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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は、運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムを呈し、緩徐に進行する神経変性疾患である。■ 疫学アルツハイマー病の次に頻度の高い神経変性疾患であり、平成26年に行われた厚生労働省の調査では、男性6万2千人、女性10万1千人の合計16万3千人と報告されている。65歳以上の患者数が13万8千人と全体の約85%を占め(有病率は1.5%以上)、加齢に伴い発症率が上昇する(ただし、若年性PDも存在しており、決して高齢者だけの疾患ではない)。症状は進行性で、歩行障害などの運動機能低下に伴い医療・介護を要し、社会的・経済的損失は著しい。超高齢社会から人生100年時代を迎えるにあたり、PD患者数は増え続けることが予想されており、本疾患の克服は一億総活躍社会を目指すわが国にとって喫緊の課題と言える。■ 病因これまでの研究により遺伝的因子と環境因子の関与、あるいはその相互作用で発症することが示唆されている。全体の約90%が孤発性であるが、10%程度に家族性PDを認める。1997年に初めてα-synucleinが家族性PDの原因遺伝子として同定され、その後当科から報告されたparkin、CHCHD2遺伝子を含め、これまでPARK23まで遺伝子座が、遺伝子については17原因遺伝子が同定されている。詳細はガイドラインなどを参照にしていただきたい。家族性PDの原因遺伝子が、同時に孤発性PDの感受性遺伝子となることが報告され、孤発性PDの発症に遺伝子が関与していることが明らかとなった。これら遺伝子の研究から、ミトコンドリア機能障害、神経炎症、タンパク分解障害、リソソーム障害、α-synucleinの沈着などがPDの発症に関与することがわかっている。環境因子では、性差、タバコ、カフェインの消費量などが重要な環境因子として検討されている。他にも農薬、職業、血清尿酸値、抗炎症薬の使用、頭部外傷の既往、運動など多くの因子がリスクとして報告されている。■ 病理PDの病理学的特徴は、中脳黒質の神経細胞脱落とレビー小体(Lewy body)の出現である。PDでは黒質緻密層のメラニン色素を持った黒質ドパミン神経細胞が脱落するため、肉眼でも黒質の黒い色調が失われる(図1-A、B)。レビー小体は、HE染色でエオジン好性に染まる封入体で、神経細胞内にみられる(図1-C、D)。レビー小体は脳幹の中脳黒質(ドパミン神経細胞)だけではなく、橋上部背側の青斑核(ノルアドレナリン神経細胞)、迷走神経背側運動核、脳幹に分布する縫線核(セロトニン神経細胞)、前脳基底部無名質にあるマイネルト基底核(コリン作動性神経)、大脳皮質だけではなく、嗅球、交感神経心臓枝の節後線維、消化管のアウエルバッハ神経叢、マイスナー神経叢にも認められる。脳幹の中脳黒質の障害はPDの運動障害を説明し、その他の脳幹の核、大脳皮質、嗅覚路、末梢の自律神経障害は非運動症状(うつ症状、不眠、認知症、嗅覚障害、起立性低血圧、便秘など)の責任病変である。PDのhallmarkであるレビー小体が全身の神経系から同定されることはPDが、多系統変性疾患でありかつ全身疾患であることを示しており、アルツハイマー病とはこの点で大きく異なる。家族性PDの原因遺伝子としてα-synuclein遺伝子(SNCA遺伝子)が同定された後に、レビー小体の主要構成成分が、α-synuclein蛋白であることがわかり、この遺伝子とその遺伝子産物がPDの病態に深く関わっていることが明らかとなった。図1 パーキンソン病における中脳黒質の神経脱落とレビー小体画像を拡大する■ 症状1)運動症状運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムは、左右差が認められることが多く、優位側は初期から進行期まで不変であることが多い。初期から仮面様顔貌、小字症、箸の使いづらさなどの巧緻運動障害、腕振りの減少、小声などを認める。進行すると、姿勢保持障害・加速歩行・後方突進・すくみ足(最初の一歩が出ない、歩行時に足が地面に張り付いて離れなくなる)などを観察し、歩行時の易転倒性の原因となる。多くの症例で、進行期にはL-ドパの効果持続時間が短くなるウェアリングオフ現象を認める。そのためL-ドパを増量したり、頻回に内服する必要があるが、その一方でL-ドパ誘発性の不随意運動であるジスキネジア(体をくねらせるような動き。オフ時に認める振戦とは異なる)を認めるようになる。嚥下障害が進行すると、誤嚥性肺炎を来すことがある。2)非運動症状ほとんどの患者で非運動症状が認められ、前述の病理学的な神経変性、レビー小体の広がりが多彩な非運動症状の出現に関与している。非運動症状は、運動症状とは独立してQOLの低下を来す。非運動症状は、以下のように多彩であるが、睡眠障害、精神症状、自立神経症状、感覚障害の4つが柱となっている。(1)睡眠障害不眠、レム睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorders:RBD)、日中過眠、突発性睡眠、下肢静止不能症候群(むずむず足症候群:restless legs syndrome)など(2)精神・認知・行動障害気分障害(うつ、不安、アパシー=無感情・意欲の低下、アンヘドニア=快感の消失・喜びが得られるような事柄への興味の喪失)、幻覚・妄想、認知機能障害、行動障害(衝動制御障害=病的賭博、性欲亢進、買い物依存、過食)など(3)自律神経症状消化管運動障害(便秘など)、排尿障害、起立性低血圧、発汗障害、性機能障害(勃起障害など)、流涎など(4)感覚障害嗅覚障害、痛み、視覚異常など(5)その他の非運動症状体重減少、疲労など嗅覚障害、RBD、便秘、気分障害は、PDの前駆症状(prodromal symptom)として重要な非運動症状であり、とくに嗅覚障害とRBDは後述するInternational Parkinson and Movement Disorder Society(MDS)の診断基準にもsupportive criteria(支持的基準)として記載されている。■ 分類病期についてはHoehn-Yahrの重症度分類が用いられる(表1)。表1 Hoehn-Yahr分類画像を拡大する■ 予後現在、PDの平均寿命は、全体の平均とほとんど変わらないレベルまで良くなっている一方で、健康寿命については十分満足のいくものとは言い難い。転倒による骨折をしないことがPDの経過に重要であり、誤嚥性肺炎などの感染症は生命予後にとって重要である。2 診断■ 診断基準2015年MDSよりPDの新たな診断基準が提唱され、さらにわが国の『パーキンソン病診療ガイドライン2018』により和訳・抜粋されたものを示す。これによるとまずパーキンソニズムとして運動緩慢(無動)がみられることが必須であり、加えて静止時振戦か筋強剛のどちらか1つ以上がみられるものと定義された。姿勢保持障害は、診断基準からは削除された。パーキンソン病の診断基準(MDS)■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。

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市中肺炎に新規抗菌薬、第III相試験の結果/NEJM

 omadacyclineは、1日1回の静脈内または経口投与が可能な新規アミノメチルサイクリン系抗菌薬。ウクライナ・City Clinical Hospital #6, ZaporizhzhiaのRoman Stets氏らOPTIC試験の研究グループは、本薬が市中細菌性肺炎の入院患者(ICUを除く)へのempirical monotherapyにおいて、モキシフロキサシンに対し非劣性であることを示し、NEJM誌2019年2月7日号で報告した。omadacyclineは、肺組織で高濃度に達し、市中細菌性肺炎を引き起こす一般的な病原菌に対し活性を発揮するという。早期臨床効果を評価する無作為化非劣性試験 本研究は、欧州、北米、南米、中東、アフリカ、アジアの86施設が参加し、2015~17年の期間に実施された、第III相二重盲検ダブルダミー無作為化非劣性試験である(Paratek Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、4つの症状(咳嗽、膿性痰産生、呼吸困難、胸膜痛)のうち3つ以上がみられ、2つ以上のバイタルサインの異常、1つ以上の市中細菌性肺炎に関連する臨床徴候または検査所見があり、画像所見で肺炎が確認され、Pneumonia Severity Index(PSI、クラスI~V、クラスが高いほど死亡リスクが高い)のリスクがクラスII(割り付け患者の15%以下に制限)、III、IVの患者であった。 被験者は、omadacycline群(100mgを12時間ごとに2回静脈内投与し、以降は100mgを24時間ごとに投与)またはモキシフロキサシン群(400mgを24時間ごとに静脈内投与)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。3日間静脈内投与を行った後、それぞれomadacycline経口投与(300mgを24時間ごと)およびモキシフロキサシン経口投与(400mgを24時間ごと)への移行を可とした。総投与期間は7~14日であった。 主要エンドポイントは、早期臨床効果(救済抗菌薬治療を受けず、72~120時間の時点で上記の4つの症状のうち2つ以上が改善し、症状が増悪せずに生存していることと定義)とされた。副次エンドポイントは、最終投与から5~10日後の投与終了後評価時の担当医評価による臨床効果(徴候または症状がそれ以上の抗菌薬治療が不要な程度にまで消失または改善することと定義)であった。非劣性マージンは、10ポイントとされた。主要・副次エンドポイントとも非劣性示す intention-to-treat(ITT)集団として、omadacycline群に386例(年齢中央値:61歳[範囲19~97]、>65歳:39.4%、男性:53.9%)、モキシフロキサシン群には388例(63歳[19~94]、44.3%、56.4%)が割り付けられた。 ベースライン時に、ITT集団の49.9%で市中肺炎の原因菌が同定された。M. pneumoniae(33%)の頻度が最も高く、次いでS. pneumoniae(20%)、L. pneumophila(19%)、C. pneumoniae(15%)、H. influenzae(12%)の順だった。 早期臨床効果の達成率は、omadacycline群が81.1%、モキシフロキサシン群は82.7%と、omadacyclineのモキシフロキサシンに対する非劣性が示された(差:-1.6ポイント、95%信頼区間[CI]:-7.1~3.8)。また、投与終了後評価で担当医が臨床効果ありと評価した患者の割合は、それぞれ87.6%、85.1%であり、omadacyclineの非劣性が確認された(差:2.5ポイント、95%CI:-2.4~7.4)。 投与開始後に発現した有害事象は、omadacycline群が41.1%、モキシフロキサシン群は48.5%と報告された。治療関連有害事象(治療割り付け情報を知らされていない医師が判定)は、それぞれ10.2%、17.8%に認められた。重篤な有害事象はそれぞれ6.0%、6.7%にみられた。 消化器系の有害事象の頻度が最も高く(それぞれ10.2%、18.0%)、発現率の差が最も大きかったのは下痢(1.0%、8.0%)で、このうちモキシフロキサシン群の8例(2.1%)はClostridium difficile感染によるものであった。12例(8例、4例)が試験中に死亡し、すべて65歳以上の患者であった。 著者は、「本試験で得られたomadacyclineの定型および非定型呼吸器病原菌に対する抗菌スペクトルや、他の抗菌薬との交差耐性がないなどの知見は、抗菌薬耐性が増加している時代の市中細菌性肺炎の治療における本薬の潜在的な役割を示唆する」としている。

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今こそ風邪診療を見直す時【Dr.倉原の“俺の本棚”】第14回

【第14回】今こそ風邪診療を見直す時最近、TwitterなどのSNSで「風邪診療に抗菌薬を処方する医師はいかがなものか」みたいな論調が高まっていて、風邪診療を見直すブームがまたやってきそうな気がします。こういうのって1年おきくらいに流行がありますね。風邪に抗菌薬をやみくもに処方する医師は、ヤブといわれても仕方がない時代になりました。『かぜ診療マニュアル 第2版』山本 舜悟/編著. 日本医事新報社. 2017私が風邪診療において最も推薦している本が、この『かぜ診療マニュアル』です。群を抜いてコレ。何がなんでもコレ。絶対コレ。私の研修医時代の指導医だった山本 舜悟先生が編著をされていますが、別に山本先生をヨイショしようとかそんな意図はありません。落ち着いた立ち居振る舞いの中に熱い闘志がみなぎっている先生で、右も左もわからぬヒヨコ研修医にとってアレが一般的な医療だと思っていました。しかし、音羽病院でかなりレベルの高い診療を目の当たりにしていたことを後から知り、タイムマシンに乗って過去に戻れないものかと悔やんだものです。風邪ってエビデンスがないようで、ある程度わかっているところもあるモヤっとした疾患で、我流で診療している医師も多いと思います。しかしこの本は、どの診断・治療にエビデンスがあるのか・ないのか、という観点を示してくれており、実臨床に即座に応用できるのです。漢方薬の代表的な使い方も明記されており、私みたいな漢方素人には助かる一冊に仕上がっています。小児の風邪が別項目で記載されているため、子供も大人も診るクリニックドクターにとってはバイブルみたいな本になるんじゃないですかね、コレ。市中肺炎のことをレクチャーしてくれる指導医はいても、風邪のことをレクチャーできる指導医はなかなかいません。この本は、風邪診療のノウハウを惜しみなく出しているレクチャーが200回分くらい詰まった一冊です。なんとなく総合感冒薬やレスピラトリーキノロンを処方している医師は、これを読まなければこの先も間違った医師人生を送りかねません。この本を読んで、己の診療を見直しましょう。2013年に第1版、2017年に第2版が出ているので、2021年に第3版をぜひとも期待したいところです。『かぜ診療マニュアル 第2版』山本 舜悟/編著出版社名日本医事新報社定価本体4,000円+税サイズA5判刊行年2017年■関連記事Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー

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低ホスファターゼ症〔Hypophosphatasia〕

低ホスファターゼ症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義低ホスファターゼ症は、組織非特異的アルカリホスファターゼ(ALP)の欠損により引き起こされる疾患である。1948年、カナダのRathbun博士により、最初に報告された。骨X線検査で骨の低石灰化、くる病様変化がみられ、血液検査でビタミンD欠乏性くる病では血清ALP値が高値となるのに対して、本症では低下するのが特徴である。ALPの基質であるphosphoethanolamine、inorganic pyrophosphate(ピロリン酸)、 pyridoxal 5'-phosphateの上昇がみられる。通常、常染色体劣性遺伝性であるが、まれに常染色体優性遺伝性もある。低ホスファターゼ症の中心的な病態は、骨石灰化障害であるが、ALPの活性低下が、低石灰化を引き起こす機序については、まだ完全には理解されていない。骨はI型コラーゲン・オステオカルシンなどからなる骨基質にカルシウム、リンを中心とするミネラル(骨塩)が沈着してできている。骨芽細胞より放出された基質小胞中において、カルシウム、リンは濃縮される一方で、石灰化阻害物質であるピロリン酸は分解されることで、ハイドロキシアパタイトとして結晶化した後、コラーゲン線維上に沈着する。骨基質である類骨の量が増加する疾患が、くる病・骨軟化症であり、骨端線の閉鎖以前に石灰化障害が起きた場合をくる病、閉鎖以後に起こった場合を骨軟化症と呼ぶ。したがって、本症ではALPの活性低下に伴い蓄積するピロリン酸が石灰化を障害することや、局所のリン濃度の低下が低石灰化の原因と考えられている。■ 疫学周産期型低ホスファターゼ症は、10万人出生に1人程度の頻度でみられるまれな疾患である。わが国で最も頻度の高い変異であるc.1559delT変異は、一般人口の480分の1の頻度でみられ、ホモ接合体となって周産期重症型として発症する確率は92万分の1であると計算される。c.1559delTのホモ接合体以外で重症型となる比率を勘案すると、重症型は15万人に1人程度の発症となる。他の病型の頻度は知られていないが、周産期型より多い可能性がある。フランスでは30万人に1人程度と少ない。一方、カナダのメノー派(Mennonites)では、創始者効果でGly334Aspという変異が2,500人に1人の頻度でホモ接合体となる。■ 病因組織非特異型ALPをコードするALPL遺伝子異常により、ALPの酵素活性が低下することにより発症する。今までに350以上の変異が報告され、登録されている(The Tissue Nonspecific Alkaline Phosphatase Gene Mutations Database)。■ 症状骨のくる病様変化が特徴的であるが、症状は多彩で、病型ごとに異なるので、次項を参照してほしい。■ 分類6病型に分類され、173例にも及ぶ本症の症例が報告されている。1)周産期重症型低ホスファターゼ症最も重症なのが、周産期型で、通常致死的である。羊水過多を伴うことが多く、出生時には、四肢短縮、頭囲の相対的拡大、狭胸郭が認められる。全身X線検査像で、全身骨の低石灰化、長管骨の変形、骨幹端不整などがみられる。肺の低形成に伴う呼吸不全で生後早期に死亡することが多い。しかしながら、最近の新生児医療の進歩により、長期生存している例もある。痙攣を伴うことがあり、本症においてはALP活性低下によるPLP代謝異常が引き起こされるので、痙攣はビタミンB6依存性とされる。2)周産期軽症型低ホスファターゼ症骨変形により胎児期に診断された低ホスファターゼ症患児の中に、石灰化不良がほとんどなく、予後良好で通常の生活が営める例があり、本症の中で独立した病型として新たに確立された。日本人例ではF327L変異と本病型の相関性が高い。低身長を呈することもある。遺伝相談などにおいて、本症の致死性の判定については、この病型の存在を念頭に置くべきである。3)乳児型生後6ヵ月までに発症するタイプが乳児型である。発育は最初順調であるが、徐々に体重増加不良、筋力低下がみられ、大泉門は大きく開いている。くる病様変化は次第に明瞭となる。血清および尿中カルシウム値の上昇を伴い、腎石灰化を来す場合がある。呼吸器感染症から呼吸不全で死亡する例が多く、乳児型の予後も良好とはいえない。骨X線検査像は細い肋骨とくる病に特徴的な著しい骨幹端のカッピングがみられる。乳児型では、しばしば高カルシウム血症がみられ、そのため、多尿、腎尿路結石、体重増加不良などがみられる。頭蓋縫合の早期癒合も問題となる。4)小児型小児期に発症するタイプが小児型で、重症度はさまざまである。乳歯の早期喪失(4歳以前)を伴い、食事摂取において問題となることがある。くる病様変化のみられる骨幹端から骨幹に向かってX線透過性の舌様の突出がみられることがあり、本疾患に特徴的である。5)成人型成人になってから発症するタイプが成人型で、病的骨折、骨痛などで気付かれる。小児期にくる病や乳歯の早期喪失などの病歴を持つこともある。X線所見ではLooser zoneがみられることがある。6)歯限局型骨には症状がなく、歯に異常が限局するタイプである。乳歯の早期脱落が、多数の乳歯で起こった場合、見かけの問題に加えて機能的にも残存歯にかかる圧力がさらに他の乳歯の脱落を促進するため、小児用の義歯の装着が必要となる。■ 予後予後は病型により異なる。前項を参考にしてほしい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)骨X線検査上はくる病様変化、病的骨折がみられ、一般の血液検査では、血清ALP活性およびALPアイソザイム活性が低下する。尿中phosphoethanolamineの上昇は、尿中アミノ酸分析で証明される。これらの所見があれば、低ホスファターゼ症と診断されるが、家族歴も参考となる。通常両親は、異常遺伝子のキャリアで、血清ALP活性は中等度に低下している。さらに診断を確実にするには、遺伝子変異を検索するとよい。筆者らは厚生労働省 難治性疾患克服研究事業において、本症の診断指針を作成したので参考にしていただきたい(表)。表 低ホスファターゼ症の診断指針主症状1.骨石灰化障害骨単純X線所見として骨の低石灰化、長管骨の変形、くる病様の骨幹端不整像2.乳歯の早期脱落(4歳未満の脱落)主検査所見1.血清アルカリホスファターゼ(ALP)値が低い(年齢別の正常値に注意)参考症状1.ビタミンB6依存性痙攣2.四肢短縮、変形参考検査所見1.尿中ホスフォエタノールアミンの上昇(尿中アミノ酸分析の項目にあり)2.血清ピロリン酸値の上昇3.乳児における高カルシウム血症遺伝子検査1.確定診断、病型診断のために組織非特異的ALP(ALPL)遺伝子検査を行うことが望ましい参考所見1.家族歴2.両親の血清ALP値の低下診断基準主症状1つ以上と血清ALP値低値があれば遺伝子検査を行う。参考症状、参考検査所見、参考所見があれば、より確実である。(厚生労働省 難治疾患克服研究事業「低フォスファターゼ症」研究班作成)骨幹端の変化(不整像)を呈する疾患としては、ビタミンD欠乏性くる病、低リン血症性くる病、骨幹端異形成症が挙げられる。本症に特異的な臨床検査と必要に応じ遺伝子検査を行うことで診断可能である。■ 遺伝子診断ヒトのALPL遺伝子は1番染色体に位置し、50kb以上からなり、12のエクソンから構成される。変異は全エクソンにわたってみられる。多くはミスセンス変異であるが、1塩基欠失によるframe shiftおよび3塩基欠失も存在する。また、変異の位置が2つのアレルによって異なるヘテロ接合体が比較的多い。このことから、ALPL変異アレルの頻度は比較的まれではないと推定される。ただ、多くの症例で両親が変異遺伝子のキャリアであることが証明され、いわゆるde novoの変異の頻度は低いものと考えられる。本症の日本人では、310番目のフェニルアラニンがロイシンに置換されるF327Lと1559番目の塩基Tの欠失(1559delT)が比較的多くみられる。1559delTは周産期重症型との相関性が高く、F327Lは周産期軽症型に多い。酵素活性の検討では、F327Lは野生型の約70%の酵素活性が残存するのに対して、1559delTはほぼ完全に酵素活性を喪失している。常染色体優性遺伝を示す症例では、変異型TNSALPは野生型TNSALPの活性を阻害するような、いわゆる優性阻害効果を示すために発症するとされる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)本症では、確立された根本的な治療法はまだない。ビタミンD欠乏によるくる病様変化ではないので、ビタミンD投与は適応とならない。むしろ、高カルシウム尿症および血症の増悪を来すので避けるべきである。重症型における痙攣はビタミンB6依存性である可能性が高いので、まずビタミンB6の投与を試みる。乳児型ではしばしば高カルシウム血症がみられ、これに対しては低カルシウムミルクを使用する。現在は、酵素製剤アスホターゼアルファが使用可能となったので詳細を述べる。■ 酵素補充療法最近、ALP酵素補充療法が可能となった。ALP酵素製剤は、骨への移行を良くするために(骨標的)、ALPのC末端にL-Aspが10個つながっている(D10)。D10の構造を持つために、骨への親和性が腎臓に比べて100倍程度高まっている。さらにTNSALPとD10の間にIgG1 Fc portionが挿入されている。製剤は、最初Enobia社が開発し、その後アレクシオンファーマ社に引き継がれた。疾患モデルマウスを用いた非臨床試験では骨病変の改善と、長期生存が可能となることが示された。北米では本症に対し、この高骨親和性ALP組換え蛋白質(アスホターゼ アルファ、〔商品名: ストレンジック〕)を使用した酵素補充療法の治験が行われており、良好な成績が発表された。それによると11例の周産期型および乳児型の本症患者を対象としたオープンラベルの治験で、1例は最初の酵素静注時の反応で治療に入らなかった。もう1例も、肺炎により死亡したので、9例に関し、酵素補充療法の有効性、安全性が報告された。治験薬を初回のみ経静脈投与し、その後、週3回経皮投与するという方法で行われ、血清のALP値は中央値で5,000IU/Lを超え、投与法に問題はなかった(注:これは最終的に承認された投与法ではない、下記参照)。骨X線所見による石灰化の判定では、くる病様変化が著明に改善された。さらに、国際共同治験の最終報告もなされた。アスホターゼ アルファを投与された5歳時の全生存率は84%であった。一方、本症の自然歴調査では27%であり、アスホターゼ アルファは低ホスファターゼ症全生存率を改善した。骨の石灰化障害の改善も、定量的に示された。有害事象としては肺炎、呼吸障害、痙攣などを認めたが、治療との因果関係は乏しいと判定された。局所反応もわずかにみられたが、治療を中止する程ではなかった。国内外で実施された臨床試験における総投与症例71例中60例に副作用が認められ、その主なものは注射部位反応であった。わが国においても医師主導治験が行われ、国際共同治験と同様の結果であった。また、重要な注意点として、アスホターゼ アルファの投与により、カルシウムの代謝が促進されるため、低カルシウム血症が現れることがある。定期的に血清カルシウム値をモニターし、必要に応じて、カルシウムやビタミンDの補充を行う。頭蓋早期癒合症も有害事象として記載されている。アスホターゼ アルファは、ストレンジックとして、2015年8月にわが国においてアレクシオンファーマ社より世界に先駆け承認・発売され、その後、欧州、北米でも承認された。ストレンジックの効能・効果は本症で、1回1mg/kgを週6回、または1回2mg/kgを週3回、皮下投与して行う酵素補充療法である。わが国において本酵素療法の保険診療は始まっており、PMS(post-marketing survey)などを通じて、本製剤の有効性、安全性がより詳細に判明していくと思われる。4 今後の展望今後は、酵素補充療法の有効性、安全性をより長期に検討していく必要がある。また、諸外国に比べ、わが国では本症の成人例が少ないように思われる。診断に至っていないのか、実際に少ないのか、これから解明していかなければならない課題である。5 主たる診療科小児科、整形外科、歯科、産科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報The Tissue Nonspecific Alkaline Phosphatase Gene Mutations Database(遺伝子変異のデータベースサイト;医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 低ホスファターゼ症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報低フォスファターゼ症の会(患者と患者家族向けのまとまった情報)1)大薗恵一. 日本臨牀 別冊 先天代謝異常症候群(第2版)下. 日本臨牀社;2012;20: 695-699.2)Mornet E. Best Pract Res Clin Rheumatol. 2008;22:113-127.3)Ozono K, et al. J Hum Genet. 2011;56:174-176.4)Michigami T, et al. Eur J Pediatr. 2005;164:277-282.5)Whyte MP, et al. Bone. 2015;75:229-239.6)Whyte MP, et al. N Engl J Med. 2012;366:904-913.7)Whyte MP, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:334-342.8)Kitaoka T, et al. Clin Endocrinol (Oxf). 2017;87:10-19.9)Kishnani PS, et al. Mol Genet Metab. 2017;122:4-17.公開履歴初回2014年12月11日更新2019年1月29日

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ヘモクロマトーシスの遺伝子変異、一般的な疾患とも関連/BMJ

 HFE遺伝子p.C282Y変異のホモ接合体は、性別を問わず、臨床的に診断された一般的な疾患(肝疾患、糖尿病、関節リウマチ、変形性関節症など)の有病率や発生率と関連があり、鉄過剰に関連するp.C282Y変異は、早期に介入を開始すれば予防および治療の可能性があることが、英国・エクセター大学のLuke C. Pilling氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年1月16日号に掲載された。欧州人家系では、HFE遺伝子p.C282Y変異ホモ接合体は、鉄過剰症である遺伝性ヘモクロマトーシス(1型)の主因とされる。鉄過剰症は瀉血療法により予防可能であり、治療が可能な場合もあるが、見逃しや診断の遅延が多いという。約45万人で変異の有無別の罹患状況を検討 研究グループは、英国の欧州人家系の地域住民サンプルにおいて、HFE遺伝子p.C282Yの遺伝的バリアントを有する集団(ほとんどが遺伝性ヘモクロマトーシス1型)と、p.C282Y変異のない集団で、罹患および死亡の状況を比較するコホート研究を行った(英国医学研究協議会[MRC]の助成による)。 解析には、UK Biobankに登録されたイングランド、ウェールズ、スコットランドの22施設の2006~10年のデータを用いた。外来診断および死亡証明に基づき、40~70歳の欧州人家系の45万1,243例(平均追跡期間7年、最長9.4年)が抽出された。 ヘモクロマトーシス変異の有無別に有病率のオッズ比(OR)およびハザード比(HR)を算出した(年齢、遺伝子配列型、遺伝的主成分で補正)。女性は鉄過剰に起因する罹患が遅れるため、男女別に解析を行った。男性の5例に1例、女性の10例に1例以上が罹患 p.C282Y変異ホモ接合体を有する2,890例(0.6%、156例に1例の割合)のうち、追跡終了までに男性の21.7%(95%信頼区間[CI]:19.5~24.1、281/1,294例)、女性の9.8%(8.4~11.2、156/1,596例)がヘモクロマトーシスと診断された。 40~70歳のp.C282Y変異ホモ接合体の男性(1,294例)はp.C282Y変異のない男性(17万5,539例)に比べ、ヘモクロマトーシス(OR:411.1、95%CI:299.0~565.3、p<0.001)、肝疾患(4.30、2.97~6.18、p<0.001)、骨粗鬆症(2.30、1.49~3.57、p<0.001)、関節リウマチ(2.23、1.51~3.31、p<0.001)、変形性関節症(2.01、1.71~2.36、p<0.001)、肺炎(1.62、1.20~2.19、p=0.002)、糖尿病(1.53、1.16~1.98、p=0.002)の有病率が有意に高かった。 40~70歳のp.C282Y変異ホモ接合体女性(1,596例)で有意に有病率が高い疾患は、ヘモクロマトーシス(OR:438.0、95%CI:247.9~773.9、p<0.001)のほかは、変形性関節症(1.33、1.15~1.53、p<0.001)のみであった。 7年の追跡期間中に、ホモ接合体の男性の15.7%が、1つ以上の関連疾患を発症したのに対し、p.C282Y変異なしの男性は5.0%であり、有意な差が認められた(p<0.001)。同様に、女性でもそれぞれ10.1%、3.4%と、有意差がみられた(p<0.001)。 ヘモクロマトーシスの頻度は、p.C282Y/p.H63Dヘテロ接合体の参加者のほうが高かったが、この集団では関連疾患の罹患は多くなかった。 著者は、「p.H63Dを考慮しなければ、ベースラインとその後の診断を合わせ、p.C282Y変異ホモ接合体を有する男性の5例に1例以上、女性の10例に1例以上が、ヘモクロマトーシス、肝疾患、糖尿病、関節リウマチ、変形性関節症のうち1つ以上の診断を受けることになる」とまとめ、「これらの知見は、早期の診断確定やスクリーニングの拡大の推奨に関わる多くの問題の見直しを正当化する」としている。

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バベシア症に気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。さて、これまで「次はバベシア症です」と言ってもう1年半くらい引っ張ってきましたが(まあ私の原稿が遅いからというのもありますが)、今回ようやくバベシア症についてご紹介するときが来ましたッ! たぶん誰も興味ないと思いますが、バベシア症についてご紹介したいと思います!次回あらためてお話しいたしますが、日本国内ではまったく関係ない感染症、というわけではありませんので、少しでも知っておくと将来役立つ可能性が無きにしもあらずですッ!バベシア症の原因は“マダニ”まずバベシア症とは何か、ということですが赤血球内に寄生するバベシア原虫によるマダニ媒介感染症です。「赤血球内に寄生する」というと、マラリア原虫が思い浮かびますが、実際臨床像もマラリアによく似ています。名前の由来は、1888年に畜牛のヘモグロビン尿症の原因を診断したハンガリー人の病理学者・微生物学者であるVictor Babesの名をとって「バベシア症」と名付けられたとのことです。「ふーん」って感じですよね。初のヒト感染症はバベシア症発見から半世紀後に、クロアチア人で脾摘された牛飼いがB. divergensに感染した事例が報告されています。その後、アメリカ合衆国のナンタケット島で健康な成人のバベシア症患者が続き、バベシア症は「ナンタケット熱」と呼ばれたということで「ナンタケット島でアウトブレイクとはなんてこっとだ(ダジャレ)!」って感じですよね。うんうん。バベシア症の流行地域と感染経路さて、バベシア症を引き起こすバベシア原虫は100種類以上いますが、ヒトに感染するのは数種類のみであるとされています。アメリカで流行しているバベシア症の原因はBabesia microtiという種類であり、ヨーロッパではB. divergensという原虫によるバベシア症が報告されています。ちなみに媒介するマダニは、アメリカではシカダニ(Ixodes scapularis)、ヨーロッパではリシヌスマダニ(Ixodes ricinus)が知られています。また、バベシア症の流行地域、原虫種類および媒介するマダニの状況はこのサイトの図の通りです。マダニを介したヒトへの感染経路は図1のように、まず、1年目の春に成虫が卵を産み、夏になると幼虫となります。幼虫がバベシア原虫に感染したげっ歯類などを吸血すると、この際に幼虫はバベシア原虫を保有するようになります。翌年の春に幼虫は若虫となり、ヒトを吸血することでヒトがバベシア症になります。あるいは秋以降に成虫となったマダニがヒトを吸血してもヒトに感染します。画像を拡大するマラリアとの鑑別方法と診療バベシア症の臨床像ですが、非常にスペクトラムが広く、無症候性寄生虫血症から超重症まで広い臨床像を呈します。重症度は主に宿主の免疫により、「脾摘や脾臓低形成が最大の重症化リスクファクター」と言われていますが、その他にも新生児、高齢者、免疫抑制薬投与患者、臓器移植患者などもリスクとなるとされます。入院が必要な重症例では、死亡率6~9%、免疫不全患者では21%と報告されています。結構怖い病気ですね。潜伏期は感染したダニに噛まれてから1~4週で、発熱、頭痛、悪寒、咽頭痛、嘔吐、眼球結膜充血、体重減少などの臨床症状がみられ、身体所見では脾腫、黄疸、肝腫大、血液検査所見では軽度~中等度の溶血性貧血、血小板減少などが認められるそうです。この辺はガチでマラリアに似ていますね。診断もマラリアと同様に末梢血のギムザ染色で診断できます。他にも抗体検査やPCR検査でも診断できるようです。図2はバベシア症患者の血液のギムザ染色像です。画像を拡大する赤血球の中に輪っかのようなものがいるのが、おわかりでしょうか。これがバベシア原虫です。1つの赤血球内に複数の原虫がいるものもあります。これまたマラリアにおけるギムザ染色像と非常によく似ていますが、(1)バベシア原虫は赤血球外にもいることがある、(2)バベシア原虫はリングフォームの大きさがバラバラで多形性である、(3)バベシア原虫にはガメトサイトがない、(4)バベシア原虫にはhemozoinがない、という点がマラリア原虫との鑑別ポイントになります。いや~マニアックですねえ。治療では、「2つあるレジメンのうちいずれかで7~10日治療する」ということになっています。1つは、ニューモシスチス肺炎の治療や予防で使用することのあるアトバコンにアジスロマイシンを加えたレジメン、2つ目はマラリアの治療薬であるキニーネにクリンダマイシンを加えたレジメンです。一般的には1つ目のレジメンの方が、副作用での中断が少ないと言われています。また、重症(寄生率10%以上、重度の貧血、多臓器不全)では血漿交換療法をすることがあります。免疫不全患者では、持続寄生虫血症や再燃が起こりうるとされ、その場合は6週間(塗抹陰性化して2週間以上)の治療が必要となります。ということで、ここまでバベシア症の一般的な知識についてご紹介してきました。「日本で診療しているぶんには、まったく関係ないな!」と思われたかもしれませんが…実は日本国内でもバベシア症に感染するリスクがあるのですッ!次回は「日本におけるバベシア症」という、個人的に激アツ、沸騰中のお話をさせていただきますッ!1)Vannier E,et al. N Engl J Med. 2012;366:2397-2407.

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メトトレキサート少量投与が心臓血管イベントを抑制しうるか?(解説:今井靖氏)-997

オリジナルニュース低用量メトトレキサートは冠動脈疾患例のMACEを抑制せず:CIRT/AHA(2018/11/20掲載) IL-1βを標的とした抗体医薬であるカナキヌマブ投与により心血管イベントおよび一部の悪性腫瘍発生を抑制したというCANTOS研究の成果が記憶に新しいが、より簡便な内服薬としてメトトレキサート(MTX)投与により炎症性サイトカインが抑制されることで心血管イベントが抑制されるか否かを検討したのがこの報告である(CIRT研究)。 この論文によれば心筋梗塞既往があるか多枝冠動脈病変を有し2型糖尿病またはメタボリック症候群を有する4,786症例を(1)週当たり15~20mgを目標用量とする低用量メトトレキサート療法および(2)プラセボ投与の2群に1:1に割り付ける二重盲検比較試験を行っている。なお導入期において非盲検でMTXを5、10、15mgと漸増させ葉酸欠乏を回避するために毎日葉酸を1mg補充しており、その後、盲検化し2群に割付し追跡している。主要エンドポイントは非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中あるいは心臓血管死のいずれかの複合を当初予定していたが、盲検化する前に、入院を要する不安定狭心症も上記エンドポイントの1つとして加えられている。 この研究は中間値2.3年で中止された。残念ながらMTX投与群においてプラセボ群に比較して有意なIL-1β、IL-6、CRPの低下が得られず、また主要エンドポイントについてもMTX群で201例、プラセボ群において207例(イベント発生率:4.13 vs.4.31[100人年当たり]、ハザード比:0.96、95%信頼区間:0.79~1.16)であった。MTX群においては肝逸脱酵素の上昇、白血球数減少、ヘマトクリット値減少および非基底細胞性の皮膚がん発症に関連していた。結論として、安定した動脈硬化性疾患患者において低用量MTXが炎症マーカーを抑制することは無く、また心臓血管イベントを抑制することも無かった。 私見を述べさせていただくが、膠原病、悪性腫瘍など適応がある疾患についてのMTX療法の有用性・妥当性は明確であるが、この研究成果からはMTXを動脈硬化性疾患治療としての投与は断じて避けるべきである。またMTXは週当たり20mgを超えると重篤な副作用が増加することが文献的に知られており、本研究の用量設定の目標15mgというものに循環器内科医として抵抗感を覚えるとともに、一般診療においてMTX投与時に葉酸補充を行うが、たとえば重篤な合併症として知られる間質性肺炎は葉酸投与では回避できないということは周知の事実であり、そのような重大な副作用のことも十分に考慮したうえでの薬物療法であるべきと思われる。また葉酸は補充されているものの、葉酸代謝に関連することが知られる血中ホモシステイン濃度が冠動脈疾患のリスクになることは歴史的に良く知られており(たとえば代謝酵素のMTHFRは葉酸依存性である)、そのような因子の関与、たとえばそれらの血中濃度についてのデータも評価すべきであったかと考える次第である。

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再入院削減プログラム、死亡率を増大?/JAMA

 米国のメディケア受給者では、再入院削減プログラム(Hospital Readmissions Reduction Program:HRRP)により、心不全および肺炎による入院患者の退院後30日以内の死亡率がむしろ増加することが、米国・ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのRishi K. Wadhera氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年12月25日号に掲載された。HRRPは、「患者保護ならびに医療費負担適正化法(ACA)」の下で2010年に成立し、2012年からは、メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)に、心不全、急性心筋梗塞、肺炎患者の30日再入院率が予想を上回った病院に対し制裁金を課すことが求められている。その成果として、HRRPはこれらの疾患による再入院率を抑制することが示されたが、死亡率への影響は知られていなかった。公布、施行の前後で死亡率の変化を評価 研究グループは、HRRPと患者死亡率の変化との関連をレトロスペクティブに評価するコホート研究を行った(Richard A. and Susan F. Smith Center for Outcomes Research in Cardiologyの助成による)。 2005年4月1日~2015年3月31日の期間に、心不全、急性心筋梗塞、肺炎で入院した65歳以上の出来高払いのメディケア受給者を調査の対象とした。HRRP公布前の2005年4月~2007年9月を第1期、2007年10月~2010年3月を第2期とし、HRRP公布後の2010年4月~2012年9月を第3期、HRRP施行後の2012年10月~2015年3月を第4期とした。 主要アウトカムは、心不全、急性心筋梗塞、肺炎で入院した後の、退院から30日以内の逆確率重み付け法で補正した死亡率(退院後死亡率)とし、再入院なしの死亡、再入院ありの死亡、再入院ありの非死亡、再入院なしの非死亡に分けて検討した。また、初回入院から45日以内の死亡率(入院後死亡率)を疾患別に評価した。心筋梗塞患者では公布後に死亡率低下 コホートには、832万6,688件の心不全、急性心筋梗塞、肺炎による入院が含まれた。このうち、794万8,937件(平均年齢79.6[SD 8.7]歳、女性53.4%、白人85.6%)が退院時に生存していた。心不全による入院が約320万件、急性心筋梗塞による入院が約180万件、肺炎による入院は約300万件であり、退院後30日以内の死亡はそれぞれ27万517件、12万8,088件、24万6,154件であった。 心不全患者では、退院後30日死亡率がHRRP公布前の時期には増加していた(第1期から第2期までに0.27%増加)。このベースライン時の動向と比較して、HRRPの公布(第2期から第3期までに0.49%増加、第1期から第2期と第2期から第3期の変化の差:0.22%、p=0.01)およびその施行(第3期から第4期までに0.52%増加、第1期から第2期と第3期から第4期の変化の差:0.25%、p=0.001)により、30日死亡率は有意に上昇した。 急性心筋梗塞患者の退院後30日死亡率は、HRRP公布後(公布前は0.18%増加、公布後は0.08%低下、変化の差:-0.26%、p=0.01)には有意に低下したが、施行後の変化は有意ではなかった(施行後は0.15%増加、変化の差:-0.03%、p=0.69)。また、肺炎患者の退院後30日死亡率は、HRRP公布前はほぼ安定していた(第1期から第2期に0.04%増加)が、公布後(0.26%増加、変化の差:0.22%、p=0.01)および施行後(0.44%増加、変化の差:0.40%、p<0.001)にはそれぞれ有意に増加した。 心不全および肺炎患者の死亡率の増加は、主として退院後30日以内に再入院せずに死亡した患者のアウトカムと関連していた。また、3つの疾患とも、HRRP公布前の動向と比較して、入院後45日死亡率の増加とは関連を認めなかった。 著者は、「試験デザインおよび入院後45日以内の死亡率とHRRPに有意な関連がないことを考慮すると、退院後30日死亡率の増加は施策の帰結かという問題を理解するためには、さらなる検討を要する」としている。

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Dr.長尾の胸部X線クイズ 上級編

第1回 画像だけでは気付けない 第2回 異常がありすぎる写真、どう絞る? 第3回 肺紋理が濃く見える、その理由は? 第4回 撮影条件の違いを乗り越える 第5回 覚えておきたいあのサイン 第6回 その所見がなぜあるか俯瞰的に考える 症例写真クイズで読影腕試し!上級編は、専門医も迷う12症例に挑戦しましょう。超難問を読みこなすコツは、「病歴」と所見を組み合わせるスキル。専門医がどうX線写真を読んでいるのか?1問5分のクイズの中で思考のプロセスと読影の勘所をつかんでください!第1回 画像だけでは気付けない 1問目は、画像だけなら肺炎を疑う所見ですが、正解は別にあります。ヒントになる病歴に抜歯。専門医も迷う超難問を読みこなすコツは、病歴×所見×過去との比較。上級編12症例でこれらを組み合わせる読み方を練習していきましょう!第2回 異常がありすぎる写真、どう絞る?肺自体が小さく見えるとき、まず線維化を伴う間質性肺炎を疑いますが、間質性肺炎の既往があれば、別の鑑別疾患を挙げるべきかもしれません。たくさんの所見が見える画像から、今何に注目すべきか、フォーカスしていく方法を学びましょう。第3回 肺紋理が濃く見える、その理由は? 肺紋理が濃く見えるとき、どんな疾患を疑いますか?今回の2問を読み解く鍵は、肺紋理。なぜこの線が見えるのか原理から理解していれば、パっと鑑別を挙げられます。X線読影に欠かせない重要な肺紋理を、鑑別に活かすポイントを伝授します。第4回 撮影条件の違いを乗り越える 胸部X線写真を撮るのは、病院だけではありません。ポータブル写真など、決して撮影条件がよいとは言えない写真でも、きっちり重要な所見を読みこなすコツを伝授します。第5回 覚えておきたいあのサイン 今回は、この所見が見えたら一発で診断できるというサインを紹介。ただし、そのサインだけに頼ると見落とすこともあるので油断は禁物。ピットフォールまで教えます。第6回 その所見がなぜあるか俯瞰的に考える 専門医も判断に迷う症例には落とし穴がたくさん。画像所見に引きずられても、主訴に注目が行き過ぎても、原因にたどり着けません。画像所見、主訴、どちらも冷静に評価し、俯瞰的に原因検索ができる読影スタンスを身に付けましょう!

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mFOLFIRINOXが膵がん術後補助療法に有望/NEJM

 転移を有する膵がんの術後補助療法において、フルオロウラシル/ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチンによる併用化学療法(修正FOLFIRINOX[mFOLFIRINOX])はゲムシタビン(GEM)療法に比べ、全生存期間が有意に延長する一方で、高い毒性発現率を伴うことが、フランス・ロレーヌ大学のThierry Conroy氏らが実施した「PRODIGE 24-ACCORD 24/CCTG PA 6試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2018年12月20日号に掲載された。膵がんの治療では、手術単独の5年生存率は約10%と低く、術後補助療法ではGEM(日本ではS-1のエビデンスもある)が標準治療とされるものの、2年以内に69~75%が再発する。転移を有する膵がんの1次治療では、従来のFOLFIRINOXはGEMに比べ、全生存期間を延長することが知られている。mFOLFIRINOX群に247例、GEM群に246例を割り付け 研究グループは、膵がん切除例において、術後補助療法としてのmFOLFIRINOXレジメンの有効性と安全性をGEMと比較する非盲検無作為化第III相試験を行った(R&D Unicancerなどの助成による)。 mFOLFIRINOXレジメンは、従来のFOLFIRINOXレジメンに含まれるフルオロウラシルのボーラス投与を行わないことで、血液毒性や下痢の発生を抑制し、重症度の軽減を図るもので、進行膵がんでは治療効果は低下しないことが確認されている。 対象は、年齢18~79歳、組織学的に膵管腺がんが確認され、割り付けの3~12ヵ月前に肉眼的完全切除術(R0:すべての切除断端から1mm以内にがん細胞がない、R1:1つ以上の切除断端から1mm以内にがん細胞がある)を受け、転移病変や悪性腹水、胸水のエビデンスがない患者であった。 被験者は、mFOLFIRINOX群(オキサリプラチン[85mg/m2体表面積]、イリノテカン[180mg/m2、プロトコールで規定された安全性解析後は150mg/m2に減量]、ロイコボリン[400mg/m2]、フルオロウラシル[2,400mg/m2]を、2週ごとに12サイクル投与)またはGEM群(4週を1サイクルとし、1、8、15日目に1,000mg/m2を静脈内投与、6サイクル)に無作為に割り付けられ、24週の治療が行われた。 主要エンドポイントは無病生存期間(割り付け日から初回がん関連イベント、2次がん、全死因死亡までの期間)とし、副次エンドポイントには全生存期間、安全性などが含まれた。 2012年4月~2016年10月の期間に、フランスの58施設とカナダの19施設で493例が登録され、mFOLFIRINOX群に247例、GEM群には246例が割り付けられた。mFOLFIRINOX群で無病生存期間が8.8ヵ月、全生存期間は19.4ヵ月延長 ベースラインの年齢中央値は、mFOLFIRINOX群が63歳(範囲:30~79)、GEM群は64歳(30~81)、男性がそれぞれ57.5%、54.9%であった。リンパ管浸潤(73.7% vs. 63.1%、p=0.02)を除き、人口統計学データや疾患特性に差はなかった。治療期間中央値は、mFOLFIRINOX群が24.6週、GEM群は24.0週だった。 フォローアップ期間中央値は33.6ヵ月であった。無病生存期間中央値は、mFOLFIRINOX群が21.6ヵ月と、GEM群の12.8ヵ月に比べ有意に延長した(層別化ハザード比[HR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.46~0.73、p<0.001)。3年無病生存率は、それぞれ39.7%、21.4%であった。イリノテカンの減量は無病生存期間に影響しなかった(p=0.87)。 全生存期間中央値は、mFOLFIRINOX群は54.4ヵ月であり、GEM群の35.0ヵ月に比し有意に良好であった(層別化HR:0.64、95%CI:0.48~0.86、p=0.003)。3年全生存率は、それぞれ63.4%、48.6%だった。 mFOLFIRINOX群は、無転移生存期間(割り付け日から初回遠隔転移または死亡までの期間、30.4ヵ月vs.17.7ヵ月、p<0.001)およびがん特異的生存期間(割り付け日から治療対象がんまたは治療関連合併症による死亡までの期間、未到達vs.36.4ヵ月、p=0.003)も有意に優れた。 Grade3/4の有害事象は、mFOLFIRINOX群が75.9%、GEM群は52.9%で発現した。血液毒性の発現には両群間に差はないものの、好中球減少/発熱性好中球減少へのG-CSFの投与がmFOLFIRINOX群で多く(62.2% vs.3.7%、p<0.001)、非血液毒性の多く(疲労、下痢、悪心、腹痛、嘔吐、感覚性末梢神経障害、異常感覚、粘膜炎)がmFOLFIRINOX群で有意に発現率が高かった。GEM群の1例が治療関連毒性(間質性肺炎)により死亡した。 著者は、「予想どおりmFOLFIRINOXの安全性プロファイルはGEMに比べ不良であったが、管理可能だった。フルオロウラシルのボーラス投与の非施行(およびイリノテカンの減量)により、Grade3/4の好中球減少は既報(PRODIGE試験)のFOLFIRINOXの46%から、本試験では28%に減少した」としている。

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成人のワクチンキャッチアップの重要性

講師2018年、大都市を中心に風疹が流行し、感染者は2,586人(12月12日現在)と報告されています。前回の流行が始まった2012年の2,386人をはるかに超え、2013年は14,344人であったことから、今回の流行も2019年にはさらに拡大することが予測されています。感染者の多くは、風疹ワクチンを受けていない30~50代の男性となっており、予防接種歴は「なし」(648人:25%)あるいは「不明」(1,765人:68%)が93%を占めています1)。現在の風疹の感染拡大を防止するためには、30~50 代の男性に多い感受性者(風疹にかかったことがなく、風疹含有ワクチンを受けていない者)を早急に減らす必要があり、厚生労働省は 2019年度から3年をかけて、これまで風疹のワクチンを受ける機会がなかった1962年(昭和 37 年) 4 月 2 日~1979年(昭和 54 年) 4 月 1 日生まれの男性(現在 39~56 歳)を対象に、風疹の抗体検査を前置きしたうえで、定期接種を行うことを発表しました。なぜワクチン接種にばらつきがあるのか大人に必要なワクチンは、その理由によって表のように分類できます。風疹はこの(4)「ワクチンはあったが、当時の定期接種スケジュールによって、現在の必要な回数に満たないもの」に該当します。風疹ワクチンの定期接種の歴史は、まず、1977年8月~1995年3月までは中学生の女子のみが対象となり、1989年4月~1993年4月までは、麻疹ワクチンの定期接種の際に、麻疹・おたふくかぜ・風疹混合(MMR)ワクチンが選択可能となりました(対象は生後12ヵ月以上72ヵ月未満の男女)。1995年4月からは生後12ヵ月以上90ヵ月未満の男女(対象は生後12ヵ月~36ヵ月以下)に変更され、経過措置として12歳以上~16歳未満の中学生男女も定期接種の対象となりました。2001年11月7日~2003年9月30日までの期間に限って、1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女は経過措置分として定期接種可能に。2006年度からは麻疹・風疹混合(MR)ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の2回接種となり、2008~12年度に中学1年生あるいは高校3年生相当年齢を対象に、2回目の定期接種がMRワクチンで行われました。現在は男女共に定期接種2回となっています(図)。今、風疹の予防にはワクチンの2回接種が必要ですが、上記のように、過去の定期接種のスケジュールによって、ワクチン未接種または1回接種のみのために感受性者が多く残っています。これが感染の原因となっているため、感染予防には感受性者を減らすために成人へのワクチンが必要となります。具体例で検討してみると前述の表の例を挙げます。(2)「幼少期にはワクチンがなくて、打つ機会がなかったもの」たとえば破傷風ワクチンが該当します。破傷風ワクチンは1969年4月に定期接種を開始しており、1968年以前の生まれの人は定期接種の機会がなかった世代であり、最近、高齢者の破傷風感染が報告されています。とくに土から感染するため、ガーデニングや水害などで罹患者が増加します。土に触れる機会がある場合は接種推奨が必要です。(3)「幼少期にワクチンがあり、接種の機会もあったが、現在の必要な回数に満たないもの」この例では麻疹ワクチンがあります。ワクチン接種率が上昇して麻疹の罹患者が減ると、ワクチンによってできた免疫が刺激されなくなります。そのため、免疫は徐々に低下し、麻疹の罹患者が増えていきます。2007年の麻疹の流行はこれが原因でした。その結果、定期接種回数が1回から2回に変更されています。風疹も同じ理由のため、接種回数が1回から2回に増えています。(5)「成人のある年齢になってから接種するワクチン」この例では成人肺炎球菌ワクチン(PPSV23)、インフルエンザワクチンが定期接種になっています。また、定期接種にはなっていませんが、50歳以降に帯状疱疹予防のため水痘ワクチンが推奨されています。ワクチンがとくに必要な人ワクチン接種の記録である母子手帳を持っている成人は多くなく、過去の接種歴を確認することは容易ではありません。しかし、定期接種の歴史からみて不足しているワクチンについては、下記の参考サイトをご参照のうえ、必要な人には接種を推奨していただきたいと思います2,3)。とくに妊婦(妊娠を希望する女性)、基礎疾患のある人、医療従事者、海外渡航前などは、ワクチン接種歴を必ず確認する必要があります。不足しているものがあれば接種を推奨し、感染を予防することが肝要です。日本から風疹を排除するためにはじめにも書いたとおり、風疹の感染拡大を防止するためには、30~50代の男性に多い感受性者を早急に減らす必要があり、この世代へのワクチンを徹底するしかありません。政府はこの世代を定期接種にすることを決めましたが、対象者が確実に接種する環境が必要です。今年感染した人のほとんどが会社員でしたが、定期接種で無料になっても、勤務中に抗体検査やワクチンを打ちにいく時間が取れなかったり、MRワクチンは小児の定期接種のため、かかりつけの内科にワクチンが常備されていなくて接種しにくいことが考えられます。そのため、会社の中で接種できたり、仕事中にワクチンを受けにいけたりといった受けやすい環境整備のために企業の協力が必要ですし、内科のような成人を対象とする診療科でもMRワクチンを接種しやすくすることが大事です。ワクチン接種を希望する大人が接種しやすい環境を作ることは、VPD(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで防げる病気)を減らすために、今後ますます必要になってきます。●参考1)国立感染症研究所ホームページ「風疹流行に関する緊急情報:2018年12月12日現在」2)こどもとおとなのワクチンサイト「年齢でみる不足している可能性があるワクチン」3)こどもとおとなのワクチンサイト「全年齢(0歳~成人)ワクチン接種スケジュール」●予告来春より、ワクチン接種に関するコンテンツがスタートします。将来の疾病を防ぐために接種しておくべきワクチンの必要性を、家庭医、感染症専門医など、多彩なエキスパートを執筆陣に迎えお届けします。コンテンツでは、次のサイトと連動して情報をお伝えしていきます。ぜひ、ご参照ください。こどもとおとなのワクチンサイト

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顕微鏡的多発血管炎〔MPA:microscopic polyangiitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)は、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性となる中小型血管炎である。欧米と比べ、わが国ではプロテイナーゼ3(proteinase3:PR3)ANCA陽性患者が少なく、ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase:MPO)陽性患者が多く、欧米よりも高齢患者が多いのが特徴である1,2)。多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA、旧ウェゲナー肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA、旧チャーグ・ストラウス症候群)とともに、ANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)に分類される。■ 疫学平成28年度の指定難病受給者は9,610人であった。Fujimotoらは、AAV発症の地理的な相違を明らかにするために、日本と英国でのAAV罹患率の比較を行った。AAVとしては、100万人当たりの年間罹患率は、日本22.6、英国21.8で同等であったが、日本ではAAVの約80%をMPAが占める一方で、英国では6.5%のみであり、GPAが最も多く約65%であった3)。男女比は1:1~1:1.2とされている。■ 病因1)遺伝的背景日本人のMPAでは、HLA-DRB1*09:01陽性例が50%にみられ、健康対照群に比べて有意に多いことが報告されている1,4)。このHLA-DRB1*09:01は日本人の29%に認められるなどアジア系集団で高頻度に認められるが、欧州系集団やアフリカ系集団にはほとんど存在しない1,4,5)。このことが、日本でMPAやMPO-ANCA陽性例が多い遺伝的背景の1つと考えられる。さらにその後、DRB1*09:01とDQB1*03:03の間に強い連鎖不平衡が認められ、この両者がMPAと関連すること、逆に、DRB1*13:02はMPAとMPO-ANCA陽性血管炎の発症に対し抵抗性に関与している(MPO-ANCA陽性血管炎群に有意に減少している)ことが明らかとなった5,6)。2)血管炎発症のメカニズムBrinkmannらは、phorbol myristate acetate(PMA)で刺激された好中球が細胞死に至る際に、DNAを網状の構造にし、MPOやPR3などの抗菌タンパクやヒストンとともに放出する現象を見出し、その構造物を好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)と呼んだ7,8)。NETsは細菌などを殺し、自然免疫に関与しているが、その後ANCA関連血管炎患者の糸球体の半月体の部分に存在することが確認された8,9)。Nakazawaらは、プロピルチオウラシル(抗甲状腺剤)添加により生成されたNETsが、NETsの分解酵素であるDNase Iで分解されにくいこと、さらにこれを投与したラットがMPO-ANCA陽性の細胞増殖性糸球体腎炎を発症することを報告した8,10)。さらに、MPO-ANCAを有するMPA患者のIgGは、全身性エリテマトーデス患者や健常者よりも強くNETsを誘導すること、NETs誘導の強さは疾患活動性やMPO-ANCAのMPOへの結合性と相関していること、MPA患者血清のDNase I活性が低下していることが報告された8,11)。これらをまとめ、岩崎らは、MPA患者はDNase I活性低下などNETsを分解しにくい素因があり、感染や薬剤(プロピルチオウラシル、ミノサイクリン、ヒドラジンなど)1)が加わり、NETsの分解障害が起こり、NETsの構成成分であるMPOに対する抗体(MPO-ANCA)が産生されること、さらにANCAがサイトカインや補体第2経路によりプライミングされた好中球表面のMPOに強固に結合し、Fcγ受容体を介してさらに好中球を活性化させてNETsを放出し、血管壁を壊死させるメカニズムを提唱している8)。■ 分類腎型、肺腎型、全身型に分類されるが、わが国では、肺病変のみの症例も多数認められる。■ 症状発熱、食思不振などの全身症状、紫斑などの皮膚症状、関節痛、間質性肺炎、急速進行性糸球体腎炎などを来す。わが国では、欧米に比べ間質性肺炎の合併頻度が高い12)。EGPAほど頻度は高くないが、神経障害も認められる。■ 予後初回治療時の寛解率は90%以上で、24ヵ月時点での生存率も80%以上である。わが国では高齢患者が多いため、感染症死が多く、治療では免疫抑制をどこまで強くかけるかというのが常に問題になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見としては、炎症所見、血尿、蛋白尿、円柱尿、血清クレアチニン上昇、MPO-ANCA陽性などを認める。診断には、厚生労働省の診断基準(1998年)が使用される(表)。表 MPAの診断基準〈診断基準〉確実、疑い例を対象とする【主要項目】1) 主要症候(1)急速進行性糸球体腎炎(2)肺出血、もしくは間質性肺炎(3)腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など2) 主要組織所見細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤3) 主要検査所見(1)MPO-ANCA陽性(2)CRP陽性(3)蛋白尿・血尿、BUN、血清クレアチニン値の上昇(4)胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血)、間質性肺炎4) 判定(1)確実(definite)(a)主要症候の2項目以上を満たし、組織所見が陽性の例(b)主要症候の(1)および(2)を含め2 項目以上を満たし、MPO-ANCAが陽性の例(2)疑い(probable)(a)主要症候の3項目以上を満たす例(b)主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例5) 鑑別診断(1)結節性多発動脈炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)(4)川崎動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病血管炎)【参考事項】1)主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。2)主要症候(1)、(2)は約半数例で同時に、その他の例ではいずれか一方が先行する。3)多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する。4)治療を早期に中止すると、再発する例がある。5)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。(吉田雅治ほか. 中・小型血管炎の臨床に関する小委員会報告.厚生省特定疾患免疫疾患調査研究班難治性血管炎分科会.平成10年度研究報告書.1999:239-246.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)わが国では厚生労働省の血管炎に関わる3研究班合同のAAV診療ガイドラインと13,14)、腎障害を伴うAAVについての厚生労働省難治性腎疾患研究班によるエビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドがあり15)、欧米では、英国リウマチ学会(BSR)によるAAV診療ガイドラインがある16,17)。その後、3研究班合同のAAV診療ガイドライン18)が改訂された。■ 寛解導入療法厚生労働省3班のAAV診療ガイドラインでのMPAの治療アルゴリズムを図に示す。基本的には、ステロイド(GC)とシクロホスファミド(CY、[商品名:エンドキサン])の併用療法であるが、経口CYよりも静注CY(IVCY)が推奨されている。CYは年齢、腎機能などで減量を考慮する。欧米では、リツキシマブ(RTX、[同:リツキサン])がIVCYと同じポジションであるが、わが国では高齢患者が多いためにIVCYが推奨された。また、患者の状態によりメトトレキサート(MTX、[同:リウマトレックス])、ミコフェノール酸モフェチル(MMF、[同:セルセプト])、血漿交換なども推奨されている。GCの減量速度はAAVの再発に大きく関わっており、あまりに急速な減量は避けるべきである19)。図 MPA治療アルゴリズム(厚生労働省3班AAV診療ガイドライン)画像を拡大する*1GC+IVCYがGC+POCYよりも優先される。*2ANCA関連血管炎の治療に対して十分な知識・経験をもつ医師のもとで、RTXの使用が適切と判断される症例においては、GC+CYの代替として、GC+RTXを用いてもよい。*3GC+IVCY/POCYがGC+RTXよりも優先される。*4POCYではなくIVCYが用いられる場合がある。*5AZA以外の薬剤として、RTX、MTX*、MMF*が選択肢となりうる。*保険適用外■ 寛解維持療法厚生労働省3班のAAV診療ガイドラインでは、GC+アザチオプリン(AZA、[同:イムラン、アザニン])を推奨しており、そのほかの免疫抑制薬としてRTX、MTX、MMFが推奨されている。一方、難治性腎疾患研究班のRPGNガイドラインではRTXのかわりにミゾリビン(MZR、[同:ブレディニン])が推奨されている。やはりわが国のAAVは高齢者が多いこと、腎機能が低下するとMZRの血中濃度が上昇し、よい効果が得られることなどがその理由として考えられる。4 今後の展望2023年5月に改訂されたAAV診療ガイドラインによる治療の変化(とくにアバコパンについて)補体活性化の最終段階で産生される C5aRを選択的に阻害する経口薬アバコパン(商品名:タブネオス)は、ADVOCATE試験20)によりAAVに対する有効性および安全性を確認し、「顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症」を適応症として2022年6月に発売された。その後、2023年5月に改訂されたAAV診療ガイドラインにおいて、MPA/GPAの寛解導入治療でCYまたはRTXを用いる場合、高用量GCよりもアバコパンの併用を提案することが明記された。その他の薬剤ではMPA/GPAの寛解導入治療として、GC単独よりもGC+IVCYまたは経口CYを、GC+経口CYよりもGC+IVCYを、GC+CYと同列にGC+RTXを、GC+CYまたはRTXを用いる場合はGCの通常レジメンよりも減量レジメンを提案することが明記された18)。なお、アバコパンの添付文書には重大な副作用として肝機能障害が記載されている。その多くは投与開始から3ヵ月以内の発現であるが、それ以降に発現しているケースも報告されていることから、定期的なモニタリングが必要である。5 主たる診療科膠原病内科、リウマチ科、腎臓内科、呼吸器内科、皮膚科、神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 顕微鏡的多発血管炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本循環器学会. 血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版). 2018;54-60.2)佐田憲映.ANCA関連血管炎 顕微鏡的多発血管炎.日本リウマチ財団 教育研修委員会編. リウマチ病学テキスト 改訂第2版. 診断と治療社;2016.p.265-267.3)Fujimoto S, et al. Rheumatology. 2011;50:1916-1920.4)Tsuchiya N, et al. J Rheumatol. 2003;30:1534-1540.5)川崎 綾.顕微鏡的多発血管炎(1)疫学・遺伝疫学.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―. 日本臨牀社;2018.p.215-219.6)Kawasaki A, et al. PLoS ONE. 2016;11:e0154393.7)Brinkmann V, et al. Science. 2004;303:1532-1535.8)岩崎沙理ほか.小型血管炎(2)顕微鏡的多発血管炎の病理・病態.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―. 日本臨牀社;2018.p.220-225.9)Kessenbrock k, et al. Nat Med. 2009;15:623-625.10)Nakazawa D, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:3779-3787.11)Nakazawa D, et al. J Am Soc Nephrol. 2014;25:990-997.12)Sada KE, et al. Arthritis Res Ther. 2014;16:R101.13)有村義宏ほか 編. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017. 診断と治療社;2017.14)Nagasaka K, et al. Mod Rheumatol. 2018 Sep 25.[Epub ahead of print]15)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 難治性腎疾患に関する調査研究班 編. エビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドライン2017. 東京医学社;2017.16)Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.17)駒形嘉紀.顕微鏡的多発血管炎(4)治療.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―.日本臨牀社;2018.p.232-237.18)針谷正祥、ほか. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023.診断と治療社:2023.19)Hara A, et al. J Rheumatol. 2018;45:521-528.20)Jayne DRW, et al. N Eng J Med. 2021;384:599-609.公開履歴初回2018年12月25日更新2024年7月11日

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ネーザルハイフロー(高流量鼻カニュラ)酸素療法の効果について(解説:小林英夫氏)-981

 ネーザルハイフロー酸素療法(本稿ではNHFと略)は、従来の経鼻カニュラや酸素マスクとは異なり、数十L/分以上の高流量で高濃度かつ加湿された酸素を供給できるシステムである。価格は50万円以下で外観は太めの鼻カニュラ様であるが、酸素ボンベでは稼働せず配管を要するために診療所や外来診察室での利用は難しい。本療法に期待されることは、ガス交換や換気効率向上、PEEP(呼気終末陽圧換気)類似効果、加湿による気道粘液線毛クリアランス改善、などといった単なる酸素投与にとどまらない効果であり、NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)の一歩手前の呼吸療法としての活用が想定されていた。 これまでのNHFを用いた検討と今回のJAMA論文との違いは、免疫不全を基盤に有する急性呼吸不全症例を対象とした多施設無作為化比較試験という点にある。対象の多くは担がん症例、免疫抑制薬投与症例で、呼吸不全の原因疾患は細菌性肺炎、Pneumocystis肺炎、などとかなり多彩な疾患群となっている。結果は通常の酸素療法と比べ、明らかな死亡率低下には至らなかったとしている。 酸素投与は疾患を直接治療するものでない。原因疾患(感染など)を制御し、既存の免疫低下状態改善を併行させることが治療として不可欠であり、酸素投与による動脈血酸素分圧上昇だけでは本質的解決にならない。上記したような酸素投与以外の効果を推計学的有意差として示せなかったことは、ある程度予想可能であり受け入れ可能な結果である。しかし、この結果からNHFは無価値であると断定すべきなのであろうか。経鼻式酸素投与では、経口摂取や会話が継続可能で、同一病態下においてはベンチュリマスクやインスピロン高流量セットなどの顔マスクより不快感は軽減する。死亡率に反映されない長所にも目を向けておく意義はある。NHFにこだわりすぎて確実なPEEP投与を要するARDS(急性呼吸窮迫症候群)の呼吸管理開始に遅延を生じてはならないが、NFHの価値を全否定することは適正ではないと考える。2016年からは急性呼吸不全(経皮的酸素飽和度90%以下)における診療報酬算定が認められている。本邦でもICUや呼吸器病棟における普及はさらに進むものと筆者は予想している。

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第19回 小児科クリニックからのセフカペンピボキシルの処方(前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 患児の保護者に確認することは?熱の有無や熱性けいれんの既往など ふな3さん(薬局)発熱の有無は、アセトアミノフェン坐剤の処方意図(すぐに使用するか予備か)やペリアクチン®による熱性けいれん誘発リスクの推測にも利用できるため、必ず確認します。他に、熱性けいれんやてんかんの既往、副作用歴、併用薬、発疹の有無も確認したいです。検査したかどうか 清水直明さん(病院)アレルギー歴は必ず確認します。もしA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌、S.pyogenes )だったら抗菌薬が必要だと思うので、「何か検査はされましたか」と確認します。セフェム系抗菌薬のアレルギーや過去1カ月以内に抗菌薬を使用したか 奥村雪男さん(薬局)患児の性別や、特にセフェム系抗菌薬に対してアレルギーはないかを確認します。他にも過去1カ月以内に抗菌薬を使用したか、いつから症状があったか、全身状態はどうか、咳や鼻水などの症状、アデノウイルスなどの迅速検査や血液検査を行っているかも確認します。可能なら検査結果や白血球数やCRPなどの検査値、肺炎球菌、ヒブなどのワクチンを接種しているかも聞きます。Q2 疑義照会しますかする・・・7人フロモックス®の用量 キャンプ人さん(病院)フロモックス®細粒は1日9mg/kgですので、少し量が少ないのでは? と照会します。そのときに、抗菌薬の処方を望まれていないことを「母親が伝え忘れた」として医師へ伝えます。もちろん母親にそのように照会してよいか確認しておきます。普段から風邪に抗菌薬は不要と医師に示し続ける 荒川隆之さん(病院)保護者がなぜ抗菌薬の処方を望んでいないのか、よく聴き取りを行います。風邪に抗菌薬は不要ということで望んでいないのならば、疑義照会を行ってよいか、保護者と話をします。そして、フロモックス®の投与量がやや少ないことで疑義照会するついでに、風邪に抗菌薬は不要ではないか確認します。最初は、保護者がそのように希望していると言わず、医師から保護者の意志を聞かれた場合に回答します。ただし、この疑義照会は、医師と薬剤師のそれまでの関係も大きく関係すると思います。普段から風邪に抗菌薬は不要というスタンスを医師に示し続ける必要があります。抗菌薬は必要? 柏木紀久さん(薬局)患児の主症状が発熱と咽喉頭炎なので、あまり抗菌薬の必要性を感じません。3日後の再診時に抗菌薬の投与を考慮してもいいのではないかと思います。体重9kgでアセトアミノフェン坐剤が処方されており、発熱の期間が長い、または日内変動が強い状態でぐずったり、食欲がなかったりして状態がよくないことも考えられます。この場合、説明通り二次感染が考えられ抗菌薬処方の妥当性を感じますが、食欲や水分摂取が少なくなっている場合は、低カルニチン血症も気になります。保護者が医師に言えなかったことを薬剤師に打ち明けているので、照会してみると思います。溶連菌の可能性も 児玉暁人さん(病院)フロモックス®の投与量が少ないので確認します。ウイルス性の単なる風邪では抗菌薬は不要です。ただトランサミン®散の処方、のどの発赤から溶連菌の可能性も捨てきれず、その場合は抗菌薬が必要です。溶連菌の合併症予防を風邪の二次予防と受け取ってしまったなど、知識があるだけにややこしくしている可能性もありえます。保護者には、投与量と処方意図の再確認をしたい旨を伝え、納得と了承を頂いてから疑義照会します。あとは、疑義照会への返答内容にもよりますが、抗菌薬を服用する/しない場合のメリット・デメリットを伝えて、服用するかどうかを保護者に判断してもらうかと思います。ですので、疑義照会時に「服用を保護者の判断に任せてよいか」と確認しておきます。容態が悪化したら飲ませるつもりなら、疑義照会する ふな3さん(薬局)処方を望んでいないという意味では、疑義照会しません。医師との関係を気にしているなら、あえて蒸し返す必要はないと考えます。また、調剤の際に下記のように3種に分包して、フロモックス®だけ(もしくはラックビー®Rも)は服用しなくて済むようにできます。(1)フロモックス®(2)ラックビー®R(3)トランサミン® /ペリアクチン® /アスベリン® /ムコダイン® 混合この患者さんに限らず、普段から対症療法用の薬剤(症状改善したら中止)と、抗菌薬・整腸剤(処方日数飲みきり)は別包にしています。これらの対応をした上で、「望んではいない」と言いながらも、「容態が悪化したら飲ませるかも」と考えている場合、フロモックス®の添付文書上用量(3mg/kg)に満たないため、0.81g(~0.9g程度)/日への増量を提案するため疑義照会をします。保護者自身の風邪であれば「抗菌薬は飲まずに治せる」と簡単に割り切れると思いますが、発話できない乳児で急な発熱であれば、「この子のためにできることは?」「やっぱり抗菌薬を飲ませるべきかも」と頭をよぎるのが親心だと思います(だからこそ、小児科医も抗菌薬処方を簡単には止められないのでしょうが...)。その意味合いも含めて、抗菌薬は適切な量に修正した上で、「飲み始めたら飲みきる」の条件の下、お渡ししておきたいと思います。抗菌薬は感染が起きたと推定されるときに服用する JITHURYOUさん(病院)当然、医師の指示通りに調剤しなければならないのですが、その話をしてもなお服薬拒否ということになるのならば、医師に確認したいですね。連鎖球菌による咽頭炎でも、フロモックス®ではなくペニシリンが第一選択なので、この場合処方変更の必要性があるのではと考えます。二次感染予防目的の抗菌薬処方だとしても、臨床経過を勘案して疑義照会したいところです(遷延していたら細菌による二次感染の可能性=抗菌薬適応)。となると、症状の変化などで感染が起きたと推定されるときに服用する方がベストのような感じがします。フロモックス®はそういう場合に服用していただく方が耐性菌を増やさないという観点でも必要ではないかと考えます。よって、調剤は別包装にすべきではないでしょうか。母親の気持ちを聞き取った上で わらび餅さん(病院)フロモックス®が1日量9mg/kgではないので、疑義照会はします。また、母親からどうして抗菌薬を希望しないのかを聞きます。二次感染予防の必要性を感じてない、風邪という診断に納得してない、赤ちゃんだからあまり薬を飲ませたくないなど、理由によって対応も変わってきます。しない・・・4人処方医は不要なリスクを避けたいと考える 奥村雪男さん(薬局)抗菌薬以外の処方内容からは、典型的なウイルス性の上気道炎に見えます。全身状態が悪くないのであれば、抗菌薬なしで数日の経過観察後、悪化した場合に細菌性肺炎などの診断がついた時点で、それに応じた抗菌薬を選択するのが理想的だと思います。ただ、実際には疑義照会しないと思います。ウイルス性上気道炎に第三世代セフェムを処方するのは現在の日本の慣行であり、慣行と異なる行為はリスクを伴います。仮に抗菌薬なしの経過観察中に細菌性肺炎を発症すれば、最悪の場合、訴訟問題に発展するかもしれません。処方医は不要なリスクを負うことは避けたいと考えるはずです。遠回りのようですが、ウイルス性上気道炎に抗菌薬を処方した場合の治療必要数※などのエビデンスを国民に提示し、抗菌薬の二次感染予防は効率の悪い治療行為であることを一般常識とすることが、疑義照会に優る方法だと思います。※治療必要数NNT(number needed to treat)のこと。死亡や病気の発症などのイベント発生を1人減らすために、何人の患者を治療する必要があるか、という疫学の指標。例えばNNTが100なら、1人の患者のイベント発生を減らすためには100人に治療を行う、ということになる。フロモックス®は別包に 清水直明さん(病院)抗菌薬をどうしても持ち帰りたくないと言うのであれば、そのことを説明して取り消してもらうことも可能でしょうが、医師が必要としたものを不要と説得するだけの材料が弱いかなと思います。風邪との診断であるならば、それほど重症感はなさそうです。抗菌薬を服用させたくないのであれば、親の責任の範囲でそれでもいいと思います。フロモックス®は別包とします。そもそも、このぐらいの年齢から保育園・幼稚園ぐらいまでのお子さんは、よく風邪をひきます。これからも外界と接する機会が増えるにつれて、いろいろな感染症を拾ってくることでしょう。もし、本当に抗菌薬が必要な感染症に罹ったとき、ちゃんと効いてくれないと大変です。風邪をひくたびに予防的に抗菌薬を飲んでいたら、耐性菌のリスクは上がってしまうと思います。フロモックス®など多くの抗菌薬には二次感染予防という適応はないし、そのことがよく分かっている親御さんであるならば、飲ませるか飲ませないかの判断は任せていいと思います。ただし、薬剤師の指導としては微妙ですが・・・後編では、抗菌薬について患者さんに説明することは?その他気付いたことを聞きます。

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アトピー性皮膚炎患者、皮膚以外の感染症リスク上昇

 アトピー性皮膚炎(AD)は、皮膚への細菌定着や感染の増加、皮膚以外の感染症の多数のリスク因子に関連している。しかし、ADが皮膚以外の感染症の増加と関連しているかどうかについては、これまでの研究では相反する結果が得られていた。米国・ノースウェスタン大学のLinda Serrano氏らはシステマティックレビューおよびメタ解析を実施。その結果、AD患者は、皮膚以外の感染症リスクが高いことが明らかとなった。著者は「今後、これらの関連を確認し、その機序を明らかにする必要がある」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2018年11月21日号掲載の報告。 研究グループは、ADにおいて、皮膚以外での細菌感染およびマイコバクテリア感染が増加するかどうかを検討した。 MEDLINE、EMBASE、GREAT、CochraneおよびWeb of Scienceにおいて、AD患者に対する皮膚以外の感染症に関する、すべての比較対照試験を特定し、システマティックレビューを行うとともに、ランダム効果モデルを用いてメタ解析を行った。ただし、個々の情報は入手できなかった。 主な結果は以下のとおり。・7件の研究が選択基準を満たし、解析に組み込まれた。・7件すべてにおいて、ADで1つ以上の皮膚以外の感染症(心内膜炎、髄膜炎、脳炎、骨・関節の感染症、敗血症)の可能性が高まることが認められた。・メタ解析の結果、小児および成人のADは、耳感染症(オッズ比[OR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.16~1.43)、レンサ球菌咽頭炎(OR:2.31、95%CI:1.66~3.22)、尿路感染症(OR:2.31、95%CI:1.66~3.22)の発症と関連していた。・肺炎(OR:1.72、95%CI:0.75~3.98)とは、関連していなかった。・出版バイアスは検出されなかった。

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免疫再構築症候群(IRIS)による結核発症・悪化の予防にprednisoneが有効(解説:吉田敦氏)-973

 HIV感染者において、抗ウイルス療法(ART)開始後に併存している感染症が悪化することを経験するが、これはARTによって免疫再構築が生じることによるとされ、免疫再構築症候群(IRIS)と総称されている。ニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス感染症、結核、クリプトコッカス髄膜炎が代表的であり、これらの感染症を発症した後にARTを開始する際には、IRISによる悪化ないし発症を少なくするために、感染症治療からある程度の時間をおいてからARTを開始するのがよいとされてきた。 しかしながら、ART開始が遅れると免疫低下の強い期間がそれだけ長くなるために、全身状態の改善が遅れたり、他の日和見感染症の発症を招き、ひいては死亡につながる。このためART開始時期については、たとえばニューモシスチス肺炎では治療開始後2週間以内、クリプトコッカス髄膜炎では抗真菌薬開始後5週間以降が目安とされている。ただし結核については開始時期のみならず、IRIS発症予防ないし発症時に用いられるステロイド投与についても議論があった※。またその際、ステロイド投与を避けるべきとされるカポジ肉腫(KS)の合併や悪化にも懸念があった。 今回の試験では、結核治療開始後1ヵ月以内にARTを開始した、CD4陽性リンパ球数100個/μL以下の患者において、ARTと同時にprednisoneを開始し、28日間続け、結核によるIRIS発生率をプライマリーエンドポイントとして評価した。結果としてIRIS発生率はprednisone投与群で有意に低く、さらに合併した場合でもその程度は軽度であった。さらにKS合併率も増加しなかった。 prednisoneの初期投与量は40mg/日であったが、同時に投与されていたリファンピシンとの相互作用を鑑みると、実際の体内濃度はこの半分程度であろう。低用量であるといえ、この量でも効果がみられたことは興味深い。さらにCD4陽性リンパ球数が中央値49個/μLとかなり低下し、ARTをできる限り早く開始すべきである一方、ステロイド投与によるさらなる免疫低下と他の感染症の合併を容易に来しやすい患者群でありながら、日和見感染症を含む他の感染症もKSも増加せず、さらに抗結核薬の副作用の出現も少なかったことは、ステロイドによるIRIS抑制・アレルギー抑制というポジティブな効果が高く発揮された結果といえよう。 本検討の限界として筆者らは、今回の対象者が歩行可能な患者であったことと、死亡率の比較まで行えるほど集団が大きくなかったことを挙げている。入院患者では結核もさらに進行しているのが通常であり、より重症な患者でのIRISによる結核の悪化に対しては、ステロイドの効果は異なる可能性がある。また従来のコンセンサス※は生存率まで含んだものであったので、この点も今後の知見が待たれるところである。なお他論文ではART開始前のIL-6が結核のIRIS発症と相関することが報告されており1)、これをマーカーとしたIRISのハイリスク患者の区別と、ステロイド投与法の工夫も今後検討される課題であろう。※従来では、CD4リンパ球数<50ならば、結核治療開始後2週間以内にARTを開始すると生存率が改善、CD4>50ならば早期のART開始による生存率改善は認められず、中等症~重症結核では結核治療開始後2~4週、重症結核では8~12週でART開始、とされてきた。

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呼吸器疾患死亡率、英国vs.EU15+諸国/BMJ

 1985~2015年の期間に、英国、およびEU15+諸国(英国を除く欧州連合[EU]加盟15ヵ国に、オーストラリア、カナダ、米国を加えた国々)では、いずれも呼吸器疾患による死亡率が全体として低下したが、閉塞性・感染性・間質性呼吸器疾患死亡率については英国がEU15+諸国に比べて高いことが、米国・ハーバード大学のJustin D. Salciccioli氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2018年11月28日に掲載された。世界疾病負担(Global Burden of Disease)などの報告によれば、英国は、医療制度が同程度の他国に比べて呼吸器疾患死の割合が高い可能性が示唆されていた。全呼吸器疾患死とサブカテゴリー別の死亡を検討 研究グループは、英国における呼吸器疾患による年齢標準化死亡率を、医療制度が同程度のEU15+諸国と比較する観察研究を行った(研究助成元は申告されていない)。 1985~2015年の世界保健機関(WHO)の死亡データベースを用いて、英国、EU15+諸国の全19ヵ国のデータを収集した。EU15ヵ国はオーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、ノルウェー。 全呼吸器疾患死、および感染性(インフルエンザ、肺炎、結核を含む)、腫瘍性(気管支、肺、胸膜の悪性腫瘍を含む)、間質性(特発性肺線維症を含む)、閉塞性(慢性閉塞性肺疾患、喘息、気管支拡張症を含む)、その他(肺水腫、気胸を含む)の呼吸器疾患による死亡について解析を行った。 混合効果回帰モデルを用いて国別の差を経時的に解析し、局所的に重み付けされた散布図平滑化(locally weighted scatter plot smoother)で評価した呼吸器疾患のサブカテゴリーの傾向を検討した。英国の女性は全サブカテゴリーで死亡率が高い 1985~2015年の期間に、英国、およびEU15+諸国の全呼吸器疾患死は、男性では低下したが女性では変化せずに維持されていた。呼吸器疾患による年齢標準化死亡率(10万人当たりの死亡件数)は、英国では男性は151件から89件に低下したのに対し、女性は67件から68件と、ほとんど変化しなかった。EU15+諸国についても、男性は108件から69件へ低下したが、女性は35件から37件と、大きな変化はなかった。 英国はEU15+諸国に比べ、女性ではすべてのサブカテゴリー(感染性、腫瘍性、間質性、閉塞性、その他)の呼吸器疾患による死亡率が高く、男性では感染性、間質性、閉塞性、その他の呼吸器疾患による死亡率が高かった。 著者は、「これらの国々の呼吸器疾患患者の医療費、医療制度、健康行動の違いを明らかにするために、さらなる検討を要する」と指摘している。

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予防的低体温療法vs.正常体温管理、6ヵ月後の神経学的転帰を評価(中川原譲二氏)-971

 これまでの臨床研究から、重症外傷性脳損傷(traumatic brain injury:TBI)患者に対する予防的低体温療法導入は、脳神経を保護し、長期的な神経学的転帰を改善することが示唆される。本研究(POLAR-RCT)では、重症TBI患者に対する早期の予防的低体温療法の有効性を正常体温管理との比較から確認した。 研究グループは、2010年12月5日~2017年11月10日の期間で、6ヵ国にて院外および救急診療部で重症TBI患者計511例を登録し、予防的低体温療法群(266例)および正常体温管理群(245例)に無作為に割り付けた(追跡期間最終日2018年5月15日)。 予防的低体温療法群では、早期の低体温(33~35℃)、少なくとも72時間の導入を目標とし、頭蓋内圧が上昇した場合は、7日間まで維持し、その後徐々に復温した。正常体温管理群では、必要時にラップ法による水冷式体表冷却を使用し37℃を目標とした。体温管理は両群ともに7日間実施され、他のすべての治療は担当医師の自由裁量とした。予防的低体温療法で、6ヵ月後の神経学的転帰は改善せず 主要評価項目は、評価者盲検による外傷後6ヵ月時の良好な神経学的転帰または自立した生活(拡張グラスゴー転帰尺度[GOS-Eスコア、範囲1~8点]で5~8点)とした。511例中500例(平均[±SD]年齢34.5±13.4歳、男性402例[80.2%])で同意が得られ、466例が主要評価項目の評価を完遂した。 低体温療法は外傷後迅速に導入され(中央値1.8時間、IQR:1.0~2.7)、復温は徐々に実施された(中央値22.5時間、IQR:16~27)。6ヵ月時の神経学的転帰良好患者は、低体温療法群117例(48.8%)、正常体温管理群111例(49.1%)であった(リスク差:0.4%[95%信頼区間[CI]:-9.4~8.7]、相対リスク:0.99[95%CI:0.82~1.19]、p=0.94)。有害事象の発現率は、低体温療法群と正常体温管理群でそれぞれ、肺炎55.0% vs.51.3%、頭蓋内出血の増大率は、18.1% vs.15.4%であった。重症TBI患者において、予防的低体温療法は、正常体温管理に比較して、6ヵ月後の神経学的転帰を改善させなかった。本研究の限界と今後の課題 著者らは、本研究の限界として、(1)低体温療法群の患者の相当数が目標とした33℃に達しなかった(院外での非重症TBI患者の登録などにより19%が早期に脱落、さらに13%が33℃に到達せず)こと、(2)医師および患者の家族は盲検化されていなかったこと、(3)担当医には適当でないと判断した場合に患者を登録しない選択肢があった(倫理的に必須事項)こと、などを挙げている。予防的低体温療法の有効性が、本研究のITT解析において確認されなかったことは、今後の重症外傷性脳損傷患者の治療戦略に、少なからず影響を与えるものと考えられる。低体温療法が重症外傷性脳損傷患者に対する標準的な治療として実施されている現状を考えれば、本研究のper protocol解析においても有効性が得らなかったかどうかを徹底的に検証し、低体温療法の有効性に関する将来の研究デザインについて議論すべきである。

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第17回 内科からのレボフロキサシンの処方(後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3 疑義照会する?しない・・・8人PRSPを想定? 荒川隆之さん(病院)しません。経口へのスイッチングの場合、わざわざブロードスペクトルであるレボフロキサシンにする必要性は低く、クラブラン酸/アモキシシリンなどでもよい気はするのですが、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)を想定されているのかもしれません。ガイドラインを参考に 奥村雪男さん(薬局)疑義照会しないと思います。JAID/JSC感染症治療ガイド2014でdefinitive therapyとして推奨される治療に、PSSP外来治療の第二選択と、PRSP外来治療の第一選択にレボフロキサシンが記載されています。投与期間については、「症状および検査所見の改善に応じて決定する。5~7日間が目安となる」とあるので、セフトリアキソン4日間+レボフロキサシン5日間で、不自然な日数ではないと思います。する・・・3人ガレノキサシンへの変更提案 清水直明さん(病院)発熱・呼吸器症状・食欲不振があるので、喘息発作ではなく呼吸器感染症と考えます。本来、肺炎球菌と確定しているのならば高用量ペニシリンを推奨すべきところですが、肺炎球菌の検査をしたかどうか、胸部レントゲンも撮ったかどうか不明確ですので、外来静注抗菌薬療法後のスイッチ療法としてはキノロン系抗菌薬もありだと思います。ただし、幾つかの成書から呼吸器感染症に対してはレボフロキサシンよりもガレノキサシンが有効性が高いと思いますし、特に、肺炎球菌に対してはレボフロキサシンとガレノキサシンのMICは結構異なっているので、「レボフロキサシン500mgでも特別問題ないかもしれませんが、より有効性を期待するという意味で、ジェニナック®錠 1回400mg 1日1回をお勧めします」と提案します。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与に JITHURYOUさん(病院)疑義照会します。喘鳴がなく、熱があることを考えると、喘息発作ではなく呼吸器感染症でいいと思います。食欲がない、発熱からも肺炎の可能性があると考えます。その場合、呼吸器学会の鑑別基準でいくと、1~5の項目で3項目が該当するため非定型肺炎の可能性があると思われます。喘息があることや、非定型のカバーを考えるとレボフロキサシン経口内服指示は理解できます。しかし、セフトリアキソン点滴に効果があることから非定型肺炎はカバーしなくてよいと思います。PRSPである場合は、レボフロキサシン投与もうなずけます。しかし、結核のリスクがあること、喘息の管理としてステロイド吸入やマクロライド系抗菌薬を使用していないこと、飲酒習慣などもなく耐性菌リスクが少ないのではないかと考えられるため、今回のレボフロキサシンの処方は一考した方がいいのではないかと考えました。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与(アドヒアランス考慮)を提案すると思います。細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別1.年齢60 歳未満2.基礎疾患がない、あるいは軽微3.頑固な咳嗽がある4.胸部聴診上所見が乏しい5.喀痰がない、あるいは迅速診断で原因菌らしきものがない6.末梢血白血球数が10,000/μL未満である1-6の6項目中4項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度77.9%、特異度93.0%。1-5の5項目中3項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度83.9%、特異度87.0%日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺炎診療ガイドライン.東京、日本呼吸器学会、2007.Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?再受診のタイミングや他院受診時の注意 ふな3さん(薬局)必ず指示された日(3日後)から服用を開始すること食欲がなくても、食事が取れなくても、毎日必ず1錠服用すること症状が改善しても5 日分服用を続けること服薬して3日以上(=治療開始から7日以上)経過しても症状が改善しない場合には、すぐに医療機関を再受診すること他院(喘息治療など)に通院の際は、必ずレボフロキサシンを服用中であることを伝えることしっかり飲みきることと副作用について JITHURYOUさん(病院)耐性菌が出現しないよう、しっかり飲み切ること。確率は低いですが、アキレス腱炎や痙攣、光線過敏症などに気を付けること。患者さんへの説明例 清水直明さん(病院)「薬のせいでお腹が緩くなることがあります。我慢できる程度の軽い症状ならば抗菌薬をやめれば戻るので問題ありませんが、ひどい場合には服用を中止してご連絡ください」「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)と一緒に服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」併用薬はなしとのことですが、OTCやサプリメントを服用している可能性はあり、その中に相互作用を起こすアルミニウムやマグネシウムなどが入っていることがあるので、一応伝えておきます。結核検査をしていた場合 キャンプ人さん(病院)「4日間点滴後の内服薬なので、飲み始める日にちを間違えないようにしてください」と言います。結核の検査をしていたなら、病院から検査結果の連絡があれば必ず受診するなど、そのままほったらかしにしないよう説明します。車の運転について 柏木紀久さん(薬局)3日後からの服用を理解しているかの確認と、5日間きちんと服用してもらうこと。車や機械などの運転を極力控えること。Q5 その他、気付いたことは?肺炎球菌→レボフロキサシン? 中堅薬剤師さん(薬局)肺炎球菌にすぐレボフロキサシン、はオーバートリートメントかな、と個人的に思います。できれば、アモキシシリン5~7日の投与で十分とコメントしたいです。地域のアンチバイオグラムは? 荒川隆之さん(病院)原因菌も肺炎球菌とされているので、通常ならレボフロキサシンではなく、クラブラン酸/アモキシシリンなどの経口の方が適しているものと考えますが、原因菌がPRSPであった場合は、レボフロキサシンでもよいのかもしれません。PRSPかどうかは尿中抗原などでは診断が付かず、培養の結果を待たなければなりません。喀痰培養などで肺炎球菌は増殖しづらく、処方の時点でPRSPだと断定はできていないものと考えます。地域のアンチバイオグラムにおいてPRSPの頻度が高い地域なのでしょうか。処方タイミング ふな3さん(薬局)4日間の点滴での容体の変化を見て、その後の抗菌薬フォローアップを決めるのが一般的だと思うので、なぜこのタイミングで処方なのかは疑問です。GWや年末年始でクローズする調剤薬局が多いタイミングだったのでしょうか。治療後の残存症状として、喘息症状の遷延や悪化があった場合、喘息治療薬も必要になる可能性があるので、やはり点滴投与後の処方が望ましいと感じます。また、出勤などは控えるように伝えられているのではと思うので、その点も確認したいです。肺炎球菌の耐性度は、ほとんどが中等度まで 奥村雪男さん(薬局)薬剤耐性対策としては可能であれば、レボフロキサシンより高用量のアモキシシリンなどのペニシリンが好ましかったのではと思います。日常診療で遭遇するほとんどの肺炎球菌はせいぜい中等度耐性(MICが1~2μg/mL)であり、高用量のペニシリンで対応可能とされています1)。処方例としては、アモキシシリン500~1,000mgの1日3~4回経口が挙げられています。感受性の結果次第ではペニシリン系を提案 児玉暁人さん(病院)セフトリアキソンで効果があるようであれば、レボフロキサシンでなくてもよいかもしれません。喀痰培養で感受性結果が分かれば、自信を持ってペニシリン系を処方できると思います。判定が早いので迅速キットでの検査だったのかもしれません。検査室がありグラム染色ができれば、その日でも肺炎球菌を想定はできますが。初日に培養を出せば4日目の点滴時には感受性結果が出るはずですので、そこで抗菌薬を決めて処方箋を出すというのでもいいのでは。検査が外注だとそうはいかないのですが。喘息の定期受診と生活指導 JITHURYOUさん(病院)喘息で併用薬なしということですが、本当に定期的な受診をしているのかは不明です。日常生活の支障がないのでしょう。しかし、発作がなくてもステロイド吸入で気道リモデリングの予防と喘息死の予防をすることは欠かせないこと、感染症が発作の引き金になるので合わせて定期受診すべきであることを伝えたいです。男性一人暮らし、ハウスダストアレルギーなので定期的な部屋の掃除なども指導したいですね。また、患者の身長体重から、BMIは17.31となります。やせ型の若い男性で気胸のリスクがあるので、咳が続き胸痛や呼吸困難などの症状があれば受診するように指導します(登山や出張などで飛行機など乗ること、楽器演奏、激しい運動などは治療が終わるまでできれば避けること)。さらに可能であれば、運動を少しずつしていき筋肉や体力をつけていき、呼吸器感染症や喘息、気胸予防をしていくように指導したいです。後日談(担当した薬剤師から)翌週、無事に回復しましたと処方箋を持って来局。咳症状が少し残っていたのでしょう、デキストロメトルファン錠15mgとカルボシステイン錠250mgを1回2 錠 1日3回 毎食後7日分を受け取って帰られました。後日談について 中堅薬剤師さん(薬局)後日談の咳が残るという主訴(おそらく感染後咳嗽)に対して、デキストロメトルファンは微妙かなあと感じました。呼吸器門前で働いてきた経験から、むやみな鎮咳剤投与は無意味ではないか、と考えるようになったからです。本当につらい咳なら、コデイン投与で間欠的にするべきですし、そもそもの治療が奏功していない可能性もあります。そんなにひどくない咳であれば、麦門冬湯でもよいと思います。1)青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2 版. 東京、医学書院、2008.[PharmaTribune 2017年7月号掲載]

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