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高血圧と食塩摂取との間には、緊密な関係が証明されており、高血圧の生活習慣指導の中心は「減塩」とされている。日本高血圧学会も、「減塩」に力を入れており、減塩サミット・適塩フォーラムといったイベントや、学会推奨の減塩食品の開発を行っている。したがって、公衆衛生的な取り組みが、高血圧ならびに、高血圧に起因する心血管病の制圧に有効とされている。英国では、国家的に食品(主にパン)中の食塩を減らすことで、血圧の低下、心血管イベントの抑制に成功している1)(CASH Project In UK、Consensus Action on Salt & Health:CASH)。中国では、パンに代わり、主要な食塩源が卓上塩であることから、卓上塩をカリウム代用塩に置き換えることで、同様の効果が期待できる。 オーストラリアのニューサウスウェールズ大学、Matti Marklund氏らは、卓上塩をカリウム代用塩(25~67%の塩化カリウム含有)に置き換えることで、血圧ならびに、各種アウトカム(益のアウトカムである心血管イベントだけでなく、害のアウトカムであるCKD患者の高カリウム血症)へ与える効果を比較検討した。「comparative risk assessment model」を採用し、中国の既存のランダム化比較試験、大規模レジストリ研究のデータから計算した2)。その結果、卓上塩をカリウム代用塩に切り替えることで、心血管疾患死の約9分の1を予防できることが判明した。これは、年間にすると約46万1,000例(95%不確定区間[UI]:19万6,339~70万4,438)の心血管疾患死を防ぐと推定された。中国における、年間心血管疾患死の11.0%(95%UI:4.7~16.8%)、年間非致死的心血管イベント74万3,000例(95%UI:30万5,803~127万3,098)、心血管疾患に関連する障害調整生命年790万(95%UI:330万~1,290万)に相当する。一方で、慢性腎臓病(CKD)患者では、高カリウム血症関連死が推定1万1,000例(95%UI:6,422~1万6,562)増加すると推定された。 しかし、減塩一辺倒がよいかというと、そうではない。腎臓に生理的な異常がなければ、理論的に食塩摂取量は、食塩排泄量と一致するはずで、血圧の上昇は必発ではない。食塩摂取による、血圧上昇には、「食塩感受性」という病態があり、その機序の解明も進んでいる3-5)。したがって、「食塩感受性」の有無にかかわらず、一律の減塩により、すべての国民にメリットがあると言い切ることはできない。減塩と心血管イベントとの間に、Jカーブ現象があるとする研究成果も認められる6-8)。心血管イベントの抑制には、DASH食に代表される、「複合的減塩」にも、より効果があるとされている9)。参考文献1)Huang, L, et al. BMJ. 2020;368:m315.2)Marklund M, et al. BMJ. 2020;369:m824.3)Minegishi S, et al. Sci Rep. 2016;6:27137.4)Minegishi S, et al. Int J Mol Sci. 2017;18:1268.5)Kino T, et al. Int J Mol Sci. 2017;18;1250.6)O'Donnell M, et al. BMJ. 2019;364:l772.7)Stolarz-Skrzypek K. et al. JAMA 2011;305:1777-1785.8)O'Donnell MJ, et al. JAMA. 2011;306:2229-2238.9)Vollmer WM, et al. Ann Intern Med. 2001;135:1019-1028.