サイト内検索

検索結果 合計:745件 表示位置:1 - 20

1.

脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕

近年の知見を反映し52項目を改訂!2022年1月から2023年12月までの2年間に発表された論文のうち「レベル1のエビデンス」「レベル3以下だったエビデンスがレベル2となっていて、かつ、とくに重要と考えられるもの」を採用する方針で、該当する項目(140項目中52項目)を改訂しました。主な改訂点「改訂のポイント」を新設担当班長・副班長がまとめた「改訂のポイント」を各章の冒頭に新設しました。前版から改訂した箇所や改訂の経緯などについて把握する際に、ぜひご活用ください。近年の知見をタイムリーに・広範囲に反映各疾患の治療選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬や抗アミロイド抗体治療薬に対する知見、諸々の背景を持つ患者さんへのDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)や抗血小板薬による治療の知見、日進月歩ともいえるMT(経動脈的血行再建療法)の臨床研究成果など、近年の知見を反映した改訂を行いました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕定価8,800円(税込)判型A4判頁数352頁発行2025年8月編集日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会ご購入はこちらご購入はこちら

2.

寝たきり原因第1位「脳卒中」、最新治療アクセス改善と患者支援の最前線/日本脳卒中学会・日本脳卒中医療ケア従事者連合・日本脳卒中協会

 日本脳卒中学会、日本脳卒中医療ケア従事者連合、日本脳卒中協会の主催による「脳卒中メディアフォーラム」が10月15日に開催された。杏林大学医学部脳卒中医学 教授の平野 照之氏が司会を務めた。「脳卒中・循環器病対策基本法」および「脳卒中と循環器病克服5か年計画」に基づき、(1)脳卒中医療体制の整備、(2)地域多職種連携、(3)患者・家族支援と社会への啓発活動という3つの柱に沿って、各団体の理事長から最新の取り組みが報告された。1. 医療体制の整備:地域格差を埋める「遠隔医療」が鍵 最初に、日本脳卒中学会 理事長の藤本 茂氏(自治医科大学内科学講座神経内科学部門 教授)が「脳卒中・循環器病対策基本法と脳卒中と循環器病克服5か年計画に基づく脳卒中医療の整備」をテーマに発表した。 超高齢社会を迎えた日本において、脳卒中は死因の第4位、そして重度の要介護(要介護レベル4・5)に至る原因の第1位を占めている。年間で医療費約1.8兆円、介護費約1.9兆円が費やされており、社会全体で取り組むべき喫緊の課題となっている。 脳梗塞の超急性期治療は、時間との戦いとなる。発症から数時間以内に行われる血栓溶解薬(rt-PA)の投与や、カテーテルで血栓を回収する機械的血栓回収療法は、後遺症を大きく左右する。rt-PA静注療法を24時間365日提供できる体制を整えたのが「一次脳卒中センター(PSC:Primary Stroke Center)」であり、さらに高度な血栓回収療法まで常時対応可能なのが「PSCコア施設」である。 藤本氏の報告によると、これらの認定施設は全国に広がり、救急車で60分以内にPSCへ到達できる人口の割合は99%に達した。しかし、より高度な治療が可能なPSCコア施設へ30分以内に到達できる割合は82.8%に留まり、依然として地域による医療格差が存在する。とくに地方や僻地・離島では治療の機会を逃すケースが少なくない。 この課題の解決策として注目されているのが、遠隔医療(テレストローク)だ。専門医がいない地域の病院(スポーク施設)にいる患者を、専門医がいる中核病院(ハブ施設)から情報通信機器を通じて診断・支援する仕組みである。これにより、rt-PA投与の判断・実施や、血栓回収療法のための適応判断が迅速に行えるようになる。 令和6年度の診療報酬改定でもこの遠隔連携が評価されるようになり、超急性期脳卒中加算の見直しが行われ、脳血栓回収療法連携加算(5,000点)が新設された。今後、専門医がいない地域でも再灌流療法を受けられる体制の全国的な整備が加速すると期待される。学会は、現在15.8%にとどまる再灌流療法の施行率を、まずは20%以上に引き上げることを目標に掲げている。 また、急性期医療と並行して、患者・家族への支援体制の充実も図られている。その中核を担うのが、PSCコア施設などに設置されている「脳卒中相談窓口」だ。ここでは、多職種の専門スタッフが、急性期から退院後の生活までを見据え、リハビリテーションや介護、社会福祉サービスに関する情報提供や相談支援をワンストップで行う。活動の標準化のため『脳卒中相談窓口マニュアル』も作成された1)。相談件数は年々倍増しており、患者や家族の不安に寄り添う重要な拠点として全国的に活発化している。2. 地域多職種連携:「総合支援センター」をハブに、切れ目のない支援を 続いて、日本脳卒中医療ケア従事者連合 理事長の宮本 享氏(京都大学医学部附属病院特任病院教授 脳卒中療養支援センター長・もやもや病支援センター長)が、「脳卒中・心臓病等総合支援センターをハブとした地域多職種連携」をテーマに発表した。 脳卒中患者の支援は、急性期病院を退院して終わりではない。むしろ、その後の回復期、生活期におけるリハビリや再発予防、社会復帰支援こそが重要となる。宮本氏は、これを実現するためには、医師、看護師、理学療法士、医療ソーシャルワーカー(MSW)など、多様な専門職が組織的に連携する必要があると強調した。 その司令塔となるのが、各都道府県に設置が進む「脳卒中・心臓病等総合支援センター」だ。宮本氏は、同センターが脳卒中と心臓病という2つの循環器疾患を対象とすることを説明しつつ、とくに急性期後の回復期・生活期においては、両者で必要とされる医療システムが大きく異なるため、それぞれに特化した支援体制の構築が重要であると述べた。このセンターの役割は、個々の患者を直接支援するだけでなく、地域のハブとして、どの医療機関にかかっても標準化された質の高い情報提供や相談支援が受けられる体制を構築することにある。 先進的な事例として紹介された京都府では、総合支援センターが中心となり、以下のような多職種・地域連携のネットワークを構築している。・きょうとサンナイ会:「ならない(予防)・手遅れにならない(急性期治療)・まけない(リハビリ)」をコンセプトにした患者・家族向けの情報発信の場。府内の各病院がそれぞれの「サンナイ会」を持つことで、標準化された情報をニューズレターなどの形で広範な患者・家族に届けるネットワークを形成している。・脳卒中相談窓口連携会議:府内49の急性期・回復期病院のMSWが定期的に情報交換。患者が抱える共通の課題(例:「装具難民」問題、嚥下リハビリ外来の情報不足など)を共有し、地域全体の資源マップを作成・共有することで、どの病院でも同じ情報を提供できる体制を整えている。・かかりつけ医・薬局との連携:京都府医師会や薬剤師会と協力し、「脳卒中生活期かかりつけ医・かかりつけ薬局」の登録制度を開始。かかりつけ医やかかりつけ薬局が患者に最も身近な相談窓口となり、患者が退院後も地域で安心して療養を続けられるよう整備している。 しかし、この重要な役割を担う総合支援センターの運営は、都道府県の予算に大きく依存している。専従職員の雇用や諸活動費など事業継続に必要な年間1,000万円以上の予算が確保できているのは13都道県のみという厳しい現実も報告された。持続可能な支援体制の構築には、行政による安定した財政支援が不可欠だという。3. 啓発と患者支援:当事者の「声」を社会に届ける 最後に、日本脳卒中協会 理事長 峰松 一夫氏(医誠会国際総合病院 病院長)が「脳卒中に関する啓発・患者支援活動」について発表した。 日本脳卒中協会は、市民への啓発と、患者・家族に寄り添う支援活動の両輪で脳卒中対策に取り組んでいる。啓発活動の柱は、毎年10月の「脳卒中月間」だ。今年の標語「過信より 受診で防ぐ 脳卒中」を掲げ、全国でキャンペーンを展開する2)。10月29日の「世界脳卒中デー」には、東京都庁舎をはじめ全国50以上のランドマークを脳卒中のシンボルカラーであるインディゴブルーにライトアップし、市民の関心を呼び掛ける3)。 続いて峰松氏は、脳卒中の主要な後遺症の一つである「失語症」への社会的な理解の必要性について語った。失語症は、話す・聞く・読む・書くことが困難になる症状で、その多くが脳卒中に起因する。しかし、その存在や当事者が直面する困難(契約や法的手続きでの不利益など)は十分に知られておらず、「脳卒中・循環器病対策基本法」に対策が盛り込まれたものの具体的な支援はまだ始まっていない。協会は、まずこの症状への認知度を高めることが急務であると訴えた。 患者支援では、当事者の「孤立」を防ぎ、「声」を社会に届けるための取り組みが進んでいる。脳卒中サロンは、患者や家族が互いの経験を語り合い、支え合うピアサポートの場。会員の高齢化で患者会が減少する中、急性期病院と回復期病院が連携してサロンを立ち上げるモデル事業を全国5県で展開。そのノウハウをまとめた『脳卒中サロン 設立・運営マニュアル』をウェブで公開し、全国への普及を目指している4)。 続いて、自らも脳卒中経験者である日本脳卒中協会副理事長 川勝 弘之氏が、脳卒中スピーカーズバンクの活動について語った5)。この活動は、脳卒中経験者自身が「語り部」となり、自らの体験を学校や職場で伝える活動だ。2025年現在、30人のメンバーにより構成されている。内閣府の調査では、国民の95.7%が脳卒中を「怖い」と感じる一方で、若年層の半数以上が生活習慣を「改善するつもりはない」と回答している。専門家による難しい話ではなく、「当事者のリアルな言葉」こそが、人々の行動変容を促す力を持つ。しかし、メンバーの意欲は高まるものの、市民公開講座などの講演の機会はまだまだ少なく、活動の認知度向上が課題であるという。 フォーラムの最後には、今後も3団体が連携し、脳卒中という大きな課題に対し、医療の進歩だけでは不十分であり、地域社会全体で患者を支え、予防意識を高めていくという強いメッセージが示された。

3.

急性期脳梗塞、再灌流後のアルテプラーゼ投与は有益?/JAMA

 前方循環の主幹動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中を呈し、機械的血栓除去術による血管内再灌流を達成した患者において、アルテプラーゼ動脈内投与は90日時点で優れたアウトカムを示す可能性が高いことを、中国・中山大学のXinguang Yang氏らPEARL Investigatorsが無作為化試験の結果で示した。アルテプラーゼ動脈内投与群では、全死因死亡率および頭蓋内出血の発現率が高かったが、統計学的有意差は認められなかった。主幹動脈閉塞を伴う急性期虚血性脳卒中を呈し、血栓除去術を受けた患者における機能的アウトカムは、依然として最適とはいえず、血栓除去術後のアルテプラーゼ動脈内投与の有益性は不明のままであった。JAMA誌オンライン版2025年10月13日号掲載の報告。中国の28病院で無作為化試験、アルテプラーゼ動脈内投与vs.標準治療 研究グループは、前方循環の主幹動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中を呈し、発症後24時間以内に血栓除去術を受け、再灌流を達成した患者(expanded Thrombolysis in Cerebral Infarction[eTICI]スケールスコア≧2b50)を対象に、多施設共同無作為化試験を行った。 試験は2023年8月1日~2024年10月16日に中国の28病院で行われた。被験者は、アルテプラーゼ動脈内投与(0.225mg/kg、最大用量20mg)群または標準治療群に無作為に割り付けられ追跡評価を受けた。最終フォローアップは2025年1月7日。 主要アウトカムは、90日時点の修正Rankinスケールスコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡]、0または1が最良のアウトカムを示す)が0または1の患者の割合であった。安全性アウトカムは、無作為化後36時間以内に発現した症候性頭蓋内出血、90日以内の全死因死亡率および36時間以内のあらゆる頭蓋内出血などであった。90日時点の修正Rankinスケールスコア0/1達成割合で有意差 324例がアルテプラーゼ動脈内投与群(164例)または標準治療群(160例)に無作為化された(年齢中央値68歳[四分位範囲:58~75]、女性99例[30.6%])。各群1例がフォローアップを受けなかった。 90日時点で修正Rankinスケールスコアが0または1の患者の割合は、アルテプラーゼ動脈内投与群44.8%(73/163例)、標準治療群30.2%(48/159例)であった(補正後リスク比[RR]:1.45、95%信頼区間[CI]:1.08~1.96、p=0.01)。 36時間以内に症候性頭蓋内出血が発現した患者の割合は、アルテプラーゼ動脈内投与群4.3%(7/164例)、標準治療群5.0%(8/160例)であった(補正後RR:0.85、95%CI:0.43~1.69、p=0.67)。90日以内の全死因死亡率は、それぞれ17.1%(28/164例)と11.3%(18/160例)であり(1.60、0.88~2.89、p=0.12)、36時間以内のあらゆる頭蓋内出血は32.9%(54/164例)と26.9%(43/160例)だった(1.22、0.92~1.63、p=0.17)。

4.

血栓溶解療法は脳梗塞発症後4.5~24時間経過した患者に有効か?(解説:内山真一郎氏)

 HOPE試験は、救命しうる脳組織があり血栓回収療法を予定していない、発症後4.5~24時間経過した脳梗塞患者にアルテプラーゼの静注療法が有効かどうかを検討した、中国で行われたPROBEデザインの無作為化比較試験である。372例が無作為割り付けされたが、アルテプラーゼ投与群では標準的内科治療群と比べて、36時間以内の症候性頭蓋内出血は多かったものの、3ヵ月後の自立可能例が有意に多かった。この結果は、このような条件を満たす患者では、発症後24時間までアルテプラーゼが適応となりうることを示唆している。 これまでに行われた臨床試験では、発症後24時間までのアルテプラーゼ静注療法の効果は大血管閉塞例に限定されている一方、中等大以遠の血管では血栓回収療法の効果がないことが示されており、アルテプラーゼ静注療法がこれらの穴を埋める治療法になることが期待される。ただし、海外では血栓溶解療法はアルテプラーゼからtenecteplaseに切り替えられつつあり、日本でもtenecteplaseの導入に向けてT-FLAVOR試験が進行中であり、今後はtenecteplaseでも同様なエビデンスの構築が求められるであろう。

5.

下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

6.

国内WATCHMANの左心耳閉鎖術の現状(J-LAAO)/日本心臓病学会

 2019年9月より経皮的左心耳閉鎖デバイスWATCHMANが保険適用となり、それと同時に本邦の患者を対象としたJ-LAAOレジストリがスタートした。それから6年が経ち、これまでに7,690例が登録されてきた。その間にデバイスも進化を遂げ、今では3代目となるWATCHMAN FLX Proが主流となり、初期と比べより安全に左心耳閉鎖が実施できるようになってきている。第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)のシンポジウム「循環器内科が考える塞栓症予防-左心耳閉鎖、PFO閉鎖、抗凝固療法-」では、草野 研吾氏(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部長)が「我が国の左心耳閉鎖術の現状-J-LAAOレジストリからの報告-」と題し、2025年3月までに登録された日本人におけるWATCHMAN最新モデルを含めた安全性・有効性を報告した。 J-LAAOレジストリは、全7学会(日本循環器学会、日本心エコー図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本脳卒中学会、日本不整脈心電学会)共同の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象とした経皮的左心耳閉鎖システムによる塞栓予防の有効性・安全性を調査した多施設レジストリ研究である。今回、脳梗塞スコア(CHADS2またはCHA2DS2-VASc)に基づく脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高い患者、抗凝固療法が推奨される患者で、とくに出血リスクスコア(HAS-BLED)が3点以上の出血リスクが高い患者を選択基準とし、本レジストリ登録者のうち7,036例の急性期の手技情報、有害事象、術後の抗凝固療法などが解析された。留置後の薬物療法としては、海外試験のレジメンにならい、留置~45日はワルファリン+アスピリン、45日~6ヵ月は抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、その後はアスピリン単剤療法を推奨している。 主な結果は以下のとおり。 ※いずれの結果も各デバイスでフォローアップ期間が異なる点には注意・平均年齢は78.0歳(FLX Pro群:79.0歳)であった。・各スコアの中央値は、CHADS2が3点、CHA2DS2-VAScが5点、HAS-BLEDが3点であった。・アブレーション治療歴は約1/3にみられ、心房細動の種類としては発作性が2,780例(39.5%)、持続性が4,252例(60.4%)であった。・モヤモヤエコー(smoke like echo)は1,971例(28.0%)にみられた。・最終留置デバイスモデルは約11.3%で40mm、全体の2/3で31mmを超えるデバイスが選択されていた。・手術情報について、手術成功例は97.9%、手術時間は平均52.0分(G2.5:60.0分、FLX:51.0分、FLX Pro:47.0分)で、透視時間も短縮傾向、造影剤投与量も減少傾向であった。・心嚢液リスクはデバイスの形状変化に伴い減少し、G2.5は23例(3.1%)、FLXは40例(0.9%)、FLX Proは9例(0.6%)で認められた。・術45日後の左心耳有効閉鎖率(complete sealもしくは残留血流の最大幅が5mm以下の症例)はG2.5で99.7%、FLXで98.3%、FLX Proで98.3%に認められた。・術45日後の残留血液はG2.5で27%、FLXで13%、FLX Proで9.4%に認められた。・有害事象について、術直後のデバイスごとの心タンポナーデと心嚢液貯留の発生率(G2.5、FLX、FLX Proの順)は、心タンポナーデで0.7%vs.0.2vs.0.1%、心嚢液貯留で1.7%vs.1.0%vs.1.1%であった。・このほかの有害事象は、以下のような結果であった。◯デバイス血栓3.2%(G2.5:36例[4.8%]、FLX:170例[3.7%]、FLX Pro:19例[1.3%])◯うっ血性心不全4.5%(73例[9.7%]、226例[4.9%]、21例[1.4%])◯脳卒中2.5%(36例[4.8%]、131例[2.8%]、11例[0.7%])・死亡者数は全体で415例(5.8%)、G2.5では92例(12.2%)、FLXでは298例(6.5%)、FLX Proでは25例(1.7%)であった。・デバイス移動は全11例(0.16%)、機器の外科的摘出は全9例(0.13%)、経皮的デバイス抜去は全3例(0.04%)であった。 本結果について草野氏は「患者背景をみると、日本人は米国人と比べて発作性心房細動症例の割合が少なく、左心耳入口部が比較的大きい。その点が選択デバイスの大きさに反映されていた。残留血液量も減少傾向にあり、心タンポナーデの発生率の少なさからも安全に手技が行われていたことがうかがえる」とコメントした。外科的摘出の原因として、デバイス血栓・脱落、左房血栓などがみられた点については、「1年以上経過後に発生していることに留意が必要」とし、加えて「FLXでは手術当日にデバイス血栓を生じている症例が複数例あった。一方で、留置後2年後にも生じているケースも散見される。デバイス血栓を発症した患者はシリアスな病態には至っていないものの、これらの結果を踏まえて継続的なフォローアップを行ってほしい」と強調した。なお、いずれの結果を見るうえで、FLX Proは発売からフォローアップまでの期間が短いことには注意が必要である。国内ガイドラインでの推奨は… 日本での左心耳閉鎖術に関する推奨は、『2021年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈非薬物治療』1)において、「NVAFに対する血栓塞栓症の予防が必要とされ、かつ長期的な抗凝固療法の代替が検討される症例に左心耳閉鎖術を考慮してもよい(推奨クラスIIB、エビデンスレベルB)」となっていた。しかし、2024年にフォーカスアップデート版として公開された『2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療』では、症例数の乏しさから左心耳閉鎖術に関する項目に変更は示されず“長期的な抗凝固療法が必要ではあるが、出血リスクが高く抗凝固療法が適切ではない患者においては、左心耳閉鎖デバイスを用いた経皮的左心耳閉鎖術や胸腔鏡下左心耳閉鎖術を症例に応じて考慮してもよい”(p.59)にとどまっている。これについて草野氏は「J-LAAOを経年的に見ても、植込み対象での出血2次予防の割合が減少し、塞栓予防目的の植込みが増加している。今後は海外ガイドラインに準じて、脳梗塞高リスク例への広がりが期待される」と述べた。 最後に国内の状況について、同氏は「米国と日本では左心耳閉鎖術の実施件数に10倍もの差があり、欧米に比べると国内での実施件数は少ない。またレジストリでは、少数ながら脱落が外科手術に至った例があり、安全を心がけた植込み術も重要である」と締めくくった。

7.

アスピリンでも安易な追加は良くない:抗凝固薬服用中の慢性冠動脈疾患の場合(解説:後藤信哉氏)

 慢性冠動脈疾患一般は、アスピリンによる心血管イベントリスクの低減が期待できる患者集団である。しかし、慢性冠動脈疾患でもさまざまな理由により抗凝固療法を受ける症例がいる。抗凝固薬の使用により出血イベントリスクが増加したところにアスピリンを追加すると、出血イベントリスクがさらに増加すると想定される。本研究では、抗凝固薬を服用している慢性冠動脈疾患を対象としてアスピリンとプラセボのランダム化比較試験を施行した。 慢性冠動脈疾患一般ではアスピリンによる心血管死亡リスクの低減が期待される。しかし、抗凝固薬を服用している慢性冠動脈疾患にアスピリンを追加すると、心血管死亡、心筋梗塞、脳梗塞、全身塞栓症、冠動脈再灌流療法、下肢虚血などは増加した。重篤な出血イベントリスクと出血死亡率も増加している。慢性冠動脈疾患でも抗凝固薬を服用している症例には安易にアスピリンを追加すべきでないことを示唆する結果であった。 心筋梗塞などの心血管イベントは血栓イベントなので抗血栓薬を使うべきとの方向性から、抗凝固薬などを使用している出血リスクの高い症例では安易な抗血栓薬の追加は避ける方向に世の中が動いている。

8.

歯肉炎の改善に亜鉛が影響?

 歯周病は心血管疾患や糖尿病、脳梗塞などの疾患リスクに影響を及ぼすことが示唆されている1,2)。今回、トルコ・Cukurova UniversityのBahar Alkaya氏らは、歯周病の初期段階とされる歯肉炎の管理において、歯科用の亜鉛含有ステント(マウスピース型器具)が機械的プラークコントロールの補助として有益であることを示唆し、歯肉炎が亜鉛によって改善したことを明らかにした。 本研究は、歯肉炎患者での歯肉の炎症、出血、歯垢の再増殖に対する亜鉛含有ステントの効果を調査したもの。Cukurova Universityにおいて、全身的に健康な18~30歳の歯肉炎患者42例を対象に、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。参加者は試験群(亜鉛含有ステント)または対照群(プラセボステント)に割り付けられ、歯石除去後4週間、毎日12時間以上にわたって器具を装着するよう指示された。評価項目は歯肉炎指数(GI)*1、プラーク指数(PI)*2、プロービング時の出血(BOP)*3などで、ベースライン時、2週目、4週目、8週目に評価が行われた。統計解析にはIBM SPSSおよびRStudioの統計ソフトウェアが用いられた。*1:歯肉の炎症度を数値化した指標*2:歯の表面へのプラーク付着状態を数値化した指標*3:探針による歯周ポケットの深さを測定した指標(歯茎からの出血の有無を調べる) 主な結果は以下のとおり。・両群とも、時間の経過とともに歯肉の健康状態が統計学的に有意に改善したが、亜鉛含有ステント群はすべての時点でGIスコアが統計学的に有意に低下し、歯肉の炎症がより大きく軽減された。・PIスコアとBOPスコアは両群で改善したが、両群間に統計学的有意差は認められなかった。 亜鉛による抗菌作用および抗炎症作用は、歯肉の健康改善に寄与する可能性が高いといわれており、本研究結果は亜鉛含有ステントが機械的プラーク除去単独実施に加えて、歯肉炎の軽減にさらなる効果をもたらすことを示唆している。ただし、研究者らは「より広範な臨床応用を確認するためにさらなる長期研究が必要」としている。

9.

心筋梗塞後にβ遮断薬は今日でも標準治療薬か?正反対の結論を導いた2つのトライアル(解説:桑島巌氏)

 10年ほど前までは、β遮断薬は心筋梗塞発症後の再発予防と生命予後改善薬の標準治療薬の代表格として位置付けられており、その処方が行われていない場合には、その医療機関や担当医師がEvidence Based-Medicineを順守していないとみなされていた時代が長く続いた。しかし近年、急性心筋梗塞後の治療は、PCIによる血行再建術が普及し、アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬処方が必須となり、また高脂血症治療薬による厳格なコレステロール管理がなされるようになるなど、その状況は大きく変わった。 そのような時代の変遷の中で、β遮断薬は心筋梗塞後に必須の治療薬として残存しているのか。その問題に関しては、REDUCE-AMI試験(スウェーデン)では不要、ABYSS試験(フランス)では中止すべきではない、と異なった結論の臨床試験結果が発表されている。今回もまったく正反対の2つの大規模臨床試験結果が、NEJM誌8月30日号に並んで発表された。その2つの試験について対比させながら、コメントを試みる。 スペインとイタリアという南欧を代表する国から発表されたREBOOT-CNIC試験は、左室EFが40%以上の急性心筋梗塞8,438例をβ遮断薬を使用する群と使用しない群にランダム化して、3.7年追跡したオープン臨床試験である。主要エンドポイントである総死亡、心筋梗塞再発、心不全入院の発生率は、β遮断薬使用群22.5件(1,000 patient-years)、非使用群21.7件で、ハザード比(HR)は1.04(95%信頼区間[CI]:0.89~1.22)と両群に有意差は認められなかった。注目すべきは、両群共に対象者の約82%が完全血行再建を受けているということである。 一方、β遮断薬は今でも有効であるという結論を示したノルウェーのBETAMI-DANBLOCK試験を見てみよう。 本試験も、EF40%以上の心筋梗塞5,574例をβ遮断薬使用群と非使用群にランダム化してオープンラベルで3.5年追跡した試験である。 結果は、主要エンドポイントである総死亡、心筋梗塞再発、血行再建、脳梗塞、心不全、致死的心室性期外収縮の総合は、β遮断薬使用群14.2%、非使用群16.3%で、HRが0.85(95%CI:0.75~0.98、p=0.03)であり、β遮断薬使用群で有意に少なかったという結論であった。本試験でも両群共に約92%がPCIによる血行再建術を受けており、抗血小板薬も両群の約90%が処方されていた。 そこで両試験の結果をまとめてみたのが以下の表である。  以上をまとめると、心機能低下例では有効の可能性はあるがが、心不全のない例では血行再建が完全、かつ、脂質や血圧管理などが良好であれば必要はないかもしれない。しかし、すでにβ遮断薬を継続している症例では中止すべきではないであろう。

10.

脳梗塞への抗血小板薬【日常診療アップグレード】第39回

脳梗塞への抗血小板薬問題62歳の男性が3ヵ月前に脳梗塞の診断を受けた。後遺症として左上下肢の麻痺がある。既往歴は高血圧、脂質異常症、末梢動脈疾患である。内服薬はアムロジピン、アスピリン、アトルバスタチンである。バイタルサインは正常。左上下肢に軽度の筋力低下がある。頸動脈エコーと心電図は正常である。クロピドグレルを追加した。

11.

慢性冠動脈疾患の抗血小板薬はアスピリン、クロピドグレル?(解説:後藤信哉氏)

 急性心筋梗塞ではアスピリンは死亡率低減効果を示した。慢性期の使用でも心血管死亡・心筋梗塞・脳梗塞発症予防効果が示され標準治療となっていた。クロピドグレルは冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患ではアスピリンに勝る優越性と安全性をCAPRIE試験で示した。冠動脈疾患のみに限局しても、アスピリンよりも有効で安全かもしれないとの仮説はあった。 特許切れして特定メーカーの宣伝がなくなっても、クロピドグレルの使用は拡大した。臨床研究も多数施行されていた。本研究では、慢性冠動脈疾患にてアスピリンとクロピドグレルを比較した7つの試験のメタ解析をした。MACCEは0.86(95%信頼区間:0.77~0.96、p=0.0082)とクロピドグレル群で低く、死亡と重篤な出血では差がなかった。有効性が優れ、安全性に差がなく、価格も安いとなればクロピドグレルの使用が広がることに誰も困らない。 新薬の開発がチャレンジングなのは理解できる。しかし、特許期間を超えて、著しい宣伝がなくなって真の意味での新薬の価値が明確になる時期が遅すぎる。アスピリン、クロピドグレルなど優れた薬の開発者を後になって懸賞する仕組みなども必要かもしれない。

12.

心房細動と動脈硬化、MRIで異なる脳血管病変示す/ESC2025

 心房細動(AF)とアテローム性動脈硬化症(以下、動脈硬化)は、一般集団と比較して脳血管病変の発生率を高める。今回、AF患者は動脈硬化患者と比較して、非ラクナ型脳梗塞、多発脳梗塞、重度の脳室周囲白質病変の発生頻度が高いことが明らかになった。本研究結果はカナダ・マクマスター大学のTina Stegmann氏らが8月29日~9月1日にスペイン・マドリードで開催されたEuropean Society of Cardiology 2025(ESC2025、欧州心臓病学会)の心房細動のセッションで発表し、European Heart Journal誌オンライン版2025年8月29日号に同時掲載された。 本研究は、AF患者と動脈硬化患者の脳MRIによる血管性脳病変の有病率と分布を比較するため、スイスの心房細動コホート研究(Swiss-AF、AF患者を対象)とCOMPASS MIND研究(COMPASS MRIサブ解析、AFのない動脈硬化患者を対象)を実施。ベースライン時点の臨床データと標準化された脳MRIを使用して、ラクナ梗塞と非ラクナ型脳梗塞、脳室周囲および白質高信号(WMH)、微小出血(CMB)の発生率をグループ間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・調査対象は3,508例(AF群:1,748例、動脈硬化群:1,760例)であった。・平均年齢±SDはAF群73±8歳、動脈硬化群71±6歳、女性比率はそれぞれ28%と23%であった。・AF群の90%は抗凝固療法が行われ、動脈硬化群の93%は抗血小板療法が行われていた。・AF群は動脈硬化群と比較し、非ラクナ型脳梗塞の発生率が高く(22%vs.10%、p<0.001)、一方で動脈硬化群ではラクナ梗塞の発生率が高かった(21%vs.26%、p=0.001)。・AF患者では脳室周囲白質病変の重症度が高く(49%vs.37%、p<0.001)、CMBは、動脈硬化群でより多く認められた(22%vs.29%、p<0.001)。・多変量解析では、AF群は動脈硬化群と比較して、非ラクナ型脳梗塞のオッズ比(OR)が高く(OR:2.28、95%信頼区間[CI]:1.86~2.81、p<0.001)、ラクナ梗塞では低かった(OR:0.66、95%CI:0.56~0.79、p<0.001)。また、重度の脳室周囲白質病変はOR1.42と高かった(95%CI:1.22~1.67、p<0.001)。 研究者らは「これらの知見は、心血管疾患患者での血管性脳病変の発症における疾患特異的なメカニズムを裏付けている」としている。

13.

経管投与時の投与負担軽減のため、バイアスピリンからダイアルミネート製剤への変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第67回

 在宅医療では、薬学的な有効性・安全性に加えて、実際の投与場面での実用性も重要な要素です。とくに、同等の効果を有する製剤間で投与負担の違いがある場合、患者・介護者の負担軽減を考慮した製剤選択が求められます。しかし、このような製剤特性の違いを理解し、個々の患者さんの状況に応じて最適な選択を行うためには、薬剤師の専門的な判断が不可欠です。患者情報89歳、女性、要介護4基礎疾患脳梗塞、アルツハイマー型認知症、高血圧症服薬管理娘による管理、経管栄養(胃瘻)にて投与月1回の往診あり処方内容(簡易懸濁法での投与)1.バイアスピリン錠100mg 1錠 朝食後2.タケキャブOD錠10mg 1錠 朝食後3.ビオフェルミン配合散 3g 朝昼夕食後4.アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後5.フロセミド20mg 1錠 朝食後6.アジルサルタン錠20mg 1錠 朝食後7.塩化ナトリウム 3g 朝昼夕食後8.ラコールNF配合経腸用半固形剤 900g 毎食後(300-300-300)症例のポイントこの患者さんは、同居の娘さんが主に簡易懸濁法を実施していました。ある日、「懸濁時に熱湯を使用すると懸濁時に薬剤がスムーズに流れないため、錠剤をすべて潰して投与している」と相談をいただきました。粉砕した薬剤は保管時の安定性や取り出しにくさの問題もあり、介護者にとって大きな負担となります。さらに、ICTの情報連携において、下記の要望が寄せられていました。医師「簡易懸濁できるかどうか判断がつかない。処方箋にはどのように入力したらよい?」訪問看護師「懸濁時にお湯でドロドロになることがあるが、何か適さない薬はある? チューブ径の問題? 娘さんも不安そう」ケアマネジャー「同居の娘さんが懸濁は大変、と漏らしている。もっとよい方法があれば娘さんも助かると思う」薬学的な観点から分析すると、まず、熱湯投与していたというビオフェルミン配合散は、お湯で崩壊・懸濁するとチューブ閉塞の要因となる可能性があります(第31回参照)。さらに、バイアスピリン錠は腸溶性製剤であり、簡易懸濁法には不適切な製剤でした。腸溶性コーティングのため崩壊前に亀裂を入れる必要があり、フィルム残渣が残存して完全な懸濁が困難です。崩壊に時間がかかることで投与作業が煩雑になり、粉を取り出しにくいという物理的な問題も介護者の負担を増大させていました。そこで、バイアスピリン錠100mgからバファリン配合錠A81へ変更することで、単に剤形変更ではなく、患者さんの服薬環境を根本的に改善することができると考えました。バファリン配合錠はダイアルミネート製剤であり、亀裂を入れる必要がなく、残渣も残りません。胃酸による刺激を緩和しつつ簡易懸濁法にも適応するため、経管投与患者にとって理想的な選択肢です。画像を拡大する医師への相談と経過バイアスピリンの簡易懸濁法での技術的課題に加え、ビオフェルミン配合散の澱粉による懸濁困難も合わせて説明するため、訪問診療への同行の機会を活用して、医師へ情報共有を行いました。まずは「ドロドロになってしまう薬」の正体が澱粉であることを明確にし、製剤選択による根本的解決の必要性を説明しました。また、バイアスピリンとバファリン配合錠の簡易懸濁法の違いを具体的に説明し、投与負担軽減による服薬コンプライアンス向上への期待について提案することで、医師の理解を得ることができました。その結果、提案のとおりバファリン配合錠A81および酪酸菌製剤への変更が決定されました。処方箋備考欄には「簡易懸濁法で投与」と明記され、家族や看護師に変更内容と投与方法の詳細な説明を実施しました。本症例でとくに重要であったのは、医師、薬剤師、看護師、ケアマネジャーという多職種の連携により、各々の専門性を活かした包括的な問題解決が実現できたことです。各職種の強みが統合されることで、患者・介護者のQOL向上につながる実践的な解決策が見出されました。経管投薬支援料の算定が可能にこの一連の経管投与に関する薬学的管理指導により、経管投薬支援料の算定が可能になりました。経管投薬支援料は、経管投与患者に対する薬剤師の専門的関与を評価する診療報酬項目であり、適切な簡易懸濁法の指導や製剤変更提案などの薬学的管理が算定要件となります。経管投薬支援料の算定は、体系的で継続的な薬学的関与が評価される仕組みです。単発の処方変更提案ではなく、問題の発見から解決、そして効果の検証まで一貫した薬学的管理を提供することで、診療報酬の適正算定と患者利益の向上を両立させることが可能になると実感した症例でした。バファリン配合錠A81販売中止への対応このようにうまくいった処方提案でしたが、バファリン配合錠A81は2025年7月頃に販売が中止されました(経過措置期間は2026年3月末日まで)。この歴史ある製剤の販売終了は、経管投与患者にとって大きな影響を与えます。メーカーは代替候補としてバイアスピリン100mgを案内していますが、本症例のように腸溶性製剤からの変更を目的とした場合には、同じダイアルミネート製剤を選択する必要があります。そこで代替品としては、同じくダイアルミネート製剤である他の後発医薬品(ニトギス配合錠A81、バッサミン配合錠A81、ファモター配合錠A81など)が候補となります。これらの製剤も同様に簡易懸濁法に適応するため、バファリン配合錠で得られた投与負担軽減効果を維持することが可能です。1)藤島一郎監修, 倉田なおみ編集. 内服薬 経管投与ハンドブック〜簡易懸濁法可能医薬品一覧〜 第4版. じほう;2020.2)バファリン配合錠添付文書情報3)バファリン配合錠販売中止情報

14.

入浴関連死、最もリスクの高い都道府県は?

 日本人は頻繁に入浴する習慣があるため、とくに高齢者では世界で最も溺死率が高い。入浴関連死の予防は公衆衛生上の喫緊の課題となっている。奈良県立医科大学の田井 義彬氏らは、1995~2020年の日本全国の入浴関連溺死約11万例について調査した。その結果、屋外の低気温が入浴関連死のリスクを高めるだけでなく、そのリスクが温暖な鹿児島県でとくに顕著であることが示された。本研究は、Environmental Health and Preventive Medicine誌2025年号に掲載された。 本研究では、日本の1995~2020年における浴槽内での偶発的な溺死および溺水に関する死亡診断書データ(ICD-10コードW65)を収集し、気象庁の気温データと照合した。日平均気温と入浴関連死リスクの関連性を調べるために、一般化加法混合モデル(GAMM)を用いて解析した。気温の変化に伴うリスクの変動を捉えるため、リスクが最も高い日と最も低い日の比率をピーク相対リスク(RR)と定義し、これを算出した。 主な結果は以下のとおり。・全国で11万938例の入浴関連死が確認された。90.0%が住居、6.2%が商業・サービス施設であった。・入浴関連死のリスクは、日平均気温が1.8℃で最も高くなった。日平均気温30.3℃の最低リスク時と比較して、RRは9.7(95%信頼区間[CI]:9.5~9.9)であった。・とくに男性や65歳以上の高齢者で、死亡リスクが高い傾向が認められた。日平均気温が極端な低温時や高温時よりも、中間の気温範囲でリスクが高くなることが認められた。・都道府県別にみると、鹿児島県で最もリスクが高く、ピークRRは19.6(95%CI:16.2~23.6)であった。一方、北海道が最低で、ピークRRは3.8(95%CI:3.4~4.3)であった。九州や四国など、冬場に温暖な地域のほうが、北海道や東北、北陸などの寒い地域よりも、概してリスクが高かった。この理由として、温暖な地域の住宅は断熱性が低く、冬場の屋内気温が低いことが原因である可能性が指摘された。・都道府県別では、住宅断熱性の指標である複層ガラス窓の普及率が高いほど、ピークRRの低下と有意に関連していた。また、単身世帯の高齢者の割合が高いことも、高リスクと関連していた。 本研究により、入浴関連死には、気温だけでなく、地域ごとの住宅環境や社会的要因が関連していることが示された。著者らは、温暖な地域に住む高リスク者が寒さのリスクを軽視しがちであることから、予防の意識を高めることや、住宅の断熱性など冬季の居住環境の見直しを促すことが予防につながる可能性を示唆している。

15.

脳梗塞発症後4.5~24時間、アルテプラーゼ静注vs.標準薬物治療/JAMA

 虚血性脳卒中発症後4.5時間以降における静脈内血栓溶解療法の安全性と有効性については、いまだ十分な検討は行われていない。中国・Second Affiliated Hospital of Zhejiang University, School of MedicineのYing Zhou氏らHOPE investigatorsは無作為化試験において、灌流画像で救済可能組織が確認され、血栓除去術が当初予定されなかった急性虚血性脳卒中患者では、発症後4.5~24時間以内のアルテプラーゼ静脈内投与は、症候性頭蓋内出血は増加したが機能的アウトカムのベネフィットが得られたことを示した。JAMA誌オンライン版2025年8月7日号掲載の報告。無作為化試験で、90日時点の機能的自立を評価 研究グループは、中国の26ヵ所の脳卒中センターで無作為化非盲検エンドポイント盲検化試験を行った。2021年6月21日~2024年6月30日に、主幹動脈閉塞を問わず灌流画像で救済可能組織が確認された虚血性脳卒中を呈した患者372例を登録した。脳卒中発症(発症が不明の場合は、最終健常確認と症状確認の中間時点)が受診前4.5~24時間であり、血栓除去術が当初予定されなかった患者を適格とした。 被験者は、最小化アルゴリズムを用いて1対1の割合で、アルテプラーゼ静注(0.9mg/kg、最大用量90mg)を受ける群(186例)または標準的な薬物治療を受ける(対照)群(186例)に割り付けられた。 主要有効性アウトカムは機能的自立で、90日時点の修正Rankinスケールスコア0~1と定義した。安全性アウトカムは、36時間以内の症候性頭蓋内出血、90日以内の全死因死亡などとした。 データ解析は2024年12月~2025年2月に行われた。機能的自立40%vs.26%、症候性頭蓋内出血3.8%vs.0.5% 登録された372例は、年齢中央値72歳(四分位範囲:64~80)、女性が160例(43%)であり、全例が試験を完了した。 主要アウトカムの機能的自立は、アルテプラーゼ群75/186例(40%)、対照群49/186例(26%)で報告された(補正後リスク比:1.52[95%信頼区間[CI]:1.14~2.02]、p=0.004、補正前リスク群間差:13.98%[95%CI:4.50~23.45])。 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、アルテプラーゼ群(7/185例、3.8%)が対照群(1/182例、0.5%)と比べて高率であった(補正後リスク比:7.34[95%CI:1.54~34.84]、p=0.01、補正前リスク群間差:3.23%[0.28~6.19])。 90日以内の全死因死亡は、アルテプラーゼ群(20例、10.8%)が対照群(20例、10.8%)と同等であった(補正後リスク比:0.91[95%CI:0.52~1.62]、p=0.76、補正前リスク群間差:0%[-6.30~6.30])。

16.

第275回 医療系議員の得票数減少、国民に職能が届いていない可能性

INDEX政治史に名を刻んだある政治家の言葉と今の自民党参院選2025、医療系候補者の結果当落の分かれ目医療系組織候補の生きる道政治史に名を刻んだある政治家の言葉と今の自民党「戸別訪問は3万軒、辻説法は5万回、雨の日も風の日もやれ。聴衆の数で手抜きはするな。流した汗と、ふりしぼった知恵だけの結果しか出ない。選挙に僥倖(思いがけない幸運)などあるものか」上記は元首相だった故・田中 角栄氏の言葉である。中選挙区時代の新潟3区で戦後初の衆議院選挙(以下、衆院選)から16回連続当選、うち13回はトップ当選という田中氏の実績からすれば頷けるものがある。しかも、1976年にはロッキード事件が発覚し、田中氏本人は総理経験者ながらも逮捕される異例の事態に陥りながら、同年の衆院選も含め、政界引退までの5回の衆院選も連続トップ当選している。最後の選挙となった1986年衆院選時は、前年に脳梗塞を発症し、自身の後援会「越山会」の関係者だけが選挙戦を戦い抜き勝利した。まさに圧巻というほかない。とはいえ、ここまでの王国を築けるのは政治家の中でも一握りだ。多くの政治家は“風”の影響を受ける。先月、投開票が行われた参院選も同様だ。すでに多くの方がご存じの通り、与党・自民党は歴史的惨敗を喫した。自民党が衆参両院で少数与党になったのは1955年の結党以来初のことである。参院選2025、医療系候補者の結果今回の選挙で自民党では比例代表に医療・介護系候補7名が出馬していたが、各人がどのような結果になったかを改めておさらいしておきたい。結果は以下の通りだ。釜萢 敏氏(日本医師連盟):17万4,434票(当選)石田 昌宏氏(日本看護連盟):15万2,649票(当選)本田 顕子氏(日本薬剤師連盟):15万2,518票(当選)比嘉 奈津美氏(日本歯科医師連盟):10万1,975票(落選)田中 昌史氏(日本理学療法士連盟):8万8,432票(落選)斉藤 正行氏(全国介護事業者連盟):5万2,988票(落選)畦元 将吾氏(日本診療放射線技師連盟):1万9,540票(落選)今回の選挙は裏金問題以降の自民逆風が続き、序盤情勢での自民党比例代表の獲得議席は12~15議席と予想され、しかも終盤までにさらに情勢が悪化したため、12議席獲得も厳しいと囁かれた。巷の選挙雀らからは「比例の当選ラインは20万票」との声も出たほどだ。最終的には序盤情勢予想の最低ライン、かつ自民党の比例代表獲得議席数として史上最低タイの12議席で、12議席目(特定枠も含む)に滑り込んだ鈴木 宗男氏の得票が13万2,633票だった。過去の同党の参院比例の最低当選得票数だけで見れば、3年前の2022年参院選が11万8,710票、6年前の2019年参院選が13万1,727票であり、思ったほど当選ラインは上がっていないように見える。しかし、同党の比例代表の得票数は3年前と比較して500万票以上減少し、獲得議席数は2019年参院選の19議席、2022年参院選の18議席から大きく減らすことになった。今回、私は約20年ぶりに国政選挙そのものの取材をする羽目になり、関係各方面を駆けずり回った。選挙前に各方面から漏れ伝わってきた情勢では、医療・介護系候補は日本医師連盟の釜萢氏以外はかなり厳しいと言われていた。とくに日本看護連盟の石田氏、日本薬剤師連盟の本田氏は当落線上の下位、つまり当選が相当危ぶまれていた。しかし、蓋を開けてみれば医療・介護系候補は前述のような3勝4敗で、ほぼ過去の選挙結果と同様だった。当落の分かれ目この背景に何があったのか? あくまで推測しかできないが、ほぼ同じ顔ぶれが比例候補だった6年前の2019年参院選の結果と比べると、ぼんやりながらも一定の推測はできる。まず、6年前と同一の候補者の中で、当時は得票数で第5位だった和田 政宗氏(参議院内閣委員長)と第6位だった佐藤 正久氏(同党幹事長代理)が今回は落選した。しかも、和田氏は前回から20万票以上、佐藤氏も10万票以上を減らしての落選。両氏ともこの間に目立った不祥事もなく、通常ならばこれほどの得票減はあり得ない。ただ、この2人には共通することがある。政策・主張では▽憲法改正に賛成▽第二次世界大戦に関する村山談話・河野談話は見直すべき▽選択的夫婦別姓制度導入・同性婚法制化に反対、などいわばタカ派である。また、密接な関係がある支持組織がない点も共通している。ここから推察するに、おそらく今回の選挙最大のムーブメントとも言えるタカ派色の強い参政党の躍進により、彼ら自民党のタカ派政策支持者の票が参政党に流れたのだろう。結果として医療・介護系組織内候補でも支持基盤に歴史があり、空気に流されにくい基礎票を持つ候補が当選圏内に浮上したと考えられる。ただ、この「強さ」は同時に「弱さ」の裏返しになる懸念も含んでいる。まず、釜萢氏の場合、医療だけでなく介護・福祉分野の労働者にとっても「生活がかかった選挙」との訴えを前面に出すことで介護・福祉関係の票を取り込み、これまでの医療系組織内候補が獲得したことがない高得票を目指すとしていた。また、薬剤師連盟の本田氏に関しても、連盟側は20万票獲得を目標に掲げた。しかし、いずれもその目標には及ばなかった。さらに過去との比較で今回の各候補の得票を見ていきたい。医師連盟の釜萢氏は、6年前の参院選で同連盟組織内候補の羽生田 俊氏が獲得した15万2,807票を2万票以上上回る票を獲得した。しかし、当時の羽生田氏の得票はさらに6年前の2013年参院選で同氏の初当選時の得票から10万票弱も下回ったものだ。さらに今回の釜萢氏の得票数は2022年の参院選で医師連盟組織内候補・自見 英子氏の21万3,369票からも4万票弱も下回っている。自見氏の場合、2016年の初当選時の得票数も21万票強であり、この票数は医師連盟組織票+自見氏個人基礎票とみられる。これらからかなり大雑把に見積もると、現在の医師連盟基礎票は15~18万票程度なのだろう。また、看護連盟の石田氏は6年前の18万9,893票から大きく減らしての当選。3年前の2022年参院選の同連盟組織内候補・友納 理緒氏の得票が17万4,335票を考えれば、現在の同連盟基礎票も医師連盟とほぼ同程度だろう。さらに薬剤師連盟の本田氏の得票は前回より若干減少し、2022年参院選での同連盟組織内候補・神谷 政幸氏の得票12万7,172票を踏まえれば、同連盟の基礎票は12~16万票と考えられる。医療系組織候補の生きる道ただ、各連盟とも先行きは決して明るいとは言えない。若年世代では各連盟の表裏一体組織である医師会、看護協会、薬剤師会の活動には熱心でも連盟とは距離を置く層も少なくない。つまるところ今後は各連盟の高齢化による基礎票減も念頭に置かねばならない。厳しい言い方をすれば、どの組織もあくまで内輪の高齢者による盛り上がりに留まり、国民への幅広い浸透には欠けており、このままではジリ貧が目に見えているのだ。それゆえに今回とは逆に、もし自民党比例候補にタレント候補のような組織力はないものの知名度がある人物が多数登場し、ここに風が吹いた場合はそうしたタレント候補が容易に上位に浮上し、医療系組織内候補が相対的に沈下してしまう可能性は十分にある。となると組織内候補の生きる道は2つしかない。1つは組織内候補の立場を徹底し、組織そのものの裾野を広げて構成員を増やし、得票増につなげる最も古典的な手法だ。しかし、前述のように政治組織である連盟はもちろんのこと、昨今では職能団体そのものに距離を置く層も増えているため、現実的な戦略とは言えない。もう1つは組織の枠を超えた支持基盤の構築である。各組織内候補はあくまで“組織内”の候補であるがゆえに、どうしても支持基盤である職能団体中心の訴えをしがちである。「いや、国民の医療を守るためにこそ各職能が有する専門性の正しい評価が必要」との主張もあるだろう。しかし、あえて私見を言わせてもらえば「国民の医療を守る」が単なるお題目と化し、国民にはほとんど響いていないのが現状ではないだろうか? そのことは各連盟の推定基礎票からもうかがえる。秋以降は2026年度診療報酬改定と一時凍結した高額療養費問題の議論が本格化する。その場で各医療系議員とそのバックにつく職能団体がどのようなスタンスを取るか? そこが国民の幅広い支持獲得に向けた一里塚となるだろう。

17.

TAVI後の脳卒中リスクを低減する目的でのルーチンでの脳塞栓保護デバイスの使用は推奨されない(解説:加藤貴雄氏)

 BHF PROTECT-TAVI試験は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)における脳塞栓保護(CEP)デバイスの有効性を検証した英国での7,600例規模の大規模無作為化比較試験である(Kharbanda RK, et al. N Engl J Med. 2025;392:2403-2412)。CEPデバイス(Sentinel)の使用群と非使用群において、TAVI後72時間以内または退院までの脳卒中発症率に有意な差はなかった。この結果は、先行研究である北米・欧州・オーストラリアを中心に約3,000例で行われた、PROTECTED TAVR試験の結果と一致しており(Kapadia SR, et al. N Engl J Med. 2022;387:1253-1263)、TAVI後の脳卒中リスクを低減する目的でのルーチンでの使用は推奨されない結果であった。安全性に差はなかった。 本邦では「脳塞栓保護システムの適正使用に係る指針」が経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会から昨年出され、画像検査所見から、「大動脈弁の著しい石灰化又は上行弓部大動脈のアテローム病変によりTAVR時の脳塞栓症のリスクが高いと思われる患者」、または、既往歴から、「末梢血管疾患の既往・慢性腎臓病(透析含む)の既往・脳卒中の既往」があること、が適応評価に考慮されるべき項目として挙げられている。フィルターが留置される部分、すなわち左総頸動脈または腕頭動脈のいずれかに70%を超える狭窄や拡張・解離のない患者に用いることも重要である。高リスク患者に適正に用いることが重要で、高リスク患者に対象を絞った臨床試験も必要と思われる。

18.

8月10日「ハートの日」には循環器病の予防に支援を/日本心臓財団ほか

 日本心臓財団、日本循環器協会、日本循環器学会、日本AED財団の諸団体は共催で、8月10日の「健康ハートの日」を前に、都内で循環器病に関するシンポジウムを開催した。日本心臓財団が、循環器病予防と健康を呼びかける「健康ハートの日」の活動を開始し40周年の節目を迎え、「循環器病予防の40年:過去・現在・未来」をテーマに、循環器病予防活動を振り返り、将来の20年に向けた新たな展望を議論した。 シンポジウムでは、名誉総裁の高円宮妃殿下が登壇、40年の取り組みをねぎらうとともに「本日のシンポジウムの内容が今後各地域で十分に活用され、循環器病予防の取り組みがされることを心より願う」と祝辞を寄せた。 第1部では循環器病予防の過去と現在、大阪万博の自動体外式除細動器(AED)と緊急体制などが講演され、第2部のパネルディスカッションでは「次の20年の循環器予防」をテーマに活発な意見交換が行われた。AEDの活用、AIの活用と進化する循環器病予防の今 「健康ハートの日 40年の歩み」をテーマに和泉 徹氏(日本心臓財団 評議員)が、「健康ハートの日」の制定からこれまでの活動を振り返った。 健康ハートの日は、心臓病に対応するために国民の予防意識を向上させることを目的に1985年に制定された。 2003年からはAEDの啓発を開始し、特定健診も行われるようになった。また、この日を前後に全国で循環器専門医による健康相談をターミナル駅などで実施し、予防の啓発に努めている。わが国の心臓病患者の多くが傘寿者(80歳)であることから早期介入できるように循環器病対策推進基本計画の策定などの整備を目指していると説明した。 次に「循環器予防対策の半世紀」をテーマに岡村 智教氏(日本循環器病予防学会 理事長)が、生活習慣病への疾病変遷と特定健診制度の成立と現在の運営などを講演した。 過去に成人病と称していた疾病名を、1次予防として早期介入ができることを目的に生活習慣病に変更されたこと、老人保健法が制定され、全国民の健康診断制度が担保されて個別の健康教育や特定健診が始まったことを説明した。 健康増進法で定められた方針が「健康日本21」で定められ、健康寿命の延伸や健康格差の縮小を目的にさまざまな取り組みが行われている。とくに循環器病分野では、高血圧の改善に減塩への取り組みや全国のコホート研究によるアウトカムの把握などにより、危険因子対策と地域の健康格差解消の取り組みが行われていると説明した。 次に「大阪万博のAEDと緊急体制」をテーマに、石見 拓氏(日本AED財団 専務理事)が、イベントなどでのAEDの設置・使用状況などについて講演した。 わが国には約67万台のAEDが設置され、20年間で8,000人が救命されたという。イベントでのAEDの活用は、2005年に開催された「愛・地球博」からであり、約100台のAEDが設置され、5例の心停止事例が発生、うち4例でAEDが使用され、いずれも救命された。そして、今年(2025年)開催の「大阪万博」では、AEDに最短で行けるためにスマートフォン(スマホ)を用いてAEDの設置位置が把握できる仕組み「AED GO」を構築し、運用している。 課題としては、心停止の発生場所が「自宅」というケースも多く、「将来的にはウェアラブル機器などでの早期の循環器の異常把握とホームAEDの設置・活用などを今後考えなくてはいけない」と述べた。 次に「AIを用いた循環器病予防 現状と未来」をテーマに、笹野 哲郎氏(日本循環器学会 代議員)が、現在進行中、また将来のAIを用いた循環器病の予防について講演した。 とくに隠れ心房細動の患者について、その数は100万例以上と推定され、うち心臓発作時に自覚症状がない人は約40%とされ、治療を受けていないために循環器病だけでなく脳梗塞のリスクが高いと指摘した。 現在活用されているAIでは、心電図の自動診断からの有病予測や再発予測が行われている。12誘導心電図の深層学習のために全国の施設で2,700例のデータが集められ、解析が行われているという。 また、AIおよびリモートテクノロジーによる心房細動発見の地域医療プロジェクトを静岡市清水区で行い、362例の参加者から11例の隠れ心房細動の患者を見つけることができたと報告した。 ただAI予測での注意点としては、AI診断はまだ途上であり、従来からのリスク評価も重要であることを指摘した。 今後の課題としては、健診などを受けない隠れ心房細動患者をいかに発見するかであり、東京都と共同してこうした患者を見つける実証試験を、カプセルホテルなどの協力で行っていることを説明した。 最後に今後の取り組みとして、「AIによる疾病有病予測は、結果の解釈と指導までを考慮し行うことが望ましい」と講演を終えた。女性の循環器疾患を“Go red for women”で予防したい 第2部では「次の20年の循環器病予防」をテーマに、磯部 光章氏(日本心臓財団 常任理事)、木田 圭亮氏(日本循環器協会 幹事)、東條 美奈子氏(日本循環器病予防学会 理事)の3人のパネリストが、今後の循環器病予防への取り組み、「ハートの日」啓発活動の将来、“Go red for women Japan”の活動について説明した。 磯部氏は、東京都で行われている施策を中心に、医療従事者への講演・研修会の実施や調理や運動による循環器病予防事業を説明したほか、患者同士の交流会の取り組みなどを説明した。 木田氏は、「ハートの日」の啓発活動について漫画『キャプテン翼』(作・高橋 陽一氏)に登場する三杉 淳をアンバサダーにさまざまなメディアで啓発活動を展開し、全国の薬局での血圧計測活動の実施やプロサッカーチームとの協業、スポーツ選手のインタビュー動画の公開とともに多くの企業ともコラボレーションを行っていることを紹介した。 東條氏は、アメリカで行われている“Go red for women ”について説明を行った。アメリカでは、循環器病で亡くなる女性が多く、米国心臓協会(AHA)がこの活動を開始し、2月の最初の金曜日を“National Wear Red Day”と定め、女性の心臓病や脳卒中の予防・早期発見の啓発が行われているという。この活動をわが国でも行おうというものであり、日本の女性は更年期以降に循環器病が増加し、重症化しやすい傾向にあることを説明した。 今後は、早期かつ定期的な診療受診の働きかけや企業との連携などを行うと、その展望を語った。 ディスカッションでは、今後、サッカー以外のスポーツ、たとえばバスケットボールなどの競技を通じて広く啓発活動を行うことやハートの日だけでなく、年間を通じ循環器病予防の取り組みを行うこと、小児期から疾患啓発を行うことなどが議論された。 8月10日の「ハートの日」の前後には全国で循環器病予防の啓発や予防のイベントが開催されるほか、全国の名所で赤い色のライトアップが実施される。

19.

心房細動による脳塞栓症に対するDOAC開始のタイミング(解説:内山真一郎氏)

 心房細動による脳塞栓症の再発予防に直接経口抗凝固薬を開始する適切なタイミングは確立されていなかった。本研究は、脳梗塞後の開始時期が4日以内と5日以後の効果を比較した4件の無作為化比較試験(TIMING、ELAN、OPTIMAS、START)のメタ解析である。1次評価項目は、30日以内の脳梗塞再発、症候性脳内出血、または分類不能の脳卒中であった。 結果は、4日以内に開始したほうが1次評価項目の複合エンドポイントが有意に少なく、脳梗塞の再発は少なく、脳内出血は増加しなかった。日本脳卒中学会の『脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025)』でも、「非弁膜症性心房細動を伴う急性期脳梗塞患者に、出血性梗塞のリスクを考慮して発症早期(例えば発症後4日以内)から直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を投与することは妥当である(推奨度B、エビデンスレベル中)」となっており、このメタ解析により推奨度とエビデンスレベルは確実に上昇した。ちなみに、日本で行われた観察研究であるSAMURAI-AFとRELAXEDの統合解析から、DOACの開始時期はTIA、軽症、中等症、重症別に「1-2-3-4 day rule」が提唱されている。

20.

小児期ビタミンD不足で、将来のCVDリスク増

 ビタミンD不足は心血管イベントと関連するという既報があるが、小児期におけるビタミンD値低下も成人後のアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスク増と関連している可能性があることが、新たな研究で示唆された。フィンランド・トゥルク大学のJussi Niemela氏らによる研究はEuropean Journal of Preventive Cardiology誌オンライン版2025年4月29日号に掲載された。 研究者らは、「若年フィンランド人における心血管リスクの前向き研究」(Young Finns study)の参加者を対象に、25-OHビタミンD濃度と従来の小児期のリスク因子(BMI、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、収縮期血圧、果物・野菜・魚の摂取量、身体活動、社会経済的地位、喫煙歴)を調査し、フィンランド国民全員をカバーする全国登録データベースを用いてASCVDアウトカムを追跡調査した。これらのデータから小児期のビタミンDレベルと成人発症のASCVDイベントとの関係を評価した。 主な結果は以下のとおり。・3,516例(平均年齢10.5歳、女子50.9%)が組み入れられた。参加者が3~18歳時の1980年に採取・保存された冷凍サンプルから、25-OHビタミンDの血清濃度を測定した。ビタミンD欠乏症のカットポイントは30nmol/L未満とした。・2018年までに95例(2.7%)が、少なくとも1回のASCVDイベントの診断を受けた。初回のイベント発生時の平均年齢は47歳だった。・小児期のビタミンDの低レベルは、37nmol/L(調整ハザード比[aHR]:1.84)、35nmol/L(aHR:2.19)、33nmol/L(aHR:1.76)、31nmol/L(aHR:2.07)それぞれのカットポイントで、成人期のASCVDイベントのリスク増加と有意に関連していた。・これらの結果は、従来の小児期のリスク要因の調整後、成人のビタミンDレベル調整後、ビタミンD欠乏のカットポイント30nmol/L未満を使用した場合、いずれにおいても一貫していた。 著者らは「この結果は、約40年間の追跡調査において、小児期の25-OHビタミンD濃度が37nmol/Lに満たないことが、成人期におけるASCVDイベントと関連していることを示した。小児期の最適化されたビタミンD補給を支援することで、CVDリスクを簡単かつ費用対効果の高いかたちで軽減できる可能性がある」と記している。

検索結果 合計:745件 表示位置:1 - 20