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第72回 若者のワクチン接種が本格化する前に“かかりつけ限定”の呪縛は解けるか

突然だが、先日、南アジアのアフガニスタンの情勢が急変した。今年4月にアメリカのバイデン大統領が9月11日を期限に同国から米軍を完全撤退させると表明し、5月から順次撤退を開始。これに呼応するように、かつて同国で政権を樹立したこともあるイスラム教過激派組織タリバンが大攻勢に打って出た。5月末時点の彼らの実効支配地域は国土の20%程度だったが、7月中旬には国土の過半数を掌握。そのまま瞬く間に首都カブールに迫り、8月15日にガニ大統領が首都カブールを脱出してタリバンが全土を支配するに至った。日本でのSNSの反応を見ていると、タリバン制圧までよりも、その後のニュースのほうが衝撃を持って受け止められているようだ。とりわけタリバンの恐怖支配を恐れた住民がカブールの国際空港に殺到して、退避しようとしている外国人を運ぶ民間機や軍の輸送機の外側にしがみつき、そのまま離陸した輸送機から上空に到達する直前にしがみついていた人々が落下して死亡した映像は数多くリツイートされている。そうしたニュースを目にして数日後、市中のチェーン店のカフェを利用中、ぱっと見で20代くらいの若者2人の会話が耳に飛び込んできた。「アフガンで輸送機にしがみついて落下して死んだ人、正気かよ?」「ああ、Twitterで見た。ありえねえ」2人にとっては彼方の珍現象なのだろう。しかし、この現象は一部ファクトを置き換えれば、今の日本、とりわけ首都圏のコロナ禍の状況に当てはまる。置き換えとは、タリバン=デルタ株、輸送機=医療機関、しがみつく人=症状が悪化する感染者。デルタ株が蔓延する首都圏では自宅療養者は症状が悪化後に哀願しても入院病床は容易には見つからない。まさに形を変えたアフガニスタンがここにあるのだ。そして、そんな最中の8月25日、新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言を8道県、まん延防止等重点措置を4県に拡大する旨の記者会見が首相官邸で行われた。会見で菅 義偉首相が語った次のような言葉を耳にして、モヤモヤ感で一杯になった。「感染力の強いデルタ株のまん延によって、感染者を押さえ込むことはこれまで以上に容易ではなくなっています。しかしながら、現在進めているワクチンの接種がデルタ株に対しても明らかな効果があり、新たな治療薬で広く重症化を防ぐことも可能です。明かりははっきりと見え始めています」施政者が発する言葉にはある種の誇張は付き物だ。しかし、それを前提にしても「明かりははっきり見え始めています」はさすがに無理があるのではないか? 従来から菅首相は「新たな治療薬」、すなわち抗体カクテル療法のロナプリーブについて何度も言及している。確かにロナプリーブは有効な治療薬と言える。ただ、感染者の治療は重要だが、今それよりも求められるのは感染者の発生を抑制することだ。過去からの繰り返しで恐縮だが、経済を横目で眺めながら中途半端な強度で緊急事態宣言を繰り返してきたため、もはやその効力は限定的。しかも、その影響で公的機関が発するメッセージも繰り返された緊急事態宣言に嫌気がさした若年層を中心に届きにくくなっている。その意味では現時点で若年層を中心にワクチン接種を粛々と進めることが最大の対策と言えるかもしれない。これに対応して東京都は8月27日から16~39歳の都内在住、在勤・在学する人を対象に予約なしで新型コロナワクチンを接種できる「東京都若者ワクチン接種センター」を渋谷駅からそれほど遠くない渋谷区立勤労福祉会館に開設して運用を開始する。1日の接種キャパシティーは200人程度と少なく、逆に予約なしで人が殺到するので混乱するとの意見もあるが、私自身はないよりましだと思っている。その意味で今こそ政府や自治体は、行動半径が広く、新型コロナ感染に対して危機感の薄い若年層を中心にどうやってワクチン接種を推進していくか、ズバリ言えば接種アクセスをどれだけ改善するかの施策を強力に推進すべき時期である。ところが、あの防衛省が運営する大規模接種センターは今月一杯で本格運用を終了する。これは7月上旬の段階での職域接種や自治体接種の進展を念頭に決まっていた方針だが、足下の感染状況は判断当時とは大きく異なっている。しかも東京都を例に挙げれば、防衛省の大規模接種センターは大手町に位置し、やむなく出勤せざるを得ない会社員、都心の中高一貫校や専門学校、大学などに通う学生にとってもアクセスは良好だ。これを現在の流行の中心である若年層の接種本格化直前に閉じるのはあまりにもったいないと言える。また、私が従来から非常に疑問に思っていることがある。それは自治体によるワクチン接種を担当する個別医療機関の在り方だ。前にもちらりと書いたが、私が在住する練馬区は、こうした個別医療機関での接種を幅広く行う「練馬モデル」で一時期有名になった。その点は個人的にも一定の評価はしている。が、区役所のホームページで個別医療機関の一覧をのぞくと、不思議な二色刷りになっている。これは、かかりつけ患者のみの接種を担当する医療機関がオレンジ色、誰でも受け付ける医療機関が白色で塗られているのだ。そのオレンジ色の多いこと多いこと。約280軒の個別接種医療機関のうち誰でも接種できる医療機関はわずか3分の1だ。これから接種が本格化する若年層の場合、中高年層と比較して日常的に医療を必要とする局面は限られるため、かかりつけ医を持っている割合は明らかに低下する。つまり若年層に対して開かれたワクチン接種の「間口」はやたらと狭いものであるのが現実だ。これは練馬に限らず、ざっと見まわすとほかの自治体でも同様の傾向がある。確かに今回のmRNAワクチンはまったく新しいタイプのものなので、個別接種医療機関の先生方も慎重になっただろう。その結果がかかりつけ患者限定というのは少なからず理解はできる。しかし、すでに一定数の接種を経験し、もう慣れたのではないだろうか? 叱られることを承知で敢えて言うが、これを機にかかりつけ患者以外の地域住民に接種の機会を開放していただきたいと思う。もちろん高齢者の接種がかなり進展した今、「かかりつけ患者のみと言っていたけど、希望があれば接種しますよ」という医療機関もあるだろう。ならばそうした医療機関の先生方は是非とも自治体にリストの改定もお願いしていただきたい。現在の若年層はほぼデジタル・ネイティブなので、ワクチン接種を考えた際には多くの人が区のホームページなどを参照するだろう。その際、あの“かかりつけ患者限定”の医療機関が多いリストを見たらどんな気持ちになるだろう? 正直、医療機関側の事情をある程度斟酌できる私でも、あのオレンジ色に塗られた医療機関の多いリストを目にしてげんなりした。これから接種を希望する若年層にもそうした人は少なからずいるだろう。

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ファイザー製ワクチン、SARS生存者で強力な交差性中和抗体産生/NEJM

 シンガポール・Duke-NUS Medical SchoolのChee-Wah Tan氏らは、コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス1:SARS-CoV-1)の既感染者で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するBNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech製)の接種を受けた人では、サルベコウイルス亜属(コロナウイルス科βコロナウイルス属に属するウイルスの一群で、SARS-CoV-1やSARS-CoV-2が属する)に対する強力な交差性中和抗体が産生されることを明らかにした。この交差性中和抗体は、抗体価が高く、懸念されているSARS-CoV-2の既知の変異株だけではなく、コウモリやセンザンコウで確認されヒトへ感染する可能性があるサルベコウイルスも中和でき、著者は「今回の知見は、汎サルベコウイルスワクチン戦略の実現性を示唆するものである」とまとめている。NEJM誌オンライン版2021年8月18日号掲載の報告。SARS-CoV-1既感染者、SARS-CoV-2感染者および健常者について検討 SARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは2019年12月に始まった。SARS-CoV-2は、2002~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスであるSARS-CoV-1と全ゲノム配列の約80%を共有している。SARS-CoV-1に感染し生存している人の多くは、感染後17年を経てもSARS-CoV-1に対する中和抗体を保有しているが、SARS患者またはCOVID-19患者の回復期血清検体は交差中和性を有していない。 そこで研究グループは、COVID-19ワクチン接種前のSARS-CoV-1既感染者ならびにCOVID-19患者の血清検体(各10例)と、健常者でBNT162b2ワクチン2回目接種後14日目に採取した血清検体(10例)、SARS-CoV-1既感染者でBNT162b2ワクチン初回接種後21~62日目に採取した血清検体(8例)、COVID-19患者でBNT162b2ワクチン2回接種後の血清検体(10例)の計5種類の血清パネルを用い、広域交差性中和抗体の産生について検討した。SARS-CoV-1既感染者でBNT162b2ワクチン接種後に広域交差性中和抗体が産生 5種類の血清パネルのうち、SARS-CoV-1既感染者でBNT162b2ワクチンを接種した群のみ、SARS-CoV-1およびSARS-CoV-2の両方に対する高抗体価の中和抗体の産生が認められた。 また、検討した10種類すべてのサルベコウイルス(SARS-CoV-2クレードの7種[SARS-CoV-2原株、SARS-CoV-2アルファ株・ベータ株・デルタ株、コウモリコロナウイルスRaTG13、センザンコウコロナウイルスGD-1・GX-P5L]、SARS-CoV-1クレードの3種[SARS-CoV-1、コウモリWIV1、コウモリRsSHC014])に対する幅広い中和抗体を有することが認められた。

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新型コロナの唾液PCR検査、無症候者へは推奨できない?/JAMA

 鼻咽頭スワブによるリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR法)は新型コロナウイルス検出のための標準検査として行われているが、唾液を用いたPCR法は鼻咽頭によるPCR法より簡便であることから診断・スクリーニングにおいて魅力的な代替手段である。現に日本国内においても帰省や出張の前に検査を希望する人らが市販の唾液PCR検査キットに依存する傾向にある。しかし、米国・Children’s Hospital Los AngelesのZion Congrave-Wilson氏らが調査した結果によると、唾液を用いたPCR法(以下、唾液PCR法)は、感染初期の数週間に有症状の人の新型コロナウイルスを検出するには感度が高かったものの、無症候性の新型コロナウイルスキャリアの感度はすべての時点で60%未満だった。このことから、同氏らは無症候性感染者の唾液の感度低下を踏まえ、無症候感染者には唾液PCR法を新型コロナのスクリーニングに使用すべきではないと示唆している。JAMA誌オンライン版2021年8月13日号のリサーチレターでの報告。 研究者らは新型コロナウイルス検出のために唾液PCR法の感度が最適な検査タイミングを調査するため、2020年6月17日~2021年2月15日の期間に前向き縦断研究を実施した。2週間以内にRT-PCR法で新型コロナウイルスと判定された家族と濃厚接触した人の便宜的サンプルをChildren’s Hospital Los Angelesとその近隣地域からHEARTS( Household Exposure and Respiratory Virus Transmission and Immunity Study )のサイトを通じて募集した。 鼻咽頭と唾液のRT-PCR法のペアサンプルを、3〜7日ごとに最大4週間にわたって、鼻咽頭の2回の結果が陰性になるまで収集した。唾液PCR法の感度は鼻咽頭での陽性を参照標準として計算した。また、唾液PCR法の感度に関する臨床的特徴は、鼻咽頭陽性ペアのオッズの高さから予測した。 主な結果は以下のとおり。・参加者404例から889組の鼻咽頭スワブと唾液サンプルを得た。そのうち新型コロナウイルスは鼻咽頭で524件(58.9%)、唾液で318件(35.7%)が検出された。・新型コロナウイルスが両方の検体から検出されたのは258組(29.0%)だった。・鼻咽頭で陽性だった256例(63.4%)は、平均年齢が28.2歳(範囲:3.0~84.5歳)で、108例(42.2%)が男性だった。また、93例(36.3%)は感染期間中、無症候のままだった。・有症状の163例のうち126例(77.3%)は重症度分類が軽症だった。・唾液の感度は、感染の最初の週に収集されたサンプルで71.2%(95%信頼区間[CI]:62.6~78.8)で最も高かったのに対し、その後、週を追うごとに低下した。・感染が確認された第1週の検体採取日に新型コロナ関連の症状を呈していた参加者は、無症候性の参加者と比較して唾液PCR法の感度が有意に高かった(88.2%[同:77.6~95.1] .vs 58.2%[同:46.3~69.5]、p<0.001)。・唾液PCR法による感度は、有症状の場合は2週目まで有意に高かった(有症状:83.0%[同:70.6~91.8] .vs 無症候:52.6%[同:42.6~62.5]、p<0.001)。しかし、発症後2週間以上が経過すると症状の有無による違いは観察されず、無症候性の参加者は34.7%(同:27.3~42.7) 、症状出現前の人は57.1%(同:31.7~80.2)、後に症状を有した人は42.9%(同:36.8~49.1)と、有意差はなかった(p=0.26)。・新型コロナ発症後の各日に対し、唾液検出のオッズ比を前日で比較すると0.94(同:0.91~0.96、p<0.001)だった。・検体採取時に新型コロナ関連の有症状者または鼻咽頭でのウイルス量が多かった参加者は、無症候性または鼻咽頭のウイルス量が少ない参加者と比較して、唾液陽性のRT-PCR結果が得られる確率が高く、それぞれのオッズ比は2.8(同:1.6~5.1、p<0.001)および5.2(同:2.9~9.3、p<0.001)だった。

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高リスクCOVID-19外来患者への高力価回復期血漿療法の効果は?/NEJM

 高リスクの新型コロナウイルス(COVID-19)外来患者に対する、発症1週間以内の早期高力価回復期血漿療法について、重症化の予防効果は認められなかったことが、米国・ミシガン大学のFrederick K. Korley氏らの研究グループ「SIREN-C3PO Investigators」が、救急診療部門を受診した511例を対象に行った、多施設共同無作為化単盲検試験の結果、示された。COVID-19回復患者の血漿を用いた早期回復期血漿療法は、高リスクCOVID-19患者の疾患進行を防ぐ可能性があるのではと目されていた。NEJM誌オンライン版2021年8月18日号掲載の報告。 15日後の疾患進行をプラセボ投与と比較 研究グループは、救急診療部門を受診した外来患者でCOVID-19症状が認められた511例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはSARS-CoV-2に対する高力価抗体を含む回復期血漿を1単位投与し、もう一方の群にはプラセボを投与した。被験者は、全員が50歳以上、または疾患進行に関するリスク因子が1つ以上認められた。また、発症から7日以内に救急診療部門を訪れ、症状は安定しており外来管理が可能だった。 主要アウトカムは、無作為化15日後の疾患進行で、あらゆる入院、救急/緊急ケアを要する事態、非入院死亡のいずれかと定義した。 副次アウトカムは、最悪の重症度(8段階順序尺度で評価)、無作為化30日以内の非入院日数、全死因死亡だった。疾患進行患者の割合、両群とも30~32%で同等 被験者511例は、回復期血漿群257例、プラセボ群254例に無作為化された。年齢中央値は54歳、発症期間中央値は4日だった。ドナー血漿のSARS-CoV-2中和抗体価の中央値は1:641だった。 疾患進行が認められたのは、回復期血漿群77例(30.0%)、プラセボ群81例(31.9%)だった(リスク差:1.9ポイント、95%信用区間:-6.0~9.8、回復期血漿群の優越性の事後確率:0.68)。 死亡は、回復期血漿群5例、プラセボ群1例が報告された。最悪の重症度、非入院日数は、両群で同等だった。

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百貨店など大型商業施設でのクラスターの共通所見と対策/感染研

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のいわゆるデルタ株の拡大で、百貨店やショッピングセンターなどの大規模商業施設のスタッフ間のクラスター感染が報告されている。生活に密着する施設での発生から今後のさらなる感染拡大が懸念されている。 この状況を受け、国立感染症研究所実地疫学研究センターは、現時点での、クラスターの発生原因に関する共通すると思われる代表的な所見を提示し、共通する対策に関して提案を行った。【代表的な所見】・売り場における従業員の衛生意識は高く、マスク着用はおおむね適切に行われていたが、手指衛生などさらに改善すべき点を認めた・時間帯によって、客が密集した状態になる売り場を認めた・従業員が利用する食堂や休憩所などで密となりがちな環境を一部認めた・店舗による接触者の把握や管理が十分ではなかったと考えられた状況を一部認めた【共通する対策に関する提案】・COVID-19の感染経路に基づいた適切な予防法、消毒法について、従業員全員がより正しく実践する・従業員による売り場での十分量の適切な濃度のアルコール消毒剤を用いた手指衛生、および従業員や客が高い頻度で触れる箇所の消毒を徹底する・客が密となる場所においては人の流れや(時間当たりの)入場者数の調整をする。その際、売り場では、たとえば混雑時・非混雑時の二酸化炭素濃度を参考に換気を工夫する・従業員が利用する食堂や休憩所などにおいて、密になる環境を作らない工夫と十分な換気、黙食を徹底する・複数店舗でCOVID-19の陽性者が判明した場合は、フロア全体など広めの検査実施を検討する・従業員の健康管理(観察と記録)を強化する・自治体または職域での新型コロナワクチン接種の推進を各店舗の従業員に対して働きかけていただきたい・これまで以上に、保健所との連携(報告や相談)を強化していただきたい 百貨店・ショッピングセンターなどだけでなく、人流の多い市役所などの行政機関、病院などの医療機関、学校などでも参考にできるので一読をお願いしたい。

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コロナ禍がもたらすストレスと解消法/アイスタット

 約2年にわたる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、日常生活が失われ、生活のさまざまな面で自粛や我慢をする場面が散見される。また、経済活動の停滞は、収入減少など将来への不安要素となり、精神面に悪影響を及ぼしている。 そうした環境の中、COVID-19が私たちにもたらした精神面への影響はどのくらいあるのだろうか。株式会社アイスタットは、8月4日にアンケートを実施した。アンケートは、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員20~49歳の東京在住の300人が対象。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2021年8月4日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~49歳/東京)を対象アンケートの概要・約2年に及ぶコロナ禍での「自粛生活」「予防対策」「感染不安」に、何らかのストレスを感じている人は約7割・政府・自治体の対策では、「外出・旅行・帰省の規制・制限」がストレス有無に最も影響・約2年に及ぶコロナ禍で、疲れを感じていると回答した人ほど、ストレスあり・緊急事態宣言の内容を守っている人ほど、ストレスがある傾向・コロナ禍になる前はストレス体質ではなかったが、コロナ禍によりストレスとなった人が26.5%・ストレスがある人とそうでない人の心がけの違いは、「家族・知人・友人・恋人との頻繁な会話」・コロナストレスの要因トップ8は、「コロナ禍による疲れ」「外出・旅行・帰省の規制・制限」「外食・飲み会・宴会の規制・制限」「イライラする」「気力・元気がなくなる」「体質」「仕事面」「将来不安」回答者の7割はストレスを認識 質問1として「約2年に及ぶコロナ禍での「自粛生活」「予防対策」「感染不安」に何らかのストレスを感じているか」(単一回答)を聞いたところ、「やや感じている」が37.7%と最も多く、「非常に感じている」が30.3%、「どちらでもない」が15.3%と続いた。なかでも「非常に/やや」を足し合わせた「ストレスあり」と「どちらでもない/あまり/全く」を足し合わせた「そうでない」のストレス有無に分別すると、「ストレスあり」は68%、「そうでない」は32%で、全体の約7割がストレスを感じていた。「ストレスあり」回答者の属性では、「30代」「女性」「既婚」「有職者」で最も多かった。 質問2として「政府や自治体がお願いしている対策でストレスにつながる内容は何か」(複数回答)を聞いたところ、「外出・旅行・帰省の規制・制限」が56.3%で最も多く、「外食・飲み会・宴会の規制・制限」が43.0%、「マスク着用・検温・消毒」が39.0%と続いた。コロナストレスの有無別にみると、「政府・自治体の対策」を回答した人ほど実際にストレスがある傾向がみられ、一方、「あてはまるものはない」を回答した人は「そうでない」の方が多い結果だった。 質問3として「『自粛生活・予防対策・感染不安』に何らかの疲れを感じているか」(単一回答)を聞いたところ、「やや感じている」が35.0%で最も多く、「非常に感じている」が26.0%、「どちらでもない」が17.3%と続いた。「非常に/やや」を足し合わせた「疲れあり」と「どちらでもない/あまり/全く」を足し合わせた「そうでない」の疲れ有無に分別すると、「疲れあり」は61%、「そうでない」は39%だった。コロナ禍のストレスの一番は「イライラ」 質問4で「4回目の緊急事態宣言の内容を遵守したか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらかといえば守っている」が54.3%で最も多く、「完全に守っている」が22.3%、「どちらかといえば守っていない」が12.7%と続いた。「完全に/どちらかといえば」を足し合わせた「守っている」と「そうでない」の遵守有無に分別すると、「守っている」は76.7%、「そうでない」は23.3%で、全体の約8割が守っている結果だった。 質問5で「コロナ禍でストレスとならないように心がけていること」(複数回答)を聞いたところ、「おいしいものを食べる」が36.7%で最も多く、「十分な睡眠をとる」が34.3%、「適度な運動・体を動かす」が33.3%と続いた。コロナストレスの有無別にみると、心がけていることを回答した人ほど実際にストレスがある傾向がみられ、一方、心がけていることは「特になし」と回答した人は、「そうでない」の方が多い結果だった。 質問6で「現在、生活面でコロナ禍により悪影響を受けていることがあるか」(複数回答)を聞いたところ、「収入・金銭の面で」が31.0%で最も多く、「仕事の面で」が28.7%、「家族・家庭・友人・知人・恋人の面で」が26.3%と続いた。コロナストレスの有無別にみると、すべての内容で回答した人ほど実際にストレスがある傾向がみられ、一方、「現在、悪影響はない」を回答した人は「そうでない」の方が多かった。 質問7で「コロナ禍になる前、ストレスを生じやすい体質だったか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらかといえばストレスを生じやすい体質だった」が42.7%と最も多く、「どちらかといえばストレスを生じない体質だった」が27.3%、「常にストレスを生じる体質だった」が19.7%と続いた。「常に/どちらかといえば」を足し合わせた「ストレス体質」と「ストレス体質でない」の体質の有無に分別すると、「ストレス体質」は62.3%、「ストレス体質でない」は37.7%で、今回の調査対象者ではストレス体質の方が多い結果だった。 質問8で「コロナ禍が原因で、こころや身体に不調を感じた症状があるか」(複数回答)を聞いたところ、「イライラする」が35.7%で最も多く、「気力・元気がなくなる」が30.0%、「眠れない・眠りが浅い」の23.0%と続いた。コロナストレスの有無別にみると、「不調を感じた症状」に回答した人ほど実際にストレスがある傾向がみられ、一方、「現在、悪影響はない」を回答した人は「そうでない」の方が多かった。

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第71回 コロナ感染対策はデルタ株でも一緒、では一般市民への具体的な伝え方とは?

「過去最高の××××人…」「〇曜日としては過去最高の…」のいずれかのフレーズを最近のニュースで聞くことが多くなっている。言わずもがな、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の発生動向に関するニュースについてだ。多くの医療関係者が現在流行の主流をなすデルタ株の登場で、「局面が変わった」と口にする。確かに基礎研究ではデルタ株の持つ免疫回避は液性免疫だけでなく細胞性免疫にもおよび、さらにウイルスの細胞への接着や膜融合力も強化されているとも報告されている。中国の研究グループが公表した査読前論文では、デルタ株感染者が体内で保持するウイルス量は、従来株感染者たちと比べ1,260倍も多いと報告されている。他人事のような言い方に聞こえてしまうかもしれないが、まさに「恐ろしいまでの最強(最凶)なウイルス」である。そして最近、一般向けメディアでこの件について書いて欲しいと言われて資料を読み返した。すでに内外で報じられているが、米国疾病予防管理センター(CDC)は、内部向け資料で「デルタ株の基本再生産数は5~9.5人で、従来株の1.5~3.5人より大幅に感染力が増し、水ぼうそうの8.5人と同等」と試算していたことを明らかにしている。まあ、端的に言うならば、この数字だけみればデルタ株の感染力は従来株の3倍程度となる。報道的には、空気感染もする水ぼうそうと同等の感染力という触れ込みは極めてキャッチ―なのだが、こういう時こそ一呼吸置くべきと個人的には思っている。そんなこんなでほかに類似データがないかをもう一度眺め渡してみた。そうした中で改めて目にしたのが厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで、「8割おじさん」のあだ名でも知られる京都大学大学院医学研究科の環境衛生学分野教授の西浦 博氏が示していた試算だ。すでに流行株の約80%がデルタ株と見積もられている8月11日現在の東京都での新型コロナ感染の伝播力(感染力)を従来株の流行時と比較している。それによると現在の伝播力は従来株流行時の1.87倍。言い換えれば、デルタ株は従来のウイルスの1.87倍、ざっくり言えば約2倍の感染力となる。こうした2つのデータを同一記事内で引用する場合、当然のことながら3倍と2倍の差は何なんだと、読者の突っ込みが入る可能性がある。この違いは単純にCDCが基本再生産数、すなわち何も対策をせずに免疫を持たない集団で起こる二次感染の規模を示すのに対し、西浦氏の試算はある時点での感染力を示す実効再生産数を使っているからである。いわば西浦氏の数字は、市中でマスクをしている人が行き交い、店舗入口に消毒薬が設置され、多くの人が三密を避け、国民の4割以上がワクチンの1回接種を終えた今現在のデータを用いたものなので、CDCの試算よりも感染力が低く出るのは、このサイトの読者ならとくに不思議とは思わないはずだ。そこまで念頭に置いた瞬間ハッとした。そう、私たちの努力次第ではデルタ株の高い感染力も一定程度は相殺することが可能なのだと。そしてこの相殺の仕方は、すでに政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が6月時点で「変異株が出現した今、求められる行動様式に関する提言」を発表している。改めて以下に列挙する。(1)マスクを鼻にフィットさせたしっかりとした着用を徹底すること。その際には、適切な方法で着用できることを第一とした上で、感染リスクの比較的高い場面では、できればフィルター性能の高い不織布マスクを着用すること。三密のいずれも避けること。特に人と人との距離には気を付けること。(2)マスクをしっかりと着用していても、室内でおしゃべりする時間は可能な限り短くして、大声は避けること。(3)今まで以上に換気には留意すること。(4)出来る限り、テレワークを行うこと。職場においても、(1)~(3)を徹底すること。(5)体調不良時には出勤・登校をせず、必要な場合には近医を受診すること。(6)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、マスクを着用すること。(7)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、大人数の飲み会は控えること。(8)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、帰省先での同窓会や大人数での会食は控えること。とくに目新しいものはない。そもそも感染力が増そうとも、感染経路は変化していないのだから当然である。むしろこれまでのことをより徹底すべしということなのだ。ところが「これまでとやることは変わらない」は多くの人が聞き飽きているフレーズなので、それを聞いただけでうんざりする人も少なくない。「今までと同じことなら、もう知っているからそれ以上わざわざ話を聞く必要はない」ということになる。ところが「もう知っている」という場合、大概自分に都合の良い覚え方をするものなので、これまで繰り返されてきた感染対策を完全に網羅して記憶しているケースは案外少なかったりするものだ。その意味では、デルタ株対策の呼びかけに関しては、やることは従来と同じでも伝え方に変化をつけなければならない時期に来ているようにも思える。デルタ株は従来株では感染が起きなかったシーンでも感染が起きていることは、もはや周知のこと。たとえば職場でちょっとマスク着用に疲れて顎マスクにした時に、隣の同僚と二言三言会話をする、喫煙所・休憩所にいてほっとしてマスクを外している時に他人と会話をするなどが、そうしたシーンに当たる。また、提言にもあるようなマスク着用時の鼻部分のワイヤー密着の甘さも死角だ。今は飲食店をなるべく利用しないほうが良いものの、利用時のオーダーでは大声で人を呼ばず軽く手を挙げるなどの対策も考えられるだろう。要は一般人の生活に根差して、うっかりしそうなシーン、今までやり続けてきたけど面倒になり手を抜き始めたシーンなどを、さりげなくだが具体的に提示して対策の徹底を求める。中身は同じでもこれまでの「三密回避」「マスク着用」「手洗い励行」のような紋切り型の教条的なものからやや目新しさを加えた情報提供で、感染収束の方向に若干でも活路が見いだせないかと考え始めている。

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コロナ感染経路不明者、リスク高い行動の知識が不足/国立国際医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の変異株による感染拡大の勢いが止まらない。 感染の主役は、COVID-19ワクチン接種を終えた高齢者にとって代わり、50代以下の若年・中年層へと拡大している。 こうした働き盛り、遊び盛りのこれらの年代の陽性者が、どこで、どのように感染しているのか。「感染経路不明」とされる事例の解明は、感染の封じ込め対策で重要な要素となる。 国立国際医療研究センターの匹田 さやか氏(国際感染症センター)らの研究グループは、入院時に感染経路が不明であった事例を対象に調査を行い、その結果をGlobal Health & Medicine誌に発表した。親しき仲にもマスクはあり!方法:2021年5月22日~6月29日に同センター病院に入院したCOVID-19患者のうち、入院時に感染経路が明確であった、意思疎通が困難であった患者を除いた者を対象として、インタビュー調査を実施。結果:有効回答の得られた22例のうち、男性が17例(77%)、女性が5例(23%)、年齢の中央値(四分位範囲)は52.5歳(44~66)、日本人が19名(86%)。22例のうち14例(64%)において既知の感染リスクの高い行動歴(室内飲食、室内ライブ参加、トレーニングジムなど)があった。また、行動歴/接触歴を解析し、既知の感染リスクが高い場面がのべ24あった。そのうちの21(88%)がラーメン店やそば屋など飲食関連であり、22(92%)ではマスクが着用されていなかった。また、感染に関与しうると考えられた患者の考えや信念に関して、「仕事の後であれば職員同士でマスクなしで話しても大丈夫だろう」、「外食が感染のリスクだとは知らなかった」などが挙げられた。 以上から匹田氏らは、「新たな感染経路が明らかになったわけではなく、むしろ感染には飲食がやはり多くの事例で関係していることがわかった。感染防止に対する意識付けや十分な知識が不足していることがわかり、これらが感染拡大を助長する可能性がある」と今後解決すべき課題を示唆した。

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AZワクチンとRNAワクチンによるハイブリッド・ワクチンの効果と意義 (解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

対象論文【NEJM】Heterologous ChAdOx1 nCoV-19 and mRNA-1273 Vaccinationハイブリッド・ワクチンの原型-Gam-COVID-Vac(Sputnik V) priming(1回目接種)とbooster(2回目接種)に異なるワクチンを使用する方法は“異種ワクチン混在接種(heterologous prime-boost vaccine)”と呼称されるが、本論評では理解を容易にするため“ハイブリッド・ワクチン接種”と命名する。この特殊な接種に使用されるワクチンの原型は、adenovirus(Ad)-vectored vaccineとして開発されたロシアのGam-COVID-Vac(Sputnik V)である(山口. CareNet 論評-1366)。Gam-COVID-Vacでは、priming時にヒトAd5型を、booster時にはヒトAd26型をベクターとして用いS蛋白に関する遺伝子情報を生体に導入する特殊な方法が採用された。ChAdOx1(AstraZeneca)など同種のAdを用いたワクチンでは1回目のワクチン接種後にベクターであるAdに対する中和抗体が生体内で形成され、2回目ワクチン接種後にはAdに対する中和抗体価がさらに上昇する(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396:1979-1993.、Stephenson KE, et al. JAMA. 2021;325:1535-1544.)。そのため、同種Adワクチンでは2回目のワクチン接種時にS蛋白に対する遺伝子情報の生体導入効率が低下、液性/細胞性免疫に対するbooster効果の発現が抑制される。一方、1回目と2回目のワクチン接種時に異なるAdをベクターとして用いるハイブリッドAdワクチンでは2回目のワクチン接種時のS蛋白遺伝子情報の生体への導入効率は同種Adワクチンの場合ほど抑制されず、ハイブリッドAdワクチンの予防効果は同種Adワクチンよりも高いものと考えられる。実際、従来株に対する発症予防効果は、ハイブリッドAdワクチンであるGam-COVID-Vacで91.1%(Logunov DY, et al. Lancet. 2021;397:671-681.)、同種AdワクチンであるChAdOx1で51.1%(ワクチンの接種間隔:6週以内)、あるいは、81.3%(ワクチン接種間隔:12週以上)であり(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)、同種Adワクチン接種に比べハイブリッドAdワクチン接種のほうがウイルスに対する予防効果が高いことが示されている。Ad-vectored ChAdOx1とRNAワクチンによるハイブリッド・ワクチン 以上のような結果を踏まえ、ChAdOx1の使用量が多い欧州諸国(ドイツ、フランス、スウェーデン、ノルウェー、デンマークなど)ではprimingのための1回目接種時にChAdOx1を用い2回目接種時にはより高いbooster効果を得るためにRNAワクチンを用いる方法が模索されている(European Centre for Disease Prevention and Control. 2021年5月18日)。本論評では、Normark氏らの論文ならびにBorobia氏らの論文を基に、ChAdOx1にmRNA-1273(Moderna)、あるいは、ChAdOx1にBNT162b2(Pfizer)を追加するハイブリッド・ワクチン接種時の液性免疫、細胞性免疫の動態について検証する。 Normark氏らは、スウェーデンで分離されたコロナ原株とbeta株(南アフリカ株、B.1.351)における中和抗体価を、ChAdOx1を2回接種する同種ワクチン接種の場合と1回目ChAdOx1(priming)、2回目mRNA-1273(booster)を接種するハイブリッド・ワクチン接種の場合について検討した。ChAdOx1の同種ワクチン接種における原株に対する中和抗体価は2回目接種後に2倍増強、しかしながら、beta株に対する中和抗体価には有意な上昇を認めなかった。一方、ハイブリッド・ワクチン接種では、原株に対する中和抗体価が20倍増強、beta株に対する中和抗体価も原株に対するほどではないものの有意に上昇した。以上の結果は、ChAdOx1の同種ワクチン接種に比べChAdOx1にmRNA-1273を追加するハイブリッド・ワクチン接種のほうが液性免疫の面からはより優れた方法であることを示唆する。delta株(インド株、B.1.617.2)に対する検討はなされていないが、beta株とdelta株の液性免疫回避作用には著明な差が存在しないので(Wall EC, et al. Lancet. 2021;397:2331-2333.)、Normark氏らの結果はdelta株にも当てはまるものと考えてよいだろう。残念なことに、Normark氏らは、ハイブリッド・ワクチン接種におけるT細胞由来の細胞性免疫の動態については解析していない。 Borobia氏らは、primingのための1回目にChAdOx1、boosterのための2回目にBNT162b2を接種するハイブリッド・ワクチンを使用し、液性免疫(RBDに対する特異的IgG抗体、S蛋白に対する特異的IgG抗体、中和抗体)、IFN-γを指標とした細胞性免疫の推移を観察した(CombiVacS Study)。対照群としてChAdOx1を1回接種した症例を設定しているためChAdOx1同種ワクチン接種とChAdOx1とBNT162b2によるハイブリッド・ワクチン接種の差を検出できない、中和抗体もいかなるウイルス株に対するものなのかが判然としない、などの問題点を有する論文であるが、ハイブリッド・ワクチン接種群ではRBD特異的IgG抗体、中和抗体、細胞性免疫の上昇が確認された。文献的にChAdOx1同種ワクチン接種の場合、1回目接種後にT細胞性反応は上昇するが2回目接種後にはさらなる上昇を認めないことが報告されている(Folegatti PM, et al. Lancet. 2020;396:467-478.)。それ故、Normark氏らの論文とBorobia氏らの論文を併せ考えると、ChAdOx1とRNAワクチンを組み合わせたハイブリッド・ワクチン接種は、ChAdOx1のみを使用した同種ワクチン接種よりも液性免疫、細胞性免疫の両面で優れているものと考えられる。 現時点では、Ad-vectored ChAdOx1とRNAワクチンを組み合わせたハイブリッド・ワクチン接種とRNAワクチンの同種2回接種による予防効果を直接比較・検討した臨床試験は存在しない。それ故、変異株を含めたコロナ感染症に対する臨床的予防効果が両者において差が存在するかどうかに関しては今後の検討課題である。ハイブリッド・ワクチンの医療経済的効果 ワクチンの2回接種に必要な費用は、RNAワクチンに比べChAdOx1では5~10倍安い。PfizerのRNAワクチンは37~39ドル、ModernaのRNAワクチンは30~74ドル、AstraZenecaのChAdOx1は6~8ドルである(So AD, et al. BMJ. 2020;371:m4750.)。すなわち、ChAdOx1を基礎としたハイブリッド・ワクチン接種は、RNAワクチン2回接種に比べワクチン確保に必要な費用を下げるという医療経済的効果を有する。コロナ感染症がいつまで続くかが見通せない現在、また、変異株抑制のために3回目のワクチン接種が必要になる可能性が指摘されている現在(Wu K, et al. medRxiv. 2021 May 6.)、ワクチン確保のために費やされる世界各国の出費はさらに膨大なものになることが予想される。それ故、医学的側面に加え医療経済的側面からも今後のワクチン行政を考えていく必要があるものと論評者らは考えている。

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ヘパリン増量では対応できない重症新型コロナウイルス感染症(解説:後藤信哉氏)

 新型コロナウイルス感染に対して1~2年前よりは医療サイドの対策は進んでいる。肺を守るステロイド、ECMOなどは状況に応じて広く使用されるようになった。しかし、血栓性合併症についての十分な治療が確立されていない。われわれの経験した過去の多くの血栓症ではヘパリンが有効であった。ヘパリンは内因性のアンチトロンビンIIIの構造を変換して効果を発揮するので、人体に凝固系が確立されたころから調節系として作用していたと想定される。心筋梗塞、不安定狭心症、静脈血栓症など多くの血栓症にヘパリンは有効であった。ヘパリンの有効性、安全性については重層的な臨床エビデンスがある。ヘパリンを使えない血栓症は免疫性ヘパリン惹起血小板減少・血栓症くらいであった。 重症の新型コロナウイルス感染症では、わらにもすがる思いで治療量のヘパリンを使用した。しかし、治療量と予防量のヘパリンを比較する本研究は1,098例を登録したところで中止された。最初から治療量のヘパリンを使用しても生存退院は増えず、ECMOなどの必要期間も変化しなかった。 新型コロナウイルス肺炎が注目された当初、ECMO症例の予後改善の一因にヘパリン投与の寄与が示唆された。本試験は治療量のヘパリンへの期待を打ち砕いた。 本研究は比較的軽症の新型コロナウイルス感染症に対する予防量、治療量のヘパリンのランダム化比較試験と同時に発表された。筆者の友人のHugo ten Cate博士が両論文を包括して「Surviving Covid-19 with Heparin?」というeditorialを書いている。Hugo ten Cate博士が指摘するように、重症化した新型コロナウイルス感染では免疫、細胞、など凝固系以外の因子が複雑に関与した血栓になっているのであろう。早期の血栓にはそれなりに有効なヘパリンも複雑系による血栓には無力であるとの彼の考えは、揺らぎの時期とpoint of no returnを超えた時期を有する生命現象の本質を突いていると思う。

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ヘパリン介入のチャンスのある重症化前の新型コロナウイルス感染(解説:後藤信哉氏)

 一般に、疾病は早期介入が重要である。新型コロナウイルスの場合、ウイルス感染という比較的単純な原因が炎症、肺炎などを惹起する。血管内皮細胞へのウイルス浸潤から始まる血栓症も初期の原因は比較的単純である。ウイルス感染に対して生体が反応し、免疫系が寄与する病態は複雑になる。複雑な病態は単純な治療では脱却できない。重症例を確実に入院させるとともに、早期の症例に対する医療介入の意味を示したのが本論文である。重症化していない新型コロナウイルス感染の症例を予防量と治療量のヘパリン群にランダムに分けて予後を検証した。重症化する前に治療量のヘパリンを投与すると、生存退院の可能性が増えることが示された。この論文は重症化前から新型コロナウイルス感染症患者を入院させ、各種の補助治療とともに治療量のヘパリンを投与する価値を示している。2,219例のランダム化比較試験の結果である。重症例と重症化前の症例の差異のメカニズムは不明である。臨床家としてはこのランダム化比較試験の結果は即座に実臨床に取り込むと思う。

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Delta株に対する現状ワクチンの予防効果―液性免疫、細胞性免疫からの考察(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

対象論文【Lancet】Neutralising antibody activity against SARS-CoV-2 VOCs B.1.617.2 and B.1.351 by BNT162b2 vaccination【NEJM】Infection and Vaccine-Induced Neutralizing-Antibody Responses to the SARS-CoV-2 B.1.617 Variantsワクチン接種後のDelta株などVOCに対する中和抗体価の動態 新型コロナ感染症にあって、感染性、病原性が高いVariants of Concern(VOC:Alpha株、Beta株、Gamma株、Delta株)が世界を席巻している。その中で、5月以降、Delta株(インド株、B.1.617.2)の勢力が増し、世界に播種するウイルスの中心的存在になりつつある。現状で使用可能なワクチンは武漢原株のS蛋白遺伝子配列をplatformとして作成されたものであり、S蛋白に複数の遺伝子変異を有するVOCに対して、どの程度の予防効果を発揮するかについては注意深い検証が必要である。本論評では、WallらとEdaraらの2つの論文を基に、Delta株を中心にVOCに対する現状のワクチンの効果を液性免疫(中和抗体)、細胞性免疫(T細胞反応)の面から考察する。 VOCに対する液性免疫(主としてS蛋白に対する特異的IgG抗体によって形成されるウイルス中和抗体)に関して、WallらはBNT162b2(Pfizer社)の2回接種後28日目における変異株に対する中和抗体価は、武漢原株/野生株に対するものに比較して、D614G株(従来株)で2.3倍、Alpha株(英国株)で2.6倍、Beta株(南アフリカ株)で4.9倍、Delta株(インド株)で5.8倍低下していると報告した(論文の補遺参照)。さらに、各中和抗体価の時間推移(2回目ワクチン接種後100日目まで)は、D614G株、Alpha株で時間経過にかかわらずほぼ一定に維持されていたのに対し、Beta株、Delta株では時間経過と共に低下し、少数ではあるが100日後の中和抗体価が検出限界以下になる症例が認められた。さらに、Beta株、Delta株に対する中和抗体価の時間推移は年齢と負の相関を示し、中和抗体価の低下速度は高齢者ほど大きいことが示された。同様の中和抗体価の年齢依存性は、BNT162b2接種後のGamma株に対しても報告されている(Bates TA, et al. JAMA. 2021 Jul 21. [Epub ahead of print])。 これらの結果は、Alpha株には強力な液性免疫回避作用を惹起する遺伝子変異が存在しないが、Beta株、Gamma株ではE484K変異、Delta株ではL452Rを中心とする強力な液性免疫回避変異が存在することから説明可能である。同様の結果はEdaraらによっても、RNAワクチン(Pfizer社のBNT162b2あるいはModerna社のmRNA-1273)2回接種後のDelta株に対する中和抗体価は野生株に対する中和抗体価に比べ、BNT162b2接種後で3.3倍、mRNA-1273接種後で3.0倍低下していると報告された。AstraZeneca社のChAdOx1の2回接種後における中和抗体価は、BNT162b2ワクチン2回接種後の値に比べ、いかなるウイルス種に対しても2倍以上低いことが示された(Wall EC, et al. Lancet. 2021;398:207-209.)。Delta株に対する3回目ワクチン接種の必要性 今後、世界各地で感染拡大が予想されるDelta株に対する中和抗体価の維持は、本変異株に対する予防を確実にするうえで最重要課題の1つである。Pfizer社は、BNT162b2の2回接種後8ヵ月間はDelta株に対する中和抗体価がほぼピーク値を維持するが、それ以降は低下するのでワクチン2回目接種6~12ヵ月後に、さらなるBooster効果を目指した3回目のワクチン接種が必要になると発表した(Pfizer社. 2021年7月28日報道)。Pfizer社は、Delta株に対する中和抗体価が3回目ワクチン接種により2回目接種後に比べ、18~55歳の対象で5倍以上、高齢者で11倍以上増強されると報告した。以上の結果を基に、Pfizer社は8月中にも米国FDAに3回目ワクチン接種の緊急使用許可を申請するとのことである。 ワクチン3回接種はModerna社のRNAワクチンにおいても試みられており、mRNA-1273の2回接種終了5.6~7.5ヵ月後に3回目のワクチンを接種した場合に(3回目のワクチン:mRNA-1273、Beta株のS蛋白遺伝子配列をplatformとして作成されたmRNA-1273.351、あるいは両者のカクテル)、Beta株、Gamma株に対する中和抗体価が、各々、32~35倍、27~44倍上昇することが示された(Wu K, et al. medRxiv. 2021.May 6.)。AstraZeneca社のChAdOx1においても、2回目接種から6~12ヵ月後に3回目の接種を行うことによってAlpha株、Beta株、Delta株に対する中和抗体価が再上昇することが示された(Flaxman A, et al. SSRN. 2021 Jun 28.)。今後のDelta株制御を考えた場合、現状ワクチンの3回接種、あるいは、Delta株のS蛋白遺伝子配列をplatformにした新たなワクチン開発が切望される。ワクチン惹起性液性免疫の発現機序 中和抗体の中核を成すS蛋白に対する特異的IgG抗体を産生する形質細胞数は、2回目のワクチン接種後約1週間でピークに達し、3週間以内にその90%が消失する。それ故、このような短命の形質細胞は“Short-lived plasma cell”と呼称される。しかしながら、S蛋白特異的IgG抗体産生はワクチン接種後少なくとも8ヵ月にわたり持続することが判明しており、この現象は、免疫組織(脾臓、リンパ節)の胚細胞中心において形成されたS蛋白を特異的に認識する記憶B細胞に由来する長期生存形質細胞(Long-lived plasma cell)の作用だと考えられている(Turner JS, et al. Nature. 2021;596:109-113.)。上述したように、現状ワクチンは、Delta株など免疫回避作用を有する変異株に対してS蛋白特異的IgG抗体産生能力が低く、かつ、低下の速度が速いため3回目接種による抗体産生の底上げを考慮する必要がある。ワクチン惹起性細胞性免疫の発現機序 ワクチンの予防効果を規定するもうひとつの重要な因子は、T細胞由来の細胞性免疫の賦活である。ワクチン接種はS蛋白のみを産生するので自然感染の場合と異なりウイルス全長ではなく、S蛋白を構成する種々のアミノ酸配列を抗原決定基(epitope)として細胞性免疫が惹起される。S蛋白は1,273個のアミノ酸で形成されており、たとえば、Delta株ではこのアミノ酸配列の8ヵ所に遺伝子変異が存在するが、Delta株のS蛋白アミノ酸配列は武漢原株/野生株と99%以上の相同性を維持している。CD4-T細胞反応、CD8-T細胞反応を規定する抗原決定基はS蛋白に数多く存在し、それらは、種々のコロナウイルス間で、各々、84.5%、95.3%の相同性が維持されている。その結果、変異株を含む種々のコロナウイルスに対するCD4-T細胞反応、CD8-T細胞反応は、ウイルスの種類によらずほぼ同一レベルに保持される(Tarke A, et al. bioRxiv. 2021.02.27.433180.)。ワクチン接種後の細胞性免疫の持続期間に関しては不明な点が多いが、Barouchらは、野生株を用いた解析ではあるが、細胞性免疫が液性免疫と同様に少なくとも8ヵ月は維持されることを示した(Barouch DH, et al. N Engl J Med. 2021 Jul 14. [Epub ahead of print])。液性免疫と細胞性免疫によって決定されるワクチンの予防効果 以上を総括すると、Delta株を中心とするVOCでは、液性免疫回避変異が少ないAlpha株を除き、液性免疫は著明に低下、しかし細胞性免疫はほぼ維持されるものと考えることができる。この事実を基にreal-world settingでの各ワクチンのDelta株に対する発症予防効果を見てみると、BNT162b2の発症予防効果はAlpha株に対して93.7%、Delta株に対して88%、ChAdOx1の発症予防効果はAlpha株に対して74.5%、Delta株に対して67.0%と報告された(Lopez Bernal J, et al. N Engl J Med. 2021;385:585-594.)。他の報告でも傾向は同じで、Delta株に対するワクチンの発症予防効果はAlpha株に対する発症予防効果の94%(BNT162b2)あるいは90%(ChAdOx1)前後であり、液性免疫(中和抗体価)の低下からは説明できない。液性免疫のみによってワクチンの効果が規定されるのであれば、Delta株に対する発症予防効果はAlpha株に対する値の45%前後にならなければならない。 本論評で考察した内容は、変異株に対するワクチンの予防効果は、低下した液性免疫を細胞性免疫が補完していることを意味している。一方で、変異株に対するワクチン惹起性細胞性免疫がほぼ一定に維持されるという事実は、変異株に対するワクチンの予防効果を少しでも上昇させるためには、ワクチン作成、あるいは接種回数に工夫を凝らし、液性免疫を上昇させる以外に有効な手段がないことを物語っている。

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新型コロナウイルスにより急性心筋梗塞と脳梗塞のリスクが上昇(解説:佐田政隆氏)

 2021年8月8日に東京オリンピック2020が終了したところであるが、ニュースでは新型コロナウイルスの感染拡大の話題が連日取り上げられている。デルタ株が猛威を振るい各都道府県で新規感染者数の記録が更新され、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の施行地域も拡大している。また、医療現場のひっ迫状態に関する報道も続く。このような中、軽症者のみならず中等症の患者も一部は自宅待機することと、政府の方針が転換された。しかし、軽症者でも急変して死に至ることがあることが報告され、在宅療養者の不安の声がテレビに映し出されている。 では、新型コロナウイルス患者が急変する原因は何か、予測因子は何かを明らかにすることが重要である。以前から、急変は肺炎の増悪ばかりでなく血栓症でないかと多くの指摘があった。 本論文では、スウェーデンの個人識別番号(personal identification numbers)を用いた国家登録データベースが解析された。2020年2月1日~9月14日のCOVID-19感染患者8万6,742例が対象になった。34万8,481例のマッチした対照群と比較検討された。第0病日を除外して2週間のオッズ比は急性心筋梗塞が3.41、脳梗塞は3.63であった。第0病日を含めると2週間のオッズ比は急性心筋梗塞が6.61、脳梗塞は6.74であった。 今回は、静脈血栓塞栓症は解析の対象となっていないが、オッズ比はもっと高くなると思われる。突然の急性心筋梗塞、脳梗塞の発症を予知する診断技術や、抗血栓薬の予防的投与がCOVID-19患者の予後を改善するといったはっきりとしたエビデンスが確立していない現状では、本論文の締めくくりに記載されているようにCOVID-19ワクチン接種を加速するしか解決策はないようである。

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新型コロナ治療薬「レムデシビル」が薬価収載、10月にも流通へ

 ギリアド・サイエンシズ株式会社は8月12日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「ベクルリー点滴静注用100mg」(一般名:レムデシビル)が、同日付で薬価収載されたと発表した。薬価は1瓶(100mg)当たり63,342円。 ベクルリーは、2020年5月1日に米国食品医薬品局(FDA)よりCOVID-19治療薬としての緊急時使用許可を受け、日本では同年5月7日に特例承認された。投与の対象となるのは、ECMO装着患者、人工呼吸器装着患者、ICU入室中の患者であって除外基準や基礎疾患の有無を踏まえ、医師の判断により投与することが適当と考えられる患者、および「ECMO装着、人工呼吸器装着、ICU入室」以外の入院患者うち、酸素飽和度94%(室内気)以下または酸素吸入が必要で、除外基準や基礎疾患の有無を踏まえ、医師の判断により投与することが適当と考えられる患者、となっている。本剤は、COVID-19のパンデミック下で迅速かつ公平に配分されることを目的に、厚生労働省との供給および販売契約を締結しているが、本年10月にも一般流通を開始する予定。 なお一般流通が始まるまでの期間は、引き続き国が購入した同製品を、現状のG-MIS(新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム)への入力を通じた方法により配分する。<製品概要>販売名:ベクルリー点滴静注用100mg一般名: レムデシビル効能・効果:SARS-CoV-2による感染症効能又は効果に関連する注意:臨床試験等における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による肺炎を有する患者を対象に投与を行うこと。用法・用量:通常、成人及び体重40kg以上の小児にはレムデシビルとして、投与初日に200mgを、投与2日目以降は100mgを1日1回点滴静注する。通常、体重3.5kg以上40kg未満の小児にはレムデシビルとして、投与初日に5mg/kgを、投与2日目以降は2.5mg/kgを1日1回点滴静注する。なお、総投与期間は10日までとする。製造販売承認日:2020年5月7日薬価基準収載日:2021年8月12日薬価:63,342円/瓶

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デルタ株(インド株)の遺伝子変異と臨床的特徴(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

原著論文【Lancet】SARS-CoV-2 Delta VOC in Scotland: demographics, risk of hospital admission, and vaccine effectiveness 2019年12月末に中国・武漢で発生した新型コロナ感染症の原因ウイルスを武漢原株(第1世代)と定義する。ウイルスは2.5塩基/月の速度で変異を繰り返し(Meredith LW, et al. Lancet Infect Dis.2021;20:1263-1271.)、2020年2月下旬にはS蛋白614位のアミノ酸がアスラギン酸(D)からグリシン(G)に置換されたD614G株(第2世代、従来株)が発生した。D614G株は変異を繰り返し、D614G株から数多くの変異株が形成されたが2020年の秋口まではD614G株自体が世界を席巻する主たるウイルスであった。しかしながら、2020年の秋以降、D614G株のS蛋白501位のアミノ酸がアスパラギン(N)からチロシン(Y)に置換されたN501Y株ならびにN501Y変異を有さない非N501Y株がD614G株を凌駕し、コロナ感染症は第2世代から第3世代変異株の時代に突入した。WHOは、第3世代の変異株にあってAlpha株(英国株:B.1.1.7)、Beta株(南アフリカ株:B.1.351)、Gamma株(ブラジル株:P.1)、Delta株(インド株:B.1.617.2)の4種類をVOC(Variants of Concern)と定義し、世界的な監視/警戒を呼び掛けている。 Alpha株は2020年9月以降、Beta株は2020年11月以降、Gamma株は2020年12月以降に世界的播種が始まった。インド株は2020年10月にインドにおいて初めて検出されたN501Yを有さない第3世代変異株であるが、初期には、S蛋白にE484QとL452Rという2つの液性免疫回避作用の原因となる遺伝子変異を有するB.1.617.3が主流を占めていた。しかしながら、2021年4月末以降、B.1.617.3の頻度が低下、代わってB.1.617.1とB.1.617.2による感染頻度が増加した。5月に入り、B.1.617.1が衰退し、現在ではB.1.617.2がインド株の中心的ウイルスとして世界に播種している(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 May 11.)。 Delta株のS蛋白には遺伝子変異が8ヵ所認められ(T19R、G142D、157/158欠損、L452R、T478K、D614G、P681R、D950N)、L452R変異が強力な液性免疫回避作用を発現する。157/158欠損、T478Kも液性免疫回避作用を有するがL452Rほど強力ではない。P681R変異はS2領域のFurin切断部位近傍に存在し、ウイルスと生体膜との融合を強めウイルスの感染性を上昇させる。Delta株は変異/進化を続け、現在、B.1.617.2から派生したAY.1、AY.2、AY.3も検出されるようになった(B.1.617.2のSublineage、Tracking SARS-CoV-2 Variants. WHO. 2021 July 18.)。AY.1、AY.2はB.1.617.2にK417T変異が加わったもの、AY.3はB.1.617.2にI1371V(ORF1aの変異)変異が挿入されたものである。2021年5月以降、Alpha株からDelta株への置換が進行し、2021年7月20日現在、インド、英国、米国、南アフリカ、ロシア、中国など世界の多くの国/地域で直近1ヵ月における新型コロナ感染の75%をDelta株が占めるようになっている(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 July 20.)。本邦にあっては、3月初旬より第2世代のD614G株から第3世代のAlpha株への置換が始まり、5月末には感染ウイルスの85%をAlpha株が占めるようになった。しかしながら、6月初旬よりAlpha株感染の低下が始まり、7月中旬にはDelta株感染が新規感染の50%に達するものと予測されている。6月28日現在、関東圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)においては新規感染者の30%、関西圏(大阪、京都、兵庫)においては新規感染者の5%がDelta株に起因すると推定されている(国立感染症研究所. 2021年7月6日)。 本論評で取り上げたSheikhらの論文は、スコットランドにおけるPfizer社のBNT162b2(RNAワクチン)ならびにAstraZeneca社のChAdOx1(Adeno-vectoredワクチン)のAlpha株、Delta株に対する発症/重症化予防効果を解析したものである。解析施行時(2021年4月1日~6月6日)のスコットランドでは、背景ウイルスがAlpha株からDelta株に置換されつつあった時期であり、コロナ感染者の39.5%、入院患者の35.5%がDelta株感染であり、Delta株感染による入院リスクはAlpha株感染の1.85倍であった。スコットランドにおける解析終了時点でのワクチン完全接種率(2回のワクチン接種終了)は65歳以上の高齢者で88.8%、国民全体で39.4%であり、Alpha株感染の75%、Delta株感染の70%はワクチン非接種者に認められた。Pfizer社ワクチンの発症予防効果はAlpha株に対して92%、Delta株に対して79%、AstraZeneca社ワクチンの発症予防効果はAlpha株に対して73%、Delta株に対して60%であり、両ワクチンともDelta株に対する予防効果が有意に減弱していることが示された。他のワクチンを含めた各種ワクチンのVOC変異株に対する中和抗体価、予防効果に関しては次の論評で詳細に検討する予定であるので、それを参照していただきたい。本論文の興味深い点は、5月1日から5月27日までの約1ヵ月間におけるAlpha株とDelta株感染の推移が具体的に提示されていることであり(論文の補遺参照)、スコットランドでは1ヵ月という非常に短い期間でAlpha株はDelta株にほぼ置換されたことを示している。本論文で明らかにされたDelta株の感染性、病原性の増強ならびにワクチン抵抗性は、Delta株のS蛋白における複数の遺伝子変異から説明可能である。 本論文ならびに他の論文で明らかにされた、Delta株に対するワクチンの効果以外の臨床的特徴について考察する。感染性の指標である実効再生産数(Rt)の野生株あるいは従来株に対する比は、Alpha株で1.41倍、Beta株で1.36倍、Gamma株で1.11倍である(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 March 21.)。一方、Delta株のRtは野生株・従来株の1.97倍、Alpha株の1.55倍になると報告された(Campbell F, et al. Euro Surveill. 2021;26:2100509.)。すなわち、Alpha株、Beta株では発生から75%の感染率に達するまでには約3ヵ月の期間を要するのに対し、Delta株ではスコットランドの研究で示されたように約1ヵ月で75%の感染率に達する。一方、Gamma株では約6ヵ月を要して75%の感染率に達する。 Delta株感染時の生体へのウイルス負荷量は野生株/従来株感染時の1,200倍にも達し、ウイルス感染からPCRが陽性になるまでの潜伏期間は6日から4日に短縮される(Li B, et al. medRxiv. 2021;2021.07.07.21260122.)。その結果、野生株/従来株感染に比べ、Delta株感染では一般的入院リスクが1.2倍、ICU入院リスクが2.9倍、死亡リスクが1.4倍上昇すると報告されている(Fishman DN, Tuite AR. medRxiv. 2021;2021.07.05.21260050.)。別の論文では、野生株/従来株感染に比べてDelta株感染ではウイルス陽性期間が長く、肺炎発症リスクが1.9倍、ICU入院/死亡リスクが4.9倍に達すると報告された(Ong SWX, et al. Social Science Research Network. 2021.)。 Delta株感染の年齢分布、性差の影響に関する確実な報告は現時点では存在しない。これは、ワクチン接種という人為的要因が加わったためにDelta株の自然感染時のデータ集積が困難になっているためである。Delta株の感染性、病原性は野生株/従来株、Alpha株より強いものであることは間違いないが、それに対して年齢、性差が影響するという科学的根拠はない。それ故、Delta株の自然感染における年齢分布、性差の影響は、ワクチン接種が始まる前に集積された野生株/従来株、Alpha株に対する影響と質的に同じと考えるべきであろう。もしこの考えが正しいならば、性差によってDelta株感染に著明な差を認めず、感染者数の年齢分布はダイヤモンド型を呈するものと推察される。すなわち、Delta株感染者数は、小児、高齢者で少なく、活動度の高い20~50代で多い(Public Health England)。Delta株感染者数がこのダイヤモンド形態から外れる場合には、各世代のワクチン接種率の差が人為的要因として関与しているものと考えるべきである。

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第70回 五輪然りPCR検査済みなら修学旅行はOK?大阪府教育委員会の見解は…

新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が東京都に発令され、東京都だけでなく全国各地で過去最高の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染者数を記録し続ける最中に開催された東京オリンピック2020が8月8日に終了した。原則無観客開催であったことも幸いしてか、今のところオリンピックを直接のきっかけとする感染拡大は起きてはいないとみられる。そのせいか、菅 義偉首相も丸川 珠代東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣もオリンピックが感染拡大につながっていないと繰り返し強調している。「菅首相“オリンピック 感染拡大 つながっているわけではない“」(NHK)「『五輪開催 感染拡大の原因にはなっていない』丸川五輪相」(NHK)少なくとも現時点ではこの見解を覆すエビデンスはないが、過去に例を見ない感染状況の最中に本来感染対策に向けるべきリソースをオリンピックの円滑な開催に振り向けたであろうことは、これまた疑いの余地がないのではないかと思っている。この感染状況にもかかわらずオリンピックを開催したことは紋切り型の表現で恐縮だが、「国民に適切な感染対策を取るよう求めるメッセージが伝わりにくくなる」という現実もある。そうした最中、私が注目したのは以下のニュースだ。「緊急事態でも修学旅行実施 大阪市長『五輪やっている』」(朝日新聞)簡単に要約すると緊急事態宣言中ではあるが、8月に予定されている大阪市立の中学校4校の修学旅行は、生徒に事前のPCR検査を受けさせて陰性の生徒のみで予定通り実施するというニュースだ。記事の見出しにもある「五輪やっている」は、実はこの記事だけだと真意が分かりにくいが、大阪市のホームページにある市長会見の全文を見ればより理解がしやすい。松井 一郎市長が言っていることを要約すると、「大会期間中も定期的なPCR検査を実施して陰性者のみでオリンピックを開催できているのだから、修学旅行も事前のPCR検査実施で陰性者のみで実施するならばそれは構わないのではないか」という見解だ。松井市長はこれに関連して「僕も悩みましたけども」「子どもたちの一生の思い出に残るような事業、行事についてはできる限り実施をしたい」と発言しているように少なくとも短絡的に決めたわけではなさそうだ。かくいう私もコロナ禍で娘の修学旅行中止を経験している。昨春に予定されていた娘の修学旅行はコロナ禍により初冬に日程を短縮したうえで延期。ところがその時期に第3波の感染拡大が始まったことで、実施1週間前に突如中止となった。娘は表面上ヘラヘラしていたが、どれだけ辛かったろうと今でも思っている。その意味では本音ではあまり無粋なことは言いたくない。ただ、どうしてもPCR検査に対する過剰な期待と陰に隠れた危険性を認識していないのではないかと思ってしまうのだ。まず、読者の皆様には明らかに釈迦に説法なのだが、PCR検査は万能ではない。感染から4日以内ならば感度は50%に満たない。結果として参加者に偽陰性者が紛れ込む可能性があり、修学旅行中に生徒内や滞在先の関係者に感染させてしまう恐れがある。また、当然ながら出発時に陰性だったとしても滞在先で感染してしまうケースもある。だが、私がそれ以上に気になったのは、事実上「修学旅行不参加=新型コロナ感染者」と丸わかりになってしまう怖れだ。松井市長は記者との質疑応答内で感染していれば修学旅行に行けないのは「インフルエンザでも一緒ですよね」とあっさり言っている。しかし、ワクチンが登場したとはいえ、一般人からすれば新型コロナはまだまだ未知の感染症のイメージだ。インフルエンザに罹ったことで周囲から白眼視されることはほぼないが、新型コロナ感染では白眼視も含め不利益を被る可能性はまだ十分にあることを念頭に置かねばならない。そもそも同じ感染症でもインフルエンザとは状況が異なるから、わざわざ事前にPCR検査をすると言っているわけだからこの例えは問題をやや矮小化している。また、事前のPCR検査で陽性と判明した生徒と濃厚接触者の認定を受けた生徒が発生した場合どうするのか? これについても松井市長と記者との質疑応答がある。以下、その部分を引用する。記者そこで一部、陽性の方が出てしまったっていう場合には、当然その陽性の方は行けないだろうというのは分かるんですが。市長だから、それ何度も言うけどインフルエンザも駄目でしょそれは。記者濃厚接触者の特定というのは保健所を通じてやって、そういう方については行けないということになるわけですかね。市長うん、申し訳ないけどね。だから行けない子どもはそら本当に可哀想や思うよ。でもそのことをもってね、全て行事中止かといえば、それはちょっと違うでしょと思ってます。もちろん松井市長の考え方も一つだ。しかし、PCR検査で陽性となった生徒も濃厚接触となった生徒も罪はない。だが、双方の生徒ともその後も続くかもしれない心理的傷を負う可能性はあるし、とりわけ友人に感染させた可能性を持つ生徒の心痛は計り知れない。大阪市教育委員会に電話をし、指導部の担当者に尋ねてみた。―報道でも発表があった8月の市立中学校4校の修学旅行(行先は岐阜県の学校と長野県の学校がある)の実施は予定通りですか?担当者現時点では岐阜のほうに関しては調整中なので、行くことは行くけれども延期ということになっています。―4校すべて延期ですか?担当者いえ、岐阜県を行き先とした学校は延期ということです。―延期というのは受け入れ先の要望ですかね?担当者受け入れ先と言いますか、県ですね。―念のため確認をしたいのですが、報道ではPCR検査で陰性となった生徒のみが修学旅行に参加できると伺っていますが、間違いありませんか?担当者はい、そうですね。―ちなみに陽性と分かった生徒と学校内で濃厚接触と認定された生徒についてはどうなりますか?担当者今は夏季休暇中でもあるので、もしあるとするならば部活動ですかね。その場合は個別にどのような状況だったかを確認したうえで保健所などとの調整になるかとは思うのですが、授業とかをやっているわけではないので、その辺の可能性は低いのではないかと考えています。―修学旅行への不参加ということでPCR検査陽性者が特定できる可能性はありますよね?担当者すでに過去にさまざまな形で感染の例を経験しています。そのうえで誰がということではなく、さまざまな事情でお休みすることがあったりはするので、その都度の個別の対応で結果として感染者が誰かが分かることはあるかもしれません。そのことでマイナスイメージを持たれる、あるいはトラブルになることも想定できますし、正直避けては通れない問題であることは確かですので、従来から学校のほうで慎重に取り扱うことにはなっています。―過去の感染発生のケースも含め、個人情報の扱い方や対応について何か市ではマニュアル等の作成は行っているのでしょうか?担当者そもそも感染が判明した場合だけでなく、感染が怖いため登校を見合わせるケースなどさまざまなケースが考えられるため、それらも含めて慎重に対応するよう昨年度から大阪市教育委員会でも「学校園における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル」を策定しており、完全に学校任せにはしていません。―ちなみに、延期により9月以降の修学旅行を実施する学校もありますよね?その場合は生徒内で濃厚接触者も発生する可能性もあります。自分が行けなくなってしまっただけでなく、友達を行けなくさせてしまったことで心理的に相当つらい思いをする生徒も発生する可能性があります。その場合を想定した対策は考えていらっしゃいますか?担当者基本的には従来と対応は変わりません。というのも、それぞれ個々の感染状況があると思うので一概に決められるものではないからです。また、今回のPCR検査については基本的に業者に依頼するもので、陽性になった場合でもさらに保健所と対応を協議することを念頭に余裕も持たせたスケジュールで行う予定で、その上で修学旅行自体は延期をベースにしつつも、内容を変えた実施も含めて検討します。誰かのせいで行けなかったということが極力ないような形で実施したいと思っています。この回答を聞いて単なる官僚答弁というつもりはない。むしろ当初はこのPCR検査の結果の運用次第で生徒に与える影響についてほとんど考えていないのではないかとやや斜に構えた見方をしていたのだが、思ったよりは教育委員会もさまざまなケースを想定していたのだと感じている。よどみなくしかも嫌がらずに答える担当者の対応にもそうした空気を感じた。私がこの問題にこだわったのは自分の娘の経験もあるが、ある医師から修学旅行にまつわるエピソードを聞き、そのことが頭からは離れなかったためである。この医師はある中学校の先生から「修学旅行を何とか実施したい、ついては生徒全員にPCR検査をし、全員が陰性だった場合のみ実施しようと思うがどう考えるか?」との相談を受けたという。医師は次のように答えたという。「PCR検査は感染性が失われた隔離解除期間後も陽性となることがある。つまり流行中に中学生たちに一斉に検査をするとリアルに感染性がある子どもたちを発見する可能性がある一方で、治癒後の生徒たちもかなり見つかる。では治癒後と思われる子は修学旅行に行かせないのでしょうか? 行かせないだけならまだしも、陽性の生徒が発生したクラスや部活はどうするんですか?濃厚接触者ならば、同じクラスの生徒や同じ部活の生徒も行かせることはできないですよね。しかもどの子が陽性だったからみんなが行けなくなったのか分かります。その時に『お前が感染してたからみんなが修学旅行に行けなくなったんだ』ということをその子に背負わせることができますか?」この医師が示唆する対応、すなわち修学旅行を実施しないは最も誰も傷つかない、あるいはみな平等に傷つく対応といえ一つの解と言える。その一方でギリギリの判断をする前述の大阪市教育委員会の解も完全に的外れではないと思う。ただ、一つだけ言えることはPCR検査も含めその結果がもたらす医学的確からしさ、科学的確からしさは時に極めて残酷な結論をもたらし、かつその影響を長期にわたって引きずることになるかもしれないということを、この件を通じて改めて思い知った次第である。

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第70回 真夏のホラー、コロナ患者「重症者以外自宅療養」方針めぐるドタバタで考えた“野戦病院”の必要性

「重症患者や重症化リスクの特に高い方以外の方は自宅で」と菅首相こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連休は、諸々危ない東京を離れ、こっそりテントを担いで山に籠ろうと考えていたのですが、台風の接近で渋々断念。秋山に備え、山道具のメンテナンスで時間を潰しました。結構へたった道具も見つかり、それはそれで有意義な時間でした。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、7月30日には緊急事態宣言の対象府県が追加され、8月8日からはまん延防止等重点措置の適用地域に福島、茨城、栃木、群馬、静岡、愛知、滋賀、熊本の8県が追加されました。これによって、重点措置の適用地域は13道府県となりました。そんな中、8月2日に政府が打ち出した「新型コロナウイルスの感染者は重症患者などを除き自宅療養を基本とする」とした方針が、医療界だけでなく、政治の世界でも大混乱を引き起こしました。菅 義偉首相はこの日の記者会見で「重症患者や重症化リスクの特に高い方には、確実に入院していただけるよう、必要な病床を確保します。それ以外の方は自宅での療養を基本とし、症状が悪くなればすぐに入院できる体制を整備します。(自宅療養者には)地域の診療所が、往診やオンライン診療などによって、丁寧に状況を把握できるようにします」と語ったわけですが、国民の多くには“患者切り捨て”と聞こえてしまったのです。私自身もニュースで菅首相の発言を聞いていました。重大なことを国民に伝えようとしているのに目は死んだ鯉のようで、事態の深刻さは伝わってきません。どうやら、菅首相は自分が話している言葉の意味を理解していないことが多いようです。8月6日の広島の平和記念式典での挨拶でも、肝心の部分を読み飛ばし、意味不明のことを話していましたし…。「究極の棄民政策だ」と舛添氏それにしても、中等症(肺炎症状が相当深刻な人もいます)を入院させないなんて…。これはもはや真夏のホラー映画です。野党は「患者を放棄する無責任な対応だ」と猛反対、自民党の新型コロナウイルス感染症対策本部とワクチン対策プロジェクトチーム内からも「事前に知らされていなかった」と不満が吹き出し、撤回を求める動きも起こりました。前東京都知事で厚生労働大臣も務めたことがある舛添 要一氏はツイッターで「究極の棄民政策だ」と強く批判しました。混乱が起こった理由の一つは、この方針が全国一律で行われるとみられたことです。2日の菅首相の記者会見を聞き直しても、「全国一律の方針」に聞こえました。その後、あまりの大反対の声に政府は方針を転換、4日の記者会見で菅首相は「東京や首都圏など爆発的な感染拡大が生じている地域であり、全国一律ではない」と強調するに至りました。「重症者以外自宅療養」のトーン弱まる「地域の診療所に往診やオンライン診療でなどで状況把握を行ってもらう」という方針に対しても、医療現場からは「急変した時に、確実に入院させられるか保証がない」「往診はそもそも手間と時間がかかり、対応人数にも限りがある」など、批判が相次ぎました。「重症者以外切り捨てようとしている」という批判に政府も流石に焦ったのか、菅首相は8月3日に行われた医療関係団体との意見交換で、病床確保や自宅・宿泊療養の強化への協力を要請した際、中等症患者については入院対応の方針を示しました。MEDIFAX等の報道によれば菅首相は、「酸素投与が必要な人、糖尿病などの疾患がある人は確実に入院していただき、それ以外の人で症状が悪くなった場合には、必ずすぐに入院できる体制を整備していく」と語ったとのことです。同日には厚生労働省から「現下の感染拡大を踏まえた患者療養の考え方について(要請)」と題する事務連絡が出され、 その中で「入院治療は、重症患者や、中等症以下の患者の中で特に重症化リスクの高い人に重点化することも可能である」との解釈が示されました。事務連絡も2日後に内容修正、「中等症は原則入院」にさらにこの事務連絡、2日後の8月5日、「中等症も原則入院対象とする」という内容に追加資料で修正するに至りました。上記の事務連絡の3枚目に1枚追加されているパワーポイントの資料がそれです。与党が問題視した対象地域について、当初は「患者が急増している地域」となっていましたが、「東京都をはじめ感染者が急増している地域」と地域名が追加され、全国一律の対応ではないことが強調されました。患者対応の方法についても、「感染者急増地域において可能とする新たな選択肢」という名称になり、「緊急的な対応として自治体の判断で対応を可能とする」となりました。そして肝心の入院については、当初「重症患者や特に重症化リスクの高い者に重点化」としていたものが、修正資料では「入院は重症患者、中等症患者で酸素投与が必要な者、投与が必要でなくても重症化リスクがある者に重点化(最終的には医師の判断)」となり、「医師の判断」も明記されました。つまり、「中等症は原則入院」ということになったのです。ただし、「入院させる必要がある患者以外は自宅療養を基本」の方針は変わっていません。3日の事務連絡そのものは撤回せず、追加資料において事実上の軌道修正を行った格好ですが、政府と厚労省の混乱ぶりがうかがえます。厚労省は「精査不足」で、政府は「調整役不足」与党である自民党、公明党にも知らされず、政府対策分科会の尾身 茂会長にも事前相談がなかったとされるこの方針決定。政府が2日の関係閣僚会議で打ち出した、とのことですが、どういった議論を経て決定し、公表に至ったのかは不透明なままです。報道等によれば、尾身会長に相談しなかったことに関して田村 憲久厚生労働大臣は、「病床のオペレーションの問題なので政府で決めた」と語ったとのことです。厚労省も入って検討したということですが、厚労省の幹部が本当に、中等症含む自宅療養者を往診とオンライン診療でカバーするというような、稚拙かつ現実味のない対応策を提案したのでしょうか。8月6日付の朝日新聞は、「厚労省幹部によると、入院制限は今週後半に公表する予定で東京都と調整していたが、都内の感染拡大を受けて前倒しで発表。資料を精査しきれず、根回しも十分行わない見切り発車だった」と報道しています。また、同日付の日本経済新聞は、政府と与党の連絡不足を指摘、「首相は官房長官を務めていた時期、自民党本部などにしばしば足を運んだ。菅政権ではこのような調整役不足が指摘される」と書いています。厚労省は「精査不足」で、政府は「調整役不足」って、一体この政権、大丈夫なのでしょうか。入院制限、重症者以外自宅療養を打ち出したのは誰かそれにしても気になるのは厚労省の「精査不足」です。在宅医療は医師が患者宅に出向く必要があるため効率が悪く、X線やCTを用いての肺炎の診断もできません。患者数が多い場合は在宅には限界があることや、そもそも地域で在宅医療(や往診)を積極展開している医療機関の数は決して多くはないことを、厚労省の幹部も認識しているはずです。そう考えると、入院制限、重症者以外自宅療養を打ち出したのは、厚労官僚ではなく、菅首相取り巻きの内閣府の官僚ではないか、という推測も成り立ちます。厚労省幹部が在宅での対応の限界を菅首相に進言したにもかかわらず一蹴され、引き下がってしまったのだとしたら、それもまたホラーです。各地の体育館などに“野戦病院”的施設をつくったら?そんな混乱の中、8月5日の尾身会長の厚生労働委委員会での発言は、とても建設的で意味があると感じました。尾身氏は「入院か在宅か、という議論になりつつあるが、今の感染状況の中で国民のニーズに応えるためには一本足打法は駄目だ。一つ目は医療を病院だけでなく、地域全体でさらに強化する。二つ目は、宿泊療養施設の強化。最後に、自宅療養で軽症の人も重症化するリスクがあるから、すぐに医療に結びつけるようなシステム。この3点を総合的にやることが必要だ」と語ったとのことです。「尾身氏は感染症の専門家であり、医療提供体制の専門家ではない」という批判もあるようですが、関係閣僚会議で出された方針よりも、はるかに理にかなっています。中等症、軽症と診断され、自宅で療養するというのはとても不安なものです。自宅療養者が増え過ぎ、保健所や自治体のフォローアップ機関が対応できないなら、症状や重症度を的確に判断できる医療スタッフの下で集団療養してもらうほうが、「安全・安心」ではないでしょうか。仮に宿泊療養施設の確保や、そこでの医療提供が難しいとするなら、ここは割り切って各地の体育館などに即席の“野戦病院”的な療養施設をつくり、必要な医療機器も配置し、そこに地域の開業医をはじめとする医療スタッフたちを持ち回りで常駐させたらどうでしょう。今が有事とするならば、療養環境は後回しにして、より多くの中等症、軽症患者を効率よく診察し、必要に応じて重症病床のある病院に送る(在宅死を招かない)仕組みの構築は待ったなしだと思います。災害時の福祉避難所のイメージ尾身氏の発言を聞いてふと頭に浮かんだのは、東日本大震災の時に取材した、石巻市の福祉避難所「遊学館」です。「遊学館」は、元々はスポーツアリーナ・コンサートホール・室内プール多目的会議室等を有する複合施設だったのですが、震災直後は、介護度が高い高齢者や医療が必要な人が、広い体育館の中で寝かされ、必要な医療・介護サービスを受けていました。当然ながら他の避難所よりも医療・介護スタッフが多く、自宅で療養するよりも「安全・安心」の医療・介護が提供されていました。そもそも、今年1月以降、医療提供体制の不備が批判され始めた時に、最悪の状況に対応するための仕組みを各地で準備しておくべきだったのです。仮にデルタ株の感染拡大が収まったとしても、脅威となる新たな変異株が出現する可能性もあります。ぜひとも、国や医療関係団体は、体育館等を活用した“野戦病院”的療養施設の開設と地域の開業医動員についての検討を進めてほしいと思います。

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コロナワクチン接種後の心膜炎、高齢者でも発症か?

 新型コロナワクチンの接種が世界各国で進むなか、副反応症状として心筋炎などの心臓関連の病態も明らかになりつつある。米国・Providence Regional Medical Center EverettのGeorge A. Diaz氏らはワクチン接種後の心筋炎や心膜炎の症例を識別するため、ワクチン接種者のカルテを検証した。その結果、心筋炎は若い患者で主に2回目接種後早期に発症することが明らかになった。一方の心膜炎は初回接種後20日(中央値)または2回目接種後に影響を及ぼし、とくに高齢者で注意が必要なことが示唆された。JAMA Network Open誌2021年8月4日号リサーチレターでの報告。 研究者らは、ワクチン接種前(2019年1月~2021年1月)とワクチン接種期間(2021年2~5月)において、初回病院診断(2018年1月~2019年1月以前に診断された患者を除く)の月の平均診断率を比較した。米国内の40病院(ワシントン州、オレゴン州、モンタナ州、カリフォルニア州ロサンゼルス郡)の電子医療記録(EMR)データを基に検証を行った。 主な結果は以下のとおり。・新型コロナワクチン接種を1回は受けたことのある200万287例のカルテを利用した。そのうち女性は58.9%で、年齢中央値は57歳(四分位範囲[IQR]:40~70歳)、2回目接種完了者は76.5%だった。・接種者のワクチンの内訳はファイザー製が52.6%、モデルナ製が44.1%、J&J製が3.1%だった。・20例がワクチン関連の心筋炎(10万人あたり1.0、95%信頼区間[95%CI]:0.61~1.54)、37例が心膜炎(10万人あたり1.8、95%CI:1.30~2.55)だった。・心筋炎の発症について、ワクチン接種後の中央値は3.5日(IQR:3.0~10.8日)で、モデルナ製で11例(55%)、ファイザー製では9例(45%)だった。・20例中15例(75%、95%CI:53~89%)は男性、年齢中央値は36歳(IQR:26~48歳)だった。・4例(20%、95%CI:8~42%)は初回接種後に症状を発症し、16例(80%、95%CI:58~92%)は2回目接種後に症状を発症した。・19例(95%、95%CI:76~99%)は入院したものの、中央値2日後(IQR:2〜3日)に全員が退院した。再入院や死亡なかった。・2例は心筋炎発症後に2回目接種を受けたが、どちらも症状の悪化はみられなかった。・フォローアップ期間の中央値は症状発現後23.5日(IQR:4.8~41.3日)で、13例(65%、95%CI:43~82%)は症状の消失を認め、7例(35%、95%CI:18~57%)は症状の改善が得られた。・次に心膜炎については、15例(40.5%、95%CI:26~57%)は初回接種後、22例(59.5%、95%CI:44~74%)は2回目接種後に発症した(モデルナ製:12例[32%]、ファイザー製:23例[62%]、J&J製:2例[5%])。・発症の中央値は、初回接種から20日(IQR:6.0〜41.0日)だった。・27例(73%、95%CI:57~85%)は男性で、年齢中央値は59歳(IQR:46~69歳)だった。・13例(35%、95%CI:22~51%)が入院し、滞在期間の中央値は1日(IQR:1~2日)だった。集中治療室への入室はなかった。・心膜炎の7例は2回目接種を受けたが、死亡者はなかった。・フォローアップ期間の中央値は28日(IQR:7~53日)で、7例(19%、95%CI:9~34%)は症状が消失し、23例(62%、95%CI:46~76%)は改善した。・ワクチン接種前の心筋炎の平均月間症例数は16.9例(95%CI:15.3~18.6)だった。一方で、ワクチン期間中は27.3例(95%CI:22.4~32.9)と増加傾向だった(p<0.001)。また、同期間の心膜炎の平均月間症例数は、ワクチン接種前が49.1例(95%CI:46.4~51.9)、ワクチン期間中は78.8例(95%CI:70.3~87.9)だった(p<0.001)。

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COVID-19に対する薬物治療の考え方 第8版、中和抗体薬を追加/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:舘田一博氏[東邦大学医学部教授])は、8月6日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬について指針として「COVID-19に対する薬物治療の考え方第8版」をまとめ、同会のホームページで公開した。 今回の改訂では、前回7版からの知見の追加のほか、先日承認された中和抗体薬の項目が追加された。また、デルタ株の猛威に対し「一般市民の皆様へ ~かからないために、かかった時のために~」を日本環境感染学会と連名で公開した。中和抗体薬を新たに追加 第8版では「中和抗体薬」として下記を追加した(一部を抜粋して示す)。【機序】中和抗体薬は単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られたSARS-CoV-2スパイク蛋白の受容体結合ドメインに対する抗体。【海外での臨床報告】中和抗体薬は、発症から時間の経っていない軽症例ではウイルス量の減少や重症化を抑制する効果が示され、また投与時にすでに自己の抗体を有する患者では効果が期待できないことが示されている。重症化リスク因子を1つ以上持つCOVID-19外来患者4,057人を対象としたランダム化比較試験では、カシリビマブ/イムデビマブの単回投与により、プラセボと比較して、COVID-19による入院または全死亡がそれぞれ71.3%、70.4%有意に減少した。また、症状が消失するまでの期間(中央値)は、両投与群ともプラセボ群に比べて4日短かった。【投与方法(用法・用量)】通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、カシリビマブ(遺伝子組換え)およびイムデビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ600mgを併用により単回点滴静注。【投与時の注意点】1)SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行うこと。2)高流量酸素または人工呼吸器管理を要する患者において症状が悪化したとの報告がある。3)本剤の中和活性が低いSARS-CoV-2変異株に対しては本剤の有効性が期待できない可能性があるため、SARS-CoV-2の最新の流行株の情報を踏まえ、本剤投与の適切性を検討すること。4)SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与すること。臨床試験において、症状発現から8日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。5)重症化リスク因子については、その代表的な例として、承認審査での評価資料となった海外第III相試験(COV-2067試験)の組み入れ基準、新型コロナウイルス感染症に係る国内の主要な診療ガイドラインである「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」または特例承認の際に根拠とした米国の緊急使用許可(EUA)において例示されている重症化リスク因子が想定される。外来で聞かれたら答えたい4項目 一般向けとして公開された「私たちからのメッセージ」では、・COVID-19 に関して知っておきたいこと・かからないためにわたしたちは何をすべきなのか・かかってしまった人に・皆さんへのお願いの4項目を示し、解説としてデルタ株の特性、現況の感染状況、医療体制への悪影響、ワクチンの重要性、感染しないために個人ができる対策を記している。また、最後に「皆さんへのお願い」では、ワクチン接種と感染対策の励行、正しい情報の共有、他人への気遣い、ワクチン未接種者への理解を訴えている。

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リスジプラム、I型の脊髄性筋萎縮症に有効/NEJM

 I型脊髄性筋萎縮症(SMA)の乳児において、リスジプラムは歴史的対照と比較して、運動マイルストーンの達成割合が高く、運動機能が改善した乳児の割合も優れることが、米国・ハーバード大学医学大学院のBasil T. Darras氏らが行った「FIREFISH試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年7月29日号に掲載された。I型SMAは進行性の神経筋疾患で、生後6ヵ月までに発症し、特徴として、支えなしで座位を保持できない、運動神経細胞生存(SMN)蛋白の不足が認められる。リスジプラムは経口投与が可能な低分子薬で、SMN2のメッセンジャーRNA前駆体スプライシングを修飾し、血中の機能性SMN蛋白の増加をもたらすとされる。2部構成の非盲検試験の第2部の結果 本研究は、I型SMA乳児におけるリスジプラムの安全性と有効性の評価を目的とする2部構成の非盲検臨床試験で、第1部は用量設定試験(既報)であり、第2部では第1部で決定された用量の臨床効果と安全性が歴史的対照と比較された(スイスF. Hoffmann-La Rocheの助成による)。この試験には10ヵ国14施設が参加し、今回は第2部の結果が報告された。 対象は、生後28日~3ヵ月に症状が発現し、登録時に生後1~7ヵ月のI型SMAの患児であった。リスジプラムは、生後5ヵ月以上の乳児には0.2mg/kg/日が投与され、5ヵ月未満の乳児は初回用量0.04または0.08mg/kg/日で投与が開始され、1~3ヵ月で0.2mg/kg/日となるように調節された。嚥下が可能な乳児には経口投与が行われ、不可能な乳児には栄養チューブを用いてボーラス投与された。 主要エンドポイントは、投与開始から12ヵ月後に、支えなしで座位を5秒以上保持できることとした。主な副次エンドポイントは、フィラデルフィア小児病院乳児神経筋疾患検査スコア(CHOP-INTEND:0~64点、点数が高いほど運動機能が良好)が40点以上、CHOP-INTENDスコアのベースラインから4点以上の増加、Hammersmith乳児神経学的検査のセクション2(HINE-2、0~26点、点数が高いほど運動機能が良好)で評価した運動マイルストーン(蹴る、頭部の制御、転がる、座る、這う、立つ、歩く)の改善、恒久的人工呼吸管理のない生存とした。副次エンドポイントは、I型SMA乳児40例の自然経過データの90%信頼区間(CI)の上限値との比較を行った。主要および主な副次エンドポイントがすべて改善 主解析の臨床的カットオフ日(全患児が、12ヵ月の投与期間を終了、試験中止、死亡のいずれかに達する)は2019年11月14日であり、41例が登録された。登録時の年齢中央値は5.3ヵ月(範囲:2.2~6.9)で、54%が女児であった。ベースラインのCHOP-INTENDスコア中央値は22.0点(範囲:8.0~37.0)、HINE-2スコア中央値は1.0点(範囲:0.0~5.0)であった。39例(95%)が嚥下可能だった。 投与開始から12ヵ月後の時点で、支えなしで座位を5秒以上保持できた患児は12例(29%、95%CI:16~46、自然歴データ[5%]との比較でp<0.001)であり、これは本疾患では達成されていないマイルストーン(画期的出来事)であった。 12ヵ月後に、主な副次エンドポイントを達成した乳児の割合を、歴史的対照のCI上限値と比較したところ、CHOP-INTENDスコア40点以上は、56%(23/41例)および17%、CHOP-INTENDスコアのベースラインから4点以上の増加は90%(37/41例)および17%、HINE-2による運動マイルストーンの奏効は78%(32/41例)および12%、恒久的人工呼吸管理のない生存は85%(35/41例)および42%であった(いずれの比較とも、p<0.001)。 48件の重篤な有害事象が報告された。最も頻度の高い重篤な有害事象は、肺炎(13例[32%])、細気管支炎(2例[5%])、筋緊張低下(2例[5%])、呼吸不全(2例[5%])であった。 著者は、「I型SMA乳児におけるリスジプラムの長期的な安全性と有効性を明らかにするには、より長期で大規模な試験が求められる」としている。

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