サイト内検索|page:123

検索結果 合計:4912件 表示位置:2441 - 2460

2441.

臨床研究法、J-CLEARメンバーも対応に苦戦

 臨床研究法が施行されて早1年。2019年3月までは移行期間ということもあり、倫理委員会への登録などで忙殺された方が多かったようだ。本年4月からの新たな申請はこれまでに比べ、少ないというが、日本の臨床研究は法律に則り、滞りなく進んでいるのだろうか。NPO法人 臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR/理事長 桑島 巖氏)は2019年4月20日、都内においてJ-CLEAR講演会を開催。6名の先生が特定臨床研究の現状や糖尿病領域の臨床試験の変遷などについて発表した。 本稿では、第1部「特定臨床研究法施行のあとさき」の話題をお届けする。“医の倫理”は産業としての医療から生まれた 「特定臨床研究法、ここが問題-現場から」について発表した植田 真一郎氏(琉球大学医学研究科臨床薬理学講座 教授)は、世界初の倫理委員会発足から日本で臨床研究法が施行するまでの変遷について紹介。 天然痘が流行した時代、被験者保護の概念は乏しく、脆弱な人々は研究者自身の好奇心を満たす対象とされていた。これに対し、ヘンリー・K・ビーチャーが臨床研究における倫理指針を提唱、臨床研究を規制するためのNational Research Act(1974年)やベルモント・レポート(1979年)が作成されるようになり、医療の産業化と共にCOIの概念が発達していった。 ところが、産業としての医療が発達していく中でCOIの問題がますます表面化し、さらには「me too drug」の概念から企業による販売促進のための研究が拡大していったという。近年の日本の現状として、「倫理審査委員会を通過すればなんとかなると考え、“研究計画書の改定を倫理委員会に届けない”人々」の存在についてコメント。これを問題視した植田氏は、「臨床研究法施行によって計画書の改訂報告が義務付けられたことは良い」と述べた。“臨床研究法”はCOIを守り患者を保護する法律なのか? 臨床研究法が策定された背景には、未承認薬・適応外薬の臨床試験の枠組みはもちろんのこと、「臨床研究として有効性や安全性に対する試験デザインが適切になされているか、将来の患者さんを守るためのものになっているかが一番重要なことである」と植田氏は述べ、「最善の研究デザイン、研究計画について思考停止せずに考え続けること」を強調した。 臨床研究法を守ればなんでもやって良いわけではないことを再認識する必要がありそうだ。臨床研究法の矛盾 山本 晴子氏(国立循環器病研究センター・臨床試験推進センター長)は医療機器における観察・介入研究の判別の難しさについて、ロボットスーツを例に示した。このロボットスーツは医療機器としても福祉用具としても販売されているが、福祉用具としてのロボットスーツを脳梗塞患者のリハビリに診療で使用するとなると、特定臨床研究が必要になるのだという。これに対し山本氏は、「研究の“意図”に少しでも“治療”の匂いがすると法律を適用するのは、過剰規制ではないか?」と問題提起。このほか、医薬品と医療機器を同列に扱う点についても“国際的なズレ”を指摘し、「臨床研究法は『臨床指針』と隔絶しており、研究者が理解に苦しい」といった点を強く訴えた。コホート研究の本来の意味とは? 近年、なぜここまで多くの臨床試験が糖尿病領域においてなされているのか。景山 茂氏(東京慈恵会医科大学 特命教授)は、「患者の選択基準において、さまざまな薬剤を服用している患者やハイリスク患者を除外してはいけない」などの2008年にFDAが提言した5TOOsを挙げ、臨床研究に対する歴史的背景から覚えきれない程の臨床試験で溢れるようになった現況を説明し、臨床研究法の演題から第2部の「相次ぐ糖尿病新規治療薬:助っ人、それとも敵?」に繋げる役割を担った。

2443.

老化細胞を除去して病気を治す未来が来る

細胞の老化が、がんをはじめとするさまざまな疾患の「根本的な原因」であることがわかってきた。20年来この研究を続ける新潟大学循環器内科教授の南野 徹氏に、老化細胞を除去する治療法の可能性や、次期大会長としての学会の今後の方向性などを聞いた。細胞そのものの老化のメカニズムがわかれば、循環器疾患を根本的に防げる可能性があるのではないかと考え、20年ほど前から、細胞の老化の研究を行っています。当時は、循環器の領域でそうした研究をしている医師はほとんどいませんでしたが、その後、細胞の老化の研究が進み、徐々に循環器内科の研究者が増えています。私がその研究を始めたのは、細胞のテロメアの長さが寿命に関わっており、テロメアーゼという酵素にテロメアを伸ばす働きがあるということがわかり始めたころです。その後、循環器関連では、たとえば、血圧が高い人はテロメアが短い、動脈硬化が進んでいる人はテロメアが短い、などいろいろなことが医学的に証明されてきています。テロメアが短い老化した細胞はがん化しやすい今、この領域での一番のトピックは、老化した細胞を取り除くことで、病気を治療できるのではないか、という考え方だと思います。テロメアの長さや細胞の老化は、バイオマーカーとしては臨床でも少しずつ使われてきていますが、それをもう一歩進めたものです。細胞は普通50回くらい分裂するのですが、テロメアが短くなったり、細胞が老化したりすると、分裂できなくなります。細胞の老化は、テロメアの短縮だけでなく、紫外線や酸化ストレスなど外的要因で染色体に傷が入ることでも進みます。そして、そうした老化した細胞は一般にがん化しやすく、溜まっている場所によって、心不全、糖尿病などほかの疾患の原因にもなり得るのです。つまり、抗がん剤治療のように、老化した細胞だけを標的にして殺す薬剤ができれば、がんをはじめとする疾患を予防できたり、治療したりすることができると考えられます。老化細胞除去薬の開発は、まだ動物実験の段階ですが、一部で臨床試験が始まっていて、そう遠くない将来、さまざまな疾患で臨床応用される可能性が高いと思っています。循環器領域に限れば、たとえば、運動の効果なども一つのトピックです。適度な運動が循環器疾患の予防になるというのは常識ですが、それが細胞レベルでどのような機序で起こるのか、実は正確にはわかっていない。最近いくつかの研究で、運動すると筋肉からさまざまな物質が出ることがわかってきて、それらが体をめぐって細胞の老化を遅らせていると考えられるようになっています。理論的には、そのような物質を薬物として投与すれば、運動しなくても運動したのと同様の効果を体に与えることができるかもしれないわけです。抗加齢医学は日本が世界をリードできる分野今回の学術総会ではプログラム委員長を務めさせていただいていますが、筋肉と抗加齢についてもシンポジウムを組んでいます。また、私が座長を務めるInternational Joint Symposium では、海外から演者を招き、細胞老化のバイオマーカー、カロリー制限と抗加齢といったテーマでも講演いただきます。実は、抗加齢という切り口でこれだけ広範な領域をカバーし、これだけ規模の大きい学会は世界的に例がありません。抗加齢医学に関しては、日本が世界で最も進んでいると自負しています。なので、今後は世界の関連学会を巻き込んで、日本から世界に発信し、われわれが世界の抗加齢医学をリードする存在になりたいと考えています。私は学会の国際委員長でもあり、今回は、そうした観点からこれまで以上に海外から数多くの演者を招聘していますが、大会長を仰せつかっている来年の学術総会では、さらに国際色を高めたいと思っています。新潟という久しぶりの地方開催なので、地方ならではの楽しい企画も構想中です。今回はもちろん、次回の学術総会もご期待いただければと思います。メッセージ(動画)

2444.

高齢者診療の新たな概念“multi-morbidity”とは

 近年、注目されるようになった“multi-morbidity(マルチモビディティ)”という概念をご存じだろうか。multi-morbidityの明確な定義はまだ存在しないが、「同時に2種類以上の健康状態が併存し、診療の中心となる疾患が設定し難い状態」を示し、数年前から問題視されてきている。 このmulti-morbidityについて、2019年5月23日から3日間、仙台にて開催された第62回 日本糖尿病学会年次学術集会のシンポジウム12「糖尿病合併症 co-morbidityかmulti-morbidityか」で行われた竹屋 泰氏(大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学講師)の発表が参考になるので、以下に紹介する。multi-morbidityは「老年症候群」と共通する部分も多い multi-morbidityは、複雑で持続的なケアを要する状態で、基本的には、高齢者に特有な健康状態を示す「老年症候群」と共通する部分も多い。 multi-morbidityをわかりやすく例えると、めまいを主訴とする患者について考えたとき、患者が若年者や中年者であれば、めまいを起こす原因がいくつか特定できるだろう。しかし、加齢による生理的・病的・社会的な機能低下を伴う高齢者では、複数の小さな原因が複雑に交絡し合った結果、それらが収束され「めまいという一つの不調」を呈していることがある。 こういったケースの場合、原因を特定しづらく、対症療法として薬を処方した結果、いつの間にかポリファーマシーにより新たな不調を生じる恐れまで出てくるのが、主たる問題となるところだ。multi-morbidityの具体的な症例 高血圧、2型糖尿病、慢性心房細動、慢性心不全、COPDの診断を受け、通院中の88歳女性。3ヵ月前に転倒が原因と思われる硬膜下血腫に対し、血腫除去術を行っている。この際、服用していた抗凝固薬を休薬している。そのほかに、整形外科から鎮痛薬と骨粗鬆症薬、かかりつけ医(内科)からインスリンを含む9種、計12種類の薬剤が処方されている。一人暮らしで、要介護1。認知機能の低下も見られ、ケアマネジャーからは大量の残薬があると報告を受けている。 抗凝固薬を再開する益と害を考えると、CHADS2スコア:4点(脳卒中の年間発症リスク:高)、HAS-BLEDスコア:4点(重大な出血の年間発症リスク:高)だった。multi-morbidityの難しさ~休薬中の抗凝固薬を再開するか? この症例について、生命予後、QOL、患者の希望、医療経済なども加味して、患者本人、家族、薬剤師、ケアマネジャーなどと相談し、非常に悩んだ結果、抗凝固薬の再開について決断しなくてはならないとする。竹屋氏は、2つの選択肢を提示した。(1)抗凝固薬は害のほうが大きいと判断し、休薬を続行(2)抗凝固薬は益のほうが大きいと判断し、再開 (1)の休薬を続行した場合、この患者は1年後、心原性脳梗塞により左半身麻痺、寝たきりとなり、さらに1年後死亡した。こうなると、「あのとき、抗凝固薬を再開していればよかった」と思うかもしれない。では、もう一方の結末はどうなのだろうか。 (2)の抗凝固薬を再開した場合、1年後、患者が自宅で転倒し動けずにいるところをヘルパーが発見。脳出血により意識不明となり、そのまま9ヵ月後に死亡した。そうなると、「抗凝固薬を再開するべきではなかった」と思うだろう。とはいえ、選ばなかったほうの結末は誰にもわからない。 「こういった難しさがあるのが、multi-morbidity。現行の疾患別診療ガイドラインですべてに対応することは困難だ」と竹屋氏は指摘した。multi-morbidityに対しては治療方針の決定が容易でない 高齢者の複雑性(=multi-morbidity)に対しては、疾患ごとのガイドラインに従って薬物介入を行えばあっという間にポリファーマシーになってしまう。あるいは、ある疾患に対する有益な治療が、別の疾患に対して有害な治療になってしまうなど、治療方針の決定が容易でない。 このような状況にどう対応すべきか明確な答えはなく、エビデンスがあるものについては従来の疾患別ガイドラインを用い、ない場合は『高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン1)』などを参考に適切なプロセスを実践していくしかないのが現状だ。 竹屋氏は、「高齢者の治療では、一つ一つの検査値やスコアなどの単純な足し算だけでなく、体重の変化、握力、歩行速度など患者の全体像(phenotype)を把握し、個別に介入していくことが有用であるかもしれない」と語った。亡くなった患者(症例)の本当の結末は… 今回のケースにおいて、2つの選択肢はいずれも、患者の死という一つの結末に帰結する。この症例は実際にあったことで、通夜には家族や担当した薬剤師、ケアマネジャーなどが集まり、故人の昔話に花を咲かせた。最期まで介護を続けた長女からは「先生のおかげで悔いはないです。精一杯看取りました」と言われたという。多職種で一生懸命考えた努力が報われた結果となった。 竹屋氏は、「真摯に取り組んだつもりでも、多少の悔いは残る。患者さんはどう思っていたのか? 本当のところはわからないが、今でも時々自問自答する。私たちの判断は正しかったのか? まずは、われわれ医療者の1人ひとりが、このような症例にどう向き合うかを考えていくことが大切かもしれない」と締めくくった。

2445.

第15回 いい油を使おう~身近にある油とその特徴~【実践型!食事指導スライド】

第15回 いい油を使おう~身近にある油とその特徴~医療者向けワンポイント解説脂質は三大栄養素のひとつであり、体内で重要な働きをしています。また、油脂の種類や酸化の状態によっても、カラダに対する影響が異なります。今回は、日常でよく使われる植物油の種類と特徴についてまとめました。油の働き脂質は、9kcal/gと、三大栄養素の中では一番効率的にカロリーを補給できる栄養素です。そのため、「太る」という印象を持っている方が多くいますが、脂質の働きはそれ以外にもあります。細胞膜やホルモンなどの材料になるほか、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収を助ける働きもあります。脂肪酸の種類によっては、コレステロールバランスの改善、血流改善、炎症予防などの働きもあります。また、胃への滞在時間が長く、消化に時間がかかるため、油脂を入れた食事のほうが、腹持ちが良く 、便通の改善効果に期待できます。油脂の取り過ぎは肥満を招く要因にもなりますが、いい油を適量摂取することは、カラダを健康に保つための重要なポイントになります。1)キャノーラ油原料はアブラナ(菜の花)の種子。ナタネ油とも呼ばれ、世界でも生産量が多い植物油。透明で無臭のため、いろいろな料理に活用ができ、日本でも一番使われている。人体に悪影響を及ぼすエルカ酸やグルコシノレートが多く含まれていたが、最近では、オレイン酸を多く含むハイオレイックタイプなどが増えている。2)ゴマ油原料はゴマの種子。オレイン酸とリノール酸をそれぞれ40%程度含む。強い抗酸化物質セサミンを含んでいる。焙煎したゴマを使い、精製しないのが茶色のゴマ油。焙煎せずに精製した透明のゴマ油もある。日本では、中華料理、天ぷらなどに用いることが多い。3)ヒマワリ油原料はヒマワリの種子。品種改良されたハイオレイックタイプ(オレイン酸75〜85%)などが流通している。サンフラワーオイルとも呼ばれ、似たような名称のサフラワーオイルと混同しがちだが、サフラワーはベニバナ油をさす。4)エキストラバージンオリーブオイルオリーブの実を絞っただけのものをエキストラバージンオリーブオイルという。精製したオリーブオイルにエキストラバージンオリーブオイルを加え、加工した油をピュアオイルという。オレイン酸を主体とし、酸化に強くコレステロール改善効果が期待できる。独特の風味や色、香りを持ち、ミネラルやポリフェノールを豊富に含む。和食、イタリアン、フランスパンなどと相性が良い。5)グレープシードオイル原料はぶどうの種子。オリーブオイルと混同されがちだが、オレイン酸は20%、リノール酸が70%の割合。ビタミンEがオリーブオイルの2倍以上含まれている。グリーンの天然色素には、ポリフェノールが豊富。クセがなく和食や卵料理にも相性が良い。6)ココナッツオイル原料はココナッツ。ほかの植物油と違い、消化の早い中鎖脂肪酸が含まれ、エネルギーに変換しやすいと話題になった。メインの脂肪酸は肉などに多く含まれる飽和脂肪酸である。また、1gあたりのカロリーは、ほかのものと同じ9kcal。独特の風味があり、カレー、コーヒーやお菓子などと相性が良い。7)エゴマ油原料はシソ科エゴマの種子。体内でDHAやEPAに変換されるオメガ3系脂肪酸を多く含む。血流改善や炎症予防などに効果が期待できる。酸化に弱く加熱調理不可。開封後は早めに使うことが必須。

2446.

双極性障害に対するアリピプラゾールの安全性評価

 双極性障害患者に対する治療法を選択するうえで、薬物療法の安全性および忍容性は重要な因子となる。イタリア・シエナ大学のAlessandro Cuomo氏らは、双極性障害に対するアリピプラゾール治療の全体的な忍容性および安全性プロファイルに焦点を当て、レビューを行った。Expert Opinion on Drug Safety誌オンライン版2019年5月9日号の報告。 レビューの対象は、躁病および混合エピソードの急性期治療および双極I型障害の維持療法に対するアリピプラゾール経口剤治療、双極性躁病に関連する興奮に対するアリピプラゾール即放性注射剤、双極I型障害の維持療法に対するアリピプラゾール持効性注射剤(AOM)とした。双極性障害に対するアリピプラゾールの安全性は、添付文書に従って検討を行った。PubMed検索より得られた英語の報告およびFDA、EMAのウェブサイトより入手可能な情報を用いて、アリピプラゾールの安全性および忍容性に焦点を当て、検討を行った。 主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾールは、他の抗精神病薬と比較し、体重増加、脂質異常症、糖尿病、高プロラクチン血症のリスクが低く、良好な忍容性プロファイルを有していた。・また、アリピプラゾールは、多くの第2世代抗精神病薬と同様に、第1世代抗精神病薬と比較し、錐体外路系副作用が少なく、心血管に対する安全性が良好であった。

2448.

新型タバコ時代!電子タバコと加熱式タバコは何が違う?(1)【新型タバコの基礎知識】第1回

第1回 新型タバコ時代!電子タバコと加熱式タバコは何が違う?(1)Key Points新型タバコとは、加熱式タバコと電子タバコのことを指す。加熱式タバコと電子タバコは別物だが、患者さんや一般の人は、加熱式タバコも電子タバコだと思っていることが多い。世界的には電子タバコはe-cigaretteであり、タバコではないものとして扱われる。英語論文を読む場合には要注意。タバコを吸うことは、肺がん、胃がん、大腸がんなどの多くのがん、心筋梗塞、脳卒中などの循環器疾患、COPDや糖尿病に加え、関節リウマチ、不妊や勃起不全など非常に多くの病態と関連することがわかっています。そしてタバコといえば、これまでずっとライターやマッチで火をつけて使う、紙巻タバコでした。本連載では、加熱式タバコと電子タバコを合わせて、新型タバコと呼びます。加熱式タバコは、海外ではheated tobacco productsと呼ばれ、日本語では加熱式タバコとなります。加熱式タバコという呼び名よりも、商品名であるアイコスやプルーム・テック、グローと言ったほうが伝わりやすいかもしれません。2014年にタバコ会社フィリップモリス・インターナショナルは世界に先駆けて、日本でアイコスの販売を開始しました。日本たばこ産業(JT)およびブリティッシュ・アメリカン・タバコは2016年からプルーム・テックおよびグローをそれぞれ販売開始しました。電子タバコは英語ではelectronic cigarettes(e-cigarettes)またはvapor(ベイパー)と呼ばれます。日本では、e-cigarettesに対する訳語として電子タバコという“タバコ”という表現を含む言葉が一般に使用されており、文字通り「電子タバコ」はタバコの一種だと考えている日本人が多いようです。私も日本の多くの人々と同様に、電子タバコはタバコの一種として扱えばよいのではないかと考えていますが、世界的にはその解釈は簡単には受け入れられないものと言えるでしょう(図)。画像を拡大する電子タバコの英語の名称(e-cigarettes)には、タバコ(tobacco)という文字は含まれていません。世界的には、英国などでは紙巻タバコに替えて電子タバコを使用することをハームリダクション*になるとして推奨している現状があるのです。いわゆるタバコは悪いものであるが、電子タバコ(e-cigarettes)は悪いものではなく、電子タバコ(e-cigarettes)はいわゆるタバコ製品ではない、とタバコ研究業界の権威者が主張しているのです。そのため、たとえば論文で電子タバコ(e-cigarettes)をタバコ製品として記述すると、「電子タバコはタバコではない」という指摘を受けることとなります。本連載では、加熱式タバコと電子タバコを合わせて新型タバコと呼びますが、世界的な英語論文ではこのようには定義されていません。新型タバコに関する英語論文や海外からの情報を読む場合には、ご注意ください。第2回では、「加熱式タバコと電子タバコの構造」についてお伝えします。*ハームリダクション:大きな害のある行動をそれよりも小さな害の行動に置き換えることで、害を完全にはなくせないが、少なくさせるという考え方。タバコ問題の場合、どうしてもタバコを止められない人に対して、代わりにニコチン入り電子タバコを吸ってもらえば、有害物質への曝露を減らせるのではないかという戦略。電子タバコがハームリダクションになるのかどうか、世界的に、専門家の間でも意見が割れている。

2449.

脳内出血生存例への抗血小板療法は安全か/Lancet

 脳内出血の生存例は、出血性および閉塞性の血管疾患イベントのリスクが高いが、これらの患者で抗血小板薬が安全に使用可能かは明らかでないという。英国・エジンバラ大学のRustam Al-Shahi Salman氏らRESTART試験の研究グループは、抗血栓療法中に脳内出血を発症した患者への抗血小板療法は、これを行わない場合と比較して脳内出血再発率が低い傾向にあり、安全性は保持されることを示した。研究の詳細はLancet誌オンライン版2019年5月22日号に掲載された。再発リスクが閉塞性血管イベント抑制効果を上回るかを検証 研究グループは、脳内出血の再発予防における抗血小板薬の有効性を評価し、再発のリスクが閉塞性血管イベントの抑制効果を上回るかを検証する目的で、非盲検エンドポイント盲検化無作為化試験を行った(英国心臓財団の助成による)。 対象は、抗血栓療法中に脳内出血を発症したため治療を中止し、その後、発症から24時間以上生存し、閉塞性血管疾患の予防のために抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の投与を受けている年齢18歳以上の患者であった。 被験者は、抗血小板療法を行う群と行わない群に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは、最長5年の症候性脳内出血の再発とした。再発率:4% vs.9%、閉塞性血管イベント発生率:15% vs.14% 2013年5月~2018年5月までに、脳内出血生存例537例(発症からの期間中央値76日[IQR:29~146])が登録された。抗血小板療法群に268例、非血小板療法群には269例(1例が脱落)が割り付けられた。追跡期間中央値は2.5年(IQR:1.0~3.0、追跡完遂率:99.3%)だった。 ベースラインの全体の平均年齢は76歳、約3分の2が男性で、92%が白人であった。62%が脳葉出血で、88%に1ヵ所以上の閉塞性血管疾患(ほとんどが虚血性心疾患、脳梗塞、一過性脳虚血発作)の既往があり、割り付け時に約4分の3が高血圧、4分の1が糖尿病や心房細動を有していた。 脳内出血再発率は、抗血小板療法群が4%(12/268例)と、非血小板療法群の9%(23/268例)に比べ低い傾向がみられたものの、有意な差はなかった(補正後ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.25~1.03、p=0.060)。 主な出血イベント(再発性症候性脳内出血[主要アウトカム]、外傷性頭蓋内出血など)の発生率は、抗血小板療法群が7%(18例)、非血小板療法群は9%(25例)であり、有意差は認めなかった(補正後HR:0.71、95%CI:0.39~1.30、p=0.27)。また、主な閉塞性血管イベント(脳梗塞、心筋梗塞、腸間膜虚血、末梢動脈閉塞、深部静脈血栓症など)の発生率は、それぞれ15%(39例)および14%(38例)と、こちらも両群に有意差はみられなかった(1.02、0.65~1.60、p=0.92)。 著者は、「脳内出血例における閉塞性血管疾患の予防ための抗血栓療法では、抗血小板療法による脳内出血の再発リスクの増加はきわめてわずかであり、おそらく2次予防において確立された抗血小板薬の有益性を超えるものではない」とまとめ、「現在、別の無作為化試験が進行中であり、本試験と合わせたメタ解析や、適切な検出力を持つ信頼性の高い無作為化試験が求められる」としている。

2450.

学会員のゲノム解析から成果を発信

日本人のアンチエイジングのために学会員の遺伝子解析に乗り出した日本抗加齢医学会。本学会の理事長である堀江 重郎氏(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)に研究目的やアンチエイジングの展望について聞いた。遺伝子研究はアンチエイジングの第一歩老化のメカニズム解明は、この10年で飛躍的な進化を遂げています。われわれの課題は、その成果を老化予防に活用できる医療へ変換していくことです。性格や骨格、顔貌などは、ゲノムによって支配されています。テクノロジーによってゲノムに介入できれば、根本的なアンチエイジングが達成できるはずですが、そのためにはゲノム医療を「使える医療へ発展させていく」ことが求められます。アンチエイジングにおけるゲノム医療の発展を目指すため、日本抗加齢医学会はジェネシスヘルスケア株式会社と提携し、「アンチエイジング全ゲノム解析」臨床研究プロジェクトを立ち上げました。20年前、1人の全ゲノムをシークエンスするためには、200億円もの費用と10年の歳月が必要でした。それが今では10万円、約1日で解析が可能なところまできました。半導体開発の高速化と低価格化が寄与しています。この研究では、加齢度の生理データと病歴・食事・運動習慣などの加齢調査票を組み合わせて解析することで、アンチエイジングと関連する遺伝子群を探索します。また、全ゲノム解析に加えて、エピゲノム(遺伝子修飾)による日本人の遺伝子年齢時計も作成していきます。このプロジェクトのユニークな点は、学会員自らの全ゲノムを解析することです。本学会員はさまざまな医療従事者が約9,000人加入していますが、この研究プロジェクトには主に医師が参加する予定です。抗加齢に関する指標を推定した後に、自身の遺伝子情報が含まれたデータを解析します。およそ1,000人のゲノム解析を行うことで、「ハツラツ」とした健康長寿を国民が享受し、社会貢献できる人口の増大と医療費抑制に貢献することを目標としています。抗加齢医学にテストステロンは不可欠アンチエイジングに関係するホルモンの1つにテストステロンがあり、もともとは獲物を取る意欲を高めるために必要なホルモンでした。現代で言えば、社会で活躍し健康に楽しく暮らすために必要な物質ですが、テストステロンとその受容体は加齢に伴い減少していきます。生活習慣病や加齢による筋力低下を防ぐために運動療法が推奨されますが、テストステロンが減少している状態で運動を行っても筋肉はつかず、むしろ転倒してけがの原因になってしまいます。テストステロンを補充してから運動してこそ筋肉がつき、運動の価値も高まるわけです。現在、テストステロンの低下は病気と判断されず、テストステロン補充療法は保険上認められていません。しかし、このような背景をしっかり踏まえた上でテストステロン補充の保険収載が認められるべきだと考えています。近年、遺伝子の老化度を示すものとして、テロメアの長さが注目されています。テロメアは染色体のなかでタンパク質をコードしていない部分で、細胞分裂により長さが変化します。テロメアは生まれたときから短い人もいれば生活環境や病気などで長短が変動する場合もあり、寿命に影響を及ぼします。テロメアは、テロメアーゼという逆転写酵素の働きによって伸長することが明らかになっており、驚くことに、テストステロンにはテロメアーゼを活性化させる効果があります。テロメアの長さを遺伝子解析と同時に調べて、テストステロンを含む最も効果的な延伸方法を考えるのが、遺伝子のアンチエイジングではないでしょうか。「人間とはなんだ」という根底にある考え方に基づきアンチエイジングを理解し、実践していくことが本学会の役割であると考えています。今回の学術総会では、理事長提言の場で学会員の遺伝子研究についてお話する予定です。ぜひ、学会員以外の方もお越しください。メッセージ(動画)

2451.

食塩摂取と肥満の関連~日本と中国・英国・米国

 食塩摂取が過体重や肥満の独立した危険因子である可能性が、いくつかの研究で報告されている。しかし以前の研究では、1日食塩摂取量を推定するために24時間蓄尿ではなく単回尿や食事思い出し法を用いていること、単一国や単施設のみの集団でのサンプルといった限界があった。今回、中国・西安交通大学のLong Zhou氏らは、International Study of Macro-/Micro-nutrients and Blood Pressure(INTERMAP研究)のデータから、日本、中国、英国、米国における、2回の24時間蓄尿で推定した食塩摂取量とBMI(kg/m2)および過体重/肥満の有病率の関係を調査した。その結果、日本、中国、英国、米国のすべてで、食塩摂取量がBMIおよび過体重/肥満の有病率と関連することが示された。The American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2019年5月21日号に掲載。 本研究は、日本(1,145人)、中国(839人)、英国(501人)、米国(2,195人)における40~59歳の男女4,680人の横断研究のデータを用いた。食塩摂取量とBMIの関連における回帰係数(β)の計算は一般線形モデルを使用した。食塩摂取量が1日当たり1g多い場合の過体重/肥満のオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて調べた。 主な結果は以下のとおり。・エネルギー摂取量を含む潜在的な交絡因子を調整した場合、食塩摂取量が1日当たり1g多いとBMIは日本で0.28、中国で0.10、英国で0.42、米国で0.52高かった。・食塩摂取量が1日当たり1g多いと、過体重/肥満のオッズは日本で21%、中国で4%、英国で29%、米国で24%高く、すべてp<0.05であった。

2452.

第10回 高齢者糖尿病の薬物療法(メトホルミン、SGLT2阻害薬)【高齢者糖尿病診療のコツ】

第10回 高齢者糖尿病の薬物療法(メトホルミン、SGLT2阻害薬)Q1 腎機能低下を考慮した薬剤選択・切り替え(とくにメトホルミンの使用法)について教えてくださいeGFR 30mL/分/1.73m2未満の腎機能低下例では、メトホルミン、SU薬、SGLT2阻害薬は使用しないようにします。腎機能の指標としては血清クレアチニン値を用いたeGFRcreがよく用いられますが、筋肉量の影響を受けやすく、やせた高齢者では過大評価されてしまうことに注意が必要です。このため、われわれは筋肉量の影響を受けにくいシスタチンC (cys)を用いたeGFRcysにより評価するようにしています。メトホルミンの重大な副作用として乳酸アシドーシスが知られており、eGFR 30mL/分/1.73m2未満でその頻度が増えることが報告されています1)。したがって、本邦を含めた各国のガイドラインでは、eGFR 30未満でメトホルミンは禁忌となっています。しかし30以上であれば、高齢者でも定期的に腎機能を正確に評価しながら投与することで、安全に使用できると考えています。各腎機能別のメトホルミンの具体的な使用量は、eGFR 60以上であれば常用量を投与可能、eGFR 45~60では500mgより開始・漸増し最大1,000mg/日、eGFR 30~45では最大500mg/日とし、eGFR 30未満では投与禁忌としています。なお、重篤な肝機能障害の患者への使用は避け、手術前後やヨード造影剤検査前後の使用も中止するようにします。心不全に関しては、メトホルミン使用の患者では死亡のリスクが減少することが報告されており、FDAでは禁忌ではなくなっています。ただし、本邦ではまだ禁忌となっているので注意する必要があります。また腎機能は定期的にモニターし、eGFRが低下するような場合には、上記の原則に従って減量する必要があります。また経口摂取不良、嘔気嘔吐など脱水のリスクがある場合(シックデイ時)には投与中止するようにあらかじめ指導しておくことが重要です2)。SGLT2阻害薬については、次のQ2で解説します。Q2 高齢者でのSGLT2阻害薬の適否の考え方は?近年、心血管リスクの高い糖尿病患者に対する、SGLT2阻害薬の心血管イベント抑制作用や腎保護作用が相次いで報告されています。SGLT2阻害薬は腎機能が高度に低下しておらず(eGFR≧30 mL/分/1.73m2が目安)、肥満・インスリン抵抗性が疑われる患者には適しており、これらの患者には、メトホルミンと同様に治療早期から使用しているケースも多いです。ただし、下記に挙げるさまざまな注意点があり、通常は75歳まで、最高でも80歳前後までの患者への投与を原則とし、80歳以上の患者にはとくに慎重に投与しています。75歳未満の患者では下記に留意し、対象患者を定めています:1.脱水や脳梗塞のリスクがあるため、認知機能やADLが保たれており飲水が自主的に十分できる患者かどうか(利尿薬投与中の患者ではとくに注意が必要)2.性器・尿路感染のリスクがあるため、これらの明らかな既往がないかどうか3.明らかなエビデンスはないが、筋肉量減少の懸念があるため、サルコペニアが否定的で定期的な運動を行えるかどうかそのほか、メトホルミンと同様に、シックデイ時には投与中止するようにあらかじめ指導しておくことが非常に重要です3)。Q3 認知症で服薬アドヒアランスが低下、投薬の工夫があれば教えてください認知症患者の服薬管理においては、認知機能の評価とともに、社会サポートがあるかどうかの確認が重要です。家族のサポートが得られるか、介護保険の申請はしてあるか、要支援・要介護認定を受けているかを確認し、服薬管理のために利用できるサービスを検討します。実際の投薬の工夫としては、以下に示すような方法があります。1.服薬回数を減らし、タイミングをそろえるたとえば食前内服のグリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)にあわせて、他の薬剤も食直前にまとめる方法がありますが、そもそも1日3回投与薬の管理が難しい場合は、1日1回にそろえてしまうことも考えます。最近、DPP-4阻害薬で週1回投与薬が登場しており、単独で投与する患者にはとくに有用ですが、他疾患の薬剤も併用している場合にはむしろ服薬忘れの原因となることもあるので、注意が必要です。なお、最近ではGLP-1受容体作動薬の週1回製剤も利用できますが、これはDPP-4阻害薬よりも血糖降下作用が強く、さらに訪問や施設看護師による注射が可能なため、われわれは認知症患者に積極的に使用しています。2.配合薬を利用するDPP-4阻害薬とメトホルミンなど、複数の成分をまとめた薬剤が次々登場しています。配合薬は、服薬錠数を減らし、服用間違いや負担感を減らすと考えられますが、たとえば経口摂取不能時や脱水時などシックデイの状態のときにSU薬やメトホルミンなど特定の薬剤だけを減量・中止したいときに扱いづらいという欠点があり、リスクの高い患者にはあえて使用しないこともあります。3.一包化する服薬タイミングごとの一包化も服薬忘れの軽減に有用ですが、配合薬と同様、シックデイ時にSU薬などを減量・中止することが難しくなるため、リスクの高い患者には当該薬剤だけを別包にするケースもあります。2、3ともに、シックデイ時にどの薬剤を減量・中止するのか、医療機関に連絡させ受診させるのか、という点について、介護者を含めて事前に話し合い、伝えておくことが重要です。4.配薬、服薬確認の方法を工夫するカレンダーや服薬ボックスにセットする方法が一般的であり、家族のほか、訪問看護師や訪問薬剤師にセットを依頼することもあります。しかしセットしても患者が飲むことを忘れてしまっては意味がありません。内服タイミングに連日家族に電話をしてもらい服薬を促す方法もありますが、それでも難しい場合、たとえば連日デイサービスに行く方であれば、昼1回に服薬をそろえて、平日は施設看護師に確認してもらい、休日のみ家族にきてもらって投薬するという方法も考えられます。 1)Lazarus B et al. JAMA Intern Med. 2018; 178:903-910.2)日本糖尿病学会.メトホルミンの適正使用に関する Recommendation(2016年改訂)3)日本糖尿病学会.SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation(2016年改訂)

2453.

第20回 腕試し! 心電図クイズで“おさらい”だ~続編~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第20回:腕試し! 心電図クイズで“おさらい”だ~続編~ゴールデンウイークも終わり、時代は「令和」となりましたが、皆さん“五月病”になっていませんか? さて、前々回の心電図クイズが予想以上に好評で、休み中にもかかわらず、2019年最大の閲覧数をいただきました。実は、当初Dr.ヒロはもう2症例を用意しており、“お蔵入り”にするのも忍びなく、今回“おさらいクイズ~続編~”としてお届けすることにしました。では、さっそくチャレンジしてみましょう!症例提示175歳、女性。僧帽弁・三尖弁形成術、慢性AFに対するメイズ手術の既往あり。糖尿病、高血圧症にて内服加療中。数日前にインフルエンザAと診断。その後、食事が取れず、夜間の呼吸苦も出現した。徐々に下腿・顔面の浮腫が増悪、息切れでトイレ歩行も不可能となり救急受診し、感染を契機とした心不全増悪にて緊急入院となった。来院時36.3℃、血圧112/78mmHg、脈拍107/分・不整、酸素飽和度92%。入院時の心電図を示す(図1)。(図1)緊急入院時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図(図1)の自動診断は「上室三段脈」となっている。調律に関して正しいものはどれか。1)正常洞調律2)心房期外収縮3)洞頻脈4)心房粗細動5)異所性心房調律解答はこちら4)解説はこちら「三段脈」(trigeminy)はまだ取り上げていませんが、「3心拍で1セット」の様式が周期的にくり返されるもので、典型的には「洞収縮-洞収縮-期外収縮」のように三拍ごとに期外収縮が出現するパターンです。当然ながら、この場合の基本調律はあくまでも「洞調律」です。この心電図も、油断すると肢誘導などは「洞収縮-洞収縮-心房期外収縮」と、「上室三段脈」のように見えます。…でも、これは間違い。自動診断は“悪魔のささやき”です(笑)。いつも“洞調律ありき”で見てしまうと、このようなミスをしてしまいます。胸部誘導では、このパターンは崩れていますし、第一、これは「洞調律」じゃないのです。R-R間隔も不整ですし、なんといっても“イチニエフの法則”が成り立っていません(第2回)。「非洞調律」を疑った時に注目すべきは…、そうV1誘導(第4回)。今回のV1誘導をみると…あるわあるわ、P波の乱れ打ち(図2)。(図2)V1誘導を抜粋画像を拡大する橙色の枠内だけでもコンスタントかつレギュラーな高頻度P波が確認できますし、QRS波に重なる「?」の部分にも、P波があると読みたいところです(ほかと若干QRS波形が異なる)。”2nd best”だった下壁誘導を見ても、II誘導ではわかりにくいですが、III、aVF誘導だと、それなりにノコギリ状の波(鋸歯状波)が見えなくもありません。この方のように開心術歴があるような場合、非典型的な「心房粗動」と呼ぶのが好まれますし、“細動混じり”ととらえて“粗細動”という表現も悪くありません。よって、「心房粗細動」(atrial flutter-fibrillation)を正解とします。【参考レクチャー】第2回『洞調律を知る』第4回『エイエフ(AF)診断できます?』【問題2】心電図(図1)の心拍数について、具体的な数値で述べよ。解答はこちら心拍数:約70/分(検脈法:肢誘導+胸部誘導[10秒])解説はこちら数値自体は“検脈法”で一目瞭然ですね(第3回)。R-R間隔が不整の場合には、左端から右端まで、肢誘導+胸部誘導の10秒間で検脈法をしたほうが正確です。「細動」と捉えれば「中等度の心室応答(ventricular response)を伴う」となりますし、「粗動」なら「房室伝導比2~4:1」という表現になります。“粗細動”を生かすのなら、『心拍数は約70/分と中等度の心室応答を伴う心房粗細動です』と表現できれば、ボク的には“満点”です。【参考レクチャー】第7回『心房細動の“心拍数”どう議論する?』症例提示284歳、男性。4日前に39.5℃の発熱で受診、肺炎と診断され入院となった。本日夜間の検温時に頻脈、酸素飽和度の低下(82%)があり、胸部圧迫感と呼吸苦も訴えたため、当直医にコールがなされた。胸部CT検査では、浸潤影悪化および心拡大・胸水貯留を認めた。以下に、急変コール時に記録された心電図(図3)および入院時の心電図(図4)を示す。(図3)急変コール時の心電図画像を拡大する(図4)入院時の心電図画像を拡大する【問題3】入院時心電図(図4)の心拍数と電気軸を求めよ。解答はこちら心拍数:84/分(検脈法:肢誘導[5秒]または肢誘導+胸部誘導[10秒])QRS電気軸:-70°(トントン法Neoによる)解説はこちらこれも簡単ですね。心拍数は“検脈法”(第3回)、QRS電気軸は“トントン法”(第9回、第11回)で、求めることができます。心拍数はR-R間隔が整なら左右どちらか5秒間の情報で十分です(もちろん10秒間数えてもOKです)。QRS電気軸は、aVR誘導を“トントン・ポイント”と考えるなら「-60°」(通常の教科書なら、これで正解でしょう)ですが、やや上向き波が優勢(-aVR誘導なら下向き波)に見えませんか? 肢誘導の円座標を思い浮かべれば、QRS波の向きの上下が転換するのは、Iと-aVRの間で、強いて言えば“-aVR寄り”(+20°)と考えるのがミソでしたね(“トントン法Neo”)。結果、求める軸は「-70°」と、見事に自動計測値とも一致します。【参考レクチャー】第3回『心拍数を求めよう』第9回『QRS電気軸で遊ぼう~トントン法の魅力~』第11回『QRS電気軸(完結編)~進化したトントン法は無敵!~』【問題4】入院時心電図(図4)の所見として正しくないものを2つ選べ。1)左軸偏位2)完全右脚ブロック3)第1度房室ブロック4)異常Q波5)右房拡大解答はこちら3)、5)解説はこちら“急変コール時”ではなく、“入院時”の心電図の読みを尋ねています(波形が違いますよね)。1)○:QRS波の向きが、I誘導:上向き、aVF(II)誘導:下向きなのでOKです。強い左軸偏位を伴っており、「左脚前枝ブロック」の合併と診断できます。2)○:QRS幅がワイド(0.12秒[120ms]以上)かつV1誘導(「RR’型」)、V6誘導(スラーを伴う「RS型」)が典型的な波形ですから「完全右脚ブロック」の診断に相違ありません。3)×:V1誘導などPR(Q)間隔が若干長めに見える誘導もありますが、明らかに“延長”と呼ぶレベル(目安:0.24秒[240ms])には届きません。4)○:V1~V3誘導は原則として下向き(陰性)波から始まってはいけません。V2、V3誘導の「q波」は幅が狭く、深さが浅くても異常Q波と考えられたらステキです。ほかにaVL誘導の幅広い「Q波」も指摘したいところです。もちろん「陳旧性心筋梗塞」を疑っても良いですが、ワンランク上の読み方をすれば、他所見との組み合わせで、V1ないしV2誘導で見られる「qR型」は右心系(多くは「右室」)負荷を示す所見と考えるべきかもしれません。鑑別は…そう、心エコーでね!5)×:下壁誘導(II、III、aVF)のP波高はいずれも普通で「右房拡大」ではありません。むしろ、II誘導で幅広の“2コブラクダ”的な2つのP波は「左房拡大」を疑わせますが、V1誘導のP波で後半の波が“深掘れ”でなく、診断基準には該当しません。【問題5】急変時心電図(図3)の解釈・対応について、正しくないものを2つ選べ。1)「S1S2S3パターン」であり、肺疾患や高度右室負荷を疑う2)不整脈などの心疾患の病歴の有無、投薬内容を確認する3)心電図の再検を指示する4)右胸心を疑って胸部X線画像をチェックする5)換気補助を行いつつ、ベラパミル点滴を指示する解答はこちら1)、4)解説はこちら急変コール時の心電図(図3)のみを見て「頻脈性心房細動」とだけ診断して動こうとする人には“真実”が見えていません。最も目立つ所見(R-R間隔の不整)だけ診断して、ほかを見落とす…そんな状態からの“脱却”サポートがDr.ヒロの真骨頂です。緊急時のように焦っている時こそ“基本”に忠実であるべき。常に全体を眺めるクセをつけましょう。調律もそうですが、4日前の“入院時”とQRS波形が全然違いますよね。AFのためP波を欠き、T波も見えない点がやや難しいですが、I誘導のネガティブQRS波にはピンと来て欲しいですね~。しかも“陽性aVR”、これは普通、まず出会わない所見でしたよね…(第5回、第6回)。そして、“おかしいと思ったら過去と比較せよ”。どんなに“しつこい”と言われてもボクは言い続けますよ(笑)。そういう意味では、過去にAFがあったか無かったか、病歴や薬剤、そのほかの治療歴も大事です(選択肢2)。冷静になって、その目で2つの心電図を比べたら、(1)I誘導がサカサマ、(2)II⇔III(入れ換わり)、(3)aVR⇔aVL(4)aVFは(ほぼ)不変、という条件を満たすではないですか!この4つの条件を覚えていますか? こんな時、最も高頻度なのは「電極の左右つけ間違い」です。肢誘導の上肢(右手・左手)のね(第5回)。これに悩んだら、もう一度自分の目で心電図を再検すべきです(選択肢3)。この症例患者は、不慣れなのか慌てたのか、ナースが電極の左右を誤っていました。鑑別すべき「右胸心」については、胸部誘導でQRS波形の“振幅”がV1からV6誘導に向かうにつれて漸減する典型パターンとは異なりますし、入院時心電図(図4)が強烈な否定材料です(選択肢4)。また、選択肢1に関して、「肺塞栓」などの右心系負荷などは否定しがたいところですが、やはりこの心電図を見てしまうと積極的には考えにくいでしょう。右室負荷を疑う「S1S2S3パターン」も正しく記録してこその所見です。普段から何でもむやみに人を疑うべきではありませんが、患者さんのためと思えば、常に厳しい眼力でいることは診断・治療を考える上で大切だと思います。“デキドク”(デキるDr.)なら、速やかに正しい心電図を記録し直して、同時に頻脈性AF、そして低酸素状態への対処を考えるべきです(選択肢5)。その際、もちろん心機能のチェックも必要ですね。【参考レクチャー】第5回『心電図、正しくとれてる?(前編)~鏡の中のマボロシ~』第6回『心電図、正しくとれてる?(後編)~自動診断の「側壁梗塞」にご用心!~』さて、“おさらい”クイズ続編の2症例・計5問、いかがだったでしょうか?おおむね、これまでの“ドキドキ心電図マスター”内で取り上げた内容でしたが、臨床に即した形式で作問したつもりです。高得点だった人は、だいぶ心電図に慣れ親しんできたのではないでしょうか? 今後、このような復習問題をときどき取り上げるつもりです。次回は、通常形式で「期外収縮」を再びピックアップしたいと思います。乞うご期待!【古都のこと~三室戸寺~】宇治市にある西国第十番札所、三室戸寺(山号:明星山)は、1200年以上前(宝亀年間)に光仁天皇の勅願で建立されました。“花の寺”とも称され、春~夏には、ぜひとも訪れたいスポットの一つです。4~5月はツツジやシャクナゲ、そして6月にはアジサイが庭園で満開となり、7~8月は本堂前にハスが花を咲かせます。この時期、京都市内では蹴上浄水場のツヅジが有名ですが、今回、ボクは元号が令和となって数日後にこちらを訪れました。山門を入ってすぐ、有名所に勝るとも劣らぬツツジ園が甘い香りを放っていました。花々に囲まれ茶屋で昼食をとり、思わず昼寝したくなるような最高の晴天のもと、お参りを済ませたのでした。

2454.

早期乳がん患者の心血管疾患リスク、運動で低下/JAMA Oncol

 がんサバイバーの心血管疾患による死亡は重大な懸念となっている。米国・南カリフォルニア大学のKyuwan Lee氏らによる前向き無作為化臨床試験の結果、16週間の監視型有酸素運動およびレジスタンス運動の介入により、過体重または肥満の早期乳がん患者におけるFraminghamリスクスコア(FRS)で予測された10年間の心血管疾患発症リスクが、低下することが示された。FRSは、10年間の心血管疾患発症リスクを予測する有効な方法として知られる。早期乳がんで過体重の患者では、同年齢の健康な女性と比較してFRSが高いことが報告されているが、これまでこの患者集団において運動介入によりFRSが低下するかどうかはわかっていなかった。JAMA Oncology誌オンライン版2019年3月28日号掲載の報告。 研究グループは、過体重または肥満の早期乳がん患者のFRSに及ぼす、有酸素運動およびレジスタンス運動介入の影響を調べるため、単一施設無作為化臨床試験を実施した。 対象は、登録前6ヵ月以内にがん治療が終了した、過体重または肥満(BMI≧25.0または体脂肪≧30%)で運動不足のStageI~IIIの乳がん患者100例。運動群と通常ケア(対照)群に無作為に割り付け、運動群では監視型有酸素運動を週3回、16週間実施した。 主要評価項目はFRSで、6項目(年齢、収縮期血圧、HDLコレステロール値、LDLコレステロール値、糖尿病の有無、喫煙の有無)から算出し、混合モデル反復測定解析を用い、両群における平均変化量の差を評価した(intention-to-treat解析)。 主な結果は以下のとおり。・100例(運動群50例、対照群50例)の患者背景は、55例(55%)がヒスパニック系白人で、平均年齢が53.5歳であった。・16週後のFRSスコア(平均±SD)は、運動群で2.0±1.5、対照群で13.0±3.0であった。・16週後のFRSスコアは、対照群と比較し運動群で有意に減少した(平均群間差:-9.5、95%CI:-13.0~-6.0)。これはFRSで予測される10年間の心血管疾患発症リスクの11%低下(95%CI:-15.0~-5.0)に相当した。

2456.

老いないカギは「あいだ」にある

第19回日本抗加齢医学会総会の大会長である伊藤 裕氏(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 教授)が、今提唱しているのが「幸福寿命」。本大会でも、その考え方に沿って数々の新機軸を打ち出す。その内容とは?抗加齢医学を捉え直す時期に来ています。これまでアンチエイジングというと、どうしても見た目を若く見せるために、シワをなくすとか、シミをとる、といった小手先の医療をイメージしがちだったと思います。もちろんそれも抗加齢医学の一部です。しかし、人生100年時代と言われるようになり、もっと本質的な抗加齢というものを学会として提唱していかなくはならないタイミングだと感じています。6月に横浜で開催される日本抗加齢医学会総会で大会長を務めさせていただきますが、テーマを「異次元のアンチエイジング」としたのは、そういう意図です。これまでのアンチエイジングの活動を拡充、拡大するのではなく、まったく違う次元に行く。ある意味、医学の一分野という枠を越えて、心身だけでなく、環境や社会全体をアンチエイジングという観点から捉え直したい。そう考えています。“幸せ感”を持ち続けることが究極のアンチエイジング昨年「幸福寿命」という本を出版させていただきました。「幸福寿命」とは何なのか? たとえば、100歳まで生きた人に「幸せですか」と尋ねると、皆さん「幸せです」とおっしゃいます。でも、それは100歳まで生きられたから幸せ、という結果ではなく、ずっと幸せだったから、100歳まで生きられた、という過程の話なのだと思います。つまり、健康で長生きするには、常に“幸せ感”を持ち続けていることが重要であって、それこそが究極のアンチエイジングだと私は考えています。では、どうしたら、幸せ感を持ち続けられるのか?ということなりますが、そのカギは「あいだ」にあります。自分一人で幸せを感じることはなかなかできません。ほかの人との間。夫婦、家族、職場、地域、いろいろな場面での人と人の「あいだ」こそが、幸せ感を醸成するのです。もう少し医学的な話をしますと、最近、腸内細菌叢が抗加齢に関係しているということが科学的にわかっていますが、これも「あいだ」なんですね。細菌はわれわれの腸の中にすんでいるわけで、彼らとわれわれは共生関係にある。いわばペットを飼っているようなものです。ペットを飼っている人が、ペットをかわいがっているとき、飼い主は幸せを感じているのではないでしょうか。ストレスが和らいで、柔らかな、いい気分になっていると思いませんか?そういうときは、実際、“幸せホルモン”と呼ばれるオキシトシンが脳から分泌されているわけです。腸内細菌をペットのようにかわいがる腸内細菌も同じです。腸内細菌をかわいがってあげればいいんです。ペットにするのと同じように、腸内細菌が喜ぶようなことをする。具体的に言えば、彼らが好きな食物繊維をたくさん取る、いつも同じものでは飽きるでしょうから、バラエティーに富んだ食材を食べる、バランスよく規則正しく食事を取る、といったことです。すると、彼らはホルモンやサイトカインを介してわれわれが幸せを感じるように働きかけてくれるのです。幸せを感じるメカニズムも、そういうふうに物質レベルで科学的に説明できるようになってきています。今年の学会では、特別講演として、マーティン・J・ブレイザー先生を招き、腸内細菌とアンチエイジングについて話していただきます。微生物学の世界的権威であり、彼の話が日本で生で聞けるというのは本当にすごいことです。私自身、とても楽しみにしています。ほかの目玉としては、Presidential Symposium で「スマートシティ」「ロボット」「AIとビッグデータ」「美しさ」という4つのテーマを設定しました。ロボットやAIで高齢者をどう介護するか、といった話ではなく、これからロボットやAIがわれわれの生活にどんどん入ってきたとき、人間の健康、幸福感、エイジングがどう変化していくのか?そういうもっと大きな枠組みでディスカッションしていただくようにシンポジストの先生方にはお願いしています。それではもう「医学会」ではないじゃないか、と言われそうですが、最初にお話ししたように、アンチエイジングは今そのくらい大きな動きがある、エキサイティングな分野なのです。加齢というのはそもそも誰にとっても身近な問題でもありますから、医療に関わるすべての人に興味を持ってもらえればと思っています。メッセージ(動画)

2457.

「ソーダ税」導入、販売量への効果は?/JAMA

 2017年1月、ペンシルベニア州フィラデルフィア市は、砂糖あるいは人工甘味料入り飲料の消費を減らすために、1オンス(約30mL)当たり1.5セントの加糖飲料税(いわゆるソーダ税)を米国で2番目に導入した。米国・ペンシルベニア大学医学大学院のChristina A. Roberto氏らは、課税導入後の飲料価格と販売量について、フィラデルフィアと非課税のメリーランド州ボルティモア市を比較し、課税商品の購入を避けるための越境ショッピングの可能性を評価した。解析の結果、フィラデルフィアでは加糖飲料の価格が有意に上昇し、課税飲料の販売量は半減したことが認められたが、その一部は、近隣地域での販売量増加によって相殺されることが明らかになったという。JAMA誌2019年5月14日号掲載の報告。課税導入のフィラデルフィアと非導入地域で、価格、販売量を比較・解析 研究グループは、差分の差分法(difference-in-differences)を用い、2016年1月1日(課税前)~2017年12月31日(課税後)の期間の販売データを解析し変化を比較した。店の形態、飲料の甘味料の種類、飲料の大きさごとの違いを検証。小売業者の販売データには、フィラデルフィア、ボルティモア(非課税の対照都市)、フィラデルフィア近隣地域(フィラデルフィア市境界から約3マイル以内のバックス郡、デラウェア郡、モンゴメリー郡)にある大規模チェーン店の販売データも組み込まれた。これらのデータは、フィラデルフィアにおける課税飲料の販売量(オンス)の約25%に相当した。 主要評価項目は、課税飲料の価格と販売量の変化であった。近隣地域の増加分を差し引くと課税都市フィラデルフィアの販売量低下は38% 計291店(スーパーマーケット54店、大型小売店20店、薬局217店)のデータが解析に組み込まれた。 フィラデルフィアでは、ボルティモアと比較して加糖飲料の価格が有意に上昇し、課税導入後の課税飲料の販売量が有意に低下した。 すなわち、フィラデルフィアとボルティモアにおいて、加糖飲料1オンス当たりの平均価格は、課税導入後にすべての形態の店で上昇した。フィラデルフィアでは、スーパーで5.43セント(2016年)から6.24セント(2017年)に、大型店で同5.28→6.24セントに、薬局で同6.60→8.28セントに上昇した。ボルティモアではそれぞれ、5.33→5.50/6.34→6.52/6.76→6.93セントに上昇した。両都市間の1オンス当たりの平均価格上昇分の差は、スーパー0.65セント(95%信頼区間[CI]:0.60~0.69)、大型店0.87(0.72~1.02)、薬局1.56(1.50~1.62)で有意差があった(すべてのp<0.001)。 また、両都市とも4週間当たりの加糖飲料の販売量には、すべての形態の店での減少が認められた。フィラデルフィアでは、スーパーで485万→199万オンスに、大型店で298万→172万オンスに、薬局で16万→13万オンスに減少した。ボルティモアではそれぞれ、283万→281万/105万→100万/14万→13万オンスに減少した。両都市間の減少分の差は、スーパーが-285万オンス(95%CI:-410万~-160万、p<0.001)で、ボルティモアと比較しフィラデルフィアのスーパーでは58.7%低下した。同じく、大型店は-120万オンス(-204万~-36万、p=0.001)、40.4%低下、薬局は-2万オンス(-3万~-1万、p<0.001)、12.6%の低下であった。 フィラデルフィアにおける課税飲料の販売総量は、課税導入後に12億6,100万オンス(2016年:24億7,500万→2017年:12億1,400万)、51.0%の低下が認められた。一方で、近隣地域における販売量が3億820万オンス(7億1,310万→10億2,100万)増加していた。これは、フィラデルフィアにおける販売量低下の24.4%を相殺し、フィラデルフィアでの実質販売量低下は38%と考えられた。

2458.

第12回 呼吸困難 意外に多い呼吸困難の原因とは?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)呼吸数に注目し、帰してはいけない患者を見逃さないようにしよう!2)バイタルサインは必ず普段のADLで評価しよう!3)検査は事前確率に応じて、適切な検査を提出・実施しよう!【症例】70歳男性。来院当日、奥さんと買い物中に呼吸困難を自覚した。途中、近くのベンチで休み症状は改善傾向にあったが、心配となり帰宅途中にかかりつけのクリニックを受診した。原因は何が考えられるか? どのようにアプローチするべきだろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明血圧152/98mmHg脈拍100回/分(整)呼吸24回/分SpO295%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(51歳~)、2型糖尿病(54歳~)内服薬アムロジピン(Ca拮抗薬)、メトホルミン(メトホルミン塩酸塩)「意識障害」の後は、救急外来や一般の外来で出会う頻度の多い主訴のうち、時に重篤な場合がある症候を、順に取り上げていこうと思います。今回は「呼吸困難」です。X線やCT検査をすれば大抵の診断はつきますが、画像で異常が認められない場合やそもそも重症度を見誤り、適切な画像検査を行わず見逃してしまうことがあるため注意が必要です。高齢者の呼吸困難の原因呼吸困難の患者を診たら、(1)心不全などの心疾患、(2)肺炎などの肺疾患、(3)上部消化管出血などの貧血、(4)過換気症候群などの心因性の4つに分類し、考えて対応しています。若年者が急性の呼吸困難を訴えた場合には、気胸や喘息が鑑別の上位にあがりますが、高齢者ではどうでしょうか? 原因は多岐にわたりますが、頻度を考慮し、[1]心不全、[2]肺炎、[3]COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪、[4]肺血栓塞栓症の4つをまずは念頭に鑑別を進めるとよいでしょう1)。初療時の鑑別のポイント:やはり“Hi-Phy-Vi”が大切!細かいことは抜きにして、[1]~[4]の鑑別ポイントを改めて理解しておきましょう。●病歴(History):発症様式に注目!一般的に肺炎やCOPDの急性増悪が突然発症することはありません。数日前、最低でも数時間前から咳嗽や発熱などの症状を認めるはずです。それに対して、後負荷がドカッと上がるびまん性肺水腫を主病態とする心不全や、肺血栓塞栓症は急激な発症様式を呈することが多く、救急外来でもしばしば出会います。真のonsetをきちんと聴取し、いつから症状を認めているのかを正確に把握しましょう。心不全の既往、発作性夜間呼吸困難は、心不全らしい所見であり、既往歴やいつ(就寝中、労作時など)症状を認めるかなども忘れずに聴取しましょう。就寝前までおおむね問題なかった患者が、夜間に突然呼吸が苦しくなった場合には、素直に考えれば肺炎よりも心不全らしいですよね。●身体所見(Physical):左右差に注目!呼吸音、心音、頸部所見(頸静脈怒張の有無)、下肢の浮腫や左右差などの身体所見は、ごく当然にとる必要があることは言うまでもありませんが、発症初期では聴取が難しい、III音は聴く努力をしながらもやっぱり難しいし、足の浮腫もいつからなんだか…など実際の現場では悩ましいことが多いのも事実です。最も簡単な方法は、左右差に注目することです。呼吸音に左右差があれば、肺炎らしく(初期では全吸気時間で聴取:holo crackles)、両側に喘鳴を聴取すれば心不全らしいでしょう。当たり前ですが、何となく聴診していると明らかな喘鳴の聴取は容易でも、わずかな場合や肺炎の初期の副雑音をキャッチできないことは珍しくありません。下腿の浮腫は、両側性の場合には心不全を示唆しますが、左右差を認める場合には、肺血栓塞栓症の原因の大半を占める深部静脈血栓症の存在を示唆します(エコーを当てれば瞬時に判断できます)。Thinker's sign(Dahl's sign)は、呼吸困難を軽減させるための姿勢によって生じた所見であり、慢性の呼吸不全の存在を示唆します2)。気管短縮や呼吸音の減弱、心窩部心尖拍動とともに患者の肘や膝上の皮膚所見も確認する癖を持ちましょう。●バイタルサイン(Vital signs):脈圧に注目!「呼吸困難を訴えるもののSpO2の低下がない」これは逆に危険なサインです。頻呼吸で何とか代償しようとしている、もしくは気道狭窄を示唆し、異物や喉頭蓋炎、アナフィラキシーの可能性を考え対応するようにしましょう。SpO2の低下を認め、[1]~[4]を鑑別する場合には、脈圧がヒントになります。肺炎など感染症が関与している場合には、通常脈圧は開大します。それに対して心機能が低下しているなどアウトプットが低下している場合には、脈圧が低下します。両者が混在する場合や、普段の患者背景にもよりますが、脈圧が低下している場合には、虚血に伴う心不全、submassive以上の肺血栓塞栓症など重篤な病態を早期に見抜く手掛かりになります。呼吸困難患者の脈圧が低下している場合には、早期に心電図を確認することをお勧めします(ST変化などの虚血性変化、洞性頻脈・SIQIIITIIIなどの肺血栓塞栓症らしい所見をチェック)。普段のADLと比較!初療時には酸素を必要としていた患者さんの中には、精査中にoffにすることができる場合があります。そのような場合には安心しがちですが、もう一歩踏み込んでバイタルサインを確認しましょう。ストレッチャー上のバイタルサインではなく、普段と同様のADLの状態でのバイタルサインを評価してほしいのです。本症例の原因は肺血栓塞栓症でしたが、安静時には酸素を要さず、呼吸回数は落ち着いてしまいました。しかし、帰宅前に歩行をしてもらうとSpO2が低下し、呼吸困難症状の再燃を認めたのです。肺血栓塞栓症は、過換気症候群や原因不明として見逃されることがあり、私は普段と同様のADLで(1)他に説明がつかない頻呼吸、(2)他に説明がつかない低酸素、(3)他に説明がつかない頻脈の場合には、疑って精査するように努めています3)。さいごに呼吸困難を訴える患者では、胸部X線、CT検査ですぐに確認したくなりますが、それのみではなかなか確定診断は難しく、また、肺炎と心不全は両者合併することも珍しくありません。D-dimerも役には立ちますが、それのみで肺血栓塞栓症や大動脈解離を診断・除外するものではありません。“Hi-Phy-Vi”を徹底し、鑑別疾患を意識して検査結果をオーダー、解釈することを常に意識しておきましょう。1)Ray P, et al. Crit Care. 2006;10:R82.2)Patel SM, et al. Intern Med. 2011;50:2867-2868.3)坂本壮. 救急外来ただいま診断中!. 中外医学社;2015.p.216-230.

2459.

第9回 高齢者糖尿病の薬物療法(総論、SU薬)【高齢者糖尿病診療のコツ】

第9回 高齢者糖尿病の薬物療法(総論、SU薬)Q1 低血糖リスクを考慮した薬剤選択の原則について教えてください高齢者の糖尿病治療では、まずは患者ごとに適正な血糖コントロール目標値を設定することが重要です(第4回参照)。そのうえで、低血糖リスクを考慮しつつ各薬剤をどのように使い分けるか、考え方を以下にご紹介します。DPP-4阻害薬は、単独では低血糖リスクがきわめて低く、腎障害があっても使用できる薬剤があります。またSU薬に加えることで、SU薬の減薬や中止をする際に非常に有用です。また、同じインクレチン関連薬であるGLP-1受容体作動薬の使用も考慮されることがあります。フレイルの高齢者で、SU薬以外の内服薬±GLP-1受容体作動薬が、SU薬やインスリンを中心とした場合に比べ低血糖の発症が1/5になったというデータもあります(図)1)。画像を拡大するメトホルミンは高齢者で唯一投与できるビグアナイド薬です。高齢者でもメトホルミンの使用は心血管疾患、死亡のリスクを減らし、サルコペニア、フレイルなどへの好影響を及ぼすという報告があります。したがって、海外のガイドラインでは高齢者でもメトホルミンは第一選択薬とされており、低血糖リスクを考慮すると、DPP-4阻害薬とともに高齢者でまず選択すべき薬剤の1つとなります。メトホルミンはeGFR 30mL/分/1.73m2以上を確認して使用します(第10回、Q1で詳述)。DPP-4阻害薬、メトホルミンでも血糖コントロールが不良の場合には、少量のSU薬、SGLT2阻害薬、グリニド薬、αグルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)、チアゾリジン薬のいずれかを選択します。SU薬は高用量で投与すると低血糖の重大なリスクとなるため、SU薬使用者では血糖コントロール目標値に下限値が設けられています(第6回参照)。したがって、SU薬はなるべく使わず、使用したとしても少量の使用にとどめることにしています。グリクラジドで20mg(できれば10mg)/日、グリメピリドで0.5mg(できれば0.25mg)/日以下にとどめます。肥満がなくインスリン分泌が軽度低下している場合、少量のSU薬が血糖コントロールに有用なケースもあります。この場合の投与量は空腹時血糖が低血糖にならないレベルに設定するべきであり、可能であればCGM(Continuous Glucose Monitoring)を行って、夜間・空腹時低血糖がないことを確認することが望まれます。なお、グリニド薬はSU薬に比べ重症低血糖のリスクは少ないものの、やはり注意が必要です。α‐GIは腸閉塞など腹部症状のリスクがあり、開腹歴のある患者では使用を控えます。チアゾリジン薬は浮腫・心不全、またとくに女性において骨折のリスクが知られており、心不全患者には投与しないようにします。女性では少量(たとえば7.5 mg)から開始し、慎重に投与します。Q2 SU薬の減量と他剤への切り替えのポイントは?SU薬は腎排泄なので、腎機能低下例(eGFR<45mL/分/1.73m2)では減量、 eGFR<30では原則中止して、DPP-4阻害薬などの他剤へ切り替えます。しかし、SU薬をDPP-4阻害薬にいきなり切り替えると高血糖になることが少なくありません。そのため、まずはSU薬の用量を半分に減らし、DPP-4阻害薬を追加することをおすすめします。さらに、腎機能低下が軽度にとどまる場合は、メトホルミン、また肥満・インスリン抵抗性が疑われる場合はSGLT2阻害薬へ切り替えるケースもありますが、それぞれ第10回で後述する注意点があります。このほか、グリニド薬、α‐GI、チアゾリジン薬などのいずれかを追加することで、徐々にSU薬を減らしていくといいと思います。しかし、これらの薬剤のアドヒアランス低下がある場合や使用できない場合は、DPP-4阻害薬をGLP-1受容体作動薬に変更するとうまくいく場合があります(第10回、Q3)。食事量にムラがある場合は、インスリン分泌に影響のある薬剤を投与すると低血糖を起こしやすいため、やはりDPP-4阻害薬を中心としたレジメンとなります。また、中等度以上の認知症で食事量が不規則な場合、体重減少が著しい場合、HbA1c値が目標下限値を下回った場合(たとえばHbA1c 6.0%未満または6.5%未満)には低血糖リスクが高い薬剤から減薬を試みます。1)Heller SR, et al. Diabetes Obes Metab. 2018;20:148-156.

2460.

エンドセリン受容体拮抗薬は糖尿病腎症の新しい治療アプローチとなるか?(解説:小川大輔氏)-1049

オリジナルニュースエンドセリン受容体拮抗薬の糖尿病性腎症への効果は?:SONAR試験/国際腎臓学会(2019/4/18掲載) 糖尿病腎症の治療において血糖のコントロールは基本であるが、同時に血圧や脂質、体重などを適切に管理することも重要である。そして早期の糖尿病腎症であれば多面的かつ厳格な管理により腎症の進展を抑制することが示されている。ただひとたび腎障害が進行すると、集約的な治療を行っても腎不全への進展を阻止することが難しい。 今年4月に開催された国際腎臓学会(ISN-WCN 2019)において、SGLT2阻害薬カナグリフロジンが顕性アルブミン尿を呈する糖尿病腎症患者の腎アウトカムを有意に改善するという結果(CREDENCE試験)が報告され注目を集めている。実はこの学会でもう1つ、糖尿病腎症に対する薬物療法の試験結果(SONAR試験)が発表された。この試験も顕性腎症患者を対象としており、エンドセリン受容体拮抗薬atrasentanの有効性と安全性が検討された。 この試験の特徴は、試験デザインが通常の二重盲検法ではなく、まず本試験の前に6週間atrasentanの投与を行い(著者らはこの期間を“enrichment period”と称している)、アルブミン尿が30%以上低下し、かつ体液貯留の認められなかった症例(“responders”)を選び出し、それから2群に分けて試験を開始している点である。 エンドセリン受容体拮抗薬はアルブミン尿減少効果や血圧低下作用と同時にナトリウム貯留作用がある。以前に糖尿病患者を対象とした別のエンドセリン受容体拮抗薬の試験で体液貯留により心不全が増加したため、その反省を踏まえ副作用を回避しつつ効果を最大限に発揮させるためにこれまでの臨床試験にはなかった試験デザインになっている。 中央値2.2年の観察期間で、主要評価項目の「クレアチニンの2倍化あるいは末期腎不全への移行」はプラセボ群と比較しatrasentan群で有意に抑制されたが、それに寄与したのはクレアチニンの2倍化であった。またatrasentan群で末期腎不全への移行や心血管イベントの抑制は認められなかった。懸念される有害事象の心不全はプラセボ群とatrasentan群とで有意差はなかったが、体液貯留と貧血はatrasentan群で有意な増加を認めた。 本試験前に6週間atrasentanを投与された症例の約35%が“non-responders”であった点を踏まえると、糖尿病腎症患者すべてがこの薬剤の適応とはならないだろう。もしエンドセリン受容体拮抗薬を糖尿病腎症患者に投与するならば、著者らが行ったように投与開始初期の蛋白尿の減少効果を確認し、継続か中止を判断するのが妥当と思われる。また継続投与する際には体液貯留の出現や貧血の進行に注意し、場合によっては利尿薬を追加・増量する必要があると考えられる。 エンドセリン受容体拮抗薬の効果が期待できる症例の選択方法や、適正な使用方法についてはさらに検証する余地があると思われるので、今後の検討に注目したい。

検索結果 合計:4912件 表示位置:2441 - 2460