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18歳未満の嘔吐を伴う急性胃腸炎、オンダンセトロンは有益か/NEJM

 胃腸炎に伴う嘔吐を呈する小児において、救急外来受診後のオンダンセトロン投与はプラセボ投与と比べて、その後7日間の中等症~重症の胃腸炎リスクの低下に結び付いたことが示された。カナダ・カルガリー大学のStephen B. Freedman氏らPediatric Emergency Research Canada Innovative Clinical Trials Study Groupが、二重盲検無作為化優越性試験の結果を報告した。オンダンセトロンは、救急外来を受診した急性胃腸炎に伴う嘔吐を呈する小児への単回投与により、アウトカムを改善することが報告されている。症状緩和のために帰宅時に処方されることも多いが、この治療を裏付けるエビデンスは限られていた。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。嘔吐への対応として6回投与分を処方、中等症~重症の胃腸炎発生を評価 研究グループは、カナダの3次医療を担う6施設の小児救急外来で、急性胃腸炎に伴う嘔吐を呈する生後6ヵ月~18歳未満を対象に試験を行った。 救急外来からの帰宅時に、被験者には経口オンダンセトロン液剤(濃度4mg/5mL)またはプラセボ液剤が6回分(それぞれ0.15mg/kg、最大投与量8mg)提供された。介護者には0.1mL単位で調整された投与量が伝えられ、投与後15分以内に嘔吐が再発した場合は再投与し、試験登録後48時間で液剤は廃棄するよう指示された。介護者は7日間の試験期間中、液剤投与および関連した症状を日誌に記録した。 主要アウトカムは、中等症~重症の胃腸炎(試験登録後7日間における修正Vesikariスケール[スコア範囲:0~20、高スコアほどより重症であることを示す]のスコア9以上の胃腸炎発生で定義)。副次アウトカムは、嘔吐の発現、嘔吐の持続期間(試験登録から最終嘔吐エピソードまでの期間で定義)、試験登録後48時間の嘔吐エピソード回数、試験登録後7日間の予定外受診、静脈内輸液の投与などであった。中等症~重症の胃腸炎はオンダンセトロン群5.1%、プラセボ群12.5%、有害事象発現は同程度 2019年9月14日~2024年6月27日に合計1,030例の小児が無作為化された。解析対象1,029例(1例はWebサイトエラーのため無作為化できなかった)は、年齢中央値47.5ヵ月、女児521例(50.6%)、体重中央値16.1kg(四分位範囲[IQR]:12.2~22.5)、ロタウイルスワクチン接種済み562/782例(71.9%)、ベースラインでの嘔吐の持続期間13.9時間(IQR:8.9~25.7)、修正Vesikariスケールスコア中央値9(IQR:7~10)などであった。 主要アウトカムの中等症~重症の胃腸炎は、オンダンセトロン群5.1%(データが入手できた452例中23例)、プラセボ群12.5%(同441例中55例)であった(補正前リスク差:-7.4%ポイント、95%信頼区間[CI]:-11.2~-3.7)。試験地、体重、欠失データを補正後も、オンダンセトロン群はプラセボ群と比べて中等症~重症の胃腸炎のリスクが低かった(補正後オッズ比:0.50、95%CI:0.40~0.60)。 嘔吐の発現や持続期間中央値について、あらゆる意味のある群間差は認められなかったが、試験登録後48時間の嘔吐エピソード回数は、オンダンセトロン群がプラセボ群と比べて低減した(補正後率比:0.76、95%CI:0.67~0.87)。予定外受診および試験登録後静脈内輸液の投与は、試験群間で大きな差はなかった。 有害事象の発現も試験群間で意味のある差は認められなかった(オッズ比:0.99、95%CI:0.61~1.61)。

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ダイエット飲料より水の方が血糖・体重管理に有利

 体重を減らして血糖コントロールを良好にしたいなら、ダイエット飲料ではなく、水を飲むべきかもしれない。米国糖尿病学会学術集会(ADA2025、6月20~23日、シカゴ)で発表された小規模な研究の結果であり、水を飲むように割り当てられた女性はダイエット飲料を飲むように割り当てられた女性よりも、体重が大きく減り、糖尿病が寛解した患者も多かったという。主任研究者であり、糖尿病治療サポートツールなどを手掛けるD2Type Health社のCEOであるHamid Farshchi氏は、「われわれの研究結果は、ダイエット飲料は体重や血糖値の管理に悪影響を及ぼさないとする、これまでの米国での一般的な考え方に疑問を投げかけるものだ」と述べている。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国人の約5人に1人が毎日ダイエット飲料を飲んでいるという。ダイエット飲料はカロリーについてはほぼゼロだが、本研究の発表者らは、健康への影響という点ではゼロとは言えない可能性があることを、研究の背景として指摘している。例えば、2023年7月に「Diabetes Care」誌に掲載された研究によると、人工甘味料を多く摂取している人は2型糖尿病を発症する可能性の高いことが明らかにされている。その論文の著者らは、人工甘味料が糖や脂質の代謝を妨げたり、腸内細菌叢を変化させたり、食欲を刺激したりする可能性があると推測していた。 今回報告された研究の対象は、過体重で2型糖尿病の女性81人。その半数は週に5回、昼食後に水を飲む群、残りの半数は水ではなくダイエット飲料を飲む群に割り当てられ、6カ月間の減量プログラムと、その後1年間の体重維持プログラムに参加した。 介入終了時点で、水を飲んだ群の女性は体重が6.82±2.73kg減少していたのに対して、ダイエット飲料を飲んだ群の女性の減量幅は4.85±2.07kgと有意に少なかった(P<0.001)。さらに、水を飲んだ群の女性の90%が糖尿病の寛解を達成したのに対し、ダイエット飲料を飲んだ群でのその割合は45%にとどまっていた(P<0.0001)。また、インスリン抵抗性や中性脂肪などの検査値も、水を飲んだ群では有意に改善していた。 Farshchi氏は、「水を飲むように割り当てられた女性の大半が、糖尿病の寛解を達成した。この結果は、血糖値と体重を効果的に管理しようとする場合、甘味飲料の代わりにダイエット飲料を飲むのではなく、水を摂取することの重要性を浮き彫りにしている。わずかな行動変化であっても、長期的には健康状態に大きな差を生む可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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救急診療部のHCVスクリーニング、最適な方法とは/JAMA

 C型肝炎ウイルス(HCV)感染者の特定は公衆衛生上の優先課題であり、救急診療部(ED)は通常、他の医療施設を受診しないリスクの高い患者を多く受け入れるため、スクリーニングの重点領域となっている。しかし、EDにおけるHCVスクリーニングの最適な方法は明らかでないという。米国・Denver HealthのJason Haukoos氏らDETECT Hep C Screening Trial Investigatorsは「DETECT Hep C Screening試験」において、対象者選択的スクリーニング(targeted screening:TS)と比較して対象者非選択的スクリーニング(nontargeted screening:NTS)は、新規HCV患者の検出に優れるものの、診断から治療完了に至った患者は少数であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年7月9日号に掲載された。米国の都市部ED施設の無作為化臨床試験 DETECT Hep C Screening試験は、EDにおけるHCVスクリーニングの有効性を評価し、TSよりもNTSが新規HCVを多く検出するという仮説の検証を目的とする実践的な無作為化臨床試験であり、2019年11月~2022年8月に、米国の都市部の3つの大規模ED施設(365日24時間体制)で参加者の無作為化を行った(米国国立薬物乱用研究所[NIDA]の助成を受けた)。 年齢18歳以上で、EDを受診し、臨床的に病態が安定しており、医療に関する同意能力がある患者を対象とした。過去にHCVの診断を受けている患者や、ED滞在時間が60分未満と予測される患者は除外した。 対象とした患者を、NTS(リスクを問わず全患者でHCV検査を行う)群またはTS(リスク評価に基づき高リスク例でHCV検査を行う)群に無作為に割り付けた。TSのリスク評価の基準は、1945~65年生まれ、注射薬物や経鼻薬物の使用、規制のない環境でのタトゥーやピアス、1992年以前の輸血または臓器移植であった。 主要アウトカムは新規のHCV診断であり、HCV抗体検査が陽性で、HCV RNAが検出され、過去にHCVの診断を受けていないことと定義した。副次アウトカムとして、HCV検査の提案・受諾・完了、12週の時点での持続的ウイルス陰性化(SVR12)、18ヵ月時における全死因死亡などを評価した。NTS群、検査の提案は3.1倍、完了は2.1倍 14万7,498例(年齢中央値41歳[四分位範囲:29~57]、男性51.5%、黒人42.3%、ヒスパニック系20.9%、白人32.2%)を登録し、NTS群に7万3,847例、TS群に7万3,651例を割り付けた。 NTS群では、6万5,693例(89.0%)がHCV検査を提案され、1万6,563例(22.4%)がこれを受諾し、9,867例(59.6%)が検査を完了した。このうち416例(4.2%)がHCV抗体検査陽性で、154例(1.6%[95%信頼区間[CI]:1.3~1.8])でHCV RNAが検出されてHCVの新規診断が確定した。 TS群では、高リスクと判定された2万3,400例(31.8%)のうち2万982例(89.7%)がHCV検査を提案され、7,116例(30.4%)が受諾し、4,640例(65.2%)が検査を完了した。このうち348例(7.5%)がHCV抗体検査陽性で、115例(2.5%[95%CI:2.1~3.0])でHCV RNAが検出されてHCVの新規診断が確定した。 したがって、HCV検査の提案の割合はNTS群がTS群の3.1倍(89.0%vs.28.5%、群間差:60.5%[95%CI:60.1~60.9]、p<0.001)で、受諾の割合はTS群で高く(25.2%vs.33.9%、8.7%[8.0~9.4]、p<0.001)、最終的に検査を完了した患者の割合はNTS群がTS群の2.1倍(13.4%vs.6.3%、7.1%[6.8~7.4]、p<0.001)だった。 主要アウトカムである新規HCV診断の割合は、TS群が0.16%(115/7万3,651例)であったのに対し、NTS群は0.21%(154/7万3,847例)と有意に優れた(群間差:0.05%[95%CI:0.01~0.1]、相対リスク:1.34[1.05~1.70]、p=0.02)。治療完了やSVR12達成は両群とも減少、1.5年死亡率に差はない 新規HCV診断例のうち、その後治療に結び付いた患者は両群とも少なく、NTS群で19.5%(30/154例)、TS群で24.3%(28/115例)であった。治療としては、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)を開始した患者がそれぞれ15.6%(24例)および17.4%(20例)で、DAAを完了した患者は12.3%(19例)および12.2%(14例)であった。 また、SVR12を達成した患者の割合は、NTS群9.1%(14例)、TS群9.6%(11例)で、18ヵ月時の全死因死亡率は、それぞれ5.2%(8例)および4.3%(5例)だった。 著者は、「SVR12に至った患者の数は、新規HCV診断数から大幅に減少しており、これはHCV治療の革新的モデルの開発が緊急に必要であることを強く示唆する」「米国における現在のHCVの流行は注射薬物の使用が主な要因で、この集団のHCV有病率は30%を超えると推定されるため、注射薬物使用者は対象者選択的な介入の重要な対象であり、治療障壁の理解や彼らのニーズに合ったアプローチの開発など新たな戦略が求められる」としている。

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MRがこの1年で3,000人減少、かつての花形の職業は今…【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第156回

皆さんの肌感では、MR(医薬情報担当者)の情報提供活動は増えていますか? 減っていますか? 年に1度のMRの状況について調査した結果がMR認定センターより発表されました。かつての花形の職業に大きな変化が生じています。MR認定センターは7月15日、4月に実施したMRの実態や教育研修に関する調査結果をまとめた25年度版MR白書を公表。24年度のMR数は前年度より3073人減の4万3646人に減り、23年度(同2963人減)に続いて3000人規模の減少となった。要因としては「MRを多数雇用してきた企業での早期希望退職の影響が大きかった」と分析する。MR数は13年度以降、減少傾向が続き、今回の下げ幅は20年度(3572人減)に次ぎ大きかった。調査に回答した199社のうち20%以上MR数を減らした会社は19社に上った。(2025年7月16日 RISFAX)MRはここ10年ほどで役割や働き方がもっとも大きく変化した職業の1つといえるかもしれません。医薬品に添付文書が封入されなくなり、医薬品情報の入手はインターネット経由が主流になりました。過度な接待が注目を浴びて規制が設けられたり、製品説明会のお弁当額に上限が設けられたりもして、医師と気軽に話せる機会が減りました。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行時は医療機関に訪問規制が設けられ、とうとう医師に会うこともままならなくなるなど、さまざまな環境の変化がありました。それに伴い、製薬会社のMRの役割や業務が変化しています。私が薬剤師として社会に出たのはもう20年も前になりますが、その頃のMRは薬学部の学生だけでなく、ほかの学部からも就職希望が殺到する花形の職業でした。今は花形ではないというわけではないのですが、いかんせん新卒採用が減り続けています。昨年度のMR認定試験合格者数は1,137人で、5年前の2分の1、10年前の4分の1程度に減っています。「MR白書」では、MR認定センターが製薬会社約200社にアンケート調査を実施し、MRを取り巻く環境や業務の実情、その変遷が取りまとめられています。この調査は毎年実施されており、「2001年の開始以来、歴史的にも調査規模としても製薬業界全体のMRの実態を示す静態調査」とMR認定センター自らがうたっているように、「MRや医薬品情報提供の今」が垣間見えます。2025年度版MR白書では、以下のようなことが報告されています。昨年に比べ、MR数は3,073名(6.6%)減であった。1,000名以上の大きな会社での早期希望退職の影響があったと考えられる。新卒採用をした会社は34.3%であった。コントラクトMRは横ばい。経験者で即戦力となるMRの役割は大きい。薬剤師資格を有するMRは、MR数と同様に減少傾向が続き、過去最低となった。製薬会社のMRがいなくなることはないでしょうが、これらの結果を見るとこれから先もMRは減少傾向となることは間違いないように思います。医師への食事提供ルールが来春から厳格化されるなど、さらなる自主規制が進められていますが、個人的には、未承認薬の情報提供の規制など、新しい医薬品や既存の医薬品の未承認薬効の情報開示などに関しては、私は今の規制はちょっと厳しすぎるのではないかとも思っています。2026年度には、新しいMR認定試験が開始されます。インターネットによる情報提供が定着してきた今、MRが何を担う職業になるのか、医薬品情報を使用する薬剤師としては少し気になるところです。

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最新の新型コロナワクチンは新たな変異株にも有効

 最新の新型コロナワクチンは、新たな新型コロナウイルス変異株に対しても有効であることが、新たな研究で示された。2023〜2024年版の新型コロナワクチンについて検討したこの研究では、ワクチンは特に重症化予防に対して明確な追加的効果のあることが確認されたという。米レーゲンストリーフ研究所生物医学情報センターのShaun Grannis氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に6月25日掲載された。 この研究では、米国の6つのヘルスケアシステムの2023年9月21日から2024年8月22日までのデータを用いて、新型コロナワクチン(オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチン)の有効性が検討された。主要評価項目は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による救急外来(ED)や緊急ケア(UC)受診、入院、および重症化(集中治療室〔ICU〕入室または入院死亡)の予防に対する有効性を検討した。なお、本研究の対象期間には、オミクロンXBB株およびJN.1株の流行期も含まれている。 対象期間中にCOVID-19様症状を呈し、PCR検査または抗原検査を受けた18歳以上の成人34万5,639例(年齢中央値53歳、女性60%)のうち、3万7,096例(11%)が陽性であった。解析からは、ワクチン接種後7〜299日の間におけるED/UC受診予防に対するワクチンの有効性は24%(95%信頼区間21〜26%)であることが示された。また、COVID-19様症状を呈して入院した18歳以上の入院患者11万1,931例(年齢中央値71歳)のうち、1万380例(9%)が陽性であった。解析からは、ワクチン接種後7〜299日の間におけるCOVID-19関連の入院予防に対するワクチンの有効性は29%(95%信頼区間25〜33%)、重症化予防に対する有効性は48%(同40〜55%)であった。ワクチンのこのような予防効果は、特に65歳以上の成人において顕著であることも示された。 さらに、ワクチンの有効性は接種後7〜59日が最も高いことも判明した(ED/UC受診予防:49%、入院予防:51%、重症化予防:68%)。しかし、接種後180〜299日になると効果が大幅に低下し、ED/UC(−7%)と入院(−4%)予防に関しては有効性が認められなくなり、重症化予防についても16%まで低下していた。 Grannis氏は、「この研究は、改良型COVID-19ワクチンが、特にワクチン接種直後の数カ月間に、入院や重症化などの深刻なアウトカムに対して依然として大きな保護効果を発揮することを示している」と述べている。同氏はさらに、「これらの結果は、ウイルスが進化し続ける中で、特に高齢者やより脆弱な患者に対して、推奨通りに最新のワクチンを接種し続けることの重要性を再確認させるものだ」と付け加えている。 この研究結果は、米政府により新型コロナワクチンの改良が妨げられている中で発表された。米食品医薬品局(FDA)は5月に、プラセボ対照試験を実施しない限り、一般向けに改良型新型コロナワクチンを承認しないと発表した。また、同月後半にロバート・F・ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr.)保健福祉長官は、米疾病対策センター(CDC)は今後、健康な小児および妊婦への新型コロナワクチン接種を推奨しないと発表した。なお、CDC公式サイトには現時点でこの方針は反映されていない。 Grannis氏は、「本研究結果は、高リスクグループに対してタイムリーなワクチン接種と追加接種を推奨するガイドラインを裏付けている」と話す。また、共著者の1人であるレーゲンストリーフ研究所生物医学情報センターのBrian Dixon氏は、「効果的なワクチンの接種は、入院や救急外来の受診を防ぐことで地域社会の健康を維持し、COVID-19に伴うコストを削減する上で依然として重要な手段である」と述べている。

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高齢の日本人男性で腸内細菌叢がサルコペニアと相関か

 我々の腸内には、約1,000種類・100兆個にも及ぶ細菌が存在している。これらの細菌は、それぞれ独自のテリトリーを維持しながら腸内細菌叢(GM)という集団を形成している。近年では、GMが全身疾患と関連していることが明らかになってきた。今回、日本の高齢者を対象とした研究において、男性サルコペニア(SA)患者では、非SA患者に比べてGMのα多様性が有意に低下しβ多様性にも有意な違いを認めることが報告された。研究は順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター消化器内科の浅岡大介氏らによるもので、詳細は「Nutrients」に5月21日掲載された。 SAは、加齢に伴い骨格筋量、筋力、身体機能が低下する病気だ。SAを患う患者は転倒、入院、死亡のリスクが高まるため、早期発見と適切な介入が不可欠となる。また、近年、SAの発症にはGMが関与することが示唆されている。GMの細菌構成が乱れた状態(ディスバイオシス)では、腸管透過性が亢進し、いわゆる「リーキーガット(腸管壁侵漏)」による炎症が引き起こされ、結果としてSAの進行につながっている可能性がある。日本人は独特な食習慣の影響で、他の集団とは著しく異なるGMプロファイルを持つことが知られている。しかし、特に高齢の日本人集団におけるGMとSAの関係については、まだ十分に解明されていない。このような背景から著者らは、アジアにおけるSA診断基準としては2019年に改訂された最新のアジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)2019基準で診断された高齢者のSAとGMプロファイルとの関係を検討した。 本研究では、2022年6月から2023年1月にかけて、順天堂東京江東高齢者医療センター消化器内科に外来通院していた65歳以上の患者から採取した便検体を用い、前向きの横断研究を実施した。SAはAWGS2019診断基準に基づき、握力、歩行速度、DXA法による骨格筋量指数(SMI)に基づき診断された。GMプロファイルは16S rRNA遺伝子シーケンス解析を用いて解析し、(1)SAに関するGMのα多様性(個体内のGMでどの種がどの位均等に存在しているか)・β多様性(個体間のGMでどれ位多様性が異なるか)・性差、(2)SAに関連する腸内細菌属の占有率や検出率、(3)SMI、握力、歩行速度と腸内細菌属との相関を調査した。 本研究の最終的な解析対象は356名(男性144名、女性212名)であり、このうちSAは50名(男性35名、女性15名)含まれた。β多様性は男女間で有意に異なっていたため、性別によるサブグループ解析を実施した。その結果、男性のSA群ではα多様性のいくつかの指標が低かった(ディスバイオシスの状態)。男性のGMのβ多様性は、SA群と非SA群で有意な違いが認められた。一方で女性の場合は、α多様性およびβ多様性のいずれにも有意な違いは認められなかった。 次に、SAに関連する腸内細菌属の占有率を調べたところ、6種の細菌属(Eubacterium I、Fusicatenibacter、Holdemanella、Unclassified Lachnospira、Enterococcus H、Bariatricus)の腸内占有率が男性のSA群で低いことが明らかになった。一方で、女性のSA群と非SA群の細菌構成比に明らかな違いは認められなかった。スピアマンの順位相関係数を用いて、これらの細菌属と筋力に関連する指標との相関を調べたところ、男性の検体において、Unclassified Lachnospiraは握力と、FusicatenibacterおよびEnterococcus Hは握力および歩行速度との間に有意な正の相関を示した。HoldemanellaはSMIと正の相関を示していた。しかし、女性の検体ではこれらの菌属とSMI、握力または歩行速度との間に有意な相関は認められなかった。 本研究について著者らは、「本研究は、日本で初めて臨床において高齢者集団のGM組成とAWGS2019診断基準で診断されたSAとの関連を調査した研究である。今回の結果から、高齢の日本人男性において、GMの組成がSAと関連することが示された。これは、日本の高齢男性におけるSA予防のために、腸内細菌をターゲットとした戦略が有効である可能性を示唆している」と述べている。

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抗IL-5抗体は“好酸球性COPD”の増悪を抑制する(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 好酸球を集積する喘息などの疾患が併存しないにもかかわらずCOPDの20~40%において好酸球増多を伴うことが報告されている。今回、論評の対象とした論文では、以上のような特殊病態を好酸球性COPD(COPD with Eosinophilic Phenotype)と定義し、その増悪に対する生物製剤抗IL-5抗体(メポリズマブ)の効果を検証している。好酸球性COPDの本質は確定されていないが、本論文では、喘息とCOPDの合併であるACO(Asthma and COPD Overlap)に加え多くの好酸球性全身疾患(多発血管炎性肉芽腫症など)の関与を除外したCOPDの一亜型(表現型)と定義されている。COPDの歴史的変遷 COPDの現在に通ずる病態の議論が始まったのは1950年代であり、肺結核を中心とする感染性肺疾患を除いた慢性呼吸器疾患を総称してChronic Non-Specific Lung Disease(CNSLD)と定義された。1964年には閉塞性換気障害を呈する肺疾患に対してイギリス仮説(British Hypothesis)とアメリカ仮説(American Hypothesis)が提出された。イギリス仮説では閉塞性換気障害の本質を慢性気管支炎、アメリカ仮説ではその本質を肺気腫と考えるものであった。しかしながら、1975年、ACCPとATSの合同会議を経て慢性気管支炎と肺気腫を合わせて慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)として統一された。 一方、1960年に提出されたオランダ仮説(Dutch Hypothesis)では、喘息、慢性気管支炎、肺気腫の3病態を表現型が異なる同一疾患であると仮定された。オランダ仮説はその後数十年にわたり評価されなかったが、21世紀に入り、COPDにおける喘息の合併率が、逆に、喘息におけるCOPDの合併率が、一般人口における各病態の有病率より有意に高いことが示され、慢性の気道・肺胞病変にはオランダ仮説で示唆された第3の病態、すなわち、肺気腫、慢性気管支炎によって代表されるCOPDと喘息の重複病態が存在することが示唆された。COPDと喘息の重複病態は、2009年にGibsonらによって(Gibson PG, et al. Thorax. 2009;64:728-735.)、さらに2014年、GINA(喘息の国際ガイドライン)とGOLD(COPDの国際ガイドライン)の共同作業によってACOS(Asthma and COPD Overlap Syndrome)と命名されたが、その後、ACO(Asthma and COPD Overlap)と改名された。ACOは1960年に提出されたオランダ仮説と基本概念が類似する疾患概念だと考えることができる。 しかしながら、近年、喘息が併存しないにもかかわらず好酸球性炎症が病態形成に関与する“好酸球性COPD”なる新たな概念が提出され、その本質に関し積極的に解析が進められている(Yun JH, et al. J Allergy Clin Immunol. 2018;141:2037-2047.)。すなわち、現時点におけるCOPDの病型には、古典的な好中球性COPD(肺気腫、慢性気管支炎)に加え、喘息が合併した好酸球性COPD(ACO)ならびに喘息の合併を認めない非喘息性の好酸球性COPDが存在することになる。好酸球性COPDの分子生物学的機序 20世紀後半にはTh2(T Helper Cell Type 2)リンパ球とそれらが産生するIL-4、IL-5、IL-13が喘息病態に重要な役割を果たすことが示された(Th2炎症)。21世紀に入り2型自然リンパ球(ILC2:Group 2 Innate Lymphoid Cells)が上皮由来のIL-33、IL-25およびTSLP(Thymic Stromal Lymphopoietin)により活性化され、IL-5、IL-13を大量に産生することが明らかにされた。その結果、喘息の主病態は、“Th2炎症”から“Type2炎症”へと概念が拡大された。喘息患者のすべてがType2炎症を有するわけではないが、半数以上の喘息患者にあってType2炎症が主たる分子機序として作用する。Type2炎症にあって重要な役割を担うIL-4、IL-13は、STAT-6を介し気道上皮細胞における誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現を増強し、気道上皮において一酸化窒素(NO)を過剰に産生、呼気中の一酸化窒素濃度(FeNO)は高値を呈する。すなわち、FeNOはIL-4、IL-13に関連するType2炎症を、血中好酸球数は主としてIL-5に関連するType2炎症を、反映する臨床的指標と考えることができる。 好中球性炎症が主体であるCOPDにあって好酸球性炎症の重要性が初めて報告されたのは、慢性気管支炎の増悪時であった(Saetta M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1994;150:1646-1652.)。Saettaらは、ウイルス感染に起因する慢性気管支炎の増悪時に喀痰中の好酸球が約30倍増加することを示した。それ以降、COPD患者にあって増悪時ではなく安定期にもType2炎症経路が活性化され好酸球増多を伴う病態が存在することが報告された(Singh D, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2022;206:17-24.)。これが非喘息性の好酸球性COPDに該当するが、COPDにおいてType2炎症経路がいかなる機序を介して活性化されるのかは確実には解明されておらず、今後の詳細な検討が待たれる。好酸球性COPDに対する生物製剤の意義-増悪抑制効果 2025年のGOLDによると、血中好酸球数が300cells/μL以上で慢性気管支炎症状が強い好酸球性COPDにおいては、ICS、LABA、LAMAの3剤吸入を原則とするが、吸入治療のみで増悪を管理できない場合には抗IL-4/IL-13受容体α抗体(抗IL-4Rα抗体)であるデュピルマブ(商品名:デュピクセント)を追加することが推奨された。2025年現在、米国においては、抗IL-5抗体であるメポリズマブ(同:ヌーカラ)も好酸球性COPD治療薬として承認されている。一方、本邦にあっては、2025年3月にGOLDの推奨にのっとりデュピルマブが好酸球性COPD治療薬として承認された。 本論評で取り上げたSciurbaらの無作為化プラセボ対照第III相試験(MATINEE試験)では、世界25ヵ国344施設から、(1)40歳以上のCOPD患者(喫煙歴:10pack-years以上)で喘息など好酸球が関与する諸疾患の除外、(2)スクリーニングの1年前までにステロイドの全身投与が必要な中等症増悪を2回以上、あるいは1回以上の入院が必要な重篤な増悪の既往を有し、(3)ICS、LABA、LAMAの3剤吸入療法を少なくとも3ヵ月以上受け、(4)血中好酸球数が300cells/μL以上、の非喘息性の好酸球性COPD患者804例が集積された。これらの患者にあって、170例がメポリズマブを、175例が対照薬の投与を受け52週間(13ヵ月)の経過が観察された。さらに、メポリズマブ群に割り当てられた233例、対照薬群の226例は104週間(26ヵ月)の経過観察が施行された。Primary endpointは救急外来受診あるいは入院を要する中等症以上の増悪の年間発生頻度で、メポリズマブ群で0.80回/年であったのに対し対照群のそれは1.01回/年であり、メポリズマブ群で21%低いことが示された。 Secondary endpointとして中等症以上の増悪発生までの日数が検討されたが、メポリズマブ群で419日、対照群で321日と、メポリズマブ群で約100日長いことが示された。MATINEE試験の結果は、増悪が生命予後の重要な規定因子となる非喘息性の好酸球性COPDにあってICS、LABA、LAMAの3剤吸入に加え、生物製剤メポリズマブの追加投与が増悪に起因する死亡率を有意に低下させる可能性を示唆した点で興味深い。 現在、喘息に対する生物製剤には、本誌で論評したメポリズマブ(商品名:ヌーカラ、抗IL-5抗体)以外にオマリズマブ(同:ゾレア、抗IgE抗体)、ベンラリズマブ(同:ファセンラ、抗IL-5Rα抗体)、GOLDで好酸球性COPDに対する使用が推奨されたデュピルマブ(同:デュピクセント、抗IL-4Rα抗体)、テゼペルマブ(同:テゼスパイア、抗TSLP抗体)の5剤が存在する。これらの生物製剤にあって、少なくともベンラリズマブ、デュピルマブ、テゼペルマブはACOを含む好酸球性COPDの増悪抑制という観点からはメポリズマブと同等の効果(あるいは、それ以上の効果)を発揮するものと予想される。いかなる生物製剤が好酸球性COPD(ACOと非喘息性の好酸球性COPDを含む)の生命予後を改善するのに最も適しているのか、今後のさらなる検討を期待したい。

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第271回 参院選のマニフェストに変化?各党が口を揃える政策とは

与党情勢、雲行き怪しく第27回参議院選挙(以下、参院選)も終盤に差し掛かっている。こうした選挙では序盤、中盤、終盤と各社が情勢を報道するが、近年で政権与党側の情勢がここまで坂を転がり落ちるように悪化するのも珍しいと言える。たとえばNNN(日本テレビ系列)の情勢調査によると、勝敗を握る1人区の情勢は、序盤は与党系リードが10選挙区、野党系リードが12選挙区、接戦が10選挙区だったのが、終盤ではそれぞれ7選挙区、20選挙区、5選挙区まで変化している。党勢を直接的に反映する比例代表議席では、序盤で自民党は12~15議席と予想されてきたが、ここに来て自民党内からは12議席も危ういのではないかとすらささやかれている。筆者の知人の自民党関係者は「もう予想がつかない。ただ、ほぼ絶対と言ってもよいかもしれないのは序盤の最大値15議席はないということ」とまで語った。ちなみに現在の選挙制度になって以降、参院選での自民党の比例の最低記録は1998年(橋本 龍太郎政権)と2007年(第一次安倍 晋三政権)の14議席である。これを下回れば自民党にとって過去最大の敗北となる。さて本連載では毎回国政選挙時に各政党が掲げる医療・介護・社会保障関連政策を独断と偏見も交えながら取り上げてきた。昨年秋の衆院選時も前編・後編にわけてお伝えしたが、そこから10か月弱しか経ていない。ということで、今回は政党助成法上の政党要件を満たした各党の政策を約10ヵ月前と比較した変化に着目してお伝えしたいと思う(以下、2024年衆院選マニフェスト=前回、2025年参院選マニフェスト=今回)。なお、取り上げるのは改選前議席数の順としている。自民党(114議席)自民党の場合、選挙時のマニフェストは簡易版に加え「総合政策集(通称・J-ファイル)」を公表している。このJ-ファイルで謳っている社会保障関連項目は70項目を超える。ただ、これを極めてぎゅっとまとめた簡易版では以下のように大枠を記述している。「物価や賃金が上昇する中、地域医療、介護、福祉の基盤を守り、働く方もサービスを利用する方も継続して安心できるよう、次期報酬改定はもとより、経済対策等を通じ、公定価格の引上げなど、経営の安定や他産業に負けない賃上げにつながる迅速かつ確実な対応を行います。わが国の創薬力の強化を図るとともに、持続可能な流通体制を含め、医薬品の安定供給に取り組みます」実は前回は太字にあるような診療報酬引き上げは、物価スライドの可能性については言及していたものの、引き上げそのものまでは言明していなかった。そしてもう1つの太字である創薬強化、流通の安定になぜ私が太字をつけたかを説明しよう。これまでの診療報酬引き上げは、薬価の引き下げを財源としていたのはこの業界では周知のこと。創薬力の強化も安定供給もそれを下支えするのは薬価である。慣例に則れば、診療報酬引き上げと薬価の下支えは二律背反である。だが、それを公言してしまっているのだ。この謎を解くヒントの一端が、J-ファイル2024とJ-ファイル2025の比較で浮き上がってくる。ずばりJ-ファイル2025には前回はなかった「病床数の適正化を進める医療機関への支援を着実に実施」という文言が新たに加わった。診療報酬は引き上げつつも、病床削減による入院医療費削減を念頭に置き、その一部が薬価対策に使われるのではないかと邪推できてしまう。2025年度予算編成に当たって自公維3党合意で謳われた病床削減に少なくとも石破自民党はそれなりに本気であることがうかがえる。この点は大きな変化と言える。立憲民主党(38議席)現在、最大野党の同党だが、診療報酬や介護報酬の引き上げ、薬価の中間年改定は今回も継続して謳っている。その意味で前回と今回では掲げる政策はほぼ変わっていない。その中で2025年度予算編成での与党の最大の敗北ともいえる高額医療費の自己負担限度額の引き上げ撤回については、今後の引き上げについても中止を新たに明言した。この辺はトレンドに乗じたとも言えるのだが、この項目に関連して同党はさらりと「軽症患者の医療費の見直し優先」と記述している。その見直し内容の詳細には触れていないが、おそらくは一般用医薬品(OTC)類似薬の保険外しなどが念頭にあると思われる。国民民主党や日本維新の会ほどははっきりこの点を明言してこなかった同党だが、ついにこの点に踏み込んだ。公明党(27議席)さて与党の一角を占める同党だが、今回はがらっと政策が“変化”している。というか正確に言えば、医療・介護・保育従事者の賃上げやメンタルヘルスケア対応の充実、医療DXなどは維持されているのだが、前回掲げられていた▽医療提供体制の充実▽がん医療提供体制の充実▽医薬品の安定供給・品質の確保▽帯状疱疹ワクチンの円滑な接種▽地域包括ケアシステムの推進▽難聴に悩む高齢者等に対する支援▽介護人材の確保、はごっそり消えた。細かくは紹介しないが、今回は物価高対策に主な重点を置いているようだ。以前から指摘しているが、同党はある意味元祖バラマキ政党とも言えるため、それと親和性の高い物価高対策のほうにベクトルが向かっているのだろう。日本維新の会(18議席)良く言えば「元祖・若者世代の味方」、悪く言えば「元祖・世代間分断の火付け役」とも言える同党は、今回キャッチフレーズから「社会保険料から、暮らしを変える」を打ち出してきた。前回は「高齢者医療制度の適正化による現役世代の社会保険料負担軽減」というざっくりとしたものを打ち出し、その中で▽後発医薬品の使用原則化▽医薬分業制度の見直し▽保険適用薬品の適正化▽診療報酬体系の再構築▽高齢者医療費の一律3割負担、などを打ち出していた。今回もこの大枠は堅持のままだが、まずは2025年度予算編成時の自公維合意で言及し、同党としては“成果”と考えているであろう▽OTC類似薬の保険適用除外▽人口減少等により不要となる約11万床の病床を不可逆的な措置を講じつつ次の地域医療構想までに削減(感染症等対応病床は確保)、を打ち出してきた。病床削減については「不可逆的な措置」とかなり強い文言まで付記している。さらにより具体的なものとして新たに「費用対効果に基づく医療行為や薬剤の保険適用除外の促進」「電子カルテ普及率100%達成」「電子カルテを通じた医療情報の社会保険診療報酬支払基金に対する電磁的提供の実現」「地域フォーミュラリの導入」を打ち出している。言葉が悪いことを承知で言えば、医療費削減につながりそうなものはなんでも盛り込むヤミ鍋状態である。もっとも一部で話題になっている同党東京選挙区の候補者・音喜多 駿氏の昨今のX(旧Twitter)の投稿に代表されるように、医療に対する理解は表層的な印象が強い。日本共産党(11議席)今回の参院選マニフェストでは新たに「国費5,000億円投入による診療報酬引き上げ」と「OTC 類似医薬品の保険給付外し反対」が加わった。前者は昨今報道されている病院経営の苦境、後者は2025年度予算編成時の自公維3党合意を意識したものと思われる。また、前回も「公費1 兆円投入による社会保険料の均等割・平等割を廃止などの抜本的改革」を謳っていたが、今回はここの中で子どもの国保無料化を打ち出した。介護に関しては、変化はほとんどないが、前回打ち出していた「介護事業所の人材紹介業者への手数料上限設定」は今回のマニフェストからは消えた。この点については、国が対策に本腰を入れ始めたからだと推察される。さて共産党と言うと、「無償化」「負担増反対」などある意味バラマキ政策の典型を見せており、この政策の方向性に変化はない。だが、それでも今回のマニフェストには“大きな変化”があった。というのは、こうした政策に必要な財源規模とそれを捻出するための各政策とそれによる予算削減(獲得)規模の大雑把な貸借対照表を公表したことだ。それによると、医療政策も含め共産党が主張する政策実現に必要な予算は25兆6,000億円で、これを捻出するための政策は、法人税率引き上げによる3兆3,000億円など7項目合計で同額。言ってしまえば、金持ちから搾り取る所得再分配を強化するというものだ。つまり国民全体では薄く負担軽減、一部国民へは課税強化というシナリオである。この通りに進むとは思えないが、これまでの「財源は?」という問いに最低限答えたという変化は小さいものではないと考えている。国民民主党(9議席)各種情勢調査で参政党とともに躍進の可能性が伝えられている同党だが、衆院選直後と比べるとやや失速している模様だ。同党のマニフェストは「手取りを増やす夏。」だが、私のような古い世代はこのキャッチフレーズを聞くと、かつてテレビで流れていた大日本除虫菊の蚊取り線香「金鳥の渦巻」のCMキャッチフレーズ「金鳥の夏 日本の夏」を思い出してしまう。さて前回も同党に関してはかなり医療関連政策が作り込まれていると書いたが、そうしたこともあってか、今回も大きな変更はない。だが、ところどころに微修正が見て取れる。たとえば後期高齢者医療制度の公費負担増では、前回は財源について「国民の安定的な資産形成の促進に配慮しながら、富裕層の保有する資産への課税等を検討します」との記述があったが、これが丸々削除されている。おそらく富裕層からの反発を恐れた全方位(八方美人)戦略と言えるかもしれない。また、保険給付範囲の見直しについても前回はセルフメディケーション推進とともに今回維新が掲げた政策と似通った「年齢ごとに健康に生活できる状況を維持するのにかかる医療の費用対効果評価が低いものについては公的医療保険の対象から見直します」と、すでに保険適用になっている技術などの保険外しを意図しているかのような一文もあったが、これも削除された。一方で「セルフメディケーションの推進」の項目では、なぜここに盛り込んだかは不明だが「リフィル処方箋の普及を目指します」との一文が追加されている。この項目にこの文言を盛り込むのは、何かの間違いか、単なる勉強不足のように思えるのだが…。れいわ新撰組(5議席)前回と比べて驚くほど政策に変化がないのが同党である。よく言えば、一貫性がある。その中でも微妙な変化がある。前回は「健康保険証のマイナカードへの統合反対」「国立病院、公立病院の統廃合、病床の削減を根本的に見直し」としていたが、今回はマイナカードの廃止、病床削減の中止を明言した点である。日本保守党(2議席)前回は国政に議席を有していなかったため、取り上げてはいなかった。今回のマニフェストを見ると、▽健康保険法・年金法改正(外国人の健康保険・年金を別立て)▽出産育児一時金の引き上げ(国籍条項をつける)の2点を打ち出している。この部分を見る限り、参政党以上に「日本人ファースト」である。社民党(2議席)昨年と異なるのは「最低賃金全国一律1,500円の早期実現と社会保険料の労使負担割合を1:3にし、手元に残る賃金を増やします!中小零細企業の負担増加分は国の公費助成で補填します」という主張だ。同党は医療費の窓口負担の引き上げや病院統廃合の反対など共産党やれいわ新撰組と政策が似通っているが、社会保険料についての数字を挙げ、ここまで具体的に踏み込んだのはほぼ初だと思われる。参政党(1議席)第270回で取り上げたのでここでは詳細は省くが、変化があったのは今回新たに加わった「政策5 GoToトラベルで医療費削減」と「政策6 金儲け医療・WHOパンデミック条約に反対」の各種政策。昨年の衆院選では新型コロナウイルス感染症ワクチンの健康被害追及への注力を打ち出していたが、この点は鳴りを潜めた。この手の政策に批判が集まりやすいことを念頭に置いたのかどうかはわからないが…。各政党が意識する政策ざっと概観したが、今回、全体を見回して私個人が非常に特徴的と感じたことがある。それはどの政党も「社会保険料の軽減」にやたらと重点を置いていることだ。少なくともこの点の元祖は、これまで各党の政策を眺めてきた私からすると日本維新の会なのだが、この政策を盛り込んでキャッチーに「手取りを増やす」を掲げ、若年層からの票を集めて議席増につなげた国民民主党がインフルエンサーの地位をものにしたと感じている。これまで政治に関心の低い若年層の支持獲得に苦労してきた各党とすれば、前回の国民民主党の躍進でその解の一端を見つけたと思ったのではないか? その意味で今回の選挙は、「国民民主ジェネリック」あるいは「国民民主ポピュリズム」とでもいうべき現象が広がっているように映る。さて最終的な結果はいかなるものになるのだろう。

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フィジシャン・アシスタントによるケアの質への影響は?/BMJ

 英国・ノッティンガム大学のNicola Cooper氏らは、フィジシャン・アシスタント(Physician Assistant:PA)のケアの質への影響を明らかにする目的で、PAによるケアと医師によるケアを定量的に比較した研究についてシステマティックレビューを行い、エビデンスは限られており、診断前の状況でPAが間接的な指導の下で業務を行うことは、安全性または有効性の点で支持されるものではないことを報告した。PAは、特定の専門分野や地域における医療不足に対応するため、米国で導入された。英国では、最初のPAが2007年にパイロットプログラムを卒業したが、とくに「医師の代理」としての役割を果たすことに関してPA制度の導入に懸念が示されていた。著者は、「PAの監督体制と業務範囲に関する国のガイドラインを設けることで、PAの安全かつ効果的な業務を行えるようにすることができる」とまとめている。BMJ誌2025年7月3日号掲載の報告。PAによるケアvs.医師によるケア、定量的に比較した研究をレビュー 研究グループは、主要な医学電子データベースであるMedlineおよびEmbaseを包括的に検索するとともに、Google Scholarを用い検索語を「impact of physician assistants」として最初の200件に限定して検索を行った。 適格基準は、言語が英語で、2005年1月~2025年1月に発表され、先進国においてPAによるケアと研修医を含む医師によるケアを定量的に比較した実証研究であった。アウトカムは、Institute of Medicineによる質の定義に基づくケアの成果(安全性、有効性、患者中心性、適時性、効率性、公平性)とした。 適格基準を満たした研究は、プライマリケア、セカンダリケア、病院におけるPAと研修医の比較、診断/パフォーマンス、費用対効果に分類された。 2人の評価者が独立して、研究デザイン、サンプル、方法および結果に関するデータを抽出するとともに、各研究についてバイアスリスク評価ツールを用いた。 解析対象となった研究には異質性があるため、メタ解析は行わず主要な結果についてナラティブに統合した。各アウトカムに関するエビデンスの信頼性は、関連研究の数と質、および類似する研究間の結果の一貫性に基づいて評価された。PAのケア、直接監督下で診断後の場合は安全かつ効果的 検索により3,636報が特定され、タイトルと抄録による最初のスクリーニングで167件が候補となり、全文スクリーニングの結果、最終的に40件の研究が解析に組み込まれた。 これらの研究の多くは、質の低い後ろ向き観察研究であった。40件中31件が米国、4件がオランダ、4件が英国、1件がアイルランドで実施されたもので、新型コロナウイルス感染症流行以後のデータはなかった。 多くの研究で最も一貫性のある結果が得られたのは、PAが直接の監督の下で診断後のケアに従事している場合に安全かつ効果的に業務を行っているという研究であった。患者満足度については、PAと医師の間に差は認められなかった。 医療チームにPAを加えることはケアへのアクセス向上につながるが、これはPAという職種が持つ役割の固有の貢献というより、医療スタッフ数増加のメリットを反映している可能性が示唆された。 費用対効果に関するエビデンスは限られていた。英国では、社会経済的に恵まれない地域に住んでいる患者ほどPAによる診察を受ける傾向があった。

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新型コロナでがん患者の自宅看取りが増加/がん研究センター

 国立がん研究センターがん対策研究所(所長:松岡 豊)は、2021年に死亡した患者の遺族を対象に、人生の最終段階で受けた医療や療養生活の実態を把握する全国調査を実施し、その結果をまとめ、公表した。 今回の調査は、新型コロナウイルス感染症の流行期とアンケート実施時期が重なったことから、特殊な社会環境下における人生の最終段階の医療や療養生活に関する情報も得られた。 調査対象は、がんを含む主要10疾患(がん、心疾患、脳血管疾患、肺炎、腎不全、血管性などの認知症、アルツハイマー病、慢性閉塞性肺疾患、誤嚥性肺炎、老衰)により死亡した患者の遺族1万890人。また、この調査は、2018~19年度に実施した調査と同一の調査項目を用いており、一定の比較ができるもの。最後に患者が望む場所で過ごせた割合は37~60%【死亡場所で受けたケアの質について】 「医療者はつらい症状にすみやかに対応していた」とする割合は65~81%であり、がん・心疾患・脳血管疾患では前回より2~3ポイント低下していた。とくに老衰(80.7%)とがん(79.3%)が高い値だった。「死亡場所での医療に満足していた遺族」は65~81%であり、がん・肺炎・腎不全では前回より2~5ポイント増加した。【医療に関する希望の話し合いについて】 「医師と患者の間で最期の療養場所について話し合いがあった」という割合は23~53%であり、がんを含む5疾患では、前回より8~17ポイント増加した。とくにがん(52.9%)、老衰(39.7%)、慢性閉塞性肺疾患(39.5%)の順で高い値だった。【新型コロナウイルス感染症の看取りへの影響について】 「入院・入所していたため、面会制限により思うように面会できなかった」とする遺族の割合は61~82%だった。とくにがんでは、面会制限を避けて自宅療養を選択した割合が11%と相対的にやや高くなっていた。また、「面会制限で思うように面会できなかった割合」では、アルツハイマー病(81.5%)、誤嚥性肺炎(80.9%)、肺炎(78.8%)の順で高い値だった。【死亡前1ヵ月間の療養生活の質について】 「からだの苦痛が少なかった」とされた割合は37~53%であり、がんでは前回から4ポイント低下した。とくに老衰(52.5%)、アルツハイマー病(49.6%)、認知症(49.1%)の順で高かった。患者などが望んだ場所で過ごせた割合は37~60%であり、がんを含む5疾患では、前回より2~15ポイント増加した。

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第272回 致死率30%!猛威を振るうマダニ感染症SFTS、患者発生は西日本から甲信越へと北上傾向

マダニによる被害、今年は例年より多い印象こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、群馬県の赤城山麓の赤城高原にログハウスを建てて埼玉から引っ越した、大学の後輩宅に遊びに行ってきました。初日は夕方前に着いたので、せっかくだからと利根川と片品川の合流点あたりで釣りをしようと、橋のたもとに車を置いて川岸に向かいました。しかし、背丈を超えて生い茂った雑草に難渋、結局川岸に辿りつけず竿も振らないで敗退しました。挙句の果て、マダニを衣服に何匹も付けて車に戻ってしまい、取り除くのに十数分を要しました。幸い刺されはしませんでした(多分)が、真夏の群馬の川をちょっと舐めていたなと反省した次第です。そのマダニですが、学生時代、山登りでしょっちゅう刺されたものです。とくに比較的標高が低い山の藪漕ぎ登山で刺されることが多く、刺しているマダニを無理に取り除こうとして頭部や牙だけが皮膚に残ってしまうことも度々でした。さて、そんな昔話はさておいて、今年はマダニによる被害が全国で多発しているようです。仕事柄、全国の地方紙やテレビ局のニュースサイトをチェックすることが多いのですが、例年よりもマダニ報道が多い印象です。この1ヵ月間の記事を日経テレコン等で調べたところ、以下のような記事がひっかかりました(これでもごく一部です)。重症熱性血小板減少症候群の症状があるネコの治療をした獣医師の死亡例も6月14日付毎日新聞「マダニに刺されて感染する重症熱性血小板減少症候群(SFTS=マダニ感染症)のネコを治療した三重県内の獣医師が、その後SFTSで死亡していたことが13日、県獣医師会への取材で分かった。治療したネコから感染した可能性があり、県獣医師会から連絡を受けた日本獣医師会が診療時に注意するよう呼び掛けている。県獣医師会が作成した報告書によると、この獣医は4月下旬、SFTSの症状がある9ヵ月の雄雌1匹ずつを1週間から10日入院させ、検体を民間検査機関に送るとともに治療に当たった。獣医は5月6日になって虚脱感や食欲不振を訴え、8日夜に呼吸困難で病院へ搬送。検査でSFTSであることが分かり、担当医が感染症法に基づいて保健所に届け出た。医師は12日に死亡。ダニに刺されたような痕は確認されなかったという」6月25日付NHKニュース「愛知県豊田市はダニが媒介する感染症にかかった2人が6月、相次いで死亡したと発表しました。豊田市によりますと死亡したのは、いずれも市内に住む50代の女性と90代の男性です。2人はいずれも主にウイルスを持つマダニにかまれることで引き起こされる感染症、SFTS=『重症熱性血小板減少症候群』に感染していたということです。このうち50代の女性は、草むらで除草作業を行ったあと、5月27日に発熱などの症状を訴え、10日後の6月6日、入院先の医療機関で死亡しました。90代の男性は、6月15日、発熱や筋肉痛などの症状があり入院しましたが、9日後の6月24日に死亡し、その後、SFTSへの感染がわかったということです」。6月30日付朝日新聞「マダニを通じてウイルスに感染する人獣共通感染症の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について今月、茨城県内の飼いイヌでも感染が確認されたことがわかった。5月には同県で、関東で初とみられるネコの感染も確認されていた。ダニやペットを通じた感染リスクが高まっている可能性がある」。7月2日付山陽放送ニュース「香川県綾歌郡内に住む70代の男性が、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)により死亡したと発表しました。70代の男性は、6月23日に発症。その後、発熱や全身倦怠感・消化器症状・白血球減少・血小板減少などの症状が出て、きのう(7月1日)入院先の病院で死亡したということです。香川県によりますと、男性はマダニに咬まれたと推定されるということです。香川県内での死亡例は、今年2例目となります」。北海道ではダニ媒介脳炎、静岡では日本紅斑熱が7月3日付北海道放送ニュース「道央圏に住む70代の女性がマダニに刺され、ダニ媒介脳炎を発症しました。ダニ媒介脳炎の確認は国内で9例目で、すべて北海道で発生しています。道央圏に住む70代の女性は、6月上旬、自宅の庭で作業をしていたところ、背中をマダニに刺されていることに気が付きました。女性は数日後に頭痛や発熱などを発症し、刺されてから10日後に病院を受診しましたが、症状が治まらなかったことから、道立衛生研究所が検査するとダニ媒介脳炎であることが判明しました」。7月8日付中京テレビニュース「岐阜県は中津川市に住む60代の女性が、県内で初めてマダニが媒介する感染症に感染していたと発表しました。県によりますと女性は6月26日、自宅周辺の草刈り中、マダニにかまれたことに気づいたということです。その後、発熱や下痢などの症状が出たため、県内の病院を受診し検査したところ、7日にマダニにかまれることで発症するSFTS=重症熱性血小板減少症候群だったことが分かりました。2013年からの報告開始以降、岐阜県で感染が確認されたのは初めてです」。7月8日付静岡放送ニュース「静岡県は7月8日、マダニが媒介する『日本紅斑熱』の患者と『重症熱性血小板減少症候群=SFTS』の患者が1人ずつ確認されたと発表しました。SFTSに感染した患者は死亡したということです。『日本紅斑熱』患者は2025年に入り14人で、すでに年間最多の患者が確認された2024年に並び、『SFTS』患者も2025年4人目で、7月までに5人が確認された2022年に次ぐペースで県が注意を呼び掛けています」なお、重症熱性血小板減少症候群(SFTS:severe fever with thrombocytopenia syndrome)、日本紅斑熱、ダニ媒介脳炎のいずれも感染症法による全数把握対象疾患(4類感染症)で、患者を診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければなりません。各地でニュースになっているのも都道府県(保健所)からの報告を、記者がすぐに記事にしているためだと考えられます。6月29日までの半年間に報告されたSFTSの患者数は24府県で91人、「感染が確認されている地域が西から東へじわじわと広がりつつある」こうしてみると、マダニによる感染症は全国で発生しており、SFTSだけでなく日本紅斑熱、ダニ媒介脳炎などもあることがわかります。さらにSFTSはペットのネコを媒介しても発症し、獣医師の死亡も発生しています。それにしても今年は多いなと思っていたところ、7月8日付けのNHKニュースは「マダニ媒介の感染症 SFTS患者数91人 同時期比で過去最多に」と題するニュースを発信していました。同ニュースは、「国立健康危機管理研究機構によりますと、今年に入ってから、先月29日までの半年間に報告された(SFTSの)患者数は24府県で91人に上り、これまでで最も多かったおととしの同じ時期の82人を上回りました」と報じています。地域別では、「高知県で11人、大分県で8人、島根県と長崎県で7人、熊本県で6人、三重県、岡山県、山口県で5人など」で「NHKが、各地の自治体に取材したところ、静岡県、愛知県、三重県、香川県、宮崎県の5つの県で少なくとも9人が死亡したと報告されています」としています。傾向として西日本が多いですが、同ニュースは、「これまでヒトやペットの感染が確認されていたのは九州から東海地方にかけてでしたが先月、関東地方では初めて茨城県でペットのネコの感染が報告されました」として、国立健康危機管理研究機構獣医科学部の前田 健部長の「感染が確認されている地域が西から東へじわじわと広がりつつある。シカやイノシシといった野生動物が増えているため、これらの動物から吸血するマダニが増えて、患者の増加につながっている可能性がある」というコメントを紹介しています。さらに同ニュースは、「とくに注意が必要なのはネコ」だとして、「国立健康危機管理研究機構によりますと、感染が確認されたネコの報告は全国で調査を始めた2017年は8件でしたが、去年は194件と大幅に増加しています。ことしは3月までに全国で36件が報告されているほか、5月には関東地方で初めて茨城県でペットのネコの感染が報告されました」と注意喚起しています。はっきりとした理由はわかりませんが、温暖化などの影響でSFTSウイルスを持ったマダニの生息域が日本で徐々に北上、野生動物からネコ、イヌへの感染も手伝って、ヒトへの感染も増えている、ということのようです。2024年6月に抗ウイルス薬のファビピラビルがSFTS治療薬として承認日本で確認されているマダニによる感染症は非常に多くあります。代表的なものが重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、日本紅斑熱、ライム病、ダニ媒介脳炎(北海道中心で)などです。これらの中でとくに注意が必要なのが、前述の記事でも死亡例が多かったSFTSです。国立健康危機管理研究機構が作成している「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 2024年版」(診療の手引き)1)によれば、SFTSは2011年に中国の研究者によって初めて報告された新興感染症とのことです。日本において患者が初めて報告されたのは2013年1月とわずか12年前ですが、2005年にはすでに患者が発生していたとされています。ちなみに、国内で分離されたほとんどのSFTSウイルス株は中国で分離されるウイルス株と異なっており、日本国内の自然界に相当前から存在していたと考えられています。日本においてSFTSは患者の約90%が60歳以上と報告されています。今年の報道でも死亡しているのはほとんど60歳以上の高齢者です。免疫力の低下や感染機会(農作業など)の多さがその理由とされていますが、確かなことはわかっていません。感染から6~14日程度の潜伏期間を経て発熱や嘔吐、下痢のほか、ときに意識障害や失語などの神経症状、下血などの出血症状が出ます。致死率は高く約20〜30%とされています。長年、効果的な治療法がなく対症療法が主体でしたが、日本では2024年6月に抗ウイルス薬のファビピラビル(商品名:アビガン)が世界で初めて承認されています。ただ、治療効果は致死率が半分程度になるということなので、”特効薬”とまでは言えないようです。70歳以下、発症から5日以内の投与の場合に、とくに高い治療効果が期待できるとのことです。発症が増え始めるのは4月から、5月にピークを迎え10月くらいまで続くところで、マダニと言ってもさまざまな種類がいます。厚生労働省が2024年8月にまとめた「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」2)によれば、「日本には、命名されているものだけで47種のマダニが生息するとされていますが、これまでに実施された調査の結果、複数のマダニ種(フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニ)からSFTSウイルスの遺伝子が検出されています。日本では少なくともフタトゲチマダニとキチマダニがヒトへの感染に関与しています」とのことです。もっとも、すべてのマダニがSFTSウイルスや日本紅斑熱の原因リケッチアを保有しているわけではありません。刺されて発症するかどうかは“運”とも言えます。「診療の手引き」には2014~23年のSFTS症例の発症月別届出数が掲載されていますが、発症が増え始めるのは4月で、5月にピークを迎え、10月くらいまで続きます。冬以外はいつSFTSの患者が運ばれてきてもおかしくないと言えるでしょう(ちなみに、北海道で主に発生するダニ媒介脳炎の原因は極東型フラビウイルスで、とくに寒冷地に多く生息するシュルツェマダニが媒介するとされています)。SFTSは、患者や遺体との接触によるヒトからヒトへの感染も中国、韓国、日本から報告されており、血液・体液との直接接触が感染経路と考えられています。「診療の手引き」は「医療従事者は患者の血液・体液に曝露されることがあり、職業感染のリスクがある。本疾患を正しく理解し、感染防止策を適切に行いながら、患者の診療ケアを行うことが重要である」と注意喚起しています。皆さんもお気を付けください。ということで、私がマダニに刺されまくっていた1980~90年代は、まだSFTSウイルスが現れていなかったのかもしれません。ちなみに、皮膚に刺されている時にマダニを無理やり取ろうとすると、牙や頭部だけ皮膚に残ってしまいます。それを防ぐには、「タバコの火をマダニのお尻に近づけること」だと先輩から教わり、山で何度か試しましたが高い成功率でした。医学的にはヤケドのリスクがあるので推奨はされてはいないようですが、すぐに皮膚科などに行けない場合は役立つマダニTipsです。参考1)「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 2024年版」/国立健康危機管理研究機構2)「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」/厚生労働省

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糞便移植、C. difficile感染症の一次治療になり得る効果を示す

 死に至る可能性もある細菌感染症、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile、以下C. difficile)感染症(CDI)の治療に関する臨床試験で、糞便移植(FMT)に抗菌薬と同程度の効果のあることが示された。同試験について報告したオスロ大学(ノルウェー)のFrederik Emil Juul氏らによると、経口抗菌薬を1日4回、10日間服用した患者と比べて、FMTを1回受けた患者で治癒率がわずかに高いことが確認されたという。詳細は、「Annals of Internal Medicine」に6月17日掲載された。 FMTは、健康な人から採取した便サンプルを処理して、便に含まれている有益な腸内細菌を患者の消化管に移植することで健康的な腸内細菌叢を回復させる治療法である。CDIは通常、抗菌薬の使用により元々持っていた腸内細菌が失われた場合に発症する。米クリーブランド・クリニックの説明によると、C. difficileはこのような状況下において腸内で急速に増殖し、毒素を放出して水様性の下痢を引き起こす。米国では毎年約50万件のC. difficile感染症が発生し、1万5,000人がCDIによって命を落としているという。 現在、CDIに対する初回治療にはバンコマイシンなどの抗菌薬が用いられており、FMTは再発を繰り返す場合にのみ適用されるとJuul氏らは研究の背景情報の中で説明している。バンコマイシンに対するC. difficileの耐性はまだ確認されていないものの、FMTはCDIの根本原因に対処する治療法であることから、Juul氏らは、CDIの一次治療にFMTが有効ではないかと考えた。 今回の臨床試験でJuul氏らは、過去365日間にCDI罹患歴のなかったノルウェーのCDI患者104人を対象に、FMTによる治療と抗菌薬(バンコマイシン125mgを1日4回、10日間経口投与)による治療の効果を比較検討した。最終的に100人が、FMTによる治療、または抗菌薬による治療を受けた。主要評価項目は、追加の治療なしに14日時点で臨床的治癒(硬い便または1日3回未満の排便)を達成し、60日以内に再発しないこととした。 その結果、臨床的治癒を達成し60日以内に再発が見られなかった患者の割合は、抗菌薬治療群の61.2%に対してFMT群では66.7%だった。両群の差は5.4ポイント(95.2%信頼区間−13.5〜24.4、非劣性のP値<0.001)であり、統計学的に有意ではなかったが、FMTの効果がバンコマイシンより25ポイント以上劣るという仮説は棄却された。Juul氏らは、「この結果は、初回のCDI患者に対してFMTを行い、症状が続く場合やFMT後に再発した患者にのみ抗菌薬を投与するのが合理的であることを示している」と結論付けている。この結果が極めて強力なものであったことから、独立データ安全性モニタリング委員会は臨床試験の早期終了を勧告したとJuul氏らは説明している。  ただし、本論文の付随論評の中で米マサチューセッツ総合病院の感染症専門医であるElizabeth Hohmann氏は、CDIの一次治療としてFMTが広く適用されるようになるまでにはさらなる研究が必要だと指摘している。同氏は、「われわれが微生物製剤を使用すべきタイミングはいつなのか。初回のCDI罹患時なのか、それとも2回目、あるいは3回目なのか。また、抗菌薬による治療後、どれくらいの期間を空けて使用すべきなのだろうか。それは製剤により異なるのだろうか」と問いかけた上で、「FMTを行う際には、適切な患者の選定と投与のタイミングが重要」との見解を示している。 Hohmann氏はまた、「米国でFMTがCDIの一次治療としてすぐに採用されるとは思わない。しかし、FMTは今後も患者にとって利用可能な治療選択肢であるべきだ」と話している。

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産婦人科医が授業に、中学生の性知識が向上か

 インターネットは、性に関する知識を求める若者にとって主要な情報源となっているが、オンライン上には誤情報や有害なコンテンツが存在することも否定できない。このような背景から、学校で行われる性教育の重要性が高まっている。今回、婦人科医による性教育が、日本の中学生の性に関する知識と意識の大幅な向上につながる、とする研究結果が報告された。ほとんどの学生が産婦人科医による講義を肯定的に評価していたという。研究は、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は「BMC Public Health」に5月28日掲載された。 インターネットへのアクセスが容易になり、子どもたちの性的な内容への露出に対する懸念が高まったことにより、多くの国々が国際的なガイドラインを導入し、包括的な性教育(CSE)プログラムを推進するようになった。2000年には、汎米保健機構(PAHO)と性の健康世界学会(WAS)は、世界保健機構(WHO)と共同で「セクシュアル・ヘルスの推進 行動のための提言」を作成し、全ての人にCSEを提供することを提案した。 日本でも、この提言に呼応し、適切な性に関する知識を得るためのCSEプログラムが求められている。また、世界的に多くのCSEプログラムでは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種が重要な要素として含まれている。これは、HPVと子宮頸がんとの関連が確立されており、子宮頸がんは「予防可能」であることに由来する。このような背景を踏まえ著者らは、専門医による性教育の講義が、日本の中学生の経口避妊薬(OC)、避妊、子宮頸がん、HPVワクチン接種に関する知識と意識に与える影響を評価することとした。授業の前後にアンケート調査を実施し、知識と意識の変化を調査した。 本研究では、日本国内の公立および私立の中学校37校に通う中学3年生の男女を対象とした。講義で取り上げたトピックは、文部科学省のCSEガイドラインに従い、1:男女の体の違い、2:月経の問題とその管理、3:避妊方法、4:LGBTQやデートDVに関する問題、5:性感染症、6:子宮頸がんとHPVワクチン、の6つとした。生徒は講義の前後にアンケートに回答し、講義内容に関する知識と意識を評価された。 事前アンケートには5,833名、事後アンケートには5,383名が回答し、男女比はほぼ均等だった。講義に先立ち実施した事前アンケートでは、性に関する情報源と現状の知識について回答を得た。情報源として「インターネットやYouTube」と回答した生徒の割合が最も多かったが、男女別に見ると男子学生の割合が有意に高かった。女子学生は「学校の先生や授業」や「両親・家族」を情報源として挙げる割合が高かったのに対し、男子学生では、「友人」や「この種の情報を得たことがない」と回答する割合が高かった。また、講義前はOC、子宮頸がん、HPVに関する知識が乏しく、多くの学生がHPVワクチンに対して不安を抱いていた。 講義後、OCに関する知識(使用可能年齢や副作用など)が向上し、生理痛の緩和など避妊以外のメリットを認識する学生が増えた。また、避妊方法の理解も著しく深まり、「避妊は男性が責任を持つべき」と考える学生の数は減少した。さらに、子宮頸がんやHPVに関する知識も大幅に向上し、HPVワクチンの接種を希望する学生の割合も増加した。 講義後に実施したアンケートでは、ほとんどの学生が今回の講義を肯定的に評価し、5段階評価で4または5を選択した。男子学生よりも女子学生の方が、わずかに高い評価をしていた。 本研究について著者らは「本研究は、国際機関や先行研究の提言を踏まえ、日本の若者にとって包括的でアクセスしやすい性教育の必要性を明確にした。婦人科医などの専門医が関与することで、性に関する幅広い健康トピックについて正確かつ最新の情報を提供でき、こうした介入の効果をさらに高めることができるだろう」と述べている。

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1型糖尿病薬zimislecelが膵島機能を回復/NEJM

 1型糖尿病の患者において、同種多能性幹細胞由来の完全分化型膵島細胞療法薬zimislecel(VX-880)は、生理的膵島機能の回復をもたらし、血糖コントロールを改善し、治療関連有害事象やインスリン投与量管理の負担などのインスリン補充療法の短所を解消する可能性があることが、カナダ・トロント大学のTrevor W. Reichman氏らVX-880-101 FORWARD Study Groupが実施した「VX-880-101 FORWARD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月20日号に掲載された。第I/II相試験の予定外の中間解析結果 VX-880-101 FORWARD試験は、1型糖尿病患者におけるzimislecelの安全性と有効性の評価を目的とする、北米と欧州の施設が参加した進行中の第I/II/III相試験であり、今回は事前に予定されていなかった第I/II相部分の中間解析の結果が報告された(Vertex Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 年齢18~65歳の1型糖尿病で、低血糖を自覚しにくく(低血糖の発症を感知する能力が低下している)、過去1年間に少なくとも2回の重症低血糖イベントを経験し、5年以上インスリン依存状態にある患者を対象とした。 パートAでは、zimislecelの半量(0.4×109細胞)を門脈へ単回投与し、必要な場合は初回投与から2年以内に残りの半量を単回投与することとした。パートBとパートCでは、zimislecelの全量(0.8×109細胞)を単回投与した。全例に、グルココルチコイドを含まない免疫抑制療法を行った。 パートAの主要エンドポイントは安全性であった。パートCの主要エンドポイントは、zimislecel投与後90~365日に重症低血糖イベントの発生がなく、180~365日における複数回の受診時にHbA1c値が7%未満であること、またはHbA1c値がベースラインから1%ポイント以上低下していることとした。被験薬関連の重篤な有害事象はない 少なくとも12ヵ月の追跡期間を終了した14例(平均糖尿病罹患期間22.8年[範囲:7.8~47.4]、平均総インスリン投与量/日39.3単位[範囲:19.8~52.0])を解析の対象とした。2例がzimislecelの半量投与を受け(パートA)、12例(平均年齢42.7歳、女性4例)は全量投与を受けた(パートB:4例、パートC:8例)。パートAの1例は、初回投与後9ヵ月の時点で2回目の半量投与を受け、その約3ヵ月後に同意を撤回した(有害事象が原因ではない)。 C-ペプチドは、ベースラインでは14例全例が検出不能であったが、zimislecel投与後は全例で検出されたことから、移植細胞の生着と膵島機能の回復が証明された。 有害事象の重症度はほとんどが軽度または中等度であった。頻度の高い有害事象は、下痢(11例[79%])、頭痛(10例[71%])、悪心(9例[64%])、新型コロナウイルス感染症(7例[50%])、口腔内潰瘍形成(7例[50%])、好中球数減少(6例[43%])、皮疹(6例[43%])であった。 試験の中止に至った有害事象は認めなかった。経過観察のために入院期間の延長に至った重篤な有害事象として好中球数減少が3例に発現し、重篤な急性腎障害が2例にみられた。担当医によってzimislecel関連またはその可能性が高いと判定された重篤な有害事象はなかった。 2例が死亡した。1例(パートB)は、手術に伴う頭蓋底損傷に起因する重篤なクリプトコッカス髄膜炎が原因で、担当医により免疫抑制薬関連死と判定された。もう1例(パートA)は、既存の神経認知障害の進行に起因するアジテーションを伴う重度認知症が原因であった。この症例には、試験登録前の交通事故による重度の外傷性脳損傷の既往歴があり、この事故は重症低血糖イベントが原因だった。全量単回投与の全例でHbA1c値<7%、10例でインスリン非依存 パートB/Cの12例では、重症低血糖イベントは発現せず、365日目の受診時にすべての患者でHbA1c値が7%未満であった。ベースラインから365日目までに、HbA1c値は平均1.81%ポイント低下した。 持続血糖測定器(CGM)を用いて、血糖値が目標範囲(70~180mg/dL)内にある時間の割合を評価したところ、ベースラインで70%を超える患者はなく、平均値は49.5%(範囲:19.0~66.2)であった。これに対し、150日目には全例が70%以上を達成し、その後の追跡期間を通じて全例でこの良好な血糖コントロールの状態が持続した。365日時の血糖値が目標範囲内にある時間の割合の平均値は93.3%(範囲:79.5~96.9)だった。 外因性インスリンの使用は、追跡期間中に12例全例で減量または中止されていた。ベースラインから365日目までに、インスリン使用量の平均値は92%低下した。150日目までに10例(83%)がインスリン非依存を達成し、この10例は365日の時点で外因性インスリンを使用していなかった。 著者は、「この結果は、多様な患者集団を対象とする、より大規模で長期にわたる試験においてzimislecelのさらなる検討を進めることを支持する」「これらの知見は、多能性幹細胞から膵島を作製し、1型糖尿病の治療に使用することは実質的に可能であるとのエビデンスを提供するものである」としている。

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COVID-19の世界的流行がとくに影響を及ぼした疾患・集団は/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行によって、COVID-19以外のいくつかの疾患、とくに精神疾患(抑うつ、不安障害)、アフリカ地域の幼児におけるマラリア、高齢者における脳卒中と虚血性心疾患の負担が著しく増加し、これには年齢や性別で顕著な不均衡がみられることが、中国・浙江大学のCan Chen氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年7月2日号に掲載された。GBD 2021のデータを用いた時系列モデル分析 研究グループは、COVID-19の世界的流行が他の疾病負担の原因に及ぼした影響を体系的に調査し、評価することを目的に時系列モデル分析を行った(中国国家自然科学基金委員会の助成を受けた)。 世界疾病負担研究(GBD)2021に基づき、1990~2021年の174の原因による疾病負担のデータを収集した。時系列モデルを開発し、COVID-19が発生しなかったとするシナリオの下で、2020年と2021年における174の原因による疾病負担を、地域別、年齢層別、男女別にシミュレートすることで、他の原因の疾病負担に及ぼしたCOVID-19の影響を定量化した。 2020~21年の発生率、有病率、障害調整生存年(DALY)、死亡の増加の原因について、その比率の実測値と予測値の絶対的率差(10万人当たり)と相対的率差(%)を、95%信頼区間(CI)とともに算出した。率差の95%CIが0を超える場合に、統計学的に有意な増加と判定した。とくにマラリア、抑うつ、不安障害で、DALY負担が増加 世界的に、マラリアの年齢標準化DALY率は、10万人当たりの絶対差で97.9(95%CI:46.9~148.9)、相対的率差で12.2%(5.8~18.5)増加し、抑うつ状態はそれぞれ83.0(79.2~86.8)および12.2%(11.7~12.8)の増加、不安障害は73.8(72.2~75.4)および14.3%(14.0~14.7)の増加であり、いずれも顕著な統計学的有意性を示した。次いで、脳卒中、結核、虚血性心疾患で高い有意性を認めた。 さらに、10万人当たりの年齢標準化発生率および有病率は、抑うつ状態(発生率618.0[95%CI:589.3~646.8]、有病率414.2[394.6~433.9])と不安障害(102.4[101.3~103.6]、628.1[614.5~641.7])で有意に増加し、虚血性心疾患(11.3[5.8~16.7])と脳卒中(3.0[1.1~4.8])は年齢標準化有病率が著明に増加していた。抑うつ、不安障害のDALY負担増加は女性で顕著 加えて、マラリアによる年齢標準化死亡率が有意に増加していた(10万人当たり1.3[95%CI:0.5~2.1])。また、抑うつと不安障害は、世界的なDALY負担の増加の主要な原因であり、男性と比較して女性で顕著であった。 一方、マラリアは、アフリカ地域における最も深刻なDALY負担増加の原因であり、典型的には5歳未満の小児の罹患による負担が増加していた。また、脳卒中と虚血性心疾患は、欧州地域と70歳以上で負担が増加した。 著者は、「これらの知見は、将来の公衆衛生上の緊急事態に対する偏りのない備えに資するために、保健システムの回復力の強化、平等なサーベイランスの増強、複数の疾患と社会状況の重なりに関する情報に基づく戦略(syndemic-informed strategy)の導入が、緊急に求められることを強く主張するものである」としている。

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第251回 沖縄でコロナ急増、入院患者の半数が80歳以上 全国でも増加傾向続く/厚労省

<先週の動き> 1.沖縄でコロナ急増、入院患者の半数が80歳以上 全国でも増加傾向続く/厚労省 2.認知症薬レカネマブ、薬価15%引き下げへ 費用対効果に課題/中医協 3.医療機関の倒産、上半期35件で過去最多ペース/帝国データバンク 4.国立大病院の赤字が過去最大285億円、移植や高額薬が経営圧迫/国立大学病院長会議 5.「終末期医療は全額自己負担」に波紋、専門家は「事実誤認」指摘/参院選 6.ALS嘱託殺人事件、元医師の有罪確定 見張り役も共謀と判断/最高裁 1.沖縄でコロナ急増、入院患者の半数が80歳以上 全国でも増加傾向続く/厚労省厚生労働省は2025年7月11日、全国約3,000の定点医療機関から報告された新型コロナウイルス感染者数が、6月30日~7月6日の1週間で1医療機関当たり1.97人となり、前週(1.40人)比で1.41倍に増加と発表した。全国平均で3週連続の増加となり、全体で7,615人の新規感染者が報告された。都道府県別では、沖縄県が1定点当たり16.36人と突出しており、2位の山梨県(3.26人)、3位の千葉県(3.11人)を大きく引き離した。一方で、感染者数が少なかったのは鳥取(0.55人)、北海道(0.60人)、青森(0.67人)など。とくに沖縄県では感染拡大が顕著で、1週間の報告数は736人と前週の1.46倍。入院患者は85人で14人増加し、その約半数が80歳以上だった。年齢別でも60歳以上が最多で、高齢者層での感染と入院増が目立った。県では7月4日に独自の「新型コロナ感染拡大準備情報」を発令し、地域医療機関に注意を呼びかけている。併せてインフルエンザも継続的に流行しており、定点当たり4.96人と依然高い水準が続いている。今後も高齢者を中心とした重症化リスクを踏まえ、早期対応や感染対策の強化、病床確保が求められる状況にある。 参考 1) 2025年 7月11日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について(厚労省) 2) 新型コロナ患者、3週連続で増加…人口当たりでは沖縄県が突出(読売新聞) 3) コロナ感染、増加傾向続く 前週比1・41倍(産経新聞) 4) コロナ感染者数、沖縄は前週の1.46倍に 1定点あたり16.36人 「感染拡大準備情報」を発表中(沖縄タイムス) 2.認知症薬レカネマブ、薬価15%引き下げへ 費用対効果に課題/中医協厚生労働省は7月9日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、アルツハイマー病治療薬レカネマブ(商品名:レケンビ)について、その費用対効果が低いとする評価結果を受け、薬価を最大15%引き下げる方針を示した。レカネマブは、エーザイと米バイオジェンが共同開発し、2023年に国内で初めて承認されたアミロイドβを標的とする薬剤で、軽度認知障害(MCI)または軽度の認知症が対象。年間投与コストは約300万円で、公的医療保険の対象となっている。今回の評価では、認知機能の低下を27%抑制し、進行を7.5ヵ月遅らせるといった治験成績はあるものの、対象が軽症であることから介護費抑制効果が限定的と判断され、「費用対効果が不十分」と結論付けられた。国立保健医療科学院の分析では、現在の薬価の3分の1が妥当とされた。一方、エーザイは公的分析が「投与期間を18ヵ月までに限定」、「患者QOLの改善を軽視」など、評価モデルに乖離があるとして反論。「費用対効果は価格評価であり、薬の有効性自体を否定するものではない」と強調している。薬価は今後、中医協で議論され、激変緩和措置により最大15%の引き下げに止まる見通し。なお、薬価の費用対効果評価は2019年度から導入されており、エンシトレルビル フマル酸(同:ゾコーバ)などでも引き下げ例がある。 参考 1) 医薬品の費用対効果評価案について(厚労省) 2) アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」 薬価15%引き下げへ(NHK) 3) エーザイ認知症薬「レカネマブ」値下げへ 中医協「費用対効果悪い」(日経新聞) 4) エーザイ、認知症薬の費用対効果で反論 中医協は「過小に評価」(同) 3.医療機関の倒産、上半期35件で過去最多ペース/帝国データバンク帝国データバンクの調査によれば、2025年上半期(1~6月)に倒産した医療機関は全国で35件に達し、過去最多だった前年(64件)を上回るペースで推移している。内訳は病院9件、診療所12件、歯科医院14件で、とくに病院の倒産が増加している。負債10億円以上の大型倒産も病院で4件確認された。これまで小規模事業者の破綻が中心だったが、中規模病院への波及が顕著となっている。主因は、物価・人件費・光熱費・医療機器価格などのコスト上昇に診療報酬が追いつかず、収益構造が逼迫している点にある。また、経営者の高齢化と後継者難により、診療所・歯科医院では廃業や解散も増加しているほか、病院では建物の老朽化が課題であり、耐用年数(39~40年)を超えても建て替え困難な事例が多発している。さらに注目されているのが「休廃業・解散」の急増で、1~5月だけで300件(病院12件、診療所288件)に上り、年換算で700件を超える見通し。医師の高齢化も深刻で、診療所経営者の過半が70歳以上、後継者不在は全体の50%超とされる。建設費高騰と資金難により、将来的な閉院リスクも増している。医師会などの調査では、医業利益ベースで赤字病院は全体の約7割に達しており、制度的支援がなければ地域医療の空白化が加速する恐れがある。今後の診療報酬・医療提供体制の在り方が問われる状況となっている。 参考 1) 倒産した医療機関 上半期で全国35件 過去最多ペース(NHK) 2) 医療機関の倒産、上半期は35件で過去最多を上回るペース 物価高、人件費の高騰で収益悪化(帝国データバンク) 3) 医療機関の倒産は過去最多ペース…「ある日突然、病院がなくなる」地域が急増する衝撃(日刊ゲンダイ) 4.国立大病院の赤字が過去最大285億円、移植や高額薬が経営圧迫/国立大学病院長会議国立大学病院長会議は、2024年度の決算速報で、全国42国立大学・44附属病院の経常損益が過去最大の285億円の赤字となったと公表した。前年度の赤字60億円からさらに大幅に悪化し、全体の7割近い29病院が赤字に陥っている。収益は547億円増加した一方で、人件費や医薬品・材料費の高騰などにより費用は772億円増加。物価高と働き方改革の影響が大きく、収入との乖離が赤字拡大の主因とされている。とくに移植手術では深刻な採算割れが発生しており、肺移植では1件当たり418万円の赤字、臓器移植全体でも平均290万円の損失となっている。加えて、高額医薬品(10万円以上)の使用が全体の28.5%を占め、その管理・維持に通常より数倍の人件費が必要とされるほか、キャンセル時には全額病院負担となることも経営を圧迫している。医療機器更新の停滞、診療報酬の低水準、研究・教育機能の劣化なども懸念され、病院長らは補正予算による支援と次期診療報酬改定での点数引き上げを強く要望している。大学病院が担う高度医療と医師養成の機能の維持には、早急な国の対応が不可欠と訴えている。 参考 1) 国立大病院285億円赤字 過去最大、24年度「新たな医療機器が買えない」(産経新聞) 2) 国立大学病院の赤字 過去最大の285億円 全体の7割近くが赤字に(NHK) 3) 国立大学病院長会議 42国立大学病院の24年度経常損益マイナス285億円 経営悪化で事業継続の危機訴え(ミクスオンライン) 5.「終末期医療は全額自己負担」に波紋、専門家は「事実誤認」指摘/参院選参政党が参議院選挙で掲げている「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」の公約が、大きな波紋を呼んでいる。同党は「過度な延命治療が医療費を押し上げる」として、胃ろうや点滴、経管栄養の制限と、診療報酬の定額制導入も主張している。神谷 宗幣代表は「蓄えの必要性を啓発する意図」と釈明するが、福岡 資麿厚生労働省大臣は「生命倫理に関わる問題で国民的議論が必要」と否定的な見解を示している。神谷氏の公約に対し、医療・政策専門家からは批判が相次いでいる。日本福祉大学名誉教授の二木 立氏は、死亡前1ヵ月の医療費は全体の約3%にすぎない点を挙げ、「終末期医療が医療費高騰の主因」とする主張は誤りと指摘。また、延命措置の線引きは曖昧で、終末期は必ずしも高齢者に限らず、子供にも適用されることもある。さらに、日本老年医学会の「立場表明2025」は、緩和ケアの推進と意思決定支援の重要性を強調し、「time-limited trial」などの柔軟な対応を推奨。個別の事情に応じた医療の必要性を訴えている。SNS上では「政治家が終末期医療を一律に制限することは、尊厳や人権を損なう」との声も広がる。医療現場では、患者や家族との対話を重視し、画一的な制限ではなく、多様なニーズに応じたケアが求められている。今回の公約は、医療者や国民との合意形成の積み重ねに逆行するものであり、終末期医療の制度設計をめぐる今後の議論に注目が集まっている。 参考 1) 参政党の政策(参政党) 2) 終末医療は全額自己負担 参政党が異常な公約(しんぶん赤旗) 3) 参政公約「終末期延命措置は全額自己負担」 神谷氏「啓発する思い」(朝日新聞) 4) 参政党の医療公約「終末期の延命医療費の全額自己負担化」医療政策学者と検証する(医療記者、岩永直子のニュースレター) 5) 終末期医療めぐる議論に医師作家「終末期=高齢者では決してありません」(日刊スポーツ) 6.ALS嘱託殺人事件、元医師の有罪確定 見張り役も共謀と判断/最高裁2019年にALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者(当時51歳)の依頼を受けて薬物を投与し死亡させた嘱託殺人事件で、最高裁第2小法廷は7月7日、元医師・山本 直樹被告(48)の上告を棄却し、懲役2年6ヵ月の実刑が確定した。実行犯である元医師・大久保 愉一受刑者(47)はすでに懲役18年が確定している。山本被告は「殺害計画は知らなかった」と無罪を主張したが、一審・京都地裁は「見張り役として犯行を支援し、被害者と大久保受刑者を繋ぐ調整役を果たした」と指摘。被害者から約130万円を受け取り、訪問日程の調整も行っていた点から「殺害の意図を認識し、共謀していた」と判断された。大阪高裁もこの判断を支持し、最高裁は「判例違反などの上告理由にあたらない」として棄却した。本件とは別に、山本被告は2011年に父親を殺害した罪でも懲役13年が確定しており、大久保受刑者も一連の事件で懲役18年が確定している。ALS患者による「自死の選択」をめぐる社会的議論が続く中、本件は「患者の依頼による殺害」でも、法的責任が厳格に問われた判例として注目されている。安楽死・尊厳死の制度化がないわが国では、医療者による関与があっても刑事責任を免れないことが改めて確認された。今後も生命倫理と医療行為の境界における慎重な議論が求められる。 参考 1) ALS患者の嘱託殺人、「見張り役」元医師の実刑確定へ 最高裁(朝日新聞) 2) 元医師も実刑確定へ 最高裁、ALS嘱託殺人(日経新聞) 3) 元医師、懲役2年6月確定へ ALS嘱託殺人、上告棄却 最高裁(時事通信)

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第270回 絶句の連続…某党が掲げる医療政策

東京都内が猛暑日を迎える中、街中が賑わしい。7月3日に第27回参議院選挙が公示されたからだ。前哨戦とも言われた東京都議選で国政・都政与党の自民党は大敗、公明党も議席を減らし、立憲民主党、国民民主党、参政党が議席増。とくに国民民主党と参政党は前回議席なしから、それぞれ9議席、3議席を獲得した。なかでも参院選を前に過去1週間以内に発表された世論調査で支持率(共同通信は参院選比例投票先)を伸長させているのが参政党で、その支持率はNHKが4.2%、JNN(TBS系列)が6.2%、ANN(テレビ朝日系列)が6.6%、NNN(日本テレビ系列)・読売新聞、朝日新聞がそれぞれ5%、共同通信が8.1%。共同通信調査では自民党に次ぐ第2位、JNN、ANN、NNN・読売新聞の調査で自民党、立憲民主党に次ぐ第3位(国民民主党とタイ)、NHK、朝日新聞の調査で第4位である。本連載では過去から国政選挙時に各政党の政策を取り上げているが、今回はまず急激に支持を広げる参政党の医療・介護政策について、より詳細に見ていきたいと思う。社会保険料を疾患一次予防で削減?昨年の衆議院選挙では「日本をなめるな」、そして今回は「日本人ファースト」をスローガンに掲げる同党。今回はこのスローガンの下に「3つの柱と9つの政策」を謳い、この各柱の下に3つずつ政策が連なっている。まず、「1の柱 日本人を豊かにする~経済・産業・移民~」では、「政策1 “集めて配る”より、まず減税」で、▽対症療法から予防医療への転換で支出を最適化し、社会保険料の負担を軽減▽消費税減税と社会保険料軽減によって国民負担率上限35%の実現を提言している。後者は前回の衆議院選挙でも同党が掲げた政策だが、当時はその方法論を明示はしていなかった。今回、国政選挙でその一端を明示したわけだが、率直に言ってのっけから???である。まず、同党の政策でいう「予防」が「一次予防」を意味するのか、「二次予防」を意味するのかは文言だけでは判別不能である。もっとも一般人がイメージする「予防」の多くは「一次予防」だろう。その前提で考えてみる。世の中に存在する疾患の中には、そもそも原因すら不明で予防策すら見つからないものは多々ある。難病はその典型である。しかも、難病では近年、新たな治療薬の開発・上市も進んでいるが、その多くは高額である。少なくともこの領域では予防も医療費の最適化も困難である。では、ほかの疾患についてはどうか? 端的に言えば、理論上予防対策がある疾患は存在するが、それを具体的に国策に落とし込めるか否かは別問題である。ここで2023年に国立がん研究センターと国立国際医療研究センターが共同で行った、がん予防の経済効果(がんによる経済的負担と生活習慣や環境要因など予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担を推計)に関する研究を引用してみたい。同研究によると、予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担は約1兆240億円。予防可能な主なリスク要因別の経済的負担は、「感染」が約4,788億円、「能動喫煙」が約4,340億円、「飲酒」が約1,721億円と推計されている。このうち感染、すなわちヘリコバクター・ピロリ菌による胃がん、B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスによる肝がん、ヒトパピローマウイルスによる子宮頸がん・中咽頭がんは、ある意味で政策には落とし込みやすいとは言える。とはいえ、定期接種であるHPVワクチンも最終的に接種するかどうかは個人の意思であり、完全なコントロールは不能である。そして喫煙、飲酒はどうするのか? 究極はタバコ、酒の販売禁止しか方策はない。こう言うと、いまだに「酒は多少ならば…」と言い出す人もいるが、昨今の研究では飲酒は量の多少にかかわらず、がんをはじめとする各種疾患のリスクになり得るという研究が明らかになっている。「運動不足」「過体重」に至っては、国として実効性のある政策に落とし込むことすら難しいだろう。政策で国民に運動の励行を半ば強制するならば、もはや北朝鮮のマスゲーム状態である。また、仮にこれらを完全に実行できたとしても、社会保険料の引き下げという形で国民に恩恵をもたらすのは、おそらく数十年後である。確かに疾患予防は理想的ではあるが、それを政策化して定着させるためには、がんに限ってもいくつもの壁がある。また、それ以前に予防に関するエビデンスもいまだ十分とは言えない。このように少なくとも公党が政策として“予防”を掲げる環境にはなく、それでもなお掲げるのであれば、より具体的な政策まで落とし込んだ提案が必要であり、率直に言って、今回の参政党が掲げた内容はファッションの域を出ないというのが個人的な印象である。争いを起こしたいの?そして「2の柱 日本人を守り抜く〜食と健康・一次産業〜」では、「政策5 GoToトラベルで医療費削減」と謳い、▽一定期間、健康を維持し、医療費削減に貢献された高齢者に対し、国内旅行で使えるクーポン券を支給する「Go To トラベルによる医療費削減インセンティブ制度」を創設▽制度導入時に予防医療のエビデンスに基づいたサービスを健康保険の対象とする制度改革も実施と提言している。「Go To トラベルによる医療費削減インセンティブ制度」だが、そもそも加齢により生理機能が低下している高齢者で、何をもって「一定期間、健康を維持した」と定義するかが不明である。ただ、想像するに各種検査値の正常維持を念頭に置いているのではないだろうか? 少なくとも一定期間の健康維持を国の政策として採用するならば、明確な数値が必要だからだ。しかし、それはあまりにも無理があると言わざるを得ない。たとえば血圧値で考えれば、とくに乱れた日常生活を送っていなくとも、加齢とともに上昇するのは医療者ならばご存じのとおり。また、個々人ごとの遺伝的な体質の違いもあり、検査値の正常を維持したくともできない人もいるのである。その中で「健康」と「不健康」を分け、しかもそこにインセンティブを国として与えようなどと言うのは、高齢者内の分断を生む愚策でしかない。頑張ってもクーポン券をもらえない高齢者は、もらえた高齢者をどんな目で見つめるのだろうか?この政策を目にして、あるドラマのワンシーンを思い出した。TBSを代表するドラマ「3年B組金八先生」だ。三者面談の際に自分の成績に見合わない高い志望校を提示した生徒と母親に、武田 鉄矢氏が扮する坂本 金八と石黒 賢氏が扮する副担任の新米教師・真野 明が対峙する。希望する志望校にやや難色を示す金八と真野の前に母親が偏差値60を超えた塾での成績表を見せると、真野が笑いながら「まぐれじゃないのか?」と応じると、母親は「何で褒めてくださらないのですか? 塾の先生は60超えた生徒にはハンバーガーをご馳走してくれるのに…」と食い下がる。この面談を終えた後に、問わず語りのように金八先生が真野先生に語るシーンがある。「しかし塾の先生も本当にむごいことするな。ハンバーガーをおごってもらえなかった。子供の気持ちこそが問題なんだよ。たかだか200円か300円の代物だよ。しかし、おごってもらえなかった子供は食っとるやつをじっと見とるよ。腹の中じゃな、ぶっ殺してやりたいと思いながら食っとるやつを眺めとる。そしてハンバーガーを食うたんびに、その悔しさを思い出すんだよ。ハンバーガーをおごってもらえない子供たち、その大多数がわれわれの教え子だ。しかし、この大多数こそが社会に出ると無口で実に誠実な労働者になる。そして彼らこそが日本を日本の社会を支えてるんですよ。ですから、食い物で釣っちゃいかん、食い物で差別しちゃいかん」(3年B組金八先生シリーズ3 第10話「進路決定・三者面談1」より 全文ママ)まったく同じことがこの件でも言えるのではないだろうか???????さらに「2の柱」では、「政策6 金儲け医療・WHOパンデミック条約に反対」という項目もある。この内容を箇条書きすると、▽感染症の再発防止やまん延防止のための独立した国内機関を設立▽国際機関の勧告が日本の国情や科学的知見に合致しない場合に国内判断を優先する主権的対応を制度化▽危険性の高い病原体を扱う研究施設については、居住地や都市部から十分な距離を確保する立地規制▽ワクチンや治療薬の安全性・有効性は利益相反のない第三者機関による評価を義務付ける制度を整備となる。一番目はすでに自公政権下でこの4月から発足した「国立健康危機管理研究機構(JIHS)」に近いものかもしれないが、「独立した」という表現からすると、行政機関からも独立したものを想定しているのかもしれない。しかし、より充実した感染症対策を進めるには膨大な予算が必要であり、完全民営の機関設立は現実的とは言えない。3番目についてはバイオセーフティレベル4(BSL4)施設のことを意味していると考えられ、一定の理解もしうるが、人里離れた地域では土砂災害などの危険性も考慮しなければならず、住宅地などから距離を取ればよいという単純なものではない。だが、これ以上に問題なのは2番目と4番目である。そもそも国境を越えた人の往来が活発化している中で、感染症対策を一国独自主義で対応することそのものがナンセンスであることは、すでに新型コロナウイルス感染症のパンデミックで証明済みである。「日本の国情や科学的知見」と言うが、「日本の国情」はまだしも「日本の科学的知見」とはなんぞや?と首をかしげてしまう。そもそも新興感染症では各国とも国際機関と連携しながら科学的知見を共有・統一するのが原則である。そのなかで日本だけの独自の科学的知見と言ってしまうのは、まるで「1+1」の答えが国境を超えると変わるかのような言いっぷりである。そして4番目だが、国の医薬品・ワクチンの承認審査での利益相反管理をまるで知らないかのようだ。もはや、どこぞの国のACIP委員総入れ替え問題を彷彿とさせるレベルの話である。以上をざっくりまとめるならば、医療に対する「ド素人の戯言」である。

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Capnocytophaga spp.【1分間で学べる感染症】第29回

画像を拡大するTake home messageCapnocytophaga spp.は、脾機能低下患者において敗血症性ショックと播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことのある重要な起因菌である。今回は、とくに脾機能低下患者において重篤な病態を引き起こす可能性のあるCapnocytophaga spp.(カプノサイトファーガ属細菌)に関して一緒に学んでいきましょう。種類Capnocytophaga属にはC. canimorsus、C. sputigena、C. cynodegmiなどが含まれ、全部で9種類存在します。これらは動物由来(zoonotic)とヒト口腔内常在菌(human-oral associated)の2つに分類されます。C. canimorsusはイヌやネコの咬傷によってヒトに感染することが多い一方で、C. gingivalis、C. sputigenaはヒトの口腔内に存在します。微生物学的特徴Capnocytophaga spp.は通性嫌気性のグラム陰性桿菌であり、発育が遅いのが特徴です。また、グラム染色では特徴的な紡錘型を示すとされています。さらに、莢膜を持つことは微生物学的にも臨床上も重要なキーワードです。莢膜を持つことが、後から述べる解剖学的または機能的無脾症患者において重篤な病態を引き起こす理由となっています。リスク因子Capnocytophaga spp.による感染症のリスク因子として、解剖学的または機能的無脾症、血液悪性腫瘍、過度のアルコール摂取、肝硬変が挙げられます。無脾症患者や肝疾患のある患者は、脾臓が担う莢膜菌に対するオプソニン化と貪食促進の欠如により感染症が重症化しやすいため、早期の診断と治療が求められます。臨床像Capnocytophaga spp.は、動物由来であればイヌやネコなどの動物咬傷による皮膚軟部組織感染、また重篤な場合は敗血症性ショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことがあります。一方、ヒト口腔内常在菌によるものでは、血液悪性腫瘍患者における好中球減少性発熱やカテーテル関連感染症などを来します。それぞれのリスクに応じて、これらを鑑別疾患に挙げる必要があります。薬剤感受性Capnocytophaga spp.は一般的にβ-ラクタム/β-ラクタマーゼ阻害薬に感受性を示します。具体的には、アンピシリン/スルバクタムやタゾバクタム/ピペラシリン、また、セフトリアキソン、カルバペネム系抗菌薬も有効です。一方で、フルオロキノロン系抗菌薬に対しては50%の耐性を示すことが報告されているため、治療選択の際には注意が必要です。上記のリスクを有する患者で動物咬傷の病歴があったり、血液悪性腫瘍患者で血液培養からグラム陰性桿菌を見たりした際には鑑別疾患の1つとしてCapnocytophaga spp.による菌血症を挙げ、治療を遅らせないことが重要です。1)Jolivet-Gougeon A, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2000;44:3186-3188.2)Butler T. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2015;34:1271-1280.3)Chesdachai S, et al. Open Forum Infect Dis. 2021;8:ofab175.

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WHO予防接種アジェンダ2030は達成可能か?/Lancet

 WHOは2019年に「予防接種アジェンダ2030(IA2030)」を策定し、2030年までに世界中のワクチン接種率を向上する野心的な目標を設定した。米国・ワシントン大学のJonathan F. Mosser氏らGBD 2023 Vaccine Coverage Collaboratorsは、目標期間の半ばに差し掛かった現状を調べ、IA2030が掲げる「2019年と比べて未接種児を半減させる」や「生涯を通じた予防接種(三種混合ワクチン[DPT]の3回接種、肺炎球菌ワクチン[PCV]の3回接種、麻疹ワクチン[MCV]の2回接種)の世界の接種率を90%に到達させる」といった目標の達成には、残り5年に加速度的な進展が必要な状況であることを報告した。1974年に始まったWHOの「拡大予防接種計画(EPI)」は顕著な成功を収め、小児の定期予防接種により世界で推定1億5,400万児の死亡が回避されたという。しかし、ここ数十年は接種の格差や進捗の停滞が続いており、さらにそうした状況が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって助長されていることが懸念されていた。Lancet誌オンライン版2025年6月24日号掲載の報告。WHO推奨小児定期予防接種11種の1980~2023年の動向を調査 研究グループは、IA2030の目標達成に取り組むための今後5年間の戦略策定に資する情報を提供するため、過去および直近の接種動向を調べた。「Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)2023」をベースに、WHOが世界中の小児に推奨している11のワクチン接種の組み合わせについて、204の国と地域における1980~2023年の小児定期予防接種の推定値(世界、地域、国別動向)をアップデートした。 先進的モデリング技術を用いてデータバイアスや不均一性を考慮し、ワクチン接種の拡大およびCOVID-19パンデミック関連の混乱を新たな手法で統合してモデル化。これまでの接種動向とIA2030接種目標到達に必要なゲインについて文脈化した。その際に、(1)COVID-19パンデミックがワクチン接種率に及ぼした影響を評価、(2)特定の生涯を通じた予防接種の2030年までの接種率を予測、(3)2023~30年にワクチン未接種児を半減させるために必要な改善を分析するといった副次解析を行い補完した。2010~19年に接種率の伸びが鈍化、COVID-19が拍車 全体に、原初のEPIワクチン(DPTの初回[DPT1]および3回[DPT3]、MCV1、ポリオワクチン3回[Pol3]、結核予防ワクチン[BCG])の世界の接種率は、1980~2023年にほぼ2倍になっていた。しかしながら、これらの長期にわたる傾向により、最近の課題が覆い隠されていた。 多くの国と地域では、2010~19年に接種率の伸びが鈍化していた。これには高所得の国・地域36のうち21で、少なくとも1つ以上のワクチン接種が減っていたこと(一部の国と地域で定期予防接種スケジュールから除外されたBCGを除く)などが含まれる。さらにこの問題はCOVID-19パンデミックによって拍車がかかり、原初EPIワクチンの世界的な接種率は2020年以降急減し、2023年現在もまだCOVID-19パンデミック前のレベルに回復していない。 また、近年開発・導入された新規ワクチン(PCVの3回接種[PCV3]、ロタウイルスワクチンの完全接種[RotaC]、MCVの2回接種[MCV2]など)は、COVID-19パンデミックの間も継続的に導入され規模が拡大し世界的に接種率が上昇していたが、その伸び率は、パンデミックがなかった場合の予想よりも鈍かった。DPT3のみ世界の接種率90%達成可能、ただし楽観的シナリオの場合で DPT3、PCV3、MCV2の2030年までの達成予測では、楽観的なシナリオの場合に限り、DPT3のみがIA2030の目標である世界的な接種率90%を達成可能であることが示唆された。 ワクチン未接種児(DPT1未接種の1歳未満児に代表される)は、1980~2019年に5,880万児から1,470万児へと74.9%(95%不確実性区間[UI]:72.1~77.3)減少したが、これは1980年代(1980~90年)と2000年代(2000~10年)に起きた減少により達成されたものだった。2019年以降では、COVID-19がピークの2021年にワクチン未接種児が1,860万児(95%UI:1,760万~2,000万)にまで増加。2022、23年は減少したがパンデミック前のレベルを上回ったままであった。未接種児1,570万児の半数が8ヵ国に集中 ワクチン未接種児の大半は、紛争地域やワクチンサービスに割り当て可能な資源がさまざまな制約を受けている地域、とくにサハラ以南のアフリカに集中している状況が続いていた。 2023年時点で、世界のワクチン未接種児1,570万児(95%UI:1,460万~1,700万)のうち、その半数超がわずか8ヵ国(ナイジェリア、インド、コンゴ、エチオピア、ソマリア、スーダン、インドネシア、ブラジル)で占められており、接種格差が続いていることが浮き彫りになった。 著者は、「多くの国と地域で接種率の大幅な上昇が必要とされており、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは大きな課題に直面している。中南米では、とくにDPT1、DPT3、Pol3の接種率について、以前のレベルに戻すために近年の低下を逆転させる必要があることが示された」と述べるとともに、今回の調査結果について「対象を絞った公平なワクチン戦略が重要であることを強調するものであった。プライマリヘルスケアシステムの強化、ワクチンに関する誤情報や接種ためらいへの対処、地域状況に合わせた調整が接種率の向上に不可欠である」と解説。「WHO's Big Catch-UpなどのCOVID-19パンデミックからの回復への取り組みや日常サービス強化への取り組みが、疎外された人々に到達することを優先し、状況に応じた地域主体の予防接種戦略で世界的な予防接種目標を達成する必要がある」とまとめている。

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HPVの自己採取検査の郵送は検診受診率を高める

 女性にヒトパピローマウイルス(HPV)感染の有無を調べるために、検体を自分で採取する自宅用検査を郵送で提供したところ、電話のみで検診を促す場合と比べて、子宮頸がん検診の受診率が2倍以上に増加したことが新たな研究で示された。論文の筆頭著者である米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのJane Montealegre氏は、「本研究結果は、自宅用検査が子宮頸がん検診へのアクセスを向上させ、ひいては米国における子宮頸がんの負担を軽減する解決策となる可能性を示している」と述べている。この研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に6月6日掲載された。 子宮頸がんは、ほぼ全てがHPVによって引き起こされる。本論文の付随論評によると、米国では毎年約1万1,500人の女性が子宮頸がんと診断されている。その半数以上は、HPV検査を受けたことがないか、まれにしか受けていないという。クリニックでの子宮頸がん検診はほとんどの場合、骨盤の内診により行われるが、一部の女性はこの手法に不快感やストレスを感じる可能性があると論評は指摘している。また、検査を受けるための時間を確保し、クリニックまで行く方法を見つける必要もある。 HPVワクチン接種と医療機関での検診の普及によって子宮頸がんの罹患率は大幅に低下したものの、人種や地域、所得による格差は根強く残っている。2025年5月、米食品医薬品局(FDA)は、子宮頸がんの初の自宅用検査を承認した。今回の研究は、この検査がリアルワールドでどのように機能するかを調べる目的で実施された。対象は、米ヒューストン地域在住の30〜65歳の女性2,474人(平均年齢49歳)で、そのほとんど(94%)は人種・民族的マイノリティに属していた。研究グループはこれらの女性を、1)医療機関での子宮頸がん検診受診を促す電話をかける、2)電話に加え自宅用検査キットを郵送する、3)電話と検査キットの郵送に加え、キットが返送されない場合にフォローアップの電話をかける、のいずれかの群にランダムに割り付けた。 ランダム化から6カ月後での子宮頸がん検診の受診率は、電話のみの群では17.4%(144/828人)であったのに対し、電話+キット郵送の群では41.1%(340/828人)、電話+キット郵送+フォローアップ電話の群では46.6%(381/818人)であったことが明らかになった。受診率は、電話のみを受けた群に比べて、電話+キット郵送の群では2.36倍、電話+キット郵送+フォローアップ電話の群では2.68倍高かった。 検査キットを郵送され検診を受けた女性のうち、84.6%(609/721人)が自己採取した検体を返送していた。それらの女性の13.8%(84/609人)は高リスク型HPV検査で陽性反応を示し、追加検査が必要になった。 Montealegre氏は、「米国で自宅用HPV検査が利用可能になるにつれ、それをどのように展開していくかの指針となるデータを集めることが極めて重要になる」と述べ、医療を受ける障壁が最も高い人々をケアする診療所や医療センターでこの検査を利用できるようにすることの重要性を強調している。 研究グループは今後、さまざまなプライマリケアの現場にこの検査をどのように統合するかを検討する予定だ。付随論評を執筆した米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のEve Rittenberg氏は、「自宅用HPV検査の目下の課題は、臨床の現場で安全かつ効果的に導入するための方法だ。特に、異常な結果が出た場合に、臨床医と医療制度がどうすれば適切なタイミングでフォローアップ検査と治療を提供できるかについては明確になっていない」と述べている。

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