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悪い芽は早めに摘んでとりあえずコンプリートしておきますか!?:多枝病変を有するSTEMIへの戦略(解説:中野明彦氏)-1123

【背景】 STEMIにおける多枝病変の確率は40~50%で、STEMI責任病変のみの一枝疾患に比べ予後不良かつその後の非致死性心筋梗塞が多いことが報告されている。心原性ショックを合併していないSTEMI急性期に責任病変以外の“病変”に手を加えるべきかどうか、一定の見解は得られていても明確な回答が得られていない命題である。急性期介入の期待される利点は、STEMIによる血行動態の悪化が他病変灌流域の局所収縮性を障害することへの予防的措置、あるいはhibernation(冬眠心筋)を来している領域の心機能改善が結果としてSTEMIの予後を改善する可能性、などが挙げられる。一方その弊害として想定されるのは、他枝へのPCIが側枝閉塞や遠位塞栓を合併した場合の余計な心筋障害や造影剤増量による心負荷、腎障害などであろう。 これまでこの命題に挑んだランダム化試験は、知る限り2013年から2017年に報告されたPRAMI(n=465)、CvLPRIT(n=296)、DANAMI-3-PRIMULTI(n=627)、Compare-Acute(n=885)の4つである。多くの試験で観察期間中の再血行再建術が有意に減少、これらを包括した最新の日本循環器学会・ESCガイドラインでは入院中の非梗塞責任血管へのPCIをクラスI~IIaに設定している。しかし期待された予後改善効果は全試験で否定され、また多くの試験で新規MI発症も抑制されなかった。【COMPLETE試験について】 本試験は同じ命題に取り組んだ最新かつ最大規模(n=4,041)、さらに最長の観察期間(約3年)を設定したランダム化試験で、議論決着への期待も大きかった。残枝PCIの適応は虚血の有無にはこだわらず視覚的な70%狭窄以上に設定(70%未満+FFR≦0.80でのエントリーは1%以下とわずか)、PCIのタイミングはad-hoc(single-stage)やimmediate(multi-stage)だったこれまでの試験と異なり、入院中および45日以内までのdelayed PCIを許容し、サブ解析で両者の差異も検証した。 主たるエンドポイントの結果は、心血管死亡に差はなく、MI発症・虚血による血行再建(IDR)は血行再建群で有意に抑制された。懸念された大出血や腎障害などの弊害は増えなかった。 これらの結果をどう解釈すべきか:少し単純化して考えてみる。心血管死亡(2.9% vs.3.2%、HR:0.93)を「STEMIの重症度」、MI(自然発症は3.9% vs.7.0%)を「非責任病変以外の不安定プラーク」、IDR(1.4% vs.7.9%、HR:0.18)を「残存病変の重症度」に置き換えてみると…。・予後への影響:今回もまた他枝へのPCIがSTEMIの重症度を覆すほどのインパクトはないことが示された。immediateでもdelayed PCIでも差がなかったことが象徴的である。・MI発症抑制:ACS症例ではほかにも多くの不安定プラークを有し、特に急性期は内皮障害や炎症が亢進しやすいこと、他方でMIは非有意狭窄から発症する確率が高いことは以前から指摘されている。本試験では有意差はついたものの、70%以上の狭窄性病変を処理してもMI発症が半減すらしなかったことは、lesion severityとlesion instabilityが別物と改めて印象付けた。一方、有意差がつかなかった他の試験(CvLPRIT、Compare-Acute)でのHRは実は本試験より小さい。少ない症例数が影響した可能性が大きく、狭窄病変を潰しておけばある程度のMIは予防できるとも言える。・IDR:非血行再建群で多いのは当然だが、基準がさほど厳しいとも思えないのに非血行再建群のIDRが年率3%に満たない理由は不明である。他試験と比較しても明らかに低率で「そもそもホントに多枝病変?」と突っ込みたくもなる。やはり血管造影では残存病変の重症度を規定するのは難しいと言わざるを得ない。【議論に決着は着いたのか?】 一方は“yes”である。やはり予後は変えないのである。 他方、MI発症抑制・IDR予防についてはどうだろうか? 多枝病変を血管造影で定義した本試験において、完全血行再建が防いだのは1年間で1%のMIと2.3%のIDA…。果たしてコンプリートを目指す“preventive-PCI”は許容されるかどうか。 次のガイドラインはこの試験をどう解釈するだろう?

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STEMI合併多枝冠動脈疾患、完全血行再建術は有効か/NEJM

 ST上昇心筋梗塞(STEMI)を伴う多枝冠動脈疾患患者の治療では、非責任病変を含む完全血行再建術は、責任病変のみへの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と比較して、心血管死と心筋梗塞の複合のリスクだけでなく、心血管死+心筋梗塞+虚血による再血行再建術の複合をも有意に抑制することが、カナダ・マクマスター大学のShamir R. Mehta氏らが行ったCOMPLETE試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年9月1日号に掲載された。STEMI患者では、責任病変へのPCIは心血管死と心筋梗塞のリスクを低減するが、非責任病変へのPCIがこれらのイベントのリスクをさらに抑制するかは不明だという。責任病変PCIが成功したSTEMIが対象の無作為化試験 本研究は、31ヵ国140施設が参加した国際的な無作為化試験であり、2013年2月~2017年3月の期間に患者登録が行われた(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成による)。 対象は、STEMIで入院し、責任病変へのPCIが成功後72時間以内に試験への組み入れが可能であり、冠動脈造影で梗塞と関連のない病変(非責任病変)が1つ以上認められた多枝冠動脈疾患を有する患者であった。 被験者は、非責任病変への完全血行再建術を行う群またはそれ以上の血行再建術は行わない群に無作為に割り付けられた。完全血行再建術群は、非責任病変PCIの施行時期(初回入院中または退院後数週以内)で層別化された。 第1の主要アウトカムは、心血管死と心筋梗塞の複合とし、第2の主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、虚血による再血行再建術の複合であった。第1の主要アウトカムが26%、第2の主要アウトカムは49%改善 4,041例が登録され、完全血行再建術群に2,016例(平均年齢61.6±10.7歳、男性80.5%)、責任病変PCI群には2,025例(62.4±10.7歳、79.1%)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は35.8ヵ月だった。 第1の主要アウトカムは、完全血行再建術群が2,016例中158例(7.8%)に発生し、責任病変PCI群の2,025例中213例(10.5%)に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.60~0.91、p=0.004)。この差は、完全血行再建術群で心筋梗塞(5.4% vs.7.9%、HR:0.68、95%CI:0.53~0.86)がより少なかったことによる(心血管死は2.9% vs.3.2%、HR:0.93、95%CI:0.65~1.32)。 第2の主要アウトカムは、完全血行再建術群が179例(8.9%)に発生し、責任病変PCI群の339例(16.7%)と比較して有意に優れた(HR:0.51、95%CI:0.43~0.61、p<0.001)。虚血による再血行再建術は、完全血行再建術群が有意に良好であった(1.4%vs.7.9%、HR:0.18、95%CI:0.12~0.26)。 主な副次アウトカムである心血管死、心筋梗塞、虚血による再血行再建術、不安定狭心症、NYHAクラスIVの心不全の複合の発生は、完全血行再建術群が有意に優れた(13.5% vs.21.0%、HR:0.62、95%CI:0.53~0.72)。 2つの主要アウトカムの双方における完全血行再建術群のベネフィットは、非責任病変PCIの施行時期が初回入院中および退院後のいずれにおいても、一貫して認められた(それぞれ交互作用:p=0.62、p=0.27)。 一方、大出血(2.9% vs.2.2%、HR:1.33、95%CI:0.90~1.97)、脳卒中(1.9% vs.1.4%、HR:1.31、95%CI:0.81~2.13)、ステント血栓症(1.3% vs.0.9%、HR:1.38、95%CI:0.76~2.49)には両群間に有意な差はなかった。また、造影剤関連の急性腎障害が、完全血行再建術群の30例(1.5%)、責任病変PCI群の19例(0.9%)で発現した(p=0.11)。 著者は「3年間で、1例の心血管死/心筋梗塞を予防するのに要する治療必要数(NNT)は37件であり、1例の心血管死/心筋梗塞/虚血による再血行再建術を回避するのに要するNNTは13件だった」としている。

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第15回 薬剤投与後の意識消失、原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)アナフィラキシーはいつでも起こりうることを忘れずに!2)治療薬はアドレナリン! 適切なタイミング、適切な投与方法で!3)“くすりもりすく”を常に意識し対応を!【症例】62歳女性。数日前から倦怠感、発熱を認め、自宅で様子をみていたが、食事も取れなくなったため、心配した娘さんと共に救急外来を受診した。意識は清明であるが、頻呼吸、血圧の低下を認め、悪寒戦慄を伴う発熱の病歴も認めたため、点滴を行いつつ対応することとした。精査の結果、「急性腎盂腎炎」と診断し、全身状態から入院適応と判断し、救急外来で抗菌薬を投与し、病床の調整後入院予定であった。しかし、抗菌薬を投与し、付き添っていたところ、反応が乏しくなり、血圧低下を認めた。どのように対応するべきだろうか?●抗菌薬投与後のバイタルサイン意識10/JCS血圧88/52mmHg脈拍112回/分(整)呼吸28回/分SpO297%(RA)体温38.9℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧内服薬アジルサルタン(商品名:アジルバ)、アトルバスタチン(同:リピトール)アナフィラキシーの認識本症例の原因、これはわかりやすいですね。抗菌薬投与後に血圧低下を認める点から、アナフィラキシーであることは、誰もが認識できると思いますが、「アナフィラキシーであると早期に認識すること」が非常に大切であるため、いま一度整理しておきましょう。アナフィラキシーとは、「アレルゲンなどの侵入により、複数臓器に全身性のアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与えうる過剰反応」と定義されます。また、アナフィラキシーショックとは、それに伴い血圧低下や意識障害を伴う場合とされます1)。アナフィラキシーの診断基準は表1のとおりですが、シンプルに言えば、「食べ物、蜂毒、薬などによって皮膚をはじめ、複数の臓器に何らかの症状が出た状態」と理解すればよいでしょう。表2が代表的な症状です。皮膚症状は必ずしも認めるとは限らないこと、消化器症状を忘れないことがポイントです。そして、本症例のような意識消失の原因がアナフィラキシーであることもあるため注意しましょう。表1 アナフィラキシーの診断基準画像を拡大する表2 アナフィラキシーの症状と頻度画像を拡大するアナフィラキシーの初期対応-注射薬によるアナフィラキシーは「あっ」という間!アナフィラキシー? と思ったら、迷っている時間はありません。とくに、抗菌薬や造影剤など、経静脈的に投与された薬剤によってアナフィラキシーの症状が出現した場合には、進行が早く「あっ」という間にショック、さらには心停止へと陥ります。今までそのような経験がない方のほうが多いと思いますが、本当に「あっ」という間です。万が一の際に困らないように確認しておきましょう。一般的に、アナフィラキシーによって、心停止、呼吸停止に至るまでの時間は、食物で30分、蜂毒で15分、薬剤で5分程度と言われていますが、前述のとおり、経静脈的に投与された薬剤の反応はものすごく早いのです4)。アドレナリンを適切なタイミングで適切に投与!アナフィラキシーに対する治療薬は“アドレナリン”、これのみです! 抗ヒスタミン薬やステロイドを使う場面もありますが、どちらも根本的な治療薬ではありません。とくに、本症例のように、注射薬によるアナフィラキシーの場合には、重症化しやすく、早期に対応する必要があるため、アドレナリン以外の薬剤で様子をみていては手遅れになります。ちなみに、「前も使用している薬だから大丈夫」とは限りません。いつでも起こりうることとして意識しておきましょう。日本医療安全調査機構から『注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析』が平成30年1月に報告されました。12例のアナフィラキシーショックによる死亡症例が分析されていますが、原因として多かったのが、造影剤、そして抗菌薬でした。また、どの症例もアナフィラキシーを疑わせる症状が出てからアドレナリンの投与までに時間がかかってしまっているのです5)。アドレナリンの投与を躊躇してしまう気持ちはわかります。アドレナリンというと心肺停止の際に用いるもので、あまり使用経験のない人も多いと思います。しかし、アナフィラキシーに関しては、治療薬は唯一アドレナリンだけです。正しく使用すれば恐い薬ではありません。どのタイミングで使用するのか、どこに、どれだけ、どのように投与するのかを正確に頭に入れておきましょう。アドレナリンの投与のタイミングアドレナリンは、皮膚症状もしくは本症例のように明らかなアレルゲンの曝露(注射薬が代表的)があり、そのうえで、喉頭浮腫や喘鳴、呼吸困難感などのairwayやbreathingの問題、または血圧低下や失神のような意識消失などcirculationの問題、あるいは嘔気・嘔吐、腹痛などの消化器症状を認める場合に投与します。大事なポイントは、造影剤や抗菌薬などの投与後に皮膚症状がなくても、呼吸、循環、消化器症状に異常があったら投与するということです。アドレナリンの投与方法アドレナリンは大腿外側広筋に0.3mg(体型が大きい場合には0.5mg)筋注します。肩ではありません。皮下注でも、静注でもありません。正しく打てば、それによって困ることはまずありません。皮下注では効果発現に時間がかかり、静注では頻脈など心臓への影響が大きく逆効果となります。まずは筋注です!さいごに抗菌薬、造影剤などの薬剤は医療現場ではしばしば使用されます。もちろん診断、治療に必要なために行うわけですが、それによって状態が悪化してしまうことは、極力避けなければなりません。ゼロにはできませんが、本当に必要な検査、治療なのかをいま一度吟味し、慎重に対応することを心掛けておく必要があります。救急の現場など急ぐ場合もありますが、どのような場合でも、常に起こりうる状態の変化を意識し、対応しましょう。1)日本アレルギー学会 Anaphylaxis対策特別委員会. アナフィラキシーガイドライン. 日本アレルギー学会;2014.2)Sampson HA, et al. J Allergy Clin Immunol. 2006;117:391-397.3)Joint Task Force on Practice Parameters, et al. J Allergy Clin Immunol. 2005;115:S483-523.4)Pumphrey RS. Clin Exp Allergy. 2000;30:1144-1150.5)日本医療安全調査機構. 医療事故の再発防止に向けた提言 第3号 注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析. 日本医療安全調査機構;2018.

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第9回 腰部の痛み【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第9回 腰部の痛み腰痛を訴える患者さんの外来受診は、よく見られます。誰もが一度や二度は経験する、なじみの痛みでもあります。「腰痛診療ガイドライン2019」によりますと、腰痛の定義は、痛みが体部後面の第12肋骨と臀部下端の間にあり、少なくとも1日以上継続する痛み、となっております。片側または両側の下肢に放散する痛みを伴う、あるいは伴わない場合も含まれます。中には生命を脅かす症例もあるため、迅速な診断と処置が必要となることもあります。今回は、この腰部の痛みを取り上げたいと思います。腰部の痛みは、大きく分けて急性腰痛・亜急性腰痛と慢性腰痛に分類されます。1)急性腰痛・亜急性腰痛発症から4週間未満の痛みを急性腰痛、4週間以上3ヵ月未満の場合は亜急性腰痛と言います。急性腰痛においては、感染性脊椎炎などの感染症も含まれますので気をつけなければなりません。また、高齢者に多い圧迫骨折には多発性骨髄腫や、悪性腫瘍の骨転移なども原因になることもありますので注意が必要です。通常の腰痛の原因としては、椎間板、椎間関節、腰椎を含むその周囲組織のさまざまな部位や腰背部の筋・筋膜に由来すると考えられ、そのものの局在性は不明確です。そのために、特異的な理学所見や画像所見も乏しいのが現状です。多くの腰痛は、3ヵ月経過する前に自然消失していきます。a)腰椎椎間関節性腰痛腰椎椎間関節性腰痛が全腰痛に占める頻度は、若年者で15%、高齢者で40%を占めております。高齢者に多いということは、椎間板が狭小になって前方部分が破綻し、椎間関節に過剰負担がかかり、変性することによって痛みが生じると考えられます。診断には、罹患関節に一致した傍脊柱部に限局した圧痛が認められます。腰椎を進展、捻転、後屈すると、痛みが増強することが多いと言われております。b)腰椎椎間板性腰痛腰椎椎間板性腰痛は、若年者から50歳までの若い年齢層で多くみられます。椎間板内に神経は存在しませんが、線維輪の断裂や椎間板の変性が生じると、椎間板内部のみならず、線維輪外層にまで神経線維が侵入してきます。線維輪に荷重がかかると、神経線維が刺激され、また、炎症症状などにより生じたサイトカインなどの関与によって痛みを感じると考えられております。この確定診断は、椎間板造影診断時に少量の造影剤を注入すると、疼痛が再現されることで得られます。座位や軽度の前屈によって椎間板内圧が増加すると、痛みが増強します。したがって、長時間の座位が取れないことが特徴です。2)慢性腰痛発症からの期間が3ヵ月以上に渡る場合、慢性腰痛と定義します。慢性腰痛の85%は、原因を明確にできない「非特異的腰痛」と言われるほど所見が乏しいと考えられます。椎間板性腰痛は、スポーツ選手や若年者では慢性腰痛の40%程度に関与しているとも言われております。慢性疼痛においては、筋肉への負荷のバランスが悪くなってきますし、筋肉の攣縮などによって、筋・筋膜性疼痛も生じてきます。長期間の疼痛によって精神的にも参ってきますと、身体を動かせないにことよって余計に痛みが増してきます。急性腰痛時に十分な治療を施し、疼痛が遷延しないようにすることが大切です。疼痛が長く持続すると慢性疼痛に移行し、その治療はますます難しくなって難治性慢性疼痛となります。そうなりますと、患者さんのみならず、医療者側も苦しむことになります。次回は下肢痛について述べます。1)腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版 日本整形外科学会/日本腰痛学会監修 p7 20192)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S144-145

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第10回 高齢者糖尿病の薬物療法(メトホルミン、SGLT2阻害薬)【高齢者糖尿病診療のコツ】

第10回 高齢者糖尿病の薬物療法(メトホルミン、SGLT2阻害薬)Q1 腎機能低下を考慮した薬剤選択・切り替え(とくにメトホルミンの使用法)について教えてくださいeGFR 30mL/分/1.73m2未満の腎機能低下例では、メトホルミン、SU薬、SGLT2阻害薬は使用しないようにします。腎機能の指標としては血清クレアチニン値を用いたeGFRcreがよく用いられますが、筋肉量の影響を受けやすく、やせた高齢者では過大評価されてしまうことに注意が必要です。このため、われわれは筋肉量の影響を受けにくいシスタチンC (cys)を用いたeGFRcysにより評価するようにしています。メトホルミンの重大な副作用として乳酸アシドーシスが知られており、eGFR 30mL/分/1.73m2未満でその頻度が増えることが報告されています1)。したがって、本邦を含めた各国のガイドラインでは、eGFR 30未満でメトホルミンは禁忌となっています。しかし30以上であれば、高齢者でも定期的に腎機能を正確に評価しながら投与することで、安全に使用できると考えています。各腎機能別のメトホルミンの具体的な使用量は、eGFR 60以上であれば常用量を投与可能、eGFR 45~60では500mgより開始・漸増し最大1,000mg/日、eGFR 30~45では最大500mg/日とし、eGFR 30未満では投与禁忌としています。なお、重篤な肝機能障害の患者への使用は避け、手術前後やヨード造影剤検査前後の使用も中止するようにします。心不全に関しては、メトホルミン使用の患者では死亡のリスクが減少することが報告されており、FDAでは禁忌ではなくなっています。ただし、本邦ではまだ禁忌となっているので注意する必要があります。また腎機能は定期的にモニターし、eGFRが低下するような場合には、上記の原則に従って減量する必要があります。また経口摂取不良、嘔気嘔吐など脱水のリスクがある場合(シックデイ時)には投与中止するようにあらかじめ指導しておくことが重要です2)。SGLT2阻害薬については、次のQ2で解説します。Q2 高齢者でのSGLT2阻害薬の適否の考え方は?近年、心血管リスクの高い糖尿病患者に対する、SGLT2阻害薬の心血管イベント抑制作用や腎保護作用が相次いで報告されています。SGLT2阻害薬は腎機能が高度に低下しておらず(eGFR≧30 mL/分/1.73m2が目安)、肥満・インスリン抵抗性が疑われる患者には適しており、これらの患者には、メトホルミンと同様に治療早期から使用しているケースも多いです。ただし、下記に挙げるさまざまな注意点があり、通常は75歳まで、最高でも80歳前後までの患者への投与を原則とし、80歳以上の患者にはとくに慎重に投与しています。75歳未満の患者では下記に留意し、対象患者を定めています:1.脱水や脳梗塞のリスクがあるため、認知機能やADLが保たれており飲水が自主的に十分できる患者かどうか(利尿薬投与中の患者ではとくに注意が必要)2.性器・尿路感染のリスクがあるため、これらの明らかな既往がないかどうか3.明らかなエビデンスはないが、筋肉量減少の懸念があるため、サルコペニアが否定的で定期的な運動を行えるかどうかそのほか、メトホルミンと同様に、シックデイ時には投与中止するようにあらかじめ指導しておくことが非常に重要です3)。Q3 認知症で服薬アドヒアランスが低下、投薬の工夫があれば教えてください認知症患者の服薬管理においては、認知機能の評価とともに、社会サポートがあるかどうかの確認が重要です。家族のサポートが得られるか、介護保険の申請はしてあるか、要支援・要介護認定を受けているかを確認し、服薬管理のために利用できるサービスを検討します。実際の投薬の工夫としては、以下に示すような方法があります。1.服薬回数を減らし、タイミングをそろえるたとえば食前内服のグリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)にあわせて、他の薬剤も食直前にまとめる方法がありますが、そもそも1日3回投与薬の管理が難しい場合は、1日1回にそろえてしまうことも考えます。最近、DPP-4阻害薬で週1回投与薬が登場しており、単独で投与する患者にはとくに有用ですが、他疾患の薬剤も併用している場合にはむしろ服薬忘れの原因となることもあるので、注意が必要です。なお、最近ではGLP-1受容体作動薬の週1回製剤も利用できますが、これはDPP-4阻害薬よりも血糖降下作用が強く、さらに訪問や施設看護師による注射が可能なため、われわれは認知症患者に積極的に使用しています。2.配合薬を利用するDPP-4阻害薬とメトホルミンなど、複数の成分をまとめた薬剤が次々登場しています。配合薬は、服薬錠数を減らし、服用間違いや負担感を減らすと考えられますが、たとえば経口摂取不能時や脱水時などシックデイの状態のときにSU薬やメトホルミンなど特定の薬剤だけを減量・中止したいときに扱いづらいという欠点があり、リスクの高い患者にはあえて使用しないこともあります。3.一包化する服薬タイミングごとの一包化も服薬忘れの軽減に有用ですが、配合薬と同様、シックデイ時にSU薬などを減量・中止することが難しくなるため、リスクの高い患者には当該薬剤だけを別包にするケースもあります。2、3ともに、シックデイ時にどの薬剤を減量・中止するのか、医療機関に連絡させ受診させるのか、という点について、介護者を含めて事前に話し合い、伝えておくことが重要です。4.配薬、服薬確認の方法を工夫するカレンダーや服薬ボックスにセットする方法が一般的であり、家族のほか、訪問看護師や訪問薬剤師にセットを依頼することもあります。しかしセットしても患者が飲むことを忘れてしまっては意味がありません。内服タイミングに連日家族に電話をしてもらい服薬を促す方法もありますが、それでも難しい場合、たとえば連日デイサービスに行く方であれば、昼1回に服薬をそろえて、平日は施設看護師に確認してもらい、休日のみ家族にきてもらって投薬するという方法も考えられます。 1)Lazarus B et al. JAMA Intern Med. 2018; 178:903-910.2)日本糖尿病学会.メトホルミンの適正使用に関する Recommendation(2016年改訂)3)日本糖尿病学会.SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation(2016年改訂)

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どないしたらええの? 心原性ショック伴う多枝病変AMI患者へのランダマイズ試験(中川義久 氏)-938

 心原性ショックを伴う急性心筋梗塞患者への梗塞責任病変への急性期PCIの有用性を疑うものはいない。一方で、心原性ショックを伴う多枝病変急性心筋梗塞患者への非責任梗塞冠動脈病変へのPCI介入のタイミング判断は難しい。CULPRIT-SHOCK試験は、責任病変と同時に70%以上の冠動脈狭窄を伴うすべての病変にもPCIを行う群と、責任病変のみにPCIを施行する群を比較した多施設ランダマイズ試験である。30日以内の死亡または腎代替療法を要する重症腎不全と定義される主要評価項目は、責任病変のみのPCIが優ることが2017年にすでに報告されている1)。今回、その1年時のデータが報告された。事前に設定された本試験の2次評価項目である、全死亡・再心筋梗塞には差がなく、心不全入院・再血行再建率は非責任病変にもPCIを施行する多枝PCI群が優っていたという。 この結果の解釈は難しいというのが正直な感想である。この試験は現実的にどのように遂行されていたのであろうか。生命の危機に瀕した患者を眼の前にして、「くじ引き(ランダマイズ)」に治療方針の選択を委ねることのできる術者や担当医に、驚きと違和感を覚えるのは自分だけであろうか。小生が術者であれば、個々の患者にその時点で考えられるベストな治療を施さずにはおれない。エビデンスレベルが高いといわれるランダマイズ試験であることは理解できるが、ここまで無作為化にこだわる必要があるのであろうか。 非梗塞血管に急性期に同時PCIを施行することで、早期に心機能回復が期待できる可能性がある。一方、手技時間が長く複雑になり造影剤の使用量が増すことで造影剤腎症を生じやすい。急性期の同時PCIにより側枝閉塞や遠位閉塞の可能性もある。心原性ショック患者に緊急時にどこまでPCIを施行するかは、ランダマイズして結果を出す問題ではなく、PCI施行術者が自分の技量や、知識・経験を総動員して判断すべき問題ではないか。個々の患者ごとの状態を正確に把握し、PCI施術の得失を考慮し、またその手技成功率を予測したうえで治療方針を決定することこそが肝要と考えられる。Shock状態などのクリティカルな患者におけるエビデンス構築には一層の工夫と知恵が必要であろう。

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乳児血管腫(いちご状血管腫)〔infantile hemangioma〕

1 疾患概要■ 概念・定義乳児血管腫(infantile hemangioma)は、ISSVA分類の脈管奇形(vascular anomaly)のうち血管性腫瘍(vascular tumors)に属し、胎盤絨毛膜の微小血管を構成する細胞と類似したglucose transporter-1(GLUT-1)陽性の毛細血管内皮細胞が増殖する良性の腫瘍である1,2)。出生時には存在しないあるいは小さな前駆病変のみ存在するが、生後2週間程度で病変が顕在化し、かつ自然退縮する特徴的な一連の自然歴を持つ。おおむね増殖期 (proliferating phase:~1.5歳まで)、退縮期(消退期)(involuting phase:~5歳ごろ)、消失期(involuted phase:5歳以降)と呼ばれるが、経過は個人差が大きい1,2)。わが国では従来ある名称の「いちご状血管腫」と基本的に同義であるが、ISSVA分類にのっとって乳児血管腫が一般化しつつある。なお、乳幼児肝巨大血管腫では、肝臓に大きな血管腫やたくさんの細かい血管腫ができると、血管腫の中で出血を止めるための血小板や蛋白が固まって消費されてしまうために、全身で出血しやすくなったり、肝臓が腫れて呼吸や血圧の維持が難しくなることがある。本症では、治療に反応せずに死亡する例もある。また、まったく症状を呈さない肝臓での小さな血管腫の頻度は高く、治療の必要はないものの、乳幼児期の症状が治療で軽快した後、成長に伴って、今度は肝障害などの症状が著明になり、肝移植を必要とすることがある。■ 疫学乳児期で最も頻度の高い腫瘍の1つで、女児、または早期産児、低出生体重児に多い。発生頻度には人種差が存在し、コーカソイドでの発症は2~12%、ネグロイド(米国)では1.4%、モンゴロイド(台湾)では0.2%、またわが国での発症は0.8~1.7%とされている。多くは孤発例で家族性の発生はきわめてまれであるが、発生部位は頭頸部60%、体幹25%、四肢15%と、頭頸部に多い。■ 病因乳児血管腫の病因はいまだ不明である。腫瘍細胞にはX染色体の不活性化パターンにおいてmonoclonalityが認められる。血管系の中胚葉系前駆細胞の分化異常あるいは分化遅延による発生学的異常、胎盤由来の細胞の塞栓、血管内皮細胞の増殖関連因子の遺伝子における生殖細胞変異(germline mutation)と体細胞突然変異(somatic mutation)の混合説など、多種多様な仮説があり、一定ではない。■ 臨床症状、経過、予後乳児血管腫は、前述のように他の腫瘍とは異なる特徴的な自然経過を示す。また、臨床像も多彩であり、欧米では表在型(superficial type)、深在型(deep type)および混合型(mixed type)といった臨床分類が一般的であるが、わが国では局面型、腫瘤型、皮下型とそれらの混合型という分類も頻用されている。superficial typeでは、赤く小さな凹凸を伴い“いちご”のような性状で、deep typeでは皮下に生じ皮表の変化は少ない。出生時には存在しないあるいは目立たないが、生後2週間程度で病変が明らかとなり、「増殖期」には病変が増大し、「退縮期(消退期)」では病変が徐々に縮小していき、「消失期」には消失する。これらは時間軸に沿って変容する一連の病態である。最終的には消失する症例が多いものの、乳児血管腫の中には急峻なカーブをもって増大するものがあり、発生部位により気道閉塞、視野障害、哺乳障害、難聴、排尿排便困難、そして、高拍出性心不全による哺乳困難や体重増加不良などを来す、危険を有するものには緊急対応を要する。また、大きな病変は潰瘍を形成し、出血したり、2次感染を来し敗血症の原因となることもある。その他には、シラノ(ド・ベルジュラック)の鼻型、約20%にみられる多発型、そして他臓器にも血管腫を認めるneonatal hemangiomatosisなど、多彩な病型も知られている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)臨床像などから診断がつくことが多いが、画像診断が必要な場合がある。造影剤を用いないMRIのT1強調画像と脂肪抑制画像(STIR法)の併用は有効で、増殖期の乳児血管腫は微細な顆粒が集簇したような形状の境界明瞭なT1-low、T2-high、STIR-highの病変として、脂肪織の信号に邪魔されずに描出される。superficial typeの乳児血管腫のダーモスコピー所見では、増殖期にはtiny lagoonが集簇した“いちご”様外観を呈するが、退縮期(消退期)になると本症の自然史を反映し、栄養血管と線維脂肪組織の増加を反映した黄白色調の拡がりとして観察されるようになる。病理診断では、増殖期・退縮期(消退期)・消失期のそれぞれに病理組織像は異なるが、いずれの時期でも免疫染色でグルコーストランスポーターの一種であるGLUT-1に陽性を示す。増殖期においてはCD31と前述のGLUT-1陽性の腫瘍細胞が明らかな血管構造に乏しい腫瘍細胞の集塊を形成し、その後内皮細胞と周皮細胞による大小さまざまな血管構造が出現する。退縮期(消退期)には次第に血管構造の数が減少し、消失期には結合組織と脂肪組織が混在するいわゆるfibrofatty residueが残存することがある。鑑別診断としては、血管性腫瘍のほか、deep typeについては粉瘤や毛母腫、脳瘤など嚢腫(cyst)、過誤腫(hamartoma)、腫瘍(tumor)、奇形(anomaly)の範疇に属する疾患でも、視診のみでは鑑別できない疾患があり、MRIや超音波検査など画像診断が有用になることがある。乳児血管腫との鑑別上、問題となる血管性腫瘍としては、まれな先天性の血管腫であるrapidly involuting congenital hemangiomas(RICH)は、出生時にすでに腫瘍が完成しており、その後、乳児血管腫と同様自然退縮傾向をみせる。一方、non-involuting congenital hemangiomas(NICH)は、同じく先天性に生じるが自然退縮傾向を有さない。partially involuting congenital hemangiomas(PICH)は退縮が部分的である。これら先天性血管腫ではGLUT-1は陰性である。また、房状血管腫(tufted angioma)とカポジ肉腫様血管内皮細胞腫(kaposiform hemangioendothelioma)は、両者ともカサバッハ・メリット現象を惹起しうる血管腫であるが、乳児血管腫がカサバッハ・メリット現象を来すことはない。房状血管腫は出生時から存在することも多く、また、痛みや多汗を伴うことがある。病理組織学的に、内腔に突出した大型で楕円形の血管内皮細胞が、真皮や皮下に大小の管腔を形成し、いわゆる“cannonball様”増殖が認められる。腫瘍細胞はGLUT-1陰性である(図1)。カポジ肉腫様血管内皮細胞腫は、異型性の乏しい紡錘形細胞の小葉構造が周囲に不規則に浸潤し、その中に裂隙様の血管腔や鬱血した毛細血管が認められ、GLUT-1陰性である。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)多くの病変は経過中に増大した後は退縮に向かうものの、機能障害や潰瘍、出血、2次感染、敗血症の危険性、また将来的にも整容的な問題を惹起する可能性がある。これらの可能性を有する病変に対しては、手術療法(全摘・減量手術)、ステロイド療法(外用・局所注射・全身投与)、レーザー、塞栓/硬化療法、イミキモド、液体窒素療法、さらにはインターフェロンα、シクロホスファミド、ブレオマイシン、ビンクリスチン、becaplermin、シロリムス、放射線療法、持続圧迫療法などの有効例が報告されている。しかし、自然消退傾向があるために治療効果の判定が難しいなど、臨床試験などで効果が十分に実証された治療は少ない。病変の大きさ、部位、病型、病期、合併症の有無、整容面、年齢などにより治療方針を決定する。以下に代表的な治療法を述べる。■ プロプラノロール(商品名:ヘマンジオル シロップ)欧米ですでに使われてきたプロプラノロールが、わが国でも2016年に承認されたため、本邦でも機能障害の危険性や整容面で問題となる乳児血管腫に対しては第1選択薬として用いられている3,4)。局面型、腫瘤型、皮下型とそれらの混合型などすべてに効果が発揮でき、表面の凹凸が強い部位でも効果は高い(図2)。用法・容量は、プロプラノロールとして1日1~3mg/kgを2回に分け、空腹時を避けて経口投与する。投与は1日1mg/kgから開始し、2日以上の間隔を空けて1mg/kgずつ増量し、1日3mg/kgで維持するが、患者の状態に応じて適宜減量する。画像を拡大する副作用として血圧低下、徐脈、睡眠障害、低血糖、高カリウム血症、呼吸器症状などの発現に対し、十分な注意、対応が必要である5)。また、投与中止後や投与終了後に血管腫が再腫脹・再増大することもあるため、投与前から投与終了後も患児を慎重にフォローしていくことが必須となる。その作用機序はいまだ不明であるが、初期においてはNO産生抑制による血管収縮作用が、増殖期においてはVEGF、bFGF、MMP2/MMP9などのpro-angiogenic growth factorシグナルの発現調節による増殖の停止機序が推定されている。また、長期的な奏効機序としては血管内皮細胞のアポトーシスを誘導することが想定されており、さらなる研究が待たれる。同じβ遮断薬であるチモロールマレイン酸塩の外用剤についても有効性の報告が増加している。■ 副腎皮質ステロイド内服、静注、外用などの形で使用される。内服療法として通常初期量は2~3mg/kg/日のプレドニゾロンが用いられる。ランダム化比較試験やメタアナリシスで効果が示されているが、副作用として満月様顔貌、不眠などの精神症状、骨成長の遅延、感染症などに注意する必要がある。その他の薬物治療としてイミキモド、ビンクリスチン、インターフェロンαなどがあるが、わが国では本症で保険適用承認を受けていない。■ 外科的治療退縮期(消退期)以降に瘢痕や皮膚のたるみを残した場合、整容的に問題となる消退が遅い血管腫、小さく限局した眼周囲の血管腫、薬物療法の危険性が高い場合、そして、出血のコントロールができないなど緊急の場合は、手術が考慮される。術中出血の危険性を考慮し、増殖期の手術を可及的に避け退縮期(消退期)後半から消失期に手術を行った場合は、組織拡大効果により腫瘍切除後の組織欠損創の閉鎖が容易になる。■ パルス色素レーザー論文ごとのレーザーの性能や照射の強さの違いなどにより、その有効性、増大の予防効果や有益性について一定の結論は得られていない。ただ、レーザーの深達度には限界がありdeep typeに対しては効果が乏しいという点、退縮期(消退期)以降も毛細血管拡張が残った症例ではレーザー治療のメリットがあるものの、一時的な局所の炎症、腫脹、疼痛、出血・色素脱失および色素沈着、瘢痕、そして潰瘍化などには注意する必要がある。■ その他のレーザー炭酸ガスレーザーは炭酸ガスを媒質にしたガスレーザーで、水分の豊富な組織を加熱し、蒸散・炭化させるため出血が少ないなどの利点がある。小さな病変や、気道内病変に古くから用いられている。そのほか、Nd:YAGレーザーによる組織凝固なども行われることがある。■ 冷凍凝固療法液体窒素やドライアイスなどを用いる。手技は比較的容易であるが、疼痛、水疱形成、さらには瘢痕形成に注意が必要で熟練を要する。深在性の乳児血管腫に対してはレーザー治療よりも効果が優れているとの報告もある。■ 持続圧迫療法エビデンスは弱く、ガイドラインでも推奨の強さは弱い。■ 塞栓術ほかの治療に抵抗する症例で、巨大病変のため心負荷が大きい場合などに考慮される。■ 精神的サポート本症では、他人から好奇の目にさらされたり、虐待を疑われるなど本人や家族が不快な思いをする機会も多い。前もって自然経過、起こりうる合併症、治療の危険性と有益性などについて説明しつつ、精神的なサポートを行うことが血管腫の管理には不可欠である。4 今後の展望プロプラノロールの登場で、乳児血管腫治療は大きな転換点を迎えたといえる。有効性と副作用に関して、観察研究に基づくシステマティックレビューとメタアナリシスの結果、「腫瘍の縮小」に関してプロプラノロールはプラセボと比較し、有意に腫瘍の縮小効果を有し、ステロイドに比しても腫瘍の縮小傾向が示された。また、「合併症」に関しては、2つのRCTでステロイドと比し有意に有害事象が少ないことが判明し、『血管腫・血管奇形診療ガイドライン2017』ではエビデンスレベルをAと判定した。有害事象を回避するための対応は必要であるが、今後詳細な作用機序の解明と、既存の治療法との併用、混合についての詳細な検討により、さらに安全、有効な治療方法の主軸となりうると期待される。5 主たる診療科小児科、小児外科、形成外科、皮膚科、放射線科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)『血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017』(医療従事者向けのまとまった情報)日本血管腫血管奇形学会(医療従事者向けのまとまった情報)国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)(医療従事者向けのまとまった情報:英文ページのみ)ヘマンジオル シロップ 医療者用ページ(マルホ株式会社提供)(医療従事者向けのまとまった情報)乳児血管腫の治療 患者用ページ(マルホ株式会社提供)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報混合型脈管奇形の会(患者とその家族および支援者の会)血管腫・血管奇形の患者会(患者とその家族および支援者の会)血管奇形ネットワーク(患者とその家族および支援者の会)1)「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班作成『血管腫・血管奇形診療ガイドライン2017』2)国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)3)Leaute-Labreze C, et al. N Engl J Med. 2008;358:2649-2651.4)Leaute-Labreze C, et al. N Engl J Med. 2015;372:735-746.5)Drolet BA, et al. Pediatrics. 2013;131:128-140.公開履歴初回2018年10月23日

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急性脳梗塞の血管内治療は日常診療でも有効か/BMJ

 急性虚血性脳卒中の血管内治療は、無作為化対照比較試験の結果と同様に、ルーチンの臨床診療でも有効かつ安全であることが、オランダ・アムステルダム大学学術医療センターのIvo G. H. Jansen氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2018年3月9日号に掲載された。前方循環系の頭蓋内血管近位部閉塞による急性虚血性脳卒中では、症状発現後6時間以内の血管内治療の有効性と安全性が無作為化試験やメタ解析で示されているが、ルーチンの臨床診療でも既報の無作為化臨床試験と同等の有用性が得られるかは不明であった。MR CLEANレジストリをMR CLEAN試験の結果と比較 研究グループは、オランダの16施設が参加・進行中の前向きコホート研究「MR CLEANレジストリ」の患者データを解析し、無作為化対照比較試験「MR CLEAN試験」の既報の結果と比較した(エラスムス大学医療センターなどの助成による)。 2014年3月~2016年6月の期間にMR CLEANレジストリに登録された急性虚血性脳卒中で、症状発現後6.5時間以内に血管内治療(ステント型血栓回収デバイス、血栓吸引デバイスなど)を受けた患者1,488例を解析の対象とした。 主要アウトカムは、症状発現後90日時の修正Rankin Scale(mRS、0[無症状]~6[死亡]点)のスコアによる機能障害とした。副次アウトカムには、90日時の機能アウトカムがexcellent(mRSスコア:0~1)、同good(0~2)、同favourable(0~3)の患者などが含まれた。臨床試験の介入群よりも機能アウトカムが良好 ベースラインの年齢中央値は、MR CLEANレジストリが71歳(IQR:60~80)、MR CLEAN試験の介入群(233例)が66歳(55~76)、同対照群(267例)は66歳(56~76)であり、男性はそれぞれ53.3%、57.9%、58.8%であった。NIHSSスコア中央値はそれぞれ16点、17点、18点であり、rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法は78.0%、87.1%、90.6%に行われていた。 90日時のmRSスコア中央値は、MR CLEANレジストリが3点(IQR:2~6)、CLEAN試験の介入群が3点(2~5)、同対照群が4点(3~5)であり、MR CLEANレジストリの機能アウトカムは、MR CLEAN試験の介入群(補正共通オッズ比:1.30、95%信頼区間[CI]:1.02~1.67、p=0.03)および同対照群(1.85、1.64~2.34、p<0.01)と比較して、いずれも有意に改善した。 90日時の機能アウトカムがexcellentの患者の割合は、MR CLEANレジストリが18.9%、MR CLEAN試験の介入群が11.6%、同対照群は6.0%であった。また、goodの患者はそれぞれ37.9%、32.6%、19.1%であり、favourableは52.1%、51.1%、35.6%だった。 再灌流の達成率(extended TICI gradeで2B-3の場合に再灌流成功と定義)は、MR CLEANレジストリとMR CLEAN試験の介入群がいずれも58.7%で、同対照群は該当なしであった。 また、脳卒中発症から、血管内治療開始までの期間中央値(MR CLEANレジストリ:208分[IQR:160~265]、MR CLEAN試験の介入群:260分[210~313])と、再灌流成功または最後の造影剤ボーラス注入までの期間中央値(267分[217~331]、339分[274~395])は、いずれもMR CLEANレジストリが約1時間短かった。 一方、症候性頭蓋内出血の発症率は、MR CLEANレジストリが5.8%と、MR CLEAN試験の介入群の7.7%、同対照群の6.4%に比べて低かった。 著者は、「この知見は、血管内治療が前方循環系の頭蓋内血管近位部閉塞による急性虚血性脳卒中の標準治療であることを裏付ける」としている。

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重炭酸Naとアセチルシステインに造影剤腎症の予防効果なし(中川原譲二氏)-814

 血管造影関連の造影剤腎症を予防する目的で、欧米では、重炭酸Naの静脈投与やアセチルシステインの経口投与が行われているが、「PRESERVE」試験では、血管造影を受ける腎合併症発症リスクが高い患者において、これらの薬剤投与はいずれも、死亡や透析、血管造影に関連した急性腎障害の予防に寄与しないことが示された(NEJM. 2017 Nov 12.)。90日後の全死亡、透析の実施、血清Cr値50%以上の上昇の複合評価項目で比較 「PRESERVE」研究グループは2013年2月~2017年3月にかけて、血管造影が予定されている腎合併症発症リスクが高い患者5,177例を対象に試験を行った。被験者を無作為に4群に分け、二重盲検2×2要因プラセボ実薬対照法にて、1.26%重炭酸Naまたは0.9%生食の静脈投与、5日間のアセチルシステインまたはプラセボの経口投与を受けるように無作為に割り付けた。被験者のうち4,993例についてintention-to-treat解析を行った。主要評価項目は、90日後の死亡・透析の実施・ベースラインから50%以上の血清クレアチニン値上昇の複合評価項目とした。血管造影関連の急性腎障害の発生は、副次評価項目とした。主要評価項目、副次評価項目(急性腎障害)ともに群間差なし 事前に規定した中間解析後に、本試験はスポンサーの判断で中止された。重炭酸Naとアセチルシステインについては、主要評価項目の発生との間に関連は認められなかった(p=0.33)。主要評価項目の発生率は、重炭酸Na群4.4%(2,511例中110例)に対し、生食群4.7%(2,482例中116例)だった(オッズ比[OR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.72~1.22、p=0.62)。また、同発生率はアセチルシステイン群4.6%(2,495例中114例)に対し、プラセボ群4.5%(2,498例中112例)だった(OR:1.02、95%CI:0.78~1.33、p=0.88)。血管造影関連の急性腎障害の発生率についても、群間差は認められなかった。 本研究では、血管造影を受ける腎合併症発症リスクが高い患者に対する重炭酸Naの静脈投与による腎機能の維持やアセチルシステインの経口投与による解毒は、いずれも、死亡や透析、血管造影に関連した急性腎障害の予防に寄与しないことが示された。一方、本研究において使用された造影剤の種類については、56~57%の患者に浸透圧が生食対比:約1の非イオン性等浸透圧造影剤イオジキサノール(商品名:ビジパーク)、43~44%の患者に浸透圧が生食対比:2~4の低浸透圧造影剤が投与されたとされているが、両者での主要評価項目や副次評価項目の違いについては記載されていない。血管造影関連の造影剤腎症の発症については、生理的により安全な造影剤の使用によって、予防する視点も重要と思われる。

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注射剤のアナフィラキシーについて提言 医療安全調査機構

 日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)は、注射剤のアナフィラキシーによる事故防止のための提言(医療事故の再発防止に向けた提言 第3号)を公表している(1月18日)。アナフィラキシー発症の危険性が高い薬剤や発症が疑われる場合の具体的な対応、常時から備えておくべき事項などについて、以下の6つの提言が示された。提言1(アナフィラキシーの認識):アナフィラキシーはあらゆる薬剤で発症の可能性があり、複数回、安全に使用できた薬剤でも発症し得ることを認識する。提言2 (薬剤使用時の観察):造影剤、抗菌薬、筋弛緩薬等のアナフィラキシー発症の危険性が高い薬剤を静脈内注射で使用する際は、少なくとも薬剤投与開始時より5分間は注意深く患者を観察する。提言3(症状の把握とアドレナリンの準備):薬剤投与後に皮膚症状に限らず患者の容態が変化した場合は、確定診断を待たずにアナフィラキシーを疑い、直ちに薬剤投与を中止し、アドレナリン0.3 mg(成人)を準備する。提言4 (アドレナリンの筋肉内注射):アナフィラキシーを疑った場合は、ためらわずにアドレナリン標準量0.3 mg(成人)を大腿前外側部に筋肉内注射する。提言5 (アドレナリンの配備、指示・連絡体制)アナフィラキシー発症の危険性が高い薬剤を使用する場所には、アドレナリンを配備し、速やかに筋肉内注射できるように指示・連絡体制を整備する。提言6 (アレルギー情報の把握・共有):薬剤アレルギー情報を把握し、その情報を多職種間で共有できるようなシステムの構築・運用に努める。 この提言は、医療事故調査制度のもと収集した院内調査結果報告書を整理・分析し、再発防止策としてまとめているもの。第1号は「中心静脈穿刺合併症」、第2号は「急性肺血栓塞栓症」をテーマとしてそれぞれ2017年に公表されている。 今回の第3号では、同制度開始の2015年10月から2017年 9 月の 2 年間で、同機構に提出された院内調査結果報告書476 件のうち、「注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例」として報告された12事例を分析。“死亡に至ることを回避する”という視点で、同様の事象の再発防止を目的としてまとめられている。■参考日本医療安全調査機構:医療事故の再発防止に向けた提言 第3号■関連記事中心静脈穿刺の事故防止に向けて提言公表 医療安全調査機構

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重炭酸Naとアセチルシステインに造影剤腎症の予防効果なし/NEJM

 血管造影を受ける腎合併症発症リスクが高い患者において、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)や塩化ナトリウムの静脈投与単独、または経口アセチルシステインの投与は、いずれも死亡や透析、血管造影に関連した急性腎障害の予防に寄与しないことが示された。米国・ピッツバーグ大学のSteven D.Weisbord氏らが、5,177例を対象に行った2×2要因デザインの無作為化試験「PRESERVE」の結果で、NEJM誌オンライン版2017年11月12日号で発表された。現状では、これらを投与する効果に関してエビデンスが乏しいまま、血管造影後の急性腎障害や有害アウトカム予防を目的とした、炭酸水素ナトリウム静注や経口アセチルシステイン投与が広く行われているという。90日後の全死因死亡、透析、クレアチニン値上昇の複合エンドポイントを比較 研究グループは2013年2月~2017年3月にかけて、米国(35ヵ所)、オーストラリア(13ヵ所)、マレーシア(3ヵ所)、ニュージーランド(2ヵ所)の計53ヵ所の医療機関を通じて、血管造影が予定されている腎合併症発症リスクが高い患者5,177例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に4群に分け、二重盲検2×2要因プラセボ実薬対照法にて、1.26%炭酸水素ナトリウムまたは0.9%塩化ナトリウムの静脈投与、5日間のアセチルシステインまたはプラセボの経口投与を受けるよう無作為に割り付けた。被験者のうち4,993例についてintention-to-treat解析を行った。 主要エンドポイントは、90日時点の全死因死亡・透析の実施・ベースラインから50%以上の血清クレアチニン値上昇の複合とした。副次評価項目は、血管造影関連の急性腎障害の発生などだった。主要エンドポイント、急性腎障害ともに群間差なし 事前に規定した中間解析後に、本試験はスポンサーの判断で中止された。 炭酸水素ナトリウムとアセチルシステインの間に、主要エンドポイントの発生について、関連は認められなかった(p=0.33)。具体的に、主要エンドポイントの発生率は、炭酸水素ナトリウム群4.4%(2,511例中110例)に対し、塩化ナトリウム群4.7%(2,482例中116例)だった(オッズ比[OR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.72~1.22、p=0.62)。また、同発生率はアセチルシステイン群4.6%(2,495例中114例)、プラセボ群4.5%(2,498例中112例)だった(OR:1.02、95%CI:0.78~1.33、p=0.88)。 血管造影関連の急性腎障害の発生率についても、群間差は認められなかった。

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FFRジャーナルClub 第4回

FFRジャーナルClubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第4回目の今回は、2017年3月ACCにて発表されたDEFINE-FLAIR試験の結果に関する論文がNEJMに掲載されたので紹介します。第4回 iFRの臨床的有用性を検証したDEFINE-FLAIR study19ヵ国49施設(日本から5施設)が参加し、iFR guide PCIとFFR guide PCIを前向きランダム化試験により比較検討した研究である。同様のプロトコルで行われたスウェーデン、デンマーク、アイスランドのnational registryを利用したSWEDEHEARTの結果も同時に発表された。DEFINE-FLAIR試験Davies JE, et al. Use of the instantaneous wave-free ratio or fractional flow reserve in PCI. N Engl J Med. 2017 March 18.SWEDEHEART試験Gotberg M, et al. nstantaneous wave-free ratio versus fractional flow reserve to guide PCI. N Engl J Med. 2017 March 18.まずiFRの概念と、FFRとの違いについて解説します。FFRは全心周期の平均圧、平均血管抵抗から平均血流を推測する方法であるのに対し、iFRは拡張期のある一定の期間(Wave free period:WFP)の、大動脈圧と冠動脈遠位部圧の瞬時の比を取るものである。iFRの概念は次の2つの理論的背景に基づく。WFPにおいては、心収縮などの影響を受けず圧に対し受動的に冠血流が流れている時相であり、圧-血流関係が直線的となるため、圧の比から血流の比を算出しうる。また、高度狭窄となるまで安静時血流は一定に保たれている。この2つの理論・仮定の範囲内であれば、iFRはFFR同様、狭窄重症度を定量的に評価しうることになる。FFRとの大きな違いとしては、最大充血にする必要がないので、最大充血惹起に伴うコスト(アデノシンのコストは国により異なるが高額である)や、時間、副作用を減らすことが可能である。一方で、安静時の計測のため、安静時血流が変動しているようなタイミング(造影剤やニトログリセリンの投与直後、PCIによる虚血の直後)や安静時血流が変化する病態(容量負荷疾患、大動脈弁狭窄症、透析患者、急性心筋梗塞患者、頻拍・高血圧状態など)では圧較差(iFR値)も影響を受ける。FFRとiFRの診断一致率は80%程度と良好であるが、さらに一致率を上げるために、hybrid approachが提唱されていた。これは、まずiFRを計測し、iFR値が0.86〜0.93であればアデノシンゾーンとしてFFRを計測する、それ以上・それ以下であれば、それぞれ虚血陰性・陽性としてその結果を採用するというものである。この手法を採用することにより、診断一致率は94%となり、またアデノシンの使用は61%減らすことが可能となる1)。しかしこれはあくまでFFRをgold standardとし、それにiFRの結果を合わせようとするものであり、iFRに独自の虚血域値を設定した場合の臨床的有用性を明らかにしよう、というのが今回のDEFINE-FLAIR studyの目的である。この研究では、少なくとも1病変以上に中等度狭窄と判断された病変を有する2,492例が登録され、前向きにFFR群とiFR群に1:1でランダム割り付けされた。急性冠症候群症例も組み込まれているが、非責任病変のみが登録可能であり、責任病変に対する血行再建治療が終了後に残枝に対する計測が行われた。FFR群ではFFRのみ、iFR群ではiFRのみ計測可能である。FFR 0.80以下、iFR 0.90未満(0.89以下)の病変は血行再建が行われ、それ以外の病変に対してはdeferが選択された。主要評価項目は、1年間のMACE(死亡、非致死性心筋梗塞、予定されていない冠血行再建の施行)である。対象患者の平均年齢は65歳、76%が男性で、80%が安定狭心症症例であった。症例あたりの計測枝数はiFR:1.27±0.61、FFR:1.29±0.63、計測値の平均はiFR:0.91±0.09、FFR:0.83±0.09。機能的に有意と判断された病変数(計測枝数に占める割合)はiFR:28.6%、FFR:34.6%とFFRで有意に多かった(p=0.004)。有意狭窄を1枝以上に認めた症例数は、iFR:426例(34.3%)、FFR:486例(38.9%)で、FFR群で多かった(p=0.02)。その結果、血行再建を受けた症例数は、iFR:590例(47.5%)、FFR:667例(53.4%)と、有意にFFR群で多かった(p=0.003)。PCI数が有意病変を有する症例数より多いのは、急性冠症候群などで機能的評価を行わずに施行されたPCI数も含まれているためである。1年後までに主要評価項目のイベントを生じたのはiFR群で78例(6.8%)、FFR群で83例(7.0%)であり、iFRはFFRに対し非劣性であった。画像を拡大するそれぞれの評価項目も2群間に有意差はなかった。この対象群における冠血行再建施行は、iFR 4.0% vs.FFR 5.3%、死亡+心筋梗塞は、iFR 4.6% vs.FFR 3.5%であった。画像を拡大する手技に伴う副次効果・症状は、iFR群39例(3.1%)、FFR群385例(30.8%)と、iFR群で有意に少なかった(p

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FFRジャーナルClub 第2回

FFRジャーナルClubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第2回目の今回は、本年11月14日に薬事承認を受け、日本での臨床使用開始に向け期待が高まっているFFR-CTに関連する論文を読みたいと思います。第2回 Denmark Aarhus University Hospitalにおける日常臨床でのFFR-CT使用に関する報告Norgaard BL, et al. Clinical use of coronary CTA-derived FFR for decision making in stable CAD. J Am coll Cardiol Img. 2016, Apr 7. [Epub ahead of print]冠動脈CT(以下、CTA)は、その陰性的中率の高さ、および検査へのアプローチのしやすさから、とくに日本では非常に広く使用されている。そのCTAの画像データから、スーパーコンピュータを用いて冠血流、冠内圧の情報を推測・計算する手法がFFR-CT(coronary computed tomography angiography derived fractional flow reserve)として報告されている1)~3)。今回は、実臨床におけるFFR-CTを用いた診断戦略の有用性、侵襲的検査(以下、ICA:Invasive coronary angiography)に対するゲートキーパーとしての役割について検討したsingle center、observational all-comers studyを紹介する。2014年4月からの1年間、Aarhus University Hospitalを受診し、安定冠動脈疾患が疑われた症例が対象である。外来にて、緊急を要さないCTAの依頼が出された連続1,248の症例が対象とされた。同施設では、新規発症で検査前確率がlow~intermediateの症例において、CTAが診断モダリティの第1選択として好んで使われていた。CTAはSiemens社製のdual-source CT scannerが使用され、心拍数60bpm以下を目標とし、経口・経静脈的β遮断薬が投与され、また全例でニトログリセリンの舌下投与が行われた。CTAの判読結果により下記の3つのリスクカテゴリーに層別化し、その後の診断手法を決定した。画像を拡大するFFR-CTは、CTAの画像データをHeart Flow社(カリフォルニア)に送り解析された。主要枝ごとに計算され、FFR-CT≦0.80を有意狭窄と判断した。結果:1,248例中75例(6%)は、心拍の不整、重度の石灰化などの理由で造影剤を注入する前に、ほかの検査アプローチあるいは治療方針(ICA、MPIあるいは薬物療法)に変更された。CTAの対象となったのは1,173例で、非典型的胸痛が763例(65%)と多くを占め、典型的胸痛が152例(13%)、非狭心症性胸痛が176例(15%)、呼吸困難が82例(7%)であった。検査時心拍数は58±9bpm(37~122)、Agaston scoreは0~4,830(四分位数範囲:0~54)。CTAを施行した1,173例中、33例(3%)は、解析するには画像が不十分であり(造影剤量不足、motion artifact、blooming artifact)、引き続きperfusion imagingが行われた。CTAの結果、858例はOMTが選択され、82例でICA、189例でFFR-CT、44例でMPI(myocardial perfusion imaging)が選択された。FFR-CTが依頼された189例において、FFR-CT解析が可能であったのは185例(98%)であった。185例中57例(31%)、740枝中72枝(10%)においてFFR-CT≦0.80を呈した。画像を拡大するFFR-CT後のICAにおいて、37例で確認のため侵襲的FFRが計測された。研究期間の開始から3分の2の時期までで計測されたのは35例中27例(77%)であったのに対し、後期3分の1では19例中10例(53%)であった。計測されたFFR値と、FFR-CT値の間には良好な相関を認めた(下図)。全体では、FFR-CT値がFFRよりも軽度(0.04)低値を示す傾向を認めたが、FFR-CT ≦ 0.80が侵襲的FFR陽性を示す診断率は37例中27例(74%)、53枝中37枝(70%)であった。画像を拡大するFFR-CT≦0.80にてICAに送られた49例中22例(45%)に血行再建(PCI n=12、CABG n=10)が行われた。FFR-CT≦0.75にてICAに送られた23例では、70%に血行再建(PCI n=10、CABG n=6)が行われた。CTAからFFR-CTの計測なしで直接ICAに送られた82例では53例(65%)に血行再建(PCI n=42、CABG n=11)が行われた。12ヵ月の追跡期間中(6~18ヵ月)、FFR-CT、ICA、MPIいずれの群においても重篤なイベントは生じなかった。FFR-CT値が0.80以上でありICAを行わなかった123例においても重篤なイベントはみられず、経過中胸部症状により2例にICAが行われたが、いずれも血行再建の必要性は認めなかった。結語:FFR-CTに基づいた診断戦略は妥当であり、有用な情報を与えてくれる。FFR-CT値>0.80によってICAをdeferしても、良好な短期予後が得られた。私見:FFR-CTは、CTAと比べて追加の検査の必要性はなく、その意味でとても使いやすい検査法といえる。一方、結果として出てきたFFR-CTの値を信じて、冠動脈造影検査や、カテーテル治療自体の適応を決定してよいのか、現時点ではまだ議論の余地がある。しかし、非侵襲的検査と考えると、今存在しているほかのどの検査法も決して100%ではなく、それらの情報を基に主治医が総合的に判断することにより、より正しいと考えられる結果を導いていく。その1つの検査法として考えれば、解剖学的な情報に加え、同時に機能的な情報が得られるというメリットは大きい。では、本検査を侵襲的検査のゲートキーパーの役割として使用するのはどうか? その意味で最も信頼されているのは負荷心筋シンチグラムと思われる。これは6万例を超える非常に大きなデータにより、負荷心筋シンチグラム陰性であればその後の予後が良好である4)、というデータが示されていることが大きい。また運動負荷で行えば、負荷時の自覚症状や心電図の所見が加味できることも重要である。FFR-CTは、負荷心筋シンチグラムに代わりうるか?CTAはもとより陰性的中率が高いことが示されている。侵襲的検査に送った結果、偽陽性が多い点が問題であった。また中等度狭窄が存在しても、虚血の有無に関しては再度負荷試験を行う必要があった。FFR-CTは、CTAの陰性的中率は変えずに陽性的中率を高めることが可能か? 本論文において最も重要と思うのは、FFR-CTが陰性であってICAをdeferした症例の予後である。約12ヵ月と短期間ではあるが問題となるイベントは生じていない。観察中2例に持続する胸痛があり再度のICAが行われたが、FFR-CT 0.88(LAD)でdeferされた症例のICAは血管不整所見のみ、FFR-CT 0.78(LAD)でdeferされた症例のICAは、びまん性の軽度病変で侵襲的FFR 0.84であった。FAME試験において、FFRガイド群、すべての病変をステント治療するAngioガイド群、そのどちらも自覚症状が消失したのは約70%である。何らかの症状があった場合に、過剰な再検査が行われる可能性がある。FAME試験では、再造影の際PCIを考慮する場合は、(FFRガイド群では)必ずFFRの計測が義務付けられていた。当面のイベントを減らす、ということよりもその担当医がFFRの再現性を実感し、その信頼度を高めていく、という意味でその意義は大きかったといえる。FFR-CTにおいても、その信頼を確立するまでは、多少時間が必要と思われる。“CTAである程度のプラークを認めたが、FFR-CTは陰性”、という症例の予後に関するデータを積み上げていくことが重要である。(執筆・監修:東京医科大学八王子医療センター 循環器内科 田中信大)参考論文1.Koo BK, et al. J Am Coll Cardiol. 2011;58:1989-1997.2.Min JK, et al. JAMA. 2012;308:1237-1245.3.Nørgaard BL, et al. J Am Coll Cardiol. 2014;63:1145-1155.4.Shaw LJ, Iskandrian AE. J Nucl Cardiol. 2004;11:171-185.

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第3回 ビグアナイド薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第3回】ビグアナイド薬による治療のキホン-ビグアナイド薬による治療のポイントを教えてください。 ビグアナイド(BG)薬は、主に肝での糖新生を抑制し血糖を低下させる、インスリン抵抗性改善系の薬剤です。そのほかに、消化管からの糖の吸収を抑制したり、末梢組織でのインスリン感受性を改善させるといった作用があります。非常に古くから使われている薬剤で、以前は、日本では1日最大用量750mgのメトホルミンしか使用できませんでしたが、海外での使用実績を踏まえ、それまでのメトホルミンの用法・用量を大きく見直し、高用量処方を可能としたメトホルミン(商品名:メトグルコ)が2010年から使用できるようになりました。 上記の作用でインスリン抵抗性を改善し、体重増加を来さないというメリットがあるので、とくに肥満の糖尿病患者さんや食事療法が守れない患者さんに適しています。 腎機能低下例、高齢者、乳酸アシドーシス、造影剤投与に関しては注意が必要ですが、単独で低血糖を起こしにくい薬剤ですので、注意が必要な点を守りながら投与すれば使いやすい薬剤です。-初期投与量と投与回数を教えてください。 通常、1日500mg(1日2~3回に分割)から開始します(各製品添付文書より)。食後投与のものと食前・食後いずれも投与可能な薬剤がありますが、最も異なる点は1日最大用量で、750mg/日(商品名:グリコラン、メデット)と2,250mg/日(同:メトグルコ)があります。メトグルコは通常、750~1,500mg/日が維持用量です。 メトホルミンの主な副作用として消化器症状がありますが、程度には個人差があるように感じています。消化器症状は用量依存性に増加するので、投与初期と増量時に注意し、消化器症状の発現をできるだけ少なくするために、増量する際は1ヵ月以上空けるとよいでしょう。-どの程度の腎障害および肝障害の時、投与を控えたほうがよいでしょうか。 メトグルコを除くBG薬は、腎機能障害患者さん(透析患者含む)には禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、腎機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に腎機能を確認して慎重に投与することとされており、中等度以上の腎機能障害および透析中の患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、血清クレアチニン値が「男性:1.3mg/dL、女性:1.2mg/dL以上」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。 ただし、高齢患者さんの場合、血清クレアチニン値が正常範囲内であっても、実際の腎機能は低下していることがあるので(潜在的な腎機能低下)、eGFR(推定糸球体濾過量)も考慮して腎機能を評価したほうがよいでしょう。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスとの関連から、腎機能の評価としてeGFRを用い、「eGFRが30mL/分/1.73m2未満の場合にはメトホルミンは禁忌、eGFRが30~45mL/分/1.73m2の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする」としています2)。 メトグルコを除くBG薬は、肝機能障害患者さんには禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、肝機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に肝機能を確認して慎重に投与することとされており、重度の肝機能障害患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、「ASTまたはALTが基準値上限の2.5倍以上の患者さんおよび肝硬変患者さん」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。-造影剤と併用する時のリスクはどのくらい高いですか? 尿路造影検査やCT検査、血管造影検査で用いられるヨード造影剤との併用によるリスクの程度に関する報告はありませんが、ヨード造影剤は、腎機能を低下させる可能性があるため、乳酸アシドーシスを避けるために、使用する場合は「検査の2日前から検査の2日後の計5日間(緊急の場合を除く)」は服用を中止します3)。また、検査の2日後以降に投与を再開する際には、患者さんの状態に十分注意をする必要があります。-乳酸アシドーシスの頻度と、予防・管理の方法を教えてください。 BG薬による乳酸アシドーシス発現例が多く報告された1970年代を中心とする調査では、フェンホルミン(販売中止)で10万人・年当たり20~60例、メトホルミンでの頻度は10万人・年当たり1~7例程度と報告されています4)。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴として、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4.高齢者 を挙げています2)。 腎機能や心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、高齢者といった点は、医療従事者側が留意すべきことですが、脱水やシックデイ、過度のアルコール摂取といった点については、これらが乳酸アシドーシスのリスクになるということを患者さんにお伝えしたうえで指導する必要があります。 とくに、脱水には注意が必要です。夏場、室内でも脱水を起こす可能性があること、発熱、嘔吐、下痢、食欲不振などを来すシックデイのときには脱水を起こす可能性があるため、服薬を中止し、かかりつけ医に相談するなど、患者さんに指導する必要があります。炎天下で農作業を行う方も注意が必要です。とりわけ高齢者は脱水に気付きにくいという特徴があります。また、利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)を服用している場合にも注意が必要です。-高齢者に投与する際の用量について知りたいです。そのまま使い続けてよいのでしょうか。 メトホルミンは、高齢者では、腎・肝機能が低下していることが多く、脱水も起こしやすいため、乳酸アシドーシスとの関連から慎重投与するとされています。高齢者については、青壮年に発症し、すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合と、高齢になってから発症した場合に分けて考えます。すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合は、とくに問題がなければ、メトホルミンによって得られる効果を考慮して継続しますが、定期的に腎・肝機能については観察すること、また、用量についても、高用量は使用せず、私は500~750mg/日で維持するようにしています。 高齢になって発症した場合、とくに75歳以上では、慎重な判断が必要とされていますが2)、基本的には推奨されません。1)メトグルコ製品添付文書(2016年3月改訂)2)日本糖尿病学会. メトホルミンの適正使用に関する Recommendation(2016年5月12日改訂)3)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド20156-2017. 文光堂;2016.4)Berger W. Horm Metab Res Suppl. 1985;15:111-115.

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第30回

第30回:造影CT検査を適正に行うために監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 CT(Computed Tomography)検査は物体を透過したX線の量をデータとして集めてコンピュータ処理し、物体の断面画像を得る検査です。現在、多くの施設で実用化されている装置はマルチスライスCTと呼ばれ、短時間で広範囲を撮影することができるうえ、立体的な画像(3D画像)を容易に撮像できるようになり、今日の日常診療で欠かせない検査となっています1) 。 今回の記事では造影CT検査撮像の適応、造影剤の副作用などを中心に、適正な使用について今一度整理をしてみます。 以下、American Family Physician 2013年 9月1日号2) より造影CT検査を適切に行うためには造影剤の種類・リスク・禁忌・造影剤使用が適切な臨床状況を知っておくことが必要である。<製剤の種類と投与経路>最もよく使用される造影剤はバリウムやヨード製剤があり、投与経路は経口・直腸・静脈・くも膜下投与が挙げられる。経口製剤は一般的に腸の病変が疑われる場合や、腹部・骨盤CTで使用される。直腸投与は直腸穿孔が疑われるときに適応となる。静脈製剤は血管組織や腹部・骨盤の固形臓器の評価の際に適応となる。くも膜下でのヨード製剤投与は脊髄造影で、脊髄・基底槽病変や脳脊髄液漏出の評価に用いられる。<造影剤の副作用>ヨードの濃度で高浸透圧か低浸透圧に分類され、ほとんどの施設は非ヨード性製剤(低浸透圧製剤)を使用する。重篤な副反応にはアナフィラキシー症状が挙げられ、頻度は1/170,000とされている。非ヨード製剤のほうが副反応は少ないとされている。造影剤の副作用のリスクとしては、薬剤アレルギーと気管支喘息が挙げられる。また腎障害も造影剤使用の際には注意が必要である。腎機能のスクリーニングとして、検査1ヵ月前にクレアチニンが測定され、一般的にクレアチニン1.5~2.0mg/dL以上、または増加傾向のときに他の投与方法を検討しなければならない。造影剤による腎症を起こすリスク因子は、慢性腎臓病・糖尿病・心不全・高齢・貧血・左室機能障害・大量の造影剤使用が挙げられる。<造影剤使用の注意点>静注製剤が忌避を検討すべきときは、造影剤への過敏性の既往・妊娠・甲状腺疾患に対するヨード製剤使用・メトホルミン製剤使用・腎不全が挙げられる。過敏反応はその重症度を評価し、それが小さな反応であれば前投薬(ジフェンヒドラミンとコルチコステロイド)でリスクが減る可能性がある。【アナフィラキシー反応の既往がある患者】緊急時以外は造影剤使用を控えるべきである。【妊婦】造影剤が胎盤を通過するため注意が必要である。アメリカ放射線学会では妊婦に対する造影剤使用の推奨があり、母体と胎児のケアに影響がある情報が造影剤使用でないと得られず、撮像指示医が妊娠後まで待てないと判断した場合に推奨される。【ヨード製剤で加療中の甲状腺疾患の患者】ヨード系造影剤使用で甲状腺へのI-131の取り込みが減弱し、治療効果が落ちるので使用を避けるべきである。【メトホルミン使用の患者】腎機能を変化させメトホルミン排泄を障害する可能性があり、代謝性アシドーシスのリスクが上がる (頻度はまれだが、腎機能障害の患者で相対的に多い)。アメリカ放射線学会の推奨では、腎機能正常時・合併症がないときはメトホルミン使用継続・クレアチニンの測定不要で、それ以外ではメトホルミン内服制限・クレアチニン測定が推奨される。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本放射線技術学会. CT検査. http://www.jsrt.or.jp/data/citizen/housya/ct-01/ (2016.6.30参照). 2) James V,et al. Am Fam Phisician.2013;88(5):312-316

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FDAが生体吸収性ステント承認

 米国食品医薬品局(FDA)は2016年7月5日、冠動脈疾患治療に対する初の完全生体吸収性ステントを承認した。Abbott Vascular社のAbsorb GT1生体吸収性スキャフォールドシステム(BVS)は、瘢痕組織の成長抑制のためにエベロリムスを溶出し、約3年間で徐々に体内に吸収される。 Absorb GT1 BVSは、poly(L-lactide)と呼ばれる生体分解性ポリマーで構成される。これは縫合糸など生体吸収性の医療機器に使用される材料である。ステントが不要になると、デバイスは生体に吸収され、動脈内の異物としての存在は徐々に消えていく。吸収後は、心臓専門医の識別のために、留置場所の動脈壁に4つの非常に小さなプラチナマーカーだけが残る。 FDAはAbsorb GT1 BVSの承認に当たり、薬剤溶出金属ステントとの主要心臓有害イベント発生率を比較した2,008例の無作為化試験のデータを評価した。1年後の主要心臓有害事象発生率は、Absorb GT1 BVS群で7.8%であり、対照群(6.1%)と臨床的な同等性を示した。また、1年後のデバイス内の血栓形成率は、Absorb GT1 BVS群で1.54%、対照群では0.74%であった。 Absorb GT1 BVSの禁忌は、エベロリムスまたはpoly(L-lactide)、poly(D、L-lactide)、プラチナなどのデバイス材料に過敏症またはアレルギーを有する患者。また、血管形成術の対象ではない患者、造影剤過敏症患者、アスピリンと他の抗血小板薬の長期併用療法が実施できない患者にも禁忌である。FDAのプレスリリースはこちら

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心房細動に対する肺静脈隔離:クライオバルーン法は高周波アブレーション法に効果として非劣性、同等の安全性(解説:今井 靖 氏)-534

 薬物治療抵抗性発作性心房細動に対して、カテーテルアブレーションによる肺静脈隔離術は、ガイドラインにおいて推奨される治療法として確立している。高周波カテーテルアブレーションが広く普及しているが、クライオバルーン法がそれに続く治療法として注目を集めており、本邦においても昨年秋から広く実施されるようになった。 この論文は、上記対象疾患に対して、クライオバルーン法が高周波カテーテルアブレーションに非劣性であることを示すために行われた、多施設ランダム化比較試験である。有効性におけるプライマリーエンドポイントは、治療後90日以内における最初の臨床的なイベント(心房細動、心房粗動または心房頻拍の発症、抗不整脈薬の使用、再度のアブレーション)とされた。 安全性におけるプライマリーエンドポイントは死亡、脳血管イベント、重大な治療関連合併症の複合とされている。762例がランダム化され、378例がクライオバルーン、384例が高周波アブレーションに割り付けられた。平均追跡期間は1.5年であった。有効性エンドポイントにおいては、クライオバルーン法では138例、高周波アブレーション群では143例に認められた(Kaplan–Meier法による1年間あたりのイベント発生推計;クライオバルーン法34.6%、高周波アブレーション法35.9%、ハザード比:0.96、95%信頼区間:0.76~1.22、非劣性評価においてp<0.001)。安全性におけるプライマリーエンドポイントは、クライオバルーン法において40例、高周波アブレーション法では51例に認められた(Kaplan–Meier法における年間あたりのイベント推計;クライオバルーン法10.2%、高周波アブレーション法12.8%、ハザード比:0.78、95%信頼区間:0.52~1.18、p=0.24)。 結論として、治療抵抗性発作性心房細動に対するクライオバルーン法は高周波アブレーションに対して非劣性であったが、全体としての安全性において差異は認められなかった。 クライオバルーン法は、この研究においては第1世代のバルーンが当初使用され、臨床試験の途中から第2世代のバルーンが用いられている。第1世代はバルーン全体が冷却される一方、第2世代のバルーンになり、肺静脈に接触する尖端側の半球側のみが冷却される構造に改良されている。なお、本邦に昨年秋から導入されたのはこの第2世代のクライオバルーンである。本研究においてもサブ解析で第1世代と第2世代のクライオバルーンが比較されているが、後者のほうが心房性不整脈などのエンドポイント発生が低い、すなわち有効性が高いという結果が認められている。一方、高周波アブレーション法も、最近は3次元マッピング法を基本として、カテーテル尖端圧(コンタクトフォース)の把握、一定部位に有効な通電が得られたと考えられる場合にタグを表示するVisiTag(Webster)など進歩が目覚ましい。3次元マッピング法は、放射線による透視を最小限に抑えて手技が実施できるところまで進化してきているが、クライオバルーン法は短時間にかつ簡便に肺静脈隔離が達成できる一方、透視と肺静脈に楔入されていることを確認するための造影剤使用を行わざるを得ないという点、肺静脈の解剖学的形態により、バルーン法による治療が困難な場合もある。 また、クライオバルーン法においては横隔神経麻痺の発症が比較的高いという懸念もあったが、日常臨床においては、横隔神経刺激における筋電図モニタリング(CMAP)の実施によりその障害も特に本邦では低率に抑えられている。肺静脈、左房の形態がバルーン法に適するかどうか事前にCT、MRIにおいて左房、肺静脈の形態把握をすることが肝要と思われる。 今回の研究により、新しいクライオバルーン法が高周波アブレーション法に非劣性であることが示されたことにより、患者ごとに適する治療手段で治療効果をさらに高めることが出来れば良いと考えられる。肺静脈・左房の形態が、クライオバルーンに適する場合はクライオバルーンを選択、形態的に適さない場合や肺静脈隔離以外に付加的に心房内線状焼灼、CFAE、GP ablation、rotor ablationなどを行う場合は高周波アブレーションを行う、といった具合に、症例ごとに至適化する必要性があると考えられる。

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eGFRが30未満は禁忌-メトホルミンの適正使用に関する Recommendation

 日本糖尿病学会「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」は、5月12日に「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」の改訂版を公表した。 わが国では、諸外国と比較し、頻度は高くないもののメトホルミン使用時に乳酸アシドーシスが報告されていることから2012年2月にRecommendationを発表、2014年3月に改訂を行っている。とくに今回は、米国FDAから“Drug Safety Communication”が出されたことを受け、従来のクレアチニンによる腎機能評価から推定糸球体濾過量eGFRによる評価へ変更することを主にし、内容をアップデートしたものである。メトホルミン使用時の乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴1)腎機能障害患者(透析患者を含む)2)脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3)心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4)高齢者 高齢者だけでなく、比較的若年者でも少量投与でも、上記の特徴を有する患者で、乳酸アシドーシスの発現が報告されていることに注意。メトホルミンの適正使用に関するRecommendation まず、経口摂取が困難な患者や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以下の事項に留意する。1)腎機能障害患者(透析患者を含む) 腎機能を推定糸球体濾過量eGFRで評価し、eGFRが30(mL/分/1.73m2)未満の場合にはメトホルミンは禁忌である。eGFRが30~45の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする。脱水、ショック、急性心筋梗塞、重症感染症の場合などやヨード造影剤の併用などではeGFRが急激に低下することがあるので注意を要する。eGFRが30~60の患者では、ヨード造影剤検査の前あるいは造影時にメトホルミンを中止して48時間後にeGFRを再評価して再開する。なお、eGFRが45以上また60以上の場合でも、腎血流量を低下させる薬剤(レニン・アンジオテンシン系の阻害薬、利尿薬、NSAIDsなど)の使用などにより腎機能が急激に悪化する場合があるので注意を要する。2)脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取などの患者への注意・指導が必要な状態 すべてのメトホルミンは、脱水、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐などの胃腸障害のある患者、過度のアルコール摂取の患者で禁忌である。利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)との併用時には、とくに脱水に対する注意が必要である。 以下の内容について患者に注意・指導する。また、患者の状況に応じて家族にも指導する。シックデイの際には脱水が懸念されるので、いったん服薬を中止し、主治医に相談する。脱水を予防するために日常生活において適度な水分摂取を心がける。アルコール摂取については、過度の摂取を避け適量にとどめ、肝疾患などのある症例では禁酒する。3)心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者 すべてのメトホルミンは、高度の心血管・肺機能障害(ショック、急性うっ血性心不全、急性心筋梗塞、呼吸不全、肺塞栓など低酸素血症を伴いやすい状態)、外科手術(飲食物の摂取が制限されない小手術を除く)前後の患者には禁忌である。また、メトホルミンでは軽度~中等度の肝機能障害には慎重投与である。4)高齢者 メトホルミンは高齢者では慎重に投与する。高齢者では腎機能、肝機能の予備能が低下していることが多いことから定期的に腎機能(eGFR)、肝機能や患者の状態を慎重に観察し、投与量の調節や投与の継続を検討しなければならない。とくに75歳以上の高齢者ではより慎重な判断が必要である。「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」からのお知らせはこちら。

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deferredステント留置はSTEMIの予後を改善するか/Lancet

 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の治療において、ステント留置を即座には行わないdeferredステント留置と呼ばれるアプローチは、従来の即時的な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)に比べて、死亡や心不全、再発心筋梗塞、再血行再建術を抑制しないことが、デンマーク・ロスキレ病院のHenning Kelbaek氏らが行ったDANAMI 3-DEFER試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年4月3日号に掲載された。STEMI患者では、ステント留置を用いたPCIによって責任動脈病変の治療に成功しても、遺残血栓に起因する血栓塞栓症で予後が損なわれる可能性がある。これに対し、梗塞関連動脈の血流が安定した後に行われるdeferredまたはdelayedステント留置は、冠動脈の血流を保持し、血栓塞栓症のリスクを低減することで、臨床転帰の改善をもたらす可能性が示唆され、種々の臨床試験が行われている。deferredステント留置の有用性を無作為試験で評価 DANAMI 3-DEFER試験は、デンマークの4つのPCIセンターが参加する3つのDANAMI 3プログラムの1つで、STEMI患者においてdeferredステント留置と標準的PCIの臨床転帰を比較する非盲検無作為化対照比較試験(デンマーク科学技術革新庁などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、胸痛発症から12時間以内で、心電図の2つ以上の隣接する誘導で0.1mV以上のST上昇または新規の左脚ブロックの発現がみられる患者であった。 被験者は、deferredステント留置または即時的に標準的なプライマリPCIを施行する群に無作為に割り付けられた。プライマリPCIは薬剤溶出ステント留置が望ましいとされた。 deferred群では、病院到着時の冠動脈造影で梗塞関連動脈の血流が安定化する可能性がある場合は約48時間(最短でも24時間以上、この間にGP IIb/IIIa受容体拮抗薬などを4時間以上静脈内投与)後に再造影を行い、血流の安定化が確認されればステント留置を行わないこととした。 主要評価項目は、2年以内の全死因死亡、心不全による入院、心筋梗塞の再発、予定外の標的血管の血行再建術の複合エンドポイントとした。 2011年3月1日~14年2月28日までに1,215例が登録され、deferred群に603例、標準的PCI群には612例が割り付けられた。予定外の標的血管血行再建術はdeferred群で高頻度 年齢中央値はdeferred群が61歳、標準的PCI群は62歳、男性がそれぞれ76%、74%であった。糖尿病がそれぞれ9%、9%、高血圧が41%、41%、喫煙者が54%、51%、心筋梗塞の既往歴ありが6%、7%含まれた。多枝病変は41%、39%であった。 発症から施術までの期間中央値は両群とも168分であり、フォローアップ期間中央値は42ヵ月(四分位範囲:33~49)だった。 主要エンドポイントの発生率は、deferred群が17%(105/603例)、標準的PCI群は18%(109/612例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.75~1.29、p=0.92)。 主要エンドポイントの個々の項目のうち、全死因死亡(p=0.37)、心不全による入院(p=0.49)、非致死的心筋梗塞の再発(p=0.49)には差がなかったが、予定外の標的血管の血行再建術はdeferred群のほうが有意に多かった(HR:1.70、95%CI:1.04~2.92、p=0.0342)。 また、心臓死(p=0.58)、PCIによる標的血管の血行再建術(p=0.11)、冠動脈バイパス・グラフト術(CABG)による標的血管の血行再建術(p=0.15)にも差はみられなかった。18ヵ月時の左室駆出率は、deferred群がわずかに良好だった(54.8 vs.53.5%、p=0.0431) 手技関連の心筋梗塞、輸血または手術を要する出血、造影剤誘発性腎症、脳卒中を合わせた発生率は、deferred群が4%(27/603例)、標準的PCI群は5%(28/612例)であり、両群間に差を認めず、個々の項目にも差はなかった。 著者は、「現在、類似の3つの臨床試験(MIMI試験、INNOVATION試験、PRIMACY試験)が進行中であり、これらの試験の結果がSTEMIにおけるdeferredステント留置の概念にさらなる光を投げかける可能性がある」としている。

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第31回 特別編「医療事故調査制度」の概要と展望

2015年10月より医療事故調査制度が正式に始まった。医療事故調査・支援センターとして指定された「日本医療安全調査機構」には、2016年3月現在、累計で188件の医療事故報告(相談は累計1,012件)が行われている。今後、さらに報告を収集・分析していくことで、同じような医療事故を防ぐ防波堤となり、患者さんの医療安全へつながることが期待されている。本コンテンツでは、厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の構成員として、わが国の医療安全を担う新制度の構築に参画してきた医師・弁護士であり、「MediLegal」の執筆者である大磯 義一郎 氏(浜松医科大学医学部医学科医療法学 教授)に新制度の概要を聞いた。2015年10月に発足した医療事故調査制度の概要について教えてください。この医療事故調査制度の目的は、医療法の「第3章 医療の安全の確保」に位置付けられているとおり、「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」です。また、医療法上、この制度の対象となる医療事故は、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」とされています。そして、新医療事故調査制度では、この「医療事故」については、医療事故調査支援センターへの報告義務と調査義務が各医療機関の管理者(院長や施設長)に課せられています。どのような場合が「報告対象」に当たるかについては、1)「予期しなかった死亡」、かつ、2)「医療に起因する死亡」の2つの要件を満たす必要があります。1)の「予期しなかった死亡」とは、「当該死亡又は死産が予期されていなかったものとして、以下の事項のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの」(医療法施行規則1条の十の二 第1項)と定義されており、国語辞典的な「そのようなことが起こるとは想定していなかった」という意味ではありません。省令では、(1)あらかじめ患者さんに説明していた場合、(2)診療録その他の文書等に記録していた場合、(3)管理者が医療従事者や医療安全管理委員会からの意見を聞き、当該死亡が予期できたと認めた場合のいずれにも該当しないと管理者が認めた場合には、本制度における「予期しなかった死亡」となるとしています。医療機関に対し、積極的に患者に情報提供をしたり、記録化を進めることで、報告義務を免除するというインセンティブを与えているのです。2)「医療に起因する死亡」とは、原則的には、侵襲的な医療行為(手術、処置、投薬、検査、輸血など)をいい、単なる療養、転倒や転落、誤嚥などの行為は本制度での「医療」には当たらず、報告の対象外とされています。発生した事故が、1)と2)の要件を満たすかどうかを最終的に管理者が判断することになります。その際、現場の医療従事者個人に過重な責任を負わせてきた過去の苦い反省を踏まえ、「当該医療事故に関わった医療従事者などから十分事情を聴取したうえで、組織として判断する」とされています。新制度では、院内調査が中心となり、その主体、調査手法については、管理者の幅広い裁量に委ねられています。したがって、外部委員を入れることは必須ではありません。最後に、医療機関が「医療事故」として医療事故調査・支援センターに報告した事案について、遺族または医療機関が医療事故調査・支援センターに調査を依頼した時は、医療事故調査・支援センターが調査を行うことができます。調査終了後、医療事故調査・支援センターは、調査結果を医療機関と遺族に報告することになります。画像を拡大する医療安全の議論から新制度発足まで、10年近くを要した経緯を教えてください。医療安全への取り組みは、一般に医療萎縮が始まったとされる大野病院事件が起こる、少し前からあった議論です。ただ、当時は医療安全が主たる目的ではなく、過熱した医療紛争の処理が中心的な課題でした。したがって、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」では、個別事案の医学的評価、すなわち、誰の責任かを明らかにすることが中心的な活動となりました。その後、大野病院事件が発生し、医療領域への司法の過剰介入により医療萎縮が起こり、日本の医療が崩壊しかけました。このままでは日本の医療は本当に崩壊してしまうというところまで来て、ようやくトカゲのしっぽ切り的な責任追及ではなく、真面目に医療安全を行おうという機運が生まれてきました。そこで、ちょうどモデル事業が終了するということで、厚生労働省の支援により「医療安全」を主目的に、さらに発展拡大する本制度、組織の発足へとつながりました。この新しい制度では、医療事故事例を収集・集積し、内容を分析することで、次の事故の発生を防止し、患者さんの安全に役立てようということが理念として掲げられました。事故を起こした個人の責任追及の場には、決してしないということです。ただ、患者訴訟団体やその他の団体のそれぞれの思いもあり、本制度の設計の際には議論が難航しました。しかし、最終的に当初の理念通り、2015年10月に正式にスタートすることとなりました。制度構築の途中でとくに議論された事項は何ですか?新制度構築の中でとくに議論された内容は、その理念と運用です。この制度の理念は「医療安全」です。これについては、審議会でも、ほぼ異論なく受け入れられました。しかし、運用については、議論の途中で「医療事故を起こした個人への責任追及」や「裁判で使える文書作成」などさまざまな意見も出されました。そこで、わが国の医療安全のエキスパートに意見を聞いたり、諸外国の同じような制度との比較・検討により、医療安全のためには『WHOドラフトガイドライン2005』でも示しているように、「非懲罰性」と「秘匿性」を報告システムに盛り込むことが重要となりました。「医療安全」とは、将来の同種事故の発生リスクを低下させることで、患者さんの生命を守ることを目的としています。それに加え、患者さんに直接医療行為を行う頻度が高いことから、「加害者」の立場に立たされやすい未来ある若い医師、看護師など医療従事者を守ることも重要です。そうでないと、再び医療萎縮が再燃し、かえって患者さんの利益を害することになりかねないからです。医療事故は、確率的に何万回かに1回は、必ず起きます。これは人的、物的さまざまな要因により、完全に防ぐことは不可能です。ですから、たまたまそのときに行為者となった医療者だけに責任を負わせるような従来の事故対応では、今後も事故の発生を減少させることはできません。そこで、今回の制度では、個人責任追及ではなく、医療をシステムとして捉え、科学的に検証を行い、医療安全という結果を出していこうということが話し合われました。何よりも大事なことは、これまでの「収集事業」のように、医療事故のデータを収集するだけではだめで、分析、検証し、次のアクションへつなげることが重要です。一例を紹介しますと、米国でも日本と同じように脊髄撮影造影剤での事故が起きています。当初、日本と同じように造影剤の添付文書に警告を入れましたが、また同じような事故が起こった。なぜ同じ事故が起こるのか、分析し、検証することで医療者のダブルチェック体制の構築や薬剤保管場所の分離、臨床現場での啓発など具体的な行動が推奨され、事故を防止する対策が取られています。そして、この間、日本で行われたような個人への責任追及は行われていません。新しい医療事故調査制度では、医療事故データを集め、きちんとPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回すこと。すなわちデータ収集・分析後、対応策を考え、その効果検証を行い、さらにブラッシュアップし、新しいサイクルを回すことが運用として求められます。日本では、約十数年の間、医療安全対策について何ら結果が出せていない状態でした。そのため、医療事故を科学的に検証し、ブラシュアップしていくことで、アウトカムを出そうということになりました。医療事故発生時の対応やグレーゾーン事案での対応はどうなりますか?医療事故発生時のフローは最初に述べたようになりますが、新制度で重要なことは、事故が起こった場合に、最初に本制度における「医療事故」に該当するか判断しなければなりません。新制度では、予期要件(患者さんへの説明と同意、カルテに記載など)があれば、医療機関へのインセンティブとして報告を免除する仕組みもあり、同じ態様の死亡事故でも、個々のケースで報告するか・しないかが変わってきます。医療起因性があるかどうかも含め、報告事案になるかどうかを、管理者は初めに見極める必要があります。原則として、病院などが患者さんへインフォームドコンセントやカルテへの記載で死亡のリスクを明示していれば、報告の必要はありません。しかし、そうでない場合、当該事故が予期できなかったのかおよびその事故がはたして医療に起因する死亡事故なのかどうか、判断する必要があります。ここで注意しておきたいのが、誤診のようなそもそも事故ではない場合や介助などの医療起因性のない場合は含まないということです。本制度は管理者に幅広い裁量権を認めておりますので、グレーゾーン事案では、管理者の判断に負うところが大きいと言えます。新制度はそのように規定していますので、管理者が判断し、事故の報告をする・しないを決定することになります。ただ、将来的にはグレーゾーン事案も、医療事故調査・支援センターへの報告が望ましいと全国の管理者が考えるようになればと考えています。そのためにも、医療事故調査・支援センターは、これまでのように、個別事案の評価を行い、個人責任の追及を支援していくのではなく、医療安全をサイエンスとして分析・検証し、医療安全という結果を示すことができる組織へと変身していく必要があると考えています。今後の新制度の展望について教えてください。また、個々の医療機関でできることには何があるでしょうか。まず、新制度に望むものとして、医療事故として報告された事例を収集するだけでおしまいではなく、医療安全のために、集めたデータを解析して、対策を立て、それを現場に落とし込んで、その効果を検証するというサイクルを回してほしいということです。検証していくことが、日本の医療をより良くしていきます。その中で医療事故調査・支援センターの役割は、大きくなる可能性があります。センターは、個別具体的な事案に捉われるのではなく、将来の同種事故を防ぐため、サイエンスとして医療安全を行い、結果を出していくことが重要になってくるでしょう。また、個々の医療機関でできることとして、院内でも事故防止のため独自に決めたPDCAサイクルを回しながら、日々の診療に当たることです。その際、患者さんへのインフォームドコンセントやカルテへの記載など、きちんと行うべきことは必ず実施してほしい事項です。関連リンク厚生労働省医療安全対策日本医療安全調査機構

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