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転移乳がんへのサシツズマブ ゴビテカン、アジアを含む安全性統合解析/日本臨床腫瘍学会

 サシツズマブ ゴビテカン(SG)は、既治療で転移を有するトリプルネガティブおよびHR+/HER2-乳がん患者を対象とした複数の臨床試験において、標準治療と比較して患者の転帰を大幅に改善し、安全性プロファイルは管理可能であることが示されている。今回、米国やカナダ、欧州、アジアで実施された試験でSGを投与された転移乳がん患者の安全性データを統合した解析結果を、米国・UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer CenterのHope S. Rugo氏が第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)で発表した。 対象となった試験は、北米・欧州で実施されたASCENT試験、TROPiCS-02試験、IMMU-132-01試験、アジアで実施されたEVER-132-001試験、EVER-132-002試験、ASCENT-J02試験であった。試験治療下における有害事象(TEAE)は初回投与日から最終投与の30日以内に発現したすべての有害事象(AE)と定義し、北米・欧州とアジアの両地域で比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析には、北米・欧州の688例とアジアの281例が含まれた。両地域のほぼ全例(99%以上)がいずれかのGradeのTEAEを経験し、Grade3以上のTEAEは北米・欧州74%およびアジア78%、重篤な有害事象は28%および22%に発現した。・SGの減量(北米・欧州28%、アジア24%)、中断(61%、63%)、中止(5%、4%)、死亡(1%、3%)につながったTEAEの発現率は両地域で同程度であった。・投与中止につながった最も一般的なTEAEは、北米・欧州では好中球減少症、下痢、疲労、肺炎(それぞれ1%未満)であり、アジアでは好中球減少症、白血球減少症、疲労、敗血症性ショック(それぞれ1%)であった。・全GradeおよびGrade3以上の好中球減少症、貧血、白血球減少症、全GradeのAST/ALT上昇、低アルブミン血症はアジアのほうが北米・欧州よりも高頻度であった。・全GradeおよびGrade3以上の下痢と全Gradeの疲労はアジアのほうが少なかった。・好中球減少症は両地域ともに治療初期に多く発現したが、適切なマネジメントや減量により、その後減少した。・両地域ともにG-CSF製剤の予防的投与は好中球減少症の発現率の低下と関連しており、1次予防としてのG-CSF製剤の有用性が示唆された。・下痢および悪心も適切な支持療法によって管理可能であることが示唆された。 これらの結果より、Rugo氏は「全GradeおよびGrade3以上のTEAE、減量・中断・中止・死亡につながったTEAEの発現率は北米・欧州とアジアの両地域で同程度であった。本研究は、転移乳がんにおけるSGのアジアを含む安全性解析としてはこれまでで最大規模のものであり、患者サブグループ間でSGが一貫して管理可能な安全性プロファイルを有する治療薬であることを改めて裏付けるものである」とまとめた。

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急性低酸素性呼吸不全、高流量酸素療法vs.標準酸素療法/NEJM

 急性低酸素性呼吸不全において、高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)は標準酸素療法と比較して28日死亡率を有意に低下しなかった。フランス・Centre Hospitalier Universitare de PoitiersのJean-Pierre Frat氏らが、同国42ヵ所のICUで実施した無作為化非盲検試験「SOHO試験」の結果を報告した。急性低酸素性呼吸不全患者において、標準的な酸素療法と比較したHFNCの気管挿管および死亡率に関するデータが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2026年3月17日号掲載の報告。主要アウトカムは28日死亡率 研究グループは、急性低酸素性呼吸不全によりICUに入院した18歳以上の成人患者連続症例を、HFNC群または標準酸素療法群に無作為に割り付けた。適格基準は、呼吸数25回/分以上、胸部画像検査での肺浸潤影、10L/分以上の酸素投与下での動脈血酸素分圧(PaO2)/吸入酸素濃度(FiO2)比200以下で、主な除外基準は動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)>45mmHg、慢性閉塞性肺疾患またはその他の慢性肺疾患の増悪、心原性肺水腫、抜管後または腹部・心臓胸部手術後7日以内の呼吸不全などであった。 HFNC群では、加温加湿器を介して50L/分以上、目標酸素飽和度92~96%で、48時間以上酸素を投与した。標準酸素療法群では、10L/分以上で酸素飽和度92~96%を目標に、48時間以上、回復または挿管まで継続した。 主要アウトカムは、無作為化後28日間の全死因死亡、主な副次アウトカムは無作為化後28日間の気管内挿管、無作為化から挿管までの期間、無作為化から28日間の人工呼吸器非使用日数などであった。28日死亡率は両群とも14.6%、副次アウトカムの28日挿管率は42.4%vs.48.4% 2021年1月~2024年10月に計1,116例が無作為化された。このうち、同意撤回5例を含む計6例を除く1,110例(HFNC群556例、標準酸素療法群554例)が解析に含まれた。 28日死亡率は、HFNC群14.6%(81/556例)、標準酸素療法群14.6%(81/554例)(群間差:-0.05%、95%信頼区間[CI]:-4.21~4.10、p=0.98)であった。 28日までの挿管率は、HFNC群42.4%(236/556例)、標準酸素療法群48.4%(268/554例)(群間差:-5.93%、95%CI:-11.78~-0.08)、無作為化から気管挿管までの期間の中央値はそれぞれ24時間(四分位範囲[IQR]:10~67時間)、23時間(IQR:10~47時間)(絶対群間差:0.4時間、95%CI:-6.8~6.5)、人工呼吸器非使用日数の中央値は28日(IQR:11~28日)、26日(IQR:10~28日)(絶対群間差:2.0日、95%CI:0.0~4.0)であった。 安全性については、自発呼吸中の重篤な有害事象(心停止または気胸)はHFNC群で13例(2.3%)(心停止3例、気胸10例)、標準酸素療法群で6例(1.1%)(それぞれ2例、4例)に発生した。 なお、著者は、COVID-19のパンデミック下でウイルス性肺炎患者の割合が高かったこと、挿管されなかった患者では順守状況のデータが前向きに収集されなかったことなどを研究の限界として挙げ、「今後の研究では、HFNCを対照群として、個別化された非侵襲的アプローチを含む呼吸補助戦略の評価が望まれる」とまとめている。

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呼吸器感染症やアレルギーに対する点鼻ワクチン、動物実験で有望な結果

 注射を何本も打たれるのが嫌でワクチン接種を避けてきた人にとって、希望の持てるニュースがある。米国の主要5大学の科学者たちが、将来的にはインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、細菌性肺炎、さらには一般的なアレルギーにまで効果を発揮し得る点鼻スプレー型ワクチンの開発に大きな一歩を踏み出したのだ。このワクチンのマウスでの実験に携わった米スタンフォード大学医学部の微生物学・免疫学教授であるBali Pulendran氏は、「これは医療のあり方を一変させる可能性がある」と語っている。この研究の詳細は、「Science」に2月19日掲載された。 現行のワクチンは、病原体の一部をあらかじめ免疫に提示することで、実際の感染に備えさせるものだ。しかし、多くのウイルスは瞬く間に変異してしまうため、追加接種やインフルエンザワクチンのような毎年の接種が必要とされている。Pulendran氏は、「ヒョウが模様を変えるように、ウイルスは表面の抗原を容易に変えてしまう」と説明する。 一方、「GLA-3M-052-LS+OVA」と名付けられた今回のワクチンは、感染時に免疫細胞同士が交わすシグナルを模倣することで体の主要な防御機構を総動員し、より長く続く協調的な免疫反応を引き起こすように設計されている。具体的には、この点鼻ワクチンは、脂質から成る粒子であるリポソームを用いて、免疫を強く刺激するTLR4(Toll様受容体4)およびTLR7/8のリガンドと、モデル抗原である卵白由来のタンパク質、オボアルブミンを組み合わせたもので、鼻腔に投与することで気道や肺の免疫系を直接活性化する。 実験では、マウスの鼻腔にワクチンを滴下投与し、一部のマウスには1週間おきに複数回投与した。その後、呼吸器系ウイルスに曝露させた。その結果、これらのマウスは、新型コロナウイルスやSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス、コウモリ由来のSARS関連コロナウイルスであるSHC014-CoVなどの複数のウイルスだけでなく、黄色ブドウ球菌やアシネトバクター属菌などの細菌、さらにはダニなどのアレルゲンに対しても3カ月以上続く防御効果を示した。一方、未接種のマウスでは著しい体重減少と重症化が認められ、死亡例も多く確認された。 Pulendran氏は、「最初は突拍子もないアイデアに思えた。こんなことが可能だと本気で考えていた人はほとんどいなかったと思う」と話す。しかし、実際に成果は得られた。同氏は、「ワクチンを投与された肺の免疫システムは、ウイルスに対処する準備が万全であり、通常は2週間程度かかるウイルス特異的T細胞や抗体による適応免疫反応をわずか3日で起こすことができるのだ」と述べている。 とはいえ、すぐに現行のワクチン接種をやめられるわけではない。動物実験の結果がそのまま人間に当てはまるとは限らず、GLA-3M-052-LS+OVAについても、これからヒトを対象にした試験が必要である。しかし、ヒトでも同様の結果が得られれば、将来は毎年必要な複数の注射をこの1本の点鼻ワクチンに置き換えられる可能性がある。また、新たに出現したパンデミックを引き起こし得るウイルスに対して迅速に防御を提供できる可能性もあるという。研究グループは、ヒトでの試験が成功すれば、5〜7年以内に「呼吸器系ウイルスに対するユニバーサルワクチン」が利用可能になる可能性があるとしている。 なお、今回の研究には、スタンフォード大学のほか、エモリー大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ユタ州立大学、アリゾナ大学の研究者も参加した。

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活動性SLEがオビヌツズマブ上乗せにより改善/NEJM

 オビヌツズマブは、糖鎖改変されたII型抗CD20モノクローナル抗体で、強力なB細胞枯渇作用を有し、諸外国では活動性ループス腎炎の成人患者の治療薬として承認されている。米国・NorthwellのRichard A. Furie氏らは「ALLEGORY試験」において、活動性全身性エリテマトーデス(SLE)の治療薬として、プラセボと比較して同薬は、52週の時点で疾患活動性の指標などから成るSLEレスポンダー指数(SRI-4)の有意な改善をもたらし、重篤な有害事象の頻度に大きな差はないことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年3月6日号で報告された。14ヵ国の無作為化プラセボ対照比較第III相試験 ALLEGORY試験は、14ヵ国の施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較第III相試験(F. Hoffmann-La Rocheの助成を受けた)。2021年7月~2024年9月に、年齢18~75歳、増殖性または膜性ループス腎炎を伴わない活動性SLEで、標準治療を受けている患者303例を登録した。 被験者を、オビヌツズマブ(1,000mg、1日目、2、24、26週目)の静脈内投与群(151例、平均[SD]年齢41.1[±12.3]歳、女性139例[92.1%])またはプラセボ群(152例、41.4[±12.6]歳、135例[88.8%])に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、52週目の時点におけるSRI-4奏効の達成とした。SRI-4奏効は、次の条件をすべて満たす場合と定義した。(1)SLE疾患活動性指数2000(SLEDAI-2K)のスコアが、ベースラインから少なくとも4点低下すること、(2)British Isles Lupus Assessment Group(BILAG)2004指数および医師による総合評価(Physician's Global Assessment:PGA)で疾患の悪化がないこと、(3)中間事象(主たる併用薬違反、レスキュー薬の投与、死亡・有効性の欠如・有害事象による試験参加の早期中止)がないこと。5つの主な副次エンドポイントも有意に優れる 52週の時点でのSRI-4奏効の達成率は、プラセボ群が53.5%であったのに対し、オビヌツズマブ群は76.7%と有意に優れた(補正後群間差:23.1%ポイント、95%信頼区間[CI]:12.5~33.6、p<0.001)。 死亡を除く中間事象が奏効に影響を及ぼさない状況での補完的な解析では、SRI-4奏効達成率は、プラセボ群の68.5%に対しオビヌツズマブ群は85.4%であり、有意に良好であった(補正後群間差:16.8%ポイント、95%CI:7.1~26.4、p<0.001)。 また、オビヌツズマブ群では、5つの主な副次エンドポイント(52週時のBILAGに基づく複合ループス評価[BICLA]の奏効[p<0.001]、グルココルチコイド用量の≦7.5mg/日への40~52週目までの持続的な減量[p<0.001]、40週時のSRI-4奏効の52週目までの持続[p<0.001]、52週時のSRI-6[SLEDAI-2Kスコアのベースラインから少なくとも6点の低下を含む]奏効達成率[p<0.001]、BILAGの定義に基づく初回再燃までの期間[p=0.002])のすべてが、プラセボ群に比べ有意に優れた。infusion-related reactionが多く発現 有害事象は、オビヌツズマブ群の88.7%、プラセボ群の81.5%で報告され、重篤な有害事象はそれぞれ24例(15.9%)および18例(11.9%)で発現した。オビヌツズマブ群で頻度の高かった重篤な有害事象は、肺炎(2.0%)、上気道感染症、尿路感染症、infusion-related reaction(各1.3%)であった。infusion-related reactionはオビヌツズマブ群で多くみられた(11.9%vs.3.3%)。 二重盲検の期間中に、オビヌツズマブ群で1例(軟部組織感染症と肺炎)、プラセボ群で3例が死亡した。薬剤関連好中球減少が、オビヌツズマブ群で7例に8件(Grade1:3件、Grade2:2件、Grade3:3件)、プラセボ群で3例に認めたが、いずれも平均35日以内に解消した。 著者は、「活動性SLEの成人患者の治療において、標準治療とオビヌツズマブの併用は、主要および5つの主な副次エンドポイントのすべてで、プラセボに比べ有意な改善効果をもたらした」「DORIS奏効(寛解の指標)およびLLDASスコア(低疾患活動性の指標)も、オビヌツズマブ群で改善の傾向がみられ、これはガイドラインが低用量グルココルチコイドによる寛解を目指す『目標達成に向けた治療(treat-to-target)』を強調していることを踏まえると重要な知見と言えよう」としている。

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日本人の腸内細菌叢、世界と異なる特徴は?

 ヒトの腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は、宿主の免疫や代謝、健康状態と密接に関わっている。東京大学の西嶋 傑氏らの研究グループは、日本人5,000人以上の腸内メタゲノムデータを解析し、世界37ヵ国と比較した。その結果、日本人の腸内細菌叢にはビフィズス菌が豊富であり、9割が海藻の分解酵素を持つという独自の特徴や、腸内細菌叢の構成には特定の薬剤が大きく影響することなどが判明した。Proceedings of the Japan Academy, Series B誌2026年2月号に掲載。 本研究では、疾患(Disease)、薬剤(Drug)、食習慣(Diet)、アルコール、喫煙、睡眠などの生活習慣(Daily life)、などの詳細な情報と腸内細菌データを統合して収集した大規模オミクス研究基盤である「Japanese 4Dマイクロバイオームコホート」を用いて、日本人5,466人(平均年齢65.9±13.2歳、男性56.9%)の腸内メタゲノムデータを、世界37ヵ国3万1,695人のデータを比較解析し、日本人の独自性を特定した。さらに、1,500項目以上の変数を用いて、細菌叢の多様性に寄与する要因を評価した。 主な結果は以下のとおり。・日本人の腸内には、他の高所得国と比較してビフィズス菌(Bifidobacterium属)が豊富に存在することが認められた。これは日本人に乳糖不耐症が多く、乳製品を摂取して消化されない乳糖が腸に到達し、ビフィズス菌の増殖を促進する可能性が示唆されている。・日本人において、ノリやワカメなどの海藻に含まれる多糖類を分解する酵素遺伝子を持つ個人の割合が約90%に達し、欧米諸国(0~16.7%)より圧倒的に多かった。・腸内細菌叢の構成には、生活習慣よりも薬剤の影響が大きかった。関連の強い順に、胃腸薬、糖尿病薬、抗菌薬/抗ウイルス薬であった。・プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用は腸内細菌の多様性を上昇させる一方で、口腔内に多い細菌(レンサ球菌[Streptococcus属]、Lactobacillus属など)が腸内で増加し、日和見感染症の原因となる多剤耐性菌(肺炎桿菌[Klebsiella pneumoniae]、Enterococcus faecium、肺炎球菌[Streptococcus pneumoniae]など)の定着を促進するリスクが示された。・5種類以上の多剤併用により、有益な短鎖脂肪酸(SCFA)産生菌(Roseburia属、Dorea属、Faecalibacterium属、Alistipes属、Coprococcus属、Eubacterium属など)が減少し、日和見病原菌が増加して、腸内細菌叢の多様性が低下することが示された。 本研究により、日本特有の文化的・遺伝的背景によって形成された、集団特異的な腸内細菌叢の特徴が示された。著者らは、とくに高齢者における不要な薬剤の使用中止を含む薬物療法の最適化が、腸内環境の健全性を維持するうえで不可欠だと指摘し、国際的な腸内細菌叢データセットの構築は、精密医療(プレシジョンメディシン)を推進する鍵となるだろうとまとめている。

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高リスクくすぶり型多発性骨髄腫への治療がもたらすベネフィット/J&J

 抗CD38抗体ダラツムマブ(商品名:ダラキューロ)において、2025年11月に高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)における進行遅延の適応が追加され、多発性骨髄腫の診断指標であるCRAB症状(高カルシウム血症、腎機能障害、貧血、骨病変)が確認される前に治療を開始することが可能となった。これを受け、2026年2月25日に開催されたJohnson & Johnson(ヤンセンファーマ)の記者説明会において、福岡大学の高松 泰氏がSMMの治療開始基準とその課題を、日本赤十字社医療センターの鈴木 憲史氏がSMM治療の意義とAQUILA試験の結果を解説した。SMMの診断基準と治療開始時期 多発性骨髄腫は、形質細胞への初期遺伝子異常によって前がん状態であるMGUS(意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症)になり、2次的な遺伝子異常によりSMMへ、さらに遺伝子異常が重なることで多発性骨髄腫に進展すると考えられている。 かつてMP療法で治療していた時代の試験において、CRAB症状の出現前に治療しても生存期間を延長しなかったことから、CRAB症状の有無でSMMと多発性骨髄腫に分けられ、CRAB症状の出現後(多発性骨髄腫に進行後)に治療開始することが標準治療になった。その後、2014年にIMWG(International Myeloma Working Group)の診断基準が改訂され、CRAB症状がなくとも、進行リスクがきわめて高いバイオマーカー(SLiM:骨髄形質細胞割合≧60%、血清遊離軽鎖[FLC]比≧100、MRIで局所性骨病変2ヵ所以上のいずれか)を満たす患者は、2年以内に80%以上が多発性骨髄腫に進行する可能性が高いため、多発性骨髄腫として治療を開始することになった。 高松氏は、「SMMと診断された場合、その後つらい症状が出現することがわかっているなら、症状出現前に治療を開始して出現しないようにしてほしいと思うのではないか」と述べ、早期の治療開始の意義を強調した。高リスクSMMの適切な抽出のためのリスク層別化の課題 早期の治療介入が適切なSMM患者を選ぶためには、急速に進行する患者を精度高く抽出することが重要になる。これまでMayo Clinic基準(M蛋白量、FLC比、骨髄形質細胞割合の3因子)やPETHEMA基準(骨髄中の異常形質細胞の割合、M蛋白以外のγグロブリン値の2因子)などが提唱されてきたが、両基準でリスク評価が一致する割合は28.6%に留まり、Mayo Clinic基準で低リスクと診断された患者が、PETHEMA基準で高リスクに分類されてしまう例もあったという。 また、次世代シーケンサーによるゲノム解析(MAPK経路、DNA修復経路、MYC変異)によるリスク層別化も可能となっているが、高松氏は、リスク因子として抽出されているゲノム変異の種類が異なる点や実臨床では高額過ぎることを課題として指摘した。現在、世界で主流の分類は、2020年にIMWGで提唱された「血清M蛋白量」「血清FLC比」「骨髄形質細胞割合」「細胞遺伝学的異常」の4因子を用いたリスク分類である。 高松氏は、「CRAB症状出現前に治療を開始したほうが副作用を軽減でき、より安全に治療できる可能性が高くなると考えられるため、早期の進行が予測される患者には、早期に治療介入することは妥当な方法ではないか。ただし、高リスク患者を精度高く抽出する方法を見つけることが今後の課題」とまとめて、講演を終えた。SMM治療におけるShared Decision Makingの重要性 鈴木氏は、症状がないときに治療を開始することについて、副作用と効果、通院回数を考慮し、開始を待つ患者もいるが、IMWG 2020モデルの高リスク患者の多発性骨髄腫への2年進展率が72.5%であると伝えると治療を希望する患者が多いと述べ、治療に際しては、治療選択肢とエビデンス、メリットとデメリットについて患者・家族と共通の理解を持ち、十分に話し合って決めていく「Shared Decision Making(SDM)」が重要であることを強調した。ダラツムマブによる進展抑制効果~第III相AQUILA試験 鈴木氏は、SMM治療におけるダラツムマブの承認の根拠となった国際共同第III相AQUILA試験の結果を紹介した。同試験は高リスクSMM 390例を対象に、ダラツムマブ単独投与(皮下投与、サイクル1~2:週1回、サイクル3~6:2週に1回、サイクル7~:4週に1回)群と経過観察群を比較したものである。高リスクの基準は(1)血清M蛋白30g/L以上、(2)IgA型、(3)IgA、IgM、IgGのうち2種類のuninvolved Ig減少を伴う免疫不全、(4)involved/uninvolved血清遊離軽鎖比が8以上100未満、(5)クローナルな骨髄形質細胞が50%超かつ60%未満で測定可能病変を有する、のうち1つ以上満たす場合としている。この条件について、鈴木氏は「免疫不全の有無をみているのが注目すべき点」と指摘した。 主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)において、ダラツムマブ群は有意な延長を示した(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.36~0.67、p<0.0001)。また、CRAB症状出現を疾患進行(PD)イベントとしたときのPFSも明らかに差が認められた(HR:0.29、95%CI:0.16~0.52)。有害事象は、ダラツムマブ群で肺炎(3.6%)、COVID-19(1.6%)など、経過観察群で敗血症や発熱などが認められた。 日本人集団の5年PFS解析では、ダラツムマブ群が63.1%、経過観察群で40.8%であった(HR:0.25、95%CI:0.10~0.65)。全体集団より日本人集団のほうでHRが小さいことについて、鈴木氏は「体重の違いや患者の治療に対する真面目さもあるのだろう」と考察している。 最後に鈴木氏は、「多発性骨髄腫に対する新薬が次々と開発され、初発例に使用可能になり、MRD陰性も達成し治癒も期待されるようになってきた。さらに機能的治癒だけではなく、発症を遅らせ、場合によっては予防も期待されるようになるまで進んできた」と治療の進歩を振り返り、「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.」(早く行きたければひとりで行け、遠くへ行きたければみんなで行け)という、協力とチームワークの重要性を説くアフリカのことわざを紹介し、「医師、患者、製薬業界の連携によりここまで来れた」と結んだ。

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nalbuphine:IPFに伴う慢性咳嗽に対する新しいアプローチ(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 本研究は、IPFに伴う慢性咳嗽に対する「ナルブフィン(nalbuphine)」の有効性と安全性を評価した第IIb相国際多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。nalbuphineは、オピオイドκ受容体作動薬かつμ受容体拮抗薬という今までにないユニークな機序を持つ薬剤であり、2026年3月現在、本邦未承認のオピオイドである。その鎮痛活性はモルヒネと同等とされている。8週間以上持続する咳嗽を有するIPF患者165例を、nalbuphine徐放剤27mg、54mg、108mg、またはプラセボを1日2回投与する群に無作為に割り付け、6週間観察した。結果として、主要評価項目である「24時間客観的咳頻度」は、プラセボ群の16.9%低下に対し、27mg群で47.9%、54mg群で53.4%、108mg群で60.2%低下と、用量依存的かつ統計学的に有意な改善を示した。また、高用量群(54mg・108mg)では、患者報告による主観的な咳の頻度、重症度、およびQOLスコアも有意に改善した。 本研究から得られる、実臨床に直結する重要な知見としては、(1)客観的・主観的な咳嗽の改善効果(2)安全性プロファイルと初期の副作用マネジメント(3)既存の抗線維化薬との併用が可能といったところが挙げられる。 まず効果に関するところであるが、IPF患者の最大で80%が咳嗽に苦しみ、これが疾患の進行や予後不良と関連することが知られている。既存の抗線維化薬では咳を十分に制御することができないこともよく知られている。本試験では最高用量(108mg)で客観的な咳の回数を約60%も減少させ、さらに患者自身の「咳が減った」「生活の質が上がった」という主観的評価(PRO)の改善も伴っていた。この客観的指標・主観的指標における改善効果が示されたことはIPFの対症療法としてきわめて強力な武器になると考えられる。 nalbuphineはμ受容体に対して「拮抗的」に作用するため、従来のモルヒネやコデインなどのμ受容体作動薬で懸念される呼吸抑制、多幸感、依存性のリスクが低いという利点がある。とくに高度の拘束性換気障害を持つ重症の間質性肺炎症例では呼吸抑制は注意すべき副作用であるが、そのようなリスクがないことは重要である。実際、本試験でも致死的な有害事象は認められなかった。一方、悪心(33.6%)、嘔吐(21.0%)、便秘(20.0%)といった消化器症状がプラセボ群(悪心5.0%、嘔吐・便秘0%)より高頻度で認められた。しかし、これらは用量を漸増する際に発現しやすく、悪心の持続期間の中央値は6日、嘔吐は2日と、継続によって耐性ができ消失する傾向があった。このような有害事象が判明しているので、実臨床で使用する際は、「導入初期の制吐剤・下剤の併用」と「低用量からのゆっくりとした漸増」といった上手な副作用対策で乗り切ることができるだろう。 本研究では対象症例の約77%がすでにニンテダニブやピルフェニドンといった抗線維化薬が導入されていた。抗線維化薬によるベースライン治療に上乗せする形で強力な鎮咳効果を発揮した点は、実臨床セッティングに非常に合致している。 有効性に関しては素晴らしい結果である一方、観察期間の短さは際立つ。対象患者の平均咳嗽期間が3.0〜5.4年であったように、IPFは慢性疾患であり、IPFによる咳嗽も慢性的な症状である。本試験の投与期間はわずか6週間であり、nalbuphineの効果が数ヵ月、数年単位で維持されるのか、薬剤耐性はどうか、また長期投与によって新たな有害事象が顕在化しないかは、現時点では不明なので今後の検証が望まれる。 本試験では持続的な酸素療法が必要な症例や、最近呼吸器感染症を起こした患者、すでにオピオイドやベンゾジアゼピンを使用している患者は除外されている。実際のIPF診療では、呼吸機能障害が高度で、在宅酸素が導入されている方や、心身の苦痛から睡眠薬・抗不安薬を併用している高齢患者が一定数存在する。こうした「よりフレイルで重症なリアルワールドの患者群」に対する有効性と安全性は明らかではない。 ただnalbuphineは、IPFによる難治性咳嗽という実臨床でも対応が困難なアンメットニーズに対し画期的な薬剤と考える。中枢性と末梢性の両面から咳反射を抑えつつ、呼吸抑制リスクを回避した点は高く評価できるといえよう。今後の症例の集積や長期データには注目したい。

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胃がん術後の早期経口摂取、ガイドライン記載も実施は2割/日本胃癌学会

 胃がん術後の早期経口摂取は、ガイドラインで提唱されているにもかかわらず、実際に導入している施設は約2割に留まることがわかった。水戸済生会総合病院の丸山 常彦氏らはDPCデータを用いて全国472施設・2万6,097例を解析し、早期経口摂取の実施状況と臨床的意義を検討した。本研究「本邦における胃癌手術後の早期経口摂取の現状と臨床的意義―全国DPCデータ26,097例の解析」は、2026年3月4~6日に行われた第98回日本胃癌学会総会で発表され最優秀演題に選ばれるとともに、Surgical Oncology誌2026年2月号に掲載された。 丸山氏らは2017年8月~2022年7月の全国472施設のDPCデータベースより、ICD-10コードC16(胃の悪性腫瘍)に該当し、胃がん手術を施行された患者2万6,097例を抽出し、解析対象とした。術後2日までに1食でも食事のレセプトコードがある症例を「早期経口開始群」と定義し、それ以外を「非早期経口開始群」とした。両群の背景因子および術後入院期間を比較検討した。 主な結果は以下のとおり。・早期経口開始群は5,422例(20.8%)、非早期経口開始群は2万675例(79.2%)であった。・術式別の検討では、早期経口開始群には腹腔鏡下手術の症例が有意に多く含まれていた。幽門側胃切除では、腹腔鏡下手術の場合は開腹手術と比較して早期経口症例が有意に多かった(開腹:19.0%、腹腔鏡:24.7%)。しかし、胃全摘および噴門側胃切除においては、腹腔鏡下と開腹で有意差はなかった。・がん診療連携拠点病院、大規模病院において有意に早期経口症例が多く、術後経口開始時期は施設の運用方針に強く依存していると考えられた。・術後在院日数は早期経口開始群で有意に短縮した(9日vs.12日)。 本研究を主導した丸山氏に話を聞いた。――今回の研究に取り組んだきっかけや問題意識は? まずは、「ビッグデータ」が必要だと考えたことだ。「術後回復強化(Enhanced Recovery After Surgery:ERAS)」の概念は、消化器外科領域における周術期管理において広く普及してきているが、日本全体における現状や実態については十分に明らかにされていない。これまでの類似研究は単施設や多施設共同研究で症例数が限られており、実臨床とかけ離れてしまうリスクがあった。 DPCデータは全国の急性期病院をカバーしており、今回データを提供してもらったメディカル・データ・ビジョンはその約4割を保有しているため、全国472施設、2万6,000例という大規模データを解析することができた。加えてDPCデータには患者背景、既往歴や入院後の合併症、入院中に行われた医療行為すべてがレセプトコードとして残っており、医療行為に関してさまざまな解析が可能となった。――早期経口摂取を実施していた施設は2割に留まったが、この結果をどうみるか? 解析前は、全国の施設でそれほどばらつきはないと考えていた。私の施設ではほぼ100%の実施率であり、『胃癌治療ガイドライン2025年版』でも「2日目から経口摂取が可能」と明記されている。それにもかかわらず実施率2割というのは驚きだった。 早期経口摂取が広まっていない理由はいくつか考えられる。ガイドラインの記載には「特に離床に問題ない場合、第1日目からの飲水、第2病日からのsoft dietの開始、第7病日から第10病日の退院が可能と考えられる」とされているが、その前には「ただし、経口摂取時期を早めることにより合併症が増加するとの報告もあり、各施設において実施の是非に関して検討が必要である」という一文がある。この「各施設の検討」部分を重視しているケースがあるのだろう。――施設ごと、術式ごとの実施率の差をどうみるか? そもそも、早期経口摂取の大本となるERASプロトコルは、消化器分野では大腸がんで先行して広がった。一方で、胃の縫合部を伴う胃がん手術では、術後感染症などの懸念から早期経口摂取に慎重になる医師が多かった経緯がある。しかし、最近では、ランダム化比較試験でも早期経口摂取が腸管機能の回復に有利で、かつ安全に行えるとの報告があり1)、今回の研究も含め、早期経口摂取の利点がエビデンスとして蓄積しつつある。症例数の多い大規模施設では、こうしたエビデンスをクリニカルパスに取り入れ、実施していると考えられる。 腹腔鏡下手術において、幽門側胃切除術では実施率に有意差があったが、全摘術や噴門側胃切除術では差がなかった。これは全摘術や噴門側胃切除の場合には、吻合部の合併症が若干多いため、外科医が安全性を考慮して実施を控えていると考えられる。――今後、早期経口摂取の実施率を高めるために何が必要か? 今回の研究では、早期経口摂取と入院期間短縮に関連がみられたが、患者背景を適切に調整できていないという制限がある。大規模前向き試験の実施が難しい分野なので、DPCデータからどこまで患者背景をそろえられるかについて、現在取り組んでいる状況だ。エビデンスの質を高め、周知していくことが必要だろう。――学会発表の反応や質疑応答は? どの医師も自施設のデータしか知らないため、全国のデータは驚きをもって受け止められたようだ。座長からも「実施率2割は少ないですね」とのコメントが寄せられた。術式によって実施率が大きく違うこと、全摘術では腹腔鏡であっても早期経口摂取の実施率が低い点も関心を呼んだ。 質疑応答では、海外の医師から「早期経口開始によって肺炎などの合併症が増えないか?」という質問を受けた。今回は早期経口摂取と合併症発症との関連を解析できていない。DPCデータから合併症を抽出するのがやや煩雑になることが理由だが、ここは重要なポイントなので、今後の課題として取り組んでいく予定だ。

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第285回 診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省

<先週の動き> 1.診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省 2.MMRワクチン承認へ、麻疹再拡大で接種体制強化が課題に/厚労省 3.急性期病院の要件厳格化 救急・手術実績で拠点化進める/厚労省 4.医師偏在対策が次の段階へ 地域医療構想と医師養成を一体で見直し/厚労省 5.社会保険料抑制へ制度改革 OTC類似薬と高額療養費が焦点/政府 6.美容クリニックの再生医療で訴訟相次ぐ 安全性と説明責任が焦点に 1.診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省厚生労働省は、医道審議会医道分科会の専門部会で、医療機関が看板や広告で掲げる診療科名に「睡眠障害」を追加することを了承した。診療科名の見直しは2008年以来で、政令改正を経て、今春にも施行される見通し。医療機関は「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」など、既存の基本診療科名と組み合わせた形で標榜できるようになる。診療科名は医療法に基づき規制されており、医療機関が自由に名乗ることはできない。現在は「内科」「外科」「小児科」など約20の基本診療科名に加え、「糖尿病」「腫瘍」など疾患名や臓器名を組み合わせる形で標榜が認められている。今回の見直しで「睡眠障害」もこの組み合わせ名称の1つとして追加される。背景には、睡眠に関する医療ニーズの拡大がある。不眠症や睡眠時無呼吸症候群、過眠症など睡眠障害は多様で、成人の約5人に1人が何らかの睡眠問題を抱えるとされる。その一方で、どの診療科を受診すればよいか、わかりにくいことから受診が遅れるケースも多いとされ、日本睡眠学会が診療科名の追加を要望していた。睡眠障害の診療は内科、精神科、耳鼻咽喉科など複数の領域にまたがる。精神科受診への心理的抵抗から適切な診療につながるまで時間を要する例もあり、診療科名として明示することで受診先の選択が容易になり、早期診断や治療につながることが期待されている。一方、制度上は専門資格がなくても「睡眠障害科」を標榜できるため、専門性を伴わない医療機関が患者集めを目的に掲げる可能性も指摘されている。睡眠障害治療では、睡眠薬の長期使用による依存や離脱症状の問題もあり、専門的な診断や治療体制の整備が課題とされる。日本睡眠学会の専門医は約660人にとどまり、地域偏在も大きい。診療科名の追加を契機に、専門医育成や診療体制整備をどう進めるかが今後の課題となる。 参考 1) 第8回医道審議会医道分科会診療科名標榜部会(厚労省) 2) 病院の診療科名に「睡眠障害」追加 厚労省部会が了承(日経新聞) 3) 「睡眠障害」の診療科名追加を了承、今春にも導入…通院先選びの利便性向上期待(読売新聞) 4) 「睡眠障害」診療科名に追加へ、受診の目印に 08年以来の見直し(朝日新聞) 2.MMRワクチン承認へ、麻疹再拡大で接種体制強化が課題に/厚労省厚生労働省は3月2日に開かれた薬事審議会医薬品第二部会で、麻疹(はしか)、おたふくかぜ、風疹を防ぐ3種混合ワクチン(MMRワクチン)の製造販売承認を了承した。開発した第一三共の製品「ミムリット皮下注用」が正式に承認されれば、わが国で使用可能なMMRワクチンは約30年ぶりとなる。今後、定期接種に組み込むかどうかの検討が進められる。わが国では1989年にMMRワクチンが導入されたが、おたふく風邪成分に関連した無菌性髄膜炎の報告が相次ぎ、1993年に使用が中止された経緯がある。今回のワクチンは、無菌性髄膜炎の発生頻度が極めて低い株を使用しており、臨床試験でも重大な副作用は確認されていないとされる。海外では100以上の国・地域でMMRワクチンが定期接種として導入されており、わが国でも接種回数の減少など接種体制の効率化が期待される。その一方で、麻疹の感染は国内外で拡大の兆しを見せている。国内では愛知県で高校を中心に感染が広がり、2026年に入ってすでに20例以上の感染が確認された。東京都や埼玉県、神奈川県、岐阜県、鹿児島県などでも散発的な患者が報告され、医療機関や商業施設で不特定多数と接触した可能性のある事例も相次いでいる。海外渡航歴のない患者も複数確認されており、地域内感染の可能性も指摘されている。麻疹は、空気感染で感染する極めて感染力の強いウイルス感染症で、発熱や咳、結膜充血などの症状の後に高熱と発疹が出現する。肺炎や脳炎を合併すると重症化することがあり、ワクチン接種が最も有効な予防策とされる。海外でも流行は深刻化している。米国では、今年に入り約2ヵ月で1,100例以上の感染が報告され、前年の年間患者数を上回る可能性が指摘されている。患者の大半はMMRワクチン未接種、または2回接種を完了していない人だった。米疾病対策センター(CDC)はワクチン接種を改めて呼びかけている。国内でのMMRワクチン承認は、麻疹対策の強化に向けた制度的転換となる可能性がある。麻疹排除状態の維持には、2回接種率の向上とともに、集団免疫を維持するためのワクチン政策の整備が重要となりそうだ。 参考 1) 新薬等15製品が承認へ 第一三共のMMRワクチン・ミムリットなど 薬事審・第二部会が了承(ミクスオンライン) 2) 麻疹・おたふく・風疹の3種混合ワクチン承認へ…かつて報告された無菌性髄膜炎の発生頻度、極めて少なく(読売新聞) 3) はしか感染の20歳代男性、2月21日に日本医科大付属病院で不特定多数と接触か…東京都が注意呼びかけ(同) 4) 愛知県内で新たに2人が「はしか」に感染(NHK) 5) 米はしか感染 2カ月で1、100人 高水準だった去年の年間2,300人を上回る見通し(東日本放送) 6) 米CDC所長代理、はしかワクチン接種呼びかけ(ロイター) 3.急性期病院の要件厳格化 救急・手術実績で拠点化進める/厚労省令和8(2026)年度の診療報酬改定の詳細が明らかになってきた。今回の改定では、急性期入院医療の評価軸が「病棟単位」から「病院全体の急性期機能」へと変更され、実質的に急性期の担い手は急性期A、看護・多職種協働加算を組み合わせた急性期B、急性期1、同様の急性期4に集約される流れが強まった。厚生労働省は、3月5日に「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」として通知を発出し、その中で急性期病院Bの実績要件として救急搬送1,500件以上、または500件以上+全麻手術500件以上などを示し、さらに急性期総合体制加算では、総合性と高い手術実績を備えた拠点病院を評価する仕組みに再編した。中央社会保険医療協議会(中医協)でも、人口の少ない地域では救急搬送の受入件数に加え、外来・在宅診療体制の確保を支援する拠点病院を評価する方向性が示されている。その一方で、人口減少地域への影響は大きい。地域の急性期病床を持つ病院が同時に高度急性期を目指せば、看護師やリハビリスタッフ、症例数が分散し、どこも基準を満たせず、かえって経営不振や医療の質の低下を招きかねない。仮に50床の病棟で多職種7対1を実現するには看護師24人に加え、多職種約10人が必要で、人材が少ない地域の病院にはハードルが高くなる。結果として、急性期機能は一部病院へ集約され、周辺病院は包括期医療や在宅医療へ役割転換を迫られる可能性が高い。住民にとっては、高度急性期病院へのアクセスが遠のく一方で、地域内での「救急受け止め→早期転院→在宅復帰」の流れが整えばメリットもある。ただし、その前提は地域のかかりつけ医や在宅医療機関や介護施設の協力医療機関が軽症の救急患者の受け入れ、退院後のフォロー、看取りの支援を担えることだ。今回、介護施設の入所者の救急搬送は、協力医療機関で対応可能な例を原則として急性期A・Bの実績に算入しない方針も示され、急性期病院と地域密着病院で役割分担する発想がより鮮明になった。過疎地では、病院再編だけでなく、クリニックや訪問看護ステーションとの連携強化、訪問診療、余剰病床の介護施設への転換を含めた検討が不可欠になる。 参考 1) 基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(厚労省) 2) 急性期入院医療の提供主体は「急性期A、多職種7対1の急性期B、急性期1、多職種7対1の急性期4」に集約されるのでは(Gem Med) 3) 急性期総合体制加算の施設基準詳細、「総合的かつ高度な体制を整え、小児・周産期含めた十分な手術実績」持つ病院が加算1を取得(同) 4) 救急患者応需係数で底上げ、地ケア病棟は対象外 看護必要度 C項目に腰椎穿刺など追加(CB news) 4.医師偏在対策が次の段階へ 地域医療構想と医師養成を一体で見直し/厚労省厚生労働省は、3月3日に「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を開き、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」についてガイドラインを取りまとめた。また、医師の偏在について「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」での検討を重ねてきていた第8次「医師確保計画」の見直し方針をとりまとめ、公開した。今回の2つの検討会の取りまとめは、病床数の議論だけでなく、医師偏在対策や医師養成過程の見直しまで一体で進める点にある。人口減少と高齢化、医療人材不足を前提に、地域ごとに「どの病院が急性期を担い、どこが高齢者救急や在宅を支えるか」を再設計する考えだ。まず、新たな地域医療構想では、人口減少と高齢化を前提とした医療提供体制の再編を進めるため、2040年の必要病床数を最新のNDBデータで推計し、高度急性期79%、急性期84%、包括期89%、慢性期92.5%の病床稼働率で換算する。急性期は少なめ、包括期は厚めに見積もる方向で、厚労省はこの数値を「必要病床数を算定するための換算値」であって、各病院が目標とすべき経営指標ではないと明示した。また、2028年度までに全病院・有床診療所が将来担う医療機関機能を整理し、地域で協議する枠組みを示している。医師確保計画の見直しでは、従来の「目標医師数」だけでなく、「地域で不足する診療科」などの定量指標を導入する。さらに、医師数は極端に少なくなくても、へき地尺度(RIJ)が高くアクセスに課題のある地域を新たに支援対象とする。小児科や産科に加え、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科なども、人口減少地域では常勤確保が難しい診療科として位置付けられ、遠隔医療の活用も検討対象となる。医師にとって重要なのは、外来医師過多区域への新規開業で、地域に不足する医療機能の提供を要請する仕組みが本格化する。その一方で、医療資源が乏しい地域では、承継支援や医師派遣、代替医師確保への支援が行われる。また、国は都道府県任せにせず、運用状況を毎年度把握し、必要なフォローを行う方針も示している。今後は、病院の再編だけでなく、診療所が休日夜間対応、在宅医療、退院後フォロー、遠隔診療をどう担うかが、地域医療構想の実効性を左右しそうだ。医師養成では、医学部の地域枠、臨床研修、専門研修、総合的な診療能力を持つ医師の育成を組み合わせる方向性が整理された。政府は、2040年の医療提供体制を「病床再編」と「医師配置」、さらに「医師の育て方」まで連動させて作り直そうとしている。2040年に向けた医療体制は、急性期医療の集約、高齢者救急への対応、在宅医療との連携、医師偏在是正を一体で進める形となる。病院にとっては、自院が地域で担う医療機能を明確にすることが求められ、外来患者数減少に直面する開業医は、医師会や地域の病院と連携して、地域で何を担うかがこれまで以上に問われる局面に入った。今後は限られた医療人材の中で、どう医療提供体制を維持するか重要な課題となりそうだ。 参考 1) 第12回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会(厚労省) 2) 「医師確保計画策定ガイドラインの見直しに向けた医師養成過程における取組のとりまとめ」(同) 3) 急性期病床2040年の必要数、稼働率84%で推計 高度急性期79%、包括期89%、慢性期92.5%(CB news) 4) 2040年の必要病床数、病床利用実態・業務効率化等加味し「急性期は少なめ・包括期は多め」に推計-地域医療構想・医療計画検討会(Gem Med) 5.社会保険料抑制へ制度改革 OTC類似薬と高額療養費が焦点/政府政府が進める医療保険制度改革により、公的医療保険の加入者1人当たりの社会保険料が年間約2,200円減少する見通しであることがわかった。上野 賢一郎厚生労働大臣が3月6日の閣議後の会見で明らかにした。改革の柱は、高額療養費制度の見直しと、市販薬と成分や効能が類似する「OTC類似薬」の保険給付の見直しなどで、医療費の抑制を通じて保険料負担の軽減を図る狙いがある。高額療養費制度では、医療費が高額になった場合の患者自己負担の月額上限を段階的に引き上げる。2026年8月と2027年8月の2段階で実施され、最終的には現行より最大38%引き上げられるケースも想定される。厚生労働省は、この見直しにより医療費を年間約2,450億円削減できると試算しており、保険料は加入者1人当たり年間約1,400円程度の軽減効果が見込まれるとしている。薬剤費の見直しも改革の柱となる。市販薬と成分や効能が近い「OTC類似薬」については、保険給付を受ける場合でも薬剤費の4分の1を患者が「特別の料金」として負担する制度を新設する。対象は鼻炎、胃痛、解熱鎮痛薬など77成分、約1,100品目とされ、2027年3月の施行を予定している。これにより社会保険料は年間約400円の減少が見込まれる。また、後発医薬品(ジェネリック)があるにもかかわらず先発薬を選択した場合の追加負担も拡大する。現在は差額の4分の1を患者が負担しているが、これを差額の2分の1まで引き上げる方針だ。こうした薬剤関連の見直し全体では年間約800円の保険料軽減効果が見込まれている。その一方で、高額療養費の上限引き上げに対しては、患者団体や野党から「重症患者の負担増につながる」との批判も出ている。国会審議では、保険料軽減が月額150円程度にとどまるとの指摘もあり、受診控えが生じる可能性への懸念も示された。政府は制度の持続可能性確保のための改革と説明するが、患者負担と保険財政のバランスをどう取るかが引き続き議論となりそうだ。 参考 1) 医療保険制度改革で保険料1人当たり年2,200円減、高額療養費制度やOTC類似薬の負担見直し(読売新聞) 2) 高額療養費見直しなどで社会保険料年2,200円減 厚労相が見通し(毎日新聞) 3) OTC類似薬の負担見直し、保険料減は月額33円程度 高額療養費は117円減 上野厚労相(CB news) 4) 「ペットボトル1本分の社会保険料負担軽減のために、高額療養費の負担増やすのか」共産議員が見直し迫る 衆院予算委で質疑(ABEMA TIMES) 6.美容クリニックの再生医療で訴訟相次ぐ 安全性と説明責任が焦点に美容医療を巡る訴訟が相次いでいる。焦点となっているのは、顔のしわやたるみ改善をうたう「プレミアムPRP皮膚再生療法」を受けた後に、頬や目の下にしこりや隆起が残ったとする事案だ。2026年2月には女性3人が東京都内のクリニックを東京地裁に提訴し、施術費用の返還、原状回復のための治療費、慰謝料など計約1,850万円を求めた。原告側は、施術前に重い合併症や除去の困難さ、使用成分の実態について十分な説明がなく、安全性を強調する宣伝の下で同意が取られたと主張している。被害相談の増加を受け、医療問題弁護団は3月1日にプレミアムPRP皮膚再生療法の被害者救済を目的に無料ホットラインも開設し、同種事案の掘り起こしを進めている。この訴訟で争点となるのは、単なる仕上がり不満ではなく、説明義務違反と再生医療法令への適合性だ。報道では、「bFGFを加えたPRP療法は未承認の再生医療に当たり、患者への説明事項は省令で定められているのに、同意書や説明内容が不十分だった可能性」が指摘されている。実際、2025年1月には同種の美容目的再生医療を巡る別件で、東京地裁が医療法人の責任を認める決定が確定した。そこでは、「施術の有効性に十分な科学的根拠が乏しいこと」、「bFGFによる長期のしこりや隆起が起こりうることを説明すべき義務があったのに尽くされなかった」と判断され、解決金支払いと再発防止が求められた。今回の3人提訴は、この先行事例を踏まえ、同種施術の説明体制や広告表示を改めて司法の場で問う意味合いが大きい。美容医療トラブルが急増する背景として、過度な広告、一括払いの勧誘、十分な訓練を経ない医師の参入が挙げられる。消費者保護の視点から患者側は施術を受ける前に「専門医かどうか」「リスク説明が十分か」を見極める必要性がある。今回の訴訟は、その問題が個人の後悔ではなく、説明不足を伴う構造的な消費者被害として司法判断の対象になり始めたことを示している。美容医療では、適応外使用や未承認技術を含む施術ほど、インフォームド・コンセントの質そのものが法的責任の核心になる。 参考 1) 「鏡向くたびに絶望」顔にしこりなど副作用…美容医療受けた女性ら、都内のクリニック提訴(産経新聞) 2) 「成功してるじゃん」美容医療で“しこり”も医師が失敗認めず…被害者が施術費用の返還など求めクリニックを提訴(弁護士JPニュース) 3) 3月1日(日)プレミアムPRP皮膚再生療法被害ホットラインを実施しました(医療問題弁護団) 4) 「美容目的の再生医療で合併症」 医療法人の責任認定、訴訟が終結(朝日新聞) 5) トラブル急増・美容医療の見極め方 消費者保護に取り組む医師・大塚篤司(TBS)【動画】 6) プレミアムPRP皮膚再生療法で被害相談ホットライン開設 医療問題弁護団が3月1日に電話受付 2026年2月には3人の女性が美容クリニックを提訴

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葛根湯~随症治療と病名治療~【Dr.伊東のストーリーで語る漢方薬】第2回

葛根湯~随症治療と病名治療~葛根湯といえば、感冒初期につかう漢方薬として皆さんにも馴染みがあるかと思います。結構使いやすい薬で、古典落語には「葛根湯医者」という言葉もあります。どんな病気にも葛根湯を勧めるやぶ医者がいたという話ですね。「頭が痛い? 葛根湯を用意しますよ。お次は胃が痛い? 葛根湯をどうぞ。お次の患者さんは…」「先生、私は単なる付き添いですが」「付き添い? 退屈しているでしょう、あなたも葛根湯を飲んでいきなさいな」……とまぁ、そんな感じです。では、葛根湯医者が本当にやぶ医者だったのかと言われると、必ずしもそうとは言い切れません。江戸時代や明治時代は病気といえば、感染症か脳卒中です。参考までに、1900年の死因は、1位が肺炎と気管支炎、2位が結核、3位が脳卒中、4位が胃腸炎、5位が老衰です(図1)1)。図1 1900年の死因順位画像を拡大するそれに、江戸時代の平均寿命は30~40歳だと推定されているのです。医者にかかる時は急性期の感染症、とくに感冒が多くなることが容易に想像できるわけです。そうすると、葛根湯で正解という場面も多くなるので、葛根湯医者はあながち間違ったことをしていなかったのではと考えられます。感冒初期に使う漢方薬ここで、感冒初期につかう漢方薬を皆さんには3つ覚えていただきましょう。葛根湯、麻黄湯、桂枝湯の3つです。たぶん皆さんも聞いたことがあるかと思います。かなり大雑把に言えば、麻黄湯は体が頑丈な方向け、桂枝湯は虚弱な方向けで、葛根湯はその間です(図2)。図2 葛根湯、麻黄湯、桂枝湯が適応となる患者像画像を拡大する頑丈や虚弱がどういうことかは、今後詳しく説明しますが、ここで葛根湯の構成生薬をみてみましょう。葛根湯には葛根、麻黄、大棗(たいそう)、桂皮、生姜(しょうきょう)、芍薬(しゃくやく)、甘草の7つの生薬が含まれています。まだ生薬は覚えなくてもいいですが、7種類ということで、前回紹介した桔梗湯や芍薬甘草湯よりも効きが遅いことは想像できるかと思います。ちょっと遅いのですが、早ければ15分くらいで効いてくるのでよくできた漢方薬です。これらの生薬は、麻黄湯や桂枝湯とオーバーラップしているところが多く、だからこそ体が頑丈な人にも虚弱な人にも幅広く使える薬になっているとご理解ください(図3)。図3 葛根湯の構成生薬画像を拡大する随証治療ところで、葛根湯には葛根が含まれています。マメ科植物のクズの根っこの部分なのですが、これは麻黄湯や桂枝湯には含まれていません。じつは、この葛根が筋肉の凝りに効いてきます。「葛根湯が肩こりに効く」という話を聞いたことのある先生方もいるかと思います。ただし、この「肩こりに効く」というのは誤解が入っています。ちょっとここで、皆さんと一緒に古典を紐解いてみましょう。『傷寒論』という、後漢末期、つまり三国志時代の古典です。太陽病、項背強ばること几几、汗無く悪風するは、葛根湯之を主る。これを意訳すると、感冒初期でうなじが強ばって固くなっていて、汗が出ず寒気を感じている人には葛根湯が第1選択薬だと言っているんですね。そう「肩こり」ではなくて「首のこり」といった方が正確なのです。このように、古典の条文に載っているような症状や所見に準拠して漢方治療を行うことを「随証治療」といいます。一方で、市販のマニュアルは、こういった条文を現代語訳したり、一部を抜粋したりして作られていますが、その結果として「普通感冒の初期には葛根湯を使う」と西洋医学の病名に基づいた治療が行われるようになります。このやり方を「病名治療」といいます。漢方医学をものにしたい場合は、「病名治療」ではなく「随証治療」を学ぶ必要があります。最初は「病名治療」で勉強してもいいとは思いますが、最終的には「随証治療」も学ばないと、うまく効く漢方治療はできません。クイズでは、ここで1つクイズを出してみます。大いに渇し、舌上乾燥して煩し、水数升を飲まんと欲する者は、白虎加人参湯之を主る。これは「のどがカラカラで、水をガブガブ飲みたい人は白虎加人参湯が第1選択薬である」という意味の条文です。この条文には、前置きがあって割愛している箇所があるのですが、そこはご容赦ください。さて、この白虎加人参湯は、西洋医学で言うと何に使えそうか、考えてみてください。解答・解説はこちらたとえば、糖尿病はひどくなると喉が渇きますよね。また、シェーグレン病や熱中症も喉が渇きそうです。実際に、こういった状態を「体の芯に熱を持った状態」と漢方の世界では解釈していて、白虎加人参湯を処方することがあります。詳しい話を知りたい方には、症例報告が出ているのでそちらを見ていただくとして、このエクササイズを通じて「随証治療」と「病名治療」の関係性が何となく見えてきたのではないかなと思います(図4)。図4 随証治療と病名治療の例画像を拡大するまとめ葛根湯は、感冒初期に使える漢方薬で、体が頑丈な方から虚弱な方まで幅広く使えます。ただし、感冒初期に限るため、処方は2~3日分にとどめ、漫然と長期間処方しないほうがいいでしょう。漢方医学では古典の解釈が結構大事で、これをすっ飛ばすと「肩こりに葛根湯」のような誤解につながります。古典に基づいた「随証治療」を行うことが大切で「病名治療」はそのとっかかりに過ぎないことを認識していただくことが、漢方を上達させるコツです。次回は、麻黄湯のお話です。お楽しみに!1)厚生労働省. 心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況 人口動態統計特殊報告 年次別にみた死因順位(第1~10位) 総数

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市中肺炎への抗菌薬、72時間以内の経口剤への切り替えは安全?

 市中肺炎の入院治療において、注射用抗菌薬から経口抗菌薬への早期切り替えは、入院期間や抗菌薬投与日数の短縮につながることが報告されている。そのため、本邦の『成人肺炎診療ガイドライン2024』でも「市中肺炎治療において、症状・検査所見の改善に伴い、注射用抗菌薬から経口抗菌薬への変更(スイッチ療法)を行うことは推奨されるか」というクリニカルクエスチョンが設定され、推奨は「症状・検査所見の改善が得られればスイッチ療法を行うことを強く推奨する(エビデンスの確実性:B)」となっている1)。 米国・Iowa City Veterans Affairs Health Care SystemのLogan Daniels氏らの研究グループは、実臨床における経口抗菌薬への早期切り替えの実施状況の検討を目的として、米国退役軍人省が運営する124の急性期病院を対象とした調査を実施した。その結果、72時間以内の早期切り替えは約半数の症例で実施されており、切り替えが積極的に行われた施設と積極的ではなかった施設で、転帰に差は認められなかった。このことから、早期切り替えの安全性が改めて示唆された。本報告は、Infection Control & Hospital Epidemiology誌オンライン版2026年2月2日号に掲載された。 研究グループは、2018~23年に急性期病院に入院し、入院時に注射用抗菌薬で治療が開始された市中肺炎患者を対象として、後ろ向きコホート研究を実施した。入院後72時間以内に注射用抗菌薬から経口抗菌薬へ切り替えた患者の割合、30日以内の死亡および再入院の複合などを評価した。施設ごとの患者構成の違いを調整するため、各施設における早期切り替えの観察値/期待値(O:E)比を算出した。さらに、このO:E比に基づいて施設を四分位(Q1~Q4)に分類し、30日以内の死亡および再入院の複合を比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象となった入院3万1,183件のうち、55.4%(1万7,282件)が72時間以内に経口抗菌薬へ切り替えられた。・早期切り替えが行われた1万7,282件のうち、87.4%(1万5,113件)が3日目までに退院し、12.6%(2,169件)は3日目時点で入院継続中であった。・30日以内の死亡および再入院の複合は、全体で18.1%(5,629件)に認められた。・施設ごとの早期切り替えのO:E比は、Q1群0.78、Q4群1.23であり、施設間で実施状況に差がみられた。・施設ごとの早期切り替え実施の度合い(O:E比の四分位)別にみた場合、30日以内の死亡および再入院の複合に有意差は認められなかった。・3日目まで入院を継続していた患者において、早期切り替えが行われにくい因子として、βラクタム系薬+非定型病原体をカバーする抗菌薬の併用によるエンピリック治療(オッズ比[OR]:0.808、95%信頼区間[CI]:0.725~0.900)、広域抗菌薬によるエンピリック治療(OR:0.657、95%CI:0.594~0.727)、最近の入院(2022年のOR:0.779、95%CI:0.681~0.891、2023年のOR:0.668、95%CI:0.582~0.767)が抽出された。・早期切り替えと関連する因子としては、高齢(OR:1.009、95%CI:1.004~1.013)、フルオロキノロン単独によるエンピリック治療(OR:1.619、95%CI:1.378~1.902)が抽出された。 本研究結果について、著者らは「注射用抗菌薬から経口抗菌薬への早期切り替えが積極的に行われた施設でも、転帰の悪化がみられなかったことから、早期切り替えの安全性が示唆された。早期切り替えを推進するために、組織的な取り組みが求められる」とまとめた。

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事例42 在宅酸素療法の査定と復活【斬らレセプト シーズン4】

解説事例の「C103 2 在宅酸素療法指導管理料(その他の場合)」と使用した機材などの加算すべてに対して、A事由(医学的に適応と認められないもの)が適用されて査定となりました。在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)の対象は、同療法の留意事項(4)にて「高度慢性呼吸不全例、肺高血圧症の患者、慢性心不全の患者のうち安定した病態にある退院患者(その他省略)」と通知されています。病名欄をみると、適応がないことがわかります。カルテを参照したところ、「間質性肺炎が経時的に増悪したことによる呼吸症状が全面的に出てきている状態であることから在宅酸素療法を導入」と記録されていました。「急性呼吸不全」ではなく、「慢性呼吸不全」の病名で請求すべきでした。査定点数が大きいため患者の状態やレセプトに記載が必須となる項目ならびに規定を満たしているSPO2の結果を医師に記載していただき再審査請求をしたところ復活しました。在宅酸素療法指導管理料は、高点数であるとともに、3ヵ月間に3回算定できるため査定となった場合の収入への影響は著しく大きくなります。他院において、レセプトに記載が必須の項目の漏れでの査定・返戻を確認しています。事例では、レセプトチェックシステムに、適用病名と必要補記がない場合には警告を表示させるよう改修して査定対策としています。

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第301回 麻疹の流行が止まらない!見落としていたもう一つのセキュリティーホール

INDEX2026年麻疹発生状況もう一つのセキュリティーホールと解決策2026年麻疹発生状況年明けからわずか2ヵ月弱だが、現在の麻疹の発生動向を見ると、何とも不気味である。国立健康危機管理研究機構が公表する感染症発生動向調査週報(IDWR)1)の2026年第6週(2月2~8日)までの速報ベースの累計報告数は32例。昨年の同週での累計が3例だったことを考えれば、年初からかなりのハイペースである。第1週から第6週を見ると以下のような推移になり、第5週を境に感染報告数が跳ね上がっている。画像を拡大する累計報告数を都道府県別で見ると、東京都が6例、栃木県、新潟県、大阪府が各4例、埼玉県、千葉県が各3例、神奈川県、岩手県が各2例、北海道、茨城県、愛知県、京都府が各1例。現状は首都圏、東海圏、近畿圏という人口密集地域での報告が主である。本連載でもすでに取り上げているが、昨年の麻疹発生状況もかなりのものだった。2025年最後の第52週(12月22~28日)までの速報ベースの累計報告数は265例で、2024年の同週(12月23~29日)の45例と比較して約6倍まで増加していた。さらに、日本の麻疹土着株の遺伝子型D5は長きにわたって検出事例はなく、それがゆえに日本は2015年、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局から麻疹排除国として認定されている。現在の麻疹感染報告はいわば輸入例であり、ウイルスの遺伝子型からも、その多くが東南アジア・南アジア方面を起源とするものと推定されている。実際、米国・ボストン小児病院が開発・運営する世界の感染症発生情報を可視化したサイト「HealthMap」2)を参照すると、現状、東南アジアや南アジアでは麻疹がかなり流行していることがわかる。だからこそ、前回、この地域からの技能実習や特定技能での来日者やその雇用主へのワクチン接種の積極的勧奨、そのための接種費用の一部助成などの施策を考えてもよいのではないかと私個人は提案したのであった。もう一つのセキュリティーホールと解決策この考えに今も変更はないが、最近、もっと重要な視点が抜け落ちていると気付き始めた。それは日本人でのワクチン接種の推進である。前回も紹介したように、令和6年度(2024年4月1日~2025年3月31日)のワクチン定期接種対象者の接種率は、第1期が92.7%、第2期が91.0%であり、麻疹の集団免疫獲得に必要なワクチン接種率95%以上にはやや及ばない。ここは従来どおり、国や各自治体による地味な啓発の継続が必要である。だが、麻疹に関してはここにセキュリティーホールがあることを私自身はすっかり忘れていた。それは現在の麻疹のワクチン接種が2回体制になったのは、2006年からである。ご存じのように1回接種では、約5%の人では十分な免疫を獲得できず、また、経年での抗体価低下を補うブースター効果を期待して、このような措置へと変更された。日本で麻疹ワクチンの定期接種が始まったのは1978年で、約30年間は1回接種で済まされていた。当然ながらこの世代には、免疫獲得が不十分な人もかなり抗体価が低下した人もいるはずだ。その意味では、国がかつて風疹ワクチンの接種対象ではなかった中高年男性に対して抗体価検査の無料クーポン配布とその結果に応じた無償接種の機会を提供したことは記憶に新しい。この事業は2024年度で終了したが、改めて麻疹ワクチンの1回接種世代を対象に似たような事業を行ってもよいのではないだろうか?ちなみにざっくり対象人口を計算すると、約1億人と推計される。一般に麻疹の抗体価検査は3,000円前後であるので、この全員が抗体検査を受ければ、予算規模は約3,000億円。そのうち3割程度が接種対象だったと仮定した場合、約8,000円と言われるMRワクチンの接種費用を掛け合わせて約2,400億円。総額5,400億円の計算になる。もちろん大変な規模の支出にはなるが、その後の経済効果まで考えれば、赤字国債を発行しても元が取れるのではないだろうか? いっそこのケースでは、あの“悪名高き”肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンのように、各年度で対象者を絞った実施でもよいかもしれない。これならば単年度の予算規模は抑えられる。健康安全保障をキーワードに予防医療を強く訴える高市政権にとっても悪い政策ではないと思うのだが。ついでに言うならば、現在、麻疹報告数が多く、大きな予算規模を抱える東京都あたりが先鞭をつけて始めてもよいかもしれない。それこそ東京都お得意の「東京アプリ」を使って、対象者が抗体検査を受けたら〇ポイントを付与する、といった仕組みだ。麻疹に関してWHOは2026年1月26日にイギリス、スペイン、オーストリア、アルメニア、アゼルバイジャン、ウズベキスタンが排除国認定を喪失したことを発表したばかり。日本が同じ轍を踏んでほしくはない。参考1)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:感染症発生動向調査週報2)HealthMap

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キャリア中断後に見つけた 総合診療能力で専門性を強化する新しい診療スタイル【ReGeneral インタビュー】第4回

キャリア中断後に見つけた 総合診療能力で専門性を強化する新しい診療スタイル「医師という仕事が好きです。総合診療の入り口を担いながら、専門的なことももっと学んで、糖尿病や内分泌疾患を中心にコモンディジーズや救急初期対応ができるようになりたい」そう語るのは、総合医育成プログラム修了生の帆秋 理笑子氏。糖尿病内科専攻後、家庭の事情で約7年間のブランクを経て、再び糖尿病を中心にした診療スタイルに戻るまでの道のりで出会ったのが、総合診療でした。専門性を高めることと総合診療がどのように関連するのかを聞きました。プライマリ・ケア認定医取得を機に、専門キャリアを再設計――現在どのような診療をされているか教えてください。流動的ですが、糖尿病内科7割、一般内科3割くらいで診療をしています。約1年前に今の勤務先に赴任した当時は、糖尿病診療よりも誤嚥性肺炎などを診ることが多かったのですが、だんだんと引継ぎと新患どちらも増えて、現在は糖尿病を中心に内科診療を行っています。前職は大分県内の同じような中核病院で働いていましたが、糖尿病専門医を取得したいという思いがあり、研修施設である今の職場に移りました。2023年にプライマリ・ケア認定医を取得したことが、このキャリアチェンジを実行する自信にも武器にもなりました。――2023年に認定医取得とのことですが、プログラムはいつ・どのような経緯で受講されたのですか。受講は2021年からです。きっかけは2016年に常勤で診療を再開したことです。卒後数年してから、糖尿病内科を専攻していましたが、9年目くらいから臨床から離れた期間が7年ほどあり、最初は老健施設から仕事を再開して徐々に体力面と治療のアップデートを行いました。前職の病院で糖尿病を診ながら一般内科診療も始め、地域医療でさまざまな役割を担ううちに、「ジェネラルに診られるようになりたい、総合診療のトレーニングを受けたい」と強く思うようになりました。そこで、2019年に勇気を出して大分大学総合診療科に研修希望で見学に伺い、このプログラムを教えていただきました。私の話に耳を傾けてくれた先生方に今でもとても感謝しています。当時は東京に行って受講する形式で費用も高くて諦めていましたが、2021年にオンライン化されて「ああ、これなら家でもできる。チャンスだ!」と思って参加を決めました。2023年に認定医を取得した後も受講を続けています。大人の学び直し 安心して飛び込める環境――印象的な講義はありましたか。診療実践コースでは、整形外科、循環器内科が印象的でした。整形外科では、脊髄からの神経支配域を身振り手振りや語呂合わせで教えてくれたのをよく覚えています。また骨折の写真や整形外科的診察の動画をたくさん使って説明してくださったのが面白くて理解しやすかったです。循環器では、日常診療で使える心電図の読み方や高血圧の診療、胸痛への対応などをざっくばらんに教えていただきました。循環器は興味があっても苦手に感じていた分野なので、動画を何度も見返して勉強した分、印象が強いですね。ノンテクニカルスキルコースでは、ミーティング・ファシリテーションの講義が記憶に残っています。ここで会議やグループ活動の舵取りの手法を学びました。板書の効果や、会議に応じた机や椅子の並べ方、アイデアを広げてからまとめる方法など、これまで無意識に行っていたことも、意識を向けると意味があると知りました。――受講中に苦労した点はありますか。糖尿病や、それに関連する腎臓や認知症の講義は安心して受けられましたが、あまり馴染みのない科、たとえばマイナーエマージェンシーや救急、耳鼻科の講義を受けるときは、自信がなく不安が大きかったです。実際に受講してみると、講師の先生方はとても優しく熱心でしたし、講義のやり方も工夫されていて新鮮でした。また、事務局が手厚くサポートして心理的安全性をしっかり担保してくれたのが大きな支えになりました。オンラインですので、受講中に画面がフリーズしてしまうことも何度かありましたが、講義によっては復習用動画を作って何度も視聴できるような環境を整えられていて、聴き取れなかった部分は後から補うことができました。――心理的安全が保たれた。それはどんなサポートだったのですか。たとえば、質問のときです。質問するのは意外と難しいんです。自分がよく知っている疾患なら「いい質問だね」と言ってもらいやすいですが、詳しくない分野だと的外れになりがちです。講師からしたらわけがわからない質問かも…と不安になることもありました。実際、一度スルーされたのかな?と思った瞬間もあります。ですが、運営の先生方が参加者全員の質問をリストアップして、どんな質問も漏れなくすべて扱ってもらえる仕組みになっていました。それから、最初の受講時に「ほかの人の発言を否定しないでください」というアナウンスもありました。この声掛けがあったので、自分の意見を批判されることはあっても、否定されない。これが安心感につながって、得意ではない診療科の授業にも思い切って飛び込むことができましたし、質問やグループ内での発言を行うことができました。――ご自身の診療にこのプログラムはどう役立っていますか。最近の出来事だと、糖尿病性の足壊疽を診るとき、皮膚科の褥瘡の講義で学んだ内容がとても役立っています。壊疽も褥瘡も血流障害が関係していることが多く、評価や薬の選択がリンクしていて、受けてよかったなと思う瞬間でした。それから、腎臓内科の講義を受けたことで、糖尿病診療の中で腎臓を診るときに、薬をいつまで継続すべきかといった、細かい判断がしやすくなりました。糖尿病の合併症で腎機能が悪化して透析になる方も多いですから、お互いの専門領域に関わる聞きづらい質問ができたのは、このプログラムならではかもしれません。専門医がその疾患をよく理解していることは確かですが、付随するさまざまな問題や合併症の管理に他科の医師の協力は必要不可欠です。その時に、こうして他科の医師の考え方を知ったおかげで、コミュニケーションを取りやすくなりました。糖尿病という疾患を診るときの視野が広がりましたし、自分の専門性を高める上でも、何をもっと勉強しなければならないのかが少しずつ見えてきた気がします。ほかにも一般内科の診療を行う上でリハビリテーションの必要性は年々高まっていると感じていたため、リハビリの講義で、リスク管理や障害の診断とADLの評価法などを学び、疾患と生活を結びつける上でとても役立っています。――他科の先生から刺激を受けたという点で、印象に残っていることはありますか。行動変容1)という診療実践コースの授業のグループワークが印象に残っています。行動変容というと、問診で情報を引き出して患者さんが生活習慣を修正できるように導くといった、糖尿病内科で日頃からやっていることがテーマになります。正直、自分は得意だと思っていました。でも、同じグループのある先生の問診に目を見張りました。外科出身で、今は開業して一般内科を診ているこの先生は、私よりずっと上手だったんです。本当に驚きました。糖尿病内科では診察に追われて、ついイエス・ノーで答えられるクローズドクエスチョンで聞いてしまうことが多いのですが、その先生はオープンクエスチョンをとても上手に使って、患者役の方から自然に話を引き出していました。その姿を見て、私ももっと頑張ろうとやる気になりましたし、負けられないという刺激にもなりました。他科の先生が自分より上手だと落ち込むこともできますけど、前向きに捉える方がいいですよね。いろんな先生のやり方を、自分が奮起する材料にできるといいなと思っています。総合診療能力を活かして専門性も磨く、新しい働き方――専門性を磨きたいと思う人にとっても、総合診療能力は必要でしょうか。わたしはそう思います。総合診療の必要性を感じて大分大学総合診療科を見学したとき、自分の進みたい方向をもう一度深く考えました。そこでクリアになったのは、私は専門の糖尿病と隣接する内分泌の診療の幅を広げながら、同時に一般内科の初期対応やマネジメントといった“総合診療の入り口”をマスターしたいという希望でした。さまざまな専門性・働き方の先生方を尊重し、そこから真摯に学び、力を借りながら、自分が決めた進路を進みたいと思ったんです。一方で専門だけでは対応しきれない現実も理解しています。患者さんの多くは高齢で、認知症や肺炎や骨折など複数の疾患があり、生活や家族の問題も絡んでいます。都会なら各診療科に回せるかもしれませんが、地方や個人病院では難しい。だから、専門的な治療だけでなく、専門と専門の間をつなぐマネジメントや初期対応は、どの科の専門医にも必要なのではないかと思います。総合診療的なアプローチを学ぶことは、専門診療の視野が広がる、地域のニーズに応えられることでキャリアの選択肢が増えるという2つの点で、専門性を高めたいと思う人にも価値があると思います。大人になってからの学習ですから、習ったことすべてをすぐに活用・実践できるというような大きな期待は持たずに、経験を積みながら少しずつできることを増やしていくくらいの気楽な気持ちで始めてもよいのではないでしょうか。――今後の展望は?総合診療の基本的なことを今以上にできるようになりながら、糖尿病と内分泌の専門的な診療を深めていくのが個人的な夢です。 人間は忘れる生き物だと痛感しているので、この先も反復学習と実臨床での実践を続けて、総合医育成プログラムの内容をしっかりできるようになりたい。そして専門以外でも得意な分野が生まれてくるといいなと思っています。私自身はプログラムを受けていてもできていないことが多々あります。でも全部を自分で賄えなくても、このプログラムで学んだエッセンスを活かしながら他の人の力を借りて、少しでもよい方向に診療を進めていき、自分の夢が実現するように頑張っていきたいと思っています。――同じように専門性を大切にしながら、総合診療にも興味を持たれた方にメッセージを。私は約7年のブランクを経て、再び臨床に戻る決断をしてからの一歩一歩が、このプログラムとの出会いにつながりました。時間はかかりましたが、希望していた糖尿病診療を増やすことができ、プログラムでの学びは一般内科や救急だけでなく、自分の専門にも新しい発見をもたらしています。努力しても診療がうまくいかず落ち込む日もあれば、うれしくて喜びを感じる瞬間もあります。一喜一憂の毎日ですが、やりがいがあり、この仕事が好きです。プログラムに参加して、恥をかくのは確かに嫌です。ただ自分のやりたいことに挑戦しないと失敗もないけれど進歩もありません。挑戦して、そこから学べることはありますし、次につなげていくこともできます。そして何より、医師になってある程度経験を積んでから、もう一度、大人の学び直しをできることがすごく楽しいです。このプログラムは、授業料を払い土日を費やしてでも学びたいと思っている、年齢も専攻科も異なるさまざまな背景を背負った全国のやる気に満ちた医師仲間と知りあうことができ、切磋琢磨しながら学べる貴重な場です。事務局のサポートも手厚く、先生方も熱心です。また私のように診療の第一線から離れた医師が復職する上でも大きな助けになってくれると思います。取り組み方次第で道は開けます。もし迷っているなら、ぜひ思い切ってチャレンジしてみてください。 引用 1) 行動変容:喫煙・食事・運動に関する患者の行動変容を支援する面接技法を学び、準備段階の評価や効果的な対話を通じて生活習慣改善を促す力を養うことを目的としたセッション

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PPIの長期使用と胃がんリスクの関連性否定:北欧5ヵ国での集団ベースの症例対照研究(解説:上村直実氏)

 北欧5ヵ国(デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド)の全国登録レジストリーから前向きに収集したデータを用いた大規模症例対照研究の結果、1年超のPPI長期使用と胃がんリスクの関連性はなく、H2ブロッカーと同様であることが、2026年1月のBMJ誌に発表された。PPI長期使用による胃がんリスクの上昇を示唆する報告は多数あるが、コホート研究などの観察研究における精度の問題を指摘して、考えられるバイアスである診断前のPPI開始時期やH. pylori関連変数の調整不足、噴門部がんの混在などを厳密に調整するデザインを採用した結果、両者の関連性が否定されたとしている。 最近報告された3つのシステマティックレビューとメタアナリシスでもPPIと胃がん発症の関連性が強く示唆されたように、多くの観察研究およびメタアナリシスが両者間の正の関連性を示している。一方、両者の関連性を検証する観察研究と違って、因果関係を検証するための研究デザインとしてのプラセボを対照とした前向きランダム化比較試験(RCT)に関しては、2019年に報告された1本のみである(Moayyedi P, et al. Gastroenterology. 2019;157:682-691.)。この試験は対象が抗血栓薬内服者であるという制限があるものの、PPI群とプラセボ群の消化器がんを含む有害事象を検証した唯一のRCTであり、PPIとプラセボ両群間で胃がんのみでなく観察研究によりPPIによる有害事象として報告されている市中肺炎、骨折、貧血、クロストリジウム・ディフィシル腸炎などの発生リスクに関して、平均3年の観察期間で両群間に差を認めず両者の因果関係を否定する結果であった。 筆者らは、H. pylori感染陰性者を対象としてPPIと胃酸分泌抑制作用がより強力なP-CABの長期投与による有害事象を検証する目的のRCTを行った(Uemura N, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2025;23:748-757.)。5年間の観察中、1年毎の内視鏡検査により両群における胃腫瘍の発生を検証した結果、両群ともに胃がんやカルチノイドの発生は認められなかった。2つの研究は今回の研究結果を支持するものであり、PPIによる胃がんリスク増加の関連性および因果関係が否定されたものと思われる。 今回の報告ではPPIと胃がんリスクに関して偽陽性をもたらす可能性がある複数の要因が特定されている。胃がん診断前の薬剤の開始時期すなわち胃がんの随伴症状に対するPPIやH2ブロッカーの使用、H. pylori関連変数の調整不足、噴門部がんの混在などである。今後の薬剤疫学研究に携わる研究者や論文の読者にとって、本論文において指摘されたバイアスの要因が的確に調整されているかどうか十分に注意しなければならない。なお、ほとんどが進行胃がんで診断される欧米と違って、内視鏡検査によって胃がんが診断されるわが国において最近はやりの大規模レセプトデータを使用する疫学研究では、胃がんの有無自体に内視鏡検査の回数が重要な交絡因子であることを忘れてはならない。

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第304回 両肺摘出男性の命を人工肺装置が丸2日間つなぎ留め、両肺移植を可能にした

米国のNorthwestern Medicineの外科医が開発した人工肺装置が、両肺摘出男性の両肺移植までの丸2日間の命をつなぎ留めました1,2)。インフルエンザ、肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などのさまざまな疾患が肺を脅かします。肺炎や敗血症を発端として生じる重度のARDSはとくに命に関わり、死亡率は80%を超えます。ARDSはたいてい人工呼吸や酸素投与で治療され、幸いにして危機を乗り越えられるかもしれません。しかしARDS患者の肺がもはや後戻りできないほどに損傷しているのか、それとも回復しうるのかを判断するのは非常に困難です。それに、肺損傷が不可逆的で肺移植がどうやら必要となったとしても、敗血症の持続やおぼつかない臓器の心配により肺移植に踏み切ることはめったにありません。Northwestern Medicineの胸部手術部の長であるAnkit Bharat氏らも33歳のある患者を前にしてまさにその課題に直面しました3)。その男性患者はインフルエンザをこじらせて肺が機能しなくなり、最大限の治療の甲斐なく急速に進行する壊死性細菌性肺炎と怒涛の敗血症に陥りました。悲しいかな病状は悪化し続け、体外式膜型人工肺(ECMO)を施すも心臓が停止を繰り返すようになります。最も重症のARDS患者はやがて肺が回復することを願ってしばしば長期の生命維持装置にかけられます。しかし、肺自体が間断なく続く感染や炎症の出所となって臓器不全を誘い、肺を取り除いて置き換えるしか手の打ちようがなくなることもあります。Bharat氏らが開発した人工肺は血液を酸素で満たす以上の働きを担い、生来の肺がなくても安定した血液循環を保てるようにします。取り除いた両肺に代わるその人工肺のもとで男性は感染症を克服し、1日もすると快方に向かいました。丸2日間で男性の体調は移植できるほどに回復し、28歳の男性からの両肺の移植に晴れて漕ぎ着けることができました。患者から取り除いた肺を解析したところ、免疫の仕業でほうぼうが傷んでいました。肺の修復に必要な細胞はほぼ見当たらず、瘢痕を形成する細胞がそこら中におり、肺の本来の構造がすっかり失われていました。甚大な損傷が肺全域に及ぶ様はまさに肺移植を標準の手立てとする末期の肺線維症に似ていました3)。それらの観察結果は、肺の重度感染での損傷が回復可能かもしれない段階から後戻りできない不可逆的段階に移行したかどうかを見極めるのに役立ちそうです。重度ARDSへのこれまでの手立てといえばだいたいが人工呼吸などで生命を維持して肺の回復を期待するしかありませんでした。しかし今回の患者の肺には実質的に不可逆的な重度損傷を示唆する線維化が見て取れ、回復を待つのは無駄で両肺移植する以外に回復し得ない場合があることを裏付けています。Bharat氏らの人工肺で両肺移植までの命をつなぎ留めた男性患者は、移植後2年時点ですこぶる良好な心肺機能を保っています。より標準化された装置や手順の開発が今回の経験を足がかりにして加速し、患者が移植まで安全に漕ぎ着けるようになることをBharat氏らは望んでいます2)。参考1)Yan Y, et al. Med. 2026 Jan 29. [Epub ahead of print] 2)Northwestern Medicine surgeons develop a total artificial lung system to keep a patient alive for 48 hours after removing both lungs, enabling a double-lung transplant / Northwestern Medicine3)Artificial Lungs Keep Patient Alive While Waiting for a Transplant / TheScientist

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RSV感染症とインフルの症状を比較、RSV感染症の重症化リスク因子は?

 RSウイルス(RSV)とインフルエンザウイルスはいずれも下気道感染症の主要な原因であり、冬から春にかけて流行することが多い。従来RSVは主に乳幼児の感染症として認識されてきたが、近年では、高齢者や基礎疾患を持つ人を中心に、成人においても重篤な下気道感染症や合併症を引き起こすとの報告が相次いでいる。こうした背景から、両ウイルスの臨床的特徴や予後への影響を比較した研究が行われた。中国・国立呼吸器疾患臨床研究センター(北京)のRui Su氏らによる本研究の結果は、International Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2026年1月9日号に掲載された。 本研究は北京市の中日友好病院において、呼吸器疾患の流行期(2023年11月1日~2024年1月30日)に実施された。検査でRSVまたはインフルエンザA型の感染が確認され、入院した全成人患者を対象とした。RSV群、インフルエンザ群、両ウイルスの重複感染群の3群に分類し、臨床的特徴、併存疾患、治療法、合併症、転帰などを比較した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者538例の内訳は、RSV群162例(30.1%)、インフルエンザ群355例(66.0%)、重複感染群21例(3.9%)であった。重複感染群は最も高齢(中央値72歳)で喫煙者の割合が著しく高く(90.5%)、低酸素血症(71.4%)や呼吸困難(76.2%)を呈する頻度が高かった。・RSV群では痰を伴う咳の頻度が高く(62.3%)、インフルエンザ群は発熱(64.8%)および筋肉痛(14.6%)の頻度が高かった。・抗ウイルス療法の実施率はRSV群で最も低かった(24.1%)。一方で、抗ウイルス療法の実施率が最も高いインフルエンザ群において、合併症発症が最も多かった(99.2%)。・人工呼吸器の使用率は重複感染群で最も高かった(42.9%)ものの、全死亡率およびICU入院率では3群間で差を認めなかった。・RSV群の多変量解析では、喫煙(調整済みオッズ比[aOR]:2.61)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(aOR:2.99)、慢性心不全(aOR:3.71)、肺炎(aOR:3.14)が独立した予後不良因子だった。 研究者らは「RSVおよびインフルエンザウイルス感染症は合併症の負担が大きいという共通点はあるが、臨床的特徴はそれぞれ異なっている。COPD、心不全、肺炎を伴うRSV患者はよりリスクが高く、重複感染は人工呼吸器使用頻度の増加など、重症度をさらに深刻化させる。このため、RSVワクチン接種を含む、個別化された予防・治療戦略が必要である」としている。

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第45回 「その抗菌薬投与は患者の益になるか?」重度認知症・肺炎診療の常識を問う

高齢化率が世界最高水準の日本において、重度認知症患者の肺炎診療はいわば日常的な光景です。「肺炎だから入院」「とりあえず抗菌薬」というフローは、多くの医療機関で標準的な対応として定着しているでしょう。しかし、NEJM Evidence誌に掲載された論考1)は、この「当たり前」の診療行為に対し、生存期間、QOL、そして患者の快適さという観点から鋭い問いを投げかけています。 本稿では、同誌の“Tomorrow's Trial”(将来行われるべき臨床試験の提案)として発表された記事1)を基に、重度認知症患者に対する肺炎治療の現在地と、われわれが直面している倫理的・臨床的ジレンマについて解説します。抗菌薬は「死」を10日先送りするだけ? この記事で紹介されるのは、87歳の重度認知症女性の症例です。寝たきりで会話ができず、家族の認識もできない状態で、発熱と呼吸器症状を呈して搬送されました。胸部X線で浸潤影を認め、臨床的には細菌性肺炎が疑われます。 ここで日本の臨床現場でもよくある葛藤が生じます。娘は、「母が苦しまず、現状の生活を維持できるなら生きていてほしい」と願っています。しかし、果たして抗菌薬投与はこの願いをかなえるのでしょうか? 残念ながら、重度認知症患者の肺炎に対して、抗菌薬投与が生存期間、QOL、患者の快適さを改善させるかどうかを比較したランダム化比較試験は、現時点では存在しません。 そのため、根拠とできるのは観察研究の結果のみですが、そのデータは衝撃的です。ある研究では、抗菌薬投与群は非投与群に比べて最初の10日間の死亡率の低下傾向が見られるものの(非投与群76%vs.投与群39%)、10日以降の死亡リスクには差がないことが示されています。これは、抗菌薬による治療が「死を約10日間遅らせる」可能性を示す一方、同時に「死にゆくプロセスを延長させているだけ」である可能性も示唆しています。「治療」がもたらす侵襲と不利益 「とりあえず抗菌薬を入れておこう」という判断が、患者にとって無害であれば問題は少ないかもしれません。しかし、重度認知症患者、とくに人生の最終段階に近い深刻なフレイルの患者にとって、抗菌薬治療が大きな負担となりうることも強調されるべきでしょう。 点滴確保による身体的苦痛、不慣れな急性期病院への搬送、環境の変化による混乱、そして知らない医療スタッフに囲まれるストレスは、認知症患者にとって計り知れない苦痛です。さらに、薬剤耐性菌の出現や、致死的になりうるClostridioides difficile感染症のリスク、下痢や腎機能障害といった副作用も無視できません。 また、米国の介護施設における観察研究では、呼吸器感染症が疑われた認知症患者の約70%に抗菌薬が処方されていましたが、実際に臨床的な細菌感染の基準を満たしていたのはそのうちの約33%にすぎなかったという報告もあります。診断の不確実性と「念のための投与」が、過剰医療と患者の負担を招いている現状が浮き彫りになっています。世界の潮流と日本の立ち位置 重度認知症患者の肺炎に対するアプローチには、地域によって大きな差があります。記事では、オランダと米国ミズーリ州の比較が紹介されています。 オランダでは、重度認知症患者の肺炎に対し、23%が抗菌薬なしで管理されていました。これは、治療方針が明示的に「緩和」に向けられており、あえて抗菌薬を差し控えるという選択がなされているためです。一方、ミズーリ州では重症度が高いほど抗菌薬が使用される傾向にあり、非投与率は15%にとどまりました。 日本はおそらく米国ミズーリ州に近い、あるいはそれ以上に「肺炎=治療」の文化が根強いといえるかもしれません。しかし、患者の予後が数ヵ月単位である場合、その治療が「治癒」を目指しているのか、それとも症状緩和を目指しているのか、その境界線は曖昧です。われわれには「答え」が必要である 本記事の著者らは、こうした長年の疑問に決着をつけるため、重度認知症の肺炎患者を対象とした、抗菌薬静注群とプラセボ静注群を比較する二重盲検RCTの実施を提案しています。主要評価項目は30日生存率だけでなく、QOLや患者の快適さといった「患者・家族中心の指標」が含まれる必要があるでしょう。 「肺炎に抗菌薬を使わない(プラセボを使う)」という試験デザインは、一見倫理的に許容されないように感じられるかもしれません。しかし、抗菌薬治療に確実な有益性のエビデンスがなく、むしろ害の可能性がある以上、この比較試験は倫理的に正当化されるものとなるでしょう。 日本の臨床現場において、すぐにオランダのような「あえて治療しない」選択肢を組み込むことはなかなか難しいでしょう。しかし、われわれが漫然と行っている抗菌薬投与が、本当に患者の「快適さ」や「望ましい最期」に寄与しているのか、一度立ち止まって考えるべき時が来ているのかもしれません。 次回の診療で、重度認知症患者の肺炎に直面した際、少し自問してみるのもいいのではないでしょうか。「この点滴は、患者の苦痛を取り除いているのか、それとも死の過程を引き延ばしているだけなのか」と。そんなことを考えてみるだけでも、慣例に流されがちな日々の処方に、「患者の尊厳」という重みを問い直し、静かな一石を投じることになるはずです。 1) Ahmad A, et al. Do Antibiotics Improve Survival, Quality of Life, and Comfort in Patients with Advanced Dementia and Pneumonia? NEJM Evid. 2026;5:EVIDtt2400447.

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試験本番で実力を100%出し切るための3ヵ条【研修医ケンスケのM6カレンダー】第10回

試験本番で実力を100%出し切るための3ヵ条さて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。改めまして、みなさま新年明けましておめでとうございます。2025年4月に始まったこの連載も、これまでに多くの医学生の方に読んでいただき、非常に嬉しく思います。「最強寒波」だの、「10年に1度」はふと毎年聞いているような気もしますが、今年の国家試験直前期も寒いですね。みなさまはいかがお過ごしでしょうか。さて、来月にはいよいよ試験本番を控える皆さんに、私から最後のメッセージをお送りします。見直しで確認すべき「2つ」(指差し確認も忘れずに!)皆さんは普段見直しで意識していることはありますか?基本的に医師国家試験は回答する時間が足りなくなる、というケースが少ないため、本番でも見直しが重要です。試験では次の2つを意識して見直しをしてください。1.何を問われているか2.主訴に立ち返る「何を問われているか」は非常に重要です。適切不適切、何個選ぶのか、の基本的なことは当然確認するとして、「この患者に対して〜」「直ちに〜」という言葉に敏感になりましょう。選択肢の中には問い方さえ変えれば正答になるものも含まれています。例えば、尿管結石の対応だから水分摂取励行/結石破砕術にすぐに飛びついてしまったが、実際には「今、目の前の患者に対して『まず』行うべき鎮痛(NSAIDsなど)」を問われていた、というケースは少なくありません。冷静になってみれば解けたというミスは非常にもったいないです。難問や割れ問題で間違えるよりも、こうした「拾えたはずの問題」を落としてしまうほうが、試験中の精神的ダメージははるかに大きくなります。ついては、見直しに余裕があるのなら、自信のない問題だけでなく「絶対合っている」と確信のある問題こそ、「何が問われているか」を再度確認してください。やや似た話ですが、「主訴に立ち返る」ことも同様に確認してください。同じ疾患でも主訴は様々です。甲状腺疾患のように多彩な症状を呈する症例もそうですが、心不全+肺炎のような複合病態においても、この症例では何が主訴であったのか?これを見失ってはいけません。そして、この「主訴に立ち返る」は実臨床でも非常に重要です。鑑別を絞ることはもちろん、治療経過で主訴がどのように変化していくのか意識することは医学的に大切なだけでなく、患者さんにとっても納得のいく治療に繋がります。だからこそ、医師国家試験でもきちんと主訴を把握できているかを問われる問題が多い印象があります。たとえ最終的な病態が特定できなくても、主訴に対する適切な対応を選び取ることができれば、それは一つの正解と言えます。実際、救急外来でもよく見かける話です。休み時間をどう過ごすのか、決めておく(ラウンジって良いですが、結局バタバタするのは私だけでしょうか?笑)2日間ある医師国家試験では開始前、昼休み、午後のブロック間の1日3回、合計で6回休み時間があります。試験会場は慣れた環境ではありません。トイレも混みやすい、他大学の友人にばったり会う、などイレギュラーが溢れています。休み時間の過ごし方に正解はありません。前のブロックの話題で周囲と雑談で盛り上がることもあります。自分は1人で黙々と過ごしたい、この分野だけは見返したい、そんな方もいます。休み時間に何かを見返したいのであれば、「これが出たら確実に得点できる」という得意分野を点検することをお勧めします。なんだかんだ休み時間は落ち着かないもの。集中して新しいことを会得するには向かない時間だと思います。だからこそ、確実に解ける箇所を「鉄壁」にするつもりで、知識にさらなる磨きをかけてください。実際に出題されたら「あれだ!」と飛びつかず「お、休み時間で見ると決めたやつ。ラッキー」と落ち着いて対応できる余裕を持ちましょう。ふと出てきた、新しい情報にビビらない医師国家試験に限った話ではないですが、何かと試験前は様々な噂が飛び交うものです。先月述べたように、各予備校が予想するトピックは一度目を通すことをお勧めしますが、本番前日や数日前であれば、無理に習得しようとしなくて構いません。新しく出題範囲に含まれたもの、トリッキーなトピックなどは目を引きがちですが、全体に占める割合は僅かです。結局、定番をいかに落とさないかが合格にとって最重要だと私は思います。直前であればインプットよりも、今ある知識を「正確にアウトプットできること」に注力しましょう。最後に(皆さんも、いざ出陣!)医学生のみなさんは、実にこれまで数々の試験を乗り越えてきたと思います。学内総合試験/各科試験、医学部入学試験、高校、中学、小学校、幼稚園、数え始めたらキリがないでしょう。緊張しても緊張しなくても、眠ることができてもできなくても、大丈夫。ただ、これまで学習してきたことをしっかりアウトプットしてきてください。どのみち4月以降に当直すれば、眠たい中でも同様に診療しなければならないのですから。講評してやる、くらいの余裕を持ってぜひ戦ってきてください!

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日本人市中肺炎、β-ラクタムへのマクロライド上乗せの意義は?

 市中肺炎(CAP)の治療では、β-ラクタム系抗菌薬が中心となるが、とくに重症例ではマクロライド系抗菌薬が併用されることがある。ただし、マクロライド系抗菌薬の併用が死亡率の低下に寄与するか、依然として議論が分かれている。本邦の『成人肺炎診療ガイドライン2024』では、重症例に対してはマクロライド系抗菌薬の併用が弱く推奨されている一方で、非重症例に対しては併用しないことが弱く推奨されている1)。そこで、中島 啓氏(亀田総合病院 呼吸器内科 主任部長)らの研究グループは、市中肺炎の多施設共同コホート研究の2次解析を実施し、マクロライド系抗菌薬の併用の有無別に院内死亡などを検討した。その結果、β-ラクタム系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用療法は、β-ラクタム系抗菌薬単剤療法と比較して、院内死亡率および肺炎治癒率に差は認められなかった。本研究結果は、BMC Infectious Diseases誌オンライン版2025年12月29日号で報告された。 研究グループは、Adult Pneumonia Study Group Japan(APSG-J)により実施された多施設共同コホート研究のデータの2次解析を実施した。対象は、2011年9月~2014年9月に国内4施設(江別市立病院、亀田総合病院、近森病院、十善会病院)でCAPと診断された15歳以上の患者3,470例とし、2,784例を解析対象とした。対象を初期治療としてβ-ラクタム系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬を併用する群(併用群)、β-ラクタム系抗菌薬単剤を用いる群(単剤群)の2群に分類して評価した。主要評価項目は観察期間終了時の転帰(院内死亡、肺炎治癒)とし、副次評価項目は抗菌薬投与期間、入院期間とした。解析には、欠測を考慮して多重代入法を用い、傾向スコアマッチングにより患者背景を調整した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は2,784例(併用群306例、単剤群2,478例)であった。・傾向スコアマッチング後(各群298例)、院内死亡率は併用群5.06%、単剤群4.98%であり、両群間に有意差は認められなかった(群間差:0.00%、95%信頼区間[CI]:-3.73~3.71)。・肺炎治癒率は併用群91.79%、単剤群91.69%であり、両群間に有意差は認められなかった(群間差:0.00%、95%CI:-4.48~4.82)。・重症CAP(CURB-65スコア3点以上)のサブグループ解析においても、院内死亡率は併用群12.00%、単剤群13.33%であり、両群間に差はみられなかった(群間差:0.00%、95%CI:-20.00~16.13)。・抗菌薬投与期間(8.97日vs.9.93日[群間差:-0.99、95%CI:-8.20~0.10])および入院期間(17.72日vs.20.30日[群間差:-2.59、95%CI:-6.99~1.45])についても、両群で同様であった。・本コホートにおける非定型病原体の検出率は、Mycoplasma pneumoniae 1.9%、Chlamydia pneumoniae 0.2%、Legionella pneumophila 0.1%と低率であった。 本研究結果について、著者らは観察研究のため未調整の交絡が存在する可能性があること、イベントの発生率が低く検出力不足の可能性があること、施設数が少なく症例数が1施設に偏っていたこと、観察期間が短いことなどを限界として挙げつつ「CAP患者全体および重症例において、併用群と単剤群で院内死亡率および肺炎治癒率が同様であった。そのため、臨床医は有害事象や耐性菌の発現などの潜在的なリスクとベネフィットを慎重に検討すべきである」と結論を述べた。

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