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1.

脳梗塞患者に対する血栓溶解療法の低強度モニター(解説:内山真一郎氏)

 OPTIMISTmain試験は、急性期脳梗塞患者に対する血栓溶解療法後の低強度モニターを検討する初めての無作為化比較試験である。血栓溶解療法開始の2時間以内に臨床的に症状が安定しており、NIHSSが10点未満の軽症~中等症の虚血性脳卒中患者において、低強度モニターと標準的モニターの転帰を比較した。低強度モニターのプロトコールは、神経所見とバイタルサインを血栓溶解療法後2時間は15分ごと、8時間は2時間ごと、24時間までは4時間ごとに評価し、標準的なモニター(6時間は30分ごと、その後1時間ごと)と比較した結果、90日後の転帰不良例(mRSが2以上)も症候性頭蓋内出血も両群間で差がなく、低強度モニターは標準的なモニターに対して非劣性であることが弱いエビデンスながら示された。 血栓溶解療法も長い年月が経過し、看護師はモニターに慣れ親しみ、血管内治療との併用も多くなり、ICU外の病棟でも広く施行されるようになった。また、頻回のモニターは、多くの業務を抱える看護師に過剰な負担を掛け、人手不足も深刻化しており、患者の睡眠を妨げることにもなるので、低リスクの患者には従来のガイドラインによる厳しいモニターは不必要ではないかと結論している。

2.

血栓溶解療法後の低リスク例、低頻度のモニタリングで十分か/Lancet

 急性期虚血性脳卒中に対する静脈内血栓溶解療法では、施行後の高強度のモニタリングが標準とされ、患者だけでなく看護師の負担がとくに大きく、果たして症候性脳出血のリスクが低い患者にも必要かとの疑問が生じている。中国・復旦大学のCraig S. Anderson氏らOPTIMISTmain Investigatorsは、「OPTIMISTmain試験」において、血栓溶解療法を受けた軽度または中等度の神経学的障害を有する患者では、モニタリングの頻度を低くした低強度モニタリングは高強度の標準モニタリングに対し、不良な機能的アウトカムの発生に関して非劣性であるとの弱いエビデンスを確認し、重篤な有害事象の発現にも差はないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年5月21日号に掲載された。8ヵ国のstepped-wedgeクラスター無作為化非劣性試験 OPTIMISTmain試験は、低強度モニタリングのプロトコールの標準モニタリングのプロトコールに対する非劣性を検証する、実践的なstepped-wedgeクラスター無作為化対照比較非劣性試験であり、2021年4月~2024年9月に8ヵ国(高所得国4ヵ国、低・中所得国4ヵ国)の120病院(クラスター)で患者を登録した(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成を受けた)。  年齢18歳以上、急性期虚血性脳卒中と診断され、静脈内血栓溶解療法の開始から2時間以内の神経学的障害が軽度または中等度(NIHSSスコア[0~42点、高点数ほど重症度が高い]が10点未満)で、臨床的に安定した患者を対象とした。 参加病院はプロトコールの実施について、4つの期間の3つの実施順序に無作為に割り付けられ、各病院で標準モニタリング(対照)から低強度モニタリング(介入)へと段階的に切り換えを行った。 低強度モニタリングのプロトコールでは、血栓溶解療法後24時間までの神経学的評価とバイタルサインの評価の頻度を低くし、15分ごと2時間、2時間ごとに8時間(標準モニタリングでは30分ごとに6時間)、その後は4時間ごと(標準モニタリングでは1時間ごと)に行った。 主要アウトカムは、90日後の時点における不良な機能的アウトカムとし、修正Rankinスケールスコア(0[症状なし]~6[死亡]点)の2~6点と定義した。非劣性マージンは、ITT集団におけるリスク比(RR)1.15に設定した。不良な機能的アウトカム、低強度モニタリグング群31.7%vs.標準モニタリグング群30.9% 114病院で4,922例を登録し、低強度モニタリング群に2,789例、標準モニタリング群に2,133例を割り付けた。全体の平均年齢は65.9(SD 13.2)歳、性別を報告した4,916例中1,890例(38.4%)が女性であり、民族を報告した4,913例中2,523例(51.4%)がアジア系だった。ベースラインのグラスゴー・コーマ・スケールスコア中央値は15点(四分位範囲[IQR]:15~15)、NIHSSスコア中央値は4点(IQR:2~7)であり、頻度の高いリスク因子は高血圧(61.3%)と糖尿病(24.9%)であった。 90日の時点で修正Rankinスケールスコアが2~6点であった不良な機能的アウトカムの患者は、低強度モニタリング群が2,552例中809例(31.7%)、標準モニタリング群は1,963例中606例(30.9%)であり(RR:1.03[95%信頼区間[CI]:0.92~1.15]、非劣性のp=0.057)、低強度モニタリング群の非劣性を示唆する弱いエビデンスが得られた。  7日目または退院時のいずれか早い時点でのNIHSSスコアは、低強度モニタリング群が1.9点、標準モニタリング群は2.1点であった(平均群間差:-0.11点[95%CI:-0.36~0.13])。低強度モニタリングは導入の検討に値する 症候性頭蓋内出血は、低強度モニタリング群で2,783例中5例(0.2%)、標準モニタリング群で2,122例中8例(0.4%)に発現した(RR:0.57[95%CI:0.15~2.13])。また、重篤な有害事象の発現は、それぞれ2,789例中309例(11.1%)および2,133例中240例(11.3%)と両群で同程度だった。  著者は、「この介入は、多くの国で集中治療室(ICU)の外部で行うことが許容され、実行は可能であり、結果として看護業務の流れに柔軟性をもたらし、集中治療の医療資源を解放するという有益性を認めたことから、各国の病院は急性期脳卒中の治療体制を改善するために、このアプローチの導入を検討してよいだろう」としている。

3.

NEJMに掲載された論文でも世界の標準治療に影響を与えるとは限らない?(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞と脳梗塞の病態には類似点が多い。心筋梗塞は冠動脈の動脈硬化巣破綻部位に形成される血栓が原因であるのに対して、脳梗塞の原因には塞栓症、微小血管障害などもあり複雑である。心筋梗塞により病態の似ているlarge-vessel occlusionによる脳梗塞が本研究の対象とされた。 脳も心臓も虚血臓器に速やかに血液を灌流することが重要である。虚血の原因は血栓であるため、血栓溶解療法に期待が大きかった。しかし、心筋梗塞治療では血栓溶解療法の役割は残らなかった。病院への搬送に時間がかかる場合には救急車内にて血栓溶解療法を施行することも検討されたが、再灌流障害としての心室細動なども考えると、ともかくカテーテル治療のできる施設に素早く搬送することが何よりも重要との結論になった。 本研究は中国で施行された550例のランダム化比較試験である。発症4.5時間以内の症例に限局し、90日の自立の予後はtenecteplase治療群にて良好とされた。比較的小規模の、必ずしもhardではないendpointの1国でのランダム化比較試験は、以前であればNEJMに届かなかった。本研究が公開されても標準治療が変わるとは思い難い。

4.

脳梗塞発症後4.5時間以内、tenecteplase+血栓除去術vs.血栓除去術単独/NEJM

 発症後4.5時間以内に来院した大血管閉塞による脳梗塞患者において、血管内血栓除去術単独と比較し、tenecteplase静注後血管内血栓除去術は90日時点の機能的自立の割合が高かった。中国・Second Affiliated Hospital of Army Medical University(Xinqiao Hospital)のZhongming Qiu氏らが、同国の39施設で実施した医師主導の無作為化非盲検評価者盲検試験「BRIDGE-TNK試験」の結果を報告した。大血管閉塞による脳梗塞急性期における血管内血栓除去術施行前のtenecteplase静注療法の安全性と有効性のエビデンスは限られていた。NEJM誌オンライン版2025年5月21日号掲載の報告。90日後のmRSスコア0~2の割合を比較 研究グループは、18歳以上、最終健常確認後4.5時間以内の内頸動脈、中大脳動脈M1/M2部または椎骨脳底動脈閉塞による脳梗塞患者で、中国の脳卒中ガイドラインに基づき静脈内血栓溶解療法の適応となる患者を、tenecteplase静注後血管内血栓除去術施行群(tenecteplase+血栓除去術群)、血管内血栓除去術単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時点の機能的自立(修正Rankinスケール[mRS]スコア0~2[範囲:0~6]、高スコアほど障害が重度)、副次アウトカムは血栓除去術前後の再灌流成功率などであった。 安全性は、無作為化後48時間以内の症候性頭蓋内出血、90日以内の死亡などについて評価した。機能的自立は53%vs.44%でtenecteplase+血栓除去術が良好 2022年5月9日~2024年9月8日に554例が無作為化され、同意撤回の4例を除く550例がITT集団に組み入れられた(tenecteplase+血栓除去術群278例、血栓除去術単独群272例)。 90日時点の機能的自立は、tenecteplase+血栓除去術群で52.9%(147/278例)、血栓除去術単独群で44.1%(120/272例)に観察された(調整前リスク比:1.20、95%信頼区間:1.01~1.43、p=0.04)。 tenecteplase+血栓除去術群では6.1%(17/278例)、血栓除去術単独群では1.1%(3/271例)が血栓除去術前に再灌流に成功していた。また、血栓除去術後の再灌流成功率はそれぞれ91.4%(254/278例)、94.1%(255/271例)であった。 48時間以内の症候性頭蓋内出血は、tenecteplase+血栓除去術群で8.5%(23/271例)、血栓除去術単独群で6.7%(18/269例)に認められ、90日死亡率はそれぞれ22.3%(62/278例)、19.9%(54/272例)であった。

5.

新たなリスクスコアにより頸動脈狭窄に対する不要な手術を回避

 頸動脈リスク(carotid artery risk;CAR)スコアと呼ばれる新たなスコアリングシステムにより、頸動脈狭窄が確認された患者に対する頸動脈血行再建術の必要性を判断できる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)やアムステルダム大学医療センター(オランダ)などの研究者らが開発したCARスコアリングシステムは、頸動脈狭窄の程度(狭窄率)や医療歴などを考慮して5年間の脳卒中リスクを予測する。UCLクイーン・スクエア神経学研究所の名誉教授であるMartin Brown氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Neurology」5月号に掲載された。 頸動脈狭窄患者に対しては、通常、脳卒中リスクを軽減するために頸動脈血行再建術が行われる。しかし研究グループによると、この治療法は、30年以上前に実施されたランダム化比較試験の結果に基づいているという。 論文の責任著者であるBrown氏らは今回、症候性または無症候性の頸動脈狭窄患者を対象に、至適内科治療(optimised medical therapy;OMT)による管理の有効性と安全性を、OMTに加え血行再建術も受けた患者との間で比較した。OMTは、低コレステロール食、脂質低下薬、降圧薬、血液凝固阻止薬などで構成されていた。 対象者は、CARスコアに基づき脳卒中リスクが低~中等度(20%未満)と判定され、頸動脈に50%以上の狭窄が確認された18歳以上の者とし、OMTのみを受ける群(OMT群、215人)とOMTに加えて頸動脈血行再建術も受ける群(OMT+血行再建術群、214人)に1対1の割合でランダムに割り付けられた。主要評価項目は、1)手術や治療後の死亡、致死的な脳卒中または心筋梗塞の発生、2)非致死的な脳卒中の発生、3)非致死的な心筋梗塞の発生、4)画像検査で新たに発見された無症候性脳梗塞とし、2年後に評価された。OMT群のうち1人は研究への参加同意後に離脱したため、428人(平均年齢72歳、男性69%)を対象に解析が行われた。 その結果、主要評価項目のいずれについてもOMT群とOMT+血行再建術群の間で有意な差は認められず、血行再建術はリスクを考慮すると特段の利点を示さなかった。主要評価項目の発生件数は、OMT群、OMT+血行再建術群の順に、手術や治療後の死亡、致死的な脳卒中または心筋梗塞の発生で4件と3件、非致死的な脳卒中の発生で11件と16件、非致死的な心筋梗塞の発生で7件と5件、画像検査で新たに発見された無症候性脳梗塞で12件と7件であった。 Brown氏は、「これらの知見を確認するにはさらなる追跡調査と追加試験が必要だが、われわれは、CARスコアを用いて、OMTのみで管理可能な頸動脈狭窄患者を特定することを推奨したい」と述べている。同氏はさらに、「このアプローチは、血管リスク因子の個別評価と集中治療を重視しているため、多くの患者が頸動脈血行再建術やステント留置に伴う不快感やリスクを回避できる可能性がある。さらに、この方法は医療サービスの大幅なコスト削減にもつながり得る」と付言している。 この研究をレビューした米脳卒中協会のLouise Flanagan氏は、「CARスコアを用いることで、薬物療法だけで治療を行えるか、薬物療法と手術を組み合わせるべきかを判断できるため、手術やステント留置に伴うリスクや不利益を減らせる可能性がある」と話している。なお、この臨床試験は現在も進行中である。

6.

患者数は多いが社会的認知度の低い肥大型心筋症/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブ(以下、BMS)は、閉塞性肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy:HCM)治療薬の選択的心筋ミオシン阻害薬マバカムテン(商品名:カムザイオス)を5月21日に発売した。本剤が国内初承認されたことで、臨床現場でもHCMの見方が変わってくるだろう。5月15日にはBMS主催のメディアセミナーが開催され、北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授)が「肥大型心筋症とはどの様な疾患か? なぜ新しい治療が必要か?〜肥大型心筋症で苦しむ患者さんのために〜」と題し、HCMの過小評価の実態などについて解説。さらに、患者代表として林 千晶氏が登壇し、自身の経験から医師に知ってもらいたいこと、患者として注意すべきことについて語った。“500人に1人”は肥大型心筋症 HCMは原因不明※の心筋疾患のなかで左室壁の肥厚を伴うもので、左心室流出路の狭窄による圧較差が息切れや動悸、めまいなどの症状をもたらすが、良好な転帰を迎える人は多い。一方で、心不全、左室収縮能低下、心房細動から脳梗塞を発症することがあり、とくに若年者、小児における突然死リスクの1つとも言われている。北岡氏は「HCMの発症年齢は10代後半が多く、入学時の学校健診などの心電図検査で異常を来して受診してきた時がHCMを発見するチャンス。ところが、初診時に心室壁が厚くなく、診断が難しいケースもある」とし、「成人後でもHCMの発見契機は健診による心電図異常が半数を占め、発見された時にはNYHA心機能分類II~III度に至っているケースは珍しくない」とも説明した。※現在は原因が解明されている疾患もあり これまでのHCM治療と言えば、β遮断薬やNaチャネル遮断薬による対症療法、あるいは中隔縮小術(septal reduction therapy:SRT)で、内科的に病気の本質を治療することができなかった。また、病歴が長いため患者が訴える自覚症状が病状に比して比較的軽く、潜在患者数に比して難病指定されている患者数が圧倒的に少ないことも問題になっている疾患である。これについて同氏は「難病指定を受けている患者の内、圧較差があるのは600人程度と推定されるが、HCMの推定患者は20万人に上ると言われている。もちろん、すべての患者が指定難病に相当するわけではないが、この乖離理由は、HCMの正確な病状の把握と負荷心エコーの施行など病状に対する正確な評価が十分でないことが原因と考えられる」と実情について指摘した。さらに「HCMは、外来で1回だけ診察してわかる病気ではなく、患者と長く付き合うことで明らかになる疾患。そのため、都心部よりも地方のように、一人の患者と長く付き合うことが多い医師のほうが、病気の全体像を理解しているかもしれない」と地域格差についても言及した。マバカムテンの治療効果と適切な処方とは HCMは心筋の収縮に関わるサルコメア蛋白の遺伝子変異が原因とされ、ミオシンとアクチンによるクロスブリッジの過剰な形成が心肥大につながっている1)。マバカムテンはその過剰形成を抑制することで、運動負荷後のLVOT最大圧較差の減少に効果が期待される薬剤である。国内第III相のHORIZON-HCM試験2)においても、主要評価項目である投与30週までの運動負荷後のLVOT最大圧較差のベースラインからの変化量(平均値±SD)は、-60.6963±31.55674mmHg(95%信頼区間:-71.5364~-49.8562)と、マバカムテンによる有効性が示されている。また、安全性については、投与54週時点で有害事象は28例、重篤な有害事象は6例に認められたが、投与中止に至った有害事象や死亡は認められなかった。 なお、3月に発刊された『心不全診療ガイドライン 2025年改訂版』の「第9章 特別な病態・疾患」(p.127~131)において、マバカムテンの使用は推奨クラスI、エビデンスレベルB-Rとされたが、2025年4月24日に日本循環器学会より「マバカムテン適正使用に関するステートメントについて」が公表されているため、本ステートメントに準じた医療機関においてのみ処方が可能となっている。 最後に「中高生で心電図に異常があった場合、その時点の精密検査に異常がなくても将来的にHCMを発症する可能性が否定できない。その際に学校医や診察した医師らから定期的な通院を患者へ提案してほしい」。また、マバカムテンの効果について、「現状は症状改善に有効と考えられるが、服用により壁肥厚の改善など疾患そのものに良い影響を与える可能性がある。生命予後の改善効果は今後の課題」と締めくくった。患者視点から伝えたい医学の現状 病気と向き合いながら、結婚・出産・子育てを経験している林氏は、自身の診断までの経緯、家事・育児、そして仕事の両立や人間関係について説明。「父の主治医から遺伝子要因があるため検査を提案され、26歳でHCMと診断された。もともとは自覚症状もなく海外旅行や友人との会食などアクティブに活動していたが、出産後に入浴後や階段の昇降で息切れ、全疾走後のような症状や不整脈を自覚するようになった」と、これまでを振り返り、「普段から不整脈があるが、とくに生理時期には不整脈が酷くなってしまい、QOLも低下する。見た目では健康な方と変わらないため、周囲から理解されにくい点に苦慮している」とコメントした。新たな治療薬としてマバカムテンが発売される見込み(取材時点)については、「対処療法が中心の疾患だったが、新薬により希望が持てる」と述べ、「患者側も心臓の小さなサインを見逃さずに、主治医に相談するよう努める必要がある」と一人ひとりの体調管理の重要性についても話した。最後に同氏は「HCMをweb検索した際、検索上位はネコのものが多く、人間の情報が乏しく情報収集にとても苦労した。web上でも正確な病気の情報を伝えてほしい」と情報のあり方についても言及した。 BMSはこのような患者の声から「肥大型心筋症テラス」という患者・家族のための情報提供サイトをオープンし、病態、治療や遺伝子検査、医療費助成などに関する情報や患者インタビューを公開している。ーーーーーーー<製品概要>製品名:カムザイオスカプセル1mg、同2.5mg、同5mg一般名:マバカムテン効能又は効果: 閉塞性肥大型心筋症用法及び用量:通常、成人にはマバカムテンとして2.5mgを1日1回経口投与から開始し、患者の状態に応じて適宜増減する。ただし、最大投与量は1回15mgとする。薬価:1mg1カプセル 7,204.00円、2.5mg1カプセル 7,264.80円、5mg1カプセル 7,410.50円製造販売承認日:2025年3月27日薬価基準収載日:2025年5月21日発売日:2025年5月21日製造販売元:ブリストル マイヤーズ スクイブ株式会社

7.

若年層での脳梗塞、意外な疾患がリスクに?

 片頭痛、静脈血栓、腎臓病や肝臓病、がんなどは、一般に脳梗塞リスクを高めるとは考えられていない。しかし、一般的な心臓の構造的異常を有する50歳未満の人においては、このような因子が脳梗塞リスクを2倍以上に高める可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。ヘルシンキ大学病院(フィンランド)脳卒中ユニットの責任者であるJukka Putaala氏らによるこの研究の詳細は、「Stroke」に4月17日掲載された。 Putaala氏は、「われわれは、これまで脳梗塞のリスク因子と見なされていなかった因子(以下、非伝統的リスク因子)、特に片頭痛がもたらす影響に驚かされた。片頭痛は、若年成人の脳卒中発症の主なリスク因子の1つであると思われる」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、原因不明の脳梗塞である潜因性脳梗塞(cryptogenic ischemic stroke;CIS)を発症して間もない患者を対象に、修正可能な伝統的リスク因子、非伝統的リスク因子、および女性特有のリスク因子の影響の大きさと、それらと若年発症型CISとの関連を検討した。対象は、ヨーロッパの19施設の18〜49歳のCIS患者523人(平均年齢41歳、女性47.3%)と対照523人とした。CIS患者の37.5%には、卵円孔開存(PFO)が認められた。PFOは、胎児期に右心房と左心房の間にある壁(心房中隔)に開いていた孔(卵円孔)が出生後も閉じずに残存している状態を指す。解析は、臨床的に意義のあるPFO(心房中隔瘤または大きな右左シャントを伴う場合と定義)の有無で層別化して行った。 伝統的なリスク因子としては、高血圧、糖尿病、高コレステロール、喫煙、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸、肥満、不健康な食事、運動不足、大量飲酒、ストレス、うつ病の12項目、非伝統的なリスク因子としては、慢性的な他臓器不全(炎症性腸疾患、慢性腎臓病、慢性肝炎、自己免疫疾患、血液疾患/血栓傾向)、静脈血栓症の既往、悪性腫瘍の既往、前兆を伴う片頭痛、違法薬物の現在の使用の10項目、女性特有のリスク因子としては、妊娠糖尿病の既往、妊娠高血圧の既往、妊娠合併症の既往など5項目が検討された。 PFOのないCIS患者では、対照群に比べて、リスク因子が1つ増えるごとにCISリスクが有意に上昇していた。CIS発症リスクは、伝統的なリスク因子で約40%(オッズ比1.417、95%信頼区間1.282〜1.568)、非伝統的なリスク因子で約70%(同1.702、1.338〜2.164)、女性特有のリスク因子で約70%(同1.700、1.107〜2.611)高かった。一方、PFOのあるCIS患者では、非伝統的なリスク因子についてのみ有意なリスク上昇が見られ、リスク因子が1つ増えるごとのCISの発症リスクは165%(同2.656、2.036〜3.464)上昇していた。 さらに、人口寄与危険割合(PAR)を算出して、当該リスクがなければどの程度のCISを防げたかを推定したところ、PFOがないCISでは、伝統的リスク因子が64.7%、非伝統的リスク因子が26.5%、女性特有のリスク因子が18.9%のCIS発症に寄与していると推定された。一方、PFOがあるCISでは、それぞれ33.8%、49.4%、21.8%がCIS発症に寄与していると推定された。CISの最も強い寄与因子は前兆を伴う片頭痛であり、PFOありのCISの45.8%、PFOなしのCISの22.7%は前兆を伴う片頭痛により説明されると推定された。前兆を伴う片頭痛の影響は、特に女性で顕著であった。 Putaala氏は、「これらの結果は、医療専門家が、より個別化されたリスク評価と管理の方法を考えるべきであることを示している。また、若い女性には、片頭痛の既往歴やその他の非伝統的なリスク因子の有無について確認するべきだ」と述べている。

8.

心不全患者の亜鉛不足、死亡や腎不全が増加

 台湾・Chi Mei Medical CenterのYu-Min Lin氏らは、心不全(HF)患者の亜鉛欠乏が死亡率、心血管系や腎機能リスクおよび入院リスクの上昇と関連していることを明らかにした。Frontiers in Nutrition誌2025年4月28日号掲載の報告。 HF患者では、利尿薬やRA系阻害薬といった降圧薬の使用などが原因で、亜鉛欠乏症(ZD)の有病率が高いことが報告されている1,2)。また、亜鉛補充により左室駆出率を改善させる可能性も示唆されている3)が、亜鉛がHFの臨床転帰に与える影響を調査した大規模研究はほとんど行われていなかった。 本研究は、ZDとHFの臨床転帰との関連性を調べる目的で実施された多施設共同後ろ向きコホート研究である。2010年1月1日~2025年1月31日にHFを発症した成人患者をTriNetX社のネットワークと提携する世界142施設の医療機関の1億6,056万2,143例から年齢などの基準を満たす適格患者を抽出。血清亜鉛値が70μg/dL未満のZD患者(ZD群)と70~120μg/dL患者(対照群)を傾向スコアマッチングにて栄養状態、アルブミン値、利尿薬やβ遮断薬の使用などの交絡因子で調整し、8,290例(各群4,145例)について、1年間の追跡調査を行った。主要評価項目は、全死亡、主要心血管イベント(MACE)*、主要腎イベント(MAKE)**で、副次評価項目は全入院であった。*急性心筋梗塞、脳卒中(脳梗塞および脳出血を含む)、心室性不整脈(心室頻拍や心室細動など)、心停止を含む。**末期腎不全、緊急透析の開始、維持透析を含む。 主な結果は以下のとおり。・ZD群では、全死亡において対照群と比較して有意に高い累積罹患率を示し(ハザード比[HR]:1.46、95%信頼区間[CI]:1.29~1.66、p<0.001)、100人年あたりの罹患率はZD群で13.47、対照群で9.78であった。・MACEの上昇についてもZD群に関連し(HR:1.46、95%CI:1.30~1.64)、MAKEの上昇も同様に関連していた(HR:1.51、95%CI:1.34~1.70)。・全入院リスクも対照群と比較してZD群は高かった(HR:1.24、95%CI:1.16~1.32)。 研究結果より、研究者らは「心不全治療における亜鉛の評価と管理の臨床的重要性が浮き彫りになった」としている。

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第243回 循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT

<先週の動き> 1.循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT 2.出産費用、2026年度にも自己負担無償化へ? 医療現場に広がる波紋/厚労省 3.市販薬のコンビニ販売解禁へ 薬機法改正、医療現場への影響は?/国会 4.DPC病院が25施設減の1,761施設、再編加速も課題山積/厚労省 5.赤穂市民病院の医療事故、被告の赤穂市と医師に8,900万円賠償命令/神戸地裁 6.薬剤師の指示見逃し脳出血死、病院が遺族に和解金1,000万円/愛知県 1.循環器救急に迫る崩壊危機:若手離れと医師不足、救命の現場が揺らぐ/CVIT日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)は、5月15日にプレスセミナーを開き、急性心筋梗塞の治療体制に深刻な危機が迫っていることを明らかにした。とくに若手医師の循環器救急離れが進む現状に警鐘を鳴らし、医師確保に向けた提言を公表した。背景には2024年4月に施行された医師の働き方改革がある。時間外労働の上限設定により医師の負担軽減は一定の効果を上げたが、業務量の多い循環器内科では過酷な勤務実態が「見える化」され、志望者が激減。過去10年間でほとんどの診療科が医師数を増やす中、循環器内科は外科以上の速さで減少している。CVITの調査では、所属医師の6割が週1回以上の自宅待機に従事し、夜間救急後の代償休息が得られていないケースが9割に上る。この労働環境が医師の健康や医療の質に悪影響を与えていると指摘されている。また、心筋梗塞の死亡率も地域差が大きく、搬送時間や受入体制によって最大3倍の格差が生じている。CVITは、急性心筋梗塞患者の早期治療が可能な施設を地図上で検索できる「ハートマップ」を公開し、発症から90分以内の治療開始が理想とされる中、地域住民の事前認知による搬送時間短縮を狙っている。CVITは、「経済的インセンティブの整備」・「タスクシフトの推進」・「勤務環境の改善」を3本柱とした改革を提案し、厚生労働省にも循環器医療を特例的に評価するよう働きかけている。とくに経済的インセンティブは「避けて通れない」とされ、医師の偏在是正政策の中で循環器救急を優先対象とする必要性も訴えられている。持続可能な循環器救急体制の構築には、制度的な支援と国民的理解が不可欠であり、引き続き政府や国民に働きかけていく必要がある。また、これに先立って、5月12日に日本循環器学会は、日本人の死因第2位が心疾患であるにもかかわらず、循環器内科医の数が他の診療科に比べて増加しておらず、とりわけ若手医師の減少と高齢化が進んでいることで、人手不足が深刻化していることについて国民に対して警鐘を鳴らしている。とくに地方では医師の確保が難しく、診療体制の維持が困難になっている。このため循環器学会は、タスクシフトや施設の集約化などの対策を進めているが、限界があるため、国民の理解と支援を求めている。 参考 1) 急性心筋梗塞、治療の遅れで死亡率上昇 地域医療の危機(日本心血管インターベンション治療学会) 2) 急性心筋梗塞、助かる未来へ 循環器救急の課題に迫る(同) 3) ハートマップ:全国インターベンション施設マップ(同) 4) 国民の皆様へ:『循環器医不足が深刻な状況です』(日本循環器学会) 2.出産費用、2026年度にも自己負担無償化へ? 医療現場に広がる波紋/厚労省厚生労働省は5月14日、出産費用の自己負担を2026年度にも無償化する方針を明らかにし、有識者検討会で大筋了承された。これを受け、今後は社会保障審議会で具体的な制度設計が進められる見通し。現在、正常分娩は公的医療保険の対象外で、出産育児一時金として50万円が支給されるのみだが、出産費用の平均は51.8万円(2024年度上半期)に達し、地域差も大きく、東京では平均60万円超となっており、この結果、約45%の家庭が一時金で費用を賄いきれず、自己負担が重くのしかかっている。無償化の方法として、正常分娩への保険適用と3割自己負担の撤廃案、一時金のさらなる増額案などが浮上している。しかし、保険適用には「標準的な出産費用」の定義の明確化や診療報酬設定の課題があり、自由価格設定が制限されれば経営への影響を懸念する産科施設の声も根強い。無痛分娩や個室料、お祝い膳といった付帯サービスの扱いや、妊婦健診の自己負担軽減も議論の対象だ。費用の透明化や、妊産婦が選択可能な情報整備の必要性も指摘されている。少子化対策として期待が寄せられる一方で、現役世代の社会保険料負担や、医療提供体制の持続可能性など課題は多く、丁寧な制度設計が求められている。 参考 1) 第10回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(厚労省) 2) 出産費用2026年度にも無償化、制度設計検討へ…厚労省案を有識者検討会が了承(読売新聞) 3) 分娩施設が少子化や物価高騰で窮地に…九州・山口・沖縄では3年間で46か所減、阿蘇など5地域でゼロ(同) 4) 出産費用、無償化へ 厚労省方針、26年度の保険適用は困難の見通し(朝日新聞) 5) 標準的な出産費用の無償化へ、26年度めどに制度設計 保険適用への懸念の声も 厚労省検討会(CB news) 6) 2026年度目途に「標準的な出産費用の自己負担」を無償化、産科医療機関等の経営実態等にも配慮を-出産関連検討会(Gem Med) 3.市販薬のコンビニ販売解禁へ 薬機法改正、医療現場への影響は?/国会医薬品医療機器法(薬機法)の改正法が5月14日に参議院本会議で成立した。この改正により、薬剤師や登録販売者が不在のコンビニエンスストアなどでも、オンラインによる服薬指導を条件として一般用医薬品(市販薬)の販売が可能となる。これにより、夜間・休日などに薬局へいけない際の市販薬購入が現実的となるが、一方で、オーバードーズ対策として、せき止めやかぜ薬など一部薬剤については若年層への販売を小容量化、1個に制限する措置が導入される。オンライン指導を担う薬剤師は、同一都道府県内の薬局に所属し、販売店舗の保管管理状況などを定期確認する義務も課される。また、後発医薬品の供給不安が続く現状を受け、出荷停止時の国への報告義務や供給責任者の設置、調剤業務の外部委託容認などが盛り込まれた。さらに、医薬品の安定供給体制強化として、国が事業者に対し増産を要請できる法的枠組みが整備される。加えて、「ドラッグ・ロス」問題への対応として、新薬の迅速承認制度や、スタートアップ支援を目的とした新たな基金の創設も明記された。とくに、がん領域などで有用性が合理的に予測される医薬品については、臨床試験の一部を省略し、早期承認が可能となる。改正法の施行は段階的に進められ、コンビニでの販売制度は2年以内、乱用対策は1年以内に開始される。医薬品アクセスの利便性向上と供給の安定、さらに薬剤師職能の拡張が期待される一方、安全性や乱用リスクとのバランスをどうとるかが今後の課題となる。 参考 1) コンビニで市販薬の購入可能に、改正薬機法が成立 ローソンなど歓迎(日経新聞) 2) コンビニで市販薬の購入が可能に 改正法が成立 乱用対策で若年者への販売制限設ける(産経新聞) 3) 市販薬がコンビニ購入可能に オーバードーズ対策で若者に購入制限も(毎日新聞) 4.DPC病院が25施設減の1,761施設、再編加速も課題山積/厚労省厚生労働省は5月15日に開催した中央社会保険医療協議会(中医協)で、2025年6月時点のDPC(診断群分類別包括評価)対象病院が、前年から25病院減少し1,761病院となる見込みであると報告した。算定病床数も約7,800床減の47万5,910床となり、制度導入以降で最も多かった2016年の49万5,227床から約2万床減ったことになる。減少の背景には、病院の再編や病棟の機能転換がある。とくに、2024年度診療報酬改定で新設された「地域包括医療病棟入院料」への移行が進み、急性期医療から回復期医療への再配置が加速。DPC対象基準未達による退出(4病院)に加え、地域包括ケアへの転換を理由とした退出が19病院に上った。一方、DPC制度内の各病院の診療実績や機能を評価する「機能評価係数II」は全体的に低下傾向にあり、制度内での格差が浮き彫りになっている。大学病院では、鹿児島大学病院が最も高い係数を維持し、標準病院群では宮崎県立延岡病院が引き続き上位に位置する。厚労省は、2025年度のDPC制度運用に際して、地域医療への貢献度や救急対応実績を重視する再評価を実施。激変緩和措置の終了や災害特例の対応も踏まえたが、DPCからの退出が相次ぐ現状は、地域医療構想に掲げた「機能分化・連携による病床再編」が一部進んだともいえる一方で、急性期医療の担い手の減少による地域偏在や機能の空白が懸念される。地域医療構想の達成目標の2025年を迎え、急性期から地域包括ケアへの移行は制度設計通りに進行しているが、医療ニーズに対応した病床配置が実現されているとは言い難い。厚労省による今後の実態把握と、質の高い急性期医療の維持に向けた制度的支援の在り方が問われる局面となっている。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会[議事次第](厚労省) 2) 令和7年度におけるDPC/PDPSの現況について(同) 3) DPC対象病院数、前年比25病院減の1,761病院に(日経ヘルスケア) 4) DPC病院25減、6月以降1,761病院に 病棟の機能再編で退出相次ぐ(CB news) 5) 2025年度のDPC機能評価係数II内訳や救急補正係数の状況など公表、自院と他院を比較し「自院の取り組み」検証が重要-中医協総会(Gem Med) 5.赤穂市民病院の医療事故、被告の赤穂市と医師に8,900万円賠償命令/神戸地裁兵庫県赤穂市民病院で2020年に行われた腰の手術で、当時74歳の女性患者が誤って神経を切断され、両脚に重度のまひなどの後遺障害を負った問題で、神戸地裁姫路支部は2025年5月14日、被告である赤穂市と執刀した元脳神経外科医の松井 宏樹氏(47)に対し、約8,900万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。判決は、医師の技量不足自体は認めなかったが、「注意義務違反の程度は著しい」と断じた。手術では出血で視野が不明瞭な状態でドリルを使用し、馬尾神経を切断。松井医師は過去にも複数の医療事故に関与し、2020年に執刀を禁じられた後、2021年に同院を退職していた。病院側の事後対応にも問題があり、説明や謝罪が遅れたことも慰謝料算定の要因となった。原告側は「基本的な医療行為ができていなかったと裁判所が認めた」と評価し、他の被害者救済にもつながる判決とした。赤穂市は「真摯に受け止め、信頼回復に努める」とコメントしている。 参考 1) 手術ミスで両足に重度のまひ 赤穂市民病院側に8,900万円賠償命令 執刀医の注意義務違反「著しい」(神戸新聞) 2) 赤穂市民病院の医療事故 医師と市に賠償命じる判決(NHK) 3) 赤穂市民病院の手術ミス訴訟 市と執刀医に8,900万円支払い命令(毎日新聞) 4) ドリルで脊髄神経を切断、執刀医らに8,800万円の賠償命令…執刀医は半年強で医療事故8件起こす(読売新聞) 6.薬剤師の指示見逃し脳出血死、病院が遺族に和解金1,000万円/愛知県2023年に愛知県の岡崎市民病院で、70代の男性入院患者が抗凝固薬の過剰投与により脳出血を起こし、死亡する医療事故が発生した。患者は、脳梗塞予防のため抗凝固薬を服用していたが、腎機能障害があるため通常の半分量に減薬する必要があった。しかし、主治医が薬剤師らからの減量指示を見落とし、通常量を8日間にわたり投与した。その結果、男性は入院から約2週間後に脳出血を起こして死亡した。病院は当初から医師による情報確認の不足を認め、調査の結果、薬の過剰投与と死亡の因果関係を否定できないとして過失を認定。遺族に対して1,000万円の損害賠償を支払い、和解する方針を明らかにした。病院は会見で謝罪し、院内の情報共有体制の見直しや、医師と薬剤師間の連携強化など再発防止策を講じると表明した。 参考 1) 抗凝固薬を基準量の2倍投与、岡崎市民病院で医療ミス 患者死亡で1,000万円賠償へ(中日新聞) 2) 岡崎市民病院 “患者の死因に投薬ミス” 遺族と和解へ(NHK) 3) 投薬量誤り70代男性死亡 病院が1千万円の賠償支払いへ(朝日新聞) 4) 血液の抗凝固剤を過大投与後に70代男性患者が脳出血で死亡 薬を半分に減らすよう薬剤師などがWEBの情報共有で主治医に伝えるも確認せず 愛知・岡崎市民病院(TBS)

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歩く速度が不整脈リスクと関連

 歩行速度が速い人は不整脈リスクが低いという関連のあることが報告された。英グラスゴー大学のJill Pell氏らの研究によるもので、詳細は「Heart」に4月15日掲載された。歩行速度で3群に分けて比較すると、最大43%のリスク差が認められたという。 これまで、身体活動が不整脈リスクを抑制し得ることは知られていたが、歩行速度と不整脈リスクとの関連についての知見は限られていた。Pell氏らはこの点について、英国で行われている一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて検討した。 UKバイオバンクの参加者42万925人(平均年齢55.8±9.30歳、女性55.3%)を、自己申告に基づき、歩行速度が速い群(時速4マイル〔約6.4km〕超)40.7%、遅い群(時速3マイル〔約4.8km〕未満)6.6%、および、平均的な速度の群(時速3~4マイル)52.7%の3群に分類。中央値13.7年(四分位範囲12.8~14.4年)の追跡期間中に、全体で3万6,574人(8.7%)が不整脈を発症していた。 結果に影響を及ぼし得る交絡因子(年齢、性別、民族性、喫煙・飲酒・運動習慣、睡眠時間、野菜や果物・加工肉・赤肉の摂取量、握力など)を調整後、歩行速度が遅い群を基準として不整脈発症リスクを比較すると、歩行速度が平均的な群では35%(ハザード比〔HR〕0.65〔95%信頼区間0.62~0.68〕)、速い群では43%(HR0.57〔同0.54~0.60〕)、それぞれ有意にリスクが低いことが明らかになった。 不整脈の中でも脳梗塞につながる心房細動は、追跡期間中に2万3,526人が発症していた。この心房細動の罹患リスクも上記と同様の解析の結果、歩行速度が平均的な群では38%(HR0.62〔0.58~0.65〕)、速い群では46%(HR0.54〔0.50~0.57〕)、それぞれ有意にリスクが低かった。 次に、加速度計のデータにより歩行時間を把握できた8万773人を対象とする解析が行われた。この集団では中央値7.9年(四分位範囲7.4~8.5)の追跡期間中に4,177人が不整脈を発症していた。前記同様の交絡因子を調整後、高速での歩行の時間が長いこと(1標準偏差当たりHR0.93〔0.88~0.97〕)、および、平均的な速度での歩行の時間が長いこと(同HR0.95〔0.91~0.99〕)は、不整脈リスクの低さと有意な関連があった。一方で低速での歩行時間の長さは不整脈リスクと関連がなかった。 なお、サブグループ解析からは、女性、60歳未満、非肥満者、高血圧罹患者、2種類以上の慢性疾患罹患者で、歩行速度と不整脈リスクとの関連がより強く認められた。また、媒介分析からは、歩行速度と不整脈リスクとの関連の36.0%を、肥満や代謝・炎症(BMI、総コレステロール、収縮期血圧、HbA1c、C反応性蛋白)によって説明できることが分かった。 著者らは、「われわれの研究結果は、歩行速度と不整脈の関連性を示し、その関連に代謝因子と炎症因子が何らかの役割を果たしている可能性を示す、初のエビデンスである」と述べている。

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第260回 高齢者心不全へのSGLT2阻害薬、実感した副作用対策の大変さ

「心不全パンデミック」。最近よく耳にするようになった言葉だ。超高齢化に向かって突き進む日本で、今後、心不全患者が増加し、それに対応する医療者や病床も不足してくるという未来予測を、ある種の感染症の爆発的増加になぞらえた造語である。私自身がこの造語を最初に聞いたのがいつだったかは明確に記憶していないが、もちろんこの未来予測は確実に現実のモノになっていくだろうとは思っていた。もっともこれは実感を伴ったものではなく、ある種の社会現象の1つ、もっと極論を言えば“他人事”として捉えていた。しかし、これが私自身の身近にも降ってきた。私ではなく、先日米寿を迎えた父親に、である。慢性心不全で薬物療法開始ことのきっかけは4月上旬の週半ば、母親から「お父さんの右脚の腫れが気になるので(筆者が)今度来る時、医者の予約を入れて診て貰いたい。歩くのがひどそうだ」とのLINEメッセージが届いたことだった。正直、嫌な予感がした。ちょうど1年前、父親がアテローム血栓性脳梗塞で救急搬送されたことは以前の本連載でも触れたとおり。その時の精密検査で心房細動があることもわかり、抗凝固薬の服用も開始した。父親のかかりつけ医の近傍で薬局を営む薬剤師の親族にも連絡を取った。すると「うーん、心臓じゃないか?」との意見。私も同感だった。私自身はこの翌週、父親を花見に連れて行くため帰省するつもりだったが、心臓に問題があるならば、ゆるりと構えていてはいけない。父親のかかりつけ医のクリニックはネット上で診察予約ができるので、念のため空きを確認したところ、母親のLINEメッセージを受け取った翌日の午前に父親の主治医の診察枠に空きはあった。すぐに母親に連絡を取り、「最短で明日、かかりつけ医に行けるか?」と確認。可能だということなので、すぐに予約を入れた。翌日昼前、母親からの報告の連絡を待っていると、一足先に薬剤師の親族より「慢性心不全の診断」というLINEメッセージが着信した。ついに来てしまったか。これにより父親の服用薬には新たにSGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)が追加されることになった。この処方を聞いて率直に言葉に表すならば「ガーン」の一言。もちろんエンパグリフロジンをはじめとするSGLT2阻害薬が、2型糖尿病の有無にかかわらず心不全イベントを抑制するエビデンスを得ていることは知っている。しかし、その主作用の結果として頻尿になる。父親は脳梗塞を発症する前からすでに歩行がスローになり、シルバーカーを使いながら休み休み歩いていた。健常成人で徒歩10分のところでも30分ほどかかっていた。もしかしたら、もうこの時点で心不全の影響があったのかもしれない。この状態に母親が付き合うのは大変なため、脳梗塞発症前から軽量車椅子の導入を考えていたが、脳梗塞に伴う入院で一時的にADLがかなり低下したことにより、車椅子導入は現実となった。自宅内や自宅周辺は自力歩行するが、余暇や通院のための外出時は車椅子を使う。88歳の父親はやせ型だが、87歳の細腕の母親が車椅子で連れ歩くのはかなり大変である。市街地への外出時は電車・バスで移動するが、いずれも車両の入り口にはステップがあるため、乗降時は自力歩行せねばならない。母親と2人での外出時は、母親が父親を片手で介助し、もう片方の手で折り畳んだ車椅子を持ちながらの乗降となる。軽量と言っても車椅子は8kg弱ある。そんなこんなで私が頻繁に帰省するようになったが、ここに頻尿に対応したトイレ探しが加わることになった。また、SGLT2阻害薬では、その作用機序ゆえに頻度は低いものの脱水の危険性があるが、父親は積極的に水分を取りたがる気質でもない。頻尿の弊害いやはや大変なことになったと思った。そして診断が下った当日、さっそく母親はこの薬による頻尿の“洗礼”を受けることになった。かかりつけ医の受診後、親戚の薬局に処方箋を持って行き、薬を受け取った父親はさっそく1錠服用して、しばらく休んでから母親とともに帰途についたという。服用後の最初のトイレは、健常成人で徒歩12分ほどのかかりつけ医療機関の最寄り駅だったという。まあ、これは想定内だろう。そこから自宅最寄りの駅方向の電車に乗ったのだが、自宅最寄りから一つ前の駅の到着時に電車内のトイレに再び向かった。しかし、なかなか出てこなかったという。慌てた母親がトイレに向かい、どうにか父親を捕まえ、車椅子を持って無事最寄り駅で降車はできた。だが、必死だった母親は自分のバッグを電車内に置き忘れてしまい、自宅に戻って一旦父親に留守を任せた後、バッグを拾得していた駅まで往復2時間かけて取りに行く羽目になった。その後、母親からの報告では朝1回の服用で午前7時から午後1時までに計7回もトイレに行くことがわかった。なかなかである。この翌週に私は帰省したが、ぱっと見の父親にはまったく変化を感じない。まあ、当然と言えば当然である。もっとも実家で様子を見ている限り、約1時間に1回の頻度でトイレに行くことだけはわかった。問題はどうやって花見に連れて行くかだ。入念な下調べ、なんとか花見は実現私が介助できる前提ならば、多少実家から離れた桜の名所に連れて行きたい。父親が車椅子を使うようになってから初めて外出する場所の場合は、あらかじめ地図とGoogleストリートビューなどでルートや道路の傾斜状況などを調べている。こうすれば大きな想定外の事態は避けられる。ただ、花見ではやや事情が異なってくる。というのも桜の名所では花見客を見込んだ屋台や仮設トイレの設置などが行われることが多いからだ。こうした場所は曜日・時間によっても混雑度は異なる。最終的に地元に約2週間滞在し、合計4ヵ所のお花見スポットに連れて行ったが、うち3ヵ所は下見まですることになった。下見時は抜かりなくトイレの場所をチェックし、ブルーシートを広げる場所も桜の花も見えてトイレも近い、さらには屋台などにも近い場所を選定した。当然ながら、現地までの公共交通経路上にあるトイレの位置なども把握する必要がある。驚いたのは、花見の名所に設置された仮設トイレの中には、仮設多目的トイレがあるところもあった。時代の変化とはこういうところにも表れるのかと感心した。もっともこれだけでも想定外のことは起こり得る可能性がある。そのため念には念を入れ、災害用の使い捨て携帯トイレも持参した。父親は軽度認知障害もあるが、それゆえに排泄の失敗をまだ本人は自覚できるので、そのような事態になれば相当落ち込むはず。排泄トラブルは何としても避けなければならなかった。さらに連れて行く時は、時間の融通が利きやすいフリーランスの特権を生かして、混雑しにくい平日昼間ばかりを選んだ。花見に行くたびに父親は「ああ、満開だ」と大喜び。一応、こちらは4ヵ所の満開時期もすべて調べて、日ごとにどこが最適かも計算して連れて行った。父親からは「まさかお前にここまでしてもらえるとは思わなかった」と微妙な誉め言葉をかけられた。私はかなり信用がなかったらしい(笑)。花見場所で車椅子を押しながら、高校時代は陸上で国体にまで出場した父親もここまで弱るのだと何とも言えない気持ちになる。そしてこの姿は自分の未来でもある、とふと思う。治療薬の選択肢が広がることは福音だ。もっともその選択肢に伴う副作用などさまざまなデメリットは甘受せねばならない。改めて医療におけるメリットとデメリットのバランスは難しいものだとも実感している。いずれにせよ、わが家の心不全パンデミックはまだ序章に過ぎない。

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教育レベルの高い人は脳卒中後に認知機能が急激に低下する?

 英語には、「The higher you fly, the harder you fall(高く飛べば飛ぶほど、落下も激しくなる)」という諺があるが、脳卒中後の後遺症についてもこれが当てはまる可能性があるようだ。大学以上の教育を受けた人は高校卒業(以下、高卒)未満の人に比べて、脳卒中後に実行機能の急激な低下に直面する可能性のあることが、新たな研究で示唆された。実行機能とは、目標を設定し、その達成に向けて計画を練り、問題に柔軟に対応しながら遂行する能力のことだ。米ミシガン大学医学部神経学教授のMellanie Springer氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に3月26日掲載された。 この研究では、1971年1月から2019年12月の間に実施された4つの研究のデータを統合して、脳卒中経験者における教育レベルと認知機能低下との関連が検討された。対象者の総計は2,019人(女性51.9%、白人61.4%)で、研究参加時に認知症のあった人は含まれておらず、追跡期間中に脳梗塞(1,876人)と出血性脳卒中(143人)を発症していた。教育レベルは、高卒未満が16.7%(339人)、高卒が30.4%(613人)、大学進学で学位未取得が24.0%(484人)、大学卒業(以下、大卒)以上が28.9%(583人)だった。認知機能は、全般的な認知機能、記憶力、実行機能の3つの側面が評価された。 その結果、脳卒中の発症直後では、大卒以上の人では高卒未満の人に比べて、全般的な認知機能のスコアが1.09点(95%信頼区間0.02〜2.17)、記憶力のスコアが0.99点(同0.02〜1.96)、実行機能のスコアが1.81点(同0.38〜3.24)高いことが明らかになった。しかし、脳卒中後の追跡期間においては、教育レベルの高い人では高卒未満の人に比べて、1年当たりの実行機能の低下速度が速かった。具体的には、大卒の人では毎年−0.44点(95%信頼区間−0.69〜−0.18)、大学進学で学位未取得の人では毎年−0.30点(同−0.57〜−0.03)の速さで低下していた。アルツハイマー病の遺伝的リスク因子であるAPOE-ε4アリルの保有は、教育レベルと脳卒中後の認知機能低下との関連に影響を与えていなかった。また、個人が経験した脳卒中の回数も、この関係に影響を与えていなかった。 研究グループは、教育レベルの高い人の方が脳卒中後の脳機能低下が遅いだろうと予想していた。しかし、本研究では予想に反して、教育レベルが高い人は、高卒未満の人に比べて脳卒中の発症直後では認知機能テストで良い成績を収めたものの、その後の数年にわたる追跡期間中に認知機能が急低下する傾向のあることが示された。このことを踏まえてSpringer氏は、「本研究結果は、高等教育を受けることで、脳卒中後に脳のダメージが重大な閾値に達するまではより高い認知能力を維持できる可能性があることを示唆している。しかし、閾値を超えると認知機能が教育レベルにより補われなくなり、急速に低下する可能性がある」と述べている。 論文の上席著者である、ミシガン大学内科・神経学教授のDeborah Levine氏は、「初発の脳卒中後の認知症は、脳卒中の再発よりも大きな脅威となる」とミシガン大学のニュースリリースの中で述べている。実際、脳卒中は認知症のリスクを50倍も高めるとされている。同氏は、「脳卒中後の認知機能低下や認知症を予防したり遅らせたりする治療法は、現時点では存在しない。この研究は、脳卒中後の認知機能低下の原因や、認知機能低下のリスクが高い患者についての理解を深め、仮説を立てるのに役立つだろう」と付言している。

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新年度スタート!4月中にやるべきたった1つのこと【研修医ケンスケのM6カレンダー】第1回

新年度スタート!4月中にやるべきたった1つのことさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1 回お届けする新企画です。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、みなさんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年4月22日で、住んでいる愛知県ではすっかり葉桜になった空に、もう夏の風を感じるそんな夜です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。今回は記念すべき本連載1本目!緊張しております(汗)3日坊主の私にとって「連載 !? 」というのが初めてお話をいただいた時にまず感じたことですが、いよいよスタートするなと身が引き締まる思いです。当時を懐かしみながら、あの時の自分へ何を話しかけるのか?みなさんの6年生としての1年間が少しでも良い思い出になる、そんなお力添えができるように頑張って参りますので、ぜひ応援のほどよろしくお願い申し上げます。愛知県で働く、九州男児!さてさて、今回は1本目早速スタートしていきたいのですが、まずはお前誰だよ、という方が多いかと思うので、簡単に自己紹介をさせていただきます。(研修医1年目の7月の写真。どこか初々しい)私、杉田研介と申します。現在は愛知県内で初期臨床研修医として働いています。私自身は生まれも育ちも九州で、大学も九州だったのですが、初期臨床研修ではご縁があって本州・愛知県へ出て参りました。大学内では学年代表を務め、学外では医学生のイベントにいろいろ顔を出したり、医療系ITでインターンをしていたり、そんな感じで過ごしていました。ちなみに受験したのは第118回医師国家試験です。将来は総合診療や救急といったプライマリケアの第一線で働く臨床医を志していますが、元々メディアにも興味があるので、今回のようにブログなりラジオなりで情報に携わるお仕事もできたらなと考えています。文章の口調がどこかラジオっぽいのは学生の頃に自分で番組を企画した、そんな名残です。走り出す準備、まずは1度勉強会をさあ、ようやく本編スタートなのですが、今月は4月。ついに最終学年、6年生。「医師国家試験が現実味を帯びてきた…」と感じている人も多いのではないでしょうか。かく言う私も、新学期前日の夕食で友人から「もう受験生だよね」と言われて、ため息とともに背筋が伸びたのを覚えています。しかし、「まだ」4月。「正直、どこか本気に感じない、なれない」という人もいると思います。焦らなくても大丈夫。4月は“走り出す準備”を整える時期です。4月にぜひ準備してほしいなと思うことはいろいろありますが、原稿のボリュームとも相談して1つだけ挙げろ、と言われたら「勉強会を実施する」コレです。次月以降でより詰めた話はするとして、国家試験対策(卒業試験も同様に。何ならより重要かも)で何から手をつけ始めるか、と問われたら「まずは今月中に1回でもいいから、誰かと一緒に勉強会してみて」そう回答します。読者のみなさまにおかれましてはすでにいつもの4人でやってます、という方もいらっしゃるかもしれませんが、勉強会といっても、勉強会でただ集まるだけでは終わってほしくないので、ぜひ耳を傾けてみてください。勉強会を実施する、その意義は次の3つあると考えています。自分の学習状況に責任を持つ誰かと会って話す、心の健康を保つアウトプットの絶好の機会になる1つひとつ考察しましょう。(5年生の時から勉強会を共にした4人でイタリアへ卒業旅行へ)自分の学習状況に責任を持つ1つ目の「自分の学習状況に責任を持つ」という言葉の背景には、人間は1人では脆い、という私なりの持論が投影されています。冒頭で、三日坊主の私です、と述べましたが、「継続することが大得意!」という方がよっぽど珍しいのかなと思っています。過去の試験対策でも「今度こそは講義があったその日から」と決心するも気付けば数日前、下手すれば前日の夜、なんて経験をされた方もいらっしゃいますよね。ところが2月頭に予定されている医師国家試験の試験範囲は実に膨大で、ちょっとやそっとの付け焼き刃では太刀打ちできませんし、運よく合格したとしても、控える臨床研修での不安が募るだけです。長期計画が難しいことは十二分にわかりますし、仮に長期計画を作ったとしても計画は変更する、そんなことを考えていたら計画を立てることすら面倒に感じて何も進まない、、、そんな負のループにはハマってほしくありません。勉強会という、誰かと会って強制的に自分の学習状況を客観視することができる状況を作ってしまうのは得策です。誰かと会って話す、心の健康を保つ2つ目は「誰かと会って話す、心の健康を保つ」です。医師国家試験は大学受験と違って競争試験ではないですが、試験は試験。特に大学生になって遊び方にも多様性がある中で勉強をし続ける、そんな難しさがあるのでは、なんて思ったりもします。医学を学ぶこと自体は楽しいことですが、試験勉強となると滅入ることだって珍しくありません。1人で勉強すること自体は欠かせませんが、1人だけで駆け抜けることは個人的にはオススメしません。勉強会なので勉強の話がメインになることはそうなのですが、誰かと会って話す機会とは、社会を成す人間にとって自然な時間だと思います。また時期が近づいたら触れようと思いますが、医師国家試験も最終的にはメンタルゲームなところがあります。アウトプットの絶好の機会になるさて最後は「アウトプットの絶好の機会になる」です。誰かと会って話す勉強会では、インプットを同時に行うよりも、勉強会メンバーの誰かにとってアウトプットの場となるように運営することがコツです。アウトプットの方法として定番なのは一般問題のように、一問一答形式での口頭試問です。これまでの定期試験でもよく実施してきたのではないでしょうか。もちろん、一問一答形式はアウトプットには欠かせないのですが、ぜひ6年生のみなさんには項目ごとに学習を深掘りしてほしいです。例えば脳梗塞に対する臨床問題を数題取り組むとして、勉強会メンバーのうち、Aさんは疫学・リスク因子、それらをカバーする公衆衛生、Bさんは臨床像・診断、Cさんは治療・予後について、といったように一口に脳梗塞といっても様々な側面から問題について考察してほしいです。医師国家試験ではある年は臨床問題の問題文中の設定が、その疾患の疾患らしさ、として翌年には一般問題として問われる。そのまた逆も然り、なんてことがよくあります。ここで重要なのが、多角的に疾患や問題に向き合ってきたか、ということです。複数人で問題に取り組むことで、自分1人で勉強してて気づくことがなかった視点からさらに学習が深まります。(笑い合い、時に議論し合ったあの時間も、今となっては良い思い出です)今月のまとめいかがだったでしょうか。記念すべき1回目、4月まず何から手をつける?として勉強会のすゝめを説いてきました。勉強会が1回でもできればまずはOK、そこから定期的に集まる機会に繋げる、繋げた勉強会は絶好のアウトプットの時間にする。これがポイントです。これまで勉強会の機会がなかった方にとってはハードルが高く感じるかと思いますが、一度腰を上げてみましょう。誰かがいますから。学内で難しければ学外に目を向けてみれば、そのサポートをするサービスは近年よく整ってきていますよ。さあ、ということで今月は一旦ここまで。導入や自己紹介があったので、具体的な学習方法まで言及できませんでしたが、次月以降で紹介して参りますので、ぜひお楽しみに!

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tenecteplase、脳梗塞治療でアルテプラーゼと同等の効果

 急性期脳梗塞の治療薬として2月28日、米食品医薬品局(FDA)により承認された血栓溶解薬のTNKase(一般名テネクテプラーゼ〔tenecteplase〕)の有効性と安全性は、米国の大多数の病院で使用されている血栓溶解薬のアルテプラーゼと同等であるとする研究結果が報告された。テネクテプラーゼには、アルテプラーゼと比べて投与に要する時間が格段に短いというメリットもある。米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのJustin Rousseau氏らによる本研究の詳細は、「JAMA Network Open」に3月12日掲載された。 Rousseau氏らの説明によると、米国では毎年約80万人が脳卒中を発症し、その原因のほとんどは血栓が脳への血流を遮断することで生じる脳梗塞だという。アルテプラーゼは、1996年にFDAにより承認された血栓溶解薬であるが、投与に時間がかかるという欠点がある。同薬剤の投与プロセスは、最初に投与量の10%程度を1〜2分で急速投与し、その後、1時間かけて点滴で投与するというものであり、治療の中断や遅延を引き起こす可能性があると研究グループは指摘する。 これに対し、テネクテプラーゼはわずか数秒の注射で投与される。テネクテプラーゼは、血栓による心筋梗塞の治療薬としてすでに市場に出回っているが、急性期脳梗塞に対しては適応外で使用されていた。 今回の研究でRousseau氏らは、2020年7月1日から2022年6月30日の間に急性期脳梗塞に対する治療としてテネクテプラーゼを投与された9,465人(平均年齢69.6歳、女性47.6%)とアルテプラーゼを投与された7万85人(平均年齢68.5歳、女性48.6%)を対象に、有効性と安全性を比較した。有効性の主要評価項目は、退院時の機能的自立性(修正ランキンスケール〔mRS〕スコア0~2点)、副次評価項目は、退院時に障害がないこと(mRSスコア0~1点)、自宅退院、退院時の自立歩行であった。安全性の評価項目は、治療後36時間以内の症候性頭蓋内出血(sICH)、院内死亡、ホスピスへの退院、および院内死亡とホスピスへの退院の複合とされた。 その結果、対象者全体では、有効性と安全性の評価項目についてテネクテプラーゼ群とアルテプラーゼ群の間に有意な差は見られないことが明らかになった。一方、血管内血栓回収療法(EVT)適応があったが血栓溶解療法のみを受けた患者の間では、アルテプラーゼ群と比べてテネクテプラーゼ群で、自宅退院のオッズが有意に高く(調整オッズ比1.26、95%信頼区間1.03〜1.53)、院内死亡(同0.63、0.47〜0.85)、および院内死亡とホスピスへの退院の複合(同0.78、0.62〜0.97)のオッズは有意に低かった。 研究グループは、テネクテプラーゼとアルテプラーゼの有効性と安全性は同等であるが、投与の容易なテネクテプラーゼを使用することでEVTをより迅速に受けられるようになるなど、急性期脳梗塞の治療の柔軟性が高まる可能性があると見ている。 Rousseau氏は、「急性期脳梗塞の治療では、『時は脳なり』と言われる。効果的な治療が遅れるほど死滅する脳細胞が増え、予後が悪くなるからだ。本研究結果は、テネクテプラーゼがアルテプラーゼによる従来の治療法に代わる安全で効果的な治療法であり、場合によっては患者の回復を早める可能性があることを示唆している」とサウスウェスタン医療センターのニュースリリースの中で述べている。

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血栓溶解療法は後方循環系脳梗塞に発症後24時間まで有効か?(解説:内山真一郎氏)

 中国で行われたEXPECTS研究は、CTで高度の早期低吸収域がなく、血栓除去術が予定されていない、発症後4.5~24時間の後方循環系脳梗塞患者において、アルテプラーゼ投与と標準的内科治療を比較した無作為化試験である。結果は、90日後の自立例がアルテプラーゼ投与群で標準的内科治療群より有意に多く、36時間以内の症候性頭蓋内出血は両群間で有意差がなかった。 最近行われた無作為化比較試験では、灌流画像で証明された前方循環系の大血管閉塞患者で発症後24時間まで治療時間枠を拡大できる可能性が示唆されていたが、この研究により実用的で安価なCTでも症例選択に代用できることが示された。後方循環系は前方循環系よりも側副血行が豊富で虚血耐性が高く、血栓溶解療法による脳出血リスクが低いと考えられる。本研究では、血栓除去術が予定されていた大血管閉塞による重症例が除外されたことも脳出血リスクの低下に貢献したと思われる。本研究の限界として、対象患者が漢人のみであったため他の人種には全般化できないことを挙げているが、人種的に近い日本人患者には大いに参考になる結果ではないかと思われる。

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後方循環系の軽症脳梗塞、発症後4.5~24時間のrt-PA療法が有効/NEJM

 血栓除去術が予定されていない、主として後方循環系の軽症脳梗塞を発症した中国人患者において、発症後4.5~24時間のアルテプラーゼ(rt-PA)療法は標準薬物治療と比べて、90日時点の機能的自立の割合が高かった。中国・the Second Affiliated Hospital of Zhejiang UniversityのShenqiang Yan氏らEXPECTS Groupが中国の30ヵ所の脳卒中センターで行った多施設共同前向き無作為化非盲検アウトカム盲検試験の結果を報告した。後方循環系の虚血性脳卒中の発症後4.5~24時間に静脈内血栓溶解療法を用いることの有効性およびリスクは、十分に検討されていなかった。NEJM誌2025年4月3日号掲載の報告。アルテプラーゼvs.標準薬物治療で、90日時点の機能的自立を評価 研究グループは、後方循環系の脳梗塞を発症し、CT画像診断で早期の広範な低吸収域を認めず血栓除去術が予定されていない患者を、発症後4.5~24時間にアルテプラーゼ療法(0.9mg/kg体重、最大用量90mg)または標準薬物治療(Chinese Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute Ischemic Stroke 2018に基づく抗血小板療法およびその他の治療)を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時点で評価した機能的自立(修正Rankinスケールスコア[範囲:0~6、高スコアほどより障害が重度であることを示す]が0~2と定義)とした。重要な安全性アウトカムは、無作為化後36時間以内の症候性頭蓋内出血および90日以内の死亡とした。90日時点の機能的自立、アルテプラーゼ群89.6%、標準薬物治療群72.6% 2022年8月~2024年5月に、計234例が無作為化された(アルテプラーゼ群117例、標準薬物治療群117例)。 ベースラインの両群特性はほぼバランスが取れており、年齢中央値は64歳(四分位範囲[IQR]:55~74)、女性が34.6%であった。既往歴は高血圧がアルテプラーゼ群70.9%と標準薬物治療群62.4%、糖尿病がそれぞれ34.2%と32.5%であった。発症前の修正Rankinスケールスコアは0の被験者が両群ともに97.4%で、無作為化前のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア(範囲:0~42、高スコアほど神経学的障害の重度が高いことを示す)中央値は、両群ともに3(IQR:2~6)と、大半の被験者が軽症脳梗塞であった。 発症から無作為化までの時間中央値は564分(IQR:390~834)であった。 90日時点で、機能的自立の患者割合はアルテプラーゼ群(89.6%)が標準薬物治療群(72.6%)より有意に高かった(補正後リスク比:1.16、95%信頼区間[CI]:1.03~1.30、p=0.01)。 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、アルテプラーゼ群で2/116例(1.7%)、標準薬物治療群で1/115例(0.9%)に発現した(補正後リスク比:1.98、95%CI:0.18~21.56)。90日以内の死亡は、それぞれ6/115例(5.2%)と10/117例(8.5%)であった(0.61、0.23~1.62)。 著者は、「今回の試験の結果は、血管内血栓除去術が選択できない場合、この延長された時間枠内(発症後4.5~24時間)にアルテプラーゼ治療を用いることを支持するものである」と述べている。

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アスピリンがよい?それともクロピドグレル?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は1986年に循環器内科に入ったので、PCI後に5%の症例が血管解離などにより完全閉塞する時代、解離をステントで解決したが数週後に血栓閉塞する時代、薬剤溶出ステントにより1~2年後でも血栓性閉塞する時代を経験してきた。とくに、ステント開発後、ステント血栓症予防のためにワルファリン、抗血小板薬、線溶薬などを手当たり次第に試した時代を経験している。チクロピジンとアスピリンの併用により、ステント血栓症をほぼ克服できたインパクトは大きかった。チクロピジンの後継薬であるクロピドグレルは、急性冠症候群の1年以内の血栓イベントを低減した。アスピリンとクロピドグレルの併用療法は、PCI後の抗血小板療法の標準治療となった。 抗血小板併用療法により重篤な出血イベントリスクが増える。それでも1剤を減らして単剤にするのは難しい。単剤にした瞬間、血栓イベントが起これば自分の責任のように感じてしまう。やめる薬をアスピリンにするか、クロピドグレルにするかも難しい。クロピドグレルが特許期間内であれば、メーカーは必死でクロピドグレルを残す努力をしたと思う。資本主義の世の中なので、資金のあるほうが広報の力は圧倒的に強い。学術雑誌であってもfairな比較は期待できなかった。 クロピドグレルは特許切れしても広く使用され、真の意味で優れた薬剤であること(メーカーの広報がなくても医師が使用するとの意味)が示された。本研究ではPCI後標準期間の抗血小板併用療法施行後、アスピリンまたはクロピドグレルに割り振った。クロピドグレルの認可承認試験は、アスピリンとの比較における有効性・安全性を検証したCAPRIE試験であった。今回はPCI後、16ヵ月ほどDAPTが施行された後にランダム化した。冠動脈疾患の慢性期の単一抗血小板薬としてクロピドグレルによる死亡、心筋梗塞、脳梗塞がアスピリンよりも少ないことが示された。 筆者は特許中の薬剤を応援することがない。資本主義における、資本力による広報のトリックを完全に見破れる自信もない。しかし、特許切れして、なお有効性・安全性を示す薬は本物と思う。アスピリンは安価で優れた薬であった。筆者はアスピリンについて一冊の本を書いたほどである(後藤 信哉編. 臨床現場におけるアスピリン使用の実際. 南江堂;2006.)。しかし、クロピドグレルも数十年かけて優れた薬であることを示した。今度はクロピドグレルの本を書きたいほどである。

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乳がんサバイバーは多くの非がん疾患リスクが上昇/筑波大

 日本の乳がんサバイバーと年齢をマッチさせた一般集団における、がん以外の疾患の発症リスクを調査した結果、乳がんサバイバーは心不全、心房細動、骨折、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつの発症リスクが高く、それらの疾患の多くは乳がんの診断から1年以内に発症するリスクが高いことを、筑波大学の河村 千登星氏らが明らかにした。Lancet Regional Health-Western Pacific誌2025年3月号掲載の報告。 近年、乳がんの生存率は向上しており、乳がんサバイバーの数も世界的に増加している。乳がんそのものの治療や経過観察に加え、乳がん以外の全般的な健康状態に対する関心も高まっており、欧米の研究では、乳がんサバイバーは心不全や骨折、不安・うつなどを発症するリスクが高いことが報告されている。しかし、日本を含むアジアからの研究は少なく、消化管出血や感染症などの頻度が比較的高くて生命に関連する疾患については世界的にも研究されていない。そこで研究グループは、日本の乳がんサバイバーと一般集団を比較して、がん以外の12種類の代表的な疾患の発症リスクを調査した。 日本国内の企業の従業員とその家族を対象とするJMDCデータベースを用いて、2005年1月~2019年12月に登録された18~74歳の女性の乳がんサバイバーと、同年齢の乳がんではない対照者を1:4の割合でマッチングさせた。乳がんサバイバーは上記期間に乳がんと診断され、1年以内に手術を受けた患者であった。転移/再発乳がん、肉腫、悪性葉状腫瘍の患者は除外した。2つのグループ間で、6つの心血管系疾患(心筋梗塞、心不全、心房細動、脳梗塞、頭蓋内出血、肺塞栓症)と6つの非心血管系疾患(骨粗鬆症性骨折、その他の骨折[肋骨骨折など]、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつ)の発症リスクを比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、乳がんサバイバー2万4,017例と、乳がんではない同年齢の女性9万6,068例(対照群)であった。平均年齢は両群ともに50.5(SD 8.7)歳であった。・乳がんサバイバー群は、対照群と比較して、心不全(調整ハザード比[aHR]:3.99[95%信頼区間[CI]:2.58~6.16])、消化管出血(3.55[3.10〜4.06])、不安・うつ(3.06[2.86〜3.28])、肺炎(2.69[2.47~2.94])、心房細動(1.83[1.40~2.40])、その他の骨折(1.82[1.65~2.01])、尿路感染症(1.68[1.60~1.77])、骨粗鬆症性骨折(1.63[1.38~1.93])の発症リスクが高かった。・多くの疾患の発症リスクは、乳がんの診断から1年未満のほうが1年以降(1~10年)よりも高かった。とくに不安・うつは顕著で、1年未満のaHRが5.98(95%CI:5.43~6.60)、1年以降のaHRが1.48(1.34~1.63)であった。骨折リスクは診断から1年以降のほうが高かった。・初期治療のレジメン別では、アントラサイクリン系およびタキサン系で治療したグループでは、骨粗鬆症性骨折、その他の骨折、消化管出血、肺炎、不安・うつの発症リスクが高い傾向にあり、アントラサイクリン系および抗HER2薬で治療したグループでは心不全のリスクが高い傾向にあった。アロマターゼ阻害薬で治療したグループでは骨粗鬆症性骨折、消化管出血の発症リスクが高い傾向にあった。 これらの結果より、研究グループは「医療者と患者双方がこれらの疾患のリスクを理解し、検診、予防、早期治療につなげることが重要である」とまとめた。

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ストレスは若年女性の原因不明脳梗塞のリスク

 50歳未満の女性における原因を特定できない脳梗塞と、ストレスとの関連が報告された。男性ではこの関連が認められないという。ヘルシンキ大学病院(フィンランド)のNicolas Martinez-Majander氏らの研究によるもので、詳細は「Neurology」に3月5日掲載された。 脳梗塞のリスクは、加齢や性別などの修正不能な因子と、喫煙や高血圧などの修正可能な因子によって規定されることが明らかになっているが、それらのリスク因子が該当しない原因不明の脳梗塞(cryptogenic ischemic stroke;CIS)もあり、近年、特に若年者のCIS増加が報告されている。これを背景に著者らは、若年者のCISにストレスが関与している可能性を想定し、以下の研究を行った。 この研究には欧州の19の医療機関が参加し、18~49歳の初発CIS患者群426人(年齢中央値41歳、女性47.7%)と、性別・年齢がマッチする脳卒中既往のない対照群426人を対象として、過去1カ月間に感じたストレスの程度を10項目の質問で評価した。各質問には0~4の範囲で回答してもらい、合計点が13点以下は「低ストレス」、14~26点は「中ストレス」、27点以上は「高ストレス」と判定。すると、患者群は対照群に比較して、中ストレス以上の割合が有意に高かった(46.2対33.3%、P<0.001)。 次に、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、喫煙、肥満、非健康的食習慣、大量飲酒、運動不足、高血圧、心血管疾患、糖尿病、うつ病、前兆を伴う片頭痛、教育歴)を統計学的に調整した検討を実施。その結果、ストレススコアが1点高いごとにCIS発症オッズ比(OR)が1.04(95%信頼区間1.01~1.07)であり、ストレスの強さとCISリスクとの独立した有意な関連が明らかになった。ストレスの強さ別に解析すると、中ストレスは有意な関連が示されたが(OR1.47〔同1.00~2.14〕)、高ストレスは非有意だった(OR2.62〔0.81~8.45〕)。 性別に解析した場合、女性では有意な関連があり(OR1.06〔1.02~1.11〕)、特に中ストレスとの強い関連が認められた(OR1.78〔1.07~2.96〕)。一方、男性では関連が見られなかった。 Martinez-Majander氏は、「ストレスを感じる女性はCISリスクが高く、男性はそうでない理由を理解するにはさらなる研究が求められる。高ストレスではなく中ストレスがリスクに関連している理由も明らかにする必要がある。それらの解明が脳梗塞予防につながる可能性がある」と話している。 また、本研究では、男性よりも女性の方がストレスを強く感じている割合が高いことも示された。具体的には、中ストレス以上の割合が女性では患者群57.6%、対照群41.4%であったのに対して、男性は同順に35.9%、26.0%だった。このような性差の理由についてMartinez-Majander氏は、「女性は家庭、介護、仕事など複数の役割をこなし、より強いストレスを受けていることが多いのではないか」と推測。一方で著者らは、「男性はストレスを我慢すべきものと考える傾向がある」として、「そのことが本研究の結果に影響を及ぼした可能性も否定できない」と述べている。

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TIA後の脳卒中リスクは長期間持続する(解説:内山真一郎氏)

 本研究は、38件の研究に登録された17万1,068例のTIAまたは軽症脳梗塞(大多数はTIA)のメタ解析である。脳卒中の再発リスクは最初の1年で5.9%、5年で12.5%、10年で19.8%であり、2年後からは毎年1.8%再発していた。われわれの行ったTIA registry.org研究でも、発症後2年後から5年後まで累積再発曲線は減衰することなく直線的に推移し、ブレーキがかかっていなかった(Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2018;378:2182-2190.、本論文の引用文献14)。 このメタ解析やわれわれの研究結果は、現行のガイドラインによる長期の再発予防対策が不十分であることを示唆している。抗血栓療法のアドヒアランスを維持するとともに、脳卒中の危険因子の管理が十分であったかも見直す必要がある。さらに、高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、心房細動のような伝統的危険因子以外の残余リスクがないかにも目を光らす必要がある(Uchiyama S, et al. Eur Stroke J. 2024 Nov 21. [Epub ahead of print])。

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