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第20回 小児科クリニックからの セフカペンピボキシル の処方(後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1患児の保護者に確認することは?Q2疑義照会しますか?Q3 抗菌薬について説明することは?今は必要ないかもしれないが、必要になる可能性もあると説明 中堅薬剤師さん(薬局)提示された情報から、ウイルス性感冒(ヘルパンギーナ、咽頭結膜炎など)の可能性は高いと思われますが、溶連菌感染症の可能性もあり、フロモックス®の必要性は否定できません。医師との関係性を壊したくない思いを尊重し、フロモックス®を服用するかどうかの選択も残したいと思います。「今は必要ないかもしれないが、今後、必要になる可能性もある」と説明し、調剤は受けてもらい、フロモックス®以外の対症療法薬で経過観察をするよう助言します。対症療法薬で軽快しないようであれば、溶連菌感染症の可能性があるので、耳鼻咽喉科に相談することを勧めます(小児科には行きにくいでしょうから・・・)。そして、フロモックス®は使わずに残してあることを伝えた上で、今後の対処を相談してもらいます。鑑別が難しいこと、重症化のリスク 奥村雪男さん(薬局)処方医と患児家族の関係を損なわぬよう、「ウイルスが原因となる初期の風邪だと思うが、患児は2歳未満であり、今後咳がひどくなって細気管支炎になると重症化するリスクがある。その場合、ウイルス性か細菌性か明確に鑑別するのが難しいので、効率は良くないが、慣行として抗菌薬をあらかじめ処方することがある」と説明します。低血糖の危険性 中西剛明さん(薬局)未熟児で生まれた子は、筋肉量が少ないことが多く、健常児より低血糖を起こしやすいと言われています。フロモックス®はピボキシル基を有する抗菌薬なので、低血糖の危険があります。出生時体重を参考に、未熟児であれば低血糖の危険について説明します。散剤の与薬の仕方 わらび餅さん(病院)小児病棟で、赤ちゃんへうまく薬を飲ませられない母親を何人も見てきました。理論通りではうまくいかない、赤ちゃんの機嫌に合わせた工夫も必要です。赤ちゃんが9カ月なら、母親の与薬経験が未熟な可能性があるので、薬を飲ませられるか聞いて、それに応じて散剤の与薬の仕方を説明します。フロモックス®は、マクロライドなどに比べるとひどい味ではないですが、飲み残しがないように食前に飲ませていいこと、たくさんの水で溶かないことなどです。鼻水や痰を除去すること JITHURYOUさん(病院)本人が苦しいばかりでなく、細菌の二次感染の引き金になる可能性があるので、鼻水や痰などはできるだけ取るように説明します。Q4 その他、気付いたことは?医療関係者でも知識に乏しいことがある ふな3さん(薬局)発熱(のおそれ)+咽頭炎ということで、溶連菌の疑いがあっての抗菌薬投与なのか、額面通り「二次感染予防」なのか微妙です。それ故、飲ませないという保護者の希望を後押しするかどうか悩ましいところです。「医療関係者」という言葉の範囲には、医師、看護師、薬剤師などの専門職から、受付事務まで非常に幅広く含む場合があります。たとえ医師でも、専門分野以外については知識が浅い場合もあります。こちらが「これくらいは知っているだろう。説明しなくてもいいな」と考えていても、実は相手は、説明を聞きたい、相談したい、と思っている可能性もあります。会話をしながらその辺りの「雰囲気」をくみ取ることは、さじ加減が難しいですが大切だと思います。また「医療関係者」である場合に、「薬歴管理料を算定するか?」という問題も同時に発生します。その医師と完全にツーカーの間柄で、飲み方の指示などを受けているようなら薬歴料は算定しませんし、前述のような「相談したい」というような雰囲気であれば、算定すると思います(今回のケースは患者負担はゼロなので、お会計には影響ないのですが・・・)。フォローアップがあるとすれば、さり気なく保護者に「どちらの病院にお勤めですか?」とか、医師との面会時に「○○さんとは、親しいんですね!」などと、お互いの関係性に"探り"を入れておくと、今後の展開が違うかも・・・と思います。薬剤師も同じ「医療関係者」です。「医師との信頼関係」と同時に、「薬剤師との信頼関係」が築けたらいいな、と思います。Von Harnack表を活用 奥村雪男さん(薬局)フロモックス®の1日量は9mg/kg、ムコダイン®の1日量は30mg/kgで、いずれも体重に比してやや少ないように思います。その他の薬剤は、Von Harnack表※より、6カ月で成人量の1/5、1歳で成人量の1/4なので、概ね妥当な用量だと思います。※成人量を1としたとき、それぞれの年齢での用量の目安。になっている。未熟児新生児6カ月1歳3歳7歳半12歳1/101/81/51/41/31/22/3VON HARNACK GA. Monatsschr Kinderheilkd 1956; 104(2): 55-56.ペリアクチンの副作用 柏木紀久さん(薬局)9カ月というとハイハイやつかまり立ちをする頃なので、ペリアクチンの傾眠によるケガなども心配です。痙攣の閾値も下がるので、鼻水や発赤疹がなければペリアクチンが疑義の対象になると思います。薬剤師も一般への啓発を 荒川隆之さん(病院)私は学校薬剤師として、何度か保護者に「風邪に抗菌薬は不要」という話をしております。北欧やオランダなど薬剤耐性菌の少ない国では、耐性菌に関する国民の知識がしっかりしていると聞きます。日本においても薬剤耐性(AMR)対策アクションプランなど国がようやく動き出したところですから、我々薬剤師もそれぞれにできることを少しずつやっていくことが大切なのでは、と考えます。1回で飲ませきれない量では 中西剛明さん(薬局)ペリアクチンが処方されていることが気になります。抗ヒスタミン薬を使うと痙攣の閾値が下がるので、発熱している場合は熱性けいれんも含め、痙攣の危険が高まります。数ある抗ヒスタミン薬の中でペリアクチンを選んだ意図がわかりません。加えて、近隣の小児科医は「抗ヒスタミン薬で鼻水が固くなって、鼻づまりが解消しにくくなり困る」と言っていました。あと、7種類の薬剤は出しすぎでは?1回で飲ませ切れない「かさ」になってしまっています。症状に合わせて用量を調節 児玉暁人さん(病院)ムコダインDSの量が少ないですが、症状に合わせているのだろうと考え、これに関しては疑義照会しません。医師の処方意図を理解しておくべき JITHURYOUさん(病院)医師に処方意図の確認が必要だと感じます。抗菌薬が必要ならば薬剤の処方の必要性を患者家族にもきちんと説明しなければいけません。服用しないならば、症状が悪化するリスクもあります。さまざまな可能性のリスク回避をしておきたいという医師の考えがあるのかもしれません。なぜ抗菌薬処方をしたのか、その医師の処方傾向をできれば把握したいです。調剤するだけではなく患者さんと向き合うこと 中堅薬剤師さん(薬局)私は「医師の治療方針に同意していない患者さん」には調剤をしない方針です。ただ、簡単に「調剤をしない」としてしまうと、後で治療する機会を奪うことにもなるので、十分な説明の上、患者さんの意向を尊重して調剤するかどうか決定します。私の経験ですが、「喘息ではないのに吸入を強要された」と言う患者さんがいました。医師法第二十三条に基づいて考えると、処方医は患者が納得する十分な医学的指導をしていない可能性があり、その結果、治療に対して強い拒否を示していると推察しました。ただ、咳喘息の可能性は否定できないので、「使ってみて改善しなければ、呼吸器科以外の医師に相談することをお勧めしたい」と助言しました。治療前から否定するのではなく、治療をしてから継続の可否を判断する方がよいのではないか、と患者さんに話したのです。その後、患者さんから感謝の言葉をいただきました。「医師よりも私の治療に向き合ってくれた気がする」と。同時に、医師はどうして患者側に寄り添って治療を考えてくれないのか、という不満も打ち明けてくれました。ですから、今回の症例は薬剤師はただ調剤すればいいというものではないと、考えさせられる症例だと感じました。医師法第二十三条・・・医師は、診療をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない。担当した薬剤師の対応フロモックス®の量が少ないことを疑義照会し、添付文書上の用量まで増量した。また、患児の保護者から、処方箋提出時に「抗菌薬だけ別包にしてほしい」と言われたので、別包にて調剤した。[PharmaTribune 2017年9月号掲載]

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顕微鏡的多発血管炎〔MPA:microscopic polyangiitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)は、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性となる中小型血管炎である。欧米と比べ、わが国ではプロテイナーゼ3(proteinase3:PR3)ANCA陽性患者が少なく、ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase:MPO)陽性患者が多く、欧米よりも高齢患者が多いのが特徴である1,2)。多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA、旧ウェゲナー肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA、旧チャーグ・ストラウス症候群)とともに、ANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)に分類される。■ 疫学平成28年度の指定難病受給者は9,610人であった。Fujimotoらは、AAV発症の地理的な相違を明らかにするために、日本と英国でのAAV罹患率の比較を行った。AAVとしては、100万人当たりの年間罹患率は、日本22.6、英国21.8で同等であったが、日本ではAAVの約80%をMPAが占める一方で、英国では6.5%のみであり、GPAが最も多く約65%であった3)。男女比は1:1~1:1.2とされている。■ 病因1)遺伝的背景日本人のMPAでは、HLA-DRB1*09:01陽性例が50%にみられ、健康対照群に比べて有意に多いことが報告されている1,4)。このHLA-DRB1*09:01は日本人の29%に認められるなどアジア系集団で高頻度に認められるが、欧州系集団やアフリカ系集団にはほとんど存在しない1,4,5)。このことが、日本でMPAやMPO-ANCA陽性例が多い遺伝的背景の1つと考えられる。さらにその後、DRB1*09:01とDQB1*03:03の間に強い連鎖不平衡が認められ、この両者がMPAと関連すること、逆に、DRB1*13:02はMPAとMPO-ANCA陽性血管炎の発症に対し抵抗性に関与している(MPO-ANCA陽性血管炎群に有意に減少している)ことが明らかとなった5,6)。2)血管炎発症のメカニズムBrinkmannらは、phorbol myristate acetate(PMA)で刺激された好中球が細胞死に至る際に、DNAを網状の構造にし、MPOやPR3などの抗菌タンパクやヒストンとともに放出する現象を見出し、その構造物を好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)と呼んだ7,8)。NETsは細菌などを殺し、自然免疫に関与しているが、その後ANCA関連血管炎患者の糸球体の半月体の部分に存在することが確認された8,9)。Nakazawaらは、プロピルチオウラシル(抗甲状腺剤)添加により生成されたNETsが、NETsの分解酵素であるDNase Iで分解されにくいこと、さらにこれを投与したラットがMPO-ANCA陽性の細胞増殖性糸球体腎炎を発症することを報告した8,10)。さらに、MPO-ANCAを有するMPA患者のIgGは、全身性エリテマトーデス患者や健常者よりも強くNETsを誘導すること、NETs誘導の強さは疾患活動性やMPO-ANCAのMPOへの結合性と相関していること、MPA患者血清のDNase I活性が低下していることが報告された8,11)。これらをまとめ、岩崎らは、MPA患者はDNase I活性低下などNETsを分解しにくい素因があり、感染や薬剤(プロピルチオウラシル、ミノサイクリン、ヒドラジンなど)1)が加わり、NETsの分解障害が起こり、NETsの構成成分であるMPOに対する抗体(MPO-ANCA)が産生されること、さらにANCAがサイトカインや補体第2経路によりプライミングされた好中球表面のMPOに強固に結合し、Fcγ受容体を介してさらに好中球を活性化させてNETsを放出し、血管壁を壊死させるメカニズムを提唱している8)。■ 分類腎型、肺腎型、全身型に分類されるが、わが国では、肺病変のみの症例も多数認められる。■ 症状発熱、食思不振などの全身症状、紫斑などの皮膚症状、関節痛、間質性肺炎、急速進行性糸球体腎炎などを来す。わが国では、欧米に比べ間質性肺炎の合併頻度が高い12)。EGPAほど頻度は高くないが、神経障害も認められる。■ 予後初回治療時の寛解率は90%以上で、24ヵ月時点での生存率も80%以上である。わが国では高齢患者が多いため、感染症死が多く、治療では免疫抑制をどこまで強くかけるかというのが常に問題になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見としては、炎症所見、血尿、蛋白尿、円柱尿、血清クレアチニン上昇、MPO-ANCA陽性などを認める。診断には、厚生労働省の診断基準(1998年)が使用される(表)。表 MPAの診断基準〈診断基準〉確実、疑い例を対象とする【主要項目】1) 主要症候(1)急速進行性糸球体腎炎(2)肺出血、もしくは間質性肺炎(3)腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など2) 主要組織所見細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤3) 主要検査所見(1)MPO-ANCA陽性(2)CRP陽性(3)蛋白尿・血尿、BUN、血清クレアチニン値の上昇(4)胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血)、間質性肺炎4) 判定(1)確実(definite)(a)主要症候の2項目以上を満たし、組織所見が陽性の例(b)主要症候の(1)および(2)を含め2 項目以上を満たし、MPO-ANCAが陽性の例(2)疑い(probable)(a)主要症候の3項目以上を満たす例(b)主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例5) 鑑別診断(1)結節性多発動脈炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)(4)川崎動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病血管炎)【参考事項】1)主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。2)主要症候(1)、(2)は約半数例で同時に、その他の例ではいずれか一方が先行する。3)多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する。4)治療を早期に中止すると、再発する例がある。5)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。(吉田雅治ほか. 中・小型血管炎の臨床に関する小委員会報告.厚生省特定疾患免疫疾患調査研究班難治性血管炎分科会.平成10年度研究報告書.1999:239-246.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)わが国では厚生労働省の血管炎に関わる3研究班合同のAAV診療ガイドラインと13,14)、腎障害を伴うAAVについての厚生労働省難治性腎疾患研究班によるエビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドがあり15)、欧米では、英国リウマチ学会(BSR)によるAAV診療ガイドラインがある16,17)。その後、3研究班合同のAAV診療ガイドライン18)が改訂された。■ 寛解導入療法厚生労働省3班のAAV診療ガイドラインでのMPAの治療アルゴリズムを図に示す。基本的には、ステロイド(GC)とシクロホスファミド(CY、[商品名:エンドキサン])の併用療法であるが、経口CYよりも静注CY(IVCY)が推奨されている。CYは年齢、腎機能などで減量を考慮する。欧米では、リツキシマブ(RTX、[同:リツキサン])がIVCYと同じポジションであるが、わが国では高齢患者が多いためにIVCYが推奨された。また、患者の状態によりメトトレキサート(MTX、[同:リウマトレックス])、ミコフェノール酸モフェチル(MMF、[同:セルセプト])、血漿交換なども推奨されている。GCの減量速度はAAVの再発に大きく関わっており、あまりに急速な減量は避けるべきである19)。図 MPA治療アルゴリズム(厚生労働省3班AAV診療ガイドライン)画像を拡大する*1GC+IVCYがGC+POCYよりも優先される。*2ANCA関連血管炎の治療に対して十分な知識・経験をもつ医師のもとで、RTXの使用が適切と判断される症例においては、GC+CYの代替として、GC+RTXを用いてもよい。*3GC+IVCY/POCYがGC+RTXよりも優先される。*4POCYではなくIVCYが用いられる場合がある。*5AZA以外の薬剤として、RTX、MTX*、MMF*が選択肢となりうる。*保険適用外■ 寛解維持療法厚生労働省3班のAAV診療ガイドラインでは、GC+アザチオプリン(AZA、[同:イムラン、アザニン])を推奨しており、そのほかの免疫抑制薬としてRTX、MTX、MMFが推奨されている。一方、難治性腎疾患研究班のRPGNガイドラインではRTXのかわりにミゾリビン(MZR、[同:ブレディニン])が推奨されている。やはりわが国のAAVは高齢者が多いこと、腎機能が低下するとMZRの血中濃度が上昇し、よい効果が得られることなどがその理由として考えられる。4 今後の展望2023年5月に改訂されたAAV診療ガイドラインによる治療の変化(とくにアバコパンについて)補体活性化の最終段階で産生される C5aRを選択的に阻害する経口薬アバコパン(商品名:タブネオス)は、ADVOCATE試験20)によりAAVに対する有効性および安全性を確認し、「顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症」を適応症として2022年6月に発売された。その後、2023年5月に改訂されたAAV診療ガイドラインにおいて、MPA/GPAの寛解導入治療でCYまたはRTXを用いる場合、高用量GCよりもアバコパンの併用を提案することが明記された。その他の薬剤ではMPA/GPAの寛解導入治療として、GC単独よりもGC+IVCYまたは経口CYを、GC+経口CYよりもGC+IVCYを、GC+CYと同列にGC+RTXを、GC+CYまたはRTXを用いる場合はGCの通常レジメンよりも減量レジメンを提案することが明記された18)。なお、アバコパンの添付文書には重大な副作用として肝機能障害が記載されている。その多くは投与開始から3ヵ月以内の発現であるが、それ以降に発現しているケースも報告されていることから、定期的なモニタリングが必要である。5 主たる診療科膠原病内科、リウマチ科、腎臓内科、呼吸器内科、皮膚科、神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 顕微鏡的多発血管炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本循環器学会. 血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版). 2018;54-60.2)佐田憲映.ANCA関連血管炎 顕微鏡的多発血管炎.日本リウマチ財団 教育研修委員会編. リウマチ病学テキスト 改訂第2版. 診断と治療社;2016.p.265-267.3)Fujimoto S, et al. Rheumatology. 2011;50:1916-1920.4)Tsuchiya N, et al. J Rheumatol. 2003;30:1534-1540.5)川崎 綾.顕微鏡的多発血管炎(1)疫学・遺伝疫学.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―. 日本臨牀社;2018.p.215-219.6)Kawasaki A, et al. PLoS ONE. 2016;11:e0154393.7)Brinkmann V, et al. Science. 2004;303:1532-1535.8)岩崎沙理ほか.小型血管炎(2)顕微鏡的多発血管炎の病理・病態.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―. 日本臨牀社;2018.p.220-225.9)Kessenbrock k, et al. Nat Med. 2009;15:623-625.10)Nakazawa D, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:3779-3787.11)Nakazawa D, et al. J Am Soc Nephrol. 2014;25:990-997.12)Sada KE, et al. Arthritis Res Ther. 2014;16:R101.13)有村義宏ほか 編. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017. 診断と治療社;2017.14)Nagasaka K, et al. Mod Rheumatol. 2018 Sep 25.[Epub ahead of print]15)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 難治性腎疾患に関する調査研究班 編. エビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドライン2017. 東京医学社;2017.16)Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.17)駒形嘉紀.顕微鏡的多発血管炎(4)治療.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―.日本臨牀社;2018.p.232-237.18)針谷正祥、ほか. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023.診断と治療社:2023.19)Hara A, et al. J Rheumatol. 2018;45:521-528.20)Jayne DRW, et al. N Eng J Med. 2021;384:599-609.公開履歴初回2018年12月25日更新2024年7月11日

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ネーザルハイフロー(高流量鼻カニュラ)酸素療法の効果について(解説:小林英夫氏)-981

 ネーザルハイフロー酸素療法(本稿ではNHFと略)は、従来の経鼻カニュラや酸素マスクとは異なり、数十L/分以上の高流量で高濃度かつ加湿された酸素を供給できるシステムである。価格は50万円以下で外観は太めの鼻カニュラ様であるが、酸素ボンベでは稼働せず配管を要するために診療所や外来診察室での利用は難しい。本療法に期待されることは、ガス交換や換気効率向上、PEEP(呼気終末陽圧換気)類似効果、加湿による気道粘液線毛クリアランス改善、などといった単なる酸素投与にとどまらない効果であり、NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)の一歩手前の呼吸療法としての活用が想定されていた。 これまでのNHFを用いた検討と今回のJAMA論文との違いは、免疫不全を基盤に有する急性呼吸不全症例を対象とした多施設無作為化比較試験という点にある。対象の多くは担がん症例、免疫抑制薬投与症例で、呼吸不全の原因疾患は細菌性肺炎、Pneumocystis肺炎、などとかなり多彩な疾患群となっている。結果は通常の酸素療法と比べ、明らかな死亡率低下には至らなかったとしている。 酸素投与は疾患を直接治療するものでない。原因疾患(感染など)を制御し、既存の免疫低下状態改善を併行させることが治療として不可欠であり、酸素投与による動脈血酸素分圧上昇だけでは本質的解決にならない。上記したような酸素投与以外の効果を推計学的有意差として示せなかったことは、ある程度予想可能であり受け入れ可能な結果である。しかし、この結果からNHFは無価値であると断定すべきなのであろうか。経鼻式酸素投与では、経口摂取や会話が継続可能で、同一病態下においてはベンチュリマスクやインスピロン高流量セットなどの顔マスクより不快感は軽減する。死亡率に反映されない長所にも目を向けておく意義はある。NHFにこだわりすぎて確実なPEEP投与を要するARDS(急性呼吸窮迫症候群)の呼吸管理開始に遅延を生じてはならないが、NFHの価値を全否定することは適正ではないと考える。2016年からは急性呼吸不全(経皮的酸素飽和度90%以下)における診療報酬算定が認められている。本邦でもICUや呼吸器病棟における普及はさらに進むものと筆者は予想している。

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第19回 小児科クリニックからのセフカペンピボキシルの処方(前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 患児の保護者に確認することは?熱の有無や熱性けいれんの既往など ふな3さん(薬局)発熱の有無は、アセトアミノフェン坐剤の処方意図(すぐに使用するか予備か)やペリアクチン®による熱性けいれん誘発リスクの推測にも利用できるため、必ず確認します。他に、熱性けいれんやてんかんの既往、副作用歴、併用薬、発疹の有無も確認したいです。検査したかどうか 清水直明さん(病院)アレルギー歴は必ず確認します。もしA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌、S.pyogenes )だったら抗菌薬が必要だと思うので、「何か検査はされましたか」と確認します。セフェム系抗菌薬のアレルギーや過去1カ月以内に抗菌薬を使用したか 奥村雪男さん(薬局)患児の性別や、特にセフェム系抗菌薬に対してアレルギーはないかを確認します。他にも過去1カ月以内に抗菌薬を使用したか、いつから症状があったか、全身状態はどうか、咳や鼻水などの症状、アデノウイルスなどの迅速検査や血液検査を行っているかも確認します。可能なら検査結果や白血球数やCRPなどの検査値、肺炎球菌、ヒブなどのワクチンを接種しているかも聞きます。Q2 疑義照会しますかする・・・7人フロモックス®の用量 キャンプ人さん(病院)フロモックス®細粒は1日9mg/kgですので、少し量が少ないのでは? と照会します。そのときに、抗菌薬の処方を望まれていないことを「母親が伝え忘れた」として医師へ伝えます。もちろん母親にそのように照会してよいか確認しておきます。普段から風邪に抗菌薬は不要と医師に示し続ける 荒川隆之さん(病院)保護者がなぜ抗菌薬の処方を望んでいないのか、よく聴き取りを行います。風邪に抗菌薬は不要ということで望んでいないのならば、疑義照会を行ってよいか、保護者と話をします。そして、フロモックス®の投与量がやや少ないことで疑義照会するついでに、風邪に抗菌薬は不要ではないか確認します。最初は、保護者がそのように希望していると言わず、医師から保護者の意志を聞かれた場合に回答します。ただし、この疑義照会は、医師と薬剤師のそれまでの関係も大きく関係すると思います。普段から風邪に抗菌薬は不要というスタンスを医師に示し続ける必要があります。抗菌薬は必要? 柏木紀久さん(薬局)患児の主症状が発熱と咽喉頭炎なので、あまり抗菌薬の必要性を感じません。3日後の再診時に抗菌薬の投与を考慮してもいいのではないかと思います。体重9kgでアセトアミノフェン坐剤が処方されており、発熱の期間が長い、または日内変動が強い状態でぐずったり、食欲がなかったりして状態がよくないことも考えられます。この場合、説明通り二次感染が考えられ抗菌薬処方の妥当性を感じますが、食欲や水分摂取が少なくなっている場合は、低カルニチン血症も気になります。保護者が医師に言えなかったことを薬剤師に打ち明けているので、照会してみると思います。溶連菌の可能性も 児玉暁人さん(病院)フロモックス®の投与量が少ないので確認します。ウイルス性の単なる風邪では抗菌薬は不要です。ただトランサミン®散の処方、のどの発赤から溶連菌の可能性も捨てきれず、その場合は抗菌薬が必要です。溶連菌の合併症予防を風邪の二次予防と受け取ってしまったなど、知識があるだけにややこしくしている可能性もありえます。保護者には、投与量と処方意図の再確認をしたい旨を伝え、納得と了承を頂いてから疑義照会します。あとは、疑義照会への返答内容にもよりますが、抗菌薬を服用する/しない場合のメリット・デメリットを伝えて、服用するかどうかを保護者に判断してもらうかと思います。ですので、疑義照会時に「服用を保護者の判断に任せてよいか」と確認しておきます。容態が悪化したら飲ませるつもりなら、疑義照会する ふな3さん(薬局)処方を望んでいないという意味では、疑義照会しません。医師との関係を気にしているなら、あえて蒸し返す必要はないと考えます。また、調剤の際に下記のように3種に分包して、フロモックス®だけ(もしくはラックビー®Rも)は服用しなくて済むようにできます。(1)フロモックス®(2)ラックビー®R(3)トランサミン® /ペリアクチン® /アスベリン® /ムコダイン® 混合この患者さんに限らず、普段から対症療法用の薬剤(症状改善したら中止)と、抗菌薬・整腸剤(処方日数飲みきり)は別包にしています。これらの対応をした上で、「望んではいない」と言いながらも、「容態が悪化したら飲ませるかも」と考えている場合、フロモックス®の添付文書上用量(3mg/kg)に満たないため、0.81g(~0.9g程度)/日への増量を提案するため疑義照会をします。保護者自身の風邪であれば「抗菌薬は飲まずに治せる」と簡単に割り切れると思いますが、発話できない乳児で急な発熱であれば、「この子のためにできることは?」「やっぱり抗菌薬を飲ませるべきかも」と頭をよぎるのが親心だと思います(だからこそ、小児科医も抗菌薬処方を簡単には止められないのでしょうが...)。その意味合いも含めて、抗菌薬は適切な量に修正した上で、「飲み始めたら飲みきる」の条件の下、お渡ししておきたいと思います。抗菌薬は感染が起きたと推定されるときに服用する JITHURYOUさん(病院)当然、医師の指示通りに調剤しなければならないのですが、その話をしてもなお服薬拒否ということになるのならば、医師に確認したいですね。連鎖球菌による咽頭炎でも、フロモックス®ではなくペニシリンが第一選択なので、この場合処方変更の必要性があるのではと考えます。二次感染予防目的の抗菌薬処方だとしても、臨床経過を勘案して疑義照会したいところです(遷延していたら細菌による二次感染の可能性=抗菌薬適応)。となると、症状の変化などで感染が起きたと推定されるときに服用する方がベストのような感じがします。フロモックス®はそういう場合に服用していただく方が耐性菌を増やさないという観点でも必要ではないかと考えます。よって、調剤は別包装にすべきではないでしょうか。母親の気持ちを聞き取った上で わらび餅さん(病院)フロモックス®が1日量9mg/kgではないので、疑義照会はします。また、母親からどうして抗菌薬を希望しないのかを聞きます。二次感染予防の必要性を感じてない、風邪という診断に納得してない、赤ちゃんだからあまり薬を飲ませたくないなど、理由によって対応も変わってきます。しない・・・4人処方医は不要なリスクを避けたいと考える 奥村雪男さん(薬局)抗菌薬以外の処方内容からは、典型的なウイルス性の上気道炎に見えます。全身状態が悪くないのであれば、抗菌薬なしで数日の経過観察後、悪化した場合に細菌性肺炎などの診断がついた時点で、それに応じた抗菌薬を選択するのが理想的だと思います。ただ、実際には疑義照会しないと思います。ウイルス性上気道炎に第三世代セフェムを処方するのは現在の日本の慣行であり、慣行と異なる行為はリスクを伴います。仮に抗菌薬なしの経過観察中に細菌性肺炎を発症すれば、最悪の場合、訴訟問題に発展するかもしれません。処方医は不要なリスクを負うことは避けたいと考えるはずです。遠回りのようですが、ウイルス性上気道炎に抗菌薬を処方した場合の治療必要数※などのエビデンスを国民に提示し、抗菌薬の二次感染予防は効率の悪い治療行為であることを一般常識とすることが、疑義照会に優る方法だと思います。※治療必要数NNT(number needed to treat)のこと。死亡や病気の発症などのイベント発生を1人減らすために、何人の患者を治療する必要があるか、という疫学の指標。例えばNNTが100なら、1人の患者のイベント発生を減らすためには100人に治療を行う、ということになる。フロモックス®は別包に 清水直明さん(病院)抗菌薬をどうしても持ち帰りたくないと言うのであれば、そのことを説明して取り消してもらうことも可能でしょうが、医師が必要としたものを不要と説得するだけの材料が弱いかなと思います。風邪との診断であるならば、それほど重症感はなさそうです。抗菌薬を服用させたくないのであれば、親の責任の範囲でそれでもいいと思います。フロモックス®は別包とします。そもそも、このぐらいの年齢から保育園・幼稚園ぐらいまでのお子さんは、よく風邪をひきます。これからも外界と接する機会が増えるにつれて、いろいろな感染症を拾ってくることでしょう。もし、本当に抗菌薬が必要な感染症に罹ったとき、ちゃんと効いてくれないと大変です。風邪をひくたびに予防的に抗菌薬を飲んでいたら、耐性菌のリスクは上がってしまうと思います。フロモックス®など多くの抗菌薬には二次感染予防という適応はないし、そのことがよく分かっている親御さんであるならば、飲ませるか飲ませないかの判断は任せていいと思います。ただし、薬剤師の指導としては微妙ですが・・・後編では、抗菌薬について患者さんに説明することは?その他気付いたことを聞きます。

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薬剤耐性菌の拡大を防ぐ「かぜ診療」最前線

 薬剤耐性(AMR)の問題は、これに起因する死亡者数が2050年には1,000万人に上ると推定されている喫緊の課題だ。2018年12月8日、国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターは抗菌薬の適正使用を目指し「かぜ診療ブラッシュアップコース」を都内で開催した。患者は抗菌薬ではなく、症状を緩和する薬を求めている 「適切なかぜ診療を行う際に知っておきたいこと」と題し、藤友結実子氏(国立国際医療センター病院 AMR臨床リファレンスセンター)が、一般市民の抗菌薬に関する意識調査の結果を紹介した。抗菌薬・抗生物質という言葉を聞いたことがある割合は94.2%だが、効果に関しては、71.9%が「細菌が増えるのを抑える」と正しく認識している一方、40.9%「熱を下げる」、39.9%が「痛みを抑える」とも回答している。 抗菌薬がどのような病気に有用か尋ねた質問には、49.9%が「かぜ」、49.2%が「インフルエンザ」と回答しており、ウイルス性疾患に抗菌薬が効くと誤解している一般市民は多いことが伺える。その一方で、かぜで受診したときに処方してほしい薬は、咳止め(61.9%)、解熱剤(59.8%)、鼻水を抑える薬(53.0%)が上位に挙がり、抗菌薬は30.1%であった。 また、2018年2月に実施したアンケート調査では、一般市民の57.6%は不必要に抗菌薬を飲んではいけないという情報を知らなかったが、59.4%が情報提供によって抗菌薬の使用可否についての考えが変わったと回答した。これらの結果から、患者が求めているのは抗菌薬ではなく症状を緩和する薬剤であるということを踏まえた正しい情報提供の重要性を強調した。「かぜ」は急性気道感染症の4つに分けるが、ほとんどの場合に抗菌薬不要 黒田 浩一氏(亀田総合病院 感染症科)は、抗菌薬使用を減らすために「かぜ」と訴える患者の中から細菌感染症を見分け、必要な人にのみ処方することが肝要であると述べ、「急性気道感染症の診断」について抗微生物薬適正使用の手引き第1版に則って解説を行った。 患者が申告する 「かぜ」は急性気道感染症だが、その90%以上はウイルス感染症であり、基本的に抗菌薬は不要だ。抗菌薬が必要なのは、中等症または重症の急性副鼻腔炎、A群連鎖球菌が検出された急性咽頭炎のみ。これらを確実に見つけるために、急性気道感染症の4病型‐感冒・急性副鼻腔炎・急性咽頭炎・急性気管支炎それぞれについて、特徴や対応を解説。ピットフォールとして、高齢者はかぜをひきにくく、かぜをひいたと言って受診した場合、細菌感染の可能性が高いという点にも触れた。抗菌薬の第1選択はアモキシシリン。第3世代セファロスポリンは極力避けて では抗菌薬が必要となった場合にどの薬を選択すべきなのか、山本 舜悟氏(京都大学医学部附属病院 臨床研究教育・研修部)が、細菌性副鼻腔炎、細菌性咽頭炎いずれも原則としてアモキシシリンが推奨される点を解説。その理由として腸管からの吸収に優れ、中耳や副鼻腔などへの移行性が良好であるなどの根拠を提示した。注意点として経口第3世代セファロスポリンはバイオアベイラビリティが低く、薬剤耐性菌を増加させる可能性があるため、原則として使用しないよう注意喚起を行った。手引きでは抗菌薬以外の対症療法薬について豊富な情報が記載されており、こちらも参考になるだろう。抗菌薬の代わりに説明の処方を 第1部で紹介されたように正しい情報提供によって患者の行動は変わりうるという点を踏まえて、かぜ受診で抗菌薬を求める患者に対する説明のロールプレイが行われた。実際に説明をしてみると患者が納得するように説明するのは難しいとの感想が会場から上がった。説明する際のポイントとして、患者の解釈・気になっていること・医療機関への期待を確認することが新規処方薬の少なさと関連する点に言及し、「抗菌薬の代わりに説明の処方を」と呼びかけセミナーは終了した。 同センターではセミナーを全国各地で行っており、来年も継続予定とのこと。■参考抗微生物薬適正使用の手引き第一版薬剤耐性AMR情報サイト各種啓発用ツールAMR臨床リファレンスセンター■関連記事Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー

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アトピー性皮膚炎患者、皮膚以外の感染症リスク上昇

 アトピー性皮膚炎(AD)は、皮膚への細菌定着や感染の増加、皮膚以外の感染症の多数のリスク因子に関連している。しかし、ADが皮膚以外の感染症の増加と関連しているかどうかについては、これまでの研究では相反する結果が得られていた。米国・ノースウェスタン大学のLinda Serrano氏らはシステマティックレビューおよびメタ解析を実施。その結果、AD患者は、皮膚以外の感染症リスクが高いことが明らかとなった。著者は「今後、これらの関連を確認し、その機序を明らかにする必要がある」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2018年11月21日号掲載の報告。 研究グループは、ADにおいて、皮膚以外での細菌感染およびマイコバクテリア感染が増加するかどうかを検討した。 MEDLINE、EMBASE、GREAT、CochraneおよびWeb of Scienceにおいて、AD患者に対する皮膚以外の感染症に関する、すべての比較対照試験を特定し、システマティックレビューを行うとともに、ランダム効果モデルを用いてメタ解析を行った。ただし、個々の情報は入手できなかった。 主な結果は以下のとおり。・7件の研究が選択基準を満たし、解析に組み込まれた。・7件すべてにおいて、ADで1つ以上の皮膚以外の感染症(心内膜炎、髄膜炎、脳炎、骨・関節の感染症、敗血症)の可能性が高まることが認められた。・メタ解析の結果、小児および成人のADは、耳感染症(オッズ比[OR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.16~1.43)、レンサ球菌咽頭炎(OR:2.31、95%CI:1.66~3.22)、尿路感染症(OR:2.31、95%CI:1.66~3.22)の発症と関連していた。・肺炎(OR:1.72、95%CI:0.75~3.98)とは、関連していなかった。・出版バイアスは検出されなかった。

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若年者に増加しているヒトパピローマウイルス陽性中咽頭がんに対する標準的放射線化学治療(解説:上村直実氏)-976

 中咽頭がんは頭頸部がんの1つで、日本では年間の罹患者数が数千人であるのに対して、米国では毎年5万人が罹患し1万人が死亡する疾患である。生命予後とともに嚥下や発生などの機能の温存が重要で、手術療法とともに放射線化学療法が用いられる機会が多いのが特徴的である。 近年、中咽頭がんの原因の1つとしてヒトパピローマウイルス(HPV)が同定された後、HPV関連(p16陽性)がんと非関連(p16陰性)がんに大別され、前者は後者に比べて若年者に多く、予後が良いのが特徴であり、罹患者が急増していることで注目されている。 HPV関連の中咽頭がんに対する低侵襲治療法の代表として、放射線治療+シスプラチンを用いる放射線化学療法が標準治療とされている。最近、EGFR阻害薬セツキシマブがシスプラチンと比較して副作用が少ない治療として注目されている折、2018年11月15日のLancet誌にHPV陽性中咽頭がんを対象とした放射線化学療法に関する同じ内容の多施設共同RCTの結果が報告された。研究された場所は北米(米国とカナダ)と欧州(英国、アイルランドとオランダ)で異なっているが、得られた研究結果はほぼ同様である。「放射線療法+セツキシマブは放射線療法+シスプラチンに比べて重度の有害事象リスクには差がなく、生存率や再発率の延長に寄与しない」、すなわち「現時点では、HPV陽性中咽頭がんに対する放射線化学療法としては放射線療法+シスプラチンが標準レジメンである」との結論であった。 欧州と北米の異なる2つのグループが同時期に同様の臨床試験を行い、同じ結果を得た訳であるが、私が専門としているピロリ菌と胃がんの関連に関する世界初の疫学研究報告も、1991年の同じ号のNEJM誌に「ピロリ菌は胃がんの発生に関与している」との結果がスタンフォード大学とハワイ大学から同時に掲載された。さらに、低悪性度の胃MALTリンパ腫がピロリ菌の除菌により消退する研究結果が、1993年のLancet誌に英国とドイツから同時に報告されたことを思い出した。「世界には、同時期に同じアイデアを持って研究しているグループが最低でも3組ある」と言われた恩師の言葉が懐かしく思われた。 最後に、上部消化管内視鏡検査の際に、機器の発達に伴って咽頭や食道の観察精度が向上して、内視鏡的切除の対象となる上皮内がんとして発見される症例が劇的に増加していることは、日本独自の保険診療体制によることを強調したい。

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1日1回1錠で他の抗HIV薬を併用する必要がない「オデフシィ配合錠」【下平博士のDIノート】第15回

1日1回1錠で他の抗HIV薬を併用する必要がない「オデフシィ配合錠」今回は、「リルピビリン塩酸塩/テノホビル アラフェナミドフマル酸塩/エムトリシタビン配合錠(商品名:オデフシィ配合錠)」を紹介します。本剤は、3剤の抗ウイルス薬を配合した1日1回服用のヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染症治療薬であり、服薬率が治療の成否に関わるHIV治療において良好なアドヒアランスを維持することが期待されています。<効能・効果>本剤はHIV-1感染症の適応で、2018年8月21日に承認され、2018年9月20日より販売されています。HIV-1の逆転写酵素活性を阻害することで、ウイルスの増殖を抑制します。<用法・用量>通常、成人および小児(12歳以上かつ体重35kg以上)には、1回1錠を1日1回食事中または食直後に経口投与します。本剤は、空腹時に服用すると、リルピビリンの血中濃度が低下する恐れがあるなどの理由により、「食事中または食直後」となっているので、監査・投薬時には注意が必要です。<副作用>他剤によってウイルス学的に抑制されているHIV-1患者を対象として本剤に切り替えた海外第III相試験では、6.3~12.8%に臨床検査値異常を含む副作用が認められ、主な副作用は下痢、悪心、頭痛、鼓腸、不眠症、異常な夢でした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.3種類の抗ウイルス薬でHIVの増殖を抑え、AIDS(後天性免疫不全症候群)の発症・進行を防ぐ薬です。2.飲み合わせに注意すべき薬や食品が多くあるため、現在服用している薬やサプリメントがある場合は、医師・薬剤師にお伝えください。また、新たに薬を飲み始める場合は、あらかじめ相談してください。3.抗HIV薬は、飲み忘れが繰り返されると、HIVが耐性を獲得して治療に失敗する可能性が高くなりますので、医師の指示どおりに毎日きちんと服用してください。4.抗HIV薬はHIV感染症を根本的に治す薬ではなく、ほぼ生涯にわたって治療を継続する必要があります。5.本剤服用後に、むくみ、尿量減少、全身倦怠感、過呼吸、手足の震え、意識障害などが現れた場合は、ただちに受診してください。6.母乳中に移行することが報告されているため、本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>HIV感染症は抗ウイルス薬を3~4種類併用する抗レトロウイルス療法(ART)が標準治療となっており、強力にHIVを抑制する「キードラッグ」1剤と、キードラッグを補足してウイルス抑制効果を高める「バックボーン」2剤を組み合わせるのが一般的です。本剤は、キードラッグとしてリルピビリン、バックボーンとしてテノホビル アラフェナミドフマル酸(TAF)とエムトリシタビンの3剤が含有されており、1日1回1錠の服用で他の抗HIV薬を併用する必要はありません。本剤は、既存のリルピビリン塩酸塩/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩/エムトリシタビン配合錠(商品名:コムプレラ配合錠)に含まれるテノホビル ジソプロキシルフマル酸(TDF)をTAFに置換した製剤です。TDFとTAFは、どちらもテノホビルのプロドラッグですが、TDFが血漿中で活性体であるテノホビルに変換されるのに対し、TAFは細胞内で変換されるため、テノホビルを効率的に感染細胞内へ送達できます。そのため、TAFは低用量でTDFと同等の抗HIV効果を示すことができると考えられています。TDFを含む抗HIV治療薬では、腎機能障害や骨密度低下について安全性の懸念がありますが、TDFをTAFに置き換えた本剤では、体内への暴露量が減ることなどにより、これらの副作用の軽減が期待されています。相互作用に気を付けるべき薬は複数あり、とくに注意が必要なのはプロトンポンプ阻害薬(PPI)です。PPIの胃酸分泌抑制作用によって胃内pHが上昇すると、リルピビリンの血中濃度が低下する恐れがあるため、併用禁忌となっています。同様の理由から、H2ブロッカーや制酸剤も時間をずらして投与する必要があり、他科からの処方薬やOTC薬にも念入りなチェックが必要です。近年HIV感染症の薬物療法は格段に進化し、適切な治療さえ行っていれば、もはや死の病とは言えなくなりました。しかし、アドヒアランスが非常に重要で、飲み忘れなく続けることが治療の成否に関わることを患者さんに十分に理解してもらうことが大切です。ガイドラインでもアドヒアランスの観点から、新規に治療を開始する患者さんでは1日1回投与の薬剤を積極的に選択するように記載されています。1日1回投与で他の抗HIV薬を併用する必要がない配合剤はすでに4剤発売されていますが、本剤はそれらよりも小さい薬剤であり、患者さんの負担の少ない選択肢が増えたことはHIV感染症の患者さんにとって大きな意義があるでしょう。

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第2世代抗精神病薬と代謝変化に対する腸内微生物の役割

 第2世代抗精神病薬(SGA)の中で、代謝機能不全を誘発する薬剤がいくつか知られている。このような副作用の発現には、さまざまな要因が影響している。ポーランド・Pomeranian Medical UniversityのKarolina Skonieczna-Zydecka氏らは、SGAがディスバイオーシス(バランス失調)を引き起こすかの調査、腸内細菌叢の変化が体重や代謝に及ぼす影響の評価、動物やヒトを対象とした研究におけるSGA治療誘発性代謝異常のメカニズムについての検討を行った。Psychopharmacology誌オンライン版2018年11月20日号の報告。 2018年7月3日までにSGAで治療された患者の微生物および体重変化について報告した研究を、データベース(PubMed、Medline、Embase、ClinicalTrials.gov、PsychInfo)よりシステマティックに文献検索した。 主な結果は以下のとおり。・マウス(8試験)およびラット(3試験)において報告された研究、7文献が抽出された。・オランザピンが5試験、リスペリドンが6試験に使用されていた。・ヒトにおいて報告された研究の3文献(4試験)のみが、リスペリドンおよび混合SGAの使用基準に適合していた。・バクテロイデス門と比較し、フィルミクテス門の増加が微生物の変化に直接的(げっ歯類5試験、ヒト4試験)または間接的(げっ歯類4試験)に影響を及ぼすことが確認された。これは、げっ歯類(8試験)およびヒト(4試験)における体重増加と同様であった。・オランザピンでは、げっ歯類における肥満、脂質生成、血漿遊離脂肪酸、酢酸塩レベルの上昇といった代謝変化(3試験)および炎症(2試験)の両方を誘発することが確認された。一方、リスペリドンでは、げっ歯類における安静時代謝率の抑制(5試験)、ヒトにおける空腹時血糖、TG、LDL、hs-CRP、antioxidant SOD、HOMA-IRの上昇が認められた(1試験)。・げっ歯類の研究において、体重に対するディスバイオーシスの性別依存的な影響が認められた(1試験)。 著者らは「抗精神病薬治療に関連する腸内微生物の変化は、体重増加や代謝異常に潜在的な影響を及ぼす。炎症や安静時代謝率の抑制は、代謝異常の発生に重要な役割を果たすと考えられる」としている。■関連記事オランザピンの代謝異常、原因が明らかに:京都大学統合失調症治療に用いられる抗精神病薬12種における代謝系副作用の分析抗精神病薬の代謝への影響に関するランダム化比較試験

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麻疹ウイルスをベクターとしたチクングニアウイルスワクチンの免疫原性・安全性・忍容性(解説:吉田敦氏)-975

 チクングニア熱は、蚊媒介感染症として、いまや世界の大多数の地域に広まりつつある感染症である。以前にも増して大規模流行を来すようになっているが、これにはウイルスのエンベロープタンパク質が変異して媒介蚊であるネッタイシマカ(Aedes aegypti)により適応できるようになったことと、地球温暖化によってヒトスジシマカ(Aedes albopictus)の生息域が拡大したことが関与している。 チクングニア熱は急性熱性疾患であるが、治療法がなく、関節痛やうつ状態が後遺症として続く。一方、旅行者感染症としてウイルスを持ち帰り、帰国後に温帯地域の蚊に刺咬されることで、温帯地域の蚊がウイルスを保有することが大きな懸念となっている。実際に米国・欧州では媒介蚊が効率よくウイルスを増殖させる能力があることが判明しており、渡航者が増加している現在、その脅威も大きくなっている。このため自国内で伝播した例がないか厳重な監視が続いており1)、ワクチン開発は急務であるといえる。 今回検討されたワクチンは、チクングニアウイルスの臨床分離株の遺伝子を麻疹ウイルスベクターに導入したリコンビナント・弱毒生ワクチンである。フェーズ1で免疫原性、安全性が評価され、今回さらにボランティアを対象としたフェーズ2のランダム化二重盲検プラセボ対照試験が行われ、投与回数・スケジュールと含有ウイルス量の異なる複数のレジメンを比較し、プライマリーエンドポイントとして中和抗体の産生能が評価された。高用量で回数を増やすほど抗体獲得率は上昇したが、この抗体産生は麻疹ウイルスベクターには依存しないものであった。また副作用は軽微なもので、コントロールに比べ増加もなかった。 したがってフェーズ3の研究につながり、今後実際に臨床現場で、さまざまなウイルス株に対する有効性と、予防効果の持続期間が検討されることになろう。臨床応用に一歩近づき、有力な予防手段の候補が出現したといえるかもしれない。蚊媒介感染症のコントロール・制圧の難しさは年々増している。今後の速やかな研究の進展と評価・臨床応用に期待したい。■参考1)CDC. Chikungunya Virus. 2018 provisional data for the United States.

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免疫再構築症候群(IRIS)による結核発症・悪化の予防にprednisoneが有効(解説:吉田敦氏)-973

 HIV感染者において、抗ウイルス療法(ART)開始後に併存している感染症が悪化することを経験するが、これはARTによって免疫再構築が生じることによるとされ、免疫再構築症候群(IRIS)と総称されている。ニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス感染症、結核、クリプトコッカス髄膜炎が代表的であり、これらの感染症を発症した後にARTを開始する際には、IRISによる悪化ないし発症を少なくするために、感染症治療からある程度の時間をおいてからARTを開始するのがよいとされてきた。 しかしながら、ART開始が遅れると免疫低下の強い期間がそれだけ長くなるために、全身状態の改善が遅れたり、他の日和見感染症の発症を招き、ひいては死亡につながる。このためART開始時期については、たとえばニューモシスチス肺炎では治療開始後2週間以内、クリプトコッカス髄膜炎では抗真菌薬開始後5週間以降が目安とされている。ただし結核については開始時期のみならず、IRIS発症予防ないし発症時に用いられるステロイド投与についても議論があった※。またその際、ステロイド投与を避けるべきとされるカポジ肉腫(KS)の合併や悪化にも懸念があった。 今回の試験では、結核治療開始後1ヵ月以内にARTを開始した、CD4陽性リンパ球数100個/μL以下の患者において、ARTと同時にprednisoneを開始し、28日間続け、結核によるIRIS発生率をプライマリーエンドポイントとして評価した。結果としてIRIS発生率はprednisone投与群で有意に低く、さらに合併した場合でもその程度は軽度であった。さらにKS合併率も増加しなかった。 prednisoneの初期投与量は40mg/日であったが、同時に投与されていたリファンピシンとの相互作用を鑑みると、実際の体内濃度はこの半分程度であろう。低用量であるといえ、この量でも効果がみられたことは興味深い。さらにCD4陽性リンパ球数が中央値49個/μLとかなり低下し、ARTをできる限り早く開始すべきである一方、ステロイド投与によるさらなる免疫低下と他の感染症の合併を容易に来しやすい患者群でありながら、日和見感染症を含む他の感染症もKSも増加せず、さらに抗結核薬の副作用の出現も少なかったことは、ステロイドによるIRIS抑制・アレルギー抑制というポジティブな効果が高く発揮された結果といえよう。 本検討の限界として筆者らは、今回の対象者が歩行可能な患者であったことと、死亡率の比較まで行えるほど集団が大きくなかったことを挙げている。入院患者では結核もさらに進行しているのが通常であり、より重症な患者でのIRISによる結核の悪化に対しては、ステロイドの効果は異なる可能性がある。また従来のコンセンサス※は生存率まで含んだものであったので、この点も今後の知見が待たれるところである。なお他論文ではART開始前のIL-6が結核のIRIS発症と相関することが報告されており1)、これをマーカーとしたIRISのハイリスク患者の区別と、ステロイド投与法の工夫も今後検討される課題であろう。※従来では、CD4リンパ球数<50ならば、結核治療開始後2週間以内にARTを開始すると生存率が改善、CD4>50ならば早期のART開始による生存率改善は認められず、中等症~重症結核では結核治療開始後2~4週、重症結核では8~12週でART開始、とされてきた。

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ニボルマブ、NSCLCにおける実臨床下での安全性プロファイル/日本肺癌学会

 本邦で抗PD-1抗体ニボルマブが進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)治療における承認を取得したのは2015年12月。市販後の日常臨床での副作用発現状況を調べた全例調査の結果について、近畿大学の中川 和彦氏が11月29日~12月1日に東京で開催された第59回日本肺癌学会学術集会で発表した。本調査では、副作用発現状況のほか、安全性・有効性に影響を与える因子が検討されている。調査方法:事前症例登録による全例調査方式登録期間:2015年12月17日~2016年3月31日観察期間:投与開始後12ヵ月登録症例数:3,808例(うち安全性解析対象は3,606例/有効性解析対象は3,381例)重点調査項目:間質性肺疾患/副腎障害/重症筋無力症・筋炎/脳炎/大腸炎・重度の下痢/重度の皮膚障害/1型糖尿病/静脈血栓塞栓症/肝機能障害/Infusion reaction/甲状腺機能障害/心臓障害(心房細動、徐脈、心室性期外収縮等)/神経障害/腎障害 主な結果は以下のとおり。・安全性解析対象3,606例のうち、1,688例(46.8%)に副作用が認められた(国内臨床試験では発現率79.3% [88/111例])。・重点調査項目の発現頻度は、間質性肺疾患が9.57%と最も多くみられ、甲状腺機能障害(9.04%)、肝機能障害(7.93%)、Infusion reaction(5.57%)、大腸炎・重度の下痢(5.57%)などが続いた。・重点調査項目の発現時期は、中央値でみるとおおむね2ヵ月以内に発現していたが、副腎障害と1型糖尿病については、中央値がそれぞれ5ヵ月、3ヵ月頃であった。[頻度の高かった副作用の処置と転帰、リスク要因]間質性肺疾患:発現率9.57%(345/3,606例)・主な処置として、265例(76.8%)でステロイド治療が行われていた。・ニボルマブ投与は、266例(77.1%)で中止(休薬)。31例で再投与、うち3例で間質性肺疾患の再発が認められた。・263例(76.2%)が回復・軽快、41例(11.9%)が未回復、34例(9.9%)が死亡。・多変量解析の結果、ILDの病歴あり(ハザード比[HR]:2.41)、CT異常所見あり(HR:1.35)がリスク要因として示された。甲状腺機能障害:発現率9.04%(326/3,606例)・主な処置として、167例(51.2%)でホルモン補充療法が行われていた。・ニボルマブ投与は、74例(22.7%)で中止(休薬)。23例で再投与、うち5例で甲状腺機能障害の再発が認められた。・197例(60.4%)が回復・軽快、106例(32.5%)が未回復、死亡例は確認されなかった。・多変量解析の結果、甲状腺機能低下症、自己免疫性甲状腺炎、甲状腺腫、慢性甲状腺炎などの甲状腺の病歴(HR:3.05)がリスク要因として示された。肝機能障害:発現率7.93%(286/3,606例)・処置なしが223例(76.6%)と最も多く、ステロイド治療が約6%で実施されていた。・ニボルマブは、68例(23.8%)で中止(休薬)。17例で再投与、うち3例で肝機能障害の再発が認められた。・206例(72.0%)が回復・軽快、69例(24.1%)が未回復、4例(1.4%)が死亡。・多変量解析の結果、B型肝炎、C型肝炎、肝炎ウイルスキャリアー、脂肪肝、肝転移などの肝臓の病歴(HR:2.33)がリスク要因として示された。大腸炎・重度の下痢:発現率5.57%(201/3,606例)・主な処置として、67例(33.3%)でホルモン補充療法が行われていた。・ニボルマブ投与は、98例(48.8%)で中止(休薬)。33例で再投与、うち11例で大腸炎・重度の下痢の再発が認められた。・184例(91.5%)が回復・軽快、12例(6.0%)が未回復、3例(1.5%)が死亡。・多変量解析の結果、リスク要因は抽出されなかった。・一年生存率は、有効性解析対象全体で42.4%(1,433/3,381例)。PS良好の患者で高い一年生存率が確認された(PS 0~1:49.2%、PS 2:17.0%、PS 3~4:11.2%)。※医師限定肺がん最新情報ピックアップDoctors’Picksはこちら

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HIV治療の簡素化は本当に可能か?(解説:岡慎一氏)-972

 死の病であったエイズ治療の歴史は、抗HIV薬の開発に合わせ変遷してきた。1987年のAZT単剤療法から90年代前半の2剤療法までは、予後の改善はなかった。しかし、1997年以降3剤併用療法になってから、予後が劇的に改善された。少なくともこの20年は、3剤併用療法をゴールデンスタンダードとしてHIVをコントロールしてきた。 ところが、今回の論文は、今までの流れに逆行するように、初回治療で2剤療法をスタンダードの3剤療法と比較した無作為割り付け試験である。しかもその2剤は、ドルテグラビル+ラミブジンという飛び切りの新薬というわけでもない。結果は、非劣性が証明された。この試験の結果をもとに、初回治療の第1選択の組み合わせとしてこの2剤が推奨されるようになるかもしれない。しかし、この臨床試験では、ラミブジン耐性ウイルスを持つ患者は除外されていた。危ない結果である。本当に危ない結果である。 ラミブジンは、現在の治療法では、ほぼすべての組み合わせの構成成分の1つである。しかも、非常に薬剤耐性になりやすい薬剤である。アフリカでは、半数近い患者が治療失敗を経験している地域もあり、ラミブジン耐性ウイルスは蔓延している。一方、コストを考えれば、薬剤耐性検査などできない途上国でこそ、この治療法の使われる可能性がある。選ばれた患者で形成された臨床試験の結果を実際の臨床現場に持ち込むには、慎重なまでの熟考・熟慮が必要である。

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第18回 救急科からのノルフロキサシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?赤痢菌※・・・9名下痢原性大腸菌・・・7名カンピロバクター・・・7名サルモネラ・・・7名赤痢アメーバ・・・6名腸炎ビブリオ・・・3名ノロウイルス、ロタウイルス・・・3名チフス・・・2名※細菌性赤痢の原因菌で、潜伏期1~5日(通常1~3日)で発症し、全身の倦怠感、悪寒を伴う急激な発熱、水様性下痢を呈する。発熱は1~2日続き、腹痛、しぶり腹(テネスムス)、膿粘血便などの症状が現れる。全数報告対象(3類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない1)。抗菌薬から考える 奥村雪男さん(薬局)途上国旅行中に生じる下痢は、非常に多くの微生物が関与します2)。推奨される治療については、ガイドライン3)を参照すると、赤痢アメーバ腸炎、ランブル鞭毛虫症(ジアルジア症)であればメトロニダゾールを使用するクリプトスポリジウム症は免疫能が正常であれば自然治癒が見込めるサイクロスポーラ感染症ではST合剤を使用する以上から、現時点では原虫症は鑑別の上位にないように思います。また、腸管出血性大腸菌(EHEC)以外の下痢原性大腸菌は、経過観察か補液で自然軽快することがほとんどEHECでは早期にレボフロキサシンの投与を考慮するカンピロバクターは自然治癒するサルモネラは、健常者の軽症~中等症において抗菌薬の投与は推奨されていない細菌性赤痢の第一選択はレボフロキサシン、シプロフロキサシンである以上から、現時点で想定されている原因菌は、前述の原虫以外の細菌およびロタウイルスと考えます。旅行者下痢症は、特にempiric therapyを考慮するケースとされ、第一選択としてレボフロキサシン、 シプロフロキサシンが挙げられています。潜伏期間を考慮 清水直明さん(病院)現地で何かに感染したとすると、比較的潜伏期間が短い感染症を考える必要があります。厚生労働省検疫所(FORTH)によれば、フィリピンでは1 年を通じて、腸チフス(潜伏期間:1~3週)、アメーバ赤痢(2~4週)、細菌性赤痢(1~5日)、A型肝炎(2~7週)などのリスクがありますが、症状および潜伏期間から、この中で細菌性赤痢が最も当てはまります。カンピロバクター(2~4日)、サルモネラ(12~72時間)などもありえそうですが、重症度を考慮して、まずは細菌性赤痢を念頭に置いた治療で様子を見るということだと思います。処方内容、渡航先、症状を踏まえる ふな3さん(薬局)腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、サルモネラ、コレラ、赤痢菌などを想定した処方ではないかと思います。ただし、あくまで「処方から」予想される原因菌であって、渡航先と症状からは、ロタウイルス、ノロウイルス、赤痢アメーバなども考えられます。Q2 患者さんに確認することは?副作用歴と止瀉薬について 中堅薬剤師さん(薬局)副作用歴、止瀉薬の所持を必ず確認します。可能であれば、症状変化の詳細も聞いてみたいです。アレルギーや金属イオンを含む薬剤 奥村雪男さん(薬局)ニューキノロン系抗菌薬に対するアレルギーがないか確認します。酸化マグネシウムや鉄剤などの金属イオンを含む薬剤やサプリメントは、ノルフロキサシンの吸収を低下させてしまうため(併用注意記載あり)、確認します。現地での食事状況 JITHURYOUさん(病院)PPIやステロイドを服用している場合は、感染しやすくなっている可能性があります。水分や食事(薬剤)が取れるか? 発熱は? 点滴したかも確認します。赤痢菌は水系感染で、現地で水道の水などは飲んでいないと思いますが、氷でも感染する場合があります。水で汚染されている可能性がある果物類の他、魚介類や熱が十分に通っていない食材などを摂取したかも確認したいです。渡航先、渡航期間を医師に話したか ふな3さん(薬局)渡航先・渡航期間を医師に話したか、必ず確認します。渡航歴を伝えない患者、聞かない医師もいるからです。感染者が家族・職場などにいると、感染拡大する可能性もあります。できれば、菌の同定検査をしたか、同行者に同様の症状がないかも聞きたいです。食欲と水分補給について 清水直明さん(病院)「食欲はありますか? 水分は取れそうですか?」もしも食欲がなくて水分・電解質が十分取れない状況ならば、脱水を引き起こす危険性があるため、点滴などの処置が必要になるかもしれません。ロコア®テープにも注意 児玉暁人さん(病院)併用禁忌確認のため、フロベン®(フルルビプロフェン)の内服をしていないか、ロコア®テープ(エスフルルビプロフェン)を使用中でないか確認します。ロコア®テープは貼付薬ながら血中濃度が上昇するため、併用禁忌にノルフロキサシンの記載があります。Q3 疑義照会する?する・・・4人なぜノルフロキサシン? 清水直明さん(病院)細菌性赤痢であればキノロン系抗菌薬が第一選択になりますが、今どき、腸管感染症に対してノルフロキサシンを使うのかなと感じます。なぜレボフロキサシンやシプロフロキサシンではなく、ノルフロキサシンなのか聞いてみたいです。抗菌薬の用量 JITHURYOUさん(病院)ノルフロキサシンの投与量が少ないです。添付文書では腸チフスの場合、1回400mg 1日3回投与14日間とされています(症状から腸チフスではないようにも思いますが、可能性はあります)。整腸剤の変更 キャンプ人さん(病院)ラックビー®微粒Nはキノロン服用時の乳酸菌製剤としては効果が減弱するため、ミヤBM®への変更を依頼します。想定している原因菌について 荒川隆之さん(病院)ラックビー®微粒Nはキノロン系抗菌薬で失活する恐れがありますので、ビオスリー®などへの変更を提案します。提案するときに、医師が想定している原因菌についても同時に確認すると思います。また、旅行者下痢症は通常3~5日で回復しますので、投与期間は5日で妥当と考えます。しない・・・6人やや用量は少ないが・・・ 中堅薬剤師さん(薬局)JAID/JSC 感染症治療ガイドライン―腸管感染症―2015によれば、ノルフロキサシンの投与は1回2~4mg/kg、1日3回とされていて、22歳だと1回100mgはやや少ない気がしますが、疑義照会まではしないです。耐性乳酸菌に変える必要はない 中西剛明さん(薬局)疑義照会しません。エンテロノン® -Rなどの耐性乳酸菌を使う必要はないと思います。耐性乳酸菌を使うと、併用できる抗菌薬にノルフロキサシンが入っていないので、保険で査定されてしまう恐れがあります。ちなみに、乳酸菌製剤は死菌で十分効果があるという説もあります。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?光線過敏の副作用について 中堅薬剤師さん(薬局)具合が悪いので外で紫外線を浴びることは少ないかもしれませんが、ノルフロキサシンによる光線過敏の可能性を話しておきます。止瀉薬は使わないこと、水分は経口補水液を少量ずつ摂取することなども説明します。服用方法についての説明例 ふな3さん(薬局)「抗菌薬は5日間飲みきってください。8時間ごととなっていますが、生活パターン上、服薬が難しいようなら、7~9時間の間隔であれば大丈夫です。食前・食後でも大丈夫ですが、カルシウムなどのミネラルを摂取すると薬の吸収が悪くなることがあるので、カルシウムやマグネシウムなどのサプリメントなどは控えてください。飲み忘れた場合は、すぐに1回分を飲んで、できるだけ1日3回の服用を続けてください」「帰宅後、激しい嘔吐、発熱、強い腹痛、血便、便意があるのに便がほとんど出ない状態を繰り返す(しぶり腹)など体調変化があった場合、また、3日以上経過しても症状が改善しない場合は、すぐに再受診してください」抗菌薬の服用前後2時間は牛乳などを避ける 清水直明さん(病院)「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬、貧血の薬(鉄剤)と一緒に服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間は、それらの摂取を避けるようにしてください。」家族の感染対策 キャンプ人さん(病院)家族などの同居者にも、感染対策するよう指導します。服用時間について わらび餅さん(病院)症状がひどいうちは食事が取れないだろうと考えて、用法を8時間ごととしたのだろうと思います。ですが、厳密に8時間ごととする必要はなく、内服は多少時間がずれても構わないことを伝えます。Q5 その他、気付いたことは?脱水予防 JITHURYOUさん(病院)とにかく脱水予防が必要です。吐き気などで経口できない場合は、補液がファーストだと考えます。抗菌薬はセフトリアキソンなどでしょうか。経口可能であればニューキノロン系抗菌薬、特にレボフロキサシンなどがよいと思いますが、耐性化が進んでいるのでアジスロマイシンなども候補とします。原因菌の特定は重要であり、報告義務のある赤痢菌、コレラの検出であれば、その消失を確認しないといけない旨を伝えます。寄生虫検査は複数回行われる場合があり、周囲のへの感染予防も必要です。腸炎ビブリオの可能性 ふな3さん(薬局)なぜレボフロキサシンではなく、わざわざノルフロキサシンを選んだのか気になります。レボフロキサシンとノルフロキサシンを比較すると、レボフロキサシンでは適応菌種として腸炎ビブリオが含まれていないので(キノロン系抗菌薬ではノルフロキサシンのみに適応あり)、ひょっとしたら腸炎ビブリオが最も疑われているのかもしれない、と思います。注)添付文書上、適応菌種には記載されていないが、JAID/JSCガイドライン2015―腸管感染症―において、レボフロキサシンは腸炎ビブリオに第一選択(ただし重症例に対して)になっている。後日談(担当した薬剤師から)患者は医学生で、熱帯医療のサークルでフィリピンに滞在していたそうです。今回は4回目の渡航で、赤痢を警戒し、食事や水には非常に気を使っていたとのことです。赤痢アメーバは内視鏡で否定され、検査結果は腸炎ビブリオで、ブドウ球菌の毒素も絡んでいる可能性もあるとのことでした。帰国前に魚料理を食べており、これが原因かもしれないということでした。1)NIID 国立感染症研究所.細菌性赤痢とは.2)青木眞.レジデントのための感染症マニュアル.第2版.東京、医学書院、2008.3)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015‒腸管感染症‒.一般社団法人日本感染症学会、2016.[PharmaTribune 2017年8月号掲載]

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腸内細菌の医療への応用

過去10年間で急速な発展を遂げてきた腸内細菌叢領域。健康や疾患との関連性も明らかになってきており、医学・医療分野での注目度も高まっている。そのようななか、腸内細菌叢解析のビジネス化にいち早く着目したのが株式会社サイキンソーだ。サイキンソー代表取締役 沢井悠氏に、腸内細菌叢の解析が医療にもたらす可能性について聞いた。インタビュイー腸内細菌叢が注目されるようになった背景や、サイキンソーが提供する腸内細菌叢検査サービスについて教えていただけますか?ゲノム解析技術の革新を背景に、2010年台前半から世界的に腸内細菌叢研究が活発化するようになりました。そのようななか、サイキンソーは2014年に創業しました。創業当時は、腸内細菌叢に対する認知度はそれほど高くありませんでしたが、その後メディアが取り上げたことがきっかけで一気に認知が広がり、一般の方も関心を持たれるようになりました。私どもの提供する個人向け腸内細菌叢検査サービス「マイキンソー(Mykinso)」も、そうした背景から注目されるようになりました。マイキンソーは、生活習慣に関する問診票に回答し、専用のキットを使って採取した糞便サンプルを郵送するだけの、手軽な腸内細菌叢検査サービスです。キットを返送いただいてから約4週間で結果が出ます。個人向けとして展開していましたが、医師から問い合わせをいただくことが増えたため、現在は医療機関にもサービスを提供しています。検査では、ビフィズス菌や乳酸菌、酪酸菌、エクオール産生菌などの主要な細菌の割合、腸内細菌の多様性、細菌の構成比率などがわかります。医療機関向けには、問診票に書かれた悩みや症状に関連する細菌の解析結果などをまとめた「腸内フローラカルテ」を作成しています。腸内フローラカルテには、患者さん一人ひとりに管理栄養士から具体的な生活習慣のアドバイスがあり、検査後の患者指導にも役立てられると思います。腸内フローラカルテの一例画像を拡大する画像を拡大する検査サービスを利用いただく方は30~50代が中心で、医療機関を通して検査を受けるのは60~70代の方が多い傾向にあります(図)。特に、20代や60歳以上では症状や体調の悩みが強い方が多く、投薬やプレバイオティクス・プロバイオティクスなど、症状改善のためにすでに色々なことを試しているケースが多く見受けられます。(図)腸内細菌叢検査「マイキンソー」の利用者属性画像を拡大する医療機関ではどのように活用されているのでしょうか?マイキンソーは、北海道から沖縄まで、幅広い地域の医療機関に採用いただいています。診療科別では消化器内科が多く、産婦人科や整形外科での導入実績もあります。便秘や下痢などの症状が従来の検査・治療ではなかなか改善しない患者さんに対し、腸内細菌叢の検査を勧めるという流れで活用されることが一般的です。全国に先駆けて腸内細菌外来を設置した愛知県一宮市の山下病院では、従来の検査で原因が特定できず、投薬でも便秘や下痢が改善しない患者さんに対し、腸内細菌叢検査の結果を基にした生活指導を行っています。指導は医師が行うだけでなく、看護師や管理栄養士もフォローアップをしているそうです。機能性の消化管障害の場合、治療をしても満足のいく改善効果が得られないケースが一定数ありますが、腸内細菌叢検査を活用することで、そうしたケースでも適切な指導が行えるようになったと伺っています。これまでに蓄積した解析データから、機能性の消化管障害を有する人では健常な人と比べて腸内細菌叢のバランスが崩れており、検出される菌叢が大きく異なることがわかっています。具体的には、短鎖脂肪酸を産生する細菌が少ない、細菌の多様性を示すスコアが低い、ファーミキューテス門菌とバクテロイデーテス門菌の比率(FB比)が高いなどの違いが見つかります。菌叢のバランスが崩れている場合、プレバイオティクスやプロバイオティクスを取り入れてバランスを整えていくことで症状の改善につながることも期待できるようです。将来的に、腸内細菌叢検査は医療にどのような影響をもたらすと期待されますか?腸内細菌叢との関連に関する研究が最も進んでいるのは、炎症性腸疾患(IBD)や過敏性腸症候群(IBS)、便秘、下痢などの下部消化管の疾患・症状です。そのほかに、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などの肝臓の疾患や関節リウマチなどの自己免疫疾患との関連も多く調べられています。エビデンスの集積が進めば、疾患の治療戦略の検討や予防を目的として、腸内細菌叢を解析するようになっていくものと期待されます。腸内細菌叢は、抗菌薬をはじめとするさまざまな薬の影響を受けると考えられています。また逆に、腸内細菌叢のバランスが崩れていると、薬の効果や副作用の発現が減弱・増強される可能性があることもわかってきています。将来的に、投薬のベースとして腸内細菌叢を整えることが重要視されるようになれば、腸内細菌叢を解析する意義がより明確になるものと考えられます。米国では、日本より先んじて臨床での腸内細菌叢検査の活用が広がっています。細菌叢検査領域のベンチャー企業の代表格である米国uBiomeでは、IBDやIBSなどの疾患と関連する腸内細菌を検出する腸内細菌叢検査サービス「SmartGut」を展開していますが、この検査は大多数の健康保険会社で保険償還されています。近い将来、日本でも腸内細菌叢検査が評価され、血液検査のように日常診療で実施されるようになることを期待しています。

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新規抗インフルエンザ薬の位置付け

 インフルエンザの流行期に備え、塩野義製薬が「インフルエンザ治療の最前線」と題したメディアセミナーを都内にて開催した。本講演では、廣津 伸夫氏(廣津医院 院長)が、「抗インフルエンザウイルス薬『ゾフルーザ(一般名:バロキサビル)』の臨床経験を通じた知見」について語り、「従来の治療薬と同等の立場で選択されるべき治療薬だ」との見解を示した。既存のNA阻害薬と新規作用機序のバロキサビル はじめに、最新のインフルエンザ治療に関する自身の研究成果が紹介された。本人・家族における過去のインフルエンザ感染既往は、ワクチン接種後の抗体価上昇に良好に影響し、ウイルスの残存時間を短縮するという。既存の抗インフルエンザウイルス薬であるノイラミニダーゼ(NA)阻害薬は、薬剤によってウイルスの残存時間への影響が異なり、ウイルス残存時間が短いNA阻害薬ほど、家族内感染率を下げたと報告された。 次に、2018年3月に発売されたバロキサビルについて解説された。バロキサビルは、新規作用機序をもつ抗インフルエンザウイルス薬であり、インフルエンザウイルス特有の酵素であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性を選択的に阻害し、ウイルスのmRNA合成を阻害することで、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する。 廣津氏は、第II相、第III相、および小児の治験から得られた、バロキサビルの利便性、抗ウイルス効果、安全性についての結果と、自ら携わった治験での臨床経験を語った。バロキサビルはインフルエンザの罹病期間を短縮する バロキサビルの、成人および青少年(12歳以上65歳未満)の患者を対象とした国際共同第III相試験において、A型および/またはB型インフルエンザウイルス感染症患者1,064例を対象とした結果、主要評価項目であるインフルエンザ罹病期間の中央値は、プラセボ群(80.2時間、95%信頼区間[CI]:72.6~87.1)と比較して、バロキサビル群(53.7時間、95%CI:49.5~58.5)で有意に短かった(p<0.0001)。 また、副次評価項目であるウイルス力価に基づくウイルス排出停止までの時間の中央値は、オセルタミビル群(72.0時間、95%CI:72.0~96.0)と比較して、バロキサビル群(24.0時間、95%CI:24.0~48.0)で有意に短く(p<0.0001)、インフルエンザ罹患時にバロキサビルを服用すると、体内のインフルエンザウイルスが早くいなくなる可能性が示唆された。 しかし、オセルタミビルとの比較試験では、主要評価項目の基準となったインフルエンザの7症状(咳、喉の痛み、頭痛、鼻づまり、熱っぽさまたは悪寒、筋肉または関節の痛み、疲労感)の消失を基準にした罹病期間はほとんど変わらなかったが、「何よりも治療を受けた患者さんたちの『楽になった』との自覚症状の改善が印象的」と語った。低年齢の小児では、治療後に変異ウイルス発現の可能性 続けて小児(6ヵ月以上12歳未満)のA型および/またはB型インフルエンザウイルス感染症患者104例を対象とした国内第III相試験について、成人を対象とした試験と同様にインフルエンザの罹病期間の中央値を評価したところ、バロキサビル群で44.6時間(95%CI:38.9~62.5)と良好な結果が得られた。 一方で、小児では治療後にバロキサビルに対する感受性低下を示す可能性のある変異ウイルスが観察されており、低年齢(とくに5歳未満)で変異率が高くなるという報告がある。しかし、臨床効果への影響についてはまだわかっていないため、今後の検討が必要であるという旨の提言が日本感染症学会インフルエンザ委員会から出されている。これに対しては、抗体価が高いと、変異のリスクを低下させる可能性があるという治験での結果から、ワクチン接種の効果も期待できるとの見解が示された。 最後に、同氏は「インフルエンザ患者の初診時に、効果、安全性、利便性を考えたうえでの薬剤選択が必要。バロキサビルという新薬の登場で、インフルエンザ診療に新たな選択肢が増えた。バロキサビルの単回経口投与という利便性と、高い有効性と安全性から、従来の薬にとって代わる薬剤になるのではないかと思っている。ただし、変異ウイルスに関しては、今後も十分な観察・注意が必要だ」と講演を締めくくった。

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多剤耐性グラム陰性桿菌、ICUでのベストな感染予防は?/JAMA

 多剤耐性グラム陰性桿菌(MDRGNB)感染の発生率が中等度~高度のICUにおいて、人工呼吸器装着患者に対する、クロルヘキシジン(CHX)による口腔洗浄や、選択的中咽頭除菌、選択的消化管除菌の実施は、いずれも標準的ケア(CHXによる毎日の清拭とWHO推奨手指衛生プログラム)と比べて、MDRGNBによるICU血流感染の発生率を低下させないことが示された。オランダ・ユトレヒト大学病院のBastiaan H. Wittekamp氏らが行った無作為化比較試験の結果で、JAMA誌2018年11月27日号で発表した。CHXによる口腔洗浄、選択的中咽頭、消化管除菌を各1日4回実施 試験は2013年12月1日~2017年5月31日に、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生腸内細菌細菌による血流感染が5%以上を占める、ヨーロッパ13ヵ所のICUで行われた。被験者は、人工呼吸器の24時間超の使用が予測された患者で、追跡調査は2017年9月20日まで行った。 標準ケアは、CHX2%による毎日の清拭とWHO推奨手指衛生プログラムの実施で、ベースラインとして6~14ヵ月実施した。その後、クロルヘキシジン1~2%による口腔洗浄、選択的中咽頭除菌(コリスチン、トブラマイシン、ナイスタチン入り口腔ペースト:SOD)、選択的消化管除菌(同口腔ペーストの使用と同種抗菌薬による胃腸混濁液:SDD)をそれぞれ1日4回、6ヵ月ずつ、無作為順序で行った。 主要評価項目は、各介入期間におけるMDRGNBによるICU血流感染の発生率で、副次評価項目は28日死亡率だった。ICU血流感染の発生率、28日死亡リスクともに低下せず 被験者総数は8,665例で、年齢中央値は64.1歳、うち男性は64.2%だった。ベースライン群、CHX群、SOD群、SDD群の被験者数は、それぞれ2,251例、2,108例、2,224例、2,082例だった。 試験期間中のMDRGNBによるICU血流感染は全体で144例(154件)に発生し、発生率はベースライン群が2.1%、CHX群が1.8%、SOD群1.5%、SDD群が1.2%。 絶対リスク減少は、ベースライン群と比較して、CHX群が0.3%(95%信頼区間[CI]:-0.6~1.1)、SOD群0.6%(-0.2~1.4)、SDD群が0.8%(0.1~1.6)だった。対ベースラインの補正後ハザード(HR)は、それぞれCHX群1.13(95%CI:0.68~1.88)、SOD群0.89(0.55~1.45)、SDD群0.70(0.43~1.14)だった。 また、補正前28日死亡リスクは、ベースライン群が31.9%、CHX群32.9%、SOD群32.4%、SDD群34.1%。28日死亡に関する対ベースラインの補正後オッズ比は、CHX群1.07(95%CI:0.86~1.32)、SOD群1.05(0.85~1.29)、SDD群1.03(0.80~1.32)だった。

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第17回 内科からのレボフロキサシンの処方(後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3 疑義照会する?しない・・・8人PRSPを想定? 荒川隆之さん(病院)しません。経口へのスイッチングの場合、わざわざブロードスペクトルであるレボフロキサシンにする必要性は低く、クラブラン酸/アモキシシリンなどでもよい気はするのですが、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)を想定されているのかもしれません。ガイドラインを参考に 奥村雪男さん(薬局)疑義照会しないと思います。JAID/JSC感染症治療ガイド2014でdefinitive therapyとして推奨される治療に、PSSP外来治療の第二選択と、PRSP外来治療の第一選択にレボフロキサシンが記載されています。投与期間については、「症状および検査所見の改善に応じて決定する。5~7日間が目安となる」とあるので、セフトリアキソン4日間+レボフロキサシン5日間で、不自然な日数ではないと思います。する・・・3人ガレノキサシンへの変更提案 清水直明さん(病院)発熱・呼吸器症状・食欲不振があるので、喘息発作ではなく呼吸器感染症と考えます。本来、肺炎球菌と確定しているのならば高用量ペニシリンを推奨すべきところですが、肺炎球菌の検査をしたかどうか、胸部レントゲンも撮ったかどうか不明確ですので、外来静注抗菌薬療法後のスイッチ療法としてはキノロン系抗菌薬もありだと思います。ただし、幾つかの成書から呼吸器感染症に対してはレボフロキサシンよりもガレノキサシンが有効性が高いと思いますし、特に、肺炎球菌に対してはレボフロキサシンとガレノキサシンのMICは結構異なっているので、「レボフロキサシン500mgでも特別問題ないかもしれませんが、より有効性を期待するという意味で、ジェニナック®錠 1回400mg 1日1回をお勧めします」と提案します。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与に JITHURYOUさん(病院)疑義照会します。喘鳴がなく、熱があることを考えると、喘息発作ではなく呼吸器感染症でいいと思います。食欲がない、発熱からも肺炎の可能性があると考えます。その場合、呼吸器学会の鑑別基準でいくと、1~5の項目で3項目が該当するため非定型肺炎の可能性があると思われます。喘息があることや、非定型のカバーを考えるとレボフロキサシン経口内服指示は理解できます。しかし、セフトリアキソン点滴に効果があることから非定型肺炎はカバーしなくてよいと思います。PRSPである場合は、レボフロキサシン投与もうなずけます。しかし、結核のリスクがあること、喘息の管理としてステロイド吸入やマクロライド系抗菌薬を使用していないこと、飲酒習慣などもなく耐性菌リスクが少ないのではないかと考えられるため、今回のレボフロキサシンの処方は一考した方がいいのではないかと考えました。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与(アドヒアランス考慮)を提案すると思います。細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別1.年齢60 歳未満2.基礎疾患がない、あるいは軽微3.頑固な咳嗽がある4.胸部聴診上所見が乏しい5.喀痰がない、あるいは迅速診断で原因菌らしきものがない6.末梢血白血球数が10,000/μL未満である1-6の6項目中4項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度77.9%、特異度93.0%。1-5の5項目中3項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度83.9%、特異度87.0%日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺炎診療ガイドライン.東京、日本呼吸器学会、2007.Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?再受診のタイミングや他院受診時の注意 ふな3さん(薬局)必ず指示された日(3日後)から服用を開始すること食欲がなくても、食事が取れなくても、毎日必ず1錠服用すること症状が改善しても5 日分服用を続けること服薬して3日以上(=治療開始から7日以上)経過しても症状が改善しない場合には、すぐに医療機関を再受診すること他院(喘息治療など)に通院の際は、必ずレボフロキサシンを服用中であることを伝えることしっかり飲みきることと副作用について JITHURYOUさん(病院)耐性菌が出現しないよう、しっかり飲み切ること。確率は低いですが、アキレス腱炎や痙攣、光線過敏症などに気を付けること。患者さんへの説明例 清水直明さん(病院)「薬のせいでお腹が緩くなることがあります。我慢できる程度の軽い症状ならば抗菌薬をやめれば戻るので問題ありませんが、ひどい場合には服用を中止してご連絡ください」「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)と一緒に服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」併用薬はなしとのことですが、OTCやサプリメントを服用している可能性はあり、その中に相互作用を起こすアルミニウムやマグネシウムなどが入っていることがあるので、一応伝えておきます。結核検査をしていた場合 キャンプ人さん(病院)「4日間点滴後の内服薬なので、飲み始める日にちを間違えないようにしてください」と言います。結核の検査をしていたなら、病院から検査結果の連絡があれば必ず受診するなど、そのままほったらかしにしないよう説明します。車の運転について 柏木紀久さん(薬局)3日後からの服用を理解しているかの確認と、5日間きちんと服用してもらうこと。車や機械などの運転を極力控えること。Q5 その他、気付いたことは?肺炎球菌→レボフロキサシン? 中堅薬剤師さん(薬局)肺炎球菌にすぐレボフロキサシン、はオーバートリートメントかな、と個人的に思います。できれば、アモキシシリン5~7日の投与で十分とコメントしたいです。地域のアンチバイオグラムは? 荒川隆之さん(病院)原因菌も肺炎球菌とされているので、通常ならレボフロキサシンではなく、クラブラン酸/アモキシシリンなどの経口の方が適しているものと考えますが、原因菌がPRSPであった場合は、レボフロキサシンでもよいのかもしれません。PRSPかどうかは尿中抗原などでは診断が付かず、培養の結果を待たなければなりません。喀痰培養などで肺炎球菌は増殖しづらく、処方の時点でPRSPだと断定はできていないものと考えます。地域のアンチバイオグラムにおいてPRSPの頻度が高い地域なのでしょうか。処方タイミング ふな3さん(薬局)4日間の点滴での容体の変化を見て、その後の抗菌薬フォローアップを決めるのが一般的だと思うので、なぜこのタイミングで処方なのかは疑問です。GWや年末年始でクローズする調剤薬局が多いタイミングだったのでしょうか。治療後の残存症状として、喘息症状の遷延や悪化があった場合、喘息治療薬も必要になる可能性があるので、やはり点滴投与後の処方が望ましいと感じます。また、出勤などは控えるように伝えられているのではと思うので、その点も確認したいです。肺炎球菌の耐性度は、ほとんどが中等度まで 奥村雪男さん(薬局)薬剤耐性対策としては可能であれば、レボフロキサシンより高用量のアモキシシリンなどのペニシリンが好ましかったのではと思います。日常診療で遭遇するほとんどの肺炎球菌はせいぜい中等度耐性(MICが1~2μg/mL)であり、高用量のペニシリンで対応可能とされています1)。処方例としては、アモキシシリン500~1,000mgの1日3~4回経口が挙げられています。感受性の結果次第ではペニシリン系を提案 児玉暁人さん(病院)セフトリアキソンで効果があるようであれば、レボフロキサシンでなくてもよいかもしれません。喀痰培養で感受性結果が分かれば、自信を持ってペニシリン系を処方できると思います。判定が早いので迅速キットでの検査だったのかもしれません。検査室がありグラム染色ができれば、その日でも肺炎球菌を想定はできますが。初日に培養を出せば4日目の点滴時には感受性結果が出るはずですので、そこで抗菌薬を決めて処方箋を出すというのでもいいのでは。検査が外注だとそうはいかないのですが。喘息の定期受診と生活指導 JITHURYOUさん(病院)喘息で併用薬なしということですが、本当に定期的な受診をしているのかは不明です。日常生活の支障がないのでしょう。しかし、発作がなくてもステロイド吸入で気道リモデリングの予防と喘息死の予防をすることは欠かせないこと、感染症が発作の引き金になるので合わせて定期受診すべきであることを伝えたいです。男性一人暮らし、ハウスダストアレルギーなので定期的な部屋の掃除なども指導したいですね。また、患者の身長体重から、BMIは17.31となります。やせ型の若い男性で気胸のリスクがあるので、咳が続き胸痛や呼吸困難などの症状があれば受診するように指導します(登山や出張などで飛行機など乗ること、楽器演奏、激しい運動などは治療が終わるまでできれば避けること)。さらに可能であれば、運動を少しずつしていき筋肉や体力をつけていき、呼吸器感染症や喘息、気胸予防をしていくように指導したいです。後日談(担当した薬剤師から)翌週、無事に回復しましたと処方箋を持って来局。咳症状が少し残っていたのでしょう、デキストロメトルファン錠15mgとカルボシステイン錠250mgを1回2 錠 1日3回 毎食後7日分を受け取って帰られました。後日談について 中堅薬剤師さん(薬局)後日談の咳が残るという主訴(おそらく感染後咳嗽)に対して、デキストロメトルファンは微妙かなあと感じました。呼吸器門前で働いてきた経験から、むやみな鎮咳剤投与は無意味ではないか、と考えるようになったからです。本当につらい咳なら、コデイン投与で間欠的にするべきですし、そもそもの治療が奏功していない可能性もあります。そんなにひどくない咳であれば、麦門冬湯でもよいと思います。1)青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2 版. 東京、医学書院、2008.[PharmaTribune 2017年7月号掲載]

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胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」【下平博士のDIノート】第14回

胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」今回は、「抗トキソプラズマ原虫薬スピラマイシン(商品名:スピラマイシン錠150万単位)」を紹介します。本剤は、妊娠中にトキソプラズマに初感染した妊婦が服用することで、胎児の先天性トキソプラズマ症の発症を抑制します。<効能・効果>本剤は先天性トキソプラズマ症の発症抑制の適応で、2018年7月2日に承認され、2018年9月25日より販売されています。トキソプラズマのタンパク合成を阻害することで、増殖抑制効果を示します。<用法・用量>通常、妊婦に1回2錠(スピラマイシンとして300万国際単位)を1日3回経口投与します。抗体検査や問診などにより妊娠成立後のトキソプラズマ初感染が疑われる場合に使用します。<患者さんへの指導例>1.妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合に、胎児が感染することで発症する恐れのある「先天性トキソプラズマ症」を防ぐための薬です。2.胎児への感染が確認されないうちは、分娩まで続けて服用します。3.薬によって腸内細菌のバランスが崩れると、便が緩くなったり、おなかが痛くなったりすることがあります。4.高熱、激しい腹痛を伴う血便、めまい、動悸、胸痛などの症状がありましたら、服用をやめてすぐに医師の診察を受けてください。5.母乳中に移行することが報告されているため、本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>トキソプラズマは人畜共通の寄生原虫であり、猫を終宿主としますが、豚、牛、鶏、羊、馬などのほか、食肉用の動物以外も含めて、ほぼすべての哺乳類や鳥類に感染します。ヒトへの主な感染経路としては、加熱不十分な食肉、猫の糞便や洗浄不十分な野菜などによって、トキソプラズマ原虫を経口的に摂取することが挙げられます。また、園芸などの土いじりや砂場遊びが原因になることも考えられます。通常、健康な成人がトキソプラズマに感染した場合、風邪様の症状が出現することもありますが、多くの場合は無症状のまま潜伏感染に移行します。しかし、妊婦がトキソプラズマに初感染すると、胎盤を介して胎児に感染し、先天性トキソプラズマ症を発症する可能性があります。先天性トキソプラズマ症は流産・死産の原因になったり、生まれた子供に水頭症、網脈絡膜炎による視力障害、脳内石灰化、精神・運動機能障害などといった重大な臨床症状が認められたりすることがあるため、胎児への感染を抑制する必要があります。本剤は、抗菌活性に加え、抗トキソプラズマ活性を有する16員環のマクロライド系抗菌薬で、海外の診療ガイドラインではトキソプラズマに初感染した妊婦に対し、本剤が標準的治療薬として推奨されています。しかし、わが国ではこれまでトキソプラズマを適応症として承認されている薬剤はなかったため、日本産科婦人科学会より開発の要望がなされていました。本剤の抗原虫作用はトキソプラズマに対する増殖抑制であり、感染後早期に服用を開始することで、垂直感染が約60%低下するという報告があります。ただし、殺原虫効果はないため、胎児への感染が疑われる場合には、本剤の投与・継続の適否について慎重に検討する必要があります。実際には先天性トキソプラズマ症で生まれてくる児はわずかですが、加熱不十分な食肉を食べること、素手での飼い猫の糞便の処理や土いじりは、トキソプラズマ感染を引き起こすリスクがあることを薬剤師も再認識し、妊娠中または妊娠を予定している患者さんに対して調理方法や手袋の着用、十分な手洗いなどの注意喚起を行えるとよいでしょう。

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