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同種移植、鎌状赤血球貧血児の脳卒中リスクを軽減/JAMA

 経頭蓋超音波ドプラ(TCD)で血流速度の持続的な上昇がみられるため、継続的な輸血を要する鎌状赤血球貧血(SCA)の患児では、適合同胞ドナー造血幹細胞移植(MSD-HSCT)により、標準治療に比べて1年後のTCD血流速度が有意に低下し、脳卒中リスクが軽減するとの研究結果が、フランス・Centre Hospitalier Intercommunal de CreteilのFrancoise Bernaudin氏らが実施したDREPAGREFFE試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2019年1月22日号に掲載された。SCA児では、TCD血流速度の上昇が脳卒中リスクと関連し、継続的な輸血によってリスクは軽減することが知られている。MSD-HSCTは多くのSCA児に治癒をもたらすとともに脳血流量を低下させるが、輸血と比較する前向き対照比較試験は行われていなかった。脳血流速度を比較する非無作為化試験 本研究は、SCA児において、MSD-HSCTと、虚血性脳卒中発症の代替指標としてのTCD血流速度との関連の評価を目的とする非盲検非無作為化対照比較介入試験(フランスAssistance Publique-Hopitaux de Parisの助成による)。 対象は、年齢15歳未満、TCDで血流速度の持続的な上昇がみられるため継続的な輸血を要し、同じ両親を持つ1人以上の非SCAのきょうだいがいるSCAの子供であった。家族は、ヒト白血球抗原(HLA)の抗体検査の実施に同意し、適合同胞ドナーが見つかった場合は移植を、適合同胞ドナーがいない場合は標準治療を施行することに同意することとした。 標準治療は、1年以上の輸血を行い、その後はhydroxyureaへの切り換えも可とした。傾向スコアマッチング法を用いて、MSD-HSCT群と標準治療群を比較した。 主要アウトカムは、1年後の、TCDで測定した8つの脳動脈における時間平均最大血流速度(time-averaged mean of maximum velocities:TAMV)とした。4項目の副次アウトカムでも有意差 患者登録は、2010年12月~2013年6月の期間にフランスの9施設で行われ、2017年1月まで3年間のフォローアップが実施された。67例(年齢中央値7.6歳、女児35例[52%])が登録され、MSD-HSCT群に32例、標準治療群には35例が割り付けられた。傾向スコアでマッチさせた、それぞれ25例ずつの患者の解析を行った。 1年時のTAMVは、MSD-HSCT群が129.6cm/sと、標準治療群の170.4cm/sに比べ有意に低下した(差:-40.8cm/s、95%信頼区間[CI]:-62.9~-18.6、p<0.001)。 29項目の副次アウトカムのうち25項目の解析が行われた。以下の4項目で有意差が認められ、いずれもMSD-HSCT群で良好だった。 3年時のTAMV(MSD-HSCT群112.4cm/s vs.標準治療群156.7cm/s、差:-44.3cm/s、95%CI:-71.9~-21.1、p=0.001)、1年時の血流速度の正常化(TAMV<170cm/s)(80.0% vs.48.0%、32.0%、0.2~58.6%、p=0.045)、1年時のフェリチン値(905ng/mL vs.2,529ng/mL、-1,624ng/mL、-2,370~-879、p<0.001)、3年時のフェリチン値(382 ng/mL vs.2,170ng/mL、-1,788ng/mL、-2,570~-1,006、p<0.001)。 MSD-HSCT群の5例で、皮膚症状のみを伴う急性の移植片対宿主病(GVHD)が観察された(Grade I:2例、Grade II:2例、Grade III:1例)。Grade II以上の急性GVHDの累積発症率は9.4%であった。静脈閉塞性疾患は認めなかった。 その他の有害事象として、痙攣を伴う可逆性後頭葉白質脳症(2例)、無症候性のサイトメガロウイルス再活性化(11例)、EBウイルス感染症(6例)、出血性膀胱炎(4例)などがみられた。 著者は、「MSD-HSCTが臨床アウトカムに及ぼす影響を評価するために、さらなる検討を要すると考えられる」としている。

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β3アドレナリン受容体に作用して膀胱容量を増大させる過活動膀胱治療薬「ベオーバ錠50mg」【下平博士のDIノート】第17回

β3アドレナリン受容体に作用して膀胱容量を増大させる過活動膀胱治療薬「ベオーバ錠50mg」今回は、「ビベグロン錠(商品名:ベオーバ錠50mg)」を紹介します。本剤は、抗コリン作用を有しない過活動膀胱(OAB)治療薬であり、これまで抗コリン作用に基づく副作用によって治療継続が困難であった患者さんや高齢者のQOL改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、OABにおける尿意切迫感、頻尿および切迫性尿失禁の適応で、2018年9月21日に承認され、2018年11月27日より販売されています。膀胱平滑筋のβ3アドレナリン受容体を選択的に刺激し、膀胱を弛緩させることで膀胱容量を増大させます。<用法・用量>通常、成人にはビベグロンとして50mgを1日1回1錠、食後に経口投与します。<副作用>国内でOAB患者を対象に実施された第III相比較試験および第III相長期投与試験において、本剤50mgまたは100mgを投与した906例中75例(8.3%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、口内乾燥、便秘各11例(1.2%)、尿路感染(膀胱炎など)、残尿量増加各6例(0.7%)、肝機能異常、CK(CPK)上昇各3例(0.3%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、尿閉(頻度不明)が認められています。前立線肥大症などの下部尿路閉塞疾患を合併している患者に処方された場合は、処方医への確認が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、膀胱に作用して尿をためやすくすることで、OABによる尿意切迫感、頻尿、切迫性尿失禁などの症状を改善します。2.この薬を飲み始めてから尿が出にくくなるようなことがあった場合は、すぐに診察を受けてください。3.本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>尿意切迫感や頻尿、切迫性尿失禁などの排尿に関する悩みはQOLを大きく低下させ、社会生活を送るうえでしばしば問題になります。2002年に日本排尿機能学会が行った調査では、OAB症状を自覚する人は40歳以上では平均12.4%存在し、高齢になるほど増えると報告されており、考えられてきた以上に有病率が高いことが明らかになっています。わが国におけるOABの薬物治療では、ムスカリン受容体阻害作用を有する抗コリン薬が広く使用されていますが、抗コリン作用に基づく口内乾燥、便秘、排尿困難などの副作用によってアドヒアランスが低下することもしばしばあります。また、認知機能を悪化させる可能性もあるため高齢者では注意が必要です。2011年からは、新たな作用機序である選択的β3アドレナリン受容体作動薬ミラベグロン(同:ベタニス)が発売されています。ミラベグロンは、抗コリン作用を有していないため、これまで抗コリン薬を使用できなかった患者にも使用することができます。しかし、生殖可能な年齢の患者への投与は避ける必要があること、併用禁忌を含めた薬物相互作用が多いこと、投与開始前および投与中は定期的な血圧測定が必要なことなど、いくつかの注意点があります。本剤はβ3アドレナリン受容体作動薬として、ミラベグロンに続く2剤目の薬剤です。本剤の場合には、生殖可能年齢の患者への投与を避けるという警告はなく、併用禁忌薬もありません。本剤はCYP3A4またはP糖タンパクの基質ですが、強力な誘導・阻害作用は示さないと考えられるため、併用注意薬は少なくなっています。重篤な心疾患のある患者、高度の肝機能障害がある患者に対しては、臨床試験における使用経験がないため慎重投与となっていますが、肝機能、腎機能にかかわらず単一の用量で投与することができます。本剤は、抗コリン薬で副作用が生じている患者、高齢者、あるいは何らかの理由でミラベグロンが使用できない患者でも使用しやすい薬剤と考えられます。なお、2018年9月時点において、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。

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第14回 内科からのST合剤の処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・11名全員Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・8名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・3名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。大腸菌か腐性ブドウ球菌 清水直明さん(病院)若い女性の再発性の膀胱炎であることから、E.coli、S.saprophyticusなどの可能性が高いと思います。中でも、S.saprophyticusによる膀胱炎は再発を繰り返しやすいようです1)。単純性か複雑性か 奥村雪男さん(薬局)再発性の膀胱炎と思われますが、単純性膀胱炎なのか複雑性膀胱炎※3 なのか考えなくてはいけません。また、性的活動が活発な場合、外尿道から膀胱への逆行で感染を繰り返す場合があります。今回のケースでは、若年女性であり単純性膀胱炎を繰り返しているのではないかと想像します。単純性の場合、原因菌は大腸菌が多いですが、若年では腐性ブドウ球菌の割合も高いとされます。※3 前立腺肥大症、尿路の先天異常などの基礎疾患を有する場合は複雑性膀胱炎といい、再発・再燃を繰り返しやすい。明らかな基礎疾患が認められない場合は単純性膀胱炎といQ2 患者さんに確認することは?妊娠の可能性と経口避妊薬の使用 荒川隆之さん(病院)妊娠の可能性について必ず確認します。もし妊娠の可能性がある場合には、スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠(ST合剤)の中止、変更を提案します。妊婦の場合、抗菌薬の使用についても再度検討する必要がありますが、セフェム系薬の5~7 日間投与が推奨されています2)。ST合剤は相互作用の多い薬剤ですので、他に服用している薬剤がないか必ず確認します。特に若い女性の場合、経口避妊薬を服用していないかは確認すると思います。経口避妊薬の効果を減弱させることがあるからです。副作用歴と再受診予定 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬の副作用歴と再受診予定の有無を確認し、医師からの指示がなければ、飲み切り後に再受診を推奨します。また、可能であれば間質性膀胱炎の可能性について医師から言われていないか確認したいところです。中高年女性だと過活動膀胱(OAB)が背景にあることが多いですが、私の経験では、若い女性では間質性膀胱炎の可能性が比較的あります。ストレス性やトイレを我慢してしまうことによる軽度の水腎症※4のようなケースを知っています。※4 尿路に何らかの通過障害が生じ、排泄されずに停滞した尿のために腎盂や腎杯が拡張し、腎実質に委縮を来す。軽症の場合は自然に軽快することが多いが、重症の場合は手術も考慮される。相互作用のチェック 奥村雪男さん(薬局)併用薬を確認します。若年なので、薬の服用は少ないかも知れませんが、ST合剤は蛋白結合率が高く、ワルファリンの作用を増強させるなどの相互作用が報告されています。併用薬のほか、初発日や頻度 ふな3さん(薬局)SU薬やワルファリンなどとの相互作用があるため、併用薬を必ず確認します。また、単純性か複雑性かを確認するため合併症があるか確認します。可能であれば、初発日と頻度、7日分飲みきるように言われているか(「3日で止めて、残りは取っておいて再発したら飲んで」という医師がいました)、次回受診予定日、尿検査結果も聞きたいですね。治療歴と自覚症状 わらび餅さん(病院)可能であれば、これまでの治療歴を確認します。ST合剤は安価ですし、長く使用されていますが、ガイドラインでは第一選択薬ではありません。処方医が20歳代の女性にもきちんと問診をして、これまでの治療歴を確認し、過去にレボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬を使ってそれでも再発し、耐性化や地域のアンチバイオグラムを考慮して、ST合剤を選択したのではないでしょうか。発熱がないとのことですが、自覚症状についても聞きます。メトトレキサートとの併用 児玉暁人さん(病院)ST合剤は妊婦に投与禁忌です。「女性を見たら妊娠を疑え」という格言(?)があるように、妊娠の有無を必ず確認します。あとは併用注意薬についてです。メトトレキサートの作用を増強する可能性があるので、若年性リウマチなどで服用していないか確認します。また、膀胱炎を繰り返しているとのことなので、過去の治療歴がお薬手帳などで確認できればしたいところです。Q3 疑義照会する?する・・・5人複雑性でない場合は適応外使用 中西剛明さん(薬局)疑義照会します。ただ、抗菌薬の使用歴を確認し、前治療があれば薬剤の変更については尋ねません。添付文書上、ST合剤の適応症は「複雑性膀胱炎腎盂腎炎」で、「他剤耐性菌による上記適応症において、他剤が無効又は使用できない場合に投与すること」とあり、前治療歴を確認の上、セファレキシンなどへの変更を求めます。処方日数について 荒川隆之さん(病院)膀胱炎に対するST合剤の投与期間は、3日程度で良いものと考えます(『サンフォード感染症ガイド2016』においても3日)。再発時服用のために多く処方されている可能性はあるのですが、日数について確認のため疑義照会します。また、妊娠の可能性がある場合には、ガイドラインで推奨されているセフェム系抗菌薬の5~7日間投与2)への変更のため疑義照会します。具体的には、セフジニルやセフカペンピボキシル、セフポドキシムプロキセチルです。授乳中の場合、ST合剤でよいと思うのですが、個人的にはセフジニルやセフカペンピボキシル、セフポドキシムプロキセチルなど小児用製剤のある薬品のほうがちょっと安心して投薬できますね。あくまで個人的な意見ですが・・・妊娠している場合の代替薬 清水直明さん(病院)もしも妊娠の可能性が少しでもあれば、抗菌薬の変更を打診します。その場合の代替案は、セフジニル、セフカペンピボキシル、アモキシシリン/クラブラン酸などでしょうか。投与期間は7 日間と長め(ST合剤の場合、通常3 日間)ですが、再発を繰り返しているようですので、しっかり治療しておくという意味であえて疑義照会はしません。そもそも、初期治療ではまず選択しないであろうST合剤が選択されている段階で、これまで治療に難渋してきた背景を垣間見ることができます。ですので、妊娠の可能性がなかった場合、抗菌薬の選択についてはあえて疑義照会はしません。予防投与を考慮? JITHURYOUさん(病院)ST合剤は3日間の投与が基本になると思いますが、7日間処方されている理由を聞きます。予防投与の分を考慮しているかも確認します。しない・・・6人再発しているので疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)ST合剤は緑膿菌に活性のあるニューキノロン系抗菌薬を温存する目的での選択でしょうか。単純性膀胱炎であれば、ガイドラインではST合剤の投与期間は3日間とされていますが、再発を繰り返す場合、除菌を目的に7日間服用することもある3)ので、疑義照会はしません。残りは取っておく!? ふな3さん(薬局)ST合剤の投与期間が標準治療と比較して長めですが、再発でもあり、こんなものかなぁと思って疑義照会はしません。好ましくないことではありますが、先にも述べたように「3日で止めて、残りは取っておいて、再発したら飲み始めて~」などと、患者にだけ言っておくドクターがいます...。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?服用中止するケース 清水直明さん(病院)「この薬は比較的副作用が出やすい薬です。鼻血、皮下出血、歯茎から出血するなどの症状や、貧血、発疹などが見られたら、服用を止めて早めに連絡してください。」薬の保管方法とクランベリージュース 柏木紀久さん(薬局)「お薬は光に当たると変色するので、日の当たらない場所で保管してください」と説明します。余談ができるようなら、クランベリージュースが膀胱炎にはいいらしいですよ、とも伝えます。発疹に注意 キャンプ人さん(病院)発疹などが出現したら、すぐに病院受診するように説明します。処方薬を飲みきること 中堅薬剤師さん(薬局)副作用は比較的少ないこと、処方分は飲み切ることなどを説明します。患者さんが心配性な場合、副作用をマイルドな表現で伝えます。例えば、下痢というと過敏になる方もいますので「お腹が少し緩くなるかも」という感じです。自己中断と生活習慣について JITHURYOUさん(病院)治療を失敗させないために自己判断で薬剤を中止しないよう伝えます。一般的に抗菌薬は副作用よりも有益性が上なので、治療をしっかり続けるよう付け加えます。その他、便秘を解消すること、水分をしっかりとり、トイレ我慢せず排尿する(ウォッシュアウト)こと、睡眠を十分にして免疫を上げること、性行為(できるだけ避ける)後にはなるべく早く排尿することや生理用品をこまめに取り替えることも説明します。水分補給 中西剛明さん(薬局)尿量を確保するために、水分を多く取ってもらうよう1日1.5Lを目標に、と説明します。次に、お薬を飲み始めたときに皮膚の状態を観察するように説明します。皮膚障害、特に蕁麻疹の発生に気をつけてもらいます。Q5 その他、気付いたことは?地域の感受性を把握 荒川隆之さん(病院)ST合剤は『JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015』などにおいて、急性膀胱炎の第一選択薬ではありません。『サンフォード感染症ガイド2016』でも、耐性E.coli の頻度が20%以上なら避ける、との記載があります。当院においてもST合剤の感受性は80%を切っており、あまりお勧めしておりません。ただ、E.coli の感受性は地域によってかなり異なっているので、その地域におけるアンチバイオグラムを把握することも重要であると考えます。治療失敗時には受診を JITHURYOUさん(病院)予防投与については、説明があったのでしょうか。また、間質性膀胱炎の可能性も気になります。治療が失敗した場合は、耐性菌によるものもあるのかもしれませんが、膀胱がんなどの可能性も考え受診を勧めます。短期間のST合剤なので貧血や腎障害などの懸念は不要だと思いますが、繰り返すことを考えて、生理のときは貧血に注意することも必要だと思います。間質性膀胱炎の可能性 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎の種類が気になるところです。間質性膀胱炎ならば、「効果があるかもしれない」程度のエビデンスですが、スプラタストやシメチジンなどを適応外使用していた泌尿器科医師がいました。予防投与について 奥村雪男さん(薬局)性的活動による単純性膀胱炎で、あまり繰り返す場合は予防投与も考えられます。性行為後にST合剤1錠を服用する4)ようです。性行為後に排尿することも推奨ですが、カウンターで男性薬剤師から話せる内容でないので、繰り返すようであれば処方医によく相談するようにと言うに留めると思います。後日談(担当した薬剤師から)次週も「違和感が残っているので」、ということで来局。再度スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠1回2錠 1日2回で7日分が継続処方として出されていた。その後、薬疹が出た、ということで再来局。処方内容は、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩2mg錠1回1錠 1日3回 毎食後5日分。スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠は中止となった。1)Raz R et al. Clin Infect Dis 2005: 40(6): 896-898.2)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015.一般社団法人日本感染症学会、2016.3)青木眞.レジデントのための感染症診療マニュアル.第2版.東京、医学書院.4)細川直登.再発を繰り返す膀胱炎.ドクターサロン.58巻6月号、 2014.[PharmaTribune 2017年5月号掲載]

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「かぜには抗菌薬が効く」と認識する患者が約半数、どう対応すべきか

 一般市民対象の抗菌薬に関する意識調査の結果、約半数が「かぜやインフルエンザなどのウイルス性疾患に対して抗菌薬が効く」と誤った認識をしていることが明らかになった。AMR臨床リファレンスセンターは10月30日、「抗菌薬意識調査2018」の結果を公表し、「薬剤耐性(AMR)対策の現状と取り組み 2018」と題したメディアセミナーを開催した。セミナーでは大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター病院 副院長/国際感染症センター長/AMR臨床リファレンスセンター長)、具 芳明氏(AMR臨床リファレンスセンター 情報‐教育支援室長)らが登壇し、意識調査結果や抗菌薬使用の現状などについて講演した。抗菌薬で熱が下がる? 痛みを抑える? 「抗菌薬意識調査2018」は、2018年8~9月に、10~60代の男女721人を対象に実施されたインターネット調査1)。「抗菌薬・抗生物質という言葉を聞いたことがあるか」という質問に対し、94.2%(679人)が「ある(66.7%)」あるいは「あるが詳しくはわからない(27.5%)」と回答した。「抗菌薬・抗生物質はどのような薬だと思うか」と複数回答で聞いた結果、「細菌が増えるのを抑える」と正しく回答した人はうち71.9%(488人)。一方で「熱を下げる(40.9%)」、「痛みを抑える(39.9%)」など、直接の作用ではないものを選択する人も多く、抗菌薬に対する誤った認識が浮き彫りとなった。 「抗菌薬・抗生物質はどのような病気に有用か知っているか」という質問に対しては、「かぜ」と答えた人が49.9%(339人)で最も多く、2番目に多かった回答は「インフルエンザ(49.2%)」であった。正しい回答である「膀胱炎」や「肺炎」と答えた人はそれぞれ26.7%、25.8%に留まっている。「かぜで受診したときにどんな薬を処方してほしいか」という質問にも、30.1%の人が「抗菌薬・抗生物質」と回答しており、“ウイルス性疾患に抗菌薬が効く”と認識している人が一定数いる現状が明らかになった。抗ウイルス薬を約3割の人が抗菌薬と誤解 さらに、抗菌薬5種類を含む全12種類の薬品名を挙げ、「あなたが思う抗菌薬・抗生物質はどれか」と複数回答で尋ねた質問では、多かった回答上位5種類のうち3種類が抗菌薬以外の薬剤であった。最も多かったのは抗ウイルス薬のT(頭文字)で、29.3%(199人)が抗菌薬だと誤解していた。他に、鎮痛解熱薬のL(18.1%)やB(14.4%)も抗菌薬だと回答した人が多かった。 本調査結果を解説した具氏は、「医療従事者が思っている以上に、一般市民の抗菌薬についての知識は十分とは言えず、適応や他の薬剤との区別について誤解が目立つ結果なのではないか。このギャップを意識しながら、十分なコミュニケーションを図っていく必要がある」と話した。 “不必要なことを説明して、納得してもらう”ために 医師側も、一部でこうした患者の要望に応え、抗菌薬処方を行っている実態が明らかになったデータがある。全国の診療所医師を対象に2018年2月に行われた調査2)で、「感冒と診断した患者や家族が抗菌薬処方を希望したときの対応」について聞いたところ(n=252)、「説明しても納得しなければ処方する」と答えた医師が50.4%と最も多かった。「説明して処方しない」は32.9%に留まり、「希望通り処方する」が12.7%であった。 大曲氏は、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを取りまとめる過程で検討したデータからも、感冒をはじめとした急性気道感染症や下痢症など、本来抗生物質をまず使うべきでないところで多く使われている現状が明らかになっている」と話し、必要でないケースでは医師側が自信を持って、ときには繰り返し患者に説明していくことの重要性を強調した。2018年度の診療報酬改定で新設された、「小児抗菌薬適正使用支援加算」3)は、不必要な抗菌薬を処方するのではなく、患者への十分な説明を重視したものとなっている。そのためのツールの1つとして、2017年発行の「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版」や、センターが運用している「薬剤耐性(AMR)対策eラーニングシステム」4)などの活用を呼び掛けている。■参考1)国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター プレスリリース2)日本化学療法学会・日本感染症学会合同外来抗菌薬適正使用調査委員会「全国の診療所医師を対象とした抗菌薬適正使用に関するアンケート調査」2018.3)厚生労働省「第3回厚生科学審議会感染症部会薬剤耐性(AMR)に関する小委員会 資料5」4)国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター情報サイト「かしこく治して、明日につなぐ」 ■関連記事全国の抗菌薬の使用状況が一目瞭然「抗微生物薬適正使用の手引き」完成●診療よろず相談TV シーズンII第30回「抗微生物薬適正使用の手引き」回答者:国立成育医療研究センター 感染症科 宮入 烈氏第32回「『抗微生物薬適正使用の手引き』の活用法」回答者:東京都立多摩総合医療センター 感染症科 本田 仁氏

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膣内にビー玉と人形の靴が1年半も入っていた少女【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第126回

膣内にビー玉と人形の靴が1年半も入っていた少女 いらすとやより使用 異物論文といえば、男性の泌尿器系・消化器系の論文が多いのですが、検索すると時折産婦人科領域の論文もあります。今回紹介するのは、5歳の少女の異物論文です。場所は産婦人科領域ですが、結構たらい回しになってからの診断です。 岩川眞由美ら.診断までに1年半を要した膣内異物の5歳女児例日小外会誌 1997;33:765-769.今から26年前の症例です。当時4歳だった少女の下着に悪臭を伴う分泌物が付着していることに母親が気付き、近所の泌尿器科を受診しました。膀胱炎ということで抗菌薬を処方されましたが、症状が改善しないために別の小児科を受診しました。ここでも抗菌薬のみの処置でした。うーん、膣の中を診ようとは思わなかったんですかね。3院目で婦人科を受診したところ、カンジダ膣炎と診断されて膣錠を処方されました。これでいったん症状は治まりました。落ち着いてきたので経口抗菌薬に切り替えたところ、再び悪臭帯下が出現。さらに別の皮膚科へ受診することになります。ここでも膣感染症ということで抗菌薬が処方されました。一度は良くなっても悪化を繰り返す帯下。5院目で最初とは別の泌尿器科を受診して、最終的に膀胱膣瘻という診断が下されました。しかし、原因については判然とせず、結局抗菌薬で経過をみていました。ここまでの期間が全部で1年半。長いです。6院目が筆者らの所属する筑波大学病院小児外科でした。膣造影検査により、膣内に多数の異物が観察されました。そう、膀胱膣瘻の原因は異物だったのです。膣内異物に対して、全身麻酔下で異物摘出術が行われました。なんと、摘出された異物は、ビー玉3個、人形の靴1足、プラスチックのビーズ7個、菓子包装紙1枚!これが1年半も膣の中に入っていたというから驚きです。主治医は冷静に、女児に異物を入れるとこういうことになるということを説明し、親にも過度に驚くものではないと説明したそうです。あまり大騒ぎして、女児のトラウマになってはいけないとの配慮です。本症例では虐待の根拠もなく、また女児の性的な意識が原因というわけではなく、とくに意識されずに挿入されたようです。というわけで、どの年齢であっても軽快しない悪臭帯下を診た場合、異物を疑う必要がありますね。

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第9回 内科クリニックからのセファレキシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・10名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・6名Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・4名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・3名腸球菌・・・2名淋菌、クラミジアなど(性感染症)・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。ガイドラインも参考に 荒川隆之さん(病院)やはり一番頻度が高いのはE. coli です。性交渉を持つ年代の女性の単純性尿路感染としては、S.saprophyticus なども考えます。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015では、閉経前の急性単純性膀胱炎について推定される原因微生物について、下記のように記載されています。グラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち約90%はE. coli である。その他のグラム陰性桿菌としてP.mirabilis やKlebsiella 属が認められる。グラム陽性球菌は約20%に認められ、なかでもS. saprophyticus が最も多く、次いでその他のStaphylococcus 属、Streptococcus 属、Enterococcus 属などが分離される。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015急性単純性腎盂腎炎膀胱炎の併発の場合 清水直明さん(病院)閉経前の若い女性、排尿痛、背部叩打痛があることから、急性単純性腎盂腎炎)※3に膀胱炎を併発している可能性が考えられます。その場合の原因菌は前述のJAID/JSC感染症治療ガイドライン2015の通りで、これらがほとんどを占めるといってもよいと思います。E. coliなどのグラム陰性桿菌(健常人にも常在している腸内細菌)には近年ESBL(extended spectrum β-lactamase)産生菌が増加しており、加えてこれらはキロノン系抗菌薬にも耐性を示すことが多く、セフェム系、キノロン系抗菌薬が効かない場合が多くなっているので注意が必要です。※3 尿道口から細菌が侵入し、腎盂まで達して炎症を起こす。20~40歳代の女性に多いとされる。グラム陰性桿菌が原因菌であることが多い。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーや腎臓疾患など 柏木紀久さん(薬局)セフェム系抗菌薬やペニシリン系抗菌薬のアレルギー、気管支喘息や蕁麻疹などのアレルギー関連疾患、腎臓疾患の有無。妊娠の有無  わらび餅さん(病院)アレルギー歴や併用薬(相互作用の観点で必要時指導がいるので)に加え、妊娠の有無を確認します。Q3 疑義照会する?軟便や胃腸障害への対策 中堅薬剤師さん(薬局)処方内容自体に疑義はありませんが、抗菌薬で軟便になりやすい患者さんならば耐性乳酸菌製剤、胃腸障害が出やすい患者さんであれば胃薬の追加を提案します。1日2回への変更 柏木紀久さん(薬局)職業等生活状況によっては1日2回で成人適応もあるセファレキシン顆粒を提案します。フラボキサートの必要性 キャンプ人さん(病院)今回は急性症状でもあり、フラボキサートは過剰かなと思いました。今回の症例の経過や再受診時の状況にもよりますが、一度は「フラボキサートは不要では」と疑義照会します。症状の確認をしてから JITHURYOUさん(病院)フラボキサートについては、排尿時痛だけでは処方はされないと考えます。それ以外の排尿困難症、すなわち頻尿・ひょっとしたら尿漏れの可能性? それらがないとすれば、疑義照会して処方中止提案をします。下腹部の冷えを避け、排尿我慢や便秘などしないように、性交渉後、排尿をするなどの習慣についても指導できればいいと思います。疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)セファレキシンは6時間ごと1日4回ですが、今回の1 日3 回で1,500mgにした処方では疑義照会しません。なお、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 では閉経前の急性単純性膀胱炎のセカンドラインの推奨として、セファクロル250mgを1 日3 回、7 日間を挙げています。患者さんのアドヒアランスを考慮? わらび餅さん(病院)疑義照会はしません。投与量がJAID/JSCガイドラインと異なり多いと思いましたが、患者さんが若くアドヒアランスの低下の可能性を疑って、膀胱炎を繰り返さないためにも、あえて高用量で処方したのかとも考えました。ESBL産生菌を念頭に置く 清水直明さん(病院)セファレキシンは未変化体のまま尿中に排泄される腎排泄型の薬剤であり、尿路に高濃度移行すると考えられ、本症例のような尿路感染症には使用できると思います。しかし、地域のアンチバイオグラムにもよりますが、腸内細菌にESBL産生菌が増えており(平均して1~3割程度でしょうか)、単純なセフェム系抗菌薬の治療では3割失敗する可能性があるともいえます。ケフレックス®(セファレキシン)のインタビューフォームによると、E. coli、K. pneumoniae、P. mirabilisに対するMICはそれぞれ6.25、6.25、12.5μg/mLです。一方、JAID/JSCガイドラインで推奨されている1つであるフロモックス®(セフカペンピボキシル塩酸塩)のMICは、インタビューフォームによると、それぞれ3.13、0.013、0.20 μg/mLと、同じセフェム系抗菌薬でも2つの薬剤間で感受性がかなり異なることが分かります。やはり、セファレキシンは高用量で用いないと効果が出ない可能性があるので高用量処方となっているのだと思います。これらのことから、1つの選択肢としては疑義照会をして感受性のより高いセフカペンなどのセフェム系抗菌薬に変更してもらい、3日ほどたっても症状が変わらないか増悪するようであれば、薬が残っていても再度受診するように伝えることが挙げられます。もう1つの選択肢としては、初めからESBL産生菌を念頭に置いて、下痢発現の心配はあるものの、βラクタマーゼ配合ペニシリン系抗菌薬、ファロペネムなどを提案するかもしれません。私見ですが、キノロン系抗菌薬は温存の意味と、キノロン耐性菌を増やす可能性があり、あまり勧めたくありません。キノロン耐性菌の中にはESBL産生菌が含まれるので、ESBL産生菌を増やすことに繋がってしまいます。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?他科受診時や高熱に注意 柏木紀久さん(薬局)「セファレキシンは症状が治まっても服用を続けてください。服用途中でも高熱が出てきたら受診してください。水分をよく取って、排尿も我慢せず頻繁にしてください。セファレキシン服用中は尿検査で尿糖の偽陽性が出ることがあるので、他科を受診する際には申告してください」。腎盂腎炎に進行する可能性を懸念し、熱が上がってきたら再受診を勧めます。牛乳で飲まないように わらび餅さん(病院)飲み忘れなく、しっかりセファレキシンを飲むように指導します。牛乳と同時に摂取するのは避ける※4ように説明します。※4 セファレキシンやテトラサイクリン系抗菌薬は、牛乳の中のカルシウムにより吸収が低下する。キノロン系抗菌薬の服用歴 JITHURYOUさん(病院)性交渉頻度など(セックスワーカー・不特定多数との性交渉の可能性? )は気になるところですが、なかなか聞きにくい質問でもあります。レボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬は、開業医での処方が多いです。このため、これらの薬剤の服用歴や受診歴が重要であると思います。ESBL産生菌の可能性はないかもしれませんが、さまざまな抗菌薬にさらされている現状を考慮して、数日で症状改善しなければ、耐性菌や腎盂腎炎などの可能性もあるので再受診を促します。中止か継続かの判断 中西剛明さん(薬局)蕁麻疹や皮膚粘膜の剝落などのアレルギー症状が出た場合は中止を、下痢の場合はやがて改善するので水分をしっかり取った上で中止しないよう付け加えます。あまりに下痢がひどい場合は、耐性乳酸菌製剤が必要かもしれません。Q5 その他、気付いたことは?薬薬連携で情報を共有 荒川隆之さん(病院)閉経前の急性単純性膀胱炎から分離されるE. coliの薬剤感受性は比較的良好とされてはいるものの、地域のE. coliの薬剤感受性は把握しておくべきだと考えます。ESBL産生菌の頻度が高い地域においては、キノロン系抗菌薬の使用は控えた方がよいかもしれませんし、ファロペネムなどの選択も必要となるかもしれません。病院側もアンチバイオグラムなどの感受性情報は地域の医療機関で共有すべきだと考えますし、薬局側も必要だとアクションしていただきたいと思います。薬薬連携の中でこのような情報が共有できるとよいですね。余談ですが、ESBLを考える場合、ガイドライン上にはホスホマイシンも推奨されていますが、通常量経口投与しても血中濃度が低すぎるため、個人的にあまりお勧めしません。注射の場合は十分上がります。欧米のように高用量1回投与などができればよいのにと考えています。地域のアンチバイオグラムを参考に 児玉暁人さん(病院)ESBL産生菌の可能性は低いかもしれませんが、地域のアンチバイオグラムがあれば抗菌薬選択の参考になるかもしれません。背部叩打痛があるようですが、腎盂腎炎は否定されているのでしょうか。膀胱炎の原因 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎であることは確かだと思いますが、その原因が気になります。泌尿器科の処方箋が多い薬局で数年働き、若い女性の膀胱炎をよく見てきましたが、間質性膀胱炎のことが多く、そのような場合には、保険適用外でしたがスプラタスト(アイピーディ®)やシメチジンなどが投与されていました。背部叩打痛があることから、尿路結石の可能性もあります。また、若い女性であることから、ストレス性も考えられます。営業職で、トイレを我慢し過ぎて膀胱炎になるケースも少なくありません。最悪、敗血症になる可能性も ふな3さん(薬局)発熱・背部叩打痛があることから、腎盂腎炎への進行リスクが心配されます。最悪の場合、敗血症への進行の可能性も懸念されるため、高熱や腰痛などの症状発現や、2~3日で排尿痛等の改善がない場合には、早めに再受診または、泌尿器科専門医を受診するよう説明します。後日談この患者は1週間後、再受診、来局した。薬を飲み始めて数日したら排尿時の痛みがなくなったため、服薬をやめてしまい、再発したという。レボフロキサシン錠500mg/1錠、朝食後3日分の処方で治療することになった。医師の診断は急性単純性膀胱炎で、腎盂腎炎は否定的だったそうだ。担当した薬剤師から再治療がニューキノロン系抗菌薬になったのは、より短期間の治療で済むからでしょう。セファレキシンなどの第一世代セフェムを含むβラクタム系抗菌薬を使う場合、1週間は服用を続ける必要があるといわれています。この症例は、服薬中断に加え、フラボキサートで排尿痛を減らす方法では残尿をつくってしまう可能性があり、よくなかったのかもしれません。症状がよくなっても服薬を中断しないこと、加えて、水分摂取量を増やして尿量を増やすことも治療の一環であると説明しました。[PharmaTribune 2017年1月号掲載]

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第6回 意識障害 その5 敗血症ってなんだ?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)バイタルサインを総合的に判断し、敗血症を見逃すな!2)“No Culture,No Therapy!”、治療の根拠を必ず残そう!3)敗血症の初療は1時間以内に確実に! やるべきことを整理し遂行しよう!【症例】82歳女性の意識障害:これまたよく出会う原因82歳女性。来院前日から活気がなく、就寝前に熱っぽさを自覚し、普段と比較し早めに寝た。来院当日起床時から38℃台の発熱を認め、体動困難となり、同居している娘さんが救急要請。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:10/JCS、E3V4M6/GCS血圧:102/48mmHg 脈拍:118回/分(整) 呼吸:24回/分 SpO2:97%(RA)体温:37.9℃ 瞳孔:3/3mm +/+前回までの症例が一段落ついたため、今回は新たな症例です。高齢女性の意識障害です。誰もが経験したことのあるような症例ではないでしょうか。救急外来で多くの患者さんを診ている先生ならば、原因はわかりますよね?!前回までの復習をしながらアプローチしていきましょう。Dr.Sakamotoの10’s Ruleの1~6)を確認(表1)病歴やバイタルサインに重きを置き、患者背景から「○○らしい」ということを意識しながら救急車到着を待ちます。来院時も大きく変わらぬバイタルサインであれば、意識消失ではなく意識障害であり、まず鑑別すべきは低血糖です。低血糖が否定されれば、頭部CTを考慮しますが…。画像を拡大する原因は感染症か否か?病歴やバイタルサインから、なんらかの感染症が原因の意識障害を疑うことは難しくありません。それでは、今回の症例において体温が36.0℃であったらどうでしょうか? 発熱を認めた場合には細菌やウイルスの感染を考えやすいですが、ない場合に疑えるか否か、ここが初療におけるポイントです。この症例は、疫学的にも、そしてバイタルサイン的にも敗血症による意識障害が最も考えやすいですが、その理由は説明できるでしょうか。●Rule7 菌血症・敗血症が疑われたらfever work up!高齢者の感染症は意識障害を伴うことが多い救急外来や一般の外来で出会う感染症のフォーカスの多くは、肺炎や尿路感染症、その他、皮膚軟部組織感染症や腹腔内感染症です。とくに肺炎、尿路感染症の頻度が高く、さらに高齢女性となれば尿路感染症は非常に多く、常に考慮する必要があります。また、肺炎や腎盂腎炎は、意識障害を認めることが珍しくないことを忘れてはいけません。「発熱のため」、「認知症の影響で普段から」などと、目の前の患者の意識状態を勝手に根拠なく評価してはいけません。意識障害のアプローチの最初で述べたように、まずは「意識障害であることを認識!」しなければ、正しい評価はできません。感染症らしいバイタルサイン:qSOFAとSIRS*感染症らしいバイタルサインとは、どのようなものでしょうか。急性に発熱を認める場合にはもちろん、なんらかの感染症の関与を考えますが、臨床の現場で悩むのは、その感染症がウイルス感染症なのか細菌感染症なのか、さらには細菌感染症の中でも抗菌薬を使用すべき病態なのか否かです。救急外来など初療時にはフォーカスがわからないことも少なくなく、病歴や臓器特異的所見(肺炎であれば、酸素化や聴診所見、腎盂腎炎であれば叩打痛や頻尿、残尿感など)をきちんと評価してもわからないこともあります。そのような場合にはバイタルサインに注目して対応しましょう。そのためにまず、現在の敗血症の定義について歴史的な流れを知っておきましょう。現在の敗血症の定義は、「感染による制御不能な宿主反応によって引き起こされる生命を脅かす臓器障害1)」です(図1、2)。一昔前までは「感染症によるSIRS」でしたが、2016年に敗血症性ショックの定義とともに変わりました。そして、敗血症と診断するために、ベッドサイドで用いる術として、SIRS(表2)に代わりqSOFA (quickSOFA)(表3)が導入されました。その理由として、以下の2点が挙げられます。1)なんでもかんでも敗血症になってしまうSIRSの4項目を見ればわかるとおり、2項目以上は簡単に満たしてしまいます。皆さんが階段を駆け上がっただけでも満たしますよね(笑)。実際に感染症以外に、膵炎、外傷、熱傷などSIRSを満たす症候や疾患は多々存在し、さらに、インフルエンザなどウイルスに伴う発熱であっても、それに見合う体温の上昇を認めればSIRSは簡単に満たすため、SIRS+感染症を敗血症と定義した場合には、多くの発熱患者が敗血症と判断される実情がありました。2)SIRSを満たさない重篤な感染症を見逃してしまうSIRSを満たさないからといって敗血症でないといえるのでしょうか。実際にSIRSは満たさないものの、臓器障害を呈した状態が以前の定義(SIRS+感染症=敗血症)では12%程度認められました。つまり、SIRSでは拾いあげられない重篤な病態が存在したということです。これは問題であり、敗血症患者の初療が遅れ予後の悪化に直結します。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するそこで登場したのがqSOFAです。qSOFAは、(1)呼吸数≧22/分、(2)意識障害、(3)収縮期血圧≦100mmHgの3項目で構成され、2項目以上満たす場合に陽性と判断します。項目数がSIRSと比較し少なくなり、どれもバイタルサインで構成されていることが特徴ですが、その中でも呼吸数と意識障害の2項目が取り上げられているのが超・超・重要です。敗血症に限らず重症患者を見逃さないために評価すべきバイタルサインとして、この2項目は非常に重要であり、逆にこれら2項目に問題なければ、たとえ血圧が低めであっても焦る必要は通常ありません。心停止のアルゴリズムでもまず評価すべきは意識、そして、その次に評価するのは呼吸ですよね。また、これら2項目は医療者自身で測定しなければ正確な判断はできません。普段と比較した意識の変化、代謝性アシドーシスの代償を示唆する頻呼吸を見逃さないように、患者さんに接触後速やかに評価しましょう。*qSOFA:quick Sequential[Sepsis- Related] Organ Failure Assessment ScoreSIRS:Systemic Inflammatory Response Syndrome“No Culture,No Therapy!”:適切な治療のために根拠を残そう!“Fever work up”という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 感染症かなと思ったら、必ずフォーカス検索を行う必要があります。熱があるから抗菌薬、酸素化が悪いから肺炎、尿が濁っているから尿路感染症というのは、上手くいくこともありますが、しばしば裏切られて後々痛い目に遭います。高齢者や好中球減少などの免疫不全患者では、とくに症状が乏しいことがあり悩まされます。フォーカスがわからないならば、抗菌薬を投与せずに経過を診るというのも1つの選択肢ですが、重症度が高い場合にはそうも言っていられません。また、前医から抗菌薬がすでに投与されている場合には、さらにその判断を難しくさせます。そのため、われわれが行うべきことは「(1)グラム染色を行いその場で関与している菌の有無を判断する、(2)培養を採取し根拠を残す」の2つです。(1)は施設によっては困難かもしれませんが、施行可能な施設では行わない理由がありません。喀痰、尿、髄液、胸水、腹水など、フォーカスと考えられる場所はきちんと評価し、その目でちゃんと評価しましょう。自信がない人はまずは細菌検査室の技師さんと仲良くなりましょう。いろいろ教えてくださいます。(2)は誰でもできますね。しかし、意外とやってしまうのが、痰が出ないから喀痰のグラム染色、培養を提出しない、髄膜炎を考慮しながらも腰椎穿刺を施行しないなんてことはないでしょうか。肺炎の起因菌を同定する機会があるのならば、痰を出さなければできません。血液培養は10%程度しか陽性になりません、肺炎球菌尿中抗原は混合感染の評価は困難、一度陽性となると数ヵ月陽性になるなど、目の前の患者の肺炎の起因菌を同定できるとは限りません。とにかく痰を頑張って採取するのです。喀出困難であれば、誘発喀痰、吸引なども考慮しましょう。肺炎患者の多くは数日前から食事摂取量が低下しており、脱水を伴うことが多く、外液投与後に喀痰がでやすくなることもしばしば経験します。とにかく採取し検査室へ走り、起因菌を同定しましょう。髄液も同様です。フォーカスがわからず、本症例のように意識障害を認め、その原因に悩むようであれば、腰椎穿刺を行う判断をした方がよいでしょう。不用意に行う必要はありませんが、限られた時間で対応する必要がある場合には、踏ん切りをつけるのも重要です。敗血症の1時間バンドルを遂行しよう!敗血症かなと思ったら表4にある5項目を遂行しましょう。ここではポイントのみ追記しておきます。敗血症性ショックの診断基準にも入りましたが、乳酸値は敗血症を疑ったら測定し、上昇している場合には、治療効果判定目的に低下を入れ、確認するようにしましょう。血圧は収縮期血圧だけでなく、平均動脈圧を評価し管理しましょう。十分な輸液でも目標血圧に至らない場合には、昇圧剤を使用しますが、まず使用するのはノルアドレナリンです。施設毎にシリンジの組成は異なるかもしれませんが、きちんと処方できるようになりましょう。ノルアドレナリンを使用することは頭に入っていても、実際にオーダーできなければ救命できません。バンドルに含まれていませんが重要な治療が1つ存在します。それがドレナージや手術などの抗菌薬以外の外科的介入(5D:drug、drainage、debridement、device removal、definitive controlの選択を適切に行う)です。急性閉塞性腎盂腎炎に対する尿管ステントや腎瘻、総胆管結石に伴う胆管炎に対するERCPなどが代表的です。バンドルの5項目に優先されるものではありませんが、同時並行でマネジメントしなければ一気に敗血症性ショックへと陥ります。どのタイミングでコンサルトするか、明確な基準はありませんが、院内で事前に話し合って決めておくとよいでしょう。画像を拡大する今回の症例を振り返る今回の症例は、高齢女性がqSOFAならびにSIRSを満たしている状態です。疫学的に腎盂腎炎に伴う敗血症の可能性を考えながら、バンドルにのっとり対応しました。もちろん低血糖の否定や頭部CTなども行いますが、以前の症例のように積極的に頭蓋内疾患を疑って撮影しているわけではありません。この場合には、脳卒中以上に明らかな外傷歴はなくても、慢性硬膜下血腫など外傷性変化も考慮する必要があるため施行するものです。尿のグラム染色では大腸菌様のグラム陰性桿菌を認め、腎叩打痛ははっきりしませんでしたが、エコーで左水腎症を認めました。抗菌薬を投与しつつ、バイタルサインが安定したところで腹部CTを施行すると左尿管結石を認め、意識状態は外液投与とともに普段と同様の状態へ改善したため、急性閉塞性腎盂腎炎による敗血症が原因と考え、泌尿器科医と連携をとりつつ対応することになりました。翌日、血液培養からグラム陰性桿菌が2セット4本から検出され、尿培養所見とも合致していたため確定診断に至りました。いかがだったでしょうか。よくある疾患ですが、系統だったアプローチを行わなければ忙しい、そして時間の限られた状況での対応は意外と難しいものです。多くの患者さんの対応をしていれば、原因疾患の検査前確率を正しく見積もることができるようになり、ショートカットで原因の同定に至ることもできると思いますが、それまではコツコツと一つひとつ考えながら対応していきましょう。次回はアルコールや薬剤による意識障害の対応に関して考えていきましょう。1)Singer M, et al. JAMA. 2016;315:801-810.2)Levy MM, et al. Crit Care Med. 2018;46:997-1000

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急性単純性膀胱炎に対するガイドライン推奨治療の比較試験(解説:小金丸博氏)-860

 膀胱炎に代表される尿路感染症はとてもありふれた感染症であり、とくに女性では一生涯で半数以上が経験すると言われている。膀胱炎に対して世界中で多くの抗菌薬が処方されることが薬剤耐性菌出現の一因になっていると考えられており、2010年に米国感染症学会(IDSA)と欧州臨床微生物感染症学会(ESCMID)は「女性の急性単純性膀胱炎および腎盂腎炎の治療ガイドライン」を改訂した。このガイドラインでは、急性単純性膀胱炎に対する第1選択薬としてnitrofurantoin monohydrateやfosfomycin trometamolなどを推奨しており、これらの薬剤の使用量が増加してきているが、治療効果を比較したランダム化試験はほとんど存在しなかった。 本試験は、妊娠をしていない18歳以上の女性を対象に、急性単純性膀胱炎に対するnitrofurantoinとfosfomycinの治療効果を検討したオープンラベルのランダム化比較試験である。少なくとも1つの急性下部尿路感染症状(排尿障害、尿意切迫、頻尿、恥骨上圧痛)を有し、尿亜硝酸塩あるいは白血球エステラーゼ反応陽性を示すものを対象とした。その結果、プライマリアウトカムである28日目の臨床的改善率はnitrofurantoin群70%、fosfomycin群58%であり、nitrofurantoin群で有意に高率だった(群間差:12%、95%信頼区間:4~21%、p=0.004)。また、セカンダリアウトカムの1つである28日目の微生物学的改善率もnitrofurantoin群で有意に高率だった(74% vs.63%、群間差:11%、95%信頼区間:1~20%、p=0.04)。 本試験で検討された治療薬の用法は、それぞれnitrofurantoin100mgを1日3回・5日間経口投与とfosfomycin3gを単回経口投与であった。ガイドラインではnitrofurantoin100mgを1日2回・5日間経口投与が推奨されており、nitrofurantoinの至適投与方法は今後検討の余地がある。fosfomycinの単回投与は患者のコンプライアンスを考えると魅力的なレジメンであるが、臨床的改善率と微生物学的改善率の両方が有意に低率だったことは、今後の治療薬の選択に影響を与える結果であると考える。 本試験の治療成功率は、過去の報告と比較して低率だった。その理由の1つとして、大腸菌以外の細菌(Klebsiella sppやProteus sppなど)の割合が高かったことが挙げられており、尿路感染症の原因菌として大腸菌が多い地域であれば、もう少し治療成功率が高かった可能性はある。また、過去の試験より治療成功の定義が厳格であったことも影響したと考えられる。 実は、本試験で検討された2つの抗生物質はどちらも日本では発売されていない。日本で発売されているホスホマイシン経口薬はホスホマイシンカルシウムであり、fosfomycin trometamolとは異なる薬剤である。本邦における膀胱炎治療は、ST合剤、βラクタム薬、フロオロキノロンなどの中から選択することが多いと思われるが、地域での薬剤感受性情報や副作用を勘案し、総合的に判断することが求められる。

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感染症による慢性炎症で前立腺がんリスク増加?

 前立腺炎が、慢性炎症によって前立腺がんリスクを増加させる可能性が疫学研究から示唆されている。今回、フランス国立保健医学研究機構(Inserm)のSolene Doat氏らがEPICAP研究のデータで検討したところ、慢性前立腺炎・急性腎盂腎炎の既往のある男性、NSAIDを使用していない男性で、前立腺がん発症のオッズ比がとくに高かった。この結果から、泌尿生殖器感染症により生じた慢性炎症が前立腺がん発症に関与するという仮説が補強された。International Journal of Cancer誌オンライン版2018年4月26日号に掲載。 EPICAP研究は、2012~14年にフランスのHerault地方で実施された集団ベースの症例対照研究である。前立腺がん症例819例および対照879例に対して、標準化アンケートを用いた対面インタビューを行い、前立腺がんについて既知または疑わしい危険因子に関する情報と泌尿生殖器感染症(前立腺炎、尿道炎、精巣上体炎、急性腎盂腎炎)の既往歴を収集した。オッズ比(OR)およびその95%信頼区間(CI)は、多変量無条件ロジスティック回帰を用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・全体として、前立腺がん症例139例(18%)、対照98例(12%)が、1つ以上の泌尿生殖器感染症の既往歴を有すると報告され(OR:1.64、95%CI:1.23~2.20)、このリスクは感染症の数とともに増加した(傾向のp<0.05)。・この関連は、とくに慢性前立腺炎の既往歴(OR:2.95、95%CI:1.26~6.92)、急性腎盂腎炎の既往歴(OR:2.66、95%CI:1.29~5.51)、NSAIDを何も使用していなかった男性(OR:2.00、95%CI:1.37~2.91)でみられた。

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複雑性尿路感染症に対するメロペネム/vaborbactamの効果(解説:吉田 敦 氏)-826

 多剤耐性グラム陰性桿菌、とくにカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)の増加と蔓延は、抗菌薬療法の限界を示唆する耐性菌、いわゆる「悪魔の耐性菌」として今や人類の脅威となっている。現在使用できる抗菌薬が限られている中で、セリン型のクラスAおよびクラスC βラクタマーゼを阻害するボロン酸であるvaborbactamとカルバペネム(メロペネム)を配合したメロペネム/vaborbactam(以下MEPM/VBT)が登場し、体内動態に関する第I相試験が行われていたが、今回第III相試験の結果が発表された。 本試験は国際多施設参加ランダム化比較試験であり、18歳以上の複雑性尿路感染症あるいは腎盂腎炎の症例を無作為にMEPM/VBT投与群(2g/2gを3時間かけて投与、1日3回)とピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)投与群(4g/0.5gを30分で投与、1日3回)に割り付けた。15回以上投与した後、あらかじめ定めた臨床的な改善基準を満たした場合、経口のレボフロキサシンに変更可能とし、治療期間は計10日間とした。primary end pointにはFDA基準(臨床的改善・治癒と、静注薬終了時の尿細菌数が104 CFU/mL未満)とEMA(欧州医薬品庁)基準(治療終了後に治癒確認を目的に診察した際の尿細菌数が103 CFU/mL未満)を用いた。 最終的に17ヵ国550例を対象とすることができ、272例がMEPM/VBT投与群に、273例がPIPC/TAZ投与群に割り付けられた。このうち腎盂腎炎は59%、尿中菌数が105 CFU/mL以上であったのは69%であり、原因微生物のうち65%は大腸菌、15%はK. pneumoniaeであった。なお大腸菌のうちPIPC/TAZ耐性率は5%、MEPM耐性菌はなく、K. pneumoniaeのうちPIPC/TAZ耐性率は42%、MEPM耐性率は5%であった。Primary end pointを達成した成功率は、FDA基準ではMEPM/VBT群98.4%、PIPC/TAZ群94.0%であり、MEPM/VBTはPIPC/TAZに非劣性であるばかりか、それよりも優れていた。EMA基準では、MEPM/VBT群66.7%、PIPC/TAZ群55.7%であり、これでも非劣性が判明した。有害事象はMEPM/VBT群39.0%、PIPC/TAZ群35.5%で報告されたが、抗菌薬に関連したものはそれぞれ15.1%、12.8%であり、重度のものは2.6%、4.8%であった。MEPM/VBT群で多かったのは頭痛や下痢、ALT上昇などであったが、副作用のために投与を中止したのは2.6%とPIPC/TAZ群の5.1%より少なかった。 今回の報告は、βラクタマーゼ・カルバペネム配合剤のヒト感染症例でのランダム化比較試験としては、初めてのものである。この結果を受けて、FDAは2017年8月に成人の複雑性尿路感染症を対象に本剤を認可した(Vabomere)。ただし本試験にはいくつかの限界が存在する。SIRSの基準を満足している割合が1/3以下と高くないこと、原因微生物がメロペネム耐性菌である割合が低く(PIPC/TAZ耐性率は高い)、そもそもカルバペネム耐性菌を主対象とした研究でないことである。そしてこれまでの検討で、MEPM/VBTはCPEのうちKlebsiella pneumoniae Carbapenemase(KPC)には有効であるが、クラスBのメタロβラクタマーゼ産生菌(代表的なのはNDM)にはあまり有効でないことが指摘されている1)。カルバペネム耐性腸内細菌科細菌による複数の感染症に対し、本剤の有効性を調べた続発試験(TANGO II)が行われたとも聞く。KPCが多い地域と、メタロβラクタマーゼ産生菌が多い本邦やアジアでは、本剤が適応となる状況は異なると思われる。メタロβラクタマーゼ産生菌に使用できる選択肢が増えることが、さらに望まれる状況にある。

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複雑性尿路感染症、メロペネム/vaborbactam配合剤の有効性/JAMA

 複雑性尿路感染症の治療において、メロペネム/vaborbactam配合剤の効果は、ピペラシリン/タゾバクタム配合剤に対し非劣性であることが、米国・ミシガン大学のKeith S. Kaye氏らが実施したTANGO I試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年2月27日号に掲載された。カルバペネム系抗菌薬メロペネムとβ-ラクタマーゼ阻害薬vaborbactamの配合剤は、薬剤抵抗性グラム陰性菌による重症感染症に有効である可能性が示唆されている。2種の配合剤の非劣性を評価する無作為化試験 TANGO Iは、急性腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症の治療における、メロペネム/vaborbactam配合剤の有効性と有害事象の評価を目的とする二重盲検ダブルダミー無作為化実薬対照非劣性試験である(The Medicines Company社などの助成による)。 年齢18歳以上の尿路感染症または急性腎盂腎炎の確定例または疑い例が、8時間ごとにメロペネム/vaborbactam配合剤(2g/2g、3時間静注)またはピペラシリン/タゾバクタム配合剤(4g/0.5g、30分静注)を投与する群にランダムに割り付けられた。患者は、盲検を維持するために、薬剤を含まない生理食塩水(30分または3時間静注)の投与を受けた。 15回以上の静注後は、全10日間の治療を完了するために、事前に規定された改善の判定基準を満たす場合は、経口レボフロキサシン(500mg、24時間ごと)に切り替えることとした。 米国食品医薬品局(FDA)の基準による主要エンドポイントとして、微生物学的に修正したintent-to-treat(ITT)集団における静注投与終了時のoverall success(臨床的な治癒または改善と、除菌の複合)、および欧州医薬品庁(EMA)の基準による主要エンドポイントとして、微生物学的に修正したITT集団および微生物学的に評価可能な集団における治癒検査受診時の除菌の評価を行った。事前に規定された非劣性マージンは-15%であった。すべての主要エンドポイントで非劣性を確認 2014年11月~2016年4月の期間に、17ヵ国60施設に550例が登録され、545例(メロペネム/vaborbactam配合剤群:272例、ピペラシリン/タゾバクタム配合剤群:273例)が1回以上の投与を受けた(修正ITT集団)。 全体の平均年齢は52.8歳、361例(66.2%)が女性であった。微生物学的に修正したITT集団は374例(68.6%)、微生物学的に評価可能な集団は347例(63.7%)だった。 FDAの主要エンドポイントであるoverall successは、メロペネム/vaborbactam配合剤群の192例中189例(98.4%)で達成され、ピペラシリン/タゾバクタム配合剤群の182例中171例(94.0%)に対し非劣性であった(群間差:4.5%、95%信頼区間[CI]:0.7~9.1%、非劣性のp<0.001)。 EMAの主要エンドポイントである微生物学的に修正したITT集団における除菌は、メロペネム/vaborbactam配合剤群の192例中128例(66.7%)で達成され、ピペラシリン/タゾバクタム配合剤群の182例中105例(57.7%)に対し非劣性であった(群間差:9.0%、95%CI:-0.9~18.7%、非劣性のp<0.001)。また、微生物学的に評価可能な集団における除菌は、それぞれ178例中118例(66.3%)、169例中102例(60.4%)で達成され、同様に非劣性が示された(群間差:5.9%、95%CI:-4.2~16.0%、非劣性のp<0.001)。 有害事象は、メロペネム/vaborbactam配合剤群の272例中106例(39.0%)、ピペラシリン/タゾバクタム配合剤群の273例中97例(35.5%)で発現し、試験薬関連有害事象はそれぞれ15.1%、12.8%に認められた。メロペネム/vaborbactam配合剤群で最も頻度の高い有害事象は頭痛(8.8%)で、すべて軽度~中等度であり、頭痛が原因で治療が中止された患者はなかった。 著者は、「メロペネム/vaborbactam配合剤が臨床的利益をもたらす患者のスペクトルを知るために、さらなる検討を要する」としている。

72.

小児期の腎臓病が成人期の末期腎不全の危険因子となる(解説:木村健二郎氏)-823

 小児期に腎臓が受けた傷害が、臨床上一見治癒したようにみえても数十年の年月をかけて徐々に進行し末期腎不全に陥る可能性を示した点で興味ある報告である。しかし、著者らも述べているように、この報告にはいくつものlimitationがある。 まず、小児期の腎臓病は先天性腎尿路奇形、腎盂腎炎、糸球体疾患と定義されているが、それらの疾患の詳細な情報や治療情報がないこと、経過中の危険因子の有無が不明ということが挙げられる。また、ベースラインの血清クレアチニンの情報は正常か異常かの情報しかないため、eGFRを知ることができない。血清クレアチニンが基準値内であってもベースラインのeGFRが低いほど、末期腎不全のリスクが高くなる可能性はあるが、そのことに関しては判断がつかないなどである。 小児期の腎臓疾患が成人期の慢性腎臓病につながる可能性は以前より指摘されていた。小児期のネフロンロスと残存ネフロンの過剰ろ過がその後の腎不全の発症につながることも考えられる。今後、さらに病態生理が解明されることが望まれる。

73.

小児腎臓病既往で、末期腎不全リスクが約4倍/NEJM

 小児期の腎臓病既往歴は、たとえ青年期においては腎機能が正常であっても、その後の末期腎不全(ESRD)発症リスクを有意に増大することが明らかになった。イスラエル・ヘブライ大学のRonit Calderon-Margalit氏らが、約152万人の同国青少年についてコホート研究を行い明らかにしたもので、NEJM誌2018年2月1日号で発表した。これまで、小児期に慢性腎臓病(CKD)に進展しなかった小児腎臓病の長期的リスクは明らかにされていないという。青年期に腎機能正常で高血圧のない対象を追跡 研究グループは、1967~97年に兵役前の検査を受けた16~25歳のイスラエル人青少年152万1,501例を対象とする、全国住民ベースのヒストリカルコホート研究を行い、その結果データをイスラエルESRDレジストリと結びつけた。 調査対象の小児腎臓病は、先天性腎尿路異常、腎盂腎炎、糸球体疾患だった。青年期に腎機能が正常で高血圧症が認められなかった全被験者について、主要解析を行った。 Cox比例ハザードモデルを用いて、小児腎臓病既往歴のESRD発症に関するハザード比を推定した。40歳未満でのESRD発症リスクは約10倍に 30年間の追跡期間中、ESRDを発症したのは2,490例だった。小児腎臓病既往歴のESRD発症に関するハザード比は、4.19(95%信頼区間[CI]:3.52~4.99)だった。調査対象とした、いずれの小児腎臓病の既往歴もESRDリスクの増加幅は同程度で、先天性腎尿路異常5.19(95%CI:3.41~7.90)、腎盂腎炎4.03(同:3.16~5.14)、糸球体疾患3.85(同:2.77~5.36)だった。 また、小児腎臓病の既往歴は、40歳未満でのESRD発症リスクの大幅な増大とも関連が認められた(ハザード比:10.40、95%CI:7.96~13.59)。

74.

単純性尿路感染症へのNSAID、抗菌薬と比較/BMJ

 単純性下部尿路感染症(UTI)の女性患者において、ジクロフェナクの使用は抗菌薬の使用を減らすが、ノルフロキサシンと比較して症状軽減に関して劣性であり、腎盂腎炎のリスクを増大させる可能性が、スイス・ベルン大学のAndreas Kronenberg氏らによる無作為化二重盲検非劣性試験の結果で示された。著者は、「選択的な抗菌薬使用の開発と検証を、今後の試験で行うことが必要だ」と述べている。BMJ誌2017年11月7日号掲載の報告。スイス17施設253例の女性患者を対象にジクロフェナク vs.ノルフロキサシン 研究グループは、単純性下部UTIの女性患者の治療として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は抗菌薬に対し非劣性なのか、またNSAIDの処方が外来治療における抗菌薬の処方を減らす好機となっているか調べる検討を行った。 スイスの一般診療所17ヵ所で登録した、症候性の単純性下部UTIの女性患者253例を、NSAIDのジクロフェナク投与群(133例)と抗菌薬のノルフロキサシン投与群(120例)に、無作為に割り付けて追跡評価した。 主要アウトカムは、3日目時点(無作為化後72時間、試験薬を最後に服用してから12時間後)で評価した症状の軽減。事前規定の主要副次アウトカムは、30日時点までのあらゆる抗菌薬(試験薬のノルフロキサシンやホスホマイシンなど)の使用であった。intention to treat解析で評価した。ジクロフェナク群の非劣性認められず、同群のみで腎盂腎炎発生 3日目に症状軽減が認められたのは、ジクロフェナク群72/133例(54%)、ノルフロキサシン群96/120例(80%)であった(リスク差:27%、95%信頼区間[CI]:15~38、非劣性のp=0.98、優越性のp<0.001)。症状回復までの期間中央値は、ジクロフェナク群4日、ノルフロキサシン群2日であった。 ジクロフェナク群の82例(62%)、ノルフロキサシン群の118例(98%)が、30日時点までに抗菌薬を使用した(リスク差:37%、95%CI:28~46、優越性のp<0.001)。また、ノルフロキサシン群では認められなかったが、ジクロフェナク群では6例(5%)が腎盂腎炎の臨床診断を受けた(p=0.03)。

75.

クランベリーカプセルで高齢女性の細菌尿と膿尿を予防できるか?(解説:小金丸 博 氏)-613

 尿路感染症(UTI)は介護施設における代表的な感染症であり、UTIを繰り返す高齢者は多い。そのUTIの非抗菌的な予防法として期待されているのがクランベリーである。クランベリーに含まれるプロアントシアニジンには、大腸菌が尿路上皮に接着するのを阻害する働きが示されており、クランベリージュースがUTIの予防法として数多く検討されてきたが、有効性に関するエビデンスは一致していなかった。クランベリージュースの有効性が得られなかった研究では、その理由として、ジュースでは飲みにくくアドヒアランスが不良となり、十分量のプロアントシアニジンを摂取できなかったことが挙げられた。 本研究は、介護施設に入所している65歳以上の高齢女性を対象に、クランベリーカプセルによる細菌尿+膿尿の発症予防効果を検討した二重盲検プラセボ対象ランダム化比較試験である。観察期間1年間での細菌尿+膿尿の発生率は、クランベリー投与群で25.5%、プラセボ投与群で29.5%であり、欠損データや背景因子を補正した後の解析では両群間で有意差は認めなかった(29.1% vs.29.0%、95%信頼区間:0.61~1.66、p=0.98)。また、セカンダリアウトカムである症候性UTIの発生数、死亡数、入院数、耐性菌による細菌尿、抗菌薬使用日数などにも差を認めなかった。 本研究では、介護施設に入所している高齢女性に対してクランベリーカプセルを投与しても、細菌尿、膿尿の発生を予防することができなかった。高齢女性に一律に投与しても十分な予防効果は期待できないのかもしれない。本研究では、尿道カテーテル留置者は対象から除外されているが、過去には、長期尿道カテーテル留置、糖尿病、UTIの既往といったUTIのハイリスク患者に対するクランベリーカプセルの有効性を示した報告もあり、クランベリーカプセルが有効な患者背景が今後同定される可能性は残されている。 本研究でクランベリーカプセルの有効性を示せなかった理由の1つに、ジュースでは得られるハイドレーション効果がカプセルでは得られないことが挙げられている。クランベリーカプセルを用いた研究では十分な飲水量を設定することで、予防効果が上がる可能性はあると考える。

76.

クランベリーカプセルは尿路感染症予防に有効か/JAMA

 介護施設に入所している高齢女性において、1年間にわたりクランベリーカプセルを投与したが、プラセボと比較して細菌尿+膿尿の件数に有意差は認められなかった。米国・エール大学医学大学院のManisha Juthani-Mehta氏らが、クランベリーカプセル内服の細菌尿+膿尿に対する有効性を評価する目的で行った無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果、報告した。細菌尿+膿尿は介護施設の高齢女性に多く、クランベリーカプセルはこうした尿路感染症(UTI)に対する非抗菌的な予防法として知られているが、その根拠には議論の余地があった。JAMA誌2016年11月8日号掲載の報告。185例に1年間投与、細菌尿+膿尿の頻度をプラセボと比較 研究グループは、2012年8月24日~2015年10月26日に、コネチカット州ニューヘイブンの50マイル(80km)圏内にある介護施設21施設において、長期入所中の65歳以上の女性185例(ベースライン時での細菌尿+膿尿の有無は問わない)を、治療群とプラセボ群に無作為割り付けし比較した。 治療群(92例)は、1カプセル当たり活性成分プロアントシアニジン36mgを含むクランベリーカプセル2個(合計72mg、クランベリージュース20オンスに相当)を、プラセボ群(93例)はプラセボ2個を1日1回内服した。 主要評価項目は、細菌尿(1~2種類の微生物が尿培養で105コロニー形成単位[CFU]/mL以上)+膿尿(尿中白血球陽性)とし、2ヵ月ごとに1年間評価した。副次評価項目は、症候性UTI、全死因死亡数、総入院数、多剤耐性菌(MRSA、VRE、多剤耐性グラム陰性桿菌)の分離数、UTI疑いに対する抗菌薬使用、すべての抗菌薬使用とした。 無作為化された185例(平均年齢86.4歳[SD 8.2]、白人90.3%、ベースラインで細菌尿+膿尿あり31.4%)のうち、147例が試験を完遂し、服薬アドヒアランスは80.1%であった。細菌尿+膿尿の頻度は両群で有意差を認めず 未調整前の解析において、計6回の尿検査で得られた全検体における細菌尿+膿尿の割合は、治療群25.5%(95%信頼区間[CI]:18.6~33.9)、プラセボ群29.5%(同:22.2~37.9)であった。一般化推定方式モデルによる補正後の解析では、両群間に有意差は認められなかった(それぞれ29.1% vs.29.0%、オッズ比[OR]:1.01、95%CI:0.61~1.66、p=0.98)。 症候性UTI発症数(治療群10件 vs.プラセボ群12件)、死亡率(それぞれ17例 vs.16例、100人年当たり20.4例 vs.19.1例、死亡率比[RR]:1.07、95%CI:0.54~2.12)、入院数(33件 vs.50件、100人年当たり39.7件 vs.59.6件、RR:0.67、95%CI:0.32~1.40)、多剤耐性グラム陰性桿菌関連細菌尿(9件 vs.24件、100人年当たり10.8件 vs.28.6件、RR:0.38、95%CI:0.10~1.46)、UTI疑いに対する抗菌薬使用(抗菌薬使用日数692 vs.909日、8.3 vs.10.8日/人年、RR:0.77、95%CI:0.44~1.33)、およびすべての抗菌薬使用(抗菌薬使用日数1,415 vs.1,883日、17.0 vs.22.4日/人年、RR:0.76、95%CI:0.46~1.25)で、有意差は確認されなかった。 著者は研究の限界として、試験登録時の細菌尿+膿尿の有無を制限していなかったことなどを挙げている。

78.

アジスロマイシン追加で緊急帝王切開の母体感染リスク低減/NEJM

 緊急帝王切開時の標準的な予防的抗菌薬投与に、抗菌スペクトルを拡大するためにアジスロマイシンを追加すると、術後の母体の感染リスクが低減することが、米国・アラバマ大学バーミングハム校のAlan T N Tita氏らが行ったC/SOAP試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2016年9月29日号に掲載された。米国では、妊娠関連感染症は母親の死因の第4位を占めており、母体感染は入院期間を延長し、医療費を増加させる。帝王切開は最もよく行われる手術手技であり、子宮内膜炎や創感染を含む手術部位感染率は経膣分娩の5~10倍に達するという。2,000例以上の妊婦のプラセボ対照無作為化試験 C/SOAPは、緊急帝王切開を受ける女性において、標準的な予防的抗菌薬投与に、抗菌スペクトラムを拡大するためにアジスロマイシンを併用するアプローチの有用性を評価するプラグマティックな二重盲検プラセボ対照無作為化試験(Eunice Kennedy Shriver米国国立小児保健発達研究所の助成による)。 対象は、妊娠24週以降の単胎妊娠で、分娩時または破水後に緊急帝王切開が施行された女性であった。 被験者は、アジスロマイシン500mgを静脈内投与する群またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。すべての妊婦が、各施設のプロトコルに従って、切開の前または切開後可及的速やかに、標準的な予防的抗菌薬投与(セファゾリン)を受けた。 主要アウトカムは、術後6週以内に発生した子宮内膜炎、創感染、その他の感染症(腹腔または骨盤内膿瘍、敗血症、血栓性静脈炎、腎盂腎炎、肺炎、髄膜炎)であった。 2011年4月~2014年11月に、米国の14施設に2,013例の妊婦が登録され、アジスロマイシン群に1,019例、プラセボ群には994例が割り付けられた。主要アウトカムがほぼ半減、新生児の有害なアウトカムは増加せず 平均年齢は、アジスロマイシン群が28.2±6.1歳、プラセボ群は28.4±6.5歳であった。妊娠中の喫煙者がアジスロマイシン群でわずかに少なかった(9.5 vs.12.3%)が、これ以外の背景因子は両群で類似していた。帝王切開の手技関連の因子にも両群に差はなかった。 主要アウトカムの発生率は、アジスロマイシン群が6.1%(62/1,019例)と、プラセボ群の12.0%(119/994例)に比べ有意に良好であった(相対リスク[RR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.38~0.68、p<0.001)。 子宮内膜炎(3.8 vs.6.1%、RR:0.62、95%CI:0.42~0.92、p=0.02)および創感染(2.4 vs.6.6%、0.35、0.22~0.56、p<0.001)では有意な差が認められ、その他の感染症(0.3 vs.0.6%、0.49、0.12~1.94、p=0.34)には差はみられなかった。 副次複合アウトカムである新生児の死亡および合併症の発生率は、アジスロマイシン群が14.3%(146/1,019例)、プラセボ群は13.6%(135/994例)であり、差を認めなかった(RR:1.05、95%CI:0.85~1.31、p=0.63)。 母体の重篤な有害事象の発現率は、アジスロマイシン群が有意に低く(1.5 vs.2.9%、RR:0.50、95%CI:0.27~0.94、p=0.03)、新生児の重篤な有害事象には差がなかった(0.7 vs.0.5%、1.37、0.43~4.29、p=0.77)。 著者は、「抗菌スペクトラムの拡大を目的とするアジスロマイシンの追加により、新生児の有害なアウトカムを増加させることなく、母体の感染症が低減し、医療リソースの使用が抑制された」としている。

79.

カテーテル関連尿路感染症の予防プログラム(解説:小金丸 博 氏)-555

 カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)は、デバイスに関連して起こる代表的な医療関連感染症の1つである。医療関連感染症を減少させることは非常に重要な課題であり、国を挙げて取り組みが行われている。本論文では、米国において国家的プロジェクトとして行われているCAUTIの予防プログラムが、非ICU患者における尿道カテーテルの使用率およびCAUTIの発生率を有意に低下させることが示された。 本研究には、全米規模で数多くの病院、ユニット(ICU、非ICU)が参加している。ランダム化比較試験ではないこと、プログラムへの参加は自由意思でありすべての病院に一般化できないこと、データ収集が不完全であることなどのlimitationはあるものの、信頼できるデータといえる。 本研究では、CAUTIの予防プログラムによって、ICU患者における尿道カテーテルの使用率とCAUTIの発生率を低下させることはできなかった。ICUには重症患者が多く、細やかな尿量測定のために尿道カテーテルの留置が必要な患者が多い。ICUにおける尿道カテーテル留置は適切と判断されることが多いため、予防プログラムによる啓発では減らすことができず、結果として、CAUTIの発生率も低下させることができなかった可能性が考えられる。 ガイドラインでは、CAUTIの予防のために、尿道カテーテルの適正使用、無菌操作での挿入、適切なメンテナンス、不必要となった尿道カテーテルの抜去を推奨している。尿道カテーテルを留置している患者では、毎日カテーテルの必要性を評価し、抜去や代替療法(コンドームカテーテルの使用や間欠的自己導尿など)への変更を検討することが望ましい。臨床の現場では、不要なカテーテルは留置しないこと、不要となったカテーテルは早期に抜去することを常に意識しておきたい。

80.

カテーテル関連尿路感染症への国家的予防プログラム/NEJM

 米国で国家的プロジェクトとして行われているカテーテル関連尿路感染症(UTI)の予防介入プログラムが、成果を挙げていることが、米国・ミシガン大学のSanjay Saint氏らにより報告された。全体で発生率比は14ポイント低下し、また集中治療室(ICU)以外の部門では、カテーテル関連UTIの発生低下のみならず尿カテ自体の利用も有意に減少したことが認められたという。NEJM誌2016年6月2日号掲載の報告。ICUおよび非ICU別に介入効果を検証 プログラムは、ICUおよび非ICUのカテーテル関連UTIの減少を目的とし、医療研究品質庁(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)の助成を受けて行われた全米規模の部門ベース統合安全プログラム(Comprehensive Unit-based Safety Program)である。 カテーテル関連UTI予防では、技術的要因(カテーテルの適正使用、無菌挿入、適正維持)および社会的適応要因(病院部門の文化や行動変容など)が重視されている。その点も踏まえてプログラムは、病院支援組織(Hospital Engagement Networksなど)や各病院への情報の普及、データ収集、予防の技術的・社会的適応のキー要因に関するガイダンスを主な特徴とした。 研究グループは、カテーテル使用とカテーテル関連UTIについて、3フェーズ(ベースライン:3ヵ月、導入期:2ヵ月、継続期:12ヵ月)にわたってデータ収集を行い、マルチレベル・ネガティブ二項モデルを用いて、カテーテル使用およびカテーテル関連UTIの変化を評価した。非ICUでは、感染症発生の低下だけでなく、カテ使用率自体も有意に低下 データは、全米32州とコロンビア特別区およびプエルトリコの603病院926部門(ICU 40.3%、非ICU 59.7%)から集められた。全体で補正前カテーテル関連UTIの発生率は、1,000カテーテル日当たり2.82から2.19に低下していた。 補正後解析では、カテーテル関連UTIは、同2.40から2.05への有意な低下が認められた(発生率比:0.86、95%信頼区間[CI]:0.76~0.96、p=0.009)。 また非ICUでは、カテーテル使用率も20.1%から18.8%へ有意に低下し(同:0.93、0.90~0.96、p<0.001)、カテーテル関連UTIの頻度は1,000カテーテル日当たり2.28から1.54に有意に低下していた(同:0.68、0.56~0.82、p<0.001)。 一方、ICUでは、カテーテル使用およびカテーテル関連UTIともに大きな変化は認められなかった。不均一性(ICU vs.非ICU)に関する検証の結果、カテーテル使用(p=0.004)、カテーテル関連UTI(p=0.001)ともに有意性が認められた。 これらの結果を踏まえて著者は、「国家的規模の予防プログラムは、非ICUにおけるカテーテル使用およびカテーテル関連UTIを低減させるようだ」とまとめている。

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