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肺炎は認知症リスクを高めるか~メタ解析

 肺炎が認知症や認知機能低下のリスクの上昇と関連するかいまだ不明である。今回、中国・Hangzhou Geriatric HospitalのZhen Yan氏らが系統的レビューとメタ解析で検討した結果、肺炎と認知症リスクの関連が示唆され、高齢者でより顕著であった。Annals of Medicine誌2025年12月号に掲載。 本研究は、MEDLINE(PubMed経由)、EMBASE(Excerpta Medica Database)、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、Web of Science、Scopus、ClinicalTrials.gov、World Health Organization International Clinical Trials Registry Platform(WHO ICTRP)データベースを用いて、2024年2月29日までに発表され、成人肺炎患者における認知症または認知機能低下に関するアウトカムを報告した研究を対象とした。統合ハザード比(HR)およびオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデルを用いて算出した。年齢、地域、研究デザイン、肺炎のタイプによるサブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・さまざまな母集団を対象とした10研究が含まれた。・プール解析により、肺炎と認知症リスク増加との間に有意な相関が示された(HR:1.738、95%CI:1.358~2.225)が、研究間でかなりの異質性が認められた(I2=97.1%)。・サブグループ解析では、この関連は高齢者においてより顕著であり、地域や研究デザインによって若干異なることが示された。細菌性肺炎と非定型肺炎でリスクに有意差はなかった。 著者らは、「これらの結果は、肺炎から回復した患者、とくに高齢者において、潜在的な認知機能低下を軽減するための注意深いモニタリングと予防戦略の必要性を強調するもの」と結論している。

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抗菌薬の学び方【Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬】第1回

抗菌薬の学び方最近は感染症の入門書が増えてきました。新しい医学書が出るとつい買ってしまう。そんな先生方も多いのではないでしょうか。問題は、その新しく買った医学書で、抗菌薬を満足に勉強できるかどうかです。勉強はしているのに、抗菌薬を覚えるのに苦労されている先生方は結構いらっしゃるのではないかと思うわけです。では、どうしてそんなに苦労するかというと、これまでの感染症の書籍はきわめて各論的に書かれているからなのですね。言い換えるとストーリー形式になっていない。あるいは、網羅的だけれども有機的ではない。そういった問題があるわけです。では、どうすれば抗菌薬を理解できるのでしょうか。抗菌薬を理解するコツは、よく使う抗菌薬の歴史的背景などの周辺知識を知っておくことです。本連載では、いろいろと雑学を挟んで楽しみながら抗菌薬の知識を身に付けていただくことを目的としていますので、楽しみにしていてください。βラクタム系抗菌薬を優先的に学ぶ理由先ほど「よく使う抗菌薬」の歴史的背景と述べました。「よく使う抗菌薬」というのは、βラクタム系抗菌薬のことです。つまりは、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系などのことです。βラクタム系さえあれば、日常診療は大抵間に合ってしまう。だからこそ、βラクタム系を優先的に勉強してしまうわけです。では、βラクタム系以外の抗菌薬を覚える時はどうすればよいか? という疑問がもしかしたら生じるかもしれません。これは、βラクタム系を先にしっかりとインプットしたうえで、それと関連付けるようにして非βラクタム系を覚えるのがオススメです。つまり、βラクタム系が骨の知識に、非βラクタム系が肉の知識になるというわけです。このようにして覚えておくと、実臨床でも応用が利きやすいのでオススメです。具体例をお示ししましょう。化学療法を行っているなかで、発熱性好中球減少症を発症した60歳女性を例にとって考えてみます。起因菌や熱源ははっきりしませんが、緑膿菌をカバーするためにセフェピムを使っていたとします。ところが、そこに薬疹が出現します。口腔粘膜疹も出現してしまい、重症薬疹を否定できなくなってしまいます。このような時にどうしたらよいのでしょうか。ここで、レボフロキサシンをセフェピムと関連付けながらインプットしていると、レボフロキサシンと即答することができます(図1)。もちろん、別解としてアズトレオナムやアミノグリコシド系を使ったレジメンも考えられますが、今回は深入りしないでおきます。図1 βラクタム系と関連付けて覚える画像を拡大する細菌の分類ここで、抗菌薬の勉強に入る前に、少しだけ細菌の話をさせてください。医学部の授業などでは、細菌をグラム陽性球菌、グラム陽性桿菌、グラム陰性球菌、グラム陰性桿菌、細胞内寄生菌などに分類していたかと思います。ただ、これだと覚えないといけない細菌の種類が多すぎて少々辛いところです(図2)。図2 従来の細菌の分類画像を拡大するそこで、このレクチャーでは細菌を3つの分類で整理していただければと思います。グラム陽性球菌、グラム陰性桿菌、そして嫌気性菌の3つです(図3)。図3 覚えやすい細菌の分類画像を拡大するここで、嫌気性菌は偏性嫌気性菌、つまり酸素があると上手く生きられない細菌のことを指していると考えてください。どうしても分類がMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)になっていなくて気持ち悪いという方もいらっしゃるとは思いますが、その点はご容赦ください。さて、グラム陽性球菌はブドウ球菌とレンサ球菌、グラム陰性桿菌は腸内細菌目と非発酵菌、嫌気性菌は横隔膜から上のものと下のものとに大雑把に分けることができます。腸内細菌目や非発酵菌など、ややこしい言葉が出てきましたが、腸内細菌目は大腸菌やクレブシエラのこと、非発酵菌は緑膿菌のことと思っていただければ差し当たっては十分です(図4)。図4 グラム陽性球菌、グラム陰性桿菌、嫌気性菌画像を拡大するグラム陽性球菌のうち、ブドウ球菌はグラム染色で丸く見える細菌で、クラスター状に集まることで知られています。基本的には皮膚にいる細菌で、皮膚軟部組織感染症やカテーテル関連血流感染症などで問題になります(図5)。図5 ブドウ球菌画像を拡大するレンサ球菌はA群β溶血性レンサ球菌が代表的で、広い意味では肺炎球菌などもこのグループに入ります。基本的には咽頭や皮膚にいる細菌で、皮膚軟部組織感染症や肺炎・中耳炎などの上下気道感染症などで問題になります(図6)。図6 レンサ球菌画像を拡大するグラム陰性桿菌でよく見かけるのは大腸菌ですが、これは腸内細菌目に分類されます。名前のとおり、腸管内にいる細菌ですが、腹腔内感染症や尿路感染症で問題になります。腸内細菌目は形態学的には腸詰め、ウインナーのように見えることが多いです(図7)。図7 腸内細菌目画像を拡大する一方の非発酵菌は、嫌気性の環境でブドウ糖を発酵できない細菌のことで、緑膿菌が代表的です。基本的には水回りやデバイスと親和性があります。酸素があった方が生きやすい細菌なので、血液培養の時に好気ボトルだけで発育するということもよく経験します。形態学的にはチョリソーっぽく見えます(図8)。図8 非発酵菌画像を拡大する嫌気性菌は、グラム染色で見る機会が少なく、培養でも発育しにくい細菌なので、形態学的な話は割愛させていただこうと思います。横隔膜から上の嫌気性菌は口腔内にいる細菌で、フソバクテリウム属やパルビモナス属などが該当しますが、これらは細かいのでまったく覚えていただかなくて構いません。横隔膜から下の嫌気性菌は腸管内の細菌です。こちらもあまり覚えなくてよいのですが、ひとつだけ、余裕があればバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)という名前だけ覚えていただければと思います。基本的にこのレクチャーで横隔膜から下の嫌気性菌というときは、バクテロイデス・フラジリスを指しているものとお考えください。腸内細菌目? 腸内細菌科?ここまで、基本的な内容を解説してきました。余力がある人向けに、ちょっとだけマニアックなお話もさせてください。先ほど、腸内細菌目と述べましたが「腸内細菌科の間違いでは?」と思った先生方も多いのではないかと思います。じつは遺伝子レベルでの分析が進むことで、それまで腸内細菌科だった細菌の一部が、腸内細菌科から外れてしまうという出来事がありました。具体的にはプロテウス属などの細菌などが該当するのですが、今後の議論を進めていくうえでは不都合ということで、腸内細菌科ではなく腸内細菌目という言葉を使いました。感染症の勉強の厄介なところは、こういった細かい知識のアップデートが頻繁に行われるところにあるのですが、この連載では全体像を見失わないようにやっていきたいと思います。まとめ第1回をまとめていきます。抗菌薬を覚えるにはβラクタム系から攻めるのが鉄則です。非βラクタム系はその後に肉付けする形で覚えましょう。また、細菌については、グラム陽性球菌、グラム陰性桿菌、嫌気性菌の3つに分類して、それ以外については各論的に補足していくスタンスで臨むと分かりやすいです。次回は、タイムマシンに乗ってペニシリンG誕生の瞬間を見に行こうと思います。歴史を見ていると、ペニシリン系のスペクトラムの成り立ちがよくわかりますので、楽しみにしていてください。

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全身だるくて食後に眠い【漢方カンファレンス2】第6回

全身だるくて食後に眠い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代後半女性主訴全身倦怠感、不眠既往腹圧性尿失禁、アレルギー性鼻炎生活歴仕事:事務職(人手不足で忙しい)、入退院を繰り返す母の介護中。病歴2〜3年前から不眠に悩んでいる。午前中から眠気がつらくて体がだるく仕事がはかどらない。12月に漢方治療を希望して受診。現症身長157cm、体重49kg。体温36.3℃、血圧119/80mmHg、脈拍60回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。全身倦怠感は変わらない。2ヵ月後夜中に目が覚めなくなった。仕事中も眠くならない。4ヵ月後忙しいが体調はよい。よく眠れている。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む問診<陰陽の問診>寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?横になりたいほどの倦怠感はありませんか?寒がりの暑がりです。冷えの自覚はありません。倦怠感はありますがいつも横になりたいほどではありません。入浴は長くお湯に浸かるのが好きですか?冷房は苦手ですか?入浴で温まると体は楽になりますか?入浴時間は短いほうです。冷房は好きです。入浴してもとくに倦怠感の変化はありません。のどは渇きますか?飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きません。温かい飲み物を飲んでいます。<飲水・食事>1日どれくらい飲み物を摂っていますか?食欲はありますか?胃は丈夫ですか?だいたい1日1L程度です。食欲はあります。胃は弱くてすぐにもたれます。<汗・排尿・排便>汗はよくかくほうですか?尿は1日何回出ますか?夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか?便秘や下痢はありませんか?汗はよくかきます。尿は1日7〜8回です。夜は尿に1回行きます。便は2日に1回で、便秘です。便秘するとお腹が張りますか?お腹は張りません。<ほかの随伴症状>全身倦怠感はとくにいつが悪いですか?朝がとくにきついですか?食後に眠くなりませんか?朝はそこまできつくありません。朝は比較的元気なのですが、午後がきついです。昼食後と夕食後は眠たいです。睡眠について教えてください。悪夢はありませんか?毎晩0時頃に就寝しますが1時間以上寝つけません。午前3時くらいに目が覚めて朝まで眠れない日が多いです。悪夢はありません。動悸はしませんか?抜け毛は多いですか?集中力がなかったりしませんか?皮膚は乾燥しますか?動悸はありません。抜け毛は多くありません。集中はできています。皮膚の乾燥はありません。イライラしたりやる気がなかったりすることはありませんか?そんなことはありません。そのほかに困っていることはありませんか?風邪をひきやすくて困っています。年に5〜6回風邪をひいてしまいます。診察顔色は正常。眼に力がなく声も小さい。脈診ではやや浮で弱の脈。また、舌は淡紅色で腫大・歯痕、湿潤した薄い白苔をまだら状に認める。腹診では腹力は軟弱、軽度の胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)あり、腹部大動脈の拍動は触知せず。四肢の触診では冷感なし。カンファレンス今回は50代女性の全身倦怠感、不眠の症例です。全身倦怠感を訴える患者さんは多いですね。感染症、内分泌疾患、悪性腫瘍、薬物の副作用、うつ病など、鑑別すべき疾患が多いので苦手です。発症から持続時間を1ヵ月以内、1〜6ヵ月、6ヵ月以上と分けると絞り込みが容易になりますよ。急性では感染症、慢性の場合では抑うつや不安などの精神疾患の割合が高くなります。とくに結核、甲状腺疾患、肝炎などは要注意と学びました。しかし検査を行っても異常がないケースが1/3ほどあるといわれます。原因が特定できない、かつ精神的な不調も目立たないケース、全身倦怠感が高度で日常生活に支障をきたしている症例もあって悩ましいですね。今回の症例は不眠があって仕事や介護の負担が背景にありそうですね。うつ病の除外は必要ですね。当科が初診時に行っている漢方医学的な問診票のなかには、気持ちが沈みがちである、気力がない、物事に興味がわかない、朝調子が悪い、集中力の低下など、精神症状に関する項目が複数あります。それでは、漢方診療のポイントの順番にみていきましょう。温かい飲み物を好む、寒がりのほかは、暑がり、冷えの自覚なし、冷房を好む、他覚的な四肢の冷感なしということで陽証を示唆する所見のほうが多いです。そうですね。全体としては陽証ですね。寒がりの暑がりはどう考えるかな?陰陽の判断はつかないということでしょうか?寒がりかつ暑がりは、陰陽の判断ではなく、虚証を示唆します。体力がなくて環境の変化についていけないイメージです。六病位ではどうだろう?太陽病ではなく、陽明病の強い熱感や腹満はないので少陽病です。そうですね。漢方診療のポイント(2)虚実はどうでしょう?脈の力は弱、腹力も軟弱で闘病反応の乏しい虚証です。陽証・虚証でいいようだね。(3)気血水の異常はどうだろう?本症例は、仕事や介護の負担で疲弊しているようですね。そうだね。生体のエネルギー量が不足した状態を気虚とよぶよ(気虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられるんだ。本症例にみられる「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状だね。本症例は全身倦怠感とともに食後の眠気があるので気虚ですね。気虚以外にも全身倦怠感が生じることを覚えていますか?気鬱や水毒などでも全身倦怠感が生じるのでした。気鬱の全身倦怠感は、朝調子が悪い、抑うつ傾向、膨満感などが出現します。そのとおり。水毒の全身倦怠感は雨降り前に体が重く感じるよ。本症例ではそのほかの気虚の所見はわかるかな?風邪をひきやすいも気虚ですね。ほかには舌苔にも着目しましょう。本症例のような舌苔がまだら状になっている場合は気虚を示唆します。舌苔は消化機能を反映していると考えます。そのほかにも診察で、眼に力がない、声が小さいということも気虚を示唆するよ。江戸時代には、眼勢無力(がんせいむりょく)、語言軽微(ごげんけいび)と記されているよ。たしかに眼力があって、声が大きい人は元気ですね。漢方の診察は、五感をフルに使って行わないといけないのだ。また、本症例のように不眠がある場合は、漢方薬の鑑別のために気逆の有無を確認しています。気鬱でなく気逆ですか?ドキドキして眠れないというイメージです。どこを確認するかわかりますか?自覚症状で動悸があるかどうかでしょうか?自覚症状の動悸に加え、腹診での腹部大動脈の拍動を確認します。また悪夢が多いことも気逆になります。本症例では悪夢や腹部の動悸はありません。それでは気以外の異常はどうでしょう?気虚以外は目立ちません。脱毛、集中力の低下、皮膚の乾燥を問診していますが、血虚の症候はありません。気虚と血虚が同時にある場合は気血両虚(きけつりょうきょ)といいますが、それはなさそうですね。では本症例をまとめよう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?冷えの自覚なし、冷房好き、入浴は短い、脈:やや浮→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか寒がり・暑がり 脈:弱、腹:軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気、風邪をひきやすい、地図状の舌苔→気虚(動悸や悪夢など気逆はなし)(脱毛や集中力の低下など血虚はなし)(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む眼勢無力、語言軽微解答・解説【解答】本症例は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で治療しました。【解説】補中益気湯は、中(ちゅう:消化吸収能という意味)を補って、気(き)を益(ま)すという意味です。補中益気湯は人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)の補気作用のある生薬に加え、弛緩した筋トーヌスを引き締める作用(升堤[しょうてい]作用)をもつ生薬(柴胡[さいこ]・升麻[しょうま])が含まれることがポイントです。そのため、補中益気湯は、筋肉が弛緩傾向を示すサイン、四肢がだるい、眼に力がない、声が小さいなどが使用目標になります。最近ではあまり使われませんが内臓下垂、胃下垂といわれるような病態や子宮下垂、脱肛なども筋の弛緩傾向により生じることから、補中益気湯の適応とされています。また柴胡・升麻は抗炎症作用を併せ持ち、風邪や肺炎や尿路感染などの急性感染症が治癒した後、微熱があってなんとなく活気がない、食欲がないといった場合に良い適応になります。江戸時代の漢方医・津田玄仙は補中益気湯の8徴候として、四肢倦怠、眼勢無力、語言軽微、食失味、口中白沫、熱湯を好む、脈散大無力、臍動悸を挙げており、このうち2〜3該当すれば用いてよいと述べています。補中益気湯を投与すると、COPD患者の感冒罹患回数を減少させ、体重増加をもたらしたという報告1)があります。また、女性腹圧性尿失禁患者に対して補中益気湯の4週間の投与で尿失禁の回数が減少傾向、QOLのパラメーターや患者満足度が改善したという報告2)があり、女性下部尿路症状ガイドラインの腹圧性尿失禁に推奨グレードC1として掲載されています。今回のポイント「気虚」の解説漢方では生体内を循環する「気・血・水」の変調として病気を捉えます。気血水は陰陽・六病位とは別のパラメーターで、経度と緯度の関係にも例えられます。気血水のうち身体を巡る液体成分は血と水ですが、気は目に見えない、形がない、生命活動を営む根源的なエネルギーです。現在でも「活気がある」、「気が滅入る」などと日常で使われます。気の異常のうち、気の量的な不足、または作用力の不足を気虚といいます。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられます。また食後は食事により少ないエネルギーが消化管に集中してしまうと考えられるため、「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状です。気虚に対する基本となる漢方薬が四君子湯(しくんしとう)です。四君子湯は、茯苓、人参、白朮、甘草の4つの生薬を中心に構成されます。また気虚に対する漢方薬は人参とともに黄耆を含むことから参耆剤(じんぎざい)とよびます。補中益気湯や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)がその代表です。今回の鑑別処方人参と黄耆が含まれる漢方薬を参耆剤とよびます。人参は消化管から、黄耆は体表面から気を補うイメージです。補中益気湯は全身倦怠感・食後の眠気などの気虚に加え、四肢がだるい、声が小さい、眼力がないといった筋トーヌスの低下した徴候がある際に用います。気虚に血(けつ)が不足した状態(血虚)を合併している場合、具体的には皮膚の乾燥、脱毛が多い、目が疲れる、集中力がない、爪がもろい、頭がぼーっとするなどの症状を伴う場合は、気血両虚に対する漢方薬が適応になり、十全大補湯がその代表です。十全大補湯と類似の漢方薬に人参養栄湯(にんじんようえいとう)があります。人参養栄湯には、遠志(おんじ)、陳皮(ちんぴ)、五味子(ごみし)といった喀痰、咳嗽などの呼吸器症状に対応する生薬が含まれることが特徴です。非定型抗酸菌症に対して人参養栄湯が有効であったという報告3)があるように、慢性の感染症で体力低下に加え、呼吸器症状があるのが典型で、近年ではフレイルに対する漢方薬として注目されています。大防風湯(だいぼうふうとう)は十全大補湯に附子(ぶし)と鎮痛作用のある生薬が加わった構成で、冷えと関節痛を伴う場合に用います。疲労感を伴う関節リウマチなどの膠原病の患者にしばしば用います。帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯は気虚に加え、くよくよ思い悩んでしまう(思慮過度)、不眠、抑うつがある場合に用います。全身倦怠感が投与目標というよりも不眠や抑うつなどの精神心理症状を主体に訴える場合に用いることが多いです。加味帰脾湯は帰脾湯に柴胡、山梔子(さんしし)が加わって熱感やイライラといった症状にも対応します。その他、人参と黄耆をともに含む参耆剤には、清暑益気湯(せいしょえっきとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、当帰湯(とうきとう)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)があります。最後に気虚に冷えを合併している場合は、第5回で解説したように陰証と診断して、太陰病の人参湯(にんじんとう)や少陰病〜厥陰病(けついんびょう)の茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう:人参湯エキス+真武湯エキス)による治療が最優先であることにご注意ください。参考文献1)杉山幸比古. 日本胸部臨床. 1997;56:105-109.2)井上雅ほか. 日東医誌. 2010;61:853-855.3)Nogami T. J Family Med Prima Care. 2019;8:3025-3027.

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レスキューを反復しても効かない呼吸困難【非専門医のための緩和ケアTips】第108回

レスキューを反復しても効かない呼吸困難難治症状の代表である呼吸困難ですが、短時間作用のオピオイドを症状出現時に使用する「レスキュー」で対応しても緩和できない場合は、どのように対応すると良いのでしょうか?今回の質問肺がんで慢性的に呼吸困難がある患者さんを担当しています。労作時の呼吸困難がかなり強く、レスキューを使用しても緩和できないことを経験するようになってきました。何かできる工夫はありますか?呼吸困難は症状の強さと対応の難しさから悩まされますよね。モルヒネを中心としたオピオイドの効果があるとされるものの、実際にはすっきりとした症状緩和になることは少なく、本当に苦しそうな様子を何とかしたいと思ったことが何度もあります。また、あまり有効でないオピオイドを繰り返し使用することで、呼吸抑制など状態を悪化させることも避けたいものです。呼吸困難に限らずですが、症状が出た時(時には出そうな時)に短時間作用のオピオイドを繰り返し追加する方法(=レスキュー)で効果が乏しい時には、原因を考えることが第一歩です。今回のように原疾患が肺がんであれば、腫瘤の増大やがん性リンパ管症といった原疾患に関連した病状の悪化が最初に思い浮かびます。ただ、それ以外にも肺炎や心不全の併発といった新たな病態も考える必要があります。「がんだから仕方がない」と思っていたら、治療介入可能な病態を見逃すことがよくあります。私も、気胸を見逃しそうになったことがあります。朝の回診の時は穏やかだったのに、夕方に急に呼吸困難が悪化してしまった患者さんがいました。がんの進行としては経過が合わないと思い、検査を行ったところ気胸だったのです。症状悪化の原因を考え、可能な介入をしたうえで、呼吸困難を和らげるケアに目を向けましょう。体位変換でラクな姿勢にしたり、部屋の空気を入れ替えて風を顔に当てたりといったケアが大切です。腹水が溜まっていると圧迫されてより換気しにくいこともありますので、胸腔臓器ばかりに目を向けず、全身の様子を見ながら、「何かできることはないか」という視点を持ち、多職種で一緒に考えることをお勧めします。意外と忘れやすいのが、「排便コントロール」です。皆さん、ご自身の経験でもトイレでいきむと息が切れますよね。いきむあいだは呼吸ができません。便が硬く、排泄時に長時間いきむことは、もともと呼吸機能が低下している患者にとって非常に強い苦痛となります。私は呼吸困難のある患者さんには、「呼吸困難緩和のために、便を軟らかくすることが重要なので」という説明をして、緩下剤を提案しています。さて、なかなか根本的な対応が難しい呼吸困難の症状ですが、レスキューを繰り返す以外の対応の経験を少しずつ積み重ねていくことが大切です。今回のTips今回のTipsレスキューが効果乏しい時は、原因とほかのケアについて考えよう。

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高齢者への高用量インフルワクチン、肺炎などの入院減少せず/NEJM

 インフルエンザの不活化ワクチンでは、標準用量と比較して高用量で優れた感染予防効果が示されているが、重症のアウトカムに対する高用量ワクチンの有効性に関する無作為化試験のデータは十分でないという。デンマーク・コペンハーゲン大学病院のNiklas Dyrby Johansen氏らの研究チームは、高齢者におけるインフルエンザ感染の重症アウトカム(入院)に対する高用量ワクチンの有効性の評価を目的に、実践的なレジストリに基づく非盲検無作為化対照比較試験「DANFLU-2試験」を実施。高齢者への高用量インフルエンザ不活化ワクチン投与は、標準用量と比較してインフルエンザまたは肺炎による入院率を低下させなかったことを報告した。なお、「副次エンドポイントについては決定的な結論は導き出せないものの、高用量ワクチンは、インフルエンザによる入院および心肺系疾患による入院の予防において有益性を示す可能性がある」としている。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年8月30日号で発表された。デンマークの流行期3回の調査 研究グループは、デンマークの直近3回のインフルエンザ流行期(2022~23年、2023~24年、2024~25年)に、年齢65歳以上の高齢者を高用量または標準用量の4価インフルエンザ不活化ワクチンの接種を受ける群に無作為に割り付け、ワクチン接種後14日目から翌年5月31日までに発生したインフルエンザまたは肺炎による入院の割合(主要エンドポイント)を比較した(Sanofiの助成を受けた)。 3回の流行期に合計33万2,438例(平均[±SD]年齢73.7[±5.8]歳、女性16万1,538例[48.6%])を登録し、高用量ワクチン群に16万6,218例、標準用量ワクチン群に16万6,220例を割り付けた。主要エンドポイントに差はない 主要エンドポイントのイベントは、高用量群で1,138例(0.68%)、標準用量群で1,210例(0.73%)に発生し(相対ワクチン有効率[(1−相対リスク)×100%]:5.9%、95.2%信頼区間[CI]:-2.1~13.4)、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.14)。 また、主要エンドポイントの個別の構成要素を含む5つの副次エンドポイントの結果は次のとおりだった。(1)インフルエンザによる入院:高用量群0.06%vs.標準用量群0.11%、相対ワクチン有効率:43.6%(95.2%CI:27.5~56.3)、(2)肺炎による入院:0.63%vs.0.63%、0.5%(-8.6~8.8)、(3)心肺系疾患による入院:2.25%vs.2.38%、5.7%(1.4~9.9)、(4)あらゆる入院:9.38%vs.9.58%、2.1%(-0.1~4.3)、(5)全死因死亡:0.67%vs.0.66%、-2.5%(-11.6~5.9)。重篤な有害事象は同程度 ワクチン接種後3ヵ月間の安全性評価期間中に観察された重篤な有害事象(入院または死亡)の発生状況は両群で同程度であった。重篤な有害事象は2万5,953件発現し、少なくとも1件の重篤な有害事象を認めたのは高用量群で9,814例(5.91%)、標準用量群で9,804例(5.91%)だった(p=0.95)。このうち盲検下の評価で132件が試験治療関連と判定され、両群間に差を認めなかった(高用量群75件vs.標準用量群57件、p=0.16)。 予期せぬ重篤な有害反応が疑われる事例が高用量群で2件発生した(接種後3日目の抗合成酵素症候群、接種後1日目の心膜炎)。この2例は、同じ日にCOVID-19ワクチンの接種も受けていた。また、安全性評価期間中に682例が死亡したが、試験治療と関連があると判定されたものはなかった。 著者は、「最近の無作為化試験のメタ解析では、標準用量に比べ高用量ワクチンはインフルエンザまたは肺炎による入院を23.5%低下させたと報告されている。この本試験との不一致は、COVID-19の世界的流行以降、呼吸機能検査の増加によりインフルエンザの検出および診断の精度が向上し、試験期間中のインフルエンザによる入院率がCOVID-19流行前に比べほぼ倍増したという事実で説明が可能と考えられる」としている。

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脂肪分の多い食事が好中球性喘息の一因か

 脂肪分の多い食べ物は、子どもの喘息の一因となる可能性があるようだ。特定の食品に含まれる脂肪が、微生物や細菌のタンパク質によって引き起こされる非アレルギー性の喘息である好中球性喘息に関連していることが、新たな研究で示された。米フィラデルフィア小児病院のDavid Hill氏らによるこの研究結果は、「Science Translational Medicine」に8月27日掲載された。Hill氏らによると、好中球性喘息はアレルギー性喘息よりも治療が難しく、入院が必要になるほど重篤な症状が引き起こされる可能性がアレルギー性喘息よりも高いという。 好中球性喘息は、好中球が過剰に集まって炎症を起こすタイプの喘息であり、この過程には免疫細胞のマクロファージも関与している。マクロファージは吸入されたアレルゲンなどの異物を認識し、炎症性サイトカインなどを分泌する。これにより好中球が誘導され、気道炎症が悪化する。一方、肥満は、慢性炎症や代謝異常を通じてマクロファージを含む免疫細胞の性質を変化させることが知られている。過去の研究では、肥満が喘息、特に好中球性喘息と関連することが示されていたが、その要因が肥満そのものなのか、食事成分なのかは明らかになっていない。 この研究でHill氏らはまず、前臨床試験として動物に高脂肪食を与える実験を行った。その結果、動物性脂肪や加工食品に含まれていることの多い飽和脂肪酸の一種、ステアリン酸が肺のマクロファージに蓄積し、肥満を引き起こすことなく気道の炎症を誘導することが確認された。その一方で、オリーブオイルなどに含まれている一価不飽和脂肪酸のオレイン酸には炎症抑制効果が認められることや、炎症性サイトカインのインターロイキン(IL)-1βやタンパク質のIRE1αを阻害すると、ステアリン酸による肺炎症が抑えられることも確認された。さらに、肥満の小児喘息患者においても、高脂肪食の摂取に関連してマクロファージ様細胞の活性化が認められた。 Hill氏は、「この研究以前は、小児肥満を好中球性喘息の原因と疑う人が多かった。しかし、肥満ではない小児でも好中球性喘息が見られるため、別のメカニズムが存在する可能性も指摘されていた」と同病院のニュースリリースの中で説明する。その上で同氏は、「本研究では、前臨床研究と小児を対象にした研究の両方において、特定の飽和脂肪酸を含む食事は、肥満とは無関係に好中球性喘息を引き起こす可能性のあることが示された」と述べている。 一方、論文の共著者であるフィラデルフィア小児病院呼吸器・睡眠医学部長のLisa Young氏は、「喘息は小児の最も一般的な慢性疾患の一つであり、喘息のサブタイプに応じて異なる治療が必要になることもある。喘息に関連するリスク因子や誘因はさまざまにあるが、本研究は、特定の食事成分が、特に治療の難しい好中球性喘息にどのように関連しているかを示すエビデンスを提供している。これらの知見は新たな治療戦略の開発を促すものであり、標的を絞った食事療法がこのタイプの喘息の予防に役立つ可能性を示唆しており、大変励みになる」と述べている。

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急性期こそ、漢方!【急性期漢方アカデミア】第1回

急性期に漢方を応用するというと、何の冗談!? と思われるかもしれない。しかし、急性期こそ漢方は劇的な効果を実感でき、それが今後の日本の医療の光明となるという信念をもって活動するグループが存在する。今回から3回にわたって、急性期における漢方の有効性と可能性を啓発・研究するグループである急性期漢方アカデミア(Acute phase Kampo Academia:AKA)の活動と、展望について紹介したい。急性期こそ漢方漢方(漢方薬・鍼灸)というと、不定愁訴や慢性疾患の部分症状に使われているというイメージかもしれない。しかし、江戸時代までの日本では漢方が正式な医学であり、現在の西洋医学が対応している疾病や病態こそ漢方も挑み続けてきた歴史がある。とくに、医療のニーズがまずは急性期の対応であることは洋の東西は問わない。したがって、漢方の多くの方法論は急性期の対応の中から確立してきたものである。もちろん、現代の急性期診療において、循環・呼吸器管理や組織の再建、病巣の切除、病原体の排除のための薬物療法は西洋医学が優先されることは論を待たない。一方で、漢方には西洋医学が未だ届かない生体反応の調整や、回復の促進などのさまざまな方法が存在している。AKAの始動漢方を急性期に応用すると、その劇的な効果が実感され、さらなる予後の改善が十分に期待される。また、漢方は安全性が高く、安価な治療法であり、現在の医療の最大の課題である医療費の高騰に対して、最も医療資源が集中投下されている急性期領域において医療経済的なメリットがある可能性が示唆される。このような急性期における漢方の叡智の活用を啓発・普及するため、急性期での漢方活用のエキスパートである加島 雅之(熊本赤十字病院 総合内科部長)、中永 士師明(秋田大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学講座 教授)、鍋島 茂樹(福岡大学医学部 総合診療学 教授)、熊田 恵介(岐阜大学医学部附属病院医療安全管理室 室長・教授/高次救命治療センター)、入江 康仁(聖隷横浜病院救急科 部長)、吉永 亮(飯塚病院漢方診療科 診療部長)(敬称略)の6名が結集した。急性期漢方アカデミア(Acute phase Kampo Academia:AKA)と銘打って、2023年から活動開始。2024年12月に初めてのOn Lineでの公開セミナーを開催した。急性期の“むくみ”急性期の“むくみ”の西洋医学的病態第1回AKAセミナーでは、ゲスト講師に日本の総合診療・総合内科領域で著名な徳田 安春先生(群星沖縄臨床研修センター長)を迎えて、急性期の浮腫の西洋医学的病態と、その臨床診断のポイント、また治療法の概説と問題点をセミナーの冒頭でレクチャーしていただいた。そこで問題となったのは、急性期の浮腫の治療薬は利尿剤が主体になるが、電解質異常や腎機能への影響、さらに血管透過性亢進などによって起こる血管内脱水を伴う浮腫の治療の難しさであった。急性期の“むくみ”の漢方薬医療用漢方製剤の148処方の内で、急性の“むくみ”に応用できる処方は数多くある。その中でもとくに急性期病院でも使用しやすい五苓散(ごれいさん:17)、柴苓湯(さいれいとう:114)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう:28)、真武湯(しんぶとう:30)の4処方に絞って、処方の基本的な作用と使用上の注意点について、以下のとおり解説する。(1)五苓散漢方では最も頻用される浮腫の処方全身・局所のいずれでも使用可能単独では、急性の浮腫で、血管内脱水と間質の浮腫の混在、血管透過性の亢進がある場合に最も適合する腸管の浮腫や脳・神経系の浮腫にも応用できるアクアポリンの阻害作用が確認されている慢性化した浮腫では他の漢方薬との併用が効果的甘草が含まれていない(2)柴苓湯五苓散と小柴胡湯の合方五苓散の適応症で発症後4~5日程度経過した炎症の合併例で効果がある黄芩含有:肝炎・間質性肺炎に注意甘草含有:偽アルドステロン症に注意(3)越婢加朮湯浮腫を呈している部位の熱感・発赤が強い場合に適合とくに皮膚・関節・眼・口などの体表の局所浮腫に向く(肺/気道にも効果的)麻黄含有:消化管粘膜障害・エフェドリン作用に注意甘草含有:偽アルドステロン症に注意(4)真武湯末梢循環不全があり、手足が冷えている全身の浮腫/消化管の浮腫を伴う場合に効果的弁膜症などがある心腎症候群などに向く単独では利尿効果が弱いため、利尿効果をはかる場合は少量の利尿剤または五苓散との併用が効果的甘草が含まれていない

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成人の心血管疾患患者は一般的な感染症のワクチンを接種すべき/ACC

 米国心臓病学会(ACC)が、心血管疾患の成人患者における予防接種に関する専門家のコンセンサス声明である「2025 Concise Clinical Guidance: An ACC Expert Consensus Statement on Adult Immunizations as Part of Cardiovascular Care(2025年簡潔版臨床ガイダンス:心血管ケアの一環としての成人予防接種に関するACC専門家コンセンサス声明)」を作成し、「Journal of the American College of Cardiology」に8月26日公表した。声明では、心血管疾患患者が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、インフルエンザ、RSウイルス感染症などの一般的な感染症を予防するワクチンを接種することの重要性が強調されている。 ACCの新ガイドライン作成委員会委員長を務めた米スタンフォード大学医学部のPaul Heidenreich氏は、「心血管疾患患者にとって、呼吸器感染症やその他の重篤な疾患に対するワクチン接種は極めて重要だ。しかし、人々が接種すべきワクチンの種類や頻度、接種することの重要性を十分に理解できるようにするには、いくつかの障壁がある」とACCのニュースリリースの中で述べている。同氏はさらに、「本ガイドラインを通して、われわれは、臨床医がこれらの内容について患者と話し合い、標準的な予防・治療計画の一環として患者自身がワクチン接種を管理できるよう支援することを促したいと考えている」と付け加えている。 本声明は、トランプ政権により国のワクチン接種システムの抜本的な再構築が行われている中で発表された。特に新型コロナワクチンに関しては、接種が推奨される人を限定するなど、政権の厳しい監視下に置かれている。 声明によると、心血管疾患患者は呼吸器系ウイルスへの感染による影響を受けやすく、重症化、入院、死亡のリスクが高いという。研究では、ワクチンがこうしたリスクの低減に非常に効果的であることが示されている。しかしACCによれば、プライマリケア医のうち、診察時に患者のワクチン接種状況を評価しているのはわずか30%だという。 ガイドラインでは、以下のことが推奨されている。・心血管疾患患者を含む全ての成人は、心血管イベントや死亡のリスクを減らすために、毎年インフルエンザワクチンを接種すること。・心疾患を患う19歳以上の成人は、肺炎や菌血症、髄膜炎などの予防とそれらの疾患を原因とする入院や死亡を防ぐために、1回接種型の肺炎球菌ワクチンを接種すること。 ・COVID-19の重症化、死亡、心筋梗塞、心筋炎、脳卒中、心房細動、long COVIDのリスクを軽減するために、新型コロナワクチンを接種すること。・心血管疾患のある50~74歳の成人、および75歳以上の全ての成人は、RSウイルス感染症予防のためにRSウイルスワクチンを1回接種すること。・心血管疾患のある成人は帯状疱疹の発症リスクが高い可能性があるため、50歳以上の成人は脳卒中や心筋梗塞を予防するために帯状疱疹ワクチンを2回接種すること。 声明では、心筋炎が新型コロナワクチン接種のまれな副作用として報告されていることに言及しているが、ワクチンにより心筋炎を発症するリスクは、COVID-19罹患により発症するリスクよりも低いことを指摘している。 さらに声明には、「心血管疾患患者が一度に複数のワクチンを接種しても危険はなく、実際には、複数のワクチンを同日に接種することで効率性が向上する可能性がある。ただし、2種類の肺炎球菌ワクチンの接種が必要な人は、同時に接種してはならない」と記述されている。

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逆ハローサイン(Reversed halo sign)【1分間で学べる感染症】第33回

画像を拡大するTake home message免疫不全患者に逆ハローサインが見られた場合は、ムーコル症(Mucormycosis)の頻度が高い一方で、感染性・非感染性ともに多岐にわたる鑑別疾患が存在する。はじめに逆ハローサイン(Reversed halo sign)とは、限局性のすりガラス陰影(GGO:ground-glass opacity)の円形領域が、三日月状または完全な輪状の浸潤影に囲まれている画像所見を指します。画像を拡大するCTで認められるこの特徴的な陰影は、特定の病原体による肺感染症や、さまざまな非感染性疾患の一徴候として現れることがあり、画像を基に適切な鑑別と初期対応ができるかが診療の成否を左右します。感染性疾患逆ハローサインを示す感染症の中で最も重要なのは、ムーコル症(Mucormycosis)です。とくに血液悪性腫瘍や造血幹細胞移植後などの免疫不全状態にある患者では典型的な所見の1つとされ、迅速な抗真菌治療および外科的デブリードマンが必要となる場合があります。そのほかの感染症としては、侵襲性アスペルギルス症、肺炎球菌性肺炎(改善期に一過性に出現することがある)、オウム病(Chlamydia psittaciを病原体とする)、レジオネラ肺炎、結核、ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jiroveciiを病原体とする)、およびヒストプラズマ症などの二相性感染症が含まれます。これらの病原体は、患者の基礎疾患や曝露歴、免疫状態によって鑑別順位が変動するため、全身状態やリスク評価に基づいたアプローチが必要です。非感染性疾患逆ハローサインを示す非感染性の疾患としては、多発血管炎性肉芽腫症(GPA、旧ウェゲナー肉芽腫症)や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)などの壊死性血管炎が重要です。これらは肺病変をきっかけに診断に至ることも多く、逆ハローサインが初発の手掛かりとなることがあります。そのほかにもサルコイドーシス、皮膚筋炎に伴う肺病変、肺線維症や肺腺がん、リンパ腫様肉芽腫症、特発性器質化肺炎(COP)、肺塞栓症など、炎症性や腫瘍性、血行障害に基づく病変も含まれます。これらは感染症とは異なる治療戦略が必要となるため、鑑別の誤りが予後に直結する可能性もあります。逆ハローサインを見た際には、「感染性か非感染性か」「免疫状態はどうか」「急性か慢性か」「全身に病変があるか」といった観点から診断アプローチを組み立てることが重要です。このように、逆ハローサインは、幅広い鑑別疾患が原因となって生じる重要なサインです。免疫不全者ではムーコル症を念頭に置きつつ、ほかの感染症や血管炎性疾患も見逃さぬよう、全体像を評価しながら診断を進めることが求められます。1)Georgiadou SP, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:1144-1155.2)Godoy MC, et al. Br J Radiol. 2012;85:1226-1235.3)Maturu VN, et al. Respir Care. 2014;59:1440-1449.

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dalbavancinは複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の新たな選択肢か?―DOTSランダム化臨床試験から―(解説:栗山哲氏)

本研究は何が新しいか? 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌血症は、病態の多様性や重篤度からの治療の長期化などからランダム化臨床試験(RCT)が少なく、推奨される治療に関して明確な世界的コンセンサスは得られていない(Holland TL, et al. JAMA. 2014;312:1330-1341.)。DOTS試験は、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の患者に対して、リポグリコペプチド系抗生物質・dalbavancinの有効性と安全性を従来の標準治療と比較した初めてのRCTである(Turner NA, et al. JAMA. 2025;13:e2512543.)。本剤は、わが国では未承認薬である。本研究の背景 黄色ブドウ球菌は、皮膚膿瘍など表皮感染症や食中毒、また菌血症、肺炎、心内膜炎、骨髄炎など致命的疾患の起炎菌となるグラム陽性球菌である。黄色ブドウ球菌は、病原性が強く、抗菌薬耐性発現頻度が高く、最も危険な病原体の1つとされる。とくに、菌血症は、発症1年以内の死亡率が30%にも達する。治療に関しては、菌血症に対しては診断確定後、非複雑性菌血症の場合でも少なくても2週間の点滴静注(IV)、複雑性菌血症の場合は4週間以上のIV治療が必要となる。 さらに複雑性黄色ブドウ球菌菌血症では、血液培養が陰性化し発熱もなく全身状態が安定し緩解しても、短期間の治療では化膿性脊椎炎などの遠隔感染巣の治療が不十分となり、再燃のリスクが高くなる。DOTS試験は、複雑性ブドウ球菌菌血症の初期治療によって緩解期に入った患者を対象に組まれたRCTである。dalbavancinは、終末半減期は14日(血中半減期は204時間)ときわめて長時間作用型で、投与も1週おきに2回のIVで完結するため、外来での対応が可能である。 また、抗菌スペクトラムとしては、MRSA、MSSA、化膿レンサ球菌、グループBレンサ球菌、バンコマイシン感受性Enterococcus faecalisなどへ強い殺菌活性が期待できる。DOTS試験の方法と結果 複雑性黄色ブドウ球菌菌血症に対して初期抗菌薬治療開始し、3日以上で10日以内に血液培養の陰性化と解熱を達成した患者を対象とした。ただし、中枢神経感染症、免疫不全例、重症例などの病態は除外された。初期抗菌薬治療後、対象患者をdalbavancin群(第1病日と第8病日の2回IV)と標準治療群(MSSA:セファゾリンか抗ブドウ球菌ペニシリン系、MRSA:バンコマイシンかダプトマイシン)に無作為に割り付けて有効性と安全性を評価したオープンラベル評価者盲検RCTである。 対象は、各治療群100例で平均年齢56歳である。試験期間は2021〜23年、参加施設は米国22施設+カナダ1施設。主要評価項目は、70日目のDOOR(Desirability of Outcome Ranking:治癒率、死亡率、合併症や安全性、QOLなどアウトカムの望ましさの順位)、副次評価項目は臨床効果と安全性である。 登録後の入院期間は、dalbavancin治療群で3日間(四分位範囲:2~7日)、標準治療群で4日間(2~8日)であった。その結果、dalbavancinは主要評価項目で標準治療に比較して、優越性の基準を満たさなかった。副次評価項目では、臨床的有用性はdalbavancin群で73%、標準治療群で72%と非劣性であった。安全性の面では、重篤な有害事象の発生率は、dalbavancin群40%、標準治療群34%と前者でやや多かった。 以上、DOTS試験のまとめとして、dalbavancinは複雑性黄色ブドウ球菌菌血症において、標準療法に比較し優越性は確認されなかった。黄色ブドウ球菌菌血症治療とdalbavancinの将来的位置付け 本邦で承認されると仮定して、感染症への実地医療の事情が異なるわが国においてDOTS試験をどう取り入れるかは興味深い。通常、菌血症と診断とされた場合、初期治療は入院加療であるが、初期治療後の外来治療は、基幹病院、かかりつけ医、往診医などが受け持つ。実際、DOTS試験では、登録割り付け後のdalbavancin治療のための入院期間は、3~4日間と短い。わが国においても、初期治療後の追加治療の実践には、感染症専門医と外来治療医との病診連携システムの充実が必須である。 本研究での重要なポイントは、複雑性ブドウ球菌菌血症が初期治療で緩解し、その後にdalbavancinが投与されていることであり、そこでdalbavancin群と標準治療群で再燃に有意な差が認められなかった。このことは、外来治療が中心になるであろう追加治療において、dalbavancinを選択することは一定の評価は得られる。 ただし、DOTS試験の問題点としては、その効果は非劣性の枠を超えておらず、対象患者が限定的(重症例や免疫不全例など除外されている)、有害事象が多めであること、平均年齢56歳であり高齢者には外挿しにくいこと、さらには腎排泄型抗生物質であり腎障害のリスクへの言及がない、などがあり、これらは解決されるべきであろう。 一方、dalbavancinのメリットとして、抗菌スペクトラムが広く、半減期がきわめて長いため2回のIV(第1病日と第8病日)で治療完了であることは注目される。この特徴のため、確実な治療アドヒアランスが担保され、治療中断例は少なくなり完遂率は高まる。さらに、留置型IVアクセスが不要である点から、カテーテル感染や血栓症は大幅に回避される。 医療経済面では、dalbavancinの薬価は高いが、入院期間短縮や外来治療で解消される可能性、カテーテル関連費用軽減など医療対費用効果でのメリットも想定される。 いずれにせよ、(仮に承認されるとして)わが国におけるdalbavancin治療には、薬理学的評価、医療システム、医療経済など多くの検討が必要である。

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日本における手術部位感染の分離菌の薬剤感受性~全国サーベイランス

 手術部位感染(SSI)から分離された原因菌に対する各種抗菌薬の感受性について、日本化学療法学会・日本感染症学会・日本臨床微生物学会(2023年には日本環境感染学会も参画)による抗菌薬感受性サーベイランス委員会が、2021~23年に実施した第4回全国サーベイランス調査の結果を報告した。第1回(2010年)、第2回(2014~15年)、第3回(2018~19年)のデータと比較し、主に腸内細菌目細菌において抗菌薬感受性が低下した一方、MRSA発生率は減少したことが示された。Journal of Infection and Chemotherapy誌2025年9月号に掲載。 本調査の対象手術は、一般外科、消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺内分泌外科の手術で、収集菌種は、バクテロイデス属、黄色ブドウ球菌(MRSA、MSSA)、Enterococcus faecalis、大腸菌、肺炎桿菌、Enterobacter cloacae、緑膿菌の7菌種である。 主な結果は以下のとおり。・腸内細菌目細菌のESBL(extended-spectrum β-lactamase)産生株の検出率は、2010年は4.4%、2014~15年は13.5%、2018~19年は6.6%であったが、2021~23年は11.2%に上昇した。2018~19年はタゾバクタム・ピペラシリンに対する感受性が高かったが、2021~23年は71.8%に低下した。タゾバクタム・セフトロザンの幾何平均MICは、2018~19年は0.397、2021~23年は0.778と上昇傾向を示した。・MRSA発生率は、2010年は72%であったが、2014~15年および2018~19年は53%、2021~23年は39%と低下した。・大腸菌および肺炎桿菌において、スルバクタム・アンピシリンおよびセファゾリンに対する感受性が低下した。・バクテロイデス属は、モキシフロキサシン(57%)、セフメタゾール(54%)、クリンダマイシン(44%)に対する感受性が低かった。

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第276回 医学誌側が拒否!ケネディ氏がワクチン論文に要請したこと

INDEX今さら何を…医学誌編集部がケネディ氏へ抵抗示す職権の乱用が過ぎる今さら何を…「私はこれまで『反ワクチン』や『反産業』と呼ばれてきましたが、それは事実ではありません。私は反ワクチンではありませんし、反産業でもありません。私は安全を重視する立場なのです」「私の子どもたちは全員、ワクチンを接種しています。ワクチンは医学において極めて重要な役割を果たしています」上記の発言は、米国・保健福祉省長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)が米連邦議会上院財務委員会の指名承認公聴会で述べた発言だ。同公聴会は大統領が指名する閣僚の承認是非を検討するプロセスの入口である。以前からケネディ氏のことは本連載(第264回、第267回、第274回参照)で同氏によるACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員の解任、mRNAワクチン研究の縮小などを取り上げ、なかば「週刊ケネディ」状態になっているが、それはこれほど突っ込みどころの多い人物もそうそういないからである。昨今の報道からもこの人のワクチン懐疑主義は筋金入りであり、前述の公聴会発言は長官承認を得るための方便に過ぎなかったのだと改めて思っている。医学誌編集部がケネディ氏へ抵抗示すその昨今の報道とは「ケネディ米厚生長官のワクチン研究撤回要請、医学誌が拒否」というロイター電である。要約すると、“デンマーク国立血清学研究所(SSI)が行った小児用ワクチンに含まれるアジュバントのアルミニウムと50種類の疾患(自閉症、喘息、自己免疫疾患を含む)との関連性を調べた大規模コホート研究の結果、これら疾患の増加とアルミニウム・アジュバントとの関連は認められなかったという研究に対して、ケネディ氏が撤回を要求し、掲載した『Annals of Internal Medicine』誌編集部が拒否した”というものだ。この研究1)、中身を見ると個人的にはなかなかのものと感じる。まず研究に使用したデータはデンマークの国民健康登録データで、デンマークでの小児用ワクチン接種プログラムが始まった1997~2018年までに生まれ、2歳時点まで国内に居住していたすべての子どもを対象にしている。移住、死亡、特定の先天性疾患や先天性風疹症候群、呼吸器疾患、原発性免疫不全症、心不全または肝不全などの既往例を除外した最終的な解析対象は122万4,176例と極めて規模が大きい。ちなみにデンマークのワクチンプログラムは、2歳までにジフテリア・破傷風・百日咳、不活化ポリオの混合ワクチンとヒブワクチンの3回接種とMMRワクチンの1回目を完了させるもので、2007年からは肺炎球菌ワクチン(2010年までは7価、それ以降は13価)が加わっている。この研究結果によると、アルミニウム・アジュバントの曝露量は出生年代によって異なり、総アルミニウム曝露量の中央値は3mg(四分位範囲2.8~3.4)。最終的な生後2年間のワクチン接種によるアルミニウム累積曝露量1mg増加当たりの調整ハザード比は、自己免疫疾患が0.98(95%信頼区間:0.94~1.02)、アトピー性またはアレルギー性疾患が0.99(同:0.98~1.01)、神経発達障害が0.93(同:0.90~0.97)という結果だった。レトロスペクティブな研究ではあるが、これだけ大規模であることを考えれば、その欠点はかなり補えていると言える。また、この研究の特徴は日本より先行して導入されたデンマーク版マイナンバーであるCPR(Central Persons Registration)番号を利用しているため、親の経済状況などの交絡因子などは可能な限り調整されているはずだ。職権の乱用が過ぎるこの研究についてケネディ氏は「製薬業界による欺瞞的なプロパガンダ」と評し、対照群がないことなどを批判したらしいが、研究の筆頭著者は「デンマークでのワクチン未接種率は2%未満のため、統計学的に意味のある対照群設定は困難」と反論している。世界の大国・アメリカの閣僚とは言え、そもそも学術誌に掲載された査読済み論文を自らの要請だけで撤回させられると本気で思っているならば、相当な破廉恥だと思うのは私だけではないはずだ。 1) Andersson NW, et al. Ann Intern Med. 2025 Jul 15. [Epub ahead of print]

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市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAの比較【1分間で学べる感染症】第32回

画像を拡大するTake home message市中発症型MRSAは、若年者を中心に皮膚軟部組織感染症を引き起こすことが多く、院内獲得型MRSAとは臨床像・薬剤耐性・遺伝子背景が異なるため、その違いを理解しよう。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、医療関連感染だけでなく市中でも発症することがあり、起因背景や臨床像、薬剤感受性に違いがあります。今回は、市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAの主な違いについて整理し、それぞれの理解を深めていきましょう。リスク患者市中発症型MRSA(Community-associated MRSA:CA-MRSA)は、若年者、スポーツ選手、軍隊、薬物静注使用者、同性愛者など、医療機関と接点のない健康な方々に発症することが多く報告されています。接触機会の多い生活環境や皮膚の小さな外傷が感染契機となります。一方、院内獲得型MRSA(Healthcare-associated MRSA:HA-MRSA)は、入院患者、長期療養施設入所者、透析患者、長期カテーテル留置中の患者など、医療的介入を受ける方々に多く認められます。病院内の医療機器や環境が感染源となることがしばしばです。臨床症状CA-MRSAでは、皮膚軟部組織感染症(蜂窩織炎、膿瘍など)が主な臨床像であり、とくにPVL(Panton-Valentine leukocidin)遺伝子を保有する株では壊死性肺炎など重篤な病態を呈することもあります。一方、HA-MRSAは、肺炎、菌血症、術後創部感染、皮膚軟部組織感染症など、多彩な感染症を引き起こします。重篤な基礎疾患を有する入院患者では、全身感染に進展することも少なくありません。抗菌薬耐性CA-MRSAはβラクタム系抗菌薬に耐性を示す一方で、ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)、ドキシサイクリン、クリンダマイシンなどの非βラクタム系抗菌薬に感受性を示すことが多くあります。一方、HA-MRSAは、βラクタム系抗菌薬に耐性を示すことに加え、上記の抗菌薬にも耐性を示すことが多く、バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシンなど、選択肢が限られます。SCCタイプCA-MRSAは、SCCmecタイプIVやVを有している一方、HA-MRSAは、SCCmecタイプI〜IIIを有することが多いとされています。PVL遺伝子CA-MRSAはPVL遺伝子を高頻度に保有し、この毒素が好中球を破壊することで強い炎症反応や組織破壊を引き起こします。PVL陽性株による壊死性肺炎や皮膚壊死病変の報告もあり、とくに注意が必要です。一方、HA-MRSAではPVL遺伝子の保有はまれであり、主に基礎疾患に伴う易感染性や長期医療介入が病態進展に関与します。このように、市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAは臨床的背景や対応すべき抗菌薬の選択が異なるため、上記のポイントを十分に念頭に置いておく必要があります。1)Nichol KA, et al. J Antimicrob Chemother. 2019;74(Suppl 4):iv55-iv63.2)Naimi TS, et al. JAMA. 2003;290:2976-2984.3)Huang H, et al. J Clin Microbiol. 2006;44:2423-2427.

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症例報告の類似事例の誤診・見落とし?【医療訴訟の争点】第14回

症例本稿では、診療における画像所見の解釈や疾患の鑑別の適否が争点となった一例として、プロラクチノーマ(下垂体腺腫)を嗅神経芽細胞腫と誤診し、放射線・抗がん剤治療を受けた結果、重篤な後遺障害が残った事案についての東京高裁令和2年1月30日判決を紹介する。なお、本件の争点は多岐にわたるため、本稿では鑑別診断に関係する部分を取り上げるものとする。<登場人物>患者43歳(初診時)・男性原告患者、患者の配偶者被告A大学病院、B大学病院、C放射線治療専門病院、Dがん専門病院事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成19年12月18日患者は、慢性副鼻腔炎の症状(鼻出血・鼻漏・鼻閉・眼の奥の痛みなど)を訴えて、A大学病院の耳鼻咽喉科を受診(初診)。12月22日A大学病院にてCT検査。放射線科医の報告は以下のとおり。「篩骨洞と蝶形骨洞に軟部組織陰影を認める。蝶形骨洞の病変は頭蓋内への進展が疑われるが、MRIによる精査が望まれる。両側の上顎洞、左篩骨洞、前頭洞に軟部組織陰影や液体貯留像はない。慢性副鼻腔炎。」平成20年1月8日A大学病院にて、MRI検査。放射線科医の読影報告は以下のとおり。「蝶形骨洞を中心に篩骨洞領域に広がる軟部陰影を認める。T2強調像で中等度高信号を呈し、一部高信号域も認められる。斜台は腫瘤により圧排を受けており、下垂体も下方から押されており、境界が不明瞭となっている。腫瘤性病変を疑う。強い浸潤傾向ではないと思われるが、下垂体機能などはチェックが必要であると思われる。脳実質や眼窩方向への進展は現時点ではあまりはっきりしない。脳の浮腫性変化は不明瞭。内耳道の拡張・腫瘤形成像は特に認められない。出血・水頭症なども特に認められない。」1月12日「慢性副鼻腔炎又は副鼻腔腫瘍」との病名でA大学病院に入院。1月15日A大学病院耳鼻咽喉科にて、本件患者の右慢性副鼻腔炎に対し、右内視鏡下鼻内副鼻腔開放術を施行。中鼻甲介鼻中隔側から総鼻道にかけて本件腫瘍を認め、これを切除し、病理検査を依頼。病理検査の結果は、以下のとおり。「組織学的には既存の粘膜構造は消失し、出血壊死あるいは肉芽様変化を伴った組織内への浸潤性増殖を呈する腫瘍を認める。腫瘍細胞は比較的小型で円形~類円形核を有し、細胞質は淡明あるいはわずかに微細顆粒状であり、細胞境界の不明瞭な腫瘍細胞巣を形成している。一部にはロゼット様配列も認められる。また、腫瘍細胞の血管内への侵襲もみられる。synaptophysin/NSEが陽性であり、chromogranin Aも一部陽性反応を認める。S-100蛋白は腫瘍細胞巣の辺縁の支持細胞の一部に陽性像をみる。右副鼻腔の嗅神経芽細胞腫として矛盾しない所見であり、腫瘍細胞及び増殖形態などからグレード2~3に相当する状態と考えられる。」1月22日A大学病院の担当医は、原告ら(本件患者及びその妻)に対し、本件腫瘍につき嗅神経芽細胞腫と診断されること及び当該疾病の概要等を説明の上、当該疾病の治療にはB大学病院が優れているとして、「病名又は症状」を「嗅神経芽細胞腫」、「目的」を「加療のお願い」とするB大学病院の専門医宛の診療情報提供書を作成してこれを交付し、その際、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピーを添付した。1月29日A大学病院の担当医は、原告らの要望を受け、Dがん専門病院頭頸科宛の診療情報提供書を作成してこれを交付し、その際、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピー、病理標本のプレパラートを添付した。2月4日原告は、診療情報提供書、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピーを持参し、B大学病院頭頸部腫瘍センターを受診。診察した専門医は、MRI画像等を踏まえ、本件腫瘍につき嗅神経芽細胞腫であると考え、本件患者に対し、サイバーナイフ(ロボット誘導型定位的放射線治療装置)による治療が適当ではないかと勧めた。また、本件患者の持参したMRIの画質が悪かったため、本件腫瘍について精査する目的で、外部検査機関にてMRIを取り直すことを指示するとともに、A大学病院における病理標本のプレパラートも持参するよう求めた。2月5日原告は、外部検査機関にて副鼻腔造影MRI検査を受けた。同検査機関医師の報告は以下のとおり。「両側海綿静脈洞、トルコ鞍内、右篩骨洞後部及び右中頭蓋窩にかけて約43×35×30mm大の良好に造影される腫瘍を認める。両側内頚動脈内には良好な血流を認めるが、狭窄の有無は不明。右篩骨洞粘膜は肥厚しているが、同部に腫瘍性病変が存在するかは不明。腫瘍は右中頭蓋窩に進展しているが、側頭葉への浸潤の有無ははっきりしない。嗅神経芽細胞腫。」2月6日原告は、A大学病院の診療情報提供書、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピー、プレパラート標本を持参し、Dがん専門病院を受診。同病院にてプレパラート標本の病理検査が行われ、病理医の報告は以下のとおり。「線維性結合織の中に胞巣状をとり浸潤する腫瘍を認める。胞巣内部は比較的均一な類円形核を有する腫瘍細胞からなり、神経細線維様基質はほとんどみられないが、Abortiveなrosette構造がみられる。嗅神経芽細胞腫、鼻副鼻腔未分化がん、内分泌がん(小細胞型/未分化型)、未分化神経外胚葉性腫瘍/ユーイング肉腫などが鑑別上挙がるが、嗅神経芽細胞腫を最も考える。」Dがん専門病院の医師は、病理検査の結果やMRI画像等を踏まえ、本件腫瘍につき、嗅神経芽細胞腫と診断し、本件患者に対し、B大学病院の医師の勧めているサイバーナイフによる治療を選択することでよいと思われる旨を伝えた。2月8日本件患者は、プレパラート標本を持参してB大学病院を受診。B大学病院の病理医の報告は以下のとおり。「組織学的には円い核と比較的淡明な胞体を持つ腫瘍細胞のシート状の増殖がみられる。Rosetteの形成は必ずしも明瞭でないが、免疫組織化学的に腫瘍細胞は神経内分泌マーカーに陽性を示す。嗅神経芽細胞腫に合致する所見。」2月9日B大学病院の担当医は、外部検査機関で撮影したMRIや同院の病理診断の結果等を踏まえ、本件腫瘍について嗅神経芽細胞腫と診断した。担当医は、本件患者に対し、同人に神経症状がなく腫瘍も限局していることなどから、治療法としてはサイバーナイフ治療が適当と考えられることなどを説明したところ、本件患者が同治療を受けることを希望したため、C放射線治療専門病院を紹介し、同病院宛の診療情報提供書を作成、交付した。2月12日本件患者は、B大学病院の診療情報提供書及び外部検査機関MRIを持参のお上、C放射線治療専門病院を受診し、放射線を正確に病変部に照射できるように位置を決めるための造影CT及び単純MRI(MRA含む)撮影を実施。2月18日同日から22日までの間、5日間連続でサイバーナイフ治療を受けた。その後本件患者は、B大学病院を数回受診したが、なお腫瘍は残存しており、その大きさはサイバーナイフ治療前から不変であった。7月23日B大学病院の担当医は、本件患者に対し、現状ではサイバーナイフ治療による有意な効果が得られていないことや化学療法等について説明。本件患者が化学療法を受けることを希望したため、Dがん専門病院を紹介し、同病院宛の診療情報提供書を作成し、交付した。その後本件患者は、Dがん専門病院に入院し、抗がん剤治療を受けた。12月21日MRI検査の結果、本件腫瘍は、同年7月と比較して明らかに縮小していた。平成21年3月16日本件患者は、鼻から鼻水とは違うねばねばした透明の液体が出てくるようになったことから、Dがん専門病院の医師に相談したところ、耳鼻科受診を勧められた。4月20日本件患者は、A大学病院の耳鼻科を受診。4月24日A大学病院にて、副鼻腔CT撮影。4月27日A大学病院の医師は、副鼻腔CTを踏まえ、鼻漏が認められ、蝶形骨洞周囲の骨の破壊像はあるが、これについてはDがん専門病院でフォローされているはずであり、同病院で治療を行ったほうがよい旨説明し、同院宛の診療情報提供書を作成。その後Dがん専門病院を複数回受診し、たびたび鼻水を訴える。9月9日Dがん専門病院の医師は、髄液漏ではないかと疑い、頭頚科へコンサルトし、10月6日に頭頸科を受診。10月12日不穏状態や39度以上の発熱がみられ、救急搬送され、E基幹病院に入院。髄液や血液培養から肺炎球菌が検出され、肺炎球菌を起因菌とする急性細菌性髄膜炎と診断。その後B大学病院、別のF基幹病院での診療加療を受けた後、さらに別のG基幹病院にて、血液検査の結果、プロラクチン(PRL)が660と高値(正常値:4.4~31.2ng/mL)を示したことから、プロラクチン産生腺腫が疑われた。G基幹病院にてA大学病院のプレパラート標本を取り寄せて病理診断をしたところ、本件腫瘍は、嗅神経芽細胞腫ではなく、良性の下垂体腺腫であるプロラクチノーマであることが判明した。平成23年1月24日G基幹病院にて髄液瘻閉鎖手術を実施。なお、以上の経過の中で行われた治療の副作用により、記憶障害や視力障害、嗅覚・味覚の喪失などの後遺症が残った。実際の裁判結果本件の裁判では、大きくは、誤診(プロラクチノーマを嗅神経芽細胞腫と誤認)と、髄液鼻漏の見落としが問題となったが、本稿では、前者を取り上げることとする。本件患者らは、浸潤性の下垂体腺腫の存在については、複数の大学医学部で学生の教科書として使用されている脳外科領域の成書に記載があるから、本件診療当時の耳鼻科医においても、その存在についての知見を有することが医療水準(過失=注意義務違反の有無の判断基準)となっていた旨を主張した。これに対し、まず、裁判所は、医療水準の判断基準につき、「医療訴訟において、医師の有すべき注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるところ…上記医療水準については、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等のほか、医師の専門分野を考慮すべきであり、診療当時、ある地域の大学病院の脳外科医においては、知悉していてしかるべき知見であっても、同病院の耳鼻科医においては、これが困難な知見については、その知見を有していなかったとしても、これをもって、上記耳鼻科医に過失があるということはできないというべき」とした。その上で、裁判所は、以下の点などを指摘し、「脳外科領域の成書に浸潤性の下垂体腺腫の存在についての記載があることをもって、本件診療当時の耳鼻科医において、その存在についての知見を有することが医療水準となっていたと直ちに認めることはできない」とした。本件患者らの調査した大学医学部7校のうち、脳外科領域の科目において、本件患者らの指摘する成書を教科書として指定しているのは、1校だけであり、教科書・参考書として指定しているのも1校に留まり、他校は参考書の一例として指定しているにすぎないこと。A大学病院、B大学病院、Dがん専門病院の耳鼻科医師は、証人尋問にて、いずれも浸潤性の下垂体腺腫の存在についての知見を有していなかった旨の証言をしていること。原告の診療に当たった医師らは、下垂体原発の腫瘍であれば、通常は下垂体を中心として腫大し、軟らかい脳実質や視神経の交差部の方向(上方)に進展するものであるが、本件腫瘍にそのような進展はみられず、下垂体腫瘍に特徴的な所見はない旨の意見を述べていること。また、本件患者らは、耳鼻咽喉科領域においても、大学病院からだけでなく、地方の医療機関等からも、浸潤性の下垂体腺腫の診断をすることができたとの多数の症例報告(約90件)が昭和年代からされており、これは、本件診療当時(平成20年頃)、浸潤性の下垂体腺腫が存在するとの知見に基づく診療が地方の医療機関においても相当程度普及し、実施されていることを示すものである旨主張した。これに対し、裁判所は、以下の点などを指摘し、「数例の報告があるからといって、直ちに、同様又は類似の症例において浸潤性の下垂体腺腫を疑い鑑別診断を行うことが臨床医学の実践における医療水準として確立されていたと認めることはできない」と判断した。「症例報告は、一般に、特殊な疾患の発見や治療法の確立のために有用なものということができるものの、医学的証拠の階層では下位に位置付けられるものであるから、症例報告があることをもって、直ちに臨床医学の実践における医療水準となっていたということはできず、この点は、仮に症例報告が相当数にのぼっていたとしても、同様というべきである」「医学的証拠の階層の上位に位置付けられると考えられる「日本頭頸部癌学会編 頭頸部癌診療ガイドライン2009年版」には、頭頸部のがんの原発巣の診断に関し、浸潤性の下垂体腺腫の存在について言及した部分はない」本件患者らの指摘する症例報告は、脳外科ないし内分泌科等、耳鼻咽喉科以外の領域の医学雑誌に掲載されたものであり、耳鼻咽喉科領域の医学雑誌に掲載されたものではない。本件患者らの指摘する症例報告には、浸潤性の下垂体腺腫について、まれと報告するものが多いこと。なお、本件において、A大学病院の耳鼻咽喉科医師が、プロラクチノーマと嗅神経芽細胞腫の鑑別が問題となった平成10年の症例の症例報告をしているとして、浸潤性の下垂体腺腫が存在するとの知見があったとの主張がなされた。これに対し、裁判所は、「医師が過去に経験した特殊な症例によって得られた知見が診療当時の医師の有すべき知見とはいえない場合において、医師がその後、当該知見を失念したり、当該知見が現に診療中の患者に当てはまるか否かの検討が必ずしも十分でなかったりしたとしても、これをもって、当該医師に過失があったと直ちにいうことはできない」とし、以下の点などを指摘し、過失があったとは言えないと判断した。医師が過去に経験した特殊な症例やその際に得た知見をすべて記憶しておくべきであるとはいえない。症例報告をした医師は、本件患者の主治医ではなかったこと。過去の症例報告事例では、左上顎洞がんの疑いで紹介を受け、病理医から小細胞がんと診断された事例であったのに対し、本件では、慢性副鼻腔炎の疑いで紹介され、病理医から嗅神経芽細胞腫と診断された事例であったこと。本件では、他院である大学病院Bにおいて、本件腫瘍が嗅神経芽細胞腫であるかについて改めて診断することが予定されていたと考えられること。注意ポイント解説本件は、大学病院を含む複数の医療機関において診療が行われるも、結果として、良性の腫瘍を悪性腫瘍と誤信して診療していたことが判明し、それまでの治療において後遺症が残存した事案である。そのため、当時の各医療機関の医療水準のもとで、良性腫瘍であると診断することができたかが問題となった。具体的には、本件では、患者の主訴は耳鼻科領域のものであったが、真実は脳外科領域のものであったことから、他の診療科において知己していて然るべき知見が医療水準を構成するかが問題となった。そして、本裁判所の判断のうち「医療訴訟において、医師の有すべき注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」とするのは判例上確立された基準であるため、特に目新しいところはない。他方で、本裁判所が「医療水準については、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等のほか、医師の専門分野を考慮すべきであり、診療当時、ある地域の大学病院の脳外科医においては、知悉していてしかるべき知見であっても、同病院の耳鼻科医においては、これが困難な知見については、その知見を有していなかったとしても、これをもって、上記耳鼻科医に過失があるということはできないというべき」とし、医師の専門分野を考慮すべきとした判断は、必ずしも明言されてこなかったところであり、注目に値する。また、併せて、医療水準の判断において、本裁判所が成書、症例報告、ガイドラインの位置付けなどに関し、「症例報告は、…医学的証拠の階層では下位に位置付けられるものであるから、症例報告があることをもって、直ちに臨床医学の実践における医療水準となっていたということはできず、この点は、仮に症例報告が相当数にのぼっていたとしても、同様」「医学的証拠の階層の上位に位置付けられると考えられる「日本頭頸部癌学会編 頭頸部癌診療ガイドライン2009年版」には、…」として、医学的知見の掲載された文献等の医療水準判断における位置付けを明示している点も、必ずしも明言されてこなかったところであり、注目に値する。本件においては、結果として、良性の腫瘍を悪性腫瘍と誤信して診療していたことが過失ではないと判断されたものの、それは、患者の主訴に合致する診療科(耳鼻咽喉科)において、各医療機関において然るべき検査が行われていたこと。いずれの検査においても、患者の主訴に合致する診療科(耳鼻咽喉科)の悪性腫瘍を指摘する一方、真実の疾患の可能性をうかがわせる読影レポートなどがなされていないこと。本件腫瘍が、真実の疾患の典型的な例とは異なり、鑑別が困難なものであったこと。患者の主訴に合致する診療科(耳鼻咽喉科)において、真実の疾患に関する症例報告はほとんどない上、症例報告があるものにおいても本件腫瘍の発生頻度が稀とされているものであったこと。等の事情があったためと考えられる。このため、然るべき検査が行われていなかったり、検査において真実の疾患を疑わせるレポートがあったり、他診療科でも知っていて然るべき疾患であったりする場合(診療科を問わない医学書やガイドラインに記載されている等)には、本件と異なる判断がされる可能性があるものであり、本裁判所の判断は必ずしも一般化できないことに留意して診療にあたる必要がある。医療者の視点本件は、自らの専門領域の疾患との鑑別が問題となる他科の疾患にどう向き合うかという、実臨床でしばしば遭遇する課題について、司法の判断が示された重要な事例です。裁判所が「医師の専門分野」を考慮し、耳鼻科医が脳神経外科領域の稀な疾患である「浸潤性の下垂体腺腫」の知見を有していなかったとしても、直ちに注意義務違反(過失)にはあたらないと判断した点は、臨床現場の実感に近いものと言えます。患者さんの主訴(鼻出血や鼻閉など)から耳鼻咽喉科を受診し、担当医がその専門領域の疾患を念頭に鑑別診断を進めることは、ごく標準的な診療プロセスだからです。しかし、実臨床の現場では、診断に少しでも迷う点や非典型的な所見があれば、専門分野に固執せず、他科へコンサルテーションを行うことが極めて重要です。本件でも、初期のMRI検査の放射線科レポートには「下垂体機能などはチェックが必要であると思われる」との記載がありました。このようなサインをどう受け止め、脳神経外科や内分泌内科といった他科へ相談するアクションを起こせたかどうかが、患者さんの診断結果を左右した可能性があります。この判決は、専門外の知識不足が直ちに法的責任に問われるわけではないことを示しており、臨床医の過度な萎縮を防ぐ意義があります。一方で、私たちは「医療水準」という基準だけでなく、常に患者さんにとっての最善は何かを考えなければなりません。非典型的な症例に対しては、専門の壁を越えて柔軟に他科の専門医の知見を求める姿勢が、これまで以上に重要になると考えさせられる事例です。Take home message自身の診療科領域の疾患との鑑別が問題となる他科の疾患(成書やガイドラインに記載のあるもの、比較的頻度の高いもの)については、知見をアップデートしておく必要がある。患者の主訴から疑われる疾患の鑑別に必要な検査を行い、他科の専門疾患が疑われれば速やかにコンサルトする必要がある。キーワード他科領域の知見、成書、症例報告、ガイドライン、医療水準

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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死亡診断のために知っておきたい、死後画像読影ガイドライン改訂

 CT撮影を患者の生前だけではなく死亡時に活用することで、今を生きる人々の疾患リスク回避、ひいては医師の医療訴訟回避にもつながることをご存じだろうか―。2015年に世界で唯一の『死後画像読影ガイドライン』が発刊され、2025年3月に2025年版が発刊された。改訂第3版となる本書では、個人識別や撮影技術に関するClinical Questionや新たな画像の追加を行い、「見るガイドライン」としての利便性が高まった。今回、初版から本ガイドライン作成を担い、世界をリードする兵頭 秀樹氏(福井大学学術研究院医学系部門 国際社会医学講座 法医学分野 教授)に、本書を活用するタイミングやCT撮影の意義などについて話を聞いた。死亡診断にCTを活用する 本書は全55のClinical Question(CQ)とコラムで構成され、前版同様に死後変化や死因究明、画像から得られる状態評価に関する知見を集積、客観的評価ができるよう既発表論文の知見を基に記述が行われている。また、「はじめに」では死後画像と生体画像の違いを解説。死後画像では生体画像でみられる所見に加え、血液就下、死後硬直、腐敗などの死体特有の所見があること、心肺蘇生術による変化、死後変化などを考慮する点などに触れている。また、本ガイドラインに係る対象者は、院外(在宅)での死亡例、救急搬送後の死亡例、入院時の死亡例であることが一般的なガイドラインと異なっている。以下、実臨床における死亡診断に有用なCQを抜粋する。―――CQ2 死後CT・MRIで血液就下・血液凝固として認められる所見は何か?(p.7)CQ10 死後CT・MRIは死因推定に有用か?(p.34)CQ11 死後CTは院外心肺停止例の死因判定に有用か?(p.38)CQ14 死後画像を検案時に用いることは有用か(p.49)CQ33 死後CTで死因となる血性心タンポナーデの読影は可能か?(p.119)CQ35 死後画像で肺炎の判定に有用な所見は何か?(p.127)―――死者の身体記録を行う意義と最も注意すべきポイント 日本における死後画像読影や本書作成については、2012年の「医療機関外死亡における死後画像診断の実施に関する研究」に端を発する。死後画像読影が2014年に「死因究明等推進計画」の重要施策の一環となり、2020年に「死因究明等推進基本法」が施行されたことで、本格的に稼働しはじめた。現在、院外死亡例の死後画像読影は法医学領域に限定すると全国約50ヵ所での実施となるが、CT画像装置があれば解剖医や放射線診断医の在籍しない病院やクリニックでも行われるようになってきている。その一方で、本書の対象に含まれる“入院中に急変などで亡くなった方”については、「“CT撮影から解剖へ”という理解が進んでいない」と兵頭氏は指摘する。「解剖を必要としないような例であっても、亡くなった段階の身体の様子を記録に残すことは医療訴訟の観点からも重要」と強調。「ただし、全例を撮ることが実際には可能だが、CTを撮れば必ず死因がわかるわけではない」ことについても、過去に広まった誤解を踏まえて強調した。 撮影する意義について、「死後画像読影は、その患者にどのような治療過程があったのかを把握するために実施する。生前は部位を特定する限定的な撮影を行うが、死後は全体を撮影するため見ていなかった点が見えてくる。併せて死後の採血や採尿を実施することで、より死因の確証に近づいていく」と説明した。そのうえで、死後画像読影の判断を誤らせる医療行動にも注意が必要で、「救急搬送された患者にはルート確保などの理由で生理食塩水(輸液)を投与することがあるが、その生理食塩水の投与量がカルテに入力されていないことがよくある。輸液量は肺に影響を及ぼすことから、海外では医療審査官が来るまでは、点滴ルートを抜去してはいけないが、国内ではすぐにエンゼルケアを実施してしまう例が散見される。そうすると、適切な医療提供の是非が不明瞭になってしまう。家族へ患者を対面させることは問題ないが、エンゼルケア後の死後画像を実施すると真の死因解明に繋がらず、医療訴訟で敗訴する可能性もある」と強調した(CQ19:心肺蘇生術による輸液は死後画像に影響するのか?」)。 そして、多くの遺族は亡くなった患者のそばにいたい、葬儀のことも考えなくてはいけないといった状況にあるため、懲罰的なイメージを連想させる解剖を受け入れてもらうのはなかなか難しい。だからこそ「遺族には死後画像読影と解剖を分けて考えてもらい、一緒に死因を確認する方法として提案することが重要である。入院患者の死亡原因を明らかにするためと話せば、撮影に協力してもらいやすい」とコメントした。実際に解剖に承諾してくださる方が減少する一方で、画像読影のニーズは増加しているという。他方、在宅など院外で亡くなった方においては、「感染症リスクなどを排除する観点からも、CT撮影せずに解剖を行うのは危険を伴う」とも指摘している。医師も“自分の身は自分で守る”こと 医療者側のCT撮影・読影のメリットについて、「万が一、遺族が医療訴訟を起こした場合、医療施設がわれわれ医師を守ってくれるわけではない。死後画像読影は死者や遺族のためでもあるが、医師自らを守るためにも非常に重要な役割を果たす。遺族に同意を得てCT画像として身体記録を残しておくことは、医療事故に巻き込まれる前段階の予防策にもつながる」と強調した。このほかのメリットとして、「医師自身が予期できなかった点を発見し、迅速に家族へ報告することもできる。きちんとした医療行為を行ったと胸を張って提示できるツールにもなる」と話した。 なお、撮影技術に関しては、放射線技師会において死後画像撮影に関するトレーニングが実施されており、過去のように、生きている人しか撮らないという医療者は減っているという。死後画像撮影の課題、院外では診療報酬が適用されず 同氏は本ガイドライン作成のもう1つの目的として「都道府県ごとの司法解剖の均てん化を目指すこと」を掲げているが、在宅患者の死後画像撮影を増やしていくこと、警察とかかりつけ医などが協力し合うことには「高いハードルがある」と話す。近年では、自宅での突然死(院外での死亡)の場合には、各都道府県の予算をもって警察経由で検視とともに画像撮影の実施が進み、亡くなった場所、生活環境・様式(喫煙、飲酒の有無など)を把握、病気か否かの死因究明ができる。ところが、「かかりつけの在宅患者が亡くなった際に実施しようとすると、死者には診療報酬が適用されないのでボランティアになってしまう。CT撮影料以外にも、ご遺体の移動、読影者、葬儀会場へのご遺体の持ち込み方法など、画像撮影におけるさまざまな問題点が生じる」と現状の課題を語った。死後画像が生きる人々の危険予測に 本書の作成経緯や利用者像について、同氏は「2015年、2020年と経て、項目の整理ができた。エビデンスが十分ではないため、新たな論文公開を基に5年ごとの更新を目指している。法医学医はもちろんのこと、放射線技師や病理医など読影サポートを担う医療者に対して、どこまで何を知っておくべきかをまとめるためにガイドラインを作成した」とし、「ガイドラインの認知度が上がるにつれて利用者層が増え、今回は救急科医にも作成メンバーとして参加してもらった」と振り返る。 最後に同氏は「本書は他のガイドラインとは趣が少々異なり、読影の現状を示すマイルストーンのような存在、道しるべとなる書籍だと認識いただきたい。エビデンスに基づいた記述だけでは国内の現状にそぐわないものもあるため、それらはコラムとして掲載している。今年、献体写真がSNSで大炎上したことで、死後画像読影に関する誤った情報も出回ってしまったが、海外をリードする立場からも、死後画像読影によって明らかになっていない点を科学的に検証し、今を生きる人々の危険回避に役立つ施策を広めていきたい」と締めくくった。

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終末期介護施設入居者の救急搬送や入院、多くは回避可能

 入院や救急外来(ED)受診は、介護施設入居者、特に重度の障害を抱えているか終末期にある人にとっては大きな負担となり費用もかさむ。しかし、介護施設入居者が病院へ搬送されることは少なくない。このほど新たな研究で、このような脆弱な状態にある介護施設入居者によるED受診の70〜80%、また入院の約3分の1は回避可能であった可能性のあることが示された。米フロリダ・アトランティック大学シュミット医科大学老年医学教授のJoseph Ouslander氏らによるこの研究結果は、「The Journal of the American Medical Directors Association(JAMDA)」7月7日号に掲載された。 Ouslander氏らは、終末期の介護施設入居者が入院に至った原因として多かったのは、肺炎、尿路感染症、敗血症であったが、介護施設での医療と管理の質がもっと良ければ、それらの入院は必要なかったはずだと主張している。同氏は、「これらの健康問題は、施設でのケアを改善するために実行可能な手段があることを明示している。既存のガイドライン、ケアパス、予防戦略を用いれば、これらの問題は適切に管理できる。適切なツールと人員を整えることでED受診や入院の多くは回避可能であり、入居者の苦痛と不必要な医療費の両方を減らすことができる」と述べている。 今回の研究は、264カ所の介護施設において12カ月間の質改善プログラムを実施することで潜在的に回避可能な入院(possibly avoidable hospitalization;PAH)やED受診を減らせるかを検討した研究データを二次解析したもの。対象は、重度の障害を持つ6,011人(重度障害群)と終末期状態にある5,810人(終末期群)の介護施設入居者であった。 解析の結果、重度障害群の34%はあらゆる原因による入院を1回以上経験しており、その3分の1はPAHの基準を満たすことが明らかになった。また、18%はEDを1回以上受診しており、そのうちの70%は潜在的に回避可能性だったと判断された。一方、終末期群の14%があらゆる原因による入院を1回以上経験しており、そのうちの31%はPAHの基準を満たしていた。また、8%はEDを1回以上受診しており、そのうちの80%は潜在的に回避可能だったと判断された。 PAHと関連した診断として多かったのは、肺炎やその他の感染症、息切れや呼吸不全、精神状態の変化であった。一方、潜在的に回避可能なED受診で多かった診断は、重度障害群では経管栄養チューブに関する問題、終末期群では転倒による外傷であった。 Ouslander氏らは、より明確な治療プロトコルとタイムリーな症状管理によって、こうした入院の多くは防ぐことができる可能性があると述べている。同氏らはまた、家族や入居者と医療に関する希望を伝えることも大きな違いを生む可能性があり、ケアに関する希望を文書化しておくことで危機的な状況下での意思決定を回避し、不必要な搬送を減らすのに役立つとしている。 Ouslander氏は、「PAHやED受診を減らすためには、介護施設スタッフの能力を強化し、熟練した医療責任者や臨床医の積極的な関与を確保しなければならない。これは、個人の努力だけで解決できるものではなく、介護施設、介護や医療の提供団体、そして政策立案者からの支援が欠かせない。実際的な国家レベルの人員配置基準、複雑なケアに対応できるより充実した施設のリソース、さらに最も脆弱な入居者に対する質の高い、患者中心のケアを支えるための報酬制度の構築など、大胆な改革が必要だ」と述べている。

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肺炎の病原体検出、肺炎パネルvs.呼吸器パネルvs.培養

 迅速な病原体検出を可能にする多項目遺伝子検査ツールは、その有用性が報告されているものの、本邦では比較データが不足しており、臨床での応用は限定的である。そこで、畑地 治氏(松阪市民病院)らの研究グループは、肺炎が疑われる患者を対象として、マルチプレックスPCR法を用いる肺炎パネル検査(BioFire肺炎パネル)、呼吸器パネル検査(FilmArray呼吸器パネル)、培養・同定検査を比較した。その結果、肺炎パネル検査は従来の培養・同定検査と比較して、病原体検出に優れ、臨床的価値が高いことが示唆された。本研究結果は、Respiratory Investigation誌2025年9月号に掲載された。 本研究は、2023年12月~2024年9月に松阪市民病院に入院し、肺炎の臨床的疑いから肺炎パネル検査を受けた患者354例を対象とした後ろ向き研究である。403検体(354例)が肺炎パネル検査で解析され、このうち373検体(328例)で培養・同定検査、223検体(202例)で呼吸器パネル検査による評価も行った。肺炎パネル検査には喀痰、気管支肺胞洗浄液(BALF)などの下気道検体、呼吸器パネルには鼻咽頭スワブ検体を用いた。 主な結果は以下のとおり。・検体陽性率は、肺炎パネル検査が60.3%(243/403検体)、培養・同定検査が52.8%(197/373検体)であり、肺炎パネル検査が有意に高かった(p=0.042)。・菌種レベルの検出率(病原菌のべ検出数/検体数)は、肺炎パネル検査が88.3%、培養・同定検査が75.3%であり、肺炎パネル検査が有意に高かった(p<0.0001)。とくにHaemophilus influenzae(p=0.046)、Moraxella catarrhalis(p=0.001)、Streptococcus agalactiae(p=0.029)、Acinetobacter calcoaceticus-baumannii complex(p=0.012)の検出に優れていた。・検査間の一致率について、両法で同一菌が陽性となった検体は40.8%であった。培養・同定検査で陽性となった検体では77.2%、肺炎パネル検査で細菌が陽性となった検体では74.1%であった。・検体別にみると、喀痰検体の陽性率が64%であり、気管支洗浄液検体(16.7%)、胸水検体(12.5%)、BALF検体(7.7%)と比較して高値であった。・薬剤耐性遺伝子は25.2%(51/202検体)に検出された。・ライノウイルス/エンテロウイルス、RSウイルスの陽性率は、下気道検体を用いる肺炎パネル検査と鼻咽頭スワブ検体を用いる呼吸器パネル検査で同等であった(それぞれ0.4%vs.0.4%、0%vs.0%)。パラインフルエンザウイルスの陽性率は、肺炎パネル検査が有意に高かった(3.1%vs.0%、p<0.05)。 本研究結果について、著者らは「肺炎パネル検査は従来の培養・同定検査よりも優れた病原体検出能力を有し、肺炎の管理において臨床的に有用であることが示唆された。主要な薬剤耐性遺伝子が検出されたことは、肺炎パネル検査の臨床的価値を強調するものである。本研究の意義は、現時点で保険適用外の肺炎パネル検査について、本邦の臨床現場に特化したデータを提示した点にある」とまとめている。

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進展型小細胞肺がんへの免疫化学療法、日本の実臨床データ

 進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)に対する1次治療として、抗PD-L1抗体とプラチナ製剤を含む化学療法の併用療法(免疫化学療法)が標準治療となっているが、実臨床における報告は限定的である。そこで、平林 太郎氏(信州大学)らの研究グループは、実臨床において免疫化学療法を受けたED-SCLC患者と、化学療法を受けたED-SCLC患者の臨床背景や治療成績などを比較した。その結果、免疫化学療法が選択された患者は、化学療法が選択された患者よりも全生存期間(OS)が良好な傾向にあったが、免疫化学療法が選択された患者は約半数であり、実臨床におけるED-SCLC治療にはさまざまな課題が存在することが示された。本研究結果は、Respiratory Investigation誌2025年9月号に掲載された。 本研究は、日本の11施設が参加した多施設共同後ろ向き研究である。2019年8月~2023年6月に、1次治療として免疫化学療法または化学療法を受けたED-SCLC患者181例を対象とした。対象患者を、免疫化学療法を受けた群(免疫化学療法群、96例)と、プラチナ製剤を含む化学療法のみを受けた群(化学療法群、85例)に分け、患者背景、治療成績、免疫化学療法が選択されなかった理由などを後ろ向きに調べた。 主な結果は以下のとおり。・免疫化学療法群は化学療法群と比較して、75歳以上の割合(28.1%vs.56.5%、p<0.001)、間質性肺炎(IP)合併の割合(9.4%vs.41.2%、p<0.001)が有意に低かった。・OS中央値は、免疫化学療法群15.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.3~17.6)、化学療法群9.7ヵ月(同:7.3~12.2)であった。1年OS率は、それぞれ59.9%、34.5%であり、2年OS率は、それぞれ17.7%、2.9%であった。・無増悪生存期間中央値は、免疫化学療法群5.1ヵ月(95%CI:4.7~5.5)、化学療法群4.9ヵ月(同:4.5~5.3)であった。・奏効率は、免疫化学療法群80.2%、化学療法群64.7%であり、病勢コントロール率は、それぞれ90.6%、88.2%であった。・1次治療で免疫化学療法が選択されなかった理由として多かったのは、IP合併(18.8%)、高齢(14.9%)、PS不良(13.3%)であった。・治療中止に至った有害事象は、免疫化学療法群12.5%、化学療法群9.4%に発現した。肺臓炎による治療中止の割合は、それぞれ7.3%、1.2%であった。 本研究結果について、著者らは「ED-SCLC患者に対する免疫化学療法の有効性が実臨床でも示唆されたものの、実際にこの治療法が選択されているのは約半数にとどまっていた」と指摘し「IP合併、高齢、PS不良といった背景を有する患者に対して、免疫化学療法と化学療法のいずれを選択すべきか明確な結論は得られておらず、臨床背景や併存疾患に応じた治療選択にはさまざまな課題があり、今後の検証が必要である」と結論付けている。

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