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第159回 アルツハイマー病行動障害の初の承認薬誕生近し?/コロナ肺炎患者への欧米認可薬の効果示せず

アルツハイマー型認知症の難儀な振る舞いの初の承認薬誕生が近づいているアルツハイマー型認知症患者の半数近い約45%、多ければ60%にも生じうる厄介な行動障害であるアジテーション(過剰行動、暴言、暴力など)の治療薬が米国・FDAの審査を順調に進んでいます。大塚製薬がデンマークを本拠とするLundbeck社と開発した抗精神病薬ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)は昨夏2022年6月に速報された第III相試験結果でアルツハイマー型認知症に伴うアジテーション(agitation associated with Alzheimer’s dementia、以下:AAD)を抑制する効果を示し1)、今年初めにその効能追加の承認申請がFDAに優先審査扱いで受理されました2)。アジテーションは誰もが生まれつき持つ感情や振る舞いが過度になることや場違いに現れてしまうことであり、多動や言動・振る舞いが攻撃的になることを特徴とします。アジテーションは患者本人の生きやすさを大いに妨げるのみならずその親しい人々をも困らせます。第III相試験では徘徊、怒鳴る、叩く、そわそわしているなどの29のアジテーション症状の頻度がプラセボと比較してどれだけ減ったかがCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)という採点法によって調べられました。29のアジテーション症状それぞれの点数は1~7点で、点数が大きいほど悪く、症状がない(Never)場合が1点で、1時間に繰り返し認められる場合(Several times an hour)は最大の7点となります。試験にはAAD患者345例が参加し、ブレクスピプラゾール投与群の12週時点のCMAI総点がプラセボ群に比べて5点ほど多く低下し、統計学的な有意差を示しました(22.6点低下 vs.17.3点低下)3)。同試験結果をもとに承認申請されたその用途での米国審査は順調に進んでおり、先週14日に開催された専門家検討会では同剤が有益な患者が判明しているとの肯定的判断が得られています4)。FDAの審査官も肯定的で、同剤の効果はかなり確からしいとの見解を検討会の資料に記しています5)。AADを治療するFDA承認薬はありません。ブレクスピプラゾールのその用途のFDA審査結果は間もなく来月5月10日までに判明します。首尾よく承認に至れば、同剤はFDAが承認した初めてのAAD治療薬の座につくことになります。その承認は歴史的価値に加えて経済的価値もどうやら大きく、その効能追加で同剤の最大年間売り上げが5億ドル増えるとアナリストは予想しています6)。重症コロナ肺炎患者へのIL-1拮抗薬anakinraの効果示せずスペインでの非盲検の無作為化第II/III相試験でIL-1受容体拮抗薬anakinraが重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎患者の人工呼吸管理への移行を防ぐことができませんでした7)。ANA-COVID-GEASという名称の同試験は炎症指標の値が高い(hyperinflammation)の重症コロナ肺炎患者を募り、179例がanakinraといつもの治療(標準治療)または標準治療のみの群に割り振られました。プラセボ対照試験ではありません。主要転帰は15日間を人工呼吸なしで過ごせた患者の割合で、解析対象の161例のうちanakinra使用群では77%、標準治療のみの群では85.9%でした。すなわちanakinraなしのほうがその割合はむしろ高く、人工呼吸の出番を減らすanakinraの効果は残念ながら認められませんでした。侵襲性の人工呼吸を要した患者の割合、集中治療室(ICU)を要した患者の割合、ICU滞在期間にも有意差はありませんでした。それに死亡率にも差はなく、28日間の生存率はanakinra使用群と標準治療のみの群とも93%ほどでした。試験の最大の欠点は非盲検であることで、他に使われた治療薬の差などが結果に影響した恐れがあります。同試験の結果はanakinraが有効だった二重盲検のプラセボ対照第III相試験(SAVE-MORE)の結果と対照的です。欧州は600例近くが参加したそのSAVE-MORE試験結果に基づいてコロナ肺炎患者へのanakinraの使用を2021年12月に承認しています8)。SAVE-MORE試験は重度呼吸不全か死亡に至りやすいことと関連する可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(suPAR)上昇(6ng/mL以上)患者を対象としました。今回発表されたスペインでの試験結果と異なり、SAVE-MORE試験では重症呼吸不全への進展か死亡がanakinra使用群ではプラセボ群に比べて少なく済みました(20.7% vs.31.7%)9)。また、生存の改善も認められ、anakinraは28日間の死亡率をプラセボ群の半分以下に抑えました(3.2% vs.6.9%)。SAVE-MORE試験の被験者選定基準にならい、欧州はsuPARが6ng/mL以上の酸素投与コロナ肺炎患者への同剤使用を認めています10)。米国もsuPARが上昇しているコロナ肺炎患者への同剤使用を取り急ぎ認可しています11)。参考1)Otsuka Pharmaceutical and Lundbeck Announce Positive Results Showing Reduced Agitation in Patients with Alzheimer’s Dementia Treated with Brexpiprazole / BusinessWire 2)Otsuka and Lundbeck Announce FDA Acceptance and Priority Review of sNDA for Brexpiprazole for the Treatment of Agitation Associated With Alzheimer’s Dementia / BusinessWire3)Otsuka Pharmaceutical and Lundbeck present positive results showing reduced agitation in patients with Alzheimer’s dementia treated with brexpiprazole at the 2022 Alzheimer's Association International Conference / BusinessWire4)Otsuka and Lundbeck Issue Statement on U.S. Food and Drug Administration (FDA) Advisory Committee Meeting on REXULTI® (brexpiprazole) for the Treatment of Agitation Associated with Alzheimer’s Dementia / BusinessWire5)FDA Briefing Document6)Otsuka, Lundbeck head into key FDA panel meeting with agency support for their Rexulti application / FiercePharma7)Fanlo P, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e237243.8)COVID-19 treatments: authorised / EMA9)Kyriazopoulou E, et al. Nature Medicine. 2021;27:1752-1760.10)Kineret / EMA11)Kineret® authorised for emergency use by FDA for the treatment of COVID-19 related pneumonia / PRNewswire

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医療者の無症候コロナ感染が増加、既感染の割合は?/順大

 本邦では、ワクチン接種率が高いにもかかわらず、多くの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が確認されている。しかし、感染の既往を示す抗体の陽性率に関する研究は限られている。そこで順天堂大学では、医療者をはじめとした職員を対象として、2020年から年次健康診断時に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査を実施している。2020年、2021年における抗N抗体※陽性率はそれぞれ0.34%、1.59%と低かったが、今回報告された2022年の調査結果では、17.7%に増加していた。また、抗N抗体陽性者のうち、約半数は感染の自覚がなかったことが明らかになった。本研究結果は、順天堂大学の金森 里英氏らによって、Scientific Reports誌2023年3月27日号で報告された。※ワクチンを接種した場合は抗S抗体が陽性となり、SARS-CoV-2に感染した場合は、抗N抗体と抗S抗体の両方が陽性になる。無症候コロナ感染が医療機関においても多く認められた 順天堂大学の年次健康診断(2022年7月17日~8月21日)を受診した3,788人(医師1,497人、看護師1,080人、検査技師182人、その他の医療従事者320人、事務職員542人、研究者157人、その他10人)を対象に、SARS-CoV-2抗体検査を実施した。 無症候コロナ感染を調査した主な結果は以下のとおり。・対象者3,788人の年齢(中央値)は36歳(範囲:20~86)で、女性が62.8%であった。ワクチン3回接種は89.3%であった。・2022年の年次健康診断時までに、357人がPCR検査に基づく新型コロナ感染歴を有していた。・2022年における抗N抗体陽性率は17.7%(669/3,788人)であった(2020年:0.34%、2021年:1.59%)。・抗N抗体陽性者669人のうち48.6%(325人)は、過去にPCR検査に基づく新型コロナ感染歴がなかった。また、抗N抗体陽性で、過去にPCR検査に基づく新型コロナ感染歴のある344人のうち、40人は無症候感染であった。・PCR検査に基づく新型コロナ感染歴のある357人のうち、79.0%(282人)は2022年1月以降(東京でのオミクロン株の初確認後)に感染していた。 著者らは、「ワクチン接種率が高く、徹底した感染対策がとられている医療機関においても無症候コロナ感染が多く認められたことから、無症候感染率の高さが急速な感染拡大を引き起こす要因となっている可能性がある。医療現場での感染拡大を完全に抑制することは難しいかもしれないが、医療現場では定期的な検温、衛生管理、マスクなどの継続的な取り組みが必要になる」とまとめた。

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第143回 コロナ5類へ移行後、療養期間は5日間に短縮を/厚労省

<先週の動き>1.コロナ5類へ移行後、療養期間は5日間に短縮を/厚労省2.新興感染症対策を加えた第8次医療計画のパブコメ募集/厚労省3.医療・介護人材不足につけ込む悪質な紹介業者へ対策を/規制改革推進会議WG4.出産費用の自己負担ゼロに向けて検討開始へ/岸田総理5.整形外科医の過労死を認定、病院側に賠償金4900万円の判決/群馬県6.花粉症への効果をうたう健康茶からステロイドを検出、販売停止へ/国民生活センター1.コロナ5類へ移行後、療養期間は5日間に短縮を/厚労省厚生労働省は、4月14日に令和5年5月8日以降の感染症法の取扱いに関する事前の情報提供として、各都道府県、保健所設置市などに対して「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の療養期間の考え方等について」の事務連絡を発出した。この中で、新型コロナウイルスが感染症法の5類へ移行した後は、感染者の療養の目安を発症翌日から原則5日とするほか、医療体制については、発熱患者に対応する医療機関を約1.5倍の6万4千施設に増やすこと、医療費については高額な治療薬代以外は自己負担が発生するとしている。また、感染者数については5月8日以降、定点把握となり、毎週金曜日の公表となるほか、死亡者数は毎日の公表も中止し、5ヵ月後にまとめる人口動態統計により月単位での公表となる。5類への移行については今月後半に開催される感染症部会で最終確認の上、決定される見込み。(参考)コロナ死者数の公表、5か月後に月単位で…感染者数は毎週金曜日(読売新聞)療養期間やマスク、同居家族の感染は コロナ5類移行後の考え方公表(朝日新聞)コロナ5類移行後、感染者の外出自粛義務はなくなるが、「発症から5日間は外出を控える」などの留意を-厚労省(Gem Med)新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の療養期間の考え方等について[令和5年5月8日以降の取扱いに関する事前の情報提供](厚労省)感染症法上の位置づけ変更後の療養に関するQ&A(同)2.新興感染症対策を加えた第8次医療計画のパブコメ募集/厚労省厚生労働省は、4月14日に「医療提供体制の確保に関する基本方針の見直し案」を公表し、同日、パブリックコメントの募集を開始した。去年12月にまとめた「第8次医療計画等に関する意見のとりまとめ」とは別にとりまとめられた「新興感染症発生・まん延時における医療」を含めて、第8次医療計画の「医療計画作成指針」などの策定で、新興感染症の発生・まん延時に、通常医療と両立しながら対応できる体制を確保するため、各都道府県に対して、病床確保について医療機関との協定を締結するよう求めている。パブリックコメントは4月20日まで受付け、適用開始は令和6年4月1日の予定。(参考)新興感染症対応、通常の医療と両立 医療体制確保へ基本方針案、厚労省(CB news)医療提供体制の確保に関する基本方針の一部を改正する件(案)について(概要)(厚労省)第8次医療計画等に関する意見のとりまとめ(同)医療提供体制の確保に関する基本方針の一部を改正する件(案)に関する御意見の募集について(同)3.医療・介護人材不足につけ込む悪質な紹介業者へ対策を/規制改革推進会議WG政府は4月14日に開催した規制改革推進会議のワーキンググループにおいて「医療・介護」の人材紹介業者について、質の向上や適正な競争の促進を図る方針を確認した。医療、介護分野では、人手不足が深刻な中、人材紹介会社が高額な手数料を提示して、介護事業者らの経営を圧迫しており、診療報酬や介護報酬の引き上げが賃上げにつながらないなど批判が上がっていた。今後は、お祝い金制度の提示や斡旋した就職者に対して就職後2年以内に転職勧奨する悪質な人材紹介会社への対策を強化する。(参考)医療・介護で人材紹介会社への対策を検討 政府方針 悪質業者が「悪循環を招いている」(Joint)医療・介護、悪質人材業にメス 許可要件厳格化を検討(日経新聞)2022 年度特別養護老人ホームの人材確保および処遇改善に関する調査について(福祉医療機構[WAM])特養の8割が人材紹介会社に「不満」 大多数が「手数料高い」と回答=WAM調(Joint)4.出産費用の自己負担ゼロに向けて検討開始へ/岸田総理岸田 文雄総理大臣は、4月13日に衆議院の厚生労働委員会で、出産費用に公的医療保険を適用する検討をめぐる議論で、「保険適用する際には原則、自己負担をゼロにする」意向を示した。公明党の吉田 久美子衆院議員の質問に対して、「出産育児一時金を引き上げることによって、平均的な費用をすべて賄えるようにするとしたわけでありますから、保険適用にあたっても、こうした基本的な考え方、これは踏襲していきたい」と答弁した。一方、全国一律の診療報酬となるとサービスの選択の幅を狭めることになるとして、「出産費用の見える化を進め、効果などの検証を行うことが大事だ」と強調した。これを受けて、自民党は13日、政務調査会などの合同会議を開き、財源を含め議論していく方向を確認し、政策に盛り込む議論に着手した。一方、日本産婦人科医会の石渡 勇会長は記者懇談会で、「正常分娩の出産費用への公的医療保険の適用を検討する政府の方針を受けて、保険を適用するなら、全国で分娩を行える体制を維持することが最優先課題だ」と見解を述べた。(参考)出産費用 “保険適用の場合 自己負担生じない制度検討” 首相(NHK)自民 少子化対策の強化 政策の優先順位や予算など議論開始(同)「出産費用の自己負担ゼロ」、岸田首相が実現に意欲 消極姿勢を転換(朝日新聞)出産保険適用、分娩可能な体制維持が最優先 日本産婦人科医会会長(CB news)5.整形外科医の過労死を認定、病院側に賠償金4900万円の判決/群馬県群馬県伊勢崎市の病院で、勤務していた整形外科医(当時46歳)が、手術後の執刀後に意識を消失し、1ヵ月後に心筋梗塞で死亡したのは、過労死だとして、運営していた法人を遺族が約3億円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が4月14日に前橋地方裁判所で言い渡された。杉山裁判官は「著しい疲労の蓄積を認識できたのに、人員の補充や業務の軽減を怠った」として、法人側に計約4,900万円の賠償を命じた。同院では、男性医師を含め常勤医2名の体制であったが、もう1人の医師が休職したため、1名での勤務による長時間労働が常態化していた。死亡の直前1ヵ月間の時間外労働は107時間であった。(参考)その日4回目の手術後に倒れ…医師の過労死を認定、病院側に賠償命令(朝日新聞)医師過労死で病院側に4900万円の賠償命令 手術終え心肺停止(毎日新聞)6.花粉症の効果をうたう健康茶からステロイドが検出、販売停止へ/国民生活センター国民生活センターは、健康茶にステロイド成分が混入されていることが判明したと発表した。花粉症に効くとして販売されていた健康茶を飲用し、劇的に花粉症が改善した患者の血液検査で、副腎皮質ホルモンの値が低下するなど異常があったとの報告が、医師からの事故情報に連絡があったことがきっかけ。国民生活センターの調査の結果、お茶1gあたりデキサメタゾンが3μg含まれていたため、医薬品医療機器法違反の恐れがあるため、国民生活センターは厚生労働省と消費者庁に対して、事業者への指導を求めた。また、国民生活センターは飲用している人に対して、医療機関に受診して医師に相談するよう求めている。(参考)花粉症への効果をほのめかした健康茶にステロイドが含有-飲用されている方は、医療機関にご相談を-(国民生活センター)花粉症への効果うたう健康茶からステロイド検出…「血液検査に異常」と報告あり判明(読売新聞)

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ドキシサイクリン曝露後予防、男性間性交渉者の細菌性性感染症に有効か/NEJM

 男性間性交渉者(MSM)では、ドキシサイクリン曝露後予防(doxy-PEP)は標準治療と比較して、細菌性性感染症(STI)の発生率が有意に低く、有害事象プロファイルや安全性、受容性に関する懸念はないことが、米国・ザッカーバーグ・サンフランシスコ総合病院・外傷センターのAnne F. Luetkemeyer氏らが実施した「DoxyPEP試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年4月6日号で報告された。米国4施設の無作為化試験 DoxyPEP試験は、サンフランシスコ市とシアトル市の4つの施設で実施された非盲検無作為化試験であり、2020年8月~2022年5月の期間に参加者の登録が行われた(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染に対する曝露前予防(PrEP)を行っている人々(PrEPコホート)、またはHIVに感染している人々(PLWHコホート)で、過去1年間にNeisseria gonorrhoeae(淋菌)、Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマチス)の感染、または梅毒を有したことのあるMSMおよびトランスジェンダー女性であった。 被験者は、コンドームを使用しない性交から72時間以内にドキシサイクリン(200mg)の錠剤を内服する群、またはドキシサイクリンを使用しない標準治療を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。STI検査は年4回(3ヵ月ごと)行った。 主要エンドポイントは、追跡期間の四半期当たり1件以上のSTI(淋病、クラミジア、梅毒)の発生とした。1例予防のための四半期当たり治療必要数は約5件 501例が登録された。PrEPコホートが327例(ドキシサイクリン群 220例、標準治療群107例)、PLWHコホートは174例(119例、55例)であった。全体の67%が白人で、7%が黒人、11%がアジア人/太平洋諸島系、30%がヒスパニック系/ラテン系だった。 PrEPコホートにおいては、STIの診断は、ドキシサイクリン群では四半期の受診570件のうち61件(10.7%)、標準治療群では257件のうち82件(31.9%)であり、両群間の絶対差は-21.2ポイント、相対リスクは0.34(95%信頼区間[CI]:0.24~0.46、p<0.001)であった。 また、PLWHコホートにおけるSTIの診断は、ドキシサイクリン群では四半期の受診305件のうち36件(11.8%)、標準治療群では128件のうち39件(30.5%)であり、絶対差は-18.7ポイント、相対リスクは0.38(95%CI:0.24~0.60、p<0.001)だった。 1例のSTI発生の予防に要する四半期当たりの治療必要数は、PrEPコホートが4.7、PLWHコホートは5.3であった。 3種のSTIの発生率は、いずれもドキシサイクリン群が標準治療群に比べて低かった。PrEPコホートにおける相対リスクは、淋病が0.45(95%CI:0.32~0.65)、クラミジアが0.12(0.05~0.25)、梅毒が0.13(0.03~0.59)であり、PLWHコホートでは、それぞれ0.43(0.26~0.71)、0.26(0.12~0.57)、0.23(0.04~1.29)だった。 ドキシサイクリンに起因するGrade3の有害事象は5件みられたが(下痢性イベント3件、頭痛/片頭痛2件)、ドキシサイクリンによる重篤な有害事象は発現しなかった。ドキシサイクリン群では、参加者の2%が許容できない有害事象または好みにより投与を中止した。また、淋菌の培養が可能であった参加者においては、テトラサイクリン耐性の淋菌が、ドキシサイクリン群では13例中5例、標準治療群では16例中2例で発生した。 著者は、「これらの結果は、社会経済的、人種的に多様な集団において、HIV感染の状況にかかわらず、MSMでの細菌性STI予防におけるdoxy-PEPの有効性を示すものである」としている。

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新型コロナ、5類感染症変更後の療養期間を発表/厚労省

 厚生労働省は4月14日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症に変更される5月8日以降の取り扱いについて発表した。5類変更後の療養期間は、法律に基づく外出自粛は求められず個人の判断に委ねられる。そのうえで外出を控えることが推奨される期間として、発症日を0日目として5日間は外出を控えること、かつ、5日目に症状が続いている場合は、熱が下がり、痰や喉の痛みなどの症状が軽快して24時間程度が経過するまでは外出を控え様子を見ることとした。なお、学校における取り扱いについては、文部科学省にてパブリックコメントを実施予定。 国立感染症研究所のデータに基づいた厚労省の発表によると、新型コロナウイルスを人にうつす期間には個人差があるが、発症2日前から発症後7~10日間は感染性のウイルスを排出する。発症後3日間は、感染性のウイルスの平均的な排出量が非常に多く、5日間経過後は大きく減少することから、とくに発症後5日間が他人に感染させるリスクが高いことに注意が必要だとしている。 5月8日以降の新型コロナ患者の外出自粛については以下の情報を参考とし、各医療機関や高齢者施設等でも、同情報を参考に新型コロナに罹患した従事者の就業制限を考慮するよう推奨している。なお、感染が大きく拡大している場合には、一時的により強い「お願い」を行う場合もあるという。(1)外出を控えることが推奨される期間・とくに発症後5日間が他人に感染させるリスクが高いことから、発症日を0日目(無症状の場合は検体採取日を0日目とする)として5日間は外出を控えること。※この期間にやむを得ず外出する場合でも、症状がないことを確認し、マスク着用等を徹底する。・5日目に症状が続いている場合は、熱が下がり、痰や喉の痛みなどの症状が軽快して24時間程度が経過するまでは、外出を控え様子を見ること。(2)周りの方への配慮・10日間が経過するまでは、ウイルス排出の可能性があることから、不織布マスクの着用や、高齢者等ハイリスク者と接触は控える等、周りの方へうつさないよう配慮する。発症後10日を過ぎても咳やくしゃみ等の症状が続いている場合には、マスクの着用など咳エチケットを心掛ける。 5月8日以降の「濃厚接触者」の取り扱いについては、一般に保健所から新型コロナ患者の「濃厚接触者」として特定されることはない。また、「濃厚接触者」として法律に基づく外出自粛は求められない。

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第155回 「サル痘」感染対策、やってはいけない患者啓発とは

先日、京都滞在中、ある1通のメールを受信した。国立国際医療研究センター広報企画室からだ。フリーライターでも過去に取材をしたことがある医療機関・研究機関の広報部門に名刺を渡すと、ニュースリリースをはじめとするお知らせが届くようになる。私に国立国際医療研究センターからメールが届くようになったのは、2014年に扶桑社から発刊されている「週刊SPA!」で、知人を介して新興・再興感染症の特集を企画している編集者を紹介され、同特集の執筆者として同センターに取材に行ったのがきっかけである。ちなみにこの時は異例づくしだった。そもそも初対面となる担当編集者から指定された打合せ場所が同センターの結核病棟だった。なんと、担当編集者自らが結核にかかり、この病棟に入院中という。そこで私は同センターに赴き、1階の自動販売機でN95マスクを購入して装着。結核病棟に入院する編集者のもとを訪ねて打ち合わせをした。当時、アフリカではエボラウイルス病(旧エボラ出血熱)が流行していたことに加え、編集者本人が結核にかかったことで企画を思いついたという。なんともアグレッシブな企画立案経緯だが、実は雑誌の特集などでは編集者本人が当事者だったことがきっかけで企画が生まれることはよくある。結局、この時は編集者から病棟内を案内され、そこにあるオープンスペースで打ち合わせをした。編集者曰く、まずは特集内でエボラウイルス病と結核を取り上げることは決まっているので、それ以外にふさわしい感染症をリストアップして欲しいという。そこで私が挙げたのが「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」「デング熱」「E型肝炎」。最終的にはデング熱は外され、それ以外の2つをやることとなった。そこでSFTSの取材で再び同センターを訪れたのだった。取材当日、対象者である医師と向かい合った瞬間、開口一番に「なんかさっきデング熱の国内発生が報じられてました」と聞かされた。そのニュースをまだ知らなかった私は「え?」となった。何とも間が悪い。髭面のこの医師に企画段階でデング熱が外されたことを話すと、「あははは」と笑われた。この医師こそが今回のコロナ禍で全国区の有名人となり、現在は大阪大学大学院医学系研究科の感染制御医学講座教授に転身された忽那 賢志氏である。さて前置きが長くなったが、同センターからのメールには、今年に入ってから国内で急増している「サル痘」に関して、厚生労働省がメディア向けのハイブリット勉強会を開催する旨が記載されていた。同センターの医師が参加するため、情報提供のためリリースを行ったとある。私個人としても興味を持っていた事象だったので、ぜひ参加したかったが、基本は省内の記者クラブ所属記者向けである。開催日は金曜日夕方で、この日の午前中まで私は京都にいて夕刻までには東京に戻る予定だった。十分参加可能だ。とりあえずリリースにあった結核感染症課の担当者に電話連絡し、クラブ外からの参加が可能かを尋ねたところ、現在確認中なので決まり次第連絡をするとのこと。翌日午前中、京都最後のワーケーションとして仁和寺で満開だった御室桜を見ている時に参加可との着信が入り、その足で京都駅に向かい、新幹線に飛び乗った。さて、国内でのサル痘患者については4月12日現在108例が報告されており、うち100例が2023年になってからの発生報告例だ。とりわけ3月以降増加している。2022年内に報告された8例では、うち5例は海外渡航歴あるいは国内来訪中の外国人と接触があったが、2023年以降報告されている100例のうち海外渡航歴などがあったのはわずか1例。その意味では輸入感染症から土着性の感染症になりつつあるステージである。これまで判明した患者はすべて男性である。世界保健機関(WHO)がサル痘のハイリスク群として指摘しているのがMSM(Men who have Sex with Men)である。この辺の定義をより厳格に記述しておくと、MSMは男性同性愛者とイコールではなく、バイセクシャルも含む。現在、日本国内で報告されているサル痘患者が全員男性であることからもわかるように、MSMは明らかなハイリスク群である。勉強会でもこのような国内での感染状況などの事実関係や代表的な症状、予防法、現在の治療法などが簡潔に解説され、あとは出席した記者と厚労省担当者や国立国際医療研究センターからの出席医師と質疑応答になった。実は特筆すべきだったのがこの場のプレゼン側の出席者として、厚労省が新宿でHIV/エイズ、性感染症などのセクシャルヘルス情報センターを運営するNPO法人の代表を呼んだことである。NPO法人代表からは、参加した記者達に向けて、「報道時に感染者や感染経路と関連した特定の属性の人達への差別・偏見に十分にご注意いただきたい」とのお願いがあった。代表はより具体的に次のように語った。「特定の人たちに対する差別・偏見が生まれることは人権の視点で当然避けられるべきです。さらに過去40年にわたるエイズ対策の中で私達が学んできたことは、社会での差別・偏見が高まれば、感染する可能性のある人が(差別・偏見を受けやすい)その属性と関連付けられてしまうことを気にして、たとえば医療機関の受診や検査・相談を受けることを避けてしまう。それによって、必要な人が必要な予防やケアに繋がらなくなってしまう。その結果、感染症の流行を終わらせることがさらに遅くなってしまう」この点はその通りである。もっとも報道としては悩みが深い部分でもある。というのも前述のような国内発生例が現状では全員男性、WHOがMSMをハイリスク群と指摘している事実は報じないわけにはいかない。ところが事実を単純に報じるだけでは、少なからぬ人がサル痘を「男性同性愛者特有の性感染症」と受け止めて他人事と思い、一部ではそれが先鋭化してMSMへの偏見・差別につながることは十分起こり得るからだ。もちろん報道を含めた情報発信側により突っ込んだ努力は求められる。たとえば実際のサル痘の感染経路である▽げっ歯類をはじめサルやウサギなどウイルスを保有する動物との接触▽感染者や動物の皮膚の病変・体液・血液との接触(性的接触を含む)▽感染者とかなり接近した対面での飛沫への長時間の曝露▽感染者が使用した寝具などとの接触、を具体的に報じることがその1つである。また、この感染経路を考えれば性感染症というのも正確ではないので、そうした表現は使わない。さらに、感染経路と現状の国内での感染急増を考慮すれば現在は女性も含めて多くの人が感染リスクにさらされているステージになっていることを報じることも必要だろう。しかし、そこまでしてもなお人は自分にわかりやすく解釈してしまう。報道は個人の解釈までには手が及ばないのである。たぶんこうした歯がゆい思いはMSMの人達に接したことがある医療従事者ならば経験していることではないだろうか。確かにかつてと比べれば、性的マイノリティに関する認識や議論はかなり進化している。とはいえ、政治家の不穏当発言に代表されるように、今も差別・偏見は各所に根強く残っている。差別・偏見を肯定するつもりはさらさらないが、社会全体でみると、少数派への理解がどうしても遅れてしまうのは世の常である。これを少しでも変えていくためには、ある程度のトップダウン型の対応が必要になると個人的には考えている。具体的には教育や法整備を実施することで、やや強制的に社会を変えていくのである。つまり「外堀」を埋めて否が応でも理解をしなければならない環境を作り出す。その意味で、今回このサル痘のメディア勉強会に厚労省がMSMを支援する当事者を呼んだことは、私は英断だと思っている。一方、サル痘の件も含め、性的マイノリティの人達が抱える心身のリスクに接する機会が社会のほかのクラスターよりも明らかに多いのは医療従事者である。この環境を考えれば、医療従事者向けにこうした性的マイノリティに関する理解を深めるための教育も国が率先して取り組んでいく時期に差し掛かっているのではないだろうかとも思っている。

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60歳以上への2価RSVワクチン、下気道・急性呼吸器疾患を予防/NEJM

 呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症に対する2価融合前F蛋白ベース(RSVpreF)ワクチンは、60歳以上の高齢者において、RSV関連下気道感染症およびRSV関連急性呼吸器疾患を予防し、安全性への明らかな懸念はないことが示された。米国・ロチェスター大学医療センターのEdward E. Walsh氏らが、日本を含む7ヵ国240施設が参加し行われた無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「RENOIR試験」の中間解析結果を報告した。RSV感染症は、高齢者に重大な疾患を引き起こすが、高齢者集団におけるRSVpreFワクチンの有効性と安全性は不明であった。NEJM誌オンライン版2023年4月5日号掲載の報告。60歳以上の約3万5,000例を対象に、RSVpreFワクチンの有効性と安全性を評価 研究グループは2021年8月31日~2022年7月14日に、60歳以上の高齢者合計3万5,971例を、RSVpreFワクチン120μg(RSVサブグループ、RSV-AおよびRSV-B、各60μg)群(ワクチン群)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、単回筋肉内投与した。 主要エンドポイントは2つで、少なくとも2つまたは3つの兆候/症状(咳、喘鳴、喀痰、息切れ、頻呼吸など)が1日以上持続し、かつ症状発現後7日以内にRT-PCR検査でRSV感染が確認されたRSV関連下気道感染症(すなわち急性呼吸器疾患)に対するワクチンの有効性であった。副次エンドポイントは、RSV関連急性呼吸器疾患に対するワクチンの有効性とした。 中間解析(カットオフ日2022年7月14日)時点で、3万4,284例がRSVpreFワクチン(1万7,215例)またはプラセボ(1万7,069例)の接種を受けた。兆候/症状を伴うRSV関連下気道感染症の予防効果(ワクチンの有効率)は67~86% 少なくとも2つの兆候/症状を伴うRSV関連下気道感染症は、ワクチン群11例(1.19例/1,000人年)、プラセボ群33例(3.58例/1,000人年)に認められ、ワクチンの有効率は66.7%(96.66%信頼区間[CI]:28.8~85.8)であった。また、少なくとも3つの兆候/症状を伴う同疾患はそれぞれ2例(0.22例/1,000人年)および14例(1.52例/1,000人年)で確認され、ワクチンの有効率は85.7%(96.66%CI:32.0~98.7)であった。 RSV関連急性呼吸器疾患は、ワクチン群22例(2.83例/1,000人年)、プラセボ群58例(6.30例/1,000人年)に発生し、ワクチンの有効率は62.1%(95%CI:37.1~77.9)であった。 注射部位反応の発現率はワクチン群(12%)がプラセボ群(7%)より高かったが、全身性のイベント発現率は同程度であった(それぞれ27%、26%)。ワクチン接種後1ヵ月までに報告された有害事象の発現率は同程度で(それぞれ9.0%、8.5%)、治験担当医師によって接種に関連した有害事象と判断されたのはそれぞれ1.4%、1.0%であった。 重症または生命を脅かす有害事象は、ワクチン群0.5%、プラセボ群0.4%で報告された。データカットオフ日までに報告された重篤な有害事象は、各群2.3%であった。

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第40回 「5類新型コロナ」の出勤停止は何日間?

意外にも政府は「5日間」を推す形にインフルエンザには、学校保健安全法において「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」という細かい規定があり、学校だけでなく、企業でもこれを用いて運用しているケースが多いと思います。新型コロナが「5類感染症」になった後、これまであった「療養期間はなしになる」という理解が広まっていますが、さすがにそれはないでしょう。たぶん。ゴホゴホ咳をして3日目で出勤されたら、いくら何でも迷惑というものですが、政府からは、どういうわけか「5日間」という提案がなされているようです。現在はまだ新型インフルエンザ等感染症のもとにあるため、感染症法に基づいて、症状がある人は7日間が経過し症状軽快から24時間経過した場合、無症状の人は5日目に検査キットで陰性が確認できたら6日目から解除可能、と定められています。有症状だと、インフルエンザより2日間長いくらい対応しないと、感染が広がりやすいという認識だったのです。それがどういうわけか、インフルエンザと同様「5日間」ということになりそうです。PCRで新型コロナ陽性が確定した後、感染性の新型コロナウイルスが検出されなくなるまでの期間は、オミクロン株で中央値5日間とされています1)。また、国立感染症研究所のデータでは10日を超えての感染リスクは低いとされています2)。7日間というのはちょうどこの間くらいの位置で、全員が感染させないというわけではない点に注意が必要です。発症後7日目には、幾何平均ウイルス力価が検出限界値を下回るというデータも直近示されており3)、CDCも現時点では療養期間は5日間としています。現状、いくらインフルエンザと同じ「5類感染症」に移行するとはいえ、同じようなウイルスだからということで5日間に短縮するとなると、それなりのリスクを抱えることになるかもしれません。学校保健安全法に明記される方針であり、近々厚労省から「5類」後の療養期間について正式な発表があるでしょう。医療機関で働く人の場合、感染の危険性にさらされるのは患者さんですから、個々の病院で検討されてもよいかもしれません。濃厚接触者の概念は新型コロナの濃厚接触者の自宅待機期間は5日間とされていました。しかしもはや、濃厚接触者かどうかなどあまり気にされていないムードになっていて、これについては「5類」化によって消失するのではないかと思います。濃厚に曝露した人は注意してください、くらいの文言になるかもしれません。参考文献・参考サイト1)Boucau J, et al. N Engl J Med. 2022;387:275-277.2)国立感染症研究所:SARS-CoV-2 オミクロン株感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第6報):ウイルス学的・血清学的特徴3)国立感染症研究所:オミクロン系統感染者鼻咽頭検体中の感染性ウイルスの定量

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コロナ入院患者のヘパリンによる治療効果、重症度・BMIで差/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者において、治療量ヘパリン投与の効果にばらつきがあることが、カナダ・トロント総合病院のEwan C. Goligher氏らにより示された。治療効果の異質性(HTE)を3つの手法で評価した結果、入院時の重症度が低い人やBMI値が低い人では有益である可能性があるが、重症度が高い人やBMI値が高い人では有害となる可能性が高かったという。これまでに行われたCOVID-19入院患者を対象とした治療量ヘパリンに関する無作為化臨床試験(RCT)では相反する結果が示されており、個人間のHTEが原因ではないかとみなされていた。結果を踏まえて著者は、「RCTのデザインおよび解析では、HTEを考慮することが重要であることが示された」とまとめている。JAMA誌2023年4月4日号掲載の報告。治療効果の異質性を3つの手法で評価 研究グループは2020年4月~2021年1月に、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアで、COVID-19で入院した3,320例を登録し、治療量ヘパリン vs.通常ケアの薬物療法による血栓予防効果を比較した複数プラットフォーム適応型RCTについて、探索的解析を行った。また、治療量ヘパリンのHTEについて、(1)ベースライン特性の従来型サブグループ解析、(2)多変量アウトカム予測モデル(リスクベースのアプローチ)、(3)多変量因果フォレストモデル(効果ベースのアプローチ)の3つの方法で評価した。解析は、オリジナル試験と一貫したベイジアン統計を主として用いた。 主要アウトカムは、臓器支持療法を必要としない日数(入院中死亡は-1とし、退院まで生存した場合は、最大21日のうち心血管系・呼吸器系の臓器支援が不要だった日数)と、入院生存率だった。複数プラットフォームRCT集団では、治療量ヘパリンの効果認められず 治療量ヘパリン群と通常ケア群のベースラインの人口統計学的特性は似かよっており、年齢中央値は60歳、女性は38%、32%が非白人種、45%がヒスパニック系だった。 複数プラットフォームRCT集団では、治療量ヘパリンによる臓器支持療法を必要としない日数の増大は認められなかった(オッズ比[OR]の事後分布中央値:1.05、95%信用区間[CrI]:0.91~1.22)。 従来型サブグループ解析では、治療量ヘパリンの臓器支持療法を必要としない日数に対する効果は、ベースラインの臓器支持療法の必要性(OR中央値:重症0.85 vs.軽症1.30、OR差の事後確率99.8%)、性別(同:女性0.87 vs.男性1.16、96.4%)、BMI(30未満 vs.30以上、すべての比較において>90%)で差が認められた。 リスクベースの解析では、予後不良リスクが最も低い患者がヘパリンによる便益を得られる傾向が最も高く(最低十分位群:>1のORの事後確率92%)、予後不良リスクが最も高い患者がヘパリンによる害を受ける傾向が最も高かった(最高十分位群:<1のORの事後確率87%)。 効果ベースの解析では、害を受けるリスクが最も高い患者(治療効果の差に関するp=0.05)はBMI値が高く、ベースラインで臓器支持療法を要する可能性が高い傾向が認められた。

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妊婦への2価RSVワクチン、乳児の重症下気道感染を予防/NEJM

 妊婦への2価RSV融合前F蛋白ベース(RSVpreF)ワクチン投与は、乳児において診察を要する重症の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)関連下気道感染症に対し予防効果があり、安全性への懸念は示されなかった。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のBeate Kampmann氏らが、約7,400例の妊婦とその出生児を対象に行った第III相二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果を報告した。これまで、同ワクチンの妊婦への投与の効果は不明であった。NEJM誌オンライン版2023年4月5日号掲載の報告。18ヵ国で49歳以下の健康な妊婦を対象に試験 研究グループは18ヵ国で、妊娠24~36週、49歳以下の健康な妊婦を対象に試験を行った。被験者を無作為に2群に割り付け、一方には2価RSVpreFワクチン(120μg)を、もう一方にはプラセボをいずれも単回筋肉内投与した。 有効性の主要エンドポイントは2つで、生後90日、120日、150日、180日以内の乳児における、診察を要した重症RSV関連下気道感染症と、診察を要したRSV関連下気道感染症だった。 ワクチンの有効性を示す信頼区間(CI)下限値(90日以内が99.5%CI値、それ以降は97.58%CI値)は20%超と規定した。有害事象発生率は両群で同等 2020年6月17日~2022年10月2日に7,392例の妊婦が無作為化され、そのうち7,358例(RSVpreFワクチン群3,682例、プラセボ群3,676例)が接種および評価を受けた。乳児についてはRSVpreFワクチン群3,570例とプラセボ群3,558例が組み込まれた。 本論は事前規定の中間解析の結果を示すもので、主要エンドポイントの1つに関して、ワクチンの有効性を示す基準が満たされた。 生後90日以内の、診察を要した重症RSV関連下気道感染症は、RSVpreFワクチン群の乳児で6件、プラセボ群では33件だった(ワクチン有効性:81.8%、99.5%CI:40.6~96.3)。同様に生後180日以内では19件と62件だった(ワクチン有効性:69.4%、97.58%CI:44.3~84.1)。 一方で、診察を要したRSV関連下気道感染症については、生後90日以内でRSVpreFワクチン群の乳児24件、プラセボ群56件が報告され(ワクチン有効性:57.1%、99.5%CI:14.7~79.8)、統計学的な有効性を示す基準を満たさなかった。 安全性に関連する兆候は、妊婦および生後24ヵ月までの乳幼児ともに認められなかった。ワクチン投与1ヵ月以内または生後1ヵ月以内に発生した有害事象の発生率は、RSVpreFワクチン群(妊婦13.8%、乳児37.1%)とプラセボ群(13.1%、34.5%)で同程度だった。

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第156回 大阪急性期・総合医療センターがサイバー攻撃の報告書公表、VPNの脆弱性狙われ閉域網破られる、IDとパスワード使い回しで被害拡大

診療システムの全面復旧に73日間を要し、逸失利益十数億円以上こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は足慣らし山行で久しぶりに奥多摩に行って来ました。奥多摩湖から惣岳山、御前山、湯久保山を経て檜原村に下るコース。例年この時期、御前山周辺ではカタクリの花が開花して楽しませてくれるのですが、今年は時期が早いのか遅いのか、花の数が今ひとつでした。カタクリは発芽したときは1枚葉で、この状態が7〜8年続き、葉が2枚になって初めて開花します。そういえば、今年の御前山周辺は1枚葉が多かった印象です。来春、再び訪れてみようと思います。さて、今回は昨年10月31日に起きた地方独立行政法人 大阪府立病院機構・大阪急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)でのランサムウエア(身代金要求型ウイルス)によるサイバー攻撃について再度書いてみたいと思います。ランサムウエアによるサイバー攻撃によって発生したシステム障害によって、診療の停止を長期間余儀なくされた同センターは3月28日、外部有識者による情報セキュリティインシデント調査委員会(委員長・猪俣 敦夫大阪大教授)の報告書を公表しました1)。委託先の給食事業者経由で病院サーバの認証情報が抜き取られ、病院内のシステムが攻撃を受けたことや、基幹システムのサーバの大部分がランサムウエアによって暗号化されてしまい、診療システムの全面復旧に73日間を要したことなど、被害の詳細が明らかになりました。報告書では、電子カルテを含む基幹システムが同じIDとパスワードを使い回す状態であったことが被害拡大を招いたとも指摘しています。被害総額は現在精査中としながらも「調査・復旧費用で数億円、診療制限に伴う逸失利益として十数億円以上を見込んでいる」としています。診療体制の完全復旧まで73日かかるこの事件については発生当初、本連載の「第135回 大阪急性期・総合医療センターにサイバー攻撃、『身代金受け取った』報道の町立半田病院の二の舞?」でも書きました。経緯を簡単に振り返っておきましょう。事件は2022年10月31日の早朝に発覚しました。午前6時40分ごろ、職員がサーバの障害に気づき、同8時半ごろ、業者の調査でランサムウエアの攻撃と判明しました。サーバ上の画面には英語で「すべてのファイルは暗号化された。復元したければ、指定のアドレスにメールを送りビットコインで支払え。金額はメールを送る時間で変わる」という文面と、データに対する「身代金」を要求するメッセージが表示されていました。同センターは「金銭を支払う考えはない」としてすぐに大阪府警に相談、同日夜に記者会見を行いました。同センターは、システム障害によって患者の電子カルテが閲覧できず、診療報酬の計算ができない状態に陥り、外来診療を中止、緊急以外の予定手術は延期となりました。電子カルテシステムを含む基幹システムが再稼働し、外来での電子カルテ運用が再開したのは約6週間後でした。病棟での電子カルテ運用の再開は12月、2023年1月11日に通常診療にかかわる部門システムが再開し、診療体制が完全復旧しました。ランサムウエア感染から実に2ヵ月以上、73日が経っていました。中核のサーバはすべて同じパスワードを使い回し報告書によれば、ウイルスは外部の給食事業者のVPN(仮想プライベートネットワーク)から侵入し、事業者側のサーバと常時接続されていたセンター側の給食管理用サーバに入り込んだとのことです。給食事業者のシステムは、配食数や食事内容を管理するもので、病院のネットワークや電子カルテシステムと常時つながっており、病院はこのネットワークを利用し、糖尿病などの患者の食事内容を事業者に伝えていました。さらに、電子カルテのシステムを構成する中核のサーバはすべて同じパスワードを使い回しており、ウイルス対策ソフトも導入されていませんでした。このためウイルスの侵入から、適切な対応がとられるまでの5時間弱の間に感染が急拡大し、約20台のサーバでデータが暗号化されてしまったとのことです。3月26日付の朝日新聞の報道によれば、電子カルテのシステムはNEC(日本電気)が構築したものでした。センター側から閉域網(外部のインターネットと完全に切り離された閉じられたネットワーク)であるとの説明を受けていた同社は「利便性などを考慮し、同じパスワードを使うことも可能だ」と提案、採用されていたとのことです。同紙によれば、NECは事件発覚後の昨年11月、同じ電子カルテを使う全国280の病院を調査しました。その結果、半数以上の病院で同様の使い回しが判明しました。その後、パスワードの変更やほかのセキュリティ対策を順次進めているとのことです。サイバー攻撃を受けた根本原因が「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた」という点は、一昨年10月の徳島県つるぎ町の町立半田病院(「第118回 ランサムウエア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ」参照)とまったく同じです。ちなみに、給食事業者のVPN機器も町立半田病院と同じ製品で、この事業者もソフトウエアの更新を怠っていました。病院もセキュリティ意識を高く持ち組織的な取り組みが必要今回公表された75ページにも及ぶ報告書は、専門外の人間にはいささか読むのが大変です。ただ、幸いなことに7枚のスライドにまとめられた概要版も用意されているので、医療機関の経営者や幹部の方は、こちらには一度目を通しておいた方がいいと思われます。報告書では、サイバー攻撃を許してしまったセキュリティ上の課題を「技術的発生要因」 「組織的発生要因」「人的発生要因」に分けて分析、予防に向けた提案をしている点が参考になります。「技術的発生要因」については、外部接続(リモートメンテナンス)の管理不備と内部のセキュリティの脆弱性を指摘、「組織的発生要因」については、ガバナンスの欠如とベンダーとの契約に関するさまざまな問題を指摘しています。「人的発生要因」では、ベンダーに対してはシステムや機器を提供する専門家として、サイバーセキュリティの知識と経験向上に努めるべきと提案、病院に対してもセキュリティ意識を高く持ち、組織的にシステムや機器の導入および運用を心掛けた取り組みが必要だ、としています。「国はガイドラインや法整備、財源の確保など、その役割はますます重要」と提言さらに報告書は、国に対する要望もまとめています。そこでは、「国においては、ガイドラインや法整備、財源の確保など、その役割はますます重要」「国においては、医療機関へのサイバー攻撃を災害の一つとして捉え、その支援対策を充実させるなど、患者が安全安心に医療を受けられるよう、更なる取り組みの推進が必要」など、国が主導して医療機関のセキュリティ対策に取り組むべきだと要望しています。医療機関にとってセキュリティ対策は頭が痛い問題実際、医療機関にとってはセキュリティ対策の人材確保や、そのための予算確保はなかなか頭が痛い問題のようです。自民党の「医療分野のデジタルセキュリティ対策推進プロジェクトチーム」は3月28日に初会合を開き、医療機関のセキュリティ対策について、厚生労働省、日本医師会などにヒアリングを行いました。この席で日本医師会は提出資料で、医療機関が十分なセキュリティ対策をとれていない背景として、「医療関係者が教育を受けていない」「大部分の医療機関には専門家がいない」「対策の財源がない」と指摘、「必要となるセキュリティ対策にかかる費用は本来、国が全額負担すべき」と訴えています。厚労省、警察庁もサイバー攻撃対策に本腰町立半田病院、大阪急性期・総合医療センターなどのサイバー攻撃をきっかけとして、国側の動きも急となってきています。3月30日、厚生労働省は、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」の案を公表、パブリックコメントの募集を始めました2)。同ガイドラインはこれまで、本編と別冊で構成されていましたが、今回の改定では、概説、経営管理、企画管理、システム運用の計4編の構成に変更されています。たとえば、システム運用編には、パソコンやVPN機器などの脆弱性や、ランサムウエアによるサイバー攻撃などに関する対策が明記されており、バックアップデータを保存した記録媒体を、端末やサーバ装置、ネットワークから切り離して保管するといった対策を求める内容となっています。同ガイドラインは、4月28日までパブリックコメントを募集し、5月中旬に公表する予定です。警察庁もサイバー攻撃被害に関する情報収集を強化する方針です。4月6日に開かれた警察庁の有識者会議の報告書の提言を基に、4月7日付の日本経済新聞は「警察庁はインターネットで通報できる一元窓口を2023年度内にも設け、企業の申告を促す」と報じています。同記事によれば、「これまでは都道府県ごとに窓口を設けていたが通報は低調だった。被害状況は捜査や分析に向けた端緒で、必要に応じて国直轄の専門部隊にも共有する」とのことです。国がサイバー攻撃対策に本腰を入れ始めたのは好ましいことです。ただ、病院や診療所の現場の経営者たちが、国任せ、行政任せ、ベンダー任せのままでは、医療機関に対するサイバー攻撃はこれからも増え続けるでしょう。財源は国にお願いするにせよ、医療機関内でもITや情報セキュリティに詳しい専門人材を確保することは、もはや急務と言えるでしょう。参考1)情報セキュリティインシデント調査委員会報告書について/大阪急性期・総合医療センター2)「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版(案)」に関する御意見の募集について

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BA.4/5対応2価ワクチン、初回接種での使用を申請/ファイザー

 ファイザーとビオンテックは4月11日付のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の2価ワクチン「コミナティRTU筋注(起源株/オミクロン株BA.4-5)」について、生後6ヵ月~4歳における初回免疫と追加免疫、および5歳以上における初回免疫での使用を可能とするための承認事項の一部変更を厚生労働省に申請したことを発表した。 本剤は現在、国内において5歳以上の追加免疫での使用のみ承認されている。なお、米国においては、5歳以上の追加免疫での使用に加え、2022年12月8日に生後6ヵ月~4歳における初回免疫の3回目としての使用が、2023年3月15日には同年齢層における1回の追加免疫(初回免疫を1価ワクチンで3回接種完了した者が対象)が米国食品医薬品局(FDA)より承認されている。

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第158回 胎児脳のコロナ感染 / コロナ入院患者死亡率は依然として高い

妊婦感染コロナの胎児脳への移行が初めて判明妊婦に感染した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の胎児の脳への移行とその害が、米国・マイアミ大学の研究者いわく初めて認められました1,2,3)。調べられたのはコロナに感染した妊婦から生まれ、生まれてすぐに発作を起こし、出産時には認められなかった小頭症をやがて呈し、発達の大幅な遅れを示した小児2例です。2例の出産時の鼻ぬぐい液のPCR検査ではSARS-CoV-2は検出されませんでした。しかし2例とも抗コロナ抗体を有しており、血液中の炎症指標が有意に上昇していました。母親2例の胎盤を調べたところSARS-CoV-2のタンパク質が認められ、生まれた小児の血液と同様に炎症指標の亢進が認められました。小児の1例は1歳を迎えて間もない生後13ヵ月で不慮の死を遂げました。その脳を免疫染色で調べたところSARS-CoV-2に感染していたことを示すタンパク質が脳全域で認められました。亡くなったその小児が生前そうであったようにもう1例の小児も出生時には認められなかった小頭症をやがて呈し、発達もかなり遅れました。1歳になっても寝返りを打ったり支えなしで座ったりすることができず、報告の時点でホスピスを利用していました。妊娠半ばに感染したSARS-CoV-2は胎児と胎盤、さらには胎児の脳に至って胎盤と胎児の両方に炎症反応を誘発しうることを今回の調査結果は示しています。そうして生じた炎症反応は生後間もないころを過ぎても続く脳損傷や進行性の神経不調とどうやら関連しそうです。今回報告された2例の小児はコロナ流行が始まって間もない2020年のデルタ株優勢のころに妊娠第2期で感染した母親から生まれました。母親の1例は肺炎や多臓器疾患で集中治療室(ICU)に入り、そこでSARS-CoV-2感染が判明します。胎児の経過はその後も正常でしたが、妊娠32週時点で帝王切開による出産を要しました。死後脳に感染の痕跡が認められたのはこの母親の子です。一方、もう1例の母親のコロナ感染は無症状で、妊娠39週に満期出産に至っています。それら2例の母親が感染したころはワクチンが普及した現在と状況が違っていますが、胎児の経過観察の目下の方針は不十分であると著者は言っています。胎児の脳がSARS-CoV-2による影響を受けるのであればなおさら慎重な様子見が必要です。それは今後の課題でもあり、脳の発達へのコロナ感染の長期の影響を検討しなければなりません。コロナ入院患者の死亡率はインフル入院患者より依然として高いコロナ流行最初の年のその入院患者の死亡率はインフルエンザによる入院患者より5倍近く高いことが米国での試験で示唆されています。さてウイルスそのもの、治療、集団免疫が様変わりした今はどうなっているのでしょうか?この秋冬の同国のコロナ入院患者のデータを調べたところ、幸いにも差は縮まっているもののインフルエンザ入院患者の死亡率を依然として上回っていました4,5,6)。調べられたのは2020年10月1日~2023年1月31日にコロナまたはインフルエンザの感染前後(感染判明の2日前~10日後)に入院した退役軍人のデータです。いわずもがな高齢男性を主とするそれら1万1,399例のうちコロナ入院患者8,996例の30日間の死亡率は約6%(5.97%)であり、インフルエンザ入院患者2,403例のその割合である約4%(3.75%)を1.6倍ほど上回りました。他のコロナ転帰の調査がおおむねそうであるようにワクチンの効果がその解析でも認められています。ワクチン非接種者に比べて接種済みのコロナ入院患者の死亡率は低く、追加接種(boosted)も受けていると死亡率はさらに低くて済んでいました。コロナによる死を防ぐワクチンの価値を今回の結果は裏付けています。参考1)Benny M, et al. Pediatrics. 2023 Apr 06. [Epub ahead of print]2)COVID caused brain damage in 2 infants infected during pregnancy -US study / Reuters3)SARS-CoV-2 Crosses Placenta and Infects Brains of Two Infants: 'This Is a First' / MedScape4)Xie Y, et al. JAMA. 2023 Apr 06. [Epub ahead of print]5)COVID-19 patients were more likely to die than flu patients this past flu season: study / NMC6)Covid Is Still Deadlier for Patients Than Flu / Bloomberg

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第142回 サル痘の国内感染が拡大傾向、注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.サル痘の国内感染が拡大傾向、注意喚起/厚労省2.セキュリティ対策求め、オンライン診療のガイドラインを改定/厚労省3.医療DXで診療報酬改定の医療機関の負担を軽減を/厚労省4.飲む中絶薬、病院での待機を条件に月内に承認か/厚労省5.再生医療の産業育成、重点化で後押し/経産省6.民間病院グループが民事再生法申請、負債総額132億円/千葉県1.サル痘の国内感染が拡大傾向、注意喚起/厚労省厚生労働省は、去年、欧米を中心に流行した「サル痘」(感染症法上の4類感染症)の感染が、今年に入って国内でも感染者が増加しているため、「発疹など感染が疑われる症状がある人は医療機関に相談してほしい」と呼びかけている。厚生労働省によると、国内では2022年7月に1例目の患者が確認され、その後散発的に発生が報告されていたが、2023年4月4日時点で95例の患者報告が集積している。なお、厚生労働省は、WHOの新たな病名「エムポックス」の推奨を受けて、今後病名を変更するため政令改正の手続きを行っている。(参考)サル痘について(厚労省)サル痘の感染増加、今年87人感染 厚労省「疑う症状は相談を」(朝日新聞)「サル痘」感染 国内でことしに入り増加 “医療機関へ相談を”(NHK)サル痘感染者、100人に迫る 厚労省「疑い症状相談を」(共同通信)2.セキュリティ対策求め、オンライン診療のガイドラインを改定/厚労省厚生労働省は、このほど医療機関を標的とするサイバー攻撃の増加を受けて、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を改訂した。この中で、厚労省は、医療機関側に対して、使用するオンライン診療システムが患者の医療情報が漏洩や改ざんがされないように情報セキュリティ対策を確認するように要請している。また、オンライン診療を計画するときは、患者に対してセキュリティリスクを説明し、同意を得なければならないなど記載が追加されている。(参考)オンライン診療の適切な実施に関する指針(厚労省)「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A(同)オンライン診療、セキュリティーの責任分界点確認を 厚労省が指針改訂(CB news)オンライン診療指針を改訂!「得られる情報が少ない」点を強調するとともに、過重なセキュリティ対策規定を見直し!-厚労省(Gem Med)オンライン診療の適切な実施に関する指針、2023年3月改訂版とQ&A更新(医療経営研究所)3.医療DXで診療報酬改定の医療機関の負担を軽減を/厚労省厚生労働省は、「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームを4月6日に持ち回り開催し、診療報酬改定DX対応方針案を公表した。令和6年度から医療DX工程表に基づいて、デジタル技術を最大限に活用し、共通算定モジュールの開発や共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善、標準様式のアプリ化とデータ連携などを行う。また、診療報酬改定の施行時期を後ろ倒しするなどで、中小病院や診療所などで負担となっている電子カルテなどのシステム改修コストを低減することを目的に、段階的に実装を目指す。(参考)第3回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム(厚労省)診療報酬改定DX対応方針(案)(同)診療報酬施行後ろ倒しへ、夏までに時期決定 厚労省が対応方針(CB news)4.飲む中絶薬、病院での待機を条件に月内に承認か/厚労省先月、厚生労働省が審議する予定の妊娠初期の中絶に使用される経口妊娠中絶薬の「メフィーゴパック」(一般名:ミフェプリストン/ミソプロストール)[ラインファーマーズ]について、3月24日にパブリック・コメントが殺到したため、審議が見送りとなっていた。そして、今般、承認条件に新たに中絶が確認できるまで病院での待機を必須とする方向で検討していることが明らかとなった。厚生労働省は、インターネットや個人輸入により入手をしないよう、注意喚起を行っており、4月下旬に開催する薬事分科会で、製造販売の承認可否を審議する見通し。(参考)飲む中絶薬、病院待機を必須に 厚労省、月内にも承認審議(共同通信)ミフェプレックス(MIFEPREX)(わが国で未承認の経口妊娠中絶薬)に関する注意喚起について(厚労省)5.再生医療の産業育成、重点化で後押し/経産省経済産業省は、細胞・遺伝子治療分野が2030年まで年率30%の成長が見込まれるとして、再生医療を開発している研究機関や医療機関について、重要性が高い研究を行う拠点を重点的に補助金で支援する方針で、今年の春に公募を行い数ヵ所を決定する予定。一方、再生医療の安全性について懸念が高まっているため、日本再生医療学会は、再生医療認定医や上級臨床培養士、臨床培養士などの認定資格を持つ人が、医療機関内に一定数いることを要件とする医療機関の認定制度を発足させる方針であることが明らかになった。(参考)再生医療の治療・研究拠点に「お墨付き」、経産省が重点支援へ…3~5か所想定(読売新聞)再生医療「どの病院なら安全?」学会が認定へ 年内にも新たな制度(朝日新聞)2040年には市場が20倍? 注目の再生医療・細胞治療に匹敵する、世界初の発見(財経新聞)6.民間病院グループが民事再生法申請、負債総額132億円/千葉県千葉県で八千代病院や成田リハビリテーション病院を運営する医療法人社団心和会(四街道市)が、4月4日に東京地裁に民事再生法の適用を申請した。健診サービスのほか訪問介護ステーションの開設や積極的な多角経営を展開していたところ、新型コロナウイルスのクラスター発生などが影響したほか、前理事長の不動産トラブルなどで資金繰りが悪化し、経営状況では2021年から赤字となっていた。医療法人側は、診療体制を維持しながら、新たなスポンサーを探して事業譲渡を行う方針。(参考)「八千代病院」の医療法人が民事再生法申請 負債総額132億円 四街道・心和会 コロナ、不動産トラブルで資金繰り悪化(千葉日報)千葉県内で八千代病院など複数の病院を経営する(医)社団心和会が民事再生を申請(東京商工リサーチ)

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第154回 日本人の驚くべきマスク定着化ー新聞社の世論調査

先日、知人の墓参りとワーケーションを兼ねて京都に4日ほど滞在した。食事時と自分が会員となっているスポーツジムの系列店舗で運動する以外は、ほぼホテルの部屋で仕事をしていた。もっとも春先の京都にいながら観光ゼロというのも何なので、昼食時の帰りに1件ほど寺社・仏閣に立ち寄ったりもした。すでに京都市内はコロナ禍「明け」とも言える雰囲気で、市中心部の四条付近は外国人観光客でごった返していた。ぱっと見だが、白人系の人々は屋内外いずれもほぼノーマスク、対して日本人も含め見た目がアジア系の人々では屋外でもマスク着用率が明らかに高くなる印象だ。たまにアジア系の顔立ちでノーマスクの人たちを見かけるが、言葉を聞くとその多くは広東語、中国語などの非日本語である。それでもノーマスクの日本人は、少なくとも私が見る限り、東京などと比べると若年者を中心に明らかに多いと感じた。到着翌朝、ホテルのエレベーターに乗り込もうとし、先客の若い女性がノーマスクだった時は一瞬ぎょっとした。途中から乗り込んできたやはりノーマスクの男性2人は女性と顔見知りだったらしく、密閉空間のエレベーター内でそのままペチャクチャ話し始めた。会話の内容からすると、どうやら新入社員の研修中らしい。私はマスクをしていたものの、その間ずっとヒヤヒヤしていた。ところが慣れというのは怖いもので、3日も滞在していると、コンビニに行こうとしてホテルの部屋を出た際にマスクを忘れたことに気付いても、「短時間だし。ま、いいか」という感じになってしまう。すでにマスク着用が任意となった現時点での表現としては適切ではないかもしれないが、「こうやってなし崩し的にモラルハザードが起こる」と受け止めている。新聞社主催の世論調査から見えるマスク定着化そうした中で興味深い調査結果を目にした。読売新聞社が行った新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に関する世論調査である。調査結果を報じた記事では「日本の社会は、全体として、新型コロナウイルスに、うまく対応できていると思いますか、思いませんか」との問いへの回答が、「思う」「どちらかといえば思う」合計で57%、「どちらかといえば思わない」「思わない」合計が41%となり、2021年から3年連続同様の調査を行った中で、初めて「思わない」よりも「思う」ほうが上回った点に主眼が置かれている。しかし、私が注目したのは調査結果内のマスク関連の回答である。まず、「新型コロナウイルスの感染を防ぐため、現在あなたが実践していることを、いくつでも選んでください」のトップが、「外出するときにマスクを着用する」の92%。さらに「あなたは、日常的にマスクを着用することを、つらいと感じますか、感じませんか」では、トップは「どちらかといえば感じない」が31%、次いで「感じない」が29%で、マスク着用に肯定的な層が6割を超えている。ちなみにこの設問で反対の立場である「感じる」が12%、「どちらかといえば感じる」が27%だった。ただし、この世論調査を読み解く際には2つの注意点がある。1つは調査の実施主体が読売新聞であることだ。新聞による無作為抽出世論調査の場合、回答者と新聞社の思想ベースが類似しがちになる。たとえば、保守的と分類されることが多い読売新聞の調査では、どうしても保守的な人が回答しがちになる。一方、リベラル傾向が強いと言われる朝日新聞社の読者に読売新聞社主催の調査が送付された際には回答拒否になる傾向が強まる。実際、今回のアンケートの回答を見ると、概して保守層に受け入れられやすいワクチン接種について、3回以上接種者は82%であり、現在の首相官邸が公開している総人口に占める3回ワクチン接種割合の68.6%と比べるとかなり高めだ。もう1つの注意点として、回答者の年齢層は50代以上が6割超を占めている。たとえば、調査で「あなたは、今後、自分が新型コロナウイルスに感染して重症になるのではないかという不安を、感じますか、感じませんか」では、「大いに感じる」「多少は感じる」の合計がやはり6割超である。その意味で今回明らかになったマスク信仰については、社会全体の傾向よりやや高めに出ていると解釈したほうが良いかもしれない。とは言っても、これだけの日本人にマスクが定着したという点には今回驚きを感じている。さて昨今の新型コロナの感染状況だが、すでに陽性者報告数は上昇トレンドに入り、第9波の到来が懸念されている。一部には早ければ5月下旬という説もある。現在、オミクロン株対応ワクチンの接種率は約45%と心もとないが、第8波でかなりの感染者が発生したことも考えると、今現在は事実上の「集団免疫」が成立している状況かもしれない。これに今回の世論調査でわかったマスク信仰の高さも考え合わせれば、もしかすると第9波は第8波を下回るのではないだろうか? もっともこれは個人的かつ希望的観測に過ぎない。ただ、間近に迫った新型コロナの感染症法上5類化で対応病床が減ると予想される中、その状態ですら医療側が対応可能なレベルかどうかは、かなり不透明ではないだろうか?

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コロナ感染率と死亡率、米国各州で異なる要因は?/Lancet

 米国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックへの対応に苦労したが、州別にみると一律ではなく、将来的なパンデミックの対策に活かせる点が見いだせたことを、米国・外交問題評議会(CFR)のThomas J. Bollyky氏らが、同国の公的データベースを用いた観察的分析の結果で報告した。著者は、「今回の調査結果は、将来の危機において、より良い健康アウトカムを促進するための臨床的および政治的介入の設計と目標に寄与するものとなるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2023年3月23日号掲載の報告。新型コロナ感染率・死亡率を州ごとに比較し、政策等との関連を検討 研究グループは、州間の感染率と死亡率のばらつき要因を特定し、現在および将来のパンデミックへの対応を改善するため、次の5つの重要な政策関連の課題を明らかにする検討を行った。(1)社会的、経済的、人種的な不平等がCOVID-19のアウトカムの州間のばらつきにどのように影響したか。(2)医療と公衆衛生のキャパシティが大きい州ほど、より良いアウトカムが得られたのか。(3)政治がアウトカムにどのように影響したか。(4)より多く、より長期に政策的な義務を課した州ほど、より良いアウトカムが得られたのか。(5)州での累積SARS-CoV-2感染と総COVD-19死の低下と、その州の経済的および教育的アウトカムとの間にトレードオフの関連はあるのかどうか。 検討では、保健指標評価研究所(IHME)のCOVID-19データベースより感染率および死亡率の推定値、商務省経済分析局のGDPデータ、連邦準備制度経済データの雇用率、国立教育統計センターの学生の標準テストの成績、国勢調査局の人種・民族に関するデータなど、米国の公的データベースから州別に抽出。COVID-19の影響緩和に成功した州の比較を容易にするため、感染率は人口密度で、死亡率は年齢および主要な併存疾患の有病率で標準化し、これらをパンデミック前の州の特性(教育水準、1人当たりの医療費など)、パンデミック中に州が採用した政策(マスク着用義務化、事業閉鎖など)、人口レベルの行動的反応(ワクチン接種、移動など)に回帰させた。州政府による感染防御の義務付けは感染率低下と、ワクチン接種率は死亡率低下と関連 2020年1月1日~2022年7月31日における標準化COVID-19累積死亡率は、米国内でばらつきがみられ(全国での死亡率は人口10万人当たり372例、95%不確定区間[UI]:364~379)、最低だったのはハワイ州(10万人当たり147例、95%UI:127~196)とニューハンプシャー州(10万人当たり215例、95%UI:183~271)で、最高はアリゾナ州(10万人当たり581例、95%UI:509~672)とワシントンDC(10万人当たり526例、95%UI:425~631)であった。 貧困率が低い、平均教育年数が長い、対人信頼感を示す人の割合が高いことは、感染率および死亡率の低下と関連していたが、黒人(非ヒスパニック系)またはヒスパニック系の割合が高い州は死亡率が高いことと関連していた。質の高い医療へのアクセスは、COVID-19による死亡とSARS-CoV-2感染の総数減少と関連していたが、州レベルでは、公的医療費や人口当たりの公衆衛生職員数の増加は関連していなかった。 州知事の所属政党はSARS-CoV-2感染率やCOVID-19死亡率の低下と関連していなかったが、COVID-19アウトカムの悪化は2020年共和党大統領候補に投票した州の有権者の割合と関連していた。 州政府による感染防御義務の採用は、マスク着用、移動度の低さ、およびワクチン接種率の高さと同様に感染率の低下と関連しており、ワクチン接種率は死亡率の低下と関連していた。 州のGDPと学生の読解力テストの成績は、州のCOVID-19政策対応、感染率、死亡率とは関連していなかった。しかし、雇用はレストランの閉鎖および感染率、死亡率の上昇と統計学的に有意に関連しており、雇用率が1ポイント上昇した州では、感染者が人口1万人当たり平均1,574例(95%UI:884~7,107)増加した。いくつかの政策的義務や感染防御行動は、小学4年生の数学のテストの点数低下と関連していたが、州レベルの学校閉鎖の推定値との関連性は確認されなかった。 結果を踏まえて著者は、「構造的不平等をできるだけなくして、ワクチン接種や対象を絞ったワクチン接種の義務化など科学的根拠に基づく介入策を展開し、社会全体でその適用を促進した州は、COVID-19死亡率を最小限に抑えるという点で最も優れた国に匹敵することができた」とまとめ、「COVID-19は、米国社会全体にすでに存在していた社会的、経済的および人種的な不平等の二極化と持続を拡大したが、次のパンデミックでは必ずしも同じ轍は踏まないだろう」と述べている。

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5歳未満のコロナワクチン、地域の流行状況と有効性のバランスを鑑みて(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 生後6ヵ月~4歳児に対するファイザー製コロナワクチン「BNT162b2」3回接種の安全性と有効性がNEJM誌に示されたので、現状と照らし合わせて検討してみたい。現在日本では、6ヵ月~4歳児に対するコロナワクチンは、この論文で示されている12歳以上の1/10量であるBNT162b2ワクチン3μgを3週間間隔で2回、その後8週間以上空けて3回目接種が可能となっている(厚生労働省「生後6か月~4歳の子どもへの接種(乳幼児接種)についてのお知らせ」)。 本研究では用量設定試験である第I相の結果から3μgの用量を採用した。第II/III相試験において、6ヵ月~2歳児1,178例と2~4歳児1,835例にBNT162b2ワクチンを、それぞれ598例と915例にプラセボを接種して比較検討した。また3回目接種まで完了した児は6ヵ月~2歳児で386例、2~4歳児で606例であった。最も重要な安全性の項目に関しては、ほとんどが軽度~中等度の接種反応イベントとなっており、Grade4のイベントは確認されなかったとされる。大人では頻度の高い発熱も、6ヵ月~2歳児で7%、2~4歳児で5%程度と報告されている。有効性に関してはオミクロン変異株流行下におけるコロナ発症予防効果が、3回目接種後の1週間以降で73.2%と示された。 2023年3月の本論考の執筆時点では、日本の第8波のコロナ流行はほぼ収束しており、コロナワクチン接種の有用性を感じにくくなっている。第7波、第8波の到来から日本小児科学会では、生後6ヵ月~4歳の小児でもコロナワクチン接種のメリットがあると捉え、「努力義務」としている(日本小児科学会「生後6か月以上5歳未満の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」)。オミクロン変異株流行期以降は呼吸不全こそまれであるものの、重症例や死亡例が増加していることや、コロナ感染に伴う熱性けいれんや脳症などの重症例が報告されていることに基づいている。また、これまでに有効性の知見から、重症化予防効果は発症予防効果を上回ることが期待されるため、生後6ヵ月~4歳の小児においてもコロナワクチン接種が推奨されている。 先日3月28日に世界保健機関(WHO)から発表された「新型コロナウイルス感染症ワクチン接種ガイダンス」においては、健康な生後6ヵ月~4歳児に対するワクチン接種は「低優先度」に分類されている。1次接種(1、2回目ワクチン接種)や追加接種(3回目ワクチン接種)に関しては有効性や安全性が確認されているものの、他の予防接種に比べベネフィットが少なく、各国の感染状況や費用対効果などを鑑みることとされている(WHO : SAGE updates COVID-19 vaccination guidance)。 本研究ではワクチン接種に伴う副反応に対しても検討されている。発赤や腫脹などの接種部位反応や発熱などの項目に関しては生後6ヵ月~4歳児でも正確な評価が可能だが、倦怠感や頭痛、筋痛や関節痛に関する客観的な項目に関しての評価はNEJM誌に掲載された論文といえども、にわかには信じ難いと4児のパパとしては考える(田中)。もちろん成人に比べワクチン接種量も少なく、局所の副反応も全身性の副反応も頻度は低く、安全性は許容範囲内と捉えられる。現在のコロナ感染が落ち着いている状況下でワクチン接種を進めていくことはいささか難しいと考えるが、今後起こりうる流行の状況や安全性・有効性を考えて、小児期に接種する他の予防接種の間に組み込むことは何の問題もないのではと考える。

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第39回 フードコートのアクリル板は必要か?

感染対策の引き算手洗いや「3密」回避などの政府の基本的対処方針に基づき、各業界は感染対策のガイドラインを作成していましたが、5月8日から「5類感染症」に移行することで、基本的対処方針とそれに基づくガイドラインは廃止される方針です。となると、引き算していく感染対策を検討することになります。東京都民1万人が回答したアンケート調査によると、「もうやめたほうがよい」と思う感染対策は、「学校におけるマスク着用」、「黙食」、「ハンドドライヤー使用禁止」、「窓口や飲食店でのアクリル板やビニールの仕切り設置」が上位にランクインしています(図)。画像を拡大する図. 東京iCDCリスコミチームによる都民アンケート調査結果(2023年2月実施)、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料1)子供のワクチン接種率が低い学校では、有効とされる感染対策のマスクを一律に緩和することについてはさまざまな意見があります。個人的には、インフルエンザと同じように流行に応じて対応すればよいと思っています。フードコートのアクリル板アクリル板などのパーティションについては、結局ヒトの感染リスクを検討した明確なエビデンスがありません。物理的に飛沫を遮断する効果は当然あるので、アドバイザリーボードでも「今後も活用はあり得る」という玉虫色の結論となっています2)。私も子供連れでよくフードコートに行くのですが、現在もアクリル板の仕切りがあります。フードコートは、たとえ定期的に清掃をしているとしても、空いた席に次の人が座っていくシステムですから、前の使用者か次の使用者がきれいに清掃することが重要です。とはいえ、アクリル板まで拭きあげる人はほとんどおらず、飛び散ったうどんの汁や鉄板の油などでアクリル板が汚れていることのほうが多く、家族4人で座ったとき、汚いアクリル板で分断されている現状を非常に残念に思っています。フードコートは、よほどの混雑でなければ、相席ということは起こりません。なので、個人的には飲食店の形態に応じて引き算していけばよいのではと考えています。まれに起こる相席を想定してまで、アクリル板を設置するのはナンセンスだと思います。現時点で、政府は「事業者の判断に委ねる」という方針のようです。参考文献・参考サイト1)東京iCDCリスコミチームによる都民アンケート調査結果(2023年2月実施)、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料2)これからの身近な感染対策を考えるにあたって(第四報)~室内での感染対策におけるパーティションの効果と限界~、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料

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第155回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(後編)

パンデミック以前の日常が完全に戻ってきたこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東はお花見日和でした。近所の公園では、葉桜となってきた桜の木の下で多くの人がノーマスクで宴会をしていました。パンデミック以前の日常が完全に戻ってきたわけですが、数週間前からこれだけ飲んで騒いでいるのに、新型コロナウイルス感染症の患者数は目立った増加となってはいません。感染症は本当に不思議な病気だなと思いながら、私も桜が舞い散る公園で、タコスにコロナビールを楽しみました。さて今回も、前回に引き続き、WHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務局(フィリピン・マニラ)の葛西 健・事務局長が解任されたニュースを取り上げます。「The Lancet」が「グローバルヘルスの専門家たち葛西氏解任を歓迎」と報道WHOは3月8日、職員らへの人種差別的な発言などがあったとして内部告発され、昨年8月から休職中だった葛西・西太平洋地域事務局長を解任したと発表しました。日本国内では「解任理由がきちんと説明されていない」といった批判もあるようですが、国際的にはどうやら今回の解任を歓迎する声の方が大きいようです。医学雑誌の「The Lancet」は3月18日、「Global health experts welcome Kasai dismissal(グローバルヘルスの専門家たちが葛西氏解任を歓迎)」と題する記事を掲載しています1)。「葛西氏はWHO労働者への嫌がらせを行っていた」刺激的なタイトルのこの記事は、世界の複数のグローバルヘルスの専門家が、今回の調査や決定が適正に行われ、処分も妥当と考え、解任決定を歓迎していると報じています。記事によれば、WHOは虐待行為を一切容認しないという方針に沿って今回の内部告発を調査、すべてのWHOスタッフに適用される通常の手順に従って検討が行われたとのことです。その結果、葛西氏が「攻撃的なコミュニケーション、公の場での侮辱と人種的中傷」を含む、WHO労働者へのハラスメントを行っていたことが判明したとしています。これら結果を踏まえ、西太平洋地域委員会の投票が行われ、解任賛成13票、反対11票、棄権1票という結果となり、その後、非公開の理事会で葛西氏の解任が決定したとのことです。WHOの不正行為や虐待行為に対するチェックの目は一層厳しくなる同記事は、米国ジョージタウン大学のグローバルヘルス法の研究者の次のような発言も報じています。「この決定を行ったWHOに拍手を送る。その決定は正しかったが、もっと早く行われるべきだった。WHOは、誰もが尊重される安全で敬意に満ちた職場を作るために、可能な限り最高の基準を設定する必要があると考える」。同記事は、その他の世界のグローバルヘルスの専門家たちの今回の決定に対する賛意も伝えています。それらはある意味、日本が期待を持って送り込んでいた葛西氏の”評判”とも言えるもので、日本政府にはなかなか手厳しい内容となっています。ところで、WHO内部では葛西氏の事例のようなハラスメントだけではなく、エボラ出血熱発生中に起きたWHO労働者や援助労働者に対する性的虐待なども問題視されており、同記事は、葛西氏に行われた内部調査や解任決定を機に、WHOの組織内におけるその他のさまざまな不正行為や虐待行為に対するチェックの目は一層厳しくなるに違いない、と書いています。横浜DeNAに現役バリバリのMLBの投手入団そう言えば、WBC開催中の3月14日、横浜DeNAベイスターズは3年前の2020年、シンシナティ・レッズ時代にサイ・ヤング賞を獲得(同年に同じく候補となったダルビッシュ有投手と争いました)したMLB投手、前ロサンゼルス・ドジャースのトレバー・バウアー投手と契約を結んだことを発表しました。現役バリバリのMLBの投手がNPBに来るということで大きなニュースになりました。実は彼、2021年に知人女性に対するドメスティックバイオレンスの禁止規定違反でメジャーリーグ機構から324試合の長期の出場停止処分を受け(その後、異議申し立てをし、処分は194試合に短縮)、今年1月にドジャースとの契約が解除された選手です。契約解除後、MLBでは新たな契約をする球団は現れず、うまくDeNAが獲得したというわけです。MLBが獲得に動かなかった理由は多々あるようです。ヒューストン・アストロズの投手陣が強力な粘着物質を使っている疑いがあることを”チクリ”、粘着物質使用厳格化のきっかけを作ったことでMLBの選手たちから裏切り者扱いされた、という説も流れていますが、女性に対するドメスティックバイオレンスの一件も少なからず影響していることは確かでしょう。そうした”問題”選手を、トラブルにはとりあえず目をつぶって獲得し、大喜びしているのも日本人のパワハラ、セクハラへに対する鈍感さ、寛容さのなせる業かもしれません。DeNAは3月24日に横浜市内で華々しくバウアー投手の入団会見を行いましたが、その5日後の29日に同選手が「右肩の張りを訴えた」と球団が発表、4月中の一軍デビューは先送り濃厚となってしまいました。「バウアー投手はMLB復帰のために日本にリハビリに来ただけ。もとより真剣に投げる気はない」という声もあるようです。BBC制作ジャニーズのドキュメンタリーをほぼ黙殺の日本マスコミパワハラ、セクハラ関連の話題ということでは、英国のBBCが制作、公開したドキュメンタリー「Predator:The Secret Scandal of J-Pop」(J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル)を日本のマスコミのほとんどが黙殺したことも挙げておきたいと思います。2019年に死去したジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年への性的虐待を追ったこのドキュメンタリー、日本ではBBCワールドニュースで3月18日、19日に配信放送されました。この件について日本のマスコミで報道したのはかねてからジャニーズ問題を追ってきた週刊文春と、FRIDAYデジタル、日刊ゲンダイDIGITALなどごく一部でした。香港や韓国、台湾のメディアも大きく取り上げたというのに、日本のマスコミの沈黙ぶりは、異常と言えるかもしれません。こうした鈍感さ、時代遅れの寛容さや忖度は、葛西氏のパワハラ同様、国際社会ではもう認められなくなってきています。そうした自覚と意識改造が日本人には早急に求められていると思いますが、皆さんいかがでしょう。「ジャニー喜多川氏の性的虐待の事実と、メディアに与えた強い影響力を調査し、社会が見て見ぬふりをすることの残酷な結果を明らかにする」(BBCワールドニュースのWebサイトより)というこの番組、4月18日までAmazonプライム・ビデオで視聴可能です。興味のある方はご覧下さい。参考1)Zarocostas J, Lancet. 2023 Mar 18. [Epub ahead of print]

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新規ワクチンMV-LASV、ラッサ熱の予防に有望/Lancet

 ラッサ熱の予防において、遺伝子組み換え弱毒生麻疹ベクターラッサ熱ワクチン(MV-LASV)は、安全性と忍容性が許容範囲内であり、免疫原性はベクターに対する既存の免疫の影響を受けないと考えられ、さらなる開発の有望な候補であることが、オーストリア・Themis Bioscience(米国・Merckの子会社)のRoland Tschismarov氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年3月16日号で報告された。単一施設でのヒトで初めての第I相試験 研究グループは、年齢18~55歳の健康な成人を対象に、MV-LASVのヒトで初めての第I相試験を実施した(感染症流行対策イノベーション連合[CEPI]の助成を受けた)。本研究は、非盲検用量漸増試験(漸増期)と観察者盲検無作為化プラセボ対照比較試験(治療期)の2段階から成り、2019年9月~2020年1月に単一施設(ベルギー・アントワープ大学)で参加者の登録が行われた。 用量漸増試験では、参加者は低用量群(組織培養細胞感染量中央値×2×104を2回接種)または高用量群(組織培養細胞感染量中央値×1×105を2回接種)に、非無作為に連続的に割り付けられた。無作為化プラセボ対照試験では、参加者は低用量群、高用量群、プラセボ群に、2対2対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、試験開始から56日目までの非自発的または自発的に報告された有害事象とされた。局所有害事象の頻度はプラセボより高い 漸増期には、低用量群と高用量群に4例ずつが、治療期には、低用量群に25例(平均年齢27.3歳、男性56%)、高用量群に23例(33.9歳、30%)、プラセボ群に12例(33.6歳、33%)が割り付けられた。 ほとんどの有害事象は治療期に発現し、非自発的または自発的に報告された有害事象の頻度は3群で同程度であった。非自発的に報告された有害事象の割合は、低用量群が96%、高用量群が100%、プラセボ群が92%であり(p=0.6751)、自発的に報告された有害事象の割合は、それぞれ76%、70%、100%だった(p=0.1047)。 有意差が認められたのは非自発的に報告された局所の有害事象のみで、プラセボ群(12例中6例[50%])に比べ、MV-LASV接種群(低用量群:25例中24例[96%]、高用量群:23例中23例[100%])で高頻度であった(p=0.0001[Fisher-Freeman-Halton検定])。 有害事象のほとんどは軽度または中等度で、56日目までに重篤な有害事象やとくに注意すべき有害事象、死亡の報告はなかった。 全体として、最も頻度の高い非自発的に報告された局所有害事象は、注射部位の痛み(触れるか否かは問わず)、注射部位硬結、注射部位紅斑/発赤であり、全身性有害事象は、頭痛、インフルエンザ様症状、倦怠感、筋肉痛、下痢であった。また、最も頻度の高い自発的に報告された有害事象は、上咽頭炎、前失神、注射部位出血、筋骨格系のこわばりであった。 一方、MV-LASVは、2つの用量群とも高濃度のLASV特異的IgGを誘導し、最高値を示した42日目の幾何平均抗体価は、低用量群が62.9EU/mL(プラセボ群[6.1EU/mL]との比較でp<0.0001)、高用量群は145.9EU/mL(p<0.0001)であった。 著者は、「今後は、組織培養細胞感染量中央値の1×105倍量の高用量MV-LASVに焦点を当てて開発を進める必要がある」としている。

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