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超悪玉脂肪酸はコントロールできるのか?/日本動脈硬化学会

 超悪玉脂肪酸の別名を持つトランス脂肪酸。この摂取に対し、動脈硬化学会が警鐘を鳴らして早1年が経過したが、農林水産省や消費者庁の脂肪酸の表示義務化への姿勢は、依然変わっていないー。2019年12月3日、日本動脈硬化学会が主催するプレスセミナー「飽和脂肪酸と動脈硬化」が開催され、石田 達郎氏(動脈硬化学会評議員/神戸大学大学院医科学研究科循環器内科学)が「食事由来(外因性)の脂質を考える」について講演。脂質過多な患者と過少な患者、それぞれの対応策について語った。脂質コントロールの落とし穴 日本人の血中コレステロール上昇の原因は“食生活の欧米化”で片付けられがちである。そこで、石田氏は食事による血中コレステロール濃度の変動に影響する因子(1:飽和脂肪酸の過剰摂取、2:トランス脂肪酸の摂取、3:不飽和脂肪酸の摂取不足、4:コレステロールの摂取量と吸収効率、5:植物ステロールや食物繊維などによる影響)を提示。「これまでの指導は卵など単独食品の摂取制限を強調するものだった」とし、「食事による種々の因子があるなかで、医療者は血中コレステロール値の変動をさまざまな角度で見ることが大切。以前のようにLDL-CやHDL-Cなどのコレステロールにだけ着目して指導するのは理想的ではない」と、述べた。また、「脂質の種類(コレステロール、中性脂肪、脂肪酸[飽和、不飽和])の区別がつかない患者には、何にどんな成分がどのくらい含まれているのかを含めた丁寧な指導が必要」と、説明した。 たとえば、飽和脂肪酸は過剰摂取すると血中LDL-C値の上昇や炎症を惹起する作用があり、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』第4章の包括的リスク管理の食事療法のCQにおいて、“適正な総エネルギー摂取量のもとで飽和脂肪酸を減らすこと、または飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置換することは血清脂質の改善に有効で、冠動脈疾患発症予防にも有効である(エビデンスレベル:1+、推奨レベル:A)”と、記載されているが、 “飽和脂肪酸摂取を極度に制限することは、脳内出血の発症と関連する可能性がある”と併記されている。また、厚生労働省が策定し来年発刊予定の『食事摂取基準2020年版』1)では、飽和脂肪酸の目標量は18歳以上では7%未満(エネルギー比率として)と設定されている。 この目標量を達成するために有用なのが、『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版』である。このガイドではコレステロールと飽和脂肪酸の含有比率の表が掲載され、コレステロール含有量は低いが飽和脂肪酸含有量が高い食品としてチーズやバラ肉など、コレステロール含有量も飽和脂肪酸含有量も低いものとして赤肉や牛乳などが記されている。しかし、ここで問題なのは、日本の加工食品には脂肪酸の含有量が明記されていないこと、コレステロール含有量の低い食品を摂取しても、トランス脂肪酸摂取によりコレステロールが上昇してしまうことである。これに対し同氏は、「食品1つ1つに脂肪酸含有量が明記されていないため、摂取過多・過少に関する問題は医療者と患者だけでは解決できない」と、国民の力だけでは基準順守が不可能なことを言及した。結局、誰の仕事?脂肪酸摂取の適正化 では、誰が脂肪酸摂取の適正化を行うべきなのか。本来は身体に良い不飽和脂肪酸も工場での加工段階でトランス脂肪酸(超悪玉脂肪酸)に変化してしまうのだから、製造・販売過程での適正化がなされなければ、医療者や患者の努力は水の泡である。同氏は「日本の現状では個人の意思に関係なく摂取してしまう。食品産業全体が責任を持って減少に取り組むべき。何らかの法規制も必要」と、主張した。 海外では脂肪酸の表記は当たり前となっており、国全体で摂取を避ける取り組みが行われている。近年、日本人においても超悪玉脂肪酸の心血管疾患へのリスクが報告されている2)。そして、つい先日発表された日本の久山町研究でも、認知症リスクへ超悪玉脂肪酸の影響が示され3)、海外メディアに取り上げられ脚光を浴びた。この研究では、超悪玉脂肪酸の血中濃度が高い人ではアルツハイマー病リスクが75%も上昇することが明らかとなった。同氏によると、この研究は古典的な食事内容調査ではなく、トランス脂肪酸の血中濃度に注目した点が科学的信頼性を高めたと評価されたのだという。実際に、マーガリン、コーヒークリーム、アイスクリーム、せんべい類などのように超悪玉脂肪酸を多く含む食品を摂取している人では、超悪玉脂肪酸の血中濃度が高くなる傾向があった。  一方で、飽和脂肪酸自体はエネルギー源としても重要であり、適度に摂取することに問題はない。同氏は「食事摂取量が少なくなる高齢者はフレイルリスクも高いため、若者と同じような脂肪の摂取制限だけの指導を行ってはいけない」とし、患者対応時には以下の点に留意し、複合的に指導するよう求めた。・飽和脂肪酸は、血中コレステロールを増やすため、動物性脂肪の食べ過ぎに注意する。・トランス脂肪酸(超悪玉脂肪酸)は、飽和脂肪酸よりさらにコレステロール増加作用が強い。・不飽和脂肪酸のなかでもオリーブ油、サフラワー油、高オレイン酸紅花油は血清脂質の改善作用が報告されている。・青魚に含まれるEPAやDHAは最も身体に良い。・2型糖尿病患者、腎不全/透析患者、スタチン長期服用患者、高コレステロール血症患者、冠動脈疾患患者などではコレステロール吸収が亢進しており、血中コレステロールが上がりやすい。・高齢者のように脂肪の摂取量が極めて少ない方もいる。 最後に同氏は、「脂質異常治療戦略のあり方には、欧米化する食生活の中で国民全体の摂取量を適正化することと、個々の患者の脂質値を改善することの2つ視点を分けて考え、臨床現場ではリスクに応じたきめ細やかな指導を心がけるべき」と、締めくくった。

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糖尿病妊婦の子供は早発性CVDリスクが高い/BMJ

 糖尿病の母親の子供は、小児期から成人期初期に、非糖尿病の母親の子供に比べ早発性の心血管疾患(CVD)の発生率が高く、とくに母親がCVDや糖尿病性合併症を併発している場合はCVDリスクがさらに増加することが、デンマーク・オーフス大学のYongfu Yu氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年12月4日号に掲載された。最近の数10年間で、世界的に子供や若年成人のCVD有病率が高くなっている。妊娠前および妊娠中の母親の糖尿病は、子供のメタボリック症候群や先天性心疾患のリスク上昇と関連するとされるが、母親の糖尿病への出生前の曝露が、生命の初期段階にある子供の早発性CVDに影響を及ぼすか否かは知られていないという。糖尿病妊婦の子供を40年追跡したコホート研究 研究グループは、妊娠前または妊娠中に診断された母親の糖尿病と、その後40年間における子供の早発性CVDの関連を評価する目的で、住民ベースのコホート研究を行った(デンマーク・Lundbeck Foundationなどの助成による)。 データの収集には、デンマークの全国的な健康関連の登録システムを用いた。1977~2016年の期間に、デンマークで出生し、先天性心疾患のない243万2,000例の子供が解析の対象となった。追跡は出生時に開始され、CVDの初回診断、死亡、海外移住、2016年12月31日のうち、いずれかが最も早く到来するまで継続された。 曝露因子は、母親の糖尿病合併妊娠(1型糖尿病[2万2,055例]、2型糖尿病[6,537例])と妊娠糖尿病(2万6,272例)であった。 主要アウトカムは、病院の診断によって定義された早発性CVD(先天性心疾患を除く)とし、母親の糖尿病と子供の早発性CVDリスクとの関連を評価した。また、Cox回帰を用いて、この関連への、母親のCVDおよび糖尿病性合併症の既往歴の影響を検討した。糖尿病単独で29%、合併症併発で60%、CVD併発で73%増加 5万4,864例(2.3%)の子供が、母親の糖尿病合併妊娠(1型糖尿病0.9%、2型糖尿病0.3%)または妊娠糖尿病(1.1%)に曝露していた。40年の追跡期間中に、糖尿病の母親の子供1,153例と、非糖尿病の母親の子供9万1,311例が、CVDと診断された。 糖尿病の母親の子供は、非糖尿病の母親の子供に比べ、早発性CVDの発生率が29%高かった(ハザード比[HR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.21~1.37)。母親の糖尿病に曝露しなかった子供の40歳時の累積CVD発生率は13.07%(12.92~13.21)であった。曝露と非曝露の子供の累積CVD発生率の差は4.72%(2.37~7.06)だった。 また、同胞コホートで近親デザイン(sibship design)の解析(共通の遺伝的、家族的な背景因子に起因する未調整の交絡を評価)を行ったところ、マッチングを行っていないコホート全体の主解析とほぼ同様の結果(1.26、1.18~1.35)であった。 糖尿病合併妊娠(HR:1.34、95%CI:1.25~1.43)および妊娠糖尿病(1.19、1.07~1.32)のいずれにおいても、子供のCVDは増加していた。また、個々の早発性CVDの発生率の増加の割合は多様であり、増加率の高かったCVDとして、心不全(1.45、0.89~2.35)、高血圧性疾患(1.78、1.50~2.11)、深部静脈血栓症(1.82、1.38~2.41)、肺塞栓症(1.91、1.31~2.80)が挙げられた。 CVD発生率の増加は、母親の糖尿病の種類にかかわらず、小児期から、40歳までの成人期初期の個々の年齢層で認められた。 CVD発生率の増加は、糖尿病合併妊娠のみの母親の子供(HR:1.31、95%CI:1.16~1.48)に比べ、糖尿病性合併症を併発した母親の子供(1.60、1.25~2.05)で、より顕著であった(合併症併発の非併発に対するHR:1.22、95%CI:0.92~1.62)。また、母親が糖尿病とともにCVDを併発していた場合、子供の早発性CVDの発生率はさらに高く(1.73、1.36~2.20)、これは併発CVDの付加的影響であったが、糖尿病とCVDの交互作用に起因するものではなかった(交互作用の相乗スケールのp=0.94)。 著者は、「出産可能年齢の女性における糖尿病の予防、スクリーニング、治療は、女性の健康の改善だけでなく、子供の長期的なCVDリスクの抑制においても重要と考えられる」としている。

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医療者が共有できていない、重症低血糖とその背景

 2019年10月29日、日本イーライリリー主催のプレスセミナー「糖尿病患者さんと家族の意識調査から見る、重症低血糖の実態」が開催され、山内 敏正氏(東京大学大学院医学研究科糖尿病・代謝内科 教授)が「低血糖・重症低血糖について」、岩倉 敏夫氏(神戸市立医療センター中央市民病院)が「糖尿病患者さんと家族調査結果から見える課題」と題して重症低血糖について解説した。会の後半に行われたトークセッションでは、患者代表の大村 詠一氏(元エアロビック競技日本代表)が、低血糖発現時の状況や医療者とのコミュニケーションに関する本音を語った。重症低血糖はどう重症なのか? 低血糖は食事摂取量の低下や摂取時間の遅れ、エネルギー消費の増大、インスリン感受性の改善、薬剤の影響などが原因で生じる。これに対する生理反応として、血糖値がおおよそ70mg/dL以下になると交感神経や中枢神経症状などが起こりやすい。 一般的に重症低血糖は、非糖尿病者では生理的に来しえない54mg/dL未満の場合と、低血糖の回復に際し“他者による介助が必要な重度認知機能障害に関連する低血糖”に定義される。この状態に陥ると、糖尿病患者の脳や筋骨格系、心血管系に影響し、急性期では認知機能や作業パフォーマンスの低下、慢性期ではQOL低下や運転・雇用の制限などの問題を抱えてしまう。これを踏まえて山内氏は「重症低血糖は短期的かつ長期的に悪影響を与え、生命を脅かす危険性がある。とくに認知機能における記憶や言語処理などに影響を及ぼす」とコメントし、「まずは、低血糖に対する本人の自覚が大切。しかし、運動後6~15時間後の低血糖発生は夜間睡眠時に及ぶ場合もある。このような場合を踏まえ、本人だけではなく周囲の理解も必要」と話した。重症低血糖を発症しやすい患者とは 日本糖尿病学会による糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告(1型糖尿病[T1D]:240例、2型糖尿病[T2D]:480例)では発症者の傾向を病型別に分けて調査している。この調査報告によると、T1DとT2Dの平均HbA1c値はそれぞれ、7.5%、6.8%であった。前駆症状(交感神経系刺激症状)の発現率は、T1Dで41%、T2Dで56.9%の患者に見られ、重症低血糖の発症年齢の中央値はT1Dが54歳、T2Dの中央値は77歳、とくにT2D患者は65歳以上が83%を占めていた。過去に重症低血糖を起こし受診歴がある患者はそれぞれ67.8%、33.1%であった。また、重症低血糖に影響した要因について、医師への調査によると、食事の内容・タイミングの不適合が最も多く、全体の40%を占めた。次いで、薬剤の過量もしくは誤投与が27%と続いた。T2Dに限定して症低血糖の原因薬剤を抽出したところ、インスリン群で61%、SU薬群で33%であった。この結果を踏まえ同氏は、「重症低血糖は防げるにもかかわらず、同一患者が複数回起こしているケースがある。本人・家族だけではなく医療者による工夫も必要」と問題提起した。 また、重症低血糖の発症患者として高齢者が問題視されている。とくに75歳以上の2型糖尿病のSU治療群での低血糖割合が多い。熊本宣言2013を受け、75歳以上の高齢者に対するHbA1c値のあり方が厳格化されつつある中で、「75歳以上のSU薬使用においてHbA1cの下限値7.0%を設けたことは世界で初の試みだった。これがさらに浸透すれば今回の調査報告に比べ低血糖症状の患者が半数以下に減らせるのではないか」と、同氏は今後の結果報告に期待した。医療者、6割もの患者の低血糖症状を把握できず 重症低血糖による意識障害に陥った場合、第三者(家族、友人、介護者…)によるフォローが患者の生命予後の鍵となる。重症低血糖対策への意識調査を糖尿病患者とその家族に実施した岩倉氏によると、低血糖の認知度の高さに(糖尿病患者:77%、糖尿病患者の同居家族:76%)比して、「重症低血糖の認知はそれぞれ25%、40%にとどまった」と、現状を懸念した。 重症低血糖を経験した患者では予防策に対する意識が高く、「ブドウ糖を含む飲食物を摂取」「血糖測定の実施」のほか、「食事の量」や「運動」に注意を払っていた。しかし、重症低血糖に関する相談や情報共有を医療者と共有している患者はたったの37%しかいないことが明らかになった。なお、相談される医療者は、医師、薬剤師、看護師の順であったが、岩倉氏は「患者から直接相談されるだけではなく、薬剤師や看護師などから患者情報を得ることもある」とコメントした。年齢を重ねると低血糖症状にも変化 最後に行われたトークセッションでは、患者代表の大村氏が自身の経験や血糖値管理の本音を吐露。幼少期から1型糖尿病を発症した同氏は「外食の場合、写真と実物の量が異なることがあるので、配膳されてから注射するなど、糖質が配膳されるタイミングで投与するなどの工夫をしている」と話した。また、同氏の場合、血糖値が20~30mg/dL程度にならないと重症低血糖の症状が表れず、日頃から60~70mg/dLの値を経験していたという。そのため、「先生に低血糖の有無を聞かれても、自覚症状がないので言わないこともある。さらに、加齢に伴い低血糖症状にも変化が表れているので、患者自身が身体変化について医療者と共有する意識を持つことが大切」と実体験を語った。これに、岩倉氏は「まずは血糖値を知って不安を払拭することが何よりも大切」と、アドバイスした。

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院内心停止の生存率を左右する予後因子とは/BMJ

 院内心停止患者では、心停止前に悪性腫瘍や慢性腎臓病がみられたり、心停止から自己心拍再開までの蘇生時間が15分以上を要した患者は生存の確率が低いが、目撃者が存在したり、モニタリングを行った患者は生存の確率が高いことが、カナダ・オタワ大学のShannon M. Fernando氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年12月4日号に掲載された。院内心停止は生存率が低く、臨床的知識の多くは院外心停止に関する豊富な文献からの推測だという。院内心停止と関連する心停止前および心停止中の予後因子の理解は、重要な研究分野とされる。心停止前・中の予後因子をメタ解析で評価 研究グループは、院内心停止後の生存に関わる心停止前および心停止中の予後因子を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2019年2月4日現在、医学関連データベース(Medline、PubMed、Embase、Scopus、Web of Science、Cochrane Database of Systematic Reviews)に登録された文献を検索した。また、英国のNational Cardiac Arrest Audit(NCAA)データベースの未発表データを調査した。対象は、心停止前および心停止中の予後因子と、心停止後の生存の関連を評価した英語の文献とした。 データの抽出は、PROGRESS(prognosis research strategy group)の推奨と、CHARMS(critical appraisal and data extraction for systematic reviews of prediction modelling studies)のチェックリストに準拠して行った。バイアスのリスクは、QUIPS(quality in prognosis studies)のツールを用いて評価した。 主解析では、関連する交絡因子を補正したうえでデータを統合した。エビデンスの確実性の評価には、GRADE(grading of recommendations assessment, development, and evaluation)approachが用いられた。患者との予後や事前指定の話し合いに利用できるデータ 主解析には23件のコホート研究が含まれた。12件(52.2%)が北米、6件(26.1%)が欧州、4件(17.4%)がアジア、1件(4.3%)がオーストラリアの研究であった。13件(56.5%)が後ろ向き研究で、13件(56.5%)は多施設共同研究だった。 心停止前の因子のうち、院内心停止後の生存オッズを低下させたのは、男性(オッズ比[OR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.73~0.95、エビデンスの確実性:中)、年齢60歳以上(0.50、0.40~0.62、低)、年齢70歳以上(0.42、0.18~0.99、低)、活動性の悪性腫瘍(0.57、0.45~0.71、高)、慢性腎臓病(0.56、0.40~0.78、高)であった。 1件の研究のみのデータではあるが、うっ血性心不全(OR:0.62、95%CI:0.56~0.68、エビデンスの確実性:中)、慢性閉塞性肺疾患(0.65、0.58~0.72、中)、糖尿病(0.53、0.34~0.83、中)も、生存オッズを低下させた。 心停止中の因子では、院内心停止後の生存オッズを上昇させたのは、目撃者のいる心停止(OR:2.71、95%CI:2.17~3.38、エビデンスの確実性:高)、遠隔測定(テレメトリ)によるモニタリングが行われた心停止(2.23、1.41~3.52、高)、日中(病院に十分なスタッフがいる時間と定義、施設によりばらつきあり)の心停止(1.41、1.20~1.66、高)、初回ショック適応のリズムを伴う心停止(5.28、3.78~7.39、高)であった。 一方、挿管を要する心停止(OR:0.54、95%CI:0.42~0.70、エビデンスの確実性:中)および15分以上の蘇生時間(心停止から自己心拍再開までの時間)(0.12、0.07~0.19、高)は、生存オッズを低下させた。 著者は、「院内心停止後のアウトカムと関連する重要な予後因子が同定された。これらのデータは、院内心停止後に予測される予後や、心肺蘇生に関する事前指定について、患者と話し合う際に使用可能と考えられる」としている。

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今、心血管系疾患2次予防に一石が投じられた(解説:野間重孝氏)-1154

 至適内科治療(optimal medical treatment:OMT)という言葉がある。冠動脈疾患は代表的な複合因子的な疾患である。喫煙、血圧、糖尿病、高脂血症等さまざまな因子が複合的に作用して疾病が形成される。こうした疾病に対しては、関係すると思われる諸因子を逐次徹底的にコントロールすることにより、疾病の1次・2次予防を図るやり方が考えられ、OMTと呼ばれた。冠動脈疾患に対しては大体90年代の半ばに確立されたといえる。冠動脈疾患に対するOMTの確立は、境界域の冠動脈疾患においては、場合により外科的治療や血管内治療の代替えとされるまでに発展した。一方、大変皮肉なことに、一旦OMTが確立した後はこれにプラスして何か新しい治療法を加えようとした研究は、ことごとくnegative studyに終わったといってよい。そんな中、今回のコルヒチンによる心血管系疾患の2次予防に関する成績は、研究法に対して多少の不満はあるものの、久しぶりに快音を響かせたヒットとなったのである。 動脈硬化が炎症と深い関係があるとする動脈硬化炎症説は、1976年にRossらが「障害に対する反応」仮説を提出したことに始まる(N Engl J Med. 1976;295:369-377., 420-425.、二部構成)。以後さまざまな仮説が提出された。この論文評は動脈硬化炎症説を解説することが目的ではないので深入りはしないが、近年は自然免疫の障害説なども提出され議論が続いているものの、結局決定的なメカニズムの解明には至っていない。これはちょうどレセプターの研究をしようとするならブロッカーが開発されなくてはならないのと同じことで、炎症のあるプロセスを強力かつ永続的にブロックするような薬剤が開発されなかったことが大きな理由だったと考えられる。 コルヒチンはイヌサフラン科のイヌサフラン(Colchicum autumnale)の種子や球根に含まれるアルカロイドで、単離されたのは1820年まで下るが(それでも十分昔!)、イヌサフランそのものはローマ時代から痛風の薬として使用されていた。主な作用として、細胞内微小管(microtubule)の形成阻害、細胞分裂の阻害のほかに、好中球の活動を強力に阻害することによる抗炎症作用が挙げられる。皮肉なことに、この辺にコルヒチンが動脈硬化の進展予防に何らかの作用を持つと考えられなかった理由がある。というのは、動脈硬化炎症説を考える人たちは単球やマクロファージ、免疫系細胞には注目するが、好中球には関心を示さなかったからだ。ちなみに好中球、多核球に対してこれだけ強力な抑制作用を持つ薬剤は、現在コルヒチン以外に知られていない。結局、今世紀に至るまでコルヒチンが心動脈硬化性疾患の進展予防に何らかの効果を持つとは誰も考えなかったのである。 しかし意外な方面から突破口が開かれる。ニューヨーク大学のリウマチ研究室の研究者たちが奇妙な事実に気付き報告したのだ。痛風患者に対してコルヒチンを使用していると心筋梗塞の有病率が低いというのである(Crittenden DB, et al. J Rheumatol. 2012;39:1458-1464.)。 この結果にいち早く注目したのがHeartCare Western AustraliaのNidorf SMらのグループだった。彼らは通常の治療に加え、コルヒチン錠を1日当たり0.5mg投与する治療群(282例、66歳、男性率89%)とコントロール群(250例、67歳、男性率89%)の計532例を中央値で3年間フォローアップした結果(主要アウトカムは、急性冠症候群、院外心停止、非心臓塞栓性虚血性脳卒中)、ハザード比(HR)は0.33(95%信頼区間[CI]:0.18~0.60)、NNT 11で2次予防が可能であるという驚くべき結果を得た(LoDoCo試験、Nidorf SM, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;61:404-410.)。この結果はケアネットにおいても2013年1月15日に報道されたが、残念ながらわが国ではあまり注目されなかった。この試験は登録数が少ないこと、PROBE法で検討されていることからあくまでpilot studyだったのだが、一部の関係者の注目を集めるには十分だった。 今回の研究はLoDoCo試験に注目したカナダ・モントリオール心臓研究所のグループが計画したものである。プロトコールはきわめてシンプルで、心筋梗塞後平均13.5日後の患者4,745例を、コルヒチン0.5mgを服用する群とプラセボを服用する群に二重盲検し、中央値22.6ヵ月の追跡を行ったのである(複合エンドポイント:心血管死、心停止による蘇生処置、心筋梗塞の再発、脳卒中、血行再建)。この結果、HR:0.77、95%CI:0.61~0.96でコルヒチン群が優れているとの結果が得られたのである。 ただし、この研究にまったく問題がなかったわけではない。複合エンドポイントのうち、心血管死、心停止後の蘇生、心筋梗塞には両群で差がなく、差が出たのは脳卒中と血行再建術を要した緊急入院のみであったからだ。数字から見るならば、脳卒中で差がつかなければこの研究はかなり際どい結果になっていた可能性もあるのである。ここで問題なのは、冠動脈疾患と脳卒中ではその発生のメカニズムを同じ土俵で論じてよいか議論があることである。文頭でOMTを話題としたが、冠動脈疾患が典型的な複合因子的疾患であるのに対し、脳卒中は血圧のコントロールに対する依存度が大変に高く(つまり単因子的な色彩が強く)、その予防法も冠動脈疾患でいうOMTとはやや趣が異なるのである。 論文中のlimitationの項で、筆者らは4,745例という数が少ないのではないかと述べているが、統計的に不十分な数であるとは考えられない。むしろその後半で述べているように、対象患者を心筋梗塞罹患後の患者に限定したことにこそ問題があったのではないかと考える。冠動脈疾患の2次予防の検定をするならば、さまざまなレベルの有症状、無症状の冠動脈疾患患者から心筋梗塞罹患患者までもっと広い患者層から対象を集めるべきだったのではないだろうか。こういった心血管系疾患の予後に関する研究をするとき、どうしても複合エンドポイントを冠動脈関係イベントのみに絞るというわけにはいかず、脳卒中を入れざるを得ないことが避けられない弱点になる以上、患者層は冠動脈疾患患者からできるだけ広く集めるべきだったのではないかと考えるのである。それにしても平均年齢が60.6歳の患者集団としては、コルヒチンを飲む飲まないにかかわらず、脳卒中の発生率がやや高いように感じられることも気になる点ではあった。 一方、LoDoCo試験を行ったオーストラリアのグループは、その後コルヒチン投与が安全に行えることが確かめられた5,522例の安定狭心症を対象としてコルヒチン0.5mgによる二重盲検試験を行った。この結果は本年発表されたが( Nidorf SM, et al. Am Heart J. 2019;218:46-56. )、30%のendpoint reductionを報告している。もっともこのグループも複合エンドポイントにはpilot studyと同様に脳卒中を入れざるを得なかったが、今回論評している研究ほど脳卒中の結果が結果に影響は与えていない。やはり対象の選択の問題ではないだろうか。論文評としてはいささか穏やかでない言い方になるが、率直に言って、評者はこのグループの研究のほうを評価したいと感じている。 いずれにしても、これらの研究は今後臨床面だけでなく、動脈硬化炎症説の研究にも大きな影響を与えていくものと推察される。今までの研究方向に大きな軌道修正がかけられる可能性もある。研究者たちの奮起を期待するものである。臨床面では、コルヒチンは家族性地中海熱などの研究を通じて生涯安全に飲み続ける方法がすでに確立されており、かつ値段は1錠8円前後なのである。本邦でも早急に研究が進められることが望まれる。 冠動脈疾患の予後改善に関して、確かに今、一石が投じられたのである。

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non-HDL-C高値はCVD長期リスク上昇と関連/Lancet

 血中non-HDLコレステロール(non-HDL-C)値は、アテローム硬化性心血管疾患の長期リスクと強い関連があることが明らかにされた。ドイツ・University Heart & Vascular Center HamburgのFabian J. Brunner氏らが、欧州、オーストラリア、北米の19ヵ国、計44の住民ベースコホート(総被験者数52万4,444例)を含む「Multinational Cardiovascular Risk Consortium」データを基に行ったリスク評価・モデリング試験で明らかにした。これまで血中脂質値と心血管疾患の長期発生の関連、および脂質低下治療と心血管疾患アウトカムの関連については明らかとはなっておらず、研究グループは、心血管リスクとnon-HDL-C値(全範囲)の関連について調べ、長期的な心血管イベントに関連するnon-HDL-C値を推定するのに役立つツールを作成し、さらに脂質低下治療によるリスクの低下をモデル化する検討を行った。Lancet誌オンライン版2019年12月3日号掲載の報告。52万例超のデータを基に、non-HDL-C値とCVDの関連を評価 研究グループは「Multinational Cardiovascular Risk Consortium」データの中から、ベースラインで心血管疾患がなく、心血管疾患のデータを確実に入手可能な被験者を対象に試験を行い、non-HDL-C値と心血管イベントとの関連を検証した。 主要複合エンドポイントはアテローム硬化性心血管疾患で、冠動脈性心疾患イベントまたは虚血性脳卒中の発生と定義した。欧州の臨床ガイドラインに基づくnon-HDL-C分類を用いて、年齢、性別、コホート、従来の修正可能な心血管リスク因子で補正後に、性特異的多変量解析を行った。さらに、開発・検証デザイン法により、75歳までの心血管イベントの可能性を、年齢別、性別、リスク因子別に推定し、さらにはnon-HDL-C値を50%低下した場合のリスク低下を推定するツールを作成した。2.6mmol/L未満から5.7mmol/L以上への上昇でCVDイベント有意に増加 52万例超のうち、38コホートに属する39万8,846例を包含し検討した。被験者のうち女性は48.7%、年齢中央値は51.0歳(IQR:40.7~59.7)だった。開発コホート群には19万9,415例を、検証コホート群には19万9,431例を包含した。 中央値13.5年(IQR:7.0~20.1)、最長43.6年の追跡期間中に、5万4,542件の心血管エンドポイントが発生した。発生曲線解析において、30年心血管イベント発生率は、non-HDL-C値の増加に伴い上昇することが示された。non-HDL-C値が2.6mmol/L未満から5.7mmol/L以上に増加することで、同イベント発生率は女性では7.7%から33.7%へ、男性では12.8%から43.6%へと有意に増加した(p<0.0001)。 Coxモデルを用いた多変量解析の結果、non-HDL-C値が2.6mmol/L未満を基準とした場合、2.6~3.7mmol/L未満の女性の心血管イベントリスクは1.1倍(ハザード比[HR]:1.1、95%信頼区間[CI]:1.0~1.3)に、5.7mmol/L以上では1.9倍(1.9、1.6~2.2)に増加することが示された。男性についても、それぞれ1.1倍(1.1、1.0~1.3)、2.3倍(2.3、2.0~2.5)に増加することが示された。 開発したツールは、smooth calibration curves分析を反映した発生コホートと検証コホートの高度な比較で、特異的non-HDL-C値で心血管イベントが起きる可能性を二乗平均平方根誤差1%未満の確率で推定可能であることが示された。 non-HDL-C値が50%低下した場合、75歳までの心血管イベントリスクは低下することが認められ、そのリスク低下は、早期にコレステロール値が低下するほど大きかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「われわれが開発した単純なツールは、個々人の長期的なリスク評価と、早期の脂質低下治療による潜在的ベネフィットに資するものである。また今回示されたデータは、1次予防戦略に関する医師-患者のコミュニケーションに役立つだろう」とまとめている。

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メトホルミン「服用継続で問題なし」 海外でNDMA検出受け見解/日本糖尿病学会

 2019年12月10日、日本糖尿病学会は「メトホルミン塩酸塩における発がん物質の検出に対する対応について」(事務連絡 令和元年12月9日 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課および厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課)の発出を受け、文書を公表した。 わが国においては、今のところ従前通りにメトホルミンを服用しても問題はないとされている。日本糖尿病学会は、厚労省が出した「患者から本件について相談を受けた場合には、糖尿病に対する治療の必要性を説明するとともに、同剤の服用を中止しないように回答する」旨の事務連絡に沿った対応を呼び掛けている。 現時点では、わが国のメトホルミン製剤から、発がん性物質であるN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)は検出されておらず、国内各企業において調査中の段階だ。メトホルミンの自主回収に着手した旨を発表したシンガポール保健科学庁は、「検出されたNDMAの量は1日許容摂取量(0.0959μg/日)を上回るものの極微量であり、回収対象となっている製剤を短期間服用したことによるリスクはきわめて低い」と報告している。また、「1日許容摂取量のNDMAを70年間毎日摂取した場合であっても、発がんリスクの上昇は懸念されない」とアナウンスしている。 なお、欧州医薬品庁(EMA)・アメリカ食品医薬品局(FDA)も同様に、医療従事者に相談なく、自己判断でメトホルミン製剤の服用を中止しないよう注意喚起を行っている。

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ループス腎炎〔LN : lupus nephritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義ループス腎炎(lupus nephritis: LN)は、全身性エリテマトーデス(SLE)患者でみられる腎炎であり、多くは糸球体腎炎の形をとる。蛋白尿や血尿を呈し、ステロイド療法、免疫抑制薬に反応することが多いが、一部の症例では慢性腎不全に進行する。SLEの中では、中枢神経病変と並んで生命予後に影響を及ぼす合併症である。■ 疫学SLEは人口の0.01~0.1%に発症するといわれ、男女比は約1:9で、好発年齢は20~40歳である。そのうち明らかな腎症を来すのは50%程度といわれている。通常の慢性糸球体腎炎では、尿所見や腎機能異常が発見の契機となるが、SLEでは発熱、関節痛や顔面紅斑、検査所見から診断されることが多い。しかし、尿所見や腎機能異常がない段階でも、腎生検を行うと腎炎が発見されることが多く(silent lupus nephritis)、程度の差はあるが、じつはほとんどの症例で腎病変が存在するという報告もある。■ 病因SLEにおける臓器病変は、DNAと抗DNA抗体が結合した免疫複合体が組織沈着するために起こる。しかし、その病因は不明である。LNでは、補体の活性化を介して免疫複合体が腎糸球体に沈着する。■ 症状SLE患者では、発熱、関節痛、皮疹、口腔内潰瘍、脱毛、胸水や心嚢水貯留による呼吸困難などを来すが、LNを合併すると蛋白尿や血尿が認められ、ネフローゼ症候群に進展した場合は、浮腫、高コレステロール血症が認められる。しかし前述のように、まったく尿所見、腎機能異常を示さない症例も存在する。LNが進行すると腎不全に陥ることもある。■ 分類長らくWHO分類が使用されていたが、2004年にInternational Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が採用された1)(表1)。IV型の予後が悪いこと、V型では大量の蛋白尿が認められることなど、基本的にはWHO分類を踏襲している。画像を拡大する■ 予後早期に診断し治療を開始することで、SLEの予後は飛躍的に改善しており、5年生存率は95%を超えている。しかし、LNに焦点を絞ると、2013年の日本透析医学会の統計報告では、新規透析導入患者では、年間258人がLNを原疾患として新規に透析導入となっている。しかも、導入年齢がそれ以前よりも3~4歳ほど高齢化している2)。生命予後のみならず、腎予後の改善が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SLEの診断は、1997年に改訂された米国リウマチ学会の分類基準に基づいて行われていた3)。しかし、SLEの治療を行った患者で、この分類ではSLEとならず、米国では保険会社が支払いを行わないという問題が生じ、SLICC(Systemic Lupus lnternational Collaborating Clinics)というグループが、National Institute of Health (NIH)の支援を受けて、より感度の高い分類基準を提案したが4)、特異度は低下しており、慎重に使用すべきと考えられる。この度、米国リウマチ学会、ヨーロッパリウマチ学会合同で、SLE分類基準が改訂されたため、今後はこの分類基準が主に使用されることが予想される(表2)5,6)。日常診療で行われる検査のほかに、抗核抗体、抗二本鎖DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(IgGまたはIgM抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント)を検査する。さらにLNの診断には、尿沈渣、蓄尿をしての蛋白尿の測定や、クレアチニンクリアランス、腎クリアランスなどの腎機能検査を行うが、可能な限り腎生検によって組織的な診断を行う。図に、ISN/RPS分類class IV-G(A)の症例を示す7)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステロイド1)経口ステロイド0.8~1.0mg/kg/日 程度のプレドニゾロン(PSL)〔商品名:プレドニゾロン、プレドニン〕が使用されることが多いが、とくに抗DNA抗体高値や低補体血症の存在など、疾患活動性が高い場合、ISN/RPS分類のIV型の場合、あるいはネフローゼ症候群を合併した場合などは、1.0mg/kg/日 の十分量を使用する。初期量を4~6週使用し、その後漸減し、維持量に持っていく。維持量については各施設で見解が異なるが、比較的安全な免疫抑制薬であるミゾリビン(商品名:ブレディニン)やタクロリムス(同:プログラフ)の普及により、以前よりも低用量のステロイドでの維持が可能になっているものと考えられる。2)メチルプレドニゾロン(mPSL)パルス療法血清学的な活動性が高く、びまん性の増殖性糸球体腎炎が認められる場合に行われる。長期的な有効性のエビデンスは少なく、またシクロホスファミドパルス療法(IVCY)の方が有効性に優るという報告もあるが、ステロイドの速効性に期待して、急激に腎機能が悪化している症例などに行われる。感染症や大腿骨頭壊死などの副作用も多く、十分な注意が必要である。mPSLパルス療法は各種腎・免疫疾患で行われるが、LNでは1日1gを使用するパルス療法と、500mgを使用するセミパルス療法は同等の効果を示すという報告もある。■ 免疫抑制薬1)シクロホスファミド静注療法(IVCY)1986年に、National Institute of Health(NIH)グループが、LNにおけるIVCYの報告を行ってから、難治性LNの治療として、IVCYは現在まで世界各国で幅広く行われている。NIHレジメンは、シクロホスファミド0.5~1.0g/m2を、月に1回、3~6ヵ月間投与するものであるが、Euro Lupus Nephritis Trial(ELNT)のレジメンは、500mg/日を2週に1回、6回まで投与するものである。シクロホスファミドの経口投与では、不可逆性の無月経が重大な問題であったが、IVCYとすることでかなり減少したとされる。しかし、20代の女性で10人に1人程度の不可逆性無月経が出現するとされており、年齢が上がるとさらにそのリスクは増大する。挙児希望のある場合は、十分なインフォームドコンセントが必要である。長らく保険承認がない状態で使用されていたが、2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。2)アザチオプリン(商品名:イムラン、アザニン)LNの治療に海外、国内ともに幅広く使用されているが、シクロホスファミド同様長らく保険承認がない状態で使用されていた。やはり2010年に公知申請が妥当と判断され、同時に保険償還も可能となった。シクロホスファミドに比べ骨髄障害の副作用が少なく、また、妊娠は禁忌となっていたが、腎移植などでの経験から大きな問題はないと考えられ、2018年に禁忌が解除された。3)シクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)“頻回再発型あるいはステロイドに抵抗性を示す場合のネフローゼ症候群”の病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、6ヵ月以上使用する場合は、トラフ値を100ng/mL程度に設定する。投与の上限量が定められていないので、有効血中濃度が得られやすいことが利点である。トラフ値を測定するには、入院時は内服前の早朝に採血し、外来では受診日だけは内服しないように指導することが必要である。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。4)ミゾリビン(同:ブレディニン)1990年にLNの病名で保険適用が追加された。最近は血中濃度を上昇させることの重要性が提唱され、150mgの朝1回投与や、さらに多い量を週に数回使用するパルス療法などが行われているが、「保険で認められている使用法とは異なる」というインフォームドコンセントが必要である。比較的安全な免疫抑制薬であるが、妊娠時の使用は禁忌であることに注意する必要がある。5)タクロリムス(同:プログラフ)LNの病名で保険適用がある。血中濃度測定が保険適用になっており、投与12時間後の濃度(C12)をモニタリングし、10ng/mLを超えないように留意する。しかし、LNでの承認最大用量3mg/日を使用しても、血中濃度が上昇しないことの方が多い。臨床試験において、平均4~5ng/mL(C12)で良好な成績を示したが、5~10ng/mLが至適濃度との報告もある。内服が夕方なので、午前の採血で血中濃度を測定するとC12値が得られる。併用禁忌薬、慎重投与の薬剤、糖尿病の発症や増悪に注意をする。アザチオプリン同様、2018年に妊娠時の使用禁忌が解除された。6)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)〔同:セルセプト〕MMFは生体内で速かに加水分解され活性代謝物ミコフェノール酸(MPA)となる、MPAはプリン生合成のde novo 経路の律速酵素であるイノシンモノホスフェイト脱水素酵素を特異的に阻害し、リンパ球の増殖を選択的に抑制することにより免疫抑制作用を発揮する。海外では、ACR(American College of Rheumatology)、EULAR(European League Against Rheumatism)、KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)LN治療ガイドラインにおいて、活動性LNの寛解導入と寛解維持療法にMMFを第1選択薬の一つとして推奨され、標準薬として使用されている8,9)。わが国では、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において検討された「ループス腎炎」の公知申請について、2015年7月31日の薬事・食品衛生審議会の医薬品第一部会で事前評価が行われ、「公知申請を行っても差し支えない」とされ、保険適用となった。用法・用量は、成人通常、MMFとして1回250~1,000mgを1日2回12時間毎に食後経口投与する。なお年齢、症状により適宜増減するが、1日3,000mgを上限とする。副作用には、感染症、消化器症状、骨髄抑制などがある。また、妊娠時は禁忌であることに注意が必要である。2019年に日本リウマチ学会から発行された、SLEの診療ガイドラインでは、MMFがLNの治療薬として推奨された10)。7)multi-target therapyミゾリビンとタクロリムスの併用療法の有効性が報告されている11,12)。両剤とも十分な血中濃度を確保することが重要な薬剤であるが、単剤での有効血中濃度確保ができないような症例に有効である可能性がある。また、海外を中心にMMFとタクロリムスの併用療法の有効性も報告されている13-15)。■ ACE阻害薬(ACEI)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)LNでの難治性の蛋白尿にACEIやARBが有効であるとの報告がある。筆者らは両者の併用を行い、さらなる有効性を確認している。特に、ループス膜性腎症で免疫抑制療法を行っても、難治性の尿蛋白を呈する症例では試みてもよいのではないかと考えている。4 今後の展望世界的に広く使用されていたシクロホスファミドとアザチオプリンが保険適用となり、使用しやすくなったため、わが国でのエビデンスの構築が望まれる。公知申請で承認されたMMFの効果にも、期待がもたれる。SLEに対する新規治療薬としては、BLysに対するモノクローナル抗体のbelimumabが非腎症SLEに対する有効性が認められFDAの承認を受け、さらにわが国でも使用可能になった。しかし、LNでの有効性についてはいまだ明らかではない。さらに、海外ではSLEの標準的治療薬であるハイドロキシクロロキンもわが国で使用可能になった。LNに対する適応はないが、再燃予防効果やステロイド減量効果が報告されており、期待がもたれる。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報全身性エリテマトーデス(難病情報センター)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ACRガイドライン(WILEYのオンラインライブラリー)EULAR/ERA-EDTAリコメンデーション(BMJのライブラリー)KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis(International Society of Nephrologyのライブラリー)公的助成情報全身性エリテマトーデス(難病ドットコム)(患者向けの医療情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者と家族の会)参考文献1)Weening JJ, et al. Kidney Int. 2004;65:521-530.2)日本透析医学会統計調査委員会. 図説 わが国の慢性維持透析療法の現況(2013年12月31日現在);日本透析医学会.2014.3)Hochberg MC. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.4)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686. 5)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.6)Aringer M, et al. Arthritis Rheumatol. 2019;71:1400-1412.7)住田孝之. COLOR ATLAS 膠原病・リウマチ 改訂第3版. 診断と治療社;2016.p.30-53.8)Appel GB, et al. J Am Soc Nephrol. 2009;20:1103-1112.9)Dooley MA, et al. N Engl J Med. 2011;365:1886-1895.10)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等 政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班.日本リウマチ学会編. 全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン. 南山堂;2019.11)Kagawa H, et al. Clin Exp Nephrol. 2012;16:760-766.12)Nomura A, et al. Lupus. 2012;21:1444-1449.13)Bao H, et al. J Am Soc Nephrol. 2008;19:2001–2010.14)Ikeuchi H, et al. Mod Rheumatol. 2014;24:618-625.15)Liu Z, et al. Ann Intern Med. 2015;162:18-26.公開履歴初回2013年05月02日更新2019年12月10日

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第34回 「Q波探し」の実践訓練~めざせ“名探偵”~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第34回:「Q波探し」の実践訓練~めざせ“名探偵”~“壊死して機能しなくなった心筋の存在を示唆する心電図波形”と言えば「異常Q波」であり、前回は12誘導を「V1~V3」と「それ以外」に分けて診断する手法を学びました。今回はDr.ヒロが用意した2症例を用いて、その知識が定着しているかを確認してみましょう。早速、チャレンジ!症例提示174歳、男性。糖尿病と高血圧症に対し内服加療中である。心筋梗塞の既往があり、何度かカテーテル治療(PCI)を受けている。以下に外来での心電図を示す(図1)。(図1)定期外来の心電図画像を拡大する【問題1】心電図(図1)で「異常Q波」を指摘せよ。また、心筋梗塞はどこの部位で発生したか?解答はこちら異常Q波:I、aVL、(V1)V2~V4梗塞部位:(左室)前壁、前壁中隔、高位側壁解説はこちら心電図(図1)を見ると、前壁誘導(V1~V4)の「ST上昇」と「QS型」(QS complex)が目を引くでしょう。それだけに目を奪われたら“半人前”ですよ。Dr.ヒロ流の語呂合わせ(第1回)では、“クルッと”の“ク”が「異常Q波」を抽出するプロセスです。前回は「V1~V3」と「それ以外」で読むことをお伝えしましたよね。「それ以外」では、肢誘導を上からI→II→III、そして、aVRは除外してaVL、aVF、そして右方に目を移して胸部誘導の下半分(V4→V5→V6)を読んで、初めてコンプリートです。『“ジグザグ運動”とほとんど同じだから、ST変化と同時にチェックしたら一気にできるなぁ』そう思う方、ブラボーです。“慣れ”もさることながら、Dr.ヒロの世界観にだいぶ染まった証拠です(笑)。“「異常Q波」を拾い出そう! 周囲を見渡すのが吉”さぁ皆さん、今回のメインテーマはズバリ「異常Q波を探せ」。“名探偵”になった気分で「Q波」を探し出し、病変(心筋梗塞)の場所を推測するという練習です。これは実臨床においても非常に役立つテクニックだと思います。前回紹介した「異常Q波」の“最新定義”を覚えていますか? 12誘導を「V1~V3」と「それ以外」に分けて考えるのでした。さらに、前者では「存在」、後者では「幅・深さ」の“1mm基準”(または“1ミリの法則”)、そして隣接誘導での連続性(“お隣ルール”)がキーでしたね。早速、問題の心電図(図1)を眺めてみましょう。まず「V1~V3」から。V2、V3はちゅうちょなく完全に「QS型」ですが、V1はちょびっと「r波」があるように見えます。でも、“一昔前”の「1mmなかったらr波が“ない”のと同じ」の考え方を拝借し、“見なしQ波(QS型)”として悪くないレベルでしょう。つまり、V1~V3すべてに「異常Q波」があるということ。次に「それ以外」の誘導。肢誘導では、I、aVLが陰性波から始まっているので「q波」です。そして、胸部誘導ではV1~V3に連続する形でV4に「QS型」がありますね。aVLは“1mm基準”を満たし、V4もかなり幅広な「QS型」ですから、どちらも文句なく「異常Q波」と考えられます。ではIのほうはどうでしょう? こちらは「幅1mm・深さ1mm」と、ともに微妙だなぁと思いませんか? こういう場合には鉄則があります。■「異常Q波」か悩んだら■視点をずらして同じ誘導の「ST-T変化」の有無を見よボクの流儀では「“周囲”を見渡せ」―これが鉄則です。言うなれば“周囲確認法”でしょうか。工事現場のように、常に周りの様子に気を配ることが大事なので、単視眼的にQ波を眺めていても正解は見えてこないのです。心筋梗塞の“爪痕”的な所見として、「異常Q波」以外に「ST-T変化」が知られています。ST変化は「ST上昇」、T波は「陰性T波」が主なものです。通常は同一の誘導で見られますから、悩ましいQ波でも「ST-T変化」を伴っていたら「異常Q波」なほうにbetするのです。心電図(図1)のaVL同様、I誘導にも「陰性T波」がありますね? そして、この2つはイチエル(I・VL)を構成し、肢誘導界では“お隣”の関係です。I誘導は幅も深さも微妙ですが、陰性T波を伴い、かつ隣接するaVLでのQ波の存在を総合的に考慮すると、“合わせ技”1本で「異常Q波」と判定できるのです! ちなみに、先ほど若干悩んだV1についてもST-T部分がV2~V4に類似しており(ST上昇、2相性[陽性-陰性]T波)、その意味でも異常Q波「あり」とボクは考えます。この単一の波形要素だけで考えず、そのほかの部分も合わせて考えることは、Q波に限らず心電図を読む上で大事だと思っています。“Q波の分布パターンから梗塞部位がわかる!”以上のことから心電図(図1)では、I、aVL、そしてV1~V4に「異常Q波」があると判明しました。次にすべきは「どこの心筋梗塞か?」…つまり“梗塞部位”を考えることです。心電図のスゴイところは、「異常Q波」の分布から、心筋梗塞を起こした部位が推定できることです。次の表1は拙著からの引用です。(表1)異常Q波分布と梗塞部位の関係画像を拡大するここでは、心臓を水平面で切ったCT画像を“宇宙人”が眺めている様子で解説した図を復習しましょう(第17回)。まず、V1~V4誘導には「前壁誘導」という別称がありましたね。細かく言うと、V1は「前壁中隔*」、V2~V4が真の「前壁」なので、この領域の心筋梗塞が疑われます。*:ここでは「前壁+心室中隔」ではなく、「“前側の”心室中隔」という意味。では、I、aVLのほうはどうでしょう? これは、イチエルの組み合わせでエルを含むので、心臓の「左」、すなわち「側壁」と考えて下さい。表を見ると、「高位側壁」(high lateral)となっていて、“上のほう”の「側壁」という意味です。ですから、今回の異常Q波の分布様式からは(前側の)「心室中隔」「前壁」、そして「高位側壁」が梗塞領域だと推定されます。ここまででお腹いっぱいかもしれませんが、最後の最後。われわれ循環器のプロは、ここからもう一歩先の「冠動脈のどこがつまったのか?」(梗塞責任血管)を考えています。「前壁中隔・前壁・高位側壁」のパターンでは、冠動脈閉塞部位は左冠動脈前下行枝の近位部でほぼ決まりです。循環器お得意の“番地”で言うと“6番”(LAD#6)ね。非専門医でこんな事が言えるならば、それはもはや“セミプロ”の証拠です。■心電図診断■洞調律(63/分)異常Q波(I、aVL、[V1]V2~V4)ST上昇(V1~V4)陰性T波(I、aVL、V2~V5)時計回転では、この調子でもう一問やってレクチャーを終わりましょう。症例提示254歳、男性。心筋梗塞の既往あり。虚血性心筋症による慢性心不全でフォロー中。冠動脈造影(CAG)のため入院時検査として行った心電図を示す(図2)。(図2)検査入院時の心電図画像を拡大する【問題2】心電図(図2)で「異常Q波」を指摘せよ。また、心筋梗塞はどこの部位で発生したか?解答はこちら異常Q波:II、III、aVF、V5、V6梗塞部位:(左室)下壁、側壁解説はこちらこれも前問とまったく同じ考え方で臨みましょう。「V1~V3」は陽性波から始まっていて「Q波」はないですが、「それ以外」にはたくさんのQ(q)波が…どれが「異常」で、どれが「セーフ」なのでしょう? ここでも幅・深さの“1mm基準”と“周囲確認法”、そして”お隣ルール”をフル活用すれば正解は見えてくるでしょう。“知識の総ざらいをしましょう―Q波の仕分け”この問題で「異常Q波」の知識の総ざらいをして、今回は終わりましょう。心電図(図2)では「V1~V3」にはQ波はなく、「それ以外」では、I、II、III、aVF、V4~V6と、実に7つの誘導でQ(q)波が認められます。こういう時、まずは隣接誘導ごとに仕分けることから始めましょう。「異常Q波」は常にグループで考えていくことが大事です。すると…まずはニサンエフ(II、III、aVF)そしてブイゴロク(V5、V6)に気付くでしょう。残るIとV4は“宙ぶらりん”状態となっています。このうち、V4誘導は“玉虫色”なので注意して下さい。というのも「V1~V4」と「前壁誘導」のメンバーになったり、症例によっては「V4~V6」で「側壁誘導」を形成したりするのです。いるでしょ、こういう人って周りにも(笑)。でも、こういう時に役立つのが“周囲確認法“です。「ST-T変化」はどうでしょうか? V5、V6には「ST低下」と「陰性T波」があるのに、V4にはありません。『ブイゴロクに比べてQ波の幅も深さも軽めだなぁ…これは“除外“と考えよう』そう思えたアナタはボクと気が合います。ではIのほうはどうでしょう? すぐ“お隣”のエル(aVL)にはQ波がないですが、より広い視点でイチエルゴロク(I、aVL、V5、V6)の側壁誘導なら4つ中3つだから「隣接2つ以上」という基準にも該当するかもしれません。でも、やはり決め手は「ST-T変化」です。ST部分は基線上で「陰性T波」もありません。ですから、これは「なし」でいいと思います。単純に「Q波」だけを見ているとわかりませんが、このように考えると、最終的にはII、III、aVF、V5、V6が「異常Q波」で、表1を参考にすると梗塞巣は左室の「下壁」と「側壁」となるでしょうか。ところで、イチエルは「高位側壁」でしたが、ブイゴロクについては“低位”側壁とは言わず、単に「側壁」でOKです。個人的には言ってもいい気がしますが…「側壁」の正式な呼称は“前”や“下”という枕詞が付くため、かなりわかりづらいと思っています。(主に心エコーや核医学[RI]での呼び方で、心電図の世界ではあまりこの言い方は好まれません)なお、閉塞血管についてはマニアックなので簡単に触れるに留めますが、「下壁+側壁」のパターンの責任血管が右冠動脈か左冠動脈回旋枝かを区別するのはなかなか難しいとされます。この方は立派な右冠動脈近位部閉塞による陳旧性心筋梗塞でした。冠動脈の解剖・走行を熟知した人であれば、右冠動脈が高位側壁領域を灌流することはかなり稀と思われますから、その意味でもI誘導のq波は異常「ではない」と言えます。循環器専門医は、このように臨床的にさまざまな洞察を加えて一枚の心電図を眺めているんです。いや、もちろん慣れたら別にたいしたことじゃないんですけどね(笑)。最後はちょっとだけ難解な話もしましたが、“Q波探偵”の推察の基本がわかってもられば十分です。■心電図診断■洞調律(63/分)異常Q波・陰性T波(II、III、aVF、V5、V6)ST上昇(V1~V3)Take-home Message微妙なQ波は、同誘導のST-T変化の有無と隣接誘導の様子から「異常」と言えるか判定する。「異常Q波」の誘導分布から心筋梗塞の部位診断ができる!杉山裕章. 『心電図のみかた・考え方(応用編). 中外医学社;2014.p.80-124.【古都のこと~常照皇寺】就寝前、ベッドで庭園の写真集を見るのがボクのお気に入りの一つ。関西に移住してだいぶと日が経ちましたが、京都の良所は、歴史が育んだ名庭を実際に自分の目で楽しめることだと思います。常照皇寺(右京区)もその一つ。皆さんはこの寺をご存じですか? 周囲の京都人に聞いても「YES」はあまり多くない印象です。そもそも何と読むのでしょう? …正解はジョウショウコウジ*1。京都の庭園を紹介しているたいがいの書籍で、この寺が市内中心から最遠と書かれています。初秋の休日に訪れて最初の感想は、“最果て”かと思うほど山奥にあるなぁ、でした。山門から長い石段を登り、静寂が支配するその空間を進むと、方丈の間の向こう側にお目当ての庭が! 裏山を借景してデザインされた庭の存在感に圧倒され、寂しさの中に見え隠れする荒々しさ・力強さを言葉で表現するのはボクにとって容易ではありません(ぜひとも本物をご覧いただきたい!)。秋の紅葉時期はもちろん、天然記念物の九重桜など、春にも訪れたい“かくれ里”*2です。皆さんも京都の“秘密の山寺”を訪れてみませんか?*1:漢字4文字も珍しいが、詳名は「大雄名山万寿常照皇寺」とさらに長い。臨済宗京都嵯峨天龍寺派に属する。「常照寺」と呼ばれていた時期もある。南北朝の動乱期の貞治元年(1362年)、この地に隠棲した光厳天皇(北朝初代)の開創と伝わる。*2:白洲次郎の妻で随筆家の白洲正子の『かくれ里』にも常照皇寺が登場する。

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早発閉経、心血管疾患リスク増大の可能性/JAMA

 閉経後女性のうち、40歳になる前に早期の自然閉経/外科的閉経を経験した女性は、40歳以降に閉経した女性に比べ心血管疾患のリスクが、小さいとはいえ統計学的に有意に増加することが、米国・ハーバード大学医学大学院のMichael C. Honigberg氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2019年11月18日号に掲載された。最近のガイドラインでは、中年女性におけるアテローム性動脈硬化に基づく心血管疾患リスク評価の改善策として、40歳以前での閉経歴を考慮することが推奨されているが、確固としたデータはないという。3群を比較するコホート研究 本研究は、2006~10年の期間に、英国のUK Biobankに登録された成人の英国居住者のうち、登録時に40~69歳で、閉経後の女性を対象とするコホート研究である(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 14万4,260例の閉経後女性が登録され、2016年8月まで追跡が行われた。早発自然閉経(卵巣摘出術を受けず、40歳以前に閉経)の女性、および早発外科的閉経(両側卵巣摘出術を受け、40歳以前に閉経)の女性を、早発閉経のない閉経後女性(対照)と比較した。 主要アウトカムは、初発冠動脈疾患、心不全、大動脈弁狭窄症、僧帽弁逆流症、心房細動、虚血性脳卒中、末梢動脈疾患、静脈血栓塞栓症の複合とした。副次アウトカムは、主要アウトカムの個々の疾患および心血管リスク因子(初発高血圧症、脂質異常症、2型糖尿病)であった。主要アウトカム:自然閉経6.0% vs.外科的閉経7.6% vs.非早発閉経3.9% 14万4,260例(登録時平均年齢59.9[SD 5.4]歳)のうち、4,904例(3.4%)が自然早発閉経を、644例(0.4%)が外科的早発閉経を経験した女性で、非早発閉経女性は13万8,712例であった。追跡期間中央値は7年(IQR:6.3~7.7)。 主要アウトカムの発生は、非早発閉経群が5,415例(3.9%、発生率5.70/1,000人年)であったのに対し、自然早発閉経群は292例(6.0%、8.78/1,000人年)と有意な差が認められた(非早発閉経群との差:+3.08/1,000人年、95%信頼区間[CI]:2.06~4.10、p<0.001)。また、外科的早発閉経群は49例(7.6%、11.27/1,000人年)で、同様に有意な差がみられた(同差:+5.57/1,000人年、2.41~8.73、p<0.001)。 多変量で補正後に、非早発閉経群と比較して、自然早発閉経群では、大動脈弁狭窄症(ハザード比[HR]:2.37、95%CI:1.47~3.82、p<0.001)、静脈血栓塞栓症(1.70、1.27~2.29、p<0.001)、虚血性脳卒中(1.50、1.01~2.25、p=0.04)、冠動脈疾患(1.39、1.06~1.82、p=0.02)、心房細動(1.25、1.00~1.58、p=0.05)の頻度が有意に高く、心不全(1.21、0.81~1.82、p=0.35)、僧帽弁逆流症(0.73、0.34~1.55、p=0.41)、末梢動脈疾患(1.34、0.79~2.26、p=0.27)には差が認められなかった。 同様に、外科的早発閉経群では、僧帽弁逆流症(HR:4.13、95%CI:1.69~10.11、p=0.002)、静脈血栓塞栓症(2.73、1.46~5.14、p=0.002)、心不全(2.57、1.21~5.47、p=0.01)、冠動脈疾患(2.52、1.48~4.29、p<0.001)の頻度が有意に高く、大動脈弁狭窄症(2.91、0.92~9.15、p=0.06)、心房細動(1.60、0.91~2.83、p=0.11)、虚血性脳卒中(0.43、0.06~3.12、p=0.41)、末梢動脈疾患(1.34、0.33~5.41、p=0.68)には差がみられなかった。 高血圧(早発自然閉経群:HR:1.43[95%CI:1.24~1.65、p<0.001]、外科的早発閉経群:1.93[1.37~2.74、p<0.001])、脂質異常症(1.36[1.16~1.61、p<0.001]、2.13[1.50~3.04、p<0.001])、2型糖尿病(全年齢層のHRの範囲:早発自然閉経群0.9~1.6、外科的早発閉経群1.3~4.7)のリスクも、早発閉経群で高かった。 主要アウトカムに関して、従来の心血管リスク因子および閉経後ホルモン療法の使用で補正後のHRは、自然早発閉経群が1.36(95%CI:1.19~1.56、p<0.001)、外科的早発閉経群は1.87(1.36~2.58、p<0.001)であった。 著者は、「これらの関連の基盤となるメカニズムを解明するには、さらなる検討を要する」としている。

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統合失調症患者のインスリン抵抗性有病率とその特徴

 いくつかの研究において、統合失調症患者は、インスリン抵抗性リスクが高いことが示唆されている。中国・北京大学のChen Lin氏らは、中国人統合失調症入院患者におけるインスリン抵抗性の有病率および臨床的相関について調査を行った。Comprehensive Psychiatry誌オンライン版2019年11月7日号の報告。 対象は、統合失調症患者193例(男性:113例、女性:80例)。血漿グルコースおよび脂質レベルに関するデータを含む人口統計および臨床データを収集した。認知機能の評価には、Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status(RBANS)、精神症状の評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いた。インスリン抵抗性を評価するHOMA-IRのカットオフ値は、1.7に設定した。 主な結果は以下のとおり。・インスリン抵抗性の有病率は、37.82%(73例)であった。・インスリン抵抗性患者は、そうでない患者と比較し、ウエスト/ヒップ比、BMI、空腹時血糖、トリグリセリド(TG)、LDLレベルが有意に高かった(各々p<0.05)。・バイナリロジスティック回帰分析では、喫煙、BMI、TG、LDLレベルが、インスリン抵抗性の有意な予測因子であった。・相関分析では、ウエスト/ヒップ比、BMI、LDLレベルが、インスリン抵抗性と有意に相関していることが示唆された(Bonferroni補正:p<0.05)。・多変量線形回帰分析では、BMIと空腹時血糖が、インスリン抵抗性と関連していることが示唆された。・異なる抗精神病薬を使用している患者間で、インスリン抵抗性に有意な差は認められなかった。 著者らは「中国人統合失調症患者では、インスリン抵抗性およびそのリスク因子を有する割合が高かった。統合失調症患者のインスリン抵抗性発生を防ぐためにも、BMIやウエスト周囲を減らし、タバコの本数を減らすための積極的な体重管理が不可欠である」としている。

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乳製品摂取量と死亡リスクとの関連は? /BMJ

 米国・ハーバード公衆衛生大学院のMing Ding氏らは、3件の前向きコホート研究において乳製品の摂取量と全死亡および死因別死亡との関連を検証し、乳製品の総摂取量と死亡リスクに逆相関は確認されず、乳製品の健康への影響は代用の類似食品に依存する可能性があることを報告した。また、「わずかだががん死亡率の上昇が、有意ではないものの乳製品摂取と関連がみられており、さらなる検証が必要である」とまとめている。これまで、乳製品摂取と2型糖尿病、心血管疾患、がんなどさまざまな健康アウトカムとの関連が広く検証されているが、多くの研究で明らかな有益性あるいは有害性は示されていない。さらに、前向きコホート研究での乳製品摂取と死亡との関連に関するエビデンスは限定的であった。BMJ誌2019年11月27日号掲載の報告。米国の大規模コホート研究3件(女性約17万人、男性約5万人)について解析 研究グループは、女性および男性における乳製品の摂取と全死亡および死因別死亡リスクとの関連を調べる目的で、米国で実施された3つの前向きコホート研究「Nurses' Health Study(NHS)」「Nurses' Health Study II(NHS II)」「Health Professionals Follow-up Study(HPFS)」を用い、ベースラインで心血管疾患およびがんを有していない女性16万8,153人と男性4万9,602人について解析した。 参加者は、乳製品の摂取について食事摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire:FFQ)を用いて、NHSでは1984年と1986年以降は4年ごとに、NHS IIおよびHPFSではそれぞれ1989年および1986年から4年ごとに調査を受けていた。 主要評価項目は、国民死亡記録(national death index)、州生命記録(state vital records)、または家族および郵送による報告によって2016年12月31日までに確認された死亡とした。 Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、乳製品の摂取量と死亡リスクとの関連を解析した。多変量解析では、心血管疾患およびがんの家族歴、身体活動、食事パターン(代替健康食指数2010)、総エネルギー摂取量、喫煙状況、アルコール摂取量、閉経状態(女性のみ)、閉経後のホルモン剤使用(女性のみ)に関して補正を行い評価した。 解析は、各コホートで個別に実施した後、固定効果モデルを用いて統合・評価した。乳製品摂取量と死亡リスクに逆相関は認められず 追跡期間最大32年間で、心血管死1万2,143例、がん死1万5,120例を含む計5万1,438例の死亡が確認された。 多変量解析で統合した全死亡のハザード比(HR)は、乳製品摂取量が最低の第1群(平均0.8サービング/日)に対して、第2群(平均1.5サービング/日)で0.98(95%信頼区間[CI]:0.96~1.01)、第3群(平均2.0サービング/日)で1.00(0.97~1.03)、第4群(平均2.8サービング/日)で1.02(0.99~1.05)、最高の第5群(平均4.2サービング/日)で1.07(1.04~1.10)であった(傾向のp<0.001)。 心血管疾患死のHRは第1群に対して、第2群0.97(95%CI:0.91~1.03)、第3群0.97(0.92~1.03)、第4群0.96(0.90~1.02)、第5群は1.02(0.95~1.08)であった(傾向のp=0.49)。 がん死のHRは第1群に対して、第2群0.95(95%CI:0.90~1.00)、第3群1.00(0.94~1.05)、第4群1.04(0.98~1.09)、第5群は1.05(0.99~1.11)であった(傾向のp=0.003)。 乳製品の種類別では、全乳の摂取量増加は、全死亡(0.5サービング/日増えるごとのHR:1.11、95%CI:1.09~1.14、傾向のp<0.001)、心血管死(同1.09、95%CI:1.03~1.15、傾向のp=0.001)およびがん死(同1.11、95%CI:1.06~1.17、傾向のp<0.001)のリスク上昇と有意に関連していた。 代替食品の解析で、乳製品の代わりにナッツ、豆類、全粒穀物を摂取した場合は死亡リスク低下と関連していたが、赤身および加工肉の摂取は死亡リスク上昇と関連していた。

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アスピリン、日本人の女性糖尿病患者で認知症リスク42%減

 低用量アスピリンに認知症予防効果を期待できるのか? 兵庫医科大学の松本 知沙氏らは、日本人2型糖尿病患者の認知症予防における低用量アスピリンの長期使用の有効性を、JPAD試験の追跡コホート研究により検討した。Diabetes Care誌オンライン版2019年12月4日号掲載の報告より。 JPAD試験は、日本人2型糖尿病患者を対象に、低用量アスピリンによる心血管疾患の一次予防効果を検討した多施設共同の大規模臨床試験。今回の研究では、2002~17年にJPAD試験に登録された2,536例を追跡した。被験者は低用量アスピリン服用群(81~100mg/日)と非服用群に無作為に割り付けられ、主要評価項目は認知症の発症とされた。認知症の発症有無は抗認知症薬の処方と、認知症による入院により定義された。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値11.4年の間に、128例が認知症を発症した。・年齢、性別、その他確立されたリスク因子で調整後、低用量アスピリン服用群と非服用群の間で認知症の発症リスクに有意な差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.58~1.16)。・性別ごとにみると、女性では認知症の発症リスクに有意な減少がみられたが(HR:0.58、95%CI:0.36~0.95)、男性では認められなかった(HR:1.27、95%CI:0.75~2.13)(相互作用のp=0.03)。

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PM2.5短期曝露の入院リスク・コスト増、敗血症や腎不全でも/BMJ

 微小粒子状物質(PM2.5)への短期曝露は、これまでほとんど知られていなかった敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全による入院リスクや入院日数、入院・急性期後治療費の大幅な増加と関連していることが判明した。すでに知られている、同曝露と心血管・呼吸器疾患、糖尿病、パーキンソン病などとの関連もあらためて確認され、それらの関連はPM2.5濃度が、世界保健機関(WHO)がガイドラインで規定する24時間平均曝露濃度未満の場合であっても一貫して認められたという。米国・ハーバード大学医学大学院のYaguang Wei氏らが、米国のメディケアに加入する高齢者約9,500万例のデータを解析した結果で、著者は「PM2.5への短期曝露が、経済的負担を少なからず増加していた」と述べ、WHOのガイドライン更新について言及した。BMJ誌2019年11月27日号掲載の報告。相互排他的214疾患群の入院リスク・コストとの関連を検証 研究グループは、2000~12年のメディケアにおける入院患者の支払請求データを基に、相互排他的214疾患群について、入院リスク・コストとPM2.5短期曝露との関連を調べる時間層別化ケースクロスオーバー解析を行った。対象は、出来高払い(fee-for-service)プランで入院医療を受けた65歳以上の9,527万7,169例。気象変数の非線形交絡作用を補正した条件付きロジスティック回帰分析で評価した。 主要アウトカムは、214疾患群の入院リスク、入院数、入院日数、入院・急性期後治療費、入院中の死亡により失われた統計的生命価値(=死亡を回避するためのコストを評価するために用いられる経済的価値)だった。敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全とも関連 PM2.5への短期曝露と入院リスクとの正の関連が、敗血症、体液・電解質異常、急性・非特定腎不全といった、これまでに一般的だがほとんど検討がされていなかった疾患でも見つかった。 そのような正の関連は、心血管・呼吸器疾患、パーキンソン病、糖尿病、静脈炎、血栓性静脈炎、血栓塞栓症でも認められ、これまでの研究結果が再確認された。さらにこれらの関連は、WHOがガイドラインで規定するPM2.5の24時間平均曝露濃度を下回っている場合でも一貫して認められた。 これまでほとんど検討されていなかった疾患については、PM2.5への短期曝露1μg/m3増加が年間の、入院数2,050件(95%信頼区間[CI]:1,914~2,187)増、入院日数1万2,216日(1万1,358~1万3,075)増、入院・急性期後治療費3,100万ドル(2,400万ユーロ、2,800万ポンド)(ドルの95%CI:2,900万~3,400万)増、失われた統計的生命価値25億ドル(20億~29億)増とそれぞれ関連していた。 すでに知られていた疾患との関連については、PM2.5への短期曝露1μg/m3増加が年間の、入院数3,642件(95%CI:3,434~3,851)増、入院日数2万98日(1万8,950~2万1,247)増、入院・急性期後治療費6,900万ドル(6,500万~7,300万)増、失われた統計的生命価値41億ドル(35億~47億)増とそれぞれ関連していた。■「敗血症」関連記事敗血症、新規の臨床病型4つを導出/JAMA

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第21回 コンビニで価格を抑えながら野菜を増やすコツ【実践型!食事指導スライド】

第21回 コンビニで価格を抑えながら野菜を増やすコツ医療者向けワンポイント解説血糖値を考える上でも、健康的な食生活を考える上でも野菜の摂取は重要です。厚生労働省が策定した、「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の栄養・食生活では、成人の野菜の摂取について「平均350g以上を目標とする」と定めています。野菜を摂取することは、1)血糖値の上昇を緩やかにする、2)ボリュームを増し満足度を高める、3)噛む回数を増やす、4)ビタミンやミネラル、食物繊維の摂取を増やす、5)水分摂取量を増やすなど、さまざまな働きとメリットがあります。野菜を食事の最初に食べる「ベジファースト」も、食事療法ではお薦めしたい方法です。しかし、野菜は「調理が必要」「外食では価格が高め」「よく行くお店にあまりメニューがない」とハードルが高いと感じる方も多く、摂取量を増やすことに対し難易度が高い面があります。そこで今回は、コンビニで価格を抑えながら手軽に野菜を増やすコツについて解説をします。野菜摂取を増やす習慣を身に付けましょう。●カップスープにはトマトジュース(無塩)手軽な野菜としてトマトジュース(無塩)があります。コンビニやスーパーで手軽に購入でき、間食などの飲料として利用することも良いでしょう。トマトジュースが少し苦手という方は、食事への応用がお薦めです。カップスープやカップ麺などを食べる際、湯ではなくレンジで温めたトマトジュースを加えます。とろみや風味が増しておいしく、食べ応えのあるスープ、汁物が出来上がります。また、栄養バランスも単体のカップ麺などに比べ、整えることができます。そのほか、トマトジュースをヨーグルトや甘酒(それぞれ1:1がおすすめ)と組み合わせることでトマトの酸味が抑えられ風味豊かなドリンクになります。●冷凍野菜をうまく活用最近のコンビニでは冷凍野菜が充実しています。とくに多いのはブロッコリーやオクラ、ほうれん草などの緑黄色野菜です。コンビニのサラダや袋入りカット野菜では緑黄色野菜が比較的少ないため、冷凍野菜で緑黄色野菜をとることは有効な方法です。コンビニのメニューはしっかりと味が付いているものが多いため、冷凍野菜はそのまま合わせるだけで味のバランスを整えることができます。たとえば、購入してきたパスタや麺に冷凍野菜をのせ、そのままレンジで温めれば、野菜たっぷりパスタ・麺に変えることができます。そのまま混ぜれば味わいも十分楽しむことができ、サラダを買ってドレッシングをかけるよりも減塩につなげることができます。●おつまみ系を組み合わせる。コンビニの野菜は、「サラダを買う」ことをつい考えがちですが、お惣菜にも目を向けてみることが大切です。パック惣菜のほか、1食分に小分けにされた惣菜などもありバリエーションが豊富です。惣菜の野菜を組み合わせ、主食をパック入り米飯にしてみることもお薦めです。パック入り米飯は、雑穀入り、玄米入りなどバリエーションが豊富に揃っており、ここでも食物繊維をプラスすることができます。上記以外にも、袋入りカット野菜を利用する方法もあります。安価で、カットされた野菜が入っているため、そのままサラダとして食べられるほか、レンジで加熱して(温める際は袋を少し開けておく)野菜をしんなりさせてから、カップスープや麺類などに加えるのも一つの方法です。なかなか「野菜を増やすことができない」「食べる機会がない」「調理が面倒」という方には、こうした方法で野菜を食べる機会を作ってみてもらうことはいかがでしょうか?

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世界初の腎機能改善薬となるか?「Nrf2活性化薬」

抗酸化ストレス・抗炎症作用を有するNrf2活性化薬「バルドキソロンメチル」2型糖尿病に関連する慢性腎臓病(CKD)は、腎不全の主要な原因とされる。糖尿病性腎臓病(DKD)を含むCKDを放置すると、腎機能の低下とともに末期腎不全(ESKD)を来たし、慢性透析療法や腎移植を要する病態に至る。腎機能低下の進展には、酸化ストレスと炎症の双方が寄与するという。バルドキソロンメチルは、開発中のDKD治療薬であり、2018年3月、厚生労働省により「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されている。現時点で、糖尿病性腎症に適応のある薬剤(ACE阻害薬、ARBなど)は腎機能低下を遅延させるのみで、腎機能を改善する治療薬はない。バルドキソロンメチルは、体内のストレス防御反応において中心的な役割を担う転写因子 Nrf2(nuclear 1 factor (erythroid-derived 2)–related factor 2)を活性化する低分子化合物で、抗酸化ストレス作用と抗炎症作用により、腎機能を改善する可能性が示唆されている。これまでの検討で、推算糸球体濾過量(eGFR)の改善効果が確認されており、経過が長期にわたるため開発が困難であった腎機能改善薬の誕生となるか、関心を集めている。バルドキソロンメチルの国内第III相試験が進行中2013年に報告されたBEACON試験(国際共同第III相試験)1)では、2型糖尿病とStage 4のCKD(eGFR:15〜30mL/分/1.73m2)がみられる患者において、バルドキソロンメチル群とプラセボ群の比較が行われた。その結果、ESKDと心血管死の複合エンドポイントの発生率に差はなく、心不全による入院/死亡の発生率はバルドキソロンメチル群で高かったことから、本試験は早期中止となった。その一方で、バルドキソロンメチル群ではeGFRがベースラインから増加しており、プラセボ群に比べて有意に高いことが示された(差:6.4 mL/分/1.73m2、p<0.001)。また、バルドキソロンメチル群では、投与初期に体液貯留がみられる患者が多いことも明らかとなった。そこで、これらのリスク因子を除外基準に含めたTSUBAKI試験(国内第II相試験)が実施された。その結果、バルドキソロンメチルは主要評価項目であるステージ3患者での16週時点のGFRをプラセボに対して有意に改善(6.64mL/min/1.73m2、p=0.008)することが示された。これらの結果をふまえ、現在、DKD(CKDステージG3/G4)患者を対象としたプラセボ対照無作為化二重盲検比較試験AYAME試験(国内第III相試験)が進行中であり、2022年に終了が予定されている。バルドキソロンメチルへの期待バルドキソロンメチルによるGFR増加の機序は完全には明らかにされていないが、抗酸化ストレス作用と抗炎症作用による臓器保護効果は、DKD以外の疾患でも有益な可能性が示唆されている。現在、アルポート症候群(進行性遺伝性腎炎)患者を対象とする国際共同第2/3相試験(CARDINAL試験)や、結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症を対象とする国際共同第III相臨床試験が進行中だという。参考1)de Zeeuw D, et al. N Engl J Med. 2013; 369: 2492-503.

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脳卒中後、CVイベント抑制のためのLDL-C目標値は?/NEJM

 アテローム性動脈硬化が証明され、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)を発症した患者では、LDLコレステロール(LDL-C)の目標値を70mg/dL未満に設定すると、目標値90~110mg/dLに比べ、心血管イベントのリスクが低下することが、フランス国立保健医学研究所(INSERM)のPierre Amarenco氏らが行った「Treat Stroke to Target試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月18日号に掲載された。アテローム性動脈硬化に起因する虚血性脳卒中やTIAの患者では、スタチンを用いた強化脂質低下療法が推奨されている。一方、脳卒中発症後の心血管イベントの抑制におけるLDL-Cの目標値については、十分に検討されていないという。LDL-C目標値を70mg/dL未満とする群または90~110mg/dLとする群に割り付け 本研究は、フランスの61施設と韓国の16施設が参加した無作為化並行群間比較試験であり、2010年3月~2018年12月の期間に患者の割付が行われた(フランス連帯・保健省などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上(韓国は20歳以上)、直近3ヵ月以内に虚血性脳卒中または15日以内にTIAを発症し、脳血管または冠動脈のアテローム性動脈硬化が証明されている患者であった。 被験者は、LDL-C目標値を70mg/dL未満とする群(低目標値群)または90~110mg/dLとする群(高目標値群)に無作為に割り付けられ、スタチンまたはエゼチミブ、あるいはこれら双方による治療を受けた。 主要エンドポイントは、主な心血管イベント(虚血性脳卒中、心筋梗塞、冠動脈または頸動脈の緊急血行再建術を要する新たな症状、心血管死)の複合とした。 本試験は、主要エンドポイントが385例で発生するまで継続する予定のevent-driven試験であるが、運営上の理由で2019年5月26日に早期中止となった。この時点でイベントを発生していた277例について解析が行われた。LDL-C低目標値群と高目標値群の主要複合エンドポイント:8.5% vs.10.9% 虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作を発症した患者2,860例が登録され、LDL-C目標値を70mg/dL未満とする低目標値群に1,430例(平均年齢66.4±11.3歳、男性67.9%)、高目標値群にも1,430例(67.0±11.1歳、67.3%)が割り付けられた。 試験期間中に、LDL-C低目標値群65.9%、高目標値群94.0%がスタチンのみの投与を受け、それぞれ33.8%、5.8%はエゼチミブ+スタチンの投与を受けていた。追跡期間中央値2.7年の時点で、低目標値群30.3%、高目標値群28.5%が治療を中止していた。 ベースラインの平均LDL-C値は両群とも135mg/dL(3.5mmol/L)であった。追跡期間中央値3.5年の時点で、平均LDL-C値は、低目標値群が65mg/dL(1.7mmol/L)、高目標値群は96mg/dL(2.5mmol/L)に低下していた。 主要複合エンドポイントの発生率は、LDL-C低目標値群が8.5%(121/1,430例)と、高目標値群の10.9%(156/1,430例)に比べ有意に低かった(補正後ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.61~0.98、p=0.04)。 主要複合エンドポイントのイベントの多くは非致死的脳梗塞または原因不明の脳卒中(低目標値群5.7%、高目標値群7.0%)であり、これに比べると、心血管死(1.2%、1.7%)、非致死的急性冠症候群(1.0%、1.6%)、緊急冠動脈血行再建術(0.3%、0.4%)、緊急頸動脈血行再建術(0.2%、0.2%)の頻度は低かった。 副次エンドポイント(心筋梗塞または緊急冠動脈血行再建術、脳梗塞または頸動脈/脳動脈血行再建術、脳梗塞またはTIA、血行再建術[頸動脈、冠動脈、末梢動脈]、死亡、脳梗塞または頭蓋内出血、頭蓋内出血、新規に診断された糖尿病)は、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。このうち、頭蓋内出血(1.3%、0.9%)と糖尿病(7.2%、5.7%)の発生率は低目標値群で高い傾向がみられたが、他の項目は低目標値群で低い傾向が認められた。 著者は、「韓国は患者登録の開始がフランスよりも遅く、追跡期間中央値はそれぞれ2.0年および5.3年と差があり、韓国人患者では有意な効果の検出力はない可能性がある」とし、「今回の試験結果の解釈では、試験の早期中止を考慮する必要がある」と指摘している。

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第4回 動脈硬化で死なないためには?【今さら聞けない心リハ】

第4回 動脈硬化で死なないためには?今回のポイント心血管疾患患者にとって、食習慣の改善は運動と同様に大切画一的な指導ではなく、病状に応じた栄養指導が重要動脈硬化疾患の予防には〇〇を断つべし!?動脈硬化予防に良い食事とは?本連載の第1~3回では、主に運動療法について書きましたが、今回は心疾患患者に対する栄養指導についてお話します。心臓リハビリテーション(以下、心リハ)において、心疾患患者は何を食べるべきか(あるいは何を食べないべきか)ということは、実は運動と同じくらい、あるいはそれ以上に大切と考えられています。わが国の心血管疾患の治療ガイドラインには、食事についての記載はほとんど認められません。わずかに、減塩や適正なカロリーの摂取についての記載があるのみです。一方、米国のガイドラインではかなり多くのページが食事・栄養に割かれており、総説や論文も多数、毎年のように出されています。日本がフィットネス後進国と言われていることは第1回でも話しましたが、実は運動だけではなく食事についても関心のある医師が少ない状況です。高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満などの生活習慣病の発症は、運動不足も関係しますが、食事が最も重要であるのは自明のことです。運動不足でも、食べなければ太れません。それでも、食事の根本的改善のないままに、各管理目標値を目指して薬物治療が開始されることが多いのではないでしょうか。では、動脈硬化の予防には実際どのような食事をとれば良いのでしょう。避けるべき食品はなんでしょうか。動脈硬化は、食事と運動だけでも改善できるのでしょうか?徹底的な食事療法と運動療法により冠動脈のプラーク(動脈硬化病変)が退縮することを実際に示した有名な臨床研究があります。カリフォルニア大学のOrnish氏らが1998年のJAMA誌に発表したもので、Ornish氏とその関係者は、現在もカリフォルニアを拠点にこの研究で示された有効性をもとに食事・運動療法の啓発活動を続けています。この研究では、中~高度の冠動脈疾患患者を「徹底的な食事療法・運動療法を行う介入群:28例」と、「ガイドラインで推奨されるレベルの食事療法・運動療法を行う対照群:20例」にランダムに割り付けし、冠動脈造影検査による冠動脈狭窄率の変化を5年間追跡しました。徹底的な食事療法とは、ホールフード・ベジタリアンダイエット、つまり未加工の野菜中心に油脂を使わず少ない調味料で調理するもので、脂質が占めるエネルギー量は全体の10%未満と非常に少ないものでした。また、介入群では食事療法とともに週5時間の有酸素運動を実施しました。一方、対照群でも食事中の脂質は30%未満に抑えられ、週3時間程度の有酸素運動を実施しました。1年後、介入群では37%の血清LDLコレステロール低下を認めるとともに評価部位の冠動脈の平均狭窄率が40%から37.8%に改善したのに対して、対照群ではLDLコレステロールは6%低下したものの、冠動脈の平均狭窄率は42.7%から46.1%に悪化しました。その後、対照群では過半数の患者において脂質異常症治療薬の内服が開始されましたが、5年後の両群の冠動脈狭窄率差はより顕著でした(介入群:37.3%、対照群:51.9%)。後に、同氏らはこのプログラムを冠動脈疾患の進行抑制だけではなく改善させるものとして、Intensive Cardiac Rehabilitation(包括型心リハ)と名付けています(図1)。(図1)画像を拡大するこの研究データには説得力があり、すでに1,854もの論文で引用されています(2019/11/21時点)。私の知る限り、ほかにはこのように明確に食事・運動療法の動脈硬化改善効果を示した研究はありません。Ornish食を続けるコツと適した人ホールフード・ベジタリアンダイエットは、いわゆる高血圧研究で有名なDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食とは異なり、乳製品や魚すらとりません。DASH食でさえ毎日続けるのは難しそうと感じた方には、よりハードルが高そうですが、研究に参加した患者の7割以上が、5年間この食事療法を継続できたようです。同氏によると、継続率が高いのは、これを実践した患者が速やかに自覚症状の改善を感じたからだそうです。ホールフード・ベジタリアンダイエットを本気で実践しようとすると、あれもこれも食べられませんし、それを理想と考えるなら、通常の入院食も不適切な食事です。それに、野菜は高いし調理も面倒…さまざまな事情により、実践を諦める人が多いでしょう。多くの患者にとって、同氏らの研究の中で対照群が実施したような、脂質30%未満という通常の診療で推奨されている一般的な食事療法が、許容できるぎりぎりのレベルかもしれません(一般的な食事療法でも、きっちりと指導を受け、さらに実践できている患者は多くないと思われます)。ただし、同氏の研究はあくまで中年の肥満型冠動脈疾患患者を対象にしたものであり、日本で診療する患者の多数派である高齢者を対象としていないことに注意が必要です。高齢の心疾患患者では低栄養のことも多く、そもそも野菜をかむ力すら衰えてしまっているようなオーラル・フレイルの患者も多いので、多量の野菜を摂取する必要のあるOrnish食は適応にならないでしょう。画一的な指導ではなく、患者の病状や生活環境に応じた指導が必要です。高齢の心疾患患者の場合には、少量でもしっかりとカロリーやタンパク質を補うことができるような食事のメニューを組む必要があります。これについては、第5回で詳しく説明しましょう。動脈硬化予防に食べてはいけない物最後に、“何を食べてはいけないか”―最近JACCで発表された心血管疾患予防のための栄養に関する臨床ガイドの記事を紹介します。ここでは、避けるべき食品、積極的に摂取すべき食品についてのリストとともに、詳細に記述されています。この臨床ガイドの中で、避けるべき食品としてまず挙げられているのが、「砂糖」。とくに果糖ブドウ糖液糖をはじめとする合成糖類です。砂糖の1日摂取量上限は25gまで、合成糖類は基本とらない、甘い飲料は飲んではいけないことが、エビデンスとともに記されています。詳しくリストを確認したい方は、原著をお読みください。塩のとり過ぎは高血圧を発症させるので減塩が大切ということは広く知られていますが、砂糖のとり過ぎに気を付けることも大事なのですね。ちなみに、私は甘いお菓子が大好きです。こうした情報を知ってからは、なるべく気を付けるようにしています…が、さっき頂き物のクッキーの小袋を食べてしまいました(汗)。徹底的な食事療法の実践は、なかなか難しいですね。「moderation kills」という言葉がありますが、よほどの決心がつかないと、「なるべく気を付ける」くらいの食事療法で満足してしまいそうです。読者の皆さまは、いかがでしょうか?<Dr.小笹の心リハこぼれ話>医師による栄養指導と真の対価心リハのメインは運動、食事は重要だけれど補助的役割。運動処方は医師がチェックするけれど、栄養指導は管理栄養士任せ…。心リハに携わり始めた頃は、正直、栄養については知識不足でした。そのため、患者さんに聞かれても、「塩分に気を付けてバランスの良い食事をとりましょう、具体的には栄養指導で聞いてくださいね」という、間違ってはいないものの何にも具体性がないことしか言えませんでした。現在、医学部には栄養学の講義はほとんどありません。栄養指導は管理栄養士任せという医師は多いと思われます。しかし、長年心リハで患者指導をするうちに、運動だけではだめなんだ、と気付かされるようになりました。毎日2時間も速歩でウォーキングしていてもHbA1cが8%を下回らない糖尿病患者さん、外来心リハに週3回通い、かつ自宅でも指導通り運動しているのに体重がまったく変わらないどころか逆に増えるような肥満患者さん。これらの患者さんたちは、明らかに食事に問題があるのです。今では、心リハの患者さんの栄養指導も管理栄養士にすべてお任せではなく、管理栄養士と一緒に個々の症例について介入ポイントを話合っています。それにしても、運動だけではなく、栄養指導や心リハで重要な心理ケア(ストレスマネジメントプログラム:SMP)について、1回1時間の心リハで行うことは時間的にかなり厳しいものがあります。今回紹介したOrnish氏の心リハプログラムは、米国で保険適応とされています。通常の心リハプログラムが1回1時間、週3回、12週間(合計36時間)の運動を中心としたものであるのに対して、包括型心リハでは1回4時間で運動、栄養指導、SMPを各1時間、そして残りの1時間がグループでの対話セッションで構成され、週2回、9週間(合計72時間)というもののようです(図1)。このような心リハを日本で実践するには、診療報酬制度の見直し、そして心リハを支えるマンパワーが必要です。日本でIntensive Cardiac Rehabilitation(包括型心リハ)を実現するには、今以上にコストがかかるということですね。でも、その投資は、冠動脈疾患の再発や悪化によりPCIやCABGなどの血行再建術を実施するコストに比べたら、十分価値があるのではないでしょうか。何より、患者さんにとっては疾患の再発や悪化がないことこそがHappyですよね!

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DPP-4阻害薬の心血管安全性はSU薬と同等(解説:吉岡成人氏)-1146

 DPP-4阻害薬であるリナグリプチンの心血管アウトカムに関する試験として、プラセボを対照として非劣性を示したCARMELINA(Cardiovascular and Renal Microvascular Outcome Study With Linagliptin)試験の結果がすでに報告されている(Rosenstock J, et al. JAMA. 2019;321:69-79.)。今回、SU薬であるグリメピリドを対照として心血管アウトカムについて検証したCAROLINA(Cardiovascular Outcome Study of Linagliptin Versus Glimepiride in Patients With Type 2 Diabetes)試験の結果が、JAMA誌に掲載された(Rosenstock J, et al. JAMA. 2019 Sep 19. [Epub ahead of print])。 心血管疾患の既往ないしは心血管リスクを有する2型糖尿病で、未治療ないしはメトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬のいずれかまたは併用で治療されているHbA1c 6.5~7.5%の患者を対象としている。リナグリプチン投与群とグリメピリド投与群をランダムに割り付け、3ポイントMACE(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合)の初発までの期間を主要評価項目として、中央値で6.3年間にわたって追跡したものである。 3ポイントMACEはリナグリプチン群、グリメピリド群ともに2.1/100人・年で、グリメピリドに対するリナグリプチンの非劣性が示されたものの、優越性は認められなかった。全死亡、非心血管死のリスクに対しても両群で差はなかった。試験期間を通じて、脂質プロフィールや血圧に差はなく、低血糖の発現頻度はリナグリプチン群2.3/100人・年、グリメピリド群11.1/100人・年であり、リナグリプチン群で有意に少なかった(HR:0.23、95%信頼区間:0.21~0.26)。第三者の助けが必要な重症低血糖はグリメピリド群で0.5/100人・年、リナグリプチン群で0.1/100人・年であった。 罹病期間6.3年(中央値)、メトホルミンが83%に投与されている2型糖尿病患者で、心血管疾患のリスク軽減のためにアスピリン50%、スタチン64%、RA系阻害薬75%、降圧薬88%と比較的十分な薬物治療が行われている場合には、DPP-4阻害薬を投与してもグリメピリドに勝る心血管安全性が示されなかったことが確認された。 日本においてDPP-4阻害薬は糖尿病患者の半数以上に広く用いられており、インクレチンを介した心血管保護作用も期待されている。しかし、スタチンやRA系阻害薬など心血管疾患のリスクを軽減することが十分に立証された薬剤で治療されている患者にとって、相加的な心血管保護作用を示すかどうか、慎重に見極めなくてはいけない。

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低用量コルヒチン、心筋梗塞後の虚血性心血管イベントを抑制/NEJM

 低用量コルヒチンは、心筋梗塞患者における虚血性心血管イベントのリスクをプラセボに比べ有意に低減することが、カナダ・モントリオール心臓研究所のJean-Claude Tardif氏らが行ったCOLCOT試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月16日号に掲載された。炎症は、アテローム性動脈硬化およびその合併症において重要な役割を担うことを示す実験的および臨床的なエビデンスがある。コルヒチンは、イヌサフランから抽出された抗炎症作用を有する経口薬で、痛風や家族性地中海熱、心膜炎の治療に使用されている。発症後30日以内の心筋梗塞の無作為化試験 本研究は、12ヵ国167施設が参加した医師主導の二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、2015年12月~2018年8月の期間に患者登録が行われた(カナダ・ケベック州政府などの助成による)。 対象は、登録前の30日以内に心筋梗塞を発症し、経皮的血行再建術を受け、強化スタチン治療を含む国のガイドラインに準拠した治療を受けている成人患者であった。 被験者は、低用量コルヒチン(0.5mg、1日1回)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、心血管死、心停止からの蘇生、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院の複合とした。主要複合エンドポイント:5.5% vs.7.1% 4,745例が登録され、コルヒチン群に2,366例、プラセボ群には2,379例が割り付けられた。追跡期間中央値は22.6ヵ月だった。 ベースラインの全体の心筋梗塞発症後平均期間は13.5日、平均年齢は60.6歳、女性が19.2%であった。また、20.2%が糖尿病を有し、93.0%が心筋梗塞に対し経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けており、98.8%がアスピリン、97.9%が他の抗血小板薬、99.0%がスタチンの投与を受けていた。 主要複合エンドポイントの発生率は、コルヒチン群が5.5%と、プラセボ群の7.1%に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.61~0.96、p=0.02、log-rank検定)。 主要複合エンドポイントの構成要素のうち、心血管死(コルヒチン群0.8% vs.プラセボ群1.0%、HR:0.84、95%CI:0.46~1.52)、心停止後の蘇生(0.2% vs.0.3%、0.83、0.25~2.73)、心筋梗塞(3.8% vs.4.1%、0.91、0.68~1.21)の発生率には両群間に有意な差は認められなかったが、脳卒中(0.2% vs.0.8%、0.26、0.10~0.70)と血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院(1.1% vs.2.1%、0.50、0.31~0.81)の発生率はコルヒチン群で有意に低かった。 副次複合エンドポイント(心血管死、心停止後の蘇生、心筋梗塞、脳卒中)(コルヒチン群4.7% vs.プラセボ群5.5%、HR:0.85、95%CI:0.66~1.10)および有効性の探索的エンドポイントである死亡(1.8% vs.1.8%、0.98、0.64~1.49)、深部静脈血栓症/肺塞栓症(0.4% vs.0.3%、1.43、0.54~3.75)、心房細動(1.5% vs.1.7%、0.93、0.59~1.46)の発生率には、両群間に有意な差はみられなかった。 治療薬関連の有害事象は、コルヒチン群が16.0%、プラセボ群は15.8%で認められた。重篤な有害事象はそれぞれ16.4%、17.2%でみられた。消化器イベントの頻度が高く(コルヒチン群17.5%、プラセボ群17.6%)、そのうち下痢がコルヒチン群で9.7%、プラセボ群で8.9%(p=0.35)、悪心がそれぞれ1.8%、1.0%(p=0.02)で発現した。 著者は、「主要複合エンドポイントの改善は、主に脳卒中と血行再建術の原因となった狭心症による緊急入院の発生率の低下によってもたらされた」としている。

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