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ゴミを扱う仕事で起こった珍しい病気【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第43回

ゴミを扱う仕事で起こった珍しい病気 >足成より使用 ゴミを扱う仕事に従事する人がどういった呼吸器疾患にかかるのかを検証した大規模な研究はありませんが、呼吸器症状や呼吸機能検査には影響を与えないと結論付けた報告があります(Tschopp A. et al. Occup Environ Med. 2011;68:856-859.)。 しかしその一方で、ゴミと関連した感染症やアレルギーを呈する報告もあります。 Allmers H, et al. Two year follow-up of a garbage collector with allergic bronchopulmonary aspergillosis (ABPA). Am J Ind Med. 2000;37:438-442. この論文は、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)に罹患した29歳のゴミ回収業社員の症例報告です。彼は、ゴミ回収業に従事した夏に、呼吸困難感、発熱、インフルエンザ様症状を呈するようになりました。病院を受診したところ、胸部レントゲン写真では粘液栓(mucoid impaction)を示唆する索状影が観察され、IgE高値、アスペルギルス沈降抗体が陽性であることからABPAを疑われました。Aspergillus fumigatus抽出物を吸入すると、即時型喘息反応がみられました。この症例報告は日本の夏型過敏性肺炎と同様の機序と考えてよいと思いますが、過去にゴミを扱うことで真菌のアレルギー症状を起こすことが報告されています(Hagemeyer O, et al. Adv Exp Med Biol. 2013;788:313-320.)。また、ゴミ捨て場で働く子供において酸化ストレスマーカーが高いことも報告されています(Lahiry G, et al. J Trop Pediatr. 2011;57:472-475.)。日本のように医療制度が充実している国はともかくとして、健康へのリスクを有する職業に就いている人に対する健康診断は、世界的にもまだまだ課題が残されているようです。インデックスページへ戻る

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デング熱の重症度、ウイルス特異的メモリーT細胞応答が関与

 これまでにデングウイルス(DENV)に自然感染した人において、DENVに対する抗体反応が詳細に調べられたが、DENV特異的メモリーT細胞の機能性と臨床的な疾患重症度との関連は完全に解明されていない。スリランカ・スリ ジャヤワルダナプラ大学のChandima Jeewandara氏らは、DENV特異的メモリーT細胞によって産生されるサイトカインの種類が、臨床的な重症度に影響することを報告した。T細胞応答を用いた新しいアッセイ法により感染血清型を特定できることも示され、免疫疫学的研究やデング熱ワクチンの臨床試験で役立つと期待される。PLOS Neglected Tropical Diseases誌オンライン版2015年4月13日号の掲載報告。 スリランカで得られたDENV自然感染者(デング熱で入院または軽度~不顕性感染)338例の検体について、ex vivoでIFNγ ELISpotアッセイを用いてサイトカイン産生を測定しDENV特異的メモリーT細胞応答を調べた。 主な結果は以下のとおり。・軽度~不顕性感染者または入院歴のある感染者のどちらにおいても、T細胞はDENV-NS3 抗原刺激時に複数のサイトカインを産生した。・しかし、軽度~不顕性感染者のDENV-NS3特異的T細胞はグランザイムBのみを産生する傾向にあったのに対して、入院歴のある感染者ではTNFαおよびIFNγの両方、またはTNFαのみを産生する傾向にあった。・T細胞応答を利用して感染血清型を調べたところ、DENV血清陽性者の92.4%で、1つ以上の血清型が認められた。・DENV血清陰性であるが日本脳炎ワクチンも受けたことのある個人では、感染血清型のアッセイでT細胞応答がみられなかった。したがって、このアッセイに用いた抗原ペプチドは、日本脳炎ウイルスと交差反応しないと考えられる。

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梅雨の季節。原因不明の咳は真菌のせい!?

 4月21日、東京都内において「梅雨から要注意!カビが引き起こす感染症・アレルギー  -最新の研究成果から導く“梅雨カビ”の対策ポイント-」(主催:株式会社衛生微生物研究センター、協力:ライオン株式会社)と題し、メディアセミナーが開催された。 これから梅雨の季節を迎え、家中のさまざまなところで発生するカビについて、その性質と健康に及ぼす影響を概説し、具体的にどのような疾患を生じさせるかをテーマに講演が行われた。カビを吸い込むことで喘息やアレルギー性疾患を誘発 はじめに「カビ」の研究者である李 憲俊氏(衛生微生物研究センター所長)が、「身の回りのカビと、人体への影響」と題して、家カビの発生とその影響について解説を行った。 カビは、水の溜まるシンク周りや浴室に多く繁殖し、また、湿気のこもる下駄箱、押し入れ、結露する北側の壁、窓枠、浴室天井などに多く発生する。とくに天井のカビは、思いのほか気が付きにくく、掃除も難しい。また、胞子が舞い落ちることで人が吸い込む可能性もある。そして、カビを吸い込むことで、喘息、アレルギー性疾患を誘発、悪化させるほか、肺炎などの感染症の原因ともなる。李氏は「現在のように密封性の高い家屋では、カビの増殖が容易なため、いかにカビを発生させないか対策が大事」とまとめた。原因不明の咳はカビによるアレルギー性疾患の疑い 続いて、「カビが引き起こす感染症・アレルギー」と題して、亀井 克彦氏(千葉大学真菌医学研究センター 臨床感染症分野 教授)が、カビ(真菌)が原因となる呼吸器疾患のレクチャーを行った。 真菌が原因となる病気は、水虫が広く知られているが、その他にも感染症、アレルギー、(食物摂取による)中毒症などがある。そして、私たちは1日に1万個以上の真菌を吸い込んでおり、真菌が原因の疾患で亡くなる方も現在増加中だという。 原因不明の咳などの診療でのポイントとしては、「古い木造一戸建てに引っ越した」「梅雨ごろから症状が始まった」「しつこい乾いた咳」「家の外だと軽快」「次第に息切れする」「中年女性」といったファクターがあった場合、「夏型過敏性肺臓炎」や「カビによるアレルギー性疾患」などが疑われ、早期の検査と治療が必要となる。とくに「夏型過敏性肺臓炎」は、わが国独特の疾患であり、風邪などと区別がつきにくいために見過ごされ、治療が遅れることも散見されるので、注意が肝要とのことである。 また、頻度は少ないが、喫煙者や糖尿病などの慢性疾患を持つ人が罹りやすい「慢性壊死性肺アスペスギルス症」などは治療薬も効果が弱く、進行すると予後不良となるため、定期健診での早期発見が大切だという。 真菌感染症は、容易に感染しないものが多いが、一度感染すると難治性となり、治療薬も効果が弱く副作用も強い。また、再発しやすく、アレルギーなどのさまざまな疾患の原因ともなるので、原因不明の咳などで「前述の疾患を疑ったら呼吸器科の中でもアレルギー疾患領域に明るい専門医の受診が必要」とのことだった。 最後に、患者に指導できる予防策として、肺の老化予防のために「禁煙の実施」、住宅内の「カビの排除」(とくにエアコン、水まわりなど)、原因不明のしつこい咳や息苦しさがあれば「専門医師への受診」を患者に伝えることが重要だと亀井氏は述べ、「カビについて過度に神経質になる必要はないが、適度な心配はしてほしいと患者に指導をお願いしたい」とレクチャーを終えた。

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TAF配合の新規抗HIV薬、TDF配合薬に非劣性/Lancet

 HIV-1感染症の初回治療としての新規抗HIV薬配合薬エルビテグラビル/コビシスタット/エムトリシタビン/テノホビル-アラフェナミド(E/C/F/TAF、国内承認申請中)の安全性と有効性を、E/C/F/テノホビル-ジソプロキシルフマル酸塩(E/C/F/TDF、商品名:スタリビルド配合錠)と比較検討した2つの第III相二重盲検無作為化非劣性試験の結果が、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul E Sax氏らにより報告された。48週時点で両投与群とも90%超の患者で抗ウイルス効果が認められた一方で、腎臓と骨への影響は、E/C/F/TAF投与群がE/C/F/TDF投与群に比べて有意に低かった。著者は、「いずれの試験も、骨折や腎障害といった臨床的安全性イベントを評価する検出力はなかったが、E/C/F/TAFは、良好で長期的な腎臓および骨の安全性プロファイルを有すると思われる」と結論している。Lancet誌オンライン版2015年4月15日号掲載の報告より。TDF配合薬と比較、国際多施設共同の二重盲検無作為化非劣性試験 テノホビルのプロドラッグである既存のTDFは、血漿中の高いテノホビル濃度に関連した腎臓や骨への毒性作用を引き起こす可能性が指摘されている。TAFはテノホビルの新規プロドラッグで、TDFと比べて血漿中テノホビル濃度を90%低く抑えることを可能とした。第II相の試験において、TAF配合薬はTDF配合薬に比べて、eGFR、尿細管性蛋白尿、骨密度への影響の低下がみられ、腎臓や骨の安全性を改善する可能性が示唆された。同所見を確認するため第III相試験では、腎臓と骨の安全性に関するプロトコルを事前に規定して検討された。 報告された2つの試験は、日本を含む16ヵ国178施設の協力の下で行われ、推定クレアチニンクリアランス50mL/分以上で未治療のHIV感染症患者を対象とした。 被験者は、E/C/F/TAF(各含有量は150mg/150mg/200mg/10mg)またはE/C/F/TDF(TDF含有量300mg)を投与する群に無作為に割り付けられた。無作為化はコンピュータ生成配列法(4ブロック)にて行われ、HIV-1 RNA量、CD4数、参加国(米国とそれ以外)による層別化も行った。 主要アウトカムは、FDA が定義したSnapshot アルゴリズム解析を用いて、48週時点で血漿中HIV-1 RNA値50コピー/mL未満の患者の割合(事前規定の非劣性マージン12%)と、事前規定の48週時点の腎および骨のエンドポイントであった。 有効性と安全性に関する主要解析は、試験薬を1回受けたすべての患者を含んでintention-to-treatにて行われた。抗ウイルス効果は同等、腎臓と骨のエンドポイントはTAF配合薬のほうが良好 2013年1月22日~2013年11月4日に2,175例の患者がスクリーニングを受け、1,744例が無作為に割り付けられ、1,733例が治療を受けた(E/C/F/TAF群866例、E/C/F/TDF群867例)。 結果、48週時点の血漿中HIV-1 RNA値50コピー/mL未満患者の割合は、E/C/F/TAF群800/866例(92%)、E/C/F/TDF群784/867例(90%)、補正後両群差は2.0%(95%信頼区間[CI]:-0.7~4.7%)で、E/C/F/TAFのE/C/F/TDFに対する非劣性が認められた。 また、E/C/F/TAF群のほうが、血清クレアチニンの平均値上昇が有意に少なく(0.08 vs. 0.12mg/dL、p<0.0001)、蛋白尿(ベースラインからの%変化中央値:-3 vs. 20、p<0.0001)や、脊椎(同:-1.30 vs. -2.86、p<0.0001)および腰椎(-0.66 vs. -2.95、p<0.0001)の骨密度低下が有意に低かった。

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SFTSに気を付けろッ!その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。この「新興再興感染症に気を付けろッ!」は、新興再興感染症への適切な気を付け方について、まったりと学ぶコーナーです。前回は、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)についての概説をさせていただきましたが、今回はSFTSに潜む謎に迫りたいと思います。SFTSの謎(1)高い致死率SFTSの日本での致死率は29%と非常に高いのですが、一方で中国のSFTS症例の致死率は12~15%程度であり、日本のおよそ半分程度です。同じSFTSなのに、なぜこのような致死率の違いが生まれるのでしょうか?まず、ウイルスの病原性の違いについて、中国のSFTSウイルスと日本のSFTSウイルスは、遺伝子学的にはかなり昔に分かれているということが判明しています1)。つまり、最近になって中国から日本にやって来たというわけではなく、おそらくかなり昔から日本に潜んでいたウイルスということになります。しかし、この中国のSFTSウイルスと日本のSFTSウイルスの病原性についての違いは、これまでのところ明らかではありませんので、致死率の違いは、ウイルスの病原性の違いによるものとは言いにくいと思われます。では、人種間の違いでしょうか? その可能性はあるかもしれませんが、遺伝子が比較的近い日本人と中国人で死亡率に大きく違いがあるとは思えません。では、なぜ日本ではSFTSの致死率が高いのでしょうか。もしかしたら日本では、重症症例のみが診断されているという可能性があるかもしれません。中国でも当初は致死率が30%程度とされていましたが、現在の致死率まで下がっており、軽症例が診断されるようになったことが、原因の1つと考えられます。日本でも当初は厚生労働省の提示した症例定義(前回の表をご参考ください)というものがあり、これに該当しない軽症例は検査されなかったために、死亡率が高く出ているということなのかもしれません。SFTSは、高齢者で致死率が高いとされています。現在、日本では農村部の高齢者を中心に症例が報告されていますが(図1)、実際には若年者もSFTSに感染しているけれど、診断されていないだけなのかもしれません。今後、軽症の若年者も診断されるようになり、致死率が下がってくる、という可能性はあるかと思います。画像を拡大するSFTSの謎(2)発生地域の分布前述のように西日本で感染が見られていますが、東日本ではまったく感染者は報告されていません。SFTSは、主にタカサゴキララマダニとフタトゲチマダニによって媒介されるダニ媒介感染症と考えられています。タカサゴキララマダニは、西日本に多く分布していますが、フタトゲチマダニは日本全域に見られるマダニです。実際にSFTSウイルスは、北海道や宮城県など東日本でも遺伝子が検出されています(図2)2)。また、SFTS抗体を持つ動物も、東日本で見つかっています。しかし、実際に感染者が出ているのは西日本に限局しており、最東端は和歌山県です。なぜこのような偏りが生まれるのか……。画像を拡大する考えられる原因としては、ダニのSFTSウイルス保有率の違いでしょうか。SFTSウイルスを持つダニの比率が、西日本のほうが高いのかもしれません。現にシカのSFTSウイルス抗体陽性率は西高東低といわれており、ダニのウイルス保有率を反映しているのでしょうか。このマダニのSFTSウイルス保有率については、今後サーベイランスの結果が待たれるところです。東日本でもマダニからSFTSウイルスの遺伝子が検出されているということから、まれであるかもしれませんが、東日本でもSFTSが発生するかもしれません。東日本で勤務する医療従事者も、白血球と血小板減少を伴う発熱疾患ではSFTSを鑑別に挙げるようにしましょう(あとデング熱も)。SFTSの謎(3)適切な感染対策SFTSは広義のウイルス性出血熱であり、エボラ出血熱と同様に、血液・体液を介してヒト-ヒト感染が起こりうると考えられています。実際に、患者家族や医療従事者でのヒト-ヒト感染事例も複数報告されています3)。しかし、SFTS疑い(あるいは確定例)でどのような感染対策を行えばよいのかについては、まだきちんとした方針がありません。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの作成した『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き』2)を一例として公開しておりますので、ご参考ください。これまでにSFTS患者から感染した医療従事者は、採血の介助や気管挿管をした際に感染したと考えられており、また、ご遺体に触れた家族や納棺師も感染しています4)。診療の際には標準予防策を徹底する必要がありますし、SFTSの患者さんは亡くなられた際にウイルス量が最も多くなっているため、亡くなられた際の埋葬の方法についても注意が必要です。というわけで、とくに解決策を提示することなくお送りした「SFTSに気を付けろッ!」ですが、いかがでしたでしょうか。次回は、個人的な激アツトピックである「Borrelia miyamotoi感染症の気を付け方」について取り上げたいと思います。1)Takahashi T, et al. J Infect Dis. 2014;209:816-827.2)国立国際医療研究センター 国際感染症センター. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き. 第3 版. 2014. (参照2015.3.27)3)Kim WY, et al. Clin Infect Dis. 2015 Feb 18. [Epub ahead of print]4)Gai Z, et al. Clin Infect Dis. 2012;54:249-252.

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C型肝炎治療最前線 経口薬への期待

 C型肝炎の治療に新たな変化が起きている。ダクルインザ・スンベプラ併用療法のインターフェロン未治療・再燃患者への適応拡大に伴い、2015年4月8日、都内にてプレスセミナー(主催:ブリストル・マイヤーズ株式会社)が開催された。今回は、茶山 一彰氏(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 応用生命科学部門 消化器・代謝内科学 教授)の講演内容を中心にセミナーの内容を紹介する。インターフェロンの副作用が大きな負担 従来、本邦におけるC型肝炎根治療法の主体はインターフェロン(IFN)であった。1992年にIFN単独療法が、2004年にペグIFN・リバビリン併用療法が承認された。さらに、2013年には経口プロテアーゼ阻害薬が承認され、3剤併用療法が開始された。しかし、依然として治療の主体はIFNであり、うつ・全身倦怠感をはじめとする重い副作用が患者にとって大きな負担となってきた。ダクルインザ・スンベプラ療法 昨年9月に発売されたダクルインザ(一般名:ダクラタスビル)とスンベプラ(同:アスナプレビル)は日本初のIFNフリーで治療可能な経口C型肝炎治療薬である。ダクルインザ・スンベプラ療法は、日本におけるC型肝炎の約70%を占めるセログループ1(ジェノタイプ1)型またはC型代償性肝硬変におけるウイルス血症を改善する効果がある。本剤の登場により、これまで高齢や合併症リスク、副作用などでIFNを含む既存の治療を受けられない患者、あるいは十分な効果が得られなかった患者さんに、新たな治療選択肢が加わった。経口2剤併用療法が適応拡大 また、これまでダクルインザ・スンベプラ療法の適応は、「セログループ1(ジェノタイプ1)のC型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変で、(1)IFNを含む治療法に不適格の未治療あるいは不耐容の患者、(2)IFNを含む治療法で無効となった患者」であった。 しかし、今回(2015年3月)の適応拡大に伴い、IFNの治療歴にかかわらず、日本人で最も多いジェノタイプ1型C型肝炎のすべての患者がこの治療法を選択できるようになった。さらに、第III相試験において、本療法の貧血・皮疹などの副作用は、3剤併用療法例よりも有意に低発現であり、安全性の面でも期待されている。IFNフリー療法への期待 ダクルインザ・スンベプラ療法はその安全性と有効性の観点から、現在約2万6,000例に投与されているという。第III相試験では、ウイルスの遺伝子変異がなければ本療法は98%と高い著効率を示している。茶山氏は「投与前のウイルス遺伝子検査を徹底し適切に使用すれば、患者に優れた有効性と安全性をもたらすことができる」と強調し、講演を結んだ。

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SFTSに気を付けろッ!その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

タイトル募集中ケアネットをご覧の皆さま、はじめまして。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那と申します。感染症医であり感染症全般の診療をさせていただいておりますが、そのなかでも専門は新興再興感染症であります。この連載では日本を取り巻く新興再興感染症について、時にまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと書き綴っていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。さて、本連載のタイトル「新興再興感染症に気を付けろッ!」ですが、いったい何に気を付ければいいのかまったく伝わってこない漠然としたタイトルであり、私が5秒で考えたタイトルであるとバレバレかもしれませんが、時間もありませんので(なぜならすでにこの原稿は締め切りを過ぎているのですッ!)とりあえずこのタイトルで進めていきたいと思います。ほかによいタイトルがあれば積極的に変えていきたいと思いますのでぜひご教示ください。最近流行の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)第1回目となる今回は「SFTSに気を付けろッ!」ということで、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の謎に迫りたいと思います!メディアでも大きく報道されたのでSFTSという感染症については、ご存じの方も多いと思いますが、SFTSが最初に報告されたのは中国でした。2007年頃からこの感染症の存在が知られはじめ、2011年にはブニヤウイルス科フレボウイルス属であるSFTSウイルスによる感染症であることが報告されました1)。クリミア・コンゴ出血熱に類似した臨床像であり、致死率も高い疾患であることが明らかになるにつれ「中国におっかないウイルスがいるなあ……」と思っていたところ、なんとなんと2013年1月には日本の山口県でSFTS患者が報告されました。日本でも(広義の)ウイルス性出血熱が……。その後、次々と日本国内でSFTS患者が報告され、これまでに西日本を中心に110例が報告されています2)(図1)。画像を拡大するSFTSは主にタカサゴキララマダニとフタトゲチマダニによって媒介されるダニ媒介感染症と考えられています。ちなみに図2がフタトゲチマダニです。これは私が趣味のダニ狩りにいった際に撮ったものです。症例の発生はマダニの活動期に一致して春から夏にかけて多く報告されています。画像を拡大するSFTSの症状と治療SFTSの臨床症状ですが、SFTSウイルスに感染すると6~14日の潜伏期を経て発熱、消化器症状(嘔吐、下痢、腹痛など)、頭痛、筋肉痛などの症状で発症します。意識障害や失語などの神経症状、下血などの出血症状がみられることもあります。PCRによるSFTSウイルス遺伝子の検出によって診断されます。2013年1月に厚生労働省から「SFTSの症例定義」なるものが発表され(表)、この1~7をすべて満たす症例に関して全国の医療機関に情報提供の依頼がなされていますが、診断のためには必ずしもこれらすべてを満たす必要はなく、実際にこれらすべてを満たさなくてもPCRでSFTSウイルスが検出され、診断されている事例もあります。診断のためというよりも、参考程度に使うという理解でよろしいかと思いますが、自治体によっては症例定義を満たさないと検査してくれないところもあるようです。画像を拡大する治療は支持療法が中心です。これまでの日本での致死率は29%と高く、恐ろしい感染症です。さて、このSFTS、いまだによくわかっていないことがいくつかあります。この「新興再興感染症に気を付けろッ!」では、SFTSに気を付けるために2回にわたってSFTSに潜む謎に深く切り込む予定です。とりあえず急に頑張り過ぎるとろくなことがありませんので、今日のところはこのくらいで……次回に続きます。1)Yu XJ, et al. N Engl J Med. 2011;364:1523-1532.2)国立感染症研究所. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS).(参照 2015.3.27)

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成人に対する13価肺炎球菌結合型ワクチンの有効性を示したCAPiTA trial(解説:小金丸 博 氏)-339

 肺炎球菌結合型ワクチンは、小児における肺炎球菌性肺炎、侵襲性肺炎球菌感染症、中耳炎、およびHIV感染症患者における肺炎球菌感染症を予防できることが示されてきた。成人においては、13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)は23価肺炎球菌多糖ワクチン(PPSV23)と比較し、免疫原性が優れていることは示されていたが、実際に成人の肺炎球菌感染症を予防できるかどうかはわかっていなかった。 本論文は、成人に対するPCV13の予防効果を検討したランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験である。2005年以前には、小児に対する肺炎球菌結合型ワクチンを導入していなかったオランダにおいて、2008年9月~2013年8月に実施された。65歳以上の成人を、(1)PCV13接種群(4万2,240例)と(2)プラセボ接種群(4万2,256例)に割り付けし、ワクチン血清型の肺炎球菌による市中肺炎、非菌血症性・非侵襲性肺炎球菌性肺炎、侵襲性肺炎球菌感染症の予防効果を調査した。原因菌がワクチンに含まれる血清型の肺炎球菌だったかどうかの確認には、血液などの無菌材料からの培養検体に加えて、ワクチン血清型特異的尿中抗原検査を用いた。  per-protocol解析では、ワクチン血清型による市中肺炎はPCV13接種群で49例、プラセボ群で90例発生し、ワクチン効果は45.6%(95.2%信頼区間:21.8~62.5%)だった。同様に、非菌血症性・非侵襲性肺炎球菌性肺炎の発生数は、それぞれ33例と66例で、効果は45.0%(同:14.2~65.3%)、侵襲性肺炎球菌感染症の発生数は、それぞれ7例と28例で、効果は75.0%(95%信頼区間:41.4~90.8%)だった。ワクチン効果は試験期間中持続した(平均フォローアップ期間3.97年)。肺炎球菌以外も含めた全市中肺炎の発生数は、それぞれ747例と787例で、ワクチン効果は5.1%(95%信頼区間:-5.1~14.2%)だった。全死因死亡者数は両群間で同等だった。肺炎球菌感染症に関連した死亡者数は、ワクチンの有効性を解析する意味を持たないほど両群共に少なかった。 本試験はCAPiTA trialと呼ばれる臨床試験である。PCV13による成人の肺炎球菌感染症の予防効果を示した最初の論文であり、本試験の結果を受けて米国の予防接種諮問委員会(ACIP)の推奨が「PCV13をすべての65歳以上の成人に対して接種すること」と変更になった。  本邦においてPCV13は、2014年6月に65歳以上の成人に対して適応拡大されている。それに加えて、2014年10月からは65歳以上の成人を対象としたPPSV23の定期接種が開始されており、成人に対する肺炎球菌ワクチンの接種が複雑になっている。 米国では、PCV13はPPSV23と連続して使用される。ACIPは、(1)肺炎球菌ワクチン接種歴のない場合は、まずPCV13を接種し、6~12ヵ月後にPPSV23を接種、(2)65歳以降にPPSV23の接種歴がある場合は、PPSV23の接種から1年以上空けてPCV13を接種、(3)65歳未満にPPSV23の接種歴がある場合は、PPSV23の接種から1年以上空けてPCV13を接種し、その6~12ヵ月後にPPSV23を接種するように推奨している。PCV13とPPSV23を連続接種することにより高い免疫原性を得ることが期待できるが、至適接種間隔はわかっていない。また、連続接種による臨床効果を示した研究はなく、今後のさらなる研究が待たれる。

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PCV13、高齢者市中肺炎にも有効/NEJM

 高齢者への13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)接種について、ワクチン型の肺炎球菌性、菌血症性、および非血症性の市中肺炎と、ワクチン型の侵襲性肺炎球菌感染症の予防に有効であることが明らかにされた。オランダ・ユトレヒト大学医療センターのM.J.M. Bonten氏らが、8万4,496例の65歳以上高齢者を対象に行った無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、報告した。PCVワクチンは、新生児において肺炎球菌感染症の予防が認められているが、65歳以上高齢者の肺炎球菌性市中肺炎の有効性は明らかにされていなかった。試験の結果では、あらゆる原因による市中肺炎へのワクチンの有効性は示されなかったが、著者は「ワクチン型の市中肺炎が46%減少しており、高齢者の市中肺炎の減少に寄与すると思われる」とまとめている。NEJM誌2015年3月19日号掲載の報告より。オランダ65歳以上8万4,496例を登録して無作為化二重盲検プラセボ対照試験 試験は2008年9月15日~2010年1月30日にかけて、オランダ国内101地点で65歳以上高齢者を8万4,496例登録して行われた。被験者は1対1の割合で無作為に割り付けられ、4万2,240例がPCV13接種を、4万2,256例がプラセボの接種を受けた。追跡期間は中央値3.97年であった。 PCV13の有効性について、ワクチン型肺炎球菌性市中肺炎、非菌血症性・非侵襲性肺炎球菌性市中肺炎、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の初回エピソードの予防について評価した。市中肺炎とIPDの特定は、標準的なラボ検査と血清型に特異的な尿中抗原検出アッセイにより行った。 追跡期間中に、肺炎またはIPDが疑われ試験協力病院を受診した人は、PCV13群1,552例、プラセボ群1,680例であった。このうち2,842例(88%)は、前年にインフルエンザワクチンの接種を受けていた。ワクチン型株市中肺炎への有効率、per-protocol解析で45.6% ワクチン型株による感染症の初回エピソードのper-protocol解析の結果、市中肺炎発生は、PCV13群49例、プラセボ群90例でワクチンの有効率は45.6%(95.2%信頼区間[CI]:21.8~62.5%)であった。非菌血症性・非侵襲性市中肺炎は、PCV13群33例、プラセボ群60例でワクチン有効率は45.0%(同:14.2~65.3%)、侵襲性肺炎球菌感染症は PCV13群7例、プラセボ群28例でワクチン有効率は75.0%(95%CI:41.4~90.8%)だった。有効性は試験期間中、持続していた。 修正intention-to-treat解析(安全性データを入手できなかった人を除外した8万4,492例)においても、ワクチン型株による感染症の初回エピソードに対するワクチン有効率は同程度であった(それぞれ37.7%、41.1%、75.8%)。 一方、あらゆる原因(非肺炎球菌性と肺炎球菌性を含む)による市中肺炎の初回エピソード発生例は、PCV13群747例、プラセボ群787例で、ワクチン有効率は5.1%(95%CI:-5.1~14.2%)だった。 重篤な有害事象と死亡は、両群で同程度であったが、PCV13群で局所反応が、より多く認められた。

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真菌症に対しタザロテン有望

 遠位側縁爪甲下爪真菌症は爪真菌症の中で最も多い病型である。爪甲下角質増殖を来し外用抗真菌薬の浸透が限られていることから、抗炎症作用および免疫調節作用を有し、角質増殖を伴う爪乾癬に対する有効性が確立されているタザロテン(tazarotene)が期待されている。イタリア・ローマ大学トルベルガータ校のElena Campione氏らは、予備的な非盲検臨床試験を行い、遠位側縁爪甲下爪真菌症に対しタザロテン0.1%ゲルの局所投与で臨床的に良好な治療成績が得られることを示した。著者は、爪真菌症に対するタザロテンの有効性および安全性を大規模臨床試験で確認する必要があるとまとめている。Drug Design, Development and Therapy誌オンライン版2015年2月16日号の掲載報告。 対象は、足の遠位側縁爪甲下爪真菌症患者15例で、タザロテン0.1%ゲルを1日1回、12週間、局所塗布した。試験開始時および終了時に爪の真菌培養および水酸化カリウム染色を行い、臨床的治癒および真菌陰性の場合に有効とした。 また、in vitroにおけるタザロテンの静真菌活性をディスク拡散法(48時間培養)にて評価した。 主な結果は以下のとおり。・投与4週後、6例(40%)が真菌学的治癒を達成した。・投与12週後、全例で臨床的治癒および真菌陰性を認めるとともに、感染した爪のすべての臨床的パラメータが有意に改善した。・すべての真菌培養検体で、中心領域の増殖抑制がみられた。・6ヵ月後の追跡調査でも、大部分の患者は治癒が維持されていた。

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HCVとHIV重複感染に3D+リバビリンレジメン有効/JAMA

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)とC型肝炎ウイルス(HCV)の重複感染患者の治療において、インターフェロン(IFN)フリーの全経口3剤組み合わせ直接作用型抗ウイルス薬(3D)+リバビリン併用レジメンは、治療期間12週または24週についていずれも高い持続性ウイルス学的著効(SVR)率に結び付いたことが示された。米国ジョンズ・ホプキンス大学のMark S. Sulkowski氏らによる非盲検無作為化非対照試験TURQUOISE-Iのパイロット試験パート1aの結果、報告された。3Dレジメンは、オムビタスビル、パリタプレビル(またはリトナビル併用[パリタプレビル/r])、ダサブビルから成る。本検討の結果を受けて著者は、「重複感染患者について本療法の第III相試験を行うべき根拠が示された」とまとめている。JAMA誌オンライン版2015年2月23日号掲載の報告より。63例を対象に非無作為化非対照試験で12週、24週投与について評価 TURQUOISE-Iパート1a試験は、米国およびプエルトリコの17ヵ所で2013年9月~2014年8月に行われた。被験者は、HCV遺伝子型1型とHIV遺伝子型1型に重複感染しており、HCV未治療またはペグIFN+リバビリン治療が無効であった63例であった。被験者には肝硬変を有するものも含まれ、CD4+T細胞数は200/mm3超もしくはT細胞割合が14%超、血清HIV-1RNAはアタザナビルまたはラルテグラビルを含む抗レトロウイルス(ART)レジメンにより安定していた。 被験者は無作為に2群に割り付けられ、一方は3D+リバビリンレジメンを12週(31例)、もう一方は同24週(32例)の治療を受けた。 主要評価は、治療後12週時点のHCV RNA<25 IU/mLで規定したSVR12達成患者の割合で検討した。SVR12達成患者、12週治療群94%、24週治療群91% 結果、SVR12達成患者は、3D+リバビリンレジメン12週治療群は29/31例で94%(95%信頼区間:79~98%)、同24週治療群は29/32例で91%(同:76~97%)であった。 SVR未達成だった5例の患者のうち、1例は同意の段階での中断例であり、2例はウイルス学的再発または再燃が確認され、2例はHCVの再感染が臨床歴および系統的エビデンスとして認められた患者であった。 最も頻度が高かった治療に関連した有害事象は、疲労感(48%)、不眠(19%)、悪心(18%)、頭痛(16%)であった。有害事象は概して軽度であり、重篤あるいは治療中断に至った報告例はなかった。 なお治療中にHIV-1再燃(200コピー/mL超)となった患者はいなかった。

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メール/電話によるHIV治療継続 その費用対効果は?

 HIV/AIDS患者の健康や良好な治療成績を維持するためには、抗レトロウイルス療法(ART)のアドヒアランスが重要である。そのアドヒアランス向上に、携帯電話を用いたリマインド(週次の電話・メール)が有効であることを示した研究はいくつかあるが、国家AIDS管理プログラムで採用した際の費用に関する研究報告はほとんどない。 そこで、スウェーデン・カロリンスカ研究所のRashmi Rodrigues氏らは、インドの国家エイズ管理プログラムにおいて、アドヒアランス向上のため携帯電話を用いたリマインダー戦略を導入した際、どれくらいの費用がかかるのかを調査した。Journal of the International AIDS Society誌 オンライン版2014年9月2日号掲載の報告。 主な結果は以下のとおり。・1患者あたり年間79~110インドルピー(USD 1.27~1.77)と比較的安価にできることがわかった。・2017年までの5年間で100万人の患者に対して実施する費用は、5年分のプログラム予算の0.36%と試算されている。

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成人の季節性インフルエンザに対するオセルタミビルの効果:ランダム化比較試験のメタ解析(解説:吉田 敦 氏)-319

 ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルは、現在世界で最も使用されている抗インフルエンザ薬であり、パンデミックに対する備えとしてもその位置付けは大きい。その効果についてはこれまで多くの臨床試験と経験が蓄積されてきたが、今回あらためてランダム化比較試験のメタ解析が行われ、成人例におけるオセルタミビルの効果と副作用が検証された。Lancet誌オンライン版2015年1月30日号の発表。用いられたランダム化比較試験 対象として解析されたのは、成人に75mg 1日2回投与を行ったランダム化プラセボ対照二重盲検試験であり、これまで論文として発表された、あるいはロシュ社がスポンサーになって施行された未発表のものを含む。インフルエンザ様症状を訴えて来院した例についてランダム化して投与を行い、一部ではその後ウイルス分離あるいは抗体検査を行い、その結果によってインフルエンザウイルス感染症の証拠を得た(Intention-to-treat infected population)。すべての症状が消失するまでの時間をアウトカムとし、投与により短縮された時間を解析した。同時に、合併症・副作用の内容と出現頻度、入院数を比較した。9試験の集計結果 合計して4,328例が解析可能であった。上記の検査で、インフルエンザウイルスの感染が判明した集団(Intention-to-treat infected population)に絞った解析では、プラセボ群に比べ、オセルタミビル群は解熱までの期間が21%短かった(時間比0.79、95%CI:0.74~0.85、p<0.0001)。中央値で比較しても、プラセボ群122.7時間に対し、オセルタミビル群97.5時間であった。一方、検査の有無にかかわらず、インフルエンザ様症状を訴えた患者全体(Intention-to-treat population)を対象として解析すると、その効果はやや弱くなったが、それでも17.8時間の違いがみられた。合併症と副作用に及ぼす影響 Intention-to-treat infected populationでの解析では、抗菌薬の使用が必要となる下気道感染合併症を来した例は、やはりオセルタミビル群で少なく(リスク比0.56、95%CI:0.42~0.75、p=0.0001、オセルタミビル群4.9%、プラセボ群8.7%)、入院が必要となる例も少なかった(リスク比0.37、95%CI:0.17~0.81、p=0.013、オセルタミビル群0.6%、プラセボ群1.7%)。安全性については、オセルタミビル群で嘔気(リスク比1.60、95%CI:1.29~1.99、p<0.0001、オセルタミビル群9.9%、プラセボ群6.2%)と、嘔吐(リスク比2.43、95%CI:1.83~3.23、p<0.0001、オセルタミビル群8.0%、プラセボ群3.3%)が増加したが、精神神経疾患としての影響は見られず、重篤な副作用も認められなかった。オセルタミビルの位置付けと今後 今回のメタ解析では、オセルタミビルによる症状消失までの時間が約1日短くなること、下気道感染合併例・入院例が少なくなること、嘔気と嘔吐が増えたことが確認された。この結果はこれまでの観察研究や経験とおおよそ合致しており、わが国では比較的納得しやすい結果であろう。なお、メタ解析の基になった解析の中で、標本数の少ない解析についてはとくに、オセルタミビル群で差が出た解析に偏って報告されているバイアスは否定できない。しかし、これらの解析の重み付けは少なくなっている。 一方で著者らは、本研究の限界として、元々の解析では呼吸器感染症の合併をアウトカムに設定しておらず、特異的な診断法がなく診断されていること、入院例・肺炎例共に数が少ないことを挙げている。また、予防投与で用いられるような、長期投与での安全性・利便性についても、データを示していない。 オセルタミビルを含む抗インフルエンザ薬について、今後もさまざまな角度から検討がなされ、より厳密な情報が得られることに期待したい。登場してから10年余りでここまで広く使用されているが、それ以前と比べて何がよくなったのか、常に考えるべきではないだろうか。

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IFNフリーレジメン、4つの遺伝子型のHCVとHIV重複感染に有効/Lancet

 C型肝炎ウイルス(HCV)とヒト免疫不全ウイルス(HIV)の重複感染患者の治療において、インターフェロン(IFN)フリーレジメンであるソホスブビル+リバビリン併用療法は、HCVの4つの遺伝子型のいずれに対しても高い有効性を発揮することが、フランス・パリ第7大学(ディドロ)のJean-Michel Molina氏らが行ったPHOTON-2試験で示された。欧州ではHIV感染例の25%にHCVの重複感染が認められ、遺伝子型2および3型HCVとHIVの重複感染例にはIFNフリーレジメンが承認されているが、1および4型HCV重複感染例の治療選択肢はIFNベースレジメンに限られる。PHOTON-1試験では、未治療の1~3型および既治療の2および3型HCVの重複感染例に対する本レジメンの有効性が確認されている。Lancet誌オンライン版2015年2月3日号掲載の報告。遺伝子型別に非無作為化非対照試験で評価 PHOTON-2試験は、PHOTON-1試験で除外された遺伝子型4型を含むHCVとHIVの重複感染例に対するIFNフリーの経口レジメンとしてのソホスブビル+リバビリン併用療法の安全性および有効性を評価する非盲検非無作為化非対照第III相試験(Gilead Sciences社の助成による)。対象は、年齢18歳以上、遺伝子型1~4型(既治療例は2および3型のみ)のHCVとHIV-1に重複感染し、病態の安定した症例であり、代償性肝硬変を有する患者も含めた。 全例にソホスブビル(400mg、1日1回)+リバビリン(体重<75kg:1,000mg、≧75kg:1,200mg、1日2回)併用療法が行われた。未治療の遺伝子型2型HCV感染例には12週投与が行われ、それ以外の患者には24週投与が施行された。主要評価項目は、治療終了後12週時の持続性ウイルス学的著効(SVR、HCV RNA濃度<定量下限値[LLOQ]と定義)とした。 2013年2月7日~2013年7月29日までに、7ヵ国(オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリア、ポルトガル、スペイン、イギリス)の45施設から275例が登録され、262例(95%)が治療を完遂し、274例が解析の対象となった。4型への高い有効性を示した初のIFNフリーレジメン HCVの遺伝子型および前治療の有無別の内訳は、未治療の1型が112例、未治療の2型が19例(治療期間12週)、既治療の2型が6例、未治療の3型が57例、既治療の3型が49例、未治療の4型が31例であった。 各群の年齢中央値は45~55歳、男性が67~100%で、89~100%が抗レトロウイルス薬の投与を受けていた。全体の20%(54例)に肝硬変がみられ、既治療例(33~47%)のほうが併発率が高かった。 治療終了後12週時のSVR率は、遺伝子型1型感染群が85%、2型が88%、3型が89%、4型が84%であった。また、2型の未治療例は89%、3型の未治療例は91%であり、SVR率は両群で類似していた。治療終了後4週時のSVR率は83~91%だった。 各群の治療期間中のSVR達成率は、4週時が96~100%、12週時が95~100%、24週時は100%(未治療の2型群以外の全群)であった。治療期間中のウイルス学的再燃が、既治療の3型群の1例(2%)に認められた。SVR達成例における治療終了後のウイルス学的再発率は4~20%であり、再発例にソホスブビル抵抗性の遺伝子変異は認めなかった。 全体で、6例(2%)が有害事象により治療中止となった。最も頻度の高い有害事象は、疲労感(20%)、不眠(16%)、脱力感(16%)、頭痛(16%)であった。また、重篤な有害事象は15例(5%)に認められ、4例(1%)が治療関連(貧血が2例、血小板減少と点状出血が1例、躁病が1例)であったが、フォローアップ終了までに全例が回復した。試験期間中の死亡例はなかった。 抗レトロウイルス薬投与中の患者のうち4例(1%)にHIVの一過性のウイルス学的再燃がみられたが、抗レトロウイルス薬のレジメンの変更を要する患者はいなかった。 著者は、「本併用療法は、4つの遺伝子型のHCVとHIVに重複感染した未治療および既治療の患者に有効であった」とまとめ、「本試験は、遺伝子型4型HCVとHIVの重複感染例にIFNフリーレジメンが高い有効性を発揮するとのエビデンスを示した初めての臨床研究である。本併用療法は、HIV治療に使用される抗レトロウイルス薬と臨床的に問題となる相互作用を示さないため、HCVとHIVの重複感染者の有用な治療選択肢となる可能性がある」と指摘している。

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76)気をつけたいSGLT2阻害薬の有害事象を説明する【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師この新しい薬(SGLT2阻害薬)の副作用として、尿路感染症になるリスクが高まることが、報告されています。患者それは心配です。どうしたらいいですか?医師いくつかのポイントがあります。まずは、身体を清潔にしてください。ほとんどの尿路感染は、腸内細菌が尿道の先から入っていきますので・・・。患者なるほど。医師夜中にトイレにいく回数が多くなるのが心配で、水分をあまりとらない人がいます。患者それ、私です。医師尿がたくさんでると、細菌を洗い流します。水分は日中は大目に、夕方から控えられるといいですね。患者なるほど、わかりました。●ポイント尿路感染症を予防する項目を、わかりやすく説明できるといいですね●資料尿路感染症にかからないための10ヵ条1.下着を毎日、取り換える2.トイレを我慢しない3.水分は日中は多めに、夕方から控える4.適度な運動をする5.アルコールは控えめに6.陰部を清潔に保つ(排便時は前から後ろにふく)7.下半身を冷やさない8.疲れを残さない9.身体の抵抗力をつける10.うがい・手洗いをする

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重症患者の連日クロルヘキシジン清拭は無効?/JAMA

 連日のクロルヘキシジン(商品名:ヒビテンほか)清拭は、重症患者の医療関連感染(health care-associated infection)を予防しないことが、米国・ヴァンダービルト大学のMichael J Noto氏らの検討で確認された。入院中の院内感染(医療関連感染)は、入院期間の延長や死亡率の上昇、医療費の増大をもたらす。入院患者の皮膚は病原菌の貯蔵庫であり、医療関連感染の機序には皮膚微生物叢の浸潤が関連すると考えられている。クロルヘキシジンは広域スペクトルの局所抗菌薬であり、清拭に使用すると皮膚の細菌量が減少し、感染が抑制される可能性が示唆されている。AMA誌2015年1月27日号掲載の報告。予防効果をクラスター無作為化クロスオーバー試験で評価 研究グループは、連日クロルヘキシジン清拭による、重症患者における医療関連感染の予防効果を検証するために、実臨床に即したクラスター無作為化クロスオーバー試験を行った。対象は、2012年7月~2013年7月までに、テネシー州ナッシュビル市にある3次医療機関の5つの専門機能別ICU(心血管ICU、メディカルICUなど)に入室した9,340例の患者であった。 5つのICUは、毎日1回、使い捨ての2%クロルヘキシジン含浸タオルを用いて清拭する群(2施設)または抗菌薬を含まないタオルで清拭する群(対照、3施設)に無作為に割り付けられた。これを10週行ったのち、2週の休止期間(この間は抗菌薬非含浸使い捨てタオルで清拭)を置き、含浸タオルと非含浸タオルをクロスオーバーしてさらに10週の清拭治療を実施した。 主要評価項目は、中心静脈ライン関連血流感染(CLABSI)、カテーテル関連尿路感染(CAUTI)、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)感染の複合エンドポイントとした。副次評価項目には、多剤耐性菌、血液培養、医療関連血流感染の陽性率などが含まれた。医療費の損失や耐性菌の増加を招く可能性も クロルヘキシジン群に4,488例(年齢中央値:56.0歳、男性:57.6%)、対照群には4,852例(57.0歳、57.8%)が割り付けられた。医療関連感染は、クロルヘキシジン清拭期に55例(CLABSI:4例、CAUTI:21例、VAP:17例、C.ディフィシル感染:13例)、抗菌薬非含浸清拭期には60例(4例、32例、8例、16例、)に認められた。 主要評価項目の発生率は、クロルヘキシジン清拭期が1,000人日当たり2.86、抗菌薬非含浸清拭期は同2.90であり、両群間に有意な差は認められなかった(発生率の差:-0.04、95%信頼区間[CI]:-1.10~1.01、p=0.95)。ベースラインの変量で補正後も、主要評価項目に関して両群間に有意差はみられなかった。 また、院内血流感染、血液培養、多剤耐性菌などの副次評価項目の発生率にも、クロルヘキシジン清拭による変化は認めなかった。さらに、事前に規定されたサブグループ解析では、各ICU別の主要評価項目の発生率にも有意な差はなかった。 著者は、「連日クロルヘキシジン清拭は、CLABSI、CAUTI、VAP、C.ディフィシルによる医療関連感染を予防せず、重症患者に対する連日クロルヘキシジン清拭は支持されない」とまとめ、「クロルヘキシジン清拭はいくつかの専門ガイドラインに組み込まれているが、医療費の損失やクロルヘキシジン耐性菌の増加を招いている可能性がある」と指摘している。

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モノクロロ酢酸はいぼ治療の新たな選択肢

 疣贅(いぼ)の治療として凍結療法やサリチル酸が用いられるが、効果が得られないことも多い。オランダ・ライデン大学のSjoerd C Bruggink氏らは、モノクロロ酢酸が凍結療法あるいは凍結療法+サリチル酸併用療法に代わる、痛みのない効果的な治療選択肢となりうることを無作為化試験で示した。Journal of Investigative Dermatology誌オンライン版2015年1月13日号の掲載報告。モノクロロ酢酸塗布による尋常性疣贅と足底疣贅の治癒率 オランダのプライマリケア53施設において、1つ以上の新規の尋常性疣贅または足底疣贅を有する4歳以上の連続症例が登録され、尋常性疣贅患者(188例)は外来でのモノクロロ酢酸塗布および液体窒素凍結療法(2週ごと)の2群に、足底疣贅患者(227例)は外来でのモノクロロ酢酸塗布および液体窒素凍結療法+サリチル酸(毎日自己塗布)併用の2群に無作為化された。 主要評価項目は、治療13週後における治癒率(すべての疣贅が治癒した患者の割合)であった。 主な結果は以下のとおり。・尋常性疣贅の治癒率はモノクロロ酢酸群が40/92例43%(95%信頼区間[CI]:34~54)、凍結療法群が50/93例54%(同:44~64%)であった(p=0.16)。・足底疣贅の治癒率は、モノクロロ酢酸群が49/106例46%(同:37~56%)、凍結療法+サリチル酸群が45/115例39%(同:31~48%)であった(p=0.29)。・尋常性疣贅患者において治療後の疼痛は両群で類似していた。

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ペコロスの母に会いに行く【認知症】

今回のキーワード社会脳社会的認知進化心理学・進化精神医学DSM-5デフォルトモードネットワークヒューマンセンタードケア「認知症の人はなんで無邪気なの?」 皆さんは、認知症になった人が無邪気になっていくのを不思議に思ったことはありませんか? 単にもの忘れをするだけでなく、ちょっとずつ無邪気に幼くなっていきます。 今回は、その原因とかかわり方のコツを、進化心理学・進化精神医学のメインテーマである社会脳(社会的認知)という視点から、いっしょに考えていきましょう。また、2013年にDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引第5版)への改定に伴い、認知症の診断基準が変わりました。その内容とその理由も解説します。 取り上げるのは、2013年の映画「ペコロスの母に会いに行く」です。ペコロスとは、小さい西洋玉ねぎのことで、この映画の原作者である主人公の頭をユーモラスに表した愛称です。彼の母親が認知症を発症してからの介護生活の様子が、ありのままにそしてほのぼのと描かれています。もの忘れ―学習と記憶の障害 主人公の男やもめのゆういちは、認知症の母のみつえの介護をしながら、息子のまさきと3人で暮らしています。日常生活でゆういちとみつえの間で交わされる会話のワンシーンをみてみましょう。ゆういちが「また!母ちゃん!」(電話の)受話器ば外しっぱなしにしとったらいかんて言うたろうが」「なんかあった時に連絡のつかんやろが」と注意します。すると、みつえは「また親ばわるもん(悪者)にする、もう」と言い返します。 このやり取りが、日々の挨拶のように繰り返されます。みつえは、電話の受話器を戻すよう言われた体験を丸ごと忘れており、忘れたことに自覚がないのです。つまり、「忘れたことを忘れている」のです(メタ記憶の障害)。 これは、典型的な認知症のもの忘れの症状です(健忘)。この記憶障害は、従来の診断基準では、全ての認知症において絶対的な項目でした。しかし、新しい診断基準(DSM-5)では、アルツハイマー病を除く認知症において、6項目の診断基準の中の「学習と記憶の障害」の1項目として格下げされています。 その理由として、他の3つの認知症の特徴があげられます(表1)。1つ目として、脳血管性認知症はまだら認知症であり、必ずしも記憶障害が目立たないからです。2つ目として、レビー小体型認知症は認知症状が動揺性であり、記憶障害が固定されていないからです。3つ目はとして、前頭側頭型認知症は前頭葉症状が主であり、記憶障害が初期に目立たないからです。 表1 それぞれの認知症の記憶障害の特徴   アルツハイマー病 脳血管性認知症 レビー小体型認知症 前頭側頭型認知症 記憶生涯 必ず目立つ 必ずしも目立たず 目立ったり目立たなかったりと揺れ動く 初期に目立たず 言い間違え、言葉数が少ない―言語の障害 認知症の進行に伴い、自宅介護が難しくなったため、ゆういちはみつえをグループホーム(介護施設)に入所させます。ゆういちが訊ねてきた時のワンシーンです。みつえは「ゆういち、どこにおったん?」「フリーターの仕事や(か)?」と訊ねます。ゆういちはすかさず「フリーライター!」と言い返します。これは言葉の言い間違え(音韻性錯語)です。このようなボケとツッコミのユーモアがこの映画には溢れています。その後、みつえは問いかけに対して言葉が出なかったり言葉数が少なくなっていきますが(無言症)、そんなみつえをゆういちは温かく見守ります。 これらの言葉の症状も、認知症の診断基準の1つです(言語の障害)。従来の診断基準の失語に当たります。顔が分からない― 知覚―運動の障害 ゆういちがグループホームからみつえを散歩に連れ出そうとするシーン。みつえは「この盗人(ぬすっと)、嘘つき!」「ああっ!悪者(わるもん)がおる。誰か誰かー!」と叫び出します。すぐにゆういちは「母ちゃん、ほら!」とゆういちが、帽子をとって薄毛の頭を目の前に向けると、「アハッ、なっ、ゆういちやったとか、あ~ハハハッ」と薄毛の頭を撫で回し、「えいえいえい」と叩き、「はげちゃび~ん!」と無邪気に騒ぎます(タイトル画像)。薄毛を確認してようやく息子のゆういちであると認識しています。しかし、ゆういちが帽子をかぶると、すぐに「誰ね?」と言い、息子の顔が分からなくなっています(相貌失認)。 みつえが大正琴を弾くシーン。「どげんやったかいな?ハハハッ」と弾き方を忘れたことを笑い飛ばしています。本来、長年体に染みついていた動きはなかなか忘れないものです。楽器の弾き方を忘れるのは症状とまでは言えません。しかし、その後にみつえは、読めない字を書くようになります。字が書けなくなるのは、認知症の症状と言えます(構成失書)。着替えや歯磨きなどの日常生活の動作ができなくなると(更衣失行、観念失行)、介護がさらに必要になってきます。 このようにものごとが認識できなくなる症状と、ものや体の動かし方が分からなくなる症状を合わせたものが、新しい認知症の診断基準の1つになっています(知覚―運動の障害)。これは、従来の診断基準の失認と失行に当たります。段取りが立てられない―実行機能障害 みつえがまだ家にいる時のワンシーン。ゆういちとまさきは夕食に弁当を買って食べています。みつえが料理できなくなっていることを間接的に描いています。料理は、献立を考え多くの段取りを経て作る必要があります。 このように、段取りを立てて計画的に行動できなくなる症状も、認知症の診断基準の1つです(実行機能障害)。これは従来と同じ診断基準です。実行機能とは、意志→計画→実行→評価(フィードバック)という一連の手順を踏んで、ものごとを実行していく脳の働きです。気付きにくい―複雑性注意の障害 さきほどの電話の受話器を戻すことをみつえが忘れているワンシーンでは、電話のそばに「受話器ば絶対にもどすこと」というメモが貼られています。しかし、みつえは、毎回、電話の対応でいっぱいいっぱいになっており、そのメモに気付かないのです。さきほどのゆういちの顔が分からなかったシーンでは、ゆういちはみつえの背後から「母ちゃん」と声をかけています。そして、みつえがゆういちを確認する前に、車イスを後ろに引いています。みつえは、目の前に見えていないゆういちの声に注意を向けることができずに混乱しています。また、みつえが夜遅くまでゆういちの帰りを駐車場で待っているワンシーンでは、ゆういちの車が間近まで迫ってきても、ゆういちを出迎える気持ちでいっぱいであるため、全く危機意識がありません。「ゆういち、お帰り~」と笑顔で迎えます。ゆういちは「母親ばひいたらシャレならんやろがっ!」「あやうくひいてしまうとこやった」と肝を冷やします。 これは、一度に複数の対象に注意を向ける力が落ちて、ものごとの変化や危機に気付きにくい症状で、新しく追加された認知症の診断基準です(複雑性注意の障害)。無邪気になる―社会的認知の障害 みつえが家で留守番をしている時に電話がかかってくるワンシーン。みつえが電話に答えます。「えっ?オレって誰ね?」「アハハッ、まさき(孫)か?」「まさき、どげんしとると?」「こっちには帰ってこんとね?」「ええっ?事故ば起こしたけん帰れんて!?」「示談?」「金ば払えば良かて」「そげん大きな金、持っとらんやろ?」「それ、ばあちゃんが払うてやる」と涙ぐみます。これは、おれおれ詐欺(振り込め詐欺)に引っかかっている典型的なパターンです。電話の相手を信用し切ってしまい、言われたことにあっさりと応じています。相手から出し抜かれないようにしようと相手の気持ちを推し量る警戒心(心の理論)が鈍くなり、だまされやすくなっています。 さきほどのゆういちの頭をみつえが撫で回し叩くシーン。ゆういちが痛がっているのになかなか叩くのを止めず、「はげちゃび~ん!」とふざけています。微笑ましく見える一方、見方を変えれば、みつえはゆういちの気持ちを感じ取ること(共感、情動認知)が弱くなり、無神経で無遠慮で一方的になっています。認知症が進むにつれて、表情を読み取る能力(表情認知)も弱くなり、同時に本人も徐々に無表情になっていきます。 みつえは「父ちゃん(夫)もたかよ(子どもの時に亡くなった妹)も死んでからの方がようウチに会いに来てくれたとよ」と言います。ゆういちが「死んでるって知っとっと?」と聞くと、「何ば言うとるね!父ちゃんもたかよも死んどろうもん」と笑顔で答えます。過去にみつえの脳に紡(つむ)がれた人生の「模様」が映る記憶の「織物」が解(ほど)けていき、現在の現実世界に混じり合っています。相手(社会)との共通の時間感覚や論理性が揺らぎ、自分を適切に振り返ること(自己認識、メタ認知)が難しくなっています。 みつえは、だまされやすくなり、相手の気持ちが分かりにくくなり、自分を振り返りにくくなっています。しかし、裏を返せば、素直で天真爛漫なお人好し、つまり無邪気になっていると言えます。 これらは、人とうまくやっていくための社会的な能力が低くなっていく症状で、新しく追加された認知症の診断基準です(社会的認知の障害)。従来は「理解力の低下」という曖昧な用語を使っていました。社会的認知とは、精神医学用語で、相手の気持ちを察して相手(社会)に対して適切に振る舞うという意味で、社会的能力とも呼ばれます(表2)。日常用語の社会的認知は「広く世間(社会)に知れ渡っている(認められている)」という意味ですので、この違いに注意が必要です。 表2 社会的認知   意味 心の理論 相手の気持ちを推し量る 共感性 相手の気持ちを感じ取る 表情認知 相手の表情を読み取る 社会性 相手(社会)にうまく合わせる 理性的抑制 相手(社会)のために我慢する 自己認識 自分(の気持ち)を振り返る(推し量る) 私たちはなぜ無邪気ではないのか?―新しい診断基準(DSM-5)のポイント ゆういちが、営業の仕事をサボって、出先の公園で趣味のギターの練習をしている時に、上司から電話がかかってくるシーン。何をしているかと聞かれて、「せっかくこっちに来たけんですね、いくつか広告ば取ろうと思って何件も回っとっとですよ」「えっ、どこばどげん回っとかってですか?」「いや~あの何件も回り過ぎてよう確認しとらんですね」とうまく取り繕うとしています。また、ゆういちは、みつえを自宅で介護することに限界を感じている時、施設に入所させるか思い悩んでいます。さらに、ゆういちは、認知症のみつえに冗談を交えて接しています。 このようなその場をしのぐウソ、気遣いによる苦悩、そして場を和ませるユーモアなどは、私たちがより良い人間関係を築き、立ち振る舞おうとするズルさであり賢さでもあります(社会的認知)。これは、「人間性」「人間らしさ」そのものです。これが、社会生活を送る私たちが決して無邪気ではない答えでもあります。 対照的に、みつえは無邪気です。その無邪気さとは、ウソもつけないですが、先読みや裏読みもできず、お世辞や冗談も思い付かず、悩みや葛藤がなくなるということです。 新しい診断基準では、認知症の中心的な症状のとらえ方が、従来の記憶障害から、社会的認知の障害へとシフトしていると言えます。なぜなら、そもそも認知症にまつわる困難は、物忘れそのものよりも、周囲の人の気持ちや自分の状況を分からなくなることだからです。 表3 認知症の診断基準 DSM-IV-TR DSM-5 映画のエピソード例 記憶障害 →学習と記憶の障害 電話の受話器を戻し忘れることを繰り返す 失語 →言語の障害 言葉の言い間違え、言葉数が少なくなる 失認 知覚―運動の障害 薄毛を見ないとゆういちの顔が分からなくなる字の書き方が分からなくなる 失行 実行機能障害 料理ができない ― 複雑性注意の障害 すぐそばのメモや車の動きに気付かない ― 社会的認知の障害 振り込め詐欺にだまされるゆういちが痛がっている様子が分からないすでに死んでいる夫や妹に会えると考えている 認知症の行動・心理症状(BPSD) これまで紹介してきた6項目の診断基準は、認知症状(中核症状)と呼ばれます。ここから二次的に現れる症状は、認知症の行動・心理症状(BPSD、周辺症状)と呼ばれます。これらをいくつか見てみましょう。 (1)幻覚 みつえがゆういちに「なあ、さっきたかよ(子どもの時に亡くなった妹)が来て、天草にいっしょに行こうて言うてくれたとばい」「そのあと父ちゃん(すでに亡くなった夫)が来て」「ウチの手ばずーとしっかりと握ってくれらしたと」「ごめんな~ごめんな~ヘヘヘヘッ」と楽しげにのろけます。みつえは見えないものが見えていることになります(幻覚)。この症状は、過去の記憶と現在の現実世界が区別しにくくなり(社会的認知の障害)、記憶を現実のものと認識し知覚してしまうことで起こります。 ちなみに、東北地方に伝わる「座敷わらし」は、認知症の幻覚、特にレビー小体型認知症の「幻の同居人(小人幻視)」の症状である可能性があります。「座敷わらしが出てくるとその家は栄えて、いなくなるとその家は傾き落ちぶれる」という言い伝えは、裏を返せば、経済的に恵まれている家は、認知症の人を養う余裕があり、結果的にその認知症の人が座敷わらし(幻覚)を見ることになります。逆に、貧しい家は、認知症の人を養う余裕がなく、座敷わらし(幻覚)を見てしまう認知症の人がいないということです。つまり、正確には「座敷わらしは、栄えている家には出てくるが、落ちぶれた家には出てこない」ということです。 (2)妄想 さきほどの電話の受話器の戻し忘れのシーンで、みつえは「また親ばわるもん(悪者)にする、もう」と言い返しています。ここから分かることは、みつえは自分に非があるという認識ができず(社会的認知の障害)、叱られた理由の辻褄を合わせようとして(合理化)、「息子が親を悪く言うようになった」とひがみっぽくなっています(被害念慮)。 さらに、ひがみっぽさから、家族からいじめられていると思い込むことがあります(被害妄想)。例えば、お金をどこかに隠した後、隠したこと自体を忘れてしまった場合、お金がないことに気付くと「(家族の誰かに)お金を盗られた」という思い込みに発展します(もの盗られ妄想)。 (3)誤認 みつえは、ちいちゃん(すでに亡くなった幼馴染み)に書いた手紙の返事が来ないと郵便配達員にたずねた過去を、グループホームで思い出しているシーン。その直後にやって来たまさき(孫)を見て、「ちょっと待っとって、郵便屋さん」「書いてますけん」と言います。これは、過去の記憶と現在の現実が区別しにくくなることに加えて(社会的認知の障害)、孫の顔の認識ができなくなっていることで(知覚―運動の障害)、目の前にいる孫を郵便配達員と人違いしています(人物誤認)。 また、グループホームの別の認知症の女性は、ゆういちの薄毛を見て、女学校時代に憧れだった教師と人違いしています。 (4)逸脱行動、感情失禁 入所中の認知症の男性が、若い女性スタッフの胸を次々と触るシーンがあります。ゆういちは思わず「あの子も触られるっとですか?」と思わずうらやましそうに言ってしまいます。これは、ルールを守るために欲求を抑える心の働き(理性的抑制)が弱まっていることで(社会的認知の障害)、性的にみだらになってしまう症状です(性的逸脱行動)。その後、この男性は叱られますが、感情を抑える心の働き(理性的抑制)が弱いことで、簡単に泣き出してもいます(感情失禁)。 社会的認知の障害はなぜ目立つのか? 「認知症の人はなんで無邪気なの?」という最初の疑問への答えは、これまで紹介してきた社会的認知の障害による症状が出てくるからであると言えます。それでは、そもそもなぜ社会的認知の障害は目立つのでしょか? このさらなる疑問を、進化心理学・進化精神医学の視点で探ってみましょう。 人間の脳において、意識的な活動のエネルギーは5%しか消費されていません。修復と維持に20%が消費されます。そして、実は残りの75%は、無意識的な活動のエネルギーに消費されていることが最近の研究で分かってきました(デフォルトモードネットワーク)。この脳活動は、何もせずに頭を働かせていないと高まり、課題などで意識的に頭を働かせると低まります。それにしても、あまりにもエネルギーを使い過ぎているようにも思えるこの無意識的な脳活動とは一体何でしょうか? それは、はっきりしたことはまだ解明されていませんが、ぼんやりと思い浮かべること(記憶の検索)、自分がいつどこにいるかなどの自分の状況を把握すること(見当識)、自分を振り返ること(自己認識)などの活動が考えらえています。これは、ちょうど世界(相手、社会)に対して自分をうまく関係付け、位置づけていくための高度な脳活動です。さらには、社会的認知につながる能力というふうにも考えられます。 例えるなら、脳という「コンピュータ」は、世界(相手、社会)という「キーボードタッチ」や新奇な状況という「コンピュータウィルス」への察知のために、脳活動全体の75%の「電力」を使い、常に「待機状態」になっているということです。そして、この「待機状態」の脳活動は、最も「電力」が費やされて動かされているため、いち早く「故障」しやすいということが考えられます。実際に、この脳活動の部位は、アルツハイマー病で脳血流が低下する部分にほぼ一致しています。これが、「認知症ではなぜ社会的認知の障害が目立つのか?」という疑問への答えです。実行機能の正体は? 実行機能障害は、認知症のもともとある診断基準の1つであるとさきほどご紹介しました。実は、この実行機能は、社会的認知につながっていると言えます。これはどういうことでしょうか? 社会的認知(社会脳)の進化の流れを説明します。その出発点は、原始の時代、私たちの祖先が、競争と協力をうまく使い分けるため、相手の心の視点に立つ能力を得たことです(心の理論)。すると、自分を離れて外から自分自身を見る視点が得られます(自己認識)。これは、自分は、相手を見ていると同時に相手から見られているという2つの視点に立つことでもあります(メタ認知)。さらには、同時並行的にものごとを考え記憶することができるようになります(ワーキングメモリー、作動記憶)。 複数の視点(メタ認知)を持つことで、連続的な時間軸の中で、過去・現在・未来を別々の時間帯(視点)として認識できるようにもなります。だからこそ、過去の振り返りを現在に行い、未来に生かすことができます。こうして、計画を立ててものごとをうまく成し遂げることができるようになるのです(実行機能)。 実行機能は社会的認知がつながっているという説明を端的にすると、社会的認知が相手(人)の心に視点が置かれているのに対して、実行機能は時間軸に視点が置かれているというだけの違いであるということです。複雑性注意の正体は? 複雑性注意の障害は、認知症の新しい診断基準の1つであるとさきほどご紹介しました。実は、この複雑性注意も、社会的認知につながっていると言えます。これはどういうことでしょうか? それは、社会的認知を源とするさきほどの同時並行的にものごとを考え記憶すること(ワーキングメモリー)とは、一度に複数の注意を向けることでもあるということです(複雑性注意)。いわゆる「ながら行動」です。 その「メモリー容量」は、数字なら約7個、文字なら約6個、単語なら約5個であることが分かっています(マジカルナンバー7±2)。この数は、注意(認知)し行動する内容の複雑さによって変わってきます。例えば、食事会で皆がいっしょに話せる人数は4人が限界ではないでしょうか? 5人以上だと、自然と4人以下の少人数に分かれていきます。また、会議での積極的な発言者は4、5人までが一般的ではないでしょうか? 残りの人たちは、「観客」と化していることが多いです。なぜなら、これが人間の脳の「メモリー容量」の限界だからです。それ以上の人数の人たちがそれぞれ違う発言をする場合、多くの人が混乱してストレスになるからです。それをみんな無意識に理解していると言えます。だからでしょうか? 暗証番号は、皆が余裕を持って覚えられる4桁が通常です。クレジットカード番号も4桁ごとに分けられています。 複雑性注意は社会的認知につながっているという説明を端的にすると、社会的認知が認知の質に力点が置かれているのに対して、複雑性注意は注意(認知)の量(数)に力点が置かれているというだけの違いであるということです。なぜ良い思い出の方が残りやすいのか? みつえは、亡くなった夫が現れたと楽しげにのろけています。しかし、かつてはその夫は酒癖が悪く、みつえは大変に苦労していたのでした。良い思い出ばかりを思い出し、悪い思い出は忘れてしまっているようです。なぜ良い思い出の方が残りやすいのでしょうか? 一般的にも、これは「記憶美人」と呼ばれます。 その理由は、悪い思い出は、社会的認知に関わる記憶が多いからであることが考えられます。例えば、人間関係においての苦労や後悔などです。一方、良い思い出は、より原始的な欲求に関わる記憶なので、比較的残りやすいことが考えられます。例えば、満足や愛情(愛着)などです(ドパミン系)。 認知症で悪い思い出は忘れてしまうとは、まさに「邪気」(悪意、悪感情)がなくなり、無邪気になるということです。社会的認知から考える認知症のリハビリテーションは? 認知症の問題が単なる記憶の問題だけではないことを知った今、単に記憶力のトレーニングをしても効果は限られていることに気付きます。ここからは、社会的認知を踏まえて、認知症のリハビリテーションを3つご紹介しましょう。それは、役割を担うこと、自尊心を保つこと、配慮することです(表4)。役割を担う (1)お年寄りはなぜ昔話をしたがるのか?―回想法 ゆういちがみつえに注意するシーン。ゆういちが「よかね、セールスやら来たら追い払わないかんばい」「話しやら聞かんでよかけんね」と言うと、みつえは「分かっとるて」「分かっとらんけん言いよったい」「あんましわめくと夜声八丁(夜の声が八丁先まで響く妖怪)が来っぞー!」と、子どもの時のゆういちに接しているように脅します。ゆういちは「こん頃の事ば忘れて昔の事ばっか言うとさね」と嘆いています。 認知症のあるなしにかかわらず、お年寄りは昔話をよくします。もちろん認知機能の低下により、最近のもの覚えが悪くなり(短期記憶の障害)、比較的残っている昔の思い出を代わりに話していると説明することはできます(長期記憶の保持)。しかし、それだけでしょうか? むしろ、多くのお年寄りはあえて昔話をしており、この現象には普遍性がありそうです。長期記憶が保持されることに意味があるのではないかということです。ここから考えられることとして、お年寄りが昔話をすることで心の健康がより保たれる可能性があります。この理由を進化心理学的に考えてみましょう。 私たちの祖先が言葉を話すようになった20万年前からの原始の時代、文字はまだありませんでした。文字が発明されたのはたかだか数千年前です。ましてや、現代のようなインターネットもありません。そんな中、私たちの祖先は、共同体の生存の確率を高めるため、遠い昔に起こった自然災害や部族間の戦争の記憶を、生きる知恵や戒めとして次世代に語り継ぎました。一部は、伝説や神話に形を変えたでしょう。このような言い伝えを好む遺伝子を持つ種の末裔が私たちです。そして、生き字引としての語り部の役割を担ったのが、経験豊富なお年寄りだったのではないでしょうか? そういうお年寄りは、今でも発展途上国などの未開の地では、長老として敬(うやま)われています。つまり、お年寄りが昔話をするのを好むのは、遺伝子にプログラムされている可能性があるということです。この遺伝子によって、共同体の子孫の生存率(包括適応度)は高められたのでしょう。 現代の高度な情報化社会では、お年寄りが昔話をする必要はなくなってしまいました。しかし、お年寄りが昔話をしようとする原始の時代からの心理は残ったままです。つまり、進化論的に考えれば、原始の時代の環境に適応していた心身に近付けるため、私たちが運動をして心身の健康を保っているのと同じように、お年寄り、特に認知症の人に昔話をあえてしてもらうことで、心の健康をより保つことができるということです(回想法、思い出ノート)。 (2)お年寄りはなぜ孫を見たいのか?―おばあちゃん仮説 みつえは、認知症が進む前、孫のまさきをよく気にかけています。祖父母が孫の幸せを願うのは普遍性があり、当たり前であると皆さんは思うでしょう。さらには、特に祖母が、母親を支えて孫を見ることで、心の健康が保たれるという研究仮説があります。それは、「おばあちゃん仮説」「祖母効果」と呼ばれています。 そもそもほとんどの動物は、繁殖が終わる年齢と寿命はだいたい一致しています。つまり、繁殖力がなくなった時が寿命の尽きる時です。しかし、私たち人間の女性は違います。50歳前後で閉経を迎えて繁殖力がなくなった女性が長生きすることには進化論的な意味があるということです。 その意味とは、1つには、50歳以上で出産しなくなるのは、子どもの生存率を下げない理由があるということです。たとえば、50歳以上の高齢出産では母子ともに死亡するリスクが高まります。すると、すでに生まれている子どもたちの生存が危うくなります。たとえ出産が成功しても、その子どもがぎりぎり独り立ちできる10歳になるまでに、子育てをする母親が当時の寿命(60歳くらい?)を迎えると、子どもの生存が危うくなります。さらには、ダウン症などのように高齢出産で生まれた子どもは生存率が低いため、その育児の負担(コスト)が高まることで、すでに生まれている子どもたちの生存が危うくなります もう1つには、繁殖を終えるのと引き換えに、まだ体力のある祖母が、子育てをする次世代の自分の娘(母親)を助けることで、娘の繁殖力を高め、孫の生存率を高めることです(包括適応度)。いわゆる「おばあちゃん子」の存在も、「祖母効果」の延長線上にあるものと考えられます。 都市化、核家族化、少子化した現代では、お年寄りが孫を見る機会はぐっと減りました。しかし、お年寄りが孫を見たいという原始の時代からの心理は残ったままです。つまり、お年寄り、特に祖母が孫や地域の子どもたちを見ることで、心の健康をより保つことができるのではないかということです。例えば、最近では、グループホームなどの「託老所」(介護施設) と託児所を併設し、お年寄りと子どもがお互いに交流する仕組みがつくられています(幼老統合ケア)。また、お年寄りが、小学校の校門で挨拶をしたり通学路の信号機前で安全確保をするなど、地域の子どもを見守るボランティに参加する取り組みも行われています。自尊心を保つ―お年寄りはなぜ敬(うやま)われるべきなのか? ゆういちは息子のまさきに「ばあちゃんの下着ば買うても買うても無くなるとばってんさあ」と不思議がっていました。その後、開けたタンスの引き出しから、大量の汚れた下着があふれ出てきたのでした。ゆういちは「タンスから噴き出した!」と思わず叫びます。 お年寄りは、認知機能の低下に伴い、排泄などのセルフケアに困難が出てきます。汚れた下着を洗おうにも洗濯機の使い方が分からなくなります(知覚―運動の障害)。そして、それを恥じらう自尊心は残っているため、隠すのです。しかし、うまく隠し切ることはできないのです(社会的認知の障害)。このような時、どう接するのが認知症のリハビリテーションとして望ましいでしょうか? 認知症の人は、症状が進むにつれてどんどん無邪気な子どものようになります。そんな人に、私たちはつい子ども扱いしてしまいがちです。しかし、ここで注意することは、認知症の人は子どもではないということです。認知症介護と育児について、その共通点と相違点をそれぞれ整理してみましょう。 共通点は、両者ともに自尊心を大切にすることです。これは、頼られたり、ほめられたり、ありがたがられたりすることで高まります。一方、相違点は、育児では叱ることはありますが、高齢者介護では叱ることは望ましくないです。その理由は、3つあります。1つ目は、子どもは叱られることで禁止の学習効果を得ることができますが、認知症の人は記憶の障害により学習効果が得られないからです。2つ目は、ネズミの実験結果で確かめられていることですが、叱られるなど恐怖の心理的ストレスによって、海馬領域(記憶中枢)の神経細胞の新生が抑制され、認知症状がさらに進んでしまうからです。3つ目は、認知症の人は、叱られると、自尊心が傷付けられ、BPSDが出やすくなるからです。これは、叱られた時、叱られた理由は忘れてしまっているのに、叱られた悲しみや叱った相手の記憶は比較的残っているので、理不尽に感じるからです。叱られた理由についての記憶は理性的で複雑であるため残りにくく、叱られた時の気持ちや叱った相手の記憶は感情的で単純であるため残りやすいのです(リボーの法則)。 以上より、認知症のリハビリテーションとして望ましい対応は、敬意を持って親切に接すること、決して叱らないことです。さらには、できることはさせてほめまくること、できないことはさせないことです(満点主義)。つまり、お年寄りは、敬(うやま)われることで心の健康が保たれるのです。配慮する―お年寄りはなぜ恭(うやうや)しくもてなされるべきか? さきほどのグループホームでみつえが「この盗人(ぬすっと)、嘘つき!」「ああっ!悪者(わるもん)がおる。誰か誰かー!」と叫び騒ぐシーンを振り返ってみましょう。みつえのような認知症の人は、目の前に見えているものと聞こえてくる声や音とに同時に注意を向けることが難しいです(複雑性注意の障害)。それでは、この点を踏まえて、みつえが騒がなくても済む方法はなかったでしょうか?  それは、注意を高めてもらうため、視覚、聴覚、触覚を総動員して丁寧に接することです(ユマニチュード)。例えば、話しかける時、少し遠くから相手の視界に入り、近付いて、視線を合わせて(視覚)、間を置いて、なるべく肩や腕へのスキンタッチをして(触覚)、ようやく声をかけることです(聴覚)。 また、その人をよく観察して行動パターンを先読みして気遣うことです(先回り)。例えば、喉の渇きやトイレなどをうまく言葉で伝えられない場合、その人の行動パターンから、「お茶をどうぞ」「トイレに行きましょうか?」などと汲み取ることです。 さらには、トイレや入浴などの介助をするとき、たとえその人の反応が乏しくても、かかわる時は話しかけ続けることです(実況生中継)。その人が大人しいから、こちらが話しかけても無言でも変わらないとみなさんは思われるかもしれません。その時は問題ないかもしれません。しかし、その後に問題が起こる可能性が高まります。理由として、自分が何をされたか分からないことでストレスがたまり、後に混乱することが考えられるからです。また、人として扱われていないように感じられて、本人の自尊心が傷付けられることが考えられるからです。つまり、こちらからどんどん働きかけることが大切なのです。 表4 社会的認知から考える認知症のリハビリテーション   例 役割を担う 昔話をしてもらう(回想法) お年寄りが子どもを見守る環境をつくる(幼老統合ケア) 自尊心を保つ 敬意を持って親切に接する決して叱らないできることはさせてほめまくり、できないことはさせない(満点主義) 配慮する 視覚、聴覚、触覚を総動員して丁寧に接する(ユマニチュード)よく観察して行動パターンを先読みして気遣う(先回り)かかわる時は話しかけ続ける(実況生中継) なぜ認知症の症状に地域差があるのか?―敬老思想 映画の舞台は長崎です。ほのぼのとした長崎弁が交わされ、とてものどかな土地柄です。東京のようなせわしない大都市とは対照的です。実は、疫学調査から、長崎のような地方と東京のような大都市とでは、認知症の症状の出方に違いがあることが分かっています。記憶障害などの認知症状は同じなのですが、行動・心理症状(BPSD)については、地方では目立たず、大都市では目立つのです。つまり、行動・心理症状の出現率に地域差があるといことです。これはどういうことなのでしょうか? そもそも原始の時代から、お年寄りは、生き字引としての指導的立場を担い、周りから敬(うやま)われ、恭(うやうや)しくもてなされてきました。「老馬の智」「亀の甲より年の功」「おばあちゃんの知恵袋」などの言い回しはまさにこれを言い当てています。つまり、共同体のメンバー全員がお年寄りをありがたがり、大事にするという敬老思想はもともとごく当たり前のことだったのです。私たちには、もともとそうすることを望ましく感じる心理が遺伝子に組み込まれている可能性があります。 ところが、近代化し情報化した現代はどうでしょうか? 特に、大都市は、スピード、生産性、効率性、競争力、結果がとても重視されます。すると、その価値観に合わない人、つまり役に立たない人はいてはならないという発想が生まれやすくなります。それは、「ボケ」が出てきたら、早く認知症と診断してもらって、早く施設に入るべきであるという発想です。そのような人がい続ければ、敬(うやま)われるどころか、迷惑で困った人として貶(おとし)められ、蔑(さげす)まれてしまいます。こうして、認知症の人は、現代では、そして特に大都市では、より自尊心を傷付けられて、行動・心理症状をより引き起こしています。まるで、現代の価値観が、認知症の患者をつくり出し、そして追いやっているようにも思えてしまいます。これは、現代の価値観の負の側面です。 一方、助け合いや敬老の精神が比較的に残っているコミュニティがある地方では、お年寄りが認知症になっても、家族や近所の人たちが協力して温かく面倒を見るので、自尊心が保たれ、行動・心理症状(BPSD)が出にくくなるというわけです。その人らしさを支える介護とは?―パーソンセンタードケア みつえは、認知症が進むにつれて、現在の現実と過去の記憶が交錯していきます。そこには、家族の歴史や絆が描かれています。まさにこの映画の醍醐味です。認知症の介護とは、症状を見るのではなく、その人の人生、つまりその人らしさを見ることであるということに私たちは気付かされます。そして、目の前のお年寄りの人たちがどういう人生を経て今ここにいるのかという物語に思いを馳せ、その人たちの心に寄り添う気持ちにさせられます。その人のことをよく知ることで、その人らしさやその人らしい生活を支えることができます(パーソンセンタードケア)。 このような介護により、お年寄りの心は満たされ、認知症の行動・心理症状(BPSD)を減らしたり、出てくるのを防ぐことができます。また、認知症状の進行を遅らせる可能性もあります。さらには、私たちの心も満たされ、楽しさやりがいを感じることができるようになります。介護する側の心のあり方とは?―かかわり方と薬のバランス ゆういちは、行きつけの喫茶店のマスターから「(介護施設に)預けると?」「はあ、そがんことするったい」「親ば捨てるやらおれはようしきらん(とてもできない)」と言われてします。ゆういちは「おれもどげんしたらよかか分からん」と苦悩します。 世間体や後ろめたさから、家族が介護を抱え込み、「介護疲れ」(適応障害)になることはよくあります。この映画では、最終的にゆういちがみつえをグループホームに入所させ、抱え込まないモデルとして描かれています。 入所後は、ゆういちの心には余裕ができて、みつえに怒鳴ることはなくなっています。そもそも家族によって介護力には限界があります。それを踏まえて、デイケアへの通所やグループホームへの入所を見極める必要があります。ポイントは、家族の介護者が介護への負担(ストレス)からやりがいを見失っていないか?「介護疲れ」に陥っていないか?ということです。 この介護者のメンタルヘルスは、家族だけでなく、私たち医療関係者(特に介護士)にも当てはまります。これまで説明しました認知症の人へのかかわり方はもちろん重要なのですが、そのかかわり方をしたからと言って必ずしも行動・心理症状(BPSD)が全く出ないというわけではありません。 介護者がやりがいを感じ続けるためには、認知症の人にうまくかかわっていくことと合わせて薬をうまく使っていく必要があります。例えば、毎夜どうしても騒ぐ場合(夜間せん妄)、夕食後に精神科薬を飲んでもらうようにすることです。また、日中にどうしても手が出てしまう場合(暴力)、日中に精神科薬を飲む必要があります。このように、かかわり方の工夫と薬の適応のバランスをとることです。認知症の人が無邪気であることとは? ラストシーンでは、車いすに乗ったみつえとベビーカーに乗った赤ちゃんがすれ違います。みつえも赤ちゃんも、無邪気で幸せそうです。そして、ゆういちは「ボケるとも、悪か事ばっかりじゃなかかもな」とつぶやきます。 かつて孫のまさきが伸び盛ったように、これからそのまさきとさとさん(グループホームの介護士)の恋が燃え盛ろうとするように、みつえが熟し衰えていくのは自然なことであると私たちは思えてきます。 認知症は、障害という特別な状態になるというよりは、老いという自然の流れの中で見られるその人らしさであるとも言えます。そもそも私たちが年を取るとはこういうことであると受け入れることが出発点です。今、私たちが身近で見ている認知症の人は、私たちの数十年後の姿かもしれません。私たちもいずれ同じようになるかもしれません。 そう考えると、その時に私たちはどんなふうにされていたいのだろうかと現在の認知症の介護のあり方を見つめ直すことができるのではないでしょうか?そして、長生きすることが幸せであると心から思える社会にしていくことができるのではないでしょうか?1)岡野雄一:ペコロスの母に会いに行く、西日本新聞社、20122)岡野雄一:「ペコロスの母に学ぶ」ボケて幸せな生き方、小学館新書、20143)山口晴保:認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント、協同医書出版社、20144)伊古田俊夫:社会脳からみた認知症、講談社、20145)村井俊哉:社会化した脳、エクスナレッジ、20076)DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引第5版)、医学書院、20147)本田美和子ほか:ユマニチュード入門、医学書院、2014

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HCV治療レジメン、3剤目は直接作用型が有用/Lancet

 未治療の肝硬変なしC型肝炎ウイルス(HCV)遺伝子型1型感染患者に対しソホスブビル+レディパスビルに直接作用型抗ウイルス薬を加えた3剤併用レジメンは、6週間で高率のウイルス学的著効(SVR)が示され忍容性も良好であることが、米国立衛生研究所(NIH)のAnita Kohli氏らによる概念実証(proof-of-concept)第IIA相コホート試験の結果、報告された。ソホスブビル+レディパスビル+リバビリンの3剤併用レジメンでは、高いSVRを得るには8週間が必要なことが先行研究で示されており、著者は「直接作用型抗ウイルス薬を加えた3剤併用は、肝硬変なしHCV遺伝子型1型感染患者の治療期間を短縮可能である」と述べている。Lancet誌オンライン版2015年1月12日号掲載の報告より。 2種の直接作用型抗ウイルス薬で3剤併用6週治療のSVR12達成を評価 試験はNIHの臨床研究センターにて、非盲検にて行われた。3剤目として検討された直接作用型抗ウイルス薬はGS-9669、GS-9451でいずれも開発中である。直接作用型抗ウイルス薬は、HCV患者に対する高い治癒率と良好な忍容性が示されていた。 研究グループは、被験者を次の3群に割り付けて検討した。ソホスブビル+レディパスビルの2剤併用12週治療群、+GS-9669の3剤併用6週治療群、または+GS-9451の3剤併用6週治療群である。適格患者は、18歳以上、遺伝子型1型感染患者(血中HCV RNA値2,000 IU/mL以上)で、肝硬変を有する患者は評価から除外した。 主要エンドポイントは、治療後12週時点のSVRを認めた患者の割合(SVR12)とした。達成の目安は、HCV RNA値43 IU/mL未満とした。 2剤併用12週100%に対し、3剤併用は6週で95% 2013年1月11日~12月17日の間に、患者60例が登録され、3群に20例ずつ順次割り付けられた。 ソホスブビル+レディパスビルの2剤併用12週治療群20例は全例が、SVR12を達成した(100%、95%信頼区間[CI]:83~100%)。一方、+GS-9669の3剤併用6週治療群、+GS-9451の3剤併用6週治療群ともに19例(95%、同:75~100%)が、SVR12を達成した。なお、前者群の未達成1例は、治療完了後2週時点で再活性が認められたケースで、後者群の未達成1例は、4週間以降追跡不能となったケースであった。 有害事象の大半は軽度で、治療中断となった患者はいなかった。重大有害事象は2例に認められた(治療後の肝生検後の疼痛、めまい)が、いずれも試験薬とは無関係であった。

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HPVワクチン、複数回接種の費用対効果/JAMA

 2価と4価のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの、接種回数と費用対効果について、英国・イングランド公衆衛生局(Public Health England:PHE)のMark Jit氏らが伝播モデルをベースに検討した。その結果、仮に2回接種による防御効果が10年しか持続せず、3回接種の効果が生涯持続するのなら、そのほうが費用対効果は高いこと、一方で2回接種の効果が20年超持続するのなら、2回接種が最適な選択肢であることを明らかにした。2価/4価HPVワクチンは、長期にわたりHPV16/18への防御効果をもたらす可能性が示されているが、その正確な期間・規模について、3回接種の場合と比較した検討はこれまで行われていなかった。BMJ誌オンライン版2015年1月7日号掲載の報告より。4価ワクチンのコスト136米ドル/回と仮定して検討 研究グループは、英国の12~74歳男女集団をベースとし、12歳女児の80%に対してHPVワクチンの初回接種が実施され、14歳までに2回接種が、3回接種はそれ以後で行われると仮定した伝播モデルを作成し、ワクチンの2回接種、3回接種について、効果持続期間による費用対効果を検討した。 ワクチン効果については、2価/4価HPVワクチンの2回接種は、10年、20年もしくは30年間、防御効果、交叉防御効果、または交叉防御効果はないが生涯持続性のあるワクチンであると仮定し、3回接種は生涯持続および交叉防御効果を有すると仮定し検討した。 検討では、4価HPVワクチン1用量の定価は86.5ポンド(136米ドル)として試算した。2回接種以上が費用対効果高く、2~3回は効果持続期間とコストにより異なる 結果、HPVワクチン2回以上の接種については、HPV関連のがん罹患率が有意に低下し、費用対効果が高いことが判明した。 また4価HPVワクチンの2回接種について、防御効果が10年しか持続せず、3回接種の効果が仮定どおりに生涯持続するのなら、3回接種(追加用量の定価を86.5ポンドとした場合)の費用対効果が高いことが示された(増分費用対効果の中央値:1万7,000ポンド、四分位範囲:1万1,700~2万5,800ポンド)。 一方で、ワクチン2回接種の防御効果が20年超持続するのなら、3回目の接種費用が閾値中央値31ポンド(範囲:28~35ポンド)程度まで大幅に下がらない限り、3回接種の費用対効果は低くなることが示された。 また、2価HPVワクチン(1用量の定価80.5ポンド)でも、同様な結果が得られたという。 結果を踏まえて著者は、「HPVワクチン接種は、防御効果が20年以上あるのならば2回接種が最も費用対効果のある選択肢となりそうだ」と述べるとともに、「2回接種の防御効果の正確な期間が不明であるのなら、同接種コホートに対するモニタリングを密にしなければならない」と指摘している。

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