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1.

Burnt-out MASLD、肝癌切除後予後を左右する新たな高リスク表現型か

 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)では、病態の進行に伴って肝脂肪が消失する「Burnt-out MASLD」と呼ばれる状態に至ることがある。今回、肝細胞癌(HCC)患者931例を対象とした研究で、Burnt-out MASLDを有する患者では肝切除後の再発および生存予後の悪化と独立して関連することが示された。術後のリスク層別化に役立つ新たな高リスク表現型として注目される。研究は、埼玉医科大学国際医療センター消化器外科(肝胆膵外科)の渡邉幸博氏らによるもので、詳細は5月29日付の「Liver International」に掲載された。 MASLDは、肥満や2型糖尿病の増加を背景に、近年ではHCCの主要な原因の一つとして注目されている。一方、MASLDは脂肪沈着や線維化の程度がさまざまで、病態の幅が広いことも特徴だ。中でも、病態の進行に伴って肝脂肪が減少し、高度線維化や肝硬変を伴う「Burnt-out MASLD」は、その代謝性の背景が見えにくく、従来は原因不明の肝硬変として扱われることもあった。しかし、Burnt-out MASLDが単に進行した肝障害を反映した状態なのか、それともHCC術後の再発や生存に影響する独自の病態なのかは明らかではなかった。こうした背景から著者らは、MASLD関連HCC患者におけるBurnt-out MASLDの臨床的意義を検討した。 著者らは、2007~2025年に埼玉医科大学国際医療センターでHCCに対する根治的肝切除を受けた連続症例(931例)を対象に後ろ向き解析を行った。背景肝(がん以外の肝組織)の病理所見については、2人の肝病理専門医が独立して評価し、脂肪沈着と線維化の程度を組み合わせて4つの表現型に分類した。Burnt-out MASLDは、高度線維化(F3~F4)と脂肪沈着5%未満を特徴とし、他の慢性肝疾患の原因を除外した上で定義した。主要評価項目として、4つの表現型と無再発生存期間(RFS)および全生存期間(OS)との関連を多変量Cox比例ハザードモデルで解析した。副次評価項目では、Clavien-Dindo分類に基づく術後合併症を評価した。 解析の結果、Burnt-out MASLDを有する患者は、他の病因群と比べても最も予後不良だった。Burnt-out MASLD群の3年/5年RFSはそれぞれ21%/14%、3年/5年OSは65%/43%で、non-burnt-out MASLDに加え、肝炎ウイルスやアルコールに関連するHCCと比べても最も低かった。 MASLD関連HCC患者に限定した解析では、脂肪沈着が保たれ線維化が軽度な群を基準とした場合、Burnt-out MASLDはHCC再発リスクの上昇(ハザード比〔HR〕 1.87、95%信頼区間〔CI〕 1.10~3.17、P=0.020)および全死亡リスクの上昇(HR 3.38、95%CI 1.57~7.28、P=0.002)と独立して関連していた。一方、脂肪減少のみを認める群や、高度線維化のみを認める群では、無再発生存期間や全生存期間との有意な関連は認められず、脂肪減少と高度線維化が併存するBurnt-out MASLDのみが高リスク表現型として抽出された。 肝機能が保たれた患者や高度線維化症例に限定した解析においても、概ね同様の傾向が確認され、Burnt-out MASLDの不良予後は単なる肝機能低下や線維化の進行だけでは説明できなかった。一方、Burnt-out MASLDは術後合併症や90日死亡率の増加とは関連しなかった。 著者らは、脂肪減少のみ、あるいは高度線維化のみではなく、両者が併存するBurnt-out MASLDがHCC切除後の予後に影響する独立した高リスク表現型であることが示されたと報告した。Burnt-out MASLDの把握は、MASLD関連HCC患者における術後のリスク層別化やフォローアップ戦略の最適化につながる可能性があるとしている。 なお、本研究は単施設の後ろ向き解析であり、結果の一般化には制限がある。また、一部の生活習慣因子や分子情報は解析に含まれておらず、Burnt-out MASLDの病態機序については今後の検討が必要とされる。

2.

日本初のMASH治療薬、MASLD/MASH診療は新たな局面に/ノボ

 代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD)および代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の診療は、近年病名変更や非侵襲的診断法(NIT)の進歩によって様変わりした。一方で、肝線維化の進展を抑制する薬物療法は長らく存在せず、生活習慣改善が治療の中心であった。そのような中、2026年6月、すでに肥満症治療薬として広く用いられているGLP-1受容体作動薬セマグルチド(商品名:ウゴービ)が、日本で初めてMASHを適応症とする追加承認を取得し、国内のMASLD/MASH診療は新たな局面を迎えた。 ノボ ノルディスク ファーマは6月30日にプレスセミナーを開催し、国際医療福祉大学 消化器内科統括教授の中島 淳氏が「日本初MASH治療薬がもたらす未来」をテーマに講演を行った。同氏は「これまでMASH患者が肝硬変や肝細胞がんへ進展していくのをみているしかなかったが、ようやく治療薬を手にすることができた」と述べた。「脂肪量」ではなく「線維化」が予後を決める MASLDは、かつてNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれていた疾患概念で、2023年に国際的なコンセンサスを得て名称が変更された。現在では代謝異常を背景とする脂肪性肝疾患として位置付けられ、その中で肝炎を伴う病態がMASHと定義されている。 日本ではMASLD患者は約2,500万例に達すると推定され、MASH患者も100万例規模に上ると考えられている。健康診断データでは脂肪肝の有病率は25.8%と4人に1人を超え、さらに進行線維化が疑われる症例も約1%存在するなど、肝疾患の中で患者数が最も多い疾患となっている。 MASLDは自覚症状に乏しい「サイレントキラー」である。線維化はF0からF4(肝硬変)へと数十年かけて進行するが、その速度は線維化の進展とともに加速する。F0~F1から肝硬変までは30年以上を要する一方、F2では約20年、F3では約6年で肝硬変に至るとされる。さらに肝硬変へ進展すると肝細胞がんや非代償性肝硬変のリスクが急激に高まる。 中島氏は、「疾患が悪化するかは脂肪肝であること自体ではなく、線維化がどこまで進んでいるかによるところが大きい」と説明した。実際、約9,700例を20年間追跡した解析では、脂肪量や炎症よりも線維化の有無が無イベント生存期間を最も強く規定する因子であることが示されている。 また、日本人MASLD患者を対象としたCLIONE試験では、線維化ステージの進展に伴い全死亡、肝関連イベント、肝細胞がんの発症率が段階的に上昇することも報告されている。死亡原因は肝疾患だけでなく、心血管疾患や他臓器がんも多く認められ、MASLDが全身性疾患であることも改めて示されている。診療のカギはF2以上のハイリスク患者をいかに拾い上げるか 一方で、近年は診断法も大きく進歩した。従来の肝生検に代わり、FIB-4 indexやM2BPGi、ELFスコアなどの血液バイオマーカーに加え、VCTE(FibroScan)やMRエラストグラフィなど非侵襲的検査が普及している。 2026年4月に改訂された「MASLD診療ガイドライン」では、FIB-4 indexを用いた1次リスク評価を起点とし、中間・高リスク例ではエラストグラフィや線維化マーカーを組み合わせて評価する診療アルゴリズムが推奨された。中島氏は、「最も重要なのはF2以上の患者を早期に見つけることであり、かかりつけ医と肝臓専門医との連携が不可欠になる」と述べた。 さらに同氏は、近年の肝細胞がんの原因も大きく変化していると指摘した。C型肝炎に対する直接作用型抗ウイルス薬の普及によりC型肝炎由来の肝細胞がんは減少した一方、MASLD/MASH由来の肝細胞がんは増加を続けている。「都市部では肝切除症例の大部分がMASLD由来となっている」と述べ、今後の肝臓診療ではMASLD対策が重要課題になるとの認識を示した。ESSENCE試験で2つの主要評価項目を達成 今回の適応追加の根拠となったのは、F2またはF3線維化を有するMASH患者800例(日本人116例を含む)を対象とした国際共同第III相ESSENCE試験である。 被験者は標準治療+セマグルチド2.4mgまたはプラセボに2対1で無作為化され、72週時点で肝生検による組織学的評価が行われた。主要評価項目は、「線維化悪化を伴わないMASH消失」と「MASH悪化を伴わない線維化改善」の2項目であった。 その結果、「線維化悪化を伴わないMASH消失」はセマグルチド群62.9%、プラセボ群34.3%で達成され、「MASH悪化を伴わない線維化改善」もそれぞれ36.8%、22.4%となり、いずれも統計学的有意差を示した。 また、副次評価項目ではALT、AST、γ-GTPの改善に加え、CAPによる肝脂肪量、VCTEによる肝硬度、線維化関連バイオマーカーの改善も確認された。組織学的にも脂肪化や炎症、肝細胞風船様変性の改善が認められ、線維化改善を示唆する結果となった。 安全性については、新たな重大な懸念は認められなかったものの、悪心、下痢、便秘などGLP-1受容体作動薬に特徴的な消化器症状はプラセボ群より高頻度で認められた。実臨床では漸増投与や副作用マネジメントが重要となる。早期診断・早期介入の時代へ 中島氏は、「これまでは薬がなかったため、糖尿病医やかかりつけ医から専門医へ紹介されない患者も多く、腹水や巨大肝がんを契機に初めて紹介されるケースも少なくなかった」と振り返る。その上で、「今後はF2~F3の段階で患者を拾い上げ、治療介入することで、肝硬変や肝細胞がんへの進展を防げる可能性がある」と述べ、今回の適応追加を「MASLD/MASH診療におけるゲームチェンジャー」と位置付けた。 薬物療法の選択肢が加わったことで、MASLD診療は「経過観察」から「積極的治療」へと大きく転換しつつある。今後はFIB-4 indexをはじめとする非侵襲的評価を活用したハイリスク患者の早期抽出と、適切な専門医紹介、薬物療法を含めた包括的な管理体制の構築が、国内のMASH診療における重要な課題となりそうだ。【最適使用推進ガイドライン抜粋】・適応:「肝硬変を伴わないMASH。ただし、中等度又は高度の線維化を有する場合に限る」→肝線維化ステージがF2又はF3に線維化が進行した患者であることを、生検によって確認すること。なお、「肝生検ガイダンス」(日本肝臓学会編)19の禁忌の項を参考に、生検の実施が適切ではないと判断された場合には、非侵襲的検査(NIT)に基づき判定すること。・用法及び用量:成人には0.25mgから投与を開始し、週1回皮下注射。その後は4週間の間隔で、週1回0.5mg、1.0mg、1.7mg及び2.4mgの順に増量し、以降は2.4mgを週1回皮下注射。なお、患者の状態に応じて適宜減量する。・施設要件:消化器内科、肝臓内科、内科のいずれかを標榜している保険医療機関・医師要件: MASH又はNASHの診療を5年以上行っていること

3.

革新的B型肝炎治療薬bepirovirsenの第III相試験結果―bepirovirsenはB型肝炎の臨床的治癒を促進する(解説:相澤良夫氏)

 B型肝炎治療は核酸アナログ製剤の登場を契機に驚異的な進歩を遂げ、血中HBV-DNAは著減し肝炎の活動性はほぼ完全に制御される時代となっている。しかしながら、ひとたび肝臓に感染したB型肝炎ウイルスは肝細胞核内に潜伏し、この潜在化したHBV-DNAを完全に排除することは現在のところ不可能とされている。 したがって、B型肝炎の最終的な治療目標は臨床的な治癒(機能的治癒:すなわち血中HBV-DNAの陰性化とHBs抗原の消失)を達成することである。しかし、現行の核酸アナログ製剤の治療ではHBs抗原の減少はきわめて遅々としたもので、インターフェロン治療を組み合わせても臨床的治癒の達成は困難である。そのため、臨床的治癒という最終目標達成には事実上核酸アナログ製剤を半永久的に服用する必要があった。 この終わりの見えない治療に終止符を打つ可能性のあるbepirovirsenは、従来の核酸アナログ製剤が逆転写酵素によるHBV-DNAの伸長反応を阻害して治療効果を発揮するのとは異なり、HBVのRNAに結合してその作用を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオシドの注射薬で、核酸アナログ製剤との併用によりわずか6ヵ月の治療で約1/5の症例に臨床的治癒がもたらされることが示された。また、核酸アナログ製剤単独治療とは異なりbepirovirsen上乗せ治療終了後に核酸アナログを中止してもHBVが再燃する確率はきわめて低いという優れた薬理効果が認められている。 bepirovirsen上乗せ治療には、現在の終わりが見えない核酸アナログ単独治療に比べて驚くべき治療効果がみられることから医療経費の面からも利点があり、わが国においては先駆的医薬品に指定され世界に先駆けて保険適用に向けた優先審査が行われている。そのため、本年度の秋ごろには保険適用が認可され広く使用可能になるものと考えられている。 ただし、bepirovirsenは毎週筋注する必要があり局所反応やALT上昇などの有害事象にも注意を要することから、従来の核酸アナログ治療と同様に肝臓専門医の管理の下で慎重に治療する必要があると考えられる。 bepirovirsenはB型肝炎治療の最終目標とされている臨床的治癒の達成が期待できる画期的な治療薬であり、わが国では保険適用に向けた優先審査が進んでいる。保険適用が認められれば世界に先駆けて大規模な治療経験が集積され、本薬の真価を正しく評価した臨床情報が、わが国から発信されることが期待される。

4.

実測GFRおよび推定GFRと、死亡・腎不全との関連/JAMA

 スウェーデンの成人において、実測糸球体濾過量(mGFR)が60mL/分/1.73m2の場合、90mL/分/1.73m2と比較して全死因死亡率および腎不全の発生率が高く、慢性腎臓病(CKD)の定義に用いられる現在の推定GFR(eGFR)の閾値60mL/分/1.73m2が支持されることが示された。また、mGFRと死亡との関連は、血清クレアチニン(cr)値と血清シスタチンC(cys)値に基づき算出したeGFR(すなわちeGFRcr-cys)で最もよく反映されていたが、cr値に基づくeGFRcrは死亡リスクを過小評価し、cys値に基づくeGFRcysは過大評価となることが示された。オランダ・ライデン大学医療センターのEdouard L. Fu氏らが、後ろ向き観察コホート研究の結果を報告した。eGFRの低下は死亡および腎・心血管イベントの発生増加と関連しているが、腎機能評価の精度はmGFRよりも低いとみなされている。一方でmGFRとアウトカムの関連も依然として明らかになっていない。JAMA誌オンライン版2026年6月4日号掲載の報告。死亡・腎不全との関連を、mGFRとeGFRcr・eGFRcys・eGFRcr-cysで比較 研究グループは、2011年1月1日~2021年12月31日に、スウェーデンのストックホルムにおいて専門医の判断によりmGFR検査が施行され、mGFR測定から30日以内に血清クレアチニン値および血清シスタチンC値の測定が行われた18歳以上の成人6,174例を対象とした。 一般的に、mGFR検査の適応となる患者は、薬剤投与量決定のために正確なGFRを必要とする患者(がん化学療法など)、肝硬変患者、腎移植のレシピエントまたは生体腎ドナー、およびeGFRcrとeGFRcysが不一致の患者などで、これらに該当する患者を適格とした。透析を受けている患者、またはmGFRが0mL/分/1.73m2未満もしくは150mL/分/1.73m2超の患者は除外された。 mGFRは、カロリンスカ大学病院臨床化学部門において、イオヘキソール静脈内投与後の単回採血検体を用い、Jacobsson式による血漿クリアランスに基づき算出された。eGFRについては、慢性腎臓病疫学共同研究(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration:CKD-EPI)の2021年式を用いてeGFRcrおよびeGFRcr-cysを、2012年式を用いてeGFRcysを算出した。 主要アウトカムは、全死因死亡および腎代替療法(透析開始または腎移植と定義)を要する腎不全とし、各種GFR値とアウトカムとの関連を、年齢、性別、BMI値、既往歴、治療薬、および尿中アルブミン/クレアチニン比で補正したハザード比(HR)を用いて評価した。mGFRは死亡・腎不全の発生と有意に関連、mGFR評価とほぼ一致したのはeGFRcr-cys 解析対象6,174例の患者背景は、年齢中央値59歳(四分位範囲[IQR]:43~69)、男性3,686例(60%)、女性2,488例(40%)で、主な併存疾患は高血圧2,765例(45%)、がん1,998例(32%)、糖尿病1,244例(20%)、心不全651例(11%)であった。 追跡期間中央値5.9年(IQR:3.0~8.8)において、1,977例(32%)が死亡し、426例(6.9%)が腎代替療法を要する腎不全に至った。 全死因死亡率(1,000人年当たり)はベースラインのmGFR(mL/分/1.73m2)が90で22.4件に対し、60、45、30および15mL/分/1.73m2ではそれぞれ27.6件、32.5件、37.4件および42.7件、補正後HRはそれぞれ1.21(95%信頼区間[CI]:1.14~1.28)、1.41(95%CI:1.30~1.52)、1.62(95%CI:1.49~1.76)、1.85(95%CI:1.62~2.11)であり、mGFRの低下は全死因死亡の発生率の増加と有意に関連していた。 腎代替療法を要する腎不全についても同様で、mGFRの低下はその発生率の増加と関連しており、発生率(1,000人年当たり)はベースラインのmGFR(mL/分/1.73m2)90の0.4件に対して、60、45、30および15ではそれぞれ1.2件、3.6件、14.9件、72.2件へ増加し、補正後HRはそれぞれ2.85(95%CI:2.06~3.94)、8.77(95%CI:5.81~13.24)、38.5(95%CI:24.69~59.90)、200.3(95%CI:129.1~310.9)であった。 実測・推定GFR値が90mL/分/1.73m2未満の患者において、eGFRcrはmGFRと比較し死亡率との関連性を有意に過小評価していたのに対し(例:実測・推定GFR値60での死亡のハザード比の比[RHR]:0.87、95%CI:0.79~0.95)、eGFRcysはmGFRより死亡率との関連性を有意に過大評価していた(例:実測・推定GFR値60での死亡のRHR:1.17、95%CI:1.08~1.27)が、eGFRcr-cysはmGFRと差がなかった(例:実測・推定GFR値60でのRHR:1.03、95%CI:0.96~1.10など)。

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ハイリスク患者の術前説明やリスク評価、どこまでやる? 術式選択の裁量はある?【医療訴訟の争点】第22回

症例本稿では、食道がん患者に対する手術前のリスク評価及び説明のあり方、さらに術後合併症発生後の再手術における術式選択の適否が争われた岡山地裁令和7年5月20日判決を紹介する。<登場人物>患者60歳・男性原告患者の妻及び子ら(相続人)被告地方独立行政法人(市民病院)、担当消化器外科医事案の概要は以下の通りである。平成29年(2017年)1月20日本件患者は他院に入通院してアルコール依存症治療中であったが、発熱、全身倦怠感、低栄養、腹水貯留等の精査加療目的で被告病院へ転院。2月6日上部消化管内視鏡検査により食道がん発見。その後の2月8日、体調を整えるため、もともと入院治療を受けていた病院に転院。2月22日食道がんの治療のため、被告病院へ再入院。2月23日担当医は本件患者に対し、食道がんの病状などについて以下を説明。食道がんは現時点ではStageIと考えられている。この場合、手術が最も確実な治療法であるが、手術が嫌なら放射線、化学療法の治療法もあること手術を行う場合の手術概要手術は患者の協力がなければできない、断酒、禁煙は当然であるが、呼吸訓練も含め努力していただきたいこともある、これらができないのであれば手術に伴うリスクは高くなる、どうするかについては家族とよく相談すること。3月8日担当医は本件患者及び家族に対し、食道がんに対する手術について、以下を説明。StageIの食道がん治療としては、手術、放射線+抗がん剤による治療法があること胸腔鏡下食道亜全摘術など(本件手術1)の手術時間は8時間前後、出血量は200~600mL、入院期間は3~4週間の見込みであること食道がんに対する手術のリスクについては、その合併症によって異なり、手術に関連した合併症による死亡率は2~3%。併存疾患によりその程度は変化するが、食道がん手術において術後の合併症で1番問題となるのは、呼吸器系、とりわけ胸水の貯留、無気肺、肺炎などの発症に起因する呼吸不全があり、一旦起こると長期の管理が必要となること消化管吻合(初回の手術は食道胃吻合術)における縫合不全の発症は、治癒が遷延することがあり、一旦発症すると唾液漏の形をとりなかなか治癒しないで厄介になり、縫合不全の合併症が生じるリスクは約10%であることそのほか、創部の感染、腸管麻痺による腸閉塞など、また健康人でも発症する心筋梗塞、脳卒中などが周術期に偶然発症することがあること3月10日午前9時頃から午後9時30分頃まで本件手術1が施行。患者にはアルコール性肝障害や腹水貯留などが認められていたが、担当医はICG負荷試験を実施しないまま手術が施行した。食道がん術後、人工呼吸管理中の重篤な状態であると判断され、ICUに入室した。3月12日午前6時ころ、心拍数上昇、血圧低下、胃管出血が認められ、循環動態が悪化。担当医は緊急再手術を決定し、午前8時頃から午後6時頃まで、止血術、胃管抜去及び食道再建術(本件手術2)を施行。本件手術2では、出血性ショック状態に近い状況下で、結腸再建及び空腸再建を含む長時間かつ高侵襲な再建術が実施された。3月16日午後4時30分頃、患者の状態はさらに悪化し、担当医は本件患者家族に対し、腸管気腫症が広範囲に発生しており広範囲に腸が壊死している可能性もあり得る、原因除去のための再手術は危険性は極めて大きいが、緊急手術が必要であると説明した上で、午後7時30分頃から午後10時頃にかけて再度の緊急手術(本件手術3)を施行。3月17日患者は多臓器不全により死亡。 実際の裁判結果本件では、以下が主な争点となった。(1)食道がん手術(本件手術1)前にICG負荷試験を実施しなかったこと及びその結果を踏まえた説明を行わなかったことが検査・説明義務違反に当たるか(2)その義務違反と死亡との間に相当因果関係が認められるか(3)術後出血に対する再手術(本件手術2)時に、食道切除と再建を別の機会に行う二期的再建術とするのではなく一期的再建術を選択したことが術式選択義務違反に当たるか(4)その義務違反と死亡との間に相当因果関係が認められるか争点(1)について裁判所は、争点(1)について、本件手術1当時の最新のガイドラインであった『食道癌診断・治療ガイドライン 第3版』(日本癌治療学会編、2012年4月発行)の記載や、関連する医学的知見を指摘した上で、「本件手術1が施行された平成29年3月当時、食道がんの治療方針決定のために、治療方針を患者へ提示し、診断根拠や診断過程などを説明するに当たっては、がんの進行度診断や病巣特性(悪性度)の把握のほか、全身状態の把握・評価が重要とされており、その中でも肝硬変症例については、患者の肝機能ないし肝予備能が保たれているかを確認・判定することが必要・重要であり、ICG負荷試験はそのための重要な検査と位置付けられ、かかる試験の結果、高い数値が出た場合には、術後合併症やそれによる死亡のリスクが高まると理解されていたものと認めるのが相当である」とした。そして、本件患者が、腹部CTで腹水や肝硬変が指摘されていたこと、アルブミン点滴で経過を見たものの、2週間が経っても腹水は減少しつつも依然として貯留していたこと、肝細胞の合成能障害を反映するChEは被告病院受診当初から手術前まで基準値を大幅に下回る値であったこと等を指摘し、「アルコール性の代償性肝硬変の疑いが強く、肝機能が低下していることを示す具体的な所見が認められていたのであり、肝機能ないし肝予備能が保たれているかを慎重に確認・判定する必要があったものというべきであった」とした。その上で、「食道がんに対する治療方針を提案・説明するに当たっては、肝機能ないし肝予備能が保たれているかを確認・把握するためにICG負荷試験を実施した上で、その結果を踏まえて、全身状態の評価、さらにはリスク評価をして、治療方針を本件患者に提示して説明をすべき注意義務を負っていたものと認めるのが相当」とし、特別な事情や理由もないまま、ICG負荷試験を実施せず、適切な全身状態の評価やリスク評価をしないまま、縫合不全になるリスクは10%程度、多臓器不全等で死亡するリスクが2ないし3%程度として、リスクを過小にとどめた説明をしたことに説明義務違反があるとした。争点(2)について裁判所は、本件手術1に先立ち、本件患者にICG負荷試験を実施した場合には、20%を超える相当に高い数値が出る蓋然性があったこと、その場合、本件手術1につき術後合併症発生率は80%以上であり、術後合併症死亡率は15~30%かそれ以上であること、手術以外の治療法として根治的化学放射線療法も適応があったことを指摘し、「これらの説明を受けていれば、本件患者においては、本件手術1をせずに根治的化学放射線療法ないしは放射線単独療法を選択していた高度の蓋然性があり、また、その場合、本件患者が死亡した3月17日時点でなお生存していた高度の蓋然性があると認めるのが相当である」として、説明義務違反と死亡との間の因果関係を認めた。争点(3)について食道切除と再建をそれぞれ分けて2回手術をするか、1回にまとめて手術をするかについて、裁判所は、関連する文献の記載を指摘した上で、「二期的分割手術の適応について明確な基準は確立しておらず、緊急再手術時にどのような方針で手術を行うかについては具体的状況によって対応するしかなく、原則として、手術に当たる医師の現場における合理的な裁量に委ねられるものというべきであるが、ただし、全身状態が悪く、耐術能が十分でないと判断される患者に対しては、一期的再建手術ではなく二期的分割手術を実施すべき場合もあるものと認めるのが相当である」とした。そして、本件患者はそもそも10時間以上にわたる本件手術1を受けてから本件手術2開始までに約35時間しか経っていない状態にあったこと、肝硬変であると確認されていたこと、重症の出血性ショックに陥り、複数の昇圧剤を継続的に大量投与しなければ循環動態等を保つことが困難な状態にあったことを指摘し、「本件患者の全身状態は悪く、耐術能が十分でないと判断される患者であり、その救命を最優先とすべき具体的状況にあったといわなければならない」とした。その上で、「高侵襲かつ長時間を要する一期的再建術から、侵襲の小さい二期的分割手術へと方針を変更するか否かを具体的に検討・判断しなければならなかった」として、「本件手術2の術中の本件患者の状態について、循環動態等を保つことが困難な重篤な状態にあり、救命が最優先であると評価すべきところ、出血については迅速にコントロールができ血圧も安定しているなどと合理性を欠く評価をし、これを前提として胃管抜去後、右側結腸再建及び有茎空腸再建等を行って9時間15分にわたって本件手術2を継続・実施したものであり、術者としての合理的な裁量を逸脱し、術式選択義務に違反したものと認めるのが相当」と判示し、術式選択義務違反を認めた。争点(4)について裁判所は、分割手術の死亡率が一期的手術よりも低い旨が報告されている文献を指摘し、「本件手術2において、再建術まで実施せず、胃管抜去後、食道瘻を造設し、栄養チューブを留置する等して再建術を実施せずに閉腹していれば、正午ころには手術を終えることができ、9時間15分もの長時間にわたり大量の昇圧剤を継続使用することや、結腸・空腸再建術に伴う高い侵襲を回避することができ、本件患者においては、循環不全、呼吸不全等を引き起こすことなく状態が安定していた高度の蓋然性があり、また、その場合、本件患者が死亡した3月17日時点でなお生存していた高度の蓋然性があると認めるのが相当」と判断し、術式選択義務違反と死亡との因果関係を認めた。損害等以上の結果、裁判所は病院及び担当医の責任を認め、患者妻に対して約2,812万円、その余の遺族に対して各55万円の支払を命じた。注意ポイント解説本件は、食道がん手術後に患者が死亡した事案であるが、裁判所が問題としたのは手術手技そのものではなく、「術前のリスク評価及び説明」と「術後合併症発生後の再手術時の術式選択(に関する医師の裁量)」であったが、それぞれ以下の点が注目される。1. 術前のリスク評価と説明について医療訴訟では、説明義務違反のみが認定される場合には自己決定権侵害の慰謝料のみが認められるにとどまり、死亡との因果関係が否定されることも少なくない。しかし本件では、手術以外に有効な代替治療が存在し、適切な説明があれば患者が手術を選択しなかった高度の蓋然性があるとして、死亡結果との因果関係まで認められた点が重要である。本件の裁判所がこのような判断を下した背景には、以下の点があると考えられる。本件患者にアルコール依存症の既往があり、画像検査上も肝硬変を疑わせる所見が存在し、さらに腹水貯留や低アルブミン血症等も認められていたことから、担当医は肝機能障害の存在を十分認識し得たと判断したこと。食道がん手術は消化器外科領域の中でも侵襲の大きい手術の一つであり、肝機能障害を有する患者では術後合併症や死亡リスクが上昇することは広く知られていること。当時の食道がん診療ガイドラインにおいて肝硬変症例に対する術前評価としてICG負荷試験が挙げられていたこと患者の食道がんがStageIであったことに加え、当時すでに根治的化学放射線療法が有力な治療選択肢として存在していたこと裁判所は、ICG負荷試験を実施しなかったこと自体を形式的に問題視したのではなく、肝硬変ないし肝機能障害が疑われる患者に対し、十分なリスク評価を行わないまま死亡率を2~3%程度と説明し、その結果、患者が危険な治療を選択してしまったことを問題視したといえる。したがって、然るべき検査をして適切なリスク評価をした上で、合併症や死亡のリスクを説明しなければ、患者の自己決定に必要な情報提供がなされたとは言えず、説明義務を果たしたとは認められないことを改めて認識する必要がある。2. 術式選択に関する医師の裁量について一般に術式選択は高度に専門的な医療判断であり、複数の合理的選択肢が存在する場合には裁量が広く認められる傾向があり、本判決もこのことを認める判示をしている。しかし本判決は、患者の全身状態、再手術時の循環動態、昇圧剤の使用状況、手術時間、侵襲度等を詳細に検討した上で、「救命を優先すべき局面であった」という事実認定をし、侵襲の大きい一期的再建術を選択したことを裁量の範囲外と評価した。かかる判断において裁判所は、長時間手術後わずか約35時間しか経過していない状況で、さらに約10時間近い再建術を実施したことについて、患者の耐術能との関係を厳しく検討しているが、これは「一期的再建術は危険だから違法である」としたものではなく、「極めてハイリスクな患者に対して救命より根治性を優先した判断」を問題としたものである。ここでは、術式選択について「どちらの術式が正しかったか」という議論ではなく、「当時の患者状態に照らして合理的な判断過程がとられていたか」が問題となっていると言えるため、医療機関としては、ハイリスク患者に対する治療方針決定の際には、カンファレンス記録、説明記録、診療録への記載等を通じて判断根拠を残しておくことが極めて重要である。とくに複数の合理的選択肢が存在する場面では、「なぜその選択肢を採用したのか」という思考過程を後から説明できる状態にしておくことが、訴訟対応上も重要になると言える。医療者の視点本件では、「術前評価の不備」と「術中の術式選択」の2点が問われています。術前評価については、ガイドライン上の基本的な検査であるICG負荷試験を省略し、客観的根拠に乏しい楽観的なリスク説明を行ったことが問題視されました。これは実臨床の感覚に照らしても、患者の自己決定権を担保する説明義務のあり方として不適切であり、裁判所の判断は妥当と受け止められます。一方で、術式選択における裁量逸脱の認定には、臨床現場の医師として悩ましさを覚えます。裁判所は、昇圧剤を大量に使用する重篤な状況下で、高侵襲な一期的再建術を継続したことを裁量逸脱と断じました。たしかに結果から見ればその通りですが、実際の緊急手術の現場では事情が複雑です。二期的再建を選択した場合、長期にわたる生活の質の低下や、癒着による将来の再建手術の困難さが予想されます。そのため、術中の出血がコントロールできていると術者が判断すれば、患者の将来を見据えて一期的に再建を完了させたいと考えるのは、十分にあり得る思考回路です。とはいえ、訴訟においては事後的な客観的データに基づき、救命最優先の局面であったと厳格に評価されます。実臨床で私たちが身を守るためには、ハイリスク症例において術前に最悪の事態を想定しておくことが不可欠です。どの状態に至ればダメージコントロールに切り替えるのか、チーム内で明確な撤退基準を共有し、それを診療録に記録しておく姿勢が求められます。Take home message治療法の説明は、然るべき検査をして適切なリスク評価をした上で行う必要がある。高侵襲手術においては、術式そのものだけでなく、術前リスク評価、代替治療を含めた説明内容、そして合併症発生時の意思決定過程までが後に検証対象となる。特にハイリスク症例においては、「なぜその治療を選択したのか」を説明できる診療録・説明記録を残しておくことが重要である。キーワード食道がん、周術期リスク評価、説明義務、ICG負荷試験、肝硬変合併症例、術後合併症、手術適応、術式選択、二期的再建術、医師の裁量、ハイリスク症例 、意思決定過程 、チームカンファレンス

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セマグルチドがMASH適応を取得、国内初の治療薬に/ノボ

 2026年6月19日、ノボ ノルディスク ファーマは同社のGLP-1受容体作動薬セマグルチド(ウゴービ)が、肝硬変を伴わない代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)のうち、中等度または高度の肝線維化を有する患者を対象とした効能・効果の追加承認を取得したことを発表した。これにより同薬は日本で初めて承認されたMASH治療薬となる。 MASHは、従来「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」として知られていた疾患概念を発展させたもので、代謝異常を背景として肝細胞障害や炎症、線維化が進行する慢性肝疾患である。初期には自覚症状に乏しい一方で、病態が進行すると肝硬変や肝不全、肝細胞がんに至る可能性があり、近年その疾病負荷が大きな課題となっている。 今回の承認は、ステージF2またはF3の肝線維化を有するMASH患者を対象に実施された第III相ESSENCE試験パート1の結果に基づくもの。同試験では、セマグルチド2.4mg週1回皮下投与群とプラセボ群を比較し、72週時点での肝組織学的改善を評価した。 主要評価項目の1つである「MASHの悪化を伴わない肝線維化の改善」は、セマグルチド群で36.8%、プラセボ群で22.4%に認められ、統計学的に有意な改善が示された。また、もう1つの主要評価項目である「肝線維化の悪化を伴わないMASHの消失」は、セマグルチド群で62.9%、プラセボ群で34.3%となり、セマグルチド群が有意に高い達成率を示した。安全性については、これまでの肥満症治療や糖尿病治療で蓄積されたデータと概ね一致しており、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 ESSENCE試験は総計約1,200例を対象とし、セマグルチドを240週間投与する設計となっている。今回の承認申請は、約800例を対象とした72週時点の中間解析結果に基づいて行われた。現在進行中のパート2では、240週時点における肝関連イベント発症リスクの低減効果を検証しており、試験完了は2029年を予定している。 日本におけるMASHの有病率は約3%と推計されている。肥満症や2型糖尿病との関連が強く、心血管疾患リスクの上昇に加え、大腸がんや乳がんなど肝外悪性腫瘍との関連も指摘されている。さらに、肝がんへ進展した場合には予後不良であり、早期介入と進行抑制が重要視されている。 これまでMASHに対しては体重減少を目的とした生活習慣改善が治療の中心であり、承認薬が存在しなかった。今回の承認により、疾患そのものに対する薬物治療の選択肢が初めて提供されることになる。 肥満症治療薬として広く使用されているGLP-1受容体作動薬が、MASHに対しても有効性を示したことで、代謝性疾患と慢性肝疾患を横断した包括的な治療戦略への期待が高まる。今後は実臨床における長期予後改善効果や肝関連イベント抑制効果に関するエビデンスの蓄積が注目される。【製品概要】一般名:セマグルチド(遺伝子組換え)商品名:ウゴービ効能または効果:◯肥満症ただし、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する・BMIが35kg/m2以上◯肝硬変を伴わない代謝機能障害関連脂肪肝炎ただし、中等度又は高度の線維化を有する場合に限る。

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慢性B型肝炎、bepirovirsen追加で機能的治癒の達成割合改善/NEJM

 慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染患者の治療において、標準治療であるヌクレオシド/ヌクレオチドアナログ(NA)療法へのbepirovirsenの追加はプラセボの追加と比較して、機能的治癒の達成割合が有意に高く、その一方でGrade3のALT値上昇の頻度が高いことが、中国・南方医科大学のJinlin Hou氏らによるB-Well 1・2試験の結果で示された。bepirovirsenは、すべてのHBVの転写産物を標的とする非結合型アンチセンス オリゴヌクレオチドであり、HBV RNAおよびB型肝炎表面抗原(HBsAg)の量を減少させるとともに、免疫細胞の活性化をもたらすとされる。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年5月28日号に掲載された。29ヵ国で実施した2つの無作為化プラセボ対照比較試験 B-Well 1試験およびB-Well 2試験は、日本を含む29ヵ国で実施した同一デザインの二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2022年12月~2025年5月に参加者を登録した(GSKの助成を受けた)。 対象は、スクリーニング前の少なくとも6ヵ月間にわたり安定したNA療法を受けており、HBsAg値100~3,000 IU/mL、HBV DNA値90 IU/mL未満で、ALT値が正常上限値の2倍以下の非肝硬変性慢性HBV感染の成人患者とした。 被験者を、bepirovirsen(300mg、週1回)を皮下投与する群またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付け、24週間投与した。全例が、基礎治療として安定したNA療法を受け(24~48週目はNA療法単独期間)、48週時に中止基準を満たした例はNA療法を中止し、これを満たさない例は継続した。 主要アウトカムは、72週時の機能的治癒(HBV RNAが定量下限値[LLOQ:20 IU/mL未満または検出不能]を下回り、かつHBsAgが検出不能[定性的検査で0.05 IU/mL未満])とした。2試験の機能的治癒の達成割合、bepirovirsen群19~20%vs.プラセボ群0% 2試験の合計で1,838例を登録し、bepirovirsen群に1,224例(B-Well 1試験653例、B-Well 2試験571例)、プラセボ群に614例(同328例、286例)を割り付けた。ベースラインにおけるこれら4つの群の平均(±SD)年齢の範囲は48.7(±10.4)~50.2(±11.8)歳、男性の割合の範囲は69~73%、アジア系の割合の範囲は67~70%であった。 48週時にB-Well 1試験のbepirovirsen群の24%およびB-Well 2試験の同群の24%がNA療法を中止したが、両試験のプラセボ群でNA療法を中止した患者はいなかった。 ベースラインでHBsAg値3,000 IU/mL以下であった患者における72週時の機能的治癒の達成割合は、B-Well 1試験では、プラセボ群が0%(0/328例)であったのに対し、bepirovirsen群は20%(127/650例)であり(共通リスク群間差:17.5%ポイント、95%信頼区間[CI]:14.6~20.3、p<0.001)、B-Well 2試験では、プラセボ群の0%(0/286例)に対し、bepirovirsen群は19%(106/570例)(同13.3%ポイント、10.4~16.1、p<0.001)と、いずれもbepirovirsen群で有意に高かった。 また、主な副次アウトカムであるベースラインHBsAg値1,000 IU/mL以下の患者における72週時の機能的治癒の達成割合についても、B-Well 1試験では、プラセボ群が0%(0/214例)であったのに対し、bepirovirsen群は25%(105/426例)であり(リスク群間差:24.6%ポイント、95%CI:20.8~29.0、p<0.001)、B-Well 2試験では、プラセボ群の0%(0/179例)に対し、bepirovirsen群は28%(95/342例)(同27.8%ポイント、95%CI:23.3~32.8、p<0.001)と、いずれもbepirovirsen群で有意に良好だった。16%で、投与期間中のGrade3以上の有害事象 72週の時点の統合解析では、bepirovirsen群の91%、プラセボ群の73%で有害事象が発現し、重篤な有害事象はそれぞれ7%および4%で報告された。1~24週の投与期間中にbepirovirsen群で発現した有害事象のほとんどが「とくに注目すべき有害事象」で、このうち注射部位反応の頻度が最も高かった(53%)。 投与期間中のGrade3以上の有害事象は、bepirovirsen群の16%、プラセボ群の3%に認めた。bepirovirsen群で最も頻度が高かったGrade3の有害事象はALT値の上昇(6%)であった。同群で恒久的投与中止に至った有害事象は3%にみられ、bepirovirsenとの関連がない死亡が2例で発生した。薬剤誘発性肝障害の基準を満たした患者はいなかった。一過性のALT値上昇は、治療反応のマーカーと認識 著者は、「これらの知見は、24週という一定期間のbepirovirsen治療が、機能的治癒の達成に有効であり、標準治療としての継続的なNA療法に新たな有益性を付加することを示すもの」としている。 また、「bepirovirsenの投与開始後にみられる一過性のALT値上昇は、HBsAg値の低下と関連しており、bepirovirsenに対する治療反応のマーカーとして認識されている」「検査値の異常を定期的にモニタリングし、bepirovirsenの投与を一時的に中断することは、臨床的に意義のある有害事象の発現を抑制するために有効な戦略であり、恒久的な投与中止に至ったイベントは少なかった」と指摘している。

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歯周病とMASLDの関連、女性で顕著――閉経前後で差

 歯周病は口腔内の慢性炎症として知られ、全身の代謝異常との関連も指摘されている。今回、健診受診者を対象に歯周病と代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の関連を検討した結果、女性では両者に有意な関連が認められ、特に閉経前後の年代でその傾向が顕著であることが示された。研究は愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座の齋藤瑞季氏、嶋崎義浩氏らによるもので、詳細は4月8日付で「Clinical and Experimental Dental Research」に掲載された。 脂肪性肝疾患は、一部で肝硬変や肝細胞がんへ進行する可能性があるほか、脳卒中や虚血性心疾患など心血管疾患リスクの上昇とも関連することが知られている。MASLDは従来「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていたが、近年、代謝異常との関連性をより反映した名称へと改訂された。その診断には肥満や糖尿病、高血圧などの代謝異常の有無が考慮される。生活習慣とMASLDの関連は広く報告されており、MASLDの発症や進展に歯周病が関与する可能性も示唆されている。しかし、近年までは主にNAFLDを対象とした研究が中心であり、MASLDとの関連や性差を含めた検討は十分ではなかった。こうした背景のもと、本研究では健診受診者を対象に、歯周病とMASLDの関連および性差について検討が行われた。 本研究は、愛知県の健康診断受診者を対象とした横断研究である。2014年4月~2015年3月に一般社団法人愛知健康増進財団の健康診断を受けた40~74歳を解析対象とした。肝疾患既往、B型肝炎表面抗原(HBs抗原)陽性、摂取アルコール量が20g/日以上の参加者などは除外した。脂肪肝は腹部超音波で判定し、心代謝リスク因子の基準を満たす例をMASLDと定義した。歯周病は地域歯周疾患指数(CPI)で評価し重症度別に分類した。喫煙や運動習慣などを調整し、MASLDとの関連をロジスティック回帰分析で検討、男女別解析や女性の年齢層別解析、性差の交互作用も評価した。 解析対象は6,184人で、このうち1,431人(23.1%)がMASLDと診断された。女性では、歯周病が中等度および重度の群で、歯周病がない群に比べてMASLDのオッズ比がそれぞれ1.40(95%信頼区間:1.04~1.89)、1.64(同1.04~2.59)と有意に高かった。 一方、男性では歯周病とMASLDの関連は調整後に有意ではなかった。女性では50~59歳でのみ有意な関連が認められ、他の年齢層では認められなかった。さらに、非飲酒者に限定した解析でも同様に女性で有意な関連が確認された。 また、性別と歯周病の影響には乗法的交互作用が認められたが、加法的交互作用は認められなかった。これは、歯周病とMASLDの関連の強さには性差があったが、リスクそのものには明確な差は認められなかったことを示す。 著者らは、こうした性差の背景として女性ホルモンの影響を挙げている。特に50~59歳は閉経移行期に相当し、エストロゲンの低下が代謝機能や炎症反応に影響を及ぼす可能性があるとされ、この時期に関連がより強く認められた可能性が示唆されている。 なお、本研究の限界として、横断研究であるため因果関係を明らかにできないことに加え、歯周病評価の精度や超音波による脂肪肝診断の限界、社会経済因子の未調整、単施設データによる一般化可能性の制約などを挙げている。

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40歳以上の一般住民における未診断の肝線維症発症頻度は推定1.6%;ヨーロッパ9ヵ国の国際前向きコホート研究(解説:相澤良夫氏)

 この大規模な前向きコホート研究では、40歳以上の一般住民を対象に未診断の肝線維症の頻度および肝線維症と代謝因子(肥満、2型糖尿病、脂質異常、高血圧)やアルコール摂取との関連性について検討した。肝線維症は主にフィブロスキャン(VCTE)での肝硬度(LSM)上昇(8kPa以上)によりスクリーニングされ、肝臓専門医によって確定診断がなされた。その結果、肝線維症の推定有病率は1.6%(3万199人中477人)で、肝硬度の上昇は肥満、2型糖尿病、過度の飲酒と強く関連し、その93%は脂肪性肝疾患であった。 この結果からヨーロッパ各地では未診断の肝線維症が一般的に認められることが判明した。このような未診断の肝線維症を早期に発見しその要因を解析することにより、それぞれの症例に即した個別化治療介入が可能となるため、このような取り組みは、無症状の慢性肝疾患の肝硬変への進展を防止し、肝硬変に伴う重篤な合併症の発生を阻止するうえできわめて重要と考えられる。 わが国では代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)など、慢性肝疾患の病因別患者数は推計されているが、実際に一般住民を対象としたこのような大規模前向き研究により未診断の肝線維症の頻度やその要因を明らかにした報告は知られていない。 従来、わが国ではHBVやHCVによる慢性ウイルス肝炎が慢性肝疾患の大多数を占めていたが、近年の抗ウイルス療法の急速な進歩により激減し、とくにHCVはわが国から撲滅される日が近いと思われている。代わりに、わが国でもこの論文に示された代謝因子やアルコール過剰摂取に関連した慢性肝疾患の重要性が強調されているが、いまだに無症状のまま経過し肝硬変や肝がんで発見される症例も少なくない。 したがって、わが国においても未診断の肝線維症を早期に診断し、その病因に即した治療を行うことは、肝疾患による重篤な合併症を未然に防止するうえで公衆衛生上の観点からもきわめて重要な課題と考えられる。未診断の肝線維症をいかに効率的に拾い上げ早期に治療できるか、その標準的スクリーニング法についてわが国の実情に即した方策を真剣に検討する必要がある。

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「MASLD診療ガイドライン」改訂、脂肪肝を全身疾患として再定義/日本消化器病学会

 2026年4月、「MASLD診療ガイドライン」が改訂された1)。2020年に発刊した前版の「NAFLD/NASH診療ガイドライン」から6年ぶりの改訂で、第3版となる。2026年4月16~18日に開催された第112回日本消化器病学会総会では、改訂ポイントを解説するパネルディスカッションが開催された。 今改訂の最大のトピックスは、疾患名の変更とその定義だ。従来、脂肪性肝疾患に用いられてきた「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」の疾患名は国際的コンセンサスに基づき、2023年に「MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)」「MASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)」に変更された。日本でも日本消化器病学会・日本肝臓学会がこれに賛同し、2024年8月に「MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」「MASH:代謝機能障害関連脂肪肝炎」との日本語名を発表している。改訂版ガイドラインでは、これらの新たな疾患名・定義を踏まえた診断・診療体系が提唱された。疾患定義:世界的な名称変更 NAFLDという名称は1980年代に提唱され、その後40年以上にわたり使用されてきた。しかし「non-alcoholic(非アルコール性)」という否定形表現や、「fatty」という言葉が患者へのスティグマにつながるとの指摘が国際的に強まっていた。これを受け、脂肪性肝疾患を「SLD(steatotic liver disease)」という1つの大きな疾患群として捉え直し、そのなかで心代謝系危険因子(CMRF)の有無、飲酒量、その他(薬物、ウイルス、遺伝子など)の要因に応じて疾患を再分類したうえで、その中心的な病態としてMASLDが位置付けられた。従来のNAFLD/NASHとMASLD/MASHの臨床像や診断アルゴリズムはおおむね一致しており、従来のエビデンスは引き続き活用される。診断フローチャート:新たに「MetALD」を設定 新たな疾患分類では、SLDを認めた患者に対し、まず、CMRFの有無を評価する。ガイドラインではCMRFとして 1)肥満:BMI≧23kg/m2 or 腹囲男性>94cm・女性>80cm 2)血糖:空腹時≧100mg/dL or 食後2時間≧140mg/dL or HbA1c≧5.7% or 2型糖尿病 or その治療 3)血圧:収縮期≧130mmHg or 拡張期≧85mmHg or 降圧薬内服 4)中性脂肪:≧150mg/dL or 脂質異常症治療薬内服 5)HDL:男性≦40mg/dL、女性≦50mg/dL or 脂質異常症治療薬内服の5項目を採用している。これらのリスク因子が1つ以上あり、かつ飲酒量が基準未満(純エタノール量:男性30g/日未満・女性20g/日未満)であればMASLDと診断される。 今回のガイドラインでは、新たな疾患カテゴリとして、CMRFが1つ以上の中等量飲酒例(男性30~60g/日・女性20~50g/日)を「MetALD(代謝機能障害アルコール関連肝疾患)」として独立して規定した。これを超える飲酒量であれば「ALD(アルコール関連肝疾患)」となる。MetALDは従来ではNAFLDから除外されていた群だが、近年、代謝異常とアルコール双方が病態進展に関与すると示されたことを背景に設定され、MASLDよりも肝関連イベントリスクが高いことが報告されている。さらに心血管イベントも増加するとの報告もあることがFRQで示され(FRQ1-1)、今後はこれらの病態に応じた治療法やサーベイランス法の開発が重要となる。診断:肝生検が「必須」から外れる BQ4-1 MASLDの診断に肝生検は必須か? MASLDの診断に肝生検は必須ではない。 今回の改訂で大きな変更点が、確定診断にあたって「肝生検は必須ではない」とされた点だ。これは近年のNIT(非侵襲的検査)の発達によるもので、NITには血液検査による肝線維化マーカー、年齢と検査値を組み合わせたスコアリングシステム(FIB-4 indexなど)、画像検査、そしてこれらの組み合わせがあり、非侵襲的かつ繰り返し評価できることが大きなメリットとなる。とくに複数の線維化マーカーが保険収載されているのは世界中で日本だけであり、この点に関するエビデンスを蓄積することも求められている。一方、肝生検を必要とするケースも依然として存在しており、高リスクMASHの確定診断、炎症の程度の把握が必要なケース、複数のNITの不一致例などが挙げられている。 今回、診断フローチャートのほかに「肝疾患高リスク症例の絞り込み・フォローアップのフローチャート」が作成された。これはNITと肝生検を組み合わせて高リスク症例を絞り込む手順と、その検査や重症度別の患者のフォローアップをかかりつけ医と専門医でどう分担すべきか、という2軸のマトリクスからなる。NITを使った2段階のハイリスク症例の絞り込み、2次リスク評価で使用できるNITのリストアップ、肝生検・超音波エラストグラフィ・MRエラストグラフィによる最終評価と治療方針の決定、その後のリスクに応じたフォローアップ体制など、診断の全体像と医師の役割分担の提唱が可視化されている。非専門医が押さえるべきポイント・従来、「飲酒歴を確認し、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害を除外した残り」としてNAFLDを診断していたが、MASLDにおいてはBMI、糖代謝異常、高血圧、脂質異常症などのCMRFの確認が診断プロセスの中心となる。・飲酒評価の重要性も増した。とくにMetALD概念の導入により、「少量飲酒であれば問題ない」と一律に扱うことは難しくなった。ガイドラインではMASLDを男性30g/日未満、女性20g/日未満、MetALDを男性30~60g/日、女性20~50g/日の飲酒群として整理しているが、実際にはMASLD基準内の少量飲酒でも線維化リスク上昇が報告されており、診療現場では飲酒量を細かく聴取することが重要になる。・「MASLD患者の消化器科へのコンサルテーション基準は?」という設問(BQ4-2)に対しては、「FIB-4 index>2.67(65歳以下の場合)」の高リスク群を紹介基準とし、同1.3~2.67の中間リスク群でも「血小板数<20万/μL」「AST値・ALT値が持続高値」「画像検査で肝硬変の所見を認める」場合には紹介が望ましいとされている。全身疾患としてのMASLD MASLDは多くの疾患と関連するが、診断基準となるCMRF関連4疾患である「2型糖尿病、脂質異常症、肥満、高血圧」についてはBQが設定され、相互補完関係にあることが示されている(BQ3-1~3-4)。さらに、慢性腎障害、内分泌異常、睡眠時無呼吸症候群など、多様な合併症との関連も整理された(BQ3-5、3-6)。また、肝臓以外の悪性腫瘍リスク上昇についても大腸がんを中心に、胃がん、食道がん、婦人科がんとの関連が解説された(BQ3-7)。中でも心血管疾患はMASLD患者の主要死因の1つであり、大規模メタ解析では、MASLD患者の心不全新規発症リスクは一般人口の約1.5倍と報告されている。一方で、肝線維化が心血管リスクを上昇させる独立した因子であるかについては現時点ではまだ明確ではなく、今後探索していくべき課題とされた(FRQ3-1、3-2)。 治療面では、生活習慣介入が中心である点は従来と変わらないが、「単純性脂肪肝だから経過観察のみ」という従来型対応は見直されつつある。肥満、糖尿病の合併例、線維化進展を伴う例では、早期から積極的介入を行う方向性がより明確になっている。GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など代謝改善薬への期待も高まっており、今後の承認に向けての動きやエビデンス蓄積が注目される。

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肝硬変患者の肝性脳症リスク、フレイル評価で予測可能か

 肝硬変では、肝臓の機能低下に伴い意識障害や認知機能低下を来す「肝性脳症」が生じ、患者の生活の質や予後に大きく影響することが知られている。今回、肝硬変患者を対象とした研究で、簡便なフレイル評価指標であるClinical Frailty Scale(CFS)が、不顕性および顕性肝性脳症の発症リスクの層別化に有用である可能性が示された。研究は、岐阜大学医学部附属病院消化器内科の宇野女慎二氏、三輪貴生氏らによるもので、詳細は2月26日付で「JGH Open」に掲載された。 不顕性肝性脳症(CHE)は肝硬変患者の約40%に認められ、転倒や事故、死亡リスクの増加などと関連することが知られている。CHEが顕性肝性脳症(OHE)へ進行すると、入院の増加や社会生活への影響など患者や家族に与える負担は大きい。しかしCHEの診断には神経心理検査が必要で、時間や専門人材を要するため臨床現場での実施には限界がある。近年、肝硬変患者ではフレイルが入院や死亡など不良転帰と関連することが報告されている。そこで本研究では、CFSによるフレイル評価が、CHEおよびOHE発症リスクの層別化に有用かを検討した。 本研究は、岐阜大学医学部附属病院に入院した肝硬変患者を対象とした後ろ向き観察研究である。OHEの既往がない18~79歳の患者のうち、2004年3月~2023年12月にCHEの評価を受けた症例を解析対象とした。フレイルはCFSを用いて評価し、CFS5以上をフレイルと定義した。CHEは神経心理学的検査により診断し、OHEはWest Haven基準に基づく臨床評価で判定した。CHEとの関連因子はロジスティック回帰分析で検討した。さらに、死亡を競合リスクとして考慮したFine―Gray競合リスク回帰モデルを用いてOHE発症との関連を解析した。 解析対象は262例で、年齢中央値は65歳(四分位範囲55~74歳)、女性は154例(58.8%)だった。フレイルは25例(9.5%)、CHEは82例(31.3%)に認められた。CHEの有病率は、フレイルあり群でフレイルなし群より有意に高かった(84.0% vs 25.7%、P<0.001)。 追跡期間中央値2.8年の間に、40例(15.3%)がOHEを発症し、20例(7.6%)が死亡した。コホート全体でのOHE累積発症率は1年7%、3年13%、5年20%だった。OHEの発症率はフレイルあり群で高く、1年、3年、5年時点の累積発症率はそれぞれ25%、33%、36%で、フレイルなし群(5%、11%、18%)より有意に高かった(P=0.009)。 年齢や肝機能指標などを調整した多変量解析では、CFSがCHEの存在(オッズ比2.13、95%信頼区間1.41~3.37、P<0.001)およびOHE発症(サブディストリビューションハザード比1.38、95%信頼区間1.02~1.87、P=0.037)の独立した関連因子であることが示された。 本研究の結果から、肝硬変患者ではフレイルを有する場合、CHEの有病率とOHEの発症率が高く、CFSがそれらの独立した関連因子であることが示された。筆者らは、「フレイル評価は肝硬変患者における肝性脳症リスクの層別化に有用である可能性があり、臨床現場でのフレイル評価の重要性を示唆する」と述べている。 なお、本研究の限界として、単施設の後ろ向き研究である点や、対象患者の病因分布が一般集団と異なる可能性がある点が挙げられ、結果の一般化には注意が必要である。

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肝線維症、40歳以上の有病率と主な要因/Lancet

 欧州の40歳以上の一般集団において、診断されていない肝線維症(肝硬度測定[LSM]8kPa以上)が4.6%に認められ、その主な要因は代謝因子とアルコール摂取であることが示唆された。スペイン・Hospital Clinic of BarcelonaのIsabel Graupera氏らLiverScreen Consortium Investigatorsが、9ヵ国(スペイン、デンマーク、イタリア、スロバキア、クロアチア、英国、フランス、オランダ、ドイツ)の35施設(3次医療機関16施設を含む)で実施した大規模前向きコホート研究「LiverScreen project」の結果を報告した。小規模な単一国の研究では、未診断の肝線維症が一般集団で広くみられることが示唆されているが、実際の有病率やリスク因子はわかっていなかった。著者は、「肝硬変や合併症への進行を予防するための個別化された介入には、早期発見がきわめて重要となる」とまとめている。Lancet誌2026年4月11日号掲載の報告。40歳以上の一般住民を対象にスクリーニング検査を実施 研究グループは、未診断の肝線維症の有病率と代謝因子およびアルコール摂取との関連性を評価する目的で、40歳以上の一般住民を募集し登録した。募集方法は、定期健康診断または経過観察の1次医療施設受診者からの無作為抽出(スペイン、クロアチア、フランス、ドイツ)、社会保障番号または郵便番号の無作為抽出後オンラインまたは電話で招待(デンマーク、スペイン、イタリア、英国、オランダ)、既存の集団スクリーニングプログラムまたは職業健康診断に参加した個人(スペイン、ドイツ、スロバキア、フランス)であった。 肝線維化は、FibroScan装置を用いたVibration-controlled Transient Elastography(VCTE)でLSMを推算し、スクリーニング検査でLSMが8kPa以上、またはアラニンアミノトランスフェラーゼが正常上限値の1.5倍以上のいずれかまたは両方を満たす場合を陽性と定義した。 参加者はスクリーニング検査を受診し、陽性の場合は慢性肝疾患の診断確定のため肝臓専門医による診察を受けた。主要アウトカムは、LSMが8kPa以上の参加者の割合であった。未診断の肝線維化の有病率は4.6%、線維化を伴う慢性肝疾患の推定有病率は1.6% 2018年5月2日~2024年12月19日に6万7,074例が招待され、3万909例が参加に同意した。このうち3万541例がスクリーニング受診を完了し、除外基準を満たしていた参加者などを除く3万199例が解析対象となった。 解析対象集団の背景は、平均年齢58歳、女性が57%、白人が89%で、70%が1つ以上の代謝リスク因子を有し、59%が飲酒を報告し、6.1%は有害な飲酒を報告した。 スクリーニング検査が陽性であった参加者は3万199例中2,075例(6.9%)であり、主要アウトカムであるLSMが8kPa以上の参加者は1,376例(4.6%)であった。LSMの上昇は、肥満、2型糖尿病、および有害な飲酒と強い相関が認められた。 スクリーニング陽性の2,075例のほか、VCTE信頼性不良または実施不能例342例および見落とし40例を含む計2,457例が肝臓専門医の紹介受診となり、1,491例(61%)が追跡調査を完了した。1,491例中477例(32%)が線維化を伴う慢性肝疾患と診断され、全体の推定有病率は1.6%(477/3万199例)であった。線維化を伴う慢性肝疾患症例では脂肪性肝疾患が93%(443/477例)を占めた。

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水曝露後の皮膚軟部組織感染症【1分間で学べる感染症】第39回

画像を拡大するTake home message水曝露後の軟部組織感染症では、典型的な皮膚軟部組織感染症の起因菌である黄色ブドウ球菌やβ溶血性連鎖球菌に加え、特殊な起因菌が原因となる場合があることを理解しよう。通常の皮膚軟部組織感染症では、黄色ブドウ球菌やβ溶血性連鎖球菌が原因となることは皆さんもご存じだと思います。とくに水辺での外傷や動物との接触、魚介類の処理中の創傷などでは、水環境に特有の原因微生物を考慮する必要があります。起因菌を覚えるための語呂として知られているのが「AVEEM」です。A:Aeromonas hydrophilaAeromonas hydrophilaは、淡水中に広く存在するグラム陰性桿菌です。とくに夏季に多く、川や湖、洪水、溺水などの状況で感染することがあります。外傷部位から侵入し、急速に進行する蜂窩織炎や壊死性軟部組織感染症を引き起こすことがあります。潜伏期間は比較的短く、24~48時間以内に発症することが多いとされています。V:Vibrio vulnificusVibrio vulnificusは、温暖な海水環境に生息する菌で、海水への創傷曝露や牡蠣などの生食によって感染することがあります。とくに肝硬変を中心とした肝疾患を有する男性では重症化しやすいことが知られており、壊死性筋膜炎や敗血症を伴うことがあります。潜伏期間は3時間~7日程度で、重症例では急速に進行するため、早期診断が重要です。E:Edwardsiella tardaEdwardsiella tardaは主に淡水に生息する菌で、魚類との接触やナマズの棘刺傷などが感染契機となることがあります。免疫抑制状態や肝疾患を有する患者では重症感染のリスクが高くなる可能性があります。潜伏期間は24~48時間と比較的短いのが特徴です。E:Erysipelothrix rhusiopathiaeErysipelothrix rhusiopathiaeは魚や海産物に関連する菌で、魚をさばく作業中の創傷からの感染例が多く報告されています。臨床的には「erysipeloid」と呼ばれる局所皮膚感染症を引き起こすことがあり、潜伏期間は24~48時間程度です。M:Mycobacterium marinumMycobacterium marinumは水槽や海水環境に存在する非結核性抗酸菌で、「fish tank granuloma」として知られる慢性感染を引き起こします。水槽清掃中の小外傷や海洋生物(カニ、ウニなど)による刺傷が感染契機となることがあります。潜伏期間は1週間~数ヵ月と長く、平均21日程度とされています。水曝露後の皮膚軟部組織感染症では、「どこで受傷したか」「淡水か海水か」「魚や海洋生物との接触があったか」といった曝露歴が診断のカギになります。AVEEMという語呂を覚えておくことで、これらの特殊な起因菌を想定し、適切な抗菌薬選択につなげることができる可能性があります。ぜひ、これらそれぞれの菌について学習を深めてください。1)Soft tissue infections following water exposure/UpToDate

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4週ごとのFGF21アナログ製剤efimosfermin alfa皮下注射24週治療はMASH(F2/F3)の活動性および線維化ステージを改善する(解説:相澤良夫氏)

 FGF21アナログ製剤はMASHの治療薬として高い期待が寄せられている。すでにefruxiferminやpegozaferminは第III相試験で良好な治療効果と安全性が確認され、MASH代償性肝硬変に対しても線維化ステージの改善効果も示されている。わが国でも最近FGF21アナログ製剤の臨床治験が申請され、開始されている。 FGF21は多様な生理作用を有し、心臓代謝性疾患の危険因子である脂質異常症や糖尿病の改善効果が示され、FGF21アナログ製剤は単にMASHを改善するだけでなくMASHに合併して、その予後に影響を及ぼす代謝異常に対しても有用性が示されている。 efimosferminはFGF21のN端にIgGのFcを強固に結合し、さらに蛋白分解酵素の作用点に変異を導入して安定化させることにより血中半減期を著しく延長させたアナログで、月1回(4週ごと)の皮下投与で十分な薬理効果を発揮する薬剤である。従来製剤の週1回投与に比べて煩雑さが軽減されるという利点があり、他のFGF21アナログ製剤と同等以上のMASH治療効果を発揮する可能性がある。副作用は従来のFGF21アナログ製剤と同等で軽度から中等度の消化器症状が主体であり、安全性、忍容性が高い。 今回の第II相試験は短期間で症例数が少なく、より長期の安全性や代償性肝硬変に対する治療効果は確認されていない。efimosferminはefruxiferminなどの先行FGF21アナログ製剤に臨床試験で後れを取っているものの、注射回数が少なくて済み、先行薬よりも強力な治療効果を発揮する可能性がある薬剤と思われる。今後の臨床試験結果が大いに期待される。

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肝機能指標の正確な理解度は20%未満/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、2月の全国生活習慣病予防月間に合わせ、同社が行った「脂肪肝に関する認知・理解度調査」の結果を2026年2月16日に公表した。 脂肪肝は、わが国では2,000万例以上が罹患していると推定され、最も頻度の高い肝疾患とされている。また、日本人を含む東アジア人においては、遺伝的背景により肝臓に脂肪が蓄積しやすい体質の人が多いことが知られ、普通体重であっても脂肪肝に至るリスクが相対的に高いとされている。重症化すると肝硬変や肝がんになるリスクがあり、肝硬変に進行すると、再生能力の高い肝臓でも元に戻ることは難しく、日常生活にも大きな支障を及ぼす。さらに肥満症や2型糖尿病などの代謝疾患の合併や発症につながり、心血管疾患イベント(心筋梗塞、虚血性心疾患、心不全など)のリスク増大や、がんなどの重篤な疾患の要因になることも知られている。脂肪肝を正確に理解している人は約38%【調査概要】対象:35~74歳の全国の男女対象人数:2,000人調査方法:インターネット調査調査期間:2025年11月27日~12月1日【結果概要】1)「『脂肪肝』を知っていますか」という質問では、「知っている」「聞いたことはあるが、詳しくは知らない」と回答した人の割合が86%である一方で、「知っている」と正しく理解している人は37.9%にとどまった。2)「肝臓の役割と聞いて、知っているものすべてお答えください」という質問では、「アルコールや薬などの有害物質を分解して無害化する(解毒)」が61.2%、「食べたものの栄養を分解・合成してエネルギーに変える」が36.1%、「脂肪の消化を助ける『胆汁』をつくる」が34.4%の順で上位3つが多かったが、「とくに思い浮かばない/わからない」と回答した人も23.7%いた。3)「脂肪肝が関連する病気について、当てはまると思うものをすべてお答えください」という質問では、「肝硬変」が52.9%、「肝がん」が39.1%、「脂肪肝炎(MASLD/MASH)」が27.3%の順で上位3つが多かったが、「わからない」と回答した人も25.4%いた。4)「肝臓に関する3つの検査項目についてどの程度理解していますか」という質問では次のとおりだった。・AST(GOT):「肝臓に関する項目だと知っている[意味も理解している]」(15.1%)、「肝臓に関する項目だと知っている[意味は理解していない]」(20.4%)、「言葉は聞いたことがある」(22.2%)、「そもそも言葉自体聞いたことがない」(42.2%)・ALT(GPT):「肝臓に関する項目だと知っている[意味も理解している]」(17.3%)、「肝臓に関する項目だと知っている[意味は理解していない]」(23.6%)、「言葉は聞いたことがある」(26.5%)、「そもそも言葉自体聞いたことがない」(32.7%)・γ-GTP(γ-GT):「肝臓に関する項目だと知っている[意味も理解している]」(19.6%)、「肝臓に関する項目だと知っている[意味は理解していない]」(24.1%)、「言葉は聞いたことがある」(27.5%)、「そもそも言葉自体聞いたことがない」(28.9%) 肝臓の検査項目の熟知度については、3つすべてが20%未満で低く、検査内容の啓発が今後の課題となる。

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タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

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ALT・AST上昇例へのスタチン【日常診療アップグレード】第49回

ALT・AST上昇例へのスタチン問題75歳男性。現在、症状はない。狭心症と2型糖尿病、高血圧、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease:MASLD)による代償性肝硬変の既往がある。処方薬はアスピリン、クロピドグレル、カルベジロール、リシノプリル、デュラグルチド、ピタバスタチンである。過去1年間に薬剤の変更はない。身体診察では、バイタルサインおよびその他の所見は正常である。1年前と同様の軽度の肝トランスアミナーゼ上昇がある(AST 55U/L、ALT 65U/L)。肝トランスアミナーゼ値が上昇しているが、ピタバスタチンを継続した。

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進行性家族性肝内胆汁うっ滞症のそう痒治療薬「ビルベイ顆粒200μg/600μg」【最新!DI情報】第51回

進行性家族性肝内胆汁うっ滞症のそう痒治療薬「ビルベイ顆粒200μg/600μg」今回は、回腸胆汁酸トランスポーター阻害薬「オデビキシバット水和物(商品名:ビルベイ顆粒200μg/600μg、製造販売元:IPSEN)」を紹介します。本剤は、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒の治療薬であり、そう痒に苦しむ本症患者のQOL改善が期待されています。<効能・効果>進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。なお、ABCB11遺伝子変異を有する患者のうち、胆汁酸塩排出ポンプ蛋白質(BSEP)の機能を完全に喪失する変異を有する患者では本剤の効果は期待できません。<用法・用量>通常、オデビキシバットとして40μg/kgを1日1回朝食時に経口投与します。なお、効果不十分な場合には、120μg/kgを1日1回に増量することができますが、1日最高用量として7,200μgを超えないようにします。体重別の1日投与量は下表を参考にします(40μg/kg/日の場合)。<安全性>副作用として、血中ビリルビン増加、ALT増加、下痢、嘔吐、腹痛、ビタミンD欠乏(いずれも10%以上)、肝腫大、AST増加、ビタミンE欠乏(いずれも1%以上10%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、回腸胆汁酸トランスポーター阻害薬です。進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒を改善します。2.小腸に作用して、胆汁酸の再取り込みを減少させ、血液中の胆汁酸濃度を低下させます。3.朝食(1日の最初の食事)時に、飲食物とともに飲んでください。4.カプセルは容器なのでカプセルごと飲まず、飲む直前にカプセル型容器を開けて顆粒剤のみを服用してください。<ここがポイント!>進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)は、胆汁酸の分泌および輸送に関与する遺伝子の変異によって引き起こされる希少疾患であり、一般に乳児期および小児期初期に発症します。胆汁うっ滞により、ビリルビンや胆汁酸などの胆汁成分が肝臓内に蓄積すると、肝障害が進行し、肝硬変や肝不全、さらには肝細胞がんを発症することがあります。PFICと診断された小児では、黄疸に加えて重度のそう痒が認められることが多く、とくに重度のそう痒の緩和はQOL(生活の質)向上の観点からも重要な治療目標となります。PFICは、日本では厚生労働省の指定難病(#338)に指定されています。本剤の有効成分であるオデビキシバットは、腸管に存在する回腸胆汁酸トランスポーター(IBAT)に可逆的に結合し、門脈系への胆汁酸の再取り込みを減少させます。これにより、肝臓への胆汁酸負荷および血清中胆汁酸濃度が低下し、胆汁うっ滞に伴うそう痒の改善が期待されます。本剤はカプセル型容器に封入された顆粒剤です。カプセルは容器であることから、投与はカプセルごとではなく容器内の顆粒剤のみを全量投与します。PFIC-1およびPFIC-2の小児患者(生後6ヵ月以上18歳以下、体重5kg超)を対象としたプラセボ対照二重盲検海外第III相試験(A4250-005試験)において、主要評価項目である「24週時までに空腹時血清中胆汁酸濃度がベースラインから70%以上低下または24週時に70μmol/L以下に達した患者の割合」は、本剤群全体で33.3%であり、本剤40μg/kg/日群および120μg/kg/日群でそれぞれ43.5%および21.1%でした。片側検定によるプラセボ群との比較では、いずれの本剤群でも高く、本剤群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(本剤群全体:片側p=0.0015、40μg/kg/日群:片側調整p=0.0015、120μg/kg/日群:片側調整p=0.0174)。

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肝疾患患者の「フレイル」、独立した予後因子としての意義

 慢性肝疾患(CLD)は、肝炎ウイルス感染や脂肪肝、アルコール性肝障害などが原因で肝機能が徐々に低下する疾患で、進行すると肝硬変や肝不全に至るリスクがある。今回、こうした患者におけるフレイルの臨床的意義を検討した日本の多機関共同後ろ向き観察研究で、フレイルが独立した予後不良因子であることが示された。研究は、岐阜大学医学部附属病院消化器内科の宇野女慎二氏、三輪貴生氏らによるもので、詳細は9月20日付けで「Hepatology Reseach」に掲載された。 CLDは進行すると予後不良となることが多く、非代償性肝硬変患者では5年生存率が約45%と報告されている。このため、将来的な疾患進行や合併症のリスクを減らすには、高リスク患者の早期特定が重要である。一方、最近の研究では、フレイルもCLD患者の予後に影響する独立因子であることが示されており、肝機能だけでなく身体全体の脆弱性を考慮した評価の重要性が指摘されている。Clinical Frailty Scale(CFS)は2005年に開発され、米国肝臓学会もCLD患者のフレイル同定に推奨する評価ツールであるが、これまで日本人CLD患者においてCFSを用いた評価は行われておらず、その臨床的意義は明らかでなかった。こうした背景から、著者らはCFSを用いて日本人CLD患者のフレイルの有病率、臨床的特徴、ならびに予後への影響を明らかにすることを目的とした。 本研究では、2004年3月~2023年12月の間に岐阜大学医学部附属病院、中濃厚生病院、名古屋セントラル病院に入院した成人CLD患者とした。CFSスコアは、入院当日の情報に基づき、併存疾患、日常生活動作、転倒リスクに関する質問票を後ろ向きに評価し、スコアが5以上(CFS 5~9)の場合をフレイルと定義した。本研究の主要評価項目は全死亡とした。群間比較には、カテゴリ変数に対してはカイ二乗検定、連続変数に対してはマン・ホイットニーU検定を用いた。生存曲線はカプラン-マイヤー法で推定し、群間差はログランク検定で比較した。フレイルが死亡に与える予後影響はCox比例ハザードモデルで評価し、結果はハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)で示した。フレイルと関連する因子は多変量ロジスティック回帰モデルで解析した。 最終的に、本研究には715人のCLD患者(中央値年齢67歳、男性49.5%)が含まれた。最も多かった病因はウイルス性(38.7%)であり、続いてアルコール性(22.2%)、代謝機能障害関連(9.5%)であった。Child-Pugh分類およびModel for End-Stage Liver Disease(MELD)スコアの中央値はそれぞれ7と9であり、CFSスコアの中央値は3であった。これらの患者のうち、フレイルは137人(19.2%)に認められた。フレイル患者のCFSスコア中央値は6であり、年齢が高く、BMIが低く、肝予備能も低い傾向にあった。 中央値2.9年の追跡期間中に221人(28.0%)が肝不全などで死亡した。フレイル患者は、非フレイル患者に比べて有意に生存期間が短かった(中央値生存期間:2.4年 vs. 10.6年、P<0.001)。多変量Cox比例ハザード解析の結果、フレイルはCLD患者における独立した予後不良因子であることが示された(HR:1.75、95%CI:1.25~2.45、P=0.001)。 また、フレイルの決定因子に関して、多変量ロジスティック回帰解析をおこなったところ、高齢、肝性脳症、低アルブミン血症、血小板減少、国際標準比(INR)の延長がフレイルと関連していることが示された。さらにフレイルの有病率はChild-Pugh分類の悪化とともに有意に増加し、Child-Pugh A群では4%、B群では22%、C群では55%の患者にフレイルが認められた。 著者らは、「本研究から、CLD患者ではフレイルが高頻度に認められ、独立した予後不良因子としての役割を持つことが示された。予後への影響を考慮すると、CLD患者ではフレイルを日常的に評価し、転帰改善を目的とした介入を検討することが望ましい」と述べている。

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下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

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