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高齢者機能評価は負担ばかりで利益がない!? 【高齢者がん治療 虎の巻】第4回

<今回のPoint>GAは、入退院支援加算+総合機能評価加算の枠組みで診療報酬に組み込める多職種連携を広げることでほかの加算と組み合わせが可能診療報酬は、GAを評価・活用し“行動につなげる”ことではじめて得られる―診療報酬という視点から考えるGAの価値―高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)に関する講演をすると、毎回のように次の質問をいただきます。「どれくらい時間がかかるのか?」「誰が、いつ行うべきか?」「評価結果をどう活かすのか?」そして―「診療報酬になるのか?」GAを実施していない施設では、「たとえ評価表への記載だけなら数分で終了します」と言われても、結果の評価・記録・共有・多職種連携のすべてが現場にとって“負担増”に見えるのが現実です。そのため、「もし診療報酬で評価されるなら…」と考えるのは自然なことかもしれません。今回は、GAがどのように診療報酬上の加算として位置付けられるか、実例を交えて私見をご紹介します。GA評価の基本は「入退院支援加算+総合機能評価加算」令和6年度診療報酬改定1)では、GAとの親和性が高い以下の加算が整理されています。●入退院支援加算・入院時支援加算・入退院支援加算1(700点)「退院困難な要因(悪性腫瘍含む)を有する入院中の患者であって、在宅での療養を希望するもの」に対して入退院支援を行った場合。・入院時支援加算1(240点)/ 入院時支援加算2(200点)入院前に患者の栄養状態・併用薬などを確認し、療養支援計画書を作成した場合。これらは、すでに多くの急性期病院で標準的に運用されている加算です。さらにこれらの加算に追加してGAを行うことで、以下の算定が可能です。・総合機能評価加算(50点)65歳以上、もしくは40~64歳の悪性腫瘍の患者に対し「身体機能や退院後に必要となりうる介護サービス等について総合的に評価を行った上で、当該評価の結果を入院中の診療や適切な退院支援に活用する」場合この加算の要件としては、GAで得られた情報を患者および家族に説明し、診療録に記載する必要がありますが、日常的にGAを導入している施設では、すでにこれらを満たす体制が整っていることが多いはずです。「たった50点」で終わらせない多職種連携ここで、「50点だけ?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際にはGAを起点に多職種の支援に展開することで、ほかの加算の可能性も大きく広がります。たとえば、日本老年医学会のCGA72)では、評価で「否」と答えた項目に対して、次のアクションが提示されており、評価から介入への流れが可視化されています(表1)。GAという“点”を多職種につなげて“線”にすることで、より価値が出る、ということですね。(表1)画像を拡大する症例で考える:実際にどこまで加算できるか?第1、2回提示の症例をもとに、加算の可能性を検討してみます。<症例>(第1回、第2回と同じ患者)88歳、女性。進行肺がんと診断され、本人は『できることがあるなら治療したい』と希望。既往に高血圧、糖尿病、軽度の認知機能低下があり、PSは1〜2。診察には娘が同席し、『年齢的にも無理はさせたくない。でも本人が治療を望んでいるなら…』と戸惑いを見せる。遺伝子変異検査ではドライバー変異なし、PD-L1発現25%。告知後、看護師が待合でG8(Geriatric8)を実施したところ、スコアは10.5点(失点項目:年齢、併用薬数、外出の制限など)。改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)は20点で認知症の可能性あり。多職種カンファレンスでは、免疫チェックポイント阻害薬の単剤投与を提案。薬剤師には併用薬の整理を、MSWには家庭環境の支援を依頼し、チームで治療準備を整えることとした。(表2)画像を拡大する表2を踏まえ、本症例で実際に見込める加算「入退院支援加算」+「入院時支援加算」+「総合機能評価加算」GAの結果をもとに入院診療計画書・療養計画書を作成する→計950~990点 上記を基本とし、GAM(GA guided management)として多職種連携することで、本症例は下記について追加で算定できる可能性があります。 多職種カンファレンスを実施し意思決定支援等を行う→「がん患者指導管理料 (イ) 500点」 薬剤師に併用薬の整理を依頼→「薬剤総合評価調整加算 100点」(退院時1回)および「薬剤調整加算 150点」 外出の制限がありリハビリテーション依頼→「がん患者リハビリテーション料(1単位)205点」 G8の点数が低く、栄養状態に脆弱性あり→「栄養食事指導料1 260点」合計:2,165~2,205点いかがでしょうか。単体の50点加算にとどまらず、GA結果を起点にGAMを展開すれば、複数の加算を組み合わせることが可能です。総合機能評価加算は入退院支援加算への追加であり、その内容が入院もしくは退院支援に使用されることが必要です。よって、少なくとも関係学会でのガイドラインに則して評価ツールが利用され、その結果に応じた対応をすることで入院中もしくは退院後の生活支援につながることが期待されています。重要なのは、「GAを実施して記録した」だけでは加算にはならないということです。なお、診療報酬の算定については施設によって要件が異なることをご理解いただくとともに、各評価の算定要件は必ずご確認のうえ運用ください 。1)厚生労働省:令和6年度診療報酬改定について 2)日本老年医学会:高齢者診療におけるお役立ちツール 講師紹介

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EGFR陽性NSCLCへのオシメルチニブ+化学療法、日本人でもOS良好(FLAURA2)/日本肺癌学会

 国際共同第III相無作為化比較試験「FLAURA2試験」において、EGFR遺伝子変異陽性の進行・転移非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療として、オシメルチニブ+化学療法はオシメルチニブ単剤と比較して無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を改善したことが報告されている1)。ただし、本試験のサブグループ解析において、中国人を除くアジア人集団のOSのハザード比(HR)は1.00(95%信頼区間[CI]:0.71~1.40)であったことから、日本人集団の結果が待ち望まれていた。そこで、第66回日本肺癌学会学術集会において、小林 国彦氏(埼玉医科大学国際医療センター)が本試験の結果を報告するとともに、日本人集団のOS解析結果を報告した。また、本報告の追加資料において、日本人集団の患者背景とPFS解析結果も示された。試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験対象:EGFR遺伝子変異陽性(exon19欠失/L858R)でStageIIIB、IIIC、IVの未治療の非扁平上皮NSCLC成人患者557例試験群:オシメルチニブ(80mg/日)+化学療法(ペメトレキセド[500mg/m2]+シスプラチン[75mg/m2]またはカルボプラチン[AUC 5]を3週ごと4サイクル)→オシメルチニブ(80mg/日)+ペメトレキセド(500mg/m2)を3週ごと(併用群、279例)対照群:オシメルチニブ(80mg/日)(単独群、278例)評価項目:[主要評価項目]RECIST 1.1を用いた治験担当医師評価に基づくPFS[副次評価項目]OSなど 既報の主要な結果は以下のとおり。・OS中央値(併用群vs.単独群)47.5ヵ月vs.37.6ヵ月(HR:0.77、95%CI:0.61〜0.96、p=0.02)・2/3/4年OS率(同上)80%/63%/49%vs.72%/51%/41%・PFS中央値(同上)25.5ヵ月vs.16.7ヵ月(HR:0.62、95%CI:0.49〜0.79、p<0.001)・1/2年PFS率(同上)80%/57%vs.66%/41% 日本人集団の解析結果は以下のとおり。・解析対象は併用群47例、単独群47例であった。男性の割合はそれぞれ34%、51%であり、年齢中央値はそれぞれ68歳(範囲:39~83)、65歳(同:33~79)であった。EGFR遺伝子変異の内訳は、exon19欠失変異/L858R変異が、併用群49%/51%、単独群66%/34%であった。・OS中央値は併用群48.3ヵ月、単独群34.3ヵ月であり、日本人集団でも併用群が良好であった(HR:0.60、95%CI:0.36~1.03)。・2年、3年、4年時のOS率は、併用群がそれぞれ85%、65%、52%であり、単独群がそれぞれ65%、41%、33%であった。・PFS中央値は併用群24.8ヵ月、単独群16.4ヵ月であり、日本人集団でも併用群が良好であった(HR:0.49、95%CI:0.28~0.86)。・1年、2年時のPFS率は、併用群がそれぞれ83%、64%であり、単独群がそれぞれ63%、30%であった。

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ROS1陽性NSCLCに対するタレトレクチニブを発売/日本化薬

 日本化薬は「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)」の適応で、厚生労働省より製造販売承認を取得したタレトレクチニブ(商品名:イブトロジー)について、2025年11月12日に発売したことを発表した。タレトレクチニブは、同適応症に対する薬剤として4剤目となる。 ROS1を標的とするチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を用いた治療において、耐性変異としてG2032R変異などが発現することが報告されている。そこで、これらの耐性変異体への活性を有する薬剤の開発が望まれていた。 タレトレクチニブは、ROS1変異体(G2032R、L2026M、L1951Rなど)に対しても阻害活性を有するTKIである。タレトレクチニブの承認は、ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発NSCLCを対象とした2つの第II相試験(TRUST-I試験[中国]およびTRUST-II試験[国際共同])などに基づく。2試験の統合解析1)において、未治療集団および既治療集団の確定奏効率は、それぞれ88.8%、55.8%であった。また、未治療集団および既治療集団の頭蓋内奏効率は、それぞれ76.5%、65.6%であった。 なお、タレトレクチニブのコンパニオン診断としては、AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネルが承認されている。<製品概要>販売名:イブトロジーカプセル200mg一般名:タレトレクチニブアジピン酸塩製造販売承認日:2025年9月19日薬価基準収載日:2025年11月12日効能又は効果:ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌用法及び用量:通常、成人にはタレトレクチニブとして1日1回600mgを空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。薬価:9,711.20円(200mg 1カプセル)製造販売元:日本化薬株式会社

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進行扁平上皮NSCLCの1次治療、ivonescimab併用がICI併用と比較しPFS改善(HARMONi-6)/Lancet

 未治療の進行扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、ivonescimab+化学療法はチスレリズマブ+化学療法と比較して、PD-L1の発現状態を問わず無増悪生存期間(PFS)を有意に改善させ、安全性プロファイルは管理可能なものであった。中国・上海交通大学のZhiwei Chen氏らが、同国50病院で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験「HARMONi-6試験」の結果で示された。扁平上皮NSCLCは非扁平上皮NSCLCと比べて臨床アウトカムが不良で、治療選択肢は限られている。今回の結果を踏まえて著者は、「本レジメンは扁平上皮NSCLC患者集団における1次治療として使用できる可能性がある」とまとめている。Lancet誌2025年11月1日号掲載の報告。臨床病期(IIIB/IIIC期vs.IV期)、PD-L1発現(TPS≧1%vs.<1%)で層別化 HARMONi-6試験では、進行扁平上皮NSCLC患者に対する1次治療として、ivonescimab+化学療法(ivonescimab群)の有効性と安全性をチスレリズマブ+化学療法(チスレリズマブ群)と比較した。対象は、年齢18~75歳、未治療・切除不能な病理組織学的に確認されたStageIIIB/IIICまたはStageIVの扁平上皮NSCLCで、ECOG PSスコア0または1の患者とした。 被験者は、ivonescimab群またはチスレリズマブ群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、ivonescimab(20mg/kg)またはチスレリズマブ(200mg)+パクリタキセル(175mg/m2)およびカルボプラチン(AUC 5mg/mL/分)をいずれも静脈内投与で3週ごとに4サイクル受けた後、維持療法としてivonescimab(20mg/kg)またはチスレリズマブ(200mg)の単独療法を受けた。臨床病期(IIIB/IIIC期vs.IV期)、PD-L1発現(TPS≧1%vs.<1%)によって層別化された。 主要評価項目は、無作為化された全被験者におけるPFS(RECIST v1.1に基づく独立画像判定委員会判定)であった。また、安全性(治療に関連した有害事象および重篤な有害事象ならびに免疫またはVEGF阻害に関連した有害事象と定義)は、割り付け治療の試験薬を少なくとも1回投与された全被験者を対象に解析が行われた。PFS中央値はivonescimab群11.1ヵ月、チスレリズマブ群6.9ヵ月 2023年8月17日~2025年1月21日に761例が適格性についてスクリーニングを受け、532例(70%)が試験に登録・無作為化された(ivonescimab群266例、チスレリズマブ群266例)。ベースライン特性は両群間でバランスが取れており、被験者は、ほとんどが現在または元喫煙者で(92%と86%)、両群ともPD-L1 TPS<1%は39%であった。 データカットオフ日の2025年2月28日時点で、ivonescimab群で162例(61%)、チスレリズマブ群で134例(50%)が割り付け治療を継続していた。追跡期間中央値は10.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.5~11.0)で、PFS中央値は、ivonescimab群11.1ヵ月(95%CI:9.9~評価不能)、チスレリズマブ群6.9ヵ月(5.8~8.6)であった(ハザード比[HR]:0.60、95%CI:0.46~0.78、片側p<0.0001)。ivonescimab群のPFS改善、PD-L1発現状態にかかわらず ivonescimab群におけるPFSベネフィットは、PD-L1の発現状態にかかわらず一貫して認められた(TPS≧1%群のHR:0.66[95%CI:0.46~0.95]、<1%群:0.55[0.37~0.82])。 ivonescimab群で170例(64%)、チスレリズマブ群で144例(54%)にGrade3以上の治療関連有害事象が認められ、ivonescimab群で24例(9%)、チスレリズマブ群で27例(10%)にGrade3以上の免疫関連有害事象が認められた。Grade3以上の治療関連出血は、ivonescimab群で5例(2%)、チスレリズマブ群で2例(1%)に認められた。

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HER2変異陽性NSCLCに対するゾンゲルチニブを発売/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムは「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)」の適応で、厚生労働省より製造販売承認を取得したゾンゲルチニブ(商品名:ヘルネクシオス)を2025年11月12日に発売した。ゾンゲルチニブは、同適応症に対する分子標的薬として、国内初の経口薬となる。 HER2遺伝子変異は、NSCLC患者の約2~4%に認められるとされており、非喫煙者や女性、腺がんで多くみられる。また、HER2遺伝子変異陽性のNSCLCは予後不良であり、脳転移のリスクも高いことが知られている。 ゾンゲルチニブは、野生型EGFRを阻害せず、HER2のチロシンキナーゼドメイン以外の変異(HER2 exon20挿入変異など)を含む広範なHER2変異体に対して阻害活性を有するHER2選択的チロシンキナーゼ阻害薬である。また、共有結合型の不可逆的な結合様式を有する。 ゾンゲルチニブの承認の根拠となった国際共同第I相非盲検用量漸増試験「Beamion LUNG-1試験」1)では、既治療のNSCLC患者における奏効率は71%(完全奏効率7%、部分奏効率64%)であり、病勢コントロール率は96%であった。最も多く報告された有害事象はGrade1の下痢(48%)であり、治験薬との因果関係のあるGrade3以上の有害事象の発現割合は17%であった。<製品概要>販売名:ヘルネクシオス60mg錠一般名:ゾンゲルチニブ製造販売承認日:2025年9月19日薬価基準収載日:2025年11月12日効能又は効果:がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌用法及び用量:通常、成人には、ゾンゲルチニブとして1日1回120mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。製造販売元:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

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小細胞肺がん2次治療、タルラタマブの安全性(DeLLphi-304)/ESMO2025

 DLL3を標的とするBiTE製剤タルラタマブの小細胞肺がん(SCLC)2次治療DeLLphi-304試験における、有害事象(AE)の追加分析結果が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表された。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:プラチナ製剤を含む化学療法±抗PD-1/PD-L1抗体薬による1次治療を受けたSCLC患者(無症候性の脳転移は治療歴を問わず許容)・試験群(タルラタマブ群):タルラタマブ(1日目に1mg、8・15日目に10mgを点滴静注し、以降は2週間間隔で10mgを点滴静注) 254例・対照群(化学療法群):化学療法(トポテカン、アムルビシン、lurbinectedinのいずれか)※ 255例・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[主要な副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、患者報告アウトカム[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など※:日本はアムルビシン 主な結果は以下のとおり。・DeLLphi-304試験において新たな安全性のシグナルは特定されなかった。・タルラタマブ群は化学療法群に比べ、血液毒性および感染症の発生率が低かった。・タルラタマブの治療関連有害事象(TRAE)は多くがGrade1/2で、時間経過とともに発現割合は減少した。・同剤のTRAEで最も多いのものはサイトカイン放出症候群(CRS)であった。CRSの発現は1ヵ月未満56%、1〜3ヵ月3%、3ヵ月超0%でほとんどが1ヵ月未満であった。・CRS発現はサブグループ(PS、年齢、肝転移、脳転移、PD-[L]1投与歴、腫瘍量)間で差はみられなかった。・免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は6%で認められたが、ほとんどはGrade1/2で、93%が回復した。・神経学的TRAEとして書字障害が23%でみられた。書字障害のほとんどはGrade1/2で、全例回復、投与中止になった症例はなかった。

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お腹の張りも奥が深いのです【非専門医のための緩和ケアTips】第111回

お腹の張りも奥が深いのです「お腹の張り」を訴える患者さん、内科診療をしている方であればしばしば遭遇するでしょう。皆さんはこうしたケースにどのように対応していますか? ちょっと曖昧な訴えにも感じられ、ついつい便秘と決めがちではないでしょうか。今回の質問肝臓がんでお腹の張りを訴える患者さんがいます。毎日というわけではないですが排便はあるようで、腹水が原因かと思っています。ただ、そこまで緊満しているわけではなく、対応を悩んでいます。これは腹水が溜まっている患者さんなどでよく遭遇する状況かと思います。患者さんの訴えも曖昧で、詳しく聞いてみても「とにかくお腹が張ってつらいんです」といった訴えが続くこともよくあります。緩和ケアは高齢患者も多く、詳細な情報収集が難しいのはよくあることなので、診察や検査といった客観的な情報と総合して、アプローチを考えるのが基本です。こういった時、我々の思考プロセスとしてまず考えたいのは、「緊急性の高い疾患がないか」という点です。とくに消化管穿孔、絞扼性イレウスといったところは見逃したくないですね。私の経験上では、普段から腹痛を訴えることの多い患者さんだったものの、痛みがいつもより強いようであることに違和感を覚え、検査をしました。その結果、腫瘍破裂による、腹腔内出血でした。血液は腹膜への刺激となるため、腹痛の原因となります。その典型的な例が子宮外妊娠ですが、がん患者にも同じような機序の痛みが起こりえます。「いつもの腹痛」と片付けていれば、対応が遅れるところでした。さて、上記のような緊急性の高い疾患がないことが確認できた後は、便秘や腹水貯留といった頻度の高い病態や症状であるの可能性を念頭に置いて、排便コントロールと腹水に対する介入を複数試すことになるでしょう。腹水であれば減塩、輸液量の調整、利尿薬を追加し、それでもコントロールが難しい場合は腹腔穿刺をして排液を試みます。それでも改善が乏しければ、NSAIDsやステロイドなどで腹膜の炎症を軽減しつつ、オピオイドの使用も検討します。その経過中に便秘が生じないように、緩下薬なども調整します。いずれにしても、患者さんの主観的な症状を否定せず、可能性のある病態に対し、安全な範囲で介入しながら様子を見る、という地道な診療が続きます。看護師にも観察してもらい、ケアで工夫できることを発見してもらったり、良い変化があれば小さいことでも患者と医師に共有してもらったりすることも重要です。なかなかすっきりしない症状ではありますが、私自身はこのような対応をすることが多いです。皆さんの工夫もぜひ教えてください。今回のTips今回のTips腹部の張りは鑑別に立ち返り、試行錯誤しながら対応しましょう。

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第35回 コロナワクチンが「がん治療」の効果を劇的に向上させる可能性

がん治療の切り札として登場した「免疫チェックポイント阻害薬」は、多くの患者さんの命を救う一方で、すべての人に効果があるわけではありません。とくに、免疫細胞ががんを敵として認識していない「冷たいがん」と呼ばれるタイプの腫瘍には効果が薄いことが、大きな課題でした。しかし、この状況を一変させるかもしれない驚くべき研究結果が、Nature誌に発表されました1)。なんと、私たちが新型コロナウイルス対策で接種したmRNAワクチンが、がん細胞を標的とするものではないにもかかわらず、がんを免疫チェックポイント阻害薬に反応しやすい「熱いがん」に変え、治療効果を劇的に高める可能性が示されたのです。ワクチン接種と生存期間の延長が関連この研究では、米国のがん専門病院であるMDアンダーソンがんセンターの臨床データが分析されています。研究チームは、非小細胞肺がんや悪性黒色腫(メラノーマ)の患者さんで、免疫チェックポイント阻害薬を開始する前後100日以内にコロナのmRNAワクチンを接種したグループと、接種しなかったグループの予後を比較しました。すると、非小細胞肺がんの患者さんを比較したところ、ワクチンを接種したグループの3年生存率が55.7%であったのに対し、未接種のグループでは30.8%と、明らかな差がみられました。同様の生存率の改善は、メラノーマの患者でも確認されました。この効果は、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを免疫チェックポイント阻害薬の前後で接種した患者さんではみられませんでした。このことは、観察された生存率の改善が、単に「ワクチンを接種する」という行為や、健康意識の高さだけによるものではなく、mRNAワクチンが持つ特有の強力な免疫反応によって引き起こされている可能性を示唆しています。なぜコロナワクチンががんに効くのか?では、なぜがんとは無関係のコロナウイルスを標的とするワクチンが、がんに対する免疫療法の効果を高めるのでしょうか? 研究チームは、動物モデルや健常人の血液サンプルを用いて、そのメカニズムを詳細に解明しました。鍵を握っていたのは、「I型インターフェロン」という物質でした。まず、mRNAワクチンが体内に投与されると、ウイルスに感染した時と似たような「偽の緊急事態」が引き起こされます。これにより、体内でI型インターフェロンが爆発的に放出されます。このI型インターフェロンの急増が、全身の免疫細胞、とくに「抗原提示細胞」と呼ばれる偵察役の細胞を「覚醒」させます。覚醒した偵察役の細胞は、リンパ節などの免疫器官に移動し、そこでT細胞(免疫の実行部隊)に対し、「敵(抗原)」の情報を伝達します。この時、偵察役の細胞はウイルスの情報(スパイクタンパク)だけでなく、体内に存在する「がん抗原」の情報も同時にT細胞に提示し始めることがわかりました。がんの情報をキャッチしたT細胞は、増殖して腫瘍組織へと侵入していきます。これにより、これまでT細胞が存在しなかった「冷たいがん」が、T細胞が豊富に存在する「熱いがん」へと変化します。しかし、T細胞の攻撃にさらされたがん細胞は、生き残るために「PD-L1」というバリアを表面に出して、T細胞の攻撃を無力化しようとします。しかし実際、ワクチンを接種した患者さんのがん組織では、このPD-L1の発現が著しく増加していることが確認されました。ここで免疫チェックポイント阻害薬が登場します。免疫チェックポイント阻害薬は、まさにこのPD-L1のバリアを無効化する薬剤です。つまり、mRNAワクチンがT細胞をがんへ誘導し、免疫チェックポイント阻害薬がそのT細胞が働けるように「最後のバリア」を取り除く。この見事な連携プレーによって、がんに対する強力な免疫応答が引き起こされ、治療効果が飛躍的に高まると考えられます。今後の展望と研究の限界この研究の最大の意義は、がん患者さんごとに製造する必要がある高価な「個別化mRNAがんワクチン」でなくても、すでに臨床で広く利用可能な「既製のmRNAワクチン」が、がん免疫療法を増強する強力なツールになりうることを示した点にあります。とくに、これまで免疫チェックポイント阻害薬が効きにくかったPD-L1陰性の「冷たいがん」の患者さんに対しても、生存期間を改善する可能性が示されたことは大きな希望です。一方で、この研究の限界も認識しておく必要があります。最も重要なのは、患者さんを対象とした解析が「後ろ向き観察研究」である点です。つまり、過去のデータを集めて解析したものであり、「mRNAワクチン接種」と「生存期間の延長」の間に強い関連があることは示せましたが、mRNAワクチンが原因となって生存期間が延びたという因果関係を完全に証明したわけではありません。たとえば、「治療中にあえてコロナワクチンも接種しよう」と考える患者さんは、全般的に健康意識が高く、それ以外の要因(たとえば、栄養状態や運動習慣など)が生存期間に影響した可能性(交絡因子)も否定できません。研究チームは、インフルエンザワクチンなど他のワクチンとの比較や、さまざまな統計的手法(傾向スコアマッチングなど)を用いて、これらの偏りを可能な限り排除しようと試みていますが、未知の交絡因子が残っている可能性があります。この発見をさらに確実なものとするためには、今後、患者さんをランダムに「mRNAワクチン接種+免疫チェックポイント阻害薬群」と「免疫チェックポイント阻害薬単独群」に分けて比較するような、前向きの臨床試験で有効性を確認することが不可欠です。とはいえ、mRNAワクチンががん治療の新たな扉を開く可能性を示した本研究のインパクトは大きいでしょう。感染症予防という枠を超え、がん免疫療法の「増強剤」として、既製のmRNAワクチンが活用されるという場面も、今後訪れるのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Grippin AJ, et al. SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumours to immune checkpoint blockade. Nature. 2025 Oct 22. [Epub ahead of print]

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がんと心房細動、合併メカニズムと臨床転帰/日本腫瘍循環器学会

 がん患者では心房細動(AF)が高率に発症する。がん患者の生命予後が改善していく中、その病態解明と適切な管理は喫緊の課題となっている。第8回日本腫瘍循環器学会学術集会では、がん患者におけるAFの発症メカニズムおよび活動性がん合併AF患者の管理について最新の大規模臨床研究の知見も含め紹介された。がん患者におけるAFの発症メカニズム 東京科学大学の笹野 哲郎氏はがん患者におけるAF発症について、がん治療およびがん自体との関連を紹介した。 肺がんや食道がんに対する心臓近傍への手術や放射線照射では、術後炎症や心筋の線維化がAF発症と関連している。AF発症が高率な薬剤としてドキソルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤やイブルチニブなどのBTK阻害薬が代表的である。これらの抗がん剤は心筋細胞の脱落や線維化など構造的な変化と電気生理的な変化によってAFを発症する。 また、腫瘍細胞の直接浸潤は催不整脈性を有し、AF発症の原因となる。これには腫瘍によるギャップ結合チャネルの低下や心房の線維化によるAF誘発の可能性が示唆されている。しかし、発症メカニズムについては未解明な部分も多い。大規模レジストリで明らかになったAF患者へのがん合併の影響 東邦大学大学院医学研究科の池田 隆徳氏は、全国的に実施された高齢者の心房細動のANAFIE(All Nippon AF in Elderly)レジストリのサブスタディとして、活動性がんの合併がAF患者の血栓塞栓症や出血性イベントおよび死亡に与える影響を発表した。 ANAFIEレジストリに登録された3万例を超える高齢患者のうち11%に活動性がんの合併が確認された。非がん群と比較してがん群ではCHADS2スコアおよびHAS-BLEDスコアが高く、ハイリスク例が多かった。経口抗凝固薬(OAC)の投与実態を見ると、がん群においてDOACの使用率が高いことが明らかになった。 臨床転帰を見ると、がん群と非がん群における有効性イベント(脳卒中、全身性塞栓症)の発現率は同程度であったが、安全性イベント(大出血、頭蓋内出血、全死亡、ネットクリニカルアウトカム)はがん群で高率であった。OACの投与は非がん群、がん群ともに7割がDOACであった。DOACとワルファリンの臨床イベントを比較すると、非がん群ではDOACのワルファリンに対し優位性が認められた。一方、がん群ではDOACのワルファリンに対する優位性は認められなかった。

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EGFR陽性NSCLCの1次治療、オシメルチニブ+化学療法のOS最終解析(FLAURA2)/NEJM

 上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療において、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)オシメルチニブの単剤療法と比較して白金製剤とペメトレキセドによる化学療法+オシメルチニブの併用療法は、全生存期間(OS)を有意に延長させ、Grade3以上の可逆的な有害事象のリスク増加と関連していた。米国・ダナファーバーがん研究所のPasi A. Janne氏らFLAURA2 Investigatorsが、「FLAURA2試験」の主な副次エンドポイントの解析において、OSの事前に計画された最終解析の結果を報告した。同試験の主解析では、化学療法併用群において主要エンドポイントである無増悪生存期間(PFS)が有意に優れることが示されていた(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.49~0.79、p<0.001)。NEJM誌オンライン版2025年10月17日号掲載の報告。国際的な無作為化第III相試験 FLAURA2試験は、日本の施設も参加した国際的な非盲検無作為化第III相試験(AstraZenecaの助成を受けた)。2020年1月~2021年12月に患者のスクリーニングが行われ、年齢18歳以上(日本は20歳以上)で、EGFR変異(exon19delまたはL858R)陽性の局所進行・転移のある非扁平上皮NSCLCと診断され、進行病変に対する全身療法を受けていない患者を対象とした。 被験者を、導入療法としてオシメルチニブ(80mg)の1日1回経口投与と、ペメトレキセド(500mg/m2体表面積)+白金製剤(シスプラチン[75 mg/m2体表面積]またはカルボプラチン[AUC 5 mg/mL/分])の3週ごとの静脈内投与を4サイクル受ける群(化学療法併用群)、またはオシメルチニブ(80mg)単剤の1日1回経口投与を受ける群(オシメルチニブ単剤群)のいずれかに無作為に割り付けた。化学療法併用群は、導入療法終了後に維持療法として、オシメルチニブ(80mg)の1日1回経口投与とペメトレキセド(500mg/m2体表面積)の3週ごとの静脈内投与を受けた。 557例(最大の解析対象集団)を登録し、化学療法併用群に279例(年齢中央値61歳[範囲26~83]、女性173例[62%])、オシメルチニブ単剤群に278例(62歳[30~85]、169例[61%])を割り付けた。全生存期間中央値が約10ヵ月延長 データカットオフ時点での投与期間中央値は化学療法併用群が30.5ヵ月、オシメルチニブ単剤群は21.2ヵ月で、全生存の追跡期間中央値はそれぞれ42.6ヵ月および35.7ヵ月であった。この時点で化学療法併用群の144例(52%)、オシメルチニブ単剤群の171例(62%)が死亡した。 OS中央値は、オシメルチニブ単剤群が37.6ヵ月(95%CI:33.2~43.2)であったのに対し、化学療法併用群は47.5ヵ月(41.0~算出不能)と有意に優れた(HR:0.77、95%CI:0.61~0.96、p=0.02)。また、36ヵ月時のOS率は、化学療法併用群が63%、オシメルチニブ単剤群は51%であり、48ヵ月OS率はそれぞれ49%および41%であった。 ベースラインで中枢神経系転移を認めた患者の36ヵ月OS率は、化学療法併用群が57%、オシメルチニブ単剤群は40%であり、同転移のない患者ではそれぞれ67%および58%だった。新たな毒性作用は認めず、Grade3以上が多い 551例(安全性解析集団:化学療法併用群276例、オシメルチニブ単剤群275例)が少なくとも1回の試験薬の投与を受けた。主解析から2年超の時点での安全性の知見は、主解析時の解析結果と一致しており、新たな毒性作用は認めなかった。 Grade3以上の有害事象は、化学療法併用群で193例(70%)、オシメルチニブ単剤群で94例(34%)に、重篤な有害事象はそれぞれ126例(46%)および75例(27%)に発現した。死亡に至った有害事象はそれぞれ22例(8%)および10例(4%)で認め、このうち試験薬との関連の可能性があると判定されたのは5例(2%)および2例(1%)であり、オシメルチニブ単剤群の1例を除き、いずれも主解析のデータカットオフ日の前に死亡していた。オシメルチニブの投与中止に至った有害事象は、それぞれ34例(12%)および20例(7%)で報告された。 著者は、「Grade3以上の有害事象は化学療法併用群で高頻度であったが、このオシメルチニブ単剤群との差は、主に化学療法を含むレジメンで予想される骨髄抑制作用に起因する有害事象によるものであった」「病勢進行のため投与を中止したオシメルチニブ単剤群の患者の多くが最初の後治療として白金製剤ベースの2剤併用化学療法を受けたが、これらの患者のOSは化学療法併用群よりも劣ったことから、発症後の最初の治療は併用療法で開始するのが好ましい可能性が示唆され、本試験の化学療法併用群におけるOSの有益性は、1次治療を有効性の高い併用療法で開始することの重要性を強調するものである」としている。

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がん治療のICI、コロナワクチン接種でOS改善か/ESMO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、多くのがん患者の生存期間を延長するが、抗腫瘍免疫応答が抑制されている患者への効果は限定的である。現在、個別化mRNAがんワクチンが開発されており、ICIへの感受性を高めることが知られているが、製造のコストや時間の課題がある。そのようななか、非腫瘍関連抗原をコードするmRNAワクチンも抗腫瘍免疫を誘導するという発見が報告されている。そこで、Adam J. Grippin氏(米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンもICIへの感受性を高めるという仮説を立て、後ろ向き研究を実施した。その結果、ICI投与前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチン接種を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者および悪性黒色腫患者は、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)が改善した。本研究結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表され、Nature誌オンライン版2025年10月22日号に掲載された1)。 本発表では、切除不能StageIIIまたはStageIVのNSCLC患者884例および転移を有する悪性黒色腫患者210例を対象とし、ICI初回投与の前後100日以内のCOVID-19 mRNAワクチン接種の有無で分類して解析した結果が報告された。また、COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、前臨床モデル(マウス)を用いて検討した結果とその考察も紹介された。 主な結果は以下のとおり。【後ろ向きコホート研究】・NSCLC患者(接種群180例、未接種群704例)において、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、StageやPD-L1発現状況にかかわらずOSが延長した。各集団のハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)は以下のとおり(全体およびStage別の解析は調整HRを示す)。 全体:0.51、0.37~0.71 StageIII:0.37、0.16~0.89 StageIV:0.52、0.37~0.74 TPS 1%未満:0.53、0.36~0.78 TPS 1~49%:0.48、0.31~0.76 TPS 50%以上:0.55、0.34~0.87・悪性黒色腫患者(接種群43例、未接種群167例)においても、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、OS(調整HR:0.37、95%CI:0.18~0.74)およびPFS(同:0.63、0.40~0.98)が延長した。・NSCLC患者において、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、未接種群、100日後以降接種群と比較してPD-L1 TPS平均値が高かった(31%vs.25%vs.22%)。同様に、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群はPD-L1 TPS 50%以上の割合も高かった(36%vs.28%vs.25%)。【前臨床モデル】・免疫療法抵抗性NSCLCモデルマウス(Lewis lung carcinoma)と免疫療法抵抗性悪性黒色腫モデルマウス(B16F0)において、COVID-19 mRNAワクチンとICIの併用は、ICI単独と比較して腫瘍体積を縮小した。・COVID-19 mRNAワクチンは、IFN-αの産生を増加させた。・悪性黒色腫モデルマウスにおいて、IFN-αを阻害するとCOVID-19 mRNAワクチンとICIの併用の効果は消失した。・COVID-19 mRNAワクチンは、複数の腫瘍関連抗原について、腫瘍反応性T細胞を誘導した。・COVID-19 mRNAワクチン接種によりCD8陽性T細胞が増加し、腫瘍におけるPD-L1発現も増加した。 COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、Grippin氏は「免疫学的にcoldな腫瘍に対して、COVID-19 mRNAワクチンを接種するとIFN-αが急増し、腫瘍局所での自然免疫が活性化される。その活性化により腫瘍反応性T細胞が誘導され、これらが腫瘍に浸潤して腫瘍細胞を攻撃すると、腫瘍はT細胞応答を抑制するためにPD-L1の発現を増加させる。そこで、COVID-19 mRNAワクチンとの併用でICIを投与し、PD-1/PD-L1の相互作用を阻害することで、患者の生存期間の改善が得られるというメカニズムが示された」とまとめた。 なお、今回示された効果を検証するため、無作為化比較試験「Universal Immunization to Fortify Immunotherapy Efficacy and Response(UNIFIER)試験」が計画されている。

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ロボット支援気管支鏡が肺の奥深くの腫瘍に到達

 最先端のロボット支援気管支鏡が肺の奥深くにある極めて小さな腫瘍にまで到達できることが、チューリッヒ大学病院(スイス)のCarolin Steinack氏らによる臨床試験で示された。Steinack氏らによると、このロボット支援気管支鏡は、特殊なCTスキャナーにより、肺の中の到達が難しい位置に隠れた腫瘍を見つけることができるという。この研究結果は、欧州呼吸器学会議(ERS 2025、9月27日~10月1日、オランダ・アムステルダム)で発表された。 Steinack氏は、「この技術によって、専門医は肺のほぼ全領域にアクセスできるようになった。これは、より多くの患者に生検を実施できること、より高い治療効果が期待できる早期の段階でがんを診断できるようになることを意味している」とERSのニュースリリースの中で述べている。 ERSの呼吸器インターベンション専門家グループ代表で、Golnik大学クリニック(スロベニア)内視鏡部長のAles Rozman氏も、肺がんを治療可能な早期の段階で発見して治療するのにこの技術が役立つ可能性があるとの見方を示している。同氏は、「がんは通常、早期に診断されれば生存率の大幅な向上を望める。しかし、こうした極めて小さな腫瘍は診断が難しい。今回の研究は、ロボット支援技術が肺の奥深くにある小さな腫瘍の多くを診断する助けになることを示している」と付け加えている。 Steinack氏らは今回の臨床試験で、肺の周縁部に異常増殖がある78人の患者に気管支鏡検査を実施した。異常増殖の数は合計で127個だった。肺の周縁部は接続する気道がない場合が多く、通常は容易に到達できない領域である。腫瘍は直径が中央値11mmで、18個(14.2%)は気管支サインが陽性(病変に向かって走行する気管支が明確に認められる)で、35個(27.6%)は均一なすりガラス陰影に分類された。患者の半数(39人)はX線画像を用いた従来型の気管支鏡検査を受け、残る半数(39人)はCTスキャンを用いたロボット支援気管支鏡検査を受けた。 その結果、診断に至った対象者の割合は、ロボット支援気管支鏡群で84.6%(33人)であったのに対し、従来の気管支鏡では23.1%(9人)にとどまった。通常の気管支鏡の方法で生検が成功しなかった人に対してロボット支援気管支鏡を用いると、92.9%(26/28人)で腫瘍への到達と生検に必要な組織の採取に成功した。最終的に68人(53.5%)が肺がんと診断され、そのうち50人は最も早期の治療可能な段階のがんであった。Steinack氏は、「臨床的に従来の気管支鏡が選択肢とはならない患者において、この技術は正確な診断を可能にする」と述べている。 ただし、この技術は安価ではない。この新しいシステムの導入には110万ドル(1ドル150円換算で1億6500万円以上かかり、検査1回当たりの費用は約2,350ドル(同35万2,500円)になるとSteinack氏らは説明している。チューリッヒ大学病院の呼吸器内科医で主任研究者のThomas Gaisl氏は、「こうした腫瘍がある患者を多く診ている医療機関では、この技術により得られるメリットは投資に見合うものだと考えている。ただし、このロボットシステムは従来の気管支鏡が使えない、小さくて到達が難しい病変に限定して使用すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。 一方、Rozman氏は、「この装置を導入し、使用するために必要となる莫大な追加コストを正当化するためには、この種のゴールドスタンダードの研究を実施することが極めて重要だ」と指摘している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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エンゼルケアについて考えてみる【非専門医のための緩和ケアTips】第110回

エンゼルケアについて考えてみる患者さんが亡くなった際に、多くの施設で看護師を中心にエンゼルケアが行われています。患者さんにとってはもちろん、ご家族にとっても大切な時間なので、丁寧なケア提供が求められます。今回の質問患者さんが亡くなった時、訪問看護師がエンゼルケアをしていますが、どういったことを行うのが標準的なのでしょうか? 在宅医療だと人手も少ないので、医師である私も少し手伝ったほうが良いかなと思う時もありますが、やり方を学んだことがないため、言い出しにくく感じます。死亡確認後にご遺体へのケアを「エンゼルケア」と言います。施設によっては化粧をするといったケアにも取り組んでおり、これは「エンゼルメイク」と言います。私が勤務する施設では、看護師が清拭で身体をきれいにしたうえでメイクをしています。男性の私は普段は化粧をする機会はなく、美容にも関心はありませんが、エンゼルメイクをした患者さんは男女を問わず顔色が良くなり、ご家族に喜んでもらえることを実感します。エンゼルケアを通じて、何を提供しているのか考えてみましょう。エンゼルメイクをテーマにした研究では、家族から「穏やかな表情にしてくれた」「生前と同じような扱いをしてくれた」といった声が寄せられました1)。確かに看護師のエンゼルケアを見学すると、とても丁寧に遺体を扱っています。同時に「頑張りましたね」と声掛けをしたり、ご家族をねぎらったりもします。こうしたケアが「故人を大切にしてもらった」という感覚を生むのでしょう。看護師によっては、ご家族が希望するケアを取り入れるケースもあります。たとえば、お風呂が好きだった患者さんであれば、清拭ではなく湯灌(ゆかん)し、故人をしのびながら、身体をきれいにします。あるケースでは、お孫さんにも湯灌を手伝い、ご家族から「非常に良い時間でした」と言ってもらいました。お孫さん自身も「おじいちゃんが最期に教えてくれた、大切な経験として忘れないようにしたい」と言っており、エンゼルケアは死生観を育む機会にもなるのだなと感じました。ご家族が最期に着せたい服に着替えてもらったうえで、お別れをすることもあります。病院では自動的に病衣に着替えてもらうことが多いですが、スーツなど思い出のある服に着替えた姿からは、患者さんのかつての生き生きとした姿を感じることができます。あれこれ思い出を振り返ってきましたが、このようにエンゼルケアは非常にナラティブなものです。そして、そのケアに対して私が何かするかというと、基本的にはすべて看護師に任せています。とくに在宅でのお見取りの際は、医療機器を外すなど死後の処置が必要なケースも少ないため、死亡確認をして死亡診断書を作成したら、その場を離れることが多いです。長くお世話になっている緩和ケアの看護師は、「エンゼルケアはその患者さんに私たち看護師が提供できる最後のケア」と言っていました。そんな看護師を尊敬しており、看護師とご家族で取り組むケアに医師が無理に割り込む必要はないのかな、と感じます。もちろん、人手が足りないなど事情があれば、邪魔にならないよう手伝うことはありますが、基本的にエンゼルケアはそれを専門とする看護師と患者さん、ご家族のものだと思います。今回のTips今回のTipsエンゼルケアは最後のケアとして、患者さんはもちろんご家族にとっても非常に大切。1)山脇 道晴ほか. ホスピス・緩和ケア病棟におけるご遺体へのケアに関する 遺族の評価と評価に関する要因. Palliative Care Research. 2015;10:101-107.

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HER2変異陽性NSCLCの1次治療、sevabertinibの奏効率71%(SOHO-01)/ESMO2025

 HER2遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療において、sevabertinibは奏効率(ORR)71%と有望な治療成績を示した。また、既治療の集団でも有望な治療成績が示された。Xiuning Le⽒(米国・テキサス⼤学MDアンダーソンがんセンター)が、国際共同第I/II相試験「SOHO-01試験」の第II相の結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。なお、本結果は、NEJM誌オンライン2025年10月17日号に同時掲載された1)。 現在開発が進んでいるHER2チロシンキナーゼ阻害薬の違いとして、ゾンゲルチニブは野生型EGFRを阻害せずHER2を選択的に阻害するのに対し、sevabertinibはEGFRとHER2の両者に対する阻害活性を有し(野生型EGFRに対する活性は弱い)、多様なHER2変異体に対しても阻害活性を示すことが挙げられる。また、ゾンゲルチニブが共有結合による不可逆的な阻害様式であるのに対し、sevabertinibは可逆的な阻害様式を有する。 本試験は第I相と第II相で構成され、第I相の結果から20mgを1日2回の用量が選択された。今回は、用量拡大・継続パートの3つのコホートの結果が報告された。対象のコホートは、既治療かつHER2標的薬未治療(コホートD、81例)、HER標的薬既治療(コホートE、55例)、未治療(コホートF、73例)であった。用量拡大・継続パートの主要評価項目は、盲検下独立中央判定(BICR)によるORR、副次評価項目は奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、安全性などであった。データカットオフ日は2025年6月27日であった。 主な結果は以下のとおり。・各コホートの有効性に関する結果は以下のとおりであった(いずれもBICR評価)。【コホートD(既治療かつHER2標的薬未治療)】 ORR 64%(CR 2%) 病勢コントロール率(DCR) 81% 脳転移例のORR 61%(11/18例) DOR 9.2ヵ月 1年DOR率42% PFS中央値8.3ヵ月 1年PFS率44%【コホートDのチロシンキナーゼドメインの変異陽性非扁平上皮NSCLC(70例)】 ORR 71%(CR 3%) PFS中央値9.6ヵ月【コホートE(HER標的薬既治療)】 ORR 38%(CR 5%) DCR 71% 脳転移例のORR 27%(4/15例) DOR 8.5ヵ月 1年DOR率29% PFS中央値5.5ヵ月 1年PFS率28%【コホートF(未治療)】 ORR 71%(CR 4%) DCR 89% 脳転移例のORR 78%(7/9例) DOR 11.0ヵ月 PFS中央値未到達 1年PFS率55%・Grade3以上の有害事象は、コホートD、E、Fでそれぞれ36%、31%、21%に発現した。・主な有害事象(コホートD、E、Fを統合)は、下痢(87%)、発疹(49%)、爪囲炎(26%)などであった。・間質性肺疾患/肺臓炎の発現はなかった。 本結果について、Le氏は「HER2遺伝子変異陽性のNSCLC患者に対し、sevabertinibは既治療および未治療のいずれの集団においても、頑健かつ持続的な奏効を示した。この結果は、sevabertinibがHER2遺伝子変異陽性NSCLCに対する新たな分子標的治療薬となり得ることを支持するものである」とまとめた。なお、HER2遺伝子変異(チロシンキナーゼドメインの変異)陽性のNSCLCに対する1次治療におけるsevabertinibの有用性を検証する国際共同第III相無作為化比較試験「SOHO-02試験」が進行中である。

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低用量アスピリンが再発予防効果を認める大腸がんのタイプが明らかになった(解説:上村 直実氏)

 観察研究やコホート研究の結果からアスピリンや非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAID)が大腸がんの発生や再発のリスクを低下することがよく知られているが、プラセボとの無作為化比較試験(RCT)による厳密な研究デザインによるエビデンスは少なく、さらに、どのような大腸腫瘍に対して有効なのか無効なのかは判明していないのが現状であった。 これらの課題を克服するため、今回、細胞の成長や増殖などさまざまな細胞機能の調節に重要な役割を果たす酵素であるPI3K(Phosphoinositide 3-kinase)をコードするPI3K遺伝子の変異が陽性の大腸がん切除後症例を対象として施行されたプラセボ対照RCTの結果、低用量アスピリン(LDA)(160mg/日)の内服により手術後の再発率が有意に低下することが2025年のNEJM誌に報告された。すなわち、LDAがPI3K遺伝子変異を有する大腸がんに対する再発予防効果を有することがRCTにより明確になったのである。 アスピリンは、シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)・プロスタグランジンE2(PGE2)経路を阻害することが知られているが、PI3Kシグナル経路はその下流に位置して腫瘍形成に働く可能性が謳われているが、PI3K遺伝子変異は大腸がんの約40%に認められている。従来の報告からLDAの抗大腸腫瘍効果はPI3K遺伝子変異を有するものやリンチ症候群および家族性大腸腺腫症(FAP)などの遺伝性大腸腫瘍に限定されている可能性が指摘されていたが、手術後の切除組織を用いた遺伝子解析によりLDAの抑制効果を認める適応病変が明確になった点で重要な研究成果と思われる。 30年前からLDAによる大腸腫瘍の抑制効果に関する報告が散見されていたが、日本においてもFAP患者に対するLDA(100mg/日)によりポリープの発生や再発を抑制することが、京都府立医科大学の石川 秀樹特任教授らにより2021年のLancet Gastroenterology & Hepatology誌に報告されている。この研究は、全大腸切除が標準治療とされているFAP患者に対する画期的な予防的薬物療法を提供する可能性を秘めているために、今後の研究結果が注目されている。さらに、異時性あるいは同時性の大腸多発がんや子宮内膜がんの若年発症を特徴として、小腸、胃、腎盂尿管、胆管、膵臓、皮膚および脳腫瘍など多臓器にがんが発症するリンチ症候群におけるLDA服用の長期的な有効性のデータも報告されている。 このように遺伝子変異を伴う大腸がんに対するLDAの予防効果が明確になってきたことから、近い将来、循環器や脳神経領域の臨床現場において頻繁に使用されているLDAが、大腸がんをはじめとするがんの予防効果を有する薬剤である可能性に熟知して患者に対応することが必要となる。 一方、わが国においても大規模データベースを利用した臨床疫学研究が盛んに行われるようになっており、冠動脈疾患や脳血管障害の再発予防に対してLDAを内服している患者における大腸がんの有病率や再発率に関する詳細な疫学調査が期待される。なお、大腸がん以外にも胃がん、食道腺がん、肺がんなどもアスピリンによる抑制効果が報告されており、今後も安価ながん予防策としてのLDAのリスク・ベネフィットに関する詳細な研究も期待される。

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ALK陽性NSCLCへの術後アレクチニブ、4年OS率98.4%(ALINA)/ESMO2025

 ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)の完全切除達成患者を対象に、術後アレクチニブの有用性を検討した国際共同第III相試験「ALINA試験」の主解析において、アレクチニブはプラチナ製剤を含む化学療法と比較して、無病生存期間(DFS)を改善したことが報告されている(ハザード比[HR]:0.24、95%信頼区間[CI]:0.13~0.43)1)。ただし、とくに全生存期間(OS)に関するデータは未成熟(主解析時点のイベントは6例)であり、より長期の追跡結果が望まれていた。そこで、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)において、Rafal Dziadziuszko氏(ポーランド・グダニスク大学)が、本試験の約4年追跡時点の結果を報告した。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:未治療の切除可能なStageIB(4cm以上)/II/IIIA(UICC/AJCC第7版)のALK融合遺伝子陽性NSCLC患者で完全切除を達成した患者・試験群(アレクチニブ群):アレクチニブ(1回600mg、1日2回)を2年間もしくは再発まで 130例(日本人15例)・対照群(化学療法群):シスプラチン(不耐の場合はカルボプラチンに変更可能)+ペメトレキセドまたはビノレルビンまたはゲムシタビンを3週ごと4サイクルもしくは再発まで 127例(日本人20例)・評価項目:[主要評価項目]DFS(StageII/IIIA集団→ITT集団の順に階層的に解析)[その他の評価項目]中枢神経系再発または死亡までの期間(CNS-DFS)、OS、安全性など 今回発表された主な結果は以下のとおり。・UICC/AJCC第7版に基づくStageIB/II/IIIAの割合は、アレクチニブ群11%/36%/53%、化学療法群9%/35%/55%で、UICC/AJCC第8版に基づくStageIB/IIA/IIB/IIIA/IIIBの割合は、それぞれ5%/8%/31%/51%/5%、4%/3%/35%/54%/5%であった。・UICC/AJCC第7版に基づくStageII/IIIA集団におけるDFS中央値は、アレクチニブ群未到達、化学療法群41.4ヵ月であった(HR:0.36、95%CI:0.23~0.56)。4年DFS率はそれぞれ74.5%、46.3%であった。・ITT集団におけるDFS中央値は、アレクチニブ群未到達、化学療法群41.4ヵ月であった(HR:0.35、95%CI:0.23~0.54)。4年DFS率はそれぞれ75.5%、47.0%であった。・DFSのサブグループ解析において、いずれのサブグループにおいてもアレクチニブ群が良好な傾向にあった。・ITT集団における4年CNS-DFS率は、アレクチニブ群90.4%、化学療法群76.1%であった(HR:0.37、95%CI:0.19~0.74)。・ITT集団における4年OS率は、アレクチニブ群98.4%、化学療法群92.4%であった(HR:0.40、95%CI:0.12~1.32)。

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第285回 コロナワクチンがICI治療のOSを有意に延長

INDEXええええ!ESMO2025のProffered Paper session新型コロナmRNAワクチンへの新たな期待ええええ!ここ半月以上、自民党の総裁選とそれに伴う政局のドタバタに振り回されてしまい、何とも言えないもどかしさを感じている。本来ならばコロナ禍の影響を受けて、今やオンラインでも視聴可能になった欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)にプレス登録して聴講するはずだったが、その機会も逃してしまった。とはいえ、悔しいのでここ数日、時間を見つけては同学会の抄録を眺めていたが、その中で個人的に「ええええ!」と思う発表を見つけた。演題のタイトルは「SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumors to immune checkpoint blockade」。端的に結論を言えば、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン接種が免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍効果を高める可能性の研究1)だ。抄録ベースだが、この研究内容を取り上げてみたい。ESMO2025のProffered Paper session発表者は米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのAdam J. Grippin氏である。mRNA関連創薬は、もともとはがんをターゲットとした治療ワクチンの開発を主軸としていて、米国・モデルナ社もこの路線でのパイプラインが形成され、たまたまコロナ禍が起きたことで、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンという形で日の目を見たことはよく知られている。Grippin氏らは、mRNAがんワクチンの研究から、同ワクチンが炎症性サイトカインへの刺激を通じて免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果の増強が得られることをヒントに、「もしかしたらがんに非特異的なmRNAワクチンでも同様の効果が得られるのではないか」と考えたらしい。そこで同センターで2017年1月~2022年9月までに生検で確定診断を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)、2019年1月~2022年12月までに治療を受けた悪性黒色腫の臨床データを抽出し、カプランマイヤー曲線、傾向スコアマッチング、およびCox比例ハザード回帰モデルを利用して全生存期間(OS)を評価したとのこと。ちなみに抄録レベルでは症例数は未記載だが、MDアンダーソンがんセンターのレベルでいい加減な臨床研究の可能性は低い。実際、抄録では研究にあたって同センターの倫理審査委員会の承認を受けていることが記載されている。その結果によると、免疫チェックポイント阻害薬による治療開始から100日以内の新型コロナmRNAワクチン接種有無で比較したOS中央値は、NSCLCで非接種群が20.6ヵ月、接種群が37.3ヵ月。3年OS率は非接種群が30.6%、接種群が55.8%だった。調整ハザード比[HR]は0.51(95%信頼区間[CI]:0.37~0.71、p<0.0001)であり、有意差が認められた。また、悪性黒色腫ではOS中央値は非接種群が26.67ヵ月、接種群が未到達。3年OS率は非接種群が44.1%、接種群が67.5%。調整HRは0.34(95%CI:0.17~0.69、p=0.0029)でこちらも有意なOS延長が認められたという。新型コロナmRNAワクチンへの新たな期待研究は明らかに後ろ向きではあるが、NSCLCでOS中央値が10ヵ月も違うことに個人的には正直驚きを隠せない。しかも、抄録によると、NSCLCではPD-L1検査(TPS)で低発現(TPS<1%)の症例でも新型コロナmRNAワクチン接種によるOSの延長効果が認められたとある。また、動物モデルでは、新型コロナmRNAワクチン接種によりI型インターフェロンの急増が誘発され、複数のがん抗原を標的とするCD8陽性T細胞のプライミングとがん細胞のPD-L1発現を上方制御することがわかった。さらに複数の動物がんモデルでも新型コロナmRNAワクチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用で、免疫チェックポイント阻害薬の効果増強を確認したという。いずれにせよこの研究結果を見る限り、がんに特異的ではない新型コロナmRNAワクチンががん特異的抗原の発現を促すということになる。現在、モデルナは日本国内でもNSCLCと悪性黒色腫の個別化がん治療ワクチンの臨床試験中だが、今回の研究で示された可能性が前向き試験でも確認されれば、結構安上がり(あくまで個別化がん治療ワクチンや昨今発売された各種がんの治療薬との比較だが)ながん治療になるのではないか。個人的にはそこそこ以上に期待してしまうのだが。1)Grippin AJ, et al. Nature. 2025 Oct 22. [Epub ahead of print]

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ALK陽性進行NSCLCへのアレクチニブ、OS中央値81.1ヵ月(ALEX)/ESMO2025

 ALK融合遺伝子陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対するアレクチニブは、海外第III相無作為化比較試験「ALEX試験」において、全生存期間(OS)中央値81.1ヵ月、奏効期間(DOR)中央値42.3ヵ月と良好な治療成績を示した。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)において、Tony S. K. Mok氏(中国・香港中文大学)が本試験のOSの最終解析結果を発表した。本試験は、ALK融合遺伝子陽性の進行NSCLC患者を対象として、アレクチニブの有用性をクリゾチニブとの比較により検証する試験である。本試験の主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の最終解析結果はすでに報告されており、アレクチニブのクリゾチニブに対する優越性が示されている1,2)。今回は、PFSの最終解析時から約6年の追跡期間が追加された。なお、本結果はAnnals of Oncology誌オンライン版2025年10月17日号に同時掲載された3)。・試験デザイン:海外第III相非盲検無作為化比較試験・対象:未治療のStageIIIB/IV(UICC/AJCC第7版)のALK融合遺伝子陽性NSCLC患者・試験群(アレクチニブ群):アレクチニブ(1回600mg、1日2回) 152例・対照群(クリゾチニブ群):クリゾチニブ(1回250mg、1日2回) 151例・評価項目:[主要評価項目]治験担当医師評価に基づくPFS[副次評価項目]OS、DOR、安全性など 今回発表された主な結果は以下のとおり。・StageIII/IVの割合は、アレクチニブ群2.6%/97.4%、クリゾチニブ群4.0%/96.0%であった。中枢神経系(CNS)転移ありの割合は、それぞれ42.1%、38.4%であった。・OS中央値は、アレクチニブ群81.1ヵ月、クリゾチニブ54.2ヵ月であった(層別ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.56~1.08)。7年OS率は、それぞれ48.6%、38.2%であった。・CNS転移の有無別にみたアレクチニブ群とクリゾチニブ群のOS中央値は、以下のとおりであった。 【CNS転移あり】 63.4ヵ月vs.30.9ヵ月(HR:0.68、95%CI:0.40~1.15) 【CNS転移なし】 94.0ヵ月vs.69.8ヵ月(HR:0.87、95%CI:0.58~1.32)・DOR中央値は、アレクチニブ群42.3ヵ月、クリゾチニブ群11.1ヵ月であった(HR:0.41、95%CI:0.30~0.56)。・治療期間中央値は、アレクチニブ群28.1ヵ月、クリゾチニブ群10.8ヵ月であった。・治療中止に至った有害事象の発現割合は、アレクチニブ群17.8%、クリゾチニブ群14.6%であった。減量に至った有害事象の発現割合は、それぞれ23.0%、19.9%であった。アレクチニブの中止または減量に至った主な有害事象は、血中ビリルビン増加(中止3.3%、減量5.3%)であった。クリゾチニブの中止または減量に至った主な有害事象は、ALT(6.6%、8.6%)であった。 本結果について、Mok氏は「アレクチニブは、ALK融合遺伝子陽性の進行NSCLCに対する1次治療の標準治療であることを支持するものである」とまとめた。

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ALK陽性非小細胞肺がんにおけるアレクチニブ後ブリグチニブの有効性/ESMO2025

 ALK陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療にはアレクチニブが広く使われるが、後治療については確立されていない。ALK陽性NSCLCに対する第2世代ALK-TKIブリグチニブの前向き多施設共同観察研究であるWJOG11919L/ABRAID試験が行われている。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)では、アレクチニブ直後治療として同剤を評価したコホートAの初回解析結果が発表された。 対象はStageIIIB/IIIC/IVまたは再発のALK陽性NSCLC、主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)、全奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、CNS病変症例におけるPFS(CNS-PFS)、安全性である。 主な結果は以下のとおり。・登録対象から102例が有効性評価対象となった。患者の年齢中央値は66.5歳、PS 0~1が89%を占め、CNS転移は36%に認められた。アレクチニブ中止の理由は94%が疾患進行であった。・ブリグチニブのPFS中央値は6.5ヵ月で95%信頼区間は4.83〜8.84ヵ月、12ヵ月PFS割合は33.3%、24ヵ月PFS割合は20.5%であった。事前に特定した95%信頼区間の下限値4.0ヵ月を達成した。・ORRは31.4%、DCRは70.6%であった。・CNS-PFS中央値は10.8ヵ月であった。・ctDNAを解析した87例中16例(18.3%)でALK変異が検出され、ALK変異陽性例と陰性例のPFS中央値は同程度であった(7.3ヵ月対6.9ヵ月)。・TP53変異は87例中19例(21.8%)で検出され、TP53変異陽性例では陰性例に比べPFS中央値が短い傾向が見られた(5.8ヵ月対8.3ヵ月)。・安全性は従来の知見と一貫していた。頻度が高い有害事象は、CPK上昇(48.1%)、AST上昇(34.6%)、ALT上昇(26.9%)など。肺臓炎/ILDは10.6%(Grade3は4.8%)に発現した。

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