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チルゼパチド、血糖コントロール不良の若年2型糖尿病患者に有効/Lancet

 メトホルミンや基礎インスリンで血糖コントロール不十分の若年発症2型糖尿病患者において、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの週1回投与はプラセボと比較し、血糖コントロールおよびBMIを有意に改善し、その効果は1年間持続した。米国・Indiana University School of MedicineのTamara S. Hannon氏らがオーストラリア、ブラジル、インド、イスラエル、イタリア、メキシコ、英国および米国の39施設で実施した、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SURPASS-PEDS試験」の結果で示された。若年発症2型糖尿病に対する治療選択肢は限られており、成人発症2型糖尿病と比較し血糖降下作用が低いことが知られている。若年発症2型糖尿病患者に対するチルゼパチドの臨床エビデンスは不足していた。Lancet誌オンライン版2025年9月17日号掲載の報告。チルゼパチド(5mg、10mg)群とプラセボ群を比較 SURPASS-PEDS試験の対象は、10歳以上18歳未満、体重50kg以上、BMI値が当該国または地域の年齢・性別集団の85パーセンタイル超の2型糖尿病患者で、メトホルミン(1,000mg/日以上)や基礎インスリンによる治療で血糖コントロールが不十分(スクリーニング時のHbA1c値6.5%超11%以下)の患者であった。 研究グループは、最長4週間のスクリーニング期の後、適格患者をチルゼパチド5mg群、10mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、30週間の二重盲検投与期にそれぞれ週1回皮下投与した。無作為化では、年齢層(14歳以下、14歳超)および血糖降下薬使用状況(メトホルミン、基礎インスリン、その両方)で層別化した。 チルゼパチドは2.5mgから開始し、割り付けられた用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。二重盲検投与期に引き続き、22週間の非盲検延長期に移行し、プラセボ群の患者にはチルゼパチド5mgを投与した。 主要エンドポイントは、チルゼパチド併合(5mgおよび10mg)群とプラセボ群との比較におけるベースラインから30週時までのHbA1c値の変化量であった。 主要な副次エンドポイント(第1種過誤を制御)は同HbA1c値の変化量のチルゼパチド各用量群とプラセボ群の比較、ベースラインから30週時までのBMI値の変化率(チルゼパチド各用量群および併合群とプラセボ群との比較)などであった。主要エンドポイントおよび副次エンドポイントは52週時においても評価した。30週時のHbA1c値変化量は-2.23%vs.+0.05%、BMI値変化率は-9.3%vs.-0.4% 2022年4月12日~2023年12月27日に146例がスクリーニングされ、99例が無作為化された(チルゼパチド5mg群32例、10mg群33例、プラセボ群34例)。患者背景は、女性60例(61%)、男性39例(39%)、平均年齢14.7歳(SD 1.8)、ベースラインの平均HbA1c値は8.04%(SD 1.23)であった。 30週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド併合群で平均-2.23%に対し、プラセボ群では+0.05%であり、チルゼパチド併合群の優越性が検証された(推定群間差:-2.28%、95%信頼区間:-2.87~-1.69、p<0.0001)。チルゼパチドの血糖降下作用は52週まで持続し、52週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド5mg群で-2.1%、10mg群で-2.3%であった。 30週時におけるBMI値の変化率は、チルゼパチド併合群-9.3%、5mg群で-7.4%、10mg群で-11.2%、プラセボ群-0.4%であり、チルゼパチド群はいずれもプラセボ群より有意な減少であった(対プラセボ群の併合群のp<0.0001、5mg群のp=0.0001、10mg群のp<0.0001)。 二重盲検期における有害事象の発現率は、プラセボ群44%(15/34例)、チルゼパチド5mg群66%(21/32例)、10mg群70%(23/33例)であった。チルゼパチド群で最も頻度の高かった有害事象は胃腸障害で、いずれも軽度~中等度であり、用量漸増期に発現し、経時的に減少した。投与中止に至った有害事象はチルゼパチド5mg群で2例(6%)に認められた。チルゼパチドの安全性プロファイルは成人での報告と一致した。試験期間中の死亡例は報告されなかった。

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さらなるAIツールを用いて医学的疑問や論文を簡単に検索!【タイパ時代のAI英語革命】第8回

さらなるAIツールを用いて医学的疑問や論文を簡単に検索!前回はChatGPTを用いた論文検索について解説しましたが、実はChatGPT以外にも、英語の医学論文を探したり読んだりすることに特化したAIツールが続々と登場しています。論文は、学会発表や研究執筆のためだけでなく、臨床における疑問や解決策を調べる際にも非常に役立ちます。必要な情報を論文から素早く簡単に得ることができれば、忙しい臨床現場でも大きな助けとなるでしょう。今回は、使いやすく、しかも無料で使えるAI論文検索ツールをご紹介します。1. Elicit:効率的にリサーチクエスチョンに答える概要と特徴Elicitは、英語の論文データベースから情報を抽出し、ユーザーのリサーチクエスチョンに対して「エビデンスに基づいた回答候補」を提示してくれるAIツールです。開発元は、米国の非営利研究機関「Ought」で、主に研究者や大学院生を対象としています。大きな特徴は、従来のPubMed検索と異なり、検索キーワードを探して整えなくとも、「質問文」を直接入力できる点にあります。たとえば、“Does vitamin D reduce the risk of respiratory infections?”(ビタミンDは呼吸器感染症のリスクを減らしますか?)と入力すると、それに関連する文献を自動で抽出し、著者名、要旨、研究対象・結果などを比較しやすい表形式で提示してくれます。Elicitは自ら論文データを保持しているわけではありませんが、PubMedを含むオープンアクセス型の論文データベースと連携しています。その中核を担っているのがSemantic Scholarという、AIを活用した無料の学術論文検索エンジンです(研究機関が開発した「AI版PubMed」のようなもの)。このSemantic Scholarのデータをベースに、ElicitがさらにAIで再構成した内容を検索結果として提示するため、各論文の要点が非常に整理されており、読みやすくなっているのが特徴です。Elicitは無料で使える機能が非常に充実しており、日常的な文献検索や簡単なリサーチには十分対応可能です。質問を入力すると、まず約50件の関連文献をピックアップし、その中から5〜10件程度の論文の要約と違いの比較を提示してくれます。さらに、各論文にはリンクも付いており、そこから元のジャーナルや原文にアクセスすることも可能です。有料プランに加入すると使える機能はさらに増えますが、筆者はこれまで無料プランであまり不便を感じたことはありません。具体的な使い方を説明していきましょう。使い方まずは、トップページにアクセスし、アカウント登録を行います。その後チャットボックスに、知りたい医学的な質問を英語で入力します。※日本語でも検索は可能ですが、その場合は日本語論文が多く抽出される傾向にあります。海外論文を中心に調べたい場合は、英語で質問することをお勧めします。Elicitの優れた点は、質問内容をその場で吟味してくれることです。入力したリサーチクエスチョンが適切かどうか、あるいはより詳細な質問が必要かを、検索前に教えてくれます。また、英語表現が多少不自然でも、AIが自動で修正してくれます。もちろん、完璧な英文で質問したい場合は、先週紹介したChatGPTを使って事前に英文を整えるのも良い方法です。しかし、明確なリサーチクエスチョンが決まっている場合やある程度の英語文がタイピングできる方は、細かい文法等は気にせず、直接Elicitに英語で書き込んでしまって大丈夫です。たとえば、“Does metformin reduce the risk of dementia?”(メトホルミンは認知症のリスクを軽減しますか?)と入力すると、Elicitがさらに詳細な関連質問を3つほどチャットボックスの下部に提示してくれます。クリックすると、“Does metformin reduce the risk of dementia in older adults with type 2 diabetes?”(メトホルミンは2型糖尿病を患う高齢者の認知症リスクを軽減しますか?)といったように、より具体的なクエスチョンに自動で書き換えてくれます(このとき、英語の文法も修正してくれます)。これで右矢印ボタンをクリックして1分ほど待つと、表形式で文献がリストアップされます。画像を拡大する内容としては、以下のような情報が表示されます。文献タイトル発表年研究デザイン研究対象(例:高齢者、糖尿病患者など)サンプルサイズ結果の概要全文解析かアブストラクトのみの解析かこれらの情報が一覧で表示されるため、文献の傾向や比較が一目でわかります。気になる論文があれば、それをクリックすることで、要約ページや原文サイトへのリンクにアクセスすることが可能です。結果はまとめて登録したメールアドレスに送られるので、あとから見返すのにも便利です。2. OpenEvidence:系統的レビュー作成の革新的ツール概要と特徴OpenEvidenceは、Daniel Nadler氏によって設立された医療AIスタートアップで、AIを活用してエビデンスマップやシステマティックレビューを自動生成するプラットフォームです。AIに加えて専門チームの人間によってもハイブリッドで評価・更新されています。見た目や使用感はChatGPTに似ていますが、医学情報のみに特化している点が大きな特徴です。このOpenEvidenceの最大の魅力は、どんな医学的な質問にも、論文の引用元情報を添えて即座に回答してくれることにあります。まさに「革新的」で、使いやすさという観点では世界的に有名なUpToDateすらしのぐ印象です。さらに現在(2025年9月時点)、OpenEvidenceは無料で提供されています。日本国内でも、医療者、医学生、研究者であれば登録するだけでフル機能を利用可能なはずです。OpenEvidenceが優れている点はいくつもありますが、主なものを2つ挙げます。1)引用される論文の質の高さ文献は主にPubMedやEMBASEなどから収集されており、たとえばNEJMやJAMAといった、世界のトップジャーナルの論文がよく引用されることが特徴です。もちろん、最終的な引用の妥当性については各自で確認が必要ですが、筆者の経験上、AIハルシネーション(AIによる捏造)のような現象はほとんど起きていません。2)英語で質問を入力する必要がない「AIと医療英語の連載記事」という本連載の大前提が崩れてしまいますが、英語が前提な多くの医療AIツールの中で、OpenEvidenceでは日本語で質問を入力すれば、日本語で回答が返ってきます。しかも、回答には英語の論文の引用情報も付いてくるのです。つまり、AIが日本語の質問を英訳し、英語文献を検索・要約したうえで、それを再び日本語に翻訳して提示してくれている、という複雑なプロセスを一瞬で行ってくれています。使い方まずはサイトにアクセスし、メールアドレスの登録を済ませます。その際に、画像を拡大するこのような画面が出てきますが、これに医療関係者であることを示すものを送ればすぐ使えるようになります(日本のライセンスでも可能です)。一旦登録すると、その後は制限なく利用可能です。画像を拡大する知りたい内容をチャットボックスに入力すると、その質問に対する自動生成された情報と、対応する引用文献が提示されます。引用元を確認したい場合は、画面を下にスクロールすることで、論文のリンクだけでなく、研究の種類や質についての細かな情報も確認できます。論文を探すことはもちろんですが、日常臨床の疑問に対する情報収集に最も適していると感じます。まとめ2つのツールを紹介しました。それぞれの簡単な特徴は以下のとおりです。Elicit研究同士の比較がしやすい。疑問テーマが決まっているときの初期検索OpenEvidence文章での記載で読みやすい。臨床現場の疑問やエビデンスチェックこれらのツールをうまく組み合わせることで、論文の情報を短時間に効率的に引き出すことができます。ぜひ活用してみてください。

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経口orforglipron、肥満成人の減量に有効~日本を含む第III相試験/NEJM

 非糖尿病の成人肥満者において、プラセボと比較して経口低分子GLP-1受容体作動薬orforglipronは有意な体重減少をもたらすとともに、ウエスト周囲長や収縮期血圧、非HDLコレステロール値を改善し、有害事象プロファイルは他のGLP-1受容体作動薬と一致する。カナダ・McMaster UniversityのSean Wharton氏らATTAIN-1 Trial Investigatorsが、第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験「ATTAIN-1試験」の結果を報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年9月16日号で発表された。日本を含む9ヵ国137施設で実施 ATTAIN-1試験は、日本を含む9ヵ国137施設で行われた(Eli Lillyの助成を受けた)。2023年6月~2025年7月に、年齢18歳以上で、BMI値30以上、または同27~30で少なくとも1つの肥満関連合併症(高血圧、脂質異常症、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群)に罹患し、減量を目的とする食事療法に失敗した経験が1回以上あると自己報告した患者3,127例を登録した。糖尿病の診断を受けた患者と、スクリーニング前の90日以内に±5kg以上の体重の変動を認めた患者は除外した。 被験者を、健康的な食事と身体活動に加えて、orforglipron 6mgを1日1回経口投与する群(723例)、同12mg群(725例)、同36mg群(730例)、プラセボ群(949例)に無作為に割り付け、72週間投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週目までの体重の平均変化量とした。 ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は45.1(±12.1)歳、女性が2,009例(64.2%)で、平均体重は103.2kg、平均BMI値は37.0であり、参加者の36.0%が前糖尿病であった。減少率別の達成率も有意に改善 ベースラインから72週目までの体重の平均変化量は、プラセボ群が-2.1%(95%信頼区間[CI]:-2.8~-1.4)であったのに対し、orforglipron 6mg群は-7.5%(-8.2~-6.8)、同12mg群は-8.4%(-9.1~-7.7)、同36mg群は-11.2%(-12.0~-10.4)であり、用量依存性の体重減少を認めた。 体重の平均変化量のプラセボ群との群間差は、orforglipron 6mg群が-5.5%ポイント(95%CI:-6.5~-4.5)、同12mg群が-6.3%ポイント(-7.3~-5.4)、同36mg群は-9.1%ポイント(-10.1~-8.1)と、いずれの用量とも有意に優れた体重減少効果を示した(すべてのp<0.001)。 また、72週時に、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上の体重減少率を達成した患者の割合は、いずれもプラセボ群に比べorforglipronのすべての用量群で有意に高かった(多重性の調整を行っていないためp値を表記しない6mg群の減少率20%以上を除き、すべてのp<0.001)。たとえば、10%以上の体重減少を達成した患者の割合は、プラセボ群が12.9%であったのに対し、orforglipron 6mg群は33.3%、同12mg群は40.0%、同36mg群は54.6%であった。 さらに、orforglipron群では、ウエスト周囲長(72週目までの平均変化量:orforglipron 6mg群-7.1cm、同12mg群-8.2cm、同36mg群-10.0cm、プラセボ群-3.1cm、プラセボ群との比較で3つの用量群のすべてのp<0.001)、収縮期血圧(3つの用量群の統合解析とプラセボ群の変化量の群間差:-4.2mmHg、95%CI:-5.3~-3.2、p<0.001)、非HDLコレステロール値(変化率の群間差:-4.9%、95%CI:-6.7~-3.1、p<0.001)、トリグリセライド値(変化率の群間差:-11.5%、95%CI:-14.5~-8.3、p<0.001)などの心代謝系リスク因子の有意な改善を認めた。また、無作為化の時点で前糖尿病であった患者のうち72週目に正常血糖値に達した割合は、プラセボ群の44.6%に対し、3つの用量のorforglipron群では74.6~83.7%の範囲であった。軽度~中等度の消化器系有害事象が多い orforglipron群で頻度の高い有害事象は悪心、便秘、下痢、嘔吐などの消化器症状で、ほとんどは軽度~中等度であった。消化器系の有害事象による投与中止は、orforglipron群の3.5~7.0%、プラセボ群の0.4%で発生した。 重篤な有害事象は、orforglipron群の3.8~5.5%、プラセボ群の4.9%に発現し、72週目までに3例が死亡した(6mg群1例[死因不明]、12mg群1例[転移のある卵巣がん]、プラセボ群1例[肺塞栓症])。orforglipron群の5例で軽度の膵炎がみられ、orforglipron群の7例とプラセボ群の1例で正常上限値の10倍以上に達するアミノトランスフェラーゼ値の上昇が報告された。また、平均脈拍数は、orforglipron群で4.3~5.3拍/分の増加を認めたが、プラセボ群では0.8拍/分の増加だった。 著者は、「GLP-1受容体作動薬は、体重減少を誘導する作用と、体重に依存しない直接的な作用の両方によって心血管アウトカムを改善する可能性があるが、orforglipronによる体重減少とバイオマーカーの変化が心血管リスクの低減につながるかを知るには、それ専用のアウトカム試験が必要である」「低分子化合物は標的でない受容体に結合する可能性があるため、付加的な有害作用の可能性が高まるが、本薬剤の開発計画ではそのような作用は検出されておらず、安全性プロファイルはペプチド性GLP-1受容体作動薬の第III相試験の結果と一致する」としている。

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新薬が血圧コントロール不良の慢性腎臓病患者に降圧効果

 アルドステロンというホルモンを合成する酵素を阻害する新薬のバクスドロスタットの投与により、既存の薬では高血圧をコントロールできなかった慢性腎臓病(CKD)患者の収縮期血圧が約5%低下したとする第2相臨床試験(FigHTN)の結果が報告された。米ユタ大学保健学部のJamie Dwyer氏らによるこの研究結果は、米国心臓協会(AHA)のHypertension Scientific Sessions 2025(9月4〜7日、米ボルチモア)で発表されるとともに、「Journal of the American Society of Nephrology」に9月6日掲載された。Dwyer氏は、「CKDと高血圧を抱えて生きる人にとって、この研究結果は励みになる。この2つの病状はしばしば同時に進行し、危険な悪循環を生み出す」と述べている。 CKDと高血圧は密接に関連しており、適切に管理されない場合、心筋梗塞、脳卒中、心不全、腎不全への進行などの深刻な転帰を招く可能性がある。副腎から分泌されるアルドステロンは、体内でのナトリウムと水分の保持を促すことで血圧の上昇を引き起こす。このホルモンが過剰になると、時間の経過とともに血管の硬化と肥厚が起こり、心臓の損傷や腎臓の瘢痕化につながる可能性があり、高血圧と慢性腎臓病の両方に悪影響を与え得る。 今回の試験では、CKDを有し、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬またはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)による治療を受けても高血圧が十分にコントロールされていない195人の患者(平均年齢66歳、女性32%)を対象に、バクスドロスタットの有効性が検討された。対象患者の選定基準は、座位収縮期血圧が非糖尿病患者で140mmHg以上、糖尿病患者で130mmHg以上、かつ尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)が100mg/g以上とした。患者は、26週間にわたり低用量(0.5mgから最大1mgまで漸増)のバクスドロスタットを投与する群(低用量群)、高用量(2mgから4mgまで漸増)の同薬を投与する群(高用量群)、およびプラセボを投与する群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、26週時点の座位収縮期血圧のベースラインからの変化量とされた。 ベースライン時の平均収縮期血圧は151.2mmHg、平均推算糸球体濾過量(eGFR)は44mL/分/1.73m2、UACRの中央値は714mg/gであった。26週間後のプラセボ群と比べた収縮期血圧の低下の幅は、バクスドロスタット投与群全体で−8.1mmHg(P=0.003)、低用量群で−9.0mmHg(P=0.004)、高用量群で−7.2mmHg(P=0.02)であった。 また、バクスドロスタット投与群では、プラセボ群と比較して、UACRが55.2%減少した。尿中のアルブミン値が高いことは、心臓病や腎臓病の予測因子と考えられている。Dwyer氏は、「これは、バクスドロスタットによる治療により長期的な利益を得られる可能性を期待させる結果だ」と指摘。「尿中アルブミン値の減少は、バクスドロスタットが腎障害進行の遅延にも役立つ可能性があることを示している。この可能性は現在、2つの大規模な第3相試験で評価されているところだ」とコメントしている。 バクスドロスタットの投与に伴い最も多く見られた副作用は血中カリウム濃度の上昇で、バクスドロスタット投与群の41%に発生したのに対し、プラセボ群ではわずか5%だった。ただし、ほとんどの症例は軽度から中等度であった。 AHAの高血圧および腎臓心血管科学委員会の前委員長である米ペンシルベニア大学ペレルマン医学部のJordana Cohen氏は、「高血圧やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の亢進を伴うCKD患者を対象とした試験で、薬剤への耐性が良好で、血圧とアルブミン尿の両方に効果があったことは、非常に心強い。この薬剤クラスは、CKD患者の高血圧管理に画期的な変化をもたらす可能性がある」とAHAのニュースリリースの中で述べている。なお、本研究は、バクスドロスタットの開発元であるアストラゼネカ社の資金提供を受けて実施された。

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糖尿病患者の約半数は自分の病気に気付いていない

 世界中の糖尿病患者の半数近くが、自分が糖尿病であることを知らずにいるとする研究結果が、「The Lancet Diabetes & Endocrinology」に9月8日掲載された。米ワシントン大学健康指標評価研究所のLauryn Stafford氏らの研究によるもので、全糖尿病患者の中で適切な血糖管理が維持されているのは5人に1人にとどまることも示されている。 この研究により、世界の15歳以上の糖尿病患者の44.2%が、自身の病気を認識していないと推計された。論文の筆頭著者であるStafford氏は、「2050年までに世界の糖尿病患者数は13億人に達すると予想されている。もし、半数近くの患者が、命に関わることもある深刻な健康状態にあることに気付いていない状況がこのまま続いたとしたら、糖尿病という病気はサイレント・エピデミック(静かなる疫病)へと移行していくだろう」と述べている。 さらに良くないことに、自分が糖尿病であると知っている人のうち、適切に血糖値をコントロールできている人は半数以下であることも明らかにされた。具体的には、糖尿病と診断された人の91.4%が何らかの薬を服用しているが、血糖値が適切にコントロールされているのはわずか41.6%だった。つまり、全体として、糖尿病患者のうち、血糖値をコントロールし潜在的な健康リスクを最小限に抑えられているのは、わずか21.2%に過ぎないと計算された。この現状に対して研究者らは、「糖尿病だと知らずにいたり、治療がおろそかだったりすると、合併症や早期死亡のリスクが高まる。できるだけ早い診断と適切な血糖管理が必要だ」と述べている。 この研究は、2023年の世界疾病負担研究(GBD2023)のデータを用いて行われた。2023年時点で、世界の204の国や地域における糖尿病患者数は5億6100万人と推定され、各国の糖尿病診断率や治療状態に関する調査結果を統合した解析の結果、国によってそれらの状況が大きく異なることが明らかになった。特に、国民所得による格差が大きかった。 糖尿病が診断されている割合が最も高いのは北米で、患者の約83%が適切に診断されていた。また、南ラテンアメリカ(80%)や西ヨーロッパ(78%)の診断率も高かった。それに対してサハラ以南の中央アフリカでは、わずか16%にとどまっていた。 研究者らは、「世界保健機関(WHO)は2022年に糖尿病患者の80%が2030年までに臨床的な診断を受けられるようにするという目標を設定しているが、今回の研究結果によれば、その達成には糖尿病を発見するための健診プログラムへの投資が必要だ」としている。また、糖尿病治療薬へのアクセス、および自分の血糖値を測定できる環境の整備が、喫緊の課題だとも述べている。研究チームではさらに、「各国の保健システムは、糖尿病患者の合併症を減らすため、診断能力の向上と医療サービスの提供改善に向けた取り組みを優先し続ける必要がある」と付け加えている。

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HFpEF/HFmrEFの今:2025年JCS/JHFS心不全診療ガイドラインに基づく新潮流【心不全診療Up to Date 2】第4回

HFpEF/HFmrEF診療の新たな潮流『2025年改訂版心不全診療ガイドライン』(日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン)は、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)および軽度低下した心不全(HFmrEF)の診療における歴史的な転換点を示すものであった。長らく有効な治療法が乏しかったこの領域は、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン[商品名:ジャディアンス]またはダパグリフロジン[同:フォシーガ])や非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド[同:ウゴービ皮下注]、チルゼパチド[同:マンジャロ])*といった医薬品の新たなエビデンスに基づき、生命予後やQOLを改善しうる治療戦略が確立されつつある新時代へと突入した。本稿では、最新心不全診療ガイドラインの要点も含め、HFpEF/HFmrEF診療の新たな潮流を概説する。*セマグルチドは肥満症のLVEF≧45%の心不全患者へ、チルゼパチドは肥満症のLVEF≧50%の心不全患者に投与を考慮する定義と病態の再整理ガイドラインでは、Universal Definition and Classification of Heart Failure**に準拠し、左室駆出率(LVEF)に基づく分類が踏襲された。HFpEFはLVEFが50%以上、HFmrEFは41~49%と定義される。とくにHFpEFは、高齢化を背景に本邦の心不全患者の半数以上を占める主要な表現型となっており、高齢、高血圧、心房細動、糖尿病、肥満など多彩な併存症を背景とする全身性の症候群として捉えるべき病態である1)。HFpEFがこのように心臓に限局しない全身的症候群であることが、心臓の血行動態のみを標的とした過去の治療薬が有効性を示せなかった一因と考えられる。そして近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった、代謝など全身へ多面的に作用する薬剤が成功を収めたことは、この病態の理解を裏付けるものである。**日米欧の心不全学会が合同で2021年に策定した心不全の世界共通の定義と分類一方、HFmrEFはLVEF40%以下の心不全(HFrEF)とHFpEFの中間的な特徴を持つが、過去のエビデンスからは原則HFrEFと同様の治療が推奨されている。ただ、HFmrEFはLVEFが変動する一過程(transitional state)をみている可能性もあり、LVEFの経時的変化を注意深く追跡すべき「動的な観察ゾーン」と捉える臨床的視点も重要となる。診断の要点:見逃しを防ぐための多角的アプローチ心不全診断プロセスは、症状や身体所見から心不全を疑い、まずナトリウム利尿ペプチド(BNP≧35pg/mLまたはNT-proBNP≧125pg/mL)を測定することから始まる。次に心エコー検査が中心的な役割を担う。LVEFの評価に加え、左室肥大や左房拡大といった構造的異常、そしてE/e'、左房容積係数(LAVI)、三尖弁逆流最大速度(TRV)といった左室充満圧上昇を示唆する指標の評価が重要となる。安静時の所見が不明瞭な労作時呼吸困難例に対しては、運動負荷心エコー図検査や運動負荷右心カテーテル検査(invasive CPET)による「隠れた異常」の顕在化が推奨される(図1)2)。(図1)HFpEF早期診断アルゴリズム画像を拡大するさらに、心アミロイドーシスや肥大型心筋症など、特異的な治療法が存在する原因疾患の鑑別を常に念頭に置くことが、今回のガイドラインでも強調されている(図2)。(図2)HFpEFが疑われる患者を診断する手順画像を拡大する治療戦略のパラダイムシフト本ガイドラインが提示する最大の変革は、HFpEFに対する薬物治療戦略である(図3)。(図3)HFpEF/HFmrEFの薬物治療アルゴリズム画像を拡大するHFrEFにおける「4つの柱(Four Pillars)」に比肩する新たな治療パラダイムとして、「SGLT2阻害薬を基盤とし、個々の表現型に応じた治療薬を追加する」という考え方が確立された。EMPEROR-Preserved試験およびDELIVER試験の結果に基づき、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無にかかわらず、LVEF>40%のすべての症候性心不全患者に対し、心不全入院および心血管死のリスクを低減する目的でクラスI推奨となった3,4)。これは、HFpEF/HFmrEF治療における不動の地位を確立したことを意味する。これに加えて、今回のガイドライン改訂で注目すべきもう一つの点は、nsMRAであるフィネレノン(商品名:ケレンディア)がクラスIIaで推奨されたことである。この推奨の根拠となったFINEARTS-HF試験では、LVEFが40%以上の症候性心不全患者を対象に、フィネレノンがプラセボと比較して心血管死および心不全増悪イベント(心不全入院および緊急受診)の複合主要評価項目を有意に減少させることが示された5)。一方で、従来のステロイド性MRAであるスピロノラクトンについては、TOPCAT試験において主要評価項目(心血管死、心停止からの蘇生、心不全入院の複合)は達成されなかったものの、その中で最もイベント数が多かった心不全による入院を有意に減少させた6)。さらに、この試験では大きな地域差が指摘されており、ロシアとジョージアからの登録例を除いたアメリカ大陸のデータのみを用いた事後解析では、主要評価項目も有意に減少させていたことが示された7)。これらの結果を受け、現在、HFpEFに対するスピロノラクトンの有効性を再検証するための複数の無作為化比較試験(SPIRRIT-HFpEF試験など)が進行中であり、その結果が待たれる。その上で、個々の患者の表現型(フェノタイプ)に応じた治療薬の追加が推奨される。うっ血を伴う症例に対しては、適切な利尿薬、利水薬(漢方薬)の投与を行う(図3)8)。また、STEP-HFpEF試験、SUMMIT試験の結果に基づき、肥満(BMI≧30kg/m2)を合併するHFpEF患者には、症状、身体機能、QOLの改善および体重減少を目的としてGLP-1受容体作動薬がクラスIIaで推奨された9,10)。これは、従来の生命予後中心の評価軸に加え、患者報告アウトカム(PRO)の改善が重要な治療目標として認識されたことを示す画期的な推奨である。さらに、PARAGON-HF試験のサブグループ解析から、LVEFが正常範囲の下限未満(LVEFが55~60%未満)のHFpEF患者やHFmrEF患者に対しては、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI、サクビトリルバルサルタンナトリウム[同:エンレスト])が心不全入院を減少させる可能性が示唆され11,12)、クラスIIbで考慮される。併存症管理と今後の展望HFpEFの全身性症候群という概念は、併存症管理の重要性を一層際立たせる。本ガイドラインでは、併存症の治療が心不全治療そのものであるという視点が明確に示された。SGLT2阻害薬(糖尿病、CKD)、GLP-1受容体作動薬(糖尿病、肥満)、フィネレノン(糖尿病、CKD)など、心不全と併存症に多面的に作用する薬剤を優先的に選択することが、現代のHFpEF/HFmrEF診療における合理的かつ効果的なアプローチである。今後の展望として、ガイドラインはLVEFという単一の指標を超え、遺伝子情報やバイオマーカーに基づく、より詳細なフェノタイピング・エンドタイピングによる個別化医療の方向性を示唆している13)。炎症優位型、線維化優位型、代謝異常優位型といった病態の根源に迫る治療法の開発が期待される。 1) Yaku H, et al. Circ J. 2018;82:2811-2819. 2) Yaku H, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2025 Jul 17. [Epub ahead of print] 3) Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461. 4) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098. 5) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2024;391:1475-1485. 6) Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392. 7) Pfeffer MA, et al. Circulation. 2015;131:34-42. 8) Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312. 9) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084. 10) Packer M, et al. N Engl J Med. 2025;392:427-437. 11) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620. 12) Solomon SD, et al. Circulation. 2020;141:352-361. 13) Hamo CE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2024;10:55.

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生後1週間以内の侵襲性感染症が小児てんかんリスクと関連

 てんかんは小児期に発症することの多い神経疾患で、健康や生活への影響が生涯にわたることも少なくないため、予防可能なリスク因子の探索が続けられている。オーフス大学病院(デンマーク)のMads Andersen氏らは、新生児期の侵襲性感染症罹患に伴う炎症が脳損傷を引き起こし、てんかんリスクを押し上げる可能性を想定し、全国規模のコホート研究により検証。結果の詳細が「JAMA Network Open」に7月7日掲載された。 この研究では、1997~2013年にデンマーク国内で、在胎35週以上の単胎児で重篤な先天異常がなく出生した全新生児を対象とし、2021年まで、または18歳になるまで追跡した。生後1週間以内に診断された敗血症または髄膜炎を「出生早期の侵襲性細菌感染症」と定義し、そのうち血液または脳脊髄液の培養で細菌性病原体が確認された症例を「培養陽性感染症」とした。てんかんは、診断の記録、または抗てんかん薬が2回以上処方されていた場合で定義した。 解析対象となった新生児は98万1,869人で、在胎週数は中央値40週(四分位範囲39~41)、男児51%であり、このうち敗血症と診断された新生児が8,154人(0.8%)、培養陽性敗血症は257人、髄膜炎と診断された新生児は152人(0.1%未満)、培養陽性髄膜炎は32人だった。追跡期間中に、1万2,228人(1.2%)がてんかんを発症していた。 出生早期の侵襲性細菌感染症がない子どもの追跡期間中のてんかん発症率は、1,000人年当り0.9であった。それに対して出生早期に敗血症と診断されていた子どもは同1.6であり、発症率比(IRR)は1.89(95%信頼区間1.63~2.18)だった。一方、出生早期に髄膜炎と診断されていた子どもは発症率が8.6(4.2~5.21)で、IRRは9.85(5.52~16.27)だった。 性別、在胎週数、出生体重、母親の年齢・民族・喫煙・教育歴・糖尿病などを調整したCox回帰分析の結果、出生早期に敗血症と診断されていた子どもは、追跡期間中のてんかん発症リスクが有意に高いことが示された(調整ハザード比1.85〔1.60~2.13〕)。 Andersen氏らは、「この結果は出生後早期の細菌感染の予防と治療が、小児てんかんのリスク抑制につながる可能性を示唆している」と述べている。なお、著者の1人がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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従来2台必要な眼科手術機器を1台で/日本アルコン

 日本アルコンは、白内障および網膜硝子体手術を1台でこなす“UNITY VCS”の発売に際し、都内でメディアセミナーを開催した。白内障は加齢により起こる水晶体が混濁する疾患だが、高齢化社会のわが国では患者数、手術数ともに増加している。今回発売される本機は、従来は別々のプラットフォームに搭載した手術装置で行われていた白内障および網膜硝子体手術が1台のプラットフォームに集約され、処置室の省スペース化を実現する。 セミナーでは、白内障などの疾患概要と手術の講演のほか、本機の機能紹介などが行われた。本機は秋以降に発売が開始される。白内障などの眼科手術を効率よく、さらに安全に 「白内障および網膜硝子体手術について」をテーマに、井上 真氏(杏林大学医学部眼科学教室 教授)が、白内障および網膜硝子体疾患の概要、手術の手順や効率化などのポイントを講演した。 白内障は水晶体(カメラのレンズに相当)が混濁することで起こる疾患で、主に加齢が原因となり発症する。また、「網膜」はフィルムに相当し、網膜の中心部分が「黄斑」であり、眼球内の大半は「硝子体」と呼ばれる透明なゼリー状の組織になっている。この硝子体に関連する疾患としては、網膜の中心である黄斑の網膜表面に薄い膜が形成される「黄斑上膜(前膜)」、黄斑に小さな孔ができ視力が低下する「黄斑円孔」、糖尿病により高血糖状態が持続することで血管損傷が起き、網膜に新生血管ができるために起こる「糖尿病網膜症」、網膜に孔(網膜裂孔・網膜円孔)が開き、硝子体液がその孔を通り網膜の下に入り込むことで起こる「裂孔原性網膜剥離」があり、失明の原因になったり、緊急手術の適用となったりする重篤な疾患である。 白内障手術は、2018年には約146万件だったものが、2022年には約167万件と増加した。その要因としては、65歳以上の人口の増加、手術の安全性の向上、眼内レンズの普及があるとされる。一方、網膜硝子体手術は、2018年に約14万件だったものが、2022年には約15万件と微増しているが、この要因も白内障手術と同様の要因であり、今後も増加すると予想されている。 白内障の手術では、超音波で濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを嚢内に固定して行う。手術は低侵襲の手術であり、切開も小さく、手術惹起乱視も少ない。 網膜硝子体手術では、毛様体扁平部から器具を挿入し、強膜にシリコン材を逢着して眼球を陥凹させて行う(強膜バックリング手術)。 そして、これらの手術の効率化や術後の結果に関わるポイントについて以下の2点に触れた。(1)手術の効率・手術機器のテクノロジーの進化について、安全かつ高効率な手術が可能となり、1症例当たりの手術時間が短縮できる。・手術手技の進化では、白内障では「小切開化」、硝子体手術では「スモールゲージ化」が勧められている。(2)術後結果に関わるポイント・良好な自己閉鎖・術後感染症、合併症の低減・視力回復の早期化 最後に井上氏は、「今後もわが国では高齢化が進み手術件数が増えるが、テクノロジーの進歩により、とくに手術効率化ばかりでなく、安全性を高めることが必要とされる時代になった」と語り、講演を終えた。新しい技術も加味された“UNITY VCS” 今回発売される“UNITY VCS”は、手術機器市場初の革新的技術により、白内障手術と網膜硝子体手術を進化させた、“UNITYR Intelligent Fluidics”システムの採用により、リアルタイムでセンシング機能を備えた独自の吸引圧と流量コントロールを実現し、手術の安定性と効率性を各ワークフローで向上させる。 網膜硝子体手術用の医療機器における主要な新技術は下記のとおり。・27ゲージポートフォリオ 独自の消耗品は、ダイナミック・スティフナー技術を採用し、従来の27Ga(ゲージ)器具の限界を超え、より小さなゲージでありながら25Ga+と同等、またはそれ以上の剛性を提供する。・UNITYR TetraSpot 複数同時スポット照射が可能なマルチスポットレーザーテクノロジーで、レーザー照射時間を最大3分の1に短縮。術中に3つの異なるスポットモード(1つか2つ、または4つのレーザースポットを同時に照射)が提供されるため、柔軟なスポット配置が可能。・UNITYR Illumination 眼のブルーライト曝露を軽減し、カスタマイズとプログラムが可能な光源により、優れた組織の視認性を提供する。LEDの一貫性と信頼性により最大1万時間の照明寿命を実現する。 UNITYR VCSは、“UNITYR Intelligent Fluidics”システムにより、さらに生体に近い環境下で白内障手術を安定的かつ効率的に行えるよう設計。この新技術は、術中の眼内圧(IOP)を安定的に維持することで、患者の快適性をサポートしながら、水晶体除去時の平均吸引圧をより高く保つことが可能となる。 その他の手術性能の向上点は下記のとおりである。・“UNITYR Intelligent Sentry” 前房の安定性を維持しながら、“CENTURIONR ACTIVE SENTRYR”を上回る性能を実現し、オクルージョンブレークのサージ量を平均して44%低減する。・“UNITYR Thermal Sentry” 超音波出力を調整するために、切開創の温度を独自のアルゴリズムによりリアルタイムで推定する熱センサーを搭載した、業界初の白内障超音波乳化吸引用ハンドピース。・“UNITYR 4D Phaco” 画期的な超音波振動により、従来の技術である「OZILトーショナルフェイコ」と比較し、最大2倍の速さで核処理を実現し、眼内でのエネルギー量を41%低減し、累積拡散エネルギー(CDE)も48%低減する。 同社では、本機の発売について、「日本は最初に本機が発売される国の1つである。高齢化で患者数も多くなる一方で、医師数の不足で短時間の手術が望まれる。統合プラットフォームを実現したことで、省スペースで置きやすい本機を眼科の医師に活用してもらいたい」と期待を寄せている。

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植物性食品中心の食事は慢性疾患の併発を予防する

 植物性食品中心の食生活が、がん、心血管疾患、2型糖尿病のいずれか二つ以上を併発する状態の予防につながることを示唆するデータが報告された。ウィーン大学(オーストリア)のReynalda Cordova氏らの研究によるもので、詳細は「The Lancet Healthy Longevity」8月号に掲載された。 この研究では、欧州6カ国で行われている「欧州がん・栄養前向き調査(EPIC)」と英国で行われている「UKバイオバンク」という二つの大規模疫学研究のデータが解析に用いられた。年齢35~70歳で、がん、心血管疾患、2型糖尿病の既往のない40万7,618人を解析対象とした。食事スタイルの評価には、全粒穀物や果物、野菜、ナッツ、豆類などの健康に良い植物性食品の摂取量が多いことを表す「hPDI」と、精製穀物やジャガイモ(フライドポテトなど)といった健康にあまり良くない植物性食品の摂取量が多いことを表す「uPDI」という、二つの指標を用いた。 EPICでは中央値10.9年、UKバイオバンクでは同11.4年の追跡期間中に、合計で6,604人が、前記3疾患のうち二つ以上を併発していた。解析の結果、hPDIスコアが10ポイント高いごとに、複数疾患併発リスクが約1~2割低いことが示された(EPICではハザード比〔HR〕0.89〔95%信頼区間0.83~0.96〕、UKバイオバンクではHR0.81〔同0.76~0.86〕)。 年齢で層別化すると、高齢者よりも中年成人の方が、食事スタイルによる複数疾患併発リスクへの影響がより強く認められた。具体的には、EPICでは60歳未満ではhPDIスコアが10ポイント高いごとに14%のリスク低下が認められたのに対し(HR0.86〔0.78~0.95〕)、60歳以上では有意なリスク低下が示されなかった(HR0.92〔0.84~1.02〕)。UKバイオバンクでは60歳未満は29%のリスク低下(HR0.71〔0.65~0.79〕)、60歳以上では14%のリスク低下だった(HR0.86〔0.80~0.92〕)。 一方、uPDIスコアとの関連については、UKバイオバンクにおいて、10ポイント高いごとに複数疾患併発リスクが22%高いことが示された(HR1.22〔1.16~1.29〕)。EPICでは有意な関連は示されなかった(HR1.00〔0.94~1.08〕)。 論文の筆頭著者であるCordova氏は、「われわれの研究結果は、健康的な植物性食品中心の食事が、個々の慢性疾患の発症抑制につながるだけでなく、複数の慢性疾患を併発するリスクも抑制することを示している」と総括している。この関連の機序について著者らは、「健康的な植物性食品中心の食生活を続けていると、体重が増えにくく、全身の慢性炎症やインスリン抵抗性が生じにくい。これらはいずれも、2型糖尿病、心血管疾患、がんのリスク上昇を抑制すると考えられる」と解説。さらに、「植物性食品は食物繊維が豊富であり、免疫機能を高めたり腸の炎症を抑えたりする」と指摘している なお、Cordova氏によると、「動物性食品を完全に排除する必要はない」という。研究者らは、「健康的な植物性食品を中心としつつ、少量の動物性食品を加えた食生活が、老後の健康を維持するのに役立つ」と付け加えている。

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事例32 診療情報提供料(I)の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例の「B009 診療情報提供料(I)」が、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)を適用されて査定となりました。査定の原因を調べるためにカルテを参照しました。診療情報提供書発行日の内容に「○○病院に受診、同院△医師から診療状況の問い合わせあり返信」と記載がありました。診療情報提供書の算定要件はその「注1」に「保険医療機関が、診療に基づき、別の保険医療機関での診療の必要を認め、これに対して、患者の同意を得て、診療状況を示す文書を添えて患者の紹介を行った場合に、紹介先保険医療機関ごとに患者1人につき月1回に限り算定する」とあります。要約すると「(1)診療に基づき、(2)別の保険医療機関での診療の必要性を認め、(3)患者の同意を得て、(4)診療状況を示す文書(紹介先機関ごとに定められた項目がすべて記入された文書)を添えて、(5)患者の紹介を行った場合」です。紹介先保険医療機関(注に定められた機関を含む)ごとに患者1人につき月1回に限り算定できます。事例では、レセプト内に患者の同意があったことの補記がなく、診察料の算定もないことから「(1)診療に基づき」と「(3)患者の同意を経て」の要件を満たしていないと判断されてD事由が適用されたものと推測ができます。診療情報提供料の算定でよく誤解されるのは、文書のみをもって算定ができると判断されることです。あくまで、患者さんの了解のもとで他の医療機関に紹介する際に算定できるものです。紹介元への単なる返事など診察料を伴わない診療情報提供料は、療養担当規則第2条の2、第16条の2「診療に関する照会には適切に対応する」と定められているために診療情報提供料として算定できないのです。算定要件を満たしたうえで診察料を伴わない診療情報提供料を算定しようとする場合には、患者の同意があったことをレセプトに補記する必要があるのです。医療機関に対して行われる個別指導などにおいて、よく指摘される内容は次のとおりです。紹介先の医療機関名を診療録に明記されていない患者の同意があることを診療録に記載されていない診療録に「提供した文書」の写しが添付されていない同月内で同じ医療機関に同じ患者さんを複数回紹介している

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英語で「骨粗鬆症」、医学用語と患者さんへの言い換え法は?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第33回

医学用語紹介:骨粗鬆症 osteoporosis「骨粗鬆症」について説明する際、患者さんにosteoporosisと言って通じなかった場合、何と言い換えればよいでしょうか? 現場の実感として、osteoporosisはそのままで通じる方もそれなりにいる印象ですが、当然通じないケースもあり、この場合には言い換えが必要になります。講師紹介

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診療に難渋する糖尿病性神経障害の診療マニュアルが登場/糖尿病学会

 糖尿病の合併症の1つに糖尿病性神経障害がある。この疾患の放置は、下肢の切断など重篤な障害を起こし、患者のQOLに多大な影響を及ぼす。日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏)は、この糖尿病性神経障害について『糖尿病性神経障害の評価・診断マニュアル』を作成し、9月16日に同学会のホームページで公開した。 このマニュアルでは、日常臨床でしばしば遭遇するものの、評価や診断が比較的難しく煩雑と考えられている糖尿病性神経障害について、実臨床に即した評価・診断法を整理し、記載している。編集主幹の中村 二郎氏(糖尿病・内分泌内科クリニックTOSAKI名東 院長)は、「このマニュアルを通読することで、糖尿病性神経障害のおかれている状況(腎症や網膜症と比較して診断法・治療法が遅れている点)を理解していただきたい。その上で、マニュアルに紹介した、提供できる最善の評価・診断法を読者が実践くださることを期待する」と寄せている。なお、本マニュアルは、第一三共の「2024年度 神経障害性疼痛教育プログラム」からの助成を受けて作成された。主な目次1.はじめに Introduction2.糖尿病性神経障害とは3.診断の意義と早期発見の重要性4.診断プロセスの全体像5.問診のポイントと項目6.身体診察の手法と解釈7.神経伝導検査の実際8.自律神経機能検査の実際9.診断結果の解釈と対応10.Q&A

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PCOSの妊娠合併症、ミオイノシトールで軽減せず/JAMA

 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を有する女性の妊娠時におけるミオイノシトールサプリメントの摂取は、妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症や早産の複合発生率を低下しなかった。オランダ・Amsterdam University Medical Center location AMCのAnne W. T. van der Wel氏らが無作為化試験の結果を報告した。PCOSの女性は妊娠時の合併症リスクが高いことが知られる。先行研究で、ミオイノシトールサプリメントの摂取は、これらのリスクを軽減する可能性があるとされていた。JAMA誌オンライン版2025年9月8日号掲載の報告。妊娠8~16週目のPCOS女性を対象に二重盲検プラセボ対照無作為化試験 研究グループは、PCOSの女性における妊娠時のミオイノシトールの毎日の服用が、妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症、早産の複合アウトカムのリスクを軽減するかどうかを評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験を行った。 試験は、2019年6月~2023年3月に、オランダ国内の13病院(大学病院4、非大学教育病院9)で妊娠8~16週目のPCOS女性を登録して実施。最終フォローアップは2023年12月27日に完了し、解析は2024年7月に行われた。 被験者は、ミオイノシトール2g+葉酸0.2mg含有の無味の粉末を1日2回摂取する群(ミオイノシトール群)、葉酸0.2mg含有の無味の粉末を1日2回摂取する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。両群で配布された粉末(小袋入り)は、見た目、味ともに同様だった。被験者は無作為化から出産まで1袋ずつを1日2回、食事に混ぜたり水やジュースに溶かしたりして摂取するか、直接摂取するよう指示された。 主要アウトカムは、妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症、早産(妊娠37週目以前)の複合とした。主要アウトカムのイベント発生率、25.0%vs.26.8% 計464例(ミオイノシトール群230例、プラセボ群234例)が登録・無作為化された。平均年齢は31.5(SD 3.8)歳、18例(3.9%)がアジア人で395例(86.1%)が白人であった。 ベースライン特性は、ミオイノシトール群がプラセボ群と比べて生化学的な高アンドロゲン血症の有病率が高かったこと(29.0%[53/183例]vs.18.5%[37/200例])を除き、両群に実質的な差はなかった。なお、主要アウトカムのデータは、ミオイノシトール群224例(97.4%)、プラセボ群228例(97.4%)について入手できた。 主要アウトカムのイベント発生率は、ミオイノシトール群25.0%(56例)、プラセボ群26.8%(61例)であった(相対リスク:0.93、95%信頼区間:0.68~1.28、p=0.67)。

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第280回 コロナ治療薬の今、有効性・後遺症への効果・家庭内感染予防(前編)

INDEXニルマトレルビル/リトナビルモルヌピラビルニルマトレルビルか? モルヌピラビルか?感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、その1(第277回)では感染者数、入院者数、死亡者数の観点からまとめ、その2(第278回)では流行ウイルス株とこれに対抗するワクチンの変遷(有効性ではなく規格などの変遷)、その3(第279回)ではワクチンの有効性について比較的大規模に検証された研究を取り上げた。今回は治療薬について、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)とモルヌピラビル(同:ラゲブリオ)について紹介する。もっとも、漠然と論文のPubMed検索をするのではなく、日本での5類移行後にNature誌、Science誌、Lancet誌、NEJM誌、BMJ誌、JAMA誌とその系列学術誌に掲載され、比較対照群の設定がある研究をベースにした。ニルマトレルビル/リトナビル2024年4月のNEJM誌に掲載されたのが、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第II/III相試験「EPIC-SR試験」1)。新型コロナの症状出現から5日以内の18歳以上の成人で、ワクチン接種済みで重症化リスク因子がある「高リスク群」とワクチン未接種または1年以上接種なしでリスク因子がない「標準リスク群」を対象にニルマトレルビル+リトナビルの有効性・安全性をプラセボ対照で比較している。ちなみにこの研究の筆頭著者はファイザーの研究者である。主要評価項目は症状軽快までの期間(28日目まで)、副次評価項目は発症から28日以内の入院・死亡の割合、医療機関受診頻度、ウイルス量のリバウンド、症状再発など。まず両群を合わせたニルマトレルビル/リトナビル群(658例)とプラセボ群(638例)との間で主要評価項目、副次評価項目のいずれも有意差はなし。高リスク群、標準リスク群の層別で介入(ニルマトレルビル/リトナビル投与)の有無による主要評価項目、副次評価項目の評価でもいずれも有意差は認めていない。唯一、高リスク群で有意差はないものの、入院・死亡率がニルマトレルビル/リトナビル群で低い傾向があるくらいだ。実はEPIC-SR試験は、各国でニルマトレルビル/リトナビルの承認根拠となった18歳以上で重症化のリスクが高い外来での新型コロナ軽症・中等症患者を対象にした臨床試験「EPIC-HR試験」の拡大版ともいえる。その意味では、より幅広い患者集団で有効性を示そうとして図らずも“失敗”に終わったとも言える。有効性が示せたEPIC-HR試験と有効性が示せなかったEPIC-SR試験の結果の違いの背景の1つとしては、前者が 2021年7~12月、後者が2021年8月~2022年7月という試験実施時期が考えられる。つまり流行主流株が前者は重症化リスクが高いデルタ株、後者はデルタ株より重症化リスクの低いオミクロン株という違いである。このオミクロン株が流行主流株になってからの研究の1つが、2023年4月にBMJ誌に掲載された米国・VA Saint Louis Health Care Systemのグループによる米国退役軍人省の全国ヘルスケアデータベースを用いた後ろ向き観察研究2)である。最終的な解析対象は2022年1~11月に新型コロナの重症化リスク因子が1つ以上あり、重度腎機能障害や肝疾患の罹患者、新型コロナ陽性が判明した時点で何らかの薬物治療や新型コロナの対症療法が行われていた人を除く新型コロナ感染者25万6,288例。これをニルマトレルビル群(3万1,524例)と対症療法群(22万4,764例)に分け、主要評価項目を新型コロナ陽性確認から30日以内の入院・死亡率として検討している。その結果では、ワクチンの接種状況別に検討した主要評価項目の相対リスクは、未接種群が 0.60(95%信頼区間[CI]:0.50~0.71)、1~2回接種群が0.65(95%CI:0.57~0.74)、ブースター接種群が0.64(95%CI:0.58~0.71)で、いずれもニルマトレルビル/リトナビル群で有意なリスク減少が認められた。また、感染歴別での相対リスクも初回感染群が0.61(95%CI:0.57~0.65)、再感染群が0.74(95%CI:0.63~0.87)でこちらもニルマトレルビル/リトナビル群でリスク減少は有意だった。また、サブグループ解析では、ウイルス株別でも相対リスクを検討しており、BA.1/BA.2優勢期が0.64(95%CI:0.60~0.72)、BA.5優勢期が0.64(95%CI:0.58~0.70)で、この結果でもニルマトレルビル/リトナビル群が有意なリスク減少を示した。一見するとNEJM誌とBMJ誌の結果は相反するとも言えるが、後者のほうは対象が高齢かつ重症化リスク因子があるという点が結果の違いに反映されていると考えることができる。一方、新型コロナを標的とする抗ウイルス薬では、後遺症への効果や家庭内感染予防効果なども検討されていることが少なくない。後遺症への効果についてはLancet Infectious Disease誌に2025年8月掲載されたイェール大学のグループによるプラセボ対照二重盲検比較研究3)、JAMA Internal Medicine誌に2024年6月に掲載されたスタンフォード大学のグループによって行われたプラセボ対照二重盲検比較研究4)の2つがある。研究実施時期と症例数は前者が2023年4月~2024年2月で症例数が100例(ニルマトレルビル/リトナビル群49例、プラセボ/リトナビル群51例)、後者が2022年11月~2023年9月で症例数が155例(ニルマトレルビル/リトナビル群102例、プラセボ/リトナビル群53例)。両研究ともにニルマトレルビルの投与期間は15日間である。前者は18歳以上で新型コロナ感染歴があり、感染後4週間以内に後遺症と見られる症状が確認され、12週間以上持続している患者が対象。主要評価項目はニルマトレルビル/リトナビルあるいはプラセボ/リトナビル投与開始後28日目の米国立衛生研究所開発の身体的健康に関する患者報告アウトカム(PROMIS-29)のベースラインからの変化だったが、両群間に有意差はなかった。後者は18歳以上、体重40kg超で腎機能が保たれ、新型コロナ感染後、疲労感、ブレインフォグ、体の痛み、心血管症状、息切れ、胃腸症状の6症状のうち2つ以上を中等度または重度で呈し、90日以上持続している人が対象となった。主要評価項目は試験開始10週後のこれら6症状のリッカート尺度による評価だったが、こちらも両群間で有意差は認められなかった。家庭内感染予防についてはNEJM誌に2024年7月に掲載されたファイザーの研究者によるプラセボを対照としたニルマトレルビルの5日間投与と10日間投与の第II/III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験5)がある。対象は2021年9月~2022年4月に新型コロナの確定診断を受けた患者の家庭内接触者で、無症状かつ新型コロナ迅速抗原検査陰性の18歳以上の成人。症例数はニルマトレルビル/リトナビル5日群が921例、10日群が917例、プラセボ群(5日間または10日間投与)が898例。主要評価項目は14日以内の症候性新型コロナ感染の発症率で、結果は5日群が2.6%、10日群が2.4%、プラセボ群が3.9%であり、プラセボ群を基準としたリスク減少率は5日群が29.8%(95%CI:-16.7~57.8、p=0.17)、10日群が35.5%(95%CI:-11.5~62.7、p=0.12)でいずれも有意差なし。副次評価項目の無症候性新型コロナ感染の発生率でも同様に有意差はなかった。もっとも、この研究では参加者の約91%がすでに抗体陽性だったことが結果に影響している可能性がある。モルヌピラビルこの薬剤については、最新の研究報告でいうとLancet誌に掲載されたイギリスでのPANORAMIC試験6)の長期追跡結果となる。同試験は非盲検プラットフォームアダプティブ無作為化対照試験で、2021年12月~2022年4月までの期間、すなわちオミクロン株が登場以降、新型コロナに罹患して5日以内の50歳以上あるいは18歳以上で基礎疾患がある人を対象に対症療法に加えモルヌピラビル800mgを1日2回、5日間服用した群(1万2,821例)と対症療法群(1万2,962例)で有効性を比較したものだ。ちなみに対象者のワクチン接種率は99.1%と、まさにリアルワールドデータである。主要評価項目は28日以内の入院・死亡率だが、これは両群間で有意差なし。さらに副次評価項目として罹患から3ヵ月、6ヵ月時点での「自覚的健康状態(0~10点スケール)」「重症症状の有無(中等度以上)」「持続症状(後遺症)」「医療・福祉サービス利用」「就労・学業の欠席」「家庭内の新規感染発生率」「医薬品使用(OTC含む)」「EQ-5D-5L(健康関連QOL)」を調査したが、このうち3ヵ月時点と6ヵ月時点でモルヌピラビル群が有意差をもって上回っていたのはEQ-5D-5Lだけで、あとは3ヵ月時点で就労・学業の欠席と家庭内の新規感染発生率が有意に低いという結果だった。ただ、家庭内新規感染発生率は6ヵ月時点では逆転していることや、そもそもこの評価指標が6ヵ月時点で必要かという問題もある。また、後遺症では有意差はないのにEQ-5D-5Lと就労・学業の欠席率で有意差が出るのも矛盾した結果である。もっと踏み込めば、この副次評価項目での有意差自体がby chanceだったと言えなくもない。一方、前述のBMJ誌に掲載されたニルマトレルビルに関する米国退役軍人省ヘルスケアデータベースを用いた後ろ向き観察研究を行った米国・VA Saint Louis Health Care Systemのグループは同様の研究7)をモルヌピラビルに関しても行っており、同じくBMJ誌に掲載されている。研究が行われたのはオミクロン株が主流の2022年1~9月で、対象者は60歳以上、BMI 30以上、慢性肺疾患、がん、心血管疾患、慢性腎疾患、糖尿病のいずれかを有する高リスク患者。主要評価項目は30日以内の入院・死亡率である。それによるとモルヌピラビル群7,818例、対症療法群7万8,180例での比較では、主要評価項目はモルヌピラビル群が2.7%、対症療法群が3.8%、相対リスクが0.72(95%CI:0.64~0.79)。モルヌピラビル群で有意な入院・死亡率の減少が認められたという結果だった。ちなみにモルヌピラビル投与による有意な入院・死亡低下効果は、ワクチン接種状況別、変異株別(BA.1/BA.2優勢期およびBA.5優勢期)、感染歴別などのサブグループ解析でも一貫していたという。ニルマトレルビルか? モルヌピラビルか?新型コロナでは早期に上市されたこの2つの経口薬について、「いったいどちらがより有効性が高いのか?」という命題が多くの臨床医にあるだろう。承認当時の臨床試験結果だけを見れば、ニルマトレルビルに軍配が上がるが、果たしてどうだろう。実は極めて限定的なのだが、これに答える臨床研究がある。Lancet Infectious Disease誌に2024年1月に掲載されたオックスフォード大学のグループが実施したタイ・バンコクの熱帯医学病院を受診した発症4日未満、酸素飽和度96%以上の18~50歳の軽症例でのニルマトレルビル/リトナビル、モルヌピラビル、対症療法の3群比較試験8)である。実施時期は2022年6月以降でニルマトレルビル/リトナビル群が58例、モルヌピラビル群が65例、対症療法群が84例。主要評価項目はウイルス消失速度(治療開始0~7日)で、この結果ではニルマトレルビル/リトナビル群は対症療法群に比べ、ウイルス消失速度が有意に加速し、モルヌピラビル群はニルマトレルビル/リトナビル群との非劣性比較でモルヌピラビル群が劣性と判定された(非劣性マージンは10%)。さて、今回はまたもやニルマトレルビル/リトナビルとモルヌピラビルで文字数をだいぶ尽くしたため、次回レムデシビル(同:ベクルリー)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)でようやく最後になる。 1) Hammond J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1186-1195. 2) Xie Y, et al. BMJ. 2023;381:e073312. 3) Mitsuaki S, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:936-946. 4) Geng LN, et al. JAMA Intern Med. 2024;184:1024-1034. 5) Hammond J, et al. N Engl J Med. 2024;391:224-234. 6) Butler CC, et al. Lancet. 2023;401:281-293. 7) Xie Y, et al. BMJ. 2023;381:e072705. 8) Schilling WHK, et al. 2024;24:36-45.

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隠れた脂肪の蓄積が心臓の老化を加速させる

 腸の周りや肝臓、筋肉などに溜まった脂肪が心臓の老化を速めるとする、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のDeclan O’Regan氏らの研究結果が、「European Heart Journal」に8月22日掲載された。異所性脂肪と呼ばれるそれらの脂肪の蓄積は体型からは判別しにくく、たとえ体重は健康的とされる範囲であっても、そのような脂肪が蓄積していることがあるという。一方、全身の脂肪蓄積の分布とその影響には性差があり、論文の上席著者であるO’Regan氏は、「ある種の脂肪、特に女性の腰や太ももの周りの脂肪は、老化を抑制する可能性がある」と述べている。 この研究では、英国で行われている住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者2万1,241人のデータが用いられた。MRI画像データから、血管や心臓の機能などに関連のある126種類の指標を特定し、機械学習により参加者それぞれの心臓年齢を算出。実際の年齢との差を割り出した上で、さまざまな部位に蓄積している脂肪の量との関連を検討した。すると、内臓脂肪などの異所性脂肪が多いほど、実際の年齢と心臓年齢との乖離が大きいことが明らかになった。 O’Regan氏は今回の研究結果を、「健康な人でも隠れた脂肪が有害となり得ることが分かった」と総括している。研究結果を詳しく見ると、内臓脂肪の量は、実際の年齢と心臓年齢との乖離の大きさと有意な関連があった(β=0.656〔95%信頼区間0.537〜0.775〕)。また、筋肉に浸潤している脂肪の量(β=0.183〔同0.122〜0.244〕)や肝臓内の脂肪の量(β=1.066〔0.835〜1.298〕)も、同様の関連が認められた。さらに、血液検査の結果と照らし合わせて解析すると、内臓脂肪の蓄積は全身の炎症と関連があり、そのことが心臓の老化を速めている可能性が示唆された。 一方、脂肪の分布と心臓年齢との関連に、男性と女性の間で差が存在することも示唆された。例えば男性では、いわゆる“リンゴ型肥満”と呼ばれるようなお腹周りへの脂肪の分布が、心臓の老化と強く関連していた。その一方で女性では、“洋ナシ型肥満”と呼ばれるような腰や太ももへの脂肪の分布が、心臓の老化を防ぐような関連が見られた。研究者によると、腰や太ももへの脂肪蓄積は女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量と関連しており、エストロゲンは女性の心臓の老化を防ぐように働くという。「脂肪の分布の違いによって、リンゴ型肥満と洋ナシ型肥満に分類され、健康への影響が異なることは以前から知られていたが、なぜその差が生じるのかは、これまで明らかでない点があった」とO’Regan氏は語っている。 この研究からはまた、身長と体重に基づき算出され、肥満や痩せを判定する指標として広く用いられているBMIが、心臓の健康状態を推測する指標としては十分に機能しないことも示された。O’Regan氏は、「BMIでは体のどの部分に脂肪が蓄積しているかを知ることができない。しかしわれわれの研究は、それを知ることの重要性を示している」と強調している。 なお、同氏らの研究グループでは今後、GLP-1受容体作動薬を用いた減量が、内臓脂肪の蓄積や心臓の健康に及ぼす影響を調査することを計画している。

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高齢者がん診療のキホン【高齢者がん治療 虎の巻】第2回

(2)高齢者がん診療のキホン、治療開始前に患者を評価―GAの実際と活用―<今回のPoint>高齢者がん患者にはGAMが推奨されているGAは初回薬物療法前に、スタッフ誰でもが実施できる体制作りが理想GAの結果は、治療方針や介入の判断に役立つ前回は、構造化された意思決定プロセスを辿ることで、Shared Decision-Making(SDM)の質が高まり、さらにGeriatric Assessment(GA)の実施や結果の解釈にもつながることをお伝えしました。今回は、がん薬物療法を予定する高齢患者に対するGAの実際について解説したいと思います。GAはニューノーマルになっている薬物療法を予定する高齢がん患者に対するGAおよびその結果に基づく介入(GA-guided management:GAM)は、すでに国内外のガイドラインで強く推奨されています。たとえば、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドラインでは、「65歳以上のすべてのがん患者に対して、PSなどの従来の腫瘍学的評価だけでは把握しきれない問題点をGAで明らかにし、その結果に応じた介入を行い、意思決定に反映させるべきである」と記載されています(Evidence quality:High / Strength of recommendation:Strong)1)。また日本でも、「高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024」において、薬物療法を予定する高齢悪性腫瘍患者へのCGAの実施は、「エビデンスの強さA、推奨度1、合意率100%」で推奨されています(図1)2)。これは、GAMによって患者のアウトカムが改善されたとするランダム化比較試験が多数報告されていることが背景にあります。(図1)画像を拡大する加えて、令和5年度からはがん診療連携拠点病院の施設要件3)に「意思決定能力を含む機能評価を実施すること」という項目が追加されており、GAを導入する施設は着実に増加しています。2024年秋の調査(日本臨床腫瘍学会老年腫瘍WG)では約40%の施設がGAを実施していると報告されています。GAはいつ・誰が・どう使う?GAツールとしては、Geriatric8(G8)とCGA7が代表的です。とくにG8は栄養状態に関する評価に優れており、ある程度包括的な機能評価も可能なことから、スクリーニング目的で広く用いられている印象があります(表1)。(表1)G8スクリーニングシート画像を拡大するそして、現場でよく聞かれるのが、「GAはいつ、誰が、どのように評価し、どう活用するのか?」という点です。●いつ?GAMの有効性を示した臨床試験の多くは、初回薬物療法の前にGAを実施しています。したがって、外来または入院時にGAを行い、カンファレンスで結果を共有し、治療レジメンを検討する流れが望まれます。私自身は、病理診断確定後に患者さんへ告知したタイミングで、いったん待合へ移動していただき、その場でGAを実施することが多くあります。●誰が?GAは、医師・看護師・薬剤師など多職種で柔軟に実施できる体制を整えることが理想です。2024年のCGAに基づく診療・ケアガイドラインでは、とくに看護師による実施が強く推奨されています(図2)が、特定の職種に限定されるものではなく、関わるすべての医療者が一定のスキルをもって対応できる環境づくりが重要です。その上で、医師はGAの構成項目や評価の意義を理解しておくことが不可欠です。治療方針を決定する際に、GAの結果がどう活用できるかを判断する力は、まさに医師の重要な役割となります。●どう使う?たとえばG8で15点以上であれば「perfect health」と判断し、標準治療も検討可能です。一方、14点未満であれば、どの項目でスコアを失点しているかを確認し、追加の詳細なGAを行うか、必要な介入を検討する流れとなります。以上の話を踏まえ、前回の症例にGAを実施してみましょう。<症例>(第1回と同じ患者)88歳、女性。進行肺がんと診断され、本人は『できることがあるなら治療したい』と希望している。既往に高血圧症、糖尿病と軽度の認知機能低下があり、パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)は1〜2。診察には娘が同席し、『年齢的にも無理はさせたくない。でも本人が治療を望んでいるなら…』と戸惑いを見せる。遺伝子変異検査ではドライバー変異なし、PD-L1発現25%。告知後、看護師が待合でG8を実施したところ、スコアは10.5点(失点項目:年齢、併用薬数、外出の制限など)。改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)は20点で認知症の可能性あり。多職種カンファレンスでは、免疫チェックポイント阻害薬の単剤投与を提案。薬剤師には併用薬の整理を、MSWには家庭環境の支援を依頼し、チームで治療準備を整えることとした(次回に続く)。GAの結果がカンファレンスで患者情報の一部として共有されるだけでも、必要な介入が可視化され、治療方針の検討がスムーズになることが実感できたのではないでしょうか。次回は、老年医学の視点から見た高齢者がん診療の考え方について、さらに深掘りしてお伝えします。高齢者がん診療でよく登場するGeriatric-8(G8)とは何か?G8はもともと栄養状態の評価を目的に開発されたMNA(Mini Nutritional Assessment)をベースに、Belleraら4)により2005年に開発された高齢がん患者向けの簡便なスクリーニングツールです。CGAで2項目以上の脆弱性のある項目を有する高齢がん患者を感度82%・特異度63%で識別できると報告されており5)、簡便で臨床現場で扱いやすいことから広く用いられています。一方で、日本人やがん種別でのカットオフ値の適正化や、得られた結果をどのように利用すべきかなど、現場での課題も少なくありません。たとえば、日本人の75歳以上の高齢肺がん患者におけるG8陽性率は80%を超えるとの報告もあります。私自身は、G8スコアが15点以上の患者は“perfect health”と判断し、若年者と同様の治療を検討可能と考えています。一方、14点以下の場合は失点項目を確認し、必要な介入を加えたうえで、高齢者に特化したエビデンスのあるレジメンの選択や、full doseで若年者と同様のレジメンを選択する場合には十分な支持療法を必ず併用するなど、対応を検討するようにしています。1)Dale W, et al. J Clin Oncol. 2023;41:4293-4312.2)老年医学会ほか編. 高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024. 2024. 南山堂.3)厚生労働省:がん診療連携拠点病院等の整備について4)Bellera CA, et al. Ann Oncol. 2012;23:2166-2172.5)Bruijnen CP, et al. J Geriatr Oncol. 2021;12:793-798.講師紹介

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GLP-1受容体作動薬は気候変動対策にも有益

 肥満症治療薬として使用されているオゼンピックやゼップバウンドなどのGLP-1受容体作動薬は、単に体重を減らすだけでなく、地球環境の保護にも役立っている可能性のあることが、新たな研究で示された。これらの薬が心不全患者の減量目的で使用されると、温室効果ガス排出量の削減につながるという。米Lahey病院・医療センターのSarju Ganatra氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表された。 Ganatra氏らは、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)患者(GLP-1受容体作動薬を投与された患者1,914人、プラセボを投与された患者1,829人)を対象とした4件の臨床試験のデータを統合して解析した。HFpEFとは、心臓の収縮機能は保たれているものの、心筋が硬いために十分に拡張できず、血液を十分に取り込めない状態を指す。米国心臓病学会(ACC)によれば、心不全患者のほぼ半数がこのタイプに分類される。 心不全悪化イベントの発生数は、GLP-1受容体作動薬を投与された患者では54件であったのに対し、プラセボを投与された患者では86件だった。心不全悪化イベントには入院と病院の往復を伴うと仮定して二酸化炭素(CO2)排出量を推算すると、GLP-1受容体作動薬を使用したHFpEF患者の年間CO2排出量は1人当たり9.45kgと推定され、プラセボ群の9.7kgと比べて少ないことが示された。 Ganatra氏は、「この数値をGLP-1受容体作動薬による治療の対象となる何百万人もの患者に当てはめると、20億kg以上のCO2換算量の削減につながる」と言う。同氏らによると、20億kgのCO2は、満席のボーイング747型機の長距離フライト2万便にほぼ相当し、また、この量のCO2を吸収するには、植えられてから10年が経過した約3,000万本の木が必要になるという。 Ganatra氏はさらに、ESCのニュースリリースの中で、医療廃棄物の発生量や水の使用量についても、同様の規模の削減が見られた」と述べている。その上で同氏は、「今回の研究は、個々の小さな改善の積み重ねが、集団全体として大きなインパクトをもたらすことを明確に示している」と説明している。 さらに、GLP-1受容体作動薬を使用した患者では食物の摂取量が減り、そのことが気候にも良い影響を与えると推定された。Ganatra氏らの推計によると、プラセボ群と比べてGLP-1受容体作動薬群では1日当たりの摂取カロリーが減少したことで年間およそ695kg分のCO2排出量の削減につながったという。 今回の研究結果についてGanatra氏は、「薬物治療から患者の健康状態の改善と地球環境の健全化という2つのメリットを得られる可能性を示した結果だといえる」と述べ、「将来的には政策立案者が医療技術の評価や医薬品の保険適用の決定、医薬品調達の枠組みなどにサステナビリティの指標を組み込むことを期待している」と付け加えた。 Ganatra氏らは次の段階として、実際の排出データと臨床アウトカムを用いてモデルを検証する予定だ。同氏は、「将来的には、臨床試験のデザインや医薬品の規制プロセス、処方の決定に環境への影響が組み込まれ、医療システムがプラネタリーヘルス(地球環境と人類の健康の両立)に関する目標と連携できるようになることを期待している」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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アルドステロンの心血管系に対する直接作用は?(解説:浦信行氏)

 アルドステロンは腎臓におけるNa再吸収亢進作用などにより体液量増大、Na貯留、昇圧作用などを介して心臓を含む臓器障害を発症・増悪させる。重症腎機能障害を有さない症例において、スピロノラクトンを中心とした鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は心不全や心血管死を有意に減少させることが、いくつかの臨床試験で明らかになっている。 一方、透析療法を受けている症例での心保護作用は明らかではなく、安全性も確立されていない。本年8月号のLancet誌では同一研究グループの2つの論文が掲載された。1つは3,689例を対象とし、スピロノラクトン25mg使用群と対照群に2分したRCTのACHIEVE試験(Walsh M, et al. Lancet. 2025;406:695-704.)で、もう1つはこの試験を含む4,349例を対象としたメタ解析(Pyne L, et al. Lancet. 2025;406:811-820.)である。この2論文の解説はCareNet.com(ジャーナル四天王2025年8月28日配信、9月3日配信)に詳述されており、ぜひ一読願いたいが結果はいずれも有意な効果を示さなかった。また、安全性に関しては実薬群で高K血症と女性化乳房が有意に多かった。 腎作用を期待できない症例ではMRAの心保護効果は証明できなかったわけであるが、この研究グループは2016年に先行メタ解析研究(Quach K, et al. Am J Kidney Dis. 2016;68:591-598.)の結果を報告している。その結果は、実薬群の高K血症は有意に多かったが、心血管死や全死亡が対照群の34~40%に有意に抑えられていた。しかし採用された9試験の合計症例は829例にとどまっており、またバイアス・リスクが低いものは5〜6試験で、かつ半数以上の試験が1年以内の短期試験であり、著者らも小規模試験で質が高くないものであることから、より十分な試験期間と規模の大きい質の高い試験で再度検討する必要があるとの考察であった。 今回のACHIEVE試験は大規模で質の高い試験であり、メタ解析もACHIEVE試験に644症例で検討したALCHEMIST試験が加わっており、症例数や質の部分でも高い試験の解析であったが、MRAの有意性は示されなかった。MRは腎臓のみならず、心筋や血管にもあり、また心筋局所からアルドステロン生成・分泌が明らかとなっており、心肥大や線維化などの作用が報告されている。腎作用が期待できない透析例では心作用の意義は大きくないとの解釈もできるが、これらの成績はステロイド骨格を有するMRAでの検討である。これらのMRAは他のステロイド受容体への作用が無視できない。事実、女性化乳房の発症が有意に多かった。 また、ACHIEVE試験での1次エンドポイントは女性ではHR:1.23(0.91~1.67)、男性では0.81(0.66~0.99)で性差があり、かつ、男性では19%有意なイベント抑制効果の可能性も示された。今後は非ステロイド骨格MRAでの検討や、性別での検討も必要になろう。また、透析例の心機能の評価も、より厳密な評価条件が必要であろう。UCGでの評価は体液量の変化でEFは大きく異なる。2群間比較試験では、群分けの段階で一定の条件下での評価が必要である。

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ChatGPTでロールプレイを行う【タイパ時代のAI英語革命】第6回

ChatGPTでロールプレイを行う学んだ英語を「使えるスキル」へと昇華させるためには、もう一歩進んだトレーニングが不可欠です。それが「ロールプレイ」です。ロールプレイは、特定の役割になりきって対話する練習法で、これにより、学んだ単語や表現を実際の文脈の中で使う練習ができ、英語での思考回路と瞬発力を効果的に鍛えることができます。何より、AIが相手であれば、失敗を恐れる必要はありません。納得がいくまで、何度でも同じ場面の練習を繰り返すことができます。ここでは、テキストベースで行う「チャット機能でのロールプレイ」と、より実践的な「音声モードでのロールプレイ」の2つの方法について、具体例を交えて解説します。チャット機能でロールプレイを行うまずは、キーボードで文字を打ち込みながら行う、テキストベースのロールプレイです。こちらは、自分のペースでじっくり考えながら、正確な語彙や文法を使って応答する練習に適しています。プロンプト例#役割あなたはレストランの店員です。#命令レストランの客である私と、英語でロールプレイを行ってください。すると、以下のようなロールプレイが可能です。ServerGood evening, and welcome! My name is Jamie, and I’ll be taking care of you tonight. Can I start you off with something to drink ― perhaps still or sparkling water, or would you like to see our wine list?自分Hi, Jamie. We would like to have still water.ServerAbsolutely, still water it is. I’ll bring that right out for you.In the meantime, would you like a few more minutes to look over the menu, or are you ready to hear about our chef’s specials for the evening?自分We'll look over the menu, thanks.ServerOf course ― take your time. If you have any questions about the menu or dietary preferences, just let me know.I’ll be back shortly with your water.このようにして会話を続けることで、よく使われる表現をインプット・アウトプットすることができます。もし、自分の返答に詰まったり迷ったりしたときは日本語で「答え方の例を教えてください」と質問したり、「『何がお勧めですか』と聞きたいのですが、英語で何と言えばいいですか?」と質問したりすれば、すぐに適切な表現を教えてくれます。また、前回紹介した“Read Aloud”の機能を使えば、ChatGPTが作成した英文を音読してくれるので、リスニング強化につながります。また、“Dictation”の機能を利用すれば音声で入力することができるため、スピーキングの練習を行うこともできます。さらに、一通りの会話が終わった後に、「文法ミスや、より適切な表現があればフィードバックしてください」と入力すれば、復習ができます。このようなやりとりを繰り返し、まずはよく使われる表現に慣れていきましょう。音声モードでロールプレイを行うテキストでのロールプレイに慣れてきたら、次はぜひ「音声モード」でのロールプレイに挑戦してみてください。前回紹介した音声会話機能を使うことで、よりリアルな会話に近い状況で瞬発力を鍛えるトレーニングが可能です。音声モードでのロールプレイは、その場で即座に聞き取り、応答する必要があるため、リスニング力とスピーキング力が同時に、そしてより実践的に鍛えられます。テキストベースで行っていたチャット画面で、音声モードのアイコンをタップし「最初から英語でロールプレイをしてください」などと話し掛けると、音声モードでの会話が可能です。英語のレベルを設定する音声モードで英会話の練習をすると、ChatGPTがネイティブスピーカーのペースで話すため、「英語が速すぎて聞き取れない」「話している途中に割り込まれる」といったストレスを感じることが少なくありません。そうした場合には、あらかじめ英語のレベルや話すスピードを指定しておくことをお勧めします。たとえば、「なるべくゆっくり話してください」「簡単な英語で話してください」などと伝えると、より自分に合ったペースで会話を進めることができます。また、自分の練習したい英語レベルについては、より客観的かつ明確に難易度を示すために、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ言語共通参照枠)の基準を活用することをお勧めします。CEFRでは、英語力をA1(初心者)からC2(熟練者)まで6段階に分類しており、各レベルに応じた語彙や表現の難易度が定められています。現在の自分の実力に近いレベル、あるいは1つ上のレベルを指定することで、無理なく効率的に学習を進めることができます。以下にCEFRのレベルを簡単にまとめました。表:CEFRのレベル画像を拡大する以下は、音声モードでの練習時に活用できるプロンプトの例です。プロンプト例#役割あなたはレストランの店員です。#命令レストランの客である私と、英語でロールプレイを行ってください。#制約条件CEFR A2レベルの英語を使用してください。できるだけゆっくり、はっきり話してください。私が話し終わるまでは返答せず、待ってください。話が止まっている場合は相づちだけ打ってください。このように、役割やレベル、話す速度、会話のタイミングなどの詳細な指示をあらかじめ設定することで、より自分に合った練習ができる音声会話モードになります。ストレスなくリスニングやスピーキングのトレーニングを続けるために、ぜひ積極的に活用してください。

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20歳以降の体重10kg増加が脂肪肝リスクを2倍に/京都医療センター

 20歳以降に体重が10kg以上増えた人は、ベースライン時のBMIにかかわらず5年以内に脂肪肝を発症するリスクが約2倍に上昇し、体重変動を問う質問票は脂肪肝のリスクが高い人を即時に特定するための実用的かつ効果的なスクリーニング方法となり得る可能性があることを、京都医療センターの岩佐 真代氏らが明らかにした。Nutrients誌2025年8月6日号掲載の報告。 脂肪性肝疾患は、心血管疾患や代謝性疾患、慢性腎臓病のリスク増大と関連しており、予防と管理のための効果的な戦略の開発が求められている。脂肪肝に関連する質問票項目を特定することで、脂肪性肝疾患の高リスク者の早期発見につながる可能性があることから、研究グループは一般集団の健康診断データベースから収集した生活習慣情報を縦断的に分析し、脂肪肝リスクの高い個人を特定する質問票の有用性を検討した。 対象は、2011~15年にかけて、武田病院健診センターの健康診断受診者のうち、ベースライン時には脂肪肝は認められず、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肝疾患などの既往歴もない20歳以上の1万5,063人であった。ベースライン時のBMIに基づいて、BMI値22未満群、22〜25未満群、25以上群の3つのグループに分類した。食習慣と生活習慣に関する質問票項目は、厚生労働省が特定健康診査事業のために提供している標準質問票に基づいて作成され、(1)食習慣・行動、(2)喫煙・飲酒習慣、(3)運動習慣、(4)体重変動、(5)睡眠の23項目で構成されていた。Cox比例ハザードモデルを用いて、ベースライン時の質問票データと5年間の追跡期間における脂肪肝発症率との関連性について、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・1万5,063人のうち、女性は8,294人(55.1%)、平均年齢は47.1歳、平均BMIは21.4であった。・追跡期間中央値4.2年で、1,889例(12.5%)が脂肪肝を発症した。脂肪肝の発症率は、ベースライン時のBMI値が高いほど有意に高かった(傾向のp<0.001)。 -BMI値22未満群 551/9,270例(5.9%) -BMI値22〜25未満群 898/4,519例(19.9%) -BMI値25以上群 440/1,274例(34.5%)・年齢、性別、代謝性疾患および肝障害に関連する因子を調整した後、脂肪肝発症の最も強い危険因子は20歳以降の10kg以上の体重増加であり、とくにBMI値22未満群で顕著であった。 -全体集団 調整HR:2.11、95%CI:1.90~2.34、p<0.001 -BMI値22未満群 調整HR:2.33、95%CI:1.86~2.91、p<0.001 -BMI値22〜25未満群 調整HR:1.43、95%CI:1.25~1.63、p<0.001 -BMI値25以上群 調整HR:1.41、95%CI:1.12~1.77、p=0.003・すべてのBMI群に共通する脂肪肝リスクの低減に関連する質問票項目は特定されなかったが、22未満群では牛乳および乳製品の日常摂取(調整HR:0.75、p=0.001)、22〜25未満群では海藻およびきのこの日常摂取(調整HR:0.63、p=0.006)、25以上群では睡眠満足度(調整HR:0.80、p=0.039)がそれぞれ脂肪肝リスクの低減と最も強く関連していた。 これらの結果より、研究グループは「本研究は、脂肪肝発症のリスクを同定し、低減させるための質問票の潜在的な有用性を強調するものである。質問票に基づいて健診当日にリスクを伝え、生活習慣改善につなげる即日フィードバックのアプローチは、脂肪肝発症のリスクを低減させ、脂肪性肝疾患の予防に貢献する可能性がある」とまとめた。

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