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COVID-19患者の26%に半年後も何らかの症状/国立国際医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の遷延症状は、当初から知られており、地域によっては専門外来が設置されるなど、今後のCOVID-19診療のフォローアップとしても注目されている。 国立国際医療研究センター 国際感染症センターの宮里 悠佑氏らのグループは、COVID-19罹患後の遷延症状に関して、長期的な疫学的情報に加え、遷延症状が出現・遷延するリスクを同定するために、COVID-19罹患後の患者を対象としてアンケート調査を実施し、その結果を「新型コロナウイルス感染症罹患後の遷延症状の記述疫学とその出現・遷延リスク因子に関する報告」として発表した。 その結果、女性ほど倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすく、味覚障害が遷延しやすいこと、若年者ややせ型であるほど味覚・嗅覚障害が出現しやすいことが判明した。457例のCOVID-19患者を調査、400日以上も何らかの症状ありも【研究の背景】 国内外の報告からCOVID-19に遷延症状があることが確認され、国内の複数の調査では、中等症以上の患者512例において、退院後3ヵ月の時点で肺機能低下(とくに肺拡散能)が遷延していた。また、軽症者を含む525例において、診断後6ヵ月の時点で約80%は罹患前の健康状態に戻ったと自覚していたが、一部の症状が遷延すると生活の質の低下、不安や抑うつ、睡眠障害の傾向が強まることがわかった。嗅覚・味覚障害を認めた119例において、退院後1ヵ月までの改善率は嗅覚障害60%、味覚障害84%だった。そして、罹患後半年以上追跡した疫学調査報告や遷延症状が出現するリスク調査は少なく、また、遷延のリスク因子に関する報告はこれまでになかったことから調査を実施したものである。【研究概要】研究名:新型コロナウイルス感染症の遷延症状出現と遷延リスク因子方法:2020年2月~2021年3月までに国立国際医療研究センター病院のCOVID-19回復者血漿事業スクリーニングに参加した患者を対象として、アンケート調査を実施。調査項目は、患者背景、COVID-19急性期の重症度や治療内容、遷延症状の各症状の有無とその遷延期間。症状の出現頻度や遷延期間から、各症状を(1)急性期症状、(2)急性期から遷延する症状、(3)回復後に出現する症状の3つに分類した。また、遷延症状である(2)と(3)に関して、症状の出現リスク、症状が出現した患者における遷延リスクを探索的に調査した。【調査の結果】 対象の526例のうち457例から回答を得た(回収率86.9%)。回答者の年齢の中央値は47歳、231例(50.5%)が女性で、何らかの基礎疾患を有したのは212例(46.4%)、欠損値9例を除いた448例のうち、重症度は軽症が378例(84.4%)、中等症が57例(12.7%)、重症が13例(2.9%)だった。また、発症日からアンケート調査日までの期間の中央値は248.5日。 COVID-19の各症状は、(1)急性期症状:発熱、頭痛、食欲低下、関節痛、咽頭痛、筋肉痛、下痢、喀痰、(2)急性期から遷延する症状:倦怠感、味覚障害、嗅覚障害、咳嗽、呼吸困難、(3)回復後に出現する症状:脱毛、集中力低下、記銘力障害、うつに分類された。 発症時もしくは診断時から6ヵ月経過時点で337例(73.7%)が無症状であり、120例(26.3%)に何らかの症状を認めた。また、発症時もしくは診断時から12ヵ月経過時点で417例(91.2%)が無症状であり、40例(8.8%)に何らかの症状を認めた。 倦怠感、味覚障害、嗅覚障害、脱毛に関して、その出現リスクと遷延リスクを解析したところ、男性と比較して女性ほど倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすく、味覚障害が遷延しやすいことがわかった。また、若年者、やせ型であるほど味覚・嗅覚障害が出現しやすいことがわかった。抗ウイルス薬やステロイドなどの急性期治療の有無と遷延症状の出現に関して、明確な相関は見受けられなかった。【研究結果から判明したこと】 研究グループは研究結果から次のコメントを述べている。・女性の方が倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすいことがわかった。また、味覚・嗅覚障害は若年者で多く、生活の質を著しく低下させる可能性がある。・約4例に1例(26.3%)が半年間たっても何らかの遷延症状を呈しており、軽症者であっても遷延症状が長引く人がいることが明らかになった。・最も重要な遷延症状の予防はCOVID-19に罹患しないことであり、基本的な感染対策が重要と考えられる。・抗ウイルス薬やステロイドなどの急性期治療がCOVID-19遷延症状の出現予防に寄与しないことがわかった。 なお、この研究では、想起バイアス、アンケート調査、主観的側面、対象者の偏向が生じうること、サンプル数に限界があること、アンケート調査時に症状を有している患者は症状の持続時間を過小評価している可能性があることなど研究限界があると注意を与えている。

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医療クラウドファンディング、コロナ対応スタッフの苦境を救え

 新型コロナウイルスが猛威を振るい始めてから、クラウドファンディングを利用して医療材料などの資金調達を行う医療施設や大学が増加している。先月3日にREADYFOR主催の記者会見を行った医療法人社団 悠翔会もその1つだが、なぜこのような支援方法を選択したのだろうか。同施設は首都圏や沖縄に拠点を設け在宅診療にあたっている。新型コロナ患者対応においては、かかりつけ医を持たず、なおかつ自宅療養を余儀なくされる患者を保健所紹介のもとで積極的に対応しているが、その責任者である佐々木 淳氏(悠翔会理事長・診療部長)が語る、在宅におけるコロナ対応の現状や自施設スタッフのリスク管理とはー。新型コロナ×在宅医療、突きつけられる現実 在宅専門である同施設が在宅コロナ患者への往診を始めたのは東京都医師会と連携した2021年8月11日のこと。当初は通常の在宅チームのみで各地域の保健所からの依頼により対応していたが、徐々にその業務は逼迫、より多くの対応要請に迅速かつ確実に対応したいと考え8月24日より『コロナ専門往診チーム』が結成され、東京23区におけるコロナ患者の最終セーフティネットの役割を担い稼働した。 同施設の場合、通常診療は医師・看護師・ドライバーが3人1組で約10~13件/日(施設診療の場合は半日で30人ほどの診察が可能)の訪問診療を行っているが、コロナ診療の場合は、「同じ体制でも1日に多くて6件程度と、通常診療の半分しか対応することができない。この診療を支えるためのフォローアップチーム(毎日70~100人の患者に対し、1~3回/日の電話にて状況確認などを行う)や酸素濃縮器の集配チームなどを含め、約20名ものコメディカルを要する非常に負担の大きな仕事」と述べ、「にも関わらず、実際の診療報酬で評価されるのは“往診する医師の業務だけ”なので、施設経営は逼迫する一方だ」と話した。スタッフのリスク管理 また、コロナ診療と通常業務において大きく異なる点はやはり感染対策だが、悠翔会では以下の対策をスタッフのリスク管理として設けている。1)毎日の体調確認を確実に行う2)特定のスタッフを連続勤務させない3)余裕をもって診療ができるよう、十分な診療スタッフ数を確保する4)診療スタッフがコロナ診療に専念できるよう、診療外業務をバックアップチームが担う体制を作る5)感染防御具を毎度、きちんと使い捨てができるよう、潤沢に確保する6)感染防御が確実にできるスタッフだけでチームを組成する これは、往診を目的ではなく手段と捉えて患者に確かな安全・安心を提供し、助けを求めるすべての人に確実に医療が届けられるようにという『患者のニーズが最優先』の観点があっての対策なのだろう。通常業務にコロナ対応、賞与に報償を反映 上記のような対策が必要であればおのずと人員確保による人件費もかさむ。病院施設においては、コロナ禍による受診控えが影響しスタッフへの報酬を減額せざるを得ないところもあったが、本施設での影響を尋ねると、「日常診療における感染防御、クラスターへの対応(大規模PCR検査の実施など)、ワクチン接種、新型コロナ患者への往診対応など、通常の診療業務に多数の業務がアドオンされており、年末の賞与にてそれらへの報償を反映させる予定」と佐々木氏はコメント。このようなスタッフへの感謝の気持ちを添える対応をするためにも、クラウドファンディングの活用が欠かせなかったと言える。クラウドファンディング、地域限定から全国への呼びかけに 本施設のクラウドファンディングは開始1週間で早くも目標金額の1,200万円を達成。この支援費用は在宅中等症患者の命を繋ぐために必要な人件費として充てられるという。達成後も次の目標に向けて募集を行い、10月13日現在、支援者2,296人から約3,360万円の支援が集まっている。これに対し、佐々木氏は「目下のコロナ専門往診チーム体制、フォローアップ体制の更なる強化に加え、新たに計画されている新型コロナ療養施設での活動資金等に充当する」とコメントしている。 この取材時点では在宅診療での使用が認められていなかった抗体カクテル療法についても、9月17日に大阪府で解禁になったのを筆頭に東京都でも9月24日から始まった。もし、今後、第6波が到来して中等症II以上の自宅療養者が増えた場合、在宅診療の業務逼迫も今以上のものになることは想像に難くない。クラウドファンディング活用という先手の行動がきっと雨過天晴になるだろう。 クラウドファンディング(crowdfunding)とは、『群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、インターネットを通して自分の活動や夢を発信することで、想いに共感した人や活動を応援したいと思ってくれる人から資金を募るしくみ』1)のこと。今回のように寄付金を募るタイプのものは寄付型クラウドファンディングとも呼ばれている。そのほか、物を購入して作り手を応援する購入型、ふるさと納税を寄付金に充てるタイプなどがある。 これまでも地域住民、患者やその家族がお世話になっている病院に「寄付」するという行為は存在していたが、それが地域住民版だとしたら、クラウドファンディングは共感を得た全国各地の人から募るという意味で寄付の全国版とも言える。 本プロジェクト「緊急:新型コロナが“災害医療”となった今、第五波を乗り切るご支援を」は10月29日(金)午後11:00まで、支援を募集している。<医療法人社団 悠翔会>・2006年創設・首都圏:17拠点、沖縄:1拠点・医師数:96名(常勤:40名)・在宅患者数:6,400名

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ワクチンパスポート賛成は過半数を超える/アイスタット

 国民のワクチン対象成人の約6割超が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種を終え、これからCOVID-19との新しい日常が送られようとしている。ワクチン接種先進国では、接種を終えた人々にさまざまな証明書を発行することで、日常行動の制限解除にむけた動きも散見される。こうした「ワクチン接種証明書」について、社会はどのように考えているのだろう。 「ワクチンパスポート」をテーマに、株式会社アイスタットは10月4日にアンケートを行った。アンケートは、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員20~79 歳の300人が対象。調査概要 形式:WEBアンケート方式 期日:2021年10月4日 対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~79歳の会員)アンケート結果の概要・ワクチンパスポートの申請・発行に賛成の割合は54%で半数を超える・ワクチンパスポート所有・提示による規制緩和・特典に賛成の割合は51.3%・ワクチンパスポートの申請意向がある割合は46.3%で半数を下回る・ワクチンパスポート提示による特典の第1位は「旅行・移動」の45.3%・ワクチンパスポート活用により生じる問題の第1位は「ワクチン接種有無による差別問題」・ワクチンパスポートが経済活動再開につながると思う割合は54.3%・コロナワクチンを2回接種した割合は66.7%。接種予定を含めると約8割が接種意向ありワクチンパスポートは賛成だけど活用法は限定的 質問1として「ワクチンパスポート(新型コロナワクチン接種証明書)の申請・発行について、どう思うか」(単一回答)を聞いたところ、「やや賛成」が31.7%で最も多く、「どちらともいえない」が28.7%、「非常に賛成」が22.3%の順であった。大きく2つに分類したところ「賛成」は54%、「それ以外」は46%で、賛成が半数を超える結果だった。 質問2で「ワクチンパスポートの所有・提示による規制緩和・特典について、どう思うか」(単一回答)聞いたところ、「やや賛成」が31.7%、「どちらともいえない」が30.7%、「非常に賛成」が19.7%の順で多かった。大きく2つに分類したところ「賛成」は51.3%、「それ以外」は48.7%で質問1と同様の傾向が見受けられた。 質問3で「ワクチンパスポートを申請するか」(単一回答)を聞いたところ、「申請する予定」が43.0%、「現時点では、まだ決めていない」が31.3%、「ワクチン接種をしないので、申請できない」が11.7%の順で多かった。大きく2つに分類したところ「申請」は46.3%、「それ以外」は53.7%で、活用法の情報が少ない中で申請意欲が少ない結果だった。 質問4で「どのような場面でワクチンパスポート提示による入場規制緩和・特典があった方が良い」(複数回答)を聞いたところ、「旅行・移動」が45.3%、「宿泊施設」が41.3%、「飲食店」が40.3%の順で多かった。また、「特になし」の回答も28.3%あるなど、今後の活用法の拡大が望まれることが示唆された。 質問5で「ワクチンパスポートが導入・活用されることによって、どのような問題が生じるか」(複数回答)を聞いたところ、「ワクチン接種有無による差別問題」が55.3%、「ワクチン接種後のブレークスルー感染の増加」が27.7%、「無症状・軽症感染者による他人への感染リスク」が26.7%の順で多かった。 質問6で「ワクチンパスポートは経済活動再開につながるか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらかといえば、つながると思う」が38.7%、「かわらないと思う」が27.3%、「非常につながると思う」が15.7%の順で多かった。 質問7で「政府や自治体がお願いしているコロナ禍対策『外出・旅行・帰省・外食・酒禁止・時短営業の規制・制限』についてどう思うか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらでもない」が22.7%、「かなり限界」が22.0%、「やや限界」が14.7%の順で多かった。回答を大きく2つに分類すると「限界」が49%、「それ以外」は51%で約半分の人が「限界」を感じていた。 質問8で「コロナワクチン接種状況」(単一回答)について聞いたところ、「2回目接種完了」が66.7%、「意図的に接種しない」が11.3%、「これから1回目を接種する」が9.7%の順で多かった。大別すると「接種あり・予定」が82%、「接種しない」が18%という結果だった。今後のさらなる接種率の向上という課題がうかがえる結果となった。

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「クラビット」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第73回

第73回 「クラビット」の名称の由来は?販売名クラビット®錠250mgクラビット®錠500mgクラビット®細粒10%※クラビット錠剤/細粒と点滴静注(バッグ)はインタビューフォームが異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])レボフロキサシン水和物(JAN)効能又は効果〈適応菌種〉本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、淋菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、炭疽菌、結核菌、大腸菌、赤痢菌、サルモネラ属、チフス菌、パラチフス菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、ペスト菌、コレラ菌、インフルエンザ菌、緑膿菌、アシネトバクター属、レジオネラ属、ブルセラ属、野兎病菌、カンピロバクター属、ペプトストレプトコッカス属、アクネ菌、Q熱リケッチア(コクシエラ・ブルネティ)、トラコーマクラミジア(クラミジア・トラコマティス)、肺炎クラミジア(クラミジア・ニューモニエ)、肺炎マイコプラズマ(マイコプラズマ・ニューモニエ)〈適応症〉表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、ざ瘡(化膿性炎症を伴うもの)、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、乳腺炎、肛門周囲膿瘍、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎(急性症、慢性症)、 精巣上体炎(副睾丸炎)、尿道炎、子宮頸管炎、胆嚢炎、胆管炎、感染性腸炎、腸チフス、パラチフス、コレラ、バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、涙嚢炎、麦粒腫、瞼板腺炎、外耳炎、中耳炎、副鼻腔炎、化膿性唾液腺炎、歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎、炭疽、ブルセラ症、ペスト、野兎病、肺結核及びその他の結核症、Q熱用法及び用量通常、成人にはレボフロキサシンとして1回500mgを1日1回経口投与する。なお、疾患・症状に応じて適宜減量する。 肺結核及びその他の結核症については、原則として他の抗結核薬と併用すること。腸チフス、パラチフスについては、レボフロキサシンとして1回500mgを1日1回14日間経口投与する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分又はオフロキサシンに対し過敏症の既往歴のある患者2.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人3.小児等ただし、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人及び小児等に対しては、炭疽等の重篤な疾患に限り、治療上の有益性を考慮して投与すること。※本内容は2021年10月13日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年11月改訂(第16版)医薬品インタビューフォーム「クラビット®錠250mg/500mg、クラビット®細粒10%」2)第一三共MedicaL Library:製品一覧

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肺炎での不要な抗菌薬、プロカルシトニン+肺超音波の診療現場検査で減らせるか/BMJ

 プライマリケアにおける下気道感染症患者への抗菌薬処方に関して、プロカルシトニンによるpoint-of-care検査は通常治療と比較して、28日の時点で患者の安全性に影響を及ぼさずに抗菌薬処方を26%減少させるが、これに肺超音波によるpoint-of-care検査を加えても、それ以上の処方率の減少は得られないとの研究結果が、スイス・ローザンヌ大学病院のLoic Lhopitallier氏らによって報告された。研究の詳細は、BMJ誌2021年9月21日号に掲載された。3群を比較するスイスの総合診療施設のクラスター無作為化試験 本研究は、プライマリケアの下気道感染症患者における、プロカルシトニンpoint-of-care検査と肺超音波point-of-care検査は安全性を保持しつつ不要な抗菌薬処方を削減できるかの検証を目的とする、スイスの実践的な非盲検クラスター無作為化試験であり、2018年9月に開始されたが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染爆発の影響で、2020年3月10日に早期中止となった(スイス国立科学財団[SNSF]などの助成による)。 本試験には、スイスの60の総合診療施設から、それぞれ1人の総合診療医(肺炎の診断にプロカルシトニンpoint-of-care検査や肺超音波point-of-care検査を使用した経験がない医師)が参加した。総合診療医は、急性咳嗽(≦21日)を呈する年齢18歳以上の患者をスクリーニングし、臨床的肺炎(急性咳嗽のほか、4日以上持続する発熱、呼吸困難、頻呼吸[>22回/分]、異常肺音の聴診のうち1つ以上を呈する)と診断した患者を選出した。 60の総合診療施設は、次の3つの群に20施設ずつ無作為に割り付けられた。(1)プロカルシトニンpoint-of-care検査を行い、濃度上昇(≧0.25μg/L)がみられた場合は、引き続き肺超音波point-of-care検査を行い、肺のコンソリデーションを認めた場合にのみ、抗菌薬の処方を推奨する群(UltraPro群)、(2)プロカルシトニンpoint-of-care検査を行い、濃度上昇(≧0.25μg/L)がみられた場合にのみ、抗菌薬の処方を推奨する群(プロカルシトニン群)、(3)通常治療群。 主要アウトカムは、28日の時点における抗菌薬処方が行われた患者の割合とされた。副次アウトカムは、14日以内における下気道感染症による活動制限の期間などであった。抗菌薬処方率:41% vs.40% vs.70%、活動制限の非劣性は証明できず 各群20人の総合診療医のうち、女性医師はUltraPro群が8人、プロカルシトニン群が8人、通常治療群が9人で、10年以上の臨床経験を持つ医師はそれぞれ8人、11人、10人だった。 解析に含まれた患者は469例(UltraPro群152例、プロカルシトニン群195例、通常治療群122例、intention-to-treat集団)で、このうち435例(93%)が電話によるフォローアップを完了した。全体の年齢中央値は53歳(IQR:38~66)、59%が女性であった。 UltraPro群では、9例(6%)がプロカルシトニン濃度≧0.25μg/Lであり、引き続き肺超音波検査を受けた。6例(67%)で肺浸潤影が確認された。肺超音波検査の所要時間中央値は15分(IQR:15~20)だった。プロカルシトニン群では、19例(10%)がプロカルシトニン濃度≧0.25μg/Lであった。 プロカルシトニン群は通常治療群に比べ、28日までの抗菌薬処方率が低かった(0.4[78/195例]vs.0.7[86/122例]、クラスター補正後群間差:-0.26[95%信頼区間[CI]:-0.41~-0.10]、オッズ比[OR]:0.29[95%CI:0.13~0.65]、p=0.001)。 UltraPro群とプロカルシトニン群には、28日の時点での抗菌薬処方率に差は認められなかった(0.41[62/152例]vs.0.40[78/195例]、クラスター補正後群間差:-0.03[95%CI:-0.17~0.12]、OR:0.89[95%CI:0.43~1.67]、p=0.71)。 14日までの活動制限日数中央値は、プロカルシトニン群が4日、通常治療群は3日であり(群間差:1日[95%CI:-0.23~2.32]、ハザード比[HR]:0.75[95%CI:0.58~0.97])、95%CIの上限値が事前に規定された非劣性マージンを超えたためプロカルシトニン群の通常治療群に対する非劣性は証明されなかった。UltraPro群とプロカルシトニン群にも差はみられなかった(4日vs.4日、群間差:0日[95%CI:-1.48~1.43]、HR:1.01[95%CI:0.80~1.29])。 抗菌薬の処方が減少しても、患者の臨床アウトカムや満足度に影響はなかった。 著者は、「肺超音波point-of-care検査からは、さらなる抗菌薬処方の減少は得られなかったが、CIの範囲が広いことから、肺超音波が新たな価値をもたらす可能性は排除できない」としている。

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新型コロナでのECMO治療開始後の死亡率、流行初期より増加/Lancet

 体外式膜型人工肺(ECMO)治療の初期導入施設では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者におけるECMO治療開始後の死亡率が2020年に約15%上昇し、治療期間が約6日延長したことが、米国・ミシガン大学のRyan P. Barbaro氏らExtracorporeal Life Support Organization(ELSO)が世界41ヵ国で実施した調査で示された。研究の成果は、Lancet誌2021年10月2日号に掲載された。レジストリデータで3群を後ろ向きに比較解析 研究グループは、2020年5月1日以前にECMOによる治療を受けた患者と、これ以降にECMO治療を受けた患者で、ベースラインの患者特性やECMO治療を行った施設の特性、患者アウトカムなどを比較する目的で、ELSOレジストリのデータを後ろ向きに解析した(研究助成は受けていない)。 対象は、年齢16歳以上、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性と診断され、2020年1月1日~12月31日の期間にECMO治療を受けた患者であった。 患者は、ECMO治療を開始した時期と施設で次の3つの群に分けられた。(1)初期導入施設(2020年1月1日~12月31日にECMO導入)で2020年1月1日~5月1日の期間にECMO治療を開始した患者(A1群)、(2)初期導入施設で2020年5月2日~12月31日の期間にECMO治療を開始した患者(A2群)、(3)後期導入施設(2020年5月2日~12月31日にECMO導入)でECMO治療を開始した患者(B群)。 主要アウトカムは、ECMO治療開始から90日後に生存時間(time-to-event)解析で評価した院内死亡率とされた。Cox比例ハザードモデルを用いて、3群間の補正後の相対的死亡リスクを患者および施設レベルで比較した。同じ5月2日以降でも、後期導入施設は死亡リスクが高い 2020年に、日本を含む41ヵ国349施設(初期導入236施設、後期導入113施設)でECMO治療を受けたCOVID-19患者4,812例が解析に含まれた。A1群が1,182例(年齢中央値50歳、男性74%)、A2群が2,824例(51歳、73%)、B群は806例(49歳、74%)であった。 ECMO治療開始後90日時の院内死亡の累積発生率は、A1群の36.9%(95%信頼区間[CI]:34.1~39.7)から、A2群では51.9%(50.0~53.8)へと15%増加した。また、B群の90日累積院内死亡率は58.9%(55.4~62.3)であり、同じ5月2日以降のECMO開始であったA2群よりも約7%高率だった。これらの差は、患者および施設レベルの背景因子で補正後にも認められた。 A1群はA2群に比べ、90日院内死亡の補正後相対リスクが低かった(ハザード比:0.82、95%CI:0.70~0.96)。一方、B群はA2群よりも、90日院内死亡の補正後相対リスクが高かった(1.42、1.17~1.73)。また、ECMO治療開始前の年齢(高齢になるほど高リスク)、がん・心停止の既往歴、および開始時の急性腎障害の存在は、死亡の相対リスクの上昇と関連していた。 A1群はA2群に比べ、自宅退院や急性期リハビリテーション施設への転院(32% vs.22%)および他院への転院(18% vs.11%)の割合が高かった(並べ替え検定のp=0.01)。また、ECMO治療期間中央値は、A1群では14.1日(IQR:7.9~24.1)であったが、A2群では20.0日(9.7~35.1)へと、約6日延長していた(p<0.001)。ECMO治療開始後の入院期間中央値は、A1群の27.1日(15.8~44.2)から、A2群では30.7日(17.6~50.7)へと延長した。 著者は、「COVID-19の世界的大流行の進行中にECMO治療を開始した患者の死亡率は悪化していることから、今後もECMOの転帰の継続的な監視が求められる。ECMOは限られた資源であり、COVID-19患者の25%が5週間以上のECMO治療を受けていることを考慮すると、各施設は資源が限定的な場合のECMOの倫理的な配分に関する自施設の指針の策定を検討する必要がある」と指摘している。

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COVID-19外来患者へのロナプリーブ、第III相試験結果/NEJM

 重症化リスクを有する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の外来患者の治療において、REGEN-COV(モノクローナル抗体カシリビマブとイムデビマブの混合静注薬、商品名:ロナプリーブ)はプラセボと比較して、COVID-19による入院/全死因死亡のリスクを低減するとともに、症状消退までの期間を短縮し、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のウイルス量を迅速に低下させることが、米国・Regeneron PharmaceuticalsのDavid M. Weinreich氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年9月29日号に掲載された。外来患者4,000例の無作為化プラセボ対照第III相試験 本研究は、COVID-19外来患者におけるREGEN-COVの有用性の評価を目的とする適応的デザインを用いた第I~III相の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、今回は、第III相試験の初期結果が報告された(米国・Regeneron Pharmaceuticalsなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、SARS-CoV-2陽性と診断され、COVID-19の重症化のリスク因子を1つ以上有する非入院患者であった。被験者は、いくつかの用量のREGEN-COVまたはプラセボを単回静脈内投与する群に無作為に割り付けられ、29日間のフォローアップが行われた。 事前に規定された階層的解析法を用いて、エンドポイントであるCOVID-19による入院または全死因死亡、症状消退までの期間、安全性の評価が行われた。 解析には、2020年9月24日~2021年1月17日の期間に米国とメキシコの施設で登録された4,057例(修正最大解析対象集団[mFAS])が含まれた。全体の年齢中央値は50歳(IQR:38~59)、14%が65歳以上で、49%が男性、35%がヒスパニック系であり、最も頻度の高い重症化のリスク因子は肥満(BMI≧30、58%)、年齢50歳以上(52%)、心血管疾患(36%)であった。重篤な有害事象の発現はプラセボより少ない 投与後29日の時点でのCOVID-19による入院または全死因死亡は、REGEN-COV 2,400mg(カシリビマブ1,200mg+イムデビマブ1,200mg)群では1,355例中18例(1.3%)で発生し、プラセボ群の1,341例中62例(4.6%)に比べ有意に低かった(相対リスク減少率[1から相対リスクを引いた値]:71.3%、p<0.001)。 また、REGEN-COV 1,200mg(同600mg+600mg)群では736例中7例(1.0%)でCOVID-19による入院または全死因死亡が発生し、プラセボ群の748例中24例(3.2%)に比し有意に良好だった(相対リスク減少率:70.4%、p=0.002)。 同様に、ベースラインの血清SARS-CoV-2抗体陽性例を含む全サブグループで、REGEN-COV群はプラセボ群に比べ、COVID-19による入院または全死因死亡の低下が認められた。 一方、症状消退までの期間中央値は、REGEN-COV群の2つの用量(1,200mg、2,400mg)ともプラセボ群よりも短縮され、4日早く消退した(2つの用量群とも10日vs.プラセボ群14日、いずれもp<0.001)。 また、ウイルス量は、2つの用量のREGEN-COV群とも、プラセボ群に比べ迅速に減少した。すなわち、ウイルス量のベースラインから7日までの最小二乗平均値のプラセボ群との差は、1,200mg群が-0.71 log10コピー/mL(95%信頼区間[CI]:-0.90~-0.53)、2,400mg群は-0.86 log10コピー/mL(-1.00~-0.72)であった。 重篤な有害事象の頻度は、プラセボ群が4.0%と、REGEN-COV 1,200mg群の1.1%、2,400mg群の1.3%に比べて高かった(Grade2以上の注入に伴う反応の発生率は3群とも0.3%未満)。死亡の原因となった有害事象の頻度は、プラセボ群が0.3%であり、1,200mg群の0.1%、2,400mg群の<0.1%に比し高率だった。REGEN-COV群の2つ用量の安全性プロファイルはほぼ同様で、安全性のイベントに目立った不均衡はなかった。 REGEN-COVの2,400mg投与は、2020年11月、軽症~中等症の高リスクCOVID-19外来患者の治療において、米国食品医薬品局の緊急使用許可(EUA)を取得しており、本試験で1,200mgでも2,400mgと同程度の入院/死亡リスクの低減とウイルス学的有効性が示されたことから、2021年6月、2,400mgに代わり1,200mgでEUAを受けた。また、REGEN-COVは、高リスクCOVID-19外来患者の治療法として、米国国立衛生研究所(NIH)の診療ガイドラインにも含まれている。 著者は、「軽症例などではさまざまな程度で回復までの期間が長引くとのエビデンスが増えているため、今回のREGEN-COVはCOVID-19からの回復を早めるとの知見は、患者にとって新たな利点になると考えられる」としている。

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CRP POCT、介護施設入居者の抗菌薬処方を削減/BMJ

 下気道感染症が疑われる介護施設入居者において、C反応性蛋白(CRP)の臨床現場即時検査(point-of-care testing:POCT)は通常ケアと比較して、完全回復率や全死因死亡率、入院率には差がないものの、抗菌薬の処方を安全に削減することが、オランダ・アムステルダム自由大学医療センターのTjarda M. Boere氏らが実施した「UPCARE試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年9月21日号で報告された。オランダの11施設のクラスター無作為化対照比較試験 研究グループは、介護施設入居者に対するCRP POCTが、下気道感染症への抗菌薬処方を安全に削減できるかを検証する目的で、実践的なクラスター無作為化対照比較試験を行った(オランダ・保健研究開発機構[ZonMw]の助成による)。 本試験には、オランダの11の介護施設(平均入居者数400人)が参加し、CRP POCT(QuikRead go、フィンランド・Aidian製)を行う介入群に6施設、CRP POCTを行わずに通常ケアを実施する対照群に5施設が無作為に割り付けられた。これらの施設に所属する医師84人が、2018年9月~2020年3月の期間に、下気道感染症が疑われる参加者241例の診療に当たった。 初診時(=ベースライン)、1週後、3週後に、臨床的状態や新たな診断結果、管理法のデータが収集された。また、介入群では、診断検査の一環としてCRP POCTを行うかの決定は治療医の裁量に委ねられ、CRP POCTは必須ではなかった。 主要アウトカムは初診時の抗菌薬処方とされた。副次アウトカムは3週時の完全回復などであった。初診時抗菌薬の非処方率、介入群は対照群の4.93倍に 参加者241例(平均年齢84.4歳、女性64%)のうち、162例が介入群、79例は対照群に割り付けられた。全体で慢性閉塞性肺疾患が32%、うっ血性心不全が29%、認知症が29%にみられ、77%は中等度の病態であった。初診時に咳が73%、異常肺音が63%、呼吸困難が60%に認められた。介入群の87.4%でCRP POCTが行われ、ベースラインのCRP値中央値は32.5mg/L(IQR:13~82)だった。 初診時に抗菌薬が処方されたのは、介入群が84例(53.5%)、対照群は65例(82.3%)であった。治療医とベースラインの背景因子で補正した、初診時の介入群の対照群に対する抗菌薬非処方のオッズは、4.93(95%信頼区間[CI]:1.91~12.73、p=0.001)であった。 初診からフォローアップ期間(1週後、3週後)のすべての時点での初回抗菌薬処方開始の割合は、介入群が62.5%、対照群は86.1%であり、その差は23.6%であった。 初診時の抗菌薬の処方率は、CRP値が低い患者では低値(0~20mg/L:6.38%、20~40mg/L:35.00%)であったが、40~60mg/Lの患者(66.67%)で増加し始め、60mg/L以上ではほとんどの患者で処方されていた(60~80mg/L:100%、80~100mg/L:100%、100~200mg/L:96.00%)。 両群間の3週時の完全回復率(介入群86.4% vs.対照群90.8%、オッズ比:0.49、95%CI:0.21~1.12、p=0.09)の差は4.4%、初診からフォローアップ期間(1週後、3週後)のすべての時点での全死因死亡率(3.5% vs.1.3%、2.76、0.32~24.04、p=0.36)の差は2.2%、すべての時点での入院率(7.2% vs.6.5%、1.12、0.37~3.39、p=0.85)の差は0.7%であり、いずれも有意な差はなかった。 著者は、「これらの知見により、介護施設におけるCRP POCTの実施は抗菌薬使用の削減に寄与し、抗菌薬耐性の対策として有効となる可能性が示唆される」としている。

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COVID-19に有効な治療は?抗体薬4剤を含むメタ解析/BMJ

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、カシリビマブ/イムデビマブはほぼ確実に入院を減少させ、bamlanivimab/etesevimab、bamlanivimab、ソトロビマブは入院を減少させる可能性があるが、回復期血漿、IVIg、他の抗体および細胞治療は、いかなる意味のあるベネフィットをも与えない可能性がある。カナダ・マックマスター大学のReed Ac Siemieniuk氏らが、COVID-19の試験に関するデータベースを基にリビング・システマティック・レビューとネットワークメタ解析を行い明らかにした。BMJ誌2021年9月23日号掲載の報告。2021年7月21日時点でRCTを対象にネットワークメタ解析 研究グループは、2021年7月21日時点のWHOのCOVID-19データベースと中国のデータベース6件を用い、COVID-19の疑いや可能性が高い患者または確定診断を受けた患者を対象に、抗ウイルス抗体治療、血液製剤、標準治療またはプラセボを比較した無作為化臨床試験を抽出した。 2人のレビュアーが独立して試験の適格性を判断し、重複データを削除後、ベイズ変量効果モデルを用いたネットワークメタ解析を行った。改訂版コクランバイアスリスクツールv.2.0を用いて各試験のバイアスリスクを評価し、GRADEシステムを用いてエビデンスの確実性(質)を評価した。なお、メタ解析は、無作為化された患者数が100例以上、または治療群当たりのイベント数が20以上の介入を対象とした。カシリビマブ/イムデビマブ、非重症COVID-19患者の入院リスクを低下 2021年7月21日時点で、抗ウイルス抗体治療または細胞治療を評価した無作為化試験47件が特定された。内訳は、回復期血漿21件、免疫グロブリン(IVIg)5件、臍帯間葉系幹細胞治療5件、bamlanivimab 4件、カシリビマブ/イムデビマブ4件、bamlanivimab-etesevimab 2件、control plasma 2件、末梢血非造血濃縮幹細胞治療2件、ソトロビマブ1件、抗SARS-CoV-2 IVIg 1件、血漿交換療法1件、XAV-19ポリクローナル抗体1件、CT-P59モノクローナル抗体1件、INM005ポリクローナル抗体1件。 抗ウイルス抗体治療に割り付けられた非重症患者は、プラセボ群と比較して入院リスクが低下した。オッズ比(OR)ならびにリスク差(RD)は、カシリビマブ/イムデビマブが0.29(95%信頼区間[CI]:0.17~0.47)および-4.2%(エビデンスの質:中)、bamlanivimabが0.24(0.06~0.86)および-4.1%(エビデンスの質:低)、bamlanivimab/etesevimabが0.31(0.11~0.81)および-3.8%(エビデンスの質:低)、ソトロビマブが0.17(0.04~0.57)および-4.8%(エビデンスの質:低)であった。 他のアウトカムに関しては重要な影響はなかった。また、モノクローナル抗体薬の間に顕著な差は確認されなかった。他の介入は、非重症のCOVID-19患者においてすべてのアウトカムについて意味のある影響が認められなかった。 抗ウイルス抗体薬を含め、重症または重篤なCOVID-19患者の転帰に重要な影響を及ぼす介入はなかったが、カシリビマブ/イムデビマブは血清陰性患者の死亡率を低下させる可能性が示唆された。

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高齢者がCOVID-19に感染する場所と感染対策/感染研

 国立感染症研究所実地疫学研究センターは、9月29日に同研究所のウェブサイト上で「高齢者の会合等、人が集う場面での新型コロナウイルス感染症に関する感染事例の所見と公民館や体育館等を利用する際の感染対策についての提案」を発表した。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5波はピークアウトし、全国的に緊急事態宣言も解除され、今後秋祭りなどの行事がCOVID-19に警戒しながら行われていくことが予想されている。「とくに多くの高齢者は、新型コロナワクチンの接種も進んでいるが、高齢者が集った場合に発生したCOVID-19のクラスター事例を再度振り返り、これまでに得られた知見や必要な対策について考えてみたい」と同研究所は提案の目的を示している。<これまでに得られた主な所見>・高齢者が日常生活で集合して楽しむ場での感染としては、昼カラオケ、フィットネスクラブ、サークル・クラブ活動など、が知られていた。・主に高齢者を対象とした催事場(ショッピングモールでの対面販売など)での数週間程度の比較的長期間のイベントにおいて、アルファ株流行下より、複数のクラスター事例の発生を認めた。・イベントでは、物品の無料体験会、説明会などの場面で、地域の高齢者が連日、時に繰り返し訪れている様子が観察された。・上記のようなイベントでは、地域の高齢者が集まり、参加者(利用者)同士での談笑、飲食を通した憩いの場になっていた。そのプラス面を考慮する必要がある一方で、調査により、感染した高齢者が、他の感染機会を認めなかった場合も多く、対策上の重要性が認められた・利用者のマスクについては、一般に着用が推奨されていたが、とくに飲食時やそれ以外のマスク着用の状況は詳細な情報が得られていない。・説明会などにおける講師や他の大会関係者のマスク着用に関する情報は乏しかった。・とくに扱う対象が食品の場合、試飲や試食などマスクを外す機会があった。・一部密な状態(狭い空間に多数の者がいた状態)があったことが観察され、換気についても不十分であった可能性が見受けられた(CO2センサーなどでの測定情報無し)。・感染者の店舗利用日が共通していない事例があり、利用者間ではなく、感染した従業員が感染伝播に寄与した事例があった可能性が考えられた。<これまでの所見に基づく主な提案:公民館ガイドラインを踏まえて> 高齢者を含む地域住民が集う場としての公民館における新型コロナウイルスへの対応に関しては、公益社団法人全国公民館連合会により作成された、「公民館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(2020年10月2日)が同会ホームページ上で公開されている。本ガイドラインは、「感染防止のための基本的な考え方」の中で、いわゆる3つの密(密閉、密集、密接)を徹底して避けることの重要性について触れ、リスク評価の項では、接触感染・飛まつ感染それぞれの対策、集客施設としてのリスク評価、地域における感染状況のリスク評価の重要性について言及している。具体的には、イベント・講座などの実施で講じるべき具体的対策、公民館における公演などの開催に際して、公演主催者が講じるべき具体的対策(対人距離を最低1m(出来れば2m)確保する、入館時に検温する、直接手で触れることができる展示物などは展示しない、トイレの管理などの注意点が分かりやすく列挙されている。 以上を踏まえ、同研究所は、「利用者自身が注意すべき事項」「従業員の感染予防が重要であることに関する注意事項」「施設の換気に関する注意点」の3つに大別して注意事項を説明している。◯利用者に対して・屋内で複数の者が集まる機会では密集・密接になる場面を避けることを徹底する。具体的には、良好な換気への対策が十分に行われているイベントに参加することを心がける。マスク着用は必須である。イベント終了後の談笑や長時間の利用を避けることが必要。また、対人距離は最低1m(できるだけ2m)を確保する。座席の配置についても同様。高齢者では耳が聞こえにくい、見にくいなどで距離を保てない状況からどうしても近い距離の接触となりがちではあるが、適切なマスク着用をさらに徹底し、参加は短時間に留めるなどの工夫を行う。・試飲や試食を伴う屋内のイベントへは、できる限り参加を控える。参加する場合、マスクを外す時間を短時間に留め、その間は会話しない。適切なアルコール消毒剤を用いた手指衛生を適切に行う。◯運営者(開催されているイベントがある場合の主催者を含む)・従業員に対して・従業員は施設内感染拡大の要因となり得ることから感染予防ができるように指導を徹底する。・具体的には従来通りの基本として、適切なマスク着用、手指衛生、換気を徹底する。・説明会や講演会の開催にあたっては、運営者・主催者は、屋内で、長時間に渡り、参加者が集まってしまうことを避け、屋外での開催やオンラインを組み入れたイベントとなるように工夫する。換気が十分に実施できる環境の整備を行う。◯換気を十分に実施する具体的方法(林 基哉氏[北海道大学]による補足)・機械換気設備がある場合には、施設使用時には常時運転する。・寒さや暑さに配慮しながら、窓とドアをなるべく常時開放して、部屋の空気がこもらないようにする(暖冷房の利用や着衣に配慮しながら、より換気を確保する)。・扇風機、サーキュレーターなどで、屋内の空気を動かして空気の淀みを少なくする。・とくに換気が十分ではない場合、滞在時間を最小限にすることが望ましい。・二酸化炭素濃度の測定機器(CO2センサー)を利用して、換気の確認を行うことができる。杜撰な感染対策下では再度感染する恐れも 本提案では、最後に2021年9月末現在、新型コロナワクチンの接種が進む中での医療機関や高齢者施設における、いわゆる「ブレークスルー感染事例」やワクチンの有効性について触れ、「『適切なマスクの着用をしない、手指衛生を怠る、換気をきちんと行わない』などの杜撰な感染対策下においては、デルタ株はたやすく人々に感染し、大きな脅威をもたらす」と警鐘を鳴らすとともに、「高齢者を中心とする年齢層の方が集う場をどのように安全に運営するか、は運営者のみならず、利用者である市民も一体となって取り組むべき課題」と問題を提起している。 また、「屋外においても3つのうち1つの密でも発生すると、感染リスクが増大することが観察されている。付設する広場などにおいても、常に警戒を怠らず、十分な間隔をおきながら交流を楽しむことが求められる」とさらなる注意を促している。

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ヒブ(Hib)ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第10回

今回は、ワクチンで予防できる疾患、VPD(vaccine preventable disease)としてヒブを取り上げる。ヒブ(Hib)は、“Haemophilus influenzae type b”(インフルエンザ菌b型)の頭文字をとった呼称で、髄膜炎などにより多くの子供たちの命を奪ってきた病原体の1つである。しかし、2008年にワクチンが国内に導入されてからHib感染症の報告数は激減し、2014年以降、5歳未満のHib侵襲性感染症は報告されていない。あまりに目覚ましい発症予防効果のため、Hib感染症そのものが忘れ去られつつある今、本稿では改めてこの疾患の特徴と疫学、成人におけるワクチンの活用について取り上げる。ヒブワクチンで予防できる疾患Hibは気道を介して感染する(飛沫感染と接触感染)。乳幼児の上気道に定着し、ほとんどの場合は無症状である。ワクチンが導入される前の保菌率は、15歳以下の17%、16~30歳の5.1%であった。しかし、気道から血流感染を起こすと、図に示すように髄膜炎、肺炎、敗血症、喉頭蓋炎、中耳炎などさまざまな臓器に侵襲性感染症を起こす。なかでもHib髄膜炎の致死率は5%と高く、4人に1人にてんかん、難聴、発育障害などの後遺症を残す1)。1996~1998年の調査ではHib髄膜炎は年間約600人で、罹患リスクの高い生後2ヵ月~5歳までの間に2,000人に1人の割合で罹患していると推測されていた。インフルエンザ菌による侵襲性感染症は感染症法において、第5類感染症全数届出疾患となっている2)。図 ワクチン導入前のHib感染症の病型画像を拡大する細菌学的にみるとHibはインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)の1つで、インフルエンザ菌はa~f型の6つの莢膜菌型と、これらに該当しない型別不能の菌(Non-typable H. influenzae:NTHi)に分かれる。感染防御にあたって最も重要な宿主因子は莢膜多糖体(PRP/polyribosylribitol phosphate)に対する抗体である。通常は5歳以上になるとワクチン未接種であっても抗PRP抗体価が自然に上昇するため、感染リスクが低くなる。逆に乳児は感染リスクが高く、実際にワクチン導入前の侵襲性感染症の93%が5歳未満で、ピークは生後8ヵ月であった。このことから、生後早期に免疫を獲得しておくことが重要であるとわかる。ワクチンの概要表 ワクチンの概要と接種スケジュール画像を拡大する1)開発、普及の歴史ヒブワクチンは1980年代に開発が進んだ。はじめに開発されたのは莢膜多糖体(PRP)を抗原としたワクチンで、18ヵ月以上の小児を対象として導入されたが、効果は限定的で、また最も侵襲性感染症のリスクが高い2歳未満の小児への免疫原性が弱かった。その後、2歳未満の小児への免疫原性が改善された、PRPにキャリア蛋白を結合させた結合型ワクチン(conjugate vaccine)が開発され、現在わが国ではこのワクチンが採用されている。2006年、WHOが乳児期のワクチンとして推奨し、日本では2008年12月に販売開始となった。2010年11月には「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」により多くの自治体で公費助成の対象となり、さらに2013年4月からは定期接種(A型疾病)が開始された。2)効果発症予防効果は90%以上と高い。米国ではワクチン導入5年で、5歳未満の侵襲性感染症の罹患率が99%減少したと報告されている。日本でも1道9県における疫学調査により、公費助成後のHib髄膜炎の減少率は100%と示されている3,4)。3)副反応ワクチン接種による一般的な副反応のみで、特異的な副反応は報告されていない。複数回の接種により、副反応の発現率が上昇することはない。4)注意点ヒブワクチンによるアナフィラキシーを起こしたことがある場合には禁忌である。日常診療で役立つ接種ポイント【5歳以上のワクチンについて】無脾症、待機的脾摘手術予定者、脾機能低下症、造血幹細胞移植者において、ヒブワクチンの接種が推奨される。前述の通り通常5歳以上では、ワクチン未接種であっても抗RPR抗体が上昇するため、ワクチン接種が不要である。しかしながら、上記のハイリスク群では、ワクチンによって十分な抗体価を維持する必要がある。米国の予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)では、ヒブワクチン未接種の無脾症、待機的脾摘手術予定者では1回接種(脾摘術の場合は、術前14日前に接種)、造血幹細胞移植者ではヒブワクチン接種歴に関わらず移植後6~12ヵ月からの3回接種を推奨している。今度の課題、展望ヒブワクチンは、侵襲性Hib感染症の発症予防効果が非常に高く、Hib髄膜炎は今や過去の病気になりつつある。しかしながら臨床で遭遇することが減ったのは、高いワクチン接種率の恩恵であることを忘れてはならない。今後も肺炎球菌ワクチンと共に、ヒブワクチンの重要性を伝え、乳児期および高リスク者への接種を推奨してもらいたい。Hib感染症の減少とともに、非b型のインフルエンザ菌および無莢膜型(non-typable H. infuenzae:NTHi)による侵襲性感染症の増加が報告されている。2019年度感染症流行予測調査では、検討された58株のうち、3株がe型、4株がf型、その他の51株はNTHi であった。臨床診断名では26名が肺炎で最も多く(45%)、NTHiによる高齢者の肺炎が課題となっている。現在NTHiに対する複数のワクチン開発が進んでおり、今後の実用化が期待される。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト日本ワクチン産業協会 予防接種に関するQ&A集2020.インフルエンザ菌b型(Hib)感染(pdf)1)Plotkin SA, et al(eds). Plotkin's Vaccines (Seventh Edition).Elsevier.2018.2)国立感染症研究所. 令和元年度(2019年度)感染症流行予測調査報告書.(最終アクセス2021.7.15)3)厚生労働科学研究費補助金. 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究 平成26年度 総括・分担研究報告書 庵原俊昭、「小児細菌性髄膜炎および侵襲性感染症調査」に関する研究(全国調査結果)(厚生労働科学研究成果データベース閲覧システム)4)菅秀. ワクチンの実地使用下における有効性・安全性及びその投与方法に関する基礎的 ・ 臨床的研究 平成28年度 委託研究開 発成果報告書(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)(最終アクセス2021.7.27)5)CDC. MMWR. 2014;63:1-14.講師紹介

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COVID-19の積極的疫学調査の最終報告/感染研

 国立感染症研究所は、9月27日に同研究所のホームページにおいて、「新型コロナウイルス感染症における積極的疫学調査の結果について(最終報告)」を公開した。 この報告は、感染症法(第15条第1項)に基づいた積極的疫学調査で集約された、各自治体・医療機関から寄せられた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の退院患者の情報に関する最終報告である。 なお、「本情報は統一的に収集されたものではなく、各医療機関の退院サマリーの様式によるため解釈には注意が必要」と解析の読み方に注意を喚起している。調査は一定の情報が得られたことにより5月25日をもって停止している。【集計データ概要】・COVID-19患者数:770例・入院開始日:2020年1月25日~2021年5月6日・入院期間の中央値:12.0日・性別:男性440例(57%)/女性330例(43%)・年齢:中央値51.0歳(四分位範囲30.0-68.5歳)・基礎疾患の有無:有した症例は270例(35%)【発症時の症状】 多い順に発熱404例(52%)、呼吸器症状224例(29%)、倦怠感108例(14%)、頭痛63例(8%)、消化器症状45例(6%)、鼻汁31例(4%)、味覚異常26例(3%)、嗅覚異常24例(3%)、関節痛24例(3%)、筋肉痛11例(1%)の順だった。 入院時の症状は、発熱288例(37%)、呼吸器症状199例(26%)、倦怠感83例(11%)、消化器症状58例(8%)、味覚異常45例(6%)、頭痛46例(6%)、嗅覚異常43例(6%)、鼻汁28例(4%)、関節痛19例(2%)、筋肉痛6例(<1%)、意識障害1例(<1%)の順だった。 そのほか入院中、29例(4%)において合併症の記載があり、その内訳(重複を含む)は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)14例(2%)、急性腎障害7例(<1%)、人工呼吸器関連肺炎4例(<1%)、播種性血管内凝固症候群(DIC)3例(<1%)、多臓器不全2例(<1%)、誤嚥性肺炎2例(<1%)、カテーテル関連血流感染2例(<1%)、細菌性肺炎1例(<1%)であり、このうち19例が死亡した。【画像所見】(※サイト本文では所見画像もリンクされている) 所見画像は、2名の放射線科医師によって、2020年9月時点で集められた396例の読影が行われた。 入院時(入院日の前後3日を含む期間)に胸部単純X線写真が撮像された168症例のうち、異常所見の認められた79症例(47%)について主な所見を示す。 網状粒状影、心拡大、浸潤影は60歳以上に多く認められた。異常所見は両側(81%)、末梢肺野(75%)、下肺野優位(92%)に分布した。一方、入院時にCT画像が撮像された269例のうち、異常所見の認められた182例(68%)について、異常所見が5肺葉に及んだものが67例(37%)、陰影のサイズは3cmから肺葉の50%未満を占める場合が94例(52%)と最も多かった。また、異常陰影は、両側肺野145例(80%)、末梢性178例(98%)に認められ、とくに右下葉152例(84%)、左下葉149例(82%)と下葉優位であるものの、上葉にも分布していた。陰影所見として、すりガラス陰影182例(100%)、気管支透亮像(air bronchogram)98例(54%)、気管支拡張90例(49%)、胸膜下線状影80例(44%)が多く認められた。また、入院時に胸部単純X線写真およびCT画像ともに撮像されていた161例において、CT画像で異常陰影を認めた症例で、胸部単純X線写真で異常陰影を認めた症例の割合は、両側陰影58/90(64%)、右肺野陰影69/98(70%)、左肺野陰影61/98(62%)であった。CT画像で異常陰影が末梢にあった症例のうち、胸部単純X線写真でも末梢に異常陰影を認めた症例は56/102(55%)であった。また、CT画像で異常所見が確認されなかった症例のうち、胸部単純X線写真で異常所見ありと診断された症例はごくわずかであった。死亡例11例に限ると、両側陰影10/11(91%)、右肺野陰影10/11(91%)、左肺野陰影11/11(100%)、末梢肺野陰影8/11(73%)であった。また、入院時に胸部単純X線写真を撮像し、その後死亡した15例のうち10例(67%)に心拡大が認められた。 これらの結果から、入院時の胸部単純X線写真で認められた両側・末梢優位の異常陰影はCT所見とおおむね同様であった。退院時死亡した重症例に限定すると、胸部単純X線写真で認められた異常陰影は、CT所見とより一致する傾向が認められ、さらに死亡例の多くが胸部単純X線写真で心拡大を呈していた。【治療など】 全770例のうち、対症療法ではなくCOVID-19への直接的な効果を期待して231例(30%)で抗ウイルス薬投与などの治療介入が行われていた。うち、新型コロナウイルス感染症診療の手引き(第5版)に記載され、日本国内で承認されている医薬品としてレムデシビルは24例、ステロイドは20例が投与されていた。酸素投与は107例(14%)に実施され、その投与方法は、マスク55例、カニューラ12例、リザーバーマスク13例、非侵襲的陽圧換気(NPPV)2例、人工呼吸器22例、体外式膜型人工肺(ECMO)3例であった。

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プロバイオティクス、ICUでの人工呼吸器関連肺炎を抑制せず/JAMA

 人工呼吸器を要する重症患者において、プロバイオティクスであるLactobacillus rhamnosus GGの投与はプラセボと比較して、集中治療室(ICU)における人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生に関して有意な改善効果はなく、有害事象の頻度は高いことが、カナダ・トロント大学のJennie Johnstone氏らの検討で示された。研究の詳細は、JAMA誌2021年9月21日号で報告された。3ヵ国の44のICUの無作為化プラセボ対照比較試験 本研究は、ICUにおけるVAPや新たな感染症、その他の臨床的に重要なアウトカムの予防におけるL. rhamnosus GG投与の有効性の評価を目的とする無作為化プラセボ対照比較試験であり、2013年10月~2019年3月の期間にカナダと米国、サウジアラビアの44のICUで患者登録が行われた(カナダ健康研究所[CIHR]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、ICUの治療チームによって72時間以上の機械的換気を要すると予測された患者であった。被験者は、ICUで1日2回、L. rhamnosus GG(1×1010コロニー形成単位)を投与する群またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、二重盲検下の中央判定によるVAPの発生とされた。VAPは、2日以上の機械的換気の後に、胸部X線上で新たな進行性または持続性の浸潤所見がみられ、次の3項目のうち2つ以上を満たした場合とされた。(1)発熱(中核体温>38℃)または低体温(体温<36℃)、(2)白血球数<3.0×106/Lまたは>10×106/L、(3)膿性痰。感染症、死亡、ICU入室日数などにも差はない 2,650例(平均年齢[SD]59.8[16.5]歳、女性40.1%)が登録され、プロバイオティクス群に1,318例、プラセボ群に1,332例が割り付けられた。平均APACHE IIスコア(ICU入室の指標0~71点、点数が高いほど重症度および死亡リスクが高い)は22.0(SD 7.8)点で、61.2%が強心薬または昇圧薬を投与され、8.1%は腎代替療法を受けていた。82.5%が、無作為化の日に抗菌薬を処方または投与されていた。試験薬の投与期間中央値は9日(IQR:5~15)だった。 VAPの発生率は、プロバイオティクス群が21.9%(289/1,318例)、プラセボ群は21.3%(284/1,332例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.03、95%信頼区間[CI]:0.87~1.22、p=0.73、絶対群間差:0.6%、95%CI:-2.5~3.7)。 約20項目の副次アウトカム(ICU関連感染症、下痢、死亡、ICU入室日数など)のうち、統計学的に有意な差がみられたものはなかった。 また、有害事象(無菌部位の培養でのL. rhamnosus単離、非無菌部位の培養での単独または優勢な微生物)は、プロバイオティクス群が15例(1.1%)、プラセボ群は1例(0.1%)で発現した(オッズ比:14.02、95%CI:1.79~109.58、p<0.001)。 著者は、「今回の結果は、機械的換気を要する重篤な病態の患者における、VAPの予防を目的とするL. rhamnosus GGの使用を支持しない。これらの知見は、日常診療や施策に影響を及ぼすもので、重篤な病態へのプロバイオティクスの処方には慎重さが求められることが示唆される」としている。

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EGFR変異陽性肺がん1次治療、オシメルチニブ+ベバシズマブ併用の結果は?(WJOG9717L)/ESMO2021

 未治療の進行EGFR変異陽性非扁平上皮非小細胞肺がん(Ns-NSCLC)に対して、オシメルチニブとベバシズマブの併用療法はオシメルチニブ単剤と比べて、無増悪生存(PFS)を有意に改善できなかった。静岡県立静岡がんセンターの釼持広知氏が、日本で行われた「WJOG9717L試験」の結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)プレジデンシャル・シンポジウムで発表した。 WJOG9717L試験は、2018年1月~9月に21医療機関で行われた第II相無作為化試験。・対象:未治療の進行EGFR変異陽性Ns-NSCLCで、Stage IIIB、IIIC、IVまたは外科的切除後再発なし、ECOG PS 0-1、有症状の脳転移がない20歳以上の患者・試験群:オシメルチニブ(80mg/日)+ベバシズマブ(15mg/kg、3週ごと)・対照群:オシメルチニブ単剤(80mg/日)・評価項目[主要評価項目]PFS(BICR評価による)[副次評価項目]PFS(治験医評価による)、全奏効率(ORR)、全生存(OS)、有害事象(AE) 主な結果は以下のとおり。・122例が登録され、1対1の割合で併用群(61例)、単剤群(61例)に割り付けられた。・追跡期間中央値30.4ヵ月時点で、PFS(BICR評価)は併用群22.1ヵ月、単剤群20.2ヵ月で有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.86[60%信頼区間[CI]:0.700~1.060、95%CI:0.531~1.397]、片側p=0.213)。・ITT集団のサブグループ解析で、併用療法が喫煙歴ありの患者(あり群HR:0.481 vs.なし群同1.444)、del19の患者(del19患者のHR:0.622 vs. Leu858Arg患者の同1.246)で、有益である傾向が示された。PFS中央値は、喫煙歴あり併用群32.4ヵ月、単剤群13.6ヵ月、del19患者で併用群NE、単剤群20.3ヵ月であった。・ORRは、併用群82%(95%CI:72~92)、単剤群86%(77~96)であった。・OSは、両群ともにNEで、HR:0.970(95%CI:0.505~1.866)であった。・各群の投与期間中央値は併用群94.0週、単剤群57.6週であり、ベバシズマブは同33.4週であった。治療に関連する死亡の報告は両群ともになかった。・全Gradeの肺炎の発現頻度が、併用群3.3%に対し単剤群18.3%であった。 釼持氏は、「未治療のEGFR変異陽性Ns-NSCLC患者において、オシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法の有効性を示すことができなかったが、喫煙歴のある患者やdel19患者の初回治療として有益である可能性と、併用療法はオシメルチニブ関連肺炎のリスクを低減する可能性が示唆された」とまとめた。

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第80回 COVID-19入院患者の半数に高血糖~脂肪細胞ホルモンの減少が寄与?

糖尿病の主徴である高血糖は炎症や感染に対抗する免疫の低下と関連し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の早くからその重症化要因の一つと認識されていました。その逆に、COVID-19は糖尿病と無縁だった人の高血糖と関連することも最近になって知られるようになっています。米国でCOVID-19が流行りはじめたころの数ヵ月間(2020年3月1日~5月15日)にCOVID-19と診断されてニューヨーク州の病院に入院したおよそ4千人(3,854人)を調べたところ、実におよそ半数(49.7%)に高血糖が生じていました1,2)。高血糖だと予後はより不良で、正常血糖の患者に比べて重度呼吸器不全・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は9倍、人工呼吸器使用は15倍、死亡は3倍多いことと関連しました。高血糖はCOVID-19以外の重度肺機能不全でも認められ、インフルエンザや細菌性肺炎などのCOVID-19以外の病態によるARDS患者とCOVID-19と関連するARDS患者の高血糖の割合は似たようなものでした。しかし高血糖の仕組みには違いがあり、前者ではインスリンを作るβ細胞の死や機能不全がどうやら主因であるのに対し、COVID-19と関連するARDS患者の高血糖は主にインスリン抵抗性によって生じていました。インスリン抵抗性はインスリンが出回っているにもかかわらずそれに反応できなくなることで生じます。COVID-19患者のインスリン抵抗性の原因を探るべく糖調節ホルモンを調べたところ血液中のアディポネクチンがひどく減っていました。アディポネクチンは脂肪細胞で作られるホルモンであり、インスリンへの反応を高めて糖尿病を生じにくくする役割を担います。SARS-CoV-2はヒトやマウスの脂肪細胞に感染可能であり、じかに脂肪細胞に手を下してアディポネクチン生成を妨害しているのかもしれません。SARS-CoV-2が脂肪細胞に影響を及ぼしうることはハムスターへの感染実験で示されています。SARS-CoV-2をハムスターに感染させたところウイルスに対抗する遺伝子が脂肪組織で強く発現し、アディポネクチンの発現が減じました。糖の扱いや糖尿病とCOVID-19を結びつける仕組みのさらなる把握にSARS-CoV-2感染ハムスターは今後重宝されるでしょう。今回の研究は治療の可能性も示唆しています。たとえばピオグリタゾンなどのアディポネクチン生成を増やすチアゾリジンジオン糖尿病薬は高血糖を伴うCOVID-19の治療に役立つかもしれません2)。メトホルミンなどの他のインスリン感受性亢進薬で糖代謝を底上げしてインスリン投与を回避することも期待できそうです1)。安全性や効果を調べる今後の試験でそれら薬剤のCOVID-19治療での価値が定まるでしょう。参考1)Reiterer M, et al.Cell Metab. 2021 Sep 16:S1550-4131,00428-9.2)COVID-19 may trigger hyperglycemia and worsen disease by harming fat cells / Eurekalert

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IgG monoclonal抗体製剤はワクチンの代替薬になりえるか?(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 本論評では、遺伝子組み換えIgG monoclonal抗体治療の基礎をなす回復期血漿治療の変遷を考慮しながらmonoclonal抗体治療の臨床的意義について考察する。コロナ感染症に対する回復期血漿治療-無効かつ有害? 長年、インフルエンザ肺炎に対して古典的回復期血漿治療が施行されてきた。また、2002~03年のSARSに対しても回復期血漿治療が試みられたが満足いく結果が得られず、抗体依存感染増強(ADE:antibody-dependent enhancement of infection)を呈した症例が少なからず存在した。新型コロナに対しても回復期血漿治療が試行錯誤されたが、今年になって発表された2つの論文は新型コロナに対する回復期血漿治療が無効、あるいは、逆に、病態を悪化させる可能性があることを指摘した。RECOVERY Trialでは、ランダム化から28日目までの死亡率、機械呼吸導入率、腎透析導入率など重要な指標は血漿投与群と対照群の間で有意差を認めず、回復期血漿治療は無効であることが示された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet 2021;397:2049-2059.)。Begin氏らの報告によると、ランダム化から30日以内の気管挿管と死亡の比率は血漿投与群と対照群の間で有意差はなく、さらに、重要な知見としてADEに相当する重篤な副反応の頻度が血漿投与群で高いことが示された(Begin P, et al. Nat Med. 2021 Sep 9. [Epub ahead of print])。 回復期血漿はコロナ以外の微生物などに由来する種々の抗原に対するIgG、IgA、IgMなどの抗体を含有する。たとえば、IgAはIgGと拮抗しHIVワクチン接種時にHIV感染を増悪させることが報告されている(Haynes BF, et al. Engl J Med. 2012;366:1275-1286.)。また、回復期血漿が含有するS蛋白に対するIgG抗体には中和作用を有さない“非機能的(不完全)IgG抗体”が含まれる。非機能的IgG抗体のFc(fragment crystallizable)部位と免疫細胞/食細胞に発現しているFc受容体(FcγR)との結合は不完全で、ウイルスは免疫細胞/食細胞内で完全に処理されず、その一部は感染性を有したまま細胞外に排出される(回復期血漿投与時のADE発生)。一方、S蛋白を構成する種々なる抗原決定基(epitope)に対するIgG monoclonal抗体はウイルスに対する中和作用が強く、非機能的IgG抗体は基本的に存在しない。それ故、IgG monoclonal抗体投与時にはADEが発生し難い。以上の考察を支持する知見として、S蛋白に対するIgG monoclonal抗体に関する複数の治験においてADE発症の報告がない事実を強調しておきたい。半減期が短いIgG monoclonal抗体-抗ウイルス薬 現在、米国では6種類のIgG monoclonal抗体が緊急使用の許可を得ている。その中の2種類ずつを併用する2つの抗体カクテル療法(カシリビマブ+イムデビマブ[REGEN-COV]とbamlanivimab+etesevimab[BEカクテル])の緊急使用をFDAは承認している。本邦においても2021年7月19日、REGEN-COVが特例承認された(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)。 カシリビマブとイムデビマブ(REGEN-COV)はウイルスが生体に侵入する際生体細胞のACE2と結合するRBD-motif(RBM)に存在する互いに重なりがない複数のepitopeと非競合的に結合し抗ウイルス作用を発現する(Baum A, et al. Science 2020;369:1014-1018.)。本論評で取り上げたコロナ感染患者と濃厚接触した家族を対象としたREGN-COV 2069治験において(O'Brien MP, et al. N Engl J Med. 2021;385:1184-1195.)、対照群の全感染リスクが14.2%であったのに対しREGEN-COV群では4.8%と有意に低かった。さらに、感染者の症状持続期間もREGEN-COV群で2週間短縮されるなど抗ウイルス薬として高い効果が示された。この治験で特記すべき事項はREGEN-COVを従来の点滴投与ではなく皮下注で投与しても何ら問題となる不都合が観察されなかったことである。以上の結果はIgG monoclonal抗体を簡便な皮下注で投与できる可能性を示した点で臨床的に価値がある。 Monoclonal抗体治療の最も魅力的側面はDelta株を中心とする変異株に対する抗ウイルス作用である。変異株における免疫回避作用を発現するS蛋白遺伝子変異の主たる部位は417位(Beta株、Gamma株)、452位(Delta株)、478位(Delta株)、484位(Beta株、Gamma株)である(山口. 日本医事新報 2021;5053:32-38,)。REGEN-COVにあって、カシリビマブは417位、478位、484位をepitopeとして認識するがイムデビマブはこれら部位を認識しない。両monoclonal抗体ともDelta株にあって最も重要な452位を認識せずREGEN-COVはDelta株に対して高い中和作用を示すことが示唆された(Corti D, et al. Cell. 2021;184:3086-3108.)。 REGEN-COVを構成する2つのmonoclonal抗体の血中半減期は約30日で抗ウイルス薬としては十分な期間有効性が持続する(O'Brien MP, et al. N Engl J Med. 2021;385:1184-1195.)。しかしながら、以下に提示するIgG monoclonal抗体をワクチン代替え療法として考えていく場合には30日という半減期は短過ぎる。 REGEN-COV使用に関する本邦の指針は米国FDAの指針に追従したもので、本薬剤の投与対象が“重症化リスク因子を有する酸素投与を要しない患者(軽症~中等症-I)”となっており、“重症例”は基本的に対象外とされた(厚生労働省. Aug. 13, 2021)。この記述は、回復期血漿治療で認められるADEがIgG monoclonal抗体投与時にも発生する可能性を配慮したものであるが、monoclonal抗体薬投与に起因するADEの発生が非常にまれであることが判明しつつある現在、REGEN-COVの投与対象を重症例にも広げていくべきであろう。さらに、ワクチン接種で中和抗体価が上昇しない免疫不全患者のコロナ感染時の治療にはIgG monoclonal抗体治療が最優先されるべきことも明記されるべきである(米国FDA. Press Release Aug. 12, 2021)。 BEカクテルにあってbamlanivimabはRBDの452位、484位を、etesevimabは452位近傍をepitopeとして認識するため(Corti D, et al. Cell 2021;184:3086-3108.)、BEカクテルはBeta株、Gamma株、Delta株に対する中和作用が弱く、変異株抑制を目的とした抗ウイルス薬としてはREGEN-COVよりも劣る。REGEN-COVと同様BEカクテルの半減期も短い。半減期が長いIgG monoclonal抗体-抗ウイルス薬、ワクチン代替え薬 2021年9月6日、グラクソ・スミスクラインは単剤で使用できるIgG monoclonal抗体ソトロビマブの特例承認を厚生労働省に申請し、9月27日に承認された(商品名:ゼビュディ点滴静注液500mg)。この製剤は他のmonoclonal抗体製剤と異なり、変異が発生しやすいRBMではなく変異が起こり難く多くのコロナウイルスでアミノ酸配列が普遍的に保存されている部位(S蛋白の332~361位)を抗体の標的として設計されている(Corti D, et al. Cell 2021;184:3086-3108.)。すなわち、ソトロビマブが認識するepitopeはDelta株を中心とする変異株を特徴付ける種々なる変異とは無関係な部位に位置する。それ故、ソトロビマブは現状の変異株のみならず今後形成されることが予想される新たな変異株に対しても高い中和作用を発揮するものと考えられる(Gupta A, et al. medRxiv. 2021 May 28.)。ソトロビマブのもう一つの特徴はIgGの分解を抑制し血中IgG抗体価の半減期を延長させるためにIgG抗体のFc領域に人工的変異が挿入されていることである(Cathcart AL, et al. bioRxiv. 2021 Aug 6.)。その結果、ソトロビマブは投与後少なくとも6~8ヵ月間は抗ウイルス作用を持続するものと考えられ、ワクチン接種が困難な人、あるいは、免疫不全でワクチンによる抗体産生が期待できない人に対するワクチン代替え療法になりえるものと期待できる。ただし、IgG monoclonal抗体治療の費用はワクチン2回接種の100倍に達する高額治療であることに留意する必要がある。 AstraZenecaの抗体カクテル(AZD7442:AZD1061+AZD8895)も注目に値する製剤である。AZD7442を構成する2つのIgG monoclonal抗体のFc領域には人工的変異が挿入されておりソトロビマブと同様にIgGの半減期が延長する(抗ウイルス作用:約1年持続)。それ故、AZD7442もソトロビマブと同様にワクチン代替え療法として期待できる。

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新規の抗HER2抗体薬物複合体、複数の治療歴のあるHER2+乳がんのPFSを延長 (TULIP)/ESMO2021

 複数の治療歴のある転移を有するHER2陽性乳がんに対し、新規の抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるtrastuzumab-duocarmazine (SYD985)は、従来の標準治療に比較し、有意に無増悪生存期間(PFS)を延長することが示唆された。これは国際共同第III相比較試験であるTULIP試験の結果で、スペイン・Hospital Universitari Vall d’HebronのCristina Saura Manich氏より、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表された。SYD985はトラスツズマブにアルキル化剤であるduocarmazineを結合したADC薬である。・対象:T-DM1または2レジメン以上の抗HER2の治療歴のあるHER2陽性の局所進行または転移を有する症例 437例・試験群:SYD985(1.2mg/kg)を3週ごとに投与(SYD群 291例)・対照群:主治医の選択治療(PC群 146例)治療レジメンはラパチニブ+カペシタビン、トラスツズマブ+カペシタビン、トラスツズマブ+ビノレルビン、トラスツズマブ+エリブリンから選択・評価項目[主要評価項目]中央判定によるPFS[副次評価項目]主治医評価による無イベント生存期間(EFS)と全生存期間(OS)、奏効率、QOL 主な結果は以下のとおり。・症例の前治療ライン数の中央値はSYD群が4、PC群が5であった。内訳は、86~89%がトラスツズマブかT-DM1、58~61%がペルツズマブ、1~7%がtucatinib、margetuximab、T-DXdであった。・年齢中央値はSYD投与群が56歳、PC群は58歳であった。・中央判定によるPFS中央値は、SYD群が7.0ヵ月、PC群が4.9ヵ月で、ハザード比(HR)は0.64(95%信頼区間[CI]:0.49~0.84)、p=0.002と統計学的に有意であった。・主治医判定によるPFS中央値は、SYD群が6.9ヵ月、PC群が4.6ヵ月で、HRは0.60(95%CI:0.47~0.74)、p<0.001であった。・初回中間解析でのOS中央値は、SYD群が20.4ヵ月、PC群が16.3ヵ月、HRは0.83(95%CI:0.62~1.09)、p=0.153であった。・奏効率はSYD群27.8%、PC群29.5%と、両群間に有意な差はなかった。・頻度の高い治療関連有害事象は、SYD群では結膜炎(全Grade:38.2%、Grade3以上:5.6%)、角膜炎(全Grade:38.2%、Grade3以上:12.2%)であった。PC群では、下痢(全Grade:35.8%、Grade3以上:2.2%)、好中球減少(全Grade:24.1%、Grade3以上:18.2%)であった。・さらに、SYD群で間質性肺炎/肺臓炎が7.6%(Grade3以上:2.4%)に認められた。間質性肺炎/肺臓炎により治療中止となったのは5.2%、減量が行われたのは2.1%の症例であった。 最後に演者は「SYD985は、複数の治療歴のある転移を有するHER2陽性乳がんに対する新しい治療オプションとなり得る」と結んだ。

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重症化リスクのある外来COVID-19に対し吸入ステロイドであるブデソニドが症状回復期間を3日短縮(解説:田中希宇人氏、山口佳寿博氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ではエビデンスの乏しかった2020年初頭からサイトカインストームによる影響がいわれていたことや、COVID-19の重症例のCT所見では気管支拡張を伴うびまん性すりガラス陰影、いわゆるDAD(diffuse alveolar damage)パターンを呈していたことから実臨床ではステロイドによる加療を行っていた。2020年7月に英国から報告された大規模多施設ランダム化オープンラベル試験である『RECOVERY試験』のpreliminary reportが報告されてからCOVID-19の治療として適切にステロイド治療が使用されることとなった。『RECOVERY試験』では、デキサメタゾン6mgを10日間投与した群が標準治療群と比較して試験登録後28日での死亡率を有意に減少(21.6% vs.24.6%)させた(Horby P, et al. N Engl J Med. 2021;384:693-704. )。とくに人工呼吸管理を要した症例でデキサメタゾン投与群の死亡率が29.0%と、対照群の死亡率40.7%と比較して高い効果を認めた。ただし試験登録時に酸素を必要としなかった群では予後改善効果が認められず、実際の現場では酸素投与が必要な「中等症II」以上のCOVID-19に対して、デキサメタゾン6mgあるいは同力価のステロイド加療を行っている。 また日本感染症学会に「COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し改善した3例」のケースシリーズが報告されたことから、吸入ステロイドであるシクレソニド(商品名:オルベスコ®)がCOVID-19の肺障害に有効である可能性が期待され、COVID-19に対する吸入ステロイドが話題となった。シクレソニドはin vitroで抗ウイルス薬であるロピナビルと同等以上のウイルス増殖防止効果を示していたことからその効果は期待されていたが、前述のケースシリーズを受けて厚生労働科学研究として本邦で行われたCOVID-19に対するシクレソニド吸入の有効性および安全性を検討した多施設共同第II相試験である『RACCO試験』でその効果は否定的という結果だった(国立国際医療研究センター 吸入ステロイド薬シクレソニドのCOVID-19を対象とした特定臨床研究結果速報について. 2020年12月23日)。本試験は90例の肺炎のない軽症COVID-19症例に対して、シクレソニド吸入群41例と対症療法群48例に割り付け肺炎の増悪率を評価した研究であるが、シクレソニド吸入群の肺炎増悪率が39%であり、対症療法群の19%と比較しリスク差0.20、リスク比2.08と有意差をもってシクレソニド吸入群の肺炎増悪率が高かったと結論付けられた。以降、無症状や軽症のCOVID-19に対するシクレソニド吸入は『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.3版』においても推奨されていない。 その他の吸入ステロイド薬としては、本論評でも取り上げるブデソニド吸入薬(商品名:パルミコート®)のCOVID-19に対する有効性が示唆されている。英国のオックスフォードシャーで行われた多施設共同オープンラベル第II相試験『STOIC試験』では、酸素が不要で入院を必要としない軽症COVID-19症例を対象にブデソニド吸入の効果が検証された(Ramakrishnan S, et al. Lancet Respir Med. 2021;9:763-772. )。本研究ではper-protocol集団およびITT集団におけるCOVID-19による救急受診や入院、自己申告での症状の回復までの日数、解熱薬が必要な日数などが評価された。結果、ブデソニド吸入群が通常治療群と比較して有意差をもってCOVID-19関連受診を低下(per-protocol集団:1% vs.14%、ITT集団:3% vs.15%)、症状の回復までの日数の短縮(7日vs.8日)、解熱剤が必要な日数の割合の減少(27% vs.50%)を認める結果であった。 本論評で取り上げた英国のオックスフォード大学Yu氏らの論文『PRINCIPLE試験』では、65歳以上あるいは併存症のある50歳以上のCOVID-19疑いの非入院症例4,700例を対象に行われた。結果は吸入ステロイドであるブデソニド吸入の14日間の投与で回復までの期間を通常治療群と比較して2.94日短縮した、とのことであった。本研究は英国のプライマリケア施設で実施され、ブデソニド吸入群への割り付けは2020年11月27日~2021日3月31日に行われた。 4,700例の被検者は通常治療群1,988例、通常治療+ブデソニド吸入群1,073例、通常治療+その他の治療群1,639例にランダムに割り付けられた。ブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入し、最大14日間投与するという治療で、喘息でいう高用量の吸入ステロイド用量で行われた。症状回復までの期間推定値は被検者の自己申告が採用されたが、通常治療群14.7日に対してブデソニド吸入群11.8日と2.94日の短縮効果(ハザード比1.21)を認めている。同時に評価された入院や死亡については通常治療群8.8%、ブデソニド吸入群6.8%と2ポイントの低下を認めたが、優越性閾値を満たさない結果であった。 今までの吸入ステロイドの研究では主に明らかな肺炎のない症例や外来で管理できる症例に限った報告がほとんどであり、前述の『STOIC試験』においても酸素化の保たれている症例が対照となっている。本研究ではCOVID-19の重症化リスクである高齢者や併存症を有する症例が対照となっており、高リスク群に対する効果が示されたことは大変期待できる結果であった考えることができる。ただしCOPDに対する吸入ステロイドは新型コロナウイルスが気道上皮に感染する際に必要となるACE2受容体の発現を減少させ、COVID-19の感染予防に効果を示す(Finney L, et al. J Allergy Clin Immunol. 2021;147:510-519. )ことがいわれており、本研究でもブデソニド吸入群に現喫煙者や過去喫煙者が46%含まれていることや、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)症例が9%含まれていることは差し引いて考える必要がある。そして吸入薬であり「タービュヘイラー」というデバイスを用いてブデソニドを投与する必要がある特性上、呼吸促拍している症例や人工呼吸管理がなされている症例に対してはこの治療が困難であることは言うまでもない。 また心配事として、重症度の高いCOPD症例に対する吸入ステロイドは肺炎のリスクが高まるという報告がある(Vogelmeier C, et al. N Engl J Med. 2011;364:1093-1103.、Crim C, et al. Ann Am Thorac Soc. 2015;12:27-34. )ことである。この論評で取り上げたYu氏らの論文では重篤な有害事象としてブデソニド吸入群で肋骨骨折とアルコールによる膵炎によるものの2例が有害事象として報告されており治療薬とはまったく関係ないものとされ、肺炎リスクの上昇は取り上げられていない。ただもともと吸入ステロイド薬であるブデソニドは、気管支喘息や閉塞性換気障害の程度の強いCOPDや増悪を繰り返すCOPDに使用されうる薬剤であり、ステロイドの煩雑な使用は吸入剤とはいえ呼吸器内科医としては一抹の不安は拭うことができない。 心配事の2つ目として吸入薬の適切な使用やアドヒアランスの面が挙げられる。この『PRINCIPLE試験』で用いられているブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入、最大14日間であるが、症状の乏しいCOVID-19症例に、しかも普段吸入薬を使用していない症例に対しての治療であるので実臨床で治療薬が適切に使用できるかは考えるところがある。COVID-19症例や発熱症例に対して対面で時間をかけて吸入指導を行うことは非現実的なので、紙面やデジタルデバイスでの吸入指導を理解できる症例に治療選択肢は限られることになるであろう。 最後に本研究が評価されて吸入ステロイドであるブデソニドがコロナの治療薬として承認されたとしても、その適正使用に関しては慎重に行うべきであると考える。日本感染症学会に前述のシクレソニド吸入のケースシリーズが報告された際も、一部メディアで大々的に紹介され、一時的に本邦でもCOVID-19の症例や発熱症例に幅広く処方された期間がある。その期間に薬局からシクレソニドがなくなり、以前から喘息の治療で使用していた患者に処方ができないケースが散見されたことは、多くの呼吸器内科医が実臨床で困惑されたはずである。COVID-19の治療選択肢として検討されることは重要であるが、本来吸入ステロイドを処方すべき気管支喘息や増悪を繰り返すCOPD症例に薬剤が行き渡らないことは絶対に避けなければいけない。

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「ザイボックス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第71回

第71回 「ザイボックス」の名称の由来は?販売名ザイボックス注射液600mgザイボックス錠600mg一般名(和名[命名法])リネゾリド(JAN)効能又は効果○〈適応菌種〉本剤に感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)〈適応症〉敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肺炎○〈適応菌種〉本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム〈適応症〉各種感染症用法及び用量<ザイボックス注射液 600mg>通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。<ザイボックス錠 600mg>通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに経口投与する。通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに経口投与する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。警告内容とその理由警告本剤の耐性菌の発現を防ぐため、「5.効能又は効果に関連する注意」、「8.重要な基本的注意」 の項を熟読の上、適正使用に努めること。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年9月29日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年6月改訂(第17版)医薬品インタビューフォーム「ザイボックス®注射液600mg・ザイボックス®錠600mg」2)Pfizer for Professionals:製品情報

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