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第310回 麻疹患者の発生情報、個人特定のリスクか

INDEX都内の集団発生はブレークスルー感染?情報開示による個人特定のリスク都内の集団発生はブレークスルー感染?以前も本連載(第301回)で触れた麻疹の流行が止まらない。国立健康危機管理研究機構が公表している感染症発生動向調査週報(IDWR)によると、2026年15週(4月6~12日)時点の全国での報告数(速報値)は299例。報告事例は25都道府県に及び、最多は東京都の108例。すでに昨年末の52週(12月22日~28日)までの265例をわずか3ヵ月強で超えてしまった。今年は麻疹の流行がかなり危惧される状況だ。東京都では新宿区の小学校で生徒・教職員18例の感染が確認され、都内では12年ぶりの学年閉鎖という異例の事態にまで発展している。感染者の年齢は10代と40代で、由々しきことは、現時点で判明している感染者のワクチン接種歴は1回以下が2例、2回が16例と、そのほとんどがブレークスルー感染という現実である1)。あくまで推測になるものの、感染事例のうちワクチン2回接種済みの16例はおそらくほぼ全員が10代の生徒だろう。小学校であることを考えれば、これら16例の年齢は10~12歳。麻疹ワクチンの定期接種スケジュールから考えれば、2回目接種からわずか5~6年でブレークスルー感染に遭遇した計算になる。現在の新宿区内の小学校は公立私立含めて30校あり、総生徒数は約1万1,000人。単純計算すれば1校1学年当たりの生徒数は約60人。麻疹ワクチンの2回接種でも抗体価が得られない事例が1~5%、同ワクチンの発症予防効果が97%、接種後も10〜20年単位で防御効果が大きくは崩れないという一般的な認識から考えると、新宿区での多数のブレークスルー感染は説明がつかない。小学校の同一教室で朝から夕方まで時間を共有している結果、相当なウイルス量による曝露が起こり、その結果、ブレークスルー感染が起こったと考えるしかなさそうだ。情報開示による個人特定のリスクさて、今回の流行で各種発表を参照していた中、私が気になった事例がある。その理由は後述するが、最近では麻疹感染例が確認されると、各自治体は感染例の行動履歴のうち不特定多数に接触した可能性がある部分を公表し、注意を促す。これ自体はむしろ公衆衛生の観点からは必要な対応だと考えている。私が気になったのは、ある自治体での麻疹感染者の行動履歴の公表事例である。そこには不特定多数への感染リスクがある、立ち寄り先と公共交通機関の利用日時が分刻みで公表されていた。どちらも同一日のことだが、同事例を見ると、感染者がある時間の範囲内でどのような行動をしていたかが、かなりの確度で推定できる。そして、たまたまGoogleマップを利用して同事例の履歴と照らし合わせてみた際にハッとした。少なくとも同事例では、当たっているかどうかは別にして感染者個人の居住地域を推定できてしまう。この自治体の人口は数十万人規模だが、行動履歴から推定できる地域の人口はその5分の1程度。それでも10万人以上だが、公表された行動履歴からは、さらに数万人規模まで絞り込める。しかも今やネット時代。さまざまな情報をつなぎ合わせることで、誤認も含め個人を特定できてしまう可能性がある。ちなみにこうした行動履歴の公表内容は、旧国立感染症研究所感染症疫学センターが2016年6月に公表した『麻疹発生時対応ガイドライン 第二版:暫定改訂版』2)を基に各自治体の裁量に任されている。同ガイドラインでは以下のような記載があるのみである。「情報発信に際しては、患者数が減少しており、個人を特定できる可能性が以前より増しているため発症者及びその周囲にいる感染を受けた者両者への人権に配慮する必要がある。ただし、感染拡大や対策を実施するうえで、麻疹患者の情報の共有が重要となることもある。公表する情報の質、範囲などについては関係機関と十分協議し、個人のプライバシーと感染拡大防止の公衆衛生学的意義を考慮したうえで決定することが望ましい」もちろんこの自治体の公表内容については、個人情報保護と感染拡大防止のせめぎあいのギリギリのラインで決定されたものだろうとは思っている。とくに麻疹の場合は基本再生産数が12~18と、きわめて感染力が強い。時間を分刻みで公表しているのも、パニックのような過剰な反応が起きないようにとの配慮があるのだろうとも受け止めている。しかし、ケースによっては公表された情報から“犯人探し“が行われてしまう可能性は否定できない。言葉として不適切なことを承知で言えば、今回のケースは麻疹という一般には聞き慣れた感染症だから、そこまでのことは起きていないだろうと推察している。ただ、これが多くの人にとって聞き慣れない新興感染症で、この事例のような公表をした場合は、犯人探しリスクはかなり高まる。その意味では、今回のケースは個人特定を防ぐために、行動履歴の時間の粒度をやや粗めにするという対応はできなくもない。国はそろそろ過去の事例なども参照しながら、情報公開に関してはもう少し詳しいガイドラインを作成してもよいのではと思うのだが…。1)都庁総合ホームページ:麻しん(はしか)患者の集団発生について2)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト::麻疹発生時対応ガイドライン〔第二版:暫定改訂版〕

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医療者の携帯電話が多剤耐性菌を広める!?

 医療従事者の多くが勤務時間中に仕事関連と個人的な目的の両方で携帯電話を使用しており、患者との接触とデバイスの操作を頻繁に切り替えている。しかし、感染予防の観点からみた高頻度接触表面としての携帯電話の役割については、十分に解明されていない。ドイツ・Goethe University FrankfurtのDaniel Hack氏らは、大学病院で医療従事者が使用する携帯電話上の多剤耐性菌の保有率および分子疫学を評価し、非医療従事者が使用する端末との比較検討を行った。Antimicrobial Resistance & Infection Control誌2026年4月4日号掲載の報告。 30ヵ月間にわたる横断研究において、医療従事者の携帯電話232台および非医療従事者の携帯電話241台を対象に、多剤耐性菌の保有率および総細菌数を評価した。医療従事者は患者と直接接する者(医師、看護師およびその他の医療者)、非医療従事者は患者と直接接触しない者(臨床実習前の医学生、事務職)と定義された。一部の端末については、アルコール含有ワイプによる清拭消毒の前後で評価を実施した。クローナルクラスターを同定するため、全ゲノム解析およびそれに続くcore genome multilocus sequence typing(cgMLST)解析が行われた。 主な結果は以下のとおり。・多剤耐性菌の保有率は、非医療従事者の携帯電話と比較して、医療従事者の携帯電話で有意に高かった(0.4%vs.15.1%、p<0.001)。・医療従事者間でのサブグループ解析の結果、一般病棟よりも集中治療室(ICU)で使用される端末(11.9%vs.23.4%)、個人用よりも共有の端末(9.1%vs.23.0%)において保有率が有意に高かった(p<0.05)。・医師と看護師の間およびスマートフォンとキーパッド式携帯端末の間で、多剤耐性菌の保有率に有意な差は認められなかった。・バンコマイシン耐性Enterococcus faeciumおよびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が、それぞれ11.2%および4.7%の端末から検出された。一方で、多剤耐性グラム陰性菌(MDRGN)は検出されなかった。・cgMLST解析により、クローナルな多剤耐性菌株は主として同一病棟内で認められ、病棟間を越えて認められることはまれであった。・総細菌数は多剤耐性菌検出の予測因子ではなかった。・アルコール含有ワイプによる清拭により、評価を実施したすべての端末から多剤耐性菌が確実に除菌された。 著者らは、携帯電話は多剤耐性菌伝播における重要なリザーバーとなりうるとし、とくに共有端末およびICUの端末に対する標準化されたルーチン消毒を感染予防策として組み込むことが検討されるべきとしている。

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第315回 キノコが作る抗酸化物質L-エルゴチオネインが生理痛を緩和

キノコ(真菌)が作る硫黄含有アミノ酸の類いのL-エルゴチオネイン(L-ergothioneine、以下「EGT」)が安全に女性の生理痛を和らげました1,2)。EGTは抗酸化作用を担うことで知られます。有機カチオン輸送体のOCTN1を介して細胞内に取り込まれ、蓄積し、フリーラジカルを捕らえてDNAやタンパク質が酸化で傷つかないようにする働きを有します。生理痛を引き起こす原発性月経困難症(PD)は若年女性に最も多い婦人科疾患で、骨盤に明らかな病変がないにもかかわらず月経の直前や最中に生じる下腹部痛を特徴とします。PDの有病率は高ければ9割を超え、患者の生きやすさ、学業、仕事の生産性を大きく損なわせます。子宮の過剰収縮、虚血、低酸素を招く子宮内膜プロスタグランジンの過剰生成がPDの根源とされ、それらの虚血が炎症反応と重度の酸化ストレスを招くようです。抗酸化物質の枯渇と並行して活性酸素種(ROS)や脂質過酸化指標が増えることは生理痛の重症度と密接に関連します。そこで中国の南京市のGene III Biotechnology社のGuohua Xiao氏らは抗酸化物質のEGTに白羽の矢を立て、その生理痛緩和効果を調べる臨床試験を実施しました。試験にはPDと診断済みで、先立つ1ヵ月間に鎮痛薬や漢方薬などのPD治療を試みたことがない18~30歳の女性40例が参加しました。半数の20例は120mgのEGTを3回の月経の間に毎日服用し、あとの半数の20例にはプラセボが与えられ、生理痛のピークの推移が視覚アナログ尺度(Visual Analog Scale:VAS)で測定されました。EGT投与群のVASはベースライン時に4.8で、その後の1、2、3回目の生理時にはそれぞれ4.1、3.6、2.3に有意に下がっていました。プラセボ群では有意なVAS低下は認められませんでした。EGTは細胞に蓄積することから投与を続けるほどより有効なようです。実際、3回目の生理のときのEGT投与のVAS低下はプラセボを有意に上回りました。今回の試験で血中の炎症バイオマーカーはEGT群とプラセボ群で差がありませんでした。炎症を減らしてプロスタグランジンの生成を阻止するイブプロフェンなどの昔ながらの鎮痛薬が今のところ生理痛の緩和に使うべきとされていますが、どうやらEGTはそれら鎮痛薬が手を出す馴染みの炎症経路とは独立した細胞保護経路を介して鎮痛効果を発揮するのかもしれません。EGTは全身の炎症反応の誘発に至るより前に細胞ストレス発生源のフリーラジカルを排除してしまうらしいとXiao氏は言っています2)。Xiao氏は多施設でのより大規模な試験を計画しています。今回の試験で有害事象は幸いにも認められませんでしたが、大規模試験を実施すればEGTの効果を支える仕組みのみならず、安全性もより正確に把握できそうです。Xiao氏が年初に報告した別の試験では、肝機能異常を示す被験者の肝機能、体調、睡眠の指標がEGTで改善しています3)。2024年に報告された無作為化試験では軽度認知障害の高齢者の記憶/学習能力を改善しうるEGTの効果が示されており4)、その取り柄は生理痛緩和にとどまらず幅広いようです。参考1)Guo C, et al. Efficacy and Safety of Oral L-Ergothioneine Supplementation in Primary Dysmenorrhea: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Clinical Trial. medRxiv. 2026 Mar 27.2)Antioxidant in mushrooms may target uterus cells to ease period pain / NewScientist3)Guo C, et al. Hepatoprotective Efficacy of GeneIII L-Ergothioneine Capsules: A Self-Controlled Clinical Trial. medRxiv. 2026 Jan 2.4)Yau YF, et al. J Alzheimers Dis. 2024;102:841-854.

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第291回 診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省

<先週の動き> 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省人件費や物価の上昇で経営環境が厳しさを増すなか、厚生労働省はクリニックや中小病院に対して支援策を拡充し、日本医師会はその活用を呼びかけている。国は2026年度の「働き方改革推進支援助成金」を拡充し、常勤10人未満の小規模事業所では賃上げ加算の上限を引き上げ、最大300万円を上乗せできるようにした。労務管理研修やソフト導入、勤務間インターバル導入、時間外労働削減などの取り組みに応じ、補助上限は最大520万円となる。加えて、月60時間以内の時間外労働の割増賃金率を5%以上引き上げた場合の加算も新設された。その一方で、診療報酬ではベースアップ評価料が見直され、対象職種は看護師や薬剤師に加え、40歳未満の医師や歯科医師、事務職員にも広がった。点数も大幅に引き上げられ、継続的な賃上げを行う医療機関はより高く評価される。しかし、診療所の届出率は病院よりも低く、無床診療所59.2%、有床診療所70.0%にとどまっている。6月の診療報酬改定に向けて、算定するためには医療機関は5月中に必ず届出を行う必要がある。また、2024年度にすでに届け出ている医療機関も再届出が必要となる。賃金改善計画書は不要となり、手続き負担は軽減された。さらに、評価料収入は全額を賃上げに充てること、8月の実績報告に備えて対象職員数や賃上げ実績を整理しておくことが重要となる。人材流出を防ぎ、他産業に見劣りしない処遇改善を進めるためにも、診療所は助成金と評価料を組み合わせて活用する姿勢が求められる。 参考 1)働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)(厚労省) 2)令和8年度診療報酬改定ベースアップ評価料による賃上げについて(日医) 3)日医がベースアップ評価料の積極的な算定を呼びかけ、届け出率は無床診療所で約6割(日経メディカル) 4)日医がベースアップ評価料の届け出を呼びかけ(MEDICAL TRIBUNE) 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会麻しん(はしか)の感染拡大が続いている。2026年4月上旬までに報告された患者は236人に達し、新型コロナ禍後で最多だった2025年(265人)を上回るペースで推移している。感染者は10~20代が半数を占め、若年層を中心に流行の兆しが強まっている。麻しんは極めて感染力が強く、免疫を持たない場合ほぼ100%発症するほか、肺炎や脳炎など重篤な合併症を引き起こす可能性がある。わが国は2015年に世界保健機関(WHO)から「排除状態」と認定されたが、近年は海外からの持ち込みを起点とした感染が続いている。世界的にも患者数は増加しており、各国で流行が拡大している。国内ではコロナ禍の水際対策で患者数は一時減少したが、2023年以降は増加に転じた。地域別では東京都が最多で、鹿児島県、愛知県と続く。とくに都市部での感染が目立ち、成人を含む若年層への広がりが確認されている。背景にはワクチン接種率の低下がある。麻疹の排除維持には2回接種で95%以上の接種率が必要とされるが、現状はこれを下回っている。感染者の半数以上が未接種、1回接種、あるいは接種歴不明であり、十分な免疫を持たない層の存在が流行拡大の要因となっている。麻しんへの予防接種は1歳時と小学校入学前の2回接種で高い予防効果が得られる。日本小児科学会は、接種歴を確認し未接種や不明の場合は任意接種を検討するよう呼びかけるとともに、発熱や発疹などの症状がある場合は事前連絡のうえで医療機関を受診するよう求めている。流行抑制には、ワクチン接種の徹底と早期受診が不可欠だ。 参考 1)麻しん累積報告数の推移 2019~26年 (JIHS) 2)2026年における麻疹患者数増加に関する注意喚起 (小児科学会) 3)はしか感染、230人超 新型コロナ後で最多ペース-10~20代が中心(時事通信) 4)はしか感染者増加“子どもの定期接種確実に”日本ワクチン学会(NHK) 5)海外からの流入・予防接種率低下等で麻疹(はしか)流行の兆し、適切なワクチン接種(定期・任意)と医療機関受診を-小児科学会(Gem Med) 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府中東情勢の緊迫化による原油・ナフサ供給不安が、医療物資の流通に影響を及ぼしている。政府は4月16日に「中東情勢に関する関係閣僚会議」を開き、対策として感染症流行に備え備蓄している医療用手袋約5億枚のうち、5,000万枚を2026年5月から医療機関向けに放出する方針を決定した。放出対象は、採血や検査で用いる非滅菌手袋で、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じて医療機関が必要量を申請し供給される仕組みを整備する。厚生労働省によると、医療物資の供給不安に関する相談はメーカー・卸・医療機関を合わせ2,956件に上り、うち34件が供給に影響ありと判断された。消毒液や透析関連物資など一部は解決が進む一方で、透析用チューブや滅菌関連資材などでは中長期的な供給不安が残る。医療機関からの相談は急増しており、需給逼迫の兆しが強まっている。背景には、医療用手袋やガウン、チューブなど多くの医療消耗品が石油由来であり、原料のナフサを中東に依存している構造がある。現場では価格上昇や出荷制限の動きもみられ、手術や透析など生命維持医療への影響を懸念する声が上がる。実際に通販業者では購入制限が導入され、需給の不安定化が流通段階にも波及している。政府は約1.3万の医療機関から情報収集できるシステムを稼働させ、専門チームを増員して供給状況の把握と対策を強化している。また、アジア諸国との連携によるサプライチェーン強靭化にも着手し、エネルギー供給の安定化を通じた医療物資確保を図る方針。医療物資の安定供給は、エネルギー安全保障と一体の課題となっており、短期対応と中長期対策の両立が求められる。 参考 1)石油関連製品の供給不足に伴う厚生労働分野の影響・対応について(厚労省) 2)中東情勢に関する関係閣僚会議(首相官邸) 3)高市首相 5月から医療用手袋5,000万枚の備蓄放出を表明(NHK) 4)高市首相、医療用手袋5,000万枚放出表明 中東情勢で確保困難(毎日新聞) 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省厚生労働省は、4月16日に「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を開き、高度ながん治療を担う病院の集約化を進める方針を明確にした。従来は全国どこでも一定水準のがん医療を受けられる「均てん化」を重視してきたが、今後は人口減少や医師不足、医療の高度化を踏まえ、質の高い治療を維持するために「集約化」との両立へ軸足を移す。とくに消化器外科では担い手不足が深刻で、現状のままでは2040年にがん治療を担う外科医が約9,200人と足元から39%減り、需要の5,200人を下回る見通しとなっている。一般の医師数は増加している一方で、一般外科医・消化器外科医はこの10年で減少し、若手ほど減り幅が大きい。長時間労働や負担に見合わない処遇が背景にあり、外科医がいる病院の約半数で消化器外科医は1~2人にとどまる。こうした状況から、厚労省は食道がんや膵がんなど高難度手術を拠点病院や大学病院へ集約し、希少がんでは県域を超えた集約も視野に入れる。その一方で、胃がんや大腸がんの標準的手術、長期の薬物療法や検診などは地域の医療機関で担う考え。今後は、新たな地域医療構想と連動し、各医療機関の機能を2028年度までに整理し、第9次医療計画へ反映する。がん診療連携拠点病院の整備指針も見直され、指定期間は最長3年に短縮される見通しで、構想や医療計画との整合性を高める。もっとも、都道府県ごとの議論の進捗にはばらつきが大きく、実施時期未定の地域も多い。国によるデータ提供や技術支援を強化しつつ、患者の受療アクセス低下を防ぎながら、医療の質、病院経営、勤務環境改善を両立できる再編を進められるかが焦点となる。 参考 1)第20回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(厚労省) 2)がん医療・地域医療構想・医療計画等を連動させ「集約化すべき病院、高度医療の内容」等を明確化する-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 3)がんの医療体制、地域医療構想と連動して整備へ 厚労省案 「28年度までに決定」(CB news) 4)がん手術維持へ病院集約 40年に外科医5,000人超不足、厚労省(日経新聞) 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省医師偏在対策の柱として拡大してきた医学部の地域枠が、現在見直しの局面に入っている。厚生労働省は、4月17日に開催した「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」で、2027年度の医学部臨時定員の調整方法を了承し、医師多数県を中心に削減を進めつつ、へき地尺度などを用いて一部地域では削減幅を緩和する方針を示した。医学部定員に占める地域枠などは2007年度の173人から2025年度には1,847人へと増え、全体の19.9%を占めるまで拡大しており、医学部定員9,393人のなかで大きな比重を占めている。この拡大は2008年度以降の臨時定員増を背景とするが、近年は医師数の増加ペース見直しの議論が進み、今後は臨時定員の縮減とともに、地域枠を恒久定員内で運用する方向が示された。検討会では、2027年度以降は医師多数県の臨時定員削減を基本としつつ、へき地尺度や高齢化の進展を踏まえて調整する方針を確認した。さらに2028年度以降は、医師多数県に限らず定員適正化を進める方向性が示され、量的拡大から質的最適化への転換が明確になりつつある。地域枠の制度設計も見直し対象となっている。現在は卒後9年以上の地域勤務が求められ、一定期間を医師不足地域で従事する仕組みとなっているが、義務履行中断者が約7%に上るなど、若手医師のライフイベントや専門医取得との両立が課題となっている。厚労省の資料でも、仕事と育児の両立志向の高まりなど、若年層の価値観変化が制度運用に影響していることが示されている。実際、日経メディカルの調査では「地域枠は必要だが見直しが必要」との回答が約半数を占め、当事者では6割近くに達した。背景には、都市部の生活の利便性や教育環境、キャリア形成機会の偏在があり、単なる配置義務では地域定着につながらない現実がある。地域枠は一定の成果を上げつつも、若手医師の価値観変化や医師需給の転換期を受け、制度疲労が顕在化している。今後は定員管理、勤務環境改善、経済的インセンティブを組み合わせた総合的な再設計が求められる。 参考 1)医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針について(厚労省) 2)今後の地域枠等の運用について(同) 3)27年度臨時定員、へき地尺度で多数県の削減幅を緩和 検討会が了承(MEDIFAX) 4)地域枠、医師48%が「従事期間や奨学金の利息見直しが必要」(日経メディカル) 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ東京商工リサーチの調査によると、2025年度に倒産した医療機関(病院、診療所、歯科医院)は前年度比20.3%増の71件となり、過去20年で最多を更新した。コロナ禍では支援策により低水準に抑えられていたが、収束後の2023年度以降は53件、59件、71件と増加が続き、経営の悪化が顕在化している。業態別では診療所が32件、歯科医院が31件といずれも最多で、とくに歯科は前年度比1.5倍と急増した。その一方で、病院は8件と減少したものの、依然として高い水準にある。負債規模では1億円以上の案件も多く、中堅規模以上の医療機関の倒産が目立つ点も特徴だ。原因は「販売不振」が66%を占め、「既往のシワ寄せ」と合わせ約9割に達した。人口減少による患者数減少や診療報酬改定の影響に加え、光熱費や人件費、医療材料費の上昇により収益構造が悪化している。さらに、経営者の高齢化や人手不足、設備の老朽化も重なり、経営継続が困難となるケースが増えている。倒産形態は破産が69件で全体の97%を占め、再建型の民事再生は2件にとどまった。医療機関は収益規制や後継者不足などから再建が難しく、退出に直結しやすい構造が浮き彫りとなっている。医療機関の倒産は地域の医療提供体制に影響を及ぼし、とくに高齢化が進む地方では受診機会の喪失につながる懸念が強い。2026年6月の診療報酬改定の効果は不透明で、今後、公的支援の強化に加え、M&Aなどを含めた医療機関の再編・集約が一層進む可能性がある。 参考 1)2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超(東京商工リサーチ) 2)25年度の医療機関倒産、過去20年で最多の71件 商工リサーチ調べ(日経新聞)

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トロイの木馬にやられた!【Dr. 中島の 新・徒然草】(627)

六百二十七の段 トロイの木馬にやられた!朝夕が暑くなってきましたね。二十四節気では4月20日ごろから5月4日ごろまでを穀雨と呼び、次は立夏になるのだそうです。夏目前なら暑いはず。中島家では、ついに麦茶が登場しました。やはり冷えた麦茶を飲むと五体に染みわたります。さて、ある日のこと。自宅のPCで何げなく年金の関係のサイトを見ていたら……突然、「トロイの木馬に感染!」というポップアップが出てきました。慌てて右上の×印を押します。すると同じようなポップアップがどんどん増えていきました。 中島 「うわあ!」 思わず叫びました。すると血相を変えた妻が飛んできて「何をやっとるんじゃ。早くネットを切らんかい!」と怒鳴り、パソコンそのものを強制終了してしまったのです。 妻 「何をヘンなサイトを見ていたの!」 そう問い詰められました。まるで怪しいサイトでも見ていたみたいな言われようです。 中島 「単に年金のサイトを見ていただけなんやけど」 怪しいサイトからは最も遠い存在のはず。 妻 「年金サイトが一番危ないのよ!」 妻に理屈は通じません。 が、幸いなことに、妻はそのまま自宅からのオンライン会議に出席しました。その間にChatGPTに相談します。私にとって唯一の味方かもしれません。 ChatGPT 「ご安心ください。ほとんどの場合スケアウェア(Scareware)という無害なものです」 「落ち着いて対処しましょう。慌てて何かアプリをダウンロードしたり、電話したりしてはなりません」 「すぐにネットを遮断したのは最良の選択肢でした」 そう言って力付けてくれます。それからは、ChatGPTの言うとおりに操作して、窮地を脱することができました。今はパソコンも機嫌よく動いています。結局スケアウェアというのは、相手を驚かせて電話をさせたり、危ないアプリをダウンロードさせたりしてパソコンから情報を盗み取ろうとするものだとのこと。考えてみれば、本当に感染した場合には「感染した」などと宣言するはずもありません。こっそり侵入して悪さをするはず。で、ちょっと調べてみました。そうするとあちこちで、いろいろな人が引っかかっているニュースが出てきます。浜松市で76歳の男性が自宅のパソコンを使っていたところ、突然「トロイの木馬に感染しました!」という表示が出てきたのだとか。この男性が慌てて画面に表示された電話番号に連絡すると「パソコンを直すには費用が必要です」と言われ、指示どおりにコンビニで15万円分の電子マネーを購入して、そのコード番号を相手に伝えてしまいました。結果は言わずもがな。山梨県の笛吹市商工会でも業務中に「トロイの木馬に感染しました」という表示が出たそうです。職員が何度再起動しても表示が消えず、画面に出ていた電話番号に連絡すると、マイクロソフト社を名乗る男が応対し「パソコンがウイルスに感染している可能性があります」と言われました。で、この男の指示どおりに、業務用パソコンに遠隔操作ができるソフトウェアが使えるように設定し、さらにネットバンクのIDとパスワードを教えてしまったとのこと。その結果、この日に現金合わせて1,000万円が個人名義の口座に不正送金されてしまいました。このニュースでは「サポート詐欺」と呼んでいましたが、サポートするふりをしてお金を騙し取るからなのでしょう。このニュースのコメント欄には「こんなバカいるんか」とか「個人で補填してくださいね」とか「下には下がいるもんだ」とかで、非難轟々。最後に「頭がトロイ」とあったのには笑ってしまいました。それにしても、いきなりそんな表示が出たらびっくり仰天です。読者の皆さまも、くれぐれもお気を付けください。最後に1句 にせトロイ 驚かされる 穀雨かな

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帯状疱疹、50歳未満でも罹患リスクが高くなる6つの併存疾患

 50歳以上および免疫不全を有する成人では、帯状疱疹の罹患リスクが高いが、18~49歳の併存疾患を有する患者における帯状疱疹罹患リスクについてのエビデンスは不足している。グラクソ・スミスクラインのRachel A. Cohen氏らによる米国の医療保険請求データを用いた大規模後ろ向き研究の結果、特定の併存疾患を有する若年成人(30歳以上)では、50~59歳の併存疾患および免疫不全のない成人と比較して帯状疱疹の罹患リスクが高いことが示された。Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2026年3月27日号掲載の報告。 本後ろ向きコホート研究では、2015~22年の米国におけるMerative MarketScan CommercialおよびMedicare Supplementalのデータが用いられた。併存疾患(喘息、慢性腎臓病[CKD]、慢性閉塞性肺疾患[COPD]、うつ病、糖尿病、ストレス、および外傷)を有する免疫不全のない若年成人(18~49歳)における帯状疱疹罹患率(IR)を、併存疾患および免疫不全のない成人(50~59歳)と比較した。 併存疾患および免疫不全のない50~59歳と比較した調整罹患率比(aIRR)について、非劣性マージン(95%信頼区間[CI]の下限:0.62)があらかじめ設定された。aIRRは、同等(aIRRの95%CIの下限>0.62かつ≦1.0)、有意に高い(同>1.0)、または結論不能(それ以外の結果)に分類した。帯状疱疹罹患の定義は、診断コードに加え、±7日以内の経口抗ウイルス薬の処方とした。感度分析として、併存疾患の数(1、2、または3以上)別に帯状疱疹の罹患率を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象集団は、帯状疱疹罹患歴または帯状疱疹ワクチンの接種歴がなく18歳以上の2,067万3,677人。免疫不全症および自己免疫疾患を有する成人を除外後、併存疾患を有する成人は316万45人であった。・全体として、併存疾患を有する成人において3万1,995件の帯状疱疹発症が報告された。・帯状疱疹罹患率は、気管支喘息(aIRR:1.19[95%CI:1.10~1.29])、COPD(1.31[1.22~1.40])、うつ病(1.31[1.22~1.40])、糖尿病(1.18[1.06~1.32])、ストレス(1.28[1.11~1.47])、および外傷(1.25[1.17~1.34])を有する集団では30~39歳において、またCKD(1.50[1.28~1.77])を有する集団では50~59歳において、50~59歳の併存疾患および免疫不全のない成人と比較して有意に高かった(aIRRの95%CIの下限>1.0)。・感度分析の結果、帯状疱疹罹患率は併存疾患数の増加および年齢の上昇に伴って増加する傾向がみられた。

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2日間のオートミール食で悪玉コレステロールが低下

 果物をトッピングするか、ピーナッツバターで風味をつけるかにかかわらず、オートミールを中心とした食事はコレステロール値の低下に役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この試験では、メタボリックシンドロームの人が48時間にわたって厳格なオーツ麦ベースの食事プランを実践したところ、悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLコレステロール(LDL-C)が約10%低下し、その改善効果は6週間後も確認されたという。ボン大学(ドイツ)栄養・食品科学研究所のMarie-Christine Simon氏らによるこの研究結果は、「Nature Communications」に1月14日掲載された。 メタボリックシンドロームとは、過体重、高血圧、高血糖、脂質異常などの健康問題が組み合わさった状態であり、心臓病や2型糖尿病のリスクを高める。 今回の研究では、メタボリックシンドロームを有する68人の参加者を対象に短期試験と6週間の試験の2つのランダム化比較試験を実施し、オーツ麦を含む食事が脂質代謝や腸内細菌叢に与える影響が検討された。短期間の試験では、34人の参加者のうちの半数が1日300gのオートミールを3食に分けて2日間摂取した。添加できるのは少量の果物や野菜のみで、摂取カロリーは、通常の食事の約半分に制限された。対照群も同様にカロリー制限を行ったが、オートミールは摂取しなかった。2日間の食事介入を完了したのは、オートミール群17人、対照群15人の計32人であった。一方、6週間わたる食事介入では、介入群は通常の食生活を維持したまま3食の食事のうちの1食のみを80gのオートミールに置き換えた。対照群は通常の食生活を維持し、オートミールは摂取しなかった。 その結果、オートミール群ではわずか2日のオートミール食により、LDL-Cが介入前の168.94mg/dLから介入後には151.53mg/dLへと約10%低下した。対照群と比較すると、オートミール群ではLDL-Cが−16.26mg/dL、総コレステロール(TC)が−15.61mg/dL有意に低かった。この効果は、オートミール群が通常食に戻った後も持続し、6週間後でもLDL-Cはベースラインより低い傾向が認められた。一方、6週間にわたって3食のうちの1食のみをオートミールに差し替えた場合では、対照群との間にコレステロール値に有意な差は認められなかった。 さらに、オートミール群では、試験期間にかかわらず、特定の腸内細菌叢が増加したことも確認された。腸内細菌は食物の分解を助け、健康に影響する物質を生成する。今回の研究では、オートミールが細菌によるフェノール化合物の産生を促進することが分かった。論文の筆頭著者である同研究所のLinda Klumpen氏は、「フェノール化合物の1つであるフェルラ酸は、動物実験において正常なコレステロール値の維持に寄与することが示されている」と説明している。 Simon氏は、「オートミール群では、LDL-Cに約10%の低下が認められた。この減少は相当なレベルではあるが、最新の薬剤の効果と完全に同等とは言えない。そのため、この方法はここ数十年、注目されてこなかった」と話す。同氏は、「短期間のオーツ麦ベースの食事を定期的に行うことは、コレステロール値を正常範囲に維持し、糖尿病を予防するための、忍容性の高い方法となり得る」と述べている。 なお、本研究はドイツの複数の研究機関および食品業界団体の資金援助を受けて実施された。

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第308回 致死率の高いマダニ感染症、生存者を苦しめる後遺症とは

INDEX今年、マダニによる国内SFTS発生率が更新か生存者にどんな後遺症が残るのか今年、マダニによる国内SFTS発生率が更新か昨年、報告数が過去最高の191例(速報値)にのぼったダニ媒介感染症の重症熱性血小板減少症候群(略称・SFTS)。国立健康危機管理研究機構が発表する感染症発生動向調査週報の最新データ(2026年第13週[3月23~29日])1)時点でも、すでに全国7県で各1例、合計7例が報告されている。前年の同週までが2例だったことから比べれば、ハイペースである。そして報道によると、この第13週後に熊本県天草市では90代・女性の死亡後のSFTS感染が確認されたという。正直、今年も嫌な予感しかない。生存者にどんな後遺症が残るのかSFTSについては過去の本連載(第286回)でも取り上げたが、国内で確認される感染症の中でも致死率が10~30%と極めて高いのが特徴だ。しかも、病名にある検査値での顕著な血小板減少(10万/mm3未満)以外は、初期症状が発熱、倦怠感、頭痛など非特異的なものであるため、確定診断が必ずしも容易ではない点も厄介である。そして救命できたとしても、その後もしばらく後遺症が続くという研究結果2)が最近明らかにされている。これは中国・河南省信陽市にある中国融通医療健康グループの第154病院の研究チームが、2025年8月のPLOS Neglected Tropical Diseases誌に発表したSFTSサバイバーの前向きコホート研究である。同研究は2010~24年にかけて確認されたSFTSサバイバー1,197例(以下、サバイバー群)の後遺症の有無を発症後6ヵ月おきに24ヵ月目まで追跡したもので、性別・年齢をマッチングさせたSFTS陰性発熱患者188例の対照群を置いて比較したもの。ちなみにサバイバーのうち294例は11年間も追跡調査を行っている。これによると、まず何らかの後遺症が確認された割合は、サバイバー群が62.57%、対照群が51.60%であり、サバイバー群が有意に高い割合だった(p<0.05)。症状別の発症率をサバイバー群と対照群でみると、記憶障害は33.50% vs.22.87%(p=0.005)、関節痛は33.08% vs.22.87%(p=0.008)、脱毛は32.25% vs.25.00%(p=0.066)、視力低下は31.08% vs.22.34%(p=0.019)であり、脱毛を除き、サバイバー群で有意に高い割合を示した。全体として有意差が認められなかった脱毛だが、発症後6ヵ月時点では、サバイバー群33.33% vs.対照群13.75%(調整オッズ比[OR]:4.01、95%信頼区間[CI]:2.01~8.66)、12ヵ月時点では29.37% vs.8.57%(OR:3.13、95%CI:1.10~11.33)と有意差が認められている(p<0.05)。一方、全体での検査値異常については、好酸球減少が9.44% vs.3.72%(p=0.011)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)低下が6.02% vs.1.60%(p=0.018)、LDH上昇が19.38% vs.12.77%(p=0.038)となり、いずれも有意差が認められている。逆にSFTSで典型的な血小板減少は長期的には改善し、両群間で有意差は認められていない。(表)症状別発症率画像を拡大するそしてリスク因子別で見ると、サバイバー群で脳炎を発症した場合は記憶障害と血小板減少、出血症状を発症した場合は、記憶障害、視力低下、MCH低下の発症頻度が対照群と比べ有意に高く、ウイルス量(≧106コピー/mL)が高値だった場合は、多くの症状や検査異常の発症率が対照群に比べ有意に高いこともわかった。つまるところ、SFTS発症時の高ウイルス量を筆頭に、急性期の神経・出血症状の有無が重要な予後指標となるということだ。ちなみに最長で11年間の長期追跡例があることは前出の通りだが、これらの症例では、一部で視力障害や血小板数異常が残っていた事例があったという。つまりSFTSウイルスは神経向性ウイルスの性質が強いとも解釈できる。このような結果を見ると、致死率の高さだけに止まらないこのウイルスの恐ろしさを改めて実感させられる。参考1)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:感染症発生動向調査週報一覧2)Cui N, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2025;19:e0013276.

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体内CAR-T細胞生成による多発性骨髄腫治療、ESO-T01の第I相試験結果/Nat Med

 体内でのCAR-T細胞の生成は、体外培養やリンパ球除去を省略できるため、細胞療法へのアクセスを簡素化・迅速化する可能性がある。今回、再発・難治性多発性骨髄腫の成人患者を対象に、体内でCAR-T細胞を生成するレンチウイルスベクターであるESO-T01の安全性と忍容性を評価した第I相試験の結果を、中国・Huazhong University of Science and TechnologyのNing An氏らがNature Medicine誌オンライン版2026年3月25日号に報告した。 ESO-T01は、ナノボディ指向性の免疫遮蔽レンチウイルスベクターで、ヒト化抗B細胞成熟抗原(BCMA)CARをコードしている。本試験では、白血球アフェレーシス、体外培養、リンパ球除去化学療法を実施せずに、0.2×109形質導入単位を静脈内に単回投与した。前治療歴の多い男性患者5例(治療ライン中央値:3)が連続して登録され、追跡期間中央値は6.0ヵ月であった。主要評価項目は安全性、忍容性、副次評価項目は有効性、薬物動態、薬力学などであった。 主な結果は以下のとおり。・全例でGrade3以上の有害事象が認められた。・サイトカイン放出症候群が4例(Grade3が3例、Geade2が1例)に認められ、副腎皮質ステロイド、トシリズマブ、支持療法で管理された。・最も多かった毒性は一過性の血球減少および可逆的な肝酵素値の上昇で、Grade2の感染症が3例に認められた。・Grade1の免疫エフェクター細胞関連神経毒性が1例に認められ、骨髄外病変に関連する脊髄圧迫により死亡した。・5例中4例で奏効が得られ、うち3例は厳格な完全寛解であった。・評価可能な奏効例(4例)すべてで、60日目までに微小残存病変陰性(10-5)が確認された。

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初期研修を終えた今みなさんに伝えたい大切なこと【研修医ケンスケのM6カレンダー】第12回

初期研修を終えた今みなさんに伝えたい大切なことさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。医師国家試験後1本目は研修生活が始まる前に準備すること、というタイトルで、「学生」という立場をフル活用してほしい、準備するなら初期臨床研修医向けの書籍を活用せよ、という2つのメッセージをお届けしました。2本目となる今回は、研修が始まるに当たって何を大切にしてほしいか、をテーマに進めて参ります。前提として、私が初期臨床研修を行った環境は、313床/救急車台数10台/日(もっと来ていた気がする…)の2次救急病院でした。同期は6名、2学年で合計12名の初期臨床研修医がいます。日当直は月4〜5回。総合診療科の研修を十分に行うことができること、主治医制で自分の裁量権が多いため様々なスキル獲得を見込むことができたこと、比較的自由に自分の休みをコントロールできることなどが選んだ理由でした。上記のような環境で過ごした2年間と、他の病院で研修を終えた同級生たちからの話も含めて、振り返りたいと思います!ぜひ2本目もお楽しみください!自分のバリューを意識しよう!(上手に休むこともお忘れなく!)前回も書きましたが、初期臨床研修医とは何かにつけて初期の状態です。臨床も初心者なことはもちろん、社会人としても初期の人がほとんどだと思うのですが、何科の研修であれ「自身のバリューをいかに出すか」を意識することが大事です。初期臨床研修医、というよりも社会人基礎に近い話で、よく自己啓発本にも取り上げられていることですね。初期臨床研修医は皆さんが思っている以上に大事に、重宝されていると思います。初期臨床研修は大学生活:学校生活とは異なるため、現場で実際に戦力となることが求められますが、一方で医療者として未熟な初心者であるため、何かと教えてもらえる機会に恵まれます。実感が湧きにくいかもしれませんが、実際の症例を通して、指導医からのフィードバックのみならず、同期や先輩後輩が経験した症例、そして何より他職種から学ぶことが多くあるのです。学部学生の講義や国家試験対策の中では医学を中心に学んできましたが、これから皆さんが関わることは医学を実践する場としての医療です。教科書通りに物事が進むわけでもなく、また、教科書で学んだ知識を実践するにはどれだけの人やリソースが関わるのか、それが体感できます。やや話が逸れましたが、医療は皆さん個人のみでは決して成立しません。医学部入学の際にたくさん練習したチームワークや協調性が試されます。組織やチームの一員として動くのに、自分がどんなバリューを提供できるか、を意識することは非常に重要です。例えば、転倒後の圧迫骨折の症例を担当することになったとしましょう。正直、心不全急性増悪や脳血管障害などと比較すると、医学的にできることは地道で、面白みにやや欠けるかもしれません。多くの併存疾患の慢性管理を見直す、なども、初期臨床研修医成り立ての頃は知識・スキル不足から気付けないことも多いでしょう。皆さんならこんな症例を担当した時に、チームにどのように貢献したいと思いますか?一例ですが、私なら、スムーズな退院調整を進めるのに、どんな情報が必要か、どんな連携が必要かを考えます。初期臨床研修医は指導医ほどの経験・スキルはないですが、比較的時間にゆとりがあります。研修医室で暇を持て余すのではなく、本人のリハビリの様子を見学したり、面会時間に病棟へ待機して家族から情報収集をしたり。医学的なスキル不足を、自分の足で稼いだ情報資源として還元できる余地は大いにあるはずです。上記は臨床現場の一例ですが、もともと持っているスキルを活かして研修体制を見直したり、そもそも研修医だからこそ気づくことができる研修環境へのフィードバックなど、バリューを見出す場面は探せばいくらでもあります。ぜひ積極的に自分を売り込みましょう!経験した症例からの学びを最大化する(同期、先輩後輩はプライスレスな宝物です)初期臨床研修では入院症例、外来症例、救急外来症例など、さまざまな患者さんに出会うことでしょう。そして1人1人の患者さんから学ぶことは多いです。その機会を無駄にせず、ぜひ最大化することに努めてください。最大化するには振り返る仕組みを作ることが有効です。手段は自身で運用しやすいようにカスタマイズして良いですが、どんな症例であったのか、何を意識して臨んだか、気づいたことや感想が一目で見たときに思い出すことができる症例ログを作っておくと、後々振り返りやすいです。初めのうちは医学的な視点ばかり追いかけてしまいますが、タイムマネジメントやチームワークという観点も学びになります。診察をしながら問診をする、カルテ上でショートカットを活用する、というのも立派な学びの1つです。医学的なこと以外の仕事に慣れてくると、余裕が生まれるからでしょうか、不思議と医学的な視点もより広がってきます。この病態をより早く察知するには、この疾患で入院になるならのちにこんな項目が必要になるな、など、診療の厚みが増していきます。私自身は医学的な学びと、それ以外のマネジメント術のようなことで分けてまとめていました。初めは何をまとめたら良いのか、上手くデザインすることができませんが、知識・スキルの向上とともに徐々に自分の軸が作られていくので、その都度柔軟にまとめ方も変えていけば良いです。この連載の1番初めにお伝えした内容でしたが、研修医になっても学習会をすることは非常に有用です。自分1人だと経験できる症例が限られるほか、他の人の視点も取り入れることができる分、学びが深くなるのは学生と同様です。自分で学んだことをぜひ積極的に同期や先輩後輩にもシェアしてくださいね。そして慣れてきた方はぜひ他職種にも共有して、それぞれの立場からどんなケアが必要なのか、といったことを学び合いましょう!感染症と医療安全はどの診療科に行っても必要な座学初期臨床研修医の大きな特徴の1つは、様々な診療科をローテーションすることです。専攻医以降で外科や産婦人科、はたまた眼科や耳鼻咽喉科の現場に立つことはありません。その中で、臓器横断的な感染症と医療安全の2つは、どの診療科へ行っても確実に必要なことで、医師だからこそ知っておくと、コマンダーとしての厚みが増す大事な知識です。感染症も医療安全も、単科として研修することはない、そんな病院が多いと思います。ここでは、それぞれの専門を極める、ではなく、知識を座学として学びやすく、かつ、専門家でなくてもある程度の知識は知っておく必要があることに注目していただきたいです。イメージしやすいのは感染症でしょうか。国試対策でもそうだったように、診療科ごとに感染症のカテゴリーがあったはずです。そして必ず細菌感染を鑑別する必要がありました。細菌感染症では関与する細菌の種類は多いものの、グラム染色上で分けると4つにしか分類されません。代表的な菌を覚えて、どの臓器でメジャーな感染症を引き起こすのかを押さえておきましょう。骨折の診断で整形外科に入院していても、入院期間中に肺炎を発症してしまった、なんてことは珍しくありません。医療安全は注目されにくいですが、スーパーローテーションをする初期臨床研修医という立場を大いに活かすチャンスです。医療安全の基本概念の1つですが、Human is Error、人間同士が仕事をしている限りどうしてもエラーは付きものです。その上でいかにエラーを減らすことができるか、起きたエラーから何を学ぶかが重要です。初期臨床研修医はさまざまな診療科へ足を運ぶため、その科ごとにエラーを探知することができます。どの診療科にも共通することだけでなく、この診療科ではこのフローで行うが、ここでは違う、だからコミュニケーションエラーに繋がる、という発見は、色んな診療科を経験できる初期臨床研修医だからこそ気付きやすいと思います。上記の考え方は、冒頭に述べたバリューを出す、に繋がる話ですね。勘づかれた方、鋭いです。最後に(連載をお楽しみいただきありがとうございました!)いかがだったでしょうか。初期臨床研修医は何かと板挟みになったり、スキル・経験不足で打ちひしがれることも多いですが、伸びしろが大きい分、成長が実感できたときはとても嬉しいものです。社会人として自分で稼いだお金で、自分の人生やキャリアを拡張できるのも面白みの1つです。そして、今回がこの連載の最終回です。これまで応援いただいた皆さま、制作の方々、この場をお借りしてお礼申し上げます。連載企画という初めての機会をこうしていただけたことが嬉しいですし、企画を通して自分自身の振り返りとなり、少しでも皆さまのお役に立つことができたら本望です。今後の皆さまのご活躍を心よりお祈り申し上げます。ぜひ学会やイベントでお会いしたときはよろしくお願いいたします!

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第307回 2026年4月より定期接種に加わったワクチンは?

INDEX妊婦の7割、「無料であれば接種をする」イレギュラーな定期接種ワクチン妊婦の7割、「無料であれば接種をする」4月1日から2026年度がスタートした。フリーランスの私にとって3月31日と4月1日は、単なる1日違い以上の意味はないのだが、世の中はそうではない。医療業界もこの日を境にいろいろと変わることがある。その1つがワクチンの定期接種である。2026年4月1日から妊婦に対するRSウイルスワクチン接種が予防接種法に基づくA類疾病として定期接種に加わった。これまでは任意接種だったため、約3~4万円の自己負担が必要だったが、これが原則無料となる。国立成育医療研究センターのグループが2024年7月〜2025年8月に出産した1,279例の女性を対象としたオンライン全国調査では、妊娠中のRSウイルスワクチン接種率は約11.6%(95%信頼区間[CI]:9.8〜13.3%)。同ワクチンを公費負担で接種できる米国や英国の接種率の約30〜50%と比べれば、かなり低い水準である。同調査では未接種者にその理由を尋ねているが、「予防効果を知らなかった」(28.9%)、「ワクチンの存在を知らなかった」(27.3%)、「自費での支払額が高過ぎる」(18.7%)など。このうち77.5%は「無料であれば接種をする」と回答したことも明らかになっている。また、接種した人でも接種費用について「やや高い」または「とても高い」と回答した人は87.2%に上っており、やはり高額なワクチン接種費用は接種率向上の大きなハードルになっていることは確実と言ってよい。今後は少なくとも前出の11.6%よりは接種率が高くなると考えられる。もっともこの調査で未接種であった人の15.0%が、「無料でも受けたくない」と回答していることのほうが大きな問題かもしれない。イレギュラーな定期接種ワクチンそもそも今回のRSウイルスワクチン自体が既存の定期接種ワクチンの中では異質である。接種対象者が単なる健常者ではなく妊婦限定であることに加え、接種した妊婦の体内で産生された抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、出生直後の乳児のRSウイルス感染を防御するというやや分かりにくいものだからだ。少なからぬ人が経験しているだろうが、妊娠期間中の女性は自身だけでなく胎児の健康を慮るあまり、体内に入る薬や食品などには、平時以上に神経質になりがちである。その意味ではVaccines誌に掲載されたサハラ以南で行われた妊婦の新型コロナウイルスワクチンに関する研究1)が興味深い。同研究はアフリカのサハラ以南というやや特殊な地域で行われ、例数も少ないが、妊婦と非妊婦の年齢マッチングを行ったうえでの研究である。それによると妊婦は非妊婦に比べ有意にワクチンを受ける可能性が低いことがわかっている(オッズ比[OR]:0.12、95%信頼区間[CI]:0.06~0.27、p<0.001)。また、学歴が低いほど接種率が有意に高く(OR:0.04、95%CI:0.01~0.18、p<0.001)、一時“流行”した新型コロナワクチンにマイクロチップが含まれているという誤情報を信じる人ほどワクチン接種率が有意に低いという結果だ(OR:3.63、95%CI:1.12~11.79、p=0.032)。一瞬、これを読むと頭が混乱するかもしれないが、ここはやや補足が必要だ。まず、この研究では、いわゆる高学歴は被験者全体の92.6%を占め、低学歴者の割合は極端に低い。このため学歴による有意差は表面的な結果と受け止められる。また、たとえば新型コロナワクチンがDNAに変化を与えるという誤情報を信じる割合は、妊婦が79.6%、非妊婦が76.6%で有意差はない。むしろシンプルに妊婦のほうが非妊婦に比べ、何事も慎重になりやすい、考え過ぎるゆえにワクチンに対しても忌避傾向がみられることを示唆していると解釈したほうがいいだろう。一方、ワクチン接種については従来から医療者による推奨などが接種率に大きな影響を与えることが知られている。米国疾病予防管理センター(CDC)の「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」2023年9月29日号に掲載された妊婦に関するワクチン接種に関する調査結果2)では、2022年10月~2023年1月の間に妊娠していたと報告した1,814人の女性でのインフルエンザワクチン接種率は47.2%(95%CI:44.4~50.1)に過ぎなかったが、医師による推奨があり、その場で接種が可能だったケースでの接種率は61.4%(同:58.0~64.7)。これに対し、推奨のみでは22.7%(同:15.0~32.0)、推奨なしでは10.8%(同:7.5~14.9)で、各群間では有意差(p<0.05)が認められたとしている。その意味で新たに定期接種に加わったRSウイルスワクチンの接種率向上については、限られた診療時間内で医療者がどのように妊婦に情報提供できるかにかかっているともいえる。もちろんこの点を医療者側も重々承知しているであろうことは、日本産婦人科医会のホームページ3)にRSウイルスワクチン接種に関する医師・患者向け資材が掲載されていることからもうかがい知れる。同時に私たちメディアにもそうした責任は向けられているのだと、新年度を迎え、心新たにもしている。1)Amiebenomo OM, et al. Vaccines (Basel). 2023;11:484.2)Razzaghi H, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023;39:1065-1071.3)日本産婦人科医会:RSウイルスに関するご案内

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心房細動/心房粗動の発症リスク、低亜鉛が影響

 亜鉛欠乏症は心房細動(AF)/心房粗動(AFL)発症の重要な独立した危険因子となる可能性が、台湾・Chi Mei Medical CenterのI-Wen Chen氏らの研究から明らかになった。近年、AF/AFLの有病率が世界的に増加しており、修正可能なリスク因子の特定が喫緊の課題である。また、心血管疾患との関連が示唆されている亜鉛欠乏症について、AF/AFLの発症を関連付けるような大規模なエビデンスは依然として限られていた。Frontiers in Nutrition誌2026年2月20日号掲載の報告。 本研究は、電子健康記録(EHR)のプラットフォームであるTriNetX社のデータベースを用いて実施された多施設共同後ろ向きコホート研究。2010~23年に血清亜鉛の測定記録日(インデックス日)のある40歳以上の患者を解析した。傾向スコアマッチングにより、患者を亜鉛欠乏症群(70μg/dL未満、6万1,732例)と亜鉛正常群(70~120μg/dL、6万1,732例)に1対1に調整した。主要評価項目はインデックス日から2年以内のAF/AFL新規発症とした。副次評価項目は、肺炎(陽性対照)、AF/AFL、虚血性脳卒中リスクとした。アウトカムイベントは、それぞれ1~6ヵ月以内および6~24ヵ月以内に発症するものと定義し、早期発症と晩期発症に層別化した。 主な結果は以下のとおり。・亜鉛欠乏症は、追跡期間の早期(ハザード比[HR]:1.62、95%信頼区間[CI]:1.39~1.90、p<0.001)および晩期(HR:1.42、95%CI:1.29~1.57、p<0.001)の両方において、AF/AFL発症リスクの有意な増加と関連していた。・血清亜鉛濃度別に早期発症ならびに晩期発症の用量反応関係を調べた結果、軽度~中等度亜鉛欠乏症(50~70μg/dL、各群5万6,206例)では、早期発症(HR:1.40、95%CI:1.18~1.67)と晩期発症(HR:1.26、95%CI:1.14~1.41)の両方でAFリスクに対する統計学的有意差がわずかに認められた。対照的に、重度亜鉛欠乏症(50μg/dL未満、各群8,961例)では、リスクが著しく上昇し、早期発症は約3倍(HR:2.79)、晩期発症は2倍(HR:2.04)に増加した。・重度の亜鉛欠乏症(50μg/dL未満)は、対照群と比較して晩期AF/AFLリスクが約2倍であった(HR:2.04、95%CI:1.67~2.49)。一方、軽度~中等度の亜鉛欠乏症(50~70μg/dL)は、対照群と比較し、わずかだが有意な増加を示した(HR:1.26、95%CI:1.14~1.41)。 ・亜鉛欠乏症とAF/AFLの関連は、多様な患者サブグループにおいて、また新型コロナウイルス感染症のパンデミック前(2010~19年)とパンデミック期(2020~23年)のいずれにおいても一貫していた。・肺炎リスク(早期のHR:1.56、晩期のHR:1.40)や虚血性脳卒中リスク(早期のHR:1.19、晩期のHR:1.12)も亜鉛欠乏症患者で上昇した。ただし、心室細動/心室粗動は亜鉛欠乏症と有意な関連を示さず、心房性不整脈に特異的に影響を与えることが示唆された。 研究者らは、「血清亜鉛値を心血管リスク評価に組み込み、亜鉛補給を費用対効果の高い予防戦略として検討することに潜在的な価値がある」としている。

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2つのRCT事後解析からみたカナグリフロジンの尿路感染症発症リスク

 2型糖尿病患者におけるカナグリフロジンの尿路感染症(UTI)発症リスクは尿中白血球エステラーゼ(LE)および亜硝酸塩が異常値であってもプラセボと同程度だったという研究結果が、Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2026年3月16日号に報告された。 SGLT2阻害薬は心腎系の有益性が確立されているものの、UTIのリスクに対する懸念から、とくに高リスク患者では使用が制限される可能性がある。 大阪大学の土井 洋平氏らは、UTIの診断に有用とされるLEおよび亜硝酸塩1)を指標にカナグリフロジンとUTIとの関連を検証した。 本研究は2型糖尿病患者を対象としたカナグリフロジンの無作為化二重盲検プラセボ対照試験であるCANVAS試験およびCREDENCE試験の事後解析として行われた2,3)。主要評価項目は初回UTI発症までの時間、副次評価項目は総UTI発症数などである。 主な結果は以下のとおり。・被験者8,614例中、LEの異常は10.7%、亜硝酸塩の異常は3.5%で認められた。・調整後LE陽性率1+、2+、3+の正常群に対するハザード比(HR)はそれぞれ1.72、1.89、2.77と、LE陽性率が高いほど初回UTI発症リスクは増加した。・亜硝酸塩の異常1+、2+のHRは2.28、1.66と、正常群に対して初回UTI発症リスクが上昇していた。・LE陽性率および亜硝酸塩の異常は総UTI発症も増加させた。・全体的にみて、カナグリフロジン投与はプラセボと比べ、初回UTI発症リスク(HR:1.06、95%信頼区間[CI]:0.93~1.21)も総UTI発症リスク(HR:1.01、0.86~1.18)も増加させなかった。・LE正常群におけるカナグリフロジン投与のプラセボに対する初回UTI発症のHRは1.17(95%CI:1.00~1.38)、LE異常群におけるHRは0.94(0.73~1.21)であった(交互作用のp=0.10)。・亜硝酸塩正常群におけるカナグリフロジン投与のプラセボに対する初回UTI発症のHRは1.08(95%CI:0.94~1.24)、異常群のHRは0.92(0.59~1.43)であった(交互作用のp=0.45)。・LEおよび亜硝酸塩の変化による初回UTI発症リスクは、カナグリフロジンとプラセボで差がみられなかった。・副次評価項目である総UTIイベントのリスクについて、カナグリフロジンは、LEおよび亜硝酸塩群のいずれの異常群においてもプラセボよりも増加させなかった(各HR:0.76[95%CI:0.58~0.99]、1.18[0.79~1.76])。 LEおよび亜硝酸塩の異常値はUTIのリスク増加と関連していたものの、カナグリフロジン投与によるリスクの増加は確認されなかった。これらの結果は、膿尿や細菌尿の所見がある2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬の投与を一律に控えるものではない、という考えを支持している、と筆者らは結んでいる。

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初の人乳由来母乳強化剤が承認、超早産児の栄養管理に新たな選択肢/クリニジェン

 2026年3月18日、「極低出生体重児等の体重増加不全を呈する新生児及び乳児の栄養管理」を効能又は効果とする、プリミーフォート経腸用液が薬価収載され、2026年4月下旬の発売が予定されている。プリミーフォート経腸用液は、極低出生体重児等の栄養管理を目的とした人乳由来母乳強化剤の医薬品として、本邦で承認された初めての製品となる。クリニジェンは同日「超早産児の新しい栄養管理とNICUの未来~本邦初の完全人乳栄養による経腸栄養の可能性~」と題したメディアセミナーを開催。水野 克己氏(昭和医科大学小児科学講座)が登壇し、超早産児の栄養管理の考え方と同製品の役割について解説した。早産児栄養管理戦略の変遷と人乳由来母乳強化剤の位置付け 超早産児に対する母乳は、量依存性に壊死性腸炎、後天性敗血症、慢性肺疾患、未熟児網膜症、神経発達異常などの罹患率・重症度の低下、NICU退院後の再入院リスクの低下と関連することが報告されており1,2)、母親の母乳が児にとって最適なことは疑う余地がない。しかし、母乳が得られるまで静脈栄養のみを続けることは、腸管粘膜の萎縮や炎症、感染症のリスクとなる3)。一方で、いつでも使用できる人工乳は、腸管透過性、腸管粘膜の炎症、腸内細菌叢の問題から慎重な使用が求められる4)。 こうした背景を踏まえ、2019年、日本小児医療保健協議会(日本小児科学会、日本小児保健協会、日本小児科医会、日本小児期外科系関連学会協議会)は、自母乳が得られるまで絶食とするNICU施設が散見される、生後早期からの経腸栄養開始による短期予後の改善が報告されているなどとして、「早産・極低出生体重児の経腸栄養に関する提言」5)において、以下の3項目を提言として発表した:1.早産・極低出生体重児にとって自母乳は最適な栄養であり、NICUにおいても母乳育児を推奨し支援すべきである。2.自母乳が不足する場合や得られない場合、次の選択肢は認可された母乳バンクで低温殺菌されたドナーミルクである。3.将来的には、母乳と人乳由来の母乳強化で栄養するEHMD(完全人乳由来栄養[Exclusive Human Milk Diet])が早産・極低出生体重児に与えられることが望ましい。 提言3で将来的な実現が期待されていたEHMDが、今回初めて承認・発売に至った形となる。母乳強化が必要な理由 胎児において、脳の成長スパートは妊娠28週ころから始まり、おおよそ2歳まで続く6)。水野氏は、「23週と39週では、脳の発達状況に大きな差がある。単に生存退院を目指すのではなく、可能な限り正期産児に近い発達状態での退院を目指すべきである」として、早産児における適切な栄養介入の重要性を指摘した。 母乳強化による効果については、いくつかエビデンスが報告されている。超低出生体重児における母乳栄養下での十分なタンパク強化により、頭囲成長や2歳時の神経発達予後が改善し、静脈栄養期間および入院期間が短縮したという報告7)や、極低出生体重児にEHMDを与えることで網膜症や敗血症、慢性肺疾患が減少したという報告がある8)。 現在、本邦で販売されているのは牛乳由来強化物質のみで、牛乳アレルギーのリスクがあるほか、結石が形成された症例が報告されている。水野氏は、EHMDがとくに必要と考えられるケースとして、消化管手術後の超早産児を挙げた。また、実際の症例として、胎便関連性腸閉塞と高インスリン性低血糖を有する症例で、EHMDを与えることにより体重増加のほか低血糖の改善もみられた症例を提示し、その臨床的有用性について言及した。プリミーフォートの有効性と安全性を評価した第III相試験の結果 JASMINE(JApanese Study of an Exclusive Human MIlk Diet in Premature Neonates)試験9)は、極低出生体重児を対象としたEHMDにおける成長および安全性評価のための多施設共同無作為化比較対照試験。新生児集中治療室に入室している極低出生体重児147例を対象に、EHMD群(プリミーフォートを母乳またはドナーミルクに添加)と標準栄養群(母乳、ドナーミルク、牛乳由来の人工乳および栄養強化剤を使用)の成長速度を比較した。主な結果は以下のとおり。・試験参加者の背景は両群でおおむね同様であったが、在胎期間22~25週で出生した新生児割合は、標準栄養群27.1%に比べ、EHMD群では36.4%と多かった。・主要評価項目である出生から在胎34週0日までの体重増加速度は、標準栄養群に対しEHMD群で有意に速かった(11.96g/kg/日vs.13.44g/kg/日、p=0.0063)。・副次評価項目である出生から経腸栄養確立(160mL/kg/日)までの日数はEHMD群で有意に短く(25.90日vs.20.00日、p=0.03)、身長増加速度(0.67cm/週vs.0.83cm/週、p=0.0016)および頭囲増加速度(0.58cm/週vs.0.66cm/週、p=0.0312)はEHMD群で有意に速かった。・発現頻度の高かった試験治療下における有害事象(TEAE)は感染症で、標準栄養群8.6%、EHMD群10.4%に認められたが、「母乳強化物質との因果関係はなし」と判断された。・重篤な有害事象および死亡に至ったTEAEはそれぞれ標準栄養群2.9%、EHMD群3.9%に認められたが、「母乳強化物質との因果関係はなし」と判断された。・EHMD群で試験中止に至ったTEAEのうち、「母乳強化物質との因果関係あり」とされたのは、胃腸障害関連のTEAE(2例、うち1例が重度)、130mL/kg/日の栄養不耐症(1例)であった。<製品概要>・販売名:プリミーフォート経腸用液6、8、CF・効能又は効果:極低出生体重児等の体重増加不全を呈する新生児及び乳児の栄養管理・用法及び用量: 本剤を電子添文の表のとおり母乳と混合して強化乳を調製し、経管又は経口投与する。通常、「強化乳6」を50mL/kg/日から投与開始し、徐々に投与量を増やし、100mL/kg/日に到達後は必要に応じて強化乳の切替えを行う。栄養補給量は160mL/kg/日まで継続的に漸増する。また、必要に応じて160mL/kg/日より増量することもできる。なお、強化乳の投与開始時期、投与経路及び投与速度は、児の在胎期間、体重、症状、栄養状態等を考慮して決定する。また、強化乳の増量及び切替えは、体重増加速度、在胎期間、子宮内発育遅延の有無、補給時間、水分制限の要否、タンパク質及びエネルギーの必要量等を考慮して行う。・薬価:プリミーフォート経腸用液6(15mL1瓶29,171.30円、30mL1瓶58,199.30円)、8(40mL1瓶77,580.50円)、CF(10mL1瓶14,079.50円)・製造販売承認日:2025年12月22日・薬価基準収載日:2026年3月18日・発売日:2026年4月下旬・製造販売元:クリニジェン株式会社■参考文献・参考サイトはこちら1)Meier PP. Nestle Nutr Inst Workshop Ser. 2019;90:163-174.2)Quitadamo PA, et al. Foods. 2024;13:649.3)Quiroz-Olguin G, et al. Eur J Clin Nutr. 2021;75:1533-1539.4)Rao K, et al. Front Pediatr. 2022;10:902798.5)水野克己ほか. 日本小児科学会雑誌. 2019;123:11086)Dobbing J. Am J Dis Child. 1970;120:411-415.7)Mariani E, et al. Front Public Health. 2018;6:272.8)Assad M, et al. J Perinatol. 2016;36:216-220.9)JASMINE試験(JRCT)

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遠隔診療で医療費が対面診療の約5分の1に

 遠隔診療は単に便利なだけでなく、患者と医療システム双方の医療費削減につながることが、新たな研究で示された。特に頻度の高い症状の診療においては、遠隔診療では対面診療と比べて医療費を約5分の1に抑えられることが明らかになったという。米ペンシルベニア大学戦略的イニシアチブのシニアバイスプレジデントであるDavid Asch氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に2月9日掲載された。 Asch氏は「この研究を行う前は、遠隔診療は“応急処置”を気軽に受けられる手段の一つに過ぎず、対面診療を先延ばしにするだけで、結果的に全体の医療費を押し上げるのではないかという懸念があった」と説明。その上で、「しかし、われわれの研究から、それが事実ではないことが明らかになった。多くの患者にとって、遠隔診療は応急処置のための一時的な対応となるだけでなく、完全な解決策となり得るのだ」とニュースリリースの中で述べている。 論文の研究背景によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の緊急措置により遠隔診療へのアクセスが拡大し、その利用が急増した。例えば、ペンシルベニア大学ヘルスシステム(UPHS)での遠隔診療の件数は、2020年3月から2021年2月までの1年間で100万件に達し、2019年の1万1,000件から約90倍に増加した。 しかし、遠隔診療の有効性や費用対効果については依然として疑問が残っていたという。論文の上席著者である同大学生物統計学教授のYong Chen氏は、「遠隔診療が万能ではないことは認識している。特に精神および行動の健康問題に対しては、慎重なトリアージやフォローアップ、継続的なケアが依然として重要である。そのため、われわれは、医療資源の効率的な配分が実現されているのかを解明したいと考えた」と述べている。 研究グループは今回、2024年1月1日から4月30日までの4カ月間にわたる16万3,308件の診察データを分析した。データには、対面診療および遠隔診療の両方の診察データが含まれていた。対象はCOVID-19、呼吸器症状、神経発達障害、睡眠障害、不安症など10種類の一般的な症状や疾患の診察とし、初回受診の7日前から30日後まで追跡し、その後の受診の必要性を調べた。 その結果、遠隔診療に関連する請求額は平均で96.60ドル(1ドル158円換算で約1万5,300円)だったのに対し、対面診療では509.21ドル(約8万円)だった。また、その後の受診回数は、遠隔診療で平均3.44回であったのに対し、対面診療では平均4.44回であった。特に呼吸器症状などでは対面診療よりも遠隔診療の方が平均で800ドル(約12万6,400円)以上医療費が少なかった。一方、精神科医療については、対面診療と遠隔診療の医療費はほぼ同額であることが示された。 論文の筆頭著者である同大学応用数学・計算科学のBingyu Zhang氏は、「多くの医療システムでは、すでに精神科医療の大部分を遠隔診療によって提供している。精神科医療は、他の疾患のような検査や処置ではなく、カウンセリングや服薬管理が主体となるからだ。したがって、治療や処方の流れは診療形態にかかわらず同じようなものであり、診療エピソードにかかる費用も同程度になる。ただし、それでも遠隔診療ではその後の受診回数が少ない傾向にある」と説明している。 研究グループはまた、遠隔診療へのアクセスを拡大したコロナ禍の規制を維持するために米議会が対応する必要があると主張している。UPHSのCEOであるKevin Mahoney氏はニュースリリースの中で、「もし遠隔診療がCOVID-19以前のような制限された形に戻れば、今回われわれが明らかにした医療費削減効果は失われる可能性がある」と指摘し、「病院や医療システムが深刻な財政的逆風にさらされている今、このような節減は極めて重要だ。それによって、患者ケアへの再投資やイノベーションの推進が可能になる」と述べている。

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第288回 患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省

<先週の動き> 1.患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省 2.新たな地域医療構想、2040年を見据えて急性期集約と外来偏在対策を加速/厚労省 3.人材紹介料が医療経営を圧迫 厚労省に上限規制を要請/日医・四病協 4.紹介状が「全国で閲覧可能」に 医療・介護連携DXを加速/厚労省 5.原油高が医療崩壊リスクに 資材不足と経営悪化で緊急要望/保団連 6.手術中に麻酔科医が不在30分 薬剤抜き取り・自己使用で懲戒免職/川崎市 1.患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省厚生労働省は、3月26日に「小児がん拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」を開き、少子化と専門医不足のため、小児医療の提供体制を都道府県単位から広域連携へ転換する方針を明らかにした。小児の集中治療や心臓手術など高度医療は症例減少により各都道府県単独での維持が困難となっており、県外搬送や遠隔相談を前提とした体制整備、財政支援、将来的な集約化を検討する。これらの政策は第9次医療計画への反映が見込まれ、医師不足地域では他科医との連携やオンライン診療、小児科医派遣による維持策も示された。小児がん領域でも体制見直しが進む。高度治療や研究開発を担う拠点病院は集約化しつつ、全都道府県に標準治療を提供する「県拠点病院」を新設、さらに連携医療機関を整備する三層構造へ再編する。症例数減少と分散、ドラッグ・ラグ、アクセス格差が背景にあり、質とアクセスの両立を図る。2027年から新体制が開始される予定。その一方で、人口減少は医療提供体制全体に影響を及ぼす構造問題として顕在化しており、人口減少問題を議論する「未来を選択する会議」の白書では社会保障費増大やインフラ維持への危機感が8割超に達し、出生減少の要因として経済負担や性別役割意識の影響が指摘された。人口減少は、地域差・世代差を伴いながらも全国各地で進行しており、医療政策も広域化・集約化とともに社会制度改革と不可分の課題となっている。 参考 1) 小児がん拠点病院等について(厚労省) 2) 今後の小児がん拠点病院等の指定の考え方について(同) 3) 小児医療、県またぎ連携 厚労省、心臓手術など 少子化や専門医不足で(日経新聞) 4) 小児がん診療体制を大きく見直し、「拠点病院の集約化」とともに「全都道府県に県拠点病院を指定」へ-小児がん拠点病院指定要件WG(Gem Med) 5) 人口減少問題 有識者団体が報告書 “社会経済全般の改革必要”(NHK) 6) 人口減に50歳以上の7割が「危機感」、未来選択会議が初の「人口問題白書」…少子化対策のヒントも(読売新聞) 7) 民間組織「未来を選択する会議」が人口問題白書を発行、人口減見据え(朝日新聞) 8) 人口問題白書2025(未来を選択する会議) 2.新たな地域医療構想、2040年を見据えて急性期集約と外来偏在対策を加速/厚労省厚生労働省は、3月26日に社会保障審議会医療部会を開き、2040年を見据えた新たな地域医療構想のガイドラインを4月中に公表し、都道府県は2026~28年度に新構想を策定することを明らかにした。構想区域は「人口20万人以上」を基本としつつ、地域の実情に応じ柔軟に設定。区域内では医療機関の機能分担や病床再編を協議し、急性期拠点機能は人口20~30万人に1ヵ所を目安に集約化を進める方向である。社会保障審議会での議論では、ガイドラインはあくまで参考とし、地域実情を優先すべきとの意見や、老朽病院の建て替え支援、都道府県への技術的・財政的支援を求める声が相次いだ。あわせて外来医師偏在対策も具体化し、外来医師過多区域で2026年10月以降に新設される無床診療所について、地域で不足する医療機能の提供状況や要請・勧告の有無を「医療情報ネット(ナビイ)」で公表する方針が了承された。スマホ対応マイナ保険証、RSウイルスワクチン、指定難病対応などの情報も追加される。その一方で、「要請・勧告といったネガティブ情報の公開は制度趣旨とずれる」「不公平を生む」との慎重論も出た。医療機関の定期報告率は全国平均72.4%だが、都道府県差が大きく、入力負担軽減と周知徹底が課題とされた。今後、オンライン診療受診施設の広告規制や不適切広告対策の強化も進められ、外来・在宅・介護連携まで含めた医療提供体制の再構築が本格化する。 参考 1) 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会とりまとめについて(厚労省) 2) 地域医療構想「人口20万人以上」 40年見据えガイドライン骨子 厚労省(時事通信) 3) 新地域医療構想等のガイドライン、医療部会意見も踏まえて「2026年4月中」に作成・公表、急性期機能等の集約化を地域で推進(Gem Med) 4) 地域医療構想策定ガイドラインは4月に 社保審・医療部会(CB news) 5) 全国の医療機関情報掲載する「ナビイ」に外来医師過多区域での医療機能提供などの情報も公表-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med) 3.人材紹介料が医療経営を圧迫 厚労省に上限規制を要請/日医・四病協3月24日に日本医師会と四病院団体協議会は、医療・介護分野の人材紹介サービスの適正化に向け、紹介手数料の上限規制導入や返戻金制度の義務化を求める要望書を上野 賢一郎厚生労働大臣に提出した。背景には、近年の人材紹介手数料の高騰と早期離職の増加があり、医療機関の経営を圧迫している実態がある。とくに紹介手数料の総額は2023年度に1,000億円を超え、その多くが公的医療保険を原資として支払われている点が問題視されている。医療機関にとっては、診療報酬が公定価格という環境で、採用コストを価格転嫁できず、地方や中小医療機関ほど影響が大きく、地域医療提供体制の持続性にも関わる課題となっている。さらに医療・介護分野では入職後6ヵ月以内の早期離職が多く、採用のたびに高額手数料が発生する構造が経営リスクを増幅させている。要望では、早期離職時の返戻金制度を義務化し、その水準を標準化することで、紹介会社にも一定の責任を負わせる仕組みを提案した。ただし、返戻期間の単純延長では離職の後ろ倒しを招く可能性もあり、実効性ある設計が必要とされる。また、離職実態の可視化として6ヵ月超1年以内の離職データ報告義務化や、求職者が紹介手数料の実額を把握できる仕組みの導入も求めた。加えて、ハローワークやナースセンターなど無料職業紹介の活用促進も提言。民間紹介への依存が進めば人材の都市部集中や地域偏在が加速する懸念がある。これら一連の提言は、単なるコスト問題にとどまらず、人材確保と医療提供体制の持続性に直結する構造課題への対応を求めるもの。厚生労働省では、まず実態把握を進める姿勢を示しており、今後の制度設計が医療経営に与える影響は大きい。 参考 1) 高額な紹介手数料、「原資は公的医療保険」と指摘 日医会長が問題視、緊急対応を要望(CB news) 2) 医療・介護の人材紹介手数料に上限規制を 医師会と病院団体、上野厚労相へ要望書(Joint) 3) 有料職業紹介事業の適正化とハローワークの機能強化に関する要望書(四病院団体協議会・日本医師会) 4) 有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書~医療分野における人材確保と有料職業紹介事業等の適正化に向けた提言~(同) 4.紹介状が「全国で閲覧可能」に 医療・介護連携DXを加速/厚労省厚生労働省は、3月18日に「健康・医療・介護情報利活用検討会」の医療等情報利活用ワーキンググループと介護情報利活用ワーキンググループの合同会議を開催し、医療と介護の情報連携を強化するため、「全国医療情報プラットフォーム(PF)」を活用し、診療情報提供書や訪問看護指示書・計画書・報告書を医療・介護関係者間で共有する方針を示した。これまで医療分野では電子カルテ情報共有サービス、介護分野では介護情報基盤の整備が進められてきたが、両分野をまたぐ情報共有の具体像は整理されていなかった。今回、標準様式が存在する文書から連携を開始し、将来的にはリハビリ計画書や入退院情報などへ拡大する方向で検討を進める。電子カルテ情報共有サービスでは、診療情報提供書や退院時サマリーなどの「3文書6情報」を全国で共有できるものとし、2027年初頭の本格運用が見込まれる。その一方で、介護情報基盤も要介護認定情報やLIFEデータ、ケアプランなどの共有を2026年度から段階的に開始する予定であり、両基盤を接続することで多職種連携の高度化が期待される。背景には、高齢化の進展に伴い医療と介護の複合ニーズを持つ患者が増加している現状がある。情報連携により入退院時の引き継ぎや在宅療養支援の質向上、災害時対応の強化などが見込まれる一方で、同意取得の在り方や情報セキュリティ、介護側のICT環境整備、標準化の難しさなど課題も多い。とくに介護情報は生活背景や主観的評価を含むため、医療情報との整合性確保が重要となる。今後、合同ワーキンググループでは、詳細設計を進め、2026年夏に開発方針を取りまとめる予定。医療・介護の分断を埋める基盤整備は、地域包括ケアの実効性を左右する鍵となる。 参考 1) 「全国医療情報プラットフォーム」における医療介護連携の進め方について(厚労省) 2) 健康・医療・介護情報利活用検討会 第30回医療等情報利活用ワーキンググループ、及び第10回介護情報利活用ワーキンググループ資料について(同) 3) 医療と介護の情報共有、診療情報提供書などから 全国医療情報プラットフォームで 厚労省案(CB news) 4) 医療・介護連携を「情報面」からも進めるため、まず【診療情報提供書】【訪問看護指示書・計画書・報告書】の電子的共有を検討(Gem Med) 5.原油高が医療崩壊リスクに 資材不足と経営悪化で緊急要望/保団連中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の急騰を受け、全国保険医団体連合会(保団連)は政府に対し、医療資材の供給確保と財政支援を求める緊急要望書を提出した。背景には、イランを巡る中東情勢の悪化とホルムズ海峡の機能不全による世界的な原油供給不安があり、医療現場にも直接的な影響が及び始めている。医療用ガウンやグローブ、注射器、点滴バッグ、カテーテルなど、原油由来のプラスチック製品を中心にコスト上昇と供給不安が顕在化しており、基礎的医薬品を含めた医療資材の不足は診療継続そのものに直結するリスクとなる。加えて、在宅医療では燃料費の上昇が訪問コストを押し上げ、結果として患者負担の増加につながる可能性も指摘される。医療機関の経営面でも、光熱費や材料費の高騰が収益を圧迫しており、2026年度診療報酬改定で盛り込まれた物価対応分(+0.76%)は今回の急激な原油高を想定したものではなく、十分な対応とは言えないとの批判がある。さらに改定施行が6月である点も、足元の急激なコスト上昇への対応としては遅いとされる。こうした状況を踏まえ、保団連は医療資材および基礎的医薬品の国内在庫確保と安定供給、診療報酬の期中改定や補助金の拡充による即時的な財政支援を要請した。医療機関が機能不全に陥る前の早期対応を求める内容であり、原油高は単なるコスト問題を超え、地域医療の持続性を揺るがす構造リスクとして顕在化している。今後の政策対応は、医療経営の安定のみならず、患者アクセス維持の観点からも重要な局面を迎えている。 参考 1) 【要望】原油価格高騰に伴う医療資材の不足等への緊急対応を(保団連) 2) 「原油急騰で機能不全に陥る前に…」医師団体が政府に緊急の要望書 医療資材の在庫確保など求める(弁護士JPニュース) 6.手術中に麻酔科医が不在30分 薬剤抜き取り・自己使用で懲戒免職/川崎市川崎市立川崎病院は、麻酔薬を自己使用し患者への投与量を改変したとして、28歳の麻酔科医を懲戒免職とした。医師は不眠に悩み、「麻酔で眠る患者を見て自分も眠りたかった」と供述している。事件は2025年12月、手術中に無断で手術室を離れ、麻酔薬プロポフォールを自己注射したことに始まる。この間、約30分間にわたり麻酔科医不在の状態で手術が継続され、後に別の医師が対応した。さらに2026年1月の復職後、患者に使用予定の麻酔薬から一部を抜き取り、自身の使用目的で持ち去ろうとした上、生理食塩水で希釈した薬剤を患者に投与する不正行為が発覚した。翌日にも同様の行為を試みたが看護師が発見し、事態が明るみになった。患者への健康被害は確認されていないものの、医療安全および倫理の観点から重大な問題と判断され、病院は懲戒免職とともに窃盗容疑で警察に被害届を提出した。この事件により、病院の薬剤管理体制の脆弱性のみならず、医師の健康管理や勤務環境の問題も浮き彫りにした。長時間手術や慢性的な睡眠不足の中で、適切なサポート体制が機能していたかが問われる。医療機関における薬剤管理、職員のメンタルヘルス対策および医療安全体制の再点検が求められる事案といえる。 参考 1) 「不眠に悩み」患者の麻酔薬一部持ち去り自己注射 28歳医師処分(毎日新聞) 2) 不眠に悩む麻酔科医「患者にこんなに効くなら…」抜き取って自分に注射、患者には薄めて 川崎市立病院、懲戒免職(東京新聞) 3) 手術室離れて麻酔薬を自分に注射 「少しでも寝たかった」医師を免職(朝日新聞)

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第306回 「清潔な国」日本、なぜノロウイルス集団食中毒が起こるのか

INDEXノロウイルスによる大規模集団食中毒が発生食品管理に対する姿勢、日本は甘い?ノロウイルスによる大規模集団食中毒が発生大阪府熊取町で3月17日に小中学校向けの給食で提供されたパンに混入したノロウイルスを原因とする集団食中毒事件が発生した。最新の報道によると、同町教育委員会が3月24日までに把握した体調不良者は633人。原因であるパンを食べてからノロウイルスの潜伏期間内に発症したとみられるのは、うち302人だったという。2025年の食中毒統計(速報値:2026年3月2日までの報告)1)によると、同年の食中毒報告件数は1,176件、総患者数は2万4,854件。このうち発生件数の39.2%に当たる462件、患者数の74.7%に当たる1万8,566例の原因がノロウイルスである。同統計によれば、食中毒件数とそれによる患者数ともに4年連続で増加し、ノロウイルスによる患者割合が最も多い。ちなみに2025年のノロウイルスによる食中毒で最大規模だったのは、同年2月に兵庫県で発生した仕出し弁当を原因とした2,307例もの患者が発生した事例である。今回の熊取町の事例は、給食パンが原因の食中毒と断定される可能性が高く、302例に限定しても、昨年のワースト5に入る規模だ。これだけノロウイルスによる食中毒が多いのは、ご存じのようにこのウイルスが10~100個というごく少量で感染が成立してしまうことに加え、二枚貝を中心とする食品、感染した調理者を介した食品、接触・飛沫を通じたヒト・ヒト感染という感染経路の多様さ、アルコール消毒が効きにくいエンベロープ(脂質膜)を持たないウイルスであることなどが影響しているといわれる。熊取町のケースは、パン製造業者の従業員の便からノロウイルスが検出されていることから、前出の「感染した調理者を介した食品を通じた感染」に当たると考えられる。そして現状、ノロウイルス感染症には特異的な治療薬もワクチンも存在しない。これもノロウイルスの特性が影響している。そもそもこのウイルスは成熟したヒトの腸管上皮細胞でしか増殖しないため、実験室レベルでの培養がきわめて難しく、結果として動物モデルによるデータも乏しい。これではウイルスの増殖機構の解明、薬剤スクリーニング、ワクチン評価のいずれも入口からつまずいてしまうのだ。ここに22種類もの遺伝子型*があることで汎用ワクチンを開発しにくいという特徴も加わる。*遺伝子群GIIの場合結局のところ最大の対策は、汚染された食品を回避するという意味での“予防”となってしまう。しかし、これも実は一般人にとっては対策が事実上困難である。というのも、報告されているノロウイルス食中毒のほとんどは、仕出し屋を含む飲食店や給食施設から提供された飲食物、あるいは今回の熊取町の事例のような製造事業者が提供する食品・食材であるからだ。食品管理に対する姿勢、日本は甘い?こうなると、ノロウイルスによる食中毒を減らすためには、川上の事業者への規制を強化するしか方法がない。日本ならば、食品衛生法に基づく規制となる。実はこの点、日米欧ではかなり基準が異なり、欧米のほうが基準は厳しい。食品などを取り扱う事業者は、自ら食中毒の原因微生物による汚染や異物混入などのリスク要因を把握したうえで、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程のリスク要因の除去・低減するため、とくに重要な工程を管理し、製品の安全性を確保する手法「HACCP(ハサップ)」に基づく衛生管理が求められている。これは米国で開発された国際的な食品衛生管理手法で、日米欧ともに義務付けられている。しかし、法令やそれに基づく実態としての衛生管理は、日本の食品衛生法はかなり曖昧である。たとえば、同法第5条では「食品又は添加物の採取、製造、加工、調理、貯蔵、運搬、陳列及び授受は、清潔で衛生的に行われなければならない」とし、それを受けて通知・ガイドラインで下痢・嘔吐のある従業員を調理に従事させないことや手洗い・消毒の徹底、嘔吐物の適切処理を謳っている。これに対し、EUでは「食品取扱者で疾病・感染の疑いがある者は食品を取り扱ってはならない」旨を事業者の義務として明記している。米国になると、米国食品医薬品局(FDA)の食品規則により、ノロウイルスをはじめ具体的な病原体を明記し、それに伴う症状(ノロウイルスの場合は嘔吐・下痢症状)がある場合は現場からの即時排除とより強力な文言で規定している。また、同規則では該当する病原体の有症状者の復帰基準についても、症状消失後24時間以上(州により48時間)経過とし、さらには、食品施設で誰かが嘔吐または下痢などをした場合のクリーンアップ手順も具体的に定めているほどの念の入れようだ。ちなみにFDAの食品規則は法律ではなく、あくまでモデル規則であるため米国内の各州が採用して初めて法的拘束力を持つものだが、実際にはほぼ全州で採用されているため、事実上の全国標準として法的拘束力を有している。(表)食品衛生規制における日米欧の比較画像を拡大するさらに追加すると、ノロウイルスによる汚染の可能性のある二枚貝の代表格のカキの出荷に対する考え方も日本と欧米では異なる。日本ではスーパーなどの店頭に並ぶカキには「生食用」「加熱用」の2種類があるのはご存じだろう。これは保健所が海域の海水に含まれる大腸菌の量を検査し、生で食べても問題ないとされる海域でとれたカキを生食用、それ以外の海域でとれたカキを加熱用と分類している。これに対し、欧米では同じように大腸菌を指標とした海域検査を行い、海域ごとに出荷可否までも規制している。端的に言えば、日本の加熱用カキに該当するものの一部は、欧米では出荷すら認められない。日本がここまで厳格でないのは、あくまで推測になるが、「従来から日本の法規制などが緩やかな条文による包括規定に行政指導を組み合わせる柔軟運用を軸としているから」だと考えられる。しかしながら、前出のように最近の食中毒統計での件数増加を見る限り、そろそろ欧米型の規制に乗り出すべき時期に差し掛かっているようにも思えるのだが…。参考1)厚生労働省:食中毒統計資料

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急性低酸素性呼吸不全、高流量酸素療法vs.標準酸素療法/NEJM

 急性低酸素性呼吸不全において、高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)は標準酸素療法と比較して28日死亡率を有意に低下しなかった。フランス・Centre Hospitalier Universitare de PoitiersのJean-Pierre Frat氏らが、同国42ヵ所のICUで実施した無作為化非盲検試験「SOHO試験」の結果を報告した。急性低酸素性呼吸不全患者において、標準的な酸素療法と比較したHFNCの気管挿管および死亡率に関するデータが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2026年3月17日号掲載の報告。主要アウトカムは28日死亡率 研究グループは、急性低酸素性呼吸不全によりICUに入院した18歳以上の成人患者連続症例を、HFNC群または標準酸素療法群に無作為に割り付けた。適格基準は、呼吸数25回/分以上、胸部画像検査での肺浸潤影、10L/分以上の酸素投与下での動脈血酸素分圧(PaO2)/吸入酸素濃度(FiO2)比200以下で、主な除外基準は動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)>45mmHg、慢性閉塞性肺疾患またはその他の慢性肺疾患の増悪、心原性肺水腫、抜管後または腹部・心臓胸部手術後7日以内の呼吸不全などであった。 HFNC群では、加温加湿器を介して50L/分以上、目標酸素飽和度92~96%で、48時間以上酸素を投与した。標準酸素療法群では、10L/分以上で酸素飽和度92~96%を目標に、48時間以上、回復または挿管まで継続した。 主要アウトカムは、無作為化後28日間の全死因死亡、主な副次アウトカムは無作為化後28日間の気管内挿管、無作為化から挿管までの期間、無作為化から28日間の人工呼吸器非使用日数などであった。28日死亡率は両群とも14.6%、副次アウトカムの28日挿管率は42.4%vs.48.4% 2021年1月~2024年10月に計1,116例が無作為化された。このうち、同意撤回5例を含む計6例を除く1,110例(HFNC群556例、標準酸素療法群554例)が解析に含まれた。 28日死亡率は、HFNC群14.6%(81/556例)、標準酸素療法群14.6%(81/554例)(群間差:-0.05%、95%信頼区間[CI]:-4.21~4.10、p=0.98)であった。 28日までの挿管率は、HFNC群42.4%(236/556例)、標準酸素療法群48.4%(268/554例)(群間差:-5.93%、95%CI:-11.78~-0.08)、無作為化から気管挿管までの期間の中央値はそれぞれ24時間(四分位範囲[IQR]:10~67時間)、23時間(IQR:10~47時間)(絶対群間差:0.4時間、95%CI:-6.8~6.5)、人工呼吸器非使用日数の中央値は28日(IQR:11~28日)、26日(IQR:10~28日)(絶対群間差:2.0日、95%CI:0.0~4.0)であった。 安全性については、自発呼吸中の重篤な有害事象(心停止または気胸)はHFNC群で13例(2.3%)(心停止3例、気胸10例)、標準酸素療法群で6例(1.1%)(それぞれ2例、4例)に発生した。 なお、著者は、COVID-19のパンデミック下でウイルス性肺炎患者の割合が高かったこと、挿管されなかった患者では順守状況のデータが前向きに収集されなかったことなどを研究の限界として挙げ、「今後の研究では、HFNCを対照群として、個別化された非侵襲的アプローチを含む呼吸補助戦略の評価が望まれる」とまとめている。

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呼吸器感染症やアレルギーに対する点鼻ワクチン、動物実験で有望な結果

 注射を何本も打たれるのが嫌でワクチン接種を避けてきた人にとって、希望の持てるニュースがある。米国の主要5大学の科学者たちが、将来的にはインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、細菌性肺炎、さらには一般的なアレルギーにまで効果を発揮し得る点鼻スプレー型ワクチンの開発に大きな一歩を踏み出したのだ。このワクチンのマウスでの実験に携わった米スタンフォード大学医学部の微生物学・免疫学教授であるBali Pulendran氏は、「これは医療のあり方を一変させる可能性がある」と語っている。この研究の詳細は、「Science」に2月19日掲載された。 現行のワクチンは、病原体の一部をあらかじめ免疫に提示することで、実際の感染に備えさせるものだ。しかし、多くのウイルスは瞬く間に変異してしまうため、追加接種やインフルエンザワクチンのような毎年の接種が必要とされている。Pulendran氏は、「ヒョウが模様を変えるように、ウイルスは表面の抗原を容易に変えてしまう」と説明する。 一方、「GLA-3M-052-LS+OVA」と名付けられた今回のワクチンは、感染時に免疫細胞同士が交わすシグナルを模倣することで体の主要な防御機構を総動員し、より長く続く協調的な免疫反応を引き起こすように設計されている。具体的には、この点鼻ワクチンは、脂質から成る粒子であるリポソームを用いて、免疫を強く刺激するTLR4(Toll様受容体4)およびTLR7/8のリガンドと、モデル抗原である卵白由来のタンパク質、オボアルブミンを組み合わせたもので、鼻腔に投与することで気道や肺の免疫系を直接活性化する。 実験では、マウスの鼻腔にワクチンを滴下投与し、一部のマウスには1週間おきに複数回投与した。その後、呼吸器系ウイルスに曝露させた。その結果、これらのマウスは、新型コロナウイルスやSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス、コウモリ由来のSARS関連コロナウイルスであるSHC014-CoVなどの複数のウイルスだけでなく、黄色ブドウ球菌やアシネトバクター属菌などの細菌、さらにはダニなどのアレルゲンに対しても3カ月以上続く防御効果を示した。一方、未接種のマウスでは著しい体重減少と重症化が認められ、死亡例も多く確認された。 Pulendran氏は、「最初は突拍子もないアイデアに思えた。こんなことが可能だと本気で考えていた人はほとんどいなかったと思う」と話す。しかし、実際に成果は得られた。同氏は、「ワクチンを投与された肺の免疫システムは、ウイルスに対処する準備が万全であり、通常は2週間程度かかるウイルス特異的T細胞や抗体による適応免疫反応をわずか3日で起こすことができるのだ」と述べている。 とはいえ、すぐに現行のワクチン接種をやめられるわけではない。動物実験の結果がそのまま人間に当てはまるとは限らず、GLA-3M-052-LS+OVAについても、これからヒトを対象にした試験が必要である。しかし、ヒトでも同様の結果が得られれば、将来は毎年必要な複数の注射をこの1本の点鼻ワクチンに置き換えられる可能性がある。また、新たに出現したパンデミックを引き起こし得るウイルスに対して迅速に防御を提供できる可能性もあるという。研究グループは、ヒトでの試験が成功すれば、5〜7年以内に「呼吸器系ウイルスに対するユニバーサルワクチン」が利用可能になる可能性があるとしている。 なお、今回の研究には、スタンフォード大学のほか、エモリー大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ユタ州立大学、アリゾナ大学の研究者も参加した。

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第308回 地域の医療機関の共倒れを防ぐために、日本病院会会長、元日本医師会長の病院も取り組む地域医療連携推進法人

コロナ禍を経て2024年度から連携法人の認定数急増こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2026年度診療報酬改定の全体像が明らかになり、また新たな地域医療構想策定ガイドラインもまもなく発出されるということで、地域における医療機関の役割分担、棲み分けが活発化していきそうです。とくに今改定では「第303回 病院と診療所で『メリハリ』に違いが出た2026年度診療報酬改定、病院は急性期病院一般入院基本料新設、地域包括医療病棟入院料大幅見直しなどで地域医療構想後押しへ」で書いた、「急性期病院一般入院基本料」の新設と「地域包括医療病棟入院料」の再編、「救急患者連携搬送料」の大幅見直し(搬送の受け入れ側も新たに評価)などによって、地域における医療機関連携の様相も大きく変わっていくでしょう。診療報酬による経済的インセンティブの有無に関係なく、自発的に取り組む医療連携も着実に広がっています。そうした動きの1つが「地域医療連携推進法人」(以下、連携推進法人)の設立です。連携推進法人については、本連載でも、「第214回 岸田首相、初夏の山形・酒田へ。2024年度から制度テコ入れの地域医療連携推進法人に再び脚光」、「第168回 3年連続3回目、地域医療連携推進法人言及の背景」などで度々取り上げてきましたが、コロナ禍を経て2024年くらいから認定数が急増しています。これまで59法人が認定、最多は大阪府で9法人、次いで北海道と静岡県が4法人連携推進法人とは、地域での医療機能の分担や連携を進める目的で、母体の異なる複数の医療機関や介護事業者などが参加して共同でさまざまな連携業務を行う事業体です。「競争よりも協調」を重視し、「地域医療構想達成のための一つの選択肢」として2015年の医療法改正で制度化が決まり、2017年4月から認定がスタートしました。制度創設から約9年が経過し、2026年1月末現在、全国でこれまでに59法人が連携推進法人として認定されています。注目されるのは昨年の2024年度から認定数が急増している点です。2023年度はわずか3法人の認定でしたが、2024年度は13法人、2025年度は8法人が認定されました。都道府県別に見ると、一番多いのは大阪府で9法人、次いで北海道と静岡県が4法人、秋田県、滋賀県、高知県が3法人となっています。人口減少、医療人材不足、コロナ禍後の患者数減少に加え、物価高、円安、人件費高騰などが医療機関を直撃この連携推進法人について、日経ヘルスケアは「地域医療連携推進法人の現在地」と題する記事を2025年11月号と12月号に前後編に分けて掲載、急増の理由を分析するとともに最近設立された連携推進法人のトレンドについてレポートしており、参考になります。同記事は、連携推進法人が急増している理由・背景として、「制度が創設された10年前の医療法改正時よりも、医療機関を取り巻く経営環境が厳しさを増したことが挙げられる。人口減少、医療人材不足、新型コロナウイルス感染症禍後の患者数減少に加え、物価高、円安、人件費高騰などが医療機関を直撃している」と分析、「そんな中、地域の医療機関の多くが、単独ではなく、地域の複数の医療機関、介護施設、介護事業所などとともに、機能の分担、集約化、連携強化を図り、この難局を乗り切ろうと考えるようになった。そのためのツールとして、連携推進法人制度に今まで以上に注目が集まっている」と書いています。「経営コストの削減、医療人材の交流・有効活用に重点を置き取り組んでいく」と日病会長同記事には、地域で高度急性期機能を担う大病院が主導して地域内で患者をシームレスに引き継ぐ仕組みの構築を図る「垂直連携型」のケース、医療機能が同等、あるいは似通った医療機関同士による「水平連携型」のケース、大学病院が取り組むケースなどが紹介されていますが、とくに興味深かったのは、日本病院会会長を務める相澤 孝夫氏が理事長を務める社会医療法人財団慈泉会・相澤病院(長野県松本市、456床)が中心となって、地域の民間病院、診療所、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど6法人を参加法人として2025年10月に設立された「信州松本ヘルスケアネットワーク」です。同記事で相澤氏は「制度ができた当初も設立を検討したが、今ほど医療機関経営の状況も悪くはなく、地域の医療機関経営者の関心を呼び起こすことができず断念した。しかし新型コロナウイルスの感染拡大を経て、経営状況も厳しくなってきたため、周辺の医療機関の要望も聞きながら設立を決断した。まずは経営コストの削減、医療人材の交流・有効活用に重点を置き取り組んでいく」と語っています。“強い”急性期病院が1つだけが生き残っても、慢性期・回復期に入った患者を受け入れる後方病院や介護事業所が地域になければ経営は行き詰まります。相澤氏の言葉からは、地方の民間医療機関が共倒れせず、生き残っていくための最終手段として連携推進法人に早くから着目していたことがわかります。元日本医師会長の病院も連携推進法人の設立準備日本病院会会長自らが連携推進法人設立に動いたということで、同制度に改めて大きな注目が集まることとなったわけですが、今年になって元日本医師会長の横倉 義武氏が理事長を務める、社会医療法人弘恵会・ヨコクラ病院(福岡県みやま市、199床)も、地域の医療法人、診療所、社会福祉法人などとともに連携推進法人の設立準備をしている、というニュースも入ってきています。2015年に連携推進法人の制度化が決まった当時は、一部の県では連携推進法人の設立に県医師会が猛反対し、設立計画が潰されることもありました。制度誕生の元々の発端が、安倍 晋三政権時代の2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」に記された「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」だったため、大規模法人が中小を吸収合併していくイメージが先行し、中小病院や診療所の経営者などに警戒感が芽生えたことなどがその背景にはありました。しかし、時代は大きく変わりました。なにせ日本病院会会長や、元日本医師会会長までもが取り組むようになったのですから。ところで、連携推進法人の取り組みには、王道とも言える垂直連携型以外にも、ユニークな事例が数多くあります。次号ではそうしたケースについて紹介します。(この項続く)

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