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「COVID-19ワクチンに関する提言」、変異株や安全性の最新情報追加/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:舘田一博氏[東邦大学医学部教授])は、6月16日に「COVID-19ワクチンに関する提言」(第3版)を同学会のホームぺージで発表、公開した。 第1版は2020年12月28日に、第2版は2021年2月26日に発表・公開され、ワクチンの有効性、安全性、国内での接種の状況、接種での注意点などが提言されていた。今回は、第2版以降の新しい知見に加え、新しく承認されたワクチンの効果、安全性について加筆された。 主に加筆・修正された箇所は下記の通り。【ワクチンの有効性について】・ファイザーのコミナティ筋注について、わが国の報告では、初回接種後57.1%(60/105)、2回接種後99.0%(104/105)の抗体陽転率がみられる。・モデルナのCOVID-19ワクチンモデルナ筋注について、2回接種後の中和抗体価(55歳未満でそれぞれ184と1,733、55歳以上で160と1,827)は、海外で行われた臨床試験とほぼ同等。また、抗体陽転率は100%であり、高い免疫原性が示されている。・アストラゼネカのバキスゼブリア筋注について、いずれの年齢層でも中和抗体価が初回接種後より2回目接種後で上昇。・ファイザーとモデルナのワクチンの実社会での有効性は、米国CDCの報告から2回接種14日以後で発症者が90%減少、65歳以上のCOVID-19による入院率が94%減少、医療従事者の発症率が2回接種7日以後で94%減少。・ファイザーのワクチンでは、イスラエルで接種群と対照群それぞれ59万人を対象とした大規模な比較研究が行われ、接種群では2回接種7日以後の発症が94%、入院率が87%、重症化率が92%減少した。また、1回接種後14~20日の期間でも、発症54%、入院率74%、重症化率62%の有効率。【変異株とワクチンの効果】・ファイザーやモデルナのワクチンで誘導される抗体による中和活性には若干の減少がみられるが、ワクチンの有効性に大きな影響はない。アストラゼネカのワクチンで誘導される抗体の中和活性は約9分の1に低下するが、実際の発症予防効果は従来株での81.5%に対して、B.1.1.7でも70.4%の有効率。また、インド型変異株(B.1.617、δ)などの3つの亜型のうちB.1.617.1とB.1.617.3には免疫回避をもたらすE484Q変異がみられ、ワクチン効果が低下することが懸念され、B.1.617.1では、ファイザーとモデルナのワクチンで誘導される抗体の中和活性が、いずれも7分の1に低下していることが報告されている。【ワクチンの安全性】・海外の臨床試験における有害事象では、アストラゼネカのワクチンで血栓塞栓イベントがまれながら発生したことから、再評価が行われた上で接種が進んでおり、ファイザーのワクチンでは、12~15歳における安全性が海外の臨床試験で評価され、副反応の種類・頻度は16~25歳と比較してほぼ同等であり、重篤な健康被害はみられなかった。・わが国での臨床試験における有害事象について、ファイザーのワクチンでは、医療従事者1万9千人を対象に先行接種者健康調査が行われたが、初回接種後の発熱(37.5℃以上)が3.3%と国内臨床試験に比べて低かった以外はほぼ同等の副反応の頻度だった。発熱は接種翌日(2日目)に多く、接種3日目にはほとんど消失。モデルナのワクチンでは、海外の臨床試験やファイザーのワクチンの国内臨床試験の結果と大きな違いはなかったが、2回目の発熱が40.1%と高い頻度(これは口腔内体温で測定している影響も考慮)。なお、モデルナのワクチンでは、接種1週間以後に遅発性の局所反応(疼痛、腫脹、紅斑など)が海外で報告され、国内臨床試験でも5.3%(8/150)にみられ、すべて初回接種後8~22日に発現し、持続期間は2~15日だった。・mRNAワクチン接種後の心筋炎について、ファイザーのワクチン接種後に心筋炎症例が報告され、年齢は14~56歳の範囲で、10代から20代の男性に多く、接種後1日から数日後に胸痛や胸部違和感などの症状で発症し、心電図異常やトロポニンの上昇が確認されている。軽症例がほとんどで、2回目の接種後に多く見られている。わが国では5月30日現在で8人のファイザーのワクチン接種後の心筋炎が報告されているが、6月9日時点においてワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められず、引き続き国内外の情報を収集しつつ接種を継続。・アストラゼネカのウイルスベクターワクチン接種後の血栓塞栓イベントについて、ワクチン接種後4~28日に発症、脳静脈血栓症や内臓静脈血栓症など通常とは異なる部位に生じる血栓症、中等度~重度の血小板減少、凝固線溶系マーカー異常(D-ダイマー著増など)、抗血小板第4因子抗体の陽性などが特徴。発症機序は不明だがアデノウイルスが血小板に結合して活性化することが報告されている。【国内での接種の方向性】・12~15歳へのmRNAワクチンの接種について、わが国でも6月1日から予防接種法の臨時接種として接種が認められたが、有効性とリスクの観点から接種する場合、個人への丁寧な説明が困難な集団接種ではなく、医療機関における個別接種が望ましい。・COVID-19罹患者への接種では、すでに罹患した人にファイザーやモデルナのmRNAワクチンを1回接種した場合、抗スパイクタンパク質抗体価が未罹患者より10~100倍程度上昇するという報告があり、罹患者への接種でさらに強い免疫が得られると考えられる。厚生労働省のQ&Aでは、「感染した方もワクチンを接種することができ、現時点では通常通り2回接種できる」とあり、回復後の適当な時期に接種することが奨められる。ワクチン接種後の感染対策も重要 最後に提言では、「ワクチン接種を受けることで安全が保証されるわけではない。接種しても一部の人は発症する。発症しなくても感染し、無症状病原体保有者として人に広げる可能性も一部にはある。また、ワクチンの効果がどのくらい続くかも不明。COVID-19の蔓延状況が改善するまでは、マスク、手洗いなどの基本的な感染対策は維持しなければならない」と注意を喚起するとともに、「最終的に接種するかどうかは個人の判断にゆだねられるべきであり、周囲から接種を強制されることがあってはならない。また、健康上の理由で接種できない人や個人としての信条で接種を受けない人が、そのことによって何らかの差別を受けることがないよう配慮が必要」とラベリングなどへの注意も示している。

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第64回 COVID-19のmRNAワクチン接種後の心筋炎~主に若い男性の2回目接種後に発生

米国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNAワクチン2回目接種後の心筋炎/心膜炎が16~24歳の若者に想定より多く認められており、その検討を含む米国疾病予防管理センター(CDC)専門家会議が今週18日に急遽開催されます。その開催を報じた先週10日の米国小児科学会(AAP)ニュース1)によると30歳以下の若者のPfizer/BioNTechかModernaのCOVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎/心膜炎は有害事象記録VAERS(Vaccine Adverse Event Reporting System)に475例報告されており、それらのうち転帰がわかっている285人中270人は退院し、ほとんど(およそ81%)は完全に回復しています。15人は依然として入院していて3人は集中治療室(ICU)にいます。2回目接種後の16~17歳の心筋炎/心膜炎の報告数は79例で、その数は想定数2~19例を上回っています。18~24歳での報告数は196例で、やはり想定数8~83例を上回っていました。500万人超がPfizer/BioNTechのワクチン接種済みのイスラエルでは去年2020年12月から2021年5月に心筋炎の報告が275例あり2)、それらのうち148例はワクチン接種のころに生じたものであり、米国と同様に多くは2回目の接種後で、主に16~19歳の若い男性に認められました。イスラエルはワクチンと心筋炎の関連を調査中ですが、2回目のワクチン接種と16~30歳の若い男性の心筋炎発症は関連するかもしれないと現時点では判断されています。CDCによると幸い経過はおおむね良好なようで、mRNAワクチン接種後に心筋炎/心膜炎を呈して手当を受けた患者のほとんどは薬の投与や休息で良くなっており、速やかに回復しています3)。心筋炎/心膜炎の同定の主な手がかりは胸痛です。Pfizer/BioNTechワクチン接種後に心筋炎や心筋心膜炎を生じた14~19歳の男児7人の詳細を記したPediatrics誌の報告4)によると全員が2回目接種後4日以内の胸痛により受診しました。また、5人は発熱があり、他に息切れ、疲労感、両腕の痛み、吐き気、嘔吐、頭痛、食欲不振、脱力感が1人以上に認められました5)。7人とも多臓器炎症症候群(MIS-C)ではなく、2~6日間の入院で全員回復しました。7人のうち6人は非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)治療を受け、それらの3人の治療はNSAIDだけで済みました。4人は免疫グロブリン静注とコルチコステロイドで治療されました。MIS-Cではない一過性のCOVID-19ワクチン接種後心筋炎に静注免疫グロブリンやコルチコステロイドをきまって投与すべきかどうかは定かではありません。ワクチン接種後7日以内に胸痛、息切れ、動悸が認められたら受診することをCDCは要請しています3)。医療従事者は小児や若い成人がそれらの症状を呈して来院したら心筋炎/心膜炎を疑い、まずは心電図、トロポニン、C反応性タンパク質(CRP)や赤血球沈降速度などの炎症マーカーの検査を試みる必要があります。それらが正常ならおそらく心筋炎/心膜炎ではないでしょう6)。心筋炎はCOVID-19に伴って生じうることも知られています。たとえば大学の感染運動選手1,597人を調べた最近の報告では心臓MRIを含む検査で2.3%に心筋炎が認められています7,8)。参考1)CDC confirms 226 cases of myocarditis after COVID-19 vaccination in people 30 and under/AAP2)Surveillance of Myocarditis (Inflammation of the Heart Muscle) Cases Between December 2020 and May 2021 (Including) / Israel Ministry of Health3)Myocarditis and Pericarditis Following mRNA COVID-19 Vaccination/CDC4)Marshall M,et al,. Pediatrics. 2021 Jun 4:e2021052478.5)Report details 7 cases of myocarditis after COVID-19 vaccination/AAP6)Clinical Considerations: Myocarditis and Pericarditis after Receipt of mRNA COVID-19 Vaccines Among Adolescents and Young Adults/CDC7)Daniels CJ, et al,JAMA Cardiol. 2021 May 27. [Epub ahead of print]8)Study: Cardiac MRI Effective in Detecting Asymptomatic, Symptomatic Myocarditis in Athletes / Ohio State University

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第20回 痛み診療のコツ・治療編(2)神経ブロック・その3【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第20回 痛み診療のコツ・治療編(2)神経ブロック・その3前回は、トリガーポイント(TP)ブロックに焦点を当てて解説しました。今回は、自律神経ブロックとしてよく知られる星状神経節ブロックについて説明したいと思います。星状神経節ブロックとは上部交感神経節(C3の高さ)、中部交感神経節(C6の高さ)、下部交感神経節(C7の高さ)が連鎖していますが、そのうち下部神経節と上胸部交感神経節が融合して星のような形態を呈しており、これを星状神経節と呼んでいます(図1)。これら一連の交感神経幹は、頭部、頸部、上肢を支配しています。画像を拡大する(1)星状神経節ブロックの適応疾患交感神経幹の支配領域から考慮して、片頭痛、群発頭痛、筋緊張性頭痛、不定型顔面痛、肩凝り、頸椎神経根症、帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛などの頭頸部の疼痛疾患が適応になります。疼痛疾患ではありませんが、顔面神経麻痺、突発性難聴、多汗症なども適応になります。Burger病、Raynaud病、凍傷、塞栓などの上肢の循環不全に伴う痛みや、肩関節周囲炎、急性および慢性血栓性静脈炎、血栓性浮腫、術後リンパ性浮腫などの炎症・浮腫に伴う痛みなども適応になります。また、交感神経節ブロックですので、反射性交感神経萎縮症、カウザルギー、幻肢痛、断端痛も適応とされています。その他、アレルギー性鼻炎や喘息にも有効性が認められます。(2)星状神経節ブロックの実際患者さんに仰臥位を取ってもらいます。ブロックベッドであれば、頭部の部分を下げますが、通常のベッドであれば肩の下に薄い枕を入れて、首をやや伸展し、ごく軽く顎を前方に突き出していただきます。胸鎖関節より2.5cm上方、正中線より1.5cm外側を刺入点とします(図2)。使用する針は、2.5cm25Gを用います。星状神経節へのアプローチには、傍気管的接近法、前方的接近法及び後方的接近法があります。傍気管的接近法は、わかりやすく施行しやすいので、よく用いられます。具体的には、左手の示指と中指で総頸動脈を外側に引き寄せ、針を皮膚に直角に、総頸動脈と気管との間を通過するように刺入します。針先が第7頸椎横突起にぶつかったら、0.5cmほど引き戻し、吸引テストを十分に施行したうえで1%メピバカイン5mL注入します(図3)。画像を拡大する画像を拡大する(3)星状神経節ブロックの効果判定Horner症候群の発現でブロック効果がわかります。すなわち、眼球結膜の充血と流涙瞳孔縮小眼瞼下垂と眼裂狭小顔面や上肢の温感顔面や上肢の発汗減少鼻閉などが見られれば、ブロック効果が判定できます。(4)合併症気胸、胸痛 呼吸困難血管内注入による局所麻酔薬中毒でけいれんが生じる。クモ膜下腔注入による呼吸困難上喉頭神経麻痺による嗄声、嚥下困難、呼吸困難上腕神経叢麻痺喘息発作硬膜外ブロックなどが見られることがあります。そのため、少なくとも10分間は仰臥位を保ち、枕により頭部を高くします。少なくとも1時間は飲食を禁止します。両側ブロックは、同時には禁忌です。以上、星状神経節ブロックを取り上げ、その意義、適応、使用される薬物、合併症などについて述べました。痛みを有する患者さんに接しておられる先生方に少しでもお役に立てれば幸いです。次回は、知覚神経と交感神経を同時にブロックする、代表的で応用範囲の広い硬膜外ブロックについて解説します。1)花岡一雄監修. 疼痛コントロールのABC 日本医師会雑誌. 1998;S1042)花岡一雄他、ペインクリニック実践ハンドブック 南江堂 1994;10-15

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クモに咬まれて本当に死ぬことがある【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第177回

クモに咬まれて本当に死ぬことがあるpixabayより使用クモを見ると、『鬼滅の刃』を思い出すくらいどっぷりハマってしまった私ですが、クモがめちゃくちゃ強力な毒を持っているというのは現実世界でもありうるわけで。Pneumatikos IA, et al.Acute Fatal Toxic Myocarditis After Black Widow Spider Envenomation.Ann Emerg Med. 2003 Jan;41(1):158.今回の論文に出てくるクモは、クロゴケグモという名前で、山口県でチラホラ報告があるくらいで、日本ではまず見かけない毒クモです。セアカゴケグモはよく耳にしたと思いますが、ゴケグモはヒトにとってはやっかいなクモなのです。ブラックウィドウ(黒い未亡人)という名称は、受精後にメスがオスを食べてしまうことに由来しています。ゾゾゾッ。クロゴケクモの毒には、セロトニン、α-ラトロトキシンなどが含まれていますが、健康なヒトが死ぬようなことはなくて、致死率は1%未満とされています。ゴケグモの毒は、全身に分布する自律神経末端に作用するため、アセチルコリンなどの放出を枯渇させる現象が起こります。毒は、リンパ液が体内を流れる速度と同じように広がっていき、疼痛や発汗などがじわじわと進行していきます。指や腕を咬まれた場合、胸痛が起こります。これが心筋傷害を反映しているのかどうかはデータが乏しくわかりません。足を咬まれた場合、虫垂炎に似た腹痛を起こすこともあります。頻呼吸がひどく、「死ぬんじゃないか」とパニックになるケースもありますが、基本的に死ぬことはほとんどありません。しかし、この論文に登場した19歳の女性は、クロゴケグモに咬まれた後から強い腹痛と頭痛、発熱を訴えていました。白血球やLDHは著増し、CPKも上昇していました。アイソザイムは測定されていませんが、CPK-MBだったのではないかと考えられます。あっという間に両肺に浸潤影がおよび、ICU管理となりました。心エコーでは、EFが20%未満と絶望的な状況に陥りました。そして、彼女はクモに噛まれてから36時間後に亡くなりました。胸痛を起こしている被害者の中には、実際に心筋傷害を指摘される人もいるようです1)。多くの患者さんは、結果的に軽快しているようですが、この19歳の女性のような致死的な経過をたどることもあるため、プライマリケア医はセアカゴケグモなどの知識も頭に入れておく必要があります。胡蝶しのぶのように、毒に詳しい人がそばにいればよいのですが。……。あ、『鬼滅の刃』を見ていない人、スイマセン。1)Sarari I, et al. Myocarditis after black widow spider envenomation. Am J Emerg Med . 2008 Jun;26(5):630.e1-3.

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COVID-19の後遺症は女性のほうが多い/和歌山県

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、寛解後に後遺症が残ることが知られつつあり、わが国では国立国際医療研究センターから「Long-COVID:専門医が語る新型コロナ後遺症の実態」などの研究・発表が行われている。 地方レベルでは、和歌山県も11月に「新型コロナウイルス感染症の後遺症等のアンケート調査の結果について」の結果を公表している。 本稿では、アンケート内容の概要を記す。アンケート概要目的:和歌山県における新型コロナウイルス感染者の退院後の症状や生活状況等を把握し、啓発や対策に繋げる対象者:新型コロナウイルス感染者で9月14日時点で退院後2週間以上経過している者方法:感染者の管轄保健所からの郵送もしくは聞き取り調査対象者数:216人回答者数:163人(性別 男性97:女性66)回答率:75.5%退院後も「嗅覚障害」は継続してある 有症状者の状況として、症状があると回答した男性は42人(43%)、女性は33人(50%)であり、女性のほうが多かった。年代では、20代が19人と最も多く、50代(17人)、60代(11人)と続いた。 「退院後の症状」として退院後何らかの症状がある75人のうち、症状で最も多かったのは「嗅覚障害」だった。続いて「倦怠感」、「味覚障害」、「呼吸困難感」と多かった。また、無症状で経過した人が退院後に「倦怠感」や「集中力低下」、「記憶障害」、「目の充血」を訴える例もあった。 「退院後の症状」について男女別では、「倦怠感/味覚障害/脱毛」は男女同数だったが、「呼吸困難感」「頭痛」は女性のほうが多く、「嗅覚障害」「集中力低下」「睡眠障害」「記憶障害」は男性のほうに多かった。 「入院中重症度別 後遺症」では、退院後、肺炎以上の重症度のうち約2~3割の人に「倦怠感」や「呼吸困難感」が継続していたほか、「胸痛」も約1割の人にあった。重症者には「関節痛」が約2割と多かった。また、約1割の人において「咽頭痛」が継続していたほか、「食欲不振」も重症者に多い傾向だった。「味覚障害」「嗅覚障害」については重症度に関わらず約2割の人に継続していた。自宅待機は身体面、精神面に影響を与える 退院後の回復状況については、回復しているが119人(76%)で、少し不調30人(19%)、不調7人(5%)であった。また、年齢別では、回復していると回答した回復者の割合が高いのは、20代以下の若い年代と70代以上の高齢者だった。その一方で、30代~60代では、回復者の割合がそれらより低かった。とくに、50代で回復者の割合が60%と最も低かった。 「療養生活中や退院後の生活において困ったこと(重複回答あり)」では、「自宅待機中の生活」(8人)、「体調の回復や健康面への不安」(7人)、「風評被害、誹謗中傷」(7人)、「療養生活での不安やストレス」(6人)の順で多く、精神面での事項を回答する人も多かった。 まとめとして和歌山県では、「今回の調査では、症状の持続期間が正確に捉えることはできなかった」とし、「退院後の症状がどのような機序で起こるのかなど研究成果が待たれる。今後、必要に応じてさらなる調査を行うことを検討する」と今後の調査継続を示唆している。

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IL-1阻害薬、心膜炎の再発リスクを低減/NEJM

 再発性心膜炎患者において、インターロイキン-1(IL-1)阻害薬rilonaceptはプラセボと比較して迅速な症状改善をもたらし、さらなる再発のリスクを有意に低下することが示された。米国・クリーブランドクリニックのAllan L. Klein氏らRHAPSODY研究チームが、第III相の多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を報告した。IL-1は再発性心膜炎のメディエーターとして関与することが知られている。IL-1αおよびIL-1βサイトカインの働きを阻害するrilonaceptの有効性と安全性は、すでに再発性心膜炎患者を対象とした第II相試験で確認されていた。今回の第III相試験では、rilonaceptはプラセボよりも再発リスクを低下するとの仮説を検証する目的で実施された。NEJM誌オンライン版2020年11月16日号掲載の報告。再発患者を対象に、rilonacept単独治療とプラセボ治療を比較 試験はオーストラリア、イスラエル、イタリア、米国にて、プラセボ対照、イベントドリブン・試験中止の方法にて実施された。被験者は、再発性心膜炎の急性症状(患者の自己申告スケールで評価)および全身性の炎症(CRP値上昇)を呈した患者とした。 標準治療中に心膜炎を再発した患者を12週間の導入(run-in)期間に登録。rilonacept治療を開始し(負荷投与量320mg[18歳未満は4.4mg/kg体重]、その後は週1回160mg[同2.2mg/kg体重]を維持投与)、バックグラウンド治療は中止された(安定化期間1週間、減弱期間9週間、rilonacept単独期間2週間)。 臨床的な効果(事前規定の効果判定基準を満たすなど)を示した患者を1対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与のrilonacept単独治療またはプラセボ治療が継続された。 有効性の主要エンドポイントは、Cox比例ハザードモデルで評価した、初回心膜炎再発までの期間であった。安全性についても評価した。症状改善後の再発率、rilonacept群7%、プラセボ群74% 合計86例の心膜炎(胸痛およびCRP値上昇)患者が導入期間に登録された。登録は2019年1月9日~2020年1月17日に行われた。登録患者の平均年齢は44.7歳、57%が女性であった。 同期間中の、胸痛の解消またはほぼ解消までの期間中央値は5日(95%信頼区間[CI]:4~6)であり、CRP値正常化までの同期間は7日(5~8)であった。事前規定の治療効果を認めるまでの期間中央値は5日(4~7)であった。 合計61例が無作為化を受けた。無作為化治療中止試験中の再発イベントは、rilonacept群では少な過ぎて、初回再発までの期間中央値を算出できなかった。プラセボ群は8.6週(95%CI:4.0~11.7)であり、rilonaceptはプラセボよりも再発リスクが低かった(Cox比例ハザードモデルのハザード比:0.04、95%CI:0.01~0.18、log-rank検定のp<0.001)。同期間中の心膜炎の再発例は、rilonacept群2/30例(7%)、プラセボ群23/31例(74%)であった。 導入期間において、4例が有害事象を発現しrilonacept単独治療が中止となった。rilonacept単独治療に関連した最も頻度の高い有害事象は、注射部位反応、上気道感染症であった。

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予期せぬ体重減少、がん精査をすべき?/BMJ

 プライマリケアで予期せぬ体重減少を呈した成人のがんリスクは2%以下で、英国の現行ガイドラインに基づく検査対象とはならないことが明らかにされた。英国・オックスフォード大学のBrian D. Nicholson氏らによる、予期せぬ体重減少のがん予測を定量化することを目的とした診断精度研究の結果で、著者は、「しかしながら、50歳以上の男性喫煙者および臨床所見を有する患者では、がんリスクを考慮すると、侵襲的な検査受診を紹介する必要がある」と述べている。報告では、特定のがん部位と関連する典型的な臨床所見は、予期せぬ体重減少が生じた際は複数のがん種のマーカーとなることも明らかにされた。BMJ誌2020年8月13日号掲載の報告。予期せぬ体重減少を呈した患者6万3,973例で、がんの診断精度を検証 研究グループは、英国のプライマリケアにおけるNational Cancer Registration and Analysis Service(NCRAS)およびClinical Practice Research Datalink(CPRD)電子健康記録を用いて、2000年1月1日~2012年12月31日に予期せぬ体重減少が記録された成人(18歳以上)6万3,973例を特定し解析した。 主要評価項目は、最初に体重減少が記録された日(インデックス日)から6ヵ月以内のがんの診断である。インデックス日の3ヵ月前から1ヵ月後までの期間の、付加的な臨床所見についても特定された。診断精度は、陽性および陰性の尤度比、陽性予測値、診断のオッズ比(OR)で評価した。 予期せぬ体重減少を認めた成人6万3,973例のうち、3万7,215例(58.2%)が女性、3万3,167例(51.8%)が60歳以上、1万6,793例(26.3%)が喫煙者であった。予期せぬ体重減少のみでプライマリケアを受診した成人患者のがんリスクは2%以下 インデックス日から6ヵ月以内にがんと診断された人は908例(1.4%)で、このうち882例(97.1%)が50歳以上であった。がんの陽性予測値は、50歳以上の男性喫煙者では英国国立医療技術評価機構による緊急検査の推奨閾値である3%を超えていたが、女性ではどの年齢でも確認されなかった。 予期せぬ体重減少を伴う男性では10項目の臨床所見が、女性では11項目が、がんと関連していた。陽性尤度比は、男性で非心臓性胸痛の1.86(95%信頼区間[CI]:1.32~2.62)から腹部腫瘤の6.10(3.44~10.79)までの範囲、女性では背部痛の1.62(1.15~2.29)から黄疸の20.9(10.7~40.9)までの範囲であった。 がんと関連があった血液検査異常値は、アルブミン低値(4.67、95%CI:4.14~5.27)、血小板数増加(4.57、3.88~5.38)、カルシウム高値(4.28、3.05~6.02)、白血球数増加(3.76、3.30~4.28)、C反応性蛋白高値(3.59、3.31~3.89)などであった。一方で、単独でがんの否定につながる血液検査正常値はなかった。また、予期せぬ体重減少を伴う臨床所見は、複数のがん部位と関連していた。

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千葉大総診の神髄本【Dr.倉原の“俺の本棚”】第33回

【第33回】千葉大総診の神髄本臨床推論の本はいくつかありますが、誰でも診断できるよう一般化してしまうと各論がボヤけてしまって、逆に細かい鑑別まで突き詰めようとすると誰にも体得できないという”トレードオフ”の現象が存在します。全を取れば個が取れず、個を取れば全が取れず。『外来診療の型』鈴木 慎吾/著. メディカル・サイエンス・インターナショナル. 2020年このたび千葉大総診の真骨頂とも言える新たな臨床推論の本が出ました。表紙やタイトルを見ると「もしかして難しい書籍かな……」と身構えてしまいそうになりますが、とんでもござーせん。緻密ながらフランクな内容。著者の鈴木先生のギャグセンスもなかなかのもの(なぜか上から目線)。浮腫や咳嗽など、一般的な症候から診断を絞り込んでいく点は、ほかの臨床推論の本と似ていますが、驚くべきは用意されている問診や、診察の”型”の圧倒的な質の高さ。指導医が10年20年と臨床をやってきて体得してきた“型”を惜しみなく吐き出したバケモノ本です。そして、誰もが研修医時代に学んだOPQRST、その有用性を改めて認識させてくれました(表)。OPQRST revisit!いろいろな症候に汎用できるゴロ合わせですよね。O:Onset(発症様式)P:Provocation/Palliative factor(増悪/寛解因子)Q:Quality(性状)R:Related symptoms(関連症状)S:Severity/Site (強さ・重症度/部位)T:Time course(経過・日内変動)この本は、実際に患者さんを診察している風景をイメージするというよりも、千葉大総診のカンファレンスで診断当てゲームをしているような(そこまで難解な診断ではない「ドクターG」のような)感じで取り組むとよいと思います。たとえば、胸痛の章では、ガチ臨床推論の医学書だとTietze症候群やMondor病のような聞いたこともない診断名が解答になっていることが多いのですが、この本ではベリーコモンな疾患が答えになっていました。こういうの好きです。めちゃくちゃ考えさせられて、実はコモンディジーズみたいな。「1+1=2を証明せよ」、「一般角θに対してsinθ、cosθの定義を述べよ」、「円周率が3.05よりも大きいことを証明せよ」みたいな、東大の数学入試問題を彷彿とさせる、良問的良書に仕上がっています。『外来診療の型』鈴木 慎吾 /著出版社名メディカル・サイエンス・インターナショナル定価本体4,500円+税サイズA5判刊行年2020年

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第17回 COVID-19の疲労症候群~筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群研究のまたとない機会

ウイルス感染が去ってすぐの疲労感は珍しいことではなく、たいていすぐに消失しますが、長引く疲労を特徴とする筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)に時に陥る恐れがあります。かつて単に慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれていたME/CFSは運動や頭を使った後に疲労が悪化することを特徴とし、軽く歩いただけ、または質問に答えただけで何日も、悪くすると何週間も起き上がれなくなることがあります1)。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)を経た患者の長患いも最近明らかになっており、COVID-19を経た640人へのアンケートでは多くが胸痛や胃腸不調、認知障害や酷い疲労が収まらないと回答しました2)。米国国立アレルギー感染病研究所(NIAID)を率いるAnthony Fauci(アンソニー・ファウチ)氏もCOVID-19一段落後のそういった症状を認識しており、長きにわたる疲労症候群がCOVID-19に伴う場合があり、その症状はME/CFSに似ているとの見解を今月初めのAIDS学会での記者会見で表明しています3)。ME/CFSは謎に包まれており、それ故に偏見を通り越して無きものとする医師や研究者も少なくありません。ウイルス感染や神経疾患などの何らかの診断を試みた上でどこも悪くないとし、挙げ句にはもっと運動することを勧める医師もいるほどです。運動はME/CFSを悪化させる恐れがあります1)。無きものとして長くみなされていたため患者の多くは病因と思しき脳や脊髄の炎症の関与を見て取れる病名・筋痛性脳脊髄炎(ME)と呼ばれることを好みます。しかしながら脳脊髄炎の裏付けといえば脳の炎症マーカー上昇や脊髄液のサイトカイン変化を報告している日本での被験者20人ほどの試験4)ぐらいであり、米国疾病管理センター(CDC)を含む研究団体のほとんどはME/CFSと呼ぶようになっています。ME/CFSの原因は謎ですが、感染症との関連が示唆されており、米国・英国・ノルウェーでの調査によるとME/CFS患者の75%近くがその発症前にウイルス感染症を患っていました5)。また、西ナイルウイルス(WNV)、エボラウイルス(EBV)、エプスタインバーウイルス(EBV)等の特定の病原体とME/CFS様症状発現の関連が相当数の患者で認められています。2003年に蔓延したSARS-CoV-2近縁種SARS-CoVの感染患者の退院から1年後を調べた試験6)では、実に6割が疲労を訴え、4割以上(44%)が睡眠困難に陥っており、6人に1人(17%)は長引く不調で仕事に復帰できていませんでした。そういった試験結果を鑑みるに、SARS-CoV-2感染患者の体の不具合が収まらずに続く場合があることはほとんど疑いの余地がないとME/CFS研究連携を率いるモントリオール大学のAlain Moreau氏は言っており、同氏や他の研究者の関心は今やSARS-CoV-2がME/CFSを引き起こすかどうかではなく、どう誘発しうるのかに移っています。いくつか想定されている誘発の仕組みの中で自己免疫反応の寄与を米国NIHの神経ウイルス学者Avindra Nath氏はとくに有力視しています。最近イタリアの医師は重度のSARS-CoV-2感染症(COVID-19)患者に自己免疫様症状・ギランバレー症候群(GBS)が認められたことを報告しており7)、ME/CFS患者を調べた2015年報告の試験8)では自律神経系受容体への自己抗体上昇が認められています。もしCOVID-19が自己免疫疾患を招きうるなら何らかのタンパク質へのT細胞やその他の免疫の担い手の反応が血液中に現れるはずです。そこでエール大学の免疫学者岩崎 明子氏等はCOVID-19入院患者数百人の血液検体を採取し、すぐに元気になった場合とそうでない場合の免疫特徴を比較する試験を開始しています。Moreau氏とNath氏等もCOVID-19患者を長く追跡してME/CFSの原因を探る試験9)を始めており、それらの試験結果はCOVID-19を経た人のみならず世界中のME/CFS患者のためにもなるはずです。研究所や政府はCOVID-19患者がME/CFSに陥りうることに目を向け、資源や人を配して事に当たるべきであり、さもないとME/CFSの謎の解明のまたとない機会がふいになってしまうとNath氏は言っています1)。参考1)Could COVID-19 Trigger Chronic Disease in Some People? 2)What Does COVID-19 Recovery Actually Look Like? An Analysis of the Prolonged COVID-19 Symptoms Survey by Patient-Led Research Team3)Coronavirus may cause fatigue syndrome, Fauci says4)Nakatomi Y, et al. J Nucl Med. 2014 Jun;55:945-50.5)Pendergrast TR, et al. Chronic Illn. 2016 Dec;12:292-307.6)Tansey CM, et al. Arch Intern Med. 2007 Jun 25;167:1312-20. 7)Toscano G, et al. N Engl J Med. 2020 Jun 25;382:2574-2576.8)Loebel M, et al. Brain Behav Immun. 2016 Feb;52:32-39.9)OMF Funded Study: COVID-19 and ME / CFS

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COVID-19でみられる後遺症は?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、回復後もなお、しつこく残るだるさや息苦しさを訴えるケースが多くみられるが、その実態は不明である。イタリア・ローマの大学病院Agostino Gemelli University PoliclinicのAngelo Carfi氏ら研究グループは、COVID-19回復後に退院した患者の持続的な症状について追跡調査を行った。その結果、COVID-19発症から約2ヵ月の時点においても87.4%の患者が何らかの症状があることがわかった。COVID-19を巡っては、これまでもっぱら急性期に焦点を当てて研究や分析が進められてきたが、著者らは、退院後も継続的なモニタリングを行い、長期に渡る影響についてさらなる検証を進める必要があるとしている。JAMA誌2020年7月9日号リサーチレターでの報告。 本研究では、2020年4月21日~5月29日までの間に、COVID-19から回復し、退院した患者179例が対象となった。このうち、研究への参加を拒否した14例およびPCR検査陽性の22例を除く143例の患者について追跡調査を実施した。COVID-19の急性期における症状の有無を遡及的に再評価し、各症状が調査時も持続しているか尋ねた。また、患者自身にCOVID-19の前および調査時のQOLを0(最低)~100(最高)のスコアで評価してもらった。  主な結果は以下のとおり。・患者143例の平均年齢は56.5(SD 14.6)歳(範囲:19~84歳)、男性90例(63%)で女性53例(37%)だった。・COVID-19症状発現から平均60.3(SD 13.6)日後に患者を評価したところ、評価時点で無症状だったのは18例(12.6%)で、患者の32%は1~2つの症状があり、55%は3つ以上の症状が見られた。・患者の44.1%でQOLの低下が見られ、とくに倦怠感(53.1%)、呼吸困難(43.4%)、関節痛(27.3%)、胸痛(21.7%)を訴える人の割合が高かった。このほか、咳、臭覚の異常、ドライマウス/ドライアイ、鼻炎、目の充血、味覚の異常、頭痛、喀痰、食欲不振、咽頭痛、めまい、筋肉痛、下痢といった症状を訴える患者もいた。・本研究では、COVID-19から回復した患者の87.4%が何らかの症状を有していた。 著者らは、143例という比較的少数の患者による単一施設の研究であること、ほかの理由で退院した患者の対照群がないことなど研究の限界として挙げ、これらの所見が必ずしもCOVID-19によるものとは限らない可能性があるとしている。

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Dr.増井の心電図ハンティング

第1回 心電図のグレーゾーン第2回 心電図を3次元化する裏技第3回 ミラーイメージ使えていますか?第4回 STEMIとSTEmimic第5回 脚ブロックの虚血判断 解説編第6回 左脚ブロックの虚血判断 実践編第7回 右脚ブロックの虚血判断第8回 陰性T波の鑑別とアクション 心電図の判読に迷って「もっと早く呼べよ! 」「これは緊急じゃないよ! 」と上級医や循環器医から言われたことのある人は多いのではないでしょうか。当シリーズでは、非循環器医が即座に判断できないビミョーな症例を取り上げ、その心電図判読のコツを解説します。2次元の心電図を紙コップで3次元化させるなど、視覚的に楽しく学べる工夫も満載。この番組を見ると、すぐに心電図を読みたくなること間違いなし!そして、自信をもって、心電図を判読し、次のアクションがとれるスキルが身に付きます。さあ、心電図ハンティングに出かけましょう。この番組は中外医学社から刊行されている「心電図ハンター 胸痛/虚血編」を映像化したものです。書籍を読んで当番組を見ていただいたり、当番組を見て書籍を読んでいただければ、理解が深まります。ぜひ書籍「心電図ハンター 胸痛/虚血編」を片手に番組をご覧ください。書籍はこちら ↓ ↓【心電図ハンター 胸痛/虚血編】第1回 心電図のグレーゾーン胸痛患者の心電図を手にしたとき、30秒以内に次のアクションを決めましょう!白黒はっきりしている心電図、すなわちST上昇のある、なしがすぐさまわかる心電図であれば、すぐ決めることができます。しかし、臨床では、ST上昇ありかなしかを判読できず困る心電図があふれています。その「迷う」心電図で、どうやって異常をハンティングするのか。今回は、Case0からCase2までの3症例を判読していきます。STEMIなのか、そうでないのか?そして次へつなげるアクションは?第2回 心電図を3次元化する裏技「連続した誘導でSTの上昇」が見られたらSTEMI!と誰もが反射的に判読できます。そう、心電図でも解剖学的でも連続していれば、そんなに悩むことはありません。もともと立体である心臓を平面の心電図に落とし込んでいることが、電図を判読しにくくしている原因の1つです。それではどうすればいいのでしょうか?そうです。心電図を立体的にもどしてやることです。そのために必要なものは「紙コップ」と「ペン」だけ。この2つを用意してこの番組ご覧ください!平面的な心電図がだんだん立体的にイメージングされて、心電図を読むのが楽しくなってきますよ。第3回 ミラーイメージ使えていますか?対側誘導でのST低下、すなわちミラーイメージをどこまでハンティングできていますか。ミラーイメージは心筋梗塞を示唆する重要な所見。今回は下壁梗塞、後壁梗塞のミラーイメージを確認していきましょう。後壁梗塞のミラーイメージを見つけたら、後壁誘導のV7~V9誘導を確認!そのやり方についても解説します。第4回 STEMIとSTEmimic一見ST上昇に見えて実はSTEMIではない“擬態”ST上昇心電図。これを擬態(mimic)STEMIを略して、STEmimicと命名。このSTEmimicをハンティングできるようになれば、オーバートリアージも減り、コールされる循環器医も、コールする非専門医も、みんなハッピーになります。今回は、STEmimicの中で早期再分極やStrain Patternについて解説します。でも、STEmimicに見えて、実はSTEMIということもあるので、しっかりと確認してください。第5回 脚ブロックの虚血判断 解説編今回は脚ブロックにについて解説します。心電図のST変化、実は脚ブロックの影響かもしれません。脚ブロックの心電図では、右脚か左脚かによって、評価の方法が異なります。右脚と左脚の違いは、細かい病態生理は抜きにして、パターン認識で判断できるようになりましょう。そして、右脚か左脚かがわかれば、虚血判断です。とくに難しい、左脚ブロックの判断に方法について、フローチャートにて解説します。これで、左脚ブロックの心電図での判断に迷うことは少なくなるはず!脚ブロックの虚血判断は臨床の場では必須項目なので、正しくマスターしましょう!第6回 左脚ブロックの虚血判断 実践編今回は左脚ブロック心電図特集です!実際の臨床で、左脚ブロックだということがわかったところで、その先どう判読すればいいのか、なかなか学ぶ機会がありません。そこで千本ノックのごとく、左脚ブロック心電図を次々と出していきます。それを受けてどんどん読んでいきましょう!そうすれば、左脚ブロックの心電図が来ても、慌てることなく読影できるようになりますよ。第7回 右脚ブロックの虚血判断今回は右脚ブロック心電図特集!前回の左脚ブロック千本ノック!と同様に、右脚ブロックの心電図をどんどん読んでいきましょう!右脚ブロックの心電図を読むコツをしっかりとお教えします。脚ブロックに惑わされることなく、通常通りSTEMIをハンティングしていくことが重要です。そして右脚ブロックならではのポイントをしっかりと確認しましょう。第8回 陰性T波の鑑別とアクション陰性T波で考えられる鑑別診断は大きく3つ!それらをどのように鑑別し、次につなげるアクションは?見分けるポイントとコツをしっかりとお教えします。そして、最後に、虚血判断できない場合の対応について、今一度考えてみましょう。まずは、本当に判断できないのか?まずは、このシリーズで学んだことをしっかりと確認してみましょう!そこれまでできなかった判断ができるようになっているはずです。さらには日米欧のガイドラインも参考にし、現場でできるアクションをしっかりと身に付けてください。

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COVID-19重症患者に特徴的なCT所見と症状

 中国・重慶医科大学附属第二医院のKunhua Li氏らの調査により、重症または重体のCOVID-19肺炎では、臨床症状、臨床検査値、CT重症度スコアに有意な差があることがわかった。多くの因子が疾患の重症度に関連しており、重症度の判断と予後の評価に役立つとしている。Investigative Radiology誌オンライン版2020年2月29日号に掲載。 著者らは、COVID-19肺炎患者83例(重症または重体が25例、それ以外が58例)について、胸部CT画像所見と臨床データを比較し、重症度に関連する危険因子を検討した。 主な結果は以下のとおり。・重症または重体例はそれ以外の患者に比べて、高齢で併存疾患がある人が多く、咳嗽・喀痰・胸痛・呼吸困難の発現率が高かった。・重症または重体例はそれ以外の患者に比べて、浸潤影、線状影、crazy-paving pattern(メロン皮状の網目陰影)、気管支壁肥厚の発現率が有意に高かった。また、リンパ節腫大、心膜液貯留、胸水貯留の発現率が高かった。・重症または重体例のCT重症度スコアは、それ以外の患者よりも有意に高かった(p<0.001)。・ROC曲線から、2タイプの識別におけるCT重症度スコアの感度は80.0%、特異度は82.8%であった。・重症または重体のCOVID-19肺炎の危険因子は、50歳以上、併存疾患、呼吸困難、胸痛、咳嗽、喀痰、リンパ球減少、炎症マーカー上昇であった。・重症または重体のCOVID-19肺炎におけるCT所見の特徴は、線状影、crazy-paving pattern、気管支壁肥厚、高いCT重症度スコア、肺外病変であった。

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無症状でも重症ASは放っておいてはダメ(解説:上妻謙氏)-1192

 昔から失神や胸痛を来した重症大動脈弁狭窄症(AS)は、急いで手術しないと急死しやすいことは経験的に認められてきた。TAVRが出てくる前から手術ができる患者は準緊急で手術に送ったものだったが、TAVRが出てから市場が大きく掘り起こされ、超高齢社会も相まって、無症候のASが多く見つかるようになった。これは、そういった無症候の重症ASを手術せずに経過をみたらどうなるかということをはっきりさせた重要な論文である。 早期に手術をする群に比べコンサーバティブに経過観察した群は明らかに死亡率が高く、早期手術群では手術死亡もなかった。単純明快な論文であるが、いくつかlimitationも存在する。まずは145例と症例数の少ない点、そして患者の6割以上が二尖弁で平均年齢が62歳と若い点である。これは最近増加している高齢者のdegenerative ASの患者像とは異なり、手術リスクも異なるため、同様には扱いにくい。しかしTAVRが一般化した現在では高齢者にも当てはめてよいと考えられる。 このスタディが行われた韓国ではTAVRが保険適用となっておらず、高齢者を多数含む研究が行いにくかったと思われ、実際にランダマイズの前に除外された症例が多いのにも注意を要する。また今回の対象患者は流速4.5m/sあるいは弁口面積0.75cm2以下、平均圧較差50mmHg以上でvery severe ASとされているが、一般にvery severe ASといえば流速5m/s以上、弁口面積0.6cm2以下あるいは、もっと重症のものを指すことが多い。この定義が異なるところが日常臨床に当てはめるにあたって混乱を招きやすい点だろう。いずれにせよ、症状がないからと治療を受けるのを躊躇する患者に説明するのに良い材料ができたといえる。

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米国2019-nCoV感染1例目、発熱・咳症状9日目に肺炎/NEJM

 中国・湖北省武漢市でアウトブレークが始まった新型コロナウイルス「2019-nCoV」は、瞬く間に拡大し複数の国で新たな感染例の確認が報告されている。米国疾病管理予防センター(CDC)のMichelle L. Holshue氏らは、2020年1月20日に米国で確認された1例目の感染例について、疫学的および臨床的特徴の詳細をNEJM誌オンライン版2020年1月31日号で発表した。その所見から、「本症例で鍵となるのは、パブリックな注意喚起を見た後に患者が自発的に受診をしたこと、患者の武漢市への渡航歴を地域の医療提供者および郡・州・連邦の公衆衛生担当官が共有し、感染拡大の可能性を認識して、患者の迅速な隔離と検査および入院を許可したことだ」と述べ、「本症例は、急性症状を呈し受診したあらゆる患者について、臨床家が最近の渡航歴または病人との接触曝露歴を聞き出し、そして2019-nCoVのリスクがある患者を適切に識別し迅速に隔離して、さらなる感染を抑制する重要性を強調するものである」とまとめている。渡航歴を考慮し、ただちにクリニックからCDCへと報告が上がる 米国の2019-nCoV感染1例目は、1月19日にワシントン州スノホミッシュ郡の緊急ケアクリニックを受診した35歳男性。咳、主観的発熱の既往は4日間。クリニックに入ると待合室でマスクを着け、約20分待った後、診察室に入った。患者は、家族に会いに武漢市に行き15日に帰ってきたことを申し出、米国CDCの注意喚起を見て、自身の症状と渡航歴を鑑み受診したと話した。高トリグリセライド血症歴はあったが、健康な非喫煙者だった。 診察の結果、熱は37.2度、血圧134/87mmHg、心拍110回/分、酸素飽和度96%。ラ音を認めたため胸部X線検査を行ったが異常は認められなかった。迅速インフルエンザウイルス検査(A、B)の結果は陰性。鼻咽頭スワブ検体を採取し(あらゆる結果が48時間以内に判明する)、渡航歴を考慮してただちに郡・州の保健当局に通知。州当局は臨床担当医とともにCDCの緊急オペレーションセンターに通知した。患者が武漢海鮮卸売市場には行っておらず病人との接触もないと話したが、CDCは「persons under investigation」を基に要検査例と判断。ガイダンスに従い、鼻咽頭および口咽頭スワブ検体を収集。患者は退院したが家族とは隔離し郡保健所がモニタリングにあたった。 翌1月20日にリアルタイムPCR検査の結果、2019-nCoV陽性が確認された。患者は郡医療センターに隔離入院となった。入院時も入院後もバイタルはほぼ安定、しかし入院5日目に肺炎を呈す 患者は入院時、持続性乾性咳嗽と2日間の悪心および嘔吐の既往を認めたが、息切れ、胸痛の訴えはなく、バイタルサインは正常範囲を示していた。入院後、支持療法(悪心に対する2Lの生理食塩水とオンダンセトロン投与)を受けたが、入院2~5日目(疾患6~9日目)のバイタルサインはほとんどが安定していた。 入院2日目に腹部不快感と下痢症状を呈するが翌日に回復。入院3日目に胸部X線検査を行ったが、異常所見を認めなかった。しかし、入院5日目(疾患9日目)の夜から呼吸器症状に変化がみられ、胸部X線検査で左肺下葉に肺炎の所見を認めた。入院6日目に酸素吸入を開始、バンコマイシン、セフェピムの投与も開始。その日の胸部X線検査で両肺に陰影、ラ音を認める。担当医は他施設での報告例を参照し、7日目の夕方に治験中の抗ウイルス薬remdesivirの静脈投与を開始。有害事象は観察されなかった。同日夕方にバンコマイシン投与は中止、セフェピムは翌日に中止している。 入院8日目(疾患12日目)に患者の臨床症状は改善し、支持療法も中止となった。入院11日目の1月30日現在も入院は続いているが、熱は低下(36度台)し、重症度が低下した咳を除き、あらゆる症状が改善した。

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新型コロナウイルス肺炎99例の疫学的・臨床的特徴/Lancet

 中国・武漢市金銀潭医院のNanshan Chen氏らは、2019年新型コロナウイルス(2019-nCoV)による肺炎の疫学的・臨床的特徴を調べるため、自院の全症例について調査した。その結果、2019-nCoVは併存疾患のある高齢男性が感染するリスクが高く、急性呼吸窮迫症候群などの重症で致命的な呼吸器疾患を引き起こす可能性があることが示唆された。Lancet誌オンライン版2020年1月30日号に掲載。 著者らは、2020年1月1~20日に武漢市金銀潭医院で2019-nCoVが確認された全症例について後ろ向き調査を実施した。症例はリアルタイムRT-PCRで確認し、疫学的、人口統計学的、臨床的、放射線学的特徴および検査データを解析した。アウトカムは2020年1月25日まで追跡。 主な結果は以下のとおり。・2019-nCoV肺炎の99例のうち、49例(49%)が海鮮卸売市場を訪れていた。・平均年齢は55.5歳(SD:13.1歳)、男性67例、女性32例であった。・リアルタイムRT-PCRにより、全症例で2019-nCoVが検出された。・50例(51%)は慢性疾患を有していた。・症状は、発熱82例(83%)、咳嗽81例(82%)、息切れ31例(31%)、筋肉痛11例(11%)、錯乱9例(9%)、頭痛8例(8%)、咽頭痛5例(5%)、鼻漏4例(4%)、胸痛2例(2%)、下痢2例(2%)、悪心・嘔吐1例(1%)であった。・画像検査では、74例(75%)に両側性肺炎、14例(14%)に多くの斑状およびすりガラス状の陰影、1例(1%)に気胸が認められた。・17例(17%)が急性呼吸窮迫症候群を発症し、そのうち11例(11%)が短期間で悪化し多臓器不全で死亡した。

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肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)の定義は長らく、安静時の平均肺動脈圧25mmHg以上が用いられてきたが、2018年にニースで開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムではPHの定義が平均肺動脈圧「25mmHg以上」から「20mmHg以上」へ変更するという提言がなされた。肺循環は低圧系であり健常者の平均肺動脈圧の上限が20mmHgであること、21~24mmHgの症例は20mmHg以下の症例と比較して、運動耐容能が低くかつ入院率や死亡率が上昇した報告などを根拠としている。また、PAHの定義には平均肺動脈圧20mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下とともに「肺血管抵抗3Wood Units以上」が付加された。しかし、21~24mmHgの症例に対する治療薬の効果や安全性は改めて検証される必要があり、当面、実臨床では、PAHの血行動態上の定義として平均肺動脈圧25mmHg以上かつ肺動脈楔入圧15mmHg以下が採用される。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。特発性は30代を中心に20~40代に多く発症する傾向があるが、最近の調査では高齢者の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング(再構築)」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。遺伝学的には特発性/遺伝性の一部では、TGF-βシグナル伝達に関わるBMPR2、ALK1、ALK6、Endoglinや細胞内シグナルSMAD8の変異が家族例の50~70%、孤発例(特発性)の20~30%に発見される3,4)。常染色体優性遺伝の形式をとるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全(small patella syndrome)の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムでは、PHの臨床分類については前回の1~5群は踏襲されたものの、若干の修正がなされた。主な疾患を以下に示す8)。1.肺動脈性肺高血圧症(PAH)1.1 特発性(idiopathic)1.2 遺伝性(heritable)1.3 薬物/毒物誘起性1.4 各種疾患に伴うPAH(associated with)1.4.1 結合組織病(connective tissue disease)1.4.2 HIV感染症1.4.3 門脈圧亢進症(portal hypertension)1.4.4 先天性心疾患(congenital heart disease)1.4.5 住血吸虫症1.5 カルシウム拮抗薬に長期反応を示すPAH1.6 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD)/肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)の明確な特徴を有するPAH1.7 新生児遷延性PH(persistent pulmonary hypertension of newborn)2.左心疾患によるPH3.呼吸器疾患および/または低酸素によるPH3.1 COPD3.2 間質性肺疾患4.慢性血栓塞栓性PH(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)5.原因不明の複合的要因によるPH■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。以後は、この10年間で5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例には、肺移植の待機リストを照会することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、および他のPHを来す疾患の除外診断が必要である。ただし、呼吸器疾患 および/または 低酸素によるPH では呼吸器疾患 および/または 低酸素のみでは説明のできない高度のPHを呈する症例があり、この場合はPAHの合併と考えるべきである。2017年に改訂されたわが国の肺高血圧症治療ガイドラインに示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。 画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、三尖弁収縮期圧較差40mmHg以上で、推定肺動脈圧の著明な上昇を認め、右室肥大所見を認めること2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SC/ERS(2015年)のPH診断・治療ガイドラインを基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9)。画像を拡大するこれはPAH患者にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する患者には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase賦活薬リオシグアト(商品名:アデムパス)はPDE5-i とは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。欧米では急性血管反応性が良好な反応群(responder)では、カルシウム拮抗薬が推奨されているが、わが国では、軽症例には経口PGI2誘導体べラプロスト(同:ケアロードLA、ベラサスLA)が選択される。セレキシパグ(同:ウプトラビ)はプロスタグランジン系の経口肺血管拡張薬として、2016年に承認申請されたPGI2受容体刺激薬である。3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。治療薬の選択には重症度に基づいた予後リスク因子(表1)を考慮し、リスク分類して治療戦略を立てることが推奨されている。重症度別(WHO機能分類)のPAH特異的治療薬に関する推奨とエビデンスレベルを表2に示す。従来は低リスク群では単剤療法、中等度リスク以上の群では複数の肺血管拡張薬を導入することが基本とされてきたが、肺動脈圧が高値を示す症例(平均肺動脈圧40mmHg以上)では、2剤、3剤の異なる作用機序をもつ治療薬の併用療法が広く行われている。併用療法には治療目標に到達するように逐次PAH治療薬を追加していく「逐次併用療法」と初期から複数の治療薬をほぼ同時に併用していく「初期併用療法」があるが、最近では後者が主流になっている。画像を拡大する画像を拡大する単剤治療を考慮すべき病態には下記のようなものがある。1)カルシウム拮抗薬のみで1年以上血行動態の改善が得られる、2)単剤治療で5年以上低リスク群を維持している、3)左室拡張障害による左心不全のリスク要因を有する高齢者(75歳以上)、4)肺静脈閉塞性疾患(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)の特徴を有することが疑われる、5)門脈圧亢進症を伴う、6)先天性心疾患の治療が十分に施行されていない、などでは単剤から慎重に治療すべきと考えられる。経口併用療法で機能分類-III度から脱しない難治例は時期を逸さぬようPGI2持続静注療法を考慮する。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも留意する。エポプロステノール(同:フローラン、エポプロステノールACT)に加えて、2014年に皮下ならびに静脈内投与が可能なトレプロスチニル(同:トレプロスト注)が承認された。皮下投与は、注射部位の疼痛対策に課題を残すが、管理が簡便で有利な点も多い。エポプロステノールに比べ力価がやや劣るため、エポプロステノールからの切り替え時には用量調整が必要とされる。さらにPGI2吸入薬イロプロスト(ベンテイビス)、選択的PGI2受容体作動薬セレキシパグ(ウプトラビ)が承認され、治療薬の選択肢が増えた。抗腫瘍薬のソラフェニブ(multikinase inhibitor)、脳血管攣縮の治療薬であるファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)、乳がん治療薬であるアナストロゾール(アロマターゼ阻害薬)も効果が注目されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。特に細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター/肺動脈性肺高血圧症(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)グラクソ・スミスクライン肺高血圧症情報サイトPAH.jp(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂)(医療従事者向けのまとまった情報)2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Respiratory Journal, 2015).(医療従事者向けのまとまった情報:英文のみ)患者会情報NPO法人 PAHの会(PAH患者と患者家族の会が運営している患者会)Pulmonary Hypertension Association(PAH患者と患者家族の会 日本語選択可能)1)Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495.2)Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31.3)Fujiwara M, et al. Circ J. 2008;72:127-133.4)Shintani M, et al. J Med Genet. 2009;46:331-337.5)Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343.6)Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361.7)Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506.8)Simonneau G, et al. Eur Respir J. 2019;53. pil:1801913.9)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)公開履歴初回2013年07月18日更新2020年02月03日

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症〔CTEPH:chronic thromoboembolic pulmonary hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義慢性肺血栓塞栓症とは、器質化した血栓により肺動脈が閉塞し、肺血流分布および肺循環動態の異常が6ヵ月以上にわたって固定している病態である。また、慢性肺血栓塞栓症において、平均肺動脈圧が25mmHg以上の肺高血圧を合併している例を、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromoboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)という。■ 疫学正確な疫学情報はない。わが国において、急性例および慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生頻度は、欧米に比べ少ないと考えられている。剖検輯報にみる病理解剖を基礎とした検討でも、その発生率は米国の約1/10と報告されている。米国では、急性肺血栓塞栓症の年間発生数が50~60万人と推定され、急性期の生存症例の約0.1~0.5%がCTEPHへ移行するものと考えられてきた。しかしその後、急性例の3.8%が慢性化したとも報告され、急性肺塞栓症例では、常にCTEPHへの移行を念頭におくことが重要である。わが国における指定難病CTEPHの患者数は3,790名(2018年度)である。■ 病因肺血管閉塞の程度が肺高血圧症成立機序になる。しかし、画像所見での肺血管の閉塞率と肺血管抵抗の相関は良いとは言えない。この理由として、血栓反復、肺動脈内での血栓の進展が関与していることも考えられており、さらに、(1)肺動脈性肺高血圧症でみられるような亜区域枝レベルの弾性動脈での血栓性閉塞、(2)血栓を認めない部位の増加した血流に伴う筋性動脈の血管病変、(3)血栓によって閉塞した部位より遠位における気管支動脈系との吻合を伴う筋性動脈の血管病変など、small vessel disease の関与も示唆されている。また、わが国では女性に多く、深部静脈血栓症の頻度が低いHLA-B*5201やHLA-DPB1*0202と関連する病型がみられことが報告されている。これらのHLAは、急性例とは相関せず、欧米では極めて頻度の少ないタイプのため、欧米例と異なった発症機序を持つ症例の存在が示唆されている。■ 症状1)労作時の息切れ2)急性例にみられる臨床症状(突然の呼吸困難、胸痛、失神など)が、以前に少なくとも1回以上認められている3)下肢深部静脈血栓症を疑わせる臨床症状(下肢の腫脹および疼痛)が以前に少なくとも1回以上認められている。4)肺野にて肺血管性雑音が聴取される5)胸部聴診上、肺高血圧症を示唆する聴診所見の異常(II音肺動脈成分の亢進など)が挙げられる■ 分類CTEPHの肺動脈病変の多くは深部静脈からの繰り返し飛んでくる血栓が、肺葉動脈から肺区域枝、亜区域枝動脈を閉塞し、その場所で血栓塞栓の器質化が起る。この病変は主肺動脈から連続して肺区域枝レベルまで内膜肥厚が起っている場合(中枢型)と、主に区域枝から内膜肥厚が始まっている場合(末梢型)がある。血栓塞栓の部位によらず薬物療法は必要であるが、侵襲的治療介入戦略が異なるため、部位により次のように大別している。1)中枢型:肺動脈本幹から肺葉、区域動脈に病変を認める(肺動脈内膜摘除術:PEAの適用を考慮)2)末梢型:区域動脈より末梢の小動脈の病変が主体である(バルーン肺動脈形成術:BPAの適用を考慮)■ 予後平均肺動脈圧が30mmHgを超える症例では、肺高血圧は時間経過とともに悪化する場合も多く、一般には予後不良である。CTEPHは肺動脈内膜摘除術(PEA)によりQOLや予後の改善が得られる。また、最近ではカテーテルを用いたバルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)が比較的広く施行されており、手術に匹敵する肺血管抵抗改善が報告されている。また、手術適用のない症例に対して、肺血管拡張薬を使用するようになった最近のCTEPH症例の5年生存率は、87%と改善がみられている。一方、肺血管抵抗が1,000~1,100dyn.s.cm-5を超える例の予後は不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断診断は(肺動脈内の血栓・塞栓の存在診断)+(肺高血圧症の存在診断)である(図1、2)。1)右心カテーテル検査で肺高血圧症の存在診断(1)肺動脈圧の上昇(安静時の平均肺動脈圧が25mmHg以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)が正常(15mmHg以下)2)肺換気・血流シンチグラム所見で肺動脈内の慢性血栓・塞栓の存在診断換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が、血栓溶解療法または抗凝固療法施行後も6ヵ月以上不変あるいは不変と推測できる。3)肺動脈造影所見、胸部造影CT所見で肺動脈内の慢性血栓・塞栓の存在診断慢性化した血栓による変化が証明される。図1 CTEPH症例の画像所見画像を拡大するCTEPH症例の胸部X-Pおよび胸部造影CT(自験例)胸部X-Pで肺動脈陰影の拡大を認める胸部造影CTで肺動脈主幹部に造影欠損(慢性血栓塞栓症の疑い)を認める図2 CTEPH症例のシンチグラフィ所見画像を拡大する慢性血栓塞栓性肺高血圧症 症例の肺血流シンチおよび肺換気シンチ(自験例)換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が認められる■ 鑑別診断肺高血圧症を来す病態を除外診断する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)本症に対し有効であることがエビデンスとして確立されている治療法としては、肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)がある。わが国では手術適応とされなかった末梢側血栓が主体のCTEPHに対し、カテーテルを用いたバルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)の有効性が報告されている。さらに、手術適用のない末梢型あるいは術後残存あるいは再発性肺高血圧症を有する本症に対して、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるリオシグアト(商品名:アデムパス)が用いられる。CTEPHの治療方針としては、まず確定診断と重症度評価を行うことである(図3)。ついで病状の進展防止を期待して、血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法を開始する。抗凝固療法が禁忌である場合や抗凝固療法中の再発などに対して、下大静脈フィルターを留置する場合もある。低酸素血症対策、右心不全対策も必要ならば実施する。重要な点は、本症の治療に習熟した専門施設へ紹介し、PEAまたはBPAの適応を検討することである。図3 CTEPHの診断と治療の流れ画像を拡大する4 今後の展望PEAの適用やBPAの適用に関してさらなる症例集積が必要である。可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるリオシグアト以外の肺血管拡張薬が承認される可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Mindsガイドラインライブラリ 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)診療ガイドライン(日本肺高血圧・肺循環学会)(医療従事者向けのまとまった情報)難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月03日

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第36回 本物?ニセモノ?下壁誘導Q波を見切るエクセレントな方法(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

本物?ニセモノ?下壁誘導Q波を見切るエクセレントな方法(後編)だいぶ遅くなりましたが、皆さま、新年明けましておめでとうございます。2018年8月末から隔週で続けていた本連載を2020年1月からは1回/月ペースでお届けすることになりました。引き続き“価値ある”レクチャーを展開していく所存ですので、今年も“ドキ心”をよろしくお願いします。さて、今回も 昨年に引き続き、下壁誘導(II、III、aVF)のQ波をどう考えるか、Dr.ヒロと一緒に心電図の“技巧的”な記録法を学びましょう。第35回と同じ症例を用いて解説し「異常Q波」のレクチャーを終えたいと思います。では張り切ってスタートです!症例提示48歳、男性。糖尿病にてDPP-4阻害剤を内服中。泌尿器科より以下のコンサルテーションがあった。『腎がんに対して全身麻酔下で左腎摘除術を予定しています。自覚症状はとくにありませんが、術前心電図にて異常が疑われましたので、ご高診下さい』174cm、78kg(BMI:25.6)。血圧123/72mmHg、脈拍58/分・整。喫煙:15~20本×約30年(現在も喫煙中)。術前検査として記録された心電図を示す(図1)。(図1)術前外来の心電図画像を拡大する【問題1】心エコーでは左室下壁領域の壁運動低下があった(第35回参照)。本症例の「陳旧性下壁梗塞」の有無について、Q波の局在、ST-T変化の合併以外に、心電図上の注目ポイントを述べよ。解答はこちら平常時と深吸気時記録の比較解説はこちら症例は前回と同じ、腎がんに対して摘除術が予定された中年男性です。“ニ・サン・エフ”のいわゆる下壁誘導に「異常Q波」ありと読むのでした。“周囲確認法”的にはST-T異常も伴わず、本人に問診しても強い胸痛イベントの記憶もないため、フェイクQ波だと思いたいところではあります。しかし、心エコーで局所壁運動異常、背景に糖尿病もあるため、「無症候性心筋虚血(梗塞)」の線も捨てきれないという悩ましい状況なわけです。あくまでも術前ですから、冠動脈CT、心臓MRI(CMR)や核医学(RI)などの“大砲検査”に無制限に時間をかければいいというものでもありません。あくまでも腎がんの手術をつつがなく終えてもらうことが当座の目標です。大がかりでコストもかさむ検査をする前に、実は“一手間”かけて心電図をとるだけで、下壁Q波が本物かニセモノかを見抜ける場合があるのです。“深呼吸でQ波が消える?”いつか、皆さんにこの“ドキ心”レクチャーで紹介しようと思っていた論文*1があります。イタリアからの報告で、既知の冠動脈疾患(CAD)がない50人(平均年齢68歳、男性54%)を対象としています。これらの男女は見た目“健康”ですが、複数の冠危険因子、脳梗塞や末梢動脈疾患(PAD)の既往があり、下壁誘導にQ波が見られるという条件で選出されています(II:18%、III:98%、aVF:100%)。ちなみに、海外ではこうした“下壁Q波”は、一般住民でも1%弱(0.8%)に認められるそうです*2。全例に心エコーとCMRを行い、下壁にガドリニウム(Gd)遅延造影が見られた時に“本物”の下壁梗塞と認定されました。と、ここまでは至極普通なのですが、この論文がすごいのは、以前からささやかれていた「ニセモノの下壁Q波は深呼吸で“消える”」という、いわば“都市伝説”レベルの話が検証されているのです! 皆さん、こんな話って聞いたことありますか?方法はとても簡単です。安静時と思いっきり息を吸った状態(deep inspiration)の2枚、心電図を記録します。深吸気時でも変わらずQ波なら、それこそ真の「異常Q波」と見なし、下壁梗塞のサインと考えるのです。ちなみにQ波が“消える”とは、完全に消失することではなく、診断基準(第33回)を満たさなくなるという意味とご理解ください。このシンプルなやり方に“アダ名”をつけるのが、Dr.ヒロの得意技(笑)。言いやすい“深呼吸法”と名付けました。“本物なQ波の確率を高める所見はあるか?”この研究、実際の結果はどうだったのでしょうか? CMRで本当に下壁梗塞が検出されたのは50人中10人(20%)でした。単純にQ波が3つの誘導中2つ以上、それもほとんどサンエフ(III、aVF)だけなら、 “打率”は2割と低いわけです。単純に下壁梗塞の有無で各種因子が比較されましたが、有意なものはありませんでした。「有意」(p<0.05)に届かなかったものの“おしい”感じだったのは、1)男性、2)II誘導にQ波あり、3)ST-T所見の合併ありの3つです。性別(男性)は確かに冠危険因子の一つですし、背景疾患も含めて意識したいところです。ただ、これは“決定打”にはなりません。残りの2つも大事です。その昔「II誘導にQ波があったら高率に下壁梗塞あり」と習った記憶がありますが、この論文では半数弱(40%)にとどまりました(「なし」の場合の13%より確かに高率でしたが)。もう一つのST-T所見の合併、これは「ST上昇」や「陰性T波」であることが多いです。以前取り上げた心筋梗塞の「定義」を述べた合意文書でも、「幅0.02~0.03秒」の“グレーゾーン”でも、「深さ≧1mm」かつ「同誘導で陰性T波」なら本物の可能性が高まると述べられています。常日頃から漏れのない判読を心がけている立場としては、Q波「だけ」で考えないのは当然で、“周囲確認法”として多面的に考えることで“打率”が向上すると思っています(有意にならなかったのは、サンプル数が少ないためでしょうか)。“深呼吸法の実力やいかに”さて、いよいよ“深呼吸法”のジャッジです。次の図2をご覧ください。(図2)“深呼吸法”の識別能力画像を拡大する図中の「IQWs」とは、「下壁Q波」(Inferior Q-waves)の意味で、「MI」は「心筋梗塞」(myocardial infarction)です。“深呼吸法”で異常Q波が「残った」10人中、本物が8人。 なんと“打率”が8割にアップしました。よく見かける2×2分割表を作成し、感度、特異度を求めるとそれぞれ80%、95%になるわけです。しかも、特筆すべきは心エコーでの局所壁運動異常(asynergy)は各50%、88%であったこと。あれっ? 深吸気した心電図のほうが心エコーより“優秀”ってこと?…そうなんです。もちろん、単純に感度・特異度の値だけで比較できるものではありませんが、論文中ではいくつかの検討が加えられ、最終的に「“深呼吸法”は心エコーよりも下壁梗塞の診断精度が良かった」というのが、本論文の結論です。どうです、皆さん! “柔よく剛を制す”ではないですが、心電図を活用することで心エコー以上の芸当ができるなんて気持ちいいですよね。“判官贔屓”(はんがんびいき)と言われそうですが(笑)。ここで下壁誘導のQ波についてまとめておきましょう。■下壁誘導Q波の“仕分け方”■心筋梗塞の既往(問診)、冠危険因子の確認は必須III誘導「のみ」なら問題なし(お隣ルール)II誘導のQ波、ST-T所見の有無も参考に(周囲確認法)深吸気で“消える”Q波はニセモノの可能性大(深呼吸法)“実際に深呼吸法やってみた”心電図に限りませんが、新しい事柄を知った時、すぐに“実践”してみることで、その知識は真に定着するというのがボクの信条の一つです。早速、症例Aと症例Bを用いて“深呼吸法”を試してみました。【症例A】68歳、男性。他院から転医。糖尿病、脂質異常症、高血圧症あり。既往に心筋梗塞あり。【症例B】63歳、男性。術前心電図異常で紹介。高血圧症あり。以前から階段・坂道で息切れあり。臨床背景からは、【症例A】は本物な感じがしますが、【症例B】は、にわかに判断は難しいような気がします。皆さんはどう思いますか? 実際に“深呼吸法”も含めて行った心電図の様子を示します(図3)。(図3)自験例で“深呼吸法”やってみた画像を拡大するまず、安静時の心電図を見てみましょう。【症例A】では、II誘導を含めて下壁誘導すべてにQ波がありますが、陰性T波の随伴はありません(a)。一方の【症例B】は、Q波はIII、aVF誘導のみですが(QS型)、III誘導に陰性T波ありという状況です(c)。さて、“深呼吸法”の結果はどうでしょうか。息を深く吸うことで、幅・深さともに若干おとなしくなることにご注目ください。しかも、「息こらえ」のためか筋電図ノイズが混入して見づらくなるという特徴がありますよ。【症例A】ではII、III、aVF誘導ともQ波が残るので、がぜん”本物”度が増します。一方の【症例B】はどうでしょう?…III誘導は「QS型」のままですが、aVF誘導ではQ波がほぼ消えて「qr型」となったではありませんか! こうなると、もはや“お隣ルール”に該当せず、III誘導のみの“問題がない”パターンであることが露呈しました。実際の“正解”をまとめます。【症例A】は50歳時に右冠動脈中間部を責任血管とする急性下壁梗塞の既往があり、一方の【症例B】では、心エコーはほぼ正常で冠動脈CTでも有意狭窄はありませんでした。何度か述べているように、心電図だけですべてを判断するのは危険ですし、【症例B】のように一定のリスク、胸部症状や本人希望などに沿った総合的な判断から冠動脈精査を行うことは決して悪くないです。ただ、“深呼吸法”は実ははじめから“大丈夫”の太鼓判を押してくれていたことになります。ウーン、改めてすごいな。“おわりに”話を冒頭の症例に戻します。この方は心エコーとRI検査で左室下壁に異常があり、 “深呼吸法”でもII、III、aVFそれぞれでQ波は顕在でした。この患者さんの冠動脈造影(CAG)の結果 (図4)を見ると、左冠動脈には狭窄はありませんでしたが、右冠動脈の中間部で完全閉塞(図中赤矢印)、いわゆる“CTO”(Chronic Total Occlusion)と呼ばれる「慢性閉塞性病変」でした(左冠動脈造影で側副血行路を介して右冠動脈末梢が造影されています[図中黄矢印])。つまり、今回の中年男性は“本物”の下壁梗塞だったのです。(図4)48歳・男性のCAG画像を拡大するところで話は変わりますが、皆さんは「ブルガダ心電図」*3をご存じでしょうか。多くの臨床検査技師さんは、V1~V3誘導で「ST上昇」を見たら、「第1肋間上」での記録も残してくれ、これはだいぶ浸透しています。そこで提案。「下壁、とくにIII・aVF誘導にQ波があったら“深吸気”時の記録を追加する」をルーチンにしませんか?…とまぁ、とかく“欲張り”なDr.ヒロなのでした。Take-home Message下壁誘導の「異常Q波」を見たら、本物かニセモノか考えよう!冠危険因子、既往歴、II誘導のQ波やST-T変化の随伴とともに深呼吸法が参考になるはず。*1Nanni S, et al. J Electrocardiol. 2016;49:46-54.*2Godsk P, et al. Europace. 2012;14:1012-1017.*3『遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)』【古都のこと~智積院~】令和2年最初の『古都のこと』は、智積院(ちしゃくいん)から始めます。ここは「東山七条」と呼ばれるゾーンで、有名な三十三間堂や京都国立博物館のすぐ近くです。「あれっ、~寺じゃないの?」…そうなんです。ボクもそう思いました。正式名称は五百仏山根来寺(いおぶさん ねごろじ)智積院。一時退廃していた真言宗の「中興の祖」とされる興教大師が修行の場を根来山に移してから「学山」として栄え*1、室町時代後期(南北朝時代)に創建された学頭寺院の名称が「智積院」です。いわゆる「お坊さんの“学校”」なんですね。でも、これは和歌山県の話です。現在の東山の地に移ったのは、「根来衆」の“黒歴史”*2が関係しています。徳川家康から秀吉を祀る豊国神社と祥雲禅寺*3の地を拝領してからは、江戸時代以降「学問寺」としての位置を取り戻しました。さらに、明治時代の廃仏毀釈や根本道場(勧学院)・金堂*4の火難など不幸の歴史を辿りながら明治33年(1900年)に智山派総本山となった歴史を知ると、“学問”がつなぐ絆の強さに感動します。広大な敷地にボクは大学のキャンパスに漂う“自由”の気風をイメージし、既に離れた母校を懐かしみました。また、素敵な庭園とともに、敷地内にある宝物館には、国宝である長谷川等伯らによる障壁画『桜図』『楓図』(国宝)*5が拝める特典もありますよ。勧行体験のできる宿坊がリニューアル(2020年夏頃)したらまた来たいなぁと思うDr.ヒロなのでした。*1:弘法大師入定(高僧の死)後300年、荒廃した高野山に大伝法院(学問所で学徒の寮も兼ねた)を創建、宗派内の対立で同じ和歌山県内の根来山に修行の場を移し、教学「新義(真言宗)」を確立した。*2:いつしか“書物”を“火縄銃”に持ち替えた僧兵は種子島伝来の鉄砲を操ったという。天正13年(1585年)、豊臣秀吉による“根来攻め”により山内の堂塔が灰燼に帰し、当時の智積院住職であった玄宥(げんゆう)僧正が難を逃れたのが京都東山であった。*3:秀吉が夭逝した愛児鶴松(棄丸)の菩提を弔うため建立した。*4:宗祖弘法大師(空海)の生誕1200年の記念事業として昭和50年(1975年)に再建された。*5:中学・高校時代に誰しも一度や二度は図説で見たであろう“金ピカ”の障壁画に出会える。安土桃山時代らしい絢爛豪華さで、自分が想定したよりもスケールが大きくビックリ!

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第32回 血管拡張薬による頭痛、潰瘍はどれくらいの頻度で生じるのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 血管拡張薬による薬剤誘発性頭痛は比較的よく知られている副作用で、私も患者さんから強度の頭痛について相談されたことが何度もあります。NSAIDsを併用することもありますが、効果が不十分なケースもあるため対応に困ることがありました。今回は、血管拡張薬の中でも特徴的な作用を持つニコランジルについて紹介します。頭痛のため9人中1人は脱落ニコランジルを用いた長期のプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験として、5,126例(平均年齢67歳)を組み入れて、平均1.6年追跡したIONA試験があります1)。これはニコランジル唯一の大規模ランダム化試験で、組み入れ基準は、男性は45歳以上、女性は55歳以上、心筋梗塞、冠動脈バイパス術の既往または過去2年間の運動負荷試験陽性例で、次のリスク因子のうち少なくとも1つを有する被験者でした。条件:心電図による左室肥大、EF≦45%、拡張終期径>55mm、糖尿病、高血圧、その他の血管疾患薬局では、心臓カテーテル治療によりステントを留置している患者さんの対応も多いと思いますが、この試験の対象ではないことに注意が必要です。介入群はニコランジル10mg×2回/日を2週間服用後、20mg×2回/日に増量した2,565例で、比較対象はプラセボ服用の2,561例でした。いずれの群もベースラインで他の標準療法(抗血小板薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、スタチンおよびACE阻害薬)を受けています。主解析項目は、冠動脈心疾患死、非致死性心筋梗塞、胸痛による緊急入院の複合エンドポイントで、ニコランジル群337例(13.1%)、プラセボ群398例(15.5%)で、ハザード比:0.83、95%信頼区間[CI]:0.72~0.97、p=0.014でした。NNTは100/(15.5-13.1)≒42ですので、複合エンドポイントでは有意差が出ています。しかし、中に入っている各イベント自体は同列に扱えるものではないことに留意が必要です。二次解析項目では、冠動脈性心疾患死および非致死性心筋梗塞を見ています。こちらはニコランジル群107例(4.2%)に対してプラセボ群134例(5.2%)で、ハザード比:0.79、95%CI:0.61~1.02、p=0.068と有意差はありませんでした。総死亡はハザード比:0.85、95%CI:0.66~1.10と減少傾向であるものの、こちらも有意差はありませんでした。頭痛による脱落は、プラセボ群の81例(3.1%)に対して、ニコランジル群では364例(14.2%)ですので、9人服用すれば1人が頭痛で脱落するという計算になります。本研究に限った話ではないのですが、このように副作用の頻度に偏りが大きいと事実上盲検化が維持できないケースもあります。高用量であるほど潰瘍が早期にできて治りにくい添付文書に頻度不明の副作用として記載がある潰瘍の頻度については、IONA試験の各種コホート研究およびIONA試験の著者から収集した未公表データを含めたシステマティックレビューが2016年に発表されています2)。ここでは、Kチャネル開口作用を持つニコランジルに特徴的な潰瘍について紹介されています。同文献によれば、口腔潰瘍は被験者の0.2%で発症し、肛門潰瘍は0.07~0.37%で発症するとされています。口腔潰瘍を発症するまでの期間は、30mg/日未満群では74週間であるのに対し、高用量群では7.5週間(p=0.47)と用量依存性がありました。また、用量と潰瘍治癒時間にも有意な相関関係がみられています。重症の場合は医師と相談のうえで中止されることがあるため、口内炎が悪化するようなら報告を求めるよう伝える必要があります。実際に口腔内や舌に生じた潰瘍の症例報告の文献がありますが3)、ニコランジルを中止後4週間前後で治癒しています。まれな副作用ではありますが、同文献内に症例写真が掲載されていますので、ご覧いただきイメージをつかむとよいと思います。1)IONA Study Group. Lancet. 2002;359:1269-1275.2)Pisano U, et al. Adv Ther. 2016;33:320-344.3)Webster K, et al. Br Dent J. 2005;198:619-621.

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