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177)診察室で15秒!超簡単な体力測定法【糖尿病患者指導画集】

患者さん用:片脚立ちで何秒立てる?説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師最近、自分の体力についてどう思いますか?患者運動不足で、だんだん体力が落ちてきている気がします。医師そうですか。それでは、簡単にできる体力テストをしてみましょう。患者どうすればいいですか?医師目を開けたまま、片脚で立ってください。何秒間立っていることができるでしょうか。…さっそくやってみましょう。ハイ、スタート!患者……(開眼片脚立ちにチャレンジ)。あー、もうだめです。医師13秒間でしたね。患者それってどうなんですか?医師15秒未満だったので、転倒リスクが高い運動器不安定症が疑われます。患者えっ、そうですか…。そう言えば、最近つまずきやすいかもしれません。医師そうでしたか。転倒は入院や寝たきりにつながるので、もう少し体力をつけたほうがよさそうですね。転倒を予防できるいい運動がありますよ!患者どんな運動ですか? 教えてください!(興味津々)医師それは…。(転倒予防の話に展開)※診察室では、ケガのリスクなどに十分注意して実施してください。●ポイント体力低下は転倒リスクにつながるので、運動の必要性を意識してもらいます。参考公益社団法人 日本整形外科学会 運動器不安定症【訂正のお知らせ】「閉眼」⇒「開眼」に訂正いたしました(2019年7月16日)。

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骨粗鬆症治療薬が筋力を左右する?

 骨粗鬆症治療を受けている患者は骨折リスクだけではなく、筋力の低下も問題である。そんな患者を抱える医師へ期待できる治療法の研究結果を紹介すべく、2019年6月14日、第19回日本抗加齢医学会総会にて宮腰 尚久氏(秋田大学大学院整形外科学講座 准教授)が「骨粗鬆症治療薬による筋力とバランスの変化」について講演した。骨粗鬆症治療薬が筋にも影響? 近年、骨粗鬆症治療薬である活性型ビタミンD3薬において、筋やバランスに対する効果が報告されている。骨粗鬆症治療には、骨折の予防だけではなく、転倒リスクの軽減も求められる。そのため、転倒予防として筋力の低下やバランス障害の改善も視野に入れなければならない。既存の骨粗鬆症治療薬においては、間接的作用として、骨折抑制による廃用予防や鎮痛作用による身体活動の維持が検証されてきた。宮腰氏は、「直接作用である筋・バランスに対する何らかの効果を検証する必要がある」とし、それらの臨床試験が実施された薬物(活性型ビタミンD3、アレンドロネート、ラロキシフェン)を提示した。 ラロキシフェンの場合、閉経後女性に対する投与後の体組成と筋力の変化をみた研究によると、Fat-free massと水分量でプラセボ群と有意な差がみられたが、膝の伸展筋力や握力には有意差がみられなかった。一方で、アレンドロネートを投与すると握力が増える、あるいはサルコペニアのバイオマーカーであるIL-6の減少が報告されているが、この効果を発揮させるためにビタミンDを併用する場合がある。同氏が今回引用した研究1)でも、アレンドロネートにカルシトリオールが併用されており、「筋力とIL-6の変化はビタミンDによる影響が大きい」とコメント。また、海外文献のメタアナリシスより天然型ビタミンD、活性型ビタミンD3で有意な転倒抑制効果があると報告した。日本人の骨粗鬆症患者にもビタミンD併用は有用か? このような海外データを踏まえ、同氏らは活性型ビタミンD3による影響を国内でも検証するために、『多施設共同研究による活性型ビタミンD3薬の転倒関連運動機能に対する効果の検討』を実施。75歳以上の閉経後骨粗鬆症患者のうち、易転倒性を有すると考えられる利き手の握力が18kg未満の患者を対象とし、転倒回数と転倒関連運動機能について6ヵ月間の活性型ビタミンD3製剤(カルシトリオール、アルファカルシドールのみ)投与の介入前後で比較した試験2)を行った。その結果、観察期間から最終評価時において握力と5m歩行速度、Timed up&goテストにおいて有意な改善が得られた。エルデカルシトールではどうか ビタミンDの筋に対する基礎研究から、ビタミンD受容体に作用して筋の同化に関わるジェノミック作用、カルシウム代謝などのさまざまな経路を介するラピッドエフェクト(ノンジェノミック作用)があり、それらをもって筋肉に作用することが明らかになっている。 しかし、エルデカルシトール(ELD)を用いた研究が世界的になされていないことから、同氏らはELDが筋力や動的バランスに有効性を発揮するか否かについて、ラットによる動物実験ののち、臨床試験にて検証。閉経後女性をアレンドロネート35mg/週単独群14例とELD0.75μg/日併用群17例に割り付け、握力、背筋力、腸腰筋力、動的座位バランスなどを測定した。その結果、動的バランス能力、外乱負荷応答の各指標であるTUGテスト、動的座位バランスが改善した。このことから同氏は「ELDは動的バランス能力の改善に寄与している可能性がある」と示唆した。 同氏はビタミンDと運動を併せた動物実験なども行ったうえで、骨粗鬆症治療薬における「ビタミンDの筋に対する効果を期待するためには“運動療法との併用”が実践的かもしれない」と締めくくった。

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第13回 頭部外傷 その原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)発症様式を必ずチェック!突然発症は要注意!2)失神は突然発症だ!心血管性失神を見逃すな!3)外傷の背景に失神あり。必ず前後の痛みの有無をチェック!【症例】65歳女性。来院当日、娘さんとスーパーへ出掛けた。レジで並んでいる最中に倒れ、後頭部を打撲した。目撃した娘さんが声を掛けると数十秒以内に反応があったが、頭をぶつけており、出血も認めたため救急車を要請した。●搬送時のバイタルサイン意識清明血圧152/88mmHg脈拍100回/分(整)呼吸18回/分SpO296%(RA)体温36.5℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(61歳~)、脂質異常症(61歳~)内服薬アムロジピン(Ca拮抗薬)、アトルバスタチン(スタチン)外傷患者に出会ったら高齢者が外傷を理由に来院することは非常に多く、軽症頭部外傷、胸腰椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折などは、しばしば経験します。「段差につまずき転倒した」「滑って転倒した」など、受傷原因が明確であれば問題ないのですが、受傷前の状況がはっきりしない場合には注意して対応する必要があります。大切なのは「なぜけがを負ったのか」、すなわち受傷機転です。結果として引き起こされた外傷の対応も重要ですが、受傷原因のほうが予後に直結することが少なくありません。失神の定義突然ですが、失神とは何でしょうか?意識消失、一過性全健忘、痙攣、一過性脳虚血発作などと明確に区別する必要があります。失神は一般的に、(1)瞬間的な意識消失発作、(2)姿勢保持筋緊張の消失、(3)数秒~数分以内の症状の改善を特徴とします。(1)~(3)を言い換えれば、それぞれ(1)突然発症、(2)外傷を伴うことが多い、(3)意識障害は認めないということです。失神は表1のように分類され、この中でも心血管性失神は見逃し厳禁です1)。決して忘れてはいけない具体的な疾患の覚え方は“HEARTS”(表2)です2)。これらは必ず頭に入れておきましょう。画像を拡大する画像を拡大する外傷の原因が失神であることは珍しくありません。Bhatらのデータによると、外傷患者の3.3%が失神が契機となったとされています3)。姿勢保持筋緊張が消失するために、立っていられなくなり倒れるわけです。完全に気を失わなければ手が出るかもしれませんが、失神した場合には、そのまま頭部や下顎をぶつけるようにして受傷します。頭部打撲、頬部打撲、下顎骨骨折などに代表される外傷を診たら、なぜ手が出なかったのか、失神したのかもしれない、と考える癖を持つとよいでしょう。痛みの有無を必ず確認外傷患者を診たら、誰もが疼痛部位を確認すると思います。Japan Advanced Trauma Evaluation and Care(JATEC)にのっとり、身体診察をとりながら、疼痛部位を評価しますが、その際、今現在の痛みの有無だけでなく、受傷時前後の疼痛の有無も確認しましょう。クモ膜下出血、大動脈解離のそれぞれ10%は失神を主訴に来院します。発症時に頭痛や後頸部痛の訴えがあればクモ膜下出血を、胸痛や腹痛、背部痛を認める場合には大動脈解離を一度は鑑別診断に入れ、疑って病歴や身体所見、バイタルサインを解釈しましょう。検査前確率を意識して適切な検査のオーダーを失神患者にとって、最も大切な検査は心電図です。各国のガイドラインでも心電図は必須の検査とされています。しかし、その場で診断がつくことはまれです。症状が現時点ではないのが失神ですから、検査を施行しても捕まらない、当たり前といえば当たり前です。房室ブロックに代表される不整脈が、その場でキャッチできればもうけものといった感じでしょう。また、心電図に異常を認めるからといって、心臓が原因とは限らないことにも注意しましょう。たとえばクモ膜下出血では90%以上に心電図変化(Big U wave、Prolonged QTc、ST depression など)が出るといわれます。ST低下を認めたからといって、心原性のみを考えていては困るわけです。本症例では、来院時の心電図でST低下が認められ、心原性の要素を考えて初療医は対応していました。しかし、受傷時に頭痛を訴えていたことが娘さんから確認できたため、クモ膜下出血を疑い頭部CT検査を施行し、診断に至りました。外傷患者を診たら受傷機転を考えること、はっきりしない場合には失神/前失神を鑑別に入れて病歴を聴取しましょう。“HEARTS”に代表される心血管性失神の可能性を考慮し、所見(収縮期雑音、血圧左右差、深部静脈血栓症の有無など)をとるのです。鑑別に挙げなければ、頭部外傷患者の下腿を診ることさえないでしょう。1)坂本 壮.救急外来 ただいま診断中!.中外医学社;2015.2)Brignole M,et al. Eur Heart J. 2018;39:1883-1948.3)Bhat PK,et al. J Emerg Med. 2014;46:1-8.

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高齢者診療の新たな概念“multi-morbidity”とは

 近年、注目されるようになった“multi-morbidity(マルチモビディティ)”という概念をご存じだろうか。multi-morbidityの明確な定義はまだ存在しないが、「同時に2種類以上の健康状態が併存し、診療の中心となる疾患が設定し難い状態」を示し、数年前から問題視されてきている。 このmulti-morbidityについて、2019年5月23日から3日間、仙台にて開催された第62回 日本糖尿病学会年次学術集会のシンポジウム12「糖尿病合併症 co-morbidityかmulti-morbidityか」で行われた竹屋 泰氏(大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学講師)の発表が参考になるので、以下に紹介する。multi-morbidityは「老年症候群」と共通する部分も多い multi-morbidityは、複雑で持続的なケアを要する状態で、基本的には、高齢者に特有な健康状態を示す「老年症候群」と共通する部分も多い。 multi-morbidityをわかりやすく例えると、めまいを主訴とする患者について考えたとき、患者が若年者や中年者であれば、めまいを起こす原因がいくつか特定できるだろう。しかし、加齢による生理的・病的・社会的な機能低下を伴う高齢者では、複数の小さな原因が複雑に交絡し合った結果、それらが収束され「めまいという一つの不調」を呈していることがある。 こういったケースの場合、原因を特定しづらく、対症療法として薬を処方した結果、いつの間にかポリファーマシーにより新たな不調を生じる恐れまで出てくるのが、主たる問題となるところだ。multi-morbidityの具体的な症例 高血圧、2型糖尿病、慢性心房細動、慢性心不全、COPDの診断を受け、通院中の88歳女性。3ヵ月前に転倒が原因と思われる硬膜下血腫に対し、血腫除去術を行っている。この際、服用していた抗凝固薬を休薬している。そのほかに、整形外科から鎮痛薬と骨粗鬆症薬、かかりつけ医(内科)からインスリンを含む9種、計12種類の薬剤が処方されている。一人暮らしで、要介護1。認知機能の低下も見られ、ケアマネジャーからは大量の残薬があると報告を受けている。 抗凝固薬を再開する益と害を考えると、CHADS2スコア:4点(脳卒中の年間発症リスク:高)、HAS-BLEDスコア:4点(重大な出血の年間発症リスク:高)だった。multi-morbidityの難しさ~休薬中の抗凝固薬を再開するか? この症例について、生命予後、QOL、患者の希望、医療経済なども加味して、患者本人、家族、薬剤師、ケアマネジャーなどと相談し、非常に悩んだ結果、抗凝固薬の再開について決断しなくてはならないとする。竹屋氏は、2つの選択肢を提示した。(1)抗凝固薬は害のほうが大きいと判断し、休薬を続行(2)抗凝固薬は益のほうが大きいと判断し、再開 (1)の休薬を続行した場合、この患者は1年後、心原性脳梗塞により左半身麻痺、寝たきりとなり、さらに1年後死亡した。こうなると、「あのとき、抗凝固薬を再開していればよかった」と思うかもしれない。では、もう一方の結末はどうなのだろうか。 (2)の抗凝固薬を再開した場合、1年後、患者が自宅で転倒し動けずにいるところをヘルパーが発見。脳出血により意識不明となり、そのまま9ヵ月後に死亡した。そうなると、「抗凝固薬を再開するべきではなかった」と思うだろう。とはいえ、選ばなかったほうの結末は誰にもわからない。 「こういった難しさがあるのが、multi-morbidity。現行の疾患別診療ガイドラインですべてに対応することは困難だ」と竹屋氏は指摘した。multi-morbidityに対しては治療方針の決定が容易でない 高齢者の複雑性(=multi-morbidity)に対しては、疾患ごとのガイドラインに従って薬物介入を行えばあっという間にポリファーマシーになってしまう。あるいは、ある疾患に対する有益な治療が、別の疾患に対して有害な治療になってしまうなど、治療方針の決定が容易でない。 このような状況にどう対応すべきか明確な答えはなく、エビデンスがあるものについては従来の疾患別ガイドラインを用い、ない場合は『高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン1)』などを参考に適切なプロセスを実践していくしかないのが現状だ。 竹屋氏は、「高齢者の治療では、一つ一つの検査値やスコアなどの単純な足し算だけでなく、体重の変化、握力、歩行速度など患者の全体像(phenotype)を把握し、個別に介入していくことが有用であるかもしれない」と語った。亡くなった患者(症例)の本当の結末は… 今回のケースにおいて、2つの選択肢はいずれも、患者の死という一つの結末に帰結する。この症例は実際にあったことで、通夜には家族や担当した薬剤師、ケアマネジャーなどが集まり、故人の昔話に花を咲かせた。最期まで介護を続けた長女からは「先生のおかげで悔いはないです。精一杯看取りました」と言われたという。多職種で一生懸命考えた努力が報われた結果となった。 竹屋氏は、「真摯に取り組んだつもりでも、多少の悔いは残る。患者さんはどう思っていたのか? 本当のところはわからないが、今でも時々自問自答する。私たちの判断は正しかったのか? まずは、われわれ医療者の1人ひとりが、このような症例にどう向き合うかを考えていくことが大切かもしれない」と締めくくった。

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学会員のゲノム解析から成果を発信

日本人のアンチエイジングのために学会員の遺伝子解析に乗り出した日本抗加齢医学会。本学会の理事長である堀江 重郎氏(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)に研究目的やアンチエイジングの展望について聞いた。遺伝子研究はアンチエイジングの第一歩老化のメカニズム解明は、この10年で飛躍的な進化を遂げています。われわれの課題は、その成果を老化予防に活用できる医療へ変換していくことです。性格や骨格、顔貌などは、ゲノムによって支配されています。テクノロジーによってゲノムに介入できれば、根本的なアンチエイジングが達成できるはずですが、そのためにはゲノム医療を「使える医療へ発展させていく」ことが求められます。アンチエイジングにおけるゲノム医療の発展を目指すため、日本抗加齢医学会はジェネシスヘルスケア株式会社と提携し、「アンチエイジング全ゲノム解析」臨床研究プロジェクトを立ち上げました。20年前、1人の全ゲノムをシークエンスするためには、200億円もの費用と10年の歳月が必要でした。それが今では10万円、約1日で解析が可能なところまできました。半導体開発の高速化と低価格化が寄与しています。この研究では、加齢度の生理データと病歴・食事・運動習慣などの加齢調査票を組み合わせて解析することで、アンチエイジングと関連する遺伝子群を探索します。また、全ゲノム解析に加えて、エピゲノム(遺伝子修飾)による日本人の遺伝子年齢時計も作成していきます。このプロジェクトのユニークな点は、学会員自らの全ゲノムを解析することです。本学会員はさまざまな医療従事者が約9,000人加入していますが、この研究プロジェクトには主に医師が参加する予定です。抗加齢に関する指標を推定した後に、自身の遺伝子情報が含まれたデータを解析します。およそ1,000人のゲノム解析を行うことで、「ハツラツ」とした健康長寿を国民が享受し、社会貢献できる人口の増大と医療費抑制に貢献することを目標としています。抗加齢医学にテストステロンは不可欠アンチエイジングに関係するホルモンの1つにテストステロンがあり、もともとは獲物を取る意欲を高めるために必要なホルモンでした。現代で言えば、社会で活躍し健康に楽しく暮らすために必要な物質ですが、テストステロンとその受容体は加齢に伴い減少していきます。生活習慣病や加齢による筋力低下を防ぐために運動療法が推奨されますが、テストステロンが減少している状態で運動を行っても筋肉はつかず、むしろ転倒してけがの原因になってしまいます。テストステロンを補充してから運動してこそ筋肉がつき、運動の価値も高まるわけです。現在、テストステロンの低下は病気と判断されず、テストステロン補充療法は保険上認められていません。しかし、このような背景をしっかり踏まえた上でテストステロン補充の保険収載が認められるべきだと考えています。近年、遺伝子の老化度を示すものとして、テロメアの長さが注目されています。テロメアは染色体のなかでタンパク質をコードしていない部分で、細胞分裂により長さが変化します。テロメアは生まれたときから短い人もいれば生活環境や病気などで長短が変動する場合もあり、寿命に影響を及ぼします。テロメアは、テロメアーゼという逆転写酵素の働きによって伸長することが明らかになっており、驚くことに、テストステロンにはテロメアーゼを活性化させる効果があります。テロメアの長さを遺伝子解析と同時に調べて、テストステロンを含む最も効果的な延伸方法を考えるのが、遺伝子のアンチエイジングではないでしょうか。「人間とはなんだ」という根底にある考え方に基づきアンチエイジングを理解し、実践していくことが本学会の役割であると考えています。今回の学術総会では、理事長提言の場で学会員の遺伝子研究についてお話する予定です。ぜひ、学会員以外の方もお越しください。メッセージ(動画)

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労作ではあるがnegative studyである(解説:野間重孝氏)-1051

 評者は多くの読者がこの論文を誤解して読んだのではないかと危うんでいる。つまり、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)による心停止から回復した患者に対する治療方針として、血管インターベンション(PCI)を前提とした緊急冠動脈造影を行うのが望ましいのか、待機的冠動脈造影とするのが望ましいのかを検討した論文として読んだ方が多いのではないだろうか。また、ある方はもっとストレートに、NSTEMIを基礎として起こった心停止例の治療に対して緊急PCIが望ましいのか、待機的PCIが望ましいのかを検討した成績として読んだ方もいらっしゃるかもしれない。確かに、この論文の筆致から致し方がないようにも思われるのだが、もう一度この論文の題名を確かめていただきたい。“Coronary Angiography after Cardiac Arrest without ST-Segment Elevation”となっており、NSTEMIといった言葉は入っていないことに気付かれると思う。論文評としてはいささか妙な書き出しになったのは、実は評者自身一読した段階で誤解しそうになったからだ。 重篤な不整脈による心停止の原因として圧倒的に虚血発作が多いことは、いくつもの観察研究ですでに明らかになっている。しかし、ER到着時にST上昇がない症例については、多少のST-T変化があったとしても虚血性心疾患とは断定できない場合が多い。発生からの時間により心筋逸脱物質もまだ上昇していない場合もあれば、ある程度上昇していてもそれが冠動脈疾患によるものなのか、心停止による心筋障害なのか区別がつかない場合も多い。重症心不全もなく、本研究の除外基準であるショック、治療抵抗性の不整脈の発生もない症例で、ただ心停止回復後で意識が戻らないという症例をみたときにどうするのか。そういった症例に対して、確定診断+場合による治療の目的で緊急冠動脈造影をすることが正しいのか、それとも内科的至適治療をしながら意識が戻るのを待ち、待機的に造影をすることが正しいのか、これが本研究の問い掛けなのである。後者を考える場合“意識が戻る”というのが重要で、脳死状態に移行していってしまう患者に対して、それ以上の検査・治療行為は無駄であるからである。その結論が、「緊急冠動脈造影とその結果による緊急PCIを行うか行わないかは、90日生存率に影響を与えない」、つまり緊急冠動脈造影を行う必要はないというものだったのである。この場合NSTEMIであるのかどうかは関係がない。実際、冠動脈造影の1/3の症例で冠動脈は正常だったし、血栓性閉塞だったと考えられた症例は両群を合わせても22例しかいなかったことからも明らかだろう。 本研究で重要な点は上記に加えて、心停止後の生命予後の決定因子としては、神経損傷の程度が心筋損傷の程度に比べて圧倒的に重要であることを示したことである。しかし残念ながら、現行の医学のレベルにおいては神経損傷の程度を急性期に正確に評価する方法はなく、また予後不良であることが予測できた場合でも、積極的にインターベンションを加える方法は確立されていない。本研究では低体温療法における目標体温までの到達時間に差があったことを論じているが、低体温療法自体がどの程度の効果があるのか結論が出ていない今、多少の時間の違いを論じてもあまり意味がないだろう。なお、著者は目標体温到達まで時間を要してしまったことが、緊急血管造影の潜在的ベネフィットを弱めた可能性があると付け加えている。おそらくどれも有意差が出なかった中でこの項目だけ差が出てしまったため、著者らとしては言及せざるを得なかったのだろうが、これは神経損傷因子を修飾する付加的因子であるので、両群間で神経損傷による死亡率に差が出たのならそれも言えるが、そうではない以上、この議論は不要であると考えられた。 こうした臨床研究に出会ったときにいつも述べることなのだが、普段私たちがあまり疑問に思わないでいるような事柄も、実は検証してみないとわからない場合が多い。そういう意味でこの研究にも敬意を表するものではあるのだが、では、こうした患者を診たときにお前は造影をするのかしないのかと聞かれれば、やはりすると答えてしまうのはカテ屋の性のようなものだろうか。というのは素直でない表現になってしまったが、実臨床では害がないのならば早い時期に確定診断を付けて、できる治療はやってしまいたいと考える実地医家は少なくないのではないかと思う。著者らの意図とは別に意見の分かれるところではないだろうか。これは問題の冠動脈造影の時期については結局negative studyであったのだから、致し方がないと思う。 苦言を呈するとすれば、appendixにではなく、本文中のMethodsの項に対象の基準、除外基準を書き込み、統計法についてももう少し詳しく言及し、appendixを読まなくても独立した論文として読める体裁にまとめてほしかったと感じた。実際、本論文では除外基準が重要であるのだが、全体像はappendixを読まないとわからない。近年論文の長さに制限を設け、細かな内容についてはappendixを付けてそちらに書き込むように指導する雑誌が増加しているようだ。細かなCOIに関する項目やプロトコールの詳細、フローチャート、統計にしても細かな数式上の問題などはappendixに書き込んでいただいたほうが本文は読みやすくなって助かるが、それも程度の問題であり、本文がそれだけでは独立性がなくなってしまうようでは本末転倒であると思う。この部分は論文評とは言えないが、各誌にご一考を求めたいと思う。

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第19回 意識消失発作の症例から学ぶ脈拍の異常1 【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回は脈拍の異常を来した患者さん2例を紹介します。脈の乱れは「不整脈」といわれ、その不整脈が徐脈であっても頻脈であっても、患者さんの状態が「不安定」であるときに急を要します。徐脈や頻脈が認められた時、どのような点に気を付けて患者さんと接することがポイントになるでしょうか?症例を通してシミュレーションしていきましよう。プロローグ本日あなたは施設に内服薬を届けに来ています。「この前、低血糖で入院になったEさんは大丈夫かしら...」そう、今日は前回、低血糖による意識障害のため入院になったEさんの入所している施設に来ています。Eさんは退院後、いつも通り元気にレクリエーションに参加していました。「よかった(笑)」あなたは少しホッとしました。さて、今回は内服薬を届けに来ただけではありません。先日、意識消失発作を来したFさんの件もあり、嘱託の医師・看護師を交えて、施設職員との勉強会が開かれることになり、その時の状況をよく知っているあなたも参加することになったのです。再び、患者さんFの場合勉強会にて(第18回で紹介したFさんです。あの日、あなたが体験し本人から聞いたことをプレゼンテーションしています)72歳、女性。普段から元気な方で特に既往歴はありません。2回ほど、失神したことがありますが病院を受診しておらず、常用薬もありませんでした。心臓突然死の家族歴はありません。あの日、施設に入所している知人に会いに来たところ、面会の最中にフラッとする感じがありました。不安に思い帰宅しようとして歩行中に、意識消失発作を来し転倒しました。意識消失の時間は、(あのときは長く感じましたが)助けを呼んでいる間に回復したので、数十秒から1分程度と考えられます。痙攣はありませんでした。意識が回復した後にFさんから聞いた話では、前兆なく意識をなくしたようです。あなたがそう話し終えると、医師から、その後救急車で病院を受診して、洞機能不全症候群の診断でペースメーカーの治療となりましたと、追加の報告がありました。心臓の刺激伝導系「心電図」という名前がある通り、心臓は電気が流れて動いています〈図1〉。まず、「洞結節」という右心房の上の方にある部分で電気が起こります。そして心房を通って心房筋が収縮し、心房と心室の間にある「房室結節」という中継地点に到達します。さらに「ヒス束」、「右脚と左脚」にわかれ、最終的に「Purkinje(プルキンエと読みます)線維」を通って心室筋へと電気が流れていき心室が収縮します。これらの電気的興奮が伝わる特殊な心筋の経路を刺激伝導系と言います。「洞結節」では1分間に60〜100回の頻度で 規則正しく電気活動が起こりますから、正常な心臓ではこの60〜100回/分 が心拍数ということになります。ちなみに、心拍数というのは心臓の拍動の数ですが、脈拍数は橈骨動脈など末梢血管での脈の回数です。脈拍数が1分間に60回未満である場合を徐脈と言い、100回以上のとき頻脈と言います。徐脈の原因徐脈となる原因は、大きく分けて2つあります。洞結節で発生する電気信号が少なくなった場合と、洞結節からの電気信号が心室筋に伝わらなくなった場合です。前者を洞機能不全症候群といい、後者を房室ブロックと言います。(これらの疾患もそれぞれ原因がありますが、ここでは割愛します)図2は洞機能不全症候群の患者さんの心電図です。*印が心房を流れる電気的興奮の波(P波と言います)ですが、それが一時的になくなっているのがわかります。つまり、洞結節での電気信号が出ていない状態であり、洞機能不全があると判断されます。徐脈に対する診療アルゴリズム今回のFさんは、この洞機能不全症候群だったわけです。さて、徐脈に伴う症状には、めまいや失神といった脳への血流が足りなくなって起こる症状(脳虚血症状)や、倦怠感や息切れといった心臓のポンプ機能の低下による症状(心不全症状)があります。その中でも、バイタルサインに異常を来している状態が最も急を要します。図3は救急診療における徐脈の診療アルゴリズム(手順)です。目の前の患者さんが徐脈を呈しているとき、まずは徐脈による症状があるか否かを確認します。意識状態の悪化、失神、持続する胸痛、呼吸困難などの症状や、血圧低下、ショックの所見などの徴候があるときには、その患者さんは「不安定である」と判断し、直ちに専門医への連絡や治療が必要です。これらの不安定であると判断する症状や徴候は、バイタルサインの異常を来している場合に起こります。ちなみに、急性心筋梗塞の合併症として徐脈性不整脈を来すときがあり、そのため「持続する胸痛」という症状も含まれます(急性心筋梗塞は緊急度の高い疾患です)。Fさんが歩こうとしたとき、救急隊がそれを止めて車いすに乗せたのは、急な容態変化が起こり得ると判断したからです。先日のFさんの出来事をもう1度振り返り、その日の勉強会は終了しました。が、勉強会の後片付けをしていたとき、スタッフの1人が具合悪そうにしています。

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爪白癬が完治しない最大の原因とは?

 日本人の10人に1人が罹患し、国民病とも言われる爪白癬。近年、外用薬が発売され、本来、経口薬が必要なケースにも外用薬が安易に処方されることで、治癒率の低下が問題視されている。2019年4月19日、「感染拡大・再発を防ぐカギは完全治癒~爪白癬の完全治癒に向けて~」と題し、常深 祐一郎氏(埼玉医科大学皮膚科学教授)が登壇、経口薬による治療メリットについて解説した(佐藤製薬株式会社・エーザイ株式会社共催)。爪白癬の現状 日本人の足白癬、爪白癬の患者数はそれぞれ2,100万人、1,100万人(そのうち両者を併発している症例は860万人)と推測されている1)。これらの感染経路は多岐にわたり、罹患率を年齢別にみると、足白癬は40~50歳代でピークとなり減少するが、爪白癬は年齢とともに増え続けている2)。これに対し、常深氏は「働き盛り世代は革靴を履いている時間が長く足白癬に罹患しやすい。足白癬は市販の塗り薬でも治るので、靴を履く時間が短くなる年代で減少すると推測できる。しかし、爪白癬は内服薬を使ってしっかり治療しないと治癒せず、一度罹患するとそのままとなるため、高齢者ほど多くなってしまっている」と爪白癬治療の問題点を挙げた。爪白癬の原因・白癬菌の生息実態 爪白癬の原因となる白癬菌は、角質に含まれるケラチンというタンパク質が大好物である。生きた皮膚の細胞は防御反応を起こすため、菌も近寄りがたい。一方で、その表面にある角質は死んだ細胞のためそのような反応が起こらず、角質が厚く豊富な足や爪などは白癬菌の生息地として適しているのだという。また、床やバスマット、じゅうたん、畳などは白癬菌が角質とともに落下することで感染源となる。同氏は「角質に付着した白癬菌は長期間生存しているため、他人が落とした白癬菌を踏みつけて白癬菌に感染する。なかには、治療前に自分の落とした白癬菌が治療後に自分に戻るケースすらある。温泉やプールなどの床には多数の白癬菌を含んだ角質が落ちていることがわかっているので、自宅では定期的に洗濯・掃除することで落下した角質を除去し、温泉やプールから帰宅した際には、足を洗い、付着した白癬を除去して感染を予防しなければならない」とコメントした。爪白癬はなぜ治さなければならないのか? 爪白癬は白癬菌の巣のようなもので、これを放置すると何度も足白癬を繰り返す。また、爪白癬や足白癬から白癬菌が広がり顔や身体に白癬菌が増殖し、いわゆる「タムシ」の原因にもなる。そして、厚くなった爪は歩行の際の痛みの原因になるだけではなく、指に食い込んで傷を作り細菌感染症のもとにもなる。そうならないうちに爪白癬は治療しなければならないのである。爪白癬と確定するには? 爪が白いと“爪白癬”と思われがちだが、乾癬や掌蹠膿疱症、扁平苔癬、爪甲異栄養症など爪が白くなる疾患は多数存在する。その違いを外観で判断することは非常に難しいため顕微鏡検査が必須となる。ところが、同氏によると「検査を行わずに臨床所見で白癬と判断する医師は多く、その診断はよく外れる」とコメント。同氏は自身の研究データ3)を踏まえ、「そこそこ経験を積んだ皮膚科医ですら、見た目で爪白癬を診断すると7割弱しか正答できない。ほかの科の先生ではもっと低くなるだろう」と見た目だけの診断に警鐘を鳴らし、顕微鏡による検査が必須であることを強調した。爪白癬の適正な治療とゴール 最近では爪白癬用の外用液の普及により経口薬が用いられない傾向にあり、これが完全治癒に至らない最大の問題だという。外用薬は一部の特殊な病型や軽症例には有効であるが、多くの爪白癬の症例には経口薬が必要であるという。同氏は「外用液の場合、1年間塗り続けても20%の患者しか治らず、途中でやめてしまう人も多いため完治に至るのは数%ほどと推測される。新しい外用薬が登場したことで経口薬が用いられず、きちんとした治療がなされないという本末転倒の状況になっている」と述べ、爪白癬治療の現状を憂慮した。 経口薬は肝・腎機能への影響、薬物相互作用が懸念され、そのリスク因子が高い患者や高齢者には使いにくい印象があるが、「実際は、相互作用の少ない薬剤もあり、肝臓や腎臓についても定期的に検査すれば過剰に心配する必要はない。完治を目指し治癒率の高い経口薬を用いるべきである。最近は、相互作用が少なく、12週間という短期間の服用で治癒率の高い経口薬も登場した」と述べた。同氏は、爪白癬の治療に際し、『足の水虫を何度も繰り返す原因になります』、『家族の方にもうつしてしまうかもしれません』、『足以外の体にまでカビが生えてしまう前に治しましょう』、『しっかりと治療すれば完治も目指せますよ』、『短期間で終わる薬もあります』などのように説明し、治療の動機づけや継続率を高める工夫をしている。薬剤の選択と並んで、患者のやる気を引き出すことが爪白癬治療の重要なポイントだそうだ。 最後に「『完全治癒』とは、“菌を完全に排除”し“臨床的に爪白癬症状なし”とすることであり、これを達成できないと菌の残存により再発する」と述べ、治癒に至る可能性の高い経口薬の使用を強く訴えた。 なお、「皮膚真菌症診断・治療ガイドライン」は、来年までに改訂が行われる予定である。■関連記事患者向けスライド:爪白癬足白癬患者の靴下、洗濯水は何℃が望ましいか第10回 相互作用が少なく高齢者にも使いやすい経口爪白癬治療薬「ネイリンカプセル100mg」【下平博士のDIノート】

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試験中止の認知症薬、BACE-1阻害薬による結果の詳細/NEJM

 前駆期アルツハイマー病患者を対象に、アミロイド前駆体タンパク質βサイト切断酵素1(BACE-1)阻害薬verubecestatの有用性を評価した国際的な臨床試験の結果が、米国・MerckのMichael F. Egan氏らにより発表された。verubecestatは、健康成人およびアルツハイマー病患者の脳脊髄液中のアミロイドβ(Aβ)を60%以上低下させ、BACE-2(生理機能は不明)の阻害作用も有するという。中間解析の結果、プラセボと比較して認知症の臨床的評価が改善せず、アルツハイマー病による認知症への進行例の割合が高く、有害事象の発現率も高かった。そのため、データ安全性監視委員会の勧告により、本試験は無効中止となった。NEJM誌2019年4月11日号掲載の報告。2種の用量とプラセボを比較、22ヵ国238施設の無作為化試験 本研究は、2013年11月~2018年4月の期間に、22ヵ国238施設で実施された二重盲検プラセボ対照並行群間無作為化試験であり、第1部(104週)および第2部(延長期)で構成された(Merck Sharp & Dohmeの助成による)。 対象は、年齢50~85歳、認知症の基準は満たさないものの、1年以上にわたる記憶力の低下を自覚しており、脳アミロイド値の上昇がみられる患者であった。被験者は、verubecestat 12mg/日(12mg群)、同40mg/日(40mg群)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、ベースラインから104週時までの臨床認知症評価スケール(CDR-SB)のスコア(0~18点、点数が高いほど認知機能と日常生活機能が不良であることを示す)の変化とした。 日本人患者を含む1,454例が登録され、12mg群に485例、40mg群に484例、プラセボ群には485例が割り付けられた。704例(12mg群234例、40mg群231例、プラセボ群239例)が104週の治療を終了し、593例が延長期に登録された時点で、無効中止となった(2018年2月)。CDR-SBスコアの変化、高用量群で有意に不良 ベースラインの平均年齢は、12mg群71.7歳、40mg群71.0歳、プラセボ群71.6歳で、女性がそれぞれ47.4%、50.4%、44.0%であった。全体の69%がAPOE4保因者で、46%がアルツハイマー病の治療薬を併用していた。 CDR-SBスコアのベースラインから104週時までの推定平均変化量は、12mg群1.65、40mg群2.02、プラセボ群1.58であった(12mg群とプラセボ群との比較のp=0.67、40mg群とプラセボ群との比較のp=0.01)。したがって、高用量群のアウトカムはプラセボ群に比べ、有意に不良であることが示唆された。 アルツハイマー病による認知症へと進行した患者の推定割合は、100人年当たり12mg群24.5、40mg群25.5、プラセボ群19.3(12mg群のプラセボ群に対するハザード比は1.30[97.51%信頼区間:1.01~1.68]、40mg群のプラセボ群に対するハザード比は1.38[同:1.07~1.79]、多重比較の補正なし)であり、プラセボ群が有意に良好だった。 有害事象の頻度は、verubecestat群(12mg群91.3%、40mg群92.1%)がプラセボ群(87.0%)に比べ高かった。重篤な有害事象の頻度は、それぞれ25.7%、20.9%、19.8%であり、3例、1例、3例が死亡した。 verubecestat群で多い有害事象として、皮疹・皮膚炎・蕁麻疹(12mg群19.9%、40mg群20.9%、プラセボ群12.8%)、睡眠障害(7.9%、9.1%、4.5%)、体重減少(5.6%、6.6%、2.1%)、咳嗽(5.8%、6.2%、3.1%)、毛髪変色(2.5%、5.0%、0.0%)が認められた。転倒・負傷(25.7%、25.4%、20.7%)および自殺念慮(6.8%、9.3%、6.4%)も、verubecestat群で多かったが有意差はなかった。 著者は、「より早期Stageの患者のほうが、BACE-1の阻害への感受性が高い可能性がある。また、verubecestatの作用はBACE-2の阻害に起因する可能性もある」としている。

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第8回 高齢者の運動療法の進め方、工夫のポイント【高齢者糖尿病診療のコツ】

第8回 高齢者の運動療法の進め方、工夫のポイントQ1 運動量(負荷)と時間の設定について、基本的な考え方を教えてください高齢の糖尿病患者さんでは、運動療法の効果は血糖降下作用のみにとどまりません。筋肉量や筋力低下の抑制、フレイルや認知機能低下の予防、抑うつ予防、心肺機能の維持、ストレス解消など多岐にわたります。また一口に運動療法といっても、有酸素運動やレジスタンス運動、柔軟性運動(ストレッチ)、バランス運動など様々です。有酸素運動は歩行や水泳などの全身運動を指し、骨格筋などで酸素を取り入れて糖質や遊離脂肪酸を燃焼させ、エネルギー(ATP)を生成する運動です。運動開始から10分ほど経過すると糖質が利用されはじめ、15分ほど経過すると遊離脂肪酸が利用されはじめるので、糖質と遊離脂肪酸の双方が利用されるには20分以上の運動時間が必要となります。また運動強度としては、Borgの自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)の「ややきつい」と感じる程度が適当であり、心拍数で120拍/分程度、安静時脈拍の1.5~2倍の拍動数を示すレベルが目安となります(図1)。ただし、自律神経障害がある場合には脈拍が参考にならないこともあるので注意が必要です。画像を拡大するジョギングであれば、「隣の人とおしゃべりしながら走れる程度」を目安とすれば良いと思います。糖尿病患者の糖代謝の改善が持続するのは、運動後12~72時間のため、頻度としては週に3~5回が必要となります。標準的な考え方としては、週に150分以上のウォーキングや自転車こぎなどの有酸素運動を行うと、血糖コントロールの改善や糖尿病合併症の進行予防が期待できます。ウォーキングであれば、1回につき20~30分、1日2回ずつ行うのが理想です。しかし、今まで運動習慣のなかった方がいきなり20分以上の運動量をこなすのは困難です。そのため、実践可能な量から開始していくのが良いでしょう。まずは1日に5分程度でも良いので、ペットを連れて散歩する、ごみを捨てに行く、買い物に行くなどから始めてもらいます。できれば毎日行っていただくよう指導しています。外出することを習慣づけてしまえば、運動量を増やしていくことも容易となるからです。なお、運動は食後1時間程度から開始すると、食後高血糖の抑制効果が得られます。高齢の糖尿病患者は食後高血糖を来しやすいため、食後に運動することを推奨しています。レジスタンス運動とは、ダンベルを利用した体操や、腹筋や腕立て伏せといった筋力トレーニングなどを指します。高齢の糖尿病患者が、軽度の負荷であるレジスタンス運動を継続して行うと、筋肉量が有意に増加したという報告があります1)。最近のメタ解析では、2型糖尿病患者がレジスタンス運動を行うと、筋力だけでなく、血糖コントロールが改善するとも報告されています2)。レジスタンス運動は、少なくとも週2回以上行うことが推奨されています。ただし、フレイルがあってレジスタンス運動が十分施行できない場合には、柔軟性運動から始めて、軽度の負荷のレジスタンス運動を行い、有酸素運動やバランス運動を加えて、さらにレジスタンス運動の負荷を強めていくという流れが良いと思います。こうした運動を多要素の運動といい、タンパク質の十分な摂取と組み合わせると、フレイルや身体機能を改善することが報告されています3)。市町村の運動教室(筋力トレーニングを含むもの)やジムに参加したり、ヨガや太極拳などに参加したりすることも有効です。Q2 効果的な運動の組み合わせってありますか?有酸素運動とレジスタンス運動の併用が有効であることはよく知られていますが、そのベストな割合ははっきりしていません。しかし、どちらから先に始めるのが適当かについて検証した論文はあります。1型糖尿病患者12人に対して、運動中および運動後の血糖変化を測定したもので、レジスタンス運動を先行させた方が血糖変動は少なく、運動後や夜間の低血糖発症頻度も少なくなる可能性が示唆されました4)。また、血管平滑筋の緊張状態はレジスタンス運動で増加し、有酸素運動で緩和されるとも報告されています5)。高齢の糖尿病患者では動脈硬化性変化も大きいことから、血管平滑筋の緊張状態を緩和する意味からも、レジスタンス運動を先に行い、その後有酸素運動を行う方が良いのではないかと考えています。Q3 膝や腰の悪い患者さんに、推奨できる運動はありますか?多くの高齢糖尿病患者が、膝や腰の痛みを抱えており、思うように運動療法が施行できないことが多々あります。また、腎障害や網膜症、大血管障害などの合併症を有することも多いため、十分な運動の施行はさらに難しくなるのが悩ましいところです。有酸素運動とレジスタンス運動の双方を満たし、さらに膝や腰などへの負担が少ない運動としては、水中歩行があります(図2)。普段から積極的にジムへ通っている方などには、週2回程度、水中をゆっくり30分程度歩いていただくことを推奨しています。画像を拡大するしかし、プールやジムに通う習慣がないと、新たに始めるのを躊躇される方も多いのが実情です。このような患者さんには、運動を行うための準備段階として、軽度の身体活動の機会をできるだけ増やし、日常生活の中で簡単に行うことができるプログラムを提供することが重要と考えられます。最近ではNEAT(non exercise activity thermogenesis:普段の生活の中で座ったり家の中をうろうろ動き回ったりするなど、日常生活活動で消費するエネルギーのこと)の効果が注目されており6)、軽度の身体活動でも高齢糖尿病患者における体力の維持に寄与する可能性は十分あると考えられます。そのため、まずは、坐位や臥位の時間をできるだけ短くすることを指導します。次に、家の中でもできる運動を開始するように勧めます。たとえば、椅子に座ったままで足踏みをしたり、膝を高く持ち挙げたり、下肢を水平に上げて保持するなどの運動は、テレビを観ながらでも行うことができます。これらは歩行時の足の振出しや、階段での足の持ち上げに有効な、腸腰筋群を強化します(図3)。画像を拡大するQ4 転倒・骨折リスク低減に、推奨できる運動はありますか?転倒・骨折リスクの低減には、バランス運動が効果的です。例えば片足立ちは、体幹を支える大腿四頭筋の筋力維持に有効です。転倒防止に机や椅子につかまって行っても構わないので、片足立ちを左右30秒ずつ、1日3回程度から開始して、徐々に時間を延ばしていきます。これらの運動は道具も不要で膝などへの負担も少ないため、取り組みやすく、おススメです。最近では、慢性腎臓病においても運動は腎機能を悪化させず、一部は改善するという報告があります。また、定期的な運動を行っている血液透析患者の生命予後は、運動を行っていない患者に勝るという報告もあります7)。合併症があり、思うように運動できない場合でも、「家の中の掃除や簡単な料理など、家事を行ってみる」ところから始めて、「少しでも外出してみる」方向へ進み、徐々に自信がついてから、「これなら続けられる」と感じて自己効力感を高めていくことができれば、運動の効果が期待できると思います。また、1つの運動に飽きてしまったら、いくらでも別の運動に変えていって構いません。高齢糖尿病患者に対する運動療法の目的は、健康寿命を延ばすことです。個人差が大きいため、個々に合った運動療法が見つかるまで色々な方法を提案し、その中から患者さん自身が選び、継続していけるようになることが望ましいでしょう。1)Singh NA, et al. J Am Med Dir Assoc.2012; 13: 24-30.2)Lee J, et al. Diabetes Therapy.2017; 8: 459-473.3)Liao C-D, et al. Nutrients.2018.Dec 4[Epub ahead of print]4)Yardley JE, et al. Diabetes Care.2012; 35: 669-675.5)Okamoto T, et al. J Appl Physiol.2007; 103: 1655-1661.6)Levine JA, et al. Science.2005; 307: 584-586.7)Greenwood SA, et al. J Kidney Dis.2015; 65: 425-434.

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急性アルコール摂取による負傷リスク、男女で差

 飲酒による負傷リスクについて、性別、飲酒頻度、負傷の原因(交通事故、暴力、転倒など)によって違いがあるかを、米国・Alcohol Research GroupのCheryl J. Cherpitel氏らが、分析を行った。Alcohol and Alcoholism誌オンライン版2019年3月11日号の報告。 イベント後6時間以内に救急部(ED)に搬送された負傷患者1万8,627例についてケース・クロスオーバー分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・男女間での飲酒による負傷リスクは、3杯以下では同等であった(男性OR:2.74、女性OR:2.76)。・大量飲酒における負傷リスクは、女性において男性よりも高く、3.1~6杯(OR:0.60、CI:0.39~0.93)および6.1~10杯(OR:0.50、CI:0.27~0.93)で、飲酒量の相互作用による性差(gender by volume interaction:GVI)が有意に大きかった。・5回/月以上飲酒をしていた女性は、飲酒量に関係なく男性よりも負傷リスクが高く、5回/月未満で3杯以下の女性(OR:0.51、CI:0.28~0.92)および6.1~10杯の女性(OR:0.39、CI:0.18~0.82)よりもGVIの強い関連が認められた。・女性では、6杯未満での交通事故に関連するものを除き、男性よりも負傷リスクが高く、GVIは、3.1~6杯でほかの原因による負傷についてのみ有意であった(OR:0.23、CI:0.09~0.87)。 著者らは「大量飲酒の頻度に関係なく、女性は男性よりも飲酒による負傷リスク(交通事故関連を除く)が高いことが示唆された」としている。■関連記事妊娠中の飲酒、子供の認知機能に及ぼす影響飲酒運転の再発と交通事故、アルコール関連問題、衝動性のバイオマーカーとの関連アルコール依存症に対するナルメフェンの有効性・安全性~非盲検試験

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日本の頭部外傷の実態/脳神経外傷学会

 日本の頭部外傷診療の現状の把握を目的に、1998年より重症頭部外傷患者を対象とした疫学研究を開始。現在まで、日本頭部外傷データバンク(JNTDB)Projectとして1998、2004、2009、2015が行われ、Project2015(P2015)の結果がまとまり、第42回日本脳神経外傷学会にて、その結果が報告された。P2015の登録対象症例は2015年4月1日~2017年3月31日に、搬入時あるいは受傷後48時間以内にGlasgow Coma Scale(GCS)8以下、あるいは脳神経外科手術を施行した頭部外傷症例(0歳を含む全年齢)。Project2015の参加施設は32施設1,345例が登録された。転機は改善するも、高齢者の転倒、歩行者事故による頭部外傷が増加 仙台市立病院 加藤 侑哉氏はシンポジウムの中で、重症頭部外傷の年齢構成の推移についてJNTDB2015と過去のデータの比較を発表した。分析対象は6歳以上、GCS8以下などの規準を満たした重症頭部外傷患者で、P2015の1,345例中924例が検討対象となった。 JNTDBの4回のProjectの結果、若年者層での重症頭部外傷減少、高齢者層での増加を経時的に認めている。P2015では、80~84歳がピークとなり、過去の統計と比べ、さらに高齢者側にシフトした。 受傷機転をみると、交通事故は経時的に減少しているが、転倒・転落・墜落は増加しており、どちらもP2015では65歳以上で大幅に増加した。転帰については、GOS(Glasgow Outcome Scale)でGR(good recovery:日常生活に復帰)、MD(moderate disability)の転帰良好群は横ばい、SD(severe disability)、VS(vegetative state)の機能的転帰不良群は増加、死亡は減少していた。増加する高齢者頭部外傷の割合 わが国における高齢者重症頭部外傷の変遷について、日本医科大学 横堀 將司氏が発表した。4回のJNTDB Projectの合計4,539例のうち、高齢者(65歳以上)を対象に分析した。 結果、わが国の頭部外傷における65歳以上の高齢者の割合は半分以上であり、P2015では、とくに75歳以上の増加が顕著であった。積極的治療を受けている高齢者頭部外傷の割合は7割であった。死亡率は低下していたが、P2015ではSD、VS群は増加していた。機能的転帰不良患者の予測因子は、年齢75歳以上、ISS(injury severity score)25以上、GCS8以下、外傷性くも膜下出血、脳室内出血の存在であった。交通外傷による頭部外傷の変化 千葉県救急医療センター 脳神経外科 宮田 昭宏氏は、4回のJNTDBの集積データを振り返り、頭部外傷の原因として大きな比重を持つ、交通外傷の変遷について発表した。分析対象は、4回のデータベースの中から交通外傷を原因とする患者2,192例(48.3%)。 頭部外傷において、交通外傷の占める割合は減少している。年齢構成別にみると45歳以下が大きく減少する一方、65歳以上の高齢者で増加、とくに80歳以上では大きく増加している。内訳をみると4輪車事故によるものが減り、歩行者事故が大幅に増加。その傾向は80歳以上で顕著で、P2015における80歳以上の交通事故での頭部外傷の中で、歩行者事故の割合は60%を占めた。 転帰について、P2015では死亡率が顕著に下がった(33.2%)。年齢別にみると、若年者44歳以下でGR、MD群が大きく増加した反面、高齢者では、SDやVS群が増加していた。■関連記事日本の頭部外傷の現状は?/脳神経外科学会

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国内で開発された新規末梢性神経障害性疼痛治療薬「タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg」【下平博士のDIノート】第21回

国内で開発された新規末梢性神経障害性疼痛治療薬「タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg」今回は、「ミロガバリンベシル酸塩錠(商品名:タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg)」を紹介します。本剤は、α2δサブユニットに強力かつ特異的に結合してカルシウムイオンの流入を抑制することで、興奮性神経伝達物質の過剰放出を抑制し、痛みを和らげることが期待されています。<効能・効果>本剤は、末梢性神経障害性疼痛の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年4月15日より販売されました。※2022年3月、添付文書改訂による「中枢性神経障害性疼痛」の効能追加に伴い、適応は「神経障害性疼痛」となりました。<用法・用量>通常、成人にはミロガバリンとして初期用量1回5mgを1日2回経口投与し、その後1回用量として5mgずつ1週間以上の間隔を空けて漸増します。維持用量は、年齢・症状により1回10~15mgの範囲で適宜増減します。なお、腎機能障害患者に投与する場合は、投与量および投与間隔の調節が必要です。<副作用>日本を含むアジアで実施された臨床試験において、糖尿病性末梢神経障害性疼痛患者を対象とした854例中267例(31.3%)、帯状疱疹後神経痛患者を対象とした553例中241例(43.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、傾眠(12.5%/19.9%)、浮動性めまい(9.0%/11.8%)、体重増加(3.2%/6.7%)などでした(承認時)。なお、弱視、視覚異常、霧視、複視などの眼障害が現れることがあるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.過敏になっている神経を鎮めることで、しびれ、電気が流れているような痛み、焼けるような痛みなど、末梢神経障害による痛みを和らげます。2.服用中は、めまい、強い眠気、意識消失などが現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作はしないでください。3.本剤の服用を長く続けたり量を増やしたりすることで、体重が増加することがあります。実際に体重が増加し始めた場合はご相談ください。4.この薬を突然中止すると、不眠、吐き気、頭痛、下痢、食欲低下などの症状が現れることがあります。自己判断で減らしたりやめたりしないでください。5.本剤を服用中に飲酒をした場合、注意力、平衡機能の低下を強める恐れがあるので注意してください。<Shimo's eyes>神経障害性疼痛は、『神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(改訂第2版)』で「体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛」とされ、神経の損傷部位によって“末梢性”と“中枢性”に分類されます。本剤の作用機序は既存薬のプレガバリンと同様ですが、神経障害性疼痛全般に使用できるプレガバリンとは異なり、本剤の適応は「末梢性神経障害性疼痛」に限られています。末梢性神経障害性疼痛の代表例としては、坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病の合併症による神経障害性疼痛(痛み・しびれ)、抗がん剤の副作用による神経障害性疼痛などがあります。本剤は低用量から開始して、有効性や安全性を確認しながら維持量に漸増します。腎機能障害のある患者さんや高齢者では副作用が発現しやすいため、慎重に症状や副作用を聞き取りましょう。とくに高齢者ではめまいなどの副作用が生じると、転倒による骨折などを起こす恐れがあるため、細やかな投与量の調節が必要です。神経障害性疼痛は罹病期間が長引きがちで、さらに不安や睡眠障害を引き起こすこともあり、患者さんのQOLに与える影響は甚大です。末梢神経障害性疼痛の治療選択肢が増え、痛みに悩む患者さんの生活に改善がもたらされるのは喜ばしいことです。なお、2019年1月時点において、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。※2022年3月、添付文書の改訂情報を基に一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 タリージェ錠2.5mg/タリージェ錠5mg/タリージェ錠10mg/タリージェ錠15mg

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加齢で脆くなる運動器、血管の抗加齢

 2月18日、日本抗加齢医学会(理事長:堀江 重郎)はメディアセミナーを都内で開催した。今回で4回目を迎える本セミナーでは、泌尿器、内分泌、運動器、脳血管の領域から抗加齢の研究者が登壇し、最新の知見を解説した。年をとったら骨密度測定でロコモの予防 「知っておきたい運動器にかかわる抗加齢王道のポイント」をテーマに運動器について、石橋 英明氏(伊奈病院整形外科)が説明を行った。 厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2016)によると、65歳以上の高齢者で介護が必要となる原因は、骨折・転倒によるものが約12%、また全体で関節疾患も含めると約5分の1が運動器疾患に関係するという。とくに、高齢者で問題となるのは、気付きにくい錐体(圧迫)骨折であり、外来でのFOSTAスコアを実施した結果「25歳時から4cm以上も身長が低下した人では、注意を払う必要がある」と指摘した。また、「骨粗鬆症治療薬のアレンドロン酸、リセドロン酸、デノスマブによる大腿骨近位部骨折の予防効果も、近年報告されていることから、積極的な治療介入が望ましい」と同氏は語る。 そして、「50代以降で骨の検査をしたことがない人」「体重が少ない人」など6つの条件に当てはまる人には、「骨粗鬆症の早期発見のためにも、骨密度検査を受けさせたほうがよい」と提案する。また、筋力は「加齢、疾患、不動、低栄養」を原因に減少し、40歳以降では1年間に0.5~1%減少すると、筋力低下についても注意喚起。この状態が続けばサルコぺニアに進展する恐れがあり、予防のため週2~3回の適度な運動とタンパク質などの必須栄養の摂取を推奨した。 そのほかロコモティブシンドローム防止のため日本整形外科学会が推奨するロコモーショントレーニング(スクワット、片脚立ち運動など)は、運動機能の維持・改善になり、実際に石橋氏らの研究(伊奈STUDY)1)でも、運動機能の向上、転倒防止に効果があったことを報告し、レクチャーを終えた。血管からみた認知症予防の最前線 同学会の専門分科会である脳血管抗加齢研究会から森下 竜一氏(同会世話人代表、大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学寄付講座 教授)が、「血管からみるアンチエイジング」をテーマに、血管の抗加齢や認知症診断の最新研究について説明した。 はじめに最近のトピックスである食後高脂血症(食後中性脂肪血症)について触れ、多くの人々が6時間後に中性脂肪がピークとなるため1日の大部分を食後状態で過ごす中で、食後の中性脂肪値を抑制することが重要だと指摘する。実際、食後高脂血症は動脈硬化を促進し、心血管疾患のリスク因子となる研究報告2)もある。また、即席めんやファストフードに多く含まれる酸化コレステロールについて、これらはとくに肥満者や糖尿病患者には酸化コレステロールの血中濃度を上昇させ、動脈硬化に拍車をかけると警鐘を鳴らしたほか、食事後の短時間にだけ、人知れず血糖値が急上昇し、やがてまた正常値に戻る「血糖値スパイク」にも言及。こうした急激な血糖値の変動が高インスリン血症をまねき、過剰なインスリン放出が認知症の原因とされるアミロイドβを蓄積させると指摘する。 そして、認知症については、軽度認知障害(MCI)の段階で発見、早期治療介入により予防する重要性を強調した。その一方で、認知症の評価法について現在使用されている簡易認知機能検査(MMSE)、アルツハイマー病評価スケール(ADAS)などでは、検査に時間要すだけでなく、被験者の心理的ストレス、検査者の習熟度のばらつきなどが問題であり、スクリーニングレベルで使用できる簡便性がないと指摘する。そこで、森下氏らは、被験者の目線を赤外線で追うGazefinder(JCVKENWOOD社)を使用した視線検出技術を利用する簡易認知機能評価法の研究を実施しているという。最後に同氏は「今までの認知症の評価法のデメリットを克服できる評価法を作り、疾患の早期発見・予防に努めたい」と展望を述べ、講演を終えた。■参考文献1)新井智之、ほか. 第2回日本予防理学療法学会学術集会.2015.2) Iso H, et al. Am J Epidemiol. 2001;153:490-499.■参考脳心血管抗加齢研究会日本抗加齢医学会

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インスリンアナログとヒトインスリンのどちらを使用すべきか?(解説:住谷哲氏)-1016

 はじめに、わが国におけるインスリン製剤の薬価を見てみよう。すべて2018年におけるプレフィルドタイプのキット製剤(300単位/本、メーカー名は省略)の薬価である。インスリンアナログは、ノボラピッド注1,925円、ヒューマログ注1,470円、アピドラ注2,173円(以上、超速効型)、トレシーバ注2,502円、ランタス注1,936円、インスリングラルギンBS注1,481円、レベミル注2,493円(以上、持効型)。ヒトインスリンは、ノボリンR注1,855円、ヒューマリンR注1,590円(以上、速効型)、ノボリンN注1,902円、ヒューマリンN注1,659円(以上、中間型)。つまり、わが国でインスリン頻回注射療法(MDI)を最も安く実施するための選択肢は、インスリンアナログのインスリングラルギンBS注とヒューマログ注の組み合わせになる。さらにわが国においてはインスリンアナログとヒトインスリンの薬価差はそれほどなく、ヒューマログ注とヒューマリンR注のようにインスリンアナログのほうが低薬価の場合もある。したがって、本論文における医療費削減に関する検討はわが国には適用できない。それに対して米国では、インスリンアナログはヒトインスリンに比較してきわめて高価であり(本論文によると米国では10倍の差のある場合もあるらしい)、インスリンアナログをヒトインスリンに変更することでどれくらい医療費が削減できるかを検討した本論文が意味を持つことになる。 医療費削減は重大な問題であるが、医療費を削減した結果、臨床的アウトカムが悪化すれば本末転倒である。そこで本論文ではインスリンアナログからヒトインスリンに変更後におけるHbA1c、重症低血糖および重症高血糖の頻度を検討している。HbA1cはヒトインスリンに変更後0.14%(95%CI:0.05~0.23、p=0.003)増加したが、これは臨床的にはほとんど意味のない変化と見なしてよい。重症低血糖および重症高血糖の頻度にも変更前後で有意な差は認められなかった。つまりヒトインスリンへの変更によって、臨床的アウトカムの悪化なしに医療費の削減が可能であることが示されたことになる。 確かに、インスリンアナログがヒトインスリンに比較して臨床的アウトカムを改善するエビデンスは現時点で存在しない。RCTにおいては、インスリンアナログであるグラルギンはヒトインスリンであるNPHに比較して夜間低血糖を有意に減少させた1)。しかしreal-worldにおいては、NPHとインスリンアナログとを比較するとHbA1c、重症低血糖による救急外来受診または入院の頻度には差がなかったとする報告もある2)。さらに、持効型インスリンアナログ間の比較であるDEVOTEでは、デグルデクはグラルギンに比較して有意に夜間低血糖を減少させたが、両群における3-point MACEには有意な差がなかった3)。 インスリンアナログはヒトインスリンと比較して優れている、と考えている医療従事者は多い。しかし上述したように、インスリンアナログを使用することで低血糖の頻度が減る可能性はあるが、心血管イベントなどの臨床的アウトカムを改善するエビデンスはない。したがってヒトインスリンで十分であるが、米国とは異なりインスリンアナログが安価に使用できるわが国においては、あえてヒトインスリンに固執する必要性もないと思われる。

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第6回 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」をどう使う?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第6回 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」をどう使う?Q1 なぜ、高齢者の血糖コントロール目標が発表されたのですか?糖尿病の血糖コントロールに関しては、かつては下げれば下げるほどよいという考え方でした。ところが、ACCORD試験などの高齢者を一部含む大規模な介入試験によって、厳格すぎる血糖コントロールは細小血管症を減らすものの、重症低血糖の頻度を増やし、死亡に関してはリスクを減らさずに、むしろ増やすことが明らかになりました。さらに、重症低血糖は、死亡だけでなく、認知症、転倒・骨折、ADL低下、心血管疾患の発症リスクになることがわかってきました。また、軽症の低血糖でもうつ状態やQOL低下をきたすことも報告されています。すなわち、低血糖は老年症候群の一部を引き起こすのです。また、低血糖は高齢者で起こりやすくなり、とくに重症低血糖は80歳以上の高齢者でさらに増えることがわかっており、低血糖の弊害の影響を大きく受けるのは高齢者ということになります。生物学的には高齢者においても血糖コントロールは糖尿病合併症を減らすと考えられますが、心血管を含めた合併症を予防するためには少なくとも10年間以上の良好な血糖コントロールを要すると思われます。とすると、平均余命が短い高齢者では厳格な血糖コントロールの意義が相対的に小さくなることになります。平均余命の推定は困難なことが少なくありませんが、高齢者の死亡リスクは疾患やそのコントロール状況よりもむしろ機能状態、すなわち認知機能やADLの状態によって決まることがわかっています。認知機能、ADL、併存疾患などで糖尿病を3つの段階に分けると、機能低下の段階が進むほど、死亡リスクが段階的に増えていくので、血糖コントロール目標は柔軟に考えていく必要があるのです。また、高齢者に厳格なコントロールを行うと、重症低血糖のリスクだけでなく、多剤併用や治療の負担も増えることになります。一方、血糖コントロール不良(HbA1c 8.0%以上)は網膜症、腎症、心血管死亡だけなく、認知症、転倒・骨折、サルコペニア、フレイルなどの老年症候群のリスクにもなることにより、高齢者でもある程度はコントロールしたほうがいいことも事実です。こうしたことから、米国糖尿病学会(ADA)、国際糖尿病連合(IDF)は平均余命や機能分類を3段階に分けて設定する高齢者糖尿病の血糖コントロール目標を発表しました。本邦でもこうした高齢者糖尿病の種々の問題から、高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が発足し、2016年に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)が発表されました(第4回参照)。Q2 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」のわかりやすい見かたとその意味について教えてください。日常臨床において、上記の図を見ながら高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)を設定するのは複雑で大変であるという意見もあります。そこで、私たちが行っている方法を紹介します。図1の簡単な血糖コントロール目標の設定を参照してください。1)まず、75歳以上の後期高齢者でインスリン、SU薬など低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用している場合を考えます。この場合、カテゴリーIの認知機能正常で、ADLが自立している元気な患者と、カテゴリーIIの軽度認知障害または手段的ADL低下の患者の目標値は全く同じで、HbA1c 8.0%未満、目標下限値はHbA1c 7.0%。この数字だけでも覚えておくといいと思います。目標下限値がHbA1c7.0%というのはIDFの基準と全く同じであり、HbA1c 7.0%をきると重症低血糖、脳卒中、転倒・骨折、フレイル、ADL低下または死亡のリスクが高くなるという疫学データに基づいています。2)つぎに中等度以上の認知症または基本的ADL低下があるカテゴリーIIIの患者の場合は、(1)に+0.5%で、HbA1c 8.5%未満で目標下限値はHbA1c 7.5%です。中等度以上の認知症とは、場所の見当識、季節に合った服が着れないなどの判断力、食事、トイレ、移動などの基本的ADLが障害されている場合で、誰がみても認知症と判断できる状態の患者です。HbA1c 8.5%未満としているのは、8.5%以上だと、肺炎、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症のリスクが上昇し、さらに上がると高浸透圧高血糖状態(糖尿病性昏睡)のリスクが高くなるからです(第3回参照)。3)65~75歳未満の前期高齢者で、低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用している場合は、まず元気なカテゴリーIの場合を考えます。この場合は(1)から-0.5%で、HbA1c 7.5%未満、目標下限値はHbA1c 6.5%となります。すなわち、7.0%±0.5%前後です。前期高齢者では、カテゴリーが進むにつれて0.5%ずつ目標値が上昇していき、カテゴリーIIIでは後期高齢者と同じHbA1c 8.5%未満、目標下限値はHbA1c 7.5%です。4)つぎは低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用していない場合で、DPP-4阻害薬、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬などで治療している場合です。この場合、血糖コントロール目標は従来の熊本宣言のときに出された目標値と同様で、カテゴリーIとIIの場合はHbA1c 7.0%未満、カテゴリーIIIの場合はHbA1c 8.0%未満で、目標下限値はなしです。このように、低血糖のリスクの有無で目標値が異なるのはわが国独自のものです。わが国では医療保険などでDPP-4阻害薬などが使用できる環境にあるので、低血糖のリスクが問題にならない場合は、「高齢者でも良好なコントロールによって合併症や老年症候群を防ごう」という意味だと解釈できます。

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Z薬の濫用や依存~欧州医薬品庁データ調査

 元来、zaleplon、ゾルピデム、ゾピクロンなどのZ薬は、依存性薬物であるベンゾジアゼピンの安全な代替薬として市販されいていたが、Z薬の濫用、依存、離脱などの可能性に関する臨床的懸念の報告が増加している。英国・ハートフォードシャー大学のFabrizio Schifano氏らは、EudraVigilance(EV)システムを用いて欧州医薬品庁(EMA)より提供された薬物有害反応(ADR)のデータセットを分析し、これらの問題点について評価を行った。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2019年2月5日号の報告。 各Z薬のADRデータを分析し、症例の記述統計分析を行い、Proportional Reporting Ratio(PRR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・Z薬を使用した患者6,246例に対応する、誤用、濫用、依存、離脱に関連するADRは全体で3万3,240件(ゾルピデム:2万3,420件、ゾピクロン:9,283件、zaleplon:537件)だった。・人口統計学的特徴および併用薬、用量、投与経路、治療転帰などの臨床データ、死亡者数の記録を含む症例データを記録した。・PRR値を考慮した際、ゾルピデムは、ゾピクロンと比較し、誤用または濫用と離脱との関連が認められた。・ゾルピデムとゾピクロンの依存リスクは同程度であったが、ゾピクロンは、過剰摂取のADRに対する関連が最も高かった。・ゾピクロンは、zaleplonと比較し、高い依存リスクと過剰摂取による問題が認められたが、誤用もしくは濫用と離脱のPRR値については、わずかに低かった。 著者らは「現在のデータは、Z薬誤用の発生率を実際よりも過小評価している可能性がある。Z薬を処方する場合には、とくに精神疾患患者や楽物乱用歴を有する患者では注意が必要である。処方薬の誤用に関して、高精度かつ速やかに検出し、理解、予防を促すために、積極的なファーマコビジランス活動が求められる」としている。■関連記事ベンゾジアゼピンの使用と濫用~米国調査ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は高齢者へのZ薬と転倒・骨折リスクに関するメタ解析

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レビー小体型認知症のBPSD、対応のポイントは?

 2019年2月20日、大日本住友製薬主催により、レビー小体型認知症(DLB)に関するプレスセミナーが開催され、その中で2つの講演が行われた。DLBは早期介入が重要 初めに、小田原 俊成氏(横浜市立大学 保健管理センター教授・センター長)が、DLBの現状、認知機能障害、行動・心理症状(BPSD)の特徴について講演を行った。 現在、日本国内におけるDLBの推定患者数は、50~100万人程度とされている。しかし、類似疾患との鑑別が難しく、DLBと診断されていない患者も多く存在すると考えられている。実際に、臨床診断されるDLBの割合は4%程度だが、病理診断される割合は20%近いという報告もある。小田原氏によると、「アルツハイマー型認知症(AD)では初期からほとんどの症例で記憶障害を呈する一方で、DLBでは初期から記憶障害を呈するのは3分の1程度である」、「注意・遂行機能や、視知覚機能の障害が、ADよりも強く現れる」といった点がDLBに特徴的だという。さらに、DLBではADに比べ、妄想、幻覚、不安、睡眠障害といったBPSDによる弊害も多い。これらは、患者本人のみならず介護者の大きな負担やQOLの低下に直結するため、「介護者がレビー小体型認知症の特徴的症状を把握し、患者本人に受診動機を持ってもらう。そうすることで、早期に治療介入を行えるようにすることが大切である」と述べた。DLBにおけるBPSD、「運動症状への対応」がカギ 次に、服部 信孝氏(順天堂大学医学部 脳神経内科)より、DLBの非運動・運動症状の特徴について講演が行われた。 DLBの鑑別診断が難しい要因として、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)と病理学的に同一のスペクトラムであるため、両疾患の診断基準を同時に満たすケースが存在することも挙げられると、服部氏は語る。一方、両者を正確に区別することは難しいものの、DLBでは、記憶障害がみられるようになる数年前から、便秘、嗅覚障害、レム期睡眠行動異常症(RBD)、抑うつの症状などが現れる点が特徴的であるという。この中でもとくに「RBD」は、2017年に改訂されたDLBの臨床診断基準で中核的臨床特徴に位置付けられるなど、その重要性が注目されている。中核的臨床特徴には、このほかに「認知機能の変動」、「繰り返す具体的な幻視」、「特発性パーキンソニズム」があるが、パーキンソニズムは、転倒による予後の悪化や、患者のADL・QOL低下、介護者のQOL低下、社会的コストの上昇(パーキンソニズムのスコアが1上昇すると827米ドルのコスト上昇という報告もある)などがみられるため、とくに注意が必要だと服部氏は強調する。その一方で、「DLBのパーキンソニズムに対する薬物療法は、精神症状を悪化させる可能性があるため、精神症状をコントロールしつつ、運動症状を治療していくことが大切。運動症状が悪化する前に、RBDや嗅覚障害などの特徴からDLBを早期に発見し、早期に治療介入していくことが重要である」と述べ、講演を締めくくった。

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は、運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムを呈し、緩徐に進行する神経変性疾患である。■ 疫学アルツハイマー病の次に頻度の高い神経変性疾患であり、平成26年に行われた厚生労働省の調査では、男性6万2千人、女性10万1千人の合計16万3千人と報告されている。65歳以上の患者数が13万8千人と全体の約85%を占め(有病率は1.5%以上)、加齢に伴い発症率が上昇する(ただし、若年性PDも存在しており、決して高齢者だけの疾患ではない)。症状は進行性で、歩行障害などの運動機能低下に伴い医療・介護を要し、社会的・経済的損失は著しい。超高齢社会から人生100年時代を迎えるにあたり、PD患者数は増え続けることが予想されており、本疾患の克服は一億総活躍社会を目指すわが国にとって喫緊の課題と言える。■ 病因これまでの研究により遺伝的因子と環境因子の関与、あるいはその相互作用で発症することが示唆されている。全体の約90%が孤発性であるが、10%程度に家族性PDを認める。1997年に初めてα-synucleinが家族性PDの原因遺伝子として同定され、その後当科から報告されたparkin、CHCHD2遺伝子を含め、これまでPARK23まで遺伝子座が、遺伝子については17原因遺伝子が同定されている。詳細はガイドラインなどを参照にしていただきたい。家族性PDの原因遺伝子が、同時に孤発性PDの感受性遺伝子となることが報告され、孤発性PDの発症に遺伝子が関与していることが明らかとなった。これら遺伝子の研究から、ミトコンドリア機能障害、神経炎症、タンパク分解障害、リソソーム障害、α-synucleinの沈着などがPDの発症に関与することがわかっている。環境因子では、性差、タバコ、カフェインの消費量などが重要な環境因子として検討されている。他にも農薬、職業、血清尿酸値、抗炎症薬の使用、頭部外傷の既往、運動など多くの因子がリスクとして報告されている。■ 病理PDの病理学的特徴は、中脳黒質の神経細胞脱落とレビー小体(Lewy body)の出現である。PDでは黒質緻密層のメラニン色素を持った黒質ドパミン神経細胞が脱落するため、肉眼でも黒質の黒い色調が失われる(図1-A、B)。レビー小体は、HE染色でエオジン好性に染まる封入体で、神経細胞内にみられる(図1-C、D)。レビー小体は脳幹の中脳黒質(ドパミン神経細胞)だけではなく、橋上部背側の青斑核(ノルアドレナリン神経細胞)、迷走神経背側運動核、脳幹に分布する縫線核(セロトニン神経細胞)、前脳基底部無名質にあるマイネルト基底核(コリン作動性神経)、大脳皮質だけではなく、嗅球、交感神経心臓枝の節後線維、消化管のアウエルバッハ神経叢、マイスナー神経叢にも認められる。脳幹の中脳黒質の障害はPDの運動障害を説明し、その他の脳幹の核、大脳皮質、嗅覚路、末梢の自律神経障害は非運動症状(うつ症状、不眠、認知症、嗅覚障害、起立性低血圧、便秘など)の責任病変である。PDのhallmarkであるレビー小体が全身の神経系から同定されることはPDが、多系統変性疾患でありかつ全身疾患であることを示しており、アルツハイマー病とはこの点で大きく異なる。家族性PDの原因遺伝子としてα-synuclein遺伝子(SNCA遺伝子)が同定された後に、レビー小体の主要構成成分が、α-synuclein蛋白であることがわかり、この遺伝子とその遺伝子産物がPDの病態に深く関わっていることが明らかとなった。図1 パーキンソン病における中脳黒質の神経脱落とレビー小体画像を拡大する■ 症状1)運動症状運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムは、左右差が認められることが多く、優位側は初期から進行期まで不変であることが多い。初期から仮面様顔貌、小字症、箸の使いづらさなどの巧緻運動障害、腕振りの減少、小声などを認める。進行すると、姿勢保持障害・加速歩行・後方突進・すくみ足(最初の一歩が出ない、歩行時に足が地面に張り付いて離れなくなる)などを観察し、歩行時の易転倒性の原因となる。多くの症例で、進行期にはL-ドパの効果持続時間が短くなるウェアリングオフ現象を認める。そのためL-ドパを増量したり、頻回に内服する必要があるが、その一方でL-ドパ誘発性の不随意運動であるジスキネジア(体をくねらせるような動き。オフ時に認める振戦とは異なる)を認めるようになる。嚥下障害が進行すると、誤嚥性肺炎を来すことがある。2)非運動症状ほとんどの患者で非運動症状が認められ、前述の病理学的な神経変性、レビー小体の広がりが多彩な非運動症状の出現に関与している。非運動症状は、運動症状とは独立してQOLの低下を来す。非運動症状は、以下のように多彩であるが、睡眠障害、精神症状、自立神経症状、感覚障害の4つが柱となっている。(1)睡眠障害不眠、レム睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorders:RBD)、日中過眠、突発性睡眠、下肢静止不能症候群(むずむず足症候群:restless legs syndrome)など(2)精神・認知・行動障害気分障害(うつ、不安、アパシー=無感情・意欲の低下、アンヘドニア=快感の消失・喜びが得られるような事柄への興味の喪失)、幻覚・妄想、認知機能障害、行動障害(衝動制御障害=病的賭博、性欲亢進、買い物依存、過食)など(3)自律神経症状消化管運動障害(便秘など)、排尿障害、起立性低血圧、発汗障害、性機能障害(勃起障害など)、流涎など(4)感覚障害嗅覚障害、痛み、視覚異常など(5)その他の非運動症状体重減少、疲労など嗅覚障害、RBD、便秘、気分障害は、PDの前駆症状(prodromal symptom)として重要な非運動症状であり、とくに嗅覚障害とRBDは後述するInternational Parkinson and Movement Disorder Society(MDS)の診断基準にもsupportive criteria(支持的基準)として記載されている。■ 分類病期についてはHoehn-Yahrの重症度分類が用いられる(表1)。表1 Hoehn-Yahr分類画像を拡大する■ 予後現在、PDの平均寿命は、全体の平均とほとんど変わらないレベルまで良くなっている一方で、健康寿命については十分満足のいくものとは言い難い。転倒による骨折をしないことがPDの経過に重要であり、誤嚥性肺炎などの感染症は生命予後にとって重要である。2 診断■ 診断基準2015年MDSよりPDの新たな診断基準が提唱され、さらにわが国の『パーキンソン病診療ガイドライン2018』により和訳・抜粋されたものを示す。これによるとまずパーキンソニズムとして運動緩慢(無動)がみられることが必須であり、加えて静止時振戦か筋強剛のどちらか1つ以上がみられるものと定義された。姿勢保持障害は、診断基準からは削除された。パーキンソン病の診断基準(MDS)■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。

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認知症のBPSDに対する治療の有効性・安全性比較~メタ解析

 認知症患者の行動と心理症状(BPSD)に対する薬理学的および非薬理学的治療の有効性、安全性を比較するため、中国・China Medical UniversityのBoru Jin氏らは、ランダム化データより直接的および間接的なエビデンスを用いて、検討を行った。Journal of Neurology誌オンライン版2019年1月21日号の報告。 BPSDに利用可能なすべての介入のランダム化比較試験(RCT)のみを用いて、システマティックレビューおよびベイジアンネットワーク・メタ解析を行った。RCTは、PubMed、EMBASE、Cochrane library、CINAHLより検索した。有効性アウトカムは、Neuropsychiatric Inventory(NPI)およびCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)を用いて評価した。安全性アウトカムは、全有害事象(AE)、下痢、めまい、頭痛、転倒、悪心、嘔吐、脳血管疾患について評価した。 主な結果は以下のとおり。・RCT146件より、BPSD患者4万4,873例が検討に含まれた。・以下の薬剤のNPIは、プラセボより優れていた。 ●アリピプラゾール(MD:-3.65、95%CI:-6.92~-0.42) ●エスシタロプラム(MD:-6.79、95%CI:-12.91~-0.60) ●ドネペジル(MD:-1.45、95%CI:-2.70~-0.20) ●ガランタミン(MD:-1.80、95%CI:-3.29~-0.32) ●メマンチン(MD:-2.14、95%CI:-3.46~-0.78) ●リスペリドン(MD:-3.20、95%CI:-6.08~-0.31)・以下の薬剤のCMAIは、プラセボより優れていた。 ●アリピプラゾール(MD:-4.00、95%CI:-7.39~-0.54) ●リスペリドン(MD:-2.58、95%CI:-5.20~-0.6)・以下の薬剤の全AEリスクは、プラセボよりも高かった。 ●ドネペジル(OR:1.27、95%CI:1.07~1.50) ●ガランタミン(OR:1.91、95%CI:1.58~2.36) ●リスペリドン(OR:1.47、95%CI:1.13~1.97) ●リバスチグミン(OR:2.02、95%CI:1.53~2.70) 著者らは「薬理学的治療は、BPSDの第1選択治療とすべきである。アリピプラゾール、ハロペリドール、クエチアピン、リスペリドンなどの抗精神病薬は有効性を示し、メマンチン、ガランタミン、ドネペジルなどの抗認知症薬は、中程度の効果が認められた。各薬剤の安全性に関しては、許容できると考えられる」としている。■関連記事認知症のBPSDに対する抗精神病薬のメリット、デメリット認知症者のせん妄、BPSDにより複雑化患者の性格と認知症タイプでBPSDを予測可能:旭川医大

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