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第326回 GLP-1放出を促す食品添加物を欧州が許可

GLP-1などの食欲/摂食抑制ホルモンの放出を促す食品添加物を欧州連合(EU)が承認しました1-3)。食べても安全と判断されて承認されたのは、英国の研究チームが考案した食物繊維の類いのイヌリン-プロピオン酸エステル(IPE)です。EUの新規食品一覧(list of novel food)に加わり、販売できるようになりました。IPEは大腸の細菌の発酵作用で生じる短鎖脂肪酸(SCFA)のプロピオン酸と主に果糖でできた天然ポリマーのイヌリンのエステル結合で作られます。イヌリンは多くの植物に含まれ、サプリメントとして広く使用されてもいます。食物繊維を多くとることは体重が増えにくいことと関連します。食物繊維の多くは小腸では消化されず、大腸の細菌がそれらを発酵してSCFAを生み出します。SCFAは遊離脂肪酸受容体(FFAR)を活性化し、大腸のL細胞からのGLP-1ともう1つの食欲抑制ホルモンであるペプチドYY(PYY)の放出を促します。加えて、SCFAは脂肪細胞からのレプチン放出も後押しします。レプチンもGLP-1やPYYと同様に食欲抑制を担います。マウスでの検討でSCFAの1つのプロピオン酸が多いことと体脂肪量が少ないことの関連が示されています4)。プロピオン酸は細菌代謝/発酵の最終産物でほかのSCFAに変わってしまうことがなく、FFARのエネルギー消費促進や抗肥満作用に関わるFFAR受容体の1つのGPR41にSCFAの中で最も親和性が高いことがマウスでの検討で示されています5)。実際、プロピオン酸の投与はマウスのエネルギー消費を促進しました。ゆえに大腸のプロピオン酸を増やすことは食欲制御手段となりそうですが、単にプロピオン酸を摂取しただけではその効果は得られそうにありません。というのもSCFAは大腸のL細胞に届く前に小腸にやすやすと吸収されてしまうからです。そこで考案されたのがプロピオン酸と食物繊維のイヌリンを繋いだIPEです。IPEのプロピオン酸の大部分は大腸の細菌がイヌリン部分を発酵することで放出されます。その仕組みによりプロピオン酸を大腸に限って供給できるというわけです。40~65歳の過体重の60例の無作為化試験でIPEの目当ての効果が示されています。1日当たり10gのIPE摂取が血中のGLP-1やPYYを増やし、少食にし、体重増加を抑えました6)。ベースラインに比べて5%以上の体重増加は6ヵ月のIPE投与では一例もいませんでしたが(0/25例)、ただのイヌリン投与では2割弱の17%(4/24例)にみられました。より若い20~40歳の過体重の270例が参加した別の無作為化試験では、IPE摂取とただのイヌリン摂取の1年間の体重増加にあいにく有意差はありませんでしたが、IPE群では除脂肪体重が若干増えていました7)。中高齢者と若者の効果の違いは新たに取り組むべき課題であり、除脂肪体重を増やす効果はさらなる検討の価値があるだろうと臨床試験を担った英国のグラスゴー大学のDouglas Morrison氏は言っています8)。今のところIPEの製造は試行段階で1度に作れるのは数百kgほどです。研究チームが立ち上げたSatisfed社がIPEの開発を手掛けており2,9)、企業と提携して数千トン単位でIPEが製造できるようにすることを目指しています。Morrison氏とその同僚のImperial College LondonのGary Frost氏は、IPE入りのスムージー、シリアル、パンなどの食品の発売に向けて企業に話を持ちかけています。IPE入りの食品が間違いなく向こう1年以内にEUの市場にお目見えするだろうとMorrison氏は言っています3)。 参考 1) Commission Implementing Regulation (EU) 2026/1219 of 9 June 2026 authorising the placing on the market of inulin-propionate ester as a novel food and amending Implementing Regulation (EU) 2017/2470 / European Union 2) Special food additive that helps prevent weight gain is approved / University of Glasgow 3) A type of fibre that stimulates GLP-1 release approved for use in food / NewScientist 4) Ridaura VR, et al. Science. 2013;341:1241214. 5) Kimura I, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2011;108:8030-8035. 6) Chambers ES, et al. Gut. 2015;64:1744-1754. 7) Pugh JE, et al. EClinicalMedicine. 2024;76:102844. 8) New study questions effectiveness of novel ingredient for preventing weight gain / Imperial College London 9) Imperial opens for business with investors from across the UK and Europe

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尿検査で自閉症をスクリーニングできる可能性

 簡単な尿検査によって、自閉症スペクトラム症(ASD)の可能性が高い子どもを早期にスクリーニングできる可能性があることが、新たな研究で示された。研究グループは、「ASD児の腸内細菌叢に認められる特徴が、ASD児と定型発達児の識別に役立つ可能性がある」と述べている。米アリゾナ州立大学(ASU)Biodesign Center for Health Through Microbiomes工学教授James Adams氏らによるこの研究の詳細は、「Molecular Psychiatry」に5月26日掲載された。 過去の多くの研究において、一部のASD児では、p-クレゾール硫酸やインドキシル硫酸といった微生物由来代謝物(MDM)の尿中濃度が異常に高いことが確認されている。Adams氏らは、これらのMDMが脳腸相関を介して神経発達に影響を及ぼす可能性があり、また特徴的な腸内細菌叢のバランスの乱れ(ディスバイオシス)が多くのASD児に認められるのではないかという仮説を立てた。 この仮説を検証するために、今回の研究では、まず2~11歳のASD児52人と定型発達児47人(対照群)を対象に、尿中のMDM濃度を半定量的に解析した。その結果、90%のASD児において、少なくとも1種類のMDMの濃度が対照群で測定された最高値を上回っており、中には100~1,000倍もの高値を示すものも確認された。平均すると、ASD児では対照群の最高値を上回るMDMが3.3種類認められた。高値を示した代謝物には、フェニルアラニンやトリプトファンの代謝に関連する化合物が含まれていた。また、酵母や真菌の腸内活動と関連する化合物も確認された。 次に研究グループは、半定量解析で評価した17種類のMDMを用いて、対照群での最高値を上回るMDMが1種類でも存在する場合にASDスクリーニング陽性と判定する尿中スクリーニングシステム(MDM system)を構築した。その結果、ASD識別の感度が90%、特異度が100%であった。さらに、定量解析に基づく評価でも同様の傾向が確認され、感度78%、特異度100%であった。論文の筆頭著者であるASU Biodesign Center for Health Through MicrobiomesのChristina Flynn氏は、「この検査によって、ASDと診断されるリスクが高い子どもを特定できる可能性がある。また、すでに診断を受けた子どもについても、その子に合った治療方針を考えることで、より良い人生を送る支援につなげることができるだろう」とニュースリリースの中で述べている。 現在のASDの検査は子どもの行動観察に基づき行われるため、家族が子どもの診断結果を知るまで長期間を要する場合が多い。しかし、できるだけ早期に診断されることで、保護者はより早く適切な支援を開始できると研究グループは指摘する。 自身もASD児の親であるFlynn氏は、「この疾患に対するスティグマや恥の意識が少しでも軽減されることを願っている。診断をためらうのは、親が『自分は親として不十分だ』と感じたり、周囲から批判されていると感じたりすることが原因である場合もある。だが、実際はそうではない。尿検査でASDをスクリーニングできる可能性が示されたということは、ASDが生物学的な基盤を持つ状態であることを示唆している。このことによって、治療を受けることや早期に治療を開始することに対する親のためらいがなくなることを願っている」と話している。 ただし、研究グループは、この尿検査の有効性を確認するため、さらなる研究が必要であるとの見解を示している。

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SCORPIO-PEP試験:エンシトレルビルはCOVID-19家族内発症を予防できるか(解説:小金丸博氏)

 NEJM誌2026年5月14日・21日合併号に掲載されたSCORPIO-PEP試験は、エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)をCOVID-19患者の同居家族に対して曝露後予防に用いた第III相試験である。主要評価項目である「症候性COVID-19発症」は、エンシトレルビル群2.9%、プラセボ群9.0%で、リスク比0.33と有意な抑制効果を示した。絶対リスク減少は約6%であり、NNT(治療必要数)は17と計算される。家庭内感染という高曝露環境を考慮すると、かなり良好な成績といえる。 本試験の強みは、二重盲検ランダム化比較試験であること、多国籍試験であること、さらにオミクロン株流行期に実施された点にある。参加者の大多数が既感染あるいはワクチン接種由来の抗体を保有しており、現在の実臨床に近い集団で有効性が示された意義は大きい。また、有害事象発現率はプラセボ群と同等であり、安全性に関しても大きな問題を認めなかった。 一方で、臨床実装に向けては慎重な解釈も必要である。本試験のエンドポイントは「感染予防」ではなく「症候性COVID-19発症予防」であり、無症候感染自体は一定数認められている。つまり、ウイルス伝播抑制効果を直接証明した試験ではない。また、観察期間は10日間が中心であり、long COVIDの抑制や入院予防への寄与は評価されていない。 さらに重要なのは、ベースラインのイベント発生率が比較的低い点である。プラセボ群でも発症率は9%にとどまり、オミクロン株流行期以降の免疫保有集団においては、家庭内曝露があっても発症する者は限られる。このため、接触者全員への一律予防投与は費用対効果に乏しい可能性がある。真に恩恵を受けるのは、高齢者、免疫不全者、重症化リスクを持つ家族を抱える世帯などに限られるかもしれない。 耐性変異の問題も未解決である。論文中では明確な耐性伝播は確認されなかったが、3CLプロテアーゼ阻害薬は理論上耐性化リスクを抱える。とくに軽症例や予防投与への広範な使用は、選択圧を高める可能性がある。COVID-19が季節性感染症化しつつある現状では、抗ウイルス薬をどこまで「予防」に用いるべきかという抗菌薬適正使用に近い視点が必要になる。 本試験は「COVID-19家庭内曝露後の予防」という新しい戦略の有効性を示した点で画期的である。ただし、その適応は接触者への一律投与ではなく、高リスク接触者へのターゲット使用として考えるべきであり、長期アウトカム、耐性化、費用対効果を含めた今後の検討が不可欠である。

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7月6日 ワクチンの日【今日は何の日?】

【7月6日 ワクチンの日】〔由来〕1885年の今日、細菌学者のルイ・パスツール(フランス)が開発した狂犬病ワクチンが、少年に接種されたことを記念し、ワクチンの大切さを多くの人に知ってもらうことを目的に日本ベクトン・ディッキンソンが制定。関連コンテンツ今、知っておきたいワクチンの話麻しん・おたふくかぜ・風しんの3種混合生ワクチン「ミムリット皮下注用」【最新!DI情報】ワクチン接種率向上のための介入、有効な要素は?/BMJ新規インフルワクチンの第III相試験、mRNA-1010 vs.従来型ワクチン/NEJM市中肺炎で検出された肺炎球菌、ワクチンカバー率は?/感染症学会・化学療法学会

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加工食品の保存料は心疾患リスクを高める?

 出来合いの食品や冷凍食品は購入後も比較的長く保存できるという利便性がある一方、心血管疾患リスクを高める可能性もあることが示された。ソルボンヌ・パリ・ノール大学(フランス)およびパリ・シテ大学(フランス)のAnais HasenbÖhler氏らによるこの研究の詳細は、「European Heart Journal」に5月20日掲載された。 工場で製造される加工食品には、さまざまな保存料が添加されている。HasenbÖhler氏は、「実験的な研究では、一部の保存料が心血管の健康に有害な影響を与える可能性が示唆されている。しかし、こうした成分が人間に与える影響について、これまで十分なエビデンスはなかった。われわれの知る限りでは、これほど幅広い種類の保存料と心血管の健康との関連について調べた研究は、今回が初めてだ」と述べている。 この研究では、フランスの11万2,395人の成人(平均年齢42.8歳、女性78.7%)を対象に、24時間食事記録法を用い、摂取した食事内容を中央値7.9年にわたり追跡調査した。記録された食品に含まれている保存料の種類や量をデータベースや実験分析で評価し、保存料の累積摂取量の経時的変化と健康アウトカムとの関連を解析した。 その結果、いくつかの一般的な保存料が、高血圧や心血管疾患の発症率上昇に関連することが示された。具体的には、カビや細菌の繁殖を防ぐために使用される、抗酸化作用を持たない保存料の摂取量が最も多かった群では、最も少なかった群に比べて高血圧の発症リスクが29%、心血管疾患の発症リスクが16%高かった。また、食品の変色防止などに用いられる抗酸化性保存料の摂取量が多かった群は、高血圧の発症リスクが22%高かった。さらに、高血圧に関連する8種類の保存料も特定された。その中には亜硝酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、クエン酸などが含まれていた。一方、アスコルビン酸については、心血管疾患の発症リスク上昇との関連が認められた。 この研究結果について、研究論文の上席著者であるソルボンヌ・パリ・ノール大学のMathilde Touvier氏は、米食品医薬品局(FDA)や欧州食品安全機関(EFSA)などの機関が保存料のリスクとベネフィットの再評価を行う必要性を示していると指摘している。同氏は、「再評価の結果が出るまでは、加工されていない食品および加工度の低い食品を優先的に摂取し、不必要な保存料を含む超加工食品はなるべく避けるべきとする現行の推奨を支持する研究結果だといえる。医師やその他の医療専門職は、こうした推奨について一般の人に説明する上で、重要な役割を担っている」とニュースリリースの中で述べている

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帯状疱疹、感染部位も認知症リスクに影響する可能性/日本皮膚科学会

 近年、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の罹患が認知症の発症リスクを上昇させる可能性や、帯状疱疹ワクチンの接種がそのリスクを低減させる可能性を示す研究が相次いで報告されている。下畑 享良氏(岐阜大学)らは、「VZVの罹患は認知症の危険因子か?」という臨床疑問を検討することを目的に、21論文を対象としてスコーピングレビューを実施1)。このレビューからみえてきたVZV罹患と認知症発症の関連や、ワクチンが及ぼす影響などについて、最新の研究結果も踏まえて下畑氏が第125回日本皮膚科学会総会で講演した。システマティックレビューではVZV罹患との関連を肯定・否定する報告が混在 下畑氏はまず、スコーピングレビューの対象論文に含まれた3編のシステマティックレビュー/メタ解析の結果について解説した。 1つ目の論文(対象9研究)では、VZV罹患は認知症発症のリスク因子であり、ハザード比(HR)は1.11であることが示された。さらに、VZV罹患後に抗ウイルス薬を使用した場合、発症リスクはHR:0.84となり、16%のリスク抑制効果が認められた。 2つ目の論文(対象6研究)は、帯状疱疹ワクチン接種歴が認知症発症率に与える影響を検討したものであり、ワクチン接種歴は認知症のオッズ低下と関連し、統合オッズ比は0.76であった。 一方、3つ目の論文(対象9研究)では、全体としてVZV罹患と認知症発症に関連は認められず(HR:0.99、p=0.89)、アルツハイマー病のバイオマーカー(アミロイドβなど)との関連性も確認されなかった。しかし、「眼部帯状疱疹」の罹患に関しては認知症と強く関連する(HR:6.26)ことが示されており、感染部位によるリスクの違いが注目される。 ただし、これらの研究はいずれも無作為化比較試験ではなく前向き試験は1つのみであることから、現状のエビデンスには限界があることも示されている。個々の検討から背景因子を探る システマティックレビュー/メタ解析以外の研究についてみると、VZV罹患と認知症発症率について検討した研究は12研究存在した。うちVZV罹患が認知症発症率を増加させるとしたのは6研究、増加させないとしたのは3研究、またVZV罹患が認知症発症率を低下させるとしたものも3研究存在した。下畑氏は、この背景にワクチンの公的補助の有無がある可能性を指摘し、VZV罹患が認知症の危険因子とはならなかった研究の実施国は公的補助があり、ワクチン接種率の高い国が多く、対象者の抗ウイルス薬の処方率が高い傾向があったことを指摘した。 ワクチン接種歴と認知症発症率について検討した6研究では、接種したワクチンの種類によらず、いずれも、VZVワクチン接種歴が認知症または認知機能障害の少なさと関連することを示した。 帯状疱疹発症後の抗ウイルス薬使用と認知症発症率の関係については、検討した4研究のうち3研究で、抗ウイルス薬の使用は認知症発症率を低下させると報告している。 VZVの感染部位に注目した研究では、VZV罹患後1年以内の認知症発症率は全体では増加しなかったが、脳神経感染がある場合にはHR:1.83、中枢神経感染ではHR:6.83というデータが報告されている。また、別の研究でも、皮膚に限局した感染者と比較して、眼部感染、中枢神経感染、複雑性感染者の場合ではいずれも認知症発症リスクが有意に上昇してHR:1.28~1.44と報告されている。一方で、1つの研究では、眼部感染でも認知症発症率の増加を認めなかった。基礎研究でみえてきたメカニズムとは VZV感染はどのようなメカニズムで認知機能に影響を及ぼすのだろうか。VZV罹患に伴う認知症発症の病態について検討した研究は3つあり、単純ヘルペスウイルス(HSV)やVZVに感染した患者の脳脊髄液を調べると、VZV感染が潜伏HSV-1の再活性化を誘発し、アルツハイマー病様変化や神経炎症につながる可能性を示す仮説が提唱されている。さらに、リン酸化タウやミクログリアの活性化マーカーであるTREM2の上昇など、ウイルス感染を契機として脳内にアルツハイマー病に似た変化が惹起されることが示されている。 VZV罹患によるHSV-1再活性化が認知症発症の原因である可能性を検討した研究では、VZV単独の感染ではアミロイドβやリン酸化タウの蓄積は生じないが、あらかじめHSVに感染させて抗ウイルス薬で静止化させた後にVZV感染させると、HSV-1が再活性化し、結果としてアミロイドβやタウの蓄積が確認されるという。現在、VZV感染が潜伏しているHSV-1の再活性化を誘発し、それがアルツハイマー病様変化やミクログリアの活性化をもたらして認知症につながるという仮説が有力視されている。 また、水痘に罹患しやすい遺伝的要因(7つのSNP)を持つ人は認知症リスクが上昇するという報告もあり、遺伝的背景とウイルス感染の複雑な交絡も示唆される。帯状疱疹ワクチンによる認知症リスクの低減効果:最新の大規模コホート研究 ワクチンの認知症予防効果に関する大規模な疫学データが、相次いで発表されている。生年月日によるワクチン制度の適用の違いを利用し、カナダで行われた自然実験研究では、生ワクチン接種による認知症発症の減少効果が確認された2)。また、米国で約33万人を対象とした組換えワクチンの大規模コホート研究では、未接種群と比較して2回接種群で認知症発症ハザードが51%低く、強い関連が示された3)。 これらの報告を総合すると、複数回のワクチン接種で最大の効果が得られること、効果は年齢や人種間で一貫しているものの、女性においてより強い効果が得られる傾向がみられるという。一方で、生ワクチンの効果は時間の経過とともに減弱する可能性も指摘されている。VZVは皮膚症状だけでなく神経症状の有無にも着目を 下畑氏は講演の結びとして、「VZVは皮膚だけで完結するウイルスではなく、皮膚に現れた神経感染症と捉えてもよいのかもしれない。高齢者や免疫不全者、反復例においては、皮疹や疼痛だけでなく、頭痛、髄膜刺激徴候、片麻痺、構音障害、ふらつきといった神経症状の有無にも注意を払い、これらを認めた場合はぜひ脳神経内科へコンサルトしていただきたい」とした。 帯状疱疹ワクチンの接種による認知症発症リスクの低減については、今後のさらなる臨床研究とエビデンスの蓄積が期待される。

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ほこりの中にウイルス流行の手がかり

 ほこりには、オフィスや学校などの建物の中で流行しているウイルスに関する手がかりが含まれていることが、米オハイオ州立大学環境保健科学准教授のKaren Dannemiller氏らによる研究で明らかになった。Dannemiller氏は、「こうした研究は、懸念されるさまざまな問題について幅広い種類の建物をモニタリングする上で有用だ」とニュースリリースの中で述べている。詳細は、「Building and Environment」に5月15日掲載された。 排水などの廃棄物は、地域社会におけるウイルス拡散を追跡するために以前から利用されてきた。今回の研究によると、どこにでもあるほこりから採取した試料が、将来的には特定の場所において同様の役割を果たす可能性があるという。Dannemiller氏は、「本研究は、さまざまな感染症を建物レベルで監視する上で、技術をどう活用できるのかを理解するための第一歩となるものだ。最終的には、より適切な予防措置を講じることや、より的確な資源の配分を行うことにつながる」と述べている。 Dannemiller氏らは今回、学校、大学の学生寮、オフィスなど27カ所からほこりの試料を採取した。次に、全ゲノムを対象としたハイブリッドキャプチャー法による次世代シーケンス解析を行い、その結果を約200種類の病原体の遺伝子配列データベースと照合した。これにより、ウイルスが分解された後も環境中に残存する可能性のあるRNA分子などを特定した。 その結果、ほこりの試料から新型コロナウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バール・ウイルス(EBウイルス)など54種類のウイルス由来の遺伝子断片(以下、ウイルス断片)が検出された。 本研究では、検出されたウイルス断片の感染性については調べていないものの、研究グループは、ほこりの中に残ったウイルス断片が実際に感染力を持っている可能性は低いとしている。しかし、そうしたウイルス断片の有無を調べることで、特定の傾向が明らかになることがある。例えば、小児の感染症との関連が知られている3種類のウイルスは、主に成人が利用する環境と比べて、子どもが利用する環境で有意に多く検出された。また、この研究では、収集された全試料の85%から一般的な風邪の原因となるライノウイルスが検出された。 Dannemiller氏は、「地域社会における感染症を追跡するさまざまな方法を理解することは極めて重要だ。大規模なレベルで感染症のクラスターを追跡する下水モニタリングと同様に、より小規模な集団に対して同様の効果をもたらす中間的なツールをわれわれは開発した」と説明している。 Dannemiller氏はまた、今回の研究は「画期的な取り組み」だったとしている。それは、これまでにも科学者らがほこりの中のウイルスを遺伝子レベルで追跡したことはあったものの、「その範囲はかなり限定的であり、ウイルスを追跡するサーベイランスのツールとして提案されたことはなかった」からだ。 現時点では、ウイルス検査に用いる標準的なほこりの採取技術はまだ確立されていない。研究グループは次の段階の研究で、今回使用した技術がより広範囲の環境に適用できるかどうかを検証する予定だという。  なお、本研究は米空軍研究所(AFRL)、米国立衛生研究所(NIH)、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の支援を受けて実施された。

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美容目的でのチルゼパチド使用に伴う正常血糖ケトアシドーシス

 糖尿病や肥満のない若年女性が、美容目的でチルゼパチドを使用した後、正常血糖ケトアシドーシスを来したという症例報告がなされた。監物 諒相氏、沖田 朋憲氏(大阪けいさつ病院)らが、JCEM Case Reports誌2026年4月8日号で報告した。監物氏、沖田氏らは、チルゼパチド使用後の食欲低下や重度の消化器症状に伴う急性のカロリー不足が、ケトアシドーシス発症に関与した可能性を指摘し、美容目的の適応外使用に注意を促している。2回目投与後に悪心・嘔吐・下痢が発現 症例は20代の日本人女性。糖尿病、飲酒歴、糖質制限食の実施はなかった。身長156cm、体重58.9kg、BMI 24.2kg/m2であった。美容目的の体重減少を目的に、美容クリニックを通じてチルゼパチドを使用し、継続的な医学的管理を受けないまま、チルゼパチド2.5mgを週1回、計2回自己投与した。 初回投与後から食欲低下と摂食量低下を認め、2回目投与後に強い悪心、嘔吐、下痢が発現した。症状は4日間持続し、近医でブドウ糖含有輸液を受けた後、大阪けいさつ病院へ搬送された。来院時の体重は53.8kg、BMI 22.1kg/m2であり、約10日間で約5kg減少していた。身体所見では蒼白、疲労感に加え、発熱(38.4℃)を認めた。pH正常でもアニオンギャップ開大 入院時検査では、pH 7.41、HCO3- 17.7mmol/L、アニオンギャップ25.9mmol/L、β-ヒドロキシ酪酸5.5mmol/L、アセト酢酸1.4mmol/L、血糖196mg/dL、HbA1c 5.5%であった。pHは正常範囲内であったが、HCO3-低下、アニオンギャップ開大、ケトン体著明高値といった所見から、高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスと判断され、嘔吐に伴う代謝性アルカローシスの合併も示唆された。 血糖値は196mg/dLと軽度高値を示したが、正常血糖ケトアシドーシスの血糖基準である250mg/dL以下であった。インフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス抗原検査は陰性で、画像検査や血液・尿・便の細菌学的検査でも明確な感染は同定されなかった。以上から、チルゼパチド使用と時間的に関連した正常血糖ケトアシドーシスと判断された。輸液とインスリンで速やかに改善 治療として、生理食塩水による補液の後、ブドウ糖含有輸液、電解質補正、持続静注インスリンが行われた。インスリン投与は24時間継続され、入院翌日には代謝性アシドーシスが改善し、血清ケトン体も速やかに基準範囲内まで低下した。一方、悪心・嘔吐はしばらく持続した。輸液は5日間継続され、入院4日目に通常食を再開、入院6日目に薬剤なしで退院した。 退院2週間後の外来では、消化器症状の再燃はなく、食欲も回復していた。75g経口ブドウ糖負荷試験では、空腹時血糖88mg/dL、120分値101mg/dLであり、耐糖能は正常であった。このため、搬送時の軽度高血糖は、身体ストレスや搬送前のブドウ糖含有輸液の影響と考えられた。急性のカロリー不足が誘因か 著者らは、本症例の病態について、チルゼパチドによる食欲低下と重度の消化器症状により急性の異化状態が生じたことが関与している可能性を指摘した。加えて、発熱や生理的ストレス、脱水、急激な体重減少、さらにGIP受容体作動を介した脂質代謝への影響が、ケトーシスを増幅した可能性もあると考察している。 本症例報告について、筆頭著者および共同著者である監物氏、沖田氏にコメントを求めたところ、以下の回答が得られた。【監物氏・沖田氏のコメント】 本症例は1例の症例報告であり、チルゼパチド使用との因果関係を直接証明するものではありません。一方で、チルゼパチド使用中に強い消化器症状や摂食低下が持続する場合には、正常血糖ケトアシドーシスを念頭にケトン体やアニオンギャップも確認する必要があることを示唆しています。 チルゼパチドは適正使用下では重要な治療薬ですが、美容・痩身目的での安易な使用は重篤な健康被害につながる可能性があります。本報告が、チルゼパチドの適正使用の推進と、重篤な有害事象の早期発見・早期対応に役立つことを期待しています。

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【GET!ザ・トレンド】Less is More?β-ラクタマーゼ阻害薬nacubactamが拓くAMR治療の展望

薬剤耐性菌(AMR)は公衆衛生における世界的な社会課題である。なかでもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)はWHOの細菌優先病原体リストにおいて、クリティカル(最重要)に分類されている。そのCREに対し、Meiji Seikaファルマは新規β-ラクタマーゼ阻害薬nacubactam(OP0595)を承認申請中である。CRE感染症に対する同剤の特徴と効果、さらに新規抗菌薬開発の課題について、同社研究開発本部の加藤誠司氏らに話を聞いた。喫緊の課題カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)AMRついての世界的な調査報告書であるJim O'Neill氏による耐性菌レポートによれば、新規抗菌薬の研究開発等の対策を講じなければ2050年までに年間1,000万人がAMRにより死亡すると報告されている。これを受け、WHOが薬剤耐性に関するグローバル・アクションプランを策定し、それを基に日本を含む世界各国がそれぞれの国の課題に応じたアクションプランを策定し取り組んでいる。抗菌薬に耐性を示す代表的な機序としてβ-ラクタム系抗菌薬の分解酵素であるβ-ラクタマーゼがある。カルバペネマーゼはβ-ラクタマーゼの1種で、その名のとおりカルバペネム系抗菌薬を分解する酵素である。カルバペネム系抗菌薬は重症感染症治療に使用される。最後の砦であるカルバペネム系抗菌薬を無効化するカルバペネマーゼ産生菌による感染症は、患者の重篤化、入院長期化、さらに死亡率の増加を招く。そのためCRE感染は5類感染症として全例報告が義務付けられるなど、日本でも喫緊の課題とされている。nacubactamによるβラクタマーゼへの阻害活性と、エンハンサー効果nacubactamは、Meiji Seikaファルマが自社で創出した新規β-ラクタマーゼ阻害薬である。2025年12月にカルバペネム系薬に耐性のグラム陰性菌による感染症治療薬として国内承認申請された。同剤はβ-ラクタム薬(セフェピム[CFPM]またはアズトレオナム[AZT])との併用で、CREに対するβ-ラクタム薬の分解を阻害するだけでなく、併用するβ-ラクタム薬の抗菌活性を増強させるという従来のβ-ラクタマーゼ阻害薬にはない特性を持っている。具体的には、nacubactamはPBP2の阻害作用を有する。一方、CFPMやAZTといったβ-ラクタム系抗菌薬はPBP3を阻害する。つまり、CFPMおよびAZTとnacubactamの併用により、PBP2とPBP3双方を阻害して抗菌活性・殺菌作用を増強することが可能となる(エンハンサー効果)。β-ラクタマーゼ阻害薬を単味製剤として開発していることも大きな意味を持つ。単味製剤のメリットとして既存抗菌薬との組み合わせ次第で将来出現する細菌にも柔軟に対応できる可能性がある。また、既存の抗菌薬と組み合わせて耐性菌に対応できるため、従来の配合剤のようにそれぞれのβ-ラクタム薬との配合剤を新薬として医療機関で保管する必要がなくなり、薬剤数抑制の観点からもメリットが生まれると考えられる。β-ラクタマーゼはAmbler分類でクラスAからDに分かれている。国や地域によって優勢なクラスや型が異なり、それに応じて有効な薬剤も変わる。画像を拡大するなかでもクラスBに有効な薬剤は限られており、その対策には課題が残る。最新報告によれば、国内のCREは約1,000例で、大部分はクラスBのIMP型だ。また、近年はクラスBのNDM型も増加傾向にある。厚生労働省によるカルバペネム低感受性腸内細菌目細菌株の感性率を見ると、セフェピムおよびnacubactamとの併用(以下、CFPM/NAC)はクラスA、C、Dのβラクタマーゼに高い感性率を示す。また、アズトレオナムおよびnacubactamとの併用(以下、AZT/NAC)はA、C以外にもクラスB(IMP型、NDM型とも)にも高い感性率を示すことが明らかになっている。画像を拡大する2つの第III相国際共同試験nacubactamの臨床開発では、欧州・日本を含むアジアで2つのグローバル第III相臨床試験(Integral-1、Integral-2)が実施された。Integral-1試験は、カルバペネム感受性の複雑性尿路感染症または急性単純性腎盂腎炎患者を対象に、CFPM/NACおよびAZT/NACをカルバペネム系抗菌薬であるイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)と比較した二重盲検比較試験である※。IPM/CSに対する主要評価項目(投与終了7日後の総合臨床効果)において、AZT/NACは非劣性を、CFPM/NACは非劣性かつ優越性を証明した。結果は米国の感染症の学会であるIDWeek2025で反響を呼びThe Lancet Infectious Diseases誌による学会のハイライトにも取りあげられ、試験の内容はThe Lancet2026年5月16日号に掲載された。※通常の成人で、セフェピム2g+nacubactam1g、アズトレオナム2g+nacubactam1gまたはIPM1g /CS1g (いずれも1日3回静注)を投与もう1つの第III相試験であるIntegral-2試験は、CRE感染症患者を対象とした試験である。欧州臨床微生物学感染症学会議(ESCMID Global2026)では口頭演題に採択され発表に至っている。ESCMID Global 2026では、nacubactamに関する10演題が発表され、いずれも活発な議論が展開されたという。同剤に対する世界的な注目度の高さが窺える。新たなスタイルで行われたnacubactamの開発新規抗菌薬の開発にはさまざまな困難が伴う。感染症は被験者数が限られているため、臨床開発において症例を集積するには多くの国・施設の協力が不可欠だ。その分、開発コストは莫大になる。一方で、適正使用により患者数が限定されるなか、安定供給のための製造コストも増加しており経済合理性の欠如から、大手製薬メーカーが抗菌薬開発から撤退する負のサイクルに陥っている。nacubactamの開発に当たってはAMEDによる医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)の支援を得ている※。この研究課題では、第I相試験の薬物動態(PK/PD)からシミュレーションした用法用量を、第II相を介さずに第III相試験で検証している。結果は評価項目を達成し、第II相試験を省略して開発することが可能となった。困難な状況の中で「プロジェクトメンバー全員が、CREによる感染症に苦しむ患者さん全員を救うという思いでnacubactamの開発にあたっている」と加藤氏は述べる。※CiCLE研究開発課題「非臨床PK/PD理論を活用した新規β-ラクタマーゼ阻害剤(OP0595)の単味製剤の研究開発」プル型インセンティブの拡大が抗菌薬開発の鍵を握る新規抗菌薬の開発にあたっては、承認取得後の課題も深刻だ。上市後の適正使用を徹底すると使用症例数は絞られ、販売額は縮小する。加藤氏によれば、新薬の上市まで至った会社も事業が維持できず倒産する事例も少なくない。新規抗菌薬の開発を支える仕組みとして、研究開発費を支援するプッシュ型インセンティブと、承認・発売後の採算性を維持・向上させるプル型インセンティブ制度がある。国内ではプル型インセンティブとして抗菌薬確保支援事業が設けられているが、その予算枠では安定供給に資する製造コストを維持するのに課題もあり、今後の抗菌薬開発においてはプル型インセンティブの拡充がより重要になっていくと考えられる。Meiji Seikaファルマとしても、製薬協と連携しながらプル型インセンティブの拡大に向け、国への働きかけを続けている。nacubactamは新たなβ-ラクタマーゼ阻害薬として、β-ラクタム薬との併用で従来にはない強力な抗菌活性を発揮する。また、単味製剤の利点を生かし、新たな組み合わせを開発することで将来的に新たな耐性菌に備えることができる可能性を持つ。第一歩としてCREという最重要耐性菌に立ち向かうnacubactamに注目したい。 参考 1) O'Neill J, Review on Antimicrobial Resistance. Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations. Wellcome Trust and HM Government 2) 厚生労働省 薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書(サマリ版) 3) 国立健康危機管理研究機構(JIHS)国際感染症センターカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症に関する一般的事項 4) 国際健康危機管理研究機構(JIHS)カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症, 2024年現在 5) Takahashi S, et al. Lancet.2026;407:1929-1940.

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jmedmook104 プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A

現場で生まれた数々の疑問に専門医が応えます!2019年から続く日本プライマリ・ケア連合学会と日本感染症学会のジョイントシンポジウム「感染症専門医はプライマリ・ケア医からの疑問に応えられるのか?」で熱く交わされた質疑応答をもとに、感染症診療に有用なQ&Aをピックアップ。「外来でグラム染色をすべきか」「風邪なのに抗菌薬を欲しがる患者さんにどう対応すべきか」「感受性のない抗菌薬が効いてしまう理由」など、プライマリ・ケアの現場で直面する答えの出ない疑問についてエキスパートが明快に解説します。専門性と総合性の融合、多職種連携の重要性にも光を当てた本書は、地域で感染症診療に携わる医師はもちろん、看護師、薬剤師、介護職の皆さまにもおすすめの一冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するjmedmook104 プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A定価4,400円(税込)判型B5判頁数130頁発行2026年6月監修日本プライマリ・ケア連合学会感染症委員会/日本感染症学会学際化・国際化委員会ご購入はこちらご購入はこちら

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第319回 終息見えぬエボラ・ブンディブギョ株、ワクチンと治療薬の開発状況

INDEXヒトに感染するエボラウイルスとその特徴ワクチン候補は2つ治療薬候補は4つ以前、本連載でもお伝えしたコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)を中心とするエボラウイルスのアウトブレイクにおいて、その後も事態は悪化の一途をたどっている。最新の世界保健機関(WHO)の発表によると、6月24日現在、コンゴでは確定報告が累計1,094例、うち277例が死亡。隣国ウガンダでは6月18日現在、確定報告が19例、うち死亡2例のほか、死亡に至った疑い症例1例が報告されている。ウガンダでは、6月5日以降、新たな症例は報告されておらず、確定症例中14例がコンゴからの輸入例、残りが接触者や医療者の2次感染と分類されている。ウガンダでの感染は終息しつつあると言えそうだ。問題はコンゴのほうである。6月13日以降、新たに220例の確定症例(うち死亡96例)が報告され、WHOは「検査と診断能力の拡大により、以前に収集された検体の検査が可能になったことが一因」としているものの、終息の兆しは見えていない。現在のコンゴ国内での感染報告地域は、ウガンダ国境に接する東部のイツリ州が91.1%。これ以外は同州の南に接する北キブ州、さらにその南の南キブ州に分布している。WHOも発表の中で「複雑な人道危機と紛争の影響を受けた環境下で発生」と評しているように、以前の連載でも触れた紛争による政情不安定さがアウトブレイクの終息を阻んでいる。さらに悩ましいのは今回のアウトブレイクの原因が、エボラウイルスの中のブンディブギョ株である点だ。ヒトに感染するエボラウイルスとその特徴エボラウイルス(正確にはフィロウイルス科エボラウイルス属に分類されるウイルス)は6種類が確認されており、ヒトで感染が報告されているのは、アフリカのシエラレオネでコウモリから分離されたボンバリ株を除く5種類(スーダン株、ザイール株、タイフォレスト株、ブンディブギョ株、レストン株)である。5種類のうち、1994年にコートジボワールで確認されたタイフォレスト株の感染報告1)は、同地でチンパンジーの解剖に当たっていたスイス人の1例のみで、発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、咳で発症し、その後、腹痛、下痢、嘔吐、発疹を認めたものの、スイスへ搬送後に回復し、後遺症もなく退院している。また、1989年に米国・バージニア州レストンの動物飼育施設でフィリピン産のサルを感染源として初めて確認されたレストン株は、これまで100例超の感染事例が報告されているものの、いずれも抗体陽性が確認されただけで発症者の報告はない。感染したヒトで発症し、かつ致死的な病態をもたらすのが残るザイール株、スーダン株、ブンディブギョ株だが、過去の感染確定報告累計はザイール株が数万例、スーダン株が数千例の規模であるのに対し、ブンディブギョ株は今回のアウトブレイク以前の確定例は200例未満であるため、結果としてワクチンや治療法の開発が最も立ち遅れている。前出の「悩ましい」とはこのことを意味する。その意味では、現在のワクチンと治療薬の開発状況は気になるところ。そこでこの現状を可能な限りまとめてみた。ワクチン候補は2つまずワクチンだが、WHOとGaviワクチンアライアンス(Gavi, the Vaccine Alliance)などが中心となって進めている提言で、ワクチン候補として最も有望視されているのが、国際エイズワクチンイニシアティブが開発を主導している「rVSV-Bundibugyo」。これはすでにザイール株向けに米国・メルク社が製造・販売しているエボラウイルスワクチン「rVSV-ZEBOV(商品名:Ervebo)」と同じプラットフォームを利用したワクチン候補である。Erveboは主にウシ、ウマ、ブタなどの家畜に感染するものの、ヒトでの病原性は低い水疱性口内炎ウイルスを改変したベクターに、ザイール株の表面にある糖タンパク質の遺伝子を挿入したウイルスベクターワクチンである。一方のrVSV-Bundibugyoは、挿入する遺伝子をブンディブギョ株の糖タンパク質の遺伝子に置換している。動物実験レベルだが、Erveboのプラットフォームにザイール株、タイフォレスト株の糖タンパク質の遺伝子を挿入したものを接種したサルにブンディブギョ株を曝露させて交叉防御を検討した研究2)では、今のところ良好な結果が得られている。また、テキサス大学のグループが行ったブンディブギョ株曝露後のサルへのrVSV-Bundibugyoの接種に関する研究3)でも有意な生存効果が認められている。このワクチン候補に関しては、2026年中に第I相臨床試験が開始される見込みだという。もう1つの候補がオックスフォード大学とインド血清研究所が共同開発している「ChAdOx1-Bundibugyo」。これはすでに多くの医療者の中で記憶の彼方に過ぎ去ったかもしれない、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するアストラゼネカ社製のワクチン「バキスゼブリア」のブンディブギョ株版である。バキスゼブリアのサルアデノウイルスベクターにブンディブギョ株の糖タンパク質の遺伝子を挿入したウイルスベクターワクチンである。現在は前臨床データを収集中だという。さらに、同様に新型コロナに対するmRNAワクチンで名を馳せた米国・モデルナ社がブンディブギョ株対応のmRNAワクチンを開発中である。治療薬候補は4つ一方、治療薬についても現在開発が模索されている。最有力視されているのが米国・マップ・バイオファーマシューティカルの抗体カクテル「MBP134」である。エボラウイルス感染症から回復したヒトのメモリーB細胞に由来する数百種類の抗体をスクリーニングして得られた2種類のヒトモノクローナル抗体「ADI-15878」と「ADI-23774」を利用したものだ。ADI-15878はエボラ属ウイルス全体でほぼ共通しているfusion machinery(膜融合機構)を認識する抗体であるため、理論上はウイルス株に依存しない効果が期待できるとみられている。また、ADI-23774もウイルス株に依存しない糖タンパク質結合能を有するが、元となったモノクローナル抗体のスーダン株への結合能がやや低かったため、この部分に改良を加えている。2つの作用ポイントを持つため、ウイルスの変異にも対応でき、より有効性が高いと期待される。動物実験の結果4)では、ザイール株、スーダン株、ブンディブギョ株をそれぞれ曝露させたフェレットに対し、曝露から3~4日後に3日おきに2回投与し、いずれのウイルス株でも投与群のフェレットは全例生存したのに対し、コントロール群では全例死亡した。サルの実験では感染後7日目の単回筋肉注射を行い、生存率は投与群が83%、コントロール群が0%だった。また、米国・ヴァンダービルト・ワクチンセンターのグループが報告5)したブンディブギョ株感染からの生存者のメモリーB細胞に由来する遺伝子組み換えヒトモノクローナル抗体「mAb BDBV289-N」も抗体療法の候補となっている。サルによる実験結果では、ブンディブギョ株曝露後8、11日目の投与により、15日目までにウイルスRNA量は急速に減少。21日目には接種されたすべてのサルの血中でウイルスが検出限界以下となり、死亡例は認められなかった(未治療のコントロール群の致死率は40%)。さらに抗ウイルス薬として候補薬に挙げられているのが、RNAウイルスに対して抗ウイルス効果がある2種類の治療薬(候補)である。1つはすでに新型コロナの治療薬として知られるレムデシビルである。同薬が新型コロナ治療薬として注目される前の2016年に「Nature」に公表された論文6)では、ザイール株を使ったサルでの実験でウイルス曝露直後、2日後、3日後に2種類の投与量で1日1回12日間筋肉注射した各群のサルは全例生存していたのに対し、無治療のコントロール群では全例が死亡したと報告されている。現在、前出の抗体カクテル「MBP134」との併用の臨床試験が計画中と一部では報じられている。もう1つ抗ウイルス薬候補として注目されているのが、米国・ギリアド・サイエンシズが新型コロナやRSウイルス感染症に対して臨床試験中の経口抗ウイルス薬のobeldesivirである。ザイール株を使ったサルでの実験では、ウイルス曝露24時間後から10日間の連日経口投与を行った結果、投与されたサルでの生存率は80~100%に対し、コントロール群では全例死亡した。決して面白半分で見ているわけではないが、この中からどのワクチン・治療薬候補が抜け出すかは、今後の新興感染症対策を占ううえでは注目に値すると考えている。参考1)Formenty P, et al. J Infect Dis. 1999;179 Suppl 1:S48-53.2)Falzarano D, et al. J infect Dis. 2011;204 Suppl 3:S1082-1089.3)Woolsey C, et al. J Infect Dis. 2023;228(Suppl 7):S712-S720.4)Bornholdt ZA, et al. Cell Host Microbe. 2019;25:49-58.e5.5)Gilchuk P, et al. J Infect Dis. 2018;218(suppl_5):S565-S573.6)Warren TK, et al. Nature. 2016;531:381-385.

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病名や薬物治療手順を一部変更、「蕁麻疹診療ガイドライン」改訂/日本皮膚科学会

 国際ガイドラインの改訂や病態解明の進展、新たな生物学的製剤の登場などを背景に、8年ぶりの改訂版となる「蕁麻疹診療ガイドライン2026(第4版)」が2026年4月に公開された。病型分類および病名の一部変更や治療アルゴリズムのアップデートが行われた今回の改訂について、ガイドライン策定委員会の委員長を務めた福永 淳氏(大阪医科薬科大学)が第125回日本皮膚科学会総会で講演した。慢性蕁麻疹→慢性特発性蕁麻疹、アスピリン蕁麻疹→NSAID誘発蕁麻疹へ 蕁麻疹の病型について、特発性の蕁麻疹、刺激誘発型の蕁麻疹、血管性浮腫、蕁麻疹関連疾患という4つの大分類に変更はないが、その下の分類や病名がいくつか変更された。まず、特発性の蕁麻疹は「急性特発性蕁麻疹(発症後6週間以内)」と「慢性特発性蕁麻疹(発症後6週間超)」に、“特発性”という言葉を加える形に病名が変更された。 刺激誘発型の蕁麻疹は、食物依存性運動誘発アナフィラキシーがアレルギー性蕁麻疹の一部であるという考え方に基づき、別分類されていた2018年版から、アレルギー性の蕁麻疹(食物依存性運動誘発アナフィラキシーを含む)という表記に変更された。またアスピリン蕁麻疹は、アスピリンでのみ生じるという誤解を生む可能性があることから、NSAID誘発蕁麻疹と改めた。 血管性浮腫に関しては、「マスト細胞起因性」および「非マスト細胞起因性」という中分類を新たに設け、非マスト細胞起因性の病型の1つとして「メディエーター不明の血管性浮腫」が追加された。 さらに、病態に関する記述も最新の知見をもとに大きくアップデートされた。その中で最大の特徴といえるのが、すべての文言において「肥満細胞」という名称を削除し、「マスト細胞」に統一した点である。「脂肪細胞(肥満に関わる細胞)」と混同することを避けるための配慮であり、疾患の正しい理解を促進する狙いがあるという。日本独自の疫学データを追加、慢性特発性蕁麻疹患者のボリュームゾーンは40〜50代 これまでの日本のガイドラインでは、蕁麻疹に関する詳細な疫学データが不足していたが、今回の改訂では新たに医療情報データベースなどを用いた研究結果が追加された。日本人の慢性特発性蕁麻疹の推定有病率は1.2〜1.6%であり、全国でおよそ200万人の患者が存在すると推測される。新規発症率はおよそ0.7〜0.8%である。 福永氏は、「慢性特発性蕁麻疹の有病率はヨーロッパ諸国と比較して、東アジアでより高い傾向がある。年齢分布を見ると、実は0〜9歳の小児期に新規発症の大きなピークが存在する。しかし、この年代の多くは自然治癒に向かうため、実際に医療機関で継続的な治療を要する患者のボリュームゾーンは40~50代となる。また、男女比は2対3で女性に多いことも明らかになった」と語った。網羅的検査の実施は推奨されない 検査に関しては、2018年版から「原因検索のための網羅的な検査」を推奨しない方向性であることに変更はないが、今回その姿勢をより明確に打ち出している。I型アレルギーの検査実施については、1型アレルギーが疑われる詳細な問診・病歴がある場合にのみ、疑わしい抗原に対して個別の検査を選択的に行うべきとされた(CQ1)。急性特発性蕁麻疹(CQ2)および慢性特発性蕁麻疹(CQ3)に対する検査についても、全例でルーチンに実施する必要はないとしたうえで、推奨文では以下のように記載された。急性特発性蕁麻疹:発熱などの全身症状を伴い,細菌やウイルスの感染が疑われる場合には血算・血清・生化学検査などの一般的な検査を行ってもよい慢性特発性蕁麻疹:非定型的な症例、難治性の症例などで、背景因子、合併症の存在が疑われる場合は抗ヒスタミン薬やオマリズマブの反応性を予測できる可能性があり、それらに応じた検査(血清総IgE値,甲状腺自己抗体,CRPの測定)を行ってもよいPROMs活用を推奨し、治療の第1目標を変更 今回のガイドライン策定委員会で全員一致で推奨に強い合意が得られたのが、UAS7(Urticaria Activity Score over 7 days)や、UCT(Urticaria Control Test)などの患者報告アウトカム尺度(PROMs:Patient-Reported Outcomes Measures)を用いた疾患コントロール状態の客観的評価である。治療の第1目標は、2018年版での「治療により症状が現れない状態」から「治療により生活に支障がない状態」と変更された。またその目安をUCTのスコアで表しており、第1目標(治療により生活に支障がない状態)がUCT12点以上、第2目標(治療により症状が現れない状態)がUCT16点と明記された。福永氏は、「日常診療のアセスメントの際には、ぜひUCTを活用して客観的な評価を行っていただきたい」と呼びかけた。薬物治療はStep 2にオマリズマブまたはデュピルマブ、ステロイドは「急性増悪時のみ」 治療手順については、急性と慢性でアルゴリズムが明確に分けられた。急性は主に救急外来などでの短期間の対応を想定している。薬物治療手順は、慢性特発性蕁麻疹について以下が示された。Step 1:第2世代抗ヒスタミン薬Step 2:Step1に追加してオマリズマブまたはデュピルマブStep 3:Step1に追加してシクロスポリンまたは試行的治療 2018年版でStep 2とされていたH2-拮抗薬、抗ロイコトリエン薬、トラネキサム酸については、国際ガイドラインやエビデンスレベルの低さなどを背景に、Step1の補助的治療としての位置付けに変更された。 また、Step 3に含まれていた副腎皮質ステロイドに関しては、「急性増悪時のみ」とされて、プレドニゾロン換算量0.2mg/kg/日未満で2週間以内の使用に限定することが明記された。

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メル・ギブソン氏の発言後、イベルメクチンの併用処方が倍増

 俳優のメル・ギブソン(Mel Gibson)氏が、著名なポッドキャストで抗寄生虫薬イベルメクチンを「がんに有効な適応外治療」として宣伝して以降、同薬を含む併用処方数が倍増したことが、新たな研究で報告された。2025年1月、ギブソン氏はジョー・ローガン(Joe Rogan)氏のポッドキャスト番組「The Joe Rogan Experience」で、ステージ4のがんに罹患していた3人の友人が、イベルメクチンとフェンベンダゾールの併用療法により回復したと語った。フェンベンダゾールは、動物用としてのみ承認されている駆虫薬である。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デイヴィッド・ゲフィン医学部のKatherine Kahn氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に5月12日掲載された。 研究グループによれば、イベルメクチンや、フェンベンダゾールのようなベンゾイミダゾール系駆虫薬は、実験室レベルや動物実験では抗がん作用を示しているものの、人間のがん治療において安全性や有効性を示す臨床試験は存在しない。Kahn氏は、「たとえ馴染みのある人や影響力のある人から発信されたものであっても、広く共有されている健康情報が全て正確とは限らない。効果が証明されていない治療法の使用は、実際にリスクを伴う。特に、有効性が確認されている治療の開始が遅れてしまう場合にはなおさらだ。医師や医療機関は、患者が情報を正しく理解し、適切な判断を下せるよう支援する重要な役割を担っている」とニュースリリースで述べている。 イベルメクチンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック時に注目を集め、一部のインフルエンサーがCOVID-19の治療薬として宣伝した。しかし、こうした主張が裏付けられたことはなく、米国立衛生研究所(NIH)もCOVID-19に対する使用を推奨していない。 今回の研究でKahn氏らは、2018年1月1日~2025年7月31日の間に米国の67の医療機関で診療を受けた6837万3,949人の患者の電子カルテデータを用いて、18~90歳の患者に処方されたイベルメクチンとベンゾイミダゾール系駆虫薬の併用処方を特定した。併用処方は、同じ日にイベルメクチンとベンゾイミダゾール系駆虫薬(アルベンダゾール、フェンベンダゾール、メベンダゾール、およびチアベンダゾール)がそれぞれ1回以上処方された場合と定義し、月単位で1,000人当たりの併用処方率を算出した。 その結果、イベルメクチンとベンゾイミダゾール系駆虫薬の併用処方率は、2024年1月1日~2024年7月31日と比べて、ギブソン氏の発言後に当たる2025年1月1日~2025年7月31日には約2倍に上昇していた(率比1.97)。がん患者では、この併用処方率の上昇がさらに大きく、2.5倍以上に達していた(同2.63)。この傾向は、女性より男性(女性:同1.93、男性:同2.79)、また、65歳以上と比べて18~64歳(65歳以上:同1.61、18~64歳:同2.68)で、より明確であった。地域別では、米国南部での増加が特に顕著で、併用処方率は約3.9倍に上昇していた(同3.91)。 論文の上席著者であるUCLA医学部のJohn Mafi氏は、「私はプライマリ・ケア医として、全ての人が、より長く健康に生きることに役立つことが示されている治療を受ける機会を持ってほしいと思っている。たった1本のポッドキャストをきっかけに、有効性が証明されていないがん治療の処方が2倍以上に増えたこと、それが特に男性や米国南部で顕著だったことは、患者が実証済みの治療を回避したり後回しにしたりして、有効性が確認されていない治療法に頼っている可能性を示しており、懸念される」と語った。 研究グループは、「本研究結果は、不確かな医療情報が、特に有名人によって広められた場合、どれほど急速に拡散するかを示している」と指摘している。論文の筆頭著者である米バージニア工科大学のMichelle Rockwell氏は、「われわれは普段、エビデンスをいかに効率よく医療現場へ普及させるかに注目している。しかしこの結果は、別の力が極めて短期間のうちに医療行動に影響を与え得ることを改めて示した。医療システムの課題は、患者に適切なタイミングで迅速かつ信頼できる情報を届ける方法を見つけることだ」とニュースリリースで述べている。

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複合がん免疫療法の近未来/日本臨床腫瘍学会

 がん免疫療法は、複数の免疫療法を組み合わせることで治療効果を最大化する新たなフェーズへと進展しつつある。2026年3月26~28日に開催された第23回日本臨床腫瘍学会学術集会では、「複合がん免疫療法の近未来」をテーマとしたシンポジウムが企画され、次世代の治療戦略が議論された。腫瘍免疫の理解が深化する中で、がん免疫応答の多面的なメカニズムを考慮した新たな複合がん免疫療法の確立が期待される。持続型T細胞免疫システムとCD4陽性T細胞療法 冒頭、各務 博氏(埼玉医科大学国際医療センター)は、近年のがん免疫療法の進歩を背景に、免疫応答をいかに持続させるかが重要な課題となっていることを指摘した。そのうえで、腫瘍微小環境内に形成される三次リンパ様構造(TLS)を基盤とした持続型T細胞免疫システムと、CD4陽性T細胞を活用した新たな治療戦略について講演した。 TLSは腫瘍局所に形成されるリンパ組織様構造で、抗原特異的T細胞の増殖や機能維持を担う場として機能する。ここでは、前駆疲弊CD8陽性T細胞(Tpex)が中心的役割を果たしている。TpexはPD-1を発現しつつも自己複製能を保持し、抗原特異的T細胞を継続的に供給する貯蔵プールとして働く。PD-1阻害薬の投与によりTpexが増殖し、抗腫瘍効果を引き起こすことが知られている。 さらに、Tpexの維持には特定のCD4陽性T細胞群が関与することが明らかとなっている。Tpexと連動して長期的な免疫応答を維持する重要な細胞集団であるTh7Rは、Tpexと類似した遺伝子発現を示し、腫瘍内で近接して分布する。解析の結果、Th7RとTpexの細胞数は相関しており、CD4陽性T細胞がTpexの形成および維持に寄与する可能性が示唆されている。 モデルマウスを使用した研究では、Th7Rを投与することで腫瘍内のTpexが増加し、抗腫瘍効果の増強が確認された。また、PD-1やCTLA-4阻害薬との併用により、その効果が持続することも示された。これは、Tpex/Th7R相互作用の維持を目的とした細胞療法として、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療の有望な戦略となる可能性を示唆している。 臨床的にもCD4陽性T細胞の存在は予後と関連し、PD-1阻害薬による治療前後で血中のTh7Rが減少していない患者さんで5年生存例が多いことが報告されている。一方で、これらの細胞が減少すると再発や死亡につながる可能性がある。このため、CD4陽性T細胞を継続的に補充する細胞療法により、腫瘍微小循環を維持し、免疫応答を長期にわたって持続させる治療戦略が重要であると各務氏は指摘する。 総じて、腫瘍微小循環にはTLS・Tpex/Th7R相互作用に代表される持続型抗腫瘍細胞メカニズムが存在し、持続的ながん免疫の基盤となっている。腫瘍微小循環を維持する細胞療法の併用は、今後のICI治療の発展において重要な方向性になることが期待されている。ICIとADC併用療法の現状と展望 続いて、清水 俊雄氏(関西医科大学附属病院 新薬開発科)はICIと抗体薬物複合体(ADC)の併用療法について、その作用機序、臨床的課題、今後の展望などについて概説した。 ADCは、標的に特異的に結合する抗体、細胞障害作用を担うペイロード、そして両者を連結するリンカーの3要素から構成される。これら各要素の設計は、有効性と安全性を大きく左右する。とくにリンカーの安定性や薬物抗体比(DAR)は体内動態(PK/PD)や毒性に強く影響する。また、ペイロードの疎水性や膜透過性は、腫瘍細胞内での作用に加え、周囲細胞へも影響する重要な因子である。 臨床的課題としては、標的抗原を発現する正常組織にも作用するオンターゲット毒性と、非特異的にほかの組織へ影響を及ぼすオフターゲット毒性が挙げられる。さらに、ADCは体内で単一の形態として存在するわけではなく、完全体、ペイロードが解離した抗体、遊離ペイロードなど複数の分子種が時間とともに変動する。このような動的な分布が薬効と毒性のバランスを規定するため、PK/PDの理解と最適化が重要となる。 免疫学的観点では、ADCによる腫瘍細胞障害は腫瘍抗原の放出を促し、免疫応答を活性化する。これにより樹状細胞およびT細胞が活性化され、腫瘍細胞では主要組織適合複合体(MHC)クラスI分子やPD-L1の発現が増加する。その結果、CD8陽性T細胞の腫瘍への浸潤が促進される。このような背景から、ICIとの併用による相乗的な抗腫瘍効果が期待されており、ADCとPD-1阻害薬の併用による有望な臨床試験の成績が報告されている。 一方で、併用療法の最適化にはいくつかの重要な課題がある。具体的には、標的抗原発現の維持、毒性の重複回避、ならびにADCの非特異的取り込みの抑制が挙げられる。さらに近年では、二重特異性抗体や二重ペイロードの導入、腫瘍特異的に活性化される設計、免疫刺激型ペイロードの活用など、機能を拡張した次世代ADCの開発が進んでいる。これらの新規ADCはまだ早期開発段階にあるものの、バイオマーカーの確立と臨床的有用性の検証が進めば、より精緻な個別化治療の実現が期待される。 最後に清水氏は、ADCとICIの併用療法は大きな可能性を有する一方で、その成功には分子設計、薬物動態、免疫学的作用、臨床戦略を統合的に理解することが不可欠となることを強調した。加えて、適切な薬剤選択や投与タイミングの最適化、さらには構造の改良による安全性と有効性の向上が、今後の治療成績を左右すると締めくくった。肺がん領域における二重特異性抗体の最前線 ICIの登場により、肺がん、とくに非小細胞肺がんの治療成績は大きく向上した。しかし、すべての患者さんに十分な効果が得られるわけではなく、新たな治療戦略の開発が求められている。こうした中で、最近は二重特異性抗体が注目されている。吉田 達哉氏(国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科/先端医療科)は、肺がん領域における二重特異性抗体の臨床的展開について、最近の動向を報告した。 二重特異性抗体は、異なる2つの分子を同時に標的とすることを特徴とし、デュアルチェックポイント阻害型とT細胞誘導型(T細胞エンゲージャー)とに大きく分類される。前者は複数の免疫抑制シグナルを同時に阻害することで免疫応答を増強し、後者は腫瘍抗原とT細胞上の分子を橋渡ししてT細胞を直接腫瘍へ誘導・活性化する。造血器腫瘍ではT細胞エンゲージャーの成功例が多く報告されている一方、固形腫瘍である肺がんでは、これらを単独あるいはICIと組み合わせて用いる戦略が活発に検討されている。 肺がん領域では、特定のドライバー変異に関連する受容体を同時に標的とするアプローチや、腫瘍特異的抗原とT細胞を結び付けるT細胞エンゲージャーが臨床開発の段階から実臨床へと移行しつつある。前者は分子標的薬との併用により生存期間の延長が示唆され、後者は小細胞肺がんにおいて化学療法との併用で良好な治療成績が報告されており、新たな標準治療となる可能性がある。 一方で、患者選択の指標として用いられてきたPD-L1発現のみでは、ICIによる治療効果を十分に予測することが難しく、腫瘍変異量、抗原提示細胞や制御性T細胞の分布など、免疫微小環境をより詳細に解析する必要がある。こうした多面的なバイオマーカーの開発が、今後の個別化医療の鍵を握ると吉田氏は指摘する。 また、二重特異性T細胞エンゲージャーは腫瘍内の局所的なT細胞浸潤と免疫チェックポイント分子の発現を誘導し、ICI併用の有効性を示唆する一方で、抗原喪失などの免疫逃避が課題となる。 現在、T細胞エンゲージャーとICIの併用を検証する後期臨床試験が進行中であり、最適な併用方法や投与タイミングの確立が期待されているという。肺がん治療は、免疫療法のさらなる進展により新たな段階へと移行しつつあると、吉田氏は講演をまとめた。ICIとネオ抗原ワクチンの併用療法 近年、感染症領域におけるmRNAワクチンの成功を契機として、個別化がんワクチンの開発が大きく加速している。北野 滋久氏(がん研究会有明病院 先端医療開発科/がん免疫治療開発部)は、免疫学の観点からICIとネオ抗原ワクチンとの併用療法について概説した。 従来のがん抗原は自己由来成分に近く、十分な免疫応答を誘導できないことが多く、ワクチン療法としての成功例は限られてきた。これに対し、ネオ抗原は腫瘍細胞に特異的に生じた遺伝子変異に由来する新規タンパク質断片であり、後天的に獲得されるため免疫寛容の影響を受けにくく、高い免疫原性を持つ可能性がある。 ネオ抗原は、がん細胞内で産生された変異タンパク質が分解され、ヒト白血球抗原(HLA)に提示されることでT細胞に認識される。主にクラスIではCD8陽性T細胞、クラスIIではCD4陽性T細胞を活性化する。この過程には個人ごとのHLA型や遺伝子変異の違いが大きく影響するため、治療には患者さんごとの個別化が不可欠となる。近年では、DNAおよびRNAのシーケンシングと計算アルゴリズムを組み合わせることで、有望なネオ抗原候補を予測する技術が進歩し、個別化ワクチン開発が現実味を帯びてきた。 ワクチンにはペプチド、mRNA、DNA、ウイルスベクターなど多様な種類があり、とくにmRNAワクチンは柔軟性と開発の速さから注目されている。早期臨床試験ではネオ抗原特異的な免疫応答が確認され、ICIとの併用により抗腫瘍効果の向上が期待される。免疫応答は主にCD8陽性T細胞が担い、CD4陽性T細胞も補助的に関与する。安全性については、腫瘍特異的標的であるため理論上重篤な副作用はほとんどないと考えられる。 さらに、従来は注目されていなかったイントロンを含む非コード領域(いわゆるダークゲノム)や、スプライシング異常に由来するネオ抗原の存在も明らかになりつつあり、抗原候補の幅が大きく広がっている。全ゲノム解析を活用することで、これまで見逃されていた免疫標的の同定が進み、新たな治療戦略につながる可能性がある。 北野氏は、こうした科学的進展に加え、産学連携や国家レベルの研究基盤整備も進展しており、個別化ネオ抗原ワクチンと免疫療法の統合的アプローチは、がん治療の新たな柱として実用化に向けた期待が高まっていることを強調した。

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慢性B型肝炎、bepirovirsen追加で機能的治癒の達成割合改善/NEJM

 慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染患者の治療において、標準治療であるヌクレオシド/ヌクレオチドアナログ(NA)療法へのbepirovirsenの追加はプラセボの追加と比較して、機能的治癒の達成割合が有意に高く、その一方でGrade3のALT値上昇の頻度が高いことが、中国・南方医科大学のJinlin Hou氏らによるB-Well 1・2試験の結果で示された。bepirovirsenは、すべてのHBVの転写産物を標的とする非結合型アンチセンス オリゴヌクレオチドであり、HBV RNAおよびB型肝炎表面抗原(HBsAg)の量を減少させるとともに、免疫細胞の活性化をもたらすとされる。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年5月28日号に掲載された。29ヵ国で実施した2つの無作為化プラセボ対照比較試験 B-Well 1試験およびB-Well 2試験は、日本を含む29ヵ国で実施した同一デザインの二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2022年12月~2025年5月に参加者を登録した(GSKの助成を受けた)。 対象は、スクリーニング前の少なくとも6ヵ月間にわたり安定したNA療法を受けており、HBsAg値100~3,000 IU/mL、HBV DNA値90 IU/mL未満で、ALT値が正常上限値の2倍以下の非肝硬変性慢性HBV感染の成人患者とした。 被験者を、bepirovirsen(300mg、週1回)を皮下投与する群またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付け、24週間投与した。全例が、基礎治療として安定したNA療法を受け(24~48週目はNA療法単独期間)、48週時に中止基準を満たした例はNA療法を中止し、これを満たさない例は継続した。 主要アウトカムは、72週時の機能的治癒(HBV RNAが定量下限値[LLOQ:20 IU/mL未満または検出不能]を下回り、かつHBsAgが検出不能[定性的検査で0.05 IU/mL未満])とした。2試験の機能的治癒の達成割合、bepirovirsen群19~20%vs.プラセボ群0% 2試験の合計で1,838例を登録し、bepirovirsen群に1,224例(B-Well 1試験653例、B-Well 2試験571例)、プラセボ群に614例(同328例、286例)を割り付けた。ベースラインにおけるこれら4つの群の平均(±SD)年齢の範囲は48.7(±10.4)~50.2(±11.8)歳、男性の割合の範囲は69~73%、アジア系の割合の範囲は67~70%であった。 48週時にB-Well 1試験のbepirovirsen群の24%およびB-Well 2試験の同群の24%がNA療法を中止したが、両試験のプラセボ群でNA療法を中止した患者はいなかった。 ベースラインでHBsAg値3,000 IU/mL以下であった患者における72週時の機能的治癒の達成割合は、B-Well 1試験では、プラセボ群が0%(0/328例)であったのに対し、bepirovirsen群は20%(127/650例)であり(共通リスク群間差:17.5%ポイント、95%信頼区間[CI]:14.6~20.3、p<0.001)、B-Well 2試験では、プラセボ群の0%(0/286例)に対し、bepirovirsen群は19%(106/570例)(同13.3%ポイント、10.4~16.1、p<0.001)と、いずれもbepirovirsen群で有意に高かった。 また、主な副次アウトカムであるベースラインHBsAg値1,000 IU/mL以下の患者における72週時の機能的治癒の達成割合についても、B-Well 1試験では、プラセボ群が0%(0/214例)であったのに対し、bepirovirsen群は25%(105/426例)であり(リスク群間差:24.6%ポイント、95%CI:20.8~29.0、p<0.001)、B-Well 2試験では、プラセボ群の0%(0/179例)に対し、bepirovirsen群は28%(95/342例)(同27.8%ポイント、95%CI:23.3~32.8、p<0.001)と、いずれもbepirovirsen群で有意に良好だった。16%で、投与期間中のGrade3以上の有害事象 72週の時点の統合解析では、bepirovirsen群の91%、プラセボ群の73%で有害事象が発現し、重篤な有害事象はそれぞれ7%および4%で報告された。1~24週の投与期間中にbepirovirsen群で発現した有害事象のほとんどが「とくに注目すべき有害事象」で、このうち注射部位反応の頻度が最も高かった(53%)。 投与期間中のGrade3以上の有害事象は、bepirovirsen群の16%、プラセボ群の3%に認めた。bepirovirsen群で最も頻度が高かったGrade3の有害事象はALT値の上昇(6%)であった。同群で恒久的投与中止に至った有害事象は3%にみられ、bepirovirsenとの関連がない死亡が2例で発生した。薬剤誘発性肝障害の基準を満たした患者はいなかった。一過性のALT値上昇は、治療反応のマーカーと認識 著者は、「これらの知見は、24週という一定期間のbepirovirsen治療が、機能的治癒の達成に有効であり、標準治療としての継続的なNA療法に新たな有益性を付加することを示すもの」としている。 また、「bepirovirsenの投与開始後にみられる一過性のALT値上昇は、HBsAg値の低下と関連しており、bepirovirsenに対する治療反応のマーカーとして認識されている」「検査値の異常を定期的にモニタリングし、bepirovirsenの投与を一時的に中断することは、臨床的に意義のある有害事象の発現を抑制するために有効な戦略であり、恒久的な投与中止に至ったイベントは少なかった」と指摘している。

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リウマチ性多発筋痛症、セクキヌマブが有用/NEJM

 再発したリウマチ性多発筋痛症の患者において、完全ヒト型モノクローナル抗体のセクキヌマブと24週間のグルココルチコイド漸減療法の併用療法は、グルココルチコイド漸減療法単独と比較し、完全寛解を達成した患者の割合が高く、累積グルココルチコイド投与量も少ないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のJohn H. Stone氏らREPLENISH Investigatorsが28ヵ国148施設で実施した第III相国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「REPLENISH試験」の結果で示された。リウマチ性多発筋痛症は、肩や股関節の痛みとこわばりを特徴とする炎症性疾患で、グルココルチコイドが第1選択薬であるが、再発やグルココルチコイド関連の副作用がよくみられるため、有効な代替治療薬の必要性が高まっていた。NEJM誌オンライン版2026年6月3日号掲載の報告。セクキヌマブ2用量とグルココルチコイド漸減の併用療法の有効性と安全性を評価 研究グループは、リウマチ性多発筋痛症と診断され、ベースライン前12週以内にグルココルチコイド漸減中でprednisoneまたはprednisone換算5mg/日以上を投与中に少なくとも1回再発した50歳以上の患者を、セクキヌマブ300mg群(SEC-300群)、セクキヌマブ150mg群(SEC-150群)、またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け52週間投与した。全例に24週間のprednisone漸減療法を行った。 主要アウトカムは、52週時の持続的寛解を達成した患者の割合であった。持続的寛解は、12週目に寛解を達成し52週目まで寛解(リウマチ性多発筋痛症に起因するエスケープ治療またはレスキュー治療を必要とする徴候または症状の再発がなく、かつエスケープ治療またはレスキュー治療を必要とする巨細胞性動脈炎の新規診断がない)が持続した状態と定義した。副次アウトカムは年間累積グルココルチコイド投与量などで、安全性についても評価した。52週時の持続的寛解率、セクキヌマブ300mg群41.2%、150mg群40.6%、プラセボ群20.4% 2023年3月~2024年7月にスクリーニングを受けた474例中、381例が無作為化された(各群127例)。 52週時の持続的寛解率は、SEC-300群41.2%(95%信頼区間[CI]:32.8~49.7)、SEC-150群40.6%(95%CI:32.2~49.0)、プラセボ群20.4%(95%CI:13.6~27.2)であった(各セクキヌマブ群とプラセボ群との比較でp<0.001)。 52週時の補正後年間累積グルココルチコイド投与量の平均値は、プラセボ群2,093.0mgに対し、SEC-300群1,603.7mg(プラセボ群との平均差:-489.4mg、95%CI:-734.47~-244.25、p<0.001)、SEC-150群1,683.2mg(プラセボ群との平均差:-409.9mg、95%CI:-661.8~-157.9、p=0.002)であった。 有害事象の発現割合は、SEC-300群91.3%(115/126例)、SEC-150群88.1%(111/126例)、プラセボ群89.8%(114/127例)で、重篤な有害事象はそれぞれ13.5%、15.9%、14.2%に認められた。鼻咽頭炎、過敏症反応、尿路感染、真菌感染および背部痛は、プラセボ群よりセクキヌマブ群で発現割合が高かった。

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麻しん・おたふくかぜ・風しんの3種混合生ワクチン「ミムリット皮下注用」【最新!DI情報】第65回

麻しん・おたふくかぜ・風しんの3種混合生ワクチン「ミムリット皮下注用」今回は、「乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン(商品名:ミムリット皮下注用、製造販売元:第一三共)」を紹介します。乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチンに、おたふくかぜワクチンを混合することで、接種回数が減少して非接種者の負担軽減につながることが期待されています。<効能・効果>麻しん、おたふくかぜおよび風しんの予防の適応で、2026年5月11日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>本剤を添付の溶剤(日本薬局方注射用水)0.7mLで溶解し、その0.5mLを1回皮下に注射します。生後12月以上の者であれば性、年齢に関係なく接種できます。接種年齢は、学会などの最新の情報を考慮して総合的に判断します。<安全性>重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、免疫性血小板減少症、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳炎・脳症、けいれん(熱性けいれんを含む)、無菌性髄膜炎、難聴、精巣炎、急性膵炎(いずれも頻度不明)があります。その他の副反応として、発熱(33.6%)、注射部位の紅斑(22.5%)、腫脹、疼痛(いずれも注射部位、5%以上)、内出血、硬結(いずれも注射部位)、嘔吐、湿疹、発疹、上咽頭炎(いずれも0.5~5%未満)、注射部位のそう痒感、下痢、鼻漏、上気道の炎症、紅斑、丘疹、斑状丘疹状皮疹、蕁麻疹(いずれも0.5%未満)があります。<患者さんへの指導例> 1.このワクチンは、麻しん、おたふくかぜ、風しんの混合ワクチンです。麻しんウイルスとムンプスウイルス、風しんウイルスを弱毒化した生ワクチンで、接種後に体の中でワクチンウイルスが増え、それぞれの抗体ができます。 2.生後12月以上の者であれば性別、年齢に関係なく接種できます。 3.ワクチン接種に伴う副反応として、接種部位が接種直後から数日中に赤くなる、硬くなる、腫れることがありますが、通常、一過性で消失します。 4.妊婦は接種できません。 5.妊娠可能な女性は、あらかじめ約1ヵ月間避妊した後に接種します。また、ワクチン接種後約2ヵ月間は妊娠しないように注意してください。 <ここがポイント!>麻しんは、麻しんウイルスによって引き起こされる感染症で、「はしか」とも呼ばれています。感染後、10〜12日の潜伏期間を経て、38℃前後の発熱、発疹、咳、鼻汁などの症状が現れます。重症化した場合には、肺炎や脳炎を引き起こすこともあります。流行性耳下腺炎は、ムンプスウイルスによって引き起こされる感染症で、「おたふくかぜ」とも呼ばれています。感染後、2〜3週間の潜伏期間を経て、片側または両側の耳下腺部に炎症や疼痛が生じ、発熱、頭痛、倦怠感などの症状が現れます。通常は1~2週間で軽快しますが、合併症として無菌性髄膜炎、精巣炎、卵巣炎、膵炎、難聴などを引き起こすことがあります。とくに難聴は高度となることが多く、発症すると不可逆的な聴覚障害が残ることがあります。従来はまれな合併症とされていましたが、近年では0.1〜0.25%程度の発症率という報告があります。風しんは、風しんウイルスによって引き起こされる感染症です。感染後、2~3週間の潜伏期間を経て、発熱、発疹、リンパ節の腫れなどの症状が現れます。風しんに対する免疫力が不十分な妊婦が感染すると、出生児に心疾患、白内障、感音性難聴、精神運動発達遅延などの先天性異常が認められることがあります。妊娠中は弱毒生ワクチンを接種できないため、抗体を持たない、あるいは抗体価の低い妊婦は、風しん流行時における感染に十分注意することが重要です。ミムリットは、麻しん/おたふくかぜ/風しん(measles/mumps/rubella:MMR)ワクチンであり、麻しん、おたふくかぜおよび風しんの各原因ウイルスを弱毒化した生ウイルスを含む3種混合ワクチンです。本邦では、1989年から4年間にわたってMMRワクチンが小児の予防接種に使用されていましたが、当時のおたふくかぜワクチンの副反応として発熱、嘔吐、けいれんなどを伴う無菌性髄膜炎が高頻度に発生し、大きな社会問題となりました。そのため、MMRワクチンは使用が中止され、以降は麻しんおよび風しんの予防には単独ワクチンまたはMRワクチンの定期接種が、おたふくかぜの予防には単独ワクチンの任意接種が行われてきました。しかし、その結果、国内のおたふくかぜワクチンの接種率は30〜40%程度にとどまり、数年ごとにおたふくかぜの流行が繰り返されてきました。こうした状況を受け、2013年12月に厚生労働省から一般社団法人日本ワクチン産業協会に対して安全性の高いMMRワクチンの開発要請が出されました(健感発1216第1号)。さらに2018年5月には、予防接種推進専門協議会から「おたふくかぜワクチンの定期接種化に関する要望」が厚生労働省健康局(現健康・生活衛生局)に提出されました。このような背景から、MMRワクチンの開発が進められ、弱毒生麻しんウイルス(AIK-C株)、弱毒生風しんウイルス(高橋株)および弱毒生ムンプスウイルス(RIT4385株)を混合した本剤が承認されました。なお、RIT4385株は、無菌性髄膜炎の発現頻度が低いムンプスウイルス株として、海外では小児の定期接種に用いられるMMRワクチンに広く使用されています。 日本人健康小児を対象とした国内第III相臨床試験(VN0102-A-J301試験)において、主要評価項目である治験薬接種42日後の麻しんウイルスに対する抗体保有率は、本剤群99.8%(95%信頼区間[CI]:98.7~100.0)および対照群100.0%(95%CI:99.1~100.0)で、群間差は−0.2%(95%CI:−1.3~0.7)でした。また、風しんウイルスに対する抗体保有率は、本剤群99.5%(95%CI:98.3~99.9)および対照群99.5%(95%CI:98.3~99.9)で、群間差は0.0%(95%CI:−1.3~1.3)でした。麻しんウイルスおよび風しんウイルスに対する抗体保有率は、群間差の95%CIの下限値(いずれも−1.3%)が非劣性マージンである−10%を上回ったことから、本剤の対照薬に対する非劣性が検証されました。一方、ムンプスウイルス(Genotype D)に対する抗体保有率は、本剤群80.6%(95%CI:76.5~84.4)および対照群88.1%(95%CI:84.6~91.0)で、群間差は−7.5%(95%CI:−12.5~−1.9)でした。群間差の95%CIの下限値(−12.5%)が非劣性マージンである−10%を下回ったことから、本剤の対照薬に対する非劣性は検証されませんでした。しかしながら、本剤のムンプスウイルスに対する抗体保有率は80.6%であり、おたふくかぜの発症予防効果が確認されている海外MMRワクチンの試験成績と比較しても遜色のない結果でした。また、J302試験(低力価および高力価製剤の国内第III相臨床試験)およびJ303試験(ワクチンを1回接種したことが明らかな小児を対象とした国内第III相臨床試験)におけるムンプスウイルスに対する抗体保有率はいずれもおおむね95%以上でした。

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第323回 眼の細胞を若返らせる遺伝子治療が初の患者投与に漕ぎ着けた

眼の細胞を若返らせてより働けるようにする遺伝子治療が、第I相試験で被験者に初めて投与されました1,2)。組織を不調にしてやがて個体の死をもたらす老化の原因の一端は、ゲノムのDNA修飾(エピゲノム)の乱れが蓄積して、組織の機能や再生能が低下していくことにあるとみられています。その名のとおりメチル基がDNAに付加されることで生じるDNAメチル化はエピゲノムの主だった変化の1つで、細胞がそれぞれの個性に応じた遺伝子一揃いを発現できるようにする役割を担っています。胚発達期に確立するDNAメチル化のおかげで多様な細胞が生み出されます。そのような若かりし頃のDNAメチル化の特徴は年を経るごとに失われ、発現すべき遺伝子が沈黙したり逆に不必要な遺伝子が発現したりするなどの混乱(noise)が蓄積して細胞の機能を損なわせ、やがては組織の機能や再生能の衰えなどの生物学的老化を招くようです。生物学的老化の指標としてDNAメチル化特徴の変遷が用いられますが、はたして若かりし頃のDNAメチル化特徴を取り戻すことは可能でしょうか? 可能だとして、それが組織の機能改善をもたらすでしょうか?ハーバード大学医学部教授のDavid Sinclair氏らの2020年のNature誌報告3)によると、どうやらどちらも可能なようです。ノーベル賞科学者の山中 伸弥氏の成果にちなんで山中因子と呼ばれる転写因子4つが、エピゲノムを初期化して原始の胚のときの状態に逆戻りさせることが知られています。山中因子はいわば若返り因子でもありますが、マウスでの検討で腫瘍を生じさせる懸念が示唆されています4)。また、細胞の個性(identity)を完全に消し去ってしまいます5)。そこでSinclair氏らのチームは腫瘍促進や細胞個性消失の懸念を払拭するべく、山中因子からc-Mycを差し引いた残りの3つの転写因子のOct4、Sox2、Klf4を使ってDNAメチル化を若返らせる手段を生み出しました。その3つはそれぞれの頭文字をとってOSKと呼ばれます。アデノ随伴ウイルス(AAV)を運搬役としてOSK遺伝子をマウスの視神経の網膜神経節細胞(RGC)に届けたところ、DNAメチル化や遺伝子転写特徴が若い頃のようになり、損傷後の軸索再生が促進しました。また、治療効果もあり、緑内障や老齢マウスの視力が回復しました。その結果から哺乳類の組織は若い頃のエピゲノム情報を残しており、組織機能の改善や再生の促進のために必要とあらば引き出せると示唆されました。今回第I相試験で初めて患者に投与された遺伝子治療はER-100と呼ばれ、ほかでもないSinclair氏らが設立した米国・ボストン拠点のバイオテクノロジー企業Life Biosciencesによって開発されています。マウスでの検討と同様に、ER-100はAAVに託してOSK遺伝子をRGCに届けてよい塩梅に発現させることを目指します。眼と脳を繋ぐRGCはそもそも再生できず、ゆえにRGCが傷むと永続的な視力障害に陥ります。ER-100が生み出すOSKはRGCを再生させてその機能が回復するようにします。第I相試験でER-100はRGCが傷つくことを特徴とする開放隅角緑内障患者の片眼に注射され、安全性や許容のほど、それに視力も検査されます。開放隅角緑内障と同様にRGC損傷を特徴とする非動脈炎性虚血性視神経症患者もやがて試験に参加する見込みです2)。試験には多ければ18例が参加します6)。 参考 1) Life Biosciences Announces First Patient Dosed in Phase 1 Trial of ER-100 for Optic Neuropathies / GLOBE NEWSWIRE 2) World-first: therapy to make cells young again trialled in a person / Nature 3) Lu Y, et al. Nature. 2020;588:124-129. 4) Abad M, et al. Nature. 2013;502:340-345. 5) Scientists Reverse Age-Related Vision Loss, Eye Damage from Glaucoma in Mice / Harvard Medical School 6) Evaluating ER-100 for Safety in People With Glaucoma or Non-Arteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy(Optic Nerve Conditions) / NCT07290244

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抗菌薬使用とセリアック病発症に因果関係は認められず

 抗菌薬の使用はセリアック病(CD)の発症と関連付けられてきたが、新たな研究で、この因果関係を支持するエビデンスは認められないことが示された。CD患者では、CDではないきょうだいや一般集団と比較して抗菌薬使用のオッズが高かったものの、腸粘膜が正常な人では、そのオッズはさらに高かったという。ヨーテボリ大学(スウェーデン)のMaria Ulnes氏らによるこの研究は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に4月27日掲載された。 Ulnes氏は、「CDと抗菌薬使用との間に因果関係は認められなかった。抗菌薬の適正使用が重要であることに変わりはないが、CD発症を恐れて抗菌薬の使用を避ける理由はない」と述べている。 CDは、小麦・大麦・ライ麦に含まれるタンパク質のグルテンに対する自己免疫反応によって腹痛や下痢などの症状が引き起こされる自己免疫疾患である。小腸粘膜に慢性的な炎症が生じ、栄養吸収不良を来すことを特徴とする。 今回の研究では、生検によりCDが確認された患者2万7,789人、非CDの一般集団13万3,451人、CD患者のきょうだい3万3,112人を対象に、抗菌薬使用とCDとの関連を検討した。さらに、二次解析として、生検で組織学的に正常な小腸粘膜と判定された22万5,548人と、その対照となる一般集団108万9,796人との比較も行った。 その結果、抗菌薬の使用歴を有する割合は、CD群で69%、一般集団で63%であり、CD群では抗菌薬使用のオッズが高いことが示された(調整オッズ比〔aOR〕1.24、95%信頼区間〔CI〕1.21~1.28)。この関連は、抗菌薬の使用回数が多いほど強くなり、未使用と比べて1~2回の使用でaORは1.21(95%信頼区間1.17~1.25)、3回以上で1.35(同1.30~1.41)であった。さらに、きょうだい同士の比較でも、この関連が認められた(aOR 1.29、95%信頼区間1.24~1.35)。しかし二次解析では、腸粘膜が組織学的に正常な人でも抗菌薬使用との強い関連が見られ、その関連はCD患者よりも強かった(同1.50、1.48~1.51)。このことから、抗菌薬使用がCDの原因ではない可能性が示唆された。 Ulnes氏は、「CDは抗菌薬使用の結果だと考えられがちだが、その関連は、実際にはもっと複雑だ。感染症への感受性や食習慣などが腸内細菌叢に影響を与え、それがCDの発症に関与している可能性が考えられる。この場合、抗菌薬の適切な使用自体がリスクになるとは考えられないだろう」と述べている。

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HSV脳炎後の自己免疫性脳炎に注意、2026年GLでフロー新設/日本神経学会

 2026年3月、『細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014』と『単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017』を統合した『細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026』(日本神経学会・日本神経感染症学会監修、南江堂)が発刊された1)。 5月20~23日に開催された第67回日本神経学会学術大会の生涯教育セミナーにおいて、本ガイドライン作成委員会委員長を務めた中嶋 秀人氏(日本大学医学部内科学系神経内科学分野 主任教授)が「細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026の改訂のポイント」と題して講演を行った。講演レポートとして、「細菌性髄膜炎」を取り上げた前編に続き、後編では「単純ヘルペス脳炎」、そしてガイドライン外の重要なトピックである「水痘・帯状疱疹ウイルス中枢神経感染症」について紹介する。【単純ヘルペス脳炎】初期治療の迅速性と診断のゴールドスタンダード 単純ヘルペス脳炎(HSE)も細菌性髄膜炎と同様に「Time is Brain」の疾患である。発熱・意識障害・けいれんでHSEを疑ったら検査結果を待たず、受診から6時間以内にアシクロビル(ACV)投与を開始するのが望ましい。診断のゴールドスタンダードは髄液HSV PCRであり、高感度PCR(リアルタイムPCR)とFilmArray髄膜炎・脳炎パネルは、いずれも実臨床で有用である。FilmArrayは迅速診断に有用だが、検出感度はリアルタイムPCRより劣る可能性がある。なお発症72時間以内はウイルス量が少なく、4〜24%で偽陰性となりうるため、臨床的に強く疑われる場合は治療を中断せず、3〜7日後に再検する。治療はACV 10 mg/kg/回を8時間ごとに点滴静注し、髄液中HSV-DNAが高感度PCRで2回連続して陰性化するまで継続する(免疫正常例14〜21日間、免疫不全例21日間以上が目安)。HSEと自己免疫性辺縁系脳炎の鑑別 HSEは自己免疫性辺縁系脳炎(ALE)と類似の画像を示すため、初期の鑑別が課題となる。鑑別には実臨床で即座に使えるMRIの3基準が有用で、(1)拡散強調画像(DWI)での拡散制限、(2)側頭葉外(島回・前頭葉眼窩面)への病変進展、(3)ガドリニウム造影効果、のいずれも認めない(3基準すべて陰性)場合、感度95%・特異度100%でHSEを否定し、ALEを支持できる。HSE後自己免疫性脳炎(AE post-HSE) HSE後自己免疫性脳炎(AE post-HSE)は、HSE発症後2週〜3ヵ月に患者の7〜27%で発症し、HSEの治療後に症状の動揺・再燃として顕在化するため注意を要する。ウイルスの再活性化ではなく、ウイルス感染を引き金とした免疫介在性の病態であり、検出される自己抗体は抗NMDA受容体抗体が64〜70%と最多で、約3割は既知抗体陰性(未知の神経表面抗体)である。ガイドラインにはAE post-HSEのフローチャートが新設された。HSE治療後に症状の動揺・新規出現・再発がみられた場合は、まず速やかにACVを再開し、髄液HSV-DNAの高感度PCRを再検する。陰性でAEが疑われれば神経表面抗体スクリーニングを実施し、初期免疫療法(ステロイドパルス[IVMP]・IVIg・血液浄化療法)へ移行する。臨床像は年齢で異なり、乳幼児(4歳以下)では舞踏アテトーゼやジスキネジア、4歳以上の小児・成人では急性発症の異常言動・精神症状・認知機能低下が前景に立つ。HSEの後遺症とサポート HSEは適切なACV治療を行っても予後は楽観できず、生存者の18〜45%に高度な後遺症が残る。その内訳は記憶障害が34〜69%と最多で、次いで人格障害・失語・てんかん・見当識障害・嗅覚障害などがみられる。これらはQOLに甚大な影響を与えるため、認知療法・行動療法・理学療法・作業療法・言語療法を含む多角的なリハビリテーションの継続が望まれる。臨床で急増する水痘・帯状疱疹ウイルス中枢神経感染症(ガイドライン外) 本講演では、神経領域で重要性が増している新たなトピックとして、ガイドライン外である水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)中枢神経感染症についても中嶋氏が補足した。VZV感染は高齢化と免疫抑制薬の普及を背景に実臨床で急増しており、中嶋氏らの自施設における10年間(2013~22年)の解析では、成人の無菌性髄膜炎のうちVZVが約30%を占め、原因が判明した症例の中で最多であった。 診断上のピットフォールとして、VZV中枢神経感染症の約13%は特徴的な皮疹を伴わない(無疹性帯状疱疹、zoster sine herpete)。皮疹がなくとも、激しい頭痛・発熱や神経痛様疼痛があれば躊躇なく髄液PCR(VZV-DNA)を行う必要がある。また70歳以上ではVZV脳炎が増加する一方、50歳以上では頭痛・項部硬直が乏しく診断が遅れやすい。さらにVZVは血管壁に感染して炎症・血管リモデリングを起こすと考えられ、感染後数ヵ月は脳卒中リスクが上昇する。とくに眼部帯状疱疹ではそのリスクが高く(メタ解析でRR 1.91)、発症後6ヵ月間は脳血管イベントを監視する必要がある。すべての臨床医へ:「疑ったらまず治療」―予後を握る初期対応 細菌性髄膜炎、単純ヘルペス脳炎、そしてVZV中枢神経感染症は、いずれも早期診断・早期治療が転帰を決定するTime is Brainの疾患である。中嶋氏は本ガイドラインについて、「これらの疾患を専門とする医師だけでなく、プライマリケアや救急などを担当する多くの医師も鍵を握っています。『疑ったら、検査結果を待たずにまず治療を始める』―細菌性髄膜炎は1時間以内、単純ヘルペス脳炎は6時間以内、という大原則を心に留めていただければと思います。新しい診断ツールや知見を柔軟に活用しつつ、迷ったときに頼れる身近な一冊として、日常診療のそばに置いていただけたら幸いです」と展望を述べた。

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