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1.

CKD合併糖尿病へのセマグルチド、心血管疾患の既往を問わず腎予後を改善(FLOW)

 2型糖尿病と慢性腎臓病(CKD)を併発している患者を対象に、GLP-1受容体作動薬セマグルチドの腎機能への影響を評価したFLOW試験のサブグループ解析の結果、セマグルチドは既往の心血管疾患や将来的なリスクにかかわらず、腎予後および生存を一貫して改善したことが、米国・University of Washington School of MedicineのKatherine R. Tuttle氏らによって示された。Journal of the American College of Cardiology誌2026年6月2日号掲載の報告。 FLOW試験は、2型糖尿病とCKDを有する患者集団において、セマグルチドの腎機能障害進行への影響を検討した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験。参加者をSGLT2阻害薬などを含む標準治療に加えて、セマグルチド1.0mgを週1回皮下投与する群またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、主要腎疾患イベント(透析、移植、eGFR<15mL/分/1.73m2の発生、eGFRのベースラインから50%以上の低下、腎臓関連または心血管関連の死亡の複合)とした。全死因死亡は副次的評価項目の1つであった。 主な結果は以下のとおり。・合計3,533例を中央値3.4年間追跡した。ベースライン時の平均年齢は66.6±9.0歳、女性が30.3%、平均eGFRは47.0±15.1mL/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比の中央値は567.6mg/gであった。・ベースライン時点で、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を有していた患者が33.9%、心不全を有していた患者が19.2%、ASCVDや心不全の既往がない患者のうち10年間の心血管疾患発症リスクが高い(PREVENT予測式≧20%)患者が66.5%であった。・セマグルチド群では、プラセボ群と比較して、全体集団において主要評価項目である主要腎疾患イベントのリスクが24%低かった(1,767例中331例vs.1,766例中410例、ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.66~0.88、p=0.0003)。・セマグルチド群では、ASCVDの有無、心不全の有無、心血管疾患発症リスクの高低にかかわらず、一貫して主要腎疾患イベントのリスクが低かった。各サブグループにおけるセマグルチド群vs.プラセボ群のHRは以下のとおり。 -ASCVDあり群0.80 vs.なし群0.74(交互作用のp=0.62) -心不全あり群0.67 vs.なし群0.79(交互作用のp=0.40) -心血管疾患高リスク群0.73 vs.低リスク群0.73(交互作用のp=0.99)・3年間で1件の主要腎疾患イベントを予防するための治療必要数(NNT)は、ASCVD群で22、心不全群で13、心血管疾患発症高リスク群で17であった。・セマグルチドは、全死因死亡のリスクについても同様に一貫した低下をもたらした。 -ASCVDあり群0.82 vs.なし群0.78(交互作用のp=0.79) -心不全あり群0.75 vs.なし群0.81(交互作用のp=0.74) -心血管疾患高リスク群0.71 vs.低リスク群0.82(交互作用のp=0.63)・いずれのサブグループにおいても、セマグルチド群はプラセボ群に比べ、eGFRの年間低下速度を有意に抑制し、高感度C反応性蛋白(hsCRP)を約30%低下させた。 これらの結果より、研究グループは「セマグルチドは、2型糖尿病およびCKDを有する患者にとって、腎機能・心血管機能・生存の総合的なベネフィットをもたらすため、重要な治療戦略となりうる」とまとめた。

2.

IgA腎症へのatrasentan、eGFR低下を長期抑制するか/Lancet

 選択的経口エンドセリンA受容体拮抗薬であるatrasentanはIgA腎症患者において、プラセボと比較して2.5年間にわたり蛋白尿を減少させ、腎機能低下を抑制した。この効果はSGLT2阻害薬の併用の有無にかかわらず認められ、忍容性は良好であった。オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J. L. Heerspink氏らALIGN study groupが、20ヵ国133施設で実施した第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ALIGN試験」の最終解析結果を報告した。同試験の事前に規定された中間解析(36週時点)では、atrasentanはプラセボと比較して、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある蛋白尿の減少をもたらしたことが報告されていた。Lancet誌2026年6月13日号掲載の報告。第III相無作為化試験の2.5年間の最終解析 ALIGN試験の対象は、生検によりIgA腎症と確定診断され、スクリーニング前12週以上安定した至適用量のレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬投与下で、eGFRが30mL/分/1.73m2以上かつ尿中総蛋白排泄量が1.0g/日以上の成人患者であった(主要解析集団)。 安定用量のRAS阻害薬に加えて安定用量のSGLT2阻害薬を12週以上投与されていた患者は、探索的にSGLT2阻害薬併用集団として登録した。 研究グループは、適格患者をatrasentan群(0.75mgを1日1回経口投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。投与期間は132週間で、その後、4週間の追跡期間を設け、136週時の受診を完了した患者は任意で48週間の非盲検延長投与期間に移行した。 主要アウトカムは、主要解析集団におけるベースラインから36週時までの24時間蓄尿による尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)の変化量で、中間解析で評価され、すでに報告されている(ジャーナル四天王「高リスクIgA腎症へのatrasentan、重度蛋白尿を改善/NEJM」)。 本論で報告する重要な副次アウトカムは、主要解析集団におけるベースラインから136週時までのeGFRの変化量で、無作為化されたすべての患者を解析対象とした(ただし、中間事象[IgA腎症に対する制限薬もしくは代替薬の投与開始、または腎代替療法の開始]発生後のデータは除外)。安全性は、試験薬の投与を少なくとも1回受けた無作為化された全患者を対象に評価された。atrasentanの蛋白尿低減効果は持続 2021年3月15日~2023年4月28日に、404例が無作為化された(主要解析集団340例、SGLT2阻害薬併用集団64例)。 主要解析集団において、重要な副次アウトカムである136週時のeGFRのベースラインからの変化量は、atrasentan群-7.5mL/分/1.73m2(95%信頼区間[CI]:-9.2~-5.8)、プラセボ群-9.9mL/分/1.73m2(95%CI:-11.7~-8.1)であり、群間差は2.4mL/分/1.73m2(95%CI:-0.1~4.8、p=0.057)であった。 4週間の追跡期間中にeGFRの上昇が認められなかったことから、投与を終了した132週時のeGFRのベースラインからの変化量が評価項目として事後に追加された。その群間差は2.6mL/分/1.73m2(95%CI:0.1~5.0、名目上のp=0.039)であった。 また、重要な副次アウトカムの支持的解析項目として評価した136週時までの総eGFRスロープは、atrasentan群-2.7mL/分/1.73m2/年(95%CI:-3.4~-2.1)、プラセボ群-4.1mL/分/1.73m2/年(95%CI:-4.8~-3.4)、群間差は1.4mL/分/1.73m2/年(95%CI:0.5~2.3、名目上のp=0.0033)であった。 SGLT2阻害薬併用集団では、136週時のeGFRのベースラインからの変化量は、atrasentan群-1.5mL/分/1.73m2(95%CI:-5.7~2.7)に対し、プラセボ群-10.6mL/分/1.73m2(95%CI:-15.0~-6.2)で、群間差は9.1mL/分/1.73m2(95%CI:3.0~15.2)であった。 主要解析集団において、治療下で発現した有害事象はatrasentan群(157/169例、93%)、プラセボ群(159/170例、94%)でおおむね同様であり、新たな安全性シグナルは認められなかった。 atrasentan群でプラセボ群よりとくに発現割合が高かったのは体液貯留で、それぞれ14%(24/169例)、12%(20/170例)であった。

3.

フィネレノンが原因疾患や糖尿病の有無を問わずCKD患者の腎・心リスクを低減/Lancet

 原因疾患や血糖値、推算糸球体濾過量(eGFR)、アルブミン尿の程度が異なる慢性腎臓病(CKD)の患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンは腎不全単独を含むCKD進行リスクを抑制し、心不全による入院、心血管死および全死因死亡リスクを低下させることが、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のBrendon L. Neuen氏らFIND-CKD, FIDELIO-DKD and FIGARO-DKD Investigatorsが行ったメタ解析の結果で示された。フィネレノンは、2型糖尿病合併CKDにおいて腎関連および心血管系への有益性が示されているが、広範なCKD患者集団における有効性や安全性は評価されていなかった。結果を踏まえて著者は、「フィネレノンは多岐にわたるCKD患者の基礎治療として支持される」と述べている。Lancet誌2026年6月13日号掲載の報告。3つの無作為化二重盲検プラセボ対照試験の患者個別データをメタ解析 研究グループは、CKD患者におけるフィネレノンについて評価した3つの無作為化二重盲検プラセボ対照試験(FIDELIO-DKD試験[2015年9月17日~2020年4月14日]、FIGARO-DKD試験[2015年9月17日~2021年2月2日]、FIND-CKD試験[2021年9月21日~2026年2月2日])の、被験者個々のデータを用いてメタ解析を行った。 Cox比例ハザードモデルを用いて、腎関連および心血管アウトカムへの相対的有効性を評価した。腎関連の主要アウトカムは、腎不全またはeGFRの57%以上の持続的な低下であり、心血管系の主要アウトカムは、心不全による入院または心血管死であった。腎関連複合アウトカムリスクを24%、心血管系複合アウトカムリスクを20%低下 3試験には1万4,574例が登録されており、平均年齢は63.7歳(SD 10.6)、女性4,467例(30.7%)、男性1万107例(69.3%)で、平均eGFRは56.4mL/分/1.73m2(SD 21.4)であり、尿中アルブミン/クレアチニン比の中央値は567.4mg/g(四分位範囲:233.6~1,164.7)であった。 フィネレノンはプラセボと比較して、腎関連複合アウトカムのリスクを24%低下させ(22.3 vs.28.8件/1,000患者年、ハザード比[HR]:0.76[95%信頼区間[CI]:0.68~0.86])、腎不全単独のリスクも低下させた(HR:0.85[95%CI:0.74~0.99])。 また、フィネレノンはプラセボと比較して、心血管系複合アウトカムのリスクを20%低下させた(19.1 vs.23.9件/1,000患者年、HR:0.80[95%CI:0.70~0.91])。心不全による入院のHRは0.78(95%CI:0.66~0.92)、心血管死のHRは0.82(95%CI:0.67~0.999)であった。 フィネレノンは、全死因死亡のリスクも低下させた(HR:0.88、95%CI:0.79~0.99)。 腎関連複合アウトカムへの治療効果は、血糖値、CKDの原因疾患、ベースラインのeGFR値、アルブミン尿およびSGLT2阻害薬の使用状況を問わず一貫していた。 フィネレノン群ではプラセボ群よりも高カリウム血症が高頻度に認められたが、入院に至る高カリウム血症の絶対的な発現頻度は低かった。

4.

疫学研究のメタ解析論文は注意して読まないといけない(解説:折笠秀樹氏)

 メタ解析とは、複数の研究結果の統合解析のことである。対象とする研究は薬剤などの臨床試験(主にRCT)が多いが、ここで扱われたのは疫学研究のメタ解析である。前向きコホートのメタ解析が89報、後ろ向きコホートのメタ解析が35報、全部で124報の疫学研究メタ解析を調査対象とした。論文中の主要アウトカムが、当初計画していたのと同じだったかどうかを調査した。当初計画については、登録サイト(ClinicalTrials.gov)を参照した。 主要アウトカムが論文で変更されていた例が60報(48%)もあった。ほぼ半数で何らかの違反があったことになる。主要アウトカムに当初設定したものが論文では消えていた(Omitted)例が32報、主要アウトカムが副次として報告された(Downgrading)例は32報、副次だったのが主要アウトカムに格上げされた(Upgrading)例は2報であった。数字がちょっと合わないのは、アウトカムによっては複数に当てはまるためだろう。そして、後ろ向き研究のメタ解析のほうが違反は1.8倍高かった。どうして主要アウトカムが変更されるのかと言えば、結果が統計学的に有意にならなかったためだろう。それでは、読者はどのようなことに注意すればよいだろうか。それは主要アウトカムの結果だけでなく、副次アウトカムも含め総合的に判断することだろう。登録サイトで確認してから読むことも考えられるが、そんな暇は持ち合わせていないはずだ。 なお、本研究の著者の1人であるAn-Wen Chan博士は以前コンタクトしたことがあるが、最近出版された『CONSORT 2025』および『SPIRIT 2025』の著者にもなっている。

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学会抄録のかたちにまとめる その2【「実践的」臨床研究入門】第64回

前回、これまでの連載で取り上げてきたクリニカル・クエスチョン(CQ)からリサーチ・クエスチョン(RQ)への変換とEZR(Easy R)による統計解析の総まとめとして、われわれの仮想研究を学会抄録のかたちにしました。その際にIMRAD形式と構造化抄録の違いを概説し、構造化抄録の典型的な構成要素として、Background、Objective、Design、Setting、Patients/Participants、Intervention/Exposure、Measurements、Results、Conclusionsの9つを挙げました。この9つに加えて、Limitation(研究の限界)を独立した見出しとして掲げる構造化抄録のパターンもあり、Annals of Internal Medicineをはじめとする一部のトップジャーナルが推奨する様式に採用されています。研究結果を批判的に吟味するうえでは、研究の限界を本文だけでなく、抄録の段階から明示しておくことが重要だと考えられています。では、Limitationには何を書けば良いのでしょう。「サンプル数が小さい」「単施設研究である」と一般論を並べるだけでは不十分です。読者が「研究結果をどの程度信用できるのか」「どの集団・どのセッティングに一般化できるのか」を判断する材料として、研究結果に系統的な歪み(バイアス)をもたらす要因を、その方向性や大きさの推定とともに示す必要があります。そこで、今回は「誤差」と「バイアス」の概念を整理して解説します。誤差とバイアス誤差(error)とは、観察された値と真の値(神のみぞ知る)との違いを指します。誤差は、その性質によって偶然誤差(random error)と系統誤差(systematic error、広義のバイアス)に分けられます(図1)。両者の違いは、誤差の方向性に一貫した偏りがあるかどうかにあります。偶然誤差はランダムに、つまり方向性はなく発生しますが、系統誤差は一定の方向性をもって発生します。身近な例として、聴診法による血圧測定を考えてみましょう。検者・時間・血圧計を一定にしても、被験者の血圧そのものが変動するため、測定値はばらつきます。これが偶然誤差です。一方、検者の聴力に難があったり、血圧計が故障していて常に低めに表示するのであれば、測定値は一定の方向に偏ります。これが系統誤差です。図1.誤差とバイアス画像を拡大する系統誤差と偶然誤差は、精度(信頼性)と正確度(妥当性)という概念と対応します。偶然誤差が小さい研究は精度が高く、系統誤差が小さい研究は正確度が高い、と整理できます。図2は射的の的を用いてこの関係を図示したものです。弾痕の散らばりが小さければ精度が高く、弾痕が的の中心(真の値)に近ければ正確度が高い、ということを示しています。臨床研究で目指すべき理想像は、精度も正確度もともに高い、図の右端の状態です。図2.精度(信頼性)と正確度(妥当性)の関係画像を拡大する精度は統計学的に評価できます。サンプルサイズを大きくすれば信頼区間が狭くなり、精度が向上します。一方、正確度は統計だけでは評価できません。研究デザインの段階から、対象者の選定、測定方法、測定条件を慎重に設計する必要があります。広義のバイアス(系統誤差)は、さらに「狭義のバイアス」と「交絡」とに分けて考えることができます。狭義のバイアスには、選択バイアスと情報バイアスが含まれます。両者の違いは、データ取得後の解析段階で制御できるかどうかです。交絡は、調整に必要な変数が測定されていれば多変量解析などによって解析段階でも制御可能です。しかし、狭義のバイアスは解析段階では制御不能であり、研究計画時に十分な対策を講じる必要があります。それでもなお残る限界については、論文のLimitationで誠実に開示するほかありません。なお交絡因子とその制御については、詳細は別稿に譲ります(連載第45回など参照)。

6.

IgA腎症の病態に根差したtelitaciceptの治療効果(解説:浦信行氏)

 IgA腎症に対するtelitaciceptの治療効果に関してはこれまでもいくつかの報告があり、若年者IgA腎症、6ヵ月の後ろ向き研究、高リスクIgA腎症、また、ごく最近では腎移植後再発IgA腎症などで尿蛋白減少効果が逐次報告されてきた。IgA腎症発症の機序に関わるB細胞活性化因子(BAFF)および増殖誘導リガンド(APRIL)の両者を標的として中和する融合タンパク質製剤であるtelitaciceptの臨床効果には大きな期待が寄せられていた。 このtelitaciceptの第III相の二重盲検プラセボ対照無作為化試験(TELIGAN試験)の39週時点での中間解析結果である尿蛋白低減効果が報告され、2026年5月21日掲載のジャーナル四天王にその概要が示されている。BAFFとAPRILの二重阻害薬はtelitaciceptに先行するかたちで2025年11月にataciceptでの報告があり、42%の尿蛋白低減効果が示されている。多少の有効率の違いはあるが、ほぼ同様の成績であると考えられる。両試験のいずれにおいても、その効果は試験開始後4週目で有意な低減効果であり、この点でも差異はなさそうである。ベースラインと比較したeGFRの変化率は-1.0%と、プラセボ群の-7.7%に比較しても良好であったが、最終104週でのeGFR変化率が報告される予定である。現在まで、腸管限定作用ステロイドのブデソニドや補体第二経路を阻害するイプタコパンが2年間のeGFRの変化率を有意に抑制したと報告されているが、いずれも-3%程度である。このtelitaciceptのeGFRの変化率が長期投与でも-1.0%であれば、腎保護の大きな手段となる。

7.

心不全のカリウム至適範囲は4.2〜5.0mmol/L/EHJ

 心不全患者における安全なカリウム至適範囲について、左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(HFrEF)と駆出率が保たれた心不全(HFpEF)で同じであるかは明らかにされていない。今回、英国・グラスゴー大学の小野 亮平氏らが心不全患者を対象とした12のランダム化比較試験の個別患者データを用いてメタ解析を実施。その結果、HFrEFおよびHFpEFのいずれにおいても、カリウムの至適範囲は4.2〜5.0mmol/Lであることが示された。本研究結果は、European Heart Journal誌オンライン版2026年5月28日号掲載の報告。 心不全患者においては神経体液性因子の活性化や薬剤(利尿薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬[MRA]など)、併存疾患(腎機能障害など)によって血清カリウム値の変動を来すが、これまでに実施されてきた研究では、LVEF別の層別化は行われておらず、一般的な低カリウム血症(3.5mmol/L未満)・高カリウム血症(5.5mmol/L)の基準値が、心不全患者の臨床アウトカムとどのように関連しているかは不明であった。 研究グループは、HFrEFに関する7つの試験(CHARM-Added、CHARM-Alternative、EMPHASIS-HF、ATMOSPHERE、PARADIGM-HF、DAPA-HF、GALACTIC-HF)およびHFpEFに関する5つの試験(CHARM-Preserved、I-PRESERVE、TOPCAT Americas、PARAGON-HF、FINEARTS-HF)から、計4万6,069例(HFrEF:3万2,346例、HFpEF:1万3,723例)の個別患者データを取得。ベースラインの血清カリウム値(mmol/L)を6つのカテゴリー(3.5未満、3.5以上4.0未満、4.0以上4.5未満、4.5以上5.0未満、5.0以上5.5未満、5.5以上)に分類して統合解析した。主要評価項目は全死因死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・HFrEFとHFpEFの各試験における追跡期間中央値は、それぞれ24.2ヵ月と36.8ヵ月であった。・HFrEFでは血清カリウム値とアウトカムの間に逆J字型の関連が認められた。4.0~4.5mmol/Lを基準とした場合、3.5mmol/L未満群では、全死因死亡の大幅なリスク上昇と強く関連していた(調整ハザード比[aHR]:1.49、95%信頼区間[CI]:1.27~1.76)。また、心血管死(aHR:1.58、95%CI:1.32〜1.88)、突然死(aHR:1.58、95%CI:1.18〜2.12)、ポンプ不全死亡(aHR:1.71、95%CI:1.29〜2.25)も、3.5mmol/L未満群で最も高かった。・HFpEFのリスク曲線は、HFrEFと比べ緩やかなU字型で、全体的なイベント発生率も低かった。また、全死因死亡リスクが最も高かったのは5.5mmol/L以上群(aHR:1.29、95%CI:0.96〜1.74)であったが、基準群との差は緩やかであった。心血管死やポンプ不全による死も同様の傾向であり、突然死との関連はさらに緩やかであった。・全アウトカムを考慮した結果、最もリスクが低いベースラインの血清カリウム値の範囲は4.2~5.0mmol/Lであったが、軽度高カリウム血症に該当する5.0~5.5mmol/L群(HFrEFの約13%、HFpEFの約10%)であっても、多変数調整後は死亡や心不全入院のリスク上昇と有意に関連していなかった。・初回心不全入院、ならびに複合アウトカム(心不全入院または全死因死亡、心不全入院または心血管死)についても、全死因死亡や心血管死と同様の関連が認められた。 研究者らは、「HFrEFにおいて、低カリウム血症は予後不良と強く関連していた。安全性の観点から、いずれの心不全表現型であっても最適な血清カリウム値は4.2〜5.0mmol/Lの範囲に維持することが望ましい。また、5.0〜5.5mmol/Lであってもガイドライン推奨治療薬(MRAなど)を一律に中止するのではなく、ほかの原因の排除や厳密なモニタリング実施などのアプローチ検討が望まれるかもしれない。本結果より、心不全患者における「低カリウム血症」の定義を4.0mmol/L未満に再定義することを検討すべきであるという議論も支持される」としている。

8.

働き盛り世代の心房細動が腎機能低下の加速と関連/京大

 日本の就労世代を対象とした全国規模のコホート研究において、新規に確認された心房細動(AF)は、eGFR低下の加速およびeGFRが30%以上低下するリスクの増加と関連していたことを、京都大学の森 雄一郎氏らが示した。JAMA Network Open誌2026年5月14日号掲載の報告。 AFは心不全や慢性腎臓病(CKD)の合併症としてよく知られているが、就労世代の成人では単独の所見として健康診断で偶然見つかることもある。若年~中年層のAFは将来的な心不全リスク上昇と関連することが知られている一方、その後の腎機能低下と関連するかどうかは明らかになっていない。そこで研究グループは、就労世代におけるAF確認後の腎機能推移を検討するため、後ろ向きコホート研究を実施した。 研究では、2015年4月1日~2023年3月31日の全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康診断記録(心電図およびeGFR)と保険請求データを用いた。対象は、ベースライン時に洞調律で、AFや心血管疾患、末期腎不全の既往歴のない35~59歳の健康診断受診者であった。その後約1年間の外来受診歴および次回健診時の心電図所見から新たにAFが確認された個人を、確認されなかった個人と1対5で傾向スコアマッチングした。主要アウトカムは線形混合効果モデルを用いて推定したeGFRの年間低下率、副次アウトカムはCox比例ハザードモデルを用いて評価したeGFRの30%以上の低下とした。参加者を、全死因死亡イベント、腎代替療法開始、保険資格喪失、2023年3月31日のうち最も早い時点まで追跡した。 主な結果は以下のとおり。●解析対象は、マッチング後の14万1,060例(新規AF群2万3,510例、非AF群11万7,550例)であった。平均年齢49.8歳、男性81.8%、追跡期間中央値4.73年。●新規AF群では、非AF群と比較してeGFRの年間低下率が有意に大きかった。 ・新規AF群 -1.23mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:-1.26~-1.21) ・非AF群 -0.94mL/分/1.73m2/年(95%CI:-0.95~-0.93) ・群間差 -0.29mL/分/1.73m2/年(95%CI:-0.32~-0.26)(p<0.001)●AF確認前のeGFR低下は両群ともに-0.99mL/分/1.73m2/年であり、AF確認後に腎機能低下が加速した可能性が示唆された。●新規AFは、eGFRが30%以上低下するリスク増加と関連していた(ハザード比:2.91、95%CI:2.72~3.11、p<0.001)。●7年時点でのeGFRの30%以上低下の累積発生率は、新規AF群で11.0%(95%CI:10.2~11.7)、非AF群で4.9%(95%CI:4.7~5.2)であった。●女性および糖尿病患者ではAF確認後のeGFR低下がさらに顕著であった。一方、ベースラインの蛋白尿の有無による有意な交互作用は認められず、蛋白尿の有無にかかわらず同様にeGFRが低下していた。●その後の健康診断でもAFが再確認された群は、洞調律へ復帰していた群と比較してeGFR年間低下率が有意に大きかった(-1.55 vs.-1.15mL/分/1.73m2/年、p<0.001)。 研究グループは「これらの結果は、就労世代のAF管理では腎機能も重要であることを示唆している。AFがCKD進行に及ぼす累積的な影響やAF治療による腎保護効果についてはさらなる研究が必要」としている。

9.

糖尿病患者の将来リスクをAI活用で予測/福島医大・日本糖尿病学会ほか

 福島県立医科大学と千葉大学、国立健康危機管理研究機構(JIHS)らの研究グループは、株式会社エフコムとの共同研究により、AIを活用して糖尿病を5つのサブタイプに分類し、将来の合併症・併存症リスク(糖尿病関連腎臓病、透析導入、心血管障害など)を推計するウェブプラットフォーム「福島医大 糖尿病未来予測ナビ」を研究・開発した。このウェブプラットフォームは、2026年5月20日に福島県立医科大学附属病院、日本糖尿病学会、てだこ浦西駅循環器・糖尿病クリニックの各ホームページ上で公開された。 糖尿病患者では、合併症の進行に大きな個人差がある。この研究は、国内最大級のデータベース「J-DREAMS」(日本糖尿病学会運営)を活用し、日本人の病態に最適化された予測モデルの構築を目的に開発され、患者の将来リスクを推計する。 ウェブプラットフォームの主なポイントは以下の3点。1)AIが糖尿病を5つのタイプに分類 日常診療で得られるデータ(年齢、BMI、血糖値など)を解析し、患者を5つのサブタイプ(クラスター)に分類、合併症リスクを可視化する。2)診断時点で将来の「透析リスク」を推計 早期段階のデータから将来の透析導入リスクを推計できる。とくに「重症インスリン抵抗性(SIRD)」は、8年間で透析導入リスクが約4%に達することを特定している。3)日常診療ですぐに活用可能な「ゼロセットアップ」設計 特別な検査を必要とせず、一部データが不足していてもAIが補完する独自技術を搭載。幅広い医療現場での活用が期待される。 研究・開発者の1人である島袋 充⽣氏(福島県立医科大学医学部糖尿病内分泌代謝内科学講座 教授)は、「患者と医療者が同じ未来を共有し、ともに歩んでいく。そんな新しい糖尿病医療のスタンダードを、福島から全国へ広げていきたい」と期待を寄せている。

10.

カテーテル感染を防ぐ最も有用な手段とは【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第28回

Q28 カテーテル感染を防ぐ最も有用な手段とは実際の侵入門戸は、三方活栓なのか、刺入部なのか、点滴自体の汚染なのか、また、カテーテル感染を防ぐために最も有用な手段について教えてください。

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第296回 ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府

<先週の動き> 1.ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府 2.血管炎薬アバコパンで死亡20例、添付文書に「警告」新設/厚労省・キッセイ薬品 3.AIを悪用したサイバー攻撃に備え、医師会や病院団体と対策を協議/厚労省 4.マイナカード「任意」から義務化検討へ、全員保有を提言/自民党 5.禁忌の抗菌薬処方でSJS発症か、患者死亡で遺族に補償へ/三重県 6.東大医学系研究科の贈収賄事件、元特任准教授に有罪判決/東京地裁 1.ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府中東情勢の悪化を背景に、石油由来原料を使う医療資材の供給不安が医療現場に広がっている。政府は5月23日、感染症などの流行に備え国が備蓄していた医療用手袋のうち、まず5,000万枚の放出を開始した。都内の歯科診療所には同日、第1弾が到着。受け取った院長は「診療所は在庫を抱えられない。購入できて安心した」と語った。放出対象は、病院、診療所、訪問看護事業所、薬局、助産所など。在庫量が「今後1週間の想定消費量から購入見込み量を差し引いた数」の4週間分を下回る場合、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じて申請できる。販売は1,000枚単位で、価格は1セット5,980円、1枚当たり約6円。購入可能数は想定消費量の2週間分を基準に決まり、条件を満たせば複数回の申請も可能とされる。21日時点で2,000を超える医療機関が対象となっており、茨城県でも第1弾として63医療機関から27万1,000枚の購入申し込みがあった。ただ、逼迫しているのは手袋だけではない。ナフサ価格の上昇を受け、廃液回収容器、投薬瓶、軟こう容器、点眼瓶、松葉杖、透析回路、医薬品包装用フィルムなどでも値上げや納期遅延、受注制限が相次いでいる。調剤薬局では小児用シロップ容器が不足し、粉薬での処方を依頼する例も出ている。医療資材卸では4月以降、平均2~3割の値上げが行われ、製品によっては1.5~2倍の値上げ要請もあるという。診療報酬や薬価は公定価格であり、医療機関や製薬企業は一般産業のようにコスト上昇分を価格転嫁しにくい。物価高、人件費高、光熱費高に加え、資材不足が中小医療機関の経営をさらに圧迫している。政府は追加放出も検討するとしているが、手袋の使用量は月9,000万枚規模ともされ、備蓄放出だけで不安を払拭するのは難しい。医療提供体制を維持するには、資材供給の安定化に加え、物価変動を診療報酬や薬価に反映する仕組みの検討が求められる。 参考 1) 医療用手袋の政府備蓄品が到着 厚労省、都内歯科で公開(日経新聞) 2) 国が備蓄している医療用手袋 購入要請があった医療機関にきょうから配送開始 中東情勢の影響を受けて放出(TBS NEWS) 3) ナフサ不足で医療資材逼迫 軟こう容器・松葉杖・手袋…中小医院資材逼迫で苦境(日経新聞) 4) 中東情勢悪化に伴う医療用グローブの国家備蓄放出、「医療機関在庫が不足する」場合に購入可能-厚労省(Gem Med) 2.血管炎薬アバコパンで死亡20例、添付文書に「警告」新設/厚労省・キッセイ薬品厚生労働省は5月21日、選択的C5a受容体拮抗薬アバコパン(商品名:タブネオスカプセル10mg)について、製造販売元のキッセイ薬品に対し、添付文書に「警告」欄を新設し、医療関係者へ安全性速報(ブルーレター)を発出するよう指示した。同薬の服用後、肝臓の胆管がなくなる「胆管消失症候群」を含む重篤な肝機能障害が報告され、国内で20例の死亡があったことを受けた措置。ブルーレターの発出は5年ぶりで、迅速な安全対策が必要と判断された。アバコパンは、顕微鏡的多発血管炎と多発血管炎性肉芽腫症を対象とする飲み薬で、いずれも国の指定難病。ステロイド使用量を減らせる薬として期待され、国内では2022年6月に発売され、直近1年間で推定約8,500例に使用された。死亡した20例は60~90代で、19例は投与開始から3ヵ月以内に肝機能障害を発症。胆管消失症候群は22例報告され、このうち13例が死亡しており、とくに深刻な副作用とみられている。改訂後の添付文書では、投与開始前と投与中の定期的な肝機能検査を求める。投与開始後3ヵ月間は少なくとも2週間に1回、その後3ヵ月間は少なくとも4週間に1回、6ヵ月以降も定期的に検査する。ALTまたはASTが基準値上限の3倍を超えた場合は投与を中断し、8倍超、5倍超が2週間以上続く場合、総ビリルビンやALPの上昇、黄疸やかゆみなどがあれば中止する。胆管消失症候群が疑われる場合も速やかに中止することを求めている。キッセイ薬品は、新規患者への投与を控えるよう注意喚起していたが、その後は頻回の検査を前提に新規投与も可能とされた。すでに服用中の患者には、自己判断で中止せず、体調変化があれば医師や薬剤師に相談するよう呼びかけている。その一方で、米国食品医薬品局(FDA)は有効性や承認申請資料を巡る疑義から米国での承認撤回を提案しており、厚労省も海外当局と連携し、有効性や安全性の確認を進める。 参考 1) タブネオスの安全性確保のための注意喚起について(キッセイ薬品) 2) タブネオスにブルーレター発出、添付文書の「警告」欄を新設(日経ドラッグインフォメーション) 3) 血管炎治療剤タブネオス 安全性速報を発出-添付文書に「警告」新設 キッセイ薬品(CB news) 4) キッセイ薬品工業が「ブルーレター」発出 タブネオス服用後の死亡患者20人報告で(中日新聞) 5) 投与患者20人死亡の血管炎治療薬、添付文書に「警告」欄を新設・頻繁な肝機能検査を要請…厚労省(読売新聞) 6) キッセイ薬品の血管炎薬、添付文書に「警告」欄 有効性に疑義も(朝日新聞) 7) キッセイ薬品、血管炎治療薬で安全性速報 死亡報告で厚労省指示(日経新聞) 3.AIを悪用したサイバー攻撃に備え、医師会や病院団体と対策を協議/厚労省厚生労働省は5月22日に、AIを悪用したサイバー攻撃への懸念が高まっているとして、医療機関や病院団体とサイバーセキュリティ対策に関する意見交換会を開いた。背景にあるのは、米アンソロピックが4月に発表した高性能AI“Claude Mythos”(クロード・ミュトス)で、ソフトウエアの脆弱性を自律的に検出し、攻撃プログラムの生成にもつながり得るとされる。国家サイバー統括室は18日、AIの急速な進展により攻撃の規模が拡大する恐れがあるとして、医療や金融など重要インフラ15分野に注意を呼びかけていた。意見交換には上野 賢一郎厚労相、厚労省や国家サイバー統括室の担当者、全国自治体病院協議会、全日本病院協会、日本病院会、日本医療法人協会などの関係者が出席した。上野厚労相は、医療現場では日々の診療や運営に追われ、サイバー対策が後回しになりがちだと指摘し、「現場任せではなく経営層の主体的な関与が不可欠」と強調。「サイバー攻撃の脅威はさらに増大する。必要な対応を速やかに進める」と述べた。医療機関ではこれまでも電子カルテが使えなくなり、診療を一時中断する被害が発生している。出席した医療機関側からは、「対策に充てる財源が乏しい」や「専門人材を確保できないこと」への不安が示され、国による財政的・技術的支援を求める声が上がった。厚労省は、医療情報システムの安全管理ガイドラインに基づく基本対策の徹底、攻撃を受けた場合の事業継続計画作り、補助金や経営層向け研修の活用を呼びかけた。政府は重要インフラ15分野ごとに安全基準を整備する方針で、厚労省も医療分野の実情に応じた対策を具体化する。今後、関係機関に事務連絡を出し、医療機関の機能停止が国民生活に重大な影響を及ぼさないよう、医療現場と連携して実効性ある体制作りを進める。診療継続を支える経営課題として、各病院の備えが問われる。 参考 1) ミュトス対応 医療機関と意見交換、厚労省 セキュリティー対策具体化へ(CB news) 2) 医療機関にサイバー攻撃対策を要請 厚労省、AI「ミュトス」念頭(日経新聞) 3) 新型AI「ミュトス」 厚生労働省と医療機関が意見交換 上野大臣「必要な対応を速やかに進める」 サイバー攻撃で診療一時中断も 「財源ない」「専門人材いない」の声も(TBS NEWS) 4) 「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策に関する厚生労働省との意見交換」を開催します(厚労省) 4.マイナカード「任意」から義務化検討へ、全員保有を提言/自民党自由民主党は5月19日、マイナンバーカードの取得義務化の検討を政府に求める政策提言「デジタル・ニッポン2026」を公表した。国民全員がカードを保有することを前提に、行政サービスの拡充や民間利用を進める狙いで、早ければ来年の通常国会で関連法改正を目指す。現在、マイナンバーカードの取得は任意で、4月末時点の保有率は82.7%。提言では、取得を法的に義務付ける必要性や実効性を検討すべきとするが、罰則は設けない方針。背景には、中低所得の現役世代支援として検討される「給付付き税額控除」や迅速な現金給付への活用がある。提言では、給付に必要な公金受取口座の登録義務化の検討も盛り込み、マイナカードを「デジタル社会のパスポート」と位置付けている。党デジタル社会推進本部長の平井 卓也衆院議員は、交付開始当初に比べ肯定的に受け止める人が増えたとして、「持っていることを前提に政策を組み上げる」と説明した。その一方で、個人情報の漏えいや目的外利用、プライバシー侵害への懸念はいまだに根強い。マイナ保険証の原則化を巡っては、医療機関の受付負担や高齢者の利用困難、資格確認書の併存などから「事実上の義務化」との批判もある。会計検査院の調査では、2025年7月末までに本人希望で廃止されたカードが累計93万枚に上り、トラブルへの不安や利便性を実感できないことが背景にあるとの見方も出ている。コンビニ交付や本人確認で「期待通りの使い勝手になっていない」との指摘もあり、普及策の妥当性が問われている。松本 尚デジタル相は22日の会見で、義務化について「法的に縛り付けることは議論が必要だ」と述べ、必要性への明言を避けた。カードを持ちたくない人が納得できる根拠や、どの政策と一体で進めるのかを検討する必要があるとの認識を示した。利便性向上と行政効率化を掲げる政府・与党に対し、制度への信頼回復と不安払拭が課題となる。 参考 1) デジタル・ニッポン2026ー責任あるアジャイル・ガバナンスー(自民党) 2) マイナカード、取得義務化を提言 自民「来年国会で法改正めざす」(朝日新聞) 3) マイナカード義務化「必要性もう少し議論」 松本デジタル相(日経新聞) 4) 任意だったのに…「マイナカード義務化」自民が提言へ 給付付き税額控除の議論が「絶好のラストチャンス」(東京新聞) 5) 「93万枚」が廃止されていたマイナンバーカード このままでは“第2の住基カード”に? 「多くの人が“便利さ”を感じていない」(デイリー新潮) 5.禁忌の抗菌薬処方でSJS発症か、患者死亡で遺族に補償へ/三重県三重県桑名市の地方独立行政法人 桑名市総合医療センターは5月21日、気管支喘息で入院した60代男性に禁忌薬を誤って処方し、男性が重い薬剤アレルギーとみられる症状を発症後、3月23日に死亡したと発表した。病院側は薬剤投与ミスを認め、遺族に謝罪するとともに補償する方針を示している。男性は2月中旬、喘息発作で同センターに入院し、ステロイド治療に伴う感染症予防のため、担当医が抗菌薬トリメトプリム スルファメトキサゾール(商品名:バクトラミン)を処方した。男性は退院後に服用したが、高熱や全身の発疹、皮膚や口腔内のただれなどを起こし、愛知県内の病院に搬送された。その後、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)を発症したとみられ、より重篤な中毒性表皮壊死症(TEN)の可能性も指摘されている。最終的には腸閉塞を伴う敗血症性ショックなどで死亡した。バクトラミンは、スルファメトキサゾール・トリメトプリムを成分とするST合剤で、男性は過去に同じ成分を含む別の商品名の抗菌薬でアレルギー症状を起こしていた。電子カルテには投与禁忌の記載があったが、担当医は商品名の違いから同一成分だと認識せず、成分確認を十分に行わなかったという。一部報道では、医師がアレルギー歴を別系統の薬剤と誤認していたともされる。病院は、誤投薬とアレルギー反応との関連性は極めて高いと説明する一方で、死亡との直接の因果関係については病理解剖の結果や外部専門家を含む調査で検証する方針。県医師会には医療事故として報告しており、院内事故調査委員会や第三者委員会で原因究明と再発防止策を検討する。山田 典一病院長は記者会見で「痛切に責任を感じている」と謝罪し、「全職員がリスクを感じたら拾い上げる体制に変えなければならない」と述べた。 参考 1) 桑名市総合医療センターで男性に禁忌薬処方、難病発症 別の病院に転院後死亡(中日新聞) 2) 禁忌薬誤投与後に患者男性が死亡 三重の医療センター 因果関係調査(産経新聞) 3) 抗菌薬誤投与で難病発症、患者死亡 医師が成分確認せず-三重・桑名市総合医療センター(時事通信) 4) 桑名市総合医療センターの患者死亡 薬剤の投与ミス認める(NHK) 6.東大医学系研究科の贈収賄事件、元特任准教授に有罪判決/東京地裁東京大学大学院医学系研究科の共同研究を巡る贈収賄事件で、収賄罪に問われた元特任准教授の吉崎 歩被告(46)に対し、東京地裁は5月22日、懲役1年、執行猶予2年、追徴金約196万円の有罪判決を言い渡した。求刑は懲役1年2ヵ月、追徴金約196万円で、吉崎被告は公判で起訴内容を認めていた。判決によると、吉崎被告は2023年3月から2024年8月にかけて、東京大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の元教授、佐藤 伸一被告(62)とともに、一般社団法人日本化粧品協会の代表理事だった引地 功一被告(52)から、都内の高級クラブや性風俗店などで30回にわたり、計約196万円相当の接待を受けた。接待は、皮膚疾患に対する大麻草由来成分カンナビジオール(CBD)の有効性などを調べる「臨床カンナビノイド学社会連携講座」の設置や共同研究の推進で便宜を図る見返りだったとされた。吉崎被告は同講座の講座長として、佐藤被告と日本化粧品協会との間に入り、研究実務や接待の段取りを調整していた。弁護側は、吉崎被告が佐藤被告を師と仰ぎ、強い影響下にあったため異を唱えることは難しかったと主張。判決も、上司である佐藤被告の意向に反することが困難だった点は認めた。その一方で、吉崎被告が接待の調整役を担い、単独で接待を受けたこともあり、自ら積極的に接待を受けたい意向があったとして、「刑事責任は軽視できない」と指摘した。遊興接待の内容についても、職務の廉潔性を害したことは明らかだとした。判決はさらに、東大の社会連携講座についても言及。大学の看板を営利目的で利用しようとする企業に悪用されかねない側面があり、公益的な研究として適切に運用されるかどうかが、講座を統括する担当教授のモラルに大きく依存していたと指摘した。産学連携を進める上で、研究費の受け入れや企業との距離感を個人の倫理観に委ねる危うさが改めて浮き彫りになった形。しかしながら、吉崎被告が事件後に東大を退職し、犯行を認めて反省していること、再び公職に就く可能性が低く再犯の可能性も低いことなどから、執行猶予付き判決が相当と判断された。事件では、佐藤被告も収賄罪で起訴されているほか、贈賄罪に問われた引地被告の判決は5月26日に予定されている。東大では別件でも医療機器選定を巡る収賄事件が起きており、大学病院における企業連携と利益相反管理のあり方が厳しく問われている。 参考 1) 東大病院汚職、元特任准教授に有罪判決 風俗店やクラブで接待受ける(朝日新聞) 2) 東大院汚職で元特任准教授に有罪判決 東京地裁(日経新聞) 3) 懲役1年執行猶予2年、性接待などを受け 東大病院の収賄事件、「教授の強い影響下にあった」元特任准教授に有罪判決(日経メディカル)

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タブネオスの肝機能障害にブルーレター発出/厚労省

 2026年5月21日、厚生労働省は選択的C5a受容体拮抗薬アバコパン(商品名:タブネオスカプセル10mg)について、添付文書の「警告」を新設し、「重要な基本的注意」などを改訂するとともに、「安全性速報(ブルーレター)」により医療関係者などに対して速やかに注意喚起を行うようキッセイ薬品工業に対し指示した。 アバコパンは顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症に対する治療薬で、承認申請時に提出された臨床試験成績を踏まえ、2021年9月の承認当初から、添付文書において重大な副作用として肝機能障害に関する注意喚起がなされていた。2022年6月の発売開始以降、本剤を服用した患者で「胆管消失症候群」を含む重篤な肝機能障害が発現した症例が報告されており、死亡に至った症例が国内で20例報告*されたという。なお、2025年2月~2026年1月の国内の年間推定使用患者数は8,503例に上る。*2026年4月27日時点、キッセイ薬品工業の安全性データベースの集計(本剤との因果関係が不明なものを含む) 添付文書の追記は以下のとおり。【警告】(新設)胆管消失症候群を含む重篤な肝機能障害があらわれることがあり、死亡に至った例も報告されているので、本剤投与開始前及び投与中は定期的に肝機能検査を行い、患者の状態を十分に観察すること。本剤投与中に重篤な肝機能障害がみられた場合には、本剤の投与を中止する等の適切な処置を行うこと。【重要な基本的注意】(下線部が追加)肝機能障害があらわれることがあるので、以下の点について十分注意すること。多くの場合、これらの事象は投与開始後3ヵ月以内に発現している。 本剤の投与開始前、投与開始後3ヵ月間は少なくとも2週間に1回、その後の3ヵ月間は少なくとも4週間に1回、その後も投与期間中は定期的に肝機能検査を行い、患者の状態を十分に観察すること。 本剤投与中に基準値上限の3倍を超えるALT又はASTの上昇が認められた場合には、本剤の投与を中断し、速やかに患者の状態を評価すること。また、以下に該当する場合は本剤の投与を中止すること。・ALT又はASTが基準値上限の8倍を超える場合・ALT又はASTが基準値上限の5倍を超える状態が2週間を超えて持続した場合・総ビリルビンが基準値上限の2倍を超える場合・ALPが基準値上限の2倍以上の場合・黄疸やそう痒等の肝機能障害の徴候又は症状が認められる場合なお、胆管消失症候群が疑われる場合には、速やかに本剤の投与を中止すること。  なお、今回発出されたブルーレターでは、胆管消失症候群を含む重篤な肝機能障害の早期発見や重症化防止のため、肝機能検査の実施タイミングや頻度、投与中止基準などが明記。医療関係者に対して、以下のような注意喚起が示された。―――■胆管消失症候群を含む重篤な肝機能障害にご注意ください。■多くの場合、投与開始後3ヵ月以内に発現しています。肝機能障害の早期発見や重症化防止のため、以下の点に十分ご注意ください。○以下のタイミングで、肝機能検査を実施ください。・投与開始前・投与開始後3ヵ月間:少なくとも2週間に1回・その後3ヵ月間:少なくとも4週間に1回・6ヵ月目以降:定期的○以下の所見が見られた場合は、適切な対応をお願いいたします。なお、胆管消失症候群が疑われる場合には、速やかに本剤の投与を中止してください。・基準値上限の3倍を超えるALT又はASTの上昇が認められた場合 →本剤の投与を中断し、速やかに患者の状態を評価ください・ALT又はASTが基準値上限の8倍を超える場合・ALT又はASTが基準値上限の5倍を超える状態が2週間を超えて持続した場合・総ビリルビンが基準値上限の2倍を超える場合・ALPが基準値上限の2倍以上の場合・黄疸やそう痒等の肝機能障害の徴候又は症状が認められる場合 →本剤の投与を中止してください■患者の状態を十分に観察し、自他覚症状の発現に注意してください。異常が認められた場合はただちに医師・薬剤師に相談するよう、患者に対してご指導ください。―――

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IgA腎症へのtelitacicept、第III相試験の中間解析結果/NEJM

 疾患進行のリスクが高いIgA腎症患者において、新規開発中のtelitaciceptの投与により、プラセボと比較し、39週時点の24時間尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)が有意に低下した。中国・北京大学第一医院のJicheng Lv氏らTELIGAN Investigatorsが、同国72施設で行われた第III相の二重盲検プラセボ対照無作為化試験の、事前規定の中間解析の結果を報告した。telitaciceptは、IgA腎症の病態に関与するB細胞活性化因子(BAFF)および増殖誘導リガンド(APRIL)の両方を標的とする組み換え融合タンパク質製剤で、IgA腎症への有効性が期待されている。NEJM誌2026年5月14・21日号掲載の報告。39週時点の24時間UPCRを対プラセボで検証 試験は、最適な支持療法を受けているものの、生検でIgA腎症と診断され、蛋白尿(尿蛋白値1.0g/日以上)の持続が認められる患者を登録して行われた。 研究グループは被験者を、週1回telitacicept 240mgを皮下投与する群またはプラセボ投与群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインと比較した39週時点の24時間UPCRとし、幾何平均比(GMR)で評価した。安全性も評価した。UPCRの変化率は、telitacicept群-58.9%、プラセボ群-8.8% 2023年4月~2025年2月に、318例がtelitacicept群(159例)またはプラセボ群(159例)に無作為化された。全被験者が少なくとも1回、試験薬を投与され、有効性および安全性の解析集団に包含された。今回の中間解析の時点で、それぞれ154例(96.9%)、150例(94.3%)が39週の試験期間を完了していた。 ベースラインの両群の被験者特性は類似しており、平均年齢は38.2歳、女性が53.8%であり、eGFRの平均値は75.5mL/分/1.73m2、24時間UPCRの中央値は1.26であった。また、全例がACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を使用しており、telitacicept群の35.2%およびプラセボ群の34.6%がSGLT2阻害薬を使用していた。 39週時点の24時間UPCRのベースラインからの変化率は、telitacicept群-58.9%、プラセボ群-8.8%であり、相対的群間差は-55.0%(95%信頼区間[CI]:-61.3~47.6、p<0.001)と実薬群で良好であった。 ベースラインと比較したeGFRの変化率は、telitacicept群-1.0%(95%CI:-3.2~1.2)、プラセボ群-7.7%(95%CI:-9.9~-5.4)であった。 有害事象は、telitacicept群のほうがプラセボ群よりも多くみられた(89.3%vs.78.6%)が、重篤な有害事象の発現頻度は低かった(2.5%vs.8.2%)。telitaciceptに関する予期せぬ安全上の問題は報告されなかった。

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CKD患者の筋肉の質が死亡リスク増加と関連

 CKD患者において、MRIで評価した筋肉組成異常(筋肉量低下と筋肉内脂肪浸潤)が全死因死亡リスク増加と関連し、筋肉量の低下だけでなく筋肉の質の悪化が死亡リスク予測に重要である可能性が、スウェーデン・Linkoping UniversityのAinhoa Indurain氏らによって示された。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2026年4月14日号掲載の報告。 研究グループは、UK Biobankのデータを用いてCKDを有する患者(eGFRcys<60mL/分/1.73m2)を特定し、MRIで評価した筋肉組成と全死因死亡との関連を検討した。大腿部の脂肪除去筋肉量と筋肉内脂肪浸潤は、MRI画像をAMRA Researcherで解析し、定量化した。筋肉組成異常は、低筋肉量(性別・BMI補正のzスコアが25パーセンタイル未満)かつ高筋肉内脂肪浸潤(75パーセンタイル超)が共存する状態として定義した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、死亡データが入手可能な894例のCKD患者であった。男性52.5%、平均年齢72.2歳、平均BMI 29kg/m2、平均eGFR 53.5mL/分/1.73m2で、主に軽度~中等度CKD患者で構成されていた。筋肉組成異常を有していたのは32.3%であった。・平均3.6年の追跡期間中に50例が死亡した。・未調整の解析で、筋肉組成異常は正常な筋肉組成と比較して全死因死亡リスク増加と有意に関連していた(ハザード比[HR]:6.17、95%信頼区間[CI]:2.36~16.15、p<0.001)。・この関連は、年齢・性別などの背景因子、生活習慣要因、蛋白尿、併存疾患などで調整した後も有意であった(HR:4.21、95%CI:1.49~11.84、p=0.007)。 これらの結果より、研究グループは「筋肉組成異常はCKD患者における全死因死亡リスクの増加と関連していた。筋肉組成の維持は今後のCKD管理における新たな介入標的となる可能性がある」とまとめた。

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第313回 ハンタウイルス、日本の暗黒史と国内で注意したい場所とは?

INDEXハンタウイルスの最新状況旧日本軍との深いかかわり後に明らかになった2つの国内事例日本のネズミも抗体陽性、注意したい場所とは…ハンタウイルスの最新状況オランダのオーシャン・エクスペディション社が運営しているクルーズ船「MVホンディウス号」でのハンタウイルス(アンデスウイルス)感染騒動は、その後、乗員乗客の大半がスペイン領カナリア諸島で下船し、現在同号は乗員25人と彼らのモニタリングを行う医療者2人を乗せてオランダに向けて航行中である。世界保健機関(WHO)の発表では、13日までに判明している感染者が8例、感染の疑いが2例、検査結果保留(検査機関2ヵ所でそれぞれ陽性と陰性の結果のため)が1例の計11例で、うち死者3例。ちなみに、最初にWHOに状況が報告された時点で既に死亡していた2例は、いずれも疑いに分類されている。WHOは発生状況の分析から、船内でヒト-ヒト感染が起きた可能性を指摘している。前出の数字で単純に致死率を算出するならば27.3%であり、アンデスウイルスに関しては、状況次第ではかなり悲惨な結果となることが改めて示されたといえる。なお、乗客の中に含まれていた日本人1人はイギリスに移送され、現地の医療機関で隔離中。最大で45日間の健康観察下に置かれる予定と報じられている。「45日間」には驚くが、これはアンデスウイルスの潜伏期間が最大6週間であるためだ。WHOは今後、乗員乗客からの追加感染例の発生の可能性に言及しつつも、「下船した人々の隔離、新たな感染疑い例の迅速な隔離、接触者の監視といった現在の対応により、さらなる感染拡大のリスクは抑制されるだろう」との見解を示している。この件では各国が乗客の経過観察にかなり神経をとがらせている現状を考えれば、私見ながら彼らを起点にした各地でのアウトブレイク発生という最悪の状況は避けられるのではないかと予想している。旧日本軍との深いかかわりさて、前回はハンタウイルスの分離・同定がアジアで始まったことや、ウイルスの特性などの概略に触れたが、今回は日本でのハンタウイルス感染症史に触れておきたい。実はハンタウイルスと日本とのかかわりは、ウイルス同定以前の1932年、日本が中国東北部に建国した傀儡国家・旧満州国で始まっている。1938年に同国内の旧ソ連国境に近い孫呉県(現黒竜江省黒河市)付近で流行性出血熱、通称「孫呉熱」が大流行し、1940年代に旧満州国内では旧日本軍兵士を中心に約1万例の患者が発生、死者は約3,000例だったと報告されている。ここで登場するのが、旧日本軍の暗部の1つと言える関東軍防疫給水部(通称731部隊)である。同部は捕虜を使った生体実験という非人道的な活動を行っていた秘密部隊として知られているが、その1つが孫呉熱の研究である。研究の中身は、孫呉熱に感染した日本軍兵士から採取した血液を捕虜に注射して感染確認を行うなど、聞いただけで身の毛もよだつものだ。研究結果の一部は、サルを対象に行った実験と偽装して論文発表もされている。当時、孫呉熱はウイルス感染症の可能性が指摘されたが、ウイルス同定には至っておらず、自然宿主も現地に土着するセスジネズミに寄生するダニが疑われていた。しかし、前回も触れたように、後年、韓国でハンタウイルスの1種であるハンターンウイルスが同定され、過去の臨床記録、疫学記録、病理所見の再検討が行われた結果、孫呉熱がハンタウイルス感染症の1種だったと臨床的に分類されるようになった。後に明らかになった2つの国内事例また、同様に過去に遡ってハンタウイルス感染症と認定されたのが、1960年代に大阪・梅田周辺で起こった通称「梅田熱」である。約10年間にわたって断続的に報告された患者数は119例でうち2例が死亡。後に発症後7~17年経過した患者から採取した血清検体から、ハンタウイルスの1種であるソウルウイルスの抗体が検出された。ちなみにソウルウイルスはドブネズミやクマネズミが自然宿主で、セスジネズミを自然宿主とするハンターンウイルスと比較し、同じ腎症候性出血熱(HFRS)の症状もより軽度といわれている。実際、大阪の事例は単純計算なら致死率1.7%であり、過去の報告での致死率下限が5%のハンターンウイルスよりも低率だ。さらに1970~84年にかけて、ハンタウイルスに汚染された実験ラットを通じたハンタウイルス感染症が全国の研究施設で報告された。報告された患者ほぼ全員に共通していたのが、ラットの飼育やケージ交換、ラットによる動物実験実施に従事していたこと。報告された感染者数は札幌医科大学、東北大学、名古屋市立大学をはじめとした全国21施設で126例に上り、このうち1981年に札幌医科大学の動物飼育担当職員1例が死亡した。時期からわかるように、このケースはハンタウイルス同定時期をまたいでおり、後になって国内の実験用ラットの供給網が全般的にソウルウイルスに汚染されていたことが明らかになった。この事例は特定された微生物や寄生虫が存在しないSpecific Pathogen Free(SPF)実験動物や動物実験施設のバリア化の普及につながる大きな契機になったと言われている。日本のネズミも抗体陽性、注意したい場所とは…これ以降、半世紀超にわたって日本ではハンタウイルス感染症の報告はないが、完全に安全とも言えない。たとえば、1996~98年にかけて全国の18検疫所が港湾地域で行った捕獲ネズミでの調査1)では、ハンタウイルス抗体陽性率は12.9%だった。また、2000~03年に北海道大学のグループが北海道、本州、四国、九州で行ったネズミの捕獲調査2)では、ネズミの種類別の抗体陽性率はアカネズミが1.0%、エゾヤチネズミが3.6%、ドブネズミが1.1%、クマネズミが6.7%。多くはないが、国内にもハンタウイルスは存在するのである。さらにもう1つ、ぎょっとする報告がある。実は1999年に米国・メイヨークリニックのグループが急性・慢性腎炎の約26%は、ハンタウイルス感染が原因の可能性があることを指摘した研究3)を発表した。これを受けて厚生労働省の研究班が、ハンタウイルス抗体陽性のネズミが確認された大阪港・神戸港近隣の大阪府・大阪市・神戸市・広島県・岡山県地域の8施設530例の透析患者に協力を得て、ハンタウイルスの抗体価を調査1)したところ、抗体陽性率は1.5%だったことがわかったのだ。概観すると、極めてまれとは言え、国内でも水面下でハンタウイルス感染症が発生している可能性が高いことになる。繰り返しになるが、むやみやたらと怖がるべきものではないし、恐怖訴求のつもりもないが、ネズミの排せつ物による汚染の可能性がある場所には近づかない、どうしても避けられない場合はマスクや手袋を着用するなどの対策は必要だろう。「ネズミの排せつ物による汚染の可能性がある場所」と聞いてもピンとこない人もいるかもしれないが、たとえば、亡くなった身内が居住し、長らく放置されていた家屋での遺品整理、ネズミが入り込む余地がある屋外の物置やガレージの整理・清掃などは、これに該当する。意外と身近に危険は潜んでいると言えるかもしれない。1)厚生労働科学研究成果データベース:我が国におけるハンタウイルス感染症(腎症候性出血熱)の疫学的検証(中間報告)2)Lokugamage N, et al. Microbiol Immunol. 2004;48:843-851.3)Patnaik M, et al. Am J Kidney Dis. 1999;33:734-737.

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パーキンソン病患者は腎機能低下リスクが約1.9倍/慶應義塾大

 わが国の全国規模の医療保険請求データと健康診断データを用いた疫学コホート研究の結果、パーキンソン病はその後の腎機能低下リスク上昇と関連していることが、慶應義塾大学の満野 竜ノ介氏らによって示された。Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2026年4月15日号掲載の報告。 近年、慢性腎臓病(CKD)や末期腎不全(ESKD)などの腎機能低下がパーキンソン病の発症リスク上昇と独立して関連していることが示されているが、パーキンソン病発症後の腎転帰については十分に検討されていない。そこで研究グループは、大規模集団ベースコホートを用いて、パーキンソン病患者とパーキンソン病のない成人の間で腎機能低下のリスクを比較した。 研究ではDeSCデータベースを用いて、2014年4月~2024年8月に少なくとも1回の健康診断を受けた18歳以上の成人200万793人を特定した。すでにESKD既往歴または腎代替療法導入歴のある患者などを除外した165万9,421人(年齢中央値68歳、男性41.9%)を解析対象とした。 主要評価項目は、ESKDへの進行(追跡時のeGFRが15mL/分/1.73m2未満)、腎代替療法の開始、ベースラインからのeGFRの30%以上低下を含む複合腎アウトカムとした。初回健康診断から複合腎アウトカムの発生、保険制度からの脱退(死亡を含む)、2024年8月のいずれか早い時点まで追跡した。 主な結果は以下のとおり。・コホート全体で1万1,497例(0.7%)がベースライン時点でパーキンソン病を有していた。・中央値1,092日(四分位範囲:631~1,520)の追跡期間中、複合腎アウトカムが発生したのは、パーキンソン病群361例、非パーキンソン病群3万2,974例であった。・Kaplan-Meier解析では、パーキンソン病群は非パーキンソン病群に比べて複合腎アウトカムのリスクが有意に高かった(log-rank検定のp<0.001)。・年齢、性別、高血圧、糖尿病、ベースラインのeGFRなどを調整した多変量Cox比例ハザードモデルでは、パーキンソン病は複合腎アウトカムと独立して関連していた(ハザード比:1.91[95%信頼区間:1.72~2.12])。・女性およびパーキンソン病治療薬投与群では、腎機能低下との関連がより顕著であった。・この関連性は、認知症や起立性低血圧、排尿障害などを除外した複数の感度分析でも一貫していた。 研究グループは、「今回の研究結果は、パーキンソン病が腎機能低下の臨床的に重要なリスク因子である可能性を示唆している。パーキンソン病の長期的な管理の一環として腎機能をモニタリングすることは、リスクの高い患者の特定に役立つ可能性がある」とまとめた。

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重症CKDでも降圧療法で心血管イベント抑制/Lancet

 英国・オックスフォード大学のGuyu Zeng氏らBlood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(BPLTTC)はメタ解析を実施し、心血管リスク低減の観点からは、慢性腎臓病(CKD)患者における降圧治療の相対的効果は、非CKD患者における効果と同等であり、CKDの病期、血圧閾値、蛋白尿の有無にかかわらず一貫した有効性が認められることを示した。ただし、糖尿病合併CKD患者ではこの相対的効果が弱まるため、これらの高リスクサブグループに適合する治療戦略が必要であるという。また、CKDにおける主要な降圧薬のクラス特異的な効果は、CKDの病期や蛋白尿の有無にかかわらず、一般集団で観察される効果と同様であることも示された。CKD患者、とくに進行期の患者について、心血管リスク管理に関するエビデンスは依然として不足していた。Lancet誌2026年4月25日号掲載の報告。RCT46件・約28万5,000例をメタ解析 研究グループは、第3期BPLTTCにおいて血圧降下療法群と対照群に割り付けた無作為化試験の被験者個人データを用いて、1段階法によるメタ解析を実施した。 適格とした無作為化試験は、言語や発表時期を問わず、各群1,000人年以上の追跡期間があり、ベースラインの血圧値およびクレアチニン測定値、ならびにイベント発生までの期間の結果があるものとした。無作為化手順が不明確、心不全または急性期医療に限定されたものは除外した。心不全既往患者や、クレアチニン値が極端な患者は除外した。年齢は問わなかった。 主要アウトカムは主要心血管イベント(致死的または非致死的脳卒中、虚血性心疾患、心不全による入院もしくは死亡の複合で定義)とし、相対的治療効果は層別Cox比例ハザードモデルで推定した。治療効果の異質性は、事前に定義されたCKDの状態、CKDステージ(1~5)、糖尿病、蛋白尿、およびベースライン血圧で分類したサブグループ間で評価した。また、5つの主要な降圧薬クラスにおいて、サブグループ間で治療効果が異なるかどうかを層別ネットワークメタ解析で評価した。 52件の無作為化試験(36万3,684例)のうち、適格基準を満たした46件・28万5,124例が解析に組み込まれた。女性11万6,145例(40.7%)、男性16万8,979例(59.3%)、ベースラインにおけるCKD患者は5万9,185例(20.7%)、2型糖尿病患者は8万6,067例(30.2%)であった。収縮期血圧5mmHg低下で、主要心血管イベントリスクが約10%低下 追跡期間中央値4.4年(四分位範囲:3.2~5.1)において、収縮期血圧の5mmHg低下により、主要心血管イベントのリスクは、CKD患者(ハザード比[HR]:0.91、95%信頼区間[CI]:0.87~0.94)および非CKD患者(HR:0.90、95%CI:0.88~0.93)の両方において、低下が認められた(相互作用のp>0.99)。さらに、観察された相対リスク低下は、ステージ4~5を含むすべてのCKDステージで一貫していた(相互作用のp>0.99)。 同様の治療効果の観察は、蛋白尿の有無別や、120/70mmHg未満群を含む各血圧区分においても認められた。しかしながら、CKD患者における相対的治療効果は、糖尿病合併例(HR:0.96、95%CI:0.90~1.02)で非合併例(HR:0.88、95%CI:0.84~0.93)と比較して著しく減弱していた(相互作用のp=0.044)。 各薬剤クラス内の層別解析では、心血管リスクに対する降圧薬とプラセボのクラス固有効果は、調査したサブグループ全体で変わらないことが示された。

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心血管疾患の再発予防には、LDLコレステロール値もthe lower, the better(解説:桑島巖氏)

 LDLコレステロールが心筋梗塞や脳梗塞などの重大なリスク因子であることは議論の余地はないが、その治療目標値においては、各国のガイドラインに差異がみられる。1次予防に関しては、リスクの有無により<120~140mg/dLとされ、各国ガイドラインに差がみられるが、2次予防に関しては、より厳格な管理が有効であるとするエビデンスが相次いで発表されている。日本では標準的2次予防目標値として100mg/dL未満、急性冠症候群、糖尿病、非心原性脳梗塞合併例などの非常に高リスクな場合には、70mg/dL未満が目標値として掲げられている。 今回、韓国から発表されたEz-PAVE研究は、LDLコレステロール値が70mg/dL以上の冠動脈疾患既往歴、脳血管疾患、末梢動脈硬化性疾患の既往歴を有する3,048例を、LDLコレステロール値低下目標値を55mg/dL未満に下げる強化群と70mg/dL未満とする従来群に1:1にランダム化して3年間追跡したランダム化比較研究である。その結果、主要エンドポイント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、血行再建術または不安定狭心症による入院)は、強化群での6.6%が、従来群の9.7%に比べて有意(p=0.002)に抑制率が高かったという結果であった。治療薬としては、スタチンの増量と、エゼチミブの併用、PCSK9併用などが推奨されているが、懸念される筋肉症状などの有害事象の発現率には差がなかったという。 2次予防におけるLDL-C目標値に関して、わが国の動脈硬化学会のガイドライン2022年版では70mg/dL未満としているが、欧州ガイドラインでは超ハイリスク例では55mg/dL未満としている。高カロリー食を好む欧米人では、脳卒中よりも心筋梗塞発症率が高く、米飯食を主食とするアジア人は脳卒中のほうが多いとされてきたが、わが国の食事内容も欧米化している現状を考慮すると、この韓国での本試験の結果は日本人にも適用できる結果であろう。 高血圧と同じく、心血管疾患の再発予防におけるコレステロール管理においては、The lower, the betterを証明したという点で意義のある臨床試験であろう。

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学会抄録のかたちにまとめる【「実践的」臨床研究入門】第63回

これまでの連載を通じ、架空の臨床シナリオを題材に、「漠然とした臨床上の疑問」であるクリニカル・クエスチョン(CQ)を「具体的で明確な研究課題」であるリサーチ・クエスチョン(RQ)に変換し、段階的にブラッシュアップしてきました。さらに、仮想データ・セットを用いて、EZR(Easy R)による基本的な統計解析手法の実際についても解説してきました。今回からは、これまでに得られた解析結果も含め、学会抄録のかたちにまとめてみたいと思います。構造化抄録学会抄録や原著論文のAbstractは、現在も多くの場合、IMRAD形式と呼ばれるかたちでまとめられています。IMRADとは、Introduction、Methods、Results、And Discussionというそれぞれの頭文字を取った略語です。日本語抄録では「背景・目的」、「方法」、「結果」、「考察・結論」という見出しで示されることが一般的です。しかし、IMRAD形式の抄録では研究方法に関する特定情報を迅速に把握しにくいことがあり、著者によってはそもそも重要な方法論の記述が十分になされていないこともあります。臨床研究における重要な特定情報とは、たとえば、研究デザインやP(対象)やIまたはE(介入または曝露要因)、O(アウトカム)といった構成要素とそれらの定義など、です。構造化抄録とは、IMRAD形式のうち、とくにMethods(方法)の記述の粒度を高め、より細分化して明示的な見出し(ラベル)を付した形式を指します。構造化抄録の典型的な構成要素は以下の通りです。Background(背景):研究の目的や重要性を簡潔に記載Objective(目的):研究の具体的な問い(RQに相当)Design(研究デザイン):研究デザインの種類(例:ランダム化比較試験、コホート研究、など)Setting(セッティング):研究が行われた場所や施設(例:単施設・多施設、外来・入院、大学病院・プライマリケア、など)Patients/Participants(対象):参加者数、主要な選択基準・除外基準Intervention/Exposure(介入または曝露):比較した介入内容(観察研究の場合は曝露要因)Measurements(評価項目):主要な評価指標(プライマリアウトカム)Results(結果):主要な結果(数値データ、信頼区間、p値など)Conclusions(結論):結果に基づいた結論とその臨床的意義このような構成は、JAMAやBMJ、Annals of Internal Medicineなどのトップジャーナルが定めるAbstractの形式に近く、近年では国内外で広く浸透しつつあります。構造化抄録はIMRAD形式の枠組みを拡張したものであり、読者が研究の内容や質をより迅速かつ明確に理解、評価する助けとなります。これまでの連載内容を踏まえ、われわれの研究を下記の通り構造化抄録のかたちにまとめてみました(連載第40回、41回、44回、45回、47回、53回、59回参照)。【背景】たんぱく質摂取制限は慢性腎臓病(CKD)進行抑制に推奨されているが、厳格な低たんぱく食(Low protein diet:LPD)の遵守と腎予後との関連については十分に検討されていない。【目的】保存期CKD患者において、推定たんぱく質摂取量(estimated daily protein intake:eDPI)と末期腎不全(ESKD)発症リスクおよび推定糸球体濾過量(eGFR)低下速度との関連を検討する。【研究デザイン】後ろ向きコホート研究【セッテイング】単施設外来【対象】成人保存期CKD患者(ネフローゼ症候群は除外)638例の連続症例。【曝露要因】24時間蓄尿検体からMaroni式を用いてDPIを推定し、0.5g/kg標準体重/日未満を厳格LPD遵守あり群(212例)、以上を遵守なし群(426例)として分類した。【評価項目】ESKD発症(維持透析導入または先行的腎移植)およびeGFR年間低下速度(mL/min/1.73m2/年)。【結果】平均観察期間3.9年において、ESKD発症率に両群間で有意差は認められなかった。Cox比例ハザード回帰モデルによる解析では、年齢、性別、糖尿病の有無、収縮期血圧、ベースラインeGFR、尿たんぱく定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値で調整した結果、厳格LPD遵守あり群のESKD発症に対する調整ハザード比は0.82(95%CI:0.60~1.14、p=0.24)であった。一方、多変量重回帰分析の結果、eGFR年間低下速度は厳格LPD遵守あり群が遵守なし群よりも2.03mL/min/1.73m2/年緩徐であった(95%CI:1.61~2.45、p<0.001)。【結論】非ネフローゼ症候群の保存期CKD患者において、DPI0.5g/kg標準体重/日未満の厳格なLPDの遵守はESKD発症リスクの低下とは関連しなかったが、eGFR低下速度の抑制に寄与する可能性が示唆された。

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第317回 妊娠高血圧腎症の血液ろ過治療が小規模試験で有効

抗体を使った血液ろ過による妊娠高血圧腎症治療が少人数の臨床試験で効果を示しました1-4)。妊娠高血圧腎症は命を落とすこともある妊娠中の重大な合併症で、高血圧を引き起こして母親と赤ちゃんの両方に深刻な害を及ぼす恐れがあります。残念ながらこれといった根本治療法はありません。妊娠高血圧腎症の進展につれて、胎盤が放つタンパク質のsFlt-1が増加します。sFlt-1は血管新生を促すVEGFやPLGFを阻止する抗血管新生因子として知られ、妊娠高血圧腎症の発症の主因の1つと目されていますsFlt-1を狙う抗体を妊婦に投与することが治療の手立てとなりそうですが、いかんせん胎児への害が心配です3)。そこでCedars-Sinai Medical CenterのAnanth Karumanchi氏らは抗体を体内に投与するのではなく、体外でsFlt-1を除去する手段を開発しました。その方法は抗sFlt-1抗体入りの吸着剤を詰めた血液ろ過(アフェレーシス)装置を使います。患者の血液を一旦体外に出し、透析に似た要領でその装置をくぐらせて体内に戻すことで血中のsFlt-1を除去します。まず妊娠したヒヒ(baboon)で試したところ、血中のsFlt-1の量がおよそ半減しました。続いて、出産にはまだ早い妊娠高血圧腎症の妊婦16例に試したところやはりsFlt-1濃度が低下し、動脈圧が低下しました。また、動脈圧の低下とsFlt-1濃度の低下が強く関連しました。そして何よりなことに妊娠をより長く保つ効果も示唆されました。入院してからの妊娠が中央値で10日間維持され、未治療の場合の見込み(4日間)2)を2倍超上回りました。母親の有害事象は軽微でした。軽度の低カルシウム血症が3例、針を指した部位の皮膚出血が1例、仮性陣痛が1例に生じました。赤ちゃんへの重大な害は認められませんでした。赤ちゃんの出産を急いで母親の命を繋ぎ止めることが今のところ妊娠高血圧腎症への唯一の対処法です。それはとりも直さず超早産の心配事と隣り合わせです。今回開発されたsFlt-1ろ過手段が使えるようになれば超早産の危機をより柔軟に乗り越えうるようになる、とCedars-Sinaiの産婦人科の長であるSarah Kilpatrick氏は言っています4)。今回の試験の位置付けはあくまでも予備試験(pilot trial)です。次の段階として、開発された手段が妊娠を確実に延長しうるかどうかや経過の改善をもたらすかどうかを、より大人数の対照群ありの試験で調べる必要があります2)。ちなみに、sFlt-1を体外で取り除く試みは他にもあり、たとえば15年ほど前の2011年にはsFlt-1を吸着するデキストラン硫酸セルロース(DSC)によるアフェレーシスの予備試験の結果が報告されています。妊娠高血圧腎症の3例がDSCアフェレーシスを複数回受け、入院後の妊娠が長ければ23日間保たれました5)。 参考 1) Thadhani R, et al. Nat Med. 2026 Apr 27. [Epub ahead of print] 2) Medicine: Blood filtering may provide treatment for preeclampsia / Nature. 3) Could blood filtering help treat one of pregnancy’s most deadly conditions? / Scientific American 4) Study: New preeclampsia treatment may safely extend pregnancy / Eurekalert 5) Thadhani R, et al. Circulation. 2011;124:940-50.

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