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SGLT1/2阻害薬sotagliflozin、1型糖尿病の転帰改善/BMJ

 sotagliflozinは、ナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT)1とSGLT2を、ともに阻害する経口薬。イタリア・Humanitas University Gradenigo HospitalのGiovanni Musso氏らは、1型糖尿病患者において、この新規SGLT1/2阻害薬のメタ解析を行い、血糖値および非血糖値関連のアウトカムの改善をもたらし、低血糖や重症低血糖の発現を抑制することを明らかにした。研究の成果は、BMJ誌2019年4月9日号に掲載された。1型糖尿病患者では、血糖目標値(HbA1c<7%)の達成率は30%にすぎず、インスリンによる低血糖や体重増加がみられ、とくに重症低血糖は至適な血糖コントロールを妨げる主要な因子とされる。sotagliflozinは、グルコースの腸管吸収だけでなく腎臓での再吸収を阻害する。この作用機序により、食後の血糖変動が抑制され、最終的にボーラスインスリン追加の補正の必要性や、低血糖リスクを低下させる可能性があるという。6つの無作為化プラセボ対照比較試験の参加者3,238例の解析 研究グループは、1型糖尿病に対するsotagliflozinの無作為化対照比較試験のメタ解析を行った(研究助成は受けていない)。 医学データベース、国際学会抄録、海外および国内の臨床試験、米国・欧州・日本の規制当局ウェブサイトなどを検索して、2019年1月10日までに公表された論文を選出した。年齢18歳以上の1型糖尿病患者を対象に、実薬またはプラセボ対照でのsotagliflozinの効果を評価した無作為化対照比較試験を解析に含めた。 3人のレビュアーが、試験参加者の背景因子、関心アウトカム、バイアスのリスクのデータを抽出した。主要アウトカムは、変量効果モデルを用いて統合した。 6つの無作為化プラセボ対照比較試験(3,238例、試験期間4~52週)が解析の対象となった。主な有害事象はケトアシドーシス、リスク最小化は可能 sotagliflozinはプラセボに比べ、HbA1c(加重平均の差:-0.34%、95%信頼区間[CI]:-0.41~-0.27、p<0.001)、空腹時血糖値(-16.98mg/dL、-22.1~-11.9[1mg/dL=0.0555mmol/L])、食後2時間血糖値(-39.2mg/dL、-50.4~-28.1)を有意に低下させ、1日の総インスリン量(-8.99%、-10.93~-7.05)、基礎インスリン量(-8.03%、-10.14~-5.93)、追加インスリン量(-9.14%、-12.17~-6.12)をいずれも有意に低下させた。 また、sotagliflozinにより、目標血糖範囲内時間の割合(加重平均の差:9.73%、95%CI:6.66~12.81)や他の持続血糖モニタリングのパラメータが改善し、非血糖値関連アウトカムでは体重(-3.54%、-3.98~-3.09)、収縮期血圧(-3.85mmHg、-4.76~-2.93)、アルブミン尿(アルブミン/クレアチニン比:-14.57mg/g、-26.87~-2.28)が低下した。さらに、低血糖(加重平均の差:-9.09イベント/人年、95%CI:-13.82~-4.36)の発生が抑制され、重症低血糖(相対リスク[RR]:0.69、95%CI:0.49~0.98)のリスクも低下した。 一方、ケトアシドーシス(RR:3.93、95%CI:1.94~7.96)、生殖器感染症(3.12、2.14~4.54)、下痢(1.50、1.08~2.10)、体液量減少イベント(2.19、1.10~4.36)のリスクが増加したが、尿路感染症(0.97、0.71~1.33)のリスクは増加しなかった。初回HbA1c値と基礎インスリン量の調整が、糖尿病性ケトアシドーシスのリスクと関連した。また、用量については、400mg/日は200mg/日に比べ、血糖値関連および非血糖値関連のほとんどのアウトカムをより改善し、有害事象のリスクは増加しなかった。 エビデンスの質は、ほとんどのアウトカムに関して高~中程度であったが、主要有害心血管イベントおよび全死因死亡に関しては低かった。また、相対的に短期間の試験が、長期アウトカムの評価の妨げとなっていた。 著者は、「主な有害事象は糖尿病性ケトアシドーシスであったが、そのリスクは適切な患者選択および基礎インスリン量を漸減することで最小化が可能と考えられる」としている。

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コレステロール過剰摂取、卵の食べ過ぎは心血管疾患および全死因死亡を増やす?(解説:島田俊夫氏)-1028

 コレステロールの取り過ぎは体に悪い? これまでの欧米においては概して虚血性心疾患による死亡率がわが国と比較し圧倒的に多いことから、欧米からのエビデンスに基づき悪玉コレステロール高値は心血管疾患のリスク因子だとの考えが定着していた1,2)。もちろん家族性高コレステロール血症はとりわけハイリスクであるが、このような症例を一般化する解釈の根拠は必ずしも十分とは言えない。一方で高齢者の高コレステロール血症はむしろ健康状態が良いことが多く、スタチンを使用して下げている症例を時々みかけるが、個人的にはいらんお世話をしているのではと懸念している。コレステロールは細胞膜に不可欠な構成成分であり、卵から孵化する動物はヨークサックのコレステロールにより孵化までの期間の栄養を供給されており、バランスの取れた栄養食と考えられてきた。コレステロールの70~80%は体内で合成され、20~30%程度が食事由来と考えられている。2019年3月19日にJAMA誌に掲載された、米国・ノースウェスタン大学Victor W. Zhong氏らがLifetime Risk Pooling Projectの6つのコホートデータを統合のうえで解析し、食事由来コレステロールまたは卵の摂取量増加は、用量反応的に心血管疾患発症、全死因死亡リスク上昇に有意に関連していると報告した。いまだ議論の多い問題に一石を投じた論文であり論評に値すると考え、私見をコメントする。論文要約 1985年3月25日~2016年8月31日の期間に集められた米国の6つの前向きコホート研究の個々のデータを統合のうえで解析を行った。自己申告食事摂取に関するデータは標準的プロトコールを用いて調整のうえ、食事由来コレステロール(mg/日)または卵摂取量(個/日)を算出した。 主要評価項目は人口統計学的、社会経済的および行動的要因を調整のうえで、CVD発症と全死因死亡に関する全追跡調査期間のハザード比および絶対リスク差(ARD)により、コホートを層別化した原因別ハザードモデルおよび標準比例ハザードモデルを用いて解析された。 2万9,615例を解析対象とした。ベースライン時の研究対象者の平均年齢は51.6±13.5歳、男性1万3,299例(44.9%)、女性9,204例(31.1%)であった。 1日当たりの食事由来コレステロール摂取が300mg増えるとCVD発症(補正後HR:1.17[95%CI:1.09~1.26]、補正後ARD:3.24%[95%CI:1.39~5.08])および全死因死亡(補正後HR:1.18[95%CI:1.10~1.26]、補正後ARD:4.43%[95%CI:2.51~6.36])のリスク上昇と有意相関を認めた。 卵の1日当たりの摂取量が半個増えるか、または週に卵の摂取が3~4個増えた場合にも同様に有意な関連を認めた(CVD発症に関しては補正後HR:1.06[95%CI:1.03~1.10]、補正後ARD:1.11%[95%CI:0.32~1.89]、全死因死亡に関しては補正後HR:1.08[95%CI:1.04~1.11]、補正後ARD: 1.93[95%CI:1.10~2.76])。 しかし、食事由来コレステロール摂取量補正後は、卵摂取量とCVD発症(補正後HR:0.99[95%CI:0.93~1.05]、補正後ARD:-0.47[95%CI:-1.83~0.88])および全死因死亡(補正後HR:1.03[95%CI:0.97~1.09]、補正後ARD:0.71%[95%CI: -0.85~2.28])との間に、有意な関連を認めなかった。筆者コメント 本論文はあくまで前向きコホート研究であり、因果関係を証明するための研究デザインでないためにエビデンスレベルは必ずしも強固とはいえない。しかも、コレステロールを多く含む食材の過剰摂取、とくに卵は言われているほど悪くないとのエビデンスがある中でこのような結論を妄信することは控えたほうがよい3,4)。その一方でコレステロールは細胞膜にとり不可欠の構成要素であり、重要なステロイドホルモン、胆汁酸の原料でもある。食事由来のコレステロールは体内で合成されるコレステロールの1/3に満たない程度であり、本論文の結果をうのみにするのは危ない。とくに高齢者では高コレステロール血症をもはや危険因子(むしろ逆では)として受け止めることに個人的には疑問を感じている。まだ未解決な点も多くあり、本論文の結果を記憶にとどめておくだけでよいと考える。

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家族性アミロイドポリニューロパチー〔FAP: familial amyloid polyneuropathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は、代表的な遺伝性全身性アミロイドーシスである1,2)。組織の細胞外に沈着したアミロイドは、コンゴレッド染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡下でアップルグリーンの複屈折を生じる。電子顕微鏡で観察すると、直径8~15nmの枝分かれのない線維状の構造物として観察される。現在までに、36種類以上の蛋白質がヒトの体内でアミロイド沈着を形成する蛋白質として同定されている3)。FAPを生じるアミロイド前駆蛋白質として、トランスサイレチン(TTR)、ゲルソリン、アポリポ蛋白質A-Iが知られているが、大部分のFAP患者は、TTRの遺伝子変異によるため、以下はTTRを原因とするFAP(TTR-FAP)に関して概説する。近年、国際アミロイドーシス学会は、TTR-FAPに代わる病名として「遺伝性TTR(ATTRv)アミロイドーシス」の使用を推奨しているが3)、わが国ではFAPの病名が現在も使用される場合が多いため、本稿ではFAPの病名を用いて概説する。本疾患の原因分子であるTTRは、主に肝臓から産生され血中に分泌される血清蛋白質である。その他のTTR産生部位として、脳脈絡叢、眼の網膜色素上皮、膵臓ランゲルハンス島のα細胞が知られている。血中に分泌された本蛋白質は、127個のアミノ酸から構成されるが、豊富なβシート構造を持つことにより、アミロイド線維を形成しやすいと考えられている。TTR遺伝子には150種類以上の変異型が報告されており、その大部分がFAPの病原性変異として同定されてきた。TTRの30番目のアミノ酸であるバリンがメチオニンに変異するVal30Met型が、最も高頻度に認められる1,2)。生体内では、通常TTRは四量体として機能し、四量体の中心部には1分子のサイロキシン(T4)が強く結合し、T4の運搬を担っている。また、TTRはレチノール結合蛋白質との結合を介して、ビタミンAの輸送も担っている。■ 疫学以前はFAP ATTR Val30Metの大きな家系が、ポルトガル、スウェーデン、日本(熊本県と長野県)に限局して存在すると考えられていたが、近年、世界各国からFAP ATTR Val30Met患者の存在が確認されている1,2)。また、明確な家族歴がなく高齢発症のFAP が日本各地から報告されており4)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、糖尿病性ニューロパチー、手根管症候群、腰部脊柱管狭窄症などの非遺伝性末梢神経障害の鑑別疾患として本症を考えることが重要である。スウェーデンでは、FAP ATTR Val30Met遺伝子保因者の3~10%しか発症しないことが知られているが、わが国においても、TTR遺伝子に変異を持ちながら、終生FAPを発症しない症例も存在する。Val30Met以外の変異型TTRによるFAPもわが国から多く報告されている(図1)。わが国の疫学調査の結果では、国内の推定患者数は約600人であるが、的確に診断されていない症例が多く存在する可能性がある。画像を拡大する■ 病因TTRに遺伝子変異が生じると、TTR四量体が不安定化し、単量体へと解離することが、アミロイド形成過程に重要であると、in vitroの研究で示されている。しかし、アミロイドがなぜ特定の部位に沈着するのか、どのように細胞や臓器の機能を障害するのかは、明らかにされていない。アミロイド線維を形成するTTRの一部は断片化されており、アミロイド線維形成への関与が議論されている。■ 症状1)神経症状末梢神経障害は、軸索障害が主体で神経軸索が細胞体より最も遠い両下肢遠位部の症状が初発症状となる場合が多い。また、神経症状は一般に自律神経、感覚(温痛覚低下)、運動(両側末梢優位)の順で症状が出現することが多い。これは、アミロイド沈着により小径無髄線維から大径有髄線維の順に障害が進行するためと考えられている。病初期には、下肢末梢部である足首以下で、温痛覚の低下を認めるが触覚は正常である解離性感覚障害を認める場合が多い。温痛覚障害のため、足の火傷や怪我に患者本人が気付かない場合がある。筋萎縮、筋力低下など運動神経障害は、感覚障害より2~3年遅れて出現する場合が多いが、まれに運動神経障害が主体で感覚障害が軽い症例もある。進行期には、高度の末梢神経障害による四肢の感覚障害と筋力低下や呼吸筋麻痺などを呈する。アミロイド沈着による手根管症候群を呈する場合がある。とくに家族歴が明らかでない症例では、病初期にCIDP、糖尿病性ニューロパチー、腰部脊柱管狭窄症などと誤診されることが多く、注意が必要である。症例によっては、脳髄膜や脳血管のアミロイド沈着による意識障害や脳出血など中枢神経症候を呈する場合がある。2)消化器症状重度の交代性下痢便秘や嘔気などの消化管症状が出現する。末期には持続性の下痢となり、吸収障害や蛋白質の漏出も生じる。3)循環器系障害早期より自律神経障害による起立性低血圧や、アミロイド沈着による房室ブロック、洞不全症候群、心房細動などの不整脈が生じる。心筋へのアミロイド沈着により心不全を生じ、心室の拡張障害が収縮障害に先行すると考えられている。TTR変異型により心症候が主体で、末梢神経障害が目立たないタイプがある。4)眼症状変異型TTRは肝臓のみならず網膜からも産生されており、アミロイド沈着による硝子体混濁はFAP患者に多く認められる。硝子体混濁が本症の初発症状である症例もある。前眼部へのアミロイド沈着による緑内障を来し、進行すると失明の原因となる。また、涙液分泌低下によるドライアイも生じる。5)腎障害アミロイド沈着によるネフローゼ症候群や腎不全を呈するが、症例によりその程度は異なる。病初期には目立たない場合が多い。■ 分類TTR変異型により症候が異なる場合がある。アミロイドポリニューロパチー(末梢神経障害)が主体となるタイプ(Val30Metなど)、心アミロイドーシスにより不整脈や心不全が主体となるタイプ(Ser50Ile、Thr60Alaなど)、脳髄膜・眼アミロイドーシスにより一過性の意識障害や脳出血、白内障や緑内障が強く生じるタイプ(Ala25Thr、Tyr114Cysなど)がある。また、同じATTR Val30Metを持つFAP患者でも、ポルトガルでは若年発症(20~30代で発症)が多く、スウェーデンでは高齢発症(50歳以降)が多い。わが国でも、本疾患の集積地である熊本や長野のFAP患者は若年発症が多いが、他の地域では高齢発症で家族歴が確認できない症例が多く、70歳以降の発症も少なくない。■ 予後未治療の場合は、発症からの平均余命は若年発症のFAP ATTR Val30Metは約10~15年1)、高齢発症のFAP ATTR Val30Metは約7年4)である。進行期には、呼吸筋麻痺、重度の起立性低血圧、心不全、致死的な不整脈、ネフローゼ症候群、腎不全、蛋白漏出性胃腸症、重度の緑内障などを呈する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)本症の診断基準を表に示す。病初期に各治療法の効果が高いため、早期診断、早期治療が重要である。臨床症候や各種の臨床検査により本症が疑われる場合には、生検によりアミロイド沈着を検索すること、および専門施設に依頼し、免疫組織化学染色や質量分析法でTTRがアミロイドの構成成分であることを確認する必要がある(図2)。生検部位は、侵襲度の比較的低い消化管(胃、十二指腸、直腸)、腹壁脂肪、口唇の唾液腺、皮膚などが選択されるが、病初期にはアミロイド沈着が検出されない場合もある。本症の疑いが強い場合は、繰り返し複数部位からの生検を行うことが重要である。また、前述の部位からアミロイド沈着が確認できない場合は、障害臓器である末梢神経や心筋からの生検も考慮する必要がある。TTRがアミロイド原因蛋白質として同定された場合は、野生型TTRが非遺伝性に生じる老人性全身性アミロイドーシス(SSA)(野生型TTR[ATTRwt]アミロイドーシス)との鑑別のため、遺伝子検査や血液中TTRの質量分析によりTTR変異の解析を必ず行う(図3)。画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)FAPに対する治療は、近年、劇的に進歩している。長く実施されてきた肝移植療法に加えて、TTR四量体の安定化剤であるタファミジス(商品名: ビンダケル)が、国内でも2013年9月に希少疾病用医薬品として承認され、現在、本疾患に対し広く使用されている。また、核酸医薬によるTTR gene silencing療法の国際的な臨床試験が終了し、良好な結果が得られている。図4にFAPに対する治療法を研究中のものを含めて示した。画像を拡大する■ 肝移植療法本疾患の病原蛋白質である変異型TTRの95%以上が肝臓で産生されていることから、1990年にスウェーデンで本疾患に対する治療法として肝移植が初めて行われ、その有効性が示されてきた5)。FAP患者の血液中の変異型TTRは、正常肝が移植された後に速やかに検出感度以下まで低下する。しかし、肝移植で本疾患が完全に治癒するわけではなく、末梢神経障害を含めて、症候の大部分は移植後も残存する。また、発症から長期間経過し、病態が進行した症例や、高齢患者、BMIが低値(低栄養状態)であると、移植後の予後が不良であるため、肝移植が実施できない場合も少なくない。そして、症例によっては、肝移植後も症候(とくに心アミロイドーシス)が進行するケースもある。眼の網膜色素上皮細胞や脳脈絡叢からは、肝移植後も継続して変異型TTRが産生され続けているため、眼や脳・脊髄では、肝移植後も変異型TTRによるアミロイドが形成され、症候も悪化する症例が報告されている。他の治療法が開発されたことにより、本症に対する肝移植の実施数は減少傾向にある。■ TTR四量体安定化剤(タファミジス)TTR四量体が不安定となり単量体へと解離することが、TTRのアミロイド形成過程に重要な過程と考えられている。TTR四量体の安定化作用を持つ薬剤が、本症の新たな治療薬として研究開発されてきた。非ステロイド系抗炎症薬の1つであるジフルニサルなどにTTR四量体の安定化作用が確認され、本症の末梢神経障害に対する進行抑制効果が確認された6)。ジフルニサルには、非ステロイド系抗炎症薬が元来持つCOX阻害作用があり、腎障害などの副作用が出現する可能性が想定されたため、COX阻害作用を持たずにTTR四量体のより強い安定化作用を示す新規化合物としてタファミジスが新たに開発された。本薬剤の国際的な臨床治験が実施され、生体内でもTTR四量体を安定する作用が確認されるとともに、末梢神経障害の進行を抑制する効果が確認されている7)。また、心症候に対する効果も報告された8)。わが国では2013年9月に本症による末梢神経障害の進行抑制目的で承認されている。■ 核酸医薬(TTR gene silencing療法)9, 10)Small interfering RNA(siRNA)9) やアンチセンスオリゴ(ASO)10) を用いて、肝臓におけるTTRの発現抑制を目的としたgene silencing療法の開発が行われ、強いTTR発現抑制効果と良好な治療効果が確認されている9, 10)。これらのgene silencing療法では、変異型TTRに加えて、野生型TTRの発現抑制も標的としている。これらの治療法は、今後、本疾患に対する標準的な治療法となることが期待されている。■ その他の研究段階の治療法前述のごとく、肝移植療法の実施やTTR四量体安定化剤の臨床応用、gene silencing療法によるTTR発現抑制法の開発など、本疾患に対する治療法は近年急激に発展しているが、いずれもアミロイド原因蛋白質であるTTRの発現抑制および安定化を標的としており、沈着したアミロイドを除去する治療法は確立していない。さらなる治療法の改善を目指して、図4に示した方法をはじめとした多くの治療法の開発が精力的に行われている。■ 対症療法本症では、心伝導障害の進行は必発であるため、I度房室ブロックの段階でペースメーカーの植え込みを考慮する場合がある。致死的な不整脈が発生する場合には、植込み型除細動器を積極的に検討する必要がある。起立性低血圧に対して、弾性ストッキングや腹帯の使用を考慮する。手根管症候群に対しては、手術療法を考慮する。眼アミロイドーシスによる白内障や緑内障に対しても手術療法が必要となる。そのほかにも、自律神経症状や消化管症状、心不全などに対して内服薬による対症療法を試みるが、十分な効果が得られない場合が少なくない。4 今後の展望肝移植療法がFAPに対して実施され始めて28年以上が経過し、その有効性とともに治療法としての限界や関連する問題点が明らかになってきた。TTR四量体の安定化剤が臨床応用され、広く使用されるにつれて、本症に対する肝移植実施数は減少傾向にある。また、肝臓でのTTR発現抑制を目的とした核酸医薬によるgene silencing療法の臨床治験で良好な結果が得られ、わが国でも承認が待ち望まれる。これらの治療法の長期的な効果に関しては、まだ不明な点が多く残されているため、長期予後に関する調査が必要である。さらに、すでに組織に沈着したアミロイド線維を除去できる根治療法の研究開発が必要である。5 主たる診療科脳神経内科、循環器内科、眼科、移植外科、消化器内科、腎臓内科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報家族性アミロイドポリニューロパチーの診療ガイドライン(日本神経学会)(医療従事者向け診療情報)難病情報センター:全身性アミロイドーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)熊本大学 大学院生命科学研究部 脳神経内科学分野(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)熊本大学 医学部附属病院 アミロイドーシス診療センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)信州大学 医学部第3内科 アミロイドーシス診断支援サービス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews(Pub Med)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)GeneReviews(日本語版)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)FAP WTR(FAPに対する肝移植に関する国際的レジストリ)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)THAOS(TTRアミロイドーシスの自然経過に関する国際的調査)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)The Registry of Mutations of Amyloid Proteins(TTR変異の国際的レジストリ)(医療従事者向けの研究情報)OMIM(医療従事者向けの診療・研究のレビュー情報)日本アミロイドーシス学会(医療従事者向けの研究情報)国際アミロイドーシス学会(ISA)(医療従事者向けの研究情報)厚生労働省 難治性疾患政策研究事業「アミロイドーシスに関する調査研究」班(医療従事者向けの研究情報)患者会情報道しるべの会 second step あゆみ ブログ(患者のブログ)1)Ando Y, et al. Arch Neurol. 2005;62:1057-1062.2)Ueda M, et al. Transl Neurodegener. 2014;3:19.3)Benson MD, et al. Amyloid. 2019 [Epub ahead of print]4)Koike H, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2012;83:152-158.5)Yamashita T, et al. Neurology. 2012;78:637-643.6)Berk JL, et al. JAMA. 2013;310:2658-2667.7)Coelho T, et al. Neurology. 2012;79:785-982.8)Maurer MS, et al. N Engl J Med, 2018;379:1007-1016.9)Adams D, et al. N Engl J Med. 2018;379:11-21.10)Benson MD, et al. N Engl J Med. 2018;379:22-31.公開履歴初回2013年08月08日更新2019年04月23日

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糖尿病性腎臓病におけるエンパグリフロジンの複合腎・心血管アウトカム/国際腎臓学会

 SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)によるEMPA-REG OUTCOME試験における、ベースライン時の顕性アルブミン尿を伴う糖尿病性腎臓病(DKD)患者での複合腎・心血管アウトカムの結果が、4月12~15日にオーストラリアで開催された国際腎臓学会(ISN)-World Congress of Nephrology(WCN)2019にて公表された。日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社と日本イーライリリー株式会社が発表した。 EMPA-REG OUTCOME試験では、心血管イベントの発症リスクが高い2型糖尿病患者において、標準治療にエンパグリフロジンを上乗せ投与した結果、プラセボ群と比較して、主要評価項目である複合心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)のリスクが14%減少し、心血管死リスクが38%減少したことが報告されている。さらに同試験の副次評価項目では、腎症の初回発現もしくは悪化を評価した複合腎イベントの相対リスクが39%低下したことも示されている。 今回、EMPA-REG OUTCOME試験のさらなる解析として、腎イベントのリスクが高い、ベースライン時の顕性アルブミン尿を伴うDKD患者(30≦eGFR<90mL/分/1.73m2かつUACR>300mg/g)と、その他の患者(eGFR≧90mL/分/1.73m2またはUACR≦300mg/g)における複合腎・心血管アウトカム(末期腎不全[腎代替療法の開始またはeGFR<15 mL/分/1.73m2の持続]、血清クレアチニン値の倍加、腎疾患による死亡または心血管死のいずれかとして定義)の解析が行われた。また、その他の評価項目として、複合心血管アウトカム(心不全による入院または心血管死)、心血管死、複合腎アウトカム(末期腎不全、血清クレアチニン値の倍加、腎疾患による死亡)および全死亡について解析が行われた。 その結果、全体集団において、エンパグリフロジン群はプラセボ群と比較し、複合腎・心血管イベントリスクが43%低下した(ハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.46~0.70)。また、腎イベントリスクが高い集団であるベースライン時の顕性アルブミン尿を伴うDKD患者においては54%低下し(HR:0.46、95%CI:0.31~0.68)、その他の患者においても41%低下した(HR:0.59、95%CI:0.46~0.75)。 これらの複合腎・心血管イベントでの一貫した効果は、複合心血管イベント、心血管死、複合腎イベント、全死亡においても示された。

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高血圧治療ガイドライン2019で降圧目標の変更は?

 本邦における高血圧有病者は約4,300万人と推計される。このうち、治療によって良好なコントロールが得られているのは30%以下。残りの70%は治療中・未治療含め血圧140/90mmg以上のコントロール不良の状態となっている。2014年以来5年ぶりの改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」では、一般成人の降圧目標値が引き下げられ、より早期からの非薬物治療を主体とした介入を推奨する内容となっている。 4月25日の「高血圧治療ガイドライン2019」発表を前に、日本高血圧学会主催の記者発表が4月19日に行われ、平和 伸仁氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター)が改訂点やその作成経過について解説した。家庭血圧 vs.診察室血圧、厳格治療 vs.通常治療などCQ方式で推奨度を明記 高血圧治療ガイドライン2019では、初めてClinical Question(CQ)方式、Systematic Review(SR)方式が採用され、エビデンスに基づく17のCQが作成された。また、エビデンスが十分ではないが、医療者が実臨床で疑問を持つ課題として9のQ(クエスチョン)を設定。コンセンサスレベルでの推奨が解説されている。 作成されたCQは、「成人の本態性高血圧患者において、家庭血圧を指標とした降圧治療は、診察室血圧を指標とした治療に比べ、推奨できるか?(CQ1)」、「降圧治療において、厳格治療は通常治療と比較して心血管イベントおよび死亡を改善するか?(CQ3)」、「高血圧患者における減塩目標6g/日未満は推奨されるか?(CQ4)」など。推奨の強さが3段階、エビデンスの強さが4段階でそれぞれ評価されている。 Qについては、2021年以降製造・輸出入が禁止される水銀血圧計に代わって何を推奨するか(Q1)、家庭血圧はいつ/何回/何日間の測定を推奨するか(Q2)などの項目が設けられた。基準値は変更なし、ただし120/80mmHg以上は定期的な再評価と早期介入を推奨 高血圧治療ガイドライン2019での高血圧の基準値は、2014年版と同じく140/90mmHg以上。一方で、正常域血圧の名称と拡張期血圧の範囲が、一部変更された:・至適血圧:120/80mmHg未満→正常血圧:120/80mmHg未満・正常血圧:120~129/80~84mmHg→正常高値血圧:120~129/80mmHg未満・正常高値血圧:130~139/85~89mmHg→高値血圧:130~139/80~89mmHg 背景には、120~139/80~89mmHgでは生涯のうちに高血圧へ移行する確率が高く、120/80mmHg未満と比較して脳心血管リスクが高いというデータがある。そのため、高血圧治療ガイドライン2019では基準値以下である高値血圧あるいは正常高値血圧の段階から、早期介入が推奨されている。2014年版では、I度高血圧以上のみ年齢や合併症の有無によって層別化されていた脳心血管病リスクが、高値血圧についても低~高リスクに分類された(表3-2)。また、高血圧管理計画は、高値血圧や正常高値血圧についてもフローチャートの形で整理され、初診時の血圧レベルに応じた再評価時期、治療法選択の考え方が示されている(図3-1)。なぜ高血圧治療ガイドライン2019で降圧目標が10mmHgずつ引き下げられたか 合併症のない75歳未満の成人および脳血管障害患者、冠動脈疾患患者については、高血圧治療ガイドライン2019では130/80mmHg未満、75歳以上の高齢者については140/90mmHg未満に、それぞれ降圧目標値が10mmHgずつ引き下げられた。この背景には、日本人対象のJATOS、VALISH、HOMED-BPなどを含む介入試験のメタ解析結果(CQ3)と、EPOCH-JAPANや久山町研究などのコホート研究結果があるという。 厳格治療群と通常治療群を比較したRCTのメタ解析では、厳格治療群で複合心血管イベントおよび脳卒中イベントリスクが有意に低く、130/80mmHgを目標とする厳格治療のメリットが示された。またEPOCH-JAPANでは、120/80mmHg未満と比較して血圧レベルが上昇するにつれ脳心血管死亡リスクが高まることが示されている。 高血圧治療ガイドライン2019では、高齢者は130 mmHg未満への降圧による腎障害などに注意を要するため、140/90mmHg未満とされたが、「忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満を目指す」とされている。高血圧治療ガイドライン2019で従来より厳格な薬物治療が求められる患者とは? とはいえ、「この目標値は、すべての患者における降圧薬による降圧目標ということではない」と平和氏は重ねて強調。初診時あるいは降圧薬治療中で130/80mmHg台、低・中等リスクの患者では、生活習慣修正の開始・強化が推奨されている。脳心血管病や糖尿病などの合併症のある高リスク患者でのみ、「降圧薬治療の開始/強化を含めて、最終的に130/80mmHg未満を目指す」とされた。 2014年版と比較して、高血圧治療ガイドライン2019で生活習慣修正の上で薬物による降圧強化が新たに推奨された病態としては、下記が挙げられている:◇130~139/80~89mmHgで、以下のいずれか・75歳未満の高リスク患者※・脳血管障害患者(血管狭窄なし)・冠動脈疾患患者※高リスク患者の判定: ・脳心血管病既往 ・非弁膜症性心房細動 ・糖尿病 ・蛋白尿陽性のCKD ・65歳以上/男性/脂質異常症/喫煙の4項目のうち、3項目以上がある ・上記4項目のうちいずれかがあり、血圧160/100mmHg以上 ・血圧180/110mmHg以上◇75歳以上で、収縮期血圧140~149mmHg

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LDL-コレステロール低下療法後の残余リスクは?(解説:平山篤志氏)-1027

 スタチン、コレステロール吸収阻害薬、そしてPCSK-9阻害薬と、これまではLDL-コレステロール(LDL-C)を低下させることにより心血管イベントが低下することが明らかにされてきた。しかし、それでもまだゼロにならないので、残余リスクと呼ばれている。その1つが、中性脂肪、トリグリセライド(TG)である。TGが高くなるのは、リポプロテインリパーゼ(LPL)活性の低下により中性脂肪が分解されず、結果としてHDL-コレステロールが低値になる病態で、インシュリン抵抗性とも関連しており糖尿病患者に多いパターンである。ただ、これまでの中性脂肪を低下させるという薬剤であるフィブラートを用いた大規模臨床試験では、心血管イベントを有意に低下させることができなかった。 本論文では中性脂肪値が低い遺伝的欠損を持つ群とLDLコレステロール受容体変異のためLDL-C値が低値群のイベントを比較し、TGの低下とLDL-Cの低下がともに心血管イベントを低下させることを示している。ただ、両者の効果をアポリポプロテインB(ApoB)の低下効果で表すと独立性がなくなってしまうことから、TGによるイベント低下効果もApoB低下によるLDL-C低下効果であることを示唆している。コレステロールは血中では溶解しないためリポ蛋白と結合している。ApoBはコレステロール受容体と結合し、コレステロール含有量が最も多いリボ蛋白であり、酸化されることで動脈硬化を惹起する。TGにはコレステロールが5分の1含まれているため、TGを低下させてもApoBの低下効果は低い。 本論文では、これまでのフィブラートが大規模臨床試験で有効性を示せなかったのは、ApoB低下効果、すなわちLDL-C低下が不十分であったからと指摘している。遺伝的変異からの解析では、残余リスクとしてのTGもLDL-Cではないかとの示唆である。確かに、TG高値はsmall dense LDL-C値が高くなることから、さらにLDL-Cを低下させることが必要であるとされている。しかし、JELIS試験やREDUCE-IT試験で示されたエイコサペンタ酸の効果は、LDL-C値とは関連がないとされている。この点では、エイコサペンタ酸でのイベント低下効果はLDL-Cでは低下しないResidual Riskを示した試験といえるであろう。ただ、TGへの介入がLDL-Cだけなのかどうかは、現在進行中の大規模臨床試験(PROMINENT試験)の結果を期待して待つのみである。

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国際腎臓学会で患者中心の透析医療を目指した「SONGイニシアチブ」

 4月12~15日にオーストラリアで開催された国際腎臓学会(ISN)-World Congress of Nephrology(WCN)2019で、4日間にわたり取り上げられた話題は多岐にわたるが、ここでは「患者を中心とした腎臓病治療」について紹介したい。 まず国際腎臓学会12日のセッション、「患者中心の慢性腎臓病(CKD)管理」では、患者の立場から、現在の臨床試験における評価項目の妥当性を問う、“SONGイニシアチブ”という取り組みが報告された。患者目線で見た場合、CKD治療で最重要視されるのは必ずしも生命予後や心血管疾患ではないようだ。CKD患者の「人生」を良くするために、医療従事者は何を指標にすればよいのか―。Allison Tong氏(オーストラリア・シドニー大学)の報告を紹介する。臨床試験は患者の疑問に答えているのか 現行の臨床試験は、当事者であるCKD患者が持つ疑問に答えているのだろうか。たとえば、透析例を対象にした介入試験326報を調べると、臨床評価項目で最も多かったのは「死亡」(20%)、次いで「心血管疾患」(12%)、「QOL」(9%)である1)。しかし、透析患者が自らの治療に当たり重要視しているのはむしろ「旅行の可否」や「透析に拘束されない時間」であり、医療従事者に比べ「入院」や「死亡」は重要視していないことも明らかになっている2)。つまり現在の臨床試験は必ずしも、透析患者の知りたい項目に答えていない。臨床試験に向け患者と医師がコラボ、SONGイニシアチブ このような現状を改善すべく、Tong氏らにより立ち上げられた運動が、Standardized Outcomes in Nephrology(SONG:腎症における標準評価項目)イニシアチブである。医療従事者と患者が、双方にとって意味のある評価項目を確立すべくコラボレーションする。現在、SONGイニシアチブは6つの腎疾患分野で進められているが、その中で先導的役割を果たしているのが、血液透析を対象としたSONG-HDである。以下の手順で、患者、医療従事者双方にとって意味のある評価項目を探った。 まず、医療従事者からなる運営委員会が文献をレビューし、これまでに報告された、血液透析例への介入試験で用いられた評価項目を抽出した。次に世界100ヵ国、患者・医療従事者6,400名からなるSONGイニシアチブ参加者から、参加施設ごとにフォーカスグループを選出。それら評価項目をそれぞれの立場から重要と思われる順に位付けし、加えてその理由をまとめた。これにより、患者と医療従事者間の相互理解促進が期待できる。そして最終的に、抽出評価項目に関する、イニシアチブ参加者全員を対象としたアンケート調査とフィードバックを繰り返し(デルファイ法)、全員にとって「重要と思われる」評価項目を絞り込んだ。その結果は最終的に、患者・医療従事者の代表からなるコンセンサス・ワークショップで議論され、決定された。「生きているだけ」の生活に患者は必ずしも満足していない フォーカスグループ・ディスカッションの結果は、血液透析における、患者と医療従事者の視点の差を浮き彫りにした。医療従事者が「死亡(生命予後)」を最重要視し、続いて「腹膜透析関連(PD)感染症」、「疲労」、「血圧」、「PD脱落」を重要な項目としたのに対し、患者が最も重要視していたのは「PD感染症」だった。次いで「疲労」、「死亡」となり、4番目に重視するのは「時間の自由さ」、そして「就労の可能性/経済的影響」だった。Tong氏は、ある患者による「時間の自由が利かず、エネルギーや移動の自由がなければ、何もせずに家で座っているのと同じだ」という旨の発言を紹介した。「単に生きているだけ」の状態に、患者は決して満足していないということだという。血液透析臨床研究に必須の4評価項目を提唱 これらの過程を経てSONG-HDコンセンサス・ワークショップは、「疲労」、「心血管疾患」、「バスキュラーアクセス」、「死亡」の4項目が、透析医療に関係する全員にとって重要であり、すべての臨床試験で検討すべき中核評価項目であると決定した。またそれに加え、一部の関係者にとって臨床的な意味を持つ中間層評価項目、臨床的な意味を持たない外殻評価項目も示された。 これら4項目中、「疲労」と「心血管疾患」の2項目については次に記すように、患者と医療従事者間に意思疎通の齟齬が生じないことよう、さらに踏み込んだ研究が報告された。「疲労」とはどのような状態を指しているのか? SONG-HDにおいて必須の評価項目とされた「疲労」だが、この言葉で表される、あるいはこの単語から想起される体調は人により千差万別であろう。この曖昧さは、臨床試験の評価項目として適切さを欠く。そこでAngelo Ju氏(オーストラリア・シドニー大学)らは「疲労」の客観的評価に取り組み、国際腎臓学会13日のポスターセッションで報告した。 まず、専門家グループがこれまでの研究で用いられていた「疲労」の評価法をレビュー。その結果を送付されたSONG-HD参加者(60ヵ国、658名)が、適切と思うものから順に序列をつけ返信。その結果を受け、患者と医療従事者からなるコンセンサス・ワークショップで議論し、以下に示す「3つの問い×4通りの答え」という「疲労」評価モデルを提唱。少人数を対象とした予備試験を実施し、適切さについてアンケートを実施した。 その結果、「疲れを感じますか?」、「元気がありませんか?」、「疲れのせいで日常生活に支障が出ますか?」―という3つの問いに、「まったくない」(0点)、「若干」(1点)、「かなり」(2点)、「ひどく」(3点)―の4回答が対応するモデルが完成した。これをどのように用いるか(組み合わせるのか、単独でも使えるのか、など)、現在、より多数を対象とした実証研究で検討中だという。「心血管疾患」とは何を指している? 使う人により意味が異なるという点では、「心血管疾患」という言葉も同じである。そこでEmma O'Lone氏(オーストラリア・シドニー大学)らは、字義を統一すべく、アンケート調査を行った。 アンケートの対象はSONG-HDに参加している、世界52ヵ国の患者・医療従事者481名である。血液透析に対する介入試験における「心血管疾患」で、重要と考えている個別疾患を順に挙げてもらった。 その結果、うまい具合に、患者、医療従事者とも「心臓突然死」を最重要と評価し、次いで「心筋梗塞」、「心不全」の順となった。今後は、これらイベントの適切な定義付けが必要だとO’Lone氏は考えている。本研究も国際腎臓学会13日のポスターセッションで報告された。患者がまず試験参加を決定し、主治医をリクルート さらに米国では「患者主導型」ともいえる臨床試験が、すでに始まっている。国際腎臓学会12日のセッション、「CKD研究におけるイノベーション」から、Laura M. Dember氏(米国・ペンシルベニア大学)の報告を紹介する。 Dember氏が挙げた「患者主導型」臨床試験の実例は、“TAPIR”試験3)である。対象は、腎疾患ではなく慢性肉芽腫症だが、寛解後低用量プレドニゾロン6ヵ月継続が転帰に及ぼす影響を、寛解時中止群と比較するランダム化試験である。 プレドニゾロンの有効性の検討に先立ち、試験実施センターが主導的役割を果たす「従来型」登録と、以下の「患者主導型」登録の間で、登録状況に差が生じるかが検討された。 「患者主導型」登録では、まず参加患者をウェブサイトで募る。参加に同意した患者はウェブで同意書を提出し、医師向けの臨床試験資料を受け取る。そして主治医受診時、その資料を提示して自らの臨床試験参加意思を表明、医師に対し協力を要請する。医師はプロトコールが適切であると判断すれば、患者に協力して臨床試験に参加する。その際は、ランダム化された治療を順守し、試験で求められる患者データを提出することになる。 その結果、患者登録数は3.3例/月の予定に対し、「従来型」群は1.8例/月、「患者主導型」群は0.4例/月といずれも振るわなかったが、「導入率」など、集まった患者の質には両群間で有意差を認めなかった。Dember氏はこの結果から、「患者主導型」登録を実行可能と評価したようだ。 ただし「患者主導型」の登録が実行可能となるためには、いくつか条件もある。同氏は実例として「患者の意識が高い」、「医師にやる気がある」、「理論的背景が明らかになっている必要がある」、「試験治療について担当医に高度な経験と実績がある」―などを挙げた。 このような「患者主導型」臨床試験はうまくいけば、医師が治療したい病変だけではなく、患者がなんとかしたいと苦しんでいる問題の掘り起こしにもつながる。また、本試験の臨床転帰が明らかになった時点で、「従来型」群と「患者主導型」群に、脱落率など、何か差が生じる可能性もあるだろう。 今後を注視していきたい。

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症候性AFの第一選択にアブレーション加わる/不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)

 「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」が、2019年3月29日に発表された。本ガイドラインは2011年改訂の「不整脈非薬物治療ガイドライン」、および2012年発表の「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」の統合・改訂版。第83回日本循環器学会学術集会(3月29~31日、横浜)で、ガイドライン作成の合同研究班班長である栗田 隆志氏(近畿大学病院 心臓血管センター)、野上 昭彦氏(筑波大学医学医療系 循環器不整脈学)が、植込み型心臓電気デバイス(CIED)とカテーテルアブレーションの主な改訂点についてそれぞれ講演した。ICD適応を日本のエビデンスで裏付け CIEDでは、虚血性の冠動脈疾患および非虚血性心筋症に対する植込み型除細動器(ICD)の適応を、フローチャートの形で整理。ともに考え方や推奨度そのものは、2011年版から大きな変化はない。しかし非虚血性心筋症に対する一次予防では、DANISH試験を含むメタ解析や日本発のエビデンスなど、最新試験結果による推奨度の裏付けがなされた。 栗田氏は、「とくに2つの日本のデータから、非虚血性心筋症の一次予防におけるICD適応の根拠を得ることができたことは大きい。2015年発表のCHART-2試験によって示された、1次予防適応のクラスIならびにクラスIIa相当の患者における致死的不整脈の発生率はこの推奨度を支持する。また、2018年発表のNippon Stormからは、非虚血性の一次予防における適切作動率が、虚血性の二次予防と同程度という結果が得られており、有用性が示されている」と述べた。ESCではQRS幅130ms未満はCRT禁忌、しかし日本では? 心臓再同期療法(CRT)の適応は非常に複雑なため、NYHA心機能分類、薬物治療の施行、LVEF、QRS波形、QRS幅、調律に応じた推奨度を一覧化した表を不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)で初めて掲載している。この中で議論となったのが、CRT 適応とするQRS幅の下限値だ。2013年のEchoCRT試験の結果を受けて、ESC(欧州心臓病学会)の2016年のガイドラインでは、130ms未満はクラスIII(禁忌)となっている。 しかし、日本では120~130msの心筋症患者でもCRTレスポンダーの報告があること、またEchoCRT試験のサブ解析では、左室拡張末期容量(LVEDV)の小さな症例ではCRTの有用性が示されていることなどから、本改訂版では変更なく、下限値を120msとしている。 その他、旧版以降に登場した、リードレスペースメーカ、ヒス束ペーシング、経皮的リード抜去術などの新たな治療法についてもガイドラインでは項目立てされ、エビデンスが整理されている。症候性AFでは、薬物治療とカテーテルアブレーションが第一選択に 野上氏は、まず大前提として甲状腺機能亢進症、肥満、高血圧、糖尿病といった心房細動(AF)のリスク因子の適切な治療なくして、カテーテルアブレーションの施行はないことを強調。そのうえで、症候性AFにおいては、近年発表された3つのRCTやメタ解析でその有用性が示されたことから、抗不整脈薬の投与を経ないカテーテルアブレーションの施行を、抗不整脈薬投与とともに第一選択としてガイドラインでは推奨したと説明した。発作性/持続性AFでは、第一選択としてクラスIIaの推奨度が示されている。長期持続性AFについてはエビデンスが十分ではないが、抗不整脈薬による治療効果が乏しいため、同じくIIbの推奨度がガイドラインでは示されている。 一方、無症候性AFでは、長期予後を改善するというエビデンスは十分ではない。そのため不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)では2012年版と変更なく、推奨度はIIbのままとなっている。周術期の抗凝固療法についての改訂点は まず、ワルファリンとダビガトランを投薬中の患者については、休薬なしでAFアブレーションを施行することにクラスI、その他のDOACについてはクラスIIaの推奨度が不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)では示された。一方、多くの病院で行われている、DOACの術前1回ないし2回の休薬についても、ABRIDGE-J試験の結果などからIIaの推奨度となっている。 その他、単形性持続性心室頻拍(VT)におけるアミオダロン投与有の患者、右室流出路あるいは末梢プルキンエ線維起源の心室期外収縮(PVC)契機の多形性VT・心室細動(VF)に対するアブレーションに、クラスIの推奨度が示されている。■関連記事「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」発表/日本循環器学会急性冠症候群ガイドラインの改定点は?/日本循環器学会

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5α還元酵素阻害薬で糖尿病の発症リスク増大?/BMJ

 5α還元酵素阻害薬(デュタステリドまたはフィナステリド)の投与を受ける良性前立腺肥大症患者は、タムスロシンの投与を受ける患者と比較して2型糖尿病の新規発症リスクが上昇することが示された。デュタステリドとフィナステリドとの間で有意差はなかった。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのLi Wei氏らが、5α還元酵素阻害薬投与による2型糖尿病の新規発症を検証した住民ベースのコホート試験の結果で、「これらの薬剤を開始する男性で、とくに2型糖尿病のリスク因子を有する男性では、モニタリングが必要になるだろう」とまとめている。最近の短期投与試験で、デュタステリドがインスリン抵抗性や脂肪肝を引き起こすことが示され、デュタステリドを日常的に服用している男性は他の治療薬を用いている男性と比較し、2型糖尿病のリスクが増加する可能性が指摘されていた。BMJ誌2019年4月10日号掲載の報告。デュタステリド群、フィナステリド群、タムスロシン群で2型糖尿病の新規発症率を解析 研究グループは、英国の大規模臨床データベース(Clinical Practice Research Datalink:CPRD 2003~14年)と台湾の医療保険請求に基づく研究用データベース(Taiwanese National Health Insurance Research Database:NHIRD 2002~12年)を用いて、前立腺肥大症の薬物療法として5α還元酵素阻害薬の投与を受ける患者における2型糖尿病の新規発症率を調べた。 CPRDでは、デュタステリド群8,231例、フィナステリド群3万774例、タムスロシン群1万6,270例が特定され、傾向スコアマッチング(デュタステリド対フィナステリドまたはタムスロシンを2対1)により規定したコホートは、それぞれ2,090例、3,445例、4,018例であった。NHIRDでは、デュタステリド群1,251例、フィナステリド群4,194例、タムスロシン群8万6,263例が特定され、傾向スコアマッチング後のコホートは、1,251例、2,445例、2,502例であった。 2型糖尿病の発生タイプを、Cox比例ハザードモデルを用いて評価した。デュタステリド、フィナステリドで2型糖尿病の発症リスクが約30%上昇 CPRDでは、追跡期間中央値5.2年(SD 3.1年)で、2型糖尿病の新規発症は2,081例確認された(デュタステリド群368例、フィナステリド群1,207例、タムスロシン群506例)。1万人年当たりの発症頻度は、デュタステリド群76.2(95%信頼区間[CI]:68.4~84.0)、フィナステリド群76.6(95%CI:72.3~80.9)、タムスロシン群60.3(95%CI:55.1~65.5)であった。タムスロシン群と比較し、デュタステリド群(補正後ハザード比[HR]:1.32、95%CI:1.08~1.61)およびフィナステリド群(1.26、1.10~1.45)は、2型糖尿病リスクの中程度の増大が確認された。 NHIRDの結果も、CPRDの結果と一致していた(タムスロシン群と比較したデュタステリド群の補正後HR:1.34[95%CI:1.17~1.54]、同フィナステリド群の補正後HR:1.49[1.38~1.61])。 傾向スコアマッチング解析でも、同様の結果が示された。

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長時間透析の有用性は確認できず:ACTIVE Dialysis延長観察/国際腎臓学会

 血液透析例の予後改善の方策として、透析時間延長の有用性が唱えられている。しかし近年報告されたランダム化試験では、延長による生命予後改善の報告がある一方1)、増悪の報告もある2)。 前者は施設での短時間透析の回数を増やす有用性を検討しており、後者は自宅での夜間透析の回数を増やしていた。いずれも回数増加を介した透析時間の延長を試みていた。では透析を回数ではなく、時間そのものを目安に延長した場合、血液透析例の予後はどうなるだろうか―。この問いに答えるべく、Brendan Smyth氏(オーストラリア・シドニー大学)は、ACTIVE Dialysis試験の延長観察データを解析した。しかし観察研究という限界もあり、長時間透析の有用性は確認できなかった。4月12~15日にオーストラリアで開催された国際腎臓学会(ISN)-World Congress of Nephrology(WCN)2019のLate Breaking Sessionにて報告された。≧24時間/週の「長時間」透析と≦18時間/週の「標準」透析の比較 ACTIVE Dialysis試験は元来、長時間透析によるQOLへの影響を検討したランダム化試験である。血液透析(施設、自宅を問わず)を施行中の200例が、透析時間12~15時間(上限18時間)/週の「標準」透析群と、≧24時間/週の「長時間」透析群にランダム化され、12ヵ月間追跡された。両群とも、1週間当たりの透析回数や毎回の透析時間は、参加者が自由に設定できた。 今回報告されたのは、上記の12ヵ月間の「長時間」透析によるQOLへの影響について追跡終了後、さらに4年間観察した結果である。 当初の12ヵ月間の追跡終了時、試験に残っていたのは185例だった。平均年齢は52.1歳。透析導入の理由は、糸球体腎炎が41.0%で最も多く、次いで糖尿病性腎症の27.0%、高血圧性腎硬化症の11.0%が続いた。観察期間の大半で「長時間」透析と「標準」透析に差はなくなり、生命予後にも有意差なし それら185例をさらに4年間観察したデータを解析したが、介入試験終了後の観察研究となったため、「長時間」透析群における週当たりの透析時間は維持されず短縮。そのため、観察1年後以降は「標準」透析群との差は消失していた。いずれの群も、週の透析時間中央値は12時間であり、観察終了時に「長時間」透析群で≧24時間/週の透析を受けていたのは5%のみだった。 その結果、5年生存率は両群とも80%。「標準」透析群に対する「長時間」透析群の死亡ハザード比(HR)は0.91(95%信頼区間[CI]:0.48~1.72)で、有意差は認められなかった。「長時間」透析の有用性が否定されたわけではない Smyth氏はそこで、本稿の冒頭にある2試験(「頻回[=長時間]」透析vs.「通常」透析)と今回の結果を併せてメタ解析を行った。すると「長時間」透析では「通常」透析に比べ、死亡HRが0.84となったが、95%信頼区間は「0.57~1.23」で、有意差とはならなかった。しかし試験間のばらつきの指標であるI2は79.6%ときわめて高く、同氏は「このメタ解析をもとに、「長時間」透析の有用性を否定するのは適切ではない」と注意を促した。

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エンドセリン受容体拮抗薬の糖尿病性腎症への効果は?:SONAR試験/国際腎臓学会

 2010年に報告されたASCEND試験1)において、糖尿病性腎症に対する腎保護作用を示しながら、心不全増加のため有用性を証明できなかったエンドセリン受容体拮抗薬だが、対象例を適切に絞り込めば有用であることが、ランダム化二重盲検試験“SONAR”の結果から明らかになった。本試験は、4月12~15日にオーストラリアで開催された国際腎臓学会(ISN)-World Congress of Nephrology(WCN)2019のBreaking Clinical Trialsセッションにおいて、Dick de Zeeuw氏(オランダ・グローニンゲン大学)らが報告した。エンドセリン受容体拮抗薬の短期服用でUACRが低下する例に限定 SONAR試験の対象は、最大用量のレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬服用中の、慢性腎臓病(CKD)合併2型糖尿病例のうち、エンドセリン受容体拮抗薬atrasentan 0.75mg×2/日を6週間服用し(導入期間)、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が30%以上低下した例である。 「UACR低下率≧30%」を基準にした理由は、以下のとおり。 先述のASCEND試験において観察された心不全入院の増加は、エンドセリン受容体拮抗薬開始後に体重増加が大きい群で著明に高く2)、また別の臨床試験において、エンドセリン受容体拮抗薬による早期のUACR低下は、その後の体重と有意に逆相関していた3)。つまり、エンドセリン受容体拮抗薬の短期服用でUACRが低下する例に限定すれば、心不全発症高リスク例を除外できる可能性があると考えたわけである。無作為化されたのは適格例の約半数 適格例の5,630例が導入期間に入り、6週間後、52%に相当する2,648例で「UACR低下率≧30%」が認められた。 これら2,648例の、導入期間開始時における平均年齢は64.8歳、HbA1c平均値は7.8%だった。腎機能は、推算糸球体濾過率(eGFR)平均値が43.8mL/分/1.73m2、UACR平均値は約800mg/gであった。 治療薬としては、ほぼ全例がRAS阻害薬を服用、70%強がスタチンを服用していた。 これら2,648例は、atrasentan 0.75mg×2/日服用群(1,325例)とプラセボ群(1,323例)にランダム化され、二重盲検法にて2.2年間(中央値)追跡された。エンドセリン受容体拮抗薬で腎機能低下を抑制 その結果、主要評価項目である「血清クレアチニン(Cr)値倍増・末期腎不全への移行」の、atrasentan群における対プラセボ群ハザード比(HR)は、0.65(95%信頼区間 [CI]:0.49~0.88)の有意低値となった(atrasentan群:6.0% vs.プラセボ群:7.9%)。 内訳を見ると、atrasentan群で著明に減少していたのは「血清Cr値倍増」であり(HR:0.61、95%CI:0.43~0.87)、「末期腎不全への移行」には有意なリスク減少を認めなかった(HR:0.73、95%CI:0.53~1.01)。 またatrasentan群における主要評価項目抑制は、事前設定したすべてのサブグループにおいて一貫していた。エンドセリン受容体拮抗薬群の心不全リスクは高まらなかった 懸念される「心不全」(発症・増悪)は、atrasentan群で5.5%と、プラセボ群の3.9%よりも高値となったが、有意差には至らなかった(p=0.064)。一方、「貧血」はASCEND試験同様、エンドセリン受容体拮抗薬群で有意に多かった(18.5% vs.10.3%、p<0.001)。 また「重篤な有害事象」発現率も、atrasentan群で有意に高かった(36.3% vs.32.6%、p=0.049)。ただし「有害事象による脱落」は有意差とならなかった(10.4% vs. 9.2%、p=0.360)。 本研究は、報告と同時にLancet誌オンライン版で公開された。

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新規携帯型デバイスd-NAVは2型糖尿病患者のインスリン治療を大きく前進させるか?(解説:住谷哲氏)-1026

 インスリン投与が必要となる2型糖尿病患者は少なくない。血糖降下薬としてのインスリンの特長は投与量に上限がないことであり、理論上インスリン投与量を増加すれば血糖は必ず低下する。しかし実臨床においてはインスリン投与にもかかわらずHbA1c>8.0%の患者は多く存在する。本論文の著者であるHodish氏らはこの状況を“insulin paradox”と名付けて、その原因は必要十分量のインスリンが投与されていないことにあると主張してきた1)。さらに必要十分量のインスリンが投与されないのは、多忙な医療従事者が個々の患者に対してインスリン投与量の変更(insulin titration)を実施する時間がないのが一因であるとして、insulin titrationを自動化するアルゴリズムDiabetes insulin guidance system DIGSTMを開発した。このDIGSTMを自己血糖測定器に組み込んだものが携帯型デバイスd-NAV(diabetes navigator)である。d-NAVを用いて自己血糖を測定するとまず血糖値が表示され、続いてボタンひとつで必要なインスリン投与量が表示されるので患者は指示に従ってインスリンを注射することになる。 少人数の患者を対象としたproof-of-concept試験ですでにその有効性が証明されたので2)、参加者を増やして実施されたのが本試験である。対象者はインスリン使用中の2型糖尿病患者であるが、insulin regimenは(1)基礎インスリンのみ(いわゆるBOT)、(2)混合型インスリン2回注射法、(3)Basal-bolus法、(4)カーボカウント併用のbasal-bolus法の4種が使用されていた。自己血糖測定はインスリン投与前に実施された。その結果は、6ヵ月後の試験終了時にHbA1c値は介入群が1.0%低下したのに対し、対照群は0.3%の低下であり、両群間に有意な差が認められた(p<0.0001)。さらにHbA1c<7%を達成した患者の割合は、介入群が22%と、対照群の5%に比べ有意に多かった(p=0.0008)。インスリン投与量は介入群の1.24単位/kg/日に対し対照群では0.76単位/kg/日であり介入群で有意に多かった(p=0.0001)。 d-NAVによるinsulin titrationはインスリン治療で常に問題となるclinical inertiaを克服する有用なツールとなる可能性が高い。d-NAVの基礎にある考えは前述したようにインスリン投与量の最適化、換言すれば十分量のインスリンを投与することで血糖コントロールを改善することにある。UKPDS33およびORIGINでインスリンが心血管イベントを増加しないことは証明されている。一方で、ACCORDの結果は血糖降下薬の多用によるHbA1cの低下のみを目指した治療が患者に不利益を与える可能性を示している。新たなツールを用いてHbA1cを低下させることは重要であるが、2型糖尿病治療においては生活習慣の改善を基礎とした全体的アプローチholistic approachが重要であることを忘れてはならない。

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急性冠症候群ガイドラインの改訂点は?/日本循環器学会

 急性心筋梗塞や不安定狭心症、心臓突然死を含む急性冠症候群。これは、欧米での死因第一位であり、高齢化や食の欧米化が年々加速する日本でも他人事ではない。2019年3月29~31日、第83回日本循環器学会学術集会が開催され、『急性冠症候群診療ガイドライン(2018年改訂版)』の作成班長を努めた木村 一雄氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター)が、急性冠症候群診療ガイドラインの改訂ポイントについて解説した。急性冠症候群診療ガイドラインは日本発祥 『急性冠症候群診療ガイドライン』は、3つのガイドライン(「ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン」、「非ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン」、「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン」)を包括し、発行された。作成するにあたり、急性冠症候群診療ガイドラインがアジア諸国の参考となることを目指し英文ガイドラインも同時発表されたが、このような急性冠症候群(ACS)を包括したガイドラインは、米国や欧州でもいまだに作成されていない。急性冠症候群診療ガイドラインの診断、治療における改訂点◆クラス分類 推奨クラスI~IIbについてはこれまで同様。クラスIIIについては、臨床的有用性を考えACC/AHAのガイドラインに準じ“No benefit”と“Harm”の分類も加わった。◆心筋トロポニン測定 「心筋トロポニンが測定できる条件下では、ACSの診断にクレアチンキナーゼ(CK-MB)やミオグロビンは推奨されない(クラスIII/No benefit)」 診断において、心筋壊死のバイオマーカーとして従来用いられてきたCKに代わり、感度・特異度の高い心筋トロポニンが推奨された。その結果、定義上の非ST上昇型心筋梗塞が増加し、不安定狭心症は減少。長期予後では、CK上昇例と心筋トロポニンのみ上昇例で差がなかったため、心筋トロポニン測定導入の妥当性が示された。◆初期治療時の酸素投与 「酸素飽和度90%以上の患者に対して、ルーチンの酸素投与は推奨されない(クラスIII/No benefit)」 低酸素血症のない急性心筋梗塞患者で酸素投与の有効性が否定されたことを受け、“すべての患者に対する来院後6時間の投与(クラスIIa)”から改訂された。低酸素血症や心不全がなければ、ルーチンで酸素を投与しなくて良くなった。◆STEMIにおけるprimary PCI 「発症12時間以内の患者に対し、できる限り迅速にprimary PCI(ステント留置を含む)を行う(クラスI)」 「Primary PCIにおいて、ルーチンの血栓吸引療法を先行することは推奨されない(クラスIII/No benefit)」 急性冠症候群診療ガイドラインではST上昇型急性冠症候群(STEMI)について、発症から再灌流までの総虚血時間の短縮が最も重要であるため、梗塞サイズの縮小を目指した早期再灌流の重要性をより強調している。アクセスについては、経験豊富な術者による撓骨動脈を使用することを、STEMIに関わらず推奨(クラスI)とした。また、血行動態の安定した多枝病変例で、非梗塞責任血管の有意狭窄病変へのPrimary PCIはルーチンに行うことは推奨されない(クラスIII/No benefit)が、心原性ショックを合併した例では、個々の症例において考慮する。また、年齢においても推奨度が異なり、75歳未満の心原性ショック患者にはPrimary PCIを行う(クラスI)、それに対し、75歳以上の場合は考慮する(クラスIIa)となっている。そのほか、薬剤溶出性ステント(DES)の使用、残存病変への対応、心電図による診断、薬剤投与方法ついての記載が変更されている。急性冠症候群診療ガイドラインでの薬剤の推奨、改訂点は? 急性冠症候群診療ガイドラインでは薬物治療について、一次予防のみならず二次予防の観点からも記載が充実。ステント植え込み例では、アスピリンに加えクロピドグレルのほかに、より抗血小板作用の強いプラスグレル投与を6~12ヵ月間併用投与することが推奨(クラスI)とされている。また、脂質異常症におけるLDL-C低下療法の有効性が確立したことから、ストロングスタチンを忍容可能な最大容量で投与することを推奨(クラスI)。糖尿病併存患者における血糖コントロールについては、心血管イベント抑制が示されているSGLT-2阻害薬の投与が初めて推奨されることとなった(クラスIIa)。

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日本の食品リスク因子は高Na摂取:GBD 2017/Lancet

 2017年の世界の健康的な食品および栄養素の摂取状況は、ほとんどすべてが最適ではなかった(suboptimal)ことが、米国・ワシントン大学のAshkan Afshin氏らGBD 2017 Diet Collaboratorsの調査で明らかとなった。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年4月3日号に掲載された。非最適食(suboptimal diet)は、非感染性疾患(NCD)の重要かつ予防可能なリスク因子だが、そのNCD負担に及ぼす影響を系統的に評価した研究は、これまでなかったという。195ヵ国の食品に起因する死亡数とDALYを評価 研究グループは、世界195ヵ国の主要な食品および栄養素の摂取状況を調査し、非最適食の摂取がNCD死亡率や罹患率に及ぼす影響を定量化した(Bill & Melinda Gates Foundationの助成による)。 最適な摂取量は、全死因死亡のリスクを最小化するリスク曝露量と定義された。相対的なリスク評価法を用い、25歳以上の成人において、個々の食品がリスク因子として寄与する疾患特異的負担の割合(人口寄与割合[PAF]とも呼ばれる)を評価した。解析の主要な情報には、個々の食品因子の摂取、食品因子が疾患エンドポイントに及ぼす効果量、最も死亡リスクが低い摂取量が含まれた。 次いで、疾患特異的PAF、死亡率、障害調整生命年(DALY、早死におよび障害を有することで失われた年数)を用いて、個々の疾患の転帰における食品に起因する死亡数およびDALYを算出した。主な食品リスク因子は、高ナトリウム・低全粒穀物・低果物摂取量 2017年の世界の健康的な食品および栄養素の摂取状況は、ほとんどすべてが最適ではなかった。最適食との乖離が最も大きかったのは、ナッツ・種子類、牛乳、全粒穀物であり、それぞれ1日の最適レベルの12%(3g)、16%(71g)、23%(29g)しか摂取されていなかった。 2017年の食品のリスク因子に起因した死亡数は1,100万人(95%不確実区間[UI]:1,000万~1,200万)であり、2億5,500万DALY(2億3,400万~2億7,400万)が食品リスク因子によるものだった。 世界的な死亡数およびDALYにおける主要な食品リスク因子は、高いナトリウム摂取量(死亡数:300万人[95%UI:100万~500万]、DALY:7,000万DALY[3,400万~1億1,800万])、低い全粒穀物摂取量(300万人[200万~400万]、8,200万DALY[5,900万~1億900万])および低い果物摂取量(200万人[100万~400万]、6,500万DALY[4,100万~9,200万])であった。 日本は、人口が多い上位20ヵ国のうち、年齢標準化全食品関連死の割合(10万人当たりの死亡数97人[95%UI:89~106])およびDALY(10万人当たり2,300 DALY[2,099~2,513])が最も低かった。また、日本は、食品関連の心血管疾患死の割合(10万人当たりの死亡数69人[63~75])およびDALY(10万人当たり1,507 DALY[1,389~1,639])と、糖尿病死の割合(10万人当たりの死亡数1人[1~1])およびDALY(10万人当たり234 DALY[161~321])が最も低かった。中国、タイと並び、日本の主要な食品リスク因子は、高いナトリウム摂取量だった。 食品データはさまざまな情報源によるもので、すべての国から得られたわけではない。そのため、食品リスクへの曝露の推定値の統計学的不確定性が増大した。また、ナトリウムは、随時尿検体のデータを含めなかったため、データ代表性の指標が、他の食品リスクに比べ低くなった。 著者は、「本研究は、NCDの死亡率および罹患率に及ぼす非最適食の潜在的な影響に関する包括的な全体像を提供し、国を超えた食品の改善の必要性を強調するものである。また、これらの知見は、エビデンスに基づく食品介入を実施する際に有益な情報をもたらし、その介入が毎年のヒトの健康に及ぼす影響の評価基盤を提供すると考えられる」としている。

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SGLT2阻害薬カナグリフロジンの腎保護作用が示される:CREDENCE試験/国際腎臓学会

 2型糖尿病患者に対する心血管系(CV)イベントリスクの低下を検討したランダム化試験から、SGLT2阻害薬による腎保護作用が示唆された。しかし、あくまで副次的解析であり、対象は腎機能が比較的保たれた例に限られていた。4月12~15日にオーストラリアで開催された国際腎臓学会(ISN)-World Congress of Nephrology(WCN)2019で報告されたCREDENCE試験では、SGLT2阻害薬カナグリフロジンが、慢性腎臓病(CKD)を合併した2型糖尿病患者の腎・心イベントを抑制することが明らかになった。Vlado Perkovic氏(オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学)が報告した。対象は全例、腎機能の低下した2型糖尿病患者 CREDENCE試験では、CKDを合併し、最大用量のレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬またはACE阻害薬を服用し、腎機能増悪高リスクの2型糖尿病患者4,401例が対象(日本からは110例)。CKDの基準は「eGFR:30~90mL/分/1.73m2」かつ「尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR):300~5,000mg/gCr」とした。 平均年齢は63歳でHbA1c平均値は8.3%。腎機能は、eGFR平均が56.2mL/分/1.73m2、UACR中央値が927mg/gCrだった。また99.9%がRAS阻害薬を服用し、加えて69%がスタチンを併用していた。カナグリフロジンは腎・心イベントを有意に抑制 これら4,401例は2週間のプラセボ服用期間後、カナグリフロジン100mg/日群(2,202例)とプラセボ群(2,199例)にランダム化され、二重盲検法で追跡された。主要評価項目は「末期腎不全・血清クレアチニン(Cr)倍増・腎/心血管系死亡」の腎・心イベントである。 2018年7月、中間解析の結果、主要評価項目発生数が事前に設定された基準に達したため、試験は早期中止となった。その結果、追跡期間中央値は2.62年(0.02~4.53年)である。 主要評価項目発生率は、カナグリフロジン群:43.2/1,000例・年、プラセボ群:61.2/1,000例・年となり、カナグリフロジン群におけるハザード比(HR)は、0.70(95%信頼区間[CI]:0.59~0.82)の有意低値となった。 カナグリフロジン群における主要評価項目抑制作用は、「年齢」、「性別」、「人種」に有意な影響を受けず、また試験開始時の「BMI」、「HbA1c」、「収縮期血圧」の高低にも影響は受けていなかった。「糖尿病罹患期間の長短」、「CV疾患」や「心不全既往」の有無も同様だった(いずれも、交互作用 p>0.05)。カナグリフロジン群は腎イベントのみで比較してもリスクが有意に低減 副次評価項目の1つである、腎イベントのみに限った「末期腎不全・血清Cr倍増・腎死」も、カナグリフロジン群における発生率は27.0/1.000例・年であり、40.4/1.000例・年のプラセボ群に比べ、HRは0.66の有意低値だった(95%CI:0.53~0.81)。 同様に副次評価項目の1つである「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(CVイベント)も、カナグリフロジン群におけるHRは0.80(95%CI:0.67~0.95)となり、プラセボ群よりも有意に低かった。 なお、総死亡、あるいはCV死亡のリスクは、カナグリフロジン群とプラセボ群の間に有意差を認めていない。カナグリフロジン群とプラセボ群で下肢切断、骨折の有意差認めず 有害事象のリスクも、カナグリフロジン群で有意に低かった。 プラセボ群と比較した「全有害事象」のHRは0.87(95%CI:0.82~0.93)、「重篤な有害事象」に限っても、0.87(95%CI:0.79~0.97)である。 また「下肢切断」のリスクだが、発生率はカナグリフロジン群:12.3/1,000例・年で、プラセボ群:11.2/1,000例・年との間に、有意なリスクの差は認めなかった(HR:1.11、95%CI:0.79~1.56)。なお本試験はCANVAS Programの報告を受け、2016年に安全確保のためプロトコールを改訂。以降、全例で「受診時の下肢チェック」と「下肢切断リスク上昇可能性時の試験薬一時中止」が求められるようになった。 「骨折」の発生リスクにも、カナグリフロジン群とプラセボ群の間に有意差はなかった。 本試験は報告と同時に、NEJM誌でオンライン公開された。また、学会で掲出されたスライドは、The George Institute for Global HealthのHP からダウンロードが可能である。専門家はこう見る:CLEAR!ジャーナル四天王SGLT2阻害薬カナグリフロジンの腎保護作用がRAS抑制薬以来初めて示される(解説:栗山 哲 氏)-1039 コメンテーター : 栗山 哲( くりやま さとる ) 氏東京慈恵会医科大学客員教授

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MR選択性の高い高血圧症治療薬「ミネブロ錠1.25mg/2.5mg/5mg」【下平博士のDIノート】第23回

MR選択性の高い高血圧症治療薬「ミネブロ錠1.25mg/2.5mg/5mg」今回は、選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)ブロッカー「エサキセレノン錠(商品名:ミネブロ錠1.25mg/2.5mg/5mg)」を紹介します。本剤は、中等度の腎機能障害およびアルブミン尿を有する2型糖尿病を合併する高血圧症患者にも投与することができ、これまでの高血圧症患者のアンメットニーズを満たす薬剤となることが期待されています。<効能・効果>本剤は、高血圧症の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年5月13日より発売される予定です。体液量の恒常性の維持に寄与するアルドステロンが作用するMR受容体の活性化を抑制することで降圧作用を示します。<用法・用量>通常、成人にはエサキセレノンとして2.5mgを1日1回経口投与します。なお、効果不十分な場合は5mgまで増量できます。本剤は、高カリウム血症の患者もしくは本剤投与開始時に血清カリウム値が5.0mEq/Lを超えている患者や重度の腎機能障害のある患者、カリウム保持性利尿剤やカリウム製剤などを投与中の患者には禁忌となっています。<副作用>国内第III相臨床試験において、総症例1,250例中162例(13.0%)に、臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、血清カリウム値上昇51例(4.1%)、血中尿酸増加17例(1.4%)、高尿酸血症13例(1.0%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として高カリウム血症(1.7%)が認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血圧を上げるホルモン(アルドステロン)の働きを抑えることにより、血圧を低下させます。2.血圧が下がることにより、めまいなどが現れることがあるので、高所作業、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には注意してください。3.飲み合わせに注意すべき薬や健康食品があるため、現在服用している薬やサプリメントがある場合は、医師・薬剤師にお伝えください。また、新たに薬を飲み始める場合は、あらかじめ相談してください。4.本剤を服用中は、体内のミネラルバランスを保つために、こまめな水分摂取や適度な運動を心掛け、脱水や便秘を予防してください。5.この薬の服用により、血中のカリウム値が上昇することがあります。手や唇がしびれる、手足に力が入らない、吐き気などの症状が現れた場合は相談してください。6.葉物野菜や芋類、豆類、バナナなど、カリウムを多く含む食物を食べ過ぎないように注意してください。カリウムは水に溶けやすいため、ゆでたり水にさらしたりすることで、カリウムを減らすことができます。<Shimo's eyes>MR拮抗薬は『高血圧診療ガイドライン2014』において、高血圧症治療の第1選択薬とはなっていないものの、ミネラルコルチコイドが関与する低レニン性高血圧症にとくに効果が期待でき、治療抵抗性高血圧症に対しても有用であるとされています。既存のMR拮抗薬としては、スピロノラクトン(商品名:アルダクトンA)とエプレレノン(同:セララ)が発売されています。スピロノラクトンのMR拮抗作用は強力ですが、女性化乳房や月経異常などの性ホルモンに関連した副作用を発現しやすいことが治療継続の課題となっています。MRへの選択性が高いエプレレノンは、性ホルモン関連副作用は軽減されていますが、中等度以上の腎機能障害患者や、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者への投与は禁忌となっています。本剤はMR選択性を有し、本態性高血圧症患者を対象とした臨床試験においてエプレレノンに劣らない降圧作用が認められています。また、中等度の腎機能障害患者、および微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者に対しても、血清カリウム値の定期的な測定は必要ですが投与可能です。今までMR拮抗薬を使用できなかった血圧コントロール不良の患者の新たな治療選択肢となりうるでしょう。なお、2019年4月時点において、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。

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第8回 高齢者の運動療法の進め方、工夫のポイント【高齢者糖尿病診療のコツ】

第8回 高齢者の運動療法の進め方、工夫のポイントQ1 運動量(負荷)と時間の設定について、基本的な考え方を教えてください高齢の糖尿病患者さんでは、運動療法の効果は血糖降下作用のみにとどまりません。筋肉量や筋力低下の抑制、フレイルや認知機能低下の予防、抑うつ予防、心肺機能の維持、ストレス解消など多岐にわたります。また一口に運動療法といっても、有酸素運動やレジスタンス運動、柔軟性運動(ストレッチ)、バランス運動など様々です。有酸素運動は歩行や水泳などの全身運動を指し、骨格筋などで酸素を取り入れて糖質や遊離脂肪酸を燃焼させ、エネルギー(ATP)を生成する運動です。運動開始から10分ほど経過すると糖質が利用されはじめ、15分ほど経過すると遊離脂肪酸が利用されはじめるので、糖質と遊離脂肪酸の双方が利用されるには20分以上の運動時間が必要となります。また運動強度としては、Borgの自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)の「ややきつい」と感じる程度が適当であり、心拍数で120拍/分程度、安静時脈拍の1.5~2倍の拍動数を示すレベルが目安となります(図1)。ただし、自律神経障害がある場合には脈拍が参考にならないこともあるので注意が必要です。画像を拡大するジョギングであれば、「隣の人とおしゃべりしながら走れる程度」を目安とすれば良いと思います。糖尿病患者の糖代謝の改善が持続するのは、運動後12~72時間のため、頻度としては週に3~5回が必要となります。標準的な考え方としては、週に150分以上のウォーキングや自転車こぎなどの有酸素運動を行うと、血糖コントロールの改善や糖尿病合併症の進行予防が期待できます。ウォーキングであれば、1回につき20~30分、1日2回ずつ行うのが理想です。しかし、今まで運動習慣のなかった方がいきなり20分以上の運動量をこなすのは困難です。そのため、実践可能な量から開始していくのが良いでしょう。まずは1日に5分程度でも良いので、ペットを連れて散歩する、ごみを捨てに行く、買い物に行くなどから始めてもらいます。できれば毎日行っていただくよう指導しています。外出することを習慣づけてしまえば、運動量を増やしていくことも容易となるからです。なお、運動は食後1時間程度から開始すると、食後高血糖の抑制効果が得られます。高齢の糖尿病患者は食後高血糖を来しやすいため、食後に運動することを推奨しています。レジスタンス運動とは、ダンベルを利用した体操や、腹筋や腕立て伏せといった筋力トレーニングなどを指します。高齢の糖尿病患者が、軽度の負荷であるレジスタンス運動を継続して行うと、筋肉量が有意に増加したという報告があります1)。最近のメタ解析では、2型糖尿病患者がレジスタンス運動を行うと、筋力だけでなく、血糖コントロールが改善するとも報告されています2)。レジスタンス運動は、少なくとも週2回以上行うことが推奨されています。ただし、フレイルがあってレジスタンス運動が十分施行できない場合には、柔軟性運動から始めて、軽度の負荷のレジスタンス運動を行い、有酸素運動やバランス運動を加えて、さらにレジスタンス運動の負荷を強めていくという流れが良いと思います。こうした運動を多要素の運動といい、タンパク質の十分な摂取と組み合わせると、フレイルや身体機能を改善することが報告されています3)。市町村の運動教室(筋力トレーニングを含むもの)やジムに参加したり、ヨガや太極拳などに参加したりすることも有効です。Q2 効果的な運動の組み合わせってありますか?有酸素運動とレジスタンス運動の併用が有効であることはよく知られていますが、そのベストな割合ははっきりしていません。しかし、どちらから先に始めるのが適当かについて検証した論文はあります。1型糖尿病患者12人に対して、運動中および運動後の血糖変化を測定したもので、レジスタンス運動を先行させた方が血糖変動は少なく、運動後や夜間の低血糖発症頻度も少なくなる可能性が示唆されました4)。また、血管平滑筋の緊張状態はレジスタンス運動で増加し、有酸素運動で緩和されるとも報告されています5)。高齢の糖尿病患者では動脈硬化性変化も大きいことから、血管平滑筋の緊張状態を緩和する意味からも、レジスタンス運動を先に行い、その後有酸素運動を行う方が良いのではないかと考えています。Q3 膝や腰の悪い患者さんに、推奨できる運動はありますか?多くの高齢糖尿病患者が、膝や腰の痛みを抱えており、思うように運動療法が施行できないことが多々あります。また、腎障害や網膜症、大血管障害などの合併症を有することも多いため、十分な運動の施行はさらに難しくなるのが悩ましいところです。有酸素運動とレジスタンス運動の双方を満たし、さらに膝や腰などへの負担が少ない運動としては、水中歩行があります(図2)。普段から積極的にジムへ通っている方などには、週2回程度、水中をゆっくり30分程度歩いていただくことを推奨しています。画像を拡大するしかし、プールやジムに通う習慣がないと、新たに始めるのを躊躇される方も多いのが実情です。このような患者さんには、運動を行うための準備段階として、軽度の身体活動の機会をできるだけ増やし、日常生活の中で簡単に行うことができるプログラムを提供することが重要と考えられます。最近ではNEAT(non exercise activity thermogenesis:普段の生活の中で座ったり家の中をうろうろ動き回ったりするなど、日常生活活動で消費するエネルギーのこと)の効果が注目されており6)、軽度の身体活動でも高齢糖尿病患者における体力の維持に寄与する可能性は十分あると考えられます。そのため、まずは、坐位や臥位の時間をできるだけ短くすることを指導します。次に、家の中でもできる運動を開始するように勧めます。たとえば、椅子に座ったままで足踏みをしたり、膝を高く持ち挙げたり、下肢を水平に上げて保持するなどの運動は、テレビを観ながらでも行うことができます。これらは歩行時の足の振出しや、階段での足の持ち上げに有効な、腸腰筋群を強化します(図3)。画像を拡大するQ4 転倒・骨折リスク低減に、推奨できる運動はありますか?転倒・骨折リスクの低減には、バランス運動が効果的です。例えば片足立ちは、体幹を支える大腿四頭筋の筋力維持に有効です。転倒防止に机や椅子につかまって行っても構わないので、片足立ちを左右30秒ずつ、1日3回程度から開始して、徐々に時間を延ばしていきます。これらの運動は道具も不要で膝などへの負担も少ないため、取り組みやすく、おススメです。最近では、慢性腎臓病においても運動は腎機能を悪化させず、一部は改善するという報告があります。また、定期的な運動を行っている血液透析患者の生命予後は、運動を行っていない患者に勝るという報告もあります7)。合併症があり、思うように運動できない場合でも、「家の中の掃除や簡単な料理など、家事を行ってみる」ところから始めて、「少しでも外出してみる」方向へ進み、徐々に自信がついてから、「これなら続けられる」と感じて自己効力感を高めていくことができれば、運動の効果が期待できると思います。また、1つの運動に飽きてしまったら、いくらでも別の運動に変えていって構いません。高齢糖尿病患者に対する運動療法の目的は、健康寿命を延ばすことです。個人差が大きいため、個々に合った運動療法が見つかるまで色々な方法を提案し、その中から患者さん自身が選び、継続していけるようになることが望ましいでしょう。1)Singh NA, et al. J Am Med Dir Assoc.2012; 13: 24-30.2)Lee J, et al. Diabetes Therapy.2017; 8: 459-473.3)Liao C-D, et al. Nutrients.2018.Dec 4[Epub ahead of print]4)Yardley JE, et al. Diabetes Care.2012; 35: 669-675.5)Okamoto T, et al. J Appl Physiol.2007; 103: 1655-1661.6)Levine JA, et al. Science.2005; 307: 584-586.7)Greenwood SA, et al. J Kidney Dis.2015; 65: 425-434.

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1型糖尿病児の血糖コントロール、持続皮下vs.頻回注射/BMJ

 英国の1型糖尿病の小児では、1年時の血糖コントロールに関して、持続皮下インスリン注入療法(CSII)には頻回注射法(MDI)を凌駕する臨床的有益性はないことが、同国Alder Hey Children’s NHS Foundation TrustのJoanne C. Blair氏らが行ったSCIPI試験で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年4月3日号に掲載された。CSIIは費用対効果が優れるとするメタ解析や経済評価の報告があるが、いずれも小規模な無作為化対照比較試験や観察研究のデータに基づくものであった。また、1型糖尿病の成人患者のクラスター無作為化試験(REPOSE試験)では、CSIIはMDIを超える有益性をもたらさないことが示されている。1年時の血糖コントールを比較する無作為化試験 研究グループは、1型糖尿病の小児における診断から1年間のCSIIとMDIの有効性、安全性、費用対効果を比較する目的で、プラグマティックな多施設共同非盲検無作為化対照比較試験を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]健康技術評価プログラムの助成による)。 対象は、1型糖尿病を新規に診断された7ヵ月~15歳の小児であった。1型糖尿病のきょうだいがいる患児や、血糖コントロールに影響を及ぼす可能性のある薬物療法またはほかの疾患の診断を受けている患児は除外された。 被験者は、診断から14日以内にCSIIまたはMDIを開始する群に無作為に割り付けられた。体重と年齢に基づき、インスリン アスパルト(CSII、MDI)、インスリン グラルギンまたはインスリン デテミル(MDI)の開始用量を算出し、血糖の測定値および各施設の診療方針に従って用量を調節した。 主要アウトカムは、12ヵ月時の血糖コントロール(HbA1c値[mmol/mol]で評価)とした。両群とも、血糖コントロール、目標値の達成率が低い 2011年5月~2017年1月の期間に、イングランドおよびウェールズの15の小児糖尿病に関するサービスを提供する国民保健サービス(NHS)施設で293例が登録され、CSII群に144例、MDI群には149例が割り付けられた。ベースラインの全体の年齢中央値は9.8歳(IQR:5.7~12.3)、女児が47.8%であった。 12ヵ月時のITT集団の平均HbA1c値は、CSII群とMDI群でほぼ同等であり、臨床的に意義のある差を認めなかった(60.9 vs.58.5mmol/mol、補正後平均群間差:2.4mmol/mol、95%信頼区間[CI]:-0.4~5.3、p=0.09)。また、per-protocol集団でも有意な差はなかった(p=0.67)。 HbA1c値<58mmol/mol(2015年8月時点での英国の目標値)の達成率は、2群とも低かった(CSII群46 vs. MDI群55%、相対リスク:0.84、95%CI:0.67~1.06、p=0.16)。また、重症低血糖(6 vs.2%、3.1、0.6~15.1、p=0.17)および糖尿病性ケトアシドーシス(2 vs.0%、5.2、0.3~106.8、p=0.24)の発生率も低かった。 CSII群では、重篤でない有害事象が54件発生し、重篤な有害事象は14件みられた。MDI群では、それぞれ17件、8件であった。また、PedsQL(子供の健康関連QOLの評価尺度)の糖尿病モジュールスコアは、患児の自己評価では両群に有意差はなかったが、親の評価ではCSII群のほうが良好だった(補正後平均群間差:4.1、95%CI:0.6~7.6)。 CSII群は、1例当たりの費用が1,863ポンド(95%CI:1,620~2,137;2,179ユーロ、2,474ドル)高かった(4,404 vs.2,541ポンド)。質調整生存年(QALY)には有意な差はなかった(0.910 vs.0.916、群間差:-0.006、95%CI:-0.031~0.018)。 著者は、「CSIIはMDIに比べ、1年時の臨床的有効性が高くなく、費用対効果も優れなかった」とまとめ、認識すべき重要なポイントとして次の3点を挙げている。(1)血糖コントロールは両群とも十分に良好とはいえない、(2)対象は新規診断例であり、1型糖尿病の治療をより多く経験した患児では、CSIIで良好な結果の達成率が優れる可能性がある、(3)技術の進歩が、CSII治療の負担を軽減し、優れた血糖コントロールの期間内の達成を促進する可能性がある。

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