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メトホルミン「服用継続で問題なし」 海外でNDMA検出受け見解/日本糖尿病学会

 2019年12月10日、日本糖尿病学会は「メトホルミン塩酸塩における発がん物質の検出に対する対応について」(事務連絡 令和元年12月9日 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課および厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課)の発出を受け、文書を公表した。 わが国においては、今のところ従前通りにメトホルミンを服用しても問題はないとされている。日本糖尿病学会は、厚労省が出した「患者から本件について相談を受けた場合には、糖尿病に対する治療の必要性を説明するとともに、同剤の服用を中止しないように回答する」旨の事務連絡に沿った対応を呼び掛けている。 現時点では、わが国のメトホルミン製剤から、発がん性物質であるN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)は検出されておらず、国内各企業において調査中の段階だ。メトホルミンの自主回収に着手した旨を発表したシンガポール保健科学庁は、「検出されたNDMAの量は1日許容摂取量(0.0959μg/日)を上回るものの極微量であり、回収対象となっている製剤を短期間服用したことによるリスクはきわめて低い」と報告している。また、「1日許容摂取量のNDMAを70年間毎日摂取した場合であっても、発がんリスクの上昇は懸念されない」とアナウンスしている。 なお、欧州医薬品庁(EMA)・アメリカ食品医薬品局(FDA)も同様に、医療従事者に相談なく、自己判断でメトホルミン製剤の服用を中止しないよう注意喚起を行っている。

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ループス腎炎〔LN : lupus nephritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義ループス腎炎(lupus nephritis: LN)は、全身性エリテマトーデス(SLE)患者でみられる腎炎であり、多くは糸球体腎炎の形をとる。蛋白尿や血尿を呈し、ステロイド療法、免疫抑制薬に反応することが多いが、一部の症例では慢性腎不全に進行する。SLEの中では、中枢神経病変と並んで生命予後に影響を及ぼす合併症である。■ 疫学SLEは人口の0.01~0.1%に発症するといわれ、男女比は約1:9で、好発年齢は20~40歳である。そのうち明らかな腎症を来すのは50%程度といわれている。通常の慢性糸球体腎炎では、尿所見や腎機能異常が発見の契機となるが、SLEでは発熱、関節痛や顔面紅斑、検査所見から診断されることが多い。しかし、尿所見や腎機能異常がない段階でも、腎生検を行うと腎炎が発見されることが多く(silent lupus nephritis)、程度の差はあるが、じつはほとんどの症例で腎病変が存在するという報告もある。■ 病因SLEにおける臓器病変は、DNAと抗DNA抗体が結合した免疫複合体が組織沈着するために起こる。しかし、その病因は不明である。LNでは、補体の活性化を介して免疫複合体が腎糸球体に沈着する。■ 症状SLE患者では、発熱、関節痛、皮疹、口腔内潰瘍、脱毛、胸水や心嚢水貯留による呼吸困難などを来すが、LNを合併すると蛋白尿や血尿が認められ、ネフローゼ症候群に進展した場合は、浮腫、高コレステロール血症が認められる。しかし前述のように、まったく尿所見、腎機能異常を示さない症例も存在する。LNが進行すると腎不全に陥ることもある。■ 分類長らくWHO分類が使用されていたが、2004年にInternational Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が採用された1)(表1)。IV型の予後が悪いこと、V型では大量の蛋白尿が認められることなど、基本的にはWHO分類を踏襲している。画像を拡大する■ 予後早期に診断し治療を開始することで、SLEの予後は飛躍的に改善しており、5年生存率は95%を超えている。しかし、LNに焦点を絞ると、2013年の日本透析医学会の統計報告では、新規透析導入患者では、年間258人がLNを原疾患として新規に透析導入となっている。しかも、導入年齢がそれ以前よりも3~4歳ほど高齢化している2)。生命予後のみならず、腎予後の改善が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SLEの診断は、1997年に改訂された米国リウマチ学会の分類基準に基づいて行われていた3)。しかし、SLEの治療を行った患者で、この分類ではSLEとならず、米国では保険会社が支払いを行わないという問題が生じ、SLICC(Systemic Lupus lnternational Collaborating Clinics)というグループが、National Institute of Health (NIH)の支援を受けて、より感度の高い分類基準を提案したが4)、特異度は低下しており、慎重に使用すべきと考えられる。この度、米国リウマチ学会、ヨーロッパリウマチ学会合同で、SLE分類基準が改訂されたため、今後はこの分類基準が主に使用されることが予想される(表2)5,6)。日常診療で行われる検査のほかに、抗核抗体、抗二本鎖DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(IgGまたはIgM抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント)を検査する。さらにLNの診断には、尿沈渣、蓄尿をしての蛋白尿の測定や、クレアチニンクリアランス、腎クリアランスなどの腎機能検査を行うが、可能な限り腎生検によって組織的な診断を行う。図に、ISN/RPS分類class IV-G(A)の症例を示す7)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステロイド1)経口ステロイド0.8~1.0mg/kg/日 程度のプレドニゾロン(PSL)〔商品名:プレドニゾロン、プレドニン〕が使用されることが多いが、とくに抗DNA抗体高値や低補体血症の存在など、疾患活動性が高い場合、ISN/RPS分類のIV型の場合、あるいはネフローゼ症候群を合併した場合などは、1.0mg/kg/日 の十分量を使用する。初期量を4~6週使用し、その後漸減し、維持量に持っていく。維持量については各施設で見解が異なるが、比較的安全な免疫抑制薬であるミゾリビン(商品名:ブレディニン)やタクロリムス(同:プログラフ)の普及により、以前よりも低用量のステロイドでの維持が可能になっているものと考えられる。2)メチルプレドニゾロン(mPSL)パルス療法血清学的な活動性が高く、びまん性の増殖性糸球体腎炎が認められる場合に行われる。長期的な有効性のエビデンスは少なく、またシクロホスファミドパルス療法(IVCY)の方が有効性に優るという報告もあるが、ステロイドの速効性に期待して、急激に腎機能が悪化している症例などに行われる。感染症や大腿骨頭壊死などの副作用も多く、十分な注意が必要である。mPSLパルス療法は各種腎・免疫疾患で行われるが、LNでは1日1gを使用するパルス療法と、500mgを使用するセミパルス療法は同等の効果を示すという報告もある。■ 免疫抑制薬1)シクロホスファミド静注療法(IVCY)1986年に、National Institute of Health(NIH)グループが、LNにおけるIVCYの報告を行ってから、難治性LNの治療として、IVCYは現在まで世界各国で幅広く行われている。NIHレジメンは、シクロホスファミド0.5~1.0g/m2を、月に1回、3~6ヵ月間投与するものであるが、Euro Lupus Nephritis Trial(ELNT)のレジメンは、500mg/日を2週に1回、6回まで投与するものである。シクロホスファミドの経口投与では、不可逆性の無月経が重大な問題であったが、IVCYとすることでかなり減少したとされる。しかし、20代の女性で10人に1人程度の不可逆性無月経が出現するとされており、年齢が上がるとさらにそのリスクは増大する。挙児希望のある場合は、十分なインフォームドコンセントが必要である。長らく保険承認がない状態で使用されていたが、2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。2)アザチオプリン(商品名:イムラン、アザニン)LNの治療に海外、国内ともに幅広く使用されているが、シクロホスファミド同様長らく保険承認がない状態で使用されていた。やはり2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。シクロホスファミドに比べ骨髄障害の副作用が少なく、また、妊娠は禁忌となっていたが、腎移植などでの経験から大きな問題はないと考えられ、2018年に禁忌が解除された。3)シクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)“頻回再発型あるいはステロイドに抵抗性を示す場合のネフローゼ症候群”の病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、6ヵ月以上使用する場合は、トラフ値を100ng/mL程度に設定する。投与の上限量が定められていないので、有効血中濃度が得られやすいことが利点である。トラフ値を測定するには、入院時は内服前の早朝に採血し、外来では受診日だけは内服しないように指導することが必要である。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。4)ミゾリビン(同:ブレディニン)1990年にLNの病名で保険適用が追加された。最近は血中濃度を上昇させることの重要性が提唱され、150mgの朝1回投与や、さらに多い量を週に数回使用するパルス療法などが行われているが、「保険で認められている使用法とは異なる」というインフォームドコンセントが必要である。比較的安全な免疫抑制薬であるが、妊娠時の使用は禁忌であることに注意する必要がある。5)タクロリムス(同:プログラフ)LNの病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、投与12時間後の濃度(C12)をモニタリングし、10ng/mLを超えないように留意する。しかし、LNでの承認最大用量3mg/日を使用しても、血中濃度が上昇しないことの方が多い。臨床試験において、平均4~5ng/mL(C12)で良好な成績を示したが、5~10ng/mLが至適濃度との報告もある。内服が夕方なので、午前の採血で血中濃度を測定するとC12値が得られる。併用禁忌薬、慎重投与の薬剤、糖尿病の発症や増悪に注意をする。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。6)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)〔同:セルセプト〕MMFは生体内で速かに加水分解され活性代謝物ミコフェノール酸(MPA)となる、MPAはプリン生合成のde novo 経路の律速酵素であるイノシンモノホスフェイト脱水素酵素を特異的に阻害し、リンパ球の増殖を選択的に抑制することにより免疫抑制作用を発揮する。海外では、ACR(American College of Rheumatology)、EULAR(European League Against Rheumatism)、KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)LN治療ガイドラインにおいて、活動性LNの寛解導入と寛解維持療法にMMFを第1選択薬の一つとして推奨され、標準薬として使用されている8,9)。わが国では、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において検討された「ループス腎炎」の公知申請について、2015年7月31日の薬事・食品衛生審議会の医薬品第一部会で事前評価が行われ、「公知申請を行っても差し支えない」とされ、保険適用となった。用法・用量は、成人通常、MMFとして1回250~1,000mgを1日2回12時間毎に食後経口投与する。なお年齢、症状により適宜増減するが、1日3,000mgを上限とする。副作用には、感染症、消化器症状、骨髄抑制などがある。また、妊娠時は禁忌であることに注意が必要である。2019年に日本リウマチ学会から発行された、SLEの診療ガイドラインでは、MMFがLNの治療薬として推奨された10)。7)multi-target therapyミゾリビンとタクロリムスの併用療法の有効性が報告されている11,12)。両剤とも十分な血中濃度を確保することが重要な薬剤であるが、単剤での有効血中濃度確保ができないような症例に有効である可能性がある。また、海外を中心にMMFとタクロリムスの併用療法の有効性も報告されている13-15)。■ ACE阻害薬(ACEI)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)LNでの難治性の蛋白尿にACEIやARBが有効であるとの報告がある。筆者らは両者の併用を行い、さらなる有効性を確認している。特に、ループス膜性腎症で免疫抑制療法を行っても、難治性の尿蛋白を呈する症例では試みてもよいのではないかと考えている。4 今後の展望世界的に広く使用されていたシクロホスファミドとアザチオプリンが保険適用となり、使用しやすくなったため、わが国でのエビデンスの構築が望まれる。公知申請で承認されたMMFの効果にも、期待がもたれる。SLEに対する新規治療薬としては、BLysに対するモノクローナル抗体のbelimumabが非腎症SLEに対する有効性が認められFDAの承認を受け、さらにわが国でも使用可能になった。しかし、LNでの有効性についてはいまだ明らかではない。さらに、海外ではSLEの標準的治療薬であるハイドロキシクロロキンもわが国で使用可能になった。LNに対する適応はないが、再燃予防効果やステロイド減量効果が報告されており、期待がもたれる。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報全身性エリテマトーデス(難病情報センター)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ACRガイドライン(WILEYのオンラインライブラリー)EULAR/ERA-EDTAリコメンデーション(BMJのライブラリー)KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis(International Society of Nephrologyのライブラリー)公的助成情報全身性エリテマトーデス(難病ドットコム)(患者向けの医療情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者と家族の会)参考文献1)Weening JJ, et al. Kidney Int. 2004;65:521-530.2)日本透析医学会統計調査委員会. 図説 わが国の慢性維持透析療法の現況(2013年12月31日現在);日本透析医学会.2014.3)Hochberg MC. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.4)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686. 5)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.6)Aringer M, et al. Arthritis Rheumatol. 2019;71:1400-1412.7)住田孝之. COLOR ATLAS 膠原病・リウマチ 改訂第3版. 診断と治療社;2016.p.30-53.8)Appel GB, et al. J Am Soc Nephrol. 2009;20:1103-1112.9)Dooley MA, et al. N Engl J Med. 2011;365:1886-1895.10)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等 政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班.日本リウマチ学会編. 全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン. 南山堂;2019.11)Kagawa H, et al. Clin Exp Nephrol. 2012;16:760-766.12)Nomura A, et al. Lupus. 2012;21:1444-1449.13)Bao H, et al. J Am Soc Nephrol. 2008;19:2001–2010.14)Ikeuchi H, et al. Mod Rheumatol. 2014;24:618-625.15)Liu Z, et al. Ann Intern Med. 2015;162:18-26.公開履歴初回2013年05月02日更新2019年12月10日

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第34回 「Q波探し」の実践訓練~めざせ“名探偵”~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第34回:「Q波探し」の実践訓練~めざせ“名探偵”~“壊死して機能しなくなった心筋の存在を示唆する心電図波形”と言えば「異常Q波」であり、前回は12誘導を「V1~V3」と「それ以外」に分けて診断する手法を学びました。今回はDr.ヒロが用意した2症例を用いて、その知識が定着しているかを確認してみましょう。早速、チャレンジ!症例提示174歳、男性。糖尿病と高血圧症に対し内服加療中である。心筋梗塞の既往があり、何度かカテーテル治療(PCI)を受けている。以下に外来での心電図を示す(図1)。(図1)定期外来の心電図画像を拡大する【問題1】心電図(図1)で「異常Q波」を指摘せよ。また、心筋梗塞はどこの部位で発生したか?解答はこちら異常Q波:I、aVL、(V1)V2~V4梗塞部位:(左室)前壁、前壁中隔、高位側壁解説はこちら心電図(図1)を見ると、前壁誘導(V1~V4)の「ST上昇」と「QS型」(QS complex)が目を引くでしょう。それだけに目を奪われたら“半人前”ですよ。Dr.ヒロ流の語呂合わせ(第1回)では、“クルッと”の“ク”が「異常Q波」を抽出するプロセスです。前回は「V1~V3」と「それ以外」で読むことをお伝えしましたよね。「それ以外」では、肢誘導を上からI→II→III、そして、aVRは除外してaVL、aVF、そして右方に目を移して胸部誘導の下半分(V4→V5→V6)を読んで、初めてコンプリートです。『“ジグザグ運動”とほとんど同じだから、ST変化と同時にチェックしたら一気にできるなぁ』そう思う方、ブラボーです。“慣れ”もさることながら、Dr.ヒロの世界観にだいぶ染まった証拠です(笑)。“「異常Q波」を拾い出そう! 周囲を見渡すのが吉”さぁ皆さん、今回のメインテーマはズバリ「異常Q波を探せ」。“名探偵”になった気分で「Q波」を探し出し、病変(心筋梗塞)の場所を推測するという練習です。これは実臨床においても非常に役立つテクニックだと思います。前回紹介した「異常Q波」の“最新定義”を覚えていますか? 12誘導を「V1~V3」と「それ以外」に分けて考えるのでした。さらに、前者では「存在」、後者では「幅・深さ」の“1mm基準”(または“1ミリの法則”)、そして隣接誘導での連続性(“お隣ルール”)がキーでしたね。早速、問題の心電図(図1)を眺めてみましょう。まず「V1~V3」から。V2、V3はちゅうちょなく完全に「QS型」ですが、V1はちょびっと「r波」があるように見えます。でも、“一昔前”の「1mmなかったらr波が“ない”のと同じ」の考え方を拝借し、“見なしQ波(QS型)”として悪くないレベルでしょう。つまり、V1~V3すべてに「異常Q波」があるということ。次に「それ以外」の誘導。肢誘導では、I、aVLが陰性波から始まっているので「q波」です。そして、胸部誘導ではV1~V3に連続する形でV4に「QS型」がありますね。aVLは“1mm基準”を満たし、V4もかなり幅広な「QS型」ですから、どちらも文句なく「異常Q波」と考えられます。ではIのほうはどうでしょう? こちらは「幅1mm・深さ1mm」と、ともに微妙だなぁと思いませんか? こういう場合には鉄則があります。■「異常Q波」か悩んだら■視点をずらして同じ誘導の「ST-T変化」の有無を見よボクの流儀では「“周囲”を見渡せ」―これが鉄則です。言うなれば“周囲確認法”でしょうか。工事現場のように、常に周りの様子に気を配ることが大事なので、単視眼的にQ波を眺めていても正解は見えてこないのです。心筋梗塞の“爪痕”的な所見として、「異常Q波」以外に「ST-T変化」が知られています。ST変化は「ST上昇」、T波は「陰性T波」が主なものです。通常は同一の誘導で見られますから、悩ましいQ波でも「ST-T変化」を伴っていたら「異常Q波」なほうにbetするのです。心電図(図1)のaVL同様、I誘導にも「陰性T波」がありますね? そして、この2つはイチエル(I・VL)を構成し、肢誘導界では“お隣”の関係です。I誘導は幅も深さも微妙ですが、陰性T波を伴い、かつ隣接するaVLでのQ波の存在を総合的に考慮すると、“合わせ技”1本で「異常Q波」と判定できるのです! ちなみに、先ほど若干悩んだV1についてもST-T部分がV2~V4に類似しており(ST上昇、2相性[陽性-陰性]T波)、その意味でも異常Q波「あり」とボクは考えます。この単一の波形要素だけで考えず、そのほかの部分も合わせて考えることは、Q波に限らず心電図を読む上で大事だと思っています。“Q波の分布パターンから梗塞部位がわかる!”以上のことから心電図(図1)では、I、aVL、そしてV1~V4に「異常Q波」があると判明しました。次にすべきは「どこの心筋梗塞か?」…つまり“梗塞部位”を考えることです。心電図のスゴイところは、「異常Q波」の分布から、心筋梗塞を起こした部位が推定できることです。次の表1は拙著からの引用です。(表1)異常Q波分布と梗塞部位の関係画像を拡大するここでは、心臓を水平面で切ったCT画像を“宇宙人”が眺めている様子で解説した図を復習しましょう(第17回)。まず、V1~V4誘導には「前壁誘導」という別称がありましたね。細かく言うと、V1は「前壁中隔*」、V2~V4が真の「前壁」なので、この領域の心筋梗塞が疑われます。*:ここでは「前壁+心室中隔」ではなく、「“前側の”心室中隔」という意味。では、I、aVLのほうはどうでしょう? これは、イチエルの組み合わせでエルを含むので、心臓の「左」、すなわち「側壁」と考えて下さい。表を見ると、「高位側壁」(high lateral)となっていて、“上のほう”の「側壁」という意味です。ですから、今回の異常Q波の分布様式からは(前側の)「心室中隔」「前壁」、そして「高位側壁」が梗塞領域だと推定されます。ここまででお腹いっぱいかもしれませんが、最後の最後。われわれ循環器のプロは、ここからもう一歩先の「冠動脈のどこがつまったのか?」(梗塞責任血管)を考えています。「前壁中隔・前壁・高位側壁」のパターンでは、冠動脈閉塞部位は左冠動脈前下行枝の近位部でほぼ決まりです。循環器お得意の“番地”で言うと“6番”(LAD#6)ね。非専門医でこんな事が言えるならば、それはもはや“セミプロ”の証拠です。■心電図診断■洞調律(63/分)異常Q波(I、aVL、[V1]V2~V4)ST上昇(V1~V4)陰性T波(I、aVL、V2~V5)時計回転では、この調子でもう一問やってレクチャーを終わりましょう。症例提示254歳、男性。心筋梗塞の既往あり。虚血性心筋症による慢性心不全でフォロー中。冠動脈造影(CAG)のため入院時検査として行った心電図を示す(図2)。(図2)検査入院時の心電図画像を拡大する【問題2】心電図(図2)で「異常Q波」を指摘せよ。また、心筋梗塞はどこの部位で発生したか?解答はこちら異常Q波:II、III、aVF、V5、V6梗塞部位:(左室)下壁、側壁解説はこちらこれも前問とまったく同じ考え方で臨みましょう。「V1~V3」は陽性波から始まっていて「Q波」はないですが、「それ以外」にはたくさんのQ(q)波が…どれが「異常」で、どれが「セーフ」なのでしょう? ここでも幅・深さの“1mm基準”と“周囲確認法”、そして”お隣ルール”をフル活用すれば正解は見えてくるでしょう。“知識の総ざらいをしましょう―Q波の仕分け”この問題で「異常Q波」の知識の総ざらいをして、今回は終わりましょう。心電図(図2)では「V1~V3」にはQ波はなく、「それ以外」では、I、II、III、aVF、V4~V6と、実に7つの誘導でQ(q)波が認められます。こういう時、まずは隣接誘導ごとに仕分けることから始めましょう。「異常Q波」は常にグループで考えていくことが大事です。すると…まずはニサンエフ(II、III、aVF)そしてブイゴロク(V5、V6)に気付くでしょう。残るIとV4は“宙ぶらりん”状態となっています。このうち、V4誘導は“玉虫色”なので注意して下さい。というのも「V1~V4」と「前壁誘導」のメンバーになったり、症例によっては「V4~V6」で「側壁誘導」を形成したりするのです。いるでしょ、こういう人って周りにも(笑)。でも、こういう時に役立つのが“周囲確認法“です。「ST-T変化」はどうでしょうか? V5、V6には「ST低下」と「陰性T波」があるのに、V4にはありません。『ブイゴロクに比べてQ波の幅も深さも軽めだなぁ…これは“除外“と考えよう』そう思えたアナタはボクと気が合います。ではIのほうはどうでしょう? すぐ“お隣”のエル(aVL)にはQ波がないですが、より広い視点でイチエルゴロク(I、aVL、V5、V6)の側壁誘導なら4つ中3つだから「隣接2つ以上」という基準にも該当するかもしれません。でも、やはり決め手は「ST-T変化」です。ST部分は基線上で「陰性T波」もありません。ですから、これは「なし」でいいと思います。単純に「Q波」だけを見ているとわかりませんが、このように考えると、最終的にはII、III、aVF、V5、V6が「異常Q波」で、表1を参考にすると梗塞巣は左室の「下壁」と「側壁」となるでしょうか。ところで、イチエルは「高位側壁」でしたが、ブイゴロクについては“低位”側壁とは言わず、単に「側壁」でOKです。個人的には言ってもいい気がしますが…「側壁」の正式な呼称は“前”や“下”という枕詞が付くため、かなりわかりづらいと思っています。(主に心エコーや核医学[RI]での呼び方で、心電図の世界ではあまりこの言い方は好まれません)なお、閉塞血管についてはマニアックなので簡単に触れるに留めますが、「下壁+側壁」のパターンの責任血管が右冠動脈か左冠動脈回旋枝かを区別するのはなかなか難しいとされます。この方は立派な右冠動脈近位部閉塞による陳旧性心筋梗塞でした。冠動脈の解剖・走行を熟知した人であれば、右冠動脈が高位側壁領域を灌流することはかなり稀と思われますから、その意味でもI誘導のq波は異常「ではない」と言えます。循環器専門医は、このように臨床的にさまざまな洞察を加えて一枚の心電図を眺めているんです。いや、もちろん慣れたら別にたいしたことじゃないんですけどね(笑)。最後はちょっとだけ難解な話もしましたが、“Q波探偵”の推察の基本がわかってもられば十分です。■心電図診断■洞調律(63/分)異常Q波・陰性T波(II、III、aVF、V5、V6)ST上昇(V1~V3)Take-home Message微妙なQ波は、同誘導のST-T変化の有無と隣接誘導の様子から「異常」と言えるか判定する。「異常Q波」の誘導分布から心筋梗塞の部位診断ができる!杉山裕章. 『心電図のみかた・考え方(応用編). 中外医学社;2014.p.80-124.【古都のこと~常照皇寺】就寝前、ベッドで庭園の写真集を見るのがボクのお気に入りの一つ。関西に移住してだいぶと日が経ちましたが、京都の良所は、歴史が育んだ名庭を実際に自分の目で楽しめることだと思います。常照皇寺(右京区)もその一つ。皆さんはこの寺をご存じですか? 周囲の京都人に聞いても「YES」はあまり多くない印象です。そもそも何と読むのでしょう? …正解はジョウショウコウジ*1。京都の庭園を紹介しているたいがいの書籍で、この寺が市内中心から最遠と書かれています。初秋の休日に訪れて最初の感想は、“最果て”かと思うほど山奥にあるなぁ、でした。山門から長い石段を登り、静寂が支配するその空間を進むと、方丈の間の向こう側にお目当ての庭が! 裏山を借景してデザインされた庭の存在感に圧倒され、寂しさの中に見え隠れする荒々しさ・力強さを言葉で表現するのはボクにとって容易ではありません(ぜひとも本物をご覧いただきたい!)。秋の紅葉時期はもちろん、天然記念物の九重桜など、春にも訪れたい“かくれ里”*2です。皆さんも京都の“秘密の山寺”を訪れてみませんか?*1:漢字4文字も珍しいが、詳名は「大雄名山万寿常照皇寺」とさらに長い。臨済宗京都嵯峨天龍寺派に属する。「常照寺」と呼ばれていた時期もある。南北朝の動乱期の貞治元年(1362年)、この地に隠棲した光厳天皇(北朝初代)の開創と伝わる。*2:白洲次郎の妻で随筆家の白洲正子の『かくれ里』にも常照皇寺が登場する。

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早発閉経、心血管疾患リスク増大の可能性/JAMA

 閉経後女性のうち、40歳になる前に早期の自然閉経/外科的閉経を経験した女性は、40歳以降に閉経した女性に比べ心血管疾患のリスクが、小さいとはいえ統計学的に有意に増加することが、米国・ハーバード大学医学大学院のMichael C. Honigberg氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2019年11月18日号に掲載された。最近のガイドラインでは、中年女性におけるアテローム性動脈硬化に基づく心血管疾患リスク評価の改善策として、40歳以前での閉経歴を考慮することが推奨されているが、確固としたデータはないという。3群を比較するコホート研究 本研究は、2006~10年の期間に、英国のUK Biobankに登録された成人の英国居住者のうち、登録時に40~69歳で、閉経後の女性を対象とするコホート研究である(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 14万4,260例の閉経後女性が登録され、2016年8月まで追跡が行われた。早発自然閉経(卵巣摘出術を受けず、40歳以前に閉経)の女性、および早発外科的閉経(両側卵巣摘出術を受け、40歳以前に閉経)の女性を、早発閉経のない閉経後女性(対照)と比較した。 主要アウトカムは、初発冠動脈疾患、心不全、大動脈弁狭窄症、僧帽弁逆流症、心房細動、虚血性脳卒中、末梢動脈疾患、静脈血栓塞栓症の複合とした。副次アウトカムは、主要アウトカムの個々の疾患および心血管リスク因子(初発高血圧症、脂質異常症、2型糖尿病)であった。主要アウトカム:自然閉経6.0% vs.外科的閉経7.6% vs.非早発閉経3.9% 14万4,260例(登録時平均年齢59.9[SD 5.4]歳)のうち、4,904例(3.4%)が自然早発閉経を、644例(0.4%)が外科的早発閉経を経験した女性で、非早発閉経女性は13万8,712例であった。追跡期間中央値は7年(IQR:6.3~7.7)。 主要アウトカムの発生は、非早発閉経群が5,415例(3.9%、発生率5.70/1,000人年)であったのに対し、自然早発閉経群は292例(6.0%、8.78/1,000人年)と有意な差が認められた(非早発閉経群との差:+3.08/1,000人年、95%信頼区間[CI]:2.06~4.10、p<0.001)。また、外科的早発閉経群は49例(7.6%、11.27/1,000人年)で、同様に有意な差がみられた(同差:+5.57/1,000人年、2.41~8.73、p<0.001)。 多変量で補正後に、非早発閉経群と比較して、自然早発閉経群では、大動脈弁狭窄症(ハザード比[HR]:2.37、95%CI:1.47~3.82、p<0.001)、静脈血栓塞栓症(1.70、1.27~2.29、p<0.001)、虚血性脳卒中(1.50、1.01~2.25、p=0.04)、冠動脈疾患(1.39、1.06~1.82、p=0.02)、心房細動(1.25、1.00~1.58、p=0.05)の頻度が有意に高く、心不全(1.21、0.81~1.82、p=0.35)、僧帽弁逆流症(0.73、0.34~1.55、p=0.41)、末梢動脈疾患(1.34、0.79~2.26、p=0.27)には差が認められなかった。 同様に、外科的早発閉経群では、僧帽弁逆流症(HR:4.13、95%CI:1.69~10.11、p=0.002)、静脈血栓塞栓症(2.73、1.46~5.14、p=0.002)、心不全(2.57、1.21~5.47、p=0.01)、冠動脈疾患(2.52、1.48~4.29、p<0.001)の頻度が有意に高く、大動脈弁狭窄症(2.91、0.92~9.15、p=0.06)、心房細動(1.60、0.91~2.83、p=0.11)、虚血性脳卒中(0.43、0.06~3.12、p=0.41)、末梢動脈疾患(1.34、0.33~5.41、p=0.68)には差がみられなかった。 高血圧(早発自然閉経群:HR:1.43[95%CI:1.24~1.65、p<0.001]、外科的早発閉経群:1.93[1.37~2.74、p<0.001])、脂質異常症(1.36[1.16~1.61、p<0.001]、2.13[1.50~3.04、p<0.001])、2型糖尿病(全年齢層のHRの範囲:早発自然閉経群0.9~1.6、外科的早発閉経群1.3~4.7)のリスクも、早発閉経群で高かった。 主要アウトカムに関して、従来の心血管リスク因子および閉経後ホルモン療法の使用で補正後のHRは、自然早発閉経群が1.36(95%CI:1.19~1.56、p<0.001)、外科的早発閉経群は1.87(1.36~2.58、p<0.001)であった。 著者は、「これらの関連の基盤となるメカニズムを解明するには、さらなる検討を要する」としている。

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統合失調症患者のインスリン抵抗性有病率とその特徴

 いくつかの研究において、統合失調症患者は、インスリン抵抗性リスクが高いことが示唆されている。中国・北京大学のChen Lin氏らは、中国人統合失調症入院患者におけるインスリン抵抗性の有病率および臨床的相関について調査を行った。Comprehensive Psychiatry誌オンライン版2019年11月7日号の報告。 対象は、統合失調症患者193例(男性:113例、女性:80例)。血漿グルコースおよび脂質レベルに関するデータを含む人口統計および臨床データを収集した。認知機能の評価には、Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status(RBANS)、精神症状の評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いた。インスリン抵抗性を評価するHOMA-IRのカットオフ値は、1.7に設定した。 主な結果は以下のとおり。・インスリン抵抗性の有病率は、37.82%(73例)であった。・インスリン抵抗性患者は、そうでない患者と比較し、ウエスト/ヒップ比、BMI、空腹時血糖、トリグリセリド(TG)、LDLレベルが有意に高かった(各々p<0.05)。・バイナリロジスティック回帰分析では、喫煙、BMI、TG、LDLレベルが、インスリン抵抗性の有意な予測因子であった。・相関分析では、ウエスト/ヒップ比、BMI、LDLレベルが、インスリン抵抗性と有意に相関していることが示唆された(Bonferroni補正:p<0.05)。・多変量線形回帰分析では、BMIと空腹時血糖が、インスリン抵抗性と関連していることが示唆された。・異なる抗精神病薬を使用している患者間で、インスリン抵抗性に有意な差は認められなかった。 著者らは「中国人統合失調症患者では、インスリン抵抗性およびそのリスク因子を有する割合が高かった。統合失調症患者のインスリン抵抗性発生を防ぐためにも、BMIやウエスト周囲を減らし、タバコの本数を減らすための積極的な体重管理が不可欠である」としている。

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乳製品摂取量と死亡リスクとの関連は? /BMJ

 米国・ハーバード公衆衛生大学院のMing Ding氏らは、3件の前向きコホート研究において乳製品の摂取量と全死亡および死因別死亡との関連を検証し、乳製品の総摂取量と死亡リスクに逆相関は確認されず、乳製品の健康への影響は代用の類似食品に依存する可能性があることを報告した。また、「わずかだががん死亡率の上昇が、有意ではないものの乳製品摂取と関連がみられており、さらなる検証が必要である」とまとめている。これまで、乳製品摂取と2型糖尿病、心血管疾患、がんなどさまざまな健康アウトカムとの関連が広く検証されているが、多くの研究で明らかな有益性あるいは有害性は示されていない。さらに、前向きコホート研究での乳製品摂取と死亡との関連に関するエビデンスは限定的であった。BMJ誌2019年11月27日号掲載の報告。米国の大規模コホート研究3件(女性約17万人、男性約5万人)について解析 研究グループは、女性および男性における乳製品の摂取と全死亡および死因別死亡リスクとの関連を調べる目的で、米国で実施された3つの前向きコホート研究「Nurses' Health Study(NHS)」「Nurses' Health Study II(NHS II)」「Health Professionals Follow-up Study(HPFS)」を用い、ベースラインで心血管疾患およびがんを有していない女性16万8,153人と男性4万9,602人について解析した。 参加者は、乳製品の摂取について食事摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire:FFQ)を用いて、NHSでは1984年と1986年以降は4年ごとに、NHS IIおよびHPFSではそれぞれ1989年および1986年から4年ごとに調査を受けていた。 主要評価項目は、国民死亡記録(national death index)、州生命記録(state vital records)、または家族および郵送による報告によって2016年12月31日までに確認された死亡とした。 Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、乳製品の摂取量と死亡リスクとの関連を解析した。多変量解析では、心血管疾患およびがんの家族歴、身体活動、食事パターン(代替健康食指数2010)、総エネルギー摂取量、喫煙状況、アルコール摂取量、閉経状態(女性のみ)、閉経後のホルモン剤使用(女性のみ)に関して補正を行い評価した。 解析は、各コホートで個別に実施した後、固定効果モデルを用いて統合・評価した。乳製品摂取量と死亡リスクに逆相関は認められず 追跡期間最大32年間で、心血管死1万2,143例、がん死1万5,120例を含む計5万1,438例の死亡が確認された。 多変量解析で統合した全死亡のハザード比(HR)は、乳製品摂取量が最低の第1群(平均0.8サービング/日)に対して、第2群(平均1.5サービング/日)で0.98(95%信頼区間[CI]:0.96~1.01)、第3群(平均2.0サービング/日)で1.00(0.97~1.03)、第4群(平均2.8サービング/日)で1.02(0.99~1.05)、最高の第5群(平均4.2サービング/日)で1.07(1.04~1.10)であった(傾向のp<0.001)。 心血管疾患死のHRは第1群に対して、第2群0.97(95%CI:0.91~1.03)、第3群0.97(0.92~1.03)、第4群0.96(0.90~1.02)、第5群は1.02(0.95~1.08)であった(傾向のp=0.49)。 がん死のHRは第1群に対して、第2群0.95(95%CI:0.90~1.00)、第3群1.00(0.94~1.05)、第4群1.04(0.98~1.09)、第5群は1.05(0.99~1.11)であった(傾向のp=0.003)。 乳製品の種類別では、全乳の摂取量増加は、全死亡(0.5サービング/日増えるごとのHR:1.11、95%CI:1.09~1.14、傾向のp<0.001)、心血管死(同1.09、95%CI:1.03~1.15、傾向のp=0.001)およびがん死(同1.11、95%CI:1.06~1.17、傾向のp<0.001)のリスク上昇と有意に関連していた。 代替食品の解析で、乳製品の代わりにナッツ、豆類、全粒穀物を摂取した場合は死亡リスク低下と関連していたが、赤身および加工肉の摂取は死亡リスク上昇と関連していた。

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アスピリン、日本人の女性糖尿病患者で認知症リスク42%減

 低用量アスピリンに認知症予防効果を期待できるのか? 兵庫医科大学の松本 知沙氏らは、日本人2型糖尿病患者の認知症予防における低用量アスピリンの長期使用の有効性を、JPAD試験の追跡コホート研究により検討した。Diabetes Care誌オンライン版2019年12月4日号掲載の報告より。 JPAD試験は、日本人2型糖尿病患者を対象に、低用量アスピリンによる心血管疾患の一次予防効果を検討した多施設共同の大規模臨床試験。今回の研究では、2002~17年にJPAD試験に登録された2,536例を追跡した。被験者は低用量アスピリン服用群(81~100mg/日)と非服用群に無作為に割り付けられ、主要評価項目は認知症の発症とされた。認知症の発症有無は抗認知症薬の処方と、認知症による入院により定義された。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値11.4年の間に、128例が認知症を発症した。・年齢、性別、その他確立されたリスク因子で調整後、低用量アスピリン服用群と非服用群の間で認知症の発症リスクに有意な差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.58~1.16)。・性別ごとにみると、女性では認知症の発症リスクに有意な減少がみられたが(HR:0.58、95%CI:0.36~0.95)、男性では認められなかった(HR:1.27、95%CI:0.75~2.13)(相互作用のp=0.03)。

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PM2.5短期曝露の入院リスク・コスト増、敗血症や腎不全でも/BMJ

 微小粒子状物質(PM2.5)への短期曝露は、これまでほとんど知られていなかった敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全による入院リスクや入院日数、入院・急性期後治療費の大幅な増加と関連していることが判明した。すでに知られている、同曝露と心血管・呼吸器疾患、糖尿病、パーキンソン病などとの関連もあらためて確認され、それらの関連はPM2.5濃度が、世界保健機関(WHO)がガイドラインで規定する24時間平均曝露濃度未満の場合であっても一貫して認められたという。米国・ハーバード大学医学大学院のYaguang Wei氏らが、米国のメディケアに加入する高齢者約9,500万例のデータを解析した結果で、著者は「PM2.5への短期曝露が、経済的負担を少なからず増加していた」と述べ、WHOのガイドライン更新について言及した。BMJ誌2019年11月27日号掲載の報告。相互排他的214疾患群の入院リスク・コストとの関連を検証 研究グループは、2000~12年のメディケアにおける入院患者の支払請求データを基に、相互排他的214疾患群について、入院リスク・コストとPM2.5短期曝露との関連を調べる時間層別化ケースクロスオーバー解析を行った。対象は、出来高払い(fee-for-service)プランで入院医療を受けた65歳以上の9,527万7,169例。気象変数の非線形交絡作用を補正した条件付きロジスティック回帰分析で評価した。 主要アウトカムは、214疾患群の入院リスク、入院数、入院日数、入院・急性期後治療費、入院中の死亡により失われた統計的生命価値(=死亡を回避するためのコストを評価するために用いられる経済的価値)だった。敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全とも関連 PM2.5への短期曝露と入院リスクとの正の関連が、敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全といった、これまでに一般的だがほとんど検討がされていなかった疾患でも見つかった。 そのような正の関連は、心血管・呼吸器疾患、パーキンソン病、糖尿病、静脈炎、血栓性静脈炎、血栓塞栓症でも認められ、これまでの研究結果が再確認された。さらにこれらの関連は、WHOがガイドラインで規定するPM2.5の24時間平均曝露濃度を下回っている場合でも一貫して認められた。 これまでほとんど検討されていなかった疾患については、PM2.5への短期曝露1μg/m3増加が年間の、入院数2,050件(95%信頼区間[CI]:1,914~2,187)増、入院日数1万2,216日(1万1,358~1万3,075)増、入院・急性期後治療費3,100万ドル(2,400万ユーロ、2,800万ポンド)(ドルの95%CI:2,900万~3,400万)増、失われた統計的生命価値25億ドル(20億~29億)増とそれぞれ関連していた。 すでに知られていた疾患との関連については、PM2.5への短期曝露1μg/m3増加が年間の、入院数3,642件(95%CI:3,434~3,851)増、入院日数2万98日(1万8,950~2万1,247)増、入院・急性期後治療費6,900万ドル(6,500万~7,300万)増、失われた統計的生命価値41億ドル(35億~47億)増とそれぞれ関連していた。■「敗血症」関連記事敗血症、新規の臨床病型4つを導出/JAMA

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第21回 コンビニで価格を抑えながら野菜を増やすコツ【実践型!食事指導スライド】

第21回 コンビニで価格を抑えながら野菜を増やすコツ医療者向けワンポイント解説血糖値を考える上でも、健康的な食生活を考える上でも野菜の摂取は重要です。厚生労働省が策定した、「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の栄養・食生活では、成人の野菜の摂取について「平均350g以上を目標とする」と定めています。野菜を摂取することは、1)血糖値の上昇を緩やかにする、2)ボリュームを増し満足度を高める、3)噛む回数を増やす、4)ビタミンやミネラル、食物繊維の摂取を増やす、5)水分摂取量を増やすなど、さまざまな働きとメリットがあります。野菜を食事の最初に食べる「ベジファースト」も、食事療法ではお薦めしたい方法です。しかし、野菜は「調理が必要」「外食では価格が高め」「よく行くお店にあまりメニューがない」とハードルが高いと感じる方も多く、摂取量を増やすことに対し難易度が高い面があります。そこで今回は、コンビニで価格を抑えながら手軽に野菜を増やすコツについて解説をします。野菜摂取を増やす習慣を身に付けましょう。●カップスープにはトマトジュース(無塩)手軽な野菜としてトマトジュース(無塩)があります。コンビニやスーパーで手軽に購入でき、間食などの飲料として利用することも良いでしょう。トマトジュースが少し苦手という方は、食事への応用がお薦めです。カップスープやカップ麺などを食べる際、湯ではなくレンジで温めたトマトジュースを加えます。とろみや風味が増しておいしく、食べ応えのあるスープ、汁物が出来上がります。また、栄養バランスも単体のカップ麺などに比べ、整えることができます。そのほか、トマトジュースをヨーグルトや甘酒(それぞれ1:1がおすすめ)と組み合わせることでトマトの酸味が抑えられ風味豊かなドリンクになります。●冷凍野菜をうまく活用最近のコンビニでは冷凍野菜が充実しています。とくに多いのはブロッコリーやオクラ、ほうれん草などの緑黄色野菜です。コンビニのサラダや袋入りカット野菜では緑黄色野菜が比較的少ないため、冷凍野菜で緑黄色野菜をとることは有効な方法です。コンビニのメニューはしっかりと味が付いているものが多いため、冷凍野菜はそのまま合わせるだけで味のバランスを整えることができます。たとえば、購入してきたパスタや麺に冷凍野菜をのせ、そのままレンジで温めれば、野菜たっぷりパスタ・麺に変えることができます。そのまま混ぜれば味わいも十分楽しむことができ、サラダを買ってドレッシングをかけるよりも減塩につなげることができます。●おつまみ系を組み合わせる。コンビニの野菜は、「サラダを買う」ことをつい考えがちですが、お惣菜にも目を向けてみることが大切です。パック惣菜のほか、1食分に小分けにされた惣菜などもありバリエーションが豊富です。惣菜の野菜を組み合わせ、主食をパック入り米飯にしてみることもお薦めです。パック入り米飯は、雑穀入り、玄米入りなどバリエーションが豊富に揃っており、ここでも食物繊維をプラスすることができます。上記以外にも、袋入りカット野菜を利用する方法もあります。安価で、カットされた野菜が入っているため、そのままサラダとして食べられるほか、レンジで加熱して(温める際は袋を少し開けておく)野菜をしんなりさせてから、カップスープや麺類などに加えるのも一つの方法です。なかなか「野菜を増やすことができない」「食べる機会がない」「調理が面倒」という方には、こうした方法で野菜を食べる機会を作ってみてもらうことはいかがでしょうか?

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世界初の腎機能改善薬となるか?「Nrf2活性化薬」

抗酸化ストレス・抗炎症作用を有するNrf2活性化薬「バルドキソロンメチル」2型糖尿病に関連する慢性腎臓病(CKD)は、腎不全の主要な原因とされる。糖尿病性腎臓病(DKD)を含むCKDを放置すると、腎機能の低下とともに末期腎不全(ESKD)を来たし、慢性透析療法や腎移植を要する病態に至る。腎機能低下の進展には、酸化ストレスと炎症の双方が寄与するという。バルドキソロンメチルは、開発中のDKD治療薬であり、2018年3月、厚生労働省により「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されている。現時点で、糖尿病性腎症に適応のある薬剤(ACE阻害薬、ARBなど)は腎機能低下を遅延させるのみで、腎機能を改善する治療薬はない。バルドキソロンメチルは、体内のストレス防御反応において中心的な役割を担う転写因子 Nrf2(nuclear 1 factor (erythroid-derived 2)–related factor 2)を活性化する低分子化合物で、抗酸化ストレス作用と抗炎症作用により、腎機能を改善する可能性が示唆されている。これまでの検討で、推算糸球体濾過量(eGFR)の改善効果が確認されており、経過が長期にわたるため開発が困難であった腎機能改善薬の誕生となるか、関心を集めている。バルドキソロンメチルの国内第III相試験が進行中2013年に報告されたBEACON試験(国際共同第III相試験)1)では、2型糖尿病とStage 4のCKD(eGFR:15〜30mL/分/1.73m2)がみられる患者において、バルドキソロンメチル群とプラセボ群の比較が行われた。その結果、ESKDと心血管死の複合エンドポイントの発生率に差はなく、心不全による入院/死亡の発生率はバルドキソロンメチル群で高かったことから、本試験は早期中止となった。その一方で、バルドキソロンメチル群ではeGFRがベースラインから増加しており、プラセボ群に比べて有意に高いことが示された(差:6.4 mL/分/1.73m2、p<0.001)。また、バルドキソロンメチル群では、投与初期に体液貯留がみられる患者が多いことも明らかとなった。そこで、これらのリスク因子を除外基準に含めたTSUBAKI試験(国内第II相試験)が実施された。その結果、バルドキソロンメチルは主要評価項目であるステージ3患者での16週時点のGFRをプラセボに対して有意に改善(6.64mL/min/1.73m2、p=0.008)することが示された。これらの結果をふまえ、現在、DKD(CKDステージG3/G4)患者を対象としたプラセボ対照無作為化二重盲検比較試験AYAME試験(国内第III相試験)が進行中であり、2022年に終了が予定されている。バルドキソロンメチルへの期待バルドキソロンメチルによるGFR増加の機序は完全には明らかにされていないが、抗酸化ストレス作用と抗炎症作用による臓器保護効果は、DKD以外の疾患でも有益な可能性が示唆されている。現在、アルポート症候群(進行性遺伝性腎炎)患者を対象とする国際共同第2/3相試験(CARDINAL試験)や、結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症を対象とする国際共同第III相臨床試験が進行中だという。参考1)de Zeeuw D, et al. N Engl J Med. 2013; 369: 2492-503.

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脳卒中後、CVイベント抑制のためのLDL-C目標値は?/NEJM

 アテローム性動脈硬化が証明され、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)を発症した患者では、LDLコレステロール(LDL-C)の目標値を70mg/dL未満に設定すると、目標値90~110mg/dLに比べ、心血管イベントのリスクが低下することが、フランス国立保健医学研究所(INSERM)のPierre Amarenco氏らが行った「Treat Stroke to Target試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月18日号に掲載された。アテローム性動脈硬化に起因する虚血性脳卒中やTIAの患者では、スタチンを用いた強化脂質低下療法が推奨されている。一方、脳卒中発症後の心血管イベントの抑制におけるLDL-Cの目標値については、十分に検討されていないという。LDL-C目標値を70mg/dL未満とする群または90~110mg/dLとする群に割り付け 本研究は、フランスの61施設と韓国の16施設が参加した無作為化並行群間比較試験であり、2010年3月~2018年12月の期間に患者の割付が行われた(フランス連帯・保健省などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上(韓国は20歳以上)、直近3ヵ月以内に虚血性脳卒中または15日以内にTIAを発症し、脳血管または冠動脈のアテローム性動脈硬化が証明されている患者であった。 被験者は、LDL-C目標値を70mg/dL未満とする群(低目標値群)または90~110mg/dLとする群(高目標値群)に無作為に割り付けられ、スタチンまたはエゼチミブ、あるいはこれら双方による治療を受けた。 主要エンドポイントは、主な心血管イベント(虚血性脳卒中、心筋梗塞、冠動脈または頸動脈の緊急血行再建術を要する新たな症状、心血管死)の複合とした。 本試験は、主要エンドポイントが385例で発生するまで継続する予定のevent-driven試験であるが、運営上の理由で2019年5月26日に早期中止となった。この時点でイベントを発生していた277例について解析が行われた。LDL-C低目標値群と高目標値群の主要複合エンドポイント:8.5% vs.10.9% 虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作を発症した患者2,860例が登録され、LDL-C目標値を70mg/dL未満とする低目標値群に1,430例(平均年齢66.4±11.3歳、男性67.9%)、高目標値群にも1,430例(67.0±11.1歳、67.3%)が割り付けられた。 試験期間中に、LDL-C低目標値群65.9%、高目標値群94.0%がスタチンのみの投与を受け、それぞれ33.8%、5.8%はエゼチミブ+スタチンの投与を受けていた。追跡期間中央値2.7年の時点で、低目標値群30.3%、高目標値群28.5%が治療を中止していた。 ベースラインの平均LDL-C値は両群とも135mg/dL(3.5mmol/L)であった。追跡期間中央値3.5年の時点で、平均LDL-C値は、低目標値群が65mg/dL(1.7mmol/L)、高目標値群は96mg/dL(2.5mmol/L)に低下していた。 主要複合エンドポイントの発生率は、LDL-C低目標値群が8.5%(121/1,430例)と、高目標値群の10.9%(156/1,430例)に比べ有意に低かった(補正後ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.61~0.98、p=0.04)。 主要複合エンドポイントのイベントの多くは非致死的脳梗塞または原因不明の脳卒中(低目標値群5.7%、高目標値群7.0%)であり、これに比べると、心血管死(1.2%、1.7%)、非致死的急性冠症候群(1.0%、1.6%)、緊急冠動脈血行再建術(0.3%、0.4%)、緊急頸動脈血行再建術(0.2%、0.2%)の頻度は低かった。 副次エンドポイント(心筋梗塞または緊急冠動脈血行再建術、脳梗塞または頸動脈/脳動脈血行再建術、脳梗塞またはTIA、血行再建術[頸動脈、冠動脈、末梢動脈]、死亡、脳梗塞または頭蓋内出血、頭蓋内出血、新規に診断された糖尿病)は、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。このうち、頭蓋内出血(1.3%、0.9%)と糖尿病(7.2%、5.7%)の発生率は低目標値群で高い傾向がみられたが、他の項目は低目標値群で低い傾向が認められた。 著者は、「韓国は患者登録の開始がフランスよりも遅く、追跡期間中央値はそれぞれ2.0年および5.3年と差があり、韓国人患者では有意な効果の検出力はない可能性がある」とし、「今回の試験結果の解釈では、試験の早期中止を考慮する必要がある」と指摘している。

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第4回 動脈硬化で死なないためには?【今さら聞けない心リハ】

第4回 動脈硬化で死なないためには?今回のポイント心血管疾患患者にとって、食習慣の改善は運動と同様に大切画一的な指導ではなく、病状に応じた栄養指導が重要動脈硬化疾患の予防には〇〇を断つべし!?動脈硬化予防に良い食事とは?本連載の第1~3回では、主に運動療法について書きましたが、今回は心疾患患者に対する栄養指導についてお話します。心臓リハビリテーション(以下、心リハ)において、心疾患患者は何を食べるべきか(あるいは何を食べないべきか)ということは、実は運動と同じくらい、あるいはそれ以上に大切と考えられています。わが国の心血管疾患の治療ガイドラインには、食事についての記載はほとんど認められません。わずかに、減塩や適正なカロリーの摂取についての記載があるのみです。一方、米国のガイドラインではかなり多くのページが食事・栄養に割かれており、総説や論文も多数、毎年のように出されています。日本がフィットネス後進国と言われていることは第1回でも話しましたが、実は運動だけではなく食事についても関心のある医師が少ない状況です。高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満などの生活習慣病の発症は、運動不足も関係しますが、食事が最も重要であるのは自明のことです。運動不足でも、食べなければ太れません。それでも、食事の根本的改善のないままに、各管理目標値を目指して薬物治療が開始されることが多いのではないでしょうか。では、動脈硬化の予防には実際どのような食事をとれば良いのでしょう。避けるべき食品はなんでしょうか。動脈硬化は、食事と運動だけでも改善できるのでしょうか?徹底的な食事療法と運動療法により冠動脈のプラーク(動脈硬化病変)が退縮することを実際に示した有名な臨床研究があります。カリフォルニア大学のOrnish氏らが1998年のJAMA誌に発表したもので、Ornish氏とその関係者は、現在もカリフォルニアを拠点にこの研究で示された有効性をもとに食事・運動療法の啓発活動を続けています。この研究では、中~高度の冠動脈疾患患者を「徹底的な食事療法・運動療法を行う介入群:28例」と、「ガイドラインで推奨されるレベルの食事療法・運動療法を行う対照群:20例」にランダムに割り付けし、冠動脈造影検査による冠動脈狭窄率の変化を5年間追跡しました。徹底的な食事療法とは、ホールフード・ベジタリアンダイエット、つまり未加工の野菜中心に油脂を使わず少ない調味料で調理するもので、脂質が占めるエネルギー量は全体の10%未満と非常に少ないものでした。また、介入群では食事療法とともに週5時間の有酸素運動を実施しました。一方、対照群でも食事中の脂質は30%未満に抑えられ、週3時間程度の有酸素運動を実施しました。1年後、介入群では37%の血清LDLコレステロール低下を認めるとともに評価部位の冠動脈の平均狭窄率が40%から37.8%に改善したのに対して、対照群ではLDLコレステロールは6%低下したものの、冠動脈の平均狭窄率は42.7%から46.1%に悪化しました。その後、対照群では過半数の患者において脂質異常症治療薬の内服が開始されましたが、5年後の両群の冠動脈狭窄率差はより顕著でした(介入群:37.3%、対照群:51.9%)。後に、同氏らはこのプログラムを冠動脈疾患の進行抑制だけではなく改善させるものとして、Intensive Cardiac Rehabilitation(包括型心リハ)と名付けています(図1)。(図1)画像を拡大するこの研究データには説得力があり、すでに1,854もの論文で引用されています(2019/11/21時点)。私の知る限り、ほかにはこのように明確に食事・運動療法の動脈硬化改善効果を示した研究はありません。Ornish食を続けるコツと適した人ホールフード・ベジタリアンダイエットは、いわゆる高血圧研究で有名なDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食とは異なり、乳製品や魚すらとりません。DASH食でさえ毎日続けるのは難しそうと感じた方には、よりハードルが高そうですが、研究に参加した患者の7割以上が、5年間この食事療法を継続できたようです。同氏によると、継続率が高いのは、これを実践した患者が速やかに自覚症状の改善を感じたからだそうです。ホールフード・ベジタリアンダイエットを本気で実践しようとすると、あれもこれも食べられませんし、それを理想と考えるなら、通常の入院食も不適切な食事です。それに、野菜は高いし調理も面倒…さまざまな事情により、実践を諦める人が多いでしょう。多くの患者にとって、同氏らの研究の中で対照群が実施したような、脂質30%未満という通常の診療で推奨されている一般的な食事療法が、許容できるぎりぎりのレベルかもしれません(一般的な食事療法でも、きっちりと指導を受け、さらに実践できている患者は多くないと思われます)。ただし、同氏の研究はあくまで中年の肥満型冠動脈疾患患者を対象にしたものであり、日本で診療する患者の多数派である高齢者を対象としていないことに注意が必要です。高齢の心疾患患者では低栄養のことも多く、そもそも野菜をかむ力すら衰えてしまっているようなオーラル・フレイルの患者も多いので、多量の野菜を摂取する必要のあるOrnish食は適応にならないでしょう。画一的な指導ではなく、患者の病状や生活環境に応じた指導が必要です。高齢の心疾患患者の場合には、少量でもしっかりとカロリーやタンパク質を補うことができるような食事のメニューを組む必要があります。これについては、第5回で詳しく説明しましょう。動脈硬化予防に食べてはいけない物最後に、“何を食べてはいけないか”―最近JACCで発表された心血管疾患予防のための栄養に関する臨床ガイドの記事を紹介します。ここでは、避けるべき食品、積極的に摂取すべき食品についてのリストとともに、詳細に記述されています。この臨床ガイドの中で、避けるべき食品としてまず挙げられているのが、「砂糖」。とくに果糖ブドウ糖液糖をはじめとする合成糖類です。砂糖の1日摂取量上限は25gまで、合成糖類は基本とらない、甘い飲料は飲んではいけないことが、エビデンスとともに記されています。詳しくリストを確認したい方は、原著をお読みください。塩のとり過ぎは高血圧を発症させるので減塩が大切ということは広く知られていますが、砂糖のとり過ぎに気を付けることも大事なのですね。ちなみに、私は甘いお菓子が大好きです。こうした情報を知ってからは、なるべく気を付けるようにしています…が、さっき頂き物のクッキーの小袋を食べてしまいました(汗)。徹底的な食事療法の実践は、なかなか難しいですね。「moderation kills」という言葉がありますが、よほどの決心がつかないと、「なるべく気を付ける」くらいの食事療法で満足してしまいそうです。読者の皆さまは、いかがでしょうか?<Dr.小笹の心リハこぼれ話>医師による栄養指導と真の対価心リハのメインは運動、食事は重要だけれど補助的役割。運動処方は医師がチェックするけれど、栄養指導は管理栄養士任せ…。心リハに携わり始めた頃は、正直、栄養については知識不足でした。そのため、患者さんに聞かれても、「塩分に気を付けてバランスの良い食事をとりましょう、具体的には栄養指導で聞いてくださいね」という、間違ってはいないものの何にも具体性がないことしか言えませんでした。現在、医学部には栄養学の講義はほとんどありません。栄養指導は管理栄養士任せという医師は多いと思われます。しかし、長年心リハで患者指導をするうちに、運動だけではだめなんだ、と気付かされるようになりました。毎日2時間も速歩でウォーキングしていてもHbA1cが8%を下回らない糖尿病患者さん、外来心リハに週3回通い、かつ自宅でも指導通り運動しているのに体重がまったく変わらないどころか逆に増えるような肥満患者さん。これらの患者さんたちは、明らかに食事に問題があるのです。今では、心リハの患者さんの栄養指導も管理栄養士にすべてお任せではなく、管理栄養士と一緒に個々の症例について介入ポイントを話合っています。それにしても、運動だけではなく、栄養指導や心リハで重要な心理ケア(ストレスマネジメントプログラム:SMP)について、1回1時間の心リハで行うことは時間的にかなり厳しいものがあります。今回紹介したOrnish氏の心リハプログラムは、米国で保険適応とされています。通常の心リハプログラムが1回1時間、週3回、12週間(合計36時間)の運動を中心としたものであるのに対して、包括型心リハでは1回4時間で運動、栄養指導、SMPを各1時間、そして残りの1時間がグループでの対話セッションで構成され、週2回、9週間(合計72時間)というもののようです(図1)。このような心リハを日本で実践するには、診療報酬制度の見直し、そして心リハを支えるマンパワーが必要です。日本でIntensive Cardiac Rehabilitation(包括型心リハ)を実現するには、今以上にコストがかかるということですね。でも、その投資は、冠動脈疾患の再発や悪化によりPCIやCABGなどの血行再建術を実施するコストに比べたら、十分価値があるのではないでしょうか。何より、患者さんにとっては疾患の再発や悪化がないことこそがHappyですよね!

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DPP-4阻害薬の心血管安全性はSU薬と同等(解説:吉岡成人氏)-1146

 DPP-4阻害薬であるリナグリプチンの心血管アウトカムに関する試験として、プラセボを対照として非劣性を示したCARMELINA(Cardiovascular and Renal Microvascular Outcome Study With Linagliptin)試験の結果がすでに報告されている(Rosenstock J, et al. JAMA. 2019;321:69-79.)。今回、SU薬であるグリメピリドを対照として心血管アウトカムについて検証したCAROLINA(Cardiovascular Outcome Study of Linagliptin Versus Glimepiride in Patients With Type 2 Diabetes)試験の結果が、JAMA誌に掲載された(Rosenstock J, et al. JAMA. 2019 Sep 19. [Epub ahead of print])。 心血管疾患の既往ないしは心血管リスクを有する2型糖尿病で、未治療ないしはメトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬のいずれかまたは併用で治療されているHbA1c 6.5~7.5%の患者を対象としている。リナグリプチン投与群とグリメピリド投与群をランダムに割り付け、3ポイントMACE(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合)の初発までの期間を主要評価項目として、中央値で6.3年間にわたって追跡したものである。 3ポイントMACEはリナグリプチン群、グリメピリド群ともに2.1/100人・年で、グリメピリドに対するリナグリプチンの非劣性が示されたものの、優越性は認められなかった。全死亡、非心血管死のリスクに対しても両群で差はなかった。試験期間を通じて、脂質プロフィールや血圧に差はなく、低血糖の発現頻度はリナグリプチン群2.3/100人・年、グリメピリド群11.1/100人・年であり、リナグリプチン群で有意に少なかった(HR:0.23、95%信頼区間:0.21~0.26)。第三者の助けが必要な重症低血糖はグリメピリド群で0.5/100人・年、リナグリプチン群で0.1/100人・年であった。 罹病期間6.3年(中央値)、メトホルミンが83%に投与されている2型糖尿病患者で、心血管疾患のリスク軽減のためにアスピリン50%、スタチン64%、RA系阻害薬75%、降圧薬88%と比較的十分な薬物治療が行われている場合には、DPP-4阻害薬を投与してもグリメピリドに勝る心血管安全性が示されなかったことが確認された。 日本においてDPP-4阻害薬は糖尿病患者の半数以上に広く用いられており、インクレチンを介した心血管保護作用も期待されている。しかし、スタチンやRA系阻害薬など心血管疾患のリスクを軽減することが十分に立証された薬剤で治療されている患者にとって、相加的な心血管保護作用を示すかどうか、慎重に見極めなくてはいけない。

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低用量コルヒチン、心筋梗塞後の虚血性心血管イベントを抑制/NEJM

 低用量コルヒチンは、心筋梗塞患者における虚血性心血管イベントのリスクをプラセボに比べ有意に低減することが、カナダ・モントリオール心臓研究所のJean-Claude Tardif氏らが行ったCOLCOT試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月16日号に掲載された。炎症は、アテローム性動脈硬化およびその合併症において重要な役割を担うことを示す実験的および臨床的なエビデンスがある。コルヒチンは、イヌサフランから抽出された抗炎症作用を有する経口薬で、痛風や家族性地中海熱、心膜炎の治療に使用されている。発症後30日以内の心筋梗塞の無作為化試験 本研究は、12ヵ国167施設が参加した医師主導の二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、2015年12月~2018年8月の期間に患者登録が行われた(カナダ・ケベック州政府などの助成による)。 対象は、登録前の30日以内に心筋梗塞を発症し、経皮的血行再建術を受け、強化スタチン治療を含む国のガイドラインに準拠した治療を受けている成人患者であった。 被験者は、低用量コルヒチン(0.5mg、1日1回)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、心血管死、心停止からの蘇生、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院の複合とした。主要複合エンドポイント:5.5% vs.7.1% 4,745例が登録され、コルヒチン群に2,366例、プラセボ群には2,379例が割り付けられた。追跡期間中央値は22.6ヵ月だった。 ベースラインの全体の心筋梗塞発症後平均期間は13.5日、平均年齢は60.6歳、女性が19.2%であった。また、20.2%が糖尿病を有し、93.0%が心筋梗塞に対し経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けており、98.8%がアスピリン、97.9%が他の抗血小板薬、99.0%がスタチンの投与を受けていた。 主要複合エンドポイントの発生率は、コルヒチン群が5.5%と、プラセボ群の7.1%に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.61~0.96、p=0.02、log-rank検定)。 主要複合エンドポイントの構成要素のうち、心血管死(コルヒチン群0.8% vs.プラセボ群1.0%、HR:0.84、95%CI:0.46~1.52)、心停止後の蘇生(0.2% vs.0.3%、0.83、0.25~2.73)、心筋梗塞(3.8% vs.4.1%、0.91、0.68~1.21)の発生率には両群間に有意な差は認められなかったが、脳卒中(0.2% vs.0.8%、0.26、0.10~0.70)と血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院(1.1% vs.2.1%、0.50、0.31~0.81)の発生率はコルヒチン群で有意に低かった。 副次複合エンドポイント(心血管死、心停止後の蘇生、心筋梗塞、脳卒中)(コルヒチン群4.7% vs.プラセボ群5.5%、HR:0.85、95%CI:0.66~1.10)および有効性の探索的エンドポイントである死亡(1.8% vs.1.8%、0.98、0.64~1.49)、深部静脈血栓症/肺塞栓症(0.4% vs.0.3%、1.43、0.54~3.75)、心房細動(1.5% vs.1.7%、0.93、0.59~1.46)の発生率には、両群間に有意な差はみられなかった。 治療薬関連の有害事象は、コルヒチン群が16.0%、プラセボ群は15.8%で認められた。重篤な有害事象はそれぞれ16.4%、17.2%でみられた。消化器イベントの頻度が高く(コルヒチン群17.5%、プラセボ群17.6%)、そのうち下痢がコルヒチン群で9.7%、プラセボ群で8.9%(p=0.35)、悪心がそれぞれ1.8%、1.0%(p=0.02)で発現した。 著者は、「主要複合エンドポイントの改善は、主に脳卒中と血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院の発生率の低下によってもたらされた」としている。

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新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと(2)【新型タバコの基礎知識】第13回

第13回 新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと(2)Key Pointsなぜ新型タバコに関心を持ったのか、その背景にある事情を尊重する。多くの人は、自分および他人へのタバコの害に配慮して、アイコスなど加熱式タバコを使うようになっている。新型タバコにより害を軽減することができるとの科学的根拠は得られていない。いま一度、すべてのタバコをやめるという選択肢を提示したい。タバコを吸いにくい場所で吸うために、新型タバコに替えようとしている人もいる。その場合には、新型タバコのせいで、ニコチン依存症から逃れることがより困難になることを伝える。禁煙支援の現場でも新型タバコが問題になっています。世の中では新型タバコを吸っている人が急増しているわけですが、新型タバコに関してそれぞれの診療の場にノウハウがあるわけでもなく、どのように対応すればよいのか混乱が起きている状況です。「加熱式タバコを吸おうかと考えている人へ伝えたい、伝えてほしいこと」を書かせてもらう前に、人々がどういう理由で新型タバコを使うようになっているのかについて先にお伝えしたいと思います。インターネット調査*1を実施して、どんな理由で加熱式タバコを使っているのかについて調べました。質問文と選択肢は次の通りです:「あなたが、加熱式タバコを使用した理由として次の1~9は、あてはまりますか。それぞれについてお答えください。1.家族・親戚が使っているから2.友人・知人が使っているから3.加熱式タバコで仲間とコミュニケーションをとるため4.ほかのタバコよりも害が少ないと思ったから5.加熱式タバコのデザインや機能がよかったから6.禁煙するため7.タバコの煙で他人に迷惑をかけるのを避けるため8.ほかのタバコが吸えない場所で吸うため9.喫煙本数を減らすため選択肢1.あてはまる2.ややあてはまる3.あまりあてはまらない4.あてはまらない※1~9のそれぞれの項目について「あてはまる」もしくは「ややあてはまる」と回答した場合に、その理由で加熱式タバコを使っていると判定した。調査結果を集計したのが下記の表です。2018年の調査時に加熱式タバコを吸っていた680人のうち、60.6%の412人が加熱式タバコを使用した理由として「ほかのタバコよりも害が少ないと思ったから」と回答していました。これが最も多い理由でした。次に多かった理由は「タバコの煙で他人に迷惑をかけるのを避けるため」であり、その次に多い理由が「友人・知人が使っているから」でした。多くの人は、自分および他人へのタバコの害に配慮して、アイコスなど加熱式タバコを使うようになっていると分かりました。一方で、30%程度の人は「ほかのタバコが吸えない場所で吸うため」と答えていました。それぞれの人が新型タバコを使っている理由というのは非常に重要な情報であり、各個人における新型タバコへの対処方法をどうするのがよいかという、これからお伝えする話と密接に関連しています。*1:このインターネット調査は、通称JASTIS研究と呼ばれる2015年から毎年およそ1万人を対象として実施されている追跡調査です。加熱式タバコの使用状況を世界で初めて報告した研究など、新型タバコに関する最新の研究成果がこの研究プロジェクトから発信されています。参考文献:Tabuchi T, et al. J Epidemiol. 2019 Nov 5;29:444-450.画像を拡大する加熱式タバコを吸おうかと考えている人へ伝えたいこと、伝えてほしいことまず聴いてみてほしいのは、なぜ新型タバコを吸おうと思っているか、です。「あなたが新型タバコに関心を持っていることを、まずは尊重したいと思っている」ということを伝え、その関心の背景にある事情をちゃんと聴きたいと伝えます。タバコを吸っている人が新型タバコに関心を持つ理由は、上述したように主に2つあります。1つは、自分の健康被害やほかの人への受動喫煙の害に配慮して、禁煙する代わりに加熱式タバコに替えるという理由です。非常に多くの人がこういった理由で加熱式タバコにスイッチしていっています。私は、自分やほかの人へのタバコの害に配慮しようとしてくれていることを尊重したいと考えています。まずは、タバコの害を理解していただき、ありがとうございます、と伝えたい。しかし、実際にスイッチする前に考えてほしいことがあります。スイッチする代わりに、完全にタバコをやめることはできないでしょうか。紙巻タバコをせっかくやめるのですから、すべてのタバコをやめてしまって、禁煙のすばらしいメリットを享受してほしいです。さらに、スイッチする理由としてあげた目的がスイッチすることで本当に達成できるかどうかが分かっていません。新型タバコを吸う人での健康被害は紙巻タバコによる害と変わらない可能性があると考えています(第7回参照)。未知の健康リスクもあります(第6回参照)。そして新型タバコを吸ったら、紙巻タバコをやめることができるかどうかも、まだ分かっていません(第10回参照)。新型タバコに替えることで、受動喫煙を減らすことはある程度できるかもしれません(第8回参照)。タバコを吸っている人が新型タバコに関心を持つもう1つの理由は、タバコを吸いにくい環境も増えてきたため、吸いにくい場所でも吸えるように新型タバコに替えようというものです。この理由で新型タバコを吸おうとしている人は、より多くの機会に吸うことができるようになり、結果的に新型タバコのせいで、ニコチン依存症から逃れることがより困難になってしまいます。世の中にはニコチンの害はたいしたことないと伝える人もいますが、ニコチンは幸せを感じる大切な感覚を奪っていることを知ってほしいです(第9回参照)。また、この2つめの理由で新型タバコを吸おうとしている人には、紙巻タバコもやめるということについていま一度考えてみてほしいと思っています。当然のことですが、本人がやめる気になれなければ、禁煙はできません。いつかタバコをやめたいと思ってもらえるように、タバコ問題に関する本人の理解や環境の整備が進むよう、少しずつでも支援していくことが大切だと感じています。さらにタバコが値上げされたり、職場や家庭が禁煙化されるなどタバコを取り巻く環境を変えることができれば、タバコをやめる動機にしていくことができるかもしれません。第14回は、「新型タバコを吸っている患者に伝えたいこと(3)」です。

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赤肉摂取減らしても心血管代謝・がん死亡に効果なし?

 赤肉の摂取量を減らした場合、臨床的に重篤なアウトカムに効果があるかどうかを検討した無作為化研究はほとんどない。今回、カナダ・McMaster大学のDena Zeraatkar氏らの無作為化研究の系統的レビューから、エビデンスの確実性は低いが、赤肉を制限した食事が主な心血管代謝アウトカムとがん死亡および発症に対して、ほとんどまたはまったく影響しない可能性が示唆された。Annals of Internal Medicine誌オンライン版2019年10月1日号に掲載。 EMBASE、CENTRAL、CINAHL、Web of Science、ProQuestを開始から2018年7月まで、MEDLINEを開始から2019年4月まで、言語の制限なしで検索し、赤肉または加工肉の多い食事と少ない食事(6ヵ月以上、週に1サービング以上の差)による無作為化比較研究を特定した。2人のレビューアーが独立してデータを抽出し、バイアスリスクとエビデンスの確実性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たした12試験のうち、4万8,835人の女性を登録したWomen's Health Initiative(WHI)Dietary Modification Trialから、赤肉または加工肉が少ない食事が全死亡(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.95〜1.03])、心血管死亡(HR:0.98、95%CI:0.91〜1.06)、心血管疾患発症(HR:0.99、95%CI:0.94〜1.05)について、ほとんどまたはまったく影響しない可能性があるという、最も信頼できるエビデンスが得られた(エビデンスの確実性は「low」)。・さらに上記の研究から、赤肉または加工肉が少ない食事はがん死亡(HR:0.95、95%CI:0.89〜1.01)、大腸がん発症(HR:1.04、95%CI:0.90〜1.20)および乳がん発症(HR:0.97、95%CI: 0.90〜1.04)を含むがん発症にほとんどまたはまったく影響しないというエビデンスも得られた(エビデンスの確実性は「low」から「very low」)

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新規作用機序のimeglimin、インスリン併用下の有効性・安全性

 2型糖尿病の新規治療薬候補として期待されるimegliminは、ミトコンドリアの機能障害改善という新しいメカニズムを持つ。現在、本剤の開発を手掛けるフランスのバイオ医薬品企業Poxel SA(以下、Poxel社)は、大日本住友製薬と共同で、日本人1,100例以上を対象とした3つの第III相臨床試験で構成される「TIMES試験」(Trials of IMeglimin for Efficacy and Safety)を実施中だ。 2019年11月26日、Poxel社は、TIMES3試験における、非盲検下36週間継続投与試験の結果を公表した。 TIMES3試験は、インスリン製剤を使用しても効果不十分な日本人2型糖尿病患者を対象に、imeglimin 1,000mgを1日2回およびインスリン製剤の併用療法による有効性および安全性を検討する16週間のプラセボ対照二重盲検無作為化試験と、それに続く36週間の非盲検・継続投与試験である。主要評価項目は、HbA1cのベースラインからの変化量。 前半の、imeglimin群とプラセボ群で比較した16週間のHbA1c変化量は、統計学的な有意差を示したことがすでに報告されている(‐0.60%、p<0.0001)。今回新たに報告された内容は、後半の36週継続投与試験について。 主な結果は以下のとおり。・前半の16週から継続して、imegliminおよびインスリンを計52週間併用した群におけるHbA1cの変化量は、ベースラインから‐0.64%だった。・前半の16週はプラセボを服用し、その後imegliminおよびインスリンを36週間併用した群では‐0.54%だった。・imegliminの安全性および忍容性は、52週間全体を通して良好だった。・最初の16週間で、imeglimin群において発現した有害事象は、プラセボ群と類似しており、36週間継続投与試験における安全性および忍容性プロファイルも、それらの結果と一貫していた。 Poxel社は、近日中にTIMES3試験の全データを関係学会で発表する。現在継続中のTIMES2試験(日本人2型糖尿病患者を対象としたimeglimin単剤療法および他の経口血糖降下剤との併用療法による長期安全性および有効性を検討する52週間、非盲検並行群間比較の第III相臨床試験)の結果は、2019年末に判明する予定だ。

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2型DMの腎機能維持、ビタミンDとオメガ3脂肪酸の効果は?/JAMA

 2型糖尿病患者において、ビタミンD3あるいはオメガ3脂肪酸の補給は、プラセボと比較し、5年時の推定糸球体濾過量(eGFR)のベースラインからの変化に有意差は認められないことが示された。米国・ワシントン大学のIan H. de Boer氏らが、「Vitamin D and Omega-3 Trial:VITAL試験」の補助的研究として実施した2×2要因デザイン無作為化臨床試験の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「腎機能維持のためのビタミンDまたはオメガ3脂肪酸サプリメントの使用は支持されないことが示された」と述べている。慢性腎臓病(CKD)は2型糖尿病でよくみられる合併症で、末期腎不全につながり心血管高リスクと関連があるが、2型糖尿病でCKDを予防できる治療はほとんどないとされている。JAMA誌オンライン版2019年11月19日号掲載の報告。約1,300例で、ビタミンD3とオメガ3脂肪酸の有効性をeGFRの変化で評価 研究グループは、2011年11月~2014年3月の期間に全米50州から募集した2型糖尿病患者1,312例を、ビタミンD3(2,000 IU/日)+オメガ3脂肪酸(エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸:1g/日)群370例、ビタミンD3(+プラセボ)群333例、オメガ3脂肪酸(+プラセボ)群289例、プラセボ群320例のいずれかに無作為に割り付け、5年間毎日投与した。 主要評価項目は、血清クレアチニンとシスタチンCから算出したeGFRのベースラインから5年時までの変化とした。5年後のeGFR変化量、プラセボと有意差なし 無作為化された1,312例(平均年齢67.6歳、女性46%)のうち、934例(71%)が試験を完遂した。ベースラインのeGFRは85.8(SD 22.1)mL/分/1.73m2であった。 5年時におけるeGFRのベースラインからの平均変化は、ビタミンD3群で-12.3mL/分/1.73m2(95%信頼区間[CI]:-13.4~-11.2)、対するプラセボ群で-13.1mL/分/1.73m2(95%CI:-14.2~-11.9)(群間差:0.9mL/分/1.73m2、95%CI:-0.7~2.5)であった。同様に、オメガ3脂肪酸群で-12.2mL/分/1.73m2(95%CI:-13.3~-11.1)、プラセボ群で-13.1mL/分/1.73m2(95%CI:-14.2~-12.0)(群間差:0.9mL/分/1.73m2、95%CI:-0.7~2.6)であり、2つの介入に有意な相互作用は確認されなかった。 有害事象は、腎結石が58例(ビタミンD3群32例、プラセボ群26例)、消化管出血が45例(オメガ3脂肪酸群28例、プラセボ群17例)発生した。

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メトホルミンとDPP-4阻害薬との早期併用療法の有効性は実証されたか?(解説:住谷哲氏)-1144

 2型糖尿病患者には程度の差はあるがインスリン抵抗性とインスリン分泌不全の両者が存在する。したがって病態生理学的にはその両者に早期から介入する薬物療法が、その一方だけに介入する薬物療法よりも血糖管理においてより有効であることは理解しやすい。血糖降下薬の有効性を評価する指標はいくつもあるが、どれだけ長期間にわたってHbA1cを<7.0%に維持可能であるかを示すdurabilityもその1つである。インスリン抵抗性改善薬であるメトホルミンとインスリン分泌不全改善薬のDPP-4阻害薬であるビルダグリプチンを診断直後から併用することが(early combination therapy:早期併用療法)、メトホルミン単剤で治療を開始して血糖コントロールが維持できなければビルダグリプチンを併用する段階的治療(sequential metformin monotherapy:段階的治療)に比較してdurabilityを延長できるか否かを検討したのが本試験である。 本試験は試験デザインが複雑で、かつ治療失敗treatment failureという見慣れないエンドポイントが設定されているので論文を一読するだけでは内容を容易に理解しがたい。試験に組み込まれたのは2型糖尿病診断後2年以内、未治療(メトホルミン使用4週間以内は許容されている)、HbA1c 6.5~7.5%の初回治療患者である。3週間のrun-in期間でメトホルミンを1,500mgまで増量を試みて、メトホルミン1,000mg以上服用できた患者のみ無作為化された。つまり本試験は最初から併用療法で治療を開始するinitial combination therapyではない。2,001例の患者が早期併用療法群(メトホルミン1,000mg+ビルダグリプチン50mg x 2)と段階的治療(メトホルミン1,000mg+プラセボ x 2)の2群に1対1に振り分けられた。すべての患者で無作為化後の4週間にメトホルミンは2,000mgまで増量が試みられた。患者は13週ごとに受診したが、HbA1c 7.0%以上が連続した2回の受診で認められた場合にその時点で治療失敗と定義された。主要評価項目は1回目の治療失敗までの時間(period 1)とした。2回目の治療失敗までの時間(period 2)は副次評価項目とされた。段階的治療は1回目の治療失敗後にメトホルミン+ビルダグリプチンの併用療法に移行した。つまりperiod 2の治療法は両群で同一となっている。試験観察期間が予定より短くなることの多いevent-driven型の心血管アウトカム試験とは異なり、すべての患者は無作為化後5年にわたり観察された。 試験開始5年後の主要評価項目のイベント発生率は段階的治療が62.1%、早期併用療法が43.6%であった。別の表現にすると50%の患者が1回目の治療失敗に至るまでの時間(median observed time to treatment failure)が段階的治療では36.1ヵ月、早期併用療法では61.9ヵ月(これはカプランマイヤー曲線からの推定値である)、つまり早期併用療法において段階的治療に比較してdurabilityが約2年延長したことになる。副次評価項目のイベント発生率は本文に記載がないが、Figure 3Bのグラフから読み取ると多く見積もって段階的治療が45%、早期併用療法が35%であった。 以上の結果をどのように解釈したら良いのだろうか? period 1で検討されたdurabilityは早期併用療法で約2年延長することが証明された。しかし段階的治療のイベント発生率は62.1%であり、約40%の患者はメトホルミン単剤のみで5年間HbA1c<7.0%を維持できたことになる。さらに実臨床でより重要なのは、治療失敗する前から併用する早期併用療法と、メトホルミン単剤で開始して治療失敗した後に併用する段階的治療とを比較した副次評価項目である。その差はわずかに10%であり、単純にいえば90%の患者はどちらの治療法でも結果は同じだったことになる。しかしこの点についても解釈に注意が必要である。実臨床で併用療法に移行する、言い換えればメトホルミンに他の血糖降下薬を追加するのは容易でないのに対して、本試験では1回目の治療失敗患者はすべて併用療法に移行している点である。したがってリアルワールドにおける両群の差が10%以上になる可能性は十分にある。 2型糖尿病治療においてもclinical inertiaの重要性が強調されている。しかしあらゆる治療にはbenefitとharmがある。天秤の皿の一方に載せるのがclinical inertiaとすればもう一方の皿に載せるべきはovertreatmentであろう。もしすべての患者に早期併用療法を実施したとすると、本試験の結果によればその中の約40%の患者は不要な治療、すなわちovertreatmentを受けたことになる。本試験はclinical inertiaとovertreatmentとのバランスの重要性をVERIFYした試験といっても良いだろう。(12月2日 一部記事内容を修正いたしました)

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全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019、本邦で初めて発刊

 2019年10月、日本初の『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』が発刊された。全身性エリテマトーデス(SLE)はさまざまな全身性疾患を伴うため、治療の標準化が困難であったことからガイドラインの作成着手までに時間を要してきた。全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019は専門医を対象とし、SLEの臨床的多様性に対応する総合的なガイドラインとして作成されている。 サノフィ株式会社は2019年10月30日、メディアラウンドテーブル「本邦初の全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン発行~SLE診療の現在 医師と患者の立場から~」を開催。全身性エリテマトーデス診療ガイドライン統括委員会の委員長を務めた渥美 達也氏(北海道大学大学院医学研究院免疫・代謝内科学教室 教授)が「SLE診療の標準化~全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン~」について講演した。会の後半では患者代表の後藤 眞理子氏(全国膠原病友の会神奈川県支部 支部長)を交えてトークセッションが行われた。臨床的多様性が強い疾患、全身性エリテマトーデスの治療目標 高血圧症は血圧を下げる、糖尿病は血糖値を下げるなど治療目的が非常に明確である。一方、全身性エリテマトーデスは多様な臓器病変を呈する症候群であることから、症状の出方や治療ゴールが個々によって異なり、ガイドラインの作成自体が困難を極めていた。また、これまでの治療では全身性エリテマトーデスの非可逆的な臓器病変やグルココルチコイドの長期大量投与に伴う合併症によって患者の生活の質の低下が問題になっていた。このことから渥美氏はガイドライン作成の前提条件について「“SLEの社会的寛解の維持”を治療目標に設定」とコメント。加えて、「患者さんにとって、生活活動を維持してもらうことが重要。とくに若年女性の労働生産性を落とさず家庭への生活ウェイトも置けるよう、患者の多様性を考慮したモニタリング項目が記載されている」とも説明した。 この“社会的寛解の維持“という定義については、「子供の運動会に参加するなど、自分の生活目標が達成されること。総合指標やそれぞれの臓器についての寛解を評価することが目的」と渥美氏は語った。全身性エリテマトーデス診療ガイドラインの日本と海外の違いは? 米国や欧州では2012年頃から全身性エリテマトーデスの臓器病変からループス腎炎を切り出したガイドラインなどが発刊され、日常臨床に用いられてきた。2018年には英国リウマチ学会がガイドラインを発刊、症状の時期や重症度が表で示されており利便性がある。その反面で「NHS(National Health Service:国営医療サービス)のためのガイドラインであるため、作成目的が医療費の償還である」と、海外ガイドラインの怖い側面について指摘した。 日本の全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019はこれとは異なり、さまざまな医療に対応でき、世界で1つの全身性エリテマトーデス診療アルゴリズムが盛り込まれている点が特徴的である。このアルゴリズムには二次療法の記載がなく、初回療法で寛解に入らない場合は三次治療に進む。これについて同氏は「初回療法はエビデンスがあるのに対し、二次治療としてのエビデンスが少ないため」とコメントした。このほか、推奨の強さは3段階に設定、重症度分類は英国GLに準じ、 軽症・中等症・重症に区分される。さらに、システマティックレビュー(腎炎、神経精神病変、皮膚病変、血液病変)またはナラティブレビューに基づく推奨文とその合意度も参照可能である。 全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019の制作は厚生労働省の自己免疫研究班SLE分科会と日本リウマチ学会による共同作業で、日本臨床免疫学会、日本腎臓学会、日本小児リウマチ学会、日本皮膚科学会の協力を得ている。全身性エリテマトーデス診療ガイドラインでは治療ゴールを明確にした 続いて、渥美氏と後藤氏によるトークセッションが行われた。後藤氏は「全身性エリテマトーデスの症状なのか薬の副作用なのか言葉にしがたい症状が生じた時、それらを医師にうまく伝えられないのは辛い。たとえば、倦怠感という概念の受け捉え方は患者も医師も人それぞれ。なので医師に具体的な表現を求める」と、症状の言語化できない問題について訴えた。これに対し、渥美氏は「寛解後の特有症状である倦怠感には医学的改善方法がないため、医師は“そうですか”と受け流すような返答になってしまう。医師は活動性指標の1つとして患者の訴えをきちんと評価すべき」と回答した。また、「薬剤の追加がネックで症状変化を医師に伝えないこともある」との後藤氏のコメントに対して、渥美氏は「どんな治療を行い、どんな治療目標とするのか。これを話せる医師が現時点では少ないため、今回のガイドラインではそのゴールを明確にした」と答えた。 最後に後藤氏は「GLが作成されたことによって全国どこでも標準的な治療が受けられるのは嬉しい。これによって患者会のメンバーの人生が広がればと感じた」と喜びを漏らした。渥美氏は「SLEの病態は例外が多いため、改善しなかった場合の対応策の盛り込み、まれな症状に対するエビデンス構築などが必要」と、今後の課題を語った。

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