サイト内検索|page:5

検索結果 合計:212件 表示位置:81 - 100

81.

C型肝炎へのDAA、実臨床での有効性を前向き調査/Lancet

 直接作用型抗ウイルス薬(DAA)は、慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染患者の治療に広範に使用されてきたが、その実臨床における有効性の報告は十分でなく、投与例と非投与例を比較した調査はほとんどないという。今回、フランス・ソルボンヌ大学のFabrice Carrat氏らの前向き調査(French ANRS CO22 Hepather cohort研究)により、DAAは慢性C型肝炎による死亡および肝細胞がんのリスクを低減することが確認された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年2月11日号に掲載された。ウイルス蛋白を標的とするDAA(NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬、NS5A複製複合体阻害薬)の2剤または3剤併用療法は、HCV感染に対し汎遺伝子型の有効性を示し、95%を超える持続的ウイルス陰性化(SVR)を達成している。DAAの有無でアウトカムを比較するフランスの前向きコホート研究 研究グループは、DAA治療を受けた患者と受けていない患者で、死亡、肝細胞がん、非代償性肝硬変の発生率を比較するコホート研究を実施した(INSERM-ANRS[France Recherche Nord & Sud Sida-HIV Hepatites]などの助成による)。 フランスの32の肝臓病専門施設で、HCV感染成人患者を前向きに登録した。慢性B型肝炎患者、非代償性肝硬変・肝細胞がん・肝移植の既往歴のある患者、第1世代プロテアーゼ阻害薬の有無にかかわらずインターフェロン-リバビリン治療を受けた患者は除外された。 試験の主要アウトカムは、全死因死亡、肝細胞がん、非代償性肝硬変の発生の複合とした。時間依存型Cox比例ハザードモデルを用いて、DAAとこれらアウトカムの関連を定量化した。 2012年8月~2015年12月の期間に、1万166例が登録された。このうちフォローアップ情報が得られた9,895例(97%)が解析に含まれた。全体の年齢中央値は56.0歳(IQR:50.0~64.0)で、53%が男性であった。補正前は高リスク、多変量で補正後は有意にリスク低下 フォローアップ期間中に7,344例がDAA治療を開始し、これらの患者のフォローアップ期間中央値(未治療+治療期間)は33.4ヵ月(IQR:24.0~40.7)であった。2,551例は、最終受診時にもDAA治療を受けておらず、フォローアップ期間中央値は31.2ヵ月(IQR:21.5~41.0)だった。 DAA治療群は非治療群に比べ、年齢が高く、男性が多く、BMIが高値で、過量アルコール摂取歴のある患者が多かった。また、DAA治療群は、肝疾患や他の併存疾患の重症度が高かった。さらに、DAA治療群は、HCV感染の診断後の期間が長く、肝硬変への罹患、HCV治療中、ゲノタイプ3型の患者が多かった。 試験期間中に218例(DAA治療群:129例、DAA非治療群:89例)が死亡し、このうち73例(48例、25例)が肝臓関連死、114例(61例、53例)は非肝臓関連死で、31例(20例、11例)は分類不能であった。258例(187例、71例)が肝細胞がん、106例(74例、32例)が非代償性肝硬変を発症した。25例が肝移植を受けた。 未補正では、DAA治療群のほうが非治療群に比べ、肝細胞がん(未補正ハザード比[HR]:2.77、95%信頼区間[CI]:2.07~3.71、p<0.0001)および非代償性肝硬変(3.83、2.29~6.42、p<0.0001)のリスクが有意に高かった。 これに対し、年齢、性別、BMI、地理的発生源、感染経路、肝線維化スコア(fibrosis score)、HCV未治療、HCVゲノタイプ、アルコール摂取、糖尿病、動脈性高血圧、生物学的変量(アルブミン、AST、ALT、ヘモグロビン、プロトロンビン時間、血小板数、α-フェトプロテイン)、肝硬変患者の末期肝疾患モデル(MELD)スコアで補正したところ、DAA治療群では非治療群と比較して、全死因死亡(補正後HR:0.48、95%CI:0.33~0.70、p=0.0001)および肝細胞がん(0.66、0.46~0.93、p=0.018)のリスクが有意に低下し、未補正での非代償性肝硬変のリスクの有意差は消失した(1.14、0.57~2.27、p=0.72)。 また、全死因死亡のうち、肝臓関連死(0.39、0.21~0.71、p=0.0020)と非肝臓関連死(0.60、0.36~1.00、p=0.048)のリスクは、いずれもDAA治療群で有意に低かった。 著者は、「DAA治療は、あらゆるC型肝炎患者において考慮すべきである」と結論し、「今回の結果は、重症度の低い患者へフォローアップの対象を拡大し、DAAの長期的な臨床効果の評価を行うことを支持するものである」としている。

82.

C型肝炎ウイルス感染症にエプクルーサ配合錠発売

 ギリアド・サイエンシズは、非代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の成人患者、および直接作用型抗ウイルス療法(DAA)の前治療歴を有する慢性肝炎又は代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の患者に対する1日1回投与の治療薬「エプクルーサ配合錠」(一般名:ソホスブビル/ベルパタスビル)を2月26日に発売した。 本剤は、核酸型NS5Bポリメラーゼ阻害剤ソホスブビル(商品名:ソバルディ、2015年3月承認)とNS5A阻害作用を有する新有効成分ベルパタスビルを含有する新規配合剤。日本における非代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の成人患者に対する最初の治療薬であり、また難治性患者に対して新たな治療選択肢を提供できることとなる。<エプクルーサ配合錠の概要>●効能・効果前治療歴を有するC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善C型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善●用法・用量1. 前治療歴を有するC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善リバビリンとの併用において、通常、成人には、1日1回1錠(ソホスブビルとして400mg 及びベルパタスビルとして100mg)を24週間経口投与する。2. C型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善通常、成人には、1日1回1錠(ソホスブビルとして400mg及びベルパタスビルとして 100mg)を12週間経口投与する。●発売日2019年2月26日●薬価1錠 60,154.50円■関連記事非代償性肝硬変を伴うC型肝炎に初の承認

83.

C型肝炎撲滅、2030年の世界目標に向けた介入の有効性/Lancet

 直接作用型抗ウイルス薬(direct-acting antiviral:DAA)の開発がもたらしたC型肝炎治療の大変革は、公衆衛生上の脅威としてのこの疾患の世界的な根絶に関して、国際的な関心を生み出した。これを受け2017年、世界保健機関(WHO)は、2030年までに根絶との目標を打ち出した。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAlastair Heffernan氏らは、WHOのC型肝炎ウイルス(HCV)根絶目標について現状の達成状況を調査した。Lancet誌オンライン版2019年1月28日号掲載の報告。6つのシナリオに基づく介入拡大の世界的な影響を評価 研究グループは、世界的なHCV蔓延に及ぼす公衆衛生的介入の影響を評価し、WHOの根絶目標の条件を満たしているかを検証する目的で、数学的モデルを用いた検討を行った(Wellcome Trustの助成による)。 世界190ヵ国におけるHCV蔓延の動的伝播モデルを開発した。モデルには、人口統計学的要因、注射薬物使用者(PWID)、現行の治療・予防計画の適用範囲、疾病の自然史、HCV有病率、HCVに起因する死亡のデータが組み込まれた。 HCV感染の伝播リスクを低減し、治療機会を改善し、スクリーニングを受ける機会を増やす介入拡大が、世界に及ぼす影響を推定するために、以下の6つのシナリオに基づいて評価を行った。 (1)現状維持:既存の診断・治療レベルに変化がない、(2)介入1:血液安全性と感染管理の推進、(3)介入2:PWIDの健康被害の削減(harm reduction)、(4)介入3:診断時のDAA提供、(5)介入4:診断数を増やすためのアウトリーチ・スクリーニングの実施、(6)DAA非導入:治療をペグインターフェロンと経口リバビリンに限定(DAA使用の影響の調査のため)。HCV感染削減目標、死亡削減目標の達成は2032年か PWIDを除く人口における伝播リスクを80%削減し、健康被害削減サービスの適用範囲をPWIDの40%に拡大する介入により、2030年までに、1,410万件(95%確信区間[CrI]:1,300万~1,520万)の新たな感染が防止される可能性が示された。 また、すべての国で診断時にDAAを提供すると、肝硬変および肝がんによる64万件(95%CrI:62万~67万)の死亡が予防可能であることが示唆された。 ベースライン(2015年)と比較して、予防、スクリーニング、治療介入から成る包括的な対策は、1,510万件(95%CrI:1,380万~1,610万)の新たな感染と、150万件(140万~160万)の肝硬変および肝がんによる死亡を防止し、これにより感染率が81%(78~82)抑制され、死亡率は61%(60~62)低下すると推定された。 これは、WHOのHCV感染削減目標の80%に相当するが、死亡削減目標の65%には達しておらず、目標達成は2032年となる可能性が示された。 世界的な疾病負荷の低減は、予防介入の成功、アウトリーチ・スクリーニングの実践とともに、中国、インド、パキスタンなどの主要な高負荷国における進展に依存することが明らかとなった。 著者は、「HCVの疾病負担の削減には、すべての国において、併用治療とともに、血液安全性と感染管理の推進、PWIDの健康被害削減サービスの拡大と創設、大規模なHCVスクリーニングのさらなる改善が必要である」としている。

84.

血友病〔Hemophilia〕

血友病のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■概要血友病は、凝固第VIII因子(FVIII)あるいは第IX因子(FIX)の先天的な遺伝子異常により、それぞれのタンパクが量的あるいは質的な欠損・異常を来すことで出血傾向(症状)を示す疾患である1)。血友病は、古代バビロニア時代から割礼で出血死した子供が知られており、19世紀英国のヴィクトリア女王に端を発し、欧州王室へ広がった遺伝性疾患としても有名である1)。女王のひ孫にあたるロシア帝国皇帝ニコライ二世の第1皇子であり、最後の皇太子であるアレクセイ皇子は、世界で一番有名な血友病患者と言われ、その後の調査で血友病Bであったことが確認されている2)。しかし、血友病にAとBが存在することなど疾患概念が確立し、治療法も普及・進歩してきたのは20世紀になってからである。■疫学と病因血友病は、X連鎖劣性遺伝(伴性劣性遺伝)による遺伝形式を示す先天性の凝固異常症の代表的疾患である。基本的には男子にのみ発症し、血友病Aは出生男児約5,000人に1人、血友病Bは約2万5,000人に1人の発症率とされる1)。一方、約30%の患者は、家族歴が認められない突然変異による孤発例とされている1)。■分類血友病には、FVIII活性(FVIII:C)が欠乏する血友病Aと、FIX活性(FIX:C)が欠乏する血友病Bがある1)。血友病は、欠乏する凝固因子活性の程度によって重症度が分類される1)。因子活性が正常の1%未満を重症型(血友病A全体の約60%、血友病Bの約40%)、1~5%を中等症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)、5%以上40%未満を軽症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)と分類する1)。■症状血友病患者は、凝固因子が欠乏するために血液が固まりにくい。そのため、ひとたび出血すると止まりにくい。出産時に脳出血が多いのは、健常児では軽度の脳出血で済んでも、血友病児では止血が十分でないため重症化してしまうからである。乳児期は、ハイハイなどで皮下出血が生じる場合が多々あり、皮膚科や小児科を経由して診断されることもある。皮下出血程度ならば治療を必要としないことも多い。しかし、1歳以降、体重が増加し、運動量も活発になってくると下肢の関節を中心に関節内出血を来すようになる。擦り傷でかさぶたになった箇所をかきむしって再び出血を来すように、ひとたび関節出血が生じると同じ関節での出血を繰り返しやすくなる。国際血栓止血学会(ISTH)の新しい定義では、1年間に同じ関節の出血を3回以上繰り返すと「標的関節」と呼ばれるが、3回未満であれば標的関節でなくなるともされる3)。従来、重症型の血友病患者ではこの標的関節が多くなり、足首、膝、肘、股、肩などの関節障害が多く、歩行障害もかなりみられた。しかし、現在では1回目あるいは2回~数回目の出血後から血液製剤を定期的に投与し、平素から出血をさせないようにする定期補充療法が一般化されており、一昔前にみられた関節症を有する患者は少なくなってきている。中等症型~軽症型では出血回数は激減し、出血の程度も比較的軽く、成人になってからの手術の際や大けがをして初めて診断されることもある1)。■治療の歴史1960年代まで血友病の治療は輸血療法しかなく、十分な凝固因子の補充は不可能であった。1970年代になり、血漿から凝固因子成分を取り出したクリオ分画製剤が開発されたものの、溶解操作や液量も多く十分な因子の補充ができなかった1)。1970年代後半には血漿中の当該凝固因子を濃縮した製剤が開発され、使い勝手は一気に高まった。その陰で原料血漿中に含まれていたウイルスにより、C型肝炎(HCV)やHIV感染症などのいわゆる薬害を生む結果となった。当時、国内の血友病患者の約40%がHIVに感染し、約90%がHCVに感染した。クリオ製剤などの国内製剤は、HIV感染を免れたが、HCVは免れなかった1)。1983年にHIVが発見・同定された結果、1985年には製剤に加熱処理が施されるようになり、以後、製剤を経由してのHIV感染は皆無となった1)。HCVは1989年になってから同定され、1992年に信頼できる抗体検査が献血に導入されるようになり、以後、製剤由来のHCVの発生もなくなった1)。このように血友病治療の歴史は、輸血感染症との戦いの歴史でもあった。遺伝子組換え型製剤が主流となった現在でも、想定される感染症への対応がなされている1)。■予後血友病が発見された当時は治療法がなく、10歳までの死亡率も高かった。1970年代まで、重症型血友病患者の平均死亡年齢は18歳前後であった1,4)。その後、出血時の輸血療法、血漿投与などが行われるようになったが、十分な治療からは程遠い状態であった。続いて当該凝固因子成分を濃縮した製剤が開発されたが、非加熱ゆえに薬害を招くきっかけとなってしまった。このことは血友病患者の予後をさらに悪化させた。わが国におけるHIV感染血友病患者の死亡率は49%(平成28年時点のデータ)だが、欧米ではさらに多くの感染者が存在し、死亡率も60%を超えるところもある5)。罹患血友病患者においては、感染から30年を経過した現在、肝硬変の増加とともに肝臓がんが死亡原因の第1位となっている5)。1987年以後は、輸血感染症への対策が進んだほか、遺伝子組換え製剤の普及も進み、若い世代の血友病患者の予後は飛躍的に改善した。現在では、安全で有効な凝固因子製剤の供給が高まり、出血を予防する定期補充療法も普及し、血友病患者の予後は健常者と変わらなくなりつつある1)。2 診断乳児期に皮下出血が多いことで親が気付く場合も多いが、1~2歳前後に関節出血や筋肉出血を生じることから診断される場合が多い1)。皮膚科や小児科、時に整形外科が窓口となり出血傾向のスクリーニングが行われることが多い。臨床検査でAPTTの延長をみた場合には、男児であれば血友病の可能性も考え、確定診断については専門医に紹介して差し支えない。乳児期の紫斑は、母親が小児科で虐待を疑われるなど、いやな思いをすることも時にあるようだ。■検査と鑑別診断血友病の診断には、血液凝固時間のPTとAPTTがスクリーニングとして行われる。PT値が正常でAPTT値が延長している場合は、クロスミキシングテストとともにFVIII:CまたはFIX:Cを含む内因系凝固因子活性の測定を行う1)。FVIII:Cが単独で著明に低い場合は、血友病Aを強く疑うが、やはりFVIII:Cが低くなるフォン・ヴィレブランド病(VWD)を除外すべく、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)活性を測定しておく必要がある1)。軽症型の場合には、血友病AかVWDか鑑別が難しい場合がある。FIX:Cが単独で著明に低ければ、血友病Bと診断してよい1)。新生児期では、ビタミンK欠乏症(VKD)に注意が必要である。VKDでは第II、第VII、第IX、第X因子活性が低下しており、PTとAPTTの両者がともに延長するが、ビタミンKシロップの投与により正常化することで鑑別可能である。それでも血友病が疑われる場合にはFVIII:CやFIX:Cを測定する6)。まれではあるが、とくに家族歴や基礎疾患もなく、それまで健康に生活していた高齢者や分娩後の女性などで、突然の出血症状とともにAPTTの著明な延長と著明なFVIII:Cの低下を認める「後天性血友病A」という疾患が存在する7)。後天的にFVIIIに対する自己抗体が産生されることにより活性が阻害され、出血症状を招く。100万人に1~4人のまれな疾患であるがゆえに、しばしば診断や治療に難渋することがある7)。ベセスダ法によるFVIII:Cに対するインヒビターの存在の確認が確定診断となる。■保因者への注意事項保因者には、血友病の父親をもつ「確定保因者」と、家系内に患者がいて可能性を否定できない「推定保因者」がいる。確定保因者の場合、その女性が妊娠・出産を希望する場合には、前もって十分な対応が可能であろう。推定保因者の場合にもしかるべき時期がきたら検査をすべきであろう。保因者であっても因子活性がかなり低いことがあり、幼小児期から出血傾向を示す場合もあり、製剤の投与が必要になることもあるので注意を要する。血友病児が生まれるときに、頭蓋内出血などを来す場合がある。保因者の可能性のある女性を前もって把握しておくためにも、あらためて家族歴を患者に確認しておくことが肝要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)従来は、出血したら治療するというオンデマンド、出血時補充療法が主体であった1)。欧米では1990年代後半から、安全な凝固因子製剤の使用が可能となり、出血症状を少なくすることができる定期的な製剤の投与、定期補充療法が普及してきた1)。また、先立って1980年代には自己注射による家庭内治療が一般化されてきたこともあり、わが国でも1990年代後半から定期補充療法が幅広く普及し、その実施率は年々増加してきており、現在では約70%の患者がこれを実践している5)。定期補充療法の普及によって、出血回数は減少し、健康な関節の維持が可能となって、それまでは消極的にならざるを得なかったスポーツなども行えるようになり、血友病の疾患・治療概念は大きく変わってきた。定期補充療法の進歩によって、年間出血回数を2回程度に抑制できるようになってきたが、それぞれの因子活性の半減期(FVIIIは10~12時間、FIXは20~24時間)から血友病Aでは週3回、血友病Bでは週2回の投与が推奨され、かつ必要であった1)。凝固因子製剤は、静脈注射で供給されるため、実施が困難な場合もあり、患者は常に大きな負担を強いられてきたともいえる。そこで、少しでも患者の負担を減らすべく、半減期を延長させた製剤(半減期延長型製剤:EHL製剤)の開発がなされ、FVIII製剤、FIX製剤ともにそれぞれ数社から製品化された6,8)。従来の凝固因子に免疫グロブリンのFc領域ではエフラロクトコグ アルファ(商品名:イロクテイト)、エフトレノナコグ アルファ(同:オルプロリクス)、ポリエチレングリコール(PEG)ではルリオクトコグ アルファ ペゴル(同:アディノベイト)、ダモクトコグ アルファ ペゴル(同:ジビイ)、ノナコグ ベータペゴル(同:レフィキシア)、アルブミン(Alb)ではアルブトレペノナコグ アルファ(同:イデルビオン)などを修飾・融合させることで半減期の延長を可能にした6,8)。PEGについては、凝固因子タンパクに部位特異的に付加したものやランダムに付加したものがある。付加したPEGの分子そのもののサイズも20~60kDaと各社さまざまである。また、通常はヘテロダイマーとして存在するFVIIIタンパクを1本鎖として安定化をさせたロノクトコグ アルファ(同:エイフスチラ)も使用可能となった。これらにより血友病AではFVIIIの半減期が約1.5倍に延長され、週3回が週2回へ、血友病BではFIXの半減期が4~5倍延長できたことから従来の週2回から週1回あるいは2週に1回にまで注射回数を減らすことが可能となり、かつ出血なく過ごせるようになってきた6,8)。上手に製剤を使うことで標的関節の出血回避、進展予防が可能になってきたとともに年間出血回数ゼロを目指すことも可能となってきた。■個別化治療以前は<1%の重症型からそれ以上(1~2%以上の中等症型)に維持すれば、それだけでも出血回数を減らすことが可能ということで、定期補充療法のメニューが組まれてきた。しかし、製剤の利便性も向上し、EHL製剤の登場により最低レベル(トラフ値)もより高く維持することが可能となってきた6,8)。必要なトラフ値を日常生活において維持するのみならず、必要なとき、必要な時間に、患者の活動に合わせて因子活性のピークを作ることも可能になった。個々の患者のさまざまなライフスタイルや活動性に合わせて、いわゆるテーラーメイドの個別化治療が可能になりつつある。また、合併症としてのHIV感染症やHCVのみならず、高齢化に伴う高血圧、腎疾患や糖尿病などの生活習慣病など、個々の合併症によって出血リスクだけではなく血栓リスクも考えなければならない時代になってきている。ひとえに定期補充療法が浸透してきたためである。ただし、凝固因子製剤の半減期やクリアランスは、小児と成人では大きく異なり、個人差が大きいことも判明している1)。しっかりと見極めるためには個々の薬物動態(PK)試験が必要である。現在ではPopulation PKを用いて投与後2ポイントの採血と体重、年齢などをコンピュータに入力するだけで、個々の患者・患児のPKがシミュレートできる9)。これにより、個々の患者・患児の生活や出血状況に応じた、より適切な投与量や投与回数に負担をかけずに検討できるようになった。もちろん医療費という面でも費用対効果を高めた治療を個別に検討することも可能となってきている。■製剤の選択基本的には現在、市場に出ているすべての凝固因子製剤は、その効性や安全性において優劣はない。現在、製剤は従来型、EHL含めてFVIIIが9種類、FIXは7種類が使用可能である。遺伝子組換え製剤のシェアが大きくなってきているが、国内献血由来の血漿由来製剤もFVIII、FIXそれぞれにある。血漿由来製剤は、未知の感染症に対する危険性が理論的にゼロではないため、先進国では若い世代には遺伝子組換え製剤を推奨している国が多い。血漿由来製剤の中にあって、VWF含有FVIII製剤は、遺伝子組換え製剤よりインヒビター発生リスクが低かったとの報告もなされている10)。米国の専門家で構成される科学諮問委員会(MASAC)は、最初の50EDs(実投与日数)はVWF含有FVIII製剤を使用してインヒビターの発生を抑制し、その後、遺伝子組換え製剤にすることも1つの方法とした11)。ただ、初めて凝固因子製剤を使用する患児に対しては、従来の、あるいは新しい遺伝子組換え製剤を使用してもよいとした11)。どれを選択して治療を開始するかはリスクとベネフィットを比較して、患者と医療者が十分に相談したうえで選択すべきであろう。4 今後の展望■個々の治療薬の開発状況1)凝固因子製剤現在、凝固因子にFc、PEG、Albなどを修飾・融合させたEHL製剤の開発が進んでいることは既述した。同様に、さまざまな方法で半減期を延長すべく新規薬剤が開発途上である。シアル酸などを結合させて半減期を延長させる製剤、FVIIIがVWFの半減期に影響されることを利用し、Fc融合FVIIIタンパクにVWFのDドメインとXTENを融合させた製剤などの開発が行われている12)。rFVIIIFc-VWF(D’D3)-XTENのフェーズ1における臨床試験では、その半減期は37時間と報告され、血友病Aも1回/週の定期補充療法による出血抑制の可能性がみえてきている13)。2)抗体医薬これまでの血液製剤はいずれも静脈注射であることには変わりない。インスリンのように簡単に注射ができないかという期待に応えられそうな製剤も開発中である。ヒト化抗第IXa・第X因子バイスペシフィック抗体は、活性型第IX因子(FIXa)と第X因子(FX)を結合させることによりFX以下を活性化させ、FVIIIあるいはFVIIIに対するインヒビターが存在しても、それによらない出血抑制効果が期待できるヒト型モノクローナル抗体製剤(エミシズマブ)として開発されてきた。週1回の皮下注射で血友病Aのみならず血友病Aインヒビター患者においても、安全性と良好な出血抑制効果が報告された14,15)。臨床試験においても年間出血回数ゼロを示した患者の割合も数多く、皮下注射でありながら従来の静脈注射による製剤の定期補充療法と同等の出血抑制効果が示された。エミシズマブはへムライブラという商品名で、2018年5月にインヒビター保有血友病A患者に対して認可・承認され、続いて12月にはインヒビターを保有しない血友病A患者においてもその適応が拡大された。皮下注射で供給される本剤は1回/週、1回/2週さらには1回/4週の投与方法が選択可能であり、利便性は高いものと考えられる。いずれにおいても血中濃度を高めていくための導入期となる最初の4回は1回/週での投与が必要となる。この期間はまだ十分に出血抑制効果が得られる濃度まで達していない状況であるため、出血に注意が必要である。導入時には定期補充を併用しておくことも推奨されている。しかし、けっして年間出血回数がすべての患者においてゼロになるわけではないため、出血時にはFVIIIの補充は免れない。インヒビター保有血友病A患者におけるバイパス製剤の使用においても同様であるが、出血時の対応については、主治医や専門医とあらかじめ十分に相談しておくことが肝要であろう。血友病Bではその長い半減期を有するEHLの登場により1回/2週の定期補充により出血抑制が可能となってきた。製剤によっては、通常の使用量で週の半分以上をFIXが40%以上(もはや血友病でない状態「非血友病状態」)を維持可能になってきた。血友病Bにおいても皮下注射によるアプローチが期待され、開発されてきている。やはりヒト型モノクローナル抗体製剤である抗TFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)抗体はTFPIを阻害し、TF(組織因子)によるトロンビン生成を誘導することで出血抑制効果が得られると考えられ、現在数社により日本を含む国際共同試験が行われている12)。抗TFPI抗体の対象は血友病AあるいはB、さらにはインヒビターあるなしを問わないのが特徴であり、皮下注射で供給される12)。また、同様に出血抑制効果が期待できるものに、肝細胞におけるAT(antithrombin:アンチトロンビン)の合成を、RNA干渉で阻害することで出血抑制を図るFitusiran(ALN-AT3)なども研究開発中である12)。3)遺伝子治療1999年に米国で、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病Bの遺伝子治療のヒトへの臨床試験が初めて行われた15)。以来、ex vivo、in vivoを問わずさまざまなベクターを用いての研究が行われてきた15)。近年、AAVベクターによる遺伝子治療による長期にわたっての安全性と有効性が改めて確認されてきている。FVIII遺伝子(F8)はFIX遺伝子(F9)に比較して大きいため、ベクターの選択もその難しさと扱いにくさから血友病Bに比べ、遅れていた感があった。血友病BではPadua変異を挿入したF9を用いることで、より少ないベクターの量でより副作用少なく安全かつ高効率にFIXタンパクを発現するベクターを開発し、10例ほどの患者において1年経た後も30%前後のFIX:Cを維持している16-18)。1回の静脈注射で1年にわたり、出血予防に十分以上のレベルを維持していることになる。血友病AでもAAVベクターを用いてヒトにおいて良好な結果が得られており、血友病Bの臨床開発に追い着いてきている16-18)。両者ともに海外においてフェーズ 1が終了し、フェーズ 3として国際臨床試験が準備されつつあり、2019年に国内でも導入される可能性がある。5 主たる診療科血友病の診療経験が豊富な診療施設(診療科)が近くにあれば、それに越したことはない。しかし、専門施設は大都市を除くと各県に1つあるかないかである。ネットで検索をすると血友病製剤を扱う多くのメーカーが、それぞれのホームページで全国の血友病診療を行っている医療機関を紹介している。たとえ施設が遠方であっても病診連携、病病連携により専門医の意見を聞きながら診療を進めていくことも十分可能である。日本血栓止血学会では現在、血友病診療連携委員会を立ち上げ、ネットワーク化に向けて準備中である。国内においてその拠点となる施設ならびに地域の中核となる施設が決定され、これらの施設と血友病患者を診ている小規模施設とが交流を持ち、スムーズな診療と情報共有ができるようにするのが目的である。また、血友病には患者が主体となって各地域や病院単位で患者会が設けられている。入会することで大きな安心を得ることが可能であろう。困ったときに、先輩会員に相談でき、患児の場合は同世代の親に気軽に相談することができるメリットも大きい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報一般社団法人ヘモフィリア友の会全国ネットワーク(National Hemophilia Network of Japan)(血友病患者と家族の会)1)Lee CA, et al. Textbook of Hemophilia.2nd ed.USA: Wiley-Blackwell; 2010.2)Rogaev EI, et al. Science. 2009;326:817.3)Blanchette VS, et al. J Thromb Haemost. 2014;12:1935-1939.4)Franchini M, et al. J Haematol. 2010;148:522-533.5)瀧正志(監修). 血液凝固異常症全国調査 平成28年度報告書.公益財団法人エイズ予防財団;2017. 6)Nazeef M, et al. J Blood Med. 2016;7:27-38.7)Kessler CM, et al. Eur J Haematol. 2015;95:36-44.8)Collins P, et al. Haemophilia. 2016;22:487-498.9)Iorio A, et al. JMIR Res Protoc. 2016;5:e239.10)Cannavo A, et al. Blood. 2017;129:1245-1250.11)MASAC Recommendation on SIPPET. Results and Recommendations for Treatment Products for Previously Untreated Patients with Hemophilia A. MASAC Document #243. 2016.12)Lane DA. Blood. 2017;129:10-11.13)Konkle BA, et al. Blood 2018,San Diego. 2018;132(suppl 1):636(abstract).14)Shima M, et al. N Engl J Med. 2016;374:2044-2053.15)Oldenburg J, et al. N Engl J Med. 2017;377:809-818.16)Swystun LL, et al. Circ Res. 2016;118:1443-1452.17)Doshi BS, et al. Ther Adv Hematol. 2018;9:273-293.18)Monahan PE. J Thromb Haemost. 2015;1:S151-160.公開履歴初回2017年9月12日更新2019年2月12日

85.

第9回 意識障害 その7 AKAって知ってる?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)バイタルサイン、とくに呼吸数に着目し、重篤な病態を見逃すな!2)アルコール性ケトアシドーシスを知ろう!3)ビタミンB1は「不足しているかも?」と思った段階で忘れずに投与しよう!【症例】60歳男性の意識障害:これまた良く出会う症例60歳男性。アルコール性肝硬変、2型糖尿病、慢性腎臓病で内服治療中の方。来院前日から労作時の呼吸困難を認めた。自宅で様子をみていたが、大好きなお酒も飲むことができなくなった。病院にいこうと家を出たが、路上で嘔吐を認め、動けなくなり、目撃した通行人が救急要請。●搬送時のバイタルサイン意識3/JCS血圧132/98mmHg脈拍118回/分(整)呼吸30回/分SpO294%(RA)体温35.0℃瞳孔3/3mm+/+今回の意識障害の原因は何でしょうか。救急外来で診療していると、しばしば出会う病態です。アルコール関連の意識障害は、単純な酩酊から外傷、痙攣などなど、さまざまです。では、明らかな外傷を認めない場合、アルコール多飲患者で考えておくべき病態はどのようなものがあるでしょうか?その場で判断ができないことも多く、具体的な着眼点を追って解説していきます。頻呼吸に出会ったらこの患者さんのように、呼吸回数が上昇している患者さんをみたら、どのような病態、病気を考えるべきでしょうか。「過換気」とまず考えてしまうのは御法度です。もちろんその可能性もありますが、それよりも急を要する状態である「代謝性アシドーシスの代償」の可能性を、まずは考えましょう。ヘンダーソンの式(pH=6.1+log[HCO3−]/0.03×[PaCO2])からもわかるように、代謝性アシドーシス(HCO3−が低下)となれば、それを代償しようと(PaCO2を低下させようと)呼吸回数が上昇するのです。表の10’s Ruleでも、まずは具体的な疾患よりもABCの安定、バイタルサイン、病歴、身体所見の重要性を強調してきました。バイタルサインの中でも呼吸数は軽視されがちです。とくに意識障害患者が頻呼吸を認めた場合は、いわゆる「まずい」状態です。qSOFA(意識、呼吸、収縮期血圧の3項目)の2項目満たしているわけですからね。画像を拡大する代謝性アシドーシス?と思ったら血液ガスを確認しましょう。10’s Ruleでは「5)何が何でも低血糖の否定から!」の部分で、簡易血糖測定(デキスタ)とともに確認するとよいでしょう。その場で血液ガスが測定できれば、数分以内に確認可能ですね。血液ガスは動脈から採取する必要があるでしょうか? 具体的な酸素・二酸化炭素分圧を確認する場合には、動脈血で確認しますが、静脈血でもわかることがたくさんあります。pHやHCO3−は静脈血でも動脈血でも大きな差がないことがわかっており、静脈血で代謝性アシドーシスを認める場合には、その時点でまずいことがわかります。と同時に血糖値、カリウムなどの電解質、CO-Hb(カルボキシヘモグロビン)、MetHb(メトヘモグロビン)、そして乳酸値もわかる血液ガスは、緊急性、重症度の判断にきわめて有用な検査です。実際にこの症例では、pH7.15、HCO3−12.1mmol/L、base excess-16.6mmol/L、乳酸9.8mmol/Lと著明なアシドーシスを認めていました。血糖値は100mg/dL、電解質異常は認めませんでした。原因は何でしょうか? どのように対応するべきでしょうか?乳酸アシドーシスに出会ったら乳酸が上昇していたら焦りましょう。正常値は2mmol/L(18mg/dL)以下です。4mmol/L(36mg/dL)以上を一般的に上昇と捉え、その場合には必ず原因を考えましょう。乳酸アシドーシスの鑑別は、「(1)ショック、(2)腸管虚血、(3)けいれん、(4)ビタミンB1欠乏、(5)薬剤、(6)その他」と覚えておきましょう1)。とくに本症例のような、アルコール関連疾患が想起される場合には、必ずビタミンB1欠乏を鑑別の上位に挙げ、対応する必要があります。ビタミンB1欠乏の症状と対応ビタミンB1の欠乏というとウェルニッケ脳症や末梢神経障害が有名ですが、その他に乳酸アシドーシス、脚気心(高拍出性心不全:wet beriberi)も重要です。原因がよくわからない乳酸アシドーシスや心不全では、ビタミンB1の欠乏を意識して対応する癖を持つとよいと思います。ビタミンB1は即結果が出るわけではなく、その場で欠乏の有無を判断することはできませんが、安価で副作用もほとんどないため、「必要かな?」と思ったら投与しましょう。欠乏のリスクが少しでもあると判断した段階でビタミンB1は100mg静注、アルコール多飲や妊娠悪阻、担がん患者などで寝たきり・低栄養状態でリスクが高いと判断した場合には200mgは静注しましょう。また、ウェルニッケ脳症の可能性があると判断した場合には、初回500mgの投与(1,500mg/日)が推奨されています。(意識障害 その3参照)本症例では、心機能評価目的にエコーを行うと、心収縮力の低下を認めました。乳酸アシドーシス、心機能低下からビタミンB1の欠乏が考えられます。DKAだけでなくAKAも覚えておこう!DKAは糖尿病ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis)として有名ですが、AKAはご存じでしょうか? アルコール性ケトアシドーシス(alcoholic ketoacidosis:AKA)です。アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスをみたら鑑別に挙げ、患者が慢性アルコール依存患者(アルコール多飲者)であった場合には、積極的に鑑別に挙げ介入する必要があります。「体調が悪く、お酒すら飲むことができなくなった」という病歴が「らしい」ことを示唆しています。ただ、AKAの確定診断をその場で行うことは難しく、疑い症例に対して介入し、その後の経過やβ-ヒドロキシ酪酸などのケトン体分画の結果で診断します。初療において重要なことは、AKAの治療として細胞外液・ビタミンB1の投与、血糖が低めの場合にはブドウ糖の投与を行い、それとともにAKA以外のアシドーシスの原因となりうる病態がないかを検索することです。急性膵炎、消化管出血はAKA同様にアルコール関連疾患として頻度も高く、合併していることもあります。また、アルコール離脱によって痙攣し、乳酸値が上昇することもあります。いろいろと考えることがあるのです。アルコール?と思ったら病歴や既往から、意識障害の原因としてアルコールの影響を考えた場合には、具体的にどうするべきでしょうか?いつ何時でもABCの安定が大切であるため、原因をアルコールによる酩酊とは決めつけず、バイタルサインや血液ガス所見から重症度を判断し、対応します。●Rule8 電解質異常、アルコール、肝性脳症、薬物、精神疾患による意識障害は除外診断!アシドーシスや低血糖を伴う場合には、迷わず検体採取後に速やかにビタミンB1を静注し、細胞外液を投与しつつ全身管理を行いながら、鑑別を進めます。本症例では、初療時には敗血症、AKA、ビタミンB1欠乏などを考え対応しました。集中治療を要しましたが、数日後には状態は改善しました。後日判明したビタミンB1値は著明に低下していました。確定診断することは大切です。しかし、初療時にすべてが判明するわけではありません。疑い、そして否定できなければ、あるものとして対応することが必要な場合もあるのです。“AIUEOTIPS”の“S”にSupplementを追加し、ビタミン欠乏を見逃さないように心掛けましょう!(意識障害 その2参照)次回は、「AIUEOTIPS」の活用法を学びましょう。1)Kraut JA,et al. N Engl J Med. 2014;371:2309-2319.

86.

非代償性肝硬変を伴うC型肝炎に初の承認

 平成元年(1989年)に発見されたC型肝炎ウイルス(HCV)。近年、経口の直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals:DAA)が次々と発売され、C型慢性肝炎や初期の肝硬変(代償性肝硬変)の患者では高い治療効果を得られるようになったが、非代償性肝硬変を伴うHCV感染症に対する薬剤はなかった。そのような中、平成最後の今年、1月8日にエプクルーサ配合錠(一般名:ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠、以下エプクルーサ)が、「C型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善」に承認された。また、DAA治療失敗例に対する適応症(前治療歴を有するC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善)も取得した。ここでは、1月25日に都内で開催されたギリアド・サイエンシズ主催のメディアセミナーで、竹原 徹郎氏(大阪大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学 教授)が講演した内容をお届けする。予後の悪い非代償性肝硬変で初めて高い治癒率を実現 HCV感染者は長い期間を経て、慢性肝炎から代償性肝硬変、非代償性肝硬変へと進行する。非代償性肝硬変患者の予後は悪く、海外データ(J Hepatol. 2006)では、2年生存率が代償性肝硬変患者では約90%であるのに対し、非代償性肝硬変患者では50%以下という。国内データ(厚生労働科学研究費補助金分担研究報告書)でも、Child-Pugh分類A(代償性肝硬変)では3年生存率が93.5%に対して、非代償性肝硬変であるB、Cではそれぞれ71.0%、30.7%と低い。しかし、わが国では非代償性肝硬変に対して推奨される抗ウイルス治療はなかった(C型肝炎治療ガイドラインより)。 このような状況のもと、非代償性肝硬変に対する治療薬として、わが国で初めてエプクルーサが承認された。 非代償性肝硬変患者に対する承認は、エプクルーサ単独とリバビリン併用(ともに12週間投与)を比較した国内第 3 相臨床試験(GS-US-342-4019)の結果に基づく。竹原氏は、「海外試験ではリバビリン併用が最も良好なSVR12(治療終了後12週時点の持続性ウイルス学的著効率)を達成したが、この国内試験では両者のSVR12に差がみられなかったことから、有害事象の少なさを考慮して併用なしのレジメンが承認された」と解説した。 本試験でエプクルーサ単独投与群には、年齢中央値67歳の51例が組み入れられ、うち24例はインターフェロンやリバビリン単独投与などの前治療歴を有する患者であった。主要評価項目であるSVR12は92.2%で、患者背景ごとのサブグループ解析でも高いSVR12が認められ、治療歴ありの患者で87.5%、65歳以上の患者でも96.6%であった。同氏は、「より進行した状態であるChild-Pugh分類Cの患者で若干達成率が低かったが、それでも約80%で治癒が確認されている」とその有効性を評価。有害事象は9例で認められ、主なものは発疹、皮膚および皮下組織障害、呼吸器・胸郭および縦郭障害(それぞれ2例で発現)であった。他の薬剤で治癒が確認されていない特殊な薬剤耐性例でも効果 一方、DAA治療失敗例に関しては、DAA既治療のジェノタイプ1型および2型患者を対象とした試験(GS-US-342-3921)において、リバビリン併用の24週間投与により96.7%のSVR12率を達成している。「DAA既治療失敗例は、複雑な耐性変異を有する場合が多いが、これらの患者さんでも95%以上の治癒が得られたのは非常に大きい。とくに他の薬剤で治癒が確認されていない特殊な薬剤耐性P32欠損についても、5例中4例で治癒が確認された」と同氏は話した。また有害事象に関しては、リバビリンに伴う貧血の発現が約20%でみられたが、「貧血が起こっても、薬剤の量を調整することで症状を抑えることが可能。貧血が原因で投与中止となった例はない」と話している。 最後に同氏は、「非代償性肝硬変とDAA治療失敗例という、これまでのアンメットメディカルニーズを満たす治療薬が登場したことを、広くすべての医療従事者に知ってもらい、専門医と非専門医が連携して、治療に結び付けていってほしい」とまとめた。

87.

出揃ったC型肝炎治療薬、最新使い分け法

 相次いで有効な新経口薬が登場し、適切に使い分けることでほぼ全例でウイルス排除が可能となったC型肝炎。しかし、陽性患者の治療への移行割合が伸び悩むなど課題は残っており、医師・患者双方が、治療によるメリットと治療法をより正しく認識することが求められている。1月9日、都内で「C型肝炎の撲滅に向けた残された課題と今後の期待~C型肝炎治療の市販後の実臨床成績~」と題したメディアセミナーが開催され(主催:アッヴィ合同会社)、熊田 博光氏(虎の門病院 顧問)、米澤 敦子氏(東京肝臓友の会 事務局長)が講演した。マヴィレットは実臨床でも高いSVRを達成、残された非治癒例とは? 発売から約1年が経過したC型肝炎治療薬マヴィレット配合錠(一般名:グレカプレビル/ピブレンタスビル)の虎の門病院における市販後成績は、治療終了後12週時点の持続性ウイルス学的著効率(SVR12)はすべてのジェノタイプ、治療歴の患者で臨床試験と同様の良好な結果が得られ、有害事象に関しても新たな事象の発現はみられなかった。 ただし、他の直接作用型抗ウイルス療法(DAA)既治療の患者、ならびにジェノタイプ3型感染者については、98.7%、87.5%とSVR12が若干低い傾向がみられている(臨床試験ではそれぞれ93.9%、83.3%)。熊田氏は、この両者への対応について解説した。 まずDAA既治療患者について、ジェノタイプ1型のマヴィレット非治癒例の詳細解析を行ったところ、C型肝炎ウイルスのNS5A領域P32遺伝子欠損という共通点がみつかった。このP32遺伝子欠損の患者には、1月8日に薬事承認されたエプクルーサ配合錠(一般名:ソホスブビル/ベルパタスビル)とリバビリンの併用療法が80%の患者に効果があったと報告されている。「P32遺伝子欠損の患者には、エプクルーサ+リバビリン24週投与が第一選択になるだろう」と同氏。DAA既治療患者のうち、P32遺伝子欠損症例の発現頻度は5%ほどと考えられるという1)。 3型感染者については、日本人では元々非常に少ない(虎の門病院のデータで、1万879例中55例[0.5%])。「マヴィレットで大部分の患者に対応できるが、非治癒だった症例に対しては、ソバルディとリバビリンの併用を24週投与することで治癒する症例が確認されている」と話した。DAA未治療/既治療それぞれのC型肝炎治療薬の使い分け 上記を踏まえ、同氏は虎の門病院で医師間の申し送り時に使用しているという「DAAの使い分け法」を解説。DAA未治療/既治療それぞれの、C型肝炎治療薬の使い分けを以下に紹介する。 [初回・DAA未治療] 慢性肝炎(1型、2型とも)→マヴィレット8週間 肝硬変  代償性→(1型、2型とも)ハーボニーあるいはマヴィレット12週      (1型のみ)エレルサ・グラジナ12週間  非代償性→エプクルーサ12週間 [DAA既治療] 1型  Y93H、L31ダブル耐性あり→マヴィレット12週間*あるいはエプクルーサ  +リバビリン24週間  Y93H、L31ダブル耐性なし→マヴィレット*、ハーボニー、エレルサ・グラジナの  いずれか12週間、あるいはエプクルーサ+リバビリン24週間 *P32欠失例を除く 2型→マヴィレット(ハーボニー)12週間あるいはエプクルーサ+リバビリン24週間 3型→マヴィレット12週間(ただし、マヴィレット非治癒例にはソバルディ  +リバビリン24週間) 最後に同氏は、C型肝炎ウイルスへの感染が肝臓以外のさまざまな他臓器疾患にも影響を及ぼすことに言及。SVR非達成例では、達成例と比較してCKD発症率が約2.7倍2)、骨粗鬆症症例における骨折の発症率が約3倍3)というデータを紹介し、「糖尿病のコントロール向上に関連するというデータもあり、早いうちにC型肝炎を確実に治療することで、肝外病変に対しても好影響がある。短期間の経口薬投与でこれだけの治療率が達成されているので、他科の先生方もぜひ積極的にC型肝炎チェックを実施して、治療につなげていってほしい」と呼び掛けた。C型肝炎治療は高齢者には難しいという認識が根強いが・・・ 続いて登壇した米澤氏は、東京肝臓友の会にこの1年半ほどの間で寄せられた相談内容をいくつか紹介。「医師から一人暮らしの後期高齢者にそんな治療はしないぞ! と怒られた」「過去にインターフェロン治療を行ったが効かず、治療薬のことを知りかかりつけ医に相談したが、知らないと言われた」などの相談が実際に寄せられているという。 患者側も、自覚症状がなければ治療に踏み切れない事例も多い。「主治医から治療を勧められたが、肝機能はずっと正常値。症状もないので治療はしなくてもいいか?」などで、同氏は「インターフェロン治療の時代が長かったため、C型肝炎治療は高齢者には難しい、あるいは大変な治療という認識が根強くある。またかかりつけ医から専門医への受け渡しがスムーズにいっていない事例もあると感じる」と話した。 なお、肝炎ウイルス検査陽性の場合の精密検査費用の国による助成が、2019年度から民間分も対象になる予定であることも紹介された。

88.

第6回 腎症でシスタチンCの検査が査定/心不全の各種検査での査定/リーバクト配合顆粒処方での査定/ミカルディス錠処方での査定【レセプト査定の回避術 】

事例21 腎症でシスタチンCの検査が査定糖尿病性腎症でシスタチンCの検査を請求した。●査定点シスタチンCの検査が査定された。解説を見る●解説「点数表の解釈」の血液化学検査に、「シスタチンCは、『1』の尿素窒素又は『1』のクレアチニンにより腎機能低下が疑われた場合に、3月に1回に限り算定できる」となっています。そのため確定病名で請求すると査定の対象となります。とくに確定病名にするかどうかの判断では、疑い病名から確定病名に変更する請求月の検査内容を確認してから変更するなどの注意が必要です。事例22 心不全の各種検査での査定心不全で同時に脳性Na利尿ペプチド(BNP)136点と脳性Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)140点の検査を施行したため、点数の高い脳性Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)で検査を請求した。●査定点脳性Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)が査定された。解説を見る●解説「点数表の解釈」の内分泌学的検査に「『16』の脳性Na利尿ペプチド(BNP)、『18』の脳性Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)及び『43』の心房性Na利尿ペプチド(ANP)のうち2項目以上を実施した場合は、各々の検査の実施日を「摘要」欄に記載する」となっています。レセプトの摘要欄に必要な「検査実施日」が記載されていなかっため、査定となりました。事例23 リーバクト配合顆粒処方での査定低アルブミン血症で紹介された患者にイソロイシン・ロイシン・バリン(商品名:リーバクト配合顆粒)3包30日分を処方した。●査定点リーバクト配合顆粒3包30日が査定された。解説を見る●解説リーバクト配合顆粒の添付文書「効能又は効果」に「食事摂取量が十分にもかかわらず低アルブミン血症を呈する非代償性肝硬変患者の低アルブミン血症の改善」となっています。そのため「低アルブミン血症」と「肝硬変」の病名が求められています。事例24 ミカルディス錠処方での査定高血圧症、肝障害でテルミサルタン(商品名:ミカルディス錠)20mg 3Tを処方した。●査定点ミカルディス錠20mg 1Tが査定された。解説を見る●解説添付文書の「用法・用量」に「通常、成人にはテルミサルタンとして40㎎を1日1回経口投与する。ただし、1日20㎎から投与を開始し漸次増量する。なお、年齢・症状により適宜増減するが、1日最大投与量は80㎎までとする」となっています。「用法・用量に関連する使用上の注意」として「肝障害のある患者に投与する場合、最大投与量は1日1回40㎎とする」となっています。適宜増減に対する症状詳記がなかったことと、肝障害の病名があるため1日1回40㎎の上限として査定されました。

89.

第11回 レジパスビル/ソホスブビルの8週、12週、24週投与による有効性の違いは?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 C型肝炎の治療薬は近年急速に充実してきました。そのはしりがアスナプレビルとダクラタスビルの併用療法ですが、すぐにソホスブビル(商品名:ソバルディ錠)がインターフェロン無効例でも高い奏効率を示したことから、画期性加算が100%上乗せされて同薬剤には高額な薬価が設定されました。次いでレジパスビル/ソホスブビル(商品名:ハーボニー配合錠)が発売され、「ジェノタイプ(遺伝子型)1型のC型慢性肝炎において、リバビリン併用なしでSVR12を100%達成」と大きな話題になりました1)。レジパスビル/ソホスブビルも高額な薬価が設定され、IQVIAジャパンの調査によれば、レジパスビル/ソホスブビルは2016年の売上金額第1位でした。その後も、2017年にグレカプレビル/ピブレンタスビル(商品名:マヴィレット配合錠)が発売され、こちらも2018年の第1・第2四半期で売上金額第1位となっています2)。何かと話題に事欠かないC型肝炎治療薬の中から、今回はレジパスビル/ソホスブビルに関する研究を紹介します。レジパスビル/ソホスブビルの第III相試験には、多施設オープンラベルのランダム化比較試験のION-1、ION-2、ION-33-5)の3つがあります。いずれも18歳以上のジェノタイプ1のC型肝炎患者を対象としており、未治療例、他剤無効例、肝硬変例などの属性の患者ごとにレジパスビル/ソホスブビルあるいはレジパスビル/ソホスブビル+リバビリン併用の効果を、SVR12をプライマリエンドポイントとして検討しています。なお、SVRとはsustained virological response(持続陰性化)の略で、服用終了から12週後にC型肝炎ウイルス陰性(検出限界未満)が確認された場合にはSVR12となり、24週後も陰性が確認された場合にはSVR24となります。それぞれの試験の結果は下表のとおりです。結果から、インターフェロンが無効であった例でも高い奏効率であること、肝硬変例においても有効であることが読み取れます。また、ION-3において肝硬変なしの未治療例の研究では、8週服用と12週服用で大きな差はみられませんでした。本邦では12週服用が原則ですが、英国のNICEガイダンスにおいては、肝硬変を伴わないジェノタイプ1のC型肝炎については8週服用が推奨されています6)。国民保健サービス(NHS)により原則公費負担で提供される英国の医療制度においては、診療ガイドライン作成時に費用対効果も厳しく査定され、期待できる効果に大差がなければ8週で終了というのは経済的にも副作用予防の側面でも合理的なのかもしれません。なお、比較的多くみられた有害事象は、倦怠感や頭痛に不眠、吐き気、無力症、下痢、発疹などでした。これらの試験は肝がんへの進展や総死亡をプライマリエンドポイントとしているわけではないため、厳密には総死亡や肝がん発生率を語ることはできないのですが、SVR12の達成率が高いということはウイルス陰性が長く続くということなので、肝障害の進展抑制が期待できるものと推察されます。ただし、事例として多いわけではないものの、インターフェロンと異なり免疫活性作用が期待できない直接作用型の抗ウイルス薬治療で肝細胞がんの再発が増えた事例も報告されていますから、一定の認識はあってもよいかと思います7)。飲み忘れ時は「気づいた時点で服用」が原則経験上、レジパスビル/ソホスブビルは自己負担の上限はあれど薬価がきわめて高いことや、肝硬変や肝がんに進行させたくないという治療目的から、患者さんが普段以上に相互作用や飲み忘れ時の対応などで慎重になるように思います。レジパスビルは胃内pHの上昇により溶解性が低下するため、添付文書にはH2ブロッカー併用時は同時投与または12時間の間隔を空け、PPI併用時は空腹時に同時服用となっています。酸化マグネシウムは本邦の添付文書には具体的な服用間隔の指示はありませんが、米国の添付文書では4時間の間隔を空けるとあります。飲み忘れて慌てて連絡してくる患者さんもお見かけしますが、メーカーに問い合わせてみると「一般的に飲み忘れに気付いた時点で服用し、その日の服用はそれのみとして、その翌日から従来通りの服用時点で服用する。同じ日に2回分を飲まないという原則を守る。薬を体内から切らさないようにすることが大切」という回答を得たことがありますので参考にしていただければと思います。1)ギリアド ・サイエンシズ株式会社プレスリリース(2015年8月31日付)2)IQVIAジャパン トップライン市場データ3)Afdhal N, et al. N Engl J Med. 2014;370:1889-1898.4)Afdhal N, et al. N Engl J Med. 2014;370:1483-1493.5)Kowdley KV, et al. N Engl J Med. 2014;370:1879-1888.6)NICE guidance Ledipasvir-sofosbuvir for treating chronic hepatitis C7)Reig M, et al. J Hepatol. 2016;65:719-726.8)ハーボニー配合錠 添付文書(2018年2月改訂 第7版)、インタビューフォーム(2018年7月改訂 第8版)9)HARVONI package insert

90.

血小板減少症治療薬Mulpleta、米国で1ヵ月前倒し発売

 塩野義製薬株式会社は、Mulpleta(一般名:ルストロンボパグ、日本での製品名:ムルプレタ)について、2018年8月30日(米国東部時間)、“待機的な観血的手技を予定している成人慢性肝疾患患者における血小板減少症の治療”を適応症として米国における販売を開始したと発表。 Mulpletaは、米国食品医薬品局(FDA)より2018年7月31日付で約1ヵ月前倒しで承認を取得した。それに伴い、本剤を予定よりも前倒しで発売する。同剤の米国販売は、塩野義製薬の米国子会社である Shionogi Inc.(ニュージャージー州)が担う。また、発売に際し、医療従事者および患者向けのサポートプログラムである“Mulpleta Assist”を新たに立ち上げ、同剤の物流管理、マネジドケアの償還支援や経済的な支援を行う。 同剤は、日本において2015年12月に製品名「ムルプレタ」として発売。欧州においては、欧州医薬品庁(EMA)により審査が進んでおり、承認は2019年上半期を見込んでいる。

91.

第2回 プラバスタチンの処方/カモスタットの処方/クエチアピンの処方と検査/肝硬変での検査【レセプト査定の回避術 】

事例5 プラバスタチンの処方脂質異常症の重症患者に、プラバスタチン10mg 2錠を処方した。●査定点プラバスタチン10mg 1錠が査定された。解説を見る●解説添付文書で、年齢・症状により適宜増減し、重症の場合は1日20mgまで増量できることになっていましたが、レセプトに「重症」のコメントが追記されていませんでした。コメントとして「重症」が求められます。事例6 カモスタットの処方逆流性食道炎の患者に、カモスタット100mg 6錠を処方した。●査定点カモスタット100mg 6錠が査定された。解説を見る●解説(1)カモスタットの添付文書で「カモスタット100mg 6錠」の傷病名は「慢性膵炎における急性症状の緩解」のため査定されました。(2)「逆流性食道炎」では、カモスタットの処方は認められていません。「術後」の「逆流性食道炎」では認められています。なお、「術後逆流性食道炎」では、カモスタット100mg 3錠の処方となります。事例7 クエチアピンの処方と検査統合失調症でクエチアピン錠25mg 3錠を継続処方している患者に、HbA1c検査を施行した。●査定点HbA1c検査が査定された。解説を見る●解説統合失調症にクエチアピン錠を投与すると、添付文書の「重要な基本的注意」で「著しい血糖値の上昇から、糖尿病検査」が求められています。このような場合には、糖尿病の疑いを追記するのではなく、「患者は『クエチアピン錠投与により著しい血糖値の上昇』を受けやすく、添付文書の【重要な基本的注意】によりHbA1c検査施行を必要とした」と症状詳記することが望ましいといえます。事例8 肝硬変での検査肝硬変でヘパプラスチンテストを施行した。●査定点ヘパプラスチンテストが査定された。解説を見る●解説ヘパプラスチンテストの保険請求では、「他の検査で代替できない理由を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること」となっています。コメントの記載がないため査定されています。

92.

2009年以降、若年成人の肝硬変による死亡が急増/BMJ

 米国では2009年以降、肝硬変による死亡率が上昇していることが明らかにされた。25~34歳群の上昇が最も大きく、原因はアルコール性肝疾患によるものであった。米国・ミシガン大学のElliot B. Tapper氏らが行った観察コホート研究の結果で、著者は「若い年代でアルコールが原因による死亡が急増していることは、肝疾患予防の適切なケアについて、新たなチャレンジが必要なことを強調するものだ」と述べている。このほか解析からは、肝硬変による死亡は、白人・ネイティブアメリカン・ヒスパニック系米国人での急増が大きかったこと、メリーランド州では改善していた一方、ケンタッキー・ニューメキシコ・アーカンソー州で高率であったことなどが明らかになったという。BMJ誌2018年7月18日号掲載の報告。1999~2016年の米国住民の肝硬変、肝がんの死亡動向を調査 研究グループは、米国住民の肝硬変および肝がんによる死亡について、1999~2016年の動向を、年齢群、性別、人種、肝疾患原因別、地域別に調べた。米国疾病対策予防センター(CDC)のWide-ranging OnLine Data for Epidemiologic Research(WONDER)を介して、人口動態統計調査からの死亡データ、国勢調査からの住民データを集めて分析した。 主要評価項目は、肝硬変および肝細胞がんによる死亡率で、joinpoint回帰法を用いて動向を評価した。25~34歳群で年間10.5%増、原因はアルコール関連 米国における肝硬変による年間死亡者数は、1999年は2万661例であったが、2016年は65%増の3万4,174例となっていた。肝細胞がんによる年間死亡者数は、同5,112例から倍増の1万1,073例となっていた。唯一、アジア系・環太平洋島民米国人のみ、対象期間内に肝細胞がん死の有意な改善(年間2.7%減[95%信頼区間[CI]:2.2~3.3]、p<0.001)がみられた。 人種別にみて、肝硬変に関連した年間死亡率の伸び率が最も大きかったのはネイティブアメリカン(国勢調査でアメリカインディアンとされている住民)で、4.0%(95%CI:2.2~5.7、p=0.002)であった。 年齢補正後の肝細胞がん死は、毎年2.1%(95%CI:1.9~2.3、p<0.001)上昇が認められた。肝硬変による死亡の上昇は2009年に始まっており、2016年までに年間3.4%(3.1~3.8、p<0.001)上昇していた(1999~2008年は減少[年間-0.5%、p=0.02])。 2009~16年に肝硬変関連死が最も増大していたのは25~34歳群で(10.5%、95%CI:8.9~12.2、p<0.001)、もっぱら原因はアルコール関連の肝疾患によるものであった。また、同期間中、肝硬変関連では腹膜炎による死亡(年間死亡率増:6.1%、95%CI:3.9~8.2)と、敗血症による死亡(同7.1%、6.1~8.4)が大きく増大していた。さらに州別の解析では、唯一メリーランド州のみ死亡の改善が認められた(年間死亡率-1.2%、95%CI:-1.7~-0.7)。一方で南西部の州に集中して偏って年間死亡率の上昇が認められた。具体的には、ケンタッキーで6.8%(95%CI:5.1~8.5)、ニューメキシコ州6.0%(4.1~7.9)、アーカンソー州5.7%(3.9~7.6)、インディアナ州5.0%(3.8~6.1)、アラバマ州5.0%(3.2~6.8)。 肝細胞がん関連の死亡の改善が認められた州はなかった。最も深刻な年率増がみられたのは、アリゾナ州5.1%(3.7~6.5)、カンザス州4.3%(2.8~5.8)であった。

93.

脂質代謝遺伝子の発現を調節する高脂血症治療薬「パルモディア錠0.1mg」【下平博士のDIノート】第4回

脂質代謝遺伝子の発現を調節する高脂血症治療薬「パルモディア錠0.1mg」今回は、「ペマフィブラート錠0.1mg(商品名:パルモディア)」を紹介します。本剤は、フィブラート系薬に分類される高脂血症治療薬で、核内受容体であるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体PPARαに選択的に結合し、脂質代謝遺伝子の発現を調節することで、血中の中性脂肪(トリグリセライド:TG)を低下させるとともにHDL-コレステロール(HDL-C)を増加させる作用を有します。<効能・効果>高脂血症(家族性を含む)の適応で、2017年7月3日に承認され、2018年6月1日より販売されています。本剤は、選択的にPPARαに結合した後、PPARαの立体構造変化をもたらすことで、主に肝臓の脂質代謝に関わる遺伝子群の発現を選択的にモジュレート(調節)して、脂質代謝を改善します。なお、本剤をLDL-コレステロール(LDL-C)のみが高い高脂血症治療の第1選択薬として用いることはできません。<用法・用量>通常、成人にはペマフィブラートとして1回0.1mgを1日2回朝夕に経口投与します。年齢・症状に応じて適宜増減可能ですが、最大用量は1回0.2mgを1日2回までです。<禁忌>次の患者には投与しないこと重篤な肝障害、Child-Pugh分類B/Cの肝硬変のある患者あるいは胆道閉塞のある患者(肝障害の悪化、または本剤の血中濃度が上昇する恐れがある)胆石のある患者(胆石形成が報告されている)妊娠または妊娠している可能性のある患者シクロスポリン、リファンピシンを投与中の患者(併用により、本剤の血中濃度が著しく上昇する恐れがある)<臨床効果>第III相臨床試験であるフェノフィブラートとの比較検証試験において、TG高値かつHDL-C低値を示す脂質異常症患者223例に、本剤0.2mg/日または0.4mg/日を1日2回朝夕食後、もしくはフェノフィブラート錠106.6mg/日を1日1回朝食後で24週間投与しました。その結果、空腹時血清TGのベースラインからの変化率は、フェノフィブラート群が-39.685±1.942%であったのに対し、本剤0.2mg群は-46.226±1.977%、0.4mg群は-45.850±1.942%であり、本剤のフェノフィブラート群に対する非劣性が認められています(p≦0.01)。なお、TG高値を示す脂質異常症患者、2型糖尿病を合併した脂質異常症患者を対象とした長期投与試験において、52週にわたり空腹時血清TGの改善が維持されました。<副作用>承認時までに実施された臨床試験において、1,418例中206例(14.5%)に副作用が認められています。主な副作用は、胆石症20例(1.4%)、糖尿病(悪化を含む)20例(1.4%)、CK上昇12例(0.8%)でした。<患者さんへの指導例>1.中性脂肪を低下させ、善玉コレステロールを増やす薬です。2.足のしびれ・痙攣、力が入らない、覚えのない筋肉痛など、いつもと違う症状が現れたらすぐに連絡してください。3.禁煙・運動・食生活など、生活習慣の改善も併せて行いましょう。<Shimo's eyes>既存のフィブラート系薬は腎排泄型の薬剤であり、安全性の観点から腎機能障害患者、肝機能障害患者、スタチン系薬を服用中の患者では使用が制限されてきました。ペマフィブラートは、腎機能障害(eGFR:60mL/分/1.73m2未満)を有する高TG血症患者に1日0.4mgまで投与した場合であっても、正常腎機能被験者と比較して発現頻度が明らかに上昇するような有害事象は現時点では認められていません。また、本剤と各種スタチン系薬との相互作用が検討された臨床試験においても、併用による双方の薬剤の血中濃度には変化がなく、有害事象の発現頻度は上昇しなかったことが確認されています。これらのことから、本剤を腎機能障害患者が服用したり、スタチン系薬と併用したりすることによる横紋筋融解症の発現リスクは、ほかのフィブラート系薬と比較して低いことが予想されます。そのため、2022年10月に高度腎障害のある患者への禁忌が解除され、慎重投与に変更されました。本剤は胆汁排泄型の薬剤であるため、肝機能障害には注意が必要ですが、申請時資料において、フェノフィブラートに比べて肝機能障害の有害事象が少ないという可能性が示唆されるデータがあります。しかし、ペマフィブラートは、日本で開発された薬剤であり、海外では臨床試験が実施されているものの、まだ承認されていません。十分な臨床での使用経験がないため、今後の副作用報告に注視する必要があるでしょう。※2022年10月、添付文書改訂により一部内容の修正を行いました。

94.

第3回 意識障害 その3 低血糖の確定診断は?【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+10のルールのうち低血糖に注目この症例は前回お伝えしたとおり、左中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症でした。誰もが納得する結果だと思いますが、脳梗塞には「血栓溶解療法(rt-PA療法)」、「血栓回収療法」という時間に制約のある治療法が存在します。つまり、迅速に、そして正確に診断し、有効な治療法を診断の遅れによって逃すことのないようにしなければなりません。頭部CT、MRIを撮影すれば簡単に診断できるでしょ?! と思うかもしれませんが、いくつかのpitfallsがあり、注意が必要です。今回も“10’s Rule”(表1)にのっとり、説明していきます1)。今回は5)からです。画像を拡大する●Rule5 何が何でも低血糖の否定から! デキスタ、血液ガスcheck!意識障害患者を診たら、まずは低血糖を除外しましょう。低血糖になりうる人はある程度決まっていますが、緊急性、簡便性の面からまず確認することをお勧めします。低血糖の時間が遷延すると、低血糖脳症という不可逆的な状況となってしまうため、迅速な対応が必要なのです。低血糖によって片麻痺や失語を認めることもあるため、侮ってはいけません2)。低血糖の診断基準:Whippleの3徴(表2)をcheck!画像を拡大する低血糖と診断するためには満たすべき条件が3つ存在します。陥りがちなエラーとして血糖は測定したものの、ブドウ糖投与後の症状の改善を怠ってしまうことです。血糖を測定し低いからといって、意識障害の原因が低血糖であるとは限りません。必ず血糖値が改善した際に、普段と同様の意識状態へ改善することを確認しなければなりません。血糖低値と低血糖は似て非なるものであることを理解しておきましょう。低血糖の原因:臭いものに蓋をするな!低血糖に陥るには必ず原因が存在します。“Whippleの3徴”を満たしたからといって安心してはいけません。原因に対する介入が行われなければ再度低血糖に陥ってしまいます。低血糖の原因は表3のとおりです。最も多い原因は、インスリンやスルホニルウレア薬(SU薬)など血糖降下作用の強い糖尿病薬によるものです。そのため使用薬剤は必ず確認しましょう。画像を拡大するるい痩を認める場合には低栄養、腹水貯留やクモ状血管腫、黄疸を認める場合には肝硬変(とくにアルコール性)を考え対応します。バイタルサインがSIRS(表4)やqSOFA(表5)の項目を満たす場合には感染症、とくに敗血症に伴う低血糖を考えフォーカス検索を行いましょう(次回以降で感染症×意識障害の詳細を説明する予定です)。画像を拡大する画像を拡大する低血糖の治療:ブドウ糖の投与で安心するな!低血糖の治療は、経口が可能であればブドウ糖の内服、意識障害を認め内服が困難な場合には経静脈的にブドウ糖を投与します。一般的には50%ブドウ糖を40mL静注することが多いと思います。ここで忘れてはいけないのはビタミンB1欠乏です。ビタミンB1が欠乏している状態でブドウ糖のみを投与すると、さらにビタミンB1は枯渇し、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群を起こしかねません。ビタミンB1が枯渇している状態が考えられる患者では、ブドウ糖と同時にビタミンB1の投与(最低でも100mg)を忘れずに行いましょう。ビタミンB1の成人の必要量は1~2mg/日であり、通常の食事を摂取していれば枯渇することはありません。しかし、アルコール依存患者のように慢性的な食の偏りがある場合には枯渇しえます。一般的にビタミンB1が枯渇するには2~3週間を要するといわれています。救急外来などの初療では、患者の背景が把握しきれないことも少なくないため、アルコール依存症以外に、低栄養状態が示唆される場合、妊娠悪阻を認める患者、さらにはビタミンB1が枯渇している可能性が否定できない場合には、ビタミンB1を躊躇することなく投与した方が良いでしょう。ウェルニッケ脳症はアルコール多飲患者にのみ発症するわけではないことは知っておきましょう(表6)。画像を拡大するそれでは、いよいよRule6「出血か梗塞か、それが問題だ!」です。やっと頭部CTを撮影…というところで今回も時間がきてしまいました。脳卒中や頭部外傷に伴う意識障害は頻度も高く、緊急性が高いため常に考えておく必要がありますが、頭部CTを撮影する前に必ずバイタルサインを安定させること、低血糖を除外することは忘れずに実践するようにしましょう。それではまた次回!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中!. 中外医学社;2015.2)Foster JW, et al. Stroke. 1987;18:944-946.コラム(3) 「くすりもりすく」、内服薬は正確に把握を!高齢者の多くは、高血圧、糖尿病、認知症、不眠症などに対して定期的に薬を内服しています。高齢者の2人に1人はポリファーマシーといって5剤以上の薬を内服しています。ポリファーマシーが悪いというわけではありませんが、薬剤の影響でさまざまな症状が出現しうることを、常に意識しておく必要があります。意識障害、発熱、消化器症状、浮腫、アナフィラキシーなどは代表的であり救急外来でもしばしば経験します。「高齢者ではいかなる症状も1度は薬剤性を考える」という癖を持っておくとよいでしょう。また、内服薬はお薬手帳を確認することはもちろんのこと、漢方やサプリメント、さらには過去に処方された薬や家族や友人からもらった薬を内服していないかも、可能な限り確認するとよいでしょう。お薬手帳のみでは把握しきれないこともあるからです。(次回は7月25日の予定)

95.

PBCに対するベザフィブラートの有用性がフランスで証明された(解説:上村直実氏)-876

 原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、原因不明の胆管に対する自己免疫疾患で国の特定疾患に指定されており、現在、日本における患者数は5〜6万人で軽症の症例が増加している。男女比は約1:7であり、50~60歳の中年以降の女性に最も多くみられる疾患である。 PBCに対する根治的な治療法は確立しておらず、薬物療法が奏効せずに顕著な黄疸を伴う肝硬変へと進展して肝不全状態に至った場合に肝移植が考慮される。薬物療法に関しては1980年代から使用されているウルソデオキシコール酸(UDCA)が肝硬変への進展を遅くする成績を有して一定の評価を得ているが、UDCAが無効な患者に対して有効な薬剤に関するエビデンスはなかった。 今回NEJM誌に掲載された論文では、UDCAで効果不十分な患者100例を対象としてフランスで施行されたRCTの結果、ベザフィブラート併用群はプラセボと比較して、生化学的完全奏効(総ビリルビン、ALP、AST、アルブミンがいずれも正常値かつプロトロンビン指数が正常値を示す場合)が有意に高率であった。すなわち、24ヵ月後の完全奏効率はプラセボ群では皆無であったのに対して併用群31%であり、患者さんに勇気を与えるものである。なお、リスクに関しては有害事象として腎機能に対する悪影響が懸念されると考察されている。 高脂血症に使用されているベザフィブラートがPBCに対して有用である可能性については20年以上前に日本から報告1,2)されていた。PBC診療ガイドラインの2017年改定版では、UDCA無効例に対してベザフィブラートの使用を検討する旨が明記されている。すなわち、古くからある薬剤の意外な有用性に関して日本から発信された治療法がフランスで施行されたRCTにより証明されたものである。PBCは長期経過が重要な疾患であるので、今後、長期的な有用性と安全性に関するエビデンスはなんとしても日本から発信してもらいたいものである。さらにベザフィブラートが有効である患者を抽出可能な宿主因子を探求することも重要である3)。

96.

第2回 意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害のアプローチ意識障害は非常にコモンな症候であり、救急外来ではもちろんのこと、その他一般の外来であってもしばしば遭遇します。発熱や腹痛など他の症候で来院した患者であっても、意識障害を認める場合には必ずプロブレムリストに挙げて鑑別をする癖をもちましょう。意識はバイタルサインの中でも呼吸数と並んで非常に重要なバイタルサインであるばかりでなく、軽視されがちなバイタルサインの1つです。何となくおかしいというのも立派な意識障害でしたね。救急の現場では、人材や検査などの資源が限られるだけでなく、早期に判断することが必要です。じっくり考えている時間がないのです。そのため、意識障害、意識消失、ショックなどの頻度や緊急性が高い症候に関しては、症候ごとの軸となるアプローチ法を身に付けておく必要があります。もちろん、経験を重ね、最短距離でベストなアプローチをとることができれば良いですが、さまざまな制約がある場面では難しいものです。みなさんも意識障害患者を診る際に手順はあると思うのですが、まだアプローチ方法が確立していない、もしくは自身のアプローチ方法に自信がない方は参考にしてみてください。アプローチ方法の確立:10’s Rule1)私は表1の様な手順で意識障害患者に対応しています。坂本originalなものではありません。ごく当たり前のアプローチです。ですが、この当たり前のアプローチが意外と確立されておらず、しばしば診断が遅れてしまっている事例が少なくありません。「低血糖を否定する前に頭部CTを撮影」「髄膜炎を見逃してしまった」「飲酒患者の原因をアルコール中毒以外に考えなかった」などなど、みなさんも経験があるのではないでしょうか。画像を拡大する●Rule1 ABCの安定が最優先!意識障害であろうとなかろうと、バイタルサインの異常は早期に察知し、介入する必要があります。原因がわかっても救命できなければ意味がありません。バイタルサインでは、血圧や脈拍も重要ですが、呼吸数を意識する癖を持つと重症患者のトリアージに有効です。頻呼吸や徐呼吸、死戦期呼吸は要注意です。心停止患者に対するアプローチにおいても、反応を確認した後にさらに確認するバイタルサインは呼吸です。反応がなく、呼吸が正常でなければ胸骨圧迫開始でしたね。今後取り上げる予定の敗血症の診断基準に用いる「quick SOFA(qSOFA)」にも、意識、呼吸が含まれています。「意識障害患者ではまず『呼吸』に着目」、これを意識しておきましょう。気管挿管の適応血圧が低ければ輸液、場合によっては輸血、昇圧剤や止血処置が必要です。C(Circulation)の異常は、血圧や脈拍など、モニターに表示される数値で把握できるため、誰もが異変に気付き、対応することは難しくありません。それに対して、A(Airway)、B(Breathing)に対しては、SpO2のみで判断しがちですが、そうではありません。SpO2が95%と保たれていても、前述のとおり、呼吸回数が多い場合、換気が不十分な場合(CO2の貯留が認められる場合)、重度の意識障害を認める場合、ショックの場合には、確実な気道確保のために気管挿管が必要です。消化管出血に伴う出血性ショックでは、緊急上部内視鏡を行うこともありますが、その際にはCの改善に従事できるように、気管挿管を行い、AとBは安定させて内視鏡処置に専念する必要性を考える癖を持つようにしましょう。緊急内視鏡症例全例に気管挿管を行うわけではありませんが、SpO2が保たれているからといって内視鏡を行い、再吐血や不穏による誤嚥などによってAとBの異常が起こりうることは知っておきましょう。●Rule2 Vital signs、病歴、身体所見が超重要! 外傷検索、AMPLE聴取も忘れずに!症例の患者は、突然発症の右上下肢麻痺であり、誰もが脳卒中を考えるでしょう。それではvital signsは脳卒中に矛盾ないでしょうか。脳卒中に代表される頭蓋内疾患による意識障害では、通常血圧は高くなります(表2)2)。これは、脳卒中に伴う脳圧の亢進に対して、体血圧を上昇させ脳血流を維持しようとする生体の反応によるものです。つまり、脳卒中様症状を認めた場合に、血圧が高ければ「脳卒中らしい」ということです。さらに瞳孔の左右差や共同偏視を認めれば、より疑いは強くなります。画像を拡大する頸部の診察を忘れずに!意識障害患者は、「路上で倒れていた」「卒倒した」などの病歴から外傷を伴うことが少なくありません。その際、頭部外傷は気にすることはできても、頸部の病変を見逃してしまうことがあります。頸椎損傷など、頸の外傷は不用意な頸部の観察で症状を悪化させてしまうこともあるため、後頸部の圧痛は必ず確認すること、また意識障害のために評価が困難な場合には否定されるまで頸を保護するようにしましょう。画像を拡大する意識障害の鑑別では、既往歴や内服薬は大きく影響します。糖尿病治療中であれば低血糖や高血糖、心房細動の既往があれば心原性脳塞栓症、肝硬変を認めれば肝性脳症などなど。また、内服薬の影響は常に考え、お薬手帳を確認するだけでなく、漢方やサプリメント、家族や友人の薬を内服していないかまで確認しましょう3)。●Rule3 鑑別疾患の基本をmasterせよ!救急外来など初診時には、(1)緊急性、(2)簡便性、(3)検査前確率の3点に意識して鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因はAIUEOTIPS(表4)です。表4はCarpenterの分類に大動脈解離(Aortic Dissection)、ビタミン欠乏(Supplement)を追加しています。頭に入れておきましょう。画像を拡大する●Rule4 意識障害と意識消失を明確に区別せよ!意識障害ではなく意識消失(失神や痙攣)の場合には、鑑別診断が異なるためアプローチが異なります。これは、今後のシリーズで詳細を述べる予定です。ここでは1つだけおさえておきましょう。それは、意識状態は「普段と比較する」ということです。高齢者が多いわが国では、認知症や脳卒中後の影響で普段から意思疎通が困難な場合も少なくありません。必ず普段の意識状態を知る人からの情報を確認し、意識障害の有無を把握しましょう。前述の「Rule4つ」は順番というよりも同時に確認していきます。かかりつけの患者さんであれば、来院前に内服薬や既往を確認しつつ、病歴から◯◯らしいかを意識しておきましょう。ここで、実際に前掲の症例を考えてみましょう。突然発症の右上下肢麻痺であり、3/JCSと明らかな意識障害を認めます(普段は見当識障害など特記異常はないことを確認)。血圧が普段と比較し高く、脈拍も心房細動を示唆する不整を認めます。ここまでの情報がそろえば、この患者さんの診断は脳卒中、とくに左大脳半球領域の脳梗塞で間違いなしですね?!実際にこの症例では、頭部CT、MRIとMRAを撮影したところ左中大脳動脈領域の急性期心原性脳塞栓症でした。診断は容易に思えるかもしれませんが、迅速かつ正確な診断を限られた時間の中で行うことは決して簡単ではありません。次回は、10’s Ruleの後半を、陥りやすいpitfallsを交えながら解説します。お楽しみに!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)Ikeda M, et al. BMJ. 2002;325:800.3)坂本壮ほか. 月刊薬事. 2017;59:148-156.コラム(2) 相談できるか否か、それが問題だ!「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」が大事! この単語はみなさん聞いたことがあると思います。何か困ったことやトラブルに巻き込まれそうになったときは、自身で抱え込まずに、上司や同僚などに声をかけ、対応するのが良いことは誰もが納得するところです。それでは、この3つのうち最も大切なのはどれでしょうか。すべて大事なのですが、とくに「相談」は大事です。報告や連絡は事後であることが多いのに対して、相談はまさに困っているときにできるからです。言われてみると当たり前ですが、学年が上がるにつれて、また忙しくなるにつれて相談せずに自己解決し、後で後悔してしまうことが多いのではないでしょうか。「こんなことで相談したら情けないか…」「まぁ大丈夫だろう」「あの先生に前に相談したときに怒られたし…」など理由は多々あるかもしれませんが、医師の役目は患者さんの症状の改善であって、自分の評価を上げることではありません。原因検索や対応に悩んだら相談すること、指導医など相談される立場の医師は、相談されやすい環境作り、振る舞いを意識しましょう(私もこの部分は実践できているとは言えず、書きながら反省しています)。(次回は6月27日の予定)

97.

バッド・キアリ症候群〔BCS:Budd-Chiari Syndrome〕

1 疾患概要バッド・キアリ症候群(Budd-Chiari Syndrome:BCS)とは、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。わが国では両者を合併している病態が多い。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す1)。■ 概念・定義肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群。■ 疫学2004年の年間受療患者数(有病者数)の推定値は、190~360人である(2005年全国疫学調査)。男女比は約1:0.7とやや男性に多い。確定診断時の年齢は、20~30代にピークを認め、平均は約42歳である2)。2013年の門脈血行異常症に関する定点モニタリング調査では、発症時平均年齢が32.2歳、診断時平均年齢が44.7歳であった3)。■ 病因本症の病因は明らかでない例が多く、わが国では肝部下大静脈膜様閉塞例が多い。肝部下大静脈の膜様閉塞や肝静脈起始部の限局した狭窄や閉塞例は アジア、アフリカ地域で多く、欧米では少ない。発生は、アランチウス静脈管の異常をもとに発症するとする先天的血管形成異常説が考えられてきた。最近では、本症の発症が中高年以降で多いこと、膜様構造や肝静脈起始部の狭窄や閉塞が血栓とその器質化によって、その発生が説明できることから後天的な血栓説も考えられている。これに対して欧米では、肝静脈閉塞の多くは基礎疾患を有することが多い。基礎疾患としては、血液疾患(真性多血症、発作性夜間血色素尿症、骨髄線維症)、経口避妊薬の使用、妊娠出産、腹腔内感染、血管炎(ベーチェット病、全身性エリテマトーデス)、血液凝固異常(アンチトロンビンIII欠損症、protein C欠損症)などが挙げられる。多くは発症時期が不明で慢性の経過(アジアに多い)をたどり、うっ血性肝硬変に至ることもあるが、急性閉塞や狭窄により急性症状を呈する急性期のBCS(欧米に多い)もみられる。アジアでは下大静脈の閉塞が多く、欧米では肝静脈閉塞が多い。分類として、原発性BCSと続発性BCSとがある。原発性BCSの病因はいまだ不明であるが、血栓、血管形成異常、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患の関与が疑われている。続発性BCSを来すものとしては肝腫瘍などがある。■ 症状BCSは発症形式により急性型と慢性型に分けられる。急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す3)。■ 分類1)病型杉浦らは本症の病型を以下の4つに分類している(図1)4)。図1 BCSの病型画像を拡大する(文献4より引用改変)I型:横隔膜直下の肝部下大静脈の膜様閉塞例、このうち肝静脈の一部が開存する場合をIa、すべて閉塞している場合をIbII型:下大静脈の1/2から数椎体にわたる完全閉塞例III型:膜様閉塞に肝部下大静脈全長の狭窄を伴う例IV型:肝静脈のみの閉塞例出現頻度は各々34.4%、11.5%、26.0%、7.0%、5.1%と報告がある。2)発症形式発症形式により急性型と慢性型に分けられる。上記の症状でも既述したが、急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。わが国においては慢性型が典型例として考えられている。■ 予後慢性の経過をとる場合、うっ血性肝硬変に至る。また、病状が進行すると肝細胞がんを合併することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準本症は症候群として認識され、また病期により病態が異なることから一般検査所見、画像検査所見、病理検査所見によって総合的に診断されるべきである。確定診断は、造影CTや肝静脈造影による下大静脈・肝静脈閉塞(狭窄)と、肝臓の病理組織学的所見に裏付けされることが望ましい。1)一般検査所見血液検査:1つ以上の血球成分の減少を示す。肝機能検査:正常から高度異常まで重症になるにしたがい、障害度が変化する。内視鏡検査:しばしば上部消化管の静脈瘤を認める。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることがある。2)画像検査所見(1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄が認められる(図2)。超音波ドプラ検査では肝静脈主幹や肝部下大静脈流ないし乱流が見られることがあり、また、肝静脈血流波形は平坦化あるいは欠如することがある。脾臓の腫大を認める。肝臓のうっ血性腫大を認める。とくに尾状葉の腫大が著しい。肝硬変に至れば、肝萎縮となることもある。図2 BCSの腹部造影CT(門脈相)像画像を拡大する2A:水平断、2B:冠状断、2C:矢状断。肝部レベルで下大静脈が高度狭窄している(矢印)。肝静脈の3主幹および分枝も閉塞し、造影されない。肝内は粗雑化し、硬変様に変化し、肝表に腹水も見られる。また、肝内に腫瘍性病変も出現している(矢頭)。(2)下大静脈、肝静脈造影および圧測定肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄を認める(図3)。肝部下大静脈閉塞の形態は膜様閉塞から広範な閉塞まで各種存在する。また、同時に上行腰静脈、奇静脈、半奇静脈などの側副血行路が造影されることが多い。著明な肝静脈枝相互間吻合を認める。肝部下大静脈圧は上昇し、肝静脈圧や閉塞肝静脈圧も上昇する。図3 BCSの下大静脈造影像画像を拡大する右大腿静脈からカテーテルを入れて造影した。肝部下大静脈の一部分が完全に狭窄化し、血流がほとんど途絶している。3)病理診断(1)肝臓の肉眼所見急性期のうっ血性肝腫大、慢性うっ血に伴う肝線維化、さらに進行するとうっ血性肝硬変となる。(2)肝臓の組織所見急性のうっ血では、肝小葉中心帯の類洞の拡張が見られ、うっ血が高度の場合には中心帯に壊死が生じる。うっ血が持続すると、肝小葉の逆転像(門脈域が中央に位置し、肝細胞集団がうっ血帯で囲まれた像)や中心帯領域に線維化が生じ、慢性うっ血性変化が見られる。さらに線維化が進行すると、主に中心帯を連結する架橋性線維化が見られ、線維性隔壁を形成し、肝硬変の所見を呈する。■ 重症度分類表に重症度分類を示す。画像を拡大する● 重症度重症度I:診断可能だが、所見は認めない。重症度II:所見を認めるものの、治療を要しない。重症度III:所見を認め、治療を要する。重症度IV:身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。重症度V:肝不全ないしは消化管出血を認め、集中治療を要する。● 付記1.食道・胃・異所性静脈瘤(+):静脈瘤を認めるが、易出血性ではない。(++):易出血性静脈瘤を認めるが、出血の既往がないもの。易出血性食道・胃静脈瘤とは『食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載基準(日本門脈圧亢進症研究会)』『門脈圧亢進症取扱い規約(第3版、2013年)』に基づき、F2以上のもの、またはF因子に関係なく発赤所見を認めるもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。(+++):易出血性静脈瘤を認め、出血の既往を有するもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。2.門脈圧亢進所見(+):門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、出血傾向、脾腫、貧血のうち1つもしくは複数認めるが、治療を必要としない。(++):上記所見のうち、治療を必要とするものを1つもしくは複数認める。3.身体活動制限(+):当該3疾患による身体活動制限はあるが歩行や身の回りのことはでき、日中の50%以上は起居している。(++):当該3疾患による身体活動制限のため介助を必要とし、日中の50%以上就床している。4.消化管出血(+):現在、活動性もしくは治療抵抗性の消化管出血を認める。5.肝不全(+):肝不全の徴候は、血清総ビリルビン値3mg/dL以上で肝性昏睡度(日本肝臓学会昏睡度分類、第12回犬山シンポジウム、1981)II度以上を目安とする。6.異所性静脈瘤門脈領域の中で食道・胃静脈瘤以外の部位、主として上・下腸間膜静脈領域に生じる静脈瘤をいう。すなわち胆管・十二指腸・空腸・回腸・結腸・直腸静脈瘤、および痔などである。7.門脈亢進症性胃腸症組織学的には、粘膜層・粘膜下層の血管の拡張・浮腫が主体であり、門脈圧亢進症性胃症と門脈圧亢進症性腸症に分類できる。門脈圧亢進症性胃症では、門脈圧亢進に伴う胃体上部を中心とした胃粘膜のモザイク様の浮腫性変化、点・斑状発赤、粘膜出血を呈する。門脈圧亢進症性腸症では、門脈圧亢進に伴う腸管粘膜に静脈瘤性病変と粘膜血管性病変を呈する。■ 鑑別診断特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、肝硬変との鑑別を要する。BCSは進行すれば肝硬変に至り鑑別困難になることが多いが、肝静脈や下大静脈の閉塞・狭窄の有無がポイントとなる。閉塞部(狭窄部)を開存させる治療で症状の著明な改善が望まれる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄に対しては臨床症状、閉塞・狭窄の病態に対応して、カテーテルによる開通術や拡張術、ステント留置あるいは閉塞・狭窄を直接解除する手術、もしくは閉塞・狭窄部上下の大静脈のシャント手術などを選択する。急性症例で、肝静脈末梢まで血栓閉塞している際には、肝切離し、切離面-右心房吻合術も選択肢となる。肝不全例に対しては、肝移植術を考慮する。門脈圧亢進の症候に対する治療法は以下のとおりである。■ 食道静脈瘤に対して1)食道静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的硬化療法、内視鏡的静脈瘤結紮術などの内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は緊急手術も考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、または待期手術、ないしはその併用療法を考慮する。3)未出血の症例では、食道内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、または予防手術、ないしはその併用療法を考慮する。4)単独手術療法としては、下部食道を離断し、脾摘術、下部食道・胃上部の血行遮断を加えた「直達手術」、または「選択的シャント手術」を考慮する。内視鏡的治療との併用手術療法としては、「脾摘術および下部食道・胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 胃静脈瘤に対して1)食道静脈瘤と連続して存在する噴門部の胃静脈瘤に対しては、上記の食道静脈瘤の治療に準じた治療によって対処する。2)孤立性胃静脈瘤破裂による出血中の症例では一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は、バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)などの血管内治療や緊急手術も考慮する。3)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、B-RTOなどの血管内治療、または待期手術(Hassab手術)を考慮する。4)未出血の症例では、胃内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。5)手術方法としては「脾摘術および胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 異所性静脈瘤に対して1)異所性静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。 上記治療によっても止血困難な場合は、血管内治療や緊急手術を考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、血管内治療、または待期手術を考慮する。3)未出血の症例では、内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。■ 脾腫、脾機能亢進症に対して巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しいとき、および脾腫が原因と考えられる高度の血球減少(血小板5×104以下、白血球3,000以下、赤血球300×104以下のいずれか1項目)で出血傾向などの合併症があり、内科的治療が難しい症例では、部分的脾動脈塞栓術(partial splenic embolization:PSE)ないし脾摘術を考慮する。4 今後の展望國吉 幸男氏(琉球大学大学院 医学研究科 胸部心臓血管外科学講座)らが行っている直達手術(senning手術)が根治手術として有名であり、好成績をおさめている5,6)。肝移植も有効なことが多いが、ドナーの問題などから、わが国ではあまり行われていない。しかし、根治的治療として今後の期待がかかった治療法といえる。外科治療に至るまでの間に、カテーテル治療による閉塞部拡張術やステント挿入術(経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術)が行われることもあり、良好な効果を得ている。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、血管外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業) バッド・キアリ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Moriyasu F, et al. Hepatol Res. 2017;47:373-386.2)廣田良夫ほか. 2005年全国疫学調査. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.3)廣田良夫ほか. 門脈血行異常症に関する定点モニタリングシステムの構築. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.4)Okuda H, et al. J Hepatol. 1995;22:1-9.5)國吉幸男ほか, 日本心臓血管外科学会雑誌. 1991;20:919-921.6)Pasic M, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1993;106:275-282.公開履歴初回2018年05月08日

98.

慢性肝疾患リスクを低減する遺伝要因が明らかに/NEJM

 HSD17B13のスプライス変異体rs72613567:TAが、脂肪肝や脂肪性肝炎への進展リスク低下と関連することが、米国・Regeneron Genetics CenterのNoura S. Abul-Husn氏らによる検討で明らかになった。約4万7,000例を対象にした「DiscovEHRヒト遺伝学試験」のエクソーム解析データに加え、複数のコホート試験などを基にした検証結果で、NEJM誌2018年3月22日号で発表された。慢性肝疾患の基礎を成す遺伝要因は、新たな治療ターゲットを明らかにできる可能性があることから、解明への期待が寄せられていた。ALT・AST値に関連の遺伝子変異体を特定 研究グループは、DiscovEHRヒト遺伝学試験の被験者4万6,544例のエクソーム解析データと電子保健医療記録(EHR)を基に、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値と血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)値に関連する遺伝子変異体を特定した。 特定した変異体について、他の3つのコホート(被験者数1万2,527例)で再現性を確認した。そのうえで、DiscovEHR試験と2つの独立コホート(被験者数3万7,173例)で、慢性肝疾患の臨床的診断との関連性を評価した。さらに2,391例のヒト肝臓検体において、肝疾患の病理組織学的重症度との関連についても評価を行った。アルコール性肝硬変、rs72613567:TAでリスク低下 肝脂肪滴蛋白17β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素13をコードする「HSD17B13」のスプライス変異体(rs72613567:TA)が、ALT低下(p=4.2×10-12)とAST低下(p=6.2×10-10)と関連していることが確認された。 DiscovEHR試験の被験者について調べたところ、同変異体はアルコール性肝障害のリスク低下や(ヘテロ接合では42%低下[95%信頼区間[CI]:20~58]、ホモ接合では53%低下[95%CI:3~77])、非アルコール性肝障害のリスク低下(それぞれ、17%[95%CI:8~25]と30%[同:13~43]の低下)と関連が認められた。 また同変異体は、アルコール性肝硬変のリスク低下や(それぞれ42%[95%CI:14~61]と73%[同:15~91]の低下)、非アルコール性肝硬変のリスク低下(それぞれ26%[95%CI:7~40]と49%[同:15~69]の低下)と関連した。こうしたリスク低下との関連性については、2つの独立コホートでも確認された。 ヒト肝臓検体による評価では、rs72613567:TAは非アルコール性脂肪性肝炎のリスク低下と関連していたものの、脂肪肝のリスク低下とは関連がなかった。 rs72613567:TAは、肝損傷リスクを増加するPNPLA3 p.I148Mアレルによる肝損傷を軽減し、不安定で正常より短い蛋白となり、酵素活性が低下した。

99.

パンジェノタイプのDAA療法の登場と今後に残された課題(解説:中村郁夫氏)-825

 本論文は、遺伝子型1型および3型のHCVを有するC型慢性肝炎症例に対する、グレカプレビル・ピブレンタスビル併用療法の治療効果および安全性に関するランダム化・オープンラベル・多施設で行われた第III相試験の結果の報告である。合計1,208症例に対し、8週間および12週間投与が行われ、SVR12(治療終了後12週におけるHCV陰性化)の割合は、遺伝子型1型(ENDURANCE-1試験):8週投与群99.1%、12週投与群99.7%。遺伝子型3型:8週投与群/12週投与群とも95%と高率であった。 本論文で検討されたグレカプレビル・ピブレンタスビルの合剤は、本邦初の「IFNフリー・リバビリンフリー・パンジェノタイプ」のDirect-acting Antivirals(DAA)製剤として、昨年の11月にマヴィレット(アッヴィ合同会社)として薬価収載された。従来のDAA併用療法は、1種類の遺伝子型のHCVに対するものであったが、本治療は、いわゆる「パンジェノタイプ」:複数の遺伝子型のHCVに効果のある治療法である。さらに、治療期間が、慢性肝炎症例は8週間、肝硬変症例は12週間と従来のDAA製剤と比べて短縮された。ただし、併用禁忌薬として、アトルバスタチンが含まれている点には注意が必要である。 本邦において、第III相試験まで進んだDAA療法は残り1剤であるという状況、また、遺伝子型3型の症例が欧米と比較してごく少数であるという背景を勘案すると、本邦におけるHCVに対するDAA治療の開発は、いよいよ最終段階を迎えたと考えられる。しかし、今後に残された課題として、DAA療法不成功例に生じた高度の耐性変異に対する治療、また、非代償性肝硬変症例に対する治療の検討が必要である。

100.

リファキシミンの腸内細菌叢への調整作用で肝性脳症を抑える

 2018年1月31日、あすか製薬株式会社は、同社が販売する経口難吸収性抗菌薬リファキシミン(商品名:リフキシマ)の処方制限が昨年12月に解除され、長期投与が可能となったことを機に、都内において肝性脳症に関するプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、「『肝性脳症』診断・治療の最新動向 腸内細菌への働きかけによる生存率向上への兆し」をテーマに、吉治 仁志氏(奈良県立医科大学 内科学第三講座 教授)を講師に迎え、レクチャーが行われた。原因不明の認知症10%に潜む肝性脳症 はじめに、認知症の概要が語られた。2025年には、認知症患者が推定730万人になると予想される。そして、認知症の原因ではアルツハイマー型が一番多く、次いで脳血管性型、レビー小体型と続き、そのほか原因不明も全体の1割(70万人以上)を占めるという。現在の『認知症疾患診療ガイドライン』では、認知症と鑑別が必要な疾患として、「ビタミン欠乏症」「甲状腺機能低下症」「神経梅毒」「肝性脳症」「特発性正常圧水頭症」の5つが規定されている。なかでも「肝性脳症」では、認知症やうつ病と同じように睡眠異常、指南力低下、異常行動、物忘れなど共通する症状がみられ、正確に診断されていない例もあると指摘した。 肝性脳症は、肝臓の線維化によりアンモニアの分解能が落ちることで、アンモニアが体内に蓄積され、さまざまな認知機能を障害する。その原因となる肝細胞障害、とくに肝硬変はC型肝炎ウイルスによるものが多く、そのウイルス保菌者数は年齢に比例して増加することから、肝性脳症が発症した場合、認知症と診断されている例もあると示唆した。服薬アドヒアランスを上げるリファキシミン 肝性脳症の症状は、人格・行動の微妙な変化から始まり、判断力の低下、睡眠の不規則、見当識障害、興奮・せん妄、昏睡状態へと進展する。典型的な患者の訴えでは、「頭がボーッとする」「足がつまずく」「手が震える」などが聞かれ、家族の訴えでは「目つきがおかしい」「おかしなことを言う」「食事を摂らない」などがある。 本症の診断では、身体所見など一般的な診断のほかに、認知症との鑑別のためナンバーコネクション、ブロックデザインテストなども行われ、「本症を疑った場合、アンモニア値の検査も重要」と吉治氏は述べる。 本症の治療では、これまで合成二糖類、カルニチン・亜鉛、BCAA製剤などの治療薬が使われてきたが、服用のしにくさや副作用などでアドヒアランスは決して良好とはいえなかった。 そこで、今回長期投与が可能になったリファキシミンは、こうした問題に対応し、他の治療薬の減量・削減の可能性、全身症状の改善、医療コストの削減などで期待されている。リファキシミンの作用機序は腸管内でのアンモニアの産生を防ぐことで、血中濃度が低下し、脳へのアンモニア移行を減少、肝性脳症を改善し、便と共に排泄される作用を持つ。リファキシミンは欧米では30年以上前より使用されてきたが、わが国では2016年に保険適用となった。 エビデンスでは、リファキシミンは使用群とプラセボ群との比較で、本症の再発を0.42ポイント有意に軽減したほか1)、5年間の長期投与でも肝硬変患者の生存率を改善したことが報告されている2)。リファキシミンの腸内細菌叢の調整機能 次に、わが国で増えている肥満型の肝硬変患者に触れ、現在1,000万人と推定される非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の患者のうち、約200万人が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に移行すると考えられ、今後の肝硬変の患者数増加に警鐘を鳴らした。 さらに最近の話題として、腸内細菌叢について語った。この細菌叢のバランスの崩れから起こる疾患として、NAFLD、NASH、肝硬変、炎症性腸疾患などを挙げ、近年この腸内細菌叢の構成に注目が集まっているという。 肝硬変患者に、実際にリファキシミンを投与した前後で腸内細菌叢を調べた結果、細菌叢の多様性に変化はなかったものの、属レベルでは、肝硬変患者で増加するとされていた細菌が減少したと自験例を報告した3)。また、リファキシミンは、腸内細菌モジュレーターとして、肝硬変患者の予後を改善することが示唆されると期待を寄せた。 最後に吉治氏は、「今後、リファキシミンの腸内細菌叢の調整機能も踏まえ、日本人の長期投与効果の研究を行い、日本発のエビデンスを出していきたい」と今後の展望を語り、セミナーを終了した。

検索結果 合計:212件 表示位置:81 - 100