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肝臓がんの60%は予防可能

 進行が早く致死的となることも多い肝臓がんの60%は、重要なリスク因子を回避または治療することで予防できることが、新たな国際的研究で明らかにされた。重要なリスク因子とは、ウイルス性肝炎への罹患、アルコールの乱用、または肥満に関連する危険な肝脂肪の蓄積などであるという。論文の筆頭著者である香港中文大学(中国)のStephen Chan氏は、「各国がこれらのリスク因子に焦点を絞り、肝臓がんの発生を防いで人々の命を救う大きな機会があることを浮き彫りにする結果だ」と述べている。この研究は、肝臓がんに関する特別報告書として、「The Lancet」に7月28日掲載された。 Chan氏らによると、肝臓がんは世界で6番目に多いがんであり、がんによる死因の第3位である。肝臓がんの影響の大きさは国によって異なり、特に中国は、主にB型肝炎の蔓延により、世界の肝臓がん症例の42.4%を占めるほど症例数が多い。同氏らの報告書では、何らかの介入を行わなければ、世界の肝臓がん症例は2050年までにほぼ倍増し、年間150万件を超えると予測している。報告書の上席著者である復旦大学(中国)のJian Zhou氏は、「肝臓がんは、治療が最も難しいがんの一つであり、5年生存率は約5〜30%程度だ。現状を逆転させるための対策を今すぐにでも講じなければ、今後四半世紀で肝臓がんの症例数と死亡数がほぼ倍増する恐れがある」と危機感を示している。 肝臓がんの多くは予防可能である。予防可能な原因の一つである代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD)は、肝臓内に脂肪がゆっくりとだが着実に蓄積していく疾患で、肥満と関係していることが多い。Zhou氏らによると、世界人口の最大3分の1が何らかのレベルのMASLDに罹患しており、肥満率の上昇に伴いこの疾患の症例数も増加することが予測されているという。Zhou氏らは、2040年までに米国人の55%がMASLDに罹患し、肝臓がんの発症リスクも上昇すると予測している。  共著者の一人である米ベイラー医科大学のHashem El-Serag氏は、「肝臓がんはかつて、主にウイルス性肝炎、またはアルコール性肝障害の患者に発生すると考えられていた。しかし今日では、肥満率の上昇に伴いMASLDが増え、それに起因する肝臓がんが増加傾向にある」と指摘している。 一方、B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)については、治療法の進歩により、肝炎が肝臓がんの発症に与える影響は弱まりつつあるという。Zhou氏らは、「HBVに関連する肝臓がん症例の割合は、2022年の39.0%から2050年には36.9%に、一方HCV関連の症例は同期間に29.1%から25.9%に減少すると予測されている」と述べている。研究グループは、B型肝炎ワクチンの接種やC型肝炎の検査・治療の強化により、肝臓がんの発生率をさらに低下させることができる可能性があるとしている。  肝臓がんの発生を低下させるためには、MASLDの診断と治療も役に立つ。El-Serag氏は、「肝臓がんリスクが高い患者を特定する方法の一つは、肥満、糖尿病、心血管疾患などのMASLDリスクが高い患者を対象に、日常的な医療行為に肝障害のスクリーニングを導入することだ。このスクリーニングは、健康的な食事と定期的な運動に関する啓発活動の強化に役立つだろう」と付け加えている。  研究グループは、肝臓がんの年齢標準化罹患率を年間2~5%削減するだけで、2050年までに世界中で880万~1730万件の新たな肝臓がん症例を予防できる可能性があるとしている。これは、最大1510万人の命を救うことを意味するという。

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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狂犬病予防レジメン、モノクローナル抗体は有用か/Lancet

 狂犬病は、ほぼ確実に死に至る、主としてアジアとアフリカの低・中所得国で影響の大きいウイルス性疾患の人獣共通感染症である。ワクチンと免疫グロブリンによる曝露後予防(PEP)がきわめて効果的だが、狂犬病免疫グロブリン(ヒト狂犬病免疫グロブリン[HRIG]またはウマ狂犬病免疫グロブリン[ERIG])の製造・供給にさまざまな制約があり、低・中所得国の狂犬病への高リスク曝露例の大半は、狂犬病免疫グロブリンによる予防的治療を受けていないという。インド・Serum Institute of IndiaのPrasad S. Kulkarni氏らRAB-04 study groupは、同国で開発され2016年に受動的予防法として承認された世界初の狂犬病モノクローナル抗体(RmAb、Serum Institute of India製[Pune])について市販後調査を実施。RmAbは安全で忍容性は良好であり、狂犬病に対する予防効果が示されたことを報告した。Lancet誌2025年8月9日号掲載の報告。無作為化試験で免疫グロブリンレジメンと比較 研究グループはインドの3次救急病院15ヵ所で、RmAbを含むPEPレジメンの長期安全性、免疫原性および有効性を評価する、第IV相非盲検無作為化実薬対照試験を行った。 対象は、WHOの狂犬病曝露カテゴリー3(狂犬病感染が疑われる動物による曝露)を有する2歳以上で、試験登録前72時間未満に曝露があった患者(顔、首、手、指への曝露については試験登録前24時間未満)を適格とした。 被験者を、RmAb+精製Vero細胞狂犬病ワクチン(PVRV[Rabivax-S])またはERIG(Equirab製)+PVRVのいずれかのPEPを受ける群に3対1の割合で無作為に割り付けた。さらに各群で、筋肉内投与または皮内投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。各試験群には、ブロックサイズ8の並び替えブロックデザインを用いて割り付けられ、試験開始前に中央無作為化リストが作成され、双方向ウェブ応答システムを用いて無作為化された。免疫原性の検査担当者は割り付けを知らされなかった。 RmAb(3.33 IU/kg)およびERIG(40 IU/kg)は、WHO 2018推奨に従い0日目にのみ創傷内および創傷周囲に注射投与した。PVRVは、1.0mLを筋肉内投与(0日目、3日目、7日目、14日目、28日目:Essenレジメン)または0.1mL+0.1mLを皮内投与(0日目、3日目、7日目、28日目:updated Thai Red Crossレジメン)した。 主要アウトカムは予防的治療後365日までの治療関連重篤有害事象で、安全性解析対象集団(ワクチンと予防的治療を1回以上受けた全被験者)で評価した。また、狂犬病ウイルス中和抗体濃度の幾何平均値(GMC)をサブ対象集団で評価した。主要アウトカムの治療関連重篤有害事象は0件、長期の免疫応答を確認 2019年8月21日~2022年3月31日に、4,059例が登録・無作為化された。計3,994例(男性3,001例、女性993例)がPEPレジメンによる治療を受けた(RmAb+PVRV群2,996例、ERIG+PVRV群998例)。両群のベースライン特性は類似しており、平均年齢はRmAb+PVRV群30.3(SD 17.0)歳、ERIG+PVRV群30.6(17.5)歳、18歳未満の被験者がいずれも25.1%であった。また、曝露動物は犬がそれぞれ93.5%と92.6%。曝露から無作為化までの平均時間は15.1時間と15.4時間であった。 3,622例(90.7%)が1年間のフォローアップを完了した。 治療関連有害事象は、RmAb+PVRV群11件、ERIG+PVRV群で17件が報告された。ほとんどの有害事象は、軽度で一過性であった。 重篤な有害事象は、RmAb+PVRV群7例で7件報告されたが、すべて治療との関連は認められなかった。ERIG+PVRV群では治療と関連がある重篤な有害事象が1件報告された。 14日目に狂犬病ウイルス中和抗体濃度のGMCは、RmAb+PVRV群は16.05 IU/mL(95%信頼区間[CI]:13.25~19.44)に、ERIG+PVRV群は13.48 IU/mL(9.51~19.11)に上昇した(GMC比のポイント推定値:1.19[95%CI:0.82~1.72])。 1年間のフォローアップ中、狂犬病を発症した被験者はいなかった。 結果を踏まえて著者は、「RmAb+PVRVのPEPレジメンは、免疫原性が認められ、免疫応答は長期にわたり持続した」とまとめている。

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ビタミンDはCOVID-19の重症化を予防する?

 血中のビタミンDレベルが低い人では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時に重症化するリスクが高まるようだ。新たな研究で、ビタミンD欠乏症の人は新型コロナウイルス感染により入院する可能性が36%高くなることが示された。南オーストラリア大学(オーストラリア)のKerri Beckmann氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に7月18日掲載された。 2022年に報告された研究によると、米国人の約5人に1人(22%)はビタミンD欠乏症であるという。この研究では、UKバイオバンク参加者のデータを用いて、血中のビタミンDレベルと新型コロナウイルス感染およびCOVID-19による入院との関連を検討した。対象は、2006年から2010年のベースライン時にビタミンDレベルを1回以上測定し、新型コロナウイルスのPCR検査結果が記録されている15万1,543人である。ビタミンDレベルは、欠乏(0〜<24nmol/L)、不足(25〜50nmol/L)、正常(>50nmol/L)の3群に分類した。 対象者のうち、2万1,396人がPCR検査で陽性と判定されていた。解析からは、ビタミンDレベルが正常な群を基準とした場合の新型コロナウイルス感染に対する調整オッズ比は、ビタミンDレベルが不足している群で0.97(95%信頼区間0.94〜1.00)、欠乏している群で0.95(同0.90〜0.99)であり、わずかながらも感染リスクは低い傾向が認められた。一方、COVID-19の重症化の調整オッズ比については、ビタミンDレベルが不足している群で1.19(同1.08〜1.31)、欠乏している群で1.36(同1.19〜1.56)であり、リスクが有意に高いことが示された。 Beckmann氏は、「この研究では、ビタミンDが欠乏しているか不足している人では、ビタミンDレベルが正常な人と比べてCOVID-19で入院する可能性は高いものの、新型コロナウイルスに感染するリスクが高いわけではないことが示された」と述べている。その上で同氏は、「ビタミンDは免疫システムの調整に重要な役割を果たすため、ビタミンDレベルが低いと、COVID-19のような感染症に対する体の反応に影響を及ぼす可能性がある」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 Beckmann氏はまた、「COVID-19はかつてほどの脅威ではなくなったかもしれないが、依然として人々の健康に影響を与えている。最もリスクが高くなるのはどういう人なのかを理解することで、リスクの高い人のビタミンDレベルをモニタリングするなど、さらなる予防策を講じることが可能になる」と述べている。ただし同氏は、「現時点では、ビタミンDサプリメント自体がCOVID-19の重症度を軽減できるかどうかは不明である。新型コロナウイルスとの共存が続く中で、この点については、今後の研究で検討する価値が十分にあるだろう」と話している。

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オセルタミビルは小児の神経精神学的イベントを減少させる

 インフルエンザウイルス感染症では、オセルタミビルなどの治療薬による神経精神学的リスクの増大が懸念されている。しかし、インフルエンザ感染や治療薬が小児の神経精神学的イベントとどのように関係するのか不明な点も多い。この課題について、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのJames W. Antoon氏らの研究グループは、インフルエンザ、オセルタミビル、および重篤な神経精神学的イベントとの関連性を検討した。その結果、インフルエンザ罹患時のオセルタミビル治療は、重篤な神経精神学的イベントのリスク低減と関連することがわかった。この結果は、JAMA Neurology誌オンライン版2025年8月4日号で公開された。オセルタミビルは、重篤な神経精神学的イベントのリスク低減と関連 研究グループは、テネシー州の医療扶助事業(メディケイド)に加入している5~17歳までの小児・青年を対象に、2016~17年および2019~20年のインフルエンザシーズン中に、人口ベースの外来診療設定にて後ろ向きコホート研究を実施した。追跡はインフルエンザシーズンの初日から開始され、アウトカムイベントの最初の発生、登録解除、死亡、18歳到達、シーズンまたは研究終了のいずれか早い時点まで継続された。 主要なアウトカムは入院を要する神経精神学的イベントであり、イベントは検証済みのアルゴリズムを使用して特定。ポアソン回帰分析で発生率比(IRR)を推定した。感度分析では、曝露とアウトカムの定義の代替案、時間依存的なアウトカムリスク、負のコントロールアウトカム、未測定の交絡要因に対する結果の頑健性を検討した。データ分析は2023年7月~2025年3月に行われた。 主な結果は以下のとおり。・69万2,975人の小児・青年のうち69万2,295人(年齢中央値[四分位範囲]:11[7~14]歳、女子50.3%)が対象となった。・1,968万8,320人週の追跡期間中に、1,230件の重大な神経精神学的イベント(神経学的898件、精神学的332件)が発生した。・12万9,134例の個人が15万1,401件のインフルエンザエピソードを経験し、そのうち66.7%(95%信頼区間[CI]:66.5~67.0)にオセルタミビルが処方された(インフルエンザ合併症の高リスク群では60.1%、95%CI:59.6~60.6)。・全体で最も頻度の高かった神経精神学的イベントは、気分障害(36.3%)と自殺または自傷行為(34.2%)だった。・未治療のインフルエンザ群と比較し、オセルタミビル治療中群(IRR:0.53、95%CI:0.33~0.88)および治療後群(IRR:0.42、95%CI:0.24~0.74)では神経精神学的イベント率は低かった。・サブ解析では、この結果は精神学的イベント(IRR:0.80、95%CI:0.34~1.88)よりも神経学的イベント(IRR:0.45、95%CI:0.25~0.82)の減少によるものであることが示唆された。 研究グループでは、「インフルエンザ罹患時のオセルタミビル治療は、重篤な神経精神学的イベントのリスク低減と関連していた。これらの結果は、インフルエンザ関連合併症の予防におけるオセルタミビルの使用を支持するもの」と結論付けている。

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1型糖尿病への同種β細胞移植、拒絶反応なく生着/NEJM

 同種細胞移植では、術後に免疫系の抑制を要するが、これにはさまざまな副作用が伴う。スウェーデン・ウプサラ大学のPer-Ola Carlsson氏らの研究チームは、拒絶反応を回避するよう遺伝子編集されたヒト低免疫化プラットフォーム(hypoimmune platform:HIP)膵島細胞製剤(UP421)を、罹病期間が長期に及ぶ1型糖尿病患者の前腕の筋肉に移植した。免疫抑制薬は投与しなかったが、12週の時点で拒絶反応は発現しなかった。本研究は、Leona M. and Harry B. Helmsley Charitable Trustの助成を受けて行われ、NEJM誌オンライン版2025年8月4日号で報告された。症例:罹病期間37年の42歳・男性 本研究は、UP421(遺伝子編集ヒトHIP膵島細胞製剤)の安全性と有効性の評価を目的とする研究者主導の非盲検first-in-human研究である。対象は1例のみで、症例の追加登録はしなかった。 患者は、1型糖尿病の罹病期間が37年に達する42歳の男性であった。ベースラインの糖化ヘモグロビン値は10.9%(96mmol/mol)、内因性インスリンの産生は検出限界未満(Cペプチドは測定不能)であり、疾患の自己免疫性の指標となるグルタミン酸脱炭酸酵素と膵島抗原2自己抗体は検出可能であった。被験者は、1日32単位のインスリンの連日投与を受けていた。B2M遺伝子とCIITA遺伝子を不活化、CD47相補的DNAを導入 糖化ヘモグロビン値6.0%(42mmol/mol)の60歳のドナーから血液型O型適合膵臓を得た。拒絶反応を回避するための遺伝子編集として、ヌクレアーゼCas12b(CRISPR-CRISPR関連タンパク質12b)とガイドRNAを用いてドナー膵島細胞のB2M遺伝子(HLAクラスIの構成要素をコード)とCIITA遺伝子(HLAクラスIIの転写のマスターレギュレータをコード)を不活化した後、CD47の相補的DNAを含むレンチウイルスベクターを導入した。 最終的な細胞製剤(UP421)には次の3種類の細胞が含まれた。(1)CD47が高発現しHLAが完全に除去されたHIP膵島細胞、(2)CD47が内因性CD47の水準を保持したHLAクラスIおよびIIダブルノックアウト細胞、(3)CD47レベルが変動しHLAの発現が保持された膵島細胞(野生型)。また、この研究で使用された膵島細胞の約66%はβ細胞だった。 全身麻酔下に、被験者の左腕橈骨筋の部分の皮膚を切開し、合計7,960万個のHIP膵島細胞を17回に分けて筋肉内に注入、移植した。被験者は合併症の観察のため一晩入院し、翌日退院した。グルココルチコイド、抗炎症薬、免疫抑制薬の投与は行わなかった。HIP膵島細胞への免疫反応や試験薬関連有害事象はない 野生型細胞とダブルノックアウト細胞に対する免疫反応が継続している間も、HIP膵島細胞は被験者の免疫細胞によって殺傷されず、抗体の誘導も認めなかった。また、被験者の末梢血単核細胞(PBMC)や血清(抗体、補体を含む)と混ざり合っても、HIP膵島細胞はあらゆる免疫コンポーネントから逃れ、生存した。したがって、研究期間中に、HIP膵島細胞を標的とした免疫反応は発現しなかった。 移植後12週の時点で、糖化ヘモグロビン値が約42%低下した。これは、おそらく外因性インスリンへの反応と考えられた。また、4週目および8週目のMRI検査で、膵島移植片の残存が確認された。 12週時にも遺伝子編集細胞に対する拒絶反応はみられず、Cペプチド測定では安定したグルコース反応性のインスリン分泌を認めた。被験者の容体は良好で、有害事象は4件発現したが、重篤なものはなく、試験薬との関連もなかった。 著者は、「早期の移植片機能は長期的な臨床アウトカムと関連するとの報告があり、これを考慮すると、今回の研究結果は有望と考えられる」「同種移植における免疫寛容の誘導は、長らく困難な探求の対象とされてきた。本研究は予備的なものではあるが、免疫回避は同種拒絶反応を避けるための新たな考え方となる可能性を示唆する」としている。

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第256回 新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省 2.SFTS感染、全国拡大と過去最多ペース 未確認地域でも初報告/厚労省 3.AI医療診断を利用した大腸内視鏡検査、システム活用によるデメリットも明らかに/国立がん研ほか 4.医療DX推進体制整備加算、10月から基準引き上げへ/厚労省 5.医師・歯科医師20人に行政処分 強制わいせつ致傷で免許取消/厚労省 6.人口30万人以下の地域の急性期は1拠点化? 医療機能の再編議論が本格化/厚労省 1.新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省新型コロナウイルスの感染が全国で再び拡大している。厚生労働省によると、8月4日~10日の1週間に全国約3,000の定点医療機関から報告された新規感染者数は2万3,126人で、1医療機関当たりの平均患者数は6.13人となり、8週連続の増加となった。前週比は1.11倍で、40都道府県で増加。宮崎県(14.71人)、鹿児島県(13.46人)、佐賀県(11.83人)と、九州地方を中心に患者数が多く、関東では埼玉、千葉、茨城などで上昇が顕著だった。増加の背景には、猛暑による換気不足、夏季の人流拡大に加え、オミクロン株派生の変異株「ニンバス」の流行がある。国内の感染者の約4割がこの株とされ、症状として「喉にカミソリを飲み込んだような強い痛みを訴える」のが特徴。発熱や咳といった従来の症状もみられるが、強烈な喉の痛みで受診するケースが多い。医療機関では、エアコン使用で喉の乾燥と勘違いし、感染に気付かず行動する患者もみられる。川崎市の新百合ヶ丘総合病院では、8月14日までに陽性者70人を確認し、7月の100人を上回るペース。高齢者の入院も増加しており、熱中症と区別が付きにくいケースもある。都内の感染者数も8週連続で増加し、1医療機関当たり4.7人。東京都は、換気の徹底や場面に応じたマスク着用などの感染対策を呼びかけている。厚労省は「例年、夏と冬に感染者が増える傾向がある」として、基本的な感染対策の継続を求めている。とくに高齢者や持病のある人は重症化リスクが高いため、早期の受診や感染予防の徹底が重要とされる。 参考 1) 2025年8月15日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について(厚労省) 2) 新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) 新型コロナ 東京は8週連続で患者増加 医師「お盆に帰省した人が発熱し感染広がるおそれも」(NHK) 4) 新型コロナウイルス 1医療機関当たり平均患者数 8週連続で増加(同) 5) 新型コロナ「ニンバス」流行 カミソリを飲んだような強烈な喉の痛み(日経新聞) 6) 新型コロナ変異株「ニンバス」が流行の主流、喉の強い痛みが特徴…感染者8週連続増(読売新聞) 2.SFTS感染、全国拡大と過去最多ペース 未確認地域でも初報告/厚労省マダニ媒介感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の国内感染者数は、2025年8月3日時点で速報値で124人に達し、すでに昨年の年間120人を超え、過去最多の2023年(134人)を上回るペースで増加している。感染報告は28府県に及び、高知県14人、長崎県9人など西日本が中心だが、北海道、茨城、栃木、神奈川、岐阜など従来未確認だった地域でも初感染が報告された。SFTSはマダニのほか、発症したイヌやネコや患者の血液・唾液からも感染する。潜伏期間は6~14日で、発熱、嘔吐、下痢を経て重症化すると血小板減少や意識障害を起こし、致死率は10~30%。2024年には抗ウイルス薬ファビピラビル(商品名:アビガン)が承認されたが、治療は主に対症療法である。高齢者の重症例が多く、茨城県では70代男性が重体となった事例もあった。感染拡大の背景には、里山の消失による野生動物の市街地進出でマダニが人の生活圏に侵入していること、ペットから人への感染リスク増大がある。とくにネコ科は致死率が約60%とされる。富山県では長袖・長ズボン着用でも服の隙間から侵入した事例が報告された。専門家や自治体は、草むらや畑作業・登山時の肌の露出防止、虫よけ剤の使用、ペットの散歩後のブラッシングやシャンプー、マダニ発見時の医療機関受診を呼びかけている。SFTSは全国的な脅威となりつつあり、従来非流行地域でも警戒が必要。 参考 1) マダニ対策、今できること(国立健康危機管理研究機構) 2) マダニ媒介の感染症 SFTS 全国の患者数 去年1年間の累計上回る(NHK) 3) 感染症SFTS 専門医“マダニはわずかな隙間も入ってくる”(同) 4) 致死率最大3割--“マダニ感染症”全国で拡大 「ダニ学者」に聞く2つの原因 ペットから人間に感染する危険も…対策は?(日本テレビ) 3.AI医療診断を利用した大腸内視鏡検査、システム活用によるデメリットも明らかに/国立がん研などポーランドなどの国際チームは、大腸内視鏡検査でAI支援システムを常用する医師が、AI非使用時に前がん病変(腺腫)の発見率を平均約20%低下させることを明らかにした。8~39年の経験を持つ医師19人を対象に、計約2,200件の検査結果の調査によって、AI導入前の腺腫発見率は28.4%だったが、導入後にAI非使用で検査した群では22.4%に低下し、15人中11人で発見率が下がったことが明らかになった。AI支援システムへの依存による注意力・責任感低下など「デスキリング」現象が短期間で起きたとされ、とくにベテラン医師でも回避ができなかった。研究者はAIと医師の協働モデル構築、AIなしでの定期的診断訓練、技能評価の重要性を強調している。一方、国立がん研究センターは、新たな画像強調技術「TXI観察法」がポリープや平坦型病変、SSL(右側結腸に好発する鋸歯状病変)の発見率を向上させると発表した。全国8施設・956例の比較試験では、主解析項目の腫瘍性病変発見数で有意差はなかったが、副次解析で発見率向上が確認された。TXIは明るさ補正・テクスチャー強調・色調強調により微細な変化を視認しやすくする技術で、見逃しがんリスク低減と死亡率減少が期待される。ただし、恩恵を受けるには検診受診が前提で、同センターは便潜血検査と精密内視鏡検査の受診率向上を強く訴えている。両研究は、大腸内視鏡の質向上におけるAI・新技術の有用性とリスクを示すものであり、機器性能の進化と医師技能の維持を両立させる体制構築が今後の課題となる。 参考 1) AI利用、 医師の技量低下 大腸内視鏡の質検証(共同通信) 2) AI医療診断の落とし穴:医師のがん発見能力が数ヶ月で低下(Bignite) 3) Study suggests routine AI use in colonoscopies could erode clinicians’ skills, warns/The Lancet Gastroenterology & Hepatology(Bioengineer) 4) 大腸内視鏡検査における「TXI観察法」で、ポリープや「見逃しがん」リスクとなる平坦型病変の発見率が向上、死亡率減少に期待-国がん(Gem Med) 5) 大腸内視鏡検査の新規観察法の有効性を前向き多施設共同ランダム化比較試験で検証「見逃しがん」のリスクとなる平坦型病変の発見率改善に期待(国立がん研) 4.医療DX推進体制整備加算、10月から基準引き上げへ/厚労省厚生労働省は8月7日付で、2024年度診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」について、2025年10月と2026年3月の2段階でマイナ保険証利用率の実績要件を引き上げる通知を発出した。小児患者が多い医療機関向けの特例や、電子カルテ情報共有サービス参加要件に関する経過措置も2026年5月末まで延長する。改正後の施設基準では、マイナ保険証利用率の基準値は上位区分で現行45%から10月に60%、来年3月に70%へ、中位区分で30%から40%・50%へ、低位区分で15%から25%・30%へ段階的に引き上げる。小児科特例は一般基準より3ポイント低く設定され、10月以降22%・27%となる。いずれも算定月の3ヵ月前の利用率を用いるが、前月または前々月の値でも可とする。加算はマイナ保険証利用率と電子処方箋導入の有無で6区分に分かれ、電子処方箋導入施設には発行体制や調剤結果の電子登録体制の整備を新たに求める。未導入施設は電子処方箋要件を課さないが、加算区分によっては算定不可となる場合がある。電子カルテ情報共有サービスは本格稼働前のため、「活用できる体制」や「参加掲示」を有しているとみなす経過措置を来年5月末まで延長。在宅医療DX情報活用加算についても同様の延長措置が適用される。通知では、これらの要件は地方厚生局長への届出不要で、基準を満たせば算定可能と明記。厚労省は、マイナ保険証利用率向上に向けた患者への積極的な呼びかけや掲示の強化を医療機関・薬局に促している。 参考 1) 「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」及び「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の一部改正について(医療 DX 推進体制整備加算等の取扱い関係)(厚労省) 2) 医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率基準を「2025年10月」「2026年3月」の2段階でさらに引き上げ-厚労省(Gem Med) 5.医師・歯科医師20人に行政処分 強制わいせつ致傷で免許取消/厚労省厚生労働省は8月6日、医道審議会医道分科会の答申を受け、医師12人、歯科医師8人の計20人に行政処分を決定した。発効は8月20日。別途、医師8人には行政指導(厳重注意)が行われた。処分理由は刑事事件での有罪確定や重大な法令違反が中心で、医療倫理や信頼を揺るがす事案が目立った。免許取り消しは三重県松阪市の58歳医師。2015年、診察室で製薬会社MRの女性に対し胸を触る、額にキスをする、顔に股間を押し付けようとするなどの強制わいせつ行為を行い、逃れようとした被害者が転落して視神経損傷の重傷を負った。2020年に懲役3年・執行猶予5年の有罪判決が確定していた。医師の業務停止は最長2年(麻薬取締法違反)から2ヵ月(医師法違反)まで幅広く、過失運転致傷・救護義務違反、児童買春、盗撮、迷惑行為防止条例違反、不正処方などが含まれた。戒告は4人に対して行われた。歯科医師では、最長1年10ヵ月(大麻取締法・麻薬取締法・道交法違反)から2ヵ月(詐欺幇助)までの業務停止が科され、診療報酬不正請求や傷害、廃棄物処理法違反も含まれた。戒告は2人だった。厚労省は、これら不正行為は国民の医療への信頼を損なうとし、再発防止と医療倫理向上を求めている。 参考 1) 2025年8月6日医道審議会医道分科会議事要旨(厚労省) 2) 医師と歯科医20人処分 免許取り消し、業務停止など-厚労省(時事通信) 3) 医師、歯科医師20人処分 厚労省、免許取り消しは1人(MEDIFAX) 4) 医師12名に行政処分、MRに対する強制わいせつ致傷で有罪の医師は免許取消(日本医事新報) 6.人口30万人以下の地域の急性期は1拠点化? 医療機能の再編議論が本格化/厚労省厚生労働省は8月8日、第2回「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を開催し、2026年度からの新たな地域医療構想の柱として「医療機関機能報告」制度の導入を提案した。各医療機関は、自院が地域で担うべき4つの機能(急性期拠点、高齢者救急・地域急性期、在宅医療連携、専門など)について、救急受入件数や手術件数、病床稼働率、医師・看護師数、施設の築年数といった指標をもとに、役割の適合性を都道府県へ報告する。中でも議論を呼んだのが、救急・手術を担う「急性期拠点機能」の整備基準である。厚労省は人口規模に応じた整備方針を示し、人口100万人超の「大都市型」では複数の医療機関の確保、50万人規模の「地方都市型」では1~複数、30万人以下の「小規模地域」では原則1ヵ所への集約化を目指すとした。しかし、専門病院や大学病院がすでに存在する中核都市などでは、1拠点に絞るのは非現実的との声も上がっている。また、医療機関の築年数も協議指標として活用する案に対しては、公的病院と民間病院の間で資金力に格差がある中、基準化すれば民間病院の淘汰を招く恐れがあるとして、慎重な検討を求める意見も出た。実際、病院建築費は1平米当たり2011年の21.5万円から2024年には46.5万円と倍増し、全国には築40年以上の病棟が約1,600棟(16万床分)存在する。このほか、在宅医療連携機能には訪問診療・看護の実績や高齢者施設との協力体制、高齢者救急機能には診療所不足地域での外来1次救急や施設搬送の体制が求められる。人材面では、医師の地域偏在や診療科偏在だけでなく、今後10年で最大4割減少も予測される看護師不足が最大の制約要因として指摘された。 参考 1) 新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(厚労省) 2) 急性期拠点機能の指標に「築年数」厚労省案 救急・手術件数や医療従事者数も(CB news) 3) 人口規模に応じた医療機関機能の整備を提示(日経ヘルスケア)

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肺炎の病原体検出、肺炎パネルvs.呼吸器パネルvs.培養

 迅速な病原体検出を可能にする多項目遺伝子検査ツールは、その有用性が報告されているものの、本邦では比較データが不足しており、臨床での応用は限定的である。そこで、畑地 治氏(松阪市民病院)らの研究グループは、肺炎が疑われる患者を対象として、マルチプレックスPCR法を用いる肺炎パネル検査(BioFire肺炎パネル)、呼吸器パネル検査(FilmArray呼吸器パネル)、培養・同定検査を比較した。その結果、肺炎パネル検査は従来の培養・同定検査と比較して、病原体検出に優れ、臨床的価値が高いことが示唆された。本研究結果は、Respiratory Investigation誌2025年9月号に掲載された。 本研究は、2023年12月~2024年9月に松阪市民病院に入院し、肺炎の臨床的疑いから肺炎パネル検査を受けた患者354例を対象とした後ろ向き研究である。403検体(354例)が肺炎パネル検査で解析され、このうち373検体(328例)で培養・同定検査、223検体(202例)で呼吸器パネル検査による評価も行った。肺炎パネル検査には喀痰、気管支肺胞洗浄液(BALF)などの下気道検体、呼吸器パネルには鼻咽頭スワブ検体を用いた。 主な結果は以下のとおり。・検体陽性率は、肺炎パネル検査が60.3%(243/403検体)、培養・同定検査が52.8%(197/373検体)であり、肺炎パネル検査が有意に高かった(p=0.042)。・菌種レベルの検出率(病原菌のべ検出数/検体数)は、肺炎パネル検査が88.3%、培養・同定検査が75.3%であり、肺炎パネル検査が有意に高かった(p<0.0001)。とくにHaemophilus influenzae(p=0.046)、Moraxella catarrhalis(p=0.001)、Streptococcus agalactiae(p=0.029)、Acinetobacter calcoaceticus-baumannii complex(p=0.012)の検出に優れていた。・検査間の一致率について、両法で同一菌が陽性となった検体は40.8%であった。培養・同定検査で陽性となった検体では77.2%、肺炎パネル検査で細菌が陽性となった検体では74.1%であった。・検体別にみると、喀痰検体の陽性率が64%であり、気管支洗浄液検体(16.7%)、胸水検体(12.5%)、BALF検体(7.7%)と比較して高値であった。・薬剤耐性遺伝子は25.2%(51/202検体)に検出された。・ライノウイルス/エンテロウイルス、RSウイルスの陽性率は、下気道検体を用いる肺炎パネル検査と鼻咽頭スワブ検体を用いる呼吸器パネル検査で同等であった(それぞれ0.4%vs.0.4%、0%vs.0%)。パラインフルエンザウイルスの陽性率は、肺炎パネル検査が有意に高かった(3.1%vs.0%、p<0.05)。 本研究結果について、著者らは「肺炎パネル検査は従来の培養・同定検査よりも優れた病原体検出能力を有し、肺炎の管理において臨床的に有用であることが示唆された。主要な薬剤耐性遺伝子が検出されたことは、肺炎パネル検査の臨床的価値を強調するものである。本研究の意義は、現時点で保険適用外の肺炎パネル検査について、本邦の臨床現場に特化したデータを提示した点にある」とまとめている。

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ワクチンの追加接種はがん患者のCOVID-19重症化を防ぐ

 がん患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化しやすいとされるが、新型コロナワクチンの追加接種を受けることで重症化を予防できる可能性があるようだ。新たな研究で、COVID-19によるがん患者の入院リスクは、新型コロナワクチンの追加接種によって、未接種の患者と比べて29%低下することが示された。米シダーズ・サイナイ医療センター地域保健・人口研究部長のJane Figueiredo氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に7月17日掲載された。 この研究では、シダーズ・サイナイ、カイザー・パーマネンテ北カリフォルニア、ニューヨークのノースウェル・ヘルス、および退役軍人保健局でがん治療を受けたがん患者を対象に、従来型の新型コロナ1価ワクチン(2022年1月までに接種)、および変異株に対応した2価ワクチン(2022年9月1日〜2023年8月31日の間に接種)の追加接種がもたらす効果を検討した。 1価ワクチンの追加接種の効果についての検討で対象とされたがん患者は7万2,831人(女性24.6%)で、そのうちの69%が2022年1月1日までに追加接種を受けていた。3万4,006人年の追跡期間におけるCOVID-19による入院率(1,000人年当たり)は、追加接種群で30.5件、未接種群で41.9件であった。入院予防に対する調整済みのワクチン有効性(VE)は29.2%であり、COVID-19による入院を1件防ぐには166人にワクチンを接種する必要があると推定された。また、COVID-19罹患の予防に対するVEは8.5%、COVID-19関連の集中治療室(ICU)入室予防に対するVEは35.6%であった。 2価ワクチンの追加接種の効果についての検討で対象とされたがん患者は8万8,417人(女性27.8%)で、そのうちの38%が2価ワクチンの追加接種を受けていた。8万1,027人年間の追跡期間におけるCOVID-19による入院率(1,000人年当たり)は、追加接種群で13.4件、未接種群で21.7件であった。入院予防に対する調整済みのVEは29.9%であり、COVID-19による入院を1件防ぐには451人にワクチンを接種する必要があると推定された。また、COVID-19関連のICU入室予防に対するVEは30.1%であった。 Figueiredo氏は、「ワクチン接種群での入院患者数の減少は顕著であり、追加接種の効果を得るために接種が必要な患者数は少なかった。この結果は、がん患者にとってワクチン接種には大きなベネフィットがあることを示しており、接種について医療提供者と相談するきっかけになるだろう」とシダーズ・サイナイ医療センターのニュースリリースで述べている。 Figueiredo氏は、今回の研究では1価ワクチンの接種率が69%、2価ワクチンの接種率がわずか38%であったことについて、「これがワクチンの安全性に対する患者の懸念によるものなのか、それとも医療提供者ががん治療中に接種すべきか迷ったためなのかは明らかではない。確かなのは、がん患者を含む脆弱な集団がこれらのワクチンを接種できるよう強く訴えていく必要があるということだ」と述べている。 さらにFigueiredo氏は、「今回の研究は、新型コロナワクチンの有効性に関する理解を大きく深めるものであり、ワクチンの組成が変更されたり新たな変異株が出現したりしても、患者の健康を守るための最善の勧告を行えるよう、追加研究を実施していくつもりだ」と話している。同氏らは、今後の研究で自己免疫疾患患者や臓器移植を受けた患者などを対象にワクチンの有効性を調べる予定だとしている。

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救急診療所では不適切な処方が珍しくない

 救急診療所では、抗菌薬、ステロイド薬、オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)が効かない症状に対してこれらの薬を大量に処方している実態が、新たな研究で示された。研究論文の筆頭著者である米ミシガン大学医学部のShirley Cohen-Mekelburg氏は、「過去の研究では、ウイルス性呼吸器感染症など抗菌薬が適応とならない疾患に対しても抗菌薬が処方され続けており、特に、救急診療所でその傾向が顕著なことが示されている」と述べている。この研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に7月22日掲載された。 この研究では、2018年から2022年の間に行われた2242万6,546件の救急診療に関する医療データが分析された。これらの診療において、抗菌薬が278万3,924件(12.4%)、ステロイド薬のグルココルチコイドが203万8,506件(9.1%)、オピオイドが29万9,210件(1.3%)処方されていた。 これらの処方を検討した結果、相当数が、患者の診断を考慮すると「常に不適切」または「通常は不適切」な処方であることが判明した。抗菌薬の処方が「常に不適切」とされる診断のうち、中耳炎の30.7%、泌尿生殖器症状の45.7%、急性気管支炎の15.0%において同薬剤が処方されていた。また、グルココルチコイドの処方が「通常は不適切」とされる診断のうち、副鼻腔炎の23.9%、急性気管支炎の40.8%、中耳炎の7.9%において同薬剤が処方されていた。一方、オピオイドについては、処方が「通常は不適切」とされる背部以外の筋骨格系の痛みの4.6%、腹痛・消化器症状の6.3%、捻挫・筋挫傷などの4.0%において処方されていた。 Cohen-Mekelburg氏らは、「これらの結果は、ウイルス性呼吸器感染症の治療としての不適切な抗菌薬処方が最も多いのは救急医療であることを示した最近の研究結果と一致している」と述べている。同氏らによると、これらの薬が不適切に処方されるのは、救急医療スタッフの知識不足、患者による特定の薬剤の要求、処方を決める際のバックアップサポート体制の欠如などが原因になっている可能性が高いという。 これらの処方がもたらす影響は広範囲に及ぶ可能性がある。例えば、抗菌薬の過剰使用により、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌が大きな脅威となりつつある。また、米国でのオピオイド危機は、あいまいな理由で大量の鎮痛薬が処方されてきたことによって悪化してきた。 こうしたことからCohen-Mekelburg氏らは、救急診療所が適切な病状に適切な薬を処方していることを確認するために、薬剤管理プログラムが必要であると結論付けている。「抗菌薬、グルココルチコイド、オピオイドの不適切な処方を減らすには、多角的なアプローチが必要だ。救急医療センターの医療従事者がこうした薬剤の処方について判断を下す際には、より多くの支援とフィードバックが役立つだろう」と述べている。

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輸液選択、乳酸リンゲル液vs.生理食塩水/NEJM

 日常的に行われている静脈内輸液投与に関して、乳酸リンゲル液のほうが生理食塩水よりも臨床的に優れているかは不明である。カナダ・オタワ大学のLauralyn McIntyre氏らCanadian Critical Care Trials Groupは、病院単位で期間を区切って両者を比較した検討において、乳酸リンゲル液を使用した場合に、初回入院後90日以内の死亡または再入院の発生率は有意に低下しなかったことを示した。NEJM誌オンライン版2025年6月12日号掲載の報告。カナダの7病院で試験、12週間ずつ使用をクロスオーバー 研究グループは、カナダのオンタリオ州にある7つの大学および地域病院で、非盲検、2期間、2シークエンス、クラスター無作為化クロスオーバー試験を実施した。静脈内輸液を病院全体で12週間ずつ乳酸リンゲル液または生理食塩水に割り付け、アウトカムを比較した。乳酸リンゲル液または生理食塩水使用への切り替えは、ウォッシュアウト後に行った。 主要アウトカムは、初回入院後90日以内の死亡または再入院の複合とした。副次アウトカムは、主要アウトカムの各項目、入院期間、初回入院後90日以内の透析導入、90日以内の救急外来受診、自宅以外の施設への退院とした。 アウトカムデータは、保健行政データベースから入手した。解析は病院単位で行い、主要アウトカムは、参加病院全体で平均化した乳酸リンゲル液使用と生理食塩水使用の効果を比較推算した。初回入院後90日以内の死亡または再入院の複合発生率は同等 試験は2016年8月~2020年3月に行われ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより試験が中断される前に、7病院が12週間ずつ2期間の試験を完了した。 主要アウトカムに関するデータは、4万3,626例の適格患者から入手できた(乳酸リンゲル液群2万2,017例、生理食塩水群2万1,609例)。 初回入院後90日以内の死亡または再入院の複合発生率は、乳酸リンゲル液群20.3±3.5%、生理食塩水群21.4±3.3%であった(補正後群間差:-0.53%ポイント、95%信頼区間:-1.85~0.79、p=0.35)。 副次アウトカムの結果もすべて、主要アウトカムの結果と一致していた。重篤な有害事象は報告されなかった。

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ファイザー・ビオンテック、LP.8.1対応コロナワクチンの承認取得

 ファイザーおよびビオンテックは8月8日付のプレスリリースにて、オミクロン株JN.1系統の変異株であるLP.8.1に対応した新型コロナウイルスワクチンについて、8月7日に厚生労働省より製造販売承認を取得したことを発表した。承認されたのは「コミナティ筋注シリンジ12歳以上用」「コミナティRTU筋注5~11歳用1人用」「コミナティ筋注6ヵ月~4歳用3人用」の3製品。これらのワクチンは2025~26年秋冬シーズンで使用される予定。 今回の承認は、両社が開発した新型コロナワクチンの安全性と有効性を示した臨床、非臨床およびリアルワールドデータを含むさまざまなエビデンスに基づいている。申請データには、品質に係るデータに加え、LP.8.1対応ワクチンが、XFG、NB.1.8.1、LF.7、および現在流行している他の変異株に対し、昨年度のJN.1対応ワクチンより優れた免疫反応を示した非臨床試験データなどが含まれている。 また、ワクチンの抗原株の変更と合わせて、以下の承認事項も変更された。・有効期間の延長:冷蔵(2~8℃)において8ヵ月から12ヵ月へ延長・包装単位の追加:1シリンジ包装に加え、5シリンジ包装を追加

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免疫不全状態の皮膚扁平上皮がん患者、β-HPVが発がんに直接関与か/NEJM

 米国国立衛生研究所(NIH)・国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のPeiying Ye氏らの研究チームは、ZAP70遺伝子に病的な変異を認め、β-ヒトパピローマウイルス(β-HPV)のゲノム組み込みを伴い、再発を繰り返す切除不能な浸潤性皮膚扁平上皮がん(SCC)を含む、良性および悪性のHPV関連疾患を呈する34歳の女性患者について報告した。本研究はNIHの助成を受けて行われ、NEJM誌2025年7月31日号に掲載された。ZAP70変異による免疫不全と、β-HPV19のゲノム組み込みを伴う 皮膚SCCは、皮膚がんの中で最も一般的なもので、主に紫外線による体細胞DNA変異が原因で、がん遺伝子の活性化と腫瘍抑制遺伝子の機能不全が引き起こされて発生する。β-HPVはこれまで、皮膚SCCの維持に不可欠ではなく、初期段階における単なる促進因子として間接的な役割を果たすと考えられてきた。 本症例(34歳、女性)は、クリプトコッカス髄膜炎と神経眼科的病変の既往歴があり、皮膚および粘膜のHPV関連疾患が進行性に悪化し、口腔コンジローマ、びまん性の疣状病変を認め、日光曝露皮膚表面の、生検で確認された43ヵ所の病変または部位に、多発性再発性皮膚SCCを呈していた。 また、T細胞受容体(TCR)のシグナル伝達に必須のアダプター分子であるZAP70に、生殖細胞系列の病原性の遺伝子変異がみられ、これに起因するTCRシグナル伝達の欠損による免疫不全状態を確認した。さらに、この浸潤性で切除不能な高リスクの皮膚SCCは、β-HPV19のゲノム組み込みを伴っていた。基盤にあるTCRシグナル伝達欠損のため根治的治療に抵抗性を示したため、遠隔転移がないことを確認したうえで、統合的な管理計画を立案した。HLA半合致造血幹細胞移植でTCRシグナル伝達の完全性が回復 治療は、セツキシマブ+5-フルオロウラシル+シスプラチン併用療法に続き、皮膚SCCの予防としてカペシタビン+ニコチンアミドを投与し、根本的な免疫不全の治療としてHLA半合致造血幹細胞移植(HCT)を行った。この治療過程において臨床的な合併症は発生しなかった。 HCTによりTCRシグナル伝達の完全性が回復し、すべてのHPV関連皮膚疾患が安定的に解消した。この良好な状態は、最新のフォローアップの時点(HCT後35ヵ月)まで維持されていた。 これらの知見により、T細胞の適応免疫応答が不完全な免疫不全状態においては、β-HPVは単なる補助的な因子ではなく、皮膚の発がんに直接関与していることが示唆された。 著者は、「本研究は、腫瘍の維持におけるβ-HPVの関与を直接的に証明した。HCTによるTCRの機能回復が進行性SCCの根治をもたらした例はきわめてまれである」「今後、β-HPV関連SCC患者に対する免疫療法の検討と共に、TCRシグナル解析によるSCCの進行リスクの評価や、HPV特異的T細胞応答を標的とした治療戦略の開発が進むと考えられる」としている。

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ワクチンがないチクングニア熱の診療

ワクチンがないチクングニア熱の症状と治療●原因と感染経路チクングニア熱とは、チクングニアウイルスを持った蚊(ネッタイシマカ・ヒトスジシマカ)に刺されることで生じる感染症。病源体は、図のチクングニアウイルス(Chikungunya virus)。チクングニアウイルスを持っている蚊に刺されることによって感染が成立し、ヒトからヒトに直接感染することはない。●症状蚊に刺されてから3~12日の潜伏期後、「発熱」「発しん」「関節痛」などが出現。急性症状が軽快した後も、数週間~数年にわたり、リウマチに似た関節痛や腫脹、圧痛が続くことがある。●治療症状に応じた対症療法が行われ、関節痛・関節炎の程度に応じて解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)が使用される。現在有効なワクチンはない。●予防のポイントチクングニア熱の流行する地域(たとえばセネガル、インドネシア、タイ、べトナム、中国など)に渡航する際、蚊に刺されないような衣服の着用や虫除けなどの工夫が重要。国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト チクングニア熱より引用(2025年8月6日閲覧)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/chikungunya/010/chikungunya-intro.htmlCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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犬がにおいでパーキンソン病患者を検知

 犬の鋭い嗅覚は、逃亡犯の追跡や遺体の発見、違法薬物の捜索などに役立っている。過去の研究では、前立腺がん、マラリア、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの疾患を嗅ぎ分けることができたことも示されている。では、犬の嗅覚は、脳や神経系の疾患を検知できるほど鋭敏なのだろうか。 新たな研究で、嗅覚を使ってパーキンソン病を検知できるように訓練された2匹の犬が、皮脂スワブ検体からパーキンソン病患者を最高80%の精度で検出できたことが示された。英ブリストル大学獣医学部のNicola Rooney氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Parkinson’s Disease」に7月14日掲載された。Rooney氏は、「私は、パーキンソン病患者を特定するための迅速で非侵襲的かつ費用対効果の高い方法の開発に犬が役立つと確信している」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 パーキンソン病は進行性の運動障害であり、脳の重要な神経伝達物質であるドパミンを産生する脳細胞が変性・減少することで発症する。主な症状は、手足の震え(振戦)、筋肉のこわばり(筋硬直)、バランス維持や協調運動の障害などである。研究グループによると、パーキンソン病の初期症状の一つとして、皮膚の脂腺から皮脂が過剰に分泌され、過度に蝋状または油っぽくなることがあるという。このことからRooney氏らは、犬が皮脂から生じる独特のにおいを頼りにパーキンソン病を検知できるのではないかと考えた。 この仮説を検証するためにRooney氏らは、5頭の犬に皮脂スワブ検体を使ってパーキンソン病のにおいを検知するための訓練を開始した。最終的に3頭が脱落し、ゴールデンレトリバーのバンパー(2歳、雄)とラブラドールレトリバーとゴールデンレトリバーのミックス犬のピーナッツ(3歳、雄)の2頭がパーキンソン病患者とパーキンソン病ではない人(対照)から採取した205点の皮脂スワブ検体を使って38〜53週間に及ぶ訓練を受けた。訓練では、犬がパーキンソン病患者の検体を正しく示すか、対照の検体を正しく無視するたびに報酬が与えられた。訓練の完了後、40点のパーキンソン病患者の検体と60点の対照の検体を用いた二重盲検試験で犬の検知能力を検証した。 その結果、2頭の犬の感度(パーキンソン病患者の検体を正しく識別する能力)は、それぞれ70%と80%、特異度(対照の検体を正しく無視する能力)は、それぞれ90%と98%であることが示された。 論文の上席著者で、英国の慈善団体メディカル・ディテクション・ドッグズのCEO兼最高科学責任者であるClaire Guest氏は、「犬が疾患を極めて正確に検知できることを改めて発表できることを非常に誇りに思う。現状ではパーキンソン病を早期発見するための検査は存在せず、症状が目に見える形で現れるようになり、それが持続して確定診断に至るまでに最大で20年もかかることがある。しかし、パーキンソン病でとりわけ重要なのは早期診断だ。なぜなら、それにより治療で疾患の進行を遅らせ、症状の重症度を軽減できる可能性があるからだ」と述べている。

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第274回 ケネディ氏のワクチン開発支援打ち切りを深読み

INDEX米国、mRNAワクチン開発を縮小へ契約終了と継続、わかっていること保健福祉省長官の意図悪魔はどっち?米国、mRNAワクチン開発を縮小へ当の本人は大真面目なのだろうが、傍から見ると、もはやガード下の居酒屋にいる酔っ払いオヤジが政治を語っているようだ。何のことかと言えば、米国・保健福祉省(HHS)が8月5日、傘下の生物医学先端研究開発局(BARDA)が行っているmRNAワクチンの研究開発支援を段階的に縮小すると発表した件である。ご存じのように現在のHHS長官はあのロバート・F・ケネディ・ジュニア氏である(第264回参照)。今回、影響を受けるのはBARDAで行われていた総額約5億ドル(約700億円)におよぶ22件のmRNAワクチン開発プロジェクトである。このプロジェクトすべてとその支援金額の詳細は明らかになっていないが、現時点で判明しているのは以下のような感じである。契約終了と継続、わかっていることまず契約が終了したのが、エモリー大学が行っていた吸入できるパウダータイプのmRNAワクチン研究、Tiba Biotech社(本社:マサチューセッツ州ケンブリッジ)が行っていた支援額約75万ドル(約1億2,000万円)のインフルエンザに対するRNA医薬の研究。また、BARDAへの提案そのものが却下されたのが、ファイザー社によるmRNAワクチン開発(詳細不明)、サノフィ・パスツール社によるmRNAインフルエンザワクチン開発、グリットストーン・バイオ社(本社:カリフォルニア州エメリービル)に対する支援額最大4億3,300万ドル(約637億6,300万円)の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する汎変異株対応の自己増幅型mRNAワクチン開発などである。一方でモデルナ社とテキサス大学医学部が国防総省と協力するフィロウイルス感染症(エボラ出血熱やマールブルグ病)へのmRNAワクチン開発、アークトゥルス・セラピューティクス社(本社:カリフォルニア州サンディエゴ)との支援総額最大6,320万ドル(約9億円)のH5N1鳥インフルエンザ自己増幅型mRNAワクチン開発の一部などは維持されるという。わかっている範囲だけでも、かなり広範な新規mRNAワクチンと既存ワクチンの新規モダリティに影響が及ぶことになるようだ。保健福祉省長官の意図この決定に関するHHSのプレスリリース1)には、「私たちは専門家の意見に耳を傾け、科学を検証し、行動を起こした。BARDAは、これらのワクチンがCOVID-19やインフルエンザなどの上気道感染症を効果的に予防できないことを示すデータに基づき、22件のmRNAワクチン開発への投資を停止する。私たちは、この資金をウイルスが変異しても効果を維持できる、より安全で幅広いワクチンプラットフォームへとシフトさせている」とするケネディ氏のコメントも含まれている。前述のように今回影響を受けるプロジェクトには、ケネディ氏が言うところの「ウイルスが変異しても効果を維持できる」ワクチン開発も含まれているのだが、どうやら本人のmRNAワクチン嫌悪が先に立っている模様だ。そもそも本人のコメントにある「上気道感染症を効果的に予防できないことを示すデータ」とは何を意味するのかは明記されていない始末である。この辺について、より深読みすると、いわゆるワクチンの三大効果と呼ばれる「感染予防」「発症予防」「重症化予防」のうち、ワクチンに懐疑的な人たちがよく示す「感染予防そのものが効果的に得られていないではないか」という主張なのかもしれない。確かに以前の本連載でも取り上げたが、内閣官房の新型インフルエンザ等対策推進会議 新型コロナウイルス感染症対策分科会会長だった尾身 茂氏(現・公益財団法人結核予防会 理事長)がテレビ出演時に言及したように、オミクロン株以降、mRNAワクチンの感染予防としての効果は高くないのが現実である。しかし、最も重大な事象である入院・死亡といった重症化予防効果に関して確たるものがあるのは、もはや異論はないだろう。もし感染予防効果うんぬんだけで測るならば、現在使われているインフルエンザの不活性化ワクチンも同様に無用なものとなってしまうが、そうした認識を持つ医療者はかなり少数派であるはずだ。また、mRNAワクチンは新規ウイルスに対する迅速なワクチン開発という点では、かつてない威力を発揮したことも私たちは実感している。今回のコロナ禍を従来型の不活性化ワクチン開発で乗り切ろうとしていたならば、今のような平常生活に戻るまでに要した時間は相当長いものになっていた可能性が高い。もはやmRNAワクチンについては、これがあることを前提に(1)これまでワクチン開発が難しかった病原体での新規開発、(2)抗体価持続期間の延長、(3)副反応の軽減、という方向性に進むフェーズに来ていると考えたほうがよい。その意味では今回影響を受けたワクチン研究開発プログラムを見ると、(2)については日本発の新型コロナワクチンとなったコスタイベで使われた自己増幅技術が次世代ワクチンとして注目を集めていることもうかがえる。悪魔はどっち?いずれにせよ、ケネディ氏の打ち出した方針はかなりの頓珍漢ぶりである。ちなみに同氏の最近のX(旧Twitter)の投稿を見ると、FDAの中庭のベンチに刻まれたセンテンスという投稿がある。そのセンテンスとは「The devil has got hold of the food supply of this country(悪魔がこの国の食糧供給を掌握している)」というもの。しかし、Xに搭載されている生成AIのGrokが「この写真は改変されている可能性が高い」と指摘している。要はそんなセンテンスなどベンチに刻まれていないということだ。いやはやとんだ人がHHS長官になったものである。「悪魔」はあなたではないのか、と問いたい。 参考 1) U.S. Department of Health and Human Services:HHS Winds Down mRNA Vaccine Development Under BARDA

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チゲサイクリン、5つの重要事項【1分間で学べる感染症】第31回

画像を拡大するTake home messageチゲサイクリンは広い抗菌スペクトラムを有する一方で、使用に際しての注意点が多い抗菌薬であることを理解しよう。皆さんは、チゲサイクリンという抗菌薬を知っていますか? チゲサイクリンは日本では2012年に発売が開始されていますが、まだ使用実績は低い薬剤です。多剤耐性菌に対する治療選択肢の1つとして注目されており、特定の状況下での「最後の切り札」的な役割を有する抗菌薬の1つです。適応や使用上の注意点が多いため、正しい理解と慎重な使用が求められます。今回は、使用時に必ず押さえておきたい5つの重要事項について解説します。1.カバー範囲が広いチゲサイクリンは、テトラサイクリン系抗菌薬の構造を改変して開発されたグリシルサイクリン系抗菌薬であり、多剤耐性菌への活性を持つ静注薬です。チゲサイクリンは、グラム陽性菌(MRSA、VREなど)に加えて、グラム陰性菌(ESBL産生腸内細菌、カルバペネム耐性腸内細菌、カルバペネム耐性Acinetobacter属、Stenotrophomonas属など)や嫌気性菌にまで活性を示します。このように広範なカバー範囲を持つことが特徴です。2.消化器症状の頻度が高いチゲサイクリンの主な副作用として嘔気・嘔吐が挙げられ、これらは投与患者の20~30%にみられるとされています。これによってほかの薬剤の内服が困難となる場合や、チゲサイクリンの投与継続自体が難しくなる可能性もあるため、患者への事前の説明が必須です。3.菌血症には推奨されない分布容積が大きく、組織移行性に優れる反面、血中濃度が低いため、菌血症の治療には適していません。したがって、菌血症を伴わない腹腔内感染、肺炎、皮膚軟部組織感染症などへの適応が中心となります。4.3つの代表的な起因菌に推奨されないチゲサイクリンは、Pseudomonas aeruginosa、Proteus属、Providencia属といった一部のグラム陰性菌に対しては効果が乏しいとされています。これらの菌が起因菌として想定される場合は、ほかの抗菌薬を選択する必要があります。5.ほかの抗菌薬との併用を考慮チゲサイクリンは単剤での治療において失敗例が多く報告されていることから、ほかの抗菌薬との併用が望ましいとされています。起因菌や感受性を基に、ほかの選択肢がないかどうかを必ず確認するようにします。チゲサイクリンは感染症コンサルトが必須とされる薬剤の1つです。適切な使用のために最低限の知識を押さえておくことが重要です。1)Prasad P, et al. Clin Infect Dis. 2012;54:1699-1709.2)Tamma PD, et al. Clin Infect Dis. 2021;72:e169-e183.3)Cai Y, et al. Infect Dis (Lond). 2016;48:491-502.4)Hawkey PM. J Antimicrob Chemother. 2008;62 Suppl:i1-9.

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副作用編:発熱(抗がん剤治療中の発熱対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第3回

今回は化学療法中の「発熱」についてです。抗がん剤治療において発熱は切っても切り離せない合併症の1つです。原因や重症度の判断が難しいため、抗がん剤治療中の患者さんが高熱を主訴に紹介元であるかかりつけ医に来院した場合は、多くが治療施設への相談になると思います。今回は、かかりつけ医を受診した際に有用な発熱の鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】72歳、女性主訴発熱病歴局所進行大腸がん(StageIII)に対する術後補助化学療法を実施中。昨日から38.5度の発熱があったため、手持ちの抗菌薬(LVFX)の内服を開始した。解熱傾向であるが、念のためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、呼吸器症状、腹部症状なし。食事摂取割合は8割程度。内服抗がん剤カペシタビン 3,000mg/日(Day11)【症例2】56歳、男性主訴発熱、空咳病歴進行胃がんに対して緩和的化学療法を実施中。3日前から38.2度の発熱と空咳が発現。手持ちの抗菌薬(LVFX)内服を開始したが、改善しないためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見体温38.0度、SpO2:93%、乾性咳嗽あり、労作時呼吸苦軽度あり。腹部圧痛なし。食事摂取は問題なし。抗がん剤10日前に免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を実施。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤治療中の発熱の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、まず頭に浮かぶのは「発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)かも?」だと思いますが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)発熱の原因が本当に抗がん剤かどうか確認服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(主に感染:インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、尿路感染症など)との鑑別。発熱以外の症状やバイタルの変動を確認。画像を拡大するFNは、末梢血の好中球数が500/µL未満、もしくは48時間以内に500/µL未満になると予想される状態で、腋窩温37.5度(口腔内温38度)の発熱を生じた場合と定義されています。FNは基本的には入院での対応が必要ですが、外来治療を考慮する場合には、下記のようなリスク評価が重要です。1)MASCC( Multinational Association for Supportive Care in Cancer)スコアMASCCスコアは、FN患者の重症化リスクを予測するための国際的に認知されたスコアリングシステムであり、低リスク群(21点以上)は外来加療が可能と判断されることがあります。画像を拡大する※該当する項目でスコアを加算し、スコアが高いほど低リスク。21点以上で低リスクとなる。2)CISNE(Clinical Index of Stable Febrile Neutropenia)スコア臨床的に安定している固形腫瘍患者では、CISNEスコアによる評価も推奨されています。画像を拡大する※低リスク群(0点)、中間リスク群(1~2点)、高リスク群(3点以上)。高リスクでは入院治療を考慮する。低リスク群:合併症1.1%、死亡率0%、中間リスク群:合併症6.2%、死亡率0%、高リスク群:合併症36%、死亡率3.1%。ステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。【症例1】の場合、すでに抗菌薬を内服開始しており、解熱傾向でした。Vitalも安定しており、胸部X線写真でも異常陰影を認めませんでした。念のためインフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査を実施しましたが陰性でした。このケースでは抗菌薬の内服継続と解熱薬(アセトアミノフェン)処方、および抗がん剤の内服中止と治療機関への連絡(抗がん剤の再開時期や副作用報告)、経口補水液の摂取を説明して帰宅としました。【症例2】の場合、免疫チェックポイント阻害薬が投与されていて、SpO2:93%と低下しています。インフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査は陰性。胸部X線検査を実施したところ、両肺野に間質影を認めました。ただちに治療機関への連絡を行い、irAE肺炎の診断で即日入院加療となりました。画像を拡大する抗がん剤治療中の発熱対応フロー抗がん剤治療中の発熱は原因が多岐にわたるため、抗がん剤治療中に発熱で受診した場合は治療機関への受診を促してください。上記のケースはいずれも「低リスク」へ分類されますが、即入院が必要なケースが混在しています。詳細な検査や診察を行った上でのリスク評価が重要です。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「発熱しても抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談を受けた場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも、「38度以上の発熱が発現した場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただけますと助かります。<irAEと感染>免疫チェックポイント阻害薬の普及した現代では、irAEはもはや日常的な有害事象となってしまいました。重篤なirAEに対して高用量のステロイド治療を導入することは年間で複数回経験します。その中で、最も注意が必要なのは、ステロイド治療中の感染症は発熱が「マスク」されるということです。採血検査ではCRPもあまり上昇しません。日々の身体診察がいかに重要であるかを痛感します。先日もirAE腎炎を発症した胆道がんの患者さんに対して、入院で高用量のステロイドを導入しました。順調に腎機能も改善し、ステロイド漸減に伴い外来へ切り替えてフォローしていましたが、ある日軽い腹痛で来院されました。発熱もなく、採血検査では炎症反応もさほど上昇していません。しかし、「何かおかしいな…」と思い、しつこく身体診察をすると右季肋部痛をわずかに認めました。胆管ステントを留置していたこともあり、念のためCT検査を実施してみると、以前存在した胆管内ガス(pneumobilia)の消失を認め、胆管ステント閉塞が疑われました。黄疸は来していないものの、ステント交換を依頼してドレナージをしてもらうと胆汁とともに膿汁が排液されました。初歩的なことですが、ステロイドカバー中は発熱もマスクされ、採血検査もアテにならないことが多いです。やっぱり基本は身体診察ですね。1)日本臨床腫瘍学会編. 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(改訂第3版). 南江堂;2024.2)Klastersky J, et al. J Clin Oncol. 2000;18:3038-3051. 3)Carmona-Bayonas A, et al. J Clin Oncol. 2015;33:465-471.

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8月7日 鼻の日【今日は何の日?】

【8月7日 鼻の日】〔由来〕「は(8)な(7)」の語呂合わせから、鼻の病気を減らすことを目的に、1961年に日本耳鼻咽喉科学会が制定。同会では、この日に全国各地で専門医の講演会や無料相談会などを行っている。関連コンテンツ長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効【バイオの火曜日】鼻血を繰り返す患児、最初にするべき検査は?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】最新の鼻アレルギー診療ガイドラインの読むべき点とは/日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会1日1杯の緑茶が花粉症を抑制か~日本人大規模コホート鼻茸を伴う難治性慢性副鼻腔炎、テゼペルマブ追加が有効/NEJM

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胃腸炎を伴う重度急性栄養失調児、経口補液vs.静脈内補液/NEJM

 胃腸炎を伴う重度急性栄養失調児に対して、経口補液療法と静脈内補液療法の間に、96時間時点の死亡率に関して差異があるとのエビデンスは認められなかった。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのKathryn Maitland氏らGASTROSAM Trial Groupが非盲検優越性無作為化試験の結果を報告した。国際的な勧告では、体液過剰への懸念から重度急性栄養失調児への静脈内補液療法は推奨されていないが、その懸念を裏付けるエビデンスは不足していた。一方で、現行勧告下での高い死亡率から、静脈内補液療法戦略を選択肢の1つとすることによるアウトカム改善への可能性が期待されていた。NEJM誌オンライン版2025年6月13日号掲載の報告。アフリカの4ヵ国6病院で生後6ヵ月~12歳児対象の無作為化試験 研究グループは、アフリカの4ヵ国6病院(ウガンダ2、ケニア2、ニジェール1、ナイジェリア1)で、静脈内補液療法(急速または緩徐)が標準的な経口補液療法と比べて死亡率低下と結び付くかを評価する、治験担当医師主導の要因デザインを用いた多施設共同非盲検無作為化優越性試験を実施した。 胃腸炎かつ脱水症状を伴う重度急性栄養失調の生後6ヵ月~12歳児を、2対1対1の割合で次の3種類の補液戦略のいずれか1つを受けるよう割り付けた。(1)経口補液+ショックに対する静脈内ボーラス投与(経口群)、(2)乳酸リンゲル液100mL/kgを3~6時間で投与+ショックに対するボーラス投与(急速静注群)、(3)乳酸リンゲル液100mL/kgを8時間で投与(緩徐静注群) 主要エンドポイントは、96時間時点の死亡率であった。96時間時点の死亡、経口群8%、静注群7% 2019年9月2日~2024年10月27日に計272例が無作為化された(経口群138例、急速静注群67例、緩徐静注群67例)。被験児の年齢中央値は生後13ヵ月であり、28日間追跡調査(最終フォローアップ)を受けた。4例(1%)が中途で脱落したが、全例をすべての解析に組み入れた。経鼻カテーテルを用いた補液が、経口群126/135例(93%)、静注群82/126例(65%)で行われた。ショックに対するボーラス投与が入院期間中に行われたのは経口群12例(9%)、急速静注群7例(10%)、緩徐静注群はなしであった。 96時間時点で死亡は、経口群11例(8%)、静注群9例(7%)(急速群5例[7%]、緩徐群4例[6%])で報告された(リスク比:1.02、95%信頼区間[CI]:0.41~2.52、p=0.69)。 28日時点における死亡は、経口群17例(12%)、静注群14例(10%)(急速群8例[12%]、緩徐群6例[9%])であった(ハザード比:0.85、95%CI:0.41~1.78)。 重篤な有害事象の発現は、経口群32例(23%)、急速静注群14例(21%)、緩徐静注群10例(15%)で報告された。肺水腫、心不全、体液過剰のエビデンスは認められなかった。

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