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帯状疱疹の新規ワクチンの有効性、70歳以上では9割/NEJM

 組換え水痘帯状疱疹ウイルス糖蛋白EとAS01Bアジュバントを組み合わせた帯状疱疹サブユニットワクチン(HZ/su)の70歳以上高齢者に対する予防効果について、帯状疱疹の有効性は約91%、帯状疱疹後神経痛に対する有効性は約89%であることが示された。オーストラリア・シドニー大学のA.L.Cunningham氏らが、約1万4,000例を対象に行った第III相のプラセボ対照無作為化比較試験「ZOE-70」の結果で、NEJM誌2016年9月15日号で発表した。すでに、50歳以上を対象にHZ/suの有効性について検証した「ZOE-50」試験では、帯状疱疹リスクがプラセボに比べ97.2%減少したことが示されていた。ワクチンを2ヵ月間隔で2回投与 研究グループは18ヵ国で集めた70歳以上の成人1万3,900例を無作為に2群に分け、一方にはHZ/suを、もう一方にはプラセボを、2ヵ月間隔で2回、筋肉投与した。 すでに実施済みのZOE-50試験と、今回の試験を合わせて、70歳以上への帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛へのワクチンの有効性について検証を行った。ワクチン有効性、帯状疱疹は91.3%、帯状疱疹後神経痛は88.8% ZOE-70被験者の平均年齢は75.6歳だった。 追跡期間中央値3.7年の期間中、帯状疱疹を発症したのは、プラセボ群223例だったのに対し、HZ/su群は23例と大幅に減少した(発症率はそれぞれ、9.2/1,000人年、0.9/1,000人年)。 帯状疱疹に対するワクチンの有効率は89.8%(95%信頼区間:84.2~93.7、p<0.001)で、70~79歳では90.0%、80歳以上では89.1%で、高年齢でも有効性は同等だった。 ZOE-50の70歳以上の被験者とZOE-70の被験者の計1万6,596例についてプール解析をしたところ、帯状疱疹に対するワクチン有効率は91.3%(同:86.8~94.5、p<0.001)、帯状疱疹後神経痛への有効率は88.8%(同:68.7~97.1、p<0.001)だった。 なお、接種後7日以内の自発的ではない注射部位や全身反応の報告は、HZ/su群(79.0%)のほうがプラセボ群(29.5%)よりも高率だった。一方で、重篤有害事象や免疫が介在していると考えられる疾患、死亡については、両群で同等だった。

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亜急性硬化性全脳炎〔SSPE : subacute sclerosing panencephalitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis: SSPE)は、1934年Dawsonにより急速進行する脳炎として初めて報告された。この疾患は、麻疹に感染してから数年の潜伏期間を経て発症する。発病後は数ヵ月から数年の経過(亜急性)で神経症状が進行し、病巣の性状はグリオーシス(硬化)であり、全脳を侵すことにより、亜急性硬化性全脳炎と呼ばれる。このように潜伏期間が長く、緩徐に進行するウイルス感染を遅発性ウイルス感染と呼び、ほかにはJCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)が知られている。根本的治療法は確立されておらず、現在でも予後不良の疾患である。■ 疫学わが国での発症者は、麻疹ワクチンが普及する以前は年間10~15人程度であったが、麻疹ワクチン普及後は減少し、現在は年間5~10人程度となっている。男女比は2 : 1でやや男性に多く、潜伏期間、症状の発症とも女性と比較すると長く、遅くなっている。SSPEの発症年齢は平均12歳で、20代をピークに10~30歳代で96%を占める。麻疹ワクチンによるSSPEの発症は認められておらず、SSPE発症には直接的な麻疹ウイルス(MV)感染が必要であるため、発症予防には麻疹への感染予防が重要であるが、わが国では他の先進国に比べて麻疹ワクチンの接種率が低く、接種率向上が必要である。■ 病因SSPEの発症のメカニズムは現在まで十分には判明していないが、発症に関与する要因として、ウイルス側のものと宿主側のものが考えられている。1)ウイルス側の要因MVの変異株(SSPEウイルスと呼ぶ)が、中枢神経に持続感染することで起こる。SSPEウイルスは野生のMVと比較すると、M遺伝子やF遺伝子の変異が生じている。M遺伝子は、ウイルス粒子形成とカプシドからの粒子の遊離に重要なMタンパク質をコードし、Mタンパク質機能不全のため、SSPEウイルスは、感染性ウイルス粒子を産生できない。そのため隣接する細胞同士を融合させながら、感染を拡大していく。F遺伝子は、エンベロープ融合に関与するFタンパク質をコードし、一般にはSSPEウイルスはFタンパク質の膜融合が亢進しており、神経親和性が高くなっている。2)宿主側の要因幼少期にMV初感染を受けると免疫系や中枢神経系が十分に発達していないため、MVの脳内での持続感染が起こりやすく、SSPE発症リスクが上がる。ほかにSSPE発症に関わる遺伝的要因として、これまでにIL-4遺伝子多型とMxA遺伝子多型が報告されている。IL-4は、ヘルパーT細胞のTh1/Th2バランスをTh2(抗体産生)側に傾けるサイトカインで、SSPE患者ではIL-4産生が多いタイプの遺伝子多型を持つことが多いために、IL-4産生が亢進してTh2側に傾き、細胞傷害性T細胞の活性が抑えられて、MVの持続感染が起こりやすくなっていると考えられている。また、SSPE患者はインターフェロンによって誘導され、細胞内でのウイルス増殖を抑える機能を持つ、MxAの産生が多くなる遺伝子多型を持つことも知られている。MxA産生が多いと、中枢神経系のMV増殖が抑制され、MVに感染した神経細胞が免疫系から認識されにくくなり、中枢神経系での持続感染が起こりやすくなると考えられている。■ 症状と特徴初発症状として、学校の成績低下、記憶力低下、行動の異常、性格の変化があり、その後、歩行障害、ミオクローヌス、痙攣、自律神経症状、筋固縮を来し、最終的には無言・無動となり、死に至ることが多い。これらの症状の分類には、Jabbourが提唱した臨床病期分類が一般的に用いられる。■ Jabbourの分類第1期精神神経症状性格変化(無関心、反抗的)、学力低下、行動異常など第2期痙攣および運動徴候痙攣のタイプは全身強直発作、失神発作、複雑部分発作など運動徴候として運動機能低下、不随意運動(SSPEに特徴的な四肢の屈曲や進展を反復するミオクローヌス)第3期昏睡に至る意識障害の進行、筋緊張の亢進、球症状の出現による経口摂取困難、自律神経症状など第4期無言無動、ミオクローヌス消失全経過は通常数年だが、数ヵ月以内に死に至る急性型(約10%)、数年以上の経過を示す慢性型(約10%)がある。■ 予後SSPE症例は、無治療の場合は約80%が亜急性の経過をたどり、約1~3年の経過で第1期から第4期の順に進行し死亡する。約10%は発症後急速に進行し、3ヵ月以内に死亡する。また、残り約10%の進行は緩徐で、約4年以上生存する。無治療で寛解する症例や、寛解と増悪を繰り返す症例も報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、臨床症状を軸に血液、髄液、脳波、画像検査を統合して行う。■ 特徴的な検査所見1)麻疹抗体価血清および髄液の麻疹抗体価が上昇する。髄液麻疹抗体価の上昇はSSPEに特異的であり、検出されれば診断的意義が高い。SSPE患者の抗体価は異常高値が特徴とされたが、最近では、軽度上昇にとどまる症例も多く、注意が必要である。また、抗体価の推移と臨床経過は必ずしも一致しない。2)髄液検査多くの場合は細胞数・糖・蛋白とも正常だが、細胞数・蛋白が軽度上昇することもある。また、髄液IgGおよびIgG indexの上昇も認める。3)脳波検査Jabbour2期から3期にかけて、左右同期性または非同期性で3~20秒間隔で出現する周期性同期性高振幅徐波をほとんどの症例で認めるが、Jabbour4期になると消失する(図)。画像を拡大する4)画像検査MRIは、疾患の推移を評価するのに有用である。画像変化は臨床病期とは一致せず、主に罹患期間に依存する。病初期のMRI所見では、正常または後頭葉の皮質・皮質下に非対称なT2強調画像での高信号の病変を認める。病期の進行とともに脳萎縮が進行し、側脳室周囲に対称性の白質病変が出現・拡大する。5)病理病理所見の特徴は、灰白質と白質の両方が障害される全脳炎であることと、線維性グリオーシスにより硬化性変化を示すことである。組織学的には、軟膜と血管周囲の炎症細胞浸潤、グリア細胞の増生、ニューロンの脱落および神経原線維変化の形成、脱髄などの所見がみられる。炎症所見は、発症からの経過が長いほど乏しくなる。麻疹ウイルス感染に関連した所見として、核内および細胞質の封入体を認める。■ 鑑別診断SSPEは急速に進行する認知症、ミオクローヌス、痙攣などを来す疾患の一部であり、ADEM(acute disseminated encephalomyelitis)、亜急性および慢性脳炎、脳腫瘍、多発性硬化症、代謝性白質脳症、進行性ミオクローヌスてんかんなどが鑑別に挙がる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ イノシンプラノベクスイノシンプラノベクス(商品名: イソプリノシン)は、抗ウイルス作用と免疫賦活作用を併せ持つ薬剤で、保険適用薬として認可されている。通常50~100mg/kg/日を3~4回に分割し、経口的に投与する。これにより生存期間の延長が得られるとされている。副作用として、血中および尿中の尿酸値の上昇(18.8%)があり、注意を要する。■ インターフェロン(IFN)インターフェロンは、ウイルス増殖阻害作用を持つ薬剤であり、IFNα、IFNγともに保険適用薬として認可されている。イノシンプラノベクスとの併用により有効であったとの報告例を多数認める。通常100~300万単位を週1~3回、脳室内に直接投与する。副作用として一過性の発熱をほぼ全例で認める。頻度は低いが、アレルギー反応を来す症例も認める。イノシンプラノベクス経口投与とIFN髄腔内または脳室内投与を併用するのが一般的で、有効性は言われているものの進行を阻止した例はまれであり、治療効果として不十分と考えられている。■ リバビリン近年、研究的治療(保険適用外)として、リバビリンの髄腔内または脳室内投与療法が試みられている。リバビリンは、広い抗ウイルススペクトラムを有する薬剤であり、麻疹(SSPE)ウイルスに対しても優れた抗ウイルス効果を示す。直接脳室内に投与することで、髄液中のリバビリン濃度はウイルス増殖を完全に抑制する濃度に維持され、重篤な副作用を認めず、少数例ではあるが臨床的有効性が報告されている。しかし、病初期(Jabbour2期)に投与した症例においては、臨床症状に明らかな改善を認めたとする報告が多く、病期の進行した症例(Jabbour3期)では改善効果に乏しかったとする報告が多い。以上のことから、リバビリン療法は、リバビリンがウイルスの増殖を抑制して病期の進行を抑制する治療法であり、進行した神経障害を改善させるものではないと考えられている。■ 対症療法上記の治療のほかには対症療法として、ミオクローヌスのコントロールや呼吸管理、血圧コントロールなどの対症療法を行っていく必要がある。4 今後の展望SSPEの重症度の評価として、新たにトリプトファン代謝の主要経路であるキヌレニン経路の代謝産物の髄液中濃度について検討されている。SSPE群では対象例と比較し、髄液中のキノリン酸濃度が有意に高値であり、病期の進行とともに増加が認められている。代謝産物であるキノリン酸の増加はキヌレニン経路の活性化が示唆され、その活性化はSSPEにおける変異型麻疹ウイルスの持続感染に関与している可能性がある。さらにキノリン酸は NMDA型グルタミン酸受容体アゴニストとして興奮性神経毒性を持つため、SSPEにおける神経症状との関係が示唆されている。また、前述したが、研究的治療としてリバビリン髄腔内または脳室内投与が有望である可能性が考えられている。具体的な投与方法として、リバビリン1mg/kg/回、1日2回、5日間投与から開始し、1回量、投与回数を調整し、髄液リバビリン濃度を目標濃度(50~200μg/mL)にする。投与量が決定したら、5日間投与・9日間休薬を12クール(6ヵ月)継続するものとなっている。効果としては、国内で詳細に調査された9例において、治療前後の臨床スコアの平均は前が52.9、後が51.0であり、治療前後で有意差は認めなかった。しかし、イノシンプラノベクスとIFNの併用療法を施行された48症例では治療前後の臨床スコアは前が54.3、後が61.1と悪化を認めており、リバビリン脳室内投与群のほうが優る結果となっている。しかしSSPEは、症例により異なる経過をたどり、その経過も長いため、多数例の調査を行ったうえでの慎重な判断が必要である。5 主たる診療科神経内科および小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 亜急性硬化性全脳炎(一般利用者向けと医療従事者むけのまとまった情報)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班(医療従事者向けの情報)患者会情報SSPE青空の会(SSPE患者とその家族の会)1)厚生労働省難治性疾患克服研究事業 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班. 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)診療ガイドライン(案)2)平成27年度(2015年度)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班 総括研究報告書3)Gutierrez J, et al. Dev Med Child Neurol.2010;52:901-907.公開履歴初回2014年05月19日更新2016年09月20日

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可愛い孫は、肺炎を持ってくる

孫の世話に疲れる高齢者 大都市の待機児童の問題にみられるように、保育園や幼稚園に入所できず、祖父母に子供を預ける共働き世帯も多い。また、地方では、2世帯同居が珍しくなく、日中、孫の育児を祖父母がみるという家庭も多い。そんななか、預かった孫の世話に追われ、体力的にも精神的にも疲れてしまう「孫疲れ」という現象が、最近顕在化しているという。晩婚化のため祖父母が高齢化し、体力的に衰えてきているところに、孫の育児をすることで、身体が追いついていかないことが原因ともいわれている。家庭内で感染する感染症 そして、孫に疲れた高齢者に家庭内、とくに孫から祖父母へうつる感染症が問題となっている。子供は、よく感染症を外からもらってくる。風邪、インフルエンザをはじめとして、アデノウイルス、ノロウイルス、帯状疱疹など種々の細菌ウイルスが子供への感染をきっかけに家庭内に持ち込まれ、両親、兄弟、祖父母へと感染を拡大させる。 日頃孫の面倒をみていない祖父母でも、お盆や年末、大型連休などの帰省シーズンに帰ってきた孫との接触で感染することも十分考えられ、連休明けに高齢者の風邪や肺炎患者が外来で増えているなと感じている医療者も多いのではないだろうか1)。ワクチンで予防できる肺炎 なかでも高齢者が、注意しなくてはいけないのが「肺炎」である。肺炎は、厚生労働省の「人口動態統計(2013年)」によれば、がん、心疾患についで死亡原因の第3位であり、近年も徐々に上昇しつつある。また、肺炎による死亡者の96.8%を65歳以上の高齢者が占めることから肺炎にかからない対策が望まれる。 日常生活でできる肺炎予防としては、口腔・上下気道のクリーニング、嚥下障害・誤嚥の予防、栄養の保持、加湿器使用などでの環境整備、ワクチン接種が推奨されている。とくにワクチン接種については、高齢者の市中肺炎の原因菌の約4分の1が肺炎球菌と報告2)されていることから、2014年よりわが国の施策として、高齢者を対象に肺炎球菌ワクチンが定期接種となり、実施されている。 定期接種では、65歳以上の高齢者に23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)の接種が行われ、平成30年度まで経過措置として65歳から5歳刻みで区切った年齢の該当者に接種が行われる。定期接種の注意点と効果を上げるコツ 定期接種の際に気を付けたいことは、経過措置の期間中に接種年齢に該当する高齢者が接種を受けなかった場合、以後は補助が受けられず自己負担となってしまうことである(自治体によっては、独自の補助などもある)。また、過去にこのワクチンの任意接種を受けた人も、定期接種の対象からは外れてしまうので注意が必要となる。 そして、ワクチンの効果は約5年とされ、以後は継続して任意で接種を受けることが望ましいとされている。 このほか高齢者においては肺炎球菌ワクチンだけでなく、同時にインフルエンザワクチンも接種することで、発症リスクを減らすことが期待できるとされる3,4)。低年齢の子供へのインフルエンザワクチンの接種により、高齢者のインフルエンザ感染が減少したという報告5)と同様に肺炎球菌ワクチンでも同じような報告6)があり、今後のワクチン接種の展開が期待されている。 普段からの孫との同居や預かり、連休の帰省時の接触など、年間を通じて何かと幼い子供と接する機会の多い高齢者が、健康寿命を長く保つためにも、高齢者と子供が同時にワクチンを接種するなどの医療政策の推進が、現在求められている。 この秋から冬の流行シーズンを控え、今から万全の対策が望まれる。(ケアネット 稲川 進)参考文献 1)Walter ND, et al. N Engl J Med. 2009;361:2584-2585. 2)日本呼吸器学会. 成人市中肺炎診療ガイドライン. 2007;15. 3)Maruyama T, et al. BMJ. 2010;340:c1004. 4)Kawakami K, et al. Vaccine. 2010;28:7063-7069. 5)Reichert TA, et al. N Engl J Med. 2001;344:889-896. 6)Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010;201:32-41.参考サイト ケアネット・ドットコム 特集 肺炎 厚生労働省 肺炎球菌感染症(高齢者):定期接種のお知らせ 肺炎予防.JP

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ジカウイルスと関節拘縮の関連が明らかに/BMJ

 先天性ジカ症候群(Congenital Zika syndrome)として関節拘縮症の詳細な特徴が明らかにされ、同症候群を先天性感染症と関節拘縮症の鑑別診断に加えるべきとする見解を、ブラジル・Barao de Lucena HospitalのVanessa van der Linden氏らが、後ろ向きケースシリーズ研究の結果、報告した。最近まで、先天性ウイルス感染症と関節拘縮の関連報告はなかったが、ブラジルでのジカウイルスと関連した小頭症のアウトブレイク以後、両者の関連を示唆する2件の報告が発表されたが、詳細については述べられていなかった。BMJ誌2016年8月9日号掲載の報告。7例について後ろ向きケースシリーズで詳細所見を検証 研究グループは、ジカウイルスによると思われる先天性感染症に関連した関節拘縮症を有する小児のシリーズ症例について、臨床的、放射線学的および筋電図検査による特色を明らかにする検討を行った。ブラジル・ペルナンブーコ州のAssociation for Assistance of Disabled Childrenにて、ブラジル国内で小頭症が流行していた期間中に、関節拘縮症を有し先天性ジカウイルス感染症が疑われる診断例7例について調べた。 主な臨床的、放射線学的および筋電図検査の所見と、臨床的所見とプライマリな神経学的異常の所見との関連性を評価した。先天性感染症と関節拘縮症に特徴的な所見 全7例における脳画像は、先天性感染症と関節拘縮症に特徴的なものであった。2例については、脳脊髄検査でジカウイルスのIgM陽性が認められた。 関節拘縮は、腕部と脚部に認められたのが6例(86%)、脚部のみが1例(14%)であった。 また、全7例で、股関節部に両側性の脱臼が放射線学的に認められた。3例(43%)では外反膝に関連した膝蓋骨亜脱臼がみられ、そのうち2例(29%)は両側性であった。 関節部の高解像度超音波検査は全7例に行われたが、異常を示す所見は認められなかった。 針筋電図(単極)検査では、運動単位のリモデリングのわずかなサインと漸減パターンが示された。 脳CTおよびMRIは5例に行われ、残る2例は脳CTのみが行われた。結果、全例に、皮質形成の発達異常、皮質と皮質下白質(とくに皮質との境界面)の大部分で石灰化がみられ、脳容積の減少、脳室拡大、脳幹と小脳の形成異常がみられた。4例の脊椎MRI所見では、脊髄の顕著な菲薄化と前根の減少がみられた。 著者はこれらの所見を踏まえて、先天性感染症と関節拘縮症の鑑別診断に、先天性ジカ症候群を加えるべきとしている。また、「関節拘縮は関節部の異常とは関連していなかったが、神経に起因するものと思われ、中心および末梢運動神経が慢性的に関与し、子宮内での固定された姿勢の結果として奇形に結び付いていると思われた」と述べている。最後に、神経生理学的観察に基づき2つの考えられるメカニズムとして、末梢および中心運動神経の関与または血管障害に関連した神経細胞の向性(tropism)を提示した。

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ダニ媒介脳炎で国内初めての死者

 北海道は、8月15日に道内の40代男性が「ダニ媒介脳炎」で死亡したと発表した。男性は、7月中旬ごろに道内の草むらでダニに咬まれて発症。発熱や筋肉痛、意識障害、痙攣などの症状を示し、13日に亡くなった。なお、男性には海外渡航歴はなかったという。 ダニ媒介脳炎は、日本脳炎と同じフラビウイルスに属するダニ媒介性の脳炎ウイルスが引き起こす感染症で、わが国では1993年に同じく道内の上磯町で1例の感染が報告されている。 本症は、ダニ刺咬後7~14日の潜伏期を経て、発熱、頭痛、倦怠感、関節痛といった非特異的な症状で発症し(第1相)、いったん症状が消失後、第2相として発熱と神経学的症状が出現する。この神経学的症状は髄膜炎から脳炎までさまざまであり、救命できても麻痺などの後遺症を残すこともある。 現在、有効な治療薬はなく、支持療法が主体となる。そのためダニに刺咬されない予防が重要となる。 予防策としては、流行地域などの病原体の存在が知られている地域で、マダニの生息域に入る際は、肌の露出の少ない服装とはき物で防御する必要がある。また、DEETを含む忌避剤の塗布も有効とのことである。海外ではワクチンの開発がされているが、国内では未承認となっている。(ケアネット)関連リンク新興再興感染症に気を付けろッ! 第12回 ダニ媒介性脳炎に気を付けろッ!厚生労働省 ダニ媒介脳炎について

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イワケンの「極論で語る感染症内科」講義

第1回 なぜ極論が必要なのか? 第2回 あなたはなぜその抗菌薬を出すのか 第3回 その非劣性試験は何のためか 第4回 急性咽頭炎の診療戦略のシナリオを変えろ! 第5回 肺炎・髄膜炎 その抗菌薬で本当にいいのか? 第6回 CRPは何のために測るのか 第7回 急性細菌性腸炎 菌を殺すことで患者は治るのか第8回 ピロリ菌は除菌すべきか第9回 カテ感染 院内感染を許容するな 第10回 インフルエンザ 検査と薬の必要性を考えろ 第11回 HIV/AIDS 医療者が知っておくべきHIV/AIDS診療の今 きょく ろん 【極論】1.極端な議論。また,そのような議論をすること。極言。2.つきつめたところまで論ずること。           大辞林第3版(三省堂)イワケンこと岩田健太郎氏が感染症内科・抗菌薬について極論で語ります。「この疾患にはこの抗菌薬」とガイドラインどおりに安易に選択していませんか?それぞれ異なった背景を持つ患者にルーチンの抗菌薬というのは存在するはずがありません。抗菌薬が持つ特性や副作用のリスクなどを突き詰めて考え、相対比較をしながら目の前の患者に最適なものを特定することこそが、抗菌薬を選択するということ。イワケン節でその思考法をたたきこんでいきます。※本DVDの内容は、丸善出版で人気の「極論で語る」シリーズの講義版です。 書籍「極論で語る感染症内科」は2016年1月丸善出版より刊行されています。  http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/book_data/search/9784621089781.html第1回 なぜ極論が必要なのか? 抗菌薬選択、感染症治療に関してなぜ“極論”が必要なのかをイワケンが語ります。これまでの感染症の診断・治療の問題点を指摘しながら、どういう方向に向かっていかなければならないのか、何をすればよいのかを示していきます。“感染症とはなにか”が理解できる内容です。第2回 あなたはなぜその抗菌薬を出すのか抗菌薬を処方するとき、何を基準に選択していますか?ほとんどの場合において「スペクトラム」を基準にしていることが多いのではないでしょうか?否。本当にそれでいいのでしょうか。移行性、時間依存性、濃度依存性などの抗菌薬が持つ特性や副作用のリスクなどを突き詰めて考え、、相対比較をしながら最適なものを特定することこそが、抗菌薬を選択するということ。イワケン節でその思考法をたたきこみます。第3回 その非劣性試験は何のためか近年耳にする機会が増えている「非劣性試験」。既存薬よりも新薬の効果のほうが劣っていないことを示す試験で、新薬が主要な治療効果以外に何らかの点で優れているということを前提としてが実施するものである。本来患者の恩恵のために行われるべきこの試験が価値をもたらすことは当然ある。しかしながら、臨床的には意味の小さいいわゆる「me too drug」を増やす道具になりかねないということも、また事実である。この試験のあり方にイワケンが警鐘を鳴らす。第4回 急性咽頭炎の診療戦略のシナリオを変えろ!いよいよ疾患の診療戦略に入っていきます。まずは誰もが診たことのある急性咽頭炎。急性咽頭炎の診療において、溶連菌迅速検査の結果が陽性の場合は、抗菌薬(ペニシリン系)を投与を使用し、陰性の場合は、伝染性単核球症などとして、抗菌薬を使用しないという治療戦略が一般的。しかし、細菌性の急性咽頭炎の原因菌は「溶連菌」だけではなかった!つまり、検査が陰性であっても、抗菌薬が必要な場合もある!ではそれをどのように見つけ、診断し、治療するのか?イワケンが明確にお答えします。第5回 肺炎・髄膜炎 その抗菌薬で本当にいいのか?今回は、肺炎と髄膜炎の診療戦略について見ていきます。風邪と肺炎の見極めはどうするか?グラム染色と尿中抗原検査、その有用性は?また、髄膜炎のセクションでは、抗菌薬の選択についてイワケンが一刀両断。細菌性髄膜炎の治療に推奨されているカルバペネム。この薬が第1選択となったその理由を知っていますか?そこに矛盾はないでしょうか?ガイドライン通りに安易に選択していると、痛い目を見るかもしれません。番組最後には耐性菌についても言及していきます。第6回 CRPは何のために測るのか炎症の指標であるCRPと白血球は感染症診療において多用されている。多くの医療者は感染症を診るときに、白血球とCRPしか見ていない。CRPが高いと感染症と判断し、ある数値を超えると一律入院と決めている医療機関もある。しかし、それで本当に感染症の評価ができていると言えるのだろうか。実例を挙げながらCRP測定の意義を問う。第7回 急性細菌性腸炎 菌を殺すことで患者は治るのか細菌性腸炎の主な原因菌は「カンピロバクター」。カンピロバクターはマクロライドに感受性がある。しかし、臨床医として、安易にマクロライドを処方する判断をすべきではない。抗菌薬で下痢の原因菌を殺し、その抗菌薬で下痢を起こす・・・。その治療法は正しいといえるのか?イワケン自身がカンピロバクター腸炎に罹患したときの経験を含めて解説します。第8回 ピロリ菌は除菌すべきか世の中は「ピロリ菌がいれば、とりあえず除菌」といった圧力が強い。ピロリ菌が胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんなど多様な疾患の原因となる菌であるからだ。一方で、ピロリ菌は病気から身を守ってくれている存在でもあるのだ。そのピロリ菌をやみくもに除菌することの是非を、イワケンの深い思考力で論じる。第9回 カテ感染 院内感染を許容するなカテーテルを抜去して解熱、改善すればカテ感染(CRBSI:catheter-related blood stream infection)と定義する日本のガイドライン。また、カテ感染はカテーテルの感染であると勘違いされている。そんな間違いだらけの日本のカテ感染の診療に、イワケンが切り込む。限りなくゼロにできるカテ感染(CRBSI)。感染が起こることを許容すべきではない。第10回 インフルエンザ 検査と薬の必要性を考えろインフルエンザの診療において迅速キットを使って診断、そして、陽性であれば抗インフルエンザ薬。そんなルーチン化した診療にイワケンが待ったをかける。今一度検査と抗インフルエンザ薬の必要性と意義を考えてみるべきではないだろうか。また、イワケンの治療戦略の1つである、「漢方薬」についても解説する。第11回 HIV/AIDS 医療者が知っておくべきHIV/AIDS診療の今HIV/AIDSの診療は劇的に進化し、薬を飲み続けてさえいれば天寿をまっとうすることも可能となった。そのため、HIV/AIDS診療を専門としない医師であっても、そのほかの病気や、妊娠・出産などのライフイベントで、HIV感染者を診療する機会が増えてきているはず。その患者が受診したとき、あなたはどう対応するのか。そう、医療者として、“患者差別”は許されない!普段通りの診療をすればいいのだ。しかしながら、薬の相互作用や患者心理など、気をつけるべきことを知っておく必要はある。その点を中心に解説する。

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早期抗レトロウイルス療法によるカップルのHIV-1伝播予防、5年超の効果/NEJM

 性的パートナーの一方でHIV-1感染陽性が認められた場合、すみやかに抗レトロウイルス療法(ART)が行われるようになったのは、HIV-1血清陽性・陰性者カップル間での伝播予防について検討したHPTN(HIV Prevention Trials Network)052試験の中間報告で、96%超の伝播予防効果が報告されたことによる(追跡期間中央値1.7年、2011年5月発表)。同研究について、追跡5年超の解析結果が、米国・ノースカロライナ大学のM.S. Cohen氏らによって発表された。早期治療群のカップル間伝播の低減効果が持続していることが確認されたという。NEJM誌オンライン版2016年7月18日号掲載の報告。1,763組をART早期治療群と待機的治療群に割り付け追跡 HPTN052試験は9ヵ国(米国、ブラジル、インド、タイほかアフリカ5ヵ国)13都市で、一方のパートナーがHIV感染陽性のカップル1,763組を集めて行われた。被験者をARTの早期治療群(886組)または待機的治療群(877組)に無作為に割り付けて検討。早期治療群は登録後すぐに治療を開始し(登録時の患者のCD4+細胞は350~550個/mm3)、待機的治療群はCD4+細胞が連続250個/mm3以下もしくはAIDS疾患定義に基づく発症が認められた場合に治療を開始した。 試験の主要エンドポイントは、陰性パートナーにおける、カップル間の伝播を示すHIV-1感染の診断で、intention-to-treat解析で評価した。5年超時点も早期ART群の伝播抑制効果は97% 追跡期間中央値は早期ART群、待機的ART群ともに5.5年。解析には1万31人年、8,509組が組み込まれた。 試験期間中、78組のHIV-1感染が観察された(年間発症率:0.9%、95%信頼区間[CI]:0.7~1.1)。72組(92%)についてウイルス学的関連を調べた結果、カップル間伝播が確認されたのは46組(早期ART群3組、待機的ART群43組、発生率0.5%、95%CI:0.4~0.7)、26組は伝播が確認されなかった(同:14組、12組、0.3%、0.2~0.4)。 早期ARTは待機的ARTよりも、カップル間伝播のリスクが93%低かった(ハザード比:0.07、95%CI:0.02~0.22)。なお、カップル間伝播は、陽性パートナーがARTによってウイルス抑制効果が認められている間は観察されなかった。

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気道感染症に対する抗菌薬処方の減少と感染症合併リスクの関係(解説:小金丸 博 氏)-573

 プライマリケアでみられる気道感染症(上気道炎、咽頭炎、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎)の多くは自然寛解が期待できる疾患であるが、実際は多くの気道感染症例に対して抗菌薬の投与が行われている。臨床医は、気道感染症に対して抗菌薬を投与しないと細菌合併症が増加する懸念を抱いているが、抗菌薬処方の減少と細菌感染症合併リスクの関係を示すデータは不足していた。 本研究は、英国プライマリケアのデータベースを用いて、気道感染症に対して抗菌薬が処方された割合と、細菌感染症の合併リスクとの関連を調べたものである。英国では2005~14年にかけて、気道感染症の患者に対する抗菌薬の処方割合は低下傾向であった。診療所別に解析した場合、抗菌薬処方の少ない診療所群において肺炎と扁桃周囲膿瘍のわずかな増加を認めたものの、そもそもまれな疾患である乳様突起炎、膿胸、細菌性髄膜炎、脳膿瘍、レミエール症候群の増加は認めなかった。 本研究では、気道感染症に対して抗菌薬の処方を減らしても、細菌感染症を合併するリスクは低いことが示された。肺炎と扁桃周囲膿瘍のリスク増加を認めたが、登録患者7,000人の診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減少した場合に、肺炎発症が年間1人、扁桃周囲膿瘍発症が10年間で1人増加するとの結果であり、リスクはきわめて低いといえる。 本研究では、個々の症例ごとに検討されたわけではないので、気道感染症の患者にどのような背景や理学所見があると細菌感染を合併するリスクが高いのか、といったことは議論されていない。高齢者や免疫不全者の気道感染症では、比較的頻度の高い肺炎の合併には注意が必要と考える。 不必要な抗菌薬の投与は、薬剤耐性菌の増加や抗菌薬の副作用の増加をもたらすため、抗菌薬の投与を見直す動きが広がっている。本来self-limitedな気道感染症に対して抗菌薬を投与するかどうかは、患者ごとに適応を十分吟味する必要がある。

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大学内の髄膜炎集団感染における新規ワクチンの免疫原性/NEJM

 血清群B(B群)髄膜炎菌ワクチン4CMenBを接種された大学生において、B群髄膜炎菌による髄膜炎菌疾患の症例は報告されなかったが、接種者の33.9%は、2回目のワクチン接種後8週時において流行株に対する免疫原性(血清殺菌性抗体価の上昇)は認められなかったという。2013年12月、米国のある大学でB群髄膜炎菌の集団感染が発生したため、米国FDAの特別な配慮により承認前の4CMenBワクチンが使用された。本報告は、これを受けて米国・ミネソタ大学のNicole E. Basta氏らが集団感染発生中に、4CMenBにより誘導された免疫反応を定量化する目的で血清陽性率を調査し、その結果を報告したもの。集団感染の分離株が、ワクチン抗原(H因子結合タンパク質[fHbp]およびナイセリアヘパリン結合抗原[NHBA])と近縁の抗原を発現していたことから、ワクチン接種により流行を抑えることができるのではないかと期待されていた。NEJM誌2016年7月21日号掲載の報告。大学内での集団感染のため未承認時に使用された4CMenBワクチンの効果を検討 研究グループは、学生のワクチン接種状況を評価するとともに、血清検体を採取して流行株の血清陽性率ならびにヒト補体を含む血清殺菌性抗体(hSBA)の力価を測定し、ワクチン接種者と非接種者で比較した。さらに、流行株と近縁の参考株(fHbpを含む44/76-SL株)、流行株とは一致しない参考株(ナイセリアアドへシンA[NadA]を含む5/99株)の血清陽性率および力価についても同様に調査した。2つの参考株は、ワクチン開発に使用されたものである。 血清陽性は、hSBA抗体価が4以上と定義し評価した。ワクチン2回接種者の血清陽性率は66.1%、免疫原性は予想より低かった 4CMenBワクチンを推奨どおり10週間の間隔をあけて2回接種した被験者は499例であった。そのうち、流行株の血清陽性例は330例・66.1%(95%信頼区間[CI]:61.8~70.3%)で、幾何平均抗体価(GMT)は7.6(95%CI:6.7~8.5)と低かった。 ワクチンを2回接種したが血清陰性であった例(流行株に対して検出可能な予防効果なし:hSBA抗体価4未満)から無作為抽出した61例の検討で、44/76-SL株陽性は53例・86.9%(95%CI:75.8~94.2%)、GMTは17.4(95%CI:13.0~23.2)であったのに対し、5/99株陽性は100%(95%CI:94.1~100%)、GMTは256.3(95%CI:187.3~350.7)と高値であった。 流行株に対する反応性は、44/76-SL株に対する反応性と中程度の相関(ピアソン相関係数:0.64、p<0.001)が認められたが、5/99株との相関は認められなかった(ピアソン相関係数:-0.06、p=0.43)。 著者は、研究の限界として「ほとんどすべての学生がワクチンを接種することを選択した後での観察研究であったため、非接種者が少なかった」ことを挙げ、「今後さらに、さまざまなB群髄膜炎菌株に対する4CMenBの免疫原性を評価する必要がある」と指摘している。

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喫煙が日本人HTLV-1キャリアのATLL発症に関連

 ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)キャリアにおいて、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の発症を予防する有効な方法はまだ同定されていない。今回、長崎大学原爆後障害医療研究所 近藤 久義氏らの研究により、わが国のHTLV-1キャリアにおいて、喫煙がATLL発症に影響を与える可能性が示唆された。Cancer causes & control誌オンライン版2016年7月13日号に掲載。 ATLLは、HTLV-1によって引き起こされる高悪性度の血液腫瘍である。本研究では、日本人のHTLV-1キャリアにおいて喫煙とATLL発症リスクとの関連を調べた。 著者らは、わが国の2つの異なるHTLV-1流行地域における、ベースラインでATLLを発症していなかった日本人HTLV-1キャリア1,332例(40~69歳)のコホートで、喫煙とATLL発症との関連を調査した。ATLL発症における喫煙の影響を推定するに当たっては、Cox比例ハザードモデル(性別、地域、ベースライン時の年齢、飲酒について調整)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・1993~2012年に、これらのキャリアから新たにATLL 25例を診断した。・ATLLの全体の粗発症率は、HTLV-1キャリアにおいて1,000人年当たり1.08で、男性キャリアのほうが女性キャリアより高かった(2.21 vs.0.74)。・ATLL発症リスクは、1日当たりの喫煙本数の増加に伴って、有意に増加した。20本増加ごとのハザード比(95%CI)は、全体で2.03(1.13~3.66)、男性キャリアで2.07(1.13~3.73)であった。

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韓国のMERSアウトブレイクから得た教訓/Lancet

 2015年に韓国で中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染症の大規模なアウトブレイクが発生した。韓国・成均館大学校医学部/サムスン医療センターのSun Young Cho氏らはアウトブレイク疫学調査の結果、過密な緊急救命室(ER)に入室した1人の感染患者からの大規模伝播である可能性が大きいことが示されたと報告した。著者は、「調査の結果は、医療施設は世界的視野の下で、新興感染症への備えをする必要があるという確たる証拠を提示するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2016年7月8日号掲載の報告。1病院ERでの伝播のリスクを調査 韓国のMERSアウトブレイクは2015年5~7月に発生し、ソウル市にある高次医療機能病院のサムスン医療センターのERで第1号患者(68歳男性)が診断され、最終的に全国的に186例が確認されるに至った。第1号患者は、中東への旅行・帰国者で、サムスン医療センターでMERSと診断されたが、その前に複数の医療施設を受診していた。今回研究グループは、サムスン医療センター内でのMERS-CoVアウトブレイクの疫学調査を行った。 調査は、2015年5月27日~5月29日の診断症例と、その間にERにいて接触した可能性があるすべての患者および医療従事者とした。患者はER内での曝露に基づきグループ分けした。Aグループは、同一ゾーンにいた患者群、Bグループはゾーンは異なるが受付エリアや放射線検査エリアを共有、Cグループはゾーンが異なった患者群であった。 MERS-CoV感染症の症例を記録し、痰検体をRT-PCR法で調べて確認。罹患率(attack rates)、ウイルスの潜伏期間、伝播リスク因子について分析した。MERS-CoV伝播の主要リスク因子は曝露した場所 接触者として患者675例、医療従事者218例が特定された。MERS-CoV感染症は87例(患者33例、医療従事者8例、来訪者41例)で確認された。 罹患率は、Aグループで最も高く20%(23/117例)であった(p<0.0001)。Bグループは5%(3/58例)、Cグループは1%(4/500例)であった。 医療従事者の罹患率は2%(5/218例)であった。なお最終的には8例報告されているが、3例は、当初は接触感染者と確認されていなかった(1例は警備員、1例は医師、1例は転院者)。 9例(発症日が確認できなかった6例とデータが不足していた3例の来訪者)を除外して算出したウイルス潜伏期間中央値は、7日(範囲:2~17、IQR:5~10)であった。また、同潜伏期間中央値は、Cグループ(11日[IQR:6~12])との比較で、Aグループ(5日[同:4~8])で有意に短期であった(p<0.0001)。 なお、5月29日のER患者および来訪者において感染が確認された症例はなかった。また、感染例と直接的に接触しておらず環境曝露のみであった場合も感染症例は確認されなかった。 MERS-CoV伝播の主要リスク因子は、曝露した場所であった。

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疑わしきは、まず渡航歴の聴取

 7月14日、国立国際医療研究センター病院/国際感染症センターは、蚊媒介感染症の1つである「黄熱」についてのメディアセミナーを同院で開催した、セミナーでは、流行状況、予防、診療の観点から解説が行われた。ゼロではない、黄熱持ち込みの可能性 はじめに、石金 正裕氏(同院国際感染症センター)が、「現在の流行状況:リスク評価」をテーマに説明を行った。 黄熱は、フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスを原因とし、ネッタイシマカによって媒介・伝播される感染症である。そのため体液などを介したヒトヒト直接感染はないとされる。 主にアフリカ、南アメリカ地域で流行し、世界保健機関(WHO)の推計では、全世界の年間患者数は8万4,000人~17万人(うち死亡者は最大6万人)と推定されている。 感染後の潜伏期は3~6日、多くの場合は無症状であるが、頭痛、発熱、筋肉痛、嘔吐などの症状を呈し、重症化すると複数臓器からの出血、黄疸などを来すという(重症化した場合の致命率は20~50%)。多くの場合、症状発現後3~4日程度で回復するが、一部は重症化する。診断は、ウイルスの遺伝子または抗体のPCR法での検査による。現在、有効な治療薬はなく、輸液や頭痛、発熱などの対症療法が行われるが、黄熱ワクチンによる予防はできる。 アフリカ南西部のアンゴラでは、30年ぶりの黄熱のアウトブレイクが報告され、周辺地域への感染拡大が懸念されるとともに、流行地域である中南米のリオデジャネイロ(ブラジル)でのオリンピック開催に伴う、感染拡大も懸念されている。 媒介する蚊の性質の違いや他国の輸入例での感染不拡大をみると、輸入例を端緒として国内感染が起こる可能性は低いとしながらも、「わが国に持ち込まれる可能性はゼロではないため、引き続き流行地域渡航時のワクチン接種と防蚊対策は重要であり、医療者は患者さんへの渡航歴の聴取など漏らさず行ってほしい」と注意を促した。 なお、わが国では、第2次世界大戦以降、輸入例も含め報告例は1例もなく、現在4類感染症に指定されている。健康な旅行はワクチン接種から 次に竹下 望氏(同院国際感染症センター)が、「日本に黄熱を持ち込ませないために」と題して、黄熱ワクチンと防蚊対策に重点をおいて解説を行った。 黄熱の予防ワクチンは、1回接種で、0.5mLを皮下注射で接種し、生涯免疫が獲得できるとされている。国際保健規則(IHR)では、生後9ヵ月以上の渡航者が黄熱流行地域に渡航する際、その国や地域ごとに予防接種の推奨または義務付けがされている(接種後28日間は他のワクチン接種ができなくなるので注意)。 ワクチンの接種では、生後9ヵ月未満の子供、アレルギーを既往に持つ人(とくに卵)、免疫低下と診断され持病のある人、免疫抑制の治療中の人、胸腺不全/胸腺切除術を受けた人は、禁忌とされている(渡航時は禁忌証明書の発行が必要)。また、妊婦、授乳婦、免疫低下の疾患(たとえばHIVなど)を持病に持つ人、60歳以上の高齢者は、慎重な判断が必要とされている。 予想される副反応は、軽微なもので発熱、倦怠、接種部位の発赤、痒みなどがあり、約5~10日ほど続く。重度な副反応としては、重いアレルギー反応(5万人に約1人)、神経障害(12万人に約1人)、内臓障害(25万人に1人)が確認されている。ワクチンの接種は、全国20ヵ所の検疫所関連機関、2ヵ所の日本検疫衛生協会診療所、国立国際医療センター、東京医科大学病院などで受けることができる。 リオデジャネイロへの渡航については、沿岸部に1週間程度の滞在ならワクチンの接種は必要ないものの、アマゾン川上流域やイグアスなどに行く場合は接種を考慮したほうがよい。滞在中は防蚊対策(露出の少ない服装、虫よけ薬の塗布など)をしっかり行うこと、A型肝炎、破傷風などにも注意することが必要だという。 最後に「健康な旅行のための10か条」として、予防接種のほかに、渡航前に旅行医学の専門医に相談する、常備薬や服用薬の準備、旅行者保険への加入、現地での事故に注意する、性交渉ではコンドームを装着、安全な水・食糧の確認、日光曝露への対応、不必要に動物に近づかないなどの注意を喚起した。「旅行先で感染し、国内に持ち込ませないためにも、適切な時期にワクチンなどを接種することで予防計画を立てて旅をしてほしい」とレクチャーを終えた。黄熱との鑑別はどうするか 最後に大曲 貴夫氏(同院国際感染症センター長)が、「黄熱をうたがった場合の対応」として医師などが診断で気を付けるべきポイントを解説した。 黄熱の臨床所見は、先述のもの以外に仙腰痛、下肢関節痛、食欲不振など非特異的な症状がみられ、とくに病初期にはマラリアと酷似しており鑑別は難しいという。また、マラリアだけでなく、デング熱、チクングニア熱、ワイル病、回帰熱、ウイルス性肝炎、リフトバレー熱、Q熱、腸チフスなどの疾患とも症状が似ている。何よりも、外来ではまず「渡航歴」を聴くことが重要で、これで診断疾患を絞ることもできるので、疑わしい場合は問診で患者さんに確認することが大切だという。また、診断に迷ったら、専門医に相談することも重要で、日本感染症学会サイトの専門医を活用することもできる。 最後に、「患者が入院したときの対応として、『患者さんの体液、とくに血液に直接触れない』、『針刺し事故を起こさない』を順守し、感染防止を徹底してほしい」とレクチャーを終えた1)。厚生労働省検疫所-FORTH 黄熱について

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アジソン病〔Addison's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義慢性副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、アルドステロン(ミネラルコルチコイド)、コルチゾール(グルココルチコイド)、デヒドロエピアンドロステロンとデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(副腎アンドロゲン)の分泌が生体の必要量以下に慢性的に低下した状態である。アジソン病は、副腎皮質自体の病変による原発性副腎皮質機能低下症であり、その病因として、副腎皮質ステロイド合成酵素欠損症による先天性副腎過形成症、先天性副腎低形成(X連鎖性、常染色体性)、ACTH不応症などの責任遺伝子が明らかとされた先天性のものはアジソン病とは独立した疾患として扱われるため、アジソン病は後天性の病因による慢性副腎皮質機能低下症を指して用いられる。■ 疫学わが国における全国調査(厚生労働省特定疾患「副腎ホルモン産生異常症」調査分科会)によるとアジソン病の患者は1年間で660例と推定され、病因としては特発性が42.2%、結核性が36.7%、その他が19.3%であり、時代とともに特発性の比率が増加している。先天性副腎低形成症は約12,500人出生に1人である。副腎不全症としては、10,000人に5人程度(3人が下垂体性副腎不全、1人がアジソン病、1人が先天性副腎過形成症)の割合である。■ 病因病因としては、感染症、その他の原因によるものと特発性がある。感染症では結核性が代表的であるが、真菌性、後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併するものが増えている。 特発性アジソン病は、抗副腎抗体陽性の例が多く(60~70%)、21-水酸化酵素、17α-水酸化酵素などに対する自己抗体が原因となる自己免疫性副腎皮質炎であり、その他の自己免疫性内分泌疾患を合併する多腺性自己免疫症候群と呼ばれる。I型は特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併するHAM症候群、II型は橋本病などを合併するシュミット症候群などがある。その他の原因によるものとしては、がんの副腎転移、副腎白質ジストロフィーなどがある。また、最近使用される頻度が増えている免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象(irAE)として内分泌障害があり、副腎炎によるアジソン病もみられる(約0.6%)。■ 症状コルチゾールの欠乏により、易疲労感、脱力感、食欲不振、体重減少、消化器症状(悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹痛など)、血圧低下、精神症状(無気力、嗜眠、不安、性格変化)、発熱、低血糖症状、関節痛などを認める。副腎アンドロゲン欠乏により女性の腋毛、恥毛の脱落、ACTHの上昇により、歯肉、関節、手掌の皮溝、爪床、乳輪、手術痕などに色素沈着が顕著となる。■ 分類副腎皮質の90%以上が障害されて起きる原発性副腎皮質機能低下症(アジソン病)と続発性副腎皮質機能低下症にまず大きく分類できる。続発性副腎皮質機能低下症には、下垂体性(ACTH分泌不全)と視床下部性(CRH分泌不全)に分けられる。■ 予後欧州の大規模疫学研究によると、原発性副腎不全症患者の全死亡リスクは、男性で2.19、女性では2.86との報告がある。長期予後が悪い理由は、グルココルチコイドの過剰投与によるQOLの低下、心血管イベントや骨粗鬆症のリスクの増加などが、生存率の低下につながると考えられている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一般検査では、低血糖(血糖値が70mg/dL以下)、低ナトリウム血症(135mEq/L以下)、正球性正色素性貧血(男性13g/dL以下、女性12g/dL以下)、血中総コレステロール値低値(150mg/dL以下)、末梢血の好酸球増多(8%以上)、相対的好中球減少、リンパ球増多、高カリウム血症を示す。内分泌学的検査では、非ストレス下で早朝ACTHとコルチゾール値を測定する(絶食で9時までに)。早朝コルチゾール値が18μg/dL以上であれば副腎不全症を否定でき、4μg/dL未満であれば副腎不全症の可能性が高いが、4~18μg/dLでは可能性を否定できない。血中コルチゾール基礎値が18μg/dL未満のときは、迅速ACTH負荷試験(合成1-24 ACTHテトラコサクチド[商品名:コートロシン]250μg静注)を施行する。血中コルチゾール頂値が18μg/dL以上であれば副腎不全症を否定でき、18μg/dL未満であれば副腎不全症を疑うほか、15μg/dL未満では原発性副腎不全症の可能性が高い。迅速ACTH負荷試験では、原発性と続発性副腎皮質機能低下症の鑑別ができないため、ACTH連続負荷試験、CRH負荷試験、インスリン低血糖試験などを組み合わせて行う(図)。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)可能な限り、生理的コルチゾールの分泌量と日内変動に近い至適な補充療法が望まれる。コルチゾールを1日当たり10~20mg補充するのが生理的補充量の目安である。日本人は食塩摂取量が多いので、ヒドロコルチゾン(同:コートリル)10~20mg/日を2~3回に分割服用する(2分割投与の場合は、朝2:夕1、3分割投与では朝:昼:夕=3:2:1)。4 今後の展望現在、使用されているヒドロコルチゾンは放出が早く、内因性コルチゾールの日内リズムを完全に再現できない。わが国では使用できないが、欧州を中心にヒドロコルチゾン放出時間を遅らせる徐放型ヒドロコルチゾンの開発研究が進んでおり、生理的補充に近い薬理動態を再現できることが期待される。5 主たる診療科内科(とくに内分泌代謝内科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会臨床重要課題(副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断基準作成と治療指針作成)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター アジソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Charmandari E, et al. Lancet.2014;383:2152-2167.2)南学正臣 総編集.内科学書 改訂第9版.中山書店; 2019. p.153-160.3)矢崎義雄 総編集.内科学 第11版.朝倉書店; 2017. p.1630-1633.公開履歴初回2015年01月08日更新2016年07月19日更新2022年02月28日

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脱ワクチン後進国を目指して

 「ワクチンの日(7月6日)」を記念し、在日米国商工会議所(ACCJ)は、7月11日に「日本の予防接種率向上に向けた課題と取組み」をテーマに、都内で講演会を開催した。講演会では、ワクチン接種に関するわが国の課題や、世界的なワクチン開発の動向などが広く語られた。なぜ、ワクチンのベネフィットは報道されない!? はじめに、森内 浩幸氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 新興感染症病態制御学系専攻 感染分子病態学講座 感染病態制御学分野 教授)が、わが国のワクチン接種の現状と、とくにHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンをめぐる諸課題について解説した。 日本では、1990年代頃よりワクチンの副反応への懸念などから接種率が向上せず、ワクチン後進国として位置してきた。しかし、2008年から小児領域でHib(インフルエンザ)ワクチンが任意接種となり、以降、米国とのギャップを埋めるべくHPV1ワクチン、PCV7(肺炎球菌)ワクチンなど接種できる種類が増やされ、定期・任意接種と幅広く接種できるようになった。しかし、ここに来て、HPVワクチンについて副反応、副作用が広く報道され、その接種が定期接種から任意接種となったことを受けて、現在では接種がほとんど行われていない状況だという。 ワクチンのリスクについて米国では、子供に重症アレルギー反応を起こす確率は100万分の1とされている。これは落雷に遭う(1万2,000分の1)、億万長者になる(76万6,000分の1)確率よりも低いとされているが、マスコミは、このまれなケースを取り上げて報道していることが多いと指摘する。また、HPVワクチンに関しては、世界保健機関(WHO)からの勧告や関連学会からの声明、全国の地域での独自調査報告など、さまざまな科学的な検証が行われ、ワクチンの有用性が示されているにもかかわらず、依然としてベネフィットに関する報道は少ないという。 今後も検証が必要だが、HPVワクチンの不定愁訴では、接種と因果関係のないものが散見され、明確に接種を中止すべきエビデンスがない以上、接種しないことで起こる将来の子宮頸がん(毎年約3,000人の患者が死亡)や性感染症でQOLを損なう患者が増えることに憂慮すべきという。 最後に、森内氏は「WHOなどの基準からすれば、わが国は今でもワクチン後進国であり、定期接種に向けてさらに働きかけを行う必要がある。また、疾病予防が評価対象とされていないことも問題ではないか」と課題を提起し、講演を終えた。医療費を抑えるならワクチンは武器になる 続いて、マイケル・マレット氏(サノフィ株式会社サノフィパスツールワクチンビジネスユニット執行役員/ジェネラルマネジャー)が、ワクチンメーカーの視点から開発の現状と今後の展開について講演を行った。 ジェンナーの天然痘ワクチンから始まる開発の歴史を振り返り、ワクチンの効果について、ポリオを根絶しつつあることを一例に挙げて説明した。 次に、ワクチン接種の経済的ベネフィットとして、コスト効果が高いことを挙げた。ワクチン接種により、重症化による医療費増大、疾病による経済損失リスクなどを避けることができるという。また、日本のような超高齢社会では、医療コストが増大する中、予防接種により少しでもその上昇を抑えることが重要であると指摘した。さらに、日本では小児・成人ワクチン接種が増加しているが、まだ未導入のワクチンもあり、早急な導入を望むとも述べた。 世界的なワクチン開発の現状をみると、前臨床試験でジカウイルス感染症が、I/II相試験でノロウイルス、C型肝炎、III相試験でマラリア、エボラ出血熱、承認段階ではデング熱などの開発が進められている。そのうえで、大切なことは、完成したワクチンが確実に患者さんの元に届くことであり、新しいワクチンの供給には約3年が必要となることから、ワクチンがスムーズに安定供給されるために、今後も政府・産業・医療のパートナーシップが不可欠となる、と見解を述べた。 最後に「現在、ワクチンは20疾患で供給され、毎年600万人の命を救っている。これは公衆衛生上の大成果であり、今後も社会貢献のために産業、学術が手を取り合って開発・供給を行っていく」と講演を終えた。

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ウイルス量のHBVを有する母親で母児感染を防ぐためのテノホビル療法(解説:中村 郁夫 氏)-568

 本論文は、HBe抗原陽性でHBV-DNAが20万IU/mL より高い母親 200例を対象とした治験である。 (1)抗ウイルス療法なしで予防処置を含む通常のケアを受けるか、(2)テノホビル(TDF)を1日300mg経口・妊娠30~32週から産後4週まで内服するかに、ランダムに1対1に割り付けた。 その結果、分娩時にHBV-DNAが20万IU/mLより低かった頻度は、TDF群68%(66例/97例) vs.対照群 2%(2例/100例)と有意な差を認めた(p<0.001)。さらに、産後28週における母児感染率は、ITT解析では、TDF群5%(5例/97例) vs.対照群18%(18例/100例)(p=0.007)、per-protocol解析では、TDF群 0% vs.対照群7%(6例/88例)(p=0.01)と、どちらも有意な差を認めた。母児の安全性に関しては、児の先天異常の頻度を含めて、TDF群2%(2例/95例)と対照群1%(1例/88例)で差は認められなかった。 一方、TDF中止後に母親の血中ALT値が基準値を超える頻度が、対照群においてALT値が高値となる頻度と比較して高かった[TDF群 45%(44例/97例) vs.対照群 30%(30例/100例)(p=0.03)]。しかし、母体の血中HBVマーカーに関しては、両群で有意な差を認めなかった。 結論として、妊娠第3期でHBe抗原陽性でHBV-DNAが20万IU/mLより高い母親を対象としたコホートで、母児感染の頻度は、TDF療法を受けた群において、抗ウイルス療法なしで通常のケアを受けた群と比べて、有意に低かった。 本邦では、B型肝炎ウイルス母子感染予防のための指針が2013年に変更され(出生直後にHBグロブリンとHBワクチン、生後1ヵ月・生後6ヵ月にHBワクチン投与を行う。さらに、生後9~12ヵ月を目安にHBs抗原・HBs抗体検査を実施し、結果に応じた対応をとる。)、その指針に基づいた診療が行われている。今後、本論文のTDF療法がさらに母子感染を減少させる1つの方策となる可能性が示唆された。

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ウイルス性肝炎の世界疾病負担、約20年間で上昇/Lancet

 ウイルス性肝炎は、世界的に死亡と障害の主な原因となっており、結核、AIDS、マラリア等の感染症と異なり、ウイルス性肝炎による絶対的負担と相対的順位は、1990年に比べ2013年は上昇していた。米国・ワシントン大学のJefferey D Stanaway氏らが、世界疾病負担(Global Burden of Disease:GBD)研究のデータを用い、1990~2013年のウイルス性肝炎の疾病負担を推定した結果、報告した。検討は、ウイルス性肝炎に対するワクチンや治療が進歩してきていることを背景に、介入戦略を世界的に周知するためには、疾病負担に対する理解の改善が必要として行われた。結果を踏まえて著者は、「ウイルス性肝炎による健康損失は大きく、有効なワクチンや治療の入手が、公衆衛生を改善する重要な機会となることを示唆している」と述べている。Lancet誌オンライン版2016年7月6日号掲載の報告。急性ウイルス性肝炎、肝硬変と肝がんの罹患率と死亡率を評価 研究グループは、GBDのデータを用い1990~2013年における、重要な4つの肝炎ウイルス(HAV、HBV、HCV、HEV)による急性ウイルス性肝炎の罹患率と死亡率、ならびにHBVとHCVによるウイルス性肝炎に起因した肝硬変および肝がんの罹患率と死亡率を、年齢・性別・国別に算出した。 方法としては、急性肝炎については自然経過モデルを、肝硬変・肝がんについてはGBD 2013の死因集合モデルを用いて死亡率を推定するとともに、メタ回帰モデルを用いて全肝硬変有病率および全肝がん有病率、ならびに各原因別の肝硬変および肝がんの割合を推定した。その後、原因別有病率(全有病率と特定の原因別の割合の積)を算出した。障害調整生存年(DALY)は、損失生存年数(YLL)と障害生存年数(YLD)の合計とした。ウイルス性肝炎に起因する死亡数は世界で63%増加 世界のウイルス性肝炎による死亡数は、1990年の89万人(95%不確定性区間[UI]: 86~94万)から2013年は145万人(134~154万)に増加した。同様にYLLは、3,100万年(2,960~3,260万)から4,160万年(3,910~4,470万)へ、YLDは65万年(45~89万)から87万年(61~118万)へ、DALYは3,170万年(3,020~3,330万)から4,250万年(3,990万~4,560万)に上昇した。 ウイルス性肝炎は、1990年では主要死因の第10位(95%UI:10~12位)であったのに対して、2013年では第7位(95%UI:7~8位)であった。 2013年にウイルス性肝炎に起因する死亡が最も多かったのは、アジア東部および南部で、ウイルス性肝炎関連死亡の96%(95%UI:94~97)をHBVとHCVが占めていた。この2つのウイルスの割合はほぼ同等で(HBV 47%[95%UI:45~49] vs.HCV 48%[46~50])であった。 ウイルス性肝炎による死亡数は、結核、AIDS、マラリアの年間死亡数と同等以上であった。

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気道感染症への抗菌薬処方を減らした影響は?/BMJ

 気道感染症に対する抗菌薬処方が減っても、肺炎と扁桃周囲膿瘍の発症リスクがわずかに増大するものの、乳様突起炎や蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の合併症リスクは増加しなかった。英国キングス・カレッジ・ロンドンのMartin C. Gulliford氏らが、英国内610ヵ所のプライマリケア診療所を対象に行ったコホート試験の結果、示されたもので、BMJ誌オンライン版2016年7月4日号で発表した。延べ4,550万人年の患者について前向きに追跡 Gulliford氏らは2005~14年にかけて、英国内のプライマリケア診療所610ヵ所で診察を受けた患者、延べ4,550万人年について調査を行った。 気道感染症で診察を受けた患者のうち、抗菌薬を処方された割合を診療所別に調べ、肺炎や扁桃周囲膿瘍、乳様突起炎などの合併症発生リスクとの関連を検証した。抗菌薬投与率を10%引き下げで、肺炎患者は1年に1人増加するのみ 英国全体の傾向としては、2005~14年にかけて、気道感染症で診察を受け抗菌薬を処方された人の割合は、男性は53.9%から50.5%へ、女性は54.5%から51.5%へと減少した。また、同期間に新たに細菌性髄膜炎、乳様突起炎、扁桃周囲膿瘍の診断を受けた人の割合も、年率5.3%、4.6%、1.0%それぞれ減少した。一方で肺炎については、年率0.4%の増加が認められた。 診療所別にみると、年齢・性別標準化後の肺炎と扁桃周囲膿瘍発症率は、気道感染症で抗菌薬を投与した割合が最も低い四分位範囲(44%未満)の診療所において、最も高い四分位範囲(58%以上)の診療所に比べ高かった。 気道感染症への抗菌薬投与率が毎10%減ることによる、肺炎発症に関する補正後相対リスク増加幅は12.8%だった(95%信頼区間:7.8~17.5、p<0.001)。扁桃周囲膿瘍発症についての同補正後相対リスク増加幅は、9.9%(同:5.6~14.0、p<0.001)だった。この結果は、登録患者7,000人の平均的な診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減った場合に、1年間で肺炎発症が1.1人、10年間で扁桃周囲膿瘍が0.9人増加するにとどまるというものだった。 そのほか、乳様突起炎、蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の発症率についてはいずれも、気道感染症への抗菌薬投与率の「最低四分位範囲の診療所」と「最高四分位範囲の診療所」で同等だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「抗菌薬処方がかなり減っても、関連する症例の増加はわずかだった。ただし、高リスク群では、肺炎のリスクについては注意が必要だろう」とまとめている。(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)【訂正のお知らせ】本文内の表記に誤りがあったため、一部訂正いたしました(2016年7月14日)。 

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感染症コンサルタント岸田が教える どこまでやるの!? 感染対策

第1回 感染対策総論 第2回 多剤耐性菌って何? 第3回 感染対策の基本はMRSA 第4回 どうする?多剤耐性菌の感染対策 第5回 最も大変!インフルエンザの感染対策 第6回 感染力が強いノロウイルス 第7回 命にかかわる!カテーテル関連血流感染症 第8回 入院中の患者が下痢!クロストリジウム ディフィシル感染症 第9回 ワクチン接種が自分自身と患者を守る 感染対策の理想を言うことは簡単です。でも、実際の医療の現場において、理想的な対策をとることは非常に困難です。また、どんなに感染対策を講じても、感染を“ゼロ”にすることはできません。感染が起こったときに問われることは「どこまでの対策をやったか」ということ。アウトブレイクを防ぐためにも、また、医療訴訟に負けないためにも、理想論ではなく、置かれている医療機関の現状を踏まえ、実際にやるべき感染対策について、感染症コンサルタント岸田が明確にお教えします。第1回 感染対策総論 感染対策の理想をいうことは簡単です。でも、実際の現場において、理想的な対策をとることはできません。そのなかで、置かれている医療機関の現状を踏まえ、本当に何をどこまでやれば良いのか。そのGOALは意外に明確です。第2回 多剤耐性菌って何? MRSAはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌すなわちメチシリンに耐性であるということが明確ですが、多剤耐性緑膿菌、多剤耐性アシネトバクターなどの多剤耐性菌の“多剤”とはどのようなを示すのかご存知ですか?複数の抗菌薬に耐性があることなのでしょうか?これからさまざまな微生物の感染対策に進む前に、定義を確認しおきましょう。対策のためにもちろんですが、「国や自治体への報告の義務」にも関わってくるので、しっかりとして理解が必要です。第3回 感染対策の基本はMRSA なんといっても感染対策の基本はMRSAです。最近ではMRSAに関する報道もなく、MRSAに慣れっこになっていませんか?でも実は日本の医療機関で検出される黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合はなんと50%!まだまだ高いのが現状です。そのMRSAを抑えることができれば、院内感染を“ゼロ”に近づけていくことも可能です。MRSAの感染対策について理想論を語るのではなく、理想と現実のギャップを理解した上で、実際にどうすべきかをお教えします。MRSAを制するものは感染対策を制する!第4回 どうする?多剤耐性菌の感染対策 感染対策の一番の基本である、MRSAの次の微生物といえば多剤耐性緑膿菌(MDRP)です。多剤(薬剤)耐性緑膿菌の定義は覚えていますか?IMP (イミペネム)、AMK (アミカシン)、CPFX (シプロフロキサシン) の3剤に耐性を持つ緑膿菌です。でも、こうなってしまうと、治療の選択肢がなくなってしまうのです。そうなる前に手をうつことが重要です。そうなる前とはどういったことか?そして何をすればいいのか?臨床現場でやるべきことについて詳しく解説します。もちろん緑膿菌だけでなくアシネトバクター、セラチアなどの多剤(薬剤)耐性菌の感染対策についても見ていきます。第5回 最も大変!インフルエンザの感染対策 インフルエンザの感染対策について見ていきましょう。感染対策を考える上で重要なことは、感染経路と感染性のある期間についてキチンと知っておくことです。また対策は、患者さんだけではありません。医療者が発症した場合についても考えておく必要があります。どこで線を引くのか、現実的な対策について、一緒に考えていきましょう。第6回 感染力が強いノロウイルス ノロウイルスは10~100個程度の少量のウイルスで感染が成立、僅かな糞便や吐物から空気を介して経口感染するなど、非常に感染力が強いウイルスです。しかも、手指衛生の基本であるアルコールも無効で感染対策は一筋縄ではいきません。その為、医療者も病院も、そして一般の人たちもノロウイルスの感染対策は重要だと思っているかと思います。でも、ノロウイルスだけが重要なのでしょうか。冬季下痢症の原因はノロウイルスだけではありません。ロタウイルスやアデノウイルスなどさまざまです。それぞれのウイルスに対しての対策を講じるのか?感染症コンサルタントがお答えします。第7回 命にかかわる!カテーテル関連血流感染症 医療関連感染症の中でも、急激な経過をたどることが多い重篤な感染症 カテーテル関連血流感染症(CRBSI:catheter-related bloodstream infection)についてみていきます。CRBSIを疑うと、カテーテルを抜去しないといけないのでしょうか?CRBSIの診断に重要なことは何なのか!予防のためにできることは?そして予防するための特効薬は?実例やエビデンス、そしてコンサルタント岸田の経験を提示しながら、詳しく解説します。第8回 入院中の患者が下痢!クロストリジウム ディフィシル感染症 今回のテーマはクロストリジウム・ディフィシル感染症です。クロストリジウム・ディフィシル(CD)の感染対策については、診断・治療などの臨床の側面を押さえておくことが重要です。入院中の患者さんが突然下痢に!さあ、あなたならどう対応しますか?抗菌薬が入っている、それならばCDIだと、治療と感染対策を進めますか?抗菌薬が入っているからCDIだろうと疑ってかかるのは大きな間違いです!どのように診断をすすめ。治療はどうするか?そして感染対策は?感染症コンサルタントが事例を提示しながら詳しくお教えします。第9回 ワクチン接種が自分自身と患者を守る 受けていますか?ワクチン接種。既に御存知の通り、ワクチン接種は、病気からあなた自身を守ります。もちろん患者さんにもワクチン接種を進めましょう。ですが、医療者として忘れてはならないのは、あなた自身の接種が患者さんを守るということです。医療者がワクチンを接種していないことで起こった実際の事例を取り上げ、やるべき対策とそれを実現するための道筋をお教えします。

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ジカウイルス感染症では熱よりも発疹

 昨年、社会的に話題となった「ジカウイルス感染症」について、国立国際医療センターが6月29日にメディア向けにセミナーを開催した。セミナーでは、山元 佳氏(国立国際医療センター 国際感染症センター)が、本症の最新知見と今夏の予防策について講演を行った。妊娠初期は要注意 1947年アフリカでジカウイルスが発見されて以来、感染が拡大。2015年には、南米・中南米での大流行が報告されたと現在の感染動向を説明した。ジカウイルスに感染すると現れる1番の症状としては、発疹であり、次に関節炎、結膜充血、頭痛、筋痛などであり、発熱の割合は多くないという1)。潜伏期間は14日以内と推定され、不顕性感染が80%以上、また、ギランバレー症候群、急性弛緩麻痺との関連が取り沙汰されている。診断は、RT-PCR法(発症から7日以内)か抗体検査で確定され、血液<尿<精液の順に長く持続検出されると推定されている。 ジカウイルス感染症で問題となるのは、妊婦が妊娠初期に感染した場合、胎児が小頭症で産まれることとの関連であり、ブラジル1)やフランス領ポリネシア2)からの報告で、ジカウイルスは先天異常を起こしうるとされている3)。最も影響があるのは、妊娠初期(14週まで)であり、先天感染率は風疹と同等とされている。 米国では、すでに流行国渡航中か渡航後2週間以内のリスク地に非居住の妊婦、リスク地居住で発熱・皮疹などの症状のある妊婦は、疑わしい症状があれば検査をするという。また、超音波検査で小頭症や脳内石灰化が確認された妊婦は再検し、母体の感染が証明できれば羊水検査実施など、暫定的な検査指針が示され対策が講じられている。 ジカウイルス感染症の予防 本症の予防のためには、流行地域への渡航回避、流行地域での防蚊対策のほか、感染者や流行地域渡航者との性交渉のタイミング、同じく妊娠計画のタイミングが必要とされる。とくに性交渉において、同症感染の男性については6ヵ月間は性交渉の際にコンドームの使用を、また、流行地渡航中の性交渉の際にも必ずコンドーム使用。また、流行地から帰国した男性は症状がなくても8週間は同じく使用するように米国では推奨されているという4)。 防蚊対策については、幼虫であるボウフラの温床を減らす、袖の長い服で露出部を減らす、蚊帳内や室内で眠る、蚊忌避剤の使用などが勧められている。蚊忌避剤は、DEET20%以上を含有したものが望ましいとされているが、わが国では最大12%含有のものしか販売されておらず、約2時間ごとに塗り直しが必要となる(最近発売されているイカリジン5%配合剤はDEET12%と同等)。 また、DEET使用時の注意点として、・汗・水で流れたらその都度塗りなおす・日焼け止めとの併用はよいが混合しない(最初に日焼け止め→20分後→蚊忌避剤を塗る)・粘膜に塗らない(また10歳以下の小児には自分で塗らせない)・リストバンド方式は使わない・合成繊維は溶解するので注意・皮膚過敏症の既往者には接触皮膚炎を生じさせることがあるなどが挙げられている5)。なお、DEETの妊婦への安全性については、基本的に安全に使用できるとされる。 最後に「現在、ジカウイルス感染症のワクチン開発などが進められているが、完成までまだ時間がかかる模様であり、現時点でできる防蚊対策とコンドームを使用した適切な性交渉などで感染の回避をはかってほしい」とレクチャーを終えた。参考文献1)Brasil P, et al. N Engl J Med.2016 Mar 4. [Epub ahead of print]2)Cauchemez S, et al. Lancet.2016;387:2125-2132.3)Rasmussen SA, et al. N Engl J Med.2016;374:1981-1987.4)Oster AM,et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep.2016;65:323-325.5) Goodyer LI,et al. J Travel Med.2010;17:182-192.関連リンク新興再興感染症に気を付けろッ! ジカウイルス感染症に気を付けろッ! その1厚生労働省ホームページ:ジカウイルス感染症について

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ヒト顆粒球アナプラズマ症に気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第22回となる今回は「ヒト顆粒球アナプラズマ症」です。もう一度言いますが、ヒト顆粒球アナプラズマ症です。読者の皆さまは「オイオイ、そんな訳のわからん病気、気を付ける必要ねえだろ!」とお思いかもしれませんが、決して私の頭がおかしくなったわけではなく、本当にヒト顆粒球アナプラズマ症に、われわれ日本人は気を付けないといけないのですッ!!名前から疾患をひもとくそもそも名前の意味がわからないですよね。「何だよヒト顆粒球アナプラズマ症って」って思いますよね。僕もそう思います。「こういう時は1つずつかみ砕いて考えればいいっ」てお母さんに教わりましたので、かみ砕いていってもよろしいでしょうか。とくに反対意見がないようなのでかみ砕いていこうと思います。まず、「ヒト」からいきましょう。ヒトって何かわかりますか? いわゆる1つのヒューマンですね。これは説明しなくてもわかるか。すいません。では次、「顆粒球」とは何でしょう。これは好中球、好酸球、好塩基球の総称であります。最後にアナプラズマ症ですが、これはリケッチアの一種であるアナプラズマによる感染症でありまして、マダニにより媒介されます。ウシとかシカの赤血球に感染する動物の病気なんですね。ということで、これをつなげて考えると、ヒトの顆粒球に感染するアナプラズマによる感染症ということになりますッ! さらに通は“Human Granulocytic Anaplasmosis”、略して“HGA”と呼んでいます。爆笑問題の薄毛のCMみたいですね。HGAの特徴と日本での広がりさて、HGAは顆粒球に特異的に感染する偏性寄生性のグラム陰性桿菌であるAnaplasma phagocytophilumによる感染症です。このA. phagocytophilumもウマやヒツジに感染しアナプラズマ症を起こすので、人畜共通感染症と考えられています。HGAが最初に見つかったのは、わりと最近で1991年のことです。アメリカで発熱性疾患患者の好中球の中にエーリキア様細菌の感染が認められ、1996年にはその病原体が分離報告されました。こうして今まで知られていなかった疾患が認知されるようになり、今ではアメリカで年間1,800例以上のHGAが報告されています。とくに、ロードアイランド州、ミネソタ州、コネチカット州などで多く発生しています。「いやー、アメリカっていろんな感染症があるんだなあ、日本は平和で何よりだ…」と思ったあなたッ! 安心してはいられませんッ! 日本でもHGAに感染するかもしれないのですッ! 2006年の時点で、すでに日本の静岡県、山梨県のマダニがA. phagocytophilumを保有することが疫学調査によって明らかになっていました。近年の調査ではさらに三重県、和歌山県、鹿児島県、長崎県のマダニもA. phagocytophilumを保有していることが判明しています。ということは…日本でもHGAに感染する可能性があるということですッ!!(ドヤッ)とか言ってたら、最近、実際に日本でHGAが報告されました。最初の2例は高知県での診断例です。どちらも山の中でマダニに咬まれている事例であり、テトラサイクリン系抗菌薬を投与され治癒しています。1例は日本紅斑熱との共感染でした。今では高知県以外でも数例の症例が報告されています。日本でもHGAに感染する可能性があるのですッ!HGAの診療それではHGAは、どのような臨床症状を呈するのでしょうか。ぶっちゃけ「煮え切らない症状」です、HGA。発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛って感じの、特定の臓器の症状がなく、非特異的発熱を呈するのが典型的であります。臨床症状だけだと日本紅斑熱によく似ていますが、日本紅斑熱で頻度の高い皮疹はHGAではまれだと言われています。血液検査では白血球減少や血小板減少がみられることがあり、この辺も日本紅斑熱に似ています。診断は、抗体検査またはPCR法によります。保健所を介した行政検査ではできないんですが、国内の特定の研究施設で検査することができます。そこにいきなり検査が集中するとご迷惑をおかけするかもしれないので、もしHGAを疑う患者さんがいらっしゃいましたら、まずは忽那までご連絡くださいッ!※HGAの検査を希望される場合は、skutsuna@hosp.ncgm.go.jp まで!治療は、テトラサイクリン系抗菌薬が有効と考えられています。ドキシサイクリン 100mg 1日2回を10日間というのが、今のところよく行われている治療です。ここまでのところでお気付きかと思いますが、日本紅斑熱といろいろと似ているところが多い疾患です。マダニに咬まれて1週間くらいで発症するところも、皮疹以外の臨床症状も、血液検査所見も、テトラサイクリンが効くところも、クリソツですッ! ということは、マダニ刺咬後に発熱を呈し、日本紅斑熱が疑われた事例で、とくに皮疹がない症例ではHGAを疑うべしッ!ということになります。もしかしたら、われわれはすでにHGA症例を見逃しているのかもしれません…。そして日本には、まだまだわれわれの知らない病原体が潜んでいるのかもしれません…。「いや~、新興再興感染症って本当に奥が深いですねえ」(水野晴郎っぽい締め)。1)大橋典男. IASR.2006;27:44-45.2)Gaowa, et al. Emerg Infect Dis.2013;19:338-340.3)Ohashi N, et al. Emerg Infect Dis.2013;19:289-292.

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