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新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?(2)【新型タバコの基礎知識】第10回

第10回 新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?(2)Key Points米国では、電子タバコによる急性肺障害が報告され、症例数は1,000例を超え、死亡が18例に達している。電子タバコがハーム・リダクションとなるために必要な前提条件はまだ揃っていない。電子タバコによる急性肺障害が話題になっています。米国での発見例は氷山の一角だと考えられていますが、2019年10月4日までの米国CDCによる報告1)で、症例数は1,000例を超え、死亡が18例に達しています。病態としては、リポイド肺炎、急性好酸球性肺炎や間質性肺炎、過敏性肺臓炎などが考えられています。電子タバコの多様な使用方法やさまざまなフレーバー、大麻由来成分(Tetrahydrocannabinol;THC)の添加など、患者背景に多くの違いがあり、単一の病態でもないことから、現時点での原因の特定は困難です。NEJM誌では17例(死亡例2例含む)における病理像の報告がなされ2)、外来性の油成分によるリポイド肺炎はほとんどみられなかったとのことです。原因物質は不明ですが、新型タバコに含まれる未知の物質の可能性も示唆されています。日本では電子タバコ使用者は比較的少なく、加熱式タバコを使っている人が非常に多くなっています。新型タバコによる急性健康障害に関する実態把握が必要ですが、研究体制は整備できていません。肺炎や喘息等の呼吸器疾患の臨床研究や観察研究を実施している研究者グループの方々と、新型タバコ研究のセットアップおよび支援・協働をしたいと考えていますので、該当の方がいらっしゃれば、ぜひご連絡ください。さて、今回は、「新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?」のパート2です。今回は新型タバコのなかでも電子タバコに注目します。実は、電子タバコについてだけでも本が一冊書けてしまうぐらい情報が集積してきており、問題も複雑化しています。世界的には、加熱式タバコよりも電子タバコが普及しているのです。日本では、ニコチン入りの電子タバコの販売が許可されていない事情もあり、電子タバコはあまり普及していません。しかし、2018年以降電子タバコブランドBluの積極的な販売キャンペーンが展開されるなど、日本でも普及してくる可能性もあるでしょう。電子タバコは製品間の品質のばらつきが大きく、健康被害を一律に評価するのは難しい状況です。冒頭で言及したような急性影響についても分かっていないことばかりであり、長期使用による健康影響はもちろんわかっていません。一方で、電子タバコでは吸引することとなる有害化学物質が紙巻タバコよりも少ないという点に着目して、“ハーム・リダクション(害の低減)”に電子タバコが活用できると訴えている専門家もいます。タバコ問題の場合のハーム・リダクション戦略としては、どうしてもタバコをやめられない人に対して、タバコの代わりにニコチン入り電子タバコを吸ってもらったら、有害物質への曝露を減らせるのではないか、というものです。しかし、この通りにうまくいくのか、世界的に専門家の間でも意見が割れていて、決着がついていません。なぜなら、ハーム・リダクションとなるためのそもそもの前提事項がまだ分かっていないからです。以下に、まだ決着のついていない前提事項を整理します。(1)電子タバコは、紙巻タバコと比べて害が少ないと確定していない電子タバコでは、有害物質の多くが紙巻タバコよりも少ないことは確かですが、一部の化学物質は紙巻タバコよりも多く、総合した場合の有害性が本当に電子タバコの方が低いのか、製品が新しく追跡期間も短いことから、十分に検証できていません。2015年に英国の公衆衛生専門機関が「電子タバコは喫煙よりも約95%害が少ない」と報告しましたが、これに対してはLancet誌等で根拠が十分でないとの反論が起きるなど、論争が巻き起こっています。現在の米国での事態を受けて、よりいっそう議論は複雑化しています。(2)電子タバコによって紙巻タバコがやめられるのか分かっていない電子タバコに紙巻タバコをやめられるようにする禁煙効果があるのかについて、世界的に論争が起きています。まだ実験的研究の段階で、その効果を検証した研究が少なく、結論が出るには至っていません。多くの現場からの研究結果を統合した研究も実施されてきていますが、禁煙効果を支持する結果と支持しない結果がさまざまな研究グループから報告されており、まだしばらく決着はつきそうにありません。(3)電子タバコによる他の問題も指摘されている世界的にはオシャレでカッコいいデザインの電子タバコが若者を中心として普及してきています。電子タバコがもともとタバコを吸わない人へと広がり、ニコチン依存への入り口(ゲートウエイ)として機能してしまうと懸念されているのです。ほかに、電子タバコのデバイスが爆発して大けがを負った事例や、火災となってしまった事例も報告されています。総合的に比較して電子タバコの導入のメリットがデメリットよりも大きくないと、ハーム・リダクションとはなりえません。もし、導入によってハーム(害)が総合して増えるようなこととなれば、単に問題を増やしただけになってしまいます。分かっていないことが多い中で、われわれの社会は難しい判断を迫られているといえるでしょう。タバコ問題においてハーム・リダクションが可能となるための理論的根拠として、根拠(1):タバコやニコチンを使用し続ける人々がどうしてもいるであろうと考えられること根拠(2):ニコチン依存がほとんどのタバコの使用の根底にある一方で、ほとんどの健康被害を引き起こすのは、タバコ煙のニコチン以外の成分だと考えられていることの2つがよく挙げられます。筆者は根拠(1)については同意します。たとえ、タバコを法律で禁止することができたとしても、タバコを使い続ける人はいるでしょう。ただし、法律で禁止することができれば、タバコを吸う人の数は大幅に減らせるものと考えられ、ゆくゆくはそうなってほしいと願っています。しかし一方で、根拠(2)については同意しません。なぜなら、ニコチン依存の害を軽視した考え方だからです。ニコチン依存症の恐ろしさについては、第9回記事を参照ください。第11回は、「新型タバコの発がんリスク」です。1)US Centers for Disease Control and Prevention (CDC)「Outbreak of Lung Injury Associated with E-Cigarette Use, or Vaping」2)Butt YM,et al. N Engl J Med. 2019 Oct 2. [Epub ahead of print]

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ペムブロリズマブ単剤のNSCLC1次治療、日本の実臨床での成績/ESMO2019

 ペムブロリズマブと化学療法の併用は、PD-L1陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の初回治療において、化学療法に比べ著明な生存ベネフィット効果を示す。しかし、その毒性はペムブロリズマブ単剤に比べ高い。そのため、実臨床において、PD-L1 50%以上のNSCLC患者にペムブロリズマブ単剤を用いるか、化学療法との併用を用いるか、その判断は難しい。加えて、それらの試験対象は良好な状態の患者であり、その結果は実臨床の状況を完全に反映しているとは限らない。 そのため、実臨床においてペムブロリズマブ単剤が適合する患者を特定するとともに、多様な患者におけるペムブロリズマブ単剤の効果と安全性を評価することを目的に、Hanshin Oncology critical Problem Evaluate group(HOPE)の11施設で、多施設後ろ向きコホート研究を実施している。その第2回解析の結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)において、大阪国際医療センターの田宮 基裕氏が発表した。 主な結果は以下のとおり。・2017年2月1日~2018年4月30日に213例の患者が登録された。年齢中央値は71歳、男性が176例(82.6%)、ECOG PS0~1が172例(80.8%)であった。・PD-L1はTPS50~74%が97例(45.5%)、75~89%が55例(22.1%)、90~100%が69例(32.4%)であった。・Grade3以上の有害事象(AE)は39例(18.3%)に発現した。頻度の高い重篤なAEは肺炎(10例、4.7%)であったが、死亡患者はいなかった。・全奏効率は51.2%、病勢コントロール率は73.2%であった。・無増悪生存期間(PFS)中央値は8.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.0~10.7)、全生存期間(OS)中央値は17.8ヵ月(95%CI:17.8~NA)であった。・単変量解析では、ECOG PS(0~1対2以上のハザード比[HR]:2.11、p=0.00061)、炎症CRP/ALB(0.3未満対0.3以上のHR:1.88、p=0.00148)、およびステロイド使用(使用なし対使用のHR:3.17、p=0.00034)が、ペムブロリズマブのPFSと有意な相関を示した。・多変量解析では、ECOG PS(0~1対2以上のHR:1.69、p=0.03138)、CRP/ALB(0.3未満対0.3以上のHR:1.92、p = 0.00153)、ステロイド使用(使用なし対使用のHR:2.94、p=0.00267)、PD-L1(50~89%対90~100%のHR:0.65、p=0.04984)が、ペムブロリズマブのPFSと有意な相関を示した。 この研究では、患者背景はさまざまであったが、結果は以前の主要な臨床試験の有効性と安全性と一致していた。また、PS不良、高炎症状態(CRP/ALB≥0.3)、およびペムブロリズマブ治療開始時のステロイド使用は、より短いPFSと独立して相関していた。 発表者の田宮 基裕氏との一問一答はこちら。この試験を実施した理由はどのようなものですか。 KEYNOTE-024、042など、ペムブロリズマブ単剤の1次治療のデータは治験のデータが多く、リアルワールドのデータはあまりありません。さまざまな患者が含まれるリアルワールドデータをいち早く出したいと考え、関西を中心に、肺がん診療を行うアクティブな先生方を集め、この試験を計画・実施しました。この試験でのサバイバルの結果をどう思われますか。 今後、長くみていくと、もう少し落ちてくるとは思いますが1年のOSが7~8割ですし、PFSも40%でテールを引いているので、全体的に良好だと思います。PD-L1のカットオフを90%にしていますが。 Annals of Oncologyなど海外ジャーナルでも、PD-L1 90%以上でデータが報告されています。自分たちも実際にやってみると、差が出たのは90%でした。本研究のPD-L1超高発現の研究は、現在、大阪大学に勤務されている枝廣先生が、さらに詳しくPLOS ONEにて報告しております。1次治療でもステロイドが入っている患者さんがいらっしゃいますね。 初回治療なのであまり入っていないと思っていたのですが、少しおられますね。喘息など自己免疫疾患の患者さんにはペムブロリズマブが使われないことが多いので、食欲不振、PS不良、疼痛、脳転移などで使われていることが多いと思います。試験で苦労したことはどのようなことですか。 まずはデータを集めることです。アクティブな先生方に集まっていただいたとはいえ、リアルワールドではさまざまなデータが入ってきます。早くデータを出すために、結果として何を出すのか、事前にかなり検討しました。また、データの収集・解析には非常に労力がかかります。協力施設の先生方には、日常業務の中、そういう厳しい仕事をしていただきました。苦労した先生方にも恩恵が出るようにしようと考え、共同演者としてお名前を出さしていただいております。また、今後も、協力施設の先生方からも本研究のデータを用いた論文が出る事を期待しています。この研究は今後も継続されるのでしょうか 今回は第2回のデータ解析ですが、今後第3回の解析を行い、さまざまな角度から発表していきたいと思います。 なお、この研究結果は、Investigatoinal New Drugs誌8月7日号オンライン版に発表されている。

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新規ADC薬・sacituzumab-govitecan、尿路上皮がんに有望(TROPHY-U-01)/ESMO2019

 転移を有する尿路上皮がん(mUC)に対する、抗体薬物複合体(ADC)である新規薬剤sacituzumab-govitecan(SG)の試験結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・Weill Cornell MedicineのScott T. Tagawa氏より発表された。 本試験(TROPHY-U-01)は、オープンラベル・シングルアームの国際共同第II相試験である。本試験薬(SG)は、尿路上皮がんやトリプルネガティブ乳がんなどの腫瘍細胞表面に高発現しているTrop-2タンパクを標的としたヒト化抗体(hRS7)に、トポイソメラーゼ阻害薬であるSN-38を分子レベルで結合させた新規のADCである。 対象はプラチナ系薬剤と免疫チェックポイント阻害薬(CPI)の前治療歴のあるmUC患者(コホート1)100例、およびプラチナ系薬剤不適応でCPI治療後の病勢進行患者40例(コホート2)。試験群にはSG10mg/kgをday1、8に投与3週間ごと。主要評価項目は奏効率(ORR)、副次評価項目は安全性、奏効期間、無増悪生存期間、全生存期間であった。今回は、コホート1の35例による中間解析結果の報告である。 主な結果は以下のとおり。・前治療のライン数の中央値は3(2~6)で、63%の症例に内臓転移があった(肺転移40%、肝転移23%、その他11%)。・追跡期間中央値4.1ヵ月時点での全体のORRは29%(CR:6%、PR:23%)で、前治療が2ラインのサブグループでは18%。3ライン以上のサブグループでは33%であった。・内臓転移を有する症例群でも23%のORRが得られ、全症例の74%で何らかの腫瘍縮小効果が得られた。・安全性は、Grade3/4の好中球減少が55%、白血球減少が29%、発熱性好中球減少が12%、尿路感染が11%、下痢が9%、全身倦怠感6%などであり、3例が治療関連有害事象により投薬中止となっている。また、間質性肺炎や治療関連死はなかった。

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ニンテダニブ、進行性線維化を伴う間質性肺疾患に有効/NEJM

 進行性線維化を伴う間質性肺疾患の治療において、ニンテダニブはプラセボと比較して、努力性肺活量(FVC)の年間低下率が小さく、この効果は高分解能CT画像上の線維化のパターンとは独立に認められることが、米国・ミシガン大学のKevin R. Flaherty氏らが行ったINBUILD試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年9月29日号に掲載された。ニンテダニブは、細胞内チロシンキナーゼ阻害薬であり、前臨床データでは肺線維症の進行に関与するプロセスを阻害することが示唆されている。特発性肺線維症(IPF)および全身性強皮症を伴う間質性肺疾患患者では、ニンテダニブ150mgの1日2回投与により、FVCの低下が抑制されたと報告されている。年間FVC低下率を評価するプラセボ対照無作為化試験 本研究は、日本を含む15ヵ国153施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2017年2月~2018年4月の期間に患者登録が行われた(Boehringer Ingelheimの助成による)。 対象は、年齢18歳以上の線維化を伴う間質性肺疾患の患者であった。IPFはすでに検討が行われているため、IPF以外の進行性線維化の表現型を登録することとし、高分解能CT画像上で、線維化肺疾患が肺容量の10%超に及ぶと中央判定で確定された患者を登録した。また、患者は、治療にもかかわらず過去24ヵ月間、間質性肺疾患の進行の基準を満たし、FVCが予測値の45%以上、一酸化炭素肺拡散能(ヘモグロビン量で補正)が予測値の30~<80%であることとした。 被験者は、ニンテダニブ(150mg、1日2回)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、52週の期間における年間FVC低下率とし、全体および通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)様の線維化パターンの集団で解析を行った。平均年間FVC低下率を107.0mL抑制 663例が1回以上の薬剤の投与を受けた。ニンテダニブ群が332例、プラセボ群は331例であった。412例(62.1%、両群206例ずつ)がUIP様線維化パターンだった。 全体の平均年齢は65.8±9.8歳、予測FVC値は69.0±15.6%、予測肺拡散能は46.1±13.6%であった。間質性肺疾患の最も多い診断名は、慢性過敏性肺炎(26.1%)と自己免疫性間質性肺疾患(25.6%)だった。ニンテダニブ群は252例(75.9%)、プラセボ群は282例(85.2%)が52週の治療を完了した。 52週時の補正平均年間FVC低下率は、ニンテダニブ群が-80.8±15.1mL/年、プラセボ群は-187.8±14.8mL/年であり、両群間の差は107.0mL/年(95%信頼区間[CI]:65.4~148.5)と、低下の程度がニンテダニブ群で有意に抑制されていた(p<0.001)。 また、UIP様線維化パターンの集団における補正平均年間FVC低下率は、ニンテダニブ群が-82.9±20.8mL/年と、プラセボ群の-211.1±20.5mL/年に比べ128.2mL/年(95%CI:70.8~185.6)低く、有意差が認められた(p<0.001)。 52週時のKing’s Brief Interstitial Lung Disease(K-BILD)質問票(3つのドメイン[息切れと活動性、心理学的因子、胸部症状]に関する15の質問項目から成る。0~100点、点数が高いほど健康状態が良好)の総スコアのベースラインからの平均変化は、全体ではニンテダニブ群が0.55±0.60点、プラセボ群は-0.79±0.59点(群間差:1.34、95%CI:-0.31~2.98)であり、UIP様線維化パターンの患者ではそれぞれ0.75±0.80点、-0.78±0.79点(1.53、-0.68~3.74)であった。 52週時の間質性肺疾患の増悪または死亡は、全体ではニンテダニブ群が7.8%、プラセボ群は9.7%(群間差:0.80、95%CI:0.48~1.34)、UIP様線維化パターンの患者ではそれぞれ8.3%および12.1%(0.67、0.36~1.24)であった。また、52週時の死亡は、全体ではそれぞれ4.8%および5.1%(0.94、0.47~1.86)、UIP様線維化パターンの患者では5.3%および7.8%(0.68、0.32~1.47)だった。 最も頻度の高い有害事象は両群とも下痢であり、ニンテダニブ群が66.9%、プラセボ群は23.9%で発現した。また、ニンテダニブ群で多い有害事象として、悪心(28.9% vs.9.4%)、嘔吐(18.4% vs.5.1%)、食欲減退(14.5% vs.5.1%)、肝機能異常(ALT上昇:13.0% vs.3.6%、AST上昇:11.4% vs.3.6%)が認められた。重篤な有害事象はそれぞれ32.2%、33.2%にみられた。 著者は「これらのニンテダニブの治療効果は、IPF患者を対象としたINPULSIS 1とINPULSIS 2試験の統合データで観察されたもの(平均年間FVC低下率の差 109.9mL/年)と類似していた」としている。

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医師も学会も「発信体質」になろう【Doctors' Picksインタビュー】第4回

――ご自身のブログ「肺癌勉強会」で新たな研究結果を紹介しているほか、FacebookやTwitterでも頻繁に情報を発信していらっしゃいます。多忙の中ここまでされる理由をお聞かせください。私が勤務している川崎市立 川崎病院は公立の総合病院なので、肺がんだけでなく、喘息やCOPD、肺炎などの一般的な呼吸器の疾患も診ています。しかし昨年のデータでは、呼吸器内科で受け持った約1,500人の入院患者のうち、約半数は肺がんでした。地域の中核病院ですから、紹介で来院されるがん患者さんは多く、がんは肺炎などの呼吸器疾患より求められる専門性が高いので、それに応える必要があります。この病院に来たころから、自分の肺がん治療への知識不足を感じるようになりました。どの疾患も日々治療法は進化しており、日々の勉強が大事なのは同じですが、肺がん領域はとくにその変化が激しい。日々論文が発表され、ガイドラインの変更も多く、昨年勉強した治療のストラテジーがもう使えなくなる。この変化の大きさが、喘息や肺炎とは大きく異なる点だと思います。こと肺がんに関しては、自分に負荷を課して勉強しないと診療に当たれない、目の前の患者さんを助けられない、という切迫感がありました。それが5年ほど前のことです。そこから、肺がん関連の論文を片っ端から読みはじめました。PubMedで肺がん関連の気になる単語を検索し、上から順に読むのです。あまりに大量なので、自分の中で整理するために各論文の要点をメモにまとめたことがブログのスタートになりました。自分の勉強の記録を残すツールにすぎなかったものが、こんなに続くとは思っていませんでしたし、ほかの方に見てもらえるとはさらに思っていなかったですね。――ブログのほかにもFacebookやTwitterを使われ、まめに更新されています。毎日の負荷は相当だと思うのですが、どんな風にサイクルを回しているのでしょうか?勉強することはインプットに当たりますが、それを自分の頭に保持するにはアウトプットが重要です。「人に教えたこと」や「文章に書いたこと」は忘れにくい、というアレです。よって、私の中でインプットとアウトプットは完全にセットです。ベストセラーになった、樺沢 紫苑先生の『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版. 2018年)やマイクロソフト日本法人元社長の成毛 眞氏の『黄金のアウトプット術』(ポプラ社. 2018年)などにも、「インプットだけでなくアウトプットの重要性」が書かれていて納得しました。これらの本で気付いたというよりは、「自分なりにずっとやってきたことを再確認した」という感覚です。――実際に論文を読む時間は、どうやって確保されているのでしょう?1本の論文を読み込むのにかかる時間はトータルで2時間ほど。病院への通勤時間、電車の中で読むことが一番多いですね。とはいえ、一度に連続した2時間はとれないので、スキマ時間をかき集めています。具体的には、平日の勤務後や週末の時間を使い、PubMedで気になるキーワードを入れて論文を検索します。そうして集めた論文はすべてPDF化してプリントアウトし、クリアファイルに挟んでおきます。出勤時にはそこから数枚取り、手帳などに挟んでおくのです。また、手帳だけでなく、かばんや白衣のポケットなどあちこちに挟んでおき、休憩時間や勤務中のエレベーターの待ち時間などで30秒程度あればさっと目を通すのです。気になったところにマーカーを引き、再び夜や週末に見返してブログなどにアップする、という流れです。読み込みを始めた当初は、最初から最後まで和訳していたのですが、次第に時間的に厳しくなり、かつ意味も薄いことがわかったので、最近はAbstract、ポイントになるfigure、discussionの部分を中心に見ています。筆者はどんな点に着目してこのデータを解析したのかという部分が大事なので、そこは落とさず確認するようにしています。――読むべき論文は、どのように選んでいるのでしょう?ブログを始めた当初はLancetやNEJMなど一流誌を中心に読んでいたのですが、やっていくうちに気付いたのは、こうした主要誌の論文は日本の医療雑誌やサイトがすぐ翻訳し、高名な先生が解説も付けてくれるのです。それらと速さで張り合っても意味がないので、一流誌はそちらで目を通しつつ、いま現在の私は、医療メディアがあまり取り上げない、最先端というよりは明日の臨床で活かせる本邦での研究やリアルワールドな論文を中心に探しています。たとえば、高齢者に対象を絞っている研究、間質性肺炎の併存症のある症例、がん性髄膜炎や脳転移のある症例を集めた研究であったりします。大規模スタディには載らないセッティングや、小規模であっても日本で行われたデータが臨床の場では貴重なので、こうしたものに目を光らせているのです。私は英語がネイティブではなく、肺がんを専門に勉強したこともなかったので、最初は用語を調べるのにかなりの時間を要しました。それでも、数年も続けていれば人は慣れます。今ではずいぶん速く読めるようになりましたし、読みはじめて興味がなければゴミ箱へ、面白いと思ったものだけを熟読する、といった判別もすぐにつくようになりました。――ブログ、Facebook、Twitterなど、ツールごとの使い分けはどうされているのでしょう?自分のブログは、医療者・専門家が見ることを前提に専門性の高い内容にしています。「EGFR」「複合免疫療法」などの用語も注釈なしでそのまま使っています。Facebookはつながりのある人との少し狭いコミュニティなので、「ブログにこんなことを書いた」「こんな面白い記事があった」といった活動や情報をシェアする場として使っています。Facebookでは読んだ本の書評も書いているのですが、肺がんを患われた医師がご自身の病期について書かれた本1)に感銘を受けて感想を上げたところ、ご本人から直接メッセージをいただくことができました。こうしたつながりがSNSの面白さであり、楽しさですね。Twitterの場合は匿名性が高く、自分のフォロワーが誰なのか、すべては把握できません。看護師や薬剤師などの医療関係者ともつながっていますし、患者さんやご家族もいるかもしれません。拡散力が高いのも特徴なので、より一般的な話題を、わかりやすい言葉で発信することを意識しています。このほかにも医療者向けSNS2)やメディアでも発信しているので、1つの論文をいくつか切り口を変えて取り上げることも多いですね。――医療者の情報発信についてどうお考えですか?今の時代、ネットに医療情報はあふれかえっており、患者さんは病院や自身の疾患について膨大な量の情報に接して来院されます。それなのに、医師サイドはまだまだ情報弱者が多い。ごくごく限られた医師が多大な労力を払って発信を続けている、というのが現状でしょう。Twitter上には多くの有名医師の方々がいますが、パパ小児科医(ぱぱしょー)先生(@papa_syo222)、アレルギーご専門のほむほむ先生(@ped_allergy)は長く続けられているだけあって、一般の方が興味を持つネタや言葉の選び方が上手で参考になります。一般の読者やフォロワーが増えると、自分の発言にはとくに気を付けねばならなくなります。私はどのツールでも名前や立場をオープンにしているので、発言は「医師が発信している情報」として見られます。質の低い情報を発信することは許されません。医療情報をアップするときは、慎重に見直すようにしています。医療者のネットリテラシー向上のためには、学会から変わるといいのでは、と思います。私がTwitterを本格的に始めたのは、2019年の呼吸器学会がきっかけでした。一緒に参加した親しい医師と「Twitterで学会中のトピックスをツイートしてみよう」という話になったのです。思い立ったのは学会の2週間前と時間はなかったのですが、学会事務局に連絡して快諾をいただきました。ハッシュタグをつくり、知り合いの製薬会社の方に呼び掛けたり、母校のメーリングリストで告知するなど、急ごしらえながら準備をしました。会期中のツイートは全部で200ツイート程度でしたが、リツイートも多く、当事者としては大きな満足感がありました。そこまで関心を持っていない発表であっても「伝えなければ」と思えば本腰を入れて聴講しますし、ポイントを捉えようとします。「新しい学会の楽しみ方」という感じがありました。また、ツイートしている同士で同じ演題への見方・捉え方が違うなどの点も、興味深いものがありました。さまざまな知見がたまったので、また別の学会でも取り組みたいと考えています。欧米の学会では、アプリやネットに上がった抄録からすぐに感想をツイートし、発表者自身もキースライドを即時に投稿して世界中から反応が集まる、という時代になっています。日本の研究者・学会も、どんどん情報発信をしないと世界から置いていかれてしまうでしょう。電話帳のような学会抄録とはお別れし、講演スライドも公開したり販売したりすればいい。知見はシェアすることでさらに入ってくる時代になっているのですから。1)『Passion(パッション)~受難を情熱に変えて~』(前田恵理子/著. 医学と看護社. 2019年)2)Doctors’Picksこのインタビューに登場する医師は医師専用のニュース・SNSサイトDoctors’ PicksのExpertPickerです。Doctors’ Picksとは?著名医師が目利きした医療ニュースをチェックできる自分が薦めたい記事をPICK&コメントできる今すぐこの先生のPICKした記事をチェック!私のPICKした記事悪性胸膜中皮腫に対するニボルマブの本邦での効果と安全性中皮腫に対するニボルマブの投与は、日本においては2018年に適応拡大が承認され、まさに今、実臨床で使われはじめたところです。本研究の広島大学・岡田 守人先生をはじめ、全国で症例を集めている途上にあります。呼吸器を専門とする医師であれば、誰もが注目するトピックスでしょう。私が重視する「明日の臨床に役立つデータ」だと判断し、発表後すぐに自分のブログで取り上げ、多くの方の目に留まるようDoctors'PicksでもPickしました。

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第29回 検脈法ふたたび~“妙技”をブラッシュアップせよ【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第29回:検脈法ふたたび~“妙技”をブラッシュアップせよここしばらく『心電図の壁』のエッセイや『空飛ぶ心電図』での対談などの企画が続きましたが、久しぶりに“いつもの”心電図レクチャー形式に戻りましょう。今日にでも出会いそうな症例を題材に、心電図クイズに続いて、心拍数の計算法に関して再考します。Dr.ヒロの最近の“気づき”を皆さんはどう考えるかなぁ。では、はじめましょう!症例提示64歳、男性。関節リウマチ、COPD(チオトロピウム吸入、テオフィリン内服)にて通院中。主訴は発熱と労作時呼吸苦。3月某日、定期受診当日の夕方より熱発、翌日いったん解熱するも再発した。息切れも増強したため来院した。やせ型。体温38.4℃、血圧145/87mmHg、脈拍103/分・整、酸素飽和度91%(室内気吸入)だが軽労作にて容易に80%台前半となる。WBC:18,720/μL、CRP:>20mg/dL。胸部X線で右下肺野の透過性低下あり。インフルエンザ迅速検査は陰性。受診時の心電図を示す(図1)。(図1)救急受診時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しいものを2つ選べ。1)心房細動2)右軸偏位3)左房拡大4)時計回転5)ST低下解答はこちら2)、4)解説はこちらCOPDの典型的な身体所見(やせ型、男性、熱発、呼吸困難)ですね。多くの方が、上気道感染や肺炎などによる急性増悪を第一に考えると思います。それでOKですが、こんな時でも心電図はとられるわけで、その読みを問うています。ええ、もちろん「系統的判読」です(第1回)。1)×:「心房細動」の診断基準を復習しましょう。「R-R不整」と「洞性P波を欠く代わりにf波(細動波)」でしたね(第4回)。一見してR-R間隔は整で、II誘導などでQRS波の手前に明瞭なP波がコンスタントに確認できます。2)○:QRS電気軸の定性判定は、IとaVF(またはII)誘導に着目でした(第8回)。I:下向き、aVF(II)誘導:上向きのパターンは「右軸偏位」ですね。QRS波高が変動*1して、やや難しいですが、“トントン法Neo”を駆使して「+100°」ないし「+105°」(“トントン・ポイント”はIと-aVR間でI寄り)と言えたら最高です(第11回)。3)×:これはDr.ヒロお得意の“左右違い”(笑)。正解は「右房拡大」です。診断基準を整理しておきましょう(図2)。(図2)右房拡大の診断基準画像を拡大する教科書そのほかでは、「II、III、aVF、V1、V2*2のいずれかの誘導でP波高2.5mm以上」という基準がよく示されますが、これはかなりハードルが高く、めったに満たしません。「右房拡大」ではP波が“ホッソリ”かつ“ツンッ”と尖った形になることが一番の特徴なので(尖鋭化)、こうした“人相”ならぬ“波相”にまず反応しましょう。その上でどれか1つでもP波が2mm以上なら積極的に診断する姿勢をボクは推奨しています。4)○:正常ではV1からV6誘導に向かうにつれてR波は増高、S波は減高してゆき、真ん中(V3~V4)あたりで入れ替わります(移行帯)。V5誘導時点でも“下向き”(R<S)な場合に「時計回転」と言います。いくつか原因があり、その一つは今回のようなCOPDなどの慢性肺疾患です。5)×:ST偏位は、基線(T-P/T-QRS/Q-Qライン)に対するJ点(QRS波の「おわり」)の相対位置で決まります(第14回)。“(スター)ト”のプロセスでは、目の“ジグザグ運動”で肢誘導から胸部誘導まで漏れなくST偏位をチェックしましょう。本例ではST低下・上昇いずれもありません。*1:V1誘導でとくに顕著なQRS波高の変動(QRS amplitude variation)は「呼吸」による影響が強いとされ、3秒強のサイクルは呼吸促迫状態なのかとボクなら推察します。QRS波が減高する部分が吸気相に一致し、その際、膨張した肺によりV1誘導が心臓から最も遠ざかることで理解されるようです。*2:ニサンエフ(下壁誘導)は“兄弟”で、V1とV2は“お隣さん”のイメージ。ともに波形が類似すること多し。【問題2】自動診断は「高度な頻脈」となっているが、正確な調律診断は何か? 具体的な心拍数とともに述べよ。解答はこちら135/分(新・検脈法)、洞(性)頻脈解説はこちら心電図に自信のない人がついつい頼ってしまいがちな自動診断。これを見ることについて、基本的にボクは全然OKだと思います。慣れないうちは、自分なりの判読に漏れがないかのチェックにも使えるので、積極的に“カンニング”しようと薦めているくらいです(笑)。ただし、以前よりだいぶ精度が上がっているとはいえ、機械は“万全”ではないのです。この方の自動診断には「高度な頻脈」の記載があるだけで、そのほか調律に関係するものはありません。自身で判定する際には基本に忠実に、はじめの“レーサー(R3)・チェック”を適用すれば答えは簡単です。正確に調律診断をすることも大切ですが、今回は心拍数の計算法に関して“検脈法”から最近感じたことを述べたいと思います。“「高度な頻脈」に喝!”皆さんが普段使っている心電計は、大半が国産メーカー製のはず。そこでしばしば見られる「高度な頻脈(または徐脈)」という診断表示*3は、心拍数がおおむね「120/分超」か「40/分未満」の時に出ることが多いようです。ただ、この「高度な~」は、調律でも不整脈の名称でもないんです。穏やかな日曜の朝、スポーツ選手のプレイに「喝!」という長寿番組がありますが(笑)、Dr.ヒロ的にはこの表現に“喝”!…これは「診断」ではありません。以前から言いたかったのはこのことだったんです。「調律」と「心拍数」は常にセットです。基本調律を述べずに心拍数の速い・遅いだけを宣言するような診断と、ほかの心電図所見を同列で語るから紛らわしくなるのです。機械(≒心電計)が診断できない時こそ人間の目が必要なんです。R-R間隔は整で5mm四方の太枠マスがほぼ2つ分ですから、“300の法則”(第3回)的には150/分に近い「頻脈」です。しかも、“イチニエフの法則”(第2回)にピッタリのP波がコンスタントにいるから…そう、「洞調律」ですね。2つをあわせて「洞(性)頻脈」*4、これが正しい調律診断です。*3:「極端な」という表現を用いるメーカーもあり。*4:循環器学用語集(第3版)では「性」はなく「洞頻脈」が「sinus tachycardia」の正式な表現とされる。“あとは心拍数を求めよう”「心拍数○○/分の洞(性)頻脈です」こう述べるべく、あと知りたいのは心拍数の数字だけ。“ドキ心”レクチャー受講生なら、“検脈法”でしょ。R-R間隔が整なら肢誘導か胸部誘導のどっちか片方(5秒間)かでQRS波を数えればいいわけでした(第3回)。肢誘導に11個、胸部誘導に12個とカウントすれば、132/分(肢誘導のみ)、144/分(胸部誘導のみ)、138/分(肢誘導+胸部誘導)のいずれかの数値となるでしょう。いずれの方法でも、心拍数は「130~140/分」程度だとわかります。検脈法を用いる時、“不整脈”がある場合は基本的に10秒間カウントすべし、というのがDr.ヒロ流。ここで言う「不整脈」とは、R-R間隔の整・不整ではなく“レーサー・チェック”の3項目のいずれかが正常でない場合*5を想定しています。ですから、通常の検脈法では、138/分、四捨五入して「心拍数約140/分の洞(性)頻脈です」と述べることになるでしょう。基本的にはこれで正解です。*5:今回は心拍数が「50~100/分」の正常範囲から外れるので「不整脈」に該当すると考えて欲しい。“両端が気になって仕方ない”「高度な頻脈(徐脈)」に対するネガティブ・キャンペーンと正しい調律診断をしてレクチャーを終えてもいいのですが、ボクが本当に伝えたいことは別にあります。検脈法を適用していたある日、ふと“端っこ”が気になったんです。肢誘導と胸部誘導から一つずつ、今回の心電図からIII誘導とV4誘導を抜き出してみましょう(図3)。(図3)気になる“両端”の心拍たち画像を拡大するオリジナルの検脈法では(1)、(3)、(4)は1個のQRS波とカウントし、(2)はノーカウントになります。一部分しかなくても、1周期まるまるある心拍と同じ扱いでいいんだろうか…そう悩んだのです。“両端が気になったワケ”以前から検脈法で求めた心拍数と心電計の表示する値とが、まぁまぁズレるなぁと感じる時がありました。たとえば次の心電図を見てください(図4)。(図4)検脈法の“弱点”?画像を拡大する肢誘導にはQRS波が4つあります。一方、胸部誘導のほうはどうかと言うと、最後の最後にちぎれた“見切れ”QRS波がありますね。これをどうカウントしますか? オリジナル検脈法では、これも立派に「1拍」とカウントして、4+4で計8個、これを60秒(1分)に換算して「48/分」です。一方の自動診断では「43/分」となっています。「検脈法」は驚くほどに正確な心拍数を提供してくれるんです、大半のケースでは。その“実力”を知っているがゆえ、ボクにはこのズレが大きく感じるのです。“たかが5”とはいえ、48と43の差は“されど5”と感じてしまうのはビビリだから?…いや否。なんとかこれを乗り越えようと、最近になってオリジナル検脈法を“改良”することにしたのです。名付けて“新・検脈法”。■新・検脈法のルール■1)「QRS-T」全体を“1組”として心拍と見なし、一部でも欠けていたらQRS波0.5個とカウントする2)「P波だけ」はカウントしない心拍数が1分間の「心室」拍動回数である以上、P波は無視してQRS波+T波に注目しようと思いました。心室の脱分極・再分極を表して常に“2つで1組”の「QRS-T」を“1心拍”とみなすルールです。ほんのちょびっと見切れていても、9割方あり残りわずかに足りない場合でも“恨みっこなし”。すべて「0.5個」分の心拍と数えるのがミソです。もう一度、心電図(図4)に戻りましょう。肢誘導と胸部誘導の境界はIIとV2間の微妙なギャップ部分であり、このラインまでに肢誘導4拍目はT波の“おわり”がギリギリ滑り混んでいますから、肢誘導のQRS数は4個でOKです。一方の胸部誘導は“見切れている”最後の1拍は“半分カウント”ですから「3.5個」です。4+3.5で計「7.5個」と考えれば…そう心拍数は「45/分」です。これで心電計の数値との差が2に縮まりました。これならDr.ヒロ的にも許容範囲です。今回の心電図(図1)に対しても“新・検脈法”を用いてみましょう。図3の(1)、(3)は「1個」、(2)は「0個」、そして(4)は「0.5個」分の心拍となります。すると肢誘導11個、胸部誘導11.5個(最後だけ0.5個)となるので、全部で22.5個と思えば、6倍して…「135/分」。なんと心電計の計算にぴったり一致しました! ちなみに、0.5があっても、6倍ないし12倍で算出するため、“新・検脈法”による心拍数は必ず整数で算出されるので安心です。“腕比べをやってみた”Dr.ヒロのふとした妄想から誕生した“新・検脈法”ですが、本当か?…そう悩んだらほかの人に相談するより、まず自分で確かめるまで決して納得しないのがDr.ヒロの悪いところ(笑)。心拍数に関しては、心電計の計算値が常に正しいと考えて、数千にも及ぶ“杉山ライブラリー”の心電図から抽出した計100例(洞調律45例、期外収縮20例[PAC:10例、PVC:10例]、心房細動20例、その他15例)を用いて“腕比べ”をしてみました。「しかし、果たしてそこまでやる必要あるの?」という批判も聞こえてきそうですが…その結果を表にして示します(表1)。(表1)画像を拡大する皆さんは結果をどう見ますか? 平均値、中央値や最大・最小値どれをみても“イイ線いってる”感じです。“半分(0.5個)カウント”の影響か、新・検脈法のほうがオリジナルの検脈法よりも小さい値で見積もるようです。フィッティングに関しては、最終列の「決定係数」、いわゆるR2値を見ると、両者とも99%以上の高精度の予測能力があると言えますでしょうか。煩雑さの面では、オリジナル法よりも“一手間”加わる新・検脈法の方でわずかにR2値が高く見えてしまうのは開発者の性、いや“親心”でしょうか。でも、こうした結果を得るちょっと前から、臨床研究で心電図を扱う場合にも、ボクは手動計算の心拍数値は新・検脈法で求めるようにしています。あくまでも印象として、こちらのほうが従来法よりも精度が上がっている気がするからです。皆さんはどう思われるでしょうか? “新・検脈法”に関するご意見・ご感想をお寄せいただけたら嬉しいです。Take-home Message「高度な頻脈(徐脈)」という診断は不要!~調律と心拍数で表現せよ。「T-QRS」を1組と見て“見切れQRS波”を「0.5拍」でカウントする“新・検脈法”が多少手間でも有用かも!?【古都のこと~随心院門跡~】随心院門跡(山科区)は、古来より「小野郷*1」として、そして現在も小野と呼ばれる場所にあり、地下鉄(東西線)に乗れば市内中心部から30分程度で行くことができます。正暦二年(991年)、“雨僧正”仁海(にんがい)*2の開基とされ、もとは牛皮山曼荼羅寺*3と言ったそう。その後、増俊阿闍梨(ぞうしゅんあじゃり)が曼荼羅寺(まんだらじ)の子房として随心院を建立し、後堀河天皇から宣旨を受け「門跡」となりました(寛喜元年:1229年)。総門をくぐってすぐ右方には「小野梅園」があり、ここもオススメ観梅スポットの一つです(早春以外も緑が溢れる)。長屋門から入って庫裡(くり)を通って書院の襖絵や調度品を楽しみ、普段は開かない薬医門を内側から眺めると独特の趣を感じました。回廊を少し歩けばお目当ての庭が姿を現します。コンパクトながら池をたずさえ、縁側から見える奥深い緑の景色が実に目に映えます。さぁ、これからは紅葉シーズン。あまり人混みのない“ひっそり系”ながら、母親への愛情に溢れた由緒ある寺院に一緒に来られたら、良い親孝行になるでしょう。*1:三宅八幡宮(左京区上高野)の回で登場した「小野郷」とは異なる。*2:宮中からの勅命でしばしば請雨の法を行った。“雨降らし”の達人の意味か。*3:仁海僧正は一夜の夢に牛に生まれ変わった亡母を見て、飼養したが日なくして死んだ。それを悲しみ、その皮に両界曼荼羅の尊像を描いて本尊にしたことにちなんだ名称。

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レビー小体病とアルツハイマー病の生存率の違い

 アルツハイマー病(AD)とレビー小体病(LBD)は、2種類の代表的な認知症である。LBD患者の臨床経過がAD患者よりも不良であるかどうかについては、よくわかっていない。中国・香港大学のYat-Fung Shea氏らは、中国人LBD患者とAD患者の生存率や合併症発症について、レトロスペクティブレビューを行った。Singapore Medical Journal誌オンライン版2019年9月6日号の報告。 2008~16年にクイーン・メアリー病院のメモリークリニックに来院したADおよびLBD患者を対象に、すべてのバイオマーカーをレトロスペクティブにレビューした。ADおよびLBD診断は、臨床診断基準およびバイオマーカーによりサポートした。LBDには、レビー小体型認知症(DLB)およびパーキンソン病認知症(PDD)を含めた。ベースライン時の人口統計、臨床的特徴、認知機能障害の重症度、特定の臨床結果を収集した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、AD患者31例、LBD患者25例(DLB:18例、PDD:7例)であった。・疾患発症時より測定した場合、LBD患者は、AD患者と比較し、全生存期間が短い(p=0.02)、転倒の早期発生(p<0.001)、嚥下困難(p<0.001)、肺炎(p=0.01)、褥瘡(p=0.003)、施設入所(p=0.03)といった特徴が認められた。・Cox回帰分析では、LBDは転倒(ハザード比[HR]:5.86、95%信頼区間[CI]:2.29~15.01、p<0.001)、嚥下困難(HR:10.06、95%CI:2.5~40.44、p=0.001)、褥瘡(HR:17.39、95%CI:1.51~200.1、p=0.02)、施設入所(HR:2.72、95%CI:1.12~6.60、p=0.03)、死亡(HR:2.96、95%CI:1.18~7.42、p=0.02)の予測因子であることが示唆された。 著者らは「LBD患者は、AD患者と比較し、生存期間が短く、事前に指定したいくつかの長期イベントが早期に発生していた。また、LBDは、これら長期イベントの独立した予測因子であることが示唆された」としている。

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大腿骨近位部骨折は社会的損失も大

 日本整形外科学会(理事長:松本 守雄氏[慶應義塾大学医学部整形外科学教室 教授])は、「骨と関節の日(10月8日)」を前に、9月5日に都内で記者説明会を開催した。説明会では、学会の概要や活動報告、運動器疾患の現況と今後の取り組みについて説明が行われた。また、「大腿骨近位部骨折とロコモティブシンドローム」をテーマに講演も行われた。ロコモティブシンドロームのさらなる認知度向上にむけて はじめに理事長挨拶として松本氏が登壇し、1926年の学会設立以来、順調に会員を増やし、現在では2万5,126名の会員数を誇る世界有数規模の運動器関連学会であると説明。従来の変性疾患、外傷、骨・軟部腫瘍、骨粗鬆症などのほか、今日ではロコモティブシンドローム(ロコモ)の診療・予防に力を入れ、ロコモの認知度向上だけでなく、ロコモ度テストの開発・普及、ロコモーショントレーニング(ロコトレ)の研究・普及などにも積極的に活動していることを紹介した。寝たきりになると介護・医療費は6.7倍に 続いて、澤口 毅氏(富山市民病院 副院長)が「大腿骨近位部骨折」をテーマに、本症の概要や自院の取り組み、予防への動きについて講演を行った。 大腿骨頸部/転子部骨折の患者は女性に多く、2017年の調査で約20万例の骨折が報告されているという。また、骨折が起きる場所として屋内が約70%、屋外が約20%であり、原因では約80%が「立った高さからの転倒」という日常生活内で起こることが説明された。 骨折後1年後の死亡率と機能障害では、死亡が20%、永続的機能障害が30%、歩行不能が40%、ADLの1つでも自立不能が80%と多大なリスクとなることも示された1)。同時に同部位の骨折で高齢者で寝たきりになった場合、寝たきりにならない場合と比べ、介護・医療費が約6.7倍(約1,540万円)と高く、このため家族が介護離職を余儀なくされ、復職できないなど、社会的経済損失も大きいという。 骨折の治療では、「合併症が少なく、生存率が高く、入院期間が短い」という理由から、早期の手術がガイドラインでは推奨されている(Grade B)。しかし、わが国の入院から手術までの日数は、平均4.2日と欧米の平均2日以内と比較しても長いことが問題となっている。また、入院期間についてもわが国は平均36.2日であるのに対し、欧米では数日~10日以内と大きく差があることが示された2)。この原因として、手術室の確保、麻酔科医の不足、執刀医の不在など医療機関側に問題があることを指摘した。 一方、オーストリアやドイツなど欧州では、高齢者の骨折に対し、医師、看護師、ソーシャルワーカー、理学療法士によるチーム医療が行われ、とくに整形外科と老年病科の医師の連携により、入院中や長期死亡率の減少、入院期間の短縮、重篤な合併症と死亡率の低下、再入院の減少、医療費の低下に成果をあげているという。手術待機日数、平均1.6日への取り組み 次に同氏が所属する富山市民病院の高齢骨折患者への取り組みを紹介した。同院では、2013年よりチーム医療プロジェクトを開始し、「骨折を有する高齢患者を病院全体で治療する」ことを基本方針に、さまざまな改革を行ったという。その一例として、電子カルテの専用テンプレート導入、職種・経験の有無にかかわらない統一・均一な初療体制の構築などが行われた。 現在では、大腿骨近位部骨折と診断されると3~5時間で手術を行うことができ、術後は病棟薬剤師による鎮痛やせん妄への対処、リハビリテーション科による早期離床と早期立位・歩行へのフォロー、精神科によるせん妄予防、肺炎予防、栄養管理(骨粗鬆症予防も含む)、高齢診療科医師による術後管理、退院サポートなどが行われている。 とくに大腿骨近位部骨折をした患者の再骨折率は高く2)、同院では転倒防止教室や電話によるフォロー、「再骨折予防手帳」の活用を行っているという。そして、これらの取り組みにより、「手術待機日数は平均1.6日(全国平均4.2日)、在院日数は平均19.6日(全国平均36.2日)と短縮されたほか、患者1人あたりの平均入院総医療費も全国平均に比べ少なくなっている」と成果を語った。運動で防ぐ骨折、再骨折 次に大腿骨近位部骨折とロコモについて触れ、「『大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン 改訂第2版』では、骨折の原因となる転倒予防に運動療法は有効(Grade A)となっている。開眼片脚立ちなどのロコトレを行うことで、骨粗鬆症予防と転倒予防に役立つと学会では推奨している」と説明。また、全国で行われている骨折予防の取り組みとして患者向けに「再骨折予防手帳」の発行、患者の退院後のフォローを専門スタッフが行う「骨折リエゾンサービス」の実施や地域連携として「骨粗鬆症地域連携手帳」の発行の取り組みなどを紹介した。 最後に同氏は、「将来、アジア地域で骨折患者の爆発的な発生も予想される。今のうちから各国間で診療ネットワーク作りをして備えたい」と展望を語り、講演を終えた。

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第28回 空飛ぶ心電図~患者さんの命を乗せて~(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第28回:空飛ぶ心電図~患者さんの命を乗せて~(後編)前回に引き続き、クラウドを利用した12誘導心電図伝送システムの救急現場での活用について、谷口先生にお話を伺います。2回シリーズの後編は、やや非典型例も扱いつつ、プロジェクト成功の秘訣や苦労した点、課題、さらには今後の展望までDr.ヒロがズバッとインタビューします!◆聞き手:Dr.ヒロ(以下、ヒロ)◆ゲスト:谷口 琢也先生(以下、谷口)谷口 琢也氏京都府立医科大学医学部卒業。松下記念病院で心筋虚血(核医学)に関する薫陶を受け、2007年より国立循環器病センター心臓血管内科CCUに所属、モバイルテレメディシンシステムに触れる。2013年からは京都府立医科大学附属北部医療センターで心不全レジストリなどの臨床研究を主導すると共に、クラウド型12誘導心電図伝送システムを導入。2018年に京都大学大学院で臨床疫学の方法論を系統的に学び、現在、母校にて社会に還元できる臨床研究の推進に取り組む。医学博士、社会健康医学修士、総合内科専門医、循環器専門医、心血管カテーテル治療専門医を取得。趣味は美食探訪、得意な家事は皿洗い。(ヒロ)今回も谷口 琢也先生を迎え、京都府立医科大学附属北部医療センターで取り組まれた、救急現場におけるクラウド型心電図伝送システムについて教えていただきます。<質問内容>【質問1】心電図伝送の試みを開始しようと思ったキッカケはありますか?【質問2】この心電図伝送システムが適応された症例の原因疾患の内訳はどうでしょうか?【質問3】実際に伝送された心電図所見の内訳はどのようになっていますか?【質問4】急性冠症候群(ACS)/STEMI以外で有用と思われる病態はありますか?【質問5】心電図伝送システムが適用された症例のうち、急性冠症候群など「ではなかった」印象的な症例はありますか?【質問6】心電図はどこに保存しますか?カルテに取り込むのですか?【質問7】心電図伝送システムと電子カルテを紐付けしていますか?【質問8】伝送された心電図データの保存期間はありますか?【質問9】心電図伝送システムのハード面、ランニングコストや通信費用はどれくらいですか?【質問10】実際に病院が払うコストはどれくらいですか?【質問11】心電図伝送システムの長所は何ですか?【質問12】この心電図伝送システムが成果を上げることができた要因はなんですか?【質問13】実際の成果で学術論文になったものはありますか?【質問14】このシステム上で「正しい心電図をとる」ために救急スタッフ(救急隊)への指導や教育、啓蒙活動などの運用についての取り組みはありますか?【質問15】市町村や地域住民に向けた広報活動、そのほかメディアへの拡散はどのように行っていますか?【質問16】今後の方向性や新しい取り組みに関して、将来ビジョンを教えて下さい。【質問1】心電図伝送の試みを開始しようと思ったキッカケはありますか?(谷口)以前から病院前心電図の重要性を認識していました。この心電図伝送の試みは、地域の消防組合とタイアップして行っています。宮津与謝消防組合が管轄するエリアから北部医療センターへの救急搬送率は、ほぼ100%。病院派遣型救急ワークステーションが院内にあり救命救急士とも顔の見える関係なので、心電図伝送を用いた救急医療に地域として取り組みましょうということになったんです。(ヒロ)病院と地域の消防との間に普段から良好な関係があったからこそ、機運が高まったのですね。救急隊と病院の“1:1対応”というのも、心電図や患者をどこに送るか悩む必要がなく、プレホスピタル心電図伝送に適した状況ですよね。(谷口)2016年にトライアルを行い運用するメリットが確認できたため、2017年12月1日から本稼働することになりました。宮津与謝消防組合が有する救急車4台すべてにシステムを搭載して運用を開始しました。【質問2】この心電図伝送システムが適応された症例の原因疾患の内訳はどうでしょうか?(谷口)約半数が循環器疾患です(図1)。(図1)心電図伝送システムの適応疾患と詳細画像を拡大する(ヒロ)心電図をとる範囲を広く設定しても、やはり半数は心疾患なのですね。胸と“みぞおち”(心窩部)を含むので肺とか胃腸疾患が入ってくるのも納得です。【質問3】実際に伝送された心電図所見の内訳はどのようになっていますか?(谷口)円グラフで示しました(図2)。これも前回お話した2017年の152例のデータです。STEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)は11例、類縁疾患を含むST上昇が14例(9%)、ST低下が13例(9%)です。(図2)伝送された心電図所見の内訳画像を拡大する(ヒロ)これも貴重なデータですね。心房細動も24例(16%)と多いですね。正常心電図が約3分の1(33%)な点も興味深いです。約半数を占める心外疾患の多くはここでしょうしね。【質問4】急性冠症候群(ACS)/STEMI以外で有用と思われる病態はありますか?(谷口)この疾患(病態)というのは明確に言えない面もありますが、もしかしたら心室頻拍(VT)や心室細動(VF)も検出できるかもしれないですね。(ヒロ)不整脈ですね。心房細動・粗動や発作性上室性頻拍などは、救急要請がなされても病院に到着する前に停止してしまっていることも、しばしばです。現着後間もない心電図を記録することで、動悸などの“原因”が分からずじまいという、もどかしい状況が減るかも知れませんね。【質問5】心電図伝送システムが適用された症例のうち、急性冠症候群など「ではなかった」印象的な症例はありますか?【症例】84歳、男性。【主訴】胸部絞扼感、倦怠感、呼吸苦【現病歴】高血圧症で内服中。COPDによる入院歴あり。ADLは自立。2017年12月X日、昼食時にお茶を飲むときにむせて、その直後から強い喘鳴を伴う呼吸苦と胸部絞扼感が出現したため、救急搬送となった。【身体所見】脈拍数:91/分・整、呼吸数25/分、血圧220/93mmHg、酸素飽和度89%(マスク8L/分)(ヒロ)なるほど。食事中に出現した呼吸苦と胸部しめつけ感ですね。この方の伝送心電図はどのような波形を示していたのでしょうか?(谷口)以下に示します(図3)。心拍数は100弱/分で右軸偏位、不完全右脚ブロック、一部にST変化もあります。(図3)伝送された12誘導心電図画像を拡大する(ヒロ)これも同時相、5秒間の心電図ですね。前回のSTEMI症例よりはノイズが目立ちますが、十分に評価できるレベルですね。5拍目に心房期外収縮(PAC)もありますね。ほかには時計回転の所見も指摘したいですね。先生ご指摘の所見も含めて右心系負荷を考えたくなります。酸素飽和度も低いようですが、原因は何だったのですか?(谷口)気胸でした。痛みで著明な高血圧と心不全も呈していました。(ヒロ)確かに、そう言われると、胸部誘導は上から下までR波がほとんど増高していませんね。そうか!よく心電図の教科書でも取り上げられている「左」の気胸ですか、これは?(谷口)いえ、実際は「右」気胸でした。(ヒロ)なるほど。勉強になります。COPDもあるようですから、自然気胸以外にお茶でむせた時にブラが破裂した可能性なんかもあるんですかね。病院に以前の記録があったら比べたいですが…。図3のような心電図では、このほかに肺塞栓症や肺炎も大事な鑑別疾患ですね。(谷口)もちろん、気胸は伝送心電図だけで診断するものではないですが、ACS以外でも有用な情報を与えてくれることがある、という一例でした。【質問6】心電図はどこに保存しますか?カルテに取り込むのですか?(谷口)本システムでは、心電図はクラウドに保存され、電子カルテには取り込まれません。しかし、電子カルテにプレホスピタルの情報として入れている施設があると聞いています。【質問7】心電図伝送システムと電子カルテを紐付けしていますか?(谷口)心電図データは電子カルテに紐付けされないので、管理はわれわれ医師がしています。(ヒロ)場合によっては、紙ベースで印刷した物を残したり、スキャンしたりでしょうかね。【質問8】伝送された心電図データの保存期間はありますか?(谷口)受信側の病院は1週間、送信側の救急隊は1ヵ月(30日間)、データを見ることができます。【質問9】心電図伝送システムのハード面、ランニングコストや通信費用はどれくらいですか?(谷口)費用は施設ごとに異なる可能性もありますが、初期費用として心電計、伝送用のタブレット端末やスマートフォンの購入費用が必要です。メンテナンス費用には各機材の保証も含まれているので、タブレットが割れても大丈夫です。レンタルプランもあるようです。【質問10】実際に病院が払うコストはどれくらいですか?(谷口)救急車4台すべてに心電計を搭載し、この費用は市町と病院が半分ずつ負担して運用しています。【質問11】心電図伝送システムの長所は何ですか?(谷口)このシステムの長所は、何よりもDoor To Balloon Time(DTBT)を短縮し、予後改善できるということだと思います。(ヒロ)前回提示いただいた症例もそうでしたね。どのプロセス・時間が短縮できているのでしょうか?(谷口)ACSが疑われたらカテラボを立ち上げる1)のが重要ですが、そこに時間がかかります。その準備時間を短縮できることが重要だと思います。peak CK、壊死心筋量を少なくするとよく言われますが、VT/VFのリスクにさらされる時間が減ることも予後改善につながっているのではと考えています。(ヒロ)DTBT短縮は、保険診療上のメリットもあると聞きますが…。(谷口)はい。平成26年度の診療報酬改定から、急性心筋梗塞に対して冠動脈インターベンション(PCI)を行った場合、DTBTが90分以内では10,000点が加点できます(症状発現後12時間以内の来院症例)。1)カテ室のセットアップと各部署(看護師、放射線技師、臨床工学技士など)への連絡や人員確保のこと【質問12】この心電図伝送システムが成果を上げることができた要因はなんですか?(谷口)いくつかあると思いますが、北部医療センターは丹後医療圏で唯一、救急の受け入れを断らない病院であり、競合病院も少ないため救急隊が搬送先に悩む必要がない点です。(ヒロ)救急応需率100%は素晴らしいですね。しかも“1:1対応”というか、行く先が決まっている点も好都合ですね。これは都心部ではなかなか難しい点ですかね。消防組合との関係性も良好だったのですね。(谷口)ええ。また、院長の働きかけにより市町から援助・協力をいただけ、そして何より院内の風通しが良く、救急科やコメディカル・スタッフのおかげでシステム導入にあたってのハードルが低かった点でしょうか。【質問13】実際の成果で学術論文になったものはありますか?(谷口)われわれの成果は、まだ論文として報告していないのですが、12誘導心電図伝送の“SCUNA”(スクナ)というシステムからは論文が3報出ていると聞いています2)、3)、4)。(ヒロ)ぜひとも谷口先生グループの成果も、論文で読んでみたいです。2:Takeuchi I, et al. Int Heart J. 2013;54:45-47.3:Takeuchi I, et al. Int Heart J. 2015;56:170-173.4:Yufu K, et al. Circ Rep. 2019;1:241-247.【質問14】このシステム上で「正しい心電図をとる」ために救急スタッフ(救急隊)への指導や教育、啓蒙活動などの運用についての取り組みはありますか?(谷口)本システムでは、救急隊員が現場で患者に接触、心電図を取る必要があるかを判断して、はじめて伝送が行われるシステムです。ですから、救急隊員の意識を高めることはとても重要です。北部医療センターでは、月に1回、救急隊員と救急室ナース、われわれ循環器医などが集まって「心電図伝送症例を見直す会」というのを開催しています。(ヒロ)ブラボー! 関係スタッフみんなで良い意味での「反省会」をしているのですね。年150症例とのことでしたから、毎月12~13件ですかね。(谷口)ええ。心電図伝送がどれだけ有効であったのかを現場にフィードバックすることで、救急隊の方々も自分のしている行為がどれだけ現場に還元できているのかを、身を持って感じることができるはずです。その結果、12誘導心電図をもっと知りたい、講義をして欲しいという意識が高まり地域としても非常に良いと思います。【質問15】市町村や地域住民に向けた広報活動、そのほかメディアへの拡散はどのように行っていますか?(谷口)本システムの導入にあたり、新聞社などから取材を受けました。また、NHK京都放送局が取り組みに対する特集を組んでくれたおかげで、それがメディアに流れ非常に反響が大きかったというのがあります。【質問16】今後の方向性や新しい取り組みに関して、将来ビジョンを教えて下さい。(谷口)今実施している地域のみならず、近隣にも範囲を拡充し、もう少し広いエリアで本システムを導入したいと考えています。具体的には京丹後市の隣接地域がすべて網羅できれば、丹後医療圏という二次医療圏すべてにおいて包括的にこのシステムを導入できるので、それができれば理想かなと考えています。(ヒロ)まずは二次医療圏の制覇ですね。都市部への展開も魅力的ですが、要請数や医療施設数も多く、一筋縄ではいかなそうです。(谷口)もう一つの可能性として、このシステムは心電図のみならず、動画情報も送ることができます。身体所見、外表面の状況という現場の緊迫感も含めて伝送することで、病院にいる医師の受け入れ体勢の改善や準備、診断への時間短縮にもつながるので、そのような方向での応用も考えています。(ヒロ)心臓病以外の疾患にも使っていく方向性はどうですかね。具体的には、時間との戦いである脳卒中とか、交通外傷や災害医療トリアージなどにも使えそうですね。前編・後編の2回に分けて、救急現場でのクラウド型12誘導心電図伝送システムの有用性についてお話いただき、非常に魅力的なインタビューとなりました。国内の救急医療において、こうしたシステムが都心・地方を問わず“どこでも”、そして“当たり前”に使われる日は意外にそう遠くはないのかもしれません。谷口先生、どうもありがとうございました!1)The firefighter. 近代消防社;2018.p.100-105.【古都のこと~松花堂弁当のルーツ~】皆さんは「松花堂弁当」を聞いたこと、あるいは食したことがありますか? ご推察の通り、前回紹介した松花堂にルーツがあるそうです。松花堂(八幡市)で隠居していた僧昭乗は、内側を十字型に区切った「四つ切り箱」を煙草盆や絵具箱として用いていました。もとは農家の種入れ器だったようで、斬新なセンスの光る自己流アレンジでしょうか。そして時は流れ昭和初期、茶会に登場した“昭乗箱”にピンときた主が湯木貞一*に同器を用いた茶懐石弁当の創作を命じたそうです(西田幾多郎ら)。それはいつしか「松花堂弁当」と呼ばれるようになり、今ではちょっと高級な和食弁当の代名詞にもなっています。洗練された見た目の美しさに加えて、パーテーションの存在が各料理の味・香り・温度を別々に供する実用性を提供しています。京都吉兆はボクお気に入りの市外おもてなしスポットですが、至高の景観を前に由縁を知って松花堂店で食す弁当は格別でした。*:のちに料亭「(京都)吉兆」の創始者となった。

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インフルエンザ増加傾向、例年比較で「かなり多い」~感染研

 国立感染症研究所が8月30日付でまとめた感染症週報(8月12~18日)によると、全国の指定された医療機関(定点)約5,000ヵ所から報告されたインフルエンザの報告数が3週連続で増加しており、過去5年の同時期(前週、当該週、後週)と比較して「かなり多い」数値だった。 全国総数では定点当たりで0.23(報告数:1,075)となり、都道府県別に見ると、沖縄県で突出して多く(定点当たり:12.26)、次いで愛媛県(同:0.38)、福島県(同:0.28)となっている。 このほか、今夏各地で流行した手足口病やRSウイルスなどの主な小児科定点報告疾患については、軒並み減少傾向。一方で、マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数が2週連続で増加している。都道府県別では、北海道(定点当たり:0.65)、大阪府(同:0.50)、栃木県(0.43)で報告数が多かった。

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食道アカラシアに対する内視鏡的筋層切開術(POEM)はバルーン拡張術より優れている(解説:上村直実氏)-1100

 下部食道の良性狭窄により食物の通過障害、嘔吐、胸痛、誤嚥性肺炎などを生じる疾患である食道アカラシアの原因は下部食道のアウエルバッハ神経叢の変性消失と考えられている。治療法として薬物療法、内視鏡的バルーン拡張術、ボツリヌス菌毒素局注療法、外科的治療として腹腔鏡下Heller手術などが行われていたが、2008年に経口内視鏡を用いて食道の筋層切開を行い、食道アカラシアの狭窄を改善する内視鏡的筋層切開術(POEM)が現日本消化器内視鏡学会理事長である井上晴洋氏により開発された。その後、2012年から先進医療として施行された後、2016年に保険収載され、手術例数はわが国で2,000例以上、世界中では3,000例に達している。 わが国の臨床現場では、食道アカラシアに対する治療法として侵襲性が低いと考えられている内視鏡的バルーン拡張術が頻用されているが、今回、バルーン拡張術とPOEMのアカラシアに対する有用性と安全性を比較検討した無作為比較試験(RCT)が海外の6施設において施行された結果がJAMAに掲載された。主要アウトカムとされた狭窄症状スコアの改善が治療終了2年後のみでなく3ヵ月後および1年後においてもPOEM群のほうがバルーン拡張群に比べて有意なスコア改善を示した。それだけでなく、安全性に関してもバルーン拡張群でみられた重篤な有害事象である食道穿孔はPOEM群で認められなかった。臨床現場で問題となる術後の逆流性食道炎がPOEM群のほうに多くみられていることから、POEM後の胃食道逆流症に対する対策が課題であると思われた。 最後に、このPOEMがわが国で初めて開発された素晴らしい内視鏡的治療技術であるにもかかわらず、その臨床的有用性を科学的に証明する最初の臨床研究(多施設共同の介入試験)を本邦で行うことができずに海外から報告されたことは問題である。新たな診療技術の開発に加えて、その技術の臨床的有用性や安全性を検証する臨床研究を実践する体制を構築することが本邦の課題である。

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ASCO2019レポート 消化器がん(肝胆膵)

レポーター紹介ASCO会場のメインの通りに掲げられたテーマ2019年度のASCOが、2019年5月31日~6月4日の5日間、今年もシカゴのマコーミックプレイスにて開催された。毎年同じ開催場所である。今年のテーマは「Caring for Every Patient, Learning from Every Patient」で、患者のためのケア、患者から学ぶことを重要視した学会であった。そして、今年の肝胆膵領域の発表はOral presentationも多く、Plenary sessionで採択された演題もあり、非常に興味深い発表が多かった年で、いわゆる豊作の年となった。膵がんPOLO試験今回のASCOで、肝胆膵領域の最も注目すべき演題は、膵がんに対するPARP阻害薬であるオラパリブのPOLO試験であろう。生殖細胞系(Germline)BRCA1またはBRCA2の変異を有する転移性膵がん患者に対して、1次治療としてプラチナ製剤を含む化学療法を16週以上行い、抗腫瘍効果でCR、PRまたはSDが得られ、増悪を認めていない患者を、オラパリブ300mgを1日2回内服する群と、プラセボを内服する群に3:2にランダムに割り付けて、がんの増悪または忍容できない有害事象を認めるまで治療を継続した。主要評価項目は、RECIST v1.1での中央判定による無増悪生存期間であった。オラパリブ群に92例、プラセボ群に62例がランダム割り付けされた。主要評価項目である無増悪生存期間(中央値)はオラパリブ群7.4ヵ月、プラセボ群3.8ヵ月で、ハザード比は0.53(95%信頼区間[CI]:0.35~0.82)であり、有意に良好な結果(p=0.0038)が示された。生存期間はまだ十分に経過観察しえた結果ではないが、中央値でオラパリブ群18.9ヵ月、プラセボ群18.1ヵ月であり、ハザード比も0.91(95%CI:0.56~1.46)と有意な差は認めなかった(p=0.68)。有意差を認めなかった理由として、プラセボ群の後治療でPARP阻害薬を投与された患者が14.5%存在するなどの後治療の影響や十分な経過観察ができていないことが指摘されていた。有害事象は、疲労、悪心、下痢、腹痛、貧血、食欲低下などで、Grade 3以上の有害事象は貧血と疲労であり、忍容性は良好と判断された。また、プラチナ製剤に特有の末梢神経障害はあまり認めないことが、プラチナ製剤投与後の維持療法として使用するうえで好ましい点のように思われた。今後、BRCA1または2の遺伝子変異を有する膵がん患者には、まずプラチナ製剤を含むレジメン、たとえば、FOLFIRINOXやゲムシタビン+シスプラチンなどによる治療を開始し、4ヵ月以降でSD以上の抗腫瘍効果が得られていたら、維持療法としてオラパリブを投与することが標準治療になるものと思われる。本試験の結果は、日本では明日からの診療につながる話ではないが、その体制整備をしておく必要がある。まず、germline BRCA1/2を調べることから始まる。初回治療開始前にgermline BRCA1/2の変異の有無を調べてから結果が戻ってくるまでの時間を考慮すると、診断の早い段階で同意を取ったうえで、採血の検査をオーダーする必要がある。また、生殖細胞系変異を見つけることは、すなわち遺伝カウンセリングの体制整備が重要になる。日本は本試験に参加しておらず、われわれ肝胆膵領域の臨床腫瘍医にPARP阻害薬の経験が乏しいことが問題点であり、十分にPARP阻害薬のマネジメントに精通しておく必要がある。また、germline BRCA1/2の変異は膵がん患者の4~7%と言われており、プラチナ製剤とオラパリブが有効な対象はまだまだ限られた対象であることも理解しておくことが必要である。Plenary sessionの会場の光景:全部でモニターが12台、演者がかなり遠くに見える。このASCOのPlenary sessionは何千人入るかわからないほどの巨大な会場で行われた。今回も、巨大なモニターが会場内に12台設置され、椅子も所狭しと並んで、聴衆が間を開けることなくぎっしり座っていた。そこに、Prof Kindlerのゆっくりと丁寧な言葉で発表が進んだ。そんな巨大な会場で発表が行われている最中に、メールの配信で、New England Journal of MedicineからPOLO試験の論文掲載の案内が届き、まさに学会と論文の同時発表であり、ここまでタイムリーな対応に驚きを隠せない状況であった。発表が終わってからは拍手喝采が鳴りやまず、まさに圧巻で、一見の価値のある光景であった。APACT試験膵がんにおけるもうひとつの注目演題は、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の補助化学療法であるAPACT試験である。膵がん切除後の補助療法としては、日本ではS-1による補助療法が主流であるが、海外ではゲムシタビンが汎用され、近年、ゲムシタビン+カペシタビンやmodified FOLFIRINOXなども使用されている。進行膵がんにおいて、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルの高い有効性が示されていることから、膵がん切除後の補助療法としても期待され、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法とゲムシタビン単独療法を比較した第III相試験が計画された。R0または1の切除後の膵がん患者をゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法とゲムシタビン単独療法に1:1にランダムに割り付けて行われた。主要評価項目は無病生存期間、副次評価項目は全生存期間、安全性であった。全世界から866例が登録され、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法に432例、ゲムシタビン単独療法に434例がランダムに割り付けされた。主要評価項目である中央判定による無病生存期間(中央値)は、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法群が19.4ヵ月、ゲムシタビン単独群が18.8ヵ月であり、ハザード比0.88(95%CI:0.729~1.063)、p=0.1824と有意差が示されなかった。しかし、担当医判断の無病生存期間(中央値)で、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法群が19.4ヵ月、ゲムシタビン単独群が16.6ヵ月であり、ハザード比0.82(95%CI:0.694~0.965)、p=0.0168と有意差が示された。また、副次評価項目である全生存期間(中央値)もゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法群が40.5ヵ月、ゲムシタビン単独群が36.2ヵ月であり、ハザード比0.82(95%CI:0.680~0.996)、p=0.045と有意差が示された。ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の安全性はこれまでの報告と違いはなかった。本試験はプラセボコントロールの試験ではないため、中央判定の無病生存期間が主要評価項目に用いられたが、膵がん切除後の再発判定は非常に難しく、担当医は全身状態や腫瘍マーカーなどから総合的に判断できるため、中央判定よりも担当医のほうが早期に再発を指摘しえたのかもしれない。プラセボコントロールで、担当医判断の無病生存期間が主要評価項目であったら、Positiveな結果であっただけに非常に惜しい試験である。肝細胞がん肝細胞がんにおいて注目された演題は、肝切除とラジオ波焼灼術(RFA)を比較したSURF試験、ソラフェニブに不応/不耐の肝細胞がんに対する2次治療としてペムブロリズマブとプラセボを比較したKEYNOTE-240試験である。ともに有意な結果は示されなかったが、日常診療に大きなインパクトを与える試験であった。また、進行がんに対する有望な薬物療法として、ニボルマブ+イピリムマブの併用療法の結果が報告された。SURF試験3cm、3個以下の小肝細胞がんに対して、肝切除とRFAのどちらが良いかは長年のClinical questionであった。これまでも4試験ほど、ランダム化比較試験の結果が報告されているが、切除が良好という結果や両者変わりないという結果など、一定の見解は得られていない。今回、日本から301例という症例数も多く、質も良好な試験の結果が報告された。初回の肝細胞がんで腫瘍径3cm以下、腫瘍数3個以下で、Child-Pugh 7点以下の20~79歳までの患者600例を目標に肝切除とRFAにランダムに割り付けた比較試験が行われた。主要評価項目は無再発生存期間、全生存期間であり、RFAに比べて肝切除の優越性を検証する試験デザインであった。2009年4月より登録を開始したが、2016年2月の段階で300例しか登録ができておらず、データモニタリング委員会から中止勧告が出され、登録は中止となった。最終的には、切除群150例、RFA群151例が適格で、解析対象となった。両群の患者背景に有意差は認めなかった。無再発生存期間(中央値)は、肝切除群2.98年、RFA群2.76年、ハザード比0.96(95%CI:0.72~1.28)で、p=0.793であり、肝切除の優位性は示されなかった。また、両群ともに死亡例は認めなかったが、入院期間や治療時間はRFA群が有意に良好であった。3cm以下の小肝細胞がんに対して、肝切除とRFAの無再発生存期間はほぼ同等であったと結論された。この発表のDiscussantは、これまでにランダム化比較試験が5試験行われたが、3cm以下、単発の腫瘍に関しては、ほぼRFAの非劣性が示されたと考えてよいだろうと。3cm以上や多発する場合には肝切除が選択肢になるであろうと。そして、患者登録も困難になることから、今後、同様のランダム化比較試験を行うべきではないだろうとまとめていた。長年、論争になっていた肝切除とRFAの比較にひとつの区切りがつけられたように思われた。KEYNOTE-240ソラフェニブ不応/不耐の肝細胞がん患者に対するペムブロリズマブとプラセボを比較した第III相試験の結果が報告された。肝細胞がんに対して初めての免疫チェックポイント阻害薬の第III相試験の結果であり、非常に注目された。対象は、ソラフェニブに不応/不耐の肝細胞がん患者で、Child-Pugh Aで測定可能病変を諭旨、門脈本幹腫瘍栓のない患者で、ペムブロリズマブ200mg/回を3週ごとの投与とプラセボに2:1に割り付けて投与する第III相試験である。主要評価項目は全生存期間と無増悪生存期間の2つであり、全生存期間はp値が0.0174未満で有意に、無増悪生存期間はp値が0.0020で有意になる設定であり、通常のp値が0.05未満よりは厳しい設定であった。ペムブロリズマブ群に278例、プラセボ群に135例が登録された。主要評価項目の全生存期間(中央値)は、ペムブロリズマブ群で10.6ヵ月、プラセボ群で10.6ヵ月、ハザード比は0.781(95%CI:0.611~0.998)で、p値は0.0238と当初設定した0.0174を下回らず、有意な結果は得られなかった。また、無増悪生存期間(中央値)は、ペムブロリズマブ群で3.0ヵ月、プラセボ群で2.8ヵ月、ハザード比は0.718(95%CI:0.570~0.904)で、p値は0.0022と当初設定した0.0020を下回らず、こちらも有意な結果は得られなかった。奏効割合はペムブロリズマブ群で18.3%、プラセボ群で4.4%であり、第II相試験(KEYNOTE-224)と同様に有意差が認められ(p=0.0007)、奏効期間(中央値)も13.8ヵ月とともに良好であった。有害事象はこれまでの報告と同様であった。本療法の後治療として、プラセボ群で47.4%と非常に高率で、抗PD-1/PD-L1抗体による治療が10.4%も含まれていた。本試験は、統計学的に有意差がついていそうな試験結果であったが、主要評価項目は達成しておらずNegativeな結果となった。この発表のDiscussantは、試験としてはNegativeであったが、マルチキナーゼ阻害薬に忍容性がないような患者に、2次治療の日常診療で抗PD-1抗体を継続することは問題ないであろうとコメントしており、有効性は評価していた。今後、中国を中心に行っているペムブロリズマブとプラセボの比較試験(KEYNOTE-394)の結果も参考にして、今後の本薬剤の承認までの方向性を検討することが必要であろうと結論づけた。また、今後の開発の方向性として、VEGF阻害薬との併用療法であるベバシズマブ+アテゾリズマブ、レンバチニブ+ペムブロリズマブの併用療法も期待されており、定位放射線やRadioembolization、肝動脈化学塞栓療法との併用療法の可能性なども示唆していた。会場入り口の階段にはWelcomeの文字がこの結果を受けて、1次治療としてのニボルマブとソラフェニブを比較した第III相試験の結果が期待されたが、2019年6月24日に本第III相試験も主要評価項目を達成しなかったことがプレスリリースされ、残念ながら免疫チェックポイント阻害薬単剤の結果は肝細胞がんにおいては厳しいものとなった。CheckMate-040ソラフェニブに不応/不耐の肝細胞がん患者を対象として、ニボルマブとイピリムマブの推奨投与量を決定する第I/II相試験が発表された。A群はニボルマブ1mg/kg+イピリムマブ3mg/kgを3週ごとに4回投与後、ニボルマブ240mg/bodyの固定用量にて2週ごとの投与を継続し、B群はニボルマブ3mg/kg+イピリムマブ1mg/kgを3週ごとに4回投与後、ニボルマブ240mg/bodyの固定用量にて2週ごとの投与を継続、C群はニボルマブ3mg/kgにて2週ごと、イピリムマブ1mg/kgにて6週ごとに投与を継続した。どの群もがんの増悪または忍容できない有害事象が出現するまで、投与を継続した。奏効割合はA群32%、B群31%、C群31%であり差は認めなかったが、生存期間(中央値)は、A群22.8ヵ月、B群12.5ヵ月、C群12.7ヵ月と、A群で良好であった。主な有害事象は、掻痒、皮疹、下痢、AST上昇などであり、免疫関連有害事象は、皮疹、肝障害、副腎不全、下痢、肺炎などであった。A群の有害事象はやや高率に認めていたが、忍容性は十分と判断され、A群(ニボルマブ1mg/kg+イピリムマブ3mg/kg)が推奨投与量と考えられた。ソラフェニブに不応/不耐の患者に対する良好な治療レジメンの登場により、今後、本レジメンの開発の動向が気になるところである。胆道がん胆道がんにおいて最も注目された演題は、ゲムシタビン+シスプラチン(GC)療法の2次治療として、mFOLFOXと症状コントロールのみを比較したABC-06試験である。この結果は、長らく胆道がんにおける2次治療は確立していなかったのだが、mFOLFOXが2次治療の標準治療として確立することになった。ABC-06対象は、GC療法後に増悪を認めた進行胆道がん患者で、増悪を認めてから6週以内でPSが0または1で、臓器機能が保たれている患者を、A群:積極的な症状コントロールを行う群とB群:積極的な症状コントロールに加えて、mFOLFOXを行う群にランダム割り付けされた。主要評価項目は全生存期間であり、層別化因子は、1次治療のGC療法のプラチナ感受性があったかどうか、アルブミンが35g/L以上か未満か、局所進行か転移性か、であった。主要評価項目である全生存期間において、B群:mFOLFOX群は有意に良好な生存期間を示した(生存期間中央値、6ヵ月と12ヵ月生存割合:A群 5.3ヵ月、35.5%、11.4%、B群 6.2ヵ月、50.6%、25.9%、ハザード比0.69、95%CI:0.50~0.97、p=0.031)。1次治療のGC療法のプラチナ感受性別に検討したサブグループ解析では、プラチナ製剤に感受性がある群のみならず、プラチナ抵抗性のグループでも有意な差が認められ、プラチナ感受性にかかわらず、mFOLFOXは有用であることも示された。mFOLFOXの奏効割合は5%、病勢制御割合は33%、無増悪生存期間(中央値)は4.0ヵ月であった。また、主なGrade 3以上の有害事象は疲労、好中球減少、感染症などであり、忍容性は良好と判断された。GC療法後の2次治療として初めて延命効果を示した治療法であり、今後、標準治療として位置付けられることになるであろうと結論づけられた。Discussantも治療効果が高いわけではないが、新しい標準治療になるであろうと結論づけている。ただし、胆道がんではさまざまな治験や臨床試験が進行中である。1次治療として、化学療法+/-免疫チェックポイント阻害薬の併用療法や、GCにナブパクリタキセルの併用療法、mFOLFIRINOX療法などの3剤併用療法の開発が進行中であり、また、IDH1やFGFR、homologous Recombination Deficiencyなど遺伝子異常に基づいた分子標的治療薬の開発などが進行中であり、これらの動向にも注目する必要がある。まとめASCO2019では、膵がんに対してのゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法が補助療法としてはNegativeな結果であったが、PARP阻害薬が登場した。肝細胞がんでは、ペムブロリズマブの残念な結果が報告されたが、ニボルマブ+イピリムマブにおいて有望な結果が報告され、期待されている。また、切除とRFAは同等の治療成績であることが明らかになり、よりRFAが選択されるようになるかもしれない。そして、胆道がんではmFOLFOXが2次治療における標準治療として位置付けられており、日本もmFOLFOXを承認してもらうような準備が必要である。そのほかにも有望な治療法の開発が進行中であり、肝胆膵領域の化学療法の開発も活気づいており、海外に遅れをとらないように開発を進めていく必要がある。

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関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」【下平博士のDIノート】第30回

関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「ペフィシチニブ臭化水素酸塩(商品名:スマイラフ錠50mg/100mg)」を紹介します。本剤は、1日1回の服用でJAKファミリーの各酵素(JAK1/2/3、チロシンキナーゼ2[TYK2])を阻害し、関節リウマチによる関節の炎症や破壊を抑制します。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年7月10日より発売されています。なお、過去の治療において、メトトレキサート(MTX)をはじめとする少なくとも1剤の抗リウマチ薬などによる適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与します。<用法・用量>通常、成人はペフィシチニブとして150mg(状態に応じて100mg)を1日1回食後に投与します。なお、中等度の肝機能障害がある場合は、50mg/日を投与します。<副作用>後期第II相試験、第III相臨床試験2件および継続投与試験の4試験における安全性併合解析において、本剤が投与された患者1,052例中810例(77.0%)に副作用が認められました。主な副作用は、上咽頭炎296例(28.1%)、帯状疱疹136例(12.9%)、血中CK増加98例(9.3%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、帯状疱疹(12.9%)、肺炎(ニューモシスチス肺炎などを含む)(4.7%)、敗血症(0.2%)などの重篤な感染症、好中球減少症(0.5%)、リンパ球減少症(5.9%)、ヘモグロビン減少(2.7%)、消化管穿孔(0.3%)、AST(0.6%)・ALT(0.8%)の上昇などを伴う肝機能障害、黄疸(5.0%)、間質性肺炎(0.3%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ヤヌスキナーゼという酵素を阻害することにより、関節の炎症や腫れ、痛みなどの関節リウマチによる症状を軽減します。2.持続する発熱やのどの痛み、息切れ、咳、倦怠感などの症状が現れた場合はすぐにご連絡ください。3.痛みを伴う発疹や皮膚の違和感、局所の激しい痛み、神経痛などが現れた場合は速やかに受診してください。4.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合には主治医に相談してください。5.(妊娠可能年齢の女性の場合)この薬を服用中および服用終了後少なくとも1月経周期は、適切な避妊を行ってください。6.本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>関節リウマチの薬物療法は近年大きく進展しています。関節破壊の進行抑制を含めた病態コントロールのため、発症初期にはMTXをはじめとする従来型疾患修飾性抗リウマチ薬(cDMARDs)が使用されます。MTXなどを十分量で用いても効果不十分な場合には、生物学的製剤であるTNF阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブなど)やIL-6阻害薬(トシリズマブなど)、T細胞活性抑制薬(アバタセプト)、もしくは低分子標的薬であるJAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブ)が使用されます。本剤は、関節リウマチに用いる3剤目のJAK阻害薬で、JAK1、JAK2、JAK3およびTYK2を阻害し、関節の炎症や破壊を抑制します。生物学的製剤は点滴または皮下注射での投与となりますが、しばしば発疹などの投与時反応や注射部位疼痛が問題となることがあります。JAK阻害薬は経口投与のため、非侵襲性の治療を望む患者さんや自己注射が困難な患者さんであっても、好みや生活環境に合わせた治療を選択することができると期待されています。また、本剤は相互作用も少なく、1日1回投与であるため、高齢者でも使用しやすいと考えられます。留意点としては、中等度の肝機能障害を有する患者については投与量の制限があることが挙げられます。また、本剤は免疫反応に関与するJAK経路の阻害により、結核、肺炎、敗血症などの感染症リスクが増大する懸念があることから、既存のJAK阻害薬2剤と同様に、生物学的製剤や他のJAK阻害薬などの免疫を抑制する薬剤との併用はできません。承認時の臨床試験では、副作用として12.9%で帯状疱疹が報告されているので、とくに高齢の患者さんでは、使用前に帯状疱疹ワクチン接種の有無などについて確認し、服用後に帯状疱疹が現れる可能性について注意喚起をしておく必要があるでしょう。

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PD-1阻害薬のILD、GGOタイプは予後不良?/日本臨床腫瘍学会

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、非小細胞肺がん(NSCLC)に有効かつ持続的な効果をもたらすが、ICIによる間質性肺炎(ILD)は致死的となる場合もある。しかし、ILDの画像パターンと抗腫瘍効果、さらに患者の生存との関係は明らかになっていない。新潟大学の渡部 聡氏らはPD-1阻害薬治療患者によるILDの放射線学的特徴と臨床結果の後ろ向き観察試験を実施し、その結果を第17回日本臨床腫瘍学術集会で報告した。 2016年1月~2017年10月に、Niigata Lung Cancer Treatment Group(11施設)の診療記録から、1~3次治療でPD-1阻害薬投与を受けたNSCLC患者を評価した。ILDは各施設の担当医が診断し、画像データを元に独立した1名の放射線科医と2名の呼吸器科医がILDの画像分類を行った。リードタイムバイアスを最小限にするため、PD-1阻害薬開始43日時点(PD-1阻害薬開始からILD発症までの中央値)でのランドマーク解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・231例がPD-1阻害薬治療を受けており、ILD発症は33例(14%)であった。・扁平上皮がんの割合はILD非発症群32%に対しILD発症群では52%とILD発症群で有意に高かった。組織型以外の患者背景は両群で同様であった。・ILD発症33例の画像パターンは、COP(cryptogenic organizing pneumonia-like)16例、GGO(ground glass opacities)16例、NOS(pneumonia not otherwise specified)1例であった。・ランドマーク解析による無増悪生存期間(PFS)中央値は、ILD発症群未達、ILD非発症群8.6ヵ月とILD発症群で有意に長かった(p=0.032)。・全生存期間(OS)中央値は、ILD発症群14.8ヵ月、ILD非発症群24.5ヵ月と両群間に差はみられなかった(p=0.611)。・ILDパターン別のOS中央値は、COP未達、GGO7.8ヵ月、NOS3.3ヵ月であり、COPとGGOの比較ではCOPで有意に長かった(COP対GGO、p=0.018)。・ILD発症後のOS中央値は、COP未達、GGO7.3ヵ月、NOS3.3ヵ月であり、COPとGGOの比較ではCOPで長い傾向にあった(COP対GGO、p=0.05)。 渡部氏らは、この試験の結果から、ILDのパターンとPD-1阻害薬治療後の予後に関連が示唆されるとの見解を示した。

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新型タバコで急性好酸球性肺炎になった人【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第144回

新型タバコで急性好酸球性肺炎になった人いらすとやより使用急性好酸球性肺炎(AEP)といえば、初めて喫煙をした若い男性が起こす強いアレルギー性肺炎で、末梢血や気管支肺胞洗浄液中の好酸球比率は数十%に及びます。全身性ステロイド投与によって著明に改善するので、予後は極めて良いです。呼吸器内科医としては、「初めての喫煙」というキーワードで必ず鑑別に挙げなければならない疾患です。基本的には燃焼式の紙巻きたばこによって起こるのですが、電子タバコや加熱式タバコでも起こりうるという症例が報告されています。Thota D, et al.Case report of electronic cigarettes possibly associated with eosinophilic pneumonitis in a previously healthy active-duty sailor.J Emerg Med. 2014;47:15-17.1例目はこれまで既往歴のない水兵さんです。電子タバコを吸った直後にAEPになり、ステロイドと抗菌薬で治療されました。海外の電子タバコは、日本では基本的に輸入以外では用いられず、加熱式タバコとは別物です。海外では、リキッドタイプのものが主流です。Arter ZL, et al.Acute eosinophilic pneumonia following electronic cigarette use.Respir Med Case Rep. 2019;27:100825.2例目は、電子たばこを吸い始めて2ヵ月目に呼吸不全で救急搬送された18歳女性です。ICUに入室するほどひどい状態でしたが、ステロイド投与してわずか6日目に退院したそうです。Kamada T, et al.Acute eosinophilic pneumonia following heat-not-burn cigarette smoking.Respirol Case Rep. 2016;4:e00190.3例目は、加熱式タバコによって起こった急性好酸球性肺炎の日本の症例報告です。加熱式タバコ開始から6ヵ月後に急性好酸球性肺炎を起こし、入院しました。加熱式タバコによる急性好酸球性肺炎は、実はこの症例が世界初の報告とされています。内因性に急性好酸球性肺炎を起こしやすい患者さんが、たまたま偶発的に新型タバコを始めた後に同疾患を発症したのかどうかは、疫学的研究を立案しないことにはわかりません。ですが呼吸器内科医としては、紙巻きタバコを止められないときの代替案として新型タバコを提示したくはないですね。

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アジア・アフリカの小児重症肺炎、原因はRSVが最多/Lancet

 肺炎は、5歳未満の子供の主要な死因とされる。米国・ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のKatherine L. O'Brien氏ら「Pneumonia Etiology Research for Child Health(PERCH)試験」の研究グループは、アフリカとアジアの子供を対象に、臨床所見と微生物学的所見を適用した最新の分析法を用いて検討を行い、入院を要する肺炎の多くはRSウイルス(RSV)などの少数の病原体群が主な原因であることを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年6月27日号に掲載された。7ヵ国の5歳未満を対象とする症例対照研究 研究グループは、アフリカとアジアの子供における肺炎の原因の解明を目的に、国際的な症例対照研究を実施した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成による)。7ヵ国(バングラデシュ、ガンビア、ケニア、マリ、南アフリカ共和国、タイ、ザンビア)の9施設が参加した。 患者登録は、2011年8月15日~2014年1月30日の期間に、各施設で24ヵ月をかけて行われた。症例は、重症または超重症肺炎で入院した生後1~59ヵ月の子供であった。対照として、各施設の周辺に居住する、年齢をマッチさせた子供を無作為に選択した。 培養法またはマルチプレックスPCR法、あるいはこれら双方を用いて、鼻咽頭および中咽頭(NP-OP)、尿、血液、誘発喀痰、肺吸引物、胸水、胃吸引物の検査が行われた。 主解析の対象は、HIV感染がなく、かつX線画像所見で異常がみられる症例と、HIV感染のない対照に限定された。ベイジアン法による部分潜在クラス分析を用い、症例と対照を合わせた個人および住民レベルの病原体の可能性を推定した。全体ではウイルスが多く、超重症例では細菌が多い、約3割がRSV 症例群4,232例および対照群5,119例が登録された。主解析には、HIV感染がなく、かつX線画像所見で異常がみられる症例1,769例(41.8%、女児44.0%)と、HIV感染のない対照5,102例(99.7%、49.7%)が含まれた。 喘鳴は、症例群の31.7%(555/1,752例)(施設別の範囲10.6~97.3%)に認められた。30日致命率(case-fatality ratio)は6.4%(114/1,769例)だった。 血液培養陽性率は3.2%(56/1,749例)であり、分離された細菌のうち最も頻度が高かったのは肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae、33.9%[19/56例])であった。 NP-OP検体のPCR検査では、ほとんどの症例(98.9%)および対照(98.0%)で、1種以上の病原体が検出された。NP-OP検体におけるRSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus)、ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus)、インフルエンザウイルス(influenza virus)、肺炎球菌(S. pneumoniae)、ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b:Hib)、H.インフルエンザ菌非b型(H. influenzae non-type b)、ニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)の検出は、症例の病態と関連した。 病原体分析では、原因の61.4%(95%信用区間[CrI]:57.3~65.6)がウイルスであったのに対し、細菌は27.3%(23.3~31.6)で、結核菌が5.9%(3.9~8.3)であった。一方、超重症肺炎では、重症肺炎に比べウイルスが少なく(54.5%、95%CrI:47.4~61.5 vs.68.0%、62.7~72.7)、細菌が多かった(33.7%、27.2~40.8 vs.22.8%、18.3~27.6)。 全病原体のうち、最も病因割合(aetiological fraction)が高かったのはRSV(31.1%、95%CrI:28.4~34.2)であった。また、ヒトライノウイルス、ヒトメタニューモウイルスA/B、ヒトパラインフルエンザウイルス、肺炎球菌、結核菌、H.インフルエンザ菌は、病因分布が5%以上であった。 年齢によって病因割合に差がみられた病原体として、百日咳菌(Bordetella pertussis)、パラインフルエンザ1/3型、パレコウイルスおよびエンテロウイルス(parechovirus-enterovirus)、P.イロベチイ、RSV、ライノウイルス、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎球菌があり、重症度に差がみられた病原体として、RSV、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、パラインフルエンザ3型が挙げられた。各施設の上位10種の病原体が、施設の病因割合の79%以上を占めた。 著者は、「今後の肺炎研究では、複数の病原体の関与と、肺炎の発症におけるそれらの一連の役割という困難な問題への取り組みが必要である」としている。

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Sepsisの4タイプの表現型の提唱とその評価(解説:吉田敦氏)-1077

 敗血症にはさまざまな症例が含まれ、臨床症状・徴候のスペクトラムは幅広い。このため臨床病型を分別し、より精確なマネジメントにつなげようとする試みはこれまで長く続けられてきた。2016年には「敗血症および敗血症性ショックの国際コンセンサス定義 第3版(Sepsis-3)」が発表され、定義も新しくなり、SOFA(PaO2/FiO2、血小板数、ビリルビン、平均動脈圧、Glasgow Coma Scale[GCS]、クレアチニン)・qSOFA(収縮期血圧、呼吸数、GCS)が導入されたが、このような試みはそれ以前からのものである。今回3個の観察コホート研究と3個のランダム化臨床試験(合計6個)から得られたデータを後方視的に解析することで、病型自体導出できるのか、できるならば病型はいくつか、導出された病型の妥当性・再現性はどうか、検討が行われた。 本研究はピッツバーグ大学を中心として行われたもので、この中にはSOFA・qSOFAの提唱に使われたSENECA試験も含まれている。6試験はそれぞれ特色を有するが、最も影響する因子は組み入れ基準(inclusion criteria:Sepsis-3のものもあれば、以前のSIRSを用いたものも、重症敗血症を来した肺炎のものもある)と場所(Emergency departmentのほか、ICUのみならず内科病棟も)であろう。導出されたタイプはα、β、γ、δの4種類であり、概して、αは異常値が少なく、臓器障害が少ないタイプ、βは慢性疾患を有する高齢者に多いタイプ、γは炎症関連バイオマーカーの上昇が大きなタイプ、δは乳酸値やトランスアミナーゼの上昇と低血圧を特徴とするタイプであった。炎症マーカーの上昇と凝固異常・血管内皮細胞の異常はγ・δで、腎障害のマーカーの異常はβ・δで、心血管および肝臓のマーカーの異常はδで多く、来院時のSOFAスコアと死亡率もやはりδで最も高かった。 興味深いのは、これら4タイプは生体側の免疫反応と深く関連している一方で、それぞれがさまざまな感染巣(focus)の患者を含んでおり、タイプの導出にも、菌血症の証明や、原因微生物の分類・種類、菌の侵入門戸を問うていない点である。微生物側の詳しい因子を含めることなく、導出されたこれら4タイプによる成績に、もし微生物側の因子も加えて解析したら、結果はどうであろうか。今回のような複数の大規模試験の集合であっても、どれほどの差が認められるか予測し難いところがあるが、それこそが臨床医が日常的に敗血症・菌血症例を診療する際に、「感染臓器」・「微生物」・「患者個々の背景・基礎疾患」の3因子を重ね合わせて考え、評価する、その思考プロセスに似てはいないだろうか。 本検討で得られた結論は、背景と重症度が異なる集団であっても、27以上のバイオマーカーから導出された4表現型が、再現性よく臨床的重症度・予後と相関するというものであった。臨床応用にはまだ距離はあろうが、たとえばバイオマーカーから4タイプを導出するプログラムを電子カルテに実装しておき、敗血症疑い例の初期評価の進行に同期させつつ、自動的に表示させるようにするのも、有用かもしれない。本検討の所見のさらなる評価の継続とともに、実用にもまた期待したいところである。

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ASCO2019レポート 消化器がん(Upper GI)

レポーター紹介今年のASCOも消化器がん領域では免疫チェックポイント阻害薬が主役であった。胃がん初回化学療法におけるペムブロリズマブの効果を検証したKEYNOTE-062試験の結果が報告された。また、ポスターセッションでは、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果をより高めるために、血管新生阻害薬との併用効果を検討したり、食道がん術前化学放射線療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用した試験が多く認められた。膵臓がんでは、gBRCA陽性患者に対するPARP阻害薬のメンテナンス治療の効果をみた試験の結果がプレナリーセッションで報告された。また、支持療法では、消化器がんで用いることが多い、50mg/m2以上のCDDPを使用する患者に対して、4剤併用の有効性を検証したJ-FORCE試験が報告された。LBA-4007 胃がん初回化学療法KEYNOTE-062試験(Non-colorectal, Oral presentation)胃がんにおける免疫チェックポイントの位置付けは、3次治療以降でのニボルマブの単剤投与であり、昨年報告されたKEYNOTE-061試験の結果では、2次治療としてのペムブロリズマブは、パクリタキセル単剤に対してCPS(Combined Positive Score:腫瘍細胞および腫瘍浸潤免疫細胞でのPD-L1陽性割合)が1%以上の胃がんでの優越性を示すことはできなかった。今回は初回化学療法例を対象に、5-FU(あるいはカペシタビン)+CDDP療法(C群)に対する、ペムブロリズマブ併用療法(C+P群)の優越性と、単剤療法(P群)の非劣性を検証したKEYNOTE-062試験の結果が報告された。対象はCPS 1%以上の切除不能再発胃がんで、763例が登録された。日本を含む東アジアからは約25%が登録され、欧州・米国・オーストラリアからの登録が約60%と多数を占めた。主要評価項目は4つあり、C群に対するP+C群の無増悪生存期間(PFS)の優越性(≧CPS 1)、全生存期間(OS)の優越性(≧CPS 1)および(≧CPS 10)、P群のOSでの非劣性(≧CPS 1)であった。C群とP群の比較においては、OS中央値、12ヵ月OS割合、24ヵ月OS割合は、C群とP群でそれぞれ11.1ヵ月と10.6ヵ月、46%と47%、そして19%と27%であり、HR:0.91(99.2%CI:0.69~1.18)と、HRの信頼区間の上限は、あらかじめ決めておいた非劣性マージン1.20を下回ったため、P群の非劣性が示された。探索的な検討であるが、≧CPS 10の患者群では、24ヵ月生存割合がC群とP群で22%と29%と、よりP群で良好な結果であった。しかし、PFS中央値は、C群とP群で6.4ヵ月と2.0ヵ月、12ヵ月PFS割合は19%と14%と、P群で不良な傾向であった。後治療はP群で52.8%実施されていることから、後治療を含めた治療により、長期生存が得られていると考えられた。C群とC+P群の比較では、OS中央値はC群とC+P群でそれぞれ11.1ヵ月と12.5ヵ月、12ヵ月OS割合は46%と53%、24ヵ月OS割合は19%と24%であり、HR:0.85(95%CI:0.70~1.03、p=0.046)と、統計学的に有意な生存期間の延長は認められなかった。驚いたことに、≧CPS 10の患者群でも両者のHRは0.85であり、より有効性が期待できる手段においてもC+P群の効果は変わらなかった。有害事象はいずれの群も許容される範囲内であった。まず、CPSにて対象を絞っても、他のがん種で示されているような、プラチナ併用初回化学療法に対する免疫チェックポイント阻害薬の併用効果が胃がんでは示せなかったこと、C+P群で思ったほど治療効果が持続していないこと、KEYNOTE-061試験で示されたCPSでの対象選択が、併用群では打ち消されていることなど、いくつかのポイントがクエスチョンとして挙がってくるが、今後の検討が必要である。非劣性が示され、CPS 1以上の胃がんでの初回化学療法の選択肢となりうるとされたペムブロリズマブも、効果のある症例は長く持続するが、半数の患者が2ヵ月で病勢進行を来している。従来の化学療法を受ける機会を逸しないためにも、対象は慎重に選択されるべきで、CPS 10以外にも効果のありそうな対象が絞り込める情報が必要である。また、薬剤コストの面についても問題が指摘されており、臨床的意義についてディスカッションが必要である。また、現在実施中である、ATTRACTION-4試験(胃がん初回化学療法SOX/XELOX±ニボルマブ)、CheckMate-649試験(胃がん初回化学療法XELOX/FOLFOX±ニボルマブ、およびニボルマブ+イピリムマブ)の比較試験の結果がどうなるのか、同じ結果なのか、異なる結果になるのか、大変興味深い。消化管がんに対する免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬、放射線療法の併用(Non-colorectal, Developmental therapeutics, poster)KEYNOTE-062試験の結果で、改めて消化管がんの研究者が思ったことは、胃がんは免疫原性が低い、CPSも堅牢なバイオマーカーではなく、化学療法との併用も微妙で、より強力な治療が必要、である。以前より、ニボルマブ(Nivo)とラムシルマブの併用が有効性を高めることが報告されていたり、肝細胞がんでのペムブロリズマブとレンバチニブとの併用で、奏効割合の改善が報告されたりしていたが、同様に、免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬の併用療法を検討した、Nivoとレゴラフェニブ(Rego)の併用Phase I試験の結果が報告された(#2522)。REGONIVO試験では、標準投与量のNivoにRegoを通常量の半量である80mgより併用し、毒性をみながら増量し安全性をみる試験である。Regoが腫瘍関連マクロファージ(TAM)を抑えることで免疫抑制状態を解除し、抗腫瘍効果を高めるということが報告されている。胃がん、大腸がんそれぞれ25例が登録されたが、Rego 80mgとRego 120mgのコホートでは用量制限毒性(DLT)を認めず、160mgへ増量された。160mgのコホートでは、3例中3例にDLT(皮膚毒性、蛋白尿、消化管穿孔)が認められ、また120mgのコホートでも継続投与にて頻繁にGrade3の皮膚毒性が認められたため、Rego 80mgが推奨投与量とされた。奏効割合はマイクロサテライト安定(MSS)大腸がんに対して36%、胃がんに対して44%と高い効果を認め、さらなる治療開発が期待されている。また、胃がん初回化学療法例に対して、XELOX療法に抗PD-1抗体であるcamrelizumabを併用し、4~6回投与した後、XELOXを休止、血管新生阻害薬であるapatinibとcamrelizumabの併用療法によるメンテナンスを行うPhase II試験(#4031)では奏効割合58.6%、食道扁平上皮がんの初回化学療法例に対するリポソーマルパクリタキセルと、ネダプラチンにcamrelizumabとapatinibの併用を評価したPhase II試験(#4033)では奏効割合80%と報告されている。いずれも併用により毒性が強くなるため、血管新生阻害薬の単剤での投与量を大幅に減量する必要があるが、有効性は、探索的な検討ながら、良好にみえる。さらなる結果を待って、使いどころを検討する必要がある。肺がんなど他がん腫ですでに示されている、放射線療法と免疫チェックポイント阻害薬の探索的な試験の結果が報告されている。韓国からは食道扁平上皮がんに対する術前化学放射線療法にペムブロリズマブを併用したPhase II(#4027)が報告された。病理学的完全奏効割合(pCR)は46.1%と高く、懸念された間質性肺炎は認められなかったが、手術症例26例中2例がARDSなどの肺障害により死亡しており、術前のペムブロリズマブの影響が懸念された。また食道胃接合部腺がんに対しては、欧米での標準治療の1つである術前カルボプラチン+パクリタキセル+放射線療法に、PD-L1抗体であるアベルマブを併用し、術後にもアベルマブを継続するPhase I/II試験(#4041)が行われ、7例のPhase I部分のみの発表であったが、重篤な毒性はなく、pCR割合も43%と比較的良好であった。また、術前化学放射線療法後に切除を行った食道胃接合部腺がんの術後にデュルバルマブを1年投与するPhase II試験(#4058)では、重篤な有害事象はないと報告されている。今後の免疫療法は、“併用療法”“周術期”といったところへシフトしていくと思われる。LBA4 膵臓がんに対するPARP阻害薬メンテナンス:POLO試験(Plenary session)PARP阻害薬であるオラパリブは、生殖細胞系列遺伝子のBRCA(gBRCA)に変異のある乳がんや卵巣がんに用いられているが、他がん腫での検討はまれである。POLO試験では、gBRCA1/2に変異のある進行膵がんに対してプラチナ併用化学療法を行い、進行がみられなかった患者をオラパリブとプラセボに割り付け、メンテナンス治療としての有効性をみた試験である。gBRCA1/2変異は、3,315例の患者をスクリーニングし、247例(7.4%)に認められ、うち、92例がオラパリブ群、62例がプラセボ群に割り付けられた。前治療はFOLFIRINOXが約80%と多く、治療効果も群間で差異はなかった。主要評価項目である無増悪生存期間中央値はオラパリブ群7.4ヵ月、プラセボ群3.8ヵ月であり、HR:0.53と有意に改善が認められた。生存期間を評価するにはイベントは不十分であるが、中央値オラパリブ群18.9ヵ月、プラセボ群18.1ヵ月と差を認めなかった。有害事象は予想されたものであった。また、すべてのサブグループにて同様の傾向であった。日本ではこの試験は実施されておらず、この結果が今後の日常診療にどのように取り込まれるのか、今後注目される。#11503 標準的制吐薬に対するオランザピンの上乗せ効果を検証したJ-FORCE試験(Symptom and Survivorship, Oral presentation)高度催吐性化学療法(Highly Emetogenic Chemotherapy:HEC)における標準制吐療法である、アプレピタント(APR)、セロトニン受容体拮抗薬、デキサメタゾン(DEX)にオランザピン(OLZ)10mgを併用することが遅発期の制吐に有効であることが証明されているが、眠気が問題点であった。この試験では予備的試験を行ったうえ、OLZ:5mgを試験治療群とし、プラセボ群に対する、遅発期(CDDP投与開始24時間後から120時間以内)の嘔吐完全抑制割合における優越性を検証した。705例が登録され、試験治療群が354例、プラセボ群が351例、患者背景は、55歳以上が80%以上、男性が65%、肺がん(50%)、食道がん(20%)、婦人科がん(10%)、その他であった。主要評価項目である遅発期の嘔吐完全抑制割合は、プラセボ群の66%に対して、試験治療群が79%(p<0.001)と有意に優れた結果であった。また、副次的評価項目である急性期の嘔吐完全抑制割合は、プラセボ群の89%に対して、試験治療群が95%(p=0.002)、全期間の嘔吐完全抑制割合は、プラセボ群の64%に対して、試験治療群が78%(p<0.001)と有意に良好な結果であった。試験治療群の有害事象のうち、全グレード(Grade3)の眠気が43%(0.3%)、めまいが8%(0%)と口腔内乾燥が21%(0%)と有意に多かったが、両群ともにGrade4は認めなかった。しかしながら、治療期間中の生活経過記録の解析結果から、試験治療群はプラセボ群と比較して有意(p<0.05)に良好であったことが示され、新たな標準治療であることが示された。日本の支持療法研究グループで行われた臨床試験が、世界の標準治療を塗り替えた非常に意義深い試験である。今回のASCOでも依然として免疫チェックポイント阻害薬の演題が多数を占めた。単剤の治療の時代から、併用療法や集学的治療へシフトしている。また、免疫細胞療法などの演題も多数認められ、新時代の到来を予感させられる。また、J-FORCE試験がOral Presentationに選ばれるなど、支持療法のエビデンス創出が日本でも盛んになってきており、今後にも期待したい。

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国内初のICS/LAMA/LABAが1剤に配合されたCOPD治療薬「テリルジー100エリプタ14吸入用/30吸入用」【下平博士のDIノート】第27回

国内初のICS/LAMA/LABAが1剤に配合されたCOPD治療薬「テリルジー100エリプタ14吸入用/30吸入用」今回は、3成分配合の慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬「フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ウメクリジニウム臭化物/ビランテロールトリフェニル酢酸塩ドライパウダーインヘラー(商品名:テリルジー100エリプタ14吸入用/30吸入用)」を紹介します。本剤は、COPD患者の呼吸困難などの諸症状を1日1回の吸入で改善し、QOLの改善にも寄与することが期待されています。<効能・効果>本剤は、COPD(慢性気管支炎・肺気腫)における諸症状の緩解の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年5月22日より発売されています。なお、本剤の使用は、吸入ステロイド薬(ICS)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)および長時間作用性β2刺激薬(LABA)の併用が必要な場合に限られます。<用法・用量>通常、成人には本剤1吸入(フルチカゾンフランカルボン酸エステルとして100μg、ウメクリジニウムとして62.5μgおよびビランテロールとして25μg)を1日1回投与します。<副作用>第III相国際共同試験(投与期間:52週)において、本剤が投与された総症例4,151例中485例(11.7%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告されています。主なものは、口腔カンジダ症101例(2.4%)、肺炎45例(1.1%)、発声障害26例(0.6%)でした(承認時)。重大な副作用としてアナフィラキシー反応(頻度不明)、肺炎(1.1%)、心房細動(0.1%)が認められています。なお、ICSを長期で使用した場合、肺炎のリスクが高まる懸念があるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.本剤は、気管支を拡張させる薬2種類と、炎症を抑える薬の計3種類が配合されているCOPDの治療薬です。2.1日1回の吸入で、持続的に気管支を広げるとともに炎症を抑えることで、呼吸を楽にして身体の活動性を改善します。3.毎日なるべく同じ時間帯に吸入し、1日1回を超えて吸入しないようにしてください。4.声がれや感染症を予防するため、吸入後はうがいをしてください。5.口の渇き、目のピントが合いにくい、尿が出にくい、動悸、手足の震えなどの症状が現れたらご連絡ください。6.COPDの治療では禁煙が大切なので、薬物治療と共に禁煙を徹底し、継続しましょう。7.薬のカバーを開けると吸入の準備が完了し、カウンターが減ります。必要以上に開け閉めすると、必要回数が吸入できなくなるため、吸入時以外はカバーを開けないでください。<Shimo's eyes>本剤は、国内初の3成分(吸入ステロイド薬[ICS]、長時間作用性抗コリン薬[LAMA]、長時間作用性β2刺激薬[LABA])が配合されたCOPD治療薬です。『COPD診断と治療のためのガイドライン2018[第5版]』において、安定期COPDの維持療法としては、気管支拡張薬のLAMA(あるいはLABA)を単剤で用い、効果不十分な場合はLAMA+LABAの併用が推奨されています。しかし、COPD患者の15~20%は喘息が合併していると見込まれており、その場合はICSを併用することとされています。なお、海外で報告されているGOLD2019レポートでは、LAMAもしくはLABAの単剤療法またはLAMA+LABAの併用療法を行っても増悪を繰り返す患者には、ICSの追加が有効な例もあるとされています。本剤は、COPD患者に対するLAMA+LABA+ICSのトリプルセラピーを1剤で行うことができますが、3成分それぞれの薬剤に関する副作用に注意する必要があります。患者さんへ確認するポイントとしては、LAMAによる口渇、視調節障害、排尿困難、LABAによる不整脈、頭痛、手足の震え、ICSによる口腔カンジダ症などが挙げられます。とくに、過量投与時には不整脈、心停止などの重篤な副作用が発現する恐れがあるため、服薬指導では吸入を忘れたときの対応などと併せて、1日に1回を超えて使用しないよう注意を促しましょう。COPD患者は、喫煙や加齢に伴う併存症に対する治療を行っていることが多く、安定期ではアドヒアランスが低下することがあります。COPDに加えて喘息の治療が必要な場合に、本剤のような3成分配合吸入薬を選択することで、症状の改善およびアドヒアランスの向上が期待できます。

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成人の8割が感染、歯周病予防に効く「ロイテリ菌」とは

 5月30日、オハヨー乳業・オハヨーバイオテクノロジーズは「歯周病への新たな良化習慣」をテーマとしたプレスセミナーを開催した。国内の歯周病(歯肉炎および歯周疾患)患者数は330万人を超え、30~50代の約8割が罹患するなど、最も罹患率の高い疾患とされる。本セミナーでは、若林 健史氏(日本歯周病学会理事・専門医・指導医/日本大学 客員教授)と坂本 紗有見氏(銀座並木通りさゆみ矯正歯科デンタルクリニック81 院長)が講演し、ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)の「バクテリアセラピー」によって歯周病予防効果が期待できる、との研究内容を発表した。歯磨き・歯科検診に続く予防策「バクテリアセラピー」 歯周病の治療を専門とする若林氏は、口腔内に生息する細菌が全身の健康に影響する、歯周病もむし歯も子供の頃からの感染予防が重要、という前提を説明した。また、最近の研究では、歯周炎によってアルツハイマーの発症リスク増加の示唆1)や介護施設で口腔ケアを徹底することで肺炎の発症・死亡者数が低下する報告2)がされるなど、「口腔内だけに留まらない疾患との関連性も指摘されている」とした。若林氏はこうした歯周病と全身疾患の関わりを「ペリオドンタルシンドローム」と名付け、啓蒙活動を行っている。次に、歯磨き・歯科定期検診に続く第3の歯周病予防策として注目される手法として「バクテリアセラピー」を紹介。バクテリアセラピーとは、“口の中にいる善玉菌を増やし、むし歯菌・歯周病菌を減らす”もので、抗菌薬による薬物治療と比較した場合、1)効果が持続する、2)耐性フリー、3)安全である、という優位点があるという。「ロイテリ菌」の歯周病予防効果に着目 続いて坂本氏が、「バクテリアセラピーにはロイテリ菌が有用である」と提唱。ロイテリ菌は、バクテリアセラピー研究で有名なスウェーデンのカロリンスカ研究所・医科大学と特許を持つBio Gaia社が、提携して研究を進めている。ロイテリ菌は1980年代にペルー人の母乳から発見されたもので、日本人は7人に1人が保有するが、そのほかの先進国のヒトから検出されることは少なく、米国人はまったく保有していない。世界100以上の国と地域で使用実績があり、200以上の臨床研究が発表される一方、副作用の報告は1件もないという。ロイテリ菌は体内で「ロイテリン」という有害な菌を抑える物質を生成し、歯周病菌の増殖を抑制する効果が期待できる。歯周病患者を対象とした二重盲検ランダム化比較試験において、ロイテリ菌とプラセボをそれぞれ30日間摂取した群を比較したところ、ロイテリ菌摂取群は、プラーク有りの患者数、歯茎の出血有りの患者数などが減少し、プラセボ摂取群に対し有意差が認められた3)。坂本氏は「安全性が高く、データも豊富なロイテリ菌を長年注目してきた。日本は平均寿命と健康寿命の差が最も大きい国。バクテリアセラピーで歯周病を予防することが、この差を縮めることに役立つはず」とコメントした。 ロイテリ菌関連商品としては、ヨーグルト・サプリメントが市販されている。

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