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自己免疫性肝炎〔AIH:Autoimmune hepatitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性肝炎(AIH)は、中年以降の女性に好発し慢性、進行性に肝障害を来す疾患である。本疾患の原因は不明であるが、肝細胞障害に自己免疫機序が関与し、免疫抑制剤、とくに副腎皮質ステロイドが奏効することを特徴とする。臨床的にはトランスアミナーゼの上昇、抗核抗体、抗平滑筋抗体などの自己抗体陽性、血清IgG高値を高率に伴う。■ 疫学2016年を調査年として厚労省研究班で実施された疫学調査では、推定患者数は3万330人、有病率は23.9、男女比が1:4.3と過去調査と比較して患者数と男性患者の比率が増加している1)。また、2018年のAIHの全国調査では、診断時年齢(中央値)は63歳である。■ 病因本症は、何らかの機序により自己の肝細胞に対する免疫学的寛容が破綻し、自己免疫反応によって生じる疾患とされる。本邦例の遺伝的要因としてHLA-DR4との相関があるが、海外で報告されているSH2B3やCARD10との関連は認められていない。免疫学的要因では、自然免疫でのToll-like receptorの機能異常、DAMPsによる樹状細胞の活性化、獲得免疫での制御性T細胞の異常、IL -17、Th17細胞の増加などが報告されている2)。 発症誘因として先行する感染症や薬剤服用、妊娠・出産との関連が示唆されており、ウイルス感染や薬物代謝産物による自己成分の修飾、外来蛋白と自己成分との分子相同性、ホルモン環境などが発症に関与する可能性がある。■ 症状本症に特徴的な症候はなく、発症型により無症状から食欲不振・倦怠感・黄疸といった急性肝炎様症状を呈するなどさまざまである。初診時に肝硬変へ進行した状態で肝性脳症や食道静脈瘤出血にて受診する症例も存在する。また、合併する慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群、関節リウマチなどの症状を呈することもある。■ 分類自己抗体の出現パターンにより1型と2型に分類される。1型は抗核抗体や抗平滑筋抗体が陽性で多くは中高年に発症する。2型は抗肝腎ミクロソーム(LKM)-1抗体陽性で、主に若年に発症する。わが国では1型が多く、2型はきわめて少ない。■ 予後AIHの予後は、わが国においては10年生存率90%以上と良好であるが、急性肝不全の対応が予後の改善に重要である。また、肝硬変例はAIHの約20%を占め、その多くは初診時すでに肝硬変である。とくに経過観察中に肝硬変へ進展する例は、非肝硬変例と比較し有意に再燃率、免疫抑制剤の使用率が高く、治療抵抗性であることが報告されている。線維化進行例では肝細胞がんの合併もあることから、他の肝疾患と同様に定期的な画像検査が重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)AIHの診断は、わが国の診断指針(表1)3)ならびにInternational Autoimmune Hepatitis Group(IAIHG)が提唱した改訂版あるいは簡易版国際診断基準が用いられている。改訂版は診断感受性に優れ自己抗体陽性、IgG高値などの所見が目立たない非定型例も拾い上げて診断することができ、簡易版は特異性に優れステロイド治療の決定に参考となる。重症度判定は表2の基準を用いて行う3)。鑑別診断では、ウイルス性肝炎および肝炎ウイルス以外のウイルス感染(サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)による肝障害、健康食品による肝障害を含む薬物性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患、他の自己免疫性肝疾患などとの鑑別を行う。とくに薬物性肝障害や非アルコール性脂肪性肝疾患では抗核抗体が陽性となる症例があり、詳細な薬物摂取歴の聴取や病理学的検討が重要である。最近ではIgG4関連疾患や免疫チェックポイント阻害薬による肝障害との鑑別も課題となっている。表1 自己免疫性肝炎の診断指針・治療指針(2021年)●診断1.抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性2.IgG高値(>基準上限値1.1倍)3.組織学的にinterface hepatitisや形質細胞浸潤がみられる4.副腎皮質ステロイドが著効する5.他の原因による肝障害が否定される典型例上記項目で、1~4のうち3項目以上を認め、5を満たすもの非典型例上記項目で、1~4の所見の1項目以上を認め、5を満たすもの表2 自己免疫性肝炎の重症度判定画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の基本は、副腎皮質ステロイドによる薬物療法である。プレドニゾロン導入量は0.6mg/kg/日以上とし、中等症以上では0.8mg/kg/日以上を目安とする3)。早すぎる減量は再燃の原因となるため、ゆっくり漸減し、最低量のプレドニゾロンを維持量として長期投与する。ウルソデオキシコール酸は、副腎皮質ステロイドの減量時に併用あるいは軽症例に単独で投与することがある。再燃例では、初回治療時に副腎皮質ステロイドへの治療反応性が良好であった例では、ステロイドの増量または再開が有効である。繰り返し再燃する例やステロイドを使用しにくい例ではNUDT15遺伝子多型検査で問題が無ければアザチオプリン(1~2mg/kg/日、成人では50~100mg/日)の併用を考慮する3)。重症例では、ステロイドパルス療法や肝補助療法(血漿交換や血液濾過透析)などの特殊治療を要することがある。また、非代償性肝硬変例や急性肝不全例では肝移植が有効な治療法となる場合がある。4 今後の展望急性肝炎様に発症する症例では、抗核抗体陽性やIgG高値といった典型像を呈さないことがあるため、疾患特異的な診断マーカーの探索が求められている。ステロイド剤やアザチオプリンで抵抗性あるいは不耐例に対する2nd line治療が課題となっており、海外で多く使用されているミコフェノール酸モフェチルのわが国における使用についても保険適用も含め検討が必要である。5 主たる診療科肝臓内科・消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 自己免疫性肝炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)1)Tanaka A, et al. Hepatol Res. 2019;49:881-889.2)Christen U, et al. Int J Mol Sci. 2016;17:2007.3)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:自己免疫性肝炎(AIH)の診療ガイドライン(2021年).2022.公開履歴初回2020年2月3日更新2023年7月13日

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ウルソの特性を生かしたアドヒアランス改善提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第12回

 今回は、患者さんの服薬管理方法に着目し、用法をまとめたことでアドヒアランスが改善した事例を紹介します。分3内服の典型薬剤であるウルソデオキシコール酸の意外な特性を活かした処方提案ですので参考になれば幸いです。患者情報70歳、女性(施設入居)基礎疾患:原発性胆汁性肝硬変、心不全、糖尿病、逆流性食道炎内服管理:自己管理処方内容(介入時)1.ウルソデオキシコール酸100mg 3錠 分3 毎食後2.ラベプラゾール錠10mg 1錠 分1 朝食後3.フロセミド錠40mg 1錠 分1 朝食後4.インスリンリスプロ注 1日3回 毎食直前 朝4−昼4−夕4単位5.インスリングラルギン注 1日1回 就寝前 6単位本症例のポイント施設入居時、残薬だけで3ヵ月は生活できるほど大量に薬が余っていました。血糖コントロールは当然不良でしたが、患者さんに危機感はなく、「血糖自己測定(SMBG)は家事の際にしみて痛いから嫌だ」、「毎食後の注射は煩わしいから嫌だ」と訴えていました。薬剤師の訪問開始後、治療の必要性を伝えたり手技を確認したりしたものの、それでも毎回のように残薬があり、インスリンリスプロの単位数は4-4-4→6-6-4→6-6-6と、だんだん増量となっていきました。そうこうしているうちに、HbA1cは15.6まで上昇し、医師より血糖管理不良の判断がなされ、インスリングラルギンの単位数が16単位へ増量となりました。なお、ウルソデオキシコール酸については、昼・夕分はほとんど手が付けられておらず、肝機能も悪化気味でした。インスリン注射をきちんと打てていない理由は何かあらためて探ってみたところ、この患者さんは間食が大好きで、一日中何かしら食べていることが判明。さらに、インスリン単位数を上げているので間食を増やしてもいいのだと都合よく解釈し、実際には打っていないこともわかりました。そのような治療意識の低さが日々の内服薬の服薬アドヒアランスにも影響していました。患者さんの問題点を整理すると、(1)患者さんの病識不足による血糖管理不良、(2)内服アドヒアランス不良に伴う肝機能・心不全の悪化の2点だと考えました。患者さんにとって現状で何が一番負担かを聴取すると、毎食前のインスリンと毎食後の内服薬だという話を聞くことができました。ほぼすべてが負担と感じている状況ですが、服薬回数を減らすことでアドヒアランス向上につながる可能性があると思い、ウルソデオキシコール酸の服薬回数に着目しました。ウルソデオキシコール酸(UDCA)の薬理作用<利胆作用>:細胞障害性の胆汁酸トランスポーター発現→胆汁量増(胆汁うっ滞改善作用)<置換作用>:細胞障害の強い疎水性胆汁酸とUDCA(親水性:細胞障害なし)と置き換わることによる肝障害の軽減上記の置換作用は、投与回数ではなく総投与量が相関しているため、1日1回にまとめることは可能。ただし、消化器系副作用が増加するという報告もあるため注意が必要。このことから、ウルソデオキシコール酸を朝にまとめることで内服回数を1日1回に減らすことが可能と考えました。また、根本の問題である血糖管理も、インスリンリスプロ注をほとんど使用していないためであり、朝の内服に合わせたインスリングラルギンによる治療管理の提案と間食の節制などの指導を行うこととしました。処方提案と経過医師にトレーシングレポートを用いて、ウルソデオキシコール酸を朝にまとめることと、インスリングラルギンを朝単回にしてリズムを作るのはどうか提案しました。医師もコンプライアンスについて問題視していたため、まずはきちんと内服とインスリンを打つことが先決との返答をいただき、承認を得ることができました。その後、ウルソデオキシコール酸とほかの内服薬の服用タイミングがそろったことから一包化しました。すると、内服管理が朝のみになったことで本人の負担が軽減され、飲み忘れることがなくなりました。また、内服とインスリンの使用機会も同一となり、インスリンを確実に打てるようになりました。血糖推移も血糖管理手帳によると300~400台から120~200台まで改善しました。結果が良くなってきたことで、患者さんの意識が少しずつ変化し、今ではかなり自信がついたと感じています。間食をダラダラ食べ続けることが減ったことも影響していると考えます。なお、ウルソデオキシコール酸の投与回数を1回/日にまとめたことで消化器系副作用が懸念されていましたが、胸焼けや悪心などの症状の出現はなく経過しています。上垣佐登子ほか. 肝臓. 2007;48:559-561.

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オベチコール酸、NASHによる肝線維化を有意に改善/Lancet

 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者に対するオベチコール酸25mgの1日1回投与は、肝線維症およびNASH疾患活動性の主要要素を有意に改善することが示された。米国・Inova Health SystemのZobair M. Younossi氏らが、1,968例を対象に行っている多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「REGENERATE試験」の中間解析の結果を報告し、「今回の計画されていた中間解析の結果は、相当な臨床的ベネフィットを予測させる臨床的に有意な改善を示すものであった」とまとめている。NASHは一般的にみられる慢性肝疾患の1つで、肝硬変に結び付く可能性がある。farnesoid X receptor(FXR)作動薬であるオベチコール酸は、NASHの組織学的特色を改善することが示唆されていた。Lancet誌2019年12月14日号掲載の報告。オベチコール酸投与によるNASH寛解または線維症1ステージ以上改善を評価 研究グループは2015年12月9日~2018年10月26日にかけて、NASHの確定診断を受け、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)活動性スコア4以上、肝線維症ステージF2~F3、またはF1で併存疾患が1つ以上の成人患者を対象に試験を行った。 被験者を無作為に1対1対1の3群に分け、プラセボ、オベチコール酸10mg、オベチコール酸25mgをそれぞれ1日1回投与した。なお、肝硬変、ほかの慢性肝疾患、アルコール摂取量の増加、その他の交絡因子となる状態がある場合には、被験者から除外した。 18ヵ月後の中間解析における主要エンドポイントは、NASH非増悪で線維症が1ステージ以上改善(線維症改善エンドポイント)、または線維症非増悪でNASH寛解(NASH寛解エンドポイント)のいずれかの達成とした。1回以上の試験薬投与を行ったF2~F3の患者で、事前に決めた中間解析日までに18ヵ月経過した被験者を対象にITT解析を行った。また、NASHや線維症の組織学的・生物学的マーカーや安全性についても検証した。オベチコール酸25mg群のNASH寛解の達成率12%、プラセボ群8% 被験者登録は線維症ステージF1~F3の1,968例で、そのうち中間解析にはF2~F3の931例(プラセボ群311例、オベチコール酸10mg群312例、オベチコール酸25mg群308例)が包含された。 線維症改善エンドポイントの達成率は、プラセボ群37例(12%)に対し、オベチコール酸10mg群55例(18%、対プラセボのp=0.045)、オベチコール酸25mg群は71例(23%、同p=0.0002)だった。 NASH寛解エンドポイントの達成率は、それぞれ25例(8%)、35例(11%、対プラセボのp=0.18)、36例(12%、p=0.13)だった。 全登録被験者(F1~F3の1,968例)を対象に行った安全性に関する解析では、最も多かった有害事象はかゆみで、発現はプラセボ群123例(19%)、オベチコール酸10mg群183例(28%)、オベチコール酸25mg群336例(51%)であり、重症度は概して軽度~中等度だった。重篤な有害事象の発現頻度は、それぞれ75例(11%)、72例(11%)、93例(14%)で同程度だった。 本試験は臨床的アウトカムを評価するために現在も継続進行中である。

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「酸化コレステロール」を含んだ食品は食べないのが一番/日本動脈硬化学会

 メタボリックシンドロームにしばしば合併する脂肪肝だが、実は動脈硬化リスクも伴う。自覚症状に乏しいことから、一般メディアでは“隠れ脂肪肝”などと呼ばれ、患者から質問されることも珍しくない。しかし、脂肪肝だからと言って、ただ“脂モノ”を控えるという対処は正しくないという。 先日、日本動脈硬化学会(理事長:山下 静也)が開催したセミナーにて、動脈硬化と関連の深い「脂肪肝/脂肪肝炎」と「酸化コレステロール」について、2人の専門医が解説した。脂肪肝/脂肪肝炎は、肝硬変・肝がんだけでなく心血管疾患リスクにも はじめに、小関 正博氏(大阪大学大学院 医学系研究科循環器内科)が、脂肪肝の病態とリスクについて講演を行った。アルコールの影響を受けていない脂肪肝は、脂肪が肝臓に蓄積した「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」と、さらに炎症や線維化を伴った「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」に分類される。しかし、区別が難しいため、NAFLとNASHの総称として「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」とも呼ばれる。 NASHは、炎症を繰り返すうちに線維化が進み(肝硬変)、肝がんに至るケースもあるとわかってきた。20年ほど前は、「脂肪肝は、がんにならない」と言われていたが、ウイルス性肝炎由来の肝細胞がんが治療法の進歩により減り、相対的に、脂肪肝炎由来のがん症例の増加が浮き彫りになっているという。 小関氏は、「NASHがウイルス性肝炎と決定的に違うのは、虚血性心疾患のリスクを伴う点。米国において、NAFLD患者は肝がんより心血管疾患で死亡する例のほうが多いという報告1)もある。脂肪肝と脂肪肝炎は、今後さまざまな診療科が連携して診療していくべき疾患だ」と強調した。線維化の段階を評価し、NASHが疑われる場合は専門医へ NAFLDは、肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病と高率に合併し、国内の有病率は、男性では40~59歳の40%以上、女性では60~69歳の30%以上との報告がある。また、NAFLD患者の生存率は、肝線維化と強く関連することがわかっている。 脂肪肝は、腹部エコーで腎皮質よりも白く映る(肝腎コントラスト陽性)所見により、健診などで発覚し、その後は『NAFLD/NASH診療ガイドライン20142)』のチャートに従って診断される。線維化の段階を評価するためには、FIB-4 index(肝線維化の進行度を非侵襲的に推測するためのスコアリングシステム/日本肝臓学会)や、MR Elastographyを用いた画像化による方法があり、NASHが疑われる場合は、専門医の受診が勧められる。動脈硬化性疾患のリスクに潜む“隠れ脂肪肝”を、今後見過ごすわけにはいかない。酸化コレステロールが「超悪玉コレステロール」のプラーク形成促進 次に、的場 哲哉氏(九州大学病院 循環器内科)が、酸化コレステロールと動脈硬化の関連性について説明した。動脈硬化は、高血圧、脂質異常症、糖尿病などによってダメージを受けた血管壁に、LDLが入り込むことで進行する。 通常、LDLはコレステロールを肝臓から末梢に運んでいるが、生活習慣病の人には、血管壁に入り込みやすい、小型で密度の高いLDL(small dense LDL)が存在するという。これは、“超悪玉コレステロール”とも呼ばれ、近年注目を集めている。このsmall dense LDLが、動脈硬化を強力に誘発すると考えられ、血清脂質値が正常にもかかわらず、動脈硬化を引き起こした例も報告されている。 血管壁に入り込んだLDLは、「酸化」されることで白血球のターゲットとなり、プラークの形成をもたらす。LDLの酸化反応は、身近な食品中にも含まれる「酸化コレステロール」によって促進され、とくに、small dense LDLは酸化しやすい。 つまり、動脈硬化を防ぐためには、酸化コレステロールが多く含まれる食品を避けたほうがよい。例えとして、焼き鳥の皮の部分、インスタントラーメンの麺、マーガリンやマヨネーズの変色した部分、二度揚げされた揚げ物、漬け込み保存された魚卵、加工肉食品、するめやビーフジャーキーなどUV照射を受けた食品などが挙げられた。酸化コレステロールを含んだ食品は食べないのが一番 続いて的場氏は、酸化コレステロールと心血管疾患との関連を裏付ける研究結果を紹介した。経皮的冠動脈インターベンション後の治療薬による効果をスタチン単独とスタチン+エゼチミブでランダム比較した「CuVIC Trial3)」では、冠動脈疾患患者において、血中酸化コレステロール高値が、LDL-コレステロール高値とともに冠動脈内皮機能障害と関連することが明らかになった。この内皮機能障害は、エゼチミブのコレステロール吸収阻害作用によって軽減されることが示された。 酸化コレステロールについてはさまざまな研究が行われているが、まだ解明できていない点も多く、現行のガイドラインには記載されていない。酸化コレステロールをバイオマーカーや治療標的として利用するためには、引き続き研究を重ねる必要がある。 同氏は、「酸化コレステロールを特異的に下げる薬はまだない。まずは酸化コレステロールの摂取を避け、食事療法と運動療法を組み合せた生活習慣の改善が重要」と締めくくった。

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経口の糞便移植で死亡例、その原因は?/NEJM

 糞便微生物移植(FMT)の臨床試験に参加した被験者で、死亡1例を含む4例のグラム陰性菌血症が発生していたことが明らかにされた。米国・ハーバード大学医学大学院のZachariah DeFilipp氏らによる報告で、そのうち術後にESBL産生大腸菌(Escherichia coli)血症を発症した2例(1例は死亡)は、別々の臨床試験に参加していた被験者であったが、ゲノムシークエンスで同一ドナーのFMTカプセルが使用されていたことが判明したという。著者は、「有害感染症イベントを招く微生物伝播を限定するためにもドナースクリーニングを強化するとともに、異なる患者集団でのFMTのベネフィットとリスクを明らかにするための警戒を怠らない重要性が示された」と述べている。FMTは、再発性/難知性クロストリジウム・ディフィシル感染症の新たな治療法で、その有効性・安全性は無作為化試験で支持されている。他の病態への研究が活発に行われており、ClinicalTrials.govを検索すると300超の評価試験がリストアップされるという。NEJM誌オンライン版2019年10月30日号掲載の報告。使用されていたのは検査強化前の冷凍FMTカプセル 研究グループは、術後にESBL産生大腸菌血症を発症した2例(1例は死亡)について詳細な調査報告を行った。 まずドナースクリーニングと、カプセル製剤手順を検証したところ、ドナースクリーニングは施設内レビューボードと米国食品医薬品局(FDA)による承認の下で行われており、集められたドナー便はブレンダーでの液化や遠心分離などの処置を経て懸濁化され、熱処理などを受けて製剤化が行われていた。ただし、2019年1月にFDAの規制レビューを受けてドナースクリーニングを強化していたが、件の2例に使用されたFMTカプセルは2018年11月に製造されたものであったという。この時に強化された内容は、ESBL産生菌、ノロウイルス、アデノウイルス、ヒトTリンパ親和性ウイルス タイプ1およびタイプ2抗体を検査するというものであった。規制レビューを受けた後も、それ以前に製剤化・冷凍保存されていたFMTカプセルについて、追加の検査や廃棄はせず試験に使用されていた。FMT前の被験者の便検体からはESBL産生菌は未検出 患者(1)は、C型肝炎ウイルス感染症による肝硬変の69歳男性で、難治性肝性脳症の経口カプセルFMT治療に関する非盲検試験に参加した被験者であった。2019年3月~4月に、15個のFMTカプセルを3週間に5回にわたって移植。術後17日(2019年5月)までは有害事象は認められなかったが、発熱(38.9度)と咳を呈し、胸部X線で肺浸潤を認めレボフロキサシンによる肺炎治療が行われた。しかし、臨床的改善が認められず2日後に再受診。患者(1)は、その際に前回受診時での採血の血液培養の結果でグラム陰性桿菌が確認されたことを指摘され、ピペラシリン・タゾバクタムによる治療を開始し入院した。培養されたグラム陰性桿菌を調べた結果、ESBL産生大腸菌であると同定された。患者(1)の治療はその後カルバペネムに切り替えられ、さらに14日間のメロペネム投与(入院治療)、さらにertapenem投与(外来治療)を完了後、臨床的安定性を維持している。フォローアップ便検体のスクリーニングでは、ESBL産生菌は検出されなかった。 患者(2)は、骨髄異形成症候群の73歳男性で、同種異系造血幹細胞移植の前後に経口カプセルFMTを行う第II相試験に参加していた。15個のFMTカプセルを、造血幹細胞移植の4日前と3日前に移植。造血幹細胞移植の前日に、グラム陰性菌血症リスクを最小化するためのセフポドキシム予防投与を開始した。しかし、造血幹細胞移植後5日目(最終FMT後8日目)に発熱(39.7度)、悪寒、精神症状の異変を呈した。血液培養の採血後、ただちに発熱性好中球減少症のためのセフェピム治療を開始したが、その晩にICU入室、人工呼吸器装着となる。予備血液培養の結果、グラム陰性桿菌の存在が示され、メロペネムなど広域抗菌薬を投与するが、患者の状態はさらに悪化し、2日後に重篤な敗血症で死亡した。最終血液培養の結果、ESBL産生大腸菌が検出された。 なお患者(1)(2)とも、FMT前の便検体からESBL産生菌は検出されなかったという。

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肝性脳症〔Hepatic encephalopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義意識障害には脳機能障害以外に多くの原因があるが、肝機能低下に伴う意識障害が肝性脳症とされている。肝性脳症は多くの場合、肝硬変や劇症肝炎患者などの肝障害が進行した状況において発生する。傾眠傾向といった軽度のものから、重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す合併症で、肝不全の特徴的徴候の1つである。顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態を「ミニマル脳症」と呼ぶ。■ 疫学わが国では数十万人の肝硬変患者が存在するとされており、病状の悪化に伴い、いずれの患者においても肝性脳症を発症しうる。ミニマル脳症については、肝硬変患者の1/3が有しているとの報告もあり、ミニマル脳症患者のうち約20%が半年以内に顕性脳症に移行するとされている。急性型の劇症肝炎の発症数は減少しているものの、肝硬変を基礎疾患として急性増悪を来す“Acute-on chronic liver failure(ACLF)”がアルコールを原因とするものとして近年増加している。■ 病因急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。最近では肝硬変などの慢性肝疾患が急性増悪して、急激に肝不全症状を呈した場合を“Acute on chronic”と呼ぶことが提唱されている。慢性型では肝硬変によるものが臨床的に最も多い。肝硬変では、門脈大循環短絡路を形成していることが多く、その程度により治療反応性と予後が異なることから、短絡路の評価を行ったうえで治療法を決定する。頻度は高くないものの、先天性尿素サイクル異常症も、念頭において診療に当たることが必要である。アンモニア高値のみを示す成人では、オルニチントランスカルバミラーゼ (OTC)欠損症とシトルリン血症などの可能性が考えられる。■ 症状肝性脳症は、傾眠傾向といった軽度のものから重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す。わが国で広く使用されている犬山シンポジウムの分類を表1に示す。先に述べたミニマル脳症は、臨床的には診断できないためナンバーコネクション(数字追跡)試験などの精神神経学的テストで判断する。なお、このテストはiPadなどにダウンロードして使用でき、日本肝臓学会のホームページから無料でダウンロードできるようになっている。表1 肝性脳症の犬山分類画像を拡大する■ 分類顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態をミニマル脳症と呼ぶ(表2)。欧米での肝性脳症の分類を表3に示す。表2 臨床病型分類画像を拡大する表3 欧米における肝性脳症の分類画像を拡大する表3に示したように、肝性脳症は大きく(A)急性型、(B)バイパス型、(C)肝硬変型に分けられる。型別頻度は、急性型28%、慢性型のうち再発型54%、末期昏睡型18%といわれており、初回脳症時の生存率は慢性再発型で76%であるのに対し、末期昏睡型では23%と報告されている。救急外来を受診した意識障害患者において、肝性脳症の頻度は約2%とされており、頻度が高いものではないが常に念頭に置くべき疾患の1つである。急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。■ 予後肝性脳症が出現した患者の予後は悪いことが知られている。海外の報告では脳症出現後の1年生存率は約35%、2年で30%、3年で20%、5年で15%とされている。慢性型では肝硬変によるものが最も多いが、脳症の出現は予後を悪化させる合併症であり、脳症の出現した肝硬変患者の生存率は30~40%と考えられる。また、ACLFに関しても、脳症出現が重症度分類に加えられていることから、脳症の出現は肝疾患全体に関する予後決定因子の1つと考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)臨床症状に加えて検体検査、画像検査、精神神経機能検査などを行って総合的に診断する。身体所見としては肝不全に伴う皮膚黄染(黄疸)、浮腫、腹部膨隆(腹水貯留)を認める場合が多い。羽ばたき振戦や、肝性口臭などは急性型、慢性型のいずれにもみられるが、手掌紅斑、くも状血管腫、腹壁静脈怒張などは慢性型を疑う所見となる。ミニマル脳症は臨床的所見による診断が困難である。わが国では顕性脳症の昏睡度分類として主に表1の犬山分類が用いられる。脳症の昏睡度I度は臨床的には判定困難なことが多く、振り返って初めて診断できることも少なくない。II度になると、羽ばたき振戦など診断は比較的容易であるが、羽ばたき振戦は尿毒症や低血糖症でも出現することがあるので鑑別が必要である。1)検体検査肝不全を判定するため、一般肝機能検査、肝予備能(アルブミン、プロトロンビン時間、コリンエステラーゼなど)とともにアンモニア値を測定する。シトルリン血症などの尿素サイクル異常症では、アンモニア以外の肝機能は正常であることが多い。BCAA/AAAモル比(フィッシャー比)の低下を認めるが、最近では簡便な指標としてBCAA/チロシン比であるBTRが用いられることが多い。また、脱水や消化管出血が誘因となっている場合は、BUN(血液尿素窒素)/Cr(血中クレアチニン)比の上昇がみられ、利尿剤使用による低カリウム血症などの電解質異常を認める場合も多い。2)画像検査腹部超音波、CT検査などで慢性肝疾患や脾腫、短絡路の有無などを検索する。また、頭部MRI検査などで中枢神経系の疾患を除外する。深昏睡では脳浮腫の有無も評価する。慢性再発型ではMRI T1強調検査で淡蒼球の高信号が特徴的とされている。3)精神神経機能検査症状に乏しいミニマル脳症を疑う患者に対しては数字追跡試験、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)式成人知能検査などによる評価を行う。脳波は三相波が出現し、進行とともに低振幅徐波となっていく。意識障害を伴っている患者の場合、頭部CT、MRI検査や髄液検査などの検査を行い、中枢神経系の疾患を除外することが大切である。さらに、糖尿病性ケトアシドーシスや低血糖症など代謝性疾患の除外のため、血糖、尿中ケトン体、血液ガス検査なども行う。肝性脳症初期の症状は、睡眠パターン変化、人格変化、被刺激性、精神反応の鈍化など軽微で非特異的な症状であり、臨床的診断は困難である。必要に応じて、定量的精神神経機能検査(数字追跡試験、WAIS式成人知能検査など)や電気生理学的神経検査(脳波[三相波がみられる]、大脳誘発電位など)を組み合わせて診断を試みる。アンモニア値が低いからといって肝性昏睡を否定できないことに注意が必要である。逆にアンモニア値が高くても意識障害を認めない症例も多数あるため、肝性脳症の診断には家人を含めた詳細な問診が必要となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝性脳症の治療は、誘因の除去および食事療法による一般療法と薬物療法に分けられる。1)誘因の除去タンパク質の過剰摂取、便秘、下痢などの便通異常、脱水、感染症、利尿剤や睡眠剤、安定剤の過剰投与などは、非代償性肝硬変患者において容易に肝性脳症を誘発するため、普段より生活指導を行うことが重要である。2)食事療法肝性脳症時の食事療法は、低タンパク食(0.4~0.6kg/標準体重)が基本であるが、長期間のタンパク制限は栄養不良を助長し、予後に悪影響を及ぼすことが懸念されるため、漫然と継続しないことに注意する。3)薬物療法アンモニアの生成および吸収抑制のため(1)合成二糖類、(2)難吸収性抗生物質を用いる。(2)に関して、これまではカナマイシンや硫酸ポリミキシンBが使われてきたが、いずれも保険適用外であり、長期投与による聴力障害や腎機能障害を生じるなどの問題があった。2016年に、海外では30年以上前から使用されていたリファキシミン(商品名:リフキシマ)が、肝性脳症に対してわが国でも使用が認可された。海外のガイドラインでは難吸収性抗生物質は、合成二糖類に併用投与が推奨されている。リファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類や分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの報告がある。亜鉛補充は、これまで各施設で硫酸亜鉛などを調剤していたが、ウイルソン病治療薬である酢酸亜鉛(同:ノベルジン)が肝疾患の低亜鉛血症に対して適応拡大となった。4 今後の展望最新の認知症ガイドラインにおいて、早期認知症との鑑別すべき疾患の1つとして肝性脳症が挙げられている。最近問題となっている車の運転における逆走などは、ミニマル脳症の患者も同様のハイリスクを有していることから、ミニマル脳症を含めた早期治療介入の重要性が今後注目されると思われる。さらにリファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから、第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類やBCAA製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの複数の報告もなされている。肝性脳症を含めて肝硬変領域においては、この数年間で多くの新薬が上市された。2019年には非代償期のC型肝硬変患者に対する直接的抗ウイルス治療薬(DAA)製剤も認可されており、今後肝硬変診療は新たなパラダイムシフトに向かっていくと思われる。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本消化器病学会ガイドライン閲覧サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肝臓学会肝性脳症診断ツールダウンロード(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2019年6月11日

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英国で食品中の砂糖20%削減へ、関連疾患は抑制されるか/BMJ

 2017年3月、英国政府は、食品製造および小売業界との協働で、シリアルや菓子類など特定の食品群の砂糖含有量を2020年までに20%削減する計画を発表した。イングランド公衆衛生庁(Public Health England)は、砂糖摂取目標を1日摂取カロリーの5%までとすることで摂取カロリーを11%削減し、これによって年間砂糖関連死を4,700件減らし、医療費を年間5億7,600万ポンド抑制するとのモデルを打ち出した。今回、同国オックスフォード大学のBen Amies-Cull氏らは、砂糖減量計画の潜在的な健康上の有益性について予測評価を行い、BMJ誌2019年4月17日号で報告した。砂糖減量計画の肥満、疾病負担、医療費への影響を検討 研究グループは、英国政府による砂糖減量計画が子供および成人の肥満、成人の疾病負担、医療費に及ぼす影響の予測を目的にモデル化研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。 全国食事栄養調査(National Diet and Nutrition Survey:NDNS)の2012~13年度と2013~14年度におけるイングランドの食品消費と栄養素含有量データを用いてシミュレーションを行い、砂糖減量計画によって達成される体重およびBMIの潜在的な変化を予測するシナリオをモデル化した。 シナリオ分析は、個々の製品に含まれる砂糖の量の20%削減(低砂糖含有量製品へ組成を変更または販売の重点の転換[砂糖含有量の多い製品から少ない製品へ])または製品の1人前分量の20%削減について行った。イングランドに居住する4~80歳のNDNS調査対象者1,508例のデータを用いた。 主要アウトカムは、子供と成人の摂取カロリー、体重、BMIの変化とした。成人では、質調整生存年(QALY)および医療費への影響などの評価を行った。10年で、糖尿病が15万4,550例減少、総医療費は2億8,580万ポンド削減 砂糖減量計画が完全に達成され、予定された砂糖の減量がもたらされた場合、1日摂取カロリー(1kcal=4.18kJ=0.00418MJ)は、4~10歳で25kcal(95%信頼区間[CI]:23~26)低下し、11~18歳も同じく25kcal(24~28)、19~80歳では19kcal(17~20)低下すると推定された。 介入の前後で、体重は4~10歳で女児が0.26kg、男児は0.28kg減少し、これによってBMIはそれぞれ0.17、0.18低下すると予測された。同様に、11~18歳の体重は女児が0.25kg、男児は0.31kg減少し、BMIはそれぞれ0.10、0.11低下した。また、19~80歳の体重は女性が1.77kg、男性は1.51kg減少し、BMIは0.67、0.51低下した。 全体の肥満者の割合は、ベースラインと比較して、4~10歳で5.5%減少し、11~18歳で2.2%、19~80歳では5.5%減少すると予測された。 QALYについては、10年間に、女性で2万7,855 QALY(95%不確定区間[UI]:2万4,573~3万873)、男性では2万3,874 QALY(2万1,194~2万6,369)延長し、合わせて5万1,729 QALY(4万5,768~5万7,242)の改善が得られると推算された。 疾患別のQALY改善への影響は、糖尿病が圧倒的に大きく、10年間に女性で8万9,571例(95%UI:7万6,925~10万1,081)、男性で6万4,979例(5万5,698~7万3,523)、合計15万4,550例(13万2,623~17万4,604)が減少すると予測された。また、10年で大腸がんが5,793例、肝硬変が5,602例、心血管疾患は3,511例減少するが、肺がんと胃がんの患者はわずかに増加した。総医療費は、10年間に2億8,580万ポンド(3億3,250万ユーロ、3億7,350万米ドル、95%UI:2億4,970万~3億1,980万ポンド)削減されると推定された。 3つの砂糖減量アプローチ(製品組成の変更、1人前分量の削減、販売の重点の転換)のうち、1つで摂取カロリー削減に成功しなかった場合、疾病予防への影響が減衰し、健康上の有益性が容易に失われる可能性が示唆された。 著者は、「英国政府による砂糖減量計画では、砂糖の量および1人前の分量の削減が、摂食パターンや製品組成に予期せぬ変化をもたらさない限り、肥満および肥満関連疾患の負担の軽減が可能と考えられる」としている。

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女性化乳房のPPIによる発症リスクを調査

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)による女性化乳房の症例報告は多いが、大規模な疫学研究はなかった。今回、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のBonnie He氏らが大規模な後ろ向きコホート研究を実施し、男性患者におけるPPIによる女性化乳房リスクを調べた。その結果、PPI使用による女性化乳房発症リスクはアモキシシリン使用に比べ、50歳超で1.5倍であった。Pharmacotherapy誌オンライン版2019年3月13日号に掲載。女性化乳房は新規PPI使用患者22万791例のうち389例 著者らは、米国のPharMetrics Plus健康診断データベースを使用して、2006~16年の新規PPI使用患者および新規アモキシシリン使用患者の後ろ向きコホート研究を実施した。女性化乳房の診断は、国際疾病分類(ICD-9、ICD-10)のコードで同定した。90日以内に女性化乳房の2つのコードがあり、最初のコードがイベントコードである患者を女性化乳房症例とした。ハザード比(HR)は、アルコール性肝硬変、甲状腺機能亢進症、精巣がん、クラインフェルター症候群、肥満のほか、ケトコナゾール・リスペリドン・スピロノラクトン・アンドロゲン除去療法の使用を調整し算出した。また、2回のPPI処方の曝露での感度分析も行われた。 PPIによる女性化乳房リスクを調べた主な結果は以下のとおり。・新規PPI使用患者では、22万791例のうち389例が女性化乳房と診断され、新規アモキシシリン使用患者では、83万7,740人のうち996例が女性化乳房と診断された。・女性化乳房発症をアモキシシリン使用と比較したPPI使用の粗HR は1.70であった(95%信頼区間[CI]:1.461~1.976)。・感度分析における調整HRは1.299(95%CI:1.146~1.473)であった。・調整HRは、50歳以上の患者では1.4795(95%CI:1.2431~1.7609)、50歳以下の患者では1.324(95%CI:1.1133~1.5745)であった。

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原発性硬化性胆管炎〔primary sclerosing cholangitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)は、小胆管周囲にonion-skin様の結合織に囲まれる炎症により特徴付けられる肝の慢性炎症である。結合織の増加により胆管は狭窄、閉塞を起こし、胆汁うっ滞を来し、閉塞性黄疸となり、最終的には肝硬変、肝不全に進展する。PSCの発症・進展には、自己免疫機序が深く関わることが推定されているものの、血清学的に特異的な免疫指標は残念ながら同定されておらず、病因は現在も不明である。■ 疫学2012年の全国疫学調査によると、国内症例数は2,300名前後、人口10万人当たりの有病率は0.95程度と推測されている。しかし、欧米諸国で近年発症率の増加が報告されていること、画像検査の進歩により診断率が向上していることにより、実際の患者数はもう少し多いことが推察される。患者は、男性にやや多く、20代と60代の二峰性を示す。わが国では肝内・肝外胆管両者の罹患症例が多く、潰瘍性大腸炎の罹患合併が34%で、とくに若年者に高率である。また、胆管がんの合併を7.3%に認めている。■ 病因PSCには炎症性腸疾患との関連が認められており、欧米ではPSC患者の80%で合併がみられるが、わが国ではその頻度は低く、とくに高齢者では合併例は少ない。潰瘍性大腸炎患者の約5%とクローン病患者の約1%がPSCを発症する。こうした関連性といくつかの自己抗体(例:抗平滑筋抗体、核周囲型抗好中球抗体[pANCA])の存在から、免疫を介した発生機序が示唆されている。T細胞が胆管の破壊に関与するとみられることから、細胞性免疫の障害が示唆されている。家系内で集積傾向がみられ、自己免疫疾患との相関もしばしば報告され、HLAB8およびHLADR3を有する人々での頻度がより高いことから、遺伝的素因の存在が示唆されている。遺伝的素因のある人々では、おそらく原因不明の誘因(例:細菌感染、虚血性の胆管傷害など)によってPSCが引き起こされると考えられている。■ 症候病初期には無症状で、偶然の機会に胆道系酵素の上昇などで発見されることもある。発症は通常潜行性で、進行性の疲労や掻痒感が認められる場合が多い。約10~15%の症例では、右上腹部痛と発熱を認める。診断時の症状についての全国アンケート調査では、黄疸28%、掻痒感16%が認められるとの報告がある。病態が進行すれば、脂肪便、脂溶性ビタミン欠乏を来す場合があり、持続性の黄疸により病態は進行し、肝硬変の症状を呈する。約75%の症例で症状を伴う胆石や総胆管結石症を伴うことが報告されている。なお、一部の症例では晩期まで無症状のまま経過し、肝脾腫、肝硬変の状態で診断される場合もあるが、本疾患は緩徐ながら確実に進行し、末期には非代償期肝硬変に至る。診断から肝不全に至るまでの期間は、約12年とされている。なお、合併が多い炎症性腸疾患とは独立した経過をたどり、潰瘍性大腸炎はPSCに数年遅れて発現するケースがあり、合併が認められた場合、潰瘍性大腸炎は比較的軽症の経過をとる傾向があるとされている。結腸全摘術を施行された場合でも、PSCの経過には変化がないことが報告されている。そのほか、PSCと炎症性腸疾患両者が存在すると大腸がんのリスクが上昇し、このリスクはPSCに対して肝移植を施行しても変わらないことが報告されている。■ 予後わが国の全国調査によれば、肝移植なしの5年生存率は75%とされている。肝移植症例では、とくに近親者からの移植症例で再発が高頻度であるとの報告がある。早期症例では、肝硬変に至るまでの期間は15~20年とされているが、8~10%の症例では胆管がんの合併があるので注意が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)確定診断に至る臨床的特異的マーカーは存在せず、また、肝生検でも確定診断は困難である。診断は、肝内外胆管病変の画像診断によるが、類似の画像所見を示す疾患、とくに自己免疫性膵炎(AIP)に伴う胆管炎との鑑別が重要である。診断に当たっては、以下の臨床像に十分留意する。(1)胆汁うっ滞に基づく腹痛、発熱、黄疸などの症状、(2)炎症性腸疾患、とくに潰瘍性大腸炎の存在、(3)6ヵ月以上持続する胆道系酵素、AlPの正常上限2~3倍以上の持続上昇。 また、画像所見や超音波検査では、(1)散在する胆管内腔の狭窄と拡張、(2)散在する胆管壁肥厚に留意が必要となる。そして、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)では(1)肝内外胆管の散在する輪状、膜状、帯状狭窄および憩室様突出、数珠状狭窄、(2)肝内外胆管の毛羽立ち、刷子縁様の不整像、(3)肝内胆管分枝像の減少、(4)肝外胆管狭窄に符合しない肝内胆管拡張、などの特徴的所見が認められ、ERCP施行によりこれら所見はより明確になる(図1、2)。(図1、2入る)画像を拡大する画像を拡大するなお、診断確定に当たっては、以下の(1)~(9)の疾患の除外が重要であり、IgG4関連硬化性胆管炎の鑑別も重要である(下に挙げた厚生労働省研究班の診断基準を参照)。(1)IgG4関連硬化性胆管炎、(2)胆道感染症による胆管炎、(3)胆道悪性腫瘍、(4)胆管結石、(5)腐食性硬化性胆管炎、(6)先天性胆道異常、(7)虚血性胆管狭窄、(8)胆道外科手術後状態、(9)floxuridine動注による胆管障害。病変の広がりにより、1)肝内型、2)肝外型、3)肝内外型に分類される。2016年原発性硬化性胆管炎診断基準厚生労働省難治性肝・胆道疾患に関する調査研究班(滝川班)【原発性硬化性胆管炎の疾患概念】原発性硬化性胆管炎は病理学的に慢性炎症と線維化を特徴とする慢性の胆汁うっ滞を来す疾患であり、進行すると肝内外の胆管にびまん性の狭窄と壁肥厚が出現する。病因は不明である。胆管上皮に強い炎症が惹起され、胆管上皮障害が生ずる。診断においてはIgG4関連硬化性胆管炎*、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎**、悪性腫瘍を除外することが重要である。わが国における原発性硬化性胆管炎の診断時年齢分布は2峰性を呈し、若年層では高率に炎症性腸疾患を合併する。持続する胆汁うっ滞の結果、肝硬変、肝不全に至ることがある。有効性が確認された治療薬はなく、肝移植が唯一の根治療法である。【原発性硬化性胆管炎の診断基準】IgG4関連硬化性胆管炎*、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎**、胆管がんなどの悪性腫瘍を除外することが必要である。A.診断項目I.大項目A. 胆管像1)原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認める。2)原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認めない。B. アルカリフォスファターゼ値の上昇II.小項目a. 炎症性腸疾患の合併b. 肝組織像(線維性胆管炎/onion skin lesion)B.診断上記による確診・準確診のみを原発性硬化性胆管炎として取り扱う。*IgG4関連硬化性胆管炎は、“Clinical diagnostic criteria of IgG4-related sclerosing cholangitis 2012”(Ohara H,et al. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2012;19:536-542.)により診断する。**2次性硬化性胆管炎は以下の通りである(Nakazawa T, et al. World J Gastroenterol. 2013;19:7661-7670.)。先天性カロリ病Cystic fibrosis慢性閉塞性総胆管結石胆管狭窄(外科手術時の損傷によるもの、慢性膵炎によるもの)Mirizzi症候群肝移植後の吻合狭窄腫瘍(良性、悪性、転移性)感染性細菌性胆管炎再発性化膿性胆管炎寄生虫感染(cryptosporidiosis、microsporidiosis)サイトメガロウイルス感染中毒性アルコールホルムアルデヒド高張生理食塩水の胆管内誤注入免疫異常好酸球性胆管炎AIDSに伴うもの虚血性血管損傷外傷後性硬化性胆管炎肝移植後肝動脈塞栓肝移植後の拒絶反応(急性、慢性)肝動脈抗がん剤動注に関連するもの経カテーテル肝動脈塞栓術浸潤性病変全身性血管炎アミロイドーシスサルコイドーシス全身性肥満細胞症好酸球増加症候群Hodgkin病黄色肉芽腫性胆管炎通常、肝生検は診断に必須ではないが、施行した場合には、胆管増生、胆管周囲の線維化、炎症、および胆管の消失が認められる。疾患が進行するにつれて、胆管周囲の線維化が門脈域から拡大していき、最終的には続発性胆汁性肝硬変に至る。なお、小児症例では、自己免疫性肝炎との鑑別が困難な症例が多数存在することに、注意が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)確立された治療法は現在なく、進行した場合は、肝移植が唯一の治療法となる。通常、無症状の患者はモニタリング(身体診察と肝機能検査を年2回など)のみで経過観察する。ウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソ[5mg/kg、1日3回、経口、最大15mg/kg/日])は、掻痒を緩和し、生化学マーカー値を改善し、現在第1選択薬となっており、2012年の全国調査でも81%の症例で投与されているが、残念ながら、生存率は改善できない。脂質異常症の治療薬であるベザフィブラート(同:ベザトール)のPSCに対する有効性も報告されているが、報告では胆道系酵素の改善のみで、組織学的な改善や画像診断上の改善を促すものではないが、ウルソデオキシコール酸治療で十分な効果が得られなかった症例でも一定の改善効果がある点が注目されている。慢性胆汁うっ滞および肝硬変に至った場合には、支持療法が必要である。細菌性胆管炎の発症時には、抗菌薬が必要であり、必要に応じて治療的ERCPも施行する。単一の狭窄が閉塞の主な原因と考えられる場合(優位な狭窄、約20%の患者にみられる)は、ERCPによる拡張術(腫瘍の確認のための擦過細胞診も行う)とステント留置術により症状を緩和することができる。PSC患者では、肝移植が期待余命を延長する唯一の治療法であり、治癒も可能である。繰り返す細菌性胆管炎または肝疾患末期の合併症(例:難治性腹水、門脈大循環性脳症、食道静脈瘤出血)には、肝移植が妥当な適応である。脳死肝移植が少ない本邦では生体肝移植が主に行われているが、生体肝移植後PSCの再発率が高い可能性が、わが国から報告されている。4 今後の展望診断に有用な臨床マーカーの確立、病態の解明とそれに基づいた治療法の確立が大きな課題である。5 主たる診療科消化器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 原発性硬化性胆管炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Nakazawa T, et al. J Gastroenterol. 2017;52:838-844.2)Chapman R,et al. Hepatology. 2010;51:660-678.公開履歴初回2019年4月9日

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β遮断薬長期投与、肝硬変の代償不全を予防/Lancet

 代償性肝硬変および臨床的に重要な門脈圧亢進症(CSPH)の患者では、β遮断薬の長期投与により代償不全(腹水、胃腸出血、脳症)のない生存が改善されることが、スペイン・バルセロナ自治大学のCandid Villanueva氏らが実施したPREDESCI試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年3月22日号に掲載された。肝硬変における臨床的な代償不全は予後不良とされる。CSPHは、肝静脈圧較差(HVPG)≧10mmHgで定義され、代償不全の最も強力な予測因子だという。代償不全/死亡をプラセボと比較 本研究は、β遮断薬によるHVPG低下が、CSPHを伴う代償性肝硬変における代償不全や死亡のリスクを低減するかを検証する研究者主導の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験である(Spanish Ministries of Health and Economyの助成による)。 高リスクの静脈瘤のない代償性肝硬変およびCSPHで、HVPG≧10mmHgの患者(年齢18~80歳)を登録し、プロプラノロール静脈内投与によるHVPGの急性反応を評価した。レスポンダー(HVPGがベースラインから>10%低下)は、プロプラノロール(40~160mg、1日2回)またはプラセボを投与する群に、非レスポンダーはカルベジロール(≦25mg/日)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、肝硬変の代償不全(腹水、門脈圧亢進症関連の胃腸出血、顕性肝性脳症の発現と定義)または死亡とした。代償性肝硬変では、代償不全が発症する前の死亡は、ほとんどが肝臓とは関連がないため、肝臓非関連死を競合イベントとしたintention-to-treat解析が行われた。主要エンドポイント:16% vs.27%、腹水の発生低下が主要因 2010年1月~2013年7月の期間に、スペインの8施設で201例が登録され、β遮断薬群に100例(平均年齢60歳、男性59%、プロプラノロール67例、カルベジロール33例)、プラセボ群には101例(59歳、63%)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は37ヵ月だった。 主要エンドポイントの発生率は、β遮断薬群が16%(16/100例)と、プラセボ群の27%(27/101例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.26~0.97、p=0.041)。 この両群の差は、β遮断薬群で腹水の発生が少なかったためであり(9% vs.20%、0.42、0.19~0.92、p=0.0297)、胃腸出血(4% vs.3%、1.52、0.34~6.82、p=0.61)および顕性肝性脳症(4% vs.5%、0.92、0.40~2.21、p=0.98)には差はみられなかった。 全体の有害事象の発生は、両群でほぼ同等であった(β遮断薬群84% vs.プラセボ群87%)。治療に関連する可能性があると判定された有害事象は、それぞれ39%、30%、その可能性が高いと判定された有害事象は16%、15%であった。6例に重度の有害事象が認められ、β遮断薬群が4例、プラセボ群は2例だった。 著者は、「この非選択的β遮断薬の新たな適応は、患者転帰の改善や医療費の抑制に多大な効果をもたらし、今後、臨床ガイドラインに影響を及ぼす可能性がある」としている。

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第8回 肝硬変で同時施行の検査が査定/脳性Na利尿ペプチド検査の回数制限/アムロジンの添付文書外処方で査定/筋筋膜性腰痛症の治療で査定【レセプト査定の回避術 】

事例29 肝硬変で同時施行の検査が査定肝硬変で、「プロトロンビン時間(PT)」と「トロンボテスト」の検査を請求した。●査定点「トロンボテスト」が査定された。解説を見る●解説点数表の解釈では、「プロトロンビン時間(PT)とトロンボテストを同時に施行した場合は、主たるもののみ算定する」となっています。併用での2検査の請求はできないので注意が必要です。事例30 脳性Na利尿ペプチド検査の回数制限心不全の診断目的で、脳性Na利尿ペプチド(BNP)を月2回で請求した。●査定点脳性Na利尿ペプチド(BNP)1回分が査定された。解説を見る●解説点数表の解釈では、「脳性Na利尿ペプチド(BNP)は、心不全の診断又は病態把握のために実施した場合に月1回に限り算定する」となっています。なお、心不全の診断目的時には、他の検査として心電図や胸部画像診断も行われていないと査定の対象になります。事例31 アムロジンの添付文書外処方で査定高血圧症で、アムロジピン(商品名:アムロジン錠)10mg 1日2錠(朝・夕)で請求した。●査定点アムロジン錠10mg 1日1錠が査定された。解説を見る●解説添付文書の「用法・用量」には、「通常、成人にはアムロジピンとして2.5~5mgを1日1回経口投与する。なお、症状に応じ適宜増減するが、効果不十分な場合には1日1回10mgまで増量することができる」となっています。アムロジン錠10mg 1日2錠は、過剰投与として査定されました。事例32 筋筋膜性腰痛症の治療で査定筋筋膜性腰痛症で、「消炎鎮痛等処置(1日につき)マッサージ等の手技による療法」と「腰部又は胸部固定帯固定(1日につき)」を請求した。●査定点「腰部又は胸部固定帯固定(1日につき)」が査定された。解説を見る●解説点数表の解釈では、「腰部又は胸部固定帯固定」に、「同一患者につき同一日において、腰部又は胸部固定帯固定に併せて消炎鎮痛等処置、低出力レーザー照射又は肛門処置を行った場合は、主たるものにより算定する」となっています。同日に、両処置の請求はできませんので注意が必要です。

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ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症〔LAL-D:Lysosomal Acid Lipase Deficiency〕

ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義ライソゾームは細胞内小器官であり、不要となった組織や細胞の構成成分である糖脂質や糖蛋白を取り込んで加水分解する働きを持つ。ライソゾーム病は、ライソゾームに局在する酵素活性が失われることを病因とし、基質が分解されず蓄積するため、種々の臓器の肥大と機能障害を引き起こす。ライソゾーム病の特徴は、進行性であること、蓄積物質により罹患臓器が異なること、重症度は患者によりさまざまで、それぞれ発症時期や障害臓器範囲、症状が異なることである。このライソゾーム病の1つにライソゾーム酸性リパーゼ欠損症(LAL-D)がある。LAL-D(OMIM 278000)は、LIPA遺伝子変異によりLDL受容体を介して細胞内に取り込んだコレステロールエステルやトリグリセリドを加水分解する酵素であるライソゾーム酸性リパーゼ(lysosomal acid lipase:LAL)の活性が低下し、全身の臓器のライソゾーム内にコレステロールエステルとトリグリセリドが蓄積する常染色体劣性遺伝疾患である1、2)。■ 疫学LAL-Dは臨床的に2つの主要な表現型を呈する。乳児型のウォルマン病(WD)と小児・成人型のコレステロールエステル蓄積症(CESD)である。LAL活性がWDでは完全欠損、CESDでは部分欠損である。その発生頻度は、WDは50万人に1人と推定されている。CESDで最も高頻度にみられる遺伝子異常は、LIPA遺伝子エクソン8のsplice junction mutation(c.894G>A;E8SJM-1G>A)であるが、CESD発症率はドイツでのE8SJM-1G>A変異頻度から4万人に1人と推定されている。しかし、実際の報告では13~30万人に1人と推定よりも少なく、未診断例が相当数いると考えられる1、2)。両病型とも性差はない。日本を含むアジアでのCESD発症頻度はいまだ不明である。最近、日本の症例報告をまとめた論文が発表されている3)。■ 病因乳児型のWDはより重症であり、LAL活性が欠損している。小児・成人型のCESDはLAL活性が1~12%と低下している。この2つの疾患は完全に分かれるものではなく、中間型も存在し、疾患の連続性がある。LIPA遺伝子の変異は、2つの表現型でほとんどが共通しないが、数ヵ所共通の変異が報告されている2)。LAL-DのうちCESDの病態を示す(図)。LDLコレステロールは、LDL受容体を介して細胞に取り込まれ、ライソゾームへ輸送される。LIPA遺伝子異常によりLAL活性が低下すると、ライソゾーム内の脂質が分解されずコレステロールエステル/中性脂肪が蓄積してライソゾームが肥大化し、細胞が膨張する。この結果、小滴性脂肪沈着が生じる。また、細胞内で遊離コレステロール放出量が低下し、HMG-CoAの抑制が不十分となり、細胞内でのコレステロール産生の抑制ができずに増加する。さらに、LDL受容体発現がある程度抑制され、LDLコレステロール取り込みが低下し、血中LDLの上昇がみられる。このため動脈硬化の促進、心血管障害が生じる1)。WDではLAL活性が完全に欠損するため、ライソゾーム内の脂質がまったく分解されず、細胞内に遊離コレステロールが放出されなくなる。このためLDL受容体発現の抑制ができず、LDL取り込みが亢進し、ライソゾーム内にコレステロールエステルがさらに蓄積し、血中LDLは上昇しない1)。画像を拡大する■ 症状、分類および予後WDはライソゾーム内への著しい脂質蓄積を生じ重症化する。肝不全、脾腫、骨髄不全、呼吸障害、小腸吸収不全、下痢、重度成長障害など重度で多彩な症状を呈し、生後半年までに死亡する。副腎石灰化は診断的価値が高い。CESDではライソゾーム内への脂質蓄積は、WDより緩徐である。そのため発症は遅く、成人期まで症状が現れないこともある。一般的に肥満は少ない。肝腫大(99.3%)、脾腫大(74%)、持続的な高トランスアミナーゼ血症、脂質異常症(LDLコレステロール高値、HDLコレステロール低値)を来し、進行すれば肝硬変症(門脈圧亢進症、食道静脈瘤)、脳血管障害、虚血性心疾患を引き起こす。89%は12歳未満で発症し、死亡例の約半数は21歳未満であるため、早期発見が重要である。過半数は肝不全が死因である1、2)。なぜ肝線維化の進行が早いのかについては、大量に蓄積したコレステロールエステルが肝線維化を促進する、線維化の進行防止に重要な役割を持つライソゾーム関連NK細胞が酸性リパーゼ活性低下によって阻害される、などの説があるが明らかにはなっていない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)潜在的にLAL-Dが含まれる可能性がある疾患を表1に示す1)。非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)や家族性高コレステロール血症(FH)と思われる症例の中には、LAL-D患者が潜在化している可能性があり、注意を要する。ALT値はNAFLDと同程度であるが、FHと同程度の高いLDL値と、NAFLDより低めのHDL値が目安になるかもしれない(表2)。LDL高値症例のうち、家族性高コレステロール血症の遺伝子異常を持たない症例に対し、肝機能障害やHDL低値、非肥満などを参考にLAL-Dをスクリーニングする試みも報告されている4)。また、減量しても肝機能が改善しないNAFLD症例で、後にLAL-Dと診断された症例も報告されており、治療に反応しないNAFLD症例には注意を要する5)。診断には小滴性脂肪沈着(Oil Red O染色など脂肪染色で強く染まる)、泡沫状マクロファージといった特徴的な肝組織学的所見やLAL酵素活性測定、LIPA遺伝子解析が有用である1、6、7)。とくにLAL酵素活性測定は商業ベースのラボでは実施していないが、新生児マススクリーニング用の濾紙血で測定可能であり、診断に有用である6)。WDは急速に全身状態が悪化する致死的疾患であり、またCESDは診断がついていない症例が潜在する可能性がある。上記の症状や所見を手掛かりに、積極的に診断していく必要がある。画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)HMG-CoA阻害薬は、CESD患者の脂質異常症改善にある程度効果がみられることがあるものの、肝病変は通常改善しない。肝移植は肝硬変合併例で行われてきたが、長期的なデータが限られていることや、移植後の合併症が懸念される。他のライソゾーム病で試みられている造血幹細胞移植においても、長期的なデータが限られていることや、造血系起源の細胞にのみ影響することから根治治療にはならない。同様にケミカルシャペロン療法や基質合成抑制療法もLAL-Dの治療法としては確立されていない。遺伝子組換えヒトLALが開発され、WDとCESDに対する酵素補充療法 セベリパーゼ・アルファ(商品名:カヌマ点滴静注)の治験として、WDを対象とした第II/III相試験8)およびCESDを対象とした第III相臨床試験(ARISE trial)9)が行われ有効性、安全性が示され、わが国では2016年5月に薬価収載(保険適用)になった。主な副作用はアナフィラキシーを含む投与時反応である。4 今後の展望わが国におけるLAL-Dの診断例はきわめて少ない。WDは急速に進行し重症化するため、診断が遅れると致死的になる恐れがある。CESDは他疾患と診断されたまま潜在化する可能性がある。LAL-Dが疑わしい患者に対しては積極的にLAL活性の測定を行い、診断される必要がある。また、LAL-Dと診断しえた症例が増えることで、わが国における本疾患の発生率や臨床的特徴がより明らかになると思われる。5 主たる診療科WDは乳児期発症の致死的疾患であり、またCESDは小児期に多くが発症することから小児科が、この疾患をみる主たる診療科になるものの、CESDは成人期発症例もあること、治療の進歩により長期生存例が増えてくれば、消化器内科においても診療されることになると考えられる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報Online Mendelian Inheritance in ManのLAL-Dの概要(医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センターの酸性リパーゼ欠損症の概要(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ライソゾーム病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)全陽. 肝胆膵. 2014;69:445-453.2)Bernstein DL, et al. J Hepatol. 2013;58:1230-1243.3)Ikari N, et al. J Nippon Med Sch. 2018;85:131-137.4)Draijer LG, et al. Atherosclerosis. 2018;278:174-179.5)Himes RW, et al. Pediatrics. 2016;138:e20160214.6)Dairaku T, et al. Mol Genet Metab. 2014;111:193-196.7)Kuranobu N, et al. Hepatol Res. 2016;46:477-482.8)Jones SA, et al. Mol Genet Metab. 2015;114:S59.9)Burton BK, et al. N Engl J Med. 2015;373:1010-1020.公開履歴初回2017年3月7日更新2019年3月12日

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C型肝炎へのDAA、実臨床での有効性を前向き調査/Lancet

 直接作用型抗ウイルス薬(DAA)は、慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染患者の治療に広範に使用されてきたが、その実臨床における有効性の報告は十分でなく、投与例と非投与例を比較した調査はほとんどないという。今回、フランス・ソルボンヌ大学のFabrice Carrat氏らの前向き調査(French ANRS CO22 Hepather cohort研究)により、DAAは慢性C型肝炎による死亡および肝細胞がんのリスクを低減することが確認された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年2月11日号に掲載された。ウイルス蛋白を標的とするDAA(NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬、NS5A複製複合体阻害薬)の2剤または3剤併用療法は、HCV感染に対し汎遺伝子型の有効性を示し、95%を超える持続的ウイルス陰性化(SVR)を達成している。DAAの有無でアウトカムを比較するフランスの前向きコホート研究 研究グループは、DAA治療を受けた患者と受けていない患者で、死亡、肝細胞がん、非代償性肝硬変の発生率を比較するコホート研究を実施した(INSERM-ANRS[France Recherche Nord & Sud Sida-HIV Hepatites]などの助成による)。 フランスの32の肝臓病専門施設で、HCV感染成人患者を前向きに登録した。慢性B型肝炎患者、非代償性肝硬変・肝細胞がん・肝移植の既往歴のある患者、第1世代プロテアーゼ阻害薬の有無にかかわらずインターフェロン-リバビリン治療を受けた患者は除外された。 試験の主要アウトカムは、全死因死亡、肝細胞がん、非代償性肝硬変の発生の複合とした。時間依存型Cox比例ハザードモデルを用いて、DAAとこれらアウトカムの関連を定量化した。 2012年8月~2015年12月の期間に、1万166例が登録された。このうちフォローアップ情報が得られた9,895例(97%)が解析に含まれた。全体の年齢中央値は56.0歳(IQR:50.0~64.0)で、53%が男性であった。補正前は高リスク、多変量で補正後は有意にリスク低下 フォローアップ期間中に7,344例がDAA治療を開始し、これらの患者のフォローアップ期間中央値(未治療+治療期間)は33.4ヵ月(IQR:24.0~40.7)であった。2,551例は、最終受診時にもDAA治療を受けておらず、フォローアップ期間中央値は31.2ヵ月(IQR:21.5~41.0)だった。 DAA治療群は非治療群に比べ、年齢が高く、男性が多く、BMIが高値で、過量アルコール摂取歴のある患者が多かった。また、DAA治療群は、肝疾患や他の併存疾患の重症度が高かった。さらに、DAA治療群は、HCV感染の診断後の期間が長く、肝硬変への罹患、HCV治療中、ゲノタイプ3型の患者が多かった。 試験期間中に218例(DAA治療群:129例、DAA非治療群:89例)が死亡し、このうち73例(48例、25例)が肝臓関連死、114例(61例、53例)は非肝臓関連死で、31例(20例、11例)は分類不能であった。258例(187例、71例)が肝細胞がん、106例(74例、32例)が非代償性肝硬変を発症した。25例が肝移植を受けた。 未補正では、DAA治療群のほうが非治療群に比べ、肝細胞がん(未補正ハザード比[HR]:2.77、95%信頼区間[CI]:2.07~3.71、p<0.0001)および非代償性肝硬変(3.83、2.29~6.42、p<0.0001)のリスクが有意に高かった。 これに対し、年齢、性別、BMI、地理的発生源、感染経路、肝線維化スコア(fibrosis score)、HCV未治療、HCVゲノタイプ、アルコール摂取、糖尿病、動脈性高血圧、生物学的変量(アルブミン、AST、ALT、ヘモグロビン、プロトロンビン時間、血小板数、α-フェトプロテイン)、肝硬変患者の末期肝疾患モデル(MELD)スコアで補正したところ、DAA治療群では非治療群と比較して、全死因死亡(補正後HR:0.48、95%CI:0.33~0.70、p=0.0001)および肝細胞がん(0.66、0.46~0.93、p=0.018)のリスクが有意に低下し、未補正での非代償性肝硬変のリスクの有意差は消失した(1.14、0.57~2.27、p=0.72)。 また、全死因死亡のうち、肝臓関連死(0.39、0.21~0.71、p=0.0020)と非肝臓関連死(0.60、0.36~1.00、p=0.048)のリスクは、いずれもDAA治療群で有意に低かった。 著者は、「DAA治療は、あらゆるC型肝炎患者において考慮すべきである」と結論し、「今回の結果は、重症度の低い患者へフォローアップの対象を拡大し、DAAの長期的な臨床効果の評価を行うことを支持するものである」としている。

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C型肝炎ウイルス感染症にエプクルーサ配合錠発売

 ギリアド・サイエンシズは、非代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の成人患者、および直接作用型抗ウイルス療法(DAA)の前治療歴を有する慢性肝炎又は代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の患者に対する1日1回投与の治療薬「エプクルーサ配合錠」(一般名:ソホスブビル/ベルパタスビル)を2月26日に発売した。 本剤は、核酸型NS5Bポリメラーゼ阻害剤ソホスブビル(商品名:ソバルディ、2015年3月承認)とNS5A阻害作用を有する新有効成分ベルパタスビルを含有する新規配合剤。日本における非代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の成人患者に対する最初の治療薬であり、また難治性患者に対して新たな治療選択肢を提供できることとなる。<エプクルーサ配合錠の概要>●効能・効果前治療歴を有するC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善C型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善●用法・用量1. 前治療歴を有するC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善リバビリンとの併用において、通常、成人には、1日1回1錠(ソホスブビルとして400mg 及びベルパタスビルとして100mg)を24週間経口投与する。2. C型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善通常、成人には、1日1回1錠(ソホスブビルとして400mg及びベルパタスビルとして 100mg)を12週間経口投与する。●発売日2019年2月26日●薬価1錠 60,154.50円■関連記事非代償性肝硬変を伴うC型肝炎に初の承認

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