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診療科別2026年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Nerandomilast in progressive pulmonary fibrosis: data from the whole follow-up period of the FIBRONEER-ILD trialWijsenbeek MS, et al. Eur Respir J. 2026 Mar 26. [Epub ahead of print].<FIBRONEER-ILD試験>:ネランドミラストはPPFの臨床的イベントと死亡リスクを低減進行性肺線維症(PPF)を対象としたFIBRONEER-ILD試験の全追跡期間データです。ネランドミラストは、52週時のFVC低下抑制に加え、ILD急性増悪、呼吸器疾患による入院、死亡を含む臨床的に重要なイベントのリスクを低減しました。とくに死亡リスクは両用量でプラセボより低く(ハザード比[HR]:0.51)、有害事象による中止もプラセボと同程度でした。PPFに対する新たな抗線維化治療として、今後の実臨床での位置付けが注目されます。Survival with Osimertinib plus Chemotherapy in EGFR-Mutated Advanced NSCLCJanne PA, et al. N Engl J Med. 2026;394:27-38.<FLAURA2試験>:オシメルチニブと化学療法併用はEGFR変異陽性進行NSCLCのOSを延長EGFR exon 19 deletionまたはL858R変異陽性の未治療進行非扁平上皮NSCLCを対象とした、FLAURA2試験の全生存期間最終解析です。オシメルチニブにプラチナ製剤+ペメトレキセドを併用すると、オシメルチニブ単剤に比べてOS中央値は47.5ヵ月vs.37.6ヵ月に延長しました(HR:0.77)。一方、Grade3以上の有害事象は70%vs.34%と多く、初回治療から併用する患者を慎重に選ぶ必要があります。Amikacin liposome inhalation suspension in newly diagnosed Mycobacterium avium complex lung disease (ARISE): a 6-month double-blind, active comparator trialDaley CL, et al. Ann Am Thorac Soc. 2026;23:536-547. <ARISE試験>:新規診断MAC症へのALIS追加で培養陰性化率が改善新規または再発の非空洞型MAC肺疾患患者を対象に、リポソーム化アミカシン吸入懸濁液(ALIS)の初期治療での有効性を評価した二重盲検実薬対照試験です。アジスロマイシン、エタンブトールにALISを追加した群では、6ヵ月目までの培養陰性化率が80.6%(対照群63.9%)、7ヵ月目までが78.8%(47.1%)と良好でした。QOL-B respiratory domainの改善も示されており、難治例だけでなく初期治療からALISを導入する意義を考えるうえで注目されます。Associations between antibiotic use and outcomes in patients hospitalized with community-acquired pneumonia and positive respiratory viral assaysBiebelberg B, et al. Clin Infect Dis. 2026;82:630-638.<ウイルス陽性市中肺炎>:短期抗菌薬と標準期間で臨床転帰は同等呼吸器ウイルス検査陽性の市中肺炎入院患者を対象に、抗菌薬0~2日と5~7日投与を傾向スコア重み付けで比較した後ろ向き研究です。調整後、入院期間、48時間後のICU入室、院内死亡率、30日間の非入院日はいずれも同等でした。細菌性肺炎が明らかでないウイルス陽性市中肺炎では、抗菌薬を漫然と継続しない判断を後押しするデータです。Oral corticosteroid reduction and discontinuation in adults with corticosteroid-dependent, severe, uncontrolled asthma treated with tezepelumab (WAYFINDER): a multicentre, single-arm, phase 3b trialJackson DJ, et al. Lancet Respir Med. 2026;14:129-140.<WAYFINDER試験>:テゼペルマブは重症喘息の維持OCS減量を後押しOCS依存性の重症非コントロール喘息成人を対象に、テゼペルマブ210mgを4週ごとに投与した第IIIb相単群試験です。52週時点で約90%が喘息コントロールを保ったまま維持OCSを5mg/日以下に減量し、50.3%が完全中止に到達しました。表現型にかかわらずOCS負担を減らせる可能性を示し、実臨床でのステロイド離脱戦略に重要な示唆を与えます。

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第68回 ゴールを守るか、頭を守るか。W杯でも活躍するサッカー選手の「その後」が教えてくれること

サッカーワールドカップがアメリカで開幕し、こちらニューヨークでも街のあちこちで歓声が上がっています。選手たちの華麗なプレーに見とれながら、医師という立場からはこんなことにも気が向いてしまいます。ピッチの上で輝いた選手たちは、その後の人生を健康に過ごせているのだろうか。実は近年、この問いに真正面から答えようとした大規模な研究が複数発表され、少し意外な、そして考えさせられる結果が明らかになっています。まず朗報から。選手はむしろ「長生き」だったまず、最初にお伝えしたいのは、明るいニュースです。英国スコットランドの元プロサッカー選手7,676人を、年齢や社会的背景をそろえた一般の人2万3,028人と比べた研究では、選手たちは70歳になるまでの死亡率がむしろ低い、という結果が出ています1)。とくに「虚血性心疾患」で亡くなるリスクは2割ほど低く、肺がんによる死亡に至っては約半分でした。若い頃から体を鍛え、走り続けてきた人生が、心臓や血管を守ってくれたのでしょう。運動が健康に良いという、私たちがよく知る事実はここでも裏付けられたわけです。ところが、認知症などの脳の病気に目を向けると、風向きが変わります。同じ研究で、神経変性疾患が主な死因となった人の割合は、一般の人が0.5%だったのに対し、元選手では1.7%。統計的に調整すると、そのリスクはおよそ3.5倍に上りました。病気の種類ごとに見ると差はさらにはっきりし、アルツハイマー病では約5倍、パーキンソン病でも約2倍でした。認知症の治療薬が処方される頻度も、元選手では約5倍多かったのです。長生きした先で、脳という別の臓器が思わぬ代償を払っていた。そう読み取れる結果でした。興味深いのは「守備位置による差」ではなぜ、脳にだけこうした影響が出るのでしょうか。ここで多くの方が「なるほど」と膝を打つのが、続いて発表された研究です。同じ選手たちをポジションごとに分けて調べたところ、神経変性疾患のリスクはポジションによってはっきり異なっていました2)。最もリスクが高かったのはディフェンダーで一般の人の約5倍、ミッドフィルダーが約4.6倍と続き、フォワードは約2.8倍でした。一方で、ゴールキーパーはわずか約1.8倍にとどまり、統計的には一般の人と差があるとは言い切れないレベルだったのです。この違いを説明する最有力の候補が「ヘディング」です。ボールを頭で受ける回数は、フィールドを走り回る選手ほど多く、ゴールキーパーではごくまれです。実際、プロとしての現役期間が15年を超える選手では、リスクが約5倍まで高まっていました。つまり、頭部への衝撃を繰り返し受けた「量」がカギを握っている可能性があるのです。ボールを頭で受けるか、それとも手でキャッチするか。その差が、何十年も先の脳の健康につながっているのかもしれません。私たちがここから学べること誤解しないでいただきたいのは、これは「サッカーは危険だからやめましょう」という話では決してない、ということです。運動がもたらす心臓や血管への恩恵は本物ですし、これらはあくまでトップレベルで長年プレーした選手を対象にした観察研究で、原因を確定できたわけでもありません。それでも、こうしたエビデンスを考えると、選手たちの繰り返す頭部への衝撃を減らす工夫(たとえば育成年代でのヘディング制限など)には、十分な意味がありそうです。1)Mackay DF, et al. Neurodegenerative disease mortality among former professional soccer players. N Engl J Med. 2019;381:1801-1808.2)Russell ER, et al. Association of field position and career length with risk of neurodegenerative disease in male former professional soccer players. JAMA Neurol. 2021;78:1057-1063.

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消化管閉塞への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第127回

消化管閉塞への対応進行がん患者の緩和ケアで悩まされる病態の1つに「消化管閉塞」があります。症状緩和が難しく、食という楽しみを奪うという意味でも生活の質(QOL)への影響が大きいですよね。今回は消化管閉塞に対する対応を考えてみます。今日の質問在宅で大腸がん患者を担当しているのですが、消化管閉塞症状が強くなってきました。もともと食べることが好きな方なので、食べると吐いてしまうといった様子に、こちらもつらくなります。何かできる工夫はありますか?悪性疾患の消化管閉塞は、診ているこちらもつらいですね。私も質問者の方と同じような経験をしてきました。器質的な閉塞の場合は手術ができない時点で、なかなか根本的な介入が難しいのが現実です。その中でもQOLを低下させないために、私が取り組んでいる工夫を紹介します。最初に、大腸がんなど消化管閉塞を生じやすいがん種の場合、患者・家族と治療方針を話し合っておくことが重要です。将来的に消化管閉塞を来すと食事の経口摂取が難しくなる可能性が高いことなどを共有し、「経皮的減圧胃瘻を選択肢として検討するか」といった話し合いをしましょう。将来生じうることに対する心構えができている場合とそうでない場合では、感じるつらさも違ってくる印象があります。実際に消化管閉塞症状が生じ始めたタイミングでは、閉塞の程度を評価するのが大切です。完全に閉塞しているのか、不完全な閉塞で内容物の状態次第で通過が可能なのかで大きく対応は異なります。閉塞部位では腸管内圧が上昇するため、減圧が重要な治療となります。不完全閉塞であれば、症状の具合に合わせて食事量の調整や薬物療法、減圧などを組み合わせることが重要なアプローチとなります。完全閉塞の場合、経鼻胃管がなければ、経口摂取をするたびに腹痛や嘔吐をすることになります。経鼻胃管の留置を提案しますが、留置自体も苦痛にはなるので、そこも患者との話し合いが必要です。私の経験上も、「どうしても経鼻胃管は嫌だ」と拒否した方もいました。こうした苦痛をゼロにすることは難しいので、患者ごとのベストを実現できるように一緒に取り組んでいくことが重要です。症状緩和だけでなく、ケア提供者と患者・家族が一緒に取り組む中で関係を構築していくことも、重要なケアの一部なのです。今日のTips今日のTips悪性疾患による消化管閉塞は、目標の設定と点滴・胃管・薬物療法の組み合わせが大切です。

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EGFR-TKI後のNSCLC、ivonescimabがOSを改善/JAMA

 上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の変異を有する進行非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療では、現在、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が標準治療であるが、獲得耐性は避けられず、EGFR-TKIの投与中に病勢が進行した患者は、耐性のメカニズムが不均一か不明であるため治療選択肢が限られている。中国・中山大学がんセンターのWenfeng Fang氏らHARMONi-A Study Investigatorsは「HARMONi-A試験」において、EGFR-TKI療法後のEGFR変異陽性NSCLC患者では、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)と血管内皮増殖因子(VEGF)の二重特異性抗体であるivonescimabと化学療法の併用は、化学療法単独と比較して、許容範囲内の安全性プロファイルを保持しつつ、全生存期間(OS)の統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善をもたらすことを示した。本研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年6月17日号で報告された。中国の無作為化プラセボ対照比較第III相試験 HARMONi-A試験は、中国の55施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較第III相試験(Akeso Biopharmaの助成を受けた)。 2022年1月25日~11月2日に、局所進行または転移のある非扁平上皮NSCLCでEGFR変異陽性と確認され、(1)第1または第2世代EGFR-TKI治療後にEGFR T790M変異陰性が確認された患者、または(2)第3世代EGFR-TKIを1次または2次治療として受けた患者を登録した。 被験者322例(年齢中央値59.4歳、女性51.6%)を、3週を1サイクルとし、1日目にivonescimab 20mg/kgを静脈内投与する群(161例)またはプラセボ群(161例)に無作為に割り付けた。全例に、ペメトレキセド+カルボプラチンによる化学療法を行った。これを4サイクル施行後、それぞれivonescimab+ペメトレキセドまたはプラセボ+ペメトレキセドによる維持療法を行った。 主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)であり、すでに中間解析の結果(ハザード比[HR]:0.46、p<0.001、中央値の群間差:2.3ヵ月)が報告されている。今回は、中間解析時から25ヵ月の追跡期間を経た時点での主な副次評価項目であるOSのデータが公表された。OS中央値はivonescimab群16.8ヵ月、プラセボ群14.1ヵ月 ベースラインにおいて、ivonescimab群の35例(21.7%)とプラセボ群の37例(23.0%)が脳転移を有していた。それぞれ139例(86.3%)と137例(85.1%)に、第3世代EGFR-TKIによる治療歴があった。追跡期間中央値は32.5ヵ月だった。 OS中央値は、プラセボ群14.1ヵ月に対し、ivonescimab群は16.8ヵ月と2.7ヵ月有意に長かった(層別HR:0.74、95%信頼区間[CI]:0.58~0.95、p=0.02)。 24ヵ月時のOS率は、ivonescimab群35.3%、プラセボ群28.8%であり、30ヵ月OS率は、それぞれ29.1%および18.4%であった。 また、ベースラインの脳転移の有無を問わず、ivonescimab群で生存に関する明確な有益性を認めた(脳転移ありHR:0.61[95%CI:0.37~1.03]、脳転移なしHR:0.77[95%CI:0.58~1.03])。安全性プロファイルは中間解析とほぼ一致 ivonescimab+化学療法の安全性プロファイルは、中間解析の結果や、化学療法、PD-1阻害薬、VEGF阻害薬の既知の毒性作用とほぼ一致していた。治療期間中に発生したGrade3以上の有害事象(67.1%vs.54.7%)およびGrade3以上の治療関連有害事象(59.6%vs.44.7%)は、プラセボ群よりivonescimab群で頻度が高かった。 治療期間中に発生した有害事象による治療中止は、ivonescimab群で11.8%、プラセボ群で8.1%に認められた。また、免疫関連有害事象はivonescimab群で多かった(29.2%vs.8.1%)が、免疫関連有害事象による治療中止はまれであり、両群間で同率だった(各1.2%)。 著者は、「ivonescimabによるOS中央値の改善は2.7ヵ月とわずかではあるが、2つの群の生存曲線はとくに後期の時点で大きく乖離し、30ヵ月時のOS率には10.7%ポイントの差を認めた」「これらの所見は、PD-1とVEGFの二重阻害と化学療法の併用が有効な治療戦略であることを立証するとともに、本研究の対象となった患者群において、ivonescimabと化学療法の併用が新たな治療選択肢となりうることを示すものである」としている。

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GLP-1受容体作動薬、肥満関連がんの進行を抑制か

 新たな研究により、GLP-1受容体作動薬が一部の肥満関連がんの転移進行リスクを抑制する可能性が示された。GLP-1受容体作動薬はもともと糖尿病治療薬として開発されたが、現在は肥満症や心血管疾患の治療にも広く用いられている。米Taussig Cancer InstituteのMark David Orland氏らによるこの研究結果は、米国臨床腫瘍学会(ASCO 2026、5月29~6月2日、米シカゴ)で発表された。 米フォックス・チェイスがんセンターで支持療法腫瘍学・緩和ケアプログラム責任者を務めるMarcin Chwistek氏は、「GLP-1受容体作動薬は、これまでも単なる血糖降下薬ではなかった。その抗炎症作用および免疫調節作用から、以前より幅広い作用を持つことが示唆されている」と述べている。 今回の研究でOrland氏らは、TriNetXの国際的なリアルワールドデータネットワークを用いて、ステージ1~3のがんの診断を受け、診断後にGLP-1受容体作動薬による治療を開始した1万225人の健康データを解析した。対象としたがんは、乳がん、前立腺がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、大腸がん、肝細胞がん、腎細胞がん、膵臓がんの7種類とした。これらの患者と社会人口統計学的特徴やBMI、血糖関連因子などを一致させた、診断後にDPP-4阻害薬による治療を開始した患者を対照とし、ステージ4(転移がん)への進行リスクを比較した。 その結果、GLP-1受容体作動薬群では7種類中6種類のがんで転移がんへの進行リスクの低下が認められ、うち4種類(NSCLC、乳がん、大腸がん、肝細胞がん)での低下は統計学的に有意であった。進行リスクは、NSCLCで50%、乳がんで43%、大腸がんで31%、肝細胞がんで38%の低下であった。GLP-1受容体作動薬群において、新たな安全性シグナルや有害事象の増加は認められなかった。さらに、The Cancer Genome Atlas(TCGA)の遺伝子データを解析して、GLP-1受容体の発現と全生存期間との関連を検討した。その結果、腫瘍でのGLP-1受容体の発現が高い患者では、死亡リスクが33%低いことが示された。がん種ごとに検討すると、特に乳がんでのリスク低下は45%と顕著であった。 Orland氏らは、これらの結果は、GLP-1受容体作動薬の抗炎症作用および免疫調節作用により説明される可能性があるとしている。また、本研究は観察研究であり、因果関係を証明するものではないとして慎重な解釈を求める一方で、「将来、臨床試験を実施する上で十分な根拠となる有望な結果だ」との見方も示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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“患者・市民の医療情報アクセス向上”のためのコンソーシアム発足

 患者・市民が治療選択や医療用医薬品の適正使用に必要な情報へ適切にアクセスできる環境整備を目指すため、「患者・市民の医療情報アクセス向上コンソーシアム」(代表世話人:奥瀬 正紀氏、垣添 忠生氏、片木 美穂氏、武川 篤之氏)が2026年7月1日に正式に発足した。 本コンソーシアムは、患者・市民が必要な医療情報へ適切にアクセスできる社会の実現を目的として設立されたマルチステークホルダーによる連携組織として、がんに限らずさまざまな疾患にわたって、患者団体を中心に、医療関係者、有識者、関係団体などが連携し、疾患啓発、治療選択、適正使用などに関する情報提供の在り方について議論・提言を行っていく。また、広告該当性への懸念から情報提供が過度に萎縮している現状を改善するため、疾患啓発、治療選択肢、適正使用、治験を含む臨床試験などに関する情報は、患者が自らの疾患を理解し、納得して治療を選択するための「教育・学習目的の情報」として位置付けるべきだという考え方に立つ。正確性、中立性、透明性に配慮した情報提供について、「直ちに広告に該当するものではない」という認識を社会全体で整理していくことを目指している。 代表世話人の奥瀬 正紀氏(日本乾癬性疾患協会/YORIAILab)は、「患者・市民が医療情報に適切にアクセスできることは、納得して治療を選択するために不可欠である。本コンソーシアムでの活動を通して必要な人が必要なときに科学的に信頼できる医療情報へアクセスできる社会の実現に貢献したい」とコメント。今後はステークホルダーの声を集め、具体的な提言活動を進める方針である。 コンソーシアムの主な活動内容は以下のとおり。 ・患者・市民の医療情報アクセスに関する課題の整理 ・教育・学習目的の医療情報提供の在り方に関する検討 ・患者団体をはじめとする関係者間の対話と連携の促進 ・社会への情報発信および提言の取りまとめ医療用医薬品の広告規制を巡る構造的課題 本コンソーシアム設立の契機となったのは、がん対策総合機構が2026年2月13日に公表した報告書『患者の知る権利の観点から見た医療用医薬品の情報提供と広告規制の制度・運用』である。同報告書では、日米欧の制度比較を通じて、日本の医療用医薬品情報提供における実態と構造的課題が検証された。報告書や関連する調査では、以下の実態が浮き彫りとなった。・日本では、薬機法に基づく広告規制などの厳格な運用により、患者向け医薬品情報の提供が事実上強く制限され、教育・学習目的の情報提供であっても過度な萎縮が生じている。・商品名を用いた情報提供が難しく、原則として一般名(成分名)での説明が求められるため、患者や家族の理解を妨げ、情報のわかりにくさや混乱につながっている。・患者が必要とする疾患啓発や治療選択肢、治験などの情報に十分にアクセスしにくい状況が、がんや希少疾患をはじめとする多くの疾患領域に共通する社会課題となっている。患者教育・学習目的の適切な医学情報の普及を目指して 2026年3月13日、同報告書の報告会がオンラインで開催され、患者団体や企業など多様な立場から約60名が参加した。報告会では、処方薬において知りたい情報や伝えたい情報が十分に発信されない構造的状況、患者が理解できる仕組みの必要性について活発な意見交換が行われた。 こうした課題認識が広がる中、2026年3月30日に厚生労働省医薬局から通知「治験等に係る情報提供の取扱いについて」が発出された。この通知では、治験などに係る情報提供について、目的や内容、導線設計などの条件を満たせば広告に該当しないことが明確化され、「情報提供=すべて広告ではない」という考え方が具体的に示された。がん対策総合機構などは、この通知を重要な前進と受け止める一方、この考え方は治験情報のみならず、教育・学習目的の一般的な医療情報提供にも適用されるべきであると判断。特定の疾患領域に限らず、患者団体、学会、医療従事者、研究者、企業、行政などが立場を超えて連携し、社会全体で取り組むためのプラットフォームが必要であるとして、コンソーシアムの設立に向けた検討が本格化した。 その後、2026年6月16日には「患者・市民の医療情報アクセス向上コンソーシアム」の立ち上げ構想と発足時の体制が公表され、さらなる議論と調整を経て、7月1日の正式発足へと至った。今後は、がんに限らずさまざまな疾患領域にわたって、患者目線に立った環境整備に向けた具体的なアクションを展開していく予定である。<コンソーシアム発起人団体>・有國 美恵子氏(ユーイング肉腫家族の会)・岩瀬 哲氏(NPO法人JORTC)・大井 賢一氏(認定NPO法人がんサポートコミュニティー)・大沢 かおり氏(NPO法人Hope Tree)・奥瀬 正紀氏(一般社団法人日本乾癬性疾患協会、一般社団法人YORIAILab)・垣添 忠生氏(公益財団法人日本対がん協会)・片木 美穂氏(卵巣がん体験者の会スマイリー)・岸田 徹氏(NPO法人がんノート)・後藤 悌氏(認定NPO法人キャンサーネットジャパン)・武川 篤之氏(認定NPO法人日本アレルギー友の会)・中島 弥生氏(認定NPO法人ミルフィーユ小児がんフロンティアーズ)・西舘 澄人氏(NPO法人GISTERS)・橋本 明子氏(NPO法人血液情報広場・つばさ)(五十音順)

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喀血の原因は、喉に住んでいたアイツ【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第309回

喀血の原因は、喉に住んでいたアイツ喀血の原因といえば、結核、肺アスペルギルス症、肺がん、気管支拡張症あたりが定番です。呼吸器内科医なら、喀血と聞いた瞬間に頭の中で鑑別がズラッと並びます。ところが今回の異物論文は、その鑑別リストに絶対載っていない犯人を連れてきました。Abd Alkareem AA, et al. Nasopharyngeal hirudiniasis, a rare cause of masked hemoptysis in an older patient: A case report. J Int Med Res. 2026 Jun;54(6):3000605261453283.患者は、高血圧以外は元気な62歳の男性。タバコは吸いません。2週間前から血を吐くようになり、喉の違和感も続いていました。発熱も、嗄声も、息切れもなし。地元の病院では原因がわからず、専門医に紹介されてきました。高齢男性で2週間も喀血が続けば、たとえ非喫煙者でも、普通は肺がんや結核、心血管系の病気を疑って精査に入ります。実際この論文でも、最初はそうした方向で考えられていました。ところが、診察医が喉を覗いた瞬間、事態は一変します。え? 喉の奥で、何かが動いている。しかも、見えたと思ったらスッと引っ込む。落ち着け…、落ち着けオレ…! そう思ったに違いありません。鼻咽腔内視鏡を入れてみると、上咽頭の壁に、何かがくっついて、もぞもぞ動いていました。もう、嫌な予感しかしません。口蓋垂を持ち上げて視野を確保し、鉗子でそいつをつかんで引っ張り出す。エエイッ!なんと、出てきたのは、体長およそ3cmの、 生きたヒルでした。いやああああ!!! またこのタイプの論文かよおおお!!!!なぜ、ヒルで喀血したのでしょうか。実はヒルの唾液には、ヒルジンという強力な抗凝固物質と、局所麻酔成分が含まれています。だから噛みついても痛くないし、いったん吸血を始めると血が止まりにくくなります。つまり出血の正体はヒルがせっせと分泌していた天然の抗凝固薬だったわけです。実際、ヒルを取り除いた瞬間、出血はピタッと止まりました。患者さんにあらためて話を聞くと、3週間ほど前に、処理していない池の水を飲んでいたとのこと。水と一緒に幼いヒルを飲み込み、上咽頭に定着してしまったようです。2次感染予防に抗菌薬を1週間処方し、2週間後の再診でも再発はありませんでした。よかったよかった。

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日本におけるがん薬剤費は10年で3倍に、総医療費最大は肺がん

 日本の全国レセプトデータベース(NDB)を用いて、2011~22年にがん診療を受けた約2,320万人を対象とした大規模解析が実施された。その結果、がん診療に伴う医療費は日本の経済成長率を大きく上回るペースで増加しており、とくに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を中心とする新規抗がん薬が医療費増加の主要因であることが明らかになった。京都大学の福山 啓太氏らによる研究はScientific Reports誌オンライン版2026年6月15日号に掲載された。 本後ろ向きコホート研究では、2011年4月~2022年3月に悪性腫瘍と診断された患者をがん種別に分類し、月ごとの保険請求額と適用薬剤を分析した。対象は悪性腫瘍患者約2,320万人(男性:約1,203万人、女性:約1,118万人)で、95%以上の電子レセプトを網羅する全国データを利用し、がん種別、年齢別、薬剤別に医療費を評価した。また、薬価改定を反映した独自のマスターデータを構築し、薬剤価格の経年変化も考慮した。 主な結果は以下のとおり。・患者数では乳がんが最多で、胃がん、大腸がん、肺がん、前立腺がんが続いた。・総医療費が最も高額だったのは肺がんだった。肺がんの患者数は減少傾向にあるにもかかわらず、診療費は解析期間を通じて増加を続け、2022年には全がん種で最大となった。一方、患者1人当たりの月額医療費では多発性骨髄腫が最も高く、2022年3月時点で約40万9,000円に達した。・研究期間中、がん患者の月当たり人数は612万人から544万人へ約68万人減少したにもかかわらず月額総請求額は5,590億円から7,100億円へ約1,510億円増加しており、1人当たり医療費の増加が認められた。・薬剤費の解析では、ICIの増加が際立った。肺がんではPD-1/PD-L1阻害薬が急速に普及し、分子標的薬やVEGF阻害薬とともに薬剤費増加の主因となっていた。乳がんではHER2標的薬やCDK4/6阻害薬、胃がんではPD-1/PD-L1阻害薬およびVEGF阻害薬、前立腺がんでは新規ホルモン療法薬の使用増加が確認された。・抗がん薬全体の薬剤費は、2011年の月347億円から2022年には1,090億円へと約3.1倍に増加した。なかでもICI関連薬剤は薬価改定により一部価格が引き下げられたものの、新規適応拡大や使用患者数の増加により、総薬剤費は増加を続けた。 同期間における日本の実質GDPは約8.5%の増加にとどまった。これに対し、がん診療費は約1.27倍、抗がん薬剤費は約3.1倍に増加しており、研究者らは「がん診療費の伸びは経済成長を大きく上回っている」と指摘する。一方で研究者らは、「本研究は高額薬剤の使用抑制を提案するものではない。ICIや分子標的薬は臨床試験で有効性が示され、患者予後の改善に大きく寄与している。しかし、公的保険制度の持続可能性を考えると、個々の薬剤の増分費用効果比(ICER)のみでは十分とは言えず、国家経済や医療財政全体を踏まえた新たな評価指標の構築が必要だ」としている。さらに、がん検診による早期発見やワクチンによる予防は、高額な薬物療法を回避できる可能性があり、医療経済の観点からも重要な介入となる可能性が示唆された。

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HER2陽性胃がんに対する二重特異性抗体薬zanidatamabの有用性―トラスツズマブとの比較試験(解説:上村直実氏)

 最近、分子標的薬を含む生物学的製剤の開発が進み、がん診療において効率の良い治療レジメンを選択するためにバイオマーカー検査が必須となっているが、胃がん治療でも「HER2」「PD-L1」「MSI」「Claudin18.2」の4つのバイオマーカー検査の確立に伴って切除不能胃がんに対する薬物療法が急激な変化を遂げている。HER2陽性胃がんに対する標準治療は、従来の化学療法に抗HER2モノクローナル抗体のトラスツズマブを追加した3剤併用療法が標準的1次治療として推奨されているが、今回、日本を含む33ヵ国の無作為化第III相試験の結果、2つの抗原を同時に標的とする二重HER2標的抗体薬であるzanidatamab+抗PD-1抗体チスレリズマブと化学療法の併用もしくはzanidatamab+化学療法の併用治療が、従来の標準治療であるトラスツズマブ+化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが2026年5月のNEJM誌に報告された。 日本では、HER2陽性・PD-L1陽性の切除不能進行胃がん患者を対象にトラスツズマブ+抗PD-1抗体ペムブロリズマブ+化学療法の併用療法が昨年5月に承認されており、本研究は免疫療法の併用に加えてHER2標的治療そのものの質を高めるアプローチが企図された臨床試験といえる。この分野で先行している血液がんに対する抗体医薬は、すでにモノクローナル抗体から二重特異性抗体薬へと置き換わりつつある。二重特異性抗体薬はT細胞などの免疫細胞と腫瘍細胞とを近接化させて免疫攻撃を促進する機能や複数のシグナル経路を同時に制御して薬効が増強されることを期待する薬剤であり、最近では肺がんをはじめとする固形がんに対する二重特異性抗体薬の開発が進んでいる。 今回の研究結果から、固形がんに対する薬物療法においても二重特異性抗体薬の有用性が高くなることが期待されるが、二重特異性抗体薬の利点のみでなく課題も知っておく必要がある。すなわち、血液がんと違って固形がんの腫瘍不均一性による効果のばらつきに伴う混合反応性や過度の免疫活性化に伴うサイトカイン放出症候群、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群、標的分子が発現している正常細胞を攻撃する可能性などが報告されており、今後、このような課題を解決しつつ、本研究のように二重特異性抗体と免疫チェックポイント阻害薬を用いた薬物治療がさらに改善することが期待される。

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ASCO2026 レポート 先端研究・希少がん

レポーター紹介[目次]SARC041試験(第III相試験)PEAK試験(第III相試験)StrateGIST 1試験(第I/Ib相試験)RINGSIDE試験(第III相試験)EMITT-1試験【Abstract LBA2】SARC041試験(第III相試験):脱分化型脂肪肉腫に対するCDK4/6阻害薬アベマシクリブの有効性を検証進行・再発脱分化型脂肪肉腫(dedifferentiated liposarcoma:DDLPS)に対し、CDK4/6阻害薬であるアベマシクリブがプラセボと比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが報告された。DDLPSでは12番染色体長腕(12q13-15)の増幅が高頻度に認められる。その部位にはCDK4やMDM2遺伝子増幅が認められる。そのため、CDK4阻害が治療として期待され、過去、単群の第II相試験が実施され、有効性が示唆されていた。本試験は、DDLPSにおいて第III相比較試験でCDK4阻害薬がpositiveな結果を示した点で重要である。本試験は、進行・再発または転移のあるDDLPS患者を対象とした第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験であり、患者をアベマシクリブ200mg 1日2回内服群またはプラセボ群に1:1で割り付けた。適格基準として前化学療法歴の有無は問わなかった。主要評価項目はPFSであり、病勢進行後にはプラセボ群からアベマシクリブへのクロスオーバーが許容された。主要評価項目であるPFS中央値は、アベマシクリブ群9.7ヵ月、プラセボ群1.5ヵ月であり、アベマシクリブ群で統計学的に有意な延長を認めた(ハザード比[HR]:0.38、p<0.001)。6ヵ月PFS率は60%vs.22%、12ヵ月PFS率は39%vs.13%であった。奏効率はアベマシクリブ群9%、プラセボ群0%であった。全生存期間(OS)については、中央値はアベマシクリブ群で未到達、プラセボ群で25.5ヵ月であり、統計学的有意差には至らなかったものの、アベマシクリブ群で良好な傾向を認めた(HR:0.55、p=0.07)。プラセボ群の85%が病勢進行後にアベマシクリブへクロスオーバーしていた。探索的な解析であるが、前化学療法歴なしの患者のPFS中央値は16.4ヵ月、ありの患者では5.3ヵ月であった。安全性については、アベマシクリブで既知の有害事象プロファイルとおおむね一致していた。主な有害事象は、下痢、血球減少、貧血、白血球減少、クレアチニン上昇などであり、用量減量を要した症例はアベマシクリブ群で39%であった。本試験の結果から、アベマシクリブは進行・再発DDLPSにおける新たな治療選択肢となると考える。一方、本試験は海外の臨床試験グループにより実施されたものであり、日本ですぐに使用可能な状況とはならない。今後、日本での治療開発も期待される。目次に戻る【Abstract 11500】PEAK試験(第III相試験):イマチニブ治療後GISTに対するbezuclastinib+スニチニブ併用療法の有効性イマチニブ治療後の進行消化管間質腫瘍(GIST)に対し、KIT阻害薬であるbezuclastinibとスニチニブの併用療法が、現在の標準的2次治療であるスニチニブ単剤と比較してPFSを有意に延長することが、PEAK試験の結果として報告された。GISTでは、1次治療のイマチニブ後に耐性機構としてKITの2次変異が出現することが知られており、exon13/14やexon17/18変異がその代表である。現在の標準的な2次治療はスニチニブであるが、スニチニブはexon13/14への阻害活性が高い一方、exon17/18への阻害活性が乏しい。bezuclastinibは次世代のKIT阻害薬であり、exon17/18への阻害活性を有している。両者を併用することで広範にKIT変異をカバーする意義を検討したのが本試験である。本試験は、イマチニブ抵抗性または不耐の進行GIST患者を対象とした国際共同第III相ランダム化試験である。主要評価項目であるPFS中央値は、bezuclastinib+スニチニブ群16.5ヵ月、スニチニブ単剤群9.2ヵ月であり、併用群で統計学的に有意な延長を認めた(HR:0.50、p<0.0001)。PFSのサブグループ解析では、exon17/18変異、exon13/14変異、またKITの1次変異であるexon9、exon11変異の状況にかかわらず、全体的に併用群で良好であった。奏効率も併用群46%、スニチニブ単剤群26%と、併用群で高い腫瘍縮小効果が示された。OSは、データカットオフの時点でイベント数が20%未満であり、現時点でimmatureであった。PFS2においても併用群に良好な傾向が示された。安全性については、bezuclastinib+スニチニブ併用による新たな安全性シグナルは認められず、全体としてスニチニブの既知の安全性プロファイルとおおむね一致していた。Grade3以上の主な有害事象としては、高血圧、好中球減少、肝機能上昇、貧血、下痢などが報告された。ALT/AST上昇は併用群で多い傾向があるものの、多くは可逆的で管理可能とされた。本試験では、イマチニブ治療後GISTにおいて、スニチニブ単剤に対してbezuclastinib+スニチニブ併用療法が明確な優越性を示した。新たな標準治療候補となる可能性が高い。現在、FDAではpriority review(優先審査)となっている。本試験に日本は参加しておらず、今後日本での本治療開発が期待される。目次に戻る【Abstract 11501】StrateGIST 1試験(第I/Ib相試験):進行GISTに対する新規KIT阻害薬velzatinibの1次・2次治療における有効性の示唆先に記載したPEAK試験に続き、同セッションで本StrateGIST 1試験が発表された。進行・再発または切除不能のGISTに対し、新規KIT阻害薬であるvelzatinib(IDRX-42)が、1次治療および2次治療のいずれにおいても有望な抗腫瘍活性と忍容性を示すことが報告された。velzatinibは、新規KIT阻害薬を創出する目的でexon13変異を対象としたハイスループットスクリーニングとその後の最適化のステップを経て開発された経緯がある(Blum A, et al. J Med Chem. 2023;66:2386-2395.)。velzatinibはexon14変異以外の1次、2次KIT変異に対して高い阻害活性を有する。StrateGIST 1試験は、進行GIST患者を対象としたfirst-in-humanの第I/Ib相試験であり、今回の解析では推奨第Ib相用量であるvelzatinib 300mg錠または曝露量が同等となる400mgカプセルを投与された1次治療例および2次治療例が評価された。対象は、KITまたはPDGFRAに変異を有する進行・再発または切除不能GIST患者であり、1次治療コホートでは未治療例、2次治療コホートでは主にイマチニブ治療後の患者が含まれた。有効性評価可能例は、1次治療コホート23例、2次治療コホート46例であった。1次治療コホートでは、未確定奏効率は65%、確定奏効率は56%であり、多くの症例で腫瘍縮小が認められた。最大腫瘍縮小までの期間は中央値8.1ヵ月であり、データカットオフ時点で83%の患者が治療継続中であった。観察期間中央値は7.4ヵ月であり、PFSはimmatureであった。観察期間はまだ限られるものの、初回治療として高い腫瘍縮小効果と持続的な病勢制御が期待される結果である。2次治療コホートでは、未確定奏効率は40%、確定奏効率は33%であり、PFS中央値は13.7ヵ月であった。安全性については、1次・2次治療例73例の解析において、治療関連有害事象(TRAE)は95%に認められ、Grade3以上のTRAEは33%であった。有害事象による治療中止は5%、用量減量は21%であり、全体として管理可能な安全性プロファイルであった。主な有害事象は、下痢、悪心、味覚異常、好中球減少、倦怠感、胃食道逆流症、貧血、食欲低下、腹痛、嘔吐などであった。Grade3以上では好中球減少や貧血が比較的多く認められており、血液毒性のモニタリングは重要と考えられる。本試験は単群の第I/Ib相試験であり、現時点で標準治療に影響があるものではない。しかし、velzatinibは1次治療では高い奏効率、2次治療ではPFS中央値13.7ヵ月という有望な成績を示しており、次世代KIT阻害薬として期待される。イマチニブ後の2次治療においては、スニチニブとの比較第III相試験であるStrateGIST 3試験が進行中である。一方で、1次治療としての位置付けについては、イマチニブとの比較試験や長期安全性、耐性変異出現パターンの検討が今後の課題である。目次に戻る【Abstract 11506】RINGSIDE試験(第III相試験):進行性デスモイド腫瘍に対するγセクレターゼ阻害薬varegacestatの有効性進行性デスモイド腫瘍に対し、経口γセクレターゼ阻害薬であるvaregacestatがプラセボと比較して主要評価項目であるPFSを有意に改善することが、RINGSIDE試験の結果として報告された。デスモイド腫瘍は遠隔転移を来さないものの、局所浸潤性が強く、疼痛、機能障害、臓器障害を引き起こす中間悪性度の肉腫である。デスモイド腫瘍では、APCやβカテニンの変異によるWntシグナルの活性化が生じている。一方、Notchシグナルも腫瘍の病態に寄与している可能性が報告されている。DeFi試験では別のγセクレターゼ阻害薬であるnirogacestatの有効性が示され、FDAで承認されている。本試験は、新規のγセクレターゼ阻害薬であるvaregacestatについて検証したものである。RINGSIDE試験は、進行性デスモイド腫瘍患者156例を対象とした国際共同第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験であり、varegacestat 1.2mg 1日1回投与とプラセボが比較された。主要評価項目は独立中央判定によるPFSであり、主な副次評価項目としてRECIST v1.1に基づく奏効率、腫瘍体積変化、患者報告アウトカムによる疼痛評価などが設定された。主要評価項目であるPFSについて、varegacestatはプラセボと比較して病勢進行または死亡リスクを84%低下させた(HR:0.16、p<0.0001)。このPFS改善効果は、腫瘍部位、ベースライン腫瘍サイズ、年齢、前治療歴などのサブグループにおいても一貫していた。奏効率はvaregacestat群56%、プラセボ群9%であり、腫瘍縮小効果も明確に示された。さらに、疼痛スコアは投与開始後早期から改善し、12週時点で臨床的にも意味のある疼痛軽減が認められた。安全性については、全体としてγセクレターゼ阻害薬で予想される有害事象プロファイルと一致していた。主な有害事象は、下痢、倦怠感、皮疹、悪心、咳嗽などであり、多くはGrade1または2であった。一方、閉経前女性では卵巣機能に関連する有害事象が一定割合で認められており、若年女性に投与する際には妊孕性や月経異常に関する説明とモニタリングが重要である。また、有害事象による用量減量や中止も一定数みられており、長期投与を前提とした副作用管理が必要となる。本試験の結果から、varegacestatは進行性デスモイド腫瘍に対する有力な新規治療選択肢となる可能性がある。とくに、PFSのみならず、奏効率、腫瘍体積、疼痛という患者にとって臨床的意義の高い評価項目を同時に改善した点は重要である。一方で、すでに同じγセクレターゼ阻害薬であるnirogacestatの臨床的位置付けが確立しつつあるため、今後は、有効性、安全性、卵巣機能への影響、投与スケジュール、患者背景ごとの使い分けが課題となる。現在、日本ではnirogacestatの単群の第II相試験が実施され、募集終了となっている(jRCT2031250269)。目次に戻る【Abstract 2500】EMITT-1試験:ERAP1阻害薬GRWD5769とセミプリマブ併用による抗腫瘍免疫再活性化の可能性免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性を示した複数の固形がんに対し、経口ERAP1阻害薬GRWD5769と抗PD-1抗体セミプリマブの併用療法が、早期臨床試験ながら複数のがん種で抗腫瘍活性を示したことが、EMITT-1試験の第Ib相拡大コホートの結果として報告された。免疫チェックポイント阻害薬抵抗性の克服は重要課題である。ERAP1はMHC class Iに提示されるペプチドレパートリーの形成に関与する酵素である。ERAP1阻害により腫瘍細胞表面に提示される抗原ペプチドが変化し、T細胞による腫瘍認識を再誘導することが期待される。GRWD5769はfirst-in-classの経口ERAP1阻害薬であり、腫瘍の抗原提示を変化させることで、免疫チェックポイント阻害薬抵抗性を克服するという新しい免疫治療アプローチである。EMITT-1試験は、GRWD5769とセミプリマブ併用療法を評価する第I/II相試験であり、第Ib相拡大コホートでは、非小細胞肺がん、尿路上皮がん、肝細胞がん、MSS大腸がん、子宮頸がん、頭頸部扁平上皮がんの6コホートが検討された。多くの症例は既治療歴を有し、MSS大腸がんを除き、抗PD-1療法に対する2次抵抗性を示した患者が対象とされた。有効性については、各コホートで奏効率13~36%が報告された。尿路上皮がんでは奏効率36%、非小細胞肺がんでは21%、肝細胞がんでは14%、MSS大腸がんでは17%、子宮頸がんでは14%、頭頸部扁平上皮がんでは13%であった。また、6ヵ月以上の奏効または安定を含むdurable clinical benefitも複数のコホートで認められ、非小細胞肺がんおよびMSS大腸がんではPFS中央値が33週と報告された。とくに、MSS大腸がんは一般に免疫チェックポイント阻害薬単独では有効性が乏しい集団であり、本併用療法のシグナルは注目される。安全性については、全体として忍容性は良好であり、新たな安全性シグナルは認められなかった。多くの有害事象はGrade1であり、免疫関連有害事象も限定的であった。本試験は早期相試験であり、対象患者数も限られているため、現時点で標準治療を変える結果ではない。しかし、ERAP1阻害による抗原提示改変という新しい治療戦略が、臨床的にも抗腫瘍活性を示しうることを示した点で意義が大きい。今後は、ランダム化第II相試験での検証、奏効予測バイオマーカーの同定、がん種別の最適な対象集団の絞り込みが重要となる。目次に戻る

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認知症やせん妄、痛みの評価が難しい場合は?【非専門医のための緩和ケアTips】第126回

認知症やせん妄、痛みの評価が難しい場合は?痛みとの付き合い方は人それぞれではありますが、緩和ケアを提供している立場としては、できるだけ苦痛を和らげてあげたいと思いますよね。そうした医療者にとって難しさを感じるのが「痛みを訴えない患者さん」です。今日の質問私が担当している患者さんですが、症状緩和を丁寧にしようと思っても、いつも「大丈夫です」って反応で困っています。画像所見などからは痛みがあると思うので心配しています。ご家族に尋ねても、「我慢強いので、あまりつらいとは言わないだろう」ということでした。こうした場合にできる工夫はありますか?「痛くないです」と言うのに、表情が硬い、動かない、呼吸が浅い……、そんな「言葉と態度がかみ合わない」患者に出会うことがあります。痛みは主観的症状であり、患者の訴えから考えることが基本ですが、さまざまな理由から痛みを言葉で伝えられない患者がいるのも事実です。今回は「痛みを訴えない患者」を診る際に、私がルーチンで検討していることを紹介します。まず、こうしたケースで一番多い要因は「認知症」でしょう。私も担当する患者の大半が高齢者なので、真っ先に可能性を考えるのが認知症です。認知症といっても中核症状である物忘れよりも、軽度の認知機能低下を起こしているケースが多くあります。医療者が「痛みはどうですか?」といった言葉を掛けても痛みの概念化が難しかったり、表現する語彙が少なくなって言葉に詰まり、それを取り繕っていたりするのです。こうした場合は、本人の言葉だけではなく、動作時の様子などから痛みを判断し、「もう少し痛み止めを増やしたほうがよさそうだと思いますが、調整してよいですか?」といったようにアプローチします。せん妄もよく経験する原因です。注意障害で医療者側の質問を理解できていなかったり、睡眠覚醒のリズムがずれて日中にいつも眠っていたりする状況です。さらに、夜間に混乱が見られ、夜勤の看護師に痛みを訴えることもあります。この場合、まずはせん妄の原因が可逆的なものか、不可逆的なものかを判断することが最初のアプローチです。看護師と連携を取り、「せん妄を見逃さない」ように気を付けます。せん妄が見逃されている状況は、意外と多いものです。とくに興奮などを伴わない低活動性せん妄の場合、「ぼーっとしているだけ」「活気がないだけ」という印象にとどまりがちです。痛みだけに目を奪われず、せん妄による意識状態の変化が生じていないかに注意を払いましょう。以上、私が取り組んでいる工夫についてお話ししました。皆さまの工夫もぜひ聞かせてください。今日のTips今日のTips認知症とせん妄、「痛みを訴えない」患者の原因にアプローチすることが大切。

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複合がん免疫療法の近未来/日本臨床腫瘍学会

 がん免疫療法は、複数の免疫療法を組み合わせることで治療効果を最大化する新たなフェーズへと進展しつつある。2026年3月26~28日に開催された第23回日本臨床腫瘍学会学術集会では、「複合がん免疫療法の近未来」をテーマとしたシンポジウムが企画され、次世代の治療戦略が議論された。腫瘍免疫の理解が深化する中で、がん免疫応答の多面的なメカニズムを考慮した新たな複合がん免疫療法の確立が期待される。持続型T細胞免疫システムとCD4陽性T細胞療法 冒頭、各務 博氏(埼玉医科大学国際医療センター)は、近年のがん免疫療法の進歩を背景に、免疫応答をいかに持続させるかが重要な課題となっていることを指摘した。そのうえで、腫瘍微小環境内に形成される三次リンパ様構造(TLS)を基盤とした持続型T細胞免疫システムと、CD4陽性T細胞を活用した新たな治療戦略について講演した。 TLSは腫瘍局所に形成されるリンパ組織様構造で、抗原特異的T細胞の増殖や機能維持を担う場として機能する。ここでは、前駆疲弊CD8陽性T細胞(Tpex)が中心的役割を果たしている。TpexはPD-1を発現しつつも自己複製能を保持し、抗原特異的T細胞を継続的に供給する貯蔵プールとして働く。PD-1阻害薬の投与によりTpexが増殖し、抗腫瘍効果を引き起こすことが知られている。 さらに、Tpexの維持には特定のCD4陽性T細胞群が関与することが明らかとなっている。Tpexと連動して長期的な免疫応答を維持する重要な細胞集団であるTh7Rは、Tpexと類似した遺伝子発現を示し、腫瘍内で近接して分布する。解析の結果、Th7RとTpexの細胞数は相関しており、CD4陽性T細胞がTpexの形成および維持に寄与する可能性が示唆されている。 モデルマウスを使用した研究では、Th7Rを投与することで腫瘍内のTpexが増加し、抗腫瘍効果の増強が確認された。また、PD-1やCTLA-4阻害薬との併用により、その効果が持続することも示された。これは、Tpex/Th7R相互作用の維持を目的とした細胞療法として、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療の有望な戦略となる可能性を示唆している。 臨床的にもCD4陽性T細胞の存在は予後と関連し、PD-1阻害薬による治療前後で血中のTh7Rが減少していない患者さんで5年生存例が多いことが報告されている。一方で、これらの細胞が減少すると再発や死亡につながる可能性がある。このため、CD4陽性T細胞を継続的に補充する細胞療法により、腫瘍微小循環を維持し、免疫応答を長期にわたって持続させる治療戦略が重要であると各務氏は指摘する。 総じて、腫瘍微小循環にはTLS・Tpex/Th7R相互作用に代表される持続型抗腫瘍細胞メカニズムが存在し、持続的ながん免疫の基盤となっている。腫瘍微小循環を維持する細胞療法の併用は、今後のICI治療の発展において重要な方向性になることが期待されている。ICIとADC併用療法の現状と展望 続いて、清水 俊雄氏(関西医科大学附属病院 新薬開発科)はICIと抗体薬物複合体(ADC)の併用療法について、その作用機序、臨床的課題、今後の展望などについて概説した。 ADCは、標的に特異的に結合する抗体、細胞障害作用を担うペイロード、そして両者を連結するリンカーの3要素から構成される。これら各要素の設計は、有効性と安全性を大きく左右する。とくにリンカーの安定性や薬物抗体比(DAR)は体内動態(PK/PD)や毒性に強く影響する。また、ペイロードの疎水性や膜透過性は、腫瘍細胞内での作用に加え、周囲細胞へも影響する重要な因子である。 臨床的課題としては、標的抗原を発現する正常組織にも作用するオンターゲット毒性と、非特異的にほかの組織へ影響を及ぼすオフターゲット毒性が挙げられる。さらに、ADCは体内で単一の形態として存在するわけではなく、完全体、ペイロードが解離した抗体、遊離ペイロードなど複数の分子種が時間とともに変動する。このような動的な分布が薬効と毒性のバランスを規定するため、PK/PDの理解と最適化が重要となる。 免疫学的観点では、ADCによる腫瘍細胞障害は腫瘍抗原の放出を促し、免疫応答を活性化する。これにより樹状細胞およびT細胞が活性化され、腫瘍細胞では主要組織適合複合体(MHC)クラスI分子やPD-L1の発現が増加する。その結果、CD8陽性T細胞の腫瘍への浸潤が促進される。このような背景から、ICIとの併用による相乗的な抗腫瘍効果が期待されており、ADCとPD-1阻害薬の併用による有望な臨床試験の成績が報告されている。 一方で、併用療法の最適化にはいくつかの重要な課題がある。具体的には、標的抗原発現の維持、毒性の重複回避、ならびにADCの非特異的取り込みの抑制が挙げられる。さらに近年では、二重特異性抗体や二重ペイロードの導入、腫瘍特異的に活性化される設計、免疫刺激型ペイロードの活用など、機能を拡張した次世代ADCの開発が進んでいる。これらの新規ADCはまだ早期開発段階にあるものの、バイオマーカーの確立と臨床的有用性の検証が進めば、より精緻な個別化治療の実現が期待される。 最後に清水氏は、ADCとICIの併用療法は大きな可能性を有する一方で、その成功には分子設計、薬物動態、免疫学的作用、臨床戦略を統合的に理解することが不可欠となることを強調した。加えて、適切な薬剤選択や投与タイミングの最適化、さらには構造の改良による安全性と有効性の向上が、今後の治療成績を左右すると締めくくった。肺がん領域における二重特異性抗体の最前線 ICIの登場により、肺がん、とくに非小細胞肺がんの治療成績は大きく向上した。しかし、すべての患者さんに十分な効果が得られるわけではなく、新たな治療戦略の開発が求められている。こうした中で、最近は二重特異性抗体が注目されている。吉田 達哉氏(国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科/先端医療科)は、肺がん領域における二重特異性抗体の臨床的展開について、最近の動向を報告した。 二重特異性抗体は、異なる2つの分子を同時に標的とすることを特徴とし、デュアルチェックポイント阻害型とT細胞誘導型(T細胞エンゲージャー)とに大きく分類される。前者は複数の免疫抑制シグナルを同時に阻害することで免疫応答を増強し、後者は腫瘍抗原とT細胞上の分子を橋渡ししてT細胞を直接腫瘍へ誘導・活性化する。造血器腫瘍ではT細胞エンゲージャーの成功例が多く報告されている一方、固形腫瘍である肺がんでは、これらを単独あるいはICIと組み合わせて用いる戦略が活発に検討されている。 肺がん領域では、特定のドライバー変異に関連する受容体を同時に標的とするアプローチや、腫瘍特異的抗原とT細胞を結び付けるT細胞エンゲージャーが臨床開発の段階から実臨床へと移行しつつある。前者は分子標的薬との併用により生存期間の延長が示唆され、後者は小細胞肺がんにおいて化学療法との併用で良好な治療成績が報告されており、新たな標準治療となる可能性がある。 一方で、患者選択の指標として用いられてきたPD-L1発現のみでは、ICIによる治療効果を十分に予測することが難しく、腫瘍変異量、抗原提示細胞や制御性T細胞の分布など、免疫微小環境をより詳細に解析する必要がある。こうした多面的なバイオマーカーの開発が、今後の個別化医療の鍵を握ると吉田氏は指摘する。 また、二重特異性T細胞エンゲージャーは腫瘍内の局所的なT細胞浸潤と免疫チェックポイント分子の発現を誘導し、ICI併用の有効性を示唆する一方で、抗原喪失などの免疫逃避が課題となる。 現在、T細胞エンゲージャーとICIの併用を検証する後期臨床試験が進行中であり、最適な併用方法や投与タイミングの確立が期待されているという。肺がん治療は、免疫療法のさらなる進展により新たな段階へと移行しつつあると、吉田氏は講演をまとめた。ICIとネオ抗原ワクチンの併用療法 近年、感染症領域におけるmRNAワクチンの成功を契機として、個別化がんワクチンの開発が大きく加速している。北野 滋久氏(がん研究会有明病院 先端医療開発科/がん免疫治療開発部)は、免疫学の観点からICIとネオ抗原ワクチンとの併用療法について概説した。 従来のがん抗原は自己由来成分に近く、十分な免疫応答を誘導できないことが多く、ワクチン療法としての成功例は限られてきた。これに対し、ネオ抗原は腫瘍細胞に特異的に生じた遺伝子変異に由来する新規タンパク質断片であり、後天的に獲得されるため免疫寛容の影響を受けにくく、高い免疫原性を持つ可能性がある。 ネオ抗原は、がん細胞内で産生された変異タンパク質が分解され、ヒト白血球抗原(HLA)に提示されることでT細胞に認識される。主にクラスIではCD8陽性T細胞、クラスIIではCD4陽性T細胞を活性化する。この過程には個人ごとのHLA型や遺伝子変異の違いが大きく影響するため、治療には患者さんごとの個別化が不可欠となる。近年では、DNAおよびRNAのシーケンシングと計算アルゴリズムを組み合わせることで、有望なネオ抗原候補を予測する技術が進歩し、個別化ワクチン開発が現実味を帯びてきた。 ワクチンにはペプチド、mRNA、DNA、ウイルスベクターなど多様な種類があり、とくにmRNAワクチンは柔軟性と開発の速さから注目されている。早期臨床試験ではネオ抗原特異的な免疫応答が確認され、ICIとの併用により抗腫瘍効果の向上が期待される。免疫応答は主にCD8陽性T細胞が担い、CD4陽性T細胞も補助的に関与する。安全性については、腫瘍特異的標的であるため理論上重篤な副作用はほとんどないと考えられる。 さらに、従来は注目されていなかったイントロンを含む非コード領域(いわゆるダークゲノム)や、スプライシング異常に由来するネオ抗原の存在も明らかになりつつあり、抗原候補の幅が大きく広がっている。全ゲノム解析を活用することで、これまで見逃されていた免疫標的の同定が進み、新たな治療戦略につながる可能性がある。 北野氏は、こうした科学的進展に加え、産学連携や国家レベルの研究基盤整備も進展しており、個別化ネオ抗原ワクチンと免疫療法の統合的アプローチは、がん治療の新たな柱として実用化に向けた期待が高まっていることを強調した。

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EGFR exon20挿入変異陽性進行NSCLCの初回治療、経口sunvozertinibが有効(WU-KONG28)/NEJM

 EGFR exon20挿入変異陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)の初回治療として、sunvozertinibはプラチナベースの化学療法よりも有効性に優れることが示された。中国・Shanghai East HospitalのCaicun Zhou氏らWU-KONG28 Investigatorsが、15ヵ国154施設で被験者を募り実施した海外第III相無作為化試験の結果を報告した。sunvozertinibは、WU-KONG1B試験およびWU-KONG6試験の結果に基づき、米国および中国で、既治療のEGFR exon20挿入変異陽性の進行NSCLC患者に対する治療薬として迅速承認された経口薬。早期相の試験において、初回治療の選択薬としてもベネフィットをもたらす可能性が示唆され、有効性および安全性の検証が求められていた。NEJM誌オンライン版2026年5月29日号掲載の報告。主要評価項目はPFS 研究グループは、EGFR exon20挿入変異陽性の進行非扁平上皮NSCLC患者を、sunvozertinib群または化学療法群(カルボプラチン+ペメトレキセド)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。ベースラインの脳転移の有無で層別化した。 sunvozertinib群の患者には、プロトコールで定義した病勢進行またはその他の投与中止基準に該当するまで、sunvozertinibが1日1回300mg経口投与された。化学療法群の患者は、治験担当医師の判断で最長4または6サイクルのカルボプラチン(AUC5)+ペメトレキセド(500mg/m2)投与を受け、その後に病勢進行またはその他の投与中止基準に該当するまでペメトレキセドの投与を受けた。化学療法は3週ごとの静脈内投与とした。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)であった。化学療法群は、病勢進行確認後にsunvozertinibへのクロスオーバーが許容された。 副次評価項目は、全生存期間(OS)、治験担当医師評価のPFS、奏効率(ORR)、腫瘍径の変化、奏効期間(DOR)などとした。化学療法群よりも、PFSが有意に延長 2022年12月~2025年5月に449例がスクリーニングされ、324例が無作為化された(sunvozertinib群163例、化学療法群161例)。両群の人口統計学的および臨床的な特性は、sunvozertinib群で男性が多く、ベースラインで腫瘍病変を認める臓器数が4つ以上の患者が多かったことを除き、バランスが取れていた。被験者のうち約31%が、北米(米国、カナダ)または欧州からの登録であった。 sunvozertinib群では化学療法群よりも、PFSが有意に延長した(PFS中央値:10.3ヵ月vs.7.5ヵ月、病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.50~0.85、p<0.001)。 12ヵ月PFS率は、sunvozertinib群46.1%、化学療法群26.7%であった。OSのデータは未成熟であった(成熟度38.9%)。ORRは、sunvozertinib群58.9%、化学療法群31.1%。腫瘍径の最良変化率中央値はそれぞれ-42.1%と-24.7%、DOR中央値は11.2ヵ月と7.1ヵ月であった。 Grade3以上の有害事象は、sunvozertinib群75.5%、化学療法群56.7%の患者で報告された。sunvozertinib群で多くみられたGrade3以上の有害事象は、血清クレアチンキナーゼ値上昇、下痢、貧血であった。治験担当医師がsunvozertinibに関連すると判定した死亡例はなかった。

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EGFR遺伝子変異陽性肺がんの耐性機序と新規治療から見た今後の展望/日本臨床腫瘍学会

 EGFR遺伝子変異陽性肺がんの治療は、分子標的薬の登場によって大きく進歩してきた。一方で、治療経過で生じる薬剤耐性、EGFRエクソン20挿入変異やHER2変異をはじめとするuncommon変異への対応、さらに治療シークエンスや併用療法に伴う有害事象の管理など、なお多くの課題が残されている。 2026年3月26〜28日に開催された第23回日本臨床腫瘍学会学術集会のシンポジウム「EGFR遺伝子変異陽性肺癌の治療課題と新規治療の展望」では、EGFR変異陽性肺がん診療が直面する近年の課題を踏まえ、その解決に向けた最新のエビデンスや治療戦略について幅広い議論が交わされた。EGFR変異陽性肺がんの耐性機序と後治療開発 James Chih-Hsin Yang氏(台湾・国立台湾大学)は、EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)における一次治療後の耐性機序に着目し、第3世代EGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるオシメルチニブ単剤、オシメルチニブ+化学療法、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体であるアミバンタマブ+第3世代EGFR-TKIであるラゼルチニブでは、耐性化のパターンが異なることを示した。とくに、オシメルチニブによる治療ではMET増幅が重要な耐性機序となる一方、METも同時に抑制するアミバンタマブ併用では、その出現頻度が低い傾向が示された。初回治療の選択が、その後の腫瘍進化の方向性を規定しうる点は重要な示唆といえる。 また、MET関連耐性に対する治療戦略として、バイオマーカーに基づく症例選択の重要性を強調した。オシメルチニブによる一次治療後に病勢進行したEGFR変異陽性でMET過剰発現かつ/またはMET増幅を有するNSCLC患者を対象に、オシメルチニブ+新規MET阻害薬の併用療法を評価した国際共同第II相試験「SAVANNAH試験」では、MET過剰発現またはMET増幅を基準とした患者選択により、一定の奏効率と奏効期間が得られたことから、今後の第III相試験の結果が注目されるとした1)。 さらに、既治療EGFR変異陽性NSCLC患者に対する後治療として、抗TROP2抗体薬物複合体やPD-1/VEGF二重特異性抗体など、複数の新規薬剤の開発状況を紹介した。その中で、EGFRエクソン20挿入変異やその他の希少EGFR変異を標的とする低分子薬の開発も進んでいるが、薬剤ごとに活性に差があり、EGFR野生型への作用に伴う有害事象が治療強度を制限しうる点が課題として挙げられた。加えて、EGFRを分解させる抗体や、がん細胞に毒素を送達する抗体ベースの治療も有望視される一方、副作用への十分な配慮が必要だとした。Yang氏は、「EGFR変異陽性肺がんにおける二重標的治療やPD-1/PD-L1阻害薬の位置付けについても、なお活発な検討が続いている」とまとめた。EGFR変異陽性肺がんにおけるアミバンタマブの位置付け Byoung Chul Cho氏(韓国・延世がんセンター/延世大学医学部)は、アミバンタマブの臨床的意義を最新データとともに総括した。まず、本剤はEGFRとMETを同時に標的とするだけでなく、抗体依存性細胞傷害(ADCC)や抗体依存性細胞貪食(ADCP)といった免疫学的作用も有する点を特徴として挙げた。このような作用により、単なるシグナル阻害にとどまらず、腫瘍微小環境にも働きかけうることが長期にわたる有効性の背景にあるとの見方を示した。 MARIPOSA試験については、一次治療におけるアミバンタマブ+ラゼルチニブが、無増悪生存期間(PFS)だけでなく全生存期間(OS)も改善した点を強調した2)。また、アジア人集団においても一貫したOSの改善が見られたことを重視し、EGFR変異陽性肺がんにおいてアジアは単なるサブセットではなく、世界的な中心集団として捉えることも可能かもしれないと論じた。さらに、本試験は脳MRIを全例で継続的に評価した唯一の第III相試験であり、頭蓋内PFSや頭蓋内奏効期間の持続性という観点からも高く評価できるとした。 加えて、アミバンタマブ併用ではMET増幅や二次EGFR変異が減少し、耐性機序の複雑化そのものを抑制しうることを示した。Cho氏は、「アミバンタマブベースの二次治療の有用性を評価した複数の臨床試験成績を踏まえると、こうした治療はcommon変異、EGFRエクソン20挿入変異、atypical変異にわたり幅広い有効性が示唆され、EGFR変異陽性NSCLC全体の治療を変える基盤となりうる」と述べた。EGFRエクソン20挿入変異とuncommon変異に挑む新規治療開発 EGFRエクソン20挿入変異は、EGFR変異の中で3番目に多いサブタイプでありながら、従来のEGFR-TKIの効果が乏しいことが課題となっている。宇田川 響氏(国立がん研究センター東病院)は、その分子構造的背景としてP-loopやαC-helixの位置変化により薬剤結合ポケットが狭くなり、TKIの結合が妨げられていることを解説した。 こうした課題に対し、EGFRエクソン20挿入変異に高い選択性を有する新規TKIの開発が進んでいる。前臨床試験では複数の薬剤が有望視されており、臨床試験でも一定の奏効率と奏効期間が報告されていることから、今後の第III相試験の結果に期待が寄せられるとした。 さらに、G719X、S768I、L861Qなどのuncommon変異については、PACC(P-loop αC-helix compressing)変異という構造分類の考え方が紹介された。これらに対しては第2世代EGFR-TKIであるアファチニブが標準治療とされる一方、変異ごとの立体構造に応じて薬剤感受性が異なるため、今後はより広い変異スペクトラムに対応した次世代TKIの開発が重要になるとの見解を示した。融合遺伝子、多ドライバー化で生じるTKI耐性の克服に向けて 小林 祥久氏(国立がん研究センター研究所)は、EGFR-TKI耐性克服に向けた基礎研究を取り上げた。CRISPRゲノム編集技術を用いてEGFR変異細胞にKRAS変異やALK、RET、BRAF、FGFR3融合を導入し、耐性化を人工的に再現することで併用療法の最適化を検討したところ、BRAF融合モデルではBRAF阻害薬よりもMEK阻害薬であるトラメチニブの併用が有効であり、この知見が実臨床への応用にもつながった経緯が紹介された。 一方で、がんは併用療法に対してもさらに耐性を獲得しうる。RET融合モデルではRET G810S変異やRET融合増幅、FGFR3融合モデルではKRAS点突然変異など、多様な二次耐性の出現が認められたという。小林氏は、「単一ドライバーではなく、複数の腫瘍ドライバーが同時に存在する“多ドライバー腫瘍”という視点は、今後の耐性克服戦略においてきわめて重要である」と述べた。

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ALK-TKI既治療のALK陽性進行NSCLCに新規ALK-TKIのneladalkibが有望(ALKOVE-1)/ASCO2026

 既治療の進行ALK陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、新たなALK-TKIのneladalkibが、有望な抗腫瘍効果と忍容性を示した。同剤は同時に頭蓋内病変やALK G1202R耐性変異例に対しても良好な奏効を示している。neladalkibの第I/II相試験であるALKOVE-1のNSCLCコホートの初回解析結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(2026 ASCO Annual Meeting)において、Jessica J. Lin氏(米国・Mass General Brigham Cancer Institute)が発表した。 TRKは、ヒトの神経系の発達、痛み、記憶などの調節に重要な役割を果たしている。多くのALK阻害薬はTRKファミリーも阻害してしまう。これが同薬によるCNS系の副作用の原因とされる1)。neladalkibはALKを阻害しつつ正常なTRKの阻害を避けるように設計されたTKIである2)。さらに良好な脳移行性を有し、G1202Rを含むALK獲得耐性にも対応する。 ALKOVE-1試験は、ALK陽性進行がんを対象にneladalkibの有効性・安全性を検討する国際共同第I/II相試験である。今回の発表では第II相試験の中からALK-TKI既治療のALK陽性NSCLCの初回解析結果が発表された。・対象:既治療の進行ALK融合遺伝子陽性NSCLC・介入:neladalkib 150mg/日・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)による客観的奏効割合(ORR)[副次評価項目]奏効期間(DOR)、奏効までの期間、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間、頭蓋内活性、安全性および忍容性など 主な結果は以下のとおり。・ALKOVE-1登録781例中、neladalkibを投与されたALK陽性NSCLCは656例(安全性評価集団)、ALK-TKI既治療のALK陽性NSCLCは253例(有効性評価集団)であった。・患者の年齢中央値は56歳、80%が欧米人(欧州40%、北米40%、アジア20%)、CNS転移ありが40%、前治療ライン数中央値は3、ALK G1202R耐性変異は19%であった・追跡期間中央値11.3ヵ月における全体のORRは31%、ロルラチニブ治療なし群は46%、ロルラチニブ治療あり群は26%であった。・12ヵ月DOR割合は全体で64%、ロルラチニブ治療なし群は80%、ロルラチニブ治療あり群は54%であった。・PFS中央値は全体で5.7ヵ月、ロルラチニブ治療なし群は14.5ヵ月、ロルラチニブ治療あり群は4.6ヵ月。1年PFS割合は全体で33%、ロルラチニブ治療なし群は53%、ロルラチニブ治療あり群は26%であった。・頭蓋内ORRは全体で32%、ロルラチニブ治療なし群は63%、ロルラチニブ治療あり群は21%であった。・12ヵ月頭蓋内DOR割合は全体で71%、ロルラチニブ治療なし群は92%、ロルラチニブ治療あり群は55%だった。・ALK G1202R変異陽性患者におけるORRは全体で68%、ロルラチニブ治療なし群は83%、ロルラチニブ治療あり群は63%であった。・ALK G1202R変異陽性患者における12ヵ月DOR割合は全体で80%、ロルラチニブ治療なし群は77%、ロルラチニブ治療あり群は81%であった。・頻度の高い試験治療下における有害事象(TEAE)はALT上昇(全Grade47%、Grade3以上20%)、AST上昇(全Grade44%、Grade3以上16%)、便秘、味覚異常などであった。用量減量に至ったTEAEは17%、治療中止に至ったTEAEは5%であった。 ALKOVE-1試験の有望な有効性および安全性データに基づき、1次治療を対象とした国際共同無作為化第III相臨床試験ALKAZAR試験(NCT06765109)が進行中である。

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ALK陽性NSCLC、術前ロルラチニブでpCR 46.9%(LORIN)/ASCO2026

 ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)において、StageIB~IIIAに対する術後アレクチニブの有効性が示されている。一方、局所進行例や切除不能StageIIIに対する周術期治療のエビデンスは限定的である。第3世代ALKチロシンキナーゼ阻害薬のロルラチニブは、ALK融合遺伝子陽性の進行NSCLCで高い有効性を示しており、術前治療としての有用性も注目される。 そこで、Chao Zhang氏(中国・Guangdong Lung Cancer Institute)らの研究グループは、ALK融合遺伝子陽性のStageIII NSCLCに対する術前ロルラチニブの有効性と安全性を検討する海外第II相試験「LORIN試験」を実施した。その結果、術前ロルラチニブは高い病理学的奏効率(MPR)を示し、切除不能StageIII患者のうち75%でコンバージョン手術が可能となった。本結果は、米国臨床腫瘍学会年次総会(2026 ASCO Annual Meeting)で発表された。・試験デザイン:海外第II相単群試験(中国3施設で実施)・対象:未治療のALK融合遺伝子陽性のStageIII NSCLC患者で、potentially resectableまたは切除不能の患者43例(potentially resectable 19例、切除不能24例)・治療方法:ロルラチニブ100mg 1日1回を3サイクル(12週間)→手術または化学放射線療法などの局所治療→ロルラチニブ100mg 1日1回を最長2年間・評価項目:[主要評価項目]病理学的完全奏効率(pCR)[副次評価項目]MPR、奏効率(ORR)、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・年齢中央値は52歳で、男性の割合は27.9%であった。StageIIIAが37.2%、IIIBが51.2%、IIICが11.6%であった。・43例中32例が手術を受けた。potentially resectable群では74%が手術を受け、切除不能群では75%がコンバージョン手術を受けた。・病理学的奏効は、手術を受けた32例で評価された。pCRは46.9%に認められ、主要評価項目を達成した。MPRは81.3%であった。・potentially resectable群と切除不能群に分けると、pCR/MPRはpotentially resectable群50%/86%、切除不能群44%/78%であった。・MPRが得られた集団では、非MPR集団と比較して、腫瘍組織におけるPD-L1発現の中央値が高かった(MPR/pCR集団25%、非MPR集団1%、p<0.01)。・画像評価による術前治療後のORRは84%(すべてPR)であった。・追跡期間中央値13ヵ月時点において、局所再発が3例に認められたが、遠隔転移は認められなかった。・1年EFS率は97.1%であり、OSイベントは認められなかった。・術前治療期におけるGrade3/4の治療関連有害事象(TRAE)は23%に発現した。減量に至ったTRAEは16%、中止に至ったTRAEは2%に認められた。・術後または地固め療法期におけるGrade3/4のTRAEは21%に発現した。減量に至ったTRAEは24%、治療変更に至ったTRAEは12%に認められた。治療変更例はいずれもアレクチニブへ変更された。

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完全切除NSCLCへのニボルマブ、DFSを改善せず(EA5142/ALCHEMIST)/JAMA

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)の治療では、抗PD-1抗体ニボルマブによる術前および周術期(術前・術後)の補助療法は無イベント生存期間(EFS)を改善することが知られているが、初回手術後の補助療法におけるニボルマブの役割は明らかにされていない。米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのJamie E. Chaft氏らは「ECOG-ACRIN EA5142試験」において、切除術を受けたNSCLC患者に補助化学療法または放射線療法(あるいは両方)を行った後にニボルマブを投与したところ、無病生存期間(DFS)は改善しなかったと報告した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年6月1日号に掲載された。米国の無作為化第III相試験 ECOG-ACRIN EA5142試験は、全米臨床試験ネットワーク(NCTN)に加盟する378施設で実施した非盲検無作為化第III相試験(米国国立がん研究所の助成を受けた)。2016年5月~2019年9月に参加者を登録した。 対象は、切除腫瘍径4cm以上またはリンパ節転移陽性(N1/N2)、あるいはこれら両方の要件を満たし、予定された標準的な術後補助療法(化学療法または放射線療法、あるいはこれら両方)を完了した腺がん(EGFRおよびALKに感受性変異がない)または扁平上皮がんの患者であった。 被験者を、ニボルマブ(480mg、4週ごと、最長1年間)を静脈内投与する群、または標準治療で経過観察を行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要複合評価項目は、ITT集団およびPD-L1を発現した腫瘍の割合が50%以上の患者集団におけるDFS(無作為化から再発、新規肺がん、全死因死亡のいずれかが発生するまでの期間)とした。 本試験は、75%のデータが収集された時点で、中間解析の結果に基づき無効中止となった。全生存期間にも差はない 935例を登録し、ニボルマブ群に466例(年齢中央値66歳、男性241例[52%])、経過観察群に469例(67歳、245例[52%])を割り付けた。 追跡期間中央値72.6ヵ月(範囲:0.03~109)の時点でのITT集団におけるDFS中央値は、ニボルマブ群が71.3ヵ月、経過観察群は68.8ヵ月であり、両群間に有意差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.97[97%信頼区間[CI]:0.79~1.20、95%CI:0.81~1.17]、片側p=0.39)。 また、同時点での腫瘍の50%以上にPD-L1の発現がみられる患者におけるDFS中央値は、ニボルマブ群が89.8ヵ月、経過観察群は78.5ヵ月だった(HR:0.86[98%CI:0.55~1.34、95%CI:0.59~1.25]、片側p=0.22)。 全生存期間中央値は、ITT集団ではニボルマブ群が95.9ヵ月、経過観察群は未到達であり(HR:1.02、95%CI:0.82~1.26)、腫瘍の50%以上にPD-L1の発現がみられる患者ではそれぞれ95.9ヵ月および未到達であった(HR:0.82、95%CI:0.53~1.28)。25%でGrade3~5のニボルマブ関連有害事象、術後補助ICI療法の有益性に疑問 ニボルマブに関連するGrade3~5の有害事象は116例(25%)で報告された。内訳は、Grade3が103例(22%)、Grade4が11例(2%)、Grade5が2例(1%未満)であった。 Grade5の2例は、いずれも呼吸器系のものであった。1例は肺切除術および術後補助化学療法を受けた患者で、もう1例は術後放射線療法から4週間未満で無作為化が行われたため、後に不適格とみなされた患者であった。 著者は、「両群ともDFSの目標値(54ヵ月)を上回ったが、これは術前病期分類の改正、あるいは登録前に再発した高リスク例の除外を含むその他の患者選択基準を反映している可能性がある」としている。 また、「先行研究におけるデュルバルマブ(抗PD-L1抗体)による術後補助療法に関する否定的な結果や、ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)およびアテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)の術後補助療法で観察された一貫性のない結果を踏まえると、本研究の結果は、NSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬による術後補助療法の有益性について疑問を投げかけるものである」と指摘している。

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ivonescimab、進行扁平上皮NSCLCの1次治療でOSも延長(HARMONi-6)/Lancet

 未治療の進行扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、ivonescimab+化学療法はチスレリズマブ+化学療法と比較して全生存期間(OS)を有意に延長したことが、中国・上海交通大学のShun Lu氏らが同国の50施設で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験「HARMONi-6試験」の事前規定の中間解析の結果で示された。HARMONi-6試験に関してはこれまでに、ivonescimab+化学療法がチスレリズマブ+化学療法と比較し、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を有意に延長したことが報告されていた(ジャーナル四天王「進行扁平上皮NSCLCの1次治療、ivonescimab併用がICI併用と比較しPFS改善(HARMONi-6)/Lancet」)。Lancet誌オンライン版2026年5月31日号掲載の報告。ivonescimab vs.チスレリズマブで、OSの中間解析を実施 HARMONi-6試験の対象は、年齢18~75歳、病理学的に確認された切除不能なStageIIIB/IIICまたはStageIVの扁平上皮NSCLCで、全身療法の治療歴がなく、ECOG PSが0または1の患者である。 研究グループは適格患者を、ivonescimab+化学療法群(ivonescimab群)またはチスレリズマブ+化学療法群(チスレリズマブ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化の層別因子は、臨床病期(StageIIIB/IIIC期vs.IV期)およびPD-L1発現(TPS≧1%vs.<1%)であった。 ivonescimab群ではivonescimab 20mg/kg、チスレリズマブ群ではチスレリズマブ200mgに加えて、いずれもカルボプラチン(AUC 5mg/mL/分)およびパクリタキセル(175mg/m2)を3週ごとに4サイクル静脈内投与し、その後維持療法として同用量のivonescimabまたはチスレリズマブを3週ごとに投与した。治療期間は最長24ヵ月、または試験責任医師の判断による臨床効果の消失、許容できない毒性の発現のいずれか早い時点までとした。 主要評価項目は、独立画像判定委員会(IRRC)の評価によるRECIST ver.1.1に基づくPFSであり、重要な副次評価項目がOSであった。有効性の解析対象集団は無作為化されたすべての患者、安全性の解析対象集団は無作為化され試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者とした。 重要な副次評価項目であるOSについては、中間解析1回および最終解析を行うこととされ、中間解析はOSイベントが約225件観察された時点で計画されていたが、規制当局の期限に合わせ204件に達した時点で実施された。したがって、中間解析の有意水準は片側0.0049であった。OS中央値はivonescimab群27.9ヵ月、チスレリズマブ群23.7ヵ月 2023年8月17日~2025年1月21日に761例がスクリーニングされ、適格基準を満たした532例が無作為化された(各群266例)。患者背景は、年齢中央値64歳(四分位範囲[IQR]:59~69)、男性494例(93%)、女性38例(7%)であった。 データカットオフ日の2026年2月27日時点(追跡期間中央値21.4ヵ月、95%信頼区間[CI]:20.27~21.91)で、204例の死亡が確認された。ivonescimab群が84例(32%)、チスレリズマブ群が120例(45%)であった。 OS中央値は、ivonescimab群27.9ヵ月(95%CI:27.89~評価不能[NE])、チスレリズマブ群23.7ヵ月(95%CI:20.11~NE)であり、死亡のハザード比は0.66(95%CI:0.50~0.87、片側p=0.0017)で、事前に規定された有意水準を満たした。 ivonescimab群のOS延長効果は、事前に規定されたサブグループ解析でもほぼ一貫していた。 Grade3以上の治療関連有害事象は、ivonescimab群で266例中184例(69%)、チスレリズマブ群で265例中156例(59%)に発現した。Grade3以上の治療関連出血は、それぞれ7例(3%)および2例(1%)に認められた。

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第65回 「禁煙したら電子タバコ?」その選択が肺がんリスクを高めるかもしれない理由

「タバコをやめたいけれど、いきなりは難しい。だったら電子タバコに切り替えれば安心なのでは?」そう考える方は少なくないでしょう。電子タバコは燃焼を伴わないため、紙巻きタバコより害が少ないと宣伝され、一部の国では禁煙補助具としても用いられてきました。しかし、本当に「より安全な選択肢」と言い切れるのでしょうか。今回ご紹介する論文は、韓国の国民健康保険データを用いて約450万人の喫煙経験者を追跡し、禁煙後の電子タバコ使用と肺がんリスクとの関連を検証した、世界最大規模の研究です。450万人を追跡した大規模研究の方法研究は、2018年に韓国の国民健康診断を受け、2012〜14年の記録が残る喫煙経験のある成人約452万人を対象としました。喫煙状況は「現在喫煙者」「短期禁煙者(最近4〜6年以内に禁煙した人)」「長期禁煙者(少なくとも4〜6年以上前から禁煙していた人)」に分類され、電子タバコの「毎日使用」が禁煙後の電子タバコ使用と定義されています。追跡は2023年末まで続き、累計2,418万人・年の観察期間で3万5,887件の肺がん発症と1万2,807件の肺がん死亡が記録されました。年齢・性別・累積喫煙量(パックイヤー)・併存疾患などを調整したうえで、群間のリスクが比較されています。「禁煙したあと電子タバコ」のリスクは想像以上結果は、なかなか衝撃的なものでした。電子タバコも含めて完全に禁煙した群と比較し、禁煙後に電子タバコを使い続けた群では、肺がん発症リスクが56%増加(調整ハザード比[aHR]:1.56、95%信頼区間[CI]:1.24~1.97)、肺がん死亡リスクは2倍に高まっていました(aHR:2.00、95%CI:1.28~3.15)。短期禁煙者でも長期禁煙者でも傾向は一致しており、年齢50〜80歳・喫煙20パックイヤー以上の「肺がん検診対象のハイリスク群」では、肺がん発症が約1.9倍、肺がん死亡も約1.9倍と、より顕著でした。一方で、現在喫煙者と比較すれば、禁煙後の電子タバコ使用者でも総死亡リスクは有意に低下していました(aHR:0.77)。つまり、「紙巻きタバコをやめる」こと自体のメリットは完全には消えませんが、「電子タバコを続けてしまうと、せっかくの禁煙による肺がん予防効果がかなり目減りしてしまう」と読み解けるのです。電子タバコのエアロゾルにはホルムアルデヒドや有害金属が含まれ、動物実験ではDNAメチル化変化や肺腺がん発生も報告されており、生物学的にも筋の通った結果といえます。私たちが受け取るべきメッセージ本研究は観察研究であり、因果関係を断定するものではありません。電子タバコの種類や使用期間の詳細、加熱式タバコとの区別、追跡期間の短さなどの限界も率直に述べられています。それでも、450万人という大規模で、これだけ一貫した傾向が示された意味は重いと感じます。日本でも電子タバコや加熱式タバコの使用が広がっています。「やめる代わりに切り替える」という選択は、短期的には吸い込む有害物質の総量を減らすかもしれませんが、肺がん予防という長期的な観点では、完全な禁煙には及ばない可能性が高そうです。禁煙外来やニコチン置換療法といった、医学的に検証された禁煙手段にしっかりとアクセスさせること。そして、いったん禁煙したら電子タバコにも手を出させないこと。地味ですが、こうした選択を患者さんにしてもらう努力が、肺がんを減らす最も確からしい道だと、本論文は私たちに教えてくれています。 1) Kim YW, et al. Electronic cigarette use after smoking cessation and lung cancer risk. Nat Med. 2026 Jun 8. [Epub ahead of print]

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