ストレス及び身体的ストレスが増大した。ただし、IBS群、FD群、健康対照群の3群間で、ストレス反応の強さには統計学的有意差はみられなかった。・IBS群は、左腹外側前頭前野(VLPFC)の活動亢進がFD群や健康対照群より大きく、左背外側前頭前野(DLPFC)の活動低下がFD群や健康対照群と比べて大きかった。・VLPFCの活動は主観的不安と正の相関を示した(r=0.37、p=0.01)。 著者らは、本研究結果について「IBS患者は心理的ストレスに対して、VLPFCの活動が亢進し、DLPFCの活動が低下する特徴的な脳活動パターンを示した。VRとfNIRSを組み合わせた方法は、実際の医療現場や日常に近い状況を再現した環境における心理的ストレス下の脳活動の評価に有用である可能性がある」とまとめた。また、今後の展望として「IBS患者の苦痛の可視化が実現し、社会的理解の促進が期待される。fMRIよりも導入が容易なfNIRSを用いた検査方法の確立により、多くの医療機関での診断が可能になると共に、新たな治療法開発にもつながることも期待される」と述べている。

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糞便移植で糖尿病に伴う消化器症状が改善する可能性

 1型糖尿病に伴う合併症で、吐き気、腹部膨満感、下痢などの消化器症状を来している人が、健康な人の糞便カプセルを服用すると、それらの症状が緩和するという研究結果が「eClinicalMedicine」1月号に掲載された。論文の筆頭著者である、オーフス大学(デンマーク)のKatrine Lundby Hoyer氏は、「本研究は1型糖尿病患者を対象に、糞便移植の有用性を対プラセボで検討した初の試みである。結果は非常に有望であり、糞便カプセル群に割り付けられた患者では、プラセボ群の患者で観察された変化を大きく超える、症状と生活の質(QOL)の改善が認められた」と語っている。 1型糖尿病患者の約4分の1が、合併症の糖尿病性胃腸障害を患っているとするデータがある。糖尿病性胃腸障害は、消化管の働きをコントロールしている神経が、慢性高血糖によってダメージを受けることで発症する病気であり、治療法はごく限られている。Hoyer氏らは、糖尿病性胃腸障害を来している患者の腸の状態を、糞便移植によって改善できないかを検討した。なお、糞便移植は健康な人の腸内細菌を患者に対して移植するという治療法で、重度の下痢を引き起こすことのある有害な細菌(クロストリディオイデス・ディフィシル)による感染症の治療などに応用されている。 この研究では1型糖尿病患者20人を募集し、ランダムに10人ずつの2群に分け、糞便またはプラセボのカプセルを、無糖飲料とともに摂取してもらった。なお、糞便カプセルの作成には8人の健康なドナーの糞便が用いられ、それらは混合せず、10人の患者はそれぞれ1人のドナーの糞便から作られたカプセルを摂取した。 解析の結果、糞便移植を受けた患者は、消化器症状を表すスコアが、58から35へと有意に低下していた。プラセボを摂取した患者のスコアは、64から56への変化だった。また、過敏性腸症候群のQOLへの影響の評価尺度を用いた検討では、糞便移植群のスコアは108から140に上昇していた一方、プラセボ群は77から92への変化にとどまっていた。 本研究の結果についてHoyer氏は、「この治療法は一部の患者にとって、疾患発症前の日常生活を取り戻せるほどの意味を持つ。糞便移植には大きな可能性があり、より多くの患者が恩恵を受けられるように、さらに研究を推し進めていきたい」と話している。ただ、糞便移植が糖尿病臨床における一般的な治療選択肢の一つとなるまでには、長期的な安全性・有効性の検証や、特に有用な患者群を治療前に特定するための研究などが必要とされる。論文の上席著者である同大学のKlaus Krogh氏も、「糞便移植に期待している患者に対して、この治療法を広く適用できるようにしていくために、やるべきことは少なくない」と述べている。

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温水洗浄便座を使用する?しない?その理由は/医師1,000人アンケート

 友人同士でも腹を割って話しにくいであろう話題の1つがトイレや排泄に関することではないだろうか。今回、CareNet.comでは医師のトイレ事情として、温水洗浄便座の使用有無や温水洗浄便座が影響する疾患の認知度などを探るべく、『温水洗浄便座の使用について』と題し、会員医師1,021人にアンケートを実施した。その結果、医師の温水洗浄便座の使用率は約8割で、年齢を重ねるほど使用率が高い傾向にあることが明らかになった。6割が自宅・外出先を問わず使用 まず、使用場所について聞いたところ、「自宅・外出先問わずどちらも使用する」は61%、「自宅では使用するが外出先では使用しない」が17%、「自宅では使用しないが外出先では使用する」が1%、「どちらも使用しない」が20%であった。また、年代別にみると50~60代の医師の使用率が高く、「自宅・外出先問わずどちらも使用する」との回答が7割超で、「自宅では使用するが外出先では使用しない」まで合わせると8割強にまでのぼり、温水洗浄便座が生活になくてはならないものになっているようだ。実際に温水洗浄便座の使用に対して以下のようなコメントが寄せられていた。・排便後の清拭習慣はなかなか変えられないため(50代、内科)・排便後の局所の清潔が保たれる。排便後の掻痒がない(50代、外科/乳腺外科)・排便の調子が使うほうが良い(50代、内科)・清潔保持のため(60代、循環器内科/心臓血管外科)・清潔な便座であれば外出時でも使用します(60代、内科)・森林資源の保全に間接的に寄与するかもしれない(60代、神経内科)・痔があるから(60代、消化器科)・外出先ではノズル洗浄をしてから使用する。ノロウイルス感染を危惧はするが、トイレットペーパーの使用回数を減らしたいため(60代、整形外科) 一方で、使用しないと回答した医師の意見には以下のようなものが挙げられた。・尿路感染症などが心配(30代、糖尿病・代謝・内分泌内科)・肛門環境が悪くなるから(40代、内科)・便がお尻に飛び散る気がして心配になるから(40代、腎臓内科)・清潔ではないから(50代、消化器科)・膣炎や膀胱炎のリスクがある(60代、内科)使用者は患者にも勧める?温水洗浄便座が便失禁につながる報告も 温水洗浄便座の使用自体は肛門疾患、とくに裂肛を有する場合に勧められる1)。では実際に、痔の症状を訴える患者に対して勧めるかを聞いたところ、「毎回勧めている」は12%、「症状(裂肛など)や併存疾患を考慮して勧めている」は34%と、約半数の医師が患者に勧めていた。興味深いことに、50代以上の医師で患者に勧めている傾向が大きいことから、自身が利用しその有用性を認めた上で患者に話している可能性が考えられる。 一方で、温水洗浄便座の使用によって引き起こされる疾患も存在し、その1つが便失禁である2,3)。これについての認知度を調査したところ、「知っている」と回答したのは15%で、「聞いたことはあるが詳細は知らない」まで含めると約半数の医師が便失禁リスクになることを認識していた。これに関して、消化器科医の回答割合も同等であり、専門・非専門を問わず詳細まで知っている医師は少ないようだ。なお、温水洗浄便座の頻回使用や長時間使用が肛門のかゆみを引き起こす『温水洗浄便座症候群』の原因にもなることから、TOTO社はウォシュレットの使用説明書4)において「約10~20秒を目安にご使用ください」と注意喚起している。 このほか、温水洗浄便座使用に対する患者へのアドバイス経験の有無、患者や自身のトイレに関するエピソードのアンケート結果を公開している。アンケートの詳細は以下にて公開中『温水洗浄便座、医師の利用率は?』

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日本人の便失禁の現状が明らかに~約1万例のインターネット調査結果

 便失禁(FI)は、Rome IV基準では「4歳以上で繰り返す自制のきかない便の漏れ」と定義され、患者の健康関連の生活の質(HRQOL)に大きな影響を与える。ところが、日本の一般集団におけるFIの有病率に関する研究はほとんど行われていない。そこで、大阪公立大学の久木 優季氏らが日本人のFIの疫学についてRome IV基準を用いた調査を行ったところ、FI有病率は1.2%であることが明らかになった。Journal of Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2024年12月2日号掲載の報告。 本研究は18~79歳の日本人を対象としたインターネット調査を分析したもので、人口統計、併存疾患、ライフスタイル、腹部症状、排便習慣、HRQOL、およびRome IV基準にのっとった脳腸相関に関する調査を行った。また、多変量回帰分析により、Rome IV基準を満たすFI(Rome IV FI)に関連する因子を特定した。 主な結果は以下のとおり。・9,995例が分析され、そのうち過去3ヵ月以内に少なくとも1回のFIエピソードを経験した参加者は9.5%で、Rome IV FIの有病率は1.2%であった。・Rome IV FI患者は、排便を我慢できる者と比較し、HRQOLが著しく低下していた。・主な機能性消化管障害はRome IV FI患者(39.5%)と重複しており、機能性下痢(25.8%)が最も多くみられ、消化管障害が重複することで、Rome IV FI患者のHRQOLがさらに低下した。・アルコール消費は、胃食道逆流症、過敏性腸症候群、機能性腹部膨満、機能性下痢とは独立して、Rome IV FIと関連していた(オッズ比:1.82、95%信頼区間:1.24~2.66、p=0.002)。 研究者らは「生活習慣の改善がFI管理に及ぼす影響について調査するために、さらなる研究が必要」としている。

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便失禁を起こしやすい患者とは?便失禁診療ガイドライン改訂

 日本大腸肛門病学会が編集を手掛けた『便失禁診療ガイドライン2024年版改訂第2版』が2024年10月31日に発刊された。2017年に発刊された初版から7年ぶりの改訂となる。今回、便失禁の定義や病態、診断・評価法、初期治療から専門的治療に至るまでの基本的知識がアップデートされ、新たに失禁関連皮膚炎や出産後患者に関する記載が拡充された。また、治療法選択や専門施設との連携のタイミングなど、判断に迷うテーマについてはClinical Question(CQ)で推奨を示し、すべての医療職にとっての指針となるように作成されている。 便失禁の定義とは「無意識または自分の意思に反して肛門から便が漏れる症状」である。このほかに「無意識または自分の意思に反して肛門からガスが漏れる症状」をガス失禁、便失禁とガス失禁を合わせて肛門失禁と定義される。国内での有病率について、65歳以上での便失禁は男性8.7%、女性6.6%である。一方、ガス失禁を含む肛門失禁は34.4%であるが、男性15.5%に対して女性42.7%と性差が見られる。主な便失禁の発症リスク因子として、年齢・性別などの身体的条件や産科的条件に加え、BMIが30を超える肥満、全身状態不良、身体制約などが報告されている。また、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患、糖尿病、過活動膀胱、骨盤臓器脱、認知症や脊髄損傷といった疾患もリスク因子となる。直腸がんも便失禁の原因になりうるが、とくに直腸がんに対する肛門温存手術後の排便障害である低位前方切除後症候群の発生率は高率で、主訴の直腸がんが根治した後に排便障害を抱えて生活している患者は増加傾向であるという。 このような病態背景があるなか、本診療ガイドラインは「便失禁診療・ケアを普及することで、便失禁症状を改善し、便失禁を有する患者の生活の質の改善」を目的として、便失禁の診断・治療とともに便失禁の程度とその状態の評価、便失禁に伴う皮膚症状や生活の質への評価と対応、寝たきりとなっている患者への介護などの側面からも捉え、8つの重要臨床課題と5つのClinical Question(CQ)が設定されている。<重要臨床課題>(1)便失禁の臨床評価(2)特殊病態の臨床評価(3)治療方針決定に必要な検査(4)食事・生活・排便習慣指導の有用性(5)薬物療法の適応と有用性(6)骨盤底筋訓練・バイオフィードバック療法の適応と有用性(7)洗腸療法の適応と有用性(8)手術療法の適応と有用性<Clinical Question>CQ1:便失禁の薬物療法において、ポリカルボフィルカルシウムとロペラミド塩酸塩はどのように使い分けるか?CQ2:出産後に便失禁が発症した場合、専門施設への最適な紹介時期はいつか?CQ3:分娩時肛門括約筋損傷の既往を有する妊婦の出産方法として、経腟分娩と帝王切開のどちらが推奨されるか?CQ4:肛門括約筋断裂による便失禁に対して、肛門括約筋形成術と仙骨神経刺激療法のどちらを先行すべきか?CQ5:脊髄障害を原因とする便失禁の治療法として、仙骨神経刺激療法は有用か? なお、日本大腸肛門病学会は本ガイドラインの使用について、便失禁を診療する医師だけではなくケアを行う介護者や一般市民も想定しており、便失禁診療の一助となることを願っているという。

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IBSの治療、食事法の効果が薬を上回る?

 腹痛などの過敏性腸症候群(IBS)の症状を軽減する最善の治療法は適切な食事法であることを示唆する結果が、ヨーテボリ大学サールグレンスカアカデミー(スウェーデン)のSanna Nybacka氏らが実施した臨床試験で示された。同試験では、IBSの症状に対する治療法として2種類の食事法の方が標準的な薬物治療よりも優れていることが示された。詳細は、「The Lancet Gastroenterology and Hepatology」に4月18日掲載された。 IBSは、消化器疾患の中で最も高頻度に生じる上に、治りにくい疾患の一つだ。米国人のIBSの有病率は約6%で、患者数は男性よりも女性の方が多い。IBSの症状は、腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘などの無視しがたいもので、死に至る場合もある。IBSに対しては、食事の改善のほか、便秘薬や下痢止め薬、特定の抗うつ薬、腸管内の水分の分泌を促し腸の動きを活発にする作用があるリナクロチドやルビプロストンなどの薬物による治療が行われる。 この試験で標準的な薬物治療と比較された食事法の一つは、FODMAPと呼ばれる糖質の摂取を制限する低FODMAP食だ。FODMAPは特定の乳製品や小麦、果物、野菜に含まれている、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい糖類のことである。もう一つの食事法は、食物繊維を多く摂取しつつ炭水化物の摂取は抑える糖質制限食だった。Nybacka氏は、「時間をかけて食べる、1回の食事の量を減らし食事の回数を増やす、コーヒーや紅茶、炭酸飲料、アルコール、脂肪分や香辛料の多い食品を制限するなど、食生活をよりシンプルなものに変えることを支持する研究もある。また、糖質制限食によってIBSの症状が軽減した患者がいるとの報告もあることから、いくつかの治療選択肢を比較する臨床試験を計画することにした」と説明している。 この臨床試験は、サールグレンスカアカデミーの外来クリニックで、中等度から重度のIBSに罹患している18歳以上の294人(女性241人、男性53人、平均年齢38歳)を対象に実施された。試験参加者は4週間にわたって、1)主な症状に応じて8種類のIBS治療薬のうちの1種類を投与する群(薬物治療群、101人)、2)米、ジャガイモ、キヌア、小麦を含まないパン、乳糖を含まない乳製品、魚、卵、鶏肉、牛肉、さまざまな果物や野菜などの食品から成る低FODMAP食を摂取し、IBS患者向けに伝統的に推奨されている食事法のアドバイスを受ける群(低FODMAP食群、96人)、3)牛肉、豚肉、鶏肉、魚、卵、チーズ、ヨーグルト、野菜、ナッツ類、ベリー類などの食品を中心とした低糖質かつ高脂質の食事を摂取する群(低糖質食群、97人)の3群のいずれかにランダムに割り付けられた。 その結果、介入から4週間後、低FODMAP食群の76%(73/96人)と、低糖質食群の71%(69/97人)で症状の有意な改善が認められたのに対し、薬物治療群で改善が認められたのは58%(59/101人)にとどまっていた。また、症状が改善した患者のうち低FODMAP食群と低糖質食群に割り付けられた患者では、薬物治療群に割り付けられた患者と比べて症状の改善度が大きかったという。 本研究には関与していない、米ミシガン大学医学部の消化器専門医であるWilliam Chey氏は、「この研究では、低FODMAP食がほとんどの患者のIBS症状を軽減することが示された。ただ、低FODMAP食は極めて厳しい制限を伴うことに加え、自分に合わない食品を見極めるために慎重にFODMAPが含まれる食品を一つずつ試す必要があるため、この食事法を続けるのは容易ではない」とニューヨーク・タイムズ紙に語っている。 Chey氏は、この試験によって「薬物治療と比較して食事法の効果は少なくとも同等であり、より優れている可能性もある」という臨床で多くの医師が経験していることを裏付ける「リアルデータ」が得られたと話す。その上で、今回の試験は、スウェーデンの単施設で比較的小規模な集団を対象に実施されたものであることを指摘し、「今後、より大規模かつより多様な集団で結果を検証する必要がある」と付け加えている。

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過敏性腸症候群に対する1次治療が無効な患者に2次治療として抗うつ薬の低用量アミトリプチリンが有効(解説:上村直実氏)

 過敏性腸症候群(IBS)は便秘や下痢などの便通異常に加えて腹痛を伴う機能性の腸疾患である。IBSの診断について、一般的には国内外のガイドラインで示されるRome IV基準に従って『3ヵ月以上の腹痛と6ヵ月以上前からの便通異常を有する患者』とされるが、わが国における実際の診療現場においては、病悩期間にかかわらず『大腸がんなどの器質性疾患を除く便通異常と腹痛を伴う病態』をIBSとして取り扱うことが多い。 治療に関しては、1次治療として食事指導や生活習慣の改善および消化管運動改善薬や下剤・止痢剤など便通改善薬を用いた薬物治療を行い、症状に改善傾向を認めない場合には2次治療として抗不安薬や抗うつ薬などの抗精神薬が推奨されているが、IBSに対する抗うつ薬の有用性を示すエビデンスは乏しいのが現状であった。 今回、英国で三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンがIBSの2次治療として有効であるかどうかを評価するために、プライマリケアを中心として施行されたRCTの結果が2023年10月16日のLancet誌オンライン版に報告された。1次治療で効果のなかったIBS患者463症例を対象として低用量アミトリプチリンとプラセボを投与した結果、アミトリプチリン群において6ヵ月後のIBS重症度スコアが20%以上有意に改善した。この結果から、第一選択療法が無効なIBS患者に低用量のアミトリプチリンを提供すべきで、英国のガイドラインを更新する必要があると結論している。 日本の医療現場でIBS患者を最初に診療するのは診療所の実地医家や消化器内科医であり、心理状態を把握したうえで処方される抗うつ薬は副作用の問題などから使用されるケースは多くないと思われる。しかし、今回のRCTによるエビデンスから、消化管運動改善薬や便通異常改善薬に反応しない難治性IBSに対する2次治療として低用量の三環系抗うつ薬が使用されることが期待される。

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新規機序でリン吸収を阻害する高リン血症薬「フォゼベル錠」【最新!DI情報】第5回

新規機序でリン吸収を阻害する高リン血症薬「フォゼベル錠」今回は、高リン血症治療薬「テナパノル塩酸塩錠(商品名:フォゼベル錠5mg/10mg/20mg/30mg、製造販売元:協和キリン)」を紹介します。本剤は、腸管からのリン吸収を阻害することで高リン血症を改善する新たな作用機序の薬剤です。1日2回投与で服薬負荷を軽減し、長期的なリン管理が可能になると期待されています。<効能・効果>本剤は、透析中の慢性腎臓病患者における高リン血症の改善の適応で、2023年9月25日に製造販売承認を取得しました。なお、本剤は血中リンの排泄を促進する薬剤ではないので、食事療法などによるリン摂取の制限を考慮する必要があります。<用法・用量>通常、成人にはテナパノルとして1回5mgを開始用量として、1日2回、朝食および夕食直前に経口投与します。以後、症状や血清リン濃度の程度により適宜増減することができます。最高用量は1回30mgです。血液透析中に排便を催すことが懸念される患者では、透析直前での投与を控え、朝夕以外の食直前の投与も可能です。<安全性>透析中の慢性腎臓病患者を対象とした国内第III相臨床試験において、本剤投与群全体の76.6%(331/432例)に有害事象が発現しました。最も多く発現した有害事象は下痢で、61.3%(265/432例)に生じました。重症度は軽度のものが大半で、重篤な下痢は認められませんでしたが、下痢によって脱水に至る恐れがあるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、食事に含まれるリンの吸収を抑制し、血中のリン濃度を低下させます。2.服用後に食事をとらなかった場合には、この薬の効果は期待できません。3.血中のリンの排泄を促す薬ではないので、リンを多く含む食事の制限が必要です。4.下痢に伴う口渇や手足のしびれ、強い倦怠感、血圧低下などが現れた場合は速やかにご連絡ください。5.透析中に排便を催す懸念があるときは、事前に申し出てください。<ここがポイント!>従来、透析患者における高リン血症の治療として、リン吸着薬が用いられてきました。リン吸着薬には、副作用として嘔気や下痢などの消化管障害、高カルシウム血症、鉄過剰症が現れることがあるため、リン輸送を阻害するリン吸収抑制薬が開発されました。本剤は腸管で局所的にナトリウム/プロトン交換輸送体3(NHE3)を阻害し、消化管からのNa+の吸収を低下させ、腸管上皮細胞内のH+濃度を上昇させます。細胞内のpHが低下するとリン吸収の主要経路である傍細胞経路(細胞間隙経路)からのリンの透過性が低下し、腸管からのリン吸収が低下します。本剤は、高リン血症治療に伴う既存のリン吸着薬による服薬負荷を軽減しつつ、長期間のリン管理が可能です。血液透析施行中の高リン血症患者を対象とした第III相プラセボ対照二重盲検ランダム化並行群間比較試験(試験番号:7791-004)において、主要評価項目である投与開始8週後の血清リン濃度のベースラインからの変化量の最小二乗平均値は、プラセボ群で0.05mg/dL(95%信頼区間:−0.25~0.36)、本剤群で−1.89mg/dL(同:−2.19~−1.60)でした。プラセボ群と本剤群との変化量の差(本剤群−プラセボ群)は、−1.95mg/dL(同:−2.37~−1.53)であり、本剤群ではプラセボ群に比べて血清リン濃度が有意に低下しました。なお、テナパノルは米国では便秘型の過敏性腸症候群(IBS-C)に対する治療薬として承認されていますが、わが国では未承認です。

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IBSの2次治療、低用量アミトリプチリンが有用/Lancet

 プライマリケアにおける過敏性腸症候群(IBS)の2次治療として、低用量アミトリプチリンはプラセボと比較し、6ヵ月後のIBS重症度尺度(IBS Severity Scoring System:IBS-SSS)スコアが有意に低く、安全性および忍容性も良好であることが示された。英国・リーズ大学のAlexander C. Ford氏らが、英国のプライマリケア55施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Amitriptyline at Low-Dose and Titrated for Irritable Bowel Syndrome as Second-Line Treatment:ATLANTIS試験」の結果を報告した。IBS患者の多くはプライマリケアで管理されている。IBSに対する1次治療が無効であった場合、英国国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインでは2次治療として低用量の三環系抗うつ薬を考慮することが推奨されているが、プライマリケアにおける有効性は不明であり処方頻度は低い。Lancet誌オンライン版2023年10月16日号掲載の報告。1次治療後に症状持続のIBS患者をアミトリプチリン群とプラセボ群に無作為化 研究グループは、プライマリケアでIBS(サブタイプを問わずRome IV基準を満たす)と診断され、食事の改善、水溶性食物繊維、鎮痙薬、下剤、止瀉薬などの1次治療の効果が得られず、IBS-SSSスコアが75点以上の症状を有し、ヘモグロビン、白血球数、血小板数およびCRPが正常、抗組織トランスグルタミナーゼ抗体陰性、自殺念慮がない18歳以上の患者を、アミトリプチリン群とプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、6ヵ月間投与した。投与量は、1日1回(夜)10mgより開始し、症状や副作用に応じて3週間で1日最大30mgまで漸増した後、試験期間中は症状や副作用に応じて変更可とした。 主要アウトカムは、無作為化後6ヵ月時点のIBS症状(IBS-SSSで評価)で、ITT解析を実施した。安全性については、試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者を対象として評価した。6ヵ月後のIBS重症度尺度スコアはアミトリプチリン群で有意に低値 2019年10月18日~2022年4月11日に、463例(平均年齢48.5±16.1歳、女性68%、男性32%)がアミトリプチリン群(232例)またはプラセボ群(231例)に無作為に割り付けられ、338例が試験を完遂した。 主要アウトカムである6ヵ月時点のIBS-SSS合計スコアにおいて、アミトリプチリン群はプラセボ群より有意に優れていた(群間差:-27.0点、95%信頼区間[CI]:-46.9~-7.1、p=0.0079)。 6ヵ月以内に投与中止に至った患者は、アミトリプチリン群46例(20%)(有害事象による投与中止は30例[13%])、プラセボ群59例(26%)(同20例[9%])であった。重篤な副作用は5例(アミトリプチリン群2例、プラセボ群3例)、試験薬と関連のない重篤な有害事象は5例(それぞれ4例、1例)報告された。

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機能性ディスペプシア、食物を見るだけで脳の負担に/川崎医大

 全人口の約10%が、機能性ディスペプシア(FD)や過敏性腸症候群(IBS)の症状に悩まされているとされ、不登校や休職など日常生活に支障を来すケースも多い。また、血液検査や内視鏡検査、CT検査などで異常が見つからず、病気であることが客観的に示されないために、周囲の人に苦しみが理解されにくいといった問題がある。精神的ストレスや脂肪分の多い食事が原因とされるものの、メカニズムの解明は進んでおらず、客観的診断法は確立されていない。そこで、川崎医科大学健康管理学教室の勝又 諒氏らは、FD患者、IBS患者に40枚の食物の画像を見せ、食物の嗜好性や脳血流の変化を調べた。その結果、FD患者は健康成人やIBS患者と比較して、脂肪分の多い食物を好まなかった。また、FD患者は、食物を見たときに左背側前頭前野の活動が亢進していた。本研究結果は、Journal of Gastroenterology誌オンライン版2023年8月12日号で報告された。 FD患者(13例)、IBS患者(12例)、健康成人(16例)に、脂肪分の多い(こってりした)食物、脂肪分の少ない(あっさりした)食物、その中間の食物の画像を計40枚、7秒ずつ見せ、表示された食物に対する嗜好性を0~100点で評価させた。また、測定場所を選ばず容易に脳活動が測定でき、導入コストもMRIに比べて低い機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いて、脳血流測定も実施した。 主な結果は以下のとおり。・全体の食物に対する嗜好性(平均値±標準偏差[SD])は、健康成人群69.1±3.3点であったのに対し、FD群54.8±3.8点、IBS群62.8±3.7点であり、FD群は健康成人群と比較して有意に嗜好性が低かった(p<0.05)。・脂肪分の多い(こってりした)食物に対する嗜好性(平均値±SD)は、健康成人群78.1±5.4点であったのに対し、FD群43.4±6.3点、IBS群64.7±6.1点であり、FD群は健康成人群と比較して有意に嗜好性が低かった(p<0.05)。脂肪分の少ない(あっさりした)食物、中間の食物については、3群間に有意差は認められなかった。・FD群は健康成人群およびIBS群と比較して、食物の画像を見たときに左背側前頭前野の脳活動が有意に亢進していた(平均Zスコア:健康成人群-0.077点、FD群0.125点、IBS群-0.002点、p<0.001)。 著者らは、本研究結果について「FD患者は脂肪分の多い食物を食べるとすぐに症状が誘発されることから、脂肪分の多い食物に対する苦手意識が生じていると考えられる。また、とくに左背側前頭前野で血流量が増加したことから、特定の食事後に腹痛を何度も経験したことで、どの食物の画像を見てもストレスを感じるようになったことが推定される」と考察している。また、今後の展望として「FD患者の脳には負担がかかっていることが広く認知されることで、これまで客観的な指標がなく、その苦しみが周囲に理解されにくかったFD患者が生きやすい環境作りに役立つことが期待される。さらに、食物の画像を見せ、脳血流を測定する客観的かつ簡便な方法は、臨床現場でFD患者を見分ける新たな診断法の開発につながることも期待される」とまとめた。

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