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間質性膀胱炎(ハンナ型)〔IC:interstitial cystitis with Hunner lesions〕

1 疾患概要■ 概念・定義間質性膀胱炎(interstitial cystitis:IC)という名称は、1887年に膀胱壁に炎症と潰瘍を有する膀胱疾患を報告したSkeneによって最初に用いられた。そして1915年、Hunnerが、その膀胱鏡所見と組織所見の詳細を報告したことから、ハンナ潰瘍(Hunner's ulcer)と呼ばれるようになった。しかし、ハンナ潰瘍と呼ばれた病変は、胃潰瘍などで想像する潰瘍とは異なるため(詳細は「2 診断-検査」の項参照)、潰瘍という先入観で膀胱鏡を行うと見逃すことも少なくなく、現在はハンナ病変(Hunner's lesion)と呼ぶことになった。以前は米国・国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases:NIDDK)による診断基準(1999年)が用いられたが、これは臨床研究のための診断基準で厳し過ぎた。『間質性膀胱炎診療ガイドライン 第2版』では、「膀胱の疼痛、不快感、圧迫感と他の下部尿路症状を伴い、混同しうる疾患がない状態」の総称を間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(interstitial cystitis/bladder pain syndrome:IC/BPS)とし、このうち膀胱内にハンナ病変のあるものを、「IC/BPS ハンナ病変あり(IC/BPS with Hunner lesion)」、それ以外を「IC/BPS ハンナ病変なし(IC/BPS without Hunner lesion)」とすることとした。これまでは、ハンナ病変はないが点状出血を認めるIC/BPSを非ハンナ型ICとしていたが、これもIC/BPSハンナ病変なしに含まれることになる。要は、ハンナ病変が確認されたIC/BPSのみが「間質性膀胱炎」であり、ハンナ病変がなければ、点状出血はあってもなくても「膀胱痛症候群」となる。本症の名称については、前述の経緯も含め変遷があるが、本稿では「間質性膀胱炎(ハンナ型)」の疾患名で説明をしていく。■ 疫学過去のICに関する疫学調査の対象はIC/BPS全体であり、0.01~2.3%の範囲である。疾患に対する認知度が低いために、疫学調査の結果が低くなっている可能性がある。2014年に行ったわが国での疫学調査では、治療中のIC患者数は約4,500人(0.004%:全人口の10万人当たり4.5人)であった。性差は、女性が男性の約5倍とされる。■ 病因尿路上皮機能不全として、グリコサミノグリカン層(glycosaminoglycan:GAG layer)異常が考えられている。GAG層の障害は、尿路上皮の防御因子の破綻となり、尿が膀胱壁へ浸潤して粘膜下の神経線維がカリウムなどの尿中物質からの影響を受けやすくなり、疼痛や頻尿を引き起こすと考えられる。しかし、GAG層が障害される原因は解明されていない。このほか、細胞間接着異常、上皮代謝障害、尿路上皮に対する自己免疫が推測されている。また、肥満細胞の活性化によりサイトカインなどの炎症性メディエータが放出され、疼痛、頻尿、浮腫、線維化、粘膜固有層内の血管新生などが引き起こされるとされる。これら以外にも免疫性炎症、神経原性炎症、侵害刺激系の機能亢進、尿中毒性物質、微生物感染など、複数の因子が関与していると考えられている。■ 症状IC/BPSの主な症状には、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿意亢進、膀胱不快感、膀胱痛などがある。尿道、膣、外陰部痛、性交痛などを訴えることもある。不快感や疼痛は膀胱が充満するに従い増強し、そのためにトイレにいかなければならず、排尿後には軽減・消失する場合が多い。■ 分類膀胱鏡にてハンナ病変が確認されたIC/BPSに限り「IC/BPS ハンナ病変あり」とし、ハンナ病変がないIC/BPSは「IC/BPS ハンナ病変なし」と分類する。「IC/BPS ハンナ病変あり」は、間質性膀胱炎(ハンナ型)として2015年1月1日に難病指定された。■ 予後良性疾患であるので生命への影響はない。1回の経尿道的ハンナ病変切除・焼灼術で症状改善が生涯持続することもあるが、繰り返しの手術を必要とし、疼痛コントロールがつかなかったり、自然経過あるいは手術の影響によって膀胱が萎縮したりして、膀胱摘出術が必要となることもまれにある。症例によって経過はさまざまである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断のフローは、『間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン』(2019/6発刊)に詳しく紹介されているので参照いただきたい。本稿では、エッセンスだけにとどめる。■ 検査1)症状IC/BPSを疑う症状があることが、最も重要である(「1 疾患概要-症状」の項参照)。2)排尿記録排尿時刻と1回排尿量を24時間連続して記録する。蓄尿時膀胱・尿道部痛または不快感により頻尿となるため、1回排尿量が低下し、排尿回数が増加している症例が多い。多くの場合、夜間も日中同様に頻尿である。3)尿検査多くの場合、尿所見は異常を認めない。赤血球や白血球を認める場合は感染や尿路上皮がんとの鑑別を行う必要がある。4)膀胱鏡ハンナ病変(図)を認める。ハンナ病変とは、膀胱粘膜の欠損とその周囲が毛細血管の増生によりピンク色に見えるビロード状の隆起で、しばしば瘢痕形成を伴う。表面にフィブリンや組織片の付着が認められることがある。膀胱拡張に伴い病変が亀裂を起こし、裂け、そこから五月雨状あるいは滝状に出血するため、拡張前に観察する必要がある。図 IC/BPSハンナ病変ありの膀胱鏡所見画像を拡大する■ 鑑別診断過活動膀胱、細菌性膀胱炎、慢性前立腺炎、心因性頻尿との鑑別を要するが、子宮内膜症との鑑別はともに慢性骨盤痛症候群であるから非常に難しい。しかし、最も注意すべきは膀胱がん、とくに上皮内がんである。膀胱鏡所見も、瘢痕を伴わないハンナ病変は、膀胱上皮内がんとよく似ており鑑別を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)病因が確定されていないため根治的な治療はなく、対症療法のみである。また、IC/BPS ハンナ病変あり/なしを区別した論文は少ない。なお、わが国で保険収載されている治療は「膀胱水圧拡張術」だけである。■ 保存的治療患者の多くが食事療法を実行しており、米国の患者会である“Interstitial Cystitis Association”によればコーヒー、紅茶、チョコレート、アルコール、トマト、柑橘類、香辛料、ビタミンCが、多くのIC/BPS患者にとって症状を増悪させる飲食物とされている。症状を悪化させる食品は、個人によっても異なる。膀胱訓練は決まった方法はないものの有効との報告がある。■ 内服薬治療三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(商品名:トリプタノール)は、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを抑制して中枢神経の痛み刺激の伝達を抑えるほか、ヒスタミンH1受容体をブロックして肥満細胞の活動を抑制するなどの作用機序があると考えられ、有効性の証拠がある。トラマドール(同:トラマール)、抗けいれん薬であるガバペンチン(同:ガバペン)も神経因性疼痛に対するある程度の有効性があるとされる。また、肥満細胞の活性化抑制を目的として、スプラタスト(同:アイピーディ)、ロイコトリエン受容体拮抗薬のモンテルカスト(同:キプレス、シングレア)がある程度有効である。免疫抑制薬のシクロスポリンA、タクロリムス、プレドニゾロンはある程度の有効性はあるが、長期使用による副作用に十分注意が必要であり、安易な使用はしない。このほかNSAIDs、選択的COX-2阻害薬、尿のアルカリ化のためのクエン酸もある程度の有効性がある。■ 膀胱内注入療法ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)は炎症抑制、筋弛緩、鎮痛、コラーゲンの分解、肥満細胞の脱顆粒などの作用があるとされ、IC/BPSに有効性のエビデンスがある。ハンナ病変ありのIC/BPSには効果があるとの報告もある。わが国では、現在臨床試験中である。ヘパリン、ヒアルロン酸はGAG層の欠損を補うことにより症状を緩和すると考えられ、IC/BPSに対してある程度の有効性のエビデンスがある。リドカインは短時間で疼痛の軽減が得られるが、その効果は短期間である。ボツリヌス毒素の膀胱壁内(粘膜下)注入、ステロイドのハンナ病変および辺縁部膀胱壁内注入も、ある程度の有効性のエビデンスがある。■ 手術療法膀胱水圧拡張術が、古くからIC/BPSの診断および治療の目的で行われてきた。有効性のエビデンスは低く、奏効率は約50%、奏効期間は6ヵ月未満との報告が多い。IC/BPSハンナ病変ありには、経尿道的ハンナ病変切除・焼灼術が推奨される。反復治療を要することが多いが、症状緩和には有効である。膀胱全摘出術や膀胱部分切除術+膀胱拡大術は、他の治療がすべて失敗した場合にのみ施行されるべきである。ただし、膀胱全摘出術後も疼痛が残存することがある。4 今後の展望これまではIC/BPS ハンナ病変あり/なしを区別、同定して行われた研究は少ない。世界的に「IC/BPSハンナ病変あり」は1つの疾患として、他のIC/BPSとは分けて考えるという方向になった。以前の非ハンナ型ICを含む「IC/BPSハンナ病変なし」は、heterogeneousな疾患の集合であり、これから「IC/BPSハンナ病変あり」(ハンナ型IC)を分けることによって、薬の開発も行われやすく、薬の効果評価も明確なものになると期待される。5 主たる診療科泌尿器科膀胱水圧拡張術を保険診療として行うためには、施設基準が必要である。間質性膀胱炎(ハンナ型)(「IC/BPSハンナ病変あり」のこと)は、難病指定医により申請が可能である。日本間質性膀胱炎研究会ホームページに掲載されている「診療に応じる医師」が参考になるが、このリストは医師からの自己申告に基づくものであり、診療内容は個々の医師により異なる。日本排尿機能学会認定医のような、排尿障害に関する専門医が望ましい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本間質性膀胱炎研究会(Society of Interstitial Cystitis of Japan:SICJ)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 間質性膀胱炎(ハンナ型)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本間質性膀胱炎研究会 ガイドライン作成委員会 編集. 間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン. リッチヒルメディカル;2019. 2)Hanno PM,et al. J Urol. 1999;161:553-557.3)Yamada Y,et al. Transl Androl Urol. 2015;4:486-490.4)Tomoe H. Transl Androl Urol. 2015;4:600-604.5)Tomoe H, et al. Arab Journal of Urol. 2019;17:77-81.6)Whitmore KE, et al. Int J Urol. 2019;26:26-34.公開履歴初回2019年7月9日

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ダパグリフロジン、糖尿病患者の腎保護示す-DECLARE‐TIMI 58サブ解析

 近年、SGLT2阻害剤はアテローム性動脈硬化症患者の腎アウトカムに対し、有益な効果を示すことが明らかになりつつある。今回、イスラエル・Hadassah Hebrew University Hospital のOfri Mosenzon氏らがDECLARE-TIMI 58のサブ解析を実施。ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)が、腎機能を保持している2型糖尿病患者において、アテローム性動脈硬化症の有無にかかわらず、プラセボと比較して腎疾患の予防および進展抑制を示す結果が得られた。Lancet Diabetes & Endocrinology誌オンライン版2019年6月10日号に掲載された。 研究者らは、複合アウトカムの構成要素、サブグループ解析、さまざまな時点でのeGFRの変化を調査する目的でサブ解析を実施。HbA1cが6.5〜12.0%(47.5〜113.1mmol/mol)の2型糖尿病で、アテローム性動脈硬化症または複数の危険因子を有し、クレアチニンクリアランス60mL/分以上の患者を、1日1回ダパグリフロジン10mg服用群またはプラセボ服用群に1対1に無作為に割り付けた。事前に規定した副次評価項目としての心腎複合アウトカムは、eGFR(推定糸球体濾過量)60mL/分/1.73m2未満かつ40%以上の持続的低下、末期腎不全(90日以上の透析、腎移植、またはeGFRが15mL/分/1.73m2未満を持続)、あるいは腎・心血管系による死亡であった。また、腎特異的複合アウトカムからは、心血管死を除外した。 主な結果は以下のとおり。・試験は2013年4月25日~2018年9月18日に実施された。・追跡期間中央値は4.2年(四分位範囲3.9~4.4)だった。・参加者1万7,160例が無作為に割り付けられた。・各参加者のベースライン時のeGFRは、90mL/分/1.73m2以上が8,162例(47.6%)、60〜90mL/分/1.73m2未満が7,732例(45.1%)、60mL/分/1.73m2未満が1,265例(7.4%)であった(eGFRのデータ消失が1例)。・6,974例(40.6%)はアテローム性動脈硬化症を発症し、1万186例(59.4%)は複数の危険因子を有していた。・副次評価項目としての心腎複合アウトカムは、プラセボと比較してダパグリフロジンで有意に減少した(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.67~0.87、p

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経口GLP-1受容体作動薬の心血管安全性を確認(解説:吉岡成人氏)-1070

経口GLP-1受容体作動薬 日本では未発売の製剤であるが、GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドと構造が類似した週1回注射製剤セマグルチド(商品名:Ozempic)は、2型糖尿病患者の心血管イベントを抑止することがすでに確認されている(Holman RP, et al. N Engl J Med. 2017;377:1228-1239.)。また、セマグルチドには経口製剤があり(吸収促進剤により胃粘膜でのセマグルチドの分解を阻害し、胃粘膜細胞間隙から薬剤が吸収される製剤)、1日1回の経口投与によって注射製剤と同等のHbA1c低下作用と体重減少作用が示されている(Davies M, et al. JAMA. 2017;318:1460-1470.)。今回、経口セマグルチドの承認申請前に実施する心血管系に対する安全性を評価する試験の結果が公表された(Husain M, et al. N Engl J Med. 2019 Jun 11. [Epub ahead of print])。経口セマグルチドの心血管系に対する安全性検証試験 心血管疾患ないしは慢性腎臓病を合併した50歳以上、ないしは、心血管イベントのリスクを持った60歳以上の2型糖尿病3,183例を対象に、経口セマグルチドまたはプラセボを標準治療に追加する二重盲検、プラセボ対照試験である。 主要評価項目を心血管死、非致死性心筋梗塞、または非致死性脳卒中の最初の発現までの時間に関する複合アウトカムとしている。追跡期間(中央値16ヵ月)中に、延べ137件のイベントが発生し、経口セマグルチドのプラセボに対するハザード比は0.79(95%信頼区間:0.57~1.11)であり、非劣性が確認された。個々のイベントについては、心血管死、非致死性脳卒中はセマグルチド投与群で減少傾向であったが、非致死性心筋梗塞の発症については差がなかった。試験薬の中止に至った有害事象の発現頻度はセマグルチド群11.6%、プラセボ群6.5%であり、最も多いのは消化器症状による中止であった。観察期間中における網膜症やその関連疾患および悪性腫瘍の発生頻度は、それぞれ、セマグルチド群7.1%、2.6%、プラセボ群6.3%、3.0%であった。心血管安全性は確認できた 欧米のガイドラインでは、心血管リスクの高い2型糖尿病患者には、比較的早い段階からのSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の使用が推奨されている。今回の試験でも経口セマグルチドはHbA1cを1.0%、体重を4.2kg減少させ(プラセボ群:0.3%、0.8kg)、糖尿病治療薬としての有用性が再認識された。 今回、確認できたのは、心血管系の安全性についてである。一部の報道では『心血管死・全死亡が半減』などと過大な解釈が行われているが、主要評価項目である複合アウトカムには差がなく、非致死性心筋梗塞や非致死性脳卒中も減少していない。観察期間の中央値が16ヵ月と短い期間に心血管死のみが減少していることの理由も不明であり、経口セマグルチドが心血管イベントの抑止に対して有効な薬剤なのかどうか、今後の展開が期待される。

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第16回 カラダにいい油を使うための基本 保存方法【実践型!食事指導スライド】

第16回 カラダにいい油を使うための基本 保存方法医療者向けワンポイント解説「油は無色透明で常温にずっと置いていても変化しない」と思っている方は多くいます。実際には賞味期限もあり、空気や光などによって酸化が進みます。食用植物油脂の酸化レベルについては、「食用植物油脂の日本農林規格」(農林水産省)の規格があります。(図)食用植物油脂の酸価規格一覧表画像を拡大するIOC(International Olive Council:国際オリーブ協会)では、オリーブオイルの酸度*に対する規定があり、エキストラバージンオリーブオイルは、酸度が0.8%以下、精製オリーブオイルは酸度0.3%以下、オリーブオイル(国内でピュアオリーブオイルと呼ばれるもの)は酸度1%以下とされています。また、即席めんについても日本農林規格によるとフライめんの酸価*2は1.5以下となっています。また、『食品、添加物等の規格基準』(昭和34年厚生省告示第370号)では、「即席めん類(めんを油脂で処理したものに限る)は、めんに含まれる油脂の酸価が3を超え、又は過酸化物価が30を超えるものであってはならない」とされています。こうした規格のある油脂ですが、購入までの経路や自宅での保管方法によって酸化は進んでいきます。酸化した油脂は、体内で細胞を傷つけ、過酸化脂質を作る原因となります。カラダにいい油を選ぶことも大切ですが、油脂の酸化を抑えることも、食用油の上手な使い方になります。*:酸度(%):国際オリーブ協会(IOC)の規格。オリーブオイル100g中の遊離脂肪酸の割合*2:酸価(mg):油脂1g中に含まれる遊離脂肪酸を中和するために必要な水酸化カリウム量のmg数◆油脂の酸化原因1)酸素に触れる空気に触れることで、酸素と油脂が結合して酸化していきます。ふたをきちんと閉めていない、または容器の中に空気が十分にある状態、密閉容器ではなく栓がコルクなどの場合は、酸化が進みやすくなります。2)光に当てる太陽の光だけではなく、蛍光灯の光でも酸化が促進します。日中に日当たりのよいキッチンはもちろん、室内に常に置かれている状態では酸化が進みます。3)加熱をする高い温度で加熱をし続ければ、より酸化速度が早くなります。また、揚げ油などを繰り返し使うことで酸化が進むだけではなく、油の粘性が増し、新しい油よりも多くの油脂を揚げ物に付着させてしまう原因にもなります。室内への常置による温度変化も酸化原因のひとつです。4)水分水分や異物を含むことでも酸化は進みます。香り付けや味付けに、にんにくやローズマリー、唐辛子などの食材を加えた加工油などは早めに使うことが大切です。5)保存容器金属イオンも油脂の酸化を促進させます。銅、鉄、マンガン、クロム、ニッケル、コバルトなど。ステンレス製のものは日光や酸素を遮断しやすく、最近ではオリーブオイルなどに多く採用されています。家庭ではどのように食用油を保存するべきか1)冷蔵庫に保存する光が当たらず常に低温に保てる冷蔵庫は、食用油を保存するのに最適です。食用油脂の場合、開封前は棚の中など冷暗所にしまい、開封後は冷蔵庫への保存がオススメです。2)色付きの油は遮光瓶を選ぶオリーブオイルやグレープシードオイルなど、クロロフィルなどの色がある油は、光によってより酸化が進みやすくなります。遮光瓶に入った油脂を買う、透明のボトルの場合にはアルミ箔を巻くことで紫外線をある程度遮断することができます。3)加熱を繰り返さない揚げ油をこして何度も繰り返し利用する方も多いですが、加熱を繰り返すことで、酸化は進みます。こした油が透明になったとしても中の食品カスなど不純物が取り除かれただけであり、酸化状態は戻りません。揚げ油は、長時間の高温は避けること、なるべく毎回新しい油を利用することがオススメです。酸化スピードを見た場合、エキストラバージンオリーブオイルは最初の酸度は高めですが、長時間にわたって、酸度が上がりづらいことが実験でわかっています。揚げ物に、エキストラバージンオリーブオイルなどもオススメです。

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GLP-1受容体作動薬、デュラグルチドは2型糖尿病患者の腎イベントを抑制するか?:REWIND試験の腎に関する予備解析結果(解説:栗山哲氏)-1069

REWIND研究の結論 2型糖尿病においてGLP-1受容体作動薬、デュラグルチドのadd-on療法は、新規アルブミン尿発症を抑制する。REWIND研究の概要 インクレチン薬であるGLP-1受容体作動薬の腎作用が解明されつつある。現在までにGLP-1受容体作動薬に関する大規模研究は、セマグルチドのSUSTAIN-6研究、リラグルチドのLEADER研究、リキシセナチドのELIXA研究の3つ報告がある。この中で、前二者において腎複合イベントに改善作用が示唆された(ELIXA研究では腎イベントは事前設定されていない)。 REWIND研究(Researching Cardiovascular Events with a Weekly Incretin in Diabetes)は、GLP-1受容体作動薬に関する4つ目の大規模研究である。研究結果は、第79回米国糖尿病学会(ADA 2019、6月7日~11日)においてDr. Gerstein氏により報告され、6月10日のLancet誌に2つの論文として発表された。1つは心血管アウトカム(便宜上、第1報)、もう1報は腎アウトカムの予備解析(第2報)である。 REWINDの主要評価項目として心血管死、非致死性心筋梗塞と脳卒中(MACE)初発(第1報)、副次的評価項目として腎複合イベントを観察した(第2報)。本研究は、世界24ヵ国の371施設における国際的規模で、50歳以上の2型糖尿病患者9,901例(平均年齢66.2歳、白人76%、女性46.3%、心血管疾患の既往歴31.5%、ベースラインHbA1c中央値7.2%、BMI 32%、糖尿病罹病歴9.5年、eGFR 77mL/min/1.73m2)を登録した大規模研究である。併用薬は、BG薬(プラセボ群81.3% vs.デュラグルチド群81.1%)、SU薬(45.9% vs.46.1%)、ARBあるいはACE阻害薬(81.0% vs.82.0%)などである。これらの糖尿病治療薬に追加して、週1回の長時間作用型の注射製剤であるデュラグルチド1.5mgを投与する群(4,949例)とプラセボを投与する群(4,952例)に1:1でランダム化割り付けをし、中央値で5.4年間追跡した。REWIND研究の結果 第1報において、主要評価項目とした追跡期間中のMACE初発は、プラセボ群の663例(13.4%、100人・年当たり2.7例)に比べてデュラグルチド群では594例(12.0%、同2.4例)と有意に低値であった(ハザード比[HR]:0.88、95%CI:0.79~0.99、p=0.026)。このデュラグルチドによるMACE抑制効果は、心血管疾患の既往歴の有無、ベースラインのHbA1c値、年齢、性、糖尿病の罹病期間、心血管疾患既往、BMI、地域差を問わず認められた。ただし、全死亡に関してはプラセボ群(12.0%、100人・年当たり2.3例)とデュラグルチド群(10.8%、同2.1例)で有意差はなかった(HR:0.90、95%CI:0.80~1.01、p=0.067)。 第2報ではexploratory analysis(予備解析)が発表され、副次的評価項目とした腎疾患の発症に関して解析が行われた。腎評価項目は、「微量アルブミン尿(UACR>33.9mg/mmol)の発症」、「基礎値から30%以上のeGFRの持続性低下」、「腎代替療法開始」、である。その結果、腎複合イベント発症数は、プラセボ群の970例(19.6%、100人・年当たり4.1例)に比べてデュラグルチド群では848例(17.1%、同3.5例)と有意に低値を呈した(HR:0.85、95%CI:0.77~0.93、p=0.0004)。その腎アウトカムの最も明らかな原因は、「新規の微量アルブミン尿発症抑制」(HR:0.77、95%CI:0.68~0.87、p<0.0001)であり、「30%以上の持続性eGFR低下」(HR:0.89、95%CI:0.78~1.01、p=0.066)と「腎代替療法開始」(HR:0.75、95%CI:0.39~1.44、p=0.39)には有意差を認めなかった。以上から、従来の糖尿病治療に加えて、デュラグルチドの長期追加投与は、腎複合イベントを抑制することが示唆された。この主因は、新規の微量アルブミン尿発症抑制であった。さらに、デュラグルチド群においては軽度の体重減少、HbA1cの低下、LDLコレステロール値の低下、収縮期血圧の低下効果なども認められた。一方、心拍数は軽度の上昇がみられた。 なお、事前設定した、投薬中止率、有害事象である重篤な低血糖、膵がんや甲状腺がん、急性膵炎、不整脈などの点でデュラグルチド群とプラセボ群で差はなかった。ただし、消化管有害事象として、便秘および下痢を含む消化管有害事象の発現率は、プラセボ群(34.1%)に比べてデュラグルチド群(47.4%)で高かった(p<0.0001)。REWIND研究の腎予備解析:新知見は? 問題点は? 本研究の第2報である腎複合イベント解析は、副次的評価項目を予備解析したもので、REWINDの主要評価項目ではない。この解析結果を一言で要約すれば、「デュラグルチドのadd-on療法は新規の微量アルブミン尿発症を抑制する」ことである。腎複合イベント改善に、「腎機能低下抑制」や「腎代替療法開始抑制」は関与しなかった。本研究の対象が、腎機能良好群であること(eGFR 60mL/min/1.73m2以上でアルブミン尿なしが47%)を考慮すると、後二者が有意差に至らないのは自明でもある。なぜなら、一般的に糖尿病発症後の自然経過は、尿蛋白陽性例は5年間で30%、その後の経過観察25年間で30%が血清クレアチニン(Cr)値1.5mg/dL以上の慢性腎不全に至るとされる。つまり、糖尿病の自然経過を30年間追跡すると30%が慢性腎不全に至る。このことから、「30%以上のeGFR低下」と「腎代替療法開始」を腎アウトカムとした場合には相当な長期間観察を設定しなければ(仮にありうるにしても)有意差には至らない。インクレチン薬のアルブミン尿発症抑制の想定機序 現在、明確な腎保護作用のエビデンスが知られる薬剤は唯一RAS抑制薬(ACE阻害薬とARBの二者)であった。しかし、最近の新知見としてSGLT2阻害薬が心血管イベントを減少させるだけではなく、Class effectとして腎保護作用があることが、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 58、CREDENCEにおいて明らかにされ、第3の腎保護薬として認識されつつある。 薬剤が腎保護を惹起する病態生理学的機序は複雑だ。腎の解剖学的見地からは、Glomerulopathy(糸球体障害)、Tubulopathy(尿細管障害)そしてVasculopathy(血管障害)の3系統を念頭に論じる必要がある。RAS阻害薬やSGLT2阻害薬は、糸球体高血圧を是正しGlomerulopathyを改善することが、主たる腎保護機序である(Tubulo-glomerular feedback:TGF)。また、これらの薬剤は、腎間質の低酸素環境改善や線維化抑制を介しTubulopathyやVasculopathyを改善する報告もある。 さて、GLP-1受容体が腎糸球体や尿細管に発現しているか否かには、いまだ議論がある。一方、腎血管系に発現している事実にはまったく異論はない。基礎実験でのインクレチン薬の主たる腎作用は、血圧低下作用、腎尿細管NHE3を介したNa利尿作用、ANP増加作用を介したNa利尿、そして、血圧低下作用と連関し、TGFを介した輸入細動脈収縮と腎内アンジオテンシンII低下による輸出細動脈拡張による糸球体内圧低下を惹起する(Tsimihodimos V, et al. Eur J Pharmacol. 2018;818:103-109.)。糸球体内圧低下は、アルブミン尿低下を惹起し腎保護的に働く。これらの作用はあたかもSGLT2阻害薬に類似するが、インクレチン薬の主たる薬理作用であるNa利尿作用は、利尿薬としてのpharmacological potencyは強くないためTGFを介した腎保護機序の関与度は、SGLT2阻害薬に比較して低いと想像される。実臨床における道のり REWIND研究の患者背景は、平均年齢60代、白人中心(76%)、肥満者(BMI 32)、腎機能はeGFRが77mL/min/1.73m2と保たれている患者での成績であり、本邦の糖尿病患者とは一致しない面がある。GLP-1受容体作動薬は、初期治療から用いられることは推奨されておらず、既存の糖尿病薬にステップ3ないし4でadd-onされる位置付けの薬剤である。 冒頭のDr. Gerstein氏はADA 2019での発表を、「幅広い中年の2型糖尿病患者において、デュラグルチドは血糖・血圧・脂質そして体重などに改善をもたらし心血管イベントならびに腎イベントを安全に低減されることが示された」、として締めくくったと取材班は伝えている。しかし、著者を含め腎臓・高血圧専門医の大多数は、同剤が腎イベントに対して有効との発言には、いささか抵抗感がある。現時点ではREWIND研究の結果から、「2型糖尿病の腎イベントを改善する」、との推論はいかにも時期早尚であり、正確には、「2型糖尿病の新規のアルブミン尿発症抑制に関連する」にとどめるべきである。今後、多くの研究と議論の集積が必要である。

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加熱式タバコには、ニコチンは含まれない?【新型タバコの基礎知識】第3回

第3回 加熱式タバコには、ニコチンは含まれない?Key Points加熱式タバコには、紙巻タバコとほとんど変わらないレベルのニコチンが含まれている。紙巻タバコと同じように、加熱式タバコによってニコチン依存症が維持される。加熱式タバコは、従来からの紙巻タバコのようにタバコの葉に直接火をつけるのではなく、タバコの葉を加熱してニコチン等を含んだエアロゾルを発生させる方式のタバコです。ニコチンはタバコをやめられなくする依存性物質で、タバコを吸うとおよそ5分で血液中のニコチン濃度が最大になりますが、吸っていないとすぐに濃度は低下していきます(ニコチンの体内半減期は1~2 時間)。喫煙者はニコチン依存症となり、ニコチン濃度を維持するために断続的にタバコを吸うようになります。ニコチンは血管収縮などを介して循環器系疾患のリスクを高めるとともに、脳の発達に害を及ぼすことも知られています。加熱式タバコに含まれるニコチンの量は製品による違いがあり、紙巻タバコのニコチン量を100%とすると、プルーム・テックでは13%、グローでは23~27%、アイコスでは57~84%と報告されています(表)。製品による程度の違いはあるものの、すべての加熱式タバコにニコチンが含まれています。画像を拡大する加熱式タバコ(アイコス)を吸った場合に、体内のニコチン濃度がどうなるのか、図のとおり、フィリップモリス社による研究の結果が報告されています。縦軸がニコチンの血中濃度であり、横軸はタバコを吸ってからの時間が分を単位として示されています。グラフの形を見てください。加熱式タバコ(アイコス)と紙巻タバコで、ほとんど同じ形をしています。要するに、加熱式タバコ(アイコス)でも紙巻タバコと同じようにニコチンが体に吸収されるということです。これは、紙巻タバコと同じように、加熱式タバコ(アイコス)によってニコチン依存症が維持されるということを意味しています。画像を拡大するこのニコチン依存症がいかに恐ろしい病態なのかについては、拙著「新型タバコの本当のリスク」の第5章第4節で詳細に説明しておりますので、興味のある方はぜひご覧ください。 第4回は、「新型タバコも禁煙外来でやめられる?」です。1)Simonavicius E et al. Tob Control. 2018 Sep 4. [Epub ahead of print]2)Uchiyama S et al. Chem Res Toxicol. 2018;31:585-593.3)Bekki K et al. J UOEH. 2017;39:201-207.4)Picavet P et al. Nicotine Tob Res. 2016;18:557-563.

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日本の高齢者、痩せと糖尿病が認知症リスクに

 わが国の高齢者において、痩せていること(BMI 18.5kg/m2未満)と糖尿病が認知症発症のリスク因子であり、BMIが低いほど認知症発症率が高いことが、JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study:日本老年学的評価研究)のコホートデータを用いた山梨大学の横道 洋司氏らの研究で示された。また、本研究において認知症発症率が最も高かったのは高血圧症を持つ痩せた高齢者で、次いで脂質異常症を持つ痩せた高齢者であった。Journal of Diabetes Investigation誌オンライン版2019年6月17日号に掲載。 本研究では、高齢者における糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満(BMI 25kg/m2以上)、痩せ(BMI 18.5kg/m2未満)に関連する認知症リスクを比較し、さらにこれらの代謝性疾患とBMIの組み合わせに関連する認知症リスクも調査した。対象は、2010年に健康診断を受けた高齢者(平均年齢73.4歳)で、平均5.8年間追跡した。認知症は介護保険登録を用いて調べ、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満、痩せは、服薬もしくは健康診断結果で評価し、認知症発症率と調整ハザード比(HR)を計算した。 主な結果は以下のとおり。・参加した高齢者3,696人のうち、338人が認知症を発症した。・標準体重で該当する疾患がない人を基準とすると、男女それぞれの調整HR(95%信頼区間)は、糖尿病では2.22(1.26~3.90)および2.00(1.07~3.74)、高血圧症では0.56(0.29~1.10)および1.05(0.64~1.71)、脂質異常症では1.30(0.87~1.94)および0.73(0.49~1.08)、BMI 25~29.9kg/m2では0.73(0.42~1.28)および0.82(0.49~1.37)、痩せでは1.04(0.51~2.10)および1.72(1.05~2.81)であった。・脂質異常症を持たない標準体重の男性と比較して、脂質異常症を持つ痩せた男性のHRが4.15(1.79~9.63)、高血圧症を持たない標準体重の女性と比較して高血圧症を持つ痩せた女性のHRが3.79(1.55~9.28)と、認知症リスクが有意に高かった。・認知症発症率が最も高かったのは高血圧症を持つ痩せた高齢者で、次いで脂質異常症を持つ痩せた高齢者であった。

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デュラグルチドが2型DMの腎アウトカム改善/Lancet

 デュラグルチド(商品名:トルリシティ)は、Stage3/4の慢性腎臓病患者において、1年後の推算糸球体濾過量(eGFR)の低下を軽減することが報告されている。カナダ・マックマスター大学のHertzel C. Gerstein氏らREWIND試験の研究グループは、今回、同試験の探索的解析として、デュラグルチドの長期使用による2型糖尿病患者の腎アウトカムへの影響を検討し、プラセボと比較して有意な改善効果が得られることを示した。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年6月10日号に掲載された。本試験では、既存の血糖降下レジメンへのデュラグルチドの追加により、2型糖尿病患者の心血管イベントのリスクが低減することが確認されている。デュラグルチドによる腎アウトカムへの影響を評価 本研究は、心血管リスク因子を有し、HbA1cが広範囲にわたる2型糖尿病の中年~高齢患者の血糖コントロールにおけるデュラグルチドの有用性を検討する、二重盲検プラセボ対照無作為化試験「REWIND試験」の探索的解析である(Eli Lilly and Companyの助成による)。 対象は、年齢50歳以上、BMI≧23で、2剤以内の安定用量の経口血糖降下薬を服用している2型糖尿病(HbA1c≦9.5%、下限値は設けない)で、心血管イベントの既往または心血管リスク因子を有する患者であった。 被験者は、デュラグルチド(1.5mg)またはプラセボを毎週1回皮下注射する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。少なくとも6ヵ月ごとに、アウトカムの評価のためのフォローアップが行われた。また、12ヵ月ごとに、尿検査と血清学的検査を実施し、尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)およびeGFRを推算した。 探索的解析として、細小血管症の複合アウトカムのうち腎関連項目(新規の顕性アルブミン尿[UACR>33.9mg/mmol]の初回発現、eGFRのベースラインから30%以上の持続的低下、持続的腎代替療法[透析、腎移植])の評価を行った。デュラグルチド群の腎アウトカム:17.1% vs.19.6%(p=0.0004) 2011年8月~2013年8月の期間に24ヵ国371施設で9,901例が登録され、デュラグルチド群に4,949例(平均年齢66.2歳(SD 6.5)、女性46.6%、平均HbA1c 7.3%[SD 1.1])、プラセボ群には4,952例(66.2歳(SD 6.5)、46.1%、7.4%[1.1])が割り付けられた。ベースライン時に、791例(7.9%)が顕性アルブミン尿を発症しており、平均eGFR値は76.9(SD 22.7)mL/分/1.73m2であった。 フォローアップ期間中央値5.4年(IQR:5.1~5.9)の時点(5万1,820人年)で、腎アウトカムはデュラグルチド群が848例(17.1%、3.5件/100人年)で発現したのに対し、プラセボ群は970例(19.6%、4.1件/100人年)と、デュラグルチド群が15%有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.77~0.93、p=0.0004)。 最も明確なデュラグルチドの効果を認めたのは、顕性アルブミン尿の抑制効果(HR:0.77、95%CI:0.68~0.87、p<0.0001)であり、eGFRの30%以上の持続的低下(0.89、0.78~1.01、p=0.066)と持続的腎代替療法(0.75、0.39~1.44、p=0.39)には有意差はみられなかった。 重篤な腎有害事象の発現率は、両群間に有意差を認めなかった(デュラグルチド群1.7% vs.プラセボ群1.9%、HR:0.90、95%CI:0.67~1.20、p=0.46)。 著者は、「今後、ベースライン時に腎機能が保持された患者や低下した患者において、デュラグルチドの腎機能への影響の特性をさらに明らかにするために、大規模な前向き試験を行う必要がある」としている。■「デュラグルチド」関連記事デュラグルチドのREWIND試験は1次予防の壁を越えるか

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176)長生きするスポーツはどれ?【糖尿病患者指導画集】

患者さん用:長生きするスポーツはどれ?説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師運動のほうはいかがですか?患者それがなかなか。したい気持ちはあるのですが…。医師若い頃は、何か運動やスポーツをされていましたか?患者中学と高校はテニスをしていました。医師それはいいですね。ところで、継続するスポーツによって、平均余命に差があるのを知っていますか?患者いえ、知らないです。医師では、ここでクイズです。この表の1~3に当てはまるスポーツは、どれだと思いますか?患者うーん…。体操は筋肉が付きそうなので、1ですか?医師なるほど。答えは、1がテニス、2がサッカー、3が体操です。患者えっ! ちょっと意外な結果です。医師これはデンマークのデータですが、仲間と一緒にできるスポーツのほうが、長生きする可能性があるそうですよ。患者そうなんですか。また始めてみようかな…。●ポイント対戦相手がいる社交的なスポーツは、長生きする可能性があることを、エビデンスに基づいて説明します。患者さん用(解答):長生きするスポーツはどれ?■解答1.テニス2.サッカー3.体操1)Schnohr P, et al. Mayo Clin Proc. 2018;93:1775-1785.

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中高年ハイリスク2型DMにデュラグルチドが有用/Lancet

 心血管疾患の既往または心血管リスク因子を有する2型糖尿病の中年~高齢患者の血糖コントロールにおいて、デュラグルチド(商品名:トルリシティ)皮下注は有用なマネジメントの方法となりうることが、カナダ・マックマスター大学のHertzel C. Gerstein氏らが実施した「REWIND試験」で示された。研究の詳細はLancet誌オンライン版2019年6月10日号に掲載された。デュラグルチドは多くの国で、2型糖尿病患者の高血糖のマネジメントに資するとして承認を得ている、長時間作用型のGLP-1受容体作動薬であり、心血管疾患の既往のある患者において、心血管アウトカムの改善効果が報告されている。50歳以上の心血管リスク因子を持つ患者が対象 本研究は、血糖コントロールの状態がさまざまな2型糖尿病患者において、既存の血糖降下レジメンへのデュラグルチド追加による主要有害心血管イベント(MACE)への影響を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験である(Eli Lilly and Companyの助成による)。 対象は、年齢50歳以上、BMI≧23で、2剤以内の安定用量の経口血糖降下薬を服用している2型糖尿病(HbA1c≦9.5%、下限値は設けない)で、心血管イベントの既往または心血管リスク因子を有する患者であった。 被験者は、デュラグルチド(1.5mg)またはプラセボを毎週1回皮下注射する群に無作為に割り付けられた。少なくとも6ヵ月ごとにフォローアップし、心血管および他の重篤な臨床アウトカムの評価が行われた。 主要評価項目は、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心血管死の複合エンドポイントの新規発症とした。HbA1c、体重、収縮期血圧、心拍数の改善効果も良好 2011年8月~2013年8月の期間に、24ヵ国371施設で9,901例(平均年齢66.2[SD 6.5]歳、女性4,589例[46.3%]、HbA1c中央値7.2%[IQR:6.6~8.1])が登録され、デュラグルチド群に4,949例、プラセボ群には4,952例が割り付けられた。 フォローアップ期間中央値5.4年(IQR:5.1~5.9)の時点で、主要複合エンドポイントは、デュラグルチド群は594例(12.0%、2.4件/100人年)で認められ、プラセボ群の663例(13.4%、2.7件/100人年)に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.79~0.99、p=0.026)。 非致死的脳卒中(HR:0.76、95%CI:0.61~0.95、p=0.017)はデュラグルチド群で有意に少なかったが、心血管死(0.91、0.78~1.06、p=0.21)と非致死的心筋梗塞(0.96、0.79~1.16、p=0.65)は、両群間に差はみられなかった。また、全死因死亡にも、両群間に差はなかった(デュラグルチド群536例[10.8%] vs.プラセボ群592例[12.0%]、HR:0.90、95%CI:0.80~1.01、p=0.067)。 フォローアップ期間中に、ベースラインとの差が、プラセボ群よりもデュラグルチド群で優れた評価項目として、HbA1c(最小二乗平均[LSM]が0.61%低い、p<0.0001)、体重(同1.46kg低い、p<0.0001)、BMI(同0.53低い、p<0.0001)、収縮期血圧(同1.70mmHg低い、p<0.0001)、平均動脈圧(同0.49mmHg[95%CI:0.25~0.73]低い)、脈圧(同1.82mmHg[1.53~2.12]小さい)、心拍数(同1.87拍/分高い、p<0.0001)、総コレステロール(同0.07mmol/L[0.03~0.10]低い)、LDLコレステロール(同0.05mmol/L[0.02~0.08]低い)などが挙げられた。 事前に規定されたとくに注目すべき有害事象(重篤な消化器イベント、重症低血糖、がん、膵炎)や、重篤な有害事象の頻度は、両群間に差はなかった。一方、フォローアップ期間中に、消化器有害事象がデュラグルチド群の2,347例(47.4%)で報告され、プラセボ群の1,687例(34.1%)と比較して有意に多かった(p<0.0001)。 著者は、「これらの結果により、心血管リスク因子を有する糖尿病患者のマネジメントにデュラグルチドを加えることにより、血糖値が低下し、低血糖の発生は最小化し、減量と血圧降下をもたらし、心血管イベントを抑制する可能性があることが示唆される」としている。■「デュラグルチド」関連記事デュラグルチドのREWIND試験は1次予防の壁を越えるか

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経口セマグルチドの心血管安全性を確認/NEJM

 心血管リスクが高い2型糖尿病患者を対象とした、標準治療への経口セマグルチド追加投与の安全性を評価した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「Peptide Innovation for Early Diabetes Treatment 6:PIONEER 6試験」の結果が報告された。カナダ・トロント大学のMansoor Husain氏らによる検討で、心血管安全性について、経口セマグルチドのプラセボに対する非劣性が示された。GLP-1受容体作動薬セマグルチドは、現在国内外で承認・発売されているのは皮下注射剤のみで、経口剤の心血管安全性を確立することが望まれていた。NEJM誌オンライン版2019年6月11日号掲載の報告。心血管ハイリスクの2型糖尿病患者3,183例を対象に試験 PIONEER 6試験は、21ヵ国214施設で実施された。対象は、心血管リスクが高い(50歳以上で心血管疾患またはCKDを有する、もしくは60歳以上で心血管リスク因子を有する)2型糖尿病患者3,183例で、2017年1月~8月の期間に、標準治療に加え経口セマグルチド1日1回投与を受けるセマグルチド群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、time-to-event解析における主要心血管イベント(MACE:心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中)の初回発生で、最低122件のイベントが発生するまで追跡した。非劣性マージンを主要評価項目のハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値1.8とし、層別Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。 3,183例の患者背景は、平均年齢が66歳で、2,695例(84.7%)が心血管疾患またはCKDを有する50歳以上の患者であった。経口セマグルチド群のMACE発生、プラセボに対して非劣性(HR:0.79) 追跡期間中央値15.9ヵ月において、MACEの発生はセマグルチド群3.8%(61/1,591例)、プラセボ群4.8%(76/1,592例)であった。HRは0.79、95%CIは0.57~1.11であり、心血管安全性に関してセマグルチドのプラセボに対する非劣性が示された(非劣性のp<0.001)。 主要評価項目の個別イベントの発生については、心血管死がセマグルチド群0.9%(15/1,591例)、プラセボ群1.9%(30/1,592例)(HR:0.49、95%CI:0.27~0.92)、非致死的心筋梗塞は2.3%(37/1,591例)と1.9%(31/1,592例)(HR:1.18、95%CI:0.73~1.90)、非致死的脳卒中は0.8%(12/1,591例)と1.0%(16/1,592例)(HR:0.74、95%CI:0.35~1.57)に認められた。また、全死因死亡率は、セマグルチド群1.4%(23/1,591例)、プラセボ群2.8%(45/1,592例)であった(HR:0.51、95%CI:0.31~0.84)。 治験薬の投与中止に至った有害事象の発現頻度は、セマグルチド群11.6%、プラセボ群6.5%であり、理由として最も多かったのは消化器症状であった。■「セマグルチド」関連記事2型DMへのGLP-1、経口薬vs.皮下注/Lancet

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メトホルミン、軽度~中等度腎機能障害にも処方可-使用上の注意改訂

 2型糖尿病治療薬のメトホルミン含有製剤の添付文書について、2019年6月18日、厚生労働省より使用上の注意改訂指示が発出された。「腎機能障害」、重度のみが禁忌 これまで、メトホルミン含有製剤は軽度~中等度腎機能障害の患者も禁忌とされてきたが、今回の改訂でeGFR(推算糸球体濾過量)30未満の重度の腎機能障害患者のみを禁忌とすることになった。これに伴い、腎機能障害患者に対する1日最高用量については、eGFRに基づいた目安が記載される。また、経口摂取が困難な場合などの脱水リスクや過度のアルコール摂取、そのほか乳酸アシドーシスに関連する注意が整理されたが、製剤ごとに改訂内容の記載に違いがあるため、それぞれの添付文書を確認する必要がある。 改訂指示のある対象製剤は以下の通り。<対象製剤>・1日最高投与量が2,250mgである製剤(商品名:メトグルコ錠250mg、同500mg[大日本住友製薬]ほか)・1日最高投与量が750mgである製剤(商品名:グリコラン錠250mg[日本新薬]ほか)・メトアナ配合錠(アナグリプチン・メトホルミン塩酸塩配合剤:三和化学研究所)・イニシンク配合錠(アログリプチン安息香酸塩・メトホルミン塩酸塩配合剤:武田薬品工業)・メタクト配合錠(ピオグリタゾン塩酸塩・メトホルミン塩酸塩配合剤:武田薬品工業)・エクメット配合錠LD/HD(ビルダグリプチン・メトホルミン塩酸塩配合剤:ノバルティスファーマ)なぜ今、改訂されるのか? これまで乳酸アシドーシスのリスクを最小限にとどめるため、1970年代から国内の添付文書に使用患者や投与量などを記載し制限してきた。とくに腎機能障害患者ではメトホルミンの排泄が遅延し血中濃度が上昇するため、1977年5月に「軽度を含む腎機能障害患者」も禁忌へ追加。それ以降、腎機能障害患者に対する使用制限がより厳格なものとなっていた。 ところが近年、海外では腎機能障害患者におけるメトホルミンの安全性に関する最新の科学的知見に基づき、腎機能障害患者に対する使用制限が見直されてきた。2016年4月には米国食品医薬品局(FDA)が、同年10月には欧州医薬品庁(EMA)がそれぞれ、公表文献などをレビュー。その結果、軽度から中等度の腎機能障害患者へのメトホルミン使用は可能であると結論付け、禁忌をeGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者に限定するとともに、軽度から中等度の腎機能障害患者へ使用する際の注意を追加するための添付文書の改訂を行う旨を公表した。 これに伴い、2019年5月31日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会による話し合いの結果、国内においても海外同様の対応を行うことが決定された。

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2型DMへのGLP-1、経口薬vs.皮下注/Lancet

 2型糖尿病の患者に対するGLP-1受容体作動薬は、現在、皮下注製剤のみが承認されている。米国・AdventHealth Translational Research Institute for Metabolism and DiabetesのRichard Pratley氏らは、開発中のセマグルチドの経口製剤について、リラグルチド皮下注(商品名:ビクトーザ)またはプラセボと比較した第IIIa相無作為化ダブルダミー二重盲検試験「PIONEER 4」の結果を発表した。経口セマグルチドはリラグルチド皮下注に対して、HbA1c値の低下について非劣性であり、体重減少については優越性が示された。安全性と忍容性は同等であった。また、プラセボに対しては、HbA1c値の低下、体重減少ともに優越性が示された。結果を踏まえて著者は、「経口セマグルチドによって、一連の糖尿病治療におけるGLP-1受容体作動薬治療の導入を早めることが可能になるだろう」と述べている。Lancet誌オンライン版2019年6月8日号掲載の報告。経口セマグルチド、リラグルチド皮下注、プラセボを52週間投与 研究グループは2016年8月10日~2017年2月7日にかけて、12ヵ国、100ヵ所の医療機関を通じて、18歳以上の2型糖尿病患者950例をスクリーニングし、そのうち711例を対象に試験を開始した。試験対象としたのは、HbA1c値が7.0~9.5%(53~80.3mmol/mol)、メトホルミンの投与量が1,500mgまたは最大許容量で安定している患者を適格とした。SGLT2阻害薬の服用の有無は問わなかった。 被験者を血糖降下薬の種類と開発国で層別化後、無作為に3群(2対2対1)に割り付け、経口セマグルチド(1日1回、14mgまで漸増、285例)、リラグルチド皮下注(1日1回、1.8mgまで漸増、284例)、プラセボ(142例)を、それぞれ52週間投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから26週後のHbA1c値の変化で、経口セマグルチド対プラセボと、経口セマグルチド対リラグルチド皮下注の比較・検証(非劣性と優越性、非劣性マージン0.4%)を行った。副次エンドポイントは、ベースラインから26週までの体重変化で、セマグルチド対プラセボまたはリラグルチド皮下注の優越性を検証した。また、安全性の評価は1回以上の試験薬投与を受けた全被験者を対象とした。 評価に当たっては、治療指針に基づく推定使用量(試験薬の中止やレスキュー治療の有無を問わない用量)と、試験薬の推定使用量(全被験者がレスキュー治療不要で試験薬投与を受けられると仮定した用量)を定義し、主要評価は前者の治療指針に基づく推定使用量で行われた。経口セマグルチド、体重減少では対リラグルチド皮下注に優越性示す 被験者の48%(341例)が女性で、平均年齢は56歳(SD 10)だった。全被験者が試験薬を1回以上服用した。試験を完遂したのは経口セマグルチド群97%、リラグルチド皮下注群96%、プラセボ群94%であった。 26週時点のベースラインからのHbA1c値の平均変化値は、経口セマグルチド群-1.2%(SE 0.1)、リラグルチド皮下注群-1.1%(0.1)、プラセボ群-0.2%(0.1)だった。 治療指針に基づく推定使用量での評価の結果、HbA1c値の低下について、経口セマグルチド群はリラグルチド皮下注群に対し非劣性を示し(推定治療差[ETD]:-0.1%、95%信頼区間[CI]:-0.3~0.0、p<0.0001)、プラセボ群に対しては優越性を示した(同:-1.1%、-1.2~-0.9、p<0.0001)。試験薬の推定使用量に基づく評価では、26週時点の経口セマグルチド群のHbA1c値は、リラグルチド皮下注群(ETD:-0.2%、95%CI:-0.3~-0.1、p=0.0056)およびプラセボ群(同:-1.2%、-1.4~-1.0、p<0.0001)の両者よりも有意に大きな低下を示した。 ベースラインから26週後の体重変化については、治療指針に基づく推定使用量での評価において、経口セマグルチド群の体重減少(-4.4 kg[SE 0.2])は、リラグルチド皮下注群(-3.1kg[SE 0.2]、ETD:-1.2kg[95%CI:-1.9~-0.6]、p=0.0003)、プラセボ群(-0.5kg[SE 0.3]、同:-3.8kg[-4.7~-3.0]、p<0.0001)の両群に対して優越性を示した。試験薬の推定使用量に基づく評価では、26週時点の体重減少は、経口セマグルチド群がリラグルチド皮下注群(ETD:-1.5kg[95%CI:-2.2~-0.9]、p<0.0001)およびプラセボ群(同:-4.0kg[-4.8~-3.2]、p<0.0001)よりも、有意に大きいことが示された。 有害事象の発生率は、経口セマグルチド群80%(229例)とリラグルチド群74%(211例)が、プラセボ群67%(95例)に比べて高率だった。

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第24回 心肺停止の症例から考えるバイタルサイン2【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

最終回は「心肺停止」の症例です。文字通り、心臓と肺の機能が停止した(心停止・呼吸停止)状態です。病院の救急外来には心肺停止の患者さんが搬送されてくることがありますが、搬送される前の状態を思い浮かべてください。もしも人が倒れたその時、その場所にあなたが居合わせたら...。もしもその人があなたの大切な人だったら...。そんなことを想像しながら読んでみてくださいね。患者さんIの場合◎経過──2胸骨圧迫について以前は心臓マッサージと言われていましたので、この呼び方のほうが馴染みがあるかもしれませんが、最近は胸骨圧迫と呼ばれ、一次救命処置では最も大切な手技です。まず、胸の中央に手を置きます〈図3-1〉。そこには胸骨と呼ばれる骨がありますが、圧迫する部位はその胸骨の下半分です。胸骨を圧迫するので胸骨圧迫と言われます。図3-2のような格好で強く・速く・絶え間なく胸を押します。強く:胸が約5cm沈み込むまで強く圧迫しますが、6cmを超えないようにします速く:1分間に100〜120回のテンポで行います絶え間なく:胸骨圧迫を中断する(心肺蘇生を中断する)時間は最小限にしますそしてもう1つのポイントは、圧迫と圧迫の間には胸に力を入れないようにして、胸を完全に元の位置に戻すようにします。「肋骨が折れてしまうことはありませんか?」とよく聞かれますが、骨折することをおそれて不十分な胸骨圧迫となってしまっては、その人を救うことはできません。◎経過──3店員さんは一所懸命に胸骨圧迫を続けています。「あ、替わります」 店員さんが少し疲れてきている様子でしたので、あなたは声をかけました。「ありがとうございます。お願いします」(講習会の時と同じように...、落ち着いて、落ち着いて...、人工呼吸はどうしよう...、とりあえず胸骨圧迫をしっかり...)人工呼吸について本来の心肺蘇生は、胸骨圧迫と人工呼吸を30:2で行います〈図2〉が、人工呼吸ができないか、ためらわれる場合には胸骨圧迫のみの心肺蘇生でも構いません。医療従事者による心肺蘇生でも、人工呼吸ができない状況では胸骨圧迫のみの心肺蘇生でも悪くないとされます。心肺蘇生では人工呼吸(マウス・ツー・マウス)のイメージが強いという人もいますが、心肺蘇生の中で最も大切な手技は胸骨圧迫ということを知っておいてください。◎経過──4息を切らして別の店員さんが戻ってきました。 「AED持ってきました! これ...、使ったことありますか?」そこに居合わせた人たちは顔を見合わせました。3つの心停止とAED心肺停止と判断されたときの心電図波形は大きく3種類に分かれます。「心室細動や(無脈性)心室頻拍」といった、致死性心室性不整脈心臓の電気的活動があるものの脈が触れない場合は、「無脈性電気活動(PEA)」心臓の電気的活動そのものがなくなっている場合は「心静止」心室細動や心室頻拍では電気ショック(電気的除細動)が有効ですが、PEAや心静止には電気的除細動は無効です。そのため、病院内で患者さんが急変したとき、まず初めに心電図モニターを装着します。AEDは、装着すると自動的に心電図波形を解析し除細動が必要かどうかを判断し、除細動が必要なときにはショックボタンを押すことによって除細動を行う機器です。AEDの使い方AEDは蓋を開けると、次にすべきことを音声で教えてくれます〈写真1〉。その通りに行えば誰にでもできます。ですが、いきなり本物を使用するのは勇気がいりますね。練習用の機器がありますから、ぜひ講習会で習ってみてはいかがでしょうか。「私、講習会で習ったんです。やってみます...!」 あなたはAEDをお母さんの傍らに置き、AEDの蓋を開けました。『パッドを図のように胸に貼ってください』パッドにはイラストで貼り付ける位置が描かれています。パッドをそのように貼り付けました〈写真2〉。『心電図を解析します。患者に触れないでください』 胸骨圧迫を中止し、お母さんから離れます。患者に触れていたりしていると、ノイズのために適切な解析ができないことは、先日の講習会で教わりました。『ショックが必要です。患者に触れないでください』「...!(講習会で習った通りにやろう)」講習会では「本番のように(心肺蘇生の)練習してください。もし本当に心肺蘇生をすることになったら、この練習のようにやってください」と言われたことを思い出しました。「皆さん、ショックボタンを押しますから触れないでください!」あなたは周りの人の安全を確認しました。「ショックボタン押します!」◎経過──5ショックボタンを押し終わると、あの店員さんがすぐに胸骨圧迫を再開しました。「ぼくも、ちょうど先日、講習会を受けてきたところなんです」「え?」 「お店の研修のひとつで...」そのときお母さんが 「うぅぅぅん」 とうなって眉をしかめました。「救急車が来ました!」 まもなく救急隊員が入ってきて、あなたの顔を見て言いました。「ありがとうございました。替わりますね」◎経過──6救急隊が到着したときにはお母さんは脈が触れるようになっており、救急車内では少し意識が戻ってきた様子でした。搬送先の救命救急センターでは急性冠症候群※と診断され、まもなくカテーテル治療が行われました。お母さんが無事に退院したのは約3週間後のことです。※急激な血圧上昇・心拍数増加などによる血行動態の変化や冠攣縮などによる冠動脈血管内膜のプラークの破裂、血栓形成により冠動脈の内腔が閉塞、狭窄し引き起される症候群。急性心筋梗塞、不安定狭心症、心原性突然死が含まれる。エピローグ「ここのパスタ、リベンジね」「そうね、この前はありがとう。血圧と糖尿病の薬に、心臓の薬まで加わっちゃったわ。でも、たまには外食もいいわね」ミートソースとカルボナーラを注文しようとすると、半年前のあの店員さんが遠くに見えました。さいごに心肺停止は呼吸や循環などが破綻してしまっている状態といえます。今まで、バイタルサインに着目していろいろな患者さんを一緒に学んできましたが、バイタルサインの異常を呈する患者さんを放っておくと、いずれ心肺停止の状態に陥ってしまうかもしれません。心肺停止は非常に致死率の高い状態です。そうならないためにも、バイタルサインの異常を素早く察知できるようになりましょう。

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175)知っていますか? 低血糖のリスク【糖尿病患者指導画集】

患者さん用:知っていますか? 低血糖のリスク説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師前回の検査結果ですが、HbA1cが7%を切っていました。患者そうですか! よかった…。糖尿病教室で合併症のことを聞いてから心配で心配で…。(安堵した表情)医師ここまでよく頑張りましたね。合併症の予防には高血糖の改善が重要ですが、HbA1cが下がったので、これからは低血糖にも注意してくださいね。患者低血糖は、今までなったことがないので、大丈夫です。医師それはよかったです。ただ、インスリン治療を受けている患者さんのほとんどは、低血糖を経験しているといわれています。患者えっ、そうなんですか!?医師では、ここで問題です。この□□にはどんな言葉が入ると思いますか?患者一番上は交通事故…ですか? あとは…、わかりません。医師残りの答えは、認知症と心筋梗塞です。高齢になると、低血糖に気付きにくくなります。自覚のない低血糖を繰り返していると、これらのリスクも高まるので、ご家族にも低血糖についての注意を伝えておくようにしてください。患者はい。わかりました。(うれしそうな顔)●ポイント穴埋めクイズを用いて、質の良い血糖コントロールの大切さを説明します。患者さん用(解答):知っていますか? 低血糖のリスク■解答交通事故認知症心筋梗塞1)厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖2)一般社団法人 日本糖尿病学会 糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告

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新型タバコ時代!電子タバコと加熱式タバコは何が違う?(2)【新型タバコの基礎知識】第2回

第2回 新型タバコ時代!電子タバコと加熱式タバコは何が違う?(2)Key Points加熱式タバコは、タバコの葉を加熱してニコチン等を含んだエアロゾルを発生させる。電子タバコはリキッドを加熱し、エアロゾルを発生させる。加熱式タバコには、アイコス、グロー、プルーム・テックといった商品があり、電子タバコには、500種類以上のブランドがある。加熱式タバコがタバコとして販売されている一方、日本ではニコチン入りの電子タバコは規制され、公には販売されていない。今回は、退屈に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、新型タバコ(加熱式タバコと電子タバコ)の構造や規制の状況についてお伝えします。なぜなら、新型タバコ問題について医療者の皆さんから患者さんなど一般の方々に伝えていってもらう上で、簡単にでも理解しておいてもらう必要がある情報だからです。加熱式タバコは、従来からの紙巻タバコのようにタバコの葉に直接火をつけるのではなく、タバコの葉を加熱してニコチン等を含んだエアロゾルを発生させる方式のタバコです。アイコス、グローおよびプルームエスでは、それぞれの専用電子デバイスにより、タバコの葉を含む専用のスティックを200~350℃に加熱し、ニコチン等を含む気体状のエアロゾルを発生させ、吸引します(図1-A)。一方、プルーム・テックでは、粉末状のタバコの葉を含む専用カプセル内に、グリセロールやプロピレングリコール等を含む液体(リキッド)を加熱して発生させたエアロゾルを通して、ニコチン等をエアロゾル経由で吸引する仕組みとなっています(図1-B)。プルーム・テックではタバコの葉がある部分での温度が30℃程度と低くなっており、この部分が低温であることが産生される有害物質量が少ないことと関連しています(※最近市場に登場したプルームエスは、アイコスやグローと同様のタイプであり、200度で加熱する仕様)。画像を拡大するそして電子タバコは、プルーム・テックとよく似た構造をしています。電子タバコでは、吸引器に専用の液体(リキッド)を入れ、コイルを巻いたヒーターで熱し、発生したエアロゾルを吸い込みます(図2)。この基本構造は共通で、電圧が調節可能であったり、リキッド容量の大小があったりなど、さまざまな電子タバコ製品が開発されています。リキッドには、ニコチンや果物などさまざまな香りの人工香料、グリセロール、プロピレングリコールなどが用いられます。画像を拡大する新型タバコの外観、代表的なブランド名の例および規制の状況を表にまとめて示します(表1)。ご覧の通り、形態・形状は製品によって大きく異なります。電子タバコには、紙巻タバコにしか見えない外観のもの(タバコ型)やペン型のほか、タンク型といったリキッド容量が多く、電圧を調整できるタイプのものもあります。表1では電子タバコのブランド名として12種を例示しただけですが、世界中には500種類以上の電子タバコブランドがあります。今回の記事から、世の中にどんな新型タバコ製品があるのか、概要を把握していただければと思います。第3回は「加熱式タバコには、ニコチンは含まれない?」です。画像を拡大する

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TIMI Studyから学ぶ臨床研究

 NPO法人 臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR/理事長 桑島 巖氏)は2019年4月20日、都内においてJ-CLEAR講演会を開催。6名の講演者が特定臨床研究の現状や糖尿病領域の臨床試験の変遷などについて発表した。 本稿では、第1部「特定臨床研究法施行のあとさき」に続き、第2部、第3部の話題をお届けする。SGLT2阻害薬は腎機能を保護するか 第2部では、「相次ぐ糖尿病新規治療薬:助っ人、それとも敵?」をテーマに2題の講演が行われた。 はじめに「SGLT2阻害薬の腎機能保護作用に関する最近の知見」をテーマに栗山 哲氏(東京慈恵会医科大学 客員教授)が講演を行った。患者数が1,330万人と推定される慢性腎臓病(CKD)をコモンディジーズと位置付けた上で、CKDによる心血管イベント発生のリスクと関連性を概括し、腎臓を守ることは生命予後の改善になると述べた。そして、心・腎保護作用としてSGLT2阻害薬によるEMPA-REG、CANVAS、DECLARE TIMI 58、CREDENCEの各試験結果を示し、試験内容を説明した。 腎臓保護のためには「糸球体障害、尿細管障害、血管障害」の3つがターゲットとなり、「KDIGOガイドライン2014」で示されたように血圧、血糖、ACE阻害薬/ARBなどを優先して考慮するとともに、脂質、尿酸、貧血、減塩なども同時に考えるべきと提案する。 これらの保護に作用するのがSGLT2阻害薬であり、その作用は、食塩感受性改善など食塩関連、血糖低下・糖毒性改善など血糖関連に多面的に作用するとともに、尿酸値の低下、LDL-Cの低下などにも作用する。これらの作用が先述の3つのターゲットを改善するとともに、腎機能障害進行抑制に寄与すると考えられると効果の仕組みを説明した。 最後に今後のSGLT2阻害薬の課題として、諸効果の持続可能性、副作用のリスクを挙げ、レクチャーを終えた。臨床研究結果が医師の行動を変えるためには 次に「医療の現実、教えます:脚気論争から糖尿病治療薬論争まで」をテーマに名郷 直樹氏(武蔵国分寺公園クリニック 院長)が、明治期の脚気論争から最近のディオバン事件までを振り返り、臨床研究の問題点を糖尿病治療薬とも絡め説明した。 「脚気論争」は医学史の中でもよく知られた史実で、「臨床試験の正確さよりも、なぜ治療に結びつく医療がなされなかったのか、“負の歴史”として語られている」と同氏は語るとともに、コレラ菌論争や現在の治療薬の偏重傾向にある糖尿病治療薬に関しても触れた。これら過去の反省を医療者は踏まえ、「病態生理から臨床データをひとつながりにする」「日々の実践教育にRCTによるEBM教育を入れる」「研究結果と現場のギャップを明確にする」などを今後の臨床研究に活かすべきだと提言を行った。 最後に、同氏は「臨床研究は医者の行動を変えないが、間違いながらも(軌道)修正可能な医療を進めていきたい。どういう研究をするかだけでなく、どう研究が使われるかも視野に入れる必要がある」と語り、講演を終えた。わが国が見習うべき臨床研究方法“TIMI Study” 第3部では「負けない臨床研究の作り方:TIMI Study*に学ぶ」をテーマに後藤 信哉氏(東海大学循環器内科 教授)が、最近臨床研究で目にする機会の多い“TIMI Study”の概要とわが国が進むべき方向性を解説した。 はじめに臨床研究の利害関係者を「臨床医・臨床研究者」「企業(薬剤、機器)」「規制当局」「患者」の4つに分け、それぞれの立場から臨床研究の目的・目標を説明した。それぞれの利益とは、臨床医・臨床研究者は質の高いジャーナルに論文を多数掲載すること、企業として製品で利益を生むこと、規制当局として許認可のために役立つ科学的根拠を得ること、患者にとって疾患が治癒することである。この4つの利害関係者の思いが合致し、目的を充足させていると思える体制の構築に成功しているのが“TIMI Study Group”だと語る。 具体的には、「ランダム化比較試験が、標準治療の転換を目指す唯一正しい方法とコンセプトを確立させている」「標準プロトコールとして、ランダム化比較試験が有効性と安全性を検証するものと完成させている」「同グループと協調して標準的プロトコールの症例登録をするため、各国のコーディネーターが決まっている」「同グループに臨床研究を委託することで薬剤開発メーカーは投資リスクを低くすることができる」「同グループが検証した臨床試験の結果は、アカデミアにはNEJMなどのhigh impact journalへの論文発表、規制当局には認可承認に必要な科学的データの提供、新薬開発メーカーには認可承認とその後の販売拡大に必要な科学的根拠を提供する」と5つの要素を挙げ説明した。 実際、同氏も参加したSGLT2阻害薬ダパグロフロジンの“DECLARE TIMI 58試験”を例に、試験がどのような目的とプロセスで行われ、結果どのような影響があったかを報告した。DECLARE TIMI 58試験では、企業と規制当局は同薬剤が心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中を増やさないことを示すことで、心不全入院、腎不全悪化予防の可能性を示唆した。臨床医・臨床研究者では本試験の論文がNEJMを含め他のジャーナルにも17本掲載され、患者には同薬剤への懸念を減らすインパクトがあったという。補足で同氏へのメリットとしては、共著の研究者になったことと“Circulation”への掲載のほか、わが国の研究貢献度の比重が増したと考えていると感想を語った。 そして、「こうした四者にメリットとなる研究を創造したTIMI Studyグループに、わが国の臨床研究も見習うべきところがある」と述べ、(1)「何が正しいか」を定義し、検証する方法を確立することが重要(2)検証する理論ができたら、その理論を広報して「世界を一色に染める」ことが重要(3)利害関係のある四者すべてが「Win/Win/Win」であると納得しながら、結果としては一人勝ちになる仕組みを考えることが重要と3つのポイントを提言し、レクチャーを終えた。*TIMI Study Groupとは、循環器領域に特化したアカデミック臨床研究機関。設立から約70以上の臨床研究を手掛け、いずれの結果も一流医学雑誌に発表・掲載されている。(ケアネット 稲川 進)■参考臨床研究適正評価教育機構■関連CLEAR!ジャーナル四天王

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