サイト内検索|page:1

検索結果 合計:142件 表示位置:1 - 20

1.

NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー

今回のキーワードポストトラウマティック・プレイミラーリング象徴機能心の理論(社会脳)心理的ディブリーフィングPTG(心的外傷後成長)[目次]1.なんで地震ごっこは「ある」の?-人類の演じる心理の進化2.子供のPTSDにどうすればいいの?3.プレイセラピーとは?4.「心の傷を癒すということ」とは?前回(その1)、子供の演じる心理の発達から、地震ごっこをするのは、子供たちが地震に対して助け合うためのコミュニケーションの練習をしようとしているからであることがわかりました。それでは、なぜトラウマ体験のごっこ遊び(ポストトラウマティック・プレイ)は子供に普遍的に見られる現象なのでしょうか? 言い換えれば、なぜ地震ごっこは「ある」のでしょうか? そして、どう接したらいいのでしょうか?この謎の答えを解くために、今回は、引き続き、NHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、人類の演じる心理の進化を明らかにして、トラウマ体験のごっこ遊びの起源を掘り下げます。そこから、子供のPTSD(心的外傷後ストレス症)への真の対応のヒントを導きます。さらに、子供への心理療法の1つであるプレイセラピーをご紹介します。なんで地震ごっこは「ある」の?-人類の演じる心理の進化子供の演じる心理の発達は、まず目の前の人の動きをそのまま演じる(まね遊び)、次に目の前にいない人の動きを演じる(ふり遊び)、最後に周りの人とのかけ合いによって演じる(ごっこ遊び)であることがわかりました。ここで、進化心理学の視点から、「個体発生は系統発生を繰り返す」という考え方を、体だけでなく心(脳)にも応用して、心の発達(個体発生)の順番から心の進化(系統発生)の順番を推測します。さらに、人類が演じる心理をどう進化させたのかを明らかにして、トラウマ体験のごっこ遊びの起源を掘り下げてみましょう。大きく3つの段階に分けられます。(1)目の前の相手の動きを演じる―ミラーリング約700万年前に人類が誕生し、約300万年前には男性は女性と一緒に生活して子育てに参加するようになりました。当然ながら、当時はまだ言葉を話せません。そのため、男女がお互いの唸り声や動きをまねすることで、一緒にいたい気持ちを伝え合っていたでしょう。同時に、このようにまねをすることで、相手への親近感(共感性)が高まるように進化したでしょう。1つ目は、ミラーリングです。これは、目の前の相手の動きをそのまま演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のまね遊びに重なります。なお、ミラーリングの起源の詳細については、関連記事1の後半をご覧ください。(2)目の前にいない人の様子を演じる―象徴機能約300万年前に、人類はさらに部族集団をつくるようになりました。まだ言葉を話せないなか、メンバーの誰かがけがをして助けが必要であることや猛獣が近くに来ていてみんなで追い払う必要があることなどを何とか身振り手振りや表情などの非言語的コミュニケーション(サイン言語)で伝えたでしょう。2つ目は、象徴機能です。これは、目の前にいない人やものの様子を体全体で演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のふり遊びに重なります。なお、象徴機能の起源の詳細については、関連記事2をご覧ください。(3)周りの人とのかけ合いによって演じる―心の理論約300万年前以降、人類は、かつて部族のメンバーがどうやってけがをして助けられたか、近くに来ていた猛獣をどうやって追い払ったかをメンバー同士で演じて再現すること(ごっこ遊び)で伝え合ったでしょう。名付けるなら、「救助ごっこ」「猛獣撃退ごっこ」です。そして、地震が起きたあとは、そのエピソードを伝える「地震ごっこ」もやっていたでしょう。こうして、人類は相手の気持ちを推し量り、周りと助け合ってうまくやっていく能力を進化させていったでしょう。3つ目は、心の理論(社会脳)です。これは、周りの人とのかけ合いによって演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のごっこ遊びに重なります。なお、心の理論(社会脳)の起源の詳細については、関連記事3をご覧ください。その後、約20万年前に現生人類(ホモサピエンス)が言葉を話すようになると、その状況を言葉によって次世代に伝えるようになりました(伝承)。こうして、もはや演じること(ごっこ遊び)によって伝える必要が日常的にはなくなったのでした。約10万年前に原始宗教が誕生してから、演じることは、神の教えという儀式(宗教的祭祀)として残り、紀元前5世紀ごろには古代ギリシアで演劇という娯楽として発展していきました。以上より、地震ごっこが「ある」のは、さまざまなごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、人類がとくに災害に対して助け合うためのコミュニケーション能力を進化させたからと言えます。つまり、トラウマ体験のごっこ遊びは、人類の心の進化の歴史のなかで、生存のために必要な原始的な機能であり能力であったというわけです。この進化の産物は、言葉を話す現代の社会では必要がなくなったのですが、その名残りが子供に見られるのです。だから、子供に普遍的なのです。なお、現代の社会で大人はトラウマ体験のごっこ遊びをしなくなりましたが、実は好んで見ています。それが、人気コンテンツである災害映画(ディザスタームービー)です。これは、大がかりで壮大な「災害ごっこ」と言えるでしょう。ちなみに、トラウマ体験のごっこ遊びと同じように、その1でご紹介したそのほかの子供のPTSDの症状であるフラッシュバックや赤ちゃん返り(解離)も、進化の歴史で獲得した機能であると説明することができます。たとえば、言葉や文字によって時間の概念がなく、その瞬間だけを生きていた原始の時代、二度と同じような危険な目(トラウマ体験)に遭わないようにするために唯一頼りになったのは、フラッシュバックだったでしょう。つまり、フラッシュバックという現象は、記憶を強化するために必要な能力(心理機能)だったと言い換えられます。また、常に死と隣り合わせの原始の時代、自力で生き残れない幼児は、危険な目(トラウマ体験)に遭ったあとに、ほかのきょうだいよりも親の目をかけてもらうために唯一できることは、無意識に赤ちゃんを演じることでしょう。つまり、赤ちゃん返りという現象は、保護者から援助行動をより引き出すために必要な能力(心理戦略)だったと言い換えられます。なお、PTSD(トラウマ)の起源の詳細については、関連記事4をご覧ください。子供のPTSDにどうすればいいの?地震ごっこが「ある」のは、さまざまなごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、人類がとくに災害に対して助け合うためのコミュニケーション能力を進化させたからであることがわかりました。そして、フラッシュバックも赤ちゃん返りも、進化の歴史で獲得した機能であることがわかりました。この点を踏まえて、子供のPTSDにどうすればいいでしょうか? その対応を大きく3つ挙げてみましょう。(1)ただ一緒にいるその1でも触れましたが、「今、揺れとぅ?」「なんかな、ずっと揺れとぅ気がすんねん」というフラッシュバックの症状を訴えた小学生の男の子に対して、安先生は、「大丈夫や。揺れてへん」と力強くも温かく言います。そして、一緒に荷物を運ぶのです。1つ目の対応は、ただ一緒にいることです。そして、助け合うことです。これは、原始の時代に進化した社会脳に通じます。逆に言えば、何か特別なことをする必要はありません。安静にすることでもありません。一番大事なことは、なるべく普段と変わらない日常生活のなかで、体が安全であること、そして心が安全であることを、時間をかけて感じてもらうことです。(2)自然な気持ちを促す安先生は、その男の子に「ちゃんと眠れてるんか?」「何か話したいことあったら、何でもいいな」と問いかけると、「ええわ、僕よりつらい目に遭うた人いっぱいおるし」と返されます。すると、安先生は「お~我慢して偉いな…って言うと思ったら大間違いや。こんなつらいことがあった。こんな悲しいことがあった。そういうこと、話したかったら、遠慮せんと話してほしいねん」「言いたいこと我慢して飲み込んでしもうたら、ここ(子供の心臓を指して)、あとで苦しくなんで」と言います。男の子から「おじいちゃんに男のくせにそんなに弱いかって笑われる」と漏らされると、安先生は「弱いってええことやで。弱いから、ほかの人の弱いとこがわかって助け合える。おっちゃんも弱いとこあるけど、全然恥ずかしいと思うてへん」と力強く言います。2つ目の対応は、我慢せずに自然な気持ちを促すことです。この点で、地震ごっこに対しては、やはりまず見守ることです。実際に、東日本大震災のあとに観察された多くの地震ごっこでは、子供たちが楽しんでやっていることがわかっています1)。もちろん、けがや暴力になりそうなら止める必要がありますが、基本的には見守るだけで十分です。逆に言えば、話したくないのに、話すように促すことはしないことです。これは、心理的ディブリーフィングと呼ばれ、トラウマ体験をできるだけ早い時期に語らせて、気持ちを吐き出させることで、かつてアメリカの9.11の同時多発テロによるトラウマ体験への治療として注目されました。しかし、その後に実際には有効ではないという研究結果が相次いで報告され、トラウマ反応を強化させる可能性までも指摘されました1)。これは、PTSDを心の進化における機能として捉えたら、当然でしょう。これは、子供だけでなく、大人にも当てはまります。安全が確認されていないのに避難訓練をやらないのと同じように、心の安全(心の準備)が保たれていないタイミングで、語らせたり、演じさせたりは絶対にしないようにする必要があります。この点を踏まえて、東日本大震災の被災地の学校で、震災当時の絵を描かせたり、作文を書かせたり、語りをさせるなどの震災体験の表現の取り組み(防災教育)が行われましたが、それにあたって、少なくとも震災から1年が経っていること、事前に生徒たちに伝えて心の準備をしてもらうこと、嫌だったらやらなくていい(ほかにやりたいことをしてもいい)という選択肢を示すことなどのきめ細かい配慮がなされました1)。(3)楽しめることを促すその後、小学校の避難所でのまとめ役でもある校長先生が、安先生に「子供らの遊ぶ場所、作られへんかなと思てな」「毎日、枕元で地震ごっこされたらかなわんからな」と笑いながら、「キックベース、どうですか?」と誘います。なんと、校長先生が、子供たちのために、キックベースのイベントを開いたのでした。3つ目の対応は、楽しめることを促すことです。これは、地震ごっこだけでなく、子供が楽しめるポジティブなことなら何でもありです。なぜなら、何もしないと、トラウマ体験の記憶が頭のなかを占めてしまい、フラッシュバックをより引き起こしてしまうからです。そうではなくて、代わりに楽しい記憶を頭のなかに占めて、フラッシュバックを起こしにくくするのです。なお、大人のPTSD(トラウマ)への対応の詳細については、関連記事4をご覧ください。プレイセラピーとは?もしも、子供が1人で地震ごっこをやっている場合は、どうでしょうか? もちろん、見守ることができます。さらに、PTSDへの対応の観点から、セラピスト、さらには家族や親しい人たちがその遊びに加わり、自然な気持ちを促し、一緒に楽しむことができます。これは、プレイセラピー(遊戯療法)と呼ばれています。たとえば、子供が「地震だー」と言い、体を揺らしていたら、一緒にいる人は「逃げろー」と合いの手を入れ、一緒に走り回ります。一通り走り回ったら、最後は「逃げれたー。助かったー。良かったねー」というセリフを言うのです。途中で、近所の人を助ける演技を入れるのもいいでしょう。こうして、助け合っていることを一緒に喜び合うことで、地震があっても助かったストーリーを一緒につくることができます。ただし、あくまで子供が自然に遊んでいる状況に乗っかるのがポイントです。逆に、「地震ごっこをしよう」などと最初から誘導しないことです。これは、先ほどの心理的ディブリーフィングと同じく、トラウマ反応を強化させるリスクがあります。また、ごっこ遊びのテーマとなるトラウマ体験が、災害ではなく、虐待・誘拐・殺人などの犯罪の場合はより専門的な介入が必要になり、場合によっては止める必要があります2)。その理由は、「虐待ごっこ」「誘拐ごっこ」「殺人ごっこ」になってしまうからです。これは、災害の環境と同じように、虐待・誘拐・殺人などの環境に子供が無意識に適応しようとするわけなのですが、相手に傷つけられるまたは傷つけるという不適切なコミュニケーションの練習をしてしまうおそれがあるからです。これは、子供が傷つけられる人を繰り返し演じることで自己肯定感を低くして、さらに傷つける人を繰り返し演じることで攻撃性を高めるリスクがあります。「心の傷を癒すということ」とは?ラストシーンで、安先生が「心のケアって何かわかった。誰も、ひとりぼっちにさせへん、てことや」と悟ったように言うシーンがあります。このセリフから私たちは、子供にしても大人にしても、PTSDの症状は、単に困ったネガティブなものではなく、お互いの援助行動を引き出し、連帯感を促すポジティブな機能であり、能力であると捉え直すことができます。そうして、子供も大人もトラウマを乗り越えて成長した状態は、PTG(心的外傷後成長)と呼ばれます。じつは、このドラマは実話をもとにしたストーリーです。実在した人物である故・安 克昌先生のドキュメンタリーでもあり、なんと阪神淡路大震災で実際に被災した人たちがこのドラマの避難所のエキストラとして出演していました。このドラマに関連した番組3)では、エキストラに参加したある元被災者の女性について、「自らの記憶をたどり、心の奥にしまっていた感情に気づき、折り合いをつける。ドラマ作りに参加することが心の傷を癒す小さなきっかけになったのかもしれません」とナレーションで説明されていました。このように、大人もトラウマ体験を再演することで、PTGになることができるでしょう。人類が長らく演じることでコミュニケーションをしてきた進化の歴史を踏まえると、その子孫である現代の私たちは、言葉によって普段抑制している感情(演じる心理)を体全体でもっと自由に解放することができるのではないでしょうか? つまり、私たち大人も、子供と同じようにもっと「ごっこ遊び」(演技)を生活のなかで生かすことができるのではないでしょうか?なお、演技の効果(機能)の詳細については、関連記事5をご覧ください。1)「災害後の時期に応じた子どもの心理支援」p.19、p.126、p.212:冨永良喜ほか、誠信書房、20182)「子どものポストトラウマティック・プレイ」p.27:エリアナ・ギル、誠信書房、20223)「100分de名著 安克昌 “心の傷を癒すということ” (4)心の傷を耕す」:宮地尚子、NHKテキスト、2025年1月■関連記事映画「RRR」【なんで歌やダンスがうまいとモテるの?(ラブソング・ラブダンス仮説)】伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】アメリカン・スナイパー【なぜトラウマは「ある」の?どうすれば良いの?】映画「シンシン」(その1)【なんで演じると癒されるの?(演技の心理)】

2.

第18回 もしかして、あの人も?高齢者の「セルフネグレクト」という見過ごされがちな問題

「最近、身なりに構わなくなった」「家がゴミで溢れている」「必要な治療を受けていないようだ」――。あなたのまわりの高齢者に、そんな心配な様子はないでしょうか。もしかしたらそれは、単なる老化や性格の問題だと思われているかもしれません。あるいは、認知症のある頑固な高齢者だという形でのみ認識され、問題が放っておかれてしまっているかもしれません。しかし本当は、「セルフネグレクト」という、支援が必要な状態のサインではないでしょうか。医学雑誌The New England Journal of Medicine誌に掲載された論文1)は、このセルフネグレクトを「臨床的、社会的、倫理的ジレンマ」と位置づけ、その複雑さと向き合うための新たな視点を提案しています。この記事では、その内容を紐解きながら、私たちにとって身近なこの問題について考えていきます。そもそもセルフネグレクトとは?セルフネグレクトとは、自分自身の健康や安全を守るために必要な行動をとれなくなってしまう状態を指します。これは、他者から危害を加えられたり、他者の意図で十分なケアが与えられなかったりする「虐待」とは異なります。しかし、本人の意思が密接に関わるため、問題はより複雑になります。言うまでもなく「自分のことは自分で決める」という自己決定権は、自己の尊厳を保つ上で不可欠なものです。たとえ周りから見て「危ない」「不健康だ」と思われる選択であっても、本人の自由な意思であれば尊重されるべきかもしれません。しかし、認知症などの理由で判断力が低下している場合はどうでしょうか。本人は(一人暮らしが)「大丈夫」と言っていても、実際には薬の飲み忘れが原因で何度も救急搬送されたり、お金の管理ができずに家賃を滞納してしまったりするケースは少なくありません。このような状況で、私たちはどのように本人の意思を尊重し、どう介入すべきでしょうか。実は、高齢者医療や介護の専門家でさえ、この判断に頭を悩ませることがあります。支援の必要性を判断する「3つの物差し」この問題に対し、先にご紹介した論文では、支援の必要性のレベルを判断するための一つの「物差し」として、状況を3つの段階に分けて考えることを提案しています。これは、いつ、どのような対応を始めるべきかを考えるうえで、とても参考になります。レベル1:心配(潜在的リスク)これは、自分自身のケアが十分にできておらず、手助けしてくれる人もいないものの、今すぐ大きな危険があるわけではない状態です。たとえば、「最近、お風呂に入っていない日が増えたかな」「食事の用意が億劫そうだ」といった初期のサインがこれにあたります。この段階では、まず本人の様子を注意深く見守り、どこにつまずいているのか、どうすればリスクを減らせるかを家族内で話し合うことが大切です。レベル2:危険(差し迫ったリスク)この段階では、自分自身のケアができていないことに加え、重大な危険につながる可能性のある行動が見られます。たとえば、火の不始末がある、危険性がありながら車の運転をやめていない、といった状況です。このような場合には、医療機関で認知機能や判断能力の専門的な評価を行い、本人や他者に危害が及ぶ可能性が高いと判断されれば、行政の専門機関(米国では成人保護サービス[APS])に報告することを検討すべきです。レベル3:問題発生(確定したセルフネグレクト)この段階は、セルフネグレクトが原因で、実際に医学的・社会的な「害」が発生してしまっている状態です。薬を飲まなかったことで心不全が悪化して入院したり、請求書の支払いができずに家を追い出されそうになったりしているケースです。このような場合は、本人の安全を守ることが最優先であり、速やかに専門機関に報告し、介入を求める必要があります。この分類は、周囲から見て「心配だけど、どこまで口を出すべきなのか…」と悩む際の、大雑把な判断基準を与えてくれるものです。私たちにできることこのセルフネグレクトという問題は、高齢化が急速に進む日本にとっても、決して他人事ではありません。ご紹介した論文では、米国の高齢者の10%が認知症、さらに20%以上がその前段階である軽度認知障害(MCI)を抱えていると指摘していて、今後セルフネグレクトのリスクを抱える人が確実に増加すると予測しています。これは日本の未来の姿とも重なります。日本では、米国のAPSに相当する相談窓口として、各市町村に設置されている「地域包括支援センター」があります。ここは、高齢者の健康、福祉、医療など、さまざまな相談に対応してくれる専門機関です。もし、あなたの周りに心配な高齢者がいたら、まずは孤立させないことが第一歩です。そして、段階に応じて、地域包括支援センターなどにも相談する必要があるでしょう。「行政に相談すると、本人の意思を無視して無理やり施設に入れられてしまうのでは」などと心配する方もいるかもしれません。しかし、専門機関の役割は人を罰することではなく、「できる限り本人の自律性を尊重しながら、安全性を高める手助けをすること」です。具体的には、ヘルパーの訪問時間を少しずつ増やしたり、食事の宅配サービスを手配したりと、本人が受け入れやすい最小限の介入から始めてくれる場合が多いでしょう。セルフネグレクトは、本人の尊厳と安全性がぶつかり合う、非常に繊細な問題です。しかし、それを「個人の問題」として放置してしまえば、最悪の場合、孤独死のような悲しい結末につながりかねません。異変に気づいた際に、適切な「物差し」を持ち、専門機関へつなぐこと。それが、超高齢社会に生きる私たちに求められる役割なのではないでしょうか。参考文献・参考サイト1)Lees Haggerty K, et al. Self-Neglect in Older People - A Clinical, Social, and Ethical Dilemma. N Engl J Med. 2025;393:4-6.

3.

海外番組「セサミストリート」(続編・その3)【だから男性はこだわり女性は共感するんだ!だから人差し指の長さが違うんだ!(自閉症と情緒不安定性パーソナリティ障害の起源)】Part 4

なんで情緒不安定性パーソナリティ障害は幼児期に発症しないの?超男性脳の自閉症と超女性脳の情緒不安定性パーソナリティ障害は、共感性とシステム化の脳機能の極端な偏りとして対照的です。それなのに、なぜ自閉症は幼児期に発症するのに情緒不安定性パーソナリティ障害は思春期に発症するというタイムラグがあり、発症時期も対照的にはならないのでしょか?実際に、このタイムラグのために、現在の精神医学では、これら両者はそれぞれ発達障害とパーソナリティ障害というまったく別々の精神障害のカテゴリーに分類されてしまっています。タイムラグが起きる答えは、情緒不安定性パーソナリティ障害は、共感性が高くなりすぎることで、自閉症のような不適応としてではなく、過剰適応として幼児期は潜在していると考えられるからです。つまり、幼児期に自閉症と同じようになんらかの変化は臨床的に確認できるということです。たとえば、以下です。親の顔色や体調の変化によく気付く。よく気が利いて、親の言うことをよく聞く。自分からお手伝いをする。親を喜ばせる振る舞いをする。嫌な思いをしても、我慢して取り繕う。めったに泣かず、手がかからない。これらは、高すぎる共感性によって、観察力と演技力という潜在能力を発揮しています。これを一言で言えば、いわゆる「良い子」です。「良い子」は子育てするには楽で、親からは望ましいと思われがちです。「良い子」(過剰適応)の心理の詳細については、関連記事2をご覧ください。しかし、ある状況で、「良い子」であることが裏目に出ます。それは、虐待をはじめとするマルトリートメント(不適切なかかわり)です。「良い子」である分、親に十分に構ってもらえなくても、「良い子」であり続けようとします。そして、必死で親に構ってもらおうとして、構ってもらえるかどうかに敏感になります。その後、女性ホルモンの放出が高まる思春期に、交際相手に構ってもらえるかどうかにも敏感になり、「プレゼント」(構ってもらえること)を過剰に求めるようになるのです。このような行動を駆り立てるのは、情緒不安定性パーソナリティ障害の中核症状である空虚感が当てはまります。よくよく考えれば、共感性が高いということは、その共感する相手がいなければいないほど当然空しさは増します。つまり、空虚感も、自閉症のこだわり(システム化)と同じように機能であると捉え直すことができます。問題は、それが過剰であるということです。たとえば、相手にしがみついて、巻き込もうとします。これは、「死にたい」「死んでやる」など、いわゆる「死にたいアピール」として表現されます。さらに、これが行動化したのが自傷です。このような不適応を起こすことによって、情緒不安定性パーソナリティ障害はようやく顕在化するのです。しかも、重度の場合は、共感性が高すぎる一方でシステム化が低すぎるために、周りに流されやすく、些細なことで傷つき、理屈が通じません。このような人が、占いなどのスピリチュアル系にハマりやすいのも納得が行くでしょう。なお、傷つきやすさの心理の詳細については、関連記事3をご覧ください。逆に言えば、自閉症をはじめとするシステム化の高い男の子は、良くも悪くも鈍く「良い子」になりません。そのため、構ってもらえないことに鈍感で、情緒不安定性パーソナリティ障害を発症しにくいとも言えます。行動遺伝学の研究において、情緒不安定性パーソナリティ障害への家庭環境の違いの影響についての直接的なデータはまだ見当たりません。しかし、この病態の中核症状でもある「自殺念慮」については、遺伝12%、家庭環境11%、家庭外環境77%と算出され、家庭環境の違いの影響が出ています2)。家庭外環境の比率が大きいことから、実際の失恋(恋愛関係)やいじめ(友人関係)などの影響が大きいことも考えられます。臨床的にも従来から、情緒不安定性パーソナリティ障害の要因として、マルトリートメント(家庭環境)が指摘されています3)。逆に、自閉症においては、遺伝80%、家庭環境0%、家庭外環境20%という結果が出ており、家庭環境の違いの影響はありません。つまり、マルトリートメントによって自閉症になることはないことがわかります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

4.

第238回 新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省 2.長崎県の民間医療ヘリ事故で3人死亡、全国に再点検要請/厚労省 3.「患者だから仕方ない」に終焉を、医療現場における暴力・ハラスメント/看護協会 4.後発薬の供給不足、薬局の8割が「支障」改善はわずか6%/厚労省 5.最大7.2億円を無利子融資、物価高で医療・介護事業者支援へ/厚労省 6.47人の懲戒処分の報道発表なし、情報公開に疑問の声/国立病院機構 1.新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省厚生労働省は、65歳以上の高齢者や基礎疾患のある60~64歳を対象とした新型コロナウイルスワクチンの定期接種に対する国の助成(1回当たり8,300円)を、2025年度から終了する方針を決定し、都道府県に通知した。2024年度に始まった定期接種制度では、全額公費の「特例臨時接種」からの移行に伴う、急な自己負担増を避けるため、基金を活用した助成が行われていた。2025年度の定期接種は秋に開始予定だが、助成終了によって接種費用の自己負担額は増加するが、一部自治体は独自の補助を検討している。なお、低所得者に対しては無料接種を継続する方向で調整中。今後、定期接種の対象外となる人は、原則、全額自己負担での任意接種となる。新型コロナ対策における他の公費支援も、すでに2024年3月末で終了している。 参考 1) コロナワクチン定期接種 国助成取りやめへ 自己負担増の可能性(NHK) 2) 新型コロナワクチン助成終了へ 高齢者ら向け定期接種、低所得者無料は残す予定(産経新聞) 3) 厚労省、コロナワクチン助成終了へ 高齢者らの定期接種(日経新聞) 2.長崎県の民間医療ヘリ事故で3人死亡、全国に再点検要請/厚労省2025年4月6日、長崎県対馬市から福岡市の病院へ患者を搬送中の民間の医療搬送用ヘリコプターが壱岐島沖で墜落、転覆し、搭乗していた6人のうち、患者(86歳)と付き添いの家族(68歳)、男性医師(34歳)の3人が死亡した。機体は離陸から約17分後に着水した可能性があり、搭載されていたGPSは午後1時47分に発信を停止。救難信号を発信する航空機用救命無線機も作動が確認されず、国土交通省は信号を受信していなかった。機体は民間病院の福岡和白病院が運用し、佐賀県のエス・ジー・シー佐賀航空が委託運航していた。同社は過去にも複数の死亡事故を起こしており、運輸安全委員会が事故原因を調査している。この事故を受けて、厚生労働省は7日に全国のドクターヘリ運航会社および関係医療機関に対し、安全点検を求める通知を発出。操縦士による常時の気象確認や整備士による待機中の機体点検を義務付け、再点検や一時的な運航停止の検討も要請された。今回の事故で浮き彫りになったのは、離島における医療搬送の脆弱性である。対馬市など長崎県の離島では、高度医療を提供する三次救急施設が存在せず、ヘリ搬送が命綱となっている。2023年度の県内ドクターヘリ搬送実績(232件)のうち、離島由来は85件を占めていた。事故機は「ドクターヘリ」ではなく、柔軟な搬送を可能にする民間の医療用ヘリであり、全国には同様の運用機が4機存在する。こうした機体は、ドクターヘリ体制の補完的役割を果たすが、安全性の担保とコスト負担が課題とされる。事故を受け、福岡和白病院は当面のヘリ搬送を停止。関係者は再発防止と信頼回復を誓っており、安全性向上と離島医療の継続性が急務となっている。 参考 1) 厚労省 ドクターヘリ運航会社など安全点検通知 長崎の事故受け(NHK) 2) 医療ヘリ事故 離島医療「最後の砦」 救急搬送継続に危惧(毎日新聞) 3) 離島救急搬送の“命綱”不在で募る不安 壱岐沖事故の影響 長崎県ドクターヘリ、点検で運用を休止(長崎新聞) 4) 長崎ヘリ事故 病院の運航は無期限休止 学会「同型機の再点検を」(毎日新聞) 3.「患者だから仕方ない」に終焉を、医療現場における暴力・ハラスメント/看護協会先日、俳優の広末 涼子氏が交通事故後、搬送先の病院で看護師に対し暴力をふるったとして現行犯逮捕された事件や、大阪の訪問看護師に対する患者による暴行事件が報道され、これを契機に医療現場における患者・家族からの暴力やハラスメント、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント)」問題が注目されている。報道に対して、医療従事者からは「ようやく患者による暴力が報じられた」といった声が上がり、現場の切実な実態が明らかにされた。看護職に対するハラスメントは日常的であり、日本看護協会の調査では、身体的暴力を受けた非管理職スタッフ22%のうち93%が患者によるものだった。また、性的言動(77%)や精神的攻撃(40%)も多数報告されている。医療従事者が声を上げにくい背景には、患者の病状や精神状態への配慮、組織文化、認識の甘さがある。実際、暴力を受けても警察に通報されることはまれで、看護師による患者への暴力は報道されても、その逆はほとんど報じられていない。その一方で、医療現場における暴力・ハラスメントは、医療者の離職、精神疾患、地域医療の崩壊につながる深刻な問題となっている。厚生労働省も医療職の確保や職場環境改善の一環として、訪問看護師向けに防犯機器導入費の補助制度を開始するなど、対策を強化しており、東京都ではカスハラ防止条例が施行され、静岡県も同様の条例制定を検討している。こうした社会的動向を踏まえ、医療機関にはハラスメント対策マニュアル整備や研修の実施、ポスター掲示などによる啓発活動が求められている。患者側にいかなる事情があろうと、医療従事者に対する暴力やハラスメントは許されるものではなく、病院としても毅然とした対応と再発防止策の構築が求められる。「患者だから許される」という認識を改め、安心・安全な医療提供体制の確立が急務となっている。 参考 1) 2019年 病院および有床診療所における看護実態調査報告書(看護協会) 2) 訪問看護において「看護師等が暴力・ハラスメントを受ける」ケースが散見され、防犯機器の購入費用などを補助-厚労省(Gem Med) 3) 広末涼子逮捕の裏で噴出した医療従事者の「切実な訴え」長年耐え忍んだ患者からの暴力の実態(東洋経済) 4) 広末涼子さん逮捕、医療現場のカスハラに注がれる厳しい目「いかなる場合も許されない」離職の原因にも(弁護士ドットコム) 5) 広末涼子容疑者を逮捕 傷害容疑、看護師に暴行か-静岡県警(時事通信) 6) 訪問看護の20代女性を包丁で切り付け、殺人未遂容疑で86歳男を逮捕(産経新聞) 4.後発薬の供給不足、薬局の8割が「支障」改善はわずか6%/厚労省厚生労働省は、4月9日に開かれた中央社会保険医療協議会診療報酬改定結果検証部会で、ジェネリック医薬品(後発薬)の供給状況に関する最新調査結果を明らかにした。全国の薬局や医療機関を対象とした調査では、供給体制の逼迫が依然として深刻であることが浮き彫りとなった。保険薬局では84.1%が「支障を来している」と回答し、「供給が悪化した」との回答も43.1%に上った。病院では63.3%、診療所では53.4%が供給悪化を報告しており、医療現場全体に影響が広がっている。この背景には、2020年以降の後発薬メーカーによる品質不正や生産停止の影響がある。中小企業が多数品目を小規模ロットで製造する非効率な構造が、長年にわたり放置されており、現場では納品の遅延、処方変更などの業務負担が常態化している。実際に希望通りの納品がなされた薬局は1%未満に止まった。政府は、2024年度診療報酬改定で後発薬の使用促進を進めており、調剤割合90%以上の薬局は66.1%に達した。一方、供給が追いつかない現状に対し、医療機関からは安定供給体制の構築が最重要課題とされ、病院の90.8%、診療所の65.8%がそれを最も必要な対応として挙げている。厚労省はこうした状況を打開するため、品目統合や企業連携を後押しする基金の創設を盛り込んだ薬機法改正案を今国会に提出。出荷量と需要量の「見える化」による需給バランスの把握、電子処方箋データ活用による増産促進も目指す。一方、現場では医薬品供給状況を共有する民間データベースが活用され始めている。 参考 1) 後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告書[概要](厚労省) 2) 後発薬の供給「悪化した」病院の6割超 診療所は5割超(CB news) 3) 4年も続く「薬不足」、ジェネリック産業構造足かせ 品目統合や企業連携後押しに基金設立(産経新聞) 5.最大7.2億円を無利子融資、物価高で医療・介護事業者支援へ/厚労省厚生労働省は、物価高騰の影響で経営が悪化している医療機関や介護施設を対象に、無利子・無担保で最大7億2,000万円の優遇融資を行う支援策を発表した。融資は独立行政法人・福祉医療機構(WAM)を通じて実施され、4月8日から申請が受け付けられている。とくに病院に対する貸付上限額は、従来の500万円から大幅に引き上げられ、2年間無利子で、最大5年間は元本返済猶予となる。対象は前年同期比で収支が悪化し、職員の処遇改善加算を届け出ている施設で、2年以内の経営改善計画の提出が条件となっている。また、病床削減や地域医療構想に基づく再編に協力する場合は、さらに優遇される。介護老人保健施設などについても、無担保融資の上限が500万円から1億円に拡大される。この措置は、病院団体が「地域医療が崩壊寸前」と訴え、国に支援を求めたことが背景にある。調査によれば、2024年度に経常赤字を計上した病院は全体の61.2%に上り、経営状況は深刻だ。診療報酬などの公定価格では物価や人件費の高騰に対応しきれず、多くの医療機関がコスト増に苦しんでいる。WAMでは、2024年12月から優遇融資制度を実施しており、今回の拡充はコロナ禍以降で最大規模の支援となる。政府はこの制度を通じて、医療・介護現場の資金繰りを下支えし、事業継続を図る方針を示している。 参考 1) 物価高騰の影響を受けた施設等に対する経営資金又は長期運転資金のお知らせ(福祉医療機構) 2) 最大7.2億円の無利子融資=医療事業者へ物価高対策で-政府(時事通信) 3) 物価高対策の無担保融資、上限7億円超に拡充 病院向け(日経新聞) 4) 物価急騰によるコスト増等で「収支差額の減少」や「経常赤字」となっている医療機関や介護施設などに優遇融資を実施-福祉医療機構(Gem Med) 6.47人の懲戒処分の報道発表なし、情報公開に疑問の声/国立病院機構独立行政法人・国立病院機構(本部・東京)が2024年度に下した全国計47人の懲戒処分について、報道機関への発表を一切行わず、自機構のホームページに短期間掲載するに止めていたことが判明した。処分内容には懲戒解雇2件、停職22件を含む重大事案が含まれていたが、いずれの地域グループでも記者発表は行われなかった。たとえば東海北陸グループでは、職務上の立場を悪用して部下に性的関係を強要した理学療法士が懲戒解雇となり、鈴鹿病院では障害患者への虐待で看護師ら5人が停職や戒告処分を受けた。また、九州グループでは盗撮や勤務中の飲酒などにより看護師や医師が停職処分を受けていたが、いずれも報道発表されていない。処分はホームページ内の「情報公開」欄に約3週間のみ掲載されており、閲覧には複数の操作を要していた。かつては報道発表を行っていた地域も含め、2023年度以降は原則非公表方針に転換されており、報道基準も明確に定められていない。機構本部は「今後の対応を検討中」としているが、情報公開の不透明さと組織の説明責任の欠如に対し、専門家からは「信頼性を損なう」と懸念の声が上がっている。 参考 1) 国立病院機構が懲戒処分の47人を報道発表せず、ホームページのみ掲載…「公表のあり方について検討」と担当者(読売新聞) 2) 盗撮などの懲戒処分、国立病院機構九州グループが報道機関に発表せず…2023年7月~25年3月で17人(同) 3) 国立病院機構、悪質セクハラで1人懲戒解雇 東海北陸管内、2024年度の処分10件(中日新聞)

5.

自己免疫疾患に対する心身症の誤診は患者に長期的な悪影響を及ぼす

 複数の自己免疫疾患を持つある患者は、医師の言葉にひどく傷つけられたときのことを鮮明に覚えている。「ある医師が、私は自分で自分に痛みを感じさせていると言った。その言葉は私をひどく不安にさせ、落ち込ませたし、今でも忘れられない」と患者は振り返る。 全身性エリテマトーデス(SLE)や血管炎などの自己免疫疾患では、一見すると疾患とは無関係に見える非特異的な心身の症状が複数現れ、診断が困難なことがある。そのような場合、医師は患者に、心身症、つまり症状が精神的なものである可能性を示唆することが多い。その結果、医師と患者の間に「誤解と意思疎通の食い違いに起因する隔たり」が生まれ、それが医療に対する患者の根深く永続的な不信感につながっていることを示した研究結果が、「Rheumatology」に3月3日掲載された。 この研究では、全身性自己免疫疾患(SARD)患者の2つのコホート(LISTENコホート1,543人、INSPIREコホート1,853人)に対する調査データを用いて、患者が医師に、症状を心身症または精神疾患と誤って診断された(以下、心身症・精神疾患の誤診)と感じることが、患者に与える長期的な影響を調査した。影響は、医療との関係(医師に対する信頼、ケアに対する満足度など)、医療に関わる行動(服薬アドヒアランス、症状報告の頻度や正確性など)、精神的ウェルビーイング(抑うつ、不安)の観点から評価した。 その結果、LISTENコホートで心身症・精神疾患の誤診を受けたことを報告した患者の80%超が、「誤診を受けたときに医師に対する信頼感が損なわれた」と回答し、55%はそのことが医師への長期的な不信感を生んだと回答していた。また、「誤診により自尊心が傷つけられた」と回答した患者も80%超に上った。さらに、72%は、誤診から数カ月または数年が経過したにもかかわらず、その経験を思い出すと動揺すると回答した。 心身症・精神疾患の誤診を受けた患者は、精神的ウェルビーイングが大幅に低く、抑うつや不安のレベルが高く、医療的ケアに対する満足度も全ての面で低いことも示された。さらに、このような誤診は医療に関わる行動にも悪影響を及ぼし、症状を過小報告する傾向や医療を回避する傾向の高いことが確認された。これらの行動は、受診時に再び同様の扱いを受け、症状を信じてもらえないかもしれないという不信感や恐れに起因するものであることが示唆された。ただし、服薬アドヒアランスとの間には関連が認められなかった。 一方、医師からは、「症状を心身症とすることで患者に引き起こされ得る長期的な問題については、あまり考えたことがなかった」や、「ガスライティング(心理的虐待)を受けたと感じる患者は、誰が何を言っても信用しなくなってしまう。患者に大丈夫だと納得させようとすると、『でも、前の医者もそう言ったけど、間違っていた』と言われる」と話したという。 論文の筆頭著者である、英ケンブリッジ大学のMelanie Sloan氏は、「多くの医師は、最初は説明のつかない症状に対して、心身症または精神的なものである可能性を示唆して患者を安心させようとする。しかし、こうした誤診は多くの否定的な感情を生み出し、生活、自尊心、ケアに影響を及ぼす可能性がある。このような悪影響は、正しい診断が下された後も解消することはあまりないようだ。われわれは、このような患者をもっと支援して精神的な傷を癒やし、臨床医がより早期の段階で自己免疫疾患の可能性を考慮するよう教育する必要がある」と話す。 自己免疫疾患患者として本研究に協力した論文の共著者の1人であるMichael Bosley氏は、「この種の誤診が長期にわたる精神的・感情的被害と医師に対する信頼の壊滅的な喪失につながる可能性があることを、より多くの臨床医が理解する必要がある。自己免疫疾患の症状が、このような普通ではない形で現れる可能性があること、また、患者の話を注意深く聞くことが、心身症や精神疾患の誤診が引き起こす長期的な害を避ける鍵であることを全ての医師が認識するべきだ」と付言している。

6.

第232回 高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府

<先週の動き>1.高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府2.患者情報を即時に共有、「マイナ救急」で救命率向上へ/総務省消防庁3.大学病院に医師派遣義務付けへ、特定機能病院の新基準案/厚労省4.人口減少で社会保障に影響 現役世代の負担増は避けられず/厚労省5.医療ソーシャルワーカーも巻き込む高額な紹介料、規制を検討へ/厚労省6.精神科病院で患者虐待、通報義務を無視 看護師の暴行を隠蔽か/岐阜県1.高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府石破 茂首相は2月28日、衆院予算委員会で高額療養費制度の負担上限額引き上げを8月から実施すると明言した。一方で、2026年8月以降のさらなる引き上げについては患者団体の意見を聞いた上で再検討し、今秋までに結論を出す方針を示した。この発表に対し、立憲民主党の野田 佳彦代表は「1年間凍結し、患者と対話をするべきだ」と主張。患者団体からも「治療を諦めざるを得ない人が出る」「命に関わる問題」と強い反発の声が上がっている。政府の方針では、年収370~770万円の患者は月額負担上限が約8,000円増の8万8,200円に、年収770~1,160万円では2万円増の18万8,400円、年収1,160万円以上は約4万円増の29万400円となる。さらに2026年以降は区分を細分化し、年収650~770万円では最終的に13万8,600円、年収1,650万円以上は44万4,300円に引き上げる予定だったが、見直しの可能性が示された。負担増の背景には高齢化と高額薬剤の普及による医療費の増加がある。政府は「制度を持続可能にするため」と説明するが、患者団体や専門学会は「がん患者の治療継続が困難になる」「経済的理由で適切な治療を受けられなくなる」と強く批判。日本臨床腫瘍学会などは「上限額の引き上げ幅が大きすぎる」と慎重な検討を求める声明を発表した。高額療養費の見直しは、子育て支援や医療財源確保の観点から避けられないとする意見もあるが、患者の命に関わる制度であるため、慎重な議論が求められている。参考1)石破首相、医療費の負担アップ「実施したい」と表明 非難集まる「高額療養費の負担上限引き上げ」8月から(東京新聞)2)高額療養費制度 負担上限額引き上げ方針で自己負担はどうなる?年収別に詳しく2025年8月から開始 2026年8月以降は再検討へ(NHK)3)高額療養費の負担増、一部凍結を首相表明 今夏は実施して「再検討」(朝日新聞)4)高額療養費引き上げ凍結に応じぬ石破首相、立民「不十分」と反発 予算案採決へ溝埋まらず(産経新聞)5)高額療養費制度における自己負担上限額引き上げに関する声明(日本臨床腫瘍学会・日本癌学会・日本癌治療学会)6)高額療養費制度上限額引き上げに関する緊急声明(日本乳癌学会)7)高額療養費制度の負担上限額引き上げに関する声明(日本胃癌学会)8)高額療養費制度の負担上限額引き上げに関する緊急声明(日本緩和医療学会)2.患者情報を即時に共有、「マイナ救急」で救命率向上へ/総務省消防庁総務省消防庁は2025年度より、全国の全消防本部で「マイナ救急」を本格導入する。「マイナ救急」とは、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」を活用し、救急搬送時に患者の通院歴や服用薬などの医療情報を確認するシステム。昨年実施された実証事業では約1万1,000件の情報閲覧が行われ、迅速な病院選定や適切な処置に貢献した。救急隊員からは「搬送先決定の迅速化」「意識不明者の病歴把握の容易化」といったメリットが報告され、病院側からも「診療開始の時間短縮」「独居高齢者の正確な医療情報の把握ができた」との評価が寄せられた。具体的な事例として、持病の糖尿病がマイナ保険証で判明し、搬送中に適切な処置が行われたケースや、意識のない患者の服薬状況が即座に確認できた事例などがあった。一方で課題も残り、救急隊員には患者の所持品を確認する法的根拠がなく、意識を失った傷病者がマイナ保険証を提示できない場合、情報閲覧が困難となる。また、従来の医療機関専用システムでは情報閲覧に時間を要する問題があり、消防庁はタブレット端末を活用した新システムを開発し、3月に実装する予定という。消防庁は将来的に、マイナ保険証をスマートフォンに搭載し、救急隊がロック解除なしで必要な医療情報を閲覧できる仕組みの検討も進める方針。救急医療の効率化を図る一方、個人情報保護や法整備の必要性が問われており、今後の運用方法に注目が集まる。参考1)マイナンバーカードを活用した救急業務(マイナ救急)の全国展開に係る検討(消防庁)2)マイナ保険証を活用する「マイナ救急」とは 全国の消防本部に導入へ(NHK)3)マイナ救急の実証事業、全720消防本部で来年度実施へ 情報閲覧の新システムを構築 総務省消防庁(CB news)4)マイナ救急、意識障害の急病人の早期回復などにつながる-4月から全国で実施(ケータイWatch)3.大学病院に医師派遣義務付けへ、特定機能病院の新基準案/厚労省厚生労働省は2月26日、高度な医療を提供する「特定機能病院」の基準を見直し、大学病院には「医師を派遣する機能」を追加する方針案を公表した。大学病院は、これまで高度な医療の提供、研究、教育といった役割を担ってきた。しかし、医療の高度化に伴い、大学病院以外の病院も高度な医療を提供できるようになり、大学病院の役割が見直されている。そこで、厚労省は、大学病院にしか担えない役割を明確にすると同時に、特定機能病院の基準を見直すこととした。新基準案では、大学病院に対し、地域医療を守るための医師派遣機能を強化することを求めている。具体的には、大学病院が地域に一定数の医師を派遣することを求めるほか、移植医療やゲノム医療、充実した研究や教育体制、都道府県と連携した医師派遣の取り組みなどを評価する。将来的には、積極的に取り組む大学病院には、経済的な報酬などのメリットも検討している。参考1)第23回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会資料(厚労省)2)大学本院「基礎的」と「上乗せ」の基準設定へ 特定機能病院の承認要件、厚労省が見直し案(CB news)3)大学病院に「医師派遣機能」追加へ 厚労省、特定機能病院の新基準案(朝日新聞)4.人口減少で社会保障に影響 現役世代の負担増は避けられず/厚労省厚生労働省が、2月27日に発表した2024年の人口動態統計速報によると、わが国の出生数は72万988人と過去最少を更新し、9年連続で減少した。死亡数は161万8,684人と過去最多となり、出生数を上回る「自然減」は過去最大の89万7,696人に達した。人口減少はさらに加速し、少子化の進行が政府の想定よりも15年早まった結果となった。少子化の主な要因として、未婚化・晩婚化の進行、経済的な不安、子育てと仕事の両立の困難さなどが挙げられる。とくに、出産・育児による女性の賃金低下が顕著で、男女間の格差が拡大している。社会全体に根付いた「子育ては女性の役割」といった価値観や長時間労働の慣行も影響しており、単なる経済支援策だけでは効果が限定的である。政府は2024年度から3年間で「異次元の少子化対策」を進め、児童手当の拡充や育児休業給付の改善を行っている。しかし、今回の統計はこうした施策の初年度に当たりながらも、出生数の増加にはつながらなかった。加えて、婚姻数は49万9,999組と戦後2番目に低い水準にあり、少子化対策の根本となる婚姻の増加も実現できていない。こうした状況に対し、石破 茂首相は「出生数の減少に歯止めがかかっていない。地方の出生率の高さに注目し、若者や女性の定着を進める」と述べた。また、政府は社会保障制度の維持のために、高齢者中心だった給付と負担の構造を転換し、現役世代の負担を軽減する方針を示した。しかし、現役世代の減少は避けられず、今後の社会保障制度の安定性にも懸念が広がる。専門家は「少子化を前提とした社会の仕組みを構築し、男女ともに働きやすく、安心して子育てができる環境を整備することが急務」と指摘している。少子化対策には時間がかかるため、政府は短期的な経済支援だけでなく、社会全体の意識改革や労働環境の抜本的な見直しを進める必要がある。参考1)人口動態統計速報[令和6年12月分](厚労省)2)24年の死亡数・人口減が過去最多 厚労省、約90万人の自然減(CB news)3)少子化の進行、想定より15年早く…昨年の出生数は過去最少72万988人で9年連続最少(読売新聞)4)24年出生数は最少72万人 10年で3割減、現役世代に負担(日経新聞)5)「異次元の少子化対策」初年度は不発 婚姻数も最低水準(同)5.医療ソーシャルワーカーも巻き込む高額な紹介料、規制を検討へ/厚労省東証プライム上場企業「サンウェルズ」が、入所者紹介業者に対し1人当たり100万円の高額な紹介料を支払っていたことが発覚した。同社は現在、こうした高額紹介を受けない方針に転換するとしているが、老人ホーム業界では要介護度に応じた紹介料の設定が横行しており、公平性が問題視されている。この問題を受け、日本医療ソーシャルワーカー協会は、全国の医療ソーシャルワーカーを対象に紹介業者との関係実態を調査開始。元紹介業者の証言によれば、MSW(医療ソーシャルワーカー)への接待を通じて、入所者を紹介させるケースもあったという。また、厚生労働省は要介護度に応じた紹介料を「不適切」と認定し、昨年12月に有料老人ホームの設置運営標準指導指針の改正を行い、有料老人ホームに対し、入居希望者の介護度や医療の必要度に応じて手数料を設定しないよう求めているが、さらなる規制を検討している。さらに厚労省は自治体に対しては、施設側の指導を強化するよう求めている。高齢者施設の紹介ビジネスが、医療・介護保険を利用した営利目的の手段と化している実態が浮き彫りとなり、制度の見直しが急務となっている。参考1)老人ホーム会社、診療報酬28億円不正請求疑い 高額紹介料支払いも(朝日新聞)2)医療ソーシャルワーカー協会、紹介業者との関係を調査 高額紹介料で(同)3)要介護度に応じた高額紹介料「不適切」 老人ホームビジネスで厚労相(同)4)高額な紹介料は不適切 厚労省 有料老人ホーム指導指針を改正(シルバー新報)5)有料老人ホームの設置運営標準指導指針について(厚労省)6.精神科病院で患者虐待、通報義務を無視 看護師の暴行を隠蔽か/岐阜県岐阜県海津市の精神科病院「養南病院」で、2024年10月に男性看護師が女性入院患者に暴行を加えたにもかかわらず、病院が義務付けられている通報を怠っていたことが明らかになった。暴行の内容は、患者が指示に従わなかったことに腹を立て、押し倒して首をつかむなどの行為であり、院内カメラにも映像が残されていた。病院側は患者からの訴えを受け、事態を把握していたが、加害者である看護師は自主退職したため、懲戒処分も行われなかった。病院の関谷 道晴理事長は「通報義務が頭から抜け落ちていた」と釈明している。2024年4月の精神保健福祉法改正により、精神科病院で虐待が疑われる事案を発見した場合、都道府県への通報が義務化されている。しかし、病院は「職員がすぐに退職したため、判断に迷い通報をためらった」と説明。匿名通報を受けた岐阜県が11月に立ち入り調査を実施し、今回発覚に至った。病院側も「隠蔽と受け取られてもやむを得ない」と認めている。また、昨年12月には別の女性看護師が患者に対し乱暴な対応をしたことも判明。この件については県に通報され、現在調査が進められている。同病院では、過去にも看護師による不適切な言動が複数報告されており、県が継続的に監視を行う方針だ。この問題を受け、病院は「再発防止と信頼回復に努める」としているが、精神科病院の通報体制の不備や虐待の隠蔽体質が浮き彫りになった。厚生労働省の指導の下、精神医療の透明性向上と、虐待防止策の徹底が求められている。参考1)精神科病院で虐待、隠蔽 改正法で義務化の通報せず(共同通信)2)義務付けられた県への通報せず…精神科病院で男性看護師が女性患者に暴行 言うことを聞かず立腹し押し倒す(東海テレビ)3)海津市の精神科病院 虐待疑われる事案を県に通報せず(NHK)

7.

テレビドラマ「説得」【親が輸血だめなら子供もだめ!?(医療ネグレクト)】Part 2

輸血禁止の教えに子供はどうすればいいの?荒木夫妻は、以前に健が宿題の読書感想文を家で音読していた時のことを回想します。健は「…王子はお父さんをとても尊敬していたのです。僕も王子のようにお父さんの言うことをよく聞いて、信仰の道にがんばりたいと思います」と誇らしげに締めくくっていました。また、事故が起きる3週間前にも、母親が「交通事故起こしても、輸血してあげられないんだから」「本当に気を付けてね」と念押ししていました。健は「うん、いいよ」と軽く言っていました。これらのやり取りをもとに、荒木夫妻は、自分たちだけでなく、健も輸血を拒否する意思を持っていると考えていました。最後の最後で医師たちが健に直接確認しようと、「生きたいだろ?」と大声で呼びかけます。しかし、時すでに遅く、彼は返事をしません。そこに立ち会っていた荒木は、あとで「健は生きたいって。生きたいって言ったんだ。おれにはわかった」と打ち明けます。実際の事件では、その男の子は、医師から「輸血してもらうようにお父さんに言いなさい」と呼びかけられると、「死にたくない。生きたい」と訴えていました。当然ながら、小学5年生の子供が、いくら信仰心があるからといって、そのために死を選ぶことは考えにくいです。彼が信仰の道に頑張ると宣言し、輸血禁止に同意していたのは、そうでもしなければその家で生きていけないと思っていたからでした。つまり、子供には、最初から選択肢などないのでした。彼の言動は単純で、教えに沿った発言をしたら親が喜ぶから、ただそうしているだけでしょう。逆に、教えに少しでも疑問を抱いたことを口走ればどうなるでしょうか?ドラマでは描かれていませんでしたが、実際には、親から「お前はサタンだ」と激怒され、むち打ち(これも教えの1つ)が行われます1)。明らかに、親が宗教を子供に強要しています。これは、宗教的虐待と呼ばれています。また、このような親に育てられた子供は、「宗教2世」「カルト2世」と呼ばれています。なお、一般的な子供虐待の詳細については、関連記事2をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

8.

テレビドラマ「説得」【親が輸血だめなら子供もだめ!?(医療ネグレクト)】Part 3

輸血拒否に医療はどうすればいいの?健が死んで1ヵ月後、担当していた医師が、荒木に再会し、言います。「心臓外科が専門なんですが、手術しても社会に復帰できない子がたくさんいるんです。宗教的に言えば、神がそういうふうにつくったとしか…それを手術して、神の意思に反してるんじゃないかって気がする時も。そう言いながらも、やはり今手術しないと死んでしまうと言えば、やはり…あの直後、うちの病院では、今後(子供には)承諾が取れなくても、医師の判断で輸血をするという決定をしました」と。実際に、2008年に日本輸血・細胞治療学会と日本小児科学会は合同でガイドラインを出しました。そして、2022年と2023年に厚労省は、このガイドラインを踏まえて、宗教的虐待と医療ネグレクトに関する指針を出しました3,4)。なお、医療ネグレクトとは、医師が必要と判断した医療を親が子供に受けさせないことです。このガイドラインでは、年齢を3つの時期に区切り、場合分けをしています。まず、18歳以上は当然ながら、本人の意思が尊重されます。逆に、14歳以下は、拒否が親や本人にあったとしても、なるべく輸血しないとしつつも、最終的には輸血は可能になります。注目すべきは、15歳から17歳の年齢です。本人と親がどちらも拒否した場合のみ、輸血は不可になります。たとえば、長女は「教えを守れば天国に行ける」と確信していたので、中3で15歳になっているとすると、彼女に輸血することはできません。逆に、どちらかしか拒否しなかった場合は、なるべく輸血しないとしつつも、最終的には輸血は可能になります。なお、15歳で分けている理由は、15歳が民法で遺言の効力が生まれる年齢と定められているからです。また、知的障害などによって医療に関する判断能力がない場合は、14歳以下と同じく、輸血は可能になります。さらに、輸血を含めて治療が親によって阻害される場合は、児童相談所に虐待通告し、児童相談所で一時保護のうえ、家庭裁判所による親権停止の審判を受けて、治療を行うことができます。緊急性がある場合は、審判確定までの間に権利を保護する暫定的な処分(保全処分)を申し立てることで、すぐに効力が発生する措置がとられます。実際に、2021年に親権停止が認められたのは107件で、医療ネグレクトが原因とされるものは21件でした1)。また、輸血拒否をする教団(「エホバの証人」)の広報によると、2017年から2022年の5年間で、親権停止などの法的措置がとられたのは13件でした1)。「説得」とは?このドラマは、親の信仰によって子供の命が救えなくなるという、宗教と医療の衝突を生々しく描いていました。そして、信仰とは、妄想と同じく不合理で訂正不能であるため、いくら理屈をこねたり情に訴えたりして説得しようとしても、納得が得られないものであることもわかりました。学会のガイドラインや厚労省の指針のおかげで、親の信仰によって子供の命が救えなくなることはなくなりました。しかし、まだ問題が残っています。それは、命にかかわる急性疾患とは違い、すぐに命にかかわらない慢性疾患や、担当した医師が言っていたように手術しても必ずしも治るとは限らない疾患についてです。たとえば、実際に、子供が精神的に不調でも親が偏見やいわゆる根性論から児童精神科を受診させないケースは、時々見受けられます。このような場合は、司法が親権停止の判断を出すのが難しくなります。つまり、どこまでが医療ネグレクトでどこまでが親の裁量とするかという線引きの問題がまだ残っています。これは、医療を含む子育て全般にも言えることです。この線引きのために、信仰を押し付けるのはもっての外ですが、経験則や自分の思い入れ、思い込みではなく、アカデミックな視点が必要です。それは何より、子供の不利益にならないようにするためだからです。これからは、医療だけでなく、子育てにも倫理観が必要な時代になってきます。これは、医療倫理を超えて、子育てのあり方にも広がる「子育て倫理」と呼べるでしょう。なお、今回は治療をさせない親がテーマでしたが、逆に治療をさせすぎる親については、関連記事3をご覧ください。1)宗教と子供p.106、p.118、p.122、pp.124-125、pp.149-153:毎日新聞取材班編、明石書店、20242)宗教の起源p.246:ロビン・ダンバー、白揚社、20233)宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A:厚生労働省子供家庭局長通知、20224)宗教の信仰等を背景とする医療ネグレクトが疑われる事案への対応について:厚生労働省子供家庭局長、2023虐待についての関連記事教育虐待そして父になる(続編・その1)【英才教育で親がハマる「罠」とは?(教育虐待)】教育ネグレクト映画「かがみの孤城」(その2)【実は好きなことをさせるだけじゃだめだったの!?(不登校へのペアレントトレーニング)】Part 1<< 前のページへ■関連記事映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その1)【宗教体験と幻覚妄想は表裏一体!?(統合失調症の二面性)】Part 1Mother(続編)【虐待】映画「ラン」(前編)【なんで子供を病気にさせたがるの?(代理ミュンヒハウゼン症候群)】Part 1

9.

コンサルトを気持ちよくするには【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第3回

コンサルトを気持ちよくするにはPointプレゼンテーションはSNAPPSで。 コンサルト医に何をしてほしいかを明確にする。緊急性がある場合はためらわず即コンサルト。いつもコンサルト医に感謝の気持ちを忘れずに。症例70歳男性。既往に狭心症と糖尿病あり。1時間前にジムで運動中に胸部絞扼感あり。今もなんとなく胸がつらく救急外来を受診した。体温36.5℃ 血圧130/60 mmHg 心拍数58回/分 呼吸数20回/分 SpO2 99% room air じとっと冷や汗あり。当直の研修医Aは心電図をとったけど自分ではよくわからず(ホントはSTEMI!)。今日の当直の上級医は循環器内科の怖い○○先生であったので、とりあえず血液検査をしてから相談することとした。血液検査とルートを確保して15分ほど経ったところ患者さんは呼吸苦を訴え苦しみ始めた。血圧も80mmHg台へ低下、モニターも心室頻拍が数発認められるようになってきた。どうしてよいかわからずテンパりはじめ、看護師さんにも急かされて以下のようにコンサルトした。研修医 A「研修医Aです。70歳の男性が1時間ほど前にジムで運動中に胸部絞扼感があって」上級医 「心電図は?」研修医 A「STは上がってないような気がします」上級医 「ふん」研修医 A「体温36.5℃、血圧130/60mmHg、心拍数58回/分、呼吸数20回/分、SpO2 room airで99%でした。あと既往に狭心症と糖尿病があるようです。血液検査とルートは確保したのですが、先ほどから血圧も80mmHg台に下がりはじめ、モニターにも心室性頻拍のような変な脈が出てて…ちょっとって感じで…」上級医 「お前、最初っからヤバいって言って早く俺を呼べよ! グルァァァァ!」研修医 A(そういうところが怖くて呼べなかったんだよ…泣)おさえておきたい基本のアプローチプレゼンテーションはSNAPPSで!医師として生きる以上どんな診療科、どんな経験年数を積んでも他科、他病院へのコンサルトは必要である。現代医療はすべて自分1人の診察で完結できるわけではない。患者のためを思って、専門科へ適切にタイミングよく、簡潔に礼節をもってコンサルトができるようになろう。とは言ってもどうすればよいのか…わかってたら苦労しないよね。そんなときはSNAPPS(表)でコンサルト!表 SNAPPS画像を拡大するSNAPPSのうちで最も大事なのは、Aで根拠となる病歴と身体所見を述べ、自分の評価・思考過程を提示すること。ここが間違っていれば、コンサルト医が教えてくれ、次の成長につながる。自分の診断や鑑別診断を根拠ももたずに羅列するだけでは成長が望めないのだ。思考過程をきちんと開示することは、コンサルト医も指導しやすくなるんだ。落ちてはいけない・落ちたくないPitfallsコンサルト医に何をしてほしいかを明確に伝えよう医者は皆忙しい(はず)。コンサルトされる側の先生も今自分が行っている仕事の手を止めてまでコンサルトに出向くかどうかは常に気になる。長ったらしい現病歴だけのプレゼンほど、聞いていてげんなりするものはないんだ。「結局何が言いたいんだってばよ!」ってな感じで、「うーん、よくわからないけどとりあえず行くわ!」と言っていただける先生のほうが少数派であろう。明確に何をしてほしいのかを必ず伝えよう(電話で聞きたいだけなのか、診察に来てほしいのかをまず明確に伝えるべし。次に詳細な内容に入る。入院が必要だと思うので診察に来てほしい、次回の外来に回すのでよいか電話相談したい、画像の確認をしてほしい、まったくわからないので助けてほしい、などなど)。「わからないので助けてほしい」と正直に言うことは全然悪くない。「行けばいいのか、行く必要がないのか」がコンサルトされる側が一番気になるところなんだ。話を引っ張って大どんでん返し! なんて展開は推理小説ならいいが、コンサルトではいただけないんだ。Point例:虫垂炎を疑う患者さんを診ているのですが、正直自信がないので、一緒に診察していただけませんか?緊急性がある場合はためらわず即コンサルトST上昇型急性心筋梗塞、t-PA適応である発症4、5時間以内の脳梗塞、絞扼性腸閉塞、開放骨折など今後の緊急処置が必要な疾患と診断したら、即コンサルトしよう。もう少し血液検査を揃えてから、家族に話を聞いてから、もう少しカルテ書いてからなどと引っ張ってしまうと、患者の大切な時間、専門医の先生が患者に介入するまでの時間を奪ってしまう。結局専門医の先生に連絡してからも手術室やカテ室、追加のスタッフ手配など結構時間がかかってしまうんだから。このときのコンサルトのポイントは診断名からさっさと言うこと。あいまいな表現は避けること。現病歴は最低限でOK。専門医の先生に電話して緊急治療のスイッチを入れるのが先だ!専門医の先生が来られたら積極的にお手伝いをすること。電話のときに何かしておくことはありますか? と一言聞いておくのもbetter。その患者のためにできることをみんなでやろう。Point例:発症2時間ほどの脳梗塞の患者さんが来られたので、至急一緒に診察をお願いできますか?いつもコンサルト医に感謝の気持ちを忘れずに夜間のコンサルト、ましてや院外からのoncallとなると専門医の先生もつらい。だって人間だもの。理不尽にコンサルトした側が怒られることもままあるが、あなたは患者のためを思ってコンサルトしたんだ。今後その患者の診療で主役となるのは患者とともに主治医になる専門科の先生だ。患者のために専門科の先生に頭を下げることは恥ずかしいことではない。患者のためを思って堪えるところはグッと堪えよう。ただし、コンサルトしっぱなしということもよくない。コンサルト先の先生が来られたら必ず自分で直接お礼、手短なプレゼン、検査結果などの準備、患者や家族の案内などをしよう。専門科の先生、患者双方が気持ちよく診療できる、診察を受けられる環境を作ることが非常に大切だ。各科特有のキーワードをしっかり押さえておくことも大事だ。共通言語を使わずしてコンサルトはうまくいくはずもない。脳外科ならCTでの出血部位と型、出血量、midline shift、GCS(Glasgow Coma Scale)など。産科なら妊娠歴、出産歴、流産歴など。最初からできるはずもないので、コンサルトのたびにどんな情報を伝えると、専門科が判断しやすいのかその都度教えてもらって成長しよう。Point実るほど頭を垂れる稲穂かな「あーでもなくて、こーでもなくて…はい、全然わかってなくて、すみません」全然わからない症例ってあるよね。とくに社会的な背景が濃い症例は研修医には太刀打ちできない。配偶者虐待、小児虐待、高齢者虐待、高度希死念慮症例、権利意識の強いVIP患者などは、研修医や専門外の医師にとっては、その対応は至難の業だ。わからないのに無駄に時間を引っ張ってはいけないし、そうかといってうまく専門医にプレゼンできるほど評価もできない。大丈夫、上級医はそんなややこしい症例のためにいるのだから。トラブルになりやすい症例は、団体戦で臨むに限るのも本当のことなのだから。心の中で(だるまさんでぇ~す)と叫んで、手も足も出ないことを前面に出し恥も外聞もプライドも捨ててコンサルトすればいい。そのときは、正直に自分は全然わからないことを謝罪し、全力で尻尾を振るかわいい子犬のように愛くるしいまなざしでコンサルトしよう。ここまで降参や服従の意思を見せても、来てくれなければそれは男気のない〇〇医者ということ(失礼!)。ほとんどの医者は優しく、きちんと助けてくれる、または一緒に悩んでくれるから大丈夫。電話を掛けただけでコンサルト終了ではない専門医に電話をした段階で患者に対する責任は移ったと思ってはいけない。あくまでもコンサルト医が病院に到着して、患者を診て初めて責任の所在が移るんだ。電話で呼び出して、その後患者を放置して、他の患者に手をとられて、患者のことを忘れてしまうと、とんでもないことになってしまうことがある。病態は刻々変化しうるのだ。コンサルト医だってさまざまな理由で遅れてしまうこともある。コンサルト医が病院へ向かう途中で事故にでもあえば、遅くなるのは必定ではないか。風呂に入っていたら、案外急いでも時間がかかる。嫁さんに「また夜中に出ていくの。私と仕事とどっちが大事なの」なんて夫婦の修羅場にあっているかもしれない。コンサルト医が病院に到着するまでは、何が何でも初療医が患者の責任を負う必要があるんだよ。勉強するための推奨文献Wolpaw T, et al. Acad Med. 2009;84:517-524.Bothwell J, et al. Ann Emerg Med. 2020;76:e29-e35.(コンサルトする側、コンサルトされる側双方のTipsがちりばめられたgood review)林寛之 著. Dr.林の当直裏御法度-ER問題解決の極上Tips90 第2版. 三輪書店;2018.寺澤秀一 著. 話すことあり、聞くことあり-研修医当直御法度外伝. CBR;2018.増井伸高 編・著. 救急現場から専門医へ あの先生にコンサルトしよう!. 金芳堂;2021.執筆

10.

認知症ケアの方法間の比較:カウンターフレンチと、無農薬の農家レストランと、町の定食屋(解説:岡村毅氏)

 認知症と診断された人をどうやってケアするのがよいか、という実際的な研究である。1番目の群は「医療」で働いている専門家が、本人に合ったケアをコーディネートしてくれる。2番目の群は「地域」で働いている専門家が、いろいろとつないだりアドバイスしてくれる。3番目の群は、通常のケアである。これらを、認知症の行動心理症状(もの忘れ等の中核的な症状ではなく、たとえば、興奮とか妄想とか、介護者が最も困るもの)をメインアウトカムとして比較している。 説明の前に、認知症の医療のことを少し説明しよう。がんなどの古典的な医療提供体制としては、<調子が悪くてかかりつけ医に行く⇒異常があり大病院に紹介⇒大病院で精密検査しがんが見つかる⇒先端的チームによる素晴らしい手術を受ける⇒術後のケアを受ける⇒安定したらかかりつけ医に戻る>といった経過を取る。では認知症ではどうだろうか。かつては大学病院の認知症外来でも、がんなどと同じことが行われていた。<遠方から患者さんがやって来る⇒大学病院で平凡なアルツハイマー型認知症と診断される⇒大学病院に来続ける⇒ゆっくりと進行する⇒ある日通院できなくなり地域の資源を探し始めるがよくわからない>といった経過である。患者さんや家族にとって、大学病院にかかっている安心感がある以外にメリットのない構図である。 珍しい疾患や、診断が難しいもの(たとえば若年性認知症や、さまざまな希少な神経変性疾患)は大学病院等にかかる意味はあるだろう。しかし普通の認知症は、地域の医療機関や、地域の介護専門家と早期から関係をつくって、本人に合ったケアをコーディネートしたり、さまざまな地域資源のつながりの中でケアしたほうがうまくいく。そもそも大学病院等は、地域とは隔絶していることが多く、認知症ケアに関しては無力であることが多い(もちろん例外もあるだろうが)。 本研究は、「医療」に重きを置く、あるいは「地域」に重きを置くケアが、通常のケアよりも優れているのではないか、そしてどちらがより優れているのか、というのを検証している。 結果は、認知症の行動心理症状に関しては残念ながら3群に有意差はなかった。米国の「通常ケア」の実態を知っているわけではないが、ケアシステム間の比較は難しい。先端的なケア(1、2群のこと)のほうが優れていることは専門家なら誰でもわかっている。とはいえ、患者さんが大変な状況になったら、ケアシステムの中の人は、たぶん必死で助けようとするだろう。どのケアシステムにも、とても優れた専門家もいれば、そうでもない人もいる。なので行動心理症状のような「大変な事態」で比較してしまうと、ケアシステム間の差はうまく出なかったのだろう。例えて言うなれば、カウンターフレンチや無農薬の農家レストランは、町の定食屋に比べたら特別な体験を提供できるし、高いお金を取れる。ただし、空腹の人が飛び込んだ場合には、おいしさには3群に差はないだろう。 なお、メインアウトカムではないが、介護者の自己効力感(自分ならできるという感覚、ケアを安全に続けるためには必須の力であり、これがないと、自分がうつになったり、介護対象者を虐待するリスクが上がる)は1、2群が高かった。これは、当たり前ともいえる。介入群では意識の高い専門家が寄り添ってくれたのだから、自己効力感は上がるだろう。 私たちの研究チームでも、認知症の社会医学研究では、認知機能や行動心理症状などでは有意差を得ることが難しい。それは認知症が複雑な状態であり、認知機能や行動心理症状はその一部にすぎず、そして世界との絶え間ない交流という動的状態の中にあるからだ。そして世界もまたきわめて複雑だからである。私たちのチームでは本人・家族のウェルビーイングや自己効力感を使っている。私たちならメインアウトカムを行動心理症状にはしなかっただろう。

11.

ネグレクトは子どもの発達にダメージを与え得る

 ネグレクトは身体的虐待や性的虐待、感情的虐待と同様に子どもの社会的発達にダメージを与え得ることを示した研究結果が明らかになった。基本的な欲求が満たされない子どもは、友人関係や恋愛関係を築く能力が生涯にわたって損なわれる可能性があるという。米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校社会学分野のChristina Kamis氏と米ノートルダム大学社会学分野のMolly Copeland氏による研究で、詳細は「Child Abuse and Neglect」2024年12月号に掲載された。 Kamis氏らは、思春期の子どもの健康状態を成人期まで追跡調査している米連邦政府の長期研究(National Longitudinal Study of Adolescent to Adult Health;Add Health)調査参加者9,154人のデータを分析し、マルトリートメント(ネグレクトや虐待などの不適切な養育)が参加者の社会性や仲間からの人気度、社会と強固なつながりを築く能力に及ぼす影響について調べた。参加者は、7~12年生時(1994〜1995年)に初回の調査を受け、その後、第3次調査(2001〜2002年)および第4次調査(2008〜2009年)も受けていた。 参加者の40.86%が12歳あるいは6年生(12歳)になるまでに、身体的虐待や性的虐待など何らかのマルトリートメントを受けた経験があると報告していた。そのうちの10.29%は、養育者が住居、食事、衣服、教育、医療へのアクセスや精神的サポートを与えないことで子どもを危険な状態に置くことを意味する身体的ネグレクトであった。参加者には、在学時に実施した調査で、参加者に最も親しい男女の友人を5人まで挙げるよう求めた。社会性は当時の友人の数に基づき測定した。一方、人気度は、その参加者の名前を友人の1人として挙げた仲間の数に基づき測定した。社会的つながりの強さは友人グループのネットワークに基づき測定した。 子どもが友人として挙げた仲間の数は平均で4.49人であり、1人につき平均4.54人がその子どもを友人として挙げていた。しかし、虐待やネグレクトを経験した子どもは、友人として挙げる仲間の数や、その子どもを友人として挙げる仲間の数が統計学的に有意に少ないことが示された。また、種類にかかわらず、マルトリートメントは子どもの社会性の発達に有害な影響を与えることも示された。例えば、性的虐待の経験は子どもを仲間から孤立させやすくする。一方、感情的虐待や身体的虐待の経験は、子どもの人気度を低下させたり、社会的なつながりを弱めたりする可能性のあることが明らかになった。ただし、これら3つの要素の全てに支障をもたらすのは身体的ネグレクトのみであった。 Kamis氏は、「マルトリートメントを受けた子どもは、しばしば羞恥心を感じ、それが自尊心や帰属意識を低下させ、結果的に仲間から孤立しやすくなる可能性がある。また、そうした経験から、仲間から拒絶されたり危害を加えられたりするのではないかと考えるようになり、他者との関わりを持とうとしなくなる可能性も考えられる」とイリノイ大学のニュースリリースの中で述べている。 Kamis氏らは、ネグレクトの経験がある子どもを友人として挙げる仲間が少ないという事実は、同級生がそうした子どもを避けたがっていたことを示唆していると考察している。Kamis氏は、「マルトリートメントそのものが偏見の対象となり、その経験の痕跡が目に見える形で残っていたり仲間に知られたりすると、仲間はその子どもを避けるようになる可能性がある」と説明している。また同氏は、「マルトリートメントによって感情のコントロールが難しくなったり、攻撃性が増したり、社会性に乏しい行動が見られたりすることで、友人としての望ましさを損なう行動が多くなる可能性もある」と述べている。 こうしたことを踏まえてKamis氏は、医師や教師が子どもに虐待やネグレクトの兆候がないか注意を払い、子どもたちにサポートを提供する準備をしておくことを勧めている。同氏は、「こうした子どもにとって、学校は厳しい場所となっている可能性がある。子どもが友人関係を築き、仲間との間の壁を取り払うためには、さらなるサポートが必要であることを認識することが重要だ」と結論付けている。

12.

映画「路上のソリスト」(その2)【「不幸」になる権利はあるの?私たちはどうすればいいの?(ホームレスの自由権)】Part 2

(2)人道的な観点―逆に非人道的になるから支援センターのスタッフは、ロペスに「診断は役に立たない」「必要ないのは、彼を病人扱いする人間だ」とも答えます。そして、「友情を裏切るのは、彼の唯一のものを壊す」とやんわり忠告します。もう1つの人道的な観点として、本人が望んでいないので、保護することは逆に非人道的になるからです。もちろん、炊き出しなどの食料の支給はホームレスたちが望んでいることなので、人道的で望ましいです。そして、施設に入所させるなど決まった場所に住まわせることや、定期的に入浴させて清潔にさせることなどは、粘り強く説得して、彼らが納得するのであれば、人道的で望ましいです。しかし、それでも彼らが望まないのであれば、非人道的になってしまい、望ましくないことになります。よくよく考えると、日本国憲法でも定められている「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とは、本人が選ぶ権利であって、社会が押し付ける義務ではないです。つまり、人道的かどうかは、私たちが望ましいと思うかどうかではなく、彼らが望んでいるかどうかであるということです。これは、医療関係者としても、非常に悩ましい問題です。ロペスは「ナサニエルは精神障害によってホームレスとなり不幸だ」と考えました。しかし、これはあくまでロペスのような社会適応をしている多数派の解釈にすぎません。ここから、幸せか不幸かは、社会(多数派)で受け入れられているか、常に多数決で決められてしまう危うさがあることがわかります。つまり、精神障害者が何を幸せと思うかは、最終的には本人が決めることであり、その自由に精神医療が介入することは、「幸せの押し付け」であり、逆に非人道的になってしまうということです。そもそも、ナサニエルは、ホームレスとして日々一生懸命に生きています。一方、ロペスは、社会的には成功していますが、いつも記事の締め切りに追われて疲れきっていました。よくよく考えると、どちらが幸せか、何を持って幸せか、わからなくなってきます。なお、健康か病気かという線引きも多数決で決められてしまう危うさについては、身体完全性違和という特殊な状態を解説した関連記事1をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

13.

映画「路上のソリスト」(その2)【「不幸」になる権利はあるの?私たちはどうすればいいの?(ホームレスの自由権)】Part 3

ホームレスにどうしたらいいの?ロペスは、「助けてるつもりだった」「でも、助けようとしていた本人に敵意を持たれてる」と悩み、元妻に打ち明けます。すると、彼女は「必要な時にそばにいる友達でいて」と助言するのです。このセリフはまさに、ロペスとナサニエルの関係だけでなく、ロペスと元妻の関係もほのめかしているようです。ラストシーンでは、ロペスは仲直りの印として、ナサニエルと握手します。この握手は、ナサニエルが「自分の手は汚いから」と握手を拒んだ最初のシーンとは対照的で感動的です。ナサニエルは、いろいろあったけどロペスなら自分を受け入れてくると思えるようになったのでした。つまり、ホームレスへの最善の対応は、本人が困っていると決めつけて干渉するのではなく、困っていても関係ないと無関心になるのでもなく、本人が困っていると言ってきたらできることを支援することでしょう。これは、家族でもなく、他人でもなく、友達の関係です。そんな社会になることを願うという、この映画のメッセージのように思えてきます。このように自由権の視点で考えると、もちろんホームレスが増えていく社会は危ういわけですが、逆にホームレスがまったくいない社会も危ういように思えてきます。「路上のソリスト」とは?ロペスは、離婚して一人寂しく暮らしていました。そして、インターネットの普及によって、彼が勤務する新聞社にはリストラの波が押し寄せていました。「ソリスト」とは独奏者という意味で、もちろんナサニエルを指しています。同時に実は、もう1人の「路上のソリスト」として、人生の路頭に迷う孤独なロペスでもあることを暗示しているようです。そんななか、2人は出会うのです。ラストシーンでは、ベートーベンのコンサートを、ナサニエルの姉、ナサニエル、ロペス、そしてロペスの元妻が横並びで一緒に聴いています。ナサニエルが路上からアパート暮らしをするようになり、疎遠だった姉に助けを求めるようになったのと同じように、ロペスが元妻とよりを戻すことをほのめかしているように見えます。ロペスがナサニエルの人生に影響を与えたのと同じように、ナサニエルもまたロペスの人生に影響を与えたのでした。この映画は、ナサニエルの物語であると同時に、ナサニエルと深くかかわることで変わっていったロペスの物語でもあります。テーマは、ホームレス問題であると同時に友情でもあります。最後のロペスによるナレーションで、「統合失調症は友達ができると社会性が増すという論文がある」と紹介され、締めくくられます。これは、統合失調症であるナサニエルだけでなく、そうではないロペスにも当てはまるという、この映画のもう1つのメッセージでしょう。1)「ホームレス消滅」p.60、p.219、p.240、p.250、p.256:村田らむ、幻冬舎新書、20202)「ルポ路上生活」pp152-154、pp160-162:國友公司、彩図社、20233)「ホームレス収容所で暮らしてみた~台東寮218日貧困共同生活~」p.10、p.45:川上武志、彩図社、2021<< 前のページへ■関連記事映画「路上のソリスト」(その1)【それが幸せ?なんで保護されたくないの?(ホームレスの心理)】Part 1ドキュメンタリー「WHOLE」(前編)【なんで自分の足を切り落としたいの!?(身体完全性違和)】Part 1

14.

第234回 「院長以下に障がい者の人権(尊厳)を守る意識が極めて薄弱であった」 大牟田病院事件の提言書で思い出したノンフィクションの傑作「ルポ・精神病棟」

複数の男性職員が筋ジストロフィーなどの入院患者に対して性的、身体的、心理的虐待を行うこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球盛り上がっていますね。この連休は、日本のプロ野球のクライマックスシリーズ(CS)と、MLBのロサンゼルス・ドジャースのポストシーズンの試合観戦(テレビ)でほぼつぶれました。前回のこの連載では「パドレス、このまま上まで行くかも」と書きましたが、残念ながらドジャースに負けてしまいました。それにしても、対パドレス戦でドジャースが劣勢に立った時、大谷 翔平選手が「あと2勝すればいい」と淡々と話していたのが印象的でした。大谷選手の古巣の日本ハムファイターズもその言葉通り、劣勢から2連勝してCSのファイナルステージに駒を進めました。何事も諦めたり、弱音を吐いたりするのは良くないということですね。勉強になりました。さて、今回は独立行政法人国立病院機構 大牟田病院(福岡県大牟田市)で起こった患者虐待事件について書きます。複数の男性職員が、筋ジストロフィーなどの入院患者に対して性的虐待、身体的虐待、心理的虐待などさまざまな虐待を行っていたこの事件、病院が設置した第三者委員会は10月1日、「病院全体として、院長以下に障がい者の人権(尊厳)を守る意識が極めて薄弱であった」とする調査結果をまとめた提言書1)を公表しました。福岡県警は不同意わいせつや暴行の疑いで、職員1人と元職員2人を書類送検この事件が新聞・テレビなどによる報道で発覚したのは2024年5月でした。当時の西日本新聞などの報道によれば、2023年12月に女性患者から「男性介護士に下半身を触られた」という訴えがあったのをきっかけに、同病院が障害者虐待防止法に基づき各患者の居住自治体などに通報、調査が開始されました。その結果、看護師や介護士の男性職員5人が2021年ごろから、男女11人の入院患者に虐待を繰り返していた疑いが判明したとのことです。被害者はいずれも筋ジストロフィーや重症心身障害の患者で、うち7人が性的虐待、4人が心理的・身体的虐待でした。その後、病院は2024年7月までに、12人の患者が虐待被害を受けた疑いがあるとして福岡県内外の計8自治体に通報。調査の結果、5自治体で性的虐待6件、身体的虐待4件、心理的虐待4件が認定されました。一方、2自治体は虐待との判断に至らず、1自治体は「虐待ではない」と判断しました。9月11日、福岡県警はこの問題で、障害があり抵抗できない患者の体を触ったり、頭を叩いたりしたとして、不同意わいせつや暴行の疑いで、職員1人(64歳・男性看護師)と元職員2人(51歳・無職男性、64歳・他施設の男性介護職員)を書類送検しています。虐待を近くで目撃した職員がいたにもかかわらず虐待行為だという認識がなかった第三者委員会が公表した提言書は、調査した7件のうち4件を虐待と認定、残る3件も人権侵害の疑いがあるとしました。すべての事案について虐待を近くで目撃した職員がいたにもかかわらず、虐待行為という認識がなく、通報されていませんでした。「言ってもきちんと処理されるとは思えない」という雰囲気が職場にあり、「仲間を売るようなことをする人がいる」という言葉も交わされていた、としています。障害者総合支援法の療養介護病棟については、「障害福祉サービス事業所としての倫理観や理念が現実の運営において欠如していた」と指摘。「管理・監督責任者として院長があたることになっているものの、形骸化して名目上のものになっていて、実質的に管理・監督がなされていなかった」としています。さらに、病院全体の責任のほか、関係職員らに対する処分についても言及、「(いずれの案件も)当該職員のみならず、その上司を含めて各事案に応じた適正な懲戒処分がなされていなかった(ていない)。この懲戒手続きについては大牟田病院を統括する国立病院機構九州グループが主導すべきであるが、その指導・監督責任が果たされていない」と上部組織の対応も厳しく批判しています。前身は結核専門の国立療養所、性格・機能の異なる2つの病院が一つの組織として運営最初にこのニュースを聞いた時、「なぜ、急性期医療を提供している国立病院機構の医療機関で虐待が?」と疑問に思ったのですが、同病院の前身が結核専門の国立療養所で、1975年に重症心身障害棟を開設、77年に国立大牟田病院となった、という経緯を知ってなんとなく腑に落ちました。同病院の現在の病床数は402床で、その内訳は一般病床120床、神経難病100床、筋ジストロフィー80床、重症心身障害者80床、結核20床、感染症2床となっています。呼吸器内科・脳神経内科などは地域住民に対して一般診療を行う一方、神経難病、筋ジストロフィーなどの入院患者を九州全域から受け入れ、専門的な医療・介護を提供しています。前者と後者では医療内容は異なり、スタッフに求められる技術・能力もまったく違います。つまり、性格・機能の異なる2つの病院が一つの組織として運営されていたわけです。提言書を読む限り、後者の病棟は閉鎖的で院長の目が届かない(あるいは院長でさえアンタッチャブルな)状況にあったようです。虐待虐待とも感じず、報告も行わない看護師や介護士たち。おそらくそうした組織風土は最近できあがったものではなく、長年に渡って形づくられてきたのでしょう。提言書によれば、大牟田病院では2014年にも虐待事案が発生しており、その後に研修会が開かれ、「障害者虐待防止対応規定」も改訂されていたとのことです。第三者委員会は、10年前の教訓がまったく生かされていなかった点も問題視しています。看護師ら5人が逮捕・書類送検された滝山病院事件それにしても、この大牟田病院の事件といい、2023年に大きな問題となった東京都八王子市の滝山病院の事件といい、どうして病院や老人施設、障害者施設などで看護師や介護士による虐待事件が次々と明らかになるのでしょう。2023年2月、入院患者への暴行事件が発覚した東京・八王子市の精神科病院、滝山病院の事件は、看護師ら5人が逮捕・書類送検され略式命令で罰金刑が確定しています。NHKが2023年6月に放送したETV特集「ルポ死亡退院~精神医療・闇の実態~」では、同病院の看護師が患者を罵倒したり威嚇したりする様子や、患者の人権をないがしろにした院長や看護部長の会話を記録した動画が放送され、大きな衝撃を与えました。2023年12月に公表された第三者委員会の報告書は、「現場はモラルハザードというべき状況」とし、病院経営陣の怠慢さや無責任な体制を指摘しています。同年12月18日付の朝日新聞によれば、第三者委員会の委員長を務めた伊井 和彦弁護士は、「責任は病院の経営者、トップにあると言わざるを得ない」とした上で、「異常に高い非常勤率が、患者への責任感を低下させた」と指摘しています。同記事は、滝山病院の非常勤職員は給料が高かったことから、「他の病院とかけ持ちする看護師もいるという。暴行事件で刑事責任に問われた5人は、夜勤中の非常勤看護師だった」と書くとともに、そのことが「相互に干渉しようとしない無関心な状況をつくった」という伊井弁護士の言葉を紹介しています。虐待行為を行う看護師や介護士など職員の資質だけでなく組織をマネジメントする側にも大きな問題こうした事件、もちろん、虐待行為を行う看護師や介護士など職員の資質に問題があるのは当然ですが、組織をマネジメントする側にも大きな問題があると言えそうです。滝山病院のように非常勤中心の組織はチームとしての意識が希薄になりがちで、職員個々の人間性がそのまま患者・入所者などに向けられてしまいます。そこをマネジメントするのが看護師長や院長の役割ですが、放ったらかしにすれば暴走する職員が出てきます。さらに、チームが機能不全になると、虐待などの不正行為を見たらそれを報告し、ルールに則って罰する、という当たり前の組織運営も行われにくくなります。まして、院長など管理者の目が届かないとなれば、そこはもう“治外法権”で悪がはびこる温床となります。報道によれば大牟田病院の入院患者の証言として、「職員と患者との間で上下関係があった」「怖くて拒否できなかった」といった声もあったそうです。「ルポ・精神病棟」の出版から50年経っても似たような虐待が続いている滝山病院と大牟田病院の事件報道を読んで、私は半世紀前、1973年に出版された医療ノンフィクションの傑作、「ルポ・精神病棟」(朝日新聞社刊)を思い出しました。朝日新聞の記者だった大熊 一夫氏が、アルコール患者を装って精神病院に潜入、電気ショックを使った患者虐待や、薬漬け、拘束の実態を克明に記したルポです。3週間入院する計画が生命の危険を感じるほどの処遇や医療処置を受けた結果12日目に音を上げ、妻の助力で病院から脱出する経緯はホラー小説のようです。同書はその後の日本の精神科医療の改革に大きな影響を与えたと言われています。同書の出版から50年以上を経ても、精神病院に限らず、社会から隔離された障害者医療や高齢者医療の現場では、似たような虐待が続いているというのは一体どういうことでしょう。「人間の尊厳」「患者の人権」と医療者は軽々しく口にしますが、日本の医療・介護の世界ではまだ完全に浸透し切っていないのかもしれません。医療・介護者への教育にも問題がありそうです。書籍の「ルポ・精神病棟」は文庫版ももう絶版ですが、kindle版が出ており、電子書籍で読めます。興味のある方はぜひご一読ください。参考1)当院職員による入院患者さまへの虐待事案に係る第三者委員会による提言書の公表について

15.

アニメ「インサイド・ヘッド2」(その2)【なんで不安やうつは「ある」の?どうすれば?(病的感情)】Part 2

シンパイが暴走すると?―病的感情のリスクシンパイは、「もう、ライリーにヨロコビたちは必要ない」と言い出し、なんと司令部からヨロコビたちを追放します。そして、ライリーが生まれてからヨロコビたちが大事に育ててきた「私はいい人」というジブンラシサの花を引っこ抜きます。そして、シンパイたち「大人の感情」のキャラクターたちだけで、ライリーの感情をコントロールしようとするのです。やがてシンパイは、「未来をしっかり見据える。起こりうるミスを全部予想しておくよ」と言い出し、次々と最悪のシナリオの映像を映し出して、ライリーに想像させます。すると、ライリーは「私は全然だめ」という心の声が聞こえるようになり、夜寝つけなくなります。そして、夜にこっそりコーチの部屋に忍び込み、コーチの評価ノートをのぞき見します。ライリーは、不安のあまり善悪の判断がつかなくあり、打算的になっていくのでした。さらに、次の日の試合中に、不安に飲み込まれてしまい、過呼吸の発作(パニック発作)を起こしてしまうのです。これは、「脳の暴走」です。ちょうど、シンパイがあまりにも動き回るため、感情操縦デスクの周りにできたオレンジ色の大きな渦巻きとして描かれていました。その中では、シンパイが固まって動けなくなり、点滅していました。このままでは、このあとに「脳の息切れ」である、うつがやってきて、ぐったりとして動けなくなりしばらく何もできなくなることを暗示しています。つまり、ダリィの出番になりそうです。これらが、不安とうつという病的感情のリスクです。なんでシンパイは暴走したの?シンパイは、暴走する前に、「大事なのは、これまでのライリーがどうであるかよりも、これからのライリーがどうなるべきかなんだよ」「ライリーの将来のために、彼女は変わらなければならない」と言っていました。つまり、思春期とは、単に自分がどうしたいかだけでなく、周り(社会)がどうしてほしいかも意識する時期です。自分が自分のことをどう感じているかだけでなく、相手(社会)が自分のことをどう感じているかも重要になってきます。そんななか、仲良しだった2人の親友が違う高校に行くと聞かされて裏切られたと感じたこと、その2人に当てつけで無視したり皮肉を言ってしまったこと、そして念願のアイスホッケーのチームに入れるかどうかの試練に直面していることなどが重なって、大きなストレスになっています。これが、シンパイが暴走した原因です。ここで誤解がないようにしたいのは、私たちはこれらのストレスはないに越したことはないと思いがちですが、実はむしろ必要です。これらのストレスがあるおかげで、思春期の子供は、これらのストレスを乗り越えて自己成長するからです。これは、ストレス関連成長(SRG)と呼ばれています。ただし、これらの思春期のストレスを乗り越えられずに、過呼吸を繰り返したりだるさが続く場合があります。これは、思春期危機と呼ばれています。その原因は、大きく2つあります。1つは、いじめなどのようにストレスが大きすぎる場合です。もう1つは、不安を感じやすいなど、もともとストレスに弱い場合です。<< 前のページへ | 次のページへ >>

16.

アニメ「インサイド・ヘッド2」(その2)【なんで不安やうつは「ある」の?どうすれば?(病的感情)】Part 3

本当のジブンラシサの花とは?ヨロコビたちが感情操縦デスクにようやく戻ってきたあと、ヨロコビはオレンジ色の感情の渦巻きの嵐の中で固まっていました。ヨロコビは、何とかシンパイをデスクから引きはがします。そして、もとのジブンラシサの花を戻します。しかし、シンパイから「ヨロコビの言う通りだよ。ライリーらしさは私たち感情が決めるものじゃない」と言われて、ヨロコビはハッとします。そして、さっき戻したばかりの花をまた引っこ抜くのです。すると、もともとジブンラシサの花が栄養源としている地下の「信念の泉」に流れ着いていた無数のさまざまな記憶のボールから、まるで芽のように光がどんどんと出ていき、新しいジブンラシサの花が現れるのです。そして、ライリーの心の声が頭の中に次々と響いていきます。「私はわがまま」「私はやさしい」「私は全然だめ」「私はいい人」…「私は強い」「私は弱い」「私は助けてもらいたい時もある」と。最後、ヨロコビは、新しいジブンラシサの花を抱きしめ、他の感情のキャラクターたちも次々と集まって抱きしめます。このシーンは感動的です。ジブンラシサの花とは、まさに自分らしさのメタファーであり、心理学では自我と呼ばれます。自分らしさとは、「私はこうだ」という自分に納得していることなのですが、実はそれは1つの「私」の良い面ではなく、だめなところも含めたいろいろな「私」の面をすべて受け入れるということなのです。すると、自分を大切に思えて、自分は大丈夫と思えてきます。自分は愛されるために完璧である必要はないと気付いていきます。それを、感情のキャラクターたち全員がジブンラシサの花をそのまま丸ごと全員で抱きしめるシーンとして、わかりやすく描いています。このように自分は完璧である必要はない、良いところもだめなところも含めてこれが自分だと思えることは、自己イメージの安定と呼ばれています。すると、やがて相手に対しても完璧であることを求めなくなります。良いところもだめなところも含めてこれが相手だと思えることは、他者イメージの安定と呼ばれています。こうして、相手も愛するために完璧である必要はないと気付き、相手も大切に思えるようになるのです。逆に言えば、自己イメージが安定していないと、相手に完璧さを求めてしまいがちになります。相手を理想化して、その後にちょっとでも違っていると幻滅することを繰り返してしまいます。これは、思春期の恋愛における「蛙化現象」を説明できます。「インサイド・ヘッド2」とは?「インサイド・ヘッド2」のキャッチフレーズは「どんな自分もまるごと好きになる」であり、テーマは「自分自身を受け入れる」でした。ラストシーンで、感情のキャラクターたちが、ジブンラシサの花をみんなで抱きしめたことで、過呼吸になっていたライリーは、その後に落ち着きます。そしてすぐに、もともと仲良しだった2人に謝り、仲直りします。そして、その後は、ホッケーの試合を心から楽しむのでした。彼女は、本来の自分らしさを取り戻し、さらに成長したのでした。自我とは、思春期になると、ヨロコビたち(基礎感情)が最初に主導したように「ただ自分はこうしたい」と好きに思うことではなく、シンパイたち(社会的感情)が主導したように「こうなるべき」と無理に思い込んだり損得勘定に走ることでもなく、「社会の中でこうしていきたい」と自然に自覚するようになることです。この先が、自我の確立です。そして、何より、その自我によって日々の人生を楽しむことでしょう。今回は、思春期になったライリーの成長を、感情のキャラクターたちと一緒に私たちも見守る構図になっています。世界中の親子にとっての普遍的な物語であり、思春期の子供に接する親だけでなく、まさに思春期の子供たちが自分の気持ちを俯瞰することにも役立つでしょう。<< 前のページへ■関連記事アニメ「インサイド・ヘッド2」(その1)【なんで恥ずかしくなるの?なんで恥ずかしさは「ある」の?(社会的感情)】Part 1ウォーキングデッド【この世界観だからこそわかる!「コロナ不安」への処方せん】ツレがうつになりまして。【うつ病】

17.

アニメ「インサイド・ヘッド2」(その1)【なんで恥ずかしくなるの?なんで恥ずかしさは「ある」の?(社会的感情)】Part 2

社会的感情の相互関係とは?この映画に登場する社会的感情のキャラクターはハズカシとイイナーの2つだけですが、表1に示したように、全部で8つあります。これは、バックによる社会的感情2)を参照しています。うぬぼれ(傲慢)は自分の愛情欲求が満たされることへの反応で、誇り(自慢)は自分の承認欲求が満たされることへの反応です。この2つも実際はごっちゃになって使われることが多いです。たとえば、ライリーがヴァルから特別に夜のパーティに誘われたと思ったシーンが当てはまります。この時は、代わりにイイナーがはしゃいでいました。一方、あわれみ(同情)は、かわいそうと相手の愛情欲求が満たされていないことへの反応で、さげすみ(軽蔑)は、相手の承認欲求が満たされなかった、つまり期待に応えることをしないことへの反応です。あわれみが援助行動を促すのに対して、さげすみは罰したいという制裁行動(正義感)を促します。たとえば、ヴァルが新人のライリーに何かとフォローしてかわいがろうとしているのは、援助行動です。一方、ヴァルの親しいチームメイトのダニが「ったく、あのミシガンちゃん(ライリー)、いきなりミスったね」と、コーチを怒らせたライリーの悪口(バッシング)を言うのは、制裁行動です。そして、これらの社会的感情には相互関係もあります。たとえば、自分の愛情欲求が満たされていないと、相対的に相手の愛情欲求が満たされているように思えてきます。これが、冒頭で触れた「自分を恥ずかしく思う一方で、そうじゃない人をうらやましく(ねたましく)思う」状態です。逆に、自分の愛情欲求が満たされると、相対的に相手の愛情欲求が満たされていないように思えてきます。これが、冒頭で触れた「自分はモテる(うぬぼれる)と、そうじゃない人を気の毒に思う(あわれむ)状態です。さらに、相手を「かわいそう」(あわれ)と決めつけたり、そのようなセリフを連発する人は、実は自分が無意識に優越感(うぬぼれ)に浸ろうとしていることもわかります。同じように、相手の承認欲求が満たされていると、相対的に自分の承認欲求が満たされていないように思えてきます。つまり、相手をうらやましく思うと、自分は悔しくなります。逆に、相手の承認欲求が満たされないと、相対的に自分の承認欲求が満たされているように思えてきます。つまり、正義感を発揮する(さげすむ)と、誇らしい気分になります。これがいわゆる「メシウマ」であり、バッシングの心理です。関係性として整理すると、うぬぼれと誇りは明らかな快感情ですが、あわれみとさげすみは相対的な快感情であることがわかります。そして、恥ずかしさと悔しさは明らかな不快感情ですが、ねたましさとうらやましさは相対的な不快感情であることがわかります。なお、バッシングの心理の詳細については、関連記事4をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

18.

アニメ「インサイド・ヘッド2」(その1)【なんで恥ずかしくなるの?なんで恥ずかしさは「ある」の?(社会的感情)】Part 3

社会的感情の起源とは?社会的感情の機能とは、自分(または相手と比べた相対的な自分)の愛情欲求と承認欲求が満たされるように行動を促す心理であることがわかりました。そして、このような行動を練習するのは、とくに大人(社会)の仲間入りをする直前の思春期であることもわかります。それでは、そもそもなぜこのような感情は「ある」のでしょうか?ここから、進化心理学の視点で、恥ずかしさを例に挙げて、社会的感情の起源を掘り下げてみましょう。約700万年前に、人類が誕生しました。そして、約300万年前には、人類はアフリカの森からサバンナに出ていきました。そして、猛獣から身を守り、限られた食料を分け合うために、血縁の家族同士が集まり部族をつくるようになりました。この時、思春期になると男子は狩りの集団に、女子は子育ての集団にそれぞれ入っていくわけですが、その集団でうまくやっていこうとする社会脳が進化しました。そして、集団に受け入れられないことへの不快感情が出てくるようにも進化しました。これが羞恥心の起源です。逆に、この心理がないと、集団で身勝手なことをしてしまい、仲間外れにされます。当時の仲間外れは死を意味します。つまり、羞恥心がない人(遺伝素因)は、現代に存在していないということです。ちなみに、「恥」という漢字は、恥ずかしくなると耳が赤くなることから、「耳に心がある」という語源から来ています。そして、この赤面のメカニズムも進化心理学的に説明できます。現代では、緊張して顔を赤らめるのは、恰好悪いと思われがちです。しかし、これは原始の時代には必要でした。なぜなら、人類が言葉を話すようになったのは、せいぜい約20万年前だからです。それまでの280万年の間、人類は、言葉なしで表情や身振り手振りでコミュニケーションをしていました。そんな中、新しく集団に入る時、現代のように「ちょっと緊張していますが、仲良くしてください。よろしくお願いします」という言葉の代わりに、顔を赤らめてもじもじすることは、まさにこの言葉を非言語的なメッセージとして送っていることになり、好感が待たれてとても適応的です。つまり、現代では言葉があるために不要な赤面反応は、原始の時代には必要であったというわけです。なお、人類の起源地であるアフリカにいる黒い肌の人種の赤面はわかりにくいです。だからこそ顔の中で肌が比較的に薄い(毛細血管が見えやすい)耳がとくに赤くなるように進化したのでしょう。もちろん、恥ずかしさによる顔の火照り感から、もじもじするという反応は確実に伝わります。また、ハズカシのように手が緊張で汗ばむのは、約数千年前に類人猿が誕生してから、森の中でより素早く枝から枝へと移動するためのすべり止めの役割がもともとありました。現代ではとても困る手汗反応は、原始の時代には新しい集団に入ってさっそく動き回って活躍するためにはやはり必要であったというわけです。恥ずかしさと同じように、その他の7つの社会的感情も、原始の時代の部族集団(社会)で助け合って生き残り子孫を残すため、つまり生存と生殖の適応度を上げるように約300万年間で進化した心理機能であることがわかります。そして、社会的感情における相互関係も、その助け合いにおける平等と公平のバランスを取るように促すため、つまり個人としてだけでなく集団としても適応度を上げるように進化した心理機能であることもわかります。ちなみに、ねたましさ(嫉妬)の心理の起源については、すでに関連記事5で詳しく解説していますので、ご覧ください。1)「進化と感情から解き明かす社会心理学」p.196:北村英哉・大坪康介、有斐閣アルマ、20122)「感情心理学・入門」p.145、p.175:大平英樹、有斐閣アルマ、2010<< 前のページへ■関連記事インサイド・ヘッド【なんで悲しみは「ある」の?どうすれば?(感情心理学)】Part 1インサイド・ヘッド(続編・その1)【やったのは脳のせいで自分のせいじゃない!?】Part 1カインとアベル(前編)【なんで嫉妬をするの?】苦情殺到!桃太郎(前編)【なんでバッシングするの?どうすれば?(正義中毒)】Part 1カインとアベル(後編)【なんで嫉妬は「ある」の?どうすれば?】Part 1

19.

ネグレクトと虫歯の関連―児童相談所での調査

 虐待などの理由で児童相談所に一時保護された子どもを対象に、虫歯の有病率と虐待の関連を調べる研究が行われた。その結果、虐待の種類としてネグレクトを受けた子どもで虫歯の有病率が高いことが明らかとなった。新潟大学大学院医歯学総合研究科小児歯科学分野の中村由紀氏らによる研究であり、「BMC Public Health」に5月18日掲載された。 子ども虐待の報告件数は増加が続いている。子どもの虫歯を放置するなど、必要な歯科医療を受けさせないことは「デンタルネグレクト」と呼ばれ、歯科保健と児童福祉の両面から対策を講じることが重要である。虫歯を放置することは虐待の兆候とも考えられるが、虫歯と虐待は直接には関連していないことを示唆する報告もある。また、虐待の種類と虫歯の関係については十分に研究されていない。 著者らは今回、2015年1月~2019年7月に新潟県内の児童相談所に一時保護された2~18歳の子どもで、一時保護から2週間以内の534人(平均年齢10.4±3.85歳、男児308人、女児226人)を対象とする横断研究を実施。新潟大学の小児歯科医師と歯科衛生士が、歯科検診および歯の健康行動に関する問診を行った。虐待に関するデータは児童相談所から入手した。 その結果、対象者のうち323人(60.5%)が、虐待を理由に一時保護を受けていた。虐待の種類の内訳は、身体的虐待が176人(54.5%)で最も多く、ネグレクトが72人(22.3%)、心理的虐待が68人(21.1%)、性的虐待が7人(2.2%)だった。 児童相談所の子ども1人当たりの虫歯(未処置の虫歯+処置済の虫歯)の平均本数は、2~6歳、7~12歳、13~18歳の全ての年齢層で、2016年の厚生労働省の「歯科疾患実態調査」の結果と比較して有意に多かった。 児童相談所の子どもについて虫歯の有無と虐待の有無との関連を調べたところ、未処置の虫歯、処置済の虫歯、未処置の虫歯+処置済の虫歯のいずれを検討した場合も、年齢層にかかわらず、虐待との有意な関連は認められなかった。 次に、虐待の種類別に検討したところ、7~12歳の虫歯(未処置の虫歯、未処置の虫歯+処置済の虫歯)の有無と虐待の種類に有意な関連が認められ、ネグレクトの場合に虫歯の有病率が高いことが示された。未処置の虫歯の本数は、身体的・性的虐待(平均1.5本、中央値0.0本)と心理的虐待(平均1.5本、中央値0.0本)に比べ、ネグレクト(平均3.4本、中央値2.0本)の方が有意に多かった。未処置の虫歯+処置済の虫歯で比較しても同様に、身体的・性的虐待(平均2.3本、中央値1.0本)および心理的虐待(平均2.1本、中央値0.0本)よりも、ネグレクト(平均4.1本、中央値3.0本)で有意に多いことが明らかとなった。 今回の研究結果から著者らは、一時保護に至った理由が虐待かどうかにかかわらず、児童相談所の子どもは全国平均と比較して虫歯の有病率が高く、歯磨きの頻度が低かったとして、対策の必要性を指摘している。また、適切な歯科治療を受けようとしなかったり、受けられなかったりするのは、家族の孤立、経済的余裕のなさ、歯科治療の必要性の認識不足などの要因から生じる可能性にも言及し、「デンタルネグレクトと判断する前に、複数の要因を考慮しなければならない」と述べている。

20.

メンタルヘルスに長期的影響を及ぼす小児期逆境体験

 3万人弱の日本人を対象とした横断調査から、小児期に受けた虐待、いじめ、経済的困難といった逆境体験は、成人期のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしていることが明らかとなった。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の西大輔氏、佐々木那津氏らによる研究の成果であり、「Scientific Reports」に5月26日掲載された。 従来、小児期逆境体験(adverse childhood experience;ACE)として虐待や家庭の機能不全が検討されてきたが、最近では学校でのいじめ、慢性疾患、自然災害なども含まれるようになっている。ACEは成人後のメンタルヘルスの問題につながる可能性が指摘されているものの、広義のACEの長期的影響を検討した研究は少ない。また、ACEに関する研究は米国のものが多いことから、日本人を対象とした研究が求められている。 そこで著者らは、「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」より、2022年9月のオンライン調査データを用いて、ACEと成人期のメンタルヘルスとの関連を検討した。対象者は18~79歳とし、経験したACEの種類と数について、15項目の質問票「ACE-J」により評価した。また、「K6」という尺度により心理的苦痛を評価し、合計得点が13点以上だった人を「心理的苦痛が強い」と判定した。 解析対象は計2万8,617人(平均年齢48±17.1歳、男性48.9%)であり、15のACEのうち1つ以上のACEを経験していた人の割合は75%に上った。経験割合が多かったACEは、心理的ネグレクト(38.5%)、貧困(26.3%)、学校でのいじめ(20.8%)だった。経験したACEの数は平均1.75±1.94であり、14.7%の人が4つ以上のACEを経験していた。女性は男性と比べ、ACEの数が有意に多く(1.85対1.65)、性的虐待の経験割合が有意に高かった(6.9%対1.8%)。年齢層別には、貧困の経験割合は50~64歳で29%、65歳以上で40%、学校でのいじめは若年層で21~27%、65歳以上で10%だった。 また、心理的苦痛が強いと判定された人は全体の10.4%だった。ACEの経験数が増加するほど心理的苦痛が強い人の割合が高まり、18~34歳かつACEの数が4つ以上で、その割合が最も高かった(40.7%)。ACEの数が同じ場合、若年層は高齢層と比較して心理的苦痛が強い人の割合が有意に高かった。 次に、ロジスティック回帰分析を用い、背景の差(年齢、性別、婚姻状況、世帯収入など)を統計学的に調整して検討したところ、全てのACEは、心理的苦痛が強いことと有意に関連していることが明らかとなった。具体的なオッズ比(95%信頼区間)は、学校でのいじめが3.04(2.80~3.31)、慢性疾患による入院が2.67(2.29~3.10)、自然災害が2.66(2.25~3.13)だった。また、ACEの数が4つ以上の人では、1つもない人と比較したオッズ比が8.18(7.14~9.38)に上った。 今回の研究の結果から著者らは、「ACEはメンタルヘルスに長期的な影響を及ぼしていた」と総括し、ACEを減らすためのさらなる研究と対策の必要性を指摘している。

検索結果 合計:142件 表示位置:1 - 20