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脳内出血生存例への抗血小板療法は安全か/Lancet

 脳内出血の生存例は、出血性および閉塞性の血管疾患イベントのリスクが高いが、これらの患者で抗血小板薬が安全に使用可能かは明らかでないという。英国・エジンバラ大学のRustam Al-Shahi Salman氏らRESTART試験の研究グループは、抗血栓療法中に脳内出血を発症した患者への抗血小板療法は、これを行わない場合と比較して脳内出血再発率が低い傾向にあり、安全性は保持されることを示した。研究の詳細はLancet誌オンライン版2019年5月22日号に掲載された。再発リスクが閉塞性血管イベント抑制効果を上回るかを検証 研究グループは、脳内出血の再発予防における抗血小板薬の有効性を評価し、再発のリスクが閉塞性血管イベントの抑制効果を上回るかを検証する目的で、非盲検エンドポイント盲検化無作為化試験を行った(英国心臓財団の助成による)。 対象は、抗血栓療法中に脳内出血を発症したため治療を中止し、その後、発症から24時間以上生存し、閉塞性血管疾患の予防のために抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の投与を受けている年齢18歳以上の患者であった。 被験者は、抗血小板療法を行う群と行わない群に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは、最長5年の症候性脳内出血の再発とした。再発率:4% vs.9%、閉塞性血管イベント発生率:15% vs.14% 2013年5月~2018年5月までに、脳内出血生存例537例(発症からの期間中央値76日[IQR:29~146])が登録された。抗血小板療法群に268例、非血小板療法群には269例(1例が脱落)が割り付けられた。追跡期間中央値は2.5年(IQR:1.0~3.0、追跡完遂率:99.3%)だった。 ベースラインの全体の平均年齢は76歳、約3分の2が男性で、92%が白人であった。62%が脳葉出血で、88%に1ヵ所以上の閉塞性血管疾患(ほとんどが虚血性心疾患、脳梗塞、一過性脳虚血発作)の既往があり、割り付け時に約4分の3が高血圧、4分の1が糖尿病や心房細動を有していた。 脳内出血再発率は、抗血小板療法群が4%(12/268例)と、非血小板療法群の9%(23/268例)に比べ低い傾向がみられたものの、有意な差はなかった(補正後ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.25~1.03、p=0.060)。 主な出血イベント(再発性症候性脳内出血[主要アウトカム]、外傷性頭蓋内出血など)の発生率は、抗血小板療法群が7%(18例)、非血小板療法群は9%(25例)であり、有意差は認めなかった(補正後HR:0.71、95%CI:0.39~1.30、p=0.27)。また、主な閉塞性血管イベント(脳梗塞、心筋梗塞、腸間膜虚血、末梢動脈閉塞、深部静脈血栓症など)の発生率は、それぞれ15%(39例)および14%(38例)と、こちらも両群に有意差はみられなかった(1.02、0.65~1.60、p=0.92)。 著者は、「脳内出血例における閉塞性血管疾患の予防ための抗血栓療法では、抗血小板療法による脳内出血の再発リスクの増加はきわめてわずかであり、おそらく2次予防において確立された抗血小板薬の有益性を超えるものではない」とまとめ、「現在、別の無作為化試験が進行中であり、本試験と合わせたメタ解析や、適切な検出力を持つ信頼性の高い無作為化試験が求められる」としている。

22.

血栓溶解を用いた低侵襲脳内血腫除去術の有効性と安全性(MISTIE-III)/Lancet(解説:中川原譲二氏)-1031

 テント上の脳内出血による急性脳卒中は、高いmorbidityとmortalityを伴う。開頭血種除去術は、大きなRCTで何らの有効性も得られていない。本研究(minimally invasive surgery with thrombolysis in intracerebral haemorrhage evacuation: MISTIE-III)では、血種サイズを15mL以下に低下させることを目標とする低侵襲脳内血腫除去術(MISTIE)が、脳内出血患者の機能的転帰を改善するかどうかを検討した。約500例を対象に、365日時のmRSスコア0~3を2群で評価 MISTIE-IIIは、非盲検エンドポイント盲検無作為化対照比較第III相試験である。対象は、年齢18歳以上の非外傷性テント上脳内出血(30mL以上)の患者であった。被験者は、血腫の大きさ15mL以下を目標にイメージガイド下MISTIEを施行する群、または標準治療群に無作為に割り付けられた。MISTIE群では、血栓溶解薬アルテプラーゼ1.0mgを8時間ごとに最大9回投与した。主要アウトカムは良好な機能的アウトカムとし、365日時の修正Rankinスケール(mRS)のスコアが0~3と定義され(事前に規定されたベースラインの共変量で補正)、修正intention to treat(mITT)解析が行われた。2013年12月~2017年8月の期間に、北米、欧州、オーストラリア、アジアの78施設で506例が登録され、499例(MISTIE群:250例、標準治療群:249例)がmITT解析に含まれた。365日時のmRS 0~3達成率:45% vs.41%で2群間に有意差なし 全体の年齢中央値は62歳(IQR:52~71)、61%が男性であった。血腫部位は、大脳基底核が307例(62%)、lobar regionが192例(38%)で、脳内血腫量は41.8mL(IQR:30.8~54.5)であり、GCSは10(8~13)、NIHSSは19(15~23)だった。mITT解析による365日時のmRS 0~3の達成率は、MISTIE群:45%、標準治療群:41%と、両群間に有意な差を認めなかった(補正リスク差:4%、95%信頼区間[CI]:-4~12、p=0.33)。7日時の死亡率は、MISTIE群:1%(2/255例)、標準治療群:4%(10/251例)であり(p=0.02)、30日時はそれぞれ9%(24例)、15%(37例)であった(p=0.07)。症候性脳出血(MISTIE群2% vs.標準治療群1%、p=0.33)および脳細菌感染(1% vs.0%、p=0.16)の発生はいずれも同等であったが、無症候性脳出血はMISTIE群で有意に多かった(32% vs.8%、p<0.0001)。また、30日時までに1件以上の重篤な有害事象が発現した患者は、それぞれ30%(76例)、33%(84例)であり、その件数は126件、142件と、有意な差がみられた(p=0.012)。今後のサブ解析にMISTIEの活路を見いだせるか? 血栓溶解を用いたMISTIEは、脳内出血患者の機能的転帰を改善する治療法として大きな期待を持たれてきたが、MISTIE-III研究では、その明確な有効性を示すことができなかった。研究の詳細を見ると、MISTIE群では、血腫の大きさが最終的に15mL以下となった症例数が146例(58%)と記載されているが、このサブグループの成績がどのような結果になっているかが知りたいところである。また、約500例の発症から治療開始までの時間が、<36時間:143例、36~<48時間:127例、48~60時間:118例、>60時間:111例と4分割され、発症から治療開始までの時間が<36時間のグループの治療成績が比較的良いことが示されているが、発症から治療開始までの時間に関しても詳細な分析が知りたいところである。MISTIE-III研究を、今後どのような研究に引き継ぐことができるか、研究者の動向をしばらく注目したい。

23.

低侵襲血腫除去+血栓溶解、脳内出血の予後を改善するか/Lancet

 30mL以上の脳内出血の治療において、MISTIEと呼ばれる画像ガイド下経カテーテル血腫除去術後に血栓溶解療法を行うアプローチは、標準治療と比較して1年後の機能的アウトカムを改善しないことが、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のDaniel F. Hanley氏らが行ったMISTIE III試験で示された。研究の成果は、Lancet誌2019年3月9日号に掲載された。テント上脳出血による急性脳卒中は、合併症や死亡のリスクが高い。本症への開頭術による血腫除去は有益でないことが、大規模な無作為化試験で示されている。約500例対象に試験、1年後のmRSスコアを評価 研究グループは、低侵襲性の経カテーテル血腫除去術後に血栓溶解療法を行うアプローチ(MISTIE)の、脳内出血患者の機能的アウトカムの改善効果を検証する目的で、非盲検エンドポイント盲検無作為化対照比較第III相試験を行った(米国国立神経疾患・脳卒中研究所とGenentech社の助成による)。 対象は、年齢18歳以上の非外傷性テント上脳内出血(30mL以上)の患者であった。被験者は、血腫の大きさ15mL以下を目標に画像ガイド下MISTIEを施行する群、または標準治療群に無作為に割り付けられた。MISTIEの血栓溶解療法は、アルテプラーゼ1.0mgを8時間ごとに最大9回投与することとした。 主要アウトカムは良好な機能的アウトカムとし、365日時の修正Rankinスケール(mRS)のスコアが0~3と定義され(事前に規定されたベースラインの共変量で補正)、修正intention to treat(mITT)解析が行われた。 2013年12月~2017年8月の期間に、北米、欧州、オーストラリア、アジアの78施設で506例が登録され、499例(MISTIE群:250例、標準治療群:249例)がmITT解析に含まれた。365日mRS 0~3達成率:45% vs.41% ベースラインの全体の年齢中央値は62歳(IQR:52~71)、61%が男性であった。血腫の部位は、大脳基底核が307例(62%)、lobar regionが192例(38%)で、脳内の血腫量は41.8mL(IQR:30.8~54.5)であり、グラスゴー昏睡尺度(GCS)スコアは10(8~13)、NIH脳卒中尺度(NIHSS)は19(15~23)だった。 mITT解析による365日時のmRS 0~3の達成率は、MISTIE群が45%、標準治療群は41%と、両群間に有意な差を認めなかった(補正リスク差:4%、95%信頼区間[CI]:-4~12、p=0.33)。 7日時の死亡率は、MISTIE群が1%(2/255例)、標準治療群は4%(10/251例)であり(p=0.02)、30日時はそれぞれ9%(24例)、15%(37例)であった(p=0.07)。 症候性脳出血(MISTIE群2% vs.標準治療群1%、p=0.33)および脳細菌感染(1% vs.0%、p=0.16)の発生はいずれも同等であったが、無症候性脳出血はMISTIE群で有意に多かった(32% vs.8%、p<0.0001)。また、30日時までに1件以上の重篤な有害事象が発現した患者は、それぞれ30%(76例)、33%(84例)であり、件数は126件、142件と、有意な差がみられた(p=0.012)。 著者は、「これらの知見は、血腫量15mL以下の達成に、より重点を置いたうえで、MISTIE技術のさらなる検討を求めるものである」としている。

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超急性期に脳卒中が疑われる患者に対する搬送中の経皮型ニトロは機能的転帰を改善しない(中川原譲二氏)-1014

 高血圧は急性期脳卒中によくみられ、不良なアウトカムの予測因子である。大規模な降圧試験でさまざまな結果が示されているが、超急性期の脳卒中に関する高血圧のマネジメントについては不明なままだった。著者らは、経皮型ニトログリセリン(GTN)が、発症後超早期に投与された場合に、転帰を改善するかどうかについて検討した。90日後の修正Rankin Scaleスコアを評価 研究グループ「The RIGHT-2 Investigators」は多施設共同の救急隊員による救急車内でのシャム対照無作為化試験を行った。被験者は、4時間以内に脳卒中を発症したと考えられ、FAST(face-arm-speech-time)スコアは2または3、収縮期血圧値が120mmHg以上の成人だった。被験者を無作為に2群に分け、GTN群には経皮型GTNを投与し(5mg/日を4日間)、シャム群にはシャム処置を、いずれも救急隊員が開始し、病院到着後も継続した。救急隊員は治療についてマスキングされなかったが、被験者はマスキングされた。主要アウトカムは、90日後の7段階修正Rankin Scale(mRS)による機能的アウトカムのスコアだった。評価は治療についてマスキングされた追跡調査員が電話で行った。分析は段階的に行い、まずは脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)と診断された患者について(コホート1)、次に被験者全員を対象に無作為化した患者について行った(コホート2)。機能的転帰に有意差なし、死亡や重大有害イベントも低下せず 試験は、2015年10月22日~2018年5月23日にかけて、英国8ヵ所の救急車サービス拠点から救急隊員516人、被験者数1,149例(GTN群は568例、シャム群581例)が参加して行われた。無作為化までの時間の中央値は71分(IQR:45~116)。被験者のうち虚血性脳卒中を発症したのは52%(597例)、脳内出血は13%(145例)、TIAは9%(109例)、脳卒中類似症例は26%(297例)だった。GTN群の入院時点の血圧値はシャム群と比べて、収縮期血圧値が5.8mmHg(p<0.0001)、拡張期血圧値が2.6mmHg(p=0.0026)、それぞれ低かった。コホート1において、最終的に脳卒中またはTIAと診断された被験者におけるmRSスコアに有意差はみられなかった。GTN群の同スコアは3(IQR:2~5)、シャム群も3(同:2~5)、不良なアウトカムに関する補正後commonオッズ比(acOR)は1.25(95%信頼区間[CI]:0.97~1.60)で、両群間に有意差はみられなかった(p=0.083)。コホート2でも、GTN群のmRSスコアは3(同:2~5)、シャム群も3(同:2~5)で、acORは1.04(95%CI:0.84〜1.29)と同等だった(p=0.69)。死亡(治療関連の死亡:GTN群36例vs.シャム群23例、p=0.091)や重大有害イベント(188例vs.170例、p=0.16)といった副次的アウトカムも、両群で差はみられなかった。本研究での降圧効果は、十分であったか? 本研究では、脳卒中が疑われる患者に対する搬送中の経皮型ニトログリセリン(GTN)の投与は、機能的アウトカムを改善しないことが示された。死亡率や重大有害イベントの発生リスクも低減しなかった。患者の登録時の収縮期血圧値が平均163mmHg前後、拡張期血圧値が平均92mmHg前後であり、GTN群ではシャム群に比較して、収縮期血圧値で5.8mmHg、拡張期血圧値で2.6mmHg低下しているが、この程度の血圧低下では、機能的転帰は改善しないとも考えられる。層別解析では、登録時の収縮期血圧値が、140mmHg以下の2群間で、GTN群の転帰がやや良好な傾向がみられるため、超急性期における降圧のさらなる強化療法について、検討の余地があると思われる。

25.

脳卒中疑い、搬送中の経皮ニトロは有効か/Lancet

 脳卒中が疑われる患者に対する搬送中の経皮型ニトログリセリン(GTN)の投与は、機能的アウトカムを改善しないことが示された。死亡率や重大有害イベントの発生リスクも低減しなかった。英国・ノッティンガム大学のPhilip M. Bath氏らの研究グループ「The RIGHT-2 Investigators」が、1,100例超の被験者を対象に行った第III相のシャム対照無作為化試験の結果で、Lancet誌2019年2月6日号で発表した。ただし結果を踏まえて著者は、「英国救急隊員が搬送時の超急性期の場面で、脳卒中患者の同意を得て治療を行うことを否定するものではない」と述べている。高血圧は急性脳卒中によくみられ、不良なアウトカムの予測因子である。大規模な降圧試験でさまざまな結果が示されているが、超急性期の脳卒中に関する高血圧のマネジメントについては不明なままだった。90日後の修正Rankin Scaleスコアを評価 研究グループは2015年10月22日~2018年5月23日にかけて、多施設共同の救急隊員による救急車内でのシャム対照無作為化試験を行った。被験者は、4時間以内に脳卒中を発症したと考えられ、FAST(face-arm-speech-time)スコアは2または3、収縮期血圧値が120mmHg以上の成人だった。 被験者を無作為に2群に分け、一方の群には経皮型GTNを投与し(5mg/日を4日間)、もう一方の群には同様に見せかけたシャム処置を、いずれも救急隊員が救急車内で開始し、病院到着後も継続した。救急隊員は治療についてマスキングされなかったが、被験者はマスキングされた。 主要アウトカムは、90日後の7段階修正Rankin Scale(mRS)による機能的アウトカムのスコアだった。評価は治療についてマスキングされた中央施設の追跡調査員が電話で行った。分析は段階的に行い、まずは脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)と診断された患者について(コホート1)、次に被験者全員を対象に無作為化した患者について行った(コホート2)。mRSスコアに有意差なし、死亡や重大有害イベントも低下せず 試験は英国8ヵ所の救急車サービス拠点から救急隊員516人、被験者数1,149例(GTN群は568例、シャム群581例)が参加して行われた。 無作為化までの時間の中央値は71分(IQR:45~116)。被験者のうち虚血性脳卒中を発症したのは52%(597例)、脳内出血は13%(145例)、TIAは9%(109例)、脳卒中類似症例は26%(297例)だった。GTN群の入院時点の血圧値はシャム群と比べて、収縮期血圧値が5.8mmHg(p<0.0001)、拡張期血圧値が2.6mmHg(p=0.0026)、それぞれ低かった。 コホート1において、最終的に脳卒中またはTIAと診断された被験者におけるmRSスコアに有意差はみられなかった。GTN群の同スコアは3(IQR:2~5)、シャム群も3(同:2~5)、不良なアウトカムに関する補正後commonオッズ比(acOR)は1.25(95%信頼区間[CI]:0.97~1.60)で、両群間に有意差はみられなかった(p=0.083)。 コホート2でも、GTN群のmRSスコアは3(同:2~5)、シャム群も3(同:2~5)で、acORは1.04(95%CI:0.84〜1.29)と同等だった(p=0.69)。 死亡(治療関連の死亡:GTN群36例vs.シャム群23例、p=0.091)や重大有害イベント(188例vs.170例、p=0.16)といった副次的アウトカムも、両群で差はみられなかった。

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術前化学療法を施行したHER2陽性乳がんにおける術後T-DM1の有効性(解説:矢形寛氏)-996

 ドイツのKATHERINE試験結果が2018年サン・アントニオ乳癌シンポジウムで報告された後、すぐに論文化されたものであり、まだ最終結果ではないものの、われわれの臨床を変える情報であった。 全体として3年無浸潤病変生存率の差が10%以上と大きな改善をみている。全生存率は境界域ではあるものの、より長期に追跡することにより十分な有意差が出てくることを期待させる内容である。現時点でも十分臨床応用するに値する結果であり、HER2陽性進行乳がんで、術前化学療法により十分な効果があったものの、浸潤がん残存が認められるもの、HR陰性例などで、とくに有用性が高いものと思われる。 注意が必要なのは、本試験の適格基準が、術前HER2標的剤治療を完遂したものとなっており、PDやSD、あるいは有害事象などで中断したものは適応とはなっていないことは知っておくべきである。さらにT-DM1群で血小板減少症を来した1例が脳内出血により死亡しており、不要な有害事象を避けるためにも適応は慎重に選択しなければならない。

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心血管病の証拠のない2型糖尿病患者への予防的ω-3多価不飽和脂肪酸の投与効果は期待はずれか(ω-3PUFA効果は夢か幻か?)(解説:島田俊夫氏)-926

 多価不飽和脂肪酸(PUFA)が心血管病に良い影響を与えるということが巷でささやかれており、サプリメントも広く普及している。PUFAにまつわる話はグリーランドのイヌイット(エスキモー)に心血管病が少ないことに着目した研究に端を発している1)。この研究以降、精力的に研究が行われてきたが、PUFAサプリメントの投与と心血管病の予防・治療への有効性は、いまだ確立されていない。とくに1次予防に関しては、悲観的な結果が優勢であるがわが国の大規模研究JELIS2)は、高コレステロール血症に対してスタチン投与中の集団を無作為にEPA(1,880mg/day)、プラセボに割り付けることにより、主冠動脈イベント発症率は19%有意に低下した。2次予防サブ解析では累積冠動脈イベントが23%低下した。脳卒中に関しては1次予防効果は認めず、2次予防効果において20%の抑制効果が認められた。しかし、この研究がprobe法を用いた研究であったことが信憑性に疑念を抱かせる結果となっている。 NEJM誌オンライン版の2018年8月26日号に掲載された英国・オックスフォード大学のLouise Bowman氏らの論文は、PUFAの予防投与における有用性に疑問を投じる貴重な報告と考え、私見を述べる。研究の概略 観察研究では、ω-3PUFAの摂取増加は心血管病リスク低下に関係している。 ところがこれらの所見は、ランダム化試験においていまだ是認されていない。ω-3PUFAサプリメントが糖尿病患者の心血管リスクに便益をもたらすか、いまだ解決されていない。 明らかな動脈硬化性疾患の証拠を持たない糖尿病患者1万5,480例を、ω-3PUFA1gカプセル服用群(PUFA群)、オリーブオイル服用群(プラセボ群)のいずれかの群に無作為に割り付けを行った。1次アウトカムは、初回の重篤な血管イベントとした(つまり、確定した脳内出血を除いた非致死的心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作または血管死)。 7.4年のフォローアップ期間中(アドヒアランス:76%)、重篤な血管イベントが脂肪酸群で689例(8.9%)、プラセボ群で712例(9.2%)に発生した(率比:0.97、95%CI:0.87~1.08、p=0.55)。重篤な血管イベントあるいは血管再建複合アウトカムは、それぞれ882例(11.4%)、887例(11.5%)に起こった(率比:1.00、95%CI:0.91~1.09)。全死因死亡は脂肪酸群で752例(9.7%)、プラセボ群で788例(10.2%)に起こった(率比:0.95、95%CI:0.86~1.05)。非致死的重篤有害イベント率に関しては有意差を認めなかった。筆者コメント 結論として、心血管病の証拠のない糖尿病患者は、ω-3PUFAサプリメント群、プラセボ群に無作為に割り付けられた2群間比較で、重篤な心血管イベントリスクに有意差を認めなかった。本論文のメッセージは、心血管病予防にこれまで期待の大きかったPUFAサプリメントの1次予防への投与が無作為に割り付けられた糖尿病患者で、かつ明らかな心血管疾患の証拠のない患者の2群間(ω-3PUFAサプリメント群とプラセボ群)比較で有意差を認めなかった事実から、PUFAの予防投与は思いの外、糖尿病患者の心血管病予防への期待を裏切る結果となった。高コレステロール血症治療中の患者を対象とした研究、2型糖尿病治療群を対象とした本研究での結果の乖離が、単なる対象疾患の差にもとづくものか慎重な判断が必要である。1次予防に関する研究は追跡期間、人口構成らが大いに結果に影響し、至適追跡期間が不適切であれば検出力不足のために陰性になる恐れもあり、本研究の平均追跡期間7.4年が1次予防効果を評価するに十分であったか多少の疑問が残る。これまでの多くのエビデンスを考えると多価不飽和脂肪酸サプリメントへの過大な期待に対する警鐘と理解するのが、現段階では妥当な解釈かと考えている。効果を否定するのは早計と考える。

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抗血小板療法を受けていない集団の大出血リスクは?/JAMA

 抗血小板療法を受けていない集団における、大出血および非致死的大出血の推定年間発生リスクを、ニュージーランド・オークランド大学のVanessa Selak氏らが算出した。同国のプライマリケア受診患者を対象とした前向きコホート研究の結果で、著者は「今回の結果を、心血管疾患(CVD)1次予防のための集団レベルのガイドラインに示すことができるだろう」と述べている。アスピリン治療開始の決定には、同治療によるベネフィットと有害性を考慮する必要がある。最も重大な有害性は大出血であるが、至適な地域集団における出血リスクのデータは不十分であった。JAMA誌2018年6月26日号掲載の報告。プライマリケア受診しCVDリスク評価を受けた30~79歳集団を前向きに評価 研究グループは、CVDを有しておらず抗血小板療法を受けていない集団における大出血リスクを調べるため、2002〜15年にニュージーランドのプラリマリケアを受診しCVDリスク評価を受けた30~79歳35万9,166例(ベースライン集団)を対象に前向きコホート研究を行った。被験者の初回大出血イベント日、死亡日、あらゆるベースライン集団除外基準に達した日、あるいは試験終了到達(2015年12月31日)の状況を調べ、1)ベースライン集団(35万9,166例)、2)非ハイリスク集団(出血リスク増大と関連する病状を有する人を除外した集団:30万5,057例)、3)非薬物療法集団(出血リスク増大と関連する他の薬物療法服用者を除外した集団:24万254例)について、性別および10歳単位年齢群(30~39歳、40~49歳、50~59歳、60~69歳、70~79歳)に分けて、大出血イベント(出血に関連した入院または死亡)、非致死的消化管出血、消化管出血関連の致命率(case fatality)を評価した。ベースライン集団の大出血イベント発生は1.1% 被験者の平均年齢は54歳(SD10)、女性が44%、ヨーロッパ系が57%であった。追跡期間の中央値は2.8年。 ベースライン集団(35万9,166例)において、128万1,896人年のフォローアップ中、大出血イベントの発生は3,976例(集団の1.1%)で、そのうち最も多かったのは消化管出血で2,910例(73%)であった。致死的出血は274例(7%)で、そのうち153例が脳内出血であった。 非致死的消化管出血イベントリスクは、1,000人年当たり、ベースライン集団で2.19(95%信頼区間[CI]:2.11~2.27)、非ハイリスク集団1.77(1.69~1.85)、非薬物療法集団1.61(1.52~1.69)であった。消化管出血イベント関連致命率は、それぞれの集団で3.4%(2.2~4.1)、4.0%(3.2~5.1)、4.6%(3.6~6.0)であった。

29.

経済レベルの異なる国々における脳卒中診療パターンと転帰(中川原譲二氏)-883

 低・中所得国では脳卒中が人々にもたらす影響にはばらつきがある。高所得国では、脳卒中の診療と転帰における改善が報告されているが、低・中所得国での診療の状況と転帰についてはほとんど知られていない。著者ら(英国・グラスゴー大学のPeter Langhorne氏ら)は、経済レベルの異なる国々における実施可能な診療のパターンと患者転帰との関係を比較検討した。32ヵ国、142ヵ所の医療機関が参加した観察研究 研究グループは2007年1月11日~2015年8月8日にかけて、32ヵ国142ヵ所の医療機関を通じて、「INTERSTROKE」研究に参加した1万3,447例の脳卒中患者を対象に、診療の違い(用いられた治療と医療機関へのアクセス)のパターンと効果について検討を行った。また、研究に参加した施設に対して、患者データに加え、健康管理や脳卒中の診療設備に関する情報を調査票により収集した。患者層特性と診療区分に対して単変量・多変量解析を行い、利用できる医療機関、提供された治療と、1ヵ月時点の患者転帰との関連を分析した。脳卒中ケアユニットでの治療や適切な抗血小板療法は、転帰を改善 被験者のうち、すべての情報を得られたのは1万2,342例(92%)だった(28ヵ国108病院)。そのうち、高所得国の被験者は2,576例(10ヵ国38病院)、低・中所得国は9,766例(18ヵ国70病院)だった。低・中所得国の患者は高所得国に比べ、重篤な脳卒中や脳内出血が多く、診療へのアクセスが不十分で、検査や治療の利用が少なかった(p<0.0001)。また、低・中所得国の転帰不良は、患者層特性の違いのみによるものだった。一方、所得に関係なくすべての国において、脳卒中ケアユニットへのアクセスが、検査や治療の利用の改善、リハビリテーション・サービスへのアクセス、重症度によらない生存率の改善と関連していた(オッズ比[OR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.14~1.44、p<0.0001)。それらは、患者層特性や診療の他の評価法とも独立していた。また、急性期の抗血小板療法は、患者層や診療の特性にかかわらず、生存率を改善した(OR:1.39、95%CI:1.12~1.72)。低・中所得国では、診療とその提供体制の改善が不可欠 以上から、低・中所得国では、エビデンスに基づく治療や診断、および脳卒中ケアユニットが、まれにしか活用されていないことが明らかにされた。一方で、脳卒中ケアユニットへのアクセスや抗血小板療法の適切な使用は、転帰の改善と関連していることも示された。したがって、低・中所得国では、診療とその提供体制の改善が、転帰の改善に不可欠であると解釈される。高所得国に恥じない脳卒中診療提供体制の構築が課題 脳卒中診療では、診療提供体制の改善が、転帰の改善に不可欠であることは、低・中所得国に限らず、高所得国であるわが国においても、当てはまる。わが国で2005年に一般臨床での使用が承認された急性期脳梗塞に対するt-PA静注療法は、診療施設における脳卒中ケアユニットの運用と一体のものとして導入された。また、近年エビデンスが確立した急性期脳梗塞に対する血管内治療手技による血栓回収療法についても、各診療圏内に血管内治療手技が24時間提供できる診療体制の構築がなければ、当該診療圏全体としての脳卒中の転帰の改善には、結び付かない。わが国においては、高所得国に恥じない脳卒中の診療体制の構築が課題である。

30.

脳卒中ケアユニット、所得・重症度によらず生存率を改善/Lancet

 低・中所得国では、脳卒中のエビデンスベースの治療や診断、および脳卒中ケアユニットが、一般的に活用されていないことが明らかにされた。一方で、脳卒中ケアユニットへのアクセスや抗血小板療法の適切な使用は、早期回復と関連していることも示された。英国・グラスゴー大学のPeter Langhorne氏らが、32ヵ国・約1万3,000例の脳卒中患者を対象に行った観察試験で明らかにしたもので、Lancet誌2018年5月19日号で発表した。これまで、低・中所得国では脳卒中が人々にもたらず影響にばらつきがあることが示唆されていた。高所得国では、脳卒中のケアとアウトカムは改善が報告されているが、低・中所得国の診療状況およびアウトカムは明らかになっていなかった。32ヵ国、142ヵ所の医療機関を通じて観察試験 研究グループは2007年1月11日~2015年8月8日にかけて、32ヵ国142ヵ所の医療機関を通じて、「INTERSTROKE」試験に参加した1万3,447例の脳卒中患者を対象に観察試験を行った。 患者データに加え、試験に参加した病院に対して、医療・脳卒中に関連したサービスの情報を調査票により収集した。 単変量・多変量解析を行い、提供された医療サービスや治療と、1ヵ月時点の患者アウトカムとの関連を分析した。脳卒中ケアユニットへのアクセス、無重度依存生存率を約3割増大 被験者のうち、すべての情報を得られたのは1万2,342例(92%)だった(28ヵ国108病院)。そのうち、高所得国の被験者は2,576例(10ヵ国38病院)、低・中所得国は9,766例(18ヵ国70病院)だった。 低・中所得国の患者は高所得国に比べ、重篤な脳卒中や脳内出血が多く、医療サービスへのアクセスが乏しく、検査や治療の活用が少なかった(p<0.0001)。また、アウトカム不良は、患者特性の違いのみによるものだった。 一方、所得に関係なくすべての国において、脳卒中ケアユニットへのアクセスが、検査や治療の活用、リハビリテーション・サービスへのアクセス、重症度に依らない生存率の改善と関連していた(オッズ比[OR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.14~1.44、p<0.0001)。また、急性期の抗血小板療法は、患者特性や医療サービスにかかわらず、生存率を改善した(OR:1.39、95%CI:1.12~1.72)。 これらを踏まえて著者は「低・中所得国では、医療および医療提供体制の改善が、アウトカムの改善に不可欠である」と述べている。

31.

術前血栓溶解、tenecteplase vs.アルテプラーゼ/NEJM

 虚血性脳卒中の患者に対し、発症後4.5時間以内の血栓除去術前のtenecteplase投与は、アルテプラーゼ投与より再灌流率が高くアウトカムが良好であることが示された。オーストラリア・王立メルボルン病院のB.C.V. Campbell氏らが、202例の患者を対象に行った無作為化比較試験の結果で、NEJM誌2018年4月26日号で発表した。虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去術前の血栓溶解にはアルテプラーゼの静脈内投与が行われている。tenecteplaseは、アルテプラーゼと比べてフィブリン特異性が高く、作用時間が長く、ボーラス投与ができ、血管再灌流率が上昇する可能性が示唆されていた。tenecteplase 0.25mg/kgまたはアルテプラーゼ0.9mg/kgを投与 研究グループは、内頸動脈、脳底動脈または中大脳動脈に閉塞があり、血栓除去術の適応がある虚血性脳卒中の患者202例を無作為に2群に分け、発症後4.5時間以内に、一方にはtenecteplase(0.25mg/kg体重、上限25mg)、もう一方にはアルテプラーゼ(0.9mg/kg体重、上限90mg)を、それぞれ投与した。 主要アウトカムは、虚血性病変部位の50%超の再灌流、または初回血管造影時に回収可能な血栓がないことだった。tenecteplaseの非劣性を検証し、その後に優越性を検証した。 副次的アウトカムは、90日時点の修正Rankinスケールスコア。安全性に関するアウトカムは、死亡と症候性脳内出血だった。tenecteplase群、90日機能的アウトカムも良好 主要アウトカムの発生率は、アルテプラーゼ群10%に対し、tenecteplase群は22%だった(発生率差:12ポイント、95%信頼区間[CI]:2~21、発生率比:2.2、95%CI:1.1~4.4、非劣性p=0.002、優越性p=0.03)。 90日修正Rankinスケールスコアの中央値は、アルテプラーゼ群が3に対し、tenecteplase群は2で機能的アウトカムも有意に良好だった(共通オッズ比:1.7、95%CI:1.0~2.8、p=0.04)。 なお、症候性脳内出血は両群とも1%の発生だった。

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脳内出血後の院内死亡、ワルファリンvs. NOAC/JAMA

 脳内出血(ICH)患者の院内死亡リスクを、発症前の経口抗凝固薬(OAC)で比較したところ、OAC未使用群に比べ非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)あるいはワルファリンの使用群で高く、また、NOAC使用群はワルファリン使用群に比べ低いことが示された。米国・デューク大学メディカルセンターの猪原拓氏らが、米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)による登録研究Get With The Guidelines-Stroke(GWTG-Stroke)のデータを用いた後ろ向きコホート研究の結果、明らかにした。NOACは血栓塞栓症予防としての使用が増加しているが、NOAC関連のICHに関するデータは限られていた。JAMA誌オンライン版2018年1月25日号掲載の報告。脳内出血患者約14万1,000例で、抗凝固療法と院内死亡率との関連を解析 研究グループはGWTG-Strokeに参加している1,662施設において、2013年10月~2016年12月にICHで入院した患者を対象に、ICH発症前(病院到着前7日以内)の抗凝固療法による院内死亡率について解析した。 抗凝固療法は、ワルファリン群・NOAC群・OAC未使用群に分類し、2種類の抗凝固薬(ワルファリンとNOACなど)を用いていた患者は解析から除外した。また、抗血小板療法については、抗血小板薬未使用・単剤群・2剤併用(DAPT)群に分類し、3群のいずれにも該当しない患者は解析から除外した。 解析対象は14万1,311例(平均[±SD]68.3±15.3歳、女性48.1%)で、ワルファリン群1万5,036例(10.6%)、NOAC群4,918例(3.5%)。抗血小板薬(単剤またはDAPT)を併用していた患者は、それぞれ3万9,585例(28.0%)および5,783例(4.1%)であった。ワルファリン群とNOAC群は、OAC未使用群より高齢で、心房細動や脳梗塞の既往歴を有する患者の割合が高かった。NOAC群は、未使用群よりは高いがワルファリン群よりも低い 急性ICHの重症度(NIHSSスコア)は、3群間で有意差は確認されなかった(中央値[四分位範囲]:ワルファリン群9[2~21]、NOAC群8[2~20]、OAC未使用群8[2~19])。 補正前院内死亡率は、ワルファリン群32.6%、NOAC群26.5%、OAC未使用群22.5%であった。OAC未使用群と比較した院内死亡リスクは、ワルファリン群で補正後リスク差(ARD)9.0%(97.5%信頼区間[CI]:7.9~10.1)、補正後オッズ比(AOR)1.62(97.5%CI:1.53~1.71)、NOAC群でARDは3.3%(97.5%CI:1.7~4.8)、AORは1.21(97.5%CI:1.11~1.32)であった。 ワルファリン群と比較して、NOAC群の院内死亡リスクは低かった(ARD:-5.7%[97.5%CI:-7.3~-4.2]、AOR:0.75[97.5%CI:0.69~0.81])。 NOAC群とワルファリン群の死亡率の差は、DAPT群(NOAC併用群32.7% vs.ワルファリン併用群47.1%、ARD:-15.0%[95.5%CI:-26.3~-3.8]、AOR:0.50[97.5%CI:0.29~0.86])において、抗血小板薬未使用群(NOAC併用群26.4% vs.ワルファリン併用群31.7%、ARD:-5.0%[97.5%CI:-6.8%~-3.2%]、AOR:0.77[97.5%CI:0.70~0.85])より数値上では大きかったが、交互作用p値は0.07で統計的有意差は認められなかった。 なお、著者は、GWTG-Strokeの登録データに限定していることや、NOAC群の症例が少なく検出力不足の可能性があることなどを、研究の限界として挙げている。

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「血友病周産期管理指針」の意義と狙い

 2017年11月2日、バイオベラティブ・ジャパン株式会社は、希少血液疾患の啓発事業の一環として、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、血友病に関連する周産期管理について、その背景と指針作成の目的などが語られた。血友病保因者妊婦の出産は、母体と新生児にリスク セミナーでは、講師に瀧 正志氏(聖マリアンナ医科大学 小児科学 特任教授)を迎え、「血友病周産期管理の重要性~血友病保因者妊婦・血友病新生児の出血回避に向けての取り組み~」をテーマにレクチャーが行われた。 一般的に新生児の頭蓋内出血は0.05%、血友病の頭部出血(頭蓋内外)は3.5~5.5%とされ、血友病および同保因者の母親からの出産では、リスクが高いことが知られている。 実際、瀧氏が自院で早期新生児の出血に関する検討を行ったところ、93例の血友病患者のうち13例で分娩に関連した出血があったという。その特徴として、全例が経腟分娩で、7例に吸引・鉗子分娩がなされていた。また、9例で赤血球輸血を行い、2例で重篤な神経学的後遺症を認め、1例で緊急硬膜下血種除去を行ったという1)。別の研究で血友病保因者である母体の状況をみてみると、凝固因子活性が非保因者(1.02 IU/mL)と比較して0.60 IU/mLと低く、手術後の相対危険度は保因者では高いとされる2)。 こうした状況を踏まえ、母体であるホモ接合体血友病の妊婦および保因者妊婦と、血友病新生児および保因者新生児の出血をできるだけ回避し、出血症状を伴う場合は早期に適切な治療を図る目的で、「ホモ接合体血友病妊婦および保因者妊婦の管理指針」と「血友病新生児および保因者新生児の管理指針」の2つからなる『エキスパートの意見に基づく血友病周産期管理指針 2017年版』が作成された。血友病患者、保因者の周産期における注意点を網羅 「ホモ接合体血友病妊婦および保因者妊婦の管理指針」では、主にヘテロ接合体保因者に関して記述され(ホモ接合体血友病は女性にまれ)、妊娠管理では産科、本症に詳しい内科医、小児科医、麻酔科医が連携し、集学的医療チームとしてケアに当たるべきであるとしている。また、妊娠中の予防的補充療法では、血友病Aは定期的な活性値測定のほか、必要により第VIII因子製剤の補充療法を行うこと、血友病Bでは第IX因子活性値の有意な上昇がみられない一部の保因者には第IX因子製剤の補充療法が必要だとされている。そのほか、妊娠中の血中モニタリング、分娩計画の立案(必要により紹介・移送)が必要とされ、分娩方法では経腟分娩の場合はできる限り自然分娩としながらも、胎児に血友病または保因者である可能性が排除できない場合は、吸引、鉗子、遷延分娩は避けることが望ましいとしている。帝王切開分娩への切り替えは、早期に判断する。とくに瀧氏は、私見としながら「予定帝王切開分娩」について言及し、「麻酔、出血量など母体への負担は増加するものの、血友病児の頭蓋内出血リスクの減少、止血管理の容易性、分娩スタッフのスケジュール対応の面からも考慮すべきだ」と示唆した。 分娩・産褥期の至適血中レベルについては、経腟分娩で血中第VIII因子、第IX因子活性値ともに50%以上維持(帝王切開では80%以上)が示され、この値を下回る場合は予防的補充療法の施行が記述されている。妊娠中のデスモプレシンの使用では、妊娠高血圧症候群合併例への使用は避けるべきとし、使用する場合は水分や電解質管理を慎重に行う必要があるとしている。血友病および保因者新生児のフォローを網羅 「血友病新生児および保因者新生児の管理指針」では、出生前の一般的な取り扱いとして、母体および新生児に出血リスクが増すような手技を最小限にするよう呼び掛けている。 新生児の血友病診断では、出生後に臍帯血を用い速やかに診断を行うとともに、第VIII因子、第IX因子の活性値を測定する。また、孤発例の見逃しを避けるために、疑いのある新生児のAPTTの測定、延長時には第VIII因子、第IX因子の活性値の測定も行うとしている。 血友病新生児の止血管理では、製剤投与中の凝固因子活性のモニタリングとインヒビター出現の有無の確認および、確定診断後に欠損または欠乏している凝固因子の製剤投与への切り替えが示されている。そして、出生後に脳内出血を臨床的に強く疑う場合は凝固因子製剤をただちに投与し、確定診断のために頭部超音波検査、脳MRIやCT検査を行う。 凝固因子製剤の予防投与は、自然分娩や帝王切開分娩では一般的に行わない。しかし、分娩外傷、吸引、鉗子分娩などのリスクの高い分娩では、診断後に短期間の予防投与を考慮し、早産児にも状況に応じて行うとしている。 血友病患児への予防接種については、原則として筋肉注射は避けるべきとし、ルーチンの予防接種の皮下注射は禁忌事項がない限り行うことが望ましいとしている。 最後に瀧氏は、本指針の目的を「血友病、血友病保因者の妊婦・新生児の出血をできる限り回避し、出血症状を伴う場合には早期に適切な止血治療を図ることにある」と繰り返すとともに、「血友病保因者は『ハイリスク妊婦である』という認識を医療従事者は共有し、周産期管理を行ってもらいたい」と期待を述べ、レクチャーを終えた。■参考1)長江千愛 ほか. 日産婦新生児血液. 2017;26:61-69.2)Plug I, et al. Blood. 2006;108:52-56.■関連記事希少疾病ライブラリ 血友病

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複合血管スクリーニングで死亡リスク7%低下:VIVA試験(解説:中澤達氏)-747

 デンマークの中央ユラン地域に在住する65~74歳のすべての男性約5万例を対象とした無作為化比較試験「VIVA試験(Vibrog Vascular trial)」で腹部大動脈瘤、末梢動脈疾患および高血圧に関する複合血管スクリーニングは、5年全死因死亡率を7%有意に低下させることが明らかになった(ハザード比:0.93[95%信頼区間:0.88~0.98、p=0.01])。これまで地域住民を対象とした集団スクリーニングに関する文献で死亡リスクの低下が確認されたことはない。特筆すべきことは、糖尿病、脳内出血、腎不全、がんの発症、または心血管外科手術後30日死亡が両群で有意差は確認されず、喫煙者を除外した事後解析でも結果はほぼ同じで薬物療法開始の効果と推測されることである。 日本の大動脈瘤や末梢閉塞性動脈疾患ガイドラインではスクリーニングするべき患者群は明記されていない。末梢閉塞性動脈疾患ガイドラインはTASC IIを参照しており、TASC IIでリスクファクターに関係なくすべての患者を末梢閉塞性動脈疾患スクリーニングの対象とするのは70歳以上となっている。この複合血管スクリーニングにより全死亡率を低下させたのは65~74歳男性の集団であったことに納得性は高い。多くの臨床家が実践している診療の裏付けとなったが、日本人にも当てはまるかは検討を要する。

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脳卒中急性期にルーチンの酸素投与は有益か?/JAMA

 低酸素血症のない脳卒中(脳梗塞、脳内出血、一過性脳虚血発作)急性期の患者に対する低用量酸素の予防的投与は、3ヵ月後の死亡または障害を減少しないことが示された。英国・キール大学のChristine Roffe氏らによる、多施設共同無作為化単盲検臨床試験「SO2S試験」(The Stroke Oxygen Study)の結果で、「これらの患者では低用量酸素療法を支持しない結果が示された」と報告している。低酸素血症は、急性脳卒中発症後の最初の数日間に生じることが多く、しばしば間欠的であったり検出されないことがある。酸素投与は、低酸素症や二次的神経機能低下を予防することによって回復を促す可能性がある一方、有害事象が生じる可能性もあった。JAMA誌2017年9月26日号掲載の報告。約8千例で、持続的酸素投与、夜間酸素投与、必要時酸素投与の機能的転帰を比較 研究グループは、ルーチンの予防的低用量酸素投与が必要時の酸素投与より90日時点の死亡や障害を減らすのか、また、低酸素症の頻度が最も高くリハビリテーションへの影響が最も少ないと思われる夜間のみの酸素投与が、持続的酸素投与よりも有効かを評価する目的で、英国136施設において単盲検無作為化比較試験を行った。 対象は、入院後24時間以内で、酸素療法の明確な適応がないまたは禁忌ではない成人急性脳卒中患者8,003例。持続的酸素投与(72時間)群、夜間酸素投与(21時~7時、3日間)群および対照群(臨床的適応がある場合のみ酸素投与)に、1対1対1の割合で無作為に割り付け(それぞれ2,668例、2,667例、2,668例)、ベースラインの酸素飽和度が93%以下の場合は3L/分、94%以上の場合は2L/分で、経鼻チューブにより酸素投与を行った(登録開始日2008年4月24日、最終追跡調査日2015年1月27日)。 主要アウトカムは、90日時点の修正Rankinスケールスコア(mRS、0[症状なし]~6[死亡]、臨床的に意義のある最小変化量は1)とし、質問票を郵送して評価を実施した(被験者は非盲検、評価者は盲検)。mRSは、順序ロジスティック回帰分析を用いて、障害度が1レベル改善する共通オッズ比(OR)を算出し、ORが1より大きい場合は障害の改善を意味した。持続+夜間投与 vs.必要時投与、持続投与 vs.夜間投与、いずれも有意差なし 登録された8,003例の患者背景は男性4,398例(55%)、平均(±SD)年齢72(±13)歳、National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア中央値5、ベースラインの平均酸素飽和度96.6%であった。 主要アウトカムについて回答が得られた患者は7,677例(96%)であった。未補正OR(順序ロジスティック回帰解析で算出)は、酸素投与群(持続投与群+夜間投与群) vs.対照群で0.97(95%信頼[CI]:0.89~1.05、p=0.47)、持続投与群 vs.夜間投与群は1.03(95%CI:0.93~1.13、p=0.61)であった。酸素療法が有益なサブグループも特定されなかった。 また、1件以上の重篤な有害事象が発現した被験者は、持続投与群348例(13.0%)、夜間投与群294例(11.0%)、対照群322例(12.1%)で、重大な有害性は認められなかった。 なお著者は、アドヒアランス不良の影響や、集中治療室を除き酸素投与の完全なアドヒアランスを得るのは難しいこと、主要アウトカムの評価が郵送の質問票によって実施されていることなどを研究の限界として挙げている。

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気温低下の4日後に脳内出血が起こりやすい?

 脳卒中発症にさまざまな気象条件が影響し、気温が大きく低下した4日後に脳内出血の発症頻度が増加する可能性があることを、広島「救急と気象」研究(HEWS)の脳卒中研究グループが報告した。PLOS ONE誌2017年6月2日号に掲載。 研究グループでは、脳卒中の発症日および前日の気象条件が、身体状態の調節に重要な役割を果たすと仮定した。発症前の気象条件やその変化と脳卒中発症の関連に着目し、脳卒中の発症頻度と気象条件およびそれらの日々の変化との相互作用を評価する多施設後ろ向き研究を行った。3つの地域における脳卒中病院7施設に入院した急性脳卒中患者(3,935例、73.5±12.4歳、女性1,610例)を登録した。time lag変数を含むポアソン回帰モデルを用いて、湿度補正気温(THI)の平均、気圧、それらの各日の変化と、各日の脳卒中発症率を調べた。THI、気圧、およびそれらの発症前7日間の各日の変化に基づき、発症日を五分位に分けた。 主な結果は以下のとおり。・虚血性脳卒中の頻度は、発症前日よりTHIが上昇もしくは低下したときに有意に増加した(きわめて低下した日のリスク比[RR]:1.19、95%信頼区間[CI]:1.05~1.34、きわめて上昇した日のRR:1.16、95%CI:1.03~1.31、r2=0.001 for the best regression、p=0.001)。・脳内出血の頻度は、THIの高い日に有意に減少し(きわめて高い日のRR:0.72、95%CI:0.54~0.95、r2=0.013 for the best regression、p<0.001)、気圧の高い日に有意に増加した(高い日のRR:1.31、95%CI:1.04~1.65、r2=0.009 for the best regression、p<0.001)。・発症日のTHIとそれ以外の日のTHIの変化を調整した後も、4日前にきわめてTHIが低下したときに脳内出血が増加した(RR:1.33、95%CI:1.03~1.71、r2=0.006 for the best regression、p<0.001)。

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複合血管スクリーニングで死亡リスク低下/Lancet

 腹部大動脈瘤(AAA)、末梢動脈疾患および高血圧に関する複合血管スクリーニングは、5年全死因死亡率を有意に低下させることが、デンマーク・オーデンセ大学病院のJes S. Lindholt氏らによる、複合血管スクリーニングの有効性とその後の介入を検証した無作為化比較試験「VIVA試験(Vibrog Vascular trial)」で明らかになった。これまで地域住民を対象とした集団スクリーニングに関する文献で、このような死亡リスクの低下が確認されたことはない。そのため著者は「主に薬物療法の開始と関連している可能性がある」と指摘したうえで、「健康政策立案者は、現在スクリーニングを実施していない、あるいはAAAのみを対象としたスクリーニングを実施しているのなら、複合血管スクリーニングの実施を考慮すべきである」とまとめている。AAAは、集団スクリーニングの対象となる唯一の心血管疾患であるが、AAAのみのスクリーニングは広範なリスク因子の管理には適していないとされている。Lancet誌オンライン版2017年8月28日号掲載の報告。65~74歳の男性約5万例で、スクリーニング実施と非実施を比較 研究グループは、デンマークの中央ユラン地域に在住する65~74歳のすべての男性を対象として、AAA・末梢動脈疾患・高血圧の複合スクリーニングを受けるスクリーニング群と、スクリーニングを受けない対照群のいずれかに1対1の割合で無作為に割り付けた。割り付けは、ブロックサイズ1,067~4,392でコンピュータ生成乱数(1~100)配列法を用い、また19の市で層別化した。対照群および評価者は盲検化された。 AAAまたは末梢動脈疾患が疑われた患者に対しては、確定診断の受診について案内し、適切な薬物療法を開始した。また、AAA患者には、年1回の検査または外科的治療を行った。高血圧が疑われた場合は、一般開業医へ紹介した。 主要評価項目は、無作為化後5年時の全死因死亡率であった。 2008年10月8日~2011年1月11日の間に、5万156例が割り付けられた(スクリーニング群、対照群それぞれ2万5,078例)。スクリーニング群の4例は、追跡不能となった。複合血管スクリーニングで、約5年間の全死因死亡リスクが7%有意に低下 追跡期間中央値4.4年(IQR:3.9~4.8)において、スクリーニング群では2万5,074例中2,566例(10.2%)、対照群では2万5,078例中2,715例(10.8%)が死亡し、スクリーニング群で有意な死亡リスク低下が示された(ハザード比[HR]:0.93[95%信頼区間[CI]:0.88~0.98、p=0.01]、絶対リスク減少:0.006[95%CI:0.001~0.011]、必要スクリーニング数:169[95%CI:89~1,811])。糖尿病(スクリーニング群3,995/10万人年 vs.対照群4,129/10万人年)、脳内出血(同146 vs.140)、腎不全(同612 vs.649)、がん(同3,578 vs.3,719)の発症、または心血管外科手術後30日死亡(同44.57 vs.39.33)については、両群で有意差は確認されなかった。 なお著者は、結果を一般化するには喫煙が重要なリスク要因であることを考慮する必要があるが、喫煙者を除外した事後解析でも結果はほぼ同じであったことから、スクリーニングの有用性に喫煙は影響しないと思われるとしている。

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急性脳卒中後の頭位、仰臥位 vs.頭部挙上のアウトカムを検討(中川原 譲二 氏)-703

 急性脳卒中後の頭位について、仰臥位は脳血流の改善に寄与するが、一方で誤嚥性肺炎のリスクを高めるため、臨床現場ではさまざまな頭位がとられている。オーストラリア・George Institute for Global HealthのCraig S. Anderson氏らは、急性虚血性脳卒中患者のアウトカムが、脳灌流を増加させる仰臥位(背部は水平で顔は上向き)にすることで改善するかどうかを検討したHead Positioning in Acute Stroke Trial(HeadPoST研究)の結果を結果をNEJM誌2017年6月22日号で報告した。9ヵ国の急性脳卒中患者約1万1,000例を対象に検討 HeadPoST研究は、9ヵ国(英国、オーストラリア、中国、台湾、インド、スリランカ、チリ、ブラジル、コロンビア)で、実用的なクラスター無作為化クロスオーバー試験として実施された。18歳以上の脳内出血(クモ膜下出血を除く)を含む急性脳卒中患者1万1,093例(85%が虚血性脳卒中)を登録し、仰臥位で治療を行う群(仰臥位群)と、頭部を30度以上挙上し上体を起こした姿勢で治療を行う群(頭部挙上群)のいずれかに、入院施設単位で無作為に割り付けた。指定された体位は、入院直後に開始し24時間続けられた。主要アウトカムは90日後の機能障害の程度で、修正Rankinスケール(mRSスコアの範囲:0~6、スコアが高いほど障害の程度が大きく、6は死亡)を用いて評価した。頭位の違いで、アウトカムや有害事象には有意差はなかった 脳卒中発症から割り付け指定の頭位を開始するまでの時間の中央値は、14時間であった(四分位範囲:5~35時間)。仰臥位群は、頭部挙上群より24時間の頭位維持率が有意に低かった(87% vs.95%、p<0.001)。一方で、酸素飽和度や血圧、他の治療管理面について、両群間に有意差は確認されなかった。比例オッズモデルによる検討で、両群の90日後のmRSスコアの分布は同等であった(仰臥位群の頭部挙上群に対するmRSスコア分布差の未補正オッズ比:1.01、95%信頼区間:0.92~1.10、p=0.84)。90日以内の死亡率は、仰臥位群7.3%、頭部挙上群7.4%であった(p=0.83)。重篤な有害事象の発現率も、それぞれ14.3%、13.5%、肺炎は3.1%、3.4%で、両群間で有意差は認められなかった。急性脳卒中後の頭部挙上は、脳虚血リスクを増大しないことを示唆 本研究では、急性脳卒中後の患者の頭位を、24時間仰臥位とした場合と24時間30度以上の頭部挙上とした場合では、アウトカムには有意差は認められなかった。著者らは、急性の虚血性脳卒中患者では、脳血流の自動調節能が消失しており、頭部挙上で脳灌流圧の低下が生じると脳虚血リスクが増大するため、仰臥位のほうが脳血流の改善が得られるとして、この研究を始めたと考えられる。しかし、頭部挙上で脳灌流圧の低下が生じるとすることには大きな疑問がある。脳灌流圧は、動脈圧(全身平均血圧)-静脈圧(=頭蓋内圧)で表され、頭部挙上による動脈圧の低下は比較的軽度であるとともに、同時に頭蓋内圧の低下が生じることから、脳灌流圧の低下はそれほど問題にはならない。本研究結果は、急性脳卒中後の頭部挙上は、脳虚血リスクを増大させないことを示唆している。過度な全身血圧の下降がない限り、急性期の頭部挙上、坐位の保持は容認される。 また、著者らは、本研究で肺炎の発現率が低かったことについて、挿管中などのハイリスク患者が除外されたことや、嚥下障害のスクリーニングプロトコルが使用されたことなどを挙げている。しかし、発症後24時間の仰臥位の維持は、早期離床と急性期リハビリを推奨する最近の急性期脳卒中患者の全身管理のコンセプトに相応しくない。

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急性脳卒中後の体位、仰臥位vs.頭部挙上/NEJM

 急性脳卒中後の治療24時間における患者の体位を、仰臥位とした場合と、30度以上の頭部挙上とした場合について、障害のアウトカムに差は認められなかった。オーストラリア・George Institute for Global HealthのCraig S. Anderson氏らが、急性虚血性脳卒中患者のアウトカムが、脳灌流を増加させる仰臥位にすることで改善するかどうかを検討したHead Positioning in Acute Stroke Trial(HeadPoST試験)の結果、報告した。急性脳卒中後の体位について、仰臥位は脳血流の改善に寄与するが、一方で誤嚥性肺炎のリスクがある。また、ガイドラインはあいまいで、臨床現場ではさまざまな体位がとられている。NEJM誌2017年6月22日号掲載の報告。9ヵ国の急性脳卒中患者約1万1,000例を対象に検討 HeadPoST試験は、9ヵ国(英国、オーストラリア、中国、台湾、インド、スリランカ、チリ、ブラジル、コロンビア)で実施された実用的クラスター無作為化クロスオーバー試験。18歳以上の脳内出血(クモ膜下出血を除く)を含む急性脳卒中患者1万1,093例(85%が虚血性脳卒中)を登録し、仰臥位(背部は水平で顔は上向き)で治療を行う群(仰臥位群)と、頭部を30度以上挙上し上体を起こした姿勢で治療を行う群(頭部挙上群)のいずれかに、入院施設単位で無作為に割り付けた。指定された体位は、入院直後に開始し24時間続けられた。 主要アウトカムは90日後の障害の程度で、修正Rankinスケール(スコアの範囲:0~6、スコアが高いほど障害の程度が大きく、6は死亡)を用いて評価した。体位の違いで、機能障害のアウトカムや有害事象に有意差はない 脳卒中発症から割り付け指定の体位を開始するまでの時間の中央値は、14時間であった(四分位範囲:5~35時間)。仰臥位群は、頭部挙上群より24時間体位維持率が有意に低かった(87% vs.95%、p<0.001)。一方で、酸素飽和度や血圧、他の治療管理面について、両群間に有意差は確認されなかった。 比例オッズモデルによる検討で、両群の90日後の修正Rankinスケールスコアの分布は同等であった(仰臥位群の頭部挙上群に対する修正Rankinスケールスコア分布差の未補正オッズ比:1.01、95%信頼区間:0.92~1.10、p=0.84)。90日以内の死亡率は、仰臥位群7.3%、頭部挙上群7.4%であった(p=0.83)。重篤な有害事象の発現率も、それぞれ14.3%、13.5%、肺炎は3.1%、3.4%で、両群間で有意差は認められなかった。 なお、著者は、本研究で肺炎の発現率が低かったことについて、挿管中などのハイリスク患者が除外されたことや、嚥下障害のスクリーニングプロトコルが使用されたことなどを挙げている。

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2次予防の抗血小板療法、重大出血リスクは高齢ほど上昇/Lancet

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)非併用でアスピリンベースの抗血小板治療を受ける虚血性イベント後の患者について、重大出血のリスクは長期的に高いことが、前向き住民ベースのコホート試験で示された。また、そのような患者は、先行研究で示された患者と比べて実際には高齢の患者で多く、機能障害が残るまたは死亡に至る上部消化管出血のリスクがかなり高かった。これら、英国・オックスフォード大学のLinxin Li氏らによる「Oxford Vascular Study」試験の結果は、Lancet誌オンライン版2017年6月13日号で発表された。虚血性イベント後の患者には生涯にわたる抗血小板治療が、先行研究である75歳未満の患者を対象とした試験をベースに推奨されている。著者らは年齢を問わず、2次予防としての抗血小板治療における出血のリスク、経過、アウトカムを評価するため、本検討を行った。初発虚血性イベント後の抗血小板治療と出血リスクを評価 試験は、2002~12年のOxford Vascular Studyにおける、イベント後に抗血小板治療(主にアスピリンベースでPPI併用なし)を受けていた初発の一過性脳虚血発作(TIA)、虚血性脳卒中または心筋梗塞を呈した患者を、2013年まで追跡して行われた。 治療を要した出血のタイプ、重症度、アウトカム(機能障害または死亡)、経過について、対面調査で10年間追跡した。 先行研究からのKaplan-Meierリスク推定値と相対リスクの低下推定値をベースとし、PPIを常に併用することによる上部消化管出血予防のための、年齢特異的な治療必要数(NNT)を推算し評価した。重大出血のリスクは年齢が上昇するほど高値に 1万3,509人年の追跡期間中、3,166例(75歳以上1,582例[50%])が405件の初発の出血イベントを有した(消化管218件、頭蓋内45件、その他142件)。そのうち314例(78%)が出血入院したが、うち117例(37%)については治療に関するコーディングデータが得られなかった。 非重大出血リスクは、年齢と関連していなかった。一方で、重大出血は年齢が上昇するほど高まることが認められた(75歳以上のハザード比[HR]:3.10、95%信頼区間[CI]:2.27~4.24、p<0.0001)。とくに、致死的出血について関連が高く(5.53、2.65~11.54、p<0.0001)、長期の追跡期間中、持続して認められた。 同様の結果が、重大上部消化管出血についても認められ(75歳以上のHR:4.13、2.60~6.57、p<0.0001)、とくに機能障害または死亡においてみられた(10.26、4.37~24.13、p<0.0001)。 75歳以上の患者では、重大上部消化管出血は、大部分が機能障害または死亡に至った(患者の62%[45/73例] vs.虚血性脳卒中再発患者では47%[101/213例]と約半数)。また、機能障害または致死的な脳内出血よりも多く(上部消化管出血45例 vs.脳内出血18例)、75歳以上の患者の絶対リスクは1,000人年当たり9.15(95%CI:6.67~12.24)であった。 なお、機能障害または致死的上部消化管出血を5年間で1例予防するためのPPI常用の推定NNT値は、年齢とともに低下することが示された。65歳未満の患者では338であったが、85歳以上では25と低かった。 これらを踏まえて著者は、「75歳以上の患者の重大出血の半数以上が重大合併症とされている上部消化管出血であった。そのような出血を予防するPPI常用の推定NNT値は低く、併用が推奨されるべきであろう」と述べている。

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