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免疫性血小板減少症〔ITP:immune thrombocytopenia〕(旧名:特発性血小板減少性紫斑病)

1 疾患概要■ 概念・定義特発性血小板減少性紫斑病(ITP:idiopathic thrombocytopenic purpura)は、厚生労働省の特定疾患治療研究事業対象疾患(特定疾患)に認定されている疾患であり、他の基礎疾患や薬剤などの原因がなく、血小板の破壊が亢進し減少する後天性の自己免疫疾患と考えられている。欧米では本疾患に対し、免疫性(immune)あるいは自己免疫性(autoimmune)という表現が用いられており、わが国においても本疾患の病名を免疫性血小板減少症(ITP:immune thrombocytopenia)へと改定する予定である。血小板が減少していても、必ずしも出血症状を伴うわけではないことが“purpura”を削除した理由であり、この考え方は本疾患の治療戦略とも密接に関連する。■ 疫学わが国におけるITPの有病者数は約2万人で、年間発症率は人口10万人当たり約2.16人と推計される。つまり年間約3,000人が新規に発症している計算になる。最近の調査では、慢性ITPの好発年齢として20~40代の若年女性に加え、60~80代でのピークが認められるようになってきている。高齢者の発症に男女比の差はない。急性ITPは5歳以下の発症が圧倒的である。■ 病因ITPの病因はいまだ不明な点が多いが、その主たる病態は血小板の破壊亢進である。ITPでは血小板膜GPIIb-IIIaやGPIb-IXなどに対する自己抗体が産生され、それらに感作された血小板は早期に脾臓を中心とした網内系においてマクロファージのFc受容体を介して捕捉され、破壊されて血小板減少を来す。これらの自己抗体は主として脾臓で産生されており、脾臓は主要な血小板抗体の産生部位であるとともに、血小板の破壊部位でもある。さらに最近では、ITPにおける抗血小板自己抗体は巨核球の分化・成熟にも障害を与え、血小板産生も正常コントロールと比べ減少していることが示されている。■ 症状症状は皮下出血、歯肉出血、鼻出血、性器出血など皮膚粘膜出血が主症状である。血小板数が1万/μL未満になると血尿、消化管出血、吐血、網膜出血を認めることもある。口腔内に高度の粘膜出血を認める場合は、消化管出血や頭蓋内出血を来す危険があり、早急な対応が必要である。血友病など凝固因子欠損症では関節内出血や筋肉内出血を生じるが、ITPでは通常、これらの深部出血は認めない。■ 分類ITPはその発症様式と経過より、急性型と慢性型に分類され、6ヵ月以内に自然寛解する病型は急性型、それ以後も血小板減少が持続する病型は慢性型と分類される。急性型は小児に多くみられ、ウイルス感染を主とする先行感染を伴うことが多い。一方、慢性型は成人に多い。しかしながら、発症時に急性型か慢性型かを区別することはきわめて困難である。最近では、12ヵ月経過したものを慢性型とする意見もある。■ 予後ITPでは、血小板数が3万/μL以上の場合、死亡率は正常コントロールと同じであり、予後は比較的良好と考えられている。しかし、3万/μL以下だと出血や感染症が多くなり、死亡率が約4倍に増加すると報告されている。この成績より、血小板数3万/μL以上を維持することが治療目標となっている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ITPの診断に関しては、いまだに他の疾患の除外診断が主体であり、薬剤性やC型肝炎など血小板減少を来す他の疾患を鑑別しなければならない。とくに血小板数が3~5万/μL以下の症例で無症状の場合や検査コメントに血小板凝集(+)と記載されている場合は、末血用スピッツ内のEDTAにより誘導される「見かけ上」の血小板減少(EDTA依存性偽性血小板減少症)を除外すべきである(治療の必要なし)。ITPと同様に免疫学的機序で血小板が減少する二次的ITPとして、全身性エリテマトーデスなどの膠原病やリンパ系腫瘍、ウイルス肝炎、HIV感染などが挙げられる。詳しい病歴の聴取や身体所見、時には骨髄穿刺により先天性血小板減少症や薬剤性血小板減少症、さらには血小板産生障害に起因する骨髄異形成症候群や再生不良性貧血などの鑑別を行う。骨髄検査において典型的ITPでは、幼若な巨核球が目立つが巨核球数は正常あるいは増加しており、その他はとくに異常を認めない。PAIgG(Platelet-associated IgG:血小板関連IgG)は2006年に保険収載されたが、PAIgGは血小板に結合した(あるいは付着した)非特異的なIgGも測定するため、再生不良性貧血などの血小板減少時にも高値になることがあり、その診断的意義は少ない。2023年に血漿トロンボポエチン濃度と幼若血小板比率(IPF%)を組み込んだ新たなITPの診断基準が公表されている。一方、これらのバイオマーカーの測定は現時点で保険適用外であり、その保険収載が急務の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ITPにおける治療目標ITPの治療目標は血小板数を正常化させることではなく、危険な出血を予防することである。具体的には血小板3万/μL以上かつ出血症状が無い状態にすることが当面の治療目標となる。「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」では、初診時血小板が3万/μL以上あり出血傾向を認めない場合は、無治療での経過観察としている。血小板数を正常に維持するために高用量の副腎皮質ステロイドを長期に使用すべきではないとの立場である。図に「成人ITP治療の参照ガイド2019 改訂版」の概要を示す。なお、本ガイドは、https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_pdfにて公開されている。画像を拡大する1)第1選択治療(1)ピロリ菌除菌療法(2010年6月より保険適用)わが国においては、ITPに関してH.pylori(ピロリ菌)除菌療法の有効性が示されている。ピロリ菌感染患者には、第1選択として試みる価値がある。出血症状を伴う例に対しては、ステロイド療法をまず選択し、血小板数が比較的安定した時点で除菌療法を試みる。(2)副腎皮質ステロイド療法ピロリ菌陰性患者や除菌無効例には、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が第1選択となる。副腎皮質ステロイドは網内系における血小板の貪食および血小板自己抗体の産生を抑制する。血小板数3万/μL以下の症例で出血症状を伴う症例が対象である。とくに口腔内や鼻腔内の出血を認める場合は積極的に治療を行う。50~75%において血小板が増加するが、多くは副腎皮質ステロイド減量に伴い血小板が減少する。初期投与量としては0.5~1mg/kg/日を2~4週間投与後、血小板数の増加がなくても8~12週かけて10mg/日以下にまで漸減する。経過が良ければさらに減量する。2)第2選択治療(1)トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬ITPでは血小板造血が障害されているものの、血清TPO濃度は正常~軽度上昇に止まる。この成績より、血小板造血を促進する治療薬としてTPO受容体作動薬が開発され、2011年より保険適用となっている。薬剤としては、ロミプロスチム(商品名:ロミプレート/皮下注)やエルトロンボパグ オラミン(同:レボレード/経口薬)があり、優れた有効性が示されている。血栓症の発症や骨髄線維化のリスクがあるため、これらに関しては慎重にモニターすべきである。妊婦には使用できない。(2)リツキシマブB細胞に発現しているCD20抗原を認識するヒトマウスキメラモノクローナル抗体で、B 細胞を減少させ、抗体産生を低下させる作用がある。わが国では2017年3月よりITPに対して適応拡大されている。(3)脾臓摘出術(脾摘)発症後6~12ヵ月以上経過し、各種治療にて血小板数3万/μL以上を維持できない症例に考慮する。寛解率は約60%。摘脾の1週間前より免疫グロブリン大量療法(後述)にて血小板を増加させる。近年では、TPO受容体作動薬などの新規薬剤の登場により、脾摘施行例は減少している。(4)新規ITP治療薬「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」公開後に新たに上市されたITP治療薬として、ホスタマチニブ([Syk阻害剤]およびエフガルチギモド(胎児性Fc受容体阻害剤)が挙げられる。これらの薬剤の治療上の位置付けに関しては、今後の検討課題である。3)難治ITP症例への治療法(第3選択治療)本項で述べる薬剤は、ITPへの適応は無いものの、文献などにて有効性が示唆されている薬剤である。4)緊急時の治療診断時、消化管出血や頭蓋内出血などの重篤な出血を認める症例や、脾摘など外科的処置が必要な症例には、免疫グロブリン大量療法やメチルプレドニンパルス療法にて血小板を速やかに増加させ、出血をコントロールする必要がある。血小板輸血は一般には行わないが、活動性出血を伴う重症例では血小板輸血も積極的に考慮する。4 今後の展望上記以外の新たなITP治療薬として、BTK阻害薬、新規TPO受容体作動薬、抗CD38抗体薬など種々の薬剤が開発、治験されており、これらの薬剤の上市が待たれる。5 主たる診療科血液内科、あるいは血液・腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2012年版(医療従事者向けのまとまった情報)妊娠合併特発性血小板減少性紫斑病診療の参照ガイド(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つばさのひろば(血液疾患患者とその家族の会)1)Cines DB, et al. N Engl J Med.2002;346:995-1008.2)冨山佳昭. 臨床血液. 2011;52:627-632.3)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2019;60:877-896.4)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2024;64:1245-1257.公開履歴初回2013年03月28日更新2015年11月02日更新2024年9月16日

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ダニ媒介性脳炎に気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第12回目となる今回は「ダニ媒介性脳炎」についてです。対岸の火事ではない! ダニ媒介性脳炎「ダニ媒介性脳炎」っていわれても、そんな病名聞いたことがないという方々も多いのではないでしょうか。ダニ媒介性脳炎はその名のとおり、マダニ属(Ixodes)のマダニに刺されることで脳炎症状を呈する感染症であり、原因となる微生物はデングウイルス、日本脳炎ウイルスなどと同じフラビウイルスに属する、ダニ媒介性脳炎ウイルスです。図はダニ媒介性脳炎の流行地図ですが、ロシアからヨーロッパにかけて広く流行しています。ダニ媒介性脳炎は、中部ヨーロッパ型とロシア春夏型に分かれ、それぞれ分布が異なります。この流行地図を見て「あっ、日本は流行してないのね…じゃあ読むのやめよう」と思ったあなたッ! そう思われるのはちょっと早いのではないでしょうか。何を隠そう、日本でもダニ媒介性脳炎の感染者が、1例だけ報告されているのですッ!2) この症例が診断されたのは1993年、そう今から20年以上も前のことです。北海道上磯町で酪農を営む女性が、突然の発熱、複視、けいれんを発症し、当初日本脳炎が疑われたのですが、精査の結果、ダニ媒介性脳炎であったことがわかりました。この患者さんの家の近くにいた犬10匹のうち5匹でダニ媒介性脳炎ウイルス抗体が上昇しており、この地域にウイルスが存在していることもわかっています。北海道ではヤマトマダニ(Ixodes ovatus)が媒介すると考えられています。もう一度言いましょう。日本でもダニ媒介性脳炎に感染する可能性があるのですッ!! しかし、その後20年間患者は1人も報告されていないことから、少なくとも感染するリスクは高くはないのだと思われます。また、日本脳炎のように不顕性感染も一定数いると考えられており、感染していても発症せずに診断に至らない事例もあるのではないかと推測されます。ダニ媒介性脳炎の特徴は2相性ダニ媒介性脳炎は、2相性の経過をたどるとされています。ダニ刺咬後7~14日の潜伏期を経て、発熱、頭痛、倦怠感、関節痛といった非特異的な症状で発症します(第1相)。これがだいたい1~8日くらい続いて、いったん症状が消失します。その後、第2相として発熱と神経学的症状が出現します。この神経学的症状は髄膜炎から脳炎までさまざまです。ヨーロッパでみられる中部ヨーロッパ型よりも、ロシア東部でみられるロシア春夏脳炎のほうが、より重篤で致死率も高い(20~30%)とされています。救命できても麻痺などの後遺症を残すこともあります。「春夏」などと牧歌的な名前のクセに実に凶悪なヤツです。こういう恐ろしいウイルスが、北海道にいるのかと思うと怖いですね…。日本での初症例で当初疑われていたように、日本脳炎との鑑別が問題になると思われますが、わが国での日本脳炎の流行が西高東低であることを考えると、北海道で起こった脳炎では、ダニ媒介性脳炎も鑑別として考慮すべきと考えられます。なお、ダニ脳炎には有効な治療薬はなく、支持療法が主体となります。ダニの予防にはDEET配合防虫剤最後に予防についてですが、ダニ脳炎にはワクチンがあります。流行地域を訪れる旅行者すべてがワクチン接種をする必要はありませんが、流行地域でキャンプをする、あるいは森林地域を行脚するといった予定がある場合には、ワクチン接種が推奨されます。残念ながらダニ脳炎ワクチンは国内で未承認ですので、未承認ワクチンを取り扱っているトラベルクリニックなどで接種をする必要があります。また、「第7回 チクングニア熱に気を付けろッ」で防蚊対策について述べましたが、DEETはマダニにも有効です。DEETを含む防虫剤を適切に使用することで、ダニ刺咬を防ぐことができます。今回は、ダニ媒介性脳炎というほぼ誰も診たことがない感染症を取り上げましたが、次回は今、日本で非常に問題になっている再興感染症の「梅毒」について取り上げたいと思いますッ!1)Richard L. Guerrant, et al. Tropical Infectious Diseases: Principles, Pathogens and Practice. 3rd ed. Amsterdam: Elsevier B.V.;2011.2)Takashima I, et al. J Clin Microbiol.1997;35:1943-1947.

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インフルエンザ関連肺炎患者に多いワクチン未接種/JAMA

 市中肺炎で入院した小児および成人を対象に、インフルエンザ関連肺炎患者群と非関連肺炎患者群のインフルエンザワクチン接種率を調べた結果、前者のほうが低く未接種者の割合が多かったことが示された。米国・ヴァンダービルト大学医学部のCarlos G. Grijalva氏らが、市中肺炎入院を評価する多施設共同前向き観察研究Etiology of Pneumonia in the Community(EPIC)のデータを分析し、報告した。これまで、インフルエンザワクチン接種と、インフルエンザの重篤合併症の肺炎との関連を評価した研究はほとんど行われていなかった。JAMA誌2015年10月13日号掲載の報告。全米4地域の市中肺炎入院患者を分析 EPICは、2010年1月~12年6月に全米4地域8病院で被験者を登録して行われた。研究グループは同患者のうち、検査でインフルエンザに感染していることが確認され、当該インフルエンザシーズン中のワクチン接種の有無が判明していた生後6ヵ月以上の患者のデータを用い、インフルエンザワクチン接種と市中で発生し入院となったインフルエンザ関連肺炎発生との関連を評価した。なお、直近の入院患者、慢性期ケア施設からの入院患者、重症免疫不全患者は除外した。 ロジスティック回帰分析法により、インフルエンザウイルス陽性(ケース)肺炎患者 vs. 陰性(対照)肺炎患者のワクチン接種オッズ比を比較した。人口統計学的変数、合併症、季節、研究登録地域、疾患発症の時期で補正を行った。 ワクチンの有効性について、(1-補正後オッズ比)×100%で推算。主要評価項目は、インフルエンザ関連肺炎で、鼻/口咽頭スワブによる検体をリアルタイムRT-PCR法で確認した。ワクチン接種率、インフルエンザ関連肺炎患者17%、非関連肺炎患者29% 試験期間中に肺炎で入院した適格患者は、全体で2,767例であった。 このうちRT-PCR法でインフルエンザウイルス陽性と認められた患者(症例群)は162例(5.9%)であった。62例(38%)がA(H1N1)pdm09型、51例(31%)がA(H3N2)型、43例(27%)がB型、4例(3%)がA型のサブタイプ不明、2例(1%)はA型とB型重複感染であった。なお、患者162例のうち小児患者は68例(42%)であった。年齢中央値は162例全体では31歳、成人患者52.5歳、小児患者3歳、女性は73例(45%)であった。 162例のうち、インフルエンザワクチン接種を受けていた人は28例(17%)であった。 一方、非インフルエンザワクチンウイルス陰性であった患者2,605例(対照群)において、インフルエンザワクチン接種を受けていた人は766例(29%)であった。 症例群と対照群の接種オッズ比を比較した補正後オッズ比は0.43(95%信頼区間[CI]:0.28~0.68)で、インフルエンザワクチンの有効性は56.7%(95%CI:31.9~72.5%)と推算された。

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発作性夜間血色素尿症〔PNH : paroxysmal nocturnal Hemoglobinuria〕

発作性夜間血色素尿症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 定義発作性夜間血色素尿症(発作性夜間ヘモグロビン尿症、paroxysmal nocturnal hemoglobinuria: PNH)は、血管内溶血を特徴とする後天性の血液疾患で、PIG-A遺伝子に変異を有する造血幹細胞がクローン性に増加するために発症する。■ 疫学欧米におけるPNHの発症頻度は100万人あたり15.9人とされているが、わが国では100万人あたり3.6人ときわめてまれである〔1998年(平成10年)度の厚生労働省の疫学調査研究班による〕。男女比はほぼ1:1で、わが国における診断時年齢は20~60代(平均年齢45.1歳)と、広く分布する。欧米例では血栓症の合併が多いのに対し、わが国では造血不全症状が主体になることが多い。■ 病因PIG-A遺伝子に変異があると、GPIアンカー型の膜蛋白の発現が低下する。補体制御蛋白CD55やCD59もGPIアンカー型膜蛋白であり、PIG-A遺伝子の変異があるとその発現が低下する。このように、PIG-A遺伝子変異のためにCD55やCD59の発現を欠失した血球をPNH型血球と呼ぶ。PNH型血球は補体に対する感受性が高まっており、血管内溶血を生じやすい。PNH型血球が選択されて増加する機序は完全には解明されていないが、まずPIG-A遺伝子変異の入った造血幹細胞が免疫学的な攻撃を免れて相対的に増加し、さらに何らかの別な遺伝子異常が加わってクローン性に増加するものと考えられている。■ 症状典型的には、血管内溶血による貧血と褐色尿(ヘモグロビン尿)が症状の主体となる。溶血性貧血に伴い、全身倦怠感、労作時の息切れ、黄疸がみられる。ウイルス感染などによって補体が活性化されると溶血発作が生じ、急激な貧血の進行をみる。溶血で生じたヘモグロビン尿は、腎障害を引き起こし、むくみなどが生じる。また、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの血栓症をしばしば合併する。わが国のPNH患者は造血不全を合併する頻度が高く、貧血に加えて白血球や血小板数の減少がみられることがある(汎血球減少)。汎血球減少がみられる患者においては、感染症や出血のリスクも増加している。■ 分類1)臨床的PNH:溶血所見がみられるもの古典的PNH:末梢血のPNH型血球の比率が高く、溶血症状あるいは血栓症状が顕著。骨髄不全型PNH:骨髄が低形成で汎血球減少を呈する型。再生不良性貧血―PNH症候群とも呼ばれる。混合型PNH2)PNH型血球を有する骨髄不全症:明らかな溶血所見を欠くが、末梢血に少数のPNH型血球が検出され、再生不良性貧血あるいは骨髄異形成症候群の診断基準を満たすもの。PNH型血球陽性の骨髄不全症では、抗胸腺免疫グロブリンやシクロスポリンなどによる免疫抑制療法に反応して血球が増加することが多い。■ 予後わが国におけるPNH患者の診断後の平均生存期間は32.1年、50%生存期間も25.0年と長く、慢性の疾患といえる。この間、溶血発作を反復したり、造血不全、腎障害などが徐々に進行したりするため、QOLは必ずしもよくない。死亡原因としては出血、感染、血栓症が多く、骨髄異形成症候群などの造血器腫瘍への移行、腎障害、および血栓症が予後を大きく左右する。近年、中等症以上の患者に対して、補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体のエクリズマブ(商品名:ソリリス)が積極的に用いられるようになった。こういった治療法の進歩によって、患者のQOLと生命予後の改善が期待されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 主な検査と診断血液検査、尿検査によって血管内溶血の所見を確認する。貧血、網状赤血球数増加、血清LDH値上昇、血清間接ビリルビン値上昇、血清ハプトグロビン値低下、尿潜血(ヘモグロビン)反応陽性は、血管内溶血を疑う所見である。PNHの診断には、フローサイトメトリーを用いたPNH型血球(CD55、CD59を欠損する血球)の検出が不可欠である。古典的なHam試験と砂糖水試験は、最近ではフローサイトメトリーにとって代わられている。FLAER法を用いたフローサイトメトリーでは、非常に高感度にPNH型血球を定量できる(保険診療外)。さらに骨髄検査によって、PNH型血球陽性の造血不全症(再生不良性貧血や骨髄異形成症候群)との鑑別や、PNHの病型分類を行う。■ 重症度分類と指定難病特発性造血障害に関する調査研究班では、溶血所見に基づいた重症度分類を作成している。これによると、ヘモグロビン7g/dL未満または定期的な赤血球輸血を必要とする貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の8~10倍程度の高度な溶血を認める場合を「重症」、ヘモグロビン10g/dL未満の貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の4~5倍程度の中等度の溶血を認める場合を「中等症」とし、これに該当しない場合を「軽症」としている。ただし、血栓症の既往があれば、溶血の程度に関わらず「重症」とされる。平成27年1月から、PNHは「難病患者に対する医療等の法律」による指定難病となった。これにより、中等症以上の患者の医療費負担が大幅に軽減されるようになった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)PNHの根治を目指す治療法は同種造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)のみであるが、この治療法自体のリスクが大きいために、適応は若年で、かつ重症の骨髄不全症を伴う場合に限られる。さまざまな感染症が溶血発作の引き金になるため、日常生活では感染症の予防が重要である。溶血が長期にわたると、尿から鉄が失われるために鉄欠乏になったり、需要の増大のために葉酸欠乏になったりするので、血清フェリチン値や葉酸値をみながら鉄や葉酸の補充を検討する。溶血発作時には少量の副腎皮質ステロイドを用いることがあるが、糖尿病の発症や易感染性などの副作用のため、長期的な使用の有用性については意見が分かれる。貧血が高度の場合は赤血球輸血を行う。溶血により生じた遊離ヘモグロビンによる腎障害を防止するためには、輸液や利尿剤を用いるほか、高度の溶血発作時には人ハプトグロビン(商品名:ハプトグロビン)を投与することもある。血栓症の予防と治療には、ヘパリンやワーファリン製剤による抗血栓療法を行う。骨髄不全型PNHでは、蛋白同化ホルモンや免疫抑制剤が用いられる。最近、保険適用となったエクリズマブ(同:ソリリス)は、補体溶血を抑制することによって、貧血をはじめとするさまざまな臨床症状を劇的に改善する。この薬剤には血栓症の予防効果もみられる。重症例では積極的適応、中等症では相対的適応とされる。ただし、エクリズマブ治療導入の際には、点滴治療を定期的、継続的に行う必要があること、エクリズマブを中止する際には高度の溶血発作が生じうること、髄膜炎菌など一部の感染症に対する免疫能の低下が起こりうること、および高額な薬剤であることを十分に説明し、髄膜炎菌に対するワクチンの接種を行ってから開始する。エクリズマブ治療開始後に、LDHが低下したにもかかわらず貧血の改善が乏しい場合には、赤血球の膜上に蓄積した補体による血管外溶血あるいは骨髄不全の合併を考える。エクリズマブ治療には、PNHに合併した骨髄不全の改善効果は期待できない。PNH患者の妊娠に関しては、血栓症による流産のリスクが高く、また貧血もしばしば高度になる。平成26年度に、特発性造血障害調査に関する調査研究班および日本PNH研究会によって「妊娠ガイドライン」が作成された。このガイドラインでは、妊娠前の治療状況や血栓症の既往の有無によって、ヘパリンあるいはエクリズマブの使用が推奨されている。4 今後の展望病態面では、PNH型血球クローン増加の機序、血栓症がみられる機序などに関し、さらなる研究の進展が期待される。治療に関しては、エクリズマブの登場によってPNHの治療戦略が刷新された。今後、エクリズマブ不応例への対応や、血管外溶血が顕在化してくる症例に対する治療、妊娠管理などに関して、さらなる知見の集積と指針の充実が待たれる。現在、エクリズマブ以外にも補体系を標的とした新薬の開発が進んでおり、今後、PNH患者のQOLや予後のさらなる改善が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 発作性夜間ヘモグロビン尿症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特発性造血障害調査に関する調査研究班(診療の参照ガイドがダウンロードできる)日本血液学会(血液専門医研修施設マップで紹介先の候補を検索できる)日本PNH研究会(患者向けと医療者向けのかなり詳しい情報)患者会情報NPO法人PNH倶楽部(PNH患者と家族の会)公開履歴初回2013年02月28日更新2015年10月13日

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甘くみていませんか、RSウイルス感染症

 10月1日、都内においてアッヴィ合同会社は、RSウイルス感染症に関するプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、小保内 俊雅氏(多摩北部医療センター 小児科部長)が「秋から冬に流行る呼吸器感染症 侮れないRSウイルス~突然死を含む重症例の観点から~」と題し、最新のRSウイルス感染症の動向や臨床知見と小児の突然死を絡め、解説が行われた。注意するのは小児だけでない 秋から冬に流行するRSウイルス(以下「RSV」と略す)は、新生児期から感染が始まり、2歳を迎えるまでにほとんどのヒトが感染するウイルスである。これは、生涯にわたり感染を繰り返し、麻疹のように免疫を獲得することはない。症状としては、鼻みず、咳、喉の痛み、発熱などの感冒様症状のほか、重症化すると喘鳴、肩呼吸、乳児では哺乳ができないなどの症状が出現し、肺炎、細気管支炎などを引き起こすこともある。成人では鼻風邪のような症状であり、乳幼児では多量の鼻みずと喘鳴などが診断の目安となる。インフルエンザと同じように迅速診断キットがあり、これで簡易診断ができる(ただし成人には保険適用がない。小児のみ保険適用)。治療は対症療法のみとなる。 「乳幼児」(なかでも早産児、慢性肺疾患、先天性心疾患の児)、「褥婦」、「65歳以上の高齢者」では、時に重症化することがあるので注意を要する。とくに褥婦は、容易に感染しやすく、感染に気付かないまま病院の新生児室などを訪れることで、感染拡大を起こす例が散見される。また、高齢者では、施設内での集団感染で重篤化した事例も報告されているので、感染防止対策が必要とされる。約7割の親はRSV感染症を知らないと回答 次にアッヴィ社が行った「RSV感染症と保育施設利用に関する意識調査」に触れ、一般的な本症の認知度、理解度を説明した。アンケート調査は、2歳以下の乳幼児を保育施設に預ける両親1,030名(男:515名、女:515名)にインターネットを使用し、本年7月に行われたものである。 アンケートによると66.8%の親が「RSV感染症がどのような病気か知らない」と回答し、重症化のリスクを知っている親はわずか17.3%だった。また、56.9%の親が子供に病気の疑いがあっても保育施設を利用していることが明らかとなった。なお、子供が病気の際に必要なサポートとしては、「職場の理解」という回答が一番多く、母親の回答では「父親の協力」を求めるものも多かった。 今後、院内保育の充実や本症へのさらなる啓発の必要性が示された結果となった。怖い乳幼児のRSV感染症 小児集中治療室(PICU)に入院する、呼吸器感染症の主要原因トップが「RSV感染症」であるという。主症状としては、呼吸不全(喘鳴を伴う下気道感染)、中枢神経系の異常(痙攣、脳炎)、心筋炎、無呼吸発作(生後3ヵ月未満で起こる)が認められる。これに伴い、乳幼児の突然死がみられることから、小保内氏が月別のRSVの流行期と突然死の発生状況を調査したところ、相関することが明らかとなった。また、RSV感染に続発する突然死として、その機序は無呼吸ではなく、致死的不整脈であること、症状の重症度とは相関せず突然死が発生すること、SIDSの好発年齢(1歳以上)を超えても発生することが報告された。知らないことが最大の脅威 RSV感染症は、生涯にわたり感染する。よって、誰でも、いつでも感染源になる危険性を知っておく必要がある。当初は弱い症状であっても、急変することも多く、軽く考えずに軽い風邪と思い込んで子供を保育園などに通園させないほうがよいとされる。また、突然死は、危機的症状と相関しないので、病初期から注意が必要となる。 RSV感染症の予防としては、手洗い、うがいの励行であり、とくに大人の子供への咳エチケットは徹底する必要がある、また、流行期には、人混みへの不要不急の外出を避けるなどの配慮も必要となる。これら感染予防を充実することで、大人が子供を守らなければならない。その他、ハイリスクの乳幼児(たとえば1歳未満の早産や2歳未満の免疫不全など)には、重症化を防ぐ抗体としてパリビズマブ(商品名:シナジス)がある。これは、小児にしか保険適用が認められておらず、接種要件も厳格となっているので、日常診療での説明の際は注意が必要となる。 最後に、「RSV感染症は単なる鼻風邪ではなく、実は怖い病気であると、よく理解することが重要であり、予防と感染拡大防止の知識の普及と啓発が今後も期待される」とレクチャーを終えた。 「RS ウイルス感染症と保育施設利用に関する意識調査」は、こちら。

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カテーテル関連感染症、クロルヘキシジン消毒で大幅減/Lancet

 カテーテル挿入前に、皮膚消毒をクロルヘキシジン・アルコールで行うと、ポビドンヨード・アルコールを使った場合に比べて、カテーテル関連感染症リスクは85%低下することが示された。フランス・CHU de PoitiersのOlivier Mimoz氏らが、2,546例を対象とした無作為化比較試験の結果、報告した。結果を踏まえて著者は、「血管内カテーテル関連感染症予防のためにも全例について、皮膚消毒はクロルヘキシジン・アルコールを用いるべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2015年9月17日号掲載の報告より。皮膚消毒前の洗剤による皮膚洗浄の有無についても比較 研究グループは、2012年10月~14年2月にかけて、フランス国内11ヵ所のICU入室となり、中心静脈カテーテル、血液透析、動脈カテーテルのいずれかを行った18歳以上の患者2,546例を対象に試験を行った。クロルヘキシジン・アルコールまたはポビドンヨード・アルコールによる皮膚消毒の、カテーテル関連の感染症予防効果について比較を行った。 被験者を無作為に4群に分け、2%クロルヘキシジン・70%イソプロピルアルコールまたは5%ポビドンヨード・69%エタノールのいずれかによる皮膚消毒群、および同実施前の洗剤による皮膚洗浄の有無別に割り付けた。 医師、看護師は、割り付けについてマスキングされなかったが、細菌学者およびアウトカム評価者には割り付けをマスキングされた。 主要アウトカムは、カテーテル関連感染症の発生率だった。皮膚洗浄の有無は感染率に有意差みられず クロルヘキシジン・アルコール群は1,181例、そのうち洗剤による皮膚洗浄を行ったのは594例だった。ポビドンヨード・アルコール群は1,168例、うち皮膚洗浄群は580例だった。 カテーテル関連感染症の発生率は、ポビドンヨード・アルコール群が1.77/1,000カテーテル日に対し、クロルヘキシジン・アルコール群は0.28/1,000カテーテル日と有意に低率だった(ハザード比:0.15、95%信頼区間:0.05~0.41、p=0.0002)。 洗剤による皮膚洗浄の有無では、同発生率に有意差はなかった(p=0.3877)。 また、全身性有害事象は認められなかったが、重篤皮膚反応の発生が、ポビドンヨード・アルコール群で1%(7人)に対しクロルヘキシジン・アルコール群では3%(27人)と有意に高率にみられた(p=0.0017)。2例はクロルヘキシジン・アルコール中断となった。

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多発性硬化症〔MS : Multiple sclerosis〕、視神経脊髄炎〔NMO : Neuromyelitis optica〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に多巣性の限局性脱髄病巣が時間的・空間的に多発する疾患。脱髄病巣はグリオーシスにより固くなるため、硬化症と呼ばれる。白質にも皮質にも脱髄が生じるほか、進行とともに神経細胞も減少する。個々の症例での経過、画像所見、治療反応性などの臨床的特徴や、病理組織学的にも多様性があり、単一疾患とは考えにくい状況である。実際に2005年の抗AQP4抗体の発見以来、Neuromyelitis optica(NMO)がMultiple sclerosis(MS)から分離される方向にある。■ 疫学MSに関しては地域差があり、高緯度地域ほど有病率が高い。北欧では人口10万人に50~100人程度の有病率であるが、日本では人口10万人あたり7~9人程度と推定され、次第に増加している。平均発病年齢は30歳前後である。MSは女性に多く、男女比は1:2~3程度である。NMOは、日本ではおおむねMSの1/4程度の有病率で、圧倒的に女性に多く(1:10程度)、平均発病年齢はMSより約5歳高い。人種差や地域差に関しては、大きな違いはないと考えられている。■ 病因MS、NMOともに、病巣にはリンパ球やマクロファージの浸潤があり、副腎皮質ステロイドにより炎症の早期鎮静化が可能なことなどから、自己免疫機序を介した炎症により脱髄が起こると考えられる。しかし、MSでは副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できず、一般的には自己免疫疾患を悪化させるインターフェロンベータ(IFN-ß)がMSの再発抑制に有効である。また、いくつかの自己免疫疾患に著効する抗TNFα療法がMSには悪化因子であり、自己免疫機序としてもかなり特殊な病態である。一方、NMOでは、多くの例で抗AQP4抗体が存在し、IFN-ßに抵抗性で、時には悪化することもある。また、副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できるなど、他の多くの自己免疫性疾患と類似の病態と思われる。MSは白人に最も多く、アジア人種では比較的少ない。アフリカの原住民ではさらにまれである。さらに一卵性双生児での研究からも、遺伝子の関与は明らかである。これまでにHLA-DRB1*1501が最も強い感受性因子であり、ゲノムワイド関連解析(GWAS)ではIL-7R、 IL-2RAをはじめ、100以上の疾患感受性遺伝子が報告されている。また、NMOはMSとは異なったHLAが強い疾患感受性遺伝子 (日本人ではHLA-DPB1*0501) となっている。一方、日本人やアフリカ原住民でも、有病率の高い地域に移住した場合、その発病頻度が高くなることが知られており、環境因子の関与も大きいと推定される。その他、ビタミンD不足、喫煙、EBV感染が危険因子とされている。■ 症状中枢神経系に起因するあらゆる症状が生じる。多いものとしては視力障害、複視、感覚障害、排尿障害、運動失調などがある。進行すれば健忘、記銘力障害、理解力低下などの皮質下認知症も生じる。また多幸症、抑うつ状態も生じるほか、一般的に疲労感も強い。MSに特徴的な症状・症候としては両側MLF症候群があり、これがみられたときには強くMSを疑う。その他、Lhermitte徴候(頸髄の脱髄病変による。頸部前屈時に電撃痛が背部から下肢にかけて走る)、painful tonic seizure(有痛性強直性痙攣)、Uhthoff現象(入浴や発熱で軸索伝導の障害が強まり、症状が一過性に悪化する)、視神経乳頭耳側蒼白(視神経萎縮の他覚所見)がある。再発時には症状は数日で完成し、その際に発熱などの全身症状はない。また、無治療でも寛解することが大きな特徴である。慢性進行型になると症状は緩徐進行となる。NMOでは、高度の視力障害と脊髄障害が特徴的であるが、時に大脳障害も生じる。また、脊髄障害の後遺症として、明瞭なレベルを示す感覚障害と、その部位の帯状の締め付け感や疼痛がしばしばみられる。1)発症、進行様式による分類(1)再発寛解型MS(relapsing- remitting MS: RRMS):再発と寛解を繰り返す(2)二次性進行型MS(secondary progressive MS: SPMS):最初は再発があったが、次第に再発がなくても障害が進行する経過を取るようになったもの(3)一次性進行型MS(primary progressive MS: PPMS):最初から進行性の経過をたどるもの。MRIがなければ脊髄小脳変性症や痙性対麻痺との鑑別が難しい。2)症状による分類(1)視神経脊髄型MS(OSMS):臨床的に視神経と脊髄の障害による症状のみを呈し、大脳、小脳の症状のないもの。ただし眼振などの軽微な脳幹症状はあってもよい。MRI所見はこの分類には用いられていないことに注意。この病型には大部分のNMOと、視神経病変と脊髄病変しか臨床症状を呈していないMSの両方が含まれることになる。(2)通常型MS(CMS):大脳や小脳を含む中枢神経系のさまざまな部位の障害に基づく症候を呈するものをいう。3)その他、未分類のMS(1)tumefactive MS脱髄巣が大きく、周辺に強い浮腫性変化を伴うことが特徴。しばしば脳腫瘍との鑑別が困難であり、進行が速い場合には生検が必要となることも少なくない。(2)バロー病(同心円硬化症)大脳白質に脱髄層と髄鞘保存層とが交互に層状になって同心円状の病変を形成する。以前はフィリピンに多くみられていた。4)前MS状態と考えられるもの(1)clinically isolated syndrome(CIS)中枢神経の1ヵ所以上の炎症性脱髄性病変によって生じた初発の神経症候。CISの時点で1個以上のMS様脳病変があれば、80%以上の症例で再発し、MSに移行するが、まったく脳病変がない場合は20%程度がMSに移行するにとどまる。この時期に疾患修飾薬を開始した場合、臨床的にMSへの進行が確実に遅くなることが、欧米での研究で明らかにされている。(2)radiologically isolated syndrome(RIS)MRIにより偶然発見された。MSに矛盾しない病変はあるが、症状が生じたことがない症例。2010年のMcDonald基準では、時間的、空間的多発性が証明されても、症状がなければMSと診断するには至らないとしている。■ 予後欧米白人では80~90%はRRMSで、10~20%はPPMSとされる。日本ではPPMSが約5%程度である。RRMSの約半数は15~20年の経過でSPMSとなる。平均寿命は一般人と変わらないか、10年程度の短縮で、生命予後はあまり悪くない。機能予後としては、約10年ほどで歩行に障害が生じ、20年ほどで杖歩行、その後車椅子になるとされるが、個人差が非常に大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSでは「McDonald 2010年改訂MS診断基準」があり、臨床的な時間的、空間的多発性の証明を基本とし、MRIが補完する基準となっている。NMOでは、「Wingerchuk 2006年改訂NMO診断基準」が用いられる。また、MRIでの基準があり、BarkhofのMRI基準はMSらしい病変の基準、PatyのMRI基準はNMO診断基準で利用されている(図参照)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するNMOと同様の病態と考えられるが、臨床的には、NMO-IgG(抗AQP4抗体)陽性で、視神経炎のみ、あるいは脊髄炎のみの例や、抗AQP4抗体陽性で脳病変や脳幹、小脳のみで再発を繰り返す例などがあり、それらをNMO spectrum disorderと呼ぶこともある。■ 検査MSにおいては一般血液検査では炎症所見はなく、各種自己抗体も合併症がない限り異常はない。したがって、そのような検査は、各種疾患の除外、および自己免疫疾患を含めた再発抑制療法で悪化の可能性のある合併症のチェックと、再発抑制療法での副作用チェックの目的が大きい。髄液も多くは正常で、異常があっても軽微であることが特徴である。オリゴクローナルIgGバンド(OCB)の陽性率は欧米では90%を超えるが、日本人では約70%位である。MS特異的ではないが、IgG index高値は中枢神経系でのIgG産生、すなわち免疫反応が生じていることの指標となる。電気生理学的検査としては視覚誘発電位、体性感覚誘発電位、聴性脳幹反応、運動誘発電位があり、それぞれの検査対象神経伝導路の脱髄の程度に応じて異常を示す。MRIは最も鋭敏に病巣を検出できる方法である。MSの脱髄巣はMRIのT1強調で低または等信号、T2強調画像またはFLAIR画像で高信号域となる。急性期の病巣はガドリニウム(Gd)で増強される。脳室に接し、通常円形または楕円形で、楕円形の病巣の長軸は脳室に対し垂直である病変がMSの特徴であり、ovoid lesionと呼ばれる。このovoid lesionの検出には、矢状断FLAIRが最適であり、MSを疑った場合には必ず撮影するべきである。NMO病態では、CRP上昇や補体高値などの軽度の末梢血の全身性炎症反応を示すことがあるほか、大部分の症例で血清中に抗AQP-4抗体が検出される。抗体は治療により測定感度以下になることも多く、治療前の血清にて測定することが重要である。画像では、脊髄の中心灰白質を侵す3椎体以上の長大な連続性病変が特徴的とされる。また、他の自己免疫疾患の合併が多く、オリゴクローナルIgGバンドは陰性のことが多い。■ 鑑別疾患1)初発時あるいは再発の場合感染性疾患:ライム病、梅毒、硬膜外膿瘍、進行性多巣性白質脳症、単純ヘルペスウイルス性脊髄炎、HTLV-1関連脊髄炎炎症性疾患:神経サルコイドーシス、シェーグレン症候群、ベーチェット病、スイート病、全身性エリテマトーデス(SLE)、結節性動脈周囲炎、急性散在性脳脊髄炎、アトピー性脊髄炎血管障害:脳梗塞、脊髄硬膜外血腫、脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)代謝性:ミトコンドリア病(MELAS)、ウェルニッケ脳症、リー脳症脊椎疾患:変形性頸椎症、椎間板ヘルニア眼科疾患:中心動脈閉塞症などの血管障害2)慢性進行型の場合変性疾患:脊髄小脳変性症、 痙性対麻痺感染性疾患:HTLV-I関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺(HAM/TSP)代謝性疾患:副腎白質ジストロフィーなど脳外科疾患:脊髄空洞症、頭蓋底陥入症3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性増悪期、寛解期、進行期、それぞれに応じて治療法を選択する。■ 急性増悪期の治療迅速な炎症の鎮静化を行う。具体的には、MS、NMO両疾患とも、初発あるいは再発時の急性期には、できるだけ早くステロイド療法を行う。一般的にはメチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール/静注用)500mg~1,000mgを2~3時間かけ、点滴静注を3~5日間連続して行う。パルス療法後の経口ステロイドによる後療法を行う場合は、投与が長期にわたらないようにする。1回のパルス療法で症状の改善が乏しいときは、数日おいてパルス療法をさらに1~2クール追加したり、血液浄化療法を行うことを考慮する。■ 寛解期の治療再発の抑制を行う。再発の誘因としては、感染症、過労、ストレス、出産後などに比較的多くみられるため、できるだけ誘引を避けるように努める。ワクチン接種は再発の誘引とはならず、感染症の危険を減らすことができるため、とくに禁忌でない限り推奨される。その他、薬物療法による再発抑制が普及している。1)再発抑制法日本で使用できるものとしては、MSに関してはIFN-ß1a (同:アボネックス)、IFNß-1b (同:ベタフェロン)、フィンゴリモド(同:イムセラ、ジレニア)、ナタリズマブ(同:タイサブリ)がある。肝障害、自己免疫疾患の悪化、間質性肺炎、血球減少などに注意して使用する。また、NMOに使用した場合、悪化させる危険があり、慎重な病態の把握が重要である。(1)IFN-ß1a (アボネックス®) :1週間毎に筋注(2)IFN-ß1b (ベタフェロン®) :2日毎に皮下注どちらも再発率を約30%減少させ、MRIでの活動性病変を約60%抑制できる。(3)フィンゴリモド (イムセラ®、ジレニア®) :連日内服初期に徐脈性不整脈、突然死の危険があり、その他、感染症、黄斑浮腫、リンパ球の過度の減少などに注意して使用する。(4)ナタリズマブ(タイサブリ®) :4週毎に点滴静注約1,000例に1例で進行性多巣性白質脳症が生じるが、約7割の再発が抑制でき、有効性は高い。NMO病態ではIFN-ßやフィンゴリモドの効果については疑問があり、重篤な再発の誘引となる可能性も報告されている。したがって、ステロイド薬内服や免疫抑制薬(アザチオプリン 50~150mg/日 など)、もしくはその併用が勧められることが多い。この場合、できるだけ少量で維持したいが、抗AQP4抗体高値が必ずしも再発と結びつくわけでなく、治療効果と維持量決定の指標の開発が課題である。最近では、関節リウマチやキャッスルマン病に認可されているトシリズマブ(ヒト化抗IL-6受容体抗体/同:アクテムラ)が強い再発抑制効果を持つことが示され、期待されている。(5)その他の薬剤として以下のものがある。ミトキサントロン:用量依存性の不可逆的な心筋障害が必発であるため、投与可能期間が限定されるグラチラマー(同:コパキソン) :毎日皮下注射(欧米で認可され、わが国でも9月に製造販売承認取得)ONO-4641:フィンゴリモドに類似の薬剤(わが国で治験が進行中)ジメチルフマレート(BG12)(治験準備中)クラドリビン(治験準備中)アレムツズマブ(抗CD52抗体/同:マブキャンパス) (欧米で治験が進行中)リツキシマブ(抗CD20抗体/同:リツキサン) (欧米で治験が進行中)デシリズマブ(抗CD25抗体)(欧米で治験が進行中)テリフルノミド(同:オーバジオ)(欧米で治験が進行中)2)進行抑制一次進行型、二次進行型ともに、慢性進行性の経過を有意に抑制できる方法はない。骨髄移植でも再発は抑制できるが、進行は抑制できない。■ 慢性期の残存障害に対する対症療法疼痛はカルバマゼピン、ガバペンチン、プレガバリンその他抗うつ薬や抗てんかん薬が試されるが、しばしば難治性になる。そのような場合、ペインクリニックでの各種疼痛コントロール法の適用も考慮されるべきである。その他、痙性、不随意運動、排尿障害、疲労感、それぞれに対する薬物療法が挙げられる。4 今後の展望再発抑制に関しては、各種の疾患修飾療法の開発により、かなりの程度可能になっている。しかし、20~30%の患者では再発抑制効果が乏しいこともあり、さらに効果的な薬剤が求められる。慢性に進行するPPMS、SPMSでは、その病態に不明な点が多く、進行抑制方法がまったくないことが課題である。診断と分類に関して、抗AQP4抗体の発見以来、治療反応性や画像的特徴から、NMOがMSから分離される方向にあるが、今後も病態に特徴的なバイオマーカーによるMSの細分類が重要課題である。5 主たる診療科神経内科:診断確定、鑑別診断、急性期管理、寛解期の再発抑制療法、肢体不自由になった場合の障害者認定眼科:視力・視野などの病状評価、鑑別診断、治療の副作用のショック、視覚障害になった場合の障害者認定ペインクリニック:疼痛の対症療法泌尿器科:排尿障害の対症療法整形外科:肢体不自由になった場合の補助具などリハビリテーション科:リハビリテーション全般※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療、研究に関する情報多発性硬化症治療ガイドライン2010(日本神経学会による医療従事者向けの治療ガイドライン)多発性硬化症治療ガイドライン2010追補版(上記の治療ガイドラインの追補版)患者会情報多発性硬化症友の会(MS患者ならびに患者家族の会)1)Polman CH, et al.Ann Neurol.2011;69:292-302.2)Wingerchuk DM, et al. Neurology.2006;66:1485-1489.3)日本神経学会/日本神経免疫学会/日本神経治療学会監修.「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会編.多発性硬化症治療ガイドライン2010. 医学書院; 2010.公開履歴初回2013年03月07日更新2015年10月06日

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エボラ出血熱にまだまだ気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。 本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」(まあ誰も呼んでないんですけどね)は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第11回目となる今回は「エボラ出血熱」についてお話しいたします。エボラ出血熱というと、もはや一昔前に流行った感染症であり、今や時代遅れだなんて思っていませんか? とんでもありません! まだ、エボラとの戦いは終わっていないのですッ!エボラ出血熱の現在の状況それではまず、エボラ出血熱の現在の状況をみてみましょう。2013年末にギニア、シエラレオネ、リベリアの西アフリカ3ヵ国を中心に始まったエボラ出血熱の流行は、2015年9月2日までに2万8,256人の感染者が報告され、1万1,306人が死亡しています(死亡率40.0%)(図)1)。症例の報告数は、一時期指数関数的に増加していましたが、2014年11月以降はそれまで最も感染者が出ていたリベリアでの報告数が減り始め、そのリベリアの報告数を追い越し感染者が増えていたシエラレオネでも、2015年1月にようやく新規の症例報告数が減少に転じ始めました。これも現地で働く医療従事者、そして世界中から支援に駆け付けた医療従事者の懸命な努力のおかげですね。現在、リベリアでは終息宣言が出され、シエラレオネとギニアでも1週間の報告数が10例未満になってきています。これを受けて2015年9月18日に厚生労働省もエボラ出血熱の疑似症の定義を、これまでの「流行国への21日以内の渡航歴+発熱」から「エボラ出血熱に矛盾しない臨床症状+エボラ出血熱患者との接触歴(またはコウモリなどの動物との接触歴)」に変更しました。これまでよりも疑似症の基準の閾値を高くしたことになります。(エボラ出血熱の国内発生を想定した対応について)しかし、まだ完全に終息したわけではありません。流行が完全に終息するまで、日本にいるわれわれも(特に特定・一類感染症指定医療機関で働く医療従事者は)気を抜かずに、いつ輸入症例が入ってきても適切に対処できるように、訓練を続けておく必要があるのですッ!今回の大流行でわかってきたエボラ出血熱の新たな病像かつてない規模となった今回の西アフリカでのエボラ出血熱の大流行によって、これまでに知られていなかったエボラ出血熱の新たな病像が、明らかになってきました。驚異的な致死率であるエボラ出血熱から何とか無事に生還した人々の間で、遷延する食思不振や関節痛・筋肉痛が問題になっています。つい最近の報告では、ギニアでエボラ出血熱に罹患し、生還した105人のうち、103人で遷延する食思不振が、8割以上の人に慢性関節痛が、2割の人に慢性筋肉痛が認められたとのことです2)。このような病態は現地では“Post-Ebola Syndrome”と呼ばれています。このような症状以外にも、視力障害や聴力障害といった後遺症に悩まされている生還者もいるようです。このような病態はデング熱にかかった後の患者さんでも時に散見され“Post Dengue Fatigue Syndrome”と呼ばれることがありますが、デング熱と比較しても頻度・症状の深刻さはずっとタチが悪いようです。生還した人たちをなおも苦しめ続けるエボラ出血熱、やはり恐ろしい感染症です…。発症から約200日経っていても感染しうる?先日、エボラ出血熱に関するある衝撃的な報告が出されました。リベリアのエボラ出血熱生還者と性交渉をもった相手が、エボラ出血熱を発症し、またこの生還者の精液からエボラウイルスが検出されたのです3)。しかもなんとこの生還者がエボラ出血熱を発症したのは、相手が検査をした199日も前だったのですッ!エボラウイルスは精液から長期間検出される、というのは以前からいわれていたことですが、それが199日も続き、また実際に感染力があることがわかった驚異的なレポートでした。2015年5月にリベリアでは、西アフリカ3ヵ国のうち最初のエボラ出血熱終息宣言が出されました。しかし、終息したはずのリベリアで、2015年7月に新規のエボラ出血熱患者が報告されました。当初、単に症例が十分に追跡できていなかっただけではないか、あるいは動物と曝露したことによる感染ではないか、などと推測されていましたが、実は性交渉による感染である可能性も出てきました。というわけで、生還者の体液から長期間ウイルスが検出され続けることがあるということは、いったん終息したようにもみえても、また新規症例が出てくる可能性があるということになります。やはりエボラ出血熱への警戒は、まだまだ続ける必要がありそうです。さて、今回は新興再興感染症の代名詞ともいえるエボラ出血熱について取り上げましたが、次回はおそらく読者のどなたも興味を示さないであろう「ダニ媒介性脳炎」について、わが国での流行の可能性も含めて取り上げたいと思いますッ!1)WHO. Ebola Situation Report-2 Sep 2015.2)Qureshi AI, et al. Clin Infect Dis.2015;61:1035-1042.3)Christie A, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2015;64:479-481.

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2価HPVワクチン、流産リスク増大の根拠なし/BMJ

 2価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの、接種後90日未満の妊娠またはあらゆる時点の妊娠への流産リスクの増大は認められないとの報告が、米国立衛生研究所(NIH)のOrestis A Panagiotou氏らにより発表された。コスタリカ単施設で行われた無作為化二重盲検比較試験の長期フォローアップ観察試験の結果、示された。ただし妊娠13~20週時の流産リスク増大が観察され、著者はこの点を踏まえて、「関連を完全にルールアウトすることはできず、詳細な調査とさらなる検討をすべきであろう」とまとめている。BMJ誌オンライン版2015年9月7日号掲載の報告。ワクチン接種後妊娠3,394例と非接種妊娠3,227例の流産発生を比較 無作為化試験は2価HPVワクチンの有効性と安全性を評価することを目的に、2004年6月~2005年12月にコスタリカの女性18~25歳7,466例を登録して行われた。被験者は、2価HPVワクチン接種(3,727例)群と対照(A型肝炎ワクチン接種)(3,739例)群に無作為に割り付けられ、4年間の試験を完了。その後、長期観察試験(6年間)に組み込まれた(ワクチン接種群2,792例、対照群2,771例)。 長期観察試験では、対照群にさらにワクチン未接種群2,836例が加えられる一方、対照群の2価HPVワクチン接種のクロスオーバー被験者と非クロスオーバー被験者を分類し、最終的に、2価HPVワクチン接種後妊娠3,394例、同非接種妊娠3,227例(A型肝炎ワクチン接種後妊娠2,507例、ワクチン未接種群妊娠720例)について分析評価を行った。 主要エンドポイントは、2価HPVワクチン接種妊娠 vs.A型肝炎ワクチン接種/ワクチン未接種妊娠で比較した、ワクチン接種後90日未満およびあらゆる時点の妊娠における流産(米国CDC規定の妊娠20週以内の胎児喪失)リスクであった。接種後あらゆる時点の妊娠の流産発生との関連は認められず 2価HPVワクチン接種後妊娠3,394例のうち、90日未満妊娠は381例であった。 流産発生は、接種群451例(13.3%)であり、90日未満妊娠群は50例(13.1%)であった。また、非接種群は414例(12.8%)であった(A型肝炎ワクチン群12.6%、未接種群13.6%)。 非接種群と比較した90日未満妊娠群の流産発生の相対リスクは、1.02(95%信頼区間[CI]:0.78~1.34、片側検定p=0.436)であった。同様の結果は、ワクチン接種時の年齢で補正後(相対リスク:1.15、片側検定p=0.17)、妊娠時年齢で補正後(1.03、p=0.422)、また暦年で補正後(1.06、p=0.358)、および層別化解析において認められた。 2価HPVワクチン接種後あらゆる時点での妊娠では、接種とすべての流産またはサブグループの流産リスク増大との関連は、認められなかったが、妊娠13~20週時の流産リスクについて有意な増大がみられた(相対リスク1.35、95%CI:1.02~1.77、片側検定p=0.017)。 以上を踏まえて著者は、「2価HPVワクチンが、ワクチン接種後90日未満妊娠の流産リスクに影響を及ぼすとのエビデンスはない」とまとめたうえで、「ワクチン接種後あらゆる時点の妊娠群における流産リスク増大の推算は、感度分析の設定による可能性がある。しかし、関連の可能性について完全に除外はできず、さらに詳しく調査をすべきであり、さらなる検討が必要と思われる」と述べている。

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デング熱に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。 本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。前回は「国内デング熱は、またいつ発生してもおかしくない」というお話をいたしましたが、今回はどのようなときにデング熱を疑えば良いのか、また診断・治療や予防について考えたいと思います。血液検査で疑うデング熱前回お話ししたように、デング熱はネッタイシマカやヒトスジシマカに刺されることで感染します。おおむね蚊に刺された3~7日後に発熱、頭痛、関節痛といった症状で発症します。嘔気や下痢がみられることもあります。こうした症状は、デング熱に特徴的というよりも、さまざまな感染症でみられる非特異的な症状ですので、臨床症状だけでデング熱を疑うことはかなり難しいと言わざるを得ません。身体所見でも通常これといった特徴的な所見はありません。ちなみにデング熱というと皮疹を想起されるかもしれませんが、デング熱の皮疹は典型的には、解熱する前後の時期に出現しますので、発熱しているときには皮疹はないことのほうが多い点は、注意が必要です。デング熱の皮疹はいわゆる「斑状丘疹」であり、次第に癒合しますが正常の皮膚が「島」のように残るのが特徴で、「White islands in the sea of red」と呼ばれます(図1)。画像を拡大する身体所見ではなかなか診断が難しいため、血液検査で「デング熱らしさ」を疑っていくことになります。デング熱の特徴は「白血球減少」「血小板減少」「CRPがあまり高くない」の3点です1)。ただし、白血球と血小板は、発症して数日は正常値であることもありますので、発症間もない時期では白血球と血小板が正常だからといって、デング熱を除外することはできません。血漿漏出、出血症状には要注意!診断は主に(1)PCR法によるデングウイルスの検出、(2)非構造蛋白(NS1)抗原の検出、(3)IgM抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または有意な上昇)の3つのいずれかによって行います。これらの項目は、デング熱発症からの日数によって陽性となる時期が異なる点で注意が必要です(図2)2)。今年の6月からNS1抗原検査が保険収載されましたが、検査要件や検査機器の問題のため、自施設で検査できる医療機関は限られているのが実情です。このような場合は、保健所に相談して(1)~(3)のいずれかで診断をする必要があります。画像を拡大するデング熱の鑑別診断は多岐にわたりますが、輸入感染症としてのデング熱の鑑別診断で問題となるのは、同じく輸入感染症として頻度の高いマラリア、腸チフス、レプトスピラ症、リケッチア症などです。また、チクングニア熱(第5・7回でも扱いましたね)・ジカ熱という2つの蚊媒介性感染症は、臨床像が非常に似ており、また流行地域も重複しているため輸入感染症としてデング熱を考える際には、これらの感染症も候補に入れる必要があります。国内デング熱としての鑑別診断では、白血球減少・血小板減少を来す発熱疾患、皮疹を呈する感染症というところから、パルボウイルスB19感染症、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)、急性HIV症候群などが挙げられます。デング熱に特異的な治療は、まだありません。したがって輸液を中心とした支持療法が治療の柱となります。デング熱は大半が後遺症を残さず自然治癒する疾患ですが、まれに重症デング、デングショック症候群といった重篤な病態に移行することがあります。この病態に移行する重症化の徴候である、腹痛または圧痛、繰り返す嘔吐、体液貯留所見、粘膜出血、昏睡・不穏、2cm以上の肝腫大、血液検査上のHCTの上昇、急激な血小板の減少といった、いわゆる警告徴候に注意しつつ、経過観察を行う必要があります。とくに解熱する発症5~7日目に血漿漏出、出血症状という症状が出現しやすいため(図3)3)、とくにこの時期は注意しましょう。画像を拡大するやはり大事な防蚊対策デング熱の予防は、チクングニア熱の場合と同様、防蚊対策の徹底です。詳細は第7回「チクングニア熱に気を付けろッ その2」をご参照ください。デングウイルスには4種類あり、一度デング熱に感染しても、違うタイプのデングウイルスに感染することもあります。疫学的に2回目以降は、1回目よりも重症化することが知られていますので、とくに1度感染したことがある患者さんには、防蚊対策の指導を徹底しましょう!というわけで、2回にわたりデング熱の気を付け方についてお送りいたしました。この原稿を執筆中の9月1日時点では、2015年度の国内デング熱症例は報告されていませんが、昨年も8月下旬から症例が報告されていますので、まだまだ油断はできない状況ですッ! 流行を広げないためには早期診断が重要ですので、今年の夏~秋シーズンもデング熱を警戒しておきましょう!さて、次回は「エボラ出血熱の今」について取り上げたいと思います。エボラ出血熱の流行はまだ終わっていませんッ!! 再度エボラ出血熱の情報をアップデートして、万が一の事態に備えておきましょう!1)Kutsuna S, et al. Am J Trop Med Hyg. 2014;90:444-448.2)Simmons CP, et al. N Engl J Med. 2012;366:1423-1432.3)World Health Organization. Dengue: guidelines for diagnosis, treatment, prevention and control - new edition, Geneva 2009.

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1日1回1錠のジェノタイプ1型C型慢性肝炎治療薬 ハーボニー配合錠発売

 ギリアド・サイエンシズ株式会社(以下、ギリアド)は9月1日、ジェノタイプ1型のC型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変におけるウイルス血症改善を適応とするNS5A阻害薬と核酸型NS5Bポリメラーゼ阻害薬の配合剤である「ハーボニー配合錠」(以下、ハーボニー)(一般名:レジパスビル・ソホスブビル配合剤)を発売した。 ハーボニーは、1日1回1錠の経口投与による治療薬で、投与期間も12週間に短縮される。C型慢性肝炎患者を対象とした国内第III相臨床試験では、治療歴、代償性肝硬変の有無、年齢およびNS5Aの耐性変異の有無にかかわらず、100%の著効率(SVR12)を達成している。詳細はギリアド・サイエンシズ株式会社のプレスリリースへ

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特発性肺線維症の死亡率は悪性腫瘍よりも高い

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、特定疾患治療研究事業の対象疾患である「特発性肺線維症」(IPF)の治療薬ニンテダニブ(商品名:オフェブ)の製品記者発表会を、8月20日都内において行った。 ニンテダニブは、本年7月に製造販売を取得、今秋にも発売が予定されている治療薬で、特発性肺線維症では初めての分子標的薬となる。特発性肺線維症は特徴的な所見で気付 はじめに本間 栄氏(東邦大学医学部医学科 内科学講座呼吸器内科学分野 教授)が、「特発性肺線維症 -病態・疫学-」と題してレクチャーを行った。 特発性肺線維症は、肺胞壁などに炎症ができるため抗生物質、ステロイド、免疫抑制薬が効果を発揮しない治療抵抗性の難病である。 画像所見による診断では、X線単純所見で横隔膜の拳上が確認され、HRCT(高分解能胸部断層撮影)で胸膜下に蜂巣肺が確認されるのが特徴となる。また、臨床症状としては、慢性型労作性呼吸困難、乾性咳嗽、捻髪音(ベルクロ・ラ音)、ばち状指、胃食道酸逆流などが認められる。臨床経過で注意するポイントは、本症では急性増悪がみられ、わずか1年で呼吸不全に至る点である。 確定診断では、「特発性間質性肺炎診断のためのフローチャート」が使用され、原因不明のびまん性肺疾患をみたら、特発性肺線維症を疑いHRCT検査の施行、専門施設での診断などが望まれる。特発性肺線維症に喫煙をする高齢の男性は注意 特発性肺線維症の疫学として「北海道スタディ」より有病率は10万人当たり10.0人、わが国での推定患者数は1万3,000人程度と推定されている。男性に多く、中年以降の発症が多いのが特徴で、高齢化社会を背景に患者数は増加している。 予後について5年生存率でみた場合、肺がん(20%未満)に次いで悪く(20~40%未満)、死亡者数も増えている。また、わが国では患者の40%が「急性増悪」で亡くなっているほか、特発性肺線維症は発がん母地ともなり、30%程度の患者が肺がんへと進行する。 特発性肺線維症のリスクファクターは、患者関連因子と環境関連因子に分けられ、前者では、男性、高齢、喫煙、特定のウイルス(例:EBウイルス)、遺伝的素因、胃食道逆流などが挙げられ、後者では動物の粉塵曝露、鳥の飼育、理髪、金属や木材、石などの粉塵が挙げられる。問診などで社会歴も含め、よく聴取することが診断の助けとなる。特発性肺線維症治療の歴史 続いて、杉山 幸比古氏(自治医科大学 呼吸器内科 教授)が、「特発性肺線維症治療の現状と将来展望」と題して、解説を行った。 はじめに特発性肺線維症の病因として慢性的な刺激による肺胞上皮細胞傷害が、傷害の修復異常・線維化を引き起こすという考えに基づき、抗線維化薬の開発が行われた経緯などを説明した。 効果的な治療薬がない中で、吸入薬であるアセチルシステイン(商品名:ムコフィリン)は、導入薬としてながらく、安全かつ有害事象が少ない、安価な治療薬として使用されてきたことを紹介する一方で、経口薬で行われた海外の試験では効果が否定的とされたことと、ネブライザーでの吸入が必要なことで、コンプライアンスに問題があることを指摘した。 次に2008年に初めての抗線維化薬として登場したのが、ピルフェニドン(同:ピレスパ)であり、欧米で広く使用され、無増悪生存期間を延長し、呼吸機能の低下を抑制することが知られていると説明した。本剤の開発がきっかけとなり、世界的に抗線維化薬の開発が進んだ。特発性肺線維症に抗線維化薬で初めての分子標的薬 次に登場したのが、ニンテダニブ(同:オフェブ)である。ニンテダニブは、肺の線維化に関与する分子群受容体チロシンキナーゼを選択的に阻害する分子標的薬で、25ヵ国が参加した第II相試験では、用量依存的に努力性肺活量(FVC)の低下率を68.4%抑制し、急性増悪を有意に低下させたほか、QOLの有意な改善を認めたとする結果が報告された。また、第III相試験では、40歳以上の軽症~中等の特発性肺線維症患者、約1,000例について観察した結果、プラセボとの比較でFVCの年間減少率を約半分に抑える結果となった(-113.6% vs. -225.5%)。また、373日間の期間で初回急性増悪発現までの割合を観察した結果、ニンテダニブが1.9%(n=638)であるのに対し、プラセボでは5.7%(n=423)と急性増悪の発生を抑えることも報告された。 主な有害事象としては、下痢(62.4%)、悪心(24.5%)、鼻咽頭炎(13.6%)などが報告されている(n=638)。とくに下痢に関しては、対症療法として補液や止瀉薬の併用を行うか、さらに下痢が高度な場合は、ニンテダニブの中断または中止が考慮される。 今後は、国際ガイドラインでも推奨されているように広く適用があれば使用すべきと考えられるほか、がんとの併用療法も視野に入れた治療も考える必要がある。 最後に特発性肺線維症治療の展望と課題として、「線維化の機序のさらなる解明、急性増悪因子の解明とその予防、患者ごとに治療薬の使い分けと併用療法の研究、再生医療への取り組みなどが必要と考えられる」とレクチャーを終えた。

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ネットによる手洗い行動介入は気道感染症の抑制に有効/Lancet

 インターネットを利用して手洗い行動を促す介入法は、気道感染症の拡大の抑制に有効であることが、英国・サウサンプトン大学のPaul Little氏が実施したPRIMIT試験で示された。手洗いは、気道感染症の拡大予防に広く支持され、とくに新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスのパンデミック(pandemic)の際には世界保健機関(WHO)が推奨した。一方、主な感染経路は飛沫とする見解があるなど、手洗いの役割については議論があり、また非貧困地域の成人に関する質の高い無作為化試験のエビデンスはこれまでなかったという。さらに、パンデミックのリスクの増大に伴い、迅速に利用できる低コストの介入法が求められている。Lancet誌オンライン版2015年8月6日号掲載の報告。プライマリケアでのネット介入の効果を検証 PRIMIT試験は、プライマリケアにおいて、手洗い行動へのインターネットを用いた介入(https://www.lifeguideonline.org/player/play/primitdemo)による気道感染症の拡大の抑制効果を評価するオープンラベルの無作為化試験(英国Medical Research Councilの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、1人以上の同居者がいる者とし、英国の一般医(GP)の患者リストから無作為に選んで、インフルエンザの感染拡大を防止する試験への参加を呼びかける書面を郵送した。被験者は、ウェブベースの介入を受ける群(介入群)またはこれを受けない群(対照群)に無作為に割り付けられた。 ウェブベースのセッションは週1回、合計4回行われ、内容は毎回更新された。セッションでは、インフルエンザの重要性や手洗いの役割に関する情報が提供された。また、手洗いの意欲を最大化する計画を立て、手洗い行動を管理し、個々の参加者に合わせたフィードバックを行うなどの介入が行われた。 主要評価項目は16週のフォローアップを完了した集団における気道感染症のエピソードであった。感染率:51 vs.59%、パンデミック期にも有効な可能性 2011年1月17日~2013年3月31日までに、英国内各地域344ヵ所のGP施設に2万66例が登録され、介入群に1万40例、対照群に1万26例が割り付けられた。このうち1万6,908例(84%、介入群8,241例、対照群8,667例)が16週のフォローアップを完了した。 16週時に、介入群の51%(4,242例)が1回以上の気道感染症のエピソードを報告したのに対し、対照群は59%(5,135例)であり、介入による有意な感染抑制効果が認められた(多変量リスク比[mRR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.83~0.89、p<0.0001)。 同居者の気道感染症エピソード(44 vs.49%、mRR:0.88、95%CI:0.85~0.92、p<0.0001)、インフルエンザ様疾患(6 vs.7%、0.80、0.72~0.92、p=0.001)、消化器感染症(21 vs.25%、0.82、0.76~0.88、p<0.0001)も、介入群で有意に抑制された。 介入により、気道感染症は同居者への感染だけでなく同居者からの感染も抑制された。また、16週および1年後のプライマリケアにおける抗菌薬の使用、および気道感染症によるプライマリケアでのコンサルテーションや入院も、介入群で有意に改善された。 試験期間中に両群2人ずつが感染症で入院した。ベースライン時に皮膚症状を認めなかった集団では、介入に伴い軽度の皮膚症状(自己申告)が増加した(4%[231/5,429例] vs.1%[79/6,087例]、p<0.0001)が、皮膚関連のコンサルテーションに影響はなかった。重篤な有害事象は報告されなかった。 著者は、「気道感染症やインフルエンザ様疾患では手から口への感染が重要であり、非パンデミック期における手洗い行動の増加を目指した簡便なインターネットベースの行動介入は、急性気道感染症の抑制に有効であることが示された」とし、「パンデミック期には、より関心が高まり、情報を求めてインターネットへのアクセスが増加することを考慮すると、このような介入はパンデミック期にも効果的に実施可能と考えられる」と指摘している。

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巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)〔GCA : giant cell arteritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis:GCA)は、大動脈とその分枝の中~大型動脈に起こる肉芽腫性血管炎である。頸動脈の頭蓋外の動脈(とくに側頭動脈)が好発部位のため、以前は、側頭動脈炎(temporal arteritis:TA)といわれた。発症年齢の多くは50歳より高齢であり、しばしばリウマチ性多発筋痛症(PMR)を合併する。1890年HunchingtonらがTAの症例を報告し、1931年にHortonらがTAの臨床像や病理学的特徴を発表したことからTAとしての古い臨床概念が確立し、また、TAは“Horton’s disease”とも呼ばれてきた。その後1941年Gilmoreが病理学上、巨細胞を認めることから“giant cell chronic arteritis”の名称が提唱された。この報告により「巨細胞性動脈炎(GCA)」の概念が確立された。GCAは側頭動脈にも病変を認めるが、GCAのすべての症例が側頭動脈を傷害するものではない。また、他の血管炎であっても側頭動脈を障害することがある。このためTAよりもGCAの名称を使用することが推奨されている。■ 疫学 1997年の厚生省研究班の疫学調査の報告は、TA(GCA)の患者は人口10万人当たり、690人(95%CI:400~980)しか存在せず、50歳以上では1.48人(95%CI: 0.86~2.10)である。人口10万人当たりの50歳以上の住民のGCA発症率は、米国で200人、スペインで60人であり、わが国ではTA(GCA)は少ない。このときの本邦のTA(GCA)の臨床症状は欧米の症例と比べ、PMRは28.2%(欧米40~80%)、顎跛行は14.8%(8~50%)、失明は6.5%(15~27%)、脳梗塞は12.1%(27.4%)と重篤な症状はやや少ない傾向であった。米国カリフォルニア州での報告では、コーカシアンは31症例に対して、アジア人は1例しか検出されなかった。中国やアラブ民族でもGCAはまれである。スカンジナビアや北欧出身の家系に多いことが知られている。■ 病因病因は不明であるが、環境因子よりも遺伝因子が強く関与するものと考えられる。GCAと関連が深い遺伝子は、HLA-DRB1*0401、HLA-DRB1*0404が報告され、約60%のGCA症例においてどちらかの遺伝子を有する。わが国の一般人口にはこの2つの遺伝子保持者は少ないため、GCAが少ないことが推定される。■ 症状全身の炎症によって起こる症状と、個別の血管が詰まって起こる症状の2つに分けられる。 1)全身炎症症状発熱、倦怠感、易疲労感、体重減少、筋肉痛、関節痛などの非特異的な全身症状を伴うので、高齢者の鑑別診断には注意を要する。2)血管症状(1)頸部動脈:片側の頭痛、これまでに経験したことがないタイプの頭痛、食べ物を噛んでいるうちに、顎が痛くなって噛み続けられなくなる(間歇性下顎痛:jaw claudication)、側頭動脈の圧痛や拍動頸部痛、下顎痛、舌潰瘍など。(2)眼動脈:複視、片側(両側)の視力低下・失明など。(3)脳動脈:めまい、半身の麻痺、脳梗塞など。(4)大動脈:背部痛、解離性大動脈瘤など。(5)鎖骨下動脈:脈が触れにくい、血圧に左右差、腕の痛みなど。(6)冠動脈:狭心症、胸部痛、心筋梗塞など。(7)大腿・下腿動脈:間歇性跛行、下腿潰瘍など。3)合併症約30%にPMRを合併する。高齢者に起こる急性発症型の両側性の頸・肩、腰の硬直感、疼痛を示す。■ 分類側頭動脈や頭蓋内動脈の血管炎を呈する従来の側頭動脈炎を“Cranial GCA”、大型動脈に病変が認められるGCAを“Large-vessel GCA”とする分類法が提唱されている。大動脈を侵襲するGCAは、以前、高安動脈炎の高齢化発症として報告されていた経緯がある。GCA全体では“Cranial GCA”が75%である。“Large-vessel GCA”の中では、大動脈を罹患する型が57%、大腿動脈を罹患する型が43%と報告されている(図)。画像を拡大する■ 予後1998年の厚生省全国疫学調査では、治癒・軽快例は87.9%であり、生命予後は不良ではない。しかし、下記のように患者のQOLを著しく阻害する合併症がある。1)各血管の虚血による後遺症:失明(約10%)、脳梗塞、心筋梗塞など。2)大動脈瘤、その他の動脈瘤:解離・破裂の危険性に注意を要する。3)治療関連合併症:活動性制御に難渋する例では、ステロイドなどの免疫抑制療法を反復せねばならず、治療関連合併症(感染症、病的骨折、骨壊死など)で臓器や関連の合併症にてQOLが不良になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1990年米国リウマチ学会分類基準に準じる。5項目のうち3項目を満足する場合、GCAと分類する(感度93.5、特異度91.2%)。厚生労働省の特定疾患個人調査票(2015年1月)は、この基準にほぼ準拠している。5項目のうち3項目を満足する場合に、GCAと診断される(表1)。画像を拡大する■ 検査1)血液検査炎症データ:白血球増加、赤沈亢進、CRP上昇、症候性貧血など。CRP赤沈は疾患活動性を反映する。2)眼底検査必須である。虚血性視神経症では、視神経乳頭の虚血性混濁浮腫と、網膜の綿花様白斑(軟性白斑)を認める。3)動脈生検適応:大量ステロイドなどのリスクの高い免疫抑制治療の適応を決めるために、病理学的検討を行うべきである。ただし、進行性の視力障害など、臨床経過から治療を急ぐべきと判断される場合は、ステロイド治療開始を優先し、側頭動脈生検が治療開始の後でもかまわない。側頭動脈生検の実際:症状が強いほうの側頭動脈を局所麻酔下で2cm以上切除する。0.5mmの連続切片を観察する。病理組織像:中型・大型動脈における(1)肉芽腫性動脈炎(炎症細胞浸潤+多核巨細胞+壊死像)、(2)中膜と内膜を画する内弾性板の破壊、(3)著明な内膜肥厚、(4)進行期には内腔の血栓性閉塞を認める。病変は分節状に分布する(skip lesion)。動脈生検で巨細胞を認めないこともある。4)画像検査(1)血管エコー:側頭動脈周囲の“dark halo”(浮腫性変化)はGCAに特異的である。(2)MRアンギオグラフィー(MRA):非侵襲的である。頭蓋領域および頭蓋領域外の中型・大型動脈の評価が可能である。(3)造影CT/3D-CT:解像度でMRAに優る。全身の血管の評価が可能である。3次元構築により病変の把握が容易である。高齢者・腎機能低下者には注意すること。(4)血管造影:最も解像度が高いが、侵襲的である。高齢者・腎機能低下者には注意すること。(5)PET-CT(2015年1月現在、保険適用なし):質的検査である。血管壁への18FDGの取り込みは、血管の炎症を反映する。ただし動脈硬化性病変でもhotになることがある。5)心エコー・心電図など:心合併症のスクリーニングを要する。■ 鑑別診断1)高安動脈炎(Takayasu arteritis:TAK)欧米では高安動脈炎とGCAを1つのスペクトラムの中にある疾患で、発症年齢の約50歳という違いだけで分類するという考えが提案されている。しかし、両疾患の臨床的特徴は、高安動脈炎がより若年発症で、女性の比率が高く(約1:9)、肺動脈病変・腎動脈病変・大動脈の狭窄病変が高頻度にみられ、PMRの合併はみられず、潰瘍性大腸炎の合併が多く、HLA-B*52と関連する。また、受診時年齢と真の発症年齢に開きがある症例もあるので注意を要する。現時点では発症年齢のみで分けるのではなく、それぞれGCAとTAKは1990年米国リウマチ学会分類基準を参考にすることになる。2)動脈硬化症動脈硬化症は、各動脈の閉塞・虚血を来しうる。しかし、新規頭痛、顎跛行、血液炎症データなどの臨床的特徴が異なる。GCAと動脈硬化症は共存しうる。3)感染性大動脈瘤(サルモネラ、ブドウ球菌、結核など)、心血管梅毒細菌学的検査などの感染症の検索を十分に行う。4)膠原病に合併する大動脈炎など(表2)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の目標は、(1)全身炎症症状の改善、(2)臓器不全の抑制、(3)血管病変の進展抑制である。ステロイド(PSL)は強い抗炎症作用を有し、GCAにおいて最も確実な治療効果を示す標準治療薬である。■ 急性期ステロイド初期量:PSL 1mg/kg/日が標準とされるが、症状・合併症に応じて適切な投与量を選択すること。2006~2007年度の診療ガイドラインでは、下記のように推奨されている。とくに、高齢者には圧迫骨折合併に注意する必要がある。1)眼症状・中枢神経症状・脳神経症状がない場合:PSL 30~40 mg/日。2)上記のいずれかがある場合:PSL 1mg/kg/日。■ 慢性期ステロイド漸減:初期量のステロイドにより症状・所見の改善を認めたら、初期量をトータルで2~4週間継続したのちに、症状・赤沈・CRPなどを指標として、ステロイドを漸減する。2006~2007年度の診療ガイドラインにおける漸減速度を示す。1)PSL換算20mg/日以上のとき:2週ごとに10mgずつ漸減する。2)PSL換算10~20mg/日のとき:2週ごとに2.5mgずつ漸減する。3)PSL換算10mg/日以下のとき:4週ごとに1mgずつ、維持量まで漸減する。重症例や活動性マーカーが遷延する例では、もう少しゆっくり漸減する。■ 寛解期ステロイド維持量:維持量とは、疾患の再燃を抑制する必要最小限の用量である。2006~2007年度の診療ガイドラインでは、GCAへのステロイド維持量はPSL換算10mg/日以下とし、通常、ステロイドは中止できるとされている。しかし、GCAの再燃例がみられる場合もあり、GCAに合併するPMRはステロイド減量により再燃しやすい。■ 増悪期ステロイドの再増量:再燃を認めたら、通常、ステロイドを再増量する。標的となる臓器病変、血管病変の進展度、炎症所見の強度を検討し、(1)初期量でやり直す、(2)50%増量、(3)わずかな増量から選択する。免疫抑制薬併用の適応:免疫抑制薬はステロイドとの併用によって相乗効果を発揮するため、下記の場合に免疫抑制薬をステロイドと併用する。1)ステロイド効果が不十分な場合2)易再燃性によりステロイド減量が困難な場合免疫抑制薬の種類:メトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミドなど。■ 経過中に注意すべき合併症予後に関わる虚血性視神経症、脳動脈病変、冠動脈病変、大動脈瘤などに注意する。1)抗血小板薬脳心血管病変を伴うGCA患者の病変進展の予防目的で抗血小板薬が用いられる。少量アスピリンがGCA患者の脳血管イベントおよび失明のリスクを低下させたという報告がある。禁忌事項がない限り併用する。2)血管内治療/血管外科手術(1)各動脈の高度狭窄ないし閉塞により、重度の虚血症状を来す場合、血管内治療によるステント術か、バイパスグラフトなどによる血管外科手術が適応となる。(2)大動脈瘤やその他の動脈瘤に破裂・解離の危険がある場合も、血管外科手術の適応となる。4 今後の展望関節リウマチに保険適用がある生物学的製剤を、GCAに応用する試みがなされている(2015年1月現在、保険適用なし)。米国GiACTA試験(トシリズマブ)、米国AGATA試験(アバタセプト)などの治験が行われている。わが国では、トシリズマブの大型血管炎に対する治験が進行している。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科、循環器内科、眼科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 巨細胞性動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)今日の臨床サポート 巨細胞性動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)J-STAGE(日本臨床免疫学会会誌) 巨細胞性動脈炎(医療従事者向けのまとまった情報)2006-2007年度合同研究班による血管炎症候群の診療ガイドライン(GCAについては1285~1288参照)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Grayson PC, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1329-1334.3)Maksimowicz-Mckinnon k,et al. Medicine. 2009;88:221-226.4)Luqmani R. Curr Opin Cardiol. 2012;27:578-584.5)Kermani TA, et al. Curr Opin Rheumatol. 2011;23:38-42.

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事例67 クリンダマイシンリン酸エステルゲル(商品名:ダラシンTゲル)の査定【斬らレセプト】

解説事例では、ニキビの腫れ、痛みで受診、鼻周囲膿瘍と鼻腔への浸出液がみられたため「毛包炎」と診断、クリンダマイシン酸エステルゲル(ダラシンTゲル®)を処方したところ、C事由(医学的理由による不適当)として査定となった。その理由を調べてほしいと連絡があった。使用されたクリンダマイシン酸エステルゲル(ダラシンTゲル®)の添付文書をみてみる。抗菌薬に分類され、適応菌種は「クリンダマイシンに感性のブドウ球菌属、アクネ菌」に限定されている。適応疾患は「ざ瘡(化膿性炎症を伴うもの)」のみであった。毛包炎に適応はなかった。医師は「毛包炎とざ瘡は同じような疾患であって、事例の場合は薬剤が著効した」と説明した。しかし、レセプトの実日数は1日であり、細菌検査のコメントもなく、医師の説明を読み取るすべがない。その旨を説明し、適応疾患のない薬剤投与は原則として査定されるので、添付文書を意識した投与をお願いした。

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ASPECT-cUTI試験:複雑性尿路感染症におけるセフトロザン/タゾバクタムの治療効果~レボフロキサシンとの第III相比較試験(解説:吉田 敦 氏)-401

 腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症の治療は、薬剤耐性菌の増加と蔓延によって選択できる薬剤が限られ、困難な状況に直面している。セファロスポリン系の注射薬であるセフトロザンとタゾバクタムの合剤である、セフトロザン/タゾバクタムは、βラクタマーゼを産生するグラム陰性桿菌に効果を有するとされ、これまで腹腔内感染症や院内肺炎で評価が行われてきた。今回、複雑性尿路感染症例を対象とした第III相試験が行われ、その効果と副作用が検証され、Lancet誌に発表された。用いられたランダム化比較試験 成人に1.5 gを8時間ごとに投与を行った、ランダム化プラセボ対照二重盲検試験であり、欧州・北米・南米など25ヵ国で実施された。膿尿があり、複雑性下部尿路感染症ないし腎盂腎炎と診断された入院例を、ランダムにセフトロザン/タゾバクタム投与群と高用量レボフロキサシン投与群(750mg /日)に割り付けた。投与期間は7日間とし、微生物学的に菌が証明されなくなり、かつ、治療開始5~9日後に臨床的に治癒と判断できた状態をエンドポイントとした(Microbiological modified Intention-to-treat:MITT)。同時に、合併症・副作用の内容と出現頻度を比較した。レボフロキサシンに対して優れた成績 参加した1,083例のうち、800例(73.9%)で治療開始前の尿培養などの条件が満たされ、MITT解析を行った。うち656例(82.0%)が腎盂腎炎であり、2群間で年齢やBMI、腎機能、尿道カテーテル留置率、糖尿病・菌血症合併率に差はなかった。また776例は単一菌の感染であり、E. coliがほとんどを占め(629例)、K. pneumoniae(58例)、P. mirabilis(24例)、P. aeruginosa(23例)がこれに次いだ。なお、開始前(ベースライン)の感受性検査では、731例中、レボフロキサシン耐性は195例、セフトロザン/タゾバクタム耐性は20例に認めた。 結果として、セフトロザン/タゾバクタム群の治癒率は76.9%(398例中306例)、レボフロキサシン群のそれは68.4%(402例中275例)であり、さらに尿中の菌消失効果もセフトロザン/タゾバクタム群が優れていることが判明した。菌種別にみても、ESBL産生大腸菌の菌消失率はセフトロザン/タゾバクタムで75%、レボフロキサシンで50%であった。合併症と副作用に及ぼす影響 セフトロザン/タゾバクタム群では34.7%、レボフロキサシン群では34.4%で何らかの副作用が報告された。ほとんどは頭痛や消化器症状など軽症であり、重い合併症(腎盂腎炎や菌血症への進行、C. difficile感染症など)はそれぞれ2.8%、3.4%であった。副作用の内容を比べると、下痢や不眠はレボフロキサシン群で、嘔気や肝機能異常はセフトロザン/タゾバクタム群で多かった。今後のセフトロザン/タゾバクタムの位置付け セフトロザン/タゾバクタムは抗緑膿菌作用を含む幅広いスペクトラムを有し、耐性菌の関与が大きくなっている主要な感染症(複雑性尿路感染症、腹腔内感染症、人工呼吸器関連肺炎)で結果が得られつつある。今回の検討は、尿路感染症に最も多く用いられているフルオロキノロンを対照に置き、その臨床的・微生物効果を比較し、セフトロザン/タゾバクタム群の優位性と忍容性を示したものである。 しかしながら、ベースラインでの耐性菌の頻度からみれば、レボフロキサシン群の効果が劣るのは説明可能であるし、尿路の基礎疾患(尿路の狭窄・閉塞)による治療効果への影響についても本報告はあまり言及していない。そもそも緑膿菌も、さらにESBL産生菌も視野に入れた抗菌薬を当初から開始することの是非は、今回の検討では顧みられていない。また、腸管内の嫌気性菌抑制効果も想定され、これが常在菌叢の著しいかく乱と、カルバぺネム耐性腸内細菌細菌のような耐性度の高いグラム陰性桿菌の選択に結び付くことは十分ありうる。実際に、治療開始後のC. difficile感染症はセフトロザン/タゾバクタム群でみられている。 セフトロザン/タゾバクタムをいずれの病態で使用する場合でも、その臨床応用前に、適応について十分な議論がなされることを期待する。販売し、いったん市場に委ねてしまうと、適応は不明確になってしまう。本剤のような抗菌薬は、適応の明確化のみならず、使用期間の制限が必要かもしれない。

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デング熱に気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気をつけろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そしてときにまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。今回はついに、この「気を付けろッ!」の大本命、デング熱の気を付け方について考えたいと思います。総まくりデングウイルスの基礎知識デング熱といえば、ご存じのとおり昨年日本でも大流行を起こした感染症であります。2014年は、日本国内で感染したと考えられるデング熱患者が162人も診断されました1)。デング熱は、基本的に自然に治癒する感染症ですので、すべての患者が病院を受診しているとは限りません。診断されていない症例はもっといるだろうと想像されます。熱帯・亜熱帯地域でデング熱を媒介しているのは主にネッタイシマカAedes aegyptiですが、日本では成田空港で見つかったことがあるのみです。したがって、今回のアウトブレイクの原因となった媒介蚊はヒトスジシマカAedes albopictusであり、日本の広い地域に分布しています。温暖化の影響により、ヒトスジシマカの分布域は北上しており、現在では本州(青森県以南)から 四国、九州、沖縄まで広く分布していることが確認されています(図)。画像を拡大する昨年の流行は、代々木公園(東京都渋谷区)から始まりました。最終的には代々木公園以外の場所で感染したと推定される患者さんも報告されましたが、大半は代々木公園で感染したと推定される症例ばかりでした。最初にデングウイルスを日本に持ち込んだのが、日本人旅行者であったのか、外国人旅行者であったのかはわかりませんが、とにかく海外でデングウイルスに感染した人が日本で発症し、代々木公園でヒトスジシマカに刺されたことによって、代々木公園のヒトスジシマカがデングウイルスを持つようになったのだと考えられます。このヒトスジシマカが代々木公園を訪れた人々を刺すことによって、海外渡航歴のない人もデングウイルスに感染し、デング熱を発症することになったのです。デングウイルスの爆発的な広がり具合からして、おそらく最初に持ち込んだ人は、代々木公園で一度ではなく何度も蚊に刺されたのだろうと想像します。今年の代々木公園は大丈夫か?「なぜ流行の起点が、代々木公園であったのか?」というと「たまたま代々木公園だった」ともいえますが、やはりいくつかの理由があると考えられます。1つは人と蚊が密集している場所であるということです。デング熱は、蚊を介して人から人にうつっていく感染症ですが、代々木公園はこの「人→蚊→人」のサイクルが作られやすい環境にある公園といえます。都会の中心に位置するため、連日多くの人々が集まりますし、多くの木々や水たまりは蚊の発生しやすい環境です。また、代々木公園では、毎週のように週末にはイベントが催されています。表は、アウトブレイク前夜に代々木公園で行われていたイベントの一覧です。画像を拡大するブラジルフェスティバルだの、タイフェアだの、デング熱が流行している国をフィーチャリングしたイベントの開催があったことが、おわかりいただけたかと思います。これは1つの可能性に過ぎませんが、もしかしたらこれらの国からイベントに参加した人が、デングウイルスを持ち込んだ可能性もあるのかもしれません。ちなみに最近の調査によりますと、東京都の蚊への対策のかいもあって、今年の代々木公園は蚊が昨年よりもかなり少ないと聞いております。しかし、代々木公園の蚊は減っているとはいえ、今年もデング熱の国内流行が起こる可能性は十分にありますッ! 昨年の大流行からさらにさかのぼること1年前、2013年に日本で、デング熱に感染したと考えられるドイツ人女性が、報告されたのを覚えていらっしゃいますでしょーか3)。すでに2013年には、日本国内にデングウイルスを持った蚊はいたと考えられます。また、昨年の162例の感染例のうち熱海市で報告された1例は、その他の症例とは起源の異なる株であることもわかっています。つまり、この2年間に日本国内には、3つのデングウイルスが侵入していたことになるのですッ!! 蚊は、日本では越冬できないためデングウイルスも冬にはいなくなると考えられていますが、今シーズンもデングウイルスが日本国内に持ち込まれる可能性は、十分にありますッ!さて、それでは次回は、どのようなときにデング熱を疑えば良いのか、また治療はどうするのかについて考えたいと思います。1)Kutsuna S, et al. Emerg Infect Dis. 2015;21:517-520.2)厚生労働省.デング熱国内感染事例発生時の対応・対策の手引き 地方公共団体向け(第1版).3)Schmidt-Chanasit J, et al. Euro Surveill. 2014;19:20681.

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小児へのデング熱ワクチン、効果あるも年齢差/NEJM

 2~16歳児を接種対象とした長期サーベイランス中のデング熱ワクチン(遺伝子組み換え型生減弱4価タイプ:CYD-TDV)について、3年時点の中間解析結果が発表された。同期間中の全被験者リスクは、ワクチン接種群が対照群よりも低下したが、9歳未満児で原因不明の入院リスクの上昇がみられたという。インドネシア大学のSri Rezeki Hadinegoro氏らCYD-TDVデング熱ワクチンワーキンググループが、アジア太平洋およびラテンアメリカでそれぞれ行われている3件の無作為化試験の結果を統合分析して報告した。NEJM誌オンライン版2015年7月27日号掲載の報告。2~16歳児3万5,000例超を対象にサーベイランス進行中 デング熱ワクチンは現在、両地域の2~16歳児3万5,000例超を対象とした3件の臨床試験が行われている。2件は第III相無作為化試験で、アジア太平洋地域で2~14歳児を(CYD14試験)、ラテンアメリカで9~16歳児を(CYD15試験)対象とし、計3万1,000例超が参加。ワクチンの接種は3回(0、6ヵ月、12ヵ月)で、25ヵ月間(接種完了後13ヵ月)の有効性サーベイランスフェーズの評価後、長期フォローアップフェーズ(接種後3~6年)に移行し、安全性の評価(ウイルス学的に確認されたデング熱による入院発生をエンドポイント)が行われている。 もう1件はタイ共和国の1施設で行われている第IIb相の試験で、方法は同様に4~11歳4,002例が参加し(CYD23試験)、その後4年間のフォローアップフェーズでの安全性評価が行われている(CYD57)。 研究グループは、25ヵ月時点のプールデータから、ワクチンの有効性について分析した。入院発生の相対リスク、9歳以上0.50に対して9歳未満は1.58、全年齢は0.84と低下 分析データは、CYD14試験の被験者1万275例中1万165例(99%)、CYD15試験は2万869例中1万9,898例(95%)、およびCYD23試験(4,002例)からCYD57試験に組み込まれた3,203例(80%)について入手できた。 統合解析の結果、ウイルス学的入院が確認できたデング熱症例は、ワクチン接種群2万2,177例中65例、対照群1万1,089例中39例であった。対照群との比較による接種群のプール相対リスクは、全被験者では0.84(95%信頼区間[CI]:0.56~1.24)だった。ただし9歳未満では1.58(同:0.83~3.02)、9歳以上では0.50(同:0.29~0.86)で9歳未満での発生が高率だった。 また、独立モニタリング委員会の定義による重症のデング熱入院例は、3年間でワクチン接種群2万2,177例中18例、対照群1万1,089例中6例であった。 25ヵ月間の症候性デング熱に対するワクチンのプール有効率は、全被験者60.3%(95%CI:55.7~64.5)、9歳以上では65.6%(同:60.7~69.9)、9歳未満は44.6%(同:31.6~55.0)であった。 著者は、「2~16歳児のリスクは、対照群よりも接種群で低下が認められた。しかし、原因は不明だが9歳未満において3年間のデング熱入院発生率が高く、長期フォローアップでの注意深い観察が必要である」とまとめている。

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慢性HBV感染の有病率、初の世界的分析結果/Lancet

 世界の慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染症の有病率は3.61%であり、アフリカおよび日本を含む西太平洋地域が最も高率であることなどが、ドイツ・ヘルムホルツ感染症研究センターのAparna Schweitzer氏らにより明らかにされた。世界的分析結果は初となるもので、研究グループは、1965~2013年の発表データを系統的にレビューし、プール解析を行った。Lancet誌オンライン版2015年7月28日号掲載の報告。1965~2013年の発表データを系統的にレビュー レビューは、1965年1月1日~2013年10月23日のMedline、Embase、CAB Abstracts(Global health)、Popline、Web of Scienceのデータベースを検索し、血清疫学データが入手できた国で一般集団に占めるHBV有病率(B型肝炎表面抗原[HBsAg]例)を報告している論文を適格とした。 各国のHBsAg有病率を、95%信頼区間[CI]値(試験サイズで加重)とともに推算し、また、2010年の国連人口統計を用いて、慢性HBV感染者数を算出した。世界で約2億4,800万人がHBsAg陽性と推計 検索により1万7,029件の文献を調べ、161ヵ国をカバーする1,800本のHBsAg有病率に関する報告が入手できた。 世界のHBsAgでみた慢性HBV感染症の有病率は、3.61%(95%CI:3.61~3.61)だった。WHOの6つの地域分類でみた結果、高率の地域はアフリカ(同地域の全体推計有病率8.83%、95%CI:8.82~8.83)と、日本を含む西太平洋(同:5.26%、5.26~5.26)だった。 また低率の地域でも、国によって有病率にばらつきがみられた。アメリカ地域では、メキシコの0.20%(同:0.19~0.21)からハイチの13.55%(同:9.00~19.89)まで、アフリカ地域ではセーシェル諸島の0.48%(同:0.12~1.90)から南スーダンの22.38%(同:20.10~24.83)までの差がみられた。 2010年の世界のHBsAg陽性者は、約2億4,800万人と推計された。 なお、日本の推定有病率は1.02%(同:1.01~1.02)、陽性者129万4,431例と報告されており、同地域では3番目に低かった。同地域で最も低率だったのはオーストラリアの0.37%。隣国では中国が5.49%、韓国は4.36%と報告されている。

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