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内臓脂肪を減らす「スマート和食」、そのメカニズムとは

 「和食(Washoku)」が、日本の伝統的な食文化として、ユネスコの無形文化遺産に登録されたのは2013年。その健康効果には世界的に注目が集まっているが、ヒトの内臓脂肪蓄積に与える影響やメカニズムについては不明である。 今回、坂根 直樹氏(京都医療センター 臨床研究センター 予防医学研究室長)、高瀬 秀人氏(花王株式会社 生物科学研究所)らの研究グループは、日本の伝統に基づく食事が、内臓脂肪面積あるいはGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)分泌に及ぼす効果を調査した。Nutrition journal誌2019年9月2日号の報告。 同グループは、これまでの研究で、1万1,438人の内臓脂肪と食習慣、さらに579人の3日間の食事記録と食習慣を調査した。それらのデータを詳細に解析した結果、「タンパク質/脂肪比≒1.0」「食物繊維/炭水化物比≧0.063」「ω-3脂肪酸/脂肪比≧0.054」これら3つの条件が、内臓脂肪蓄積の予防と関連することが明らかになった1)。 坂根氏らは、この3つの比を取り入れた日本食を「スマート和食」と呼び、スマート和食と現代食が内臓脂肪蓄積に与える影響について、クロスオーバー試験で調査した。 主な結果は以下のとおり。・対象は21人の過体重あるいは肥満の男性(平均年齢:41.0 ± 9.0 歳、平均BMI:25.2 ± 2.0 kg/m2)。・単回の食事負荷試験で、食後0、30、60、120、180、240分におけるGIPの曲線下面積(AUC)を算出した。スマート和食では、現代食と比べ、食後GIP濃度が有意に低かった(AUC:700.0 ± 208.0pmol/L・4 h vs.1117.0 ± 351.4 pmol/L・4 h、p <0.05)。一方、同時に測定した血糖、中性脂肪、インスリン、GLP-1、peptide YY、グレリンでは、両群間で差を認めなかった。・2週間にわたるスマート和食の介入では、内臓脂肪だけでなく、LDL-コレステロール、中性脂肪、HbA1c値が有意に減少した。 これらの結果から、スマート和食は、おそらくGIP分泌の抑制を介して、過体重/肥満男性の内臓脂肪面積を低下させ、代謝パラメーターを改善する可能性が示された。 坂根氏はコメントで、「今回の結果より、GIPが和食の内臓脂肪低減効果のメカニズムに関与していることが示唆された。ポッコリお腹を何とかしたいという患者さんはたくさんいる。食事では、脂質を減らしてタンパク質を増やす、糖質を摂る前に野菜・きのこ・海藻類などの食物繊維をたっぷり摂る、脂質を摂るならω-3系脂肪酸を積極的に摂る、という3つのポイントが大事」と示唆し、内臓脂肪を減らすための食事指導を勧めている。

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加熱式タバコによる受動喫煙の害は?【新型タバコの基礎知識】第8回

第8回 加熱式タバコによる受動喫煙の害は?Key Points加熱式タバコによる受動喫煙のリスクは、あるかないかで言えば、ある。ただし、紙巻タバコと比べると程度は低いと考えられる。すでに禁煙になっている場所を加熱式タバコはOKとすべきではない。加熱式タバコによる受動喫煙はどれぐらい発生するのでしょうか?屋内空間で加熱式タバコを使用したときにどれぐらいの濃度で、粒子状物質や有害物質が検出されるのか、調べた研究がこれまでに3つあります。その3つの文献の結果をまとめたのが表です。画像を拡大する一番左の文献を例として表の見かたを説明します。Ruprechtらによる2017年の研究は、イタリア国立がんセンターの研究者らが実施した研究です。アイコス・スティックと紙巻タバコのそれぞれを用いた場合に、屋内空間に充満する有害物質の濃度を1時間に1.5回換気するという設定で測定しています。基準となる紙巻タバコの場合の有害物質の濃度を100%とした場合に、アイコス・スティックの場合の有害物質濃度が何%に相当するのか、が表されています。たとえば、PM2.5の濃度は1.3~1.5%であり、アセトアルデヒドは5.0~5.9%、ホルムアルデヒドは6.9~7.1%でした。100%より小さな値=加熱式タバコの場合の濃度が低いことを表しています。3つの文献の結果をみると、右2つのタバコ会社からの報告では、粒子状物質(PM:particulate matter)が検出されていないのに対して、タバコ会社から資金提供のない研究機関からの報告では検出されていると分かります。しかも、タバコ会社による研究では測定されていなかったPM nmという10~1,000nmの大きさの粒子状物質が比較的多く出ていると分かりました。ただし、比較的多いといっても紙巻タバコと比べると4分の1から5分の1というレベルであり、他の大きさの粒子状物質の濃度は紙巻タバコに比べてかなり低く、PM2.5で100分の1から50分の1というレベルでした。3種のアルデヒド類の濃度を比較すると、タバコ会社による研究ではアクロレインが検出されていませんが、イタリア国立がんセンターの研究では検出されています。アセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドについては3つの研究すべてで検出されており、紙巻タバコの場合と比較して、おおよそ10分の1から20分の1の濃度でした。それでは、加熱式タバコによる受動喫煙の被害はあるといえるのでしょうか? あるかないかで言えば、あるが答えだといえるでしょう。ただし、程度が問題でもあります。加熱式タバコでは副流煙(吸っていない時にタバコの先端から出る煙のこと)がないため、受動喫煙は紙巻タバコと比べれば、かなり少なくなります。加熱式タバコであれば、屋内に発生する粒子状物質の濃度は紙巻タバコの数%というレベルに減らすことができるのです。とはいえ、受動喫煙がまったくないわけではなく、加熱式タバコからもホルムアルデヒドなどの有害物質が放出されています。加熱式タバコによる受動喫煙の被害については、それぞれケースバイケースで考える必要があるといえるでしょう。もともと屋内で紙巻タバコを吸っていた人が加熱式タバコに完全にスイッチできれば、受動喫煙の害は減らせるかもしれません。屋内での紙巻タバコの喫煙は、皆が考えているよりもはるかに危険といえます。屋内で喫煙すると、すぐに大気汚染の緊急事態レベルとなっているのです。たとえば、屋内で3人が喫煙するレストランではPM2.5濃度が600μg/m3となり、この値は大気汚染の緊急事態レベル濃度500μg/m3よりも高いものです*。また、喫煙する自動車内では、PM2.5の1時間平均値は750μg/m3と非常に高い値となります。紙巻タバコを加熱式タバコに置き換えることができれば、PM2.5を減らすことができるでしょう。一方、もともと禁煙だった場所なのに、加熱式タバコが使われるようになるケースもあることに、注意が必要です。自宅内ではタバコを吸わないルールだったのに、加熱式タバコならいいだろうと言って、禁煙から加熱式OKへと後退してしまうケースなどです。そういったケースが続出しているのです。その場合には、いままでなかった受動喫煙の被害が発生してしまうこととなります。家庭では、子どもや家族が受動喫煙の危険にさらされてしまうのです。また、世の中には、タバコの煙やエアロゾルから被害を受けやすい人もいます。狭心症などの虚血性心疾患、気管支喘息や化学物質過敏症の患者さんが代表例です。少量の曝露でも、発作を起こしたり、体調を崩したりするなどの健康被害が起きてしまう可能性があります。受動喫煙に関しては、加熱式タバコの方がましかもしれないからといって、単純に加熱式タバコならOK、とは考えるべきではないのです。第9回は、「新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?」です。*微小粒子状物質(PM2.5):大気中に浮遊する小さな粒子のうち、粒子の大きさが2.5µm以下の非常に小さな粒子のこと。PM2.5の健康影響について、米国の研究では、大気中のPM2.5値が10μg/m3増えると、心臓や肺の疾患による死亡率が9%、肺がん死亡率が14%、全死亡率が6%増えると報告された。2013年、日本の環境省は「健康影響が出現する可能性が高くなる濃度水準」をPM2.5日平均値で70μg/m3と定め、それを超えた場合には、不要不急の外出や屋外での長時間の激しい運動をできるだけ減らすこと、呼吸器系や循環器系疾患のある者・小児・高齢者などにおいては体調に応じてより慎重に行動することが望まれるとしている。

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日本糖尿病学会「女性糖尿病医サポートの取り組み」Webサイト に「ジェンダーフリーな職場づくり推進室」を公開中

 日本糖尿病学会「女性糖尿病医サポートの取り組み」Webサイトでは、男女共同参画について各施設でどのような取り組みが行われているかを紹介するコーナーとして「ジェンダーフリーな職場づくり推進室」を公開している。 同コーナーでは第1回として「京都大学医学部附属病院における取組(稲垣 暢也 氏)」、第2回として「北海道大学病院における取組(渥美 達也 氏)」 の記事を掲載しており、以下関連リンクより閲覧可能。 関連リンク 「ジェンダーフリーな職場づくり推進室」 (日本糖尿病学会 「女性糖尿病医サポートの取り組み」)

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糖尿病の安定CADに、チカグレロル+アスピリンは有益か?/NEJM

 心筋梗塞または脳卒中の既往歴のない安定冠動脈疾患を有する50歳以上の2型糖尿病患者において、チカグレロル+アスピリンの併用はアスピリン単剤と比べて、虚血性心血管イベントの発生が有意に減少したことが示された。一方で、大出血の発生は併用群で有意に増大した。フランス・パリ大学Bichat病院のP. Gabriel Steg氏らが、患者1万9,220例を対象に行ったプラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果で、NEJM誌オンライン版2019年9月1日号で発表した。これまでに同患者集団において、チカグレロル+アスピリンの併用が、アウトカムを改善するか否かは明らかになっていなかった。心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合虚血性心血管イベントの発生を比較 研究グループは、安定冠動脈疾患と2型糖尿病を有する50歳以上の患者1万9,220例を対象に試験を行った。心筋梗塞や脳卒中の既往患者は除外した。 被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはチカグレロル+アスピリン(チカグレロル群)を、もう一方の群にはプラセボ+アスピリン(プラセボ群)を投与した。 有効性の主要アウトカムは、心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合とした。安全性に関する主要アウトカムは、TIMI出血基準に基づく大出血だった。追跡期間中央値は39.9ヵ月 追跡期間の中央値は39.9ヵ月だった。治療中断の発生頻度は、プラセボ群(25.4%)よりもチカグレロル群(34.5%)が高かった。 主要有効性アウトカムとした虚血性心血管イベントの発生率は、プラセボ群よりもチカグレロル群で有意に低率だったが(チカグレロル群7.7% vs.プラセボ群8.5%、ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.81~0.99、p=0.04)、TIMI大出血の発生率は、プラセボ群よりもチカグレロル群で有意に高率だった(2.2% vs.1.0%、2.32、1.82~2.94、p<0.001)。頭蓋内出血の発生率は、チカグレロル群0.7%で、プラセボ群0.5%だった(1.71、1.18~2.48、p=0.005)。 致死的出血の発生率については、有意差は認められなかった(0.2% vs.0.1%、HR:1.90、95%CI:0.87~4.15、p=0.11)。 探索的評価による複合不可逆的有害アウトカム(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、致死的出血または頭蓋内出血)の発生は、同程度だった(10.1% vs.10.8%、HR:0.93、95%CI:0.86~1.02)。

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ダパグリフロジン、HFrEF患者でCV死・心不全悪化リスク26%低下(DAPA-HF)/ESC2019

 2型糖尿病合併の有無を問わず、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)が、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者における心血管死と心不全悪化の発現率を有意に低下させた。フランス・パリで開催された欧州心臓病学会(ESC2019)で、グラスゴー大学循環器リサーチセンターのJohn McMurray氏が、第III相DAPA-HF試験の結果を発表した。 DAPA-HF試験は、2型糖尿病合併および非合併の成人HFrEF患者を対象に、心不全の標準治療(アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬[MRA]およびネプライシン阻害薬を含む薬剤)への追加療法としてのダパグリフロジンの有効性を検討した、国際多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験。 HFrEF患者(NYHA心機能分類IIからIV、LVEF;40%以下、NT-proBNP≧ 600pg/mL)に対し、標準治療への追加療法としてダパグリフロジン10mgを1日1回投与し、その有効性をプラセボとの比較で評価した。主要複合評価項目は、心不全イベント発生(入院または心不全による緊急受診)までの期間、または心血管死であった。 主な結果は以下のとおり。・ダパグリフロジン群に2,373例、プラセボ群に2,371例が無作為に割り付けられた。・ベースライン特性は、両群ともに平均LVEF:31%、平均eGFR:66mL/分/1.73m2、2型糖尿病罹患率:45%でバランスがとれていた。・心不全治療薬の使用状況は、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬:ダパグリフロジン群94% vs.プラセボ群93%、β遮断薬:両群ともに96%、MRA:両群ともに71%。・心血管死または心不全悪化の主要複合評価項目は、ダパグリフロジン群において有意に低下した(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.65~0.85、p=0.00001)。各項目の解析をみると、心不全悪化の初回発現リスク(HR:0.70、95%CI:0.59~0.83、p=0.00003)、心血管死のリスク(HR:0.82、95%CI:0.69~0.98、p=0.029)ともにダパグリフロジン群で低下した。主要複合評価項目におけるダパグリフロジンの影響は、2型糖尿病の有無を含む、検討された主要サブグループ全体でおおむね一貫していた。・全死亡率においても、100患者・年当たり1イベント換算で患者7.9例 vs.9.5例とダパグリフロジンで名目上有意な低下を示した(HR:0.83、95%CI:0.71~0.97、p=0.022)。・Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire (カンザスシティ心筋症質問票:KCCQ)の総合症状スコアに基づいた、患者報告アウトカムの有意な改善が確認された。・安全性プロファイルについて、心不全治療において一般的な懸念事項である体液減少の発現率は7.5% vs.6.8%、腎有害事象の発現率は6.5% vs.7.2%、重症低血糖の発現率はともに0.2%であった。

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小児・思春期2型糖尿病患者におけるGLP-1受容体作動薬の有用性と安全性(解説:吉岡成人氏)-1111

 2019年6月、米国食品医薬品局(FDA)は10歳以上の2型糖尿病患者に対してGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドの適応を承認した。米国において小児2型糖尿病治療薬が承認されるのは、2000年のメトホルミン以来のことである。 わが国における『糖尿病診療ガイドライン2016』(日本糖尿病学会編・著)には、小児・思春期における2型糖尿病の治療薬について、メトホルミン(10歳以上)とグリメピリドを除いた薬剤は「『小児などに対する安全性は確立していない』ことを本人ならびに保護者に伝え、使用に際しては説明に基づいた同意を得るようにする」と記載されている。 NEJM誌8月15日号に、基礎インスリンの併用の有無を問わず、メトホルミンによる治療を受けている小児・思春期2型糖尿病患者にリラグルチドを追加投与することの有用性について検討した成績が発表されている(Tamborlane WV, et al. N Engl J Med. 2019;381:637-646.)。10~16歳の患者135例を、リラグルチドを最大1.8mg/日まで追加投与する群とプラセボ群に分け、26週間二重盲検試験を行い、その後、非盲検試験として26週間延長して追跡を行っている。リラグルチド投与群では26週でHbA1cが0.64ポイント低下し、プラセボ群では0.42ポイント上昇しており、その差は-1.06ポイント、52週では群間の差が-1.30ポイントとなった。リラグルチド投与群では、嘔気、嘔吐、下痢など消化器系の有害事象が投与開始8週目までに多かったものの、小児・思春期糖尿病患者においてGLP-1受容体作動薬を併用することの血糖コントロール改善に対する有用性が確認されたと結論付けている。 2型糖尿病では経年的に膵β細胞の容積が減少し、それに伴い、インスリン分泌能が低下する。その要因として、膵β細胞のアポトーシスや分化転換(trans-differentiation)が関与していると想定されている。膵β細胞が脱分化し、α細胞などの非β細胞に分化するのではないかというのである。マウスのデータではあるが、GLP-1が膵α細胞を分化転換させ、膵β細胞を新生させるという実験成績もある(Lee YS, et al. Diabetes. 2018;67:2601-2614.)。膵細胞の分化転換に重要な役割を担っていると推定されるGLP-1 の受容体は多くの臓器に存在している。さまざまな臓器においてGLP-1受容体を長期にわたって刺激することの安全性は確立されておらず、膵腫瘍の発生リスクに関しても一定の結論は得られていない。 臨床の現場において、新たに、有用性が高い革新的な治療を行うことは重要であろうが、保守的であっても、安全性の高い医療を心掛ける姿勢も忘れてはならないのではなかろうか。

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75歳以上でスタチンを中止した場合の心血管リスク/EHJ

 入院や施設への入所、がんなど他疾患の発症をきっかけに、高齢者が一次予防のために服用していたスタチンを中止した場合、継続した場合と比較して心血管イベントによる入院リスクが増加した。フランス・ピティエ-サルペトリエール病院のPhilippe Giral 氏らは、75歳まで一次予防目的でスタチンを服用していた高齢者の心血管転帰に対するスタチン中止の影響を、大規模コホート研究により評価した。European Heart Journal誌オンライン版2019年7月30日号掲載の報告より。 本研究は、フランスの国民医療データベースを使用した人口ベースのコホート研究。2012~14年に75歳になり、CVDの既往がなく、過去2年間にスタチンの総投薬量に対する実服薬量の割合(medication possession ratio:MPR)が80%以上だったすべての人が対象とされた。 スタチンの中止は3ヵ月連続の服用なしと定義され、アウトカムとして心血管イベントによる入院が設定された。スタチンを中止した場合と継続した場合を比較するハザード比は、ベースライン時点と時間依存共変量(心血管薬の使用、併存疾患、フレイル指標)の両者を調整する周辺構造モデルを用いて推定された。 主な結果は以下のとおり。・12万173人が平均2.4年追跡され、うち1万7,204人(14.3%)がスタチンを中止し、5,396人(4.5%)が心血管イベントのために入院した。・スタチン中止に関連した要因は、フォローアップ期間中の入院(調整オッズ比[aOR]:最大3.28)、高度看護施設への入所(aOR:2.66)、転移性の固形がん(aOR:2.22)、経管あるいは経口栄養摂取の開始(aOR:2.13)などであった。・スタチンを中止した場合の調整ハザード比は、全心血管イベント(1.33、95%信頼区間[CI]1.18~1.50)、冠動脈イベント(1.46、95%CI:1.21~1.75)、脳血管イベント(1.26、95%CI:1.05~1.51)、その他の血管イベント(1.02、95%CI:0.74~1.40)であった。・ベースライン時の糖尿病の有無によって、スタチン中止の心血管イベントによる入院への影響をサブグループ解析した結果、糖尿病有(3万3,617例、うち中止3,857例)の調整ハザード比は1.14(95%CI:0.89~1.44)、糖尿病無し(8万6,566例 、うち中止1万3,347例)は1.41(95%CI:1.23~1.62)であり、糖尿病有の場合のスタチン中止による影響は統計的に有意ではなかった。 75歳以上が一次予防として服用していたスタチンを中止することは、心血管イベントによる入院リスクが33%増加することに関連していた。研究者らは、本研究が後ろ向きの観察研究である点を限界として挙げ、ランダム化比較試験を含むさらなる研究が必要としている。また、糖尿病患者におけるサブグループ解析結果については、ベースライン時点で糖尿病があった場合にもともと心血管リスクが高いことで部分的に説明できる可能性があるとし、より詳細な研究が必要とまとめている。

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家族性高コレステロール血症の基礎知識

 8月27日、日本動脈硬化学会は、疾患啓発を目的に「家族性高コレステロール血症」(以下「FH」と略す)に関するプレスセミナーを開催した。 FHは、単一遺伝子疾患であり、若年から冠動脈などの狭窄がみられ、循環器疾患を合併し、予後不良の疾患であるが、診療が放置されている例も多いという。 わが国では、世界的にみてFHの研究が進んでおり、社会啓発も広く行われている。今回のセミナーでは、成人と小児に分け、本症の概要と課題が解説された。意外に多いFHの患者数は50万人超 はじめに斯波 真理子氏(国立循環器病研究センター研究所 病態代謝部)を講師に迎え、成人FHについて疾患の概要、課題について説明が行われた。FHは大きくヘテロ結合体とホモ結合体に分類できる。 FHのヘテロ結合体は、LDL受容体遺伝子変異により起こり、200~500例に1例の頻度で患者が推定され、わが国では50万人以上とされている。生来LDL-C値が高い(230~500mg/dL)のが特徴で、40代(男性平均46.5歳、女性平均58.7歳)で冠動脈疾患などを発症し、患者の半数以上がこれが原因で死亡する。 診断では、(1)高LDL-C血症(未治療で180mg/dL以上)、(2)腱黄色腫あるいは皮膚結節性黄色腫、(3)FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)の3項目中2項目が確認された場合にFHと診断する。 また、診断では、LDL-C値に加えて、臨床所見ではアキレス腱のX線画像が特徴的なこと(アキレス腱厚をエコーで測定することも有用)、角膜輪所見が若年からみられること、家族に高コレステロール血症や冠動脈疾患患者がみられることなど、詳細なポイントを説明するとともに、診断のコツとして「『目を見つめ よく聴き、話し 足触る』ことが大切」と同氏は強調した。 FH患者は、健康な人と比較すると、約15年~20年早く冠動脈疾患を発症することから、早期より厳格な脂質コントロールが必要となる。 本症の治療フローチャートでは、生活習慣改善・適正体重の指導と同時に脂質降下療法を開始し、LDL-C管理目標値を一次予防で100mg/dL未満あるいは治療前の50%未満(二次予防70mg/dL未満)にする。次に、スタチンの最大耐用量かつ/またはエゼチミブ併用し、効果が不十分であればPCSK9阻害薬エボロクマブかつ/またはレジンかつ/またはプロブコール、さらに効果が不十分であればLDL除去療法であるLDLアファレシスを行うとしている。医療者も社会も理解しておくべきFHの病態 次に指定難病であるホモ結合体について触れ、本症の患者数は100万例に1例以上と推定され、本症の所見としてコレステロール値が500~1,000mg/dL、著明な皮膚および腱黄色腫があると説明を行った。確定診断では、LDL受容体活性測定、LDL受容体遺伝子解析で診断される。 治療フローチャートでは、ヘテロ受容体と同じように生活習慣改善・適正体重の指導と同時に脂質降下療法を開始し、LDL-C管理目標値を一次予防で100mg/dL未満(二次予防70mg/dL未満)にする。次に、第1選択薬としてスタチンを速やかに最大耐用量まで増量し、つぎの段階ではエゼチミブ、PCSK9阻害薬エボロクマブ、MTP阻害薬ロミタピド、レジン、プロブコールの処方、または可及的速やかなるLDLアファレシスの実施が記載されている。ただ、ホモ結合体では、スタチンで細胞内コレステロール合成を阻害してもLDL受容体の発現を増加させることができず、薬剤治療が難しい疾患だという。その他、本症では冠動脈疾患に加え、大動脈弁疾患も好発するので、さらに注意する必要があると同氏は指摘する。 最後に同氏は「FHは、なるべく早く診断し、適切な治療を行うことで、確実に予後を良くすることができる。そのためには、本症を医療者だけでなく、社会もよく知る必要がある。とくにFHでPCSK9阻害薬の効果がみられない場合は、LDL受容体遺伝子解析を行いホモ接合体を見つける必要がある。しかし、このLDL受容体遺伝子解析が現在保険適応されていないなど課題も残されているので、学会としても厚生労働省などに働きかけを行っていく」と展望を語り、説明を終えた。小児の治療では成長も加味して指導が必要 続いて土橋 一重氏(山梨大学小児科、昭和大学小児科)が、次のように小児のFHについて解説を行った。 小児のヘテロ接合体の診断では、「(1)高LDL-C血症(未治療で140mg/dL以上、総コレステロール値が220mg/dL以上の場合はLDL-Cを測定する)、(2)FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)の2項目でFHと診断する(小児の黄色腫所見はまれ)」と説明した。また、「小児では、血液検査が行われるケースが少なく、本症の発見になかなかつながらない。採血の機会があれば、脂質検査も併用して行い、早期発見につなげてほしい」と同氏は課題を指摘した。 治療では、確定診断後に早期に生活習慣指導を行い、LDL-C値低下を含めた動脈硬化リスクの低減に努め、効果不十分な場合は10歳を目安に薬物療法を開始する。 とくに生活習慣の改善は、今後の患児の成長も考慮に入れ、できるだけ早期に食事を含めた生活習慣について指導し、薬物療法開始後も指導は継続する必要がある。食事療法について、総摂取量は各年齢、体格に応じた量とし、エネルギー比率も考慮。具体的には、日本食を中心とし、野菜を十分に摂るようにする。また、適正体重を維持し、正しい食事習慣と同時に運動習慣もつける。そして、生涯にわたる禁煙と周囲の受動喫煙も防止することが必要としている。 薬物療法を考慮する基準として、10歳以上でLDL-C値180mg/dL以上が持続する場合とし、糖尿病、高血圧、家族歴などのリスクも考える。第1選択薬はスタチンであり、最小用量より開始し、肝機能、CK、血清脂質などをモニターし、成長、二次性徴についても観察する。 管理目標としては、LDL-C値140mg/dLとガイドラインでは記載されているが、とくにリスク因子がある場合は、しっかりと下げる必要があるとされているとレクチャーを行った。

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第18回 コンビニでバランスUP! 目的別カップスープ活用法【実践型!食事指導スライド】

第18回 コンビニでバランスUP! 目的別カップスープ活用法医療者向けワンポイント解説小腹が空いている時、中途半端な時間に食事をしたい時、食欲がない時など、コンビニに入っても何を買おうか悩むことが多いはずです。夜遅くにコンビニでお弁当を買うのは量が多すぎるし、重たい。でも、ヨーグルトでは物足りない。カップラーメンでは後ろめたさを感じる。そんな葛藤の際にオススメなのが、即席スープ類です。「湯を入れるだけの手軽さ」「カロリーが比較的低い」「買い置きができる」などの利点があります。また、温かい汁物、油脂や塩の味わいは、満足度を高める効果があり、食べ過ぎを抑える効果もあります。しかし、スープだけでは物足りなさも残る、バランスも良くないと感じる方のために、目的別カップスープ活用法をご紹介します。1)タンパク質を増やしたい食事がご飯やパンなどに偏りがちな場合、タンパク質を増やす意識は大切です。タンパク質にはバランスを整え、筋肉維持の働きがあり、また食欲を抑える働きもあります。スープに合うおすすめの「タンパク質食品」として、温泉卵、ゆで卵、豆腐、納豆、豆乳などがあります。温泉卵はスープにコクを出し、ゆで卵は入れることでボリュームを増やします。豆腐や納豆は低カロリーで良質なタンパク質です。お好みのスープを選び、蓋を開け、湯を注ぎ入れる前に食材を入れることで、食べるときに程よい温度にできます。豆乳を温め、湯の代わりに入れることもオススメです。2)野菜を増やしたい野菜を増やすことで、食物繊維やビタミン、ミネラルの摂取ができるほか、血糖値の急上昇を抑える働きもあります。また、噛みごたえが増し、食べた満足度が上がります。コンビニで野菜を入れるならカット野菜が便利です。 オススメの組み合わせとして、濃厚なスープには、大根系のミックス、緑黄色野菜ミックスポタージュスープやあっさりとしただしスープには、レタスやキャベツなどのカット野菜がオススメです。カット野菜は、生のままでは入りきりません。袋の口を開け(破裂の予防)、電子レンジで600w 50〜60秒加熱します。かさが減った野菜は、1袋分をカップに入れることができ、ボリューム満点のスープが出来上がります。3)体調が悪い/食欲がない体調が悪い時や食欲がない時にも、スープは比較的喉を通りやすい食品です。湯を入れたスープに海苔の付いたおにぎりを入れると、海苔の風味で食欲をそそるリゾットが出来上がります。オススメとして和風だしスープ:梅干しや昆布、雑穀系のおにぎりポタージュスープ:昆布、サケ、ツナ中華スープ、濃厚スープ:辛子高菜、おかか、鶏五目などの相性が良いです。コンビニでスープを買う際には、『そのままで食べるよりも1品プラスする意識を持つ』と栄養バランスが整いやすくなります。

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日本糖尿病学会「女性糖尿病医サポートの取り組み」Webサイトに糖尿病専門医の働き方と生活現状調査の結果を公開

 日本糖尿病学会「女性糖尿病医サポートの取り組み」Webサイトでは、同学会[女性糖尿病医をpromoteする委員会]が2017年に実施した「糖尿病医のキャリアにおける現状調査と今後の展望に向けたアンケート」の結果として、糖尿病専門医の働き方と生活現状について公開した。 同調査はWebアンケートにより糖尿病専門医1,566名から回答を得たもので、同学会 会誌「糖尿病」 62巻5号(2019)に委員会報告として掲載された。 内容については、以下関連リンクより閲覧可能。 関連リンク 「糖尿病専門医の働き方と生活現状調査,学会に求められる取り組みについて」 ~2017年度「糖尿病医のキャリアにおける現状調査と今後の展望に向けたアンケート」結果より~ (日本糖尿病学会 「女性糖尿病医サポートの取り組み」)

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添付文書改訂:ベージニオ錠に安全性速報発出/抗コリン薬の禁忌が閉塞隅角緑内障に限定/トリプタンに薬物乱用頭痛に関する注意追加 ほか【下平博士のDIノート】第32回

ベージニオ錠に間質性肺疾患に関する安全性速報が発出画像を拡大する<Shimo's eyes>本剤は、これまでも重大な副作用として間質性肺疾患が報告されていましたが、市販直後調査中の2018年11月~2019年5月に本剤を使用した患者において、間質性肺疾患の重篤な症例が14例報告され、このうち3例が死亡に至ったことから、安全性速報(ブルーレター)1)が発出されました。今回、「警告」に下記の注意喚起が追加され、それに伴い「慎重投与」、「重要な基本的注意」、「重大な副作用」が改訂されました。【警告】間質性肺疾患があらわれ、死亡に至った症例も報告されているので、初期症状(呼吸困難、咳嗽、発熱等)の確認及び胸部X線検査の実施等、患者の状態を十分に観察すること。異常が認められた場合には、本剤の投与を中止し、必要に応じて、胸部CT、血清マーカー等の検査を実施するとともに、適切な処置を行うこと。本剤を服用する患者さんやご家族に対して、もし間質性肺疾患の初期症状(呼吸困難、咳嗽、発熱など)が発現した場合には、速やかに医師・薬剤師に連絡するようしっかりと伝える必要があります。抗コリン薬の禁忌が閉塞隅角緑内障に限定画像を拡大する<Shimo's eyes>これまで、多くの抗コリン作用を有する薬剤(抗コリン薬)は「緑内障」が禁忌であったため、本来安全性に懸念のある閉塞隅角緑内障患者のみならず、緑内障の95%を占める開放隅角緑内障患者にも使用できませんでした。そのため、開放隅角緑内障患者では、大きな影響がなくても使用できないという不利益や、疑義照会によって医療者の時間がとられることなどが問題となっていました。今回、薬事・食品衛生審議会で、抗コリン薬の添付文書の「禁忌」に記載されている緑内障にかかわる記載の変更が了承され、閉塞隅角緑内障のみが禁忌となりました2)。しかし、実際には患者自身が自身の緑内障のタイプを正確に把握していない場合も多く、今後の疑義照会の是非については、薬剤師側が難しい判断を迫られることになるかもしれません。今回の改訂の対象薬剤は、感冒薬、鎮痙薬、抗アレルギー薬、向精神薬、抗不整脈薬、パーキンソン病治療薬、AD/HD治療薬など多岐にわたりますが、眼科用製剤は含まれないことに留意しましょう。トリプタン系薬剤に薬物乱用頭痛に関する注意追加画像を拡大する<重要な基本的注意>トリプタン系薬剤により、頭痛が悪化することがあるので、頭痛の改善を認めない場合には、「薬剤の使用過多による頭痛」の可能性を考慮し、投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。<Shimo's eyes>薬剤を過剰に使用することで起こる薬物乱用頭痛(MOH)は、緊張型頭痛、片頭痛に次いで3番目に多い頭痛といわれています。MOHの原因となる薬物には、トリプタン系薬剤以外にも、NSAIDsやエルゴタミン製剤などがありますが、トリプタン系薬剤は少ない服薬回数でMOHを発症する傾向があるとの報告があるため、今回の改訂3)に至ったと考えられます。片頭痛治療中の患者さんがMOHに陥らないために、頭痛治療薬の正しい服用タイミングや生活指導を含めた適切な服薬指導を心掛けましょう。メトホルミン含有製剤、重度の腎機能障害患者のみを禁忌へ画像を拡大する<Shimo's eyes>これまで、メトホルミン含有製剤について、乳酸アシドーシスに対するリスク回避の観点などから、1日最高投与量が2,250mgの製剤では「中等度以上」、1日最高投与量が750mgの製剤では「軽度~重度」の腎機能障害の患者に対して禁忌となっていました。今回の改訂4)では、海外の最新の科学的知見に基づいて使用制限が見直され、禁忌がeGFR30mL/min/1.73m2未満の重度腎機能障害の患者に限定されることとなりました。軽度~中等度の腎機能障害患者は「慎重投与」となり、eGFR値に応じた1日最高投与量の目安が添付文書に記載されています。製剤ごとに内容が異なるため、それぞれの薬剤の添付文書をしっかり確認しましょう。参考1)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 ベージニオ錠50mg/100mg/150mgによる重篤な間質性肺疾患について(安全性速報)2)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 抗コリン作用を有する薬剤における禁忌「緑内障」等に係る添付文書の「使用上の注意」改訂について(薬生安発0618)3)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 トリプタン系薬剤の「使用上の注意」の改訂について4)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 使用上の注意改訂情報(令和元年6月18日指示分)

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第2回 心房細動の早期発見、プライマリケア医の協力が不可欠

循環器疾患に関連した学会は数多く存在するが、そのなかでも教育活動に力を注いでいるのが日本心臓病学会である。9月13~15日の学術集会開催を前に、本学会の教育委員長を務める清水 渉氏(日本医科大学大学院医学研究科循環器内科学分野 大学院教授)が本学会の強みについて語った。若手医師、非専門医への心臓病診療の普及を目指すプライマリケアの現場で診療される先生方の患者には、糖尿病や脂質異常症を合併している方や高齢者が多くいらっしゃるのではないでしょうか。近年、心房細動と心原性脳梗塞の発症数は増加傾向にあります。どちらもQOLを低下させ、健康寿命を縮める要因になります。CKDや睡眠時無呼吸症候群などの既往がある患者で発症しやすい心房細動は、不整脈の1つです。国内では100万人もの患者が存在し、高齢者では10~20人に1人が発症しています。これ自体は命に関わるような危険な不整脈ではありませんが、長生きすることで心不全へ発展してしまうため、大きな問題になっています。高齢者の心房細動発症者は自覚症状に乏しく「疲れやすい」「動けないのは歳のせい」などの表現をする患者もいるため、早期発見が難しく、80~90歳代の患者が心不全を発症して、緊急搬送される事例もあります。また、心原性脳梗塞の患者の場合、治療により症状が安定すれば抗凝固療法を継続した状態で退院します。とくに高齢者の場合は、脳梗塞予防として抗凝固療法の長期継続が必要になるため、退院後のフォローにはプライマリケア医の協力、つまり、病診連携が頼みの綱となるわけです。このような現状を踏まえ、高齢者や合併症を有する患者を抱える非専門医の方々にも、心房細動などの自覚症状を見極める能力や問診力を培っていただける、診断や治療に役立つ知識を共有してもらえるように、日本心臓病学会では教育講演などの企画に努めています。プライマリケア医がおさえておくべき循環器疾患の現状もう一つ、心臓病診療のトレンドを多くの医療者にしっかり理解いただくことも本学会の大きな目的です。たとえば、私の専門である不整脈治療におけるカテーテルアブレーション実施件数は、2010年に約3.5万件だったのが、この10年で2倍以上も増加し、現在は約9万件も実施されています。一方で、心筋梗塞の治療法の1つであるPCI(経皮的冠動脈インターベンション)は、技術の進歩によって再狭窄リスクが低下したため、実施件数が横ばいになっています。なぜ、このようにアブレーション件数が増えているかというと、2012年に発表された「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」から「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年版改訂)」に改訂された際に、適応疾患が拡大し、動悸などの症状を有していれば、カテーテルアブレーションを第1選択できるようになったためです。そのため、心房細動患者に対するアブレーション件数は年々増加を続け、この領域は薬物療法から非薬物療法へ変遷を経ています。非会員でも参加できる教育セミナー今回の学術集会とは離れますが、本学会は、日ごろから医療者に対する教育に力を入れています。会員のみならず非会員でも参加できる仕組みを作り、学術集会での教育講演のほかに、「教育セミナー」に注力しています。教育セミナーは年に2回、2月と6月に開催され、アドバンスコース(専門医向け)とファンダメンタルコース(非専門医、医療者向け)の2つのコースを設け、毎回200~300名の方が受講する盛況ぶりです。受講内容は毎年変わり、不整脈、虚血性心疾患、心不全、動脈疾患など循環器疾患全般を幅広く網羅しています。「脳卒中・循環器病対策基本法」が昨年12月に成立したことを踏まえ、今後は、本学会でも若手医師や非専門医の方々に、この法律の重要性を理解してもらえるような取り組みも行っていく予定です。メッセージ(動画)

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加熱式タバコの害をどう考えるか?【新型タバコの基礎知識】第7回

第7回 加熱式タバコの害をどう考えるか?Key Points加熱式タバコを吸うと、循環器疾患などの疾患罹患リスクがあり、そのリスクは紙巻タバコよりも低いとは言えない。米国では、アイコスを「リスク低減タバコ」としてではなく、「従来からのタバコ製品」の1つとして販売することを決定した。アイコスが血管内皮機能に悪影響を与えることが、米国カリフォルニア大学のグループによる、最近のラットによる研究で報告されました1)。アイコスのエアロゾルにさらされたラットの血管内皮機能は、紙巻タバコの煙にさらされたラットと同程度に低下していました。この研究では、ラットを(1)アイコスのエアロゾル、(2)紙巻タバコ(マルボロ)の煙、(3)清浄な空気のいずれかに曝露させたうえで、血流依存性血管拡張反応検査により血管内皮機能を評価しています。曝露は1回15秒間とし、5分間に10回行っています。その結果、血管内皮機能はアイコス群で58%、マルボロ群では57%低下しました。曝露を1回5秒間に減らしても同じ結果でした。アイコスのエアロゾルへの曝露は、マルボロの場合と同程度の血管内皮機能の低下をもたらすことが示されたのです。血管内皮機能の低下は動脈硬化をもたらし、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高めると分かっています。循環器系におけるタバコの煙への反応は、人とラットでほとんど同じだと考えられており、もちろん検証は必要ですが、人でも同じことが起きるものと考えられています。加熱式タバコを吸っていると、紙巻タバコを吸っている人と同様に、循環器疾患リスクが高まる可能性があります。確かに、現状では加熱式タバコに関する情報は十分とは言えませんが、あまりに分かっていないと強調しすぎるのは、デメリットが大きいと考えます。現状、成人の10%以上が加熱式タバコを使用しており、非常に多くの人がその影響下にすでに置かれています。判断を先延ばしにしすぎるのはよくないでしょう。加熱式タバコの害を判断するうえで、役立つ情報は他にもあります。これまでに数多く実施されてきた紙巻タバコの害に関する研究です。吸っていない人と比べると、紙巻タバコを1日1本しか吸っていなくても、心筋梗塞や脳卒中といった重篤な循環器疾患のリスクが有意に高まります。図1に示すように、タバコのリスクは吸う本数によって異なります。この図では、横軸が紙巻きタバコを吸う本数で、縦軸が心筋梗塞などの虚血性心疾患に罹るリスクの大きさを表しています。たいていの喫煙者は1日当たり20本のタバコを吸っています。1日20本吸う人の循環器疾患リスクは約1.8倍です。喫煙本数がその4分の1の、1日5本吸う人のリスクは約1.5倍です。1日5本吸う人のリスクは、1日20本吸う人のリスクの約63%(50÷80×100=62.5%)です。すなわち、喫煙本数を1日5本、4分の1にしても、循環器疾患リスクは1日20本吸う人のリスクの半分にもならないのです。喫煙本数を減らしても、循環器疾患リスクは高いと言えるでしょう。また、肺がんリスクの研究から、喫煙本数が多いことよりも、喫煙期間が長いことがよりリスクを高めると判定されています。喫煙本数を減らしたとしても喫煙期間が長ければ、肺がんにかかるリスクは大きいのです。現時点で得られる情報から総合的に考えて、加熱式タバコを吸っている人のリスクは、紙巻タバコよりも低いとは言えません。画像を拡大する米国の専門家たちも、同意見のようです。米国におけるルールに基づき、フィリップモリス社はアイコスを「リスク低減タバコ」として米国食品医薬品局(FDA)に申請しましたが認可されなかったという経緯があります。新たなタバコ製品についてはFDAの許可がないと販売できず、とくに健康へのリスクが少ない可能性などを謳う場合には、その科学的根拠や社会への負荷の減少について証明した上で申請することが、タバコ会社に求められています。そのため、フィリップモリス社が提出したアイコスに関する資料が詳細に検討されました。そして、2018年1月に実施されたFDAの諮問委員会では、フィリップモリス社の承認申請資料に対するFDA諮問委員会の委員らの見解(2018年1月24~25日)が示されました。フィリップモリス社が提出したアイコスに関する資料について、次の質問(Q)に対する委員9人の回答(Yes or No)は次の通りでした。Q1:紙巻タバコから、完全に加熱式タバコに切り替えれば、有害性物質への曝露は減らすことができるか?Yes - 8人 No - 1人 棄権 - 0人Q2:Q1でYesと回答した場合に、その曝露の減少により、疾病の罹患率や致死率が減ると考えられるか?Yes - 2人 No - 5人 棄権 - 1人Q3:紙巻タバコから、完全に加熱式タバコに切り替えれば、タバコ関連疾患のリスクを減らせるか?Yes - 0人 No - 8人  棄権 - 1人Q3への回答から分かるように、棄権した1人を除き、米国の専門家8人が、加熱式タバコに切り替えても、タバコ関連疾患に罹患するリスクを減らせない、と判定しました。こういった判定により、アイコスは「リスク低減タバコ」としては認められませんでした。しかし、2019年4月30日、米国でも加熱式タバコ・アイコスは「リスク低減タバコ」としてではなく、「従来からのタバコ製品」の1つとして販売されることが決定しました。この決定を受けて、加熱式タバコ問題への世界的な関心はさらに高まりつつあるといえるでしょう。第8回は「加熱式タバコによる受動喫煙の害は?」です。1)Nabavizadeh P, et al. Tob Control.2018; 27: s13-s9.

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全国の医療施設、災害対策の実情はいかに!?

 地震大国の日本において、異常気象の常態化によるスコール、それに伴う洪水・土砂災害などが後を絶たない。このような災害時には、DMAT(災害急性期に活動できる機動性を持った トレーニングを受けた医療チーム)と呼ばれる災害派遣医療チームにより医療支援が行われる場合がある。 しかし、医療者一人ひとりが日頃から災害を意識し準備を行っていなければ、家族や患者、ましてや自らの命は救えないだろう。 そこで、ケアネットでは2019年7月に会員医師約200名を対象とし、「院内の災害対策」に関するアンケート調査を実施。医師たちの災害に対する意識や対策状況などの実態について、実情や意見を聞いた。アンケート回答者の内訳 アンケートは2019年8月1~7日、ケアネット会員の医師を対象にインターネット上で実施。回答者の年代別内訳は50代が31%と最も多く、40代(28%)、30代(20%)、60代(14%)と続いた。このように今回のアンケートでは責任世代の回答が多く、具体的な対策を行っていると回答したのも、この年代が多かった。病床数別内訳は、200床以上が58%で最も多く、0床(20%)、100~199床(12%)、20~99床(6%)、1~19床(3%)、NA(2%)だった。早めの休診連絡で患者を外の危険から守る 「自施設で災害対策を行っている」と回答した方の具体策内訳は、休診連絡(29%)が最も多く、その他(25%)、備蓄(20%)、処方対応(15%)、災害拠点病院(6%)、スタッフの保護(5%)と続いた。 具体的な対策の一例を以下に示す。・インターネットで休診状況発表・避難経路の確立・備蓄食料、非常電源、災害対応チームの訓練・薬剤の処方日数を10日分ほど増やした・入院患者のための食料、飲料水の備蓄を増やした・泊まれるように寝袋を用意した また、大規模災害の場合、特定施設の問題ではなく地域の問題に発展するため、医療施設間、さらには地方自治体との連携が要求される。これを踏まえ、地域での災害対策の話し合い実施状況と実施時に話し合われた内容についても調査した。 この結果を含む、今回のアンケート調査の詳細データや自由記述で挙げられた具体的な理由は、CareNet.comに掲載中。

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災害対策、周りの施設はどうしている?-アンケート結果発表

9月1日は「防災の日」。皆さまの施設は災害時に備え、万全の対策を行っているでしょうか? 自然災害時には医師も被災者の1人。しかし、自らの家族だけではなく、経営者や勤務医としての立場から患者や従業員の命を守ることが求められます。今後、いつなんどき発生するかわからない災害に備え、全国の医師の災害に対する認識や自施設での取り組みについて、CareNet.com会員医師約200人に調査しました。結果概要「自施設において、検討または実施している対策はあるか?」という問いに対し、半数以上の施設で対策をしていないという結果に。画像を拡大する対策を行っていない回答者の中には、「災害拠点病院ではない」という理由も見られたが、災害拠点病院以外でもスタッフや患者への配慮が必要となるため、スタッフとの話し合いは欠かせないと考えられる。医師が考える具体的な対策とは…?自施設での対策を実施していると回答した69人(うち、4人は無効)における主な対策の内訳を『スタッフの安全確保』『休診対応』『災害拠点病院としての対応』『(日々の診療における)薬剤処方に関する対応』『備蓄』『その他』の6つに区分したところ、グラフのような結果になった。画像を拡大する具体的な回答として、「スタッフの出勤方法と出勤時間の確認」「緊急連絡用の掲示板整備やホームページでの休診連絡」「災害拠点病院として他院に連絡をとる」「日頃から薬剤の処方日数を1週間分増やす」「缶詰、米、水、燃料を備蓄する」などが挙がった。また、『その他』としては、「自家発電機を準備」「行政と連携し障害者や老人の存在を把握する」「在宅酸素療法の会社に災害時の態勢を確認」「院内放送で津波の有無を連絡」などがあった。具体策を講じている回答者で最も割合が高かった年代は、50代(34%)と40代(26%)であった。また、所属施設で最も割合が高かったのは、200床以上の病院(60%)で、続いて0床のクリニックなどが15%だった。画像を拡大する地域での話し合いは14%にとどまる「近隣のクリニックや病院、地域医師会などで対策を話し合ったことはあるか?」については、あると回答したのは14%のみで、ほとんどの施設が「地域間での話し合いの経験がない」と回答した。画像を拡大する地域の話し合いがあると回答した30人(14%)には、自施設での対策を行っていない12人が含まれていた。「ない」の理由は“機会がない”だけ?話し合われた内容としては、「患者の情報提供」「受け入れ状況の伝達」「避難経路や連絡・中継場所」「患者さんへの説明方法」「地震発生時の拠点病院、地域の医療ケア児の対策」「スプリンクラーの設置について」などが挙がった。一方で、「ない」と答えた医師の主な回答として「話し合いの機会がない」が最も多く(23%)、「自治体に委ねられている」「役員・立場ではない」「近隣のクリニックとは対象疾患が異なるから」などがあった。また7%と少数意見ではあるが、「大きな災害の想定がない」など危機感の乏しさも明らかになった。画像を拡大する設問詳細Q1.自施設において、検討または実施している対策はありますか?あるないQ2.設問1で「ある」と答えた方にお伺いします。それはどのような対策ですか?(自由記述)例)「薬剤の処方日数を1週間分増やした」「患者ごとにインスリンなどの対策を説明」「スタッフや来院患者の被害を防ぐため、早めに休診を決定し、患者にその旨を連絡する」などQ3.災害対策について、近隣のクリニックや病院、地域医師会などで対策を話し合ったことはありますか?あるないQ4.設問3で「ある」と答えた方は主な対策内容を、「ない」と答えた方はその理由をお答えください(自由記述)。画像を拡大する

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2型糖尿病の予防・治療に不飽和脂肪酸は影響せず?/BMJ

 英国・イースト・アングリア大学のTracy J. Brown氏とJulii Brainard氏らは、新たに診断された糖尿病と糖代謝に対する多価不飽和脂肪酸(PUFA)の影響を評価する、未発表データを含むこれまでで最も広範囲なシステマティックレビューとメタ解析を実施し、オメガ3、オメガ6または総PUFAの増加は、2型糖尿病の予防および治療に対し影響が少ないかあるいは影響がないことを明らかにした。これまで、オメガ3は実験データでは糖尿病のコントロールを悪化させることや、観察研究のシステマティックレビューでは有益性と有害性の両方が示唆されていた。また、オメガ6の上昇は、糖代謝の改善および悪化の両方と関連することが観察研究で報告されており、オメガ3、オメガ6および総PUFAの、糖代謝および2型糖尿病への影響は結論が得られていなかった。BMJ誌2019年8月21日号掲載の報告。無作為化試験83件のシステマティックレビューとメタ解析を実施 研究グループは、Medline、Embase、Cochrane CENTRAL、WHO international Clinical Trials Registry Platform、Clinicaltrials.gov、および関連するシステマティックレビューの研究を検索し、α-リノレン酸、長鎖オメガ3、オメガ6、総PUFAの増加による影響を評価した24週以上の無作為化比較試験を対象として、糖尿病の診断、空腹時血糖または空腹時インスリン、HbA1c、インスリン抵抗性(HOMA-IR)に関するデータを収集し、相対リスクと平均差を用いたランダム効果メタ解析による統計解析と感度解析を実施した。 ファンネルプロットを検討し、サブグループ化により介入の種類、ベースライン時の糖尿病リスク、抗糖尿病薬の使用、試験期間、用量などの影響を評価した。バイアスのリスクはCochrane toolとGRADEを用いたエビデンスの質で評価した。 検索により、無作為化比較試験83件(主に長鎖オメガ3補給の影響を評価)が解析に組み込まれた。10件はバイアスのリスクがlow(低)であった。長鎖オメガ3の高用量摂取で糖代謝が悪化 長鎖オメガ3は、糖尿病診断の可能性(相対リスク:1.00、95%信頼区間[CI]:0.85~1.17、5万8,643例、糖尿病発症3.7%)、あるいは糖代謝の測定値(HbA1c平均差:-0.02%[95%CI:-0.07~0.04]、血漿グルコース平均差:0.04mmol/L[95%CI:0.02~0.07]、空腹時インスリン平均差:1.02pmol/L[95%CI:-4.34~6.37]、HOMA-IR平均差:0.06[95%CI:-0.21~0.33])に関する影響が少ないかまたはまったく影響がなかった。 長鎖オメガ3の摂取量が4.4g/日を超えると、負の影響が示唆された。糖尿病の診断に対するα-リノレン酸、オメガ6および総PUFAの影響はエビデンスの質が非常に低いため不明であったが、α-リノレン酸の増加が空腹時インスリンを増加(約7%)させる可能性があることを除いては、糖代謝の測定値に対する影響は少ないかまたはないことが示された。 オメガ3/オメガ6比が糖尿病または糖代謝に重要であるというエビデンスは確認されなかった。

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日本糖尿病学会 「女性糖尿病医サポートの取り組み」Webサイトに「キラリ☆女性医師!特別版―イクボス・イクメンからのひとこと」を公開中

 日本糖尿病学会「女性糖尿病医サポートの取り組み」Webサイトでは、「キラリ☆女性医師!特別版―イクボス・イクメンからのひとこと」を公開している。 同Webサイトでは様々な女性医師を紹介するコーナーとして「キラリ☆女性医師!」を2015年4月に開設し、2019年4月までに30名の記事を掲載しているが、男性医師からの寄稿記事掲載コーナーも開設している。 第1回として 大倉 毅 氏(鳥取大学医学部附属病院)、第2回として 福井 道明 氏(京都府立医科大学大学院)の記事を掲載しており、以下関連リンクより閲覧可能。 関連リンク 「キラリ☆女性医師!特別版―イクボス・イクメンからのひとこと」 (日本糖尿病学会 「女性糖尿病医サポートの取り組み」)

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第1回 心臓病は社会の中で全身から診る視点が必要

9月13日から3日間、名古屋国際会議場で、第67回日本心臓病学会学術集会が開催される。心臓病の実臨床に重点を置く同学会。大会長の三重大学循環器・腎臓内科学教授の伊藤正明氏は「循環器科の先生はもちろん、他科の先生、開業医、コメディカルの方々を含めた幅広い学びの場を提供したい」と語る。循環器科は心臓だけを診ていてはいけない第67回の日本心臓病学会学術集会では、「原点を学び、未来を創る」「全身を診る、心臓をみる」という2つのテーマを掲げました。「原点」というのは、身体診察で理学的所見を取る、問診で患者さんの訴えを聞く、といういわば医師の基本のこと。若い先生方は、血液検査や心エコーやCTといった画像診断に頼り過ぎ、脈を取る、心臓の音を聞く、といった循環器医の基本をともすればおろそかにしがちです。心臓病学会は、歴史的に実臨床に重きを置いてきた学会なので、今回改めて、そのことを強調させていただきました。一方で、心エコー、CT、MRIといった画像検査が現在の心臓病診療に不可欠なのは言うまでもありません。さらに、それらから得られた情報をIoTなどを使ってより質の高い治療につなげていく、AI、遠隔診療、ロボット手術といったものが「未来」です。これらについては、私のたちの世代のほうがむしろしっかり勉強して、追いついていかなければならない。これからの心臓病の臨床には両方とも大切だと考え、多数のプログラムを用意しました。もう1つ「全身を診る、心臓を診る」というテーマを打ち出したのは、心臓病を全身から捉えるという視点が近年ますます重要になっているためです。心臓病はそれ単独で発症するというわけではなく、全身疾患の一病態として起こるケースが多い。糖尿病や脂質異常症が心筋梗塞の危険因子になるといったことはもちろんですが、肺高血圧症は呼吸器症状として現れ、アミロイドーシスやサルコイドーシスなどは、全身に出る症状や所見を理解していなければ診断できません。こうした観点から考えると、循環器医はもはや心臓だけを診ていてはいけない。心臓をきちんと診られるのは当たり前ですが、全身疾患の中でそれを評価し治療していかなければならないのです。逆に言うと、他科の先生にも心臓病にもっと関心を持って、理解してほしいと思います。循環器とがんが重なる領域であるオンコカーディオロジーが昨今注目されていますが、これなども典型的な流れと言えます。本学会でも「会長特別企画」の1つとして、オンコカーディオロジーのほか、感染症、膠原病、透析、周産期などの境界領域でのプログラムを設けています。心不全パンデミックを防ぐ地域での医療ケア連携現在、私たちの研究室で最も力を入れているは、心不全です。私自身はもともと基礎研究を中心にやってきましたが、今地域に目を向けると、心不全パンデミックとも言われる、高齢化に伴う心不全患者の急増への対応が喫緊の課題だと感じます。しかし、心不全診療は、循環器専門医だけのものではありません。急性期は大学病院をはじめとする大病院で対応しますが、その後の慢性期は地域で継続的にフォローしていただかなければならない。地域の開業医の先生方との連携は不可欠ですし、さらに在宅、施設でケアに携わる多職種のコメディカルスタッフとチームで、社会の中で患者さん一人ひとりを診ていく必要があります。日本心臓病学会の伝統として、ケースを大切にするということがあります。「地域医療/実地医家活動委員会」の企画で、今回は全国9チームでJCCケースカンファレンスを行ってもらいます。「症例から深く学ぶ」と題したシンポジウムも、1例1例を大事にする心臓病学会らしい企画だと思います。地域医療のケースも多数扱いますので、開業医の先生方やコメディカルの方々にも、多岐にわたる最新の心臓病の実臨床を学んでほしいですね。また今回、ACC Asia ConferenceがCourse Directorの福田 恵一氏(慶應義塾大学)とAaron D. Kugelmass氏(米国・タフツ大学)の下、同時開催されます。過去2回は中国で開かれており、日本開催は初めてです。ACC(American College of Cardiology)は教育中心の学会で、欧米タイプの学びを身近で体験する良い機会になると思います。メッセージ(動画)

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強化降圧治療、脳白質病変容積の増加が少ない/JAMA

 成人高血圧患者では、収縮期血圧(SBP)の降圧目標値を120mmHg未満とする強化降圧治療は140mmHg未満とする標準降圧治療に比べ、脳白質病変の容積の増加が少ないものの、その差は大きくないことが、米国・ペンシルベニア大学のIlya M. Nasrallah氏らが行ったSPRINT MIND試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2019年8月13日号に掲載された。強化降圧治療は、心血管疾患による合併症や死亡を抑制することが証明されているが、脳の健康への影響は明確でないという。疫学データでは、高血圧は脳白質病変の主要なリスク因子とされる。SPRINT試験のMRIサブスタディ 本研究は、米国の27施設が参加した多施設共同無作為化試験であるSPRINT試験のサブスタディであり、強化降圧治療は脳白質病変容積の増加を抑制するかを評価する目的で行われた(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 SPRINT試験の対象は、年齢50歳以上、SBPが130~180mmHgで、心血管リスクが高い患者(心血管疾患、慢性腎臓病[CKD、eGFR<60mL/分/1.73m2]、10年フラミンガム心血管疾患リスク≧15%、年齢75歳以上)であり、糖尿病や脳卒中の既往歴のある患者や認知症の患者は除外された。被験者は、SBPの目標値を120mmHg未満とする強化治療群または140mmHg未満とする標準治療群に無作為に割り付けられた。 SPRINT試験は2010年11月8日に開始され、2015年8月20日、主解析の主要アウトカム(複合心血管イベント)と全死因死亡が強化治療群で明らかに優れたことから、早期有効中止となった。 今回の解析には、ベースライン時に脳MRIを受けた670例が含まれ、このうち449例がフォローアップのMRIを完遂した。最終フォローアップ日は2016年7月1日だった。主要アウトカムは脳白質病変容積、副次アウトカムは全脳容積とした。全脳容積の減少は強化治療で大きく、その解剖学的原理は不明 ベースラインでMRIを受けた670例は、平均年齢67.3[SD 8.2]歳、女性40.4%であった。このうちフォローアップのMRIを完遂した449例(67.0%)の無作為化から最終MRIまでの期間中央値は3.97年であり、治療介入期間中央値は3.40年であった。 線形混合モデルに基づく解析を行ったところ、脳白質病変容積の平均値は、強化治療群では4.57から5.49cm3(差:0.92cm3、95%信頼区間[CI]:0.69~1.14)へ、標準治療群では4.40から5.85cm3(1.45cm3、1.21~1.70)へとそれぞれ増加し、変化の群間差は-0.54cm3(-0.87~-0.20)と、強化治療群で有意に増加の程度が小さかった。 また、全脳容積の平均値は、強化治療群では1,134.5から1,104.0cm3(差:-30.6cm3、95%CI:-32.3~-28.8)へ、標準治療群では1,134.0から1,107.1cm3(-26.9cm3、-28.8~-24.9)へとそれぞれ低下し、変化の群間差は-3.7cm3(-6.3~-1.1)と、強化治療群で有意に低下の程度が大きかった。 全脳容積のサブグループ解析では、女性は治療群によって全脳容積の変化の差(差:-0.2cm3、95%CI:-4.5~4.0)に有意差はなかったが、男性は強化治療群が標準治療群に比べ減少の程度が有意に大きかった(-6.0cm3、-9.3~-2.7)(交互作用のp=0.04)。 著者は、「脳における高血圧の主たる構造的な関連要因は、異常な脳白質病変容積であることを考慮すると、今回の結果は、高血圧に対しより強い降圧治療を行えば、この構造的異常の発現を遅延させる可能性があることを示唆する。一方、強化治療群で脳容積の減少が大きかったことの解剖学的原理と機能的意義は不明である」と指摘している。

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