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結核治療へのデジタル服薬支援の導入、治療成功率・脱落率を改善/BMJ

 薬剤感受性結核患者の治療において、多面的双方向性のデジタル服薬支援ツール「結核治療支援ツール(TB-TST)」は治療成功率および脱落率を改善させ、とくに若年層や女性でその効果が大きく、資源の限られた環境下での結核治療の服薬順守支援における実現可能性と有効性が示された。アルゼンチン・Instituto de Efectividad Clinica y SanitariaのFernando Rubinstein氏らが、ブエノスアイレスにある公立基幹病院4施設において実施したプラグマティックな無作為化比較試験の結果を報告した。著者は、「今後の研究では、アプリの利用状況、新型コロナウイルス感染症の流行などの状況的要因、費用対効果、および結核以外の慢性疾患の管理における本ツールの活用について評価すべきである」とまとめている。BMJ誌2026年8月6日号掲載の報告。モバイルアプリを用いた服薬支援+標準治療vs.標準治療で治療成功率を比較 研究グループは、初発薬剤感受性結核と診断されている、または薬剤感受性不明の結核に対する治療を開始している16歳以上の患者で、スマートフォンを定期的に利用でき、かつ独力または支援を受けてスマートフォンを操作できる患者を、標準治療群(対照群)または標準治療+TB-TST群(介入群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 TB-TSTは、スペイン語対応の患者用モバイルアプリと医療チームメンバー用のダッシュボードで構成され、毎日の服薬順守状況の報告、双方向コミュニケーション、教育リソース、および服薬順守確認のためのイソニアジドの尿中代謝物を検出する自宅尿検査を統合した新しいデジタル服薬支援ツールで、患者、医療従事者、バイオエンジニアおよび結核専門家により開発された。 介入の性質上、患者および支援者は割り付けに関して盲検化されていないが、医師は患者から知らされない限り盲検下にあり、追跡調査および解析を行う研究スタッフも盲検を維持した。 主要評価項目は治療成功(WHOの定義による治癒または治療完了)、副次評価項目は追跡調査からの脱落(2ヵ月以上連続する治療中断)であった。治療成功率は82%vs.74% 2020年11月~2023年7月に1,017例がスクリーニングを受け、適格基準を満たした555例が登録および無作為化された(対照群278例、介入群277例)。 患者背景は、280例(50%)が女性で、平均年齢33歳(SD 13)、年齢中央値30歳(範囲:17~85)であった。 登録後に薬剤耐性結核が判明あるいは入院などプロトコールから逸脱した30例を除外した525例(登録患者の94.6%)が解析対象となった。 ITT解析の結果、治療成功率は介入群82%(208/255例)、対照群74%(201/270例)で介入群が高かった(リスク群間差:7.1%[95%信頼区間[CI]:0.1~14.1]、粗リスク比:1.10[95%CI:1.00~1.20]、p=0.05)。 追跡調査からの脱落率は、介入群で低かった(それぞれ17%、24%、リスク比:0.70、95%CI:0.50~0.98、p=0.04)。 探索的なサブグループ解析の結果、女性および35歳未満の患者で良好な結果がみられた。

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食道がんに腫瘍溶解ウイルス「テロメライシン」発売――岡山大学発の研究を実用化

 富士フイルム富山化学は8月21日、腫瘍溶解ウイルス製剤「テロメライシン注」(一般名:スラタデノツレブ)を発売した。根治切除および化学放射線療法の適応とならない食道がんが対象。2026年6月8日に製造販売承認を取得し、8月13日に薬価収載された。製造販売元はオンコリスバイオファーマ、販売元は富士フイルム富山化学で、国産の腫瘍溶解ウイルスを用いた新たな治療選択肢となる。 テロメライシンは、ヒトアデノウイルス5型を遺伝子改変し、腫瘍細胞で選択的に増殖するよう設計した製剤。がん細胞内でウイルスが増殖して細胞を破壊することで、抗腫瘍効果を発揮する。岡山大学学術研究院医歯薬学域 消化器外科学分野の藤原 俊義教授、黒田 新士准教授らが中心となって開発してきた。同剤には放射線により生じたDNA損傷の修復を阻害する作用もあり、放射線治療との強い併用効果が基礎研究で示されている。 臨床開発は2006年、米国食品医薬品局(FDA)の承認のもと実施された米国第I相試験から始まった。その後、2013年から岡山大学で、手術や抗がん薬治療などの標準治療が困難な食道がん患者を対象にテロメライシンと放射線治療を併用する臨床研究を実施。2017年からは岡山大学と国立がん研究センター東病院で、岡山大学発ベンチャーのオンコリスバイオファーマが第I相企業治験を行った。 2019年に「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定され、2020年から、岡山大学病院を含む全国17施設の食道がんハイボリュームセンターで第II相企業治験を実施。岡山大学によると、高い臨床的完全寛解率が得られ、藤原氏は承認申請時に「約半分の患者」で局所の食道がんが消失したとしている。 オンコリスバイオファーマは2025年12月に製造販売承認を申請し、約半年後に承認を取得。「条件及び期限付承認」ではなく通常承認となった。富士フイルム富山化学は販売提携契約に基づき、販売・流通と医療関係者への情報提供を担う。長年にわたるアカデミア発の創薬シーズが実用化に至った形で、根治切除や化学放射線療法が困難な食道がんに対する新たな治療選択肢として注目される。【製品概要】販売名:テロメライシン注一般名:スラタデノツレブ効能、効果又は性能:根治切除及び化学放射線療法の適応とならない食道癌承認日:2026年6月8日薬価収載日:2026年8月13日発売日:2026年8月21日薬価:1瓶 310万2,489円製造販売元:オンコリスバイオファーマ販売元:富士フイルム富山化学

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エイズ治療薬の真打ち登場!(解説:岡慎一氏)

 「安定期の患者に対するイスラトラビル/レナカパビルの合剤週1回1錠療法が、現在の第1選択薬である1日1回1錠療法に非劣性を示した」という内容の論文である。 1997年に強力な抗レトロウイルス薬併用療法が登場して、HIV感染者の予後が劇的に改善した。しかし、当時は、1日20錠の薬剤を5回に分けて服用する必要があった。副作用も強かった。それでも患者は我慢して飲み続けた。adherenceという言葉がはやったが、当然脱落者も少なくなかった。その後、抗HIV薬の改良は進み、2013年には1日1回1錠で治療できるようになった。1日1回服用のことをQDというが、さらに強調したSingle tablet regimen(STR)という造語が使われた。 しかし、抗HIV薬の開発はとどまるところを知らず、2022年には、2ヵ月に1回の注射で治療ができるようになった。long-acting注射薬の登場であった。個人的には、毎日薬を飲むより、2ヵ月間治療のことを忘れることができるこの治療が主流になるだろうと思ったが、それほどこの治療を利用する患者は増えなかった。注射という投与法がネックになったのだろうか? そして今回の治療薬である。long-acting経口薬の登場である。経口で、週1回1錠で治療できるのである。イスラトラビルは、かつて月1回服用でのHIV感染予防の治験が行われたが、この時は副作用としてリンパ球数の低下が問題となり中止となった。今回の週1回の投与量であれば、この副作用は見られていない。また、月1回が可能としても、実は、月1回というのが28日だったりすると意外に複雑であるが、週1回であれば決まった曜日に飲めばいいので簡単である。僕なら、「Sunday Pill」と名付けたい。治療効果が高く、安全で、服薬日を覚えやすい。これ以上の新薬開発がいるだろうか? まさに真打ちの登場である。

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第73回 インフルエンザワクチンが変わる? 米国で世界初の「mRNAインフルワクチン」承認

新型コロナワクチンでおなじみになった「mRNAワクチン」という技術。これをインフルエンザに応用したモデルナのワクチン「mRNA-1010(商品名:mFLUSIVA)」が、この夏、米国で承認されました1)。対象は50歳以上の成人で、米国では2026~27年シーズンからの接種開始が見込まれています。製造期間が「6ヵ月」から「6週間」に皆さまご存じのとおり、従来のインフルエンザワクチンの多くは、鶏の卵の中でウイルスを育てて作られています。この方法では製造に約6ヵ月かかるため、「今年はどの型が流行するか」という予測を、流行の半年も前、2~3月頃には決めてしまわなければなりません。ところがインフルエンザウイルスは絶えず姿を変えるため、秋になってみたら別の型が流行していて、ワクチンとの「ミスマッチ」が起きてしまうことがあります。一方、mRNAワクチンはウイルスの設計図にあたる遺伝情報を合成して作るため、製造は約6週間で済むとされます。流行の直前まで中身を調整できるわけですから、予測が外れるリスクを減らせるのではと期待されているのです。「27%減」は何を意味するのか承認の根拠となった臨床試験には、米国を含む11ヵ国で50歳以上の約4万1,000人が参加しました。半分の方がmRNAワクチンを、残り半分が従来型ワクチンを接種し、約半年間の経過をみたところ、検査で確定したインフルエンザの発症はmRNA群で約2.0%、従来型群で約2.8%。相対的にみてmRNA群が約27%少なかった、という結果です2)。ここで少し立ち止まってみたいのですが、この「27%」は割合の比較であって、「接種した人の27%が発症を免れる」という意味ではありません。100人当たりでいえば、発症が約0.8人減った計算になります。小さな差に見えるかもしれませんが、社会全体でみれば入院や死亡の減少につながりうる差ですし、リスクの高い65歳以上に限った解析でも同程度の効果が確認されています。副反応は、注射部位の痛みや倦怠感、頭痛などが従来型よりやや多かったものの、大半は軽度から中等度で、一時的なものだったと報告されています。まだわからないこと、私たちにできることもちろん、限界もあります。データはまだ1シーズン分だけで、米国で65歳以上の標準とされる「高用量ワクチン」との直接比較は行われていません。免疫能の低下した方やフレイルのある高齢者での効果も、まだ確立していません。そのため65歳以上への承認は条件付きの「迅速承認」で、今後2シーズンかけて約40万人規模の市販後試験で効果が検証される予定です。ソーシャルメディアなどでは「mRNAワクチンは効かない」といった根拠のない主張も聞かれますが、mRNAワクチンが中心だった新型コロナワクチンは、控えめに見積もっても世界で250万人以上の命を救ったと推計されており、データはむしろ逆の結果を示しています3)。日本では、インフルエンザに対するmRNAワクチンはまだ承認されていません。当面は従来型ワクチンでの接種が続きますが、米国では65歳以上は人口の2割弱ながら、インフルエンザ関連死亡の70~85%を占めるとされます。高齢の方にとって毎年の接種が大切であることは、これまでと変わりません。新しい技術の続報を待ちながら、今シーズンもまずは現行のワクチンで備えましょう。1)Rubin R. What to know about the mRNA flu vaccine, newly approved by the FDA. JAMA. 2026 Aug 14. [Epub ahead of print]2)Leroux-Roels I, et al. Efficacy and safety of an mRNA seasonal influenza vaccine in adults. N Engl J Med. 2026;394:1803-1813.3)Ioannidis JPA, et al. Global estimates of lives and life-years saved by COVID-19 vaccination during 2020-2024. JAMA Health Forum. 2025;6\:e252223.

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HIV-1感染者、1日1回の標準治療から週1回配合剤への切り替えは?/Lancet

 ウイルス学的抑制を維持しているHIV-1感染者において、週1回投与の配合錠イスラトラビル/レナカパビル(ISL/LEN)は1日1回経口投与の標準治療に対して、有効性に関して非劣性であり、忍容性はおおむね良好であることが示された。米国・Cambridge Health AllianceのAmy E. Colson氏らISLEND-2 Study Teamが、日本を含む14ヵ国100施設で実施した第III相の非盲検無作為化実薬対照非劣性試験「ISLEND-2試験」の48週時点の主要解析の結果を報告した。著者は、「本試験の結果と、ISLEND-1試験(1日1回投与の配合錠ビクテグラビル/エムトリシタビン/テノホビル アラフェナミド[B/F/TAF]と比較)の結果(ジャーナル四天王「HIV-1感染者への週1回配合剤、1日1回薬に非劣性/NEJM」2026年8月6日公開)を併せたデータは、ISL/LENがHIV-1感染者への初となる週1回経口治療薬となりうることを示唆するものであった」と述べている。Lancet誌オンライン版2026年8月12日号掲載の報告。ISL/LEN切り替え群vs.標準治療継続群を比較 ISLEND-2試験では、ウイルス学的抑制を維持しているHIV-1感染者を対象に、週1回投与の配合錠ISL/LENへの切り替えの有効性と安全性を、1日1回経口投与の標準治療の継続と比較し評価した。 対象は、1日1回経口投与の標準治療で6ヵ月以上ウイルス学的抑制を維持しており、かつウイルス学的失敗歴のない18歳以上の成人HIV-1感染者を適格とした。 被験者は、双方向応答システムを用いて、地理的地域、抗レトロウイルス薬のクラス、CD4陽性T細胞数で層別化したうえで、週1回投与の配合錠ISL(2mg)/LEN(300mg)への切り替え群、または1日1回経口投与の標準治療を継続する群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、両群とも少なくとも96週間投与を受ける計画とされた。また、被験者は96週後に延長フェーズに組み入れられ、ISL/LENの処方を受ける選択肢が与えられた。 主要評価項目は、48週時点のHIV-1 RNA量50コピー/mL以上の被験者割合とした。判定には米国食品医薬品局(FDA)が定義するスナップショットアルゴリズムが用いられ、非劣性マージンは4%ポイントに設定した。無作為化後、割り付け治療薬を少なくとも1回投与された全被験者を対象に評価した。主要評価項目は、ISL/LENが標準治療に対し非劣性 2024年10月8日~2025年4月30日に、727例がスクリーニングされ、647例が適格と判定され、634例が無作為化された。そのうち626例が治療を受けた(ISL/LEN群314例、標準治療群312例)。被験者626例のうち211例(34%)が女性であり、193例(31%)が黒人、119例(19%)がアジア人、123例(20%)がヒスパニックまたはラテン系であった。また、89例(14%)が65歳以上であった。 ベースラインで、552例(88%)が1日1錠の抗レトロウイルス薬を使用しており、478例(76%)のレジメンにはインテグラーゼ鎖転移阻害薬が含まれていた。 48週時点で、HIV-1 RNA量50コピー/mL以上の被験者は、ISL/LEN群1/314例(0.3%)、標準治療群4/312例(1.3%)であり(群間差:-1.0%、95.002%信頼区間:-3.0~1.1)、ISL/LEN群が非劣性基準を満たしたことが示された。 治療関連有害事象(TRAE)の発現は、ISL/LEN群58/314例(18%)、標準治療群1/312例(1%未満)で報告された。 有害事象による試験中止例は、ISL/LEN群2/314例(1%)、標準治療群1/312例(1%未満)であり、Grade3以上の有害事象の発現例は24/314例(8%)と28/312例(9%)、重篤な有害事象の発現例は22/314例(7%)と27/312例(9%)であった。 死亡は3例(ISL/LEN群1例、標準治療群2例)報告されたが、いずれも治療との関連はないと判断された。 なお著者は、「より長期的な安全性のデータは、本報告で示された48週時点のデータ以上に、さらなる有益な知見をもたらすものと思われる」としている。

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第39回 怖い咽頭痛、見逃せない咽頭痛【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)咽頭痛の鑑別疾患を理解しよう!2)危険な咽頭痛を疑うサインを知ろう!3)心血管疾患も忘れずに鑑別しよう!【症例】65歳男性咽頭痛を主訴に救急外来を独歩受診した。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧108/74mmHg脈拍52回/分(整)呼吸18回/分SpO297%(RA)体温35.9℃瞳孔3.5/3.5mm+/+既往歴高血圧内服薬詳細不明だが降圧薬を1剤内服している咽頭痛の鑑別喉の痛みを訴え来院した患者さんではどのような疾患を考えるでしょうか。頻度が高いのはウイルス性咽頭炎です。細菌性では、A群溶血性レンサ球菌(group A Streptococcus:GAS)による咽頭炎が代表的です。その一方で、見逃してはいけないものとして、急性喉頭蓋炎などの“killer sore throat”が挙げられます1)。また、頻度は決して高くはありませんが、初診時に必ず意識しておいてほしいのが心血管疾患です2)(表1)。急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の放散痛(関連痛)は有名ですね。表1 咽頭痛の鑑別疾患画像を拡大する心筋虚血では、前胸部痛だけでなく、頸部、顎、肩、上肢、背部、上腹部の痛みや不快感が生じることがあります。咽頭の痛み、締めつけ感、灼熱感、詰まり感として自覚されることもあります。これは、心臓からの内臓感覚入力と体性知覚入力が中枢神経系で収束するために生じる関連痛と考えられています。危険な咽頭痛の見極め方:発症様式、姿勢、痛みの程度に注目危険な咽頭痛と聞くと、表1のkiller sore throatがパッと思いつくでしょう。もちろんそれらも重要なのですが、心血管疾患も忘れずに意識するようにしましょう。初療では、“Hi-Phy-Vi”(History,Physical examination,Vital signs)を評価する必要があります。なかでも、まずは以下の3点に注目するとよいでしょう。(1)突然発症か否か感染症が突然発症することはありません。数時間から数日かけて症状が進行するのが一般的です。それに対して、心筋梗塞や大動脈解離は秒から分の単位で発症します。そのため、発症様式、とくに突然発症か否かを意識して確認することが重要です。「痛みが生じていたときに何をしていたのか」を確認し、発症時の様子が頭に浮かぶように確認しましょう。(2)姿勢に注目患者さんの姿勢に注目しましょう。患者さんは自身が最も呼吸がしやすい姿勢を自然ととっているはずです。座位で前傾姿勢、頸部を伸展させ、顎を突き出すような姿勢をとっていたら要注意です。これは、腫脹した喉頭蓋や周囲の組織による気道狭窄を代償しようと、上気道をなんとか開通させようとしているものであり、気道緊急ととらえ迅速な対応が求められます。“tripod position”や“sniffing position”と呼ばれますよね。(3)痛みで唾が飲み込めなかったら要注意咽頭痛のために固形物を飲み込みにくいことは、通常の咽頭炎でも起こります。しかし、「飲水も難しい」「唾液を飲み込めない」「口から唾液が垂れている」という場合には要注意です。唾液を処理できないほどの嚥下痛や流涎に加えて、含み声、嗄声、呼吸困難、吸気性喘鳴(stridor)などを認める場合には、急性喉頭蓋炎など急を要する病態を考える必要があります。表2の急性喉頭蓋炎の症状は頭に入れておきましょう3)。表2 急性喉頭蓋炎の症状バイタルサインはもちろん重要です。ただし、SpO2は酸素化の指標であり、上気道の開存性を直接示すものではありません。急性喉頭蓋炎などでは、SpO2が保たれていても気道狭窄が進行している可能性があります。呼吸数やSpO2だけで安心せず、呼吸仕事量、吸気性喘鳴、声の変化、姿勢、流涎、唾液を嚥下できるかといった所見を重視しましょう。咽頭痛の注意点「喉はあまり腫れていないので大丈夫そう」と判断してはいないでしょうか。咽頭といっても上咽頭・中咽頭・下咽頭が存在し、扁桃炎などで異常所見が認められる口蓋扁桃など中咽頭の所見は確認できても、その奥の喉頭蓋は目視することは困難です。つまり、かなり痛がっているのに喉が腫れていない、そのような場合にはむしろ安心するのではなく、焦らないといけないのです。今回の症例では、発症様式を確認すると仕事中に数分でピークに達する咽頭痛であり、嚥下にはとくに問題はありませんでした。ACSも考慮し胸部症状を聞いてみると、「胸部に違和感がある」と訴え、心電図を確認すると前胸部誘導でST上昇が認められました。ST上昇型心筋梗塞(ST-elevation myocardial infarction:STEMI)だったのです。咽頭痛を訴える患者さんは、感染症の流行期には救急外来を数多く受診します。本症例も、トリアージの段階で心筋虚血が鑑別に挙がらなければ、心電図が記録されないまま待合室で待つことになったかもしれません。今回の症例では、トリアージナースの素晴らしい判断により早期に心電図が記録され、STEMIの診断と迅速な再灌流治療につなげることができた1例でした。 1) Miller JM. et al. Clin Infect Dis. 2024:ciae104. 2) 坂本壮. それって本当に咽頭炎?!見逃せない救急・見逃さない救急.プライマリ・ケア. 2022;Vol.7:No.1. 3) Sideris A, et al. Laryngoscope. 2020;130:465-473.

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第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

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第326回 なぜ患者を殺害するのか、犯行動機と7つの予防策

INDEX患者を救うはずの医療者がどうして…研究報告されている医療者による殺人看護師が加害者になる8つの犯行動機研究から見える7つの予防策患者を救うはずの医療者がどうして…悲しいことではあるが、多くの人にとって殺人事件のニュースを見聞きすることは珍しくはないはずだ。警察庁の「犯罪統計」1)によると、2025年の殺人認知件数(未遂も含む)は976件。日本では単純計算で毎日2件以上の殺人事件が起きていることになる。殺人による厳密な被害者(死者)数は警察庁の資料に記載はないが、厚生労働省の人口動態統計の2025年速報値2)での「他殺」は210人となっている。ただ、人口動態統計の他殺死者は、居住していない在留外国人などの被害者は含まれず、実数は人口動態の数値よりやや高いものになるだろう。もっとも今から半世紀前の1975年の殺人認知件数は2,098件、被害者数は1,429人。当時と比べ、認知件数は半分以下、被害者数は約7分の1にまで低下しているのは、世の中の“進歩”と言えるのかもしれないが、それでも年間200人もの人が理不尽に命を奪われていいわけはない。そのような中で、まさに人命を救うために活動する医療者が患者を殺害するというショッキングな事件が先頃、報じられた。7月15日、千葉県警察本部は柏市にある柏たなか病院の元看護師を、患者の点滴に便を混入して死亡させた殺人容疑で逮捕した。各種報道によると、元看護師は容疑を否認しているものの、スマホには「便混入 死ぬか」の検索履歴があったと言われている。また、敗血症性ショックで死亡した被害者の体内から検出された細菌、元看護師の看護服に付着していた便の細菌、点滴チューブを一時保管していた滅菌カップから検出された細菌の3つの遺伝子検査結果が一致していたという。およそ信じがたい事件ではあるが、報道ベースでたどる限り、日本国内で医療者による患者殺人は、1991年の東海大学安楽死事件を筆頭に過去30年ほどで10件未満、散発的と言える程度には発生している。この実態からすると、「メディアは医療者による事件を過度にセンセーショナルに報じ過ぎ」という指摘も出てきそうであるが、そもそも医療者は社会一般の認識からすれば最も殺人という犯罪に縁遠い立場である。にもかかわらず、犯罪の中でも最悪の類型である殺人に手を染め、しかもその被害者が本来救うべき患者であるならば、メディアはほかの殺人事件以上に「なぜ?」を追求して報じざるを得ないことは申し添えておきたい。研究報告されている医療者による殺人さて前述の日本国内での医療者による殺人での犯人は、医師あるいは看護師に大別され、医師が逮捕・起訴されたケースはほぼ安楽死や終末期医療に関連したケースである。一方で、看護師の犯行動機(検察側の主張も含む)は、率直に言って身勝手な自己都合である。実はこのような医療者による患者殺害に関しては、海外では複数の研究報告がある。代表的なものは2023年にドイツのギーセン・マールブルク大学病院法医学研究所のグループが公表した研究3)で、医療機関・介護施設・訪問介護などで少なくとも2人以上の患者が犠牲になった1945年以降の事件のうち、犯罪現場、加害者の性別・職種・年齢、犯行態様、被害者数および被害者年齢、最終判決内容の詳細がわかる70件を分析している。この分析結果では、加害者の大部分は看護師と記述している(なぜか割合の記載は省かれているが)。ちなみにこの研究ではカリフォルニア州立大学のグループが2006年に発表した先行研究4)を引用しているが、この研究で分析対象とした1970〜2006年の医療者による患者連続殺人43件の加害者のうち86%は看護師であった。看護師が加害者になる8つの犯行動機ここからは医療者による患者殺人において、なぜ看護師が加害者の大半を占めるかについて淡々と分析してみる。とくに看護師の方々にとっては不快な内容になるかもしれないが、あくまでドライな分析の1つとして許容いただきたい。最大の要因は、医師やそのほかの職種に比べ、患者に接する時間が長く、悪意を持った場合に犯行チャンスに“恵まれている”からだと考えられる。もう1つの要因は、この種の犯行の手口から推察できる。前述のドイツの研究が分類した犯行手口は、注射が56件、暴力・機械的窒息が10件、経口・栄養への毒物混入が8件。ここからわかるのは、看護師特有の知識と技能が皮肉にも犯行に存分に生かされている現実である。医療者内の各職種に悪意を有する人間が同じ割合で存在すると仮定した場合、その中でも看護師は犯行チャンスが多く、ターゲットを確実に死に至らしめ、かつ犯行の発覚を遅延・隠蔽できる知識・技能を兼ね備えていることになる。このことは過去の日本の事例でも説明ができる。2016年に横浜市の旧大口病院で看護師が点滴に致死量を超える消毒薬を混入して患者3人を殺害した事件である。このケースは、事件発覚までに加害者の看護師の担当フロアで82日間に48人の患者が死亡し、本人も「20人前後の点滴に消毒液を混入した」と供述していたが、発覚前の死亡患者は自然死扱いで火葬も終了していたため、限定的な立件しかできなかった。要は時と場合を選べば、自然死を装うことも可能なのである。一方、犯行につながる要因(動機)についてドイツの研究では、(1)精神疾患歴(2)承認欲求・スリル・自己肥大化(3)医師への対抗心と対立(4)患者の非人間化(5)良心の欠如、などを挙げ、そのほかの研究ではこれ以外にも(6)業務負担の軽減(7)金銭・利欲(8)正義感の歪み(疑似安楽死)なども指摘している。ただ、この手の研究では、犯行の多くは単一動機ではなく複合動機で起きているとの分析が多い。たとえば前出の旧大口病院事件の加害者の看護師は、判決で自閉スペクトラム症(ASD)の特性を有し、犯行当時はそれに伴ううつ状態にあったと認定されている。また、直接的な犯行動機は、過去に患者家族から処置後に怒鳴られた経験から、勤務交代時に担当患者の点滴に消毒薬を混入して殺害することで、自分が勤務中に怒鳴られることを回避するためだった、とも認定されている。前述の犯行要因(動機)としては(1)と(6)が該当することになる。一般的な思考からすると(1)⇒(6)に行くのはあまりにも飛躍し過ぎていると感じるはずだ。この点について無期懲役となった判決の理由説明では、この看護師がASD特性により臨機応変な対応が苦手にもかかわらず、採用時の説明と異なり延命措置などを行わねばならなかったことに加え、前述の患者家族から怒鳴られた経験が重なり、一時的な不安軽減を求めて患者を消し去るという「視野狭窄的心境に陥った」としている。つまり加害者が有するASD特性を重く見ており、判決文の中でわざわざ「動機形成過程には、被告の努力ではいかんともし難い事情が色濃く影響しており、酌むべき事情と言える」とまで言及した。旧大口病院事件の場合、殺害された被害者が3人、かつ前述のようにそのほかにも殺害が疑われるケースがあるにもかかわらず、死刑が回避されたのはまさにこのASDに起因する本人の思考の持つ不可抗力性と裁判過程で加害者が見せた贖罪の意思が影響している。今回の柏たなか病院の事件の場合、逮捕された看護師は容疑を否認していると言われるため動機は今のところわからないものの、一部の報道ではこの看護師が学生時代に狂言騒ぎを起こしているとの証言もあり、(2)の要素が関係している可能性もある。研究から見える7つの予防策もっとも現場としては、こうした犯罪の手口・動機の分析よりも直接的な予防策のほうが関心事だろう。この点についてドイツの研究では、(1)見て見ぬふりをする文化の打破(2)匿名通報システムの構築(3)薬品管理の厳格化と定期的監査(4)死亡記録と勤務シフトの照合(5)救命成功事例・急変事例の検証(6)教育・研修カリキュラムでの意識向上トレーニング(7)自然死の妥当な理由がない急死例での解剖実施率向上などを列挙している。これに加え就職時に周囲の推薦(いわばコネ)がモノを言うアメリカからの研究報告では、「前職場へのヒアリングなど適切な採用前審査の実施」を予防策の1つとして挙げている。まず、アメリカのような採用前審査の厳格化は、時に差別・偏見と紙一重になるため、ケースバイケースにならざるを得ないだろう。ちなみに私が以前、人材あっせん業界に長く身を置く友人に聞いた、業種を問わない採用時の書類審査法としては、「履歴に不自然な空白期間がないかを最低限チェックし、該当する応募者を面接する際はこの点についてさりげなく尋ねる」というものだ。もちろん本人が口を濁すこともあるが、濁しながらも語られた内容から空白期間の理由が推察できれば問題なしと判定するのだという。そしてドイツの研究が提示した7つの予防策については、むしろ早期検知策に見える人がほとんどではないだろうか。この中で研究者が重視している対策は(7)である。異常死で確実に解剖が実施されれば、発覚を恐れる加害者が犯行を躊躇するという論理である。もっともこの論理を適用するならば、一見すると早期検知策にしか見えないこれら対策のほとんどは徹底化・ルーチン化できれば十分予防策にはなり得る。そしてこの中で私個人が何よりも重要だと考える対策が(1)である。前述のように旧大口病院の事件では、発覚までに大量の不審死が発生している。これは「見て見ぬふり」が最悪の形で影響した結果だろう。ではどうすればいいかだが、最低限必要なことは「医療安全関連の研修時から“医療者が殺人を犯す可能性”を念頭に置いた座学」である。「使命に燃える医療者に何と残酷なことを…」という意見もあるだろうが、危機管理とは常に味方を疑う冷酷・残酷なものであることを改めて肝に銘じなければならない。1)警察庁:犯罪統計2)厚生労働省:令和7(2025)年人口動態統計月報年計(概数)の概況_統計表3)Dettmeyer R, et al. Dtsch Arztebl Int. 2023;120:526-533.4)Yorker BC, et al. J Forensic Sci. 2006;51:1362-1371.

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HIVの1次治療、ドラビリン含有レジメンの有効性と体重への影響/JAMA

 主にアフリカ系黒人成人に対する初回抗レトロウイルス療法(ART)として、ドラビリン(DOR)/ラミブジン(3TC)/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)は、ドルテグラビル(DTG)/エムトリシタビン(FTC)/テノホビル アラフェナミド(TAF)と比較し、48週時点のウイルス抑制効果に関して非劣性を示し、かつ体重増加がより少ないことが認められた。南アフリカ共和国・ウィットウォーターズランド大学のJoana Woods氏らが、研究者主導の無作為化非盲検非劣性試験「Opti-DOR試験」の結果を報告した。ARTの開始後、とくにTAF/DTGまたはビクテグラビルを含むレジメンにおいて著しい体重増加を伴うことがあり、HIV感染者の心代謝リスクを増大させる可能性がある。JAMA誌オンライン版2026年7月31日号掲載の報告。DOR/3TC/TDFの有効性および体重増加への影響を、DTG/FTC/TAFと比較 研究グループは、南アフリカ共和国の2施設において、HIV感染が確認され、ART歴がなく、スクリーニング時にHIV RNA 500コピー/mL超、かつDORに対する検出可能な耐性が認められない18歳以上の成人を登録した。 適格患者を、DOR(100mg)/3TC(300mg)/TDF(300mg)群、またはDTG(50mg)/FTC(200mg)/TAF(25mg)群に1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回経口投与した。 主要評価項目は、48週時点におけるHIV RNA量<50コピー/mLの患者の割合で、群間差の95%信頼区間(CI)の下限値が-10%を上回る場合に非劣性と定義した。重要な副次評価項目は、体重の変化、体組成に対する治療の影響、安全性および有害事象などであった。ウイルス抑制効果についてDOR/3TC/TDFの非劣性を確認、体重増加も有意に少ない 2023年10月~2025年3月に898例が適格性の評価を受け、このうち600例が無作為化された。最終評価は2026年2月であった。 患者背景は、597例(99.5%)がアフリカ系黒人、413例(68.8%)が出生時女性、年齢中央値34歳(四分位範囲[IQR]:28~41)、体重中央値74.9kg(IQR:66.1~85.0)、BMI中央値27.7(IQR:25.1~31.7)であり、34.0%はBMI値30以上であった。 48週時点において、HIV RNA量<50コピー/mLを達成した患者の割合はDOR/3TC/TDF群89.0%(266例)、DTG/FTC/TAF群90.7%(273例)、群間差は-1.7%(95%CI:-6.6~3.1)であり、事前規定の非劣性マージンを満たした。 体重増加量の中央値は、DOR/3TC/TDF群3.0kg、DTG/FTC/TAF群5.0kg(群間差:-2.0kg、95%CI:-3.0~-1.0、p<0.001)であった。 股関節骨密度(BMD)の変化率中央値は、DOR/3TC/TDF群-2.1%(IQR:-4.1~-0.5)、DTG/FTC/TAF群-0.5%(IQR:-1.9~1.2)、脊椎BMDの変化率中央値はそれぞれ-3.2%(IQR:-5.4~-0.8)、-1.3%(IQR:-3.2~0.8)であった(いずれの群間比較もp<0.001)。 DOR/3TC/TDF群において、ウイルス学的失敗を呈した9例のうち7例でDORに対する耐性が認められた。これら7例のうち、DTGを含む治療レジメンへ切り替えた6例中5例でウイルス抑制が達成され、1例は追跡不能となった。 重篤な有害事象の発現割合はDOR/3TC/TDF群3.7%、DTG/FTC/TAF群2.3%で、死亡は2例(いずれもDOR/3TC/TDF群)にみられたが、いずれも試験治療との関連はないと判断された。

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第331回 ポストバイオティックがGLP-1を増やして体重を減らす

小規模ながら二重盲検のプラセボ対照無作為化試験で、経口服用の不活化細菌サプリメント(ポストバイオティック)が肥満/過体重成人の体重を有意に減らしました1,2)。GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)が肥満治療の主役に一気に躍り出たものの、治療が長続きしないことは少なくないようです。たとえば米国成人の4~5割ほどが開始から1年と経たずにGLP-1薬の使用を止めてしまっており、胃腸の有害事象を生じた患者はとくにそうでした3,4)。それゆえ、GLP-1薬のような生理作用をGLP-1薬が強いる負担なしでもたらす治療選択肢を必要とする患者は多いようです。有益作用をもたらす不活化微生物やその成分であるポストバイオティックがその需要に応えられるかもしれません。たとえばオリーブやキムチなどの発酵食品を介して口に入る細菌のラクチプランチバチルス プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum[L. plantarum])にその可能性があります。熱で不活化したL. plantarumが短鎖脂肪酸(SCFA)を作る乳酸菌などの細菌を増やし5)、SCFAが豊富だと腸細胞からのGLP-1分泌が促進すること6)が先立つ研究で示されています。ゆえに不活化L. plantarumはGLP-1伝達を介して体重管理を助ける働きがあるかもしれません。そこでアラバマ大学のCharitharth Vivek Lal氏らは、不活化L. plantarumを含むポストバイオティック製品の体重への効果などを米国の過体重/肥満成人80人を募って試みました。使われた製品はResMと呼ばれ、不活化L. plantarumに加えてビタミンなどの微量栄養素と植物抽出物を含みます。被験者は1対1の割合で1日1回ResM服用群かプラセボ服用群に割り振られました。2ヵ月後、ResM群に割り振られた被験者の体重は、ベースライン時に比べて平均3%(2.6kg)減っていました。一方、プラセボ群の体重は減らず、ベースライン時より0.5kg増えていました。また、ResM群の血中のGLP-1活性はベースライン時に比べて2倍ほどに上昇していました。一方、プラセボ群ではほとんど変化がみられませんでした。GLP-1薬につきものの胃腸症状の心配はResMでは比較的少ないらしく、今回の試験で胃腸症状はむしろプラセボ群により多く生じました。深刻な有害事象はResM群とプラセボ群のどちらでもみられませんでした。GLP-1薬がすでに経ているような大規模試験で長期投与の効果持続のほどなどを今後調べる必要があります。それに、ResMの種々の成分の体重低下への寄与のほどもはっきりさせなければなりません。それらのさらなる検討で確かな裏付けが晴れて確立すれば、ResMはGLP-1薬に比べて副作用がより少なくて安上がりな体重減量や減った体重の維持手段を担うようになるかもしれません。参考(1)Pala OSK, et al. medRxiv. 2026 Jul 27. [Epub ahead of print](2)Postbiotic supplement boosts body’s own GLP-1 and weight loss / NewScientist(3)Do D, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2413172.(4)Rodriguez PJ, et al. JAMA Netw Open. 2025;8:e2457349.(5)Huang Y, et al. Foods. 2025;14:2799.(6)Tolhurst G, et al. Diabetes. 2012;61:364-371.

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ピロリ菌で大腸がんリスク増、除菌の恩恵を受けやすい人は?

 Helicobacter pylori(H. pylori)感染は大腸がん発症リスクを高める可能性があり、除菌治療が長期的なリスク低減につながる可能性が示された。中国で実施された2つの大規模ランダム化試験の解析により、遺伝的リスクや病原性因子を考慮した層別解析では、除菌の恩恵を受けやすい集団が存在することも明らかになった。北京大学のXuan Han氏らによる研究結果は、Gut誌オンライン版2026年6月30日号に掲載された。 H. pyloriは胃がんや消化性潰瘍の原因菌として知られる一方、近年は慢性炎症や腸内細菌叢の変化などを介して大腸がんにも関与する可能性が指摘されている。今回の解析では、中国・山東省で実施された2つのランダム化試験を対象とした。1つは1995年開始のShandong Intervention Trial(SIT、3,365例、追跡期間29.4年)、もう1つは2011年開始のMass Intervention Trial in Linqu, Shandong Province(MITS、18万284例、追跡期間13.8年)である。MITSでは、宿主の遺伝的リスクとH. pyloriの病原性因子に対する血清陽性率に基づいて大腸がんリスクを評価するケースコホート研究も実施された。 主な結果は以下のとおり。・H. pylori陰性例と比較して、除菌治療を受けていないH. pylori陽性例は、大腸がんリスクが有意に高かった(SIT/ハザード比[HR]:2.96、95%信頼区間[CI]:1.30~6.71、MITS/HR:1.27、95%CI:1.04~1.55)。このリスク増加は、4つのH. pyloriの病原性因子(CagA、HpaA、Omp、HP0305)に対する血清陽性例、および遺伝的リスクが高い例(ポリジェニックリスクスコア上位10%)でとくに顕著であった。・SITでは、H. pylori除菌治療は29.4年間の追跡期間において大腸がんリスクの有意な低下と関連しており(HR:0.47、95%CI:0.22~0.99)、除菌成功例ではより大きな低下が観察された(HR:0.38、95%CI:0.15~0.94)。一方、MITSでは、治療後13.8年時点で全体的な効果は認められなかった(HR:1.17、95%CI:0.95~1.43)。しかし、病原性因子に対する血清陽性例と遺伝的リスクが高い例では保護効果が認められた。 著者らは、試験間の相違について、追跡期間の長さ、除菌レジメン、対照群治療の違いに加え、生活習慣や時代背景の差が影響した可能性を挙げている。さらに「H. pylori感染は胃がんだけでなく大腸がんリスクにも関与する可能性がある。除菌治療による大腸がん予防効果は長期間の追跡で初めて明らかになる可能性があり、とくに遺伝的高リスク者や病原性菌株感染例で恩恵が大きいことが示唆された。また、今後は遺伝情報や菌株情報を組み合わせたリスク層別化により、より個別化された大腸がん予防戦略の構築につながる可能性がある」としている。

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第325回 予防接種法改正へ、水面下で起きていた反対論説

INDEX予防接種法改正の目的RSVの罹患率と重症化率ニルセビマブの効果、海外での位置付け法改正、地味に反対されていた理由予防接種法改正の目的先日閉会した国会では皇室典範改正や副首都法案が世を賑わせたが、医療界にとってはある重要な法案が6月30日に衆院、7月24日に参院で可決成立した。予防接種法の一部改正である。今回の法改正の要点は、従来の同法第二条で「予防接種」に用いる手段をワクチンと定めていたが、これを特定医薬品とし、その区分としてワクチンに加え、「モノクローナル抗体を有効成分として含有し、かつ、ワクチンと同程度にその効果が長期間にわたる医薬品」を含むとした点である。この法令条文だとややわかりにくいが、要は感染予防目的で使用する抗体製剤も予防接種法でカバーするということだ。ここで多くの医療者は「RSウイルス(RSV)に対する抗体製剤・ニルセビマブ(商品名:ベイフォータス)のことだろう?」と想像するに違いない。率直に言ってしまえば、ほぼ当たりである。"ほぼ"と付けたのは、あくまで厚生労働省は「将来的に登場する感染防止目的の抗体製剤も念頭に」と説明しているためだ。これについてはより詳細な説明として、参院厚生労働委員会で厚生労働大臣の上野 賢一郎氏自ら次のように語っている。「まず予防接種の対象については、すでに先進諸国ではRSV感染症を予防できる新たな手段として抗体製剤が用いられております。また、わが国においても同様の抗体製剤が薬事承認をされているにもかかわらず、現行法(予防接種法)ではワクチンのみが対象と規定され、抗体製剤に係る定期接種に向けた議論などをさらに行うことが困難となっているところであります。こうした中、審議会の提言では抗体製剤が予防接種法上の予防接種に用いる医薬品の1つの例、早期に定期接種において抗体製剤を使用できる環境が整備されることが求められているところであります。このように今般の法改正は、RSV感染症に対する抗体製剤がいわば1つの例として想定されるものでありますが、直ちに個別の製剤を定期接種に位置付けることを目的としたものではなく、当該抗体製剤を定期接種に用いることに関して審議会における議論を行うことを可能にするものであるというふうに考えております」要は各国ではすでにニルセビマブを定期予防接種の中に位置付けているにもかかわらず、現行の予防接種法の定義に沿えば、日本では議論すらできないため、まずは法改正をしたという理屈である。RSVの罹患率と重症化率日本ではニルセビマブは2024年3月、「RSVによる重篤化のおそれがある新生児、乳児、幼児での生後初回または2回目のRSV感染流行期のRSVによる下気道疾患の発症抑制、あるいは重篤化リスクのない新生児・乳児での生後初回のRSV感染流行期のRSV感染による下気道疾患の発症抑制」を適応として承認された。EU、英国では2022年11月、カナダでは2023年4月、米国では2023年7月に承認されており、日本はG7の中では最も承認が遅かった国である。ご存じのようにRSV感染症は小児ではほぼ必発の感染症で、生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%の乳幼児が最低でも1度は感染する。感染から2~8日の潜伏期間後、発熱、鼻水、咳などの症状が数日続き、初感染した乳幼児の約7割は数日のうちに軽快するが、約3割では喘鳴や呼吸困難、さらに細気管支炎の症状が出るなどの下気道症状が重症化する。2010年代には、2歳未満の乳幼児12~18万人(年間)がRSV感染症と診断され、3~5万人が入院を要したと推計されている。また、入院例の7%がなんらかの人工換気を必要としたとする報告もある。2017年にLancet誌に掲載されたシステマティックレビューに基づく推計1)によると、全世界では生後6ヵ月未満児の約4.6万人を含む、5歳未満の約10.1万人がRSV感染により死亡し、その大部分は低・中所得国で起きている。ニルセビマブの効果、海外での位置付けさて、そのニルセビマブの効果だが、在胎期間29週以上35週未満の健康な早産児を対象に行った50mg単回投与群とプラセボ投与群を比較した無作為化二重盲検第IIb相試験では、投与後150日間に受診を要した下気道感染の発現率は、ニルセビマブ群が2.6%、プラセボ群が9.5%で、ニルセビマブ群での発現率は70.1%(95%信頼区間[CI]:52.3~81.2)も有意に低下した。また、RSV感染流行期を初めて迎えた健康な正期産児および後期早産児(在胎35週以上)を対象に行われた無作為化プラセボ対照二重盲検第III相MELODY試験でも、投与後150日間に受診を要した下気道感染の発現率は、ニルセビマブ群が1.2%、プラセボ群が5%で、ニルセビマブ群での発現率は74.9%(95%CI:50.6~87.3、p<0.001)低下した2)。ご存じのようにRSVに関しては母子免疫を目的に妊婦が接種をする組換えRSVワクチン・アブリスボがすでに承認されており、過去の本連載(第289回)でも触れたように2026年4月からは妊娠28~36週の妊婦を対象に定期接種が開始された。こうした小児のRSV感染予防に向け、母子免疫ワクチンと抗体製剤が並立するのは、日本以外の先進国も同様である。ちなみに米国では、米国疾病予防管理センター(CDC)の低所得層や無保険の子供にワクチンを無償提供する連邦プログラム「Vaccines for Children(VFC)」の推奨予防接種スケジュールにニルセビマブが組み込まれた3)際、VFCでのワクチンの定義を抗体製剤も含む形に変更、また、欧州各国では医薬品の扱いのまま公的予防接種プログラムに組み込んでいる。母子免疫ワクチンと抗体製剤の相互の位置付け、使い分けに関しては、米国、欧州、オーストラリアなどでは原則どちらか一方を選択するとしている。母子免疫ワクチンを接種している母親から産まれた新生児・乳幼児には、原則は抗体製剤を投与せず、母子免疫ワクチンを接種していない場合は抗体製剤を選択できるという形だ。ただし、母親が出産直前にワクチンを接種したため抗体が十分移行していないと考えられるケースや早産で生まれてきた場合、出生児が重度の心疾患を有している場合などでは例外的に二重接種を認めている国もある。法改正、地味に反対されていた理由さて、実は今回の法改正については、衆院では「起立総員」すなわち全会一致、参院では賛成多数での可決だった。ここで「衆院は全会一致で、参院は賛成多数とは、参院では反対した政党がいたのか?」という疑問が湧く人もいるだろう。その通りである。衆院の採決結果も全会一致と記述したが、これは厳密に言えば、議場に出席した議員全員の賛成ということであり、欠席者は含まない。実際、当日の衆院本会議の議場の映像を見ると、議長に向かって右端方向に空席が目立つ。ちなみに衆参両院とも議長席に向かって左端から議席数の多い政党の議員席が配置される。さらに参院では個別議員の採決結果4)が公表されており、ここで衆院を欠席した政党・議員がほぼ予測可能になる。参院で同法改正に反対したのは参政党の15人とれいわ新選組の5人である。実際、参政党では、衆参両院の厚生労働委員会、れいわについては参院厚生労働委員会で所属議員が反対の立場から討論を行っている。以下に反対討論で述べられた理由について要約の上で箇条書きする(各人の反対理由は通し番号で列挙する)。◯牧野 俊一氏(衆院厚生労働委員会:参政党・北海道大学医学部卒)(1)高額なニルセビマブを国、自治体、保護者の負担割合が不明確なまま制度のみを先行させることには慎重であるべき(2)ニルセビマブの国際共同臨床試験では投与者の6.2%が抗薬物抗体(ADA)陽性であり、これが人体組織や細胞の一部と交差性を持ち、予期せぬ有害事象につながる可能性は否定しきれない(3)新たなモダリティを予防接種法に適用する以前に新型コロナワクチンやHPVワクチンの副反応で揺らいでいる予防接種行政への信頼回復が先決◯岩本 麻奈氏(参院厚生労働委員会 参政党・東京女子医科大学卒)(4)健康な乳幼児を含む、すべての乳幼児を対象とする根拠が十分に示されていない(5)ニルセビマブの非接種対比増分費用効果比(ICER)は643万8,000円/QALYで、日本で費用対効果の判断目安である500万円/QALYを超えている(6)新規抗体製剤ゆえ投与の有無に関連した乳幼児の安全性を継続的に検証する仕組みづくりが不可欠◯天畠 大輔氏(参院厚生労働委員会 れいわ新選組)(7)安全性の検証と被害救済が不十分(8)立法事実が曖昧なまま、ワクチンとは採用基準が異なる抗体製剤を予防接種法の対象に加えることへの懸念(9)妊婦向けの母子免疫ワクチンの安全性検証や副反応発生状況のデータが揃う前に次の抗体製剤の承認を進める二重推進への懸念以上は一見すると、一定の妥当性がある主張に見える人もいるだろう。ただ、私個人は公党の反対論拠としては疑問に感じるものが少なくない。まず、(3)と(7)の主張はかなり類似点が多い。たとえば新型コロナウイルス感染症ワクチンについては、これまで1万5,000件以上の健康被害救済制度への申請があり、その審査に時間を要し、なおかつ結果として「判定不能」となるものが多いのは事実であり、牧野、天畠氏とも反対討論前の質疑でこの点について言及している。制度のより円滑な運用を求める主張自体は妥当である。しかし、コロナワクチンに関しては、新規モダリティかつ日本国内で承認されたワクチンの中ではおそらく最も多くの国民が短期間のうちに接種したものであり、過剰反応や漠然とした不安も含め健康被害救済制度申請が多くなったやや異例の事態である。ゆえにそこでの審査遅れをもって制度全体が機能不全であるかのような指摘は、やや揚げ足取りの印象がある。また、そもそもワクチンと有害事象の因果関係を正確に判定するならば、たとえばワクチン接種者全員に対して接種前の検体採取などをしなければ、「判定不能」を減らすことはできない。しかし、そのようなオペレーションが現場でできるかは、医師である牧野氏ならばわかるはずである。そもそも新たな抗体製剤を予防接種法に位置付けるか否かという医学的な議論と予防接種に伴う健康被害救済制度の運用議論は、ある意味別次元のものでもある。そしてもし、今回の参政党やれいわの主張に沿うならば、健康被害救済制度の運用が改善されるまでは、国民は有効なワクチンや抗体製剤の恩恵を享受できないことになり、その間に感染症そのものの被害が拡大してしまう恐れがある。こちらのほうが政治としては失策である。一方、(2)、(6)、(7)、(9)はいずれも抗体製剤そのものの安全性に関する一抹の不安としては理解しうるが、これも揚げ足取りに映る。まず、岩本氏が主張する(6)は、ニルセビマブの場合、承認申請時に提出したプラセボ対照比較試験で一定程度立証済みである。このように書くと「それでは十分とは言えない」との反論もありそうだが、そもそも「どれだけの症例数・期間で、どのような結果ならば安全性が担保された」と言えるのだろうか? この問いは、よくありがちな「臨床試験上は短期的な安全性は確保されていると思われるが、長期ではわからない」という主張にも適用できるだろう。おおむねこの手の主張をする側は自分たちからは明確なエンドポイントは示さない。これでは揚げ足取りと言われても仕方ないのではと思う。また、牧野氏が主張する(2)で指摘するデータは事実だが、ADA陽性者と陰性者の抗体血中濃度は150日まではほぼ同等で、RSV感染率や安全性にも明らかな差は認められないと報告5)されている。さらに、米国食品医薬品局(FDA)の抗微生物薬専門委員会のニルセビマブに関する評価6)では、「2シーズン連続でニルセビマブを投与された被験者では、初回投与が第2シーズンの記憶ADA反応を誘導した、あるいは第1シーズンにADAを有していた被験者のADA反応を増強したことを示す証拠は認められなかった」と明記している。(1)と(5)はわかりやすく言えば、コスパである。この(5)で示されたICERは2025年10月に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会で報告された数字で、死亡と罹患中のQOL低下のみを考慮した結果である。このICERの500万円/QALYは、国内での過去の研究7)や国際比較などにより、日本での目安となった経緯があるが、金科玉条のものではない。ちなみに参考にされた研究では、日本での許容額は約500~600万円/QALYと幅のある計算になっていた。この目安に沿えば、ニルセビマブのICERはやや高めだが、前述のようにあくまで死亡と罹患中の患児のQOL低下のみを考慮し、たとえば子供が重症RSV感染症で入院したことに伴う親の経済損失などは考慮されていない。また、小委員会で示された試算では、RSV流行期直前に接種できた時のICERは274万円/QALYまで低下することも示されている。つまり使いようによってはかなり高いコスパが得られるということでもある。一方、牧野、岩本両氏が委員会審議でかなり追及したのが、このICER算定ではニルセビマブの接種費用を用量にかかわらず1回約4万5,000円としている点だ。これには驚く人もいるかもしれない。というのも、現在の国内でのニルセビマブの薬価は、体重5kg未満児向け50mgシリンジが約46万円、5kg以上児向け100mgシリンジが約90万円だからである。これに対しては、委員会の場で厚生労働省感染症対策部長の鷲見 学氏が、企業にヒアリングした結果、この算定価格を設定した旨を説明している。この価格は実は欧米の公的接種向けの卸売価格とほぼ同等であり、実際の納入価格はこれよりも安価といわれている。現在の日本の薬価がなぜこれだけ高いのかは、現状の保険適応対象が非常に限定的であり、その対象患者数の少なさを考慮して薬価設定が行われたと考えればほぼ納得できるはずだ。また、岩本氏は委員会質疑の中で過去5年のRSV感染症の年間死者数が最大29人であり、国側がその年齢別内訳のデータを持ち合わせていないことにも疑問を呈した。かみ砕いて言えば、小児の死者は少なく、その中でも早産児ではない正期産児での死者はごくわずか、すなわち健常乳幼児を幅広く接種対象とするのはコスパが悪いと言いたかったのだろう。もっとも、この点については岩本氏との質疑応答で、鷲見氏が“すべての新生児に接種した場合、絶対リスク減少値を年間の出生者数に単純に当てはめて計算すると約8,200人の入院を防げる”との試算を示している。ニルセビマブの接種で防げる乳幼児の死者はごくわずかでも、これだけの入院を防げるならば子供、親、医療者にとってもメリットは少なくないだろう。このような理由から、私には参政党、れいわ新選組の反対主張は、枝葉末節にこだわり過ぎであり、本質を見失っていると映る。れいわの天畠氏は参院厚生労働委員会の質疑冒頭で「わが党としては、経済的格差による医療アクセスの違いを解消し、子育て世代や小児医療の現場の負担を軽減しようとする政策目的には深く共感する」と発言していたが、失礼ながら今回のような重箱の隅をつつくような指摘に基づく反対によりもし法案が否決・遅延されていたならば、本来助成されるはずだった乳幼児の保護者に対し、高額な自己負担を強いることになる点をどのように考えているのだろう。目的への賛同と採決での反対という結論の間に政策選択上の矛盾が生じているようにしか思えない。いずれにせよ両党の主張については、私個人はやや厳しい言い方になるが、その発言の割には党利党略的なニオイしか感じないのである。1)Shi T, et al. Lancet. 2017;390:946-958.2)MELODY試験(ClinicalTrials.gov)3)CDC:RSV Immunization Guidance for Infants and Young Children4)衆議院:本会議投票結果(第221回国会2026年 7月 24日投票結果)5)Griffin MP, et al. N Engl J Med. 2020;383:415-425.6)AstraZeneca:Advisory Committee Briefing Document_Nirsevimab7)Ohsusa Y, et al. Iryo To Shakai. 2006;16:157-165.

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HIV-1感染者への週1回配合剤、1日1回薬に非劣性/NEJM

 ウイルス学的抑制を維持しているHIV-1感染者において、週1回投与の配合錠イスラトラビル/レナカパビル(ISL/LEN)は1日1回投与の配合錠ビクテグラビル/エムトリシタビン/テノホビル アラフェナミド(B/F/TAF)に対して、HIVウイルス量の抑制維持に関して非劣性であることが示された。ドイツ・ボン大学病院のJurgen K. Rockstroh氏らISLEND-1 Study Teamが日本を含む12ヵ国106施設で実施した第III相の二重盲検無作為化実薬対照非劣性試験「ISLEND-1試験」の結果を報告した。1日1回投与の配合錠はHIV-1感染者の治療を一変させたが、服薬アドヒアランスに関する課題が効果を限定的なものとしていることから、研究グループは長期作用型経口薬との組み合わせが投与頻度を抑えた新たな治療選択肢となりうるかを検証した。NEJM誌オンライン版2026年7月29日号掲載の報告。B/F/TAFからISL/LENへの切り替えの有効性および安全性を評価 ISLEND-1試験は、B/F/TAFの投与により少なくとも6ヵ月間ウイルス学的抑制(血漿HIV-1 RNA量50コピー/mL未満)を維持している18歳以上の成人HIV-1感染者を対象とし、1日1回投与のB/F/TAFから週1回投与のISL/LENへの切り替えの有効性および安全性を評価した。 被験者は、週1回投与のISL/LEN(2mg/300mg)群または1日1回のB/F/TAFを継続投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、96週間投与を受ける計画とされた。全被験者が適合プラセボの投与を受け、盲検化が維持された。 主要評価項目は、48週時点のHIV-1 RNA量50コピー/mL以上の被験者割合で、判定には米国食品医薬品局(FDA)が定義するスナップショットアルゴリズムが用いられ、非劣性マージンはFDAガイドラインに基づき4%ポイントと設定された。48週時点でHIV-1 RNA量50コピー/mL以上、切り替え群は0例 総計607例が無作為化され、主要解析に含まれた(304例がISL/LEN群、303例がB/F/TAF群)。被験者のうち21%が女性で、人種構成は31%が黒人、26%がヒスパニック/ラテン系であり、65歳以上の高齢者が15%であった。 48週時点でHIV-1 RNA量50コピー/mL以上の被験者は、ISL/LEN群では報告例がなく、B/F/TAF群では1例(0.3%)であった(群間差:-0.3%ポイント、95.002%信頼区間[CI]:-1.4~0.8)。また、HIV-1 RNA量50コピー/mL未満であった被験者は、それぞれ284例(93.4%)と280例(92.4%)であった(群間差:1.0%ポイント、95%CI:-3.2~5.2)。 48週時点におけるCD4+T細胞数のベースラインからの平均変化量は、ISL/LEN群-10個/μL、B/F/TAF群-18個/μLであった(最小二乗平均群間差:12個/μL、95%CI:-16~39)。 試験治療の中止に至った有害事象は、ISL/LEN群6例(2.0%)、B/F/TAF群5例(1.7%)で発現した。Grade3以上の重篤な有害事象の発現はそれぞれ16例(5.3%)および14例(4.6%)で報告された。

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ブラシ検査で口腔扁平上皮がんを高精度に検出

 新たな研究で、口腔扁平上皮がん(OSCC)を1時間以内に診断できる非侵襲的なブラシ検査が、がんの検出率向上につながる可能性が示された。ブラシで採取した細胞からRNAを抽出し、対象とする遺伝子のmRNA発現量を調べる多遺伝子アッセイ「qMIDSV3」により、OSCCを感度95.7%、特異度95.1%で検出できたという。英ロンドン大学クイーン・メアリー校分子口腔腫瘍学教授のMuy-Teck Teh氏らによるこの研究結果は、6月23日付で「Biomarker Research」に掲載された。 米国がん協会(ACS)によると、米国では2026年に、口腔・中咽頭がんの新規患者数は約6万480人、これらのがんによる死亡者数は約1万3,150人になると予測されている。また、研究グループによると、口腔がん患者の53%はステージ4になってから診断されている。ステージ4はがんが最も進行した状態で、治療の成功率も低くなる。口腔・中咽頭がんのリスクが高いのは、喫煙者、多量飲酒者、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染者である。さらに、日光曝露も、特に口唇がんリスクを高める。 口腔がんの診断では、舌や歯茎、頬、扁桃などから組織を採取する生検が必要となる。そのため、特に繰り返し検査が必要な場合には、患者だけでなく医師も生検の実施に消極的になりがちだという。 過去の研究では、マイクロバイオプシーを用いた多遺伝子アッセイであるqMIDSV2の有効性が検討された。今回の研究では、マイクロバイオプシーの代わりにブラシ検査を用いた多遺伝子アッセイ(qMIDSV3)でも同等の診断精度が得られるのかが検討された。qMIDSV3では、丸いブラシを使って口腔内の疑わしい病変から細胞を採取する。その後、採取した細胞からRNAを抽出し、OSCCとの関連が知られている2つの遺伝子(INHBA、S100A16)と、発現量を標準化するための2つの参照遺伝子(YAP1、POLR2A)の、計4遺伝子のmRNA発現量を測定し、その結果をアルゴリズムで解析して悪性指数を算出し、がんの可能性を評価する。 今回の研究では、545人の患者から採取した1,090検体を解析し、ブラシ検査の有効性を検証した。解析の結果、この検査のOSCC検出の感度は95.7%、特異度は95.1%であり、偽陽性率は4.9%、偽陰性率は4.3%であった。 Teh氏は、「ブラシによる細胞採取検査の性能がマイクロバイオプシーに匹敵したことには本当に驚いた。これは、この4つの遺伝子が示す生物学的シグナルの一貫性が極めて高いため、ブラシで採取した表層の剥離細胞からでも十分検出できることを示唆している」と述べている。その上で、「患者は、分子診断に基づくトリアージのために、従来のマイクロバイオプシーのような、低侵襲ではあるものの組織採取を伴う検査を受ける必要がなくなる」と強調している。研究グループは、qMIDSV3を導入することで、不必要な外科的組織生検の最大90%を回避できる可能性があると推定している。 Teh氏は、「口腔がんの生存率は、どれだけ早期に発見できるかに直接関係している。しかし、現行の診断方法は大まかで、疑わしい病変が見つかった患者の多くは、最終的に良性であるにもかかわらず、生検を受けることになる。qMIDSV3は、こうした状況を変える可能性がある。この検査を用いれば、臨床医は患者を迅速かつ非侵襲的に、高い精度でトリアージできるようになる。さらに重要なのは、繰り返し実施できるため、前がん病変が持続する患者を定期的かつ系統的に経過観察し、従来よりもはるかに早い段階で口腔がんを発見できる可能性があることだ」とニュースリリースで述べている。 ロンドン大学クイーン・メアリー校は現在、この検査を実用化するための商業パートナーを探しており、適切な提携先が見つかれば、約2年以内の市場投入が可能になるとしている。

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実臨床におけるレカネマブとAChE阻害薬の有用性比較

 アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬は、アルツハイマー病の症状を緩和する。一方、レカネマブは、アルツハイマー病の進行を修飾する可能性が示されている。しかし、レカネマブの安全性や臨床的影響に関するリアルワールド・エビデンスは、依然として限られている。台湾・Mackay Medical UniversityのChuo-Yu Lee氏らは、軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病の患者を対象に、レカネマブ投与を開始した場合とAChE阻害薬を投与した場合の安全性および有効性を比較するため、本研究を実施した。Alzheimer's Research & Therapy誌オンライン版2026年6月22日号の報告。 2023年7月〜2025年9月にMCIまたはアルツハイマー病と診断された患者を対象に、米国の電子カルテネットワークであるTriNetXを用いて、レトロスペクティブコホート研究を実施した。標的試験エミュレーションの手法を用いて、傾向スコアマッチング(1:1)およびCox比例ハザードモデルによってリスクの比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・レカネマブ群は、AChE阻害薬群と比較し、神経画像上の異常所見の発生率が5倍高いことが示された。しかし、治療継続率(1年間)は同程度であった(53.4%vs.52.5%)。・マッチング後、各コホートには589例が含まれた。・AChE阻害薬群と比較し、レカネマブ群は、認知症の行動・心理症状(BPSD)のリスク(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.36〜0.77)および救急受診のリスク(HR:0.66、95%CI:0.51〜0.85)が有意に低かった。一方、入院のリスクは高かった(HR:1.31、95%CI:1.03〜1.67)。・レカネマブの使用は、抗精神病薬(HR:0.47、95%CI:0.32〜0.70)、抗うつ薬(HR:0.60、95%CI:0.43〜0.85)、メラトニン受容体作動薬/オレキシン受容体拮抗薬(HR:0.61、95%CI:0.42〜0.88)、抗菌薬(HR:0.61、95%CI:0.44〜0.86)、抗真菌薬(HR:0.57、95%CI:0.37〜0.88)の使用頻度の低下と関連していた。一方、ステロイドの使用頻度は、レカネマブ使用者において高い傾向が認められた(HR:2.19、95%CI:1.55〜3.10)。 著者らは「レカネマブの投与開始は、AChE阻害薬を中心とした従来の治療戦略と比較し、同等の治療継続率を有していたほか、探索的解析において、BPSDや救急受診のリスク低下、精神神経用薬や感染症関連薬の使用減少が認められた。ただし、レカネマブに関連する神経画像上の異常所見の発生率が高かったことや入院およびコルチコステロイド使用のリスクが増加したことは、アミロイド関連画像異常(ARIA)に対する積極的な臨床モニタリングおよびマネジメントを反映している可能性が高い。残存交絡の可能性を排除できず、結果の解釈には慎重を期す必要があるものの、これらの探索的知見は、バイオマーカーで確認されたコホートや直接比較による無作為化試験により、さらなる検証に値するものである」としている。

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COVID-19後の眼症状、通常検査では見逃される異常が明らかに

 軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に12週間以上持続する目の症状に関する新たな知見が、リンショーピング大学(スウェーデン)実験眼科学教授のNeil Lagali氏らにより、7月8日付で「Nature Communications」に報告された。この研究によると、軽症のCOVID-19罹患後12週間以上、最長3年にわたり、強い目の痛みや光過敏(まぶしさ)、読書時の見えづらさ、ピントの合わせにくさといった症状に悩まされる患者が存在し、通常の眼科検査ではこうした症状の原因となる異常は見つからないものの、特殊な検査で神経や免疫の異常が確認されたという。Lagali氏は、「こうした患者が訴える眼症状の原因は、標準的な眼科検査では確認できず、異常を見つけるには特殊な検査を行う必要があった。その結果、パズルのピースがつながるように症状の原因が明らかになった」と述べている。 今回の研究では、軽症のCOVID-19罹患後に12週間以上持続する眼症状(persistent ocular symptom;POS)を有する患者100人と、COVID-19に罹患したもののPOSは発症していない対照者32人の目を調べた。 その結果、通常の眼科検査では両群に大きな違いは認められなかった。しかし、近見時の両眼の協調運動を詳しく調べたところ、POS群では、眼球がわずかに内側へずれる「内斜位」が認められ、眼球のずれを補正する能力(融像予備力)も低下していた。また、光刺激に対する動的瞳孔測定では、暗順応後の瞳孔径と光刺激後の最小瞳孔径はいずれも対照群より大きく、瞳孔が収縮するまでの時間も延長していた。研究グループは、POSの一つである光過敏について、瞳孔反射の異常によって眼内に入る光量を十分に調節できなくなっていることが一因である可能性を指摘している。さらに、内斜位については、眼球運動を制御する神経がCOVID-19の影響を受けた可能性があると考察している。 さらに、生体共焦点顕微鏡(IVCM)などを用いた詳細な検査では、POS群では角膜上皮基底下神経叢の神経線維密度の低下や、活性化した樹状細胞・T細胞の増加が認められ、角膜で炎症や免疫活性化が生じていることが示唆された。涙液のプロテオーム解析では、これらの所見を裏付ける神経障害やT細胞の制御異常、炎症に関連するタンパク質の発現パターンの変化が確認された。研究グループは、これらの結果はCOVID-19による長期的な神経炎症を示唆するものと考察している。 研究グループによると、POSを有する患者の症状は日常生活に大きな支障を及ぼしており、患者の3人に1人が休職または時短勤務を余儀なくされていると回答したという。Lagali氏は、「こうした患者は日常生活で本当に大変な思いをしている。今回の研究によって目に何が起きているのかが分かり、COVID-19がどのようにしてこれらの問題を引き起こしたのかを示す重要な手がかりも得られた」と話している。 研究チームは、今回の研究成果が、COVID-19罹患後のPOSのより適切な診断法や有効な治療法の開発につながることを期待している。

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日本におけるVZV髄膜炎発生率、12年で3倍超に

 日本における水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)髄膜炎の発生率は、過去12年間で3倍超に増加していることが、東京大学の山形 直毅氏らによる研究で明らかになった。一方で、大多数の患者はアシクロビルの長期静注療法により治療され、退院時には転帰が良好であったことも示されている。Journal of the Neurological Sciences誌2026年9月15日号掲載の報告より。 本研究では、2011年4月~2023年3月にVZV髄膜炎と診断された1,680例を、日本の全国入院患者データベースであるDPCデータを用いて特定した。VZV髄膜炎の年間発生率は、VZV髄膜炎患者数を各年の人口で除算し、DPC対象となる急性期病院の割合を用いて補正することにより算出した。また、対象患者の治療レジメン(抗ウイルス薬を含む)および臨床的アウトカム(院内死亡率および退院時のBarthel Index)について検討した。 主な結果は以下のとおり。・VZV髄膜炎の年間平均発生率は10万人年当たり0.25であり、2011年の0.13から2022年の0.46へと増加した。・96.4%の患者が初期治療として高用量アシクロビル静注療法を受け、投与期間中央値は11日間であった。アシクロビル静注療法を受けた患者のうち、89.3%が長期投与(7日間以上)を受けていた。・院内死亡率は0.8%であり、退院時のBarthel Indexが90以上であった患者は87.4%であった。

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働き方改革で研修医のバーンアウトは減ったのか~2万5千人を調査

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時、世界中で医師、とくに臨床研修医においてバーンアウトが大幅に増加した。一方、わが国では、医師の過重労働を減らし健康状態を改善するため、2023年に医師の働き方改革の準備を開始し、2024年4月に施行した。今回、千葉大学/英国・グラスゴー大学の小野 亮平氏らは、COVID-19流行時および国の働き方改革の準備期・施行期における、研修医のバーンアウトと労働環境の経時的変化について、多施設共同反復横断研究で調査した。その結果、臨床研修医のバーンアウトは2020年度に最も高く、その後、仕事への満足度、勤務時間、診療負担の改善に伴い減少したことが示された。BMJ Open誌2026年7月21日号に掲載。 本研究の対象は、日本医療教育プログラム推進機構(JAMEP)による2020年度・2022年度・2023年度・2024年度の基本的臨床能力評価試験(GM-ITE)を受験した1年目および2年目の臨床研修医である。自己記入式アンケートにより、週当たり勤務時間、救急当直回数、受け持ち入院患者数、自己学習時間、バーンアウトに関するデータを収集した。人口統計学的特性および施設特性を調整後、多変量ロジスティック回帰分析により働き方改革の各時期とバーンアウトとの関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・計2万5,368人の臨床研修医が参加した(2020年度:6,816人、2022年度:6,063人、2023年度:6,584人、2024年度:5,905人)。・バーンアウトの割合は、COVID-19流行初期の2020年度に最も高かった(21.7%)が、2024年度には13.3%に低下した。・仕事への満足度の割合は、2020年度の62.3%と比較して、働き方改革開始後の2024年度には75.4%まで改善した。・週80時間以上勤務していた臨床研修医の割合は、2020年度の19.9%から2024年度には2.3%に減少した一方、週45時間未満は2.5%から24.7%に増加した。・働き方改革前の2020年度・2022年度と比べたバーンアウトの調整オッズ比は、準備期の2023年度で0.60(95%信頼区間:0.55~0.66)、施行期の2024年度で0.67(同:0.61~0.74)であった。 著者らは「これらの結果は、業務負荷のバランスを改善するためのシステムレベルの取り組みが、臨床研修医のウェルビーイングの向上と関連している可能性を示唆している」と結論した。ただし、本研究が各年度で異なる臨床研修医を調査した反復横断研究であることやCOVID-19流行の収束と働き方改革の準備・施行時期が重なっていることなどから、働き方改革が原因と断定するには慎重な解釈が必要としている。

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新型コロナ・インフルワクチンの同時接種で有害事象は増えず

 この秋は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザの対策が一度で済むかもしれない。新たな研究で、新型コロナウイルスワクチン(以下、新型コロナワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種しても、インフルエンザワクチンのみを接種した場合と比べて安全上のリスクは増加しないことが示された。米ワシントン大学医学部および米VA St. Louis Health Care SystemのYan Xie氏らによるこの研究は、「Annals of Internal Medicine」に6月30日掲載された。 この研究では、米国の退役軍人(VA)約250万人の電子医療記録データを用いて、新型コロナワクチン(二価ワクチン、XBB対応ワクチン、およびKP対応ワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種した場合とインフルエンザワクチンを単独接種した場合とで、接種後90日以内の有害事象の発生について比較・評価した。2022年9月1日から2025年8月26日の間に70万5,124人が2種類のワクチンを同時接種し、181万3,205人はインフルエンザワクチンのみを接種していた。 有害事象は46種類を対象とし、重症度に応じて、1)重症で生命を脅かす事象(Tier 1)、2)臨床的に重要な事象(Tier 2)、3)比較的軽度または自己限定性の事象(Tier 3)の3段階に分類した。有害事象の具体的な例は、Tier 1では脳静脈洞血栓症や心筋梗塞、肺塞栓症など、Tier 2では心房細動や心房粗動、深部静脈血栓症など、Tier 3ではベル麻痺、失神、耳鳴りなどである。 解析の結果、重症度のレベルにかかわりなく、有害事象リスクについて同時接種群と単独接種群の間に統計学的な有意差は認められなかった。リスク比は、Tier 1で1.03(95%信頼区間0.99~1.09)、Tier 2で0.99(同0.96~1.03)、Tier 3で0.99(同0.96~1.02)であった。3種類の新型コロナワクチンが使用された期間別に解析しても、同時接種は有害事象のリスク増加と関連していなかった。 著者らは、「今回の結果は、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種することの短期的な安全性を支持するものであり、今後のワクチン接種に関する推奨を策定する際にも役立つ可能性がある」と述べている。

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第306回 無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省

<先週の動き> 1.無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省 2.高額療養費、8月から患者負担増 長期療養者には年間上限/厚労省 3.24年度の社会保障給付費138兆円 医療はコロナ費減で1.9%減/社人研 4.ドクターヘリの安定運航へ財政支援 広域搬送網の再設計も/厚労省 5.自由診療の再生医療に行政処分 患者死亡受け改善命令/厚労省 6.移植患者の術後管理置き去り 有償あっせんの元NPO理事長を再逮捕/警視庁 1.無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省厚生労働省は、2025年10月末時点の「無医地区」が全国で575地区となり、2022年の前回調査から18地区増えたと公表した。無医地区人口も12万2,206人から13万4,753人へ1万2,547人増加した。国による定義では無医地区とは「医療機関がなく、中心地点からおおむね半径4キロ以内に50人以上が居住し、受診に長時間を要するなど医療機関を容易に利用できない地域」を指す。長期的には1984年の1,276地区から徐々に減少してきていたが、今回の調査で増加に転じ、医師不足地域が再び広がり始めた可能性が示された。都道府県別では、大分県が44地区で前回より6地区増え、岩手県、島根県、山口県、沖縄県が各4地区増加した。無医地区人口は大分県で5,852人、沖縄県で3,861人、山口県で1,920人増えるなど、地区数以上に住民への影響が拡大した地域もある。その一方で、福岡県は4地区、富山県と奈良県は各2地区減少した。山形県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、佐賀県には無医地区がなかった。厚労省は、診療所の閉院や高齢医師の引退後に後継者を確保できないことが増加の主因とみている。なお、これとは別に厚労省は7月31日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、2028年度以降、医学部臨時定員を全国で削減する方針を示している。厚労省としては医師少数県や全国の医師偏在指標を下回る県には削減幅を緩和する考えだが、定員増は想定していない。このため、医師不足を訴える自治体からは地域偏在が固定化・助長される懸念が出ており、単純な医師養成数だけでなく、地域枠医師の離脱防止、結婚や育児、介護を含む柔軟な勤務、キャリア形成を支える伴走型支援が重要となる。さらに、基幹病院とへき地診療所が医師を融通する地域医療連携推進法人、巡回診療、オンライン診療、搬送体制を組み合わせ、1人の医師に依存しない広域ネットワークへ転換する必要がある。無医地区の拡大は、慢性疾患の継続管理や予防接種だけでなく、救急受診の遅れ、在宅医療・看取りの空白、基幹病院への患者集中にもつながる。医師には、地域の診療所単位ではなく、2次医療圏全体で外来、救急、在宅、訪問看護、薬局をどう維持するかという視点が求められる。 参考 1) 令和7年度無医地区等及び無歯科医地区等調査の結果を公表します(厚労省) 2) 575地区で医療機関ゼロ 22年比18増、厚労省調査(共同通信) 3) 「無医地区」増加に転じる 25年10月末 18増の計575地区に(CB news) 4) 「全国値」未満は緩和検討 厚労省 医学部臨時定員、28年度は全都道府県で削減へ(同) 2.高額療養費、8月から患者負担増 長期療養者には年間上限/厚労省高額な医療費の患者負担を抑える高額療養費制度が8月1日から見直された。所得区分ごとの月額自己負担上限は、住民税非課税世帯で4~5%、それ以外でおおむね7%引き上げられる。たとえば70歳未満で年収約370~770万円の場合、従来の「8万100円+医療費の一定部分の1%」から「8万5,800円+(総医療費-28万6,000円)×1%」となり、定額部分で5,700円増える。さらに2027年8月には所得区分を細分化し、年収約650~770万円では定額部分が11万400円となるなど、現行制度と比べ最大38%の負担増となる見通し。その一方で、長期療養者への配慮として、8月から年間自己負担上限が新設された。年収約370~770万円では年53万円で、所得に応じ18~168万円に設定される。直近12ヵ月で3回、月額上限に達すると4回目以降の負担が軽減される「多数回該当」の上限額は原則据え置く。これまで月ごとの上限にわずかに届かず、多数回該当の対象にならなかった患者も、年間上限により負担が抑えられる場合がある。ただし年間上限は償還払いとなるため、患者がいったん上限を超える金額を立て替えなければならない可能性がある。厚生労働省は今回の見直しにより、2027年度時点で保険料と公費による医療給付を年間約2,450億円削減できると試算する。このうち約1,070億円は、患者の受診行動の変化による医療費減少を見込んだものだ。厚労省は、長期療養者や低所得者に配慮しており、必要な受診が抑制されるとは想定していないと説明する。しかし、患者団体や医療関係者からは、がんや難病など高額な治療を継続する患者の受診控えや治療断念、生活困窮につながるとの懸念が出ている。また、今回の見直しによる患者側の負担増(所得区分や受療状況によって年間負担は異なる)に対し、保険料の軽減効果は1人当たり年約1,400円(月額約117円)にとどまり、負担増とのアンバランスさを疑問視する指摘もある。今回の見直しでは、高所得者ほど医療利用時の負担を重くする「応能負担」が強化された点も論点となる。保険料や税の段階ですでに所得に応じた負担を求める中、専門家からは給付を受ける際にも負担差を広げることが、国民皆保険を支える連帯を損なうとの意見もある。医療現場では、患者の年齢や所得区分、多数回該当、年間上限、加入する健康保険の付加給付を確認し、治療費の見通しを早期に説明する必要がある。また、マイナ保険証を利用すれば、原則として限度額適用認定証がなくても窓口負担を上限額までに抑えられる。がん相談支援センターや医療ソーシャルワーカーと連携し、経済的理由による治療の中断を防ぐ支援が一層重要となる 参考 1) 高額療養費制度 自己負担の上限額引き上げも 年間上限額を新設(NHK) 2) 高額療養費、負担上限が8月から最大7%増 来夏には最大38%増(朝日新聞) 3) 高額療養費見直し 政府説明をデータでたどると? ロジックに異論(同) 4) 所得高ければ医療費負担も重く…広がる「応能負担」、専門家は問題視(同) 5) 今日から変わる「高額療養費制度」 “年間上限”導入も自己負担増に患者団体「治療断念につながる」懸念(弁護士JPニュース) 3.24年度の社会保障給付費138兆円 医療はコロナ費減で1.9%減/社人研国立社会保障・人口問題研究所は、2024年度の社会保障費用統計を公表した。年金、医療、介護、子育て支援などに充てられた社会保障給付費(ILO基準)は138兆3,019億円で、前年度から2兆6,703億円、2.0%増加した。増加は3年ぶりで、新型コロナウイルス対策に伴う支出が膨らんだ2021年度の138兆7,544億円に次ぐ過去2番目の規模となった。人口1人当たりでは111万7,100円と、前年度より2万6,400円、2.4%増えた。部門別では、年金が57兆8,528億円と最も多く、前年度比1兆4,592億円、2.6%増加した。物価や賃金の動向を反映し、2024年度の年金改定率が+2.7%となったことなどが影響した。介護や子供・子育て、生活保護などを含む「福祉、その他」は35兆6,436億円で、2兆836億円の増加、6.2%増えた。介護報酬の+1.59%改定や児童手当の所得制限撤廃などが押し上げ要因となった。その一方で、医療は44兆8,055億円で、前年度から8,726億円、1.9%減少し、2年連続のマイナスとなった。新型コロナ対策費の縮小が主因で、医療需要そのものの減少を示すものではない。給付費全体に占める構成割合は、年金41.8%、医療32.4%、福祉その他25.8%だった。社会保障給付費の国内総生産(GDP)比は21.53%で、前年度より0.37ポイント低下した。給付費は増えたものの、GDPの伸びがそれを上回ったためで、2021年度の24.07%をピークに低下が続く。社会保障財源(ILO基準)は155兆6,896億円で、年金積立金の運用実績低下に伴う資産収入の減少により21.4%減少した。財源構成は社会保険料53.3%、公費37.5%など。高齢化に加え、物価・賃金、報酬改定、少子化対策が給付費を左右する構造が改めて示された。 参考 1) 令和6(2024)年度 社会保障費用統計の集計を公表します~社会保障給付費、3年ぶりに増加~(社人研) 2) 24年度の社会保障給付費138兆円 高齢化で2番目の水準 厚労省(時事通信) 3) 2024年度の社会保障給付費、過去2番目に多い138兆円 GDP比は低下(日経新聞) 4) 社会保障給付費が3年ぶりに増加 対GDP比は減少続く 24年度(朝日新聞) 5) 24年度の社会保障給付費、「医療」は1.9%減 社人研(MEDIFAX) 4.ドクターヘリの安定運航へ財政支援 広域搬送網の再設計も/厚労省厚生労働省は、整備士不足などで一部地域のドクターヘリが運休している問題を受け、「救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会」を開催し、安定運航に向けた議論を始めた。ドクターヘリは、救急医療機器を備え、医師・看護師が同乗して現場や搬送中に診療を行う専用機で、一般的に操縦士、整備士、医師、看護師らが搭乗する。2022年までに京都府を除く46都道府県へ導入されたが、整備士の確保難から東京、大阪、徳島などで運休が発生している。運休地域では、近隣県のドクターヘリ、消防防災ヘリ、ドクターカー、救急車による代替や相互応援が行われ、例外的に整備士を同乗させず操縦士2人で運航する「ツーパイロット制」も検討されている。大阪府は新たにエアロトヨタへ委託し、8月24日から月10日程度の限定運航を再開する予定だが、予備機を利用するため不具合時には再び停止する可能性がある。厚労省によると、2025年度は46都道府県57機で事業を実施した一方で、2026年4月時点で運航を委託できていたのは43都道府県54機にとどまった。年間受諾件数は2024年度に2万8,405件で、救急医療の基盤として定着している。国は今年度の当初予算に100億円を確保し、飛行時間に応じた運航委託費の補助基準額を引き上げた。さらに、機体整備や資機材、整備士確保などを支援する緊急事業として補正予算22億円を計上した。検討会では、短期的には運航事業者への財政支援、共同運航、規制の見直しを進め、9月にも中間取りまとめを行う。中長期的には整備士、操縦士、医療従事者の必要数を推計し、養成・確保策を構築する。今後は、ヘリ単独の維持ではなく、地域の搬送距離や疾病構造を踏まえ、消防防災ヘリやドクターカーを含む広域救急搬送網として再設計する視点が求められる。 参考 1) 救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)の現状について(厚労省) 2) ドクターヘリ安定運用に向けて必要な支援は何か、社会構造変化の中でドクターヘリの役割をどう考えるか-救急医療搬送体制検討会(Gem Med) 3) 大阪府のドクターヘリ、新たな委託先はエアロトヨタ 8月下旬から一部運航再開へ(産経新聞) 5.自由診療の再生医療に行政処分 患者死亡受け改善命令/厚労省厚生労働省は7月31日、自由診療の再生医療を提供していた「ネオポリス診療所銀座クリニック」(東京都中央区)と「大阪ベテスダクリニック」(大阪府泉佐野市)の管理者に対し、再生医療等安全性確保法に基づく改善命令を出した。銀座クリニックでは今年3月、慢性疼痛に対する治療として本人の脂肪由来細胞を投与された外国籍の60代女性が急変し、搬送先で死亡。厚労省は同月13日、治療の一時停止を命じ、その後、提供体制を調査していた。調査では、細胞加工を委託する事業者を介し、韓国の再生医療グループが患者ごとの投与細胞数や投与方法を指定したリストを作成し、クリニックがその内容に従って処置していたことが判明した。医師ではない第三者が実質的に治療内容を決定する体制が常態化し、治療で得た利益の大部分も同グループなどに渡っていたという。さらに、国に届け出た再生医療提供計画から逸脱した治療を行うなど、複数の法令違反が認められた。厚労省は、第三者の影響力を排除し、医療機関が自らの責任で適正な提供体制を構築するよう求めた。大阪ベテスダクリニックでも同様に第三者主導の提供体制が確認され、再生医療後に体調不良で入院を要した患者1人について必要な報告をしていなかったとして改善命令を受けた。銀座クリニックの死亡原因については引き続き調査中である。今回の事案は、患者死亡事故を契機とした立ち入り調査により、外部事業者主導の不適正な運営体制や計画逸脱が発覚し、法に基づく改善命令が出された(因果関係の調査は継続中)。さらに、高額な自由診療として拡大する再生医療で、治療の医学的妥当性だけでなく、指示系統、利益配分、有害事象報告、届け出内容との整合性を含む管理体制の検証が不可欠であることを示した。再生医療等安全性確保法では、医療機関が提供計画を作成し、認定再生医療等委員会の審査を経て国に届け出ることなどを求めている。外部の事業者が治療設計や集患、収益配分まで事実上支配すれば、医師の独立した判断や緊急時対応が損なわれる恐れがある。自由診療の再生医療を提供する医療機関は、委託先との契約関係や治療決定過程を点検し、重篤な有害事象を速やかに報告する体制の再確認が求められる。 参考 1) 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく改善命令等について(厚労省) 2) 不適切再生医療で銀座の診療所に改善命令 厚労省 細胞投与で外国籍の患者死亡(産経新聞) 3) 患者死亡の再生医療クリニックなどに改善命令 厚労省(NHK) 4) 「銀座クリニック」の黒幕/「再生医療」謳う自由診療に札付きの輩(FACTA online) 6.移植患者の術後管理置き去り 有償あっせんの元NPO理事長を再逮捕/警視庁警視庁などの合同捜査本部は7月28日、カンボジアでの生体腎移植を別の患者に有償であっせんしたとして、NPO法人「難病患者支援の会」の元理事長で、一般社団法人「国際医療相談室」を実質的に運営していた菊池 仁達容疑者(66)を臓器移植法違反の疑いで再逮捕した。再逮捕容疑は2025年、千葉県内の60代男性にカンボジアでの生体腎移植をあっせんし、医師への謝礼や手数料名目で約850万円を受け取った疑い。男性は渡航後、中国人コーディネーターに現地医療費などとして約13万ドル、当時約1,900万円を支払い、カンボジア人男性とみられるドナーから腎臓移植を受けたとされる。渡航前には、菊池容疑者と協力関係にあった大阪市内の病院で血液検査などを受け、病院長の紹介状が中国人コーディネーターを介して現地の中国人医師団に送られていた。その一方で、男性は「アフターケアも万全」と説明されていたにもかかわらず、帰国後の受け入れ先が確保されておらず、受診を断られるなどして10ヵ所余りの医療機関を転々とした。このため移植後に必要な処置を受けるまで2ヵ月以上かかったというが、現在の容体は安定している。捜査本部は、同法人が設立された2024年3月以降、少なくとも患者5人から計4,500万円以上を受け取り、その一部が菊池容疑者の保釈金調達に伴う借金返済へ充てられたとみている。患者ごとの請求額は約500~900万円と幅があった。菊池容疑者は過去にもベラルーシでの無許可移植あっせんで実刑判決を受けており、保釈中に今回の事業を主導した疑いがある。臓器移植法は、患者とドナーを対価により結び付ける行為や、無許可のあっせんを禁じている。今回の事件は、海外渡航移植の不透明な費用構造に加え、免疫抑制剤の投与や感染対策など、帰国後の国内医療への引き継ぎが整わないまま患者が置き去りにされる危険性も浮き彫りにしたが、海外での移植内容やドナー情報、感染症・免疫抑制療法に関する情報が不十分な場合、国内医療機関で安全な術後管理を引き継ぐことが困難になる問題も浮き彫りとなった。 参考 1) 臓器移植法違反事件 帰国後の男性 受診拒否で医療機関を転々(NHK) 2) 別の男性にも臓器移植手術あっせんか NPO元理事を再逮捕へ(同) 3) 臓器移植あっせん事件、別の患者からも対価か 元NPO理事再逮捕へ(朝日新聞) 4) 臓器有償あっせん、患者から受け取った現金を菊池被告が借金返済に…保釈金1,800万円の調達でできた借金(読売新聞)

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